IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポールの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】水および廃水の処理用セラミック膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/02 20060101AFI20220912BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220912BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220912BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220912BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
B01D69/02
B01D69/12
B01D71/02
C02F1/44 K
C04B41/87 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502503
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(85)【翻訳文提出日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 SG2020050321
(87)【国際公開番号】W WO2021010892
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】10201906544Q
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】グー,チーリン
(72)【発明者】
【氏名】ング,ホウ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ング,ツェ チェン アルバート
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006HA41
4D006HA95
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA22
4D006MA31
4D006MB02
4D006MB09
4D006MB12
4D006MB20
4D006MC03X
4D006NA39
4D006NA46
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB08
(57)【要約】
本明細書で開示されるのは、水および/または廃水処理用のセラミック膜であり、この膜は、少なくとも1つの表面を有するセラミック基板と、前記少なくとも1つの表面上のコア-シェル粒子を含む膜層とを含み、前記コアおよびシェルは、本明細書に記載される材料から形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの表面を有するセラミック基材、および
前記少なくとも1つの表面上に、コア-シェル粒子を含む膜層を含み、
前記コアは、
正のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃である無機材料から形成され、ならびに
前記シェルは、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成され、
前記コアが、焼結温度が800から2200℃である無機材料から形成され、前記シェルが、焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成されるとき、前記コアの焼結温度は前記シェルの焼結温度よりも高い、水および/または廃水の処理用セラミック膜。
【請求項2】
前記コア-シェル粒子のコアは、正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物、および/または、800から2200℃、例えば800から1500℃の焼結温度によって形成されている、請求項1に記載のセラミック膜。
【請求項3】
前記コア-シェル粒子のコアは、AlおよびZrOよりなる群から選択される1つまたは複数から形成され、任意選択的に、前記コア-シェル粒子のコアはAlから形成されている、請求項1または請求項2に記載のセラミック膜。
【請求項4】
前記コア-シェル粒子のシェルは、SiO、TiOおよびWOよりなる群から選択される1つまたは複数から形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミック膜。
【請求項5】
前記コア-シェル粒子のシェルは、SiOから形成されている、請求項4に記載のセラミック膜。
【請求項6】
前記コア-シェル粒子のシェルは、1から50nm、例えば3から20nmの平均厚さを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のセラミック膜。
【請求項7】
前記コア-シェル粒子は、50nmから20μm、例えば100から500nmの平均サイズを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミック膜。
【請求項8】
前記膜層は、3から50μmの厚さを有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のセラミック膜。
【請求項9】
前記膜層は、pHが6から8である媒体中で測定したときに、-10mVから-50mV、例えば-20から-30mVのゼータ電位を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のセラミック膜。
【請求項10】
(a)前記セラミック膜は、100kPaの膜間圧力を用いて測定したときに、800から2500LMH、例えば1300から1600LMHの純水フラックスを有する、および/または、
(b)水フラックス回収率が70%超、例えば95%超である(例えばBSAおよび/またはSAに関して)、および/または
(c)BSAおよび/またはSAに曝されたセラミック膜の不可逆的ファウリングは50%未満である、および/または
(d)前記膜は、6°から12°、例えば7°から11°の平均水接触角を有する、および/または
(e)前記膜は、60から250nm、例えば100から200nmの平均孔径を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のセラミック膜。
【請求項11】
正のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃である無機材料から形成されるコア、ならびに、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
600から1400℃の焼結温度を有する無機材料から形成されるシェルを含み、
前記コア-シェル粒子は、pHが6から8である媒体中で測定したとき、-10mVから-50mV、例えば-20から-30mvのゼータ電位を有し、
前記コアが焼結温度800から2200℃の無機材料から形成され、前記シェルが焼結温度600から1400℃の無機材料から形成されるとき、前記コアの焼結温度は前記シェルの焼結温度より高い、コア-シェル粒子。
【請求項12】
前記コアは金属酸化物から形成され、任意選択的に、前記金属酸化物はAl、SiC、およびZrOよりなる群から選択される1つまたは複数である、請求項11に記載のコア-シェル粒子。
【請求項13】
前記シェルは、SiO、TiOおよびWOよりなる群から選択される1つまたは複数から形成され、任意選択的に、前記シェルはSiOから形成される、請求項11または請求項12に記載のコア-シェル粒子。
【請求項14】
前記コア-シェル粒子のシェルは、1から50nm、例えば3から20nmの平均厚さを有する、請求項11から13のいずれか1項に記載のコア-シェル粒子。
【請求項15】
前記コア-シェル粒子は、50nmから20μm、例えば100から500nmの平均サイズを有する、請求項11から15のいずれか1項に記載のコア-シェル粒子。
【請求項16】
請求項1から10のいずれか1項に記載の水および/または廃水の処理用セラミック膜を用いる方法であって、前記セラミック膜を装着した処理システムで水または廃水を処理するステップを含む、方法。
【請求項17】
請求項1から10のいずれか1項に記載の水および/または廃水の処理用セラミック膜の製造方法であって、
(i)少なくとも1つの表面を有するセラミック基材、および
前記少なくとも1つの表面上の、請求項11から15のいずれか1項に記載のコア-シェル粒子と1つまたは複数の高分子添加剤を含む層
を含む、焼結前(pre-sintered)セラミック膜を提供すること、ならびに、
(ii)前記焼結前セラミック膜を適切な温度で一定時間焼結して、高分子添加物を除去し、セラミック膜を提供すること
を含む、水および/または廃水の処理用セラミック膜の製造方法。
【請求項18】
前記焼結前セラミック膜は、少なくとも1つの表面を有するセラミック基板を提供すること、および、前記少なくとも1つの表面を、1つまたは複数のポリマーと請求項11から15のいずれか1項に記載のコア-シェル粒子とを含む混合物でコーティングすることによって形成され、任意選択的に、前記コーティングは、スピンコーティング、ディップコーティングおよびスプレーコーティングの1つまたは複数によって達成される、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の表面特性を有し、水および廃水の処理の性能を向上させた新しい複合型セラミック膜の開発に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本明細書における先行公開文書の記載または議論は、必ずしもその文書が技術水準の一部であることまたは一般的な一般知識であることを、認めるものとして解釈されるべきではない。
【0003】
膜技術は、分離、精製、水および廃水の処理において、最も効率的で省エネルギーなプロセスの1つである。水および廃水の処理の分野では、セラミック膜は、その本質的な親水性、耐薬品性、長期的な機械的安定性により、高分子膜よりもはるかに優れた性能を発揮する。水および廃水の処理におけるセラミック膜のろ過性能は、孔径、孔の形状、気孔率、膜厚といった最表層の物理的・化学的特性によってほぼ決定される。膜表面のこれらの特性は、透過性/選択性だけでなく、膜のファウリングポテンシャル(fouling potential)と長期安定性をも決定する極めて重要なものである。
【0004】
一般に、親水性の膜の表面であることが、水の透過性を向上させるために非常に望ましい。この点で、ある種のセラミック材料は、無機化合物が本質的に親水性であるため、一般にポリマー材料よりも優れている。さらに、セラミック膜は、機械的安定性、耐薬品性、長寿命などにも優れている。しかし、水および廃水の処理におけるセラミック膜の普及は、コストと膜のファウリング(fouling)に関連する問題に大きく依存している。
【0005】
Alセラミック膜のようなセラミック膜の高コストは、主に複数の製造工程の使用と、高温での焼結工程に起因している。その結果、加工コストが高くなり、結果的に市販の膜にかかる全コストが高くなる。焼結工程にかかるコストの削減の試みにおいて、SiO、MgO、CuOなどの適切な焼結助剤を用いて、セラミック膜の形成に必要な温度を下げる実験が行われている。さらに、低コストおよび/またはリサイクルされた材料が、セラミック膜を作るための代替材料として検討されている。
【0006】
他の膜技術と同様にセラミック膜は、ろ過性能を低下させるだけでなく、一般的なメンテナンスコストを増加させ、膜の機能寿命を短縮させる、ファウリングの問題に必然的に悩まされる。そのため、長い処理寿命を有し、および/またはその製造に関するコストの削減された、セラミック膜の開発の必要がある。
【0007】
水および廃水の表面におけるファウラント(foulants)の多くは負に帯電しているため、セラミック膜の表面も負に帯電していれば、膜表面とファウラント(foulants)の間の静電反発効果を利用して、ファウリングの傾向を最小限に抑えることができる。しかし、最も広く使われているAlセラミック膜は正に帯電した表面を有しており、負に帯電したファウラント(foulants)は静電引力によって容易に膜表面に蓄積される。
【0008】
表面改質は、耐ファウリング性を向上させ、および、それによって水/廃水の処理の総コストを改善することを目的とし、セラミック膜の性能を向上させるために用いられてきた戦略である。1つのアプローチは、セラミック膜の表面に所望の特性(高い親水性、負の電荷など)を有する別の連続層を導入することである。もう一つの関連するアプローチは、連続層を形成するのではなく、セラミック膜の表面付近のセラミック粒を改質することを目指すものである。どちらのアプローチも、セラミック膜の表面特性を調整することができる。しかし、後の改良プロセスによって、セラミック膜の表面の孔径が必然的に小さくなり得、その結果、水の透過性が低下し、全体的なろ過効率も低下し得る。
【0009】
したがって、処理特性の改善されたセラミック膜とその製造方法の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【0010】
(発明の要約)
本発明の態様および実施形態は、以下の態様に記載されている。
(1)少なくとも1つの表面を有するセラミック基材、および
前記少なくとも1つの表面上に、コア-シェル粒子を含む膜層を含み、
前記コアは、
正のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)である無機材料から形成され、ならびに
前記シェルは、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成され、
前記コアが、焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)である無機材料から形成され、前記シェルが、焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成されるとき、前記コアの焼結温度は前記シェルの焼結温度よりも高い、水および/または廃水の処理用セラミック膜。
(例えば前記膜は、
少なくとも1つの表面を有するセラミック基材、および
前記少なくとも1つの表面上に、コア-シェル粒子を含む膜層を含み、
前記コアは、
正のゼータ電位を有する、1つまたは複数の金属酸化物を有する無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)である無機材料から形成され、ならびに
前記シェルは、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成され、
前記コアが、焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)である無機材料から形成され、前記シェルが、焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成されるとき、前記コアの焼結温度は前記シェルの焼結温度よりも高い、でありうる。)
(2)前記コア-シェル粒子のコアは、正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物、および/または、800から2200℃(例えば800から1500℃)の焼結温度によって形成されている、請求項1に記載のセラミック膜。
(3)前記コア-シェル粒子のコアは、AlおよびZrOよりなる群から選択される1つまたは複数から形成され、任意選択的に、前記コア-シェル粒子のコアはAlから形成されている、請求項1または請求項2に記載のセラミック膜。
(4)前記コア-シェル粒子のシェルは、SiO、TiOおよびWOよりなる群から選択される1つまたは複数から形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミック膜。
(5)前記コア-シェル粒子のシェルは、SiOから形成されている、請求項4に記載のセラミック膜。
(6)前記コア-シェル粒子のシェルは、1から50nm、例えば3から20nmの平均厚さを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のセラミック膜。
(7)前記コア-シェル粒子は、50nmから20μm、例えば100から500nmの平均サイズを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミック膜。
(8)前記膜層は、3から50μm、例えば5から10μmの厚さを有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のセラミック膜。
(9)前記膜層は、pHが6から8である媒体中で測定したときに、-10mVから-50mV、例えば-20から-30mVのゼータ電位を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のセラミック膜。
(10)(a)前記セラミック膜は、100kPaの膜間圧力を用いて測定したときに、800から2500LMH、例えば1300から1600LMH(例えば1400から1600LMH)の純水フラックスを有する、および/または、
(b)水フラックス回収率が70%超、例えば95%超である(例えばBSAおよび/またはSAに関して)、および/または
(c)BSAおよび/またはSAに曝されたセラミック膜の不可逆的ファウリングは50%未満である、および/または
(d)前記基板は、Al、SiO、TiOおよびWOよりなる群から選択される1つまたは複数で形成されている、および/または
(e)前記膜は、6°から12°、例えば7°から11°の平均水接触角を有する、および/または
(f)前記膜は、60から250nm、例えば100から200nmの平均孔径を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のセラミック膜。
(11)正のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃である無機材料から形成されるコア、ならびに、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
600から1400℃の焼結温度を有する無機材料から形成されるシェルを含み、
前記コア-シェル粒子は、pHが6から8である媒体中で測定したとき、-10mVから-50mV、例えば-20から-30mvのゼータ電位を有し、
前記コアが焼結温度800から2200℃(例えば800から1500℃)の無機材料から形成され、前記シェルが焼結温度600から1400℃の無機材料から形成されるとき、前記コアの焼結温度は前記シェルの焼結温度より高い、コア-シェル粒子。
(例えば前記コア-シェル粒子は、
正のゼータ電位を有する、1つまたは複数の金属酸化物を含む無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)である無機材料から形成されるコア、ならびに、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
600から1400℃の焼結温度を有する無機材料から形成されるシェルを含み、
前記コア-シェル粒子は、pHが6から8である媒体中で測定したとき、-10mVから-50mV、例えば-20から-30mvのゼータ電位を有し、
前記コアが焼結温度800から2200℃(例えば800から1500℃)の無機材料から形成され、前記シェルが焼結温度600から1400℃の無機材料から形成されるとき、前記コアの焼結温度は前記シェルの焼結温度より高い、でありうる。)
(12)前記コアは金属酸化物から形成され、任意選択的に、前記金属酸化物はAl、SiC、およびZrOよりなる群から選択される1つまたは複数である、請求項11に記載のコア-シェル粒子。
(13)前記シェルは、SiO、TiOおよびWOよりなる群から選択される1つまたは複数から形成され、任意選択的に、前記シェルはSiOから形成される、請求項11または請求項12に記載のコア-シェル粒子。
(14)前記コア-シェル粒子のシェルは、1から50nm、例えば3から20nmの平均厚さを有する、請求項11から13のいずれか1項に記載のコア-シェル粒子。
(15)前記コア-シェル粒子は、50nmから20μm、例えば100から500nmの平均サイズを有する、請求項11から15のいずれか1項に記載のコア-シェル粒子。
(16)請求項1から10のいずれか1項に記載の水および/または廃水の処理用セラミック膜を用いる方法であって、前記セラミック膜を装着した処理システムで水または廃水を処理するステップを含む、方法。
(17)請求項1から10のいずれか1項に記載の水および/または廃水の処理用セラミック膜の製造方法であって、
(i)少なくとも1つの表面を有するセラミック基材、および
前記少なくとも1つの表面上の、請求項11から15のいずれか1項に記載のコア-シェル粒子と1つまたは複数の高分子添加剤を含む層
を含む、焼結前(pre-sintered)セラミック膜を提供すること、ならびに、
(ii)前記焼結前セラミック膜を適切な温度で一定時間焼結して、高分子添加物を除去し、セラミック膜を提供すること
を含む、水および/または廃水の処理用セラミック膜の製造方法。
(18)前記焼結前セラミック膜は、少なくとも1つの表面を有するセラミック基板を提供すること、および、前記少なくとも1つの表面を、1つまたは複数の高分子添加物と請求項11から15のいずれか1項に記載のコア-シェル粒子とを含む混合物でコーティングすることによって形成され、任意選択的に、前記コーティングは、スピンコーティング、ディップコーティングおよびスプレーコーティングの1つまたは複数(例えばディップコーティングおよび/またはスピンコーティング)によって達成される、請求項17に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下、本開示の特定の実施形態について、添付の図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0012】
図1】(a)Al@SiOコアシェル粒子、および(b)Al@SiOコアシェル構造セラミック膜の作製工程を模式的に示す図である。
図2】未処理の(pristine)Al粒子とAl@SiOコアシェル粒子の構造と組成の評価であり、(a)SiO層の厚さ、(b)XRDスペクトル、(c)FTIRスペクトル、および(d)TGAカーブである。
図3】Al@SiOコアシェル粒子のゼータ電位である。
図4】セラミック膜の表面評価であり、(a)AS1150、(b-c)AS1250、(d)AS1300、(e)A1300のSEM画像、および(f)AS1250の化学組成である。
図5】セラミック膜の水接触角である。
図6】異なる温度で作製したセラミック膜の本質的な水輸送特性であり、(a)100kPaで測定した純水フラックス、(b)圧力に応じた粘度*フラックス、(c)水圧耐性(hydraulic resistance)、および(d)孔径分布である。
図7】1300℃で作製したAl膜と1250℃で作製したAl@SiOコアシェルセラミック膜のファウリング防止特性であって、(a)BSAとSAに対するフラックス再生比、(b)SAと(c)BSAに対する正規化水フラックス、(d)SAおよび(e)BSAの膜に対して同定された可逆的および不可逆的な膜抵抗(RおよびRir)である。
図8】(a)水酸化後の未処理の(pristine)Al粒子と(b-d)Al@SiOコアシェル構造であってTEOSエタノール溶液の異なる量におけるTEM画像、(b)Al@SiO-1、(c)Al@SiO-4、(d)Al@SiO-16、および(e)Al@SiO-16の第二相として検出されたSiOナノ粒子である。(c)と(d)の数字はSiOシェルの厚さを表す。
図9】酸(HCl、1M)、中性(HO)および塩基性(NaOH、1M)水溶液における、Al膜およびAl@SiO膜の化学的安定性である。
図10】異なる量のTEOSエタノール溶液を用いて作製したコアシェル構造粒子の特性である。純粋なアルミナ(a)、およびコアシェル粒子のTEMイメージであり、(b)0.25ml、(c)0.5ml、(d)1.0ml、(e)2.0ml、(f)TEOSエタノール溶液の含有量に応じたSiO厚み、(g)純粋なアルミナおよびAl@SiOコアシェル粒子(1.0ml)のTGA曲線である。
図11】TEOSエタノール溶液の添加量を変えて作製したコアシェル構造粒子のFTIRスペクトルである。
図12】1Dラインスキャンおよび2DマッピングによるAl@SiOコアシェル構造体粒子の元素分析である。(a)個々の粒子のTEM像、(b)(a)におけるラインデータ1に沿ったAl、O、およびSiの元素分布であり、端にSi元素の強いピークが観察される。
図13】Al@SiOコアシェル粒子のゼータ電位である。
図14】表面および断面のSEM像であり、(a-c)アルミナ膜、(d-f)1200℃、2時間で作製したAl@SiO膜である。
図15】Al膜とAl@SiO膜の表面特性であり、(a)孔径分布、(b)水接触角、ならびに(c)Al膜および(d)Al@SiO膜の水接触角の代表写真である。
図16】透水性・防汚性であり、(a)PWF、(b)TMP依存性PWF、(c)ろ過抵抗、(d)RとRirの比である。
図17】(a)アルミナ粉末(d50=270nm)、および(b)平均粒径と平均孔径がそれぞれ507±172nm、310nm±181nmである、市販アルミナセラミック膜のFE-SEM像である。
図18】TEOS/Al比を0.6ml/g(Al1gに対してTEOS0.6mLを意味する)に固定し、異なる質量スケールで作製した、コアシェル粒子のTEM像であり、(a)サンプル1、(b)サンプル2、(c)サンプル3である。
図19】TEOS/Al比を0.6ml/gに固定し、異なる質量スケールで作製した、Al@SiOコアシェル粒子のSiO層の平均厚みである。TEM像で20個以上のコアシェル粒子からSiO層の厚さを測定して得られた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(説明)
驚くべきことに、無機コアシェル粒子から形成されたセラミック膜層が、上記特定された問題の1つ以上を解決できることが見いだされた。したがって、本発明の第1の態様では、水および/または廃水の処理用のセラミック膜が提供され、該膜は以下を含む。
少なくとも1つの表面を有するセラミック基材、および
少なくとも1つの表面上に、コア-シェル粒子を含む膜層であって、
前記コアが、
正のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)である無機材料
で形成され、
前記シェルが、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が600から1400℃である無機材料で形成されており、コアが800から2200℃(例えば800から1500℃)の焼結温度である無機材料で形成され、シェルが600から1400℃の焼結温度である無機材料で形成されているとき、コアの焼結温度はシェルの焼結温度よりも高い。
【0014】
本明細書の実施形態において、単語「含む」は、言及された特徴を必要とするが、他の特徴の存在を限定するものではないと解釈され得る。あるいは、単語「からなる」は、挙げられた成分/特徴のみが存在することを意図している状況にも関連し得る(例えば、単語「からなる」は、「からなる」または「から本質的になる」というフレーズに置き換えられ得る)。より広い解釈とより狭い解釈の両方が、本発明のすべての態様および実施形態に適用され得ることが明示的に考慮される。言い換えれば、単語「からなる」およびその同義語は、フレーズ「からなる」またはフレーズ「から本質的になる」またはその同義語に置き換えられ得るし、その逆もまた然りである。
【0015】
本明細書に開示されるように、本明細書に開示される膜は、セラミック膜に関連する高い製造コストの少なくとも一部を相殺する、高い耐ファウリング性を有する。なぜなら、より高い耐ファウリング性は、膜の寿命の延長をもたらし、膜の延長された寿命にわたってより多くの水を生成することができるので、水の生成コストの低減につながるからである。このコスト削減はまた、メンテナンスコストの低減や、ろ過-逆洗サイクルを大幅に広げられることによっても増大し得る。
【0016】
本明細書で使用する場合、「コア-シェル粒子」という用語は、第2の材料によって覆われている第1の材料を指す。したがって、第1の材料は、コア-シェル粒子のコアを形成し、第2の材料は、コア-シェル粒子のシェルを形成する。
【0017】
コアシェル粒子のコアは、以下から形成される。
正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物を含む無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃(例えば、800から1500℃)である無機材料
【0018】
理解されるように、このコア無機材料は、以下の通りであってもよい。
(a)正のゼータ電位を有する無機材料のみから形成されるもの(例えば、コアは、正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物から形成される)、
(b)800から2200℃(例えば800から1500℃)の焼結温度を有するが、正のゼータ電位を有しない無機材料のみから形成されるもの、
(c)(a)および(b)の要件に適合する別々の無機材料(すなわち、正のゼータ電位を有する材料と、800から2200℃(例えば800から1500℃)の焼結温度を有するさらなる材料)とから形成されるもの、または、
(d)正のゼータ電位と800から2200℃(例えば、800から1500℃)の焼結温度を有する無機材料から形成されるもの。
【0019】
本明細書で言及され得る本発明の実施形態では、膜は、以下を含んでいてもよい。
少なくとも1つの表面を有するセラミック基板;および
少なくとも1つの表面上にコア-シェル粒子を含む膜層であって、コアが、
正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物を含む無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)である無機材料
から形成され、シェルが、
負のゼータ電位を有する無機材料;および/または
焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成され、コアが800から2200℃(例えば800から1500℃)の焼結温度である無機材料で形成され、シェルが600から1400℃である無機材料で形成されるときに、コアの焼結温度はシェルの焼結温度よりも高い。
【0020】
本明細書で使用する場合、「正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物を含む無機材料」との用語は、正のゼータ電位を有し、金属酸化物または他の無機材料であってもよい、無機材料を意味することが意図される。
【0021】
本実施形態において、コア-シェル粒子のコアは、以下から形成されてもよい。
正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物を含む無機材料、および/または
焼結温度が800から2200℃(例えば、800から1500℃)である無機材料
【0022】
理解されるように、本実施形態において、コア無機材料は、以下の通りであってもよい。
(a)正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物を含む無機材料のみから形成されるもの(例えば、コアは、正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物から形成される)。
(b)焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)であるが、正のゼータ電位を有しない無機材料のみから形成されるもの。
(c)(a)および(b)の要件に適合する別々の無機材料(すなわち、正のゼータ電位を有する1つまたは金属酸化物を含む材料と、800から2200℃(例えば、800から1500℃)の焼結温度を有するさらなる材料)から形成されるもの、または
(d)正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物を含み、かつ焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)である、無機材料から形成されるもの。
【0023】
上記全ての実施形態において、コア-シェル粒子のコアは、正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物であってもよい。また、前記材料は、800から2200℃(例えば、800から1500℃)の焼結温度を示してもよい。焼結温度が800から2200℃(例えば800から1500℃)の範囲にある金属酸化物の例としては、AlおよびZrOが挙げられるが、これらに限定されない。よって、本明細書で言及されうる本発明の実施形態において、コア-シェル粒子のコアは、AlおよびZrOのうちの1つまたは複数から形成されうる。本明細書で言及されうる本発明の特定の実施形態では、コア-シェル粒子のコアは、Alから形成されうる。
【0024】
コア-シェル粒子のシェルは、以下から形成される。
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が600℃から1400℃の無機材料
【0025】
理解されるように、シェル無機材料は、以下の通りであってもよい。
(a)負のゼータ電位を有する無機材料のみから形成されるもの。
(b)焼結温度が600から1400℃であるが、負のゼータ電位を有しない無機材料のみから形成されるもの。
(c)(a)および(b)の要件に適合する別々の無機材料(すなわち、負のゼータ電位を有する材料および600から1400℃の焼結温度を有するさらなる材料)から形成されるもの、または
(d)負のゼータ電位を有し、かつ焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成されるもの。
【0026】
上記の実施形態において、コア-シェル粒子のシェルは、負のゼータ電位を有する材料であってもよい。前記材料はまた、600から1400℃の焼結温度を示しうる。負のゼータ電位と600℃から1400℃の範囲の焼結温度を有する材料の例としては、SiO、TiO、およびWOが挙げられるが、これらに限定されない。よって、本明細書で言及されうる本発明の実施形態において、コア-シェル粒子のシェルは、SiO、TiOおよびWOのうちの1つまたは複数から形成されうる。本明細書で言及されうる本発明の特定の実施形態では、コア-シェル粒子のコアは、SiOから形成されうる。
【0027】
コア-シェル粒子上のシェルは、ナノの範囲であれば、任意の適切な厚さを有していてもよい。例えば、シェルは、1から50nmまで、例えば、3から20nmまでの厚さを有していてもよい。本明細書で言及されうる他の範囲には、9から13nmまでが含まれる。
【0028】
疑念を避けるために、本明細書において同じ特徴に関連する多数の数値範囲が引用される場合、各範囲の端点は、さらなる企図された(そして暗黙的に開示された)範囲を提供するために任意の順序で結合されることが意図されることが明示的に企図される。したがって、上記の関連する数値範囲に関連して、厚みは、
1から3nmまで、1から9nmまで、1から13nmまで、1から20nmまで、1から50nmまで、
3から9nmまで、3から13nmまで、3から20nmまで、3から50nmまで、
9から13nmまで、9から20nmまで、9から50nmまで。
13から20nmまで、13から50nmまで、および
20nmから50nmまで、が開示される。
【0029】
理解されるように、コア材料よりも低い焼結温度を有するシェル材料が好ましい。理論に束縛されることを望まないが、これは、本明細書に記載されるセラミック膜に2つの利点をもたらすと考えられている。第一は、膜の形成中にコア材料がシェル層を通して漏れ出すことがないことである。第二は、シェル材料と基板表面との間に良好な機械的結合を形成することができる温度まで、シェル材料を加熱できることである。この配置の利点は、本明細書で使用する粒子が、従来よりも低い温度で部分焼結を受けることができることであり、これはセラミック膜の低コストかつエネルギー効率の高い製造に大きな価値をもたらす。従来、セラミック膜の焼結温度を下げるために、最も広く採用されている戦略は、セラミックマトリックスへの焼結助剤の組み込みであり、焼結助剤の不均一な分布は、最終製品の性能に悪影響を与える。
【0030】
コア-シェル粒子は、任意の適切なサイズを有することができる。例えば、それらは50nmから20μm、例えば100から500nmの範囲のサイズを有することができる。より大きなサイズの粒子(500nm以上)は、基板の全体または一部を形成するために使用されてもよく、より小さな粒子(500nm未満、例えば50から500nm、例えば100から400nm)は、膜層を形成するために使用されてもよい。
【0031】
粒子の平均サイズへの言及は、前記ナノ粒子の平均直径への言及であることが意図される。
【0032】
膜層は、基材上に形成され、所望の効果を与えるために十分な厚さであることを条件として、任意の適切な厚さを有していてもよい。これは、この分野に精通した当業者によって容易に決定することができる。膜層について本明細書で言及され得る好適な厚さの例として3から50μm、例えば4から10μm、例えば5.5μmである。
【0033】
シェル材料がコア材料を被覆するので、シェル材料が負のゼータ電位を有する場合、得られる膜層も負のゼータ電位を有する。シェル材料として負のゼータ電位を有する無機材料を使用することにより、任意の適切な負のゼータ電位が生じ得る。例えば、膜層は、pHが6から8である媒体中で測定したとき、-10mVから-50mV、例えば-20から-30mVのゼータ電位を有していてもよい。
【0034】
本明細書に開示されるセラミック膜は、親水性であってもよく、したがって、従来よりも低い水接触角を有していてもよい。例えば、膜は、後述の実施例に記載の方法によって測定された、6°から12°、例えば7°から11°の平均水接触角を有していてもよい。
【0035】
本明細書に開示されるセラミック膜は、アルミナなどの単一材料から形成される材料とは異なるものであってもよい。例えば、膜は、60から250nm、例えば100から200nmの平均孔径を有していてもよい。理論に拘束されることを望まないが、平均孔径は、膜層を形成するために使用される粒子のサイズによって影響を受けると考えられる(すなわち、膜層における孔径は、密接にパックされた構造に従って、粒子サイズに比例的に相関している)。また、膜層は基板上に直接形成され、形成後に表面改質を行う必要がないことにも留意されたい。形成後のこのような後の(post)表面改質は、表面の孔径を小さくし、水の透過性を低下させることになる。したがって、本明細書に記載のセラミック膜は、形成後に後の(post)表面改質を受ける必要がなく、それによって、そのような後の(post)表面改質を受ける他の膜と比較して、水透過性を高めることができる。理論に拘束されることを望まないが、これはまた、本発明の膜の安定性(したがって、寿命)の増加をもたらす可能性がある。
【0036】
現在開示されているセラミック膜は、100kPaの膜貫通圧力を使用して測定した場合、800から2500LMH、例えば1300から1600LMH(例えば1400から1600LMH)の純水フラックスを提供することができる。
【0037】
現在開示されているセラミック膜はまた、従来のセラミック膜よりもファウリングに対する耐性が高い可能性がある。例えば、本明細書に開示されるセラミック膜の水フラックス回収率は、70%よりも大きい、例えば95%よりも大きい(例えば、BSAおよび/またはSAに関して)であってよい。これは、以下でより詳細に説明するように、BSAおよび/またはSA溶液における静的吸着実験におけるものであってもよい。さらに、本明細書に記載されるセラミック膜は、優れたファウリング防止特性を示し得る。例えば、本明細書に開示されるセラミック膜の不可逆的なファウリングは、BSAおよび/またはSAに曝露されたときに50%未満であってもよい。
【0038】
本明細書に開示されるセラミック膜には、任意の適切な基材が使用され得る。例えば、基板は、Al、SiOおよびTiOよりなる群から選択される1つまたは複数のセラミック材料から形成されてもよい。基板を作製するために用いられるこれらの粉末は、通常、サイズが大きく(数十μm)、高い焼結温度が要求される。本研究で提案されるコア-シェルのコンセプトは、基板の作製に適用可能である。すなわち、焼結工程の前に、比較的低い焼結温度を有する材料で粗粉末をコーティングすることができる。
【0039】
また、セラミック膜の膜層を形成するために使用されるコア-シェル粒子が開示される。したがって、以下を含むコア-シェル粒子も開示される。
前記コアは、
正のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が800℃から1500℃である無機材料から形成され、ならびに
前記シェルは、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
焼結温度が600から1400℃である無機材料から形成され、
コアが800から1500℃の焼結温度である無機材料で形成され、シェルが600から1400℃の焼結温度である無機材料で形成されるとき、コアの焼結温度はシェルの焼結温度よりも高いもの。
【0040】
本発明のこの態様の追加または代替の実施形態では、以下を含むコア-シェル粒子も提供される。
前記コアは、
正のゼータ電位を有する1つまたは複数の金属酸化物を含む無機材料、および/または
焼結温度が800から1500℃である無機材料から形成され、ならびに
前記シェルは、
負のゼータ電位を有する無機材料、および/または
600から1400℃の焼結温度を有する無機材料で形成され、
pHが6から8である媒体中で測定したときに、コア-シェル粒子が-10mVから-50mV、例えば、-20から-30mvのゼータ電位を有し、
コアが800から1500℃の焼結温度である無機材料で形成され、シェルが600から1400℃の焼結温度である無機材料で形成されるとき、コアの焼結温度がシェルの焼結温度よりも高いもの。
【0041】
これらの材料は、上記で詳細に説明されており、本明細書における定義および実施形態は、これらのコア-シェル粒子自体にも適用される。それゆえ、簡潔さのために、それらは再び詳細に説明されない。
【0042】
理解されるように、本明細書に記載されるセラミック膜は、水、廃水またはその両方の処理に使用するのに特に適している。したがって、本明細書には、前述のような水および/または廃水の処理のためのセラミック膜の使用方法も開示され、この方法は、前記セラミック膜を装着した処理システムで水または廃水を処理するステップを含む。適用され得る方法の更なる詳細は、本明細書の以下の実施例のセクションに記載されている。
【0043】
また、以上に述べた通り、水および/または廃水の処理用のセラミック膜の製造方法であって、以下のステップを含む方法も記載されている。
(i)以下を有する焼結前セラミック膜を提供すること
少なくとも1つの表面を有するセラミック基材、および
前記少なくとも1つの表面上の、本明細書に記載されているようなコア-シェル粒子と、1つまたは複数の高分子材料とを含む層、および
(ii)焼結前セラミック膜を適当な温度で一定時間焼結して、高分子材料を除去し、セラミック膜を提供すること
【0044】
本発明の実施形態において、焼結前セラミック膜は、少なくとも1つの表面を有するセラミック基板を提供することと、前記少なくとも1つの表面を、本明細書に記載されるような1つまたは複数のポリマーおよびコア-シェル粒子を含む混合物でコーティングすることによって形成してもよく、任意選択的に、前記コーティングは、ディップコーティングおよび/またはスプレーコーティングによって達成される。
【0045】
任意の適切な高分子添加物が、焼結前にコア-シェルのナノ粒子が基板の表面に付着するようにバインダーとして作用され得るのであれば、上述の方法で使用することができる。理解されるように主な要件は、高分子添加剤が、本明細書に記載されるコア-シェル材料のシェル成分の焼結温度未満の温度で焼き切れることである。有用であり得る第2の特性は、コア-シェルのナノ粒子および1つまたは複数のポリマー添加剤を含む混合物が、(ニート溶融ブレンドの形態ではなく)スピンコーティング、ディップコーティング、および/またはスプレーコーティングの1つまたは複数に用いられる場合、ポリマー添加剤が、使用する溶剤に可溶でなければならないことである。本明細書で言及され得る本発明の実施形態では、前記方法は、ディップコーティングおよび/またはスプレーコーティングから選択されうる。本明細書で言及され得る適切な高分子添加物の例は、ポリビニルアルコール(PVA)である。
【0046】
本明細書で使用されるコア-シェルのナノ粒子は、任意の好適な方法によって形成されてもよい。例えば、コア-シェルのナノ粒子は、活性化されたコア粒子(例えば、正のゼータ電位を有するコア粒子)を、シェル前駆体溶液を含む溶液に曝露することによって形成されてもよい。例えば、コア粒子は、NaOH溶液に曝露して表面を水酸基で富化させたAlナノ粒子であってもよい。シェル前駆体溶液は、エタノール中の、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)またはオルトケイ酸テトラメチル(TMOS)であってもよい。コア-シェル型ナノ粒子の形成に関するさらなる詳細は、以下の実験の項に記載されており、本発明の範囲に渡って類推により適宜変更され得る。
【0047】
セラミック基板は、当該技術分野における任意の従来の方法によって形成することができる。セラミック基板は、本明細書で前述した材料によって形成されてもよい。
【0048】
本明細書に記載のセラミック膜は、水の透過性が悪影響を受けることなくファウリング挙動が改善されるように、全体的な細孔構造および膜表面が改善されるものである。
【0049】
次に、本発明のさらなる態様および実施形態は、以下の非限定的な例を参照することによって説明される。
【実施例
【0050】
(実施例)
本明細書では、セラミック膜の典型的な作製プロセスに効果的に組み込むことのできる、コア-シェル構造粒子をもとにセラミック膜の負に帯電した表面を得るための新規な設計戦略について説明する。コア-シェル構造は、様々なナノ材料の開発において確立された概念であり、異なる成分間の相乗効果を利用することにより、新たな機能性を導き出すこと、または/および、安定性を向上させることを目的としている。このため、コア-シェル構造を適切に設計することで、セラミック膜の、全体の化学的・物理的な特性とともに、表面の特性を変化させることができると考えられている。コア-シェル構造粉末をもとにセラミック膜が作製されたことは、今回が初めてであると考えられる。
【0051】
一例として、正電荷を有するAlのコアに、負電荷を有するSiOのシェルを数ナノメートルの厚さで被覆し、図1に示すようなコア-シェル構造粒子をセラミック基板上に集合させた。アモルファスSiO層は、純粋なAl膜に比べて焼結温度を下げ、高い気孔率を維持するのに役立った。SiOシェルが有する負電荷と親水性により、Al@SiOコア-シェル構造の最表層は、改善された水流量と耐ファウリング性を示した。
【0052】
有機シランおよび炭素系材料と比較して、SiOなどの金属またはメタロイド酸化物は、セラミック膜の、安定性と界面接着性の観点から、表面改質に優れている。金属酸化物の中でもTiOおよびSiOの等電荷点(IEP)は、比較的低く(4.0未満)、広いpH領域で負に帯電する。
【0053】
(材料と方法)
アルミナ粉末(α-Al、300nm、99.9%、USリサーチ ナノマテリアルズ インコーポレイテッド)、テトラエトキシシラン(TEOS、C20Si、98%、Fluka)、水酸化ナトリウムペレット(NaOH、>97%、シグマ-アルドリッチ)、エタノール(COH、99%、シグマ-アルドリッチ)およびポリビニルアルコール(PVA、Mw=72000、Fluka)、アンモニア溶液(NHOH、28-30%、Merck)を含む化学薬品を、さらに精製することなく受け取ったまま使用した。
【0054】
[実施例1:Al@SiOハイブリッド粒子の作製]
親水性で負に帯電したSiOを、結晶性のα-Al粉末にコーティングした。Al@SiOコア-シェル構造の作製プロセスを、図1Aに模式的に示す。表面水酸基はSi前駆体と配位することが知られているため、平均粒径300nmの市販のα-Al粒子をまずNaOH溶液(1M)で処理し、表面が水酸基に富むようにした。官能基処理後、Al粉末のBET比表面積は、3.7m/gから4.6m/gへとわずかに増加した。SiOシェルの厚さを微調整するために、Si前駆体として、テトラメチルオルトシリケート(TMOS、Si=18.4%)ではなく、Si含有量が低い(13.4wt%)テトラエチルオルソシリケート(TEOS)を選択した。弱塩基性溶液中で、その場での加水分解・縮合反応により、Al粒子表面にSiOシェルが形成される。
【0055】
SiO層がAl粒子上に薄い形成され、得られた膜のパッケージ密度および空隙率に与える影響を最小限に抑えることができた。Al粒子へのSiOコーティングの成功を確認するため、異なる量のTEOSエタノール溶液を用いて作製したサンプル(Al@SiO-x、x=1、2、4、8、16として示される)を、TEM、XRD、FTIRおよびTGAを用いて、体系的に特性評価を行った。
【0056】
(実験)
アルミナ粉末(1.0g)をまずNaOH水溶液(40ml、1.0M)で攪拌下5時間処理した。表面に水酸基を多く含む処理後のAl粉末を、5000rpm、5分間の遠心分離により回収した。次に、40mlの純水を加え、超音波処理(42kHz、10分間)を伴って、官能基を有するアルミナ粉末を分散させた。エタノール(34ml)およびアンモニア溶液(30wt%、6ml)をまず混合し、それから上記懸濁液に添加し、40℃で10分間撹拌を継続した。次に、得られたアルミナ懸濁液に、異なる容量(x=1、2、4、8、16ml)のTEOSエタノール溶液(15vol%)を滴下して加えた。室温で12時間撹拌した後、白色沈殿物を、遠心分離により分離し、さらに純水で、pH値が約7になるまで繰り返し洗浄した。80℃で24時間乾燥させた後、Al@SiOコア-シェル構造粉末を、特性評価とその後の膜作製のために準備した。異なる体積のTEOSエタノール溶液で作製したサンプルを、Al@SiO-x(x=1、2、4、8、16)と表記した。
【0057】
(TEM)
TEOSエタノール溶液を添加すると、図8のTEM像に示されるように、SiO層が形成される。SiOシェルの厚さは、TEOSの添加量を調整することで、数ナノメートルから数十ナノメートルまで調整することができる(図2A)。TEOSの添加量が0.5mlよりも多いとき、SiOシェルの厚さはTEOS量に対してほぼ直線的に増加する。
【0058】
TEM像から、図8Eに示されるように、多いTEOS量で作製したサンプルにおいて、いくつかの独立したSiOナノ粒子が観察された。
【0059】
(XRD)
X線回折パターンは、X線粉末回折BrukerD8回折装置を用い、Cu K放射(0.15406nm)を用い40kVおよび40mAにて取得した。
【0060】
Al@SiO粒子(Al@SiO-4サンプル)のXRDパターンは、形成されたSiOシェルの非晶質状態を示す比較的弱い強度を除いて、未処理の(pristine)Al粉末のもの(図2B)と同様であった。同様の結果は、SonらによるSiO@TiOの合成でも報告されており、600℃での焼結後もSiOアモルファス相に起因する2θ=22°を中心とするブロードバンドが観測された。一方、純粋なAlとAl@SiOコア-シェルの違いは、FT-IRスペクトルとTGAの結果に表れている。
【0061】
(FT-IR)
得られたままのAl@SiO-4サンプルの表面状態を分析するために、FT-IR分光光度計(NEXUS670、Nicollet、USA)を用いてフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを取得した。
【0062】
図2CのFT-IRスペクトルから、未処理(pristine)および前処理を施したAl粉末は、それぞれ伸縮および変角する-OH振動に帰属する、1633cm-1と3473cm-1を中心とする二つの強いピークを示す。この結果は、豊富な表面の水酸基の存在を裏付けるものである。また、Al@SiOサンプルでは、Si-O-Si伸縮振動に起因する1085cm-1付近に位置する広いピークが観測される。
【0063】
(TGA)
サンプルの熱挙動は、熱重量分析(TGA)により、室温から800℃まで大気中で10℃/分の昇温速度で分析した。
【0064】
図2Dより、前処理を施したサンプルは、未処理の(pristine)Al粉末と比較して大きな重量減少を示し、表面の水酸基量が増加していることが確認された。TEOS量が増加すると、Al@SiOサンプルの重量減少が徐々に増加する。この結果は、親水性のSiOは水分子の吸着を促進するため、非晶質のSiO量が多く増加したことを示唆している。
【0065】
(XPS)
次に、高収率Al@SiOコア-シェル粒子の表面化学的性質を、XPS(Kratos、Analytical Axis UltraDLD UHV)で調べた。
【0066】
未処理のAl粉末の化学組成は、61.76%のOと38.24%のAlであるのに対し、前処理を施したサンプル(Al@SiO-4)は、18.03%のSi 2p、56.50%のO、25.47%のAlとなり、Al表面にうまくSiOが堆積したことが示された。AlコアとSiOシェル間の化学結合は、O 1sスペクトルの高分解能XPSによって証明される(図示していない)。Siの電気陰性度がAlよりも大きいため、Si-O結合の結合エネルギーはAl-O結合のものよりも強く、その結果、結合エネルギーはわずかにより高いレベルにシフトしている。また、Al@SiOコア-シェル構造では、Si-O-Si結合に対応する、高い結合エネルギー(532.06eV)の追加のピークがある。意義深いことに、未処理のAlにおけるAl-O-Al結合に起因するピーク(530.59eV)は、その含有率が57.04atm%から13.73atm%へ減少することで、より高い530.96eVの高い結合エネルギーにわずかにシフトしている。なお、未処理のAl粉末のピークは、57.04atm%のAl-O-Al結合、および42.96atm%のOH結合を有しているのに対し、前処理したサンプルは、62.53atm%のSi-O-Si結合が、13.73atm%のAl-O-Al結合、および23.74atm%のOH結合を有している。
【0067】
(ゼータ電位)
Al@SiO粉末(具体的にはAl@SiO-4)のゼータ電位をzetasizer(Nanobook)によりSmulochowskiモデルに基づき測定した。
【0068】
異なるpH値で測定したゼータ電位(図3)に基づいて、Al@SiOコア-シェル粒子の等電点(IEP)は~3.1と決定され、これは非晶質SiOの報告値(IEP=2.2~4.0)に近い値であった。特に、pH範囲6.0-8.0におけるゼータ電位は強い負電位(~35mV)を示し、負に帯電した膜表面を構築する大きな可能性を示している。またこの結果は、その後の完全なSiO膜表面の形成に重要である、Al粒子表面へのSiOナノ層の所望の被覆を確証するものである。これらの結果は、界面に強いAl-O-Si結合が形成され、表面電荷がAlの正からAl@SiOコア-シェル構造の負へ変化していることを確証するものである。
【0069】
[実施例2:Al@SiOコア-シェル構造膜の作製と特性評価]
図1Bに示されるように、実施例1で合成されたセラミック粉末を、バインダーとしてPVAを加えた水に分散させて乳液状のスラリーを形成し、これを市販のセラミック膜にスピンコートした後、室温で24時間自然乾燥して、Al@SiOコア-シェル構造膜を作製した。
【0070】
(実験方法)
Al@SiO粉末(実施例1に準じて作製したAl@SiO-4)0.5gを質量負荷20%の純水2.5mlに10分間の超音波処理により分散させた。次に、この懸濁液に同量のPVA水溶液(10wt%)を添加し、その後12時間攪拌を続けた。得られたスラリーを市販の精密ろ過セラミック膜(Al、孔径:~100nm;市販、例えば南京Shuyihui Scientific Instruments CO.LTD)にスピンコート(3000rpm、60s)により塗布した。サンプルは、まず室温で24時間乾燥させた後、異なる温度(AS-Tと表記)で2時間、1℃/分の昇温速度で焼結させた。純Al膜は、未処理の(pristine)Al粉末を使用して、同じ条件(A-Tと表す)で作製した。例えば、AS1150は、Al@SiO粉末をコーティングし、1150℃で2時間焼結したサンプルを表す。
【0071】
(焼結温度)
純粋なAl懸濁液と比較して、Al@SiO懸濁液は、分散性、安定性、均一性に優れているため、セラミック基板上に滑らかな層を形成することができる。アモルファスSiOは400℃以上で凝縮し、バインダーであるPVAは500℃超で完全に燃焼させることができる。よって、Al@SiO膜の最適な焼結温度は500℃超であることが求められた。
【0072】
1150℃で作製したAl@SiO膜(AS-1150)は、良好な機械的安定性を示すことがわかった。具体的には、表面層は基板によく接着している。一方、純粋なAl粉末とセラミック基板の間の強い接着を確保するには、1300℃超の温度が必要である。そうでなければ、純粋なAl表面層は前記基板から容易に剥離しうる。この結果は、Al表面のSiO層がより低い温度で部分焼結することを促進し、低コストかつエネルギー効率の高いセラミック膜の製造に大きな価値をもたらすことを示している。従来、セラミック膜の焼結温度を下げるために、最も広く採用されている戦略は、セラミックマトリックスへの焼結助剤の配合である。しかしこれは、最終製品に悪影響を与える焼結助剤の不均一な分布をもたらす。
【0073】
(SEM)
EDS付属装置を有するSEM(SUPRA40ZEISS、ドイツ)を用いて、サンプルの形態と化学組成を測定した。各サンプルは、観察前に金スパッタリング(60秒、20mA)により前処理を行った。
【0074】
図4A-Eは、異なる温度で作製したAl@SiO膜のSEM画像を示す。アルミナ膜とAl@SiO膜の膜表面は、未焼結の粉末と同様の微細構造を示し、粒子サイズはやや二峰性の分布、すなわち大きなサイズの粒子と小さなサイズの粒子の両方が観察される(図4A-E)。このように2つのスケールの細孔構造を形成しており、これは膜の空隙率と比表面積を向上させうる。最表層の厚さは~4.2μmであった(図4C)。比較的薄い最表層は、膜抵抗を最小化し、膜の透過性を高めうる。
【0075】
(EDS)
SEMに接続したEDS装置を用いた特性評価により、図4Fに示されるように、1250℃で焼結したAl@SiO膜にSiのシグナルが検出された。
【0076】
(水接触角)
指標として水滴(1.5μL)を用い、VCA Optima表面分析システム(Advanced Surface Technology、Billerica、MA)を用いて、水接触角を測定した。
【0077】
Al@SiOコア-シェル膜の表面親水性は、Al膜と比較して大幅に改善されている。図5に示されるように、Al膜は、~37°の水接触角の親水性表面を呈している。特に、Al@SiOコア-シェル構造の膜の水接触角は15°程度まで低下した。理論に拘束されることを望まないが、親水性の向上は主に親水性の高いSiO層に起因していると考えられる。
【0078】
(化学的安定性)
1300℃で作製したアルミナ膜と1250℃で焼結したAl@SiOコア-シェル膜を、酸性溶液(HCl、1mol/L)、中性純水、および塩基溶液(NaOH、1mol/L)などの様々な溶液に浸漬させて、安定性試験を実施した。120時間後、サンプルを取り出し、純水で穏やかに洗浄した後、110℃で12時間乾燥させた。処理前後のサンプルの質量を記録し、その質量減少をこれらのセラミック膜の安定性の評価に用いた。
【0079】
親水性を有する純粋なSiO膜も研究されていたが、湿潤雰囲気または水蒸気の存在下でのその低い化学的安定性により、水および廃水の処理への応用が制限されていた。一方、Al@SiOコア-シェル構造膜は、水中で120時間の良好な安定性を示し、かつ酸性および塩基性の溶液中ではAl膜と同等の化学的安定性を示した(図9)。
【0080】
[実施例3:セラミック膜の透水性および膜抵抗値]
実施例2で製造したセラミック膜の透水性を測定した。透水性の結果を説明するために、孔径分布を測定した。
【0081】
(純水フラックスおよび膜抵抗試験)
水の透過は、セラミック膜片(ceramic membrane pieces)のセルが膜の1つの活性側を試験できるようにした、自作のデッドエンドの濾過装置によって行った。
【0082】
試験に使用したMilliQ水は、0.02μmのフィルターで前処理を行い、可能な限りのコロイド粒子を除去したもので、以下、純水と称する。活性ろ過面積の直径は16mmで、100kPaの定圧をかけた。透過液の重量とそれに対応する透過時間を記録し、水フラックスを算出した。透過フラックス(J、Lm-2-1)は、以下から算出した。
【0083】
【数1】
【0084】
ここで、V(L)は透過液量、t(h)は操作時間である。純水の透過性は、膜固有抵抗R(m-1)により評価することができ、次式で定義される。
【0085】
【数2】
【0086】
ここで、ΔPは膜貫通圧(Pa)、Aは膜の有効表面積(m)、tはろ過時間(s)、μは水の動粘度(1×10-3Pa s)、およびVは膜を流れる水の体積を表す。
【0087】
(孔径分布)
毛細管フローポロメーター(Porometer 3G、Quantachrome Instruments、USA)を用いて、孔径分布を測定した。まず、直径25mmのセラミック膜をサンプルホルダーに設置した。次に、表面張力と蒸気圧の低い湿潤液(ポロフィル(Porofil))でサンプルを濡らした。圧力の上昇に伴う湿式サンプルを通過するガス流量を記録した。その後、乾式サンプルの、圧力に依存するガス流量を測定した。最後に、湿式と乾式のガス流量から、サンプルの孔径分布を自動換算した。
【0088】
(研究成果)
セラミック膜の透水性は、膜間圧力(TMP)100kPaで測定した。図6Aに示されるように、純Al膜と比較して、Al@SiO膜は高い純水フラックスを示している。その増量は、親水性の向上と細孔構造の良好な維持に起因している。特に、1250℃で作製したAl@SiO膜(AS1250)は、最も高い純水フラックスを示した。
【0089】
さらに、異なるTMPで純水フラックスを測定することで、それらの固有の水輸送特性を評価した。膜の活性層を通過する水の輸送のしやすさを意味する膜抵抗について試験した。膜抵抗が高いほど、高い操作圧力が必要になるか、処理能力が低下することになり、いずれも実用上好ましくない。図6Bは、粘性を考慮した圧力に対する純水フラックスを示す。直線的なフィッティング曲線の傾きは、膜の水力抵抗を表している。図6Cにプロットされるように、純粋なAl膜は最も高い膜抵抗を示し、1250℃で作製したAl@SiO膜は最も低い膜抵抗で最高の水輸送特性を示している。
【0090】
Al@SiOコア-シェル膜の改善された水透過性の理解のために、孔径分布(PSD)を測定した。比較のために、1300℃で作製したAl膜のPSDも図6Dにプロットした。Al最表層のコーティングにより、平均孔径は200.6nmから183.4nmにわずかに減少し、孔径分布は狭くなり、比較的大きな孔が大幅に減少する一方で、小さな孔はほとんど影響を受けなかった。一方、Al@SiOコア-シェル膜の平均孔径は176.6nmに減少し、150.4nmと120.0nm付近にいくつかの小さなポアを伴っていた。Al@SiO膜の比較的小さなポアと複数のピーク分布は、Al@SiO粒子の焼結活性が向上したことに起因していると考えられる。一般に、表面の親水性と多孔性は、膜の透過性を促進すると考えられている。したがって、コア-シェル膜の透過率向上は、多孔性よりもむしろ表面親水性の向上に主に関係していると推察される。
【0091】
[実施例4:耐有機系ファウリング性]
実施例2で作製したセラミック膜に、静的条件下で有機ファウリング物質を自然発生させ、改質表面の生来のファウリング傾向を測定した。多糖類とタンパク質のモデル化合物としてそれぞれ、アルギン酸ナトリウム(SA)とウシ血清アルブミン(BSA)を使用した。
【0092】
(実験)
A1300とAS1250をそれぞれ、Al膜とAl@SiOコア-シェルセラミック膜として選択した。未使用膜の純水フラックス(J)は、実施例3の手順に従って測定し、25mm×25mmの寸法の膜片を50mg/Lの有機溶液(BSAまたはSA)の中くらいの高さにつるし、24時間、100rpmの一定攪拌下で行った。その後これらの膜片を膜表面1平方センチメートル当たり1mLの純水で3回穏やかに洗浄して、緩く結合した粒子を除去した。そして、汚れた(fouled)膜の純水フラックス(J1)を再度試験した。
【0093】
膜の耐有機系ファウリング性は、フラックス回復率(FRR=J/J×100%)で評価した。フラックスの低下は、クロスフロー速度0.05m/sで供給液(50mg/L)として両有機系ファウリング物質がある状態で測定した。
【0094】
(結果)
以上の例から、コア-シェル構造のセラミック膜は、負に帯電した親水性の表面から構成されていることがわかる。図7Aに示されるように、この表面特性により、有機物のファウリング防止性能が向上していることがわかる。これは、静電反発効果(負に帯電したファウラント(foulants)と負に帯電した膜表面との間)と疎水性相互作用の減少に起因していると考えられる。
【0095】
膜の耐有機物吸着特性は、BSAおよびSAの溶液中での静的吸着実験後の水フラックス再生比(FRR)に基づいて評価された。図7Aに示されるように、BSA溶液とSA溶液でファウリングされたAl@SiO膜のFRRは、それぞれ97.7%と95.7%に近づいた。一方、同じ条件で、純粋なAl膜は、BSAとSAに対してそれぞれ88.1%と82.1%のFRR値しか達成できていない。
【0096】
BSAはタンパク質のモデルファウラントであり、SAは多糖類のモデルファウラントである。BSAもSAも表面にリン脂質があるため、疎水性で負に帯電している。純Al膜は親水性であるため、疎水性のBSAやSAの付着をある程度防ぐことができるが、Al膜の表面が正に帯電していると、静電引力によってファウラントがさらに付着することになる。一方、Al@SiOコア-シェル構造の表面は負に帯電しており、静電反発により負に帯電したファウラント(foulants)(BSA、SAなど)の膜表面への集積をさらに抑制することができる。したがって、Al@SiOコア-シェル膜は、表面が負に帯電し親水性であることから、特にBSAやSAに対して有望な耐ファウリングセラミックス膜である。
【0097】
図7B図7Cに、十字流速度(cross-flow velocity)0.05m/sでのBSAとSAの溶液(50mg/L)中のAlとAl@SiO膜の時間依存正規化フラックス(J/J)をプロットした。AlとAl@SiOの膜は、BSAとSAの溶液でそれぞれ同程度のフラックス低下を示し、これは全抵抗値(R)が同程度であることが示唆している。Rには、膜抵抗(R)とファウリング抵抗(R)が含まれる。Rは、膜表面および/または膜孔においてファウラント(foulants)が付着し、ろ過抵抗が急激に上昇することに起因する。あるファウリングは物理的な洗浄で除去でき、それは可逆的汚損抵抗(R)に相当し、一方、その他の物は、強力な化学的洗浄でしか除去できず、それは不可逆的汚損抵抗(Rir)に相当する。膜のファウリングは膜分離プロセスにおいて避けられない問題であるため、不可逆的なファウリングを最小限に抑えることができれば、膜の再生が非常に容易になり、強力な化学洗浄の際の膜へのダメージも最小限に抑えることができる。図7D図7Eに示されるように、Al膜のRの大部分は不可逆的なファウリングに起因している。例えば、SA溶液中のAl膜のRは、72.18%が不可逆的なファウリングで、21.82%が可逆的なファウリングである。一方、コア-シェル構造の膜を構築することで、不可逆的なファウリング耐性を39.60%まで大幅に低減することができる。BSA溶液の場合も同様の結果が得られ、不可逆的なファウリングは、Al膜の70.30%からAl@SiO膜の38.74%まで減少した。
【0098】
(考察)
コア-シェル構造を利用した表面改質セラミック膜の作製は、新しい戦略である。このようなプロセスは、従来の膜作製に統合することができる。上記の結果に基づいて、コア-シェル構造粉末を有するセラミック膜の利点が十分に実証された。第一に、Al表面上の柔らかいSiO層が、低温でのその部分焼結に寄与している。第二に、より親水性の高いSiOシェルがセラミック膜の表面の親水性を大幅に向上させ、透過性を高めた。第三に、SiO膜によって広いpH値で表面電荷を負に制御することに成功し、さらなる静電反発効果によって、セラミック膜の耐有機系ファウリング性、特に不可逆的なファウリングが大幅に改善された。従来報告されている表面改質を伴う方法では、必然的に孔径が小さくなり、後のカルシウム化工程などの追加工程が必要である。これに対し、現在報告されているコア-シェル構造粉末を用いた方法は、表面の空隙率を維持し、プロセスを簡略化し、かつエネルギー効率を向上できる。提案したコア-シェル構造に基づく分離層の概念は、分離層の粒上に活性物質(TiO、WOなど)を堆積させることで、他の耐ファウリング膜および機能性セラミック膜の作製に拡張することが可能である。
【0099】
(まとめ)
合理的に設計されたコア-シェル構造粒子に基づき、表面改質セラミック膜を作製する新しい戦略を提案した。Al粒子にSiO層を意図的にコーティングすることにより、表面が負に帯電した耐ファウリング性のセラミック膜を、低い焼結温度で作製することに成功した。Al粉末の表面は負に帯電したSiO層で完全に覆われており、かつコア-シェル構造は広いpH値において強く負に帯電していた。SiOシェルの存在により、Al@SiOコア-シェル構造は1150℃で基板に強く結合することができ、一方、純Al粉末は1300℃超の温度でしか焼結できない。純Al膜と比較して、全てのAl@SiO膜は、親水性が向上することで、純水フラックスの増加や膜抵抗の低減といった透水性の向上が見られた。さらに、Al@SiO膜はBSAおよびSAに対して優れた有機系ファウリング耐性を示し、特に、親水性かつ負に帯電した膜表面により、不可逆的ファウリングが顕著に減少した。このことから、提案された戦略は、処理温度を下げ、かつプロセスを簡略化するだけでなく、セラミック膜の表面特性を意図的に調整できると結論付けることができる。
【0100】
[実施例5:Al@SiOコア-シェル構造化粉末の作製のための最適化された手順およびその特性評価]
TEOS前駆体の量を少なくした(0.25から2mlまで)以外は、実施例1の手順に基づいてAl@SiOコア-シェル構造粉末を作製した。加えて、異なる供給源からのアルミナ粉末を使用した。
【0101】
(実験)
テトラエトキシシラン(TEOS、C20Si、98%、Fluka)、水酸化ナトリウムペレット(NaOH、>97%、シグマ-アルドリッチ)、エタノール(COH、99%、シグマ-アルドリッチ)およびポリビニルアルコール(PVA、Mw=72000、Fluka)、アンモニア溶液(NHOH、28~30%、Merck)を含む化学物質は、さらに精製せずに受け取ったまま使用した。平均サイズ270nm(d50=270nm)のα-アルミナ粒子(日本、住友)を、コア-シェル構造の最表層(図19Bを参照)の作製に使用した。
【0102】
典型的には、1gのAl粉末を超音波処理(42kHz、10分)により40mlの純水に分散させた。エタノール(34ml)およびアンモニア溶液(6ml)を順次添加し、その後、40℃で10分間連続的に攪拌した。混合前駆体を4グループに等分割し、各懸濁液に異なる量のTEOSエタノール溶液(15vol%)を滴下した。厚さの異なるSiOシェルを有するコア-シェル粒子を形成するために、この手順を異なる量のTEOS前駆体(0.25、0.5、1.0および2.0ml)で繰り返した。室温で12時間連続して撹拌した後、白色沈殿物を遠心分離し、さらに純水でpH値が約7になるまで繰り返し洗浄した。80℃で24時間乾燥させた後、Al@SiOコア-シェル構造粉末を、特性評価とその後の膜作製のために準備した。
【0103】
特に断りのない限り、以下の各特性評価の手順は、上記実施例1で説明したものと同じである。
【0104】
(TEM)
未処理のアルミナ粒子(x=0;図10A)と比較して、TEOS溶液を添加して作製したアルミナ粒子(x=0.25、0.50、1.00および2.00)では、図10Bから10EのTEM画像に示されるように、被覆層が確認された。TEOS量を調整することで、厚さを数ナノメートルから数十ナノメートルまで調整することができる(図10F)。
【0105】
(TGA)
図10Gに示すTGA曲線から、SiOコーティングしたアルミナ粉末(X=1.00)は、未処理のアルミナ粉末と比較して重量減少がわずかに増加していることがわかる。これは、表面の水酸基の量が増加したことと、表面の水分子が吸着したことによると説明できる。
【0106】
(FTIR)
コア-シェル粉末の表面化学的性質は、FTIRスペクトルによってさらに研究された。図11に示されるように、Si-O-Si結合に属する1000cm-1付近の追加ピークが観測され、その強度はTEOS量に伴って徐々に増加することがわかった。また、-OH変角モデルに対応するピーク強度は、出発物質中のTEOS量に応じて増加し、表面の水酸基量が増加していることが示唆された。セラミックス粉末の親水性は、表面の水酸基と密接に関係していることが知られている。したがって、アルミナ粉末にSiOナノシェルをコーティングすることで、対応する膜の親水性を高めることができると考えられる。
【0107】
(TEMマッピング)
図12に示されるように、1mlのTEOSエタノール溶液で作製したコア-シェル構造粒子の化学組成を、さらにTEMマッピングで確認した。
【0108】
元素分析は、図12Aで薄い層が観察された個々の粒子に着目して行った。1Dラインスキャンによると、Al元素の分布はO元素の分布と似ているが、Si元素の量は端部で最大になっている(図12B)。さらに、エッジ部の元素分布を元素マッピングで解析したところ、AlとSiの明確な境界が確認できた。これらの結果から、アルミナ粒子表面にSiOナノ層が形成されていることが明確に確認された。
【0109】
(表面電荷)
表面電荷はセラミック粉末の重要な特性であり、それは溶液中での分散能力と対応するバルクサンプルの表面特性を決定する。純電荷がゼロになるpH値は等電点(IEP)と呼ばれ、動電学の測定方法またはゼロ電荷の点によって得られる。
【0110】
1mlのTEOSエタノール溶液を用いて作製したAl@SiOコア-シェル構造粉末粒子の表面電荷を、異なるpH値において測定した。図13に示されるように、Al@SiOコア-シェル粒子の表面電荷は、pH6よりも上で強く負になり、IEPは5.5程度と判定された。アルミナ粉末は中性溶液中では一般に正に帯電し、IEPは~9.0であることが知られている。SiOはIEPが約3.2と負に帯電することが知られていることから、コア-シェル構造粒子のIEPが低下したのは、アルミナ表面にSiOナノ層が形成されたためと考えられる。
【0111】
[実施例6.コア-シェルセラミック膜の最適化された作製と特性評価]
実施例5で形成したようなコア-シェル構造粒子を、多孔質セラミック基板にディップコーティングして、セラミック膜を作製した。比較のため、純アルミナ膜のセットも同じ条件で作製した。
【0112】
(実験)
基板には、市販の平板アルミナセラミック基板を使用した。未処理の基板の微細構造を図17Bに示す。
【0113】
1mlのTEOSエタノール溶液で作製したコア-シェル粒子を用いて、均質なコーティング懸濁液を作製した。この懸濁液は、適量のセラミック粉末(0.5g)、水(2.5g)、PVA溶液(10wt%、2.5g)および分散剤(0.4g)により処方された。次に、この懸濁液をディップコーティング法により、多孔質セラミック基板(平均粒径と平均孔径がそれぞれ507±172nm、310nm±181nmである、市販のアルミナセラミック膜)に塗布した。サンプルを室温で12時間乾燥させた後、110℃でさらに12時間乾燥させた。次いで膜は、昇温速度を1℃/minとして1200℃で2時間焼結し、コア-シェル構造を有する膜を得た。
【0114】
アルミナ粉末の粒径は、アルミナ基板の粒径よりも小さく、一方、アルミナ基板の平均孔径よりもわずかに大きいため、アルミナ粉末はアルミナ膜の孔に詰まることなく、アルミナ基板の表面に被覆されている。
【0115】
Al@SiOをAlに置き換えた以外は、同様の手順に基づいてアルミナ膜を作製した。特に規定しない限り、以下の各特性評価の手順は、実施例2において上述したものと同じである。
【0116】
(SEM)
SEM表面像によれば、図14Dおよび図14Fのコア-シェル構造を有する膜は、アルミナ膜(図14Aおよび図14C)と比較して、より多孔質の表面微細構造を示している。図14Bおよび図14Eの断面SEM画像に示されるように、セラミック膜は、マクロポーラス支持体、中間層、およびコーティングされた最表層を含む、典型的な非対称構造を呈している。コア-シェル層の厚さは5.5μmと測定され(図14F)、アルミナ膜の厚さ(5.1μm、図14C参照)と同等であることがわかる。アルミナ膜と同様に、コア-シェル構造の膜は中間層とよく結合しており、クラックまたは剥離は観察されなかった。ゾルゲル表面コーティングおよび原子層蒸着などの追加の処理方法を含むことの多い、従来のセラミック膜の後処理と比較して、本研究の作製戦略は、表面改質されたセラミック膜を直接形成することができる。さらに、低融点材料などのシェル材料を選択することで、比較的低温で作製することも可能である。
【0117】
(ポアサイズ)
コア-シェル構造膜の平均孔径(~203nm)は、純粋なアルミナ膜の孔径(~187nm)よりわずかに大きいが、図15Aに示されるように、コア-シェル構造膜の孔径分布は著しく狭くなっている。これは、コア-シェル粒子の粒子径が、未処理のアルミナ粒子と比較してわずかに大きくなっていることで説明できる。一般に、膜層の孔径は、密着構造によれば粒子径と相関がある。これに対し、従来の後修飾工程を用いると、必然的に未処理のセラミック膜の表面孔径が小さくなり、その結果、透水性が低下する。
【0118】
(水接触角)
水接触角は、表面の親水性を表す重要な指標である。接触角の値が小さいほど親水性が高いことを意味する。親水性が高い膜は、一般的に水分子を引き寄せる能力が高く、同時にファウラント(foulants)の吸着を低減させ、水流量と耐ファウリング能力の向上にプラスの役割を果たすと考えられる。コア-シェル構造膜の平均水接触角は9.0±2.0°と測定され(図15B)、これは粒子表面にSiOコーティング層を持たないアルミナ膜のもの(16.2±1.8°)よりも大幅に小さくなっている。コア-シェル構造膜の親水性向上は、主に超親水性のSiO層が寄与していることがわかる。アルミナ膜とコア-シェル構造膜の代表的な水接触像をそれぞれ図15C図15Dに示す。したがって、コア-シェル構造粒子に基づく戦略は、改善された透水性を有する表面改質セラミック膜を作製するための効果的な方法を提供する。
【0119】
[実施例7:透過液フラックスおよび膜抵抗]
実施例6に従って作製した膜を、膜抵抗および膜-液体界面における流体力学的条件に影響される、セラミック膜の実用化のための重要な検討事項の1つである、全体透過液フラックス(overall permeate flux)について試験した。
【0120】
膜の純水フラックス(PWF)は、デッドエンドろ過において、TMP100kPaで測定した。純水フラックスおよび膜抵抗の試験の手順は、上記の実施例3に概説されている。
【0121】
図16Aに示されるように、コア-シェル構造膜のPWFは1377.3±18.0LMHであり、アルミナ膜のそれは927.3±8.0LMHであった。コア-シェル膜のPWFの向上は、改善された多孔性と親水性に起因するものである。次に、様々なTMPにおけるPWFを測定することにより、Rを求めた。図16Bに示されるように、コア-シェル構造膜のRは、アルミナ膜と比較して明らかに減少している。このことから、コア-シェル構造膜は、良好に維持された多孔質構造と改善された親水性により、透水性が大幅に改善されたことがわかる。
【0122】
[実施例8:ファウリング性能]
実施例6に従って作製したセラミック膜の耐ファウリング性を、フミン酸(HA)溶液(50mg/L)を用いて、クロスフローセットアップ(cross-flow setup)により試験した。濾過条件は、クロスフロー速度4cm/s、窒素ガスから供給される外圧100kPaで一定に保たれた。透過液の重量を30秒ごとに測定し、ろ過時間30分でフラックスを決定した。
【0123】
ろ過実験後、ファウリング抵抗は、次式に示されるように、抵抗-直列モデルに基づいて計算された。
【0124】
【数3】
【0125】
ここで、μは純水の動的粘度(Pa・s)、Jは透過液フラックス(Lm-2-1、LMH)、Rmは膜固有抵抗(m-1)、R、R、Rirはそれぞれ全ろ過抵抗、流体的に可逆なファウリング耐性、流体的に不可逆なファウリング耐性(m-1)、である。ファウリング抵抗(R)は、式:R=R-Rにより算出した。次に、ファウリングした膜を、150kPaの純水で逆洗することにより洗浄した。その結果、洗浄後の膜の濾過抵抗(R)が得られた。最後に、可逆的なファウリング抵抗(R)と不可逆的なファウリング抵抗(Rir)は、式:R=R-R、Rir=R-Rを用いて計算することができる。
【0126】
(結果)
純粋な膜抵抗と比較して、HA溶液をろ過した後の両膜の全抵抗(R)は、膜へのHA分子の吸着に由来して増加した。一方、コア-シェル構造膜のファウリング耐性(R)は、アルミナ膜に比べて減少しており、耐ファウリング特性が向上していることが示唆された。
【0127】
汚れた(fouled)膜を穏やかな水で洗浄し、洗浄後の膜抵抗(R)を測定した。膜抵抗に対する不可逆的なファウリングと可逆的なファウリングの寄与は、式:Rir=R-R、R=R-Rから特定することができる。図16Cに示されるように、膜ファウリングは主に可逆的ファウリングに起因し、コア-シェル構造膜では可逆的ファウリングと不可逆的ファウリングの両方が低いことがわかった。コア-シェル構造膜の不可逆的ファウリングの割合は、アルミナセラミック膜と比較して10%減少している(図16D)。有機ファウラント(foulants)の多くは疎水性で負電荷を帯びることが知られているため、コア-シェル構造膜の抗有機汚濁特性が大幅に向上したのは、親水性で負電荷のある表面が改善されたためと考えられる。したがって、従来の後修飾と比較して、コア-シェル構造粒子に基づく戦略は、表面特性をうまく設計し、同時に水の透過性を向上させることができる。
【0128】
(まとめ)
本明細書で開示するのは、コア-シェル構造粒子の使用により表面を改質したセラミック膜を作製する新規な戦略である。親水性で負に帯電したSiOナノ層をアルミナ粒子上にコーティングすることに成功し、その後、コア-シェル構造粒子を使用してセラミック膜の最表層を形成し、透過性と耐ファウリング性の改善につながった。コア-シェル粒子の表面電荷はIEPが5.5と強い負電荷であることが確認された。コア-シェル構造膜は、表面の空隙率と親水性が向上した結果、水の透過性が改善された。さらに、コア-シェル構造膜は、膜表面が負に帯電し、親水性が向上したことにより、耐有機ファウリング特性が大幅に改善された。特に、不可逆的なファウリングは10%減少し、メンテナンスコストの低減につながると考えられる。
【0129】
[実施例9:TEOS/Al比を0.6ml/gに固定した、質量スケールの異なるコア-シェル粒子の作製]
以下に述べるように、室温での反応を含むわずかに異なる手順を用いて、3つのコア-シェル粒子のサンプルを作製し、その後TEMで特性評価を行った。TEM像(図18)とシェルの厚み(図19)からわかるように、コア-シェル粒子は、良好な再現性とスケールアップ可能性を備え、室温で作製することができる。
【0130】
サンプル1:Al(1g)を40mlの純水に分散させ、34mlのエタノールと6mlのアンモニア溶液の混合物を加えた後、40℃で10分間連続して攪拌した。その後、TEOSエタノール溶液(15vol%)4mlを滴下し、室温で一晩連続して攪拌した。
サンプル2:Al粉末1gを、エタノール34mlおよびアンモニア溶液6mlに分散させ、40℃で10分間連続して攪拌した。次に、TEOSエタノール溶液(15vol%)4mlを滴下した後、室温で一晩連続して攪拌した。
サンプル3:Al粉末5gを68mlのエタノールに分散させ、その後12mlのアンモニア溶液を添加した。40℃で10分間連続して攪拌した後、純粋なTEOS(3ml)を滴下した。その後、混合物を室温で一晩連続して攪拌した。これは、サンプル2のスケールアップ作製とみなすことができる。
【0131】
次に、上記のサンプルを、5000rpmで3分間遠心分離し、その後、純水で繰り返し洗浄することにより回収した。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8(a)】
図8(b)】
図8(c)】
図8(d)】
図8(e)】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17(a)】
図17(b)】
図18
図19
【国際調査報告】