(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】摩擦及び摩耗低減添加剤
(51)【国際特許分類】
C10M 137/12 20060101AFI20220909BHJP
C10M 133/04 20060101ALI20220909BHJP
C10M 125/22 20060101ALI20220909BHJP
C10M 125/26 20060101ALI20220909BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20220909BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20220909BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20220909BHJP
C10M 107/34 20060101ALI20220909BHJP
C10M 105/74 20060101ALI20220909BHJP
C10M 105/06 20060101ALI20220909BHJP
C10M 105/76 20060101ALI20220909BHJP
C10M 105/04 20060101ALI20220909BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220909BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20220909BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20220909BHJP
C10N 10/06 20060101ALN20220909BHJP
C10N 10/08 20060101ALN20220909BHJP
C10N 10/14 20060101ALN20220909BHJP
C10N 10/16 20060101ALN20220909BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220909BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220909BHJP
【FI】
C10M137/12
C10M133/04
C10M125/22
C10M125/26
C10M101/02
C10M107/02
C10M105/32
C10M107/34
C10M105/74
C10M105/06
C10M105/76
C10M105/04
C10N10:12
C10N10:02
C10N10:04
C10N10:06
C10N10:08
C10N10:14
C10N10:16
C10N30:06
C10N40:25
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022501331
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(85)【翻訳文提出日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 GB2020051650
(87)【国際公開番号】W WO2021005372
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】PI2019003944
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512172040
【氏名又は名称】ペトロリアム ナショナル ブルハド (ペトロナス)
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】チェン クア ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ドルフィ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】フォラスティエロ ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】スリニバサン ゲーサ
(72)【発明者】
【氏名】ヤシン ファラー ファズリナ エム
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA19C
4H104AA26C
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB41
4H104BH03A
4H104BJ02A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104EB13
4H104FA01
4H104FA02
4H104FA03
4H104FA04
4H104FA06
4H104FA07
4H104FA08
4H104LA03
4H104PA42
4H104PA44
(57)【要約】
本発明は、潤滑剤における摩擦及び摩耗を低減するための添加剤に関する。特に、本発明は、新規な塩、並びに摩擦及び摩耗を低減するための潤滑油組成物におけるその使用に関する。特に、本発明は、1又は2以上のイオン液体に関し、1又は2以上のイオン液体は、1又は2以上のカチオンと、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2以上の基油と1又は2以上のイオン液体とを含む潤滑油組成物であって、前記1又は2以上のイオン液体が、1又は2以上のカチオンと1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンとを含み、前記1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンが、少なくとも1つの金属硫黄結合を含む、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンがモリブデンを含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンが-2の電荷を有する、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンの中心金属原子が、4つの原子に結合している、請求項1~3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンが、前記アニオンの中心金属原子に配位した以下のリガンド:BH
3、BF
3、BCl
3、BR
3、ALMe
3、SiF
4、H、CR
3、-CR=CR
2、アルキニル、-COR、-C
6H
5、η-CH
2CH=CH
2、η-C
5H
5、CF
3、C
6F
5、CH
2CMe
3、NR
2、OR、-OOR、F、SiR
3、-PR
2、SR、Cl、GeR
3、AsR
2、SeR、Br、SnR
3、I、CN、SCN、NCS、N
3、OCN、NCO、OSO
2R、ONO、ONO
2、OClO
3、OSiR
3、Mn(CO)
5、Fe(η-C
5H
5)(CO
2)、Mo(η-C
5H
5)(CO)
3、Au(PPh
3)、HgCl、-SCH
2CH
2S-、オキサレート、o-キノン、-(S)
2-、SO
4、CO
3、-(O)
2-、金属環状化合物-(CH
2)
n-[式中、n=2、3、又は4である]、=CR
2、=NR、=O、=S、=C=CR
2、NH
3、NR
3、OH
2、OR
2、PR
3、P(OR)
3、SR
2、SeR
2、AsR
3、CO、H
2C=CH
2、R
2C=CR
2、RC=CR、S=CR
2、N
2、PF
3、テトラヒドロフラン、Et
2O、DMSO、RNC、RCN、ピリジン、ジメチルスルホキシド、窒素、η-C
3H
5、アセチルアセトン、ジメチルグリオキシム、η-アセタト、η-O
2CR、η-S
2CNR
2、η-S
2PR
2、NH
2CH
2CO
2-、BF
4、BH
4、NO、NR
2、η-C
4H
4、NR、η-C
4H
4、ビピリジル、o-フェナントロリン、エチレンジアミン、RS(CH)
2SR、ジフォスフィン、N(CH
2COO)
3、η-C
5H
5、ジエニル、1,5-ジアザシクロオクタン-N、N’-ジアセテート、η-ベンゼン、(η-アレーン)、η-C
7H
8、RSi(CH
2PMe
2)
3、η-C
7H
7、エチレンジアミン四酢酸、η-C
5H
4(CH
2)
3NR、η-C
5H
4(CH
2)
3NR、η-C
5H
4(CH
2)
3N=、P(bipy)
3、[FB(ONCHC
5H
3)
3P][式中、Rはヒドロカルビルであり、好ましくは、Rは、アルキル又はアルケニルである]の1又は2以上を含む、請求項1~4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンが、式:
【化1】
[式中、M=Cr、Mo、W、又はSgであり、少なくとも1つのXがX=Sであり、他のXは独立して、O、S、Se、又はTeから選択され、各Rは独立して、アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、又はアリールアルキル部分、例えば、C
1-C
10アルキル、C
1-C
10アルケニル、C
1-C
10アリール、C
1-C
10アルキルアリール、又はC
1-C
10アリールアルキル部分から選択され、前記アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、又はアリールアルキル部分は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
のものである、請求項1~5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
M=Moであり、他のXが独立して、O又はSから選択される、請求項6に記載の潤滑油組成物。8.M=Moであり、各X=Sである、請求項6又は7に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
1又は2以上のイオン液体が、式:
【化2】
[式中、M=Moであり、各X=Sである]
を有する、請求項1~7のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
1又は2以上のカチオンが、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、第四級スルホニウムカチオン、又はこれらの任意の組合せから選択される1又は2以上のカチオンを含む、請求項1~8のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
1又は2以上のカチオンが、以下の構造:
【化3】
[式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は独立して、C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR
1、R
2、R
3、及びR
4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、前記直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む、請求項1~9のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
R
1、R
2、R
3、及びR
4が、C
1-C
30直鎖又は分岐状アルキル基及びアルケニル基、好ましくはC
1-C
30直鎖又は分岐状アルキル基である、請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
R
1、R
2、R
3、及びR
4が、C
4-C
18直鎖又は分岐状アルキル基、好ましくはC
4-C
18直鎖アルキル基である、請求項10又は11に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
R
1、R
2、及びR
3が同じであり、R
4が、R
1、R
2、及びR
3とは異なる、請求項10、11及び12のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
R
1、R
2、及びR
3がC
4-C
10直鎖アルキルであり、R
4がC
11-C
18直鎖アルキルである、請求項13に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
R
1、R
2、及びR
3がヘキシルであり、R
4がテトラデシルである、請求項10~14のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
1又は2以上のカチオンがホスホニウムカチオンを含む、請求項15に記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
イオン液体が、以下の式:
【化4】
[式中、R
1、R
2、及びR
3はヘキシルであり、R
4はテトラデシルである]
の化合物を含む、請求項1~16のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
1又は2以上のカチオンが、少なくとも1つのエステル基、又は以下の構造:
【化5】
[式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の少なくとも1つは、式-R
5O(C=O)R
6又は-R
5(C=O)-O-R
6を有し、R
5は、C
1-C
10直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はC
3-C
6シクロアルキル基若しくはシクロアルケニル基であり、R
6は、C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基であり、又はいずれか2つのR
6基がそれぞれ組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、R
5及び/又はR
6は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR
1、R
2、R
3、及びR
4の他のものは独立して、C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C
1-C
10アルキル基若しくはアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR
1、R
2、R
3、及びR
4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、前記直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む、置換第四級イミダゾリウムカチオンを含む、請求項1~9のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項19】
1又は2以上のカチオンが、少なくとも1つのアミド基、又は以下の構造:
【化6】
[式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の少なくとも1つは、式-R
5-N(R
7)-(C=O)R
6又は-R
5(C=O)-N(R
7)-R
6を有し、R
5及びR
6は、請求項19に定義される通りであり、R
7は、H;C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はいずれか2つのR
6基のそれぞれが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、R
5及び/又はR
6は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR
1、R
2、R
3、及びR
4の他のものは独立して、C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C
1-C
10アルキル基若しくはアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR
1、R
2、R
3、及びR
4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、前記直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1若しくは2以上のカチオンを含む、置換第四級イミダゾリウムカチオンを含む、請求項1~9のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
R
1、R
2、R
3、及びR
4のうちの3つが、式-R
5O(C=O)R
6;-R
5(C=O)-O-R
6;-R
5-N(R
7)-(C=O)R
6;又は-R
5(C=O)-N(R
7)-R
6[式中、R
5、R
6、及びR
7は、上に定義される通りである]を有する、請求項19に記載の潤滑油組成物。
【請求項21】
R
1、R
2、R
3、及びR
4のうちの3つが、式-R
5O(C=O)R
6を有する、請求項20に記載の潤滑油組成物。
【請求項22】
カチオンが第四級アンモニウムカチオンを含む、請求項18~21のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項23】
カチオンが第四級アンモニウムカチオンを含み、R
1、R
2、及びR
3が、式-R
5O(C=O)R
6[式中、R
5はC
2H
4であり、R
4は、C
1-C
5アルキル、好ましくはメチルである]を有する、請求項22に記載の潤滑油組成物。
【請求項24】
イオン液体が、100℃以上、好ましくは50℃以上の温度において液体である、請求項1~23のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項25】
イオン液体が、25℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは10℃以上、最も好ましくは0℃以上の温度において液体である、請求項1~24のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項26】
イオン液体が、5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは2.5重量%未満のハロゲン化物、最も好ましくは1重量%未満のハロゲン化物を含む、請求項1~25のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項27】
イオン液体が、0.5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは0.1重量%未満のハロゲン化物を含む、請求項1~26のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項28】
イオン液体がハロゲン化物不含である、請求項1~27のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項29】
尿素増粘剤又は置換尿素増粘剤を含まない、請求項1~28のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項30】
1又は2以上のイオン液体を、0.1重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%、最も好ましくは0.1重量%~5重量%の量で含む、請求項1~29のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項31】
1又は2以上のイオン液体を、0.5重量%~1.5重量%の量で含む、請求項1~30のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項32】
1又は2以上の基油が、組成物中に、潤滑剤組成物の75重量%~99重量%の量で存在する、請求項1~31のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項33】
1又は2以上の基油が、グループIベースストック、グループIIベースストック、グループIIIベースストック、グループIVベースストック、及びグループVベースストックから選択される1又は2以上のベースストックを含む、請求項1~32のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項34】
1又は2以上の基油が、ポリアルファオレフィン、合成エステル、ポリアルキレングリコール、リン酸エステル、アルキル化ナフタレン、ケイ酸エステル、イオン流体、又は多重アルキル化シクロペンタンから選択される1又は2以上の合成油を含む、請求項1~33のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項35】
1若しくは2以上の流動点添加剤、消泡剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、洗浄剤、腐食阻害剤、抗摩耗添加剤、摩擦改質剤、極圧添加剤、又はこれらの任意の組合せから選択されてもよい1又は2以上の添加剤をさらに含む、請求項1~34のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項36】
請求項1~35のいずれかに記載の潤滑油組成物を生成する方法であって、1又は2以上の基油を1又は2以上のイオン液体及び任意に1又は2以上の添加剤と合わせるステップを含む、前記方法。
【請求項37】
産業用機械、火花点火機関又は圧縮点火機関を運転する方法であって、請求項1~35のいずれかに記載の潤滑油組成物によって前記機関を潤滑するステップを含む、前記方法。
【請求項38】
第四級ホスホニウムカチオン、第四級スルホニウムカチオン、少なくとも1つのアミド基を含む第四級アンモニウムカチオン、少なくとも1つのエステル基を含む第四級アンモニウムカチオン、少なくとも1つのエステル基を含む置換第四級イミダゾリウムカチオン、少なくとも1つのアミド基を含む置換第四級イミダゾリウムカチオン、アザアヌレニウム、アザチアゾリウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジベンゾフラニウム、ジベンゾチオフェニウム、ジチアゾリウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキサゾリニウム、ペンタゾリウム オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレンアゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアザデセニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム、及びウラニウム、並びにこれらの組合せから選択される1又は2以上のカチオンと、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンとを含む、イオン液体であって、前記1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンが、少なくとも1つの金属硫黄結合を含む、前記イオン液体。
【請求項39】
請求項2~9及び20~28のいずれかに記載のものである、請求項38に記載のイオン液体。
【請求項40】
1又は2以上のカチオンが、以下の構造:
【化7】
[式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は独立して、C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR
1、R
2、R
3、及びR
4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、前記直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む、請求項38又は39に記載のイオン液体。
【請求項41】
R
1、R
2、R
3、及びR
4が、C
1-C
30直鎖又は分岐状アルキル基及びアルケニル基、好ましくはC
1-C
30直鎖又は分岐状アルキル基である、請求項40に記載のイオン液体。
【請求項42】
R
1、R
2、R
3、及びR
4が、C
4-C
18直鎖又は分岐状アルキル基、好ましくはC
4-C
18直鎖アルキル基である、請求項40又は41に記載のイオン液体。
【請求項43】
R
1、R
2、及びR
3が同じであり、R
4は、R
1、R
2、及びR
3とは異なる、請求項40~42のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項44】
R
1、R
2、及びR
3がC
4-C
10直鎖アルキルであり、R
4がC
11-C
18直鎖アルキルである、請求項40~43のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項45】
R
1、R
2、及びR
3がヘキシルであり、R
4がテトラデシルである、請求項40~44のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項46】
以下の式:
【化8】
[式中、R
1、R
2、及びR
3はヘキシルであり、R
4はテトラデシルである]
の化合物を含む、請求項38~45のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項47】
1又は2以上のカチオンが、以下の構造:
【化9】
[式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の少なくとも1は、式-R
5O(C=O)R
6又は-R
5(C=O)-O-R
6を有し、R
5は、C
1-C
10直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はC
3-C
6シクロアルキル基若しくはシクロアルケニル基であり、R
6は、C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基であり、又はいずれか2つのR
6基がそれぞれ組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、R
5及び/又はR
6は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR
1、R
2、R
3、及びR
4の他のものは独立して、C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C
1-C
10アルキル基若しくはアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR
1、R
2、R
3、及びR
4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、前記直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む、請求項38又は39に記載のイオン液体。
【請求項48】
1又は2以上のカチオンが、以下の構造:
【化10】
[式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の少なくとも1は、式-R
5-N(R
7)-(C=O)R
6又は-R
5(C=O)-N(R
7)-R
6を有し、R
5及びR
6は、請求項48に定義される通りであり、R
7は、H;C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はいずれか2つのR
6基のそれぞれが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、R
5及び/又はR
6は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR
1、R
2、R
3、及びR
4の他のものは独立して、C
1-C
30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基;C
3-C
6シクロアルキル基;C
1-C
30アリールアルキル基;C
1-C
30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR
1、R
2、R
3、及びR
4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH
2)
q-[式中、qは3~6である]を形成し、前記直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C
1-C
4アルコキシ、C
2-C
8アルコキシアルコキシ、C
3-C
6シクロアルキル、-OH、-NH
2、-SH、-CO
2(C
1-C
6)アルキル、及び-OC(O)(C
1-C
6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む、請求項38又は39に記載のイオン液体。
【請求項49】
R
1、R
2、R
3、及びR
4のうちの3つが、式-R
5O(C=O)R
6;-R
5(C=O)-O-R
6;-R
5-N(R
7)-(C=O)R
6;又は-R
5(C=O)-N(R
7)-R
6[式中、R
5、R
6、及びR
7は、上に定義される通りである]を有する、請求項47又は48に記載のイオン液体。
【請求項50】
R
1、R
2、R
3、及びR
4のうちの3つが、式-R
5O(C=O)R
6を有する、請求項49に記載のイオン液体。
【請求項51】
カチオンが第四級アンモニウムカチオンを含む、請求項47~50のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項52】
カチオンが第四級アンモニウムカチオンを含み、R
1、R
2、及びR
3が、式-R
5O(C=O)R
6[式中、R
5はC
2H
4であり、R
4は、C
1-C
5アルキル、好ましくはメチルである]を有する、請求項51に記載のイオン液体。
【請求項53】
100℃以上、好ましくは50℃以上の温度において液体である、請求項38~52のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項54】
25℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは10℃以上、最も好ましくは0℃以上の温度において液体である、請求項38~53のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項55】
5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは2.5重量%未満のハロゲン化物、最も好ましくは1重量%未満のハロゲン化物を含む、請求項38~54のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項56】
0.5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは0.1重量%未満のハロゲン化物を含む、請求項38~55のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項57】
ハロゲン化物不含である、請求項38~56のいずれかに記載のイオン液体。
【請求項58】
潤滑油組成物における、前記潤滑油組成物の抗摩擦特性を改善する目的のため、及び/又は前記潤滑油組成物の抗摩耗特性を改善する目的のための、請求項38~57及び請求項1~28のいずれかに記載のイオン液体の使用。
【請求項59】
潤滑油組成物が、請求項1~37のいずれかに記載のものである、請求項58に記載の使用。
【請求項60】
イオン液体が、潤滑油組成物の抗摩擦特性を改善する目的のために使用される、請求項58又は59に記載の使用。
【請求項61】
イオン液体が、潤滑油組成物の抗摩耗特性を改善する目的のために使用される、請求項58又は59に記載の使用。
【請求項62】
潤滑油組成物に使用するための添加剤濃縮物であって、請求項38~57及び1~24のいずれかに記載のイオン液体と、1若しくは2以上の流動点添加剤、消泡剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、洗浄剤、腐食阻害剤、抗摩耗添加剤、摩擦改質剤、極圧添加剤、又はこれらの任意の組合せから選択される1又は2以上のさらなる添加剤とを含む、前記添加剤濃縮物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤における摩擦及び摩耗を低減するための添加剤に関する。特に、本発明は、新規な塩、並びに摩擦及び摩耗を低減するための潤滑油組成物におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤組成物は一般に、潤滑的粘度の基油とともに、摩擦及び摩耗の低減、粘度指数の向上、洗浄力、並びに酸化及び腐食への耐性などの特性を与えるための1又は2以上の添加剤を含む。潤滑剤基油は、ベースストックと呼ばれる、1又は2以上の供給源の潤滑油を含みうる。典型的には、潤滑剤は、約90重量%の基油と、10重量%前後の添加剤とを含有する。潤滑剤のベースストックは、原油に由来しうる。このようなベースストックは、鉱油として知られる。自動車エンジン用潤滑剤において有用なこのような潤滑剤ベースストックは、原油の精製から高沸点画分として、又は合成経路を介して得ることができ、API standard 1509, "ENGINE OIL LICENSING AND CERTIFICATION SYSTEM", April 2007 version 16th edition Appendix Eによれば、グループI、II、III、IV、及びVベースストックとして分類される。潤滑剤ベースストックは、合成炭化水素(それ自体石油に由来しうる)を使用して、合成によって得ることもできる。このようなベースストックは、合成ベースストックとして知られ、ポリアルファオレフィン(PAO,polyalpha-olefin)、合成エステル、ポリアルキレングリコール(PAG,polyalkylene glycol)、リン酸エステル、アルキル化ナフタレン(AN,alkylated naphthalene)、ケイ酸エステル、イオン流体、及び多重アルキル化シクロペンタン(MAC,multiply alkylated cyclopentane)が挙げられる。
【0003】
潤滑油組成物は、多様な用途を有する。該組成物の主要な用途は、モータービークルにおける内燃機関の可動部品、並びに火花点火機関及び圧縮点火機関などの動力装置を潤滑することにある。潤滑油組成物は一般に、潤滑油が機能を果たすことを支援するための多様な添加剤を含む。摩擦低減添加剤は一般に、システムの可動部品同士の間の摩擦を低減するために、潤滑油組成物に含まれる。抗摩耗添加剤も典型的には、可動部品の表面における摩耗を低減するために含まれる。市販の摩擦低減添加剤の例は、式:
【0004】
【0005】
を有する、MoDTCとして知られる化合物である。
【0006】
潤滑油組成物に使用される市販の抗摩耗添加剤の例は、ジアルキル亜鉛、及び以下の式:
【0007】
【0008】
を有する、亜鉛ジアリールジチオホスフェート(ZDDP,zinc dialkyl and diaryl dithiophosphate)として知られる化合物である。
【0009】
様々な塩も、摩擦低減及び抗摩耗特性を潤滑油組成物に提供するために、組成物に使用されることが公知である。国際公開第2008/075016号パンフレットは、潤滑油組成物に使用して、抗摩耗及び摩擦低減特性を提供するための様々な塩を開示している。塩は、4つのヒドロカルビル基を有する、第四級アンモニウム及び第四級ホスホニウムカチオンを含む。塩は、式[R1R2P(O)O]-のアニオン、カルボン酸アニオン、及び様々なスルホコハク酸エステルアニオンを含む。
【0010】
摩擦低減及び抗摩耗添加剤として潤滑油組成物に使用するためのさらなる塩は、米国特許出願公開第2017/0240838号明細書及び米国特許出願公開第2017/0240837号明細書に開示されており、以下の式:
【0011】
【0012】
を有する。
【0013】
該文書に開示されている塩のアニオンは、上記式の二核アニオンに限定される。さらに、該文書に開示されている塩のカチオンは、イミダゾリウムカチオン、及びヒドロカルビル基によって置換された第四級アンモニウムカチオンに限定される。
【0014】
米国特許第4370245号明細書は、以下の式:
【0015】
【0016】
を有する化合物を開示している。
【0017】
R1~R3基は、1~30の炭素原子を有するアルキル基及びアルケニル基に限定され、R4は、4~30の炭素原子を有するアルキル基及びアルケニル基に限定される。塩は、置換尿素増粘剤を含むグリースの極圧特性を改善するものとして開示されている。該塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属によって増粘されたグリースなど、他のグリースの特性は改善しないことが教示されている。さらに、文書に開示されているものとは異なるヒドロカルビルアンモニウムチオモリブデートは、極圧特性の改善において、置換尿素増粘グリースに対して有効でないことが教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2008/075016号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0240838号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/0240837号明細書
【特許文献4】米国特許第4370245号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】API standard 1509, "ENGINE OIL LICENSING AND CERTIFICATION SYSTEM", April 2007 version 16th edition Appendix E
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の発明者らは、潤滑油組成物に使用するための、該組成物の抗摩耗特性を改善し、該組成物における摩擦を低減する、新しく改善された添加剤が引き続き必要であることを認識している。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、部分的には、ある特定の新規イオン液体塩及びある特定の公知のイオン液体塩が、改善された抗摩耗特性及び/又は改善された摩擦低減特性を、潤滑油組成物に付与するという驚くべき知見に基づく。特に、ある特定の新規イオン液体塩及びある特定の公知のイオン液体塩は、抗摩耗及び摩擦低減特性を潤滑油組成物に付与するが、該特性を付与することについて、当技術分野において公知の様々な添加剤よりも大きな程度であることが分かった。
【0022】
本発明の一態様によれば、1又は2以上の基油と1又は2以上のイオン液体とを含む潤滑油組成物であって、1又は2以上のイオン液体が、1又は2以上のカチオンと1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンとを含む、潤滑油組成物が提供される。
【0023】
好ましくは、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンはモリブデンを含む。
【0024】
好ましくは、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンは-2の電荷を有する。
【0025】
好ましくは、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンの中心金属原子は、4つの原子に結合している。
【0026】
好ましくは、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンは、アニオンの中心金属原子に配位した以下のリガンド:BH3、BF3、BCl3、BR3、ALMe3、SiF4、H、CR3、-CR=CR2、アルキニル、-COR、-C6H5、η-CH2CH=CH2、η-C5H5、CF3、C6F5、CH2CMe3、NR2、OR、-OOR、F、SiR3、-PR2、SR、Cl、GeR3、AsR2、SeR、Br、SnR3、I、CN、SCN、NCS、N3、OCN、NCO、OSO2R、ONO、ONO2、OClO3、OSiR3、Mn(CO)5、Fe(η-C5H5)(CO2)、Mo(η-C5H5)(CO)3、Au(PPh3)、HgCl、-SCH2CH2S-、オキサレート、o-キノン、-(S)2-、SO4、CO3、-(O)2-、金属環状化合物-(CH2)n-[式中、n=2、3、又は4である]、=CR2、=NR、=O、=S、=C=CR2、NH3、NR3、OH2、OR2、PR3、P(OR)3、SR2、SeR2、AsR3、CO、H2C=CH2、R2C=CR2、RC=CR、S=CR2、N2、PF3、テトラヒドロフラン、Et2O、DMSO、RNC、RCN、ピリジン、ジメチルスルホキシド、窒素、η-C3H5、アセチルアセトン、ジメチルグリオキシム、η-アセタト、η-O2CR、η-S2CNR2、η-S2PR2、NH2CH2CO2-、BF4、BH4、NO、NR2、η-C4H4、NR、η-C4H4、ビピリジル、o-フェナントロリン、エチレンジアミン、RS(CH)2SR、ジフォスフィン、N(CH2COO)3、η-C5H5、ジエニル、1,5-ジアザシクロオクタン-N、N’-ジアセテート、η-ベンゼン、(η-アレーン)、η-C7H8、RSi(CH2PMe2)3、η-C7H7、エチレンジアミン四酢酸、η-C5H4(CH2)3NR、η-C5H4(CH2)3NR、η-C5H4(CH2)3N=、P(bipy)3、[FB(ONCHC5H3)3P][式中、Rはヒドロカルビルであり、好ましくは、Rは、アルキル又はアルケニルである]の1又は2以上を含む。
【0027】
好ましくは、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンは、式:
【0028】
【0029】
[式中、M=Cr、Mo、W、又はSgであり、少なくとも1つのXがX=Sであり、他のXは独立して、O、S、Se、又はTeから選択され、各Rは独立して、アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、又はアリールアルキル部分、例えば、C1-C10アルキル、C1-C10アルケニル、C1-C10アリール、C1-C10アルキルアリール、又はC1-C10アリールアルキル部分から選択され、該アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、又はアリールアルキル部分は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
のものである。
【0030】
より好ましくは、M=Moであり、他のXは独立して、O又はSから選択される。
【0031】
最も好ましくは、M=Moであり、各X=Sである。好まれる例では、1又は2以上のイオン液体は、式:
【0032】
【0033】
[式中、M=Moであり、X=Sである]
を有する。
【0034】
好ましくは、1又は2以上のカチオンは、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、第四級スルホニウムカチオン、又はこれらの任意の組合せから選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0035】
好ましい一例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0036】
【0037】
[式中、R1、R2、R3、及びR4は独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0038】
好ましくは、R1、R2、R3、及びR4は、C1-C30直鎖又は分岐状アルキル基及びアルケニル基、好ましくはC1-C30直鎖又は分岐状アルキル基である。
【0039】
好ましくは、R1、R2、R3、及びR4は、C4-C18直鎖又は分岐状アルキル基、好ましくはC4-C18直鎖アルキル基である。
【0040】
好ましくは、R1、R2、及びR3は同じであり、R4は、R1、R2、及びR3とは異なる。
【0041】
好ましくは、R1、R2、及びR3はC4-C10直鎖アルキルであり、R4はC11-C18直鎖アルキルである。
【0042】
好ましくは、R1、R2、及びR3はヘキシルであり、R4はテトラデシルである。
【0043】
好ましくは、1又は2以上のカチオンはホスホニウムカチオンを含む。
【0044】
好ましくは、イオン液体は、以下の式:
【0045】
【0046】
[式中、R1、R2、及びR3はヘキシルであり、R4はテトラデシルである]
の化合物を含む。
【0047】
別の好ましい例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0048】
【0049】
[式中、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つは、式-R5O(C=O)R6又は-R5(C=O)-O-R6を有し、R5は、C1-C10直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニル基であり、R6は、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基であり、又はいずれか2つのR6基がそれぞれ組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、R5及び/又はR6は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR1、R2、R3、及びR4の他のものは独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C1-C10アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0050】
別の好ましい例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0051】
【0052】
[式中、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1は、式-R5-N(R7)-(C=O)R6又は-R5(C=O)-N(R7)-R6を有し、R5及びR6は、上に定義される通りであり、R7は、H;C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はいずれか2つのR6基のそれぞれが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、R5及び/又はR6は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR1、R2、R3、及びR4の他のものは独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C1-C10アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0053】
上に記載した例において、好ましくは、R1、R2、R3、及びR4のうちの3つは、式-R5O(C=O)R6;-R5(C=O)-O-R6;-R5-N(R7)-(C=O)R6;又は-R5(C=O)-N(R7)-R6[式中、R5、R6、及びR7は、上に定義される通りである]を有する。より好ましくは、R1、R2、R3、及びR4のうちの3つは、式-R5O(C=O)R6を有する。好ましくは、カチオンは第四級アンモニウムカチオンを含む。最も好ましくは、カチオンは第四級アンモニウムカチオンを含み、R1、R2、及びR3は、式-R5O(C=O)R6[式中、R5はC2H4であり、R4は、C1-C5アルキル、好ましくはメチルである]を有する。
【0054】
別の好ましい例では、カチオンは、少なくとも1のエステル基を含む置換第四級イミダゾリウムカチオン、又は少なくとも1のアミド基を含む置換第四級イミダゾリウムカチオンを含む。
【0055】
他の例では、カチオンは、アンモニウム、アザアヌレニウム(azaannulenium)、アザチアゾリウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジベンゾフラニウム、ジベンゾチオフェニウム、ジチアゾリウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキサゾリニウム、ペンタゾリウム オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレンアゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアザデセニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム、及びウラニウム、並びにこれらの組合せから選択されるカチオン種を含みうる。
【0056】
好ましくは、イオン液体は、100℃以上、好ましくは50℃以上の温度において液体である。
【0057】
好ましくは、イオン液体は、25℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは10℃以上、最も好ましくは0℃以上の温度において液体である。
【0058】
好ましくは、イオン液体は、5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは2.5重量%未満のハロゲン化物、最も好ましくは1重量%未満のハロゲン化物を含む。
【0059】
好ましくは、イオン液体は、0.5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは0.1重量%未満のハロゲン化物を含む。
【0060】
好ましくは、イオン液体はハロゲン化物不含である。
【0061】
好ましくは、組成物は、尿素増粘剤又は置換尿素増粘剤を含まない。
【0062】
好ましくは、組成物は、1又は2以上のイオン液体を、0.1重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%、最も好ましくは0.1重量%~5重量%の量で含む。
【0063】
好ましくは、組成物は、1又は2以上のイオン液体を、0.5重量%~1.5重量%の量で含む。
【0064】
好ましくは、1又は2以上の基油は、組成物中に、潤滑剤組成物の75重量%~99重量%の量で存在する。
【0065】
好ましくは、1又は2以上の基油は、グループIベースストック、グループIIベースストック、グループIIIベースストック、グループIVベースストック、及びグループVベースストックから選択される1又は2以上のベースストックを含む。
【0066】
好ましくは、1又は2以上の基油は、ポリアルファオレフィン、合成エステル、ポリアルキレングリコール、リン酸エステル、アルキル化ナフタレン、ケイ酸エステル、イオン流体、又は多重アルキル化シクロペンタンから選択される1又は2以上の合成油を含む。
【0067】
好ましくは、本発明の潤滑油組成物は、1若しくは2以上の流動点添加剤、消泡剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、洗浄剤、腐食阻害剤、抗摩耗添加剤、摩擦改質剤、極圧添加剤、又はこれらの任意の組合せから選択されてもよい1又は2以上の添加剤をさらに含む。
【0068】
本発明のさらなる態様によれば、本発明による潤滑油組成物を生成する方法であって、1又は2以上の基油を1又は2以上のイオン液体及び任意に1又は2以上の添加剤と合わせるステップを含む、方法が提供される。
【0069】
本発明のさらなる態様によれば、産業用機械、火花点火機関又は圧縮点火機関を運転する方法であって、先行する請求項のいずれかによる潤滑油組成物によって該機械又は機関を潤滑するステップを含む、方法が提供される。
【0070】
本発明のさらなる態様によれば、第四級ホスホニウムカチオン、第四級スルホニウムカチオン、少なくとも1のアミド基を含む第四級アンモニウムカチオン、少なくとも1のエステル基を含む第四級アンモニウムカチオン、少なくとも1のエステル基を含む置換第四級イミダゾリウムイオン、少なくとも1のアミド基を含む置換第四級イミダゾリウムイオン、アザアヌレニウム、アザチアゾリウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジベンゾフラニウム、ジベンゾチオフェニウム、ジチアゾリウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキサゾリニウム、ペンタゾリウム オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレンアゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアザデセニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム、及びウラニウム、並びにこれらの組合せから選択される1又は2以上のカチオンと、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンとを含む、イオン液体であって、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンが、少なくとも1つの金属硫黄結合を含む、イオン液体が提供される。
【0071】
好ましくは、イオン液体は、本発明による潤滑油組成物に従って上に記載した通りであるが、ただし、該イオン液体は、すぐ上のパラグラフに記載した内容の範囲内である。
【0072】
好ましい一例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0073】
【0074】
[式中、R1、R2、R3、及びR4は独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2が組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0075】
好ましくは、R1、R2、R3、及びR4は、C1-C30直鎖又は分岐状アルキル基及びアルケニル基、好ましくはC1-C30直鎖又は分岐状アルキル基である。
【0076】
好ましくは、R1、R2、R3、及びR4は、C4-C18直鎖又は分岐状アルキル基、好ましくはC4-C18直鎖アルキル基である。
【0077】
好ましくは、R1、R2、及びR3は同じであり、R4は、R1、R2、及びR3とは異なる。
【0078】
好ましくは、R1、R2、及びR3はC4-C10直鎖アルキルであり、R4はC11-C18直鎖アルキルである。
【0079】
好ましくは、R1、R2、及びR3はヘキシルであり、R4はテトラデシルである。
【0080】
好ましくは、イオン液体は、以下の式:
【0081】
【0082】
[式中、R1、R2、及びR3はヘキシルであり、R4はテトラデシルである]
の化合物を含む。
【0083】
別の好ましい例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0084】
【0085】
[式中、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1は、式-R5O(C=O)R6又は-R5(C=O)-O-R6を有し、R5は、C1-C10直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はC3-C6シクロアルキル基若しくはシクロアルケニル基であり、R6は、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基であり、又はいずれか2つのR6基がそれぞれ組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、R5及び/又はR6は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR1、R2、R3、及びR4の他のものは独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C1-C10アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0086】
別の好まれる例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0087】
【0088】
[式中、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1は、式-R5-N(R7)-(C=O)R6又は-R5(C=O)-N(R7)-R6を有し、R5及びR6は、上に定義される通りであり、R7は、H;C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はいずれか2つのR6基のそれぞれが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、R5及び/又はR6は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR1、R2、R3、及びR4の他のものは独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C1-C10アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0089】
上に記載した例において、好ましくは、R1、R2、R3、及びR4のうちの3つは、式-R5O(C=O)R6;-R5(C=O)-O-R6;-R5-N(R7)-(C=O)R6;又は-R5(C=O)-N(R7)-R6[式中、R5、R6、及びR7は、上に定義される通りである]を有する。より好ましくは、R1、R2、R3、及びR4のうちの3つは、式-R5O(C=O)R6を有する。よりいっそう好ましくは、カチオンは第四級アンモニウムカチオンを含む。最も好ましくは、カチオンは第四級アンモニウムカチオンを含み、R1、R2、及びR3は、式-R5O(C=O)R6[式中、R5はC2H4であり、R4は、C1-C5アルキル、好ましくはメチルである]を有する。
【0090】
好ましくは、イオン液体は、100℃以上、好ましくは50℃以上の温度において液体である。
【0091】
好ましくは、イオン液体は、25℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは10℃以上、最も好ましくは0℃以上の温度において液体である。
【0092】
好ましくは、イオン液体は、5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは2.5重量%未満のハロゲン化物、最も好ましくは1重量%未満のハロゲン化物を含む。
【0093】
好ましくは、イオン液体は、0.5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは0.1重量%未満のハロゲン化物を含む。
【0094】
好ましくは、イオン液体はハロゲン化物不含である。
【0095】
本発明のさらなる態様によれば、潤滑油組成物における、潤滑油組成物の抗摩擦特性を改善する目的のための及び/又は潤滑油組成物の抗摩耗特性を改善する目的のための、本発明によるイオン液体の又は本発明による潤滑油組成物の文脈において上に記載したイオン液体の、使用が提供される。
【0096】
好ましくは、潤滑油組成物は、本発明によるものである。
【0097】
好ましくは、イオン液体は、潤滑油組成物の抗摩擦特性を改善する目的のために使用される。
【0098】
好ましくは、イオン液体は、潤滑油組成物の抗摩耗特性を改善する目的のために使用される。
【0099】
本発明のさらなる態様によれば、潤滑油組成物に使用するための添加剤濃縮物であって、本発明によるイオン液体又は本発明による潤滑油組成物の文脈において上に記載したイオン液体と、1若しくは2以上の流動点添加剤、消泡剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、洗浄剤、腐食阻害剤、抗摩耗添加剤、摩擦改質剤、極圧添加剤、又はこれらの任意の組合せから選択される1又は2以上のさらなる添加剤とを含む、添加剤濃縮物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【
図1】いかなる摩擦低減又は抗摩耗添加剤も含まない潤滑油組成物の、速さによる摩擦係数の変化を図示したグラフである。
【
図2】イオン液体添加剤を含む潤滑油組成物の、速さによる摩擦係数の変化を図示したグラフである。
【
図3】添加剤MoDTCを含む潤滑油組成物の、速さによる摩擦係数の変化を図示したグラフである。
【
図4】いかなる摩擦低減又は抗摩耗添加剤も含まない潤滑油組成物、イオン液体添加剤を含む潤滑油組成物、及び添加剤MoDTCを含む潤滑油組成物の、HFRR試験における経時的な摩擦係数の変化を図示したグラフである。
【
図5】抗摩擦又は抗摩耗添加剤を含まない油、MoDTCを含有する油、及び本発明のイオン液体を含有する油における、相対的な摩擦上昇を図示したグラフである。
【
図6】抗摩擦又は抗摩耗添加剤を含まない油、MoDTCを含有する油、及び本発明のイオン液体を含有する油の摩擦係数を図示したグラフである。
【
図7】MoDTC及び本発明のイオン液体の存在下、様々な金属において実行した腐食試験の結果を示す図である。
【
図8】左に添加剤MoDTCに浸漬させた銅クーポン、及び右にMoDTCに2日間浸漬させた後の銅クーポンを示す図である。
【
図9】本発明のイオン液体及び従来のモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)への曝露後の金属クーポンを示す図である。
【
図10】本発明のイオン液体に浸漬させた銅クーポン(左)、及び該イオン液体に2日間曝露した後の銅クーポン(右)を示す図である。
【
図11】70℃において2日間MoDTCに曝露した後の銅クーポン上の、黒色腐食付着物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図12】70℃において2日間MoDTCに曝露した後の銅クーポン上の、黒色腐食付着物のエネルギー分散型X線分光法(EDX)スペクトルである。
【
図13】70℃において2日間イオン液体IL 18/36に曝露した後の銅クーポン上の、黒色腐食付着物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図14】70℃において2日間イオン液体IL 18/36に曝露した後の銅クーポン上の、黒色腐食付着物のエネルギー分散型X線分光法(EDX)スペクトルである。
【
図15】複数の本発明のイオン液体に曝露した様々な金属表面についての、電気化学的分極データ(electrochemical polarization data)を示す表である。
【
図16】MoDTCに曝露した銅における、ターフェル分析に先立つリニアスイープボルタメトリースペクトル(a linear sweep voltammetry spectrum)を示すグラフである。
【
図17】本発明のイオン液体(上)及びMoDTC(下)に曝露した銅クーポンを示す図である。
【
図18】本発明のイオン液体(上)及びMoDTC(右)に曝露した銀クーポンを示す図である。
【
図19】
図15での電気化学的分極条件下で、MoDTCに曝露した後の銀クーポンのSEM画像である。
【
図20】
図15での電気化学的分極条件下で、MoDTCに曝露した後の銀クーポンのEDXスペクトルである。
【
図21】
図15での電気化学的分極条件下で、イオン液体IL 18/36に曝露した後の銀クーポンのSEM画像である。
【
図22】
図15での電気化学的分極条件下で、イオン液体IL 18/36に曝露した後の銀クーポンのEDXスペクトルである。
【
図23】試験潤滑油3の熱重量分析を図示したグラフである。
【
図24】試験潤滑油4+の熱重量分析を図示したグラフである。
【
図25】MoDTCのみの熱重量分析を図示したグラフである。
【
図26】イオン液体IL 18/36のみの熱重量分析を図示したグラフである。
【
図27】イオン液体IL 18/03のみの熱重量分析を図示したグラフである。
【
図28】0.5重量%のMoDTCを有する試験潤滑油3の熱重量分析を図示したグラフである。
【
図29】0.5重量%のMoDTCを有する試験潤滑油4+の熱重量分析を図示したグラフである。
【
図30】1重量%のMoDTCを有する試験潤滑油4+の熱重量分析を図示したグラフである。
【
図31】0.5重量%のイオン液体IL 18/36を有する試験潤滑油3の熱重量分析を図示したグラフである。
【
図32】1重量%のイオン液体IL 18/36を有する試験潤滑油3の熱重量分析を図示したグラフである。
【
図33】0.5重量%のイオン液体IL 18/36を有する試験潤滑油4+の熱重量分析を図示したグラフである。
【
図34】1重量%のイオン液体IL 18/36を有する試験潤滑油4+の熱重量分析を図示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0101】
潤滑剤は、典型的には、総合的な性能を改善するために複数の添加剤を必要とする。この出願に記載する化合物のクラスは、単一成分添加剤として、又は他の潤滑添加剤と組み合わせとして使用する場合、ベース潤滑剤に対して改善された摩擦低減及び/又は摩耗低減性能を付与する。別の利益は、化合物がイオン液体であることである。
【0102】
イオン液体添加剤
「イオン液体」という用語は、本明細書で使用する場合、塩の融解によって生成することができ、そのように生成する場合、専らイオンからなる液体を指す。イオン液体は、1種のカチオンと1種のアニオンとを含む均質物質から形成されうるが、2種以上のカチオン及び/又は2種以上のアニオンから構成されることもある。したがって、イオン液体は、2種以上のカチオンと1種のアニオンとから構成されてもよい。イオン液体はさらに、1種のカチオンと、1又は2以上の種のアニオンとから構成されてもよい。またさらに、イオン液体は、2種以上のカチオンと2種以上のアニオンとから構成されてもよい。
【0103】
「イオン液体」という用語には、高い融点の両方を有する化合物と、例えば室温以下の低い融点を有する化合物とを含む。したがって、多くのイオン液体は、200℃未満、好ましくは150℃未満、特に100℃未満、室温前後(15~30℃)、又はさらには0℃未満の融点を有する。30℃前後を下回る融点を有するイオン液体は、一般に、「室温イオン液体」と呼ばれる。室温イオン液体では、カチオン及びアニオンの構造が秩序だった結晶構造の形成を妨げ、そのため、塩は室温において液体となる。
【0104】
イオン液体は、溶媒として最も広く知られており、無視できるほどの蒸気圧、温度安定性、低い燃焼性、及び再利用性のため、環境に調和する。利用可能なアニオン/カチオンの組合せが膨大な数であることに起因して、イオン液体の物性(例えば、融点、密度、粘度、及び水又は有機溶媒との混和性)が特定の用途の要件に適合するように、微調整することができる。
【0105】
本開示のイオン液体は、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンを含み、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンは、少なくとも1つの金属硫黄結合を含む。
【0106】
本明細書で使用する場合、単核という用語は、1の中心金属原子と、それに結合した1又は2以上の配位子とを含有するアニオンを指すために使用する。これは、2以上の金属中心を含む二核及び多核アニオン性錯体との対比であり、各金属中心は、それに結合した1又は2以上の配位子を有し、一部の配位子は、金属中心同士の間の「架橋配位子」と記載されうる。
【0107】
アニオンは、好ましくはモリブデン原子を含むが、クロム、タングステン、及びシーボーギウムなどの他の第6族金属が、アニオン中に代わりに存在してもよい。アニオンの電荷は、-1、-2、又は-3でありうる。好ましい例では、アニオンの電荷は-2である。好ましい例では、アニオンの金属はモリブデンであり、アニオンの電荷は-2である。
【0108】
アニオンは、中心金属原子の周りに、配位子の可能な配位幾何学のいずれを有してもよい。好ましくは、モリブデンなどのアニオンの中心金属原子は、それに結合した4つの原子を有するが、中心金属原子に結合した原子の数が異なると、アニオンが異なる配位幾何学を有しうることを、当業者は理解するであろう。
【0109】
第6族金属単核メタレートアニオンは、少なくとも1つの金属と硫黄の結合を含む。すなわち、アニオンは、少なくとも1の硫黄原子に化学的に結合した中心金属原子を含む。この化学結合は、単共有結合であっても、二重共有結合であってもよい。
【0110】
第6族金属単核メタレートアニオンはまた、硫黄への追加の配位子も含んでもよい。あるいは、中心金属原子は、硫黄原子のみに結合してもよい。
【0111】
第6族金属単核メタレートアニオンの中心金属原子に結合しうる他の配位子の例としては、以下の配位子:BH3、BF3、BCl3、BR3、ALMe3、SiF4、H、CR3、-CR=CR2、アルキニル、-COR、-C6H5、η-CH2CH=CH2、η-C5H5、CF3、C6F5、CH2CMe3、NR2、OR、-OOR、F、SiR3、-PR2、SR、Cl、GeR3、AsR2、SeR、Br、SnR3、I、CN、SCN、NCS、N3、OCN、NCO、OSO2R、ONO、ONO2、OClO3、OSiR3、Mn(CO)5、Fe(η-C5H5)(CO2)、Mo(η-C5H5)(CO)3、Au(PPh3)、HgCl、-SCH2CH2S-、オキサレート、o-キノン、-(S)2-、SO4、CO3、-(O)2-、金属環状化合物-(CH2)n-[式中、n=2、3、又は4である]、=CR2、=NR、=O、=S、=C=CR2、NH3、NR3、OH2、OR2、PR3、P(OR)3、SR2、SeR2、AsR3、CO、H2C=CH2、R2C=CR2、RC=CR、S=CR2、N2、PF3、テトラヒドロフラン、Et2O、DMSO、RNC、RCN、ピリジン、ジメチルスルホキシド、窒素、η-C3H5、アセチルアセトン、ジメチルグリオキシム、η-アセタト、η-O2CR、η-S2CNR2、η-S2PR2、NH2CH2CO2-、BF4、BH4、NO、NR2、η-C4H4、NR、η-C4H4、ビピリジル、o-フェナントロリン、エチレンジアミン、RS(CH)2SR、ジフォスフィン、N(CH2COO)3、η-C5H5、ジエニル、1,5-ジアザシクロオクタン-N、N’-ジアセテート、η-ベンゼン、(η-アレーン)、η-C7H8、RSi(CH2PMe2)3、η-C7H7、エチレンジアミン四酢酸、η-C5H4(CH2)3NR、η-C5H4(CH2)3NR、η-C5H4(CH2)3N=、P(bipy)3、[FB(ONCHC5H3)3P][式中、Rはヒドロカルビルであり、好ましくは、Rは、アルキル又はアルケニルである]が挙げられる。
【0112】
しかしながら、上の配位子のリストは網羅的なものではないこと、及びアニオンの中心金属原子に他の配位子も結合しうることを、当業者は理解するであろう。
【0113】
本開示の第6族金属メタレートアニオンに存在しうる配位子の例は、教科書"Molybdenum: An outline of its Chemistry and Uses", Chapter 2, by M. L. H. Green, available from Elsevier, Amsterdam, 1994. ISBN 0-444-88198-0に詳細に論じられている。この参考文献は、モリブデン化合物及びアニオンに存在しうる様々なタイプの配位子、該配位子の異なるクラスへの分類、並びにモリブデン原子の周りの異なる可能な配位幾何学の詳細な議論も含有する。参考文献は、様々なモリブデン錯体及びアニオンの例も含有する。該参考文献において論じられている配位子のいずれかが、本開示のモリブデン含有アニオン中に存在しうる。
【0114】
本開示の第6族金属単核メタレートアニオンは、中心金属原子に結合した少なくとも1の硫黄原子を含有する。アニオンは、1、2、3、又は4個の硫黄原子のように、2個以上の硫黄原子を含有してもよい。好ましくは、アニオン中の各硫黄原子は、中心金属原子に結合している。
【0115】
好ましい例では、アニオンは、中心金属原子に結合した4又は2個の硫黄原子を含有する。好ましい例では、アニオンは-2の電荷を有し、中心モリブデン原子に結合した2又は4個の硫黄原子を含む。
【0116】
一部の例では、アニオンは-2の電荷を有し、中心モリブデン原子に結合した4個の原子を含有する。一部の例では、これらの結合した原子の1、2、又は3個は硫黄であり、他の結合した原子は酸素である。しかしながら、好ましい例では、4個の結合した原子のそれぞれは硫黄である。
【0117】
非常に好ましい実施形態では、アニオンは[MoS4]2-である。
【0118】
他の実施形態では、アニオンは、モリブデンと4個の結合した原子とを含み、1個の結合した原子は硫黄であり、1個の結合した原子は酸素であり、他の2個の結合した原子はヒドロカルビル部分の炭素原子である。他の実施形態では、アニオンは、モリブデンと4個の結合した原子とを含み、2個の結合した原子は硫黄であり、他の2個の結合した原子はヒドロカルビル部分の炭素原子である。
【0119】
非常に好ましい実施形態では、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンは、式:
【0120】
【0121】
[式中、M=Moであり、X=Sであり、各Rは独立して、アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、又はアリールアルキル部分から選択され、該アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、又はアリールアルキル部分は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
のものである。
【0122】
好ましくは、該アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、又はアリールアルキル部分は、1~10の炭素原子を含む。例えば、C1-C10アルキル又はシクロアルキル部分、C1-C10アルケニル又はシクロアルケニル部分、C4-C8アリール部分、C1-C10アルキルアリール部分、及びC1-C10アリールアルキル部分。
【0123】
本開示のイオン液体は、1又は2以上のカチオンを含む。イオン液体は、第6族金属単核メタレートアニオンを有するイオン液体を形成するのに適切な任意のカチオンを含んでもよく、1又は2以上の第6族金属単核メタレートアニオンは、少なくとも1つの金属硫黄結合を含む。
【0124】
好ましくは、1又は2以上のカチオンは、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、第四級スルホニウムカチオン、又はこれらの任意の組合せを含む。
【0125】
本開示の例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0126】
【0127】
[式中、R1、R2、R3、及びR4は独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]から選択される1又は2以上のカチオンを含む。好ましくは、R1、R2、R3、及びR4は、C1-C30直鎖又は分岐状アルキル基及びアルケニル基、好ましくはC1-C30直鎖又は分岐状アルキル基である。より好ましくは、R1、R2、R3、及びR4は、C4-C18直鎖又は分岐状アルキル基、好ましくはC4-C18直鎖アルキル基である。よりいっそう好ましくは、R1、R2、及びR3は同じであり、R4は、R1、R2、及びR3とは異なる。よりいっそう好ましくは、R1、R2、及びR3はC4-C10直鎖アルキルであり、R4はC11-C18直鎖アルキルである。最も好ましくは、R1、R2、及びR3はヘキシルであり、R4はテトラデシルである。最も好ましくは、1又は2以上のカチオンはホスホニウムカチオンを含む。最も好ましくは、イオン液体は、以下の式:
【0128】
【0129】
[式中、R1、R2、及びR3はヘキシルであり、R4はテトラデシルである]
の化合物を含む。これは、イオン液体ビス(トリヘキシルテトラデシルホスホニウム)テトラチオモリブデートである。
【0130】
他の例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0131】
【0132】
[式中、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1は、式-R5O(C=O)R6又は-R5(C=O)-O-R6を有し、R5は、C1-C10直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニル基であり、R6は、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基であり、又はいずれか2つのR6基がそれぞれ組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、R5及び/又はR6は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR1、R2、R3、及びR4の他のものは独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C1-C10アルキル若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0133】
他の例では、1又は2以上のカチオンは、以下の構造:
【0134】
【0135】
[式中、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1は、式-R5-N(R7)-(C=O)R6又は-R5(C=O)-N(R7)-R6を有し、R5及びR6は、上に定義される通りであり、R7は、H;C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はいずれか2つのR6基のそれぞれが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、R5及び/又はR6は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよく、
上で定義された通りではないR1、R2、R3、及びR4の他のものは独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基及びアルケニル基、例えば、C1-C10アルキル基若しくはアルケニル基;C3-C6シクロアルキル基;C1-C30アリールアルキル基;C1-C30アルキルアリール基;アリール基から選択され、又はR1、R2、R3、及びR4のいずれか2つが組み合わさって、アルキレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成し、該直鎖若しくは分岐鎖アルキル基及びアルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基;アリール基、又はアルキレン鎖のいずれか1又は2以上は、C1-C4アルコキシ、C2-C8アルコキシアルコキシ、C3-C6シクロアルキル、-OH、-NH2、-SH、-CO2(C1-C6)アルキル、及び-OC(O)(C1-C6)アルキルから選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
から選択される1又は2以上のカチオンを含む。
【0136】
上に記載した例において、好ましくは、R1、R2、R3、及びR4のうちの3つは、式-R5O(C=O)R6;-R5(C=O)-O-R6;-R5-N(R7)-(C=O)R6;又は-R5(C=O)-N(R7)-R6[式中、R5、R6、及びR7は、上に定義される通りである]を有する。より好ましくは、R1、R2、R3、及びR4のうちの3つは、式-R5O(C=O)R6を有する。よりいっそう好ましくは、カチオンは第四級アンモニウムカチオンを含む。非常に好まれる例では、カチオンは第四級アンモニウムカチオンを含み、R1、R2、及びR3は、式-R5O(C=O)R6[式中、R5はC2H4であり、R4は、C1-C5アルキル、好ましくはメチルである]を有する。
【0137】
上で論じたカチオンの例としては、エステル第四級物(ester quats)又はアミド第四級物(amide quats)として知られる化合物が挙げられる。これらの例は、以下のものである。
【0138】
式:
【0139】
【0140】
[式中、R1及びR3=直鎖若しくは分岐状C1-C10アルキル若しくはアルケニル、又はC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニルであり、R2=C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニル基である]
のトリアルカノールアミンエステル第四級物。
【0141】
式:
【0142】
【0143】
[式中、R1及びR3=直鎖若しくは分岐状C1-C10アルキル若しくはアルケニル、又はC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニルであり、R2=C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はa若しくはC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニル基である]
のD-アルカノールアミンエステル第四級物。
【0144】
式:
【0145】
【0146】
[式中、R1及びR3=直鎖若しくは分岐状C1-C10アルキル若しくはアルケニル、又はC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニルであり、R2=C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はa若しくはC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニル基である]
のジアミドアミン第四級物。他の例では、本開示のイオン液体のカチオンは、第四級イミダゾリウムカチオンを含みうる。例えば、本開示のイオン液体のカチオンは、イミダゾリウム環を含んでもよく、イミダゾリウム環は、アルキル、アルケニル、並びにシクロアルキル及びシクロアルケニル部分などの1又は2以上のヒドロカルビル部分、例えば、C1-C30アルキル若しくはアルケニル部分、又はC3-C7シクロアルキル若しくはシクロアルケニル部分によって置換されている。一部の例では、該ヒドロカルビル部分はそれ自体、ヘテロ原子を含む1又は2以上の部分によって、置換されていても、割り込みされていてもよい。
【0147】
好ましい実施形態では、カチオンのイミダゾリウム環は、1、2、又は3位において、好ましくは1、2、及び3位において置換されている。より好ましくは、第四級イミダゾリウムカチオンは、イミダゾリウム環の1、2、及び3位において、ヘテロ原子を含む官能基によってそれ自体置換されている場合がある、又は割り込みされていてもよい場合がある、アルキル、アルケニル、並びにシクロアルキル及びシクロアルケニル部分などの1又は2以上のヒドロカルビル部分によって置換されている。
【0148】
好ましくは実施形態では、置換第四級イミダゾリウムカチオンは、少なくとも1のアミド基又は少なくとも1のエステル基を含む。
【0149】
本開示のイミダゾリウムカチオンの例は、以下の式:
【0150】
【0151】
[式中、R1及びR3=直鎖若しくは分岐状C1-C10アルキル若しくはアルケニル、又はC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニルであり、R2=C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基若しくはアルケニル基、又はa若しくはC3-C6シクロアルキル若しくはシクロアルケニル基である]
によって定義される、上記の第四級イミダゾリウムカチオンである。
【0152】
一部の例では、本開示のイオン液体は、アンモニウム、アザアヌレニウム、アザチアゾリウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジベンゾフラニウム、ジベンゾチオフェニウム、ジチアゾリウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキサゾリニウム、ペンタゾリウム オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレンアゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアザデセニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム、及びウラニウム、並びにこれらの組合せから選択される1又は2以上のカチオン種を含みうる。
【0153】
例えば、実施形態では、カチオンは、グアニジニウム、環状グアニジニウム、ウロニウム、環状ウロニウム、チウロニウム、及び環状チウロニウムカチオンから選択されうる。例えば、以下の式
【0154】
【0155】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、及びRfはそれぞれ独立して、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基、C3-C8シクロアルキル基、又はC6-C10アリール基から選択され、あるいは異なる窒素原子に結合しているRa、Rb、Rc、及びRdのいずれか2つが、メチレン鎖-(CH2)q-[式中、qは2~5である]を形成しており、該アルキル基、シクロアルキル基、若しくはアリール基、又は該メチレン鎖は、非置換である、又はC1-C6アルコキシ、C2-C12アルコキシアルコキシ、C3-C8シクロアルキル、C6-C10アリール、C7-C10アルカリール、C7-C10アラルキル、-CN、-OH、-SH、-NO2、-CO2Rx、-OC(O)Rx、-C(O)Rx、-C(S)Rx、-CS2Rx、-SC(S)Rx、-S(O)(C1-C6)アルキル、-S(O)O(C1-C6)アルキル、-OS(O)(C1-C6)アルキル、-S(C1-C6)アルキル、-S-S(C1-C6アルキル)、-NRxC(O)NRyRz、-NRxC(O)ORy、-OC(O)NRyRz、-NRxC(S)ORy、-OC(S)NRyRz、-NRxC(S)SRy、-SC(S)NRyRz、-NRxC(S)NRyRz、-C(O)NRyRz、-C(S)NRyRz、-NRyRz、若しくは複素環式基[式中、Rx、Ry、及びRzは独立して、水素又はC1-C6アルキルから選択される]から選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
のカチオン。
【0156】
本発明による使用に適切なグアニジニウム、ウロニウム、及びチウロニウムカチオンの具体例としては、
【0157】
【0158】
が挙げられる。
【0159】
さらなる実施形態では、カチオンは、電子リッチな硫黄又はセレン部分を含むカチオンを含む。例としては、ペンダントチオール、チオエーテル、又はジスルフィド置換基を含む、上に定義されるカチオンが挙げられる。
【0160】
別の実施形態では、カチオンは、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジチアゾリウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキサチアゾリウム、フタラジニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ-キノリニウム、キノキサリニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、及びイソ-トリアゾリウムから選択される芳香族複素環式カチオン種を含む。
【0161】
例えば、カチオンは、
【0162】
【0163】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、及びRgはそれぞれ独立して、水素、C1-C30直鎖若しくは分岐状アルキル基、C3-C8シクロアルキル基、又はC6-C10アリール基から選択され、あるいは隣接する炭素原子に結合しているRb、Rc、Rd、Re、及びRfのいずれか2つが、メチレン鎖-(CH2)q-[式中、qは3~6である]を形成しており、該アルキル基、シクロアルキル基、若しくはアリール基、又は該メチレン鎖は、非置換である、又はC1-C6アルコキシ、C2-C12アルコキシアルコキシ、C3-C8シクロアルキル、C6-C10アリール、C7-C10アルカリール、C7-C10アラルキル、-CN、-OH、-SH、-NO2、-CO2Rx、-OC(O)Rx、-C(O)Rx、-C(S)Rx、-CS2Rx、-SC(S)Rx、-S(O)(C1-C6)アルキル、-S(O)O(C1-C6)アルキル、-OS(O)(C1-C6)アルキル、-S(C1-C6)アルキル、S-S(C1-C6アルキル)、-NRxC(O)NRyRz、-NRxC(O)ORy、-OC(O)NRyRz、-NRxC(S)ORy、-OC(S)NRyRz、-NRxC(S)SRy、-SC(S)NRyRz、-NRxC(S)NRyRz、-C(O)NRyRz、-C(S)NRyRz、-NRyRz、若しくは複素環式基[式中、Rx、Ry、及びRzは独立して、水素又はC1-C6アルキルから選択される]から選択される1~3個の基によって置換されていてもよい]
を含みうる。
【0164】
Raは、好ましくはC1-C30直鎖状又は分岐状アルキル、より好ましくはC2-C20直鎖状又は分岐状アルキル、よりいっそう好ましくはC2-C10直鎖状又は分岐状アルキル、最も好ましくはC4-C8直鎖状又は分岐状アルキルから選択される。さらなる例としては、Raが、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、及びn-オクタデシルから選択されるものが挙げられる。
【0165】
Rg基を含むカチオンでは、Rgは、好ましくはC1-C10直鎖状又は分岐状アルキル、より好ましくはC1-C5直鎖状又は分岐状アルキルから選択され、最も好ましくは、Rgはメチル基である。
【0166】
RaとRg基との両方を含むカチオンでは、RaとRgとはそれぞれ、好ましくは独立して、C1-C30直鎖状又は分岐状アルキルから選択され、Ra及びRgの1つは、水素であってもよい。より好ましくは、Ra及びRgの1つは、C2-C20直鎖状又は分岐状アルキル、よりいっそう好ましくはC2-C10直鎖状又は分岐状アルキル、最も好ましくはC4-C8直鎖状又は分岐状アルキルから、Ra及びRgの他方の1つは、C1-C10直鎖状又は分岐状アルキル、より好ましくはC1-C5直鎖状又は分岐状アルキル、最も好ましくはメチル基から選択されうる。さらに好まれる実施形態では、RaとRgとは、存在する場合、それぞれ独立して、C1-C30直鎖状又は分岐状アルキル、及びC1-C15アルコキシアルキルから選択されうる。一部の実施形態では、Ra及びRgの1は、ヒドロキシル、メトキシ、又はエトキシによって置換されていてもよい。
【0167】
さらなる実施形態では、Rb、Rc、Rd、Re、及びRfは独立して、水素、及びC1-C5直鎖状又は分岐状アルキルから選択され、より好ましくは、Rb、Rc、Rd、Re、及びRfは水素である。この実施形態では、カチオンは好ましくは、
【0168】
【0169】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、及びRgは、上に定義される通りである]
から選択されるカチオンを含む。この実施形態の好ましい例では、カチオンは、
【0170】
【0171】
[式中、Ra及びRgは、上に定義される通りである]
から選択されるカチオンを含む。
【0172】
さらなる実施形態では、カチオンは、
【0173】
【0174】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、及びRgは、上に定義される通りである]
から選択されるカチオンを含みうる。
【0175】
この実施形態に従って使用されうる、窒素含有芳香族複素環式カチオンの具体例としては、
【0176】
【0177】
が挙げられる。
【0178】
さらなる実施形態では、カチオンは、式:
【0179】
【0180】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、及びRgは、上に定義される通りである]
を有する飽和複素環式カチオンを含む。この実施形態の好ましい例では、カチオンは、式:
【0181】
【0182】
を有する飽和複素環式カチオンを含み、最も好ましくは、
【0183】
【0184】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、及びRgは、上に定義される通りである]
である。
【0185】
本発明による使用に適切な、好まれる飽和複素環式カチオンの具体例は、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン
【0186】
【0187】
である。
【0188】
さらなる実施形態では、カチオンは、
【0189】
【0190】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、及びRgは、上に定義される通りである]
から選択される飽和複素環式カチオンを含みうる。
【0191】
上の飽和複素環式カチオンにおいて、Raは、好ましくはC1-C30直鎖状又は分岐状アルキル、より好ましくはC2-C20直鎖状又は分岐状アルキル、よりいっそう好ましくはC2-C10直鎖状又は分岐状アルキル、最も好ましくはC4-C8直鎖状又は分岐状アルキルから選択される。さらなる例としては、Raが、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、及びn-オクタデシルから選択されるものが挙げられる。
【0192】
Rg基を含む飽和複素環式カチオンでは、Rgは、好ましくはC1-C10直鎖状又は分岐状アルキル、より好ましくはC1-C5直鎖状又は分岐状アルキルから選択され、最も好ましくは、Rgはメチル基である。
【0193】
RaとRg基との両方を含む飽和複素環式カチオンでは、RaとRgとはそれぞれ、好ましくは独立して、C1-C30直鎖状又は分岐状アルキルから選択され、Ra及びRgの1つは、水素であってもよい。より好ましくは、Ra及びRgの1つは、C2-C20直鎖状又は分岐状アルキル、よりいっそう好ましくはC2-C10直鎖状又は分岐状アルキル、最も好ましくはC4-C8直鎖状又は分岐状アルキルから、Ra及びRgの他方の1つは、C1-C10直鎖状又は分岐状アルキル、より好ましくはC1-C5直鎖状又は分岐状アルキル、最も好ましくはメチル基から選択されうる。さらに好まれる実施形態では、RaとRgとは、存在する場合、それぞれ独立して、C1-C30直鎖状又は分岐状アルキル、及びC1-C15アルコキシアルキルから選択されうる。
【0194】
さらなる実施形態では、Rb、Rc、Rd、Re、及びRfは独立して、水素、及びC1-C5直鎖状又は分岐状アルキルから選択され、より好ましくは、Rb、Rc、Rd、Re、及びRfは水素である。
【0195】
本開示のイオン液体は、好ましくは、100℃以上、好ましくは50℃以上の温度において液体である。より好ましくは、本開示のイオン液体は、25℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは10℃以上、最も好ましくは0℃以上の温度において液体である。
【0196】
本開示のイオン液体の利点は、5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは2.5%未満のハロゲン化物、最も好ましくは1%未満のハロゲン化物を含むように合成することができることである。より好ましくは、イオン液体は、0.5重量%未満のハロゲン化物、好ましくは0.1重量%未満のハロゲン化物を含む。最も好ましくは、本開示のイオン液体はハロゲン化物不含である。
【0197】
本開示のイオン液体は、該イオン液体を合成するのに適切な、当技術分野において公知の任意の方法によって合成することができる。このような方法の例としては、Chem. Eur. J. 2009, 15, 12273 - 12282において論じられている方法が挙げられるが、当技術分野において公知の他の方法を使用してもよいことを、当業者は認識しているであろう。
【0198】
潤滑組成物
本開示の潤滑剤組成物は、1又は2以上の基油を含む。
【0199】
本開示の潤滑剤組成物に用いられる基油は、典型的には、自動車用及び産業用の用途、例えば、特に、タービン油、油圧油、ギヤ油、クランクケース油、及びディーゼル油において使用される油である。ベースストックは、潤滑剤組成物全体の少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%を構成しうる。
【0200】
この発明において使用することができる典型的な潤滑剤ベースストックとしては、鉱油、石油、パラフィン油、及び植物油を含む天然基油、並びに合成供給源に由来する油を挙げることができる。
【0201】
特に、この発明に使用することができる潤滑剤ベースストックは、グループI、グループII、グループIII、グループIV、及びグループVとしてAPIベースストック分類に該当する任意の流体を含む、石油系ストック又は合成ストックでありうる。炭化水素基油は、ナフテン系、芳香族系、及びパラフィン系鉱油から選択されうる。
【0202】
適切な合成油は、特に、エステルタイプ油(例えば、ケイ酸エステル、ペンタエリスリトールエステル、及びカルボン酸エステル)、エステル、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルファオレフィン(PAOS(polyalphaolefin)若しくはポリ-a.-オレフィンとしても知られる)、水素化鉱油、シリコーン、シラン、ポリシロキサン、アルキレンポリマー、ポリグリコールエーテル、ポリオール、バイオ系潤滑剤、並びに/又はこれらの混合物からも選択されうる。
【0203】
本明細書で使用する潤滑油組成物という用語は、火花点火機関若しくは圧縮点火機関などの内燃機関、又は産業用機械の動作部品を潤滑するのに適切な組成物を指すことが意図される。このような潤滑油組成物は、室温で液体の組成物である。潤滑油組成物という用語は、このような油のすべてに及ぶことが意図される。しかしながら、本明細書において使用する潤滑油組成物という用語が、せん断力の非存在下、室温において固体のグリース組成物に及ぶことは意図されない。このようなグリース組成物は、典型的には、1又は2以上の増粘剤、例えばリチウム石鹸又は尿素/尿素置換増粘剤と組み合わせた、1又は2以上の潤滑油組成物を含む。典型的な増粘剤は、当技術分野において公知である。特に、本明細書において使用する潤滑油組成物という用語が、潤滑油と、尿素又は置換尿素増粘剤とを含むグリースに及ぶことは意図されない。したがって、好ましい例では、本発明の潤滑油組成物は、グリースを含まない。好ましい例では、本発明の潤滑油組成物は、尿素又は置換尿素増粘剤などの増粘剤を含まない。別の好ましい例では、本発明の潤滑油組成物は、せん断力の非存在下、25℃において液体である。
【0204】
本開示の潤滑油組成物は、任意の適切な量の1又は2以上の基油と、本明細書に記載する任意の適切な量の1又は2以上のイオン液体とを含みうる。典型的には、組成物は、1又は2以上のイオン液体を、0.1重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%、最も好ましくは0.1重量%~5重量%の量で含む。好ましくは、組成物は、1又は2以上のイオン液体を、0.5重量%~1.5重量%の量で含む。
【0205】
典型的には、1又は2以上の基油は、組成物中に、潤滑剤組成物の75重量%~99重量%の量で存在する。
【0206】
本開示の潤滑油組成物は、典型的には、1若しくは2以上の流動点添加剤、消泡剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、洗浄剤、腐食阻害剤、抗摩耗添加剤、摩擦改質剤、極圧添加剤、又はこれらの任意の組合せから選択されてもよい1又は2以上の添加剤をさらに含む。
【0207】
添加剤は、本開示の組成物中に、任意の適切な量で存在しうる。典型的には、添加剤は、組成物の0.1重量%~35重量%、好ましくは1重量%~20重量%、最も好ましくは1重量%~10重量%の量で存在する。
【0208】
本発明はまた、先行する請求項のいずれかによる潤滑油組成物を生成する方法であって、1又は2以上の基油を1又は2以上のイオン液体及び任意に1又は2以上の添加剤と合わせるステップを含む、方法を提供する。このような方法は、当技術分野における当業者に公知である。
【0209】
本発明はまた、産業用機械、火花点火機関又は圧縮点火機関を運転する方法であって、本発明による潤滑油組成物によって該機関を潤滑するステップを含む、方法を提供する。該潤滑剤の機関への適用を含む、該潤滑剤を使用して該産業用機械及び機関を運転する方法は、当業者に公知である。当業者は、このような方法において使用する、本発明の潤滑油組成物の必要な量も知っているであろう。加えて、当業者は、どの特定のタイプの潤滑油組成物が、所与の用途における使用に適切であるかを知っているであろう。
【0210】
本発明はまた、潤滑油組成物に使用するための添加剤濃縮物であって、本発明に開示するイオン液体と、1若しくは2以上の流動点添加剤、消泡剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、洗浄剤、腐食阻害剤、抗摩耗添加剤、摩擦改質剤、極圧添加剤、又はこれらの任意の組合せから選択される1又は2以上のさらなる添加剤とを含む、添加剤濃縮物を提供する。添加剤濃縮物は、典型的には、潤滑油組成物を形成するために1又は2以上の基油と混合する、様々な添加剤の混合物を含む。
【0211】
本発明はまた、潤滑油組成物における、潤滑油組成物の抗摩擦特性を改善する目的のため、及び/又は潤滑油組成物の抗摩耗特性を改善する目的のための、本明細書に開示するイオン液体の使用を提供する。イオン液体は、組成物の摩擦低減特性を改善することなく、組成物の抗摩耗特性を改善しうる。あるいは、イオン液体は、組成物の抗摩耗特性を改善することなく、組成物の摩擦低減特性を改善しうる。好ましくは、イオン液体は、組成物の抗摩耗特性と、組成物の摩擦低減特性とを改善する。好ましくは、潤滑油組成物は、上に記載した通りのものである。
【0212】
本開示のイオン液体は、潤滑油組成物に使用する場合、このような目的のための市販の添加剤と比較すると、改善された摩擦低減及び抗摩耗添加剤である。理論によって限定されるものではないが、これは、部分的には、イオン液体が、液体状態における別々の帯電イオンとして存在するためであると考えられる。潤滑油組成物を可動部品に塗布する場合、組成物は、可動部品の表面同士の間でフィルムを形成する。可動部品は、典型的には金属である。現在市販されている抗摩耗及び摩擦低減添加剤は、中性分子であり、そのため、可動部品同士の間のフィルム内の潤滑油組成物の基油によく分散する。対照的に、イオン液体は、液体状態における別々の帯電イオンとして存在するため、可動部品の極性金属表面に吸着する。以上のように、各表面の金属油界面において、イオン液体の局所的な濃縮が存在する。このイオン液体の局所的な濃縮によって、各可動部品の表面にフィルムを形成する。本質的に、イオン液体添加剤は、潤滑基油のフィルム内にフィルムを形成する。可動部品の表面におけるイオン液体フィルムは、抗摩耗フィルムとして作用し、金属表面における摩耗を低減すると考えられる。金属表面に接触しているイオン液体フィルムはまた、可動部品同士の間の摩擦を低減する役割も果たしうる。
【0213】
本明細書において使用する「抗摩擦特性」、又は本明細書において使用する「潤滑油組成物の摩擦低減特性」という用語は、当業者は熟知しているであろう、当技術分野の周知の用語である。このような用語は、潤滑油組成物を潤滑用途において使用した場合の摩擦係数を指す。摩擦係数が低いほど、組成物は潤滑剤として良好であり、組成物の抗摩擦特性が良好である。潤滑油組成物の摩擦係数を測定するための標準試験は、当技術分野において公知である。ある例では、摩擦係数を測定するために使用する試験は、ASTM D5183である。
【0214】
本明細書において使用する「抗摩耗」特性、又は潤滑油組成物についての「摩耗低減特性」という用語は、当業者は熟知しているであろう、当技術分野の周知の用語である。潤滑油組成物の摩耗特性は、潤滑油組成物を塗布する表面が、使用時に摩損する程度の尺度である。摩耗は、例えば、距離の測定値である摩耗痕によって測定することができる。摩耗痕の距離が大きいほど、表面が潤滑油組成物の使用において摩損している。より小さい摩耗痕の距離測定値を有する潤滑油組成物は、改善された抗摩耗特性を有すると言われることになる。摩耗を測定するための試験は、当業者に公知である。ある例では、潤滑油組成物の摩耗特性は、ASTM D4172-94(2016)によって測定することができる。
【実施例1】
【0215】
有機溶媒中、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリドとアンモニウムテトラチオモリブデートとの間のメタセシス反応に続いて、溶媒を除去し、高真空乾燥させるという手順に従うことによって、イオン液体ビス(トリヘキシルテトラデシルホスホニウム)テトラチオモリブデートを合成した。
【実施例2】
【0216】
メタノールなどの有機溶媒中、トリオクチルメチルホスホニウムメチルカーボネートとアンモニウムテトラチオモリブデートとの間のメタセシス反応に続いて、溶媒を除去し、高真空乾燥させることによって、イオン液体ビス(トリオクチルメチルホスホニウム)テトラチオモリブデートを合成した。イオン液体ビス(トリヘキシルテトラデシルホスホニウム)テトラチオモリブデートを、潤滑油組成物の総重量の1重量%の量で、十分に配合された基油に加えた。基油は、0w-16油であった。
【0217】
イオン液体を含む潤滑油組成物の抗摩耗特性を、抗摩耗又は抗摩擦添加剤を含まない潤滑油組成物、並びに同等の量の市販の抗摩擦及び抗摩耗添加剤MoDTCを含む潤滑油組成物の抗摩耗特性と比較した。高周波往復動リグ(HFRR,High Frequency Reciprocating Rig)によって抗摩耗特性を測定し、下の表に示す。HFRR試験は、燃料の潤滑特性を評価するための、当技術分野において公知の標準試験であり、潤滑油組成物を試験するための使用に適応されている。
【0218】
【0219】
イオン液体を含む潤滑油組成物は、組成物の抗摩耗特性を改善することを、上の表において見て取ることができる。さらに、イオン液体を含む組成物は、市販の添加剤MoDTCよりも、油の抗摩耗特性を改善する。
【0220】
上の組成物の抗摩擦特性を、
図1~3に示す。各図において、ミニトラクションマシン(MTM,mini traction machine)を使用して、異なる速さにおける摩擦係数を示す。
図1は、潤滑油組成物(抗摩耗又は抗摩擦添加剤なし)の摩擦係数を示す。
図2は、イオン液体を含む潤滑油組成物の摩擦係数を示す。
図3は、MoDTCを含む潤滑油組成物の摩擦係数を示す。MoDTC組成物とイオン液体組成物との両方が、抗摩擦又は抗摩耗添加剤を含まない潤滑油組成物の摩擦係数を低減することを、見て取ることができる。イオン液体を含む配合は、MoDTC配合と比較して、同等の摩擦の低減を示す。
【0221】
HFRR技法(高周波往復リグ)を使用した摩擦係数についての別の試験において、0w-16基油を含み抗摩耗又は抗摩擦添加剤を含まない配合(TD6416052)を、0w-16基油とイオン液体とを含む配合(TD6416052+YC18-03)、並びに0w-16基油と、同等の量の抗摩擦及び抗摩耗添加剤MoDTCを含む配合(TD6416052+MoDTC)と比較した。結果を
図4に示す。基油とイオン液体とを含む配合は、基油のみを含む配合、及び基油とMoDTCとを含む配合の両方に対して、優れた抗摩擦特性を示したことを、見て取ることができる。HFRR試験は、燃料の潤滑特性を評価するための、当技術分野において公知の標準試験であり、潤滑油組成物を試験するための使用に適応されている。
【実施例3】
【0222】
次の3つの本発明のイオン液体を合成し、試験した。
【0223】
IL 18/03-ビス(トリヘキシルテトラデシルホスホニウム)テトラチオモリブデートイオン液体-3%までの塩化物によるハロゲン化物経路によって調製。
【0224】
IL 18/36-ビス(トリオクチルメチルホスホニウム)テトラチオモリブデートイオン液体-非ハロゲン化物経路によって調製。
【0225】
IL 18/39-ビス(トリヘキシルテトラデシルホスホニウム)モリブデートイオン液体-3%までの塩化物によるハロゲン化物経路によって調製。
【0226】
上のイオン液体を試験し、高周波往復リグ試験(HFRR)において、市販の添加剤モリブデンジチオカルバメート(MoDTC)と比較した。HFRR試験は、燃料の潤滑特性を評価するための、当技術分野において公知の標準試験であり、潤滑油組成物を試験するための使用に適応されている。試験条件は、荷重=400g、T=120℃、ストーク(Stoke)=2000μ、周波数=20Hz、継続期間=1時間であった。
【0227】
この試験の結果を、表2及び3において下に示す。
【0228】
【0229】
【0230】
上の試験において、油1~3は、十分に配合された潤滑油であった。
【0231】
上の試験において、より小さい摩耗痕値(μm)は、より大きい摩耗痕値と比較して、改善された抗摩耗特性の指標である。より小さい摩擦係数は、より大きい摩擦係数と比較して、改善された抗摩擦特性の指標である。
【0232】
表2及び3に示す結果において、イオン液体IL 18/03及びIL 18/36は、添加剤を含有しない油と比較して改善された抗摩擦及び抗摩耗特性、並びに市販の添加剤MoDTCと比較して同等のレベルの抗摩擦及び抗摩耗特性を有していたことを見て取ることができる。有利なことに、本発明のイオン液体は、より低いモリブデン含有率を有するにもかかわらず、MoDTCと同様の抗摩擦及び抗摩耗特性を呈した。表3において、イオン液体IL 18/39は、MoDTCを含有する油には匹敵しないが、添加剤を含有しない油と比較して改善された抗摩耗特性を有することを見て取ることができる。
【0233】
図5及び6は、添加剤を含有しない、並びにMoDTC及びイオン液体IL 18/36を含有する場合の、十分に配合された潤滑油2に対して実行したミニトラクションマシン(MTM)試験の結果を示す。
【0234】
図5は、異なる速さにおいて試験中の油における、摩擦の相対パーセンテージ上昇を示す。低速(10~100mm/秒)においては、添加剤を含有する油が、より高い摩擦の相対的上昇を有するが、高速においては、添加剤を含有しない油で、他の2種の油と比較して摩擦が大きく上昇することを見て取ることができる。以上のように、イオン液体IL 18/36は、摩擦の低減において、市販の添加剤MoDTCと同様に振る舞うことを見て取ることができる。
【0235】
図6は、異なる速さにおける、油についての摩擦係数を示す。低速(10~100mm/秒)においては、添加剤を含有する油が、より高い摩擦係数を有するが、高速においては、添加剤を含有しない油の摩擦係数が、他の2種の油と比較して大きく上昇することを見て取ることができる。以上のように、イオン液体IL 18/36は、摩擦の低減において、市販の添加剤MoDTCと同様に振る舞うことを見て取ることができる。
【実施例4】
【0236】
様々な金属に対して、本開示のイオン液体の腐食効果を、添加剤MoDTCの腐食効果と比較するために、金属クーポンストリップにおける腐食試験を行った。該試験は、ASTM D2688-15e1に従って実行した。
【0237】
図7は、MoDTC、及び実施例3において上で論じたイオン液体IL 18/36の存在下、様々な金属において実施した腐食試験の結果を示す。
【0238】
図7における左から右に、以下の金属のストリップを試験した:IL 18/36中のNiクーポン;MoDTC中のNiクーポン;IL 18/36中のZnクーポン;MoDTC中のZnクーポン;MoDTC中のAlクーポン;IL 18/36中のAlクーポン;IL 18/36中のCuクーポン;及びMoDTC中のCuクーポン。
【0239】
図8は、左に添加剤MoDTCに浸漬させた銅クーポン、及び右にMoDTCに2日間浸漬させた後の銅クーポンを示す。
【0240】
図9は、イオン液体IL 18/36及び従来のモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)への曝露後の金属クーポンを示す。画像の上段において、左から右に以下の通りである:IL 18/36中のZnクーポン;MoDTC中のZnクーポン;IL 18/36中のNiクーポン;MoDTC中のNiクーポン。画像の下段において、左から右に以下の通りである:IL 18/36中のAlクーポン;MoDTC中のAlクーポン;IL 18/36中のCuクーポン;MoDTC中のCuクーポン。
【0241】
図10は、イオン液体IL 18/36に浸漬させた銅クーポン(左)、及び該イオン液体に2日間曝露した後の銅クーポン(右)を示す。
【0242】
図11は、70℃において2日間MoDTCに曝露した後の銅クーポン上の、黒色腐食付着物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0243】
図12は、70℃において2日間MoDTCに曝露した後の銅クーポン上の、黒色腐食付着物のエネルギー分散型X線分光法(EDX)スペクトルを示す。該試験の結果を、表4にも示す。
【0244】
【0245】
図13は、70℃において2日間イオン液体IL 18/36に曝露した後の銅クーポン上の、黒色腐食付着物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0246】
図14は、70℃において2日間イオン液体IL 18/36に曝露した後の銅クーポン上の、黒色腐食付着物のエネルギー分散型X線分光法(EDX)スペクトルを示す。該試験の結果を、表5にも示す。
【0247】
【0248】
図7~10の結果は、亜鉛、ニッケル、及びアルミニウムが、70℃において2日間MoDTC及びIL 18/36への曝露後、両方とも、腐食又は表面改質を示さなかったことを実証している。2日後の金属クーポンにおいて、視覚的変化はなかった。銅は、MoDTC及びIL 18/36への曝露後、両方とも、いくらかの腐食及び表面改質を示し、MoDTCの場合には、厚い黒色付着物が観察された。
【0249】
両方の銅クーポンにおける表面腐食を、走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型X線分光法(EDX)を通じて調査した。結果を
図11~14に示す。MoDTC曝露銅の場合、予想される腐食生成物は、硫化銅(CuS)及び酸化銅(CuO)である。イオン液体IL 18/36の場合、Moが存在したが、硫黄の存在はごくわずかであった(表5及び
図14を参照されたい)。イオン液体IL 18/36への曝露後の銅表面のSEM画像(
図13)は、銅表面におけるMoベースの腐食生成物の層を示唆する2タイプの特徴を示す。このMo腐食生成物層には、銅の表面を不動態化(passivation)する作用があり、そのため、さらなる腐食の速度を遅延させうると考えられ、これによって、表面における硫黄含有率が、MoDTCへの曝露後の銅クーポンよりも低いことが説明されることになる。
【0250】
したがって、本開示のイオン液体は、このようにして、当技術分野において公知である既存の耐摩耗及び耐摩擦添加剤、例えばMoDTCと比較した場合、低減した腐食特性を有しうる。
【実施例5】
【0251】
銅、銀、及び鉄の表面において、電気化学的分極を行った。試験は、ASTM G102-89 (2015) e1に従って行った。MoDTC、並びにイオン液体IL 18/03及びIL 18/36を使用して、金属表面における電気化学的分極試験を行った。
【0252】
IL 18/03及びIL 18/36による各金属表面についての電気化学的分極データを、
図15に示す。MoDTCにおける銅に対する、ターフェル分析に先立つリニアスイープボルタメトリースペクトルである
図16に示すように、MoDTCについての電気化学的分極データを収集することは、これが非極性分子であり、電解質として機能しないため、不可能であった。
【0253】
図15におけるデータは、IL 18/03の腐食の速度が、IL 18/36と比較した場合にほぼ2倍であることを示す。電気化学的分極試験は、腐食速度の完全な予測ではないが、短期間にわたる腐食の速度の指標である。イオン液体IL 18/03は、3重量%前後の塩化物を含有するが、これは、非ハロゲン化物経路を介して調製されるIL 18/36よりも腐食を誘導すると考えられる。
【0254】
したがって、本発明は、非ハロゲン化物経路によって調製され、その結果、含まれるハロゲン化物が少量の本明細書に開示するイオン液体を提供しうるが、該イオン液体は、いくらか少量のハロゲン化物を含むイオン液体よりも低減した腐食を示す。これは、本開示のある特定のイオン液体に関連する、さらなる利点である。
【実施例6】
【0255】
実施例4において上で論じたものと同様の試験において、MoDTC及びIL 18/36に曝露した銀及び銅クーポンにおける、SEM及びEDX調査も行った。
【0256】
図17は、IL 18/36(上)及びMoDTC(下)に曝露した銅クーポンを示す。
【0257】
図18は、IL 18/36(左)及びMoDTC(右)に曝露した銀クーポンを示す。
【0258】
図19は、
図15での電気化学的分極条件下で、MoDTCに曝露した後の銀クーポンのSEM画像である。
【0259】
図20は、
図15での電気化学的分極条件下で、MoDTCに曝露した後の銀クーポンのEDXスペクトルである。表6にも、このスペクトルからのデータを示す。
【0260】
【0261】
図21に、
図15での電気化学的分極条件下で、イオン液体IL 18/36に曝露した後の銀クーポンのSEM画像を図示する。
【0262】
図22は、
図15での電気化学的分極条件下で、イオン液体IL 18/36に曝露した後の銀クーポンのEDXスペクトルである。表7にも、このスペクトルからのデータを示す。
【0263】
【0264】
図17及び18は、MoDTCが、イオン液体IL 18/36よりも銀及び銅表面の腐食をもたらすことを示す。これは、写真の目視比較において見て取ることができる。MoDTCに接触した金属表面の部分は、IL 18/36に接触した部分よりも多くの付着物によって覆われている。
【0265】
図19~22は、MoDTCに曝露した銀表面が、IL 18/36に曝露した銀表面よりも遥かに高い酸素含有率を有することを示す。両表面は、低い硫黄含有率を含有する。データは、MoDTCに曝露した表面が、イオン液体に曝露した表面よりも多量の酸化生成物を、表面に含有することを示す。したがって、イオン液体は、MoDTCよりも表面を腐食させない。
【0266】
貴金属はMoDTCによって、IL 18/36などの本開示によるイオン液体よりも高度に腐食することが見出された。
【実施例7】
【0267】
ASTM E1877-00に従って、MoDTC、IL 18/36、並びにエンジン油及び様々な潤滑油(潤滑油3、潤滑油4+、及び基油)と混合した両添加剤における熱的調査を実施した。
【0268】
【0269】
【0270】
【0271】
図26に、イオン液体IL 18/36のみの熱重量分析を図示する。
【0272】
図27に、イオン液体IL 18/03のみの熱重量分析を図示する。
【0273】
図28に、0.5重量%のMoDTCを有する試験潤滑油3の熱重量分析を図示する。
【0274】
図29に、0.5重量%のMoDTCを有する試験潤滑油4+の熱重量分析を図示する。
【0275】
図30に、1重量%のMoDTCを有する試験潤滑油4+の熱重量分析を図示する。
【0276】
図31に、0.5重量%のイオン液体IL 18/36を有する試験潤滑油3の熱重量分析を図示する。
【0277】
図32に、1重量%のイオン液体IL 18/36を有する試験潤滑油3の熱重量分析を図示する。
【0278】
図33に、0.5重量%のイオン液体IL 18/36を有する試験潤滑油4+の熱重量分析を図示する。
【0279】
図34に、1重量%のイオン液体IL 18/36を有する試験潤滑油4+の熱重量分析を図示する。
【0280】
熱的調査は、新たに開発したイオン液体IL 18/36及びIL 18/03が、ニートMoDTCと比較した場合、ニート化合物として優れた熱安定性を有することを指し示している。これは、イオン液体が、低温においてMoDTCよりも少ないエネルギーを吸収しており、低温においてMoDTCが分解することを指し示している、
図25、26、及び27を比較することによって見て取ることができる。
【0281】
潤滑剤添加剤として油と混合する場合、油と添加剤との混合物は、MoDTCとイオン液体との両方について、同様に熱安定であることを見て取ることができる。このデータは、本開示のイオン液体が、油の熱安定性を損なうことなく、添加剤としてMoDTCの代わりに油中で使用できることを指し示している。
【国際調査報告】