(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】抗体を含む治療用タンパク質製剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220909BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220909BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20220909BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20220909BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220909BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61K47/02
A61K9/12
A61K9/72
A61P31/16
C07K16/10
A61K47/22
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022501333
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(85)【翻訳文提出日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 US2020041687
(87)【国際公開番号】W WO2021011404
(87)【国際公開日】2021-01-21
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514284475
【氏名又は名称】コントラフェクト コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タリアス アブラハム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB25
4C076BB27
4C076CC35
4C076DD08
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4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、水性治療用タンパク質製剤であって、(i)30mg/mL~150mg/mLの範囲の量の1つ以上の抗インフルエンザ抗体又はその抗原結合フラグメントを含む1つ以上の治療用タンパク質と、(ii)ヒスチジンバッファーと、(iii)NaClと、(iv)水性担体とを含み、水性治療用製剤のpHが5.5~8.0の範囲であり、該製剤が呼吸器送達用に製剤化され、エアロゾル化の際に1つ以上の治療用タンパク質を含む粒子を生じさせる、水性治療用タンパク質製剤に関する。エアロゾルを生成する方法、及びインフルエンザを治療する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性治療用タンパク質製剤であって、
(i)30mg/mL~150mg/mLの範囲の量の1つ以上の抗インフルエンザ抗体を含む1つ以上の治療用タンパク質と、
(ii)ヒスチジンバッファーと、
(iii)NaClと、
(iv)水性担体と、
を含み、
前記水性治療用製剤のpHが5.5~8.0の範囲であり、該製剤が呼吸器送達用に製剤化され、エアロゾル化の際に前記1つ以上の治療用タンパク質を含む粒子を生成する、水性治療用タンパク質製剤。
【請求項2】
前記ヒスチジンバッファーが塩化ヒスチジンを含む、請求項1に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項3】
前記治療用タンパク質の濃度が40mg/mL~約100mg/mLの範囲である、請求項1又は2に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項4】
前記治療用タンパク質の濃度が約50mg/mLである、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項5】
NaClが約115mMの濃度である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項6】
前記製剤が非イオン性界面活性剤を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤がポリソルベートを含む、請求項6に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項8】
前記ポリソルベートが約0.02%の量のポリソルベート20を含む、請求項7に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項9】
前記水性製剤のpHが6.0~6.5の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項10】
前記製剤のpHが約6.0である、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項11】
ヒスチジンが約20mMの濃度で前記製剤中に存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項12】
前記1つ以上の抗インフルエンザ抗体が、それぞれ、(a1)TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3)及びTRL053軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号4、配列番号5、配列番号6)を含む重鎖及び軽鎖を含み、及び/又は、
前記1つ以上の抗インフルエンザ抗体が、(a1)の抗体と同じエピトープに結合し、(a2)重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖が、(a2)TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3)及びTRL053軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号4、配列番号5、配列番号6)と少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドを含み、及び/又は、
前記1つ以上の抗インフルエンザ抗体が、(b1)TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)及びTRL579軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号10、配列番号11、配列番号12)を含む重鎖及び軽鎖を含み、及び/又は、
前記1つ以上の抗インフルエンザ抗体が、(b1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖が、(b2)TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)及びTRL579軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号10、配列番号11、配列番号12)と少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドを含み、及び/又は、
前記1つ以上の抗インフルエンザ抗体が、(c1)(i)配列番号13、配列番号14、配列番号15及び配列番号16、配列番号17、配列番号18(TRL809);(ii)配列番号19、配列番号20、配列番号21及び配列番号22、配列番号23、配列番号24(TRL812);(iii)配列番号25、配列番号26、配列番号27及び配列番号28、配列番号29、配列番号30(TRL813);(iv)配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34、配列番号35、配列番号36(TRL832);(v)配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40、配列番号41、配列番号42(TRL841);(vi)配列番号43、配列番号44、配列番号45及び配列番号46、配列番号47、配列番号48(TRL842);(vii)配列番号49、配列番号50、配列番号51及び配列番号52、配列番号53、配列番号54(TRL845);(viii)配列番号55、配列番号56、配列番号57及び配列番号58、配列番号59、配列番号60(TRL846);(ix)配列番号61、配列番号62、配列番号63及び配列番号64、配列番号65、配列番号66(TRL847);(x)配列番号67、配列番号68、配列番号69及び配列番号70、配列番号71、配列番号72(TRL848);(xi)配列番号73、配列番号74、配列番号75及び配列番号76、配列番号77、配列番号78(TRL849);(xii)配列番号79、配列番号80、配列番号81及び配列番号82、配列番号83、配列番号84(TRL854);並びに(xiii)配列番号85、配列番号86、配列番号87及び配列番号88、配列番号89、配列番号90(TRL856)からそれぞれ選択される、重鎖及び軽鎖のCDR配列、それぞれHCDR1/HCDR2/HCDR3及びLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む重鎖及び軽鎖を含み、及び/又は、
前記1つ以上の抗インフルエンザ抗体が、(c1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖が、(c2)(i)配列番号13、配列番号14、配列番号15及び配列番号16、配列番号17、配列番号18(TRL809);(ii)配列番号19、配列番号20、配列番号21及び配列番号22、配列番号23、配列番号24(TRL812);(iii)配列番号25、配列番号26、配列番号27及び配列番号28、配列番号29、配列番号30(TRL813);(iv)配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34、配列番号35、配列番号36(TRL832);(v)配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40、配列番号41、配列番号42(TRL841);(vi)配列番号43、配列番号44、配列番号45及び配列番号46、配列番号47、配列番号48(TRL842);(vii)配列番号49、配列番号50、配列番号51及び配列番号52、配列番号53、配列番号54(TRL845);(viii)配列番号55、配列番号56、配列番号57及び配列番号58、配列番号59、配列番号60(TRL846);(ix)配列番号61、配列番号62、配列番号63及び配列番号64、配列番号65、配列番号66(TRL847);(x)配列番号67、配列番号68、配列番号69及び配列番号70、配列番号71、配列番号72(TRL848);(xi)配列番号73、配列番号74、配列番号75及び配列番号76、配列番号77、配列番号78(TRL849);(xii)配列番号79、配列番号80、配列番号81及び配列番号82、配列番号83、配列番号84(TRL854);並びに(xiii)配列番号85、配列番号86、配列番号87及び配列番号88、配列番号89、配列番号90(TRL856)からそれぞれ選択される重鎖及び軽鎖のCDR配列、それぞれHCDR1/HCDR2/HCDR3及びLCDR1/LCDR2/LCDR3と少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項13】
前記1つ以上の抗インフルエンザ抗体が、少なくとも3つの抗インフルエンザ抗体を含み、そのそれぞれが重鎖及び軽鎖を含み、
(i)第1の抗体の重鎖及び軽鎖が、TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3)及びTRL053軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号4、配列番号5、配列番号6)を含み、
(ii)第2の抗体の重鎖及び軽鎖が、TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)及びTRL579軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号10、配列番号11、配列番号12)を含み、
(iii)第3の抗体の重鎖及び軽鎖が、TRL849重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号73、配列番号74、及び配列番号75)及びTRL849軽鎖CDR配列(それぞれ、配列番号76、配列番号77、配列番号78のLCDR1/LCDR2/LCDR3)を含む、請求項12に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項14】
前記1つ以上の治療用タンパク質が、保管の開始時の前記治療用タンパク質の活性と比較して、保管中にその生物学的活性の15%を超えて失わず、前記保管が2℃~8℃で少なくとも3ヶ月間である、請求項1~13のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項15】
保管が3ヶ月~2年の範囲の期間である、請求項1~14のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤。
【請求項16】
前記水性治療用製剤が薬学的水性治療用製剤である、請求項1~15のいずれか一項に記載の水性治療用製剤。
【請求項17】
エアロゾルを生成する方法であって、
ネブライザーを使用して、請求項1~16のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤を噴霧してエアロゾルを得る工程を含む、方法。
【請求項18】
前記ネブライザーが振動膜ネブライザーである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
インフルエンザを治療及び予防する方法であって、治療有効量の請求項16に記載の薬学的水性治療用タンパク質製剤を、それを必要とする被験体に投与することを含み、前記水性治療用タンパク質製剤が鼻腔内又は吸入によって投与される、方法。
【請求項20】
前記投与が、ネブライザーによって生成されたエアロゾルを吸入することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ネブライザーが振動メッシュネブライザーである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ネブライザーが、被験体の下気道を標的とするエアロゾルを生成する、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記ネブライザーが、被験体の上気道を標的とするエアロゾルを生成する、請求項20又は21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年7月12日付で出願された米国仮特許出願第62/873,749号の利益を主張し、その出願日に依拠し、その開示全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
[配列表]
本願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。2020年7月8日付けで作成された上記ASCIIコピーの名前は0341_0006-00-304_SL.txtであり、110998バイトのサイズである。
【0003】
エアロゾル化及び呼吸器投与によるインフルエンザ治療に適した治療用タンパク質(複数の場合がある)を含む製剤が提供される。
【背景技術】
【0004】
モノクローナル抗体(mAb)及びその他の抗体ベースの治療法は、癌、炎症性疾患、及び自己免疫疾患の治療に有効であることが証明されている。最近では、インフルエンザBを含むインフルエンザの治療に有効な抗体カクテルが開発されている。ほとんどの抗体は血液を介して投与されるが、インフルエンザ及び長期の慢性疾患の治療では、より侵襲性の低い投与経路が現在検討されている。呼吸器疾患の場合、気道は薬物の局所送達が可能な経路であり、この経路は、小分子薬物、例えばβ2-アドレナリン受容体作動薬、ムスカリン拮抗薬、及びコルチコステロイド等の送達のために臨床診療で日常的に使用されている。気道は最近、抗体を含むバイオ医薬品の送達について評価されている。しかしながら、吸入によるタンパク質の投与は珍しく、嚢胞性線維症の治療に使用される組換えヒトDNaseであるドルナーゼアルファ(PULMOZYME(商標))という1つのタンパク質薬のみが現在承認されている。
【0005】
抗体の呼吸器送達は、吸入用の生物学的薬剤の製剤に関して課題となっている。吸入療法を成功させるための前提条件は、目的の呼吸器領域に十分な数のエアロゾル粒子を効率的に分布させ、確実に沈着させることである。これは、エアロゾル技術、装置の性能(例えば、エアロゾル出力、粒径)、及び薬物製剤の物理的特性に依存する。ネブライザーは、タンパク質溶液からエアロゾルを生成するために最も広く使用されている吸入器である。しかしながら、ネブライザーはタンパク質溶液からエアロゾルを生成するのに有用であると認識されているが、活性抗体の分子の完全性に対するエアロゾル化及びタンパク質製剤化の影響により、効果的な吸入療法が妨げられる可能性がある。他の治療用タンパク質と同様に、抗体は立体構造変化を起こし、生物学的活性を低下させる可能性がある。さらに、抗体は、様々なストレス、例えば高温、極端なpH、剪断応力、及び凍結等の影響を受けやすい。エアロゾルの形成は、気体媒体中の固体材料又は液滴の分散/懸濁を含む。このプロセスは、タンパク質の立体構造の変化を引き起こす可能性のある物理的ストレスに関連している。したがって、吸入抗体治療の開発は、薬物を製剤化する者にとっての課題である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、インフルエンザの治療に特に適した、典型的には抗体を含む治療用タンパク質製剤に関する。エアロゾル化されて呼吸器に送達され得る製剤は、例えば、咳及び肺粘膜の刺激の可能性を低減する。さらに、該製剤は、抗体等の治療用タンパク質を安定化するのに特に有用であり、それにより保管又はエアロゾル化の間の活性の喪失を軽減する。さらに該製剤は、比較的高濃度の治療用タンパク質を含むことができ、これは、大量の製剤の必要性を低減し、エアロゾル化時間を延長し、したがって、典型的には、患者のコンプライアンスを促進する。本発明の製剤のこれら及び他の予想外の利点が本明細書に記載される。
【0007】
一態様において、本開示は、水性治療用タンパク質製剤であって、(i)30mg/mL~150mg/mLの範囲の量の1つ以上の抗インフルエンザ抗体又はその抗原結合フラグメントを含む1つ以上の治療用タンパク質と、(ii)ヒスチジンバッファーと、(iii)NaClと、(iv)水性担体とを含み、水性治療用製剤のpHが6.0~8.0の範囲であり、該製剤が呼吸器送達用に製剤化され、エアロゾル化の際に1つ以上の治療用タンパク質を含む粒子を生じさせる、水性治療用タンパク質製剤に関する。或る特定の実施の形態において、水性治療用タンパク質製剤は、ポリソルベート等の界面活性剤を更に含む。
【0008】
また、本明細書において、エアロゾルを生成する方法であって、ネブライザーを使用して、上述した請求項のいずれか一項に記載の水性治療用タンパク質製剤を噴霧してエアロゾルを得る工程を含む、方法が提供される。
【0009】
別の態様において、本開示は、インフルエンザの治療的及び/又は予防的処置のための方法であって、それを必要とする被験体に水性治療用タンパク質製剤を投与することを含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】実施例に記載される、20mM塩化ヒスチジンバッファー及び115mM NaClを含む本開示の製剤の粒径分布のヒストグラムを示す図である。
【
図1B】実施例に記載される、20mM塩化ヒスチジンバッファー及び115mM NaClを含む本開示の製剤の粒径分布のヒストグラムを示す図である。
【
図2A】実施例に記載される、20mM塩化ヒスチジンバッファー、115mM NaCl及び0.02%ポリソルベート20を含む本開示の製剤の粒径分布のヒストグラムを示す図である。
【
図2B】実施例に記載される、20mM塩化ヒスチジンバッファー、115mM NaCl及び0.02%ポリソルベート20を含む本開示の製剤の粒径分布のヒストグラムを示す図である。
【
図3A】実施例に記載される、20mM塩化ヒスチジンバッファー、115mM NaCl及び0.05%ポリソルベート20を含む本開示の製剤の粒径分布のヒストグラムを示す図である。
【
図3B】実施例に記載される、20mM塩化ヒスチジンバッファー、115mM NaCl及び0.05%ポリソルベート20を含む本開示の製剤の粒径分布のヒストグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書で使用される場合、「保管中」は、一度調製された後、すぐには使用されず、その調製後、液体形態、凍結状態、又は乾燥形態(後に液体形態に再構成するため)のいずれかで保管用に包装されている製剤を指す。
【0012】
本明細書で使用される場合、「凝集体」は、タンパク質分子間の物理的相互作用を指し、これは、共有結合又は非共有結合の二量体又はオリゴマーの形成をもたらし、可溶性のままであるか、又は溶液から沈殿する不溶性凝集体を形成し得る。「凝集体」はまた、分解及び/又は断片化された治療用タンパク質、例えば本明細書に記載される分解及び/又は断片化された抗体又はその抗原結合フラグメント等を指す。
【0013】
本明細書で使用される場合、「粒子」は、液体、例えば、液滴を指す。
【0014】
本明細書で使用される場合、「エアロゾル化」は、例えば、本明細書に記載されるエアロゾル送達システム、例えばネブライザーの使用による、製剤の小さな粒子又は液滴への変換によるエアロゾルの生成を指す。
【0015】
本明細書で使用される場合、「噴霧する」及び「噴霧」は、本明細書に記載のネブライザーによる液体のミスト又は微細スプレーへの変換を指す。
【0016】
本明細書で使用される場合、「薬学的製剤」は、有効成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、したがって、本明細書に記載される治療的使用のために被験体に投与され得る製剤を指す。
【0017】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、本明細書で「ポリペプチド」という用語と同じ意味で使用され得て、本明細書で使用される場合、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、及び融合タンパク質を包含する。タンパク質は、組換え法又は合成法によって作製され得る。
【0018】
本明細書で使用される場合、「被験体」及び「患者」という用語は同じ意味で使用される。本明細書で使用される場合、「被験体("subject" and "subjects")」という用語は、動物、典型的には非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、及びマウス)及び霊長類(例えば、サル、例えばカニクイザル、チンパンジー、ヒヒ等、及びヒト)を含む哺乳動物を指し、より典型的にはヒトを指す。
【0019】
本明細書で使用される場合、「治療薬("therapeutic agent" and "therapeutic agents")」という用語は、1つ以上の疾患及び/又は障害の予防、治療、及び/又は管理に使用され得る、本明細書に記載の抗体及びその抗原結合フラグメントを含む、任意の作用物質(複数の場合がある)、例えば薬物又はタンパク質等を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、1つ以上の疾患及び/又は障害の重症度を軽減するのに十分な治療薬の量を指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「賦形剤」という用語は、有益な物理的特性、例えばタンパク質の安定性の増加、タンパク質の溶解性の増加、及び/又は粘度の低下等を製剤に与える薬物の希釈剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤又は安定化剤として一般に使用される不活性物質を指す。賦形剤の例としては、限定されるものではないが、タンパク質(例えば、血清アルブミン)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、グリシン、ヒスチジン)、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Tween20及びTween80等のポリソルベート、Pluronic(商標)等のポロキサマー、並びにポリエチレングリコール(PEG)等の他の非イオン性界面活性剤)、糖(例えば、グルコース、スクロース、マルトース及びトレハロース)、ポリオール(例えば、マンニトール及びソルビトール)、脂肪酸及びリン脂質(例えば、アルキルスルホネート及びカプリレート)が挙げられる。賦形剤に関する追加の情報については、Remington's Pharmaceutical Sciences(Joseph P. Remington, 18th ed., 1990, Mack Publishing Co., Easton, Pa.による)を参照されたい。この文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0022】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、天然であるか、部分的又は完全に合成的に産生されるかを問わず、免疫グロブリンを表す。この用語はまた、本明細書に記載される「抗原結合フラグメント」を包含する。この用語は、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異性モノクローナル抗体、二重特異性モノクローナル抗体又は三重特異性モノクローナル抗体等の多重特異性抗体、単離されたモノクローナル抗体、組換えモノクローナル抗体、及び単離されたヒト又はヒト化モノクローナル抗体を包含し、最後に言及されたものは、米国特許第4,816,397号及び同第4,816,567号に更に詳細に記載されており、これらはそれぞれ引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、又はサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)であり得る。好ましい抗体はIgGクラスのものである。「抗体(antibody(ies))」という用語は、一般に、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖の4つの完全長ポリペプチド鎖を含む野生型免疫グロブリン(Ig)分子を含み、これは、Ig分子の本質的なエピトープ結合機能を保持する完全長の機能的突然変異体、変異体、又はその誘導体を含む。
【0023】
本明細書で使用される場合、「抗原結合フラグメント」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体結合フラグメントの例としては、限定されるものではないが、単独又は任意の組合せで、(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント;(iii)VHドメイン及びCH1ドメインを含むFab(Fd)フラグメントの重鎖部分;(iv)例えば、米国特許出願公開第2007/0274985号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に記載されている一本鎖Fab(scFAb);(v)Fab’様フラグメント(Fab’様フラグメントがわずかに大きく、より多くの重鎖を有し、典型的には、その重鎖上に1つ以上の追加のスルフヒドリル基を有するという点でFabフラグメントとは異なる);(vi)単一の可変ドメインを含むドメイン抗体(dAb)フラグメント;(vii)ラクダ科抗体;(viii)抗体の一本鎖のVL及びVHドメインを含む可変フラグメント(Fv);(ix)2つのドメインが会合して抗原結合部位を形成することを可能にするリンカーによってVHドメイン及びVLドメインが連結されている、一本鎖Fvフラグメント(scFv);(x)多価抗体フラグメント(scFvの二量体、三量体及び/又は四量体);(xi)VHドメイン及びVLドメインが単一のポリペプチド鎖上で発現されるが、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用し、それによってドメインを別の鎖の相補性ドメインとペアにすることを強制し、2つの抗原結合部位を作り出す、二価の二重特異性抗体であるダイアボディ;(xii)相補性軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む直鎖状抗体;(xiii)定常免疫グロブリンドメインCH3又はCH4に融合したscFvを含む二価分子であり、定常CH3又はCH4ドメインが二量体化ドメインとして働くミニボディ;並びに(ix)重鎖及び/又は軽鎖の他の非全長部分、又はそれらの突然変異体、変異体若しくは誘導体が挙げられる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を含む個々の抗体は、例えば、天然に存在する突然変異を含むか、又はモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる、可能性のある変異抗体を除いて同一であり、及び/又は同じエピトープに結合し、かかる変異体は一般に少量で存在する。したがって、モノクローナル抗体は典型的には、免疫反応する任意の抗原に対して単一の結合親和性を示す。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。修飾語である「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本開示に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない様々な技術によって作製され得て、かかる方法及びモノクローナル抗体を作製するための他の例示的な方法は、例えば、国際公開第2015/290097号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0025】
本明細書で使用される場合、「Fabフラグメント」は、軽鎖(CL)のVLドメイン及び定常ドメイン、並びに重鎖のVHドメイン及び第1の定常ドメイン(CH1)を含む軽鎖フラグメントを含む抗体フラグメントを指す。抗体分子のFab及びF(ab’)2部分は、既知の方法による、又は合成若しくは組換えで調製され得る、実質的にインタクトの抗体分子に対するパパイン及びペプシンのそれぞれのタンパク質分解反応によって調製され得る。Fab’抗体分子部分も既知であり、F(ab’)2部分から生成されてもよく、続いてメルカプトエタノールのように2つの重鎖部分をつなぐジスルフィド結合が還元され、続いて得られたタンパク質メルカプタンがヨードアセトアミド等の試薬によってアルキル化される。
【0026】
本明細書で使用される場合、「Fcドメイン」は、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。例えば、天然のIgG抗体では、Fcドメインは、抗体の2本の重鎖の2番目及び3番目の定常ドメインに由来する2つの同一のタンパク質フラグメントで構成されている。
【0027】
本明細書で使用される場合、「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。ネイティブ抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は一般に類似の構造を有し、各ドメインは4つの保存されたフレームワーク領域(FR)及び3つの超可変領域(HVR)を含む。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を与えるのに十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体を、抗原に結合する抗体からVH又はVLドメインを使用して単離して、それぞれ、相補的なVL又はVHドメインのライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」は、抗体の抗原結合部位によって結合される抗原の領域(例えば、ポリペプチド)を指す。或る特定の実施形態において、エピトープ決定基は、分子、例えばアミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、又はスルホニル等の化学的に活性な表面基を含み、或る特定の実施形態において、特定の三次元構造特性、及び/又は特定の電荷特性を有し得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「パーセントアミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入した後、最大パーセントの配列同一性を達成し、配列同一性の一部として任意の保存的置換を考慮しない、重鎖及び軽鎖を含む抗体等の参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージを指す。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的によるアラインメントは、例えば、BLAST等の公的に入手可能なソフトウェア、又は例えばDNASTARから市販されているソフトウェアを使用して、当該技術分野の技術の範囲内である様々な方法で達成することができる。2つ以上のポリペプチド配列は、0%~100%同一、又はその間の任意の整数値であり得る。本開示の文脈において、2つのポリペプチドは、アミノ酸残基の少なくとも80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92.5%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%等)が同一である場合、「実質的に同一」である。本明細書で記載される「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」という用語は、ペプチドにも適用される。したがって、「実質的に同一」という用語は、参照(野生型又は他のインタクトの)ポリペプチド、例えば抗体等と比較した場合、実質的な配列同一性(例えば上記で参照される1つ以上の方法によって測定される場合、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92.5%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性)を有する抗体、その抗原結合フラグメント及びポリペプチド、例えば抗体等の突然変異された、短縮された、融合された、或いは配列修飾された変異体を包含する。
【0030】
本明細書で使用される場合、例えば重鎖を含む2つの抗体等の2つのアミノ酸配列は、アミノ酸残基の少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92.5%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%等)が同一であるか、又は保存的置換を表す場合に、「実質的に相同」である。本開示の抗体等のポリペプチドの配列は、本明細書に記載される抗体等のポリペプチドのアミノ酸の1つ以上、例えば、最大10%、最大15%、又は最大20%等が類似の又は保存的アミノ酸置換で置換され、得られたペプチドが、本明細書に記載の抗体の活性等の参照ポリペプチドの少なくとも1つの活性(例えば、特定のエピトープに結合する能力、中和活性)を有する場合、実質的に相同である。
【0031】
本明細書で使用される場合、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が同様の電荷を有する側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられる置換を指す。同様の電荷を有する側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野で規定されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。
【0032】
本明細書で使用される場合、「予防すること」又は「予防」は、疾患の原因となる作用物質に曝露される可能性がある、又は疾患の発症前に疾患にかかりやすい可能性がある被験体における疾患又は障害を獲得又は発症するリスクの低減(すなわち、疾患の臨床症状の少なくとも1つを発症しないようにする)を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「阻止(prophylaxis)」は、「予防(prevention)」という用語に関連し、この用語に包含され、疾患を治療又は治癒するのではなく、予防することを目的とする手段又は手法を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「鼻腔内」は、例えば、鼻若しくは鼻構造内に若しくはそれを介して、又は気道送達を介して、例えば吸入によって本開示の製剤を投与することを指す。本明細書で使用される鼻腔内という用語は、特に、薬物、作用物質、抗体、フラグメント、組成物が送達されるか、或いは、呼吸器に提供されるか、呼吸器内に沈着される若しくは呼吸器で沈着されるか、或いは呼吸器に分布される他の投与手段を除外する役割において、直接又は具体的に又は単に鼻又は鼻腔を介した投与に限定することを意図するものではない又はこれに限定することを意味するものではない。
【0035】
本明細書で使用される場合、「吸入」は、特に、抗体を含む作用物質若しくは化合物、又はそれを含む組成物を摂取する、又は投与する/投与されるという文脈において、摂取することを指し、それによって、製剤に含まれる作用物質、化合物、抗体が呼吸器の全部又は一部に送達される。吸入は、鼻若しくは口を介して、又は気管内投与のように下気道への直接投与を介して起こり得る。したがって、吸入は、鼻のみ又は主に、鼻腔内、口からの吸入、経口吸入、気管内吸入、気管内注入を含み得る。したがって、吸入は、上気道及び/又は下気道を含む呼吸器への排他的、特異的又は優先的な任意の投与手段を提供し、企図し、それにより、薬物、作用物質、組成物又は抗体は、上気道及び/又は下気道を含む呼吸器に、排他的に、特異的又は優先的に到達するか、又は呼吸器に若しくは呼吸器内に沈着される。
【0036】
本明細書で使用される場合、「治療する」又は「治療」という用語は、ヒト等の被験体が、直接的又は間接的に、障害を治癒するか、病原体を根絶するか、又は被験体の状態を改善する目的で医療を受ける任意のプロセス、行為、適用、療法等を指す。治療は、発生率の低減、症状の軽減、再発の解消、再発の予防、発生の予防、発生リスクの低減、症状の改善、予後の改善、又はそれらの組合せも指す。「治療」は、被験体においてウイルスの増殖を低減し、それにより、被験体におけるインフルエンザウイルス感染等のウイルス感染、又は器官、組織若しくは環境のウイルス汚染を制御又は低減することを更に包含し得る。
【0037】
製剤
本開示は、典型的には呼吸器送達のための治療用タンパク質製剤に関する。幾つかの実施形態において、本発明の治療用タンパク質製剤(本明細書において「製剤」、「物質の組成物」又は「組成物」とも称される)は、液体製剤、より典型的には水性製剤である。本明細書で使用される場合、「水性製剤」は、溶媒が水である製剤である。幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、凍結乾燥(lyophilized)製剤、フリーズドライ(freeze-dried)製剤、又は噴霧乾燥製剤であり、被験体に投与する前に、液体、例えば水性製剤として再構成することができる。
【0038】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、エアロゾル化を介した呼吸器送達に有用である。したがって、本発明の製剤は、エアロゾル化と適合性のある粘度を有する。典型的には、本発明の製剤は、約20℃の温度で、約0.8mPa・s~約17.0mPa・s、例えば約2mPa・s~8mPa・s、例えば約3mPa・s~7mPa・s、例えば約3mPa・s~4mPa・s等の範囲の動的粘度を示す。
【0039】
一般に、高濃度の治療用タンパク質が本発明の製剤で使用される。本開示では高用量の治療用タンパク質が典型的であるが、エアロゾル化時間を可能な限り短く保つため、典型的には患者のコンプライアンスを促進するために、エアロゾル化される量を最小化してもよい。典型的には、本発明の製剤中の治療用タンパク質の濃度は、約5mg/mL~約150mg/mL、例えば約10mg/mL~約120mg/mL、例えば約15mg/mL~約100mg/mL、例えば約30mg/mL~約70mg/mL、例えば約40mg/mL~約60mg/mL等の範囲である。より典型的には、本発明の製剤中の治療用タンパク質の濃度は約50mg/mLである。
【0040】
一般に、本発明の治療用タンパク質製剤は安定な製剤である。「安定な」製剤は、製剤中の治療用タンパク質が、本明細書に記載のネブライザー等のエアロゾル化装置のリザーバーでの保管を含む保管時に又はエアロゾル化中にその物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を本質的に保持するものである。タンパク質は、例えば、色及び/又は透明度の目視検査によって観察される場合、又はUV光散乱(目に見える凝集体を測定する)若しくはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定される場合、凝集、沈殿及び/又は変性にほとんど又は全く変化を示さなければ、製剤中で「その物理的安定性を保持する」。
【0041】
タンパク質が分解されない場合、タンパク質は製剤中で「その化学的安定性を保持する」。化学的安定性は、タンパク質の化学的に変化した形態を検出及び定量化することによって評定され得る。化学的変化は、サイズ変更(例えば、クリッピング)を含む場合があり、これは、例えば、SEC、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、及び/又はマトリクス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分光分析(MALDI/TOF MS)を使用して評価することができる。他のタイプの化学的変化としては、電荷の変化(例えば、脱アミド化の結果として生じる)が挙げられ、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって評価することができる。
【0042】
本明細書に記載される1つ以上の抗体を典型的に含む本発明の製剤の治療用タンパク質は、例えば、所与の時点、例えば保管又はエアロゾル化の前等での抗体の生物学的活性が、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)のアッセイ等の抗原結合アッセイにおいて決定される場合、製剤が調製されたときに示されるその生物学的活性の約10%以内であれば、製剤中で「その生物学的活性を保持する」。
【0043】
保管又はエアロゾル化の間の本開示の製剤に関して「安定な」という用語は、本発明の製剤の治療用タンパク質が、保管開始時又はエアロゾル化前のその活性と比較して、保管中のその生物活性を15%、又はより典型的には10%、又は更により典型的には5%、なお更により典型的には3%を超えて失わないことを意味すると理解される。
【0044】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、本明細書に記載される安定化剤の不在下での保管又はエアロゾル化の間の治療用タンパク質の凝集の量と比較した、ネブライザー等のエアロゾル化装置のリザーバーでの保管を含む保管中、又はエアロゾル化中の治療用タンパク質の凝集量の減少をもたらす。
【0045】
例えば、高温に曝されるために凝集体が形成される場合がある。「高温」とは、本発明の治療用抗体を含む本開示の製剤が通常保管される温度を超える任意の温度を意味する。通常の保管温度は、約-70℃~8℃、典型的には約-20℃、又は約4℃~8℃、より典型的には約4℃~6℃、更により典型的には約4℃の温度である。幾つかの実施形態において、本明細書で提供される本発明の治療用タンパク質製剤はまた、室温(すなわち、20℃~25℃)で安定化される。
【0046】
保管中の凝集体の形成の更なる原因は、本明細書に記載の治療用タンパク質等の治療用タンパク質が凝集体を形成する固有の傾向によるものである。理論に拘束されるものではないが、本発明の治療用タンパク質の凝集体形成が活性の喪失につながる可能性があると想定されている。
【0047】
保管又はエアロゾル化中の凝集体形成は、限定されるものではないが、例えばサイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC)、サブビジブル粒子計数、分析超遠心分離(AUC)、動的光散乱(DLS)、静的光散乱(SLS)、弾性光散乱、OD320/OD280、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、円二色性(CD)、尿素誘導タンパク質展開技術(urea-induced protein unfolding techniques)、固有トリプトファン蛍光及び/又は示差走査熱量測定技術を含む当該技術分野で知られている様々な分析的及び/又は免疫学的方法によって評定され得る。典型的には、SE-HPLCは、分子サイズ分布、並びに保管中の本発明の治療用タンパク質及び不純物の相対量を評定するために使用される。SE-HPLC法は当業者に知られている。
【0048】
幾つかの実施形態において、本発明の治療タンパク質は、保管又はエアロゾル化の開始時の治療用タンパク質の重量による凝集と比較して、保管中のタンパク質の重量で、20%以下、10%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、又は0.5%以下の凝集を含む。
【0049】
幾つかの実施形態において、本明細書で提供される本発明の治療用タンパク質製剤は、約4℃~8℃で長期間保管される。幾つかの実施形態において、本発明の治療用タンパク質製剤は、約4℃~8℃で少なくとも約1ヶ月間保管された場合に安定である。幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、約4℃~8℃で少なくとも約3ヶ月間保管された場合に安定である。更に他の実施形態において、本発明の製剤は、約4℃~8℃で少なくとも6ヶ月間、例えば少なくとも1年間、例えば少なくとも2年間保管された場合に安定である。
【0050】
幾つかの実施形態において、本明細書で提供される本発明の治療用タンパク質製剤は、約-70℃~-20℃で長期間保管される。幾つかの実施形態において、本発明の治療用タンパク質製剤は、約-70℃~-20℃で少なくとも約1ヶ月間保管された場合に安定である。幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、約-70℃~-20℃で少なくとも約3ヶ月間保管された場合に安定である。更に他の実施形態において、本発明の製剤は、約-70℃~-20℃で少なくとも6ヶ月間、例えば少なくとも1年間、例えば少なくとも2年間保管された場合に安定である。
【0051】
幾つかの実施形態において、本開示の製剤の本発明の治療用タンパク質は、溶液中で約5.0~8.0、例えば約6.0~約6.5、例えば約6.0等のpHで正味電荷を有する荷電アミノ酸を含む安定化剤を含む。pH値/範囲の文脈で使用される場合、「約」という用語は、引用された値の±25%の範囲を有する数値を指す。理論によって拘束されるものではないが、荷電アミノ酸の存在は、本明細書に記載される高度に濃縮された治療用タンパク質製剤の調製を可能にする。幾つかの実施形態において、荷電アミノ酸は、アルギニン、グルタミン酸又はヒスチジンである。典型的には、アミノ酸はヒスチジンである。
【0052】
本明細書で使用されるアミノ酸に関して「正味電荷」という用語は、アミノ酸の表面の正電荷及び負電荷がゼロではないことを意味する。正味電荷はpHに依存する。特定のpHでは、正電荷と負電荷とのバランスがとれ、正味電荷はゼロ、すなわち等電点になる。
【0053】
典型的には、安定化剤はヒスチジンバッファーを含む。本明細書で使用される場合、「バッファー」は、その酸塩基コンジュゲート成分の作用によるpHの変化に抵抗する緩衝液を指す。本明細書で使用される場合、「ヒスチジンバッファー」は、ヒスチジンイオンを含むバッファーである。ヒスチジンバッファーの例としては、塩化ヒスチジン、酢酸ヒスチジン、リン酸ヒスチジン及び硫酸ヒスチジンが挙げられる。幾つかの実施形態において、ヒスチジンバッファーは、肺への刺激を最小限に抑える。幾つかの実施形態において、ヒスチジンバッファーは、このバッファーが肺を刺激する可能性があることから、酢酸ヒスチジンを除外する。本発明の製剤における最も典型的なヒスチジンバッファーは、塩化ヒスチジンである。典型的な実施形態において、塩化ヒスチジンバッファーは、L-ヒスチジン(遊離塩基、固体)を塩酸(液体)で、又はヒスチジンバッファーを塩化ヒスチジンバッファー溶液で所定のpHまで滴定することによって調製される。典型的には、ヒスチジンバッファー又は塩化ヒスチジンバッファーは、約5.5~約7.5のpH、典型的には約6.0~約6.5、最も典型的には約6.0のpHである。
【0054】
特定の水性製剤における治療用タンパク質の安定性及び溶解性を最大化するために、必要に応じてpHを調整できることが理解される。本発明の製剤のpH値を、酸性剤又は塩基性剤の添加によって調整することができる。アルカリ剤、例えば水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等又はそれらの組合せを添加することにより、pHを上昇させるか、又はよりアルカリ性にすることができる。pH調整剤として使用するのに適した酸としては、例えば、塩酸、リン酸、亜リン酸、クエン酸、グリコール酸、乳酸、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、グルタル酸、吉草酸等が挙げられる。典型的には、塩酸は、必要に応じて本発明の製剤のpHを調整するために使用される。
【0055】
典型的な実施形態において、ヒスチジンは、5mM~30mM、例えば10mM~25mM、例えば15mM~25mM等の範囲の濃度で製剤中に存在する。幾つかの実施形態において、本発明の製剤中のヒスチジンの濃度は、5.0±0.5mM、10.0±1mM、15.0±1.5mM、20±2mM、25±2.5mM、30±5mM以下である。他の実施形態において、製剤中のヒスチジンの濃度は、5.0±0.5mM、10.0±1mM、15.0±1.5mM、20±2mM、25±2.5mM、30±5mM以上である。より典型的には、製剤中のヒスチジンの濃度は、20.0±0.5mM、20.0±1mM、20±1.5mM、20±2mM、20±2.5mM、又は20±5mMである。更により典型的には、製剤中のヒスチジンの濃度は20mMである。
【0056】
本発明の治療用製剤は、ヒトの血液と等張性又はわずかに低張性であり得て、すなわち、本開示の本発明の治療用製剤は、ヒトの血液と本質的に同じ又はわずかに低い浸透圧を有することが当業者によって理解される。かかる等張性又はわずかに低張性の製剤は、一般に、約240mOSm/kg~約320mOSm/kg、例えば約240mOSm/kg以上、250mOSm/kg以上又は260mOSm/kg以上等の浸透圧を有する。浸透圧は、例えば、蒸気圧又は製氷型(ice-freezing type)の浸透圧計を使用して測定することができる。
【0057】
本発明の製剤の張度は、張度調整剤を使用して調整することができる。「張度調整剤」は、組成物の等張性を提供するために製剤に添加することができるそれらの薬学的に許容可能な不活性物質である。本開示の製剤における典型的な張度調整剤は、無機塩である。限定されるものではないが、本開示の組成物の浸透圧を調整するための無機塩としては、NaCl、KCl、CaCl2、及びMgCl2が挙げられ、特にNaClである。無機塩の濃度は、10mM~200mM、10mM~150mM、50mM~150mM、100mM~150mM、又は100mM~120mMの範囲であり得る。特定の態様において、本開示の製剤に含まれ得る塩(典型的にはNaCl)の濃度は、約10mM、約25mM、約50mM、約75mM、約100mM、約110mM、115mM、約130mM、約150mM、又は約200mMであり得る。
【0058】
幾つかの実施形態において、張度調整剤として作用する代わりに又は作用することに加えて、NaClは、呼吸器における刺激を低減する、例えば咳を軽減する、及び/又は本発明の治療用タンパク質を更に安定化するのに役立ち得る。幾つかの実施形態において、本発明の製剤中のNaClの濃度は、約100mM~約200mMの範囲である。典型的には、115mMのNaClが使用される。
【0059】
本開示の製剤は、1つ以上の界面活性剤、典型的には非イオン性界面活性剤を更に含み得る。タンパク質溶液、特に抗体溶液は、気液界面で高い表面張力を持つ。この表面張力を低下させるために、抗体等のタンパク質は、気液界面で凝集する傾向がある。界面活性剤は、気液界面での抗体の凝集を最小限に抑え、それによって溶液中又はエアロゾル化中に抗体の生物学的活性を維持するのに役立つ。製剤が凍結乾燥されると、界面活性剤はまた、再構成された製剤において粒子の形成を減少させることができる。
【0060】
或る特定の例示的な非イオン性界面活性剤としては、脂肪アルコール、ポリソルベート、例えばポリソルベート20、ポリソルベート80等、Triton X-100、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンコポリマー(PLURONIC(商標))、及びノニルフェノキシポリエトキシルエタノール(NP-40)が挙げられる。本開示の製剤に使用できる他の界面活性剤としては、天然に存在する界面活性剤であるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)等のホスファチジルコリン(レシチン)等のホスホグリセリドが挙げられる。他の例示的な界面活性剤としては、ジホスファチジルグリセロール(DPPG)、ヘキサデカノール、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、表面活性脂肪酸、例えばパルミチン酸又はオレイン酸等、ソルビタントリオレエート(Span85)、グリココレート、サーファクチン、ポロキサマー、ソルビタン脂肪酸エステル、例えばトリオレイン酸ソルビタン、チロキサポール及びリン脂質等が挙げられる。
【0061】
界面活性剤の濃度は、製剤の0.001%~1%(体積:体積)(典型的には、0.001%~0.1%(体積:体積)、又は0.01%~0.1%(体積:体積)、例えば約0.001%(体積:体積)、0.005%(体積:体積)、0.01%(体積:体積)、0.02%(体積:体積)、0.05%(体積:体積)、0.08%(体積:体積)、0.1%(体積:体積)、0.5%(体積:体積)、又は1%(体積:体積)、典型的には約0.04%~0.08%(体積:体積))等の範囲であり得る。特定の実施形態において、界面活性剤は、製剤の0.001%(体積:体積)、0.005%(体積:体積)、0.01%(体積:体積)、0.02%(体積:体積)、0.04%、0.05%(体積:体積)、0.08%(体積:体積)、0.1%(体積:体積)、0.5%(体積:体積)、又は1%(体積:体積)、典型的には0.04%~0.08%(体積:体積)の濃度であるポリソルベート20又はポリソルベート80である。
【0062】
本開示の典型的な製剤の例は、0.01%(体積:体積)ポリソルベート80、0.02%(体積:体積)ポリソルベート80、0.05%(体積:体積)ポリソルベート80又は0.08%(体積:体積)ポリソルベート80を含む。典型的には、ポリソルベート80、0.02%(体積:体積)が使用される。
【0063】
本開示の典型的な製剤の別の例は、0.01%(体積:体積)ポリソルベート20、0.02%(体積:体積)ポリソルベート20、0.05%(体積:体積)ポリソルベート20又は0.08%(体積:体積)ポリソルベート20を含む。より典型的には、ポリソルベート20、0.02%(体積:体積)が使用される。
【0064】
本発明の治療用タンパク質製剤はまた、製剤の特性及び/又はエアロゾルの特性を最適化するのに役立つ、更なる薬学的に許容可能な賦形剤を含むことができる。かかる賦形剤の例としては、味覚マスキング剤、甘味料、及びフレーバーが挙げられる。
【0065】
本開示の製剤は、典型的には、本明細書に記載の治療用タンパク質に加えて、ヒスチジン等のアミノ酸(ヒスチジンは、水性担体中約5.5~8のpHで正味電荷を有する)を組み合わせることによって、又は本明細書に記載の治療用タンパク質を、ヒスチジンバッファーを更に含む水性担体と組み合わせることによって調製される。さらに必要に応じて、NaCl、又は任意に、界面活性剤、pH調整剤及び追加の賦形剤を加えることができる。当業者は、製剤に含まれる様々な成分を組み合わせることは、任意の適切な順序で行われ得ることを理解するであろう。例えば、バッファーを最初、中間、又は最後に加えることができ、界面活性剤も最初、中間、又は最後に加えることができる。これらの化学物質の幾つかは、或る特定の組合せでは適合しない可能性があり、したがって、類似の特性を有するが、関連する混合物においては適合性がある異なる化学物質での置換が容易であることも当業者によって理解されるべきである。
【0066】
治療用タンパク質
幾つかの実施形態において、本発明の製剤の1つ以上の治療用タンパク質は、インフルエンザの治療に使用される抗体を含む。本明細書で使用される場合、「インフルエンザ」は、インフルエンザA、インフルエンザB、及びインフルエンザCを含むヒト集団で循環しているインフルエンザウイルスを包含する。典型的には、ヒトインフルエンザA及びBのウイルスは、季節性の疾患の流行を引き起こす。C型インフルエンザ感染症は典型的には、軽度の呼吸器疾患を引き起こし、流行を引き起こさない。
【0067】
本明細書で使用される場合、「インフルエンザA」は、血球凝集素(H)のタイプ及び/又はウイルスの表面上のノイラミニダーゼ(N)タンパク質のタイプによって決定されるウイルスサブタイプのいずれか、例えば、サブタイプH1N1及びH3N2を包含する。本明細書で使用される場合、「B型インフルエンザ」は、Yamagata系統及び/又はVictoria系統を含むB型インフルエンザの異なる系統のいずれかを包含する。
【0068】
典型的には、本発明の抗体は、インフルエンザA及び/又はインフルエンザB、例えばインフルエンザAのH1及びH3サブタイプ、並びにインフルエンザBのYamagata系統及びVictoria系統等に対するものである。したがって、幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、本明細書に記載の抗体を含む2つ、例えば3つ、又はそれ以上の治療用タンパク質を含み得る。
【0069】
幾つかの実施形態において、インフルエンザA及び/又はBに対する抗体は、中和抗体である。ウイルスの抗体媒介中和は、当該技術分野で知られている任意の従来の中和アッセイで試験することができる。適切な中和アッセイの例としては、培養中の細胞に対するウイルス細胞変性効果(CPE)の阻害に基づく従来の中和アッセイが挙げられる。例えば、インフルエンザの中和は、インフルエンザに感染したMadin-Darbyイヌ腎(MDCK)細胞でのCPEの形成を低減又は遮断することによって試験することができる。ウイルス及び推定中和剤は、細胞に添加する前に事前に混合し、続いてウイルス侵入の遮断を測定することができる。
【0070】
逆に、TAMIFLU(商標)のようなノイラミニダーゼ阻害剤の場合のように、一部の中和アッセイはウイルスの放出の遮断を検出することができる。例えば、幾つかの実施形態において、従来のin vitro中和アッセイでは中和抗体ではないように見えるかもしれないが、放出阻害(egress inhibition)中和を示す抗体が提供される。したがって、本明細書で使用される「中和」抗体は、従来のin vitro中和アッセイにおいて中和を示す抗体及び/又は放出阻害を示す抗体を指す。ウイルス放出阻害剤である抗体は、インフルエンザ感染の伝播を阻害するという意味で中和している。
【0071】
幾つかの実施形態において、本開示の中和抗体等の本開示の抗体は、モノクローナル抗体である。ハイブリドーマ又は他の手段及びアプローチによってモノクローナル抗体を作製する方法は既知である。例えば、Niman et al, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1983, 80:4949-4953を参照されたい。この文献は引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。典型的には、ウイルス、ウイルスタンパク質、又はペプチド類縁体は、モノクローナル抗体を産生するための免疫原として、単独で、又は免疫原性担体に抱合化して使用される。ハイブリドーマは、ウイルス、タンパク質、又はペプチド類縁体と免疫反応する抗体を産生する能力についてスクリーニングされる。
【0072】
中和モノクローナル抗体等の本開示のモノクローナル抗体等の抗体は、血球凝集素(H)及び/又はノイラミニダーゼ(N)サブタイプのいずれか、例えばH1N1ウイルス及びH3N2ウイルス等を中和することができる。幾つかの実施形態において、抗体は、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H13及びH16、典型的にはH1サブタイプを含むグループ1血球凝集素サブタイプからのヒトインフルエンザAウイルスを中和する。幾つかの実施形態において、抗体は、H3、H4、H7、H10、H15及びH14、典型的にはH3サブタイプを含むグループ2血球凝集素サブタイプからのヒトインフルエンザAウイルスを中和する。
【0073】
中和モノクローナル抗体等の本開示のモノクローナル抗体等の抗体は、ヒトインフルエンザBウイルス、例えばYamagata系統及び/又はVictoria系統からのもの等を中和することができる。本開示の抗インフルエンザ抗体は、株特異的又は非特異的又は汎特異的であり得る。
【0074】
より具体的には、本開示の本発明の製剤及び方法での使用に適した抗体としては、国際公開第2015/120097号及び同第2014/152841号に記載されているものが挙げられ、これらのそれぞれは、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。例えば、幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、TRL053/Mab53等の群1モノクローナル抗体を含む治療用タンパク質、モノクローナルTRL579/Mab579等の群2抗体を含む治療用タンパク質、又はモノクローナル抗体TRL809、TRL812、TRL813、TRL832、TRL841、TRL842、TRL845、TRL846、TRL847、TRL848、TRL849、TRL854及びTRL856の少なくとも1つから選択される抗インフルエンザB抗体を含む治療用タンパク質を含む。特定の実施形態において、抗インフルエンザB抗体は、TRL849を含む。幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、前述の抗体のヒト化又はキメラ化バージョンを含む。
【0075】
幾つかの実施形態において、本発明の抗体は、2つ以上のインフルエンザ株又はサブタイプに対するものであり得る。例えば、TRL053/Mab53は、群1及び群2のサブタイプであるインフルエンザA H1、H9、H7、及びH5に対して有効である。TRL579/Mab579は、H3サブタイプ及びH7サブタイプに対して有効である。したがって、循環インフルエンザ株の主な株としてはH1タイプ、H3タイプ、及びBタイプが挙げられるが、新たな又は1回のインフルエンザシーズンに発生及び出現する可能性のあるサブタイプを含む、追加の株及びサブタイプに対して有効な組合せを生成することができる。
【0076】
既知であるように、モノクローナル抗体の特異性は、本質的に、軽鎖及び重鎖の可変領域に存在する相補性決定領域(CDR)によって決定される。したがって、幾つかの実施形態において、軽鎖及び/又は重鎖のCDRを含む治療用タンパク質を含む治療用タンパク質製剤が提供される。
【0077】
幾つかの実施形態において、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖は(a1)TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3)を含む。他の実施形態において、1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体は、(a1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖は、(a2)TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3)と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。
【0078】
(a1)及び/又は(a2)に加えて又はそれに代えて、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖は(b1)TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体は、(b1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖は、(b2)TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。
【0079】
(a1)、(a2)、(b1)又は(b2)に加えて又はそれに代えて、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖は(c1)(i)それぞれ配列番号13、配列番号14及び配列番号15(TRL809);(ii)それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21(TRL812);(iii)それぞれ配列番号25、配列番号26及び配列番号27(TRL813);(iv)それぞれ配列番号31、配列番号32及び配列番号33(TRL832);(v)それぞれ配列番号37、配列番号38及び配列番号39(TRL841);(vi)それぞれ配列番号43、配列番号44及び配列番号45(TRL842);(vii)それぞれ配列番号49、配列番号50及び配列番号51(TRL845);(viii)それぞれ配列番号55、配列番号56及び配列番号57(TRL846);(ix)それぞれ配列番号61、配列番号62及び配列番号63(TRL847);(x)それぞれ配列番号67、配列番号68及び配列番号69(TRL848);(xi)それぞれ配列番号73、配列番号74及び配列番号75(TRL849);(xii)それぞれ配列番号79、配列番号80及び配列番号81(TRL854);並びに(xiii)それぞれ配列番号85、配列番号86及び配列番号87、並びに(xiv)それぞれ配列番号88、配列番号89、配列番号90(TRL856)から選択される重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体が、(c1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖が、i)それぞれ配列番号13、配列番号14及び配列番号15(TRL809);(ii)それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21(TRL812);(iii)それぞれ配列番号25、配列番号26及び配列番号27(TRL813);(iv)それぞれ配列番号31、配列番号32及び配列番号33(TRL832);(v)それぞれ配列番号37、配列番号38及び配列番号39(TRL841);(vi)それぞれ配列番号43、配列番号44及び配列番号45(TRL842);(vii)それぞれ配列番号49、配列番号50及び配列番号51(TRL845);(viii)それぞれ配列番号55、配列番号56及び配列番号57(TRL846);(ix)それぞれ配列番号61、配列番号62及び配列番号63(TRL847);(x)それぞれ配列番号67、配列番号68及び配列番号69(TRL848);(xi)それぞれ配列番号73、配列番号74及び配列番号75(TRL849);(xii)それぞれ配列番号79、配列番号80及び配列番号81(TRL854);並びに(xiii)それぞれ配列番号85、配列番号86及び配列番号87、並びに(xiv)それぞれ配列番号88、配列番号89、配列番号90(TRL856)から選択される重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。
【0080】
典型的には、本発明の製剤は、重鎖及び軽鎖を含む少なくとも3つの抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、
(i)第1の抗体の重鎖は、TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3)を含み;
(ii)第2の抗体の重鎖は、TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)を含み;
(iii)第3の抗体の重鎖は、TRL849重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号73、配列番号74、及び配列番号75)を含む。
【0081】
幾つかの実施形態において、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖及び軽鎖が、(a1)TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3)及びTRL053軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号4、配列番号5、配列番号6)を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体が、(a1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖及び軽鎖が、(a2)TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3)及びTRL053軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号4、配列番号5、配列番号6)と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。
【0082】
上記(a1)及び/又は(a2)に加えて又はそれに代えて、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖及び軽鎖が、(b1)TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)及びTRL579軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号10、配列番号11、配列番号12)を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体が、(b1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖及び軽鎖が、(b2)TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)及びTRL579軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号10、配列番号11、配列番号12)と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するポリペプチドを含む。
【0083】
(a1)、(a2)、(b1)又は(b2)に加えて又はそれに代えて、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖及び軽鎖は、(c1)(i)配列番号13、配列番号14、配列番号15及び配列番号16、配列番号17、配列番号18(TRL809);(ii)配列番号19、配列番号20、配列番号21及び配列番号22、配列番号23、配列番号24(TRL812);(iii)配列番号25、配列番号26、配列番号27及び配列番号28、配列番号29、配列番号30(TRL813);(iv)配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34、配列番号35、配列番号36(TRL832);(v)配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40、配列番号41、配列番号42(TRL841);(vi)配列番号43、配列番号44、配列番号45及び配列番号46、配列番号47、配列番号48(TRL842);(vii)配列番号49、配列番号50、配列番号51及び配列番号52、配列番号53、配列番号54(TRL845);(viii)配列番号55、配列番号56、配列番号57及び配列番号58、配列番号59、配列番号60(TRL846);(ix)配列番号61、配列番号62、配列番号63及び配列番号64、配列番号65、配列番号66(TRL847);(x)配列番号67、配列番号68、配列番号69及び配列番号70、配列番号71、配列番号72(TRL848);(xi)配列番号73、配列番号74、配列番号75及び配列番号76、配列番号77、配列番号78(TRL849);(xii)配列番号79、配列番号80、配列番号81及び配列番号82、配列番号83、配列番号84(TRL854)、並びに(xiii)配列番号85、配列番号86、配列番号87及び配列番号88、配列番号89、配列番号90(TRL856)からそれぞれ選択される重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3及び軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体が、(c1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖及び軽鎖が、(c2)(i)配列番号13、配列番号14、配列番号15及び配列番号16、配列番号17、配列番号18(TRL809);(ii)配列番号19、配列番号20、配列番号21及び配列番号22、配列番号23、配列番号24(TRL812);(iii)配列番号25、配列番号26、配列番号27及び配列番号28、配列番号29、配列番号30(TRL813);(iv)配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34、配列番号35、配列番号36(TRL832);(v)配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40、配列番号41、配列番号42(TRL841);(vi)配列番号43、配列番号44、配列番号45及び配列番号46、配列番号47、配列番号48(TRL842);(vii)配列番号49、配列番号50、配列番号51及び配列番号52、配列番号53、配列番号54(TRL845);(viii)配列番号55、配列番号56、配列番号57及び配列番号58、配列番号59、配列番号60(TRL846);(ix)配列番号61、配列番号62、配列番号63及び配列番号64、配列番号65、配列番号66(TRL847);(x)配列番号67、配列番号68、配列番号69及び配列番号70、配列番号71、配列番号72(TRL848);(xi)配列番号73、配列番号74、配列番号75及び配列番号76、配列番号77、配列番号78(TRL849);(xii)配列番号79、配列番号80、配列番号81及び配列番号82、配列番号83、配列番号84(TRL854)、並びに(xiii)配列番号85、配列番号86、配列番号87及び配列番号88、配列番号89、配列番号90(TRL856)からそれぞれ選択される重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3及び軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するポリペプチドを含む。
【0084】
典型的には、本発明の製剤は、重鎖及び軽鎖を含む少なくとも3つの抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、第1の抗体の重鎖及び軽鎖は、
(i)TRL053重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3)及びTRL053軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号4、配列番号5、配列番号6)を含み、
(ii)第2の抗体の重鎖及び軽鎖は、TRL579重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号7、配列番号8、配列番号9)及びTRL579軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3(それぞれ、配列番号10、配列番号11、配列番号12)を含み、
(iii)第3の抗体の重鎖及び軽鎖は、TRL849重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3(それぞれ、配列番号73、配列番号74、及び配列番号75)及びTRL849軽鎖CDR配列(それぞれ、配列番号76、配列番号77、配列番号78のLCDR1/LCDR2/LCDR3)を含む。
【0085】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤中のモノクローナル抗体は、全て同じIgGサブタイプであり、同一又はほぼ同一の定常領域配列を有する。特定の態様において、組合せにおける全ての抗体は、IgG1抗体である。幾つかの実施形態において、抗体は、典型的には、類似又は同等の定常領域配列で設計及び発現され、典型的には、ヒトIgG1、IgG2、IgG2、IgG3、又はIgG4から選択される同じIgGのものである。循環中のより長い半減期を提供するための改変されたFc配列もまた、当該技術分野で知られている。
【0086】
幾つかの実施形態において、本発明の抗体は、当該技術分野で知られているように、ヒト重鎖及び軽鎖の定常領域を含む。幾つかの実施形態において、本発明の抗インフルエンザB抗体は、ヒトIgG1定常領域アミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態において、配列番号93のヒトIgG1定常領域アミノ酸配列を含む抗インフルエンザB抗体が提供される。幾つかの実施形態において、本発明の抗インフルエンザB抗体は、配列番号91のヒト軽鎖カッパ定常領域又は配列番号92のヒト軽鎖ラムダ定常領域を含む。
【0087】
幾つかの実施形態において、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖は、(a1)TRL053の重鎖アミノ酸配列(配列番号94)を含む。他の実施形態において、1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体は、(a1)の抗体と同じエピトープに結合し、重鎖及び軽鎖を含み、該重鎖は、(a2)TRL053のアミノ酸配列(配列番号94)と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。(a2)の或る特定の実施形態において、TRL053の重鎖アミノ酸配列(配列番号94)における任意のアミノ酸の置換、付加、又は欠失は、フレームワーク領域に位置する。(a2)の或る特定の実施形態において、CDRは、TRL053の重鎖アミノ酸配列(配列番号94)において、CDRと比べて、5個、4個、3個、2個又は1個以下のアミノ酸残基の違いがある。
【0088】
(a1)及び/又は(a2)に加えて又はそれに代えて、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖は、(b1)TRL579の重鎖アミノ酸配列(配列番号96)を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体は、重鎖及び軽鎖を含む(b1)の抗体と同じエピトープに結合する抗体を含み、該重鎖は、(b2)TRL579の重鎖アミノ酸配列(配列番号96)と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。(b2)の或る特定の実施形態において、TRL579の重鎖アミノ酸配列(配列番号96)における任意のアミノ酸の置換、付加、又は欠失は、フレームワーク領域に位置する。(b2)の或る特定の実施形態において、CDRは、TRL579の重鎖アミノ酸配列(配列番号96)において、CDRと比べて、5個、4個、3個、2個又は1個以下のアミノ酸残基の違いがある。
【0089】
(a1)、(a2)、(b1)又は(b2)に加えて又はそれに代えて、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖は(c1)(i)配列番号98(TRL809);(ii)配列番号100(TRL812);(iii)配列番号102(TRL813);(iv)配列番号104(TRL832);(v)配列番号106(TRL841);(vi)配列番号108(TRL842);(vii)配列番号110(TRL845);(viii)配列番号112(TRL846);(ix)配列番号114(TRL847);(x)配列番号116(TRL848);(xi)配列番号118(TRL849);(xii)配列番号120(TRL854);及び(xiii)配列番号122(TRL856)から選択される重鎖アミノ酸配列を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体は、重鎖及び軽鎖を含む(c1)の抗体と同じエピトープに結合する抗体を含み、該重鎖は(c2)(i)配列番号98(TRL809);(ii)配列番号100(TRL812);(iii)配列番号102(TRL813);(iv)配列番号104(TRL832);(v)配列番号106(TRL841);(vi)配列番号108(TRL842);(vii)配列番号110(TRL845);(viii)配列番号112(TRL846);(ix)配列番号114(TRL847);(x)配列番号116(TRL848);(xi)配列番号118(TRL849);(xii)配列番号120(TRL854);及び(xiii)配列番号122(TRL856)から選択される重鎖アミノ酸配列と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。(c2)の或る特定の実施形態において、(i)配列番号98(TRL809);(ii)配列番号100(TRL812);(iii)配列番号102(TRL813);(iv)配列番号104(TRL832);(v)配列番号106(TRL841);(vi)配列番号108(TRL842);(vii)配列番号110(TRL845);(viii)配列番号112(TRL846);(ix)配列番号114(TRL847);(x)配列番号116(TRL848);(xi)配列番号118(TRL849);(xii)配列番号120(TRL854);及び(xiii)配列番号122(TRL856)の重鎖アミノ酸配列における任意のアミノ酸の置換、付加、又は欠失は、フレームワーク領域に位置する。(c2)の或る特定の実施形態において、CDRは、(i)配列番号98(TRL809);(ii)配列番号100(TRL812);(iii)配列番号102(TRL813);(iv)配列番号104(TRL832);(v)配列番号106(TRL841);(vi)配列番号108(TRL842);(vii)配列番号110(TRL845);(viii)配列番号112(TRL846);(ix)配列番号114(TRL847);(x)配列番号116(TRL848);(xi)配列番号118(TRL849);(xii)配列番号120(TRL854);及び(xiii)配列番号122(TRL856)の重鎖アミノ酸配列において、CDRと比べて、5個、4個、3個、2個又は1個以下のアミノ酸残基の違いがある。
【0090】
典型的には、本発明の製剤は、重鎖及び軽鎖を含む少なくとも3つの抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、
(i)第1の抗体の重鎖はTRL053の重鎖アミノ酸配列(配列番号94)を含み、
(ii)第2の抗体の重鎖はTRL579の重鎖アミノ酸配列(配列番号96)を含み、
(iii)第3の抗体の重鎖は、TRL849の重鎖アミノ酸配列(配列番号118)を含む。
【0091】
幾つかの実施形態において、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖及び軽鎖は、(a1)TRL053の重鎖アミノ酸配列(配列番号94)及びTRL053の軽鎖アミノ酸配列(配列番号95)を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体は、重鎖及び軽鎖を含む(a1)の抗体と同じエピトープに結合する抗体を含み、該重鎖及び軽鎖は、(a2)TRL053の重鎖アミノ酸配列(配列番号94)及びTRL053の軽鎖アミノ酸配列(配列番号95)と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。(a2)の或る特定の実施形態において、TRL053の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号94及び配列番号95)における任意のアミノ酸の置換、付加、又は欠失は、フレームワーク領域に位置する。(a2)の或る特定の実施形態において、CDRは、TRL053の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号94及び配列番号95)において、CDRと比べて、5個、4個、3個、2個又は1個以下のアミノ酸残基の違いがある。
【0092】
(a1)及び/又は(a2)に加えて又はそれに代えて、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖及び軽鎖は、(b1)TRL579の重鎖アミノ酸配列(配列番号96)及びTRL579の軽鎖アミノ酸配列(配列番号97)を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体は、重鎖及び軽鎖を含む(b1)の抗体と同じエピトープに結合する抗体を含み、該重鎖及び軽鎖は、(b2)TRL579の重鎖アミノ酸配列(配列番号96)及びTRL579の軽鎖アミノ酸配列(配列番号97)と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するペプチドを含む。(b2)の或る特定の実施形態において、TRL579の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号96及び配列番号97)における任意のアミノ酸の置換、付加、又は欠失は、フレームワーク領域に位置する。(b2)の或る特定の実施形態において、CDRは、TRL579の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号96及び配列番号97)において、CDRと比べて、5個、4個、3個、2個又は1個以下のアミノ酸残基の違いがある。
【0093】
(a1)、(a2)、(b1)又は(b2)に加えて又はそれに代えて、本発明の治療用製剤は、重鎖及び軽鎖を含む1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、該重鎖及び軽鎖が、(c1)(i)それぞれ配列番号98、配列番号99(TRL809);(ii)それぞれ配列番号100、配列番号101(TRL812);(iii)それぞれ配列番号102、配列番号103(TRL813);(iv)それぞれ配列番号104、配列番号105(TRL832);(v)それぞれ配列番号106、配列番号107(TRL841);(vi)それぞれ配列番号108、配列番号109(TRL842);(vii)それぞれ配列番号110、配列番号111(TRL845);(viii)それぞれ配列番号112、配列番号113(TRL846);(ix)それぞれ配列番号114、配列番号115(TRL847);(x)それぞれ配列番号116、配列番号117(TRL848);(xi)それぞれ配列番号118、配列番号119(TRL849);(xii)それぞれ配列番号120、121(TRL854);及び(xiii)それぞれ配列番号122、配列番号123(TRL856)を含み、及び/又は1つ以上の抗インフルエンザモノクローナル抗体が、重鎖及び軽鎖を含む(c1)の抗体と同じエピトープに結合する抗体を含み、該重鎖及び軽鎖が、(c2)(i)それぞれ配列番号98、99(TRL809);(ii)それぞれ配列番号100、配列番号101(TRL812);(iii)それぞれ配列番号102、配列番号103(TRL813);(iv)それぞれ配列番号104、配列番号105(TRL832);(v)それぞれ配列番号106、配列番号107(TRL841);(vi)それぞれ配列番号108、配列番号109(TRL842);(vii)それぞれ配列番号110、配列番号111(TRL845);(viii)それぞれ配列番号112、配列番号113(TRL846);(ix)それぞれ配列番号114、配列番号115(TRL847);(x)それぞれ配列番号116、配列番号117(TRL848);(xi)それぞれ配列番号118、配列番号119(TRL849);(xii)それぞれ配列番号120、配列番号121(TRL854);及び(xiii)それぞれ配列番号122、配列番号123(TRL856)から選択される重鎖及び軽鎖と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%等の配列同一性を有するポリペプチドを含む。(c2)の或る特定の実施形態において、重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列、(i)それぞれ配列番号98、配列番号99(TRL809);(ii)それぞれ配列番号100、配列番号101(TRL812);(iii)それぞれ配列番号102、配列番号103(TRL813);(iv)それぞれ配列番号104、配列番号105(TRL832);(v)それぞれ配列番号106、配列番号107(TRL841);(vi)それぞれ配列番号108、配列番号109(TRL842);(vii)それぞれ配列番号110、配列番号111(TRL845);(viii)それぞれ配列番号112、配列番号113(TRL846);(ix)それぞれ配列番号114、配列番号115(TRL847);(x)それぞれ配列番号116、配列番号117(TRL848);(xi)それぞれ配列番号118、配列番号119(TRL849);(xii)それぞれ配列番号120、配列番号121(TRL854);及び(xiii)それぞれ配列番号122、配列番号123(TRL856)における任意のアミノ酸の置換、付加又は欠失は、フレームワーク領域に位置する。(c2)の或る特定の実施形態において、(i)それぞれ配列番号98、配列番号99(TRL809);(ii)それぞれ配列番号100、配列番号101(TRL812);(iii)それぞれ配列番号102、配列番号103(TRL813);(iv)それぞれ配列番号104、配列番号105(TRL832);(v)それぞれ配列番号106、配列番号107(TRL841);(vi)それぞれ配列番号108、配列番号109(TRL842);(vii)それぞれ配列番号110、配列番号111(TRL845);(viii)それぞれ配列番号112、配列番号113(TRL846);(ix)それぞれ配列番号114、配列番号115(TRL847);(x)それぞれ配列番号116、配列番号117(TRL848);(xi)それぞれ配列番号118、配列番号119(TRL849);(xii)それぞれ配列番号120、配列番号121(TRL854);及び(xiii)それぞれ配列番号122、配列番号123(TRL856)の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列において、CDRと比べて、5個、4個、3個、2個又は1個以下のアミノ酸残基の違いがある。
【0094】
典型的には、本発明の製剤は、重鎖及び軽鎖を含む少なくとも3つの抗インフルエンザモノクローナル抗体を含み、
(i)第1の抗体の重鎖及び軽鎖は、それぞれ、TRL053の重鎖アミノ酸配列(配列番号94)及びTRL053の軽鎖アミノ酸配列(配列番号95)を含み;
(ii)第2の抗体の重鎖及び軽鎖は、それぞれ、TRL579の重鎖アミノ酸配列(配列番号96)及びTRL579の軽鎖アミノ酸配列(配列番号97)を含み;
(iii)第3の抗体の重鎖及び軽鎖は、TRL849の重鎖アミノ酸配列(配列番号118)及びTRL849の軽鎖アミノ酸配列(配列番号119)を含む。
【0095】
幾つかの実施形態において、本発明の抗体は、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、又は組換え血球凝集素タンパク質等のそれに由来する血球凝集素タンパク質に対して、約5×10-8M~約5×10-12M、例えば約5×10-9M~約5×10-11M、例えば約3×10-9M~約3×10-11M等の結合親和性(KD)を示す。幾つかの実施形態において、結合親和性は、約5×10-10M~約5×10-11Mである。幾つかの実施形態において、本発明の抗体は、組換え血球凝集素タンパク質に対して、10nM未満、3nM未満、又は1nM未満のKDを示す。幾つかの実施形態において、本発明の抗体は、10nM~0.1pMのKDを示す。幾つかの実施形態において、本発明の抗体は、3nM~1pMのKDを示す。
【0096】
本明細書で使用される場合、抗体に関する「結合親和性」は、当該技術分野で知られている様々な方法によって決定することができるKD(抗体とその抗原との間の平衡解離定数)を指す。例えば、KDは、例えばABCAM(商標)(Landry et al., 2012, Assay and Drug Dev.Technol.10: 250-259(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす))、BIACORE(商標)(すなわち、表面プラズモン共鳴)又は競合的結合アッセイによるマイクロアレイ又は流体システムを使用することによって、斜入射反射率差(OI-RD)を決定することによって測定され得る。
【0097】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤の抗体は、Fcを欠き、及び/又はエフェクター機能が低下している。国際公開第2015/120097号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)は、中和抗体のFc機能及びFc部分が、鼻腔内投与及び/又は吸入投与後の有効性の増強に必要とされないことを実証する。したがって、Fabフラグメント等の抗体フラグメント、又はFcを欠くか若しくはエフェクター機能を欠く抗体は、鼻腔内投与又は吸入投与の際に有効である。幾つかの実施形態において、エフェクター機能を欠く抗体は、静脈内又は腹腔内の注射によって投与された場合、有効ではない。幾つかの実施形態において、本発明の製剤の抗体は、Fab、Fab’、及びF(ab’)2から選択され得る。
【0098】
本発明の抗体は、組換えタンパク質に由来し得るか、組換え発現され得るか、又は他の手段若しくは方法によって得られるか若しくは生成され得る。他の手段又は方法としては、中和抗体又はそのフラグメント(複数の場合がある)をコードするDNA又はRNAを送達すること等による、遺伝物質又はDNA若しくはDNAベクターの発現によるものを含む、呼吸器内に中和抗体を提供するための手段又は方法が挙げられる。
【0099】
幾つかの実施形態において、抗体は二重特異性抗体である。現在、2つの別々の抗体から抗原特異性ドメインを組み込んだ単一の抗体様分子(二重特異性抗体)を作製するための複数の技術が存在する。したがって、非常に広い株反応性を有する単一の抗体は、それぞれ群1及び群2に対して広い反応性を有する個々の抗体のFabドメイン、又はインフルエンザBの結合と組み合わせたこれらの群の1つを使用して構築され得る。適切な技術は、Macrogenics(メリーランド州ロックビル)、Micromet(メリーランド州ベセスダ)、及びMerrimac(マサチューセッツ州ケンブリッジ)によって記載されている(例えば、Orcutt, K. D., et al., "A modular IgG-scFv bispecific antibody topology," Protein Eng Des Sel.(2010) 23:221-228;Fitzgerald, J., et al., "Rational engineering of antibody therapeutics targeting multiple oncogene pathways," MAbs.(201 1) 1:3(3);及びBaeuerle, P. A., et al., "Bispecific T-cell engaging antibodies for cancer therapy," Cancer Res.(2009) 69:4941-4944を参照されたい)、これらはそれぞれ、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。特に有用な二重特異性抗体は、複数のタイプの血球凝集素タンパク質に結合する抗体である。特に有用な組合せは、TRL053/mAb53(H1、H5及びH9)とTRL579/mAb579(H3及びH7)との結合特異性を組み合わせたものである。
【0100】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤の治療用タンパク質は、任意の比率の2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種以上の抗体の組合せを含む。幾つかの実施形態において、本発明の製剤の治療用タンパク質は、組成物中の全抗体重量あたり、およそ10重量%~80重量%、20重量%~50重量%、25重量%~40重量%の各抗体の重量ベースあたり2種~10種又は3種~5種の抗体を含む。特定の実施形態において、本発明の製剤の治療用タンパク質は、製剤中の抗体の総重量あたり第1の抗体、第2の抗体及び第3の抗体のそれぞれのおよそ33重量%±3重量%で、実質的に等しい用量又は比率の第1の抗体、第2の抗体及び第3の抗体を含む。
【0101】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤の治療用タンパク質は、単回用量に2種~10種の抗体を含み、組合せにおける各抗体の治療有効量は、10mg/kg体重未満、5mg/kg体重未満、2mg/kg体重未満、1mg/kg体重以下であり得る。組合せにおける各抗体の単回用量は、1mg/kg体重未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満、0.05mg/kg未満であり得る。複数回用量の抗体の組合せを投与することができる。各組合せ用量は、同じであっても、用量が異なっていてもよく、例えば、最初の用量を高くして、その後に用量を減らすか、又は最初の用量を低くして、その後に用量を高くする等である。単回用量若しくは複数回用量、又は任意の用量は、1mg/kg体重未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満、0.05mg/kg未満であり得る。最初の用量は1mg/kgを超える場合があり、更なる又はその後の用量はそれより少ないか、1mg/kg未満である場合がある。
【0102】
幾つかの実施形態において、呼吸器投与、特に鼻腔内投与又は吸入投与が意図される製剤中の各抗体の用量は、哺乳動物の体重ベースで1mg/kg未満の量である。幾つかの実施形態において、ヒトの体重ベースで10mg/kg未満、5mg/kg未満、又は1mg/kg未満の投与量の抗体を含む製剤が提供される。特に、本開示の製剤は、特に鼻腔内又は吸入を介した投与を意図するものであり、臨床的に関連する哺乳動物、例えばマウス、イヌ、ウマ、ネコ又はヒト等を含む哺乳動物の体重ベースで1mg/kg未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満、0.05mg/kg未満、0.01mg/kg未満、0.005mg/kg未満、0.0025mg/kg未満、0.001mg/kg未満の量の抗体用量を含み得る。幾つかの実施形態において、治療上有効な用量は、約100mg/kg、50mg/kg、10mg/kg、3mg/kg、1mg/kg、又は1mg/kgから選択される。幾つかの態様において、有効な予防的用量又は曝露後予防的用量は、約1mg/kg/0.1mg/kg又は約0.01mg/kgから選択される。
【0103】
当業者は、動物モデルにおける有効性に基づいて、並びに臨床的及び生理学的応答、ウイルス量及びウイルス伝播速度(viral transmission rates)を考慮することを含めて、ヒトを含む哺乳動物における適切で有効な用量を決定することができる。したがって、本開示及び投薬パラメータは、本開示によって制限されない。
【0104】
エアロゾル化
幾つかの実施形態において、本発明の製剤は、エアロゾル化の際に液体粒子を製造する。エアロゾル化は、エアロゾルを形成するプロセスである。本明細書で使用される場合、「エアロゾル」は、連続気相と、その中に分散された、液体粒子又は液滴の不連続相又は分散相とを含む。分散相の液体粒子又は液滴は、液体環境に本発明の製剤の治療用タンパク質を含む。液体環境は、主に、本明細書に記載される更なる賦形剤を含む水相である。エアロゾルの連続気相は、任意の気体又は気体の混合物から選択され得る。典型的には、気体又は混合物は薬学的に許容可能である。例えば、気体は空気又は圧縮空気であり得る。或いは、他の気体及び気体混合物、例えば酸素、二酸化炭素、又は窒素と酸素との混合物を濃縮した空気等を使用することができる。典型的には、気体は空気又は圧縮空気である。
【0105】
幾つかの実施形態において、膜(又はメッシュ)ネブライザーを使用して、本開示のエアロゾルを生成する。本明細書で定義される「ネブライザー」は、液体材料を分散液相にエアロゾル化することができる装置である。
【0106】
幾つかの実施形態において、本発明の液体製剤は、本発明の製剤を振動させることによって噴霧される。かかる発振(oscillating)流体膜ネブライザーは、噴霧される液体が満たされるリザーバーを備える。ネブライザーを操作するとき、液体は、発振する(oscillate)(すなわち、例えば圧電素子によって振動する(vibrate))ように作られた液体供給システムを介して膜に供給される。幾つかの実施形態において、かかる液体供給システムとしては、リザーバーの後壁を振動させること(例えば、AEROVECTRX(商標) Technology、Pfeifer Technology)又は液体輸送スライダー(例えば、Respironics製のI-NEB(商標)装置、又はOmron製のU22(商標)装置)を振動させることが挙げられる。かかるネブライザーは、本明細書において「受動的膜ネブライザー」と称される。
【0107】
他の実施形態において、本発明の製剤は、膜を振動させることによって噴霧される(「振動メッシュネブライザー」)。このタイプのネブライザーは、噴霧される液体で満たされたリザーバーを備える。ネブライザーを操作するとき、液体、例えば、本開示の製剤は、振り子のように発振する、すなわち(例えば、圧電素子によって)振動するように作られた膜に供給される。振動膜の片側に存在する液体は、振動膜の開口部(「細孔」又は「穴」とも称される)を通って輸送され、振動膜の反対側でエアロゾルの形態をとる(例えば、PARI製のEFLOW(商標)Rapid及びERAPID(商標)、Health and Life製のHL100、並びにAEROGEN(商標)Go及びAEROGEN(商標)Solo超音波ネブライザー(アイルランド国のAerogen, Inc.))。かかるネブライザーは、本明細書において「能動的膜ネブライザー」と称される。
【0108】
膜ネブライザーによる液体の噴霧には、様々なタイプのメンブレンを利用することができる。これらの膜は、種々の粒径のエアロゾルを生成する種々の細孔サイズを特徴とする。所望のエアロゾル特性に応じて、種々の膜タイプ(すなわち、種々の変更された膜ネブライザー又はエアロゾル発生器)を使用することができる。
【0109】
質量中央径(MMD)及び空気動力学的質量中央径(MMAD)の2つの値を実験的に決定し、生成されたエアロゾルの粒径を表すために使用することができる。2つの値の違いは、MMADが水の密度に正規化されていることである。MMADは、例えば、アンダーソンカスケードインパクター(ACI:Anderson Cascade Impactor)又は次世代インパクター(NGI:Next Generation Impactor)等のインパクターによって測定することができる。或いは、レーザー回折法、例えば、MALVERN MASTERSIZER X(商標)を使用して、MMDを測定してもよい。
【0110】
エアロゾルの分散相を表す別のパラメータは、エアロゾル化された液体粒子の粒径分布である。幾何標準偏差(GSD)は、生成されたエアロゾル粒子又は液滴の粒径又は液滴サイズの分布の広さを表すためにしばしば使用される測定値である。
【0111】
呼吸器へのエアロゾル送達の場合、粒子は、1μm~11μm、例えば1.5μm~5μm、例えば2.3μm~4.5μm等の範囲のMMADを含む。幾つかの実施形態において、MMADは、10.0μm未満、例えば5.0μm未満、例えば3.3μm未満、又は例えば2.3μm未満等である。幾つかの実施形態において、サイズ分布は、1~3、例えば1.5~2.5、例えば1.8~2.3等の範囲のGSDを有する。幾つかの実施形態において、サイズ分布は、2.3未満、典型的には2.0未満、より典型的には1.8未満、又は更により典型的には1.6未満のGSDを有する。かかる粒径分布は、エアロゾル化される治療用タンパク質の量と比較して、ヒトの呼吸器において高い局所治療用タンパク質濃度を達成するために特に有用である。
【0112】
前述の粒径範囲の正確な粒径の選択には、エアロゾル沈着の標的領域又は組織を考慮に入れるべきである。例えば、最適な液滴径は、鼻又は経口吸入が意図されているかどうか、また上気道送達(例えば、鼻孔、鼻腔、口、喉(咽頭)、及び発声器(喉頭))及び/又は下気道送達(例えば、気管、肺、気管支、肺胞)に焦点が当てられているかによって異なる。さらに、年齢に依存する解剖学的形状(例えば、鼻、口、又は呼吸気道の形状)、並びに呼吸器疾患及び患者の状態及びその呼吸パターンは、治療用タンパク質の下気道又は上気道への送達に最適な粒径(例えばMMAD)を決定する要因に属する。
【0113】
幾つかの実施形態において、エアロゾルは、上気道送達、特に、鼻、鼻粘膜及び/又は副鼻腔粘膜、中鼻道自然口ルート、並びに副鼻腔に対するものである。これらの実施形態において、MMADは、約1μm~約10μm、例えば、約3μm~約10μm、例えば、約3μm~約5μm等の範囲である。幾つかの実施形態において、MMADは、約10μm未満であり、例えば、約5.0μm未満、又は例えば、約4.5μm未満、又は例えば、約4.0μm未満、又は例えば、約3.3μm未満、又は例えば、約3.0μm未満等が特に適切である。
【0114】
幾つかの実施形態において、製剤は、特に肺の深部への下気道送達のためのものである。一般に、内径が典型的には2mm未満と規定される小さな気道は、肺容量のほぼ99%を占めるため、肺機能に関与する。肺胞は、酸素及び二酸化炭素が血液によって交換される肺深部の部位である。一部のウイルス又は細菌によって誘発される肺胞の炎症は、その部位で体液分泌を引き起こし、肺による酸素の取り込みに直接影響する。エアロゾルによる深部肺気道の治療標的化は、典型的には、約1μm~約5μm、例えば約2μm~約4μm、例えば約3μm~約5μm等の範囲のMMADを有する粒子を含む。幾つかの実施形態において、MMADは、5.0μm未満、典型的には4.5μm未満、例えば4.0μm、より典型的には3.3μm未満、更により典型的には3.0μm未満等である。
【0115】
幾つかの実施形態において、エアロゾルは、子供及び/又は乳児の肺に沈着されるものである。これらの実施形態において、例えば、約1.0μm~約3.3μm、より典型的には2.0μm未満の範囲の、より小さな液滴サイズ(MMAD)が使用される。
【0116】
エアロゾル療法では、或る特定のサイズよりも小さい粒子画分、例えば5μm未満(典型的には成人の呼吸に適している画分を表す)又は3.3μm(典型的には子供の呼吸に適している画分、又は典型的には成人の肺のより深部に沈着する画分を表す)のMMADが評価され得る。また、2μmより小さい粒子の画分は、成人及び子供の終末細気管支及び肺胞に最適に到達し得て、乳児及び幼児の肺に浸透することができるエアロゾルの画分を表すため、しばしば評価される。
【0117】
幾つかの実施形態において、5μm未満の粒径を有する液滴の画分は、典型的には40%を超え、典型的には65%を超え、より典型的には70%を超え、なお更により典型的には80%を超える。3.3μm未満の粒径を有する液滴の画分は、典型的には25%を超え、より典型的には30%を超え、更により典型的には35%を超え、なお更により典型的には40%を超える。2μm未満の粒径を有する液滴の画分は、典型的には4%を超え、より典型的には6%を超え、更により典型的には8%を超える。
【0118】
上気道を標的とする典型的な膜ネブライザーは、EFLOW(商標)技術を使用した改良型治験用膜ネブライザー等、穿孔振動膜の原理によってエアロゾルを生成するネブライザーであるが、脈動空気流を放出することもできるため、生成されたエアロゾル雲は、所望の場所で、又はエアロゾル雲を所望の場所(例えば、副鼻腔(sinonasal or paranasal sinuses))に輸送している間に脈動する(すなわち、圧力の変動を受ける)。このタイプのネブライザーは、エアロゾル雲を鼻に運ぶ流れを導くためのノーズピースを有する。かかる改良型電子ネブライザーによって送達されるエアロゾルは、エアロゾルが連続(非脈動)モードで送達される場合よりも、副鼻腔(sinonasal or paranasal cavities)にはるかに良好に到達することができる。脈動する圧力波は、副鼻腔のより強力な換気を達成することができ、その結果、同時に適用されるエアロゾルは、これらの空洞により良好に分散され、沈着する。より詳しくは、被験体の上気道を標的とするための典型的なネブライザーは、約5リットル分未満の有効流量でエアロゾルを生成し、同時に、約10Hz~約90Hzの範囲の周波数でエアロゾルの圧力脈動を達成するための手段を操作するように適合されたネブライザーであり、有効流量はエアロゾルが被験体の呼吸器系に入るときのエアロゾルの流量である。かかる電子噴霧装置の例は、国際公開第2009/027095号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に開示されている。
【0119】
本開示の典型的な実施形態において、上気道を標的とするネブライザーは、例えば、国際公開第2010/09719号及び同第2011/134940号(これらはそれぞれ、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)等に記載される交互の方式で、エアロゾル雲が所望の場所に到達し、次いでエアロゾル雲の脈動を開始するときに中断され得る輸送流を使用するネブライザーである。鼻へのエアロゾル送達には、例えば、PARIのSINUS(商標)装置(ジェットネブライザー)、また膜ネブライザー(VIBRENT(商標)技術のプロトタイプ)を使用することができる。上気道に適用するために生成されたエアロゾルの適合性は、国際公開第2009/027095号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に記載されるヒト鼻キャストモデル(cast model)等の鼻吸入モデルで評価することができる。
【0120】
この方法が下気道、例えば気管支又は肺深部等を標的とすることを意図としている場合、典型的には、エアロゾルを生成するために圧電穿孔膜型ネブライザーが選択される。好適なネブライザーの例としては、受動的膜ネブライザー、例えばl-NEB(商標)、U22(商標)、U1(商標)、MICRO AIR(商標)等、超音波ネブライザー(例えばMULTISONIC(商標))、及び/又は能動的膜ネブライザー、例えばHL100(商標)、RESPIMATE(商標)、EFLOW(商標)Technologyのネブライザー、AEROGEN(商標)Solo超音波ネブライザー、AERONEB PRO(商標)、AEROGEN(商標)GO及びAEROGEN(商標)DOSEデバイスファミリー等、並びにPfeifer、Chrysalis(Philip Morris)又はAEROVECTRX(商標)の装置又はEFLOW(商標)ネブライザー(ドイツ国のPARIから入手可能な電子振動膜ネブライザー)が挙げられる。或いは、受動的膜ネブライザー、例えば、Omron製のU22(商標)若しくはU1(商標)、又はTelemaq.frの技術若しくはIng. Erich Pfeiffer GmbHの技術に基づくネブライザーを使用することができる。
【0121】
肺又は副鼻腔への送達に適合されるかどうかにかかわらず、ネブライザーは、典型的には、典型的な出力速度で単位用量をエアロゾル化することができるように選択又は適合されなくてはならない。単位用量は、本明細書において、治療有効量の活性化合物、すなわち、単回投与中に投与されるように指定された、本明細書に記載の治療用タンパク質を含む本発明の水性治療組成物の体積として定義される。幾つかの実施形態において、ネブライザーは、少なくとも0.1mL/分の速度で、又は少なくとも50mg/分の速度で、かかる単位用量を送達することができる。
【0122】
噴霧される組成物の量は典型的には少量であり、これは噴霧時間を短縮するのに役立つ。投薬量、又は投薬単位量、又は単位投薬量とも呼ばれる量は、1回の単回投与又はネブライザー治療セッションに使用されることを意図した量として理解されるべきである。具体的には、この量は、0.3mL~9.0mL、典型的には0.5mL~6mL、又はより典型的には1.0mL~約4.5mLの範囲、又は更により典型的には約3mLであり得る。典型的には、ネブライザーは、本明細書に記載されるように、エアロゾルを生成し、液体水性製剤のロード用量の大部分がエアロゾルとして送達される、すなわち、高出力を有する。より具体的には、ネブライザーは、製剤中に治療用タンパク質の用量の少なくとも50%を含む、又は言い換えれば、リザーバーに満たされた液体水性製剤の少なくとも50%を放出するエアロゾルを生成する。
【0123】
方法
幾つかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載の本発明の治療用製剤を、同じく本明細書に記載のネブライザーを使用して噴霧してエアロゾルを得る工程を含む、エアロゾルを生成する方法を提供する。典型的には、ネブライザーは、本明細書に記載される振動メッシュネブライザーである。
【0124】
幾つかの実施形態において、本開示は、インフルエンザ、例えば本明細書に記載されるインフルエンザA及び/又はインフルエンザB等の治療的及び/又は予防的処置のための方法を提供し、該方法は、それを必要とする被験体に、同じく本明細書に記載される本発明の治療用製剤を治療有効量、投与することを含む。幾つかの実施形態において、本発明の治療用製剤は、鼻腔内に投与される。他の実施形態において、本開示の治療用タンパク質製剤は、本明細書に記載されるように吸入によって投与される。典型的には、投与は、同じく本明細書に記載されるネブライザー、典型的には振動膜ネブライザーによって生成されるエアロゾルを吸入することを含む。幾つかの実施形態において、ネブライザーは、本明細書に記載されるように、被験体の上気道を標的とするエアロゾルを生成する。より典型的には、ネブライザーは、本明細書に記載されるように、被験体の下気道を標的とするエアロゾルを生成する。
【実施例】
【0125】
実施例1.エアロゾルの特性
以下の表1に示される成分を有し、それぞれpH6.5である3つの異なる製剤(製剤1、製剤2及び製剤3)を調製し、エアロゾル化後に粒子を生成するそれらの能力及び活性の保持について評定した。表1に示すように、全ての製剤は3つの異なる抗体(TRL053、TRL579、及びTRL849の混合物(50mg/mL))、20mM塩化ヒスチジンバッファー及び115mM NaClを含んだ。しかしながら、製剤2及び製剤3は製剤1とは異なり、追加的にポリソルベート20をそれぞれ0.02%(体積/体積)又は0.05%(体積/体積)の量で含んだ。
【0126】
【0127】
試料をELISAに供して、製剤中の各抗体(TRL053、TRL579、及びTRL849)のそれぞれの血球凝集素結合能を測定した。次いで、ネブライザー(AEROGEN(商標)Solo超音波ネブライザー、アイルランド国のAerogen, Inc)を使用してエアロゾル化を実施した。各製剤からの2つの試料を再度ELISAに供して、噴霧後の各抗体の血球凝集素結合能を測定した。
【0128】
エアロゾル化後、次世代インパクター(英国のCopley Scientific, Inc.)を使用して、エアロゾル粒子を15リットル/分の流量で収集した。次いで、各製剤からの2つの試料を、重量分析アッセイ及び紫外線分析アッセイによって分析した。
【0129】
重量分析アッセイの場合、各インパクタープレート上の粒子の重量を、噴霧の前後の各プレートの重量差を計算することによって決定した。次いで、各プレートに蓄積する液滴の重量に基づいて粒子分布を提供するこのアッセイを、液滴の粒径分布を決定するための計算に使用した。
【0130】
UVアッセイでは、各インパクタープレート上の材料を収集し、抗体濃度をUV吸光度により測定した。次いで、抗体の正味の分布を計算した。各プレートに蓄積するタンパク質の量に基づいて粒子分布を提供するこのアッセイを、重量分析アッセイによって決定された粒子液滴重量の分布と比較することができる。
【0131】
図1~
図3は、それぞれ製剤1、製剤2及び製剤3の粒径分布のヒストグラムを示す。製剤の変更は、粒径又は粒径分布に顕著な影響を与えなかった。全ての製剤は、5μm未満(4.24μm~4.90μm)の粒径(MMAD)を生成し、これは、製剤が肺深部への浸透を含む呼吸器への投与に適していることを示している。さらに幾何標準偏差(GSD)値は1.73~2.22の範囲であり、ヒトの呼吸器の深部で高い局所治療用タンパク質濃度を達成するのに適した粒径分布を更に示している。
【0132】
さらに以下の表2に示すように、全ての製剤からの噴霧試料は、血球凝集素への結合能を実証した。さらに表からも明らかなように、噴霧前に血球凝集素結合能を示した抗体の量は、実験限界内で、噴霧後に血球凝集素結合を示した抗体の量と同等であった。
【0133】
【0134】
実施例2.保管
ELISA
また、本開示の製剤を、抗体を安定化し、保管後の活性を可能にするその能力について評定した。これらの特性を評定するため、20mM塩化ヒスチジンバッファー、115mM NaCl、及び0.02%(体積/体積)ポリソルベート20、pH6.5を含む溶液を最初に調製した。次いで、TRL053(18.6mg/mL)、TRL579(18.3mg/mL)、及びTRL849(18.1mg/mL)の組合せを溶液に添加した。続いて、製剤を2℃~8℃又は-70℃で3ヶ月間保管して、短期間の安定性を判定した。保管後、製剤をELISAに供し、結合能を保持する各抗体の濃度を決定した。
【0135】
表3は、保管前後の3つの抗体TRL053、TRL579、TRL849のそれぞれの濃度を記載する。表3に示すように、測定された濃度は、2℃~8℃又は-70℃での保管後、保管前の公称濃度と比較して増加(TRL053、TRL849)又は減少(TRL579)した。それにもかかわらず、保管後に測定された濃度は、実験限界内で保管前の公称濃度と同等であった。さらにELISAによって決定される保管後の濃度は、抗原結合能を保持する各抗体の量を示す。したがって、本発明の製剤は、活性を明らかに失うことなく、少なくとも3ヶ月間の保管中の抗体を安定化するために使用することができる。
【0136】
【0137】
UV
ELISAによって決定されたものよりも正確に保管後の製剤中の抗体濃度を評定するために、全抗体の濃度を、UV吸光度を使用して直接的に決定した。以下の表4に示すように、保管前の抗体の総量の公称濃度(56.79mg/mL)は、2℃~8℃(58.30mg/mL)及び-70℃(58.93mg/mL)で3ヶ月後にUV吸光度を使用して決定された全抗体の濃度と同等であった。したがって、これらのデータは、本開示に従って製剤化された場合、保管状態の間に抗体の明らかな分解がないことを更に実証する。
【0138】
表4は更に、保管前の製剤とは異なり、保管後の製剤において粒状粒子が視覚的に観察されることを示す。それにもかかわらず、上記のように、ELISAデータは、抗体活性が保管後に保持されることを実証しており、明らかな凝集の影響がないことを示す。さらに、表4にも記載されているように、pHは保管中に維持されるため、本発明の製剤が、抗体を安定化するのに十分な保管中の状態を維持するのに有効であることを更に裏付ける。
【0139】
【0140】
実施例3.安全性及び有効性
雄性Sprague Dawleyラットを使用して、本開示に従い、TRL053、TRL579、及びTRL849の組合せ抗体製剤の単回用量の吸入安全性、毒性及び毒物動態学的(TK)プロファイル研究を実施した。最初に、エアロゾル生成条件を確立させた。再現性のあるエアロゾルは、55mg/mLの組合せ抗体製剤を使用して副流ネブライザーで生成され、エアロゾル濃度は1.2mg/mL、総投与量は6時間の曝露期間で308mg/mL~320mg/mLとなった。
【0141】
生成された雰囲気及び粒径分布は、ラット吸入研究で許容できるものと見なされた。生成された雰囲気の酸素濃度と温度範囲とはそれぞれ20.9%及び19℃~24℃であり、相対湿度は42.6%~70.4%であった。さらに粒径分布は、エアロゾルが呼吸に適していることを示した(MMAD約2μm、GSD約2μm)。
【0142】
雄性Sprague Dawleyラットの群を、抗体の組合せ製剤又はビヒクル対照を含む液体エアロゾルの単回の鼻のみの吸入に曝露した。以下の表5に示すように、ラットをエアロゾル化製剤に90分間(低用量)、180分間(中用量)、及び360分間(高用量及びビヒクル対照)曝露した。
【0143】
【0144】
化学的測定によって評定された、抗体製剤の平均達成試験雰囲気濃度は以下の通りであった。
【0145】
【0146】
群1の重量分析の判定及び群2~群4の化学的測定によって評定されたエアロゾル化ビヒクル対照の粒径分布は以下の通りであった。
【0147】
【0148】
粒径分布の測定により、エアロゾル化された試験品目中の抗体の組合せがラットの呼吸に適していることが確認された。平均空気動力学的質量中央径(MMAD)が2.0μm以下であり、対応する幾何標準偏差(σg)が群2、群3、及び群4で2.5未満であったため、呼吸器内の沈着を100%と見なした。同様に、群1のエアロゾル化されたビヒクル対照は、MMADが2.2μm~3.9μmの範囲、及びGSDが1.86~2.06の範囲で呼吸に適していると見なした。
【0149】
粒径分布の測定により、エアロゾル化された試験品目中の抗体の組合せがラットの呼吸に適していることが確認された。平均空気動力学的質量中央径(MMAD)が2.0μm以下であり、対応する幾何標準偏差(σg)が群2、群3、及び群4で2.5未満であったため、呼吸器内の沈着を100%と見なした。同様に、群1のエアロゾル化されたビヒクル対照は、MMADが2.2μm~3.9μmの範囲、及びGSDが1.86~2.06の範囲で呼吸に適していると見なした。
【0150】
以下の表8に示すように、次の総送達投与量及び肺投与量を、それぞれ群ごとに推定した:62mg/kg、6.2mg/kg(群2)、129mg/kg、12.9mg/kg(群3)及び255mg/kg、25.5mg/kg(群4)。全体として推定された達成総用量及び肺用量は、低用量群、中用量群、及び高用量群の目標用量レベルのそれぞれ76.5%、80.1%、及び79.2%であった。
【0151】
【0152】
肺におけるTRL053、TRL579及びTRL849の最高濃度は、投与後4時間で検出された。肺におけるTRL053、TRL579、又はTRL849の濃度は徐々に低下したが、それでも最後の収集時間(投与後168時間)において検出限界(BLQ:10.3ng/mL)よりも著しく高かった。さらに右後葉のTRL053、TRL579、及びTRL849のレベルは、右前葉のレベルと類似しており、抗体製剤を肺全体に送達できることが確認された。TRL053、TRL579、及びTRL849の濃度は、用量レベルの増加と共に増加し、所与の用量レベルでは、TRL053、TRL579、及びTRL849の濃度は同等であった。
【0153】
TRL053、TRL579、及びTRL849の組合せへの全身曝露は、全ての群において用量比例に満たない程度で増加した。しかしながら、TRL579の中用量と高用量との間のCmaxは、用量に比例して増加した(2倍)。全ての用量レベルで、TRL053、TRL579、及びTRL849への曝露は類似しており、各抗体間で1.0倍~1.5倍の範囲であった。これは、TRL053とTRL849コーティング抗原との交差反応性が実証され、TRL849の平均50%以上の回収率をもたらした生物分析法の間に得られた結果と一致している。
【0154】
どの治療群においても、体重又は食物消費、眼底検査、呼吸パラメータ測定、又は臨床病理学(血液学、凝固、臨床化学、及び尿検査)に関連する臨床徴候又は明らかな影響はなかった。
【0155】
結論として、調べたパラメータに基づいて、上記製剤及び抗体は、最高試験用量(255mg/kg)で観察された悪影響はなかった。その結果、360分間の鼻のみの吸入による単回曝露で投薬された雄性ラットの場合、無毒性量(NOAEL:No Observed Adverse Effect Level)は、達成された総送達用量レベルである255mg/kgのCF-404(CF-401:Tmax=72時間、Cmax=1797ng/mL、AUC0-Tlast=229198時間×ng/mL;CF-402:Tmax=72時間、Cmax=2407ng/mL、AUC0-Tlast=274663時間×ng/mL;CF-403:Tmax=72時間、Cmax=2610ng/mL、AUC0-Tlast=326062時間×ng/mL)であると見なした。
【配列表】
【国際調査報告】