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特表2022-540544微細スケールの共晶組織、具体的にはナノ共晶組織を有する合金、およびそのような合金の製造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】微細スケールの共晶組織、具体的にはナノ共晶組織を有する合金、およびそのような合金の製造
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20220909BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20220909BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20220909BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20220909BHJP
   C22C 23/04 20060101ALI20220909BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20220909BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20220909BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220909BHJP
   C22F 1/06 20060101ALN20220909BHJP
   C22C 9/04 20060101ALN20220909BHJP
【FI】
C22C21/02
B22D21/04
C22C23/02
C22C23/00
C22C23/04
C22C21/06
C22C21/12
C22F1/00 602
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/06
C22F1/00 682
C22C9/04
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 604
C22F1/00 611
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021568980
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(85)【翻訳文提出日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2020069131
(87)【国際公開番号】W WO2021005062
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】19184999.1
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/058280
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511262430
【氏名又は名称】エーカーエル ライヒトメタルコンピテンツェントラム ランソフェン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ネイガー、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】シムソン、クレメンス
(72)【発明者】
【氏名】グロッサルバー、アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】フランク、シモン
(72)【発明者】
【氏名】ベッツ、アンドレアス
(57)【要約】
本発明は、少なくとも3つの成分を有する合金組成と、共晶組織とを有する合金、具体的には軽金属合金であって、共晶組織は、合金の組成が合金の状態図の擬共晶点(pE)付近のフィールドにあり、結果として少なくとも85mol%の共晶組織が合金中に存在する条件下で、合金を液体状態から固体状態へと冷却することによって得られる、合金に関する。
合金はまた、このタイプの合金を製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つの成分を有する合金組成と共晶組織とを有する合金、具体的には軽金属合金であって、前記共晶組織は、前記合金の組成が前記合金の状態図の擬共晶点(pE)付近のフィールドにあり、結果として少なくとも85mol%の共晶組織が前記合金中に存在する条件下で、前記合金を液体状態から固体状態へと冷却することによって得られる、合金。
【請求項2】
前記共晶組織は、3μmより小さい、好ましくは1μmより小さい、前記共晶組織の相量の平均間隔を有することを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
最大限で5mol%、好ましくは最大限で3mol%の量で残存凝固を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の合金。
【請求項4】
10mol%より少ない、具体的には5mol%より少ない量で一次凝固を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の合金。
【請求項5】
前記一次凝固は、混晶相を有して形成されることを特徴とする、請求項4に記載の合金。
【請求項6】
8g/cmより小さい密度を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の合金。
【請求項7】
マグネシウム基合金、アルミニウム基合金、リチウム基合金、またはチタン基合金であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の合金。
【請求項8】
Al-Mg-Si合金であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の合金。
【請求項9】
前記Al-Mg-Si合金は、0.01wt%と5.0wt%との間の、具体的には約3.0wt%の亜鉛を含むことを特徴とする、請求項8に記載の合金。
【請求項10】
共晶組織を有する、合金、具体的には請求項1~9のいずれか一項に記載の合金、を製造するための方法であって、前記合金は少なくとも3つの成分を有する合金組成を有し、前記合金は、前記合金組成が前記合金の状態図の擬共晶点(pE)付近のフィールドにあり、結果として、固相への冷却の間に前記共晶組織が少なくとも85mol%の量で具現化されるような前記合金組成が提供される条件下で、前記共晶組織を形成するために前記合金の液体状態から開始して固体状態へと冷却される、方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の合金を有する、または請求項10に記載の方法を用いて得ることができる、原材料、半製品、または構造材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3つの成分を有する合金組成と、合金を液体状態から固体状態へと冷却することによって得られる共晶組織とを有する、合金、具体的には軽金属合金に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、共晶組織を有する、合金、具体的には軽金属合金を製造するための方法であって、合金は少なくとも3つの成分を有する合金組成を有し、合金は、共晶組織を形成するために合金の液体状態から開始して固体状態へと冷却される、方法にさらに関する。
【0003】
合金の鋳造特性または強度特性に影響を与えるために合金の組織の一部が共晶組織を有して具現化される場合、有利であり得ることは公知である。二元鋳造合金、すなわち、共晶ミクロ組織を有する2成分を有する合金は、工業的実用合金としてよく使用される。これらの合金は通常、それらの状態図における共晶点によって特徴付けられ、共晶点において、合金の液相および合金の2つの固相が互いと熱力学平衡にあるか、または合金が液相から冷却される際に液体状態から固体状態への直接遷移が起こり、ここで共晶組織が形成される。熱力学自由度の数f、成分の数N、および平衡相の数Pである、一定圧力での固体に関するギブズの相律f=N-P+1に従うと、これは、f=0の自由度の数に対応する。それによって、液相から固相への直接遷移は、微細でラメラ状の組織の形成をもたらすことが多い。
【0004】
同様に、三元合金系との関連では、共晶組織の実施形態を用いて強度特性を向上するために、三元共晶点に近い組成を有する合金を作製する試みも公知となっている。ギブズの相律f=N-P+1に従うと、これは、3つの成分および4つの相を有して、同様に同じくf=0自由度に対応する。しかしながら、実用において使用され得る合金量で顕著な微細さを有する共晶組織を作製するために、通常、大きい冷却速度がこのタイプの合金を形成するために必要とされ、析出硬化のための、他の元素と調和させた追加の組み合わせが、合金の強度を増大するために必要であることが多い。ほとんどの場合、この目的のために50K/s~200K/sの範囲の冷却速度が使用される。しかしながら、大きい冷却速度の要件は具体的には、このタイプの合金の技術的有用性を小規模の部品に限定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これは本発明によって対処される。本発明の目的は、高い強度および良好な変形性を有する、少なくとも3つの成分を有する合金を特定することである。
【0006】
本発明のさらなる目標は、このタイプの合金を製造するための方法を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
冒頭で挙げたタイプの合金を用いて、合金の組成が合金の状態図の擬共晶点付近のフィールドにあり、結果として少なくとも85mol%またはat%の共晶組織が合金中に存在する条件下で、共晶組織が得られる場合、目的は本発明に従って達成される。
【0008】
本発明の論拠は、合金の状態図における擬共晶点にある、またはその近傍にある、少なくとも3つの成分または元素を有する合金の組成を用いると、特に微細な大きさの、または微細に組織化された共晶組織が具現化され得、当該組織は具体的には、状態図における「通常の」共晶点にある選択された組成を有する合金よりも微細な共晶組織を有し得るという発見である。したがって、具体的には、低マイクロメートル範囲、およびとりわけナノメートル範囲の共晶組織の特徴的な組織間隔が実現され得、ナノ共晶組織とも呼ばれる。加えて、それによって形成された共晶組織は通常、主なまたは優勢なミクロ組織を構成すること、具体的には、多くの場合は小さい、または無視できるほど小さい一次凝固相および/または残存凝固相のみが、共晶点の近傍で、または共晶点の付近のフィールドで、具体的には共晶点において、生じるか、または全く生じないことが示されている。この、合金中の共晶組織の極めて微細なミクロ組織とそれの優勢な存在との組み合わせにより、高い強度、具体的には圧縮強度、および顕著な変形性の両方を有する合金が具現化される。表記においては、擬共晶点は典型的に、「e」または「pE」によって略記され、共晶点は「E」によって略記されように、表される。
【0009】
技術的には、三元状態図において、二元状態図から公知の液相線および固相線は典型的に、それぞれ、湾曲面の面積に対応し、二元相面積は相体積に対応する。三元状態図において、液相面積の交差する線は典型的に、液相境界線または一変系線とも呼ばれる共晶チャネルを形成し、共晶チャネルは、状態図の三元共晶点において終わる。それによって、擬共晶点は、鞍点を形成する液相境界線上の点を表す、すなわち、液相境界線に沿った局所的極値、および、境界単相フィールドに関連して、それに対する最短垂線を表す。
【0010】
2成分境界系、または、具体的には三元の、状態図の含有量の交点の表記において、二元共晶はまた、一貫性なく擬共晶点と呼ばれる。しかしながら、このタイプの術語的な名称は本発明の概念の意味ではなく、それは、専門語「擬共晶点」によって、明示的に意図されるものでも、意味されるものでもなく、それによって構成されるものでもない。具体的には、擬共晶点は、それの存在が、少なくとも第3の成分または第3の元素の追加または存在を必要とすることを特徴とする。
【0011】
ギブズの相律の観点から、擬共晶点pEは、三元合金系において、液相境界線に沿った局所的極値を表し、極値は、三元共晶Eより1大きい自由度の数、および単相凝固MCより1小さい自由度の数を有する。熱力学自由度の数f、成分の数N、および平衡相の数Pである、ギブズの相律f=N-P+1に従うと、これは、
【数1】
【数2】
【数3】
に対応する。この、三元共晶点Eに関する0の自由度と比較して増大した、擬共晶点pEでの1の自由度は、共晶点で形成されるミクロ組織と比較してしばしば最大で数桁までより微細な、擬共晶点の領域における共晶ミクロ組織の実施形態の原因であると考えられる。
【0012】
したがって、4つの成分を有する合金に関しては、液相境界線は2次元面積に対応し、擬共晶点は擬共晶線に対応する。4つより多い成分を有する、より多い成分の合金それぞれに関しては、関連する状態領域の次元数は同様に増加する。したがって、この文献の範囲内で、「擬共晶点」という名称は、三元合金の状態図における擬共晶点、および4つの成分を有する合金の状態図における対応する擬共晶線、または4つより多い成分を有する合金の状態図における対応する擬共晶多次元領域の両方を意味する一般的な用語として明確に理解されるべきである。したがって、この関連で、具体的には「擬共晶点」および「擬共晶領域」という名称は、同義的に使用される。それによって、三元合金系の擬共晶点は特定の実施形態を構成することが理解されるべきである。
【0013】
したがって、この説明に従うと、具体的には三元合金系に関して、ギブズの相律による、以下
【数4】
【数5】
は三元合金の状態図の擬共晶点に、または3つより多い成分の状態図の擬共晶点、具体的には擬共晶線もしくは擬共晶領域に当てはまる。
【0014】
したがって、擬共晶点、または少なくとも3つの成分Nを有する合金の状態図の擬共晶点における合金組成は、具体的には、ギブズの相律に従って、自由度の数fは0とN-1との間にあることを特徴とする。
【0015】
合金組成が、擬共晶点の近傍に、または擬共晶点の付近のフィールドに、具体的には擬共晶点、または上記点を表す鞍点にあり、結果として、少なくとも85mol%またはat%(それぞれモルパーセントおよび原子パーセントで示される)の共晶組織が合金中に存在する場合、合金の高い強度および顕著な変形性の両方のために十分であることが示されている。少なくとも90mol%またはat%、特に好ましくは少なくとも95mol%またはat%の共晶組織が合金中に存在する場合、好ましい。結果として、良好な変形性を有すると同時に強度が高いという有利な特性は、特に顕著なやり方で開発することができる。とりわけ、それによって、最大98mol%またはat%までを達成することができることが多く、結果として、合金の機械特性が実質上、共晶ミクロ組織によってのみ決定される。共晶組織は典型的に、液相-固相の変態において、または合金の凝固において形成する。
【0016】
合金の高い強度および顕著な変形性は、合金が三元合金である場合、および合金が4つの成分または少なくとも5つの成分を含む場合の両方で、達成可能である。具体的には、合金は、たとえば、実用目的に応じて、混晶硬化および/または析出硬化のための他の追加の成分の形態で、複数の成分を含み得る。合金が三元合金または四元合金である場合、高い強度および変形性を有する合金を具現化することは、特に簡単で実行可能である。
【0017】
共晶組織は通常、3μmより小さい、平均の特徴的な組織間隔またはそれの相量、具体的にはラメラの平均間隔を有する。それによって、平均間隔が2μmより小さい、具体的には1μmより小さい場合、特に顕著な強度および変形性が達成され得る。たとえば、合金の合金組成が、擬共晶点の化学量論的組成のより近傍にあるように選択される場合、これは達成され得る。それによって、平均間隔が800nmより小さい、具体的には600nmより小さい場合、特に高い強度が達成され得る。追加的または代替的には、相量の平均間隔は、合金が凝固している間の合金の冷却速度を変化させることによって影響を受け得る。
【0018】
合金が、最大限で5mol%またはat%、好ましくは最大限で3mol%またはat%、具体的には好ましくは最大限で2mol%またはat%の量で残存凝固を有する場合、有利である。このようにして、共晶組織によって有利に得られる前述の特性は、残存凝固の量によってわずかにのみ影響を受けるか、または全く受けない。残存凝固量は、合金組成が擬共晶点の化学量論的組成のより近傍にあるように合金組成を選択することによって、設定される。残存凝固は典型的に、共晶組織の形成後、液相の残存量が、もはや共晶ではない組織の形態で凝固するか、または形成されている相の数またはタイプが共晶凝固の終わりにおいて変化する、ミクロ組織量を表す。残存凝固の量は典型的に、形成された共晶組織によってもたらされる特性を限定する要因を構成し、その理由のために、残存凝固が可能な限り少なく保たれる場合、有益である。ここで、残存凝固が、網目状に、または網目組織の形態で具現化されず、むしろ好ましくは、存在する場合、互いから分離された島または単位の形態で具現化される場合、特に有益である。通常、残存凝固は、少なくとも1mol%またはat%の量で具現化されるが、好ましくはより少なくてもよい。
【0019】
合金が、10mol%またはat%より少ない、具体的には5mol%またはat%より少ない、好ましくは3mol%またはat%より少ない量で一次凝固を有する場合、顕著な強度および変形性のために好都合である。これは、共晶組織の非常に優勢な実施形態、または高い組織量の、それに応じて有利に達成され得る前述の特性を有する、共晶組織の実施形態を可能にする。一次凝固とは、共晶組織の形成の直前に生じ、共晶組織の形態では凝固しない、凝固したミクロ組織の一部を表し、一次凝固は、共晶組織の実施形態によって達成され得る特性の限定に関して前述の残存凝固ほど関係していないが、これもまた好ましくは可能な限り少なく保たれるべきである。通常、一次凝固は、少なくとも1mol%またはat%の量で具現化されるが、好ましくはより少なくてもよい。
【0020】
高い強度および特に顕著な変形性の実施形態に関して、混晶相を有するか、またはそれからできた、具体的には金属間化合物相を有しないか、またはそれからできていない、一次凝固が形成される場合、有益である。これは、特に実用しやすい強度および変形特性を達成するために、すべての合金系に該当する有利な条件であるように思われる。
【0021】
前述の残存凝固および/または一次凝固の量は、慣例の技術的なやり方で、シャイル-ガリバに従った熱力学計算を用いて、制御またはあらかじめ決定することができる。単にシャイル計算または方程式とも呼ばれるシャイル-ガリバ計算または方程式は、凝固中の合金中の合金量の分布を説明し、ここで、進行する凝固に関する局所平衡、および固相における拡散の無視が通常前提とされる。このタイプの計算は、冶金分野の慣例の技術的器具または教科書の知識を構成し、当業者には公知であると推定される。これは、J.A.Dantzigらによる教科書「Solidification」(ISBN:978-2-940222-17-9)に例示されている。
【0022】
合金が、8.0g/cmより小さい、具体的には7.5g/cmより小さい、好ましくは6g/cmより小さい密度を有する場合、有益である。したがって、合金は、特に構造部品としての実用に関して特に有利な強度対重量の比を有し得る。合金が軽金属合金として具現化される場合、特に有益である。したがって、合金の特に高い実用適性が達成され得る。この目的のために、合金が、5.0g/cmより小さい、具体的には3.0g/cmより小さい密度を有する場合、有利である。
【0023】
実用材料として実行可能な使用に関して、合金がマグネシウム基合金、アルミニウム基合金、リチウム基合金、またはチタン基合金である場合、有益である。
【0024】
合金が鋳造合金である場合、有利である。これは、具体的には前述の特性を有する、とりわけ構造部品の、特に実行可能な製造を可能にする。
【0025】
合金がAl-Mg合金である場合、効果的であることが証明されている。明確な意図された実用に応じて、合金は他の合金成分を含んでもよい。このようにして、実際の状況に特定の関連を有する実用部品、具体的には構造部品は、合金を有して、またはそれから作られて、製造され得る。ここで、合金がAl-Mg-Si合金である場合、特に有益である。有利には、合金はまた、亜鉛(Zn)を、具体的には0.01wt%より多い、典型的には1wt%より多い量で含み得る。したがって、合金の圧縮強度が最適化され得る。それによって、ほとんどの場合、合金は、15wt%より少ない、具体的には10wt%より少ない、好ましくは1.0wt%と5.0wt%との間の、特に好ましくは約3.0wt%の亜鉛を含む。
【0026】
合金がAl-Cu-Li合金、Al-Cu-Mg合金、Mg-Li-Al合金、Mg-Cu-Zn合金、Al-Cu-Mg-Zn合金、またはAl-Mg-Si-Zn合金である場合、強度および顕著な変形性の両方が特に有利である、高い実用適性を達成することができる。
【0027】
特に高い強度および変形性を示す、とりわけ構造部品の形態での高い実用適性を有する合金は、合金が、15.0%~70.0%のリチウム、0.0%より多い、具体的には0.01%より多い、好ましくは0.05%より多いアルミニウム、マグネシウム、および残部として製造関連の不純物を含み、具体的にはそれらでできており(at%で)、アルミニウムのマグネシウムに対する比(at%で)は1:6~4:6である、マグネシウム基合金である場合、達成することができる。
【0028】
このタイプのMg-Li-Al合金は、Mg-Li-Al状態図における擬共晶点の、合金組成の付近のフィールドに、または合金組成の近傍に、または合金組成において、合金組成を有し、結果として、微細に組織化された、またはミクロスケールの共晶ミクロ組織が達成され得る。微細スケールのミクロ組織には、高い強度、具体的には高い圧縮強度が付随し、同時に、マグネシウム合金におけるリチウムの対応する前述の量にて、マグネシウム合金の良好な変形性が存在する。それによって、状態図における配向組成または配向線は、具体的には、約3:6のアルミニウム対マグネシウムの比(原子パーセントで、at%と略記される)であり、これは特に均一の微細スケールまたは均一の微細ラメラ状の、ミクロ組織またはモルホロジが、この比において見出されるためである。
この比を包含する範囲において、なかんずく1:6~4:6のアルミニウム対マグネシウムの比(at%で)で、微細な、具体的には微細ラメラ状のミクロ組織またはモルホロジはまた、多様に顕著な度合いで見出され、それに応じて当該組織またはモルホロジには通常、強度の様々な顕著な大きさ、具体的には圧縮強度の大きさ、およびマグネシウム合金の変形性または延性が付随する。記述した組成範囲におけるこれらの特別なモルホロジの特徴のために、したがって、高い強度、具体的には圧縮強度、および良好な変形性の両方を有するマグネシウム合金の形成が可能となる。このマグネシウム合金およびそれの製造のための方法、ならびに原材料、半製品または部品、およびそれらの特定の実施形態として実現したものは、欧州特許出願第19184999.1号の一部、および国際出願PCT/EP2020/058280の一部として欧州特許庁に出願され、開示されており、当該開示はここに、本文献の開示においてその全体が含まれる。これは、とりわけ、上記出願に記述されるように、Mg-Al-Li合金が、30.0%~60.0%、具体的には40%~50%、好ましくは45%~50%、特に好ましくは45%~48%のリチウムを含む(at%で)場合に該当する。Mg-Al-Li合金が、0.05%より多い、具体的には0.1%より多い、通常1%より多いアルミニウムを含む(at%で)場合、さらに有利である。それによって、Mg-Al-Li合金は、アルミニウムのマグネシウムに対する比(at%で)が1.2:6~4:6、具体的には1.4:6~4:6、好ましくは1.5:6~4:6である場合、具体的にはラメラ状の、高度の微細性を有するミクロ組織を有して具現化され得ることが示されている。アルミニウムのマグネシウムに対する比(at%で)が1.8:6~3.5:6、具体的には2:6~3.5:6、好ましくは2.5:6~3.5:6である場合、顕著な微細性、または微細な、具体的にはラメラ状のミクロ組織にとって有益である。したがって、特に高い強度、具体的には圧縮強度が達成され得る。これは、2.8:6~3.3:6の、好ましくは約3:6の、アルミニウム対マグネシウムの比(at%)で特に当てはまり、当該比において、非常に均一の微細なモルホロジまたはミクロ組織を得ることができる。この目的のために、マグネシウム合金(at%で)が、30.0%~60.0%のリチウムであり、かつアルミニウム対マグネシウムの比(at%で)が2.5:6~3.5:6、具体的には2.8:6~3.3:6、好ましくは約3:6である場合、特に有利である。この関連で、具体的には前述の出願文献の図1に言及し、当該図において、Mg-Li-Al状態図における対応する配置が概略的に例示されており、その開示および関連する記載はまた、適宜本文献の一部と見なされるものである。特に顕著な均一性はまた、それによってマグネシウム合金が40.0%~60.0%のリチウムを含む(at%で)場合、達成可能である。前述の出願に記述され、また適宜本開示に組み込まれるように、Mg-Al-Li合金の特性は、カルシウム、希土類金属、具体的にはイットリウム、亜鉛、および/またはケイ素の量が、前述の出願に記述される対応する含有量範囲にて前述の出願に従って追加的に存在する場合、さらに最適化され得る。たとえば、このタイプの合金は、Mg-20%Li-15%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%で)またはMg-20%Li-24%Al-1%Ca-0.5%Y(wt%で)として具現化され得る。
【0029】
冒頭で挙げたタイプの方法を用いて、合金の状態図の擬共晶点付近のフィールドに組成があり、結果として、合金が固相へと冷却されるか、または凝固する際に、共晶組織が少なくとも85mol%またはat%の量で具現化されるような組成が提供される条件下で、本発明の他の目的は達成される。したがって、上述のように、合金は高い強度および顕著な変形性を有して具現化され得る。合金組成は、擬共晶点付近のフィールドで選択されるため、共晶相反応または相変態は、合金が液体状態から固体状態に冷却される際に、または液体から固体への遷移中に起こり、当該相反応または変態により、特に高度の微細性、または微細な組織を合金の主なミクロ組織量として有する共晶ミクロ組織が具現化される。
【0030】
本発明による方法は、本発明による合金の範囲内で、具体的には上述したように記載される特徴、利点、実施、および効果に対応して、またはそれらと同様に、具現化されてもよいことが理解されるべきである。同じことが、本発明による方法に関して、本発明による合金にも該当する。
【0031】
原材料、半製品、または部品は、有利には、本発明による、または本発明による合金を製造するための本発明による方法を用いて得ることができるような、合金を有して、具体的にはそれから作られて、実現される。本発明による合金の、または本発明による方法を用いて製造される合金の前述の説明、特徴、および効果に従って、合金を用いて形成される原材料、半製品、または部品はまた、有利に高い強度および良好な変形性を有する。
【0032】
追加の機能、利点、および効果は、以下に説明する例示的な実施形態から得られる。それによって参照される図面において、
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】例示的合金の合金組成が表されたAl-Mg-Si系の状態図の例証を示す。
図2】例示的合金の合金組成が表されたAl-Mg-Si系の状態図の例証を示す。
図3図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図4図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図5図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図6図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図7図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図8図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図9図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図10図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図11図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図12図1および図2からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図13図1図2、および図10からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図14図1図2、および図11からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図15図1図2、および図6からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図16図1図2、および図7からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図17図1および図3からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図18図1および図4からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図19図1図2図8、および図9からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図20図1図2、および図12からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図21】例示的合金の合金組成が描かれているAl-Cu-Mg系の状態図の例証を示す。
図22図21からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図23図21および図22からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図24】例示的合金の合金組成が表されたMg-Al-Li系の状態図の例証を示す。
図25図24からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図26図24からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図27図24からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図28図24および図26からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図29図24および図27からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図30】例示的合金の合金組成が描かれているMg-Cu-Zn系の状態図の例証を示す。
図31図30からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図32図30からの例示的合金の光学顕微鏡画像を示す。
図33図30図32からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図34】Al-Cu-Mg-Zn系からの例示的合金の電子顕微鏡画像を示す。
図35図34からの例示的合金の降伏応力図を示す。
図36】Al-Mg-Si-Zn系からの例示的合金の相量の図を示す。
図37図36からの例示的合金のためのシャイル-ガリバ計算の固体量の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明による合金の開発の過程において、様々な合金系の種々の合金組成を用いて一連の試験を行った。それによって、それぞれの場合において、それぞれ関連する状態図の擬共晶点のフィールドにある、またはその付近の合金組成を有する合金を選択し、合金を液体状態から固体状態に冷却することによって共晶組織を形成させた。次いで、顕微鏡法を用いてミクロ組織を検討した。加えて、様々な膨張計試験シリーズおよび圧縮試験を、基準として室温約20℃にて行ったのであり、ここで、開始長さLに対する長さの変化量ΔL、すなわち、
【数6】
として示され、それに応じて無次元の、変形度の関数としてMPaで降伏応力を描写する降伏曲線が、結果として算出された。
【0035】
以下で、前述の概念を幅広く例証するために、合金系Al-Mg-Si、Al-Cu-Mg、Mg-Li-Al、Mg-Cu-Zn、Al-Cu-Mg-Zn、およびAl-Mg-Si-Znからの例示的合金に関する試験結果を、代表的な様式で示す。
【0036】
Al-Mg-Si系:
図1および図2は、Al-Mg-Si系の三元状態図の例証を示し、図2は、関係する合金組成範囲を詳細に示す目的のための、状態図からのセグメントの例証である。Al-Mg-Si系からの10個の例示的合金を製造し、検討した。Al-Mg-Si系からの例示的合金の合金組成はそれぞれ、重量パーセントおよび原子パーセントで、表1における例示的合金1から例示的合金10として表され、参照番号1から参照番号10に対応し、当該番号は具体的には、図1および図2からの状態図におけるそれぞれの合金組成を表す。
【表1】
【0037】
図1および図2からの状態図に見ることができるように、例示的合金8~10はそれぞれ、擬共晶点pE付近のフィールドに配置された組成を有し、ここで、例示的合金8および9は、擬共晶点に大変近くに位置付けされ、例示的合金10は、擬共晶点pEからいくらかより大きい距離に位置付けされる。それによって、例示的合金9の合金組成は実質上、擬共晶点pEにある。擬共晶点pEは、図2において、描かれた参照線によって例証されており、ここで、擬共晶点pEは、AlMgの方向における一変系線と参照線との交点に位置している。図2において、例示的合金3~5は状態図の共晶点E付近のフィールドに配置されていることも見ることができる。さらに、例示的合金6および7は比較として与えられており、それらの組成は擬共晶点pEから大きい距離に位置しており、図2に明らかであり、ならびに例示的合金1および2が与えられており、当該合金は、液相境界線のすぐ近傍に位置付けられているが、擬共晶点pEおよび共晶点Eの両方からより大きい距離に位置付けられており、図1に明らかである。
【0038】
図3から図12において、それぞれのミクロ組織を例証するために、例示的合金1~10の光学顕微鏡画像が示される。図13から図20において、降伏応力図が、室温約20℃にて行ったAl-Mg-Si例示的合金の膨張計試験シリーズの結果として例証されている。降伏応力曲線が示され、ここで、降伏応力はMPaで、変形度の関数として例証されている。降伏応力図のそれぞれは、例示的合金1~10のうちの1つの合金組成に対応する合金組成を有する合金試料からの複数の降伏応力曲線を示す。したがって、それぞれの降伏応力図は、例示的合金1~10のうちの1つの合金組成を表す。
【0039】
図10から図12において見ることができるように、擬共晶点pEの近傍に、またはその付近のフィールドに合金組成を有する例示的合金8~10の顕微鏡画像は、優勢な、微細に組織化された、または微細スケールの共晶組織を示す。比較すると、例示的合金4および5の顕微鏡画像を図6および図7において見ることができ、当該合金は、共晶点Eの近傍に合金組成を有する。これらは、例示的合金8および9のミクロ組織と比較して、粗い組織を含む共晶組織の顕著な度合いを示す。合金組成が、液相境界線から大きい距離に、しかしその領域中に位置している、図3および図4に示される例示的合金1および2の顕微鏡画像と、これらを比較すると、これらがより粗い共晶ミクロ組織を示すことを認めることができる。図8および図9において、例示的合金6および7の顕微鏡画像も示され、当該合金は、擬共晶点pEの遠い領域に、またはそこから大きい距離に合金組成を有する。共晶組織は、すでに存在しているが、比較的粗い組織を有し、著しく優勢さが劣り、より少ない量であることを見ることができる。加えて、残存凝固の高い量も明らかであり、図8および図9において薄いチャネルの形態で識別可能である。
【0040】
図13から図14は、擬共晶点pEの近傍に、またはその付近のフィールドに合金組成を有する例示的合金8および9の降伏応力図を示す。例示的合金8および例示的合金9の両方が、高い強度、具体的には圧縮強度、および降伏応力が300MPaと400MPaとの間である顕著な変形性を有することを見ることができ、ここで、図13に例証される、例示的合金8は特に、最大400MPaまでの降伏応力を示す。比較すると、例示的合金4および5の降伏応力図を図15および図16において見ることができ、当該合金は、共晶点Eの近傍に合金組成を有する。例示的合金4および5も、高い強度、および個々の試料を少なくとも条件として高い変形性を示し、ここで、降伏応力は、約300MPaで、例示的合金8および9の降伏応力より下にあるか、または、図16に例証される例示的合金5に関連して、一貫してそれより下にある。この結果は、特に共晶点Eのフィールドに合金組成を有する例示的合金の共晶組織と比較しても、擬共晶点pEのフィールドに合金組成を有する例示的合金が、それの共晶組織の特に高い微細組織化を示すという発見と相関関係にあり、このことはまた、擬共晶点のフィールドにある合金のより高い強度および顕著な弾性を説明する。
【0041】
図20において、その合金組成が、擬共晶点pEからいくらかより大きい距離で配置されている例示的合金10の降伏応力図が示される。わずかにより低い降伏応力値、および特に個々の測定結果間でのより大きい変動性が明らかである。図17および図18において、比較すると、液相境界線の領域にあるが、擬共晶点pEおよび共晶点Eの合金組成の両方から距離が置かれた合金組成を有する例示的合金1および例示的合金2は、著しくより不良な強度および変形特性を有することがさらに示される。図19において、その合金組成が、状態図における擬共晶点pEの合金組成から比較的大きい距離に位置付けられている、例示的合金6および7の合金組成に対応する降伏応力図が追加で示される。対応する降伏応力曲線は、例示的合金8に関して図13において示される曲線の降伏応力などの、擬共晶点pEにより近い合金組成の降伏応力と比較して、明らかに低減した降伏応力を示す。
【0042】
擬共晶点pE付近のフィールドにある合金組成は、微細に組織化された共晶ミクロ組織、それに応じて高い強度および顕著な変形性に対応することは明らかである。
【0043】
詳細な図において、AlMg方向である一変系線または液相境界線に対して、図2からの状態図における例示的合金8は、MgSi領域において上記線の上方にあることを見ることができ、このために、合金が液相から冷却される際に、具体的にはMgSiの望ましくない形成から凝固が始まり、または金属間化合物のMgSi相を有する一次凝固が形成される。金属間化合物相を有して形成された一次凝固は、高い強度および変形性の両方の実施形態に対して悪影響を有することが示されている。したがって、特に有利な強度および変形性を達成するためには、一般に、金属間化合物相を有するかまたはそれからできる一次凝固を可能な限り小さく維持するか、またはそれを阻止するように努める。しかしながら、例示的合金8に関する一次凝固は非常にわずかに顕著であるため、機械特性に対して実質上制限をかけない。図10における例示的合金8の顕微鏡画像は、この場合、Al混晶相およびMgSiを有して形成された、微細共晶組織を有する広範囲の領域を示す。有利には、Al混晶相の残存凝固も、ほんのわずかにのみ顕著であるか、またはほとんど存在しない。共晶組織で達成可能な、有利である強度および変形特性を害することのないように、残存凝固を可能な限り少なくしておくか、それを阻止するように努める。具体的には、残存凝固は網目状に結合していないか、または互いから分離した単位の形態で具現化されており、このことは同様に高い強度および顕著な変形性の有利な実施形態を高める。したがって、例示的合金8は、微細共晶組織に基づいて、少ない残存凝固および少ない一次凝固の両方に関して、強度特性および変形性を制御することによく適していることが確認される。これは、混晶相を有するか、またはそれからできており、金属間化合物または相を有しない一次凝固が形成されるような合金組成が選択される場合、すなわち、例示的合金8については、一次凝固がAl混晶相領域に位置する場合、さらにより最適化することができる。
【0044】
例示的合金8のこの図、および付随する説明も、同様に例示的合金9に該当する。例示的合金9は、実質上、擬共晶点pEにある合金組成を有する。図11に見ることができるように、例示的合金9はまた、残存凝固および一次凝固がほとんどない微細共晶組織を示す。例示的合金8と比較していくらかより低い強度は、Al混晶相におけるMgのより低い溶解量によって説明される。強度は、混晶相中に溶解される元素の量を変化させることによって有利に達成することができるが、上述のように、一次凝固は好ましくは、金属間化合物相の領域にではなく混晶領域にある。
【0045】
比較すると、図12に見ることができるように、例示的合金10はまた、微細共晶組織を示すが、Al混晶相およびSiの形態でより多い量の残存凝固を有し、残存凝固も網目状の形をとっている。低いMg含有量に起因して、Mgの大部分はMgSiの形態で結合しており、その結果として、Al混晶相の混晶硬化が非常にわずかに顕著である。これは、図20からの降伏応力図におけるより低い降伏応力に対応する。
【0046】
合金組成に関連して擬共晶点pEから距離を置いて配置された例示的合金のさらに詳細な図において、図6および図7に例証される、共晶点Eのフィールドにある例示的合金4および5は、低量の一次凝固を含み、当該一次凝固の付近に、2相を有して形成された比較的粗い共晶組織が配置されていることを見ることができる。残りの優勢な量の共晶組織は、混晶相、AlSiおよびSiを有して形成された三元共晶として具現化されている。機械特性、具体的には強度および変形性は、具体的には粗い二元共晶組織または相によって、悪影響を受ける。微細共晶三元組織は、ある程度局所的に存在し、当該組織はいくつかの場所において著しく粗い組織に遷移する。共晶点Eにある、またはそれのフィールドにある合金組成と比較して、擬共晶点pEにある、またはそれのフィールドにある合金組成を有する例示的合金のミクロ組織間の相違は、それに応じて向上された、擬共晶点pEにある、またはそれの付近のフィールドにある合金組成の、強度および変形特性という発見と相関関係にある。
【0047】
図8および図9に示される関連する顕微鏡画像で、例示的合金6および7は、粗い、多角形状の一次凝固を含むことをさらに見ることができる。これは、状態図のMgSi領域における関連する合金組成の位置付けによって説明され、当該位置付けの結果として顕著なMgSi一次凝固が形成される。粗い共晶組織はそれらの間で、高量の残存凝固も、識別可能であり、当該残存凝固は、図8および図9における薄い領域またはチャネルから明らかである。この組織的モルホロジに起因して、例示的合金6および7は、具体的には亀裂発生および脆性破壊と関連する、著しく低減された強度および降伏応力を示す。
【0048】
図2において、Al-Mg-Si合金の実施形態に関して特に有利な領域が、灰色の平面領域として描かれている。これは、例示的合金8および9の前述の合金組成を本質的に指し、またはそれらに対応するが、混晶相が一次凝固として具現化され、具体的には金属間化合物相が具現化されないような合金組成の変形を有する。これは、顕著な変形性を有する特に高い強度の実施形態を可能にする。したがって、このタイプのAl-Mg-Si合金の特に有利な実施の範囲は、Al-Mg-Si合金がAl-Mg-Si状態図における擬共晶点付近のフィールドに配置される場合、保証され、ここで、状態図における合金組成は、前述の図2の状態図の擬共晶点から開始して、増加するAl量の方向に向く、対応する一変系線側に配置される。
【0049】
Al-Cu-Mg系:
図21は、Al-Cu-Mg系の三元状態図の例証を示す。Al-Cu-Mg系からの1つの例示的合金を製造し、検討した。関連する合金組成は、重量パーセントおよび原子パーセントで、表2における例示的合金13として表され、参照番号13に対応し、当該番号は具体的には、図21からの状態図における合金組成を表す。
【表2】
【0050】
図21からの状態図に見ることができるように、例示的合金13は、擬共晶点pE付近のフィールドに配置された合金組成を有する。関連するミクロ組織は、光学顕微鏡画像を用いて図22において例証されている。非常に微細スケールの共晶ミクロ組織、および混晶相を有して形成された低量の一次凝固が明らかである。図23において、Al-Cu-Mg例示的合金13の膨張計試験シリーズの結果として降伏応力図が示され、ここで、前と同じように、降伏応力はMPaで、変形度の関数として例証されている。非常に高い強度および降伏応力が達成されていることは明らかである。破断における伸びも、この合金系に関して技術的に関係のある範囲にある。強度および変形性は、微細共晶ミクロ組織に、および具体的には低量の一次凝固に対応する。
【0051】
Mg-Al-Li系:
図24は、Mg-Al-Li系の三元状態図の例証を示す。Mg-Al-Li系からの3つの例示的合金を製造し、検討した。Mg-Al-Li系からの例示的合金の合金組成はそれぞれ、重量パーセントおよび原子パーセントで、表3における例示的合金14、15、および16として表され、参照番号14、15、および16に対応し、当該番号は具体的には、図24からの状態図におけるそれぞれの合金組成を表す。
【表3】
【0052】
図24からの状態図に見ることができるように、例示的合金14~16はそれぞれ、擬共晶点pE付近のフィールドに配置された合金組成を有する。擬共晶点pEは、図24において、描かれた参照線によって例証されており、ここで、擬共晶点pEは、一変系線または液相境界線と参照線との交点に位置している。CaY、具体的には約1wt%のCaおよび約0.5wt%のYを加えると、Mg-Al-Li系からの例示的合金の酸化特性は、組織がどの程度顕著であるかに悪影響を与えることなく実行可能に安定化され得る。
【0053】
状態図において、例示的合金14および15は、擬共晶点の近辺でいくらかより近い距離にあり、例示的合金16はいくらかより遠くにあり、ここで、例示的合金14の合金組成は、おおよそ擬共晶点pEに位置付けられている。現在利用可能なデータによれば、例示的合金14~16は、具体的にはそれらが体心立方格子bccを形成するような混晶領域に存在する。
【0054】
図25から図27において、ミクロ組織はそれぞれ、顕微鏡画像を用いて可視にされている。図25および図26からの組織モルホロジは、光学顕微鏡ではもはや解像され得ない極めて微細スケールの組織の実施形態を示す。それによって認識できる粒界は酸化不純物に帰することができる。例示的合金16のミクロ組織を、走査電子顕微鏡法を用いて検討したのであり、図27に例証される。図27に明らかであるのは、一方で、Al-Caとして識別される薄い粒界相(白っぽい灰色)、および他方で、粒界相によって囲まれた領域における、具体的には上記領域の中心セクションにおける、または混晶相の内部における、顕著な微細結晶性組織またはモルホロジであり、具体的には図27からの右側の画像において明確に見ることができる。図24からの状態図において、例示的合金16の合金組成は、一変系線および擬共晶点pEから比較的遠い距離にあるように見える。しかしながら、この場合において、確立した技術的知見によれば、状態図における、例示的合金16も配置されている、体心立方格子bccの領域における勾配は、非常に平坦であり、3つの元素Mg、Al、およびLiも互いに高い溶解度を示すことが留意されるべきである。したがって、擬共晶点付近の、有利な微細スケールの共晶ミクロ組織が高量で具現化され得る、そのような広いフィールドが結果として生じる理由を説明することが可能である。
【0055】
図28および図29は、膨張計試験シリーズの結果として、例示的合金15および16の降伏応力図を示し、ここで、前と同じように、降伏応力はMPaで、変形度の関数として例証され、図28は例示的合金15に関する降伏応力曲線を示し、図29は例示的合金16に関する降伏応力曲線を示す。例示的合金の両方が、識別された微細共晶ミクロ組織に対応して、高い強度および降伏応力、ならびに顕著な変形性を有することは明らかである。例示的合金16に関する図29において、熱処理によるさらなる特性最適化の可能性も例証されている。
【0056】
図29は、図29に実線で描写され、参照番号16-1で表される、例示的合金16の製造(鋳造品として)直後の合金試料の降伏曲線、および追加的に、図29に破線で描写され、参照番号16-2で表される、例示的合金16の熱処理(時効の)を行った直後の例示的合金試料の降伏曲線を示す。この目的のために、例示的合金16の試料を、330℃で3時間、熱処理に供し、次いで、圧縮試験を用いて降伏曲線を算出した。強度、具体的には圧縮強度、および変形性への熱処理の明確な影響は明らかであり、その結果として、熱処理を用いて圧縮強度および変形性を最適化されたやり方で、具体的には起こり得る意図された実用のために、設定する潜在能力が存在する。
【0057】
本文献において先に上で説明したように、合金が、15%~70.0%のリチウム、0.0%より多い、具体的には0.01%より多い、好ましくは0.05%より多いアルミニウム、マグネシウム、および残部として製造関連の不純物を含み、具体的にはそれらでできており(at%で)、アルミニウムのマグネシウムに対する比(at%で)は1:6~4:6である、マグネシウム基合金である場合、高い実用適性を有する合金の実現に有益であると確認されている。両方が欧州特許庁において出願された、欧州出願特許第19184999.1号の範囲内、および国際出願PCT/EP2020/058280の範囲内に示されるように、例示的合金16は、この合金の定義の代表例として見ることができる。ここで再度、具体的には、これらの出願のそれぞれからの図1に言及する。図24において、対応する、1:6のアルミニウム対マグネシウムの比(at%で)は破線で描かれている。それによって、前述の、1:6~4:6のアルミニウム対マグネシウムの比の範囲(at%またはmol%で)は、図24からの状態図において、この線の左側に位置しており、具体的には、擬共晶点pE付近のフィールドにおいて特定の実施形態を構成する。
【0058】
実用合金として使用可能であるMg-Li-Al合金のための、具体的には構造部品のための、特に有利な実施範囲は、Mg-Li-Al合金がMg-Li-Al状態図において1:6のアルミニウム対マグネシウムの比(at%で)を示す線と一変系線または液相境界線との間の、具体的には前述のLi含有量範囲を有する、領域において配置される場合、保証される。このタイプの範囲は、図24からの状態図において灰色の平面領域として表される。
【0059】
すでに、先にAl-Si-Mg系からの例示的合金の範囲内でそうであったように、合金組成が擬共晶点pEのフィールドにあり、それに加えて好ましくは混晶相を有する、またはそれでできた一次凝固を含むような合金組成が好ましくは選択されること、すなわち、状態図において対応する合金組成が混晶領域に位置付けされることが明白になる。
【0060】
Mg-Cu-Zn:
図30は、Mg-Cu-Zn系の三元状態図の例証を示す。Mg-Cu-Zn系からの1つの例示的合金を製造し、検討した。関連する合金組成は、重量パーセントおよび原子パーセントで表4における例示的合金17として表され、参照番号17に対応し、当該番号は具体的には、図30からの状態図における合金組成を表す。
【表4】
【0061】
図30からの状態図に見ることができるように、例示的合金17は、擬共晶点pE付近のフィールドに配置された合金組成を有する。関連するミクロ組織は、光学顕微鏡画像を用いて図31および図32において例証されている。光学顕微鏡の解像度の限度にある非常に微細スケールの共晶ミクロ組織が明らかである。ここで、比較的多い量の一次凝固を見ることができる。したがって、擬共晶点pEにさらにより近い、または一変系線もしくは液相境界線により近い合金組成が選択される場合、高い強度および変形性に関して有利である。
【0062】
図33において、例示的合金17の膨張計試験シリーズの結果として降伏応力図が示され、ここで、前と同じように、降伏応力はMPaで、変形度の関数として例証されている。顕微鏡画像においてはっきりと見られる顕著な量の一次凝固に基づいて、しかしながら、擬共晶点pEにさらに近い合金組成を選択することによって、さらに向上され得る高い強度および降伏応力が達成されることが明らかである。図33において、それによって、参照番号17-1で表される、例示的合金17の製造(鋳造品として)直後の例示的合金17の降伏曲線が示され、参照番号17-2で表される、熱処理を行った後の例示的合金17の降伏曲線も示される。この目的のために、例示的合金17の試料を、350℃で4時間、熱処理に供し、次いで、圧縮試験によって降伏曲線を算出した。強度および変形性への熱処理の明確な影響は明らかであり、その結果として、熱処理を用いて強度および変形性をさらに最適化する潜在能力が存在する。
【0063】
次いで、四元合金系および四元共晶の検討も実施した。この目的のために、合金系Al-Cu-Mg-Zn、および具体的にはAl-Mg-Si-Znを考察した。
【0064】
Al-Cu-Mg-Zn:
【0065】
合金系Al-Cu-Mg-Znに関して、擬共晶点pEのフィールドにある例示的合金を製造し、検討した。合金組成は、重量パーセントおよび原子パーセントで表5における例示的合金18として表され、参照番号18に対応する。
【表5】
【0066】
共晶ミクロ組織を検討するために、図34に示される、例示的合金18の電子顕微鏡画像を記録した。具体的にはナノメートル範囲での組織寸法を有し、写真の中心にある広い粒状の領域として図35からの画像の右側に明確に見ることができる、微細に組織化された共晶組織が明らかである。
【0067】
これは、4つの成分または元素を有する系における二元共晶組織、したがって、冒頭で説明した熱力学自由度fの増加であり、1~3である(四元共晶)。
【0068】
図34において、サブ組織は一次領域(灰色の)に識別可能であり、ここで、これらは、固体状態での等化学量論的な組織変態(bccからfccへの)のアーチファクトである。それらは、強度および変形性に対する直接的な影響の観点からは取るに足らない。混晶相(薄灰色から白っぽい色の)の形態での比較的多い量の一次凝固、および具体的にはラーベス相の形態での金属間化合物二次相(黒色の)も見ることができる。
【0069】
図35は、例示的合金18の膨張計試験シリーズの結果として降伏応力図を示す。参照番号18-1で表される、熱処理が完了する前の降伏曲線、および参照番号18-2で表される、熱処理が完了した後の降伏曲線が描写されており、ここで、前と同じように、降伏応力はMPaで、変形度の関数として例証されている。例示的合金18が、非常に高い強度を、同時に存在する破断における伸びとともに示すことは明らかであり、ここで、変形性は熱処理を用いて変動させることができる。
【0070】
存在する顕著な一次凝固および二次相は、脆性増大要因であると考えられるべきであり、したがって、これらの量を、強度および変形性をさらに向上するために、たとえば、合金組成の距離を低減することによって、または合金組成を状態図における擬共晶点pEにさらに近づけることによって、さらに低減することが有利である。
【0071】
Al-Mg-Si-Zn:
合金系Al-Mg-Si-Znに関して、擬共晶点pEのフィールドにある例示的合金を、シミュレーションによって検討した。合金組成は、表6における例示的合金19として表され、参照番号19に対応する。
【表6】
【0072】
シミュレーションの結果として、相量は、例示的合金19の温度の関数として図36に例証される。共晶組織の実施形態に対応する固相から液相への直接遷移が明らかである。図35において、それに対応して、シャイル-ガリバ凝固計算を用いて決定された、温度の関数としての固体量の例証が示されている。示される平衡曲線およびシャイル-ガリバ凝固曲線は、4つの成分または元素を有する二元共晶凝固を示す合金系を描写する。それに応じて、したがって、前と同じように、1~3の熱力学自由度fの増加がある。図37において、シャイル-ガリバ計算は、3mol%またはat%より少ない量の混晶相の形態での非常に少量の一次凝固を、およびそれに加えて、実質上存在しない残存凝固を示す。
【0073】
したがって、合金組成を擬共晶点pEのフィールドに位置付けることに加えて、強度特性および変形特性をさらに増大させる、または向上するために、一次凝固および/または残存凝固の量を有利に最小限にすることもできることは同様に明白である。
【0074】
したがって、液体状態から固体状態に冷却することによって作られる共晶組織を有する、3つより多い成分を有する本発明による合金は、微細に組織化された共晶組織を有して、具体的にはナノメートル範囲の微細組織を有して、有利に具現化され得、当該組織は、合金の合金組成が、状態図における擬共晶点の、またはその付近の、フィールドに配置されている場合、合金中で優勢な、または主な相量または組織量を構成する。したがって、合金は、有利に高い強度および顕著な変形性を有して具現化され得る。これは、一次凝固および/または残存凝固が非常に少ないように具現化される場合、特に当てはまる。とりわけ、それにとって有益であるのは、混晶相を有するか、もしくはそれからできた、具体的には金属間化合物相を有しないか、もしくはそれからできていない、一次凝固が形成される場合、または合金組成が、状態図における対応する領域において選択される場合である。したがって、このようにして形成される合金は、好ましくは特定の目的に応じて、強固な、かつ弾力性の部材、特に構造部材を、具体的には、自動車産業、航空機産業、および/または宇宙産業における、意図された実用のために、実現する潜在能力を提供する。
[項目1]
少なくとも3つの成分を有する合金組成と共晶組織とを有する合金、具体的には軽金属合金であって、上記共晶組織は、上記合金の組成が上記合金の状態図の擬共晶点(pE)付近のフィールドにあり、結果として少なくとも85mol%の共晶組織が上記合金中に存在する条件下で、上記合金を液体状態から固体状態へと冷却することによって得られる、合金。
[項目2]
上記共晶組織は、3μmより小さい、好ましくは1μmより小さい、上記共晶組織の相量の平均間隔を有することを特徴とする、項目1に記載の合金。
[項目3]
最大限で5mol%、好ましくは最大限で3mol%の量で残存凝固を含むことを特徴とする、項目1または2に記載の合金。
[項目4]
10mol%より少ない、具体的には5mol%より少ない量で一次凝固を含むことを特徴とする、項目1~3のいずれか一項に記載の合金。
[項目5]
上記一次凝固は、混晶相を有して形成されることを特徴とする、項目4に記載の合金。
[項目6]
8g/cmより小さい密度を有することを特徴とする、項目1~5のいずれか一項に記載の合金。
[項目7]
マグネシウム基合金、アルミニウム基合金、リチウム基合金、またはチタン基合金であることを特徴とする、項目1~6のいずれか一項に記載の合金。
[項目8]
鋳造合金であることを特徴とする、項目1~7のいずれか一項に記載の合金。
[項目9]
Al-Mg-Si合金であることを特徴とする、項目1~8のいずれか一項に記載の合金。
[項目10]
上記Al-Mg-Si合金は、0.01wt%と5.0wt%との間の、具体的には約3.0wt%の亜鉛を含むことを特徴とする、項目9に記載の合金。
[項目11]
共晶組織を有する、合金、具体的には項目1~10のいずれか一項に記載の合金を、製造するための方法であって、上記合金は少なくとも3つの成分を有する合金組成を有し、上記合金は、上記合金組成が上記合金の状態図の擬共晶点(pE)付近のフィールドにあり、結果として、固相への冷却の間に上記共晶組織が少なくとも85mol%の量で具現化されるような上記合金組成が提供される条件下で、上記共晶組織を形成するために上記合金の液体状態から開始して固体状態へと冷却される、方法。
[項目12]
項目1~10のいずれか一項に記載の合金を有する、または項目11に記載の方法を用いて得ることができる、原材料、半製品、または構造材料。
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【国際調査報告】