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特表2022-540654ガラスセラミック物品を形成する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】ガラスセラミック物品を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 32/02 20060101AFI20220909BHJP
   C03B 40/033 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C03B32/02
C03B40/033
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502091
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(85)【翻訳文提出日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 US2020041475
(87)【国際公開番号】W WO2021011322
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】62/873,819
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,イー-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】クリック,キャロル アン
(72)【発明者】
【氏名】ツイ,シュオ
(72)【発明者】
【氏名】エドモンストン,ジェイムズ ハワード
(72)【発明者】
【氏名】ユベール,マテュー ジェラール ジャック
(72)【発明者】
【氏名】クレーマー,キャサリン ウェーバー
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015EA02
4G015HA00
(57)【要約】
ガラスセラミック物品を形成する方法は、ガラスシートの積層体を核形成温度に加熱して、ガラスシートの核形成された結晶化可能な積層体を作る工程;このガラスシートの核形成された結晶化可能な積層体を結晶化温度に加熱する工程;およびこの結晶化温度を所定の期間に亘り維持して、ガラスセラミック物品を製造する工程を有してなる。ガラスシートの積層体は、35以下の質量指数を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック物品を形成する方法であって、
ガラスシートの積層体を核形成温度に加熱して、ガラスシートの核形成された結晶化可能な積層体を作る工程、
前記ガラスシートの核形成された結晶化可能な積層体を結晶化温度に加熱する工程、および
前記結晶化温度を所定の期間に亘り維持して、前記ガラスセラミック物品を製造する工程、
を有してなり、
前記ガラスシートの積層体は、35以下の質量指数を有する、方法。
【請求項2】
前記ガラスシートの積層体が、25以下の質量指数を有する、請求項1記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【請求項3】
前記ガラスシートの積層体が、10以下の質量指数を有する、請求項1記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【請求項4】
前記ガラスシートが、1.11mm以下の厚さを有し、前記ガラスシートの積層体内のガラスシートの数が31未満である、請求項1から3いずれか1項記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【請求項5】
前記ガラスシートが、1.11mm以下の厚さを有し、前記ガラスシートの積層体内のガラスシートの数が9未満である、請求項4記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【請求項6】
前記ガラスシートの積層体の少なくとも1つの表面上に、セッタープレートが配置されている、請求項1から5いずれか1項記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【請求項7】
前記方法が、
ガラスシートの複数の積層体を核形成温度に加熱して、ガラスシートの核形成された結晶化可能な複数の積層体を作る工程、
前記ガラスシートの核形成された結晶化可能な複数の積層体を結晶化温度に加熱する工程、および
前記結晶化温度を所定の期間に亘り維持して、前記ガラスセラミック物品を製造する工程、
を含み、
前記ガラスシートの複数の積層体の各々は、35以下の質量指数を有する、請求項1から6いずれか1項記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【請求項8】
前記ガラスシートの複数の積層体の各々が、25以下の質量指数を有する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ガラスシートの複数の積層体の各々が、10以下の質量指数を有する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
ガラスシートの第1の積層体が担体プレート上に位置付けられ、
セッターが、該セッターの第一面が前記ガラスシートの第1の積層体と接触するように該ガラスシートの第1の積層体上に配置され、
前記セッターの第二面上にガラスシートの第2の積層体が配置され、該セッターの第二面が該セッターの第一面の反対にある、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記核形成温度が500℃から650℃であり、前記結晶化温度が680℃から800℃である、請求項1から10いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2019年6月12日に出願された、米国仮特許出願第62/873819号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、広く、ガラスセラミック物品を形成する方法に関し、より詳しくは、小さい反りおよび低応力などの改善された性質を有するガラスセラミック物品を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
携帯型電子機器用の高強度ガラスの需要がある。市場において、ガラス、ジルコニア、プラスチック、金属、およびガラスセラミックなどのいくつかの材料が、現在利用されている。
【0004】
ガラスセラミックには、他の材料を上回る特定の利点があるが、高強度の携帯型機器に要求される性質を有するガラスセラミックを形成することが難しいことがあり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、改善された性質を有するガラスセラミック物品およびそのガラスセラミック物品を製造する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、ガラスセラミック物品を形成する方法であって、ガラスシートの積層体を核形成温度に加熱して、ガラスシートの核形成された結晶化可能な積層体を作る工程;このガラスシートの核形成された結晶化可能な積層体を結晶化温度に加熱する工程;およびこの結晶化温度を所定の期間に亘り維持して、ガラスセラミック物品を製造する工程を有してなり、このガラスシートの積層体は、35以下の質量指数(mass index)を有する、方法を含む。
【0007】
第2の態様は、ガラスシートの積層体が、25以下の質量指数を有する、第1の態様の方法を含む。
【0008】
第3の態様は、ガラスシートの積層体が、15以下の質量指数を有する、第1または第2の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0009】
第4の態様は、ガラスシートの積層体が、10以下の質量指数を有する、第1から第3の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0010】
第5の態様は、ガラスシートが、1.11mm以下の厚さを有し、ガラスシートの積層体内のガラスシートの数が31未満である、第1から第4の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0011】
第6の態様は、ガラスシートが、1.11mm以下の厚さを有し、ガラスシートの積層体内のガラスシートの数が22未満である、第1から第5の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0012】
第7の態様は、ガラスシートが、1.11mm以下の厚さを有し、ガラスシートの積層体内のガラスシートの数が9未満である、第1から第6の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0013】
第8の態様は、ガラスシートの積層体が担体プレート上に存在する、第1から第7の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0014】
第9の態様は、ガラスシートの積層体の少なくとも1つの表面上に、セッタープレートが配置されている、第1から第8の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0015】
第10の態様は、前記方法が、ガラスシートの複数の積層体を核形成温度に加熱して、ガラスシートの核形成された結晶化可能な複数の積層体を作る工程;このガラスシートの核形成された結晶化可能な複数の積層体を結晶化温度に加熱する工程;およびこの結晶化温度を所定の期間に亘り維持して、ガラスセラミック物品を製造する工程を含み、このガラスシートの複数の積層体は、35以下の質量指数を有する、第1から第9の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0016】
第11の態様は、ガラスシートの複数の積層体の各々が、25以下の質量指数を有する、第10の態様の方法を含む。
【0017】
第12の態様は、ガラスシートの複数の積層体の各々が、10以下の質量指数を有する、第10または11の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0018】
第13の態様は、ガラスシートの第1の積層体が担体プレート上に位置付けられ、セッターが、このセッターの第一面がガラスシートの第1の積層体と接触するようにこのガラスシートの第1の積層体上に配置され、このセッターの第二面上にガラスシートの第2の積層体が配置され、このセッターの第二面がセッターの第一面の反対にある、第10から第12の態様のいずれか1つの方法を含む。
【0019】
第14の態様は、核形成温度が500℃から650℃であり、結晶化温度が680℃から800℃である、第1から第13の態様のいずれか1つの方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ここに開示され、記載された実施の形態によるガラス積層体の概略図
図2】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、開放格子構造を有する担体プレートの概略図
図3】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、中空プレート構造を有する担体プレートの概略図
図4】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、開放格子鋼鉄担体プレートおよび炭化ケイ素中空担体プレートに関する、加熱時間(分、x軸)の関数としてモデル化されたΔT(℃、y軸)をプロットしたグラフ
図5】実施例A並びに比較例1および2のセッタープレートに関する、加熱時間(分、x軸)の関数としてモデル化されたΔT(℃、y軸)をプロットしたグラフ
図6】反応結合炭化ケイ素が左側に使用され、ケイ素耐火ボードが右側に使用されている、2つの異なるセッター材料に関する最大応力(MPa、y軸)をプロットしたグラフ
図7】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、セラミック化後の反応結合炭化ケイ素セッタープレートの表面上にSiがないことを示すEDX(エネルギー分散X線)を示す図
図8】ここに記載された1つ以上の実施の形態による様々なガラスセラミック物品のXRD(X線回折)を示す図
図9】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、様々なセッタープレートの平坦性および付加質量に関する最大反り(μm、y軸)のグラフ
図10】ここに記載された1つ以上の実施の形態によるセッタープレートの平坦性のCMM(座標測定機)測定に関する走査パターンを示す概略図
図11】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、中間層セッタープレートを含むガラス積層体構成の概略図
図12】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラス積層体におけるガラスの上部シートおよびそのガラス積層体におけるガラスの底部シートに関する、時間(x軸)の関数としてガラス層の中心温度(℃、y軸)をプロットしたグラフ
図13】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラス積層体におけるガラスの上部シートおよびそのガラス積層体におけるガラスの底部シートに関する、セラミック化過程中の時間(x軸)の関数としてガラス層の温度(℃、y軸)およびシートに亘る温度勾配をプロットしたグラフ
図14】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、中間層セッタープレートを備えていないガラス積層体(左)および中間層セッタープレートを備えたガラス積層体(右)に関する、様々な量の印加された力についてガラス積層体の厚さに亘る棒グラフとしての最大反り(μm、左側のy軸)および折れ線グラフとしての最大応力(MPa、右側のy軸)に関する、を示すグラフ
図15】ここに開示され、記載された実施の形態による、セラミック化サイクル中のガラスセラミック物品のガラスセラミックの結晶相含有量の時間発展を示すグラフ
図16】発熱反応を示す、熱処理中の母材ガラスの熱量を示すグラフ
図17A】ここに開示され、記載された実施の形態による、シールドされたガラスセラミック物品および接触させられたガラスセラミック物品の応力および反りを示すグラフ
図17B図17Aの続き
図18】ここに開示され、記載された実施の形態による積層体内の熱電対の位置を示す概略図
図19】ここに開示され、記載された実施の形態による、セラミック化サイクル中の熱電対による温度の測定値を示すグラフ
図20】ここに開示され、記載された実施の形態による、セラミック化サイクル中の熱電対による温度の測定値を示すグラフ
図21】ここに開示され、記載された実施の形態によるガラスシートおよびセラミック化されたシートのセラミック化サイクル中の熱電対による温度の測定値を示すグラフ
図22】ここに開示され、記載された実施の形態によるガラスシートおよびセラミック化されたシートのセラミック化サイクル中の熱電対による温度の測定値を示すグラフ
図23】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、様々な厚さのばらつきを有するガラス積層体の厚さに亘る最大反り(μm、y軸)を示すグラフ
図24】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、様々なセッタープレートの平坦性に関するガラス積層体の厚さに亘る最大反り(μm、y軸)を示すグラフ
図25A】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、エッジビードが除去された26 5-mmのガラス片の反りを示すグラフィック表示
図25B】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、エッジビードが残っている26 5-mmのガラス片の反りを示すグラフィック表示
図26】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、エッジビードが残っているガラスセラミック物品(上)およびエッジビードが除去されたガラスセラミック物品(下)の応力を表すグラフィック表示
図27】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、様々な長さと幅のガラスセラミック部品に関する、部品の長さ(mm、x軸)の関数として臨界デルタT(℃、y軸)をプロットしたグラフ
図28】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、冷却サイクルの例示の略図
図29】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、別の冷却サイクルの例示の略図
図30A】ここに開示され、記載された実施の形態によるガラスセラミック物品のいずれかを組み込んだ例示の電子機器の平面図
図30B】ここに開示され、記載された実施の形態による例示の電子機器の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、ガラス物品をセラミック化する方法の実施の形態を詳しく参照する;その実施の形態が、添付図面に示されている。添付図面を具体的に参照して、様々な実施の形態がここに記載される。
【0022】
定義および測定技術
ここに用いられているように、「ガラスセラミック」という用語は、前駆体ガラスの制御された結晶化により調製された固体であり、1つ以上の結晶相および残留ガラス相を有する。
【0023】
結晶相集合(イオン交換前)および結晶相と残留ガラス相の質量百分率は、リートベルト解析を使用して、X線回折(XRD)に基づいて決定される。
【0024】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程を特定の順序で行うことを必要とすると解釈されることも、またはどの装置についても、特定の向きが要求されていることも決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に挙げていない場合、または装置の請求項が、個々の構成部材に対する順序または向きを実際に列挙していない場合、もしくはそれらの工程が特定の順序に限定されるべきことが、請求項または説明において他に具体的に述べられていない場合、もしくは装置の構成部材に対する特定の順序または向きが列挙されていない場合、順序または向きがいかようにも暗示されることは決して意図されていない。このことは、工程の配列、操作の流れ、構成部材の順序、または構成部材の向き;文法構成または句読法に由来する明白な意味;および明細書に記載された実施の形態の数またはタイプに関する論理事項を含む、解釈に関するどの可能性のある非表現基準にも適用される。
【0025】
ここに用いられているように、名詞は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、複数の対象を含む。それゆえ、例えば、構成部材に対する言及は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、そのような構成部材を2つ以上有する態様を含む。
【0026】
ここに用いられている方向を示す用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部、垂直、水平-は、描かれた図面に関してのみ使用され、特に明記のない限り、絶対的な向きを暗示する意図はない。
【0027】
ここに用いられているように、「反り」および「平坦性」という用語-およびその任意の変形-は、交換可能に使用され、同じ意味を有する。
【0028】
ここに使用されるどの範囲も、特に明記のない限り、全ての範囲と部分的範囲およびそれらの間のどの値も含む。
【0029】
ガラスセラミック物品の総括
ここで、その例が添付図面に示されている、現在好ましい実施の形態を詳しく参照する。できるとはいつでも、図面に亘り、同じまたは同様の部分を称するために、同じ参照番号が使用される。
【0030】
ガラスセラミック物品は、携帯型電子機器用のカバー基板および/または筐体として使用するために調整できる属性を有する。例えば、理論で束縛されるものではないが、高い破壊靱性および/またはヤング率を有するガラスセラミック物品は、耐亀裂伝搬性および落下性能を提供することができる。そのようなガラスセラミック物品が、例えば、イオン交換により、化学的に強化される場合、耐亀裂伝搬性および落下性能をさらに向上させることができる。また、高い破壊靱性および/またはヤング率は、破壊の際にガラスセラミック物品の望ましい破砕を維持しつつ、化学的調質によりガラスセラミック物品に与えることのできる貯蔵引張エネルギーおよび最大中央張力の量も増加させることができる。別の例として、透明性およびヘイズなど、ガラスセラミック物品の光学特性は、ガラス物品をガラスセラミック物品にするために使用される加熱/セラミック化スケジュールを調節することにより、並びにガラスセラミック物品の性質を設計または制御するために、イオン交換などにより、化学敵に強化することによって、調整することができる。
【0031】
ガラスセラミック物品を形成するための積層体構成
一般に、ガラスセラミックを形成する過程は、ガラス物品を形成する工程、そのガラス物品をセラミック化して、ガラス物品をガラスセラミック形態に転換させる工程を含む。図1を参照すると、セラミック化するための例示の積層体構成100が示されている。積層体構成100は、2枚のセッタープレート104を支持する担体プレート102、およびセッタープレート104の間に配置されたガラス積層体106を含む。
【0032】
いくつかの実施の形態において、断熱層(図示せず)が、上側セッタープレート104の上面および下側セッタープレート104の底面に配置されることがある。その断熱層は、低い熱伝導率を有するどの材料から形成されてもよく、ガラス積層体106の上部と底部のガラスシート108の軸方向温度勾配を減少させるか、またはなくすことさえできる。
【0033】
図1に示されるように、ガラス積層体106は、複数のガラスシート108を含み、各ガラスシート108は、離型剤層110によって隣接するガラスシート108から隔てられている。離型剤層110は、セラミック化過程中にガラス積層体106内のガラスシート108の付着を減少させるか、またはなくしさえする。図1に示されていないが、いくつかの実施の形態において、ガラス積層体106は、ガラスシート108とセッタープレート104との間に離型剤層110をさらに含むことがある。下記に記載される様々な実施の形態におけるような、他の実施の形態において、セッタープレート104は、ガラスシート108と反応しない材料から製造され、ガラスシート108とセッタープレート104との間の相互作用を防ぐために、離型剤層110は必要とされない。
【0034】
一般に、ガラスセラミックを形成するために、ガラス積層体106は、結晶核を発生させる(「核形成」とも称される)のに十分な時間に亘りその徐冷点より高い温度で加熱される。この熱処理は、例えば、徐冷窯または炉内で行うことができる。ガラスは、徐冷点より高い温度で加熱された後、次に、結晶相を発生させる(「成長」または「結晶化」とも称される)ために、通常は、ガラスの徐冷点とガラスの軟化点との間のより高い温度で、さらに加熱される。様々な実施の形態において、この熱処理、またはセラミック化過程は、ガラス積層体を核形成温度に加熱する工程、所定の期間に亘りその核形成温度を維持する工程、そのガラス積層体を結晶化温度に加熱する工程、および所定の期間に亘りその結晶化温度を維持する工程を含む。
【0035】
ガラスシート108は、ガラスセラミック物品を形成するのに適したどのガラス組成物から製造されてもよいが、ガラスシート108のガラス組成物は、ガラスセラミック物品の機械的性質と光学的性質に影響を与え得ることを理解すべきである。様々な実施の形態において、そのガラス組成物は、結果として得られたガラスセラミック物品が、葉長石結晶相およびケイ酸リチウム結晶相を有するように選択され、ここで、この葉長石結晶相およびケイ酸リチウム結晶相は、このガラスセラミック物品中に存在する他の結晶相よりも高い質量百分率を有する。
【0036】
積層体構成100について一般的に記載してきたが、ここで、積層体構成100の成分に関して、追加の詳細が与えられる。
【0037】
担体プレート
様々な実施の形態において、担体プレート102は、2枚以上のセッタープレート104を支持する。担体プレート102の構造および材料は、積層体構成10においてその上に搭載されるガラスシートの熱均一性を制御するように選択されることがある。いくつかの実施の形態において、担体プレート102は、開放担体設計(図2に示されている)を有するが、他の実施の形態において、担体プレート102は、閉じた担体設計(図3に示されている)を有する。図2に示された実施の形態において、担体プレート102は、約17%の固体金属(例えば、鋼鉄)であり、一方で、図3に示された実施の形態は、約45%の固体金属を有する反応結合炭化ケイ素梁から製造された中空プレートである。
【0038】
担体プレートの熱衝撃を評価するために、反応結合炭化ケイ素から製造された担体プレートと8mmのセッタープレート上に各積層体内に23のガラスシートを有する9の積層体の生産規模能力を想定した熱モデルを実施した。図4のモデル化データに示されるように、中空担体プレート上のガラス積層体は、熱伝達のために、開放鋼鉄担体プレート上のガラス積層体と比べて、減少した熱均一性を示す。詳しくは、炭化ケイ素梁から製造された担体(図3)について、ガラスの温度が低い、加熱のごく初期段階を除いて、開放鋼鉄格子設計から製造された担体(図2)と比べて、ガラス積層体のより大きい温度むらが予測される。それに加え、この担体プレートによる直接放射の遮断は、反応結合炭化ケイ素は、鋼鉄よりも良好な熱導体であるにもかかわらず、全体の加熱時間も増加させる。
【0039】
したがって、担体プレート102に様々な設計および材料を利用してもよいが、様々な実施の形態において、担体プレートは、鋼鉄から製造され、図2に示されるような、開放格子設計を有する。
【0040】
セッタープレート
図1に示されるように、様々な実施の形態において、担体プレート102は、少なくとも2枚のセッタープレート104を支持する。例えば、図1に示された実施の形態は、1つのガラス積層体106を含み、このガラス積層体106の上にセッタープレート104があり、ガラス積層体106と担体プレート102との間にセッタープレート104があるが、ガラス積層体106内に配置されること、および/または各々が、少なくとも、ガラス積層体106の上のセッタープレート104およびガラス積層体106と担体プレート102との間のセッタープレート104を有する、多数のガラス積層体106を担体プレート102上に配置することのように、追加のセッタープレート104が含まれてもよいと考えられる。
【0041】
ほとんどの従来のセラミック化過程では、セッタープレートを形成するためにセラミックおよび耐火材料を使用するが、そのような材料は、特定の用途に望ましいかまたは要求される高い光学的品質を生じるのに不適切な熱伝達および熱容量の制限を有する。それに加え、そのような材料から製造されたセッタープレートは、熱膨張、酸化、およびクリープを経験し得、これにより、転じて、ガラスセラミック物品に反りがもたらされ得る。
【0042】
さらに、ガラス積層体106を拘束するセッタープレート104は、加熱素子からの放射熱を広げるための側方熱伝達経路を提供し、これは、面内のガラスシート温度むらを低下させるであろう。温度むらを最小にすると、次に、ガラスセラミック物品における面内応力および反りが減少するであろう。したがって、様々な実施の形態において、セッタープレート104は、ガラスシート温度むらの減少を最大にするように選択される。特に、セッタープレート104は、特別な比熱容量、密度、および熱拡散率を有するように選択される。
【0043】
様々な実施の形態によれば、前記セッタープレートは、室温で、ASTM E1461にしたがって測定して、約670J/kgKから約850J/kgKの比熱容量(c)を有する。例えば、そのセッタープレートは、室温で、ASTM E1461にしたがって測定して、約670J/kgKから約850J/kgK、約670J/kgKから約800J/kgK、約670J/kgKから約750J/kgK、または約670J/kgKから約700J/kgK、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にある比熱容量を有することがある。理論で束縛されるものではないが、比熱容量がこの範囲から外れた場合、その材料は、適切な速度で熱を与えたり、受け入れたりすることができず、これにより、積層構造においてガラスに応力と反りが生じると考えられる。
【0044】
前記セッタープレートは、様々な実施の形態において、それに加え、またはそれに代えて、ASTM C20にしたがって測定して、約2500kg/m超のかさ密度を有するように選択されることがある。例えば、そのセッタープレートは、ASTM C20にしたがって測定して、約2500kg/mから約4000kg/m、約2750kg/mから約3750kg/m、または約3000kg/mから約3500kg/m、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にあるかさ密度を有することがある。理論で束縛されるものではないが、この範囲内のかさ密度を有する材料は、低い気孔率を有し、積層体において質量を著しく増加させないと考えられる。低すぎるかさ密度は、時間の経過による材料劣化および材料の使用寿命の減少をもたらし得る一方で、高すぎるかさ密度は、ガラスに加わる力の増加により、積層体に応力を生じ得る。
【0045】
さらに、様々な実施の形態において、前記セッタープレートは、約2.50×10-5/s超の熱拡散率を有する。例えば、そのセッタープレートは、約2.50×10-5/sから約5.50×10-4/s、約3.0×10-5/sから約5.00×10-4/s、約4.0×10-5/sから約4.50×10-4/s、約4.50×10-5/sから約4.00×10-4/s、約5.00×10-5/sから約3.50×10-4/s、約5.50×10-5/sから約3.00×10-4/s、約6.00×10-5/sから約2.50×10-4/s、約6.50×10-5/sから約2.0×10-4/s、約7.00×10-5/sから約2.00×10-4/s、または約7.50×10-5/sから約1.50×10-4/s、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にある熱拡散率を有することがある。理論で束縛されるものではないが、熱拡散率が低すぎると、その材料は、加熱と冷却に時間がかかりすぎ、積層体に温度勾配が生じ、これにより、応力および反りがもたらされる。しかしながら、熱拡散率が高すぎると、積層体に温度勾配が与えられるために、これによっても応力がもたらされるであろう。セッタープレートと接触したガラスシートは、積層体の中心にあるガラスシートとは対照的に、異なる速度で熱伝達の影響を受けるであろう。熱拡散率αは、以下の式:
α=k/ρc
にしたがって定義することができ、式中、kは熱伝導率(W/mK)であり、ρは密度(kg/m)であり、cは比熱容量(J/kgK)である。
【0046】
したがって、様々な実施の形態において、前記セッタープレートは、室温で、ASTM E1461にしたがって測定して、約100W/m-K超、約125W/m-K超、約150W/m-K超、約175W/m-K超、またさらには約180W/m-K超の熱伝導率(k)を有する。例えば、そのセッタープレートは、室温で、ASTM E1461にしたがって測定して、約100W/m-Kから約350W/m-K、約125W/m-Kから約325W/m-K、約150W/m-Kから約300W/m-K、約175W/m-Kから約275W/m-K、または約180W/m-Kから約250W/m-K、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にある熱伝導率を有することがある。理論で束縛されるものではないが、高すぎるかまたは低すぎる熱伝導率は、積層体において温度勾配をもたらし、それにより、応力および反りがもたらされ得る。
【0047】
所望の比熱容量、密度、および熱拡散率を揺する様々な材料が、ここに記載されたセッタープレートの形成に使用するのに適しているであろう。使用に特に適した材料の一例に、反応結合炭化ケイ素(SiSiC)がある。実施の形態において、セッタープレート104は、約85質量%から約90質量%の反応結合炭化ケイ素を含むことがある。セッタープレート104は、約10質量%から約15質量%の金属ケイ素(Si)および結合剤をさらに含むことがある。セッタープレート104の形成に使用するのに適しているであろう市販の反応結合炭化ケイ素製品に、限定ではなく、例示として、Saint-Gobain Ceramic Materialsから入手できるCRYSTAR RB(商標)がある。
【0048】
セッタープレートを形成するために使用される材料の熱的性質の影響を確認するために、3種類の異なる材料を使用して、8mm厚のセッタープレートを形成した。詳しくは、実施例Aは、反応結合炭化ケイ素から形成し、比較例1は、窒化物結合炭化ケイ素を使用して形成し、比較例2は、ケイ素耐火ボードを使用して形成した。これらの材料の各々の熱的性質が、表1に与えられている。
【0049】
【表1】
【0050】
加熱昇温中のガラス積層体のΔTを測定した。その結果が図5に示されている。詳しくは、図5に示されるように、反応結合炭化ケイ素は、減少した加熱時間およびその過程中の減少したΔTを示す。ケイ素耐火ボードから形成されたセッタープレートを使用した比較例2は、最もありそうなのは、劣った熱導体であるために、著しく大きい温度むらを示した。しかしながら、実施例Aおよび比較例1(窒化物結合炭化ケイ素)の大きい熱拡散率は、より均一な温度を示した。
【0051】
ガラス積層体における温度むらの減少に加え、様々な実施の形態のセッタープレート104は、従来の材料と比べて低い応力を与える材料から製造される。例えば、反応結合炭化ケイ素の熱拡散率は、従来のセッタープレート材料と比べて、セラミック化熱処理後のガラスセラミック物品に低い応力を与える。図6に示されるように、反応結合炭化ケイ素は、ケイ素耐火ボードのセッタープレート(グラフの右手側)と接触した積層体と比べて、積層体(グラフの左手側)により低い最大応力を生じる。理論で束縛されるものではないが、反応結合炭化ケイ素の熱拡散率から生じる温度差分の減少は、結晶を成長させ、ガラスセラミック物品に相変態が生じるので、その物品における応力を減少させると考えられる。応力の減少は、直接的に、ガラスセラミック物品に反りを与える。詳しくは、応力の増加は、物品により大きい反りを誘発させ、これにより、その物品は、携帯型電子ディスプレイなどの特定の用途に使用できなくなり得る。しかしながら、反応結合炭化ケイ素を使用すると、ガラスセラミック物品における応力が減少し、それによって、最終製品の反りが小さくなる。
【0052】
様々な実施の形態において、セッタープレート104を形成するために使用される材料は、担体プレート102およびガラスセラミック物品の両方との反応性の欠如に基づいて、さらに選択される。反応結合炭化ケイ素は、担体プレート102を形成するために典型的に使用される材料との低い反応性を示すまたは全く反応性を示さない材料の一例である。特に、ステンレス鋼合金およびNi系超合金の金属担体プレートと接触した反応結合炭化ケイ素から製造されたセッタープレートを、24時間および100時間に亘り空気中において、800℃まで試験した。図7に示されるように、SEM(走査型電子顕微鏡)およびEDX試験は、反応結合炭化ケイ素と金属の反応がないことを示した。詳しくは、担体プレートの表面上にSiが見られなかったことにより、反応結合炭化ケイ素の微細構造中の遊離Siとの反応がないことが示された。
【0053】
さらに、熱セラミック化過程中に反応結合炭化ケイ素材料と接触したLi系ガラスセラミックは、XRD相集合特徴付けにしたがって、どのような表皮効果も示さない。例えば、図8に示されるように、反応結合炭化ケイ素のセッタープレートと接触したガラス(A)は、バルクガラス(B)と相が似ている。
【0054】
反応結合炭化ケイ素は、他の材料を上回って改善された熱的性質を有することに加え、低い気孔率(<1%)を有し、これにより、酸化、亀裂形成、および他の元素と材料との拡散による反応性に対する抵抗の増加のために、熱サイクル中のセッタープレートの寿命を増加させることができる。
【0055】
様々な実施の形態において、セッタープレート104は、ガラスセラミック物品における反りを減少させる寸法でもある。詳しくは、セッタープレート104の厚さおよびセッタープレート104の平坦性は、ガラスセラミックにおける反りおよび応力の両方を減少させるように制御される。
【0056】
セラミック化過程中、ガラス積層体106を形成する、セッタープレート104と接触しているガラスシート108は、動き、セッタープレート104の平坦性に適合する。様々な実施の形態において、セッタープレート104は、形成後に特定の平坦性を得るために機械加工されることがある。ここに用いられているように、「平坦性」という用語は、その表面が中にある2つの平行な平面により規定される公差域を称する。例えば、100μmの平坦性は、その表面が、多くとも100μmしか離れていない2つの平行な平面の間に完全になければならないことを意味する。ガラスセラミック物品の平坦性に対するセッタープレート104の平坦性の影響が、図9に示されている。具体的に、図9に示されるように、ガラスセラミック物品の最大反りは、700μmの平坦性を有するセッタープレートと比べて、100μmの平坦性を有するセッタープレートについて、減少している。
【0057】
図9は、さらに、追加の質量(例えば、試料セット1に使用されているような、二倍の質量)を使用しても、反りが著しくは減少しないことを示す。例えば、試料セット1、試料セット2、および試料セット3の各々について、各セットの最初の5つの試料は、100μmの平坦性を有するセッターを使用して試験し、一方で、各セットの最後の5つの試料は、700μmの平坦性を有するセッターを使用して試験した。試料セット1(二倍の質量を有する)を試料セット2および3(各々は、等しい質量を有する)と比べることによって示されるように、より平らなセッターが、質量に関係なく、ほぼ同じ量だけ反りを減少させた。その後の実験は、積層体の上部にある余計なセッターは、おそらく、質量またはガラスが経験する熱処理に対する影響のために、反りを減少させることがある。
【0058】
様々な実施の形態において、セッタープレート104は、約100μm以下、約75μm以下、約50μm以下、約45μm以下、約40μm以下、約35μm以下、約30μm以下、またさらには約25μm以下の最大平坦性を有する。
【0059】
平坦性は、CMMおよびタッチおよび/または非タッチプローブを使用して測定することができる。様々な実施の形態において、測定密度は、掃引軌道を通じて1点/mmであり、測定領域は、セッタープレートの側から約10mm入り込んでいる。アライメントの起点は、図10に示されるような、短い方のエッジの中心である。起点を決めるために、CMMは、セッタープレート104の角を見つけ、2つの角の間の距離を計算する。起点は、2で割った距離である。検査領域を決定するために、プローブは、起点でセッタープレートのエッジから水平に10mm内側に動かされる。次に、プローブは、上方に約325mmだけ出発地点まで動かされる。この地点で掃引は始まる。各線の間の間隔は約15mmであり、セッタープレートは、図10に示されるように、蛇行パターンで走査される。平坦性は、最小区域法を使用して、CMMによって評価される。
【0060】
セッタープレート104の厚さt(図1に示されている)は、少なくとも一部には、ガラス積層体106上のセッタープレート104の熱的効果と反りの誘発のバランスを取るように選択される。詳しくは、その厚さは、熱伝達と均一性のために最小にされるべきであるが、強度と反り抵抗のために最大にされるべきである。したがって、様々な実施の形態において、セッタープレート104は、約6.5mmから約10mm、または約7mmから約9.5mm、または約7.5mmから約9mm、または約7.9mmから約8.2mm、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にある厚さtを有する。
【0061】
セッタープレート104を形成するために使用される材料の密度およびセッタープレート104の厚さは、さらに、ガラス積層体106に印加される力に基づいて選択されることがある。図11は、ガラス積層体上の追加の力が、ガラスセラミック物品中の圧力の増加にどのように寄与し得るかを示す。詳しくは、図11に示されるように、質量の追加は、反りを改善(例えば、最大反りを減少)しなかっただけでなく、さらに、ガラス積層体内の様々な地点で最大応力をさらに増加させた。理論で束縛されるものではないが、余計な力の追加は、収縮が生じたときに、セラミック化過程中のガラスシートを拘束すると考えられる。したがって、セラミック化過程中に材料が自由に動く能力は、ガラスセラミック物品における反りを減少させると考えられる。様々な実施の形態において、反応結合炭化ケイ素から製造されたセッタープレート104は、印加された力を低く維持しつつ、良好な熱伝達を与え、それによって、ガラスセラミック物品において小さい反りおよび応力をもたらすであろう。
【0062】
ガラス積層体構成
ここに記載された様々な実施の形態において、多数のガラスシート108が、セラミック化過程のためにガラス積層体内に配列されている。最終的なガラスセラミック物品の反りおよび応力に影響を与えると先に記載された変数に加え、ガラス積層体構成の様々な要素は、ガラスセラミック物品の反りおよび応力に影響を与えることがさらに発見された。
【0063】
したがって、様々な実施の形態において、中間層セッタープレート112が、図11に示されるように、ガラス積層体106内に配置されることがある。中間層セッタープレート112を含めると、熱伝達を増加させ、ガラス積層体の上部からガラス積層体の底部までの温度遅延を減少させることができる。図12に示されるように、セラミック化過程の核形成段階中に、3つの中間層セッタープレートを含む積層体内の各ガラスシートの温度が測定されたときに、上部積層体の最上層と、底部積層体の底部層との間に2.2℃のばらつきがある。さらに、図13に示されるように、セラミック化過程の昇温期間中に温度差があり続けるが、ガラス積層体に中間層セッタープレートを含めると、均熱期間中にガラス積層体を通じて温度の均一性が達成される。
【0064】
それに加え、中間層セッタープレート112を含めると、図14に示されるように、反りが減少し、ガラスセラミック物品における応力が著しくは影響を受けない。詳しくは、図14は、中間層セッタープレート112を含める(グラフの右側)と、中間層セッタープレートを含まないガラス積層体(グラフの左側)の反りが増加するのと比べて、各中間層セッタープレートで追加の反りをリセットできることを示す。最大応力は、図14に折れ線グラフとして示されており、中間層セッタープレートの追加により増加しない。
【0065】
ガラス積層体106内に中間層セッタープレート112を含めることに加え、ガラスセラミック物品中の反りおよび応力は、ガラス積層体に含まれるガラスシートの数を制限することによって、さらに制御または減少されることがある。例えば、いくつかの実施の形態において、ガラス積層体は、セッタープレート104からセッタープレート104まで、6から24のガラスシート、または10から20のガラスシートであり得る。中間層セッタープレートがガラス積層体内に配置されている実施の形態において、各中間層セッタープレート間のガラスシートの数は、5枚のガラスシートから15枚のガラスシート、または6枚のガラスシートから10枚のガラスシートであることがある。
【0066】
積層体の質量
下記に記載されるような、ガラスセラミックを形成するときのガラスの結晶化は、ガラス積層体106内に局部加熱を生じ得る発熱過程である。この局部加熱は、積層体の全ての方向において積層体内に温度勾配を生じ得る。下記により詳しく示されるように、これらの温度勾配は、積層体内に存在するガラスシートに反り、または平坦性の低下をもたらし得る。実施の形態によれば、ガラス積層体内のガラスの質量は、ガラスの結晶化により生じる温度勾配を制御するために、例えば、ガラス積層体の高さを変えることなどによって、制御することができる。
【0067】
実施の形態による、セラミック化サイクルは、所定の温度での核形成工程を含み、それより高い温度での成長工程が後に続く。前駆体ガラス組成物およびセラミック化サイクルにより、最終製品における相集合が決まる。実施の形態によれば、セラミック化のためのサイクルは、前駆体ガラス組成物を570℃に加熱する工程、および4時間に亘りその温度に保持する工程を含み、その後に、740℃に加熱する工程、および1時間に亘りその温度に保持する工程が続く。
【0068】
図15に示されるように、前駆体ガラスが熱処理でセラミック化されるときに、そのガラスは、620℃辺りで析出し始める、結晶相の量の増加を示し、680℃から700℃の温度範囲で結晶相が急激に増加し、これは、核形成から成長への移行に相当する。570℃と740℃の間では、材料中の結晶相の量は、10質量%未満から、70質量%超に変わる(リートベルト法で分析した、セラミック化サイクル中の試料の表面の高温XRD分析により測定して)。この現象は、結晶相の質量%の急な増加により、特に、約660℃から約710℃の急勾配の増加により、図15にグラフで示されている。同様に、図16は、温度に対する示差走査熱量測定を示しており、これは、熱処理内での特定の温度での結晶化から放出されるエネルギーを示す。図16に示されるように、実施の形態によれば、結晶化から放出されるエネルギーは、700℃辺りの温度で急に増加し、ここで、結晶相の形成が急に増加する(図16に示されるように)。それゆえ、図15および図16の図は、結晶形成は、先に述べたように、ガラス積層体において温度勾配を生じ得る発熱過程である。
【0069】
ここで図17を参照すると、核形成から成長までの移行中にガラスシート内に温度勾配(ΔTs)が存在する場合、実施の形態において、ガラスシートがセラミック化サイクル中に荷重下で拘束されていなければ、形成されたガラスセラミックシート内に反りが生じ得ることが示されている。さらに、セラミック化サイクル中にガラスシートが荷重下で拘束されている場合、ガラスシートは反らないかもしれないが、ΔTsによって、内部応力が生じ得る。このことが、2つの試料が低ΔTsで形成され、2つの試料が高ΔTsで形成された(全部で4つの試料)図17に証明されている。高ΔTsの1つの試料および低ΔTsの1つの試料は、ガラスシートに力が印加されており、これが、図17に、「接触させられた(Force in Contact)」と示されている。それに加え、高ΔTsの1つの試料および低ΔTsの1つの試料は、ガラスシートに力を印加していない構成部材を有するが、ガラスシートの表面から所定の距離にセッターが配置され、それによって、ガラスシートにおける反りの量を抑えた;これらの試料は、図17に「シールドされた」と示されている。
【0070】
図17は、接触させられたガラスシートおよびシールドされたガラスシートの低ΔTsに関するセラミック化前の条件を示す。図17は、それらのガラスシートにおける反りおよび応力も示す。シールドされたガラスシートの反りは20μmであり、シールドされたガラスシートにおける平均応力は3.34MPaであり、接触させられたガラスシートの反りは37μmであり、接触させられたガラスシートにおける平均応力は2.10MPaである。図17は、接触させられたガラスシートおよびシールドされたガラスシートの低ΔTsに関するセラミック化後の条件を示す。図17は、それらのガラスシートにおける反りおよび応力も示す。シールドされたガラスシートの反りは110μmであり、シールドされたガラスシートにおける平均応力は1.06MPaであり、接触させられたガラスシートの反りは111μmであり、接触させられたガラスシートにおける平均応力は0.87MPaである。図17は、セラミック化後のシールドされたガラスシートおよびセラミック化後の接触させられたガラスシートの反りをグラフで示している。
【0071】
図17は、接触させられたガラスシートおよびシールドされたガラスシートの高ΔTsに関するセラミック化前の条件を示す。図17は、それらのガラスシートにおける反りおよび応力も示す。シールドされたガラスシートの反りは33μmであり、シールドされたガラスシートにおける平均応力は2.02MPaであり、接触させられたガラスシートの反りは56μmであり、接触させられたガラスシートにおける平均応力は1.98MPaである。図17は、接触させられたガラスシートおよびシールドされたガラスシートの高ΔTsに関するセラミック化後の条件を示す。図17は、それらのガラスシートにおける反りおよび応力も示す。シールドされたガラスシートの反りは1517μmであり、シールドされたガラスシートにおける平均応力は8.10MPaであり、接触させられたガラスシートの反りは34μmであり、接触させられたガラスシートにおける平均応力は12.43MPaである。図17は、セラミック化後のシールドされたガラスシートおよびセラミック化後の接触させられたガラスシートの反りをグラフで示している。
【0072】
図17に示されるように、セラミック化中のガラスシートの温度勾配(ΔTs)は、ガラスシートに反りおよび/または応力を生じ得る。どの特定の理論で束縛されるものではないが、これらの温度勾配は、セラミック化過程中の発熱結晶化により生じるであろう。
【0073】
ガラスシートの積層体のセラミック化の最中に、核形成段階から結晶化段階への加熱中のガラス積層体内の温度上昇は、ガラス積層体を取り囲む加熱室内の雰囲気中の温度上昇を上回る。図18は、ガラス積層体内の熱電対2~6の配置を示す。すなわち、熱電対2および6は、それぞれ、積層体の右側と左側に配置され、熱電対3~5は、それぞれ、積層体の底部、中部、および上部で、積層体の中央に配置されている。それに加え、熱電対1および7が、積層体の外側の加熱室の雰囲気中に設置されている。図19は、セラミック化サイクル中の熱電対による温度の測定値を示す。図19から分かるように、ガラス積層体中の熱電対(熱電対2~6)は、結晶化工程(7:20辺りから7:30辺りまで)中に、加熱室の雰囲気内にある積層体の外側の熱電対(熱電対1および7)よりも著しく高い温度を表示している。結晶化工程における温度保持中に、ガラス積層体内の熱電対の温度測定値は、ガラスの外部にある熱電対の温度測定値に近づく。これは、ガラスシートの発熱結晶化により、核形成工程から結晶化工程までの加熱中の積層体温度の急上昇を生じることを示す。
【0074】
ガラス積層体と加熱室の雰囲気との間のこの温度差は、積層体の高さが増加するにつれて増加する、または言い換えると、積層体内のガラスの質量が増加するにつれて、増加する。表2は、異なる積層体高さ、およびそれに応じて、異なる質量指数(mass index)(質量指数は、積層体内のシートの数が乗じられたガラスシートの厚さである)を有する6つの積層体構成を示す。長さおよび幅を考慮した容積指数が使用されることもある。
【0075】
【表2】
【0076】
先に開示されたセラミック化サイクルを、上記表2に開示された構成を有する積層体について実施した。図20は、この試験の結果をグラフで示しており、それらの試験は、260mm×680mmの-厚さ以外の-寸法を有するシートに行った。先に開示されたように、セラミック化サイクルは、約540℃の核形成保持温度から740℃の結晶成長温度まで、例えば、徐冷窯または炉などの加熱室の雰囲気を加熱し、ここで、加熱室の雰囲気は、ある期間に亘り740℃に保持される。それゆえ、発熱結晶化の影響が最小のガラス積層体は、740℃に最も近い最高温度を有することになる。図20に示されるように、質量指数がより低いガラス積層体は、最高温度を有することになる。詳しくは、それぞれ、11.0および16.5の質量指数を有する積層体を含む、表2の実施3および4は、全てが25.3の質量指数を有する積層体を含む、実施1、2、および5よりも、740℃に近い最高温度を有する。このデータは、質量指数がより低い積層体は、発熱結晶化の影響がより小さく、それによって、より小さい温度勾配およびより小さい反りを有することになることを示す。
【0077】
発熱結晶化の影響は、先の表2の実施6の構成を使用した2つのサイクルの比較によってさらに確認される。第1のサイクルにおいて、核形成および結晶化を経たガラスシートを使用し、第2のサイクルにおいて、第1のサイクルに使用したものと同じ結晶化されたガラスシートに、再び、そのサイクルを施した。このようにして、第1のサイクルにおいて結晶化を経たシートおよび第2のサイクルにおいて結晶化を経ていないシート(何故ならば、シートは第1のサイクルにおいて既に結晶化されていたので)の比較が行われる。したがって、シートは、既に結晶化を経ており、二回は結晶化しないので、第2のサイクルにおいて、発熱結晶化はほとんどまたは全く予測されない。このことが、サイクル中の積層体温度の結果をグラフで示す、図21に示されるように、確認される。図21において、ガラスシートは、サイクル中(特に、結晶化工程中)に温度上昇を示し、一方で、結晶化されたシートは、そのサイクル中に温度上昇を示さなかった。しかしながら、ガラス積層体の温度および結晶化された積層体の温度は、このサイクルの他の部分では比較的似ており、核形成工程から成長工程まで加熱される間(すなわち、著しい結晶化事象および発熱反応が生じることが知られている温度範囲)にだけ、著しく異なる。図22は、図18に開示された熱電対構成を使用して、積層体内の熱電対および積層体の外部の熱電対の温度測定値をグラフで比較している。図22に示されるように、積層体内の温度は、これらの結晶化シートについて、積層体を取り囲む空気中の温度を超えない。
【0078】
発熱結晶化は、積層体に亘る温度勾配にも影響を与え得る。図18に開示された熱電対構成を有して、積層体内の多数の位置での温度をサイクル中に測定する。図22に示されるように、結晶化シートの積層体について、温度は、積層体の全体に亘りより均一である。それゆえ、積層体全体に亘る温度勾配の大きさは、超過量の大きさの増加により増加する。この熱処理中の結晶化により発熱反応を経験するガラスシートの積層体は、700℃を超えると、温度勾配の増加を示す。先に示したように、ガラスシート中の温度勾配は、シートにおける反りおよび/または応力の増加をもたらし得る。
【0079】
セラミック化サイクル中に生じる温度勾配を抑えるために、実施の形態において、ガラスシートの積層体は、34以下、33以下、32以下、31以下、30以下、29以下、28以下、27以下、26以下、25以下、24以下、23以下、22以下、21以下、20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、15以下、14以下、13以下、12以下、11以下、または10以下など、35以下の質量指数を有する。最小質量指数は、限定されず、0より大きいどの数であっても差し支えないことを理解すべきである。
【0080】
シート構成
この中の様々な実施の形態によれば、ガラスセラミック物品の反りを減少させるために、ガラスシート108の厚さの均一性が制御される。図23において、圧延されたままのガラスおよび粗研磨されたガラスの両方について、10枚のガラスシートおよび24枚のガラスシートのガラス積層体に関する最大反りが示されている。図23に示されるように、64μmの最大厚さ変動を有する圧延されたままのガラスシートを含むガラス積層体について、最大反りは、21μmの最大厚さ変動を有する粗研磨されたガラスシートを含むガラス積層体と比べて、著しく増加していた。それに加え、図24のデータにより実証されるように、セッタープレート104(上述したような)の平坦性は、ガラスシートの厚さのばらつきにより限定される影響を有する。詳しくは、図24は、圧延されたままのガラスの10枚のガラスシート積層体構成について、セッタープレートの平坦性における78μmの減少は、ガラスセラミック物品の反りに限定された影響しかないことを示す。したがって、シートの形成後、様々な実施の形態において、ガラスシートは、ガラスシートの厚さのばらつきを減少させるために、機械加工されたり、他のやり方で加工されたりすることがある。
【0081】
様々な実施の形態において、エッジビードは、ガラスセラミック物品に観察される反りの量を減少させるために、ガラスシートから除去されることがある。エッジビードは、厚さの不均一性がより大きくなり、したがって、セラミック化過程中の反りに寄与すると考えられる。詳しくは、1枚のガラスシートにセラミック化過程が施される(例えば、ガラス積層体に組み込まれていない)実施の形態において、エッジビードを除去すると、ガラスシートの反りを減少させることができる。図25Aに示されるように、エッジビード(ガラスシートの両側の約10mm)を除去すると、エッジビードが除去されていないガラスシート(図25B)と比べて、56μmだけ最大平坦性が減少する。それに加え、図26に示されるように、ガラスセラミック物品中の応力は、ビードを含むガラスセラミック物品がセラミック化された場合(上側)と比べて、ビードが除去された場合(下側)、減少している。しかしながら、予期せぬことに、セラミック化過程中にガラス積層体に組み込まれているガラスシートからエッジビードを除去すると、ガラス積層体中に離型剤層も組み込まれていない実施の形態において、反りが増加する。理論で束縛されるものではないが、隣接するガラスシートのエッジビードを除去することにより生じる接触する表面積の増加が、付着が生じる追加の面積を与えると考えられる。したがって、エッジビードが除去され、ガラスシートをガラス積層体に組み込むべき実施の形態において、離型剤層が組み込まれる。
【0082】
様々な実施の形態において、ガラスセラミック物品における反りおよび応力を制御するめたに、部品サイズも考慮される。図27に示されるように、臨界ΔTは、部品サイズと共に減少する。詳しくは、臨界ΔTは、様々な部品の長さと幅について、応力および反りが誘発されるであろうΔTである。したがって、より大きい部品について、最終的なガラスセラミック物品に反りまたはゆがみを誘発せずに、より大きいΔTが許容されるであろう。
【0083】
したがって、様々な実施の形態において、ガラスシートの厚さ変動は、ガラスセラミック物品に与えられる反りおよび応力を減少させるために、エッジビードの除去および粗研磨などによって、ガラス積層体の全体に亘り、個別に制御することができる。
【0084】
ガラスまたはガラスセラミック前駆体の組成
ガラスシート108は、ガラスセラミック物品を形成するのに適したどのガラス組成物から製造されてもよいが、ガラスシート108のガラス組成は、ガラスセラミック物品の機械的性質および光学的性質に影響し得ることを理解すべきである。様々な実施の形態において、ガラス組成は、結果として得られたガラスセラミック物品が、葉長石結晶相およびケイ酸リチウム結晶相を有し、その葉長石結晶相およびケイ酸リチウム結晶相が、ガラスセラミック物品中に存在する他の結晶相よりも高い質量百分率を有するように選択される。
【0085】
限定ではなく、一例として、様々な実施の形態において、ガラスシート108は、約55質量%から約80質量%のSiO、約0質量%から約20質量%のAl、約5質量%から約20質量%のLiO、約0質量%から約10質量%のB、約0質量%から約5質量%のNaO、約0質量%から約10質量%のZnO、約0.5質量%から約6質量%のP、および約0.2質量%から約15質量%のZrOを含むガラス組成物から形成されることがある。実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック前駆体は、KO、RbO、またはCsOなどのアルカリ塩を含むことがある。
【0086】
ガラスの形成に関与する酸化物である、SiOは、ガラスおよびガラスセラミックの網状構造を安定化させる働きをすることができる。様々なガラス組成物において、SiOの濃度は、ガラスシートが熱処理されてガラスセラミックに転化されるときに、葉長石結晶相を形成するために、十分に高いべきである。SiOの量は、純粋なSiOまたは高SiOガラスの溶融温度は望ましくないほど高いので、ガラスの溶融温度を制御するために制限されることがある。いくつかの実施の形態において、ガラスまたはガラスセラミック組成物は、約55質量%から約80質量%のSiOを含む。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約69質量%から約80質量%のSiOを含む。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約55質量%から約80質量%、約55質量%から約77質量%、約55質量%から約75質量%、約55質量%から約73質量%、約60質量%から約80質量%、約60質量%から約77質量%、約60質量%から約75質量%、約60質量%から約73質量%、約69質量%から約80質量%、約69質量%から約77質量%、約69質量%から約75質量%、約69質量%から約73質量%、約70質量%から約80質量%、約70質量%から約77質量%、約70質量%から約75質量%、約70質量%から約73質量%、約73質量%から約80質量%、約73質量%から約77質量%、約73質量%から約75質量%、約75質量%から約80質量%、約75質量%から約77質量%、または約77質量%から約80質量%のSiOを含み得る。
【0087】
Alも、網状構造に安定化を与えることがあり、改善された機械的性質および化学的耐久性も与える。しかしながら、Alの量が多すぎると、ケイ酸リチウム結晶の割合が、おそらく連結構造を形成できなくなる程度まで、減少することがある。Alの量は、粘度を制御するために調整することができる。さらに、Alの量が多すぎると、溶融物の粘度も一般に増加する。いくつかの実施の形態において、前記ガラスまたはガラスセラミック組成物は、約0質量%から約20質量%のAlを含み得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約6質量%から約9質量%のAlを含み得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約2質量%から約20質量%、約2質量%から約18質量%、約2質量%から約15質量%、約2質量%から約12質量%、約2質量%から約10質量%、約2質量%から約9質量%、約2質量%から約8質量%、約2質量%から約5質量%、約5質量%から約20質量%、約5質量%から約18質量%、約5質量%から約15質量%、約5質量%から約12質量%、約5質量%から約10質量%、約5質量%から約9質量%、約5質量%から約8質量%、約6質量%から約20質量%、約6質量%から約18質量%、約6質量%から約15質量%、約6質量%から約12質量%、約6質量%から約10質量%、約6質量%から約9質量%、約8質量%から約20質量%、約8質量%から約18質量%、約8質量%から約15質量%、約8質量%から約12質量%、約8質量%から約10質量%、約10質量%から約20質量%、約10質量%から約18質量%、約10質量%から約15質量%、約10質量%から約12質量%、約12質量%から約20質量%、約12質量%から約18質量%、または約12質量%から約15質量%のAlを含み得る。
【0088】
この中のガラスおよびガラスセラミックにおいて、LiOは、葉長石およびケイ酸リチウム結晶相の両方を形成する上で役立つ。実際に、主結晶相として葉長石およびケイ酸リチウムを得るために、組成物中に少なくとも約7質量%のLiOを有することが望ましい。それに加え、LiOが一旦多すぎる(約15質量%超)ようになると、その組成物は、非常に流動性を有するようになることが分かった。したがって、いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約5質量%から約20質量%のLiOを含み得る。他の実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約10質量%から約14質量%のLiOを含み得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約5質量%から約20質量%、約5質量%から約18質量%、約5質量%から約16質量%、約5質量%から約14質量%、約5質量%から約12質量%、約5質量%から約10質量%、約5質量%から約8質量%、約7質量%から約20質量%、約7質量%から約18質量%、約7質量%から約16質量%、約7質量%から約14質量%、約7質量%から約12質量%、約7質量%から約10質量%、約10質量%から約20質量%、約10質量%から約18質量%、約10質量%から約16質量%、約10質量%から約14質量%、約10質量%から約12質量%、約12質量%から約20質量%、約12質量%から約18質量%、約12質量%から約16質量%、約12質量%から約14質量%、約14質量%から約20質量%、約14質量%から約18質量%、約14質量%から約16質量%、約16質量%から約20質量%、約16質量%から約18質量%、または約18質量%から約20質量%のLiOを含み得る。
【0089】
先に述べたように、LiOは、一般に、様々なガラスセラミックを形成するのに有用であるが、他のアルカリ酸化物は、ガラスセラミックの形成を減少させ、ガラスセラミック中にアルミノケイ酸塩残留ガラスを形成する傾向にある。5質量%より多いNaOまたはKO、またはその組合せは、望ましくない量の残留ガラスをもたらし、これは、結晶化中の変形および機械的性質の観点から望ましくない微細構造をもたらし得る。残留ガラスの組成は、結晶化中の粘度を制御して、変形または望ましくない熱膨張を最小にするか、または微細構造の性質を制御するために調整されることがある。したがって、一般に、ガラスシートは、非リチウムのアルカリ酸化物の量が少ないガラス組成物から製造されるであろう。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約0質量%から約5質量%のROを含み得、ここで、Rは、アルカリ陽イオンのNaおよびKの1つ以上である。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約1質量%から約3質量%のROを含み得、ここで、Rは、アルカリ陽イオンのNaおよびKの1つ以上である。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、0質量%から約5質量%、0質量%から約4質量%、0質量%から約3質量%、0質量%から約2質量%、0質量%から約1質量%、0質量%超から約5質量%、0質量%超から約4質量%、0質量%超から約3質量%、0質量%超から約2質量%、0質量%超から約1質量%、約1質量%から約5質量%、約1質量%から約4質量%、約1質量%から約3質量%、約1質量%から約2質量%、約2質量%から約5質量%、約2質量%から約4質量%、約2質量%から約3質量%、約3質量%から約5質量%、約3質量%から約4質量%、または約4質量%から約5質量%のNaO、KO、またはその組合せを含み得る。
【0090】
前記ガラスおよびガラスセラミック組成物は、Pを含み得る。Pは、バルク核形成を生じるための核形成剤の機能を果たすことができる。Pの濃度が低すぎると、前駆体ガラスは、結晶化するが、より高い温度(より低い粘度のために)で、表面から内側にだけであり、弱く、多くの場合変形した本体を生じる。しかしながら、Pの濃度が高すぎると、ガラスシートの形成中の冷却の際に、失透を制御するのが難しくなり得る。実施の形態は、0質量%超から約6質量%のPを含み得る。他の実施の形態は、約2質量%から約4質量%のPを含み得る。さらに他の実施の形態は、約1.5質量%から約2.5質量%のPを含み得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、0質量%から約6質量%、0質量%から約5.5質量%、0質量%から5質量%、0質量%から約4.5質量%、0質量%から約4質量%、0質量%から約3.5質量%、0質量%から約3質量%、0質量%から約2.5質量%、0質量%から約2質量%、0質量%から約1.5質量%、0質量%から約1質量%、0質量%超から約6質量%、0質量%超から約5.5質量%、0質量%超から5質量%、0質量%超から約4.5質量%、0質量%超から約4質量%、0質量%超から約3.5質量%、0質量%超から約3質量%、0質量%超から約2.5質量%、0質量%超から約2質量%、0質量%超から約1.5質量%、0質量%超から約1質量%、約0.5質量%から約6質量%、約0.5質量%から約5.5質量%、約0.5質量%から5質量%、約0.5質量%から約4.5質量%、約0.5質量%から約4質量%、約0.5質量%から約3.5質量%、約0.5質量%から約3質量%、約0.5質量%から約2.5質量%、約0.5質量%から約2質量%、約0.5質量%から約1.5質量%、約0.5質量%から約1質量%、約1質量%から約6質量%、約1質量%から約5.5質量%、約1質量%から5質量%、約1質量%から約4.5質量%、約1質量%から約4質量%、約1質量%から約3.5質量%、約1質量%から約3質量%、約1質量%から約2.5質量%、約1質量%から約2質量%、約1質量%から約1.5質量%、約1.5質量%から約6質量%、約1.5質量%から約5.5質量%、約1.5質量%から5質量%、約1.5質量%から約4.5質量%、約1.5質量%から約4質量%、約1.5質量%から約3.5質量%、約1.5質量%から約3質量%、約1.5質量%から約2.5質量%、約1.5質量%から約2質量%、約2質量%から約6質量%、約2質量%から約5.5質量%、約2質量%から5質量%、約2質量%から約4.5質量%、約2質量%から約4質量%、約2質量%から約3.5質量%、約2質量%から約3質量%、約2質量%から約2.5質量%、約2.5質量%から約6質量%、約2.5質量%から約5.5質量%、約2.5質量%から5質量%、約2.5質量%から約4.5質量%、約2.5質量%から約4質量%、約2.5質量%から約3.5質量%、約2.5質量%から約3質量%、約3質量%から約6質量%、約3質量%から約5.5質量%、約3質量%から5質量%、約3質量%から約4.5質量%、約3質量%から約4質量%、約3質量%から約3.5質量%、約3.5質量%から約6質量%、約3.5質量%から約5.5質量%、約3.5質量%から5質量%、約3.5質量%から約4.5質量%、約3.5質量%から約4質量%、約4質量%から約6質量%、約4質量%から約5.5質量%、約4質量%から5質量%、約4質量%から約4.5質量%、約4.5質量%から約6質量%、約4.5質量%から約5.5質量%、約4.5質量%から約5質量%、約5質量%から約6質量%、約5質量%から約5.5質量%、または約5.5質量%から6質量%のPを含み得る。
【0091】
様々なガラスおよびガラスセラミック組成物において、ZrOは、形成および液相温度の低下中、ガラスの失透を著しく減少させることによって、LiO-Al-SiO-Pガラスの安定性を改善できることが広く分かっている。8質量%を超える濃度では、ZrSiOが高温で主液相を形成し得、これが、液相粘度を著しく低下させる。ガラスが2質量%を超えるZrOを含有する場合、透明ガラスが形成され得る。ZrOの添加は、葉長石の粒径を減少させるのにも役立ち得、これは、透明ガラスセラミックの形成に役立つ。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約0.2質量%から約15質量%のZrOを含み得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約2質量%から約4質量%のZrOを含み得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、約0.2質量%から約15質量%、約0.2質量%から約12質量%、約0.2質量%から約10質量%、約0.2質量%から約8質量%、約0.2質量%から約6質量%、約0.2質量%から約4質量%、約0.5質量%から約15質量%、約0.5質量%から約12質量%、約0.5質量%から約10質量%、約0.5質量%から約8質量%、約0.5質量%から約6質量%、約0.5質量%から約4質量%、約1質量%から約15質量%、約1質量%から約12質量%、約1質量%から約10質量%、約1質量%から約8質量%、約1質量%から約6質量%、約1質量%から約4質量%、約2質量%から約15質量%、約2質量%から約12質量%、約2質量%から約10質量%、約2質量%から約8質量%、約2質量%から約6質量%、約2質量%から約4質量%、約3質量%から約15質量%、約3質量%から約12質量%、約3質量%から約10質量%、約3質量%から約8質量%、約3質量%から約6質量%、約3質量%から約4質量%、約4質量%から約15質量%、約4質量%から約12質量%、約4質量%から約10質量%、約4質量%から約8質量%、約4質量%から約6質量%、約8質量%から約15質量%、約8質量%から約12質量%、約8質量%から約10質量%、約10質量%から約15質量%、約10質量%から約12質量%、または約12質量%から約15質量%のZrOを含み得る。
【0092】
は、溶融温度が低いガラスシートを提供するのを助長する。さらに、ガラスシートおよびそれゆえガラスセラミック物品にBを添加することは、連結結晶微細構造を達成するのに役立ち、ガラスセラミック物品の損傷抵抗も改善することができる。残留ガラス中のホウ素が、アルカリ酸化物または二価陽イオン酸化物によって電荷平衡されていない場合、ホウ素は、三方晶配位状態(または三配位ホウ素)になり、これが、ガラスの構造を広げる。これらの三配位ホウ素の周りの網状構造は、四面体配位(または四配位)ホウ素ほど剛性ではない。理論で束縛されるものではないが、三配位ホウ素を含むガラスシートおよびガラスセラミックは、亀裂形成前にある程度の変形を許容することができると考えられる。ある程度の変形を許容することによって、ビッカース圧入亀裂発生値が増加する。三配位ホウ素を含むガラスシートおよびガラスセラミックの破壊靱性も増加されることがある。理論で束縛されるものではないが、ガラスセラミックの残留ガラス(およびガラスシート)中のホウ素の存在により、残留ガラス(またはガラスシート)の粘度が低下し、これにより、ケイ酸リチウム結晶、特に、アスペクト比の高い大型結晶の成長が促進されると考えられる。三配位ホウ素の量が多くなると(四配位ホウ素と比べて)、より大きいビッカース圧入亀裂発生荷重を示すガラスセラミックが得られると考えられる。いくつかの実施の形態において、三配位ホウ素(全Bの百分率として)の量は、約40%以上、50%以上、75%以上、85%以上、またさらには95%以上であることがある。ホウ素の量は、一般に、セラミック化されたバルクガラスセラミックの化学的耐久性および機械的強度を維持するように制御されるべきである。
【0093】
1つ以上の実施の形態において、前記ガラスまたはガラスセラミック組成物は、0質量%から約10質量%または0質量%から約2質量%のBを含む。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、0質量%から約10質量%、0質量%から約9質量%、0質量%から約8質量%、0質量%から約7質量%、0質量%から約6質量%、0質量%から約5質量%、0質量%から約4質量%、0質量%から約3質量%、0質量%から約2質量%、0質量%から約1質量%、0質量%超から約10質量%、0質量%超から約9質量%、0質量%超から約8質量%、0質量%超から約7質量%、0質量%超から約6質量%、0質量%超から約5質量%、0質量%超から約4質量%、0質量%超から約3質量%、0質量%超から約2質量%、0質量%超から約1質量%、約1質量%から約10質量%、約1質量%から約8質量%、約1質量%から約6質量%、約1質量%から約5質量%、約1質量%から約4質量%、約1質量%から約2質量%、約2質量%から約10質量%、約2質量%から約8質量%、約2質量%から約6質量%、約2質量%から約4質量%、約3質量%から約10質量%、約3質量%から約8質量%、約3質量%から約6質量%、約3質量%から約4質量%、約4質量%から約5質量%、約5質量%から約8質量%、約5質量%から約7.5質量%、約5質量%から約6質量%、または約5質量%から約5.5質量%のBを含み得る。
【0094】
MgOは、部分固溶体中の葉長石結晶に入り得る。1つ以上の実施の形態において、前記ガラスまたはガラスセラミック組成物は、0質量%から約8質量%のMgOを含み得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、0質量%から約8質量%、0質量%から約7質量%、0質量%から約6質量%、0質量%から約5質量%、0質量%から約4質量%、0質量%から約3質量%、0質量%から約2質量%、0質量%から約1質量%、約1質量%から約8質量%、約1質量%から約7質量%、約1質量%から約6質量%、約1質量%から約5質量%、約1質量%から約4質量%、約1質量%から約3質量%、約1質量%から約2質量%、約2質量%から約8質量%、約2質量%から約7質量%、約2質量%から約6質量%、約2質量%から約5質量%、約2質量%から約4質量%、約2質量%から約3質量%、約3質量%から約8質量%、約3質量%から約7質量%、約3質量%から約6質量%、約3質量%から約5質量%、約3質量%から約4質量%、約4質量%から約8質量%、約4質量%から約7質量%、約4質量%から約6質量%、約4質量%から約5質量%、約5質量%から約8質量%、約5質量%から約7質量%、約5質量%から約6質量%、約6質量%から約8質量%、約6質量%から約7質量%、または約7質量%から約8質量%のMgOを含み得る。
【0095】
ZnOは、部分固溶体中の葉長石結晶に入り得る。1つ以上の実施の形態において、前記ガラスまたはガラスセラミック組成物は、0質量%から約10質量%のZnOを含み得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、0質量%から約10質量%、0質量%から約9質量%、0質量%から約8質量%、0質量%から約7質量%、0質量%から約6質量%、0質量%から約5質量%、0質量%から約4質量%、0質量%から約3質量%、0質量%から約2質量%、0質量%から約1質量%、約1質量%から約10質量%、約1質量%から約9質量%、約1質量%から約8質量%、約1質量%から約7質量%、約1質量%から約6質量%、約1質量%から約5質量%、約1質量%から約4質量%、約1質量%から約3質量%、約1質量%から約2質量%、約2質量%から約10質量%、約2質量%から約9質量%、約2質量%から約8質量%、約2質量%から約7質量%、約2質量%から約6質量%、約2質量%から約5質量%、約2質量%から約4質量%、約2質量%から約3質量%、約3質量%から約10質量%、約3質量%から約9質量%、約3質量%から約8質量%、約3質量%から約7質量%、約3質量%から約6質量%、約3質量%から約5質量%、約3質量%から約4質量%、約4質量%から約10質量%、約4質量%から約9質量%、約4質量%から約8質量%、約4質量%から約7質量%、約4質量%から約6質量%、約4質量%から約5質量%、約5質量%から約10質量%、約5質量%から約9質量%、約5質量%から約8質量%、約5質量%から約7質量%、約5質量%から約6質量%、約6質量%から約10質量%、約6質量%から約9質量%、約6質量%から約8質量%、約6質量%から約7質量%、約7質量%から約10質量%、約7質量%から約9質量%、約7質量%から約8質量%、約8質量%から約10質量%、約8質量%から約9質量%、または約9質量%から約10質量%のZnOを含み得る。
【0096】
様々な実施の形態において、前記ガラスまたはガラスセラミック組成物は、限定ではなく、例として、TiO、CeO、およびSnOなどの1種類以上の構成成分をさらに含むことがある。それに加え、またはそれに代えて、そのガラスまたはガラスセラミック組成物に、抗菌成分が添加されることがある。そのガラスまたはガラスセラミックに添加されることのある抗菌成分としては、以下に限られないが、Ag、AgO、Cu、CuO、CuOなどが挙げられる。いくつかの実施の形態において、そのガラスまたはガラスセラミック組成物は、化学的清澄剤をさらに含むことがある。そのような清澄剤としては、以下に限られないが、SnO、As、Sb、F、Cl、およびBrが挙げられる。様々な実施の形態に使用するのに適したガラスおよび/またはガラスセラミック組成物についての追加の詳細は、例えば、ここに全て引用される、2015年10月8日に出願された「High Strength Glass-Ceramics Having Petalite and Lithium Silicate Structures」と題する米国特許出願公開第2016/0102010号明細書に見つかるであろう。
【0097】
ガラスセラミック物品を形成するための加熱条件
1つ以上の実施の形態において、ガラスセラミックを製造するための過程は、1つ以上の予め選択された時間に亘り1つ以上の予め選択された温度で前駆体ガラスを熱処理して、ガラスの均一化および1つ以上の結晶相(例えば、1つ以上の組成、量、形態、サイズまたはサイズ分布などを有する)の結晶化(すなわち、核形成と成長)を誘発する工程を含む。いくつかの実施の形態において、この熱処理は、(i)前駆体ガラスを0.01~50℃/分の速度で核形成温度(T)に加熱する工程、(ii)結晶化可能なガラスを第1の所定の期間(t)に亘り核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能なガラス組成物を製造する工程、(iii)核形成された結晶化可能なガラスを約0.01℃/分から約50℃/分の範囲の速度で結晶化温度(T)に加熱する工程、(iv)核形成された結晶化可能なガラスを第2の所定の期間(t)に亘り結晶化温度に維持して、ここに記載されたガラスセラミック物品を製造する工程、および(v)形成されたガラスセラミックを室温に冷却する工程を含む。先の実施の形態において「セラミック化する」または「セラミック化」という用語は、まとめて、工程(iii)、(iv)、および必要に応じて、(v)を称するために使用されることがある。いくつかの実施の形態において、核形成温度は、500℃から650℃の範囲(例えば、500℃、510℃、520℃、530℃、540℃、550℃、560℃、570℃、580℃、590℃、600℃、610℃、620℃、630℃、640℃、または650℃)、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にあり得る、および/または結晶化温度は、680℃から800℃の範囲(例えば、680℃、690℃、700℃、710℃、720℃、730℃、740℃、750℃、760℃、770℃、780℃、790℃、または800℃)、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にあり得る。いくつかの実施の形態において、核形成温度を維持する第1の所定の期間は、1分から6時間の範囲(例えば、1分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、または6時間)、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にあり得る。いくつかの実施の形態において、結晶化温度を維持する第2の所定の期間は、1分から4時間の範囲(例えば、1分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、または4時間)、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にあり得る。いくつかの実施の形態において、結晶化温度は、透明または半透明/不透明ガラスセラミックが望ましいか否かに依存する。いくつかの実施の形態において、約750℃以下の結晶化温度は、透明なガラスセラミックをもたらし、約750℃を超える結晶化温度は、半透明/不透明なガラスセラミックをもたらす。いくつかの実施の形態において、ガラスは、5℃/分の速度で室温から570℃の核形成温度に加熱し、4時間に亘り核形成温度に維持し、次いで、5℃/分の速度で740℃の結晶化温度に加熱し、1時間に亘り結晶化温度に維持することができる。
【0098】
いくつかの実施の形態において、核形成温度と結晶化温度との間に追加の温度保持が1つ以上あることがある。それゆえ、いくつかの実施の形態において、前記物品を核形成温度に維持した後、この物品は、1つ以上の中間温度(この中間温度は、核形成温度と結晶化温度との間の範囲にある)に加熱され、所定の期間(例えば、1時間と4時間の間、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲)に亘りその1つ以上の中間温度に保持され、次いで、結晶化温度に加熱されることがある。下記の実施例5は、中間温度の保持を伴う例示の3工程の熱処理サイクルを示す。
【0099】
いくつかの実施の形態において、前記組成物が核形成温度に一旦加熱されたら、その組成物は、その核形成温度に維持されず、代わりに、結晶化温度に到達するまで、1つ以上の中間温度に連続的に加熱される(すなわち、温度は、中間温度または核形成温度のいずれにも維持されない)。いくつかの実施の形態において、室温から核形成温度までの加熱速度、核形成温度から中間温度までの加熱速度、中間温度から結晶化温度までの加熱速度は、様々である。多数の中間温度がある実施の形態において、個々の中間温度の間の加熱速度も、様々であってよい。下記の実施例6は、そのような例示の熱処理スケジュールを示す。いくつかの実施の形態において、加熱速度は、様々であってよく、約0.01℃/分から約50℃/分の範囲、約0.01℃/分、約0.1℃/分、約0.5℃/分、約1℃/分、約2℃/分、約3℃/分、約4℃/分、約5℃/分、約10℃/分、約15℃/分、約20℃/分、約25℃/分、約30℃/分、約40℃/分、約45℃/分、約50℃/分、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にあることがある。いくつかの実施の形態において、加熱速度は、ある加熱速度から別の加熱速度まで上昇することがある。他の実施の形態において、加熱速度は、ある加熱速度から別の加熱速度まで減少することがある。
【0100】
いくつかの実施の形態において、前記ガラスセラミック物品は、結晶化温度に保持された後に冷却される。いくつかの実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、一定の冷却速度の一段階で、各々異なる冷却速度の二段階で、または各々異なる冷却速度の三段階以上で、室温に冷却されることがある。いくつかの実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、物品に亘る温度勾配を最小にするために、並びに物品に亘る残留応力を最小にするために、結晶化温度から制御された速度で冷却される。温度勾配および残留応力の差は、冷却中に物品に反りをもたらすことがある。それゆえ、温度勾配および残留応力を制御するために冷却を制御することによっても、ガラスセラミック物品の反りが最小になるであろう。
【0101】
例えば、図28に示されるような、いくつかの実施の形態において、冷却は2つの冷却段階で行われることがある。そのような実施の形態において、第1の冷却段階では、温度は、第1の冷却速度で、Tmax(すなわち、T-結晶化温度)からTまで下がる。第2の冷却段階において、温度は、第2の冷却速度で、Tからほぼ室温(Troom)まで下がる。図28に示されるように、第1の冷却速度は第2の冷却速度よりも遅い。第1段階中の第1の冷却速度は、ガラスセラミック物品に亘る温度勾配を最小にするように遅い。いくつかの実施の形態において、第1の冷却段階から第2の冷却段階までの移行が生じる温度Tは、それより低いとガラスセラミック物品が弾性材料として挙動する温度に基づいて決定される。理論で束縛されるものではないが、第1の冷却段階のより遅い冷却速度は、ガラスセラミック物品が、それより低いと弾性材料として挙動する温度に到達するまで、温度勾配を制御するのに必要なだけであると考えられる。いくつかの実施の形態において、温度Tは、450℃から550℃の範囲、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲にあることがある。いくつかの実施の形態において、温度Tは、550℃以下、540℃、530℃、520℃、510℃、500℃、490℃、480℃、470℃、460℃、または450℃であることがある。いくつかの実施の形態において、第1の冷却段階における温度降下(Tmax-T)は、第2の冷却段階における温度降下(T-Troom)よりも小さい。理論で束縛されるものではないが、第1の冷却段階において生じる温度勾配は、第2の冷却段階において生じる温度勾配よりも、室温に到達した際のガラスセラミック物品における残留応力(およびしたがって、反り)に対する大きい影響(光学遅延特性)を有すると考えられる。それゆえ、いくつかの実施の形態において、ガラスセラミック物品は、第1の冷却段階において制御されて冷却された後、制御されていない冷却環境において室温まで冷却されてもよい。
【0102】
例えば、図29に示されるような、いくつかの実施の形態において、冷却サイクルは、第1の冷却段階と第2の冷却段階との間の中間冷却段階と、合計で3つの冷却段階を有することがある。そのような実施の形態において、第1の冷却段階において、温度は、第1の冷却速度で、Tmax(すなわち、T-結晶化温度)からTまで下がる。中間の冷却段階において、温度は、第2の冷却速度で、TからTまで下がる。第2の冷却段階において、温度は、第3の冷却速度で、Tからほぼ室温(Troom)まで下がる。図29に示されるように、冷却速度は、(i)第1の冷却段階中の第1の冷却速度が、中間の冷却段階中の第2の冷却速度および第2の冷却段階中の第3の冷却速度より低く、(ii)中間の冷却段階中の第2の冷却速度が、第2の冷却段階中の第3の冷却速度より低くなるように、各段階で上昇する。いくつかの実施の形態において、(i)第1の冷却段階における温度降下(Tmax-T)は、中間の冷却段階における温度降下(T-T)および第2の冷却段階における温度降下(T-TRoom)より小さく、(ii)中間の冷却段階における温度降下(T-T)は、第2の冷却段階中の温度降下(T-TRoom)より小さい。中間の冷却段階により、温度勾配および残留応力を最小にしつつ、より速い冷却サイクルが可能になる。いくつかの実施の形態において、Tmaxは約740℃であることがあり、Tは約640℃であることがあり、Tは約580℃であることがある。
【0103】
いくつかの実施の形態において、冷却サイクルに多数の冷却段階がある場合、第1の冷却段階中のガラスセラミック物品に亘る温度勾配は、15℃未満、14℃未満、13℃未満、12℃未満、11℃未満、10℃未満、9℃未満、8℃未満、7℃未満、6℃未満、5℃未満、4℃未満、または3℃未満であることがある、および/またはガラスセラミック物品の室温での光学遅延特性は、厚さ1mm当たり15nm未満、厚さ1mm当たり14nm未満、厚さ1mm当たり13nm未満、厚さ1mm当たり12nm未満、厚さ1mm当たり11nm未満、厚さ1mm当たり10nm未満、厚さ1mm当たり9nm未満、厚さ1mm当たり8nm未満、厚さ1mm当たり7nm未満、厚さ1mm当たり6nm未満、厚さ1mm当たり5nm未満、厚さ1mm当たり4nm未満、または厚さ1mm当たり3nm未満であることがある。光学遅延特性は、ASTM F218-13にしたがって測定することができる。
【0104】
前駆体ガラスに上記熱処理を施した際に、結果として得られるガラスセラミックは、1つ以上の結晶相および残留ガラス相を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスセラミックは、以下の例示の結晶相:二ケイ酸リチウム、葉長石、β-スポジュメン固溶体、β-石英固溶体、メタケイ酸リチウム、バージライト(virgilite)、クリストバライト、リン酸リチウム、バデレアイト、およびジルコニア、並びにそれらの任意の組合せを含有する。
【0105】
いくつかの実施の形態において、二ケイ酸リチウムは、質量百分率が最高の結晶相である。二ケイ酸リチウム、LiSiは、{Si}四面体配置の波形板に基づく斜方晶である。この結晶は、典型的に、劈開面が目立つ、板状または木摺形状である。二ケイ酸リチウムに基づくガラスセラミックは、ランダムに配向して連結された結晶の微細構造-これらの結晶の周りの入り組んだ経路を通じて亀裂を材料に伝搬させる結晶構造-のために、高い本体強度および破壊靱性を含む、非常に望ましい機械的性質を提示する。いくつかの実施の形態において、前記ガラスセラミック組成物中の二ケイ酸リチウム結晶相の質量百分率は、約20から約60質量%、約20から約55質量%、約20から約50質量%、約20から約45質量%、約20から約40質量%、約20から約35質量%、約20から約30質量%、約20から約25質量%、約25から約60質量%、約25から約55質量%、約25から約50質量%、約25から約45質量%、約25から約40質量%、約25から約35質量%、約25から約30質量%、約30から約60質量%、約30から約55質量%、約30から約50質量%、約30から約45質量%、約30から約40質量%、約30から約35質量%、約35から約60質量%、約35から約55質量%、約35から約50質量%、約35から約45質量%、約35から約40質量%、約40から約60質量%、約40から約55質量%、約40から約50質量%、約40から約45質量%、約45から約60質量%、約45から約55質量%、約45から約50質量%、約50から約60質量%、約50から約55質量%、または約55から約60質量%の範囲にあり得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスセラミックは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、または60質量%の二ケイ酸リチウム結晶相を有する。
【0106】
いくつかの実施の形態において、葉長石は、質量百分率が最高の結晶相である。葉長石、LiAlSi10は、LiとAlの四面体により結合された折り畳まれたSi層を有する層状構造を持つ三次元骨格構造を有する単斜晶である。Liは、酸素と四面体配位にある。鉱物の葉長石は、リチウム源であり、ガラスセラミックまたはセラミック部品の熱衝撃抵抗を改善するために低熱膨張相として使用される。さらに、葉長石相に基づくガラスセラミック物品は、塩浴中で化学的に強化することができ、その最中に、Na(および/またはK)が葉長石構造内のLiを置換し、これにより、表面圧縮が生じ、強化が行われる。いくつかの実施の形態において、そのガラスセラミック組成物中の葉長石結晶相の質量百分率は、約20から約70質量%、約20から約65質量%、約20から約60質量%、約20から約55質量%、約20から約50質量%、約20から約45質量%、約20から約40質量%、約20から約35質量%、約20から約30質量%、約20から約25質量%、約25から約70質量%、約25から約65質量%、約25から約60質量%、約25から約55質量%、約25から約50質量%、約25から約45質量%、約25から約40質量%、約25から約35質量%、約25から約30質量%、約30から約70質量%、約30から約65質量%、約30から約60質量%、約30から約55質量%、約30から約50質量%、約30から約45質量%、約30から約40質量%、約30から約35質量%、約35から約70質量%、約35から約65質量%、約35から約60質量%、約35から約55質量%、約35から約50質量%、約35から約45質量%、約35から約40質量%、約40から約70質量%、約40から約65質量%、約40から約60質量%、約40から約55質量%、約40から約50質量%、約40から約45質量%、約45から約70質量%、約45から約65質量%、約45から約60質量%、約45から約55質量%、約45から約50質量%、約50から約70質量%、約50から約65質量%、約50から約60質量%、約50から約55質量%、約55から約70質量%、約55から約65質量%、約55から約60質量%、約60から約70質量%、約60から約65質量%、または約65から約70質量%の範囲にあり得る。いくつかの実施の形態において、そのガラスセラミックは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、または70質量%の葉長石結晶相を有する。
【0107】
したがって、実施の形態において、前記ガラスセラミックは、42質量%以上、44質量%以上、46質量%以上、48質量%以上、50質量%以上、52質量%以上、54質量%以上、56質量%以上、58質量%以上、60質量%以上、62質量%以上、64質量%以上、66質量%以上、68質量%以上、70質量%以上、72質量%以上、74質量%以上、76質量%以上、78質量%以上、80質量%以上、82質量%以上、84質量%以上、または85質量%以上など、40質量%以上の総質量百分率の二ケイ酸リチウムおよび葉長石結晶相を有することがある。いくつかの実施の形態において、二ケイ酸リチウムおよび葉長石以外の結晶相は、5質量%未満、4質量%未満、3質量%未満、2質量%未満、または1質量%未満のガラスセラミック物品における全質量%を有する。
【0108】
実施の形態において、前記ガラスセラミックは、第3の結晶相としてリン酸リチウムを含むことがある。実施の形態において、そのガラスセラミック中に存在するリン酸塩の少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%が、リン酸リチウムとして存在する。リン酸リチウムに対する葉長石のラマンピーク高さ比は、実施の形態において、1.1から1.3であり、リン酸リチウムに対する二ケイ酸リチウムのラマンピーク高さ比は、1.0から1.2である。
【0109】
いくつかの実施の形態において、前記ガラスセラミックは、約5から30%、約5から約25質量%、約5から約20質量%、約5から約15質量%、約5から約10質量%、約10から約50質量%、約10から約45質量%、約10から約40質量%、約10から約35質量%、約10から約30質量%、約10から約25質量%、約10から約20質量%、約10から約15質量%、約15から約50質量%、約15から約45質量%、約15から約40質量%、約15から約35質量%、約15から約30質量%、約15から約25質量%、約15から約20質量%、約20から約50質量%、約20から約45質量%、約20から約40質量%、約20から約35質量%、約20から約30質量%、約20から約25質量%、約25から約30質量%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲の残留ガラス含有量を有する。いくつかの実施の形態において、その残留ガラス含有量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、または1質量%以下であり得る。
【0110】
いくつかの実施の形態において、前記ガラスセラミックは、20質量%超から100質量%、20質量%超から90質量%、20質量%超から80質量%、20質量%超から70質量%、30質量%から100質量%、30質量%から90質量%、30質量%から80質量%、30質量%から70質量%、40質量%から100質量%、40質量%から90質量%、40質量%から80質量%、40質量%から70質量%、50質量%から100質量%、50質量%から90質量%、50質量%から80質量%、50質量%から70質量%の範囲、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲の質量百分率の結晶を有することがある。いくつかの実施の形態において、内側領域は、20質量%超、25質量%超、30質量%超、35質量%超、40質量%超、45質量%超、50質量%超、55質量%超、60質量%超、65質量%超、70質量%超、75質量%超、80質量%超、85質量%超、または90質量%超の質量百分率の結晶を有することがある。
【0111】
前記結晶相中の結晶の粒径は、ガラスセラミックの透明性に影響を与える要因である。いくつかの実施の形態において、その粒子は、約5nmから約150nm、約5nmから約125nm、約5nmから約100nm、約5nmから約75nm、約5nmから約50nm、約25nmから約150nm、約25nmから約125nm、約25nmから約100nm、約25nmから約75nm、約50nmから約150nm、約50nmから約125nm、約50nmから約100nmの範囲、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲の最長寸法を有する。いくつかの実施の形態において、粒子の最長寸法は、150nm未満、125nm未満、100nm未満、75nm未満、50nm未満、または25nm未満である。粒子の最長寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して測定される。
【0112】
いくつかの実施の形態において、相集合および熱処理条件は、携帯型電子機器用のカバーガラスとして使用するために、透明性および低ヘイズなどの適切な光学的性質を有するガラスセラミック物品を作るように選択される。いくつかの実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、1mmの厚さを有するガラスセラミック物品について、450nmから600nmの波長範囲に亘り、光の85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上(表面反射損を含む)の平均透過率を有するという点で透明である。他の実施の形態において、ガラスセラミックは、450nmから600nmの波長範囲に亘り、半透明であることがある。いくつかの実施の形態において、半透明のガラスセラミックは、1mmの厚さを有するガラスセラミック物品について、450nmから800nmの波長範囲に亘り、光の約20%から約85%未満の平均透過率を有し得る。いくつかの実施の形態において、ガラスセラミック物品は、0.2未満、0.19未満、0.18未満、0.17未満、0.16未満、0.15未満、0.14未満、0.13未満、0.12未満、または0.1未満のヘイズを有する。
【0113】
下記の式(2)は、核形成温度(T)、核形成保持時間(t)、結晶化温度(T)、および結晶化保持時間(t)に基づいて、ガラスセラミック物品のヘイズを予測する。
予測ヘイズ=103-0.260T+0.000203(T-7.96t+0.1532(t-0.019T-0.000008(T-10.03t+0.00597T +0.00463t +0.01342T (2)
いくつかの実施の形態において、熱処理サイクルに関する核形成温度(T)、核形成保持時間(t)、結晶化温度(T)、および結晶化保持時間(t)は、0.2未満、0.19未満、0.18未満、0.17未満、0.16未満、0.15未満、0.14未満、0.13未満、0.12未満、または0.1未満の予測ヘイズを有するように、式(2)により与えられる予測ヘイズに基づいて選択することができる。いくつかの実施の形態において、この熱処理は、(i)前駆体ガラスを0.01~50℃/分の速度で核形成温度(T)に加熱する工程、(ii)結晶化可能なガラスを第1の所定の期間(t)に亘り核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能なガラス組成物を製造する工程、(iii)核形成された結晶化可能なガラスを約0.01℃/分から約50℃/分の範囲の速度で結晶化温度(T)に加熱する工程、(iv)核形成された結晶化可能なガラスを第2の所定の期間(t)に亘り結晶化温度に維持して、ここに記載されたガラスセラミック物品を製造する工程、および(v)式(2)の値が、0.2未満、0.19未満、0.18未満、0.17未満、0.16未満、0.15未満、0.14未満、0.13未満、0.12未満、または0.1未満となるように、形成されたガラスセラミックを室温に冷却する工程を含む。
【0114】
ガラスセラミック物品の性質
実施の形態において、ガラスセラミック物品の反りは、反りを決定すべきガラスセラミック物品の対角線測定の関数として測定されることがある。この対角線は、最大の表面積を有するガラスセラミック物品の表面上で測定される。例えば、ガラスセラミック物品が実質的に長方形の形状(例えば、角が丸まった長方形など)を有する場合、反り測定において称される対角線は、実質的に長方形の表面の対角線として測定される。別の例として、ガラス物品が円形表面を有する場合、対角線は、その円形の直径である。さらに別の例として、ガラス物品が楕円形状の表面を有する場合、対角線は、楕円形状の表面上の外周の一点から楕円形状の表面の別の点まで描くことができる最長の直線である。したがって、ここに開示され、記載されたセラミック化サイクル、ガラス前駆体組成物、セッター構成、および積層体構成を使用する実施の形態において、形成されたガラスセラミック物品は、以下:
反り(μm)<(3.65×10-9/μm×対角線
を満たす反りを有するであろう。反り値の単位は、μmなど、対角線が測定される単位に基づくことを理解すべきである。
【0115】
ガラスセラミック物品の対角線に基づく反りの上記測定と一致して、実施の形態において、ここに開示され、記載されたセラミック化サイクル、ガラス前駆体組成物、セッター構成、および積層体構成を使用することによって、形成されたガラスセラミック物品は、105μm未満、100μm未満、95μm未満、90μm未満、85μm未満、80μm未満、75μm未満、70μm未満、65μm未満、60μm未満、55μm未満、または50μm未満など、156mm×76mmのシートで測定して、110μm未満の反りを有することがある。実施の形態において、形成されたガラスセラミック物品は、50μmから100μm、55μmから100μm、60μmから100μm、65μmから100μm、70μmから100μm、75μmから100μm、80μmから100μm、85μmから100μm、50μmから90μm、または95μmから100μmなど、156mm×76mmのシートで、45μmから100μmの反りを有することがある。実施の形態において、形成されたガラスセラミック物品は、45μmから90μm、45μmから85μm、45μmから80μm、45μmから75μm、45μmから70μm、45μmから65μm、45μmから60μm、45μmから55μm、または45μmから50μmなど、156mm×76mmのシートで、45μmから95μmの反りを有することがある。
【0116】
実施の形態において、ここに開示され、記載されたセラミック化サイクル、ガラス前駆体組成物、セッター構成、および積層体構成を使用することによって、形成されたガラスセラミック物品は、シート厚1mm当たり28nm未満の遅延、シート厚1mm当たり26nm未満の遅延、シート厚1mm当たり25nm未満の遅延、シート厚1mm当たり24nm未満の遅延、シート厚1mm当たり22nm未満の遅延、シート厚1mm当たり20nm未満の遅延、シート厚1mm当たり18nm未満の遅延、シート厚1mm当たり16nm未満の遅延、またはシート厚1mm当たり15nm未満の遅延など、シート厚1mm当たり30nm未満の遅延の応力を有することがある。実施の形態において、形成されたガラスセラミック物品は、シート厚1mm当たり18nmから30nmの遅延、シート厚1mm当たり20nmから30nmの遅延、シート厚1mm当たり22nmから30nmの遅延、シート厚1mm当たり24nmから30nmの遅延、またはシート厚1mm当たり28nmから30nmの遅延など、シート厚1mm当たり15nmから30nmの遅延の応力を有することがある。実施の形態において、形成されたガラスセラミック物品は、シート厚1mm当たり15nmから25nmの遅延、シート厚1mm当たり18nmから25nmの遅延、シート厚1mm当たり20nmから25nmの遅延、またはシート厚1mm当たり22nmから25nmの遅延の応力を有することがある。
【0117】
最終製品
ここに開示されたガラスセラミック物品は、ディスプレイを有する物品(またはディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステム、ウェアラブルデバイス(例えば、腕時計)などを含む消費者向け電子機器)、建築物品、輸送物品(例えば、内装ディスプレイカバー、窓、またはフロントガラス用の、例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、電化製品、もしくはある程度の透明性、耐引掻性、耐摩耗性またはその組合せを必要とする任意の物品など、別の物品に組み込まれることがある。ここに開示された強化されたガラスセラミック物品のいずれかを組み込んだ例示の物品が、図30Aおよび30Bに示されている。詳しくは、図30Aおよび30Bは、前面204、背面206、および側面208を有する筐体202;その筐体の少なくとも部分的に中にありまたは完全に内部にあり、少なくとも制御装置、メモリ、およびその筐体の前面にある、またはそれに隣接したディスプレイ210を含む電気部品(図示せず);およびそのディスプレイの上にあるように筐体の前面にあるまたはその上にあるカバー基板212を備えた消費者向け電子機器200を示す。いくつかの実施の形態において、カバー基板212または筐体202の一部の少なくとも一方が、ここに開示されたガラスセラミック強化物品のいずれかを含むことがある。
【0118】
したがって、ここに記載された様々な実施の形態は、従来技術にしたがってセラミック化されたガラス物品と比べて、ガラスセラミック物品内の応力に悪影響を与えずに、またさらには応力を改善しつつ、優れた光学的品質および減少した反りを有するガラスセラミック物品を製造するために利用することができる。そのようなガラスセラミック物品は、その強度性能および高い透過率値のために、携帯型電子機器に使用するのに特にうまく適しているであろう。
【0119】
請求項の主題の精神および範囲から逸脱せずに、ここに記載された実施の形態に、様々な改変および変更を行えることが。当業者に明白であろう。それゆえ、本明細書は、ここに記載された様々な実施の形態の改変および変更を、そのような改変および変更が特許請求の範囲およびその等価物の範囲内に入るという前提で、包含することが意図されている。
【0120】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0121】
実施形態1
ガラスセラミック物品を形成する方法であって、
ガラスシートの積層体を核形成温度に加熱して、ガラスシートの核形成された結晶化可能な積層体を作る工程、
前記ガラスシートの核形成された結晶化可能な積層体を結晶化温度に加熱する工程、および
前記結晶化温度を所定の期間に亘り維持して、前記ガラスセラミック物品を製造する工程、
を有してなり、
前記ガラスシートの積層体は、35以下の質量指数を有する、方法。
【0122】
実施形態2
前記ガラスシートの積層体が、25以下の質量指数を有する、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0123】
実施形態3
前記ガラスシートの積層体が、15以下の質量指数を有する、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0124】
実施形態4
前記ガラスシートの積層体が、10以下の質量指数を有する、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0125】
実施形態5
前記ガラスシートが、1.11mm以下の厚さを有し、前記ガラスシートの積層体内のガラスシートの数が31未満である、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0126】
実施形態6
前記ガラスシートが、1.11mm以下の厚さを有し、前記ガラスシートの積層体内のガラスシートの数が22未満である、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0127】
実施形態7
前記ガラスシートが、1.11mm以下の厚さを有し、前記ガラスシートの積層体内のガラスシートの数が9未満である、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0128】
実施形態8
前記ガラスシートの積層体が担体プレート上に存在する、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0129】
実施形態9
前記ガラスシートの積層体の少なくとも1つの表面上に、セッタープレートが配置されている、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0130】
実施形態10
前記方法が、
ガラスシートの複数の積層体を核形成温度に加熱して、ガラスシートの核形成された結晶化可能な複数の積層体を作る工程、
前記ガラスシートの核形成された結晶化可能な複数の積層体を結晶化温度に加熱する工程、および
前記結晶化温度を所定の期間に亘り維持して、前記ガラスセラミック物品を製造する工程、
を含み、
前記ガラスシートの複数の積層体の各々は、35以下の質量指数を有する、実施形態1に記載のガラスセラミック物品を形成する方法。
【0131】
実施形態11
前記ガラスシートの複数の積層体の各々が、25以下の質量指数を有する、実施形態10に記載の方法。
【0132】
実施形態12
前記ガラスシートの複数の積層体の各々が、10以下の質量指数を有する、実施形態10に記載の方法。
【0133】
実施形態13
ガラスシートの第1の積層体が担体プレート上に位置付けられ、
セッターが、該セッターの第一面が前記ガラスシートの第1の積層体と接触するように該ガラスシートの第1の積層体上に配置され、
前記セッターの第二面上にガラスシートの第2の積層体が配置され、該セッターの第二面が該セッターの第一面の反対にある、実施形態10に記載の方法。
【0134】
実施形態14
前記核形成温度が500℃から650℃であり、前記結晶化温度が680℃から800℃である、実施形態1に記載の方法。
【符号の説明】
【0135】
100 積層体構成
102 担体プレート
104 セッタープレート
106 ガラス積層体
108 ガラスシート
110 離型剤層
112 中間層セッタープレート
200 消費者向け電子機器
202 筐体
204 前面
206 背面
208 側面
210 ディスプレイ
212 カバー基板
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図30B
【国際調査報告】