(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】非ウイルス性免疫標的化
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220912BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220912BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220912BHJP
C07K 14/76 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220912BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220912BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220912BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220912BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220912BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220912BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20220912BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20220912BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220912BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220912BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220912BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20220912BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220912BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/113 Z ZNA
C07K16/28
C07K14/76
A61K47/68
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K38/16
A61K38/02
A61K45/00
A61K51/10 100
A61K31/711
A61K31/7105
A61K9/127
A61K47/28
A61K47/24
A61K47/18
A61K47/10
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/34
A61P21/04
A61K48/00
A61K31/713
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500793
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(85)【翻訳文提出日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 US2020041441
(87)【国際公開番号】W WO2021007453
(87)【国際公開日】2021-01-14
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517075883
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ワシントン
【氏名又は名称原語表記】University of Washington
【住所又は居所原語表記】4545 Roosevelt Way NE, Suite 400, Seattle, Washington 98105 US
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ホワイトヘッド, ニコラス ピー.
(72)【発明者】
【氏名】フロイナー, スタンレー シー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076CC09
4C076CC41
4C076DD49F
4C076DD63F
4C076DD70F
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4C076EE23
4C076EE37
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF16
4C084AA02
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4C084ZA94
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4C086AA01
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4C086MA02
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4C086MA05
4C086MA24
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZA94
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA50
4H045BA54
4H045CA40
4H045DA70
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、GLUT4を発現する細胞又は組織にペイロードを送達するための組成物及び方法を提供する。いくつかの実施形態において、この組成物は、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片若しくは誘導体と、この抗体又はその断片若しくは誘導体に結合する治療用ペイロードとを含む。いくつかの例示的な実施形態において、この組成物は、ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子変異がある被験体の疾患又は病状を治療するための方法に有用であり、このペイロードは、疾患の側面が改善されるように機能的ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする核酸を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片若しくは誘導体と、
前記抗体又はその断片若しくは誘導体に結合する治療用ペイロードと、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、GLUT4の第1細胞外ループドメインに特異的に結合する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
GLUT4の前記第1細胞外ループドメインは、配列INAPQKVIEQSYNETWLGRQGPEGPSSIPPGTLTTL(配列番号1)と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
GLUT4の前記第1細胞外ループドメインは、配列GRQGPEGPSSI(配列番号2)と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、配列GRQGPGGPDSI(配列番号4)と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含むGLUT4の前記第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、配列GRQGPEGPSSI(配列番号2)と少なくとも80%の同一性を有する配列を含むGLUT4の前記第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗体は、モノクローナル抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗体断片又は抗体誘導体は、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab)2断片、VHH断片、VNAR断片若しくはナノボディであるか、又はそれらのいずれかを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記一本鎖抗体は、一本鎖可変断片(scFv)又は一本鎖Fab断片(scFab)である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記治療用ペイロードは、核酸、タンパク質若しくはペプチド、脂質、小分子医薬品又は放射性同位体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記治療用ペイロードは、核酸を含み、
前記核酸は、DNA、mRNA、siRNA及びshRNAから選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記治療用ペイロードは、プロモーター配列に動作可能に結合するオープンリーディングフレームを有する核酸を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記治療用ペイロードは、線形形態の核酸、プラスミド形態の核酸、又はミニサークル形態の核酸を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記核酸に会合する1つのヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質をさらに含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記ヒストンタンパク質又は前記複数のヒストンタンパク質の少なくとも一部は、ビオチン化されている、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記核酸に会合するリポソームをさらに含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
前記リポソームは、DC-コレステロール・HCl,3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール塩酸塩(DC-Chol)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DMTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、ヘミコハク酸コレステリル(CHEMS)及びコレステロール(CHOL)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミニウム(DOSPA)、ジオクタデシル-アミド-グリシル-スペルミン(DOGS)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)から選択される1種以上の脂質を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記リポソームは、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記核酸に会合する複数のカチオン性ペプチド部分をさらに含み、ことにより凝縮した核酸が生じる、請求項14に記載の組成物。
【請求項21】
前記カチオン性ペプチド部分は、ポリ-L-リジン(PLL)、線状ポリエチレンイミン(LPEI)、分岐状ポリエチレンイミン(BPEI)、キトサン、スペルミジン、スペルミン、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)、ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)、ポリ{N-[N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルタミド(PAsp(DET))、ポリ(2-アミノエチルエチレンホスフェート(PPEEA)などであるか、又はそれらを含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記複数のカチオン性ペプチド部分の少なくとも一部は、ビオチン化されている、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
アルブミンをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項24】
前記アルブミンの少なくとも一部は、ビオチン化されている、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されており、
前記組成物は、ニュートラアビジンをさらに含む、請求項16、22及び24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記治療用ペイロードは、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする配列に動作可能に結合するプロモーター配列を有する核酸を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項27】
前記ジストロフィンタンパク質は、実質的に全長ヒトジストロフィンタンパク質である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記全長ヒトジストロフィンタンパク質は、配列番号5に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
GLUT4を発現する細胞に送達するために治療用ペイロードを標的化する方法であって、
前記細胞を請求項1から28のいずれか1項に記載の組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項30】
前記細胞を前記組成物と接触させる前に、前記細胞をインスリンと接触させることをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞は、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪組織細胞、海馬細胞、又は小脳細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞は、黒色腫細胞、前立腺がん細胞、横紋筋肉腫細胞を含む筋肉組織のがん細胞、又は乳がん細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子変異がある被験体の疾患又は病状を治療するための方法であって、
前記方法は、前記被験体に治療有効量の組成物を投与することを含み、
前記組成物は、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片若しくは誘導体と、
前記抗体又はその断片若しくは誘導体に結合する治療用ペイロードと、
を含み、
前記治療用ペイロードは、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする配列に動作可能に結合するプロモーター配列を有する核酸を含む、方法。
【請求項34】
前記被験体は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)に罹患しているか、又はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の遺伝的保因者を有するか又はである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、GLUT4の第1細胞外ループドメインに特異的に結合する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
GLUT4の前記第1細胞外ループドメインは、配列INAPQKVIEQSYNETWLGRQGPEGPSSIPPGTLTTL(配列番号1)と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、配列GRQGPEGPSSI(配列番号2)と少なくとも80%の同一性を有する配列を含むGLUT4の前記第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体は、モノクローナル抗体である、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記抗体断片又は抗体誘導体は、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab)2断片、VHH断片、VNAR断片若しくはナノボディであるか、又はそれらのいずれかを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記一本鎖抗体は、一本鎖可変断片(scFv)、又は一本鎖Fab断片(scFab)である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されている、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
前記核酸は、線形形態、プラスミド形態又はミニサークル形態にある、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
前記組成物は、前記核酸に会合するヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質をさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記ヒストンタンパク質又は前記複数のヒストンタンパク質の少なくとも一部は、ビオチン化されている、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記組成物は、前記核酸に会合するリポソームをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
前記リポソームは、DC-コレステロール・HCl、3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール塩酸塩(DC-Chol)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DMTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、ヘミコハク酸コレステリル(CHEMS)、コレステロール(CHOL)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミニウム(DOSPA)、ジオクタデシル-アミド-グリシル-スペルミン(DOGS)、及びジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)から選択される1種以上の脂質を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記リポソームは、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記核酸に会合する複数のカチオン性ペプチド部分をさらに含み、ことにより凝縮した核酸が生じる、請求項33に記載の方法。
【請求項49】
前記カチオン性ペプチド部分は、ポリ-L-リジン(PLL)、線状ポリエチレンイミン(LPEI)、分岐状ポリエチレンイミン(BPEI)、キトサン、スペルミジン、スペルミン、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)、ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)、ポリ{N-[N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルタミド(PAsp(DET))、ポリ(2-アミノエチルエチレンホスフェート(PPEEA)などであるか、又はそれらを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記複数のカチオン性ペプチド部分の少なくとも一部は、ビオチン化されている、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記組成物は、アルブミンをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項52】
前記アルブミンの少なくとも一部は、ビオチン化されている、請求項46に記載の方法。
【請求項53】
前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されており、前記組成物は、ニュートラアビジンをさらに含む、請求項44、50、52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
コードされたジストロフィンタンパク質は、実質的に全長ヒトジストロフィンタンパク質である、請求項33に記載の方法。
【請求項55】
前記全長ヒトジストロフィンタンパク質は、前記配列(配列番号5)と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項56】
前記被験体は、ヒトである、請求項33に記載の方法。
【請求項57】
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体であって、
a)前記V
Hは、配列(D/E)Y(S/T)(I/M)Hを含むCDR1と、配列WINTE(S/T)G(D/E)X
1(T/S)YADDFKGを含むCDR2と、配列RX
2X
3Yを含むCDR3とを含み、
b)前記V
Lは、配列(R/K)(A/S)SQS(L/V)X
4X
5(N/S)を含むCDR1と、配列(V/A)SNR(F/Y)(S/T)を含むCDR2と、配列QDX
6 X
7X
8P Tを含むCDR3とを含む、抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体。
【請求項58】
前記X
1は、P又はTであり、前記X
2は、A、F、S又はGであり、前記X
3は、A、D、E又はGであり、前記X
4は、S、V、N又はTであり、前記X
5はN、H、R、K又はTであり、X
6は、R、Y、S、T又はKであり、X
7はH、N、E、T、Y又はSであり、前記X
8は、V、S、L又はIである、請求項56に記載の抗GLUT4抗体。
【請求項59】
重鎖可変領域(V
H)及び軽鎖可変領域(V
L)を含む抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体であって、
a)前記V
Hは、配列番号10-17から選択される配列を有するVH-CDR1と、配列番号18-25から選択される配列を有するVH-CDR2と、LDF及び配列番号27-33から選択される配列を有するVH-CDR3とを含み、
b)前記V
Lは、配列番号34-41から選択される配列を有するVL-CDR1と、配列番号42-49から選択される配列を有するVL-CDR2と、配列番号50-57から選択される配列を有するVL-CDR3とを含む、抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体。
【請求項60】
a)前記V
Hは、配列番号10に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号18に示される配列を有するVH-CDR2と、配列LDFを有するVH-CDR3とを含み、前記V
Lは、配列番号34に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号42に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号50に示される配列を有するVL-CDR3とを含み、
b)前記V
Hは、配列番号11に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号19に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号27に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記V
Lは、配列番号35に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号43に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号51に示される配列を有するVL-CDR3とを含み、
c)前記V
Hは、配列番号12に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号20に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号28に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記V
Lは、配列番号36に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号44に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号52に示される配列を有するVL-CDR3とを含み、
d)前記V
Hは、配列番号13に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号21に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号29に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記V
Lは、配列番号37に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号45に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号53に示される配列を有するVL-CDR3とを含み、
e)前記V
Hは、配列番号14に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号22に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号30に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記V
Lは、配列番号38に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号46に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号54に示される配列を有するVL-CDR3とを含み、
f)前記V
Hは、配列番号15に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号23に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号31に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記V
Lは、配列番号39に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号47に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号55に示される配列を有するVL-CDR3とを含み、
g)前記V
Hは、配列番号16に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号24に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号32に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記V
Lは、配列番号40に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号48に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号56に示される配列を有するVL-CDR3とを含み、又は
h)前記V
Hは、配列番号17に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号25に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号33に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記V
Lは、配列番号41に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号49に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号57に示される配列を有するVL-CDR3とを含む、請求項59に記載の抗GLUT4抗体。
【請求項61】
請求項57から60のいずれか1項に記載の抗体又はその断片若しくは誘導体と、前記抗体又はその断片若しくは誘導体に結合する治療用ペイロードとを含む組成物
【請求項62】
前記抗体断片又は抗体誘導体は、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab)2断片、VHH断片、VNAR断片若しくはナノボディであるか、又はそれらのいずれかを含む、請求項61に記載の組成物。
【請求項63】
前記一本鎖抗体は、一本鎖可変断片(scFv)又は一本鎖Fab断片(scFab)である、請求項62に記載の組成物。
【請求項64】
前記治療用ペイロードは、核酸、タンパク質若しくはペプチド、脂質、小分子医薬品又は放射性同位体を含む、請求項61に記載の組成物。
【請求項65】
前記治療用ペイロードは、核酸を含み、
前記核酸は、DNA、mRNA、siRNA及びshRNAから選択される、請求項64に記載の組成物。
【請求項66】
前記治療用ペイロードは、核酸を含み、
前記核酸は、プロモーター配列に動作可能に結合するオープンリーディングフレームを含む、請求項64に記載の組成物。
【請求項67】
前記治療用ペイロードは、線形形態の核酸、プラスミド形態の核酸、又はミニサークル形態の核酸を含む、請求項64に記載の組成物。
【請求項68】
前記核酸に会合するヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質をさらに含む、請求項64に記載の組成物。
【請求項69】
前記核酸に会合するリポソームをさらに含む、請求項67に記載の組成物。
【請求項70】
前記核酸に会合する複数のカチオン性ペプチド部分をさらに含み、ことにより凝縮した核酸が生じる、請求項67に記載の組成物。
【請求項71】
前記治療用ペイロードは、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする配列に動作可能に結合するプロモーター配列を有する核酸を含む、請求項61に記載の組成物。
【請求項72】
前記ジストロフィンタンパク質は、実質的に、配列番号5に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む全長ヒトジストロフィンタンパク質である、請求項71に記載の組成物。
【請求項73】
GLUT4を発現する細胞に送達するために治療用ペイロードを標的化する方法であって、
前記方法は、前記細胞を請求項61から72のいずれか1項に記載の組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項74】
前記細胞を前記組成物と接触させる前に、前記細胞をインスリンと接触させることをさらに含む、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記細胞は、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪組織細胞、海馬細胞、又は小脳細胞である、請求項73に記載の方法。
【請求項76】
前記細胞は、黒色腫細胞、前立腺がん細胞、横紋筋肉腫細胞を含む筋肉組織のがん細胞、又は乳がん細胞である、請求項73に記載の方法。
【請求項77】
ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子変異がある被験体の疾患又は病状を治療するための方法であって、
前記方法は、前記被験体に治療有効量の請求項71に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項78】
前記被験体は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)に罹患しているか、又はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の遺伝的保因者である、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記抗体断片又は抗体誘導体は、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab)2断片、VHH断片、VNAR断片若しくはナノボディであるか、又はそれらのいずれかを含む、請求項77に記載の方法。
【請求項80】
前記一本鎖抗体は、一本鎖可変断片(scFv)又は一本鎖Fab断片(scFab)である、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記核酸は、線形形態、プラスミド形態又はミニサークル形態にある、請求項77に記載の方法。
【請求項82】
前記組成物は、前記核酸に会合するヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質をさらに含む、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記組成物は、前記核酸に会合するリポソームをさらに含む、請求項81に記載の方法。
【請求項84】
前記核酸に会合する複数のカチオン性ペプチド部分をさらに含み、ことにより凝縮した核酸が生じる、請求項77に記載の方法。
【請求項85】
コードされた前記ジストロフィンタンパク質は、配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項77に記載の方法。
【請求項86】
前記被験体は、ヒトである、請求項77に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年7月10日に提出された米国仮出願番号62/872,425の優先権を主張し、あらゆる目的のために参照により組み込まれる。
【0002】
配列表に関する記述
本発明に関連する配列表は、紙のコピーの代わりにテキスト形式で提供され、参照により本明細書に組み込まれる。「sequence listing」を含むテキストファイルの名前は72245_SEQ_Final_2020-07-08.txt.である。テキストファイルは145KBで、2020年7月8日に作製され、明細書の提出とともにEFS-Web経由で提出される。
【背景技術】
【0003】
筋肉に関する人間の疾患は、筋ジストロフィーのような比較的まれな病状から、糖尿病や加齢に伴う筋力低下(サルコペニア)のような一般的な病気にまで及んでいる。現在、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)として知られている最も一般的で重症の筋ジストロフィーなどの多くの筋疾患に対する効果的な治療法はない。DMDの主な特徴の簡単な概要を
図1に示す。DMDの原因となる遺伝子であるジストロフィンが1987年に発見されて以来、研究者たちはジストロフィン遺伝子を筋肉に送達し、それによってこの疾患を改善及び治癒する技術の開発を試みてきた。しかし、DMDに対するこの方法の主な欠点は、野生型ジストロフィン遺伝子のサイズが非常に大きいことである。成熟した転写産物では約14kbであり、組織に遺伝子を送達するためのウイルスベクターに収まるには大きすぎる。例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)は、最も一般的に使用される遺伝子治療ウイルスベクターであり、その総パッケージング能力がわずか5kbである。そのため、伝達可能な治療用ジストロフィン導入遺伝子を提供するためには、ジストロフィン遺伝子を「マイクロジストロフィン」に切り詰める必要がある。このマイクロジストロフィンは、サイズが全長ジストロフィンの約3分の1であり、mdx(DMD)マウスのインビボ筋機能を部分的にしか改善できない。ウイルスベクターに関する他の主な問題として、ベクターを所望の細胞型に標的化する際の特異性の欠如、及びウイルス送達に関する潜在的な免疫応答がある。免疫応答を誘導する可能性は、機能的には、治療的送達を単回投与に制限するため、AAVアプローチの大きな制限となっている。これは、DMDなどの変性筋疾患の治療には不十分であり、数年や数十年にわたって介入が必要になる恐れがある。さらに、多くの人はすでに特定のAAV血清型に曝露されているため、AAV遺伝子治療の対象から完全に除外される場合がある。
【0004】
そこで、筋肉疾患及び治療用ペイロードのためのウイルスベクターを理解する技術の進歩にもかかわらず、ペイロードのサイズやタイプに制限されることなく、筋細胞に治療用ペイロードを特異的に送達可能な非免疫原性ベクタープラットフォームが必要性とされている。本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。
【発明の概要】
【0005】
この概要は、以下の詳細な説明で詳しく説明する省略形の概念を紹介するために提供される。この要約は、請求項に係る主題の主要な特徴を特定するためのものではなく、請求項に係る主題の範囲を決定するための補助として使用することを意図したものでもない。
【0006】
一態様では、本開示によれば、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する結合ドメイン、例えば、抗体又はその断片若しくは誘導体と、前記結合ドメインに結合する治療用ペイロードとを含む組成物が提供される。
【0007】
別の態様では、本開示によれば、GLUT4を発現する細胞に送達するために治療用ペイロードを標的化する方法が提供される。この方法は、前記細胞を前記生成物と接触させることを含む。この方法は、インビトロ方法であってもよい。或いは、この方法は、GLUT4発現細胞に関連する疾患又は病状を治療するためのインビボ方法であってもよい。
【0008】
別の態様では、本開示によれば、ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子変異がある被験体の疾患又は病状を治療するための方法が提供される。この方法は、前記被験体に治療有効量の前記組成物を投与することを含む。この方法に用いる組成物は、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する結合ドメイン、例えば、抗体又はその断片若しくは誘導体と、前記抗体又はその断片若しくは誘導体に結合する治療用ペイロードとを含む。前記治療用ペイロードは、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする配列に動作可能に結合するプロモーター配列を有する核酸を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の概略図である。
【
図2】本開示の非ウイルス性筋肉標的化遺伝子送達プラットフォームの態様の概略図である。
【
図3】以下により詳しく説明されるインビトロ細胞培養実験に用いる本開示の組成物の代表的なプラットフォームの一般的な構造の模式図である。
【
図4】nNOS及びHAタグの発現を示す後述の実験1のウエスタンブロットの結果を示す。GAPDHは、タンパク質ローディングコントロールとして使用された。前記プラットフォームと筋細胞を僅か15minインキュベートするだけでnNOSの発現が引き起こされたことを示している。
【
図5】nNOSの発現を示す後述の実験2のウエスタンブロットの結果を示す。GAPDHは、タンパク質ローディングコントロールとして使用された。ここで、異なるプラスミドDNA濃度(pDNA)及び異なるDC-chol:pDNAの割合での効果を試験した。
【
図6】投与されたインスリンの濃度を増加させながら、抗体331(C末端抗体)を用いた全長ジストロフィンの発現を示す後述の実験3のウエスタンブロットの結果を示す。GAPDHは、タンパク質ローディングコントロールとして使用された。この結果は、インスリンを5nM添加したときにジストロフィンの発現が向上したことを示した。
【
図7】抗体331(C末端抗体)を用いた全長ジストロフィンの発現を示す後述の実験4のウエスタンブロットの結果を示す。GAPDHは、タンパク質ローディングコントロールとして使用された。同図に示すように、(+)GLUT4を過剰発現する細胞(mdxGLUT4)においてジストロフィンの発現はより高く、アルブミンの量の増加は発現を増加させた。
【
図8】本開示の組成物の他の態様の一般的な構造及び組成の模式図である。この組成物は、後述するように、インビボ実験に使用された。
【
図9】
図9A及び9Bは、GLUT4抗体が添加されていないプラットフォームのインビボ投与後のnNOS及びHAタグの発現を示す実験5のウエスタンブロットの結果を示す。GAPDHは、タンパク質ローディングコントロールとして使用された。非処理mdx Conマウスに比べ、処理マウスの腓腹筋(
図9A)及び前脛骨筋(
図9B)においてnNOS及びHAタグの両方の発現の増加が観察された。注射(+)及び非注射(-)筋肉の両方は、nNOSの発現を示しており、組成物が注射筋肉から出て体循環により最終的に反対側の(非注射)肢の筋肉にトランスフェクトすることができることを示唆している。
【
図10】
図10Aにおいて、クマシー染色により、プロテインA / Gカラムを使用した2つのGLUT4mAbクローンの精製が成功したことが示されている。各クローンのクマシー染色は、非還元(NR)又は還元(R)条件下で示されている。
図10Bは、インスリンの存在及び非存在下でのネイティブGLUT4タンパク質へのmAbクローンの結合を示す図である。GLUT4を過剰発現するMdx筋芽細胞を100nMインスリンの存在又は非存在下でマウスmAbクローン1&2(1mg/mlストック溶液の異なる希釈度)と37°Cで20minインキュベートし、その後、HRP標識二次抗体と20minインキュベートした。比色分析により抗体結合(吸光度)を測定した。吸光度の増加は、両方のクローンがインビトロでネイティブGLUT4タンパク質に結合することを示しており、クローン2の結合親和性がクローン1よりも高い。両方のクローンでは、インスリンはより多くのGLUT4を原形質膜に輸送することにより、吸光度を増加させる。二次抗体単独対照の吸光度が示されている(点線)。
【
図11】GLUT4抗体が未添加(mAbなし)又は添加(mAb)されたプラットフォーム組成物のインビボ投与(TA及び腓腹筋へのI.M.注射)後のHAタグの発現を示す実験6のウエスタンブロットの結果を示す。GAPDHは、タンパク質ローディングコントロールとして使用された。mAb結合プラットフォーム組成物で処理されたマウスの両方の筋肉において、HAタグ発現の数倍の増加が観察された。
【
図12】
図12A及び12Bは、GLUT4抗体を含むプラットフォーム組成物(
図8)のインビボ投与(TA及び腓腹筋へのI.M.注射又は後眼窩静脈叢を介するI.V.注射)後のmdx4CVマウスにおけるα-シントロフィンの発現を示す実験7の結果を示す。α-シントロフィンDNA構築物は、タンパク質を筋表面膜(筋鞘)に標的化するために、RASパルミトイル化配列を含んだ。
図12Aのウエスタンブロットの結果は、I.M.及びI.V.注射マウスの筋肉におけるα-シントロフィンの発現が非注射対照mdx4CVマウスよりも遥かに高いことを示している。GAPDHはタンパク質ローディングコントロールとして使用された。
図12Bに示されるように、筋肉断面の免疫染色により、I.M.及びI.V.注射マウスの両方において多くの筋繊維の表面膜にα-シントロフィン染色が存在する一方、非注射対照マウスにおいて明らかではないことが示されている。なお、I.M.注射マウスの一部の筋繊維における染色が非常に明るい領域は、おそらく神経筋接合部であり、α-シントロフィン発現のためのより多くの膜表領域を有する。
【
図13】
図13A及び13Bは、nNOS構築物を含むプラットフォーム(
図11)のインビボ投与後のmdx4CVマウスにおけるnNOSの発現を示す実験8のウエスタンブロットの結果を示す。
図13Aにおいて、2匹のマウスに対して1つの後肢の腓腹筋にI.M.注射し、2匹のマウスに後眼窩静脈叢を介してI.V.注射した。ウエスタンブロットは、I.M.及びI.V.両方の注射が非注射mdx4CV対照マウスからの2つの腓腹筋に比べて腓腹筋におけるnNOS発現のかなりの増加をもたらしたことを示している。以前の実験と一致して、I.M.注射は、注射(I.M.+)足及び対側(I.M.-)足の両方の筋肉においてもnNOS発現の増加をもたらし、I.M.送達後のプラットフォームの全身分布を示している。さらに、ジストロフィンのホモログであるユートロフィンも、プラットフォームを注射したマウスの筋肉で大幅に増加した。GAPDHはローディングコントロールとして使用された。
図13Bにおいて、3匹のmdxマウスに異なる量のnNOSプラスミド(20、60又は120μg)をI.V.注射した。ウエスタンブロットに示されるように、nNOSとHAタグの両方の発現レベルは、プラスミドの投与量の増加につれて次第に高くなる。GAPDHはローディングコントロールとして使用された。
【
図14】実験9の結果を示す。実験9において、非ウイルス性プラットフォーム組成物(
図8)の全身送達後の筋肉における全長ジストロフィンの発現を測定した。2匹のmdx4CVマウスに異なる用量の50又は100μgのCK8-ジストロフィン構築物を含むプラットフォームをI.V.注射した。ウエスタンブロットに示されるように、両用量は、ともに3つの後肢筋肉(大腿四頭筋、腓腹筋及び前脛骨筋)においてWTマウスの約0.2から0.25%のレベルで全長ジストロフィンの発現を示す。WTウェルにロードされた総タンパク質は他のすべてのウェルと同じであったが、99.75%mdx4CV Conタンパク質と混合された0.25%WTタンパク質で構成された。非注射mdx4CV対照マウスのかすかなバンドは、mdxマウスで低レベルのジストロフィンを発現する非常に少数の復帰線維(revertant fiber)を示している。
【
図15】プラットフォーム組成物(
図8)の全身送達後の心筋における全長ジストロフィンの発現を示す実験9の結果を強調する図である。2匹のmdx4CVマウスにCK8-ジストロフィン又はCMV-ジストロフィン構築物を含むプラットフォームをI.V.注射した。ウエスタンブロットに示されるように、両方の構築物はともに心臓における全長ジストロフィンの発現を引き起こし、CMV-ジストロフィンプラスミドの方がCK8構築物よりもレベルが高かった。ここで、心筋における発現レベルは、WTマウスの約0.1-0.2%であった。WTウェルにロードされた総タンパク質は他のすべてのウェルと同じであったが、99.75%mdx4CV Conタンパク質と混合された0.25%WTタンパク質で構成された。カベオリン-3は膜特異的ローディングコントロールとして使用された。
【
図16】
図16A及び16Bは、CK8-全長ジストロフィンプラスミドを含む非ウイルス性プラットフォーム組成物(
図8)の粒子追跡分析を示す実験10の結果を示す。
図16Aは、サイズ分析のためにNanosightns300ソフトウェアによって識別及び追跡されたプラットフォーム粒子の画像である。
図16Bは、粒子濃度に対する粒子サイズを示す、粒子分布のプロットである。値は、同じサンプルからの4つの別々の入力の平均±SEMである。
【
図17】実験11の結果を示す。この実験において、GLUT4のマウスペプチド配列(GRQGPGGPDSI;配列番号4)に対して作製された6つモノクローナル抗体の結合親和性を測定するためにELISAアッセイを設計した。同図に示されるように、全ての抗体は、 全ての抗体の吸光度は用量依存的に増加し、マウスGLUT4ペプチドへの結合の増加を示している。
【
図18】実験11のELISAアッセイの結果を示す。このELISAアッセイは、GLUT4のヒトペプチド配列(GRQGPEGPSSI;配列番号2)に対して作製された7つのモノクローナル抗体の結合親和性を試験することを目的とした。同図に示されるように、全ての抗体の吸光度は用量依存的に増加し、組換えヒトGLUT4タンパク質への結合の増加を示している。
【
図19】実験11の結果を示す。この実験において、ヒトGLUT4配列(GRQGPEGPSSI;配列番号2)に対して作製された抗体がマウスGLUT4ペプチド配列(GRQGPGGPDSI;配列番号4)に結合できるか否かを試験するためにELISAアッセイを設計した。同図に示されるように、ヒト配列に対して作製された抗体クローン(5E3、8G2、12E11、1A7)は、マウス配列に対して作製された抗体(22F6及び21E5)よりも遥かに弱くマウスペプチドに結合し、比較的低濃度(約2ng/ml)の結合飽和に達した。
【
図20】実験11のELISAアッセイの結果を示す。このELISAアッセイは、マウスGLUT4配列(GRQGPGGPDSI;配列番号4)に対して作製された抗体がヒトGLUT4配列(GRQGPEGPSSI;配列番号2)に結合できるか否かを試験することを目的とした。同図に示されるように、マウス配列に対して作製された抗体(22F6及び21E5)は、抗原に非常に弱く結合したのに対し、ヒト配列に対する抗体(5E3、8G2)は、強く結合した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この開示は、骨格筋及び心筋組織に治療用ペイロードを遺伝的及び薬理学的の両方で特異的に標的化するための非ウイルスベクタープラットフォームに対する本発明者らの開発に基づいてなされたものである。簡単に言えば、
図2に示されるプラットフォームの設計は、主にペイロード容量を大きくするためのものである。例えば、ジストロフィン発現又は遺伝子産物の機能不全に関連する疾患の治療を可能にするために、全長ジストロフィン遺伝子転写物を設計する。
【0011】
このプラットフォームは、筋肉やその他の限られた組織におけるグルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質の特異的及びインスリン依存的発現を利用する。GLUT4は、SLC2A4遺伝子よってコードされ、主に横紋筋(骨格筋及び心筋)及び脂肪組織で発現されるが、海馬及び小脳などの脳の特定の領域でも発現される。GLUT4は、グルコース輸送タンパク質ファミリーのメンバーである。グルコーストランスポーターは、12個の膜貫通ヘリックスドメインを含む内在性膜タンパク質である。GLUT4は、筋肉及び脂肪組織で高度に発現される一方、グルコーストランスポーターファミリーの他のメンバーは、他の組織に特異的である。例えば、高親和性のグルコーストランスポーターであるGLUT3は、ニューロンにおける主なグルコーストランスポーターである。基本的には、GLUT4は、主に細胞内小胞に存在するが、インスリンで処理すると、原形質膜に移動してそれと融合し、これによって、インスリン依存性グルコース取り込みを媒介する。インスリンがインスリン受容体に結合すると、シグナル伝達経路は活性化されることで、GLUT4は原形質膜に移送される。このプロセスは、インスリン結合の15min以内で発生する。インスリンの濃度が低下すると、経時的にGLUT4は小胞内に取り込まれ、エンドソーム系を通過するか又は原形質膜に再利用される。
【0012】
本開示のベクタープラットフォームは、GLUT4が原形質膜に移動して細胞内に戻るような小胞媒介性のGLUT4双方向移動を利用し、GLUT4発現細胞及び組織に治療薬を送達する方法を提供する。後述のように、マウスGLUT4タンパク質の細胞外ドメインに結合する新規抗体(ウサギポリクローナル抗体及びマウスモノクローナル抗体)は初めて開発された。様々な抗体結合技術により、いくつかのペイロード/ベクター構造を作製した。一連のインビトロ及びインビボ実験により、プラットフォームベクターの代表的な実施形態の特異性、担持能力及び他の有用の側面を評価した。例えば、全長ジストロフィン遺伝子を含む大きさが19キロベースのプラスミドDNAのような効果的に標的化された治療導入遺伝子は、筋細胞によって取り込まれて発現され得ることが実証された。GLUT4内在化の後に、プラスミドDNAは細胞に成功に輸送され、ジストロフィン遺伝子の発現は確立された。このアッセイによって、前記プラットフォームは、これまで治療が困難であった筋肉疾患の治療に適用できることが証明された。前記プラットフォームは、様々な治療用ペイロードのタイプを柔軟に可能にするだけでなく、ウイルス成分を必要としない。したがって、前記プラットフォームは、免疫原性のリスクなしに慢性及び変性筋疾患を治療するために、数年間長期にわたって繰り返し投与することを可能にする。
【0013】
上記のことから、本開示によれば、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する結合ドメインを含む組成物が提供される。この組成物は、前記結合ドメインに結合する治療用ペイロードをさらに含む。
【0014】
結合ドメイン
いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、抗体又はその断片若しくは誘導体であるか、或いは抗体又はその断片若しくは誘導体を含む。そのような実施形態において、前記治療用ペイロードは、抗体又はその断片若しくは誘導体に直接又は間接結合することができる。
【0015】
本明細において、用語「抗体」は、本明細書で最も広い意味で使用され、任意の抗体産生哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、及びヒトを含む霊長類)に由来する様々な抗体構造を含み、目的の抗原に特異的に結合する。抗体断片は、具体的には、抗原結合能力を依然として保持しているソース抗体のインタクトな部分又はサブドメインを指す。抗体誘導体は、1つ以上の抗体又は抗体断片組み込んだ分子を指す。典型的には、抗体若しくはその断片の構造、又は抗体若しくはその断片の提示若しくは構成に少なくともいくつかの追加修飾が存在する。本開示の例示的な抗体は、ポリクローナル、モノクローナル及び組換え抗体を含む。本開示の例示的な抗体又は抗体誘導体は、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ヒト化抗体、マウス抗体、キメラ抗体、マウス-ヒト抗体、マウス-霊長目抗体などをさらに含む。
示されるように、抗体断片は、全長抗体に由来又は関連する部分又はサブドメインであり、好ましくは、相補性決定領域(CDR)、抗原結合領域又はその可変領域を含み、抗体誘導体は、得られた分子のさらなる構造修飾及び組み合わせを指す。本開示に含まれる抗体断片又は誘導対は、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2及びFv断片、ダイアボディ、一本鎖抗体分子、VHH断片、VNAR断片、抗体断片から構成される多重特異性抗体、ナノボディなどを含む。例えば、本開示に含まれる例示的な一本鎖抗体誘導体は、抗体のVH及びVLドメインを含む「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片であり、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。Fvポリペプチドは、VHとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含んでもよく、このポリペプチドリンカーは、scFvが抗原結合に必要な構造を形成できるようにする。本開示に含まれる別の例示的な一本鎖抗体は、一本鎖Fab断片(scFab)である。
【0016】
抗体は、様々な用途に適した誘導体を作製するためにさらに修飾することができる。例えば、「キメラ抗体」は、様々なソースからのドメインを含む組換えタンパク質である。例えば、可変ドメイン及び相補性決定領域(CDR)は、非ヒト種(齧歯類など)の抗体に由来することができ、抗体分子の残りの部分は、ヒト抗体に由来する。「ヒト化抗体」は、ヒト抗体フレームワークに移植される非ヒト免疫グロブリンに由来する特定の相補性決定領域に一致する最小配列を含むキメラ抗体である。ヒト化抗体は通常、抗体の相補性決定領域(CDR)のみが非ヒト由来の組換えタンパク質である。これらの抗体又はその断片若しくは誘導体のいずれかは、本開示に含まれる。
【0017】
特定のエピトープを認識する抗体フラグメント及び誘導体は、当業者に知られている任意の技術によって作製することができる。例えば、本開示のFab及びF(ab')2断片は、パパイン(Fab断片の作製)又はペプシン(F(ab')2断片の作製)などの酵素を用いる免疫グロブリン分子のタンパク質分解切断によって作製することができる。F(ab')2断片は、可変領域、軽鎖定常領域及び重鎖のCHIドメインを含む。また、本開示の抗体又はその断片若しくは誘導体は、当技術分野で知られている様々なファージディスプレイ法により作製することもできる。さらに、抗体又はその断片若しくは誘導体は、既知の技術に従って組換え的に作製することができる。
【0018】
結合ドメインは、抗体に基づくドメイン以外の抗原結合分子を含み得ることは、当業者にとって自明なものである。前記抗原結合分子は、例えば、ペプチボディ、抗原結合足場(例えば、DARPin、HEATリピートタンパク質、ARMリピートタンパク質、テトラトリコペプチドリピートタンパク質、天然に存在するリピートタンパク質に基づく他の足場[例えば、Boersma and Pluckthun,Curr.Opin.Biotechnol.22:849-857,2011及びそこに引用された参考文献;参照により本明細書に組み込まれる])であり、機能的結合ドメイン又はその抗原結合断片を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記結合ドメイン(例えば、抗体又はその断片若しくは誘導体)はビオチン化されている。後述のように、ビオチン化は、いくつかの実施形態の組成物の組み立て/結合を容易にする。
【0020】
本明細書において、用語「特異的結合」又はその変形は、結合ドメイン(例えば、抗体又はその断片若しくは誘導体)が当技術分野で知られている標準的な条件下で、他の分子に有意に結合することなく目的の抗原(例えば、GLUT4)に結合する能力を指す。結合ドメインは、他のペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に結合することができるが、例えば、イムノアッセイ、BIAcore又は当技術分野で知られている他のアッセイによって決定されるように、親和性がより低い。しかし、結合ドメインは、好ましくは、他の抗原と実質的に交差反応しない。
【0021】
いくつかの実施形態において、組成物のGLUT4結合ドメインは、約50nM(より低い結合親和性)から約0.001nM(より高い結合親和性)までの解離定数(Kd)によって特徴付けられる範囲内の結合親和性を有する。例えば、結合ドメインは、GLUTタンパク質に対してKd(約50nM、40nM、30nM、20nM、10nM、5nM、1nM、0.75nM、0.5nM、0.1nM、0.05nM、0.01nM、0.005nM、0.001nM又はそれ以下)によって特徴付けられる結合親和性を有する。目的の細胞型に特徴的な抗原に対する細胞標的化ドメインの結合親和性を特徴付ける典型的な(Kd)範囲には、約30nMから約10nM、約20nMから約1nM、約10nMから約0.1nM、約0.5nMから約0.05nM、約0.1nMから約001nM若しくはそれ以下、又はそれらのサブ範囲が含まれる。
【0022】
結合標的
上記のように、結合ドメイン(例えば、抗体又はその断片若しくは誘導体)は、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する。GLUT4は、SLC2A4遺伝子(又はそのホモログ)によってコードされ、主に横紋筋(骨格筋と心臓筋)及び脂肪組織で発現されるが、海馬や小脳などの脳の特定領域でも発現される。本開示は、ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウマなどの任意の哺乳動物に由来のGLUT4を含む。いくつかの実施形態において、結合ドメインは、GLUT4タンパク質の細胞外ドメインに特異的に結合する。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、GLUT4の第1細胞外ループドメインに特異的に結合する。いくつかの実施形態において、GLUT4の第1細胞外ループドメインは、配列番号2に示される配列と少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、このアミノ酸配列は、ヒトGLUT4第1細胞外ループドメインのサブドメインである。例えば、例示的なGLUT4ドメインは、Genbankアクセッション番号M91463.1(ヒト)、Genbankアクセッション番号AB008453.1(マウス)、Genbankアクセッション番号NM_001159327.1(イヌ)、及びGenbankアクセッション番号L36125.1(ラット)に示されるドメインを含み、それぞれが参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態において、GLUT4第1細胞外ループドメインは、配列番号1に示される配列と少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、代表的なヒトGLUT4第1細胞外ループドメインである。いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%の配列同一性及び100%の配列同一性)を有する配列を含むGLUT4の第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する。
【0024】
いくつかの実施形態において、GLUT4の第1細胞外ループドメインは、配列番号4に示される配列と少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、マウスGLUT4第1細胞外ループドメインのサブドメインである。いくつかの実施形態において、GLUT4第1細胞外ループドメインは、配列番号3に示される配列と少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、代表的なマウスGLUT4第1細胞外ループドメインである。いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、配列番号4に示される配列と少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%の配列同一性)を有する配列を含むGLUT4の第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する。
【0025】
ペイロード
治療用ペイロードは、表面に少なくとも一時的にGLUT4を発現する標的細胞において変化を誘導できる任意のペイロードであり得る。変化は、インビボの場合、治療効果であり得る。例示的で非限定的な治療用ペイロードは、核酸、タンパク質若しくはペプチド、脂質、小分子医薬品及び/又は放射性同位体を含み得る。
【0026】
例えば、いくつかの実施形態において、治療用ペイロードは、DNA(cDNAを含む)、mRNA、siRNA、shRNA及びgRNAなどの核酸を含む。ガイドRNA分子は、DNA編集(例えば、CRISPR/Cas9)及びRNA編集に使用できる。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記核酸は、標的細胞において治療効果を有するタンパク質をコードする配列(例えば、オープンリーディングフレーム)を含む。いくつかの実施形態において、前記核酸は、プロモーター配列に動作可能に結合するオープンリーディングフレームを含むことによって、標的細胞においてオープンリーディングフレームの発現を提供する。このオープンリーディングフレームは、導入遺伝子と呼ばれることがある。用語「プロモーター」は、導入遺伝子及び/又はそのスプライス変異体アイソフォームの転写(発現)を活性化することができる調節ヌクレオチド配列を指す。プロモーターは通常、遺伝子の上流に位置するが、遺伝子の近位にある他の領域、及び遺伝子内に位置することもできる。プロモーターは、通常、転写複合体の組み立てに関与するRNAポリメラーゼ及び1つ以上の転写因子の結合部位を含む。本明細書において、用語「動作可能に結合」は、は、プロモーター及びコード核酸が、プロモーターが細胞の転写機構によってコード核酸の転写を活性化できるように、互いに対して構成及び配置されることを示す。プロモーターは、構成的及び誘導的であり得る。構成的プロモーターは、標的細胞の特徴及び細胞質ゾルで利用可能な特定の転写因子に基づいて決定することができる。様々なプロモーターが既知であって当技術分野で一般的に使用されているため、当業者は、目的となるヒトに基づいて適切なプロモーターを選択することができる。例示的で非限定的なプロモーターは、筋肉クレアチンキナーゼ(CK)プロモーター(Genbankアクセッション番号AF188002.1)及びヒト骨格アクチンプロモーター(Genbankアクセッション番号NG_006672.1)を含み、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において、全長プロモーターが使用可能であるが、活性をある程度保持する短縮型プロモーターも本開示に含まれる。活性を保持する短縮型CKプロモーターの例示的で非限定的な例は、「Hauser MA,et al.,Analysis of muscle creatine kinase regulatory elements in recombinant adenoviral vectors, Mol Ther.2000l 2(1):16-25」及び「Brennan KJ and Hardeman EC,Quantitative analysis of the human alpha-skeletal actin gene in transgenic mice,J Biol Chem.1993 268(1):719-725」に記載されており、それぞれが参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0028】
前記核酸治療用ペイロードは、任意のサイズ及び任意の構成(例えば、線形形態、プラスミド形態(例えば、円形形態)又はミニサークル形態)であり得る。以下に示すように、本開示の組成物は、標的細胞における発現を成功させるために非常に大きな導入遺伝子を送達できることが実証されている。したがって、核酸ペイロードは、典型的なウイルスベクターの使用を実際に制限するように制限されていない。したがって、核酸の線形形態は、限定されることなく、短いオリゴ及びより長い導入遺伝子を含むことができる。当業者に理解できるように、ミニサークルは、ほとんど及びすべての原核生物のベクター成分を欠く小さな環状プラスミド誘導体である。ミニサークルは、小さいサイズ及び/及び原核生物の配列の欠如により分解されにくいという利点を有する導入遺伝子担体として機能することができる。
【0029】
上記のように、前記核酸は、標的細胞内で発現される任意の所望のタンパク質又はタンパク質断片をコードする配列を含むように構成される導入遺伝子であり得る。前記導入遺伝子は、前記細胞内で発現させることが望まれる任意のタンパク質をコードすることができる。いくつかの実施形態において、前記導入遺伝子は、標的細胞に存在する変異内因性バージョンと比較して、前記細胞に有益な効果をもたらすタンパク質をコードする。例えば、上記のように、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、異常なジストロフィンタンパク質(及び異常なジストロフィンタンパク質の発現)に起因する衰弱性の性関連疾患である。ジストロフィンをコードする遺伝子は、「DMD」遺伝子と呼ばれ、最も長いヒト遺伝子の一つであり、遺伝子座Xp21で約79個のエクソンを有し、約2.3メガベース(ヒトゲノムの0.08%)をカバーする。一次野生型転写物は、約21キロベースであり、成熟mRNAは、約14キロベースである。下記のように、本発明者らは、本開示のベクタープラットフォームがそのような長い導入遺伝子をGLUT4+細胞(例えば、筋細胞)に送達して発現を成功に達成できることを確立した。したがって、核酸ペイロードの例示的で非限定的な例には、プロモーター配列に動作可能に結合する、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードするコードヌクレオチド配列が含まれる。いくつかの実施形態において、コードされるジストロフィンタンパク質は、全長ヒトジストロフィンタンパク質又は実質的に全長ヒトジストロフィンタンパク質である。ヒトジストロフィンのための例示的な全長タンパク質配列は、配列番号5に示される。いくつかの実施形態において、前記核酸ペイロードは、配列番号5に示される配列と少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するジストロフィンをコードする。
【0030】
用語「実質的に全長」は、重要であるが不完全なバージョンのジストロフィンがコードされる実施形態を含む。例えば、全長ジストロフィンタンパク質の少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%又は少なくとも約99%(例えば、上記のように、配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有する)は、コードされて標的細胞においてある程度の表現型の改善を提供する。
【0031】
「マイクロジストロフィン」タンパク質が異常及び変異DMD遺伝子を有する細胞に投与及び発現されることにより、DMD遺伝子の内因性変異を補償する少なくともある程度の改善効果を提供できることも示されている。特定の理論に縛られることなく、ジストロフィンの多くの短縮バージョンは、DMD及び他のジストロフィン関連疾患のある被験者におけるジストロフィンの変異及び異常な発現よりも機能が改善されたと考えられている。したがって、筋細胞を用いてこれらの短縮型及びマイクロジストロフィンタンパク質の送達及び発現を誘導することにより、比較的健康及び改善の表現型を回復し始めることができる。したがって、いくつかの実施形態において、前記核酸ペイロードは、ジストロフィンタンパク質の機能的断片(例えば、当技術分野で知られている任意のマイクロジストロフィン)をコードすることができる。例えば、参照により本明細書に組み込まれる「Ramos et al.,2019 Molecular Therapies 27:623-635」には、パフォーマンスを改善するために最適化されたいくつかの小型化マイクロジストロフィン構築物が記載されている。マイクロジストロフィン構築物の機能性に寄与する特徴を有することが示されているジストロフィンタンパク質の例示的で非限定的な領域及びドメインは、少なくとも4つのSRドメインを有するロッドドメイン、SR16-17におけるα-シントロフィン結合ドメイン、アクチン結合ドメイン、及びβ-ジストログリカンに結合するためのシステインリッチドメインを含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、全長ジストロフィンタンパク質は、配列番号5に示される配列と少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%、及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、配列番号5に示される配列は、ジストロフィンの予測される全長ヒトタンパク質配列である。配列番号5に示される配列は、Genbankアクセッション番号がAAA53189.1であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。他の実施形態において、全長ジストロフィンタンパク質は、配列番号6に示される配列と少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)アミノ酸配列を含み、配列番号6に示される配列は、ジストロフィンの予測される全長マウスタンパク質配列である。配列番号6に示される配列は、Genbankアクセッション番号がNP_031894.1であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。別の実施形態において、前記全長ヒトジストロフィンタンパク質は、配列番号7に示される配列と少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、配列番号7に示される配列は、ジストロフィンの予測される全長ラットタンパク質配列である。配列番号7に示される配列は、Genbankアクセッション番号がXP_017457396.1であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。別の実施形態において、前記全長ヒトジストロフィンタンパク質は、配列番号8に示される配列と少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、配列番号8に示される配列は、ジストロフィンの予測される全長ウサギタンパク質配列である。配列番号8に示される配列は、Genbankアクセッション番号がXP_017205220.1であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。上記のように、これらの実施形態における核酸治療用ペイロードは、全長ジストロフィンタンパク質配列、実質的な全長ジストロフィン配列、又は改善された表現型の回復に対して少なくともある程度の治療効果を提供する能力を保持するその機能的断片を構成することができる。
【0033】
上記のように、前記核酸ペイロードは、短いオリゴマーなどの線形核酸を含み得る。いくつかの実施形態において、前記核酸は、タンパク質をコードする導入遺伝子ではなく、標的細胞におけるタンパク質の内因性発現及び翻訳を変化させるものである。例えば、DMDなどのゲノム疾患を治療するためのいくつかの治療アプローチにおいて、核酸オリゴを投与することでフレームシフトをもたらす変異を含むpre-mRNAのエクソンスキッピングを促進する。投与される核酸オリゴ(例えば、ホスホジアメデートモルフォリノオリゴマー)は、変異したpre-mRNAに配列特異的に交雑するとともに、スプライセオソームがコードpre-mRNA分子の変異エクソンの接合部で結合するのを立体的に防止するように構成される。その結果、スプライセオソームはイントロンだけでなく、フレームシフト変異を含むエクソンも切除する。得られた成熟mRNAは、変異したエクソンを欠き、残りのすべてのイントロンに沿ってリーディングフレームを維持しているわずかに切り詰められたタンパク質をコードする。切り詰められたタンパク質は、フレームシフトを含むバージョンと比較して、少なくともいくつかの野生型の特徴を保持している。このアプローチは、DMDに対して実施されている。しかしながら、典型的なアプローチは、投与後の分解速度が速いため、非常に大量のオリゴを必要とする。例えば、「Verhaart IEC and Aartsma-Rus A,Therapeutic developments for Duchenne muscular dystrophy,Nat Rev Neurol.2019 Jul;15(7):373-386」を参照されたい(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。本開示の核酸ペイロードは、これらのような治療用オリゴマーを含む。本開示のプラットフォームによれば、標的細胞にオリゴマーを特異的に標的化することにより細胞に効率的に取り込むことができる。したがって、本開示の標的化プラットフォームは、上記のような高用量のオリゴを必要とせず、標的細胞への送達及び標的細胞による取り込みのより高い可能性を提供する。
【0034】
他の実施形態において、本開示の核酸ペイロードは、RNA干渉を促進するように構成することができる。例えば、いくつかの実施形態において、前記核酸ペイロードは、短鎖干渉RNA(siRNA)若しくは短鎖ヘアピンRNA(shRNA)分子、又はsiRNA若しくは短鎖shRNA分子をコードする核酸であるか、或いはこれらのいずれかを含む。上記のような核酸分子の配列は、当技術分野の技術及び知識に従って、mRNA転写物に結合して部分配列を分解することにより細胞内の任意の所望の標的タンパク質をノックダウンするように容易に構成することができる。
【0035】
核酸ペイロードの任意の実施形態において、核酸ペイロードが非常に大きい場合(例えば、ジストロフィン又はその大部分をコードする長鎖核酸である場合)、前記組成物は、核酸の効率的なコイリング及びパッケージング(例えば、凝縮)を容易にするために他の成分をさらに含むことができる。パッケージングは、限定されることなく、上記のように、核酸ペイロードの線形(例えば、オリゴ及び長鎖配列)、プラスミド、及びミニサークルの実施形態に有用である。例えば、一実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合するヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質を含み得る。前記ヒストンタンパク質は、核酸ペイロードのコイリングを促進して効果的なパッケージング及び輸送を達成することができる。いくつかの実施形態において、後述のように、前記ヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質の少なくとも一部は、結合を促進するためにビオチン化されている。
【0036】
他の実施形態において、前記組成物は、核酸に会合する複数のカチオン性部分をさらに含み、これによって凝縮した核酸が生じる。特定の理論に限定されることなく、カチオン性分子は、重合アニオン性分子であるDNAを凝縮することができる。したがって、複数の正に帯電したアミノ酸を含むペプチドは、高分子核酸ペイロードを凝縮するのに有用である。例示的なカチオン性アミノ酸は、リジン(Lys,K)、ヒスチジン(His,H)及びアルギニン(Arg,R)を含む。したがって、いくつかの実施形態において、前記組成物は、1つ以上のカチオン性ペプチドをさらに含み、前記カチオン性ペプチドは、His、Arg、Lys及びそれらの組み合わせから選択される複数のカチオン性アミノ酸を含む。ペプチドは、通常正味の正電荷を有する。いくつかの実施形態において、前記ペプチドは、1つ以上のポリL-Lys(PLL)ペプチド部分を含む。さらに、核酸ペイロードを凝縮する組成物に含まれ得る非限定的なカチオン性分子又は部分は、線状ポリエチレンイミン(LPEI)、分岐状ポリエチレンイミン(BPEI)、キトサン、スペルミジン及びスペルミン、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)、ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)、ポリ{N-[N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルタミド(PAsp(DET))、ポリ(2-アミノエチルエチレンホスフェート(PPEEA)などを含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、PLL又は上記の他のカチオン性分子などのカチオン性部分の少なくとも一部は、後述のように、結合が促進されるようにビオチン化されている。
【0038】
結合
結合ドメイン、例えば、抗体又はその断片若しくは誘導体は、既知の手法により治療用ペイロードに結合することができる。この結合は、共有結合及びイオン結合であり得る。
【0039】
いくつかの例示的で非限定的な実施形態において、前記結合は、ビオチンと結合パートナー(例えば、アビジン、ニュートラアビジン及びストレプトアビジン)との間の相互作用に依存して、組成物の構成部分の非常に高い親和性及び特異的な結合を提供する。
【0040】
例えば、一実施形態において、前記結合ドメイン(例えば、抗体又はその断片若しくは誘導体)及びDNAコイリング又は凝縮要素(例えば、ヒストン又はカチオン性ペプチド)は、それぞれビオチン化されている。前記核酸ペイロードは、DNAコイリング及び凝縮要素に関連している(例えば、コイリング及び凝縮要素によって巻かれ及び凝縮される)。同じニュートラアビジン分子を有する複数のビオチン化成分との相互作用を通じて、結合ドメインとコイリング又は凝縮要素及び関連核酸ペイロードは、高い親和性で一緒に結合される。
【0041】
いくつかのさらなる実施形態において、複数の結合ドメイン及び核酸ペイロード(DNAコイリング又は凝縮要素に関連する)は、凝集され得る。これは、複数のビオチン化要素を同じアビジンに基づく結合パートナーに結合させるだけで実現することができる。或いは、同じ核酸ペイロードに会合する複数のビオチン化DNAコイリング及び凝縮要素が存在する可能性があり、それぞれが異なるアビジンに基づく結合パートナーに結合し、これらの結合パートナーは異なる結合ドメインに順に結合する。この凝集は、複数の核酸ペイロードに会合可能なリポソームなどの1つ以上の粒子が組成物に含まれることによってさらに促進することができる。例えば、
図3に示されるように、複数の核酸プラスミドペイロードは、カチオン性リポソーム構造に会合する。それぞれのプラスミドは、複数のビオチン化されたヒストンタンパク質に会合する。ビオチン化ヒストンは、ニュートラアビジンへの相互結合によってビオチン化結合ドメイン(例えば、抗GLUT4抗体)に結合する。上記の例示的な組成物の作製は、後述する。
【0042】
したがって、いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、核酸ペイロードとさらに会合及び/及び凝集できるリポソームなどのカチオン性粒子をさらに含むことができる。カチオン性リポソームは既知であり、核酸ペイロードとの適切な凝集及び/及び会合を促進するために当業者によって容易に構築され得る。いくつかの例示的で非限定的な実施形態において、前記リポソームは、DC-コレステロール・HCl、3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール塩酸塩(DC-Chol)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DMTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、ヘミコハク酸コレステリル(CHEMS)及びコレステロール(CHOL)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミニウム(DOSPA)、ジオクタデシル-アミド-グリシル-スペルミン(DOGS)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)などから選択される1つ以上の脂質をさらに含み得る。いくつかの実施形態において、前記リポソームは、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む。
【0043】
別の例示的な実施形態において、
図8に示されるように、プラスミドDNAペイロードは、ビオチン化された複数のPLLカチオン性部分に会合する。ビオチン化PLL部分は、同じニュートラアビジン結合パートナーとの相互会合によって結合ドメイン(例えば、抗GLUT4抗体)に結合する。
【0044】
さらなる実施形態において、前記組成物は、核酸ペイロードの発現を増強できるアルブミンをさらに含む。後述のように、最近の証拠により、アルブミンは、送達されたDNA/リポソームベクターからのタンパク質の発現を増強できることが示されている。他の理由からも、アルブミンは、エンドソーム脱出及び核酸ペイロードの核取り込みの増強を含む、標的細胞への組成物の送達を増強すると考えられている。負に帯電したアルブミンは、核酸ペイロードに会合した正に帯電したリポソームに結合することができる。ビオチン及びアビジンに基づく結合パートナーが結合に使用される他の実施形態において、アルブミンはビオチン化され得る。したがって、正に帯電したリポソームは、アルブミンの有効性の前提条件ではない。これを
図8に示す。
【0045】
一態様では、本開示は、GLUT4を発現する細胞にペイロードを送達することによって治療可能な疾患の治療に使用される本発明の組成物を提供する。本明細書で使用される「治療」の他の要素に加えて、この態様に含まれる適用可能な疾患は、以下でより詳細に説明される。いくつかの実施形態において、前記使用は、ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子変異がある被験体における疾患又は病状を治療するためのものである。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、本明細書で詳しく説明されるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)又はベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の治療に使用される。これらの実施形態において、本開示の組成物のペイロードは、全長(例えば、野生型)ジストロフィンタンパク質、その機能的断片(例えば、約80%、85%、90%、95%、98%)、又はその野生型配列と少なくとも約90%、95%若しくは98%のアミノ酸配列同一性を有する変異体をコードする核酸を含み得る。いくつかの実施形態において、野生型配列からの配列同一性の変動は、タンパク質機能に有意な影響を及ぼさない保存的置換に起因する。いくつかの実施形態において、前記使用は、被験体にインスリンを投与することでペイロードが到達可能なGLUT4標的及びペイロードの標的化を増加させることをさらに含み得る。
【0046】
方法
本開示は、本開示の組成物の使用及び作製の方法をさらに含む。
【0047】
一態様では、本開示は、GLUT4を発現する細胞に送達するためにペイロード(例えば、治療用ペイロード)を標的化する方法を提供する。この方法は、前記細胞を上述したいずれかの実施形態の本開示の組成物に接触させることを含む。
【0048】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記細胞を前記組成物に接触させる前に、前記細胞をインスリンに接触させることをさらに含む。上記のように、GLUT4は、海馬や小脳などの脳の特定の領域内の細胞に加えて、横紋筋や脂肪組織で高度に発現される。GLUT4は主に細胞内GLUT4貯蔵小胞(GSV)に存在する。しかし、インスリンがインスリン受容体(骨格筋、心臓、脂肪細胞及びいくつかのニューロンを含むインスリン感受性細胞において)に結合すると、シグナル伝達経路が活性化され、GLUT4は原形質膜に転座する。例えば、Klip,A,et al.,30sweet years of GLUT4.2019,REV119.008351(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。したがって、いくつかの実施形態において、前記細胞を前記組成物に接触させる前に、インスリンを前記細胞に少なくとも約10分間(例えば、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、80、90、120分間又はそれ以上)に接触させる。
【0049】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪組織細胞、海馬細胞又は小脳細胞である。
【0050】
上記のように、前記ペイロード(例えば、治療用ペイロード)は、標的細胞の表現型を改善又は変更する任意の組成物であり得る。いくつかの実施形態において、前記治療用ペイロードは、例えば、細胞において所望のタンパク質の発現を提供する導入遺伝子などの核酸である。例示的な実施形態は、細胞内のジストロフィンタンパク質の発現を提供するための、ジストロフィン又はその機能的断片をコードする導入遺伝子である。したがって、いくつかの実施形態において、前記方法は、細胞内の機能的ジストロフィンタンパク質の発現若しくは発現の向上、又は細胞内のジストロフィンタンパク質の機能的断片の発現の向上の方法である。この向上は、方法を実施する前の発現なしの開始点からの任意の発現レベルであり得る。いくつかの実施形態において、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片の残留(すなわち、検出可能な)発現を有することができる。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片を少なくとも約0.01%、0.025%、0.05%、0.1%、1%、2.5%、5%、10%、25%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%、又はジストロフィンをコードするインタクトな野生型遺伝子を有する類似の細胞(例えば、同じ組織に由来の細胞)より高いレベルで発現することができる。いくつかの実施形態において、前記細胞は、筋細胞である。
【0051】
他の実施形態において、前記細胞は、表面でGLUT4を発現したがん細胞である。 このようながん細胞の非制限的な例には、黒色腫細胞、前立腺がん細胞、横紋筋肉腫細胞などの筋組織のがん細胞、及び乳がん細胞が含まれる。そのような実施形態において、前記治療用ペイロードは、放射性同位体又は他の毒素などの任意の抗がん治療用ペイロードであり得る。
【0052】
本方法は、インビトロで実施することができる。或いは、本方法は、表面上で恒常的及び一過的にGLUT4を発現する細胞の機能不全に関連する疾患の治療に向けられたインビボの方法であり得る。このインビボ方法は、有効量の本開示の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0053】
本明細書において、用語「治療」とは、被験体(例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物、例えば、他の霊長類、ウマ、イヌ、マウス、ラット、モルモット、ウサギなど)の疾患、障害又は病状(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)などの筋ジストロフィー又はがん)の医療管理を指す。治療には、疾患又は病状(例えば、DMD、BMD又はがん)の治療若しくは改善の成功の兆候が含まれ、症状の軽減、寛解、緩和;疾患若しくは病状を患者にとってより耐えられるものにすること;悪化若しくは衰退の速度を遅くすること;又は悪化を緩和さあせることなどの任意のパラメーターが含まれる。非限定的な例において、本明細書において、DMDについての「治療」という用語は、筋肉喪失又は脱力感の進行の遅延又は抑制;筋力、筋制御又は運動技能の安定化又は増加;筋疲労の軽減;横隔膜機能の安定化又は改善;心拍出量の安定化又は改善などを含み得る。非限定的な例において、がんについての「治療」という用語は、治療を受けない場合と比較して、がんの成長速度を遅らせるか又は阻害すること;再発の可能性を減少させること含み得る。いくつかの実施形態において、治療は、患者体内のがん細胞死を検出可能な程度でもたらすことを含む。症状の治療及び改善は、客観的及び主観的なパラメータに基づくものであり、医師による検査の結果を含む。したがって、用語「治療」は、疾患及び病状(例えば、DMD、BMD及びがん)に関する症状及び病状の発症を軽減、阻止及び阻害するために本開示の組成物を投与することを含む。用語「治療効果」とは、被験体における疾患若しくは病状、疾患若しくは病状の症状、又は疾患若しくは病状の副作用を改善、軽減又は排除することを指す。用語「治療有効量」とは、治療効果をもたらす容易に確定できる組成物の量を指す。
【0054】
上記のように、本開示の方法は、被験体に治療有効量の本開示の組成物を投与することを含み得る。上記のように、核酸ペイロードは通常、標的細胞での発現のために構成され、例えば、適切なプロモーターに動作可能に結合する。有効量とは、表現型に有益な変化をもたらす量である。細胞特異的プロモーター、例えば、筋肉特異的プロモーターを有することの利点は、結合ドメインのGLUT4標的化によってすでに提供された特異性に特異性をさらに与えることである。
【0055】
いくつかの実施形態において、前記治療方法は、他の治療戦略と組み合わせたり、統合したりされる。この組み合わせの態様では、変異又は異常なジストロフィン発現に関連する病状に対処する他の治療戦略について考慮されている。GLUT4を発現するがんでは、他のがん戦略は、免疫調節組成物(例えば、抗体、免疫細胞、サイトカインなど)を利用するがん免疫療法であり得る。がん標的に対する被験体自身の免疫応答を高める可能性がある。このような免疫療法には、CAR T細胞を含む養子免疫細胞療法、免疫チェックポイント阻害剤療法、がんワクチンなどが含まれる。
【0056】
前記治療方法は、GLUT4を発現細胞に関連するいくつかの症状を治療するために本開示の組成物を組み込むことができる。例えば、本開示の組成物の投与によって治療可能な疾患は、 骨格筋疾患、例えば、筋ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー(シュタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー及びエメリー・ドレイフス骨格筋ジストロフィー)、他のミオパチー、例えば、炎症性ミオパチー(例えば、多発性筋炎、皮膚筋炎及び封入体筋炎)、内分泌異常によるミオパチー(甲状腺機能亢進症及び甲状腺機能低下症性ミオパチー)、筋萎縮を引き起こす疾患、例えば、癌悪液質及びサルコペニア、先天性筋緊張症、先天性パラミオトニア、セントラルコア病、ネマリンミオパチー、中心核病周期性四肢麻痺、RYR-1ミオパチー、及び炎症性ミオパチー(例えば、多発性筋炎、皮膚筋炎及び封入体筋炎)を含む。本開示の方法は、運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、乳児進行性脊髄性筋萎縮症(1型-ウェルドニッヒホフマン病)、中等度脊髄性筋萎縮症(タイプ2)、若年性脊髄性筋萎縮症(タイプ3-クーゲルベルク-ウェランダー病)、成人脊髄性筋萎縮症(タイプ4)及び球脊髄性筋萎縮症(ケネディ病))、神経筋接合部疾患、例えば、重症筋無力症、ランバート・イートン(筋無力性)症候群及び先天性筋無力症候群、末梢神経疾患、例えば、シャルコー・マリー・トゥース病、フリードライヒ運動失調症及びデジュリーヌ・ソッタス病、心筋症、筋肉に影響を与える代謝性疾患、例えば、ホスホリラーゼ欠損症(マッカードル病)、酸性マルターゼ欠損症(ポンペ病)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(垂井病)、デブランチャー酵素欠損症(コリ又はフォーブス病)、ミトコンドリアミオパチー、カルニチン欠乏症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠乏症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸脱水素酵素欠損症及びミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症)、脂肪組織に影響を与える疾患、例えば、糖尿病、脂肪ドロローサ、先天性全身性脂肪異栄養症(Berardinelli-Seip先天性脂肪異栄養症)、家族性部分型脂肪異栄養症、家族性リポタンパク質リパーゼ欠損症、中性脂質蓄積症及びチャナリン-ドルフマン症候群の治療にも適用できる。GLUT4は海馬と小脳で発現されるため、アルツハイマー病、毛細血管拡張性運動失調症、NBIA(脳内鉄沈着を伴う神経変性症)、ファール症候群、バース症候群及びパーキンソン病を含む脳障害は、本開示の組成物によって治療可能である。最後に、GLUT4はいくつかのがんで過剰発現されるため、本開示の組成物は、悪性黒色腫、前立腺がん、及び横紋筋肉腫などの筋肉に影響を与えるがんを標的として治療するために使用することができる。
【0057】
特定の態様では、本開示は、ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子変異がある被験体における疾患又は病状を治療する方法を提供する。この方法は、被験体に治療有効量の組成物を投与することを含む。
前記組成物は、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する結合ドメインと、
結合ドメインに結合する治療用ペイロードと、
を含む。
前記治療用ペイロードは、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする配列に動作可能に結合するプロモーター配列を有する核酸を含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、前記被験体は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に罹患しているか又はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝的保因者である。上記のように、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、異常なジストロフィンタンパク質(又は異常なジストロフィンタンパク質の発現)に起因する衰弱性の伴性疾患である。伴性疾患として、DMDは主に男性に影響を及ぼし、通常、最初に脚と骨盤の筋喪失を示し、次に腕に進行する。症例は、被験体が呼吸困難や心拍出量の低下を経験するところまで進行する可能性がある。影響を受けた被験体は、広範囲にわたる損失と劣化のために、最終的には大幅に寿命が短くなる。いくつかの実施形態において、前記被験体は、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)に罹患しているか、又はベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の遺伝的保因者である。ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)は、ジストロフィン遺伝子の変異に起因するという点でDMDに関連している。しかし、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)は、DMDに比べて症状が軽度である可能性がある。これは、ジストロフィン遺伝子の変異部位により、DMD被験体に比べてBDM被験体には比較的高いレベルのジストロフィン機能が残っている。
【0059】
前記組成物の例示的な成分は、上記でより詳細に説明されており、本開示のこの態様に適用可能である。いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、GLUT4に特異的に結合する抗体又はその断片若しくは誘導体である。このような抗体、断片又はその誘導体は、上記でより詳細に説明されている。いくつかの実施形態において、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、GLUT4の第1細胞外ドメインに特異的に結合する。前記ドメイン及びその中の特定のエピトープは、上記でより詳細に記載されている。いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、GLUT4の第1細胞外ループドメインに特異的に結合する。いくつかの実施形態において、GLUT4の第1細胞外ループドメインは、配列番号2に示される配列と少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、このアミノ酸配列は、ヒトGLUT4第1細胞外ループドメインのサブドメインである。いくつかの実施形態において、前記GLUT4第1細胞外ループドメインは、配列番号1に示される配列と少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%及び100%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含み、このアミノ酸配列は、代表的なヒトGLUT4第1細胞外ループドメインである。いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約94%、少なくとも約96%、少なくとも約98%の配列同一性)を有する配列を含むGLUT4の第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する。
【0060】
いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、前記GLUT4に結合するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、前記結合ドメインは、抗体断片又は抗体誘導体である。前記抗体断片又は抗体誘導体は、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab)2断片、VHH断片、VNAR断片若しくはナノボディであるか、又はこれらのいずれかを含み得る。前記一本鎖抗体は、一本鎖可変断片(scFv)又は一本鎖Fab断片(scFab)であり得る。
【0061】
いくつかの実施形態において、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されている。
【0062】
この方法態様における核酸は、上記のような任意の核酸ペイロードであり得る。例えば、前記核酸は、線形形態、プラスミド形態又はミニサークル形態である。
【0063】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合するヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記ヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質の少なくとも一部は、ビオチン化されている。
【0064】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合するリポソームをさらに含む。 リポソームの成分は、上記でより詳細に説明されており、本開示のこの態様に適用可能である。いくつかの実施形態において、前記リポソームは、DC-コレステロール・HCl、3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール塩酸塩(DC-Chol)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DMTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、ヘミコハク酸コレステリル(CHEMS)and コレステロール(CHOL)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミニウム(DOSPA)、ジオクタデシル-アミド-グリシル-スペルミン(DOGS)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)などから選択される1つ以上の脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記リポソームは、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む。
【0065】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、核酸に会合する複数のカチオン性ペプチド部分をさらに含み、これにより凝縮した核酸が生じる。いくつかの実施形態において、前記カチオン性部分は、ポリ-L-リジン(PLL)、線状ポリエチレンイミン(LPEI)、分岐状ポリエチレンイミン(BPEI)、キトサン、スペルミジン及びスペルミン、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)、ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)、ポリ{N-[N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルタミド(PAsp(DET))、ポリ(2-アミノエチルエチレンホスフェート(PPEEA)などであるか、又はこれらを含む。いくつかの実施形態において、複数のカチオン性ペプチド部分の少なくとも一部は、ビオチン化されている。
【0066】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、アルブミンをさらに含む。いくつかの実施形態において、アルブミンの少なくとも一部は、ビオチン化されている。
【0067】
いくつかの実施形態において、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されており、前記組成物は、ニュートラアビジンをさらに含む。
【0068】
いくつかの実施形態において、コードされたジストロフィンタンパク質は、実質的に全長ヒトジストロフィンタンパク質である。いくつかの実施形態において、前記全長ヒトジストロフィンタンパク質は、配列番号5に示される配列と少なくとも80%の配列同一性アミノ酸配列を有する。
【0069】
前記被験体は、ヒト、非ヒト霊長類、ラット、マウス、ウサギ、ネコ、イヌなどの哺乳動物であり得る。特定の実施形態において、前記被験体は、ヒトである。
【0070】
製造と投与
本開示はまた、被験体(例えば、DMD、BMD、がん又は上述した症状を有する哺乳類被験体)のインビボ治療方針に適用される投与方法に適切な製剤を含む。当業者によれば、本開示の組成物は、特定の標的細胞への投与のために、適切な担体及び非活性結合剤などと配合することができる。前記組成物は、標的細胞特異性を付与する結合ドメインを含むため、当該技術分野の技術及び知識に従って、前記組成物を直接又は全身投与のために製剤化することができる。
【0071】
例示的な抗GLUT4抗体
【0072】
ヒトGLUT4の細胞外ドメインに結合する前記抗GLUT4抗体は、知られているものである(例えば、Tucker et al,Proc.Natl. Acad.Sci.115:E4990-E4999,published online May 16,2018)。さらなる態様では、ヒトGLUT4ペプチドGRQGPEGPSSI(配列番号2)に結合するモノクローナル抗体が提供される。特定の実施形態において、本開示は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体を提供する。いくつかの態様では、前記VHは、配列(D/E)Y(S/T)(I/M)Hを含むCDR1と、配列WINTE(S/T)G(D/E)X1(T/S)YADDFKGを含むCDR2と、配列RX2X3Yを含むCDR3とを含み、前記VLは、配列(R/K)(A/S)SQS(L/V)X4X5(N/S)を含むCDR1と、配列(V/A)SNR(F/Y)(S/T)を含むCDR2と、配列QDX6 X7X8P Tを含むCDR3とを含む。いくつかの実施形態において、X1はP若しくはT;X2はA、F、S若しくはG;X3はA、D、E若しくはG;X4はS、V、N若しくはT;X5はN、H、R、K若しくはT;X6はR、Y、S、T若しくはK;X7はH、N、E、T、Y若しくはS;又はX8はV、S、L若しくはIである。
【0073】
したがって、いくつかの実施形態において、前記抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体は、(a)配列(D/E)Y(S/T)(I/M)Hを含むVH-CDR1、(b)配列WINTE(S/T)G(D/E)X1(T/S)YADDFKGを含むVH-CDR2、(c)配列RX2X3Yを含むVH-CDR3、(d)配列(R/K)(A/S)SQS(L/V)X4X5(N/S)を含むVL-CDR1、(e)配列(V/A)SNR(F/Y)(S/T)を含むVL-CDR2、及び(f)配列QDX6 X7X8P Tを含むVL-CDR3から選択される少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのCDRを含む。いくつかの実施形態において、X1はP若しくはT;X2はA、F、S若しくはG;X3はA、D、E若しくはG;X4はS、V、N若しくはT;X5はN、H、R、K若しくはT;X6はR、Y、S、T若しくはK;X7はH、N、E、T、Y若しくはS;又はX8はV、S、L若しくはIである。
【0074】
いくつかの実施形態において、前記抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体は、(a)配列番号10-17から選択される配列を有するVH-CDR1、(b)配列番号18-25から選択される配列を有するVH-CDR2、(c)LDF及び配列番号27-33から選択される配列を有するVH-CDR3、(d)配列番号34-41から選択される配列を有するVL-CDR1、(e)配列番号42-49から選択される配列を有するVL-CDR2、及び(f)配列番号50-57から選択される配列を有するVL-CDR3から選択される少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのCDRを含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、本開示は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体を提供する。いくつかの実施形態において、前記VHは、配列番号10-17から選択される配列を有するVH-CDR1と、配列番号18-25から選択される配列を有するVH-CDR2と、LDF及び配列番号27-33から選択される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号34-41から選択される配列を有するVL-CDR1と、配列番号42-49から選択される配列を有するVL-CDR2と、配列番号50-57から選択される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、前記VHは、配列番号10に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号18に示される配列を有するVH-CDR2と、配列LDFを有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号34に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号42に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号50に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記VHは、配列番号11に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号19に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号27に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号35に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号43に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号51に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、前記VHは、配列番号12に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号20に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号28に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号36に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号44に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号52に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0079】
いくつかの実施形態において、前記VHは、配列番号13に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号21に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号29に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号37に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号45に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号53に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0080】
いくつかの実施形態において、前記VHは、配列番号14に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号22に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号30に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号38に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号46に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号54に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0081】
いくつかの実施形態において、前記VHは、配列番号15に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号23に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号31に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号39に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号47に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号55に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0082】
他の実施形態において、前記VHは、配列番号16に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号24に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号32に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号40に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号48に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号56に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0083】
さらなる実施形態において、前記VHは、配列番号17に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号25に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号33に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号41に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号49に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号57に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0084】
特定の実施形態において、置換、挿入又は欠失は、抗体の抗原結合能力を実質的に低下させることなく、1つ及び複数のCDR内で起こり得る。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保守的変更(例えば、本明細書で提供される保守的な置換)は、CDR内で行うことができる。特定の実施形態において、上記で提供された各CDRは、変更されないか、又は1つ、2つ、3つ若しくは4つのアミノ酸置換を含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、前記抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体は、上述したCDRと、ヒト免疫グロブリンフレームワーク配列と少なくとも90%又は少なくとも95%の同一性を有するフレームワーク領域配列とをさらに含む。いくつかの実施形態において、フレームワーク領域1(FR1)、フレームワーク領域2(FR2)、フレームワーク領域3(FR3)、及びフレームワーク領域4(FR4)は、それぞれ対応するヒトFR1、FR2、FR3又はFR4配列と少なくとも90%又は少なくとも95%の同一性を有する。
【0086】
アミノ酸配列GRQGPEGPSSI(配列番号2)のヒトGLUT4ペプチドに結合する前記抗体は、上述したいずれかの実施形態に記載のペイロードを伝達するために適用できる。
【0087】
実施形態
本発明の実施形態は以下の形態を含むが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態において、本開示は、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片若しくは誘導体と、抗体又はその断片若しくは誘導体に結合する治療用ペイロードとを含む組成物を提供する。一実施形態において、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、GLUT4の第1細胞外ループドメインに特異的に結合する。いくつかの態様では、GLUT4の第1細胞外ループドメインは、配列INAPQKVIEQSYNETWLGRQGPEGPSSIPPGTLTTL(配列番号1)と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。一態様では、GLUT4の第1細胞外ループドメインは、配列GRQGPEGPSSI(配列番号2)と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、配列GRQGPGGPDSI(配列番号4)と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含むGLUT4の第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する。一態様では、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、配列GRQGPEGPSSI(配列番号2)と少なくとも80%の同一性を有する配列を含むGLUT4の第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する。
【0088】
いくつかの実施形態において、前記抗体は、モノクローナル抗体である。一実施形態において、前記抗体断片又は抗体誘導体は、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab)2断片、VHH断片、VNAR断片若しくはナノボディであるか、それらのいずれかを含む。いくつかの態様では、前記一本鎖抗体は、一本鎖可変断片(scFv)又は一本鎖Fab断片(scFab)である。
【0089】
いくつかの実施形態において、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されている。
【0090】
いくつかの実施形態において、前記治療用ペイロードは、核酸、タンパク質若しくはペプチド、脂質、小分子医薬品、又は放射性同位体を含む。一実施形態において、前記治療用ペイロードを含み、前記核酸は、DNA、mRNA、siRNA及びshRNAから選択される。一実施形態において、前記治療用ペイロードは、核酸を含み、前記核酸は、プロモーター配列に動作可能に結合するオープンリーディングフレームを含む。一実施形態において、前記治療用ペイロードは、線形形態の核酸、プラスミド形態の核酸、又はミニサークル形態の核酸を含む。
【0091】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合するヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質をさらに含む。一態様では、前記ヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質の少なくとも一部は、ビオチン化されている。
【0092】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合するリポソームをさらに含む。一態様では、前記リポソームは、DC-コレステロール・HCl,3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール塩酸塩(DC-Chol)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP), ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DMTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、ヘミコハク酸コレステリル(CHEMS)、コレステロール(CHOL)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミニウム(DOSPA)、ジオクタデシル-アミド-グリシル-スペルミン(DOGS)、及びジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)などから選択される1つ以上の脂質を含む。一態様では、前記リポソームは、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合する複数のカチオン性ペプチド部分をさらに含み、これにより凝縮した核酸が生じる。一実施形態において、前記カチオン性ペプチド部分は、ポリ-L-リジン(PLL)、線状ポリエチレンイミン(LPEI)、分岐状ポリエチレンイミン(BPEI)、キトサン、スペルミジン、スペルミン、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)、ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)、ポリ{N-[N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルタミド(PAsp(DET))、ポリ(2-アミノエチルエチレンホスフェート(PPEEA)などであるか、又はそれらを含む。一態様では、複数のカチオン性ペプチド部分の少なくとも一部は、ビオチン化されている。
【0094】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、アルブミンをさらに含む。一実施形態において、前記アルブミンの少なくとも一部は、ビオチン化されている。
【0095】
いくつかの実施形態において、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化され、前記組成物は、ニュートラアビジンをさらに含む。
【0096】
いくつかの実施形態において、前記治療用ペイロードは、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする配列に動作可能に結合するプロモーター配列を有する核酸を含む。一実施形態において、前記ジストロフィンタンパク質は、実質的に全長ヒトジストロフィンタンパク質である。一態様では、前記全長ヒトジストロフィンタンパク質は、配列番号5に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0097】
本開示は、GLUT4を発現する細胞に送達するために治療用ペイロードを標的化する方法をさらに提供する。この方法は、前記細胞を前記組成物と接触させることを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記細胞を前記組成物と接触させる前に、前記細胞をインスリンと接触させることをさらに含む。一実施形態において、前記細胞は、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪組織細胞、海馬細胞又は小脳細胞である。一態様では、前記細胞は、黒色腫細胞、前立腺がん細胞、横紋筋肉腫細胞を含む筋肉組織のがん細胞、又は乳がん細胞である。
【0098】
別の態様では、本開示は、ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子変異がある被験体における疾患又は病状を治療する方法を含む。この方法は、被験体に治療有効量の組成物を投与することを含み、前記組成物は、グルコーストランスポーター4(GLUT4)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片若しくは誘導体と、前記抗体又はその断片若しくは誘導体に結合する治療用ペイロードとを含み、前記治療用ペイロードは、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする配列に動作可能に結合するプロモーター配列を有する核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記被験体は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)に罹患しているか、又はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の遺伝的保因者である。
【0099】
いくつかの実施形態において、上述した疾患又は病状を治療する方法に使用される前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、GLUT4の第1細胞外ループドメインに特異的に結合する。一実施形態において、GLUT4の第1細胞外ループドメインは、配列INAPQKVIEQSYNETWLGRQGPEGPSSIPPGTLTTL(配列番号1)と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様では、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、配列GRQGPEGPSSI(配列番号2)と少なくとも80%の同一性を有する配列を含むGLUT4の第1細胞外ループドメインのサブドメインに特異的に結合する。いくつかの実施形態において、前記抗体は、モノクローナル抗体である。一実施形態において、前記抗体断片又は抗体誘導体は、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab)2断片、VHH断片、VNAR断片若しくはナノボディであるか、又はそれらのいずれかを含む。いくつかの態様では、前記一本鎖抗体は、一本鎖可変断片(scFv)又は一本鎖Fab断片(scFab)である。いくつかの実施形態において、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されている。いくつかの実施形態において、前記核酸は、線形形態、プラスミド形態又はミニサークル形態にある。一実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合するヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質をさらに含む。一態様では、前記ヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質の少なくとも一部は、ビオチン化されている。いくつかの実施形態において、前記組成物は、核酸に会合するリポソームをさらに含む。一実施形態において、前記リポソームは、DC-コレステロール・HCl,3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール塩酸塩(DC-Chol)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DMTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、ヘミコハク酸コレステリル(CHEMS)、コレステロール(CHOL)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミニウム(DOSPA)、ジオクタデシル-アミド-グリシル-スペルミン(DOGS)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)などから選択される1つ以上の脂質を含む。一態様では、前記リポソームは、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合する複数のカチオン性ペプチド部分をさらに含み、これにより凝縮した核酸が生じる。一実施形態において、前記カチオン性ペプチド部分は、ポリ-L-リジン(PLL)、線状ポリエチレンイミン(LPEI)、分岐状ポリエチレンイミン(BPEI)、キトサン、スペルミジン及びスペルミン、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)、ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)、ポリ{N-[N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルタミド(PAsp(DET))、ポリ(2-アミノエチル エチレンホスフェート(PPEEA)などであるか、又はこれらを含む。一態様では、複数のカチオン性ペプチド部分の少なくとも一部は、ビオチン化されている。いくつかの実施形態において、前記組成物は、アルブミンをさらに含む。一実施形態において、前記アルブミンの少なくとも一部は、ビオチン化されている。いくつかの実施形態において、前記抗体又はその断片若しくは誘導体は、ビオチン化されており、前記組成物は、ニュートラアビジンをさらに含む。いくつかの実施形態において、コードされたジストロフィンタンパク質は、実質的に全長ヒトジストロフィンタンパク質である。一実施形態において、前記全長ヒトジストロフィンタンパク質は、配列(配列番号5)と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記被験体はヒトである。
【0100】
さらなる態様では、本開示は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体を提供する。(a)前記VHは、配列(D/E)Y(S/T)(I/M)Hを有するCDR1と、配列WINTE(S/T)G(D/E)X1(T/S)YADDFKGを有するCDR2と、配列RX2X3Yを有するCDR3とを含み、(b)前記VLは、配列(R/K)(A/S)SQS(L/V)X4X5(N/S) を有するCDR1と、配列(V/A)SNR(F/Y)(S/T)を有するCDR2と、配列QDX6 X7X8P Tを有するCDR3とを含む。いくつかの実施形態において、X1はP又はT、X2はA、F、S又はG、X3はA、D、E又はG、X4はS、V、N又はT、X5はN、H、R、K又はT、X6はR、Y、S、T又はK、X7はH、N、E、T、Y又はS、X8はV、S、L又はIである。
【0101】
さらなる態様では、本開示は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体を含む。(a)前記VHは、配列番号10-17から選択される配列を有するVH-CDR1と、配列番号18-25から選択される配列を有するVH-CDR2と、LDF及び配列番号27-33から選択される配列を有するVH-CDR3とを含み、(b)前記VLは、配列番号34-41から選択される配列を有するVL-CDR1と、配列番号42-49から選択される配列を有するVL-CDR2と、配列番号50-57から選択される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0102】
いくつかの実施形態において、前記抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む。(a)前記VHは、配列番号10に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号18に示される配列を有するVH-CDR2と、配列LDFを有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号34に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号42に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号50に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。(b)前記VHは、配列番号11に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号19に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号27に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号35に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号43に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号51に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。(c)前記VHは、配列番号12に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号20に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号28に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号36に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号44に示される配列を有する VL-CDR2と、配列番号52に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。(d)前記VHは、配列番号13に示される配列を有するとVH-CDR1と、配列番号21に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号29に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号37に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号45に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号53に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。(e)前記VHは、配列番号14に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号22に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号30に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号38に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号46に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号54に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。(f)前記VHは、配列番号15に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号23に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号31に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号39に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号47に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号55に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。(g)前記VHは、配列番号16に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号24に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号32に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号40に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号48に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号56に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。或いは(h)前記VHは、配列番号17に示される配列を有するVH-CDR1と、配列番号25に示される配列を有するVH-CDR2と、配列番号33に示される配列を有するVH-CDR3とを含み、前記VLは、配列番号41に示される配列を有するVL-CDR1と、配列番号49に示される配列を有するVL-CDR2と、配列番号57に示される配列を有するVL-CDR3とを含む。
【0103】
いくつかの実施形態において、本開示は、上述したいずれかの実施形態に記載の抗体又はその断片若しくは誘導体及び前記抗体又はその断片若しくは誘導体に結合する治療用ペイロードを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記抗体断片又は抗体誘導体は、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab)2断片、VHH断片、VNAR断片又はナノボディであるか、又はこれらのいずれかを含む。一態様では、前記一本鎖抗体は、一本鎖可変断片(scFv)又は一本鎖Fab断片(scFab)である。いくつかの実施形態において、前記治療用ペイロードは、核酸、タンパク質若しくはペプチド、脂質、小分子医薬品又は放射性同位体を含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ペイロードは、核酸を含み、前記核酸は、DNA、mRNA、siRNA及びshRNAから選択される。いくつかの実施形態において、前記治療用ペイロードは、核酸を含み、前記核酸は、プロモーター配列に動作可能に結合するオープンリーディングフレームを含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ペイロードは、線形形態の核酸、プラスミド形態の核酸、又はミニサークル形態の核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合するヒストンタンパク質又は複数のヒストンタンパク質をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合するリポソームをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記核酸に会合する複数のカチオン性ペプチド部分をさらに含み、これにより凝縮した核酸が生じる。いくつかの実施形態において、前記治療用ペイロードは、ジストロフィンタンパク質又はその機能的断片をコードする配列に動作可能に結合するプロモーター配列を有する核酸を含む。一実施形態において、前記ジストロフィンタンパク質は、実質的に配列番号5に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む全長ヒトジストロフィンタンパク質である。
【0104】
いくつかの実施形態において、本開示は、GLUT4を発現する細胞に伝達するための治療用ペイロードを標的化する方法を提供する。この方法は、前記細胞を、上述した抗GLUT4抗体又はその断片若しくは誘導体を含む前記組成物と接触させることを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記細胞を組成物と接触させる前に、前記細胞をインスリンと接触させることをさらに含む。一実施形態において、前記細胞は、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪組織細胞、海馬細胞又は小脳細胞である。一実施形態において、前記細胞は、黒色腫細胞、前立腺がん細胞、横紋筋肉腫細胞を含む筋肉組織のがん細胞、又は乳がん細胞である。いくつかの実施形態において、前記被験体は、ヒトである。
【0105】
いくつかの実施形態において、本開示は、ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子変異がある被験体における疾患又は病状を治療する方法を提供する。この方法は、被験体に治療有効量の組成物を投与することを含む。前記組成物は、上述したいずれかの実施形態に記載の抗体を含む。いくつかの実施形態において、前記被験体は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)を罹患しているか、又はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)若しくはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の遺伝的保因者である。いくつかの実施形態において、コードされるジストロフィンタンパク質は、配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態において、前記被験体は、ヒトである。
【0106】
一般的な定義
本明細書で具体的に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての用語は、本開示の当業者に使用されるのと同じ意味を有する。本開示の技術分野に関する定義及び用語については、下記の文献を参照されたい。
Ausubel, F.M., et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (2010), Coligan, J.E., et al. (eds.), Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, New York (2010), Mirzaei, H. and Carrasco, M. (eds.), Modern Proteomics - Sample Preparation, Analysis and Practical Applications in Advances in Experimental Medicine and Biology, Springer International Publishing, 2016, and Comai, L, et al., (eds.), Proteomic: Methods and Protocols in Methods in Molecular Biology, Springer International Publishing, 2017
【0107】
便宜上、この説明及び/及びクレームで使用される特定の用語がここに提供される。定義は、特定の実施形態を説明するのを助けるために提供され、発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ制限されるので、請求項の発明を制限することを意図するものではない。
【0108】
特許請求の範囲における用語「及び」の使用は、代替案のみを明示的に言及するか、代替案が相互に排他的であることを示さない限り、「及び/及び」を意味するために使用され、ただし、本開示は代替案及び「及び/及び」のみを参照する定義を支持する。
用語「a」と「an」は、特許請求の範囲や明細書において「含む」という単語とともに使用される場合、特に明記されていない限り、1つ以上を意味する。
【0109】
文脈が明らかに別のことを要求しない限り、明細書及び特許請求の範囲全体を通して、 「含む」、「含有」などの用語は、排他的及び網羅的な意味ではなく、「含むがこれに限定されない」という意味で示される包括的な意味で解釈されるべきである。単数形及び複数形を使用する用語には、それぞれ複数形及び単数形も含まれる。用語「約」は、示される数値より上及び下のわずかな変動の範囲内の数値を指す。例えば、「約」は、示される数値の上及び下の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%若しくは1%の範囲内の数値を指すことができる。
【0110】
本明細書において、用語「ポリペプチド」又は「タンパク質」とは、モノマーがアミド結合を介して一緒に結合されるアミノ酸残基であるポリマーを指す。アミノ酸がアルファアミノ酸である場合、L-光学異性体及びD-光学異性体のいずれかを使用できるが、L異性体は好ましい。本明細書で使用されるポリペプチド又はタンパク質という用語は、任意のアミノ酸配列を含むとともに、糖タンパク質などの修飾配列を含む。ポリペプチドという用語は、特に、天然に存在するタンパク質、ならびに組換え及び合成的に産生されるタンパク質を網羅することを意図している。
【0111】
当業者に知られているように、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質配列に対する個々の置換、欠失及び付加は、配列中の単一アミノ酸及び一部のアミノ酸を変更、添加及び除去することであり、アミノ酸を化学的に類似したアミノ酸に置換する結果をもたらす「保存的修飾による変異」である。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的アミノ酸置換表は、当業者によく知られている。次の6つのグループは、相互に保存的に置換されていると考えられるアミノ酸の例である。
(1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)
(2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)
(3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)
(4)アルギニン(R)、リジン(K)
(5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)
(6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)
【0112】
配列同一性は、タンパク質配列などの2つのポリマー配列の類似性の程度をいう。配列同一性の決定は、受け入れられたアルゴリズム及び/及び技術を使用して当業者によって容易に達成され得る。配列同一性は通常、比較ウィンドウ上で2つの最適に整列された配列を比較することによって決定され、比較ウィンドウ内のペプチド及びポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのための参照配列(付加及び欠失を含まない)と比較して、付加及び欠失(例えば、ギャップ)を含み得る。百分率は、2つの配列で同一のアミノ酸残基及び核酸塩基が存在する位置の数を決定し、一致した位置の数を生成し、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で割り、その結果に100を掛けて、配列同一性の百分率を算出することによって計算される。そのような比較を実行するためのBLAST N及びBLAST Pなどの様々なソフトウェア駆動型アルゴリズムが容易に利用可能である。
【0113】
本明細に開示されたのは、本開示の方法及び組成物に使用でき、本開示の方法及び組成物と組み合わせて使用でき、本開示の組成物の製造に使用できる材料、組成物及び成分であり、又は本開示の方法及び組成物の製品である。理解できるように、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、グループなどが開示される場合、これらの化合物のすべての単一の組み合わせ及び並べ替えに対する特定の言及が明示的に開示されていない場合でも、様々な個々の及び集合的な組み合わせのそれぞれが具体的に企図されている。この概念は、説明された方法のステップを含むがこれらに限定されず、本開示のすべての態様に適用される。したがって、上述した実施形態の特定の要素は、他の実施形態の要素と組み合わせるか、及び置き換えることができる。例えば、実行できる様々な追加のステップがある場合、理解できるように、これらの追加のステップのそれぞれは、開示された方法の任意の特定の方法ステップ及び方法ステップの組み合わせで実行することができ、このような各組み合わせ及び組み合わせのサブセットは、具体的に企図されており、開示されたものと見なされるべきである。さらに、本明細書に記載の実施形態は、本明細書の他の場所に記載されているもの及び当技術分野で知られているものなどの任意の適切な材料を使用して実施できることが理解される。
【0114】
本明細書で引用された刊行物及び引用された主題は、参照によりその全体が具体的に本明細書に組み込まれる。
【0115】
実施例
以下、プラットフォーム筋特異的ベクター組成物の代表的な実施形態で実施される一連の例示的なアッセイを説明する。これらのアッセイは、治療用ペイロードを筋組織及び他の組織に効率的に送達するためのプラットフォーム設計の有用性を確立するためのものである。
【0116】
序論
本開示の非ウイルス性ベクタープラットフォームは、GLUT4の細胞外ドメインに特異的結合可能なGLUT4標的化抗体(又は他の結合剤、例えば、抗体断片、ペプチド、受容体など)を利用する。前記第1細胞外ループは、GLUT4を細胞外で標的化するための最も大きく、最もアクセスしやすい免疫原性の領域である。このドメインは、マウスGLUT4配列におけるアミノ酸45-80:INAPQKVIEQSYNATWLGRQGPGGPDSIPQGTLTTL(配列番号3)を含む。前記抗体は、この配列のアミノ酸61-72:GRQGPGGPDSI(配列番号4)に由来のペプチドに対して産生された。ヒト配列の類似領域であるGRQGPEGPSSI(配列番号2)は、マウス配列と83.3%の同一性を有する。この配列は、いずれかの二次構造を有しないと予測され、ネイティブGLUT4タンパク質のこのドメインに結合可能な抗体を産生しやすいと仮定される。
【0117】
このプラットフォームにより、様々な材料(例えば、タンパク質、ペプチド、脂質、リポソームなど)を用いてGLUT4抗体(又はその断片)を治療遺伝子又は他の薬物に結合させることで治療薬をカプセル化し、インビボでの安定性とバイオアベイラビリティを最適化します。標的細胞内に入ると、エンドソーム脱出及び細胞核輸送(核酸の場合)を促進することができる。以下の実験で示されるように、DNAサイズは制限要因ではなく、全長ジストロフィン(~14Kb)のような大きな遺伝子の送達は可能であり、高い筋肉特異的プロモーターを用いて遺伝子発現を促進する。
【0118】
インビトロ細胞培養実験
初期インビトロ細胞培養実験のために、ビオチン-ニュートラアビジンシステムを用いて標的抗体を治療用プラスミドを含むカチオン性リポソームに結合させた。本実施形態におけるインビトロ実験のためのベクタープラットフォームを
図3に模式的に示す。第一に、一部がビオチン化された前記プラスミドをヒストンH1(H-H1)と混合する。H-H1は、負に帯電したDNAに結合してそれを部分的に凝縮する正に帯電した核タンパク質である。第二に、同様にビオチン化されたGLUT4抗体を加える。第三に、アビジンと比較して極めて低い非特異的結合を有する高特異性ビオチン結合タンパク質であるニュートラアビジン(脱グリコシル化アビジン)を加えてビオチン化されたタンパク質に結合させる。第四に、前記タンパク質及びDNAと、DC-Chol(DC-コレステロール・HCl,3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール塩酸塩)及びDOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)の2つの脂質を含むカチオン性リポソームとを混合する。DC-Chol:DOPEのモル比は30:70である。上記の4つのインキュベーションステップはいずれも室温、30minの条件下で実施される。
【0119】
初期概念実証実験において、この結合構造について、インビトロで筋細胞に取り込まれるか否か、及びDNAプラスミドによってコードされるタンパク質が筋細胞において発現されるか否かを評価した。これらの実験では、市販のラット筋芽細胞株(L6-GLUT4myc)を用いた。この細胞株は、アミノ酸66と67の間にある第1細胞外ループに挿入されたmycタグを含むGLUT4(アミノ酸配列AEEQKLISEEDLLK;配列番号9)を過剰発現する。この細胞株を用いた初期実験では、mycタグに特異的に結合する市販抗体をビオチン化した。
【0120】
実験1
6ウェルプレートにおけるL6-GLUT4myc筋芽細胞を
図3に示される構造でトランスフェクトした。本実験において、修飾された神経型一酸化窒素シンターゼ構築物(NOS-M)を含むプラスミドを用いた。前記構築物は、検出用のC末端HAタグ及び原形質膜標的化用のRASパルミトイル化配列を含む(Rebolledo DL,et al.(2016).Sarcolemmal targeting of nNOSmu improves contractile function of mdx muscle.Hum Mol Genet 25,158-166)。このプラスミドは、ヒト骨格アクチン(HSA)プロモーターによって駆動され、長さが~11Kbである。本実験において、各ウェルに対して10μgのNOS-Mプラスミドを使用した。本実験の主な目的は、15から45分間の短期間インキュベーションがGLUT4mycへの抗体の結合に十分であったか否か、及び結合レベルがインスリンによって向上したか否かを確認することであった。インキュベーション後に、細胞を洗浄し、3日後に回収し、ウエスタンブロットによりnNOS及びHAタグ発現を分析した。
図4に示すように、僅か15minの短期間インキュベーションでも、nNOS及びHA発現を引き起こすのに十分であり、30及び40min後のタンパク質レベルは類似であった。重要なことに、各時点で、100nMのインスリンはタンパク質の発現を顕著に増加させた。これは、細胞への前記構造の結合及び取り込みが細胞質基質から膜へのGLUT4の移動に依存することを示している。
【0121】
実験2
実験2は、2つの主な目的を有する。第1の目的は、取り込み及び発現に対する異なる量のプラスミドDNAの効果を試験することであった。第2の目的は、DC-CholとDNAとの比率(w/w)によってリポソームに対するDNAの最適量を決定することであった。
図5に示すように、すべてのDNA濃度の中で、DC-CholとDNAの比率が2.0の場合、nNOSの発現が最も高かく、以前の研究と一致する。DNAに関しては、特にDC-CholとDNAの比率が高い場合、高いnNOS発現を引き起こすには5μgで十分であり、レベルは20μgで低下した。したがって、次の細胞培養実験では、DC-CholとDNAの比率2.0で5から10μgのDNAを用いた。
【0122】
実験3
本実験において、NOS-Mプラスミドの代わりに全長ジストロフィンプラスミドを使用した以外、L6-GLUT4myc筋芽細胞を
図3に示される構造でインキュベートした。この構築物は、ユビキタスCAGプロモーターによって駆動され、長さが~20Kbである(Farruggio AP,et al.(2017),Biotechnol J 12(4),1600477)。本実験の2つの主な目的は、(1)前記標的プラットフォームを用いて非常に大きなジストロフィン遺伝子が標的筋細胞に取り込まれて発現されるか否かを試験すること、及び(2)筋細胞での発現の標的化及び形質導入に対する広範囲のインスリン濃度の影響を試験することである。インスリンの範囲は、ヒト血液に通常見られる低レベルから始まる。本実験において、細胞を前記ベクターと15minインキュベートした後、洗浄し、3日後に回収した。
図6に示すように、インスリンで処理された細胞において、全長ジストロフィンは高度に発現され、ジストロフィンのレベルは高くなった。重要なことに、ヒト血液に通常見られる低いインスリン濃度(0.5及び1.0nM)では、ジストロフィンの発現はインスリンを含まない細胞と比較して増加した。これらの結果は、インスリンによる原形質膜へのGLUT4の移動の増強又は誘導により、前記プラットフォームの結合及び取り込みが増加し、そしてジストロフィンの発現が増加するという仮説を支持している。
【0123】
実験4
ウサギポリクローナル抗体及びマウスモノクローナル抗体は、両方ともマウスGLUT4の第1細胞外ループに由来のペプチド配列(GRQGPGGPDSI;配列番号4)に対して産生された。これらの抗体は、いずれもELISAアッセイにおいて前記ペプチドに対して強結合を示している。例えば、表1には、20個の選択されたマウスモノクローナル抗体のELISA試験の結果が示されている。
【0124】
表1:GLUT4ペプチド配列GRQGPGGPDSI(配列番号4)に対する20個のマウスモノクローナル抗体の異なる希釈度での吸光度レベルを示すELISAデータ
全ての抗体細胞株は、いずれも前記ペプチドに強く結合する。
【表1】
【0125】
本実験において、まず、ペプチドアフィニティー精製によりウサギポリクローナル抗体を精製した。次に、前記抗体のネイティブGLUT4に対する結合能力及びジストロフィン陰性(mdx-H2K)筋細胞への全長ジストロフィンの取り込みを媒介する能力(Morgan et al.,1994)を試験した。これらの細胞はいくつかの内因性GLUT4を発現するが、GLUT4発現を増加させることにより本発明のベクターの取り込み及び発現をさらに改善できるか否かを確認することが望まれた。そのため、mdx-H2K細胞をマウスGLUT4遺伝子(mdx-H2K-GLUT4)を含むプラスミドでトランスフェクトした。抗菌薬選択により、GLUT4の発現が約2~3倍高いポリクローナル細胞株を構築した。ジストロフィン陰性細胞を用い、増加したGLUT4発現がプラットフォーム非ウイルス性ベクターの結合及び取り込みをもたらし、その結果ジストロフィンの発現を増加させたか否かを評価することが望まれた。
【0126】
本実験の別の主な目的は、アルブミンが遺伝子発現を増強できるか否かを試験することである。この考えの理論的根拠は、ヒト血清アルブミンでDNA/リポソームベクターをコーティングすることによりマウスの肺及び脾臓細胞におけるルシフェラーゼレポーターのタンパク質発現を増強できるという最近の証拠である。アルブミンは、中性pHで負に帯電するため、プラスミドDNAとともに、正に帯電したリポソームに結合可能である。本実験の結果は、いくつかの重要な発見を明らかにした(
図7)。第一に、全長ジストロフィンの発現は検出及び測定された。これは、ウサギポリクローナル抗体がGLUT4に効果的に結合可能であり、筋細胞内のプラスミドを細胞核に送達できることを示している。第二に、ジストロフィンの発現は、mdx-H2K-GLUT4細胞において通常のmdx-H2K細胞と比較してかなり高かった。第三に、アルブミン濃度の増加は、両方の筋細胞株においてもジストロフィンの発現を増強させた。
【0127】
インビボ実験
インビボ投与のためのDNA/リポソームベクターは、それらの構造の比較的大きいサイズ(通常≧200nm)のため、潜在的な問題を引き起こす恐れがある。そこで、インビボ用途を向上させるために、非リポソーム代替構造は開発された(
図8)。ここで、プラスミドDNAは、正に帯電したポリ-L-リジン(PLL)によって高度に凝縮され、20Kbのプラスミドのための30から60nmのような小直径を有し得る構造となる(Fink TL,et al.(2006))。サイズが20kbpのプラスミドは、圧縮されたDNAナノ粒子による効果的なインビボ肺遺伝子の導入を制限しない(Gene Ther 13,1048-1051)。PLLは、ビオチン化されており、ニュートラアビジンに結合可能である。そして、ビオチン化されたマウスモノクローナルGLUT4抗体を加えた。
【0128】
最後に、ビオチン化された組換えマウス血清アルブミンを加えた。いくつかの理由でアルブミンはこの構造のインビボ投与を促進できると考えられている。(1)アルブミンは、トランスサイトーシスによって筋肉毛細血管のタイトな内皮バリアを通過可能である。これは、アルブミンひいては本開示の非ウイルス性ベクタープラットフォームが血液から筋肉の細胞外空間へ移動するメカニズムを提供する。(2)アルブミンは、骨格筋及び心筋の細胞外空間に優先的に蓄積することが知られている。(3)アルブミンは、エンドサイトーシスによって筋細胞に入ることができる。これは、膜透過性が向上しかつ細胞内にアルブミンを蓄積するジストロフィー筋において特に重要である可能性がある。(4)アルブミンは、プラスミドDNAのエンドソーム脱出及び核内取り込みを促進できることが実証されている。(5)アルブミンは、非常に安定しかつインビボでの半減期が19日間と長い。(6)アルブミンは豊富な血清タンパク質であるため、副作用や免疫応答を誘発する可能性はほとんどない。これによって、非ウイルス性ベクタープラットフォームを介した治療用ペイロードの反復投与は可能になる。
【0129】
実験5
インビボ実験1において、標的抗体を含まない非ウイルス性ベクタープラットフォームのベースライン効果を決定するために、
図8に示されるGLUT4抗体を含まない構造を用いて筋肉内(I.M.)注射を実施した。DMDの一般的な動物モデルである8週齢のmdxマウスの片足における2箇所の筋肉(前脛骨筋及び腓腹筋)に注射した。この構造は、実験1で説明されたNOS-Mプラスミドを含んだ。興味深いことに、3日後に、nNOS抗体及びHAタグ抗体の両方で示されるように、前脛骨筋及び腓腹筋の両方はNOS-Mを発現した(
図9A-B)。mdxマウスのより透過性の高い筋繊維はアルブミン含有構造のある程度の取り込みを可能にすると推測されている。注射mdxマウスと比較して、非注射mdx対照マウスは、内因性nNOSの発現を示したが、HAタグの発現を示さなかった。非注射WTマウスでは、前記mdxマウスと比較して内因性nNOSの発現がより高かったが、HAタグの発現を示さなかった。もう一つの非常に興味深い発見は、両方の筋肉、特に前脛骨筋では、注射足及び非注射足の両方にもNOS-Mの発現(HAタグ)が観察されたことである(
図9A-B)。これは、この構造が注射筋肉から体循環に入り、もう一方の足の非注射筋肉によって取り込むことができることを示している。
【0130】
実験6
次の実験において、前記構造にマウスモノクローナルGLUT4抗体を結合することは、本発明のプラットフォームのmdxマウスへの取り込みを大幅にできるという仮設を試験した。まず、2つのマウスモノクローナル抗体を製造して精製した。還元及び非還元条件下でポリアクリルアミドゲルによるクマシー染色により、抗体の精確な分子量及び純度を検証した(
図10A)。そして、mdx-H2K-GLUT4筋細胞株を用いてインビトロでの各抗体の結合親和性を試験した。具体的には、異なる希釈度(1mg/mlの初期濃度から)で100nMインスリンの存在又は非存在下で細胞を各抗体と37°Cで20minインキュベートした。細胞を洗浄し、二次HRP抗体とインキュベートした後、再度洗浄した。比色アッセイにて分光光度計で吸光度を測定することによりネイティブGLUT4タンパク質に結合した抗体の相対量を定量化した。
図10Bに示すように、クローン1とクローン2の両方の抗体は、用量依存的にネイティブGLUT4タンパク質に結合した。すべての希釈度では、クローン2はクローン1よりも高い吸光度を示した。重要なことに、両方の抗体に対して、インスリン(100nM)は吸光度を増加させた(
図10B)。これは、より多くのGLUT4がインスリンシグナル伝達によって原形質膜に運ばれると、より多くの結合が起こることを示している。
【0131】
次に、クローン2抗体は、ニュートラアビジンに結合することによりビオチン化され、非ウイルス性ベクタープラットフォーム内に取り込まれた。抗体が含まれない非ウイルス性ベクタープラットフォームを対照として構築した(実験5を参照)。2つのmdxマウスに抗体が結合した又は結合していない非ウイルス性ベクタープラットフォームを筋肉内注射した。再度、一片足だけのTA及び腓腹筋に注射した。注射の6日後、筋肉を収集してウエスタンブロット分析に使用した。
図11に示すように、HAタグにより測定した結果、nNOSの発現レベルは、クローン1mAbを含むプラットフォームが注射されたマウスのTA及び腓腹筋の両方にもかなり(数倍)高かった。このデータは、Glut4抗体が骨格筋への非ウイルス性ベクタープラットフォームの標的化及び取り込みを劇的に増強させることを示している。
【0132】
実験7
さらに、標的化された非ウイルス性プラットフォームの静脈内(I.V.)投与は、筋肉における様々な大きさの遺伝子をコードするタンパク質の全身送達及び発現をもたらすことができるか否かについて試験した。この仮設を試験するために、サイズが異なる3つの遺伝子を使用した(実験7-9)。本実験において、これらの遺伝子の中で最も小さい遺伝子を使用した。この遺伝子は、大きさが約5.5kbのプラスミドを有するα-シントロフィンである。ここで、mdx4CVマウスに
図11に示される非ウイルス性プラットフォームをI.M.又はI.V.注射した。この非ウイルス性プラットフォームは、筋鞘を標的とするためにC末端にRASパルミトイル化配列を有するα-シントロフィン遺伝子を含む。正常な筋肉における筋鞘へのα-シントロフィンの標的化は、mdx4CV筋肉に存在しないジストロフィンとの相互作用によって起こる。
図12に示すように、I.M.及びI.V.送達は、両方とも非注射対照マウスに比べ注射の12後に筋肉におけるα-シントロフィンの発現を顕著に増加させ、両方とも筋肉断面のウエスタンブロット(
図12A)及び免疫染色(
図12B)によって確認された。
【0133】
実験8
図11に示すように、第2遺伝子は、大きさが約10.5kbのプラスミドを有するnNOSであった。mdx4CVマウスにI.M.又はI.V.注射した。具体的には、2匹のマウスに対して1つの後肢の腓腹筋にI.M.注射し、2匹のマウスに後眼窩静脈叢を介してI.V.注射した。
図13Aに示すように、I.M.及びI.V.注射後のマウスの筋肉におけるnNOS発現は、未処理対照筋肉に比べて顕著に高かった(約50%)。ユートロフィン(ジストロフィンのホモログ)発現は、ウエスタンブロットにより測定した結果、nNOS構築物が注射されたマウスにおいて顕著に増加した(
図13A)。他の実験において、nNOSプラスミド用量の影響を調べた。ここで、mdxマウスに異なる用量(20、60又は120μg)のnNOSプラスミドを含むプラットフォームをI.V.注射した。
図13Bに示すように、nNOS及びHAタグ発現により測定した結果、nNOSプラスミドの用量が増加するにつれて、TA筋肉におけるnNOS発現が徐々に増加した。
【0134】
実験9
試験された最も長い第3遺伝子は、全長マウスジストロフィンであった。ここで、それぞれ異なるプロモーター及びプラスミドバックボーンを有する全長ジストロフィンを含む2つのプラスミド構築物を使用した。第1構築物は、切断された筋肉特異的クレアチンキナーゼ8プロモーター(CK8)を含んだ(PMID:21266958,PMID:19298131)。この構築物は15.5kbであった。第2構築物は、ユビキタスサイトメガロウィルス(CMV)プロモーターを含んだ。この構築物は、17.5kbであった。
図14に示されるように、CK8構築物がI.V注射されたmdx4CVマウスは、いくつかの後肢筋肉において全長ジストロフィンの発見を示した。発現のレベルは、非注射mdx4CVマウス(ジストロフィンを発現する非常に少数の復帰繊維(revertant fibre)の存在により、ウエスタンブロットにかすかなバンドがある)に比べてかなり高かった(PMID:1635838)。また、本実験において、ウエスタンブロッティングのために、復帰線維中の非常に低レベルの骨格筋ジストロフィンの検出を可能にする膜が豊富な筋肉ライセートを使用した。WTマウスに比べると、注射マウスにおけるジストロフィンレベルは、様々な筋肉では0.2から0.5%の範囲であった。次いで、mdx4CVマウスにCK8又はCMV構築物を含むプラットフォームをI.V.注射して心臓におけるジストロフィン発現を測定した。重要なことに、
図15に示すように、注射マウスの心筋は、非注射対照に比べて明らかな全長ジストロフィンの発現を示した。ジストロフィン発現のレベルは、CK8に比べてCMV構築物のほうが高かく、WTマウスの値が約0.1から0.2%であった。まとめると、実験8及び9からデータは、全長ジストロフィンのような大きな遺伝子を含む非ウイルス性プラットフォーム組成物(
図8)が骨格筋と心筋の両方に効果的に取り込まれ、発現されることを示している。
【0135】
実験10
本実験において、本発明の非ウイルス性プラットフォームにより製造された粒子のサイズ分布を決定するために、粒子追跡分析を行った。ここで、プラットフォーム組成物(
図8)は、CK8-全長ジストロフィンプラスミドを含んだ。粒子追跡分析は、直径が0.01から1.0μmのナノ粒子サイズ分布を高信頼性かつ迅速に測定可能なNanoSight ns300(Malvern Panalytical)の標準手順に従って行われた。プラットフォームサンプルを脱イオン水用いて1:100で希釈した後、粒子サイズ分布を4回に分けて読み取った。
図20に示すように、粒子サイズ分布プロットは、モーダル(ピーク)粒子サイズが171nmであることを示している。全体として、平均粒子サイズは236nm±4.4であった。データを分析した結果、粒子の50%が213nm未満であり、粒子の90%が344nm未満であった。本発明の粒子の平均サイズは、マウスのインビボ遺伝子サイレンシングに効果的であるニュートラアビジン及びsiRNAを含む粒子の平均サイズ(237nm)(PMID:28026957)に非常に類似する。したがって、本実験のデータは、全長ジストロフィン(15.5kb)のような大きなプラスミドDNAを有しても、非ウイルス性プラットフォームは、インビボで筋肉に効率的に取り込まれ、発現され得る小さな粒子を構成できることを示している(
図14及び15)。
【0136】
実験11
本実験において、いくつかのGLUT4に対するモノクローナル抗体を製造し、各抗体の結合親和性を評価した。マウスGLUT4ペプチド(GRQGPGGPDSI;配列番号4)及びヒトGLUT4ペプチド(GRQGPEGPSSI;配列番号2)の両方に対するマウスモノクローナル抗体は、Genscript(NJ,USA)によって生産された。マウスGLUT4配列に対する6つのクローン及びヒトGLUT4配列に対する8つのクローンの合計14個の独特なクローンが産生された。各ハイブリドーマ細胞株を細胞培養で数週間増殖させ、プロテインA/Gラテックスビーズを使用してモノクローナル抗体を精製した。ELISAにより各モノクローナル抗体の結合親和性を測定した。マウスGLUT4配列抗体の場合、ELISAプレートをペプチド(配列番号4)でコーティングした。ヒトGLUT4配列抗体の場合、組換えヒトGLUT4タンパク質でELISAプレートをコーティングした。どちらの場合も、ELISAプレートの各ウェルを100ngの抗原でコーティングして4℃一晩静置した。ブロックした後、室温でモノクローナル抗体を1時間加えた。洗浄した後、室温で二次マウス-HRP抗体を1時間加えた。再度洗浄した後、HRPのための発色基質(1-STEP
TM Ultra TMB-ELISA基質溶液;Thermo Fisher Scientific)を10から20min加えた。最後に、2Mの硫酸を加えて反応を停止させ、プレートリーダーにて450nmでの吸光度を測定した。
図16に示すように、6つのモノクローナル抗体は全て吸光度の濃度依存的な増加を示した。最適な結合クローンは25D4であり、22F6及び21E5がそれに続いた。他の3つのクローンは、類似するより低い結合曲線を示した(
図16)。配列モノクローナル抗体のためのヒトGLUTの場合、組換えヒトGLUT4タンパク質でプレートをコーティングした以外、同様の方法を使用した。
図17に示すように、7つのモノクローナル抗体は、吸光度の用量依存的な増加を示した。ここで、クローン5E3及び8G2は、最も優れた結合親和性を有するのに対し、クローン2B9及び4G2は、最も弱い結合親和性を示した。クローン15G2は、このハイブリドーマ細胞株による抗体産生が不十分なため、測定できなかった。
【0137】
マウス配列抗体がヒトGLUT4タンパク質に結合できるか否か又はヒト配列抗体がマウスGLUT4ペプチド配列に結合できるか否かを試験するために、2つの追加ELISA実験を行った。
図18に示すように、マウス配列に強く結合した2つの抗体(22F6及び21E5)は、ヒトGLUT4タンパク質に効果的に結合しなかった一方、ヒトGLUT4ペプチド配列に対して作製された抗体(5E3及び8G2)は、強い結合を示した。
図19に示すように、逆の実験において、ヒトGLUT4配列に対して作製された抗体は、様々な程度の親和性(8G2は最も高く、12E11は結合しなかった)でマウスGLUT4ペプチドに結合したが、この4つの抗体は全て、マウス配列に対して作製された抗体(22F6及び21E5)に比べて結合が遥かに弱かった。したがって、マウスとヒトのペプチド配列間の83.3%の同一性にもかかわらず、種特異的GLUT4配列には、この配列に対して作製された抗体は遥かに強い結合を示す。
【0138】
実験12
産生された14個の独特なモノクローナル抗体では、6個がマウスGLUT4配列に対するものであり、8個がヒトGLUT4配列に対するものであり、それぞれの重鎖及び軽鎖可変領域は、GenScript(NJ,USA)によって以下の方法で配列決定された。トータルRNAをハイブリドーマ市安房(TRIzol(r)Reagent)から単離した。アイソタイプ特異的アンチセンスプライマー又はユニバーサルプライマー(PrimeScript
TM 1st Strand cDNA Synthesis Kit)を用いてトータルRNAをcDNAに逆転写した。GenScriptのcDNA末端の迅速増幅(RACE)の標準操作手順(SOP)に従って、重鎖及び軽鎖の抗体断片を増幅した。増幅した抗体断片を標準クローニングベクターに別々にクローニングした。コロニーPCRを実行して正しいサイズのインサートを有するクローンを選別し、各抗体の配列を提供した。表2には、マウスGLUT4ペプチド(GRQGPGGPDSI;配列番号4)に対して作製された6つのモノクローナル抗体について重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR)が示されている。各CDRについて予測されたコンセンサス配列も示されている。表3には、ヒトGLUT4ペプチド(GRQGPEGPSSI;配列番号2)に対して作製された8つのモノクローナル抗体について、重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR) が示されている。各CDRについて予測されたコンセンサス配列も示されている。興味深いことに、ELISAアッセイではヒトGLUTタンパク質との結合が最も弱い2つのクローン(2B9及び4G7)(
図17)は、他の6つのクローンのCDR3
VHコンセンサス配列において発見されたアルギニン(R)を含まなかった。これは、この残基が抗原結合活性に重要な役割を果たす可能性があることを示している。なお、クローン15G2はELISAアッセイに現れなかった(
図17)。これは、この抗体が本発明の培養条件下で十分に増殖しなかったためである。
【0139】
表2は、実験12の結果であり、マウスGLUT4ペプチド配列GRQGPGGPDSI(配列番号4)に対する6つのマウスモノクローナル抗体クローンの重鎖(V
H)及び軽鎖(V
L)の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を示す。各CDRの例示的なコンセンサス配列も表2に示されている。
【表2】
【0140】
CDRコンセンサス配列
CDR1(VH):T Y G M S/T
CDR2(VH):W I N T Y/F/S S G L/V P T Y X X D F K G
CDR3(VH):P I H/T X V V A/P X D Y
CDR1(VL):K/R S S Q S L L/V Y X5-6 Y L A/H
CDR2(VL):K/W A/V S N/T R E/F S
CDR3(VL):Q Q S/Y F/R/Y H/S/T X P Y/W T
【0141】
表3は、実験12の結果であり、ヒトGLUT4ペプチド配列GRQGPEGPSSI(配列番号2)に対する8つのモノクローナル抗体クローンの重鎖(V
H)及び軽鎖(V
L)の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を示す。各CDRの例示的なコンセンサス配列も表3に示されている。
【表3】
【0142】
CDRコンセンサス配列
CDR1(VH):D/E Y S/T I/M H
CDR2(VH):W I N T E S/T G D/E X T/S Y A D D F K G
CDR3(VH):R X X Y
CDR1(VL):R/K A/S S Q S L/V X X N/S
CDR2(VL):V/A S N R F/Y S/T
CDR3(VL):Q D X X X P W T
【0143】
結論
以上より、本開示の非ウイルス性ベクタープラットフォームは、治療用ペイロードをGLUT4を発現する組織に効率的かつ特異的に送達することができる。この組織は、骨格筋、心筋、脂肪組織、平滑筋、脳の特定の領域(例えば、海馬及び小脳)及び特定のがん細胞(例えば、メラノサイト)を含むが、これらに限定されない。本発明のプラットフォームによって送達できる治療薬は、核酸(例えば、プラスミドDNA、ミニサークルDNA、mRNA、siRNA、shRNA、オリゴヌクレオチド、CRISPR/Cas9構築物)タンパク質、ペプチド、脂質及び薬物を含む。前記プラットフォームは、特定のサイズのペイロードだけではなく、様々な大きな核酸構築物を成功に送達することでコードされた大きな導入遺伝子の取り込み及び発現をもたらすことができる。標的化及び取り込みの効果と効率は、細胞の原形質膜へのGLUT4転座に対するインスリン誘導、及びプラットフォームベクター組成物へのアルブミンの取り込みによって増強される。本開示の非ウイルス性ベクタープラットフォームを組み込んだ治療組成物は、単剤療法及び併用療法の一部として送達することができる。
【0144】
例示的な実施形態が例示及び説明されてきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、これらの実施形態に対して様々な変更を行うことができることが理解され得る。
【配列表】
【国際調査報告】