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特表2022-540761金属顔料の代替物として官能化グラフェンを含む無機コーティング組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】金属顔料の代替物として官能化グラフェンを含む無機コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20220912BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220912BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20220912BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220912BHJP
   C09C 1/44 20060101ALI20220912BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20220912BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/61
C09D183/02
C09D7/62
C09C1/44
C09C3/08
B05D7/24 303J
B05D7/24 303B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021576451
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 GB2020051546
(87)【国際公開番号】W WO2020260887
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】1909237.8
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521464640
【氏名又は名称】タルガ テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TALGA TECHNOLOGIES LIMITED
【住所又は居所原語表記】The Bradfield Centre 184 Cambridge Science Park Cambridge Cambridgeshire CB40GA (GB)
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボーム,シバサンブ
(72)【発明者】
【氏名】アネヤ,カランビーア エス.
(72)【発明者】
【氏名】ボーム,へネガマ
【テーマコード(参考)】
4D075
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4D075CA33
4D075DB01
4D075DC05
4D075DC08
4D075DC12
4D075DC18
4D075EA10
4D075EB02
4D075EB42
4D075EC02
4D075EC10
4D075EC11
4D075EC13
4D075EC23
4J037AA01
4J037CB23
4J037CC00
4J037DD24
4J037EE02
4J037EE28
4J037EE35
4J037EE44
4J037FF17
4J037FF24
4J038AA011
4J038DL021
4J038HA026
4J038HA066
4J038HA216
4J038HA286
4J038HA441
4J038HA536
4J038HA546
4J038KA08
4J038KA15
4J038KA20
4J038LA06
4J038NA03
4J038PB05
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC02
(57)【要約】
本発明は、コーティング組成物であって、i.無機バインダー、ii.金属顔料、iii.フィラー、およびiv.コーティング組成物中の金属顔料の一部分を少なくとも部分的に置き換えるための官能化グラフェンを含むコーティング組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i.無機バインダー、
ii.金属顔料、
iii.フィラー、および
iv.コーティング組成物中の金属顔料の一部分を少なくとも部分的に置き換えるための官能化グラフェン
を含むコーティング組成物。
【請求項2】
組成物が
i.0.5~10重量%の官能化グラフェン、
ii.5~90重量%の金属顔料、
iii.5~50重量%の無機バインダー、および
iv.フィラー
を含む請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
無機バインダーがシリケートレジンを含む請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
無機バインダーがアルキルシリケートレジンを含む請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
金属顔料が亜鉛もしくは亜鉛合金、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、マグネシウムもしくはマグネシウム合金、クロムもしくはクロム合金、酸化鉄、または前記金属もしくは導電性金属酸化物顔料の1種もしくは複数種の混合物を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
フィラーがCaCO、タルク、マイカ、二酸化チタン、不活性フィラー、またはこれらの混合物を含む請求項1~5のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
金属顔料を官能化グラフェンおよびフィラーで置き換えることによりコーティング組成物中の金属顔料の比率を低減させる工程を含む請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティング組成物を製造する方法。
【請求項8】
グラフェンを化学的リンカーで、好ましくは噴霧により官能化することにより官能化グラフェンが調製される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
グラフェンを化学的リンカーで官能化することが実質的に乾燥状態のグラフェンを用いて行われる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
グラフェンが0.1~10重量%の化学的リンカーで官能化される請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
グラフェンを官能化することが、湿潤剤をグラフェンと、好ましくは噴霧によって接触させる工程を含む請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
グラフェンが0.1~5重量%の湿潤剤と接触させられる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
グラフェンを官能化することが、分散剤をグラフェンと、好ましくは噴霧によって接触させる工程を含む請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
グラフェンが0.1~10重量%の分散剤と接触させられる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
グラフェンを官能化することが、最初に湿潤剤をグラフェンと接触させ、次いで分散剤をグラフェンと接触させる工程を含む請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
グラフェンが酸化物非含有、部分酸化グラフェン、または限定された酸素含有量(<5%)のグラフェンである請求項7~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
グラフェンの官能化が空気中または不活性雰囲気下で行われる請求項8~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
化学的リンカーがオルガノシラン、好ましくは加水分解されていないオルガノシランを含む請求項8~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
官能化グラフェン、金属顔料およびフィラーを含むプレミックス組成物を形成する工程、および次いでプレミックス組成物を無機バインダーと組み合わせる工程を含む請求項7~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
官能化グラフェン、金属顔料、およびフィラーを含むプレミックス組成物を形成する工程、プレミックス組成物を溶媒中にプレ分散させる工程、並びに次いでプレ分散されたプレミックス組成物を無機バインダーと組み合わせる工程を含む請求項7~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティング組成物、または請求項7~20のいずれか1項に記載の方法によって製造されたコーティング組成物から形成された無機コーティング層を含むコートされた物品。
【請求項22】
コーティング層が1~150ミクロンの乾燥膜厚を有する請求項21に記載のコートされた物品。
【請求項23】
物品が、金属基材、自動車車両、航空機、電気製品、もしくは家庭用電気製品、海洋構造物、船舶、または乾ドックを含む請求項21又は22に記載のコートされた物品。
【請求項24】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物、または請求項7~20のいずれか1項に記載の方法によって製造された組成物を物品の表面上に適用する工程を含むコートされた物品を製造する方法。
【請求項25】
コーティング層中の金属顔料の代替物としての、請求項8~18のいずれか1項に従って製造された官能化グラフェンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機バインダー、金属顔料、および金属顔料の一部分を少なくとも部分的に置き換えるための官能化グラフェンを含むコーティング組成物に関し、当該コーティング組成物を製造する方法に関し、当該組成物から形成されたコーティング層を含む物品に関し、当該コーティング組成物で物品をコーティングする方法に関し、並びにコーティング組成物において金属顔料の代替物としての官能化グラフェンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
貯蔵中および/または熱を集中させる(heat-intensive)製造プロセス、例えば、溶接、レーザー切断、プラズマ切断またはガス溶断中に下部基材、典型的にはスチールに一時的な防食を提供するために、船舶上におよび海洋産業においてしばしばケイ酸亜鉛コーティングが使用される。これら一時的なコーティングは典型的には「ショッププライマー(shop primers)」と称され、通常は製造後に除去される。しかし、特定の場合には、造船業者は製造後にショッププライマーを除去しないことを好み、その結果、ショッププライマーは下部基材上に残り、この場合、「パーマネント(permanent)」ポストプライマーは良好な耐腐食性、および使用の際にコートされた基材の寿命を延ばすために造船業者によって典型的に適用される耐食コーティングへの良好な付着性を示すべきである。
【0003】
コーティング中での亜鉛の存在のせいで、ケイ酸亜鉛コーティングは良好な耐腐食性を示すが、例えば、溶接操作中のZnOヒュームの発生およびスプラッシングを最小限にするために、亜鉛含有量を低減させることが多くの場合に必要である。多量の亜鉛の混入は、脆いコーティングの形成をもたらすことが知られており、これはコーティングおよびコートされた構造物の耐用年数を低下させるであろうから、望ましくない。ケイ酸亜鉛コーティングを備えた構造物の耐用年数はコーティング中の亜鉛含有量によって制限され、および通常の状況下では、亜鉛含有量の低減はコートされた構造物の耐用年数を低下させるであろうことも理解されている。さらに、亜鉛は両性なので、亜鉛は酸性および塩基性環境の両方で優先的に腐食するであろう。従って、亜鉛を含むケイ酸亜鉛コーティングを備えた構造物の耐用年数は低減されうる。さらに、水ベースケイ酸亜鉛プライマー(ショップ、またはプレおよびポストパーマネント)の場合には、亜鉛の一部分は酸素と反応して酸化亜鉛を形成するであろうから、多量の亜鉛が必要とされる。これは、コートされた構造物を製造するコストを増大させるだけでなく、これら水ベースシステムの有効性も制限する。
【0004】
低減された量の金属顔料、例えば、亜鉛を含む、ショップおよび/またはパーマネントプライマーを提供することが本発明の実施形態の目的である。プライマーの防食および機械的特性(付着特性を含む)を低下させることなく、ショップおよび/またはパーマネントプライマー中の金属顔料含有量を低減させることも本発明の実施形態の目的である。下部構造物を長期間にわたって腐食から保護することができるショップおよび/またはパーマネントプライマーを提供することが本発明の実施形態の別の目的である。コートされた構造物を製造するための環境に優しく、軽量で、かつ費用効率の高い方法を提供することが本発明の実施形態のさらなる目的である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によると、
i.無機バインダー;
ii.金属顔料;
iii.フィラー;および
iv.コーティング組成物中の金属顔料の一部分を少なくとも部分的に置き換えるための官能化グラフェン
を含むコーティング組成物が提供される。
【0006】
コーティング組成物への官能化グラフェンの混入は、このように形成されるコーティングの耐食特性および機械的特性を向上させつつ、コーティング組成物中の金属顔料の含有量が50重量%低減されることを可能にする。さらに、官能化グラフェンの混入は、このように形成されるコーティングの全重量を同時に低減させつつ、向上したバリア特性および機械的特性を有する、より高密度のコーティングネットワークをもたらす。コーティング組成物から形成されたコーティングは良好な付着特性を示すことも見出され、このことは所望の場合には、それらが「パーマネント」プライマーとして使用されうることを意味する。
【0007】
コーティング組成物は、
i.0.5~10重量%の官能化グラフェン;
ii.5~85重量%の金属顔料;
iii.5~60重量%の無機バインダー;および
iv.フィラー
を含みうる。
【0008】
コーティング組成物は0.5~10重量%の官能化グラフェンを含むことができ、別の実施形態においては、コーティング組成物は0.5~5重量%の官能化グラフェンを含みうる。いくつかの実施形態においては、コーティング組成物は1~2重量%の官能化グラフェンを含みうる。グラフェンの密度が亜鉛のよりもかなり低い場合には、わずかな量のグラフェンが多量の亜鉛を置き換えるために使用されうる。
【0009】
コーティング組成物は5~60重量%の無機バインダーを含みうる。例えば、無機バインダー含有量は25~55重量%であり得る。特に、無機バインダーはシリケートレジンまたはシリケートレジンの混合物を含みうる。例えば、無機バインダーはアルキルシリケートレジンまたはアルカリシリケートレジンを含みうる。アルキルシリケートレジンはエチルシリケートレジンまたはメチルシリケートレジンを含みうる。アルカリシリケートレジンはナトリウムまたはカリウムを含んでいてもよく、すなわち、pH>7。
【0010】
コーティング組成物は5~85重量%の金属顔料を含みうる。特に、コーティング組成物は5~50重量%、5~40重量%、5~30重量%、5~20重量%、または5~10重量%の金属顔料を含みうる。金属顔料は亜鉛もしくは亜鉛合金、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、マグネシウムもしくはマグネシウム合金、クロムもしくはクロム合金、酸化鉄、または前記金属もしくは導電性金属酸化物顔料の1種もしくは複数種の混合物を含みうる。
【0011】
フィラーはCaCO、タルク、マイカ、二酸化チタン、不活性フィラー、またはこれらの混合物を含みうる。コーティング組成物中の官能化グラフェンの存在は、コーティング組成物が、低減された量の金属顔料、例えば、亜鉛を含む様に変更されうることを意味する。しかし、コーティングの完全性を保つために、フィラー含有量は、コーティング組成物から除去され/省かれた金属顔料の量、および官能化グラフェンの存在を補うように調節されるべきである。
【0012】
本発明の第2の態様によると、本発明の第1の態様のコーティング組成物を製造する方法であって、金属顔料を官能化グラフェンおよびフィラーで置き換えることにより、コーティング組成物中の金属顔料の割合を低減させる工程を含む方法が提供される。
【0013】
本発明の第2の態様の方法は、必要に応じて、本発明の第1の態様に関連して記載されたいずれかまたは全ての特徴を含みうる。
【0014】
官能化グラフェンは、グラフェンを化学的リンカーで官能化することにより、好ましくは噴霧により、調製されうる。液体媒体(水または溶媒)中でグラフェンを官能化する代わりに、化学的リンカーをグラフェンに噴霧することは、グラフェンを官能化するのに必要とされる化学的リンカーの量を低減する。その後にコーティング組成物に混入される場合に、このように形成されるコーティングの防食および機械的特性を低減させるであろう、グラフェンナノプレートレット(nanoplatelets)が凝集するリスクを噴霧は低減させることも理解される。
【0015】
化学的リンカーは液体形状で提供されてもよい。官能化グラフェンが水性または水ベースコーティング組成物に混入されることになっている場合、化学的リンカーは水性または水ベース溶液中に提供され得る。一方、官能化グラフェンが溶媒ベースコーティング組成物に混入されることになっている場合には、化学的リンカーは溶媒ベースシステム中に提供されうる。
【0016】
化学的リンカーは少なくとも2つの官能基を含みうる。一つの官能基はグラフェンのエッジ(edge)の原子と反応可能であり得る。例えば、エッジの原子と反応する官能基は、システムを安定させるのを助けるグラフェンプレートレット間の立体障害を提供するアミン基を含むことができる。この化学的連結はグラフェン湿潤性を向上させ、かつ優先的熱力学的スタッキングモード(例えば、ABA、ABB)を妨げるのにも役立つ。第2の官能基は無機バインダーと反応可能であり得る。第2の官能基はアミノ基、ヒドロキシル基、カルボン酸基またはエポキシ基を含みうる。
【0017】
ある実施形態においては、化学的リンカーはオルガノシランを含みうる。特に、化学的リンカーはアミノシランまたはアミノアルコキシシラン、例えば、APTESを含みうる。オルガノシラン、アミノシラン、またはアミノアルコキシシランは加水分解されていなくてよい。
【0018】
グラフェンを化学的リンカーで官能化する工程は、実質的に乾燥状態のグラフェンを用いて行われ得る。この方法でグラフェンを官能化することは、官能化グラフェンが「調合済み(ready mix)」材料として、混合比に関係なく、任意のレジンシステムに混入されるのを可能にする。それは、また、溶媒の使用を回避するかまたは少なくとも有意に最小限にし、これは溶媒の取扱いおよびその廃棄に関連する問題が回避されることを意味する。グラフェンの凝集は、腐食の速度を増大させうる地金とのガルバニック対の形成をもたらすことが知られている。グラフェンを化学的リンカーで官能化することにより、それが無機バインダーと結合することが可能となり、このことは、無機バインダー中でグラフェンが効率的に分散され、凝集しないことを確実にするのを助ける。さらに、官能化は、グラフェンが溶媒中に分散されているよりも、実質的に乾燥状態のグラフェンを用いて行われるので、低減された量の化学的リンカーが、グラフェンを官能化するのに必要とされ、このことがコストを低減させるのを助ける。グラフェンは0.1~10重量%の化学的リンカーで官能化されうる。
【0019】
グラフェンを官能化する工程は湿潤剤をグラフェンと接触させることを含みうる。グラフェンは0.1~5重量%の湿潤剤と接触させられうる。
【0020】
グラフェンを官能化する工程は分散剤をグラフェンと接触させることを含みうる。グラフェンは0.1~10重量%の分散剤と接触させられうる。
【0021】
ある実施形態においては、グラフェンを官能化することは最初に湿潤剤をグラフェンと接触させ、次いで分散剤をグラフェンと接触させる工程を含みうる。この段階での湿潤剤および/または分散剤の添加は官能化中の、および官能化グラフェンが無機バインダーに組み込まれる場合での、グラフェンの良好な湿潤性および分散を確実にするのを助ける。
【0022】
湿潤剤および/または分散剤は溶媒ベースであってもよいし、または水ベースであってもよい。湿潤剤および/または分散剤は以下の官能基のいずれかを含みうる:-NH、-OH、-O=C-NH、-(NHおよび-(NH。アミノ、ヒドロキシル、カルボアミド、ジアミンおよびトリアミン官能基を含む湿潤剤および/または分散剤はグラフェンのエッジの電子との反応に非常に適しており、結果として、コーティングが低減された量の金属顔料を含む場合でさえ、防食の向上が得られうることが認められた。
【0023】
本発明に従って使用されうる分散剤の例としては、水ベースの分散剤、例えば、DisperBYK2010、DisperBYK2012、Disperbyk 2025、Anti terra 250、DisperBYK 190、Disperbyk 199、BYK093、BYK 2025、BYK 154、BYK1640、およびCARBOWET(登録商標)GA-100(Evonik)、並びに溶媒ベースの分散剤、例えば、BYK9077が挙げられる。溶媒ベースのシステムのための好ましい分散剤は高分子量コポリマーのアルキルアンモニウム塩、例えば、BYK 9076である。
【0024】
湿潤剤はポリエーテル-修飾ポリ-シロキサン、または修飾ポリアクリレート、例えば、BYK 333およびBYK 3550を含みうる。
【0025】
グラフェンは酸化物非含有(oxide-free)、または「プリスチン(pristine)」グラフェン、部分酸化グラフェンまたは限定された酸素含有量(<5%)のグラフェンであり得る。還元工程の後に残留酸化物が必然的に残るであろうから、これらは、酸化グラフェンから還元されたグラフェンを含まない。酸化グラフェン(GO)または還元型酸化グラフェン(RGO)に代えての、酸化物非含有グラフェンの使用は、それが混入されるコーティングの防食および機械的特性を向上させると理解される。さらに、コーティングへの酸化物非含有官能化グラフェンの混入は、GOおよびRGOと比較して、より多量の金属顔料が置き換えられるのを可能にすると考えられる。
【0026】
グラフェンはグラフェンナノプレートレットを含みうる。グラフェンナノプレートレットは粉体形状で提供されうる。
【0027】
グラフェンの官能化は空気中で、または不活性雰囲気下で行われうる。官能化が不活性雰囲気下で行われる場合には、不活性雰囲気は、プリスチングラフェンが酸化されないか、または官能化グラフェンを含むコーティングの防食特性に悪影響を及ぼすかもしれない酸化のリスクを少なくとも最小限にするのを確実にする。これは、空気感受性の/極度に反応性の官能化剤を使用する場合に望ましい場合がある。部分酸化グラフェンまたは限定された酸素のグラフェンが使用される場合には、不活性雰囲気下での官能化は酸素含有量が5%を超えないことを確実にするのを助ける。
【0028】
ある実施形態においては、方法は、官能化グラフェン、金属顔料、およびフィラーを含むプレミックス組成物を形成する工程、並びに、次いでプレミックス組成物を無機バインダーと組み合わせる工程を含み得る。あるいは、方法は官能化グラフェン、金属顔料、およびフィラーを含むプレミックス組成物を形成する工程、プレミックス組成物を溶媒中にプレ分散させる(pre-dispersing)工程、並びに、次いで、プレ分散させたプレミックス組成物を無機バインダーと組み合わせる工程を含みうる。
【0029】
官能化グラフェンは乾燥させられうる。官能化グラフェンは周囲条件下で乾燥させられ得るか、またはそれは熱処理にかけられうる。熱処理は50℃の温度を超えなくてよい。ある実施形態においては、官能化グラフェンを乾燥させる工程は不活性雰囲気下、例えば窒素雰囲気下で行われうる。これは、特に官能化グラフェンが熱処理にかけられる場合に、グラフェンが酸化されるリスクを妨げるかまたは少なくとも低減させるのを助ける。
【0030】
グラフェンを官能化する工程は流動床で、ドライ/ウェットミルで、または高せん断/速度機械式ミキサー(high shear/speed mechanical mixer)で行われうる。
【0031】
本発明の第3の態様に従って、本発明の第1の態様に従った、または本発明の第2の態様に従った方法によって製造されたコーティング組成物から形成された無機コーティング層を含むコートされた物品が提供される。
【0032】
本発明の第3の態様に従ったコートされた物品は、必要に応じて、本発明の第1のおよび第2の態様に関連して記載されるいずれかまたは全ての特徴を含みうる。
【0033】
ある実施形態においては、コーティング層は1~150ミクロンの乾燥膜厚を有する。コーティングは1~30ミクロンの乾燥膜厚を有するショッププライマー、または1~150ミクロンの乾燥膜厚を有するパーマネントプライマーであり得る。
【0034】
物品は金属基材、自動車車両、航空機、電気製品、もしくは家庭用電気製品、海洋構造物、船舶、または乾ドックを含みうる。
【0035】
本発明の第4の態様によると、本発明の第1の態様に従った、または本発明の第2の態様の方法に従って製造されたコーティング組成物を物品の表面上に適用する工程を含む、コートされた物品を製造する方法が提供される。
【0036】
本発明の第4の態様に従った方法は、必要に応じて、本発明の第1の、第2の、および第3の態様に関連して記載されたいずれかまたは全ての特徴を含み得る。
【0037】
本発明の第5の態様に従って、コーティング層において、金属顔料の代替物としての、本発明の第2の態様に従って製造された官能化グラフェンの使用が提供される。
【0038】
本発明の第5の態様に従った使用は、必要に応じて、本発明の第2の態様に関連して記載されたいずれかまたは全ての特徴を含み得る。
【0039】
本発明の第6の態様に従って、i.無機バインダー;ii.金属顔料;iii.フィラー;およびコーティング組成物中の金属顔料の一部分を少なくとも部分的に置き換えるための表面修飾グラフェンを含むコーティング組成物が提供される。
【0040】
本発明の第6の態様に従ったコーティング組成物は、本発明の第1の態様に関連して記載されたいずれかまたは全ての特徴を含み得る。
【0041】
本発明の第7の態様に従って、金属顔料を表面修飾グラフェンおよびフィラーで置き換えることにより、コーティング組成物中の金属顔料の割合を低減させる工程を含む、本発明の第6の態様に従ったコーティング組成物を製造する方法が提供される。本発明の第7の態様に従った方法は、必要に応じて、本発明の第1のおよび第2の態様に関連して記載されたいずれかまたは全ての特徴を含みうる。
【0042】
本発明の第8の態様に従って、本発明の第6の態様に従った、または本発明の第7の態様に従う方法によって製造されたコーティング組成物から形成された無機コーティング層を含む、コートされた物品が提供される。
【0043】
本発明の第8の態様に従ったコートされた物品は、必要に応じて、本発明の第1の、第2のおよび第3の態様に関連して記載されたいずれかまたは全ての特徴を含みうる。
【0044】
本発明の第9の態様に従って、本発明の第6の態様に従った、または本発明の第7の態様の方法に従って製造されたコーティング組成物を物品の表面上に適用する工程を含む、コートされた物品を製造する方法が提供される。
【0045】
本発明の第9の態様に従った方法は、必要に応じて、本発明の第1の、第2の、第3のおよび第4の態様に関連して記載されたいずれかまたは全ての特徴を含みうる。
【0046】
本発明の第10の態様に従って、コーティング層において、金属顔料の代替物としての、本発明の第6の態様に従った、または本発明の第7の態様に従って製造された表面修飾グラフェンの使用が提供される。
【0047】
本発明の第5の態様に従った使用は、必要に応じて、本発明の第1のおよび第2の態様に関連して記載されたいずれかまたは全ての特徴を含みうる。
【0048】
発明の詳細な説明
本発明がより明確に理解されうるように、ここに、添付の図面を参照して、本発明の1以上の実施形態が、例示だけの目的のために以下の通り記載される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、先行技術に従ったケイ酸亜鉛コーティングを製造するための反応スキームを示す。
図2図2は、官能化グラフェンおよび低減された量の亜鉛を含むシリケートコーティングを製造するための、本発明に従った反応スキームを示す。
図3図3は、官能化グラフェンを有する亜鉛含有シリケートコーティング、および官能化グラフェンを有しない亜鉛含有シリケートコーティングについての、1500時間後の塩噴霧試験結果を示す。
図4図4は、官能化グラフェンを有する亜鉛含有シリケートコーティング、および官能化グラフェンを有しない亜鉛含有シリケートコーティングについての、1500時間後のさらなる塩噴霧試験結果を示す。
図5図5は、3種類の異なる亜鉛含有シリケートコーティングC2、E2およびE3についての引き剥がし強さ(pull off strength)のグラフを示す。
【0050】
先行技術に従ったケイ酸亜鉛コーティングを製造するための反応スキームが図1に示される。先に言及されるように、高亜鉛含有量のシリケートコーティングは典型的には、良好な防食を示すが、特に、コーティング中の亜鉛含有量によって耐用年数が限定されるシリケート/亜鉛コーティングについては、低減された耐用年数に悩まされる傾向がある。
【0051】
図2は、図1に描かれたものに対して改良された反応スキームを表示する。図2に示される反応スキームは官能化グラフェンを亜鉛およびエチルシリケートレジンと混合して、官能化グラフェンを有するケイ酸亜鉛コーティングを製造することを伴う。無機コーティングネットワークへの官能化グラフェンの組み込みは、防食に対する悪影響なしに、亜鉛顔料の含有量が低減されるのを可能にする。図2は、官能化グラフェンがシリケートと化学的に連結されることをさらに示す。これはケイ酸亜鉛コーティングのバリア保護特性を増大させるだけでなく、それは向上された機械的特性を伴う、より高密度かつより強力な無機コーティングネットワークが形成されることをもたらし、これらの全てが、(図1において示されるような)先行技術のケイ酸亜鉛コーティングシステムによって経験される耐用年数の問題を最小限にするように機能し、その一方で、低減された亜鉛含有量およびコーティングネットワークの至る所でのグラフェンの効果的な分散に起因する、低減された製造コスト、低減されたコーティング重量のような他の利点を提供する。
【0052】
官能化グラフェン調製およびそれに続くコーティング組成物調製成分を含むこのような改良された反応スキームの一実施形態は以下にさらに詳細に記載される。
【実施例
【0053】
官能化グラフェン調製
プリスチン、酸化物非含有グラフェンナノプレートレット(GNP)は粉体の形状のGNP(94重量%)をレーディゲプロシェア(登録商標)ミキサーに導入することにより官能化される。GNP粉体は実質的に乾燥状態であり、かつ水分を含まない。ミキサーは 次いで活性化され、GNP粉体が細分化または解凝集し始めた際に、それにBYK9076分散剤(2重量%)、次いで加水分解されていないAPTES(2重量%)が噴霧されて、官能化GNP粉体を製造する。官能化の後に、存在しうる何らかの残留流体を除去するのを助けるために、官能化GNP粉体が加熱されてもよい。しかし、貯蔵中の時期尚早な架橋を回避するために、官能化GNP粉体は50℃を超える温度に加熱されるべきではない。官能化プリスチンGNPが酸化されるリスクを最小限にするために加熱処理は窒素雰囲気下でも行われうるが、加熱処理は空気中でミキサー内で行われる。
【0054】
コーティング組成物調製
官能化GNP粉体はコーティング組成物の他の粉体成分、すなわち亜鉛およびCaCOと混合される。これら粉体成分は、次いで、エチルポリシリケート(Dynasilan 40)と水中で混合され、そしてこの混合物が5分間2000RPMで攪拌される。この混合物は、次いで、スチール基材上に噴霧コートされる。コートされたスチール基材は、次いで、室温で硬化されて(すなわち、全体乾燥(through-drying)のための1.5時間および完全硬化のための7日間)20~60ミクロンの範囲の乾燥膜厚を有するコーティングを形成する。例示の組成物E1-E2が、比較例C1およびC2と共に、以下の表1に示される。
【0055】
E1-E2コーティングが上記方法に従って調製された。比較例C1およびC2は市販の亜鉛ベースのシリケートコーティング組成物、すなわち、プレ-ファブ(Pre-fab)プライマー「Hempel ZS 15890」(C1)およびポストファブ(Post-fab)プライマー「Jotun Resist 78」(C2)である。
【0056】
【表1】
【0057】
塩噴霧試験
コートされた基材C1およびE1は、500時間にわたって塩噴霧試験(ASTM B117)にかけられ、それぞれのコーティングの耐食特性を決定した。塩噴霧試験の結果(図3に示される)は、E1コーティングが50%未満の亜鉛を含みかつ低減された層厚さを有するにもかかわらず、C1コーティングと比べてE1コーティングがより優れた耐腐食性を示すことを表す。
【0058】
コートされた基材C2およびE2も、750時間にわたって塩噴霧試験(ASTM B117)にかけられ、それぞれのコーティングの耐食特性を決定した。この塩噴霧試験の結果(図4に示される)は、E2コーティングが50%未満の亜鉛を含むにもかかわらず、C2コーティングと比べてE2コーティングがより優れた耐腐食性を示すことを表す。
【0059】
付着性試験
ASTM G 4541に従った引き剥がし付着性(pull off adhesion)試験も行われた。実験は、C2およびE2コーティングの付着強さを調査するために行われた。3重量%の官能化グラフェンを含んでいた以外はE2コーティングと同じように調製されたさらなるコーティング(E3)の付着強さを調査するためのさらなる試験が行われた。図5に示されるように、市販のコーティングC2の引き剥がし強さはE2コーティングの引き剥がし強さと比較される。しかし、図5は、シリケートコーティング中で官能化グラフェンの含有量を増大させること(すなわち、E3)がC2およびE2コーティングの両方と比較して、得られる付着強さの向上を可能にすることも示す。
【0060】
図2に示される改良された反応スキームによって、本発明はコーティング中の金属顔料(特に亜鉛)の含有量が低減されるのを可能にし、一方で、増大した耐腐食性/防食、および機械的性能を提供する。さらに、金属含有量を低減することは、向上した環境の持続可能性(すなわち、金属顔料が、海洋環境に対して毒性であり得る腐食生成物を犠牲的に生じさせ、その理由の一つはジンクリッチ(zinc rich)シリケートは船舶の喫水線下の部分に対して好ましさがより低いからである)、増大した寿命(すなわち、金属顔料は最終的に腐食するであろうし、その一方でグラフェンは不活性のままであろうから)、およびコーティング厚さ/重量/コスト低減の潜在的な具現化をはじめとする多くの追加の利点も促進する。さらに、改良された反応スキームの方法によって製造されたコーティング組成物の他の潜在的な利点は、グラフェン補強およびより高密度の架橋に起因するコーティング付着性の増大、並びに耐衝撃性および耐摩耗性の向上を含みうる。
【0061】
1以上の実施形態が例示のためだけに上述される。添付の特許請求の範囲によって与えられる保護の範囲から逸脱することなく多くの変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】