(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】高密度連続接種の細胞培養方法及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220912BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220912BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10 ZNA
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502552
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 CN2020102258
(87)【国際公開番号】W WO2021008571
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】201910641684.6
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】スン ハイホン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ シーチャン
(72)【発明者】
【氏名】チアン チンイー
(72)【発明者】
【氏名】シー チョンポン
(72)【発明者】
【氏名】リー チエンフォン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ カイソン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA94
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、高密度連続接種の細胞培養方法及びその応用を開示する。前記方法は、(1)細胞培養物を提供し、前記細胞培養物に対して蘇生、振とうフラスコによる増幅培養及びスイング反応バッグによる増幅培養を行うステップと、(2)蘇生及び増幅された細胞を最終段階の細胞増幅槽に移し、増幅培養を続けるステップと、(3)最終段階の細胞増幅槽における細胞を高密度連続接種の方法により培養発酵槽に接種し、発酵培養を行うステップと、(4)目標産物を収穫するステップと、を含む。本発明による高密度連続接種の細胞培養方法により、1バッチ当たりの細胞の継代時間を低減し、細胞及びその発現産物の生産効率を向上させることができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)細胞培養物を提供し、前記細胞培養物に対して蘇生、振とうフラスコによる増幅培養及びスイング反応バッグによる増幅培養を行うステップと、
(2)蘇生及び増幅された細胞を最終段階の細胞増幅槽に移し、増幅培養を続けるステップと、
(3)最終段階の細胞増幅槽における細胞を高密度連続接種の方法により培養発酵槽に接種し、発酵培養を行うステップと、
(4)目標産物を収穫するステップと、を含む、
高密度連続接種の細胞培養方法。
【請求項2】
ステップ(2)中の最終段階の細胞増幅槽にはろ過装置が備えられ、前記ろ過装置により、最終段階の細胞増幅槽における細胞密度が10
7細胞/mLよりも大きくなるように、培地中の非細胞性物質を新鮮な培地と交換することができ、好ましくは、前記ろ過装置は、ATF、Spin filter又はTFFである、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(3)において、前記高密度連続接種とは、10
7細胞/mLよりも大きい密度で培養発酵槽に前記細胞を接種することである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(3)において、前記高密度連続接種とは、最終段階の細胞増幅槽における体積の半分以下の細胞培養液を、10
7細胞/mLよりも大きい密度で培養発酵槽に接種し、接種が完了した後、接種後の翌日に別の新しい培養発酵槽に接種し続けることができるように、最終段階の細胞増幅槽に同じ体積の新鮮な培地を補充し、上述した培養発酵槽への接種、及び最終段階の細胞増幅槽への新鮮な培地の補充という操作を繰り返すことである、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
2バッチに分けてステップ(1)に記載の細胞培養物に対して蘇生、振とうフラスコによる増幅培養及びスイング反応バッグによる増幅培養を行い、そしてステップ(2)で別の最終段階の細胞増幅槽を追加する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(2)に記載の最終段階の細胞増幅槽の体積は、2L~1000Lである、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
哺乳動物細胞の培養における請求項1~6のいずれか1項に記載の方法の応用。
【請求項8】
前記哺乳動物細胞は、CHO、DXB-11、DG-44、CHO/-DHFR、CV1、COS-7、HEK293、BHK、TM4、VERO、HELA、MDCK、BRL3A、W138、Hep G2、SK-Hep、MMT、TRI、MRC5、FS4、T細胞株、B細胞株、3T3、RIN、A549、PC12、K562、PER.C6、SP2/0、NS-0、U20S、HT1080、L929、ハイブリドーマ及びがん細胞株からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする請求項7に記載の応用。
【請求項9】
前記哺乳動物細胞は、CHO-S又はCHO-K1細胞である、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の応用。
【請求項10】
前記哺乳動物細胞は、異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、好ましくは、前記異種タンパク質が抗体であり、より好ましくは、前記抗体がモノクローナル抗体又は二重特異性抗体である、
ことを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権及び関連出願
本願は、2019年7月16日に提出された、「高密度連続接種の細胞培養方法及びその応用」という中国特許出願201910641684.6の優先権を主張し、付録を含むこの出願の全ての内容は、参照により本願に組み込まれている。
【0002】
本発明は、哺乳動物細胞培養の技術分野に関し、具体的には、高密度連続接種の細胞培養方法及びその応用に関する。
【背景技術】
【0003】
数十年の発展を経て、細胞培養技術は、多くの重要なタンパク質(特に複雑な高分子タンパク質)を生産するための成熟した技術になっている。これらのタンパク質は例えば、がん、ウィルス感染、遺伝的欠損疾患や他の慢性疾患のような人間の重度疾患の予防及び治療に使用されることが多い。
【0004】
現在、インビトロ細胞培養モードは主に、バッチ培養(batch culture)、フェッドバッチ培養(fed-batch)及び連続培養(perfusion)の3種類がある。そのうち、バッチ培養とは、一定量の培地を密閉型リアクターに入れた後、微生物菌株を接種して培養する培養方法である。フェッドバッチ培養とは、まず、一定量の培養液をリアクターに入れ、適切な条件下で細胞を接種し、細胞が絶えず成長し、産物が絶えず形成されるように培養し、この過程において栄養素が絶えず消費されることに従って、培養の全体が終了した後に産物が取り出されるまで、細胞がさらに成長して代謝されるように、システムに新しい栄養素を絶えず補充することである。フェッドバッチ培養は、培養環境中の栄養素の濃度を調整することができるとともに、培養過程において、新鮮な培養液の添加により、全過程の反応体積が変化することを特徴とする。バッチ培養及びフェッドバッチ培養と比べて、連続培養(又はオープン培養、灌流培養とも呼ばれる)は、生産上で持続性を有し、培養して得られた細胞の密度が高く、最終産物の均一性が良いといったその独特な優位性のため、ますます注目されて普及されてきた。
【0005】
連続培養は近年、哺乳動物細胞を培養してモノクローナル抗体、キメラ抗体及びヒト化抗体などの遺伝子工学抗体のような分泌型組換え治療薬を生産するための、推奨される培養方法である。連続培養とは、細胞を培地とともにリアクターに入れた後、細胞増殖及び産物形成の過程において、馴化培地の一部を絶えず取り出すと同時に、新しい培地を絶えず灌流することである。その最も大きな利点は、(1)細胞は栄養素に富んだ培養環境に存在することができ、有害な代謝廃棄物の濃度が低く、(2)細胞密度が高く、一般的に107~108cells/mLに達することができるため、目標製品(モノクローナル抗体など)の収率が大きく向上し、(3)この方法で培養された細胞の密度が大きく、生存時間が長いため、目標製品の回収率が高く、(4)目標製品の培養発酵槽における滞留時間が短く、即時回収して低温下で保存することができるため、目標製品の活性を維持することに役立つことである。
【0006】
振とうフラスコ及びリアクターを使用した連続的・段階的な培養は、典型的な細胞増幅プロセスである。細胞培養体積及び細胞密度が所望のレベルに達した時、細胞を培養発酵槽に接種して培養・発現を行う。従来の工程(
図1を参照)において、細胞は蘇生の開始から培養発酵槽への接種まで、一般的に約19日間(D0~D19)が必要で、生産時間は約15日間が必要である(即ち、培養発酵槽での生産時間は約15日間である)ため、総細胞培養時間は約34日間となる。目的タンパク質を大量に生成するに先立ち、細胞は、培養発酵槽において約7日間かかって適当な密度に達する必要がある。従って、最初の7日間は成長期間と呼ばれ、最後の8日間は発現期間と呼ばれる。通常の接種密度よりも10倍高い接種密度で培養発酵槽に接種すると、成長期間を大幅に短縮することができ、細胞はより短い時間でこの前15日間の収率に達することが可能になり、この技術は高密度接種と呼ばれる。しかし、現在、バイオ医薬品分野において、高密度接種技術は広く適用されておらず、その最も重要な理由として、従来の最終段階の細胞増幅槽(N-1シード槽とも呼ばれる)は、それほど大量の細胞を提供することができないからである。
【0007】
CN108641960Aは、培養槽、撹拌機構、通気機構、フェッド機構、収穫装置及び排気装置を含む多目的バイオリアクターを開示したが、このリアクターは培養細胞によって、バイオリアクターにおける関連モジュールアセンブリを交換し、様々な細胞の培養ニーズを満たすことができ、バイオ医薬品業界での大規模な高密度細胞培養及び目標産物の発現に広く適用することができる。CN108949558Aは、植物細胞の高密度培養に使用されるドラム型中空繊維リアクターを開示したが、前記リアクターは、細胞培養時に、混合性に優れ、せん断力が低く、かつ省エネルギーであり、また、前記リアクターは、ドラムの回転によりチャンバー内の流体の流れを駆動することで、細胞の緊密な凝集を大きく低減してその溶存酸素を改善し、膜の物質移動透過性を改善することができ、細胞の成長と代謝に役立ち、高密度細胞培養に有利である。CN109576212Aは、高密度接種培養におけるシード細胞の培養方法を開示したが、この方法は、N-1シード培養後及びその後の増幅培養において、フェッドバッチ培養(fed-batch)によって生細胞の密度を増加させる。この文献に記載されるフェッド流加培養方法において、物質の総量は絶えず増加し、代謝産物及び細胞発現の目的タンパク質は絶えず累積し、細胞破片も絶えず増加しており、細胞培養環境の最適な状態を維持することができないため、シード培地の密度を向上させることが困難である。
【0008】
大規模な生産条件(通常、1000Lよりも大きい)で、培養発酵槽は、開始の「シード」として一定量の細胞が必要となり、細胞培養体積及び細胞密度が所定の基準に達すると、細胞はバイオリアクターに移されて成長し続け、産物を発現する。ところが、この部分の細胞は、必要な密度要求に達するために、多段階で漸進的に増幅しなければならない。従来の工程において、増幅は、細胞の蘇生から始まり、それから、連続継代培養によって細胞を増幅させ、選択される培養デバイスは振とうフラスコ、WAVE波型バイオリアクター及び撹拌型リアクターなどを含む。従来の工程を選択して細胞培養を行う場合、細胞増幅段階は時間が長くかかり、効率が低く、バイオ製品に対する将来の市場需要が増えつつあるにつれて、効率が良くて時間が省ける新しい増幅工程を確立することが迫っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術に存在する問題について、本願は、1バッチ当たりの細胞の継代時間を低減し、細胞及びその発現産物の生産効率を向上させることができる高密度連続接種の細胞培養方法及びその応用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した従来の技術に存在する問題を鑑み、深く研究して試験を繰り返したが、細胞増幅工程の最適化により、細胞の1バッチ当たりの継代時間を短縮することで、本発明を完成した。即ち、本発明は、下記の通りである。
【0011】
本発明的第1態様は、
(1)細胞培養物を提供し、前記細胞培養物に対して蘇生、振とうフラスコによる増幅培養及びスイング反応バッグによる増幅培養を行うステップと、
(2)蘇生及び増幅された細胞を最終段階の細胞増幅槽に移し、増幅培養を続けるステップと、
(3)最終段階の細胞増幅槽における細胞を高密度連続接種の方法により培養発酵槽に接種し、発酵培養を行うステップと、
(4)目標産物を収穫するステップと、を含む、
高密度連続接種の細胞培養方法を提供する。
【0012】
そのうち、ステップ(2)中の最終段階の細胞増幅槽にはろ過装置が備えられ、前記ろ過装置により、最終段階の細胞増幅槽における細胞密度が107細胞/mLよりも大きくなるように、培地中の非細胞性物質を新鮮な培地と交換することができ、好ましくは、前記ろ過装置は、ATF、Spin filter又はTFFである。
【0013】
さらに、ステップ(3)において、前記高密度連続接種とは、107細胞/mLよりも大きい密度で培養発酵槽に前記細胞を接種することである。本発明の具体的な実施形態において、ステップ(3)において、前記高密度連続接種とは、最終段階の細胞増幅槽における体積の半分以下の細胞培養液を、107細胞/mLよりも大きい密度で培養発酵槽に接種し、接種が完了した後、接種後の翌日に別の新しい培養発酵槽に接種し続けることができるように、最終段階の細胞増幅槽に同じ体積の新鮮な培地を補充し、上述した培養発酵槽への接種、及び最終段階の細胞増幅槽への新鮮な培地の補充という操作を繰り返すことである。
【0014】
具体的には、本発明による高密度連続接種の細胞培養方法の初期段階の継代工程は従来の方法に一致するが、細胞をN-1シード槽で3日間培養した後、多くとも体積の半分の細胞培養液を取って培養発酵槽に接種し、そして同じ体積の新鮮な培地を補充し、CHO細胞の倍加時間が約24時間であるため、本発明の方法によれば、翌日になると、新しい培養発酵槽の接種のための密度が近いシード細胞を得ることができ、このように類推する。細胞安定性データにより規定された最大培養日数(B)によると、N-1シード槽は、一定期間(<B)での連続培養及び連続接種を達成することができ、時間とコストを大幅に節約することができる。本発明による高密度連続接種の細胞培養方法は、灌流培養工程により、まず、N-1シード槽のシード密度を増加させてから、接種してもよい。
【0015】
本発明の第2態様は、前記第1態様の高密度連続接種の細胞培養方法を改善したもので、即ち、前記第1態様に基づき、2バッチに分けてステップ(1)に記載の細胞培養物に対して蘇生、振とうフラスコによる増幅培養及びスイング反応バッグによる増幅培養を行い、そしてステップ(2)で別の最終段階の細胞増幅槽を追加する。
【0016】
具体的には、本発明の第1態様による技術案における、N-1シード槽の最大培養日数が細胞安定性の不足により制限されるという欠陥をさらに解決するために、1バッチの細胞がC日間蘇生した後(Cは継代安定性により規定された最大日数よりも小さい)、第2バッチの細胞を蘇生させ、細胞をN-1シード槽において本発明の第1態様による培養の培養方法でC日間培養すれば、槽から取り出すことができる。この時、第2バッチのシードのN-1シード槽での準備が完了し、培養発酵槽に接種を続けることができる。前記培養方法は、灌流培養工程により、まず、N-1シード槽のシード密度を増加させてから、接種してもよい。
【0017】
本発明の第1態様及び第2態様による高密度連続接種の細胞培養方法は、ステップ(2)に記載される最終段階の細胞増幅槽の体積が2L~1000Lであることを特徴とする。
【0018】
具体的な実施形態において、本発明による高密度連続接種の細胞培養方法は、2L~10Lの段階で使用されるリアクター槽本体の加熱タイプが、ガラス槽加熱パッドによる加熱であり、底部通気端は環状の気孔又は直通の微気孔であり、250L及び1000Lの場合には、ステンレス鋼槽本体の水充填ジャケットによる加熱が用いられ、培養液が、ステンレス鋼槽と接触することなく、使い捨ての培養バッグに充填される。各仕様でのリアクター槽は、いずれも市販されているサードパーティ製品である。本発明による高密度連続接種の細胞培養方法が工場の実際の生産に適用される場合に、体積が1000Lの使い捨て反応バッグや体積が3000L以上のステンレス鋼リアクターなど、体積が1000L以上の培養容器を使用してもよい。
【0019】
本発明の第3態様は、哺乳動物細胞の培養における前記高密度連続接種の細胞培養方法の応用を提供する。
【0020】
そのうち、前記哺乳動物細胞は、CHO、DXB-11、DG-44、CHO/-DHFR、CV1、COS-7、HEK293、BHK、TM4、VERO、HELA、MDCK、BRL3A、W138、Hep G2、SK-Hep、MMT、TRI、MRC5、FS4、T細胞株、B細胞株、3T3、RIN、A549、PC12、K562、PER.C6、SP2/0、NS-0、U20S、HT1080、L929、ハイブリドーマ及びがん細胞株からなる群から選ばれる。好ましくは、前記哺乳動物細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞のCHO-S細胞株又はGS欠損発現システムのCHO-K1細胞である。
【0021】
具体的な実施形態において、前記哺乳動物細胞は、異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、好ましくは、前記異種タンパク質が抗体であり、より好ましくは、前記抗体がモノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の試験結果から分かるように、本発明の技術案は従来技術と比べて、以下の有益な効果がある。
【0023】
1、本発明は、従来の工程に基づき、細胞増幅槽における細胞増幅方法を改良し、特に、最終段階の細胞増幅槽(即ち、N-1シード槽)における細胞増幅方法を最適化し、連続培養技術により、十分な細胞が得られるようにN-1シード槽を高密度にして、高密度で培養発酵槽の接種を行うことで、生産サイクルが短縮され、コストが削減される。従来の細胞接種は密度が低く(通常、106cells/mL以下)、最高密度に達して高収率段階に入るには、接種後約7日間が必要である。本発明に記載の高密度接種(107cells/mLを超える)技術によると、細胞はより速く高収率密度に達することができ、生産時間が大幅に短縮され、生産効率が向上する。
【0024】
2、本発明は、新鮮な培地をN-1シード槽に補充して培養を続けることによって、N-1シード槽が翌日に培養発酵槽に接種を続けることができる。2番目の培養発酵槽は、細胞増幅時間が1日間しかなく、従来の細胞培養方法(シードの蘇生から培養発酵槽への接種まで約19日間が必要である)と比べて、細胞培養周期が極めて大きく短縮される。本発明の方法によれば、N-1シード槽を使用して6日間連続で6個の培養発酵槽に接種し、全収率が同じである条件で、合計で90日間のシード増幅時間及び42日間の生産時間を節約することができる。また、1つのN-1シード槽は、培養発酵槽に数日間連続で接種することができるため、理論的に、本発明の方法は1日1バッチの生産効率を達成することができ、最終的に1日に1バッチを収穫することが達成される。従って、生産効率が大幅に向上し、コストが削減される。
【0025】
3、本発明は、連続培養方法をN-1シード槽の細胞増幅に適用し、連続培養環境での代謝物、細胞破片と生産されたタンパク質などの非細胞性物質を、絶えずろ過装置(例えば、ATF、Spin filter及びTFFなど)を通過させて新鮮な培地と交換することにより、最適な細胞培養環境が保たれ、シード培地の密度が向上する。
【0026】
4、N-1シード槽を1つ追加することにより、本発明による高密度連続接種の細胞培養方法は同様に、安定性の低い宿主細胞の培養及び目標タンパク質の発現に適用される。
【0027】
5、本発明による高密度連続接種の細胞培養方法に使用される各仕様(2L~1000L)のリアクター槽は、いずれも市販されているサードパーティ製品であり、前記培養方法は、実験室や生産作業場で実施されやすい。
【0028】
本発明の上記と他の目的、特徴及び利点がより明確で容易に理解されるように、以下、特に好ましい実施例を挙げ、図面に合わせて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2-1】
図2-1はINGLP二重特異性抗体の構造模式図であり、
図2-2はINGLP二重特異性抗体の具体的な構造図である。
【
図3】ADI-31853モノクローナル抗体を安定的に発現可能なCHO細胞の、ATF灌流デバイスにより2LのApplikonリアクターにおいてシードの増幅が行われた細胞生存率(VIB)、生細胞密度(VCD)の経時的なグラフを示す。
【
図4】高密度接種(20×10
6細胞/mL、「20接種」と略称)及び通常の流加培養接種(fed-batch)の、ADI-31853モノクローナル抗体を安定的に発現したCHO生細胞密度の経時的なグラフを示す。
【
図5】高密度接種(20×10
6細胞/mL、「20接種」と略称)及び通常の流加培養接種(fed-batch)の、ADI-31853モノクローナル抗体を発現したCHO細胞の発現量の経時的なグラフを示す。
【
図6】INGLP二重特異性抗体を安定的に発現可能なCHOシード細胞の、Sartorius RM20リアクターにより10Lの培養バッグにおいてシード増幅が行われた細胞生存率(VIB)、生細胞密度(VCD)の経時的なグラフを示す。
【
図7】2種類の異なる高密度接種(それぞれ10×10
6細胞/mLと20×10
6細胞/mLで、それぞれ「10接種」と「20接種」と略称)及び通常の流加培養接種(fed-batch)の、INGLP二重特異性抗体を安定的に発現したCHO生細胞密度の経時的なグラフを示す。
【
図8】2種類の異なる高密度接種(それぞれ10×10
6細胞/mLと20×10
6細胞/mLで、それぞれ「10接種」と「20接種」と略称)及び通常の流加培養接種(fed-batch)の、INGLP二重特異性抗体を発現したCHO細胞の発現量の経時的なグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、具体的な実施形態により本発明の技術案をさらに説明する。本発明は、例示される具体的な実施形態に限定されないと強調すべきである。さらに、本明細書に使用されるあらゆる章のタイトルは、組織的な目的のために過ぎず、説明される主旨を制限すると解釈されるべきではない。
【0031】
ここで別途定義がない限り、本発明と組み合わせて使用される科学・技術用語は、当業者により一般的に理解されている意味を有する。さらに、文脈で別途要求がない限り、単数形の用語には複数形が含まれ、複数形の用語には単数形が含まれるべきである。より具体的には、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、文脈で別途説明がない限り、単数形「1」、「1つ」及び「この」には、複数の指示対象が含まれる。本願において、別途説明がない限り、「又は」を使用する場合には、「及び/又は」を意味する。さらに、用語「含む」及びその他の形(「含まれる」、「含有」など)を使用する場合は、限定的ではない。さらに、明細書及び添付の特許請求の範囲に提供される範囲は、エンドポイントとブレークポイントとの間のすべての値を含む。
【0032】
定義
「約」、「おおよそ」:本明細書で使用される用語「約」及び「おおよそ」は、1種又は複数種の細胞培養条件を有する場合に使用される時、前記培養条件で指定された参照値と類似する一連の値を指す。いくつかの実施例において、用語「約」は、前記培養条件で指定された参照値の25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれよりも小さい範囲における一連の値を指す。
【0033】
本明細書における用語「翌日」は、接種後24時間目から48時間目までという時間範囲での任意の時間を指す。
【0034】
「培地」は、細胞と直接接触し、細胞の生存のために依存する液体環境を指し、様々な栄養素及び緩衝系の集まりである。
【0035】
哺乳動物細胞
本明細書において、「哺乳動物細胞」は、製薬産業の生産では、生産条件に従って選択・馴化された、生物製剤を生産・調製するための哺乳動物由来の細胞株を指し、その表現したタンパク質の翻訳後修飾は、タンパク質の生物学的活性、安定性及び抗原性の維持にメリットがある。多くの細胞株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)などの商業的供給源から入手することができる。本発明の哺乳動物細胞に使用可能な非限定的な例は、CHO、DXB-11、DG-44、CHO/-DHFR、CV1、COS-7、HEK293、BHK、TM4、VERO、HELA、MDCK、BRL3A、W138、Hep G2、SK-Hep、MMT、TRI、MRC5、FS4、T細胞株、B細胞株、3T3、RIN、A549、PC12、K562、PER.C6、SP2/0、NS-0、U20S、HT1080、L929、ハイブリドーマ及びがん細胞株からなる群を含む。少なくとも一つの実施例において、前記哺乳動物細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞のCHO-S細胞株又はGS欠損発現システムのCHO-K1細胞である。
【0036】
異種タンパク質
本明細書における「異種タンパク質」は、遺伝子工学の範囲内で宿主細胞以外の目的タンパク質をコードする遺伝子を指し、DNA組換え技術を利用して、宿主細胞を効果的に増幅及び発現することによって、実用的価値のあるタンパク質を生産する。前記異種タンパク質は当該分野で知られているものであり、商業的供給源から入手し、又は、当該分野で知られている方法により得ることができる。少なくとも一つの実施例において、前記異種タンパク質はFc融合タンパク質、抗体又は酵素であり、場合により、前記抗体はモノクローナル抗体又は二重特異性抗体であり、前記モノクローナル抗体は、CHO-K1細胞による異種発現に適する任意のモノクローナル抗体であってもよく、IgG、IgAモノクローナル抗体を含むが、これらに限定されない。本明細書における「二重特異性抗体」は、2つの抗原結合部位を有する抗体を指し、前記2つの抗原結合部位の各抗原結合部位は、同じ抗原の異なるエピトープ、又は、異なる抗原の異なるエピトープに結合する。一実施形態において、前記「二重特異性抗体」は、第1抗原及び第2抗原に対する結合特異性を有する。
【0037】
少なくとも一つの実施例において、前記酵素は、治療薬用の酵素である薬用酵素を指し、グルコシダーゼ、リパーゼなどを含むが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の実施例に記載の使用される前記宿主細胞はCHO-K1細胞であり、通常の分子生物学的手段によってADI-31853モノクローナル抗体及びINGLP二重特異性抗体(BsAb)をコードする核酸分子を前記宿主細胞に導入し、安定的な発現細胞株をスクリーニングする。本実施例で使用される実験器具及び実験試薬は、いずれも市場から購入して得ることができ、具体的な情報は下記の通りである。
【0039】
【0040】
【0041】
そのうち、前記ADI-31853モノクローナル抗体(抗LAG3抗体とも呼ばれる)の重鎖(HC)と軽鎖(LC)のアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:1とSEQ ID NO:2である。
【0042】
前記INGLP二重特異性抗体(抗LAG3/PDL1抗体とも呼ばれる)の構造模式図は
図2-1に示される通りであり、そのうち、前記抗原AはLAG-3で、前記抗原BはPD-L1であり、フレキシブルリンカー(配列がGGGGSGGGGSである)により、抗LAG-3モノクローナル抗体を抗PD-L1単一領域抗体(single domain antibody;sdAb)の重鎖可変領域ドメイン(VHH)に接続することで、左右に対称する二重特異性抗体(左右にはいずれもペプチド鎖#1とペプチド鎖#2が含まれる)が構成され、前記抗体の具体的な構造は
図2-2に示される通りである。そのうち、前記ペプチド鎖#1とペプチド鎖#2のアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:3とSEQ ID NO:4である。
【実施例】
【0043】
実施例1 ADI-31853モノクローナル抗体の生産における高密度接種の細胞培養方法の応用
【0044】
ADI-31853モノクローナル抗体を安定的に発現したCHO-K1細胞を試験材料として、下記の方法で抗体を生産したが、この抗体を生産する上流工程は、シードの蘇生、振とうフラスコによる増幅、スイング反応バッグによる増幅、N-1シード槽による生産及び培養発酵槽による生産である。2Lのバイオリアクターでの生産工程を例にする。
【0045】
まず、前記シード細胞を37℃の水浴釜で融解し、それからCD CHO培地を含む振とうフラスコに入れて増幅させた。シードの蘇生培養条件は、36.5℃、130rpm、6%のCO2で、3日間培養した。振とうフラスコによる増幅工程は、0.5×106cells/mLで接種し、培養条件は、36.5℃、130rpm、6%のCO2で、12日目まで3日ごとに段階的に増幅させた。
【0046】
上記操作を経て、ADI-31853モノクローナル抗体を安定的に発現可能なCHOシード細胞を約1.0×10
6cells/mLの細胞密度でATF灌流デバイス(開口幅30kDで、細胞を捕集した)が備えられるApplikonの2LのEzcontrolリアクターに接種し、培養体積は1.2Lで、培地は、5%のFeed C+/483培養液と混合したDynamisであった。前記CHOシード細胞のN-1シード槽における細胞生存率(VIB)及び生細胞密度(Viable Cell Density、VCD)の経時的なグラフは、
図3に示す通りである。
【0047】
N-1シード槽で8日目に培養した時に、生細胞の密度は60×106cells/mLよりも大きく達し、十分な(N-1シード培養槽の体積の半分以下)シード細胞液を取り出し、2Lのリアクターにおいて20×106cells/mLの密度で接種し、高密度流加培養を実現した。同時に、初回のフェッド時間と降温時間を3日目から1日目に早め、温度を33.0℃に低下させた。通常の流加培養モード(fed-batch)に用いられるフェッド量のままにして、N-1シード槽における培地成分が安定した状態に維持されるように、フェッド材料を一定の速度で2日間に絶えずN-1シード槽に加える連続フェッド方法を採用した。接種密度を20倍向上させたので、接種した後の細胞の培養発酵槽における倍増成長時間を明らかに短縮し、細胞が従来の流加工程(即ち、一括フェッド方法)よりも早く高密度段階に入り込んでタンパク質を優先的に発現するように促進し、モノクローナル抗体の生産時間が流加培養での15日間から約8日間に短縮されるようにすることができ、生産効率が向上した。
【0048】
本発明に記載の高密度接種の細胞培養方法によるメリットをさらに説明するために、以下の試験も行った。2Lのリアクターにそれぞれ20×10
6cells/mLの高密度と通常の流加培養で使用される1×10
6cells/mLの密度で接種し、異なる開始接種密度の細胞生存率及び生細胞密度への影響を比較したが、具体的な試験結果は
図4を参照する。上記の異なる接種密度の条件下で、CHOシード細胞のタンパク質の発現量の経時的傾向を測定したが、具体的な試験結果は
図5を参照する。
【0049】
図4及び
図5の結果から分かるように、(1)ATF灌流デバイスによって、ADI-31853モノクローナル抗体を安定的に発現したCHOシード細胞が高い細胞密度に達することを実現することができ、細胞の状態を良く維持することができる(
図4を参照)、(2)高密度接種流加を選択した後、7~8日目に通常の流加培養による15日間の発現量が達成され、培養周期が短縮された(
図5を参照)。
【0050】
実施例2 INGLP二重特異性抗体の生産における高密度連続接種の細胞培養方法の応用
【0051】
INGLP二重特異性抗体を安定的に発現したCHO-K1細胞を試験材料として、下記の方法で抗体を生産したが、この抗体を生産する上流工程は、シードの蘇生、振とうフラスコによる増幅、スイング反応バッグによる増幅、N-1シード槽による生産及び培養発酵槽による生産である。2Lのバイオリアクターでの生産工程を例にする。
【0052】
まず、前記シード細胞を37℃の水浴釜で融解し、それからCD CHO培地を含む振とうフラスコに入れて増幅させ、シードの蘇生の培養条件は、36.5℃、130rpm、6%のCO2で、3日間培養した。振とうフラスコによる増幅工程は、0.5×106cells/mLで接種し、培養条件は、36.5℃、130rpm、6%のCO2で、12日目まで3日ごとに段階的に増幅させた。
【0053】
Sartorius RM20リアクターで10Lと示された培養バッグが搭載され、培養バッグの底部に、培養液をろ過して細胞を捕集するためのフィルター膜(0.2μm)が備えられ、培地は、5%のFeed C+/483培養液と混合したDynamisである。N-1シード槽に接種すべきCHOシード細胞の密度が約80×10
6cells/mLになるように培養した。前記CHOシード細胞のN-1シード槽における細胞生存率(VIB)及び生細胞密度(Viable Cell Density、VCD)の経時的なグラフは、
図6に示す通りである。
【0054】
図6の生細胞密度の曲線から分かるように、細胞培養の8日目に、N-1シード槽における生細胞密度は79.37×10
6cells/mLに達した。この時、N-1シード槽から5Lの細胞培養液を取り出して培養発酵槽に接種し、接種完了後にN-1シード槽に5Lの新鮮な培地を補充して細胞増幅培養を続けた。細胞増幅培養の9日目に、N-1シード槽における生細胞密度は85.68×10
6cells/mLに達すると、別の新しい培養発酵槽に改めて接種することができる。
【0055】
本発明に記載の高密度連続接種の細胞培養方法のメリットをさらに説明するために、以下の試験も行った。N-1シード槽におけるCHOシード細胞の生細胞密度が約80×106cells/mLになるように培養した時、それぞれ10×106cells/mL及び20×106cells/mLの細胞密度で培養体積が1.2Lである2つのSartorius BiostatAの2Lのリアクターに接種し、初期培養温度は36.5℃とし、細胞密度が約25×106cells/mLに達すると、33.0℃まで降温した。フェッド方法:D5日前に、経時的な生細胞密度の積分(IVCC)によって過去の流加培養フェッド量とマッチングし、1日おきに流加した。D5日後に、収率が対照流加培養(即ち、通常の流加培養モード(fed-batch))での収穫に相当するようになるまで、約2.8%(v/v)のフェッド材料を1日おきに追加した。
【0056】
Sartorius BiostatAの2Lのリアクターに、それぞれ10×10
6cells/mL、20×10
6cells/mLの高密度と通常の流加培養に使用される1×10
6cells/mLの密度で接種し、異なる開始接種密度の細胞生存率及び生細胞密度への影響を比較したが、具体的な試験結果は
図7を参照する。上記の異なる接種密度の条件で、CHOシード細胞のタンパク質の発現量の経時的傾向を測定したが、具体的な試験結果は
図8を参照する。
【0057】
図7及び
図8の結果から分かるように、(1)RM20で細胞を捕集する灌流培養により、INGLP二重特異性抗体を安定的に発現したCHO細胞が高い細胞密度に達することを実現することができ、細胞の状態を良く維持することができ(
図7を参照)、(2)20×10
6cells/mL及び10×10
6cells/mLの高密度接種流加を選択した後、それぞれ8日目と10日目に通常の流加培養による15日間の発現量が達成され、培養周期が短縮された(
図8を参照)。
【0058】
以上、本発明の具体的な実施例を詳しく説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、本発明は、上述した具体的な実施例に限定されない。当業者にとっては、当該実施例に対して行われた何れの同等の修正や置換も、本発明の範囲内に含まれる。従って、本発明の精神や範囲から逸脱することなく、行われた同等の変換や修正は、いずれも本発明の範囲内に含まれるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】