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特表2022-540781抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を含む製剤、その調製方法及び使用
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  • 特表-抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を含む製剤、その調製方法及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を含む製剤、その調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220912BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220912BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220912BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220912BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220912BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220912BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220912BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220912BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220912BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220912BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220912BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220912BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220912BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P43/00 111
A61P35/02
A61P35/00
A61P37/06
A61P29/00
A61P31/00
A61P35/04
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/26
A61K9/19
C07K16/28
C07K16/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577124
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 CN2020098172
(87)【国際公開番号】W WO2020259605
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】201910554231.X
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010550660.2
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】チュー シンコイ
(72)【発明者】
【氏名】マー イートン
(72)【発明者】
【氏名】ワン インチュエ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ カイソン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA29
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC29
4C076CC31
4C076DD08E
4C076DD38Q
4C076DD49
4C076DD51Q
4C076DD60Z
4C076DD67Q
4C076EE23E
4C076FF15
4C076FF61
4C076FF63
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045AA40
4H045BA10
4H045BA40
4H045BA50
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA30
(57)【要約】
本発明は、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を含む製剤に関し、特に抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体、緩衝剤、安定剤及び界面活性剤を含む医薬製剤に関する。また、本発明は、疾患を治療又は予防するためのこれらの製剤の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)緩衝剤と、(iii )安定剤と、(iv)界面活性剤と、任意に、(v)金属キレート剤(例えば、EDTA)と、を含む液体抗体製剤であって、前記抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は三本鎖抗体であり、前記三本鎖抗体が、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対を第1抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、PD-L1と特異的に結合する第1VHH及び第2VHHを、単一ドメイン第2抗原結合部位及び単一ドメイン第3抗原結合部位としてそれぞれ含み、或いは第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合するVH/VL対を第1抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合する第1VHH及び第2VHHを、単一ドメイン第2抗原結合部位及び単一ドメイン第3抗原結合部位としてそれぞれ含み、好ましくは、前記液体抗体製剤のpH値が約6.4‐7.0、例えば、約6.4、6.5、6.8、又は7.0である、液体抗体製剤。
【請求項2】
前記液体抗体製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の濃度は、約1‐200mg/mLであり、好ましくは約5‐150mg/mLであり、例えば、約5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140又は150mg/mLである、請求項1に記載の液体抗体製剤。
【請求項3】
前記液体抗体製剤における緩衝剤は、ヒスチジン、塩酸ヒスチジン及びこれらの組合せから選ばれ、前記緩衝剤の濃度は好ましくは約1‐30mMであり、そしてより好ましくは約5‐25mMであり、例えば、約5、10、15、20、又は25mMである、請求項1又は2に記載の液体抗体製剤。
【請求項4】
前記安定剤は、ソルビトール、スクロース、トレハロース、アルギニン、塩酸アルギニン及びこれらの任意の組合せから選ばれ、そして好ましくはスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンであり;前記安定剤の濃度は好ましくは約50‐500mMであり、そしてより好ましくは約100‐400mMであり、例えば、約100、150、200、250、300、350、又は400mMである、請求項1‐3の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項5】
前記液体抗体製剤は、塩酸アルギニンを安定剤として含み、好ましくは塩酸アルギニンが約50‐250mM、好ましくは約100‐200mM(例えば、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200mM)の量で存在し、及び/又は前記液体抗体製剤は、スクロースを安定剤として含み、好ましくはスクロースが約50‐250mM、好ましくは約100‐200mM(例えば、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200mM)の量で存在する、請求項1‐4の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項6】
前記液体抗体製剤における界面活性剤は、ポリソルベート界面活性剤から選ばれ、そして好ましくはポリソルベート80である、請求項1‐5の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項7】
前記界面活性剤の濃度は約0.1‐1mg/mLであり、好ましくは約0.2‐0.8mg/mLであり、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、又は0.8mg/mLである、請求項1‐6の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項8】
前記液体製剤は、金属キレート剤(例えば、EDTA)、例えば、約0.002‐0.2mg/mL金属キレート剤(例えば、EDTA)、好ましくは約0.01‐0.1mg/mL、例えば約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.08、又は0.1mg/mL金属キレート剤(例えば、EDTA)を更に含む、請求項1‐7の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項9】
前記抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対が第1抗原結合部位として、抗CD47抗体ADI‐29341に由来するGSIEHYYWS(配列番号3)に示されるVH CDR1、YIYYSGSTNYNPSLKS(配列番号4)に示されるVH CDR2、ARGKTGSAA(配列番号5)に示されるVH CDR3、RASQGISRWLA(配列番号10)に示されるVL CDR1、AASSLQS(配列番号11)に示されるVL CDR2及びQQTVSFPIT(配列番号12)に示されるVL CDR3、又は前記6個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含み、前記第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する単一ドメイン第2抗原結合部位及び単一ドメイン第3抗原結合部位が共にAYTISRNSMG(配列番号17)に示されるCDR1、IESDGST(配列番号18)に示されるCDR2及びAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNY(配列番号19)に示されるCDR3、又は前記3個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含み、 より好ましくは、前記第1ポリペプチド鎖及び前記第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対が第1抗原結合部位として、抗CD47抗体ADI‐29341に由来する配列番号2/9の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を有する配列を含み、そして前記第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する単一ドメイン第2抗原結合部位及び単一ドメイン第3抗原結合部位が共に配列番号15及び/又は配列番号16に示される配列、又はこれらと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列を含み、最も好ましくは、前記三本鎖抗体が、配列番号1に示される第1ポリペプチド鎖、配列番号8に示される第2ポリペプチド鎖、及び配列番号14又は配列番号22に示される第3ポリペプチド鎖、或いは前記配列の何れかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列を含む、請求項1に記載の液体抗体製剤。
【請求項10】
前記抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、HEK293細胞又はCHO細胞において組換え発現される、請求項1‐9の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項11】
前記液体製剤は注射剤であり、好ましくは皮下注射又は静脈内注射に使用されるものであり、或いは輸注剤であり、例えば静脈内輸注に使用されるものである、請求項1‐10の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項12】
(i)約1‐200mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約1‐30mMのヒスチジン及び/又は塩酸ヒスチジンと、(iii )約50‐500mMのスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンと、(iv)約0.1‐1mg/mLのポリソルベート80と、を含み、任意に、0.002‐0.2mg/mLの金属キレート剤(例えば、EDTA)を更に含む液体抗体製剤であって、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5であり、例えば、前記液体抗体製剤は、(i)約50‐150mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約3‐25mMのヒスチジン及び/又は塩酸ヒスチジンと、(iii )約150‐300mMのスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンと、(iv)約0.2‐0.8mg/mLポリソルベート80と、を含み、任意に、前記液体製剤は、約0.01‐0.1mg/mLの金属キレート剤(例えば、EDTA)を更に含み、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5であり、或いは、前記液体抗体製剤は、(i)約100mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約20mMヒスチジンと、(iii )約180mM塩酸アルギニンと、(iv)約0.2mg/mLポリソルベート80と、を含み、任意に、前記液体製剤は、金属キレート剤(例えば、EDTA)、例えば約0.02mg/mLのEDTAを更に含み、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5であり、或いは、前記液体抗体製剤は、(i)約100mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約20mMヒスチジンと、(iii )約100mM塩酸アルギニン及び4%スクロースと、(iv)約0.2mg/mLポリソルベート80と、を含み、任意に、前記液体製剤は、金属キレート剤(例えば、EDTA)、例えば約0.02mg/mLのEDTAを更に含み、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5であり、或いは、前記液体抗体製剤は、(i)約100mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約2.52mg/mLヒスチジン及び約0.79mg/mL塩酸ヒスチジンと、(iii )約37.92mg/mL塩酸アルギニンと、(iv)約0.5mg/mLポリソルベート80と、を含み 任意に、前記液体製剤は、金属キレート剤(例えば、EDTA)、例えば約0.02mg/mLのEDTAを更に含み、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5である、請求項1‐11の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項13】
保存後に、例えば2‐8℃で少なくとも24ヶ月保存した後に、又は室温で少なくとも3ヶ月保存した後に、又は40℃±2℃で1ヶ月保存した後に、安定的であり、好ましくは、以下の:(i)SEC‐HPLC法により測定した結果、製剤は、90%より大きい純度を有し、好ましくは95%、96%、97%、98%、又は99%より大きい純度を有する、という特徴と、(ii)還元型又は非還元型CE‐SDS法により測定した結果、製剤は、85%より大きい純度を有し、好ましくは86%、87%、88%、89%、90%、91%、又は92%より大きい純度を有する、という特徴と、(iii )iCIEF法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の各成分(主成分、酸性成分及び塩基性成分)の変化値の合計は、50%以下であり、例えば、48%、46%、44%、42%、又は40%以下である、という特徴と、(iv)CEX‐HPLC法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の各成分(主成分、酸性成分及び塩基性成分)の変化値の合計は、40%以下であり、例えば、38%、36%、34%、32%、又は30%以下である、という特徴と、(v)ELISA法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の相対結合活性は、70%‐130%であり、例えば、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%である、という特徴の1つ又は複数を有する、請求項1‐12の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項14】
請求項1‐13の何れか1項に記載の液体抗体製剤を固化させることで得られ、例えば、注射用の凍結乾燥粉末の形態である、固体抗体製剤。
【請求項15】
請求項1-13の何れか1項に記載の液体抗体製剤、又は請求項14に記載の固体抗体製剤を含む送達装置。
【請求項16】
請求項1-13の何れか1項に記載の液体抗体製剤、又は請求項14に記載の固体抗体製剤を含み、静脈内注射又は筋肉内注射に使用される薬剤充填済み注射器。
【請求項17】
SIRPα/CD47シグナル伝達経路及びPD1/PD‐L1シグナル伝達経路に関連する病的状態を治療、予防又は緩和するための医薬の製造のための請求項1‐13の何れか1項に記載の液体抗体製剤又は請求項14に記載の固体抗体製剤の使用であって、前記病的状態は、例えば、様々な固形腫瘍及び血液疾患(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄瘤、例えば、多発性骨髄腫)、自己免疫疾患、急性及び慢性炎症性疾患、感染性疾患及び転移性病巣である前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体製剤分野に関する。具体的には、本発明は、組換え抗表面抗原分類47(CD47)及び抗プログラム細胞死リガンド1(PD‐L1)二重特異性抗体(抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体とも呼ばれる)を含む医薬製剤、特に安定的な高濃度抗体液体製剤、前記医薬製剤の調製方法、並びに治療及び/又は予防における前記医薬製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
PD‐L1(表面抗原分類274(CD274)又はB7ホモログ1(B7‐H1)とも呼ばれる)は、40kDaのI型膜貫通タンパク質である。PD‐L1は、活性化したT細胞に存在するその受容体PD‐1と結合して、T細胞の活性化をダウンレギュレートする(Latchman etal.,2001 Nat Immunol 2:261‐8;Carter et al.,2002 Eur J Immunol 32:634‐43)。ヒト肺がん、卵巣がん、結腸がん、多数の骨髄腫など、多くのがんでPD‐L1発現が認められ、しかもPD‐L1発現はがんの予後不良に関係する場合が多い(Iwai et al.(2002) PNAS 99:12293‐7;Ohigashi et al.,(2005)Clin Cancer Res 11:2947‐53;Okazaki et al.,(2007)Intern.Immun. 19:813‐24;Thompson et al.,(2006)Cancer Res. 66:3381‐5)。PD1とPD‐L1の局所的相互作用を抑制することによって一部の腫瘍患者において免疫抑制を逆転することが提案されている。エフ・ホフマン・ラ・ロシュ(Roche)社によって研究・開発された抗PD‐L1抗体Atezolizumab、独メルク社(Merck KGaA)及び米ファイザー社(Pfizer)が共同で開発した抗PD‐L1抗体Avelumab、アストラゼネカ社によって研究・開発されたDurvalumabは一部の腫瘍患者に治療効果を表している。他の抗PD‐L1抗体は、YW243.55.S70(重鎖及び軽鎖の可変領域は、WO2010/077634に記載の配列番号20及び21で表されている)及びWO2007/005874に開示されている抗PD‐L1抗体などを含む。
【0003】
表面抗原分類47(CD47)はインテグリン関連タンパク質(IAP)とも呼ばれ、免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーである。CD47は、主にマクロファージ及び樹状細胞が発現させた、そのリガンドとしての細胞表面免疫グロブリンSIRPαと互いに作用して、一連のカスケード反応を産生し、それにより、CD47を発現させた細胞に対するマクロファージ及び樹状細胞の取り込み及び貪食作用が抑制される。腫瘍ではCD47の過剰発現が観察された。ところが、CD47が多数の正常な組織でも発現されるため、CD47だけを標的とする抗体は、通常、正常な血液系における細胞に非特異的に結合されて、抗原シンク(antigen sink)の現象をもたらす。
【0004】
抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体は、CD47及び腫瘍細胞上のPD‐L1を同時に標的とし、腫瘍細胞上のPD‐L1との特異的結合により、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体の、腫瘍細胞に対する選択的結合が促進され、多数の正常な組織で発現させたCD47との結合が回避されるため、抗腫瘍作用を強化すると共に副作用を減少させる優位性を有する。
【0005】
PCT/CN2018/123886のPCT特許出願(出願日:2018年12月26日)には、新規抗体形態が開示されると共に、前記新規抗体形態を有する抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体が構築・発現された。Raji‐PD‐L1細胞をNOD‐SCIDマウスに接種することで作成された担腫瘍マウスに抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を投与した結果によれば、抗CD47モノクローナル抗体及び抗PD‐L1モノクローナル抗体を投与した場合と比較すれば、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を投与した場合は、明らかに向上された抗腫瘍活性を有し、腫瘍の成長を明らかに抑制し、更に腫瘍を完全に消すことができる。また、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体は明らかに低減した血細胞凝集作用を示したため、臨床治療において明らかに低減した副作用を有する。本分野では、SIRPα/CD47シグナル伝達経路及びPD1/PD‐L1シグナル伝達経路に関連する様々な疾患を治療、予防又は緩和できる抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤が必要とする。
【0006】
抗体製剤は抗体が対象に対する投与に適用できる方法で調製するだけでなく、その安定性が保存及びその後の使用期間で維持できる方法で調製する必要がある。例えば、抗体が液体において適切に調製されていない場合、当該抗体は液体溶液において分解、凝集又は予期せぬ化学修飾などが生じる傾向がある。抗体製剤における抗体の安定性は、製剤に使用される緩衝剤、安定剤及び界面活性剤などによって決定される。
【0007】
本分野では、幾つかの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体が知られているにも関わらず、対象に対する投与に適用できる十分に安定的な抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を含む新規医薬製剤について依然として必要とされる。従って、疾患を治療又は予防するために、適切な抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤が必要とされる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、CD47及びPD‐L1と特異的に結合する抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を含む医薬製剤を提供することで、上記の要件を満たす。
【0009】
一態様において、本発明は、(i)抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、(ii)緩衝剤と、(iii )安定剤と、(iv)界面活性剤と、を含む液体抗体製剤を提供する。
【0010】
本発明の抗体製剤に含まれる抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は三本鎖抗体であり、前記三本鎖抗体が、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対を第1抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、PD-L1と特異的に結合する第1VHH及び第2VHHを、単一ドメイン第2抗原結合部位及び単一ドメイン第3抗原結合部位としてそれぞれ含み、或いは第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合するVH/VL対を第1抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合する第1VHH及び第2VHHを、単一ドメイン第2抗原結合部位及び単一ドメイン第3抗原結合部位としてそれぞれ含む。幾つかの実施形態において、前記抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、少なくとも約107‐1、好ましくは約108‐1、より好ましくは約109‐1又はそれよりも高い親和力定数で、腫瘍細胞表面のCD47と結合することで、CD47とマクロファージ表面のSIRPαとの結合を遮断して、腫瘍組織浸潤領域のマクロファージによる腫瘍細胞への貪食作用を促進することができ、更に、少なくとも約107‐1、好ましくは約108‐1、より好ましくは約109‐1又はそれよりも高い親和力定数で腫瘍細胞表面のPD‐L1と結合することで、T細胞におけるPD‐1と腫瘍細胞表面のPD‐L1との結合を抑制して、T細胞の活性化を誘導して抗腫瘍作用を発揮させることができる。
【0011】
一実施形態において、前記抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、PCT/CN2018/123886のPCT特許出願(出願日:2018年12月26日)により開示された組換え抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質である。本願の目的のために、当該PCT特許出願の全内容がここに参考として本明細書に組み込まれる。一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は三本鎖抗体であり、前記三本鎖抗体が、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対を第1抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する第1VHHを単一ドメイン第2抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する第2VHHを単一ドメイン第3抗原結合部位として含むものであって、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対が第1抗原結合部位として、抗CD47抗体ADI‐29341に由来するGSIEHYYWS(配列番号3)に示されるVH CDR1、YIYYSGSTNYNPSLKS(配列番号4)に示されるVH CDR2、ARGKTGSAA(配列番号5)に示されるVH CDR3、RASQGISRWLA(配列番号10)に示されるVL CDR1、AASSLQS(配列番号11)に示されるVL CDR2及びQQTVSFPIT(配列番号12)に示されるVL CDR3、又は前記6個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含み、前記第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する単一ドメイン第2抗原結合部位及び単一ドメイン第3抗原結合部位が共にAYTISRNSMG(配列番号17)に示されるCDR1、IESDGST(配列番号18)に示されるCDR2及びAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNY(配列番号19)に示されるCDR3、又は前記3個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含む。 一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の、前記第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対が第1抗原結合部位として、抗CD47抗体ADI‐29341に由来する配列番号2/9の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を有する配列を含み、そして前記第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する単一ドメイン第2抗原結合部位及び単一ドメイン第3抗原結合部位が共に配列番号15及び/又は配列番号16に示される配列、又はそれらと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列を含む(但し、QVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSIEHYYWSWIRQPPGKGLEWIGYIYYSGSTNYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARGKTGSAAWGQGTLVTVSS(配列番号2)、DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISRWLAWYQQKPGKAPKLLIYAASSLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQTVSFPITFGGGTKVEIK(配列番号9)、QVQLQESGGGSVQAGGSLRLSCQASAYTISRNSMGWFRQAPGKQREGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLGNAKNTLYLEMNSLKPEDTAMYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTQVTVSS(配列番号15)、QVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASAYTISRNSMGWFRQAPGKGLEGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLDNSKNTLYLEMNSLRAEDTAVYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTLVTVSS(配列番号16)である)。
【0012】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、配列番号1に示される第1ポリペプチド鎖、配列番号8に示される第2ポリペプチド鎖、及び配列番号14又は配列番号22に示される第3ポリペプチド鎖、或いは前記配列の何れかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列を含む(但し、QVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSIEHYYWSWIRQPPGKGLEWIGYIYYSGSTNYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARGKTGSAAWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCRDELTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号1)、DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISRWLAWYQQKPGKAPKLLIYAASSLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQTVSFPITFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号8)、QVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASAYTISRNSMGWFRQAPGKGLEGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLDNSKNTLYLEMNSLRAEDTAVYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSQVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASAYTISRNSMGWFRQAPGKGLEGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLDNSKNTLYLEMNSLRAEDTAVYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTLVTVSSDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSRDELTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号14)、QVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASAYTISRNSMGWFRQAPGKGLEGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLDNSKNTLYLEMNSLRAEDTAVYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTLVTVSSQVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASAYTISRNSMGWFRQAPGKGLEGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLDNSKNTLYLEMNSLRAEDTAVYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTLVTVSSDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSRDELTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号22)である)。
【0013】
一実施形態において、前記抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、HEK293細胞又はCHO細胞において組換え発現される抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質である。
【0014】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の濃度は、約1‐200mg/mLである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の濃度は、約5‐150mg/mLである。他の実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の濃度は、約5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140又は150mg/mLである。
【0015】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約1‐30mMである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約5‐25mMであり、例えば、約5、10、15、20、又は25mMである。
【0016】
一実施形態において、前記緩衝剤は、ヒスチジン、塩酸ヒスチジン及びこれらの組合せから選ばれる。
【0017】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における安定剤の濃度は、約50‐500mMである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における安定剤の濃度は、約100‐400mMであり、例えば、約100、150、200、250、300、350、400mMである。
【0018】
一実施形態において、前記安定剤は、ソルビトール、スクロース、トレハロース、アルギニン、塩酸アルギニン及びこれらの任意の組合せから選ばれ、そして好ましくはスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンである。一実施形態において、前記液体抗体製剤は、塩酸アルギニンを安定剤として含み、好ましくは塩酸アルギニンが約50‐250mM、好ましくは約100‐200mM(例えば、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200mM)の量で存在し、及び/又は前記液体抗体製剤は、スクロースを安定剤として含み、好ましくはスクロースが約50‐250mM、好ましくは約100‐200mM(例えば、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200mM)の量で存在する。
【0019】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤の濃度は、約0.1‐1mg/mLである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤の濃度は、約0.2‐0.8mg/mLであり、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8mg/mLである。
【0020】
一実施形態において、前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。一実施形態において、前記界面活性剤は、ポリソルベート界面活性剤から選ばれる。具体的な一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤は、ポリソルベート80である。
【0021】
幾つかの実施形態において、前記液体製剤は、金属キレート剤(例えば、EDTA)、例えば、約0.002‐0.2mg/mLの金属キレート剤(例えば、EDTA)を更に含む。一実施形態において、前記液体製剤は、約0.01‐0.1mg/mL、例えば、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.08、0.1mg/mLの金属キレート剤(例えば、EDTA)を更に含む。
【0022】
一実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約6.4‐7.0である。幾つかの実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約6.4‐7.0の任意値、例えば、約6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0である。
【0023】
一実施形態において、前記液体製剤は、医薬製剤であり、好ましくは注射剤であり、より好ましくは皮下注射剤又は静脈内注射剤である。一実施形態において、前記液体製剤は、静脈輸注剤である。
【0024】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、(i)約1‐200mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約1‐30mMのヒスチジン及び/又は塩酸ヒスチジンと、(iii )約50‐500mMのスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンと、(iv)約0.1‐1mg/mLのポリソルベート80と、を含み、任意に、前記液体製剤は、0.002‐0.2mg/mLの金属キレート剤(例えば、EDTA)を更に含むものであって、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5である。
【0025】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、(i)約50‐150mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約3‐25mMのヒスチジン及び/又は塩酸ヒスチジンと、(iii )約150‐300mMのスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンと、(iv)約0.2‐0.8mg/mLのポリソルベート80と、を含み、任意に、前記液体製剤は、約0.01‐0.1mg/mLの金属キレート剤(例えば、EDTA)を更に含むものであって、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5である。
【0026】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、(i)約100mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約20mMのヒスチジンと、(iii )約180mMの塩酸アルギニンと、(iv)約0.2mg/mLのポリソルベート80と、を含み、任意に、前記液体製剤は、金属キレート剤(例えば、EDTA)、例えば約0.02mg/mLのEDTAを更に含むものであって、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5である。
【0027】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、(i)約100mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約20mMのヒスチジンと、(iii )約100mMの塩酸アルギニン及び4%のスクロースと、(iv)約0.2mg/mLのポリソルベート80と、を含み、任意に、前記液体製剤は、金属キレート剤(例えば、EDTA)、例えば約0.02mg/mLのEDTAを更に含むものであって、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5である。
【0028】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、(i)約100mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、 (ii)約2.52mg/mLのヒスチジン及び約0.79mg/mLの塩酸ヒスチジンと、(iii )約37.92mg/mLの塩酸アルギニンと、(iv)約0.5mg/mLのポリソルベート80と、を含み、 任意に、前記液体製剤は、金属キレート剤(例えば、EDTA)、例えば約0.02mg/mLのEDTAを更に含むものであって、前記液体製剤のpH値は約6.4‐7.0であり、好ましくは約6.5である。
【0029】
別の態様において、本発明は本発明の液体抗体製剤に対して固化処理を行うことで得られた固体抗体製剤を提供する。前記固化処理は、例えば、結晶法、噴霧乾燥法、冷凍乾燥法により実施された。好ましい一実施形態において、前記固体抗体製剤は、例えば、注射用の凍結乾燥粉末の形態である。固体抗体製剤が使用前に適切な溶媒に再構成されることで、本発明の再構成製剤が形成される。前記再構成製剤は本発明の液体抗体製剤でもある。一実施形態において、前記適切な溶媒は、注射用水、注射用有機溶媒(注射用油、エタノール、プロピレングリコールなど、又はこれらの組合せを含むが、これらに限定されない)から選ばれる。
【0030】
本発明の液体製剤は、例えば少なくとも24ヶ月又はそれ以上の期間で長期的且つ安定的に保存することができる。一実施形態において、本発明の液体製剤は、約‐80℃~約45℃、例えば、‐80℃、約‐30℃、約‐20℃、約0℃、約5℃、約25℃、約35℃、約38℃、約40℃、約42℃又は約45℃の条件で、少なくとも10日間、少なくとも20日間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも24ヶ月、少なくとも36ヶ月、又はそれ以上の期間で安定的に保存することができる。
【0031】
一実施形態において、本発明の液体製剤は少なくとも24ヶ月安定的に保存することができる。更に別の一実施形態において、本発明の液体製剤は少なくとも40℃で安定的である。更に別の一実施形態において、本発明の液体製剤は約2℃‐8℃で少なくとも12ヶ月、好ましくは少なくとも24ヶ月安定的に保持する。一実施形態において、本発明の液体製剤は室温又は例えば約25℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも6ヶ月安定的に保持する。更に別の一実施形態において、本発明の液体製剤は約40℃で少なくとも1ヶ月安定的に保持する。
【0032】
一実施形態において、製剤の外観、視認できる異物、タンパク質含有量、純度、及び/又は電荷変異体の変化を測定することで、保存後製剤の安定性を示すことができる。一実施形態において、高温苛酷試験で、例えば、40℃±2℃で少なくとも1週間、2週間又は好ましくは1ヶ月保存した後、或いは25℃±2℃で少なくとも1ヶ月又は2ヶ月保存した後に、本発明の液体製剤の安定性を測定することができる。
【0033】
一実施形態において、保存後に目視検査により本発明の液体製剤の安定性を確認した結果、本発明の液体製剤は外観上で澄明又は薄い乳白光を呈し、無色又は薄い黄色の液体であり、異物がない。一実施形態において、透明度測定器で目視検査により確認した結果、製剤には視認できる異物がない。一実施形態において、保存後にタンパク質含有量の変化を、例えば、紫外線分光光度(UV)法により測定することで、本発明の液体製剤の安定性を検査した結果、保存0日目の初期値に対するタンパク質含有量の変化率は、20%以下であり、好ましくは10%以下であり、例えば7~8%であり、好ましくは5%以下である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の濁度変化を、例えば、OD350nm法により測定することで、本発明の液体製剤の安定性を検査した結果、保存0日目の初期値に対する変化値は、0.04以下であり、より好ましくは0.03以下であり、より好ましくは0.02以下である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の純度変化を、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC‐HPLC)により測定することで、本発明の液体製剤の安定性を検査した結果、保存0日目の初期値に対する単量体純度の変化値は、10%以下であり、例えば、5%、4%、3%以下であり、例えば、1‐2%であり、好ましくは1%以下である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の純度変化を、非還元型及び/又は還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE‐SDS)法により測定することで、本発明の液体製剤の安定性を検査した結果、単量体純度の変化値の低下は、10%以下であり、例えば、9.5%、8.5%、7.5%、6.5%以下である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の安定性を画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)により測定した結果、保存0日目の初期値に対する抗体の電荷変異体(主成分、酸性成分及び塩基性成分)の変化値の合計は、50%以下であり、例えば、45%、40%、35%、30%、25%以下である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の安定性をカチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX‐HPLC法)により測定した結果、保存0日目の初期値に対する抗体の電荷変異体(主成分、酸性成分及び塩基性成分)の変化値の合計は、40%以下であり、例えば、38%、36%、34%、32%、30%以下である。
【0034】
一実施形態において、製剤は保存後に、例えば、2‐8℃で少なくとも24ヶ月保存した後に、又は室温で少なくとも3ヶ月保存した後に、又は40℃±2℃で1ヶ月保存した後に、安定的であり、好ましくは、以下の:(i)SEC‐HPLC法により測定した結果、製剤は、90%より大きい純度を有し、好ましくは95%、96%、97%、98%、又は99%より大きい純度を有する、という特徴と、(ii)還元型又は非還元型CE‐SDS法により測定した結果、製剤は、85%より大きい純度を有し、好ましくは86%、87%、88%、又は89%より大きい純度を有する、という特徴と、(iii )iCIEF法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の各成分(主成分、酸性成分及び塩基性成分)の変化値の合計は、50%以下であり、例えば、45%、40%、35%、30%、又は25%以下である、という特徴と、(iv)CEX‐HPLC法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の各成分(主成分、酸性成分及び塩基性成分)の変化値の合計は、40%以下であり、例えば、38%、36%、34%、32%、又は30%以下である、という特徴と、(v)ELISA法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の相対結合活性は、70%‐130%であり、例えば、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%である、という特徴の1つ又は複数を有する。
【0035】
一態様において、本発明は、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を含む送達装置を提供する。一実施形態において、本発明の送達装置は、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を含む薬剤充填済み注射器の形態で提供され、例えば、静脈内、皮下、皮内又は筋肉内注射、静脈内輸注に用いられる。
【0036】
更に別の態様において、本発明は、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を対象に投与する工程を含む、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を例えば哺乳類などの対象に送達する方法を提供する。前記送達は、例えば、薬剤充填済み注射器を利用する送達装置により実施される。
【0037】
更に別の態様において、本発明は、対象におけるSIRPα/CD47シグナル伝達経路及びPD1/PD‐L1シグナル伝達経路に関連する病的状態を治療、予防又は緩和するための送達装置(例えば、薬剤充填済み注射器)又は薬物の調製における、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤の使用を提供する。前記病的状態は、例えば、様々な血液疾患及び固形腫瘍であり、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、多発性骨髄腫(MM)、リンパ腫、乳がん、胃がん、肺がん、食道がん、腸がん、卵巣がん、子宮頸がん、腎臓がん、膵臓がん、膀胱がん、神経膠腫、黒色腫及びその他の固形腫瘍、例えば、アレルギー性喘息又は潰瘍性結腸炎などの自己免疫疾患及び炎症性疾患、非ヒト組織移植物(異種移植片)の拒絶を含む細胞又は組織又は器官移植物の拒絶を含むが、これらに制限されない。
【0038】
本発明の他の実施形態は後述する具体的な説明を参考にすることで明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
以下の図面を参照して閲覧すれば、次に詳細に説明される本発明の好ましい実施形態をよりよく理解できる。本発明を説明するために、図面に好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は図面に示される実施形態の特定の配置又は手段に制限されていないことは理解できる。
【0040】
図1】抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体の構造を例示するものであり、第1ポリペプチド鎖と第2ポリペプチド鎖がペアリングをして第1抗原結合部位を形成し、第3ポリペプチド鎖が単一ドメイン第2抗原結合部位と単一ドメイン第3抗原結合部位を含み、且つ第3ポリペプチド鎖の単一ドメイン第2抗原結合部位と単一ドメイン第3抗原結合部位との間に可動性リンカーがある。
図2】抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤をpH6.4、6.5、6.8、7.0及び40℃±2℃で異なる期間放置した後に、SEC‐HPLC法に測定した各試料におけるタンパク質純度のトレンド図を示す。図において、横軸におけるT0が0日間を、2Wが2週間を、1Mが1ヶ月を示す。
図3】抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤をpH6.4、6.5、6.8、7.0及び40℃±2℃で異なる期間放置した後に、非還元型CE‐SDS法により測定した各試料におけるタンパク質純度のトレンド図を示す。図において、横軸におけるT0が0日間を、2Wが2週間を、1Mが1ヶ月を示す。
図4】抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤をpH6.4、6.5、6.8、7.0及び40℃±2℃で異なる期間放置した後に、iCIEF法により測定した各試料における電荷変異体主成分のトレンド図をを示す。図において、横軸におけるT0が0日間を、2Wが2週間を、1Mが1ヶ月を示す。
図5】異なる安定剤を含む抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤(処方2‐5)を40℃±2℃で0日間、1週間、2週間及び4週間保存した後に、SEC‐HPLC法に測定したメインピーク純度の経時変化図を示す。図において、横軸におけるT0が0日間を、1Wが1週間を、2Wが2週間を、4Wが4週間を示す。
図6】異なる安定剤を含む抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤(処方2‐5)を40℃±2℃で0日間、1週間、2週間及び4週間保存した場合に、非還元型CE‐SDS法により測定したメインピーク純度の経時変化図を示す。図において、横軸におけるT0が0日間を、1Wが1週間を、2Wが2週間を、4Wが4週間を示す。
図7】異なる安定剤を含む抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤(処方2‐5)を40℃±2℃で0日間、1週間、2週間及び4週間保存した場合に、iCIEF法により測定した電荷変異体主成分の経時変化図を示す。図において、横軸におけるT0が0日間を、1Wが1週間を、2Wが2週間を、4Wが4週間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は本明細書における特定方法及び実験条件が変更可能であるため、これらの方法及び条件に限定されるものではない。本発明の詳細な説明を行う前に、上記のことについて理解すべきである。なお、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定を加えるものではない。
【0042】
定義別に定義しない限り、本願に用いられる全ての技術と科学用語は何れも、当業者が通常に理解する意味と同じ意味を有する。本発明の目的のために、下記の用語を定義する。
【0043】
用語「約」は数値と共に使用される時、下限として記載数値より5%小さく上限として記載数値より5%大きい範囲における数値を含むことを意味する。
【0044】
用語「及び/又は」が2つ又は複数の選択可能オプションを接続するために用いられる時、選択可能オプションの何れか1項又は選択可能オプションの何れか2項又は複数項を指すと理解すべきである。
【0045】
本願に使用される場合、用語「包含する」又は「含む」とは、前記要素、整数又は工程を含むが、他の要素、整数又は工程を排除しないことを意味する。本願において、用語「包含する」又は「含む」を用いる場合、特記しない限り、述べられた要素、整数又は工程からなる場合を含む必要がある。例えば、ある具体的な配列の抗体可変領域を「包含する」ことを言及する場合、当該配列からなる抗体可変領域を含むことを指す。
【0046】
本願において、用語「抗体」は、最も広い意味で使用されており、抗原結合部位を含むタンパク質を意味し、様々な構造の天然抗体及び人工抗体を含み、三本鎖抗体、完全抗体及び抗体の抗原結合断片を含むが、これらに制限されない。
【0047】
用語「全抗体」、「全長抗体」、「完全抗体」及び「完全な抗体」の何れも、本出願において、ジスルフィド結合を介して互いに接続される少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)を含む糖タンパク質を交換可能に指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)と重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。VH領域及びVL領域は、更に分けられると、超可変領域(相補性決定領域(CDR)と、その間に挿入されているより保存的な領域(フレームワーク領域(FR))がある。VH及びVLのそれぞれは、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシル末端までは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配列される。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接関与しないが、様々なエフェクター機能を示している。
【0048】
用語「抗体製剤」は、活性成分として使える抗体の生物学的活性が効果的に発揮できる形態であると共に、当該製剤の投与を受ける対象にとって許容されない毒性を有するその他の成分を含まない調製物を指す。これらの抗体製剤は一般的に無菌のものである。抗体製剤は一般的に薬用賦形剤を含む。「薬用」賦形剤は、製剤に使用される活性成分が有効投与量で対象に送達されるように、対象哺乳類に適切に投与できる試薬である。賦形剤の濃度は投与方式に適用できるものであり、例えば、注射に許容されるものである。
【0049】
用語「抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤」は、本明細書で「本発明の抗体製剤」とも略称され、活性成分とする抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と薬用賦形剤とを含む調製物を指す。抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と薬用賦形剤を組合せた後、活性成分とする抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質はヒト又は非ヒト動物に対する治療用又は予防用投与に適する。本発明の抗体製剤は、例えば即席タイプ薬剤充填済み注射器などの水性形態の液体製剤として調製してもよく、或いは使用直前に生理的に許容される溶液に溶解及び/又は懸濁させることで再構成(即ち、再溶解)された凍結乾燥製剤として調製してもよい。幾つかの実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質製剤は液体製剤形態である。
【0050】
「安定的な」抗体製剤は、製剤における抗体が一定条件で保存した後に許容される程度の物理的安定性及び/又は化学的安定性を保持する抗体製剤を指す。一定時間で保存した後に抗体製剤に含まれる抗体の化学構造が100%維持できなくても、一般的に一定時間で保存した後に抗体構造又は機能が約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%維持できれば、抗体製剤が「安定的」であると考えられる。幾つかの具体的な実施形態において、本発明の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質製剤は製造、調製、輸送及び長期保存の段階で測定できないほどの低い抗体の凝集、分解又は化学修飾を示し、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の生物学的活性の損失が僅か又はないほどの高度安定性を示している。幾つかの実施形態において、本発明の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質製剤は、保存後にその物理的及び化学的安定性を実質的に保持している。好ましくは、本発明の液体製剤は室温又は40℃で少なくとも1ヶ月、及び/又は2‐8℃で少なくとも24ヶ月安定的に保持することができる。
【0051】
本分野では複数の解析技術がタンパク質安定性の測定に利用できることが知られている。例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247‐301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs (1991) and Jones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29‐90 (1993)を参照する。選定された温度及び選定された保存時間で安定性を測定できる。例えば、予期する製剤棚期間によって保存時間を選択できる。必要に応じて、加速安定性試験を採用できる。幾つかの実施形態において、抗体製剤に対して様々な苛酷試験を実施することで安定性を測定する。これらの試験は、調製された抗体製剤の製造、保存又は輸送期間で遭遇可能な苛酷条件、或いは製造、保存又は輸送以外の期間で抗体製剤における抗体の不安定性を加速させる条件を示している。例えば、調製された抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質製剤をガラス瓶に充填して、高温苛酷における抗体安定性を測定することができる。
【0052】
一定時間保存した後に、製剤が凝集、沈殿、混濁及び/又は変性を示さず、或いは非常に少ない凝集、沈殿、混濁及び/又は変性を示すのであれば、製剤における抗体が「その物理的安定性を保持している」と考えられる。製剤における抗体の凝集によって患者の免疫反応を潜在的に増加させるため、安全性の問題が引き起こされる。従って、製剤における抗体の凝集を最小化にする、又は凝集を防止する必要がある。光散乱法は製剤における視認できる凝集物の測定に使用できる。SECは製剤における可溶性凝集物の測定に使用できる。また、目視検査により製剤の外観、色及び/又は清澄度を確認、OD350nm法により製剤の濁度を測定、或いは非還元型CE‐SDS法により製剤の純度を測定することで、製剤の安定性を示すことができる。一実施形態において、一定温度で一定時間保存した後に製剤における抗体単量体のパーセンテージを測定することで、製剤の安定性を測定し、製剤における抗体単量体のパーセンテージが大きくなれば、製剤の安定性が高くなる。
【0053】
「許容される程度の」物理的安定性は、一定温度で一定時間保存した後に少なくとも約92%の製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質単量体が測定できることを示す。幾つかの実施形態において、一定温度で少なくとも2週間、少なくとも28日間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも24ヶ月又はそれ以上の期間保存した後に、許容される程度の物理的安定性は、少なくとも約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質単量体として示される。物理的安定性を評価する際に、医薬製剤を保存するための一定温度は約‐80℃~約45℃の任意温度であってもよく、例えば、約‐80℃、約‐30℃、約‐20℃、約0℃、約4℃‐8℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃、約40℃、約42℃又は約45℃で保存する。例えば、約40℃±2℃で1ヶ月又は4週間保存した後に、少なくとも約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質単量体が測定できれば、医薬製剤が安定的であると考えられる。約25℃で2ヶ月保存した後に、少なくとも約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質単量体が測定できれば、医薬製剤が安定的であると考えられる。約5℃で9ヶ月保存した後に、少なくとも約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質単量体が測定できれば、医薬製剤が安定的であると考えられる。
【0054】
一定時間保存した後に、製剤における抗体が明らかな化学的変化を示さないのであれば、製剤における抗体が「その化学的安定性を保持している」と考えられる。ほとんどの化学的不安定性は抗体が形成された共有結合修飾形態(例えば、抗体の電荷変異体)に由来する。例えば、アスパラギン酸異性化、N及びC末端修飾により塩基性変異体が形成され、脱アミド化、シアル酸化及び糖化により酸性変異体が形成される。化学的安定性は抗体の化学的変化形態を測定及び/又は定量的にすることで評価される。例えば、カチオン交換クロマトグラフィー(CEX)又は画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)により製剤における抗体の電荷変異体を測定することができる。一実施形態において、一定温度で一定時間保存した後に製剤における抗体の電荷変異体パーセンテージ変化値を測定することで、製剤の安定性を測定し、当該変化値が小さくなれば、製剤の安定性が高くなる。
【0055】
「許容される程度」の化学的安定性は、一定温度で一定時間保存した後に製剤における電荷変異体(例えば、主成分、酸性成分又は塩基性成分)のパーセンテージ変化値が30%以下であり、例えば20%であることを示す。幾つかの実施形態において、一定温度で少なくとも2週間、少なくとも28日間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも24ヶ月又はそれ以上の期間保存した後に、許容される程度の化学的安定性は、酸性成分電荷変異体のパーセンテージ変化値が約25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、又は1%以下であることとして示される。化学的安定性を評価する際に、医薬製剤を保存するための温度は約‐80℃~約45℃の任意温度であってもよく、例えば、約‐80℃、約‐30℃、約‐20℃、約0℃、約4℃‐8℃、約5℃、約25℃又は約45℃で保存する。例えば、5℃で24ヶ月保存した後に、酸性成分電荷変異体のパーセンテージ変化値が約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%より少なければ、医薬製剤が安定的であると考えられる。25℃で2ヶ月保存した後に、酸性成分電荷変異体のパーセンテージ変化値が約20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%より少なければ、医薬製剤が安定的であるとも考えられる。40℃で1ヶ月保存した後に、酸性成分電荷変異体のパーセンテージ変化値が約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%より少なければ、医薬製剤が安定的であるとも考えられる。
【0056】
用語「凍結乾燥製剤」は、液体製剤の冷凍乾燥処理により得られた又は得られる可能性のある組成物を指す。好ましくは、水含有量が5%より少ない、好適的には3%より少ない固体組成物である。
【0057】
用語「再構成製剤」は、固体製剤(例えば、凍結乾燥製剤)を生理的に許容される溶液に溶解及び/又は懸濁させることで得られた液体製剤を指す。
【0058】
明細書で使用される用語「室温」は15℃~30℃の温度を指し、好ましくは20℃~27℃の温度であり、より好ましくは25℃の温度である。
【0059】
「苛酷条件」は化学的及び/又は物理的に抗体タンパク質にとって不利な環境を指し、前記環境により許容されない抗体タンパク質の安定喪失が発生される。「高温苛酷」は抗体製剤を室温又は更に高い温度(例えば40℃±2℃)で一定時間保存することを指す。高温苛酷加速試験により抗体製剤の安定性を測定することができる。
【0060】
本明細書で使用される用語「非経口投与」は経腸投与及び局所投与以外の投与方式を指し、一般的に注射又は輸注による方式であり、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心筋内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下(subcuticular)、関節内、嚢下、クモ膜下、脊椎内、硬膜外、胸骨内の注射及び輸注を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、本発明の安定的な抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質製剤が対象に非経口投与される。一実施形態において、本発明の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質製剤が皮下、皮内、筋肉内又は静脈内注射方式により対象に投与される。
【0061】
I.抗体製剤本発明は、(i)抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質と、(ii)緩衝剤と、(iii )安定剤と、(iv)界面活性剤と、を含み、任意に、(v)その他の賦形剤を更に含み、pH値が約6.4‐7.0である安定的な液体抗体製剤を提供する。好ましい一形態において、本発明の液体抗体製剤は注射製剤形態である。
【0062】
(i)抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質本発明の抗体製剤における「抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質」は三本鎖抗体であり、前記三本鎖抗体が、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対を第1抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する第1VHHを単一ドメイン第2抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖におけるPD‐L1と特異的に結合する第2VHHを単一ドメイン第3抗原結合部位として含み、或いは、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合するVH/VL対を第1抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合する第1VHHを単一ドメイン第2抗原結合部位として、第3ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合する第2VHHを単一ドメイン第3抗原結合部位として含む。前記抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、少なくとも約107‐1、好ましくは約108‐1、より好ましくは約109‐1又はそれよりも高い親和力定数で、CD47と結合すると共に、少なくとも約107‐1、好ましくは約108‐1、より好ましくは約109‐1又はそれよりも高い親和力定数で、PD‐L1と結合することで、前記抗体が、CD47分子及びPD‐L1分子を二重特異性標的とする治療剤及び/又は予防剤として使用できる。
【0063】
前記PD‐L1又はCD47と特異的に結合するVH/VL対に関しては、従来技術で報告されていた任意の抗PD‐L1抗体及び将来研究・開発される抗PD‐L1抗体のVH/VL対に由来する6個のCDR又は前記6個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含み、或いは、従来技術で報告されていた任意の抗CD47抗体及び将来研究・開発される抗CD47抗体のVH/VL対に由来する6個のCDR又は前記6個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含む。
【0064】
前記PD‐L1又はCD47と特異的に結合する第1VHH及び第2VHHに関しては、共に天然の軽鎖欠如抗体の重鎖可変ドメイン(例えばラクダ科(Camelidae)物種に天然に存在する重鎖抗体の重鎖可変ドメイン)に由来する。第1VHH及び第2VHHは同じもの又は異なるものであってもよい。前記第1VHH及び第2VHHは、ラクダ科の種(例えばラクダ、アルパカ、ヒトコブラクダ、リャマ、グアナコ)で産生される抗体から由来してもよい。ラクダ科以外の種も天然の軽鎖欠如重鎖抗体を産生できるが、このようなVHHも本発明の抗体タンパク質の範囲内である。前記第1VHH及び第2VHHは、従来技術で報告されていた任意の抗PD‐L1抗体及び将来研究・開発される抗PD‐L1抗体のVHHに由来する3個のCDR又は前記3個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含み、或いは、従来技術で報告されていた任意の抗CD47抗体及び将来研究・開発される抗CD47抗体のVHHに由来する3個のCDR又は前記3個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含む。 一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の、前記第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対が、中国特許出願番号CN201710759828.9で報告されていた抗CD47抗体ADI‐29341に由来するGSIEHYYWS(配列番号3)に示されるVH CDR1、YIYYSGSTNYNPSLKS(配列番号4)に示されるVH CDR2、ARGKTGSAA(配列番号5)に示されるVH CDR3、RASQGISRWLA(配列番号10)に示されるVL CDR1、AASSLQS(配列番号11)に示されるVL CDR2及びQQTVSFPIT(配列番号12)に示されるVL CDR3、又は前記6個CDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含む。
【0065】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の、前記第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する第1VHH及び第2VHHが共にAYTISRNSMG(配列番号17)に示されるCDR1、IESDGST(配列番号18)に示されるCDR2及びAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNY(配列番号19)に示されるCDR3、又は前記3個のCDRのうちの1個以上のCDRに対して1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)を有する配列を含む。
【0066】
用語「CDR」又は「相補性決定領域」又は「CDR領域」(本明細書において超可変領域「HVR」と切り替えて使用する)は、抗体可変領域において主に抗原エピトープと結合することを担当するアミノ酸領域である。重鎖と軽鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2とCDR3と呼ばれ、N‐末端から順に番号付ける。既定のVH又はVL又はVHHアミノ酸配列にそのCDR配列を定めるための複数の方案が本分野では周知される。例えば、Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列変異性に基づいて定められるものであると共に、最もよく用いられるものである(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。Chothiaは構造リングの位置を指す(ChothiaとLesk、J.Mol.Biol.196:901‐917(1987))。AbM HVRは、Kabat HVRとChothia構造リングとの間の折衷であり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用される。「接触性」(Contact)HVRが、取得可能な複雑な結晶構造の分析に基づいたものである。HVRは、参照CDR配列(例えば、本明細書により開示された例示的なCDR)と同じKabat番号付け位置を有することに基づいて定めることができる。
【0067】
前記アミノ酸変異、例えば、アミノ酸置換は、好ましくは保守的なアミノ酸置換である。「保守的なアミノ酸置換」は、あるアミノ酸を化学的に類似なアミノ酸に置換することを引き起こすアミノ酸変化を指す。機能的に類似するアミノ酸の保存的置換表は、本分野で公知の内容として提供される。本発明の何れか1つの実施形態において、好ましい一態様において、保守的な置換残基は、以下の保守的な置換表Aに由来し、好ましくは表Aに示される好ましい置換残基である。
【0068】
【表1-1】
【0069】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の、前記第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖における、CD47と特異的に結合するVH/VL対は、抗CD47抗体ADI‐29341に由来する配列番号2/9の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を有する配列を含む。
【0070】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の、前記第3ポリペプチド鎖における、PD‐L1と特異的に結合する第1VHH及び第2VHHは、配列番号15及び/又は配列番号16に示される配列、又はこれら配列と実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列を含む。
【0071】
抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖における免疫グロブリンの重鎖定常領域のタイプについては特に制限がなく、好ましくはIgG1、IgG2又はIgG4免疫グロブリンの重鎖定常領域、又はこの領域と実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列である。より好ましくは、前記重鎖定常領域は、ヒトIgG1免疫グロブリンの重鎖定常領域、又はこの領域と実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列である。
【0072】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、IgG4(例えば、ヒトIgG4)に使用される重鎖定常領域を含む。別の実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、IgG1(例えば、ヒトIgG1)に使用される重鎖定常領域を含む。例えば、三本鎖抗体の第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖のFcドメインには、それぞれ「CPPC」アミノ酸残基を有するヒンジ領域、及び/又はそれぞれY349CとS354Cを含み(Kabatの「EU番号」に従う)、それによって、第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖は、Fc領域で鎖間ジスルフィド結合を形成することで、第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖との正確なペアリングを安定化させる。
【0073】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の第1ポリペプチド鎖及び/又は第3ポリペプチド鎖は、Fcドメインにおいて抗体エフェクター機能に影響を与えるアミノ酸変異を含む。具体的な一実施形態において、前記エフェクター機能は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)である。一実施形態において、前記アミノ酸変異は、Fc領域のCH2ドメインに存在し、例えば、前記抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、第1ポリペプチド鎖及び/又は第3ポリペプチド鎖の第234位及び第235位(EU番号)におけるアミノ酸置換を含む。具体的な一実施形態において、前記アミノ酸置換は、L234A及びL235Aである(以下、「LALA変異」という)。
【0074】
別の実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の第2ポリペプチド鎖は、κ軽鎖定常領域又はλ軽鎖定常領域、例えば、ヒトκ軽鎖定常領域又はヒトλ軽鎖定常領域を含む。
【0075】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖のそれぞれのFcドメインには、突起(「ノブ(knob)」)又は空洞(「ホール(hole)」)を含み、且つ第1ポリペプチド鎖のFcドメインにおける前記突起又は空洞は、それぞれ第3ポリペプチド鎖のFcドメインにおける前記空洞又は突起に置いてもよく、それによって、前記第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖は、互いに「ノブ‐イン‐ホール(knob‐in‐hole)」のように安定的に会合する。一実施形態において、前記第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖のうち、一方の鎖には、アミノ酸置換T366Wを含み、且つ前記第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖のうち、他方の鎖には、アミノ酸置換T366S、L368A及びY407V(EU番号)を含む。それによって、一方の鎖の突起を他方の鎖の空洞に置くことで、第1ポリペプチド鎖と第3ポリペプチド鎖が正確にペアリングをすることができる。
【0076】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の第1ポリペプチド鎖と第2ポリペプチド鎖の免疫グロブリンCH1ドメイン及びCLドメインのそれぞれには、突起又は空洞を含み、且つCH1ドメインの前記突起又は空洞をそれぞれCLドメインの前記空洞又は突起に置くことができるため、前記第1ポリペプチド鎖と第2ポリペプチド鎖も互いに「ノブ‐イン‐ホール」のように安定的に会合する。
【0077】
一実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、配列番号1に示される第1ポリペプチド鎖、配列番号8に示される第2ポリペプチド鎖、及び配列番号14に示される第3ポリペプチド鎖、又は前記配列の何れかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列を含む。
【0078】
別の実施形態において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、配列番号1に示される第1ポリペプチド鎖、配列番号8に示される第2ポリペプチド鎖、及び配列番号22に示される第3ポリペプチド鎖、又は前記配列の何れかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一)である配列を含む。
【0079】
本明細書において、「配列同一性」は、比較ウィンドウでヌクレオチド又はアミノ酸を1つずつ比較してその配列が同じであることの割合を指す。以下の方式によって「配列同一性パーセント」を計算することができ、2本の最適に照合する配列を比較ウィンドウで比較して、マーチング位置の数を得るように2本の配列における同じ核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)又は同じアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysとMet)の存在する位置の数を確定して、マーチング位置の数を比較ウィンドウにおける総位置数(即ち、ウィンドウの大きさ)で割り、その結果を100に乗じて、配列同一性パーセントを生成する。配列同一性パーセントを確定するための最適な照合は、例えば、BLAST、BLAST‐2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公開されているパソコンソフトウェアを使用するように本分野に既知の様々な方式に従って実現することができる。当業者は、比較している全長配列範囲内又は目標配列領域内の最大の照合に必要とする如何なるアルゴリズムを含む配列を照合するための適切なパラメータを確定することができる。
【0080】
本発明の抗体製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、PD‐L1及びCD47タンパク質と同時に結合でき、且つ各親抗体の親和力定数を維持することから、SIRPα/CD47シグナル伝達経路及びPD1/PD‐L1シグナル伝達経路を遮断できるため、SIRPα/CD47シグナル伝達経路及び/又はPD1/PD‐L1シグナル伝達経路に関連する様々な疾患又は病的状態を治療、予防又は緩和するために利用される。
【0081】
好ましい一実施形態において、本発明の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、PCT/CN2018/123886のPCT特許出願(出願日:2018年12月26日)により開示された組換え抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質であり、配列番号1に示される第1ポリペプチド鎖、配列番号8に示される第2ポリペプチド鎖、及び配列番号14に示される第3ポリペプチド鎖を有する。一実施形態において、当該抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、HEK293細胞又はCHO細胞の組換え発現により産生されて、更に精製される。好ましくは、本発明の液体製剤における前記抗体は明らかな抗腫瘍活性を示している。Raji‐PD‐L1細胞をNOD‐SCIDマウスに接種することで作成された担腫瘍マウスに抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を投与した結果によれば、抗CD47モノクローナル抗体及び抗PD‐L1モノクローナル抗体を投与した場合と比較すれば、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を投与した場合は、明らかに向上された抗腫瘍活性を有し、腫瘍成長阻害率が約90%又はそれ以上、例えば100%であり、及び/又は腫瘍消去比率が50%以上である。また、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体は明らかに低減した血細胞凝集作用を示したため、臨床治療において明らかに低減した副作用を有する。
【0082】
本発明の抗体製剤に含まれる抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の量は、製剤の特定目的特性、特定環境、及び使用製剤の特定目的によって変更する。幾つかの実施形態において、抗体製剤は液体製剤であり、約5‐150mg/mL、例えば、約5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140又は150mg/mLの抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を含んでもよい。
【0083】
(ii)緩衝剤緩衝剤は溶液のpH値を許容される範囲に維持することができる試薬である。幾つかの実施形態において、本発明の製剤に使用される緩衝剤は、本発明の製剤のpH値を約6.4‐7.0のpH値範囲、例えば、約6.5のpH値に制御することができる。幾つかの具体的な実施形態において、本発明の抗体製剤は、約6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0のpH値である。
【0084】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤に使用される緩衝剤は、ヒスチジン、塩酸ヒスチジン及びこれらの組合せから選ばれる。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約1‐30mMである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約5‐25mMであり、例えば、約5、10、15、20、25mMである。
【0085】
一実施形態において、本発明の製剤に使用される緩衝剤は、約16.3mMのヒスチジンと約3.77mMの塩酸ヒスチジンとの組合せである。
【0086】
(iii )安定剤本発明に使用される適切な安定剤は糖、ポリオール、アミノ酸及びこれらの組合せから選ばれてもよい。安定剤とする糖はスクロース及びトレハロースを含むが、これらに限定されない。安定剤とするポリオールはソルビトールを含むが、これらに限定されない。安定剤とするアミノ酸はアルギニン、塩酸アルギニンを含むが、これらに制限されない。幾つかの実施形態において、前記安定剤は本発明の液体製剤において約50‐500mM、より好ましくは約100‐400mM、例えば、約100、150、200、250、300、350、400mMの濃度で存在する。
【0087】
一実施形態において、本発明の液体製剤は安定剤としてスクロースを含む。本発明の液体製剤におけるスクロースの量は約50‐250mM、好ましくは約100‐200mM(例えば、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200mM)であってもよい。
【0088】
一実施形態において、本発明の液体製剤は安定剤としてアルギニン及び/又は塩酸アルギニンを含む。本発明の液体製剤におけるアルギニン及び/又は塩酸アルギニンの量は約50‐250mM、好ましくは約100‐200mM(例えば、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200mM)であってもよい。
【0089】
一実施形態において、本発明の液体製剤は安定剤としてスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンの組合せを含む。当該組合せにおいて、スクロースは約50‐250mM、好ましくは約100‐200mM(例えば、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200mM)の量で存在してもよい。当該組合せにおいて、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンは約50‐250mM、好ましくは約100‐200mM(例えば、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200mM)の量で存在してもよい。
【0090】
(iv)界面活性剤本明細書で使用される用語「界面活性剤」は、両親媒性構造を有する有機物質を指し、即ち、これらが反対の溶解性傾向を持つ原子団からなり、一般的に油溶性の炭化水素鎖及び水溶性のイオン原子団である。
【0091】
一実施形態において、本発明の液体製剤における界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、例えば、アルキルポリ(オキシレン)である。本発明の製剤における特定の非イオン性界面活性剤は、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40などのポリソルベート、及びプルロニックなどを含む。好ましい一実施形態において、本発明の液体製剤は界面活性剤としてポリソルベート80を含む。
【0092】
本発明の抗体製剤に含まれる界面活性剤の量は製剤の特定目的特性、特定環境、及び使用製剤の特定目的によって変更する。幾つかの好ましい実施形態において、製剤は、約0.1‐1mg/mL、好ましくは約0.2‐0.8mg/mL、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8mg/mLのポリソルベート界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)を含んでもよい。
【0093】
(v)その他の賦形剤本発明の抗体液体製剤はその他の賦形剤を含む又は含まないのどちらでもよい。
【0094】
一実施形態において、本発明の抗体液体製剤は賦形剤として金属キレート剤(例えば、EDTA又はその塩)を含む。別の実施形態において、本発明の抗体液体製剤は金属キレート剤(例えば、EDTA又はその塩)を含まない。一実施形態において、金属キレート剤(例えば、EDTA又はその塩)を添加していない製剤と比較すれば、金属キレート剤(例えば、EDTA又はその塩)を添加した本発明の抗体液体製剤はより高い安定性を有する。
【0095】
その他の目的のために、本発明の製剤にその他の賦形剤を使用してもよい。前記賦形剤は、例えば、調味剤、抗微生物剤、甘味剤、静電気防止剤、酸化防止剤、ゼラチンなどを含む。これらの賦形剤、その他の既知の薬物賦形剤、及び/又は本発明の製剤に適用される添加剤は本分野で周知されるものであり、例えば、「The Handbook of Pharmaceutical Excipients,4th edition,edited by Rowe et al.,American Pharmaceuticals Association (2003)」、及び「Remington: the Science and Practice of Pharmacy,21th edition,edited by Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins (2005)」に挙げられたものである。
【0096】
II.製剤の調製本発明は抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を含む安定的な製剤を提供する。本発明の製剤に使用される抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、本分野における既知の抗体生産用技術により調製してもよい。例えば、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を組換えにより調製してもよい。好ましい一実施形態において、本発明の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質は、HEK293細胞又はCHO細胞において組換え発現されることにより調製され、例えば、PCT/CN2018/123886に記載されるように、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を組換えにより調製する。
【0097】
現在、抗体は薬物の活性成分として幅広く適用されている。治療性抗体を薬用レベルまで精製するための技術は本分野で周知されるものである。例えば、Tugcu et al.,(Maximizing productivity of chromatography steps for purification of monoclonal antibodies,Biotechnology and Bioengineering 99 (2008) 599‐613.)により、タンパク質A捕獲工程後にイオン交換クロマトグラフィー(アニオンIEX及び/又はカチオンCEXクロマトグラフィー)を利用する抗体3カラム精製法が記載されている。Kelley et al.,(Weak partitioning chromatography for anion exchange purification of monoclonal antibodies,Biotechnology and Bioengineering 101 (2008) 553‐566)により、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーの後に弱分配性アニオンで樹脂を交換する2カラム精製法が記載されている。
【0098】
一般的に、抗体製剤調製用として十分な繰返し性及び適切な純度を有する薬物物質を提供するために、組換えにより産生される抗体は通常の精製法により精製されてもよい。例えば、抗体が組換え発現細胞から培地に分泌された後に、例えばAmiconの限外濾過装置などのタンパク質濃縮濾過機の市販品により、当該発現系に由来する上清を濃縮させる。その後、例えば、クロマトグラフィー、透析、アフィニティー精製などの方法により抗体を精製してもよい。タンパク質AはアフィニティーリガンドとしてIgG1、IgG2及びIgG4型抗体の精製に適される。例えば、イオン交換クロマトグラフィーなどのその他の抗体精製法を使用してもよい。十分な純度の抗体を得た後に、本分野における既知の方法により抗体が含まれる製剤を調製してもよい。
【0099】
例えば、(1)発酵完了後に発酵液を清澄となるまで遠心分離し、細胞などの異物を除去して、上清を得る工程と、(2)アフィニティークロマトグラフィー(例えば、IgG1、IgG2及びIgG4型抗体に対して特異的な親和力を有するタンパク質Aカラム)により抗体を捕獲する工程と、(3)ウィルス不活性化を行う工程と、(4)(一般的にCEXカチオン交換クロマトグラフィーにより)精製して、タンパク質から異物を除去する工程と、(5)ウィルスを濾過する(ウイルス力価を例えば4log10以上低下させる)工程と、(6)(タンパク質をその安定性に繋がる製剤緩衝液に置換して注射用として適切な濃度に濃縮させるために)限外濾過/浸透濾過する工程と、により調製してもよい。例えば、B. Minow,P. Rogge,K. Thompson,BioProcess International,Vol. 10,No. 6,2012,pp. 48‐57を参照する。
【0100】
III .製剤の解析方法抗体製剤の保存段階において、抗体の凝集、分解又は化学修飾が発生することにより、抗体不均一性(サイズ不均一性及び電荷不均一性を含む)、凝集物及び断片などが発生するため、抗体製剤の品質に影響を与える。従って、抗体製剤の安定性を監視する必要がある。
【0101】
本分野では、抗体製剤の安定性を測定するための方法として複数あることが知られている。例えば、還元型CE‐SDS、非還元型CE‐SDS及びSEC‐HPLCなどの方法により、抗体製剤の純度解析及び抗体の凝集レベル評価を行うことができると共に、キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)、画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)などにより、抗体製剤における電荷変異体を解析することができる。また、目視検査により製剤の外観を確認することで、製剤の安定性を迅速に判断することができる。OD350nm法により製剤の濁度変化を測定することもできるが、当該方法は可溶性及び不溶性凝集物の量に関する情報を示すことができる。また、紫外線分光光度法(UV法)により製剤におけるタンパク質の含有量変化を測定することができる。
【0102】
非還元型CE‐SDS法はキャピラリーを分離通路とするモノクローナル抗体純度の測定法である。CE‐SDSにおいて、タンパク質の移行がSDS結合による表面電荷により駆動されるが、当該表面電荷とタンパク質の分子量とが正比例をなす。全てのSDS‐タンパク質複合物が似たような質量電荷比を有するため、キャピラリーのモレキュラーシーブゲルマトリックスにおいて、分子大きさ又は流体動力学半径に基づいて電気泳動分離が実現される。当該方法は変性された完全抗体の純度の監視に幅広く適用されている。一般的に、非還元型CE‐SDS法において、供試品とSDS試料緩衝液及びヨードアセトアミドとを混合させる。その後、混合物を68‐72℃で約10‐15分間インキュベートして室温まで冷却した後に、遠心分離して得られた上清を解析する。紫外線検出器によりタンパク質の移行を測定して、電気泳動図を得た。抗体製剤の純度は、全てのピーク面積の合計に占めるIgGメインピークのピーク面積のパーセンテージで算出できる。CE‐SDS法に関する具体的な記載は、例えば、Richard R. et al.,Application of CE SDS gel in development of biopharmaceutical antibody‐based products,Electrophoresis,2008, 29, 3612‐3620を参照できる。
【0103】
サイズ排除高速液体クロマトグラフィー、即ち、SEC‐HPLC法は、モノクローナル抗体基準及び品質制御に使用される別の重要方法である。当該方法は主に分子大きさ又は流体動力学半径差異に基づいて分子を分離する。抗体は、SEC‐HPLCにより、高分子量形態(HMMS)、メインピーク(主に抗体単量体)、及び低分子量形態(LMMS)の3種の主要形態に分離されることができる。抗体の純度は、クロマトグラフィーにおける全てのピーク面積の合計に占めるメインピーク面積のパーセンテージで算出できる。SEC‐HPLC法により、製剤製品における抗体単量体のパーセンテージを測定して、可溶性凝集物及びせん断物の含有量情報を示している。SEC‐HPLC法に関する具体的な記載は、例えば、J. Pharm. Scien., 83:1645‐1650,(1994);Pharm. Res., 11:485(1994);J. Pharm. Bio. Anal., 15:1928(1997);J. Pharm. Bio. Anal., 14:1133‐1140(1986)を参照できる。また、例えば、R. Yang et al., High resolution separation of recombinant monoclonal antibodies by size exclusion ultra‐high performance liquid chromatography(SE‐UHPLC),Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis(2015),http://dx.doi.org/10.1016/j.jpba.2015.02.032、及びAlexandre Goyon et al.,Protocols for the analytical characterization of therapeutic monoclonal antibodies. I‐Non‐denaturing chromatographic techniques,Journal of Chromatography,http://dx.doi.org/10.1016/j.jchromb.2017.05.010も参照できる。
【0104】
画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)はモノクローナル抗体の電荷不均一性の解析に使用されることができる。当該方法は電荷変異体の定量的な分布状況を提供できる。iCIEFはpH値勾配における分子の電荷差異(観察されたpI値)に基づいて分子分離の目的が実現される。iCIEFにおいて、通常、分離カラムが短いキャピラリー(例えば、長さ5cm、内径100μmのシリカキャピラリー)であり、タンパク質が高電圧でキャピラリーカラムでフォーカシングするが、280nMで操作される全カラムイメージング検出システムによりフォーカシングをオンラインでリアルタイム監視する。当該技術の利点として、当該全カラムイメージング検出システムにより抗体試料の各電荷変異体を同時に記録することができる。一般的に、iCIEFにおいて、試料と尿素及びiCIEF緩衝液とを混合させるが、前記緩衝液にメチルセルロース、pI分子量基準及びampholytesが含まれる。次に、iCIEFアナライザー、例えばiCE280アナライザー(Protein Simple, Santa Clara, Ca)において、iCIEFカラム、例えばProtionSimpleによって組立てられたiCIEFカラムにより、試料フォーカシングの一定時間後に、280nmの吸光度を測定して、mAb電荷変異体にフォーカシングするクロマトグラフィーを得た。iCEIFクロマトグラフィーにおいて、メインピーク(即ち、主成分)の前で溶出されたタンパク質関連ピークは酸性成分に分類されるに対して、メインピークの後で溶出されたタンパク質関連ピークは塩基性成分に分類される。主成分、酸性成分及び塩基性成分の相対的な量はピーク総面積に占めるパーセンテージで示す。iCIEFに関する具体的な記載は、例えば、Salas‐Solano O et al.,Robustness of iCIEF methodology for the analysis of monoclonal antibodies: an interlaboratory study, J Sep Sci. 2012 Nov;35(22):3124‐9. doi: 10.1002/jssc.201200633. Epub 2012 Oct 15、及びDada OO et al.,Characterization of acidic and basic variants of IgG1 therapeutic monoclonal antibodies based on non‐denaturing IEF fractionation, Electrophoresis. 2015 Nov;36(21‐22):2695‐2702. doi: 10.1002/elps.201500219. Epub 2015 Sep 18を参照できる。
【0105】
カチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX‐HPLC)により抗体製剤における抗体の電荷変異体を測定することができる。当該測定法において、CEX‐HPLCカラムによりメインピークの保持時間よりも早く溶出されたピークは「酸性ピーク」と標識され、CEX‐HPLCカラムによりメインピークの保持時間よりも遅く溶出されたピークは「塩基性ピーク」と標識される。
【0106】
加速安定性の研究は、製品の安定性性質を測定するために利用され、安定的な医薬製剤形態の選別に繋がる。例えば、製剤試料を上昇された温度、例えば、約40℃±2℃、25℃±2℃の条件に置いて、加速安定性の研究を行うことができる。測定指標は、外観、視認できる異物、タンパク質含有量、濁度、純度(SEC‐HPLC法、非還元型CE‐SDS法)及び電荷変異体(iCIEF法、CEX‐HPLC法)を含む。
【0107】
また、抗体の効能又は生物学的活性を測定してもよい。例えば、製剤における抗体とその抗原分子(CD47分子及びPD‐L1分子)との結合能力を測定してもよい。当業者は、例えば、免疫測定試験、ELISAなど、抗体と抗原との特異的結合を定量的にする複数の方法を知っている。
【0108】
本発明の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質製剤は安定的である。一実施形態において、約25℃、37℃、40℃、又は45℃で少なくとも1ヶ月又は2ヶ月保存した後に、例えば、40℃±2℃で1ヶ月保存した後に、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー又は非還元型CS‐SDSにより測定した結果、本発明の抗体製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質純度は、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上である。一実施形態において、約25℃、37℃、40℃、又は45℃で少なくとも1ヶ月又は2ヶ月保存した後に、例えば、40℃±2℃で1ヶ月保存した後に、例えば、CEX‐HPLC法により測定した結果、本発明の抗体製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%は、非塩基性及び非酸性形態(即ち、メインピーク又は主な電荷形態)である。
【0109】
IV.製剤の用途抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を含む本発明の抗体製剤は、SIRPα/CD47シグナル伝達経路及び/又はPD1/PD‐L1シグナル伝達経路に関連する様々な疾患又は病的状態を治療、予防又は緩和するために使用される。本明細書において、「SIRPα/CD47シグナル伝達経路に関連する疾患又は病的状態」及び/又は「PD1/PD‐L1シグナル伝達経路に関連する疾患又は病的状態」は、本発明の抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質製剤により治療(例えば、改善)又は予防することができる疾患又は病的状態を指す。本発明の抗体製剤による治療から利益を得た任意の疾患又は病的状態は本発明に適する。
【0110】
一態様において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を含む本発明の製剤は、対象の様々な血液疾患及び固形腫瘍を予防又は治療することができるが、様々な血液疾患及び固形腫瘍が、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、多発性骨髄腫(MM)、リンパ腫、乳がん、胃がん、肺がん、食道がん、腸がん、卵巣がん、子宮頸がん、腎臓がん、膵臓がん、膀胱がん、神経膠腫、黒色腫及びその他の固形腫瘍を含むが、これらに制限されない。また、SIRPα/CD47シグナル伝達経路を遮断することによりNODマウス系におけるヒト幹細胞移植(WO 2009/046541)を促進することができるため、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を含む本発明の製剤は、ヒト幹細胞移植に利用できるという潜在的な利点もある。
【0111】
別の態様において、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を含む本発明の製剤は、SIRPα+細胞により介在された対象の自己免疫疾患及び炎症性疾患、例えば、アレルギー性喘息又は潰瘍性結腸炎を治療、予防又は診断するために使用されることができる。これらの病的状態には、急性及び慢性炎症性疾患、アレルギー反応及びアレルギー性疾患、自己免疫疾患、局所虚血性疾患、重度の感染症、非ヒト組織移植物(異種移植片)の拒絶などを含む細胞又は組織又は器官移植物の拒絶を含む。
【0112】
本発明は、薬物を調製するための、本発明の製剤の使用を提供する。前記薬物は、哺乳類に抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を送達するために使用され、或いは上記疾患及び病的状態の1種以上を治療、予防又は改善するために使用される。好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0113】
本発明の抗体製剤を複数の経路で対象又は患者に投与してもよい。例えば、投与は輸注又は注射器により行ってもよい。従って、一態様において、本発明は、本発明の抗体製剤(例えば、薬剤充填済み注射器)を含む送達装置(例えば、注射器)を提供する。患者は、主な活性成分として抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質を、有効量、即ち疾患又は病的状態を治療、改善又は予防するのに十分な量で受ける。
【0114】
治療効果は生理的な症状の軽減を含む。任意の特定対象に使用される抗体の最適な有効量及び濃度は、患者の年齢、体重、健康状態及び/又は性別、疾患の性質及び程度、特定抗体の活性、抗体に対する体のクリアランス、並びに、前記抗体製剤と組合せて投与するその他の任意の治療などの、複数の要素によって決定される。具体的な状況について、投与される有効量は、臨床医の判断範囲内で決定される。有効投与量は、治療対象の適応症によるが、約0.005mg/kg体重~約50mg/kg体重、又は約0.1mg/kg体重~約20mg/kg体重であってもよい。この点に関して、既知の抗体に基づく薬物の適用はある程度で参考できる。投与量は単一投与量案又は複数投与量案であってもよい。
【0115】
以下の実施例を本発明の理解を補助するように説明する。如何なる形式で実施例を、本発明の保護範囲を制限するものと解釈すべきではない。
【0116】
略語CE‐SDS:ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリーゲル電気泳動CEX‐HPLC:カチオン交換高速液体クロマトグラフィーELISA:酵素結合免疫吸着測定法FLD‐HPLC:蛍光検出‐高速液体クロマトグラフィーiCIEF:画像キャピラリー等電点電気泳動SEC‐HPLC:サイズ排除高速液体クロマトグラフィー
【実施例
【0117】
本願の発明者は、組換え抗表面抗原分類47(CD47)及び抗プログラム細胞死リガンド1(PD‐L1)二重特異性抗体の注射液を長期的且つ安定的に保存する製剤処方を開発して、有効期間内(少なくとも24ヶ月)で製品品質を制御可能にするために、処方の選別試験を設置して、異なる添加物の、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤の安定性に対する影響を考察した。試験に使用される材料及び方法は下記の通りである。
【0118】
材料及び方法1.1. 本発明の製剤研究に使用される材料
【表1-2】
注記:N/Aは「該当なし」(Not applicable)を示す。
【0119】
1.2. 本発明の製剤研究に使用される機器
【表1-3】
1.3.製剤安定性の測定項及び測定法抗体製剤に対して、(1)外観及び視認できる異物の有無を測定し、(2)紫外線法(UV法)により製剤におけるタンパク質含有量を測定し、(3)サイズ排除クロマトグラフィー、例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(size‐exclusion chromatography‐HPLC;SEC‐HPLC)により抗体製剤の純度を測定し、全てのピーク面積の合計に占める単量体面積のパーセンテージで示し、(4)還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(還元型CE‐SDS)及び/又は非還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(非還元型CE‐SDS)により抗体製剤の純度を測定し、全てのピーク面積の合計に占める単量体面積のパーセンテージで示し、(5)画像キャピラリー等電点電気泳動法(iCIEF法)により抗体製剤における電荷変異体を測定し、主成分、酸性成分及び塩基性成分のパーセンテージで示し、(6)免疫測定法、例えば、直接ELISA法により、CD47抗原及びPD‐L1抗原に対する抗体製剤における抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体の相対結合活性を測定する。
【0120】
視認できる異物の測定国家薬典委員会、中華人民共和国薬典(2015年版、四部通則0904「視認できる異物の測定法」)、北京中国医薬科技出版社、2015に記載されている方法に基づき、透明度測定器(天津天大天発製、型番YB‐2)により試料における視認できる異物を測定した。
【0121】
タンパク質含有量の測定紫外線分光光度計(日本島津製、型番UV‐1800)により試料におけるタンパク質含有量を測定した。
【0122】
純度(SEC‐HPLC法)体積排除カラムにより分離するが、流動相がリン酸塩緩衝液(3.12gリン酸二水素ナトリウム二水和物、8.77g塩化ナトリウム、34.84gアルギニンを秤量して、超純水で溶解させてから、塩酸でpH値が6.8になるまで調節し、1000mLまで定容する)であり、カラム保護液が0.05%(w/v)NaN3であり、試料注入量が50μlであり、流速が0.5mL/分間であり、サンプリング時間が30分間であり、カラム温度が25℃であり、測定波長が280nmである。被検試料を取り、超純水で2mg/mLまで希釈させて、供試品溶液とする。製剤緩衝液を取り、上記同様の処理法で希釈させて、ブランク溶液とする。ブランク溶液、供試品溶液をそれぞれ50μl取り、液体クロマトグラフ装置に注入して、測定を開始する。
【0123】
純度(還元型CE‐SDS法)キャピラリーゲル電気泳動法により測定した。キャピラリーはコーティング無しキャピラリーであり、内径50μm、全長30.2cm、有効長さ20.2cmである。電気泳動を実施する前に、それぞれ0.1mol/L水酸化ナトリウム、0.1mol/L塩酸、超純水、電気泳動ゲルにより70psiでキャピラリーカラムを洗浄した。被検試料を適量の超純水で2.0mg/mLまで希釈させ、上記希釈された試料を50μl取り1.5mL遠心分離管に入れ、当該遠心分離管にそれぞれ45μlのpH値6.5試料緩衝液(クエン酸一水和物0.32g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.45gを秤量して、45mL超純水に溶解させてから、50mLまで定容して、クエン酸‐リン酸塩緩衝液を得て、当該緩衝液200μlを精確に秤量して、10%(w/v)ラウリル硫酸ナトリウム溶液80μlを入れ、1mLまで水を入れ、均一に混合させて得る)、1μl内部標準液(10kDaタンパク質、5mg/mL)(Beckman Coulter、製品番号:390953)、5μlのβ‐メルカプトエタノールを入れて、十分均一に混合させた後に、70±2℃で10±2分間加熱し、室温まで冷却し、試料瓶に移して、供試品溶液とする。供試品と同じ体積の製剤緩衝液を取り、上記同様の操作方法でブランク溶液を得た。試料注入条件:-5kV 20秒;分離電圧:-15kV 35分間。キャピラリーカラム温度を25℃に制御し、測定波長が220nmである。
【0124】
純度(非還元型CE‐SDS法)キャピラリーゲル電気泳動法により測定した。キャピラリーはコーティング無しキャピラリーであり、内径50μm、全長30.2cm、有効長さ20.2cmである。電気泳動を実施する前に、それぞれ0.1mol/L水酸化ナトリウム、0.1mol/L塩酸、超純水、電気泳動ゲルにより70psiでキャピラリーカラムを洗浄した。被検試料を適量の超純水で2.0mg/mLまで希釈させ、上記希釈された試料を50μl取り1.5mL遠心分離管に入れ、当該遠心分離管にそれぞれ45μlのpH値6.5試料緩衝液(クエン酸一水和物0.32g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.45gを秤量して、45mL超純水に溶解させてから、50mLまで定容して、クエン酸‐リン酸塩緩衝液を得て、当該緩衝液200μlを精確に秤量して、10%(w/v)ラウリル硫酸ナトリウム溶液80μlを入れ、1mLまで水を入れ、均一に混合させて得る)、1μl内部標準液(10kDaタンパク質、5mg/mL)(Beckman Coulter、製品番号:390953)、5μlの250mmol/LNEM溶液(N‐エチルマレイミド62mgを秤量して、2mL超純水に溶解させる)を入れて、十分均一に混合させた後に、70±2℃で10±2分間加熱し、室温まで冷却し、試料瓶に移して、供試品溶液とする。供試品と同じ体積の製剤緩衝液を取り、上記同様の操作方法でブランク溶液を得た。試料注入条件:-5kV 20秒;分離電圧:15kV 35分間。キャピラリーカラム温度を25℃に制御し、測定波長が220nmである。
【0125】
電荷変異体(iCIEF法)画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF法)により測定した。キャピラリー内径100μm、全長5cmである。試料に対して電気泳動を実施する前に、それぞれ0.5%メチルセルロース溶液(後述ではMC溶液とも略す)、超純水でキャピラリーカラムを洗浄した。真空注入法により試料を55秒注入するが、プレフォーカシング電圧及び時間が1.5kV及び1分間であり、フォーカシング電圧及び時間が3kV及び8分間であり、試料注入時間が55秒であり、試料盤の温度が10℃であり、キャピラリーカラム温度が室温であり、測定波長が280nmである。陰極安定剤(Cathodic Stabilizer)が500mmol/Lアルギニン溶液であり、陽極安定剤(Anodic Stabilizer)が200mmol/Lイミノ二酢酸であり、3mol/L尿素でタンパク質溶解性を向上させ、0.5%MC溶液でタンパク質とキャピラリーとの粘着を低下させる。供試品を水で0.5mg/mLまで希釈させ、上記希釈された供試品溶液を20μl取り、その中に83μl予混合液を入れて、十分均一に混合させて、被検試料溶液を得た。製剤緩衝液同様の操作方法でブランク溶液を得た。
【0126】
相対結合活性(直接ELISA法)1×PBSでストレプトアビジン(Thermo、製品番号:21125)を1μg/mLまで希釈させ、100μl/ウェル、37℃、2hで96ウェルマイクロプレートにコーティングした。プレートを洗浄した後に、密閉液(5% FBS、300μl/ウェル)を37℃で2h密閉した。1×PBSでビオチン化した抗原(CD47に対する抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体の抗CD47末端の相対結合活性を測定する場合、北京Sino biologicalから購入したヒトCD47タンパク質(Hisラベル)、製品番号:12283‐H08H‐200を使用するが、PD‐L1に対する抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体の抗PD‐L1末端の相対結合活性を測定する場合、ACRO BIOSYSTEMSから購入した組換えヒトPDL1/CD274タンパク質、製品番号:PD1‐H5229‐1MGを使用する)を0.5μg/mLまで希釈させ、100μl/ウェル、37℃、0.5hで96ウェルマイクロプレートにコーティングした。2% FBSで抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を100μl/ウェルで40μg/mLまで希釈させ、4倍の濃度勾配で12番目の濃度(0.01~10000ng/mL)まで希釈させる。勾配希釈された供試品を洗浄されたマイクロプレートに100μl/ウェルで入れて、37℃の恒温インキュベーターで30minインキュベートした。プレートを洗浄した後に、2% FBSで希釈されたHRP複合ヤギ抗ヒトIgG‐Fc断片(アメリカ BETHYL、製品番号A80‐104P)を二次抗体(30000倍希釈、100μl/ウェル)として入れ、37℃で20min反応させた。プレートを洗浄した後に、100μlのTMB顕色液を入れ、10min発色させてから、1ウェル当たり100μlの1mol/L H2SO4を入れて反応を終了させた。620nmを参照波長として、450nmにおけるOD値を測定した。各濃度勾配試料の濃度値を横軸とし、各濃度勾配試料のOD450nm‐OD620nm値を縦軸として、Prismの4つのパラメータからEC50反応抗体と各抗原との結合活性をフィッティングにより算出した。
【0127】
実施例1. 抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体の調製及び精製PCT/CN2018/123886に記載されるように、HEK293細胞(INVITROGEN社により購入)において抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体Kh2NF‐PCを組換え発現及び精製した。当該抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体Kh2NF‐PCの抗体は3本のポリペプチド鎖からなり、各ポリペプチド鎖がそれぞれN末端からC末端まで下記のアミノ酸配列を有する。
【0128】
ペプチド鎖#1:QVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSIEHYYWSWIRQPPGKGLEWIGYIYYSGSTNYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARGKTGSAAWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCRDELTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号1)前記ペプチド鎖#1は、抗CD47抗体ADI29341に由来するVHアミノ酸配列:QVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSIEHYYWSWIRQPPGKGLEWIGYIYYSGSTNYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARGKTGSAAWGQGTLVTVSS(配列番号2)と、前記VHアミノ酸配列のC末端における、ヒトIgG1に由来するCH1アミノ酸配列:ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHT(配列番号6)と、前記CH1アミノ酸配列のC末端における、ヒトIgG1に由来するFc領域アミノ酸配列:CPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCRDELTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号7)と、を含む。
【0129】
ペプチド鎖#2:DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISRWLAWYQQKPGKAPKLLIYAASSLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQTVSFPITFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号8)前記ペプチド鎖#2は、抗CD47抗体ADI29341に由来するVLアミノ酸配列:DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISRWLAWYQQKPGKAPKLLIYAASSLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQTVSFPITFGGGTKVEIK(配列番号9)と、前記VLアミノ酸配列のC末端における、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)のアミノ酸配列:RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号13)と、含む。
【0130】
ペプチド鎖#3QVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASAYTISRNSMGWFRQAPGKGLEGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLDNSKNTLYLEMNSLRAEDTAVYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSQVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASAYTISRNSMGWFRQAPGKGLEGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLDNSKNTLYLEMNSLRAEDTAVYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTLVTVSSDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSRDELTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号14)前記ペプチド鎖#3は、第1及び第2抗PD‐L1 VHHアミノ酸配列:QVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASAYTISRNSMGWFRQAPGKGLEGVAAIESDGSTSYSDSVKGRFTISLDNSKNTLYLEMNSLRAEDTAVYYCAAPKVGLGPRTALGHLAFMTLPALNYWGQGTLVTVSS(配列番号16)と、前記第1及び第2抗PD‐L1 VHHアミノ酸配列の間における接続ペプチドのアミノ酸配列:GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号20)と、前記第2抗PD‐L1 VHHアミノ酸配列のC末端における、ヒトIgG1に由来するFc領域アミノ酸配列:DKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSRDELTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号21)と、を含む。
【0131】
実施例2. 製剤の安定性に対するpH値影響試験その1本実施例は、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を含む製剤の、pH値5.0~6.5における安定性を考察した。4つのpH値を設置した。それぞれ5.0、5.5、6.0及び6.5である。
【0132】
2.1 実験工程10mMヒスチジン、5%(w/v)ソルビトール緩衝液を調製し、希塩酸でpH値がそれぞれ5.0、5.5、6.0及び6.5となるように調節して、精製された抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体Kh2NF‐PCタンパク質(7.3mg/mL)を前記異なるpH値の溶液に限外濾過置換した。置換完了後、試料における二重特異性抗体タンパク質含有量を約100.0mg/mLに調節してから、最終濃度が0.70mg/mLとなるようにポリソルベート80を入れ、濾過した後に2Rバイアル瓶に分注して、プラグで蓋をした。各試料の安定性を40℃±2℃の条件で考察した。具体的な実験案は表1に示す。
【0133】
【表1-4】
注記:(1)xは当該時点でサンプリングすることを示す。(2)前記時点でサンプリングした後に、得られた試料を測定用として超低温冷蔵庫で凍結保存し、必要に応じて解凍して測定する。
【0134】
2.2 判定基準試料変化の有無を判断するために、製品に対する理解並びに機器と方法の精密度に応じて、試料測定指標値と初期値との比較による品質変化無しの判定基準が設定されるが、具体的に表2を参照する。
【0135】
【表2】
【0136】
2.3 処方選別試験その1の実験結果(1)外観及び視認できる異物40℃±2℃の条件で1ヶ月放置した後に、pH5.0、pH5.5、pH6.0試料の外観は異なる程度で混濁及び沈殿物が現れ、pH6.5試料の外観及び視認できる異物だけは合格した。
【0137】
(2)タンパク質含有量pH5.0、5.5、6.0、6.5試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、各試料のタンパク質含有量の測定結果は表3に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月放置した後に、pH6.5試料のタンパク質含有量は明らかな変化がない。
【0138】
【表3】
注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0139】
(3)純度pH5.0、5.5、6.0、6.5試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、SEC‐HPLC法により各試料のタンパク質純度を測定した。結果は表4に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月考察した後のpH値6.5試料におけるタンパク質純度は、0日間の試料と比較すれば、4.1%低下した。
【0140】
【表4】
注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0141】
pH5.0、5.5、6.0、6.5試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、非還元型CE‐SDS法及び還元型CE‐SDS法により各試料のタンパク質純度をそれぞれ測定した。結果は表5及び表6に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月考察した後のpH値6.5試料におけるタンパク質純度は、0日間の試料と比較すれば、それぞれ7.7%及び3.7%低下した。
【0142】
【表5】

注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0143】
【表6】
注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0144】
(4)電荷変異体pH5.0、5.5、6.0、6.5試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、iCIEF法により各試料の電荷変異体を測定した。結果は表7に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月考察した後に、pH6.5試料の主成分及び酸性成分は明らかな変化がある。0日間の試料と比較すれば、酸性成分は36.6%から60.1%まで23.5%増加し、主成分は62.5%から39.1%まで23.4%減少し、塩基性成分は明らかな変化がない。
【0145】
【表7】
注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0146】
(5)相対結合活性pH5.0、5.5、6.0、6.5試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、直接ELISA法により各試料の相対結合活性を測定した。結果は表8に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月考察した後に、CD47及びPD‐L1に対する、pH6.5試料におけるタンパク質の抗CD47末端及び抗PD‐L1末端の相対結合活性は変化がない。
【0147】
【表8】
注記:N/A1は試料外観不合格であるため測定していないことを示す。N/A2は当該測定項未設置を示す。
【0148】
上記実験結果によれば、pH5.0、5.5、6.0、6.5製剤について、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質(例えば、Kh2NF‐PCタンパク質)はpH6.5において安定的である。pH6.5付近のpH範囲内における製剤の安定性を研究するために、実験を更に実施した。
【0149】
実施例3. 製剤の安定性に対するpH値影響試験その2本実施例は、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体製剤におけるタンパク質安定性に対するpH6.2~7.0の影響を考察した。5つのpH値を設置した。それぞれ6.2、6.4、6.5、6.8及び7.0である。
【0150】
3.1 実験工程pH値の違い以外に、具体的な操作工程は実施例2の「2.1 実験工程」と同様である。
【0151】
3.2 判定基準実施例2の表2を参照する。
【0152】
3.3 実験結果(1)外観及び視認できる異物40℃±2℃の条件で1ヶ月放置した後に、pH6.2試料の外観だけは乳白色を呈し、pH6.4、6.5、6.8、7.0試料の外観及び視認できる異物は合格した。
【0153】
(2)タンパク質含有量pH6.4、6.5、6.8、7.0試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、各試料のタンパク質含有量の測定結果は表9に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月放置した後に、pH6.4、6.5、6.8、7.0試料のタンパク質含有量は明らかな変化がない。
【0154】
【表9】
注記:N/Aは当該測定項未設置を示す。
【0155】
(3)純度pH6.4、6.5、6.8、7.0試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、SEC‐HPLC法により各試料のタンパク質純度を測定した。結果は表10に示し、純度のトレンドは図2に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月考察した後のpH6.4、6.5、6.8、7.0試料の純度は低下したが、0日間と比較すれば、それぞれ3.0%、3.7%、4.9%及び5.6%低下した。
【0156】
【表10】
【0157】
pH6.4、6.5、6.8、7.0試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、非還元型CE‐SDS法により各試料のタンパク質純度をそれぞれ測定した。結果は表11に示し、純度のトレンドは図3に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月考察した後のpH6.4、6.5、6.8、7.0試料の純度は低下したが、0日間と比較すれば、それぞれ7.0%、6.1%、6.7%及び7.3%低下した。
【0158】
【表11】
注記:N/Aは当該測定項未設置を示す。
【0159】
(4)電荷変異体pH6.4、6.5、6.8、7.0試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、iCIEF法により各試料の電荷変異体を測定した。結果は表12に示し、純度のトレンドは図4に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月考察した後に、異なるpH値試料の主成分及び酸性成分は変化がある。pH値が高いほど、主成分の低下が早く、酸性成分の上昇が早い。
【0160】
【表12】
注記:N/Aは当該測定項未設置を示す。
【0161】
(5)相対結合活性pH6.4、6.5、6.8、7.0試料を40℃±2℃で異なる期間放置した後に、直接ELISA法により各試料の相対結合活性を測定した。結果は表13に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で1ヶ月考察した後に、CD47及びPD‐L1に対する、pH6.4、pH6.5及びpH7.0試料におけるタンパク質の抗CD47末端及び抗PD‐L1末端の相対結合活性は明らかな変化がない。
【0162】
【表13】
注記:N/Aは当該測定項未設置を示す。
【0163】
実施例2及び実施例3の、製剤の安定性に対するpH値影響試験の結果によれば、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体(例えば、Kh2NF‐PC)タンパク質をpH5.0~6.2、40℃±2℃で1ヶ月放置した後に、時間の経過と共に、試料の外観は混濁又は乳白色の沈殿物が現れるが、pH6.4‐7.0、40℃±2℃で1ヶ月放置した後に、試料の外観及び視認できる異物は合格し、タンパク質含有量は明らかな変化がなく、CD47及びPD‐L1に対する相対結合活性も明らかな変化がない。従って、後述した実施例において、pH6.4‐7.0からpH6.5を選定して後続の実験を実施した。
【0164】
実施例4.処方選別試験4.1 安定剤選別試験抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体を含む製剤の安定性に対する、ソルビトール、スクロース、トレハロース、塩酸アルギニンなどの異なる安定剤の影響を考察した。
【0165】
4.1.1 安定剤選別試験工程5つの処方が設計されたが、具体的な処方情報は表14を参照する。表14により各処方の緩衝液を調製し、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体Kh2NF‐PCタンパク質(3.6mg/mL)をそれぞれの処方溶液に限外濾過置換した。置換完了後、各処方のタンパク質含有量を約100.0mg/mLに調節してから、ポリソルベート80の最終濃度が0.20mg/mLとなるようにポリソルベート80を入れ、濾過した後にバイアル瓶に分注して、プラグで蓋をした。各試料の安定性を40℃±2℃の条件で考察した。具体的な案は表15に示す。測定指標は、外観、視認できる異物、タンパク質含有量、純度(SEC‐HPLC法)及び電荷変異体(iCIEF法)である。
【0166】
【表14】
注記:表における%は%w/vを指し、下記同様である。
【0167】
【表15】
注記:(1)xは当該時点でサンプリングすることを示す。(2)上記時点でサンプリングした後に、得られた試料を測定用として超低温冷蔵庫で凍結保存し、必要に応じて解凍して測定する。
【0168】
4.1.2 判定基準判定基準は実施例2の表2を具体的に参照する。
【0169】
4.1.3 安定剤選別試験(1)外観、視認できる異物40℃±2℃の条件で4週間観察したが、処方1は考察1週間後に混濁又は沈殿物が現れ、その他の処方の試料の外観、視認できる異物は合格した。
【0170】
(2)タンパク質含有量40℃±2℃の条件で4週間観察したが、タンパク質含有量の結果は表16に示す。表16によれば、40℃±2℃の条件で4週間放置した後に、処方2、処方3、処方4及び処方5のタンパク質含有量は変化がない。
【0171】
【表16】
注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0172】
(3)純度純度(SEC‐HPLC法):40℃±2℃の条件で4週間観察した結果は表17に示し、純度トレンドは図5に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で4週間考察した後に、処方2、処方3、処方4及び処方5試料の純度は低下したが、0日間試料の純度と比較すれば、それぞれ2.6%、3.0%、0.7%及び0.7%低下した。
【0173】
【表17】
注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0174】
純度(非還元型CE‐SDS法):40℃±2℃の条件で4週間観察した結果は表18に示し、純度トレンドは図6に示す。結果によれば、40℃±2℃の条件で4週間考察した後に、各処方試料の純度は低下したが、0日間試料の純度と比較すれば、処方2、処方3、処方4及び処方5はそれぞれ6.8%、7.2%、9.1%及び9.2%低下した。
【0175】
【表18】
注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0176】
(4)電荷変異体(iCIEF法)40℃±2℃の条件で4週間観察した後の電荷変異体の結果は表19に示し、電荷変異体の主成分のトレンドは図7に示す。
【0177】
結果によれば、40℃±2℃の条件で4週間考察した後に、各処方の電荷変異体の主成分及び酸性成分は明らかな変化があり、主成分が低下し、酸性成分が上昇するが、そのトレンドがほぼ一致する。
【0178】
【表19】
注記:N/Aは試料外観不合格であるため測定していないことを示す。
【0179】
安定剤選別試験結果によれば、処方2、処方3、処方4及び処方5を40℃±2℃の条件で4週間放置した後に、試料外観、視認できる異物は合格し、タンパク質含有量は変化がなく、試料純度は若干低下したが、処方4及び処方5は純度(SEC‐HPLC法)及び電荷変異体(iCIEF法)について明らかな優位性を示した。
【0180】
4.2 浸透圧試験4.2.1 浸透圧試験工程マルチチャンネル浸透圧計で処方4及び処方5の0時間(T0)試料の浸透圧を測定した。各群試料を2回測定して、平均値を結果とする。
【0181】
4.2.2 浸透圧試験結果処方4及び処方5の0時間(T0)試料の浸透圧測定結果は表20に示す。
【0182】
【表20】
【0183】
ヒト血漿の浸透圧が約285‐310mOsmol/kgであるため、処方4及び処方5の浸透圧は医薬製剤の許容される範囲内の浸透圧である。また、処方4の浸透圧がヒト血漿の浸透圧に最も近いため、好ましくは処方4の製剤を使用する。
【0184】
実施例5:製剤の安定性に対する金属キレート剤の影響EDTAは代表的な金属キレート剤である。本実施例は、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体Kh2NF‐PCタンパク質の安定性に対するEDTAの影響を検討した。
【0185】
5.1 製剤の安定性に対するEDTAの考察案2つの処方が設計されたが、処方6はEDTAを添加していない対照群であり、処方7は最終濃度が0.02mg/mLであるEDTAの群である。具体的な処方情報は表21に示す。表21により各処方の緩衝液を調製し、抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体Kh2NF‐PCタンパク質をそれぞれの処方溶液に限外濾過置換した。置換完了後、各処方のタンパク質含有量を約100.0mg/mLに調節した。
【0186】
【表21】
製剤の安定性に対するEDTAの影響の具体的な実験条件及びサンプリング計画は表22に示す。
【0187】
【表22】
注記:(1)xは当該時点でサンプリングすることを示す。(2)上記時点でサンプリングした後に、得られた試料を測定用として超低温冷蔵庫で凍結保存し、必要に応じて解凍して測定する。
【0188】
5.2実験結果40℃±2℃の条件で4週間観察した結果は表23に示す。
【0189】
【表23】
【0190】
表23の結果では、電荷変異体(CEX‐HPLC法)の測定結果によれば、処方7の電荷変異体メインピークは処方6と比較すれば、より良好な優位性を示し、ポリソルベート80(FLD‐HPLC法)の測定結果によれば、処方6のポリソルベート80含有量は時間の経過と共に低下し、処方7に金属キレート剤EDTAが添加されたため、金属イオンによるポリソルベート80の分解が抑制された。上記の理由によって、処方7は処方6より優れた。EDTAは金属キレート剤の一例として、金属イオンと結合することができ、少なくとも下記の2つの面から、ポリソルベート80の分解を抑制することができる。その1の面として、細胞培養、精製などの関連操作工程を含むタンパク質の全製造過程において、金属イオンが多少導入されるため、酸素及び金属イオンが同時に存在する条件で、ポリソルベート80の酸化分解が引き起こされる。その2の面として、処方におけるタンパク質に宿主細胞タンパク質が多少残留され、これらのタンパク質雑質にポリソルベート80を分解させる関連酵素が存在する可能性があるが、酵素が触媒機能を発揮するための金属イオンを補因子として必要とされるため、処方に添加された金属キレート剤が金属イオンと結合することで、ポリソルベート80の分解が抑制されて、処方の安定性が向上される。
【0191】
これにより、最も好ましい製剤案は、約100.0mg/mL組換え抗表面抗原分類47(CD47)及び抗プログラム細胞死リガンド1(PD‐L1)二重特異性抗体、約2.52mg/mLヒスチジン、0.79mg/mL塩酸ヒスチジン、37.92mg/mL塩酸アルギニン、0.50mg/mLポリソルベート80、0.02mg/mL EDTA、pH6.5である。
【0192】
実施例6:500L調製物の安定性考察実施例5の製剤案(約100.0mg/mL組換え抗表面抗原分類47(CD47)及び抗プログラム細胞死リガンド1(PD‐L1)二重特異性抗体、約2.52mg/mLヒスチジン、0.79mg/mL塩酸ヒスチジン、37.92mg/mL塩酸アルギニン、0.50mg/mLポリソルベート80、0.02mg/mL EDTA、pH6.5)で500L調製物を調製して、安定性考察を実施した。
【0193】
6.1 安定性考察用調製物及び考察案101.8mg/mL組換え抗CD47/PD‐L1二重特異性抗体タンパク質、2.52mg/mLヒスチジン、0.79mg/mL塩酸ヒスチジン、37.92mg/mL塩酸アルギニン、0.50mg/mLポリソルベート80、0.02mg/mL EDTA、pH6.5という調製物を500L調製して、その安定性を考察した。
【0194】
【表24】
【0195】
【表25】
注記:1. 報告データは、当該測定項に対して許容される範囲が設定されず、実際に測定された値をそのまま報告することを指す。下記同様。
【0196】
2. SEC‐HPLC法において、メインピーク+ポリマー+断片=100%であるため、メインピーク≧95%であれば、残りの≦5%は断片とポリマーの量である。従って、断片とポリマーの量はそれぞれ報告データで提示する。下記同様。
【0197】
3. 非還元型CE‐SDS法において、メインピーク+断片=100%であるため、メインピーク≧90%であれば、残りの≦10%は断片の量である。従って、断片の量は報告データで提示する。下記同様。
【0198】
4. 還元型CE‐SDS法において、重鎖及び軽鎖含有量+非グリコシル化重鎖+断片=100%であるため、重鎖及び軽鎖含有量≧90%であれば、残りの≦10%は非グリコシル化重鎖と断片の量である。従って、非グリコシル化重鎖の量と断片の量はそれぞれ報告データで提示する。下記同様。
【0199】
5. CEX‐HPLC法において、主成分+酸性成分+塩基性成分=100%であるため、主成分の量≧44.9%であれば、残りの≦55.1%は酸性成分と塩基性成分の量である。従って、酸性成分の量と塩基性成分の量はそれぞれ報告データで提示する。下記同様。
【0200】
6. 前記規定は、『中華人民共和国薬典』(2015年版、三部)の関連規定である。下記同様。例えば、通則0904「視認できる異物の測定法」は視認できる異物の検査について規定した。
【0201】
6.2 安定性考察結果500L調製物に対する安定性考察結果は下記表に示す。
【0202】
【表26-1】
【表26-2】
注記:1. N/Aは未測定を示す。通常、対応する指標は前部と後部の2つの末端だけ測定するが、前部と後部の2つの末端の値が基準に達したのであれば、その途中の値も基準に達したと考えられる。
【0203】
2. 還元型CE‐SDS法において、メインピーク+NGHCCD47+断片=100%であるため、メインピーク≧90%であれば、残りの≦10%はNGHCCD47鎖と断片の量である。従って、NGHCCD47の量と断片の量はそれぞれ報告データで提示する。
【0204】
表26の測定結果によれば、調製物は6ヶ月後に品質基準に満たす。
【0205】
【表27】
注記:N/Aは未測定を示す。通常、対応する指標は前部と後部の2つの末端だけ測定するが、前部と後部の2つの末端の値が基準に達したのであれば、その途中の値も基準に達したと考えられる。
【0206】
表27の測定結果によれば、加速安定性実験において、調製物は6ヶ月後に、各指標の基準に満たす。
【0207】
【表28-1】
【表28-2】
注記:N/Aは未測定を示す。通常、対応する指標は前部と後部の2つの末端だけ測定するが、前部と後部の2つの末端の値が基準に達したのであれば、その途中の値も基準に達したと考えられる。
【0208】
表28の測定結果によれば、強制安定性実験において、調製物は8週間後に、各指標の基準に満たす。
【0209】
要するに、上記実験によれば、本発明の製剤案は、生産の大規模化において製剤の安定性に対する要求に満たす。
【0210】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、これらの開示は例示に過ぎず、本発明の範囲内で様々な他の代替、適応、及び修正が可能であることは当業者に理解されたい。従って、本発明は、本明細書に列挙した特定の実施形態に限定されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2022540781000001.app
【国際調査報告】