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特表2022-540542マグネシウム合金およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】マグネシウム合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/00 20060101AFI20220909BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20220909BHJP
   C22C 24/00 20060101ALI20220909BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20220909BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220909BHJP
【FI】
C22C23/00
C22C23/02
C22C24/00
C22F1/06
C22F1/00 602
C22F1/00 630A
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021567860
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(85)【翻訳文提出日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2020058280
(87)【国際公開番号】W WO2021004662
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】19184999.1
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511262430
【氏名又は名称】エーカーエル ライヒトメタルコンピテンツェントラム ランソフェン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ネイガー、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】シムソン、クレメンス
(72)【発明者】
【氏名】フランク、シモン
(72)【発明者】
【氏名】グロッサルバー、アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ベッツ、アンドレアス
(57)【要約】
本発明は、マグネシウム合金に関する。高強度および高変形性を兼ね備えたマグネシウム合金を得るために、本発明によれば、15.0%~70.0%のリチウム、0.0%超のアルミニウム、および残余であるマグネシウムと製造に関連する不純物を含み(at%)、アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1:6~4:6であるマグネシウム合金が提供される。本発明は、マグネシウム合金の製造方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
15.0%~70.0%のリチウムと、
0.0%を超えるアルミニウムと、
必要に応じて、0.0~3.0wt%を超えるカルシウムと、
必要に応じて、0.0~3.0wt%を超える希土類金属、特にイットリウムと、
必要に応じて、3.0wt%~10.0wt%の亜鉛と、
必要に応じて、2.0wt%~10.0wt%のシリコンと、
残余であるマグネシウムおよび製造に関連する不純物と
を含み(at%)、
アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1.2:6~4:6である
マグネシウム合金。
【請求項2】
前記マグネシウム合金は、30.0%~60.0%、具体的には40%~50%のリチウムを含む(at%)、請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項3】
アルミニウムとマグネシウムとの前記比率は、2:6から3.5:6(at%)である、請求項1または2に記載のマグネシウム合金。
【請求項4】
前記マグネシウム合金は、カルシウムおよび希土類金属、具体的にはイットリウムを含み、前記カルシウムおよび希土類金属、具体的にはイットリウムの総量は、0.0~3.0wt%を超える、請求項1から3のいずれか一項に記載のマグネシウム合金。
【請求項5】
マグネシウム合金の強度及び/又は変形性を最適化するため、前記マグネシウム合金に対して熱処理を行う、請求項1から4のいずれか一項に記載のマグネシウム合金の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理を200℃より高い、具体的には200℃より高く400℃より低い温度で、20分より長く、具体的には1時間より長く行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載のマグネシウム合金を含む、または請求項5または6に記載の方法で得られる、フィードストック、半製品または素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金に関する。
【0002】
本発明はまた、マグネシウム合金の製造方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特に、マグネシウム合金は、密度が低く、機械的特性が優れているため、特に自動車産業および航空機産業の分野で頻繁に使用されている構造用合金または構造用材料を構成する。マグネシウム合金は、リチウム(Li)を添加することで延性を向上させることができることが知られており、ここで、リチウム量の増加に伴い、マグネシウム合金の内部には、六方晶結晶系から体心立方晶結晶系への変化が発生することが一般的に知られている。リチウム量の増加に伴って延性が著しく向上することを、滑り面の数の増加と関連することで解釈できる。しかし、この方法に付随して、マグネシウム合金の強度および耐食性が低下してしまうため、これらの欠点を軽減し、通常は少なくとも適度な強度と耐食性を実現するために、例えばアルミニウムまたは亜鉛などの他の合金元素を添加することが多い。
【0004】
このことは本発明によって対処される。本発明の目的は、高強度、特に高圧縮強度および優れた変形性を有するマグネシウム合金を特定することである。
【0005】
このようなマグネシウム合金を製造する方法を特定することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、その目的は、15.0%~70.0%のリチウムと、0.0%を超えるアルミニウムと、残余であるマグネシウムおよび製造に関連する不純物とを含む(at%)、具体的には上記成分から作られるマグネシウム合金によって達成され、ここで、アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1:6~4:6である。
【0007】
本発明の基礎は、特定の前述のアルミニウムとマグネシウムとの比率の範囲で、対応する量のリチウム(Li)だけでなく、必須量のアルミニウム(Al)を有するマグネシウム合金の前述の合金組成では、マグネシウム合金にマイクロスケールの微細構造または微細な、具体的には微細な層状微細構造が形成されるという知見にある。この特性の理論的根拠は、前述のアルミニウムとマグネシウムとの比率で起こるマグネシウム合金の共晶変態と考えられている。この微細な微細構造は、高強度、具体的には高圧縮強度を伴い、マグネシウム合金の優れた変形性が、対応する前述のマグネシウム合金中のリチウムの量で同時に確保されている。この場合、相図の配向組成または配向線は、具体的にはアルミニウムとマグネシウムとの比率(原子%、at%と略す)が約3:6であり、この比率では特に均質な微細構造または均質な微細層状微細構造または形態が見られるからである。この比率を含む範囲、特にはアルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1:6~4:6の場合、微細な、具体的には微細な層状微細構造または形態が様々な程度で見られ、従って、これは通常、マグネシウム合金の強度、具体的には圧縮強度、変形性または延性の様々な大きさと関連している。このような記載されている組成範囲で特殊な形態的特性により、高強度(具体的には圧縮強度)および優れた変形性を兼ね備えたマグネシウム合金を形成することが可能となる。
【0008】
有利なことに、マグネシウム合金は、30.0%~60.0%、具体的には40%~50%のリチウムを含んでいる(at%)ことが規定されている。その結果、顕著な強度と、特に顕著な変形性を実現することができる。これは具体的には、微細な構造を持った形態と、上記のリチウム範囲で体心立方晶結晶系に変化したこととの組み合わせによるものと思われる。マグネシウム合金が45%~50%、具体的には45%~48%のリチウムを含んでいる(at%)と、高強度と高変形性が特に強く現れる。
【0009】
通常、マグネシウム合金は、0.05%超、具体的には0.1%超、通常1%超のアルミニウムを含んでいる(at%)。
【0010】
マグネシウム合金をマグネシウムベースの合金として具現化すれば、使い勝手の良い構造用合金が実現できる。実際に一般的に使用されている表記法によると、マグネシウムベースの合金は、その合金量を重量パーセント(wt%)で表したときに、マグネシウムを主成分とするか、または最大の合金量を含むマグネシウム合金のことを示す。特に説明されたリチウムの量、具体的には上記のリチウムの量と組み合わせることで、非常に高い強度特性と顕著な変形性とを持つ実現可能な構造用合金を得ることができる。
【0011】
アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1.2:6~4:6、具体的には1.4:6~4:6、好ましくは1.5:6~4:6であると、高精細な微細構造、具体的には層状微細構造が得られることが示されている。アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1.8:6~3.5:6、具体的には2:6~3.5:6、好ましくは2.5:6~3.5:6であると、顕著な細さまたは微細な、具体的には層状微細構造を得るには有益である。これにより、特に高強度、具体的には高圧縮強度を得ることができる。特にアルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が2.8:6~3.3:6、好ましくは約3:6の場合、非常に均質な微細形態または微細構造が得られる。この目的のためには、マグネシウム合金が(at%)30.0%~60.0%のリチウムを含み、アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が2.5:6~3.5:6、具体的には2.8:6~3.3:6、好ましくは約3:6であると、特に有利である。また、マグネシウム合金に40.0%~60.0%のリチウムが含まれている(at%)と、特に顕著な均質性が得られる。
【0012】
述べられているアルミニウムとマグネシウムとの比率は、合金の製造、特に鋳造処理を使用する場合に典型的に見られるような対応した不確実性を伴い、従って、完全に正確な値として解釈することはできなく、むしろ、合金製造の分野、特に鋳造処理を使用する分野で、当業者が対応するマグネシウム合金を製造するために便宜的に適用するような、実際に有用な従来の丸め方をしていることが理解されるべきである。
【0013】
マグネシウム合金は、0.0超3.0wt%以下、具体的には0.0超2.0wt%以下、好ましくは0.0超1.5wt%以下のカルシウム(Ca)を含むと効果的であることが証明されている。このようにして、マグネシウム合金の耐食性を向上させることができる。一般的には、カルシウムの含有量範囲、特に上述の範囲の下限は、0.05wt%より大きい。特に、マグネシウム合金の表面に安定した酸化層が形成されることで、一般的に有利にマグネシウム合金の酸化傾向の低減を実現することができる。さらに、前述の量のカルシウムにより、マグネシウム合金の結晶粒微細化効果を利用または達成して、微細な微細構造の高安定性を実現し、マグネシウム合金の強度をさらに向上させることができる。マグネシウム合金に0.5~1.0wt%のカルシウムが含まれていると、高耐酸化性に加えて、強度の向上または強度特性の安定化を図ることができる。マグネシウム合金にカルシウムが含まれている場合、上記の効果は特にCaOの形成に基づくものである。従って、具体的には、カルシウムが合金量としてマグネシウム合金に添加されているか、またはCaOの形で少なくとも部分的に、特に優勢に、好ましくは完全にマグネシウム合金に含まれていることを提供することができる。こうして、マグネシウム合金中のカルシウムまたはCaOの均一な分布を促進することができる。従って、マグネシウム合金が、カルシウムについて上記の量のCaOを含んでいると、特に有利である。
【0014】
マグネシウム合金が0.0~3.0wt%、好ましくは1.0wt%~2.0wt%超の希土類金属、特にイットリウム(Y)を含んでいると、酸化傾向の低減に有利である。一般的に、希土類金属、特にイットリウムの含有量範囲、特に上記の範囲の下限は、0.05wt%超である。本明細書では特に、マグネシウム合金の中で発生するYの生成が関連している。従って、具体的には、イットリウムが合金量としてマグネシウム合金に添加されているか、またはYの形で少なくとも部分的に、特に優勢に、好ましくは完全にマグネシウム合金に含まれていることを提供することができる。従って、マグネシウム合金が、イットリウムについて上述した量のYを含んでいると有利である。
【0015】
特に、カルシウム、特にCaOの形で、希土類金属、特にイットリウム、好ましくはYの形で、それぞれ前述の含有量範囲でマグネシウム合金に含まれていれば、特に酸化傾向を抑えることができ、特にカルシウムは0.0wt%超、特に0.05wt%~1.5wt%超、イットリウムは1.0wt%~2.0wt%が有効であることが実証されている。
【0016】
マグネシウム合金がカルシウムと希土類金属、特にイットリウムを含む場合、カルシウムと希土類金属、特にイットリウムの総量が0.0超、特に0.05wt%超3.0wt%以下、好ましくは1.0wt%超2.5wt%以下であると、特に顕著な耐食性を得ることができる。
【0017】
マグネシウム合金の圧縮強度(特に室温)は、少なくとも300MPa、具体的には少なくとも350MPa、好ましくは少なくとも380MPa、特に好ましくは少なくとも400MPaであると有利である。これは、マグネシウム合金の微細構造の結果として、特に鋳造によるマグネシウム合金の製造のために、本発明に従って提供される合金組成物によって達成することができる。好ましくは、前述の値は、マグネシウム合金の最大圧縮強度、具体的には、圧縮降伏点または圧縮降伏強度に適用される。有利には、マグネシウム合金の圧縮強度または最大圧縮強度、或いは圧縮降伏点または圧縮降伏強度は、少なくとも410MPa、具体的には少なくとも430MPaとすることができる。これは、一般的には、特に以下に説明するような熱処理によって実現可能である。
【0018】
マグネシウム合金が優れた経年変化を有することが示されており、マグネシウム合金の強度、特に圧縮強度、及び/又は変形性は、マグネシウム合金の熱処理によってさらに最適化されるか、または好ましくは増大される。従って、有利には、マグネシウム合金の、特に室温での、時効後状態での比圧縮強度、特に最大比圧縮強度が、少なくとも300Nm/g、具体的には少なくとも330Nm/g、好ましくは少なくとも350Nm/gであることが提供される。これにより、時効後状態とは、マグネシウム合金の熱処理完成後のマグネシウム合金の状態を示す。これに有利な熱処理の境界条件は、特にマグネシウム合金の製造方法の一部として、以下にさらに説明されており、それに従って適用することができる。
【0019】
マグネシウム合金の上記材料特性、主に圧縮強度または比圧縮強度の値は、特に室温(通常は20℃より高く25℃より低く、通常は約20℃)を基準にしている。
【0020】
マグネシウム合金が18.0~24.0wt%、具体的には18.0~22wt%のリチウムと、15.0~30.0wt%、具体的には16.5wt%~28.0wt%のアルミニウムを含む場合、特に高強度、具体的には圧縮強度と有利に高変形性が得られることが示されている。本明細書で、カルシウムの添加量により、マグネシウム合金の硬度、特に実施される熱処理の一部としての硬度を最適化し、または目標とする方法で設定することができることも示されている。この目的のためには、マグネシウム合金が0.0wt%超、具体的には0.05wt%~2.5wt%超、具体的には0.1wt%~2.0wt%、好ましくは0.3wt%~1.5wt%のカルシウムを含むと有利である。このように、このリチウムおよびアルミニウムの含有量範囲で、特にカルシウムを用いて耐食性または酸化傾向に影響または改善を与えるだけでなく、マグネシウム合金の硬度にも影響を与える。これは特に、マグネシウム合金が18.0~22wt%のリチウムと、16.5~28.0wt%のアルミニウムと、具体的には0.1~2.0wt%、具体的には0.3~1.5wt%のカルシウムとを含んでいる場合に顕著になる。熱処理の間、硬度は一般的に熱処理の持続時間が長くなるにつれて増加するので、マグネシウム合金の硬度を熱処理の持続時間の関数として設定することができる。200℃より高く450℃より低い温度での熱処理の持続時間が1時間超、具体的には3時間超であれば、高硬度を得るには有益である。具体的には、マグネシウム合金が20wt%のリチウムと、15.0wt%~30.0wt%、具体的には16.5wt%~28.0wt%、特に好ましくは18.0wt%~26.0wt%のアルミニウムを含んでいれば、管理が容易で加工しやすい組成物またはマグネシウム合金が得られる。これは、上記のようにマグネシウム合金にカルシウムも含まれている場合に特に当てはまる。
【0021】
マグネシウム合金の機械的特性は、他の合金元素を添加することで、特定の用途に合わせて最適化することができる。マグネシウム合金の強度、特に圧縮強度を微調整するためには、マグネシウム合金が3.0wt%~10.0wt%の亜鉛を含むことが有益である。マグネシウム合金が7.0wt%~10.0wt%の亜鉛を含んでいれば、特に変形性を制限することなく、圧縮強度の最適化を図ることができる。亜鉛に代えて、或いは亜鉛と同時に、マグネシウム合金が2.0wt%~10.0wt%、好ましくは3.0wt%~7.0wt%のシリコンを含んでいると、有益である。
【0022】
本発明によるマグネシウム合金を製造する方法は、通常、マグネシウム合金の出発材料を混合し、液体または半液体相の段階から進んで、冷却する。本発明によるマグネシウム合金、またはマグネシウム合金を有する、またはマグネシウム合金から作られるフィードストック、半製品、または素子は、典型的な鋳造処理、例えば、金型鋳造処理、ダイ鋳造処理、連続鋳造処理、または永久金型鋳造処理を用いて容易に製造することができる。本発明によるマグネシウム合金の製造が、強度、特に圧縮強度、または変形性に関して、マグネシウム合金の微細構造または形態を最適化するための熱処理を含む場合、特に有利であることが判明している。
【0023】
本発明の他の目的は、本発明によるマグネシウム合金を製造する方法であって、マグネシウム合金の強度、特に圧縮強度、及び/又は変形性を最適化または向上させるために、マグネシウム合金の熱処理を行うことによって達成される。マグネシウム合金の熱処理によって、マグネシウム合金の強度、特に圧縮強度、および変形性をさらに最適化または増加させて、その結果特に目標とする方法で設定できるように、好ましくはマグネシウム合金の意図する用途に合わせて調整するようにできることが示されている。
【0024】
本発明による方法は、本発明によるマグネシウム合金の範囲内で、特に上述のように記載された特徴、利点、実施、および効果に対応して、または類推して具現化することができることを理解すべきである。また、特に後述するように、本発明に係る記載された方法、およびその個々の処理段階または製造段階に関する本発明によるマグネシウム合金についても同様である。
【0025】
熱処理は、200℃超、具体的には200℃より高く450℃より低い温度で、20分超、具体的には1時間超で行うと、強度、具体的には圧縮強度の顕著な向上に有益である。250℃より高く400℃より低く、好ましくは270℃より高く350℃より低い温度での熱処理が、強度、具体的には圧縮強度の顕著な向上に特に適していることが分かっている。本明細書で、熱処理は1時間(h)より長く、好ましくは1時間より長く10時間より短く、特に好ましくは1時間より長く6時間より短く行うと、効率的に強度を設定することができて有利である。300℃より高く350℃より低く、好ましくは320℃より高く340℃より低い温度で、2時間~5時間の熱処理を行うことで、マグネシウム合金の変形性を最適化しつつ、強度を持続的に向上させることに特に有効であることが判明されている。原理的には、熱処理の持続時間を長くすることはまた一般的であり得ることは理解されるべきである。しかし、機械的特性を時間的に効率よく最適化するためには、上記の熱処理持続時間が特に有効であることが示されている。
【0026】
本発明によるマグネシウム合金を有する、特にそれから作られるフィードストック、半製品、または素子は、本発明によるマグネシウム合金を製造するための本発明による方法を用いて得られるように実現されるのが利点である。本発明によるマグネシウム合金、または本発明による方法を用いて製造されたマグネシウム合金の説明、特徴、および効果によれば、マグネシウム合金で形成されたフィードストック、半製品、または素子は、有利に高い強度、特に圧縮強度、および優れた変形性も有する。
【0027】
以下に説明される例示的な実施形態から、追加の特徴、利点および効果が分かる。図面において参照される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係るマグネシウム合金の組成範囲が示されているMg-Li-Alの模式的な相図説明図である。
図2】本発明に係るマグネシウム合金からの複数のマグネシウム合金試験片の降伏応力図である。
図3】本発明に係るマグネシウム合金からのマグネシウム合金試験片の異なる倍率の走査型電子顕微鏡画像である。
図4】本発明に係るマグネシウム合金からのマグネシウム合金試験片の異なる倍率の走査型電子顕微鏡画像である。
図5】本発明に係るマグネシウム合金からのマグネシウム合金試験片の熱処理完成後の降伏応力図である。
図6】本発明に係るさらなるマグネシウム合金からのマグネシウム合金試験片の熱処理完成後の降伏応力図である。
図7】本発明に係るマグネシウム合金からのマグネシウム合金試験片の硬度図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、典型的な三元系の相図設計によるマグネシウム-リチウム-アルミニウム(Mg-Li-Al)の模式的な相図説明図(at%)であり、本発明によるマグネシウム合金の組成範囲または合金量の含有量範囲が示されている。相図図例では、アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が約3:6のMg-Li-Al合金の配向組成が点線Aで描かれているが、これは、本発明の根拠となる知見によれば、アルミニウムとマグネシウムのこの比率でのリチウムの含有量範囲が15.0at%~70.0at%の範囲で、特に均質で微細な、特に微細な層状の微細構造または形態が見られるからである。アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1:6~4:6で示されるこの比率を包含する範囲では、さらに、この微細なスケールまたは微細な構造化された微細構造が様々な程度で見られ、この範囲でのマグネシウム合金の有利に高い強度、特に圧縮強度、および優れた変形性を説明している。図1では、リチウムの組成範囲(at%)が15.0%~70.0%、アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1:6~4:6の範囲を、実線で描かれた四角形(参照番号1で示される)で分かりやすく示している。特に、リチウムが30.0%~60.0%(at%)、アルミニウムとマグネシウムとの比率が1:6~4:6の組成範囲(at%)で、顕著な強度と特に顕著な変形性が見られる。この組成範囲は、図1に点線で描かれた四角形で示されており、参照番号2で示されている。
【0030】
本発明によるマグネシウム合金を開発する過程で、マグネシウム合金の異なる合金組成、特に本発明で定義された対応する合金組成を用いて一連の試験が行われた。以下に、前述の組成範囲を代表するものとして、Mg-20%Li-15%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%)およびMg-20%Li-24%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%)から作製したマグネシウム合金試験片の特性を示す。マグネシウム合金試験片は、永久金型鋳造によって製造され、特に、直径5mmおよび長さ10mmの円筒形のマグネシウム合金試験片が製造された。マグネシウム合金試験片は、室温(約20℃)で圧縮試験を行い、その結果、変形度(%)の関数として、降伏応力(MPa)を表す降伏曲線を算出した。
【0031】
図2は、Mg-20%Li-15%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%)で作られたマグネシウム合金試験片を用いて、室温で圧縮試験を行った結果の降伏曲線を含む降伏応力図である。マグネシウム合金試験片の製造直後(鋳造時)のマグネシウム合金試験片の降伏曲線を、図2に実線で示すように、参照番号3で示して説明する。さらに、マグネシウム合金試験片の熱処理完成(時効後)後のマグネシウム合金試験片の降伏曲線を図2に点線で示すように、参照番号4で示して説明する。この目的のために、マグネシウム合金試験片に330℃で3時間の熱処理を行い、次いで圧縮試験によって降伏曲線を算出した。マグネシウム合金試験片の圧縮強度および変形性に及ぼす熱処理の影響は明らかであり、その結果、特に最終的な意図する用途に合わせて、熱処理を用いて圧縮強度と変形性を最適に設定する可能性がある。
【0032】
図3および図4は、Mg-20%Li-15%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%)から作製したマグネシウム合金試験片の走査型電子顕微鏡画像を、異なる倍率で示したものである。一方で、Al-Caと同定された軽い粒界相(白っぽい灰色)があり、他方で、粒界相に囲まれた領域、特にその領域の中央部、或いは混晶相の内部に顕著な微細な結晶構造または形態が見られ、特に図4に明らかに示されている。また、特に粒界相付近の微細構造が著しく異なっていることも確認できる。
【0033】
図5は、Mg-20%Li-15%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%)で作られたマグネシウム合金試験片を用いて室温で圧縮試験を行い、異なる熱処理温度で熱処理完成後のマグネシウム合金試験片を調べた結果の降伏曲線を示した降伏応力図である。270℃で4時間熱処理したときのマグネシウム合金試験片の降伏曲線を図5に点線で示し、参照番号5で示し、330℃で4時間熱処理したときのマグネシウム合金試験片の降伏曲線を図5に実線で示し、参照番号6で示した。熱処理温度がマグネシウム合金試験片の機械的特性に顕著な影響を与えていることは明らかであり、熱処理温度が330℃の場合、それよりも低い熱処理温度270℃の場合と比較して、圧縮強度が顕著に向上し、同時にマグネシウム合金試験片の優れた変形性も得られる。
【0034】
図6は、Mg-20%Li-24%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%)で作られたマグネシウム合金試験片を用いて室温で圧縮試験を行い、異なる熱処理温度で熱処理完成後のマグネシウム合金試験片を調べた結果の降伏曲線を示した降伏応力図である。270℃で4時間の熱処理を行ったマグネシウム合金試験片の降伏曲線を図6に点線で示し、参照番号7で示し、330℃で4時間の熱処理を行ったマグネシウム合金試験片の降伏曲線を図6に実線で示し、参照番号8で示して説明した。本明細書では、図5に示した結果と同様に、熱処理温度がマグネシウム合金試験片の機械的特性に顕著な影響を与えることが再び判明した。熱処理温度が330℃の場合、より低い熱処理温度である270℃と比較して、圧縮強度が向上し、同時にマグネシウム合金試験片の優れた変形性も得られる。
【0035】
図7は、Mg-20%Li-15%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%)で作られたマグネシウム合金試験片を用いて、室温(約20℃)でビッカース硬度試験を行った結果を示す硬度図で、マグネシウム合金試験片は、熱処理の持続時間を変えて熱処理完成後に検査されている。熱処理温度として、330°Cが使われた。硬度図では、複数回の測定によるビッカース硬度(HV 0.1)の平均値を、マグネシウム合金試験片の0分間(min)~300分間の異なる熱処理の持続時間tの関数としてそれぞれ示している。明らかに、熱処理の持続時間に応じて硬度が連続的に上昇し、特に60分間より長い熱処理の持続時間で高硬度が得られる。図3および図4に示している画像については、これらの特徴は、混晶相の内側の領域にカルシウムが拡散したことによって説明できる可能性がある。
【0036】
このように、本発明によるマグネシウム合金は、高強度と優れた変形性の両方を有利に示し、これらの両方は、特に熱処理によって最適化されるか、または好ましくは増加させることができる。具体的には、マグネシウム合金の硬度を最適化し、または決められた方法で設定することも可能である。本発明によるマグネシウム合金、或いは本発明によるマグネシウム合金を有する、或いは本発明によるマグネシウム合金から製造される素子は、従って、好ましくは目的に適うように、特に自動車産業、航空機産業、及び/又は宇宙産業において、堅牢で弾力性のある部品、特に構造部品を実現する可能性を提供する。
【0037】
[他の考えられる項目]
[項目1]
15.0%~70.0%のリチウムと、
0.0%を超えるアルミニウムと、
残余であるマグネシウムおよび製造に関連する不純物と
を含み(at%)、
アルミニウムとマグネシウムとの比率(at%)が1:6~4:6である
マグネシウム合金。
[項目2]
上記マグネシウム合金は、30.0%~60.0%、具体的には40%~50%のリチウムを含む(at%)、項目1に記載のマグネシウム合金。
[項目3]
アルミニウムとマグネシウムとの上記比率は、2:6から3.5:6(at%)である、項目1または2に記載のマグネシウム合金。
[項目4]
上記マグネシウム合金は、0.0~3.0wt%を超えるカルシウムを含む、項目1から3のいずれか一項に記載のマグネシウム合金。
[項目5]
上記マグネシウム合金は、0.0~3.0wt%を超える希土類金属、具体的にはイットリウムを含む、項目1から4のいずれか一項に記載のマグネシウム合金。
[項目6]
前記マグネシウム合金は、カルシウムおよび希土類金属、具体的にはイットリウムを含み、前記カルシウムおよび希土類金属、具体的にはイットリウムの総量は、0.0~3.0wt%を超える、項目1から5のいずれか一項に記載のマグネシウム合金。
[項目7]
上記マグネシウム合金の圧縮強度は、少なくとも300MPaであり、具体的には少なくとも350MPaである、項目1から6のいずれか一項に記載のマグネシウム合金。
[項目8]
時効後状態での上記マグネシウム合金の比圧縮強度は、少なくとも300Nm/gである、項目1から7のいずれか一項に記載のマグネシウム合金。
[項目9]
マグネシウム合金の強度及び/又は変形性を最適化するため、前記マグネシウム合金に対して熱処理を行う、項目1から8のいずれか一項に記載のマグネシウム合金の製造方法。
[項目10]
前記熱処理を200℃より高い、具体的には200℃より高く400℃より低い温度で、20分より長く、具体的には1時間より長く行う、項目9に記載の方法。
[項目11]
項目1から8のいずれか一項に記載のマグネシウム合金を含む、または項目9または10に記載の方法で得られる、フィードストック、半製品または素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】