(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(54)【発明の名称】経皮薬物送達パッチ、薬物送達系、および薬物送達方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20220908BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220908BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220908BHJP
A61K 31/422 20060101ALI20220908BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A61K9/70 401
A61K45/00
A61K47/26
A61K31/422
A61P25/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577599
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 US2020039435
(87)【国際公開番号】W WO2020264032
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519337536
【氏名又は名称】パスポート テクノロジーズ、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PassPort Technologies, Inc.
【住所又は居所原語表記】5580 Morehouse Drive,Suite 120,San Diego,California 92121,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジョー フゥア
(72)【発明者】
【氏名】西村 真人
(72)【発明者】
【氏名】ショウヘイ ホリエ
(72)【発明者】
【氏名】光島 正浩
(72)【発明者】
【氏名】安達 博敏
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076AA77
4C076AA82
4C076BB31
4C076CC01
4C076DD59
4C076DD67
4C076FF32
4C076FF34
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA05
4C084NA11
4C084NA12
4C084ZA08
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC69
4C086GA07
4C086GA09
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA63
4C086NA05
4C086NA11
4C086NA12
4C086ZA08
(57)【要約】
比較的低い分子量を有する医薬品の即時放出用途に適切に使用することが可能な経皮薬物送達パッチを提供する。マトリックスと、マトリックス中に配置された少なくとも1つの薬物とを備えた経皮薬物送達パッチであって、マトリックスが、10mg/cm2以下の保水能力を有し、薬物が、5000以下の分子量を有する医薬品である、経皮薬物送達パッチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスと、
前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの薬物と
を含み、前記マトリックスが、10mg/cm
2以下の保水能力を有し、前記薬物が、5000以下の分子量を有する医薬品である、経皮薬物送達パッチ。
【請求項2】
前記マトリックスが不織布である、請求項1記載のパッチ。
【請求項3】
前記マトリックスが100μm以下の厚さを有する、請求項1または2記載のパッチ。
【請求項4】
前記マトリックスが100g/m
2以下の重量を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項5】
前記医薬品が2000以下の分子量を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項6】
前記医薬品が非ペプチド医薬品である、請求項1から5までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項7】
前記医薬品が、前記マトリックス1cm
2あたり0.1~30mgの量で投与される、請求項1から6までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項8】
前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの吸湿剤をさらに含む、請求項1から7までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項9】
前記吸湿剤が糖類である、請求項8記載のパッチ。
【請求項10】
前記マトリックス中に前記薬物および前記吸湿剤が配置された前記マトリックスの単位面積あたりの総量が、0.1~30mg/m
2である、請求項8または9記載のパッチ。
【請求項11】
前記薬物および前記吸湿剤を有する前記マトリックスの単位面積あたりの総量が、0.1~20mg/m
2である、請求項10記載のパッチ。
【請求項12】
前記マトリックスの単位面積あたり9.5~85mg/cm
2の量の皮下流体が抜き取られ得る、請求項1から11までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項13】
前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1から12までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項14】
前記マトリックスを支持するためのバッキング層をさらに含む、請求項1から13までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項15】
ポレータによって形成された1つ以上の微細孔を通じて薬物を経皮的に送達するために使用される、請求項1から14までのいずれか1項記載のパッチ。
【請求項16】
標的生体膜を通じて薬物を送達するための系であって、
ポレータと、
パッチであって、
マトリックス、および
前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの薬物
を含むパッチと
を含み、前記薬物の少なくとも一部が、前記ポレータによって形成された微細孔を通じて標的から受け取られる生体水分に可溶であり、前記マトリックスが、10mg/cm
2の保水能力を有し、前記薬物が、5000以下の分子量を有する医薬品である、系。
【請求項17】
前記ポレータが、熱ポレータ、機械式ポレータ、レーザーポレータ、および水ポレータからなる群から選択される少なくとも1つのポレータである、請求項16記載の系。
【請求項18】
前記ポレータが、生体膜と実質的に物理的に接触して前記生体膜を熱的に切除するのに十分なエネルギーを送達するように配置された熱伝導素子である、請求項16または17記載の系。
【請求項19】
前記ポレータが薄層組織インターフェースデバイスである、請求項16から18までのいずれか1項記載の系。
【請求項20】
前記マトリックスが不織布である、請求項16から19までのいずれか1項記載の系。
【請求項21】
前記マトリックスが100μm以下の厚さを有する、請求項16から20までのいずれか1項記載の系。
【請求項22】
前記マトリックスが100g/m
2以下の重量を有する、請求項16から21までのいずれか1項記載の系。
【請求項23】
前記医薬品が2000以下の分子量を有する、請求項16から22までのいずれか1項記載の系。
【請求項24】
前記医薬品が非ペプチド医薬品である、請求項16から23までのいずれか1項記載の系。
【請求項25】
前記医薬品が、前記マトリックス1cm
2あたり0.1~30mgの量で投与される、請求項16から24までのいずれか1項記載の系。
【請求項26】
前記パッチが、前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの吸湿剤をさらに含む、請求項16から25までのいずれか1項記載の系。
【請求項27】
前記吸湿剤が糖類である、請求項26記載の系。
【請求項28】
前記マトリックス中に前記薬物および前記吸湿剤が配置された前記マトリックスの単位面積あたりの総量が、0.1~30mg/cm
2である、請求項26または27記載の系。
【請求項29】
前記薬物および前記吸湿剤を有する前記マトリックスの単位面積あたりの総量が、0.1~20mg/cm
2である、請求項28記載の系。
【請求項30】
前記マトリックスの単位面積あたり9.5~85mg/cm
2の量の皮下流体が抜き取られ得る、請求項16から29までのいずれか1項記載の系。
【請求項31】
前記パッチが、前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項16から30までのいずれか1項記載の系。
【請求項32】
前記パッチが、前記マトリックスを支持するためのバッキング層をさらに含む、請求項16から31までのいずれか1項記載の系。
【請求項33】
標的生体膜を通じて薬物を送達するための方法であって、
生体膜上に1つ以上の微細孔を形成するためのステップと、
パッチを前記1つ以上の微細孔と物理的に接触するように配置するためのステップと
を含み、前記パッチが、
マトリックスと、
前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの薬物と
を含み、前記薬物の少なくとも一部が、前記1つ以上の微細孔を通じて標的から受け取られる生体水分に可溶であり、前記マトリックスが、10mg/cm
2の保水能力を有し、
前記薬物が、5000以下の分子量を有する医薬品である、方法。
【請求項34】
前記1つ以上の微細孔を、熱ポレータ、機械式ポレータ、レーザーポレータ、および水ポレータからなる群から選択されるデバイスを使用して形成する、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記1つ以上の微細孔を、生体膜と実質的に物理的に接触して前記生体膜を熱的に切除するのに十分なエネルギーを送達するように配置された熱伝導素子を使用して形成する、請求項33または34記載の方法。
【請求項36】
前記1つ以上の微細孔を、薄層組織インターフェースデバイスを使用して形成する、請求項33から35までのいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
前記マトリックスが不織布である、請求項33から36までのいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
前記マトリックスが100μm以下の厚さを有する、請求項33から37までのいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記マトリックスが100g/m
2以下の重量を有する、請求項33から38までのいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記医薬品が2000以下の分子量を有する、請求項33から39までのいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
前記医薬品が非ペプチド医薬品である、請求項33から40までのいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
前記医薬品が、前記マトリックス1cm
2あたり0.1~30mgの量で投与される、請求項33から41までのいずれか1項記載の方法。
【請求項43】
前記パッチが、前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの吸湿剤をさらに含む、請求項33から42までのいずれか1項記載の方法。
【請求項44】
前記吸湿剤が糖類である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記マトリックス中に前記薬物および前記吸湿剤が配置された前記マトリックスの単位面積あたりの総量が、0.1~30mg/cm
2である、請求項43または44記載の方法。
【請求項46】
前記薬物および前記吸湿剤を有する前記マトリックスの単位面積あたりの総量が、0.1~20mg/cm
2である、請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記マトリックスの単位面積あたり9.5~85mg/cm
2の量の皮下流体が抜き取られ得る、請求項33から46までのいずれか1項記載の方法。
【請求項48】
前記パッチが、前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項33から47までのいずれか1項記載の方法。
【請求項49】
前記パッチが、前記マトリックスを支持するためのバッキング層をさらに含む、請求項33から48までのいずれか1項記載の方法。
【請求項50】
標的生体膜を通じて薬物を送達するための、請求項1から15までのいずれか1項記載のパッチおよびポレータの使用であって、前記ポレータが、生体膜上に1つ以上の微細孔を形成し、前記パッチが、前記1つ以上の微細孔と物理的に接触するように配置されている、使用。
【請求項51】
前記1つ以上の微細孔を、熱ポレータ、機械式ポレータ、レーザーポレータ、および水ポレータからなる群から選択されるデバイスを使用して形成する、請求項50記載の使用。
【請求項52】
前記1つ以上の微細孔を、生体膜と実質的に物理的に接触して前記生体膜を熱的に切除するのに十分なエネルギーを送達するように配置された熱伝導素子を使用して形成する、請求項50または51記載の使用。
【請求項53】
前記1つ以上の微細孔を、薄層組織インターフェースデバイスを使用して形成する、請求項50から52までのいずれか1項記載の使用。
【請求項54】
前記マトリックスが不織布である、請求項50から53までのいずれか1項記載の使用。
【請求項55】
前記マトリックスが100μm以下の厚さを有する、請求項50から54までのいずれか1項記載の使用。
【請求項56】
前記マトリックスが100g/m
2以下の重量を有する、請求項50から55までのいずれか1項記載の使用。
【請求項57】
前記医薬品が2000以下の分子量を有する、請求項50から56までのいずれか1項記載の使用。
【請求項58】
前記医薬品が非ペプチド医薬品である、請求項50から57までのいずれか1項記載の使用。
【請求項59】
前記医薬品が、前記マトリックス1cm
2あたり0.1~30mgの量で投与される、請求項50から58までのいずれか1項記載の使用。
【請求項60】
前記パッチが、前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの吸湿剤をさらに含む、請求項50から59までのいずれか1項記載の使用。
【請求項61】
前記吸湿剤が糖類である、請求項60記載の使用。
【請求項62】
前記マトリックス中に前記薬物および前記吸湿剤が配置された前記マトリックスの単位面積あたりの総量が、0.1~30mg/cm
2である、請求項59から61までのいずれか1項記載の使用。
【請求項63】
前記薬物および前記吸湿剤を有する前記マトリックスの単位面積あたりの総量が、0.1~20mg/cm
2である、請求項62記載の使用。
【請求項64】
前記マトリックスの単位面積あたり9.5~85mg/cm
2の量の皮下流体が抜き取られ得る、請求項59から63までのいずれか1項記載の使用。
【請求項65】
前記パッチが、前記マトリックス中に配置された少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項59から64までのいずれか1項記載の使用。
【請求項66】
前記パッチが、前記マトリックスを支持するためのバッキング層をさらに含む、請求項59から65までのいずれか1項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮薬物送達パッチ、このパッチを使用する薬物送達系、および薬物送達方法に関する。特に、本発明は、5000以下の分子量を有する医薬品の即時放出用途に適切に使用することが可能な、経皮薬物送達パッチ、薬物送達系、および薬物送達方法に関する。
【0002】
関連技術の説明
経皮薬物送達系は、過去30年にわたって様々な治療指数を理由に販売されてきた。典型的には、経皮薬物送達系は、多層ポリマー積層体として考案されており、この多層ポリマー積層体では、薬物リザーバまたは薬物ポリマーマトリックスによって2つのポリマー層が作製され、すなわち、バッキング表面を通じた薬物損失を防止する外側のバッキング層と、接着材および/または速度制御膜として機能する内側のポリマー層との間に閉塞環境が挿入されている。薬物リザーバ設計の場合、リザーバは、バッキングと速度制御膜との間に挿入される。薬物は、微多孔性または非多孔性であり得る速度制御膜を通じてのみ放出される。薬物リザーバ区画では、薬物は、溶液、懸濁液、もしくはゲルの形態にあっても、または固体ポリマーマトリックスに分散されていてもよい。ポリマー膜の外側表面は薬物適合性であり、低アレルギー性接着剤ポリマーの薄層が適用され得る。
【0003】
薬物マトリックス設計の場合、2つのタイプ、すなわち、薬物含有接着剤系およびマトリックス分散系がある。薬物含有接着剤系では、薬物リザーバは、薬物を接着剤ポリマーに分散させ、溶媒の流し込みによって薬用ポリマー接着剤を広げて、それから接着剤(ホットメルト接着剤の場合)を不透過性のバッキング層内に溶融することによって形成される。非薬用接着剤ポリマー層が、リザーバの上部に適用され得る。マトリックス分散系では、薬物は、親水性または親油性のポリマーマトリックスに均一に分散され、溶媒の流し込みまたは押し出しによって薬物不透過性のバッキング層に固定される。薬物リザーバの表面に接着剤を適用する代わりに、接着剤を、周辺接着を形成するために適用する。
【0004】
特開2006-509534号公報には、乾燥医薬組成物からの活性治療薬のための経皮送達系であって、この系が、患者の皮膚を通じて活性治療薬の経皮送達を容易に実施し、かつパッチを作製することができる、デバイスを含み、このデバイスが、患者の皮膚の1つの領域に少なくとも1つのマイクロチャネルを含み、かつ乾燥医薬組成物中に少なくとも1つの活性治療薬を含む、経皮送達系が開示されている。さらに、パッチは、バッキング層、接着剤層、および微多孔性ライナー層をさらに含み、乾燥医薬組成物は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、成長因子、ホルモンなどの親水性活性治療薬であり、二糖類などの安定剤をさらに含有すると開示されている。
【0005】
特開2013-512865号公報には、切除された皮膚において患者にペプチドを投与するための経皮治療系(TTS)であって、経皮治療系が、少なくとも1つの非水溶性ポリマーを含有する感圧接着層が備えられたバッキング層と、少なくとも1つのペプチドおよびシート状の繊維構造の形態の担体物質を含有する活性成分層と、保護シートとを含む、経皮治療系が開示されている。
【0006】
特開2008-543872号公報には、患者の皮膚層を通る少なくとも1つの形成された経路を介して患者への透過物の経皮経由の流れを誘導するためのデバイスであって、デバイスが、i)底部層を有し、かつマトリックスの複数の導管を画定する非生分解性マトリックスを含む送達リザーバを含み、ii)マトリックスの複数の導管の少なくとも一部に配置された不溶性の親水性透過物を含む、デバイスが開示されている。さらに、透過物は、吸湿剤または抗治癒剤などの水溶性充填剤を含むと開示されている。
【0007】
発明の概要
発明が解決しようとする課題
しかしながら、従来技術によると、比較的低い分子量を有する医薬品、またはより具体的には、5000以下の分子量を有する医薬品の即時放出用途に適切に使用することが可能な経皮薬物送達パッチを得ることは不可能である。
【0008】
課題を解決するための手段
本発明の発明者等は、精力的に研究を行った後に、経皮薬物送達用のパッチ内に備えられた、薬物が配置されているマトリックスの保水能力を所定の範囲に設定することによって薬物放出速度を制御する、5000以下の分子量を有する医薬品の即時放出用途に適切に使用することが可能なパッチを得ることができるという知見を得た。
【0009】
いかなる理論に縛られるものではないが、薬物が、皮膚などの生体膜に適用された経皮薬物送達パッチから体内に放出される場合、薬物が配置されているマトリックスを備えるパッチが微多孔性の皮膚に適用されると、少量の体液などの生体水分が、微細孔を介して体からマトリックスに滲出し、この生物流体が、マトリックス中に配置された薬物を溶解させ、溶解した薬物が、濃度勾配を推進力として使用して血液中に移動する。薬物放出速度を上昇させるためには、所定量以上の生体水分がマトリックスに滲出する必要があると考えられている。その一方で、マトリックス中に配置された薬物の組成および投与量に応じて、滲出する生体水分が過剰になり、パッチからの漏出が生じ、それによって、濃度勾配の減少に基づく薬物放出速度の低下が生じるリスクがある。本発明は、薬物が配置されたマトリックスの保水能力を調整することによって、薬物放出速度を制御するための所望の物品を作製することを可能にする。
【0010】
すなわち、本発明は、マトリックスと、マトリックス中に配置された少なくとも1つの薬物とを備えた経皮薬物送達パッチであって、マトリックスが、10mg/cm2以下の保水能力を有し、薬物が、5000以下の分子量を有する医薬品である、経皮薬物送達パッチである。
【0011】
本発明のパッチでは、前述のマトリックスは、好ましくは不織布である。さらに、マトリックスは、好ましくは、100μm以下の厚さを有する。さらに、マトリックスは、好ましくは、100g/m2以下の重量を有する。
【0012】
前述の医薬品は、2000以下の分子量を有し得る。さらに、医薬品は、非ペプチド薬であり得る。さらに、医薬品は、0.1~30mgの量で投与されることが望ましい。
【0013】
本発明のパッチは、マトリックス中に配置された少なくとも1つの吸湿剤をさらに備え得る。前述の吸湿剤は、好ましくは糖類である。本発明のパッチでは、マトリックス中に薬物および吸湿剤が配置されたマトリックスの単位面積あたりの総量は、好ましくは、0.1~30mg/m2である。薬物および吸湿剤を有するマトリックスの単位面積あたりの総量は、より好ましくは、0.1~20mg/m2である。
【0014】
本発明のパッチは、マトリックスの単位面積あたり9.5~85mg/cm2の量の皮下流体を抜き取ることができることが望ましい。本発明のパッチは、マトリックス中に配置された少なくとも1つの添加剤をさらに備え得る。さらに、本発明のパッチは、マトリックスを支持するためのバッキング層をさらに備え得る。本発明のパッチを使用して、ポレータによって形成された1つ以上の微細孔を通じて薬物を経皮的に送達することができる。
【0015】
さらに、本発明は、ポレータおよびパッチを備えた、対象の生体膜を通じて薬物を送達するための系であって、パッチが、マトリックスと、マトリックス中に配置された少なくとも1つの薬物とを備え、薬剤の少なくとも一部が、ポレータによって形成された微細孔を通じて対象から受け取られる生体水分に可溶であり、マトリックスが、10mg/cm2の保水能力を有し、薬剤が、5000以下の分子量を有する医薬品である、系である。
【0016】
本発明の系では、前述のポレータは、熱ポレータ、機械式ポレータ、レーザーポレータ、および水ポレータからなる群から選択される少なくとも1つのポレータであり得る。ポレータとは、生体膜と実質的に物理的に接触して生体膜を熱的に切除するのに十分なエネルギーを送達するように配置された熱伝導素子であり得る。ポレータはまた、薄層組織インターフェースデバイスであり得る。
【0017】
さらに、本発明は、対象(ただし、ヒトを除く)の生体膜を通じて薬物を送達するための方法であって、生体膜上に1つ以上の微細孔を形成するためのステップと、パッチを1つ以上の微細孔と物理的に接触するように配置するステップとを含み、パッチが、マトリックスと、マトリックス中に配置された少なくとも1つの薬物とを備え、薬物の少なくとも一部が、1つ以上の微細孔を通じて対象から受け取られる生体水分に可溶であり、マトリックスが、10mg/cm2の保水能力を有し、薬物が、5000以下の分子量を有する医薬品である、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】異なる保水能力を有するマトリックスを使用して作製された薬物パッチの薬物放出速度を示す図である。
【
図2】参照例1および参照例2で得られた血中薬物濃度の経時的変化を示す図である。
【
図3】実施例2および比較例1で得られた血中薬物濃度の経時的変化を示す図である。
【
図4】実施例3および比較例2で得られた血中薬物濃度の経時的変化を示す図である。
【
図5】実施例4および比較例3で得られた血中薬物濃度の経時的変化を示す図である。
【0019】
好ましい実施形態の詳細な説明
発明を実施するための形態
本明細書で使用される場合、「パッチ」という用語は、従来の薬物リザーバもしくは薬物マトリックスパッチ、または非限定的な例における経皮薬物送達技術で適切に使用され得る任意の他のタイプのパッチを含み得る。薬物リザーバ設計の一実施形態では、リザーバは、バッキングと速度制御膜との間に挿入され得る。薬物は、微多孔性または非多孔性であり得る速度制御膜を通じてのみ放出される。薬物リザーバ区画では、薬物は、溶液、懸濁液、もしくはゲルの形態にあっても、または固体ポリマーマトリックスに分散されていてもよい。ポリマー膜の外側表面には、薬物適合性の低アレルギー性接着剤ポリマーの薄層が適用され得る。薬物マトリックス設計の一実施形態では、これは、常に、既知の薬物含有接着剤系およびマトリックス分散系の両方のタイプを含んでいる必要がある。薬物含有接着剤系の一実施形態では、薬物リザーバはまた、薬物を接着剤ポリマーに分散させ、次いで、溶媒の流し込みによって薬用ポリマー接着剤を広げるか、または接着剤(ホットメルト接着剤)を不透過性のバッキング層内に溶融することによっても形成され得る。非薬用接着剤ポリマー層が、リザーバの上部に適用され得る。マトリックス分散系の一実施形態では、薬物は、親水性または親油性のポリマーマトリックス上に均一に分散され、薬物不透過性のバッキング層に固定される。別の用途では、薬物リザーバの表面に接着剤を適用する代わりに、接着剤を、周辺接着を形成するために適用する。前述の従来の薬物リザーバおよび薬物マトリックスの形式のパッチを含む、皮膚に配置することが可能なパッチのすべての実施形態が、本発明の実施形態として含まれなくてはならない。
【0020】
本明細書で使用される場合、「皮下流体」または「生体水分」または「滲出液」としては、水、血漿、血液、1つ以上のタンパク質、間質液、皮膚組織流体、皮膚のいずれかの層からの流体、汗、血清、リンパ液、および/またはそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されることはない。一態様では、本発明による皮下流体は、水を含む水分供給源である。
【0021】
本明細書で使用される場合、「対象」とは、皮下流体を得ることができる少なくとも1つの生体膜を有する任意の生物を指す。一態様では、例示的な生体膜は、皮下流体を得ることができる少なくとも1つの皮膚層であり得る。例えば、一態様では、対象は植物である。または、別の態様では、対象は動物であり得る。一態様では、動物は哺乳動物であり得る。代替的な態様では、動物は非哺乳動物であり得る。さらに、動物は、冷血動物、例えば、魚、爬虫類、または両生類であり得る。または、動物は、温血動物、例えば、ヒト、家畜、またはさらには実験動物であり得る。したがって、本発明は、任意の特定の対象または対象群の関連で、その使用に限定されることはないと理解されたい。
【0022】
本明細書で使用される場合、「生体膜」とは、細胞内のバリアまたは細胞周囲のバリアとして機能する包接層または分離層を含む。この態様では、これは、脂質クラス分子およびランダムに絡み合ったタンパク質から構成される脂質二重層であり得る。さらに、本明細書で使用される生体膜は、囲まれた空間または区画を規定することができ、その中の細胞は、この空間または区画の外側の環境とは異なる化学的または生化学的環境を維持することができる。この態様では、生体膜は、選択的透過性構造であり得て、これによって、生体膜を通過しようとする原子および分子のサイズ、電荷、および他の化学的特性でそれができるかどうかが決定される。一態様では、生体膜は粘膜であり得る。例示的な粘膜としては、口腔、歯茎、胃腸、首、膣、直腸、鼻腔内、口腔内、および眼球膜が挙げられるが、これらに限定されることはない。別の態様では、生体膜は皮膚層であり得る。
【0023】
本明細書で使用される場合、「皮膚層」とは、対象の任意の1つ以上の表皮層であり得る。例えば、一態様では、皮膚層は、皮膚の最外層、すなわち角質層を含む。代替的な態様では、皮膚層は、通常、顆粒層、有棘層(マルピーギ層)、および基底層として定義される角質層下の表皮の1つ以上の層を含み得る。当業者であれば、角質層下の表皮層を通じた透過物の輸送または吸収に対する抵抗が本質的にほとんどまたはまったくないと認識している。したがって、本発明の一態様では、対象の皮膚層における少なくとも1つの形成された経路は、対象の角質層における経路である。
【0024】
本明細書で使用される場合、「添加剤」とは、「増強剤」、「化学的増強剤」、「透過増強剤」、または「浸透増強剤」などとも呼ばれ、すなわち、これは、生体膜を通る、または組織液中の、透過物、分析物、または他の分子の流動性を増加させるすべての添加剤を含む。すべての細胞エンベロープの無秩序化合物および溶媒、ならびに他の化学的増強剤を含むことが意図されている。さらに、pH調整剤、溶解度調整剤(イオン強度調整剤、塩析剤、水溶性ポリマーを含む)、および充填剤を含むことが意図されている。さらに、すべての活性力増強剤としては、組織、ソノフォレーシス、イオントフォレーシス、イオントフォレーシスもしくはエレクトロポレーションの音響エネルギー、機械的引力、圧力、または局所変形が挙げられるが、これらに限定されることはない。場合によっては、親水性浸透はまた、透過増強剤(透過物としての役割を有する)として同時に、または透過増強剤として個別に機能することもできる。1つ以上の増強剤技術を、順次または同時に組み合わせてもよい。例えば、毛細管壁を透過性にするように、化学的増強剤を最初に適用してもよく、次いで、透過物を毛細管床の周りおよびこれを含む組織に積極的に推進させるように、イオントフォレーシスまたは音響エネルギー場を適用してもよい。
【0025】
本明細書で使用される場合、「経皮的な」または「経皮的に」とは、透過物の有効な治療的血液または局所組織レベルを達成するための、1つ以上の皮膚層における、かつこれを通じた透過物の通過を含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、「形成された開口部」、「人工開口部」、または「微細孔」とは、それらを通じて流体を送達または排除するのに適したサイズの生体膜の任意の物理的な細孔を意味する。したがって、「形成された開口部」、「人工開口部」、または「微細孔」とは、生体膜の所望の深さ、または生体膜を通じて作製された小さな穴、開口部、もしくは隙間を指す。一態様では、微細孔という用語は、皮膚表面に生物学的な液体産物を生成する任意の皮膚着用技術の結果を指す。一態様では、開口部は、米国特許第5,885,211号明細書および同第7,141,034号明細書に教示されている熱エネルギーの伝導を介して、または機械的処理を通じて、爆薬処理を通じて、もしくは周波数アブレーションを通じて形成され得る。これらの教示は、参照によって本明細書に組み込まれる。この態様では、穴または細孔のサイズは、例えば、およそ1~1000、5~700、10~500、50~300、100~250、50~100、または70~90ミクロンの直径を有し得る。穴または細孔は、例えば、円筒、スリット、穴、正方形、溝、クレータなどを含む任意の形状であり得る。微細孔という用語は、簡素化のために単数形で使用されているが、本デバイス、系、および方法は、複数の開口部または穴のアレイを形成し得ると理解されたい。
【0027】
本明細書で使用される場合、「穿孔」、「マイクロポレーション」、および任意の同様の用語は、皮膚もしくは粘膜などの組織もしくは生体膜中のまたはこれを通じた小さな穴または隙間(以下、「微細孔」とも呼ばれる)を縮小するための、あるいは選択された目的で生体膜の片側から他方に少なくとも1つの透過物を通過させるこの生体膜の壁特性を縮小するための生物の外層の形状を意味する。好ましくは、このように形成された穴または「微細孔」は、およそ1~1000ミクロンの直径を有し、下の組織に悪影響を与えることなく角質層の壁特性を崩すために生体膜全体に十分に広がっている。別の実施形態では、このように形成された穴または微細孔は、およそ1~1000、5~700、10~500、50~300、100~250、50~100、または70~90ミクロンの直径を有する。「微細孔」という用語は、簡素化のために単数形で使用されているが、本発明のデバイスは、複数の人工的な開口部を形成し得ると理解されたい。穿孔は、選択された目的のために、または特定の医学的もしくは外科的目的のために体の生体膜の壁特性を縮小させ、本明細書に言及されているマイクロポレーション技術は、微細孔の典型的な最小寸法が、主に、直径が通常少なくとも約1ミクロン以上かつ深さが通常少なくとも約1ミクロンであり、その一方で、エレクトロポレーションによって形成された開口部が、典型的には直径数ナノメートルしかない点で、エレクトロポレーションによって形成された開口部とは区別される。それにもかかわらず、エレクトロポレーションは、透過物がこれらのより深い組織層の微細孔を通過した後に、生物の外層下の標的組織による選択された透過物の取り込みを促進するのに有用である。本出願の目的のために、「穿孔」および「マイクロポレーション」は、互換的に使用される。
【0028】
「マイクロポレータ」または「ポレータ」とは、マイクロポレーションが可能なマイクロポレーションデバイスのための構成要素である。マイクロポレータまたはポレータの例としては、微細孔を形成するのに十分な程度の膜深さの切除を引き起こすために生体膜との直接の接触を介して熱エネルギーを伝導的に送達可能な1つ以上のフィラメントを有するデバイス;生体膜と実質的に物理的に接触して生体膜を熱的に切除するのに十分なエネルギーを生体膜に送達するように配置された熱伝導素子;ならびに、任意の加熱された局所的色素/吸収層;電気機械的アクチュエータ、マイクロランセット、および中実または中空マイクロ針またはランセットのアレイを含む機械的アブレーションデバイス;高周波アブレーション、音響エネルギーアブレーション;レーザーアブレーションシステム;高圧流体ジェット穿刺を含む水圧穿刺デバイス;皮膚表面に物理的に着用させる技術;あるいは皮膚弾道送達装置などを含む熱穿孔デバイスが挙げられるが、これらに限定されることはない。その全体が参照によって引用される米国特許第7,141,034号に記載されている薄層組織インターフェースは、穿孔のさらなる例である。本明細書で使用される場合、「マイクロポレータ」および「ポレータ」は、互換的に使用される。
【0029】
「薄膜層インターフェース」または「TFTI」は、抵抗素子を介した電流の通過によって生成された熱エネルギーを使用して微細孔を作製するデバイス、ならびにTFTIデバイスを製造して機能的に操作する方法を説明するために使用される。TFTIデバイスは、広範囲の生体膜に1つ以上の微細孔を作製する。TFTIには、分析物のモニタリング、および治療薬または刺青色素などを含む透過物の送達を増加させるためのヒトの皮膚の熱的マイクロポレーションを含む用途がある。TFTIは、生体膜の表面上に微細孔のパターンまたはアレイを迅速かつ効率的に作製するそれらの能力を特徴とする。このパターンは、様々な可能な細孔密度を有する微細孔の任意の幾何学的空間であり得る。一態様では、細孔密度は、0.2mm2ごとに1つの細孔と同程度の高さであり、細孔密度は、数平方ミリメートル~数百平衡センチメートルの範囲のポレート領域全体をカバーし、0.005~800、0.01~500、0.1~500、1~300、10~200、25~100、および50~75平方センチメートルを含む。TFTIデバイスは、生体膜とコントローラとの間のインターフェースを形成することができる薄い柔軟性のある適合構造になるように設計されている。または、TFTIは、コントローラ自体と統合されていてもよく、この統合されたデバイスは、生体膜と接触していてもよい。コントローラ部分は、各穿孔要素もしくは電極または圧電トランスデューサなどの他の能動構成要素に限定されておらず、TFTIの穿孔またはTFTIのイオントフォレーシス、ソノフォレーシス、エレクトロポレーション、または接触組織のインピーダンス測定などの他の機能に影響を与えるために必要な電気信号を使用してTFTIに供給される。TFTIは、柔軟性があり、標的生体膜の形状に適合可能であり得る。TFTIは、非常に薄く、秤量用に処理され得て、パッチとは別に、または統合された形式で使用され得て、また、多くのユーザに親しみのある形態を可能にするアンビリカルケーブルを通じてコントローラまたは電源に接続される。圧力調節、機械的操作、イオントフォレーシス、電気浸透、ソノフォレーシス、またはエレクトロポレーションなどの、制御可能な1つ以上のアクティブな追加のフラックス増強特徴部がTFTIに組み込まれる場合、この追加のフラックス増強特徴部のアクティブ化は、事前にプログラムされた方式、コントローラへの入力を介したユーザ制御の方式、または自動閉ループの方式のいずれかで、リモートコントローラモジュールによって制御可能である。ここで、透過物の注入速度は、インビボの選択分析物の測定レベル、または生物の別の測定可能な特性の関数として調整される。他の特定可能な特性としては、心拍数、血圧、温度、呼吸、および皮膚表面伝導度を挙げることができる。例えば、一実施形態では、生物の間質液または血清中のグルコース濃度のリアルタイム測定に基づいてインスリン注入の速度を制御することが有用である。別の実施形態では、いつ、何かに対する負の副作用が非常に耐え難くなるほど有効な薬物レベルが非常に悪くなり、インビボでのこの化合物の測定可能なレベルに基づいて注入速度を非常に正確になるように調整するかを特定するために、いくつかの治療化合物、より具体的には、より狭い治療ウィンドウを有する化合物を使用することが望ましく、したがって、患者の体重または代謝に関係なく、所望の治療ウィンドウ内の薬物濃度を達成および維持するための非常に正確で自己適用可能な方法が可能になる。TFTIの設計および製造では、TFTIを含む多くの導電性トレースを使用して、複数の機能を果たすことができる。例えば、熱サイクリングを誘発する抵抗穿孔素子に短いパルス電流を送達するために使用されるトレースはまた、マイクロポレーションの閉ループフィードバック制御のために、またはイオントフォレーシスもしくはエレクトロポレーション処理用の電極として増強を組み込むために使用され得て、これは、微細孔が形成された後に実装される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「イオントフォレーシス」とは、2つ以上の電極を使用して、送達されるイオン化または非イオン化形態の薬物の送達を通じて外部電場を組織表面に印加すること、ならびにイオン輸送(電気浸透)に関連する水流を組織もしくは生物学的流体または分析物の同様の抽出物に適用することを指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「エレクトロポレーション」とは、微細孔よりもはるかに小さいオーダーの細胞壁の開口部における電流による生成を指す。エレクトロポレーションによって形成される開口部は、典型的には、任意の寸法でわずか数ナノメートル、例えば1~10ナノメートルである。一実施形態では、エレクトロポレーションは、透過物が微細孔を通過して組織のより深い層に入った後の、生物の外層下の標的組織によって選択される透過物の細胞取り込みを促進するのに有用である。
【0032】
本明細書で使用される場合、「ソノフォレーシス」または「ソニフィケーション」とは、圧電性結晶、または交流を材料に流すことによって他の電気化学要素を振動させることによって引き起こされる、一般に超音波と呼ばれる振動を含み得る音響エネルギーを指す。薬物分子に対する皮膚の透過性を上昇させるための音響エネルギーの使用が、ソノフォレーシスまたはフォノフォレーシスと呼ばれる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「バイオアベイラビリティ」とは、絶対バイオアベイラビリティおよび相対バイオアベイラビリティを指す。絶対バイオアベイラビリティは、薬物が非静脈内投与された後(経口、直腸、経皮、皮下など)の体循環における活性薬物の割合を決定するものである。薬物動態学では、薬物の絶対バイオアベイラビリティを決定するために、静脈内投与(IV)および非静脈内投与の両方で単位時間あたりの血漿薬物濃度の変化を得る必要がある。絶対バイオアベイラビリティは、一定量の薬剤が非静脈内投与されたときに計算された濃度曲線下面積(AUC)を、同じ量で静脈内投与(IV)されたときに計算されたAUCで割ることによって決定される。さらに、相対バイオアベイラビリティは、異なる投与経路におけるその吸収性の違いを評価するために使用されるため、対照投与経路が静脈内投与である場合、その値は、絶対バイオアベイラビリティである。さらに、特定の薬物の吸収性を対照薬物の吸収性と比較する場合、相対バイオアベイラビリティが使用される。例えば、ジェネリック薬品では、標的であるジェネリック薬品が対照薬物である相対バイオアベイラビリティを使用して、生物学的同等性を評価する。
【0034】
本発明による経皮薬物送達パッチは、マトリックスと、マトリックス中に配置された少なくとも1つの薬物とを備え、マトリックスは、10mg/cm2以下の保水能力を有し、薬物は、5000以下の分子量を有する医薬品である。
【0035】
本発明で使用されるマトリックスは、10mg/cm2以下の保水能力を有する。マトリックスの保水能力とは、1cm2あたりにマトリックスが保持することができる水分量を意味する。具体的には、1cm2のマトリックスを調製し、これを溶液(0.1%の界面活性剤(Tween 80)を含有するリン酸緩衝生理食塩水)に十分長い時間浸漬する。その後、マトリックスを約5秒間ゆっくりと溶液から引き出し、事前に測定した浸漬前のサンプルの重量を、液体を保持しているサンプルの重量から差し引いて、次いで、単位面積(1cm2)あたりのマトリックスの保水能力を決定することができる。本発明で使用されるマトリックスは、好ましくは10mg/cm2以下の保水能力を有し、より好ましくは1mg/cm2~10mg/cm2の保水能力を有する。
【0036】
本発明で使用されるマトリックスの構造は、特に限定されることはないが、不織布が好ましい。疎水性材料(ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスルホン、EVAL、ポリアクリロニトリル、セルロース、ナイロンなど)から作製された不織布、および親水性材料(セルロース、ウール、シルク、レーヨン、キュプラ、パルプなど)から作製された不織布などが、好ましい不織布の例として示される。不織布に加えて、本発明で使用されるマトリックスは、メッシュ、織布、紙などの形態をとり得る。さらに、本発明で使用されるマトリックスはまた、フィルムの形態をとり得る。この場合、フィルム表面が滑らかすぎると薬物を支持することが困難になるため、フィルム表面を粗くして不均一にすることが最善である。さらに、本発明で使用されるマトリックスはまた、膜の形態もとり得る。疎水性膜を使用すると、細孔の浸透がなく、フィルムのような使用感が得られる。その一方で、親水性膜を使用すると、内部への浸透が容易になり、不織布のような使用感が得られる。内部によって支持することができる薬物量および水分量の観点から、低密度の膜を使用することが望ましい。マトリックスの保水能力は、マトリックスの厚さおよび重量を調整することによって制御することができる。マトリックスは、100μm以下の厚さを有することが好ましい。さらに、マトリックスは、好ましくは、100g/m2以下の重量を有する。
【0037】
本発明で使用されるマトリックスは、生体膜と接触するように適合された表面を有し、さらに、生体膜を通じて形成された少なくとも1つの経路から生体水分を吸収または他の方法で受け取るように適合されており、この場合、パッチは、形成された少なくとも1つの経路と流体連通するように配置されている。マトリックスは、少なくとも1つのポリマーを含み得て、2つ以上のポリマーを含み得る。ポリマー(単一または複数)は、水溶性または非水溶性ポリマーであり得る。単一のマトリックスは、水溶性ポリマーおよび非水溶性ポリマーの両方を含み得る。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、ポリエチレングリコール(PEG、PEO、またはPOE)、ポリビニルアルコール(PVAまたはPVOH)、およびポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。非水溶性ポリマーの非限定的な例としては、エチレン酢酸ビニル(EVA)およびエチルセルロース(EC)が挙げられる。非限定的な例の観点で、マトリックス材料は、パッチの約1重量%~約99重量%を占め、さらに、パッチの約25重量%、約30重量%、約35重量%、約40重量%、約45重量%、約50重量%、約55重量%、約60重量%、約65重量%、約70重量%、約75重量%、および約80重量%の追加量を占める。さらに、マトリックス材料は、これらの値から導出された任意の範囲の重量パーセントの任意の量も占め得る。例えば、非限定的な例の観点で、マトリックス材料は、パッチの約1~約60重量%、パッチの約20~約60重量%、パッチの約20~約40重量%、さらにパッチの約1~約40重量%の範囲にあり得る。
【0038】
マトリックス材料は、非水溶性ポリマー材料またはポリマー材料の組み合わせを含み得る。例えば、一態様では、マトリックスは、エチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー、エチルセルロース(EC)、ポリエチレン、エチルポリアクリレート、エチレンとエチルアクリレートとのコポリマー、およびそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。一態様では、マトリックスは、0%~約60%の範囲の酢酸ビニルの相対パーセンテージを有するエチレン酢酸ビニルコポリマーを含み得て、約0%、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、および60%など、ならびにこれらの値から導出される範囲の任意のパーセンテージなどの追加の酢酸ビニルのパーセンテージを含み得る。別の態様では、エチレン酢酸ビニルコポリマーは、約40%の酢酸ビニルを含有することに留意されたい。
【0039】
本発明で使用される薬物は、5000以下の分子量を有する医薬品である。薬物の例としては、一般に、抗感染薬、例えば、抗生物質および抗ウイルス剤;鎮痛剤および鎮痛併用剤;食欲抑制薬;駆虫薬;抗関節炎薬;抗ぜんそく薬;鎮痙剤;抗うつ薬;抗糖尿病薬;止瀉薬;抗ヒスタミン剤;抗炎症薬;抗片頭痛製剤;制嘔吐剤;抗新生物薬;抗血管新生薬;パーキンソン病治療薬;かゆみ止め薬;抗精神病薬;解熱剤;鎮痙剤;抗コリン作用薬;交感神経様作用薬;およびキサンチン誘導体;循環器官用薬、例えば、カリウムおよびカルシウムチャネル遮断薬;ベータ遮断薬、アルファ遮断薬、および不整脈治療剤;降圧剤;利尿薬および抗利尿薬;一般的には、冠状動脈、末梢、および脳のための血管拡張剤;中枢神経系刺激薬;および血管収縮剤;咳および風邪製剤、例えば、充血除去剤;ホルモン、例えば、エストラジオールおよび他のステロイド、例えば、コルチコステロイド;睡眠薬;免疫抑制薬;筋肉弛緩剤;副交感神経遮断薬;精神刺激薬;鎮静剤;精神安定剤;抗線維筋痛薬;乾癬治療薬;骨吸収阻害剤;骨強度を構築する薬剤;骨脆弱性を減少させる薬剤;抗失禁剤;不安抑制剤;抗肥大薬;抗浮腫薬;抗肥満薬;骨吸収阻害剤;麻酔薬;抗不安薬;鎮静剤;筋肉弛緩剤;アセチルコリンエステラーゼ阻害剤;ACE阻害剤;抗凝血剤;睡眠薬;抗強迫剤;抗過食症薬;制吐薬;不安抑制剤;NSAID;抗リウマチ剤;甲状腺機能低下薬物治療;NMDA受容体拮抗剤;NMDA受容体作動剤;部分的NMDA受容体作動剤;ADHD治療薬、鎮痙薬、鎮痙剤、片頭痛予防薬;良性前立腺肥大薬;鎮静剤;麻酔薬;肺動脈血圧降下剤;睡眠薬;骨粗鬆症薬;抗炎症薬;糖尿病性血糖制御薬;多発性硬化症薬;血小板減少症薬;および骨髄性再構成薬が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0040】
医薬品の具体例としては、アシトレチン(ソリアタン)、アミトリプチリン(エラビル)、アレンドロン酸ナトリウム、アリピプラゾール(エビリファイ)、ベタネコールHCl(ウレコリン)、ブロモクリプチン(パーロデル)、ブメタニド(ブメックス)、ブピバカイン(マーカイン)、ブプレノルフィン(ブプレネックス)、ブスピロン(バスパー)、セチリジンHCl、シタロプラム(セレクサ)、クロラゼペート(トランゼン)、クロミプラミンHCl、シクロベンザプリン(フレキセリル)、ドネペジル(アリセプト)、ドキサゾシン(カルジュラ)、エナラプリル(バソテック)、エノキサパリン(ロベノックス)、エスシタロプラム(レクサプロ)、フェロジピン(プレンジル)、フェンタニル(スブリマゼ、デュラゲシク)、フォシノプリル、ガランタミンHBr(レミニール、ラザダインER)、グリブリド(グルコトロール)、グラニセトロン(カイトリル)、ハロペリドール(ハルドール)、酒石酸水素ヒドロコドン、ヒドロコルチゾン酢酸エステル、ヒドロキシジンHCl、イスラジピン(ダイナシルク)、ケトロラック(アキュラー、トラドール)、レフルノミド(アラバ)、レボチロキシン(レボキシル、レボトロイド、シントロイド)、リシノプリル(プリニビル、ゼストリル)、ロラゼパム(アチバン)、ロキサピン(ロキシタン)、メロキシカム(モビック)、メマンチン(ナメンダ)、メチルフェニデート(リタリン、コンサータ)、メチマゾール(タパゾール)、メトクロブラミド(レグラン)、メトラゾン(ミクロクス、ザロキソリン)、ミルタザピン(レメロン)、モンテルカスト、ナルブフィン(ヌベイン)、ネオスチグミン(プロスチグミン)、ノルトリプチリンHCl、オランザピン(ジプレキサ)、オンダンセトロン(ゾフラン)、塩化オキシブチニン(ジトロパン塩素化オキシブチニン(ジトロパンXL)、オキシコドンHCl、オキシモルフォン(ヌモルファン)、パロノセトロン(アロキシ)、パリペリドン、パルミチン酸パリペリドン、パロキセチン(パキシル)、ペルゴリド(ペルマックス)、ペルフェナジン(トリラホン)、フェニトインナトリウム、プラミペキソール(ミラペックス)、プロクロルペラジン(コンパジン)、プロシクリジン(ケマドリン)、プロメタジンHCl、プロプラノロールHCl、プロトリプチリン(ヴィヴァクチル)、ラミプリル、リスペリドン(リスパダール)、ロピニロール(レキップ)、ロシグリタゾン(アバンジア)、セレギリン(エルデプリル)(R-(-)1デプレニル塩酸塩)、タムスロシン(フロマックス)、テマゼパム(レストリル)、チエチルペラジン(トレカン)、チアガビン(ガビトリル)、チモロール、トラマドール、トレプロスチニルナトリウム(レモデュリン)、トロピセトロン(ナボバン)、ワルファリンナトリウム、ATI5923、ゾルピデム酒石酸塩、およびDPP-4阻害剤(シタグリプチン(ジャヌビア)、ビルダグリプチン(ガルブス)、サクサグリプチン(BMS477118)、アログリプチン(SYR-322)、デナグリプチン(レドナ)、PHX1149、TA-6666、GRC8200/EMD675992、MP513、PSN9301、R1579、BI1356、PF-734200、ALS2-0426、TS-021、AMG221、ABT-279、SK-0403、KRP-104、SSR162369、ARI2243、S40010、PT-630、SYR-619、E3024、およびA-899301)を挙げることができる。
【0041】
本発明で使用される薬物は、注射投与について従来から既知の治療薬であり得る。治療薬などの具体例としては、アデノシン、フルオロウラシル、アルプロスタジル、アミカシン硫酸塩、アミオダロン、アジスロマイシン、ブレオマイシン、カルボプラチン、セフトリアクソン、シプロフロキサシン、シスプラチン、ダカルバジン、ダウノルビシンHCl、メシル酸デフェロキサミン、酢酸デスモプレシン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、ジピリダモール、ドキソルビシンHCl、エナラプリラト、エピルビシンHCl、フルコナゾール、リン酸フルダラビン、フルマゼニル、フォスフェニトインナトリウム、グラニセトロンHCl、デカン酸ハロペリドール、アロペリドール、イダルビシンHCl、イホスファミド、イリノテカンHCl、L-システインHCl、ロイコボリンカルシウム、酢酸リュープロリド、酢酸メドロキシプロゲステロン、メスナ、酢酸メチルプレドニゾロン、メトクロプラミド、ミトキサントロン、酒石酸ノルエピネフリン、酢酸オクトレオチド、オンダンセトロン、ONXOL(登録商標)(パクリタキセル)、オキシトシン(oxycin)、パミドロン酸二ナトリウム、パンクロニウム臭化物、プロメタジンHCl、プロポフォール、スルファメトキサゾールおよびトリメトプリム、硫酸テルブタリン、シピオン酸テストステロン、トブラマイシン、TOPOSAR(登録商標)(エトポシド)、ベクロニウム臭化物、VINCASAR PFS(登録商標)(ビンクリスチン硫酸塩)、酒石酸ビノレルビン、ZANOSAR(登録商標)(ストレプトゾトシン)、アブラキサン、アクトレル、アデンソカン(Adensocan)、アリムタ、アメビブ、アミカシン、アンゼメット、アリミデックス、アリクストラ、アロマシン、アバスチン、アボネックス、ベタセロン、BICNU、ボトックス、キャンパス、カンプトサール、カソデックス、CeeNu、セレザイム、セトロタイド、コパクソン、コペガス、シトキサン、デポテストステロン、ドブタミン、ドキシル、エリガード、エロキサチン、エルスパール、エンブレル、エルビタックス、エチロール、ファブラザイム、ファスロデックス、フォリスチム、フゼオン、ガニレックス(アンタゴン)、ジェムザール、ゲノトロピン、ゲノトロピン・ミニクイック、グリベック、ゴナール-F、ハーセプチン、ヘキサレン、ヒューマトロペン、ヒュミラ、ハイカムチン、インフェルゲン、インフモルフ、イントロンA、キネレット、クバン、トリオール・イントラ、ルーセンティス、ルブロン・ペジアトリック、マクゲン、マツラン、メノプール、マスターゲン、ミオブロック、Nabi-HB、ニューメガ、ニューポゲン、ネクサバール、ノルジトロピン、ニュートロピン、ニュートロピンAQ、オレンシア、オビドレル、ペガシス、ペグイントロン、パンタム、プログラフ、プロロイキン、プルモザイム、レベトール、レビフ、レクラスト、レフルダン、レミケード、レプロネックス、レブリミド、リバパック、リバビリン、リスパダールコンスタ、リツキサン、ロフェロン-A、サイゼン、サンドスタチンLAR、セロスチム、スプリセル、サプレリンLA、スーテント、シナギス、シントロイド、タルセバ、タシグナ、タモキシフェン、タキソテール、テモダール、テブトロピン、サリドマイド、チロゲン、トビ、チュバーソル、タイサブリ、タイカーブ、ベルケイド、ベサノイド、ビダザ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビリアード、ビスタイド、ビタミンK、ビビトロール、ゼローダ、ゾメタ、アドベイト、アルファナイト、アルファニン、アラネスプ、ベブリン、ベネフィックス、エポゲン、フォルテオ、フラグミン、ヘリキサート、ヘモフィル、フメイト、ハイエート、コエート、コージネイト、リューカイン、ロベノックス、モノクレート、モノニン、ミオクリスチン、ニューラスタ、ニューメガ、ノバレル、ノボセブン、プロクリット、プロフィリン、レプティバ、レベトロン、リコンビネート、レファクト、カベルジェクト、D.H.E.45、ゾフラン、BayRho D、プロトロピン、デラテストリル、プレナキシス、ヘモフィル-M、モナーク-M、プロプレックスT、ヒアルガン、シュヴァルツ、シンヴィスク、エクセレンス、ゾラデックス、ペルゴナール、カリミュン、ガミミュンN、ガンマガード、ガンマール、イビガム、パングロブリン、ポリガム、およびベノグロブリンが挙げられる。
【0042】
前述の医薬品は、いわゆる中分子量薬物および低分子量薬物を含むように、2000以下の分子量を有し得て、さらに、いわゆる低分子量薬物を含むように、700以下の分子量を有し得て、理想的には、500以下の分子量を有し得る。さらに、医薬品は、非ペプチド薬であり得る。さらに、医薬品は、マトリックス1cm2あたり0.1~30mgの量で投与されることが望ましい。
【0043】
本発明のパッチは、マトリックス中に配置された少なくとも1つの吸湿剤をさらに備え得る。吸湿剤は、水溶性物質、水溶性状態の混合物などであり得て、好ましくは、高い水溶性を有する物質である。前述の吸湿剤は、好ましくは糖類である。薬物が、滲出液に可溶な物質であるか、または可溶状態にある場合、この薬物は、吸湿性成分であると考えることもできることに留意されたい。本発明のパッチでは、マトリックス中に薬物および吸湿剤が配置されたマトリックスの単位面積あたりの総量は、好ましくは、0.1~30mg/m2である。薬物および吸湿剤を有するマトリックスの単位面積あたりの総量は、より好ましくは、0.1~20mg/m2である。薬物および吸湿剤に加えて、本発明のパッチはまた、マトリックス中に配置されて滲出液に溶解している任意の成分、例えば、賦形剤、安定剤、pH調整剤、緩衝剤、保存剤、防腐剤、溶解度増強剤、増粘剤、酸化防止剤、経皮吸収促進剤、刺激調節剤、キレート剤などを備え得る。本発明のパッチは、水、アルコール、有機溶媒、およびそれらの混合物などをさらに備え得る。
【0044】
本発明のパッチは、マトリックスの単位面積あたり9.5~85mg/cm2の量の皮下流体を抜き取ることができることが望ましい。本発明のパッチは、マトリックス中に配置された少なくとも1つの添加剤をさらに備え得る。さらに、本発明のパッチは、マトリックスを支持するためのバッキング層をさらに備え得る。アクリル、ゴム、またはシリコーン接着剤でコーティングされた支持体を、好ましいバッキング層として使用することができる。この場合の支持体は、薬物を備えるマトリックスを支持するのに適している限り、特に限定されることはなく、伸縮性または非伸縮性のものを使用することができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、およびナイロン。ポリウレタンなどのフィルムまたはシート、それらの積層体、多孔質体、発泡体、布および不織布、ならびにそれらの積層体などを使用することができる。本発明のパッチは、皮膚への、パッチの表面への、またはバッキング層支持体に備えられた接着剤の表面への適用前に剥がれる剥離コーティングを備えていてもよい。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、およびこれらをシリコーンまた剥離紙などで離型処理して得られたものが、そのような剥離コーティングとして使用され得る。本発明のパッチを使用して、ポレータによって形成された1つ以上の微細孔を通じて薬物を経皮的に送達することができる。ポレータおよびパッチは、互いに独立していても、または組み合わされていてもよい。ポレータおよびパッチを組み合わせて使用する場合、パッチは、ポレータを使用して熱穿刺された皮膚の領域に位置合わせして付着される。その間、パッチを目視で位置合わせしても、またはパッチを位置合わせするためのシステムも使用してもよい。
【0045】
標的生体膜を通じて薬物を送達するための系において、本発明のパッチは、薬物の少なくとも一部が、ポレータによって作製された微細孔を通じて標的から受け取られる生体水分に可溶であることを確実にすることによって、ポレータと一緒に使用され得る。
【0046】
本発明のパッチはまた、薬剤の少なくとも一部が、1つ以上の微細孔を通じて標的から受け取られる生体水分に可溶であることを確実にすることによって、標的生体膜を通じて薬物を送達するための方法であって、生体膜上に1つ以上の微細孔を形成するためのステップと、パッチを1つ以上の微細孔と物理的に接触するように配置するためのステップとを含む、方法において使用され得る。
【0047】
本発明のパッチは、以下の方法によって調製され得る。まず、パンチングダイを使用して、バッキング層材料を所定のサイズ(例えば、25×25mmの正方形)を形成する。次に、パンチングダイを使用して、マトリックス材料(例えば、不織布)を所定のサイズ(例えば、10×10mmの正方形)に形成する。形成されたマトリックス材料を、バッキング層材料の中央部分に貼り付ける(以下、ブランクパッチと呼ぶ)。添加剤(アスコルビン酸、スクロース、クエン酸一水和物など)および薬物を秤量し、次いで、溶液(脱イオン水、PBS、アルコールなど)を添加し、完全に溶解するまで撹拌し、それによって、薬物溶液を調製する。機械的ピペットを使用して、ブランクパッチのマトリックス材料領域に所望の薬液を滴下する。60℃のオーブンで20~50分間乾燥させて、パッチ構造を得る。このパッチ構造には、剥離コーティング(剥離ライナー)がコーティングされている。ヒートシーラーでのシーリングによって、完成したパッチを乾燥剤と一緒にパウチにする。
【0048】
本発明のパッチは、以下の方法によって使用され得る。本発明のパッチは、即時的な効果が期待される疾患、および皮下注射と同等のPKプロファイルを必要とする疾患に特に適用されることが期待されている。経口薬物投与は、一般的に、薬物が主に腸管から吸収される場合であり、薬物が腸管に到達するまでに時間がかかる。その一方で、本発明のパッチを使用して、表皮の最も外側の角質層に穴を開け、そこにパッチを適用することによって、ポレータによって形成された1つ以上の微細孔を通じて薬物を経皮的に送達する場合、薬物は、表皮を通過し、毛細血管真皮に拡散し、体循環に入る。したがって、本発明のパッチは、注射に取って代わる薬物投与手段を提供することができ、このパッチは、薬物の即時放出用途に適切に使用することができ、経口薬物投与よりも十分に速い。
【0049】
実施例
以下に、本発明に従って実施例を詳細に説明するが、本発明は、そのような実施例に限定されることはない。
【0050】
保水能力の測定方法
秤量したTween 80(Spectrum Chemical Mfg. Corp.またはCroda)をリン酸緩衝生理食塩水(Sigma-Aldrich)に溶解させ、それによって、0.1w/v%のTween 80を含有するPBS(以下、試験液と呼ぶ)を調製した。マトリックス材料の厚さは、デジタルインジケータ(Sony Corporation製のU30A)によって測定した。表1に示されるマトリックス材料1~3(すべてJapan Vilene Company, Inc.製)を10mm×10mmの正方形に形成し、それによって、サンプルを調製した。調製したサンプルを秤量し、それによって、それらの乾燥重量(以下、重量Aと呼ぶ)を得た。次に、前述のサンプルを試験液に浸漬し、試験液を完全に含浸させた。溶液を含浸させたサンプルをゆっくりと試験液から引き出し(約5秒/cm)、秤量し、それによって、試験液の含浸後のそれらの重量(以下、重量Bと呼ぶ)を得た。マトリックス材料がフィルム表面を有する場合は、引き抜いた後にフィルム表面に付着している試験液を拭き取った後に、これを秤量して、それによって、重量Bを得ることに留意されたい。マトリックス材料の厚さ、重量A、および重量Bをそれぞれ3回測定し、平均値を最終値として採用した。これらの結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
マトリックス材料1~3がパッチに使用される場合の薬物放出速度を制御する可能性を調べるために、表皮および角質層を有するヒトの皮膚を使用してインビトロフラックス試験を実施した。
【0053】
薬物パッチの調製
パンチングダイを使用して、バッキング層材料を25mm×25mmの正方形に形成した。次に、パンチングダイを使用して、マトリックス材料1~3を、それぞれ10mm×10mmの正方形に形成した。形成されたマトリックス材料1~3を、バッキング層材料の中央部分に貼り付けた(以下、ブランクパッチ1~3と呼ぶ)。0.1w/v%のTween 80を含有する水を、秤量した臭化メチルナルトレキソンを含むチューブに添加し、それによって、薬液を調製した。機械的ピペットを使用して、ブランクパッチ1~3のマトリックス材料領域に所望の薬液を滴下した。これらを50℃のオーブンで15分間乾燥させ、それによって、パッチ構造1および2を得た。剥離ライナーをパッチ構造1および2にコーティングして、薬物パッチ1および2を得た。ヒートシーラーでのシーリングによって、完成したパッチを乾燥剤と一緒にパウチにした。
【0054】
ヒトの皮膚の穿孔およびパッチの適用
-80℃で保存されたヒトの皮膚を室温で1時間静置し、これを解凍した後に、3cm×3cmのサイズに切断して使用した。受容体溶液としてはPBSを使用した。未処理のヒトの皮膚または必要に応じて穿孔処理を受けたヒトの皮膚を細胞上に置いた。穿孔処理を受けたヒトの皮膚の穿孔面積は、1cm
2であった。薬物パッチ1~3をヒトの皮膚に適用した。流体を撹拌し続け、細胞を32℃に保った。所望の観察時間で、500μlの受容体溶液を分析のために収集した。収集された受容体溶液のうち、200μlをHPLCで分析した。これらの結果を
図1に示す。
図1から、マトリックス材料1を備えた薬物パッチ1は、マトリックス材料2を備えた薬物パッチ2およびマトリックス材料3を備えた薬物パッチ3と比較して、薬物の即時放出用途により適切に使用することが可能であると期待されると理解される。
【0055】
実施例1
薬物パッチの調製
パンチングダイを使用して、バッキング層材料(ポリエチレン医療用テープ、1774W、3M Company製)を25mm×25mmに形成した。次に、パンチングダイを使用して、マトリックス材料1を10mm×10mmに形成した。形成されたマトリックス材料1を、バッキング層材料の中央部分に貼り付けた(以下、ブランクパッチと呼ぶ)。APIとしての測定したゾルミトリプタン2mg(分子量287.36(g/mol))、測定したスクロース0.5mg、およびアスコルビン酸4.0mgを添加剤としてチューブに入れ、水に溶解させ、それによって、薬液を調製した。機械的ピペットを使用して、ブランクパッチのマトリックス材料領域に所望の薬液を滴下した。これらを60℃のオーブンで20分間乾燥させ、次いで、パッチ構造を得た。剥離ライナー(Fujimori Kogyo Co., Ltd.製のシリコーンコーティングされた剥離ライナー)をパッチ構造にコーティングし、それによって、薬剤パッチを得た。完成したパッチを乾燥剤と一緒にパウチにした。
【0056】
動物実験:マイクロポレーションによる経皮送達
77~84日齢の無毛ラットを実験動物として使用した。所望の条件下で穿孔処理を受けた実験動物の皮膚の脇腹側に薬物パッチを貼り付けた。パッチを貼り付けている時間の間、およびパッチを付着させた後に、所望の時間に採血し、従来の方法によって各薬効成分を抽出し、次いで、高速液体クロマトグラフィー(LC-MS/MS)によって血中濃度を定量した。
【0057】
参照例1
動物実験:静脈内投与
77~84日齢の無毛ラットを実験動物として使用した。ゾルミトリプタン1mgおよびアスコルビン酸1mgを含有する薬液(200μl)を静脈内投与した後に、所望の時間に採血し、従来の方法によって各薬効成分を抽出し、次いで、高速液体クロマトグラフィー(LC-MS/MS)によって血中濃度を定量した。
【0058】
参照例2
動物実験:経口投与
77~84日齢の無毛ラットを実験動物として使用した。ゾルミトリプタン10mg、クエン酸7.3mg、および二塩基性リン酸ナトリウム4.9mgを含有する薬液(2.0ml)を経口投与した後に、所望の時間に採血し、従来の方法によって各薬効成分を抽出し、次いで、高速液体クロマトグラフィー(LC-MS/MS)によって血中濃度を定量した。実施例1、参照例1、および参照例2で得られた結果を
図2に示す。
図2に示される結果から、実施例1のパッチは、静脈内投与(参照例1)の代替的な手段となり得る薬物の即時放出用途に使用することができ、参照例2(経口投与)の手段よりもはるかに速いと理解される。
【0059】
実施例2および比較例1
5mgの臭化メチルナルトレキソン(分子量436.36(g/mol))を薬物として使用したこと、および実験動物として無毛モルモットを使用してマイクロポレーションによる経皮送達を評価したことを除いて、実施例1と同じ方法を使用して薬物パッチを調製した(実施例2)。同様に、マトリックス材料1の代わりにマトリックス材料2を使用したこと、およびマイクロポレーションによる経皮送達を評価したことを除いて、実施例2と同じ方法で薬物パッチを調製した(比較例1)。実施例2および比較例1について得られた結果を
図3に示す。
図3に示される結果から、実施例2のパッチは、比較例1のパッチとは異なり、薬物の即時放出用途に適切に使用され得ると理解される。
【0060】
実施例3および比較例2
6mgのフォンダパリヌクス(分子量1728(g/mol))を薬物として使用したこと、および実験動物として無毛モルモットを使用してマイクロポレーションによる経皮送達を評価したことを除いて、実施例1と同じ方法を使用して薬物パッチを調製した(実施例3)。同様に、マトリックス材料1の代わりにマトリックス材料2を使用したこと、および実験動物として無毛モルモットを使用してマイクロポレーションによる経皮送達を評価したことを除いて、実施例3と同じ方法を使用して薬物パッチを調製した(比較例2)。実施例3および比較例2について得られた結果を
図4に示す。
図4に示される結果から、実施例3のパッチは、比較例2のパッチとは異なり、薬物の即時放出用途に適切に使用され得ると理解される。
【0061】
実施例4および比較例3
0.1mgのエクセナチド(分子量4186.6(g/mol))、および実験動物として無毛モルモットを使用してマイクロポレーションによる経皮送達を評価したことを除いて、実施例1と同じ方法を使用して薬物パッチを調製した(実施例4)。同様に、マトリックス材料1の代わりにマトリックス材料3を使用したこと、および実験動物として無毛モルモットを使用してマイクロポレーションによる経皮送達を評価したことを除いて、実施例4と同じ方法を使用して薬物パッチを調製した(比較例3)。実施例4および比較例3について得られた結果を
図5に示す。
図5に示される結果から、実施例4のパッチは、比較例3のパッチとは異なり、ここで、薬物濃度は、測定開始後に約2.2時間で最大に達し、薬物濃度が最大に到達するまで約3.2時間が経過し、このパッチは、薬物の即時放出用途に適切に使用することができると判断された。
【0062】
【0063】
本発明のパッチは、様々な薬物を所定の濃度以上に維持するためのパッチ製剤、および生物学的同等性試験において同じバイオアベイラビリティを有するパッチを含む。ここで、生物学的同等性試験とは、生物学的同等性、すなわち、バイオアベイラビリティ(体循環に入る未変化の物質または活性代謝物の速度および量、または作用部位に到達する速度および量)が同等であるかどうかを決定する試験を指し、具体的には、2006年11月24日付けのPFSB/ELD通知番号1124005(平成18)にある、日本の厚生労働省によって定められている、例えば’’Guidelines for Bioequivalence Testing of Generic Drugs’’および’’Bioequivalence Testing Guidelines for Generic Medicines of Topical Dermatological Preparations’’に記載されている生物学的同等性試験に準拠してバイオアベイラビリティが同等であるかどうかを決定することが可能である。
【0064】
例えば、’’Guidelines for Bioequivalence Testing of Generic Drugs,’’では、原則として、クロスオーバー法を実施して体液として血液を採取する場合、単回投与試験において、AUCt(最終サンプリング時間tまでのAUC(血中濃度-時間曲線下面積))およびCmax(最大血中濃度)が生物学的同等性決定パラメータとして使用される。F(標準製剤に対する試験製剤の相対吸収(水溶液または静脈内投与))がデコンボリューションによって計算され得る場合、AUCの代わりにFが使用され得る。さらに、AUC∞(無限時間までのAUC)、tmax(最大血中濃度に達するまでの時間または最大尿中排泄率に達するまでの時間)、MRT(平均保持時間)およびkel(消失速度定数)などが参照パラメータとして使用される。尿が体液として採取される場合、Aet(最終サンプリング時間tまでの累積尿中排泄)、Aeτ(定常状態に達した後の1回の投与間隔(τ)における累積尿中排泄)、Ae∞(無限時間までの累積尿中排泄)、Umax(最大尿中排泄率)、およびUτ(定常状態での投与後のτ時点での尿中排泄率)が、AUCt、AUCτ(定常状態に達した後の1回の投与間隔(τ)におけるAUC)、AUC∞、Cmax、およびCτ(定常状態での投与後のτ時点での血中濃度)の代わりにパラメータとして使用される。
【0065】
さらに、’’Bioequivalence Testing Guidelines for Generic Medicines of Topical Dermatological Preparations,’’では、局所皮膚製剤の生物学的同等性を評価する際に、薬物および製剤の特性に応じて、最適な試験方法、例えば、1.皮膚薬物動態研究(同等性評価パラメータ:定常状態での薬物回復、平均角質層薬物濃度または角質層薬物濃度)、2.薬理学的研究(同等性評価パラメータ:AUEC(製剤の除去後に青みがかった色合いに変化する強度-時間曲線下面積))、3.残留量試験(同等性評価パラメータ:製剤から皮膚に分配される薬物の量)、4.薬物動態研究(同等性評価パラメータ:AUCまたは定常状態での血中濃度)、5.臨床試験(臨床効果を指標として使用)、6.インビトロ有効性試験(インビトロ有効性を指標として使用)、および7.動物試験(製剤を適用することによって動物の皮膚表面で起こる薬理学的反応を指標として使用)を選択することができる。
【0066】
前述の試験方法をそれぞれ適切に選択し、得られた試験製剤および標準製剤の生物学的同等性決定パラメータを統計処理にかけて、試験製剤および標準製剤が所定の範囲にあるときに生物学的に同等であるかどうかを決定することが可能であり、例えば、’’Guidelines for Bioequivalence Testing of Generic Drugs,’’では、AUCおよびCmaxが対数正規分布である場合、生物学的同等性の許容範囲は、試験製剤および標準製剤のパラメータの平均についての比率として表して0.80~1.25であり、試験製剤および標準製剤の生物学的同等性決定パラメータの対数の平均値の90%信頼区間がlog(0.80)~log(1.25)の範囲にある場合、試験製剤および標準製剤は、生物学的同等性があると判定される。さらに、’’Bioequivalence Testing Guidelines for Generic Medicines of Topical Dermatological Preparations,’’では、同等性評価パラメータを対数正規分布として考えることができる場合、生物学的同等性の許容範囲は、試験製剤および標準製剤のパラメータの平均についての比率で表され、作用の強い医薬品では0.80~1.25であり、作用の強い医薬品以外の医薬品では0.70~1.43であり、同等性評価パラメータが正規分布していると考えられる場合、すなわち、試験製剤および標準製剤の母平均間の差が、標準製剤の母平均に対する比率で表される場合、作用の強い医薬品では-0.20~+0.20であり、作用の強い医薬品以外の医薬品では-0.30~+0.30である。有効性試験または臨床試験で評価を実施する場合、医薬品の特性に応じて適切な許容範囲を設定することができる。これらのガイドラインに記載されている生物学的同等性試験は、当業者に周知であると留意されたい。
【国際調査報告】