(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】マルチパス通信システムにおける伝播角度推定
(51)【国際特許分類】
H04L 27/26 20060101AFI20220912BHJP
G06N 3/04 20060101ALI20220912BHJP
G06N 3/08 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
H04L27/26 320
G06N3/04
G06N3/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502597
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(85)【翻訳文提出日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 US2020037160
(87)【国際公開番号】W WO2021011130
(87)【国際公開日】2021-01-21
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507364997
【氏名又は名称】サイプレス セミコンダクター コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Cypress Semiconductor Corporation
【住所又は居所原語表記】198 Champion Court, San Jose, CA 95134, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エイダン スミス
(72)【発明者】
【氏名】キラン ウルン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクター シミレイスキー
(72)【発明者】
【氏名】カメシュ メダパリ
(57)【要約】
システムは、マルチキャリアのマルチアンテナ通信システムにおいて周波数依存性のチャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックを受信するように構成された送受信機と、当該送受信機に結合されており、チャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックの表現を用いてマルチパス反射のパラメータを推定し、かつ送受信機についての送信補正係数を生成するように構成された多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワークコンポーネントとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、前記システムは、
マルチキャリアのマルチアンテナ通信システムにおいて周波数依存性のチャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックを受信するように構成された送受信機と、
前記送受信機に結合されており、前記チャネル推定値または前記ビームフォーミングフィードバックの表現を用いてマルチパス反射のパラメータを推定し、かつ、前記送受信機の送信補正係数を生成するように構成された多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(FFNN)コンポーネントと、
を備えたシステム。
【請求項2】
前記システムは、
前記送受信機および前記FFNNに結合されたプロセッサと、
前記プロセッサおよび前記FFNNに結合されたメモリと、
をさらに備え、
前記プロセッサは、前記チャネル推定値から、複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列H行列振幅および位相データを抽出し、または、前記ビームフォーミングフィードバックから、前記複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列V行列振幅および位相データを抽出するように構成されており、nは、前記通信システムにおける送信アンテナの数であり、mは、前記通信システムにおける受信アンテナの数であり、mとnとの積は、前記通信システムにおけるチャネルの数であり、
前記メモリは、前記FFNNについての重み、バイアスおよび活性化関数を格納し、前記マルチパス反射の推定パラメータを格納し、
前記プロセッサは、前記マルチパス反射の推定パラメータに基づいて送信チャネルの位相および振幅を調整するようにさらに構成されている、
請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサ、前記FFNN、前記メモリおよび通信バスは、システムオンチップ(SOC)を備える、
請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記送受信機、前記プロセッサ、前記FFNNおよび前記メモリは、IEEE802互換Wi-Fi(登録商標)アクセスポイントを備える、
請求項2記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、さらに、前記H行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいて前記H行列データをI/Q平面における周波数依存性のHスピログラフに変換し、または、前記V行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいて前記V行列データを前記I/Q平面における周波数依存性のVスピログラフに変換するように構成されている、
請求項2記載のシステム。
【請求項6】
前記FFNNは、各キャリア周波数におけるHスピログラフの同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信し、前記Hスピログラフの特性に基づいて、有効伝播角度、各チャネルの有効チャネル減衰、および各チャネルの有効チャネル遅延を出力するように構成されており、
前記FFNNは、各キャリア周波数におけるVスピログラフの同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信し、かつ前記Vスピログラフの特性に基づいて、選択された基準チャネルに対する、有効伝播角度、および各チャネルの相対遅延および相対減衰を出力するように構成されている、
請求項5記載のシステム。
【請求項7】
マルチパス反射のないチャネルについてのHスピログラフは、前記送受信機のフロントエンドにおけるアナログチェーン不整合および前記チャネルの照準線(LOS)伝播角度によって決定される位置を有するI/Q平面における単一の点を有する、
請求項5記載のシステム。
【請求項8】
1つのマルチパス反射を有するチャネルについてのHスピログラフは、中心、半径、および均一に離間されたキャリア周波数点を有する弧スパンを有するI/Q平面における円弧を有し、
前記円弧の中心の位置は、前記送受信機のフロントエンドにおけるアナログチェーン不整合および照準線(LOS)伝播角度によって決定され、
前記円弧の半径は、LOS信号に対する前記マルチパス反射の大きさによって決定され、
前記円弧のスパンは、前記LOS信号に対する前記マルチパス反射の位相、および前記LOS信号に対する前記マルチパス反射の伝播角度によって決定される、
請求項5記載のシステム。
【請求項9】
1つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについてのHスピログラフは、回転および並進のもとで合同である、
請求項8記載のシステム。
【請求項10】
マルチパス反射のないチャネルについてのVスピログラフは、前記送受信機のフロントエンドにおけるアナログチェーン不整合および照準線(LOS)伝播角度によって決定される位置を有するI/Q平面における単一の点を有する、
請求項5記載のシステム。
【請求項11】
1つのマルチパス反射を有するチャネルについてのVスピログラフは、中心、半径、および不均一に離間されたキャリア周波数を有する弧スパンを有するI/Q平面における円弧を有し、
前記円弧の中心の位置、前記円弧の半径および前記円弧のスパンは、前記送受信機のフロントエンドにおけるアナログチェーン不整合、前記チャネルの照準線(LOS)伝播角度、LOS信号に対する前記マルチパス反射の大きさ、前記LOS信号に対する前記マルチパス反射の位相によって、および前記LOS信号に対する前記マルチパス反射の伝播角度によって決定される、
請求項5記載のシステム。
【請求項12】
選択された基準チャネルに対する、1つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについてのVスピログラフは、並進、回転および半径方向スケーリングのもとで類似している、
請求項11記載のシステム。
【請求項13】
2つまたはより多くのマルチパス反射を有するチャネルについてのHスピログラフは、前記I/Q平面における複合ハイポサイクロイドを有する、
請求項5記載のシステム。
【請求項14】
2つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについてのHスピログラフは、1回の並進および1回の回転のもとで合同である、
請求項13記載のシステム。
【請求項15】
2つのマルチパス反射を有するチャネルについてのVスピログラフは、前記I/Q平面における非対称トレースを有し、選択された基準チャネルに対する、2つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについてのVスピログラフは、スケーリング、回転およびリサンプリングのもとで類似している、
請求項5記載のシステム。
【請求項16】
方法であって、
マルチキャリアのマルチアンテナ通信システムにおける送受信機において、複数のキャリア周波数についてのチャネル推定値およびビームフォーミング推定値のうちの1つを受信するステップと、
多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(FFNN)により、前記チャネル推定値または前記ビームフォーミングフィードバックの表現を用いてマルチパス反射のパラメータを推定するステップと、
マルチパス反射の推定パラメータに基づいてチャネル送信の位相および振幅を調整するステップと、
を含む方法。
【請求項17】
前記方法は、
前記チャネル推定値から、プロセッサにおいて、複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列H行列振幅および位相データを抽出するステップ、または
前記ビームフォーミングフィードバックから、前記複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列V行列振幅および位相データを抽出するステップ
をさらに含み、
nは、前記通信システムにおける送信アンテナの数であり、mは、前記通信システムにおける受信アンテナの数であり、mとnとの積は、前記通信システムのチャネル数であり、
前記プロセッサおよび前記FFNNに結合されたメモリに、前記FFNNについての重み、バイアスおよび活性化関数が格納され、前記マルチパス反射の推定パラメータが格納される、
請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、前記プロセッサにおいて、前記H行列データを、前記H行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいてI/Q平面における周波数依存性のHスピログラフに変換するステップ、または、前記V行列データを、前記V行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいて前記I/Q平面における周波数依存性のVスピログラフに変換するステップをさらに含む、
請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記方法は、前記FFNNにおいて、各キャリア周波数におけるHスピログラフの同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信し、前記Hスピログラフの特性に基づいて、有効伝播角度、各チャネルの有効チャネル減衰、および有効チャネル遅延を出力するステップ、または
前記FFNNにおいて、各周波数におけるVスピログラフの同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信し、前記Vスピログラフの特性に基づいて、選択された基準チャネルに対する、有効伝播角度および各チャネルの相対遅延および相対減衰を出力するステップ
をさらに含む、
請求項18記載の方法。
【請求項20】
マルチパス反射のないチャネルについてのHスピログラフは、前記送受信機のフロントエンドのアナログチェーン不整合および前記チャネルの照準線(LOS)伝播角度によって決定される位置を有するI/Q平面における単一の点を有する、
請求項18記載の方法。
【請求項21】
1つのマルチパス反射を有するチャネルについてのHスピログラフは、中心、半径、および均一に離間されたキャリア周波数点を有する弧スパンを有するI/Q平面における円弧を有し、
前記円弧の中心の位置は、前記送受信機のフロントエンドにおけるアナログチェーン不整合および照準線(LOS)伝播角度によって決定され、
前記円弧の半径は、LOS信号に対する前記マルチパス反射の強さによって決定され、
前記円弧のスパンは、前記LOS信号に対する前記マルチパス反射の位相、および前記LOS信号に対する前記マルチパス反射の伝播角度によって決定される、
請求項18記載の方法。
【請求項22】
1つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについてのHスピログラフは、回転および並進のもとで合同である、
請求項21記載の方法。
【請求項23】
マルチパス反射のないチャネルについてのVスピログラフは、前記送受信機のフロントエンドのアナログチェーン不整合および照準線(LOS)伝播角度によって決定される位置を有する前記I/Q平面における単一の点を有する、
請求項18記載の方法。
【請求項24】
1つのマルチパス反射を有するチャネルについてのVスピログラフは、中心、半径および不均一に離間されたキャリア周波数を有する弧スパンを有するI/Q平面における円弧を有し、
前記円弧の中心の位置、前記円弧の半径、および前記円弧のスパンは、前記送受信機のフロントエンドにおけるアナログチェーン不整合、前記チャネルの照準線(LOS)伝播角度、LOS信号に対する前記マルチパス反射の強度、前記LOS信号に対する前記マルチパス反射の位相によって、および前記LOS信号に対する前記マルチパス反射の伝播角度によって決定される、
請求項18記載の方法。
【請求項25】
選択された基準チャネルに対する、1つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについてのVスピログラフは、並進、回転および半径方向スケーリングのもとで類似する、
請求項24記載の方法。
【請求項26】
2つのマルチパス反射を有するチャネルについてのHスピログラフは、前記I/Q平面における複合ハイポサイクロイドを有する、
請求項18記載の方法。
【請求項27】
2つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについてのH行列スピログラフは、1回の並進および1回の回転のもとで合同である、
請求項26記載の方法。
【請求項28】
2つのマルチパス反射を有するチャネルについてのVスピログラフは、前記I/Q平面における非対称トレースを有し、選択された基準チャネルに対する、2つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについての前記Vスピログラフは、スケーリング、回転およびリサンプリングのもとで類似する、
請求項18記載の方法。
【請求項29】
方法であって、
複数のマルチパスシナリオについてのマルチチャネルのマルチキャリア通信システムにおけるチャネル推定値およびビームフォーミングフィードバックのシミュレーションを含む訓練データを用意するステップと、
マルチパス反射のパラメータを推定するために、前記チャネル推定値およびビームフォーミングフィードバックの同位相表現および直交位相表現を用いて多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(FFNN)を訓練するステップと、
前記訓練されたFFNNの重み、バイアスおよび活性化関数をメモリに格納するステップと、
を含む方法。
【請求項30】
前記FFNNを訓練するステップは、
各キャリア周波数における各チャネルについて、前記複数のマルチパスシナリオの各々についての前記チャネル推定値およびビームフォーミングフィードバックの前記同位相表現および前記直交位相表現からスピログラフ特徴セットを生成するステップと、
前記訓練データの表現を有する損失関数を生成するために前記特徴セットをバッチで前記FFNNにフォワードパスで適用するステップと、
前記ニューラルネットワークの重みおよびバイアスを更新して前記損失関数を最小化するために、前記損失関数を、前記ニューラルネットワークを通してバックワードパスで伝播させるステップと、
を含む、
請求項29記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月27日に出願された米国特許出願第16/585400号の国際出願であり、2019年7月15日に出願された米国仮特許出願第62/874079号の優先権を主張するものであり、これらはいずれも参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、チャネル推定およびビームフォーミングを用いて、Wi-Fi通信システムにおける受信信号対雑音比を最大化することに関する。特に、本開示は、訓練されたフィードフォワードニューラルネットワークを用いて通信チャネルの行列表現の同位相成分および直交成分を到着角にマッピングすることにより、マルチパス信号環境での周波数ダイバーシティ方式マルチアンテナ通信システムにおける受信信号対雑音比の最大化に向けられたものである。
【背景技術】
【0003】
マルチパスのない単一周波数のマルチアンテナWi-Fi通信システムでは、所定のヌルデータパケット(NDP)xiを送信することで通信チャネルを推定することができる。m個の送信アンテナとn個の受信アンテナとを備えたシステムでは、チャネルの影響はY=HXで表すことができる。ここで、Hはm行n列のチャネル行列であり、Xはn行m列の対角行列で表される送信NDPであり、Yはm行m列の行列で表される受信情報である。H行列の各要素は、m行n列のチャネルの各々(すなわち、各送受信アンテナ対について)の減衰および位相遅延を表している。この場合、チャネル行列Hは、H=YX-1として計算できる。次に、受信局は、H行列を送信局に送ることができ、ここで、振幅および位相の補正係数は、選択された基準チャネルについて正規化された、Hの逆行列である、n行m列の行列Vとして計算することができる。正規化されたV行列は、送信信号にプレディストーションを施すために用いることができる。すなわち、VがHの正規化された逆行列である場合、受信信号Yは、Y=VHX=(H-1H)=IX=Xで表すことができ、ここでIは単位行列である。代替的に、受信局が補正係数を計算して、送信局に明示的なビームフォーミングフィードバックとして送ることもできる。
【0004】
しかしながら、マルチパスを有する周波数ダイバーシティ(例えば、OFDMA)方式マルチアンテナWi-Fi通信システムでは、信号が受信機で結合され、通信チャネルのH行列およびV行列表現の周波数にわたる振幅および位相が予測できない変化として現れる。この予測不能性に対する従来のアプローチは、マルチパス信号が存在しないという暗黙の前提のもとで、振幅および位相成分を周波数にわたって平均化するというものである。このアプローチは、マルチパス干渉の存在下における正確な伝播角度(AoP)および相対的なチャネル遅延および減衰を決定するためには不十分であることがわかっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示では、マルチパス干渉の存在下におけるマルチチャネルのマルチキャリア通信システムでの送受信機間の照準線(line-of-sight)伝播角度を決定し、かつ受信信号強度を最大化するためにチャネル条件およびマルチパス干渉について補償するのに必要な送信振幅および位相補正を決定するための例示的なシステムおよび方法について説明する。
【0006】
一例では、送受信機は、マルチキャリアのマルチアンテナ通信システムにおいて周波数依存性のチャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックを受信するように構成されており、送受信機に結合された多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(FFNN)コンポーネントは、チャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックの表現を用いてマルチパス反射のパラメータを推定し、送受信機のための送信補正係数を生成するように構成されている。
【0007】
一例では、システムはまた、送受信機およびFFNNに結合されたプロセッサを含み、チャネル推定値から、複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列H行列振幅および位相データを抽出し、またはビームフォーミングフィードバックから、複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列V行列振幅および位相データを抽出するように構成されており、ここで、nは通信システムにおける送信アンテナの数であり、mは通信システムにおける受信アンテナの数であり、mとnとの積は通信システムにおけるチャネルの数である。
【0008】
一例では、プロセッサおよびFFNNに結合されたメモリは、FFNNについての重み、バイアスおよび活性化関数を格納し、マルチパス反射の推定パラメータを格納するように構成されており、ここで、プロセッサは、さらに、マルチパス反射の推定パラメータに基づいて送信チャネルの位相および振幅を調整するように構成されている。
【0009】
一例では、プロセッサは、さらに、H行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいてH行列データをI/Q平面における周波数依存性のHスピログラフに変換し、またはV行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいてV行列データをI/Q平面における周波数依存性のVスピログラフに変換するように構成されている。
【0010】
一例では、FFNNは、各キャリア周波数におけるHスピログラフ同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信し、Hスピログラフの特性に基づいて、有効伝播角度、各チャネルの有効チャネル減衰、および各チャネルの有効チャネル遅延を出力するように構成されており、あるいは、FFNNは、各キャリア周波数におけるVスピログラフ同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信し、Vスピログラフの特性に基づいて、選択された基準チャネルに対する、有効伝播角度、および各チャネルの相対遅延および相対減衰を出力するように構成されている。
【0011】
一例として、方法は、マルチキャリアのマルチアンテナ通信システムにおける送受信機において、複数のキャリア周波数についてのチャネル推定値およびビームフォーミング推定値のうちの1つを受信すること、多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(FFNN)を用いて、チャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックの表現を用いてマルチパス反射のパラメータを推定すること、およびマルチパス反射の推定パラメータに基づいてチャネル送信の位相および振幅を調整することを含む。
【0012】
一例では、本方法はまた、プロセッサにおいて、チャネル推定値から、複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列H行列振幅および位相データを抽出すること、またはビームフォーミングフィードバックから、複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列V行列振幅および位相データを抽出することを含み、ここで、nは通信システムにおける送信アンテナの数であり、mは通信システムにおける受信アンテナの数であり、mとnとの積は通信システムにおけるチャネルの数であり、プロセッサおよびFFNNに結合されたメモリに、FFNNについての重み、バイアスおよび活性化関数を格納し、マルチパス反射の推定パラメータを格納することを含む。
【0013】
一例では、本方法はまた、プロセッサにおいて、H行列データを、H行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいてI/Q平面における周波数依存性のHスピログラフに変換すること、またはV行列データを、V行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいてI/Q平面における周波数依存性のVスピログラフに変換することを含む。
【0014】
一実施形態では、本方法はまた、FFNNにおいて、各キャリア周波数におけるHスピログラフ同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信し、Hスピログラフの特性に基づいて、有効伝播角度、各チャネルの有効チャネル減衰、および有効チャネル遅延を出力すること、またはFFNNにおいて、各周波数におけるVスピログラフ同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信し、Vスピログラフの特性に基づいて、選択された基準チャネルに対する、有効伝播角度および各チャネルの相対遅延および相対減衰を出力することを含む。
【0015】
さまざまな例をより完全に理解するために、同様の識別子が同様の構成要素に対応している添付図面と関連させて以下の詳細な説明をここで参照する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示による例示的なマルチ周波数、マルチアンテナ通信システムを示すブロック図である。
【
図2】本開示によるマルチパス干渉のない例示的な通信システムを示している。
【
図3】本開示によるチャネル推定またはビームフォーミングフィードバックを用いた
図2の通信システムを示している。
【
図4】本開示によるチャネルあたり1つのマルチパス信号を有する例示的な通信システムを示している。
【
図5】チャネルあたり2つのマルチパス信号を有する例示的な通信システムを示している。
【
図6】本開示によるマルチパス環境における周波数依存性のチャネル推定値のグラフ表現である。
【
図7】本開示によるマルチパス信号環境における伝播角度を決定するための例示的なシステムを示すブロック図である。
【
図8】本開示によるマルチパス信号環境における周波数依存性のチャネル推定のグラフ表現である。
【
図9】本開示によるマルチパス信号環境における周波数依存性のビームフォーミングフィードバック推定値のグラフ表現である。
【
図10】2次マルチパス信号環境における周波数依存性のチャネル推定値のグラフ表現である。
【
図11】2次マルチパス信号環境における周波数依存性のビームフォーミングフィードバック推定値のグラフ表現である。
【
図12】本開示によるマルチパス信号環境における伝播角度を推定するためにニューラルネットワークを訓練するための例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図13】本開示によるマルチパス信号環境における伝播角度を決定するための例示的な方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示では、マルチパス干渉の存在下において、マルチ周波数、マルチアンテナ通信システムにおける送受信機間のチャネル推定値、ビームフォーミングフィードバック推定値、および照準線伝播角度の推定値を決定するためのシステムおよび方法の例について説明する。
【0018】
図1は、送受信機101および送受信機102の2つの送受信機を備える例示的なマルチ周波数、マルチアンテナ通信システム100を示している。
図1に示すように、送信モードで動作する送受信機101は、TX
1からTX
mのm個の送信アンテナを有し、受信モードで動作する送受信機102は、RX
1からRX
nのn個の受信アンテナを有している。システム100は、例えば、限定するものではないが、Wi-Fi(登録商標)通信システムまたは携帯電話システムであってよい。
【0019】
システム100の任意のアンテナ対の間のチャネル条件は、アンテナ対の間の減衰および位相遅延を規定する周波数依存性のhパラメータによって特徴付けることができる。例えば、送信アンテナTX
1および受信アンテナRX
1の間のチャネルは、h
11(f)であり、ここで、fは、Wi-Fi(登録商標)または携帯システムにおけるOFDM(直交周波数分割多重)キャリアなどのサブバンドキャリアの周波数である。アンテナTX
1からシンボルストリームx
1が送信されている場合、次いでアンテナRX
1は、積(h
11)(x
1)に等しいシンボルストリームy1を受信する。この関係は、次の式(1)、すなわち
【数1】
に示されるように、行列表記を用いてシステム100におけるすべてのチャネルについて一般化することができる。または略記法では、
Y=HX(2)
のようになる。
【0020】
H行列は、最初は未知であるから、送受信機102で受信した信号は、強め合うまたは弱め合う干渉のいずれかによって、予測できない方法で結合するかも知れない。しかしながら、送信シンボルベクトルXが送受信機102に知られている訓練ベクトルであるならば、次いで送受信機102は、H行列を、
H=YX-1(3)
のように推定することができ、ここで、X-1はXの逆行列である。
【0021】
システムについてのH行列を推定した後、送受信機102は、チャネル減衰および遅延を補償するために自身の送信ゲインおよび位相をどのように調整するかを決定し、H行列を送受信機101に送信して、送受信機101が同じ調整を行って送受信機102でのその送信の受信信号強度を最大化できるようにする。
【0022】
代替的に、チャネルはレシプロカルなので、送受信機102が、必要な調整をビームフォーミングフィードバックとして送受信機101に単に直接に送信するだけで、送受信機101は、H行列データを操作する必要なく調整を行うことができる。この行列データは、H行列の逆行列であり、V行列と呼ばれ、チャネルについて補償するために送受信機101の送信のゲインおよび位相を直接に調整するために用いることができる。つまり、Xを送信する代わりに、送受信機101が、
VX=H-1X(4)
を送信し、これにより、送受信機102が、
Y=HVX=HH-1X=X(5)
を受信する。
【0023】
この場合、送受信機101は、通常のデータ送信に同じ補正を適用することができる。変化するチャネル条件について補償するために、上述のチャネル推定およびビームフォーミングフィードバック動作を定期的に繰り返すことができる。しかしながら、上述したように、このチャネル較正プロセスは、マルチパス干渉の存在下において破綻する。
【0024】
図2は、2つの送信アンテナTX1およびTX2および1つの受信アンテナRX1を有する、マルチパス干渉がなく、H行列またはV行列由来の補正がない、2×1通信システム200を示している。
図2の例では、送信基線210の中心Cに対するRX1の位置により、伝播角度(AoP)が幾らか鋭角になり、TX1(201)およびTX2(202)からの照準線(LOS)信号が(経路長の相違に起因して)位相がずれて異なる振幅で結合し、結合信号203で示されるようにRX1で弱め合う干渉が生じる。なお、AoPが直角で、信号201および202について経路長が等しかったとしても、TX1およびTX2に関連する送信機のアナログフロントエンドの位相不整合に起因して、位相がずれて結合する可能性があることに留意すべきである。
【0025】
図3は、H行列またはV行列データに基づいて、TX1(202)に対するTX2(204)の送信位相を補正して、
図3の結合信号205で示されるようにTX1信号とTX2信号との間に強め合う干渉を生じさせる効果を示している。さらに、伝播角度(AoP)は、送信の既知の周波数および信号205を最大化するために必要な位相シフト量から決定することができる。
【0026】
図4に示すように、しかしながら、マルチパス干渉の存在は、従来のH行列またはV行列アプローチを無効化し得る。
図4は、システム200と同様の通信システム300を示しているが、環境中に反射面310を有している。
図4では、LOS信号201が反射信号301に結合されて結合信号303を生成しており、LOS信号202が反射信号に結合されて結合信号304を生成している。このシナリオでは、受信機RX1はLOS信号と反射信号とを区別することができないので、結合信号303はTX2からのLOS信号であり、結合信号304はTX1からのLOS信号であると仮定する。これら2つの信号はRX1で結合し、
図4に示すように結合信号305が生成される。
図2を
図4と比較すると、
図4のTX2からの見かけ上のLOS信号303は、
図2のTX2からの実際のLOS信号201とは大きく異なり、
図4のTX1からの見かけ上のLOS信号304は、
図2のTX1からの実際のLOS信号202とは大きく異なることがわかる。その結果、
図4のRX1における全体的な結合信号305も、
図2の全体的な結合信号203とは大きく異なる。
【0027】
このため、
図4の受信信号から算出されるH行列またはV行列は、
図2の受信信号から算出される行列とは大きく異なるものとなる。さらに、OFDMシステムのようなマルチキャリアシステムにおいては、「見かけ上」のH行列およびV行列は予測不可能に変化する。この場合、マルチパス信号の数が増えるほど、その予測不能性のレベルが高くなる。
図5は、システム300と類似しているが、2つの追加のマルチパス信号401および402を作り出す追加の反射面410を有する例示的な通信システム400を示している。これらの信号は、前述のLOS信号およびマルチパス信号に結合されて、RX1でTX2からのLOS信号とみられる信号411を生成しており、かつRX1でTX1からのLOS信号とみられる信号412を生成している。これらの2つの信号はRX1で結合されて、
図2の結合信号203または
図4の結合信号305とは異なる全体的な受信信号をRX1において生成する。
【0028】
図6は、2つの送信アンテナおよび2つの受信アンテナを有する通信システムについて、H行列がh
11(f)、h
12(f)、h
21(f)およびh
22(f)の4つの複合的なパラメータを有するような場合の、H行列パラメータの周波数による変動のグラフの図であり、ここでfは周波数を示している。
図6のグラフ601は、4つのhパラメータの大きさ(|h
xy(f)|)の周波数の変化をプロットしており、
図6のグラフ602は、4つのhパラメータの位相角(ang[h
xy(f)])の周波数による変化をプロットしている。グラフ601およびグラフ602の横軸は、インデックス0の基準中心周波数に対しての、正規化されたサブキャリアの周波数インデックスを表している。グラフ601の縦軸は、選択された周波数におけるhパラメータの1つの基準振幅に対しての、周波数に関するhパラメータの正規化された振幅を表している。グラフ602の縦軸は、選択された周波数におけるhパラメータの1つの基準位相に対しての、周波数に関するhパラメータの正規化された位相を表している。同様の大きさおよび位相の表現(図示せず)は、V行列のパラメータで行うことができるが、H行列に対するV行列の逆の性質に起因して曲線は異なるものとなる。
【0029】
図7は、本開示によるマルチパス信号環境における伝播角度を推定するための例示的なシステム700を示している。システム700は、マルチキャリアのマルチアンテナ通信システムにおいてチャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックを受信し、デジタル化されたチャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックを出力するように構成された送受信機701を含む。システム700はまた、通信バス703によって送受信機701に結合されており、送受信機701からデジタル化されたチャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックを受信するように構成されたプロセッサ702を含む。プロセッサはまた、チャネル推定値から、複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列H行列振幅および位相データ(振幅データ601および位相データ602など)を抽出するように構成されており、またはビームフォーミングフィードバックから、複数のキャリア周波数についての周波数依存性のn行m列V行列振幅および位相データを抽出するように構成されており、ここで、nは通信システムにおける送信アンテナの数であり、mは通信システムにおける受信アンテナの数であり、かつmとnとの積は通信システムにおけるチャネルの数である。
【0030】
プロセッサ702は、マイクロプロセッサ、中央処理装置のような、1つまたは複数の汎用処理装置であってよい。より詳細には、処理装置は、CISC(Complex Instruction Set Computing)マイクロプロセッサ、RISC(Reduced Instruction Set Computer)マイクロプロセッサ、VLIW(Very Long Instruction Word)マイクロプロセッサ、または他の命令セットを実装するプロセッサ、または命令セットの組み合わせを実装するプロセッサであってよい。また、処理装置は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、ネットワークプロセッサなどのような、1つまたは複数の特殊用途の処理装置であってもよい。
【0031】
システム700はまた、通信バス703によって送受信機701およびプロセッサ702に結合された多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(FFNN)704を含み、FFNN704は、チャネル推定値またはビームフォーミングフィードバックの表現を用いてマルチパス反射のパラメータを推定し、かつ送受信機701のための送信補正係数を生成するように構成されている。
【0032】
システム700はまた、通信バス703によって送受信機701、プロセッサ702、およびFFNN704に結合されたメモリ705を含み、メモリ705は、FFNN704についての重み、バイアスおよび活性化関数を格納し、かつマルチパス反射の推定パラメータを格納する。メモリ705は、揮発性メモリまたは不揮発性メモリであってもよいし、または揮発性メモリおよび不揮発性メモリを含んでいてもよい。不揮発性メモリは、ROM(Read-Only Memory)、PROM(Programmable Read-Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、またはフラッシュメモリであってよい。また、揮発性メモリは、外部キャッシュとして使用されるRAM(Random Access Memory)であってよい。非限定的な説明であるところの例として、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)、DDR SDRAM(Double Data Rate Synchronous Dynamic Random Access Memory)、ESDRAM(Enhanced Synchronous Dynamic Random Access Memory)、SLDRAM(Synchronous Link Dynamic Random Access Memory)、およびDRDRAM(Direct Rambus(登録商標)DRAM)など、多くの形態のRAM(Random Access Memory)を使用することができる。
【0033】
一例では、プロセッサ702、通信バス703、FFNN704およびメモリ705は、システムオンチップ(SOC)706として実装されてもよい。別の例では、送受信機701、プロセッサ702、通信バス703、FFNNおよびメモリ705は、IEEE802互換のWi-Fi(登録商標)アクセスポイントを備えていてもよい。
【0034】
一例では、プロセッサ702は、さらに、マルチパス反射の推定パラメータに基づいて送受信機の送信チャネルの位相および振幅を調整するように構成されている。一例では、プロセッサは、さらに、デジタル化されたH行列振幅および位相データを、H行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいて、I/Q平面における周波数依存性のH行列に基づくスピログラフ(Hスピログラフ)に変換するように構成されており、またはV行列データを、V行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいて、I/Q平面における周波数依存性のV行列に基づくスピログラフ(Vスピログラフ)に変換するように構成されている。
【0035】
H行列変換は
図8に示されており、ここで、(システム300のように)チャネルごとに1つのマルチパス反射を有する例示的な2×2通信システム(m=2、n=2の通信システム100など)についてのH行列に基づくスピログラフ(Hスピログラフ)が、グラフ800におけるI/Q平面にプロットされている。各hパラメータについてのI成分は、|h
xy|cosφ
xyによって与えられ、ここで、|h
xy|はパラメータh
xyの大きさであり、φ
xyはパラメータh
xyの位相角である(ここでは、周波数インデックスは省略されている)。各hパラメータのQ成分は、|h
xy|sinφ
xyで与えられる。
【0036】
図8に示した1つのマルチパス反射のケースでは、Hスピログラフは、それぞれ、座標(I,Q)
xyの中心、半径R
xy、および弧スパンθ
xyを有するI/Q平面における円弧によって特徴付けられる。多くの異なる単一のマルチパスシナリオをモデル化してシミュレーションすることにより、円弧の中心(I,Q)
xyの位置は、システムの送受信機のフロントエンドにおけるアナログチェーン不整合および照準線(LOS)伝播角度(AoP)の関数であることを示すことができる。また、円弧の半径R
xyは、当該チャネルについてのLOS信号の大きさに対する、各チャネルについてのマルチパス反射の大きさの関数であることを示すこともできる。Hスピログラフの半径とマルチパス反射の強さとの関係から得られることの1つは、マルチパス反射がない場合、Hスピログラフは、周波数に依存せず、単一の点(I,Q)
xyに退化することである。
【0037】
また、円弧のスパンθxyは、LOS信号に対するマルチパス反射の位相の関数であり、LOS信号に対するマルチパス反射の伝播角度によることを示すこともできる。最終的に、マルチパスが1つであれば、円弧は合同である。すなわち、当該円弧はI/Q平面における1回の回転および1回の並進のもとで互いに重なり合うようにすることができる。
【0038】
図9にV行列変換が示されており、ここで、(システム300のように)チャネルごとに1つのマルチパス反射を有する例示的な2×2通信システム(m=2、n=2の通信システム100など)についてのV行列に基づくスピログラフ(Vスピログラフ)が、グラフ900におけるI/Q平面にプロットされている。
図9のグラフ900は、少なくとも1つの点で
図8のグラフ800と異なる。hパラメータが絶対的なチャネル条件の推定値を表しているのに対して、vパラメータは、チャネル条件について補償するために必要な送信信号における相対的な変化の推定値を表している。したがって、vパラメータは、基準チャネルに対して正規化することができる。
図9のグラフ900の例では、v
22に関連するチャネルが基準チャネルとして選択されており、他の3つのチャネルはv
22に対する差について正規化されている。その結果、グラフ900におけるv22トレースは、周波数に依存しない単一の点(I,Q)
22として現れる。
【0039】
グラフ900における他の3つのvパラメータにつき、I成分についてのVスピログラフは|vxy|cosφxyで与えられ、ここで、|vxy|は、|v22|の大きさに対するパラメータvxyの相対的な大きさであり、φxyは、v22の位相に対するパラメータvxyの相対的な位相角である。同様に、各vパラメータについてのQ成分は、|vxy|sinφxyで与えられる。
【0040】
図9に示した1つのマルチパス反射のケースでは、Vスピログラフ(基準チャネルを除く)は、それぞれ、座標(I,Q)
xyの中心、半径R
xy、および不均一に離間された周波数点を有する弧スパンθ
xyを有するI/Q平面における円弧によって特徴付けられる。多くの異なる単一のマルチパスシナリオをモデル化してシミュレーションすることにより、円弧の中心の位置、円弧の半径、および円弧のスパンが、送受信機のフロントエンドにおけるアナログチェーン不整合、チャネルの照準線(LOS)伝播角度、LOS信号に対するマルチパス反射の大きさ、LOS信号に対するマルチパス反射の位相、およびLOS信号に対するマルチパス反射の伝播角度によって決定されることを示すことができる。
【0041】
マルチパスの干渉がない場合、Hスピログラフと同様の様式にて、すべてのVスピログラフは、周波数に依存せず、単一の点(I,Q)xyに退化する。また、選択された基準チャネルに対して、1つのマルチパス反射を有するすべてのチャネルについてのVスピログラフは、並進、回転、および半径方向スケーリングのもとで類似している。
【0042】
図10は、各チャネルに2つのマルチパス反射がある場合(
図5のシステム400と同様)についてHスピログラフを周波数の関数として示したI/Q平面におけるグラフ1000である。多くの2つのマルチパス反射シナリオをモデル化してシミュレーションすることにより、I/Q平面におけるhパラメータであるh
11(f)、h
12(f)、h
21(f)、およびh
22(f)が、I/Q平面における1回の並進および1回の回転のもとで重ねることができる合同複合ハイポサイクロイド(congruent compound hypocycloids)であることを示すことができる。
【0043】
図11は、各チャネルに2つのマルチパス反射がある場合(
図5のシステム400と同様)についてのVスピログラフを、周波数の関数として示したI/Q平面におけるグラフ1100である。多くの2つのマルチパス反射シナリオをモデル化してシミュレーションすることにより、基準Vスピログラフに対する、I/Q平面におけるVパラメータが、再スケーリング、回転、および再サンプリングのもとで類似していることを示すことができる。
【0044】
図8から
図11に示されているマルチパスシナリオは、制約が不十分であり、直接的な解析解の対象ではないことが理解されるであろう。しかしながら、前述の説明においてHスピログラフおよびVスピログラフを特徴付けるために使用されたものと同じモデル化およびシミュレーションを、マルチパス反射パラメータを推定し、伝播角度を決定し、かつ送信信号に補正を適用して受信信号強度を最大化するために、システム700において、多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク704の訓練用の訓練データとして使用することができる。
【0045】
図12は、マルチ周波数、マルチアンテナ通信システムにおけるチャネル推定値およびビームフォーミングフィードバックの表現を用いて、伝播角度およびマルチパス反射のパラメータを推定するために、多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(例えば、FFNN704)を訓練するための例示的な方法1200を示すフローチャートである。方法1200は、複数のマルチパスシナリオについてのマルチチャネルのマルチキャリア通信システムにおけるチャネル推定値およびビームフォーミングフィードバックのシミュレーションを含む訓練データを用意する、動作1202で始まる。方法1200は、マルチパス反射のパラメータを推定するために、チャネル推定値(例えば、Hスピログラフ)およびビームフォーミングフィードバック(例えば、Vスピログラフ)の同位相表現および直交位相表現を用いて多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワークを訓練する、動作1204へ続く。方法1200は、動作1206で、訓練されたフィードフォワードニューラルネットワークの重み、バイアスおよび活性化関数をメモリに格納して終了する。
【0046】
一例では、多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(FFNN)を訓練する動作1204は、各キャリア周波数における各チャネルについて、複数のマルチパスシナリオの各々についてのチャネル推定値およびビームフォーミングフィードバックの同位相表現および直交表現からスピログラフ特徴セットを生成すること、訓練データの表現を有する損失関数を生成するために特徴セットをバッチでFFNNにフォワードパスで適用すること、およびニューラルネットワークの重みおよびバイアスを更新して損失関数を最小化するために、損失関数を、ニューラルネットワークを通してバックワードパスで伝播させることを含む。
【0047】
図13は、マルチパス信号環境において伝播角度を決定するための、本開示による例示的な方法1300を示すフローチャートである。方法1300は、マルチキャリアのマルチアンテナ通信システム(例えば、システム700)における送受信機(例えば、送受信機701)で、複数のキャリア周波数についてのチャネル推定値(例えば、H行列)およびビームフォーミング推定値(例えば、V行列)の1つを受信する、動作1302で始まる。方法1300は、多層パーセプトロンフィードフォワードニューラルネットワーク(FFNN)により、チャネル推定値(例えば、Hスピログラフ)またはビームフォーミングフィードバック(例えば、Vスピログラフ)の表現を用いてマルチパス反射のパラメータを推定する、動作1304へ続く。方法1300は、マルチパス反射の推定パラメータに基づいてチャネル送信の位相および振幅を調整する、動作1306へ続く。
【0048】
一例では、方法1300はまた、プロセッサにおいて、チャネル推定値から、周波数依存性のn行m列H行列振幅および位相データを複数のキャリア周波数について抽出すること、またはビームフォーミングフィードバックから、周波数依存性のn行m列V行列振幅および位相データを複数のキャリア周波数について抽出することを含み、ここで、nは通信システムにおける送信アンテナの数であり、mは通信システムにおける受信アンテナの数であり、mとnとの積は通信システムにおけるチャネルの数であり、プロセッサおよびFFNNに結合されたメモリに、FFNNについての重み、バイアスおよび活性化関数を格納し、かつマルチパス反射の推定パラメータを格納する。
【0049】
一例では、方法1300はまた、プロセッサにおいて、H行列データを、H行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいて、I/Q平面における周波数依存性のHスピログラフに変換すること、またはV行列データを、V行列データの同位相(I)成分および直交位相(Q)成分に基づいて、I/Q平面における周波数依存性のVスピログラフに変換することを含む。
【0050】
一例では、方法1300はまた、FFNNにおいて、各キャリア周波数におけるHスピログラフの同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信すること、およびHスピログラフの特性に基づいて、有効伝播角度、各チャネルの有効チャネル減衰、および有効チャネル遅延を出力することを含み、またはFFNNにおいて、各周波数におけるVスピログラフの同位相データおよび直交位相データを入力ベクトルとして受信すること、およびVスピログラフの特性に基づいて、選択された基準チャネルに対する、有効伝播角度および各チャネルの相対遅延および相対減衰を出力することを含む。
【0051】
先の説明では、本開示における幾つかの例の完全な理解を提供するために、具体的なシステム、コンポーネント、方法などの例のような多数の具体的な詳細に言及した。しかしながら、当業者には、本開示の少なくとも幾つかの例は、これらの具体的な詳細がなくても実施されることが明らかであろう。他の例では、本開示を不必要に不明瞭にすることを避けるために、よく知られたコンポーネントまたは方法は詳細には説明せず、簡単なブロック図形式で提示されている。かくして、言及した具体的な詳細は、単に例示的なものである。特定の例は、これらの例示的な詳細とは異なっていても、なお本開示の範囲内であると考えられる。
【0052】
本明細書全体における「一例」または「例」への言及は、例に関連して記載された特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも1つの例に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体のさまざまな箇所で「一例では」または「例では」という表現が登場するが、必ずしもすべてが同じ例を指しているわけではない。
【0053】
本明細書中の方法の動作を特定の順序で示して説明したが、各方法の動作の順序は、ある動作を逆の順序で実行したり、またはある動作を少なくとも部分的に他の動作と同時に実行したりするように変更することができる。別個の動作の指示またはサブ動作を断続的にまたは交互に実施してもよい。
【0054】
本発明について示された例の上記の説明は、要約書に記載されているものを含め、網羅的であること、または開示された正確な形態に本発明を限定することを意図したものではない。本発明の具体的な実装、およびその例は、説明のために本明細書に記載されているが、関連する技術分野の当業者が認識するように、本発明の範囲内でさまざまな同等の変更が可能である。本明細書では、「例」または「例示」という言葉は、例、事例、または説明として役立つことを意図して使用される。本明細書で「例」または「例示」として記述されているいかなる態様またはデザインも、必ずしも他の態様またはデザインよりも好ましいまたは有利であると解釈されるものではない。むしろ、「例」または「例示」という言葉の使用は、概念を具体的な様式で示すことを意図している。この出願において使用されているように、「または」という用語は、排他的な「または」ではなく、包括的な「または」を意味することを意図している。すなわち、他に指定されていない限り、または文脈から明らかでない限り、「XはAまたはBを含む」は、自然の包括的な順列のいずれかを意味することを意図している。つまり、XがAを含み、XがBを含み、またはXがAおよびBの両方を含む場合、「XはAまたはBを含む」は前述のいずれの場合にも満たされることになる。さらに、この出願および添付の特許請求の範囲で使用される冠詞「a」および「an」は、他に指定されない限り、または文脈から単数形に向けられていることが明らかでない限り、一般的に「1つまたは複数」を意味するものと解釈されるべきである。
【国際調査報告】