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特表2022-540732嚢胞性線維症に伴う呼吸器感染症を治療するためのナノ粒子の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(54)【発明の名称】嚢胞性線維症に伴う呼吸器感染症を治療するためのナノ粒子の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/38 20060101AFI20220909BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 33/242 20190101ALI20220909BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20220909BHJP
   A61K 33/244 20190101ALI20220909BHJP
   A61K 33/32 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20220909BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
A61K33/38
A61P11/00
A61K33/00
A61K33/34
A61K33/26
A61K33/30
A61K33/242
A61K33/243
A61K33/244
A61K33/32
A61K9/12
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/26
A61K9/72
A61P31/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529263
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(85)【翻訳文提出日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 US2020041796
(87)【国際公開番号】W WO2021011466
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】62/873,516
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/926,199
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522014998
【氏名又は名称】エボク ナノ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ニデルメイエール,ウィリアム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC31
4C076DD22A
4C076DD37A
4C076DD38A
4C076DD41A
4C076DD66A
4C076FF34
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA04
4C086HA06
4C086HA07
4C086HA08
4C086HA10
4C086HA11
4C086HA12
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA56
4C086NA11
4C086ZA59
4C086ZB35
(57)【要約】
本開示は、嚢胞性線維症に伴う呼吸器感染症を治療するための金属ナノ粒子組成物及び方法に関する。ある量の非イオン性基底状態金属ナノ粒子が、吸入を介して患者に投与される。金属ナノ粒子は、粘稠な粘液層を効果的に通って、上皮及び周囲組織に輸送可能である特性を有し、標的の呼吸器組織及びその上にある粘液層全体の感染性微生物を殺傷又は不活化する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器感染症を治療するための方法であって、前記方法は、治療組成物を吸入を介して患者に投与することを含み、前記治療組成物は、
非イオン性基底状態球形金属ナノ粒子、及び
吸入を介して投与するように製剤されたキャリア、
を含み、前記治療組成物は、前記呼吸器感染症を治療するものである、方法。
【請求項2】
前記呼吸器感染症が、嚢胞性線維症に伴うものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療組成物が、前記患者の粘液を効果的に透過して、前記粘液中の微生物を殺傷又は不活化し、及び下にある呼吸器組織に到達する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療組成物が、前記患者への投与の前に霧化される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記呼吸器感染症が、黄色ブドウ球菌、大腸菌、リステリア、サルモネラ、シュードモナス、非結核性マイコバクテリア、アシネトバクター、ストレノトロホモナス・マルトフィリア、アクロモバクター、又はバークホルデリア・セパシアコンプレックスのうちの1又は複数による感染症を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記呼吸器感染症が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、トブラマイシン耐性シュードモナス、多剤耐性シュードモナス・エルジノーサ、ストレノトロホモナス・マルトフィリア、又はバークホルデリア・セパシアコンプレックスのうちの1又は複数による感染症を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記呼吸器感染症が、1又は複数の抗生物質耐性細菌による感染症を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、前記感染症の微生物の殺傷又は不活化を、前記微生物の細胞溶解を起こすことなく行う、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子が、前記感染症の微生物の殺傷又は不活化を、肺上皮を損傷することなく行う、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ナノ粒子が、約1nm~約40nmの平均径を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記キャリアが、生理食塩水を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記キャリアが、炭水化物、アミノ酸、塩、緩衝剤、アルコール、多価アルコール、又はこれらの混合物のうちの1又は複数を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子が、銀、金、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、モリブデン、銅、鉄、ニッケル、スズ、ベリリウム、コバルト、アンチモン、クロム、マンガン、ジルコニウム、スズ、亜鉛、タングステン、チタン、バナジウム、ランタン、セリウム、これらの不均質混合物、又はこれらの合金を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ粒子が、銀を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子が、約10ppb~約100ppmの濃度で投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
嚢胞性線維症に伴う呼吸器感染症を治療するための組成物であって、前記組成物は:
非イオン性基底状態球形銀ナノ粒子;及び
吸入を介して投与するように製剤され、生理食塩水を含むキャリア、
を含み、前記ナノ粒子は、約10ppb~約100ppmの濃度で前記キャリア中に含まれ、及び
前記組成物は、患者の呼吸器系に投与された場合に、肺上皮の損傷を引き起こさない、組成物。
【請求項17】
非イオン性基底状態球形金属ナノ粒子、及び
吸入を介して投与するように製剤されたキャリア、
を含む治療組成物と、
前記治療組成物を患者の呼吸器組織に送達するためのマウスピース又はフェイスマスクと、
を備えた、吸入装置。
【請求項18】
前記吸入装置が、噴霧器である、請求項17に記載の吸入装置。
【請求項19】
前記噴霧器が、超音波噴霧器、ジェット噴霧器、振動メッシュ噴霧器、又はソフトミスト吸入器である、請求項18に記載の吸入装置。
【請求項20】
前記吸入装置が、定量吸入器である、請求項17~19のいずれか一項に記載の吸入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
嚢胞性線維症は、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)タンパク質が、CFTR遺伝子の変異によって機能不全となる遺伝性の病状である。CFTRタンパク質が適切に機能しない場合、様々な臓器の粘液が増粘して粘着性となり、適切に除去することが困難となる。呼吸器系、特に肺では、高粘度の粘液が集まって細菌及び他の微生物を捕捉する傾向にあり、高頻度の及び/又は慢性の呼吸器感染症に繋がる。
【背景技術】
【0002】
嚢胞性線維症患者は、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)及びシュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)などの公知の薬剤耐性細菌種を含む様々な感染性微生物病原体からの肺感染症に罹りやすい。嚢胞性線維症患者の場合、中央気道に粘稠な粘液が蓄積するために、これらの感染症を治療することは困難である。感染すると、嚢胞性線維症患者は、肺機能の急激な低下を起こすリスクがあり、それによって重篤な肺疾患が引き起こされる可能性があり、死に至ることもある。
【0003】
従来の抗生物質は、高粘度の粘液を容易に透過できないため、吸入を介した投与では、多くの場合、その下にある呼吸器組織まで到達することができない。一方、全身投与した抗生物質は、最終的には感染した上皮に到達し得るが、その上にある高粘度の粘液中により多くの細菌が存在することから、再感染が容易に発生する。
【発明の概要】
【0004】
したがって、嚢胞性線維症に伴う呼吸器の病状を治療するための組成物及び方法が、特に、嚢胞性線維症患者が一般的に罹患する薬剤耐性細菌感染症を効果的に治療することができる組成物及び方法が継続的に求められている。
【0005】
本開示は、呼吸器感染症を治療するための組成物及び方法に関し、特に、嚢胞性線維症に伴う呼吸器感染症を治療するための実施形態に関する。1つの実施形態では、治療組成物は、吸入を介して患者に投与するように製剤されたキャリア中に混合された又は混合可能である、外部エッジ又は結合角のない複数の非イオン性基底状態球形ナノ粒子を含む。
【0006】
本明細書で述べる治療組成物は、高粘度の粘稠粘液層を効果的に透過して、粘液中の標的とする微生物に到達することができ、及び下にある呼吸器組織に到達することができる。この有益性により、治療組成物は、下にある感染した呼吸器組織に到達し、これを治療することができる。加えて、それは、治療組成物が、細菌が従来の抗生物質から守られて潜んでいる傾向にある粘液及び付随するバイオフィルム層中の細菌に到達することも可能とする。本明細書で述べる治療組成物のナノ粒子は、その効果的な透過能力にもかかわらず、通常のクリアランス経路を通して患者から効果的に排出することも可能であり、それによって、治療される呼吸器組織又は他の組織又は身体の臓器に蓄積されることが回避される。
【0007】
1つの実施形態では、呼吸器感染症を治療する方法は、ナノ粒子治療組成物を、吸入を介して患者に投与することを含み、治療組成物は、呼吸器感染症を治療する。感染症は、例えば、1又は複数の抗生物質耐性細菌によって引き起こされ得る。治療組成物は、有益なことには、呼吸器上皮及び他の付近の組織を傷つけることなく、感染に関連する細菌を殺傷又は不活化することができる。
【0008】
金属ナノ粒子は、銀イオン(Ag+)又は他の金属イオンを著しく放出することなく、細菌を殺傷する。金属ナノ粒子は、著しい量の銀イオン又は他の金属イオンを放出しないことから、ヒト及び他の動物に対して本質的に無毒性である(すなわち、金属ナノ粒子から放出されるイオンが、存在するとしても、どのような量又は濃度であっても、ヒト、他の哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、及び両生類に対して毒性となる閾値毒性レベルよりも低い)。
【0009】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、球形であり、約1nm~約40nm、又は約2nm~約20nm、又は約3nm~約15nm、又は約4nm~約12nm、又は約6nm~約10nm、又は上記の値のいずれか2つによって定められる終点を持つ粒径範囲の平均径を有する。これらの粒径範囲内のナノ粒子は、特に約8nmの平均径であるナノ粒子は、患者の体内からの効果的なクリアランスが依然として可能でありながら(例:リンパ系及び腎臓を介して)、効果的に粘液を透過することが見出された。
【0010】
ナノ粒子は、キャリアと混合された場合に、ナノ粒子の濃度が約10ppb~約100ppm、又は約50ppb~約50ppm、又は約200ppb~約20ppm、又は約500ppb~約10ppm、又は約1ppm、又は上記の値のいずれか2つによって定められる範囲内となる量で提供されてよい。
【0011】
これらの濃度範囲内では、ナノ粒子は、標的の微生物を効果的に殺傷又は不活化することが見出された。有益なことには、ナノ粒子は、比較的低濃度であっても有効であることから、より希釈度の高い用量を投与することができ(及び/又は全体としてより少ない量のナノ粒子を投与することができ)、このことは、身体に対するクリアランスの負荷を低下させ、患者自身の細胞/組織に対する有害性又は患者の他の有益な細菌叢に対する全身的有害性などの不要な副作用のリスクを低減する。
【0012】
治療組成物は、適切ないかなる吸入経路を用いて投与されてもよく、定量吸入器、噴霧器、及び/又はドライパウダー分散器の使用による投与が挙げられる。これらの種類の装置は、典型的には、霧化された/霧状にされた医薬を患者に投入可能とするマウスピース又はフェイスマスクを備えている。噴霧器は、例えば、超音波噴霧器、ジェット噴霧器、振動メッシュ噴霧器、又はソフトミスト吸入器であってよい。
【0013】
治療組成物は、1又は複数の従来の抗生物質に対して耐性を有するいくつかの問題となる細菌種を含む広く様々な細菌に対する治療において汎用的な有効性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1A図1Dは、従来の化学合成又は放電法に従って作製した様々な非球形ナノ粒子(すなわち、表面エッジ及び外部結合角を有する)のTEM画像を示す。
図1B図1A図1Dは、従来の化学合成又は放電法に従って作製した様々な非球形ナノ粒子(すなわち、表面エッジ及び外部結合角を有する)のTEM画像を示す。
図1C図1A図1Dは、従来の化学合成又は放電法に従って作製した様々な非球形ナノ粒子(すなわち、表面エッジ及び外部結合角を有する)のTEM画像を示す。
図1D図1A図1Dは、従来の化学合成又は放電法に従って作製した様々な非球形ナノ粒子(すなわち、表面エッジ及び外部結合角を有する)のTEM画像を示す。
図2A図2A図2Cは、例示的な非イオン性球形状金属ナノ粒子(すなわち、表面エッジ又は外部結合角を有しない)のTEM画像を示し、このナノ粒子は、コーティング剤を用いることなく、実質的に均一な粒径及び狭い粒径分布、平滑な表面形態、並びに中実な金属コアを呈する。
図2B図2A図2Cは、例示的な非イオン性球形状金属ナノ粒子(すなわち、表面エッジ又は外部結合角を有しない)のTEM画像を示し、このナノ粒子は、コーティング剤を用いることなく、実質的に均一な粒径及び狭い粒径分布、平滑な表面形態、並びに中実な金属コアを呈する。
図2C図2A図2Cは、例示的な非イオン性球形状金属ナノ粒子(すなわち、表面エッジ又は外部結合角を有しない)のTEM画像を示し、このナノ粒子は、コーティング剤を用いることなく、実質的に均一な粒径及び狭い粒径分布、平滑な表面形態、並びに中実な金属コアを呈する。
図3図3A図3Cは、非イオン性サンゴ形状ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図4図4A図4Cは、ナノ粒子が細菌を殺傷又は不活化することができる作用の提案される機構を模式的に示した図である。
図5図5は、様々なナノ粒子溶液を比較した導電率試験の結果を示すものであり、開示される実施形態に従う球形金属ナノ粒子が非イオン性であることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
概論
本開示は、呼吸器感染症を治療するための、特に嚢胞性線維症に伴う呼吸器感染症を治療するための組成物及び方法に関する。1つの実施形態では、治療組成物は、吸入を介して患者に投与するように製剤されたキャリア中に混合された又は混合可能である、外部エッジ又は外部結合角のない複数の非イオン性基底状態球形ナノ粒子を含む。
【0016】
本開示は、特に細菌に対する治療について多く記載するが、同じ組成物及び方法が、加えて又は別の選択肢として、ウィルス及び/又は真菌の感染症が関与する呼吸器の病状を治療するために用いられ得ることは理解され、本明細書で述べるナノ粒子組成物は、ウィルス及び真菌の病原体に対しても有効性を示した。
【0017】
加えて、記載した例の多くが、嚢胞性線維症に伴う呼吸器の病状に対して特に有効性を示すものであるが、本明細書で述べる組成物及び方法は、必ずしも嚢胞性線維症に関する適用に限定される必要はない。例えば、少なくともいくつかの実施形態では、本明細書で述べる組成物及び方法は、患者が嚢胞性線維症に罹患していない場合であっても、呼吸器感染症を有する患者の治療に用いられ得る。
【0018】
非イオン性金属ナノ粒子
いくつかの実施形態では、金属ナノ粒子は、非イオン性基底状態金属ナノ粒子を含んでよい、又はそれらから本質的に成ってよい。例としては、球形状金属ナノ粒子、サンゴ形状金属ナノ粒子、又は球形状金属ナノ粒子とサンゴ形状金属ナノ粒子とのブレンドが挙げられる。好ましい実施形態は、球形状ナノ粒子を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子組成物の製造に有用である金属ナノ粒子は、球形ナノ粒子、好ましくは中実コアを有する球形状金属ナノ粒子を含む。「球形状金属ナノ粒子」の用語は、1又は複数の金属から、好ましくは非イオン性で基底状態の金属から作られ、内部結合角のみを有して、外部エッジ又は外部結合角を有しないナノ粒子を意味し、従来の化学合成法を用いて多くの場合形成される多面体様の、多面構造の(faceted)、又は結晶性のナノ粒子とは、そのようなナノ粒子が「球形」の形状であるとして本技術分野において漠然と記載されることが多いものの、対照的である。
【0020】
非イオン性の球形ナノ粒子は、イオン化に対する抵抗性が高く、非常に安定で、凝集に対する抵抗性も高い。そのようなナノ粒子は、高いζ電位を呈することができ、それによって、球形ナノ粒子を界面活性剤なしで、別個の凝集防止コーティング剤さえなしで、極性溶媒中に分散状態で維持することができ、このことは、驚くべき予想外の結果である。
【0021】
いくつかの実施形態では、球形状金属ナノ粒子は、約40nm以下、約35nm以下、約30nm以下、約25nm以下、約20nm以下、約15nm以下、約10nm以下、約7.5nm以下、又は約5nm以下の径を有し得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、球形状ナノ粒子は、ナノ粒子の少なくとも99%が、ナノ粒子の平均径の30%以内の、又は平均径の20%以内の、又は平均径の10%以内の径を有するような粒径分布を有し得る。いくつかの実施形態では、球形状ナノ粒子は、ある平均粒径を有し得、ナノ粒子の少なくとも99%は、平均径の±3nm以内の、平均径の±2nm以内の、又は平均径の±1nm以内の粒径を有する。平均径及び/又は粒径分布は、動的光散乱法、顕微鏡法(例:TEM、SEM)などの本技術分野において公知の技術を用いて測定されてよく、数分布又は体積分布に基づいていてよい。
【0023】
いくつかの実施形態では、球形状ナノ粒子は、少なくとも10mV、好ましくは少なくとも約15mV、より好ましくは少なくとも約20mV、さらにより好ましくは少なくとも約25mV、最も好ましくは少なくとも約30mVのζ電位(絶対値として)を有し得る。
【0024】
球形状ナノ粒子を製造するためのレーザーアブレーション法及びシステムの例は、この参照により本明細書に援用されるWilliam Niedermeyerに対する米国特許第9,849,512号に開示されている。
【0025】
図1A図1Dは、様々な化学合成法に従って作製されたナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。示されるように、これらの様々な化学合成法を用いて形成されたナノ粒子は、丸く平滑な表面を有する真の球形状ではなく、クラスター化した、結晶性の、多面構造の、又は多面体様の形状を呈する傾向にある。
【0026】
例えば、図1Aは、一般的なクエン酸三ナトリウム法を用いて形成された銀ナノ粒子を示す。ナノ粒子は、クラスター化し、比較的広い粒径分布を有する。図1Bは、別の化学合成法を用いて形成された別のセットの銀ナノ粒子を示し(American Biotech Labs,LLCより入手可能)、多くのエッジを有する粗い表面形態を示している。図1Cは、真の球形状とは対照的に、多面体形状を有する金ナノ粒子を示す。図1Dは、ある銀ナノ粒子のセットを示し(MesoSilverの商品名で販売)、これは、比較的平滑な表面形態を有するが、非金属(non-metalbc)シード材料の上に銀のシェルが形成されたものと理解される。
【0027】
対照的に、本明細書で述べる球形状ナノ粒子は、実質的にクラスター化しておらず、所望に応じて覆われていない状態/未コーティングの状態であってよい中実金属であり、狭い粒径分布と共に平滑で丸い表面形態を有する。図2A図2Cは、球形状ナノ粒子のさらなるTEM画像を示す。図2Aは、金/銀合金ナノ粒子(モル濃度で90%の銀と10%の金)を示す。図2Bは、粒径が類似していることを視覚的に示すために横に並べた2つの球形ナノ粒子を示す。図2Cは、金属ナノ粒子の表面を示し、平滑でエッジのない表面形態が示される。
【0028】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子組成物の作製に有用である非イオン性金属ナノ粒子は、サンゴ形状ナノ粒子も含んでいてよい。「サンゴ形状金属ナノ粒子」の用語は、1又は複数の金属から、好ましくは非イオン性で基底状態の金属から作られ、複数の非線形ストランドが直角を形成することなく一緒に接合することによって形成された不均一な断面及び球状構造(globular structure)を有するナノ粒子を意味する(図3A図3C参照)。球形状ナノ粒子と同様に、サンゴ形状ナノ粒子は、内部結合角だけを有して、外部エッジ又は外部結合角を有しないものであり得る。このために、サンゴ形状ナノ粒子は、イオン化に対する抵抗性が高く、非常に安定で、凝集に対する抵抗性も高いものであり得る。そのようなサンゴ形状ナノ粒子は、高いζ電位を呈することができ、それによって、サンゴ形状ナノ粒子を界面活性剤なしで極性溶媒中に分散状態で維持することができ、このことは、驚くべき予想外の結果である。
【0029】
いくつかの実施形態では、サンゴ形状ナノ粒子は、約15nm~約100nm、又は約25nm~約95nm、又は約40nm~約90nm、又は約60nm~約85nm、又は約70nm~約80nmの範囲内の長さを有し得る。いくつかの実施形態では、サンゴ形状ナノ粒子は、ナノ粒子の少なくとも99%が、平均長さの30%以内の、又は平均長さの20%以内の、又は平均長さの10%以内の長さを有するような粒径分布を有し得る。いくつかの実施形態では、サンゴ形状ナノ粒子は、少なくとも10mV、好ましくは少なくとも約15mV、より好ましくは少なくとも約20mV、さらにより好ましくは少なくとも約25mV、最も好ましくは少なくとも約30mVのζ電位を有し得る。
【0030】
サンゴ形状ナノ粒子を製造するためのレーザーアブレーション法及びシステムの例は、この参照により本明細書に援用されるWilliam Niedermeyerに対する米国特許第9,919,363号に開示されている。
【0031】
球形状及び/又はサンゴ形状のナノ粒子を含む金属ナノ粒子は、いかなる所望される金属、金属の混合物、又は金属合金を含んでいてもよく、銀、金、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、モリブデン、銅、鉄、ニッケル、スズ、ベリリウム、コバルト、アンチモン、クロム、マンガン、ジルコニウム、スズ、亜鉛、タングステン、チタン、バナジウム、ランタン、セリウム、これらの不均質混合物、又はこれらの合金のうちの少なくとも1つを含む。好ましい実施形態は、銀ナノ粒子を含む。
【0032】
呼吸器感染症の治療
本明細書で述べる治療組成物は、呼吸器感染症を治療するために、特に嚢胞性線維症に伴う呼吸器感染症を治療するために用いられ得る。有益なことには、ナノ粒子は、粘液内の細菌に到達するために、及びその下にある呼吸器組織に到達するために、粘液の効果的な透過を促進する粒径及び形状に構成され得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、球形であり、約1nm~約40nm、又は約2nm~約20nm、又は約3nm~約15nm、又は約4nm~約12nm、又は約6nm~約10nm、又は上記の値のいずれか2つによって定められる終点を持つ粒径範囲の平均径を有する。これらの粒径範囲内のナノ粒子は、特に約8nmの平均径であるナノ粒子は、患者の体内からの効果的なクリアランスが依然として可能でありながら(例:リンパ系及び腎臓を介して)、効果的に粘液を透過することが見出された。
【0034】
ナノ粒子は、キャリアと混合された場合に、ナノ粒子の濃度が約10ppb~約100ppm、又は約50ppb~約50ppm、又は約200ppb~約20ppm、又は約500ppb~約10ppm、又は約1ppm、又は上記の値のいずれか2つによって定められる範囲内となる量で提供されてよい。
【0035】
これらの濃度範囲内では、ナノ粒子は、標的の微生物を効果的に殺傷又は不活化することが見出された。有益なことには、ナノ粒子は、比較的低濃度であっても有効であることから、より希釈度の高い用量を投与することができ(及び/又は全体としてより少ない量のナノ粒子を投与することができ)、このことは、身体に対するクリアランスの負荷を低下させ、患者自身の細胞/組織に対する有害性又は患者の他の有益な細菌叢に対する全身的有害性などの不要な副作用のリスクを低減する。
【0036】
キャリアは、吸入を介する投与に適する、医薬的に許容されるいかなる液体又は固体(例:粉末)であってもよい。1つの実施形態では、キャリアは、生理食塩水溶液を含む。キャリアは、所望に応じて、吸入用途での使用に適する1又は複数の賦形剤を含んでいてもよい。適切な賦形剤としては、例えば、吸入用増量粉末剤、単糖類(例:グルコース、アラビノース)、二糖類(例:ラクトース、サッカロース、マルトース)、並びにオリゴ糖類及び多糖類(例:デキストラン、シクロデキストリン)などの炭水化物、アルコール及び多価アルコール(例:エタノール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、塩(例:塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、カルボン酸塩、脂肪酸塩)、アミノ酸(例:グリシン)、緩衝剤(例:クエン酸塩、リン酸塩、酢酸塩)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
治療組成物は、適切ないかなる吸入経路を用いて投与されてもよく、定量吸入器、噴霧器、及び/又はドライパウダー分散器の使用による投与が挙げられる。これらの種類の装置は、典型的には、霧化された/霧状にされた医薬を患者に投入可能とするマウスピース又はフェイスマスクを備えている。噴霧器は、例えば、超音波噴霧器、ジェット噴霧器、振動メッシュ噴霧器、又はソフトミスト吸入器であってよい。
【0038】
治療組成物は、1又は複数の従来の抗生物質に対して耐性を有するいくつかの問題となる細菌種を含む広く様々な細菌に対する治療において汎用的な有効性を示した。いくつかの実施形態では、呼吸器感染症は:例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(例:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含む)、大腸菌(Escherichia coli)、リステリア(Listeria)、サルモネラ(Salmonella)、シュードモナス(Pseudomonas)(例:粘液性及び非粘液性シュードモナス及び/又はメロペネム耐性シュードモナス)、非結核性マイコバクテリア(例:マイコバクテリウム・アブセサスコンプレックス(Mycobacterium abscessus complex)及びマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(Mycobacterium avium complex))、アシネトバクター(Acinetobacter)、ストレノトロホモナス(Strenotrophomonas)(例:ストレノトロホモナス・マルトフィリア(Strenotrophomonas maltophilia))、アクロモバクター(Achromobacter)、及びバークホルデリア・セパシアコンプレックス(Burkholderia cepacia complex)(例:バークホルデリア・セノセパシア(Burkholderia cenocepacia)、バークホルデリア・マルティボランス(Burkholderia multivorans)、及びバークホルデリア・ドロサ(Burkholderia dolosa)のうちの1又は複数を含む)のうちの1又は複数と関連し得る。
【0039】
治療組成物は、呼吸器感染症と関連する場合のある様々な病原性真菌に対する治療にも有効性を示した。いくつかの実施形態では、呼吸器感染症は、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)(例:アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger))、フサリウム(Fusarium)(例:フサリウム・ソラニコンプレックス(Fusarium solani complex))、コクシジオイデス(Coccidioides)、ヒストプラズマ(Histoplasma)、ニューモシスチス(Pneumocystis)(例:ニューモシスチス・ジロベシ(Pneumocystis jirovecii))、クリプトコッカス(Cryptococcus)(例:クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、クリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gatti))、カンジダ(Candida)(例:カンジダ・アルビカンス(Candida albicans))、及びブラストミセス(Blastomyces)のうちの1又は複数と関連し得る。
【0040】
治療組成物は、例えば、インフルエンザウィルス、ライノウィルス、呼吸器多核体ウィルス(RSV)、パラインフルエンザウィルス、アデノウィルス、ヘルペス、及びロタウィルスなどの呼吸器感染症と関連する場合のあるウィルスの殺傷又は不活化にも有効性を示し得る。
【0041】
抗菌活性
図4Aは、細菌608が、能動的吸収又は他の輸送機構などによって、基体602から(例:粘液層から)球形状ナノ粒子604を吸収した様子を模式的に示す。ナノ粒子604は、細菌608の内部606全体を自由に動いて、変性されると細菌を殺傷又は無力化することになる1又は複数の不可欠なタンパク質又は酵素610と接触することができる。類似の機構は、ウィルス又は真菌の病原体が関与する場合にも機能し得る。ほとんどの従来の抗生物質とは異なり、ナノ粒子は、細胞壁を著しく破壊することなく、したがって、ナノ粒子と接触した細菌の著しい細胞溶解を起こすことなく、細菌を効果的に殺傷又は不活化する。
【0042】
例えば、ナノ粒子が微生物を殺傷又は変性し得る1つの方法は、不可欠なタンパク質又は酵素内のジスルフィド(S-S)結合の開裂を触媒することによる。図4Bは、ジスルフィド結合を有する微生物タンパク質又は酵素710が、隣接する球形状ナノ粒子704によって触媒変性されて、変性されたタンパク質又は酵素712となる様子を模式的に示す。細菌又は真菌の場合、不可欠なタンパク質又は酵素のジスルフィド結合の開裂及び/又は他の化学結合の開裂が、細胞の内部で発生することで、著しい細胞溶解を引き起こすことなく、この方法で微生物を殺傷するように機能し得る。そのようなジスルフィド(S-S)結合の触媒開裂は、微生物のタンパク質構造が一般的に単純であることによって促進され、微生物の場合、多くの不可欠なジスルフィド結合は露出しており、触媒によって容易に開裂される。
【0043】
金属(例:銀)ナノ粒子が微生物を殺傷可能となる別の考え得る機構は、アミド結合を含むがこれに限定されないタンパク質の結合を酸化開裂することができる過酸化物などの活性酸素種の生成による。
【0044】
非イオン性金属ナノ粒子は、微生物に対しては致死的な性質であるにもかかわらず、ヒト、哺乳類、及び健康な哺乳類細胞に対しては、それらが単純な微生物と比較して非常により複雑なタンパク質構造を有し、不可欠なジスルフィド結合のほとんど又はすべてが、タンパク質の他のより安定な領域によって保護されているため、相対的に無害であり得る。図4Cは、隣接する球形状ナノ粒子804による触媒変性に抵抗するように保護されたジスルフィド結合(S-S)を有する哺乳類タンパク質810を模式的に示す。多くの場合、非イオン性ナノ粒子は、ヒト又は哺乳類の細胞に対する相互作用又は接着を起こさず、腎臓、又は他の細胞、組織、若しくは臓器を損傷することなく、速やかに且つ安全に尿から排出可能である。
【0045】
金属ナノ粒子は、銀イオン(Ag+)又は他の金属イオンを著しく放出することなく、細菌を殺傷する。金属ナノ粒子は、著しい量の銀イオン又は他の金属イオンを放出しないことから、ヒト及び他の動物に対して本質的に無毒性である(すなわち、金属ナノ粒子から放出されるイオンは、存在するとしても、どのような量又は濃度であっても、ヒト、他の哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、及び両生類に対して毒性となる閾値毒性レベルよりも低い)。
【0046】
銀(Ag)ナノ粒子の特定の場合では、銀(Ag)ナノ粒子の微生物内での相互作用は、従来のコロイド状銀組成物を用いた場合に典型的であるような、銀イオン(Ag)の生成に依存して所望される抗菌効果を得るという必要なく、特に致死的であることが示された。銀(Ag)ナノ粒子が、毒性の銀イオン(Ag)を患者若しくは周囲環境中に著しく又は実際に放出することなく、効果的な微生物制御を提供することができることは、本技術分野における実質的な進歩である。銀ナノ粒子から放出される銀イオンは、存在するとしても、どのような量又は濃度であっても、哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、及び両生類などの動物に対する既知の又は固有の毒性レベルよりも充分に低い。
【0047】
本明細書で用いられる場合、修飾用語「著しい」は、この用語が修飾している効果が臨床的に注目すべきであり、妥当であることを意味する。したがって、「銀イオンの著しい放出なしに」の句は、技術的にはある程度少量の検出可能なイオンの放出は存在し得るものの、その量は非常に少なく、臨床的に及び機能的に無視できるものであることを意味する。同様に、「著しい細胞溶解なしに」の句は、ある程度の観察可能な細胞溶解は存在し得るものの、その量は無視できるものであり、細胞の死/不活化の実際の主要な機構にはほとんど関係しないことを意味する。
【0048】
実施例
以下の例では、上記で述べた非イオン性基底状態未コーティング金属ナノ粒子を、「Attostat」ナノ粒子、「Niedermeyer」ナノ粒子、「Attostat Ag」などと称する場合がある。特に断りのある場合を除いて、用いたAttostatナノ粒子は、約4nm~約12nm、又はより典型的には約6nm~約10nmの粒径を有する球形の銀ナノ粒子であった。
【0049】
例1
嚢胞性線維症患者由来の気管支上皮一次培養物(ALI培養で維持した)の頂端膜側に適用したナノ粒子組成物の経上皮電気抵抗(TER)を測定する試験を行った。TERは、気道上皮の物理的バリア機能の基礎となる上皮タイトジャンクションの完全性の尺度である。12の上皮のTERの変化を24時間にわたって観察した。
【0050】
3ppmの球形非イオン性基底状態銀ナノ粒子製剤で処理した上皮の測定TERにおける変化は、ANOVA及びテューキー-クレーマーのHSD検査後解析をP<0.05で行って判定した場合、サンプリングした時間点において媒体処理に対する応答との有意な差を示さなかった。充分に分化した一次CF気管支上皮のバリア機能に対する銀ナノ粒子製剤の影響は、したがって、媒体処理の影響と異なるものではなかった。
【0051】
さらに、位相差顕微鏡の約100×の倍率において、上皮の微視的外観に明確な視覚的差異はなかった。繊毛活動も、処理群全体で類似していた。これらの結果は、そのような粒径の銀ナノ粒子が銀イオンを放出し、そのような細胞に対して毒性であると一般的に信じられていることを考えると、驚くべきことであった。
【0052】
例2
この試験では、レーザーアブレーションを介して形成された非イオン性基底状態銀ナノ粒子のゼブラフィッシュに対する効果を、従来の化学合成又は電解法によって形成された他の銀ナノ粒子、硝酸銀、及び単なる水を入れた対照槽と比較した。化学合成プロセスによって形成されたナノ粒子、及び電解プロセスによって形成されたナノ粒子はいずれも、死亡、動きの鈍化、及び槽の底近くに居るなどの毒性の徴候をゼブラフィッシュに引き起こした。電解プロセスによって形成されたナノ粒子及び硝酸銀はいずれも、曝露から2時間以内にゼブラフィッシュを死亡させた。
【0053】
対照的に、本出願の非イオン性基底状態銀ナノ粒子で処理した槽のゼブラフィッシュ及び対照槽のゼブラフィッシュは、同等に健康で活動的であった。本出願の非イオン性基底状態銀ナノ粒子に曝露したゼブラフィッシュは、実験の過程でまったく死亡なかったが、他のすべての処理では、少なくとも一部のゼブラフィッシュの死亡を伴った。
【0054】
ゼブラフィッシュ実験の結果は、銀ナノ粒子がそのような実験において毒性を示すという一般的知識に照らして、驚くべきものであった。例えば、Mansouri et al, “Effects of Short-Term Exposure to Sublethal Concentrations of Silver Nanoparticles on Histopathology and Electron Microscope Ultrastructure of Zebrafish (Danio Rerio) Gills. Iranian J. Toxicity, Vol. 10, No 1, Jan-Feb 2016の著者らは、「ナノ材料及びナノ製品の使用の増加は、環境汚染の可能性を高めており、それは様々な生物に対して有害な影響を有する可能性がある(要旨)」とする懸念を表明している。この著者らは、実験後に、「ゼブラフィッシュのえらに対するAgNP[銀ナノ粒子]の有害な影響に基づくと、銀ナノ粒子溶液は、環境にとっての有害な汚染物質であり得る(ページ15)」と結論付けた。
【0055】
例3
全血球数(CBC)分析を用いて、好中球の試験を行った。0.2及び1.0μg/mL(すなわち、ppm)のAttostat Agの試験から、6時間までの曝露時間の後、正常範囲から外れた血液パネル値はなかったことが示された。24時間の曝露時間では、対照及び試験サンプルはいずれも、ボーダーライン値をMCHC(平均赤血球血色素濃度、正常範囲下限の僅かに下)及びMPV(平均血小板容積、正常範囲上限の僅かに上)に対して示した。
【0056】
正常値からの唯一の逸脱は、0.2pg/mLのAttostat Agサンプルで起こり、このサンプルは、非常に僅かな上昇をEOS%(好酸球百分率、正常範囲上限の僅かに上)で呈した。全体として、これらの結果は、血液細胞及び血液成分の全範囲に対して、著しい毒性効果は示していない。このことは、予測される治療法が典型的には8~10pg/mLを超えず、血流及び身体の他の部分全体にわたる局所的濃度が非常に低くなる結果となることから、特に有望である。
【0057】
例4
抗菌効果試験を、嚢胞性線維症患者の呼吸器感染症に伴う一般的な細菌種に対して、0.5pg/mLのAtostat Agを用いて行った:
- 黄色ブドウ球菌
- MRSA
- 大腸菌
- リステリア
- サルモネラ
黄色ブドウ球菌及びMRSAは、いずれも24時間以内に>99%死滅した。大腸菌、リステリア、及びサルモネラは、いずれもおよそ12時間で>99%死滅した。
【0058】
例5
認定されたシュードモナス・エルジノーサのトブラマイシン耐性種を、University of Michiganから入手し、GLP Time-Kill試験に掛けた。Atostat Agの全体曝露レベル0.8pg/mLにおいて、試験は、曝露の1時間以内で>99%という高い有効性が得られる結果をもたらした。
【0059】
例6
トブラマイシン耐性シュードモナスに対する良好な結果を受けて、類似の試験をB.セパシアコンプレックス(BCC)で行った。最も広く見られる菌種のうちの2つ、バークホルデリア・セノセパシア及びバークホルデリア・マルティボランスのサンプルを入手した。これらのBCC菌種の培養物を、GLP Time-Kill試験に掛けた。Attostat Agは、これらの菌種に対して非常に有効であることが示され、B.セノセパシアでは曝露の1時間以内に>99%の殺傷、B.マルティボランスでは曝露の1時間以内に>97%の殺傷であった(0.8μg/mLの曝露レベル)。
【0060】
例7
例5及び6に類似の有効性試験を行って、Attostat Agの有効性をトブラマイシンと比較した。試験は、4pg/mLのAtostat Ag対20pg/mLのトブラマイシンを用いて、同等のコロニー減少を示した。Atostat Agの濃度を6pg/mLに増加させると、20pg/mLのトブラマイシンよりも高いコロニー減少を示した。表1に、例4~例7からの試験結果をまとめて示す。
【0061】
【表1】
【0062】
例8
嚢胞性線維症と診断された2人の患者から提供を受けた痰を用いて、痰試験も行った。両患者共に、トブラマイシン耐性シュードモナスに罹患している。最初の抗菌効果試験は、痰サンプルを、緩衝ペプトン水(BPW)中、様々な希釈率で一晩培養することを含んでいた。次に、培養物を用い、0~10μg/mLの範囲内のAttostat Agをウェルプレートに投与した。24時間後、Attostat Agで処理したサンプルは、すべての場合において、95~99+%の細菌殺傷率を示した。
【0063】
例9
化学療法及び放射線療法を受けている免疫不全癌患者が、鼻腔のフサリウム真菌感染症に罹患した。担当医師のケアの下、患者を、鼻吸入器を介してAttostat Agで治療した。治療後、フサリウム感染症は治癒した。
【0064】
例10
凍結乾燥した品質管理用生物(quality control organisms)を再水和し、トリプティックソイブロス又は他の適切な培地中、供給業者の指示に従ってカンテンプレート上で単離用に増殖させ、インキュベートした。必要に応じて、曝露される製品中の生物の最終濃度が1.0×10~1.0×10の範囲内となるように、得られた懸濁液を適切な培地で希釈した。
【0065】
製品を、20gのアリコートに分け、それに100piの試験生物を添加して、製品1mLあたり5.0×10の生物の標的濃度を得た。充分に混合した後、各サンプルカップを、添付レポートに示した時間間隔にわたって静置し、その時点で1.0gのアリコートを取り出し、1:10に希釈し、必要に応じてさらなる希釈を行った。各チューブを充分にボルテックス撹拌した。各希釈物から、溶液のアリコート1mLを取り出し、トリプティックソイカンテンプレート(又は他の適切な培地)に播種し、続いて各試験生物に適する条件下でインキュベートした。適切なインキュベーション時間の後、コロニー数を計数して報告した。
【0066】
対数減少値を:対数減少=log10(A/B)として算出し、式中、Aは、処理前の生存微生物数であり、Bは、処理及び時間間隔後の生存微生物数である。プレート上にコロニーが観察されなかった場合、検出下限未満(<)(すなわち、<10cfu/g)の結果を報告した。これらの場合、対数減少は、検出限界に基づいて算出し、それよりも大きい値であるとして報告した。結果を表2にまとめて示す。
【0067】
【表2】
【0068】
例11
図5は、様々なナノ粒子溶液を比較した導電率試験の結果を示す。添付書類Aにおいて、「Attostat」は、本明細書で述べるものなどのレーザーアブレーションによって形成された球形状非イオン性銀ナノ粒子に相当し、「AgNO」は、硝酸銀であり、「Meso」は、化学還元プロセスによって形成されたナノ粒子を含む市販の銀ナノ粒子製剤を表し、「ABL」は、電解プロセスによって形成されたものと理解される市販の銀ナノ粒子製剤を表す。
【0069】
結果は、Attostatナノ粒子製剤が、他の試験したナノ粒子製剤のいずれよりも著しく少ないイオンの放出であったことを示す。Attostatナノ粒子製剤に対して測定した導電率が、測定した最も高い濃度の16ppmであっても、高品質脱イオン水に対する典型的な導電率測定値と同等となるほど充分に低く維持されたことには留意されたい。
【0070】
例12
抗菌効果試験を、「Niedermeyer」ナノ粒子製剤(粒径8nm)を硝酸銀及びアメリカ国立標準技術研究所(NIST)標準Nanocomposix、10nm銀ナノ粒子と比較して行った。NISTナノ粒子は、還元剤及びキャップ剤としてクエン酸を用いる化学還元プロセスによって形成される。NISTナノ粒子は、例11の「Meso」ナノ粒子と同様の導電率を有し、銀イオンは検出可能であるが低レベルである。
【0071】
相対発光量(RLU)値を、処理の12時間後及び24時間後に記録した。RLU測定は、Hygiena SystemSURE Plus V.2 SN067503 RLUメーターを、Hygenia AquaSnap TOTAL ATP Water Test カタログ番号U143、ロット番号153019、と共に用いて行った。培養培地は、Hardy Diagnosticsの緩衝ペプトン水、ロット番号118272であった。サンプルを、ナノ粒子で処理して調製し、次に培地で希釈して試験濃度とした。試験生物(Microbiologies、大腸菌、KwikStik、ATCC番号51813、レファレンス番号0791 K、ロット番号791-1-6)を、新しい緩衝ペプトン水増殖培地中で24時間インキュベートした後、ナノ粒子処理に曝露した。表3及び表4は、それぞれ、ナノ粒子処理の12時間後及び24時間後のRLU値の結果を示す。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表5及び表6は、それぞれ、処理の12時間後及び24時間後において対応する対照と各処理を比較したデータを示す。
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
示されるように、試験したすべての濃度において、Attostatナノ粒子は、12時間及び24時間の両測定時間で、RLU値を対照ベースラインから1.5%未満までRLU値の数を低下させた。1.5%未満の値はいずれも、正確な検出レベル未満であり、完全な殺傷と見なされる。
【0078】
Attostatナノ粒子は、試験したすべての濃度において、1.5%の閾値未満までRLU値を効果的に低下させた。NISTナノ粒子は、濃度が高いほど効果も大きいという傾向を示すようであり、これは正常拡散モデルに対応するものであるが、最も高い試験濃度であっても、24時間の測定時点で初期対照ベースラインの70.7%のRLU値にしか到達しなかった。
【0079】
試験した濃度におけるNISTナノ粒子の抗菌効果が硝酸銀よりも低いことは、硝酸銀と比較してNISTナノ粒子の導電率が低く、したがってイオン濃度も低いことで説明され得ることが考えられる。しかし、Attostatナノ粒子の著しい効果は、Attostatナノ粒子のイオンが著しく低いか非検出レベルであり、NIST粒子よりも低いことを考えると驚くべきことであった。Attostatナノ粒子は、24時間の試験時間全体を通して、効果低減の徴候を見せることなく、継続的に抗菌効果を示した。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器感染症の治療に使用するための、吸入を介して患者に投与するために製剤された治療組成物であって、
非イオン性基底状態球形金属ナノ粒子、及び
吸入を介して投与するように製剤されたキャリア、
を含む、治療組成物。
【請求項2】
前記呼吸器感染症が、嚢胞性線維症に伴うものである、請求項1に記載の治療組成物。
【請求項3】
前記治療組成物が、前記患者の粘液を効果的に透過して、前記粘液中の微生物を殺傷又は不活化し、及び下にある呼吸器組織に到達する、請求項1又は2に記載の治療組成物。
【請求項4】
前記治療組成物が、前記患者への投与の前に霧化される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項5】
前記呼吸器感染症が、黄色ブドウ球菌、大腸菌、リステリア、サルモネラ、シュードモナス、非結核性マイコバクテリア、アシネトバクター、ストレノトロホモナス・マルトフィリア、アクロモバクター、又はバークホルデリア・セパシアコンプレックスのうちの1又は複数による感染症を含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項6】
前記呼吸器感染症が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、トブラマイシン耐性シュードモナス、多剤耐性シュードモナス・エルジノーサ、ストレノトロホモナス・マルトフィリア、又はバークホルデリア・セパシアコンプレックスのうちの1又は複数による感染症を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項7】
前記呼吸器感染症が、1又は複数の抗生物質耐性細菌による感染症を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、前記感染症の微生物の殺傷又は不活化を、前記微生物の細胞溶解を起こすことなく行う、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項9】
前記ナノ粒子が、前記感染症の微生物の殺傷又は不活化を、肺上皮を損傷することなく行う、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項10】
前記ナノ粒子が、約1nm乃至約40nmの平均径を有する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項11】
前記キャリアが、生理食塩水を含む、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項12】
前記キャリアが、炭水化物、アミノ酸、塩、緩衝剤、アルコール、多価アルコール、又はこれらの混合物のうちの1又は複数を含む、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項13】
前記ナノ粒子が、銀、金、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、モリブデン、銅、鉄、ニッケル、スズ、ベリリウム、コバルト、アンチモン、クロム、マンガン、ジルコニウム、スズ、亜鉛、タングステン、チタン、バナジウム、ランタン、セリウム、これらの不均質混合物、又はこれらの合金を含む、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項14】
前記ナノ粒子が、銀を含む、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項15】
前記ナノ粒子が、約10ppb乃至約100ppmの濃度で投与される、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の治療組成物。
【請求項16】
嚢胞性線維症に伴う呼吸器感染症を治療するための組成物であって、前記組成物は:
非イオン性基底状態球形銀ナノ粒子;及び
吸入を介して投与するように製剤され、生理食塩水を含むキャリア、
を含み、前記ナノ粒子は、約10ppb乃至約100ppmの濃度で前記キャリア中に含まれ、及び
前記組成物は、患者の呼吸器系に投与された場合に、肺上皮の損傷を引き起こさない、組成物。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の治療組成物と、
前記治療組成物を患者の呼吸器組織に送達するためのマウスピース又はフェイスマスクと、
を備えた、吸入装置。
【請求項18】
前記吸入装置が、噴霧器である、請求項17に記載の吸入装置。
【請求項19】
前記噴霧器が、超音波噴霧器、ジェット噴霧器、振動メッシュ噴霧器、又はソフトミスト吸入器である、請求項18に記載の吸入装置。
【請求項20】
前記吸入装置が、定量吸入器である、請求項17乃至19のいずれか一項に記載の吸入装置。
【国際調査報告】