(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】カチオン性ポロキサマー及び形質導入におけるこれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20220909BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220909BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220909BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220909BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220909BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220909BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20220909BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20220909BHJP
A61Q 90/00 20090101ALI20220909BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20220909BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20220909BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N5/10
A61K9/16
A61K47/34
A61K48/00
A61K35/12
A61P43/00
A61K47/46
A61K8/02
A61Q90/00
A61K8/99
A61K8/86
C08L71/00 Y
C08L71/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503458
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(85)【翻訳文提出日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2020069517
(87)【国際公開番号】W WO2021009030
(87)【国際公開日】2021-01-21
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522022041
【氏名又は名称】オズ バイオサイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】フロラン プーレ
(72)【発明者】
【氏名】セドリック サペ
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ ズルファティ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C083
4C084
4C087
4J002
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA65
4C076CC50
4C076EE23
4C076EE56
4C076FF31
4C076FF68
4C083AA011
4C083AD071
4C083CC01
4C083DD17
4C083EE50
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA41
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZC01
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087MA05
4C087MA41
4C087NA12
4C087NA13
4C087ZC01
4J002CH011
4J002CH051
4J002GB00
(57)【要約】
本発明は、添加剤単独として導入された又はナノ粒子と共に製剤化されたカチオン性ブロック共重合体を用いたウイルスベクターによる標的細胞の形質導入の増強方法に関する。方法は、標的細胞をウイルス及びカチオン性ブロック共重合体と接触させることのステップを含む。この添加剤の構造は、重合体の骨格中に異なる領域を提示する親水性及び疎水性領域の両方を組み込んでいる。この重合体の構築は、ウイルス形質導入のさらなる増強に寄与するカチオン性化学的機能によって終結される。また、本発明は、本発明の方法において使用することができる新規カチオン性ポロキサマーにも関する。さらに、本発明の別の実施形態は、これらの重合体を用いて鉄ベースのナノ粒子のコロイド安定化及び形質導入効率向上におけるこれらの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性ポロキサマーを用いたウイルスベクターの標的細胞への形質導入方法。
【請求項2】
前記カチオン性ポロキサマーを、単独で使用又はナノ粒子と共に製剤化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カチオン性ポロキサマーを、単独又は前記カチオン性ポロキサマーを含むいずれかの組成物で使用することを特徴とする、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的細胞を、ウイルスベクター及びカチオン性ポロキサマーと接触させる工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記標的細胞は、ウイルスとの接触前に、ウイルスとの接触と同時に又はウイルスとの接触後に前記カチオン性ポロキサマーと接触する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カチオン性ポロキサマー及び前記ウイルス粒子を、混合物として前記細胞上に同時に、又は順次添加する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルス、前記カチオン性ポロキサマー及び前記細胞の前記接触は、5秒~3ヶ月の範囲、好ましくは、10分~2週間の範囲、より好ましくは、20分~1週間の範囲、さらにより好ましくは0.5時間~120時間の範囲であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カチオン性ポロキサマーを、0.01~500mg/ml、好ましくは0.05~300mg/mL、より好ましくは1~200mg/mL、さらにより好ましくは5~150mg/mLのストック濃度で提供する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記カチオン性ポロキサマーをナノ粒子との製剤化で使用する場合、前記ナノ粒子は、磁性ナノ粒子である、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルス、前記細胞及び前記アジュバントを10秒~96時間、好ましくは、1分~48時間、より好ましくは5分~4時間接触させた場合、磁場のさらなる工程が適用されることを特徴とする、請求項2又は9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記標的細胞をウイルス及びカチオン性ポロキサマーと接触させる前又は接触させた後、スピノキュレーション又は遠心分離のさらなる工程を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
式I又は式II:
【化1】
【化2】
に記載の新規直鎖若しくは分岐鎖カチオン性ポロキサマーであって、前記式中、
Pは、式IIIa又はb:
【化3】
に従うか又はPは、式IV又はb:
【化4】
に従い、前記式中、
- 「a」は、前記高分子骨格P中で反復される親水性単位数を表し、2~10000、好ましくは5~1000、より好ましくは20~200の範囲である整数であり;
- 「a-1」は、前記「a」から1単位を減算したものであり、2~10000、好ましくは5~1000、より好ましくは20~200の範囲である整数であり;
- 「b」は、前記高分子骨格P中で反復される疎水性単位数であり、2~1000、好ましくは5~500、より好ましくは15~80の範囲である整数であり;
- 「b-1」は、前記「b」から1単位を減算したものであり、2~1000、好ましくは5~500、より好ましくは15~80の範囲である整数であり;
- X
1、X
2、X
3及びX
4は、同じでも異なっていてもよく、好ましくは、窒素、リン、ケイ素、硫黄及び酸素、より好ましくは、窒素、リン、ケイ素又は硫黄、さらにより好ましくは、窒素、リン又は硫黄から選択され、それぞれ、R
1、R
2、R
3及びR
4と共有結合するヘテロ原子を表し;
- nは、1~20、より好ましくは2~6に含まれる整数であり;
- R
1、R
2、R
3及びR
4は、同時に又は独立して、
・ 1~6水素原子、好ましくは、2~4水素原子、
・ 例えば、窒素、リン、ケイ素、硫黄及び酸素、好ましくは、窒素、リン、ケイ素又は硫黄、より好ましくは、窒素、リン又は硫黄から選択される1~8ヘテロ原子、好ましくは、2~4ヘテロ原子、
・ 酸素、窒素、硫黄、リンなどの1つ以上のヘテロ原子を組み込んでいるか又は組み込んでいない1~24個の炭素原子を含む1~24、好ましくは1~12、より好ましくは1~6直鎖、分岐鎖及び/又は環式飽和又は不飽和炭化水素基、
・ 天然又は非天然の1~6、より好ましくは1~3アミノ酸残基、
・ これらの定義のいずれかの組合せ
から選択される非ポリマー性化学成分であり;
- A
1、A
2、A
3及びA
4は、例えば、
○ 例えば、ヨウ化物、臭化物、塩化物又はフッ化物などのハロゲン系アニオン;
○ 例えば、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロアセテート、アセテート、ホルメート、パラトルエンスルホネート、カルボネート、水素カルボネートなどの炭素原子上に集中している又はしていない負電荷を有する有機基;
○ 例えば、スルフェート、ホスフェート、ナイトレート、水素スルフェート、水素ホスフェートなどの無機アニオン;
○ テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート又はペルクロレート、カルバ-closo-ドデカボレートなどの無機非配位無機アニオン;
○ テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート骨格をベースとするホウ素中心有機アニオン
などの1つ又はいくつかの有機基から選択することができる同じ又は異なる対イオンを表すことができ;
○F108骨格を除いて、前記式中、aは130~135に含まれる整数であり、bは48~52に含まれる整数であり、a-1は129~134に含まれる整数であり、X
1R
1=X
2R
2=NH
2,又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
2-S-S-C
5H
4N、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-NH
2であり;F127骨格、aは98~103に含まれる整数であり、bは52~58に含まれる整数であり、a-1は97~102に含まれる整数であり、そしてX
1R
1=X
2R
2=NH
2、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
2-NH
2、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
2-NH-C
19-H
18-N
7-O
5、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-(CH
2)
2-NH-(CH
2)
3-NH-(CH
2)
4-NH-(CH
2)
3-NH
2、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-CH(NH
2)-CH-(CH
3)
2、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
2-NH-(CH
2)
2-NH-(CH
2)
2-NH
2、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-CH(NH
2)-CH
2-SHであり;F68骨格、aは72~78に含まれる整数であり、bは25~32に含まれる整数であり、a-1は71~77に含まれる整数であり、そしてX
1R
1=X
2R
2=NH
2,及びX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
2-S-S-C
5H
4N、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-NH
2であり;P123骨格、aは17~23に含まれる整数であり、bは67~73に含まれる整数であり、a-1は16~22に含まれる整数であり、X
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
2-NH
2;L121骨格、そしてaは8~12に含まれる整数であり、bは64~72に含まれる整数であり、a-1は7~11に含まれる整数であり、そしてX
1R
1=X
2R
2=-CH=N-(CH
2)
2-NH
2又はX
1R
1=X
2R
2=-CH=N-(CH
2)
4-NH
2又はX
1R
1=X
2R
2=-CH=N-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-NH
2であり;P85骨格、aは24~28に含まれる整数であり、bは38~42に含まれる整数であり、a-1は23~27に含まれる整数であり、そしてX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
3-NH
2;P105骨格、aは34~39に含まれる整数であり、bは52~60に含まれる整数であり、a-1は33~38に含まれる整数であり、そしてX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
2-S-S-C
5H
4N、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-NH
2であり;F88骨格、aは94~100に含まれる整数であり、そしてbは34~42に含まれる整数であり、a-1は93~99に含まれる整数であり、X
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-(CH
2)
2-S-S-C
5H
4N、又はX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-NH-NH
2;P124骨格、aは8~14に含まれる整数であり、そしてbは16~24に含まれる整数であり、a-1は7~13に含まれる整数であり、そしてX
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-CH
2-C
12H
20N
3O
8、又はX
1R
1=X
2R
2=N((CH
2)
3-NH
2)-(CH
2)
4)-NH
2であり;P104骨格、aは24~30に含まれる整数であり、bは56~64に含まれる整数であり、a-1は23~29に含まれる整数であり、X
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-(CH
2)
2-NH-(CH
2)
3-NH-(CH
2)
4-NH-(CH
2)
3-NH
2であり;P103骨格、aは14~20に含まれる整数であり、bは56~64に含まれる整数であり、a-1は13~19に含まれる整数であり、X
1R
1=X
2R
2=-O-C(O)-(CH
2)
2-NH-(CH
2)
3-NH-(CH
2)
4-NH-(CH
2)
3-NH
2;L64骨格、aは10~16に含まれる整数であり、そしてbは26~34に含まれる整数であり、a-1は9~15に含まれる整数であり、そしてX
1R
1=N
3及びX
2R
2=-C
17H
15N
2O
2であり;T908骨格、aは116~122に含まれる整数であり、bは15~20に含まれる整数であり、a-1は115~121に含まれる整数であり、X
1R
1=X
2R
2=X
3R
3=X
4R
4=NH
2である、
カチオン性ポロキサマー。
【請求項13】
「-X
1R
1」、「-X
2R
2」、「-X
3R
3」及び「-X
4R
4」は、
○ 第一級、第二級又は第三級アミンカチオン性部分。グアニジン、ヒドラジン、グアニジニウム、ヒドラジニウムなどのアミン誘導体は本発明に記載の好ましい実体であり得る;
○ 例えば、置換トリ-n-ブチルホスホニウム、置換トリフェニルホスホニウム、置換トリエチルホスホニウムなどの有機第四級ホスホニウム部分;
○ 例えば、置換第四級トリメチルアンモニウム、置換第四級トリ-n-ブチルアンモニウム、置換第四級トリ-n-オクチルアンモニウムなどの4炭素部分と共有結合された窒素原子をベースとする第四級アンモニウム塩;
○ 例えば、置換ジメチルスルホニウム、置換ジ-n-ブチルスルホニウム、置換ジ-n-オクチルスルホニウムなどの3炭素部分と共有結合された硫黄原子をベースとする有機第三級スルホニウム塩;
○ 酸素、窒素、硫黄、リンなどの少なくとも1~6個の同様の又は異なるヘテロ原子を組み込み、そしてこれらに芳香族性を提供する少なくとも1つの不飽和を含む、環上に非局在化する又は非局在化しない正味正電荷を有する有機複素環;
○ 例えば、天然又は非天然の、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、トリプトファンなどのカチオン性電荷の源としての塩基性アミノ酸残基;
○ 例えば、ポリマー性でないスペルミン、スペルミジン又はテルモスペルミン誘導体などの天然非高分子ポリアミン
の中から選択される非ポリマー実体であることを特徴とする、請求項12に記載の新規直鎖又は分岐鎖カチオン性ポロキサマー。
【請求項14】
前記正味正電荷を有する有機複素環は、ピリジン及びそのカチオン性カウンターパートピリジニウム;イミダゾール及びそのカチオン性カウンターパートイミダゾリウム;トリアゾール及びそのカチオン性カウンターパートトリアゾリウム;ピペリジン及びそのカチオン性カウンターパートピペリジニウム;モルホリン及びそのカチオン性カウンターパートモルホリニウムから選択されることを特徴とする、請求項13に記載のカチオン性ポロキサマー。
【請求項15】
式:
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
に記載の化合物から選択される、請求項13又は14に記載のカチオン性ポロキサマー。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一項に記載の式I又はIIに記載の化合物を含む組成物、好ましくは、治療用若しくは化粧品用若しくは生命科学のための組成物。
【請求項17】
標的細胞に形質導入するためのカチオン性ポロキサマー及びウイルスを含む組成物。
【請求項18】
単独又はウイルスをさらに含む請求項1~15のいずれか一項に規定されているように製剤化されたカチオン性ポロキサマー、及び必要に応じて使用説明書をさらに備えるキット。
【請求項19】
請求項1~11に記載の方法により得られる形質導入された細胞の集団。
【請求項20】
細胞遺伝子療法を用いた治療を必要とする対象を治療することの方法であって、前記方法は、請求項19の形質導入された細胞集団の有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項21】
細胞の形質導入においてウイルスベクターを使用するための請求項12~15のいずれか一項に記載のカチオン性ポロキサマーの使用。
【請求項22】
前記カチオン性ポロキサマーは、請求項12~15のいずれか一項で規定された通りである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本書類に記載の方法は、添加剤単独として導入又はナノ粒子(本文中、化学的アジュバントとも呼ぶ)と共に製剤化されたカチオン性ブロック共重合体を用いたウイルスベクターによる標的細胞の形質導入の増強に関する。方法は、標的細胞をウイルス及びカチオン性ブロック共重合体と接触させるステップを含む。この添加剤の構造は、重合体の骨格中に異なる領域である親水性及び疎水性領域の両方を組み込んでいる。この重合体の構築は、ウイルス形質導入のさらなる増強に寄与するカチオン性化学的機能によって終結される。本発明は、本発明の方法において使用することができる新規カチオン性ポロキサマーにも関する。さらに、本発明の別の実施形態は、これらの重合体を用いて鉄ベースのナノ粒子のコロイド安定化及び形質導入効率向上におけるこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子及び細胞応用において、ウイルスの使用は、ほとんどの細胞、特に初代細胞の遺伝子改変のための選択方法である。このベクターの種類、特にレトロウイルスは、感染細胞における安定な遺伝子発現を可能とし、すぐに、研究及び治療応用の両方のための重要な礎になる。
【0003】
近年、レンチウイルス(LV)ベクターは、増殖しているか否かに関わらず、ヒト又は他の哺乳類細胞を感染させるために首尾良く使用されてきた。殆どの場合、これらの手順の成功は、糖タンパク質を有する偽型LVの使用を必要とする。したがって、かかるベクターは、標的細胞の染色体に安定に組み込むことができる。同じ方法では、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスは、遺伝子改変又は様々な細胞及び組織の操作と同様に広範に使用されてきた。
【0004】
現在、これらに限定されないが、リンパ球、免疫細胞、リンパ細胞株、幹細胞及び初代造血幹細胞を含む治療用細胞に遺伝子を送達するためにレンチウイルス又はアデノウイルス若しくはアデノ随伴ウイルス、又はより通常ウイルスを含む高効率的形質導入条件の発見に関心が高まっている。最近の臨床的進歩は、初代リンパ球、造血腫瘍細胞又は達成困であることが既知である多能性幹細胞に遺伝子材料を導入することに基づく。かかる細胞に対する研究では、往々にして高濃度及び高純度グレードウイルス調製物の使用は充分に効率的であることを暗示している。結果として、親細胞の大規模形質導入は、ウイルス産生のアップスケール及び高ウイルス力価及び高濃度ウイルス保存液を得るための精巧な処理を要する。したがって、かかる最適化は、重要な財務コストを暗示する。
【0005】
必要とされるウイルス産生量、結果として臨床治験コストを減らすために、ウイルス形質導入効率を向上することは最重要である。さらに、感染のより低い感染効率(MOI)による研究では、親細胞当たりの複数のウイルス複製物の挿入に対する変異原性リスクを低減するだろう。
【0006】
本文では、表現「など(such as)」は、非限定的であると理解されるべきであり、それの後に記載される要素が本発明の範囲内に完全に適合しうることを言及されていない他のもの中で引用されたほんの例であることを暗示する「例など(such as an example)」と理解されるべきである。
【0007】
いくつかのストラテジーが使用されて、ウイルスを含む形質導入手順の効率を向上した。
【0008】
第一改良ポイントは、ベクターそれ自体に依存する。ウイルス調製物の純度及び品質、感染効率(MOI)(宿主、-例えば、細胞の数に対する感染性病原体、-例えば、感染ウイルス粒子-の数の比)及びウイルス構築は、形質導入の最適効率を達成するように制御するために重要なパラメータである。事実、いくつかの研究は、ウイルスにおける内在性阻害物質の存在は、形質導入手順における効率の低下を説明し得ることを報告している。これらの懸念の回避の助けとなるかもしれない高濃度及び精製ウイルス調製物の使用は、これまで、超遠心分離法、又は限外ろ過ストラテジーにより得られていた。また、効率的な形質導入手順は、ウイルス適用前の最適な細胞密度、制限した細胞継代数及び細胞培養培地組成物の注意深い管理も必要とする。
【0009】
ウイルスベクターの純度及び品質に関する問題に加えて、ウイルス遺伝子導入効率を限定するいくつかの基本的な生物物理学的制約が存在する。事実、いくつかのグループは、ウイルスの時間をかけた拡散及び迅速な不活化は比較的低い実測効率の主要原因であることを実証した。生物活性を失う前にほんの数ミクロン拡散することができるウイルス粒子を用いて、初期活性ウイルス粒子の大部分は、これらが標的細胞と相互作用しうる前に不活化され、基本的に形質導入効率の達成可能な水準を制限する。
【0010】
機械的又は物理的アプローチは、標的細胞に達しながらなお感染性であるウイルス粒子数を増加することを可能とした。とりわけ、遠心分離(又はスピノキュレーション)技術(A.B.Bahnson et al.;J.Virol.Methods 1995,54:131-143)、フロースルー形質導入(S.Chuck et al.;Hum. Gene Ther.1996,7:743-750)、又は磁性ナノ粒子(MNP)の使用(Sloutskin A.et al.;J Virol Methods.2014,206:128-32)を、細胞表面上への活性ウイルス粒子濃度を増加することができる技術として引用することができる。これらの技術は、共通して、対流性要素をウイルスの大量輸送に添加することによって活性ウイルス-細胞相互作用の可能性及び頻度を増大した。原理的にカチオン性磁性ナノ粒子を使用するMagnetofection(商標)技術は、インビトロ、エクスビボ及びインビボでの多種多様な生物モデルにおけるウイルス感染及びウイルス吸着を共に促進、増強及び同時に起こすことができた(C.Plank,et al.;Adv Drug Del Rev 2011,63:1300-1331)。効率的であることが証明されたが、それらの費用及び困難なスケールアップは、どうしたものか大規模インビボ臨床設定における成分としてのそれらの可能性を限定する。
【0011】
別のストラテジーは、化学的アジュバントの使用に依存した。幅広い化学的アジュバントは過去何年にもわたって使用され、組換えポリペプチド、ポリカチオン性化合物、又はポロキサマーなどの中性化合物など形質導入を促進した。全ての試験された分子の中で、カチオン性リポソーム又はポリエチレンイミン(PEI)、DEAE-デキストランプロタミン硫酸塩若しくはポリ-L-リジンなどのカチオン性重合体などのポリカチオン類が広範に研究された。
【0012】
しかしながら、記載されている形質導入手順において発見することが出来る最も共通のカチオン性添加剤は、ポリブレンと呼ばれている。これは、広範囲の標的細胞において遺伝子形質導入率を有意に向上することが実証されている非プロトン性カチオン性直鎖重合体である。これらの興味深い特徴は、アジュバント支援ウイルス遺伝子送達方法の分野においてポリブレンの先導的地位を確実にした。残念ながら、ポリブレンは、この目的のために使用された多くのポリカチオン性分子と共に、臨床治験においてその影響を限定した否定的特徴を共有する。高高正電荷密度を有する第一及び最重要なポリカチオンは、標的細胞に対してどういうわけか毒性であることが分かっており、初代親細胞などの感受性の高い細胞型に対するこれらの使用は許されない。結果として、ポリブレンは短時間の応用しか使用することができず、低濃度(10μg/mL以下)において標的細胞に対して毒性を限定する。この側面は、臨床適用、特に、その標的が初代造血幹細胞などの高感受性細胞である場合にポリブレンの使用に対して明らかに主要な欠点である。
【0013】
ポリカチオンに加えて、形質導入エンハンサーとして使用される別分類の化合物は、直鎖又はX状非イオン性ポロキサマーである(A.V.Kabanov et al.;J.Control.Release,2002,82:189-212;A.Rey-Rico et al.;Int.J.Mol.Sci.2018,19:775)。ポロキサマーは、ポリエチレンオキシド(PEO)ファミリーに属する2つの親水性鎖により囲まれたポリオキシプロピレン(PPO)の中央疎水性鎖[PEO-PPO-PEO]からなる非イオン性トリブロック共重合体の周知の分類を表す。これらのポロキサマーは、直鎖又はX状であり得、この最新のものはポロキサミンとして知られている。文献において「リバースポロキサマー」としても知られているメロキサポールもこのファミリーに含まれ,ポリエチレンオキシドをベースとした親水性ブロックが存在し、ポリプロピレンオキシド重合体をベースとした2つの疎水性ブロックに囲まれている。延長線上で考えてみると、本発明者らは、本発明において、これらのX状変化物、「リバースポロキサミン」を考える。全てのこれらの重合体(ポロキサマー、ポロキサミン、リバースポロキサミン)を、本書類の残りにおいてポロキサマーとして表す。
【0014】
ポロキサマーは、それらの商品名に従って呼ぶことができ、製造者に応じて「Pluronic」又は「Symperonic」であるかもしれない。これらの分子は、異なる親水性/親油性(例えば、疎水性)バランス(HLB)及び臨界ミセル濃度(CMC)を特徴とする。これらの構造的特徴は、これらの生物学的特性において重要な役割を果たすことが分かっている(A;Kabanov A.et al.;Adv.Gen.2005,53:231-61)。これらのよく説明された自己組織化及びミセル化挙動に加えて、ポロキサマーは、化粧品、生薬及び多種多様な製剤において広範に使用されている。これらは、インビトロ及び/又はインビボ応用、並びにこれらのシーリング剤の特性によるエレクトロポレーション法のための非ウイルス性遺伝子送達手順においても使用されている。これらは、DNAとのポリプレックスを生成するためにカチオン性重合体と組み合わせても使用されている。
【0015】
ポロキサマーは、ウイルス媒介遺伝子送達手順中にポリマー賦形剤として働くことが分かっている(AV.Kabanov et al.;Adv Drug Del Rev 2002,54:223-3)。かかる利用の第一の例は、March et al.により報告され、組換えアデノウイルスベクターを用いた血管平滑筋細胞における変化率及び頻度のような形質導入エンハンサーとしてポロキサマー407(F127としても公知)を使用した(KL.March,et al.;Hum. Gene Ther,1995,6:41-53)。この試験は、ポロキサマーによるアデノウイルス媒介遺伝子送達の薬物動態の調節を強調した。この有益な効果の根底にある機序は報告書に明示的に理解されていないが、著者らは、ポロキサマー407が実験の実験的条件下でゲルを生成し、細胞周囲の高濃度のベクターの維持によって遺伝子送達を向上するウイルスに対して「送達リザーバー」の役割をしたと仮定した。
【0016】
この先駆的研究後、いくつかの他の試験は、形質導入実験中にポロキサマーの有益な効果を強調した。とりわけ、ベクターとしてアデノウイルスを用いたラットの動脈の形質導入におけるポロキサマー407の使用(LJ.Feldman,et al.;Gene Ther.1997,4,189-198)又はウサギ腸骨動脈のステント挿入と共に経皮アデノウイルス媒介遺伝子導入のためのゲルとしてのポロキサマー407の使用を引用することができる(Van Belle et al.Hum.Gene Ther.1998,9,1013-1024)。また、形質導入におけるポロキサマーの増強挙動も、標的としてとりわけ内皮細胞又は平滑筋細胞によるくつかの試験においてベクターとしてレンチウイルスを用いて実証された(KL.Dishart,et al.J.Mol.Cell.Cardiol.2003,35:739-748)。この場合、AAV血清型及び水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質-偽型レンチウイルスシステムは同時に置かれ、同様な結果、アジュバントとしてポロキサマー407の存在によって増強された。もう1つの非常に興味深い試験は、直鎖(Pluronic F68)又はX状(ポロキサミンTetronic T908)ポロキサマーのミセルに関連するAAVの使用を含む。この場合、ポロキサマーを用いたミセルカプセル化は、AAVの安定性及び生物活性の両方の増大を可能とし、インビトロ及び実験的骨軟骨欠損の両方において細胞に対する有害効果なしでより高レベルのトランスジーン発現をもたらした。
【0017】
それ以来、ウイルス媒介遺伝子送達手順においてアジュバントとしてポロキサマーを使用するための熱意は、一貫性があることが証明された。レンチウイルスを含む新規遺伝子治療臨床治験に関わるこれらの近年を明らかにする視点はこの興味を増加させ、拡張させ、インビトロ及びインビボ応用の両方に向けられたウイルス媒介遺伝子送達との関連でポロキサマーを含むいくつかの特許出願を生み出した。いくつかの他のものの中でも、レトロウイルス媒介遺伝子導入ストラテジーにおけるポリブレン及びポロキサマー338の組合せ使用(国際公開第2013/127964(A1)号、国際公開第2017/139576(A1)号)、又はレンチウイルスを用いたCAR(キメラ抗原性受容体)及び広範囲の様々なポロキサマーを含むアジュバント(国際公開第2015/162211(A1)号、国際公開第2018/148502(A1)号)を含む初代T細胞の誘導を引用することができる。
【0018】
しかしながら、ポロキサマーの効率は標的とされる細胞型、使用されるポロキサマー構造に非常に依存し、ほとんどの場合、ポリブレンなどのカチオン性重合体の添加を要する。さらに、これらの非イオン特性は、これらの組合せにも鉄ベースの磁性ナノ粒子などのナノ粒子を含む製剤にも好ましくない。事実、磁性ナノ粒子は、様々なモデルにおけるウイルス形質導入効率を向上し促進することが分かった。結果として、磁性ナノ粒子及びポロキサマーの添加は強力な相乗効果を導くことが想像され得るだろう。残念ながら、ポロキサマーの非イオン特性は、ナノ粒子のコーティング剤又は製剤としてのこれらの使用を妨害するナノ粒子の不安定化又は沈殿をもたらす。
【0019】
これらの関心のある特性のために、いくつかの研究は、ポロキサマーの化学的修飾に焦点を当てた。目的は、特定の制約を回避するためにこれらの重合体の現存している固有の特徴に新規な物理化学的特性を付加することであった。
【0020】
例えば、非ウイルスストラテジーにおいて、ポロキサマーが裸のプラスミドDNAと相互作用及び縮合することを可能にするために、いくつかの基は、異なる性質のカチオン性重合体と共有結合する結合点としてポロキサマーのヒドロキシル官能基を使用した。例えば、約2000Daの分子量を有する分岐鎖ポリエチレンイミンと結合されたPluronic123からなるブロック共重合体の非ウイルスベクターとしての挙動が記載された。同概念は、ポリリジンと共有結合されたポロキサマー407、又は効率的遺伝子送達のためのポリエチレンイミンと縮合されたアクリレート修飾ポロキサマーをベースとした新規非ウイルスベクターの開発にも適用された。これらの場合の大部分では、ヒドロキシル末端基において修飾が起こった(Gyulain G.et al eXPRESS Polymer Letters 2016,10:216-26)。これらの手順に関連する反応は、ポリエチレングリコール化学に依存することが多い。
【発明の概要】
【0021】
しかしながら、カチオン性基又はポロキサマーの末端において結合された重合体を用いたかかる修飾は、前述のようにいくつかの細胞型におけるこれらの効率を増大するためにポリブレンなどの付加的カチオン性重合体を用いる必要性を回避するためのウイルス形質導入の促進に関連した実現及び試みは成されなかった。同様に、磁性ナノ粒子を含む修飾ポロキサマーの潜在的相乗効果は、感知及びモニターされなかった。本発明は、単独又は上記本明細書に記載されている磁性ナノ粒子と組み合わせたウイルス形質導入を促進するために使用されるポロキサマーに関連する技術的課題を解決することが目的である。本発明は、ウイルスを用いた細胞に形質導入するための代替法及び/又は改良された手段及び方法を創り出すことも目的である。
【0022】
さらに、本発明は、化学的アジュバントの特性及び挙動をさらに調節することができるポロキサマー末端基の修飾にも関する。さらに詳細には、本発明は、2つの別個の存在(非イオン性及びイオン性)の代わりにウイルス形質導入を促進する相乗的特性を1つの主体で創成するため及び形質導入エンハンサーとして磁性ナノ粒子を用いて製剤化することができるように、ポロキサマーの高分子骨格の末端におけるカチオン性有機官能基の体系的導入を記載している。本書類に記載されている本発明の付加価値は、同じ重合体の主体に、ウイルス及び細胞の両方と相互作用することができるカチオン性部分とのポロキサマーの表面活性剤特性を相乗的に組み合わせることである。ポロキサマー及びカチオン性重合体の混合は既に記載されていたが、これは、両親媒性特性及びカチオン官能基の両方を示す単一の重合体がウイルスと関連して使用されることは、本出願者が知る限り初めてである。
【0023】
さらに詳細には、本発明は、ポロキサマーの高分子骨格の末端におけるカチオン性有機官能基の体系的導入を記載する。
【0024】
本発明は、標的細胞のウイルス形質導入を促進するカチオン性ポロキサマーを使用する方法を初めて記載する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一般的な直鎖カチオン性ポロキサマー構造を使用する式Iの化合物の好ましい構造を開示する。「a」、「b」及び「a-1」の値は、本明細書で定義されている通りである。
【
図2】重合体Iの中間体である化合物Ibを得るための詳細な手順を開示する。条件i):TsCl、DMAP、DCM/ピリジン 室温;条件ii):NH
3(MeOH)、80℃。
【
図3】重合体Iの中間体である化合物1eの合成を開示する;条件i)NaOH、MeOH;条件ii):H
2、ラネーニッケル EtOH;条件iii):Boc
2O、NaOH、THF/H
2O。
【
図4】1b及び1eからの重合体の合成を開示する。条件i):DIC、HOBt、Et
3N、DCM/DMF;条件ii):TFA、DCM。
【
図5】化合物IIを得るための詳細な手順を開示する。条件i):TsCl、DMAP、DCM/ピリジン 室温;条件ii):NH
3(MeOH)、80℃。条件iii):MeI、DIPEA、DMF 室温。
【
図6】化合物IIIを得るための詳細な手順を開示する。条件i):CBr
4、PPh
3、DCM、室温;条件ii):PPh
3、DMF;120℃。
【
図7】化合物IVを得るための詳細な手順を開示する。条件i):NaN
3、DMF、90℃;条件ii):プロパギルアミン、CuSO
4、アスコルビン酸、PPh
3、H
2O/DMSO 室温;条件iii):MeI、DIPEA、DMF 室温。
【
図8】化合物Vを得るための詳細な手順を開示する。条件i):TsCl、DMAP、DCM/ピリジン 室温;条件ii):NH
3(MeOH)、80℃。条件iii):アセトアルデヒド、TosMIC、K
2CO
3 DMF、室温。条件iv):硫酸ジメチル、トルエン、室温。
【
図9】化合物VIを得るための詳細な手順を開示する。条件i):Boc
3R、DIC、HOBt、Et
3N、DCM/DMF 室温;条件ii):トリフルオロ酢酸、DCM、室温。
【
図10】化合物VIIを得るための詳細な手順を開示する。条件i):Boc
2Hist、DIC、HOBt、Et
3N、DCM/DMF 室温;条件ii):トリフルオロ酢酸、DCM、室温。
【
図11】レンチウイルスベクターを用いた形質導入手順におけるカチオン性ポロキサマーの評価の結果を開示する:NIH-3T3細胞株を、カチオン性ポロキサマーの様々な投与の存在下又は非存在下レンチウイルス(MOI1)に感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び形質導入細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図12】レンチウイルスベクターを用いた形質導入手順におけるカチオン性ポロキサマー評価の第二回目を開示する:NIH-3T3細胞株を、カチオン性ポロキサマーの様々な投与の存在下又は非存在下レンチウイルス(MOI1)に感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び遺伝子改変細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図13】
図13A~Fは、カチオン性ポロキサマー誘導感染の差動効果を開示する。HEK293T細胞株を、カチオン性ポロキサマーの存在下又は非存在下で1のMOIにおいてGFPタンパク質をコードするレンチウイルスに感染させた。感染72時間後、GFP陽性細胞の%及び平均強度を、フローサイトメトリーによって分析した。
【
図14】アッセイの結果を開示し、BV2及びHEK-293細胞株を、F108+ポリブレン、化合物2b及びIIの存在下又は非存在下で指定MOIにおいてGFPをコードするレンチウイルスに感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び遺伝子改変細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図15】アッセイの結果を開示し、ジャーカットT細胞を、天然又は修飾カチオン性ポロキサマーの存在下又は非存在下でレンチウイルス(MOI 0.75)に感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び形質導入細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図16】アッセイの結果を開示し、KG1a細胞株を、広範囲の投与量のカチオン性ポロキサマーの存在下又は非存在下でレンチウイルス(MOI 2)に感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び形質導入細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図17】
図17A及びBは、アッセイの結果を開示し、BV2、HeLa、ジャーカット、C6、CLU-500及びKG1a細胞株を、カチオン性ポロキサマー2bの存在下又は非存在下で指定MOIにおいてGFPをコードするレンチウイルスに感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び遺伝子改変細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図18】
図18A及びBは、アッセイの結果を開示し、初代ヒトCD34+幹細胞を、広範囲の投与量の修飾カチオン性ポロキサマーの存在下又は非存在下で5のMOIにおいてGFPをコードするレンチウイルスに感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び遺伝子改変細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図19】
図19A及びBは、アッセイの結果を開示し、C6及びHEK-293細胞株を、F108及び2bの存在下又は非存在下で5のMOIにおいてGFP(AdGFP)をコードするアデノウイルスに感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び遺伝子改変細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図20】カチオン性ポロキサマー誘導形質導入に対する血清効果。NIH-3T3細胞株を、血清を含む又は含まない培地中、2つの濃度のカチオン性ポロキサマー(最終濃度6.25%又は12.5%)の存在下又は非存在下で4のMOIにおいてGFPタンパク質をコードするアデノウイルスに感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞の%をフローサイトメトリー及び形質導入細胞の%の倍変化により分析した。
【
図21】
図21A及びBは、アッセイの結果を開示し、HEK-293細胞株を、IIの存在下又は非存在下で細胞当たり100000ゲノム複製物を用いてGFP(AAV-GFP)をコードするアデノウイルスに形質導入した。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び遺伝子改変細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【
図22】カチオン性ポロキサマーは、AAV感染及び形質導入を差動的に増強する。HEK293細胞株を、7.5%又は15%の最終濃度においてカチオン性ポロキサマーの存在下又は非存在下で細胞当たり100000ゲノム複製物(GC)においてGFPタンパク質をコードするAAVに感染させた。感染72時間後、GFP陽性細胞の%及び平均強度を、フローサイトメトリーによって分析した。
【
図23】
図23A及びBは、アッセイの結果を開示し、KG1a懸濁細胞株を、2b(VM+2b)の5%(重量/体積)溶液で被覆されたViroMag磁性ナノ粒子(VM)カチオン性ポロキサマー2b又はViroMagと組み合わせた5のMOIを有するGFPをコードするレンチウイルスを用いて形質導入した。72時間のインキュベーション後、G GFP陽性細胞(A)の%及び遺伝子改変細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本書類に記載されている本発明は、単独の添加剤として導入された又はナノ粒子を用いて製剤化されたカチオン性ポロキサマー(さもなければ、本文中「化学的アジュバント」又は「添加剤」と呼んでもよい)を用いたウイルスベクターによる標的細胞の形質導入の促進方法に関する。
【0027】
本発明によれば、方法は、標的細胞をウイルス及びカチオン性ポロキサマーと接触させるステップを含む。この添加剤の構造は、重合体の骨格中に異なる領域である親水性及び疎水性領域の両方を組み込んでいる。この重合体の構築は、ウイルス形質導入のさらなる増強に寄与するカチオン性化学的機能によって終結される。
【0028】
さらに、本発明の別の実施形態は、これらのカチオン性ポロキサマーを用いて鉄ベースのナノ粒子のコロイド安定化及び形質導入効率向上におけるこれらの使用に関する。
【0029】
本出願者は、ウイルスと組み合わせて、標的細胞と接触させて、いずれもの種類の毒性がなく形質導入の効率を劇的に向上する、いくつかのポロキサマーをカチオン性ポロキサマーに修飾することに焦点を当てた。本発明の詳細を、以下の請求項に記載しており、一方、技術的利点はこれに関連する実施形態において論じられるだろう。
【0030】
これによれば、本発明の第一目的は、カチオン性ポロキサマーを用いたウイルスベクターによる標的細胞の形質導入方法に関する。
【0031】
本文では、用語「形質導入」は、科学界において実際に共通かつ認められた意味を表す。形質導入することは、ウイルスにより天然、野生型又は組換え遺伝子物質を標的細胞に導入する方法、及び必要に応じてゲノム中へのその組込みを意味する。この方法は、「感染」とも呼ばれることが多く;両方の用語とも、本書類において互換的に使用する。対照的に、トランスフェクションは、合成又は非ウイルス性送達系を用いて細胞に遺伝子物質を送達する方法を表す。導入される遺伝子物質の性質、及びこのステップに関連する機序は、形質導入手順で使用されるウイルスの種類に依存する。例えば、ウイルスによって導入される遺伝子物質は、レポーター遺伝子、酵素、エンドヌクレアーゼ、ゲノム編集のためのヌクレアーゼ若しくはリコンビナーゼ、短鎖ヘアピン型RNA、遺伝子サイレンシングのためのアンチセンスRNA、mRNA、tRNA、操作抗原受容体などの受容体(T細胞受容体、キメラ抗原受容体、キメラサイトカイン受容体...)、成長因子、ホルモン、細胞表面タンパク質、分泌タンパク質シグナル伝達タンパク質又は治療向けのいずれかのポリペプチド若しくはタンパク質若しくは核酸などの対象の多種多様な遺伝子をコードすることができる。
【0032】
詳細には、本発明は、標的細胞をウイルスベクター及びカチオン性ポロキサマーと接触させる少なくとも1つのステップを含む形質導入方法に関する。
【0033】
本発明によれば、クレームされた形質導入方法を、公知のカチオン性ポロキサマー並びに、例えば、出願者が新規に合成したもの及び本書類中下記にクレームされているものなどの新規カチオン性ポロキサマーを用いて行うことができる。
【0034】
本発明によれば、ウイルスベクター(天然、組換え、偽型又は野生型)として使用することができる及び形質導入で使用することができるいずれもの公知のウイルスを、本発明による方法で使用することができる。
【0035】
一例として、及び本発明の制約なく、本発明の実践において使用するためのウイルス(ウイルスベクター)としては:
a)例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、イヌ肝炎ウイルス、パピローマウイルス、ポリオーマウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、天然痘ウイルス、ワクシニアウイルス、B型肝炎ウイルスなどの二本鎖DNAウイルス;
b)例えば、パルボウイルス、アネロウイルスなどの一本鎖DNA;
c)例えば、レオウイルス、ロタウイルスなどの二本鎖RNA;
d)例えば、ピコルナウイルス、コクサッキーウイルス、カリシウイルス、トガウイルス、アルファウイルス、アレナウイルス、フラビウイルス、ペスチウイルス、ウエストナイルウイルス、オルソミクソウイルス、インフルエンザウイルス、エンテロウイルス、ポリオウイルス、パラミクソウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ブニヤウイルス、ラブドウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、フィロウイルス、コロナウイルス、アストロウイルス、ボルナウイルス、アルテリウイルス、ヘペウイルスなどの一本鎖RNA;
e)例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、B型肝炎ウイルスなどの逆転写ウイルス;及び
f)例えば、アルボウイルス、バクテリオファージなどの他のウイルス
が挙げられる。
【0036】
好ましくは、ウイルス遺伝子送達媒介物は、遺伝子治療において使用するための当技術分野で公知のいずれかの遺伝子治療送達媒介物であり得、これに限定されないが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、レトロウイルス、ガンマレトロウイルス、ヘルペスウイルス及び他のウイルスが挙げられる。
【0037】
本発明に関連する主なウイルスの簡単な説明を以下に示す:
【0038】
-レトロウイルスは、大部分は安定に宿主ゲノムに組み込むことができるので、現在の遺伝子治療アプローチの主流である。これをするため、レトロウイルスは、これらのRNAをDNAに変換するレトロ転写酵素を使用し、次いで、DNAが組込み酵素により宿主ゲノム中に組み込まれる。これらのゲノムの改変が標的細胞に感染しこれらのウイルスペイロードを送達することをさらに可能とするが、細胞溶解及び細胞死に至る次の経路を阻止するので、複製欠損レトロウイルスは大抵の研究において最も通常の選択である。このファミリーは、特にこれらのゲノムが非常に単純かつ使い易いので、他のレトロウイルスベクターより優れた利点により遺伝子治療に一般的であるガンマレトロウイルスを含む。
【0039】
-ベクターとして途方もない可能性があるにもかかわらず、レトロウイルスは、活発に分裂しない細胞に感染することができないようないくつかの欠点に悩まされている。さらに、ウイルス粒子のかなりの数は、がん又は白血病の原因となるかもしれない挿入変異に至る可能性がある。レトロウイルスは、遺伝子治療ベースの臨床治験において使用され得る多数の異なるウイルス種を包含し、主要な種は、レンチウイルス及びガンマレトロウイルスである。これらの2つのサブクラスは、300より多い臨床治験の対象であった。
【0040】
-レンチウイルスはレトロウイルスのサブクラスであり、そして宿主細胞にこれらのゲノムを組み込む能力を有する。さらに、レンチウイルスは分裂又は非分裂細胞に対して等しく有効である固有の利点を示す。遺伝子治療に使用されるレンチウイルスは、殆どの場合、安全上の理由で非複製的である。これは、レンチウイルスはまだ感染性であるがいずれもの複製周期に入ることができず、新しいビリオン産生のための欠損しているウイルスタンパク質を提供するヘルパータンパク質を欠くことを意味する。ほとんど常に、複製に必要な遺伝子は、宿主ゲノムに導入するための標的配列を含む発現カセットにより置換される。この配列は、例えば、治療に有用なタンパク質若しくはマーカーをコードする遺伝子、又はRNA干渉若しくはmiRNA発現のための制御配列を含み得る。
【0041】
-アデノウイルスは、直鎖dsDNAゲノムを有し、宿主複製機構を用いて細胞核において複製することができる。レンチウイルスとは対照的に、アデノウイルスDNAはゲノムに組み込まず、細胞分裂中に複製されない。これらの主要な応用は、遺伝子治療及びワクチン接種である。ヒトは通常アデノウイルスと接触するので、呼吸器感染症、胃腸感染症及び眼感染症を起こし、大多数の患者は、ウイルスが標的細胞に達することができる前にウイルスを不活化することができる中和抗体が既に作られている。この問題を克服するため、科学は、現在、ヒトが免疫を有しない異なる種に感染するアデノウイルスを研究している。
【0042】
-アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト及び他の霊長類種に感染する小さなウイルスである。AAVは、現在、疾病の原因にならないと分かっており、そして非常に軽度の免疫応答しか起こさない。AAVは、分裂及び非分裂細胞の両方に感染することができ、宿主細胞にそのゲノムを組込み得る。さらに、AAVはほとんどエピソームとして滞在し(染色体への組込みなしで複製);長期及び安定な発現を行う。これらの特徴は、AAVを遺伝子治療のためのウイルスベクターを作成するための非常に魅力的な候補にする。しかしながら、AAVは、AAVの元の能力と比較して極めて小さい最大で5kb以下にしか生育しない。
【0043】
さらに、遺伝子治療ベクターとしてのその可能性ある使用のために、研究者らは、自己相補的アデノ随伴ウイルス(scAAV)と呼ばれる改変AAVを創成した。AAVは、DNAの一本鎖をパッケージ化し、第二鎖合成のプロセスを要するが;scAAVは、一緒にアニールして二本鎖DNAを形成する両方の鎖をパッケージ化する。第二鎖合成のスキップにより、scAAVは細胞内の迅速な発現を可能とする。さもなければ、scAAVは、そのAAVカウンターパートの多くの特徴を保有する。
【0044】
本発明の文脈において、カチオン性ポロキサマー及びウイルスベクターは、起こそうとする形質導入のために標的細胞と接触させなければならない。効率的形質導入のための異なる要素との接触は、文献において何度も示され、選択されたウイルスベクター及び標的細胞の性質に深く依存する。いくつかの細胞は他より感染するのが難しいが、これらは、特定の培養培地における転換又はウイルス及び化学的アジュバントの両方との長期接触時間などの接触前の特定の管理を必要とし得る。
【0045】
本発明によれば、カチオン性ポロキサマー及びウイルス粒子を、混合物として、又は順次細胞に同時に添加することができる。しかしながら、効率的形質導入手順を保証するため、十分に長時間、ウイルス、カチオン性ポロキサマー及び細胞を接触可能とすることは最も重要である。本発明の範囲に含まれる接触時間又はインキュベーション時間は、5秒~3ヶ月の範囲である。より好ましくは、接触時間は、10分~2週間内、好ましくは20分~1週間内に含まれるべきである。より好ましくは、0.5時間~120時間内に含まれるべきである。
【0046】
例示的条件は、本書類の「実施例」のセクションにおいて見ることができる。カチオン性ポロキサマー及びウイルス粒子を、混合物として、又は順次細胞に同時に添加することができる。本発明のガイドラインに従う形質導入のための最適条件は、レンチウイルス(Arnoult et al Nature 2017,549:548-552;)、AAV(Yelamarthi,T.,Thesis Dissertation,2012.University of Houston)、又はアデノウイルス(Sapet et al Pharm Res.2012,29:1203-18)などの異なるウイルスベクターに対して何度も記載されている。
【0047】
好ましくは、正確な量のウイルス及びカチオン性ポロキサマーを、細胞にこれらを沈着させる前に混合するだろう。得られた混合物は、進める前に緩やかな混合を要する。
【0048】
本発明によれば、多様な感染効率(MOI)又はウイルス力価を、標的細胞、選択されたウイルスベクター、及び形質導入ニーズに応じて使用してよい。いくつかのパラメータは、形質導入手順の効率を向上するために必要に応じて変更することができる。当業者は、使用されるウイルスベクターの機能における正確なMOIを容易に規定するだろう。例として、0.001~5000000の範囲の好ましいMOIが考えられるだろう。
【0049】
本発明の方法によれば、カチオン性ポロキサマーを、0.01~500mg/mL、好ましくは0.05~300mg/mL、より好ましくは1~200mg/mL、さらにより好ましくは5~150mg/mLのストック濃度で提供することができる。
【0050】
本発明の方法によれば、カチオン性ポロキサマーを、1~100000倍、好ましくは2~10000倍、より好ましくは2~5000倍に上記ストック液を希釈することによって得られる最終濃度で使用する。
【0051】
必要に応じて、本発明の変化形によれば、全培養培地を、ウイルス、ナノ粒子と製剤化された又は製剤化されていないカチオン性ポロキサマー及び細胞生物学(Harrisson M.A.et al in General Techniques of Cell Culture Ed:Cambridge University Press 1993,ISBN-10:052157496X)において通常行われる手順に従って変更することができる標的細胞のインキュベーション時間後にいくつかの新鮮な予備加温された培地に交換してよい。
【0052】
本発明の別の変化形によれば、ナノ粒子混合物と製剤化された又は製剤化されていないウイルスベクター/カチオン性ポロキサマーの投与後の遠心分離ステップを行うことができる。実際に、アジュバント化した形質導入効率の増加を、ベクターの投与直後のプレートを遠心分離することによって観察しうる(A.B.Bahnson et al.;J.Virol.Methods 1995,54:131-143)。
【0053】
本発明によれば、いずれもの種類の細胞培養物質又は細胞培養方法を、それぞれ、前記「標的細胞」を形質導入するための2次元(2D)又は3次元(3D)担体上で使用することができる。2Dデバイスは、細胞を、粘着方法(細胞はウェルの底部で接着する)、懸濁方法(細胞は培養培地に浮遊のままである)、又は治療若しくは未治療細胞培養プレート及びディッシュ(1536ウェルから4ウェル細胞培養プレート、35mm、60mm、90mm、100mmペトリ皿)若しくは細胞フラスコ(25cm2、75cm2又は150cm2...)などの共培養(分離又は挿入断片を有しない2つ以上の異なる種類の細胞型)で培養することを可能とする担体として定義される。本発明は、コラーゲン、アテロコラーゲン、グリコサン、ポリスチレン、ヒアルロン酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコールなどの様々な組成物のハイドロゲル又は固体3Dスカフォールドなどの3Dマトリックスに適用してもよい。
【0054】
本発明のさらに別の変化形によれば、磁性ナノ粒子を、標的細胞、カチオン性ポロキサマー及びウイルスの混合物に添加してよい。
【0055】
カチオン性ポロキサマーを磁性ナノ粒子と組み合わせる場合、方法は、必要に応じて選択される追加ステップを含み、持続的磁界又は振動磁界若しくは電子による磁界を、ウイルス、細胞及びナノ粒子と製剤化された又は製剤化されていないカチオン性ポロキサマーを接触させた後に実験に適用することができる。このステップは、10秒から96時間まで、好ましくは1分から48時間まで継続することができる。より好ましくは、5分から4時間まで継続するだろう。
【0056】
本発明によれば、前記「標的細胞」に、ポジティブ又はネガティブ細胞選択を支持するカラムを使用するか否かにかかわらず、感染及び/又は磁性細胞分離デバイス上に形質導入することもできる。用語「細胞選択」は、磁界の助けを借りて様々な種(ヒト、マウス、ラット、非ヒト霊長類、ウサギ、ウシ...)から特定の細胞集団(造血幹細胞、Tリンパ球、Bリンパ球、ナチュラルキラー、PBMC、脾細胞...)を単離するために使用される免疫磁性細胞分離技術を表す。したがって、本発明を使用して、分離デバイスに保持又は選択プロセス直後のいずれかの細胞を感染又は形質導入してよく;さらに、磁性ナノ粒子と製剤化されたカチオン性ポロキサマーをウイルスと共に使用して、磁性分離デバイス上にウイルス粒子を保持し、同デバイス上の細胞をさらに直接的に感染させることもできる。本発明は、ジャーカットT細胞、K562、臍帯血一次CD34+細胞、骨髄細胞又はヒト間葉系幹細胞などの細胞株から初代細胞までの様々な細胞型を感染させることに特に興味深い(Sanchez-Antequera Y.,Blood.2011 Apr 21;117(16):e171-81)。磁性ナノ粒子と製剤化された又は製剤化されていないカチオン性ポロキサマーを分離デバイス上に添加する場合、本発明の範囲に含まれる分離デバイスとの接触時間は、15秒から1週間までの範囲である。より好ましくは、接触時間は、1分~6時間内に含まれるべきである。より好ましくは、1分~1時間内に含まれるべきである。
【0057】
本発明によれば、前記「標的細胞」は、ウイルスベクターを用いた形質導入のための標的化することができるいずれかの細胞であり得る。本発明との関連で使用されるとき、用語「細胞」は、単一及び/若しくは単離細胞又は組織、生物又は細胞培養液などの多細胞主体の部分である細胞を表すことができる。すなわち、方法を、インビボ、エクスビボ又はインビトロで行うことができる。細胞は、初代細胞(本明細書で使用されるとき、用語「初代細胞」は当技術分野において公知であり、組織から単離され、インビトロでの成長のために確立された細胞を表す)若しくは確立された細胞株又は幹細胞若しくは前駆細胞であり得る。細胞は、これらに限定されないが、数例を挙げると、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、幹細胞、造血細胞(リンパ球、単球、マクロファージナチュラルキラー樹状細胞、その他)、筋肉細胞、神経細胞(内質細胞、海馬細胞、知覚ニューロン、運動ニューロン、後根神経節、オリゴデンドロサイト、小脳顆粒細胞、神経幹細胞及びバスケット細胞、ベッツ細胞、中型有棘ニューロン、プルキンエ細胞、錐体細胞、レンショウ細胞、顆粒細胞又は前角細胞、グリア細胞、アストロサイト、その他などのニューロンの全タイプ)、幹細胞、胚性幹細胞、造血幹細胞、生殖細胞、腫瘍細胞、リンパ球系細胞系列及び体細胞などの真核細胞であり得る。細胞は、原核細胞(細菌)、植物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、又は寄生虫細胞であり得る。これらは、分化性若しくは分化全能性又は全能性若しくは多分化能又は少能性若しくは単能性若しくは多能性であり得る。これらは、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞(iPS)であるか又は胚性若しくはiPSから分化され得る。形質導入しようとする細胞は、非許容細胞、感染しにくい細胞、又は感染しやすい細胞であり得る。当技術分野において公知の腫瘍細胞及び細胞株は、例えば、これらに限定されないが、リンパ腫細胞株(例えば、ジャーカット、CEM、H9、ダウディ、SUP-M2、KARPAS-299など)、樹状細胞株(DC2.4、Mutuなど)、ナチュラルキラー細胞株(NK-92、KHYG-1など)、上皮細胞株(NIH-3T3、COS、CHO、HEK293など)、膵腫瘍細胞(PANC-1など)、幹細胞株(KG1a)、乳がん細胞(MCF-7、T74D、MDA-MB361)、神経芽細胞腫(SH-SY5Y、N2aなど)、線維肉腫(HT1080など)、星状細胞腫(1321N1など)、内皮細胞(HUVEC、HMEC、HCAECなど)であり得る。本明細書で使用されるとき、真核細胞は、脊椎動物などの動物由来の細胞を含む多細胞真核生物のいずれかの細胞を表す。
【0058】
好ましくは、前記標的細胞は、哺乳類細胞であり得る。本明細書で使用されるとき、用語「哺乳類細胞」は、当技術分野において周知であり、哺乳類の分類にグループ化される動物に属する又は由来のいずれかの細胞を表す。
【0059】
本発明の方法では、カチオン性ポロキサマーを用いたウイルスの向上された形質導入は、前述の組織又は器官を標的とすることができる。組織は、例えば、これらに限定されないが、筋肉組織、結合組織、上皮組織又は神経組織であり得る。様々な組織からサンプルを得る方法及び初代細胞株及び不死化細胞株を確立する方法は、当技術分野において周知である(Freshney,R.I.Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,Fifth Edition,2005 Ed:John Wiley & Sons,Inc.)。
【0060】
本発明によれば、カチオン性ポロキサマーは、最低3つのブロックを含むブロック共重合体をベースとしているだろう。ブロックは、親水性又は疎水性特性のいずれかを有する高分子構築物を意味する。好ましくは、親水性ブロックは、ポリ(エチレン)オキシド高分子鎖を表すが、一方、疎水性ブロックは好ましくはポリ(プロピレン)オキシド高分子骨格を表す。これらの異なるブロックの順序及び連続性は、本発明において形質導入アジュバントとして使用される重合体の一般的構造を規定する。
【0061】
カチオン性ポロキサマーが規則的及び直鎖ポロキサマーファミリーをベースとする場合、疎水性/親油性ブロックとして特定される第一中央ブロックは、好ましくは、ポリ(プロピレン)オキシド高分子鎖により構成されるだろう。前記疎水性/親油性ブロックは、好ましくは、ポリ(エチレン)オキシドをベースとする同様なあるいは異なる2つのより親水性ブロックにより囲まれているだろう。カチオン性ポロキサマーが「リバースポロキサマー(又はメロキサポール)ファミリーをベースとする場合、中央ブロックは、ポリ(プロピレン)オキシド高分子鎖として特定される2つの疎水性ブロックにより囲まれたポリ(エチレン)オキシド重合体により構成されるだろう。
【0062】
かかるカチオン性ポロキサマー及びリバースカチオン性ポロキサマーは、直鎖又はX状であり得、これらの最新のものは、同じ定義によるポロキサミン又はリバースポロキサミンとして知られている。全ての重合体のこれらのファミリーは、本書類の残りにカチオン性ポロキサマーの一般名で説明する。
【0063】
アニオン性重合反応を含むこれらの合成方法により、カチオン性ポロキサマーは、通常、これらの骨格の末端において2つのヒドロキシル(又はアルコール性)官能基を示す。高分子化学者らは、概して、「高分子末端基」としてこれに関連付ける。
【0064】
本発明では、これらの末端基は、高分子亜の両末端においてカチオン性部分を導入するために修飾されている。これらの修飾の完全な説明を、本書類にさらに詳述する。これは、完全合成手順の特徴及び生物学的評価を含む。
【0065】
したがって、本書類では、用語カチオン性ポロキサマーは、ポリプロピレンオキシドの疎水性鎖、及び元々末端がヒドロキシル官能基であり、その後、高分子鎖の両末端においてカチオン性有機官能基を導入するために周知の有機化学手順を用いて修飾されたポリエチレンオキシドの親水性鎖から構成されるトリブロック共重合体を表す。
【0066】
また、本発明は、本発明の方法で使用することができる新規カチオン性ポロキサマー並びにG.Gyulain et al in eXPRESS Polym Letters,2016,10:216:26又はSlobodkin et al.米国特許出願公開第2010/0004313(A1)号明細書に記載されているカチオン性ポロキサマーなどの本発明の日において従来技術の公知のカチオン性ポロキサマーに関する。
したがって、本発明は、次式I又は式IIにより表すことができる新規直鎖又は分岐鎖カチオン性トリブロック共重合体にも関する:
【0067】
【0068】
【0069】
式I及びIIによれば、Pは、ポリプロピレンオキシドの疎水性鎖、及びポリエチレンオキシドの親水性鎖を含むことができるトリブロック共重合体の骨格を表すことができる。
式Iによれば、直鎖カチオン性ポロキサマーの場合、Pは次式IIIa又はbに従って記載され得る:
【0070】
【0071】
式中、式IIIは、規則的カチオン性ポロキサマー(ここで疎水性ポリ(プロピレン)オキシドブロックは、2つの親水性ポリ(エチレン)オキシドブロックに囲まれている(式IIIa))及び「リバースカチオン性ポロキサマー/メロキサポール」(ここで親水性ポリ(エチレン)オキシドブロックは2つの疎水性ポリ(プロピレン)オキシドブロックに囲まれている(式IIIb))の場合をカバーする。
【0072】
ポロキサミンとして既知の修飾X状カチオン性ポロキサマーの場合をカバーする式IIによれば、Pは次式IVa又はbに従って記載され得る:
【0073】
【0074】
式I;II、IIIa、IIIb、IVa及びIVbに従い:
- 「a」は、高分子骨格中で反復される親水性単位数を表し、2~10000、好ましくは5~1000、より好ましくは20~200の範囲であり得る整数であり;
- 「a-1」は、上記「a」から1単位を引いた数を表すことができる。したがって、これは、2~10000、好ましくは5~1000、より好ましくは20~200の範囲であり得る;
- 「b」は、高分子骨格にわたって反復される疎水性単位数を表し、2~1000、好ましくは5~500、より好ましくは15~80の範囲であり得る整数である;
- 「b-1」は、上記「b」から1単位を引いた数を表すことができる。したがって、これは、2~1000、好ましくは5~500、より好ましくは15~80の範囲であり得る;
- X1、X2、X3及びX4は、ヘテロ原子を表すことができ、好ましくは、窒素、リン、ケイ素、硫黄及び酸素、より好ましくは、窒素、リン、ケイ素又は硫黄、さらにより好ましくは、窒素、リン又は硫黄から選択される。X1、X2、X3及びX4は、同じでも異なっていてもよい。X1、X2、X3及びX4は、それぞれ、R1、R2、R3及びR4と共有結合しており;
- nは、1~20の間、より好ましくは2~6の間に含まれる整数であり;
- R1、R2、R3及びR4は、非ポリマー実体「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」がカチオン性であり得るように選択することができる。「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」は、4~9の範囲のpH、好ましくは、6~8の範囲の生理学的pHにおける水生環境において1つ又はいくつかの正電荷を含有することができる。これは、窒素、リン、硫黄、ケイ素又は酸素、好ましくは、窒素、リン、ケイ素又は硫黄などのヘテロ原子上に局在化する正電荷を含むことができる。「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」は、同じ構造を共有するか又は本発明により異なるかもしれない。
【0075】
これによれば、R1、R2、R3及びR4は、同時に存在してもよく、しなくてもよい。
・ 1~6水素原子、好ましくは、2~4水素原子。
・ 例えば、窒素、リン、ケイ素、硫黄及び酸素、好ましくは、窒素、リン、ケイ素又は硫黄、より好ましくは、窒素、リン又は硫黄から選択される1~8ヘテロ原子、好ましくは、2~4ヘテロ原子。
・ 酸素、窒素、ケイ素、硫黄、リンなどの1つ以上のヘテロ原子を組み込んでいるか又は組み込んでいない1~24個の炭素原子を含む1~24、好ましくは1~12、より好ましくは1~6直鎖、分岐鎖及び/又は環式飽和又は不飽和炭化水素基。
・ 天然又は非天然の1~6、より好ましくは1~3アミノ酸残基。
・ これらの定義のいずれかの組合せ
結果として、及び本発明によれば、「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」は:
○ 第一級、第二級又は第三級アミンカチオン性部分。アミンは、グアニジン、ヒドラジン、グアニジニウム、ヒドラジニウムは、本発明による好ましい実体であることができ;
○ 例えば、置換トリ-n-ブチルホスホニウム、置換トリフェニルホスホニウム、置換トリエチルホスホニウムなどの有機第四級ホスホニウム部分;
○ 例えば、置換第四級トリメチルアンモニウム、置換第四級トリ-n-ブチルアンモニウム、置換第四級トリ-n-オクチルアンモニウムなどの4炭素部分と共有結合された窒素原子をベースとする第四級アンモニウム塩;
○ 例えば、置換ジメチルスルホニウム、置換ジ-n-ブチルスルホニウム、置換ジ-n-オクチルスルホニウムなどの3炭素部分と共有結合された硫黄をベースとする有機第三級スルホニウム塩;
○ 環上に非局在化又は非局在化していない正味正電荷を有する有機複素環。複素環は、酸素、窒素、硫黄、リンなどの同様又は異なる少なくとも1~6個のヘテロ原子を組み込まれている3~20個、好ましくは3~8個の炭素原子の有機炭素環式構造を意味する。これらの複素環は、例えば、ピリジン、及びそのカチオン性カウンターパートのピリジニウム;イミダゾール及びそのカチオン性カウンターパートのイミダゾリウム;トリアゾール及びそのカチオン性カウンターパートのトリアゾリウム;ピペリジン及びそのカチオン性カウンターパートのピペリジニウム;モルホリン及びそのカチオン性カウンターパートのモルホリニウムなどの芳香族性を提供することができる少なくとも1つの不飽和を含んでもよく、含まなくてもよく;
○ 例えば、天然又は非天然リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、トリプトファンなどのカチオン性電荷の源としての塩基性アミノ酸残基;
○ 例えば、ポリマー性でないスペルミン、スペルミジン又はテルモスペルミン誘導体などの天然非高分子ポリアミン;でありうる。
○ さらに、本発明によれば、単一カチオン性ポロキサマー末端基に結合された「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」について記載されている化学構造のいずれかの組合せは、本発明の範囲に含まれる。したがって、本発明によれば、「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」構造は、1つ又はいくつかの炭素ベース鎖、直鎖又は分子鎖、ヘテロ原子を組み込んでいる又は組み込んでいないヘテロ原子、炭素環、複素環を含むことができる。この点の延長として、かつ現在の要望の本文、図面及び実施例に例証されているように、「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」について定義される化学構造は、これらの実体の可能性がポリマー性であることを排除し、「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」は、未定義の回数反復される同じ化学パターンにより構成され得ないことを意味する。
- A1、A2、A3及びA4は、例えば、以下などの1つ又はいくつかの有機基から選択することができる同じ又は異なる対イオンを表すことができる:
○ 例えば、ヨウ化物、臭化物、塩化物又はフッ化物などのハロゲン系アニオン;
○ 例えば、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロアセテート、アセテート、ホルメート、パラトルエンスルホネート、カルボネート、水素カルボネートなどの炭素原子上に集中している又はしていない負電荷を有する有機基;
○ 例えば、スルフェート、ホスフェート、ナイトレート、水素スルフェート、水素ホスフェートなどの無機アニオン;
○ これらの関連したカチオンと相互作用しない、又はごくわずかにしか相互作用しないアニオンとして定義される無機非配位アニオン。我々は、例えば、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート又はペルクロレート、カルバ-closo-ドデカボレートなどの例を挙げることができる;
○ テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート骨格をベースとするホウ素中心有機アニオンでありうる;そして、
- F108骨格、aは130~135に含まれる整数であり、bは48~52に含まれる整数であり、a-1は129~134に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=NH2,又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-S-S-C5H4N、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-NH2;
- F127骨格、aは98~103に含まれる整数であり、bは52~58に含まれる整数であり、a-1は97~102に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=NH2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-NH2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-NH-C19-H18-N7-O5、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-(CH2)2-NH-(CH2)3-NH-(CH2)4-NH-(CH2)3-NH2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-CH(NH2)-CH-(CH3)2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-NH-(CH2)2-NH-(CH2)2-NH2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-CH(NH2)-CH2-SH;
- F68骨格、aは72~78に含まれる整数であり、bは25~32に含まれる整数であり、a-1は71~77に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=NH2,及びX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-S-S-C5H4N、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-NH2;
- P123骨格、aは17~23に含まれる整数であり、bは67~73に含まれる整数であり、a-1は16~22に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-NH2;
- L121骨格、aは8~12に含まれる整数であり、bは64~72に含まれる整数であり、a-1は7~11に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-CH=N-(CH2)2-NH2又はX1R1=X2R2=-CH=N-(CH2)4-NH2又はX1R1=X2R2=-CH=N-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)2-NH2;
- P85骨格、aは24~28に含まれる整数であり、bは38~42に含まれる整数であり、a-1は23~27に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)3-NH2;
- P105骨格、aは34~39に含まれる整数であり、bは52~60に含まれる整数であり、a-1は33~38に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-S-S-C5H4N、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-NH2;
- F88骨格、aは94~100に含まれる整数であり、bは34~42に含まれる整数であり、a-1は93~99に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-S-S-C5H4N、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-NH2;
- P124骨格、aは8~14に含まれる整数であり、bは16~24に含まれる整数であり、a-1は7~13に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-CH2-C12H20N3O8、又はX1R1=X2R2=N((CH2)3-NH2)-(CH2)4)-NH2;
- P104骨格、aは24~30に含まれる整数であり、bは56~64に含まれる整数であり、a-1は23~29に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-(CH2)2-NH-(CH2)3-NH-(CH2)4-NH-(CH2)3-NH2;
- P103骨格、aは14~20に含まれる整数であり、bは56~64に含まれる整数であり、a-1は13~19に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-(CH2)2-NH-(CH2)3-NH-(CH2)4-NH-(CH2)3-NH2;
- L64骨格、aは10~16に含まれる整数であり、bは26~34に含まれる整数であり、a-1は9~15に含まれる整数であり、X1R1=N3及びX2R2=-C17H15N2O2;
- T908骨格、aは116~122に含まれる整数であり、bは15~20に含まれる整数であり、a-1は115~121に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=X3R3=X4R4=NH2;を除外しうる。
【0076】
本発明によれば、A1、A2、A3及びA4は、カチオン性ポロキサマー鎖の末端基は、全分子集合物の中性を保存するためのアニオン性カウンターパートの存在を意味するので、カチオン性部分の組込みとして全重合体の中性を維持することができる。結果として、A1、A2、A3及びA4に含まれる負電荷数は、「-X1-R1」、「-X2-R2」、「-X3-R3」及び「-X4-R4」に存在する正電荷数と直接的に関連されるだろう。さらに、「A」の性質は、カチオン性ポロキサマーの修飾中に使用される反応物に依存し得る。重合体修飾及び「A」の正確な性質に必要とされる化学特性を組み合わせる反応物を使用することが可能でない場合、共通に記載されている実験条件(Gutowski K.E.et al J.Am.Chem.Soc.,2003,125:6632-6633)を用いた塩メタセシス反応をセットアップされるだろう。
【0077】
本発明によれば、「a」及び「b」の選択は、記載のカチオン性ポロキサマーの構造組成を調節し、したがって、その物理化学的特性を改質するだろう。これらの中で、特性は、HLB(親水性親油性バランス)、周知の半経験値を強調することができ、これは、よく用いられる界面活性剤の親水性又は親油性挙動を反映する。本発明によれば、Guo et al.(Guo X et al.Journal of Colloid and Interface Science 2006 298:441-450)による中性ポロキサマー定義にまで拡張されたHLBのデイビズ(Davies)の定義(Davies JT,Proceedings of the International Congress of Surface Activity 1957,426-438)を使用した。
【0078】
本発明によれば、「規則的」ポロキサミン(ポリプロピレンオキシドブロックは中央部アミン官能基と結合することができる)及び「リバースポロキサミン」(ポリエチレンオキシドブロックは中央部アミン官能基と結合することができる)の両方も、本発明において考えられていることに留意すべきである。
【0079】
また、式I、及びIIに記載されている全分子は、これらの直鎖若しくはX状又は反転文字を考慮しないで、本書類においてカチオン性ポロキサマーと呼ぶ。
【0080】
本発明によれば、記載されるカチオン性ポロキサマーは、カチオン性修飾前の得られる重合体のHLB値が1~100、より好ましくは10~40、より好ましくは15~30であり得るように選択される「a」及び「b」の値を用いて構成することができる。この目的は、BASF又はCRODAなどの異なる供給業者から商用利用可能なポロキサマー出発物質の注意深い選択により達成することができる。
【0081】
本発明におけるような、特に、アニオン重合による重合体合成は、反復単位の正確な数、を含む完全に制御された分子を誘導することができず、大体の場合、製造者による合成の最後にかかる重合体の「純粋な」形態を得ることは、可能である精製方法の質によって条件調整することができる。したがって、当業者が不可能でない場合、記載のカチオン性ポロキサマーの分子量に関連するパラメータの正確な値を得ることは実に困難である。本明細書で概要を述べたように、カチオン性ポロキサマーの合成は、様々な分子量を有する重合体混合物をもたらすことができる。したがって、分子量、又はHLBと関連して用語「平均」は、全てが同じ組成を有するカチオン性ポロキサマーを製造することができない技術の結果である。
【0082】
したがって、使用されるカチオン性ポロキサマーは、各々がこれらの分子量及び組成に関してばらつきを示すカチオン性ポロキサマーの混合物として存在し得る。分子量、HLB、並びに式IIIa、IIIb、IVa及びIVbにおける値「a」及び「b」などのパラメータはこのばらつきを反映し、この研究で使用されたカチオン性ポロキサマーの混合物の特徴として考えなければならない。
【0083】
本発明によれば、式Iの化合物の好ましい構造は、一般的直鎖カチオン性ポロキサマー構造を用いた式Iに開示されているものであり得る:
【0084】
【0085】
式中「a」、「b」及び「a-1」並びに「b-1」の値は、本文の前の箇所で定義されている通りであり得る。
【0086】
前述のように、前記以下の分子は、式I、IIにより定義されている本発明から除外されるが、カチオン性ポロキサマーとして形質導入方法に関連して本発明に含まれる:
- F108骨格、aは130~135に含まれる整数であり、bは48~52に含まれる整数であり、a-1は129~134に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=NH2,又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-S-S-C5H4N、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-NH2;
- F127骨格、aは98~103に含まれる整数であり、bは52~58に含まれる整数であり、a-1は97~102に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=NH2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-NH2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-NH-C19-H18-N7-O5、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-(CH2)2-NH-(CH2)3-NH-(CH2)4-NH-(CH2)3-NH2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-CH(NH2)-CH-(CH3)2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-NH-(CH2)2-NH-(CH2)2-NH2、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-CH(NH2)-CH2-SH;
- F68骨格、aは72~78に含まれる整数であり、bは25~32に含まれる整数であり、a-1は71~77に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=NH2,及びX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-S-S-C5H4N、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-NH2;
- P123骨格、aは17~23に含まれる整数であり、bは67~73に含まれる整数であり、a-1は16~22に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-NH2;
- L121骨格、aは8~12に含まれる整数であり、bは64~72に含まれる整数であり、a-1は7~11に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-CH=N-(CH2)2-NH2又はX1R1=X2R2=-CH=N-(CH2)4-NH2又はX1R1=X2R2=-CH=N-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)2-NH2;
- P85骨格、aは24~28に含まれる整数であり、bは38~42に含まれる整数であり、a-1は23~27に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)3-NH2;
- P105骨格、aは34~39に含まれる整数であり、bは52~60に含まれる整数であり、a-1は33~38に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-S-S-C5H4N、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-NH2;
- F88骨格、aは94~100に含まれる整数であり、bは34~42に含まれる整数であり、a-1は93~99に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-(CH2)2-S-S-C5H4N、又はX1R1=X2R2=-O-C(O)-NH-NH2;
- P124骨格、aは8~14に含まれる整数であり、bは16~24に含まれる整数であり、a-1は7~13に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-CH2-C12H20N3O8、又はX1R1=X2R2=N((CH2)3-NH2)-(CH2)4)-NH2;
- P104骨格、aは24~30に含まれる整数であり、bは56~64に含まれる整数であり、a-1は23~29に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-(CH2)2-NH-(CH2)3-NH-(CH2)4-NH-(CH2)3-NH2;
- P103骨格、aは14~20に含まれる整数であり、bは56~64に含まれる整数であり、a-1は13~19に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=-O-C(O)-(CH2)2-NH-(CH2)3-NH-(CH2)4-NH-(CH2)3-NH2;
- L64骨格、aは10~16に含まれる整数であり、bは26~34に含まれる整数であり、a-1は9~15に含まれる整数であり、X1R1=N3及びX2R2=-C17H15N2O2;
- T908骨格、aは116~122に含まれる整数であり、bは15~20に含まれる整数であり、a-1は115~121に含まれる整数であり、X1R1=X2R2=X3R3=X4R4=NH2。
【0087】
本発明によれば、本明細書に記載されているカチオン性ポロキサマー並びにいずれかの他のカチオン性ポロキサマーを、形質導入実験において化学的アジュバントとして使用することができる。これらは、標的細胞と接触する前にウイルスベクターと組み合わせることができる。接触、ウイルスベクター及び標的細胞の概念を、本書類で説明する。
【0088】
カチオン性ポロキサマーは、高濃度においてゲルを生成する性質を有する。本発明に記載されているカチオン性ポロキサマーは、液体又はゲルとして供給され得る。
【0089】
カチオン性ポロキサマーを、水、又は細胞生物学でルーチン的に使用される適切な水性バッファのいずれかに所与の範囲の濃度で溶解することができる。かかるバッファの例は:HEPES、DPBS(カルシウム及び/又はマグネシウムのありなし)、トリス、炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩であり得る。溶解濃度及び溶解媒体の選択を、効率的及び再現可能な形質導入効率を維持し、液体物理状態における本発明に関する製剤を保存するように行うことができる。カチオン性ポロキサマーを、乳剤、ゲル剤、ナノエマルジョン又はミセルを生成可能な界面活性剤などの異なる成分と会合させることもできる。
【0090】
新規カチオン性ポロキサマー並びに本発明の日において従来技術から公知であるカチオン性ポロキサマーを、細胞表面及び/又は内部において特異的に標的とする又は決定因子と結合することができるアジュバントなどの異なる種類の化学分子と会合又は製剤化することができ、必要に応じて、式I、IIに対応する化合物と、又は式I、IIの化合物を含む組成物中に含まれる他の分子、例えば、標的細胞の表面において発現された受容体のリガンド、例えば、糖、葉酸塩、トランスフェリン、インスリン、ホルモン、プロスタグランジン、ペプチド、後退、代謝物、ビタミン又は細胞外受容体を認識することができる他の分子、又はミトコンドリア、核若しくは細胞質など、例えば、核若しくは細胞質又は、例えば、糖、ペプチド、タンパク質、抗体、抗体フラグメント、リガンド若しくはリガンドフラグメントなどのミトコンドリア局在化シグナルなどの特定のコンパートメントを標的とするための細胞内ベクトル化の要素と共有結合又は非共有結合することができる。タンパク質キナーゼCの活性化因子若しくは抑制因子又は細胞代謝経路(AMPKシグナル伝達、インスリン受容体シグナル伝達、グルタミン代謝経路、その他)の活性化因子若しくは抑制因子など、TLR-経路(Toll様受容体)、PRR経路(パターン認識受容体)、PAMP経路(病原体関連分子パターン)、DAMP経路(損傷関連分子パターン)、AhRリガンド(アリール炭化水素受容体リガンド)、NOD様受容体(NLR)、RIG-I様受容体(RLR)、サイトゾルDNAセンサー(CDS)、C型レクチン受容体(CLR)の活性化因子若しくは抑制因子、インフラマソーム若しくは炎症若しくはオートファジー経路の活性化因子若しくは抑制因子、JAK/STAT経路の活性化因子若しくは抑制因子、ユビキチン及びユビキチン様/プロテアソーム経路の活性化因子若しくは抑制因子、PI3K/AKT経路の活性化因子若しくは抑制因子、チロシンキナーゼの活性化因子若しくは抑制因子、MAPキナーゼ経路の活性化因子若しくは抑制因子、GPCR、カルシウム、cAMPシグナル伝達経路の活性化因子若しくは抑制因子、細胞周期、チェックポイント制御及びDNA修復機構の活性化因子若しくは抑制因子、アポトーシス経路の活性化因子若しくは抑制因子、反応性酸素化学種の制御因子(ROS、NOS...)、タンパク質合成及びRNA分解過程の制御因子、クロマチン若しくはDNAレベルにおける役割を有する主要要素の制御因子(すなわち、タンパク質アセチル化、ヒストンリジンメチル化、DNAメチル化、核内受容体シグナル伝達...)、微小管及びアクチン動力学経路の制御因子などのシグナル伝達分子及び標的細胞内部のシグナル伝達経路に関連し得る分子も、本発明において考えることができる。
【0091】
カチオン性ポロキサマーを、形質導入手順に影響を与えることが知られている分子と結合させることもできる。これは、組換えされた又は組換えされていないポリペプチド、リポソーム、カチオン性脂質、ポリエチレンイミン、硫酸プロタミン、ポリブレン、ポリ-L-リジン、DEAEデキストラン、ポリ乳酸-co-グリコール酸、キトサンなどのカチオン性重合体、非修飾ポロキサマー、ポリエチレングリコール及び誘導体などの中性重合体、澱粉及びヒアルロン酸などのアニオン性重合体など、広範囲の分子を包含する。これらの分子を、本発明の添加1週間前から4週間後、好ましくは本発明の添加1日前から7日後に細胞に添加することができる。
【0092】
本発明の主目的は、形質導入手順のための新規な効率的アジュバントを設計することである。磁性ナノ粒子を使用して、形質導入を増強、同期及び促進した。したがって、カチオン性ポロキサマーを、磁性ナノ粒子と組み合わせて試験し、本発明において、本文に記載されているカチオン性ポロキサマーは磁性ナノ粒子のための安定剤及び相乗剤の機能を果たすこともできる。
【0093】
事実、ビーズの磁性コロイド懸濁液の表面における未修飾ポロキサマーの使用は周知である。これらの極めて生物学的な適合性により、主にエチレンオキシド鎖の存在により、いくつかの例は、これを、特にインビボでの手順において生物環境で使用しようとするこれらのコロイド懸濁液の性質をこのように増強する鉄ベース磁性と関連付ける。しかしながら、いかなる場合でも、未修飾ポロキサマーは、ナノ粒子にゼータ電位、又は表面電位を提供するために、重合体であってもそうでなくても、別タイプの分子と結合する必要がある。事実、静電反発相互作用はコロイド懸濁液中で起こり、その結果、磁気コアはアグリゲートせず、マイクロメートル物質をもたらして、宿主生物の安全性に悲惨な結果となるかもしれないことは最重要である。拡大解釈すれば、未修飾ポロキサマーでしか被覆されていない磁性ナノ粒子は、安定化電荷の欠損により長時間にわたって安定なままであった。本発明の分子に付加された正電荷並びに他のカチオン性ポロキサマーは、静電相互作用、磁性鉄コアにより安定化するために必要な欠損因子を導入する。本発明によれば、その方法で製造された粒子は、何週間もナノメートルサイズの範囲を保持することができるが、未修飾ポロキサマーで被覆されたこれらのカウンターパートは何時間ものコロイド安定性を達成できない。この新規な興味深い特徴は、本出願者が、ウイルスベクターと組み合わせた場合に形質導入効率の向上を示す磁性鉄ナノ粒子の新規分類の開発をすること可能とした。
【0094】
また、本発明は、上記定義の式I又はIIの少なくとも1つの化合物を含む組成物、好ましくは、治療用又は化粧品用又はライフサイエンスのための組成物にも関する。
【0095】
別の態様では、本発明は、式I又はIIの少なくとも1つの化合物及びウイルスを含む組成物に関する。
【0096】
さらに別の態様では、本発明は、式I又はIIの少なくとも1つの化合物及び最終的に標的細胞を形質導入するためのウイルスを含む組成物に関する。
【0097】
本発明は、単独又は前述のように製剤され最終的にウイルスをさらに含むカチオン性ポロキサマー、及び必要に応じて使用説明書を備えるキットにも関する。
【0098】
本発明は、クレーム1~11に記載の方法により得られた形質導入された細胞に関する。前記細胞は、細胞療法において使用することができる。
【0099】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の例証的及び包括的でない実施例並びに本発明の化合物を用いて行われた試験の結果を例証する附属の図面において見られるだろう。
【実施例】
【0100】
a)材料
溶媒及び試薬のほとんどは、VWR Prolabo(仏国ブリアール)、Sigma-Aldrich SA(仏国サン・カンタン・ファラヴィエ)、TCI Europe N V(ベルギーアントウェルペン)及びBachem Biochimie SARL(仏国ボアザン・ル・ブルトヌー)から得た。出発物質として使用したポロキサマーは、BASF Performance polymers Europe(独国ルードルシュタット)及びCRODA Industrial specialties Europe(オランダ国ゴーダ)から入手した。試薬グレードで購入した全試薬を、特に指定されない限り、更に精製しないで使用した。本研究で使用したアミノ酸は、特に指定されない限り、全て天然アミノ酸由来(すなわち、L-異性体)由来である。
【0101】
b)方法
薄層クロマトグラフィー(TLC)を、シリカゲル60Fasa(Merck)で被覆されたアルミニウムプレートで行う。化合物を、ニンヒドリン呈色液(0.2%ブタノール溶液)への浸漬によりヨウ素を用いてUV光(254nm)下で展開し、次いで、150℃で加熱した。第一級アミン官能基を有する化合物の場合、セリウム/濃縮モリブデン酸塩(HO/HSO4)/(NH4)MoO・4H2O/Ce(SO)・3HO展開液:90/10/15/1)に浸漬し、次いで、硫黄含有化合物の場合110℃で加熱した。
【0102】
合成生成物を、シリカクロマトグラフィーカラムで精製する。フラッシュクロマトグラフィー分離を、シリカゲル60(230~400メッシュ ASTM)(Merck)で行う。
【0103】
特に指定されない限り、重合体精製を、Sigma Aldrich又はSpectrum Labs Europe BV(オランダ国ブレダ)により販売されている異なるカットオフの膜を用いて透析法により行った。透析法は、4リットルの再蒸留水に対して行った。媒体を2時間後、8時間後、24時間後、36時間後及び48時間後に交換した。
【0104】
凍結乾燥を、-80℃で12時間凍結状態を保持したサンプルに対して、Heto PowerDry3000凍結乾燥器を用いて行った。
【0105】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
SEC実験を、Agilent HPLC1260 Chain(Agilent、仏国レ・ジュリス)を用いてゲル浸透クロマトグラフィー技術に従って行った。この装置は:手動注入バルブ、屈折率検出器RID Agilent1260 Infinity、多波長Agilent infinity 1260 UV検出器、及び恒温カラムオーブンAgilent 1260 infinityを備える。データを収集し、Agilent Open Lab LC Chemstationソフトウェア及びそのGPC拡張機能を用いて処理した。これらの実験で使用した固定相は、40℃にサーモスタット制御されたAgilent Biosec 3カラム(100Å、7.8×300mm)である。移動相は、pHを4.75に補正されている0.5M酢酸バッファにより構成されている。移動相を、超音波により何度も脱気し、使用前に2回ろ過した。約105バール(1.05×107Pa)の範囲に作動圧が達するように流量を1mL/分に調整した。
【0106】
重合体の分子質量特性の分析のため、分子量検量線を、Agilentにより提供されたポリエチレンオキシド標準品(20400~136Daの範囲のMw)を用いて作成した。分析しようとするサンプルを、1mg/mLの濃度で再蒸留水に溶解し、ろ過した後、注入した(シリンジろ過、0.22μm、Merck)。サンプルを溶解するために使用した希釈水は、全測定のための溶離マーカーとして使用されるテトラヒドロフラン(THF、10μL/100mLの水)を含有していた。
【0107】
粒度及びゼータ電位測定
カチオン性ポロキサマーの平均流体力学的粒度及び電荷測定を、グレード2の水中において、Malvern Nano ZS装置及びDTSソフトウェア(Malvern Instruments、英国)を用い、それぞれ、動的光散乱法(DLS)及びレーザドップラー速度計測法(LDV)を用いて行った。様々な量のカチオン性ポロキサマーを、100μlの水に希釈し、DNAを含有する同量の同じ水と混合した。測定を自動モードで行い、結果を平均±SEM、n=3として示した。各平均は、30測定の平均値である。
【0108】
合成分子の実施例
修飾カチオン性ポロキサマーの大きな集合体を、本発明に記載されている方法に従って合成した。これらの実施例で得られた全分子は、市販の未修飾「親水性」直鎖及び規則的ポロキサマーから誘導し、様々なHLB値、好ましくは、20より大きいか又は20に近い値(完全な定義は上記参照)を有する。この試験に出発物質として使用される市販重合体の主要な構造的特徴は、下表1にまとめている。
【0109】
【表1】
表1:この試験にテンプレートとして使用された商用利用可能な未修飾ポロキサマーの物理特性。分子量(MW)を、ダルトン(Da)で表し、製造者により提供された。「a」及び「b」は、本文のもっと前で定義されており、MWにより算出した。HLBは、製造者により算出された。
【0110】
カチオン性修飾の大きいパネルは以下の実施例で示され、異なるストラテジーを前述の異なる商用利用可能な未修飾ポロキサマーに適用した。これは、本発明に属するカチオン性重合体をもたらした。これらの重合体の各々は、以後表2に図示されている番号(タグ)の後に命名されている。
【0111】
【表2】
表2:この試験のために合成されたカチオン性ポロキサマーに属する番号(タグ):各重合体を、カチオン性化学官能基を用いた末端基の修飾と、商業的供給源からの未修飾ポロキサマー骨格として組み合わせて同定する。
【0112】
実施例を可能な限り単純にする目的で、各合成ストラテジーの1つの実施例のみをその全文に記載する。しかしながら、これらの合成手順の全ては、表2に記載されている化合物を得るために同様な効率で適用した。
【0113】
したがって、各合成工程を選択されたカチオン性ポロキサマーに関して完全に説明するが、他の重合体骨格を用いた結果は主要な手順に従って毎回表中に要約する。
【0114】
実施例1:ビススペルミンカチオン性ポロキサマー誘導体の合成
実施例1は、未修飾ポロキサマーの異なる親水性骨格上の末端基としてスペルミン誘導体の導入を扱う。化学ストラテジーは、次の一般的構造を有する化合物をもたらすだろう:
【0115】
【0116】
関連化合物の物理化学的特徴は、選択される高分子骨格に依存する。これらは、次表3に要約する。
【0117】
【表3】
表3:この試験に記載されるスペルミングラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の主要な物理化学的特徴、S.d.:スペルミン誘導体;Tfa:トリフルオロアセテート;XR-A:上記カチオン性末端基(XR)-対アニオン(A);Tag:得られた重合体に属する番号;a;b:上記定義のPEO(a)及びPPO(b)ブロックの数。HLBは、前記のように親水性/親油性バランスを表す。
【0118】
合成ストラテジーを例証するため、化合物Iを得るための詳細手順を下記に展開する。
図IIに記載されている化合物1bの合成から始まる:
【0119】
工程1:ビストシル化F87 1aの合成。
合成前に、10gのF87(Croda)を、100mLのミリQ再蒸留水に溶解し、500mLフラスコに入れる。次いで、混合物を-80℃において一夜凍結した後、凍結乾燥した。
【0120】
それから、3.36g(0.436mmol)を、アルゴン下ピリジンを含む無水ジクロロメタンの混合物(ジクロロメタン/ピリジン体積比73/13)の86mL中に溶解する。混合物を激しく撹拌した後、触媒量のDMAP(TCI)及びパラトルエンスルホン酸塩化物(Sigma-Aldrich、4.36mmol、891mg)を45分にわたって分割添加した。その後、反応物を室温で48時間撹拌する。次いで、全混合物を真空下濃縮し、得られた黄色っぽいゴム状物をDCM(50mL)に再溶解する。それから、有機抽出物をNH4Cl飽和水溶液で2回(2×100mL)洗浄し、放置した。それから、合わせた洗浄液をジクロロメタン(5×50mL)で何度も抽出した後、有機抽出物を合わせて、これを、ミリQ水を用いたNH4Cl飽和水溶液で2回、及び塩水で1回(各150mL)洗浄する。それから、得られた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、真空下で濃縮して、表題の化合物を得て、これを更に精製しないで使用した(3.17g)。
【0121】
次の表4は、出発物質の番号及び量並びにビストシル化製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0122】
【0123】
工程2:ビスアミノF87 1bの合成。
化合物1b(1.66g、0.208mmol)を、激しく撹拌しながら、2Mアンモニア(TCl)を含有する30mLのメタノール溶液に溶解する。溶液をアルゴンで脱気し、次いで、24時間還流まで加熱する。それから、メタノール中のアンモニアを添加(15mL)し、混合物を更に6時間還流した後、真空下濃縮する。それから、得られたシロップ状物を20mLの再蒸留水に溶解し、一夜4℃で保持し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入した。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(1.48g)。この化合物は、カチオン性である。したがって、本発明に属する。
【0124】
次の表5は、アンモニアによるトシル置換の工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにビスアミノ製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0125】
【0126】
それから、表題化合物を得るため、オルニチン誘導体1eの合成を必要とする。
【0127】
化合物1e、Iの中間体の合成を
図3に要約する:
工程3:2,5-ビス(2-シアノエチルアミノ)ペンタン酸1cの合成
水酸化ナトリウム(1.78g、44.5mmol、VWR)を乳鉢で微粉砕し、丸底フラスコ内で150mLのメタノールに懸濁する。それから、L-オルニチンモノヒドロクロリド(5g、29.7mmol、TCI)を分割して導入し、1時間30分間激しく撹拌する。それから、懸濁液をセライトの短パッド(Sigma-Aldrich)でろ過する。残った透明のろ液をフラスコ内に再導入し、撹拌した後、4.29mLのアクリロニトリルを1時間にわたって滴下する。完全に添加後、TLCにより完了が示されるまで、混合物を暗所において室温で36時間撹拌する。撹拌後、12mLの37%HCl(VWR)を混合物に注意深く添加して、撹拌しながら濁った沈殿物を生成する。固形物をろ過により集めて、真空乾燥する(S1、2.51g)。それから、数滴の30%濃水酸化ナトリウム水溶液(VWR)を添加すると、その結果、直ぐに固形物が生成し、これを集めて同様に乾燥する(S2、1.13g)。TLCによる分析により、残ったろ液は目的物質を含有しないが、S1及びS2は純粋な目的生成物であることが分かった。全収率は46%である(3.64g、13.7mmol)。
【0128】
工程4:5-アミノ-2-(3-アミノプロピルアミノ)ペンタン酸1d
2,5-ビス(2-シアノエチルアミノ)ペンタン酸1c(2.51g、9.44mmol)を、40mLの無水エタノールに懸濁する。混合物のpHを、水酸化ナトリウムを用いて僅かに増加して溶解を促進した後、50mLスチール実験用オートクレーブ(BuchiGlass;スイス国ウスター)に移す。触媒量のラネーニッケル(Sigma Aldrich)を導入し、オートクレーブを閉じ、8バール(8×105Pa)圧の二水素下に入れる。混合物を、このように、12時間撹拌する。それから、排気して、混合物をセライトの短パッドでろ過する。エタノールの除去後、得られた油状物を、更に精製しないで次工程で使用する。
【0129】
工程5:2,5-ビス[tert-ブトキシカルボニル-[3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)プロピル]アミノ]ペンタン酸1e
工程4の粗生成物を、テトラヒドロフラン及び水(体積比5/1)からなる溶液15mLを含む三ツ口丸底フラスコに入れる。それから、混合物を、氷/水浴を用いて0℃まで冷却する。撹拌下、4M NaOH水溶液(9.12mL)及びTHF(12mL)に溶解されたBoc2O(11.4g、57mmol)を、各々交互に4回に分けて添加する。添加工程全体で30分かけて終わり、次いで、反応を室温で12時間撹拌する。それから、反応物を真空下濃縮し、100mLの6M HClに再分散し、ジエチルエーテル(6×35mL)で抽出する。それから、有機抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過して濃縮する。生成物を、移動相としてDCM/MeOH(DCM中2%から12%までのMeOH勾配)を用いてシリカゲルで精製する。濃縮後、目的化合物を、48%収率で単離する(2工程、2.91g、4.53mmol)。
【0130】
この化合物を大量に合成し、
図4に示されているストラテジーに従って各ビスアミノポロキサマーと組み合わせて使用した。
【0131】
工程6:1b及び1eのカップリング
化合物1e(32mg、4.8×10-2mmol)を2mLの無水DMFに溶解する。DIC(9μL、5.6×10-2mmol)及びHOBt(8mg、5.6×10-2mmol)を混合物に連続的に添加し、2時間30分間撹拌する。それから、ポロキサマー1b(127mg)を撹拌しながらフラスコに直接的に添加し、反応物を室温で24時間追跡した後、高真空下濃縮する。それから、得られたシロップ状物を20mLの再蒸留水に溶解し、一夜4℃で保持し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入した。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(123mg)。
【0132】
次の表6は、化合物1eとのカップリングの工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにビス保護製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0133】
【0134】
工程7:ビス置換F87誘導体 Iの合成。
化合物1f(123mg)を、4mLのジクロロメタン溶液に溶解する。それから、TFAを滴下で導入する(VWR、2mL)。溶液をアルゴンで脱気し、次いで、2時間撹拌する。それから、混合物を真空で濃縮し、DCMと2回、ジエチルエーテルと3回共蒸発させて、真空下一夜乾燥する。それから、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(124mg)。
【0135】
次の表7は、Boc脱保護の工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにビススペルミン製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0136】
【0137】
実施例2:ビストリメチルアンモニウムカチオン性ポロキサマー誘導体の合成
実施例2は、異なる親水性未修飾ポロキサマーの末端基としてトリメチルアンモニウム部分の導入を扱う。化学ストラテジーは、下記に示されている一般的構造を有する化合物をもたらすだろう:
【0138】
【0139】
トリメチルアンモニウムグラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の構造
【0140】
関連化合物の物理化学的特徴は、選択される高分子骨格に依存する。これらは、次表8に要約する。
【0141】
【表8】
表8:この試験に記載されているトリメチルアンモニウムグラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の主要な物理化学的特徴。XR:カチオン性末端基(XR);前述の対アニオン(A);タグ:得られた重合体に属する番号;a;b:上記定義のPEO(a)及びPPO(b)ブロックの数。HLBは、前記のように親水性/親油性バランスを表す。
【0142】
合成ストラテジー、化合物IIを得るための詳細手順を
図5に展開する。
【0143】
工程1:ビストシル化F108 2aの合成。
合成前に、20gのF108(Croda)を、200mLのミリQ再蒸留水に溶解し、1000mLフラスコに入れる。次いで、混合物を-80℃において一夜凍結した後、凍結乾燥した。
【0144】
化合物2aを、16.8gのF108から出発してストラテジー及び化合物1aの合成に使用される割合に従って、15.8gの2aを得る。詳細な結果については表4参照。
【0145】
工程2:ビスアミノF108 2bの合成。
化合物2bを、4.65gの2aから出発してストラテジー及び化合物1bの合成に使用される割合に従って、3.38gの2bを得る。この化合物は、カチオン性である。したがって、これは本発明に属し、本書類において更に評価する。
【0146】
詳細な結果については表5参照。
【0147】
工程3:ビストリメチルアンモニウムF108誘導体IIの合成。
アルゴン下丸底フラスコ中の8mL無水DMFに300mg(2.06×10-2mmol)の化合物2bを導入する。数分内に完全溶解後、DIPEA(Sigma-Aldrich、60μL、3.44×10-1mmol)及びヨウ化メチル(Sigma-Aldrich、75μL、1.21mmol)を添加し、得られた混合物を室温で48時間撹拌する。溶媒除去後、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(290mg)。
【0148】
次の表9は、トリメチル化工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにビストリメチル化製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0149】
【0150】
実施例3:トリフェニルホスホニウムカチオン性ポロキサマー誘導体の合成
実施例3は、異なる親水性未修飾ポロキサマーの末端基としてトリフェニルホスホニウム部分の導入を扱う。化学ストラテジーは、下記に示されている一般的構造を有する化合物をもたらすだろう:
【0151】
【0152】
トリフェニルホスホニウムグラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の一般的構造
【0153】
関連化合物の物理化学的特徴は、選択される高分子骨格に依存する。これらは、次表10に要約する。
【0154】
【表10】
表10:この試験に記載されるトリフェニルホスホニウムグラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の主要な物理化学的特徴(T;b:トリフェニルホスホニウム;臭化物)XR;A:上記カチオン性末端基(XR);上記対アニオン(A);Tag:得られた重合体に属する番号;a;b:上記定義のPEO(a)及びPPO(b)ブロックの数。HLBは、前記のように親水性/親油性バランスを表す。
【0155】
合成ストラテジーを例証するため、化合物IIIを得るための詳細手順を
図6に展開する。
【0156】
工程1:ビス臭素化F127 3aの合成。
合成前に、20gのF127(Croda)を、200mLのミリQ再蒸留水に溶解し、1000mLフラスコに入れる。次いで、混合物を-80℃において一夜凍結した後、凍結乾燥した。
【0157】
100mL丸底フラスコに、アルゴン雰囲気下、5.45gのF127(0.432mmol)を溶解する。四臭化炭素(Sigma、2.46g、7.42mmol)及びトリフェニルホスフィン(Sigma、2.13g、8.14mmol)を、1時間かけて3回に分けて同時に添加する。混合物を室温で48時間激しく撹拌した後、真空下ジクロロメタンを除去する。それから、得られた固形物を50mLのミリQ水に再懸濁し、4℃で12時間保持する。遠心分離により固形物を除去した後、表題生成物を、凍結乾燥により更に精製しないで単離する(1.62g)。
【0158】
次の表11は、臭素化工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにビス臭素化製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0159】
【0160】
工程2:ビスホスホニウムF127誘導体IIIの合成。
1g(0.078mmol)の化合物3aを、30mLの無水DMFに溶解する。その後、PPh3(1.6mmol、420mg)をアルゴン下添加し、反応物を、アルゴン雰囲気を保持しながら油浴中で120℃まで加熱する。撹拌36時間後、反応物を室温まで冷却し、真空下濃縮する。得られたシロップ状物をいくらかのヘキサンで何度も洗浄し、固形物を得て、次いで、これを高真空下12時間乾燥する。それから、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(654mg)。
【0161】
次の表12は、ホスホニウム導入工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにビスホスホニウム製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0162】
【表12】
実施例4:ビス-1-メチル-5-[(トリメチル-λ5-アザニル)メチル]-1λ5,2,3-トリアザシクロペンタ-1,4-ジエン(MTAMTD)-カチオン性ポロキサマー誘導体の合成
【0163】
実施例4は、異なる親水性未修飾ポロキサマー上の末端基としての1-メチル-5-[(トリメチル-λ5-アザニル)メチル]-1λ5,2,3-トリアザシクロペンタ-1,4-ジエン(MTAMTD)部分の導入を取り扱う。化学ストラテジーは、次の一般的構造を有する化合物をもたらすだろう:
【0164】
【0165】
MTAMTDグラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の一般的構造
【0166】
関連化合物の物理化学的特徴は、選択される高分子骨格に依存する。これらは、次表13に要約する。
【0167】
【表13】
表13:この試験に記載されているMTAMTDグラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の主要な物理化学的特徴。XR:カチオン性末端基(XR);前述の対アニオン(A);タグ:得られた重合体に属する番号;a;b:上記定義のPEO(a)及びPPO(b)ブロックの数。HLBは、前記のように親水性/親油性バランスを表す。
【0168】
合成ストラテジーを例証するため、化合物IVを得るための詳細手順を
図7に展開する。
【0169】
工程2:ビストアジドF108 4aの合成。
本書類のもっと前に記載されている化合物2a(7.44g、0.5mmol)を、アルゴン下30mLの無水DMFに溶解する。それから、アジ化ナトリウム(6mmol、390mg)を導入し、混合物を90℃で3日間撹拌する。冷却後、ロータリーエバポレーターを用いてDMFを除去する。それから、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(6.18g)。
【0170】
次の表14は、アジド導入工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにビスアジド製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0171】
【0172】
工程2:ビス-1H-トリアゾール-4-イルメタンアミンF108 4bの合成。
硫酸銅七水和物(VWR、0.012mmol、3mg)、アスコルビン酸(Sigma、0.06mmol、12mg)及びトリフェニルホスフィン(0.012mmol、3mg)を、1mLの無水DMSO中撹拌下混合する。この溶液を撹拌(15分)しながら、化合物4a(2g、0.136mmol)を4mLの水/DMSOの3/1混合物に溶解する。重合体の完全溶解後、銅ベース黄色っぽい溶液を反応フラスコに添加し、室温で12時間出発物質と共に撹拌する。それから、反応物を10mLの水に希釈し、4×20mLのDCMで抽出する。それから、有機抽出物を合わせて、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過して真空下濃縮する。それから、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(1.72g)。この化合物は、カチオン性である。したがって、本発明に属する。
【0173】
次の表15は、ヒュスゲンクリック反応工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにトリアゾール環を有する製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0174】
【0175】
工程3:ビス-1-メチル-5-[(トリメチル-λ5-アザニル)メチル]-1λ5,2,3-トリアザシクロペンタ-1,4-ジエンF108誘導体IVの合成
【0176】
アルゴン下丸底フラスコ中の18mL無水DMFに600mg(4.05×10-2mmol)の化合物4bを導入する。数分内に完全溶解後、DIPEA(Sigma-Aldrich、120μL、6.88×10-1mmol)及びヨウ化メチル(Sigma-Aldrich、150μL、2.42mmol)を添加し、得られた混合物を室温で48時間撹拌する。溶媒除去後、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(501mg)。
【0177】
次の表16は、メチル化反応工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにメチル化トリアゾリウム環を有する製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0178】
【0179】
実施例5:ビス-3,4-ジメチル-1H-イミダゾリウムカチオン性ポロキサマー誘導体の合成
実施例5は、異なる親水性未修飾ポロキサマーの末端基として3,4-ジメチル-1H-イミダゾリウム部分の導入を扱う。化学ストラテジーは、下記に示されている一般的構造を有する化合物をもたらすだろう:
【0180】
【0181】
3,4-ジメチル-1H-イミダゾリウムグラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の一般的構造
【0182】
関連化合物の物理化学的特徴は、選択される高分子骨格に依存する。これらは、次表17に要約する。
【0183】
【表17】
表17:この試験に記載されている3,4-ジメチル-1H-イミダゾリウムグラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の主要物理化学的特徴 XR;A:カチオン性末端基(XR);前述の対アニオン(A)。タグ:得られた重合体に属する番号;a;b:上記定義のPEO(a)及びPPO(b)ブロックの数。HLBは、前記のように親水性/親油性バランスを表す。3,4-dm1Hiz:3,4-ジメチル-1H-イミダゾリウム;ms:硫酸メチル。
【0184】
合成ストラテジーを例証するため、化合物Vを得るための詳細手順を
図8に展開する。
【0185】
工程1:ビストシル化F127 5aの合成。
合成前に、20gのF127(Croda)を、200mLのミリQ再蒸留水に溶解し、1000mLフラスコに入れる。次いで、混合物を-80℃において一夜凍結した後、凍結乾燥した。
【0186】
化合物5aを、11.7gのF127から出発してストラテジー及び化合物1aの合成に使用される割合に従って、11.3gの5aを得る。
【0187】
詳細な結果については表4参照。
【0188】
工程2:ビスアミノF127 5bの合成。
化合物5bを、3gの5aから出発してストラテジー及び化合物1bの合成に使用される割合に従って、2.2gの5bを得る。この化合物は、カチオン性である。したがって、本発明に属する。
【0189】
詳細な結果については表5参照。
【0190】
工程3:ビス-メチルイミダゾールF127 5cの合成。
化合物5b(1g、7.93×10-2mmol)を、アルゴン雰囲気下10mLの無水DMFに溶解する。完全溶解後、アセトアルデヒド(TCI、1.6mmol、100μL)を混合物に導入し、次いで、これを室温で3時間撹拌する。炭酸カリウム(VWR、0.47mmol、65mg)及びパラトルエンスルホン酸イソシアニド(para-toluenesulfonic isocyanide)(Sigma、0.47mmol、91mg)を順次添加し、反応物を室温で24時間撹拌し続ける。反応終了後、溶媒を真空下蒸発させて、次いで、酢酸エチルと数回共蒸発させる。それから、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(831mg)。この化合物は、カチオン性である。したがって、本発明に属する。
【0191】
次の表18は、ファン・ロイゼン環化反応工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにイミダゾール環を有する製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0192】
【0193】
工程4:ビスメチルイミダゾリウム塩F127 Vの合成。
化合物5c(412mg)を、アルゴン下20mLの無水トルエンに溶解する。それから、フラスコを、氷浴を用いて0℃まで冷却する。激しく撹拌しながら、硫酸ジメチル(Sigma、6.3mmol、600μL)を、フラスコ内部の温度が40℃を超えて上昇しないように注意深く混合物に導入する。添加完了後、反応物を室温で更に2日間撹拌し、真空下濃縮し、次いで、ジエチルエーテル及び酢酸エチルと数回共蒸発させる。それから、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(274mg)。
【0194】
次の表19は、イミダゾールメチル化工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びにメチル化イミダゾリウム環を有する製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0195】
【0196】
実施例6:ビスアルギニンベースのカチオン性ポロキサマー誘導体の合成
実施例6は、異なる親水性未修飾ポロキサマーの末端基としてアルギニン部分の導入を扱う。化学ストラテジーは、下記に示されている一般的構造を有する化合物をもたらすだろう:
【0197】
【0198】
アルギニン部分を有するカチオン性ポロキサマーの一般構造
【0199】
関連化合物の物理化学的特徴は、選択される高分子骨格に依存する。これらは、次表20に要約する。
【0200】
【表20】
表20:この試験に記載されるアルギニングラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の主要な物理化学的特徴(A;TFA:アルギニン/トリフルオロアセテート);XR;A:上記カチオン性末端基(XR);上記対アニオン(A);タグ:得られた重合体に属する番号;a;b:上記定義のPEO(a)及びPPO(b)ブロックの数。HLBは、前記のように親水性/親油性バランスを表す。
【0201】
合成ストラテジーを例証するため、化合物VIを得るための詳細手順を
図IXに展開する。
【0202】
工程1:5b及びBoc3Argのカップリング
Boc3Arg(Bachem、30mg、6.4×10-2mmol)を2mLの無水DMFに溶解する。DIC(15μL、9.6×10-2mmol)及びHOBt(17mg、13×10-1mmol)を混合物に連続的に添加し、2時間30分間撹拌する。それから、カチオン性ポロキサマー5b(200mg)を撹拌しながらトリエチルアミン(TCI、4×10-2mmol、6μL)と共にフラスコに直接的に添加し、反応を室温で24時間進めた後、高真空下濃縮する。それから、得られたシロップ状物を20mLの再蒸留水に溶解し、一夜4℃で保持し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入した。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品6aを凍結乾燥後に回収する(198mg)。
【0203】
次の表21は、保護アルギニンとのカップリング工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びに保護アルギニン部分を有する製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0204】
【0205】
工程2:ビスアルギニン置換F127誘導体VIの合成。
化合物6a(198mg)を、4mLのジクロロメタン溶液に溶解する。それから、TFAを滴下で導入する(VWR、1mL)。溶液をアルゴンで脱気し、次いで、2時間撹拌する。それから、混合物を真空で濃縮し、DCMと2回、ジエチルエーテルと3回共蒸発させて、真空下一夜乾燥する。それから、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(194mg)。
【0206】
次の表22は、保護アルギニンとの脱保護工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びに脱保護されたアルギニン部分を有する製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0207】
【0208】
実施例7:ビスヒスチジンベースのカチオン性ポロキサマー誘導体の合成
実施例7は、異なる親水性未修飾ポロキサマーの末端基としてヒスチジン部分の導入を扱う。化学ストラテジーは、下記に示されている一般的構造を有する化合物をもたらすだろう:
【0209】
【0210】
ヒスチジンベースのカチオン性ポロキサマー誘導体の一般的構造
【0211】
関連化合物の物理化学的特徴は、選択される高分子骨格に依存する。これらは、次表23に要約する。
【0212】
【表23】
表23:この試験に記載されているヒスチジングラフトカチオン性ポロキサマー誘導体の主要な物理化学的特徴。XR;A:カチオン性末端基(XR);上記の対アニオン(A)。タグ:得られた重合体に属する番号;a;b:上記定義のPEO(a)及びPPO(b)ブロックの数。HLBは、前記のように親水性/親油性バランスを表す。
【0213】
合成ストラテジーを例証するため、化合物VIIを得るための詳細手順を
図10に展開する。
【0214】
工程1:5b及びBoc2Histのカップリング
ジ-Boc-ヒスチジンジシクロヘキシルアンモニウム塩(Sigma、34mg、6.4×10-2mmol)を2mLの無水DMFに溶解する。DIC(15μL、9.6×10-2mmol)及びHOBt(17mg、13×10-1mmol)を混合物に連続的に添加し、2時間30分間撹拌する。それから、カチオン性ポロキサマー5b(200mg)を撹拌しながらトリエチルアミン(TCI、4×10-2mmol、6μL)と共にフラスコに直接的に添加し、反応物を室温で24時間追跡した後、高真空下濃縮する。それから、得られたシロップ状物を20mLの再蒸留水に溶解し、一夜4℃で保持し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入した。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品6aを凍結乾燥後に回収する(198mg)。
【0215】
次の表24は、保護ヒスチジンとのカップリング工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びに保護ヒスチジン部分を有する製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0216】
【0217】
工程2:ビスヒスチジン置換F127誘導体VIIの合成。
化合物7a(159mg)を、4mLのジクロロメタン溶液に溶解する。それから、TFAを滴下で導入する(VWR、1mL)。溶液をアルゴンで脱気し、次いで、2時間撹拌する。それから、混合物を真空で濃縮し、DCMと2回、ジエチルエーテルと3回共蒸発させて、真空下一夜乾燥する。それから、残りの残渣をミリQ水に再懸濁し、3.5kDaカットオフの透析バッグ(Spectrum Labs Europe)に導入する。5回(2時間、8時間、24時間、36時間及び48時間)媒体交換して、4リットルの再蒸留水に対して透析を行う。それから、最終製品を凍結乾燥後に回収する(160mg)。
【0218】
次の表25は、ヒスチジンの脱保護工程評価を示す:この表は、出発物質の番号及び量並びに脱保護されたヒスチジン部分を有する製品の名称及び量を示し、mは化合物の質量を示し、nはモル数を示す。
【0219】
【0220】
実施例8:カチオン性ポロキサマー被覆磁性ナノ粒子の合成。
本発明に記載されているカチオン性ポロキサマー誘導体のいくつかを、負電荷又は正電荷鉄ベース磁性ナノ粒子を被覆するために使用した。このように最初のNP合成後、いくつかのコーティングストラテジーを考えた。これらの全ては、高分子懸濁水溶液に磁性流体(NPの水性又はエチル性懸濁液)の再懸濁を含んだ。本発明者らは、最初の治験中、3つの主要因子:
-カチオン性末端基選択
-高分子骨格の性質
-カチオン性ポロキサマー溶液の濃縮
に応じて、カチオン性ポロキサマー間の挙動安定化の大きな違いを観察した。
【0221】
これらの観察に基づき、いくつかの実験ストラテジーを同時に試みて、カチオン性ポロキサマーで被覆されたコロイド安定性のある磁性NPを得る最良の方法は何であるかを見つけ出した。だから、当技術分野においてよく記載され知られている共沈殿ストラテジー(他の合成手順も考慮することができる)による磁性コアの合成後、高分子コーティングを、使用されたカチオン性ポロキサマーの濃度に応じて異なる経路を用いて導入した。我々は、それぞれ、0.25、1、5及び10%(重量/体積)に等しいカチオン性ポロキサマーコーティング水溶液に対応する「希釈」、「中程度の濃度」、「高濃度」及び「極めて高濃度」として4カテゴリーにこれらの経路を分類することができるが、鉄含有率は毎回高分子水溶液のmL当たり0.5mgの鉄に固定する。
【0222】
工程1:疎水性被覆鉄ベース磁性コアの合成。
鉄ベース磁性コアを、従来の共沈殿ストラテジーにより得る(Lu,A.H.et al.Angew.Chem.Int.Ed.2007,46:1222-44;Huber,D.L.Small 2005,1:482-501)。塩化鉄(III)六水和物(Sigma)及び塩化鉄(II)四水和物(Sigma)を用いて、両方をミリQ水に溶解する。ろ過後、アルゴン雰囲気下、機械的撹拌で沈殿を行う。NH4OH(TCI)を使用して酸化鉄を沈殿させた。それから、疎水性プレコーティングを80℃の温度で導入するが、2時間撹拌を維持する。それから、室温まで冷却後、反応物をエルレンマイヤーに移し、12時間かけて擬似的にデカントする。上澄みを除去し、残った固形物を無水エタノール(30mLを4回)で何度も洗浄し、そのまま次工程で使用し、20mLのエタノールに懸濁し、溶液Aとした。
【0223】
工程2:カチオン性ポロキサマーの希釈水溶液(0.25%(重量/体積))を用いた磁性コアの被覆。
対象のカチオン性ポロキサマーの水溶液を、100mg/mLの濃度(10%(重量/体積))にミリQ水に重合体を懸濁することによって調製する。溶解を促進しゲル化を防止するため、一度懸濁した重合体を一定の間隔で撹拌しながら4℃で12時間保持する。完全に溶解した後、溶液を0.22μm膜でろ過し、母液と呼ぶものを得る。
【0224】
工程3.1:カチオン性ポロキサマーの希釈水溶液(0.25%(重量/体積))を用いた磁性コアの被覆。
「希釈」条件を用いて試験するため、1mLの母液を37mLのミリQ水で希釈してBと記した溶液を得る。被覆手順のため、溶液Aを標準比色法(Jiang C et al.;J Magn Magn Mater.2017,439:126-134)を用いて滴定して、オレイン酸被覆磁性コアの全鉄濃度を得る。それから、0.5mgの鉄を含有するある体積の溶液Aを磁性ラック(OZ Biosciences、仏国マルセイユ)上に12時間磁気的にデカントする。それから、上澄みの除去後、残った固形物を1mLの溶液Bに再懸濁し、5分間激しくボルテックスする。それから、得られた懸濁液を超音波処理(Branson apparatus、出力3、70%デューティファクター、10分超音波処理)した後、DLSにより特性決定する。
【0225】
工程3.2:カチオン性ポロキサマーの中程度の濃度の水溶液(1%(重量/体積))を用いた磁性コアの被覆。
前の工程1及び2を反復し、溶液Aを前述のように滴定する。一方、100μLの高分子水性母液を900μLのミリQ水に希釈し、溶液Cを得る(カチオン性ポロキサマー濃度は1%(重量/体積)である)。それから、0.5mgの鉄を含有するある体積の溶液Aを磁性ラック(OZ Biosciences、仏国マルセイユ)上に12時間磁気的にデカントする。それから、上澄みの除去後、残った固形物を1mLの溶液Cに再懸濁し、5分間激しくボルテックスする。それから、得られた懸濁液を超音波処理(Branson apparatus、出力3、70%デューティファクター、10分超音波処理)した後、DLSにより特性決定する。
【0226】
工程3.3:カチオン性ポロキサマーの高濃度の水溶液(5%(重量/体積))を用いた磁性コアの被覆。
前の工程1、2及び3.2を反復し、溶液Aを前述のように滴定する。一方、500μLの高分子水性母液を500μLのミリQ水に希釈し、溶液Dを得る(カチオン性ポロキサマー濃度は5%(重量/体積)である)。それから、1%(重量/体積)カチオン性ポロキサマー(工程3.2参照)に再懸濁されたNPを再度磁性ラック上に12時間磁気的にデカントする。それから、上澄みの除去後、残った固形物を1mLの溶液Dに再懸濁し、5分間激しくボルテックスする。それから、得られた懸濁液を超音波処理(Branson apparatus、出力4、80%デューティファクター、10分超音波処理)する。室温まで冷却後、2回目の超音波処理サイクルを行った後、DLSによりNPを特性決定する。
【0227】
工程3.4:カチオン性ポロキサマーの極めて高濃度の水溶液(10%(重量/体積))を用いた磁性コアの被覆。
前の工程1、2、3.2及び3.3を反復し、溶液Aを前述のように滴定する。それから、5%(重量/体積)カチオン性ポロキサマー(工程3.3参照)に再懸濁されたNPを再度磁性ラック上に12時間磁気的にデカントする。それから、上澄みの除去後、残った固形物を1mLのカチオン性ポロキサマー母液に再懸濁し、5分間激しくボルテックスする。それから、得られた懸濁液を超音波処理(Branson apparatus、出力4、80%デューティファクター、10分超音波処理)する。室温まで冷却後、2回目の超音波処理サイクルを行い、次いで、3回目を行った後、DLSによりNPを特性決定する。
【0228】
修飾カチオン性ポロキサマーの生物学的評価
形質導入実験のための材料及び方法
水中カチオン性ポロキサマー製剤
関心のあるカチオン性ポロキサマーの水溶液を、100mg/mLの濃度(10%(重量/体積))にミリQ水に重合体を懸濁することによって調製する。溶解を促進しゲル化を防止するため、一度懸濁した重合体を一定の間隔で撹拌しながら4℃で12時間保持する。完全に溶解した後、溶液を0.22μm膜でろ過し、形質導入において直ぐに使用できるようにする。
【0229】
アデノウイルス又はAAV媒介実験のため、250mg/mL(25%(重量/体積))カチオン性ポロキサマー溶液を、混合物の液体を保存するための同じ一般的ガイドラインに従って調製する。
【0230】
細胞及びウイルス
ヒト子宮頸がん(HeLa)、ヒト肺塵増(HEK-293T)、成体マウス視床下部細胞株(CLU-500)、マウス線維芽細胞(NIH-3T3)、不死化マウスミクログリア細胞株(BV2)、及びラットグリオーマ(C6)細胞株を、10%仔牛血清(FBD、米国ミズーリ州セントルイス)、2mM最終L-グルタミン、100ユニット/mlペニシリン及び100μ/mlストレプトマイシン(Lonza、米国メリーランド州ウォーカーズビル)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Lonza、米国メリーランド州ウォーカーズビル)中で培養した。ヒト不死化ジャーカットT細胞を、10%仔牛血清(FBD、米国ミズーリ州セントルイス)、2mM最終L-グルタミン、100ユニット/mlペニシリン及び100μ/mlストレプトマイシン(Lonza、米国メリーランド州ウォーカーズビル)を添加したロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI、Lonza、米国メリーランド州ウォーカーズビル)中で培養した。CD34+ KG-1a細胞株を、20%仔牛血清を添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM、Lonza、米国メリーランド州ウォーカーズビル)中で培養した。初代CD34+幹細胞を臍帯血から単離し、P6-ウェルプレート中で培養し、全細胞株を、5%CO2雰囲気の恒湿インキュベーター(三洋電機株式会社、東京都)内で37℃において75cm2フラスコ(Sarstedt AG & Co.、独国)中で培養し、形質導入アッセイ前に指数関数的分裂速度を維持するために80%コンフルエントにおいてトリプシン処理した。形質導入実験を、24ウェルプレート(Sarstedt AG & Co.、独国)において行った。
【0231】
感染のためのレンチウイルス/カチオン性ポロキサマー溶液の調製
SFFVの制御下緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子をコードするHIV-1ベクター(HIV-SFFV-GFP)を、SFR生物科学施設(UMS3444/CNRS、US8/INSERM、ENS de Lyon、UCBL、仏国)において製造した。ウイルス懸濁液を細胞上澄みから集め、濃縮工程なしでアリコートし、-150℃において保存した(三洋電機株式会社、東京都)。各実験に先んじて、ウイルスストックを解凍し、50μLの完全培地中所望の感染多重度(MOI)において希釈した。カチオン性ポロキサマーの添加後、懸濁液を、チューブを反転することによって混合し、滴下で直接的に細胞上に添加した。それから、細胞を、実験評価まで従来条件下72時間インキュベートした。
【0232】
アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス感染
GFPをコードするタイプ5複製欠損性アデノウイルス(Ad-GFP)及びAAV血清型Aウイルスは、両方共、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下、Vector Biolabsから購入した。5×1011VP/mlに対応する1×1010IFU/mlウイルスストックのAd-GFPアリコートを、所望のMOIを達成するために栄養補充なしの培地において即席で希釈した。AAV-1を、細胞当たり100,000ゲノム複製物の最終MOIのため栄養補充なしで培地に希釈した。必要に応じて、カチオン性ポロキサマーをウイルス粒子と混合し、滴下で細胞上に添加した。それから、細胞を、実験評価まで従来条件下72時間インキュベートした。
【0233】
フローサイトメトリー。
細胞を、カルシウム及びマグネシウムを含まないリン酸緩衝食塩水(PBS、Lonza、米国メリーランド州ウォーカーズビル)で2回洗浄し、接着細胞をトリプシン/EDTA0.2%溶液(Lonza、米国メリーランド州ウォーカーズビル)で剥離した後、200μLの4%PFA(Sigma Aldrich)に固定した。それから、細胞を、GFP陽性細胞の%及びCytoFlexフローサイトメーター(Beckman Coulter、米国フロリダ州マイアミ)を用いてフローサイトメトリーにより蛍光強度を分析した。
【0234】
レンチウイルスを用いた化学的形質導入として修飾カチオン性ポロキサマーの使用の形質導入実験における評価
本明細書に記載されているように、本発明の主目的は、ウイルスの感染挙動を効率的に及び信頼して向上させることができる化学薬剤を用いた新規方法を開発することである。結果の第一部分は、細胞療法臨床治験のための強力な候補として説明されているように、ウイルスベクターとしてレンチウイルスの使用に焦点を当てている。この評価のため、本発明者らは、マウス線維芽細胞株、NIH-3T3を使用した;実施例に記載されているカチオン性ポロキサマーは、緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子をコードするHIV-1ベクターと組み合わせた。この第一評価は、F87、F127及びF108から誘導される修飾カチオン性ポロキサマーを説明した。
【0235】
NIH-3T3細胞株を、様々な投与量のカチオン性ポロキサマーの存在下又は非存在下でレンチウイルス(MOI 1)に感染させた。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び形質導入細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。結果を、
図11に記載する。
【0236】
形質導入エンハンサーとしてのカチオン性ポロキサマーの生物学的評価は、かかる実験において好ましく作用するこれらの性質を強調した。化合物I、2b、II及びVIは、同じMOIにおいてアジュバントを用いないで使用されるウイルスベクターと比較して、感染細胞数の純増加を示し、10μLの化合物IIを用いる場合の最大6倍増である。この増加は、異なる実験の平均強度と比較する場合、より少ない程度まで見ることもできる。
【0237】
好ましい効果を示す化合物のため、明らかな投与量依存性は注目すべきであり、感染細胞数の劇的増加はカチオン性ポロキサマー量の増加に関連する。この投与量効果は、強度の平均を考慮する場合、あまり見ることができず、明らかな増加は化合物2b及びVIが選択される場合にのみ観察される。
【0238】
他方、化合物IIIは、同じ実験条件下で使用される場合に形質導入に対する好ましい効果を示さなかった。感染細胞数は、使用されるカチオン性ポロキサマーの投与量にかかわらず、レンチウイルス単独より同じレベルのままである。しかしながら、化合物IIIがウイルスの挙動を阻害せず、その感染技術に影響を与えないことに注目することは重要である。
【0239】
両方共F127骨格をベースとする化合物III及びVI間の挙動差は、形質導入効率上の末端基の性質の途方もない重要性の第一の証明である。
【0240】
強力なアジュバントの第二セットを、前述よりも同じ実験計画に従って評価した。結果を、
図12に要約する。
【0241】
異なるカチオン性ポロキサマー候補のこの評価は、前のものと同様な結果を得る。事実、修飾のいくつかは、形質導入効率に対する好ましい影響を明白に有するが、他は改善をもたらさないように思われる。
【0242】
テトラゾールベースの化合物4b及びIVの場合、IVのみは、感染細胞数及びGFP強度の平均の両方に関して形質導入効率の改善をもたらす。用量反応も明白に見ることができ、アジュバントの好ましい影響を強調する。同時に、カチオン性ポロキサマーを修飾するための非置換テトラゾール基の使用は、同レベルの増強をもたらさなかった。事実、4bを形質導入エンハンサーとして使用する場合、形質導入された細胞数は、レンチウイルス単独を用いて達成されるレベルに確かに近いままであった。
【0243】
イミダゾールベースの化合物5c及びVの両方は、レンチウイルスと組み合わせた形質導入において好ましい効果を示す。いずれにしても、ウイルスに感染された細胞数は、使用される修飾カチオン性ポロキサマー量に依存する。しかしながら、改良は、化合物Vを用いてずっとより顕著であり、ウイルス単独より約4倍多い形質導入細胞を示す。この場合、ヘテロ原子環のメチル化は、アジュバントとしてより良好な挙動をもたらし、化合物Vは、そのカウンターパート5cより効率的である。
【0244】
このスクリーニングは、この時、HEK-293及びNIH-3T3を感染させるレンチウイルスの使用を含む形質導入実験の最終回により最終的に完了した。ここで再び、結果は、表26に示されているように、異なるポロキサマーの中の挙動に差があることを証明した。
【0245】
【表26】
表26:MOI及び細胞型に依存するカチオン性ポロキサマーの差動的形質導入効果。NIH-3T3及びHEK293細胞株を、5又は10μLのカチオン性ポロキサマーの存在下又は非存在下で0.5及び1のMOIにおいてGFPタンパク質をコードするレンチウイルスに感染させた。感染72時間後、GFP陽性細胞の%をフローサイトメトリーによって分析した。
【0246】
例えば、NIH-3T3の場合、この表中に示されている全カチオン性ポロキサマーは形質導入細胞の量に対して好ましい効果を誘導する。F87骨格をベースとする化合物XXIXは、明白に効率的であり、0.5のレンチウイルスMOIにおいて感染細胞数を6倍にすることができる(感染細胞の13.32%対単独で使用されたレンチウイルスの2.5%)が、1のMOIにおいては、感染細胞数は、レンチウイルスコントロールと比較した場合、10より大きい倍数で増加する。さらに、同量のウイルスを用いて使用されるポロキサマー量を倍増する場合、形質導入細胞数が12.7%から50%超までとなるので、明白な投与量効果は、これらの条件を用いて見ることができる。
【0247】
これらの細胞のレンチウイルス感染に対するより大きい寛容性のせいで、たとえ効果を見ることができなくても、このポロキサマーは、HEK-293細胞に対して同様な挙動を示す。0.5のMOIにおいて、化合物XXIXは、10μLのアジュバントを実験において添加する場合、23%~37%になる感染細胞数の観察を可能とした。ウイルス量の増加は、この化合物の使用によりもたらされる好ましい傾向を変化させない。1のMOIにおいて、化合物XXIXの添加は、感染細胞数を42~50%にする。これらの結果は、本発明の主要な効果の1つの明白な例証であり、好ましく形質導入された細胞の同様な量を得るためにより少ないウイルスを使用することである。
【0248】
全てがF127骨格をベースとする化合物5b、VI及びIXは、今回の実験にも含まれ、様々な量のレンチウイルスと組み合わせる場合、これらの内の3つは両方の細胞株に対して好ましい結果を示す。しかしながら、これらの効率は、同時に使用される化合物XXIXを用いて観察されたものより低くなる。事実、NIH-3T3細胞に対して化合物VIを使用する場合、最大の増強が観察され、ウイルス単独に対して10μLのポロキサマーをしようする場合、1のMOIにおいて5倍の増強が観察される。HEK-293に対して、3つの化合物は、同様な増強因子を提供し、使用されるMOIが何でも、単独で使用されるレンチウイルスと比較して形質導入された小細胞の約10%~15%の効果を提供する。
【0249】
両方共が末端基として第四級トリメチルアンモニウム塩を含むように修飾されるが、それぞれF87及びF127骨格をベースとする化合物XXIX及びIXで観察された結果を比較する場合、興味深い観察を行うことができる。
【0250】
これらの実験の各々では、化合物XXIXは、化合物IXを用いて観察されるものよりほとんど常に優れた挙動を増強する形質導入を提供し、NIH-3T3を細胞として使用する場合、この差は、0.5のMOIにおいて使用されるレンチウイルスで最大になる(化合物IXで3倍の増強に対して化合物XXIXで6倍の増強)。現在の要求において観察される他の結果と相関するこの観察は、最適効率を達成するために、高分子骨格の選択及びカチオン性末端基の選択の良好なバランスを見出すことの重要性を充分に強調する。予測可能な挙動を採択することができないというこれらのデータの観察は明白であり、完全なバランスを達成するための最良な骨格も最良な末端基も選択できない。
【0251】
図13A~
図13Fは、形質導入アジュバントとして広範囲の修飾ポロキサマーを用いて、HEK-293T細胞に対してウイルスベクターとしてのレンチウイルスの使用を組み合わせて、いくつかの形質導入実験の結果を示すことによってこの点を強調した。
【0252】
この図で使用されているポロキサマーを、修飾に使用されるポロキサマー骨格によって分類した。
【0253】
結果として、
図13A及び
図13Bは、F87をベースとするカチオン性ポロキサマー、すなわち、末端基として、それぞれ、第一級アミン及び第四級トリメチルアンモニウムを含む化合物1b及びXXIXを含むHEK-293Tに対してレンチウイルス感染を用いた実験結果を示す。これらは両方とも、感染された細胞数に対して好ましい効果を示し、ウイルス単独を用いた条件と比較した場合、10%の効果を得る。
【0254】
図13C及び
図13Dは、広範囲の修飾を比較したこの場合に、F108骨格をベースとするポロキサマーの挙動に焦点を当てた。試験された全化合物は、感染率に対して好ましい効果を誘導し、化合物2b及びVIIIは最も優れた結果を得た。これらの条件では、細胞のほとんど100%を、レンチウイルスを単独で使用する場合、感染された細胞の75%のみに対して形質導入した。化合物II、XX及びXIVも、包括的に好ましい効果を示した。蛍光強度の平均を考慮する場合、傾向は明白に現れ、化合物2b、II及びVIIIは最良の感染増強を提供する。化合物2bは、ウイルス単独で観察された値の150%に達する蛍光強度を可能とするが、IIの場合、効果は120%である。他方、末端基として、それぞれ、アルギニン及びヒスチジンを有するポロキサマーXX及びXIVは、感染細胞数を考慮する場合を見込みながら、蛍光強度の高レベルに至らなかった。これは、カチオン性修飾の選択の途方もない重要性、及び形質導入手順を増強するカチオン性修飾の効力を効率的に評価すると同時に如何にいくつかの読取りを考慮しなければならないかの補足的証明である。
【0255】
図13E及び
図13Fは、異なるカチオン性修飾を有するF127骨格をベースとするポロキサマーを含む同じ実験を特徴とする。
図13Eでは、アジュバントとして使用される各ポロキサマーを用いて得られた形質導入細胞数を、レンチウイルスベクター単独を用いて得られたものと比較した。ここで再度、結果は好ましく、化合物5b、XV、IX、VIIは、感染率を増強するために使用される場合、明白な効果を示す。末端基としてスペルミン残基を含む化合物XVは、実験の最後に90%を達成する形質導入細胞の比を可能とするより効率的候補と思われる。同様な有益な効果は、カチオン性ヒスチジンを有する化合物VIIで観察される。
【0256】
この実験についての蛍光強度の平均の観察は、本発明者らが評価される重合体を容易に識別することを可能とした。両方ともウイルス単独で観察されるものより高強度の平均を観察することを可能とするので、レンチウイルスと組み合わせた場合感染細胞数を見る場合に最も有望なアジュバントである化合物XV及びVIIは、最も効果的エンハンサーのままであった。感染細胞数を扱う場合、両方とも同様な増強を提供したが、ウイルスベクターとのその関連は化合物VIIのほんの3%に対して40%の強度の増加を得るので、化合物XVは包括的に最も効率的であることが明白である。さらに、本発明者らは、感染細胞数に関して有望である化合物5b及びIXは、本発明者らが蛍光強度の平均を見る場合に効率的でないことを観察することができる。
【0257】
この実験全セットは、形質導入実験を効率的に増強する最良のカチオン性ポロキサマーの選択に関する興味深い見識を提供する。
- 第一に、修飾プラットフォームの役割を果たすだろう高分子骨格の選択は、異なるポロキサマーが形質導入における異なる応答を提供するので、明白に重要である。しかしながら、形質導入エンハンサーとして利用可能なポロキサマー全ての比較を提供する試験はないので、これらの影響は予測不可能である。
- 第二に、全実験は、いくつかの読取りにより見られるべきであり、可能性がある候補全てを精密にスクリーニングする。
- 最初に、カチオン性修飾は、実験の包括的効率での重要な役割を示す。しかしながら、
図13は、特定のカチオン性官能基は異なるポロキサマーの骨格と組み合わせる場合に形質導入において同じ結果をもたらさないだろうという事実を明白に強調しており、単にカチオン性末端基の選択に基づいた本発明の重合体の増強能力を科学者が予測するのを妨げる。それぞれ、ポロキサマーF87、F108及びF127をベースとし、全てが末端基として第一級アミン官能基を有するアジュバント1b、2b、5bを比較する場合、これを見ることができる。
図13から、第一級アミン末端基が、F108骨格に組み合わせる場合に、形質導入効率のためになることは明白である。他方、化合物XVで観察された好ましい効果は、スペルミン残基をF127骨格と結合する効果を証明するが、スペルミン末端基を有する化合物VIIIのより低い効率はF108ベースの重合体に対するカチオン性修飾を除外する。
【0258】
全面的に、唯一、この要求に提供される最大の修飾の注意深いスクリーニングは、当業者がこの実験の最も効果的アジュバント候補を見つけ出すことを可能とするだろう。これは、いくつかのポロキサマー骨格をこの要求に提供されるいくつかのカチオン性修飾と組み合わせるべきである。
【0259】
修飾の重要性:レンチウイルス媒介形質導入実験におけるアジュバントとしての未修飾ポロキサマー及びカチオン性ポロキサマー
本発明の革新的特徴は、形質導入実験におけるこれらのアジュバント技術を増強するためのポロキサマーの末端基のカチオン性修飾に基づく。次いで、これらの未修飾カウンターパートを有する修飾されたカチオン性ポロキサマーの生物活性を比較した。したがって、本発明者らは、修飾カチオン性ポロキサマーとして化合物2b及びIIを使用し、これらを、よく説明された手順に従ってポリブレンを不随する又は不随しないPluronic F108と比較した。
【0260】
2つの細胞株、すなわち、ヒト胎児由来腎臓(HEK-293T)及び不死化マウスミクログリア細胞株(BV2)を試験した。カチオン性ポロキサマーを、緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子をコードするHIV-1ベクターと組み合わせた。結果を、
図14に示す。
【0261】
結果は、3つのカチオン性ポロキサマーは、両方の細胞株において形質導入を効率的に増強することを指摘した。カチオン性ポリマーと組み合わせたF108、ポリブレンは、ウイルス単独と比較して、ウイルスに感染されたBV2細胞数を倍増する。より興味深いことに、F108骨格へのカチオン性末端基の導入は、陽性GFP細胞数に対して正味の好ましい効果を有し、これは、化合物2b及びIIに対して、F108+ポリブレンをアジュバントとして使用する場合の18%から26%になる。他方では、蛍光強度の平均歯、使用される重合体が何であろうと影響を受けないままであった。HEK-293T細胞の場合、形質導入に対するカチオン性ポロキサマーの使用の好ましい効果も、明白に注目すべきである。未修飾及び修飾カチオン性ポロキサマーは、感染細胞数に対して同じ増強を提供する。この数は、LVを単独で使用する場合の約40%からカチオン性ポロキサマーをエンハンサーとして使用する場合の約60%までとなる。しかしながら、蛍光強度の平均は、アジュバント上にカチオン性末端基を導入することによって明白に増強される。事実、2b及びIIの両方では、この値は、F108と比較してより高く、カチオン性修飾後にほとんど3分の1を得る。結局、これらの結果は、手順の包括的効率に関する異なるパラメータにおけるポロキサマー骨格のカチオン性修飾の効果を明白に実証する。
【0262】
さらに、導入されるカチオン性官能基の性質は、形質導入実験増強の成功のために生体の重要性を有することは、前の評価から明白である。結果として、本発明者らは、F108骨格をベースとするが、異なる高分子官能基で修飾した異なるカチオン性ポロキサマーの形質導入効率を比較した。化合物2b、4b及びIVを、ヒトジャーカットT細胞に対して同時に評価した。カチオン性ポロキサマーを、緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子をコードするHIV-1ベクターと組み合わせた。前のように、F108を、コントロールとして使用した。結果を、
図15に示す。
【0263】
結果は、化合物2bはその未修飾カウンターパートF108より良好な結果を再度得ることを確証させた。事実、両方のカチオン性ポロキサマーは、20%多い細胞をウイルスベクターに感染させるように誘導するが、カチオン性修飾は、F108に対して20%の強度の平均の増加を誘発する。他方、化合物4b及びIVを用いた結果は、あまり効率的でない。ジャーカット細胞に対して、これら両方は、単独で使用されたウイルスベクターと比較して、形質導入細胞数の僅かな増加しか誘導せず、ウイルス単独と比較して強度の平均に関して観察された有意な効果はなかった。より重要なことに、化合物4b及びIVを用いて観察された結果は、未修飾カチオン性ポロキサマーより低く、適切なカチオン性修飾を設計する重大な必要性を強調している。
【0264】
形質導入実験におけるカチオン性ポロキサマーの挙動が誘導されるカチオン性末端基の性質に依存することを確証することによって、この実験は、修飾の注意深い選択はかかる手順の成功の鍵であることの事実を支持する。事実、カチオン性基の導入は、ウイルス単独より、さらに、未修飾ポロキサマーにより補助された同反応に対して形質導入を改良するのに充分ではない。
【0265】
形質導入最適化:細胞スクリーニング及び用量反応
最適形質導入効率を達成するために、本発明者らは、カチオン性ポロキサマー量、ウイルス力価、細胞型、その他などの様々なパラメータをモニターした。カチオン性ポロキサマー用量反応試験を、古典的レンチウイルス媒介形質導入手順を用いて感染させることが非常に難しいことが分かっている不死化ヒト骨髄急性骨髄性白血病細胞であるKG-1a細胞株を用いて行った。カチオン性ポロキサマーの様々な用量を、緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子をコードするHIV-1ベクターと組み合わせた。結果を、
図16に示す。
【0266】
結果は、形質導入手順のこの種類において、化合物2b及びIIの使用の好ましい効果を再度強調している。事実、レンチウイルス単独で媒介された形質導入は、72時間のインキュベーション後2のMOIにおける感染細胞の2%超を得ることができないが、カチオン性ポロキサマーの使用は、同じMOIにおいて15%に近い値までこのレベルを増加させる。結果は、両方の場合において、添加されたアジュバント量を増加しながら、用量反応効果で、2b及びII間が本当に近接している。
【0267】
この好ましい効果は、蛍光の平均強度の分析によって確証される。両方の化合物を用いて、ウイルスベクター単独の使用と比較して、この値は見事に増加する。10μLの化合物2bを添加剤として使用する場合、コントロールと比較して9倍増して、最良の観察結果を得る。第一は10μLの値でその最大値に達したとき、用量反応プロファイルは、2b及びII間で僅かに異なるが、化合物IIは、2μL及び20μL間の平均強度の一定の増加を誘導し、2bの様な安定状態に達しない。
【0268】
結論として、両方のカチオン性ポロキサマーは、レンチウイルスにより媒介される形質導入に対して用量依存性の好ましい効果を示した。これらの構造的類似性にもかかわらず、化合物2b及びIIは、添加された用量に応じて僅かな挙動差を示し、これはカチオン性官能基の選択の重要性に対して形質導入手順の包括的効率を再度強調する。
【0269】
次の実験は、カチオン性ポロキサマーの性能を実証する目的のため、多種多様の細胞型を用いてレンチウイルス媒介形質導入手順の効率を増強しなければならなかった。
【0270】
化合物2bを、ヒト子宮頸がん(HeLa)、成体マウス視床下部細胞株(CLU-500)、不死化マウスミクログリア細胞株(BV2)、ラットグリオーマ(C6)細胞株、ヒト不死化ジャーカットT細胞及びCD34+ KG-1aヒト骨髄急性骨髄性白血病細胞株である6つの異なる細胞株に対して試験した。緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子をコードするHIV-1ベクターを、ウイルスベクターとして使用し、各細胞株の最適化されたMOIを、カチオン性ポロキサマー効果を強調するように選択した。結果を、
図17に示す。
【0271】
様々な細胞に対するこの試験は、レンチウイルス媒介形質導入実験においてアジュバントとして使用されるカチオン性ポロキサマーの一貫性を明白に実証する。事実、試験される細胞株が何であっても、化合物2bの導入は、感染された細胞数の明らかな増加を常にもたらす。これは、再び、使用される細胞株に応じて、ウイルス単独(ジャーカット)と比較して約10%の感染細胞数の増加からKG1-aの650%の効果までの範囲で変動する。これらの優れた結果の均一性を、蛍光強度の平均を見る場合に観察することもできる。同様にこの読取りで、アジュバントとしてのカチオン性ポロキサマーの使用は、試験された細胞株におけるレンチウイルス単独を用いて得られた結果を著しく増強し、この増強は極めて細胞依存性である。BV-2細胞株を考慮する場合、強度の効果は因子1.5でしかないが、化合物2bを用いたKG1-aの形質導入は、ウイルス単独と比較して2.5倍より大きい。これらの一連の実験の結論として、レンチウイルスにより媒介される形質導入実験のためのエンハンサーとしてのポロキサマー骨格のカチオン性修飾の効果は明白に実証された。ポロキサマーのカチオン性修飾は、これらのアジュバント特性に影響を与える。これは、遺伝子療法の応用において要件にうまく適合しているアジュバントのパネルを生じさせる。
【0272】
最終的に、レンチウイルス誘導形質導入を増強するカチオン性ポロキサマーの効率を、臍帯血から放たれる初代ヒトCD34+幹細胞で確認した。用量反応試験は、初代ヒトCD34+細胞を、緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子をコードするHIV-1ベクターに感染させるカチオン性ポロキサマーの能力を評価した。結果を
図18に示しており、72時間のインキュベーション後に同じ5のMOIにおいて感染細胞の約7%を与えるレンチウイルス単独と比較して、72時間のインキュベーション後に5のMOIにおいて35%まで形質導入効率を上昇させる化合物2b及びIIの使用の好ましい効果を示す。
【0273】
前に観察されたように、カチオン性ポロキサマーは、ウイルスベクター単独の使用と比較した場合、蛍光の平均強度を劇的に改良することもできた。20μLの化合物2bを添加剤として使用する場合、コントロールと比較して5倍増して、最良の観察結果を得る。
【0274】
結論として、これらの結果は、用量依存性でレンチウイルスにより媒介される初代CD34+幹細胞の形質導入を増強するカチオン性ポロキサマーの能力を実証する。
【0275】
アデノウイルス媒介形質導入実験におけるアジュバントとしてのカチオン性修飾ポロキサマーの使用。
本発明の範囲を拡張するため、アデノウイルス媒介形質導入実験における効率的アジュバントとしてのカチオン性ポロキサマーの効果も調査した。導入において記載されているように、未修飾ポロキサマーをアデノウイルス媒介形質導入実験においてアジュバントとして使用したが、非常に高濃度を必要とした。これらの条件では、重合体は、生体媒質においてウイルス粒子の拡散を低減する「偽ゲル」剤の機能を果たす。主な結果は、ウイルスは余り拡散せず、感染させようとする細胞とより長く接触している可能性がより大きいことである。この長時間の接触は、ウイルスの取込み、したがって、手順全体の効率を機械的に増大する。そのゲル化ポイントに近い25%(重量/体積)濃度においてカチオン性ポロキサマー2bを製剤化することは可能であり、カチオン性修飾は、対応する未修飾ポロキサマーで観察された「ゲル」挙動を阻害しなかった。この実験の主目的は、修飾カチオン性ポロキサマーの偽ゲル効率をチェックすること、更に、カチオン性修飾がレンチウイルスを用いる場合であったとき、アデノウイルス媒介形質導入手順のための効率の補完をもたらすか否かをモニターすることである。
【0276】
そのように行うため、C6及びHEK-293細胞株を、7.5%(重量/体積)最終濃度において市販F108及びそのカチオン性カウンターパート2bの存在下又は非存在下で5のMOIを有するGFP(AdGFP)をコードするアデノウイルスを用いて形質導入した。この実験の結果を、
図19に示す。
【0277】
この実験は、アデノウイルスと組み合わせた形質導入アジュバントとして修飾カチオン性ポロキサマーを用いる効果を明白に実証する。事実、HEK-293又はC6細胞のいずれかに対し、単独で使用されるアデノウイルスは、細胞の5%を感染させることができなかった。他方、カチオン性修飾は、アデノウイルス形質導入効率の有意な増強をもたらす。事実、化合物2bをその未修飾カウンターパートに対して使用する場合、感染細胞数は、C6細胞に対して46%から55%まで、HEK293細胞に対して32%から46%まで上昇させる。両方の細胞株に対して化合物2bを用いてほとんど2倍増する蛍光強度の平均を考慮する場合、カチオン性修飾の好ましい効果は、さらにより優れている。この実験は、ポロキサマーのカチオン性修飾は、ウイルス媒介形質導入実験のための広範囲の応用を開くこと及び観察された改良がレンチウイルスに限定されないことを実証する。
【0278】
これらの好ましい結果を確認するため、この実験は、F108又はF127骨格の両方をベースとするいくつかの他のポロキサマーを用いてさらに拡張された。主要な結果を、次表に示す:
【0279】
【表27】
表27A及びB:アデノウイルス感染及び形質導入増強におけるカチオン性ポロキサマー差。C6及びHEK293細胞株を、カチオン性ポロキサマー(最終濃度7.5%)の存在下又は非存在下で4のMOIにおいてGFPタンパク質をコードするアデノウイルスに感染させた。感染72時間後、GFP陽性細胞の%(上の表)及び平均強度(下の表)を、フローサイトメトリーによって分析した。
【0280】
F108誘導体の場合、本発明者らは、ウイルス単独に対して形質導入細胞数をモニターした。C6細胞に対して、全ての試験されたポロキサマーは、化合物XXXの10倍増から化合物2bの50倍増までの範囲で感染細胞に関する効果を明白に示す。この1つは、10%より小さい効率である未修飾ポロキサマーF108より優れたアジュバント効果も示す。
【0281】
HEK-293で観察された結果は同様であり、全ての化合物は、ウイルス単独と比較した場合に明白な効果を示す。ここで再び、ポロキサマー2bは、最も優れた増強能を示し、その未修飾カウンターパートより効率的であることをもう一度証明する。これらの結果は、本発明において示されているカチオン性修飾によりもたらされた好ましい影響のもう1つの証明である。
【0282】
F127誘導体を、アデノウイルスをコントロールとして、蛍光強度によってモニターすることにより評価した。2つの選択された化合物III及び5bの間で、アデノウイルス単独に対して、後者のみ2つの選択された細胞株に対して、ほとんど2倍増で蛍光強度の増加を示す。さらに、実験において同時に試験した未修飾F127は、アデノウイルスを組み合わせる場合に好ましい効果を示さず、本発明者らのカチオン性修飾ストラテジーを再度検証する。最終的に、レンチウイルスを組み合わせる場合に最適に効率的ではない化合物5bは、アデノウイルスを組み合わせた場合に強力なアジュバントであることを証明したことを注目することは興味深い。
【0283】
この回の実験は、アデノウイルス媒介形質導入手順におけるポロキサマーと組み合わせた血清の使用の影響の試験によって完了した。NIH-3T3細胞を、血清と又は血清なしで異なる濃度においてアデノウイルス及びポロキサマーIIを用いて形質導入した。結果を、
図20に示す。
【0284】
結果は、血清の添加が、アデノウイルスにより媒介された形質導入の効率に対するカチオン性ポロキサマーの好ましい効果の可能性を持たせることを強調する。事実、12.5%の濃度でポロキサマーを使用する場合、血清の存在は、形質導入の効率の3倍増を可能とするが、効果はあまり見えない。化合物IIの6.5%濃度において、血清の効果はまだ見ることができ、血清を使用する場合、2倍増から3倍増ぎりぎりまでとなる。これらの結果、本発明の血清及び化合物の使用間の完全互換性の証拠となり、細胞生物学過程においてルーチンで使用される手順とこれらを合致させる。
【0285】
AAV媒介形質導入実験におけるアジュバントとしてのカチオン性ポロキサマーの使用。
本発明の範囲をさらに拡張するため、カチオン性ポロキサマーの効果を、AAV媒介形質導入実験における効果的アジュバントとしてさらに試験した。15%(重量/体積)最終濃度における化合物IIを、AAV(GFP)と組み合わせて、HEK-293細胞に対して試験した。この実験の結果を、
図21に要約する。
【0286】
再びこの手順では、修飾カチオン性ポロキサマーの使用は、形質導入手順の効率の増強の実際の源であることを証明した。15%(重量/体積)の化合物IIの添加は、AAVが細胞の57%に感染することを可能とするが、単独で使用されるAAVは12%しか感染しない。強度の平均を考慮する場合、改良はあまり重要ではなく、それにもかかわらず、ウイルス単独と比較して5%の純増である。結局、この実験は、カチオン性ポロキサマーは、AAV媒介形質導入実験におけるアジュバントとして有用であり効果的でもあることを実証した。
【0287】
ポロキサマー5b及び2bも、これらの実験条件で試験した。これらを、異なる濃度でHEK-293に感染させるAAVと組み合わせた。結果を、
図22に示す。
【0288】
化合物5bは、化合物IIと比較して同様なアジュバント挙動を示し、ポロキサマーを15%濃度で使用する場合に形質導入細胞数はほとんど60%まで純増する。化合物IIが7.5%の濃度においてその最大増強因子を示し、アジュバント挙動の明白な違いを強調することに注目することは興味深い。化合物IIの様にF108に基づいた化合物2bによりもたらされた効果は、あまり優れていないが、ウイルス単独と比較した場合、非常に好ましいままであり、実験の最後において40%超の細胞が形質導入された。
【0289】
蛍光強度の平均を考慮する場合、化合物2b及び5bは、化合物IIより効率的でなかった。結局、このセットの実験は、AAVベースの形質導入実験を効果的に増強するカチオン性ポロキサマーの能力を明白に確認した。
【0290】
さらに、本明細書に記載されている方法の多くの価値は、広範囲の異なるカチオン性ポロキサマーと組み合わせたウイルスのいくつかの型の使用により明白に示される。ポロキサマーのカチオン性修飾は、疑いもなく、形質導入手順においてさらに増加された効率の方向に向かう工程である。いくつかの化合物は、一種類のウイルスベクターと組み合わせた場合に特に効率的であるが、いくつかの重合体はよりオールラウンドなエンハンサーであるように思われることを証明した。
【0291】
カチオン性ポロキサマー及び磁性ナノ粒子製剤:カチオン性ポロキサマー被覆MNPのDLS特性決定
前述のように、磁性ナノ粒子(MNP)は、ウイルス感染をブースト、加速及び同調するために強力であることが実証された。結果として、磁性ナノ粒子及び未修飾ポロキサマーの組合せは強力な相乗効果を導くことが予見され得るだろう。残念ながら、未修飾ポロキサマーの非イオン特性は、ナノ粒子のコーティング剤又は製剤としてのこれらの使用を妨害するナノ粒子の不安定化又は沈殿をもたらす。
【0292】
磁性ナノ粒子製剤及び安定化に対するポロキサマーカチオン性修飾の効果を調査するため、本発明者らは、得られたナノ粒子の大きさ及び電荷を測定するために先ずDLS(動的光散乱)に焦点を当てた。大きさ及び正味電荷(ゼータ電位)測定は、現在、MNP合成及び特性決定に焦点を当てる場合、チェックすべきキーパラメータである。事実、安定コロイド懸濁液は、非アグリゲート状態における磁性物体を維持するその性質を主に特徴とする。すなわち、溶液中に存在するナノ粒子はナノメートルサイズを保持することが決定的に重要である。アグリゲートされた物体が過去において細胞生存率に対する悲惨な結果を有することを証明したので、これは、このコロイド懸濁液が生物学的応用を有することを意図される場合さらにより重要である。ゼータ電位は、ナノメートル物体の表面における荷電化学官能基の存在の直接的な電気的結果である。したがって、マイクロメートル物体に積み重なる磁性コアの性質を限定する静電反発が原因で、荷電ナノ粒子(正又は負のいずれか)から成る懸濁液は、その成分のアグリゲーションの証拠となる可能性があまり高くない。さらに、正味正電荷は、これらのビーズが負電荷ウイルス(多くのレンチウイルス又はアデノウイルスなど)との安定複合体を形成することを可能とし、磁性誘導形質導入実験において好ましい工程であるように思われる。
【0293】
天然未修飾ポロキサマー骨格中の荷電化学官能基の欠損は、磁性ビーズと組み合わせた場合反発相互作用を禁じ、これらのナノ粒子の不安定化及び/又はアグリゲーションをもたらす。本発明の1つの目的は、カチオン性修飾重合体は、静電反発相互作用を作り、コロイド懸濁液を維持することができ、ウイルス形質導入増強の達成を可能とするその表面上の充分な正電荷を、合成されたナノメートル物体に提供することにより磁性MNPを安定化することができることを実証することであった。結果として、得られたMNPは、効率的磁性NP誘導形質導入実験に有用ないくつかの特徴を積み重ねるだろう:
- Magnetofection(商標)要件に従った、NP表面においてウイルスを結合する能力
- 形質導入中にアジュバントの機能を果たす複合体におけるカチオン性ポロキサマーの存在
- 細胞生存率に有害なマイクロメートル物体の毛性を回避するための磁性NPの安定化。
【0294】
これらのガイドラインに従って、いくつかの磁性ナノ粒子を、よく説明された共沈殿ストラテジーを用いて合成した。得られた鉄コアは、主に、物体を強力な磁性を与える磁性結晶からなる。ストラテジーは、カチオン性ポロキサマー導入前のプレコーティング分子の使用を含む。このプレコーティング分子は、磁性コアを安定化するために負又は正に荷電さていなければならず、疎水性相互作用によりNP表面とカチオン性ポロキサマーを結合するために有用であろう疎水性領域を含んでいてもよい。プレコーティングの例としては、デキストラン、デンプン、Zonyl FSA、リノール酸、オレイン酸、酸化ケイ素重合体、ポリエチレンイミン、キトサン、ツイーン、スパンなどの広範囲の周知分子が挙げられる。以下の試験では、オレイン酸ベースのプレコーティングを使用することを選択した。
【0295】
異なる未修飾又はカチオン性に修飾されたポロキサマー溶液を使用して、このMNPを再懸濁したが、鉄の量を一定に保持した。
【0296】
カチオン性ポロキサマーの希釈及び高濃度水溶液を用いた磁性コアの被覆。
【0297】
MNPを、先ず、0.25%(重量/体積)のカチオン性重合体溶液を用いて再懸濁し、次いで、さらなるデカンテーション後、MNPを対応する1%(重量/体積)カチオン性ポロキサマー溶液内で製剤化した。この中間希釈デカンテーション工程は、得られたMNPの直接的アグリゲーションを回避するために信頼できる溶液であるように思われた。1%(重量/体積)溶液に懸濁されたNPだけを、DLSによって評価した。
【0298】
広範囲の修飾重合体を、カチオン性末端基によりもたらされるなどの他の相互作用(疎水性、π/π...)を短時間(5日)及び長時間(1ヶ月)のインキュベーションにわたって有利であり得るか否かを見つけ出すために試験した。サイズ測定結果を、下表28に示す:
【0299】
【表28】
表28:様々な1%(重量/体積)カチオン性ポロキサマー溶液で再懸濁された磁性NPのサイズ測定。サイズをnmの単位で表し、カチオン性ポロキサマー溶液に再懸濁後、2つの異なる時点(5日(d)の「平均時間」、1ヶ月)において記録した。「Agg」タグは、測定することができたかもしれないナノメートル物体は何も残っておらず、ビーズの可能性のあるアグリゲーションを意味する。
【0300】
この実験は、天然(非イオン性)又は未修飾ポロキサマーの希釈溶液を用いて磁性NPを安定に製剤又は被覆することができないことを強調する。事実、これは、F108又はF127いずれか、どの重合体が選択されても、ビーズの迅速、体系的及び不可逆アグリゲーションをもたらす。
【0301】
カチオン性F108誘導体(2b、II、4b、XXX及びXIV)を用いて被覆又は製剤化されたMNPの場合、全てのカチオン性ポロキサマーは、再懸濁後、5日後にコロイド安定なナノ粒子を得る。アミン(2b)、トリアゾール誘導体(4b)及びヒスチジン(XIV)は、形質導入応用に完全な範囲、すなわち、200~300nmの大きさを有するMNPをもたらすMNPのための安定化剤として最も有望な候補と思われる。この結果は、製造の1ヶ月後に確認された。非被覆NPと比較した場合、NP表面におけるカチオン性重合体の導入は、再分散/超音波処理手順後薄いままである分布ピークを有する構築物の全体的サイズの小さい増大を誘導し、カチオン性重合体及びビーズ表面の結合を強調する。
【0302】
しかしながら、これらのカチオン性修飾にもかかわらず、IIなどのいくつかのカチオン性ポロキサマーは、5日後に完了しなかった(677nmの大きさ)が、1ヶ月後に完了したアグリゲーションの特徴的挙動を示した。F127骨格をベースとする様々なカチオン性ポロキサマーで製剤されたMNPは、磁性ナノ粒子のための安定化剤としても強力であることを示した(表29参照);1つのカチオン性ポロキサマー(VII)は、1ヶ月後でさえ安定なMNP製剤をもたらした。
【0303】
要約すると、市販未修飾及び非イオン性ポロキサマーで被覆された安定なMNPを製剤化することは可能ではなかったが、ポロキサマー末端基上に導入されたカチオン性官能基は対応する被覆MNPのための必要かつ必須条件であることが証明された。さらに、カチオン性末端基の特性に依存して、MNPの安定性は変わり得るように思われる。水素結合(化合物2b)、π/πスタッキング(化合物XXX)などの第二相互作用又は両方(化合物VII及び4b)を、同様に関与するかもしれない。これらの測定と同時に、ゼータ電位を、同時点に同じ化合物を用いて評価し、結果を次表29に示す:
【0304】
【表29】
表29:様々な1%(重量/体積)非イオン性及びカチオン性ポロキサマー溶液で再懸濁された磁性NPのゼータ電位(Zp)測定。電位をmVの単位で表し、非イオン性又はカチオン性ポロキサマー溶液に再懸濁後、2つの異なる時点(5日及び1ヶ月の「平均時間」)において記録した。「Agg」タグは、測定することができたかもしれないナノメートル物体は何も残っておらず、ビーズの可能性のあるアグリゲーションを意味する。
【0305】
この表に示された結果は、前のサイズ測定と極めてよく相関する。市販天然及び非イオン性ポロキサマーF108及びF127は、コーティング剤として使用される場合、元のMNPの負電荷の一部を遮蔽し、静電相互作用によりこれらの安定化を低下させ、これらのアグリゲーションを促進する。他方、カチオン性ポロキサマー全ては、得られたナノ粒子に、経時的にコロイド安定化を明白に助ける正表面電荷を提供し、再懸濁手順1ヶ月後でさえ化合物2b、4b、XIV、VIIの大いなる挙動を強調する。これらの実験は、カチオン性末端基のポロキサマーの構造中に導入することは、これらの天然カウンターパートと対照的に、これらの修飾重合体で被覆されたNPを安定化することを可能としたという事実を検証する。
【0306】
このストラテジーを用いて、本発明者らは、より高濃度のカチオン性ポロキサマー(5%及び10%(重量/体積))を有するMNPのコーティング及び製剤をさらに拡張する。本発明者らは、この試験のために、F108骨格由来の化合物2b、4b及びXXX、並びにF127骨格由来の化合物VIIを選択した。これを行うため、あまり高濃度でないカチオン性ポロキサマー溶液を用いて再懸濁/デカンテーションの中間段階を含む再懸濁手順を使用した。
【0307】
【表30】
表30:様々な5%(重量/体積)非イオン性及びカチオン性ポロキサマー溶液で再懸濁された磁性NPのサイズ測定。サイズをnmの単位で表し、非イオン性及びカチオン性ポロキサマー溶液に再懸濁後、2つの異なる時点(5日(d)の「平均時間」、1ヶ月)において記録した。「Agg」タグは、測定することができたかもしれないナノメートル物体は何も残っておらず、ビーズの可能性のあるアグリゲーションを意味する。
【0308】
前述のように、未修飾及び中性ポロキサマー(F108及びF127)は、MNPの瞬時のアグリゲーションをもたらしたが、カチオン性ポロキサマーは、このより高濃度においてMNPを安定に被覆することができた。他方、4つの選択された化合物は、形質導入応用のために適切な約200nmの範囲を有し、細胞毒性を最小化する5日後の安定ビーズの成功をもたらした。選択された化合物の性質は、その関連より僅かに大きいと思われた化合物XXX由来のビーズを除いて、記録された大きさに対して影響を与えないと思われる。1ヶ月安定性試験は、明白なさを示さなかった;NPのほとんどは、再懸濁5日後に記録された大きさと比較して同じ大きさを保持した。ここで再び、化合物XXX由来のビーズは差異を示し、大きさは500nmより大きい範囲であった。大きさのこの純増は、この時点において明白であるかかる現象の徴候がない場合でさえ、アグリゲーションをもたらす先行するスタッキングの徴候であるかもしれない。結論として、ここで再び、これらのポロキサマーのカチオン性修飾により組み込まれた静電反発相互作用は、再懸濁に使用されたカチオン性ポロキサマー溶液の濃度が増加する場合でさえ、磁性NPの安定な懸濁液の生成を可能とした。同時点において記録された対応するゼータ電位値を、下表31に示す。
【0309】
【表31】
表31は、様々な5%(重量/体積)未修飾カチオン性ポロキサマー溶液で再懸濁された磁性NPのゼータ電位(Zp)測定を示す。電位をmVの単位で表し、中性又はカチオン性ポロキサマー溶液に再懸濁後、2つの異なる時点(5日(d)及び1ヶ月)において記録した。「Agg」タグは、測定することができたかもしれないナノメートル物体は何も残っておらず、ビーズの可能性のあるアグリゲーションを意味する。
【0310】
ゼータ電位測定は、大きさについて観察された結果と完全に相関する。全てのナノ粒子は、5日又は1ヶ月後、有意な変化がなく、カチオン性ポロキサマーを用いた製剤化後に高い正電荷を示す。重合体XXXから得られたビーズのみは、おそらく大きさの増大のせいでゼータ電位の僅かな低下を示した。これらのデータは、カチオン性ポロキサマーの高濃度溶液はデカントされた磁性NPの再懸濁液に適切であるかもしれないことを確認した。この濃度におけるカチオン性修飾は、コロイドナノ構造を安定化することができる静電反発相互作用をなお可能とした。
【0311】
この詳細な試験の最後の部分は、磁性コアの再懸濁液を10%(重量/体積)カチオン性ポロキサマー溶液に関与させた。この濃度は、アジュバントとしてカチオン性ポロキサマーを用いてレンチウイルス媒介形質導入実験の最善の結果を得る好ましい濃度である。かかる濃度においてビーズを安定に懸濁することは、カチオン性ポロキサマーのアジュバント効果を強調するかもしれない。本発明者らは、以前ビーズを再懸濁するより同じ化合物(2b、4b、VII、XXX)を選択した。ここで再び、順次デカンテーション/再懸濁手順を行い、ビーズの直接的アグリゲーションを回避した。この時、唯一選択された時点は14日である。大きさの結果を、下表32に纏めている。
【0312】
【表32】
表32:様々な10%(重量/体積)未修飾又はカチオン性ポロキサマー溶液で再懸濁された磁性NPのサイズ測定。大きさをnmの単位で表し、未修飾又はカチオン性ポロキサマー溶液に再懸濁後、1つの時点(14日(d))において記録した。「Agg」タグは、観察することができたかもしれないナノメートル物体は何も残っておらず、ビーズの実際に可能性のあるアグリゲーションを意味する。
【0313】
この濃度において、もう一度市販未修飾ポロキサマー10%(重量/体積)溶液を、MNPの安定化に成功したカチオン性修飾と対照的に、磁性ナノ粒子を効率的に再懸濁することができなかった。化合物2b及びVIIは、2b及びVIIにより被覆されたビーズの大きさのほんの僅かな増大を有し、この時にアグリゲーションの徴候がなく、コロイドをなお印象的に安定化する。これらの2b及びVIIカチオン性ポロキサマーは、この濃度において明白に再懸濁の最も優れた候補であり、同条件で記録されたゼータ電位の分析により強調される。それにもかかわらず、化合物XXXなどのいくつかのカチオン性ポロキサマーは、安定なナノメートルNP溶液を得ることを可能とせず、この濃度において多分より強力なπ/π相互作用のせいでビーズのスタッキングを誘導した。化合物4bでの結果は、453nmの大きさがアグリゲート挙動の開始を明白に示し、14日後に完了しないことを示した。
【0314】
【表33】
表33:様々な10%(重量/体積)中性又はカチオン性ポロキサマー溶液で再懸濁された磁性NPのゼータ電位測定。電位をmVの単位で表し、中性又はカチオン性ポロキサマー溶液に再懸濁後、1つの時点(14日)において記録した。「Agg」タグは、測定することができたかもしれないナノメートル物体は何も残っておらず、ビーズの可能性のあるアグリゲーションを意味する。
【0315】
データのこの最後のセットは、全体として、前のものに従う。粒子表面において正電荷を維持することができる化合物(2b、VII)は、再懸濁工程中にアグリゲーションを誘導する可能性は高くない。対照的に、4bで被覆されたビーズは、経時的にほとんど中性となる。化合物XXXは、その正電荷がトリフェニルホスホニウム部分のπスタッキングによりおそらく引き起こされるアグリゲーションを平衡させないと思われるので、この態様から除外となるように思われる。これは、第二相互作用は、適切に平衡を保ち、スタッキング又はアグリゲーションの要因にならない場合、粒子の安定化に対して好ましい影響を有し得るという事実を強調する。
【0316】
結論として、本発明者らは、再懸濁された磁性ナノ粒子の安定化に対するポロキサマーのカチオン性修飾の好ましい影響を明白に実証した。市販中性ポロキサマーと反対で、いくつかの修飾カチオン性ポロキサマーは、静電反発相互作用によりコロイド安定化を保証するようにビーズ表面上の正電荷をもたらす。化学官能基及び最適化デカンテーション/再懸濁ストラテジーの注意深い選択をして、適切な鉄/カチオン性ポロキサマー含有物を含むMNPを安定に得た。レンチウイルスにより媒介された磁気的に誘導された形質導入実験において、これらを試験した。
【0317】
カチオン性ポロキサマーで被覆された修飾磁性ナノ粒子の生物学的評価
本発明は、磁性ナノ粒子のコロイド安定化を保証するようにカチオン性ポロキサマーを用いることの信頼ある効果を明白に強調した。次に、目的は、かかるMNPが本明細書の前の方に記載されている好ましいアジュバント効果をカチオン性ナノ粒子の性質と組み合わせることができ、レンチウイルス媒介形質導入実験の効率を保証する。したがって、本発明者らは、結合されたレンチウイルスベクターのKG1a細胞株上の形質導入効率を、以下のいずれかと比較した:
・ レンチウイルス媒介形質導入の増強において長時間参照である、OZ Biosciences(仏国マルセーユ)からのViroMagナノ粒子、
・ 本書類の前の方で、形質導入実験においてアジュバントとして効率的であることを証明した、カチオン性ポロキサマー2b、
・ 本書類において展開されたストラテジーに従った、カチオン性ポロキサマー2bで被覆されたViroMagナノ粒子。
【0318】
KG1a細胞を、ViroMag磁性ナノ粒子(VM)、カチオン性ポロキサマー2b又はカチオン性ポロキサマー2b(VM+2b)の5%(重量/体積)溶液で被覆されたViroMag NPと組み合わせた5のMOIを有するGFPをコードするレンチウイルスを用いて形質導入した。72時間のインキュベーション後、GFP陽性細胞(A)の%及び遺伝子改変細胞の平均強度(B)をフローサイトメトリーにより評価した。結果を、
図23に示す。
【0319】
結果に、カチオン性ポロキサマーの効果を示した。ViroMag MNPは、レンチウイルスに感染された細胞数を倍増することを可能とするので、期待及び公開された形質導入の増強に成功した。上記の化合物2bは、アジュバントとして使用する場合、感染された細胞数はLV単独より1.5倍高い強度の平均でほとんど40%に達したので、形質導入効率をブーストすることも可能とした。カチオン性ポロキサマー2bをViroMagと組み合わせると、最高の効率をもたらした。カチオン性ポロキサマー及びMNPによりもたらされた相乗効果を実証した。事実、VM+2bは、形質導入された細胞のより高い数及び強度のより高い平均をもたらす磁気的に誘導される形質導入実験の効果を有するアジュバント2bの効果の可能性を持たせた。この実験は、これらのアジュバントの挙動を増強するポロキサマーの末端基上のカチオン性官能基の導入の効果を確認するだけでなく、修飾カチオン性ポロキサマーの内在性増強特性をこのカチオン性修飾が1つの製剤のみにおいて磁気誘導レンチウイルス形質導入の効果と組み合わせることも可能とすることも証明した。これは、ウイルス媒介遺伝子療法又は臨床治験のための細胞療法製品を生成するウイルスの使用の今日の新たなチャレンジに立ち向かうことの決定的に重要である。
【国際調査報告】