(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】Cra4S1遺伝子及びそれによってコードされるタンパク質と応用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20220909BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220909BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220909BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220909BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220909BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220909BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220909BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220909BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220909BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220909BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220909BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220909BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20220909BHJP
C07K 16/12 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
A61K31/7088
A61K35/76
A61K38/02
A61K35/12
A61K39/00 H
A61P1/02
A61P31/04
A61K48/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12N15/63 Z
C12N1/21
C07K14/195
C07K16/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503798
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(85)【翻訳文提出日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2019124433
(87)【国際公開番号】W WO2021017365
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】201910699285.5
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911247060.2
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522023875
【氏名又は名称】鎮江市江瀾緑洲生物技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】Zhenjiang Yangtze Green Biotechnology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】B2 Building, 99# 15th Longitude Avenue, Science Park, Dingmao, Zhenjiang, Jiangsu 212009, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】史 小菊
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
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4C085EE01
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4C086ZA67
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4C087AA01
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4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA67
4C087ZB35
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、cra4S1遺伝子、それによってコードされるCra4S1タンパク質及びCra4S1タンパク質又はその断片を含むワクチン又は医薬を提供する。cra4Sl遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1に示される。ワクチンは、ポルフィロモナスジンジバリスの外膜タンパク質の特異的ターゲットと細菌保存領域の抗原成分を組み合わせたものであり、体に免疫予防及び保護の役割を果たす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1に示される、ことを特徴とするcra4S1遺伝子。
【請求項2】
請求項1に記載のcra4S1遺伝子によってコードされるCra4S1タンパク質であって、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO.2に示される、ことを特徴とするCra4S1タンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のcra4S1遺伝子又はその遺伝子断片を含む、発現カセット、組み換えベクター又は細胞。
【請求項4】
請求項1に記載のcra4S1遺伝子、請求項2に記載のCra4S1タンパク質、請求項3に記載の発現カセット、組み換えベクター又は細胞の、歯周病又はインプラント周囲炎又はポルフィロモナスジンジバリス感染症関連疾患を予防又は治療するワクチン又は医薬の調製における応用。
【請求項5】
請求項2に記載のCra4S1タンパク質又はその断片を含む、ワクチン又は医薬。
【請求項6】
ポルフィロモナスジンジバリスのW50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質及び381ragBタンパク質のうちの1種又は複数種をさらに含む、ことを特徴とする請求項5に記載のワクチン又は医薬。
【請求項7】
前記ワクチンにおけるCra4S1タンパク質とW50ragBタンパク質との質量比は1:2~8、又は前記Cra4S1タンパク質とThairagBタンパク質との質量比は1:1~6、又は前記Cra4S1タンパク質とQMLragBタンパク質との質量比は1:1~6、又は前記Cra4S1タンパク質と381ragBタンパク質との質量比は1:2~9である、ことを特徴とする請求項5に記載のワクチン又は医薬。
【請求項8】
未感染の健康な人の歯周病又はインプラント周囲炎又はポルフィロモナスジンジバリス感染症の発生の予防、若しくは歯周病又はインプラント周囲炎又はポルフィロモナスジンジバリス感染症関連疾患に感染したことがある患者の再発の予防や治療に用いられる、ことを特徴とする請求項5又は6に記載のワクチン又は医薬。
【請求項9】
請求項2に記載のCra4S1タンパク質又はその断片を含む製剤が免疫動物を誘導することによって製造される、ことを特徴とする特異抗体。
【請求項10】
ポルフィロモナスジンジバリスのW50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質及び381ragBタンパク質のうちの1種又は複数種、又はその断片を含む複合製剤が免疫動物を誘導することによって製造される、ことを特徴とする請求項9に記載の特異抗体。
【請求項11】
未感染の健康な人の歯周病又はインプラント周囲炎又はポルフィロモナスジンジバリス感染症の発生の予防、若しくは歯周病又はインプラント周囲炎又はポルフィロモナスジンジバリス感染症関連疾患に感染したことがある患者の再発の予防や治療用医薬に用いられる、ことを特徴とする請求項9又は10に記載の特異抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオ医薬品分野に関し、具体的に、cra4S1遺伝子及びそれによってコードされるタンパク質と応用に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、世界中で最も多く見られる口腔疾患の1つであり、中国には、様々な程度の歯周病を患っている成人が80~97%いる。歯周病は、冠状動脈性心臓病とその急性発作の独立した危険因子で、脳卒中の独立した危険因子であり、歯周病の病原細菌であるポルフィロモナスジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease;一般的に老年性認知症と呼ばれる)との直接的関係が既に認められ、歯周病は糖尿病の合併症で、消化器や呼吸器疾患、及び、妊婦が未熟児や低体重児を出産するような臨床疾患と密接に関連しており、現在、死亡率の極めて高い多くの疾患の要因であることが既に発見され、世界保健機関により、心血管疾患と癌に次いで3番目に大きい非伝染性疾患としてリストされている。
【0003】
歯周病の発症は種々の段階に分けられるが、再発しやすく、局所病変の様子が漸進的な進行状態にあることがその顕著な特徴である。現在、歯周病の治療は、病巣の局所切除、抗生物質及び外科手術に依存しているが、これらの対策は一時的に和らげるが、病原菌感染の根本的な問題を取り除くことはない。
【0004】
人群における歯周病の広範な分布及びその全身性疾患との関連により、科学者らは、免疫学的方法を使用して体の免疫機能を働かせ、病原菌を抑制と除去し、歯周病/インプラント周囲炎を予防と治療し、再発を防止するワクチンの研究を探求するようになる。
【0005】
ポルフィロモナスジンジバリスは、最も広く研究され、証拠が最も十分である成人の歯周病の必要な病原細菌である。ポルフィロモナスジンジバリスの候補ワクチンは、莢膜多糖類、線毛、類脂質、外膜タンパク質、熱ショックタンパク質、プロテアーゼ、不活化全菌などが含まれ、何れも現在の開発範囲にあるが、病原細菌は亜型によって分子構造、毒力因子、DNA配列及び毒性が異なり、人群におけるポルフィロモナスジンジバリスの異なる亜型の分布規則は、まだ発見されていない。効果的なワクチンは、ある微生物抗原に対して長期的な免疫性が発生されるように体を誘導し、病原菌の再侵入を予防し、その人体に与える被害を減らすことができなければならない。病原細菌の異なる亜型の細菌感染症に対するワクチン/抗体製品の製造は、安定した予防と治療効果を生じさせることができるが、これは商業的開発の難題であり、これまで、関連製品がまだ発売されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、歯周病/インプラント周囲炎を含むが、これらに限定されないポルフィロモナスジンジバリス慢性感染症による疾患を予防と治療するための安全かつ安定的で効果的なバイオ製品を開発することを目的とする。
【0007】
本発明によって解決される主要技術課題は、cra4S1遺伝子及びそれによってコードされるCra4S1タンパク質を提供することである。
【0008】
本発明がさらに解決しようとする技術課題は、前記cra4S1遺伝子又はその遺伝子断片を含む発現カセット、組み換えベクター又は細胞を提供することである。
【0009】
本発明がさらに解決しようとする技術課題は、cra4S1遺伝子、前記Cra4S1タンパク質、前記発現カセット、組み換えベクター又は細胞の、歯周病又はインプラント周囲炎又はポルフィロモナスジンジバリス感染症関連疾患を予防又は治療するワクチン又は医薬の調製における応用を提供することである。
【0010】
本発明がさらに解決しようとする技術課題は、前記Cra4S1タンパク質又はその断片を含むワクチン又は医薬を提供することである。
【0011】
本発明がさらに解決しようとする技術課題は、前記Cra4S1タンパク質又はその断片を含む製剤が免疫動物を誘導することによって製造される特異抗体を提供することである。
【0012】
本発明は、混合ワクチン及び/又はダブルターゲット特異抗体により、ポルフィロモナスジンジバリス慢性感染症による歯周病/インプラント周囲炎及びその他の関連疾患を予防と治療する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術課題を解決するために、本発明の技術案は、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:1に示される新規のcra4S1遺伝子を提供する。
【0014】
本発明の内容は、前記cra4S1遺伝子を取得する方法をさらに含む。
【0015】
本発明の内容は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:2に示される、前記cra4S1遺伝子によってコードされるCra4S1タンパク質をさらに含む。
【0016】
本発明の内容は、前記cra4S1遺伝子を含む発現カセット、組み換えベクター又は細胞をさらに含む。
【0017】
本発明の内容は、前記cra4S1遺伝子、人工合成遺伝子の設計、前記タンパク質、前記発現カセット、組み換えベクター又は細胞の、歯周病又はインプラント周囲炎又はポルフィロモナスジンジバリス感染症関連疾患を予防又は治療するワクチン又は医薬の調製における応用をさらに含む。
【0018】
本発明の内容は、前記Cra4S1タンパク質又はその断片を含むワクチン又は医薬をさらに含む。
【0019】
ここで、前記ワクチン又は医薬は、ポルフィロモナスジンジバリスのW50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質及び381ragBタンパク質のうちの1種又は複数種をさらに含む。
【0020】
ここで、本発明にかかるワクチンの調合法は、前記ワクチンにおけるCra4S1タンパク質とW50ragBタンパク質との質量比が1:2~8、又は前記Cra4S1タンパク質とThairagBタンパク質との質量比が1:1~6、又は前記Cra4S1タンパク質とQMLragBタンパク質との質量比が1:1~6、又は前記Cra4S1タンパク質と381ragBタンパク質との質量比が1:2~9であり、又は、前記Cra4S1タンパク質とW50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質、381ragBタンパク質の調合法は、上記質量比で最適化される。
【0021】
好ましくは、前記混合ワクチンの調合法は、Cra4S1タンパク質:W50ragBタンパク質:QMLragBタンパク質の質量比が1:1:1である。
【0022】
本発明に記載のワクチン又は医薬は、未感染の健康な人の歯周病又はインプラント周囲炎又は慢性感染性歯周病の発生の予防、若しくは歯周病又はインプラント周囲炎又は慢性感染性歯周病に感染したことがある患者の再発の予防や治療に用いられることを含むが、これらに限定されず、他のポルフィロモナスジンジバリス感染症に関連する疾患にも利用可能である。
【0023】
さらに、好ましくは、前記ポルフィロモナスジンジバリスは、ポルフィロモナスジンジバリスW50類亜型、Thai類亜型、QML類亜型及び381類亜型を含む。
【0024】
本発明の内容は、前記Cra4S1タンパク質又はその断片を含む製剤が免疫動物を誘導することによって製造される特異抗体をさらに含む。
【0025】
ここで、前記特異抗体の混合応用は、ポルフィロモナスジンジバリスのW50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質及び381ragBタンパク質のうちの1種又は複数種の製剤が免疫動物を誘導することによって製造されることをさらに含む。
【0026】
ここで、前記Cra4S1タンパク質、W50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質及び381ragBタンパク質の免疫接種の投与量は、何れも0.5~50μgである。
【0027】
好ましくは、前記Cra4S1タンパク質、W50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質及び381ragBタンパク質の免疫接種の投与量は、何れも0.5~5μgである。
【0028】
好ましくは、前記Cra4S1タンパク質、W50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質及び381ragBタンパク質の免疫接種の投与量は、何れも5~50μgである。
【0029】
免疫して得られたポリクローナル抗体の投与量は、100~200μgである。
【0030】
本発明に記載の特異抗体は、未感染の健康な人の歯周病又はインプラント周囲炎又は慢性感染性歯周病の発生の予防、若しくは歯周病又はインプラント周囲炎又は慢性感染性歯周病に感染したことがある患者の再発の予防や治療に用いられることを含むが、これらに限定されず、他のポルフィロモナスジンジバリス感染症に関連する疾患にも利用可能である。
【0031】
本発明の主旨は、まず遺伝子発現が難しいという技術的障害をうまく解消しているが、その要としては、共転写遺伝子間の分子相乗効果と相互依存性を活用して、歯周病/インプラント周囲炎を予防と治療するワクチン及び抗体製品の製造に成功したことである。
【0032】
本発明の原理及び方法:
ポルフィロモナスジンジバリス細菌ゲノムDNAには、ragAとragB遺伝子及び両端の不規則な挿入断片で構成された(
図1)rag遺伝子座(rag locus)があり、ragAとragB遺伝子は、そのオープンリーディングフレームがそれぞれ独立しているが、実験により、両者に共転写関係があることが証明され、例えば、ragA遺伝子が人為突然変異されると、RagBタンパク質は正常に発現できなくなり、又は、下流のragB遺伝子が人為突然変異されると、RagAタンパク質は、細菌において正常に発現できなくなる(参照文献:PCT/GB2005/001976)。
【0033】
本社の認定された特許(PCT/GB2005/001976)技術を使用して、細菌の外膜タンパク質をコードするragB遺伝子の配列分析により、4つの異なる亜型の病原細菌は、臨床検体検査において絶対な優位性があることが判明されており、4つの異なる亜型に対応して、ポルフィロモナスジンジバリスの外膜タンパク質は、それぞれW50ragBタンパク質、ThairagBタンパク質、QMLragBタンパク質及び381ragBタンパク質と名付けられ、組み換えサブユニット1価と多価ワクチンの実験室でのパイロット生産規模のプロセスフローが完了した。
【0034】
実質的に、ragA遺伝子にも高い遺伝子多型性があるが、ragA遺伝子のDNA多型性に対応するコードされるタンパク質の関連研究は、発表された文献がない。出願人は、従来の方法により、ゲノムDNAからのragA遺伝子のクローニングと発現を試みたが、うまく達成できなかった。出願人は、そのPCT/GB2005/001976の特許技術に基づき、タンパク質配列の比較分析により、ragA遺伝子によってコードされるタンパク質に1つのアミノ酸保存安定配列があることを発見したが、従来の方法によりクローニングと発現してもうまく達成できなかった。
【0035】
RagAの安定領域におけるタンパク質分子の発現を得るために、出願人は、ヌクレオチドを最適化する方法によって、1つの新しい配列を設計したが、ヌクレオチドを人工的に合成する方法により1つの遺伝子配列が作成され、それはcra4S1(SEQ ID NO:1を参照)と名付けられ、ポルフィロモナスジンジバリスのragA遺伝子に安定した保存アミノ酸配列があることを意味し、4つの主な細菌亜型が1つの共通のタンパク質配列を有することを指摘している。
【0036】
本発明において、cra4S1遺伝子断片はうまく発現ベクターにクローニングされ、誘導条件で組み換えタンパク質が生成された。クロマトグラフィーと分子篩の原理によって、精製された組み換えタンパク質が取得され(実施例3、
図2、3、5、6と7)、組み換えCra4S1タンパク質は分子量が約15KDaであり、組み換えクローン化遺伝子DNAの配列決定結果は設計案と一致し、コードされるタンパク質配列は安定領域の理論配列と一致し(
図4)、分子量は期待される理論値と合致している。
【0037】
組み換えCra4S1タンパク質は強い抗原性を有し、少用量で動物を免疫すれば高力価の抗体を産生することができるが(実施例8では詳細に記載)、Cra4S1タンパク質のみを使用して動物を免疫する場合は、免疫保護作用が認められなかった。
【0038】
インビトロ実験では、Cra4S1タンパク質で免疫された動物によって産生された抗体は、ポルフィロモナスジンジバリス又は/及び細菌溶解物と反応できなかったことが観察され、実験では、RagB抗血清及び全菌抗血清と組み換えCra4S1タンパク質との間に明らかな免疫学的反応が見られなかったことがさらに観察され、これらの実験結果により、Cra4S1タンパク質は細菌表面の主な抗原ではないことが示唆されている。
【0039】
興味深いことに、動物はRagBワクチンで免疫した後、ポルフィロモナスジンジバリスに攻撃されると、この時に採取された血清抗体は組み換えCra4S1タンパク質と異なる程度の免疫交差反応を示すことになる。これは、RagB抗体がポルフィロモナスジンジバリスの外膜タンパク質RagBと結合すると、Cra4S1タンパク質の元の空間構造が変更されて、その隠れた抗原性が暴露されることを示唆している。
【0040】
具体的な実験では、組み換えCra4S1タンパク質とRagBタンパク質が混合ワクチンを形成する場合、予期しない結果が生じて、新しい調合法による混合ワクチンは、ポルフィロモナスジンジバリス感染症に対する体の免疫保護効果を向上させたが(実施例8、
図12)、これは、RagB抗体が細菌表面のRagB抗原に結合すると、rag遺伝子座タンパク質の空間構造が変更され、Cra4S1タンパク質が暴露されて抗体に認識される機会が与えられ、細菌表面のダブルターゲットは同時に特異抗体により捕捉され、主な外膜タンパク質の機能が制限されることで、細菌を抑制と除去する効果が達成されることを示唆している。
【0041】
混合ワクチンは実験において、製品の安定性の向上も反映しており、これはデータの標準偏差が低いままに保たれたことに表されており、標準偏差は、一群のデータの平均値の分散度の評価基準であり、小さい標準偏差の方は、これらの値が平均により近いことを意味し、予想以上の分散になるリスクが減少されることを示す。これは、RagAとRagBのダブルターゲット抗原抗体結合による免疫効果がより安定的であることをさらに証明している。
【0042】
本発明の新規点は、細菌表面抗原のマルチターゲットの特性を利用し、安定的且つ効率的なバイオ製品を製造することである。
【0043】
混合ワクチンは、健康なマウスだけでなく、ポルフィロモナスジンジバリスに感染した動物にも適用され、実験結果により、混合ワクチンは感染体に顕著な免疫保護作用があることが示されており(実施例9)、これは、本発明のもう1つの新規点である。ポルフィロモナスジンジバリス感染症による歯周病/インプラント周囲炎は、慢性且つ断続的な過程であり、進行性の経過となっている。動物実験では、複数回の感染後、局所病変が悪化しつつあるだけでなく、動物の全身にも衰弱が現れることが観察された(実施例7)。臨床的に、ほとんどの人は様々な程度の歯周病を罹患しているため、本発明は慢性感染症を制御することにより、全身の健康に対する慢性感染症の被害を抑止することができ、製品は幅広い市場の見通しがある。
【0044】
混合ワクチンの免疫効果と安定性の向上試験に加えて、受動免疫実験によっても、複合抗体がCra4S1タンパク質抗体と外膜タンパク質RagB抗体を含み、その免疫保護作用が単一の抗体をそれぞれ使用する実験群よりも強いことが同時に証明されている(実施例10)。
【0045】
感染すべき動物に対する混合ワクチンと複合抗体の能動免疫と受動免疫の保護実験は、その方法及び結果も本明細書に含まれている。
【発明の効果】
【0046】
本発明は従来技術に比べて、以下の利点がある。
【0047】
1.本発明は、ポルフィロモナスジンジバリスに関連するcra4S1遺伝子を初めて開示し、そして初めてcra4S1遺伝子をクローニングして大腸菌で発現させてCra4S1タンパク質を得ることに成功したが、このタンパク質はポルフィロモナスジンジバリスRagBワクチンなどの製品と併用すると、ポルフィロモナスジンジバリス感染症に対する体の免疫保護効果を強化するだけでなく、ワクチン製品の機能の安定性も向上させ、また、混合ワクチンと複合抗体は、何れも感染すべき体において顕著な免疫保護作用を示していることで、本発明は幅広い応用の見通しがあることが示唆され、製品は健康な人だけでなく、慢性感染症の患者にも適用可能である。
【0048】
2.本発明にかかるワクチンは、ポルフィロモナスジンジバリスの特異的外膜タンパク質のターゲット及び新たに発見された保存領域の抗原成分を含むことで、外膜タンパク質のみ又は新たに発見された抗原のみを使用して製造されたワクチンの有効性が改善される。ポルフィロモナスジンジバリス保存領域の抗原を外膜タンパク質の誘導により産生された抗体と併用すると、抗体の免疫保護効果が大幅に向上する。また、研究の結果により、ワクチンと二重特異抗体を含む本発明の製品を使用した実験動物群は、各対照群に比べて、その実験データの標準偏差が何れも低く維持されていたことが示され、本発明の製品はインビボ実験でより良い安定性を提供できることが示唆されている。
【0049】
3.本発明の内容は、抗感染免疫では、特異抗体が細菌の表面における互いに関連するターゲットと結合することで、免疫分子が保存領域抗原及び細菌の亜型を認識する特異抗原と結合する特性を利用して、抗体の効果を安定的且つ効果的に発揮し、病原菌を抑制と除去し、病気を予防と治療する目的を達成することができると指摘している。
【0050】
以下、本発明のさらなる例を説明するが、これらは、見通しの予測を含むが、本発明に限定されない
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】ポルフィロモナスジンジバリスW50の主な外膜タンパク質受容体の抗原遺伝子rag(rag、
receptor
antigen
gene)座である。
【
図2】組み換えプラスミドベクターの構築図である。注:C5361BH150-1は標的遺伝子cra4S1である。
【
図3】組み換えプラスミド酵素消化の同定である。(A):レーン1は組み換えcra4S1-pET-30a(+)プラスミドであり、レーン2は酵素消化反応であり、プラスミドDNAとcra4S1遺伝子バンドがあり、Mは1kb DNA勾配スケール(ジェンスクリプト)であり、(B):1kb DNA勾配スケールとDL3000(ジェンスクリプト)分子量スケールの比較図である。
【
図4】クローニングして得られた標的遺伝子に対応するアミノ酸配列と細菌の理論アミノ酸配列とは一致することである。
【
図5】組み換えタンパク質の誘導後の発現検出である。レーンM:タンパク質分子量スケール(15~120kDa)、レーン9:誘導前の細菌の全タンパク質(コロニー1)、レーン10:誘導後の細菌の全タンパク質(コロニー1)、レーン11:誘導前の細菌の全タンパク質(コロニー2)、レーン12:誘導後の細菌の全タンパク質(コロニー2)。
【
図6】組み換えタンパク質の誘導後の発現検出である。レーンM:タンパク質分子量スケール(15~120kDa)、レーン1:遠心分離された上清液、レーン2:全菌の溶解液、レーン3:細菌溶解液の上清。
【
図7】アフィニティークロマトグラフィーで精製されたタンパク質の収集である。レーンM:タンパク質分子量スケール(15~120kDa);レーンカラムの前はカラムを通る流れであり、レーン1~10はタンパク質収集液である。
【
図8】マウスの皮下と皮膚軟組織が病的に障害された動物モデルの図である。Aは病変の写真であり、Bは白い線で病変の縁部が囲まれることであり、ImageJにより病変の面積が算出され、詳しくは実施例4を参照する。
【
図9】細菌の攻撃用量と局所軟組織病変との関係であり、詳しくは実施例5を参照し、細菌攻撃後の15日目の病変記録である。(A)ポルフィロモナスジンジバリスの異なる亜型の毒力の調査であり、横座標はポルフィロモナスジンジバリスに攻撃された場合の様々な濃度であり、異なる亜型の攻撃細菌が順番に配列され、縦座標は皮膚と軟組織病変の面積(mm
2)である。(B)用量と病変は正の相関があり、横座標はポルフィロモナスジンジバリスの異なる亜型であり、縦座標は皮膚と軟組織病変の面積(mm
2)であり、用量が順番に配列され、攻撃用量が大きいほど、病変の面積が大きくなる。
【
図10】動物の年齢と細菌への感受性との関係であり、横座標は時間で、攻撃後の日数であり、縦座標は皮膚と軟組織病変の面積(mm
2)であり、詳しくは実施例6を参照するが、図中、G1(4週齢)、G2(8週齢)、G1(12週齢)、G4(16週齢)及びG5(20週齢)は異なる年齢群の動物をそれぞれ表している。
【
図11】ポルフィロモナスジンジバリスの複数の感染による損害であり、詳しくは実施例7を参照する。(A)局所病変で、初感染と複数回の感染による軟組織損傷の面積の比較であり、横座標は攻撃後の日数であり、縦座標は皮膚と軟組織病変の面積(mm
2)である。(B)複数回感染した動物(G148群)の回復期間の24日目の映像記録のスクリーンショットである。(C)初感染した動物(G148.1群)の回復期間の24日目の映像記録のスクリーンショットである。
【
図12】混合ワクチンの免疫保護機能であり、詳しくは実施例8を参照するが、横座標は攻撃後の日数であり、縦座標は皮膚と軟組織病変の面積(mm
2)である。
【
図13】感染後にワクチンを用いた局所免疫保護作用であり、詳しくは実施例9を参照するが、横座標は攻撃後の日数であり、縦座標は皮膚と軟組織病変の面積(mm
2)である。
【
図14】感染後にワクチンを用いた全身免疫保護作用であり、詳しくは実施例9を参照し、細菌攻撃後の24日目と42日目のビデオスクリーンショットであり、G154群は1価ワクチンW50ragBを使用し、G155群は1価ワクチンCra4S1を使用し、G156群は混合ワクチンW50ragB+Cra4S1を使用し、G157群はワクチンを使用しなかった感染対照群であり、G158群は初感染対照である。
【
図15】ダブルターゲット特異抗体の受動免疫機能の調査であり、詳しくは実施例10を参照する。(A)G370、G371、G372、G373及びG374の、ポルフィロモナスジンジバリスに事前感染せず、細菌に攻撃された動物の死亡率の調査である。抗体の使用状況はそれぞれ下記の通りである。G370は抗ThairagB血清を使用し、G371は複合抗体である抗ThairagBと抗Cra4S1の血清を使用し、G372は抗Cra4S1血清を使用し、G373は正常のマウス血清を使用し、G374はPBS対照を使用した。(B)G361、G362、G363、G364及びG369群のマウスは事前感染歴があり、細菌に攻撃された後の動物の死亡率の調査であり、各群の抗体の使用状況はそれぞれ下記の通りである。G361は抗ThairagB血清を使用し、G362は複合抗体である抗ThairagBと抗Cra4S1の血清を使用し、G363は抗Cra4S1血清を使用し、G364は正常のマウス血清を使用し、G369はPBS対照を使用した。
【
図16】初感染及び感染症の既往歴がある動物に対するダブルターゲット特異抗体の局所免疫保護作用である。(A)G371、G372、G373及びG374は、何れもポルフィロモナスジンジバリスに感染しておらず、抗体の使用状況は
図15と同様であり、横座標は攻撃後の日数、縦座標は皮膚と軟組織病変の面積(mm
2)である。(B)G361、G362、G363、G364及びG369群のマウスは事前感染歴があり、抗体の使用状況は
図15と同様であり、横座標は攻撃後の日数、縦座標は皮膚と軟組織病変の面積(mm
2)である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、図面に合わせて本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0053】
実施例1:cra4S1遺伝子のヌクレオチド配列の設計
出願人はDNA配列と設計要件を提供し、南京ジェンスクリプトバイオテック社(以下、ジェンスクリプトと略称)はヌクレオチド合成のサービスを提供した。
【0054】
cra4S1遺伝子を人工的に作成する発想は、ポルフィロモナスジンジバリスのragA遺伝子に由来する。ragA(外膜タンパク質をコードし、分子量は約115kDaである)とragB(外膜タンパク質の免疫源領域をコードし、分子量は約55kDaタンパク質である)は、同じ転写因子(
図1)においてrag遺伝子座(rag locus)を構成し、出願人は前の発明特許と発表された文献において、ragAとragB遺伝子が何れも遺伝的多型特性を有することを指摘している。今まで、ragA遺伝子及びそれによってコードされるタンパク質に関する公開文献が報告されていない。
【0055】
出願人の研究結果によって、ragA遺伝子によってコードされるタンパク質には、比較的保存安定領域配列があることが発見され、下記の図のRagA配列において、下線部分は4つの主なポルフィロモナスジンジバリスの亜型が有する共通のアミノ酸配列である。
【0056】
【0057】
異なる亜型の細菌が同じタンパク質配列を共有することは、広域ワクチンの研究に見通しを指し示したが、従来の方法により細菌ゲノムDNAから標的遺伝子断片を抽出することを試みたところ、うまくクローニングできなかった。
【0058】
本発明は、宿主自身のコドン優先度を使用してヌクレオチド配列を修飾し、ヌクレオチド配列が改善された後、それによってコードされたタンパク質配列は、標的タンパク質が正確に発現されるように、標的遺伝子と一致しなければならない。人工的に合成された遺伝子配列は、cra4S1と名付けられており、ポルフィロモナスジンジバリスのragA遺伝子に安定した保存アミノ酸配列があることを意味し、4つの主な細菌亜型が1つの共通のタンパク質配列を共有することを指摘している。本発明において、人工的に設計された、遺伝子合成方法により得られたヌクレオチド配列は、あらゆる知的財産権が特許出願人に帰属し、ジェンスクリプトはヌクレオチド合成のサービスしか提供しなかった。
【0059】
人工的に合成されたcra4S1遺伝子のヌクレオチド配列は、以下の通りである。
【数2】
【0060】
このcra4S1遺伝子断片は長さが408bpであり、393bpの標的遺伝子が含まれており、5’末端制限酵素はNdeI(CATATG、下線部分)が使用され、開始コードが制限酵素のATGであり、3’末端制限酵素はXhoI(CTCGAG、下線部分)が使用された。標的遺伝子が正しく発現されるように、標的遺伝子の翻訳が完了した後、TGA(太字)終止コドンの挿入を特別に設置して翻訳を直ちに終止した。プラスミドDNAを宿主細胞に形質転換した後、人工的に合成された標的遺伝子の正確度を検出する必要がある。
【0061】
実施例2:cra4S1遺伝子発現ベクターの構築及び同定
Cra4S1タンパク質オープンリーディングフレームベクターを含む原核発現ベクターの構築方法は、実施例1で人工的に合成されたcra4S1遺伝子断片をベクタープラスミドpET-30a(+)(南京ジェンスクリプトから購入)に接続することであり、組み換えプラスミドの構築は
図2に示される。プラスミドと標的遺伝子は、何れも制限酵素NdeIとXhoIで二重酵素消化され、両方の酵素消化システムは、2つの制限酵素それぞれ2μl、10×Bufferの緩衝液4μl、プラスミドpET-30a(+)1μg又はcra4S1遺伝子断片1μgであり、ddH
2Oで40μlまで補足し、37℃で2 h水浴した。DNA断片をアガロースゲル電気泳動により精製して回収し、ベクターと標的遺伝子断片を接続したが、接続システムは、酵素消化・回收されたベクターそれぞれ200μg、cra4S1遺伝子断片280μg、T4 DNAリガーゼ1.0μl、10×Buffer緩衝液2.0μlであり、ddH
2Oで20μlまで補足し、16℃で12~16 h反応させた。うまく接続された発現ベクターcra4S1-pET-30a(+)プラスミドを大腸菌に形質転換した。
【0062】
形質転換:cra4S1-pET-30a(+)プラスミド1μl(100ng)をコンピテント大腸菌BL21(DE3)plysS(ジェンスクリプトが購入)100μlに加え、氷浴に20分間置き、42℃で90秒熱ショックを与えてから、すばやく氷に5分間置き、LB培養液600μlを加え、37℃、220rpmで1時間振とうし、遠心分離後にカナマイシン50μg/mlを含むLBプレートに培養物を塗布し、37℃で一晩培養した。形質転換菌プレート培養皿から単一のコロニーをランダムに選択し、プラスミドDNAを抽出して精製した後、酵素消化実験によりプラスミド挿入遺伝子断片(
図3)を確認し、プラスミドDNA配列決定に送った。
【0063】
配列決定の結果は、以下の通りである。
【0064】
【0065】
上記太字部分の塩基393bpはクローニングされたcra4S1遺伝子配列であり、下線は制限酵素の消化サイトであり、終止コドンTGAは終端にあり、組み換え遺伝子の配列決定結果における352~744番目のヌクレオチド配列と設計されたヌクレオチド配列とを比較すると、100%完全に合致している。
【0066】
理論アミノ酸配列は、以下の通りである:
【0067】
ragA保存アミノ酸配列(リーダーペプチド20AAを除去)
【数4】
【0068】
上記の配列決定結果により翻訳されたタンパク質に対応するアミノ酸配列と理論アミノ酸配列と比較すると、比較結果は
図4に示される。
【0069】
結果:組み換えプラスミドにおける標的遺伝子のDNA配列と最適に設計されたcra4S1遺伝子をマッチングすると、100%合致しており、コードされるタンパク質配列と標的理論アミノ酸配列が100%合致すると予期される。
【0070】
実施例3 Cra4S1タンパク質の誘導、発現及び精製
IPTG誘導:実施例2の形質転換プレートにおける2つの単一コロニーを選択し、50μg/mlのカナマイシンを含む3mlのLB培養液の試験管内にそれぞれ接種し、37℃、200rpmで振とうして一晩放置し、翌日に1:100で50μg/mlのカナマイシンを含むLB培養液100mlに接種し、菌体OD600が0.6~0.8になるまで37℃、220rpmで振とうし(約4h)、培養物1mlを取り出し、10000gを室温で5 min遠心分離し、上清を捨て、PBS 100μlで菌体を再懸濁して沈殿させ、準備に備えた。最終濃度が1mMになるように残りの培養物にIPTGを加え、37℃、220rpmで4時間振とうして組み換えタンパク質の発現を誘導し、培養物1mlを取り出し、10000gを室温で5 min遠心分離し、上清を捨て、PBS 100μlで菌体を再懸濁して沈殿させ、準備に備えた。残りの培養物を遠心分離して沈殿させた後に上清を捨て、湿重量を計量し、記録してファイルに保存し、-20℃の冷蔵庫で保存した。
【0071】
タンパク質発現の検出:前のステップで誘導前と誘導後の細菌懸濁液を取り、振とう後に同等体積の2×SDSローディングバッファーを加え、100℃で5 min加熱し、SDS-PAGEで電気泳動し、クマシーブリリアントブルーで染色して組み換えタンパク質を検出した(
図5)。その結果、形質転換菌がIPTGの誘導で標的タンパク質を産生し、分子量15kDaの位置において強いタンパク質バンドが示され、標的タンパク質の理論値と合致し、未誘導菌にはこのタンパク質が現れなかったことが示されている。
【0072】
組み換えタンパク質のアフィニティークロマトグラフィーによる精製:まず、IPTGによって誘導された菌体を超音波で破壊し、細菌の湿重量1グラム当たりにTris-HCL(PH8.0)30mlを加え、均一に懸濁させ、4℃、10000rpmで30分間遠心分離し、細菌の沈殿物を3回洗浄した後、細菌を懸濁し、超音波(寧波新芝超音波破壊装置Y-92III)溶解法で菌体を破壊し、菌液が入ったビーカーを氷浴に置き、超音波時間は3秒、間隔時間は5秒、超音波の総作動時間は8分間である。超音波で破壊された細菌液を4℃の条件で、10000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集して沈殿させ、SDS-PAGEで検出した(
図6)。その結果、細菌が破壊された後、組み換えタンパク質が主に遠心分離して沈殿された上清液に現れることが明らかになり、組み換えタンパク質が可溶性形態で細胞内で合成されていることが示され、その後の封入体の再生プロセスが回避される。
【0073】
AKTA精製器(GE社)によりアフィニティークロマトグラフィーで組み換えタンパク質を精製し、クロマトグラフィーカラムとしてDEAEカラム(Huiyan)を選択し、組み換えタンパク質を含む細菌溶解液の上清溶液を精製カラムに加え、1回のローディング体積は40ml~100ml(1~5mg/ml)、ローディング流速は1.5ml/min、移動相A溶液をTris-HCl 50mM、PH8として使用し、流出液OD280の値がベースラインに達すると、移動相B溶液をTris-HCl、1M NaCl 50mM、pH8.0に変換し、4ml/minの流速で溶出し、10%B、18%B、100%Bの様々な勾配のB溶液で標的タンパク質を溶出し、流出液を収集してマークし、SDS-PAGE電気泳動で精製されたタンパク質を検出し、
図7に、最初の勾配で溶出されて収集されたタンパク質を示し、Phenyl Sepharose FFカラムでさらに精製し、不純物を除去し、-20℃で保存した。
【0074】
結論:プラスミド形質転換菌は、IPTGにより誘導された後、細胞内で組み換えタンパク質を産生することができ、菌体が溶解した後、組み換えタンパク質は主に溶解液の上清に存在することが認められ、Cra4S1は可溶性タンパク質の形態で存在することが示されている。アフィニティークロマトグラフィーにより、精製されたCra4S1組み換えタンパク質が得られ、組み換えタンパク質の分子量は約15kDaで、予期される理論値と合致している。
【0075】
実施例4 マウス軟組織病変部位の面積の計算方法
ポルフィロモナスジンジバリスの病原性を検出するために、マウスの表皮と皮下軟組織病変モデルを確立した。
【0076】
簡単な説明は次の通りである。ポルフィロモナスジンジバリスは、様々な亜型の細菌(ポルフィロモナスジンジバリスW50亜型、Thai亜型、QML亜型及び381亜型)を含み、何れも5%の脱線維化馬血を含むFastidious嫌気性寒天(FAA)プレートに増殖し、窒素ガス80%、水素ガス10%及び二酸化炭素10%を含む37℃の嫌気性インキュベータに入れた。コロニーを選択して5μg/mlの塩化ヘミンを含む新たに調製されたBHI培養液(ブレインハートインフュージョン培養液)に移し、18~24時間増殖させ、OD600nmが1~1.2に達すると、培養物を遠心分離して回収し、2回洗浄し、BHI培養液を使用して、実験用マウス(Balb/c、揚州大学動物センター購入)に接種するための一定の濃度の細菌懸濁液(2~8×1010CFU/ml)を調製した。マウスは異なる実験計画に従って群分けし、一般的に、6~8週齢、体重18~22グラムで、それぞれの群に8~12匹を選択し、それぞれのマウスに200μlの細菌懸濁液を接種し、マウスの背中の脊椎の両側に皮下注射した。細菌攻撃後、マウスの体重変化、行動及び動きを記録し、皮膚と皮下軟組織の病変の様子を詳しく記録した。
【0077】
具体的には、ポルフィロモナスジンジバリスW50亜型でBalb/cマウスを攻撃する場合、3×1010CFU/mの細菌懸濁液を準備し、マウスの背中の脊椎の両側に0.2ml注射した。
【0078】
結果:
図8には、マウスは細菌に攻撃された後、皮膚と皮下軟組織に病変が発生されたことを示しており、白い線で病変部位が囲まれている。病変の面積を計算し、最初に病変の最長縦径及び対応する横径を手動で測定し、縦径と横径を乗算して病変の面積を計算し、全ての手書きデータを記録してファイルに保存した。病変部位の特定及び面積の計算方法は2019年4月に改善されたが、撮影の方法により、カメラと撮影される病変部位の距離を固定し、そして写真に対してImageJ(コンピューターソフトウェア名)を使用して囲まれた範囲における病変の面積を計算する。
【0079】
まとめ:本実施例で使用されるマウスの体表面軟組織損傷モデルは、創傷面の病理学的特徴、疾患の経過の進行、創傷の治癒状況及び病変の予後状態を含む局所病変の様子を動的に観察し、マウスの体重変化、精神状態及び行動特性などの指標と合わせて、ポルフィロモナスジンジバリス感染によって引き起こされる被害を総合的に判定した。撮影方法とコンピューターソフトウェアにより病変を位置決めしてその面積を計算し、個人誤差を減らし、映像記録を保存することは、起源の追跡及び元のデータのさらなる研究に役立つ。本実施例で使用される動物実験モデルは、国際上の一般的な方法に従ったもので、標準は業界で認められている。
【0080】
実施例5 ポルフィロモナスジンジバリス感染の用量とマウス軟組織病変との関係
本実施例の目的は、4つの主な外膜タンパク質に対応するポルフィロモナスジンジバリスの亜型、それらの毒力の違い及び細菌感染の用量と病変との相関関係を調査することである。
【0081】
具体的には、4つの異なる亜型のポルフィロモナスジンジバリスはW50亜型、Thai亜型、QML亜型及び381亜型を含み、実施例4に記載の方法を参照して、それぞれ5×109CFU/ml、2×1010CFU/ml及び8×1010CFU/mlである3つの異なる濃度の細菌懸濁液を調製したが、実験動物は、6~8週齢、体重18~24グラムのBalb/cマウスで、それぞれの群に8~12匹があり、それぞれのマウスに200μlの細菌懸濁液を接種し、マウスの背中の脊椎の両側に皮下注射した。細菌攻撃後、マウスの体重、行動及び局所軟組織の病変を記録した。
【0082】
結果:攻撃菌の濃度の増加に伴い、動物の全身と局所病変の状況は悪化しつつあり、それは、高濃度菌の侵入による体重の減少が最も深刻であり、マウスが病的状態になり、局所病変の面積が最も大きいことに反映されている。4つの異なるポルフィロモナスジンジバリスの亜型が同じ用量の細菌に攻撃された場合、局所損害も一致しない(
図9Aと
図9B)。
【0083】
結論:
図9Aと
図9Bは、試験される4つのポルフィロモナスジンジバリスの亜型菌株の毒力に一定の違いがあることを示しており、
図A中のPgA、PgB、PgC及びPgDは、それぞれポルフィロモナスジンジバリスW50亜型、Thai亜型、QML亜型及び381亜型を表し、
図B中の3つの異なる濃度の細菌懸濁液1、2、3は、それぞれ5×10
9CFU/ml、2×10
10CFU/ml及び8×10
10CFU/mlを表す。
【0084】
しかし、約20個の異なるポルフィロモナスジンジバリス菌株(それぞれ4つの主なポルフィロモナスジンジバリスの亜型に属する)は同じ方法で動物を攻撃したが、同じ亜型内でも菌株同士が異なる毒力を有する(データが示されていない)ことが認められたため、本実施例の菌株の毒力の違いは亜型の代表的な菌の特徴を有しない。即ち、本実施例の結果は、ポルフィロモナスジンジバリスのどの亜型の毒力が最も強い又は最も弱いかが示唆できない。但し、毒力と用量との関係は試験される4つの亜型において繰り返されたが、細菌の攻撃用量が大きいほど、引き起こされる被害が大きくなる。臨床治療と合わせれば、歯周病患者の局所慢性感染症の細菌が一定の濃度に寄せ集めると、急性発作が引き起こされてしまう。
【0085】
実施例6 ポルフィロモナスジンジバリス感染と実験マウスの年齢との関係
実験中に、ポルフィロモナスジンジバリスに感染したことのない25週齢以上のマウスは、異なる亜型のポルフィロモナスジンジバリスの攻撃に対して局所の微小病変のみが発生されたことが認められたが、本実施例の目的は年齢とポルフィロモナスジンジバリス感染との関係を調査することである。
【0086】
具体的には、実施例4に記載の方法に従って、ポルフィロモナスジンジバリスW50亜型2×1010CFU/mの細菌懸濁液を調製し、各年齢群の実験マウスの背中の脊椎の両側に0.2ml皮下注射し、異なる年齢群のそれぞれには8~10匹の動物があり、細菌攻撃後、35日目に実験が終了するまで病変面積の進行状況を観察した。
【0087】
結果:同じ用量と同じ体積の細菌懸濁液で異なる年齢群の実験マウスを攻撃した結果、ポルフィロモナスジンジバリスW50亜型の攻撃による異なる年齢群の動物への損害が異なることを示している。今回の実験において、各年齢群の動物は、細菌に攻撃された後に死亡の現象が現れなかった。G1群(体重15~18グラム)とG2群(体重22~26グラム)の動物は、それぞれ4週齢と8週齢で幼若期にあり、発症が速く、病変が重篤であるが、幼若群の動物は自己回復が速く、治癒期間が短かった。成体マウスはG3群(体重28~32グラム)の12週、G4群(体重32~36グラム)の16週からG5群(体重33~38グラム)の20週まで、病変過程が類似しており、病変の面積が幼若群の動物よりも明らかに小さいが、成体群の動物の予後は遅延することがある(表1、
図10)。
【0088】
結論:ポルフィロモナスジンジバリスに初感染した動物は、自己治癒することがあり、幼若群の動物は感染後に迅速に治癒できるが、成体群の動物は慢性感染病巣を形成する傾向がある。この実験現象は臨床的な実際状況に一定の参照する価値があり、即ち、人群において、青少年はポルフィロモナスジンジバリス感染によって引き起こされる歯周病に罹患しやすいが、感染後に迅速に回復できるため、青少年の時期に深刻な局所損害を引き起こしてもっと注目を集めることはない。歯周病の成人における発症率が高いあり得る理由としては、成人は感染後に疾患の経過が長く、予後が不良であるためであり、それで、局所損害も増加しつつあり、その後に局所的な歯槽骨の破壊や吸収まで引き起こし、歯が緩むようになってしまう。本実施例は、ポルフィロモナスジンジバリス感染の予防が小児期ないし青年期から始まることを示唆している。
【0089】
【0090】
実施例7 ポルフィロモナスジンジバリスの複数回の感染による局所病変の悪化と全身状態の衰弱
実施例6の実験結果により、動物はポルフィロモナスジンジバリスに初感染すると自己治癒することがあり、年齢が小さいほど回復が早くなることが明らかになる。臨床診療では、歯周病は、断続的な進行をよく示している。本実施例の目的は、1回と複数回感染した実験動物モデルを比較することによって、複数回の慢性感染による実験動物への局所と全身の被害を調査することである。
【0091】
具体的には、8~10週齢、体重26~30グラムである同じ年齢のマウスを2群に分け、番号第148群(G148)には5×1010CFU/mの細菌懸濁液ポルフィロモナスジンジバリスQML亜型で攻撃し、番号第148.1群(G148.1)には攻撃しなかった。40日後、細菌に攻撃された第148群(G148)のマウスは全て治癒したが、この時、148.1群(G148.1)の動物と共に5×1010CFU/mlの細菌懸濁液ポルフィロモナスジンジバリスQML亜型の感染を受け、方法は実施例4と同様である。
【0092】
結果:動物の2回目の細菌攻撃を動的に観察すると、局所病変の損傷の面積は初感染群よりも大きく(表2)、また、二次感染した動物の全身状態は衰弱する傾向がり、毛が暗くなり、とげが立ち上がり、尻尾が萎れ、回復が遅くなり、予後が不良であることに表している。複数回の感染実験は、ポルフィロモナスジンジバリスの4つの主な亜型において繰り返されたが、類似の結果が得られた。局所病変は
図11Aに示され、動物の全身状態はビデオスクリーンショットに示され、
図11Bは、ポルフィロモナスジンジバリスQML亜型に感染してから24日目のG148群の動物の全身状態のビデオスクリーンショットであり、
図11Cは、ポルフィロモナスジンジバリスに初感染してから24日目のG148.1群の動物の回復状況のビデオスクリーンショットである。
【0093】
【0094】
結論:動物実験の結果により、ポルフィロモナスジンジバリスの持続的な感染は局所病変の状況を次第に悪化させるだけでなく、慢性感染は体の全身の健康状態に影響を与えることができることを示している。臨床的に、歯周病は歯の緩んで離れ落ちることを引き起こすだけでなく、歯周病と全身性疾患との関連については多くの臨床的及び統計学的データが発表されて、歯周病は冠状動脈性心臓病とその急性発作の独立した危険因子で、脳卒中の独立した危険因子であり、歯周病の病原細菌であるポルフィロモナスジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)とアルツハイマー病(Alzheimer’s disease;一般的に老年性認知症と呼ばれる)とのとの直接的関係が既に認められた。慢性重複ポルフィロモナスジンジバリス感染症が心血管疾患又はアルツハイマー病を直接引き起こすことができるか否かは、証明と研究のためにさらなるデータが必要である。本発明は、免疫学的方法により病原菌の慢性感染の問題を解決し、病原菌が長期間滞在して全身の健康を障害することを抑止することを目的とする。
【0095】
実施例8 混合ワクチンの発見
本実施例は、混合ワクチンの免疫保護機能を発見する最初の試みである。最初に実験の目的は、ポルフィロモナスジンジバリスの異なる亜型の外膜タンパク質RagBの間に免疫交差保護作用があるか否かを調査することであるので、実験を設計する時、質量比1:1でW50ragBタンパク質(タンパク質配列の内容はPCT/GB2005/001976を参照し、タンパク質精製などのやり方は実施例3と同様である)及びQMLragBタンパク質(タンパク質配列の内容はPCT/GB2005/001976を参照し、タンパク質精製などのやり方は実施例3と同様である)を含むRagB 2価ワクチンを最初に使用した。2回免疫した後、Cra4S1タンパク質(実施例3で調製されたCra4S1タンパク質)をさらに加え、それぞれのタンパク質に3回の免疫の機会が与えられた。各亜型の共有する共通抗原Cra4S1を添加することは、新しい混合ワクチンがRagBワクチンの免疫保護効果に影響を与えることができるか否かを調査するためである。
【0096】
免疫案は、実施例3で精製して得られたCra4S1タンパク質及び異なる亜型RagBタンパク質でそれぞれ動物(表3-1、表3-2)を免疫した。6~7週齢、体重18~22グラムのマウスは3つの大群に分けられ、第1大群(G11、G14及びG17の3つの群別に分ける)はQMLragBタンパク質とW50ragBタンパク質で免疫され、第2大群(G12、G15及びG18の3つの群別に分ける)はQMLragBタンパク質、W50ragBタンパク質及びCra4S1タンパク質を含む混合ワクチンで免疫され、第3大群(G13、G16及びG19の3つの群別に分ける)は非免疫対照群である。本実施例の最終的な混合ワクチンの調合法は、Cra4S1タンパク質:W50ragBタンパク質:QMLragBタンパク質の質量比が1:1:1である。
【0097】
具体的には、それぞれのマウスに組み換えタンパク質溶液100μlを腹腔内注射し、そのうち、第1大群(G11、G14及びG17)は、5~50μgのW50ragBタンパク質、5~50μgのQMLragBタンパク質及び250μgのアルミニウム補助剤を含有する100μlの溶液を使用し、表3-1の免疫計画に従って実行し、第2大群(G12、G15及びG18)は、5μgのCra4S1タンパク質、5~50μgのW50ragBタンパク質、5~50μgのQMLragBタンパク質及び250μgのアルミニウム補助剤を含有する100μlの溶液を使用し、表3-2の免疫計画に従って実行し、第3大群(G13、G16及びG19)は対照群であり、ワクチンを加えなかった。免疫の間隔期間は3~4週間で、追加免疫前に血清の力価を測定し、血清中の抗体の進行過程を記録した。3回免疫後、ELISA法により特異抗体の力価を測定し、抗体の力価が1:10万を超える場合、実施例4に記載の方法に従って細菌攻撃実験を行った。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
結果:W50ragBとQMLragBタンパク質で免疫された動物は、混合ワクチンにCra4S1タンパク質が加えられると、対応するポルフィロモナスジンジバリスの亜型(W50亜型とQML亜型)の攻撃に対して、動物の免疫保護機能が明らかに向上し、軟組織病変の面積は対照群よりも小さいことに反映されている(表3-3)。
図12において、横座標はG17(W50ragBとQMLragBの混合ワクチン)、G18(Cra4S1タンパク質、W50ragBタンパク質及びQMLragBタンパク質を含む混合ワクチン)、G19(非免疫のマウス対照群)で、攻撃菌はポルフィロモナスジンジバリスQML亜型である。
【0102】
表3-3において、W50ragBとQMLragBの2価ワクチン又はW50ragB、QMLragB及びCra4S1の3価混合ワクチンで免疫された動物は、何れもポルフィロモナスジンジバリスThai亜型に対する免疫保護作用が示されておらず、そのうち、3価混合ワクチンの局所損害は他の2つの群よりも深刻である。
【0103】
結論と分析:本実施例は混合ワクチンの最初の試みであるが、ワクチン投与量を減らす理由としては、本実施例と同時に実施されたワクチン投与量依存実験の結果から示されるように、実際に、その後の研究で、4つのRagBタンパク質の免疫接種用量が0.5~5μgである場合にも高力価の抗体を産生することができると認められ、実験の設計はさらに改善する必要があるが、予備試験の結果は後の研究基盤を構築した。
【0104】
本実施例の結果により、混合ワクチンは免疫保護効果を向上させるとともに、製品の安定性も高くなることが示されている。この現象は、ターゲットが異なる2つのタンパク質を併用することで、製品の効果を向上できることが示唆されている。混合ワクチンによる免疫効果と安定性の向上の原理は、RagAとRagBの2つのサブユニットが同じ転写因子によって制御されることに関連する可能性があるが、細菌の表面における2つの互いに関連するサブユニット分子のターゲットが抗体により占められると、より安定した分子構造が形成され、このような抗原と抗体の組み合わせにより、細菌の外膜タンパク質の機能が制限され、その一方、ダブルターゲット抗原と抗体の安定した組み合わせにより、より良い免疫相乗効果/協調作用を果たすように体をトリガーして病原体を除去と抑制することが容易になり得る。
【0105】
最初の研究では、組み換えCra4S1タンパク質の発現がうまく達成された後、1価Cra4S1タンパク質で動物を免疫することにより、高力価の特異抗体を得ることができたが、複数回の細菌攻撃実験の結果から、何れも、免疫された動物の軟組織病変が非免疫対照群よりもひどいことが示され、これは、Cra4S1分子が過敏反応に関与した可能性があると示唆されているため、Cra4S1タンパク質は良好な候補ワクチンではないと考えられる。2年以上の期間に、インビトロ実験により、動物がRagBワクチンで免疫された後、さらにポルフィロモナスジンジバリスに攻撃されると、この時採集された血清抗体は組み換えCra4S1タンパク質と様々な程度の免疫交差反応を示すことが認められた。この現象は、RagB抗体がポルフィロモナスジンジバリスの外膜タンパク質RagBに結合すると、Cra4S1タンパク質の元の空間構造が変化されることで、その抗原性が暴露され、ダブルターゲットの抗原と抗体の結合のために機会が作られると示唆している。
【0106】
本実施例は、RagBワクチンが対応するポルフィロモナスジンジバリスの亜型のみを保護し、Cra4S1タンパク質とRagBタンパク質の併用が対応するポルフィロモナスジンジバリスの亜型のみに対して免疫保護作用を奏することも証明している。例えば、Cra4S1タンパク質とQMLragBタンパク質の混合ワクチンは、ポルフィロモナスジンジバリスQML亜型の攻撃から体を保護するが、ポルフィロモナスジンジバリスThai亜型の攻撃に対しては保護作用を奏しない。
【0107】
従って、本実施例に記載の混合ワクチンは、ポルフィロモナスジンジバリスRagBタンパク質(異なる亜型)とCra4S1を含む必要があり、2つの分子を組み合わせて初めて免疫保護機能と安定性を高めることができるが、混合ワクチンは真新しい概念であり、下記の実施例は混合ワクチンのさらなる検証と応用である。
【0108】
実施例9 感染後の混合ワクチンによる動物への免疫保護作用の調査
臨床的に、歯周病/インプラント周囲炎の患者のほとんどは、不快な症状で医師の診察を受ける時、感染症や感染症による局所病変がすでに深刻になることがよくある。本実施例は、ポルフィロモナスジンジバリスに感染した体内での混合ワクチンの免疫保護作用を複数の観点から検討する。
【0109】
具体的には、3~4週齢、体重12~16グラムのマウスを5群に分け(表4)、それぞれの群は5~6匹があり、そのうち、4群のマウスは、200μlの低用量ポルフィロモナスジンジバリスW50亜型の細菌懸濁液(5×108CFU/ml)を背部に皮下注射し、軽度の感染を引き起こし、感染されたマウスは通常の通り飲食と行動するが、細菌攻撃後の2日目に一部の動物にわずかな体重減少が起こり、その後、体重が継続的に増加し、1週間後、感染されたマウスはわずかな局所的軽度の皮膚病変が生じ得る。5群目のマウスは対照群として感染されなかった。マウスを4週間飼育し続けた後、ワクチン免疫計画を開始した。
【0110】
感染した動物を4群に分け、表4の用量と時間を含む計画に従って動物を免疫したが、番号G154群のマウスはW50ragBタンパク質で免疫され、番号G155群のマウスはCra4S1タンパク質で免疫され、番号G156群のマウスはCra4S1タンパク質とW50ragBタンパク質の混合物である混合ワクチンで免疫され、番号G157群は軽度の感染があるが、ワクチンが注射されない対照群であり、番号G158群のマウスは同じ年齢の非感染対照群である。
【0111】
3回免疫後、1群あたりに1匹のマウスを取って採血し、抗体の力価を検出し、その後、実施例4に記載の方法に従って、ポルフィロモナスジンジバリスW50亜型を使用して細菌攻撃実験を実施し、細菌懸濁液の濃度は5×1010CFU/mlであり、背部に200μlを皮下注射した。細菌攻撃後、マウスの体重、行動及び局所軟組織病変を記録し、全身状態の映像が定期的にファイルに記録された。
【0112】
結果:軽度に感染された実験動物群は、1価又は混合ワクチンを使用すると、局所軟組織損害が同様に感染した対照群よりも低いとともに、病変損害も感染していない対照群よりも低いことが示され(表5と
図13)、ワクチンを接種した動物群は、感染後の24日目の記録においてすでに治癒し、その中で、混合ワクチン群の各有益な指標は全て1価ワクチンよりも優れているが、対照群の病状は長期化している。
【0113】
本実施例は、同時に、実施例7に記載の現象、即ち、ポルフィロモナスジンジバリスに複数回感染した動物の局所損害がより深刻であることも観察した(表5と
図13、
図14)。特に注意すべきことは、動物の回復過程において、
図14の映像データから動物の姿勢が観察されるが、ワクチンを使用したマウスの全身状態が良好であり、毛が明るくて、格好が良く、自由に動くことができるが、対照群のマウスは体表の潰瘍が治癒しにくく、毛が暗くて、動きが遅い。実験群と対照群の体重は有意に変化しなかった。
【0114】
【0115】
【0116】
結論:実施例7の動物実験の結果により、ポルフィロモナスジンジバリスに繰り返して感染すると、局所損害がますます深刻になるだけでなく、実際には全身の健康にも影響を与えることが示唆されている。表5は、混合ワクチンを感染後の動物の免疫に使用することを記録しているが、動物が細菌に再攻撃される場合、局所病変の程度が減少され、病変面積の平均値(AVG)が低下し、実験データの標準偏差(STDEV)が低く維持され、動物の全身状態が良好であることが示されている。これらのことにより、混合ワクチンが健康な体又はすでに感染した体に対して効果的な免疫保護作用を発揮できることが示されている。4つの主なポルフィロモナスジンジバリスの亜型は何れも同様の実験を行ったが、本発明の特許技術にかかる混合ワクチンの使用は全身の健康に役立ち、幅広い市場の需要があることが示されている。
【0117】
実施例10 特異的ダブルターゲット抗体の受動免疫保護機能の調査
この実験の目的は、受動免疫(即ち、特異抗体の注射)が安全的且つ効果的な免疫保護作用を果たすことができるか否かを調査することである。実際に、抗体は治療薬として、通常、すでに感染した患者を対象としているため、本実施例は感染していない動物と感染した動物の両方を同時に分析した。
【0118】
具体的に、マウスの特異的抗血清の免疫計画は表6-1に示され(ThairagBタンパク質配列はPCT/GB2005/001976を参照し、タンパク質精製などのやり方は実施例3と同じ、Cra4S1タンパク質は実施例3で調製される)、3回免疫後、間接ELISA方法により血清中の特異抗体の力価を測定し、最終的に採血し、血清分離後にポリクローナル抗体を取得し、-20℃の冷蔵庫に保存した。
【0119】
【0120】
動物実験の群分けは表6-2に示される。番号G361、G362、G363、G364及びG369群のマウスは、事前感染歴があり、200μlのポルフィロモナスジンジバリスThai亜型の細菌懸濁液(5×108CFU/ml)をマウスの背中に皮下注射し、G370、G371、G372、G373及びG374の合計5群のマウスは、ポルフィロモナスジンジバリスに感染していない対照群である。
【0121】
具体的に、9~10週齢、体重28~32グラムのマウスは、細菌攻撃の4日前と1日前に、表6の実験計画に従って、実験マウスに200μgのマウス血清を含む100μlの抗体溶液を腹腔内注射し、その後、計画に従って細菌攻撃実験を実施したが、具体的な過程は実施例4に記載されたように、攻撃前後のマウスの体重と行動を観察と記録し、攻撃された動物の皮下軟組織病変の進行状況を記録し、皮膚病変の面積を測定した(表7)。
【0122】
【0123】
【0124】
結果:まず、本実施例において、従来の用量で動物を攻撃したが、実験動物の死亡率は予想よりも高く、本実施例における全ての動物は腹腔内注射のステップがあると指摘すべきである。このプロジェクトで設計されたポルフィロモナスジンジバリスの攻撃用量は数回繰り返して実験したものであり、感染した動物が亡くなることは比較的少ない。本実施例において、
図15Aは、人為的ポルフィロモナスジンジバリス感染歴がない非感染対照群の動物の場合に、抗ThaiRagB実験群G370、抗Cra4S1実験群G372、正常の血清を腹腔内注射したG373及びPBSを注射したG374対照群は何れも動物の死亡が発生され、死亡率がそれぞれ75%(3/4)、40%(2/5)、33.3%(2/6)及び50%(3/6)であるが、複合抗体群(抗ThaiRagBと抗Cra4S1)の場合に、血清を注射したG371の動物群は動物の死亡が発生されなかったことが示されている。本実施例において、
図15Bは、事前感染対照群の動物の場合に、正常の血清を腹腔内注射した群G364及びPBSを腹腔内注射した対照群G369が何れも高い死亡率を有し、それぞれ37.5%(3/8)と62.5%(5/8)であるが、特異抗体を注射した実験群においては、抗ThaiRagB抗体G361、複合抗体(抗ThairagBと抗Cra4S1)G362の死亡率がそれぞれ25%(2/8)と12.5%(1/8)であり、抗Cra4S1抗体の実験群G363の動物が全て生存していることが示されている。
【0125】
図16AとBには、特異的複合抗体は事前感染群動物と非感染群動物の実験において、他の実験群の生存動物よりも局所病変範囲が低いことが示されており、2つの実験では、複合抗体は事前感染群の動物において1匹の死亡が発生された。抗ThaiRagB血清実験群では、事前感染の動物における局所病変の重症度が対照群よりも低いが、健康群の実験では、1匹の動物のみが生存し、群全体の判断に影響を与えた。抗Cra4S1実験群は、感染した動物の体内に抗体を注射し、動物は細菌に攻撃された後に生存率が最も高く、死亡の現象が発生されなかったが、局所病変は抗ThaiRagB実験群と複合抗体(抗ThaiRagBと抗Cra4S1)の実験群よりも重度であった(
図16AとB)という特別な現象を示している。
【0126】
結論:実施例10の実験結果により、複合抗体(抗ThaiRagBと抗Cra4S1)は、ポルフィロモナスジンジバリス感染に対する抵抗機能が安定的、安全的且つ効果的であり、感染されていないと感染した実験動物の両方に対して免疫保護作用を有することが示されている(
図16Aと
図16B)。抗ThaiRagB抗体と抗Cra4S1抗体をそれぞれ個別に使用すれば、効果が確実ではない。本実施例の実験結果により、単一の抗体が細菌表面の抗原分子に結合すると、構造的に安定しない要因があり得るため、抗体の有効性に欠陥があることになると示唆されている。ダブルターゲット特異抗体を使用する場合、複合抗体は主な外膜タンパク質の抗原ダブルターゲットを特異的に占有し、外膜タンパク質の機能を抑制することにより、細菌を抑制と除去し、細菌の毒力を低減させる効果を達成する。
【0127】
要するに、本発明はポルフィロモナスジンジバリスの重要な外膜タンパク質成分Cra4S1を発見して証明し、Cra4S1タンパク質の発現遺伝子を作成したとともに、新しいターゲットCra4S1を細菌の特異的/特徴的な外膜タンパク質RagBに結合することを利用して、混合ワクチン及びダブルターゲット特異抗体の理論を提出し、新しい製品が効果的且つ安定的な細菌抑制効果を有することを実験データで証明したが、新しい技術は幅広い産業上の利用可能性を示している。
【0128】
以上、本発明の好ましい実施形態のみを記載したが、当業者にとっては、本発明の原理から逸脱することなく、さらに幾つかの改良と修飾を行うことができ、これらの改良と修飾も本発明の保護範囲とされるべきであると指摘すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】