(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(54)【発明の名称】工作装置
(51)【国際特許分類】
B23D 45/04 20060101AFI20220908BHJP
B23D 47/00 20060101ALI20220908BHJP
B27G 19/02 20060101ALI20220908BHJP
B27B 5/20 20060101ALI20220908BHJP
B27B 5/29 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B23D45/04 B
B23D47/00 C
B27G19/02 Z
B27B5/20 B
B27B5/29 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021548162
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(85)【翻訳文提出日】2021-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2020063129
(87)【国際公開番号】W WO2021004679
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】102019210187.9
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518407205
【氏名又は名称】フェストール・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルダームート・マルクス
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ヨズア
(72)【発明者】
【氏名】ルーラント・ハーラルト
【テーマコード(参考)】
3C040
【Fターム(参考)】
3C040AA01
3C040BB13
3C040GG41
(57)【要約】
本発明は、作業領域(33)に位置する工作物(4)を加工する工具(1)を備える、工作装置(10)、特に鋸装置であって、工具(1)の工具回転運動(9)を制動する工具制動装置(5)と、工具(1)を選択的に作業領域(33)への送り方向(7)に又は作業領域(33)からの離反方向(8)に旋回可能である、マルチリンクアセンブリ(6)と、を備える、工作装置に関する。マルチリンクアセンブリ(6)は、工具(1)の旋回性を維持しつつ、工具回転運動(9)の制動時に発生する力を吸収し及び/又は偏向し、工具回転運動(9)の制動時に発生する力によって工具(1)が送り方向(7)に旋回させられない又は工具回転運動(9)の制動時に発生する力によって離反方向(8)に旋回させられるように、構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業領域(33)に位置する工作物(4)を加工する工具(1)を備える、工作装置(10、20)、特に鋸装置であって、
工具(1)の工具回転運動(9)を制動する工具制動装置(5)と、
工具(1)を選択的に作業領域(33)への送り方向(7)に又は作業領域(33)からの離反方向(8)に旋回可能である、マルチリンクアセンブリ(6)と、を備え、
マルチリンクアセンブリ(6)は、工具(1)の旋回性を維持しつつ、工具回転運動(9)の制動時に発生する力を吸収し及び/又は偏向し、工具回転運動(9)の制動時に発生する力によって工具(1)が送り方向(7)に旋回させられない又は工具回転運動(9)の制動時に発生する力によって離反方向(8)に旋回させられるように、構成されている、工作装置(10、20)。
【請求項2】
マルチリンクアセンブリ(6)は、工具回転運動(9)の制動中、工作装置(10、20)の重心が送り方向(7)とは異なる方向に移動するように、構成されている及び/又は配置されている、請求項1に記載の工作装置(10、20)。
【請求項3】
マルチリンクアセンブリ(6)は、少なくとも4つのリンクを有する、請求項1又は2に記載の工作装置(10)。
【請求項4】
マルチリンクアセンブリ(6)は、ベース部分(11)と、ベース部分ジョイント(12)を介してベース部分(11)に旋回自在に支持された主揺動リンク(14)と、主揺動リンクジョイント(15)を介して主揺動リンク(14)に旋回自在に支持された側揺動リンク(16)と、側揺動リンクジョイント(17)を介して側揺動リンク(16)に旋回自在に支持された副揺動リンク(18)と、を有し、副揺動リンク(18)は、副揺動リンクジョイント(19)を介して旋回自在にベース部分(11)に支持されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【請求項5】
ベース部分ジョイント(12)と主揺動リンクジョイント(15)とを通って延在する仮想の主揺動リンク軸線(21)と、副揺動リンクジョイント(19)と側揺動リンクジョイント(17)とを通って延在する副揺動リンク軸線(22)とが、互いに対して平行に延在する、又はベース部分(11)の、工具(1)が配置された側で、軸角(23)を成して交差する、請求項4に記載の工作装置(10)。
【請求項6】
軸角(23)は、45°から0°、特に15°から5°である、請求項5に記載の工作装置(10)。
【請求項7】
主揺動リンク軸線(21)と副揺動リンク軸線(22)とが、マルチリンクアセンブリ(6)の旋回範囲(24)の少なくとも80%にわたって、特にマルチリンクアセンブリ(6)の旋回範囲(24)の全体にわたって、好ましくは55°の旋回範囲(24)にわたって、互いに対して平行に延在する、又はベース部分(11)の、工具(1)が配置された側で、軸角(23)を成して交差する、請求項4から6のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【請求項8】
主揺動リンク軸線(21)と副揺動リンク軸線(22)とが、マルチリンクアセンブリ(6)の旋回範囲(24)の少なくとも80%にわたって、ベース部分(11)の、工具(1)が配置された側で、軸角(23)を成して交差し、その際、主揺動リンク軸線(21)と副揺動リンク軸線(22)とが、好適には、旋回範囲(24)の残りの部分にわたって、互いに対して平行に延在する、請求項4から7のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【請求項9】
旋回範囲(24)の少なくとも80%にわたって、特に旋回範囲(24)の全体にわたって、軸角(23)の変化が、20°より小さい、請求項7又は8に記載の工作装置(10)。
【請求項10】
工具(1)が、主揺動リンクジョイント(15)に対して同軸に配置されている、請求項4から9のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【請求項11】
工具制動装置(5)が、側揺動リンク(16)に、特に主揺動リンクジョイント(15)に、又は側揺動リンクジョイント(17)に配置されている、請求項4から10のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【請求項12】
工具制動装置(5)は、工具回転運動(9)の制動時に主揺動リンクジョイント(15)に発生する力が、主揺動リンク軸線(21)上に位置する、ベース部分ジョイント(12)の方を向いた軸方向(26)を中心に±95°、好ましくは±45°の角度範囲(25)にあるように、配置されている、請求項4から11のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【請求項13】
工具(1)を工具回転運動(9)させるための駆動ユニット(27)をさらに備え、駆動ユニット(27)は、主揺動リンク(14)に配置されている、請求項1から12のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【請求項14】
工具(1)を工具回転運動(9)させるための駆動ユニット(27)をさらに備え、工作装置(10)は、工具制動装置(5)の起動と駆動装置(27)のスイッチオフとの間に、20msから1sの遅延時間(28)が維持され、遅延時間(28)の間、駆動ユニット(27)によって提供され工具(1)に作用する駆動力が、マルチリンクアセンブリ(6)によって偏向されて、工具(1)が離反方向(8)に旋回させられるように、構成されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【請求項15】
工作物設置面(3)に対した相対的な工具(1)の線形移動(31)を可能にするリニア軸受(29)をさらに備え、工具回転運動(9)の制動時、工作物設置面(3)に対して相対的な工具(1)の線形移動(31)を制動する及び/又は阻止するように構成されたリニア軸受制動装置(32)をさらに備える、請求項1から14のいずれか一項に記載の工作装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業領域に位置する工作物を加工する工具を備える、工作装置、特に鋸装置に関する。工作装置は、工具の工具回転運動を制動する工具制動装置を備える。工作装置は、工具を選択的に作業領域への送り方向に又は作業領域からの離反方向に旋回できるマルチリンクアセンブリをさらに備える。
【0002】
工具は、例えば右回りの鋸刃である。工具の旋回は、例示的には、傾動ジョイントと称してもよいベース部分ジョイントを中心に行われる。従来慣用の工作装置では、工具が(例えば利用者の怪我を減らすために)工具制動装置を用いて短時間制動されると、結果として生じる制動モーメントが傾動ジョイントに支持され、これにより、送り方向の工具の旋回運動、特にユーザの方への工具の傾動がもたらされる。これにより、大怪我をしてしまうおそれがある。
【背景技術】
【0003】
米国特許出願公開第2002/0017179号明細書には、それぞれベースとハウジングとに結合された2つの揺動リンクを有するマイターソーが記載されている。
【0004】
米国特許第7373863号明細書には、安全機構を有するマイターソーが記載されている。危険を伴う状態が検知されると、鋸刃は、ソーストップによって制動される。鋸刃の慣性モーメントは、鋸刃を押し上げる線形の力に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0017179号明細書
【特許文献2】米国特許第7373863号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、冒頭で述べた工作装置の運転の安全性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載のマルチリンクアセンブリによって解決される。マルチリンクアセンブリは、工具の旋回性を維持しつつ、工具回転運動の制動時に発生する力を吸収する及び/又は偏向し、工具回転運動の制動時に発生する力によって工具が送り方向に旋回させられない又は工具回転運動の制動時に発生する力によって離反方向に旋回させられるように、構成されている。
【0008】
したがって、マルチリンクアセンブリによって、特に、工具が制動時に(さらに)作業領域に旋回させられることが阻止される。これによって、特に、制動の時点で作業領域にアクセスしているユーザが鋸刃によって怪我をしてしまうことを回避できる。鋸刃とユーザとの接触に反応して、つまり特にユーザの怪我に反応して制動が行われる場合には、記載のマルチリンクアセンブリによって、特に怪我の程度を最小限に抑えられる。というのも、好ましくは、工具が制動によってさらにユーザの方へ旋回させられることが阻止されるからである。その結果、運転の安全性を向上できる。
【0009】
有利な発展形態は、従属請求項の対象である。
【0010】
以下、他の例示的な詳細及び例としての実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態による工作装置の概略図を示し、工具は、作業領域の外側に位置する。
【
図2】第1の実施形態による工作装置の概略図を示し、工具は、作業領域内に位置する。
【
図3】工具回転運動の制動時に発生する力が記入された工具ヘッドの概略図を示す。
【
図4】旋回範囲が記入されたマルチリンクアセンブリの概略図を示す。
【
図5】軸角が記入されたマルチリンクアセンブリの概略図を示す。
【
図6】力方向の角度範囲が記入されたマルチリンクアセンブリの概略図を示す。
【
図9】第2の実施形態による工作装置の概略図を示す。
【
図10】第1の実施形態による工作装置の別の一変化例の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明では、図面に記入されたy方向、z方向及び図平面に対して垂直に延在するx方向が参照される。x方向、y方向及びz方向は、互いに対して直交する方向に向けられている。
【0013】
図1は、第1の実施形態による工作装置10を示す。工作装置10は、例示的には、鋸装置として、特に丸鋸盤又はマイターソーとして、好ましくはプルカットマイターソーとして構成されている。
【0014】
工作装置10は、工具1、例示的には、鋸刃を有する。工具1は、作業領域33内に位置する工作物4を加工するために用いられる。
【0015】
工作装置10は、工具1の工具回転運動9を制動するための工具制動装置5を有する。
【0016】
工作装置10は、マルチリンクアセンブリ6をさらに有し、マルチリンクアセンブリ6によって、工具1を、選択的に、作業領域33への送り方向7に又は作業領域33からの離反方向8に旋回できる。
【0017】
マルチリンクアセンブリ6は、工具回転運動9の制動時に発生する力を、工具1の旋回性を維持しつつ吸収する及び/又は偏向するように構成されているので、工具1は、工具回転運動9の制動時に発生する力によって送り方向7に旋回させられない又は工具回転運動9の制動時に発生する力によって離反方向8に旋回させられる。
【0018】
以下、さらなる例示的な詳細を説明する。
【0019】
工作装置10は、例示的には、支持構造部2を有し、支持構造部2によって、好適には、作業領域33が提供される。工具1は、マルチリンクアセンブリ6を介して、支持構造部2に対して相対的に旋回自在に支持されている。例示的には、支持構造部2は、工作物設置面3を有し、工作物設置面3上に、工具1を用いて工作物4を加工するときに工作物4を設置できる。工作物設置面3は、例示的には、z方向に対して垂直に向けられている。作業領域33は、好適には、工作物設置面3上に、及び/又はz方向に工作物設置面3の上方に位置する。作業領域33は、特に、x、y及びz方向に延在する三次元の領域である。
【0020】
支持構造部2は、例示的には、水平部分36、例えばテーブル部分を有し、水平部分36の上面は、工作物設置面3を成す。支持構造部2の、特に水平部分36の下面には、好適には、スタンド要素38が配置されていて、スタンド要素38によって、工作装置10は、支台上に載置可能である。
【0021】
支持構造部2は、例示的には、鉛直部分37をさらに有し、鉛直部分37を介して、工具ヘッド39が、工作物設置面3に対して相対的に、特に水平部分36に対して相対的にz方向にずらして、例示的には上方へずらして保持される。
【0022】
例示的には、マルチリンクアセンブリ6は、少なくとも4つのリンクを有する。マルチリンクアセンブリ6は、好適には、四節運動機構と称してもよい。好ましくは、マルチリンクアセンブリ6は、正確に4つのリンクを有する。これに対して代替的に、マルチリンクアセンブリ6は、4つより多いリンク、例えば正確に5つ又は正確に6つのリンクを有してもよい。
【0023】
例示的には、マルチリンクアセンブリ6は、ベース部分11を有する。ベース部分11を介して、マルチリンクアセンブリ6は、支持構造部2に、特に鉛直部分37に連結されている。例示的には、ベース部分11は、ベース部分ジョイント12と副揺動リンクジョイント19とを有し、副揺動リンクジョイント19は、好適には、ベース部分ジョイント12に対してz方向にずらして配置されている。ベース部分11は、その長手軸線でもって、好適には、z方向に対して略平行に向けられている。ベース部分ジョイント12は、傾動ジョイントと称してもよい。
【0024】
例示的には、マルチリンクアセンブリ6は、主揺動リンク14と副揺動リンク18とをさらに有し、主揺動リンク14は、ベース部分ジョイント12を介してベース部分11に旋回自在に支持されていて、副揺動リンク18は、副揺動リンクジョイント19を介して旋回自在にベース部分11に支持されている。例示的には、主揺動リンク14及び副揺動リンク18は、細長く構成されていて、その長手軸線でもって、互いに対して略平行に向けられている。主揺動リンク14及び副揺動リンク18は、例示的には、正のy方向でベース部分11の傍に配置されている。主揺動リンク14は、例示的には、副揺動リンク18よりも作業領域33の近くに配置されている。例示的には、主揺動リンク14は、z方向で副揺動リンク18の下方に配置されている。
【0025】
マルチリンクアセンブリ6は、側揺動リンク16をさらに有し、側揺動リンク16は、主揺動リンクジョイント15を介して旋回自在に主揺動リンク14に支持されている。側揺動リンク16は、さらに側揺動リンクジョイント17を介して旋回自在に副揺動リンク18に支持されている。側揺動リンク16は、例示的には、細長く構成されていて、その長手軸線でもって、好適には、ベース部分1に対して略平行に向けられている。側揺動リンク16は、主揺動リンク14と副揺動リンク18とを結合する。側揺動リンク16は、ベース部分11に対して正のy方向でずらして配置されている。
【0026】
ベース部分11と主揺動リンク14と側揺動リンク16と側揺動リンク18とが相俟って、例示的には、フレーム状の構造体を形成する。
図2の位置(以下、作業位置とも称される)では、マルチリンクアセンブリ6は、例示的には、略矩形の形状を有し、その際、好適には、主揺動リンク14と副揺動リンク18とは、その長手軸線でもって、略平行に、特に略水平に、例示的にはy方向に向けられている、及び/又はベース部分11と側揺動リンク16とは、その長手軸線でもって、略平行に、特に略鉛直に、例示的にはz方向に向けられている。
図1の位置(以下、安全位置とも称される)では、マルチリンクアセンブリ6は、例示的には、略菱形の形状を有し、その際、好適には、主揺動リンク14と副揺動リンク18とは、その長手軸線でもって、略平行に向けられている、及び/又はベース部分11と側揺動リンク16とは、その長手軸線でもって、略平行に向けられている。
【0027】
マルチリンクアセンブリ6の4つのジョイント、つまりベース部分ジョイント12と主揺動リンクジョイント15と側揺動リンクジョイント17と副揺動リンクジョイント19とは、好適には、それぞれ旋回ジョイントとして構成されていて、その揺動リンク軸線でもって、互いに対して平行に、特にx方向に対して平行に向けられている。
【0028】
マルチリンクアセンブリ6によって、工具1は、ベース部分ジョイント12を中心に旋回自在である。送り方向7の旋回は、ベース部分ジョイント12の旋回軸線を中心に第1の回動方向に、例示的には時計回り方向に行われ、離反方向8の旋回は、ベース部分ジョイント12の旋回軸線を中心に第1の回動方向とは逆向きの第2の回動方向に、例示的には反時計回り方向に行われる。
【0029】
マルチリンクアセンブリ10を介して、工具1は、選択的に、安全位置へ又は作業位置へ旋回でき、安全位置では、工具1は、
図1に示されているように、作業領域33の外側に、特にz方向で作業領域33の上方に配置されていて、作業位置では、工具1は、
図2に示されているように、作業領域33に進入し、作業領域33内に位置する工作物4を加工、特に鋸引きできる。
【0030】
安全位置から作業位置への工具1の旋回は、送り方向7に行われ、作業位置から安全位置への工具1の旋回は、離反方向8に行われる。例示的には、工具1は、送り方向7に旋回させられるとき、工作物設置面3へ向けて旋回させられ、離反方向8に旋回させられるとき、工作物設置面3から離れる方向に旋回させられる。
【0031】
マルチリンクアセンブリ10による工具1の旋回は、(通常の動作、つまり工具制動装置5が工具回転運動9を制動しないとき)好ましくは、例えば、マルチリンクアセンブリ6に、例示的には主揺動リンク14に配置されたグリップ59を介して、ユーザによる手動操作によってもたらされる。
【0032】
既に前述したように、マルチリンクアセンブリ6は、工具回転運動9の制動時に発生する力を、工具1の旋回性を維持しつつ吸収する及び/又は偏向するように構成されているので、工具1は、工具回転運動9の制動時に発生する力によって送り方向7に旋回させられない、又は工具回転運動9の制動時に発生する力によって離反方向8に旋回させられる。
【0033】
マルチリンクアセンブリ6による工具1の旋回性は、制動時に及び/又は制動後に、特に送り方向7で及び/又は離反方向8で維持される。工具1の旋回性は、特に制動状態でも供与されている。制動状態では、工具制動装置5、特に制動ボディ41が、工具1に係合していて、したがって工具回転運動9をブロックする。要するに、工具1は、工具回転運動9の制動時及び/又は制動後であっても、原則として、例えばユーザによる手動操作によって、依然としてマルチリンクアセンブリ6を介して、特にベース部分ジョイント12を中心に旋回できる。つまり、マルチリンクアセンブリ6、特にベース部分ジョイント12は、工具回転運動9の制動時に及び/又は制動後に、好適には、ロックされない。特に、制動状態で供与される旋回性によって、工具1の目下の位置に基づいてユーザの体の一部、例えば指が挟まれているとき、体の一部を(好ましくは引き続き制動状態にある)工具1の(特に手動の)旋回によって解放し、挟込みから解放可能である。特に、体の一部を解放するために、工作装置のコンポーネントを取り外す必要がない。
【0034】
好ましくは、マルチリンクアセンブリ10は、制動中に工作装置10の重心が送り方向7とは異なる方向に移動するように、構成されている及び/又は配置されている。送り方向7とは異なる方向とは、特に、送り方向7に対して実質的に逆向きの方向である。
【0035】
図3を参照して、以下、マルチリンクアセンブリ6が工具回転運動9の制動時に発生する力をどのように吸収する及び/又は偏向するのか詳説する。
【0036】
本明細書の関連において、
図5に示された(仮想の)軸線、つまり、ベース部分ジョイント12と主揺動リンクジョイント15とを通って延在する(仮想の)主揺動リンク軸線21と、副揺動リンクジョイント19と側揺動リンクジョイント17とを通って延在する(仮想の)副揺動リンク軸線22と、ベース部分ジョイント12と副揺動リンクジョイント19とを通って延在する(仮想の)ベース部分軸線44と、主揺動リンクジョイント15と側揺動リンクジョイント17とを通って延在する(仮想の)側揺動リンク軸線43とが参照される。主揺動リンク軸線21、副揺動リンク軸線22、ベース部分軸線44及び/又は側揺動リンク軸線43は、好適には、yz平面内に位置する。
【0037】
図3を参照して、以下、制動時に作用する力について詳説する。制動時に発生する力は、特に、第1の力成分56を有する第1の第2段階の力53と、第2の力成分58を有する第3の第2段階の力55とを含む。
【0038】
マルチリンクアセンブリ6は、特に、工具回転運動9の制動時に発生する力、特に第1の第2段階の力53及び/又は第3の第2段階の力55を、主揺動リンク14及び/又は副揺動リンク18(及び/又は側揺動リンク16)によって吸収する及び/又は偏向するので、副揺動リンク軸線21及び/又は主揺動リンク軸線22に対して直交方向に作用する第1の力成分56と第2の力成分58とが相互に相殺する、又は作業領域33から離れる方向に作用する第1の力成分56が上回る、つまり特に作業領域33へ向かう方向に作用する第2の力成分58よりも値に関して大きくなるように、構成されている。
【0039】
図3に示されたように、制動時の工具回転運動9の減速によって、工具1の回転軸線を中心とする工具1の慣性モーメント74が生成される。例示的には、制動ボディ41が工具1に接触することによって工具回転運動9が制動されるとき、例示的には、第1の第1段階の力51と第2の第1段階の力52とが発生する。第1段階の力51、52は、マルチリンクアセンブリ6に作用し、制動ボディ41によって工具1に及ぼされる制動力の反応として発生する。第1段階の力51、52は、反力と称されてもよく、この場合、第1の第1段階の力51は、工具1に及ぼされる制動力の反力であり、第2の第1段階の力52は、第1の第1段階の力51の反力である。第1の第1段落の力51は、制動ボディ41と工具1との間の接触点73を起点として、例示的には、工具1又は工具回転運動9に対して接線方向を向いている。第2の第1段階の力52は、工具1及び/又は工具1に連結されたシャフトを支持する工具軸受及び/又は主揺動リンクジョイント15に作用する。第2の第1段階の力52は、主揺動リンクジョイント15を起点として、例示的には、第1の第1段階の力51とは逆の方向を向いている。
【0040】
第1の第1段階の力51は、好適には、制動ボディ41及び/又は工具1の懸架によって、第1の第2段階の力53と第2の第2段階の力54とに分けられる。第1の第2段階の力53は、例示的には、側揺動リンクジョイント17に作用し、側揺動リンクジョイント17を起点として、接触点73と側揺動リンクジョイント17との間の(仮想の)接続線と同一方向を向いている。第2の第2段階の力54は、例示的には、主揺動リンクジョイント15に及び/又は工具軸受に作用し、主揺動リンクジョイント15を起点として、接続点73と主揺動リンクジョイント15との間の(仮想の)接続線と同一方向を向いている。
【0041】
第1の第2段階の力53は、第1の力成分56を含む。第1の力成分56は、側揺動リンクジョイント17に作用し、側揺動リンクジョイント17を起点として、副揺動リンク軸線22に対して直交する(そして好ましくは副揺動リンクジョイント19によって設定される旋回軸線に対して直交する)方向に、具体的には、主揺動リンクジョイント15から離れる方向、特に作業領域33又は工作物設置面3から離れる方向を向いている。例示的には、第2の力成分56は、上方を向いている。第1の力成分56は、好適には、離反方向8の工具1の旋回をもたらす。
【0042】
第2の第2段階の力54と第2の第1段階の力52とが合わさると、第3の第2段階の力55が生成される。第3の第2段階の力55は、第2の力成分58を含み、第2の力成分58は、主揺動リンクジョイント15及び/又は工具軸受に作用し、主揺動リンクジョイント15を起点として、主揺動リンク軸線21に対して(そして好ましくは、ベース部分ジョイント12によって設定される旋回軸線に対して)直交する方向に、具体的には、側揺動リンクジョイント17から離れる方向に、特に作業領域33に向かう方向に又は工作物設置面3に向かう方向に作用する。例示的には、第2の力成分58は、下方を向いている。第2の力成分58は、好適には、送り方向7の工具1の旋回をもたらす。
【0043】
マルチリンクアセンブリ6は、好適には、第1の力成分56と第2の力成分58とが同一の値を有する、又は第1の力成分56が(特に値に関して)第2の力成分58よりも大きくなるように、構成されている。
【0044】
第1の力成分56と第2の力成分58とが同一の値を有するとき、工具1は、工具回転運動9の制動に起因する力によって全く旋回させられず、特に送り方向7には旋回させられない。第1の力成分56が値に関して第2の力成分58よりも大きいとき、工具1は、工具回転運動9の制動時に起因する力によって、送り方向8に旋回させられる。
【0045】
第1の力成分56と第2の力成分58とが互いに対してどのような関係にあるかは、
図5に示された、主揺動リンク軸線21と副揺動リンク軸線22の間の軸角23に依存する。
【0046】
軸角23は、好適には、0度以上である。軸角23は、好ましくは、0度を下回らない。軸角23は、好ましくは、45度~0度、特に15度~5度である。軸角23が0度のとき、主揺動リンク軸線21と副揺動リンク軸線22とは、互いに対して平行である。軸角23が0度より大きいとき、主揺動リンク軸線21と副揺動リンク軸線22とは、ベース部分11の、工具1が配置された側で交差する。軸角23が0度より大きいとき、主揺動リンク軸線21と副揺動リンク軸線22とは、例示的には、ベース部分11の、正のy方向に位置する側(
図5では例示的にはベース部分11の右側)で交差する。この場合、ベース部分ジョイント12を起点として、主揺動リンク軸線21は、主揺動リンクジョイント15に向かう方向で、副揺動リンク軸線22に漸次接近する。
【0047】
軸角23が0度より小さいとき、主揺動リンク軸線21と副揺動リンク軸線22とは、ベース部分11の、負のy方向に位置する側(
図5では例示的にはベース部分11の左側)で交わるだろう。
【0048】
記載された軸角が0度以上で、工具回転運動9の制動時、第1の力成分56が、(値に関して)第2の力成分58と等しい(軸角23が0度のとき)、又は第2の力成分58よりも大きい(軸角23が0度より大きいとき)ことを保証できる。
【0049】
図4は、マルチリンクアセンブリ10の旋回範囲24を示す。旋回範囲24は、ここでは例示的には、(仮想の)主揺動リンク軸線21がベース部分ジョイント12の旋回軸線を中心に最大に旋回可能な角度として定義されている。旋回範囲24は、特に、工具1がマルチリンクアセンブリ6によって、特に支持構造部2及び/又は作業領域33に対して相対的に旋回可能である最大角度を表す。例示的には、旋回範囲24は、yz平面内に位置する。旋回範囲24の平面は、旋回平面と称されてもよい。好ましくは、旋回平面は、y軸を中心に旋回可能である。
【0050】
好ましい一形態によれば、軸角23は、マルチリンクアセンブリ6の旋回範囲24の少なくとも80%にわたって、特にマルチリンクアセンブリ6の旋回範囲24の全体にわたって、好ましくは少なくとも55度の旋回範囲にわたって、0度以上である。したがって、好適には、主揺動リンク軸線21と副揺動リンク軸線22とは、マルチリンクアセンブリ6の旋回範囲24の少なくとも80%にわたって、特にマルチリンクアセンブリ6の旋回範囲24の全体にわたって、好ましくは55度の旋回範囲24にわたって、互いに対して平行に延在する、又はベース部分11の、工具1が配置された側で、軸角23を成して交差する。
【0051】
好ましい一形態によれば、軸角23は、マルチリンクアセンブリ6の旋回範囲24の少なくとも80%にわたって、特にマルチリンクアセンブリ6の旋回範囲24の全体にわたって、好ましくは少なくとも55度の旋回範囲にわたって、0度より大きく、好ましくは旋回範囲24の残りの部分、特に旋回範囲24の残りの部分の全体にわたって、0度に等しい。したがって、好適には、主揺動リンク軸線21と副揺動リンク軸線22とは、マルチリンクアセンブリ6の旋回範囲24の少なくとも80%にわたって、特にマルチリンクアセンブリ6の旋回範囲24の全体にわたって、好ましくは55度の旋回範囲24にわたって、ベース部分11の、工具1が配置された側で、軸角23を成して交差し、好適には、旋回範囲24の残りの部分にわたって、特に旋回範囲24の残りの部分の全体にわたって、互いに対して平行に延在する。
【0052】
記載の形態によって、工具1が、様々な、好ましくは全ての旋回位置で、工具回転運動9の制動時に発生する力によって、送り方向7に旋回させられない、又は離反方向8に旋回させられることを保証することができる。
【0053】
好ましい一形態によれば、軸角23の変化は、旋回範囲24の少なくとも80%にわたって、特に旋回範囲24の全体にわたって、20度より小さい、特に10度より小さい。好ましくは、旋回範囲24内で発生する最大の軸角23は、旋回範囲内で発生する最小の軸角23よりも最大で20度大きい。これにより、特に、工具回転運動9の制動時に発生する、離反方向8に作用する力が、旋回範囲24の全体にわたって過度に強く変化しないことを達成できる。
【0054】
前述したように、工具1は、特に鋸刃として構成されている。例示的には、工具1は、主揺動リンクジョイント15に対して同軸に配置されている。工作装置10は、例示的には、駆動ユニット27を有し、これにより、工具1が工具回転運動9させられる。駆動ユニット27は、例示的には、主揺動リンク14に配置されている。好ましくは、駆動ユニット27は、電気モータを有し、これにより、工具1が工具回転運動9させられる。工具回転運動9は、送り方向7及び/又は離反方向8の旋回とは別の回転軸線を中心に行われる。例示的には、工具回転運動9は、主揺動リンクジョイント15の旋回軸線に対して同軸に向けられた回転軸線を中心に、特に旋回範囲24の全体にわたって行われる。工具回転運動9の回転方向は、好ましくは、送り方向7の工具1の旋回の回転方向と同一である。
【0055】
工具制動装置5は、例示的には、側揺動リンクジョイント17に配置されている。工具制動装置5は、代替的には、側揺動リンク16に配置してもよい。工具制動装置5は、工具回転運動9を、特に停止するまで制動するために用いられる。
【0056】
工具制動装置5は、例示的には、制動ボディ41を有し、制動ボディ41は、好適には、工具1に接触でき、これにより、工具回転運動9が制動される。例示的には、制動ボディ41は、鋸刃として構成された工具1の刃先に接触させられ、これにより、工具回転運動が制動される。制動ボディ41は、例示的には、運動可能に、特に旋回運動可能に側揺動リンクジョイント17に支持されていて、かつ好適には、特にx方向に対して平行に延在する旋回軸線を中心に旋回させることによって、工具1に接触でき、これにより、工具1が制動される。好ましくは、制動ボディ41が旋回軸線を中心に旋回可能であって、その旋回軸線は、側揺動リンクジョイント17の旋回軸線に対して同軸である。工具制動装置5は、好適には、アクチュエータユニットを有し、これにより、制動ボディ41が工具1に接触させられる。
【0057】
図示の形態に対して代替的に、工具制動装置5は、工具1を間接に、特に工具1に相対回動不能に結合された要素、例えばシャフトを制動することによって制動できるように、構成できる。
【0058】
工作装置10は、例示的には、工具ヘッド39を有し、工具ヘッド39は、工具1とマルチリンクアセンブリ6と好適には工具制動装置5とを有する。例示的には、作業領域33は、z方向で工具ヘッド39と工作物設置面3との間に位置する。
【0059】
工作装置10は、例示的には、リニア軸受29をさらに有し、リニア軸受29は、作業領域33に対して相対的に、特に支持構造部2に対して相対的に、好ましくは工作物設置面3に対して相対的に、工具1の、特に工具ヘッド39の線形移動31を可能にする。例示的には、線形移動31は、y方向に行われる。
【0060】
工作装置10は、例示的には、リニア軸受制動装置32をさらに有し、リニア軸受制動装置32は、工具制動装置5による工具回転運動9の制動時、工作物設置面3に対して相対的に工具1の、特に工具ヘッド39の線形移動31を制動する及び/又は阻止するように、構成されている。特に、リニア軸受制動装置32は、工具制動装置5の起動に応答して、工作物設置面3に対して相対的な工具1の、特に工具ヘッド39の線形移動31を制動する及び/又は阻止するように、構成されている。
【0061】
例示的には、リニア軸受制動装置32は、工具制動装置5の制動動作の前に、その間に又はその後にリニア軸受29をロックし、これにより、工具1が工具制動装置5の制動動作によって線形移動31させられることが阻止されるように、構成されている。リニア軸受制動装置32は、例えば、線形移動31を制動する及び/又は阻止するために高められた摩擦が提供されるように、構成されている。さらに、リニア軸受制動装置32は、特定の速度から制動する、及び/又は急な加速に際してブロックする又は制動するように、構成できる。リニア軸受制動装置32は、例えば、流体ダンパ及び/又はクランプボディを有してよい。
【0062】
好ましくは、リニア軸受制動装置32及び/又は工具制動装置5は、圧電アクチュエータ、電磁アクチュエータ、形状記憶合金アクチュエータ(SMAアクチュエータ)、電場応答性高分子アクチュエータ(EAPアクチュエータ)、磁気形状記憶アクチュエータ(MSMアクチュエータ)、空圧アクチュエータ、液圧アクチュエータ、パイロアクチュエータ、機械アクチュエータ、電歪アクチュエータ及び/又は熱アクチュエータを有する。
【0063】
工作装置10は、好適には、制御ユニット61、例えばマイクロコントローラを有する。制御ユニット61は、駆動ユニット27に駆動ユニット制御信号を提供し、これにより、駆動ユニット27が工具1を工具回転運動9させるように、構成されている。制御ユニット61は、好適には、工具制動装置5に制動装置制御信号を提供し、これにより、工具制動装置5が工具回転運動9を制動するように、構成されている。
【0064】
制御ユニット61は、好適には、さらに、動作状態を把握し、把握された動作状態に基づいて、特に制動装置制御信号を提供することによって、工具制動装置5による工具回転運動9の制動を起動するように、構成されている。
【0065】
制御ユニット61によって把握された動作状態は、特に非常状態である。非常状態とは、特に、ユーザにとって潜在的に危険を伴う状況であり、その際、ユーザは、例えば工具1及び/又は工作物4によって怪我をするおそれがある。
【0066】
制御ユニット61は、好適には、工具1と人体(例えば指)との間の接触の検出及び/又は事前に決定された最小安全距離を下回ることの検出に基づいて、非常状態を把握するように、構成されている。
【0067】
好ましくは、工作装置10、特に制御ユニット61は、工具1に電気的な検出信号を送り、検出信号の変化に基づいて非常状態を把握するように、構成されている。好適には、工作装置10、特に制御ユニット61は、容量入力結合によって工具1に電気的な検出信号が送られるように、構成されている。好適には、工作装置10、特に制御ユニット61は、非常状態、特に工具1と人体との間の接触を、容量変化に基づいて把握するように、構成されている。非常状態の把握を例示的にはどのように実現できるかについてのさらなる詳細は、欧州特許第1234285号明細書に記載されている。
【0068】
制御ユニット61は、好適には、さらに、非常状態としてキックバックを把握するように、構成されている。用語「キックバック」とは、特に、工作装置10による工作物4の加工中に工作装置10と工作物4との間に突然予期せぬ力が発生し、この力によって、工作装置10及び/又は工作物4が動かされる状態を意味する。
【0069】
工作装置10は、好適には、キックバックを把握するために、センサ装置、例えば加速度センサ及び/又は力センサ、特にひずみゲージアセンブリを有する。この種のセンサ装置は、例えば、国際公開第2019/020307号に記載されている。
【0070】
制御ユニット61は、好適には、さらに、非常状態として、工作装置10の操作エラーを把握するように、構成されている。操作エラーは、例えば、ユーザが工具1を過度に早く動かす、例えば過度に早くベース部分ジョイント12を中心に旋回させるときに存在し得る。例示的には、制御ユニット61は、ユーザが工具1を過度に早く動かしたことを把握し、その把握に基づいて、工具制動装置5による工具回転運動9の制動を起動するように、構成されている。
【0071】
図6は、制動時に主揺動リンクジョイント15に発生する力の力方向の角度範囲25を示す。例示的には、この力は、前述の第2の第1段階の力52と第2の第2段階の力54との合力である。この力の力方向は、好適には、主揺動リンクジョイント15の旋回軸線に対して相対的な工具制動装置5の配置、特に接触点73(
図3参照)と主揺動リンクジョイント15との間の(仮想の)接続線の方向に依存する。
【0072】
好ましくは、工具制動装置5は、工具回転運動9の制動時に主揺動リンクジョイント15に発生する力が、主揺動リンク軸線21上に位置する、ベース部分ジョイント12の方を向いた軸方向26を中心に±95°、好ましくは±45°の角度範囲25に位置するように、配置されている。好適には、この力は、工具軸受、特に鋸刃軸受に作用する。例示的には、この力は、工具軸受を介して、主揺動リンク14に導入される。
【0073】
この力の記載の角度範囲25によって、工具回転運動9の制動時に主揺動リンクジョイント15に、特に工具軸受に発生する力が、工具軸受の不都合な方向に作用することを阻止できるので、工具軸受をこの不都合な方向で厚肉に構成することを回避することができる。したがって、工具軸受は、軸受座を狭く構成することができ、これにより、鋸のより高い切断容量を達成できる。
【0074】
好ましい形態によれば、工具制動装置5は、側揺動リンク16に配置されている。特に、工具制動装置5は、構造的に側揺動リンク16に結合されていて、具体的には、特に、制動状態で、工具制動装置5が工具回転9をブロックするとき、工具1が(工具制動装置5を介して)側揺動リンク16に対して相対的に固く支持されていて、その結果、工具1と側揺動リンク16との間の相対運動が不可能になっている。
【0075】
図7は、工作装置10の第1の例示的な変形例を示す。この変形例では、工具制動装置5が、側揺動リンク16に、そして例示的には主揺動リンクジョイント15に、それも特に主揺動リンクジョイント15の旋回軸線の周りに配置されている。
【0076】
工具制動装置5は、好ましくは可逆式に構成されているので、工具制動装置5は、制動動作後、好適には、工具制動装置5のコンポーネントを交換することなく、再び初期状態に戻すことができ、そこから別の制動動作が実施可能である。例示的には、工具制動装置5は、工具1を制動するために工具1に連結されたシャフトに接触させられる1つ又は複数の制動ボディを有する。例示的には、工具1に連結されたシャフトの周りに周方向に分散して配置された複数の制動ボディが設けられている。
【0077】
図10は、工作装置10の第2の例示的な変化例を示す。この変化例では、工具制動装置5は、側揺動リンク16に、そして例示的には(側揺動リンク16の延在経過に関して)主揺動リンクジョイント15と側揺動リンクジョイント17との間に配置されている。例示的には、側揺動リンク16は、L字形に延在し、工具制動装置5は、好適には揺動リンク16の屈曲部に配置されている。(図示されていない)代替的な形態によれば、側揺動リンク16は、異なる延在経過、つまり特にL字形の延在経過を有しない。
【0078】
好適には、工具制動装置5は、(マルチリンクアセンブリ6による)工具1の旋回時、工具1、例えば鋸刃の外径に対する工具制動装置5の距離が一定に保たれるように配置されている。好適には、制動装置5は、工具1がマルチリンクアセンブリ6によって旋回させられるとき、工具1、特に鋸刃の周りを一定の距離を置いて動くように、配置されている。
【0079】
工作装置10、特に制御ユニット61は、好適には、工具制動装置5の起動に関連して、駆動ユニット27を非作動化するように、構成されている。好適には、工作装置10、特に制御ユニット61は、工具制動装置5の起動に対して時間的に遅れて駆動ユニット27の非作動化を実行するように、構成されている。
図8を参照して以下に説明するように、これにより、駆動ユニット27は、有利には、離反方向8に作用する力を増大させる及び/又はより長く作用させるために使用できるので、工具1は、例えば、より大きく及び/又はより長く離反方向8に旋回させられる。
【0080】
図8は、工具制動装置5の制動動作中における工具1のz位置の時間経過の線図を示す。実線34は、後述する遅延時間28が提供されるときのz位置の時間経過を示し、破線35は、遅延時間が提供されないときのz位置の時間経過を示す。z軸のゼロ線は、ここでは、危険を伴うz範囲、例えばユーザが怪我をするおそれがあるz範囲に対する境界及び/又は作業範囲33である。
【0081】
工作装置10、特に制御ユニット61は、好ましくは、工具制動装置5の起動と駆動ユニット27のスイッチオフとの間に遅延時間28を維持するように構成されている。遅延時間28は、例示的には、20msから1sの間である。工作装置10は、遅延時間28の間、駆動ユニット27によって提供されて工具1に作用する駆動力が、マルチリンクアセンブリ6によって偏向させられ、その結果、工具1が離反方向8に旋回させられるように構成されている。特に、マルチリンクアセンブリ6は、工具1の回転駆動に起因する第1段階の力51、52を、好適には、結果として離反方向8に作用する力を生じさせる力成分56、58に変換する。
【0082】
例示的には、工具1は、先ずz方向に下方へ動かされる(例えばハンドル59を介して手動で工具1を下方へ旋回運動させるユーザによって)。起動時点71で、工作装置10は、例えば工具1がユーザに接触することに反応して、工具制動装置5を起動する。例示的には、工具1は、起動時点71(又はその直前)で、危険を伴うz範囲に進入する。工具制動装置5の起動によって、工具回転運動9が、好適には停止するまで制動される。駆動ユニット27は、引き続き作動状態を維持し、工具回転運動9の方向に作用するトルクを、制動された工具1に及ぼす。制動動作と、依然として作動状態の駆動ユニット27とによって、離反方向8に向かう力が提供されるので、工具1は、
図8においてz方向の上昇によって示されるように、離反方向8に旋回させられる。スイッチオフ時点72で、工作装置10は、最終的に駆動ユニット27を非作動化させる。
【0083】
破線35は、駆動ユニット27の非作動化が工具制動装置5の起動と同時に行われる、従来慣用の経過を示す。この場合、より短時間しか作用しない及び/又はより弱い力が離反方向8に提供される。多くの場合、マルチリンクアセンブリ6は、工具制動装置5が起動される時点で、例えばグリップ59を用いてユーザによって手動でガイドされる。この状態で、離反方向8に力が発生すると、ユーザは、通常、この力に対抗し、これにより、送り方向7の力を及ぼす、つまり例示的にはグリップ59を介して工具1を下方へ押し付ける傾向にある。離反方向8に作用する力が短時間しか提供されないとき、ユーザが、力を加えて、工具1を送り方向7に動かしてしまい、その結果としてユーザが大怪我をするリスクが生じ得る。
【0084】
遅延時間28と、これによって生じる離反方向8のより大きな及び/又はより長い力を提供することによって、ユーザが、危険を伴う状況を適時認識し、ユーザが送り方向7の旋回をもたらす前に、マルチリンクアセンブリ6の、手動で送り方向7に作用する操作の中断を実現することができる。
【0085】
図9は、第2の実施形態による工作装置20を示す。以下に説明する相違点を除いて、工作装置20は、好ましくは、前述の、第1の実施形態による工作装置10に対応して構成されているので、前述の特徴は、好適には、工作装置20にも存在する。
【0086】
工作装置20は、例示的には、鋸盤、特にトリムソーとして構成されている。第2の実施形態による工作装置20では、マルチリンクアセンブリ6は、好適には、z方向で作業領域33の下方に、特に工作物設置面3の下方に位置する。工具1は、(図示の作業位置では)少なくとも部分的にz方向で工作物設置面3を越えて突出する。安全位置では、工具1は、好ましくは完全に工作物設置面3の下方に位置する。マルチリンクアセンブリ6によって、工具1は、選択的に離反方向8に(作業位置から安全位置へ)又は送り方向7に(安全位置から作業位置へ)旋回可能である。
【0087】
第1の実施形態に対して、第2の実施形態では、マルチリンクアセンブリ6が、好適には、xy平面に関して鏡面対称に構成されているので、主揺動リンク14は、z方向で副揺動リンク18の上方に位置する。
【0088】
工具回転運動9の制動時、マルチリンクアセンブリ6は、工具1が送り方向7ではなく、好適には離反方向8に、つまり例示的には下方へ旋回させられるように働く。
【0089】
送り方向7の旋回の回転ベクトルは、例示的には、工具回転運動9の回転ベクトルと同一方向を向いていて、離反方向8の旋回の回転ベクトルとは逆の方向を向いている。
【国際調査報告】