(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】膜脂質被覆ナノ粒子の製造プロセス
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20220909BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220909BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20220909BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20220909BHJP
A61K 35/768 20150101ALI20220909BHJP
A61K 35/765 20150101ALI20220909BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220909BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220909BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20220909BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20220909BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20220909BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20220909BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220909BHJP
【FI】
C12N7/00
A61P35/00
A61K9/51
A61K35/763
A61K35/768
A61K35/765
A61K35/761
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/26
A61K35/15 Z
A61K35/35
A61K35/545
A61K35/36
A61K35/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502500
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 US2020042420
(87)【国際公開番号】W WO2021011826
(87)【国際公開日】2021-01-21
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522017966
【氏名又は名称】コアスター セラピューティクス インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】チャン,エディー,ユーコン
(72)【発明者】
【氏名】リム,ハン,リャン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065BD36
4B065BD37
4B065BD42
4B065CA44
4C076AA12
4C076AA31
4C076AA65
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB21
4C076CC27
4C076DD21
4C076DD67
4C076FF31
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB34
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4C087BB37
4C087BB38
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4C087CA50
4C087MA17
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4C087MA66
4C087NA12
4C087ZB26
(57)【要約】
【解決手段】
押出によって、ウィルスを含む内部コア、および細胞に由来する細胞性膜を含む外部表面を含むナノ粒子を製造するプロセスが開示されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を製造するプロセスであって、前記プロセスは、ウィルスを含む内部コアと、水溶液中の細胞に由来する細胞性膜を含む外部表面を組み合わせる工程、ならびに前記外部表面で被覆された前記内部コアを含むナノ粒子を形成するために、前記混合物の溶液に押出処理を適用する工程を含む、ナノ粒子を製造するプロセス。
【請求項2】
前記押出処理を適用する工程において、5~300psiの圧力がかけられる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記押出工程は、5~100psiの圧力を必要とする、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記押出工程は、少なくとも10回繰り返される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記水溶液は、塩水溶液である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記水溶液は、糖、または水溶液中の糖と同様の性質を有する成分を含む、非塩水溶液である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記非塩水溶液は、糖液である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記糖液は、スクロース、またはデキストロースを含む溶液である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ウィルスは、腫瘍崩壊ウィルスである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記腫瘍崩壊ウィルスは、ヘルペスウィルス、ワクシニアウィルス、レオウィルス、アデノウィルス、麻疹ウィルス、パルボウィルス、またはそれらの組み合わせである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ウィルスは、アデノウィルスである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記細胞は、血液細胞、脂肪細胞、幹細胞、内皮細胞、エクソソーム、分泌小胞、またはシナプス小胞である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記血液細胞は、赤血球、白血球または血小板である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記血液細胞は、赤血球である、請求項13に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
腫瘍崩壊ウィルス(oncolytic virus、 OV)は優先的に癌細胞を感染させて殺すウィルスである。このウィルスは増殖して癌細胞の溶解(腫瘍崩壊、oncolysis)を引き起こすか、癌免疫抑制の微小環境を妨害し、かつ癌細胞を除去する身体の免疫応答を誘発するために他のメカニズムを引き起こす。最近の成功した臨床データおよび薬の承認は、腫瘍溶解性ウィルス治療上の公的注意を高めた。腫瘍溶解性ウィルス治療の使用は、癌患者のための結果を改善するために他の薬剤、免疫チェックポイント阻害剤、およびT細胞療法と組み合わせることができる。
【0002】
OVの送達経路は腫瘍内注入(intratumoral、i.t.)、静脈内送達(intravenous、i.v.)、および腹膜内送達を含み、腫瘍内注入が主に適用される。
【発明の概要】
【0003】
本発明に従って、本発明は、ウィルスなどを含む内部コア、溶液中の細胞に由来する細胞性膜を含む外部表面と組み合わせる工程を含む、特定のナノ粒子の製造プロセス、ならびに前記外部表面で被覆された前記内部コアを含むナノ粒子を形成するために、前記溶液に押出処理を適用する工程を含むプロセスを提供する。
【0004】
引用による組み込み
本明細書で言及される公開物、特許、および特許出願はすべて、あたかも個々の公開物、特許あるいは特許出願がそれぞれ参照により組み込まれるように具体的かつ個々に指示されるかのような同じ程度、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本発明の新しい特徴はとりわけ添付の請求項に記載される。本発明の特徴と利点をより良く理解するには、本発明の原理が用いられる例示的実施形態を説明する以下の詳細な説明と添付図面とを参照されたい。
【0006】
【
図1】
図1は、露出したアデノウィルスと、本明細書に記載の例示的な押出処理による被覆アデノウィルスを比較した平均粒径の図表を示す。
【
図2】
図2は、様々な露出したウィルスと、本明細書に記載の例示的な押出処理による被覆ウィルスを比較した平均粒径の図表を示す。
【
図3】
図3は、RBC膜被覆ウィルスナノ粒子の蛍光顕微鏡試験結果の画像を例示する。
図3のAは、組織培養をウェルにプレートされたA529癌細胞の明視野写真を提供する。
図3のBは、ナノ粒子で処置された後の、同じ視野の蛍光性の写真を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
現在、ほとんどの腫瘍崩壊ウィルス療法は、局所領域注入(腫瘍内など、i.t.)に制限され、単回注入で治療効果を達成するのに十分かどうかは、まだ検討中である。いくつかのOVが急性の一時的な毒性プロフィールを持つと示されたことが知られており、したがって、ウィルスの注入は、腫瘍細胞に対立してではなく、ウィルスに対抗して競争的な免疫応答が誘導される可能性がある。また、OVの静脈内送達では、OVが血流から急速に除去され得るため、頻繁な、または大量投与が必要となり、治療費の増加と安全性の問題が生じる可能性があるという問題がある。そのため、標的細胞に治療剤を最終的に送達するために、投与して長時間循環にとどまることができるOVを含む組成物を提供することが必要とされている。
【0008】
ナノ粒子上のステルス部分を達成するために、ポリエチレングリコール(PEG)の採用が使用されることは技術分野において既知である。しかしながら、抗PEG免疫応答が引き起こされることがあるため、そのようなアプローチには問題がある。双性イオンの物質(例えば、ポリ(カルボキシベタインおよびポリ(スルホベタイン))を利用するなどの代替アプローチが提案された。
【0009】
最近、膜脂質および関連する膜タンパク質の両方を含む天然の赤血球膜で被覆することにより、機能化ナノ粒子を提供するトップダウン生物模倣型アプローチが実現され、長期循環型カーゴ送達が提供された。C-M. J. Hu et al., Erythrocyte membrane-camouflaged polymeric nanoparticles as a biomimetic delivery platform, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2011, t(July 5); 108(27): 10980-10985を参照。特に、血液細胞(例えば、赤血球(RBC)、白血球(WBC)あるいは血小板)由来の膜脂質は、腫瘍崩壊ウィルスなどではなく、様々な物質を被覆するために特に注目されている。
【0010】
腫瘍崩壊ウィルスコアで、RBC被覆ナノ粒子を調製する様々な試みは試みられたが、音波処理による特定の方法の使用以外の既知の方法に従って成功しなかった。任意の理論によって制限されることを望まないが、ウィルスがある物理的と化学的な条件により不活性化されやすいという事実は、当業者がウィルスを処理するのを制限する。例えば、圧力、熱、および/または高濃度アルコール溶液などの化学物質によって、あるウィルスを不活性化することは既知である。
【0011】
押出は、一定の断面のプロフィールを有する物体を作製するために使用されるプロセスである。物質は所望の断面の金型によって押し通される。他の製造工程と比較して、このプロセスの2つの主な利点は、非常に複雑な断面を作製ができ、かつ物質が圧縮力とずれ応力しか受けないため、脆い物質を加工することができるということである。また、優れた表面仕上げを有する部分も形成する。工業レベルの押出適用は、圧力、温度、加熱、および冷却の制御部を含む。
【0012】
生ウィルスを扱う困難と同じように、赤血球細胞膜などの細胞膜を利用するプロセスも容易ではない。音波処理と押出によってRBC膜小胞を製造する方法が提供されている。例えば、Luk et al.,Nanoscale, 2014, 6, 2730-2737を参照。Lukでは、PLGAポリマーコアが赤血球膜を溶媒置換法で被覆され、続いて、アヴァンティ・ミニ押出成形機(Avanti mini extruder)を用いて、100nmのポリカーボネート多孔質膜を通して押出を行った。押出された小胞は特定の閾値以上の押出圧力でのみ生成され、押出圧力によって変動する大きさを有することが報告されている。最小圧力は、システムの任意の曲げ弾性率ではなく、脂質二重層の溶解張力に関連しているようである。気孔(pore)を通る等濃度脂質溶液の流量は、水の粘度に対して修正された後、脂質特性に依存しない。Hunter, et al., Biophysical Journal, 74, 1998, 2996-3002を参照。
【0013】
しかしながら、RBC膜を調製する押出の使用にもかかわらず、RBC膜を有するウィルスコアを含むナノ粒子を製造する押出プロセスは見つかっていない。RBC膜によるウィルスのカプセル化には、圧力、熱、および/または他の要因が関与しているため、このプロセスは適していない可能性が高い。
【0014】
実際、圧力によるウィルス不活性化のプロセスは有望な代替手段であり、工業的に成熟した技術であることは技術分野において既知である。例えば、Dumardら、 PLOS ONE、 、November 2013、 volume 8、 issue 11、e80785を参照。例えば、アデノウィルスがUV処置に耐性を示すことは既知である。しかし、低圧UVはアデノウィルスを不活性化する。したがって、当業者であれば、押出プロセスはウィルスを不活性化する可能性があるため、ウィルスに使用することは考えないと思われる。
【0015】
発明の実施によれば、驚くべきことに、本明細書に記載のウィルスコアを含む本発明に係るナノ粒子を調製するために、押出を含む条件を使用することができ、そういう条件がウィルスを不活性化しないため、そのようなプロセスを、前記ナノ粒子を調製する実行可能な方法とすることが見いだされた。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明に係るプロセスは、押出の工程の前に、ウィルス粒子を含むあらかじめ被覆された溶液、および適切な溶媒(例えば、水性溶媒)中の細胞由来膜の調製に関与している。ウィルス粒子の例としては、アデノ随伴ウィルス、アデノウィルス、単純疱疹ウィルス、およびワクシニアウィルスが、あげられるが、これらに限定しない。ゲノムコピー数の数で測定されるウィルス濃度は、いくつかの実施形態において、1mL当たり104ゲノムコピ~1mL当たり1015のゲノムコピーの範囲である。血液由来膜の濃度は、全体のタンパク濃度で測定され、いくつかの実施形態では、1mL当たり0.001mg~1mL当たり10mgの間の範囲である。
【0017】
製造プロセスで使用されるウィルスの大きさに応じて、ウィルスの大きさとほぼ同等、またはそれよりも大きい気孔を有するナノポア膜を使用するこができる。例えば、約100nmの既知の大きさのウィルスは、100nm以上の孔径のナノポア膜とマッチさせることができる。
【0018】
押出方法/プロセスに使用される任意の適切な装置は、当業者であれば、容易に認識する。例えば、ナノポアを漏れがないように適所に固定されたナノポアを保持するチャンバーの注入口を含み、ナノポアの向かいに押出口を有する装置が、本発明の実施に従って使用される。
【0019】
次に、上記のあらかじめ被覆された溶液を、注入口を介してナノポア膜を含むチャンバーに装填する。そして、驚くべきことに、ある程度の圧力(例えば、5~10Psi程度)をかけると、溶液は強制的にナノポア膜を通過し、反対側に出て、押出口に回収される。このプロセスの際に及ぼされた物理的な力は、細胞由来膜中で混乱を引き起こす。分裂した膜は、次に、ウィルス粒子を包み込み再生成し、それによって、いくつかのウィルス粒子を被覆またはカプセル化する。議論されるように、当技術分野において既知の押出法を利用したいくつかの試みがあった。しかしながら、驚くべきことに、発明の実施に係る低圧の押出プロセスのみが、満足なウィルスカプセル化ナノ粒子を提供することが見出された。前記押出プロセスは、溶液中のほとんどすべてのウィルス粒子の完全なカプセル化を保証するために通常、15~30回の間で繰り返され得る。いくつかの実施形態では、押出プロセスは10~30回、15~30、回15~25回、または15~20回繰り返される。ウィルス上にコーティングを加える物理的な行為は、結果として生じる粒子の大きさを増加させる。したがって、カプセル化の証拠は、粒度直径の増加によって証拠づけられる。
【0020】
本明細書で言及された用語「腫瘍崩壊ウィルス」は、ヘルペスウィルス、ワクシニアウィルス、レオウィルス、アデノウィルス、麻疹ウィルス、パルボウィルス、またはそれらの組み合わせの非限定的な例を含む。
【0021】
当技術分野では、ウィルスを自殺遺伝子の送達用ベクターとして使用できることが知られており、前記自殺遺伝子が、単独投与された非毒性のプロドラッグを、強力な細胞毒に代謝し、近隣の細胞に拡散して殺すことができる酵素をコードしている。したがって、本明細書に開示された治療剤は、このようなベクター、自殺遺伝子、またはコード化酵素も含む。
【0022】
本発明に従って、驚くべきことに、ウィルスなどを含む内部コア(治療剤)などと、溶液中の細胞に由来する細胞性膜を含む外部表面とを組み合わせる工程、および、前記外部表面で被覆された前記内部コアを含むナノ粒子を形成するために、前記溶液に押出を適用する工程を含む、ナノ粒子を製造プロセスが見いだされる。いくつかの実施形態は、ウィルスを含む内部コア、および細胞に由来する細胞性膜を含む外部表面を含むナノ粒子を提供する。ある実施形態では、前記ウィルスは腫瘍崩壊ウィルスである。ある実施形態では、前記腫瘍崩壊ウィルスは、ヘルペスウィルス、ワクシニアウィルス、レオウィルス、アデノウィルス、麻疹ウィルス、パルボウィルスまたはそれらの組み合わせである。ある実施形態では、前記ウィルスはアデノウィルスである。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記細胞は、血液細胞、脂肪細胞、幹細胞、内皮細胞、エクソソーム、分泌小胞、またはシナプス小胞である。ある実施形態では、前記血液細胞は赤血球、白血球または血小板である。ある実施形態では、前記血液細胞は赤血球である。
【0024】
いくつかの実施形態は、ナノ粒子の製造プロセスを提供し、前記プロセスは、ウィルスを含む内部コアと、溶液中の細胞に由来する細胞性膜を含む外部表面を組み合わせる工程、および、前記外部表面で被覆された前記内部コアを含むナノ粒子を形成するために、前記溶液に押出を適用する工程を含む。ある実施形態では、溶液が塩水溶液または非塩水溶液であって、砂糖など(例えば、水溶液中の砂糖と同様の特性を有する成分)を含む。ある実施形態では、前記非塩水溶液は糖液である。ある実施形態では、前記糖液はスクロース、またはデキストロースを含む溶液である。いくつかの実施形態では、前記ウィルスは腫瘍崩壊ウィルスである。ある実施形態では、前記腫瘍崩壊ウィルスは、ヘルペスウィルス、ワクシニアウィルス、レオウィルス、アデノウィルス、麻疹ウィルス、パルボウィルス、またはそれらの組み合わせである。ある実施形態では、前記腫瘍崩壊ウィルスはアデノウィルスである。いくつかの実施形態では、前記細胞は、血液細胞、脂肪細胞、幹細胞、内皮細胞、エクソソーム、分泌小胞、またはシナプス小胞である。ある実施形態では、前記血液細胞は赤血球、白血球、または血小板である。ある実施形態では、前記血液細胞は赤血球である。
【0025】
本発明は、腫瘍崩壊ウィルスなどの治療剤の送達するための、細胞性膜由来のナノ粒子を提供する。腫瘍崩壊ウィルスなどの治療剤を細胞性膜脂質で被覆することで、前記治療剤が本質的に隠される。
【0026】
いくつかの実施形態では、腫瘍崩壊ウィルスなどの治療剤は、対象(例えば、患者)の血流内の循環に適合性のある脂質で被覆される。これにより、EPR効果(増強された透過性および停留)によって腫瘍血管系への薬剤の送達が可能になる。腫瘍血管系では、特定の分子は、正常組織よりも腫瘍組織で蓄積する傾向がある。EPR効果は、通常、ナノ粒子やリポソームの癌組織への送達を説明するために採用されている。多くの例の1つは、金ナノ粒子を用いた熱的アブレーションに関する研究である。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノ粒子が、腫瘍の血管構造の近くで蓄積し、治療剤(例えば、OV)は、癌細胞と接触するであろう。そして、OVは細胞に感染し、細胞の溶解、細胞死、または除去を引き起こす。
【0027】
いくつかの実施形態は、本明細書に開示されるナノ粒子の調製方法を提供する。例えば、血液細胞は、全血、または血液供給業者から入手した加工赤血球から精製することができる。RBCは、ヒト血液に豊富に存在するため、かつ、個人のドナーから血液を容易に集めることができるため、膜源として特に有用である。RBCは、赤血球ゴースト(または、RBCゴースト)の形で提供することができ、内部タンパク質が枯渇され、膜成分が本質的に無傷のままである。RBCゴーストの使用はまた、被覆プロセスの際に妨げ得る赤血球細胞タンパク質の存在を減少させる。いくつかの実施形態では、RBCはO型陰性血球(すなわち、「万能ドナー」)である。そのような膜源は、より多くの対象に治療剤(例えば、OV)を送達するために、ナノ粒子の調製に使用することができる。ある実施形態では、ナノ粒子の個別化されたバッチのため、同じ患者に由来する細胞性膜を使用することができる。
【0028】
RBC細胞由来のナノ粒子は、他のプラットフォーム、例えばPEG被覆されたナノ粒子と比較して、CD47、CD59(補体細胞溶解を回避するMAC阻害タンパク質)、CD55(DAF)、CD35(CR1)、免疫グロブリン・スーパーファミリー(immunoglobulin superfamily)の他のメンバーなどの、多くの表面マーカーを有し、全身クリアランスからそれ自体を防御する。いくつかの実施形態では、本明細書の被覆に用いられた細胞性膜は、細胞表面マーカー、MHC分子、および糖タンパク質などの非脂質成分をさらに組み込むことができる。他の実施形態では、細胞性膜は、PEGなどの親水性成分をさらに組み込むことができる。
【0029】
本明細書に使用される用語「細胞性膜」は、細胞もしくは出現したウィルス粒子内、またはその周囲で、選択的バリアとして作用する生物膜の包囲または分離構造を意味する。細胞性膜は、イオンと有機分子に対して選択的に浸透性があり、細胞内外の物質の移動を制御する。細胞性膜は、リン脂質単層またはリン脂質二重層、および任意に結合しているタンパク質および炭水化物を含む。本明細書で使用されるように、細胞性膜という用語は、細胞または細胞小器官の自然発生の生体膜、あるいは生体膜に由来するものを意味する。
【0030】
本明細書で使用されるように、「自然発生(naturally occurring)」という用語は、自然界に存在するものを意味する。
【0031】
本明細書で使用されるように、「に由来する(derived therefrom)」という用語は、細胞性膜の単離、膜の一部または断片の作成、 細胞または細胞小器官から取り出された膜から/への、脂質、タンパク質、炭水化物などの特定の成分の除去および/または添加などの天然細胞性膜の任意のその後の修飾を指す。膜は任意の適切な方法によって自然発生の膜に由来する場合がある。例えば、膜は細胞から調製または単離することができ、調製または単離された膜は、他の物質または材料と組み合わせて、由来膜(derived membrane)を形成することができる。別の実施例において、細胞はその膜に生体内で組み込まれる、「非天然」または「天然」物質を生成するように、組換え操作ができる。そして、細胞性膜またはウィルス性膜は、由来膜を形成するために、細胞から調製または単離することができる。
【0032】
細胞性膜は既知の方法によって調製することができる。例えば、細胞は、微細流動装置(microfluidizer)(MF)、または水などの低張液、その後の生理食塩水もしくはPBSでの限外濾過またはダイアフィルトレーションを用いて、破裂させることができる。場合によっては、より高いイオン強度の溶液が豚の肝臓から血液を取り除くのに役立った。したがって、PBS溶液または塩水(NaCl solution)は、濾過プロセスを通じて細胞内の塊を取り除くのを支援することができる。EDTAなどの抗凝血薬も、例えば不純物を取り除くためにダイアフィルトレーションの際に用いることができる。いくつかの実施形態では、タンジェント流濾過(Tangential Flow Filtration (TFF))装置、または遠心分離を使用して、膜を精製することができる。精製された膜成分は、BCAタンパク質検査などによって、細胞タンパク質の存在を検査することができる。好ましくは、ほとんどの非膜成分は被覆前に取り除かれる。
【0033】
多くの努力にもかかわらず、US2013/033 7066の手順などの既知の方法に従って、腫瘍崩壊ウィルス、またはウィルスからのDNA塩基配列であるCRISPRなどのウィルスが、細胞性膜(例えば、RBC膜)によって被覆、またはカプセル化できないことが確認された。驚くべきことに、細胞性膜(例えば、RBCゴースト)が、ある条件でのみ、ウィルスなどを被覆することが確認された。本明細書に開示されるナノ粒子を調製するプロセスは、溶液中のRBCゴーストおよびOVの混合物の押出を必要とする。ある実施形態では、本発明の押出プロセスでかけられる圧力は、使用される多孔質膜の細孔径に依存し、約1~300psiである。ある実施形態では、プロセスでかけられた圧力は、約5~300、5~200、5~100、5~50、5~40、5~30、5~20または5~10psiである。ある実施形態では、プロセスでかけられた圧力は約5~10psiである。
【0034】
発明の実行に合わせて、被覆に適しているウィルスは、癌細胞を感染させ得る他のウィルスと同様に、腫瘍崩壊ウィルスも含む。ウィルスは包み込まれた形態、また包み込まれていない形態(noneveloped)があり得る。いくつかの実施形態では、ウィルスベクターは、癌細胞に感染して、複製することができるため(複製能)、好ましい。
【0035】
いくつかの実施形態は、ウィルスなどを含む内部コアを、水溶液中の細胞に由来する細胞性膜を含む外部表面と組み合わせる工程、ならびに前記外部表面で被覆された前記内部コアを含むナノ粒子を形成するために、混合物の前記溶液に押出処理を適用する工程を含む、ナノ粒子を製造するプロセスを提供する。いくつかの実施形態では、前記押出プロセスを適用する前記工程において、5~300psiの圧力がかけられる。ある実施形態では、前記押出ステップは、5~100psiの圧力を必要とする。いくつかの実施形態では、前記押出ステップが少なくとも10回、または10~30回、または10~20回繰り返される。いくつかの実施形態では、前記水溶液は塩水溶液か、非塩水溶液である。ある実施形態において、前記水溶液は、糖、または水溶液中の糖と同様な性質を有する成分を含む、非塩水溶液である。ある実施形態では、前記非塩水溶液は、スクロースなどの糖液、またはデキストロースを含有する溶液である。いくつかの実施形態では、前記ウィルスは、ヘルペスウィルス、ワクシニアウィルス、レオウィルス、アデノウィルス、麻疹ウィルス、パルボウィルス、またはそれらの組み合わせなどの腫瘍崩壊ウィルスである。いくつかの実施形態では、前記ウィルスはアデノウィルスである。いくつかの実施形態では、前記細胞は、血液細胞、脂肪細胞、幹細胞、内皮細胞、エクソソーム、分泌小胞、またはシナプス小胞である。いくつかの実施形態では、前記血液細胞は赤血球、白血球、または血小板である。ある実施形態では、前記血液細胞は赤血球である。
【0036】
特定の薬学および医学用語
本明細書で使用されるように、製剤、組成物、または成分に関する「許容可能な」という用語は、処置されている対象の通常の健康状態に対して持続的な有害効果がないことを意味する。
【0037】
本明細書で使用されるように、「担体」という用語は、細胞または組織への化合物の取り込みを促す比較的無毒な化合物または薬剤を指す。
【0038】
「医薬組成物」という用語は、ナノ粒子(すなわち、本明細書に記載されたナノ粒子)と、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、担体、安定剤、希釈剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、および/または賦形剤などの他の化学成分の混合物を指す。医薬組成物は、有機体への化合物の投与を促進する。化合物を投与する複数の技術が当該技術分野に存在し、これらは以下を費限定的に含む。静脈内、経口、エアロゾル、非経口、経眼、肺、局所的な投与。
【0039】
「対象」または「患者」という用語は、哺乳動物を包含する。哺乳動物の例は、限定されないが、以下の哺乳動物のクラスの任意のメンバー、ヒト、チンパンジーなどの非ヒト霊長類、および他の類人猿ならびにサル種、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどの家畜、ウサギ、イヌ、およびネコなどの飼育動物、ラット、マウス、およびモルモットなどのげっ歯類を含む実験動物などを含む。1つの実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0040】
「処置する」、「処置すること」、または「処置」という用語は、本明細書で使用されるように、疾患または疾病の少なくとも1つの症状を緩和するか、軽減するか、あるいは改善すること、追加の症状を防ぐこと、疾患または疾病を阻害すること、例えば、疾患または疾病の発症を抑えること、疾患または疾病を軽減すること、疾患または疾病の退行を引き起こすこと、疾患または疾病によって引き起こされた状態を軽減すること、あるいは疾患または疾病の症状を予防的におよび/または治療的に止めることを含む。
【0041】
本明細書に記載された様々な実施形態あるいはオプションはすべて、任意の、および全ての変形で組み合わせることができる。以下の実施例は、単に発明を説明するためのものであり、本発明をいずれの方法によっても限定することを企図していない。
【実施例】
【0042】
実施例1.押出によって、細胞性膜で被覆されたナノ粒子の例示的な調製物
【0043】
細胞性膜調製(例えば、RBCゴーストの調製)は、当技術分野において既知である。ここで、細胞性膜(RBC細胞膜)を調製する、非限定的な例に従って、本発明のナノ粒子を調製するための例示的な細胞性膜を提供した。
材料:
・ウィルス(既知の粒子直径、例えば、アデノウィルスでは1012~1013PFU、ヘルペスウィルスでは108~109PFU、ワクシニアウィルスでは108~109PFU、アデノ関連ウィルスでは1011~1013ウィルス粒子/mLを有する)
・血液由来膜
・ナノポア膜フィルター(例えばポリカーボネートフィルター、細孔径800nm、400nmおよび200nm)
・押出装置
・気密の注射器2本
・脱イオン水
【0044】
手順:血液由来の膜でウィルスをカプセル化するために、高濃度の膜(例えば、RBC細胞膜)、およびウィルスを含む溶液は、ナノポア膜を通して繰り返し(約20回)押出された。より大きな細孔径のナノポア膜を用いて、第1の押出を行った(1600nmまたは800nm)。その後、得られた溶離液を回収した。その後、溶離液は、より小さな孔径(例えば、800→400→200)でさらに押出され、ウィルスの大きさよりわずかに大きな孔径で仕上げが行われた。例えば、ウィルスの直径が120~150nmである場合、孔径200nmのナノポア膜が使用される。
【0045】
押出のための例示的な方法は以下に詳述される。
【0046】
押出前の調製
・ナノポア膜フィルターを挟んで、押出装置を組み立てた。
・気密の注射器に、100μLの滅菌脱イオン水装填した
・膜を前もって湿らせるために、100μLの滅菌脱イオン水を、気密注射器を使用して膜を通過させた。
ナノポア膜を介した押出
1. 500μL~1000μLの膜(例えば、RBC膜)に、体積に対して、約1~2%のウィルス(例えば、アデノウィルス)の量(500μL中の5~10μl)を十分に添加し、均一に混合した。
2. 気密注射器に、ウィルス/膜溶液(virus/membrane solution)(「V/M 溶液」)を装填した。
3. 押出セットアップに気密注射器を挿入した。
4. 押出セットアップに装填した注射器の向かいに、空の気密注射器を挿入した。
5. V/M溶液を、約5~10psiの低圧で、装填した注射器から、空の注射器に膜を介して押出た。
6. V/M溶液を、空になった注射器(前回装填した注射器)に押し戻した。
7. V/M溶液が、ナノポア膜を確実に通過するように、ステップ5~6を少なくとも10回、ある例では20回以上、繰り返した。
【0047】
得られた被覆ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮像し、粒子径を測定した。
図1は、露出したアデノウィルスと、本明細書に記載の例示的な押出処理による、被覆アデノウィルスを比較した平均粒径の図である。より大きな直径の被覆ウィルスは、本発明の方法による被覆ウィルスを製造するプロセスが成功裡に行われたことを明確に実証する。
【0048】
本発明のプロセスは、様々な被覆ウィルスの調製に特に役立つ。
図2は、様々な被覆ウィルスと、本明細書に記載の例示的な押出処置による露出したウィルスを比較した、平均粒径の図表を示す。
【0049】
実施例2.RBC膜で被覆されたウィルスナノ粒子の蛍光顕微鏡研究結果
蛍光顕微鏡を用いて、押出プロセス後ウィルスが感染力を維持できることを実証した。A529癌細胞を、24ウェル組織培養プレート上にプレートし、成長させた。それらが成長するとともに、EDM被覆アデノウィルスで10分間処理し、ウィルスを含む培地が除去する前に、細胞をPBSですすいでから、細胞を通常の増殖培地に入れ替えた。使用されたEDM被覆アデノウィルスは、ウィルスが細胞を感染させる際、蛍光性のタンパク質を発現する遺伝子を含んでいた。
【0050】
図3のAは、組織培養ウェルにプレートされたA529癌細胞の明視野写真を提供する。
図3のBは、被覆アデノウィルスによる成功した感染後の蛍光性のタンパク質を発現する癌細胞を示す、同じ視野の明視野写真を提供する。したがって、本発明の押出プロセスは、RBC膜によって被覆されたウィルスを不活性化しないことが、驚くべきことに、明確に示された。
【0051】
本発明の好ましい実施形態が本明細書中で示され、記載されてきたが、このような実施形態はほんの一例として提供されているに過ぎないことが当業者に明らかであろう。当業者であれば、多くの変更、変化、および置換が、本発明から逸脱することなく思いつくだろう。本明細書に記載される本発明の実施形態の様々な代替案が、本発明の実施に際して利用され得ることを理解されたい。以下の請求項は本発明の範囲を定義するものであり、この請求項とその均等物の範囲内の方法、および構造体がそれによって包含されるものであるということが意図されている。
【国際調査報告】