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特表2022-540897ワイヤレスネットワークにおける分散協調ビーム形成
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】ワイヤレスネットワークにおける分散協調ビーム形成
(51)【国際特許分類】
   H04W 84/18 20090101AFI20220912BHJP
【FI】
H04W84/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502395
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(85)【翻訳文提出日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 US2020042277
(87)【国際公開番号】W WO2021011743
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】16/513,642
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507341390
【氏名又は名称】トレリスウェア テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポリドロス,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ケーセ,センク
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA21
5K067DD11
5K067EE02
5K067EE25
(57)【要約】
ワイヤレスネットワークにおける協調ワイヤレス通信のためのデバイス、システムおよび方法が記載される。一例の方法は、複数のノードのうち第1ノードによって、前記複数のノードのうち少なくとも第2ノードと通信を実行することと、前記第1ノードによって、前記複数のノードのうち宛先ノードから、プローブを受信することと、前記プローブに基づき、前記第1ノードと前記宛先ノードとの間のチャネル推定の最も強いタップの位相を計算することと、前記最も強いタップの前記位相と、前記第1ノードの第1位相および基準ノードの第2位相の間の位相差とに基づき、位相補正を計算することであって、前記位相差は前記通信に基づく、位相補正を計算することと、前記位相補正を伴うメッセージを前記宛先ノードに送信することと、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
協調ワイヤレス通信のための方法であって、
複数のノードのうち第1ノードによって、前記複数のノードのうち少なくとも第2ノードと通信を実行することと、
前記第1ノードによって、前記複数のノードのうち宛先ノードから、プローブを受信することと、
前記プローブに基づき、前記第1ノードと前記宛先ノードとの間のチャネル推定の最も強いタップの位相を計算することと、
前記最も強いタップの前記位相と、前記第1ノードの第1位相および基準ノードの第2位相の間の位相差とに基づき、位相補正を計算することであって、前記位相差は前記通信に基づく、位相補正を計算することと、
前記位相補正を伴うメッセージを前記宛先ノードに送信することと、
を備える方法。
【請求項2】
前記複数のノードのうちi番目のノードは、i番目の位相補正を計算するよう構成され、
前記複数のノードは、対応する位相補正を伴う前記メッセージを並行して送信するよう構成される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記位相差は位相行列のエントリであり、
前記位相行列の(i,j)番目のエントリは、i番目のノードの位相とj番目のノードの位相との間の位相差の2倍を備え、
前記i番目のノードおよび前記j番目のノードは前記宛先ノードとは異なる、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基準ノードは、前記位相行列の少なくとも1行または少なくとも1列が決定された後に、前記複数のノードから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のノードから、1つ以上のノードペアの間のリンク品質測度を少なくとも1つ決定することと、
前記少なくとも1つのリンク品質測度の関数に基づき、前記基準ノードを選択することと、
をさらに備える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記決定することは、パイロット信号またはトーンに基づく、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのリンク品質測度は、前記基準ノードと、前記複数のノードのうち対応するノードとの間の、チャネルの信号対雑音比(SNR)または信号対干渉雑音比(SINR)である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記関数は、前記少なくとも1つのリンク品質測度の、平均値、中央値または最大値である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記第1ノードおよび第3ノードに対応する前記位相行列のエントリは、前記位相行列の、(i)前記第1ノードおよび第4ノードに対応するエントリと、(ii)前記第3ノードおよび前記第4ノードに対応するエントリとに基づいて決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記メッセージに対応する情報を、(a)前記複数のノードのうち第3ノードから、(b)バックボーンタイプのネットワークから、または、(c)前記複数のノードのそれぞれとは異なる送信元ノードから、受信することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記通信は、前記複数のノードのそれぞれと実行される双方向通信を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記通信または前記プローブは、定包絡線信号を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
複数のノードを含むネットワークにおける協調ワイヤレス通信のための方法であって、前記方法は、
複数のノードのうち第1ノードによって、前記複数のノードのうち少なくとも第2ノードと通信を実行することと、
前記通信に基づき、前記第1ノードと、前記複数のノードの各ノードとの間の複数の位相差を計算することと、
前記複数のノードのうち第1宛先ノードから第1プローブを受信することと、
前記第1プローブに基づき、前記第1ノードと前記第1宛先ノードとの間の第1チャネル推定を計算することと、
前記複数の位相差に基づき、前記複数のノードから基準ノードを選択することと、
前記基準ノードを選択することに続き、(i)前記第1チャネル推定と、(ii)前記第1ノードの第1位相および前記基準ノードの第2位相の間の位相差と、に基づき、第1位相補正を計算することと、
前記第1位相補正に基づいてメッセージを送信することと、
を備える、方法。
【請求項14】
前記複数の位相差は、位相行列の1行または1列に対応し、
前記位相行列の(i,j)番目のエントリは、i番目のノードの位相とj番目のノードの位相との間の位相差の2倍を備える、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第2宛先ノードから第2プローブを受信することと、
前記第2プローブに基づき、前記第1ノードと前記第2宛先ノードとの間の第2チャネル推定を計算することと、
前記基準ノードを選択することに続き、前記第2チャネル推定および前記位相差に基づいて第2位相補正を計算することと、
をさらに備え、
前記メッセージを送信することは、さらに、前記第2位相補正に基づく、
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1および第2チャネル推定を計算することは、それぞれ前記第1および第2チャネル推定の最も強いタップの位相を計算することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の位相差を計算することは、さらに、前記複数のノードのうち少なくとも1つのノードの位相を追跡することに基づく、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
発振器周波数オフセット、発振器周波数ドリフト、および位相雑音のうち少なくとも1つに基づき、前記複数の位相差の少なくとも1つを更新することをさらに備える、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
協調ワイヤレス通信のためのシステムであって、
複数のノードを備え、
前記複数のノードのそれぞれは、
‐送信元ノードからメッセージを受信し、
‐前記複数のノードのうち少なくとも1つの他のノードと双方向通信を実行し、
‐前記双方向通信に基づき、前記複数のノードのそれぞれと、前記複数のノードの他の各ノードとの間の複数の位相差を計算し、
‐前記送信元ノードおよび前記複数のノードのそれぞれとは異なる宛先ノードからプローブを受信し、
‐前記プローブに基づき、前記複数のノードの前記それぞれと、前記宛先ノードとの間のチャネル推定の最も強いタップの位相を計算し、
‐前記複数の位相差に基づき、前記複数のノードから基準ノードを選択し、
‐前記基準ノードを選択することに続いて、前記最も強いタップの前記位相と、前記複数のノードの前記それぞれの第1位相および前記基準ノードの第2位相の間の位相差と、に基づき、位相補正を計算し、
‐前記位相補正を伴う前記メッセージを、前記宛先ノードに、前記複数のノードの他の各ノードと並行して、送信する
ように構成される、システム。
【請求項20】
前記送信元ノードは、(a)前記複数のノードのうち1つであるか、(b)バックボーンタイプのネットワークノードであるか、または、(c)前記複数のノードとは異なるノードである、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記双方向通信または前記プローブは、定包絡線信号を含む、請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本文献は、ワイヤレス(wireless)ネットワークにおけるノード間の協調ワイヤレス通信に向けられる。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年7月16日に出願された米国特許出願第16/513,642号明細書(その全体が参照によってすべての目的について本明細書に組み込まれる)の利益を主張する。
【0003】
[背景]
アドホックネットワークは、空間的に分散された単一アンテナの電力制限無線(radio)ノードを含んでもよく、これは動的であってもよく、完全に接続される必要はなく、マルチパスフェージング伝搬環境で動作してもよい。これらのノードは、リモートで配置された無線ノード(直線的通信プロトコルでは到達不可能なもの)にメッセージを中継するよう協調できる。
【0004】
[サマリー]
本文献は、ワイヤレスネットワークにおける分散協調ビーム形成のための方法、システムおよびデバイスに関する。開示される技術の実施形態は、範囲拡張(すなわち、それがなければ、単一のローカル無線機(radio)によっては、または、位相非コヒーレントな態様で同時に送信する複数の無線機によってさえ、到達不可能なリモートノードに、協調してメッセージを中継する能力)を提供するために構成可能である。本特許文献に開示される分散協調ビーム形成技術は、ワイヤレス通信システムにおけるワイヤレス通信受信機を含む様々なデバイス(たとえば、無線通信デバイス、移動体デバイス、およびブロードバンドワイヤレスネットワークにおけるホットスポット、を含む)において実装可能である。
【0005】
例示的な一態様では、協調ワイヤレス通信のための方法が開示される。この方法は、
複数のノードのうち第1ノードによって、前記複数のノードのうち少なくとも第2ノードと通信を実行することと、
前記第1ノードによって、前記複数のノードのうち宛先ノードから、プローブを受信することと、
前記プローブに基づき、前記第1ノードと前記宛先ノードとの間のチャネル推定の最も強いタップの位相を計算することと、
前記最も強いタップの前記位相と、前記第1ノードの第1位相および基準ノードの第2位相の間の位相差とに基づき、位相補正を計算することであって、前記位相差は前記通信に基づく、位相補正を計算することと、
前記位相補正を伴うメッセージを前記宛先ノードに送信することと、
を備える。
【0006】
別の例示的な一態様では、協調ワイヤレス通信のための方法が開示される。この方法は、
複数のノードのうち第1ノードによって、前記複数のノードのうち少なくとも第2ノードと通信を実行することと、
前記通信に基づき、前記第1ノードと、前記複数のノードの各ノードとの間の複数の位相差を計算することと、
前記複数のノードのうち第1宛先ノードから第1プローブを受信することと、
前記第1プローブに基づき、前記第1ノードと前記第1宛先ノードとの間の第1チャネル推定を計算することと、
前記複数の位相差に基づき、前記複数のノードから基準ノードを選択することと、
前記基準ノードを選択することに続き、(i)前記第1チャネル推定と、(ii)前記第1ノードの第1位相および前記基準ノードの第2位相の間の位相差と、に基づき、第1位相補正を計算することと、
前記第1位相補正に基づいてメッセージを送信することと、
を備える。
【0007】
さらに別の例示的な一態様では、協調ワイヤレス通信のためのシステムが開示される。このシステムは複数のノードを備え、
前記複数のノードのそれぞれは、
‐送信元ノードからメッセージを受信し、
‐前記複数のノードのうち少なくとも1つの他のノードと双方向通信を実行し、
‐前記双方向通信に基づき、前記複数のノードのそれぞれと、前記複数のノードの他の各ノードとの間の複数の位相差を計算し、
‐前記送信元ノードおよび前記複数のノードのそれぞれとは異なる宛先ノードからプローブを受信し、
‐前記プローブに基づき、前記複数のノードの前記それぞれと、前記宛先ノードとの間のチャネル推定の最も強いタップの位相を計算し、
‐前記複数の位相差に基づき、前記複数のノードから基準ノードを選択し、
‐前記基準ノードを選択することに続いて、前記最も強いタップの前記位相と、前記複数のノードの前記それぞれの第1位相および前記基準ノードの第2位相の間の位相差と、に基づき、位相補正を計算し、
‐前記位相補正を伴う前記メッセージを、前記宛先ノードに、前記複数のノードの他の各ノードと並行して、送信する
ように構成される。
【0008】
さらに別の例示的な一態様では、上述の方法がプロセッサ実行可能コードの形態で実装され、コンピュータ可読プログラム媒体に格納される。
【0009】
さらに別の例示的な一態様では、上述の方法を実行するよう構成され、または実行するよう動作可能なデバイスが開示される。
【0010】
上述の態様および他の態様ならびにそれらの実装は、図面、説明および特許請求の範囲において、より詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】分散協調ビーム形成についての既存の手法および実装を示す。
図1B】分散協調ビーム形成についての既存の手法および実装を示す。
図1C】分散協調ビーム形成についての既存の手法および実装を示す。
図2A】本開示の技術による、分散協調ビーム形成のための例示的な実施形態のステージを示す。
図2B】本開示の技術による、分散協調ビーム形成のための例示的な実施形態のステージを示す。
図2C】本開示の技術による、分散協調ビーム形成のための例示的な実施形態のステージを示す。
図2D】本開示の技術による、分散協調ビーム形成のための例示的な実施形態のステージを示す。
図3】本開示の技術の実施形態による、協調ワイヤレス通信のための例示的な方法のフローチャートを示す。
図4A】本開示の技術の実施形態による、協調ワイヤレス通信のための別の例示的な方法のフローチャートを示す。
図4B】本開示の技術の実施形態による、協調ワイヤレス通信のための別の例示的な方法のフローチャートを示す。
図5】本開示の技術の実施形態を実装するために用いることができる無線機の一部のブロック図表現である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
移動体アドホックネットワーク(MANET)は、ワイヤレスで接続された移動体デバイスの、連続的に自己設定式の、インフラストラクチャレスのネットワークである。MANETは、典型的には、空間的に分散された単一アンテナの電力制限無線ノード(陸上のものであってもなくてもよい)を含む。一例では、ネットワークは動的であってもよく(ノードが移動する)、完全に接続されていないものであってもよい(完全なネットワークカバレッジには複数のホップが要求されてもよい)。別の例では、無線機がマルチパスフェージング伝搬環境で動作してもよく、増大した電力効率のために定包絡線(CE)変調を採用してもよい。
【0013】
分散協調ビーム形成は、元々、狭帯域(低データレート)測定を伴う静的低電力ノードからなるセンサネットワークのデータ漏洩能力を改善するために提案された。その利益は、増大したエネルギー効率と、したがって、増大した動作寿命とを含んでいた。
【0014】
本開示の技術の実施形態は、分散協調ビーム形成の別の面を活用する。すなわち範囲拡張であり、すなわち、それがなければ、単一のローカル無線機によっては、または、位相非コヒーレントな態様で同時に送信する複数の無線機によってさえ、到達不可能なリモート(または宛先)ノードに、協調してメッセージを中継する能力である。範囲拡張の利益は、他の望ましい属性(宛先への高レート、低要求送信電力、等)に変換することもできる。
【0015】
分散協調ビーム形成によって提供されるコヒーレンス利得を実現するために、個々の送信の無線周波数(RF)到達位相を、意図する宛先に整合させる必要がある。コロケートされた発信機に依存する旧来のビーム形成とは異なり、分散協調ビーム形成では、RF送信位相が各関与発信機について異なる(そして典型的には未知または推定不可能である)。したがって、位相協働(自己コヒーレンスとも呼ばれる)のプロセスが複数の無線機にわたって要求される。このプロセスは、典型的には、RF障害(発振器周波数オフセット、ドリフト、位相ノイズ、等)と同様に、モビリティに起因する位相変化を補償する。
【0016】
セクション見出しは、本文献において、記載の読みやすさを改善するために存在しており、いかなる態様でも、議論または実施形態(および/または実装)を対応するセクションのみに限定するものではない。
【0017】
[分散協調ビーム形成に対する既存の手法]
【0018】
分散協調ビーム形成の実装は、位相較正または位相調節に焦点を絞り、分散協調ビーム形成の位相較正が達成可能ないくつかのメカニズムが存在する。
【0019】
図1Aは、マスタスレーブアナログ同期の例を示し、これにおいて、無線機の間で交換される狭帯域較正ビーコンを用いて、RFキャリア位相が利用可能な位相同期ループ(PLL)回路に整合される。この手法は、そのような同期を可能にするRF PLLに対する限定された制御を提供するかまたは制御を提供しない集積送受信機アーキテクチャを伴う近代戦術的無線機を含む無線フロントエンドのすべてについて実現可能ではない。
【0020】
図1Bは、宛先ノード(DST)が各無線機の位相を個別に管理する閉ループデジタル位相制御手法の一例を示す。この手法は、各無線機からの高電力アップリンクを要求する(位相の無線機単位管理の直接の結果である)ので、MANETの戦術的動作には適していない。この結果として、無線機の検出可能性の増大につながる可能性があり、これは戦術的動作を危険にさらす可能性がある。閉ループ手法の別の短所は、宛先ノード(処理能力を持たない可能性がある)に課される複雑性負荷であり、これによって適用可能なユースケースが限定される。
【0021】
図1Cは、無線機が最初に位相較正をローカルで(すなわち、所定のローカル基準無線機(またはノード)に関して)達成し、その後、ダウンリンク(宛先ノードから他の各ノードへの)信号を活用して宛先にビーム形成することを要求する開ループ手法の例を示す。全体のビーム形成位相較正は、宛先ノードへの低い依存性で達成され、全体的なシステム頑強性を向上させるが、ビーム形成を開始する前に基準ノードの指定(または確立)が必要となる。
【0022】
既存の手法について、かつ、本文献において、「開ループ」とは宛先がまったく関与しないということを意味しないということが注記される。すなわち、「開ループ」とは「宛先ブラインド(destination-blind)」を意味しない。そうではなく、それは、宛先に対する位相較正が、宛先からローカルネットワークへの1方向のみ(「ダウンリンク」のみ)のシグナリング(ローカルノードが宛先に送信することも要求する2方向シグナリング(閉ループオプションと呼ばれる)とは異なる)を含むということを意味する。
【0023】
[分散協調ビーム形成の例示的実施形態]
【0024】
本開示の技術の実施形態は、現実世界の無線制約、RF劣化およびマルチパス伝搬を伴う関連するシナリオにおける分散ビーム形成を可能にするための位相調節方法を提供する。さらに、典型的には様々なワイヤレスネットワーキング技術において利用可能である無線機間の粗いタイミング同期を伴う協調送信およびデータ共有のためのローカルメカニズムが活用される。
【0025】
本文献は、空間的に分散した無線ネットワークノードN(i=1,2,…,K)の組からリモートの協調する無線宛先ノードDに向かう分散協調ビーム形成を記述する。いくつかの実施形態において、複数のネットワークノード(またはノードまたは無線機)を含むネットワークにおける分散協調ビーム形成の方法は、4つのステージを含む。
【0026】
ステージ1
各ネットワークノードは、「送信元S」によって送られる「共通メッセージ」を手に入れる。これは宛先Dに向かってビーム形成されるべきメッセージである。
【0027】
ステージ2
各ネットワークノードは、ノードの選択されたペア間で実行される双方向信号交換(または信号およびメッセージ交換の組み合わせ)のシーケンスを介して「自己コヒーレンス」を行う(self-cohere)。この結果、ネットワーク内のすべてのノードが自己コヒーレンス処理に含まれ、位相補正値を導出し格納する。
【0028】
ステージ3
各ネットワークノードは、宛先ノードDからブロードキャストプローブ信号を受信する。このプローブに基づき、各ネットワークノードは複素値のマルチパスフェージングベースバンドチャネルモデルを推定し、そのチャネルモデルにおける最も強いタップを識別し、最も強い複素値タップの位相(引数)を計算する。いくつかの実施形態において、すべてのネットワークノードが概ね同時に(たとえばある時間スロット内で、または隣接する時間スロット内で)宛先からプローブを受信する。
【0029】
ステージ4
各ネットワークノードは、準同期で(たとえば、宛先プローブ受信の際の事前に定義されたターンアラウンド時間内で)、(共通メッセージの)情報ストリームを表す複素ベースバンド値の位相(引数)に加算される「総補正位相」を伴う共通メッセージを送信する。総補正位相は、そのノードの位相補正値(ステージ2で導出される)と最も強い複素値タップ(ステージ3で推定される)の位相(引数)との合計を負にしたものに等しい。
【0030】
いくつかの実施形態において、定包絡線変調信号の場合、ベースバンド位相補正は、デジタル位相シーケンスを搬送する情報を生成するルックアップテーブルへのインデックスシフトによって単純に実装可能であり、これによって送信信号の定包絡線特性が維持される。
【0031】
いくつかの実施形態において、ネットワークノードは、ステージ4(実際のビーム形成動作を含む)が最後に実行される限り、これら4つのステージを、上述の順序以外の順序で実行してもよい。たとえば、ネットワークノードは、まず宛先からプローブを受信してチャネル推定の最も強いタップの位相を計算し(ステージ3)、その後、共通メッセージを受信し(ステージ1)、続いて、その位相補正値を導出するために他のネットワークノードとの自己コヒーレンス処理に参加し(ステージ2)、最後にビーム形成動作を実行してもよい(ステージ4)。別の例として、ネットワークノードはまずその位相補正値を導出するために他のネットワークノードとの自己コヒーレンス処理に参加し(ステージ2)、その後、宛先からプローブを受信してチャネル推定の最も強いタップの位相を計算し(ステージ3)、続いて、共通メッセージを受信し(ステージ1)、最後にビーム形成動作を実行してもよい(ステージ4)。
【0032】
いくつかの実施形態において、上述の4つのステージの処理は、宛先ノードにおいて、各ノードが位相非コヒーレントな態様で共同送信したと仮定した場合に受信されるであろうものよりも大きい信号対雑音比(SNR)を有する合成(共同送信され重ね合わされた)信号を生成し、これによって、分散ビーム形成利得を生成する。
【0033】
いくつかの実施形態において、上述の4つのステージの処理は、複数の宛先に共通メッセージを同時に分配するよう適合されてもよい。
【0034】
図2A~2Dは、本開示の技術による、分散協調ビーム形成のための例示的実施形態の4つのステージを示す。
【0035】
図2Aは、第1のメッセージ共有ステージの例を示し、K個のネットワークノード(グレーにシェーディングされている)がソース(S)から共通メッセージを手に入れる。いくつかの実施形態において、メッセージは、ネットワークノードの1つ(この第1ステージでは送信元としても作用する)によるブロードキャスト送信を介して分配され得る。他の実施形態では、K個のノードからなるネットワークの外の送信元によってブロードキャストされてもよい(たとえば、陸上ネットワークがメッセージを、そうしなければ送信元によっては到達不可能なDにさらに中継できるように、陸上ネットワークにこの共通メッセージをブロードキャストするドローンまたは衛星)。さらに他の例では、無線ネットワークとは異なるバックボーンタイプのネットワーク(たとえば高速光ネットワーク)を介して共有されてもよい。
【0036】
図2Bは、第2の自己コヒーレンスステージの例を示す。いくつかの実施形態において、自己コヒーレンス処理の目的は、行列Δφ={δφij};i≠j;i,j=1,2,…,Kを生成することである。ただしδφij=2(∂-∂)であり、∂は無線ノードNのフリーランニングなキャリア生成発振器の位相である。定義によって、任意のiについてδφii=0である。一例では、図2Bに示すように、ノードのペア(i,j)間の双方向プローブ信号交換(または信号およびメッセージ交換)のシーケンスを介して達成される。
【0037】
行列Δφが完全に計算されると、選択処理が、望ましい特徴を有する適切な列を識別する。この列は、いわゆる基準ノードNによってインデックスされ、たとえば列[δφ1r,δφ2r,…,δφKr]が計算され、各ノードに格納される。値δφir(i=1,2,…,K)は、ビーム形成ステージ(ステージ4)で用いられる必要な補正位相の組を含む。
【0038】
いくつかの実施形態において、行列Δφは、基準ノードをアプリオリに選択し、基準列[δφ1r,δφ2r,…,δφKr]のみを計算することによって計算される。
【0039】
他の実施形態では、行列Δφは、ラウンドロビン計算を実行することによって計算される。選択された「開始」ノードから開始して順番に進行し、順番内の各ノードiはそのペア相手となるノードjを、それに接続されたすべてのリンクから最も高いSNRに基づいて選択し、これがjによって繰り返され(次に選択されるペアノードが以前にカバーされていない場合に限る)、のようにして、すべてのノードが網羅される。別の例では、次のペア相手ノードを選択するために、他のリンク測度(たとえば最も高い信号対干渉雑音比(SINR))を用いてもよい。
【0040】
さらに他の実施形態では、行列Δφのエントリのいくつかは、恒等性2Δθij=-2Δθjiおよび2Δθij=2Δθik+2Δθkj(後者は「三角恒等性」と名付けられる)の使用を介して決定されてもよい。代替的には、Δφのすべてのエントリが上述の恒等性に加えて、推定値δφijの品質の推定(誤差分散)を用いて計算される。
【0041】
上述の実施形態における行列Δφの計算には、全結合ネットワーク(たとえば複数ホップの無線ノードが参加可能である)も、静的ネットワーク(たとえば計算に動的位相追跡が含まれてもよい)も要求されない。いくつかの実施形態において、値δφijは、以下の2つの方法のうち1つで計算可能である。すなわち、信号の純粋な双方向交換を介して、または、信号交換およびメッセージ交換の混合を介して、である。
【0042】
双方向信号交換
いくつかの実施形態において、ノードNとNとの間の純粋な双方向交換は、最初に信号を発信するノードNを含む(たとえばトーンに似たプローブ、すなわちs pb(t)=cos(2πft+∂)。
【0043】
複素包絡線表記では、トーン
【数1】
およびその複素包絡線は
【数2】
である。送信は、∂の、送信キャリアcos(2πft)への正の位相シフトを誘起する。これに対応して、ノードNの受信機は、到来信号とcos(2πft+∂)とを混合し、したがって、任意の受信は、等価的にローカル位相∂を減算する。チャネル利得スケールを無視すると、介在する狭帯域チャネルは、フェーザー
【数3】
と乗算され、これに∂i→j chのランダム変数位相を加え、受信ノードNにおける総位相はθi→j total=∂+∂i→j ch-∂である。
【0044】
この例示的な純粋な双方向交換では、ノードNは、ベースバンドにおいて、総位相の負である-θi→j total=-∂-∂i→j ch+∂を生成する(「共役」または「位相反転」と呼ばれる)。アップコンバージョン(位相∂を加える)、相反チャネルを介した伝搬(位相∂i→j chを加算し、したがって項-∂i→j chを相殺する)およびノードNにおけるダウンコンバージョン(位相∂を減算する)の際に、ノードNの無線ベースバンドにおける総位相は、θi←→j total=(-∂-∂i→j ch+∂)+∂+∂i→j ch-∂=2(∂-∂)=-δφijである。
【0045】
いくつかの実施形態において、ノードNに、メッセージングプロトコルを介してこの値を知らせることができる。他の実施形態では、ノードNは、δφjiを計算するために、ノードNとのそれ自身の双方向交換を開始してもよい。
【0046】
原理的にはδφji=-δφijであるが、実際には、そのような推定はノイジーである可能性がある。いくつかの実施形態において、ネットワークプロトコルは、ノード間のメセージ交換を許容してもよく、両ノードによって個々の推定を平均することによってδφijのより良い推定が生成されてもよい。
【0047】
メッセージおよび信号交換
いくつかの実施形態において、信号およびメッセージ交換の混合は、以前のように、ノードNがプローブの発信を開始し、ノードNがθi→j total=∂+∂i→j ch-∂を計算する(上述のように)ことを含む。この実施形態では、ノードNはノードNにこのθi→j totalの計算された値を含む情報搬送メッセージを送信する。このメッセージと同時に、ノードNはプローブ信号を発信し、これによって、ノードNは位相θj→i total=∂+∂j→i ch-∂を計算できる。チャネル相反性を仮定すると、∂i→j ch=∂j→i chである。このように、ノードNは、θj→i totalと同様にθi→j totalの知識を所有し、θi←→j total=θj→i total-θi→j total=-δφijであることを容易に推論できる。
【0048】
いくつかの実施形態において、また、双方向信号交換のコンテキストにおいて記載されるように、各ノードはNから開始してこの処理を繰り返すことができ、または、δφijの推定値をメッセージングを介して共有することができる。
【0049】
図2Cは、第3のノード単位位相推定ステージの例を示す。いくつかの実施形態において、宛先ノード(D)はプローブをブロードキャストし、各ネットワークノードは、宛先ノードからプローブを受信することに応じて、タップスペースされた(tap-spaced)複素値ベースバンドチャネルモデルを計算する。各ノードにおいて、推定タップの大きさが比較され、最大のものが選択され、その後、各ノードi=1,2,…,Kについて引数(位相)推定∂ str_tapを計算するために用いられる。
【0050】
図2Dは、第4の宛先ビーム形成ステージの例を示す。いくつかの実施形態において、ノードNからの送信は、∂ total_corr=-∂ str_tap-δφirによって与えられる総補正位相で実行される。
【0051】
いくつかの実施形態において、図2A~2Dのコンテキストで説明された分散協調ビーム形成処理の結果として、宛先ノードDが多数のタップを受信する。Dに到来するタップは、(i)ステージ3の処理を受け、その後各ノードNから適切な位相∂ total_corrで送信されたものと、(ii)ステージ3に関して処理されていない他のすべてのタップ(すなわち、選択された最も強いものを除くすべてのタップ)と、を含む。重ね合わされた(共同送信された)宛先ノードDにおけるベースバンドチャネルモデルに寄与するすべての選択され処理されたタップは、δφrDに等しい共通の複素ベースバンド引数(位相)で原理的に位相整合され、したがって、δφrDを法とするコヒーレントビーム形成利得を生成する。他の、Dにおいて重ね合わされたチャネルに寄与するすべてのノードから到来する選択されず処理されていないチャネルタップは、非コヒーレントタップとして作用し、非コヒーレント電力利得を提供するが、ビーム形成利得を提供しない。
【0052】
[複数の宛先を伴う例示的な実施形態]
【0053】
本開示の技術の実施形態は、複数の宛先(D,D,…,Dと表す)に「同一の」共通メッセージを同時に送信するために用いられてもよい。この実施形態では、以下を仮定する:
○ステージ2の自己コヒーレンスステージが実行されており、基準ノードNが選択され、列[δφ1r,δφ2r,…,δφKr]が計算され格納されている;および
○D,D,…,Dからの各ビーコンが受信され、各ノードによってステージ3に従って処理されている。いくつかの実施形態において、相互干渉なく各ネットワークノードによって各ビーコンが受信される順序は異なり得る。一例では、それらはシーケンスとして時間内に到来してもよい(たとえば宛先識別情報を含むランダムアクセス方式)。別の例では、それらは複数の相互に直交するビーコンを含んでもよい(たとえばCDMAのように直交拡散符号によって変調されたもの)。
【0054】
各ノードNは、その後、上述のステージ4に従い、各宛先D(l=1,2,…,L)に対応する送信総補正位相
【数4】
を計算する。
【0055】
複数宛先ビーム形成について、各ノードNは、複素フェーザー
【数5】
を送信する。
【0056】
ここで、定数
【数6】
は、定包絡線送信を保証する正規化因子である。これによって、宛先ノードDにおける重ね合わされた(共同送信された)ベースバンドチャネルモデルに寄与する選択され処理されたタップが、原理的に、位相
【数7】
と位相整合することを保証し、これによって、コヒーレント利得に寄与し、一方で、他のすべての項は非コヒーレントに加算され、非コヒーレント利得に寄与する。
【0057】
[本開示の技術の追加的な例示的実施形態]
【0058】
いくつかの実施形態において、各ネットワークノードは全結合されている。すべてのノードが基準ノードの可聴範囲内にあるので、基準ノードの選択(すべてのノードを個別に伴ってステージ2を完了する)は、その選択の順序で実行されてもよい。基準ノードの選択は、最良平均リンクSNR(他のノードすべてにわたって平均される)に関連してもよい。より一般的には、リンク品質測度(たとえばSNR、SINR、等)の任意の関数(たとえば平均値、中央値、最大値、等)が、ネットワークノードの選択の決定に用いられてもよい。この実施形態では、さらに、リンク品質情報が、それを共有し定期的に更新するすべてのノードに利用可能であることが仮定される。
【0059】
いくつかの実施形態において、基準ノードは、いくつかの低品質リンクのせいで、いくつかのネットワークノードに対して良いアクセスを有するが、すべてのネットワークノードに対してはそうではない可能性がある。基準ノードは、そのような障害リンクノードを識別し、適切なメッセージを介して、隣接ノードの支援を要求してもよい(たとえば、それらがより好ましいリンク条件で障害リンクノードと双方向交換を実行する要求を送信し、これによって、前記識別情報を介して全基準列の完了を支援する)。
【0060】
いくつかの実施形態において、リンクの性質(たとえば視線内(LoS)または非視線内(NLoS))の情報が存在してもよく、これは、位相行列をフィルアウトする過程において、各ノードによってそれら自身の双方向交換(たとえばLoSリンクのみが使用可能である)にどのリンクが用いられるべきかを決定するために用いられてもよい。
【0061】
いくつかの実施形態において、「初期」ノードは、ランダムに選択されてもよく、品質測度(たとえばノードのうち最良リンクSNR)を介して選択されてもよく、「ノード1」と呼ばれる。ノード1は、第2ノード(「ノード2」。これはノード1からのすべてのリンクのうち最高リンクSNRを有するノード1の可聴範囲内のノードであってもよい)とδφ12を完了する。ペア(1,2)は、短いメッセージを介してアナウンスされ、どのペアがカバーされたかをネットワーク内のすべてのノードが知る。その後、ノード2は続くノード(「ノード3」。前記と同様の方法で選択される)とδφ23を完了し、そのペアがアナウンスされ、以下同様である。このプロセスは、可聴範囲内(たとえばワンホップノード)のすべてのノードが完了すると終了する。ネットワークの一部に(たとえば少なくとも2ホップのネットワーク内に)可聴範囲内のノードが存在する場合、第2ホップからのノードが自己コヒーレンス処理に参加を要求する。これを聞いたノード(複数可)は、当該ノードに処理を拡大し、その後それは第2ホップ可聴範囲内のそれらについて処理を完了し、この処理がすべてのホップがカバーされるまで繰り返される。このように、マルチホップネットワーク全体が後続のステージについて宛先Dのプローブの範囲内であれば、分散協調ビーム形成がマルチホップネットワーク(全結合ではない)に適用可能である。
【0062】
いくつかの実施形態において、個別項δφijの推定値は、品質測度によって実現されてもよく、当該項の品質(たとえば推定誤差分散)に関する推定側ノードの確度を意味づけする。様々な品質測度が、メッセージ交換において分配され、その後、行列Δφを完了する際に、すなわち重み付け項を計算に組み込む際に、恒等性(三角恒等性等)の使用を介して、または、プロトコルが両方の計算を許容すると仮定して相反リンク((i→j)および(j→i))の最終推定値を精緻化する際に、推定値を精緻化するために用いられてもよい。すべての関連する位相差品質についての最終品質測度は、基準ノードを選択する(たとえばその列が最高平均品質測度を所有するものとして)ために用いられてもよい。推定値δφijの品質が許容不可能であると見なされるリンク(雑音が多すぎる)は、推定値を捨て、計算処理におけるノードの別のシーケンスが選択されてもよい。
【0063】
いくつかの実施形態において、個別のリンクが実質的な干渉(たとえばジャミングによるもの)を受ける可能性がある。そのような劣化リンクに対応する行列の要素は、双方向信号交換(位相測定)処理から除去されてもよい。代わりに、前記要素は、関連する非劣化リンクにおける他の測定値および上述の恒等性(たとえば三角恒等性)の使用を介して埋められてもよい。
【0064】
いくつかの実施形態において、ネットワークノードは、送信モードおよび受信モードについて分離した発振器位相を用いてもよい。
【0065】
いくつかの実施形態において、項δφijは、ノード間の双方向信号交換によってのみならず、信号交換とメッセージ交換との混合によって計算され、これによって、メッセージは、信号を受信しそのような位相を計算した無線機の推定ベースバンド位相の(量子化された)値を搬送する。δφijの最終推定値は、信号位相およびメッセージ搬送位相値の適切な組み合わせによって計算される。
【0066】
いくつかの実施形態において項δφijは、移動度および位相雑音障害を考慮するパラメータ追跡法を介して推定される。そのような位相追跡法は、処理が短時間中断された場合に、推定値を(たとえば予測によって)埋めるために用いることもできる。一例では、これらの追跡法は、双方向交換の頻度を低減するために用いることもでき、これによって、本文献に記載される実施形態をサポートするのに必要なネットワークオーバーヘッドトラフィックを低下させる。
【0067】
いくつかの実施形態において、各位相を計算するために、最も強いチャネルタップを選択する際に、様々な方法が採用可能である。一例では、最も強いチャネルタップはタップのうち最大の直接利得値である。別の例では、チャネル推定処理の観測サンプル(測定値)を用いて推定されるタップ間で補間法を介して複素チャネルタップが計算される。
【0068】
[分散協調ビーム形成の方法]
【0069】
図3は、協調ワイヤレス通信のための方法300の一例のフローチャートを示す。方法300は、ステップ310において、複数のノードのうち第1ノードによって、複数のノードのうち少なくとも第2ノードと通信を実行することを含む。
【0070】
方法300は、ステップ320において、複数のノードのうち宛先ノードから、第1ノードによって、プローブを受信することを含む。
【0071】
方法300は、ステップ330において、プローブに基づき、宛先ノードと第1ノードとの間のチャネル推定の最も強いタップの位相を計算することを含む。
【0072】
方法300は、ステップ340において、最も強いタップの位相と、第1ノードの第1位相と基準ノードの第2位相との間の位相差とに基づき、位相補正を計算することを含む。ここで位相差は通信に基づく。
【0073】
方法300は、ステップ350において、位相補正を伴うメッセージを宛先ノードに送信することを含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、複数のノードのi番目のノードは、i番目の位相補正を計算するよう構成され、複数のノードは、対応する位相補正を伴うメッセージを並行して送信するように構成される。一例では、各ノードからの並行送信は、実質的に同時である(たとえば、ハードウェア不整合、処理遅延、等に起因するタイミング誤差を考慮する)。
【0075】
いくつかの実施形態において、位相差は位相行列のエントリであり、位相行列の(i,j)番目のエントリは、i番目のノードの位相とj番目のノードの位相との間の位相差の2倍を備え、ここでi番目のノードおよびj番目のノードは宛先ノードとは異なる。一例では、基準ノードは、位相行列の少なくとも1行または少なくとも1列が決定された後に、複数のノードから選択される。一例では、決定される位相行列の少なくとも1行または少なくとも1列は、複数のノードのそれぞれにおける同じ行または列であり、これによって、複数のノードのそれぞれが同じ基準ノードを選択することが可能になる。
【0076】
別の例では、第1ノードおよび第3ノードに対応する位相行列のエントリは、位相行列の、(i)第1ノードおよび第4ノードに対応するエントリと、(ii)第3ノードおよび第4ノードに対応するエントリと、に基づいて決定される。
【0077】
いくつかの実施形態において、方法300はさらに、複数のノードからの1つ以上のペアの間で、少なくとも1つのリンク品質測度を決定するステップと、当該少なくとも1つのリンク品質測度の関数に基づいて基準ノードを選択するステップとを含む。一例では、この決定は、パイロット信号またはトーンに基づく。別の例では、当該少なくとも1つのリンク品質測度は、複数のノードの、基準ノードと対応するノードとの間のチャネルの信号対雑音比(SNR)または信号対干渉雑音比(SINR)である。さらに別の例では、当該関数は、当該少なくとも1つのリンク品質測度の平均値、中央値または最大値である。
【0078】
いくつかの実施形態において、方法300はさらに、メッセージに対応する情報を、(a)複数のノードのうち第3ノードから、(b)バックボーンタイプのネットワークから、または、(c)複数のノードのそれぞれとは異なる送信元ノードから、受信するステップを含む。
【0079】
いくつかの実施形態において、通信は、複数のノードのそれぞれと実行される双方向通信を含む。
【0080】
いくつかの実施形態において、通信またはプローブは定包絡線信号を含む。
【0081】
図4Aおよび4Bは、協調ワイヤレス通信のための方法400の別の例のフローチャートを示す。方法400は、ステップ410において、複数のノードのうち第1ノードによって、複数のノードのうち少なくとも第2ノードと通信を実行することを含む。
【0082】
方法400は、ステップ420において、通信に基づき、第1ノードと、複数のノードのうち各ノードとの間の、複数の位相差を計算することを含む。
【0083】
方法400は、ステップ430において、複数のノードのうち第1宛先ノードから、第1プローブを受信することを含む。
【0084】
方法400は、ステップ440において、第1プローブに基づき、第1ノードと第1宛先ノードとの間の第1チャネル推定を計算することを含む。
【0085】
方法400は、ステップ450において、複数の位相差に基づき、複数のノードから基準ノードを選択することを含む。
【0086】
方法400は、ステップ460において、基準ノードを選択することに続いて、第1位相補正を、(i)第1チャネル推定と、(ii)第1ノードの第1位相と基準ノードの第2位相との間の位相差と、に基づいて計算することを含む。
【0087】
方法400は、ステップ470において、第1位相補正に基づいてメッセージを送信することを含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、複数の位相差は、位相行列の1行または1列に対応し、位相行列の(i,j)番目のエントリは、i番目のノードの位相とj番目のノードの位相との間の位相差の2倍を備える。
【0089】
いくつかの実施形態において、方法400はさらに、第2宛先ノードから第2プローブを受信するステップと、第2プローブに基づき、第1ノードと第2宛先ノードとの間の第2チャネル推定を計算するステップと、基準ノードを選択することに続いて、第2チャネル推定と位相差とに基づいて第2位相補正を計算するステップと、を含み、メッセージを送信することは、さらに第2位相補正に基づく。一例では、第1および第2チャネル推定を計算することは、それぞれ、第1および第2チャネル推定の最も強いタップの位相を計算することを含む。
【0090】
いくつかの実施形態において、複数の位相差を計算することは、さらに、複数のノードのうち少なくとも1つのノードの位相を追跡することに基づく。
【0091】
いくつかの実施形態において、方法400はさらに、発振器周波数オフセット、発振器周波数ドリフト、および位相雑音のうち1つ以上に基づき、複数の位相差のうち少なくとも1つを更新するステップを含む。
【0092】
いくつかの実施形態において、および、方法300および400のコンテキストにおいて、複数のノードの各ノードは、送信元ノード、中継ノードまたは宛先ノードとして動作可能である。たとえば、各ノードは、第1送信を発信し、受信した第2送信を中継し、第3送信をその第3通信の宛先であるためそれ以上中継することなく受信することが可能な、アドホックネットワークにおけるハンドヘルド無線機であってもよい。
【0093】
図5は、本開示の技術のいくつかの実施形態による無線機(radio)の一部のブロック図表現である。無線機511は、本文献に提示される技術の1つ以上を実装するプロセッサ電子機器501(マイクロプロセッサ等)を含んでもよい。無線機511は、アンテナ(複数可)509等の1つ以上の通信インタフェースを介してワイヤレス信号を送受信するための送受信機電子機器503を含んでもよい。無線機511は、データを送受信するための他の通信インタフェースを含んでもよい。無線機511は、データおよび/または命令等の情報を格納するよう構成される1つ以上のメモリ507を含んでもよい。いくつかの実装では、プロセッサ電子機器501は、少なくとも送受信機電子機器503の一部を含んでもよい。いくつかの実施形態において、本開示の技術、モジュールまたは機能(方法300および400を含むがこれに限らない)の少なくとも一部が、無線機511を用いて実装される。
【0094】
本明細書および図面は、例示的なものとしてのみ考慮されることを意図しており、例示的とは例を意味し、他に説明がない限り理想的なまたは好適な実施形態を示唆しない。本明細書において、「または(or)」は「および/または(and/or)」を含むよう意図される(文脈が明確にそうでないと示す場合を除く)。
【0095】
本明細書で説明するいくつかの実施形態は、方法またはプロセスの一般的な文脈で説明され、一実施形態では、ネットワーク環境内のコンピュータによって実行されるコンピュータ実行可能命令(プログラムコード等)を含むコンピュータ可読媒体に実施されたコンピュータプログラム製品によって実装され得る。コンピュータ可読媒体は、取り外し可能及び取り外し不可能な記憶デバイス(読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)などを含むがこれらに限定されない)を含んでもよい。したがって、コンピュータ可読媒体は、非一時的な記憶媒体を含むことができる。一般に、プログラムモジュールは、特定のタスクを実行する、または特定の抽象的なデータ型を実装するルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造などを含むことができる。コンピュータ実行可能命令またはプロセッサ実行可能命令、関連するデータ構造、およびプログラムモジュールは、本明細書に開示される方法のステップを実行するためのプログラムコードの例を表す。そのような実行可能命令または関連するデータ構造の特定の順列は、そのようなステップまたはプロセスにおいて記述された機能を実装するための対応する作用の例を表す。
【0096】
開示された実施形態のいくつかは、ハードウェア回路、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせを使用するデバイスまたはモジュールとして実装することができる。たとえば、ハードウェア回路の実装は、たえば、プリント回路基板の一部として集積される離散アナログおよび/またはデジタルコンポーネントを含むことができる。代替的に、又は追加的に、開示されるコンポーネントまたはモジュールは、ASIC(特定アプケーション向け集積回路)および/またはFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)デバイスとして実装することができる。いくつかの実装は、追加的または代替的に、本願の開示された機能性に関連するデジタル信号処理の動作ニーズに最適化されたアーキテクチャを有する特化されたマイクロプロセッサであるデジタル信号プロセッサ(DSP)を含むことができる。同様に、各モジュール内の様々なコンポーネントまたはサブコンポーネントは、ソフトウェア、ハードウェア、またはファームウェアで実装されてもよい。モジュールおよび/またはモジュール内のコンポーネント間の接続性は、本技術分野で知られている接続方法および媒体(適切なプロトコルを用いたインターネット、有線、又はワイヤレスネットワークを介した通信を含むがこれらに限定されない)のうちの任意の1つを用いて提供されてもよい。
【0097】
本文献は多くの具体的な内容を含むが、これらは特許請求の範囲に記載されたまたは記載される可能性がある発明の範囲を限定するものではなく、特定の実施形態に固有の特徴を説明するものとして解釈すべきである。異なる実施形態の文脈で本文献に記載されている特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて実施することも可能である。逆に、単一の実施形態の文脈で説明される様々な特徴は、複数の実施形態において別々にまたは任意の適切なサブコンビネーションとして実装することもできる。さらに、特徴は、特定の組み合わせで作用するものとして上述され、当初はそのように特許が請求され得るが、特許請求の範囲の組み合わせからの1つ以上の特徴は、場合によっては組み合わせから削除され得、特許請求の範囲の組み合わせは、サブコンビネーションまたはサブコンビネーションの変形に向けられ得る。同様に、動作は特定の順序で図面に示されているが、これは、望ましい結果を達成するために、そのような動作を示された特定の順序で、または連続的に行うこと、または図示されたすべての動作を行うことを要求していると理解されるべきではない。
【0098】
いくつかの実装および例のみが説明され、他の実装、拡張および変形は、本開示に記載され例示されたものに基づいて可能である。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5
【国際調査報告】