(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】眼疾患を治療するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/724 20060101AFI20220909BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220909BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220909BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220909BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220909BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220909BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220909BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20220909BHJP
C08B 37/16 20060101ALN20220909BHJP
【FI】
A61K31/724
A61P27/02
A61K47/36
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/44
A61K47/14
A61K47/38
A61K47/18
A61K47/10
A61K47/12
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/107
A61K9/06
A61P27/04
C08B37/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021578251
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(85)【翻訳文提出日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 US2020037751
(87)【国際公開番号】W WO2021003015
(87)【国際公開日】2021-01-07
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522002009
【氏名又は名称】エーディーエス・セラピューティクス・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ADS THERAPEUTICS LLC
【住所又は居所原語表記】15615 ALTON PARKWAY, SUITE 450, IRVINE, CA 92618, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ニ,ジンソン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ロン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA12
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4C086MA58
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4C086ZA33
4C090AA09
4C090BA09
4C090BB04
4C090DA23
(57)【要約】
患眼の眼疾患を治療する方法は、そのような治療を必要とする対象の患眼に、治療有効量のβ-シクロデキストリン誘導体を含有する、ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物を投与するステップを含む。前記眼疾患は、マイボーム腺機能不全、眼瞼炎、またはドライアイ疾患であり得る。前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、唯一の医薬活性成分としてβ-シクロデキストリン誘導体を含む。前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、眼科用組成物である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患眼の眼疾患を治療するための方法であって、そのような治療を必要とする対象の前記患眼に、治療有効量のβ-シクロデキストリン誘導体を含有し、ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物を投与するステップを含み、
前記β-シクロデキストリン誘導体が、前記眼疾患を治療するための医薬活性成分であり、
前記β-シクロデキストリン誘導体が、前記眼疾患を治療するための唯一の医薬活性成分である、方法。
【請求項2】
前記眼疾患が、マイボーム腺機能不全、眼瞼炎、およびドライアイ疾患からなる群から選択されるうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物が、前記患眼に局所的に投与されるか、または前記患眼の周囲の皮膚に局所的に投与される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記β-シクロデキストリン誘導体が、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノヨード-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノチオ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-6-モノ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノブロモ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-ベンゾイル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-クロロ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ブロモ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ヨード)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-チオ)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、アセチルβ-シクロデキストリン、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、スクシニル-β-シクロデキストリン、(2-カルボキシエチル)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アミノ)-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,-ジ-O-メチル)-ヘキサキス(6-O-メチル)-6-モノデオキシ-6-モノアミノタ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-ランダム-メチル-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-アセチル-6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アミノ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-(2-カルボキシエチル)チオ)-β-シクロデキストリンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記β-シクロデキストリン誘導体が、0.1w/w~30%w/w、0.5w/w~25%w/w、1w/w~20%w/w、5w/w~15%w/w、8w/w~12%w/w、約10w/wまたは10w/wの濃度で前記組成物に存在する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物が、ステロイドの化学構造を有するアンドロゲン、テストステロン、またはテストステロンの前駆体を含まない、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
投与後の一定期間、マイボーム腺機能不全を治療する効果を維持するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記投与後の一定期間が、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、または12ヶ月である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記患眼のマイボーム腺の開口部に堆積した脂質の結晶を溶解するステップ、および、
涙液層の安定性を高めるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記患眼の異物感、前記患眼および眼瞼縁の充血または発赤、前記患眼のマイボーム腺開口部の閉塞、眼組織の炎症、前記患眼の角膜染色、前記患眼の灼熱感、羞明、かすみ目、前記患眼の痛み、または前記患眼の痒みを低減するステップ、
涙液層破壊時間(TBUT)を増加させるステップ、
乱視を改善するステップ、
マイバムの相転移温度を低下させるステップ、
マイボーム腺機能不全(MGD)の臨床徴候および症状を改善するステップ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるうちの1つをさらに含み、
前記眼組織が、マイボーム腺、管、開口部、眼瞼、角膜、および結膜からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
β-シクロデキストリン誘導体を有効医薬成分として含有する、ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物であって、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物が、眼科用組成物である、組成物。
【請求項12】
前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物が、β-シクロデキストリン誘導体、ならびにヒドロキシプロピルグアー、キサンタムガム、トレハロース、塩化ナトリウム、ヒマシ油、CremophorELP、ポリソルベート80、HPMC2910、エデト酸二ナトリウム、グリセリン、緩衝剤および水からなる群から選択される1以上の成分から本質的に構成される、請求項11に記載のステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【請求項13】
前記緩衝剤が、リン酸一ナトリウム一水和物、クエン酸、およびクエン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記β-シクロデキストリン誘導体が、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物中に0.1%w/w~30%w/wの濃度で存在する、請求項11から13のいずれか1項に記載のステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【請求項15】
前記β-シクロデキストリン誘導体が、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノヨード-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノチオ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-6-モノ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノブロモ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-ベンゾイル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-クロロ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ブロモ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ヨード)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-チオ)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、アセチルβ-シクロデキストリン、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、スクシニル-β-シクロデキストリン、(2-カルボキシエチル)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アミノ)-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,-ジ-O-メチル)-ヘキサキス(6-O-メチル)-6-モノデオキシ-6-モノアミノタ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-ランダム-メチル-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-アセチル-6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アミノ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-(2-カルボキシエチル)チオ)-β-シクロデキストリンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項11から14のいずれか1項に記載のステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【請求項16】
前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物が、溶液、懸濁液、エマルション、ゲル、軟膏、またはクリームである、請求項11から15のいずれか1項に記載のステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【請求項17】
前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物が、人工涙液または潤滑剤である、請求項11から15のいずれか1項に記載のステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【請求項18】
β-シクロデキストリン誘導体、塩化ナトリウム、緩衝剤、および水から構成される、ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【請求項19】
前記β-シクロデキストリン誘導体が、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノヨード-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノチオ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-6-モノ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノブロモ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-ベンゾイル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-クロロ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ブロモ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ヨード)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-チオ)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、アセチルβ-シクロデキストリン、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、スクシニル-β-シクロデキストリン、(2-カルボキシエチル)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アミノ)-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,-ジ-O-メチル)-ヘキサキス(6-O-メチル)-6-モノデオキシ-6-モノアミノタ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-ランダム-メチル-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-アセチル-6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アミノ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-(2-カルボキシエチル)チオ)-β-シクロデキストリンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項18に記載のステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【請求項20】
前記緩衝剤が、リン酸一ナトリウム一水和物、クエン酸、およびクエン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項18に記載のステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【請求項21】
前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物が、5%~20%の前記β-シクロデキストリン誘導体、0.20%~0.80%の塩化ナトリウム、0.10~0.30%のリン酸一ナトリウム一水和物、および水から構成されている、請求項18に記載のステロイド性アンドロゲンを含まない組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2019年7月1日に出願の米国仮出願第62/869,133号、および2019年9月22日に出願の第62/903,898号の優先権を主張し、その両方は、参照により本明細書に完全に記載されているかのようにすべての目的のために組み込まれる。
【0002】
本発明は、患眼のマイボーム腺機能不全(MGD)、眼瞼炎、ドライアイ疾患および関連する眼科的兆候を治療するための組成物および方法に関する。また、本発明は、人工涙液または眼潤滑剤用の組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
マイボーム腺は、上眼瞼および下眼瞼の瞼板にある皮脂腺の一種である。これらの腺は、眼の涙液層の蒸発を防ぎ、涙液の蒸発を防ぎ、閉じた眼瞼を気密にする油性物質であるマイバム(meibum)の供給に関与する。上眼瞼に約50個、下眼瞼に約25個の腺がある。マイボーム腺は、眼瞼の粘膜と皮膚の接合部にあるブドウのような腺房のクラスターによって区別され、ホロクリン分泌によって眼表面をコーティングするために、この接合部で脂質含有物(マイバム)を空にする。この腺は、極性および非極性脂質を産生する細胞によって固定されており、その脂質はリソソームに貯蔵され、さらに大きな貯蔵顆粒に融合する。これらの細胞は脂質で肥大し続けると、最終的にアポトーシスを起こして破裂し、マイボーム腺開口部にマイバムを放出し、眼球表面にマイバムを流出させる。マイバムは眼表面の温度では流動的であり、水層の上に薄く滑らかな膜を張って眼表面に分布している。この脂質層は、水層の蒸発を防いでいる。マイバムの組成、性質、レベルの変化は、眼瞼縁と眼表面の健康に大きな影響を及ぼす可能性がある。一般人口におけるマイボーム腺機能不全はかなり高く、コンタクトレンズ装用者における発生率が増加し、39%にもなるという推計もあるほどである。
【0004】
マイボーム腺の分泌物は、涙液の脂質層を形成し、極性脂質および非極性脂質から構成される。マイバムの脂質組成は、極性相および非極性相を有する複合単層の初期形成、体温付近での十分な流動性、およびまばたきの間に圧縮および膨張を起こす能力などの涙液パラメーターに影響を及ぼし得る。これらの特性は、通常の体温で効果的に極性脂質を構造化し、流動性(融解した物理的状態)を得るために非常に重要である。脂肪酸の飽和度に何らかの変化が生じると、涙液が不安定になる可能性がある。
【0005】
MGD患者は通常、涙腺による水性涙液の産生は正常であるが、マイボーム腺が萎縮することがあり、これはしばしばこれらの腺の導管上皮の化生を伴う。皮膚粘膜接合部の前方びらんもしばしば認められ、眼瞼および結膜の感染、眼瞼縁不規則化、角膜上皮変化、角膜の血管新生も見られる。また、マイバムの異常な過剰産生が同様の問題を引き起こすケースもある。
【0006】
眼瞼にライニングするマイボーム腺は、涙液の安定性を促進し、涙液層の蒸発を低減する脂質を生成するので、マイボーム腺の機能不全は、涙液層を不安定にし、涙液層破壊時間の低下および蒸発性ドライアイを引き起こす脂質不足をもたらす可能性がある。
【0007】
MGDは、脂質の融点が上昇し、脂質の固化およびマイボーム腺分泌の阻害を引き起こすことも特徴として挙げることができる。このことは、嚢胞、感染症、および涙液中の脂質含有量の減少をもたらす可能性がある。MGDはまた、過剰で異常に濁った分泌物によって特徴づけられ、マイボーム腺開口部を塞ぐことも特徴として挙げられる。続いて、マイボーム腺管の化生(異常な過角化)が起こる。閉塞、および、流動への抵抗の結果、開口部周辺の組織の炎症および血管新生(発赤)を引き起こす。炎症性メディエーターが涙液層中に蓄積され、眼表面の損傷を引き起こす。これらすべての事象の後遺症として、導管狭窄につながる導管の炎症性瘢痕化が起こる。最初は涙腺が腫れ、最終的には萎縮する。
【0008】
MGD患者の一般的な愁訴には、かすみ目(blurred or filmy vision)、光線過敏、羞明、眼の灼熱感や異物感、涙の過剰分泌、コンタクトレンズに対する不耐性、および痛みが含まれる。
【0009】
光線過敏とは、太陽光、蛍光灯、白熱灯などの光に対して不耐性を示すものである。光線過敏は、MGDの症状の一つであり、角膜剥離、ぶどう膜炎、髄膜炎、網膜剥離、コンタクトレンズ刺激、日焼け、屈折矯正手術などの他の症状にも関連している。
【0010】
かすみ目は、視力の鮮明さの欠如であり、近視、遠視、老眼、および乱視などの異常に起因する可能性がある。また、それは、MGDや他の眼表面状態にも関連する。
【0011】
現在、MGDの症状を緩和するために、様々な脂質ベースの人工涙液または潤滑剤が使用されている。また、衛生状態を良好に保つ、加温する、およびマッサージするなどの物理的な治療もしばしば行われる。しかし、これらの治療法は疾患を治すものではない。MGDの効果的で安全な治療法が求められている。
【0012】
MGDの患者では、MGDの直接的または間接的な結果として、眼瞼炎およびドライアイ疾患が頻繁に起こる。これらの疾患は、上述した多くの症状を共有しており、MGDに関連する兆候と考えられている。これらの疾患はいずれも多因子性で非常に複雑である。以下では、これらの症状について簡単に説明する。
【0013】
眼瞼炎は眼瞼の炎症であり、通常、眼瞼の縁に沿って両眼を冒す。MGDの後期に発症することもあれば、MGDとは無関係に発症することもある疾患である。MGDでは、マイボーム腺が詰まり、充血すると、後部眼瞼炎を引き起こす。一般に、これは酒さ性ざ瘡に伴うもので、ホルモン性の原因が疑われる。前部眼瞼炎は、細菌感染によって引き起こされ、抗生物質で治療することができる。前部眼瞼炎、後部眼瞼炎はともにニキビダニ(Demodex mites)が原因となることがある。眼瞼炎の正確な病態生理は多因子性であり、まだあまり明らかではない。眼瞼炎の患者には、眼瞼の痒み、熱感、痂皮など、MGDやドライアイ疾患で見られる症状がしばしば見られる。また、涙が出る、かすみ目、および異物感があるなどの症状が出ることもある。
【0014】
ドライアイ疾患(DED)とは、眼を潤滑にし、栄養を与えるのに十分な質の涙液がない状態である。涙液は、眼の前表面の健康を維持し、視界を明確にするために必要である。ドライアイは一般的で、しばしば慢性的な問題である。世界的な有病率は5%から34%と推定されている。涙の量または質が十分でないことが、DEDの原因である。加齢やさまざまな疾患、特定の薬の副作用として、涙の分泌が減少する。風および乾燥した気候などの環境条件も、涙の蒸発を増加させるため、涙の量を減少させる可能性がある。正常な涙の分泌量が減少したり、マイバム脂質の異常により眼からの涙液の蒸発が早くなると、ドライアイ疾患の症状が現れる可能性がある。涙の分泌量の減少を主な原因とするDEDは、涙液減少型DEDと定義される。また、涙の蒸発量が増加することによって起こるDEDは、蒸発性DEDと定義される。後者が大多数であるが、原因が混在している患者も多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在のDED治療のほとんどは、免疫応答を減弱することを目的としている。本発明は、この疾患の初期病理学的事象の1つにアタックするために、涙液層の安定性の改善に焦点を当てる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一実施形態では、患眼の眼疾患を治療するための方法は、そのような治療を必要とする対象の前記患眼に、治療有効量のβ-シクロデキストリン誘導体を含有する、ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物を投与するステップを含む。β-シクロデキストリン誘導体は、前記眼疾患を治療するための医薬活性成分であり、β-シクロデキストリン誘導体は、前記眼疾患を治療するための唯一の医薬活性成分である。
【0017】
別の実施形態では、前記眼疾患は、マイボーム腺機能不全、眼瞼炎、およびドライアイ疾患からなる群から選択されるうちの1つである。
【0018】
別の実施形態では、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、前記患眼に局所的に投与されるか、または前記患眼の周囲の皮膚に局所的に投与される。
【0019】
別の実施形態では、β-シクロデキストリン誘導体は、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノヨード(monoiodo)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノチオ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-6-モノ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノブロモ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-ベンゾイル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-クロロ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ブロモ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ヨード)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-チオ)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、アセチルβ-シクロデキストリン、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、スクシニル-β-シクロデキストリン、(2-カルボキシエチル)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アミノ)-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,-ジ-O-メチル)-ヘキサキス(6-O-メチル)-6-モノデオキシ-6-モノアミノタ(monoaminota)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-ランダム-メチル-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-アセチル-6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アミノ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-(2-カルボキシエチル)チオ)-β-シクロデキストリンおよびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0020】
別の実施形態では、β-シクロデキストリン誘導体は、0.1w/w~30%w/w、0.5w/w~25%w/w、1w/w~20%w/w、5w/w~15%w/w、8w/w~12%w/w、約10w/wまたは10w/wの濃度で前記組成物に存在する。
【0021】
別の実施形態において、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、ステロイドの化学構造を有するアンドロゲン、テストステロン、またはテストステロンの前駆体を含まない。
【0022】
別の実施形態では、前記方法は、投与後の一定期間、前記マイボーム腺機能不全を治療する効果を維持するステップをさらに含む。
【0023】
別の実施形態では、前記投与後の一定期間は、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、または12ヶ月である。
【0024】
別の実施形態では、前記方法は、前記患眼のマイボーム腺の開口部に堆積した脂質の結晶を溶解するステップ、および涙液層の安定性を高めるステップをさらに含む。
【0025】
別の実施形態では、前記方法は、患眼の異物感、患眼および眼瞼縁の充血または発赤、患眼のマイボーム腺開口部の閉塞、眼組織の炎症、患眼の角膜染色、患眼の灼熱感、羞明、かすみ目、患眼の痛み、または患眼の痒みを低減するステップ、涙液層破壊時間(TBUT)を増加させるステップ、乱視を改善するステップ、マイバムの相転移温度を低下させるステップ、マイボーム腺機能不全(MGD)の臨床徴候および症状を改善するステップ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるうちの1つをさらに含む。前記眼組織は、マイボーム腺、管、開口部、眼瞼、角膜、および結膜からなる群から選択される。
【0026】
別の実施形態では、ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、β-シクロデキストリン誘導体を唯一の有効医薬成分として含む。前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、眼科用組成物である。
【0027】
別の実施形態では、ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、β-シクロデキストリン誘導体、ならびにヒドロキシプロピルグアー、キサンタムガム、トレハロース、塩化ナトリウム、ヒマシ油、クレモフォール(Cremophor)ELP、ポリソルベート80、HPMC2910、エデト酸二ナトリウム、グリセリン、緩衝剤および水からなる群から選択される1つ以上の成分から本質的に構成される。
【0028】
別の実施形態では、前記緩衝剤は、リン酸一ナトリウム一水和物、クエン酸、およびクエン酸ナトリウムからなる群から選択される。
【0029】
別の実施形態では、前記β-シクロデキストリン誘導体は、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物中に0.1%w/w~30%w/wの濃度で存在する。
【0030】
別の実施形態では、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物において、β-シクロデキストリン誘導体は、上述した群から選択される。
【0031】
別の実施形態では、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、ゲル、軟膏、またはクリームである。
【0032】
別の実施形態では、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、人工涙液または潤滑剤である。
【0033】
別の実施形態では、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、β-シクロデキストリン誘導体、塩化ナトリウム、緩衝剤、および水から構成される。
【0034】
別の実施形態では、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物において、前記β-シクロデキストリン誘導体は、上述した群から選択される。
【0035】
別の実施形態では、前記緩衝剤は、リン酸一ナトリウム一水和物、クエン酸、およびクエン酸ナトリウムからなる群から選択される。
【0036】
別の実施形態では、前記ステロイド性アンドロゲンを含まない組成物は、5%~20%の前記β-シクロデキストリン誘導体、0.20%~0.80%の塩化ナトリウム、0.10~0.30%のリン酸一ナトリウム一水和物、および水から構成されている。
【0037】
前述の一般的な説明と以下の詳細な説明の両方は例示的かつ説明的なものであり、請求項に記載の本発明のさらなる説明を提供することを意図していることが理解されよう。
【0038】
本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付図面は、本発明の実施形態を示し、記載とともに本発明の原理を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】第2相臨床試験における24週間にわたる光線過敏およびかすみ目に対する2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(2-HP-β-CD)の効果を示す。
【
図2】第2相臨床試験における12ヶ月間の光線過敏およびかすみ目に対する2-HP-β-CDの効果を示す。
【
図3】第2相臨床試験における、10%(w/w)の濃度での2-ヒドロプロピル-β-シクロデキストリン製剤の局所点眼剤を1日3回、4週間投与し、その後5ヶ月間継続して観察した疾患眼を有する患者の総合平均スコアを示す。
【
図4】第2相臨床試験における患者の眼症状スコアの平均値を示す。
【
図5】第2相臨床試験における視覚関連機能スコアの平均値を示す。
【
図6】第2相臨床試験における患者の生活の質への影響スコアの平均値を示す。
【
図7】第2相臨床試験におけるドライアイを有するまたはドライアイを有しない翼状片患者の各スケジュール訪問時の眼症状スコアを示す。
【
図8】第2相臨床試験におけるドライアイを有するまたはドライアイを有しない翼状片患者についての各スケジュール訪問時の眼症状スコアのベースラインからの平均変化を示す。
【
図9】第2相臨床試験におけるドライアイを有する翼状片患者についての各スケジュール訪問時の眼症状スコアを示す。
【
図10】第2相臨床試験におけるドライアイを有する翼状片患者についての各スケジュール訪問時の眼症状スコアのベースラインからの平均変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図示された実施形態の詳細な説明
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、その例は添付図面に示されている。
【0041】
本発明は、マイボーム腺機能不全(MGD)、眼瞼炎およびドライアイ疾患を治療するための組成物および治療方法を提供する。特定の理論に束縛されることなく、本方法は、シクロデキストリン誘導体の2つの重要な特性:1)コレステロールを捕捉し(sequester)、溶解する能力、および2)マクロファージ活性化などの免疫活性を阻害する能力、を利用する。第1の能力は、マイボーム腺の開口部付近に沈着した過剰な脂質を除去して脂質の流動を助長するとともに、眼表面の常温での流動性を高めるためにマイバムの組成を変化させることである。第2の能力は、MGD患者の眼に存在する異常な免疫活性を弱めることである。これらの患者は、サイトカイン、およびマクロファージ、T細胞などの免疫細胞の活性が上昇している。MGDの現在の治療法とは異なり、本発明は、光線過敏およびかすみ目などの症状を改善することに加えて、前記疾患を改変する可能性を有する。
【0042】
シクロデキストリンは環状オリゴ糖類のファミリーに属し、グルコースサブユニットがα-1,4-グリコシド結合で結合した大環状リングから構成されている。シクロデキストリンは、6~8個のグルコースモノマーを環状に含み得、円錐形の分子を形成することができる。天然のシクロデキストリンには、α-、β-およびγ-シクロデキストリンがあり、それぞれ6、7および8個のグルコース単位に相当する。グルコース単位の数は、これらの分子に関連する生物学的および非生物学的活性にとって重要である。本出願は、グルコース単位の数に関連するコレステロール結合能に関する予期し得なかった知見を開示する。6単位および8単位のα-およびγ-シクロデキストリンではなく7単位のβ-シクロデキストリンが、コレステロールの有意な結合を有し得ることを、本発明者らは見出した。
【0043】
天然のシクロデキストリンは、他の基、例えばヒドロキシプロピル、メチル基の付加によって化学的に改変され、「シクロデキストリン誘導体」を生成し得る。シクロデキストリン誘導体は、異なる物理的および化学的特性を有し、他の分子と相互作用する際に異なる挙動を示す可能性がある。このことは、シクロデキストリン誘導体の改変基の違いが、コレステロールを水に溶解するシクロデキストリン誘導体の能力を決定するという、予期し得なかった知見を開示している。β-シクロデキストリンのメチル誘導体が最もコレステロールを水に溶解する能力が高く、次いでヒドロキシプロピル誘導体である。後述するように、様々なシクロデキストリン誘導体の順位付けの知見は、組成物および方法の応用をサポートする。
【0044】
本開示は、β型シクロデキストリンの特定の誘導体のみが、コレステロールを捕捉し溶解する有意な能力を有するという本発明者らによる予期し得なかった知見に基づいている。もう一つの予期し得なかった知見は、β-シクロデキストリンの特定の改変が、コレステロールの捕捉において他のものよりも効果的であるということである。これらの予期し得なかった知見は、選択されたシクロデキストリンの選択された誘導体が、MGD、眼瞼炎およびドライアイ疾患を治療するための組成物および方法として使用される本開示の基礎となる。具体的には、本明細書で使用されるβ-シクロデキストリン誘導体は、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノヨード-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノチオ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアジド-6-モノ-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノブロモ-α-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-ベンゾイル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アジド)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-クロロ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ブロモ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-ヨード)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-チオ)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、アセチルβ-シクロデキストリン、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、スクシニル-β-シクロデキストリン、(2-カルボキシエチル)-β-シクロデキストリン、スルホブチル化β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-アミノ)β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,-ジ-O-メチル)-ヘキサキス(6-O-メチル)-6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-ランダム-メチル-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピルβ-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-アセチル-6-スルホ)β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-スルホ)β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アミノ)β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-デオキシ-6-アジド)β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-デオキシ-6-(2-カルボキシエチル)チオ)β-シクロデキストリンまたはこれらの組み合わせであり得る。
【0045】
米国特許出願第9937188号(Allergan,Inc)は、テストステロンまたは関連するアンドロゲンを含む製剤を、乾性角結膜炎およびマイボーム腺疾患の治療のために使用することを開示している。この特許では、シクロデキストリンは活性成分であるテストステロンの可溶化剤として作用し、ヒマシ油、アクリル酸アルキル(C10-30)クロスポリマーおよびステアリン酸ポリオキシル40(Polyoxyl 40 stearate)をも含む非活性賦形剤の1つとして開示されている。本発明の方法は、2つの点で根本的に異なる。1)シクロデキストリン一般ではなく、シクロデキストリンの特定の誘導体が、組成物および方法についてここに開示されている。2)開示された化合物は、MGDおよび関連疾患の治療のための活性成分として用いられ、米国特許出願第9937188号に開示されたような製剤の不活性賦形剤として用いられない。重要なことは、開示された方法は、米国特許出願第9937188号に開示されているようなステロイド性アンドロゲンを使用しないことである。この重要な違いにより、女性の男性化および男性の前立腺の刺激などの潜在的なステロイド関連の副作用の多くが回避される。アンドロゲンは、男性の生殖組織および付属性組織の発達、分化、および機能を制御する。テストステロンは、眼組織における何千もの遺伝子の発現を制御している。このようなマイボーム腺における遺伝子制御は、米国特許出願第9937188号に開示された有益な効果をもたらすが、非常に多くの遺伝子の発現が変化するため、副作用の可能性も高くなる。アンドロジェル(ANDROGEL)は、活性成分として1%のテストステロンを含有し、男性における内因性テストステロンの欠乏または欠如に関連する疾患に対する補充療法として局所使用の承認を受けた。ANDROGELの製品添付文書には、前立腺肥大症(BPH)の悪化、およびBPHを有する患者における前立腺癌の潜在的なリスクが示されている。ANDROGEL1%は、女性や子供への不用意な曝露を避けるべきである。テストステロンへの二次的な曝露は、男性化の徴候を引き起こす可能性があり、男性化の原因が特定されるまでANDROGEL1%を中止する必要がある。ANDROGEL1%の臨床試験で観察されたその他の副作用は、無精子症、うっ血性心不全を伴うまたは伴わない浮腫、睡眠時無呼吸である。ANDROGEL1%で治療された患者については、血清テストステロン、前立腺特異抗原、ヘモグロビン、ヘマトクリット、肝機能検査値、脂質濃度を、定期的にモニターする必要がある。本出願では、テストステロンの使用が除外され、シクロデキストリンが唯一の活性成分として使用される。これにより、テストステロンに関連する副作用の問題が回避される。
【0046】
本明細書で使用される場合、「眼科用組成物」は、ヒトまたは動物の眼の表面上に配置するのに有用である。そのような組成物は、好ましくは、流体の形態で患者の眼に投与される。組成物を流体として投与することにより、眼球に切開を形成することなく投与を行うことができる。本明細書で使用される場合、「経皮組成物」は、治療有効量の活性成分を患者の皮膚全体に送達する。前記経皮組成物は通常、送達される活性成分が組み込まれる担体(液体、ゲル、または固体マトリックス、または感圧接着剤など)を含む。
【0047】
本明細書で使用される場合、「医薬活性成分」は、医学的眼疾患または眼の状態を治療するため、および/または別に患者の眼に有益な影響を与えるために使用される治療剤または物質を指し、「唯一の医薬活性成分」は、医学的眼科疾患または眼の症状を治療するため、および/または別に患者の眼に有益な影響を与えるために使用される1つおよび唯一の治療剤または物質を指す。
【0048】
本明細書に記載のβ-シクロデキストリン誘導体は、眼科用組成物の唯一の医薬活性成分である。前記眼科用組成物は、眼疾患を治療するための他のいかなる医薬活性成分も含まない。具体的には、前記眼科用組成物は、ステロイド系化学構造を有するアンドロゲン、テストステロン、またはテストステロンの前駆体を含まない。前記眼科用組成物は、ヒドロキシプロピルグアー、キサンタムガム、トレハロース、塩化ナトリウム、ヒマシ油、CremophorELP、ポリソルベート80、HPMC2910、エデト酸二ナトリウム、グリセリンおよび緩衝剤からなる群から選択される1つ以上の不活性成分を含み得る。前記眼科用組成物は、水性製剤であってもよい。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「治療有効量」は、β-シクロデキストリン誘導体、より具体的には、上述の群から選択されるβ-シクロデキストリン誘導体の、非毒性であるが、所望の治療効果を提供するために十分な濃度または量を意味することが意図される。有効量は、個体の年齢や全身状態、環状多糖類などによって、対象ごとに異なる。したがって、有効な濃度または量を正確に特定することは必ずしも可能ではない。しかし、個々のケースにおける適切な有効量は、日常的な実験を使用して当業者によって決定され得る。さらに、本発明の組成物または剤形に組み込まれるβ-シクロデキストリン誘導体の正確な有効量は、前記濃度が、治療上有効な範囲内のある量のβ-シクロデキストリン誘導体-含有化合物を送達するために溶液または製剤を容易に適用するのに十分な範囲内にある限り、重要でない。
【0050】
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(2-HP-β-CD)(CAS番号:128446-35-5)は、改変シクロデキストリン誘導体であり、下記式Iを有する。 2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリン(ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリンとも呼ばれる、CAS番号51166-71-3)は、改変シクロデキストリン誘導体であり、下記式IIを有する。
【化1】
【0051】
翼状片の治療薬を検討する臨床試験において、I)ビヒクル(2-HP-β-CD製剤I)が翼状片患者の異物感、痛み、発赤、特に光線過敏および眼のかすみの症状を軽減する、という予期し得なかった知見がなされた。翼状片は、MGDでもよく見られるいくつかの眼症状を引き起こす一般的な眼障害である。また、それは、眼瞼炎およびドライアイなどの疾患でもよく見られる。翼状片部ではマイボーム腺が機能不全に陥っていることが多い。本臨床試験では、患者に質問票調査を実施し、炎症、異物感、痛み、光線過敏、眼のかすみなどのいくつかの一般的な眼症状を評価した。その結果、刺激感、異物感、痛み、光線過敏、眼のかすみなどの眼症状スコアは、シクロデキストリン治療中に、治療前のベースラインと比較して有意に減少した。特に、光線過敏と眼のかすみについては、治療前のベースラインと比較して、治療中に前記ビヒクルによって有意に改善された。さらに驚くべきことに、これらの症状緩和効果は、ビヒクル投与後5ヶ月間という長期にわたって維持された。前記ビヒクルの主成分は10%2-HP-β-CD(w/w)である。
【0052】
眼症状を治療するための組成物および方法が開示されている。この方法は、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(2-HP-β-CD)を含む適切な眼科用製剤を、それを必要とする患者に投与するステップを含む。開示された方法は、MGD、眼瞼炎およびドライアイ疾患に関連する全体的な症状に対する持続的な改善のために使用される。
【実施例】
【0053】
本発明を以下の代表的な実施例でさらに説明するが、これらは特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定するものではない。
【0054】
実施例1:2-HP-β-CD製剤I
本実施例の製剤は、5%~20%(好ましくは、10%)の2-HP-β-CD(w/w)、0.10~0.30%(好ましくは、0.16%)のリン酸一ナトリウム一水和物(w/w)と、0.20~0.80%(好ましくは、0.52%)塩化ナトリウム(w/w)と、水と、を含んでいる。本製剤は、pH値が4~9(好ましくは、7.4)である。
【0055】
実施例2:2-HP-β-CD製剤Iの適用
ニンテダニブ(Nintedanib)点眼液の安全性、有効性および薬物動態を評価するため、原発性または再発性翼状片患者を対象とした第2a相多施設共同無作為化ビヒクル対照用量漸増試験が実施された。ビヒクルとして2-HP-β-CD製剤Iを使用した。
【0056】
多施設共同無作為化二重盲検ビヒクル対照並行試験で、ビヒクルと0.2%のニンテダニブを28日間1日3回(TID)反復点眼投与し、投与後5ヶ月間観察した。
【0057】
結果:
臨床試験では、翼状片の患者に対して、眼の徴候、症状、生活の質に関する15の質問を行った。驚くべきことに、2-HP-β-CD製剤Iは、光線過敏とかすみ目について予期し得なかった改善をもたらした。表1に示すように、この2つの症状は投与2週目と4週目に統計的に改善されていた。また、8週目、16週目、および24週目の投与停止後も効果の傾向は続いていた。その結果を
図1に示す。その他の質問では、統計的に有意な効果は得られなかった。
【0058】
【0059】
実施例3:2-HP-β-CD製剤II
この実施例の製剤は、0.1~05%のヒマシ油(w/w)、0.1~1.0%のポリソルベート80、高度精製(Super Refined)(w/w)、0.1~1.0%のCremophorELP(w/w)、5~20%の2-HP-β-CD(w/w)、0.010~0.30%のクエン酸(w/w)、0.030~0.060%のクエン酸ナトリウム(w/w)、0.01~1.0%のHPMC2910(w/w)、0.01~0.5%のエデト酸二ナトリウム(w/w)、および水を含む。前記製剤のpH値は4.0~9.0である。グリセリンは、溶液の浸透圧を280~300mOsm/kgに調整するために使用される。
【0060】
実施例4:2-HP-β-CD製剤IIの適用
ニンテダニブ点眼液の安全性、有効性および薬物動態を評価するため、原発性または再発性翼状片患者を対象とした第3相多施設共同無作為化ビヒクル対照用量漸増試験が実施された。ビヒクルとして2-HP-β-CD製剤IIを使用した。
【0061】
第3相試験の治療期間は、第2a相試験の治療期間よりも長い。その結果を
図2に示す。
【0062】
実施例5:2-HP-β-CD製剤Iの適用
【0063】
ニンテダニブ点眼液の安全性、有効性、薬物動態を評価するため、原発性または再発性の翼状片患者を対象とした第2a相多施設共同無作為化ビヒクル対照用量漸増試験が実施された。多施設共同無作為化二重盲検ビヒクル対照並行試験で、ビヒクルおよび0.2%のニンテダニブを28日間1日3回(TID)反復点眼投与し、投与後5ヶ月間観察を行った。ビヒクルとして、実施例1に記載の2-HP-β-CD製剤を使用した。
【0064】
翼状片の患者では、しばしばマイボーム腺が萎縮し、眼痛、かゆみ、異物感、発赤、光線過敏、および色覚異常(blue vision)などのMGDの臨床徴候および症状を呈している。第II相臨床試験において、翼状片患者に、翼状片の症状と生活の質(PSLQ)質問票を介して、眼症状、視覚関連機能および生活の質に関する15問の質問をした。
【0065】
結果:
PSLQの解析は、総合、眼症状、視覚関連機能、生活の質の影響の4つの平均カテゴリースコアについて行われた。分析の結果は、表2~表5にまとめられている。2-HP-β-CD投与群では、ベースラインと比較して、PSLQスコアに有意な改善が見られた。2-HP-β-CD投与群では、2週目、4週目、8週目のPSLQ総合スコアと眼症状スコア、2週目の生活の質への影響スコア、4週目と8週目の視覚関連機能スコアにおいて、ベースラインからの統計的に有意な変化(改善)が検出された。
【0066】
驚くべきことに、眼症状および視覚関連機能の改善は、2-HP-β-CD投与期間の2週目および4週目に観察されただけでなく、2-HP-β-CD投与期間終了後の8週目にも継続して観察された。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
さらに、眼の痛み、かゆみ、異物感、充血、光線過敏、眼のかすみなどの症状を有する患者に対して、10%の2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンの潜在的な治療効果を検討するための分析を行った。これらの眼症状は、MGD患者にしばしば認められるものである。これらの症状のスコアは、PSLQ質問票の一部として患者によって評価された。
【0072】
1)ニンテダニブ治療群とビヒクル治療群を組み合わせた、ドライアイ患者対非ドライアイ患者(患者の病歴に基づく)
結果:PSLQの一部としての眼症状スコアに関するドライアイ患者対非ドライアイ患者:
図7は、ドライアイを有するまたはドライアイを有しない翼状片患者の各スケジュール訪問時のPSLQ眼症状スコアの平均値を示し、
図8は、ドライアイを有するまたはドライアイを有しない翼状片患者の各スケジュール訪問時の眼症状スコアのベースラインからの平均変化を示している。
【0073】
ドライアイ状態の翼状片患者とドライアイ状態でない翼状片患者を比較した。この比較では、薬剤およびビヒクル投与群のドライアイ状態のすべての翼状片患者が組み合わされ、ドライアイ状態のない翼状片患者についても同様に比較した。各群のデータポイントの数は、ドライアイがN=17、ドライアイなしがN=18であった。その結果、2週目(p=0.042)、4週目(p=0.025)において、ドライアイ群とドライアイではない群の間に統計的に有意な差があることが示された。また、PSLQによる眼症状軽減の平均差は、2週目で0.50、4週目で0.61となった。ドライアイ状態の翼状片患者は、ドライアイ状態でない翼状片患者と比較して、ベースラインのスコアが高く、治療期間中の眼症状スコアのベースラインからの減少が大きかった。
【0074】
2)ドライアイ患者に対するニンテダニブ対ビヒクル(患者の病歴に基づく)。
結果:PSLQの一部としての眼症状スコアに関するドライアイ患者におけるニンテダニブb対ビヒクル:
図9は、ドライアイを有する翼状片患者の各スケジュール訪問時のPSLQ眼症状スコアの平均値を示し、
図10は、ドライアイを有する翼状片患者の各スケジュール訪問時の眼症状スコアのベースラインからの平均変化を示している。
【0075】
薬剤治療群およびビヒクル治療群のドライアイ状態の翼状片患者は、PSLQ眼症状について同様の応答を示した。PSLQ眼症状についてのベースラインからの変化は、治療期間中同様であり、どのタイムポイントにおいても統計的に有意な差は観察されなかった。
【0076】
結論:
10%の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが、ドライアイ状態の翼状片患者およびドライアイ状態のない翼状片患者のPSLQ応答に影響を与えたことを支持する証拠である。PSLQ眼症状スコアの減少の大きさは、ドライアイ状態の翼状片患において、ドライアイ状態でない翼状片患者よりも統計的に有意に大きかった。
【0077】
一方、ニンテダニブ0.2%またはビヒクルで治療したドライアイ状態の翼状片患者を比較すると、2つの治療群間に統計的に有意な差はなかった。このことは、ニンテダニブ0.2%がドライアイ状態の翼状片患者のPSLQスコアの減少の主因ではない一方、10%の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンがドライアイ状態の翼状片患者のPSLQスコアの減少をもたらす主因であることを示している。
【0078】
実施例6:シクロデキストリンへのコレステロールの溶解度
シクロデキストリン(CD)存在下でのコレステロールの溶解度が測定され報告されている(Nishijo,J.,Moriyama,S.and Shiota S.,Chem. Pharm. Bull.,51(11)1253-1257,2003)。CD存在下でのコレステロールの溶解度 20mlのL型試験管に適切な濃度のCD水溶液と過剰のコレステロールのアリコート(7.0ml)を入れ、密栓した。試験管をそれぞれ10、25、37、45℃で振盪しながら溶解度平衡になるまで1週間保持した。次に、この溶液を膜で濾過し、0.1mlの濾液に3.0mlの発色試薬を添加した。その後、反応混合物を37℃で5分間加熱し、あらかじめ作成した検量線により600nmの吸光度を測定した。コレステロール-CD複合体の安定性は、ShimadzuRF-503A蛍光分光光度計を用いて、25℃にて測定した。表6に、37℃の水溶液中でCDにより溶解されたコレステロールによる吸光度の上昇を示す。
【0079】
【0080】
表6に示すように、α-CD、β-CD、γ-CDの存在下では吸光度がゼロであり、これらのCDは水溶液中でコレステロールと可溶性の複合体を形成しないことが示唆される。HP-β-CDの存在下では吸光度がわずかに上昇するだけであったが、DOM-β-CDの存在下では顕著な吸光度の上昇が観察された。これらの結果から、DOM-β-CDは水溶液中でコレステロールと可溶性の複合体を形成する能力が強く、HP-β-CDは能力が弱いことが示唆される。α-CD、β-CD、γ-CDとコレステロールの可溶性複合体形成は検出されなかったが、不溶性複合体形成が起こる可能性がある。
【0081】
実施例7:10%HP-β-CD(第2相臨床試験におけるビヒクル)の安全性
この実施例では、ヒトにおけるHP-β-CDの安全性が実証された。このデータは、試験品のビヒクルとして10%のHP-β-CDを局所投与された翼状片患者における第2相臨床試験の第2段階から得られた。患者は1日3回の投与で4週間治療され、治療停止後さらに20週間フォローアップされた。安全性評価には20週間の非治療期間も含まれる。実施例では、ビヒクルの結果を示し、本発明とは関係のない試験品は示していない。
【0082】
すべての安全性解析は、安全性集団に対して行われた。有害事象のコード化には、MedDRAの命名を用いた。有害事象を報告した患者の数および割合は、基本語および/または器官別大分類に基づいて集計された。集計表は、治療に関連する有害事象と同様に、因果関係に関係なくすべての有害事象について作成された。
【0083】
試験治療のための曝露期間の平均は28日であり、96%の患者が少なくとも28日の治療期間を有していた(表7)。
【表7】
【0084】
有害事象
【0085】
有害事象の要約を表8に示した。ビヒクル群の患者の16.0%(4/25)の試験眼において、任意の因果関係の眼治療創発的有害事象(TEAEs)が報告された。また、有害事象による試験中止はなかった。また、死亡例または薬剤に起因する重篤な有害事象は報告されていない。
【0086】
【0087】
まとめると、10%HP-β-CDをビヒクルとした第2相翼状片臨床試験において、治療関連のTEAEの報告は1件のみであり、優れた安全性プロファイルが示された。
【0088】
実施例8:コレステロールの水への溶解能に対する各種シクロデキストリン(CD)およびCD誘導体のスクリーニング
【0089】
目的:
10種類のCDとその誘導体を3つの濃度で添加するとき、水に溶解され得るコレステロールのレベルを測定すること。
【0090】
方法:
試験したCDは、α-シクロデキストリン(ACD)、β-シクロデキストリン(BCD)、γ-シクロデキストリン(GCD)、2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(HP-ACD)、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-BCD)、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HP-GCD)、ランダムメチル-β-シクロデキストリン(M-BCD)、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン(DM-BCD)、6-O-α-マルトシル-β-シクロデキストリン(6-AM-BCD)、およびスルホブチル化β-シクロデキストリン(SBE-BCD)である。
【0091】
すべてのCD溶液は、4ミリリットルの水に約800mgのCDを正確に加えることによって開始20%(w/v)溶液で調製され、各サンプル調製実験について、1%および10%がこの20%溶液から2mLに希釈された。
【0092】
コレステロールは、約40mg/mLまたは2mLあたり約80mgで、すべてのCD水溶液に正確に加えられた。この量のコレステロールは、CD溶液を白色沈降物または浮遊物またはその両方で完全に飽和させるのに十分であった。すべてのサンプルは、ローテーターを用いて5日間振盪することにより、周囲温度でコンディショニングした。
【0093】
周囲温度で5日間振盪して平衡化した後、透明または半透明部分を0.2μmフィルターで濾過した。濾過液50μLを450μLメタノール(10×)で希釈し、HPLC分析に供した。移動相をアセトニトリル:水(70:30)、流速0.5ml/分で、検出を210 nmのUVで、NOVAPAKフェニルカラム(7.6cm×3.9mmI.D.)を用いた。
【0094】
結果を表9にまとめる。
【0095】
【0096】
すべての天然の非改変CDは、コレステロールを水に溶解する能力を有さないか、極めて低い(メソッド感度未満)ものであった。HP誘導体は、α-、β-、γ-CDの間で予期し得なかった大きな差異を示した。HP-ACDは検出可能なコレステロール溶解活性を有さず、HP-GCDは極めて低いレベルであったが、対照的にHP-BCDはコレステロールを溶解する実質的な能力を有していた。
【0097】
さらに、BCDタイプおよびこのタイプのCDの他の誘導体に焦点を当てた研究が行われた。その結果は予期し得なかったもので、コレステロール溶解能力は、メチル->ヒドロキシプロピル->スルホブチル->非改変(活性なし)の順でランク付けされた。メチル化BDのうち、M-BCDおよびDM-BCDは同程度で最も優れていたが、6-Am-BCDは約半分低かった。コレステロール溶解活性を示したCDについては、CD濃度と活性は比例していた。
【0098】
予期し得なかった知見のまとめ:
【0099】
1)天然のα-、β-、γ-CDは、水中でコレステロールを溶解する能力は全くないか、非常に低かった。
【0100】
2)CD誘導体については、β-CD誘導体のみが、水中でコレステロールを溶解する実質的な能力を示した。
【0101】
3)β-CD誘導体については、能力の順位は、メチル->ヒドロキシプロピル->スルホブチル-であった。
【0102】
本発明において、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、様々な改変および変形が可能であることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内にあることを条件として、本発明の改変および変形をカバーすることが意図される。
【国際調査報告】