(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(54)【発明の名称】機能性コーティングを施した可視部品
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G01S7/03 246
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022500791
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2020067849
(87)【国際公開番号】W WO2021008849
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】102019210315.4
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュトーラー、フランク
(72)【発明者】
【氏名】ベルクホッファー、ペター
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AF03
5J070AK40
(57)【要約】
本発明は、自動車の内外装における機能性塗膜を有する可視部品およびその製造方法に関するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の可視部品であって、可視面を有する基体と、基体の可視面上における少なくとも1つのセンサ素子とを備え、この少なくとも1つのセンサ素子が、この少なくとも1つのセンサ素子に隣接する無線データ伝送素子に電気的に接続されており、前記無線データ伝送素子によってセンサ素子の測定データを評価ユニットに無線で伝送することができ、誘導起電素子によって前記無線データ伝送素子に通電できるものであることを特徴とする自動車用の可視部品。
【請求項2】
少なくとも1つのセンサ素子は、増幅回路および/または前処理回路を介して、無線データ伝送素子に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の可視部品。
【請求項3】
少なくとも1つのセンサ素子に波長変調器が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の可視部品。
【請求項4】
無線データ伝送素子は、基体の可視面上に、または前記可視面上に配置されたキャリアフィルムに、印刷されていることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の可視部品。
【請求項5】
少なくとも1つのセンサ素子は、放射線を受信するために設けられていることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の可視部品。
【請求項6】
少なくとも1つのセンサ素子は、有機ポリマーにて構成されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の可視部品。
【請求項7】
異なる波長域の放射線を受信するために配置された少なくとも2つのセンサ素子を含むことを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の可視部品。
【請求項8】
少なくとも1つのセンサ素子と基体の可視面とは、コーティング材料の共通層によって少なくとも部分的に覆われていることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項記載の可視部品。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の可視化部品を製造するための方法であって、基体上に一連の層を塗布し、この一連の層は、以下を有することを特徴とする可視部品の製造方法。
a.無線データ伝送のための少なくとも1つの素子を含む層
b.必要に応じて設けられる、少なくとも1つの信号増幅回路を含む層
c.必要に応じて設けられる、少なくとも1つの信号処理回路を含む層
d.少なくとも1つのセンサ素子を含む層
e.必要に応じて設けられる、少なくとも1つの波長変調器を含む層
f.必要に応じて行われる、カプセル化
【請求項10】
各層の厚さを1μmとすることを特徴とする請求項9に記載の可視部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内外装における、機能性コーティングを施した可視部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、センサやカメラは、独立した部品として車内や車体に搭載されている。これらのシステムは、場所を取り、高価であるため、交換に非常に時間がかかる。接続、つまり下流側の処理ユニットとの接続は、ケーブルで行われる。これらの部品は、駐車センサ、車線逸脱センサ、距離センサに始まり、自動運転用の部品に至るまで、自動車のあらゆるアシストシステムに絶対に必要なものである。これらはバリエーションが豊富でコストも高く、ほぼすべての用途で異なる技術が要求される。たとえば、駐車センサは単なる距離センサであるし、交通標識の認識にはカメラが必要であるし、さらにカメラとレーダセンサとを組み合わせた車間距離制御や急ブレーキアシストも必要である。従来のレーダセンサでは、距離と角度しか検知できない。つまり、センサの視野の中に何かがあるという情報しか得られない。そのため、カメラを増設している。
【0003】
通常、冗長システムはほとんど存在しない。カメラやレーダセンサが故障したり、下流側の処理ユニットとのケーブル接続ができなくなったりすると、通常、その機能は、もはや利用できなくなる。修理する場合は、高度で複雑な要求を満たさなければならない。交換する部品が安全に関わる機能を持つため、スペアパーツの再校正が必要になることがよくある。
【0004】
特許文献1は、少なくとも1つの熱可塑性要素および/または少なくとも1つの熱硬化性ポリマーによって完全に囲まれた少なくとも1つの集積回路基板を含む、車両用の装飾部品を開示する。プリント基板を装飾部品に組み込むことで、装飾部品の外部に追加の設置スペースを必要とせず、装飾部品とプリント基板との複雑な電気的および信号的結合を回避することが可能である。一実施形態では、プリント回路基板は、少なくとも1つの電子部品を含んでおり、それは、たとえば赤外線センサまたはリダーセンサなどの光学センサ、たとえば超音波センサなどの音響センサ、たとえば誘導センサ、静電容量センサ、レーダセンサなどの電磁センサ、加速度センサ、速度センサ、温度センサ、湿度センサ、または明度センサおよび/または、たとえば表示用のロゴ、文字、記号、形状、技術構造を表示するための光源であってもよい。
【0005】
特許文献2から、車両用の衝撃検出用センサが知られている。このセンサは、電圧および/または抵抗を連続的に測定するために電圧が印加される導電性の検出領域を有する。検出領域は、導電性フィラーのパーコレーションネットワークを持つ、変形可能な塑性体にて構成される。検出領域は、この検出領域に物体が衝突することで電圧や抵抗が変化するように設計されている。
【0006】
特許文献3は、自動車の駐車システムおよび/または近距離検出システム用のセンサ、特に超音波センサに関するものである。このセンサはポット形のハウジングを持ち、その底面は振動膜として設計されている。ハウジングは、少なくとも外側にコーティングを有する。このコーティングは、塗装が可能で、膜の振動挙動に悪影響を与えない、または大きな悪影響を与えない、耐候性粉末にて構成される。
【0007】
特許文献4は、自動車の外側に衝撃センサを備え、自動車ボディに感圧塗料を塗布して衝撃センサと接触させ、作用する圧力に応じて電気パラメータを変化させる、衝撃検出のための配置を開示している。
【0008】
特許文献5は、自動車レーダセンサ用のレドームの解析および最適化のための方法を教示している。この方法は、レドームモデルを製作するための塗料とプラスチック部品とについてのレーダの周期透過挙動の定性的および定量的分析を含む。レドームモデルには、塗装や樹脂部品の定性・定量分析結果を基にしたシミュレーション処理が施されている。レーダの周期的な透過挙動と、塗装部品と樹脂部品の反射挙動とに基づいて、最適なレドームモデルが選択される。レドームは、たとえばバンパーやトリムなどの自動車部品によって形成される。
【0009】
特許文献6は、自動車のレーダセンサ用のレドームを示しており、その壁は少なくとも2つの層で構成されている。壁の片側または2つのプラスチック層の間に、少なくとも1つの誘導型または容量型の動作デバイスが配置される。これにより塗料層によるレーダセンサの電磁波の反射を少なくとも部分的に補償する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第10 2017 212 784号明細書
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第10 2015 216 793号明細書
【特許文献3】ヨーロッパ特許第1 654 726号明細書
【特許文献4】ドイツ特許出願公開第10 317 638号明細書
【特許文献5】ドイツ特許出願公開第10 2011 010 861号明細書
【特許文献6】ドイツ特許出願公開第10 2008 036 012号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景から、本発明は、自動車の内外装に使用されセンサ機能を有する可視部品であって、多様なデザインで多様に使用でき、かつ低コストで生産できるものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、本発明に従って、請求項1の特徴を有する装置および請求項9の特徴を有する方法によって、解決される。本発明の改良および開発は、従属請求項からもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、可視面を有する基体と、基体の可視面に設けられた少なくとも1つのセンサ素子とを備える、自動車用の可視化部品に関する。本発明によれば、少なくとも1つのセンサ素子は、この少なくとも1つのセンサ素子に隣接する無線データ伝送素子に電気的に接続され、この無線データ伝送素子によってセンサ素子の測定データを評価ユニットに無線伝送することができる。無線データ伝送素子は誘導起電素子によって通電されることができる。
【0014】
一実施形態では、無線データ伝送素子は、パッシブRFIDトランスポンダである。別の実施形態では、無線データ伝送素子はNFCチップである。別の実施形態では、無線データ伝送素子は、光無線通信(Optical Wireless Communication,OWC)用として構成される。
【0015】
可視部品の一実施形態において、少なくとも1つのセンサ素子は、増幅回路および/または前処理回路を介して、無線データ伝送素子に接続される。
【0016】
可視部品の一実施形態では、波長変調器が少なくとも1つのセンサ素子上に配置される。一実施形態では、波長変調器はレーダ用波長変調器である。別の実施形態では、IR用波長変調器である。可視光には変調器は不要である。
【0017】
別の実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子は、拡散気密カプセル化の構成となる。一実施形態では、拡散気密カプセル化は、波長変調器を含む。カプセル化には、パリレン、SiOxのほか、硬度を上げるためにスピネル(MgAl2O4)も使用できる(通常のガラスに対して係数150)。
【0018】
本発明による可視部品は、車両の外装と内装の両方で使用することができ、たとえば、車内モニタリングのために使用することができる。一実施形態において、可視部品の基体は、自動車の外装部品、たとえば、ボディ部品、特にバンパー、ラジエータグリル、フロントウィンドウ、リアウィンドウなどである。別の実施形態では、可視部品の基体は、自動車の内装のための部品である。さらなる実施形態では、基体はフィルム、特に自己粘着性フィルムまたは磁性フィルムである。
【0019】
少なくとも1つのセンサ素子(「センサ層」とも呼ばれる)の下または後ろにプリント回路として統合されているパッシブRFIDトランスポンダは、下流側の処理ユニットへのワイヤレスデータ伝送に使用される。ワイヤレスデータ伝送は、下流側の処理ユニットへの物理的な接続(ケーブル接続、電極)が不要であることを意味する。
【0020】
下流側でのデータ処理は、原則として当業者に知られている方法で行われる。本発明による可視部品の一実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子は、送信されるデータ量が関連するデータに低減されるようにデータ前処理を実行するよう設定される。
【0021】
可視部品の一実施形態では、パッシブRFIDトランスポンダは可視表面に印刷される。別の実施形態では、パッシブRFIDトランスポンダは、可視面上に配置されるキャリアフィルムに印刷される。キャリアフィルムは、特に、今日、着色用の完全なフォイルに使用されているようなフィルムであることができる。
【0022】
RFIDチップは、誘導活性化要素によって通電することができる。すなわち、パッシブRFIDトランスポンダと少なくとも1つのセンサ素子(「センサ層」)ヘの電圧供給は、誘導電圧供給を介して行われる。一実施形態では、複数の誘導型電圧供給装置が使用される。これは、自動運転の安全性に関する基本的な要件(法的要件の考慮)を満たしている。誘導性送信機による複数の電圧供給により、自動運転に必要な安全度の高い冗長性が提供される。
【0023】
可視部品の一実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子は、可視表面に印刷される。別の実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子は、可視面上に配置されるキャリアフィルムに印刷される。
【0024】
可視部品の一実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子は、放射線を受信するように設けられる。一実施形態では、放射線は赤外線である。別の実施形態では、放射線はレーダ波である。さらに別の実施形態では、放射線は可視域の放射線である。
【0025】
可視部品の一実施形態において、少なくとも1つのセンサ素子は、有機ポリマーを含む。最新のセンサ材料は、通常、有機高分子にて構成されている。これらは、さまざまなプロセスで製造することができる。必要な電子回路を印刷することができる。
【0026】
適切な波長変調を行うことで、異なる波長に感度を持つレンジ(レーダや赤外線など)を導入することができる。このようにして、異なる波長帯のセンサを同じ製造技術で製造することが可能である。センサ(レーダ用、赤外線用など)は、それぞれ有機材料という同じ基本原理にもとづく。
【0027】
一実施形態では、視覚部品は、異なる波長域の放射線を受信するように設定された少なくとも2つのセンサ素子(たとえば、レーダ用のセンサ素子と赤外線用のセンサ素子)にて構成される。
【0028】
一実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子は、平らであって、最大厚さが1~2μmである。一実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子は、複数の層にて構成され、それぞれの層の厚さが1μm未満である。一実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子は、5つの層により構成される。少なくとも1つのセンサ素子を平面的に配置することで、従来の電子部品群に存在した幾何学的な制約がなくなり、新しい設計展開が可能になる。個々のセンサ素子は、必要に応じて車両の周囲に自由に配置することができ、自由な表面形状を実現することができる。
【0029】
特別な実施形態では、パッシブRFIDトランスポンダと少なくとも1つのセンサ素子とは、車両に一時的にのみ取り付けられる自己粘着フィルム上に「モバイルセンサ」として配置される。
【0030】
本発明によれば、センサ活性材料のコーティングシステムへの統合、特にペイントシステムへの統合が提供される。本発明による有機ポリマーのセンサ素子が、たとえば、車両の前面またはフェンダの塗装システムに組み込まれる場合は、それらは次に、車両塗装のトップコートおよび/またはクリアコートで被覆され、したがって、トップコートおよび/またはクリアコートの下に配置されることができる。これにより、環境の影響から保護される。また、外部塗装系に配置されることで、屈折、回折、散乱などによる好ましくない信号の弱化や信号変化につながるインターフェースを回避することができる。
【0031】
可視部品の一実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子と基体の可視面とは、コーティング材料の共通層によって少なくとも部分的にコーティングされる。さらなる実施形態では、少なくとも1つのセンサ素子と基体の可視面とは、コーティング材によって完全に被覆される。
【0032】
本発明はまた、本発明による可視部品を製造するための方法に関する。この方法においては、基体上に一連の層を塗布する。この一連の層は、以下の通りである。
a.無線データ伝送のための少なくとも1つの素子を含む層
b.必要に応じて設けられる、少なくとも1つの信号増幅回路を含む層
c.必要に応じて設けられる、少なくとも1つの信号処理回路を含む層
d.少なくとも1つのセンサ素子を含む層
e.必要に応じて設けられる、少なくとも1つの波長変調器を含む層
f.必要に応じて行われる、カプセル化
【0033】
製造方法の一実施形態では、基体は、まず、洗浄、酸洗、不動態化、プラズマ活性化などの、塗装の下地処理として原則的に知られている処理工程を通過し、次に塗料が付与される。
【0034】
センサ層は、以下の順序で、基体上に塗布される。
1.無線データ伝送のための少なくとも1つの素子が、プリント回路の形で付与される。
2.必要に応じて、信号増幅回路および/または前処理回路が付与される。
3.少なくとも1つのセンサ素子が付与される。
4.必要に応じて、波長変調器が付与される。
5.必要に応じて、カプセル化が行われる。
【0035】
一実施形態では、信号増幅回路および/または信号前処理回路の成膜は、物理的気相成長法(Phisical Vapor Deposition,PVD)またはプラズマ支援化学気相成長法(Plasma Assisted Chemical Vapor Deposition,PACVD)を介して行われる。
【0036】
一実施形態では、センサ素子はPVDまたはPACVDによって付与される。別の実施形態では、センサ素子は印刷によって付与される。
【0037】
一実施形態では、センサ素子は、有機ELとして構成され、3~5層で構成される。一実施形態では、層は電極として機能する2つの層にて構成される。このようなセンサ素子の製造は、ドイツ特許出願公開第10 2018 100728号明細書に記載されている。
【0038】
一実施形態では、たとえばレーダ用またはIR用の波長変調器が用いられる。可視光には変調器は不要である。
【0039】
また、必要であれば、拡散気密性の高いカプセル化が行われる。
【0040】
本発明の製造方法の一実施形態では、その後、部品は通常の塗装工程に戻され、必要に応じてベースコートまたはクリアコートが施される。塗装されていない部品(ラジエータグリル、フロントガラスの内側、モバイルフィルムなど)の場合、可視部品をそのままアセンブリに供給することができる。
【0041】
本発明の製造方法では、印刷によって製造されるか、コーティングによって製造されるかにかかわらず、単一の層の厚さは、1μm未満である。基体上の層構造の全体、すなわちセンサ層の厚さは、最大でも1~2μmである。
【0042】
本発明の製造方法の利点の1つは、本発明による可視部品の、特に修理および交換のための、費用対効果の高い製造方法を提供することにある。また、本発明による製造方法では、異なる波長域、特に可視光、赤外線、レーダ用の複数のセンサを備えた要素を低コストで実現することができる。本発明のさらなる利点および実施形態は、本明細書から得られる。
【0043】
上述の特徴は、示されたそれぞれの組み合わせで使用されるだけでなく、本発明の範囲を離れることなく、他の組み合わせでまたはそれ自体で使用され得ることが理解される。
【国際調査報告】