IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アプライド グラフィーン マテリアルズ ユーケー リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】分散物
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20220912BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20220912BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20220912BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20220912BHJP
   C09K 23/00 20220101ALI20220912BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220912BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220912BHJP
【FI】
C01B32/194
C01B32/21
C09D17/00
C09K23/52
C09K23/00
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022501203
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(85)【翻訳文提出日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 GB2020051649
(87)【国際公開番号】W WO2021005371
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】1909801.1
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522010901
【氏名又は名称】アプライド グラフィーン マテリアルズ ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウィーバー ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】チコシャ リン
(72)【発明者】
【氏名】フラマー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】カリミ エー
(72)【発明者】
【氏名】ウェデル アール
【テーマコード(参考)】
4G146
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA02
4G146AB01
4G146AB07
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB19
4G146CB35
4J037AA01
4J037AA08
4J037CC13
4J037CC17
4J037CC22
4J037DD24
4J037EE28
4J037EE29
4J038HA036
4J038HA066
4J038HA476
4J038KA08
4J038KA09
(57)【要約】
水溶液中の2D材料/黒鉛ナノプレートレットの液体分散物を形成する方法が開示される。この方法は、(1)分散媒体を作製するステップと、(2)5分散媒体に2D材料/黒鉛ナノプレートレットを混合するステップと、(3)機械的手段を用いて、2D材料/黒鉛ナノプレートレットの粒度を低減させるために十分な剪断力およびまたは破砕力を2D材料/黒鉛ナノプレートレットに受けさせるステップとを含む。液体分散物は2D材料/黒鉛ナノプレートレットと、少なくとも1つの粉砕媒体と、水と、少なくとも1つの湿潤剤とを含み、この少なくとも1つの粉砕媒体は10水溶性であるか、または水溶性となるように機能化される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水または水溶液中の2D材料/黒鉛ナノプレートレットの液体分散物を形成する方法であって、前記方法は、
(1)分散媒体を作製するステップと、
(2)前記分散媒体に前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットを混合するステップと、
(3)機械的手段を用いて、前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットの粒度を低減させるために十分な剪断力およびまたは破砕力を前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットに受けさせるステップとを含み、
前記液体分散物は、前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットと、少なくとも1つの粉砕媒体と、水と、少なくとも1つの湿潤剤とを含み、前記少なくとも1つの粉砕媒体は水溶性であるか、または水溶性となるように機能化されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットはグラフェンナノプレートレット、黒鉛ナノプレートレット、および2D材料ナノプレートレットのうちの1つ以上を含み、
前記グラフェンナノプレートレットはグラフェンナノプレート、還元型酸化グラフェンナノプレート、二層グラフェンナノプレート、二層還元型酸化グラフェンナノプレート、三層グラフェンナノプレート、三層還元型酸化グラフェンナノプレート、数層のグラフェンナノプレート、数層の還元型酸化グラフェンナノプレート、および6~10層の炭素原子のグラフェンナノプレートのうちの1つ以上を含み、前記黒鉛ナノプレートレットは少なくとも10層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレートを含み、前記黒鉛ナノプレートレットは10~20層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~14層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~40層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、25~30層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、25~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、20~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、または20~40層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレートのうちの1つ以上を含み、前記2D材料プレートレットは六方晶窒化ホウ素(hBN)、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化タングステン(WSe)、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、グラフィン(C)、ボロフェン(B)、ホスホレン(P)、または前述の前記材料の2つ以上の2D面内もしくは垂直ヘテロ構造のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットは少なくとも1つの1D材料を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの粉砕媒体は、粉砕樹脂、強力なアンカー基で修飾されたポリマー、少なくとも1つのアミン基を有する修飾されたアルデヒド樹脂の水溶液、または低分子量スチレン/無水マレイン酸コポリマーを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの湿潤剤は、ポリマー湿潤剤、イオン性湿潤剤、ポリマー非イオン性分散および湿潤剤、カチオン性湿潤剤、両性湿潤剤、ジェミニ湿潤剤、高分子樹脂様の湿潤および分散剤、またはこれらの湿潤剤の2つ以上の混合物のうちの1つを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記分散媒体は、前記少なくとも1つの粉砕媒体および前記水を含み、前記分散媒体を作製するステップは、
(i)前記少なくとも1つの粉砕媒体を実質的に均質になるまで前記水と混合するステップを含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、
(ii)ステップ(i)の完了後に、前記少なくとも1つの粉砕媒体および水の混合物に前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットを加えるステップと、
(iii)前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットが前記粉砕媒体溶液中に実質的に分散されるまで、前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットと前記少なくとも1つの粉砕媒体および水の混合物とを機械的に混合するステップとをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記分散媒体は、液体の形で貯蔵される前記少なくとも1つの湿潤剤をさらに含み、前記分散媒体を作製するステップは、
(i)前記粉砕媒体、水、および湿潤剤の混合物が実質的に均質になるまで、前記少なくとも1つの粉砕媒体、水、および湿潤剤を混合するステップを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記分散媒体は前記少なくとも1つの湿潤剤をさらに含み、前記湿潤剤は固体として貯蔵され、分散媒体を作製するステップは、
(i)前記湿潤剤が溶解されて、前記粉砕媒体、水、および湿潤剤の混合物が実質的に均質になるまで、前記少なくとも1つの粉砕媒体、水、および湿潤剤を混合するステップを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの湿潤剤は、前記2D材料/黒鉛プレートレットと実質的に同時に前記分散媒体に加えられる、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットの粒度を低減させるために十分な剪断力およびまたは破砕力を前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットに受けさせるステップ(3)は、溶解機、ビーズミル、または3ロールミルの1つ以上を用いて行われる、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
液体分散物であって、前記液体分散物は2D材料/黒鉛ナノプレートレットと、少なくとも1つの粉砕媒体と、水と、少なくとも1つの湿潤剤とを含み、前記少なくとも1つの粉砕媒体は水溶性であるか、または水溶性となるように機能化されることを特徴とする、液体分散物。
【請求項13】
前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットはグラフェンナノプレートレット、黒鉛ナノプレートレット、および2D材料ナノプレートレットのうちの1つ以上を含み、前記グラフェンナノプレートレットはグラフェンナノプレート、還元型酸化グラフェンナノプレート、二層グラフェンナノプレート、二層還元型酸化グラフェンナノプレート、三層グラフェンナノプレート、三層還元型酸化グラフェンナノプレート、数層のグラフェンナノプレート、数層の還元型酸化グラフェンナノプレート、および6~10層の炭素原子のグラフェンナノプレートのうちの1つ以上を含み、前記黒鉛ナノプレートレットは少なくとも10層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレートを含み、前記黒鉛ナノプレートレットは10~20層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~14層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~40層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、25~30層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、25~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、20~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、または20~40層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレートのうちの1つ以上を含み、前記2D材料ナノプレートレットは六方晶窒化ホウ素(hBN)、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化タングステン(WSe)、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、グラフィン(C)、ボロフェン(B)、ホスホレン(P)、または前述の前記材料の2つ以上の2D面内もしくは垂直ヘテロ構造のうちの1つ以上を含む、請求項12に記載の液体分散物。
【請求項14】
前記2D材料/黒鉛ナノプレートレットは少なくとも1つの1D材料を含む、請求項12または13に記載の液体分散物。
【請求項15】
前記少なくとも1つの粉砕媒体は、媒体は粉砕樹脂、強力なアンカー基で修飾されたポリマー、少なくとも1つのアミン基を有する修飾されたアルデヒド樹脂の水溶液、または低分子量スチレン/無水マレイン酸コポリマーを含む、請求項12~14のいずれかに記載の液体分散物。
【請求項16】
前記湿潤剤は、ポリマー湿潤剤、イオン性湿潤剤、ポリマー非イオン性分散および湿潤剤、カチオン性湿潤剤、両性湿潤剤、ジェミニ湿潤剤、高分子樹脂様の湿潤および分散剤、またはこれらの湿潤剤の2つ以上の混合物のうちの1つを含む、請求項12~15のいずれかに記載の液体分散物。
【請求項17】
請求項1~11のいずれかに記載の方法を用いて製造される、請求項12~16のいずれかに記載の液体分散物。
【請求項18】
請求項12~17のいずれかに記載の液体分散物を含む、液体コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散物に関し、特に2次元(2D:two-dimensional)材料を含む水性分散物およびその分散物を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において参照される2D材料は、1つ以上の公知の2D材料、およびまたは少なくとも1つのナノスケール次元を有する黒鉛フレーク、またはその混合物を含む。それらの2D材料は、本明細書において集合的に「2D材料/黒鉛ナノプレートレット」または「2D材料/黒鉛ナノプレート」と呼ばれる。
【0003】
2D材料(単層材料と呼ばれることもある)は、原子の単層または最大で数層からなる結晶材料である。積層2D材料は、弱く積重ねられるか、または結合されて3次元構造を形成する2D層からなる。2D材料のナノプレートはナノスケール以下の厚さを有し、他の2つの次元は一般的にナノスケールよりも大きいスケールである。
【0004】
公知の2Dナノ材料は、グラフェン(C)、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、六方晶窒化ホウ素(hBN)、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化タングステン(WSe)、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、グラフィン(C)、ボロフェン(B)、ホスホレン(P)、または前述の材料のうち2つの2D垂直もしくは面内ヘテロ構造を含むが、それに限定されない。
【0005】
少なくとも1つのナノスケール次元を有する黒鉛フレークは、10~40層の炭素原子を含み、かつ約100nm~100μmの範囲の側方寸法を有する。
【0006】
2D材料/黒鉛ナノプレートレット、ならびに特にグラフェンおよび六方晶窒化ホウ素は、物質界において興味深い多くの特性を有し、さらに多くの特性が発見されている。こうした材料およびそれらの特性の利用に対する大きな課題は、商業的プロセスで作製でき、かつ商業的に魅力的な、こうした材料が分散された組成物を製造することである。特にこうした組成物は、物質が販売され、既知の期間以内で貯蔵されてから使用されるために十分な貯蔵可能期間/寿命を有する必要がある。さらに、こうした組成物はユーザおよび/または環境にとって有害であってはならず、または少なくともあらゆる有害性は許容限度内である必要がある。
【0007】
2D材料/黒鉛ナノプレートレットに関連して直面する特定の問題は、水および水溶液における分散性が非常に低いこと、および一旦分散されると、こうした分散物の安定性が低いことである。たとえば、1つのナノスケール次元を有するグラフェンナノプレートおよび/または黒鉛ナノプレートは、水および水溶液においてこの問題に直面する。六方晶窒化ホウ素ナノプレートも同じ問題に直面する。
【0008】
有害であることが公知であるか、またはその疑いがある2D材料/黒鉛ナノプレートレットにとって、特にそれが他の材料に封入されていないときは、分散物におけるそれらの2D材料/黒鉛ナノプレートレットの安定性が特に重要である。なぜなら、それらの2D材料/黒鉛ナノプレートレットが非空中浮遊物質に結合または封入されていないときに分散物の外に分離して乾燥すると、容易に空中浮遊するようになるからである。少なくとも1つのナノスケール次元を有する空中浮遊グラフェンナノプレートおよびまたは黒鉛ナノプレートは、もし肺に取り込まれればヒトおよび動物の健康に損害を与え得ると考えられる。他の2D材料/黒鉛ナノプレートレットの有害性はなおも評価中であるが、他の2D材料/黒鉛プレートレットも同様の有害性を示すだろうと想定することが賢明であると考えられる。
【0009】
2D材料/黒鉛ナノプレートレットは、表面積が大きく、かつ機能性が低く、その結果として湿潤させること、およびまたは水もしくは水溶液内に分散させることが非常に困難であることが歴史的に証明されている。さらに、一旦分散された2D材料/黒鉛ナノプレートレットの凝集を防ぐことは非常に困難であることが公知である。
【0010】
たとえば有機溶剤などの非水性溶液および水溶液における湿潤および分散安定性の達成の方法の改善は、2D材料/黒鉛ナノプレートレットおよびそれらの特性の発見以来、熱心な研究対象となっている。
【0011】
良好な分散物を作製するためのパラメータはコロイド科学の分野で十分に確立されており、任意のコロイド系の自由エネルギーは、界面面積および界面張力の両方によって定められる。グラフェンの単層の理論上の表面積は約2590m-1であり、結果としてこれを分散させ得る条件の範囲は限られており、通常これらの条件は超音波処理および極性非プロトン性溶剤の使用を含んでいた。
【0012】
グラフェン/黒鉛ナノプレートレット(ここで黒鉛ナノプレートレットとは、ナノスケール次元と、10~20層と、約100nm~100μmの範囲の側方寸法とを有する黒鉛ナノプレートである)が分散されたときに分散物におけるそれらの安定性を維持するためには、それらのナノプレートレットの凝集を防ぐためのエネルギー障壁の生成が必要である。これは、静電または立体反発力のいずれかによって達成され得る。もしエネルギー障壁が十分に高ければ、ブラウン運動が分散物を維持するだろう。これは、以下のとおりに特徴付けられ得る1つ以上のアプローチを用いることによって達成されてきた。
a.溶剤の選択、
b.グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの化学的(共有結合)修飾、および
c.グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの非共有結合修飾。
【0013】
a.溶剤の選択
いくつかの溶剤、特にN-メチル-2-ピロリドン(NMP:N-Methyl-2-pyrrolidone)、ジメチルスルホキシド(DMSO:Dimethyl sulfoxide)、およびジメチルホルムアミド(DMF:Dimethylformamide)は、グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの分散に特に良好であるとして同定されている。これらの溶剤は健康および安全性の問題を有しており、これらの溶剤は用いないことが望ましい。
【0014】
溶剤の相互作用は、表面エネルギーおよびハンセン(Hansen)溶解度パラメータの使用の両方によって合理的に説明されてきた。ハンセン溶解度パラメータを用いることによって、いくつかの溶剤が潜在的担体媒体として同定されたが、それらの有効性は、グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの機能性、分散のモード、分散からの時間、および/または分散物の温度に依存する。
【0015】
しかし、水はグラフェン/黒鉛ナノプレートレットと良好に相互作用する溶剤ではない。水は高レベルの極性を有する溶剤であるのに対して、グラフェン/ナノプレートレットは高度の疎水性を有する。このために水とグラフェン/黒鉛ナノプレートレットとは互いに反発するため、グラフェン/黒鉛ナノプレートレットは凝集、凝結して分散しない。
【0016】
b.グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの化学的(共有結合)修飾
グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの機能化は、官能基の可用性のレベルに顕著に依存する。(たとえば還元型酸化グラフェンなどにおいて)酸素が存在するとき、最も一般的な経路の1つは、ジアゾニウム塩を用いて機能性を導入することである。
【0017】
代替的に、機能性がない(純グラフェンまたは黒鉛)か、または機能性が非常に低いときは、機能性を導入するためにプラズマ修飾が用いられてもよい。これらのグラフェン/黒鉛ナノプレートレットをその後さらに処理して、新たな機能性の種を生成してもよい。プラズマ処理に対する最も重要な処理パラメータはプロセスガスである。なぜならプロセスガスは導入される化学基を定めるからであり、一方で使用されるプロセス時間および電力は、導入される官能基の濃度に影響する。
【0018】
グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの化学的機能化によってその分散性を改善できるが、その化学的機能化によってグラフェンsp2構造内の欠陥のレベルも上昇して、たとえば導電性などの特性に悪影響を与え得ることが観察された。これは明らかに望ましくない結果である。
【0019】
c.グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの非共有結合修飾
グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの非共有結合修飾は、付加的な化学ステップを伴わず、ナノプレートレット内のsp2ドメインの損傷が回避されるという点で、共有結合修飾に対するいくつかの利点を有する。さまざまな相互作用が可能であり、その原則はπ-π、カチオン-π、および界面活性剤の使用である。
【0020】
π-π結合は、分散型または静電相互作用のいずれかを通じて達成されてもよい。たとえば多環芳香族炭化水素(PAH:polyaromatic hydrocarbons)、ピレン、およびポリアクリロニトリル(PAN:polyacrylonitrile)など、広範囲の芳香族ベースの系がグラフェンと相互作用することが示されている。
【0021】
カチオン-π結合は、金属または有機カチオンのいずれかを用いてもよい。一般的に有機カチオンが好ましく、イミダゾリウムカチオンは、それらのカチオンが平面的な芳香族構造であるために好ましい。
【0022】
多様な界面活性剤が商業的に入手可能であるため、界面活性剤は広く使用されている。通常、界面活性剤は最初にナノプレートの基部端縁に吸着され、次いで表面に吸着される。π-π相互作用の能力と、溶媒和が可能な平面状のテールとが存在するとき、吸着が促進される。グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの基部端縁および表面の機能性と、グラフェン/黒鉛ナノプレートレットが分散される媒体とに基づいて、非イオン性およびイオン性界面活性剤の両方が有効であることが示されている。
【0023】
上記の考察をまとめると、有機溶剤を用いた液体調合物中での使用のためにグラフェン/黒鉛ナノプレートレットの乾燥粉末を湿潤、分散、および安定化させるために、高度に特定化された添加剤が必要とされる。他の2D材料/黒鉛ナノプレートレットに関しても同じことが当てはまることが理解される。
【0024】
環境における有機溶剤の使用は関心が高まっている問題であり、可能であれば環境中の有機溶剤を低減または除去することが一般的に望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の第1の態様によると、水または水溶液中の2D材料/黒鉛ナノプレートレットの液体分散物を形成する方法が提供され、この方法は、
(1)分散媒体を作製するステップと、
(2)分散媒体に2D材料/黒鉛ナノプレートレットを混合するステップと、
(3)機械的手段を用いて、2D材料/黒鉛ナノプレートレットの粒度を低減させるために十分な剪断力およびまたは破砕力を2D材料/黒鉛ナノプレートレットに受けさせるステップとを含み、
この2D材料/黒鉛ナノプレートレットおよび分散媒体の混合物は、2D材料/黒鉛ナノプレートレットと、少なくとも1つの粉砕媒体と、水と、少なくとも1つの湿潤剤とを含み、この少なくとも1つの粉砕媒体は水溶性であるか、または水溶性となるように機能化されることを特徴とする。
【0026】
本発明の第1の態様のステップ(2)は、ステップ(3)の前に2D材料/黒鉛プレートレットの初期湿潤を達成するために行われる。
【0027】
本発明の第2の態様によると、2D材料/黒鉛ナノプレートレットと、少なくとも1つの粉砕媒体と、水と、少なくとも1つの湿潤剤とを含む分散物が提供され、ここで少なくとも1つの粉砕媒体は水溶性であるか、または水溶性となるように機能化される。
【0028】
本発明の第3の態様によると、本発明の第2の態様による分散物を含む、液体コーティング系が提供される。
【0029】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、2D材料/黒鉛ナノプレートレットは1つ以上のグラフェンまたは黒鉛ナノプレートレットを含み、ここでグラフェンナノプレートレットはグラフェンナノプレート、還元型酸化グラフェンナノプレート、二層グラフェンナノプレート、二層還元型酸化グラフェンナノプレート、三層グラフェンナノプレート、三層還元型酸化グラフェンナノプレート、数層のグラフェンナノプレート、数層の還元型酸化グラフェンナノプレート、および6~10層の炭素原子のグラフェンナノプレートのうちの1つ以上を含み、黒鉛プレートレットは少なくとも10層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレートを含む。
【0030】
いくつかの実施形態の本発明において、グラフェンナノプレートレットおよび黒鉛ナノプレートレットの一方または両方は、約100nm~100μmの範囲の側方寸法を有する。
【0031】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、2D材料/黒鉛ナノプレートレットは1つ以上の黒鉛ナノプレートレットを含み、ここで黒鉛ナノプレートレットは、10~20層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~14層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~40層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、25~30層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、25~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、20~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、または20~40層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレートである。
【0032】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、2D材料/黒鉛ナノプレートレットは1つ以上の2D材料ナノプレートレットを含み、ここで2D材料プレートレットは、六方晶窒化ホウ素(hBN)、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化タングステン(WSe)、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、グラフィン(C)、ボロフェン(B)、ホスホレン(P)、または前述の材料の2つ以上の2D面内もしくは垂直ヘテロ構造のうちの1つ以上を含む。
【0033】
数層のグラフェン/還元型酸化グラフェンナノプレートは、4~10層の炭素原子を有し、ここで単層は0.035nmの厚さと、0.14nmの典型的な層間距離とを有する。
【0034】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、2D材料/黒鉛ナノプレートレットは、グラフェン/黒鉛プレートレットと、少なくとも1つの1D材料とを含む。いくつかの実施形態において、1D材料はカーボンナノチューブを含む。
【0035】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、粉砕媒体は、強力なアンカー基で修飾されたポリマー、粉砕樹脂、少なくとも1つのアミン基を有する修飾されたアルデヒド樹脂の水溶液、低分子量スチレン/無水マレイン酸コポリマー、またはこれらの媒体の混合物である。
【0036】
いくつかの好ましい実施形態において、2D材料/黒鉛ナノプレートレットの分散物の粉砕媒体は、BASF、ディスパージョン&レジン事業部(Dispersions & Resins Division)、北米(North America)より商業的に入手可能な水溶性の修飾アルデヒド樹脂であるLaropal(商標)LR 9008、修飾アルキドポリマーのADDITOL(商標)XL 6515、ポリエステル修飾アクリルポリマーのADDITOL XW 6528、高重合の自己乳化顔料粉砕媒体のADDITOL XW 6535、高重合の自己乳化顔料粉砕媒体のADDITOL XW 6565、ポリエステル修飾アクリルポリマーのADDITOL XW 6591である。ADDITOL製品は、オルネクス(Allnex)社のグループより商業的に入手可能である。
【0037】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、分散媒体は、少なくとも1つの粉砕媒体と水との混合物を含み、分散媒体を作製するステップは、
(i)少なくとも1つの粉砕媒体を実質的に均質になるまで水と混合するステップを含む。
【0038】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、少なくとも1つの粉砕媒体は液体であり、分散媒体は50wt%~90wt%の少なくとも1つの粉砕媒体および10wt%~50wt%の水、60wt%~80wt%の少なくとも1つの粉砕媒体および20wt%~40wt%の水、65wt%~75wt%の少なくとも1つの粉砕媒体および25wt%~35wt%の水、または約70wt%の少なくとも1つの粉砕媒体および約30wt%の水を含む。
【0039】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、この方法は、
(ii)ステップ(i)の完了後に、少なくとも1つの粉砕媒体および水の混合物に2D材料/黒鉛ナノプレートレットを加えるステップと、
(iii)2D材料/黒鉛ナノプレートレットが粉砕媒体溶液中に実質的に分散されるまで、2D材料/黒鉛ナノプレートレットと少なくとも1つの粉砕媒体および水の混合物とを機械的に混合するステップとをさらに含む。
【0040】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、分散媒体は少なくとも1つの湿潤剤をさらに含み、この湿潤剤は液体として貯蔵され、分散媒体を作製するステップは、
(i)粉砕媒体、水、および湿潤剤の混合物が実質的に均質になるまで、少なくとも1つの粉砕媒体、水、および湿潤剤を混合するステップを含む。
【0041】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、分散媒体は少なくとも1つの湿潤剤をさらに含み、この湿潤剤は(粉末を含む)固体として貯蔵され、分散媒体を作製するステップは、
(i)湿潤剤が溶解されて、粉砕媒体、水、および湿潤剤の混合物が実質的に均質になるまで、少なくとも1つの粉砕媒体、水、および湿潤剤を混合するステップを含む。
【0042】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態において、少なくとも1つの湿潤剤は、2D材料/黒鉛ナノプレートレットと実質的に同時に分散媒体に加えられる。
【0043】
本発明の単数または複数の湿潤剤は、ポリマー湿潤剤、イオン性湿潤剤、ポリマー非イオン性分散および湿潤剤、カチオン性湿潤剤、両性湿潤剤、ジェミニ(Gemini)湿潤剤、高分子樹脂様の湿潤および分散剤、またはこれらの湿潤剤の2つ以上の混合物のうちの1つであってもよい。ジェミニ湿潤剤は、ポリエーテルセグメント中にスペーサーセグメントによって接続された2つの極性中心または頭部を有する。
【0044】
2D材料/黒鉛ナノプレートレットの分散物の好ましい湿潤剤は、オルネクス・ベルギー(Allnex Belgium)SA/NVより商業的に入手可能なポリマー非イオン性分散および湿潤添加剤である修飾アクリルコポリマーのADDITOL(商標)VXW 6208/60と、BYKケミー社(BYK-Chemie GmbH)より商業的に入手可能な塩基性の顔料親和性基を有するブロックコポリマーのDISPERBYK-2150(商標)と、エボニック・ニュートリション&ケア社(Evonik Nutrition & Care GmbH)より商業的に入手可能なジェミニ湿潤剤および分子消泡剤のサーフィノール(Surfynol)(商標)104とを含むが、それに限定されない。
【0045】
たとえばグラフェン/黒鉛ナノプレートレットなどの、乾燥2D材料/黒鉛ナノプレートレットは通常、一次粒子またはナノプレートレットの凝集体またはアグリゲートでできている。分散プロセスの際に、それらの凝集体またはアグリゲートは可能な限り破壊されて、2D材料/黒鉛ナノプレートレットの意図される適用のために好適なサイズの一次粒子またはナノプレートレットになる必要がある。一次粒子またはナノプレートレットの凝集体またはアグリゲートの破壊は、剥離のプロセスを含むと考えられる。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態において、分散手段とは、2D材料/黒鉛プレートレットが分散媒体と混合されている間に、それらの材料に破砕作用および機械的剪断力の両方を加えるために好適な手段である。これを達成するために好適な装置は、たとえば溶解機、ビーズミル、または3ロールミルなどの、公知の粉砕またはミリング装置である。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態において、凝集体またはアグリゲートは破壊されて、それ以上破壊できないほどの粒度の粒子またはナノプレートレットにされることが好ましい。使用前の2D材料/黒鉛ナノプレートレットの製造および貯蔵は、しばしば2D材料/黒鉛ナノプレートレット分散物に対して望まれるよりも大きい粒子の形で行われるため、このことは有益である。
【0048】
2D材料/黒鉛ナノプレートレットの凝集体またはアグリゲートが縮小されて、より小さい粒子またはナノプレートレットになったとき、凝集体またはアグリゲートのサイズ縮小の結果もたらされた新たに形成された表面を迅速に安定化することによって、それらの粒子またはナノプレートレットの再凝集または再アグリゲートを防止することが助けられる。
【0049】
たとえば水を含む分散媒体などの分散媒体と、2D材料/黒鉛ナノプレートレットとの間の界面張力が高いほど、界面面積を低減しようとする力が強くなることが見出されているため、本発明の方法は特に有益である。言い換えると、2D材料/黒鉛ナノプレートレットを再凝集もしくは再アグリゲートさせるか、または凝結体を形成しようとする力が強くなる。分散媒体中の湿潤剤と2D材料/黒鉛ナノプレートレットとの間の界面張力は、水と2Dナノ材料との間の界面張力よりも低いため、湿潤剤は新たに形成された表面を安定化して、2D材料/黒鉛ナノプレートレットの凝集、アグリゲート、およびまたは凝結を防止することを助ける。
【0050】
新たに形成された表面を安定化して、2D材料/黒鉛ナノプレートレットの凝集、アグリゲート、およびまたは凝結を防止する湿潤剤の作用は有益であるが、改善された安定な分散物の形成を可能にするために十分な利益を与えないことが見出された。その理由は、湿潤剤は2Dナノ材料を水性分散媒体中に懸濁させるが、2D材料/黒鉛ナノプレートレットの特徴は、他の化合物と比べて大きい表面積を有することだからである。高い極性を有する水が湿潤剤に置き換わるかもしれない。
【0051】
分散媒体中の湿潤剤の割合が増加することによって、最終的にすべての成分が懸濁されたままの分散物がもたらされることがある。しかし、分散物を形成するこのアプローチは、この分散物から形成されるコーティングが高度の水溶性を有することになるという問題を有する。これはコーティングの急速な破損をもたらすため、非常に望ましくないことである。
【0052】
本発明によると、粉砕媒体、水、および湿潤剤の混合物中の2D材料/黒鉛ナノプレートレットの混合物を含む分散物に破砕作用および機械的剪断力を加えることによって、改善された分散物がもたらされる。
【0053】
これは、ある割合の2D材料/黒鉛ナノプレートレットが少なくとも部分的に粉砕媒体のコーティング内に封入されるため、湿潤剤に加えて粉砕媒体も2D材料/黒鉛プレートレットの新たに形成された表面を安定化するためだと考えられる。次いで湿潤剤は、組み合わされた粉砕媒体/2D材料/黒鉛ナノプレートレット粒子に結合して、粉砕媒体/2D材料/黒鉛ナノプレートレット粒子を分散物中に懸濁させることができる。粉砕媒体は、分散物中の懸濁を可能にするために2D材料/黒鉛ナノプレートレットよりも少ない湿潤剤を必要とするため、過剰な湿潤剤を必要とする結果として分散物から形成される任意のコーティングの溶解性が高くなることによる問題が回避される。
【0054】
これは、溶剤としての水が高レベルの極性を有するのに対して、高い炭素/酸素比を有するグラフェン/黒鉛ナノプレートレットは低い極性および高度の疎水性を有するために、これら2つが互いに反発するためだと考えられる。このためにグラフェン/黒鉛ナノプレートレットは凝集し、凝結して分散しない。2D材料/黒鉛プレートレットがグラフェン/黒鉛ナノプレートレットである本発明のいくつかの実施形態において、グラフェン/黒鉛ナノプレートレットの炭素/酸素比は15以上である。
【0055】
本発明の方法のさらなる利点は、2D材料/黒鉛ナノプレートレットに対して作用するときの分散手段のミリング性能が、ミリングされる混合物中の粉砕媒体の存在によってさらに改善されることである。その改善は、より高速のミリング、ミリングプロセスにおける熱生成の低下、分散物における粒度がより均一になること、分散物におけるD50粒度が小さくなること、分散物の粘度の低下、公知の短い保存可能期間の分散物と比べて貯蔵安定性が高くなること、および分散物の単純な攪拌によって分散物から沈降していた任意の組み合わせの粉砕媒体/2D材料/黒鉛ナノプレートレット粒子を再分散できることによって示される。
【0056】
粉砕媒体の使用によって、分散物の作製における湿潤剤の使用を予期されるよりも少なくできるため、本発明によって作製された分散物を組み込んだコーティング系から形成されるコーティングによる溶解性の問題が最小化される。
【0057】
本発明の第2の態様によると、2D材料/黒鉛ナノプレートレットと、少なくとも1つの粉砕媒体と、水と、少なくとも1つの湿潤剤とを含む液体分散物が提供される。
【0058】
本発明の第2の態様のいくつかの実施形態において、2D材料/黒鉛ナノプレートレットはグラフェンナノプレートレット、黒鉛ナノプレートレット、および2D材料ナノプレートレットのうちの1つ以上を含み、グラフェンナノプレートレットはグラフェンナノプレート、還元型酸化グラフェンナノプレート、二層グラフェンナノプレート、二層還元型酸化グラフェンナノプレート、三層グラフェンナノプレート、三層還元型酸化グラフェンナノプレート、数層のグラフェンナノプレート、数層の還元型酸化グラフェンナノプレート、および6~10層の炭素原子のグラフェンナノプレートのうちの1つ以上を含み、黒鉛ナノプレートレットは少なくとも10層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレートを含み、黒鉛ナノプレートレットは10~20層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~14層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、10~40層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、25~30層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、25~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、20~35層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレート、または20~40層の炭素原子を有する黒鉛ナノプレートのうちの1つ以上を含み、2D材料ナノプレートレットは六方晶窒化ホウ素(hBN)、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化タングステン(WSe)、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、グラフィン(C)、ボロフェン(B)、ホスホレン(P)、または前述の材料の2つ以上の2D面内もしくは垂直ヘテロ構造のうちの1つ以上を含む。
【0059】
本発明の第2の態様のいくつかの実施形態において、2D材料/黒鉛ナノプレートレットは、少なくとも1つの1D材料を含む。
【0060】
本発明の第2の態様のいくつかの実施形態において、少なくとも1つの粉砕媒体は、強力なアンカー基で修飾されたポリマー、少なくとも1つのアミン基を有する修飾されたアルデヒド樹脂の水溶液、または低分子量スチレン/無水マレイン酸コポリマーである。
【0061】
いくつかの好ましい実施形態において、2D材料/黒鉛プレートレットの分散物の粉砕媒体は、BASF、ディスパージョン&レジン事業部(Dispersions & Resins Division)、北米(North America)より商業的に入手可能な水溶性の修飾アルデヒド樹脂であるLaropal(商標)LR 9008、修飾アルキドポリマーのADDITOL(商標)XL 6515、ポリエステル修飾アクリルポリマーのADDITOL XW 6528、高重合の自己乳化顔料粉砕媒体のADDITOL XW 6535、高重合の自己乳化顔料粉砕媒体のADDITOL XW 6565、ポリエステル修飾アクリルポリマーのADDITOL XW 6591である。ADDITOL製品は、オルネクス(Allnex)社のグループより商業的に入手可能である。
【0062】
本発明の第2の態様のいくつかの実施形態において、湿潤剤は、ポリマー湿潤剤、イオン性湿潤剤、ポリマー非イオン性分散および湿潤剤、カチオン性湿潤剤、両性湿潤剤、ジェミニ湿潤剤、高分子樹脂様の湿潤および分散剤、またはこれらの湿潤剤の2つ以上の混合物のうちの1つを含む。
【0063】
好ましい湿潤剤は、オルネクス・ベルギー(Allnex Belgium)SA/NVより商業的に入手可能なポリマー非イオン性分散および湿潤添加剤である修飾アクリルコポリマーのADDITOL(商標)VXW 6208/60と、BYKケミー社(BYK-Chemie GmbH)より商業的に入手可能な塩基性の顔料親和性基を有するブロックコポリマーのDISPERBYK-2150(商標)と、エボニック・ニュートリション&ケア(Evonik Nutrition & Care)より商業的に入手可能なジェミニ湿潤剤および分子消泡剤の組み合わせのサーフィノール(Surfynol)104(商標)とを含むが、それに限定されない。
【0064】
本発明の第2の態様のいくつかの実施形態において、液体分散物は、本発明の第1の態様による方法を用いて製造される。
【発明を実施するための形態】
【0065】
詳細な説明を理解するために有用なさまざまな実施例をより良く理解するために、ここで例として以下を参照することとする。
[実施例]
【0066】
以下の表1および表2に、本発明による分散物の典型的な配合を示している。
【0067】
すべての分散物をアイガー・トランス(Eiger Torrance)250水平ビーズミルにおいて製造した。分散物を最大速度の再循環モードにて15分間ミリングした。
【0068】
分散物の特徴付け
マスターサイザー(Mastersizer)3000において粒度を測定して、デアグロメレーションおよび粒度低減に対する粉砕樹脂および分散剤の有効性を定めた。
【0069】
分散物のレオロジー特性の理解を助けるために、粘度を測定した。キネクサスレオメータ(Kinexus Rheometer)を用いてこれを行った。
【0070】
タービスキャン・スタビリティ・アナライザ(Turbiscan Stability Analyser)を使用することによって、貯蔵安定性を定めた。タービスキャン・スタビリティ・インデックス(TSI:Turbiscan stability index)は、複数のサンプルの比較を可能にする安定性の相対的尺度である。それは相対的尺度として密接に関係する調合物の定量化可能な評価を可能にする。
【0071】
安定性のテストは、周囲温度および上昇温度(40C)において行った。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
黒鉛材料A-GNP10は、アプライド・グラフェン・マテリアルズUKリミテッド(Applied Graphene Materials UK Limited)、UKより商業的に入手可能であり、25~35原子層の厚さの黒鉛ナノプレートレットを含む。黒鉛ナノプレートレットは粉末として供給され、一般的に凝集されてナノプレートレットの塊にされる。
【0075】
グラフェン/黒鉛材料A-GNP35は、アプライド・グラフェン・マテリアルズUKリミテッド(Applied Graphene Materials UK Limited)、UKより商業的に入手可能であり、5~15原子層の厚さのグラフェン/黒鉛ナノプレートレットを含む。黒鉛ナノプレートレットは粉末として供給され、一般的に凝集されてナノプレートレットの塊にされる。
【0076】
各々の分散物は、以下のステップを用いて作製された。
1 水にサーフィノール104およびLaropal LR9008を加えた。これを混合物が実質的に均質になるまで攪拌した。
2 混合物にA-GNP-10またはA-GNP-35を加え、粉末が混合物に均一に分散されるまで攪拌した。
3 ビーズを用いたビーズミル内の15分間の再循環によって、混合物のビーズミルを行った。
【0077】
考察
水のみに分散させたグラフェン(A-GNP10)
A-GNP10を、0.1、1、5、および10%の4つの異なる濃度にて水に分散させた。サンプルを周囲条件下で4週間貯蔵した。
【0078】
5%および10%のサンプルは、製造から2~3日以内に堆積した。
【0079】
0.1%および1%のサンプルは、製造4週間後にも可視的な堆積がなかった。
【0080】
グラフェン(A-GNP10)の5%および10%重量添加においてみられる重度の堆積のため、製品の保存可能期間および貯蔵安定性を改善するために好適な顔料分散樹脂(すなわち粉砕媒体)および/または界面活性剤(すなわち湿潤剤)を同定する必要が生じた。
【0081】
分散樹脂(すなわち粉砕媒体)を含む水に分散させたグラフェン(A-GNP10)
テストした分散物
粉砕媒体Laropal LR9008の量の増加を伴うさまざまな媒体に、10%A-GNP10を分散させた。
1.水のみ
2.10%Laropal 90%水混合物
3.20%Laropal 80%水混合物
4.30%Laropal 70%水混合物
5.40%Laropal 60%水混合物
6.50%Laropal 50%水混合物
【0082】
A-GNP10の水性分散物の粘度
以下の表3に示されるとおり、すべての分散物は非常に低い粘度(1PaS未満)を有した。全体として、これらの分散物のレオロジープロファイルに有意な変化はなかった。しかし、10%のLaropal LR9008および90%の水の分散物は、特に高い粘度を示した。
【0083】
【表3】
【0084】
A-GNP10の水性分散物の粒度分布
すべてのサンプルに対する粒度分布をモニタし、その結果を以下の表4に示す。10%量のLaropalによる分散物を除いて、すべての分散物は15~25ミクロンの範囲のD90を示した。
【0085】
【表4】
【0086】
A-GNP10の水性分散物の貯蔵安定性
サンプルを周囲温度および上昇温度(40℃)にてテストした。一般的に、Laropal LR 9008の添加によって、堆積に対する安定性が全般的に改善された。
【0087】
タービスキャン測定-多重光散乱
サンプルに対する静的多重光散乱を行い、その結果を以下の表5に示す。静的多重光散乱は、濃縮された液体分散物を特徴付けるために用いられる光学的方法である。光はサンプル中に伝達されると、濃度および支配的な粒度に依存して分散物によって後方散乱されるか、または透過される。サンプル内の変化の程度を示すためにTSI数が用いられ、数が大きいことはサンプル内の変化の程度が大きいこと、すなわち不安定性を示す。
【0088】
【表5】
【0089】
コメント
A-GNP10の水分散物について、Laropalの存在はタービスキャンによってテストされたとおり安定性の改善を示し、唯一の例外は10% Laropal LR9008を有する分散物であった。Laropal LR9008がないとき、分散物は最初に貯蔵の2~3日後に堆積することがみられた。分散樹脂を用いることによって、堆積に対する安定性は6週間に増加した。
【0090】
分散樹脂(すなわち粉砕媒体)を含む水に分散させたグラフェン(A-GNP35)
テストした分散物
0.5%のA-GNP35を水/溶剤に分散させて、15分間の再循環のビーズミルを行った。
【0091】
0.5%のA-GNP35を以下に分散
・水のみ
・10%Laropal 90%水
・20%Laropal 80%水
・30%Laropal 70%水
・40%Laropal 60%水
・50%Laropal 50%水
【0092】
A-GNP35の水性分散物の粘度
以下の表6に示されるとおり、A-GNP35の水分散物は非常に高い粘度のみを示す傾向がある。テストされたすべての系について、Laropal LR9008の添加によって粘度が低くなった。20%量のLaropalによって最低粘度が達成された。
【0093】
【表6】
【0094】
A-GNP35の水性分散物の粒度分布
すべてのサンプルに対する粒度分布を評価し、その結果を以下の表7に示す。Laropal LR9008の使用によって、粒度が有意に低減することが示された。Laropalを含む系について、10%量のLaropalを有する分散物は粒度分布の最小の低減を示した。20~50%量のLaropalの間では、粒度分布に大きな変動はなかった。これらの系に対するD90は、分散樹脂(すなわち粉砕媒体)を用いずに得られるものの半分だった。
【0095】
【表7】
【0096】
貯蔵安定性
サンプルを周囲温度および上昇温度にてテストした。A-GNP35の水分散物は通常、濃厚なペーストの粘稠性を伴う高い粘度を有する。このため、これらの分散物はA-GNP10の同等の分散物よりも安定な傾向がある。1週間のテスト後、周囲温度または上昇温度(40℃)貯蔵のいずれにおいても、サンプルの安定性に可視的な相違はなかった。
【0097】
以下の表8に示されるとおりのサンプルのタービスキャン評価は、周囲温度または上昇温度のいずれにおいてもサンプルの安定性インデックスに有意な相違を示さなかった。タービスキャン・スタビリティ・インデックス(TSI)は、複数のサンプルの比較を可能にする安定性の相対的尺度である。それは相対的尺度として密接に関係する調合物の定量化可能な評価を可能にする。
【0098】
【表8】
【0099】
コメント
A-GNP35の水分散物について、Laropalの存在は分散物の粘度を有意に低減し、分散物をより使用しやすく、取り扱いが容易なものにしている。Laropalを含むことによって、より高度な粒度低減も達成された。
【0100】
分散樹脂(すなわち粉砕媒体)および湿潤剤(サーフィノール)を含む水に分散させたグラフェン(A-GNP35)
表1の分散物の安定性を4ヵ月の期間にわたってモニタした。粒度の変化と、堆積の程度とをモニタした。安定化した調合物の4つのバッチをテストした。顔料湿潤をさらに改善し、かつ消泡剤として作用させるためにサーフィノール(湿潤剤)を導入した。安定化した調合物は、上記の表1に示されるとおりである。
【0101】
タービスキャン-多重光散乱
静的多重光散乱は、濃縮された液体分散物を特徴付けるために用いられる光学的方法である。光はサンプル中に伝達されると、濃度および支配的な粒度に依存して分散物によって後方散乱されるか、または透過される。経年プロセスの間に所与のサンプル中で任意の不安定化現象が起こると、後方散乱および/または透過信号強度に影響を与えることとなる。強度変動が大きい調合物は顕著に変化しており、不安定とみなされ得る。
【0102】
この分散物の安定性を理解するために、表1の分散物の4つのバッチをテストした。貯蔵の46日後に、表面分離の発達があり、それは表面近くに透過する(透明な)層が出現したことによって証明された。発達した透明層のすぐ下にはわずかに濃厚になった層があり、ここでは後方散乱が増加した。
【0103】
粒度の変化のモニタリング
表1の分散物に対する粒度分布を評価し、その結果を以下の表9に示す。
【0104】
粒度の変化は凝集、アグリゲート、または凝結を示し得る。
【0105】
【表9】
【0106】
4ヵ月後に初期D90のわずかな低下が記録された。最初の16.2から17.7への増加は、測定誤差の範囲内とみなされる。
【0107】
堆積の程度
以下の表10に堆積の程度を示す。
【0108】
【表10】
【0109】
保存可能期間の推奨
表1の分散物は、周囲温度(15~25℃)にて3ヵ月の期間にわたって貯蔵されるべきである。いくらかの分離が起こることがあり、これは軽い機械的攪拌によって混合して均質な分散物に戻すことができる。
【国際調査報告】