(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(54)【発明の名称】並列に接続された複数の超伝導検出手段を使用する単一光子検出のためのデバイスおよびシステム
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20220908BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20220908BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20220908BHJP
H01L 31/08 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
G01J1/02 R
H01L31/10 G ZAA
G01J1/02 Q
G01S7/481 A
H01L31/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569385
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(85)【翻訳文提出日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2020066591
(87)【国際公開番号】W WO2021004733
(87)【国際公開日】2021-01-14
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】315012242
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ジュネーヴ
(71)【出願人】
【識別番号】521509088
【氏名又は名称】イデ・カンティック・ソシエテアノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・ペレヌー
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス・ビュシエール
(72)【発明者】
【氏名】ミサエル・カロス
【テーマコード(参考)】
2G065
5F849
5J084
【Fターム(参考)】
2G065AB15
2G065AB19
2G065BA31
2G065BA34
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2G065DA13
5F849AA20
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5J084CA32
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5J084EA31
(57)【要約】
本発明は、少なくとも2つの超伝導検出手段(1)、ならびにバイアス電流源(2)と、フィルタ要素(3)と、読み出し回路(4)とを備える単一光子検出のためのデバイスに関し、各超伝導検出手段は、入射光子の吸収に適合した検出エリアを形成し、並列に接続され、各超伝導検出手段は、その臨界温度(Tc)よりも低い温度に維持され、非抵抗性超伝導状態に通常維持されるように、その臨界電流(IC)に近く、それよりも下に位置する電気バイアス電流(IB)を提供され、光子吸収時に、臨界電流を超える超伝導検出手段内の電流密度における増加により、前記非抵抗性超伝導状態から抵抗性状態に遷移するように適合され、前記読み出し回路は、前記超伝導検出手段のいずれかによる入射光子の吸収ごとにイベント信号を作成することを可能にするように、超伝導検出手段のその抵抗性状態への前記遷移に対応する電圧変化を感知するように適合される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一光子検出のためのデバイスであって、前記デバイスが、少なくとも2つの超伝導検出手段(1)、ならびにバイアス電流源(2)と、フィルタ要素(3)と、読み出し回路(4)とを備え、各超伝導検出手段(1)が、入射光子の吸収に適合した検出エリアを形成し、前記フィルタ要素(3)の中間体によって前記バイアス電流源(2)および前記読み出し回路(4)に並列に接続され、各超伝導検出手段(1)が、その臨界温度(T
C)よりも低い温度に維持され、前記バイアス電流源(2)が、各超伝導検出手段(1)を非抵抗性超伝導状態に通常維持するように、各超伝導検出手段(1)に、前記超伝導検出手段(1)の臨界電流(I
C)に近く、それよりも下に位置する電気バイアス電流(I
B)を提供し、各超伝導検出手段(1)が、入射光子の吸収の場合、前記非抵抗性超伝導状態から抵抗性状態に遷移するように適合され、前記読み出し回路(4)が、前記超伝導検出手段(1)のいずれかによる入射光子の吸収ごとにイベント信号を作成することを可能にするように、前記超伝導検出手段(1)のその抵抗性状態への前記遷移に対応する電圧変化を感知するように適合され、少なくとも1つの電流再分配手段(5)であって、入射光子を吸収していない前記超伝導検出手段(1)のいずれかがその臨界電流(I
C)を超える電流密度における増加を被ることを回避するように、前記超伝導検出手段(1)のいずれかによる入射光子の吸収後に生じる電流を前記電流再分配手段(5)に少なくとも部分的に再分配するように適合された少なくとも1つの電流再分配手段(5)をさらに備えることを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記少なくとも2つの超伝導検出手段(1)が、各々、前記検出エリアをカバーする蛇行または任意の他の形状の幾何学的形状を有する超伝導ナノワイヤセクションによって実現され、すべての超伝導検出手段(1)が、好ましくは一体的に製造されていることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記電流再分配手段(5)が、前記検出エリアをカバーする蛇行または任意の他の形状の幾何学的形状を有する超伝導ナノワイヤセクションによって実現され、前記電流再分配手段(5)が、好ましくは、前記超伝導検出手段(1)を形成する前記超伝導ナノワイヤセクションと一体的に製造されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
電流パイルアップおよび/またはカスケード効果による前記超伝導検出手段(1)の無効化を回避するように、前記電流再分配手段(5)が、前記超伝導検出手段(1)のすべてがそれらの抵抗性状態にある場合であっても、超伝導を維持するのに十分な電流をサポートするように適合されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記電流再分配手段(5)が、前記超伝導検出手段(1)の製造のために使用される超伝導材料とは異なる超伝導材料から製造されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記電流再分配手段(5)が、式W
R>W
S*[1+(N
S/N
R)]によって決定される最小幅(W
R)を有し、N
Sが、幅W
Sの超伝導検出手段(1)の数であり、N
Rが、電流再分配手段(5)の数であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
再分配手段(5)の数(N
R)が、比率N
S/(N
R+N
S)が5%から50%の間、より好ましくは10%と25%との間の範囲内に位置するように選択され、N
Sが、超伝導検出手段(1)の数であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記電流再分配手段(5)の形状および/または寸法が、好ましくは、前記超伝導検出手段(1)のそれぞれの力学インダクタンス(L
K)に応じて、それらのそれぞれの力学インダクタンス(L
KR)を選ぶように選択されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記電流再分配手段(5)が、入射光子に曝されないようにデバイス内部に配置される、ならびに/または入射光子に曝された場合であってもそれらが光検出するのを防ぐ幾何学的形状、特に幅および/もしくは厚さを有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスが、超伝導検出手段(1)と、それぞれ電流再分配手段(5)とに直列に各々接続された少なくとも1つの制御要素(6、7)をさらに備え、前記超伝導検出手段(1)と、それぞれ前記電流再分配手段(5)とに直列に接続された前記制御要素(6、7)が、好ましくは抵抗器(R
S、R
R)として実現されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
チップまたは任意のタイプの集積回路によって実現されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記デバイスが、前記デバイスの内部に光をもたらすことを可能にする光源もしくは光ファイバをさらに備えるか、または光が自由空間結合によって前記デバイスの方に向けられることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
単一光子検出のためのシステム(10)であって、前記システムが、請求項1から12のいずれか一項に記載のデバイスを少なくとも2つ備え、各デバイスが、個別の読み出し回路(4)を備えることを特徴とする、システム(10)。
【請求項14】
大規模マルチピクセルアレイを形成し、各ピクセルが、前記デバイスのうちの1つによって形成されることを特徴とする、請求項13に記載のシステム(10)。
【請求項15】
量子鍵配送、光自由空間通信、ならびに、特に、光時間領域反射測定法(Optical Time-Domain Reflectometry、OTDR)、光検出および測距(Light Detection and Ranging、LiDAR)、陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography、PET)スキャナ、TOFカメラを含むグループから選択された用途のための光飛行時間(TOF)測定のための、請求項1から12のいずれか一項に記載のデバイスのおよび/または請求項13もしくは14に記載のシステムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一光子検出のためのデバイスに関し、デバイスは、少なくとも2つの超伝導検出手段、ならびにバイアス電流源と、フィルタ要素と、読み出し回路とを備え、各超伝導検出手段は、入射光子の吸収に適合した検出エリアを形成し、前記フィルタ要素の中間体によって前記バイアス電流源および前記読み出し回路に並列に接続され、各超伝導検出手段は、その臨界温度よりも低い温度に維持され、前記バイアス電流源は、各超伝導検出手段を非抵抗性超伝導状態に通常維持するように、各超伝導検出手段に、超伝導検出手段の臨界電流に近く、それよりも下に位置する電気バイアス電流を提供し、各超伝導検出手段は、入射光子の吸収の場合、前記非抵抗性超伝導状態から抵抗性状態に遷移するように適合され、前記読み出し回路は、前記超伝導検出手段のいずれかによる入射光子の吸収ごとにイベント信号を作成することを可能にするように、超伝導検出手段のその抵抗性状態への前記遷移に対応する電圧変化を感知するように適合される。
【背景技術】
【0002】
一般に、本発明は、単一光子検出のための技法およびデバイスに関する。今日では、量子鍵配送、光自由空間通信、または光飛行時間(TOF:time-of-flight)測定技法、例えば、光時間領域反射測定法(OTDR:Optical Time-Domain Reflectometry)または光検出および測距(LIDAR:Light Detection and Ranging)などの多くの用途は、高効率と、高検出率と、低タイミングジッターと、低ノイズとを有する単一光子検出器を必要とする。超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD:superconducting nanowire single-photon detector)は、これらの用途のすべてにおいて優れた性能を達成することができる。
【0003】
これに関連して、SNSPDの最も単純な実装形態は、バイアス電流源と対応する読み出し電子機器とに接続された単一の蛇行を形成する超伝導ナノワイヤに基づくことが知られている。そのような従来の単一蛇行SNSPDの検出率は、その回復時間、すなわち、検出器が光子検出または誤カウント後に再び単一光子の検出に敏感になるのに必要な時間のために制限される。検出器が、ハードウェアで定義された回復時間の間、光子検出について無効にされていることを考えれば、短い回復時間は、検出器が所与の時間期間内により多くの光子を検出することができることを意味することは、当業者には明らかである。
【0004】
単一蛇行SNSPDの回復時間は、ナノワイヤの長さとともに単調増加するその力学インダクタンスに直接関係することも当業者に知られている。したがって、単一蛇行SNSPDの力学インダクタンスを低減することは、その回復時間を短くし、その検出率を上昇させることを可能にする。これは、回復時間のさらなる短縮を妨げる、いわゆるラッチング効果が現れるまでは実行可能である。ラッチング効果は、ナノワイヤが周囲の材料と熱的に接触して冷却される速度に比べてその回復時間が短すぎる場合、ナノワイヤを抵抗性状態に入り込ませ、動けなくする電気-熱フィードバックメカニズムによって引き起こされる。
【0005】
SNSPDの回復時間は、単一蛇行ナノワイヤをより小さいナノワイヤセクションに分割し、それらの各々をバイアス電流源および読み出し電子機器に並列に接続することによってさらに短縮され得る。実際には、総ナノワイヤ検出エリアが同じに保たれている場合、並列に接続されたナノワイヤ蛇行セクションを有するそのようなSNSPDの各ナノワイヤセクションは、対応する単一蛇行SNSPDのナノワイヤよりも短く、したがって、ナノワイヤセクションの各々は、より短い回復時間を有する。セクションを並列に接続することによって、単一読み出し電子回路は、セクションのうちの1つが光子に当たったかどうか、すなわち、セクションが光子の吸収により抵抗性になったかどうかを判定することを可能にする。所与のセクションの回復時間中、デバイス全体が光子を検出する準備が依然としてできているように、他のセクションの各々は、別の光子を検出するために依然として利用可能である。これは、同じ総ナノワイヤ検出エリアを有する単一蛇行SNSPDと比較して、デバイス全体の実効回復時間を短縮することも可能にする。
【0006】
しかしながら、並列に接続されたナノワイヤセクションを有するそのようなSNSPDは、接続されたセクション間の電流クロストークの問題を示す。実際には、ナノワイヤセクションのうちの1つにおいて光子吸収が発生するたびに、このセクションを最初に通過していた電流は、もちろん、読み出し電子機器に部分的に再分配され、検出信号を作成することを可能にするだけでなく、自動的かつ不注意に、他のセクション間にも再分配される。他のセクション間の、光子吸収後に生じる電流の再分配は、特に、いくつかのナノワイヤセクションがほぼ同時に、すなわち、それぞれの回復時間内の光子に当たった場合、他のセクションにおいて電流パイルアップ効果を引き起こす場合があるので、高い検出率において問題になる場合がある。この電流パイルアップ効果は、次いで、所与のセクションにおける電流がそれ自体の局所的な臨界電流に近いか、またはそれよりも大きい場合、他のナノワイヤセクションがそれ自体で、すなわち、光子を吸収せずに抵抗性になる可能性を高くする可能性がある。これは、残りのナノワイヤセクションにおけるパイルアップ効果をさらに強調し、ラッチ状態における完全に無効化された検出器をもたらすカスケードを最終的に作成する場合があり、ラッチ状態とは、すなわち、すべてのセクションが抵抗性状態にあり、総電流が電子的にゼロにリセットされ、次いでその公称値に戻されない限り、どのセクションもその超伝導状態に回復することができない状態であり、これは、遅い動作である。したがって、並列に接続されたSNSPDの高検出率の可能性は、電流クロストークと、対応する電流パイルアップおよびカスケード効果とによって厳しく制限される。
【0007】
一般に、高検出率をある程度可能にするSNSPDを実現するために、様々な解決策が従来技術において知られている。例えば、マルチピクセル設計を有する検出器は、隣り合わせにチップ上に集積されたいくつかの独立したSNSPDを使用する。この解決策は、いくつかのナノワイヤセクションを並列に接続する代わりに、検出器ピクセルを互いに独立して動作させるように、検出器ピクセルごとに個別の同軸線と読み出し回路とを使用する。ナノワイヤセクションごとに、クライオスタットに統合されなければならない専用の同軸線と、専用の読み出し回路とを必要とするため、この解決策は、コストがかかり、例えば、占有される体積が比較的大きいため、実用的ではない場合もある。
【0008】
ロシア特許RU2327253は、並列に接続されたいくつかのナノワイヤセクションと、前記セクションごとに、対応するセクションと直列に接続された抵抗器とを有するSNSPDを開示している。上記の電流クロストークならびに対応する電流パイルアップおよびカスケード効果は、前記抵抗器の追加によって部分的に制限される。各ナノワイヤセクションの回復時間はまた、検出器全体を一時的に無効にし得る前記カスケード効果によって決定される特定の限界まで、前記セクションと直列に接続された抵抗器の値を増加させることによって短縮され得る。この解決策は、各セクションの回復時間を個別に制御することを可能にするが、このデバイスは、高カウントレートでラッチするので、特に高検出率における電流クロストークの問題を完全に解決するようには適合されない。
【0009】
中国特許出願CN106289515は、自己利得構造を有する単一蛇行SNSPDを開示している。この目的のために、SNSPDは、光子に曝される単一蛇行ナノワイヤの隣に、光子に曝されない別のナノワイヤを備え、両方のナノワイヤは、並列に接続されている。単一蛇行ナノワイヤは、光子を検出するために使用される一方、曝されないナノワイヤは、出力信号の振幅を増加させるなど、単一蛇行ナノワイヤに当たる光子によって誘発されるパルス信号の増幅のために使用される。より具体的には、曝されないナノワイヤは、いわゆるSNAP-SNSPDデバイスに内部利得メカニズムを提供するために使用され、これは、単一の蛇行SNSPDの信号対雑音比を改善することを目的とする。したがって、光子に曝される単一蛇行ナノワイヤの隣に曝されないナノワイヤを使用するにもかかわらず、CN106289515によるデバイスは、依然として単一蛇行SNSPDとして認定されなければならず、その追加の構造は、信号対雑音比を改善し、したがって、SNSPDの単一蛇行のパルス信号を増幅することのみを可能にし、残りの部分についてデバイスは、特に、電流クロストークに関連する上記の問題に関して、他の公知の単一蛇行SNSPDと同じ欠点に悩まされる。実際には、パルス信号の前記増幅を実行するために、CN106289515によるデバイスの追加構造は、光子に曝されるナノワイヤにおける光子検出によって引き起こされる電流の増加をサポートすることができないように設計されなければならない。これは、光子に曝されるナノワイヤの幅のN倍に厳密に等しく、光子に曝されるナノワイヤのインダクタンスおよび抵抗値の1/N倍のインダクタンスおよび抵抗値を有するように、曝されないナノワイヤの幅を選択することによって達成される。したがって、CN106289515によるデバイスの曝されないナノワイヤは、光子に曝されるナノワイヤにおける光子検出後に発生する前記曝されないナノワイヤにおける電流密度が、サポートすることができる臨界電流密度を超えて上昇するように特別に設計され、したがって、曝されないナノワイヤを抵抗性にし、最終的に出力信号の振幅の増加に寄与する。しかしながら、同じ理由のため、構造の原理によるCN106289515によるデバイスは、電流クロストークに関連する上述の問題を解決するように適合せず、むしろそれに寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】RU2327253
【特許文献2】CN106289515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器の使用による単一光子検出のための従来技術による解決策は、依然としていくつかの欠点の影響を受ける。本発明の目的は、上述の困難を少なくとも部分的に克服し、高効率と、高検出率と、低タイミングジッターと、低ノイズとを有する単一光子検出のためのデバイスを実現することである。デバイスは、同時に高効率を維持しながら、電流クロストークと、対応する電流パイルアップおよびカスケード効果とによる従来技術のデバイスの欠点を回避することによって、特に高検出率に適合されるべきである。さらに、デバイスは、量子鍵配送、光自由空間通信、ならびに光時間領域反射測定法(OTDR)、光検出および測距(LiDAR)、陽電子放出断層撮影(PET(positron emission tomography))スキャナ、およびTOFカメラなどの光飛行時間(TOF)測定の分野における用途に適しているべきである。同時に、デバイスは、比較的小さい体積を占有することが想定され、その生産は、不必要なまたは高価な構成要素を必要とすることなく、持続可能なコストで可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この趣旨で、本発明は、請求項1において列挙された特徴によって特徴付けられるデバイスを提案する。特に、本発明によるデバイスは、入射光子を吸収していない超伝導検出手段のいずれかがその臨界電流を超える電流密度における増加を被ることを回避するように、前記超伝導検出手段のいずれかによる入射光子の吸収後に生じる電流を電流再分配手段に少なくとも部分的に再分配するように適合された少なくとも1つの電流再分配手段をさらに備えるという事実によって特徴付けられる。
【0013】
これらの特徴は、特に、前記電流再分配手段によって具体化された補足構造を従来技術のデバイスに追加することによって、上記で特定された目的を達成することを可能にする。実際には、超伝導検出手段間のクロストーク後に生じる電流をデバイス内に配置された前記電流再分配手段に分配することによって、電流クロストークと、対応する電流パイルアップおよびカスケード効果とをそれぞれ回避するために低減することが可能である。したがって、デバイスは、従来技術と比較してより高い検出率で動作すると同時に、デバイスの高効率を維持し得る。
【0014】
本発明の特に好ましい実施形態において、電流再分配手段は、超伝導検出手段のすべてがそれらの抵抗性状態にある場合であっても、超伝導を維持するのに十分な電流をサポートするように適合される。さらに、電流再分配手段の寸法は、それらのそれぞれの力学インダクタンスを選ぶように選択され得る。電流再分配手段は、入射光子に曝されないようにデバイス内部に配置され得、または入射光子に曝されたときであっても、光検出を妨げる幾何学的形状、特に幅および/もしくは厚さを有し得る。本発明によるデバイスは、バイアス電流をデバイスの異なる部分に制御された方法で分割することを可能にするために、超伝導検出手段と、それぞれ電流再分配手段とに直列に各々接続された少なくとも1つの制御要素をさらに備える。
【0015】
本発明の他の特徴および利点は、従属請求項、ならびに、以下に図を参照して本発明をより詳細に開示する説明において記載されている。
【0016】
添付の図は、いくつかの公知の従来技術のデバイス、ならびに本発明の原理およびいくつかの実施形態を例示的かつ概略的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1a】本発明に関連する従来技術を示し、特に、バイアス電流源と、対応する読み出し電子機器とに接続された単一の蛇行を形成する超伝導ナノワイヤに基づくSNSPDの従来技術による最も単純な実装形態を概略的に示す図である。
【
図1b】本発明に関連する従来技術を示し、
図1aのSNSPD実装形態と同等の電子回路を概略的に示す図である。
【
図1c】本発明に関連する従来技術を示し、バイアス電流源および対応する読み出し電子機器に並列に接続されたいくつかのナノワイヤセクションを備えるSNSPDの実装形態と同等の電子回路を概略的に示す図である。
【
図1d】本発明に関連する従来技術を示し、いくつかの独立したSNSPDを使用するマルチピクセル設計を有する単一光子検出器の実装形態を概略的に示す図である。
【
図1e】本発明に関連する従来技術を示し、バイアス電流源および対応する読み出し電子機器に並列に接続されたいくつかのナノワイヤセクションを備え、前記セクションごとに、対応するナノワイヤセクションと直列に接続された抵抗器をさらに備えるSNSPDの実装形態を概略的に示す図である。
【
図1f】本発明に関連する従来技術を示し、光子吸収の時点における
図1eのデバイスの挙動の数値シミュレーションを示す図である。
【
図2a】本発明による単一光子検出のためのデバイスおよびシステムの構造を示す図であり、特に、本発明による単一光子検出のためのデバイスの第1の実施形態を概略的に示す図である。
【
図2b】本発明による単一光子検出のためのデバイスおよびシステムの構造を示す図であり、本発明による単一光子検出のためのデバイスの第2の実施形態を概略的に示す図である。
【
図2c】本発明による単一光子検出のためのデバイスおよびシステムの構造を示す図であり、本発明によるいくつかのデバイスを備える単一光子検出のためのシステムの構造を概略的に示す図である。
【
図3a】部分的に従来技術のデバイスと比較した、本発明による単一光子検出のためのデバイスの利点を示す図であり、特に、その感光性セクションのうちの1つによる入射光子の吸収に続く本発明によるデバイスにおける電流クロストークの数値シミュレーションの結果を示す図である。
【
図3b】部分的に従来技術のデバイスと比較した、本発明による単一光子検出のためのデバイスの利点を示す図であり、両方ともほぼ同じ光学的に敏感なエリアをカバーする、本発明による単一光子検出のためのデバイスおよび従来の単一蛇行SNSPDの1秒あたりの検出された光子の数に依存する検出率の比較を示す図である。
【
図3c】部分的に従来技術のデバイスと比較した、本発明による単一光子検出のためのデバイスの利点を示す図であり、両方ともほぼ同じ光学的に敏感なエリアをカバーする、本発明による単一光子検出のためのデバイスおよび従来の単一蛇行SNSPDの1秒あたりの検出された光子の数に依存する光子あたりの平均検出効率の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明について、上述の図を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明は、入射光子のための吸収エリアを有する超伝導検出手段を形成する超伝導材料ベースの単一光子検出のためのデバイスに関する。説明の残りの部分が、超伝導検出手段が超伝導ナノワイヤによって実現される場合を主に扱うように、これは、この目的に適した任意のタイプの超伝導検出手段、例えば、当業者に知られている任意の種類の適切な材料の超伝導ストリップならびに/または適切な形状および厚さの超伝導フィルムもしくはコーティングとの類似性によって拡張する対応する説明の範囲を制限しない。したがって、使用される言語の単純化の理由と同様に、以下の説明は、再び、任意の種類の適切な超伝導材料との類似性によって拡張する対応する説明の範囲を制限することなく、「超伝導検出手段」、「超伝導ナノワイヤ」、および「超伝導ナノワイヤセクション」という用語を広く無頓着に使用する。
【0020】
これに関連して、序章において簡単に言及した、本発明の基礎となる技術的問題をよりよく理解するために、以下の説明は、特に
図1a~
図1fに示す概略図の助けを借りて、いくつかの種類の従来技術のデバイスの構造および動作原理ならびに対応する困難および欠点を簡単に想起させる。
【0021】
図1aは、超伝導ナノワイヤに基づくSNSPDの従来技術による最も単純な実装形態を概略的に示す。ナノワイヤ1は、バイアス電流源2と、対応する読み出し電子機器4とに接続された単一の蛇行を形成する。バイアス電流源2は、超伝導ナノワイヤ1の臨界電流I
Cに近く、かつそれよりも下であり、バイアスティー3の中間体によって単一蛇行超伝導ナノワイヤ1を通って流れるDCバイアス電流I
Bを提供する。後者は、
図1a中の例によって示されるように、インダクタンスL
Bを有するインダクタおよびキャパシタンスC
Bを有するキャパシタとして具体化され得るが、電気信号のDC成分とAC成分とを結合または分離するためにバイアスティーを実現することを可能にする任意の他の同等のダイプレクサまたはフィルタ要素3において構成することもできる。単一蛇行ナノワイヤ1は、入射光、すなわち入射光子に曝される検出エリアを形成し、単一蛇行ナノワイヤ1を通って流れる電流が通常その臨界電流I
C未満に留まるように、その臨界温度T
C未満に冷却される。超伝導ナノワイヤ1による入射光子の吸収の場合、後者は、超伝導ナノワイヤの有効幅の減少を引き起こし、したがって、臨界電流I
Cよりも上の超伝導ナノワイヤ1の残りの幅内の電流密度における増加につながる局所的な抵抗性ホットスポットの出現により、その非抵抗性超伝導状態から抵抗性状態に遷移する。光子吸収によって誘発される単一蛇行超伝導ナノワイヤ1のその非抵抗性超伝導状態から抵抗性状態への遷移が出力電圧パルスの生成につながり、したがって、単一光子検出を可能にするように、読み出し電子機器4は、通常、増幅器、および増幅器の後の電圧の変化を感知することができる比較器から構成される。そのような構成は、
図1bに示すような、
図1aの単一蛇行SNSPDと同等の電子回路によって簡略化された概略的な方法において示され得る。その中で、検出器1を形成する単一蛇行ナノワイヤは、力学インダクタンスL
Kと、通常の抵抗性状態を提供する抵抗器R
Nと、光子吸収によって制御されるスイッチSWとを有するエンティティによって表される。上述した単一蛇行SNSPDの動作原理は、
図1bの概略図について以下のように簡略化され得る。検出器1がその超伝導状態にあるとき、スイッチSWは、閉じられ、バイアス電流源2によって提供されるバイアス電流I
Bは、検出器1を通って流れている。光子吸収が発生すると、スイッチSWは、開き、すなわち、検出器1は、その抵抗性状態に入り、これが起こる確率は、バイアス電流I
Bの値と検出器1の温度とに依存し、電流が抵抗器R
Nを通って流れ始める。これは、ジュール熱を介して熱を放散させ、スイッチSWを開いたままに保つ検出器の抵抗性状態を強化する。典型的には約1キロオームの抵抗を有する抵抗器R
Nは、通常、典型的には約50オームの抵抗を有する読み出し回路のインピーダンスよりもはるかに大きいので、光子吸収後に流れる電流は、一時的に読み出し回路4に向け直される。これは、熱がR
Nを介してもはや放散されないことを意味し、検出器1がその臨界温度T
C未満に再び冷却することを可能にし、これは、スイッチSWを閉じることに等しく、また、検出器1が再び光子検出の準備ができるように、検出器1がバイアス電流I
Bを検出器1に引き戻すことを可能にする。しかしながら、序章において述べたように、回復時間は、ナノワイヤの長さとともに単調増加する単一の蛇行の力学インダクタンスL
Kに直接関連するので、そのような従来の単一蛇行SNSPDの検出率は、特に、検出エリアの増加に伴い、すなわち、超伝導ナノワイヤ1の長さの増加に伴い、その回復時間によりかなり制限される。
【0022】
図1cは、
図1bと同様の簡略化された方法で、それぞれフィルタ要素3のバイアスティーの中間体によってバイアス電流源2と対応する読み出し電子機器4とに並列に接続されたいくつかのナノワイヤセクション1を備えるSNSPDの実装形態と同等の電子回路を概略的に示す。各ナノワイヤセクション1は、力学インダクタンスL
Kと抵抗器R
Nとを有し、これらは各々、典型的には、同じまたは同様の値を有し、バイアス電流I
Bは、通常、各ナノワイヤセクション1に均等に分割され、すなわち、
図1cに示す3つのナノワイヤセクション1を備えるSNSPDの例について、各セクション1は、バイアス電流~0.33*I
Bでバイアスされる。並列に接続されたいくつかのナノワイヤセクション1を有するこのSNSPDの動作原理は、一般に、単一蛇行SNSPDについて上述したものに対応するが、光子吸収がナノワイヤセクション1のうちの1つにおいて発生したとき、光子吸収後に生じる電流が信号パルス生成のために読み出し電子機器4に向け直され、したがって、光子検出を可能にするだけでなく、他のナノワイヤセクション1にも自動的に入り、したがって、ナノワイヤセクション1の一部またはすべての間のこの電流クロストークのため、局所電流がバイアス電流I
Bを超えて一時的に増加するという違いがある。電流クロストークに関係する任意のナノワイヤセクション1における増加した電流が局所的な臨界電流I
Cを下回っている限り、検出率を高めるためにいくつかの並列に接続されたナノワイヤセクション1を使用することの原理は、機能する。しかしながら、序章において述べたこの電流クロストークならびに対応する電流パイルアップおよびカスケード効果は、部分的または完全に無効化された検出器につながる可能性があり、すなわち、検出器の大部分または全体がラッチ状態になるように、ナノワイヤセクション1の一部またはすべてが抵抗性状態にある状態につながる可能性がある。これは、特に、いくつかのナノワイヤセクション1に光子が同時に当たるときに電流クロストークの生成に寄与し得る高い検出率において起こる可能性がある。
【0023】
図1dは、マルチピクセル設計を有する単一光子検出器の実装形態を概略的に示す。この場合、いくつかの独立した超伝導ナノワイヤセクション1は、個別の同軸線によって対応する読み出し回路4に接続され、すなわち、各ナノワイヤセクション1が独立したSNSPDに組み込まれるように、ナノワイヤセクション1の接続は、並列ではない。序章で述べたように、この解決策は、コストが掛かり、比較的大きい体積を占有し、一般に、並列に接続されたいくつかのナノワイヤセクションを備えるSNSPDと比較して異なる手法を表す。
【0024】
図1eは、ロシア特許RU2327253によるSNSPDの実装形態を概略的に示し、このSNSPDは、フィルタ要素3のそれぞれバイアスティーの中間体によってバイアス電流源2と対応する読み出し電子機器4とに並列に接続されたいくつかのナノワイヤセクション1を備える。このSNSPDは、前記セクションごとに、対応するナノワイヤセクション1と直列に接続された抵抗器R
Sをさらに備える。前記抵抗器R
Sを追加することは、各セクションの回復時間をある程度制御することを可能にするだけでなく、上述の電流クロストークならびに対応する電流パイルアップおよびカスケード効果を部分的に制限することを可能にするが、この手段は、抵抗器R
Sの増加した抵抗によってクロストークが減少するので、高検出率における電流クロストークの問題を完全に解決するようには適合されない。この抵抗は、それを超えるとデバイスがラッチする最大値に制限される。後者の理由を理解するために、
図1fは、ナノワイヤセクション1のうちの1つによる光子の吸収の時点における
図1eのデバイスの、電流クロストークによって誘発される挙動の数値シミュレーションを示す。
図1fの右上隅における挿入図のフラッシュは、光子が左端のナノワイヤセクション1に当たることを象徴している。光子が当たらない他のセクションのうちの1つにおいてこの光子吸収後に生じる電流を、
図1fのメイングラフ上に示す。光子吸収の前、当たらないセクションにおける電流は、約20μAのバイアス電流において安定している。
図1fにおける時間100nsの時点で、左端のセクションに光子が当たった時点において、当たらないセクションにおける電流は、27μAをわずかに超えるまで上昇し、次いで、電子回路の時間ダイナミクスによりバイアス電流の値にゆっくりと回復する。しかしながら、超伝導ナノワイヤセクション1は、その検出効率を最大化するために、その臨界電流I
Cにできるだけ近く、かつそれよりも下で動作されるべきである。したがって、臨界電流I
Cが20μAよりも大きいが、27μAよりも小さい場合、
図1fに示す状況は、デバイス全体がラッチし、したがって無効化されるように、すべてのナノワイヤセクション1が抵抗性状態である状態になる。したがって、このデバイスをその最大検出効率の近くで動作させることはできないが、バイアス電流を減少させる必要があり、これは、効率を低下させる。さらに、それにもかかわらず、高検出率において、デバイスが高カウントレートにおける光子検出に適合されないように、デバイスのラッチング状態が発生する可能性がある。
【0025】
ここで、本発明による単一光子検出のためのデバイスに目を向けることによって、後者は、並列接続されたSNSPDのためのアンチカスケード設計を提案していることに留意すべきである。以下、ACPC-SNSPDと呼ぶ、本発明によるアンチカスケード並列接続SNSPDは、高検出率に関する並列接続SNSPDの可能性を引き出すように、高カウントレートにおける電流クロストークならびに対応する電流パイルアップおよびカスケード効果の上述した問題を解決するように主に設計される。
【0026】
一般に、本発明による単一光子検出のためのデバイスは、
図2aに概略的に示すように、少なくとも2つの、典型的にはいくつかの超伝導検出手段1、ならびにバイアス電流源2、フィルタ要素3、および読み出し回路4を備える。好ましくは、超伝導検出手段1は、各々、一般に蛇行の幾何学的形状を有し、そのようなものとして当業者によく知られている超伝導ナノワイヤセクションによって実現される。各超伝導検出手段1、すなわち、各蛇行した超伝導ナノワイヤセクション1は、光に曝され、入射光子の吸収のために適合された検出エリアを形成し、前記フィルタ要素3の中間体によって、前記バイアス電流源2ならびに前記読み出し回路4に並列に接続される。各超伝導検出手段1は、その臨界温度T
C未満の温度に維持される。前記バイアス電流源2は、各超伝導検出手段1を非抵抗性超伝導状態に通常維持するように、超伝導検出手段1の臨界電流I
Cに近く、それよりも下に位置する電気バイアス電流I
Bを各超伝導検出手段1に提供する。さらに、各超伝導検出手段1は、入射光子の吸収の場合、前記非抵抗性超伝導状態から抵抗性状態に遷移するように適合される。実際には、入射光子の吸収は、超伝導検出手段1内に摂動領域を作成する。超伝導検出手段1の残りの部分と同様にバイアス電流I
Bが横切る摂動領域は、超伝導検出手段1の有効体積の減少をもたらす局所的な抵抗性ホットスポットの出現につながり、したがって、超伝導検出手段1の残りの超伝導体積内の電流密度の、臨界電流I
Cを超える増加につながる。次に、読み出し回路4は、超伝導検出手段1のその抵抗性状態への前記遷移に対応する電圧変化を感知するように適合され、したがって、前記超伝導検出手段1のいずれかによる入射光子の吸収ごとにイベント信号を作成することを可能にする。
【0027】
超伝導検出手段1は、好ましくは、蛇行した超伝導ナノワイヤセクションによって各々実現されるが、これらの検出手段は、当業者に一般的に知られており、したがって、ここではさらに詳細に説明しない任意の種類の適切な材料の超伝導ストリップならびに/または適切な形状および厚さの超伝導フィルムもしくはコーティングによっても形成され得る。さらに、各超伝導検出手段1は、任意の適切な幾何学的形状を有し得、例えば、蛇行、円形、直線状の形状、インターリーブされた幾何学的形状、これらの幾何学的形状の組合せ、または特定の用途に適切な任意の他の形状であり得る。いずれの場合でも、少なくとも2つの超伝導検出手段1、すなわち、多くの用途では、すべての蛇行した超伝導ナノワイヤセクション1は、好ましくは、公知の製造方法を使用することによって、同時にかつ一体的に製造される。各超伝導検出手段1に前記バイアス電流I
Bを提供するバイアス源2は、その目的に適合されたすべての公知の構成要素の中から当業者によって選択され得、したがって、ここではさらに詳細には説明しない。フィルタ要素3自体も公知であり、
図2aに例として示すように、インダクタンスL
Bを有するインダクタと、キャパシタンスC
Bを有するキャパシタとを備えるバイアスティー3として実現され得るが、電気信号のDC成分とAC成分とを結合または分離するためにフィルタを実現することを可能にするダイプレクサまたは任意の他の同等の手段において構成することもできる。読み出し回路4は、典型的には、増幅器と、増幅器の後の電圧の変化を感知することができる比較器とを備えるが、本発明がデバイスのこれらの構成要素の内部に位置していないことを考慮すると、当業者に知られている任意の他の同等の読み出し手段で構成することもできる。
【0028】
実際には、本発明による単一光子検出のためのデバイスは、主に2つの点で従来技術とは異なる。第1に、並列に接続された超伝導検出手段1間、すなわち、蛇行した超伝導ナノワイヤセクション1間の電気的クロストークを低減するために、
図2aに概略的に示すように、同様に並列に接続された少なくとも1つの追加のセクション5がデバイス内に組み込まれる。これらの追加の並列セクション5は、光がデバイス上に入射したときであっても、抵抗性になることができないように設計され、すなわち、これらの追加のセクション5が光子検出に適合されないように、これらのセクションは、好ましくは入射光に曝されないか、ならびに/または、特に、その幅および/もしくは厚さのために、それらが光に曝された場合であっても、光検出するのを防ぐ幾何学的形状を有する。以下では、光がデバイス上に入射したときに光子を検出するように適合された超伝導検出手段1、すなわち、一般に、前記蛇行した超伝導ナノワイヤセクション1は、「感光セクション」とも称され、光に曝されない、および/または光がデバイス上に入射した場合であっても光子を検出することができないような幾何学的形状を有する前記追加の並列セクション5は、「電流再分配セクション」、「電流再分配経路」、または「電流再分配手段」5とも称される。「統合された」という用語は、電流再分配手段5が、好ましくは、感光セクションと同時にだけでなく一体的に製造されること、すなわち、通常、すべての蛇行した超伝導ナノワイヤセクション1を製造するために使用されるのと同じナノ製造技法を使用して製造されることを意味して本明細書で使用されることにも留意すべきである。典型的には、同じナノ製造技法は、ACPC-SNSPD全体のすべての構成要素を備えるチップを一体的に製造するために使用される。無効化された感光セクションと任意の他のセクションとの間の電流クロストーク、すなわち、所与のセクションにおける電流増加量は、セクションの総数とともに減少するので、前記電流再分配手段5のような追加のセクションを追加することは、電流クロストークならびに対応する電流パイルアップおよびカスケード効果に関連する問題を解決するように適合される。後者は、従来技術のデバイスのようにセクションの総数が感光セクションのみで構成されている場合、ならびに本発明による単一光子検出のためのデバイスにおけるように、セクションの総数が、光子検出に役立つ感光セクションと、電流再分配手段としてのみ役立つ追加のセクションの両方で構成されている場合の2つの場合にある程度有効である。しかしながら、本発明による後者の構成は、電流再分配手段5が電流クロストークを作成または増加させることに寄与せず、感光セクション1に由来するクロストークから結果として生じる電流を再吸収するのみであることを考慮すると、特に高検出率において、特に有利である。この設計により、限られた数のセクション、すなわち感光セクション1のみが、入射光の吸収によって同時に抵抗性になり得、一方、前記電流再分配経路5は、デバイスの構造によって、入射光の吸収によって抵抗性になることができない。第2に、追加のセクション、すなわち、前記電流再分配経路5は、デバイスの感光セクション1のすべてが複数の同時光子吸収後にそれらの抵抗性状態にある場合であっても、超伝導を維持するのに十分な電流をサポートするように、すなわち、それらの超伝導状態において電流を流すのに利用可能なままにするように設計される。これは、すべての感光セクション1が非超伝導状態にある場合に起こる可能性がある、全バイアス電流が流れ込む場合であっても、各再分配経路5における電流密度が、それにもかかわらず、使用される超伝導材料の臨界電流密度よりも低くなるように、電流再分配経路5の超伝導材料、数、幾何学的形状、幅、および/または厚さを選択することによって行われる。この目的のために、電流再分配経路5のために使用される超伝導材料は、例えば、感光性ナノワイヤのために使用される超伝導材料とは異なり得る。同じ目的のために、所与の超伝導材料で作られた幅W
Sおよび厚さd
Sの所与の数N
Sの感光性ナノワイヤ1、ならびにすべて同じ抵抗値R
R(この例では、R
Sに等しいと仮定する)で終端され、同じ超伝導材料から生成された(この例では、そうであるとやはり仮定する)数N
Rの再分配経路5について、電流再分配経路5に必要な最小幅W
Rは、式W
R>W
S*[1+(N
S/N
R)]によって計算することができる。W
Rは、電流再分配経路5の前記最小幅W
Rの下限を形成するこの値よりも優れていなければならないことに留意すべきである。特に、W
Rの値における下限は、臨界電流密度が再分配経路5の断面積d*W
Rに比例するという仮定に基づくが、実際には、依然として必要であるが、この仮定から演繹される再分配経路における要件を不十分にする超伝導材料の制限またはナノ製造方法による制約などの理由が存在し得る。これらの理由のために、電流再分配経路5に必要な最小幅W
Rは、一般に、上述の式に従って必要とされる最小幅よりも大きい値に固定される。この式が、感光性ナノワイヤ1および電流再分配経路5の材料および厚さが同じであり、抵抗R
SおよびR
Rが同様に同じである場合にのみ、この式が原理的に適用されることを考慮すると、これは、特定の例として言及されているが、上述の式は、前記最小幅W
Rの下限について最も一般的な式を表していないことも強調されるべきである。感光性ナノワイヤ1および電流再分配経路5の厚さd
Sおよびd
Rがそれぞれ異なり、抵抗R
SおよびR
Rが必ずしも同じであるとは限らない場合に適用される、より一般的な式は、式W
R>W
S*(d
S/d
R)*[(R
S/R
R)+(N
S/N
R)]である。感光性ナノワイヤ1および電流再分配経路5の材料が異なる場合の前記最小幅W
Rの下限について、さらにより一般的な式を示すことも可能である。簡略化のために、これについて、ここではさらに詳述しないが、本開示およびその技術的教示を考慮して当業者によって得られ得る。これに関連して、中国特許出願CN106289515によるデバイスは、曝されないナノワイヤが本発明によって提案されるような電流再分配経路として機能することができないように、パルス信号の増幅を可能にするために、序章において説明したように、W
Rの値における上述の下限よりも低い値に制限された幅を有する曝されないナノワイヤを有することに留意すべきである。逆に、本発明によるデバイスの設計は、電流パイルアップ効果が、すべての感光セクション1を一時的に無効にし、デバイスの時間のかかるリセットを必要とするカスケードをもたらさないことを可能にする。これは、デバイス全体の最適なパフォーマンスを可能にするような、電流再分配経路5として機能する追加セクションを設計する自由度を提供する。
【0029】
特定の例として、
図2aは、本発明による単一光子検出のためのデバイスの第1の実施形態の概略図を示し、デバイスは、
図1cおよび
図1eに示す従来技術のデバイスの3つのナノワイヤセクションと同種の、検出エリアを形成する3つの並列に接続された感光セクション1、ならびに並列に接続されたナノワイヤセクションを使用する従来技術のSNSPDにはなく、入射光に曝されない2つの並列に接続された電流再分配経路5を備える。これらの電流再分配経路5は、これらの感光セクション1のうちの1つまたはいくつかにおいて光子吸収が発生した時点において3つの感光セクション1間に生じる任意の電流クロストークを制限することを可能にする。したがって、これは、従来技術のデバイスにおいて観察される対応する電流パイルアップおよびカスケード効果を回避することを可能にする。さらに、これは、感光セクション1との最適な協働を可能にするために、好ましくは、感光セクション1の力学インダクタンスL
Kに依存する方法で、電流再分配経路5のそれぞれの力学インダクタンスL
KRを選ぶように電流再分配経路5の形状を選択することによっても影響を受ける。さらに、
図2aに示すように、本発明の第1の実施形態による単一光子検出のためのデバイスは、好ましくは、必須ではないが、典型的には抵抗器R
SおよびR
Rとして実現される制御要素6、7も備え、制御要素6、7は、事前定義され、制御された方法でDCバイアス電流をデバイスの異なる部分に分割するために、感光セクション1と、それぞれ電流再分配経路5とに直列に接続される。R
SおよびR
Rの値も、感光セクション1および電流再分配経路5に流れる電流を選ぶことを可能にするように選択される。
【0030】
図には示されていないが、
図2aのデバイスと同様の本発明の別の実施形態において、電流再分配経路5は、光ファイバによってもたらされる光に曝されるが、それにもかかわらず、例えば、電流再分配経路5を形成するナノワイヤの幾何学的形状のため、すなわち、その幅および/または厚さのため、光に曝された場合であっても、光を検出しない。より正確には、各電流再分配経路5のナノワイヤの幾何学的形状は、単一の光子が電流再分配経路を形成するナノワイヤによって吸収された場合であっても光検出を防ぐのに十分なほど大きくなるように幅および/または厚さを選択しながら、任意の所望の力学インダクタンスL
KRを取得するように選択することができる。
【0031】
図には示されていないが、
図2aのデバイスと同様の本発明のさらに別の実施形態において、光は、入射光が感光セクション1のみに向けられるか、または電流再分配経路5にも向けられることを可能にするように、レンズを使用した自由空間結合によってデバイスの方に向けられるが、電流再分配経路5は、上述のように選択することができるその幾何学的形状のため、光を検出することができない。
【0032】
図2bは、本発明によるデバイスの第2の実施形態を概略的に示し、デバイスの内部の並列に接続された感光セクション1は、デバイスの中心において適切に配置されている。各感光セクション1は、好ましくは、対応する感光セクション1と直列に接続され、
図2bの上において波線として示されている抵抗器R
Sによって実現される制御要素6によって終端される。感光セクション1に並列に接続された電流再分配経路5は、蛇行した超伝導ナノワイヤによって形成され、互いに対抗する円の2つの円弧を形成するように配置され得、感光セクション1は、
図2bの例によって示すように、中心近くにおいて、前記2つの円弧の間に配置される。デバイスは、好ましくは、各々が電流再分配経路5に直列に接続された制御要素7をさらに備え、前記制御要素7は、
図2bにおいて円の前記2つの円弧の外側に直線として示された抵抗器R
Rによって実現される。本発明によるデバイスのすべての他の実施形態と同様に、感光セクション1の端部、ならびにデバイス内部の並列接続の役に立たない電流再分配経路5の端部、存在する場合、これらの端部に接続されたそれぞれの制御要素6、7は、バイアス電流源2と同様にグランドに接続される。後者は、
図2bにおいてその全体において示されておらず、バイアス電流I
Bが前記2つの円弧間にやはり位置する接続線を通ってデバイスに流れ込み、次いで、感光セクション1および電流再分配経路5に分割されることを、その中央下部において象徴的にのみ示す。この実施形態において、感光セクション1は、好ましくは、すべての感光セクション1によって一緒に形成された検出エリアと同様かまたはそれよりも小さいコア直径を有する光ファイバによってデバイスの内部にもたらされる入射光に曝される。
【0033】
一般に、すでに上述したように、本発明によるデバイスの電流再分配経路5の超伝導材料、数、幾何学的形状、幅、および/または厚さは、すべての感光セクション1が非超伝導状態にある場合に起こり得る、総バイアス電流がそこに流れ込んでいる場合であっても、各再分配経路5内の電流密度が、対応する再分配経路5のために使用される超伝導材料の臨界電流密度よりも常に低くなるように選択される。しかしながら、本発明によるデバイスの多数の潜在的な用途、および対応する制約を満たすために修正されるように適合されるデバイスの多種多様なパラメータのために、デバイスの様々な構成要素、特に、感光セクション1および電流再分配経路5の数および寸法の選択のための厳密な数学的ルールを示すことは困難であるが、以下に説明するような特定の範囲内で実用的な値を見出すことができる。実際には、感光セクション1の数NSは、多数の感光セクション1を必要とする到達されるべき検出率と、感光セクション1の数NSの増加とともに減少する所望の出力信号振幅との間のトレードオフである。信号振幅の減少は、SNSPDのタイミングジッターも増加させ、これは、感光セクション1の数NSを選択する際に考慮されるべき別のトレードオフを構成する。感光セクション1の数NSの典型的な値は、好ましくは2から100の範囲内、より好ましくは4から40の間、さらにより好ましくは6から15の間に位置する。
【0034】
再分配経路5の数NRは、好ましくは、比率NS/(NR+NS)が5%から50%の間の範囲、より好ましくは10%と25%との間の範囲に位置するように選択される。再分配経路5は、対応する制御要素7の所与のインダクタンスLKRおよび抵抗RRを有する当初予測された数NRの再分配経路5を、デバイス全体について同じ物理的挙動を得るために対応する制御要素7の適切に選択されたインダクタンスLKREおよび抵抗RREを有する単一の同等の再分配経路5または減少した(もしくは増加した)数NREの同等の再分配経路5によって置き換えることができるように、少なくとも部分的にグループ化することもできる。例えば、単一の同等の再分配経路5、すなわち、NRE=1は、単一の再分配経路5の幾何学的形状が、そのインダクタンスLKREがLKR/(NR/NRE)に等しく、その対応する制御要素7の抵抗RREがRR/(NR/NRE)に等しくなるように選択される限り、並列の当初予測された数NRの再分配経路5(ここでは、NR>1)と同様に機能することができる。同等の再分配経路5の幾何学的形状、すなわち主に幅および厚さも、すべての感光セクション1がそれらの抵抗性状態にある場合であっても、超伝導を維持するのに十分な電流をサポートするように適合されなければならない。これは、同等の再分配経路の幅WREをWR*NR/NRE以上に選択することによって達成することができる。この場合、LKREは、同等の再分配経路5のAC挙動を改善することを可能にし、かつデバイスの適切な機能を損なうことがない場合、わずかにより大きい値(好ましくは2倍まで)またはより小さい値(好ましくは半分まで)を有するように選択することもできる。同等の再分配経路5の数NREの値は、1とNRとの間で選択することができる。実際には、制御要素の抵抗RREは、十分に高い精度で製造するには小さすぎる可能性があるので、NRE=1を選択すること、すなわち、単一の同等の再分配経路5が当初予測された数NRの再分配経路を置き換えることは、ナノ製造の困難さにつながる可能性がある。したがって、実際には、同等の再分配経路5の数NREの値は、好ましくは2からNRの間、より好ましくは4からNR/2の間、さらにより好ましくは8からNR/4の間の範囲に位置するように選択される。
【0035】
好ましい実施形態において、再分配経路5の制御要素7、ならびにそれらの抵抗および/またはインダクタンス(RRおよびLKR)は、感光セクション1の制御要素6のもの(RSおよびLK)と同じ値を有する。これは、電流がデバイスの様々な構成要素にわたって均等に分割されることを保証する。再分配経路5の力学インダクタンスLKRの値は、好ましくは、感光セクション1の力学インダクタンスLKに等しくなるように選択されるが、再分配経路5のAC挙動を変更するために、同様に異なる値とすることもできる。高い値は、感光セクションの回復時間を短縮するので、制御要素6の抵抗RSは、好ましくは可能な限り高い値を有するように選択されるが、そうしないとデバイスがラッチング挙動を示す可能性があるので、使用される材料と、力学インダクタンスLKの値に応じて、上限未満、好ましくは2オームから500オームの間、より好ましくは5オームから150オームの間、さらにより好ましくは10オームから100オームの間に維持されなければならない。感光セクション1の力学インダクタンスLKはまた、ナノワイヤの超伝導材料および幾何学的形状、すなわち、各感光セクション1の長さ、幅、および厚さによって決定される。典型的には、感光セクション1の力学インダクタンスLKは、各個々のセクションの回復時間を改善するために最小化されなければならない。LKおよびLKRの値は、好ましくは20から10000nH、より好ましくは50から1000nH、さらにより好ましくは100から500nHの範囲内に位置する。
【0036】
本発明によるデバイス、すなわち、ほとんどの実用的な用途では、蛇行した超伝導ナノワイヤを使用するACPC-SNSPDはまた、そう望まれるかまたは必要とされる場合、より複雑なシステムに統合され得る。例えば、
図2cに例として概略的に示すように、ピクセルごとに、すなわちACPC-SNSPDごとに専用の同軸線および読み出しを有する複数の独立したACPC-SNSPDを備える大規模なマルチピクセルアレイ単一光子検出システム10を実現することが可能である。感光セクション1ならびに電流再分配経路5は、マルチピクセルアレイ単一光子検出システム10に統合されたACPC-SNSPDの各々の内部で並列に接続されているが、ACPC-SNSPDは、各々が個別の読み出し4を有するようにシステム10に統合される。したがって、この構成は、
図1dに示す従来のデバイスと広く類似しているとみなされ得る。もちろん、そのようなマルチピクセルアレイ単一光子検出システム10に統合されたACPC-SNSPDの数は、変動し得、統合されたACPC-SNSPDは、同じまたは異なる検出エリア、構成要素、およびレイアウトなどを有し得、これらのパラメータのすべては、マルチピクセルアレイ単一光子検出システム10の具体的な用途に応じて選択される。後者は、チップまたは任意のタイプの集積回路によって実現され得、また、別のより大規模な単一光子検出構造の一部として使用され得る。
【0037】
一般に、本発明によるデバイスまたはシステムの異なる部分、すなわち、感光セクション1、電流再分配経路5の数および寸法、それぞれの、その力学インダクタンスLKおよびLKR、存在する場合、制御要素6、7、すなわち、抵抗器RSのおよびRRのキャパシタンス、感光セクション1がこの方法で実現される場合、ナノワイヤの長さ、厚さ、ならびに幅、または一般に、超伝導検出手段1の幾何学的形状は、慎重に最適化されなければならない。一般的な規則として、クロストークは、電流再分配手段5の数を増やすことによって、力学インダクタンスLKおよびLKRの小さい値によって、ならびに抵抗器RSおよびRRの大きい抵抗によって最小化される。本発明によってカバーされるすべての可能な構成について本明細書で説明することができなくても、この規則を具体的なレイアウトおよび用途にどのように適用するかは、当業者には明らかである。しかしながら、この一般的な規則を適用することは、出力信号の振幅を減少させることにつながる場合もあり、これは、検出器のジッターを低減する場合があり、力学インダクタンスLKおよびLKRの小さい値、ならびに抵抗器RSおよびRRの大きいキャパシタンスは、その回復時間を短縮するという点でデバイスの速度を上昇させることにつながる場合もあり、これは、特定の状況下で、再びデバイス全体のラッチングにつながる場合がある。これらの理由のため、特定のレイアウトおよび用途ごとに、デバイスの様々な部分の数および寸法の慎重な最適化が必要とされる。これらの理由のため、本発明によるデバイスの様々な部分の寸法の正確な制御は、重要であり、電流再分配経路5は、好ましくは、すでに上述したように、デバイスの感光セクション1を生成するために使用されるナノ製造プロセスを使用することによってデバイスに統合される。これは、必須ではないが、同じナノ製造プロセスの使用によってこれらの構成要素を統合しないことは、寄生容量、寄生抵抗、および寄生インダクタンスの存在と、電流再分配経路5のインダクタンスLKRおよび抵抗器RRのキャパシタンスの値を適切に制御することの困難さとにより、本発明の適切な実装形態を損なう可能性がある。
【0038】
本発明によるマルチピクセルアレイ単一光子検出システム10のそれぞれのACPC-SNSPDの利点を、
図3aにおいて、本発明によるデバイスの感光セクションのうちの1つによる入射光子の吸収に続くその感光セクション1間の電流クロストークがどのように緩和されるかを示す数値シミュレーションによって示す。
図3aの右上隅における挿入図のフラッシュは、光子が左端の感光セクション1に当たることを象徴している。光子が当たらない他の感光セクション1のうちの1つにおいてこの光子吸収後に生じる電流を、
図3aのメイングラフ上に示す。光子吸収の前、当たらないセクションにおける電流は、約20μAのバイアス電流において安定している。
図3aにおける時間100nsの時点で、左端の感光セクション1に光子に当たった時点において、当たらないセクションにおける電流は、電流再分配手段5による、クロストークのために生じる電流の緩和により、約20.65μAまで最小限にしか上昇せず、次いで、電子回路の時間ダイナミクスによりバイアス電流の値にゆっくりと回復する。したがって、
図1fの文脈において例として論じたような従来技術における状況と比較して、本発明によるそれぞれシステム10内部のデバイス内部の電流クロストークは、はるかに小さい。これは、そのようなシステム10のそれぞれのそのようなデバイスの感光セクション1を、それらの臨界電流I
Cの近くで、したがって、最大効率において動作させることを可能にする。さらに、電流再分配手段5による電流クロストークの軽減のため、それぞれシステム10のデバイスは、高い光子検出率においても無効にならない。
【0039】
図3bにおいて、入射光子の数に応じて測定された検出率は、
図1aの従来の単一蛇行SNSPDに基づく一方のデバイスと、
図2bに示すものと同様のACPC-SNSPDに基づく他方のデバイスの2つのデバイスについて比較されている。
図2bに示すACPC-SNSPDのように、
図3bを確立するために使用されるACPC-SNSPDは、6つの感光セクションならびに14の電流再分配経路で構成され、感光セクションは曝されるが、電流再分配経路は曝されない光は、光ファイバによってデバイスに取り込まれる。
図3bを確立するために使用される単一蛇行SNSPDとACPC-SNSPDの感光セクションの両方によってカバーされる総面積は、約16μm×16μmである。
図3bに示す比較は、本発明によるACPC-SNSPDが高検出領域において動作することができることを実証しているが、これは、従来の単一蛇行SNSPDでは不可能である。実際には、本発明によるACPC-SNSPDについては効率の損失も観察されるが、この損失は、従来の単一蛇行SNSPDが被り、高検出率における後者の使用を禁止するものよりもはるかに低い。
【0040】
図3cは、デバイスを照らすために連続波(CW)光源を使用した、従来の単一蛇行SNSPDおよび本発明によるACPC-SNSPDに関する入射光子の数に依存する入射光子あたりの平均検出効率の変動を示す。比較は、光子カウントレートが1MHz未満の場合、
図1aのものと同様の従来の単一蛇行SNSPDおよびACPC-SNSPDの検出効率が本質的に一定であることを示す。
図3cに示す例において、入射光子あたりの平均検出効率は、1MHz未満の光子カウントレートの領域について、単一蛇行について約77%であり、ACPC-SNSPDについて約66%である。光子カウントレート、すなわち、光子検出率が上昇すると、平均効率は、両方のデバイスについて低下し始める。しかしながら、効率が公称効率の半分に低下する光子カウントレート、すなわち、3dB効率低下ラインは、従来の単一蛇行SNSPDについてはすでに約6MHzに位置しているが、ACPC-SNSPDについては約70MHzに過ぎない。これは、本発明によるACPC-SNSPDが高検出率において特に有利な方法で使用され得ることをはっきり示している。
【0041】
本発明によるデバイスおよびシステムの構造および動作モードの上記の説明に照らして、その利点は、明らかである。主にそして最も重要なことに、そのようなデバイスは、提案した検出器設計の主な利点として、高検出率における複数の並列に接続されたナノワイヤセクションを有するSNSPDを動作させることを可能にし、同時に、特に高カウントレートにおいて従来技術のSNSPDをラッチ状態にする電流クロストークおよび対応するカスケード効果を回避する。第2に、本発明によるデバイスは、大きいコアの光ファイバ、例えば、マルチモード光ファイバから来る光、または対応する利点を有する自由空間を伝播するビームを収集するためのより大きい感光性表面の作成を可能にする。すなわち、本発明によるデバイスの実効回復時間は、同じ大面積をカバーする従来の単一蛇行SNSPDと比較して短縮され、また、蛇行においてくびれを有する可能性が高いために光学的に敏感なエリアのサイズが増加する場合に減少するデバイスの製造の歩留まりは、例えば、製造上の問題による欠陥セクションが、他の感光セクションが動作するのを妨げないので、本発明による設計では影響が少ない。第3に、本発明によるデバイスおよびシステムは、量子鍵配送、光自由空間通信、ならびに例えば光時間領域反射測定法(OTDR)、光検出および測距(LiDAR)などの光飛行時間(TOF)測定の分野における用途に特に適している。最後に、ナノワイヤセクションごとに専用の読み出し電子機器または他の高価な構成要素を必要としないことを考えると、デバイスは、比較的小さい体積を占有し、その製造は、持続可能なコストで可能である。したがって、デバイスは、上記の目的を達成することを可能にする。
【符号の説明】
【0042】
1 超伝導検出手段、超伝導ナノワイヤセクション、感光セクション
2 バイアス電流源
3 フィルタ要素
4 読み出し回路、読み出し
5 セクション、電流再分配手段、電流再分配経路
6 制御要素
7 制御要素
10 マルチピクセルアレイ単一光子検出システム、システム
【国際調査報告】