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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-14
(54)【発明の名称】化学修飾型アデノ随伴ウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20220907BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220907BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220907BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20220907BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220907BHJP
   C12N 15/35 20060101ALN20220907BHJP
   C07K 14/015 20060101ALN20220907BHJP
【FI】
C12N7/01
A61K35/76
A61K48/00
A61K47/55
A61K45/00
C12N15/35 ZNA
C07K14/015
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022501301
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(85)【翻訳文提出日】2022-03-10
(86)【国際出願番号】 EP2020069554
(87)【国際公開番号】W WO2021005210
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】19185879.4
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.PLURONIC
3.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】518220604
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ウニヴェルシテール・ドゥ・ナント
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・ドゥニオー
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・メヴェル
(72)【発明者】
【氏名】エドゥアルド・アジュソ
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン・ルレイ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065BD09
4B065BD15
4B065BD16
4B065BD34
4B065BD35
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA13
4C084ZC80
4C087AA01
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087NA13
4C087ZC80
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA50
4H045BA51
4H045BA53
4H045BA72
4H045CA01
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA52
4H045FA74
4H045GA01
4H045GA05
4H045GA15
(57)【要約】
本発明は、化学修飾型アデノ随伴ウイルス(AAV)及びそれらの遺伝子治療における使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプシドにおいて少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)であって、前記化学修飾型チロシン残基が以下の式(I):
【化1】
(式中、
- X1は、
【化2】
からなる群から選択され、
- Arは、任意で置換されてもよい、アリール又はヘテロアリール部分である)
である、アデノ随伴ウイルス。
【請求項2】
少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基が以下の式(Ia):
【化3】
(式中、
- X1及びArは請求項1に規定の通りであり、
- スペーサーは、「Ar」基を機能性部分「M」に連結するための基であり、好ましくは1000個までの炭素原子を含み、好ましくは、任意でヘテロ原子及び/又は環状部分を含んでもよい化学鎖の形をとり、
- nは0又は1であり、
- Mは、立体遮蔽剤、標識剤、細胞型特異的リガンド、又は薬物部分を含む機能性部分である)
である、請求項1に記載のAAV。
【請求項3】
X1が式(a)であり、且つ/又は「Ar」が、置換若しくは非置換フェニル、ピリジル、ナフチル、及びアントラセニルから選択される、請求項1又は2に記載のAAV。
【請求項4】
少なくとも1個の化学修飾型チロシンが以下の式(1c):
【化4】
(式中、
- X2は、-C(=O)-NH、-C(=O)-O、-C(=O)-O-C(=O)-、O-(C=O)-、NH-C(=O)-、NH-C(=O)-NH、-O-C=O-O-、O、NH、-NH(C=S)-、又は-(C=S)-NH-、好ましくは-(C=O)-NH-又は-(C=O)-O-であり、
- X2は、フェニル基のパラ位、メタ位、又はオルト位、好ましくはパラ位にあり、
- スペーサー、n、及びMは請求項2に規定の通りである)
である、請求項1~3のいずれか一項に記載のAAV。
【請求項5】
- 「スペーサー」が、存在する場合、任意で置換されてもよい飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状C2~C40炭化水素鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、且つ/又は
- 「M」が、単糖若しくは多糖、ホルモン、例えばステロイドホルモン、RGDペプチド、筋肉ターゲティングペプチド(MTP)、若しくはアンジオペップ-2(Angiopep-2)等のペプチド、タンパク質若しくはその断片、膜受容体若しくはその断片、アプタマー、重鎖抗体を含む抗体並びにFab、Fab'、及びVHH等のその断片、ScFv、spiegelmer、ペプチドアプタマー、ビタミン、並びにCB1及び/若しくはCB2リガンド等の薬物から選択されることが好ましい、細胞型ターゲティングリガンドを含む若しくはそれからなる、
請求項2~4のいずれか一項に記載のAAV。
【請求項6】
- 「スペーサー」(存在する場合)が、直鎖状若しくは分岐状C2~C20のアルキル鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが2個から20個までのモノマーを有し、且つ/又は
- 「M」が、トランスフェリン、上皮増殖因子(EGF)、及び塩基性線維芽細胞増殖因子βFGFから選択されるタンパク質、1個若しくは数個のガラクトース、マンノース、N-アセチルガラクトサミン残基、架橋GalNac、若しくはマンノース-6-リン酸を含む単糖若しくは多糖、配列番号1~配列番号7から選択されるMTP、及び葉酸等のビタミンに由来する、細胞型特異的リガンドを含む若しくはそれからなる、
請求項2~4のいずれか一項に記載のAAV。
【請求項7】
- Mが、肝細胞を特異的にターゲットするための細胞型特異的リガンドであり、式(III):
【化5】
の少なくとも1つの部分を含み、且つ/又は
- スペーサーが、2個から10個までのモノマーを含むポリエチレングリコール鎖である、
請求項2~6のいずれか一項に記載のAAV。
【請求項8】
少なくとも1個の化学修飾型チロシンが以下の式(II):
【化6】
である、請求項7に記載のAAV。
【請求項9】
チロシン残基とは異なる、カプシドにおける少なくとも1個の追加の化学修飾型アミノ酸残基を更に有し、前記アミノ酸残基が好ましくは、以下の式(V):
【化7】
(式中、
- N*は、アミノ酸残基、例えばリジン残基又はアルギニン残基のアミノ基の窒素であり、
- Ar、スペーサー、n、及びMは、請求項2に規定の式(II)のAr、スペーサー、n、及びMと同じ定義を有する)
の基で化学修飾されたアミノ基を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のAAV。
【請求項10】
組換えAAV、好ましくは野生型カプシドを有するAAV、天然に存在する血清型AAV、バリアントAAV、偽型AAV、ハイブリッド型又は変異型カプシドを有するAAV、及び自己相補的AAVから選択される、組換えAAVである、請求項1~9のいずれか一項に記載のAAV。
【請求項11】
AAVのカプシドを化学修飾するための、より正確には、AAVのカプシドにおける少なくとも1個のチロシン残基を化学修飾するための方法であって、前記AAVを、アリールジアゾニウム及び4-フェニル-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジオン(PTAD)部分から選択される反応基を有する化学試薬と共に、前記反応基をAAVのカプシドに存在するチロシン残基と反応させて共有結合を形成するのに資する条件で、インキュベートする工程を含む、方法。
【請求項12】
AAVを式(VId):
【化8】
の化学試薬と共にインキュベートして、以下の式(Ic):
【化9】
(式中、
- X2は、-C(=O)-NH、-C(=O)-O、-C(=O)-O-C(=O)-、O-(C=O)-、NH-C(=O)-、NH-C(=O)-NH、-O-C=O-O-、O、NH、-C=S-NH、又はNH-C=S-、好ましくは-(C=O)-NH-又は-(C=O)-O-であり、
- X2は、フェニル基のパラ位、メタ位、又はオルト位、好ましくはパラ位にあり、
- スペーサーは、2個から400個までの炭素原子を含む炭化水素基であり、
- nは0又は1であり、
- Mは、立体遮蔽剤、標識剤、細胞型特異的リガンド、又は薬物部分を含む化学的部分である)
の、カプシドにおける少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基を得る工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法により得ることができるAAV。
【請求項14】
請求項1~11又は請求項13のいずれか一項に記載のAAV、及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項15】
診断薬又は薬物としての、好ましくは遺伝子治療における、使用のための請求項1~10若しくは13のいずれか一項に記載のAAV、又は請求項14に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学修飾型アデノ随伴ウイルス(AAV)及びそれらの遺伝子治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、遺伝性疾患の根底にある欠陥遺伝子を修正するために元来開発された。現在では、遺伝子治療は、癌等の幅広い範囲の後天性疾患の処置に益々使用されている。
【0003】
遺伝子治療は、核酸の患者の細胞核への治療的送達に基づいている。その後、その核酸は、ターゲットされた細胞のゲノムへ挿入され得、又はエピソームのままであり得る。治療用核酸の対象の標的細胞への送達は、合成ベクター及びウイルスベクターの使用を含む様々な方法により実行することができる。利用可能な多くのウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、及びその他同種類のもの)の中で、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療、特にインビボでの適用のための万能なベクターとして人気を得ている。組換えAAV(rAAV)の主な利点は、それらの幅広い指向性、それらの高い形質導入効率、それらの持続性エピソーム発現、及び、特に野生型AAVがいかなるヒト疾患にも関連していないという理由からの、それらの高い安全性プロファイルにある。
【0004】
rAAVを用いたヒト臨床試験は、網膜、肝臓、又は運動ニューロン等の組織をターゲットした場合、治療レベルでの耐久性のある発現を実証している。遺伝子ベクターとしてrAAVを使用するいくつかの臨床試験は、広範囲型の障害について進行中である。FDA及びEMAは、最近、ボレチジーン ネパルボベック(Voretigene neparvovec)(Luxturna(登録商標))を認可しており、それは、確定された両アレルRPE65変異により引き起こされる遺伝性網膜ジストロフィーによる視力喪失の処置のための、ヒト網膜色素上皮65kDaタンパク質(hRPE65)をコードするcDNAを含むアデノ随伴ウイルスベクター血清型2(AAV2)カプシドである。更なる例として、ゾルゲンスマ(登録商標)(オナセムノゲン アベパルボベック-xioi(onasemnogene abeparvovec-xioi))は、脊髄性筋萎縮症(SMA)を有する2歳未満の小児患者の処置のためにFDAによって承認されたところである。ゾルゲンスマ(登録商標)は、運動ニューロンにおける、SMAでの欠陥遺伝子、すなわち、SMN1遺伝子の機能し得る非変異型コピーを送達することができるAAV9ベクターである。
【0005】
これらの成功にも関わらず、ある特定の臨床試験は、ある特定の疾患の処置においてこれらのベクターのいくつかの制限を示している。それらの第1の制限は、それらの免疫原性にある。それらの非組込み型の性質のために、特に小児患者における、AAVベクターを用いる全身性遺伝子治療は、時間経過と共にベクターの希釈をもたらす組織増殖によって制限され得る。しかしながら、ベクターの再投与は、ウイルスベクターの最初の投与後に誘発される持続性中和抗体(Nab)によって妨げられ得る。更に、ある特定のAAV血清型、特に血清型2のAAVに対する既存の体液性免疫がヒトにおいて広く行き渡っていることが更に示された。抗AAV中和抗体(NAb)は、特にベクターが血流へ直接投与される場合、標的組織における形質導入を完全に阻止して、効率の欠如を生じ得る。結果として、AAV-Nabに対して血清陽性の対象は、一般的に、遺伝子治療試験から除外される。
【0006】
AAVの更なる制限は、それらの幅広い指向性にあり、それは、結果として、導入遺伝子発現が望まれる組織以外の他の組織における導入遺伝子発現を生じ得る。
【0007】
遺伝子ベクターとしてのAAVはまた、治療指数の低下を被り得る。時々、高用量のAAVの投与が、有効な形質導入を達成するのに必要とされる。例として、AAV2ベクターは肝臓を効率的にターゲットすることができるが、導入遺伝子発現は、ベクターの細胞内プロテアソーム媒介性分解により、トランスフェクションされた肝細胞の非常に少ない量に制限され得、それにより、高用量のAAV-2が、求められる治療効果を達成するのに必要とされ得る。そのような高用量は、ベクター製造に負荷を課すだけでなく、免疫応答のリスク、その中でもNabの誘導を増加させる。
【0008】
遺伝子治療におけるAAVの欠点、特に血清型2のAAV(AAV2)の欠点を克服するためにいくつかの戦略が提案されている。それらのうちのある特定のものは、ベクターのカプシドタンパク質の改変に基づいている。
【0009】
そのことにおいて、AAV2上の表面に露出したチロシン残基における変異が、リン酸化及びその後のユビキチン化を回避し、それにより、プロテアソーム媒介性分解を避けることを可能にすることが示された。実際、カプシドユビキチン化の欠如は、ウイルスベクターの核への細胞内輸送を向上させ、その結果として、インビトロとインビボの両方において肝細胞における形質導入効率の増加を生じると考えられている(Zhongら、PNAS、2008、105、7827~7832頁; Markusicら、Molecular Therapy、2010、18、2048~2056頁)。同様の結果は、網膜細胞での遺伝子移入効率におけるAAV8について観察された(Petrs-Silva、2009、Molecular Therapy、17:463~471頁)。
【0010】
ウイルスカプシドの化学修飾はまた、AAVの抗原性、指向性、又は形質導入効率を改変するためにカプシドにリガンドを導入し、又はある特定の露出したアミノ酸をマスクするために提案された。第1の戦略として、いくつかの研究は、その後の、直交反応によるリガンドの選択的カップリングを可能にする、アルキン基、アジド基、又はアミノフェニル基等の反応基を含む修飾型側鎖を有する非天然アミノ酸の遺伝的取込みを探索している。例として、国際特許出願公開第2015/062516号において、標的細胞に対するカプシドの指向性を変化させるために、クリック反応によるリガンドとのカップリングステップの前に、アジドを含むアミノ酸等の非天然アミノ酸が、遺伝子改変によりカプシドへ挿入されている。
【0011】
別の戦略は、カプシドタンパク質のいかなる予備的な部位特異的変異誘発もないウイルスカプシドの直接的化学修飾にある。
【0012】
そのことにおいて、Leeら(Biotechnol Bioeng 2005、92:24~34頁)は、ベクターを中和抗体から保護するために、AAV表面を活性化ポリエチレングリコール鎖とコンジュゲートすることの可能性を調べている。Horowitzら(Bioconj Chem, 2011、22(4):529~532頁)は、メチルグリオキサールでの糖化に基づいたウイルスカプシド上のアルギニン残基を選択的にマスクするための化学的アプローチを記載している。その結果生じた化学修飾型AAVは、マウス脳においてニューロンに感染する能力を保持し、マウスにおける全身性感染後に肝臓から骨格筋及び心筋まで再方向づけされた。更に、これらの糖化AAVは、抗体中和を逃れることを可能にし得る抗原性の変化を示した。最後に、国際特許出願公開第2017/212019号は、リジン又はアルギニン等のアミノ酸残基に存在するアミノ基と反応する、イソチオシアネート基を有しているリガンドを共有結合性にカップリングすることによりAAVカプシドを化学修飾するための方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際特許出願公開第2015/062516号
【特許文献2】国際特許出願公開第2017/212019号
【特許文献3】国際特許出願公開第2014144229号
【特許文献4】EP2292779
【特許文献5】EP1310571
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Zhongら、PNAS、2008、105、7827~7832頁
【非特許文献2】Markusicら、Molecular Therapy、2010、18、2048~2056頁
【非特許文献3】Petrs-Silva、2009、Molecular Therapy、17:463~471頁
【非特許文献4】Leeら、Biotechnol Bioeng 2005、92:24~34頁
【非特許文献5】Horowitzら、Bioconj Chem, 2011、22(4):529~532頁
【非特許文献6】Nasoら、Biodrugs、2017、31:317~334頁
【非特許文献7】Koerberら、Molecular Therapy (2008)、16(10)、1703~1709頁
【非特許文献8】Devermanら、Nat Biotechnol (2016)、34(2)、204~209頁
【非特許文献9】Bueningら、Curr Opin Pharmacol (2015)、24、94~104頁
【非特許文献10】Chemical Science、2020、11、1122~1131頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、遺伝子治療において遺伝子送達ベクターとして使用される場合のAAVの特性を調節することを可能にする新しい方法の必要性は未だに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、カプシドにおいて少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)であって、前記化学修飾型チロシン残基が以下の式(I):
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、
- X1は、
【0019】
【化2】
【0020】
からなる群から選択され、
- Arは、任意で置換されてもよい、アリール又はヘテロアリール部分である)
である、アデノ随伴ウイルスに関する。
【0021】
X1は好ましくは、フェノール基のオルト位にある。
【0022】
いくつかの実施形態において、少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基は以下の式(Ia):
【0023】
【化3】
【0024】
(式中、
- X1及びArは上記で定義された通りであり、
- スペーサーは、「Ar」基を機能性部分「M」に連結するための基であり、好ましくは1000個までの炭素原子を含み、好ましくは、任意でヘテロ原子及び/又は環状部分を含んでもよい化学鎖の形をとり、
- nは0又は1であり、
- Mは、立体遮蔽剤、標識剤、細胞型特異的リガンド、薬物部分、及びそれらの組合せから選択される基を含む機能性部分である)
である。
【0025】
いくつかの特定の実施形態において、X1は式(a)であり、並びに/又は「Ar」は、置換若しくは非置換フェニル、ピリジル、ナフチル、及びアントラセニルから選択される。
【0026】
いくつかの他の実施形態において、AAVのカプシドにおける少なくとも1個の化学修飾型チロシンは以下の式(1c):
【0027】
【化4】
【0028】
(式中、
- X2は、-C(=O)-NH、-C(=O)-O、-C(=O)-O-C(=O)-、O-(C=O)-、NH-C(=O)-、NH-C(=O)-NH、-O-C=O-O-、O、NH、-NH(C=S)-、又は-(C=S)-NH-、好ましくは-(C=O)-NH-又は-(C=O)-O-であり、
- X2は、フェニレン基のパラ位、メタ位、又はオルト位、好ましくはパラ位にあり、
- スペーサー、n、及びMは上記で定義された通りである)
である。
【0029】
「スペーサー」は、存在する場合、任意で置換されてもよい飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状C2~C40炭化水素鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され得、且つ/又は「M」は、単糖若しくは多糖、ホルモン、例えばステロイドホルモン、RGDペプチド、筋肉ターゲティングペプチド(MTP)、若しくはアンジオペップ-2(Angiopep-2)等のペプチド、タンパク質若しくはその断片、膜受容体若しくはその断片、アプタマー、重鎖抗体を含む抗体並びにFab、Fab'、及びVHH等のその断片、ScFv、spiegelmer、ペプチドアプタマー、ビタミン、並びにCB1及び/若しくはCB2リガンド等の薬物から選択されることが好ましい、細胞型ターゲティングリガンドを含み得る若しくはそれからなり得る。
【0030】
いくつかの他の実施形態において、「スペーサー」(存在する場合)は、直鎖状若しくは分岐状C2~C20のアルキル鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが2個から20個までのモノマーを有し、且つ/又は「M」は、トランスフェリン、上皮増殖因子(EGF)、及び塩基性線維芽細胞増殖因子βFGFから選択されるタンパク質、1個若しくは数個のガラクトース、マンノース、N-アセチルガラクトサミン残基、架橋GalNac、若しくはマンノース-6-リン酸を含む単糖若しくは多糖、配列番号1~配列番号7から選択されるMTP、及び葉酸等のビタミンに由来する、細胞型特異的リガンドを含む若しくはそれからなる。
【0031】
例として、Mは、肝細胞を特異的にターゲットするための細胞型特異的リガンドであり、式(III):
【0032】
【化5】
【0033】
の少なくとも1つの部分を含み、及び/又は「スペーサー」が2個から10個までのモノマーを含むポリエチレングリコール鎖である。
【0034】
更なる例として、AAVは、式(II):
【0035】
【化6】
【0036】
である、そのカプシドにおける少なくとも1個の化学修飾型チロシンを含む。
【0037】
いくつかの他の実施形態において、本発明のAAVは、チロシン残基とは異なる、カプシドにおける少なくとも1個の追加の化学修飾型アミノ酸残基を更に有し、前記アミノ酸残基が好ましくは、以下の式(V):
【0038】
【化7】
【0039】
(式中、
- N*は、アミノ酸残基、例えばリジン残基又はアルギニン残基のアミノ基の窒素であり、
- Ar、スペーサー、n、及びMは、上記の式(II)に定義されているようなAr、スペーサー、n、及びMと同じ定義を有する)
の基で化学修飾されたアミノ基を有する。
【0040】
本発明のAAVは、任意の型であり得る。例として、AAVは、組換えAAV、好ましくは野生型カプシドを有するAAV、天然に存在する血清型AAV、バリアントAAV、偽型AAV、ハイブリッド型又は変異型カプシドを有するAAV、及び自己相補的AAVから選択される、組換えAAVであり得る。
【0041】
本発明はまた、AAVのカプシドを化学修飾するための、より正確には、AAVのカプシドにおける少なくとも1個のチロシン残基を化学修飾するための方法であって、前記AAVを、アリールジアゾニウム塩及び4-フェニル-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジオン(PTAD)部分から選択される反応基を有する化学試薬と共に、前記反応基をAAVのカプシドに存在するチロシン残基と反応させて共有結合を形成するのに資する条件で、インキュベートする工程を含む、方法に関する。
【0042】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、AAVを式(VId):
【0043】
【化8】
【0044】
の化学試薬と共にインキュベートして、以下の式(Ic):
【0045】
【化9】
【0046】
(式中、
- X2は、-C(=O)-NH、-C(=O)-O、-C(=O)-O-C(=O)-、O-(C=O)-、NH-C(=O)-、NH-C(=O)-NH、-O-C=O-O-、O、NH、-C=S-NH、又はNH-C=S-、好ましくは-(C=O)-NH-又は-(C=O)-O-であり、
- X2は、フェニル基のパラ位、メタ位、又はオルト位、好ましくはパラ位にあり、
- スペーサーは、2個から400個までの炭素原子を含む炭化水素基であり、
- nは0又は1であり、
- Mは、立体遮蔽剤、標識剤、細胞型特異的リガンド、又は薬物部分を含む化学的部分である)
のカプシドにおける少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基を得る工程を含む。
【0047】
本発明はまた、本発明の方法により得ることができる又は得られるAAVに関する。本発明の更なる目的は、上記で定義されているようなAAV及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む薬学的組成物である。前記AAV又は前記薬学的組成物は、診断薬又は薬物として、好ましくは遺伝子治療において、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】SDS-PAGE及び銀染色により測定されたAAVカプシドタンパク質完全性を示す図である。1012vgのAAV2-Luc-GFP及びAAV2-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中2、3、又は4(3E6当量)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。1010vgの各状態をSDS-PAGE及び銀染色により分析した。VP1、VP2、及びVP3は、AAVカプシドを構成する3つのタンパク質である。カプシドタンパク質分子量は、タンパク質ラダーに従って画像の右に示されている。AAV2+2:化合物2(発明)とインキュベートされたAAV2、AAV2+3:化合物3(比較)とインキュベートされたAAV2、AAV2+4:化合物4(比較)とインキュベートされたAAV2。
図2】ドットブロット分析を示す図である。1012vgのAAV2-Luc-GFP又はAAV2-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中化合物2及び4(3E6当量)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。109vgの各状態を、アセンブルされたカプシドを認識するA20抗体を使用する(A)、又はGalNAc糖を認識するFITC-ダイズレクチンを使用する(B)、ドットブロットにより分析した。
図3】ウェスタンブロットを示す図である。1012vgのAAV2-Luc-GFP又はAAV2-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中化合物2、3、又は4(3E6当量)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。1012vgの試料を、VPタンパク質を検出するためにカプシドタンパク質に対するポリクローナル抗体を使用する(A)、又はGalNAc糖を認識するFITC-ダイズレクチンを使用する(B~C)、ウェスタンブロットにより分析した。VP1、VP2、及びVP3は、AAVカプシドを構成する3つのタンパク質である。カプシドタンパク質分子量は、タンパク質ラダーに従って画像の右に示されている。B及びCは、発色中、短い(B)及び長い(C)曝露時間での同じブロットからの画像である。
図4】ウェスタンブロット(A~B)、並びにSDS-PAGE及び銀染色により測定されたAAVカプシドタンパク質完全性(C)を示す図である。1012vgのAAV2-Luc-GFP又はAAV2-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中化合物2又は4(3E5又は3E6当量)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。1012vgの試料を、VPタンパク質を検出するためにカプシドタンパク質に対するポリクローナル抗体を使用する(A)、又はGalNAc糖を認識するFITC-ダイズレクチンを使用する(B)、ウェスタンブロットにより分析し、並びに1010vgの各状態をSDS-PAGE及び銀染色(C)により分析した。VP1、VP2、及びVP3は、AAVカプシドを構成する3つのタンパク質である。カプシドタンパク質分子量は、タンパク質ラダーに従って画像の右に示されている。AAV2+2:化合物2(発明)とインキュベートされたAAV2、AAV2+4:化合物4(比較)とインキュベートされたAAV2。
図5】ドットブロット分析を示す図である。1012vgのAAV2-Luc-GFP又はAAV2-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中化合物2、9、及び10(3E5)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。109vgの各状態を、アセンブルされたカプシドを認識するA20抗体を使用する(A)、又はGalNAc及びマンノース糖を認識するFITC-ダイズレクチン若しくはFITC-コンカナバリンAレクチンを使用する(B)、ドットブロットにより分析した。
図6】ドットブロット分析(A~B)、並びにSDS-PAGE及び銀染色により測定されたAAVカプシドタンパク質完全性(C)を示す図である。1012vgのAAV2-Luc-GFP又はAAV2-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中化合物4及び6(3E6当量)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。109vgの各状態を、アセンブルされたカプシドを認識するA20抗体を使用する(A)、又はGalNAc糖を認識するFITC-ダイズレクチンを使用する(B)、ドットブロットにより分析し、並びに1010vgの各状態をSDS-PAGE及び銀染色(C)により分析した。VP1、VP2、及びVP3は、AAVカプシドを構成する3つのタンパク質である。カプシドタンパク質分子量は、タンパク質ラダーに従って画像の右に示されている(C)。AAV2+4:化合物4(比較)とインキュベートされたAAV2、AAV2+6:化合物6(発明)とインキュベートされたAAV2。
図7】ドットブロット分析(A~B)、並びにSDS-PAGE及び銀染色により測定されたAAVカプシドタンパク質完全性(C)を示す図である。1012vgのAAV2-Luc-GFP又はAAV2-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中化合物7及び8(3E6当量)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。109vgの各状態を、アセンブルされたカプシドを認識するA20抗体を使用する(A)、又はマンノース糖を認識するFITC-コンカナバリンAレクチンを使用する(B)、ドットブロットにより分析し、並びに1010vgの各状態をSDS-PAGE及び銀染色(C)により、分析した。VP1、VP2、及びVP3は、AAVカプシドを構成する3つのタンパク質である。カプシドタンパク質分子量は、タンパク質ラダーに従って画像の右に示されている(C)。AAV2+7:化合物7(発明)とインキュベートされたAAV2。
図8】ドットブロット分析(A~B)、並びにSDS-PAGE及び銀染色により測定されたAAVカプシドタンパク質完全性(C)を示す図である。1012vgのAAV8-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中化合物2及び4(3E6当量)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。109vgの各状態を、アセンブルされたカプシドを認識するADK8抗体を使用する(A)、又はGalNAc糖を認識するFITC-ダイズレクチンを使用する(B)、ドットブロットにより分析し、並びに1010vgの各状態をSDS-PAGE及び銀染色(C)により分析した。VP1、VP2、及びVP3は、AAVカプシドを構成する3つのタンパク質である。カプシドタンパク質分子量は、タンパク質ラダーに従って画像の右に示されている(C)。AAV2+2:化合物2(発明)とインキュベートされたAAV2、AAV2+4:化合物4(比較)とインキュベートされたAAV2。
図9】ドットブロット分析を示す図である。1012vgのAAV2-Luc-GFP又はAAV2-GFPベクターを、TBSバッファー(pH9.3)中化合物11及び12(3E6当量)の溶液に加え、室温で4時間、インキュベートした。109vgの各状態を、アセンブルされたカプシドを認識するA20抗体を使用する(A)、又はGalNAc糖を認識するFITC-ダイズレクチンを使用する(B)、ドットブロットにより分析した。
図10】FACS分析による、AAV2-GFP及びAAV2+2:化合物2(発明)(3E5及び3E6当量)で化学修飾されたAAV2のHEK細胞における感染性を示す図である。
図11】FACS分析による、AAV2-GFP及びAAV2+2:化合物2(発明)(3E5及び3E6当量)で化学修飾されたAAV2のHuH7細胞における感染性を示す図である。
図12A】本発明による「M」部分の例を示す図である。
図12B】本発明による「M」部分の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明者らの知る限りでは、AAVカプシドを化学修飾するための先行技術に記載された方法は、アルギニン及びリジン等のアミノ基を有するアミノ酸残基をターゲットする。しかしながら、表面に露出したチロシン残基等、化学修飾する関心対象となる他のアミノ酸残基がある。実際、表面に露出したチロシンは、細胞におけるAAVの免疫原性、加えて、プロテアソーム分解において中心的役割を果たし得る。本発明者らは、AAVカプシドの表面に存在するチロシン残基を化学修飾することを可能にする新しい方法を考え出している。この方法は、共有結合性カップリングを生じる、アリールジアゾニウム基又はPTAD基のチロシン残基におけるフェニル基との特異的な反応に依存する。
【0050】
本発明者らは、AAVベクターのカプシドをチロシン残基において化学修飾するために、糖部分を有しているいくつかのPTAD及びジアゾニウムリガンドを調製した。
【0051】
概念実証として、本発明者らは、ダイズ及びコンカナバリンAレクチン検出を用いたドットブロット分析により証明されているように、塩基性pHでの水性バッファー中、N-アセチルガラクトサミン又はマンノースを有しているアリールジアゾニウム(化合物2、6、7、及び12)とAAV粒子をインキュベートすることにより、N-アセチルガラクトサミン及びマンノース部分が、AAVカプシドの表面に共有結合性に固定化され得ることを示した。
【0052】
本発明者らは更に、A20抗体及びADK8抗体、それぞれでの免疫染色によっても証明されているように、共有結合性カップリングが、AAV2及びAAV8のカプシドタンパク質サブユニットVP1、VP2、及びVP3を変化させないことを示し、それは、AAVの完全性が維持されていることを示唆している。注目すべきことには、本発明者らは更に、ジアゾニウム化合物2で化学修飾されたAAV2ベクターが、非肝細胞株HEK細胞において感染性のままであるが、非化学修飾型ベクターに関して観察されたものより重要ではない形質導入効率を示すことを示した(図10)。その反対に、肝細胞株HuH7(低レベルのASPGRを発現する)において、ジアゾニウム化合物2で化学修飾されたAAV2ベクターは、より高い蛍光強度により証明された、導入遺伝子の発現の増加を示した(図11)。したがって、カプシドのチロシン残基の糖含有リガンドでの化学修飾は、結果として、インビボでのAAVの再ターゲティング及びそれらの指向性の改変を生じ、それにより、オフターゲット効果が低下され得る。
【0053】
本発明の化学修飾型AAV
したがって、本発明は、カプシドに少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)に関する。
【0054】
本明細書で使用される場合、アデノ随伴ウイルス(AAV)は、約5kb長の一本鎖線状DNAゲノムを有する、ディペンドパルボウイルス(dependoparvovirus)ファミリーの小さい、無エンベロープのウイルスを指す。野生型AAVは、2つの末端逆位配列(ITR)により隣接された2つの主要なオープンリーディングフレーム(ORF)を有する。5'及び3'のORFは、それぞれ、複製タンパク質及びカプシドタンパク質をコードする。ITRは145個のヌクレオチドを含有し、AAVゲノム複製起点及びパッケージングシグナルとしての役割を果たす。組換えAAVにおいて、ウイルスORFは、外因性遺伝子発現カセットによって置き換えられるが、複製及びカプシドタンパク質はトランスで提供される。
【0055】
したがって、本発明の関連において、組換えAAVは、外因性核酸配列がウイルスゲノムに導入されているAAVを指す。前記外因性核酸配列は、任意の型であり得、AAVの意図された使用を考慮して選択される。例として、前記核酸は、任意のRNA又はDNA配列を含み得る。
【0056】
好ましい実施形態において、本発明のAAVは組換えAAVである。典型的には、前記組換えAAVは、本発明のAAVが組換えAAVベクターであることを意味する、インビボ又はインビトロの適用のための遺伝子ベクターとして使用されることになる。遺伝子治療におけるベクターとしてのAAVに関しての概説について、Nasoら、Biodrugs、2017、31:317~334頁を参照することができ、その内容は、参照により本明細書に組み入れられている。
【0057】
例示としてのみ、遺伝子治療におけるベクターとしての使用のための組換えAAVは、ウイルスORFを置き換え、且つ2つのITRの間に置かれる外因性遺伝子発現カセットを含み得る。前記カセットは、プロモーター、関心対象となる遺伝子、及びターミネーターを含み得る。プロモーター及び関心対象となる遺伝子は、ターゲットされる組織/器官及び処置されることになっている状態に依存して選択される。別の例として、遺伝子治療における使用のための組換えAAVは、細胞における相同組換えのためのDNA鋳型を含み得る。そのような組換えAAVは、インビボ、インビトロ、又はエクスビボで、ターゲットされる細胞において相同組換えを促進するために、遺伝子編集ツールと組み合わせて使用され得る。遺伝子編集ツールは、任意の型であり得、非限定的に、CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、加えて、前記タンパク質をコードするRNA及びDNAを包含する。
【0058】
本発明の関連において、用語「AAV」は、全ての型のAAVを含み、それには、野生型AAV及び組換え又はバリアントAAVが挙げられる。AAVバリアントは、非限定的に、ハイブリッドカプシドを有するAAV等の変異型又は合成カプシドを有するAAV、偽型AAV、加えて、自己相補的AAV(scAAV)を包含する。
【0059】
野生型AAVのカプシドは、ウイルスタンパク質1(VP1)、VP2、及びVP3と呼ばれる3つの重複するカプシドタンパク質で構成される。カプシドの遺伝子操作は、前記カプシドタンパク質の、例えばそれらの超可変ループにおける、アミノ酸改変を指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「遺伝子操作型カプシドを有するAAV」又は「変異型カプシドを有するAAV」は、前記カプシドタンパク質の野生型バージョンと比較して、1個又は数個のアミノ酸改変が少なくとも1つのカプシドタンパク質(すなわち、VP1及び/又はVP2及び/又はVP3)に導入されているAAVを指す。
【0061】
本明細書で使用される場合、「アミノ酸改変」は、1個又は複数(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、9個、10個、15個、20個、30個、40個、50個、又は100個)のアミノ酸の挿入、欠失、又は置換を包含する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「化学修飾型チロシン残基」は、ウイルスのカプシドに存在する少なくとも1個のチロシンが、化学的実体の共有結合性カップリングにより、典型的にはチロシンのフェニル環上の前記化学的実体の共有結合性カップリングにより、化学修飾されていることを意味する。前記チロシンは、典型的には、VP1、VP2、又はVP3に存在する表面に露出した残基である。表面に露出したチロシンは、そのチロシンが、共有結合性カップリングを達成可能であることを意味する。そのようなチロシン残基は、カプシドタンパク質の分子モデリング又はカプシド全体自体の分子モデリングにより同定することができる。
【0063】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基」は、少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、又はそれ以上の化学修飾型チロシン残基を包含する。
【0064】
いくつかの実施形態において、本発明の化学修飾型AAVは、それのカプシドに数個の化学修飾型チロシン残基を含む。
【0065】
前記化学修飾型チロシンは、VP1及び/又はVP2及び/又はVP3に存在し得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、カプシドの表面に露出したチロシン残基の少なくとも0.1%、例として、少なくとも0.5%、1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%又はそれ以上が化学修飾される。
【0067】
本発明の関連において、AAVは、野生型カプシドを有するAAVか又は変異型及び/若しくは合成カプシドを有するAAVのいずれかであり得る。
【0068】
いくつかの実施形態において、本発明のAAVは、野生型カプシドを有する組換えAAVである。他の実施形態において、AAVは、変異型カプシド、すなわち、対応する親カプシドタンパク質と比較して、少なくとも1つのカプシドタンパク質に1つ又は複数のアミノ酸改変を有する、組換えAAVである。
【0069】
特定の実施形態において、AAVは、変異型カプシドを有する組換えAAVであって、アミノ酸改変がカプシドタンパク質に存在する任意のチロシン残基に関係していない、組換えAAVである。
【0070】
それらは、野生型か又は合成かのいずれかであり得る様々な血清型のAAVである。全ての血清型が本発明の構想において企図される。
【0071】
「血清型」は、伝統的には、別のウイルスと比較して、1つのウイルスに対する抗体間で交差反応性が存在しないことに基づいて定義される。そのような交差反応性の違いは、通常、カプシドタンパク質配列/抗原決定基における違いによる(例えば、AAV血清型のVP1、VP2、及び/又はVP3配列の違いによる)。AAVは、様々な天然及び合成(例えば、ハイブリッド、キメラ、又はシャッフル型の血清型)の血清型を含む。
【0072】
そのような非限定的血清型には、AAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10(-cy10又は-rh10等)、-11、-rh74、又は操作されたAAVカプシドバリアント、例えば、AAV-2i8、AAV2G9、-LK3、-DJ、及び-Anc80が挙げられる。本発明の関連において、合成血清型にはまた、偽型AAV、すなわち、異なるウイルス血清型由来のカプシド及びゲノムの混合から生じたAAV、例えば、AAV2/5、AAV2/7、及びAAV2/8、加えて、複数の異なる血清型に由来するハイブリッドカプシドを有するAAV、例えば、8つの血清型に由来するハイブリッドカプシドを含有するAAV-DJが挙げられる。
【0073】
合成血清型はまた、特に国際特許出願公開第2014144229号(特にAAV2G9血清型を開示する)に記載されている、新しいグリカン結合部位がAAVカプシドへ導入されている特定のバリアントを包含する。他のAAV血清型には、EP2292779及びEP1310571に開示されたものが挙げられる。加えて、他のAAV血清型には、Koerberら(Molecular Therapy (2008)、16(10)、1703~1709頁)に記載されているようなシャッフリングにより得られたもの、ペプチド挿入により得られたもの(例えば、Devermanら、Nat Biotechnol (2016)、34(2)、204~209頁)、又は合理的カプシド設計により得られたもの(Bueningら、Curr Opin Pharmacol (2015)、24、94~104頁に概説されている)が挙げられる。
【0074】
いくつかの実施形態において、AAVは、天然に存在する血清型から、好ましくは、AAV-2、AAV-3b、AAV-5、AAV-8、AAV-9、及びAAVrh10からなる群から選択され、より好ましくは、AAV-2である。例として、本発明のAAVは、血清型2の組換えAAVベクターであり得る。
【0075】
AAVは、幅広い種類の細胞、組織、及び器官をターゲットすることができる。AAVによりターゲットされる細胞の例は、肝細胞;網膜の細胞、すなわち、光受容体、網膜色素上皮(RPE);筋肉細胞、すなわち、筋芽細胞、サテライト細胞;中枢神経系(CNS)の細胞、すなわち、ニューロン、グリア;心臓の細胞;末梢神経系(PNS)の細胞;骨芽細胞;腫瘍細胞、リンパ球、造血幹細胞を含む造血細胞等の血液細胞、誘導多能性幹細胞(iPS)、及びその他同種類のものを包含するが、それらに限定されない。AAVによりターゲットされ得る組織及び器官の例には、肝臓、筋肉、心筋、平滑筋、脳、骨、結合組織、心臓、腎臓、肺、リンパ節、乳腺、ミエリン、前立腺、精巣、胸腺、甲状腺、気管、及びその他同種類のものが挙げられる。好ましい細胞型は、肝細胞、網膜細胞、筋肉細胞、CNSの細胞、PNSの細胞、及び造血細胞である。好ましい組織及び器官は、肝臓、筋肉、心臓、眼、及び脳である。
【0076】
AAVの指向性は、それらの血清型によって異なり得る。例として、AAV-2は、中枢神経系(CNS)、腎臓、及び光受容細胞を形質導入するために使用されてもよく、一方、AAV-8は、CNS、心臓、肝臓、光受容細胞、網膜色素上皮(RPE)、及び骨格筋を形質導入するのに有効である。
【0077】
AAVは、当技術分野において知られた任意の方法、例えば、関心対象となる細胞株、例えば実施例セクションに記載されているようなHEK293細胞における、一過性トランスフェクションにより、作製することができる。そのことに関して、遺伝子治療におけるベクターとしてのAAVに関する概説を提供し、且つ工業スケールでAAVを製造するための伝統的方法を記載する、Nasoら、Biodrugs、2017、31:317~334頁を参照することができる。
【0078】
本発明のAAVは、カプシドの、化学修飾されている他のアミノ酸を有し得る。例として、AAVは、国際特許出願公開第2017/212019号に開示された方法により、すなわち、カプシド内の前記アミノ基を、イソチオシアネート反応基を有しているリガンドと反応させることにより、修飾されているカプシドの1個又は数個のアミノ基を含み得る。代替として又は追加として、本発明のAAVは、糖化により、例えば、Horowitz(上記)に記載されているようなメチルグリオキサールとの反応により、修飾されたカプシドの1個又は数個のアルギニン残基を有し得る。
【0079】
典型的には、カプシドにおける少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基は以下の式(I):
【0080】
【化10】
【0081】
(式中、
- X1は、
【0082】
【化11】
【0083】
からなる群から選択され、
【0084】
- Arは、任意で置換されてもよい、アリレン又はヘテロアリレン部分である)
である。
【0085】
好ましい実施形態において、本発明のAAVは、それのカプシドに少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基を有し、前記少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基が以下の式(Ia):
【0086】
【化12】
【0087】
(式中、
- X1は、
【0088】
【化13】
【0089】
からなる群から選択され、
【0090】
- nは1又は0であり(「nは1である」とは、基「スペーサー」が存在することを意味する。「nは0である」とは、スペーサーが存在しないことを意味する)、
- Arは、任意で置換されてもよい、アリール又はヘテロアリール部分であり、
- スペーサーは、「Ar」を「M」に連結する化学基であり、
- Mは、機能性部分であり、その性質は、化学修飾を実施することによって求められるAAVの機能的改変に依存する)
である。
【0091】
- X1
X1は、上記のような式(a)又は(b)である。好ましくは、X1は式(a)である。
【0092】
X1は、オルト位、メタ位、又はパラ位、好ましくは、パラ位であり得る。
【0093】
- Ar基
上記で言及されているように、Arは、置換又は非置換アリール又はヘテロアリール部分である。
【0094】
本明細書で使用される場合、「アリール」は、芳香環系を指し、それは、好ましくは、6~14個の原子を有し、コンジュゲートされたパイ電子系を有する少なくとも1つの環を有し、任意で、置換されてもよい。「アリール」は、融合環系等の1つより多い芳香環、又は別のアリール基で置換されたアリール基を含有し得る。アリールは、非限定的に、フェニル、アントラセニル、ナフチル、インデニル、二価ビフェニルを包含する。
【0095】
「ヘテロアリール」は、ヘテロアリール基を指す。「ヘテロアリール基」は、好ましくは5~14個の環原子を有する、化学基であって、1~4個のヘテロ原子が芳香環における環原子であり、環原子の残りが、炭素原子である、化学基を指す。適切なヘテロ原子には、酸素、硫黄、窒素、リン、及びセレンが挙げられる。適切なヘテロアリール基には、フラニル、チエニル、ピリジル、ピロリル、N-アルキルピロリル、ピリジル-N-オキシド、ピリミジル、ピラジニル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、キナゾリニル、及びキノリニルが挙げられる。
【0096】
二環式ヘテロアリール基の例は、言及され得る二環式ヘテロアリール基に限定されないが、1H-インダゾリル、ベンゾ[l,2,3]チアジアゾリル、ベンゾ[l,2,5]チアジアゾリル、ベンゾチオフェニル、イミダゾ[l,2-a]ピリジル、キノリニル、インドリル、及びイソキノリニル基を包含する。
【0097】
「置換の」又は「任意で置換されてもよい」は、1個又は数個の置換基、典型的には、1個、2個、3個、4個、5個、又は6個の置換基によって置換された基を含む。例として、置換基は、C1~C6アルキル、アリール基、C3~C6シクロアルキル、C2~C6ヘテロシクロアルキル、C1~C6アルコキシ、C1~C6アルキルアミノ、C1~C6アミノアルキル-、C1~C6アルキルアミノアルキル-、-N3、-NH2、-F、-I、-Br、-Cl、-CN、C1~C6アルカノイル、C1~C6カルボキシエステル、C1~C6アシルアミノ、-COOH、-CONH2、-NO2、-SO3H、C1~C6アミノアルキル、C1~C6ヒドロキシアルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルチオ、C2~C10アルコキシアルキル、C2~C6アルコキシカルボニルオキシ、-CN、-CF3、及びC2~C6アルコキシアルキルから非依存的に選択され得る。
【0098】
好ましい置換基は、ハロゲン、-OH、NH2、NO2、C1~C3アルキル、C1~C3アルコキシ、C1~C3ヒドロキシアルキル、及びC1~C3ハロアルキルである。
【0099】
語句「任意で置換されてもよい」は、この出願を通して、語句「置換又は非置換」によって置き換えることができる。
【0100】
いくつかの実施形態において、「Ar」は、5個から14個までの環原子、例えば、6個から10個までの環原子を含むアリール及びヘテロアリールから選択され、前記アリール又はヘテロアリールが任意で置換されてもよい。例として、前記アリール又はヘテロアリール基は、ハロゲン、-OH、NH2、NO2、C1~C3アルキル、C1~C3アルコキシ、C1~C3ヒドロキシアルキル、及びC1~C3ハロアルキルから非依存的に選択される1個、2個、又は3個の置換基を含み得る。
【0101】
いくつかの特定の実施形態において、「Ar」は、置換又は非置換フェニル、ピリジル、ナフチル、及びアントラセニルからなる群から選択される。前記芳香族化合物は、好ましくはハロゲン、-OH、NH2、NO2、C1~C3アルキル、C1~C3アルコキシ、C1~C3ヒドロキシアルキル、及びC1~C3ハロアルキルから非依存的に選択される、1個から3個までの置換基を含み得る。
【0102】
- スペーサー基
「スペーサー」は、任意の化学基であり、したがって、存在することも存在しないこともあり得る。
【0103】
存在する場合、「スペーサー」は、「Ar」基を機能性部分「M」と連結するために使用される。「スペーサー」は、ヘテロ原子、加えてシクロアルキル又は芳香族基等の環状部分を含み得る、任意の化学鎖であり得る。「スペーサー」は、最高1000個及び更にそれ以上の炭素原子を含み得る。スペーサーの長さ及び化学的性質は、チロシン残基とカップリングされることを意図される「M」部分、及び求められる生物学的効果に依存して、最適化され得る。実際、それの連結機能に加えて、「スペーサー」は、機能性部分「M」の特性を精巧にするために使用され得る。例として、「スペーサー」は、カプシドに対する「M」の立体障害を減少させ、関心対象となる生物学的実体との結合のための「M」のアクセス性を向上させ、関心対象となる実体との「M」の結合を向上させ、及び/又は「M」の溶解性を増加させ得る。
【0104】
いくつかの実施形態において、「スペーサー」は、2個から1000個までの炭素原子、好ましくは、2個から500個までの炭素原子、2個から300個までの炭素原子、例えば、2個から100個までの炭素原子、2個から40個までの炭素原子、4個から30個までの炭素原子、又は4個から20個までの炭素原子を含む化学鎖基である。
【0105】
典型的には、「スペーサー」は、ホモポリマー、コポリマー、及びブロックポリマーを含むポリマー、ペプチド、オリゴ糖、並びに、任意で1個又は数個のヘテロ原子(例えば、S、O、Se、P、又はNH)によって中断されてもよく、任意でそれの末端の少なくとも1つにS、O、及びNH等のヘテロ原子を有してもよく、及び任意でヒドロキシル、ハロゲン、C1~C3アルコキシ、-CN、-CF3、又はC1~C3アルキル等の1個又は数個の置換基によって置換されてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素鎖、並びにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0106】
本明細書で使用される場合、「組合せ」は、任意の適切な基、例えば、-O-、-S-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-C(O)-O-C(O)-、-NH-、-NH-CO-NH-、-O-CO-NH-、NH-(CS)-NH-、NH-CS-、ホスホジエステル、又はホスホロチオエート基により連結された、数個(例えば、2個、3個、4個、5個、又は6個)の炭化水素鎖、オリゴマー鎖、又はポリマー鎖を含み得ることを意味する。
【0107】
いくつかの実施形態において、スペーサーは、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリプロピレングリコール等のポリエーテル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸、ポリアクリレート、ポリメタクリレート等のポリエステル、ポリシリコーン、ポリカプロラクトン及びポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(pHPMA)、D,L-乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、アルキルジアミンのポリマー、任意で少なくとも1つの末端にO、NH、及びS等のヘテロ原子を有してもよい、不飽和又は飽和の分岐状又は非分岐状炭化水素鎖、並びにそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0108】
本明細書で使用される場合、アルキルジアミンは、NH2-(CH2)r-NH2(式中、rが2から20までの整数、例として、2、3、4、及び5等の2から10までの整数である)を指す。アルキルジアミンのポリマー(ポリアミンとしても知られる)は、式NH2-[(CH2)r-NH]t-H(式中、rが上記で定義された通りであり、tが少なくとも2の、例えば、少なくとも3、4、5、10又はそれ以上の、整数である)の化合物を指す。関心対象となるアルキルジアミンのポリマーは、例として、スペルミジン及びスペルミンである。
【0109】
例として、スペーサーは、2個から40個までのモノマー、例えば、2個から10個まで、又は2個から6個までのモノマーを含む、少なくとも1つのポリエチレングリコール部分を含む。例示としてのみではあるが、スペーサーは、リンカーによって一緒に連結された2個から10個までのトリエチレングリコールブロックを含み得る。別の例として、スペーサーは、C12親水性トリエチレングリコールエチルアミン誘導体であり得る。或いは、スペーサーは、飽和又は不飽和のC2~C40炭化水素鎖、特にC10~C20アルキル鎖、又はC6アルキル鎖等のC2~C10アルキル鎖であり得る。アルキル鎖は、少なくとも1つの末端にNH、S、又はO等の基を有し得る。
【0110】
更なる例として、スペーサーは、スペルミジン、プトレシン、スペルミン、及びそれらの組合せから選択され得る。
【0111】
特定の実施形態において、スペーサー基は、直鎖状又は分岐状C2~C20アルキル鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、ジアミノアルキルのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択される。好ましくは、前記ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、PLGA、pHPMA、及びアルキルジアミンのポリマーは、2個から40個までのモノマー、好ましくは、2個から10個まで又は10個から20個までのモノマーを含む。
【0112】
例として、基「スペーサー」は、1個又は数個(例えば、2個、3個、4個、又は5個)のトリエチレングリコールブロックを含み得る。
【0113】
- 「M」部分
機能性部分「M」は、任意の型であり得る。「M」は、典型的には、AAVのカプシドを化学修飾した場合に求められる生物学的効果に依存して選択される。
【0114】
例として、「M」は、ターゲティング剤、立体遮蔽剤、標識剤、又は薬物から選択される部分を含み得る。「M」はまた、(ナノ)粒子であり得、それには、磁気(ナノ)粒子及び量子ドットが挙げられる。例として、Mは、鉄、染料、ケイ素、金、又は炭素の(ナノ)粒子であり得る。
【0115】
いくつかの実施形態において、「M」は、標識剤、例えばフルオレセイン、ローダミン、ホウ素-ジピロメテン(ボディピー(Bodipy))色素、及びalexa fluor等の蛍光色素、又は放射性核種を含む又はそれらからなる。
【0116】
他の実施形態において、「M」は、立体遮蔽剤、例えば、カプシドのある特定のエピトープをマスクすることができ、それにより、中和抗体の結合を回避する作用物質を含む又はそれからなる。例として、「M」は、ポリエチレングリコール(PEG)、pHPMA、又は多糖であり得る。
【0117】
特定の実施形態において、「M」は、チロシン残基をマスクすることができ、それにより、インセルロでのAAVのプロテアソーム分解が回避される、立体遮蔽剤を含む又はそれからなる。
【0118】
いくつかの実施形態において、Mは、細胞型特異的リガンド、すなわち、特定の型の細胞をターゲットすることを可能にするリガンドを含む又はそれからなる。そのようなリガンドは、AAVの指向性、すなわち、所定の細胞株、組織、又は器官に選択的に感染及び/又は形質導入するそれの能力を改変することを可能にし得る。
【0119】
例として、「M」は、ターゲットされた細胞の膜の生物学的実体(例えば、膜受容体)と特異的に結合するリガンドであり得る。前記リガンドは、例として、単糖又は多糖、ホルモン、例えばステロイドホルモン、RGDペプチド、アンジオペップ-2、筋肉ターゲティングペプチド等のペプチド、タンパク質又はその断片、膜受容体又はその断片、CB1及びCB2リガンド、アプタマー、重鎖抗体を含む抗体並びにFab、Fab'、及びVHH等のその断片、ScFv、spiegelmer、ペプチドアプタマー、ターゲットされる生物学的実体と結合することが知られた化学的小分子、並びにその他同種類のものであり得る。
【0120】
いくつかの実施形態において、「M」は、トランスフェリン、上皮増殖因子(EGF)、及び塩基性線維芽細胞増殖因子βFGF等のタンパク質に由来する細胞型特異的リガンドを含む又はそれからなる。
【0121】
いくつかの実施形態において、「M」は、例えば1個若しくは数個のガラクトース、マンノース、マンノース-6-リン酸、N-アセチルガラクトサミン(GalNac)、及び架橋GalNacを含む、単糖又は多糖に由来する細胞型特異的リガンドを含む又はそれからなる。単糖又は多糖は天然又は合成であり得る。
【0122】
別の実施形態において、「M」は、葉酸等のビタミンに由来する細胞型特異的リガンドを含む又はそれからなる。
【0123】
一実施形態によれば、「M」に含まれる細胞型特異的リガンドは、筋肉ターゲティングペプチド(MTP)に由来し得る又はその中にあり得る。前記リガンドは、ASSLNIA(配列番号1);WDANGKT(配列番号2);GETRAPL(配列番号3);CGHHPVYAC(配列番号4);HAIYPRH(配列番号5);環状CQLFPLFRC(配列番号6)、又は以下に示されているような配列番号7の配列:
【0124】
【化14】
【0125】
(式中、Xはアミノヘキサン酸残基であり、Bはベータ-アラニン残基である)
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み得る。
【0126】
本明細書で使用される場合、配列番号6の環状CQLFPLFRCは、
【0127】
【化15】
【0128】
を指す。
【0129】
ある特定の実施形態において、「M」は、癌細胞ターゲティングペプチドであり、環状RGDを含むRGD等のペプチドを含む。
【0130】
「M」が筋肉ターゲティングペプチド(MTP)等のペプチド部分を含む場合、前記ペプチド部分は、それのM末端又はC末端に化学修飾を含み得る。例として、ペプチド部分のN末端が、アシル化され得る又は-C(=O)-(PEG部分)-NH2等の部分とカップリングされ得る。
【0131】
別の実施形態において、「M」は、ナプロキセン、イブプロフェン、コレステロール、プロゲステロン、又はエストラジオール等の小分子又はホルモンに由来する細胞型特異的リガンドを含む又はそれからなる。
【0132】
追加の実施形態において、「M」は、CB1及び/又はCB2リガンド、例として以下:
【0133】
【化16】
【0134】
を含む又はそれからなる。
【0135】
アシアロ糖タンパク質受容体(ASPGPr)によって認識されるガラクトース由来リガンドは、肝細胞を特異的にターゲットするために使用され得る。したがって、いくつかの実施形態において、「M」は、肝細胞を特異的にターゲットするためのリガンドであり、以下の式(IIIa)、(IIIb)、又は(IIIc):
【0136】
【化17】
【0137】
【化18】
【0138】
の少なくとも1つの部分を含む。
【0139】
いくつかの他の実施形態において、「M」は、筋肉細胞、特に骨格筋細胞をターゲットするためのリガンドであり、少なくとも1個の以下のマンノース-6-リン酸部分:
【0140】
【化19】
【0141】
を含む。
【0142】
いくつかの他の実施形態において、「M」は、光受容体又は神経細胞に対するリガンドであり、少なくとも1個の以下の式(IIIf)のマンノース部分:
【0143】
【化20】
【0144】
を含む。
【0145】
いくつかの実施形態において、「M」は多価であり、そのことは、それが上記のような細胞型特異的リガンド等の関心対象となる少なくとも2個(例えば、2個、3個、4個、5個、又は6個)のリガンド部分を含むことを意味する。例として、Mは、数個(例えば、少なくとも2個、3個、4個、5個、又は6個)の細胞型特異的リガンドを有している多官能性リンカーを含み得る。その細胞型特異的リガンドは同じ又は異なり得る。例として、「M」は、以下の式(IV):
【0146】
【化21】
【0147】
(この場合、nは1から100まで、好ましくは1から20までの整数である)
の部分を含み得る。
【0148】
多価リガンドの別の例として、「M」は、GalNac基が、マンノース、マンノース-6-リン酸、架橋GalNac、CB1及び/又はCB2リガンド又はペプチドによって置き換えられている、式(IV)の部分を含み得る。
【0149】
いくつかの特定の実施形態において、「M」は、蛍光標識又は放射性核種等の標識部分と細胞型特異的リガンドの両方を含み得る。例示としてのみではあるが、Mは以下:
【0150】
【化22】
【0151】
すなわち、K-FITCと連結された配列番号1の筋肉ターゲティングペプチドであり得る。
【0152】
「M」部分として使用され得る化学的部分の他の例は、図12A及び図12Bに提供されている。
【0153】
上記で言及されているように、好ましい化学修飾型AAVは、少なくとも1個の、式(Ia)又は(I)の化学修飾型チロシンを含み、式中、X1が式(a)である、AAVである。
【0154】
特定の実施形態において、X1は、チロシンのフェニル基のオルト位にある。したがって、本発明は、以下の式(Ib):
【0155】
【化23】
【0156】
(式中、「Ar」、「スペーサー」、n、及び「M」は、式(I)について上記で定義された通りである)
である、カプシドに存在する少なくとも1個の化学修飾型チロシンを含むAAV粒子に関する。
【0157】
本発明のいくつかの実施形態において、カプシドに存在する化学修飾型チロシンは式(Ib)であり、以下の特徴:
- 「Ar」は、置換若しくは非置換フェニル、ピリジル、ナフチル、及びアントラセニルからなる群から選択される。「Ar」は、好ましくはハロゲン、-OH、NH2、NO2、C1~C3アルキル、C1~C3アルコキシ、C1~C3ヒドロキシアルキル、及びC1~C3ハロアルキルから非依存的に選択される、1個から3個までの置換基を含み得ること、並びに/又は
- 「スペーサー」は、存在する場合、任意で置換されてもよい飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状C2~C40炭化水素鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが好ましくは2個から40個までのモノマーを含むこと、並びに/又は
- 「M」は、好ましくは単糖若しくは多糖、ホルモン、例えばステロイドホルモン、RGDペプチド、筋肉ターゲティングペプチド(MTP)、若しくはアンジオペップ-2等のペプチド、タンパク質若しくはその断片、膜受容体若しくはその断片、アプタマー、重鎖抗体を含む抗体並びにFab、Fab'、及びVHH等のその断片、ScFv、spiegelmer、ペプチドアプタマー、ビタミン、並びに薬物、例えばCB1及び/若しくはCB2リガンド等の化学的小分子から選択される、細胞型ターゲティングリガンドを含む若しくはそれからなること
の1つ又はいくつかによって更に特徴づけられる。
【0158】
別の実施形態において、カプシドに存在する化学修飾型チロシンは、式(Ib)であり、以下の特徴:
- 「Ar」は、任意で置換されてもよい、フェニル若しくはピリジルから選択されること、並びに/又は
- 「スペーサー」(存在する場合)は、直鎖状若しくは分岐状C2~C40、好ましくはC2~C20アルキル鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが好ましくは2個から40個までのモノマーを含むこと、並びに/又は
- 「M」は、トランスフェリン、上皮増殖因子(EGF)、及び塩基性線維芽細胞増殖因子βFGF等のタンパク質、上記のような筋肉ターゲティングペプチド、並びに、例えば、1個若しくは数個のガラクトース、マンノース、マンノース-6-リン酸、N-アセチルガラクトサミン、若しくは架橋GalNacを含む、単糖若しくは多糖、CB1及び/若しくはCB2リガンド、並びに葉酸等のビタミンに由来する、細胞型特異的リガンドを含む若しくはそれからなること
の1つ又はいくつかによって更に特徴づけられる。
【0159】
特定の実施形態において、「Ar」は、任意で置換されてもよいフェニルである。典型的には、フェニルは、Cl、Br、I、又はF等のハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6ヒドロキシアルキル、C1~C6アルコキシ、C1~C6ハロアルキル、-CN、-NO2、及びその他同種類のものから選択される1個又は数個の置換基によって置換され得る。
【0160】
いくつかの実施形態において、「Ar」は、非置換フェニルであり、前記フェニルは、リンカーX2によって、スペーサー基と(nが1である場合)、又はM基と(nが0である場合)、連結されている。
【0161】
したがって、本発明の更なる目的は、少なくとも1個の化学修飾型チロシンを含むAAVであり、前記化学修飾型チロシンは以下の式(Ic):
【0162】
【化24】
【0163】
(式中、
- X2は、-C(=O)-NH、-C(=O)-O、-C(=O)-O-C(=O)-、O-(C=O)-、NH-C(=O)-、NH-C(=O)-NH、及び-O-C=O-O-、O、NH、NH(C=S)-、-(C=S)-NH-、好ましくは-(C=O)-NH-又は-(C=O)-O-であり、
- 「スペーサー」、n、及びMは上記の通りであり、
- X2は、フェニル基のパラ位、メタ位、又はオルト位、好ましくはパラ位にあり得る)
である。
【0164】
本発明のいくつかの実施形態において、カプシドに存在する化学修飾型チロシンは式(Ic)であり、以下の特徴:
- 「スペーサー」は、存在する場合、任意で置換されてもよい飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状C2~C40炭化水素鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが好ましくは2個から40個までのモノマーを含むこと、並びに/又は
- 「M」は、好ましくは単糖若しくは多糖、ホルモン、例えばステロイドホルモン、RGDペプチド、筋肉ターゲティングペプチド(MTP)、若しくはアンジオペップ-2等のペプチド、タンパク質若しくはその断片、膜受容体若しくはその断片、アプタマー、重鎖抗体を含む抗体並びにFab、Fab'、及びVHH等のその断片、ScFv、spiegelmer、ペプチドアプタマー、ビタミン、並びに薬物、例えばCB1及び/若しくはCB2リガンド等の化学的小分子から選択される、細胞型ターゲティングリガンドを含む若しくはそれからなること
の1つ又はいくつかによって更に特徴づけられる。
【0165】
別の実施形態において、カプシドに存在する化学修飾型チロシンは式(Ic)であり、且つ以下の特徴:
- 「スペーサー」(存在する場合)は、直鎖状若しくは分岐状C2~C40、好ましくはC2~C20アルキル鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが好ましくは2個から40個までのモノマーを含むこと、並びに/又は
- 「M」は、トランスフェリン、上皮増殖因子(EGF)、及び塩基性線維芽細胞増殖因子βFGF等のタンパク質、上記のような筋肉ターゲティングペプチド、並びに、例えば1個若しくは数個のガラクトース、マンノース、マンノース-6-リン酸、N-アセチルガラクトサミン、若しくは架橋GalNacを含む、単糖若しくは多糖、CB1及び/若しくはCB2リガンド、並びに葉酸等のビタミンに由来する、細胞型特異的リガンドを含む若しくはそれからなること
の1つ又はいくつかによって更に特徴づけられる。
【0166】
いくつかの実施形態において、X2は-C(=O)NH-であり、パラ位にある。したがって、本発明はまた、カプシドに存在する少なくとも1個の化学修飾型チロシンを含むAAVであって、前記化学修飾型チロシンが以下の式(Id):
【0167】
【化25】
【0168】
(式中、n、M、及びスペーサーは上記で定義された通りである)
である、AAVに関する。
【0169】
いくつかの実施形態において、nは1である。
【0170】
いくつかの更なる又は他の実施形態において、カプシドに存在する化学修飾型チロシンは式(Id)であり、以下の特徴:
- 「スペーサー」は、存在する場合、任意で置換されてもよい飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状C2~C40炭化水素鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが好ましくは2個から40個までのモノマーを含むこと、並びに/又は
- 「M」は、好ましくは単糖若しくは多糖、ホルモン、例えばステロイドホルモン、RGDペプチド、筋肉ターゲティングペプチド(MTP)、若しくはアンジオペップ-2等のペプチド、タンパク質若しくはその断片、膜受容体若しくはその断片、アプタマー、重鎖抗体を含む抗体並びにFab、Fab'、及びVHH等のその断片、ScFv、spiegelmer、ペプチドアプタマー、ビタミン、並びに薬物、例えばCB1及び/若しくはCB2リガンド等の化学的小分子から選択される、細胞型ターゲティングリガンドを含む若しくはそれからなること
の1つ又はいくつかによって更に特徴づけられる。
【0171】
別の実施形態において、カプシドに存在する化学修飾型チロシンは式(Id)であり、以下の特徴:
- 「スペーサー」(存在する場合)は、直鎖状若しくは分岐状C2~C40、好ましくはC2~C20アルキル鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが好ましくは2個から40個までのモノマーを含むこと、並びに/又は
- 「M」は、トランスフェリン、上皮増殖因子(EGF)、及び塩基性線維芽細胞増殖因子βFGF等のタンパク質、上記のような筋肉ターゲティングペプチド、並びに、例えば1個若しくは数個のガラクトース、マンノース、マンノース-6-リン酸、N-アセチルガラクトサミン、若しくは架橋GalNacを含む、単糖若しくは多糖、CB1及び/若しくはCB2リガンド、並びに葉酸等のビタミンに由来する、細胞型特異的リガンドを含む若しくはそれからなること
の1つ又はいくつかによって更に特徴づけられる。
【0172】
いくつかの他の実施形態において、カプシドに存在する化学修飾型チロシンは、X1が、好ましくはオルト位における、式(b)である、式(Ia)であり、以下の特徴:
- 「スペーサー」は、存在する場合、任意で置換されてもよい飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状C2~C40炭化水素鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが好ましくは2個から40個までのモノマーを含むこと、並びに/又は
- 「M」は、好ましくは単糖若しくは多糖、ホルモン、例えばステロイドホルモン、RGDペプチド、筋肉ターゲティングペプチド(MTP)、若しくはアンジオペップ-2等のペプチド、タンパク質若しくはその断片、膜受容体若しくはその断片、アプタマー、重鎖抗体を含む抗体並びにFab、Fab'、及びVHH等のその断片、ScFv、spiegelmer、ペプチドアプタマー、ビタミン、並びに薬物、例えばCB1及び/若しくはCB2リガンド等の化学的小分子から選択される、細胞型ターゲティングリガンドを含む若しくはそれからなること
の1つ又はいくつかによって更に特徴づけられる。
【0173】
別の実施形態において、カプシドに存在する化学修飾型チロシンは、X1が、好ましくはオルト位における、式(b)である、式(Ia)であり、以下の特徴:
- 「スペーサー」(存在する場合)は、直鎖状若しくは分岐状C2~C40、好ましくはC2~C20アルキル鎖、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、pHPMA、PLGA、アルキルジアミンのポリマー、及びそれらの組合せからなる群から選択され、前記ポリマーが好ましくは2個から40個までのモノマーを含むこと、並びに/又は
- 「M」は、トランスフェリン、上皮増殖因子(EGF)、及び塩基性線維芽細胞増殖因子βFGF等のタンパク質、上記のような筋肉ターゲティングペプチド、並びに、例えば1個若しくは数個のガラクトース、マンノース、マンノース-6-リン酸、N-アセチルガラクトサミン、若しくは架橋GalNacを含む、単糖若しくは多糖、CB1及び/若しくはCB2リガンド、並びに葉酸等のビタミンに由来する、細胞型特異的リガンドを含む若しくはそれからなること
の1つ又はいくつかによって更に特徴づけられる。
【0174】
例示としてのみではあるが、本発明のAAVは、以下の式(IIa)、(IIb)、(IIc)、又は(IId):
【0175】
【化26】
【0176】
の、カプシドにおける少なくとも1個の化学修飾型チロシンを含み得る。
【0177】
本発明のAAVは、以下の式(IIe)、(IIf)、又は(IIg):
【0178】
【化27】
【0179】
の、カプシドにおける少なくとも1個の化学修飾型チロシンを含み得る。
【0180】
上記の全ての実施形態、特に、少なくとも1個の化学修飾型タンパク質が式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(IIf)、及び(IIg)である実施形態において、AAVは、好ましくは組換えAAV、より好ましくは組換えAAVベクターである。
【0181】
上記で言及されているように、AAVは「天然に存在する」カプシド又は遺伝子改変されたカプシド、すなわち、少なくとも1つのカプシドタンパク質、すなわち、VP1、VP2、及び/又はVP3に1つ又はいくつかの変異を含むカプシド、を有し得る。
【0182】
いくつかの追加又は代替の実施形態において、AAVは、AAV-2、AAV-3b、AAV-5、AAV-8、AAV-9、及びAAVrh10から選択される血清型、より好ましくはAAV-2であり得る。
【0183】
或いは、AAVは合成血清型である。
【0184】
いくつかの更なる実施形態において、本発明のAAVは、チロシン残基とは異なる、例えばアルギニン又はリジン残基である、カプシドにおける少なくとも1個の追加の化学修飾型アミノ酸残基を有し得る。いくつかの実施形態において、前記アミノ酸残基は、それの側鎖にアミノ基を有し、以下の式(V):
【0185】
【化28】
【0186】
(式中、
- N*は、アミノ酸残基、例えばリジン残基の側鎖のアミノ基の窒素であり、
- Ar、スペーサー、n、及びMは、式(Ia)、(Ib)、(Ic)、及び(Id)に定義されている通りである)
の基で化学修飾されている。式(V)におけるAr、スペーサー、n、及びMは、上記のような、少なくとも1個の化学修飾型チロシンに存在するものと同じ又は異なり得ることは言うまでもない。
【0187】
前記アミノ基における修飾は、国際特許出願公開第2017212019号に記載されているように導入することができ、その特許出願の内容は、参照により本明細書に組み入れられている。
【0188】
AAVのカプシドの化学修飾は、1つ又はいくつかの生物学的機能性及び/又は特性を改変し得る。化学修飾型AAVの表面に共有結合している「M」の性質に依存して、前記化学修飾型AAVは、同じであるが化学修飾されていないAAVと比較して、1つ又はいくつかの改変された生物学的特性、例えば、以下の生物学的特性:
- 改変された指向性、例えば、特定の器官、組織、若しくは細胞へのAAVの増加した選択性(インビボで投与されるか、若しくは培養中の組織若しくは細胞を形質導入することのいずれか)、若しくは1つの組織/器官/細胞から別のものへのAAVのシフトされた選択性、並びに/又は
- AAVの変化した免疫反応性、例えば、AAVの減少した免疫原性、及び/若しくは中和抗体に対する減少した親和性、及び/若しくは前記AAVが、インビボで投与された場合、変化した体液性応答を誘発する、例えば、AAVに方向づけられた中和抗体を生じないこと
- AAV粒子の増加した感染効率、並びに/又は
- 特定の細胞、組織、若しくは器官へのAAVの増加した形質導入効率
- 培養中の細胞を形質導入した場合の低下した細胞毒性
- 細胞標的化死滅を癌細胞へ誘導すること
- これらのAAV粒子を用いたインビボでの投与における若しくはインビトロでの細胞の改変における、AAV粒子の可視化/モニタリング
- セラグノスティクス適用;例えば、治療剤と診断薬を組み合わせること
を有し得る。
【0189】
いくつかの実施形態において、本発明の化学修飾型AAVは、より高い形質導入効率を有し得、それは、非化学修飾型AAVと比較しての、核への細胞内輸送の増加、プロテアソーム分解の減少、より効率的な核内脱カプシド、より迅速なベクターゲノム安定化、及び/又は中和抗体との相互作用の減少、及び/又はインビボでのAAVの抗体媒介性クリアランスの低下に起因し得る。いくつかの他の実施形態において、AAVは、インビボ又はインビトロのいずれでも、非化学修飾型AAVと比較して、より高い感染効率及び/又は所定の細胞、組織、若しくは器官に対する選択性の増加を有し得る。
【0190】
いくつかの他の実施形態において、AAVが薬物として、例えば、遺伝子ベクターとして使用される場合、そのような改変された特性は、結果として、AAVの治療指数の向上を生じ得、それは、求められる治療効果及び/又はAAVの毒性の減少を達成するために患者に投与されるべき用量の減少に起因し得る。
【0191】
特定の実施形態において、本発明の化学修飾型AAVは、肝臓、心臓、脳、関節、網膜、及び骨格筋から選択される器官又は細胞に対する優先的指向性を示す。別の又は追加の実施形態において、本発明の化学修飾型AAVは、非限定的に、肝細胞、心筋細胞、筋細胞、ニューロン、運動ニューロン、網膜色素細胞、光受容体、軟骨細胞、造血幹細胞(HSC)、又は誘導多能性幹細胞(iPS)から選択される、培養細胞に対する優先的指向性を示す。
【0192】
本発明の化学修飾型AAVを調製するための方法
本発明はまた、AAVのカプシドを化学修飾するための、より正確には、AAVのカプシドにおける少なくとも1個のチロシン残基を化学修飾するための方法であって、前記AAVを、アリールジアゾニウム塩及び4-フェニル-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジオン(PTAD)部分から選択される反応基を有している化学試薬と共に、前記反応基をAAVのカプシドに存在するチロシン残基と反応させて共有結合を形成するのに資する条件で、インキュベートする工程を含む、方法に関する。
【0193】
特定の実施形態において、本発明の方法は、カプシドに少なくとも1個の化学修飾型チロシン残基を含む化学修飾型AAVを得るためであり、前記化学修飾型チロシン残基が式(Ia):
【0194】
【化29】
【0195】
であり、AAVを、以下から選択される化学試薬:
【0196】
【化30】
【0197】
と共に、前記化学試薬を前記AAVのカプシドに存在するチロシン残基と反応させて共有結合を形成するのに資する条件で、インキュベートする工程を含む。
【0198】
当然のことながら、
- Ar、スペーサー、及びnは、上記で式(Ia)について定義されている通りであり、
- X1が式(a)である場合、化学試薬は式(VIa)であり、X1が式(b)である場合、化学試薬は式(VIb)である。
【0199】
典型的には、AAV粒子は、前記AAVの構造的完全性を損なうことのない、チロシン残基のフェニル基と化学試薬との間の共有結合の形成を促進するのに適した条件で、前記化学試薬と共にインキュベートされる。
【0200】
インキュベーションは、5から11まで、好ましくは7から10まで、例えば、8.5から10.5まで又は9から10までのpHを有する水性バッファー中で実施され得る。
【0201】
バッファーは、TRISバッファー、炭酸ナトリウム-炭酸水素ナトリウムバッファー、リン酸バッファー、例えば、PBS又はダルベッコのリン酸緩衝食塩水(dPBS)から選択され得る。
【0202】
化学試薬が式(VIa)である場合、水性バッファーのpHは塩基性、例えば、8.5から10まで、例として、9から10まで、例えば、9.0から9.6まで等の7より上であり得る。そのような塩基性pHは、チロシン残基のフェニル基へのアリールジアゾニウム塩試薬の反応性及び/又は特異性を増加させることを可能にし得る。例として、AAVのアリールジアゾニウム試薬とのインキュベーションを実施するための適切なバッファーはTRISバッファーである。
【0203】
インキュベーションは、数分間から数時間まで、例として、5分間から6時間まで、例えば、3時間から4時間まで、続き得る。典型的には、インキュベーションは、カップリングの十分な収率が達成された時に終了される。
【0204】
インキュベーションの温度は、典型的には10℃から50℃までである。好ましくは、インキュベーションは、室温、すなわち、18℃から30℃までの温度、例えば、約20℃で、実施される。
【0205】
インキュベーションは撹拌しながら実施され得る。
【0206】
化学試薬対AAV粒子のモル比は、1:10から1:108まで、例として、1:105から1:107まで、例えば、1:106~5:106であり得る。
【0207】
培地は、1つ又はいくつかの追加の化合物を含み得る。例として、化学試薬が式(VIc)である場合、培地は、酸化剤、又は酸化剤を生成する系、例えば、H2O2を含み得る。
【0208】
アリールジアゾニウム塩試薬に存在する対アニオンは、任意の型であり得、好ましくは、TsO-、BF4 -、Cl-、AcO-、PF6 -、TfO-、又はCF3CO2 -である。
【0209】
特定の実施形態において、生じたAAVは、少なくとも1個の式(Ib)の化学修飾型チロシンを含む。したがって、化学試薬は以下の式(VIa):
【0210】
【化31】
【0211】
(式中、Ar、スペーサー、n、及びMは、式(Ib)に定義されている通りである)
である。
【0212】
いくつかの他の実施形態において、生じたAAVは、少なくとも1個の式(Ic)の化学修飾型チロシンを含む。したがって、化学試薬は以下の式(VId):
【0213】
【化32】
【0214】
である。
【0215】
式中、X2、スペーサー、n、及びMは、式(Ic)に定義されている通りである。
【0216】
別の実施形態において、生じたAAVは、少なくとも1個の式(Id)の化学修飾型チロシンを含む。したがって、化学試薬は以下の式(VIe):
【0217】
【化33】
【0218】
である。
【0219】
式中、スペーサー、n、及びMは、式(Id)に定義されている通りである。
【0220】
本発明の方法は、上記のようなインキュベーションの工程の前又は後に、1つ又はいくつかの追加の工程を含み得る。
【0221】
例として、本発明の方法は、化学修飾され得るAAV粒子を供給又は産生する工程を含み得る。
【0222】
本発明はまた、化学試薬を供給又は調製する工程を含み得る。
【0223】
化学試薬は、合成経路によって生成され得る。例として、式(VIIa)の化学試薬は、例えば、触媒としてPd/Cを用いた水素付加により、-NO2を-NH2へ還元し、その後、そのアニリン誘導体から、例えばtBuONOとの反応により、アリールジアゾニウム基を形成することにより、ニトロ誘導体から調製され得る。例示としてのみではあるが、実施例セクションに記載された式IIの化合物の合成を参照することができる。
【0224】
本発明の方法はまた、インキュベーションの工程後に以下等:
- インキュベーション工程の終了時点に反応していない化学試薬を消滅させる工程、並びに/又は
- 反応していない試薬を、例えば、透析若しくは接線流濾過により、除去する工程、並びに/又は
- 化学修飾型AAV粒子を収集する工程、並びに/又は
- 化学修飾型AAV粒子を精製する工程、並びに/又は
- 化学修飾型AAV粒子を回収する工程、並びに/又は
- 化学修飾型AAVを製剤化及び/若しくはパッケージングする工程
の1つ又はいくつかの追加の工程を含み得る。
【0225】
本発明の方法は、AAVのカプシドのチロシン残基以外のアミノ酸残基を化学修飾する工程を更に含み得る。例として、前記追加の化学修飾されるアミノ酸残基は、それの側鎖にアミノ基を有し得る。
【0226】
特定の実施形態において、本発明の方法は、AAVを以下の式(VII):
【0227】
【化34】
【0228】
の化学試薬と共に、前記化学試薬をAAVのカプシドに存在するアミノ酸残基、例えばリジン残基又はアルギニン残基のアミノ基と反応させて共有結合を形成することを促進するのに資する条件で、インキュベートする工程を含み得る。そのような工程は、以下の式:
【0229】
【化35】
【0230】
(式中、
- N*は、アミノ酸残基、例えばリジン残基のアミノ基の窒素であり、
- Ar、スペーサー、n、及びMは、式(Ia)、(Ib)、(Ic)、及び(Id)において定義された通りである)
に従ってカプシドのアミノ酸残基に存在するアミノ基を化学修飾することを可能にする。式(V)におけるAr、スペーサー、n、及びMが、上記のような少なくとも1個の化学修飾型チロシンに存在するものと同じ又は異なり得ることは言うまでもない。
【0231】
典型的には、そのような工程は、TRISバッファー等の水性バッファー中、8から10までのpH、例えば、約9.3のpH、及び10℃から50℃までの温度、例えば、室温で、実施され得る。そのような工程の実行に関する詳細は、国際特許出願公開第2017/212019号に見出すことができ、その特許出願の内容は、参照により本明細書に組み入れられている。
【0232】
この工程は、上記のようなAAVのカプシドにおける少なくとも1個のチロシン残基を化学修飾する工程の前に、と同時に、又は後に実施することができる。
【0233】
本発明はまた、上記のような本発明の方法により得ることができる、又は得られる化学修飾型AAVに関する。
【0234】
更なる態様において、本発明はまた、AAVの、より正確には、遺伝子治療における遺伝子ベクターとして使用されることを意図された組換えAAVの、1つ又はいくつかの生物学的特性を改変するための方法に関する。実際、「M」部分の性質に依存して、AAVのカプシドを化学修飾するための、より正確には、上記のようにAAVのカプシドにおける少なくとも1個のチロシン残基を化学修飾するための方法は、以下のこと:
- 指向性を改変する、例えば、特定の器官、組織、若しくは細胞へのAAVの選択性を増加させる(インビボで投与されるか若しくは培養中の組織若しくは細胞を形質導入するかのいずれかで)、若しくはAAVの選択性を1つの組織/器官/細胞から別のものへシフトする、並びに/又は
- AAVの免疫反応性を変化させる、例えば、AAVの免疫原性を減少させる、及び/若しくは中和抗体に対する親和性を減少させる、及び/若しくは前記AAVが、インビボで投与された場合、変化した体液性応答を誘発する、例えば、AAVに方向づけられた中和抗体を生じない、並びに/又は
- AAV粒子の感染効率を増加させる、並びに/又は
- オフターゲット効果、すなわち、薬物の利益を提供するために必要ではなく、且つ更には有害でさえあり得る細胞を形質導入すること、を低下させる
- 特定の細胞、組織、若しくは器官へのAAVの形質導入効率を増加させる
- 培養中の細胞を形質導入する場合、細胞毒性を低下させる
- 細胞標的化死滅を癌細胞へ誘導する
- これらのAAV粒子を用いたインビボでの投与における、若しくはインビトロでの細胞の改変における、AAV粒子の可視化/モニタリングを可能にする
- AAVにおいて治療剤と診断薬を組み合わせる
を可能にし得る。
【0235】
本発明のAAVの使用
本発明の化学修飾型AAVは、研究ツールとして、又は薬剤として、例えばDNA若しくはRNA等の治療用核酸の送達のためのベクターとして、及び/又は診断手段として、例えば画像化剤として、又はセラグノスティクス的使用を含む両方の組合せとして、使用され得る。
【0236】
いくつかの実施形態において、本発明の化学修飾型AAVは、核酸を細胞へ送達するために使用され、したがって、組換えAAVである。
【0237】
組換えAAVは、インビボ、エクスビボ、又はインビトロで細胞に投与することができる。細胞は、ヒト、霊長類、ウシ、マウス、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラット、及びその他同種類のものを含む任意の哺乳動物に由来し得る。細胞は任意の型であり得、それには、肝細胞、心筋細胞、筋細胞、ニューロン、運動ニューロン、網膜色素細胞、光受容体、軟骨細胞、造血幹細胞(HSC)、又は誘導多能性幹細胞(iPS)が挙げられる。
【0238】
本発明の組換えAAVは、対象において関心対象となる治療用核酸を送達するために使用され得る。したがって、本発明は、本発明の化学修飾型AAVを、必要としている対象に投与する工程を含む、必要としている対象において、関心対象となる治療用核酸を送達するための方法に関する。本発明の組換えAAVは、対象へ任意の適切な経路によって送達することができる。適切な投与経路は、非限定的に、吸入、局所、組織内(例えば、筋肉内、心臓内、肝臓内、腎臓内)、結膜(例えば、網膜内、網膜下)、粘膜(例えば、頬側、鼻)、関節内、硝子体内、頭蓋内、血管内(例えば、静脈内)、脳室内、大槽内、腹腔内、及びリンパ管内の経路を包含する。典型的には、投与経路は、ターゲットされる組織/器官に依存して、すなわち、形質導入が求められる組織/器官に依存して、選択される。
【0239】
対象に投与されるAAVの用量は、典型的には、対象の特異的な特徴、求められる治療効果、及びターゲットされる組織/器官を考慮して、熟練した技術者により決定される。求められる治療効果を達成するためにAAVの単回投与又は数回投与が、必要とされ得る。本発明のAAVは、典型的には、薬学的組成物の形をとって、すなわち、1つ又はいくつかの薬学的賦形剤との混合物として、投与される。
【0240】
AAVの投与により処置され得る状態は、任意の型であり得、それには、遺伝的障害、加えて後天性障害が挙げられる。関心対象となる遺伝的障害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー等の遺伝性筋肉障害、白質ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、血友病、鎌状赤血球症、及び遺伝性網膜ジストロフィーを包含する。化学修飾型AAVはまた、癌、関節炎、関節症、先天性及び後天性心疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、加えて、C型肝炎等の感染症等の障害を処置するために使用され得る。
【0241】
本発明の別の目的は、本発明の化学修飾型AAV及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む薬学的組成物である。薬学的賦形剤は、担体、保存剤、抗酸化剤、界面活性剤、バッファー、安定剤、及びその他同種類のもの等の周知の賦形剤から選択され得る。
【0242】
本発明は更に、本発明の化学修飾型AAVを細胞と接触させる工程を含む、細胞において関心対象となる核酸を送達するためのインビボ又はエクスビボの方法に関する。細胞は患者由来であり得る。形質導入後、細胞は、それを必要としている患者に移植され得る。細胞は、例として、造血幹細胞であり得る。関心対象となる核酸は、任意の型であり得、求められる効果に依存して選択される。
【0243】
例として、AAVは、外因性遺伝子発現カセットを含み得る。前記カセットは、プロモーター、関心対象となる遺伝子、及びターミネーターを含み得る。別の例として、本発明のAAVは、細胞における相同組換えのためのDNA鋳型を含み得る。そのような組換えAAVは、ターゲットされた細胞において相同組換えを促進するために、遺伝子編集ツールと組み合わせて使用されてもよい。遺伝子編集ツールは、任意の型であり得、非限定的に、CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、加えて、前記タンパク質をコードするRNA及びDNAを包含する。
【0244】
本発明はまた、本発明の化学修飾型AAVをトランスフェクションされた宿主細胞に関し、前記宿主細胞は任意の型であり得る。
【0245】
例として、前記宿主細胞は、肝細胞、心筋細胞、筋細胞、ニューロン、運動ニューロン、網膜色素細胞、光受容体、軟骨細胞、造血幹細胞(HSC)、又は誘導多能性幹細胞(iPS)であり得る。
【0246】
本発明の更なる態様及び利点は、以下の実験セクションに開示され、それは、例証として見なされるべきであり、本出願の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0247】
以下の化合物を調製した:
【0248】
【化36】
【0249】
化合物3、9、及び10の合成並びにAAVのカプシドのアミノ基におけるカップリングの手順は、すでにChemical Science、2020、11、1122~1131頁に発表されている。他の化合物の合成は以下に記載されている。
【0250】
1. 化合物2(発明)の合成
【0251】
【化37】
【0252】
リガンド2は以下の通りに調製される:
【0253】
【化38】
【0254】
化合物A(1当量、1.12mmol)をDCM中に可溶化し、DMAP(5当量、5.6mmol)、4-ニトロベンゾイルクロリド(3当量、3.3mmol)を加えた。その混合物を、室温で4時間、撹拌した。その有機溶液をHCl 1M、水、及びNaHCO3で洗浄し、MgSO4で乾燥させた。濃縮後、そのオレンジ色の油をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、AcOEt/MeOH 85/15)により精製した。化合物Bの淡黄色固体が得られる。収率: 51.7%。
NMR 1H (300 MHz, MeOD): δ (ppm) 8.34 (d, J= 8.98 Hz, 2H), 8.06 (d, J= 9 Hz, 2H), 5.32 (d, J= 3.13 Hz, 1H), 5.06 (dd, J= 3.3 Hz, J= 11 HZ, 1H), 4.61 (d, J= 8.41 Hz, 1H), 4.12 (m, 3H), 3.95 (m, 2H), 3.65 (m, 12H), 2.10 (s, 3H), 2.02 (s, 3H), 1.94 (s, 3H), 1.92 (s, 3H). NMR 13C (75 MHz, MeOD): δ (ppm) 173.66, 172.08, 172.05, 171.75, 168.22, 151.04, 141.44, 129.85 x 2C, 124.66 x 2C, 102.87, 72.18, 71.84, 71.60, 71.39, 71.35, 70.39, 70.21, 68.18, 62.73, 51.56, 41.17, 22.92, 20.55 x 2C, 20.51. HRMS: TOF (ESI+) m/z C27H37N3O14Na (M+Na)+の計算値650.2173, 実測値 650.2172.
【0255】
【化39】
【0256】
化合物B(1当量、0.6mmol)を混合物1:1 H2O/MeOH中に可溶化し、Amberlist塩基性樹脂を加えた。その混合物を、出発材料の消失まで、2時間、撹拌した。樹脂を濾過し、濾液を、真空下で濃縮して、白色固体として対応する生成物Cを得た。収率:定量的。
NMR 1H (400 MHz, MeOD): δ (ppm) 8.33 (d, J= 8.8 Hz, 2H), 8.05 (d, J= 9.2 Hz, 2H), 4.42 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 3.93 (m, 2H), 3.82-3.46 (m, 18H), 1.96 (s, 3H) NMR 13C (100 MHz, MeOD): δ (ppm) 174.12, 168.29, 151.08, 141.44, 129.78, 124.66, 103.12, 76.79, 73.50, 71.62, 71.54, 71.40, 70.41, 69.76, 69. 67, 62.57, 54.29, 41.19, 23.08. HRMS: TOF (ESI+) m/z C21H31N3O11Na (M+Na)+の計算値524.1856, 実測値 524.1852.
【0257】
【化40】
【0258】
化合物C(1当量、0.6mmol)をMeOH(15mL)中に可溶化し、パラジウム炭素(10%w/w)を加えた。その混合物を、H2雰囲気下に置き、室温で5時間、撹拌した。その混合物をceliteで濾過し、濾液を真空下で濃縮して、化合物Dに対応する白色固体を得た。収率:82.3%。
NMR 1H (400 MHz, MeOD): δ (ppm) 7.60 (d, J= 8.8 Hz, 2H), 6.67 (d, J= 8.8 Hz, 2H), 4.41 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 3.76-3.46 (m, 20H), 1.96 (s, 3H) NMR 13C (100 MHz, MeOD): δ (ppm) 174.16, 170.47, 153.15, 129.97, 123.20, 114.76, 103.12, 76.72, 73.49, 71.57, 71.34, 70.79, 69.74, 69.70, 62.56, 54.29, 40.68, 23.09. HRMS: TOF (ESI+) m/z C21H33N3O9Na (M+Na)+の計算値494.2114, 実測値 494.2108.
【0259】
超純水におけるHBF4(1.1当量)及びtBuONO(1.1当量)をアミノ誘導体Dに加えることにより、ジアゾニウム塩誘導体2を得た。ボルテックスから5分後、ジアゾニウム塩の形成を、2-ヒドロキシナフトールの溶液を使用することにより確認した。各溶液1滴の混合物は、ジアゾニウム塩の形成を認める赤色呈色を示す。
【0260】
2. 化合物4(比較)の合成
【0261】
【化41】
【0262】
化合物A(1当量、0.2mmol)をDCM(15mL)中に可溶化し、DMAP(5当量、1.1mmol)、塩化ベンゾイル(3当量、0.8mmol)を加えた。その混合物を、室温で4時間、撹拌した。その有機溶液をHCl 1M、水、及びNaHCO3で洗浄し、MgSO4で乾燥させた。濃縮後、その黄色の油をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、AcOEt/MeOH 8/2)により精製した。化合物Eの白色固体が得られる。収率:67%。
NMR 1H (400 MHz, MeOD): δ (ppm) 7.83 (d, J= 8.4 Hz, 2H), 7.48 (m, 3H), 5.31 ( d, J= 3.2 Hz, 1H), 5.06 (dd, J= 11.2 Hz, J= 3.2 Hz, 1H), 4.61 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 4.11 (m, 3H), 3.92 (m, 2H), 3.68-3.59 (m, 12H), 2.12( s, 3H), 2.02 (s, 2H), 1.94 (s, 3H), 1.91 (s, 3H). NMR 13C (100 MHz, MeOD): δ (ppm) 173.59, 172.07, 172.06, 171.76, 170.31, 135.72, 132.66, 129.56, 128.34, 102.77, 72.23, 71.84, 71.65, 71.46, 71.36, 70.58, 70.10, 68.23, 62.75, 51.65, 40.88, 22.90, 20.56, 20.54, 20.52. HRMS: TOF (ESI+) m/z C27H39N2O12 (M+H)+の計算値583.2503, 実測値 583.2504.
【0263】
【化42】
【0264】
化合物E(1当量、0.15mmol)を混合物1:1 H2O/MeOH中に可溶化し、Amberlist塩基性樹脂を加えた。その混合物を、出発材料の消失まで、2時間、撹拌した。樹脂を濾過し、濾液を、真空下で濃縮して、無色の油として対応する生成物を得た。その後、その油を凍結乾燥して、化合物4の白色固体を得た。収率:定量的。
NMR 1H (400 MHz, MeOD): δ (ppm) 7.83 (m, 2H), 7,49 (m, 3H), 4.42 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 3.93 (m, 2H), 3.81-3.56 (m, 16H), 3.46 (m, 1H), 1.96 (s, 3H) NMR 13C (100 MHz, MeOD): δ (ppm) 174.14, 170.37, 135.69, 132.66, 129.57, 128.32, 103.09, 76.77, 73.52, 71.63, 71.58, 71.40, 70.60, 69.73, 69.70, 62.55, 54.32, 40.91, 23.07 HRMS: TOF (ESI+) m/z C21H32N2O9Na (M+Na)+の計算値479.2006, 実測値 479.1997.
【0265】
3. 化合物5(発明)の合成
【0266】
【化43】
【0267】
脱水DCM(5mL)中のA(160mg、0.246mmol)の溶液に、6-ニトロ-2-ニコチノイルクロリド(91mg、0.492mmol)及びDMAP(90mL、0.738mmol)を加えた。20℃で2時間の撹拌後、その反応の混合物をDCMで希釈し、1M HCl及びNaHCO3の飽和水溶液で洗浄した。その組み合わされた有機相を、鹹水で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、その混合物を濾過し、減圧下で濃縮した。その残渣を、フラッシュクロマトグラフィー(SiO2、AcOEt/MeOH:90/10)により精製して、白色固体としてアミドF(94mg、0.149mmol)を得た。収率:61%。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ = 1.92 (s, 3H, AcO), 1.97 (s, 3H, AcO), 2.01 (s, 3H, AcO), 2.13 (s, 3H, NHAc), 3.63-3.94 (m, 13H), 4.06-4.21 (m, 3H, H-2, H-6a, H-6b), 4.76 (d, 1H, J1,2 = 8.6 Hz, H-1), 5.12 (dd, 1H, J3,2 = 11.3 Hz, J3,4 = 3.5 Hz, H-3), 5.28 (dd, 1H, J4,3 = 3.4 Hz, J4,5 = 0.8 Hz, H-4), 6.29 (d, 1H, J = 9.1 Hz, NHAc), 8.22 (d, 1H, J = 7.9 Hz, Py), 8.37 (d, 1H, J = 8.1, J = 0.9 Hz, Py), 8.55 (d, 1H, J = 7.7, J = 0.9 Hz, Py). 13C NMR (100.6 MHz, CDCl3): δ = 20.6 (2 x CH3, 2 x AcO), 20.7 (CH3, AcO), 20.69 (CH3, AcO), 23.2 (CH3, NHAc), 39.4 (CH2), 50.9 (CH, C-5), 61.5 (CH2, C-6), 66.8 (CH, C-4), 68.7 (CH2), 69.7 (CH2), 70.49 (CH2), 70.51 (CH2) 70.6 (CH), 70.7 (CH, C-3), 71.1 (CH2), 101.9 (CH, C-1), 120.1 (CH, Py), 127.7 (CH, Py), 141.6 (CH, Py), 149.6 (C, Py), 155.1 (C, Py), 162.2 (C, CO), 170.3 (C, AcO), 170.4 (C, AcO), 170.5 (C, AcO), 170.6 (C, NHAc). HRMS (ESI): m/z C26H37N4O14 [M + H]+の計算値: 629.2306, 実測値: 629.2307
【0268】
【化44】
【0269】
化合物F(88mg、0.139mmol)を脱水MeOH(2.8mL)中に溶解し、ナトリウムメトキシド(MeOH中1M溶液の42μL、0.042mmol)を加えた。その混合物を2時間、撹拌し、酸性樹脂Amberlite IR120(H)を加えることにより中和し、濾過し、その溶媒を蒸発乾固した。その反応の粗生成物を、更なる精製なしに次の工程に使用された。
【0270】
MeOH(3mL)中の脱保護された糖の溶液(0.139mmol)に、Pd/C(24mg、20%w)を加えた。生じた懸濁液を、H2雰囲気(1atm)下で8時間、撹拌した。Pd/Cを、Celite(登録商標)に通しての濾過により除去し、濾液を減圧下で蒸発させた。その反応の粗生成物を凍結乾燥して、白色固体としてアニリンG(54mg、0.114mmol)を得た。収率:82%
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ = 1.97 (s, 3H, NHAc), 1.49 (t, 2H, J = 5.9 Hz), 3.57-3.80 (m, 13H), 3.84 (bd, 1H, J = 3.1 Hz), 4.06 (m, 2H), 4.43 (d, 1H, J1,2 = 8.5 Hz, H-1), 6.69 (dd, 1H, J= 8.4 Hz, J= 0.8 Hz, Py), 7.30 (dd, 1H, J = 7.3, J = 0.7 Hz, Py), 7.53 (dd, 1H, J = 8.2, J = 7.3 Hz, Py). 13C NMR (100.6 MHz, CDCl3): δ = 23.1 (CH3, NHAc), 40.2 (CH2), 54.3 (CH, C-5), 62.6 (CH2, C-6), 69.7 (CH), 69.8 (CH2), 70.8 (CH2), 71.40 (CH2), 71.47 (CH2), 71.54 (CH2), 70.6 (CH), 73.4 (CH, C-3), 76.7 (CH), 103.2 (CH, C-1), 112.0 (CH, Py), 113.1 (CH, Py), 139.4 (CH, Py), 148.9 (C, Py), 160.2 (C, Py), 167.5 (C, CO), 174.2 (C, NHAc). HRMS (ESI): m/z C20H32N4O9 [M + Na]+の計算値: 495.2067, 実測値: 495.2063.
【0271】
超純水におけるHBF4(1.1当量)及びtBuONO(1.1当量)をアミノ誘導体Gに加えることにより、ジアゾニウム塩誘導体5を得た。ボルテックスから5分後、ジアゾニウム塩の形成を、2-ヒドロキシナフトールの溶液を使用することにより確認した。各溶液1滴の混合物は、ジアゾニウム塩の形成を認める赤色呈色を示す。
【0272】
4. 化合物6(発明)の合成
【0273】
【化45】
【0274】
脱水DCM(4.3mL)中の6-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)-2-ナフトエ酸(210mg、0.644mmol)の溶液及びHOBt(87mg、0.644mmol)に、0℃においてDIC(90mL、0.738mmol)を液滴で加えた。15分間の撹拌後、TEA(88μL、0.644mmol)を含有するA(280mg、0.429mmol)の溶液を液滴で加えた。室温で2時間の撹拌後、その反応の混合物をDCMで希釈し、1M HCl及びNaHCO3の飽和水溶液で洗浄した。組み合わされた有機相を、鹹水で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、その混合物を濾過し、減圧下で濃縮した。その残渣を、フラッシュクロマトグラフィー(SiO2、AcOEt/MeOH:95/5)により精製して、白色固体としてアミドH(94mg、0.120mmol)を得た。収率:28%。
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ = 1.91 (s, 3H, AcO), 1.94 (s, 3H, AcO), 1.97 (s, 3H, AcO), 2.05 (s, 3H, NHAc), 3.53-3.91 (m, 13H), 4.00 (d, 2H, J= 4.0 Hz), 4.07 (dd, 1H, J= 11.3 Hz, J= 8.5 Hz), 4.42 (s, 2H, PhCH2), 4.48 (d, 1H, J1,2 = 8.5 Hz, H-1), 5.00 (dd, 1H, J3,2 = 11.3 Hz, J3,4 = 3.4 Hz, H-3), 5.24 (dd, 1H, J4,3 = 3.4 Hz, J4,5 = 0.8 Hz, H-4), 6.73 (d, 1H, J = 2.3 Hz), 7.06 (d, 1H, J = 8.9 Hz, J = 2.3 Hz), 7.19-7.41 (m, 5H), 7.53 (d, 1H, J = 8.9 Hz), 7.70 (m, 2H), 8.18 (d, 1H, J = 1.8 Hz). 13C NMR (100.6 MHz, CD3OD): δ = 20.5 (CH3, AcO), 20.6 (2 x CH3, 2 x AcO), 22.9 (CH3, NHAc), 40.8 (CH2), 48.3 (CH2), 51.5 (CH, C-2), 61.7 (CH2, C-6), 68.1 (CH, C-4), 70.1 (CH2), 70.7 (CH2), 71.3 (CH2), 71.4 (CH2), 71.6 (CH2), 71.7 (CH), 72.2 (CH, C-3), 102.8 (CH, C-1), 104.3 (CH, Ar), 120.1 (CH, Ar), 125.2 (CH, Ar), 126.9 (CH, Ar), 127.3 (C, Ar), 127.9 (C, Ar), 128.0 (CH, Ar), 128.4 (2 X CH, Ar), 128.9 (CH, Ar), 129.5 (2 X CH, Ar), 130.9 (CH, Ar), 138.7 (C), 140.8 (C), 149.7 (C), 170.6 (C, AcO), 171.8 (C, AcO), 172.0 (2 x C, AcO, CO), 173.6 (C, NHAc). HRMS (ESI): m/z C39H48N3O14 [M + H]+の計算値: 782.3136, 実測値: 782.3142.
【0275】
【化46】
【0276】
化合物H(86mg、0.109mmol)をMeOH(2.2mL)中に溶解し、塩基性樹脂(190mg)を加えた。その混合物を2時間、撹拌し、濾過し、その溶媒を蒸発乾固した。その反応の粗生成物を、更なる精製なしに次の工程に使用した。
【0277】
MeOH(4mL)中の脱保護された粗糖の溶液(0.109mmol)に、Pd/C(17mg、20%w)を加えた。生じた懸濁液を、H2雰囲気(1atm)下で6時間、撹拌した。Pd/Cを、Celite(登録商標)に通しての濾過により除去し、濾液を減圧下で蒸発させた。その反応の粗生成物を凍結乾燥して、白色固体としてアニリンI(51mg、0.098mmol)を得た。収率:90%。
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ = 1.95 (s, 3H, NHAc), 3.43 (t, 2H, J = 5.4 Hz), 3.48-3.84 (m, 21H), 3.92 (m, 2H), 4.38 (d, 1H, J1,2 = 8.5 Hz, H-1), 6.97 (d, 1H, J = 2.2 Hz), 7.05 (dd, 1H, J = 8.7 Hz, J = 2.2 Hz), 7.57 (d, 1H, J = 8.7 Hz), 7.73 (m, 2H), 8.19 (d, 1H, J = 1.8 Hz). 13C NMR (100.6 MHz, CD3OD): δ = 23.1 (CH3, NHAc), 40.9 (CH2), 54.3 (CH, C-2), 62.5 (CH2, C-6), 69.68 (CH, C-4), 69.74 (CH2), 71.4 (CH2), 71.6 (2 X CH2), 73.5 (CH), 76.7 (CH, C-3), 103.1 (CH, C-1), 108.3 (CH, Ar), 120.4 (CH, Ar), 125.1 (CH, Ar), 127.7 (C, Ar), 128.3 (C, Ar), 128.9 (CH, Ar), 131.2 (CH, Ar), 138.4 (C), 149.2 (C), 170.7 (C, NHAc), 174.1.0 (C, CO). HRMS (ESI): m/z C25H35N3O9 [M + Na]+の計算値: 544.2271, 実測値: 544.2270.
【0278】
超純水におけるHBF4(1.1当量)及びtBuONO(1.1当量)をアミノ誘導体Iに加えることにより、ジアゾニウム塩誘導体6を得た。ボルテックスから5分後、ジアゾニウム塩の形成を、2-ヒドロキシナフトールの溶液を使用することにより確認した。各溶液1滴の混合物は、ジアゾニウム塩の形成を認める赤色呈色を示す。
【0279】
5. 化合物7(発明)の合成
【0280】
【化47】
【0281】
化合物J(1当量、1.38mmol、及び0.900g)をDCM中に可溶化し、DMAP(3当量、4.14mmol、0.506g)、4-ニトロベンゾイルクロリド(3当量、4.14mmol、0.769g)を加えた。その混合物を、室温で4時間、撹拌した。その有機溶液をHCl 1M、水、及びNaHCO3で洗浄し、MgSO4で乾燥させた。濃縮後、そのオレンジ色の油をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、AcOEt/MeOH 85/15)により精製して、淡黄色固体K(0.270g、0.43mmol)を得た。収率:31.1%。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.27 (m, 2H), 7.99 (m, 2H), 7.19 (br s, 1H), 5.29 (m, 3H, H2, H3, H4), 4.86 (d, 1H, J =1.6 Hz, H-1), 4.25 (m, 1H, H-6), 4.07 (m, 2H), 3.87-3.66 (m, 13H, H-5, H-6, PEG), 2.15 (s, 3H, AcO), 2.09 (s, 3H, AcO), 2.03 (s, 3H, AcO), 1.98 (s, 3H, AcO). 13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ (ppm) 170.86 (C, CO), 170.30 (2 x C, 2 X CO), 169.79 (C, CO), 165.66 (C, CO), 149.70 (C), 140.37 (C), 128.50 (2 x C, CH), 123.83 (2 x C, CH), 97.81 (CH, C-1), 70.78 (CH2), 70.43 (CH2), 70.14 (CH2), 69.81 (CH), 69.68 (CH), 68.71 (CH2), 67.48 (CH2), 66.23 (CH), 62.60 (CH2), 40.25 (CH2), 21.00 (CH3, AcO), 20.88 (CH3, AcO), 20.82 (2 x CH3, 2 x AcO). HRMS: TOF (ESI+) m/z C27H36N2O15Naの計算値651.2013, 実測値 651.2002.
【0282】
【化48】
【0283】
化合物K(1当量、0.99mmol、625mg)を混合物1:1 H2O/MeOH中に可溶化し、Amberlist塩基性樹脂を加えた。その混合物を、出発材料の消失まで、2時間、撹拌した。樹脂を濾過し、濾液を、真空下で濃縮して、白色固体として生成物Lを得た(475mg、1mmol、定量的、乾燥していない)。
1H NMR (300 MHz, MeOD): δ (ppm) 8.32 (m, 2H), 8.04 (m, 2H), 4.72 (d,1H, J =1.72 Hz), 3.82 (m, 3H), 3.72-3.54 (m, 16H). 13C NMR (75 MHz, MeOD): δ (ppm) 168.28 (C, CO), 151.05 (C), 141.43 (C), 129.75 (2 x CH, Ar), 124.62 (2 x CH, Ar), 101.74 (C-1), 74.63, 72.58, 72.13, 71.61, 71.42, 71.36, 70.47, 68.65, 67.68, 62.98, 41.22 (CH2). HRMS: TOF (ESI+) m/z C19H27N2O11の計算値459.1615, 実測値 459.1611
【0284】
【化49】
【0285】
MeOH(3mL)中のLの溶液(90mg、0.197mmol)に、Pd/C(25mg、20%w)を加えた。生じた懸濁液を、H2雰囲気(1atm)下で4時間、撹拌した。Pd/Cを、Celite(登録商標)に通しての濾過により除去し、濾液を減圧下で蒸発させた。その反応の粗生成物を凍結乾燥して、白色固体としてアニリンM(69mg、0.160mmol)を得た。収率:81%。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ = 3.52-3.68 (m, 14H), 3.69-3.74 (2H, m), 3.78-3.85 (3H, m), 6.67 (d, 1H, J= 8.8 Hz, Ar), 7.71 (d, 1H, J= 8.8 Hz, Ar). 13C NMR (100.6 MHz, CDCl3): δ = 40.7 (CH2), 62.9 (CH2, C-6), 68.6 (CH), 70.8 (CH2), 71.28 (CH2), 71.32 (CH2), 71.37(CH2), 71.5 (CH), 72.1 (CH), 72.6 (CH), 74.6 (CH), 101.7 (CH, C-1), 114.8 (2 x CH, Ar), 123.2 (C, Ar), 129.9 (2 x CH, Ar), 153.1 (C, Ar),170.2 (C, アミド). HRMS (ESI): m/z C19H30N2O9Na [M + Na]+の計算値: 453.1849, 実測値: 453.1841.
【0286】
超純水におけるHBF4(1.1当量)及びtBuONO(1.1当量)をアミノ誘導体Mに加えることにより、ジアゾニウム塩誘導体7を得た。ボルテックスから5分後、ジアゾニウム塩の形成を、2-ヒドロキシナフトールの溶液を使用することにより確認した。各溶液1滴の混合物は、ジアゾニウム塩の形成を認める赤色呈色を示す。
【0287】
6. 化合物8(比較)の合成
【0288】
【化50】
【0289】
化合物J(1当量、0.3mmol、及び0.230g)をDCM中に可溶化し、DMAP(3当量、0.9mmol、0.12g)、4-ニトロベンゾイルクロリド(3当量、0.9mmol、0.167g)を加えた。その混合物を、室温で4時間、撹拌した。その有機溶液をHCl 1M、水、及びNaHCO3で洗浄し、MgSO4で乾燥させた。濃縮後、そのオレンジ色の油をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、AcOEt/MeOH:85/15)により精製して、淡黄色固体N(70mg、0.1mmol)を得た。収率:34%。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ (ppm) 7.82 (m, 2H), 7.49 (m, 3H), 5.26 (m, 3H, H2, H3, H4), 4.87 (d, J=1.36 Hz, 1H), 4.23 (dd, J=5 Hz, J=12,3 Hz, 1H, H6), 4.10 (m, 2H, H5, H6), 3.82 (m, 1H), 3.71-3.58 (m, 12H), 2.12 (s, 3H), 2.05 (s, 3H), 2.02 (s, 3H), 1.95 (s, 3H). 13C NMR (100 MHz, CD3OD): δ (ppm) 172.33 (C, CO), 171.55 (C, CO), 171.49 (C, CO), 171.47 (C, CO), 170.23 (C, CO), 135.69 (C), 132.62 (CH), 129.53 (2 X CH), 128.29 (2 X CH), 98.95 (C-1), 71.59 (CH2), 71.33 (CH2), 71.18 (CH2), 70.74 (CH), 70.73 (CH), 70.63 (CH), 69.78 (C-5), 68.34 (CH2), 67.30 (CH2), 63.57 (CH2, C-6), 40.93 (CH2), 20.65 (CH3, AcO), 20.62 (CH3, AcO), 20.61 (CH3, AcO), 20.55 (CH3, AcO). HRMS: TOF (ESI+) m/z C27H38N013の計算値584.2343, 実測値 584.2344
【0290】
【化51】
【0291】
化合物N(1当量、0.1mmol、70mg)を混合物1:1 H2O/MeOH中に可溶化し、Amberlist塩基性樹脂を加えた。その混合物を、出発材料の消失まで、2時間、撹拌した。樹脂を濾過し、濾液を、真空下で濃縮して、白色固体として、対応する生成物8を得た(50mg、0.1mmol、定量的)。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ (ppm) 7.84 (m, 2H), 7.69 (m, 1H), 7.60 (m, 2H), 4.88 (d, J=1.68 Hz, 1H), 3.97 (m, 1H), 3.93-3.63 (m, 18H). 13C NMR (100 MHz, D2O): δ (ppm) 171.11 (C, CO), 133.65 (C), 132.21 (CH, Ar), 128.83 (2 CH, Ar), 127.10 (2 CH, Ar), 99.93 (C-1), 72.74, 70.54, 69.99, 69.66, 69.58, 68.89, 66.76, 66.37, 60.93, 39.57. HRMS: TOF (ESI+) m/z C19H29NO9Naの計算値438.1740, 実測値 438.1730.
【0292】
7. 化合物11(比較)の合成
【0293】
【化52】
【0294】
酢酸エチル(9.2mL)における化合物O(550mg、0.917mmol)及び20%パラジウム炭素(110mg)の混合物を、室温で水素雰囲気(1atm)下、2時間、撹拌した。反応混合物を、Celiteのパッドを通して濾過し、溶媒を真空中で蒸発させて、黄色の非晶質固体として水素付加された生成物を得、更なる精製なしに使用した。
【0295】
脱水THF(9.2mL)中のCDI(149mg、0.917mmol)の溶液にカルバジン酸エチル(95mg、0.917mmol)を加え、室温で窒素下、15分間、撹拌した。その後、粗生成物(0.917mmol、4mL THF中に溶解)を液滴で加え、撹拌を一晩、続けた。その混合物を、AcOEtで希釈し、0.5M HCl水溶液で洗浄した。有機相を乾燥させ、減圧下で濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、EtOAc-MeOH、90:10)により精製して、白色固体としてP(311g、0.541mmol)を得た。収率:59%。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ = 1.25 (t, 3H, J= 7.1 Hz, CH3CH2O), 1.88 (s, 3H, AcO), 1.92 (s, 3H, AcO), 2.03 (s, 3H, AcO), 2.09 (s, 3H, NHAc), 3.59-4.10 (m, 16H), 4.16 (d, 2H, J= 7.1 Hz, CH3CH2O), 4.73 (d, 1H, J= 8.6 Hz, H-1), 5.05 (dd, 1H, J3,2 = 11.2 Hz, J3,4 = 3.3 Hz, H-3), 5.26 (bd, 1H, J4,3 = 3.3 Hz, H-4), 6.78 (d, 3H, J= 9.0 Hz, Ph, NH), 7.16 (s, 1H, NH), 7.22 (s, 1H, NH), 7.24 (d, 2H, J= 9.0 Hz, Ph), 7.67 (s, 1H, NH). 13C NMR (100.6 MHz, CDCl3): δ = 14.4 (CH3, CH3CH2O), 20.7 (3 x CH3, 3 x AcO), 23.0 (CH3, NHAc), 50.4 (CH, C-5), 61.6 (CH2, C-6), 62.3 (CH2, CH3CH2O), 66.7 (CH, C-4), 67.6 (CH2), 68.6 (CH2), 69.9 (CH2), 70.5 (CH, CH2), 70.83 (CH), 70.86 (CH2), 71.2 (CH2), 101.9 (CH, C-1), 114.9 (2 x CH, Ph), 121.7 (2 x CH, Ph), 131.5 (C, Ph), 154.8 (C), 156.4 (C), 157.5 (C), 170.4 (C, AcO), 170.5 (C, AcO), 170.7 (C, AcO), 171.1 (C, NHAc). HRMS (ESI): m/z C30H44N4O15Na [M + Na]+の計算値: 723.2701, 実測値: 723.2700.
【0296】
【化53】
【0297】
化合物P(286mg、0.497mmol)を脱水MeOH(10mL)中に溶解し、メトキシドナトリウム(MeOH中1M溶液の149μL、0.149mmol)を加えた。その混合物を4時間、撹拌し、K2CO3(137mg、0.994mmol)を加え、生じた混合物を75℃で1.5時間、撹拌した(μW、50W)。その混合物を、10mL H2Oで希釈し、Amberlite IR120(H)で中和し、濾過し、溶媒を蒸発乾固した。その基質を水中に溶解し、凍結乾燥に供して、茶色固体として11(226mg、0.427mmol)を得た。収率:86%。
1H NMR (300 MHz, MeOD): δ = 1.97 (s, 3H, NHAc), 3.45 (ddd, 1H, J= 6.5 Hz, J= 5.3 Hz, J= 1.0 Hz, H-5), 3.53 (dd, 1H, J3,2 = 10.7 Hz, J3,4 = 3.3 Hz, H-3), 3.62-3.79 (m, 10H), 3.86-3.97 (m, 4H), 4.19 (m, 2H), 4.44 (d, 1H, J1,2 = 8.4 Hz, H-1), 6.78 (d, 3H, J= 9.0 Hz, Ph, NH), 7.24 (d, 1H, J= 9.1 Hz, Ph), 7.35 (d, 1H, J= 9.1 Hz, Ph). 13C NMR (100.6 MHz, CDCl3): δ = 23.0 (CH3, NHAc), 54.4 (CH, C-5), 62.6 (CH2, C-6), 68.9 (CH2), 69.7 (CH), 70.8 (CH2), 71.6 (CH2), 71.7 (CH2), 71.8 (CH2), 73.6 (CH), 76.7 (CH), 103.1 (CH, C-1), 116.2 (2 x CH, Ph), 125.6 (C, Ph), 129.0 (2 x CH, Ph), 156.1 (2 X C, ウラゾール), 160.1 (C, Ph), 174.2 (C, NHAc). HRMS (ESI): m/z C22H31N4O11 [M - H]+の計算値: 527.1989, 実測値: 527.1974.
【0298】
8. 化合物12(発明)の合成
【0299】
【化54】
【0300】
アセトニトリル中1.1当量のヒダントインの存在下で化合物11の酸化後、化合物12を得た。その溶液の赤色呈色により、PTAD誘導体12の形成が確認された。
【0301】
3. 化学修飾型AAVの調製
- AAV2及びAAV8産生及び精製
AAV2ベクターを、2つのプラスミド:pHelper、AAV Rep2-Cap2及びアデノウイルスヘルパー遺伝子(E2A、VA RNA、及びE4)をコードするPDP2-KANA、並びにpVector ss-CAG-Luc-eGFP又はpVector ss-CAG-eGFPから作製した。AAV8ベクターを、2つのプラスミド:pHelper、AAV Rep2-Cap8及びアデノウイルスヘルパー遺伝子(E2A、VA RNA、及びE4)をコードするPDP8-KANA、並びにpVector ss-CAG-eGFPから作製した。全てのベクターを、リン酸カルシウム-HeBS方法を用いたHEK293細胞の一過性トランスフェクションにより作製した。トランスフェクションから48時間後、ベクター産生細胞を収集した。AAV2粒子の抽出について、細胞を、最初、Triton-1%及びベンゾナーゼ(25U/mL)で37℃、1時間、処理した。この工程は、AAV8ベクターについては省略したが、その後の工程は同一であった。そのバルクを2000rpmで20分間、遠心分離し、凍結融解サイクルに供して、ベクター粒子を遊離させた。細胞デブリを、2500rpmで15分間の遠心分離により除去した。細胞溶解物を、PEGで一晩、沈澱させ、4000rpmで1時間の遠心分離により透明化した。その後、沈殿物を、ベンゾナーゼと37℃、30分間、インキュベートし、10000g、4℃で10分間遠心分離し、回収した。ベクターを二倍の塩化セシウム(CsCl)勾配超遠心により精製した。その後、ウイルス懸濁液を、Slide-a-Lyzerカセット(Pierce社)において軽く撹拌しながらdPBS(Ca++及びMg++を含有する)に対する連続の4ラウンドの透析に供した。
【0302】
- カップリング及び精製
超純水におけるHBF4(1.1当量)及びtBuONO(1.1当量)を、対応するアミノ化合物へ加えることにより、ジアゾニウム塩誘導体2、5、6、及び7を得た。ボルテックスから5分後、ジアゾニウム塩の形成を、2-ヒドロキシナフトールの溶液を使用することにより確認した。各溶液1滴の混合物は、ジアゾニウム塩の形成を認める赤色呈色を示す。その後、AAV2-GFP-Luc、AAV2-GFP、又はAAV8-GFP(1E12vg、2.49nmol)を、3E5又は3E6当量のモル比で2(発明)、3(比較)、4(比較)、5(発明)、6(発明)、7(発明)、又は8(比較)を含有するTRISバッファー pH=9.3の溶液に加え、20℃で4時間、インキュベートした。その後、そのベクターを含有する溶液を、dPBS+0.001% Pluronicに対して透析して、AAVカプシドとカップリングしていない遊離分子を除去した。
【0303】
AAV2のカプシドのアミノ基の化合物9及び10での修飾について、手順は、Chemical Science、2020、11、1122~1131頁に記載されている。
【0304】
AAV2-GFPのチロシン及びアミノ基の二重修飾について、カップリングを、3E5当量のモル比で、最初、2及びチロシン修飾の手順で、並びに5分後、化合物10を使用するアミノ基修飾の手順で、行い、20℃で4時間、インキュベートした。その後、そのベクターを含有する溶液を、dPBS+0.001% Pluronicに対して透析して、AAVカプシドとカップリングしていない遊離分子を除去した。
【0305】
PTAD誘導体12(発明、3E6当量)及びウラゾール誘導体11(比較、3E6当量)について、それらの化合物を、TBSバッファー中のAAV2-GFPに少しずつ加えた。添加から5分後、そのベクターを含有する溶液を、dPBS+0.001% Pluronicに対して透析して、AAVカプシドとカップリングしていない遊離分子を除去した。
【0306】
4. 化学修飾型AAV(発明及び比較)の特徴づけ
材料及び方法
- ウイルスゲノム抽出
3μLのAAV2、AAV8、又は化学修飾型AAV2若しくはAAV8を、20ユニットのDNase I(Roche社 #04716728001)で、37℃、45分間、処理して、ベクター試料中の残留DNAを除去した。DNase Iでの処理後、20μLのプロテイナーゼK 20mg/mL(MACHEREY-NAGEL社 #740506)を加え、70℃で20分間、インキュベートした。その後、抽出カラム(NucleoSpin(登録商標)RNAウイルス)を使用して、精製AAVベクターからDNAを抽出した。
【0307】
- 定量リアルタイムPCR分析
定量リアルタイムPCR(qPCR)を、StepOnePlus(商標)リアルタイムPCRシステムアップグレード(Life technologies社)を用いて実施した。全てのPCRを、プライマー、プローブ、PCR Master Mix(TaKaRa社)、及び5μLの鋳型DNA(プラスミド標準又は試料DNA)を含む20μL最終体積PCRにおいて実施した。qPCRは、95℃で20秒間の最初の変性工程、続いて、95℃で1秒間での変性及び56℃で20秒間のアニーリング/伸長の45サイクルで実行された。プラスミド標準を、Sca-I制限酵素により線状化されたプラスミドpTR-UF-11(ATCC(登録商標)MBA-331(商標))の7つの段階希釈物(プラスミドの108~102個のコピーを含有する)で作製した。
【0308】
- ウェスタンブロッティング
全てのベクターを、laemmliサンプルバッファーを使用して100℃で5分間、変性させ、SDS-PAGE 10%Tris-グリシン ポリアクリルアミドゲル(Life Technologies社)により分離した。Precision plus Protein All Blue Standards(BioRad社)を分子量サイズマーカーとして使用した。Trans-Blot SD Semi-Dry Transfer Cell(Bio-Rad社)において150mAで1時間、トランスファーバッファー(25mM tris/192mMグリシン/0.1(w/v)SDS/20%MeOH)を使用してそのタンパク質をニトロセルロース膜へ転写した後、その膜を、PBS-Tween(0.1%)中5%半脱脂乳、又はPBS-Tween(0.01%)中1%ゼラチン、0.1%Igepalで、室温で2時間、飽和させた。飽和後、膜を、AAV2及び化学修飾型AAV2に対する抗血清(ポリクローナル又はB1モノクローナル)で、並びにFITC-ダイズ凝集素又はFITC-コンカナバリンAで、4℃で一晩、探索した。結合していない試薬を除去するために、各段階の間に3回の洗浄を、PBS-Tween(0.1%)で、室温、15分間、行った。バンドを、アルカリフォスファターゼ(AP)又は西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート型二次抗体を使用した化学発光により可視化し、X線フィルム上に捕獲した。
【0309】
- イムノドットブロット
ドットブロットマニホールド(Bio-Rad社)を組み立てる前に、非変性AAV2又はAAV8及び化学修飾型AAV2又はAAV8を、PBS中に短時間、浸漬されたニトロセルロースペーパー上に沈着させた。ウェスタンブロッティングについてのように、ニトロセルロース膜を処理した。アセンブルされたカプシドを可視化するために、膜を、AAV2カプシドに対する抗血清(A20抗体)又はAAV8に対する抗血清(ADK8抗体)で探索した。
【0310】
- FACS分析による感染性
HEK293及びHUH7細胞を、24ウェルプレートに2mLのDMEM増殖培地中におよそ2.5×105細胞/ウェルの密度で播種した。その後、細胞を、37℃及び5%CO2で50%コンフルエンスに達するように37℃で一晩、インキュベートした。培養培地において、細胞に、1E4及び1E5のMOIでAAV2又は化学修飾型AAV2ベクターを形質導入した。全てのAAVベクターはGFPをコードした。形質導入から48時間後、GFP陽性細胞のパーセンテージを、FACS分析により測定した。細胞を、トリプシン-EDTA(Sigma-Aldrich社)で解離させ、4%パラホルムアルデヒドで固定し、BD-LSRIIフローサイトメーター(BD Bioscience社)において分析した。全てのデータを、FlowJo(V10;Flowjo LLC社、Ashland、OR)により処理した。
【0311】
- 結果
結果は図1図11に示されている。
【0312】
これらのGalNAc-AAV2及びGalNAc-AAV8の純度及び完全性を評価するために、異なる試料の銀染色を行った。図1-A、図4-C、図6-C、及び図8-Cに示されているように、且つ予想された通り、反応及びその後の透析を受けた後、比VP1:VP2:VP3は損なわれていなかった。Man-AAV2の純度及び完全性を評価するために、試料の銀染色を行った。図7-Cに示されているように、且つ予想された通り、反応及びその後の透析を受けた後、比VP1:VP2:VP3は損なわれていなかった。GalNAc-AAV2、GalNAc-AAV8、及びMan-AAV2について、各VPの分子量は、リガンド2、6、及び7のカップリングで増加した。
【0313】
AAV表面における糖のカップリング反応を、GalNAc及びマンノース残基、それぞれを選択的に結合するダイズレクチン及びコンカナバリンAレクチンを使用するドットブロット分析により更に研究した。アセンブルされたAAV2カプシドを認識するA20抗体、及びアセンブルされたAAV8カプシドと結合するADK8抗体での免疫染色もまた、それぞれ、実施した。A20抗体及びADK8抗体での陽性ドットは、AAV2及びAAV8が、化合物2、4、6、7、8、9、10、11、及び12でのカップリング手順並びにその後の透析後、損なわれていないことを示した(図2-A、図5-A、図6-A、図7-A,図8-A、及び図9-A)。
【0314】
ダイズレクチンでの陽性シグナルは、AAV2がジアゾニウム化合物2及び6並びにPTAD誘導体12と共インキュベートされた場合、並びにAAV8が化合物2と共インキュベートされた場合のみ、観察され、AAV2及びAAV8カプシドにおける効率的なクリックチロシン反応が明らかにされた(図2-B、図6-B、図8-B、及び図9-B)。実際、ジアゾニウム基を欠く化合物4及びPTAD基を欠く化合物11に関して、検出は観察されず、化合物2、6、及び12(発明)がAAV2及びAAV8カプシドと共有結合性に連結され、それらと物理的に吸着されたのではないことを証明した。
【0315】
マンノースと結合するコンカナバリンAレクチンでの陽性シグナルは、AAV2が化合物7(発明)と共インキュベートされた場合に観察され、AAV2における効率的なクリックチロシン反応が明らかにされた(図7-B)。実際、ジアゾニウム基を欠く化合物8(比較)に関して検出が観察されず、化合物7がAAV2と共有結合性に連結され、それと物理的に吸着されたのではないことを証明した。
【0316】
AAV2のカプシドのチロシン及びアミノ基の二重修飾について、2及び10との逐次的な共インキュベーションは、コンカナバリンA及びダイズレクチンでの陽性ドットを示し、AAV2における効率的なクリックチロシン反応及びアミノ基修飾が明らかにされた(図5-B)。
【0317】
ウェスタンブロット分析について、カプシド特異的ポリクローナル抗体の使用により、VPカプシドサブユニットが、AAV2-Luc及びAAV2-GFPについての化学的過程にも関わらず、損なわれていないことが示された(図3-A、図4-A)。重要なことには、レクチンで検出されたバンドが、化合物2(発明)がAAV2-Luc及びAAV2-GFPについてのVPと共有結合性に連結されていることを明らかに示した(図3-B、図3-C、図4-B)。
【0318】
その反対に、同じ比で3及び4(比較)とインキュベートされたAAV2-Luc及びAAV2-GFP由来のカプシドサブユニットは、特異的なレクチンとのインキュベーション後、陽性バンドを生じず、ジアゾニウム官能基なしでカップリングが起こらないことを示した(図3-B、図3-C、図4-B)。
【0319】
GalNAC部分を有している化合物2(発明)との化学的カップリングのAAV2-GFPベクターの感染性への影響を、評価した。
【0320】
感染性を、HEK293及びHuH7細胞におけるFACS分析により評価した。GFPを発現する細胞の%及びGFPの強度の両方を測定した。図10及び図11に示されているように、GalNAC-AAV2-GFP粒子は、2つの細胞株において感染性である。これらの粒子の化学修飾は、形質導入効率、及びターゲティングを外すことの特性へ重要な影響を生じる。肝細胞株HuH7を使用した場合、化合物2で化学修飾されたウイルス粒子は、非肝細胞株HEK293を使用した場合に得られたものより高いレベルの形質導入を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
【配列表】
2022540226000001.app
【国際調査報告】