(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(54)【発明の名称】中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20220908BHJP
G02B 6/032 20060101ALI20220908BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C03B37/012 A
G02B6/032 Z
G02B6/02 356A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021574870
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(85)【翻訳文提出日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2020069990
(87)【国際公開番号】W WO2021009218
(87)【国際公開日】2021-01-21
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Heraeusstr.12-14, 63450 Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル ローゼンベアガー
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ エーレントラウト
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィト コストカ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン トロマー
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ヴァイマン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヒューナーマン
(72)【発明者】
【氏名】カイ シュースター
【テーマコード(参考)】
2H250
4G021
【Fターム(参考)】
2H250AB03
2H250AC53
4G021BA04
4G021BA13
4G021BA15
(57)【要約】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ中空コアを取り囲む内部のクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法が公知である。公知の方法には、被覆管内部孔と被覆管長手方向軸とを有し、内側と外側により画定されている被覆管壁が被覆管長手方向軸に沿って延びている被覆管を提供する工程と、複数の反共振要素プリフォーム体を提供する工程と、反共振要素プリフォーム体を被覆管壁の内側の目標位置に配置して、中空のコア領域とクラッド領域とを有する中空コアファイバの一次プリフォームを形成する工程と、一次プリフォームを延伸して中空コアファイバを形成する工程、または一次プリフォームのさらなる加工によって二次プリフォームを形成する工程とが含まれている。ここから出発して、反共振要素の高い精度および正確な位置決めを、十分に安定した再現可能なやり方で達成するために、30~90mmの範囲の外径を有する二次プリフォームが形成され、反共振要素プリフォーム体の端面のうちの少なくとも1つが閉じられることが提案される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ前記中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法であって、
(a) 前記中空コアファイバのための一次プリフォームを提供する工程であって、前記中空コアファイバは、中空コア領域およびクラッド領域を有し、前記クラッド領域は、少なくとも1つの被覆管(1)を含み、前記被覆管(1)は、被覆管内部孔および被覆管長手方向軸を有し、前記被覆管長手方向軸に沿って、内側クラッド面及び外側クラッド面によって画定された被覆管壁(2)が延び、前記クラッド領域には、管状および/または中空チャネル状の複数の反共振要素プリフォーム体(4)が配置されている、工程と、
(b) 一次プリフォームを二次プリフォームにさらに加工する工程であって、さらに加工する工程は、
(i) 延伸
(ii) コラップスおよび同時延伸、
(iii) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、のうち1つ以上の熱成形プロセスが1回または反復して実行されることを含む、工程と、
(c) 前記二次プリフォームから前記中空コアファイバを線引きする工程と、を備える製造方法において、
30~90mmの範囲の外径を有する二次プリフォームを形成し、前記工程(c)による前記中空コアファイバの前記線引きの前に、前記反共振要素プリフォーム体(4)の端面側端部のうちの少なくとも1つを閉じることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)にしたがい、20~70mmの範囲にある外径を有する一次プリフォームを提供することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一次プリフォームは、前記二次プリフォーム内に、7~50mmの範囲にある外径を有する内部クラッド領域を形成することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(c)による前記中空コアファイバの前記線引き時に、前記コア領域において、内圧を0.05~20mbarの範囲に調整することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)によるプロセスの実行時に、目標温度を±0.1℃の精度で維持する、温度制御された加熱要素を使用することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一次プリフォームを提供する工程は、前記反共振要素プリフォーム体(4)を、前記被覆管壁(2)の内側の目標位置に配置することを含み、前記反共振要素プリフォーム体の前記配置および/または前記工程(c)による前記中空コアファイバの前記線引きは、非晶質SiO
2粒子を含む封止材または接合材(5)を使用した固定措置および/または封止措置を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(a)により前記一次プリフォームを提供することは、前記反共振要素プリフォーム体(4)を、前記被覆管壁(2)の内側の目標位置に配置することを含み、前記反共振要素プリフォーム体の前記配置は、被覆管内部孔に挿入される位置決めテンプレートを用いて行い、前記位置決めテンプレートは、前記反共振要素プリフォーム体を前記目標位置に位置決めする保持要素を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記被覆管内部孔に突出し、かつ半径方向外側に向けられた複数の保持アームの形態の保持要素が設けられているシャフトを備えた位置決めテンプレートを使用することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被覆管の内側は、切削加工によって形成し、特に穴あけ加工、フライス加工、研削加工、ホーニング加工および/または研磨加工によって形成することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被覆管の内側に、前記目標位置の領域における切削加工によって、前記被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造を設けることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(c)による前記中空コアファイバの線引き時に、シリカガラスからなる前記二次プリフォームの複数の成分を一緒に加熱および軟化させ、前記プリフォームの成分のうちの少なくとも一部のシリカガラスは、シリカガラスの粘度を低下させる少なくとも一種のドーパントを含むことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(b)にしたがい、追加のクラッド材料をコラップスし、前記被覆管(1)のシリカガラスは、1,250℃の測定温度において、(前記粘度を単位dPa・sの対数値で表す場合)前記追加されたクラッド材料のシリカガラスよりも少なくとも0.5dPa・s高い粘度、好適には少なくとも0.6dPa・s高い粘度を有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ前記中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバのためのプリフォームの製造方法であって、
(a) 前記中空コアファイバのための一次プリフォームを提供する工程であって、前記中空コアファイバは、中空コア領域およびクラッド領域を有し、前記クラッド領域は、少なくとも1つの被覆管(1)を含み、前記被覆管(1)は、被覆管内部孔および被覆管長手方向軸を有し、前記被覆管長手方向軸に沿って、内側クラッド面及び外側クラッド面によって画定された被覆管壁(2)が延び、前記クラッド領域には、管状および/または中空チャネル状の複数の反共振要素プリフォーム体(4)が配置されている、工程と、
(b) 前記一次プリフォームを二次プリフォームにさらに加工する工程であって、前記さらに加工する工程は、
(i) 延伸
(ii) コラップスおよび同時延伸、
(iii) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、のうち1つ以上の熱成形プロセスが1回または反復して実行されることを含む、工程と、を有する製造方法において、
30~90mmの範囲の外径を有する二次プリフォームを形成し、前記反共振要素プリフォーム体(4)の端面側端部のうちの少なくとも1つを閉じることを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法に関し、この製造方法は、
(a) 中空コアファイバのための一次プリフォームを提供する工程であって、中空コアファイバは、中空コア領域およびクラッド領域を有し、クラッド領域は、少なくとも1つの被覆管を含み、被覆管は、被覆管内部孔および被覆管長手方向軸を有し、被覆管長手方向軸に沿って、内側クラッド面及び外側クラッド面によって画定された被覆管壁が延び、クラッド領域には、管状および/または中空チャネル状の複数の反共振要素プリフォーム体が配置されている、工程と、
(b) 一次プリフォームを二次プリフォームにさらに加工する工程であって、さらに加工する工程は、
(i) 延伸
(ii) コラップスおよび同時延伸、
(iii) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが1回または反復して実行されることを含む、工程と、
(c) 二次プリフォームから中空コアファイバを線引きする工程と、
を備える。
さらに本発明は、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含む、中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバのプリフォームの製造方法に関し、この製造方法は、
(a) 中空コアファイバのための一次プリフォームを提供する工程であって、中空コアファイバは、中空コア領域およびクラッド領域を有し、クラッド領域は、少なくとも1つの被覆管を含み、被覆管は、被覆管内部孔および被覆管長手方向軸を有し、被覆管長手方向軸に沿って、内側クラッド面及び外側クラッド面によって画定された被覆管壁が延び、クラッド領域には、管状および/または中空チャネル状の複数の反共振要素プリフォーム体が配置されている、工程と、
(b) 一次プリフォームを二次プリフォームにさらに加工する工程であって、さらに加工する工程は、
(i) 延伸
(ii) コラップスおよび同時延伸、
(iii) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、のうち1つ以上の熱成形プロセスが1回または反復して実行されることを含む、工程と、
を備える。
中実材料から作製される従来のシングルモード光ファイバは、低屈折率のガラスからなるクラッド領域により取り囲まれたガラス製のコア領域を有している。このとき、光の伝搬は、コア領域とクラッド領域間の全反射に基づいている。しかし、導波光と中実材料の相互作用は、データ伝送時の遅延時間の増大や、エネルギー放射線に対する損傷のしきい値の相対的低下に結びついている。
【0002】
これらの欠点は、コアがガスまたは液体を充填した真空の空洞部からなる「中空コアファイバ」によって回避されるか、もしくは軽減される。中空コアファイバでは、光とガラスの相互作用が中実コアファイバの場合よりも減少する。コアの屈折率はクラッドの屈折率よりも小さいため、全反射による光の伝搬は不可能であり、通常光はコアからクラッドに漏れ出ると考えられる。光の伝搬の物理的メカニズムに応じて、中空コアファイバは、「フォトニックバンドギャップファイバ」と「反共振反射ファイバ」に区別される。
【0003】
「フォトニックバンドギャップファイバ」では、中空コア領域が、小さな中空チャネルを周期的に配置したクラッドによって取り囲まれている。クラッド内の中空チャネルの周期的構造には、半導体技術に依る「フォトニックバンドギャップ」と呼ばれる効果があり、これにより、クラッド構造に散乱する特定の波長領域の光はブラッグ反射に基づいて中心の空洞部で構造的に干渉するため、クラッド内で横方向に広がることはできない。
【0004】
「反共振中空コアファイバ」(「antiresonant hollow-core fibers」;ARHCF)と呼ばれる中空コアファイバの実施形態では、中空のコア領域が内部のクラッド領域によって取り囲まれており、いわゆる「反共振性要素」(または「反共振要素」;略号:「AREs」)の中に配置されている。中空コア周辺に均等に分散された反共振要素の壁は、反共振に作動されるファブリ・ペロー空洞として機能し、この空洞は入射光を反射し、ファイバコアに通すことができる。
【0005】
このファイバ技術により、光減衰を軽減することができ、透過スペクトルが非常に広くなり(紫外線または赤外線の波長帯域でも)、データ伝送時の遅延時間も少なくなる。
【0006】
中空コアファイバの潜在的用途は、データ伝送、材料加工などに用いる高性能ビーム制御、モーダルフィルタリング、特に超紫外線波長帯域から赤外線波長帯域までのスーパーコンティニウムを発生させる非線形光学の分野にある。
【0007】
反共振中空コアファイバの欠点は、高次モードが自動的に抑制されないため、長い伝達距離にわたって純粋なシングルモードにならないことが多く、出力光線の品質が悪化することにある。
【0008】
Francesco Poletti「Nested antiresonant nodeless hollow core fiber」;Optics Express,Vol.22,No.20(2014);DOI:10.1364/OE 22.023807の文献では、反共振要素が単純な単一構造要素として形成されているのではなく、互いに入れ子になった(英語:nested)複数の構造要素から構成されたファイバ設計が提案されている。入れ子になった反共振要素は、高次コアモードがクラッドモードに位相整合されて抑制されるが、基本コアモードは抑制されないように設計されている。これにより、基本コアモードの伝搬が常に保証され、限定された波長帯域にわたって中空コアファイバを効率的にシングルモードにすることができる。
【0009】
効率的なモード抑制は、伝搬光の中心波長の他に、中空コアの半径および反共振要素内で入れ子になっているリング構造の直径差といったファイバ設計の構造パラメータにも左右される。
【0010】
EP3136143A1から、コアが基本モード以外に別のモードも伝搬することができる反共振中空コアファイバ(「バンドギャップのない中空コアファイバ」と呼ばれる)が公知である。この目的のため、コアは、反共振モードと高次モードの位相整合を提供する「非共振要素」を有する内部クラッドによって取り囲まれている。中空コアファイバの製造は、いわゆる「スタック&ドロー法」によって行われ、そこでは出発要素を軸平行の集合体になるように並べ、固定することによってプリフォームを形成し、続いてそのプリフォームを延伸する。ここでは、内側断面が六角形の被覆管が使用され、被覆管の内縁部には、いわゆる「AREプリフォーム」(反共振要素プリフォーム)が6個固定される。このプリフォームを2段階に分けて線引きすることによって中空コアファイバを形成する。
【0011】
国際特許出願2018/169487A1から、反共振中空コアファイバのプリフォーム製造方法が公知であり、ここでは第1のクラッド領域が多数のロッドから構成され、第2のクラッド領域は、外側の被覆管によって取り囲まれている多数の管から構成されている。ロッド、管、被覆管は「スタック&ドロー」法によって接合され、プリフォームが形成される。プリフォームを延伸する前に、プリフォーム端部に封止材を塗布して封止が行われる。封止材としては、例えばUV接着剤が使用される。
【0012】
発明が解決しようとする課題
反共振中空コアファイバや、特に入れ子になっている構造要素を持つそのようなファイバは複雑な内部形状を有するため、これを正確かつ再現可能に製造することは困難である。さらに、共振条件または反共振条件を満たすには伝搬させる光の動作波長の大きさに僅かな寸法許容差があっても許されないため、このことは一層困難なものとなる。目標形状からの逸脱は、ファイバプリフォームの構成時にその原因が作られるおそれがあるが、ファイバ線引きプロセス時にも縮尺に沿わない不適切な変形によって生じる可能性がある。
【0013】
公知の「スタック&ドロー」法では、多数の要素が正確な位置に接合されなければならない。例えば、冒頭に述べた文献から公知の「NANF」設計の中空コアファイバを製造するには、それぞれが反共振要素外管(略号:ARE外管)からなる6つの反共振要素プリフォーム体と、ARE外管の内側クラッド面の片側に溶接されている反共振要素内管(略号:ARE内管)とを被覆管の内側に取り付けなければならない。
【0014】
小さい減衰値と広範な伝播範囲を実現するためには、反共振要素の壁の均等な壁厚の他に、被覆管内部における反共振要素の方位角位置も重要である。このことは、「スタック&ドロー」法では簡単に実現できない。本発明の目的は、従来の製造方法の制限を回避して、反共振中空コアファイバを低コストで実現する製造方法を提供することである。
【0015】
特に本発明の目的は、反共振中空コアファイバと反共振中空コアファイバのプリフォームの製造方法を提供することであり、本方法によって、再現可能に、構造要素の高い精密性とファイバ内での反共振要素の正確な位置決めを、十分に安定的で再現可能な方法で達成することが可能となる。
【0016】
さらに、必要な構造精度、特に反共振要素の均等な壁厚および規定の方位角位置への正確な位置決めが容易に達成できない従来の「スタック&ドロー」法の欠点をできる限り回避しなければならない。
【0017】
発明の概要
反共振中空コアファイバの製造方法に関して、上述の課題は、冒頭で述べたような方法から出発して、本発明によれば、30~90mmの範囲の外径を有する二次プリフォームが形成され、上述の工程(c)による中空コアファイバの線引きの前に、反共振要素プリフォーム体の端面側端部のうちの少なくとも1つが閉じられることによって解決される。
【0018】
反共振中空コアファイバ製造の出発点は、ここでは、「一次プリフォーム」と呼ばれるプリフォームである。このプリフォームは被覆管を含み、その中にまたはそれに接して、中空コアファイバ内に反共振要素を形成するための前駆体またはプリフォーム体(ここでは短く「反共振要素」と呼ぶ)が含まれている。一次プリフォームは、中空コアファイバに延伸することができるが、通常は、これからここでは「二次プリフォーム」と呼ばれるプリフォームを作製するために、この一次プリフォームに追加のクラッド材料を添加する。必要に応じて、この二次プリフォームを延伸することにより中空コアファイバが作られる。択一的に、一次プリフォームまたは二次プリフォームを、構成部品の同軸集合体を形成しながら、1つまたは複数の外層シリンダにより取り囲み、この同軸集合体を直接延伸して中空コアファイバを形成する。この場合、一般的な「プリフォーム」という用語は、中空コアファイバが最終的に線引きされる構成部品または構成部品の同軸集合体の名称と理解される。
【0019】
クラッド材料の添加は、一次プリフォームへの外層シリンダのコラップスを含む。一次プリフォームおよび外層シリンダを同軸に配置したものは、外層シリンダをコラップスする際に延伸されるか、または延伸されない。この際、反共振要素プリフォーム体の形状または配置が変化するか、反共振要素プリフォーム体の形状または配置は変化しない。
【0020】
プリフォームの製造は、複数の工程を含み、これらの工程では、中空コアファイバの出発要素が製造され、相互に位置決めされ、また少なくとも1つの熱成形工程を含む。各出発要素は、その目標形状からある程度逸脱しており、位置決めおよび成形の各工程では、必然的に形状の逸脱が生じ、それらの逸脱が蓄積されて、完成したプリフォームにおいては絶対的な形状誤差が生じる。特に、ガラスの熱変形では、加熱ゾーンの温度プロファイルが、理想的な、通常は円筒対称の温度プロファイルからごく僅かに逸脱しただけで、不所望で再現性のない変形が生じる場合がある。
【0021】
本発明による方法において、ファイバ線引きプロセスに使用されるプリフォームは、30~90mmの範囲の外径、好適には40~90mmの範囲の外径を有することを特徴とする。これは、現在の技術水準に比べて大きい外径である。プリフォームの外径が大きくなるにつれ、存在する絶対的な形状誤差は、ファイバ線引き時に、より大きくスケールダウンされるので、基本的には、中空コアファイバのより精密な製造が可能になる。
【0022】
しかしながら、プリフォームの外径を任意に大きくしても、より精密な中空コアファイバが自動的に得られるのではなく、壁厚において最大で3.5%の相対的形状誤差を維持するためには、中空コアファイバにおける反共振要素が以下の境界条件を満たす必要があることが分かった。
【0023】
I. プリフォームの外径は最大90mmである。直径がより大きい場合、ファイバ線引きプロセスにおいて、プリフォーム体積内に温度勾配が生じ、この温度勾配によって、中空コアファイバ内の反共振要素において、3.5%より大きい壁厚の偏差が生じる。%表示の基準量は平均壁厚である。
II. プリフォームの外径は少なくとも30mm、好適には少なくとも40mmである。壁厚の偏差が約4μmの反共振要素プリフォーム体を実現できることが分かった。プリフォームの外径が30mmよりも小さい場合、前記プリフォーム体でのこの絶対的な誤差は、完成した中空コアファイバ内の反共振要素において、3.5%より大きい壁厚の相対的な誤差を生じさせる。
III. すべての反共振要素プリフォーム体またはその少なくとも一部は、中空チャネルを形成し、通常の場合、両側が開かれている。中空チャネルの自由内径は小さく、プリフォームにおいては、典型的には、数ミリメートルの範囲である。熱成形プロセスでは、プリフォームが外部から加熱されるので、プリフォーム体積内には半径方向に温度勾配が生じる。この温度勾配は、その他のプロセス条件が同じであれば、プリフォームが厚くなるほど大きくなる。中空チャネルは、表面張力に起因して、また局所的な温度に応じて、異なる収縮を示す危険がある。半径方向の温度勾配が大きいほど、またプリフォームが厚くなるほど、この危険は大きくなる。これに対して、温度勾配は中央の中空コアには実質的な作用を及ぼさない。
【0024】
本発明による比較的厚いプリフォームにおいてこの作用を抑えるために、長手方向軸を垂直に配向させるファイバ線引きプロセスでは、コア領域(中空コア)を開いたままにするが、反共振要素プリフォーム体の少なくとも一部では、さもなければ開かれている上端が閉じられる。
【0025】
したがって、好適な方式では、上述の工程(c)にしたがい垂直に整列して中空コアファイバを線引きする前に、それぞれの反共振要素プリフォーム体の端面側の上端のみが閉じられる。
【0026】
1つ以上の反共振要素プリフォーム体の封止は、ファイバ線引きプロセスの開始前に行われ、ファイバ線引きプロセス中も封止されたままである。上端を封止することによって、各中空チャネルは最初のガス体積を有する。ファイバ線引きプロセスでは、ガスが加熱され、中空チャネル内の圧力が上昇し、この中空チャネルは下から出発して上に向かって広がる。狭い中空チャネル内ではガス交換が少なく、また高温のガスが上方に向かって漏れ出ることはないので、プリフォームの下端と上端との温度差が、膨張の度合いをかなり決定し、しかも元の中空チャネルの直径には実質的に依存しない。しかしながら、この温度差は、すべての中空チャネルについて、それらの半径方向の位置に関係なくほぼ等しい大きさなので、すべての中空チャネルはほぼ均等に広がる。これによって、太いプリフォームにおける中空チャネルサイズの元の分布が、最終的な中空コアファイバにおいても維持される。
【0027】
このコンセプトは、工業的規模での反共振中空コアファイバの再現性のある精密な製造方法にも適している。特に、内径が互いに大きく異なる反共振要素が入れ子になった反共振中空コアファイバの精密な製造に適している。
【0028】
好適な方式では、上述の工程(a)において、20~70mmの範囲の外径、好適には30~70mmの範囲の外径を有する一次プリフォームが形成される。
【0029】
これは、比較的大きい外径である。従来技術では、一次プリフォームの外径は、典型的には、4~6mmである。
【0030】
一次プリフォームが、二次プリフォーム内に、7~50mmの範囲、好適には20~50mmの範囲の外径を有する内部クラッド領域を形成すると有利であることも分かった。
【0031】
中空コア領域と、二次プリフォームの内部クラッド領域のための材料とは、一次プリフォームによって定まる。二次プリフォームは、中空コアおよび内部クラッド領域を含む。一次プリフォームの外径の拡大は、中空コアの拡大によって(より少ない減衰を伴う)達成することもできるし、最終的な中空コアファイバの外径の縮小によって(より少ない材料使用量を伴う)達成することもできる。7~50mmの範囲、特に20~50mmの範囲の二次プリフォームの内部クラッド領域の外径が適切な妥協点である。
【0032】
また、上述の工程(c)にしたがった中空コアファイバの線引き時に、コア領域において内圧が0.05~20mbarの範囲、好適には3~20mbarの範囲に調整されると有用であることも分かった。
【0033】
内圧が0.05mbar未満の場合、反共振要素プリフォーム体または反共振要素前駆体が過度に膨張することが起こり得る。反対に、コア領域において内圧が20mbarを超えると、反共振要素プリフォーム体の中空チャネル内のガス圧が不十分となり、反共振要素プリフォーム体が熱成形プロセスにおいて十分に広がらないことが起こり得る。
【0034】
熱成形プロセスにおける加熱ゾーンの温度は、可能な限り一定であることが望ましい。したがって有利には、上述の工程(d)による熱成形プロセスにおいて、目標温度を±0.1℃の精度で維持する、温度制御された加熱要素が使用される。
【0035】
これによって、熱成形プロセスにおける温度変動を±0.5℃未満に抑えることができる。
【0036】
方法の好適な変形形態では、一次プリフォームを提供することが、反共振要素プリフォーム体を、被覆管壁の内側の目標位置に配置することを含み、反共振要素プリフォーム体の配置および/または上述の工程(c)による中空コアファイバの線引きは、非晶質SiO2粒子を含む封止材または接合材を使用した固定措置および/または封止措置を含む。
【0037】
封止または固定に使用される封止材または接合材には、例えば分散液体に取り込まれた非晶質SiO2粒子が含まれている。この材料は、接合すべき面または封止すべき面の間に塗布され、使用時は通常ペースト状である。低温で乾燥させると、分散液体が部分的または完全に取り除かれ、材料が固化する。封止材または接合材、および特に乾燥後に得られる固化したSiO2含有封止材または接合材は、固定および緻密化の要件を満たしている。このために必要な300℃未満の低温は、プリフォームの寸法安定性の維持を促進し、熱による悪影響を回避する。より高温に加熱することによってプリフォームを中空コアファイバに延伸する際に、例えば、封止材または接合材は、不透明ガラスまたは透明ガラスを形成することにも適している。このことは焼結やガラス化によって生じるが、この場合、不透明ガラスへの焼結は、完全に透明になるまでガラス化するよりも比較的低い温度および/または短い加熱時間で済む。したがって、封止材または接合材は加熱によって緻密化することができ、熱成形プロセスでの加熱によってガラス化が可能である。
【0038】
熱成形プロセスでは封止材または接合材は分解されず、不純物をほとんど放出しない。したがって、これは熱成形プロセス時の熱安定性と純度によって特徴付けられ、異なる熱膨張係数による変形を回避する。
【0039】
方法の好適な変形形態では、上述の工程(a)により一次プリフォームを提供することは、反共振要素プリフォーム体を、被覆管壁の内側の目標位置に配置することを含み、反共振要素プリフォーム体の配置は、被覆管内部孔に挿入される位置決めテンプレートを用いて行い、位置決めテンプレートは、反共振要素プリフォーム体を目標位置に位置決めする保持要素を有する。
【0040】
位置決めテンプレートは、例えば、被覆管内部孔に突出し、かつ半径方向外側に向けられた複数の保持アームの形態の保持要素が設けられているシャフトを有する。
【0041】
保持要素の構造的に規定された星形配置は、各目標位置における反共振要素プリフォーム体の正確な位置決めおよびその固定を容易にし、例えば上述の封止材や接合材を用いた固定を容易にする。この場合、位置決めテンプレートは、好適には被覆管端面の領域にのみ使用され、好適には両方の被覆管端面の領域に使用される。
【0042】
被覆管の内側クラッド面におけるプリフォーム体の位置決めの精度は、被覆管の内側が切削加工によって、特に穴あけ加工、フライス加工、研削加工、ホーニング加工および/または研磨加工によって形成されることによって改善される。
【0043】
これらの加工技術は、熱や圧力を使用するその他の周知の変形技術と比べ、より正確で極めて微細な構造を提供し、ノズル、プレスまたは鋳造型などの成形工具による表面の汚れを回避することができる。
【0044】
機械的な切削加工は、好適には、被覆管の内側に被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造を設けることによる、反共振要素プリフォーム体の目標位置の領域における被覆管の内側の構造化も含む。この長手方向構造は、例えば、被覆管内壁における長手方向スリットおよび/または長手方向溝を含み、それらは、被覆管長手方向軸に平行に延び、また好適には、穴あけ加工、鋸加工、フライス加工、切断加工、または研削加工によって形成される。
【0045】
被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造は、反共振要素プリフォーム体の位置決め補助として用いられる。これにより、反共振要素プリフォーム体が被覆管の内側の規定位置に配置されやすくなる。
【0046】
さらに、上述の工程(c)による中空コアファイバの線引き時に、シリカガラスからなる二次プリフォームの複数の成分を一緒に加熱および軟化させ、前記プリフォームの成分のうちの少なくとも一部のシリカガラスは、シリカガラスの粘度を低下させる少なくとも一種のドーパントを含む方式が有用であることが分かった。
【0047】
プリフォームの成分は、被覆管と、その被覆管内に配置された反共振要素プリフォーム体、ならびに追加のクラッド材料を含み、クラッド材料は、例えば、外層シリンダまたは複数の外層シリンダの形態で提供され、一次プリフォームにコラップスされる。シリカガラスの粘度を低下させるドーパントとしては、好適には、フッ素、塩素および/またはヒドロキシル基が使用される。
【0048】
ドーピングは、隣接するプリフォーム成分の熱膨張係数を適合させて、応力を回避することができるか、または応力を低減させることができる。またドーピングは、ある成分の熱安定性を、それに隣接する成分の安定性に有利となるよう低減するために使用することもできる。
【0049】
つまり例えば、被覆管のシリカガラスが、1,250℃の測定温度において、(粘度を単位dPa・sの対数値で表す場合)追加されたクラッド材料のシリカガラスよりも少なくとも0.5dPa・s高い粘度、好適には少なくとも0.6dPa・s高い粘度を有する場合には、好適であることが証明されている。
【0050】
特に、中空コアファイバの低い光減衰と幅広い光学的伝送帯域幅に関しては、反共振要素が中空コアの周りに奇数対称に配置されている場合は特に有利であることが証明されている。
【0051】
好適な方式では、管状の構造要素が提供され、そのうちの少なくとも一部は0.2~2mmの範囲の壁厚を有し、好ましくは0.25~1mmの範囲の壁厚を有することによって、被覆管におけるプリフォーム体の位置決め精度をさらに改善する。このとき、被覆管は外径が90~250mmの範囲のもの、好ましくは外径が120~200mmの範囲のものが提供される。これらの構成部品はそれぞれ少なくとも1mの長さがあり、反共振要素を形成するための比較的容積の大きな構造要素である。これにより、取扱いが容易になる。さらに、被覆管と構造要素との垂直の整列において、構造要素の端面側の上端がそれぞれ目標位置に位置決めおよび固定されている場合には、例えば、かつ好ましくは上述の封止材または接合材を使用して、またそれらに加えて、またはそれらの代わりに、上述の位置決めテンプレートを用いて位置決めおよび固定されている場合には、構造要素長手方向軸の平行性と垂直方向への整列が重力によってサポートされる。
【0052】
中空コアファイバのプリフォームの製造に関して、上述の課題は、冒頭で述べたような方法から出発して、本発明によれば、30~90mmの範囲の外径を有する二次プリフォームが形成され、かつ反共振要素プリフォーム体の端面側端部のうちの少なくとも1つが閉じられることによって解決される。
【0053】
二次プリフォームは反共振中空コアファイバ製造に対する出発点である。プリフォームの延伸によって、反共振中空コアファイバが線引きされる。
【0054】
従来技術に比べて、30~90mmの範囲、好適には40~90mmの範囲の大きい外径を有するプリフォームが形成されるので、プリフォームに存在する絶対的な形状誤差を、ファイバ線引き時に、より大きくスケールダウンさせることができる。
【0055】
反共振要素プリフォーム体の端面側端部のうちの少なくとも1つが、ファイバ線引きプロセスの前に閉じられる。閉じられるべき端面側端部は、長手方向軸を垂直に配向させた状態でプリフォームを延伸する際の上端である端面側端部である。1つ以上の反共振要素プリフォーム体は、ファイバ線引きプロセス中も封止されたままである。
【0056】
この方式は、中空コアファイバの精密な製造を実現する。プリフォームを製造するための措置は、中空コアファイバの製造に関連して上記に詳しく説明されており、それらの説明がここに引用される。
【0057】
定義
これまでに述べた説明の個々の工程と用語について、以下に補足的に定義する。これらの定義は本発明の説明の構成要素である。以下の定義のいずれかと他の説明との間で事実上矛盾がある場合、他の説明の中で言及していることが優先される。
【0058】
反共振要素
反共振要素は、中空コアファイバの単純な構造要素または入れ子構造要素であってよい。これは、中空コアの方向から見て負の曲率(凸部)を持つか、曲率を持たない(平面、直線)少なくとも2つの壁を有している。通常、反共振要素は動作光に対して透明な材料、例えばガラス(特にドープしたSiO2またはドープしないSiO2)、プラスチック(特にポリマー)、複合材料または結晶材料からなる。
【0059】
反共振要素プリフォーム体/反共振要素前駆体
反共振要素プリフォーム体とは、実質的にファイバ線引きプロセスにおける単純な線引きによって中空コアファイバ内で反共振要素になるプリフォームの構成部品または成分を呼ぶ。反共振要素前駆体とは、変形によって初めて反共振要素プリフォーム体または直接的に反共振要素になるプリフォームの構成部品または成分を呼ぶ。反共振要素プリフォーム体は、単純な構成部品または入れ子になっている構成部品であってよく、これに追加的に位置決め補助を固定することができる。反共振要素プリフォーム体は、もともと一次プリフォームの中に存在する。
【0060】
入れ子の反共振要素プリフォーム体は、中空コアファイバの中で入れ子になっている反共振要素を形成する。これは、1本の外管と、外管の内部孔内に配置されている少なくとも1つのさらなる構造要素とから構成されている。さらなる構造要素は、外管の内側クラッド面に接しているさらなる管であってよい。外管は「反共振要素外管」または略して「ARE外管」と呼ばれ、さらなる管は「反共振要素内管」または略して「ARE内管」または「入れ子になっているARE内管」とも呼ばれる。
【0061】
入れ子になっているARE内管の内部孔の中には、反共振要素プリフォーム体が何重にも入れ子になっている場合、少なくとも1つのさらなる構造要素、例えば入れ子になっているARE内管の内部クラッド面に接する第3の管を配置してもよい。
【0062】
反共振要素プリフォーム体が何重にも入れ子になっている場合は、ARE外管の中に配置されている複数の管を区別するため、必要に応じて「入れ子になっている外側のARE内管」と「入れ子になっている内側のARE内管」とが区別される。
【0063】
シリンダ形の反共振要素プリフォーム体およびそれらのシリンダ形構造要素に関連する「断面」という用語は、常に、それぞれのシリンダ長手方向軸に対して垂直の断面を示し、特に指定がない限り、管状構成部品における外部輪郭の断面を示すものである(内部輪郭の断面ではない)。
【0064】
一次プリフォームのさらなる加工により、とりわけ熱変形処理により、元の反共振要素プリフォーム体が初期形状に対して変化した形状で存在する中間製品を作ることができる。ここでは、変化した形状も同様に反共振要素プリフォーム体または反共振要素前駆体と呼ぶ。
【0065】
プリフォーム/一次プリフォーム/二次プリフォーム/コアプリフォーム(ケーン)
プリフォームは、反共振中空コアファイバが線引きされる構成部品である。これには、一次プリフォームまたは一次プリフォームのさらなる加工によって作製される二次プリフォームがある。一次プリフォームは、少なくとも1本の被覆管と、その中に緩く収容されたまたは堅固に固定された、反共振要素のためのプリフォーム体または前駆体とからなる集合体であってよい。一次プリフォームを、中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工することは、
(i) 延伸、
(ii) コラップス、
(iii) コラップスおよび同時延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップス、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行されることを含む。
【0066】
文献においてコアプリフォーム(英語:ケーン、Cane)とは、一次プリフォームのコラップスおよび/または延伸によって得られるプリフォームを呼ぶ。通常、コアプリフォームは、中空コアファイバの線引き前または線引き時に追加のクラッド材料により覆われる。
【0067】
延伸/コラップス
延伸では、一次プリフォームが長く伸ばされる。この延伸は、同時コラップスなしで行ってよい。延伸は一定の縮尺に従って行うことができるため、例えば一次プリフォームの構成部品または成分の形状および配置は延伸した最終製品に反映されている。しかし、延伸では、一次プリフォームが寸法どおりに線引きされず、幾何形状が変化する可能性もある。
【0068】
コラップスでは内部孔を狭くしたり、管状構成部品間の環状の隙間を塞いだり、狭くしたりする。このコラップスは、通常、延伸と平行して行われる。
【0069】
中空コア/内部クラッド領域/外部クラッド領域
少なくとも1つの被覆管と、その中に緩く収容されたまたは堅固に固定された反共振要素のプリフォーム体または前駆体とからなる集合体を、ここでは「一次プリフォーム」とも呼ぶ。この一次プリフォームは、中空コアとクラッド領域とを含む。このクラッド領域は、例えば集合体へのコラップスによって形成された「外部クラッド領域」も存在しており、これらのクラッド領域を区別する必要がある場合は、「内部クラッド領域」とも呼ばれる。「内部クラッド領域」と「外部クラッド領域」という名称は、中空コアファイバや一次プリフォームのさらなる加工によって得られる中間製品の該当する領域に対しても使用される。
【0070】
「管内側」という名称は「管の内部クラッド面」の同義語としても用いられ、「管外側」という名称は「管の外部クラッド面」の同義語としても用いられる。管に関連した用語「内部孔」は、内部孔が穴あけ作業によって形成されたことを意味するものではない。
【0071】
切削加工
切削加工は、加工物を分離加工するための分離する機械的製造方式であり、特に旋盤加工、切断加工、穴あけ加工、鋸加工、フライス加工または研削加工を意味する。この加工により、被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造が得られ、これは反共振要素プリフォーム体の位置決め補助として用いられる。長手方向構造は被覆管内側から到達できるようになっており、被覆管壁全体を通って外側まで延びていてもよい。
【0072】
粒度および粒度分布
SiO2粒子の粒度および粒度分布は、D50値に基づき特徴付けられる。この値は、SiO2粒子の累積容積を粒度に応じて示す粒度分布曲線から読み取られる。粒度分布は、それぞれのD10値、D50値、D90値に基づき特徴付けられることが多い。このとき、D10値はSiO2粒子の累積容積の10%に達しない粒度を示し、対応して、D50値およびD90はSiO2粒子の累積容積の50%または90%に達しない粒度を示す。粒度分布は、ISO13320に準拠した散乱光およびレーザー回折分光法によって求められる。
【0073】
実施例
以下に、実施例に基づき、図を用いて本発明を詳しく説明する。詳細は図に概略的に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】中空コアファイバのためのプリフォームを製造するための、被覆管と、その被覆管内に位置決めされて固定された反共振要素プリフォーム体とを含む一次プリフォームの平面断面図を示す。
【
図2】ファイバ線引きプロセスを実行するために反共振要素プリフォーム体が閉じられた後の、
図1の一次プリフォームを示す。
【0075】
中空コアファイバまたは中空コアファイバのためのプリフォームの製造では、多数の構成部品を相互に接合しなければならない。さらに、熱成形プロセスを実行する場合、プリフォームに存在している隙間やチャネルを封止することは有益である。独国特許出願公開第102004054392A1から公知のように、接合または封止には、SiO2ベースの封止材または接合材が使用される。このとき、シリカガラス粒体の湿式粉砕によって、D50値が約5μmおよびD90値が約23μmによって特徴付けられる粒度分布を有する非晶質SiO2粒子を含む水性スラリーが生成される。このベーススラリーに、約5μmの平均粒度を持つ非晶質SiO2粒体が混合される。接合材として使用されるスラリーは、90%の固形物含有量を有し、少なくとも99.9質量%はSiO2から構成されている。
【0076】
図1は、被覆管壁2を有する被覆管1を含む一次プリフォームを概略的に示し、被覆管壁2の内側クラッド面には、事前に規定された方位角位置において、反共振要素プリフォーム体4が、この実施例では6個のプリフォーム体4が均等な間隔で固定されており、図示していない別の好適な実施形態では、奇数個のプリフォーム体が存在する。
【0077】
被覆管1は、シリカガラス製であり、700mmの長さ、27mmの外径、20mmの内径を有する。反共振要素プリフォーム体4は、ARE外管4aおよびARE内管4bが互いに入れ子になった構造要素の集合体として存在する。ARE外管4aは、6.2mmの外径を有し、ARE内管4bは、2.5mmの外径を有する。両方の構造要素(4a;4b)の壁厚は等しく、0.3mmである。ARE外管4aとARE内管4bの長さは、被覆管1の長さに対応する。
【0078】
被覆管1の内側における反共振要素プリフォーム体4の固定は、SiO2ベースの接合材5を用いて行われる。
【0079】
接合材5は、被覆管の内側クラッド面において、端面側端部の領域に局所的に塗布され、反共振要素プリフォーム体は、それら個々の反共振要素プリフォーム体4のための保持アームが構造的に規定されて星形に配置されている位置決めテンプレートを使用して、前記領域の上に載置される。位置決めテンプレートは、ここでは、被覆管の両方の端面側端部付近の領域に限定されている。
【0080】
この方法によって、被覆管1と反共振要素プリフォーム体4との間で正確で再現可能な接合が行われる。固定のために、300℃未満の低温で接合材5が固化されれば十分であり、それによって、周囲領域が強く加熱されて、したがって反共振要素プリフォーム体4の変形が回避される。
【0081】
一次プリフォーム1は、シリカガラスからなる外層シリンダにより覆われ、この際、外層シリンダは、被覆管1にコラップスされ、それと同時に、管集合体が延伸されて二次プリフォームが形成される。外層シリンダは、63.4mmの外径および17mmの壁厚を有する。
【0082】
コラップスプロセスおよび延伸プロセスでは、被覆管1および外層シリンダが同軸に配置されたものを、長手方向軸を垂直に配向させて、温度制御された加熱ゾーンに下から供給し、その加熱ゾーン内で、同軸に配置されたものが上端からゾーン毎に軟化される。
【0083】
加熱ゾーンは、±0.1℃の制御精度でもって、1,600℃の目標温度に維持される。これによって、熱成形プロセスにおける温度変動を±0.5℃未満に抑えることができる。
【0084】
コラップスプロセスおよび延伸プロセスにおいて形成された二次プリフォーム(コアプリフォーム)は、約50mmの外径と、外側クラッドおよび内側クラッドからなる、16.6mmのクラッド壁厚とを有する。反共振要素プリフォーム体の最大壁厚変動(最大値-最小値)は4μm未満である。続いて、二次プリフォームが線引きされて、反共振中空コアファイバが形成される。
【0085】
事前に、すべての反共振要素プリフォーム体が、封止材または接合材で閉じられる。この状態は、
図2において濃いグレーで着色した面に基づいて、概略的に示唆されている。閉鎖材51は、ファイバ線引きプロセスの際に上方に向けられている、反共振要素プリフォーム体4の端面にのみ塗布されている。
【0086】
上方に向けられた端面は、シリカガラス製の保持管に接合され、この保持管は、それと同時にガス接続口としても利用される。保持部は、封止材または接合材を用いて、外層シリンダおよび被覆管に固定される。
【0087】
ファイバ線引きプロセスでは、二次プリフォームが、長手方向軸を垂直に配向させて、温度制御された加熱ゾーンに上から供給し、その加熱ゾーン内で、下端からゾーン毎に軟化される。それと同時に、コア領域(中空コア)にガスが供給されることで、コア領域には、4mbarの内圧が生じる。
【0088】
加熱ゾーンは、±0.1℃の制御精度でもって、約2,100℃の目標温度に維持される。これによって、熱成形プロセスにおける温度変動を±0.5℃未満に抑えることができる。
【0089】
プリフォームを中空コアファイバに線引きすることによって、存在する絶対的な形状誤差がスケールダウンされるので、中空コアファイバにおいては、反共振要素プリフォーム体から得られた反共振要素の壁厚の最大偏差が3.5%未満になる。
【0090】
下記の表には、中空コアファイバのクラッド領域の外径と内径との所望の直径比(OD/ID)に応じた、プリフォームおよびその成分の外径(OD)または内径(ID)がまとめられている。
【表1】
【0091】
表の第2列のOD/IDの値は、第4列(二次プリフォームの外径)の値を第5列(二次プリフォームにおける先行の一次プリフォームの内径)の値で除算することによって得られる。プリフォームにおける反共振要素プリフォーム体の壁厚の最大偏差は、いずれの実施例においても約4μmである。プリフォームからは、上記の表に示したように、200μmないし230mmの外径を有する中空コアファイバが線引きされ、反共振要素の壁厚が決定された。いずれの例においても、反共振要素の壁厚の誤差は、(平均壁厚に関して)3.5%未満であった。
【0092】
表の番号7の例は、上記で詳細に説明した実施例に対応する。例8、9は比較例である。比較例のプリフォームを用いたファイバ線引きプロセスでは、反共振要素の壁厚の誤差が4%を上回る中空コアファイバがそれぞれ得られた。この不十分な結果は、比較例8では、延伸比が比較的小さいことに起因し、また比較例9では、ファイバ線引きプロセスの際のプリフォーム体積内の温度勾配に起因する。
【国際調査報告】