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特表2022-540271原子力発電所の受動的パルス冷却方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(54)【発明の名称】原子力発電所の受動的パルス冷却方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G21C 15/18 20060101AFI20220908BHJP
   G21D 3/04 20060101ALI20220908BHJP
   G21D 3/06 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
G21C15/18 Y
G21D3/04 L
G21D3/06
G21D3/04 Q
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549469
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 CN2020128756
(87)【国際公開番号】W WO2021179660
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】202010159518.5
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519063451
【氏名又は名称】蘇州熱工研究院有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】521370938
【氏名又は名称】中国广核集団有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】521370949
【氏名又は名称】中国广核電力股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】呉震華
(72)【発明者】
【氏名】許俊俊
(72)【発明者】
【氏名】孫開宝
(72)【発明者】
【氏名】黄衛剛
(57)【要約】
本発明は、原子力発電所の受動的パルス冷却方法及びシステムを開示する。前記方法は、全給水喪失事故又は全電源喪失+全給水喪失事故が発生したときに実行される。前記方法は、蒸気発生器隔離ステップ、蒸気発生器機能分離ステップ、冷却蒸気発生器圧力除去ステップ、脱気器一次加圧ステップ、給水配管開通ステップ、脱気器二次加圧ステップを含む。本発明は、全給水喪失事故又は全電源喪失+全給水喪失事故が発生したときに、原子力発電所の複数の蒸気発生器の機能を分離して、動力蒸気発生器と冷却蒸気発生器という2つの部分に分割可能である。そして、原子力蒸気供給システム内の高圧蒸気と冷却蒸気発生器との差圧を注水動力として利用する。つまり、蒸気配管と動力蒸気発生器の高圧蒸気を用いて脱気器を加圧し、冷却蒸気発生器の大気放出弁を開放して減圧させる。差圧を利用して受動的方式により脱気器内の水を冷却蒸気発生器内に注入することで、蒸気発生器に対する注水を実現する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全給水喪失事故又は全電源喪失+全給水喪失事故の発生時に実行される原子力発電所の受動的パルス冷却方法であって、
蒸気発生器隔離ステップ:各蒸気発生器の大気放出弁を閉止し、各蒸気発生器と二次回路脱気器の間の蒸気配管及び給水配管を全て隔離し、前記蒸気配管は、蒸気母管と、各蒸気発生器と前記蒸気母管に接続される蒸気排出枝管と、前記蒸気母管と脱気器に接続される脱気器蒸気供給枝管と、前記蒸気母管と脱気器に接続され、且つ定圧弁と空気圧遮断弁が設けられた蒸気加圧配管、を含み、
蒸気発生器機能分離ステップ:事故処理策の必要に応じて運転モードを選択し、運転モードに基づいて全ての蒸気発生器を動力蒸気発生器と冷却蒸気発生器の2つの部分に分割し、
冷却蒸気発生器圧力除去ステップ:冷却蒸気発生器の大気放出弁の圧力設定値を引き下げて、冷却蒸気発生器の大気放出弁が開放されるまで待機し、
脱気器一次加圧ステップ:前記蒸気加圧配管の空気圧遮断弁を開放することで、蒸気配管内の残留高圧蒸気を利用して前記脱気器を加圧し、
給水配管開通ステップ:冷却蒸気発生器の給水配管の隔離を解除し、
脱気器二次加圧ステップ:動力蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の隔離を解除して、コンベンショナル・アイランドの蒸気配管の圧力を維持するとともに、脱気器を加圧し続ける、とのステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記方法は、各蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の主蒸気隔離弁と、主蒸気隔離弁のバイパスにおける主蒸気バイパス弁を閉止し、脱気器蒸気供給枝管の脱気器蒸気調節弁を閉止し、蒸気加圧配管の空気圧遮断弁を閉止する、との方式で各蒸気発生器と脱気器の間の蒸気配管を全て隔離し、
前記動力蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の隔離を解除する際には、各蒸気発生器の主蒸気隔離弁のバイパスにおける主蒸気バイパス弁を開放することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、脱気器を給水母管に接続する配管における隔離弁を閉止し、各蒸気発生器と前記給水母管の間の給水枝管における主給水調節弁と、主給水調節弁のバイパスにおける主給水バイパス調節弁を閉止する、との方式で各蒸気発生器と脱気器の間の給水配管を全て隔離し、
前記冷却蒸気発生器の給水配管の隔離を解除する際には、脱気器を給水母管に接続する配管における隔離弁を開放するとともに、前記給水母管から冷却蒸気発生器の間の給水枝管における主給水調節弁、及び/又は、主給水調節弁のバイパスにおける主給水バイパス調節弁を開放することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記事故処理策の必要に応じて運転モードを選択する際に、
全給水喪失事故が発生した場合には超高速退避モードを選択し、
全電源喪失+全給水喪失事故が発生した場合には維持モードを選択し、
超高速退避モードにおける冷却蒸気発生器の数は、維持モードにおける冷却蒸気発生器の数よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記運転モードに基づいて全ての蒸気発生器を動力蒸気発生器と冷却蒸気発生器の2つの部分に分割する際に、
超高速退避モードでは、全3台の蒸気発生器のうち2台の蒸気発生器を冷却蒸気発生器とし、残る1台の蒸気発生器を動力蒸気発生器とし、
維持モードでは、全3台の蒸気発生器のうち1台の蒸気発生器を冷却蒸気発生器とし、残る2台の蒸気発生器を動力蒸気発生器とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記冷却蒸気発生器圧力除去ステップは、具体的に、冷却蒸気発生器の大気放出弁が完全に開放されるまで、冷却蒸気発生器の大気放出弁の圧力設定値を徐々に引き下げて冷却蒸気発生器の圧力を低下させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法を実現するための原子力発電所の受動的パルス冷却システムであって、複数の蒸気発生器と二次回路脱気器を含み、前記複数の蒸気発生器と脱気器の間に蒸気配管と給水配管が接続されているシステムにおいて、
前記蒸気配管は、蒸気母管と、各蒸気発生器と前記蒸気母管に接続されており、各蒸気発生器の蒸気を引き出して前記蒸気母管に合流させる蒸気排出枝管と、前記蒸気母管と脱気器に接続されており、前記蒸気母管内の蒸気を脱気器に分配する脱気器蒸気供給枝管と、前記蒸気母管と脱気器に接続され、且つ定圧弁と空気圧遮断弁が設けられた蒸気加圧配管、を含むことを特徴とするシステム。
【請求項8】
前記蒸気加圧配管には、2つの前記空気圧遮断弁と、2つの前記空気圧遮断弁の間に位置する1つの前記定圧弁が設けられていることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記蒸気加圧配管は、一端が蒸気母管に接続されるとともに、他端が、脱気器の空気空間と直接連通する脱気器の接続口に接続されるか、或いは、他端が、脱気器蒸気供給枝管における脱気器蒸気調節弁の下流位置に接続されるか、或いは、他端が脱気器の給水配管に接続されることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記給水配管は、給水母管と、脱気器から前記給水母管まで接続される配管と、前記給水母管と各蒸気発生器に接続されており、前記給水母管内の媒質を各蒸気発生器に分配する給水枝管、を含み、各蒸気発生器に接続される給水枝管には、主給水調節弁が設けられており、主給水調節弁のバイパスに主給水バイパス調節弁が設けられており、
各蒸気発生器に接続される蒸気排出枝管には、主蒸気隔離弁と、主蒸気隔離弁の上流に位置する大気放出弁が設けられており、各主蒸気隔離弁のバイパスに主蒸気バイパス弁が設けられていることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電の分野に関し、特に、原子力発電所の受動的パルス冷却方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉が停止した場合には、炉心を冷却し続けて崩壊熱を除去することで、炉心溶融により放射性物質が制御不能に放出されるとの事態を回避する必要がある。余熱除去関連系統の信頼性は、事故機の制御に直接関係する。
【0003】
2011年に日本の福島で発生した原発事故は、地震と津波によって原子力発電所が全ての電源と水源を喪失し、炉心が強制冷却の手段を失った結果、燃料の余熱を排出不可能となり、炉心溶融が発生したことで、放射性物質が環境中に大量に放出されるというレベル7の原子力事故であった。福島の原子力発電所で発生した「全電源喪失(SBO)+全給水喪失」に類似する極限事故には、次の特徴がある。
【0004】
(1)全電源喪失によって、安全規格及び非安全規格のモータが全て機能喪失に陥り、注水機能を実行不能となる。
【0005】
(2)直後又は少し遅れて、蒸気発生器が冷却水注入機能を喪失する。
【0006】
(3)発電所の当直者がプラントを有効に制御不能となり、外部からの支援を必要とするが、各種の外部支援が到着するまでに一定の時間を要する(15分~数時間等、一様でない)。
【0007】
(4)外部救援設備の接続に一定の時間を要する(3時間以上)。
【0008】
(5)出力運転時の蒸気発生器は内部の備蓄水が少ないため、全電源喪失事故と全給水喪失事故が同時に発生して緊急停止した場合には、余熱の作用で蒸気発生器が急速に枯渇する。一次回路が圧力調整器の安全弁開放所定値に達するまで昇温・昇圧すると、安全弁が熱放出の手段として開放されるが、やがて炉心が露出し、昇温して溶融する。研究によると、約0.75~1時間で蒸気発生器は枯渇し、2~2.5時間で炉心が溶融する。
【0009】
中国のCPR1000系加圧水型炉原子力プラントが採用している状態指向アプローチ事故時手順(SOP)では、全電源喪失事故と全給水喪失事故について考慮しているが、これら2種類の事故が重複する場合については考慮していない。全電源喪失事故の場合にはECP1手順で対応し、タービン動補助給水ポンプによる炉心冷却の維持や、水圧テストポンプによる軸封破損の防止によって、電源供給の復旧まで待機する。一方、全給水喪失事故の場合にはECP4手順で対応し、「給-排モード」で炉心冷却を維持して退避する。全電源喪失+全給水喪失事故の場合には、蒸気発生器の枯渇に伴ってECP4手順(NSSSの状態レベル低下に対応)に進む必要がある。しかし、このときには一次回路給水手段(高圧安全注入)を喪失しているため、「給-排モード」により一次回路冷却剤の流失が加速され、炉心の早期溶融が招来される(2時間以内)。また、ECP4手順に進まなかった場合にはECP1手順が実行されるが、炉心の露出後も一次回路は100bar以上の状況に置かれ、最終的には高圧炉心溶融や格納容器の直接加熱という劣悪な事態を招く。
【0010】
福島の原発事故後、「全電源喪失(SBO)+全給水喪失」という極限事故に対して、中国の原子力発電所は、例えば、一次側及び二次側に臨時注水システムを増設して対応するといった一連の改善策を採択してきた。しかし、通常、これらシステムの接続及び運転開始には3~4時間を必要とする。つまり、福島の事故後の改善策は、運転開始までの緩和策を欠いており、緊急作業員の操作に与えられた時間が非常に逼迫している。
【0011】
このほか、AP1000に代表される第3世代原子力プラントでは、一般的に、スチール製の格納容器及び格納容器天井部のタンク構造、並びに二次側の受動冷却システムを採用しており、全電源喪失+全給水喪失状況に効果的に対応可能である。しかし、当該設計は第2世代原子力プラントに応用するには難度が高く、改造が困難であるほか、高コストとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術における上記の欠点に対し、原子力発電所の受動的パルス冷却方法及びシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明が技術的課題を解決するために採用する技術方案は以下の通りである。
【0014】
全給水喪失事故又は全電源喪失+全給水喪失事故の発生時に実行される原子力発電所の受動的パルス冷却方法を構築する。前記方法は、以下のステップを含む。
【0015】
蒸気発生器隔離ステップ:各蒸気発生器の大気放出弁を閉止し、各蒸気発生器と二次回路脱気器の間の蒸気配管及び給水配管を全て隔離する。前記蒸気配管は、蒸気母管と、各蒸気発生器と前記蒸気母管に接続される蒸気排出枝管と、前記蒸気母管と脱気器に接続される脱気器蒸気供給枝管と、前記蒸気母管と脱気器に接続され、且つ定圧弁と空気圧遮断弁が設けられた蒸気加圧配管、を含む。
【0016】
蒸気発生器機能分離ステップ:事故処理策の必要に応じて運転モードを選択し、運転モードに基づいて全ての蒸気発生器を動力蒸気発生器と冷却蒸気発生器の2つの部分に分割する。
【0017】
冷却蒸気発生器圧力除去ステップ:冷却蒸気発生器の大気放出弁の圧力設定値を引き下げて、冷却蒸気発生器の大気放出弁が開放されるまで待機する。
【0018】
脱気器一次加圧ステップ:前記蒸気加圧配管の空気圧遮断弁を開放することで、蒸気配管内の残留高圧蒸気を利用して前記脱気器を加圧する。
【0019】
給水配管開通ステップ:冷却蒸気発生器の給水配管の隔離を解除する。
【0020】
脱気器二次加圧ステップ:動力蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の隔離を解除して、コンベンショナル・アイランドの蒸気配管の圧力を維持するとともに、脱気器を加圧し続ける。
【0021】
本発明の上記方法では、各蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の主蒸気隔離弁と、主蒸気隔離弁のバイパスにおける主蒸気バイパス弁を閉止し、脱気器蒸気供給枝管の脱気器蒸気調節弁を閉止し、蒸気加圧配管の空気圧遮断弁を閉止する、との方式で各蒸気発生器と脱気器の間の蒸気配管を全て隔離する。
【0022】
前記動力蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の隔離を解除する際には、各蒸気発生器の主蒸気隔離弁のバイパスにおける主蒸気バイパス弁を開放する。
【0023】
本発明の上記方法では、脱気器を給水母管に接続する配管における隔離弁を閉止し、各蒸気発生器と前記給水母管の間の給水枝管における主給水調節弁と、主給水調節弁のバイパスにおける主給水バイパス調節弁を閉止する、との方式で各蒸気発生器と脱気器の間の給水配管を全て隔離する。
【0024】
前記冷却蒸気発生器の給水配管の隔離を解除する際には、脱気器を給水母管に接続する配管における隔離弁を開放するとともに、前記給水母管から冷却蒸気発生器の間の給水枝管における主給水調節弁、及び/又は、主給水調節弁のバイパスにおける主給水バイパス調節弁を開放する。
【0025】
本発明の上記方法では、前記事故処理策の必要に応じて運転モードを選択する際に、全給水喪失事故が発生した場合には超高速退避モードを選択し、全電源喪失+全給水喪失事故が発生した場合には維持モードを選択する。超高速退避モードにおける冷却蒸気発生器の数は、維持モードにおける冷却蒸気発生器の数よりも多い。
【0026】
本発明の上記方法では、前記運転モードに基づいて全ての蒸気発生器を動力蒸気発生器と冷却蒸気発生器の2つの部分に分割する際に、超高速退避モードでは、全3台の蒸気発生器のうち2台の蒸気発生器を冷却蒸気発生器とし、残る1台の蒸気発生器を動力蒸気発生器とする。また、維持モードでは、全3台の蒸気発生器のうち1台の蒸気発生器を冷却蒸気発生器とし、残る2台の蒸気発生器を動力蒸気発生器とする。
【0027】
本発明の上記方法では、前記冷却蒸気発生器圧力除去ステップは、具体的に、冷却蒸気発生器の大気放出弁が完全に開放されるまで、冷却蒸気発生器の大気放出弁の圧力設定値を徐々に引き下げて冷却蒸気発生器の圧力を低下させる。
【0028】
本発明は、更に、上記いずれかの方法を実現するための原子力発電所の受動的パルス冷却システムを構築する。前記システムは、複数の蒸気発生器と二次回路脱気器を含み、前記複数の蒸気発生器と脱気器の間に蒸気配管と給水配管が接続されている。前記蒸気配管は、蒸気母管と、各蒸気発生器と前記蒸気母管に接続されており、各蒸気発生器の蒸気を引き出して前記蒸気母管に合流させる蒸気排出枝管と、前記蒸気母管と脱気器に接続されており、前記蒸気母管内の蒸気を脱気器に分配する脱気器蒸気供給枝管と、前記蒸気母管と脱気器に接続され、且つ定圧弁と空気圧遮断弁が設けられた蒸気加圧配管、を含む。
【0029】
本発明の上記システムでは、前記蒸気加圧配管に、2つの前記空気圧遮断弁と、2つの前記空気圧遮断弁の間に位置する1つの前記定圧弁が設けられている。
【0030】
本発明の上記システムでは、前記蒸気加圧配管は、一端が蒸気母管に接続されるとともに、他端が、脱気器の空気空間と直接連通する脱気器の接続口に接続されるか、或いは、他端が、脱気器蒸気供給枝管における脱気器蒸気調節弁の下流位置に接続されるか、或いは、他端が脱気器の給水配管に接続される。
【0031】
本発明の上記システムでは、前記給水配管は、給水母管と、脱気器から前記給水母管まで接続される配管と、前記給水母管と各蒸気発生器に接続されており、前記給水母管内の媒質を各蒸気発生器に分配する給水枝管、を含む。各蒸気発生器に接続される給水枝管には、主給水調節弁が設けられており、主給水調節弁のバイパスに主給水バイパス調節弁が設けられている。
【0032】
各蒸気発生器に接続される蒸気排出枝管には、主蒸気隔離弁と、主蒸気隔離弁の上流に位置する大気放出弁が設けられており、各主蒸気隔離弁のバイパスに主蒸気バイパス弁が設けられている。
【発明の効果】
【0033】
本発明における原子力発電所の受動的パルス冷却方法及びシステムは、以下の有益な効果を有する。
【0034】
1)本発明は、全給水喪失事故又は全電源喪失+全給水喪失事故が発生したときに、原子力発電所の複数の蒸気発生器の機能を分離して、動力蒸気発生器と冷却蒸気発生器という2つの部分に分割可能である。そして、原子力蒸気供給システム内の高圧蒸気と冷却蒸気発生器との差圧を注水動力として利用する。つまり、蒸気配管と動力蒸気発生器の高圧蒸気を用いて脱気器を加圧し、冷却蒸気発生器の大気放出弁を開放して減圧させる。差圧を利用して受動的方式により脱気器内の水を冷却蒸気発生器内に注入することで、蒸気発生器に対する注水を実現する。本発明では、運転過程の全般にわたり、給水段階と蒸気排出段階が交互に周期を変える形態を示す。これにより、冷却力は非線形のパルス形式で変化して一次回路の冷却を完了する。
【0035】
2)全電源喪失+全給水喪失事故の場合に最優先対応策を提供し、一次回路の温度を安定させて、炉心溶融時間を遅延させる。これは、福島の事故後になされた改善策や緊急支援等のために十分な時間を提供し、事故の制御を補助するものである。また、全給水喪失事故の場合に、プラントが「給排モード」に進むことで長期間にわたる大規模修繕を必要とし、ひいては早期廃棄に至るとの深刻な事態を回避すべく、緩和策を提供する。
【0036】
3)全電源喪失の場合でも、電源に依存することなく蒸気発生器への給水を構築可能である。プラントが実際に使用可能な設備に応じ、原子力蒸気供給システム内の高圧設備と低圧の冷却蒸気発生器との間の差圧を利用することで、受動的方式により蒸気発生器に給水し、炉心冷却を復旧させる。
【0037】
4)脱気器の高温の水を給水水源として使用する。脱気器内の脱気水は温度が高く、水質が良好であり、酸素含有量が低く、不純物が存在しないことから、蒸気発生器の損傷に及ぼす影響が小さい。
【0038】
5)システムの正常運転に影響を及ぼすことなく、福島後の改良事項に残されていた課題を解決可能である。また、全給水喪失事故の場合の制御策を最適化可能なため、事故レベルの上昇に伴って「給-排モード」が使用される結果、プラントが長期間にわたる修繕を必要とし、ひいては早期廃棄に至るとの深刻な事態が回避される。
【0039】
6)プラントにおける従来の設備機能の潜在力を深く活用しているため、プラントの改造がわずかで済み、低コストとなるほか、実施が容易であるとの利点を有する。
【0040】
本発明の実施例又は従来技術の技術方案についてより明確に説明するために、以下に、実施例又は従来技術の記載にあたり使用を要する図面について簡単に説明する。なお、言うまでもなく、以下で記載する図面は本発明の実施例にすぎず、当業者であれば、創造的労働を要することなく、提供する図面に元づいてその他の図面を得ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、本発明における原子力発電所の受動的パルス冷却システムの構造の概略図である。
図2図2は、本発明における蒸気加圧配管の第1の接続形態の概略図である。
図3図3は、本発明における蒸気加圧配管の第2の接続形態の概略図である。
図4図4は、本発明における蒸気加圧配管の第3の接続形態の概略図である。
図5図5は、本発明における原子力発電所の受動的パルス冷却方法のフローチャートである。
図6図6は、具体的一実施例においてステップS1及びS2を実施した後のシステムの状態の概略図である。
図7図7は、具体的一実施例においてステップS3を実施した後のシステムの状態の概略図である。
図8図8は、具体的一実施例においてステップS4を実施したシステムの状態の概略図である。
図9図9は、具体的一実施例においてステップS5を実施したシステムの状態の概略図である。
図10図10は、具体的一実施例においてステップS6を実施したシステムの状態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
全電源喪失によって全ての動作設備が機能を喪失すると、ウォーターポンプから蒸気発生器に給水することができなくなる。本発明では、受動的方式により、原子力蒸気供給システム及び高圧蒸気発生器内の高温・高圧の蒸気を利用して脱気器を加圧することで、脱気器タンク内の水を低圧の蒸気発生器内に注入し、炉心を冷却する。
【0043】
本発明の全体的な構想は次の通りである。即ち、全給水喪失事故又は全電源喪失+全給水喪失事故が発生した場合には、蒸気発生器の蒸気配管と給水配管を全て隔離したあと、全ての蒸気発生器の機能を分離する。つまり、事故処理策の必要に応じて運転モードを選択し、運転モードに基づいて全ての蒸気発生器を動力蒸気発生器と冷却蒸気発生器の2つの部分に分割してから、冷却蒸気発生器の圧力を除去する。その後、前記蒸気加圧配管の空気圧遮断弁を開放し、蒸気配管内の残留高圧蒸気を利用して前記脱気器を一次加圧する。続いて、給水配管を開通させ、動力蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の隔離を解除することで、脱気器を二次加圧する。こうして運転を開始した後、原子力蒸気供給システム内の高圧蒸気と冷却蒸気発生器との差圧を注水動力として利用する。つまり、蒸気配管と動力蒸気発生器の高圧蒸気を用いて脱気器を加圧し、冷却蒸気発生器の大気放出弁を開放して減圧させる。そして、差圧を利用して受動的方式により脱気器内の水を冷却蒸気発生器内に注入することで、蒸気発生器に対する注水を実現する。本発明では、運転過程の全般にわたり、給水段階と蒸気排出段階が交互に周期を変える形態を示す。これにより、冷却力は非線形のパルス形式で変化して一次回路の冷却を完了する。
【0044】
上記の技術方案がよりよく理解されるよう、以下に、図面と具体的実施形態を組み合わせて、上記の技術方案について詳細に説明する。なお、図中には本発明の代表的な実施例を示す。ただし、本発明は多くの異なる形式で実現可能であり、本文中で記載する実施例に限らない。反対に、これらの実施例は、本発明の開示内容をより完全且つ包括的とすることを目的に提供する。本発明の実施例及び実施例における具体的特徴は、本願の技術方案を詳細に説明するためのものであって、本願の技術方案を限定するものではないと解釈すべきである。矛盾が生じない場合、本発明の実施例及び実施例における技術的特徴は互いに組み合わせ可能である。
【0045】
図1を参照して、本発明における原子力発電所の受動的パルス冷却方法は、図1のシステムにより実現可能である。前記システムは、複数の蒸気発生器と二次回路脱気器を含む。蒸気発生器の数は特に制限せず、一般的には3つとする。蒸気発生器と二次回路脱気器は、原子力発電システムにおいて一般的な設備である。前記複数の蒸気発生器と脱気器の間には蒸気配管と給水配管が接続されている。
【0046】
前記蒸気配管は、以下を含む。
【0047】
1)蒸気母管。
【0048】
2)複数の蒸気発生器に1対1で対応する複数の蒸気排出枝管。各蒸気排出枝管の分岐部は、対応する蒸気発生器と前記蒸気母管に接続されている。複数の蒸気排出枝管は、各蒸気発生器の蒸気を引き出して前記蒸気母管に合流させるために用いられる。各蒸気発生器に接続される蒸気排出枝管には、主蒸気隔離弁と、主蒸気隔離弁の上流に位置する大気放出弁が設けられている。また、各主蒸気隔離弁に対応してバイパスが1つずつ設けられており、各主蒸気隔離弁のバイパスに主蒸気バイパス弁が設けられている。
【0049】
3)前記蒸気母管と脱気器に接続されて、前記蒸気母管内の蒸気を脱気器に分配する脱気器蒸気供給枝管。前記脱気器蒸気供給枝管には、脱気器蒸気調節弁が設けられている。
【0050】
4)前記蒸気母管と脱気器に接続される蒸気加圧配管。蒸気加圧配管には定圧弁(即ち、減圧・定圧弁)と空気圧遮断弁が設けられている。具体的に、本実施例における蒸気加圧配管には、2つの前記空気圧遮断弁と、2つの前記空気圧遮断弁の間に位置する1つの前記定圧弁が設けられている。空気圧遮断弁はエアレスオープン設計となっているため、全電源喪失状況では、空気を放出するだけで開弁し、当該配管の運転を開始することができる。定圧弁の目的は、脱気器タンクの圧力が設計圧力を上回らないよう保証し、脱気器タンク内の圧力を安定させることで、脱気器の安全を保障することである。
【0051】
以上の蒸気母管、蒸気排出枝管、脱気器蒸気供給枝管は、いずれも原子力発電システムの既存の配管であり、本発明では、蒸気加圧配管を追加するだけでよい。前記蒸気加圧配管は、一端が蒸気母管に接続されており、他端が脱気器に接続されている。脱気器に蒸気加圧配管を接続するために、本発明では3種類の形態を提供する。
【0052】
第1の形態では、蒸気加圧配管を脱気器蒸気供給枝管における脱気器蒸気調節弁の下流位置に接続する。図2を参照して、この方式では、脱気器の従来の蒸気分配装置を利用可能である。蒸気は、水中に沈んだ起泡管から流出し、脱気器タンク内の供給水を加熱するとともに、脱気器を脱気及び加圧する。この形態の利点は、改造作業量が最小で済む点である。一方、この形態の欠点は、高圧蒸気がそのまま水中に進入するため、脱気器の加圧速度がやや遅い点である。また、脱気器内の水を加熱することで蒸気が消費されるほか、高エンタルピーの供給水は一次回路の熱を除去するのに不向きである。
【0053】
第2の形態では、蒸気加圧配管を脱気器の給水配管に接続する。図3を参照して、この形態では、蒸気が給水配管の出口における給水噴霧器(図中の三角形が給水噴霧器を示す)を通じて脱気器タンクの上部空間に進入し、脱気器を直接加圧する。この形態では、高圧蒸気を脱気器上部の空気空間に直接注入可能なため、迅速に脱気器を加圧できる。この場合、蒸気で供給水を加熱する必要がないため、高圧蒸気の消費が減少する。また、低エンタルピーの給水は、冷却蒸気発生器がより多くの熱を除去するのに有利である。一方、この形態の欠点は、脱気器の給水配管の出口に噴霧器が取り付けられているため、高圧蒸気の注入抵抗が増加することである。
【0054】
第3の形態では、脱気器の空気空間と直接連通する脱気器の接続口に蒸気加圧配管を接続する。図4を参照して、この形態では、蒸気が当該配管を通じて脱気器タンクの上部空間に直接進入し、脱気器を加圧する。この形態の場合、改造コストがわずかに増加するものの、接続の第2の形態における利点を有するとともに、蒸気の注入抵抗を最大限減少させられるため、脱気器を迅速に加圧するのに有利である。
【0055】
言うまでもなく、上述した3種類の接続形態の目的は同じであり、いずれも蒸気を脱気器に導入することである。よって、いずれも本発明の保護の範囲に属している。
【0056】
前記給水配管は、以下を含む。
【0057】
1)脱気器から蒸気発生器の給水母管まで接続されて給水に用いられる配管。通常、当該配管には、プラントの二次回路における既存の配管を使用する。例えば、高圧ヒータのバイパス配管等を使用して、できる限り流体摩擦抵抗を減少させる。
【0058】
2)上記1)の配管に接続される給水母管。給水母管は、脱気器内の水を各蒸気発生器内に搬送するために用いられる。
【0059】
3)複数の蒸気発生器に1対1で対応する複数の給水枝管。各給水枝管の分岐部は、対応する蒸気発生器と前記給水母管に接続されており、前記給水母管内の媒質を各蒸気発生器に分配するために用いられる。各蒸気発生器に接続される給水枝管には、主給水調節弁が設けられている。また、各主給水調節弁に対応してバイパスが1つずつ設けられており、各主給水調節弁のバイパスに主給水バイパス調節弁が設けられている。
【0060】
上記のシステムによって、本発明における原子力発電所の受動的パルス冷却方法を実現可能である。本発明の方法は、全給水喪失事故又は全電源喪失+全給水喪失事故が発生したときに実行される。図5を参照して、前記方法は以下のステップを含む。
【0061】
S1)蒸気発生器隔離ステップ:各蒸気発生器の大気放出弁を閉止し、各蒸気発生器と二次回路脱気器の間の蒸気配管及び給水配管を全て隔離する。
【0062】
具体的には、次の方式で各蒸気発生器と脱気器の間の蒸気配管を全て隔離する。即ち、各蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の主蒸気隔離弁と、主蒸気隔離弁のバイパスにおける主蒸気バイパス弁を閉止する。また、脱気器蒸気供給枝管の脱気器蒸気調節弁を閉止し、蒸気加圧配管の2つの空気圧遮断弁を閉止する。実際には、主蒸気バイパス弁、空気圧遮断弁は平時から閉止されている。よって、本ステップでは、実際には主に主蒸気隔離弁を閉止する。
【0063】
具体的には、次の方式で各蒸気発生器と脱気器の間の給水配管を全て隔離する。即ち、脱気器を給水母管に接続する配管における隔離弁を閉止する。また、各蒸気発生器と前記給水母管の間の給水枝管における主給水調節弁と、主給水調節弁のバイパスにおける主給水バイパス調節弁を閉止する。
【0064】
S2)蒸気発生器機能分離ステップ:事故処理策の必要に応じて運転モードを選択し、運転モードに基づいて全ての蒸気発生器を動力蒸気発生器と冷却蒸気発生器の2つの部分に分割する。動力蒸気発生器とは、脱気器の加圧に用いられる蒸気発生器を意味する。また、冷却蒸気発生器とは、脱気器からの水を受け付けて、一次回路の冷却に用いられる蒸気発生器を意味する。
【0065】
望ましくは、好ましい実施形態において、当該ステップは具体的に以下を含む。即ち、全給水喪失事故が発生した場合には超高速退避モードを選択し、全電源喪失+全給水喪失事故が発生した場合には維持モードを選択する。超高速退避モードにおける冷却蒸気発生器の数は、維持モードにおける冷却蒸気発生器の数よりも多い。例えば、原子力発電システムに3台の蒸気発生器が存在するとの条件の場合、超高速退避モードでは、全3台の蒸気発生器のうち2台の蒸気発生器を冷却蒸気発生器とし、残る1台の蒸気発生器を動力蒸気発生器とする。一方、維持モードでは、全3台の蒸気発生器のうち1台の蒸気発生器を冷却蒸気発生器とし、残る2台の蒸気発生器を動力蒸気発生器とする。
【0066】
超高速退避モードについて:蒸気発生器が3台の場合を例示すると、全給水喪失事故の発生後は、安全規格電源をそのまま使用可能であり、RRA-RRI-SECの冷却リンクも依然として有効である。そのため、2台の蒸気発生器を「冷却蒸気発生器」とし、残りの1台の蒸気発生器を「動力蒸気発生器」とすることで、脱気器の加圧及び蒸気発生器への注水を最大速度で実施可能とする。そして、脱気器内の備蓄水を利用して最大速度で冷却を実現することで、一次回路の平均温度を300℃から190℃まで冷却し、RRA開始条件に到達させる。これにより、「給-排モード」の開始が回避される。
【0067】
維持モードについて:同様に、蒸気発生器が3台の場合を例示する。1台の蒸気発生器を「冷却蒸気発生器」とし、注水流量を制御して、一次回路の温度を安定させつつ、緊急対策組織が給水システムの運転を復旧させるまで待機する。当該モードでは、少なくとも6時間の緊急時バッファタイムを提供できるため、給水システム復旧の成功率が著しく上昇する。
【0068】
「全給水喪失」事故について:従来の事故処理策では、「給-排モード」で炉心冷却を維持して退避する。この対策の実施は、次のステップに分けられる。
【0069】
1.待機する。
【0070】
2.圧力調整器の減圧配管を開放し、安全注入を起動する。
【0071】
3.格納容器のスプレーを開始する。格納容器スプレー系(EAS)の冷却器によって熱を原子炉補機冷却系(RRI)に伝達したあと、必須サービス水系(SEC)により熱を海に伝達する。
【0072】
この対策では、プラントを効果的に余熱除去システムに接続した状態とできるが、プラントに対する弊害も大きい。「給-排モード」の操作を実施すると、プラントは、長期的に運転を停止してシステム及び設備の補修を行わねばならい場合があり、ひいてはそのまま廃棄となる恐れもある。そこで、本発明では、プラントの全給水喪失事故における緩和策として、「給-排モード」の開始前に本発明における方法及びシステムを利用して、パルス方式で蒸気発生器への給水を構築する。つまり、「超高速退避モード」で運転し、一次回路を余熱除去システムとの接続状態まで退避させることで、「給-排モード」の開始を回避する。
【0073】
「全電源喪失+全給水喪失」事故について:従来の事故処理策では、「全電源喪失」の場合にはタービン動補助給水ポンプにより炉心冷却を維持し、「全給水喪失」の場合には「給-排モード」に進まねばならない。しかし、従来の事故時手順では、「全電源喪失+全給水喪失事故」の場合を考慮していなかった。そのため、現在の事故時手順では、「給-排モード」に進んだ場合に、電源喪失によって高圧安全注入を起動不可能になると、一次回路給水手段を失う結果、「給-排モード」によって一次回路の水の流失が加速して、炉心の早期溶融が招来される(2時間以内)。また、「給-排モード」に進まなかった場合には、炉心の露出後も一次回路は100bar以上の状況に置かれ、最終的には高圧炉心溶融や格納容器の直接加熱という劣悪な事態を招く。これに対し、本発明では、「全電源喪失+全給水喪失事故」後の対応策として「維持」モードで運転することで、注水流量を制御し、一次回路を安定させつつ、緊急対策により給水システムの運転が復旧するまで待機する。これにより、緊急時バッファタイムを捻出できるため、給水システムの復旧成功に有利となる。
【0074】
S3)冷却蒸気発生器圧力除去ステップ:冷却蒸気発生器の大気放出弁の圧力設定値を引き下げて、冷却蒸気発生器の大気放出弁が開放されるまで待機する。これにより、ほかの2台の蒸気発生器による水の使用を減少させられるとともに、一次回路の温度をできる限り低下させられる。
【0075】
S4)脱気器一次加圧ステップ:前記蒸気加圧配管の空気圧遮断弁を開放することで、蒸気配管内の残留高圧蒸気を利用して前記脱気器を加圧する。
【0076】
安全性及び信頼性を保証すべく、本ステップにおいて、好ましくは、冷却蒸気発生器の大気放出弁が完全に開放されるまで、冷却蒸気発生器の大気放出弁の圧力設定値を徐々に引き下げて冷却蒸気発生器の圧力を低下させる。
【0077】
S5)給水配管開通ステップ:冷却蒸気発生器の給水配管の隔離を解除する。
【0078】
具体的に、前記冷却蒸気発生器の給水配管の隔離を解除する際には、脱気器を給水母管に接続する配管における隔離弁を開放するとともに、前記給水母管から冷却蒸気発生器の間の給水枝管における主給水調節弁、及び/又は、主給水調節弁のバイパスにおける主給水バイパス調節弁を開放する。
【0079】
S6)脱気器二次加圧ステップ:動力蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の隔離を解除して、コンベンショナル・アイランド(Conventional Island)の蒸気配管の圧力を維持するとともに、脱気器を加圧し続ける。前記動力蒸気発生器に接続されている蒸気排出枝管の隔離を解除する際には、具体的に、各蒸気発生器の主蒸気隔離弁のバイパスにおける主蒸気バイパス弁を開放する。
【0080】
説明すべき点として、前記ステップS5及びS6は同時に実行可能である。
【0081】
以上のステップの実行後、動力蒸気発生器の蒸気によって、脱気器の圧力は設計最大値で安定を維持する。また、冷却蒸気発生器は迅速に蒸気を排出し、水の備蓄量の減少に伴って徐々に枯渇状態に近付いて行く。これにより、冷却蒸気発生器の圧力は低下し、蒸気の排出流量が減少する。脱気器の蒸気加圧配管における定圧弁は、脱気器の圧力の安定を保証可能とするものである。そのため、冷却蒸気発生器の圧力が徐々に低下するにつれて、脱気器と冷却蒸気発生器の間の差圧は次第に増大して行く。そして、差圧が流動抵抗に十分抗し得るまで増大すると、脱気器内の水が冷却蒸気発生器への注入を開始して主給水流量を構築する。この段階を給水段階とする。更に、冷却蒸気発生器内の供給水が加熱により気化するにつれて、蒸気発生器内の圧力は上昇し、脱気器と冷却蒸気発生器との差圧は再び小さくなる。そして、差圧が給水配管の流動抵抗に抗し得なくなると、主給水流量が中断される。このとき、冷却蒸気発生器内の蒸気排出流量が迅速に上昇することで一次回路の熱量が除去される。この段階を蒸気排出段階とする。蒸気排出の進行に伴って、冷却蒸気発生器内の水の備蓄量は徐々に減少し、圧力が低下する。そして、給水差圧が増大することで主給水流量が新たに構築されて、引き続き次の冷却が行われる。運転過程の全般にわたり、給水段階と蒸気排出段階は交互に周期を変える形態を示す。これにより、冷却力は非線形のパルス形式で変化して一次回路の冷却を完了する。
【0082】
次に、CP1000プラントに受動的パルス冷却システムを配置する場合を例示して説明する。
【0083】
1)水源
【0084】
炉心の冷却には、冷媒として十分な水源が必要とされる。本例では、プラントの二次回路脱気器(ADG)内の脱気水を冷却水源として使用する。CPR1000プラントの脱気器の総容積は708mであり、正常運転時には内部に408mの飽和水と300mの飽和蒸気が備蓄されている。異なるADG圧力下のADG水備蓄量の場合に、控えめに考えて、仮に脱気器内の水が飽和状態であるとして原子炉停止から20分後の炉心冷却の維持時間を算出すると、177~426minとなる。下記の表1は、異なるADG圧力及びADG脱気器の水備蓄量下における原子炉停止時間を示している。
【0085】
【表1】
【0086】
2)注水動力
【0087】
「全電源喪失+全給水喪失」事故の後は、可能な限り迅速に炉心冷却を復旧せねばならない。これは、全ての動作設備が機能喪失に陥っている場合、ウォーターポンプからSGに給水することが不可能なためである。蒸気発生器は位置も圧力も高いため、重力ポテンシャルを利用した注水の実現は不可能である。一方、原子力蒸気供給システム内には大量の高温・高圧の水と高温・高圧の蒸気が残っているため、原子力蒸気供給システム内の高圧蒸気と低圧の蒸気発生器との圧力差を注水動力とすることで、低圧の水を蒸気発生器に注入可能となる。
【0088】
CPR1000プラントの脱気器は高さ28mの箇所に位置しており、蒸気発生器の給水配管の入口よりもやや高くなっているが、受動的注水時の位置エネルギーの差は小さい。また、脱気器の設計最大圧力は14bar.aである。しかし、原子炉停止後は、蒸気発生器の圧力の設定値が自動的に78.5bar.gに調整されるため、主蒸気隔離弁(MSIV)を閉止したとしても、下流の配管内に存在する蒸気の圧力は60bar以上となる。この部分のエネルギーを、脱気器の圧力を設計圧力まで上昇させて維持するのに利用可能である。
【0089】
3)注水条件及び注水経路
【0090】
蒸気発生器の隔離後は、可能な限り迅速に注水経路を開通して、主給水調節弁及び/又は主給水バイパス調節弁を開放する必要がある。これは、冷却蒸気発生器の大気放出弁が全て開放された後、冷却蒸気発生器内の水が急速に蒸発して排出されるためである。蒸気の排出に伴って、冷却蒸気発生器の圧力は低下し、脱気器と冷却蒸気発生器の間の差圧が次第に増大する。そして、差圧が流動抵抗に十分抗し得るまで増大すると、脱気器内の水が差圧によって冷却蒸気発生器に進入する。
【0091】
4)システムの運転開始
【0092】
1台の蒸気発生器を冷却蒸気発生器とし、残りの2台を動力蒸気発生器とする場合を例示して、ステップS1~S6に従ってシステムの運転を開始する。具体的には、図6を参照して、ステップS1とS2の後に、3台の蒸気発生器の主蒸気隔離弁が閉止される。また、2号蒸気発生器を冷却蒸気発生器とし、1号及び3号蒸気発生器を動力蒸気発生器とする。図7を参照して、ステップS3を実行し、冷却蒸気発生器の大気放出弁の圧力設定値を引き下げて、冷却蒸気発生器の圧力を除去する。最終的には、冷却蒸気発生器の大気放出弁が全開となる。図8を参照して、ステップS4を実行し、脱気器の一次加圧を実現する。脱気器の蒸気加圧配管における空気圧遮断弁を開放し、蒸気配管内の残留蒸気を利用して、脱気器を設計最大圧力まで加圧する。図9を参照して、ステップS5を実行し、給水配管を開通する。図10を参照して、ステップS6を実行し、脱気器を二次加圧する。当該システムはパルス方式で運転され、給水段階と蒸気排出段階が交互に行われる。蒸気発生器について言えば、枯渇に近い状況と給水により昇圧した状況が交互に訪れる。図6図10では、状態が変化した弁を橢円で示している。
【0093】
冷却開始時には、蒸気発生器の一次側の温度が約290℃、二次側の温度が170℃(13bar.a)となり、温度差は約120℃であるが、冷却の進行に伴って温度差は徐々に小さくなる。正常運転時には、蒸気発生器の一次側の入口温度が327℃、二次側の給水温度が224℃、蒸気温度が284℃であるが、蒸気発生器の再循環水の昇温作用を計算すると、管板部分の二次側の水温は約270℃、一次側と二次側の温度差は約60℃となる。温度差から見ると、受動的パルス冷却では加圧された脱気器を使用するが、給水温度は正常運転時と比べてそれほど低下しないため、蒸気発生器はこの温度差を許容可能である。また、冷却時には、壁面が枯渇/再湿潤の状態を繰り返すことで、伝熱管に一定の応力が発生する。しかし、冷却水と壁面との温度差は小さいため、当該応力についても許容可能である。ここで、表2を参照する。我々は、専用ツールを利用して、M310プラント及びCPR1000プラントのASGタンクの維持時間を算出した。ASGタンクが空になった後、受動的パルス冷却システムの運転を開始した場合、維持時間を新たに約14時間追加可能であった。また、CPR1000プラントは、自律制御時間が2日間まで延長された。
【0094】
【表2】
【0095】
総合すると、本発明の有益な効果は次の通りである。
【0096】
1)「全電源喪失+全給水喪失」事故の場合に最優先対応策を提供し、一次回路の温度を安定させて、炉心溶融時間を遅延させる。これは、福島の事故後になされた改善策や緊急支援等のために十分な時間を提供し、事故の制御を補助するものである。
【0097】
2)「全給水喪失」の場合に、プラントが「給排モード」に進むことで長期間にわたる大規模修繕を必要とし、ひいては早期廃棄に至るとの深刻な事態を回避すべく、緩和策を提供する。
【0098】
3)パルス冷却の運転方式を取り入れることで、当該システムは、全電源喪失の場合でも、電源に依存することなく蒸気発生器への給水を構築可能である。プラントが実際に使用可能な設備に応じ、原子力蒸気供給システム内の高圧設備と低圧の冷却蒸気発生器との間の差圧を利用することで、受動的方式により蒸気発生器に給水し、炉心冷却を復旧させる。
【0099】
4)脱気器の高温の水を給水水源として使用する。脱気器内の脱気水は温度が高く、水質が良好であり、酸素含有量が低く、不純物が存在しないことから、SGの損傷に及ぼす影響が小さい。
【0100】
5)正常運転に影響を及ぼすことなく、福島後の改良事項に残されていた課題を解決可能である。また、全給水喪失事故の場合の制御策を最適化可能なため、事故レベルの上昇に伴って「給-排モード」が使用される結果、プラントが長期間にわたる修繕を必要とし、ひいては早期廃棄に至るとの深刻な事態が回避される。
【0101】
6)プラントにおける従来の設備機能の潜在力を深く活用しているため、プラントの改造がわずかで済み、低コストとなるほか、実施が容易である(数台の弁や、十数mの配管等を新たに追加するだけでよい)との利点を有する。
【0102】
7)脱気器を装備する全ての加圧水型炉原子力発電所であれば、いずれも受動的パルス冷却システムを配置可能なため、極限事故に対する原子力発電所の対応能力を全体的に向上させられる。
【0103】
説明すべき点として、本文中で記載した「連なる」又は「接続する」とは、2つの物体が直接連なる場合だけでなく、有益な改良効果を有するその他の物体を通じて間接的に連なる場合も含む。本文中で使用した「及び/又は」との用語は、関連する1又は複数の列挙項目の任意及び全ての組み合わせを含む。別途定義しない限り、本文中で使用した全ての技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解する意味と同義である。本文中で、本発明の明細書において使用した用語は、具体的実施例を記載するためのものにすぎず、本発明を制限することを意図しない。
【0104】
上記では、図面を組み合わせて本発明の実施例につき記載したが、本発明は上記の具体的実施形態に限らない。上記の具体的実施形態は概略に過ぎず、限定を意図していない。当業者は、本発明の示唆の下、本発明の主旨及び請求項で保護する範囲を逸脱しないことを前提に、更に多くの形態を実施可能であり、それらはいずれも本発明の保護の範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】