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特表2022-540938コーヒー粕由来のヘミセルロース生成物を調製するための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-20
(54)【発明の名称】コーヒー粕由来のヘミセルロース生成物を調製するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/14 20060101AFI20220912BHJP
   C08B 15/04 20060101ALN20220912BHJP
   A61K 31/715 20060101ALN20220912BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20220912BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20220912BHJP
   A61K 47/36 20060101ALN20220912BHJP
【FI】
C08B37/14
C08B15/04
A61K31/715
A61P31/04
A61P37/02
A61K47/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502939
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(85)【翻訳文提出日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2020070033
(87)【国際公開番号】W WO2021009248
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】62/874,063
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/689,430
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515228003
【氏名又は名称】ケリー ルクセンブルク エス.アー.エール.エル.
【氏名又は名称原語表記】Kerry Luxembourg S.a.r.l.
【住所又は居所原語表記】17 rue Antoine Jans Luxembourg L-1820 GRAND DUCHY OF LUXEMBOURG
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】パン,リー
(72)【発明者】
【氏名】ポティネニ,ラジェシュ
(72)【発明者】
【氏名】ルー,インシュアン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ムシェナ,ジョン カイレミア
(72)【発明者】
【氏名】チー,セリア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076EE30
4C076EE31
4C086AA03
4C086AA04
4C086EA20
4C086EA25
4C086NA20
4C086ZB07
4C086ZB35
4C090BA24
4C090BA81
4C090BB08
4C090BB09
4C090BB12
4C090BB13
4C090BB14
4C090BB22
4C090BC11
4C090CA34
4C090DA22
4C090DA23
4C090DA40
(57)【要約】
コーヒー粕を含む炭水化物リッチ材料からヘミセルロース生成物およびホロセルロース生成物を調製する方法が記載される。これらの方法に従い生成されたヘミセルロース生成物およびホロセルロース生成物もまた記載される。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘミセルロース生成物を生成する方法であって、
炭水化物リッチ材料の水性スラリーをアルカリ性過酸化水素溶液と合わせること;
固体画分を前記アルカリ性過酸化水素処理済みスラリーの液体画分から分離すること;
pH調整剤を使用して前記液体画分のpHを約4.0-6.0のpHに調整すること;
アルコール溶液を前記pH調整済み液体画分と合わせて、ヘミセルロース生成物を沈殿させること;ならびに
前記ヘミセルロース生成物を乾燥させること
を含む、方法。
【請求項2】
前記炭水化物リッチ材料はコーヒー粕である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ性過酸化水素溶液を添加する工程の前に、前記水性スラリーに有機溶媒を添加することにより、前記水性スラリーを脱脂する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体画分を濃縮する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記濃縮工程は真空ロタベーパーを使用して実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記濃縮工程は膜濾過により実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程は、前記乾燥ヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させる工程、および、前記溶解させたヘミセルロース生成物を膜濾過により精製する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程は、前記乾燥ヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させる工程、および、前記溶解させたヘミセルロース生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程は、前記乾燥ヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させる工程、および、前記溶解させたヘミセルロース生成物を膜濾過により精製する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程は、前記乾燥ヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させる工程、および、前記溶解させたヘミセルロース生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ヘミセルロース生成物を沈殿させる工程の前に、有機溶媒を前記濃縮pH調整済み溶液に添加することによる脱脂工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記沈殿したヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させること;
有機溶媒を前記ヘミセルロース水溶液に添加し、前記溶液から脂肪を除去すること;ならびに
前記脱脂ヘミセルロース生成物を乾燥させること
をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記固体画分を洗浄し、ホロセルロース生成物を生成させる工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
エタノールは、前記ヘミセルロース生成物を沈殿させるために前記pH調整済み液体画分と合わせられるアルコール溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
コーヒー粕の水性スラリーをアルカリ性過酸化水素溶液と合わせること;
固体画分を前記アルカリ性過酸化水素処理済みスラリーの液体画分から分離すること;
前記液体画分を膜濾過により濃縮すること;
前記濃縮液体画分のpHを、pH調整剤を使用して約4.0-6.0のpHに調整すること;
エタノールを前記pH調整済み溶液に添加することによりヘミセルロース生成物を沈殿させること;ならびに
前記ヘミセルロース生成物を乾燥させること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
請求項2に記載の方法に従い生成されたヘミセルロース生成物。
【請求項19】
請求項10に記載の方法に従い生成されたヘミセルロース生成物。
【請求項20】
請求項15に記載の方法に従い生成されたホロセルロース生成物。
【請求項21】
請求項17に記載の方法に従い生成されたヘミセルロース生成物。
【請求項22】
約少なくとも2kDa~約200kDaの分子量を有する、請求項18に記載のヘミセルロース生成物。
【請求項23】
約62%-94%の量のガラクトース、約9%-14%の量のアラビノース、および約-3.3%-5.1%の量のマンノースを含む、請求項22に記載のヘミセルロース生成物。
【請求項24】
約62%-94%の量のガラクトース、約9%-14%の量のアラビノース、および約-3.3%-5.1%の量のマンノースを含み、約少なくとも2kDa~約200kDaの範囲の分子量を有する、ヘミセルロース生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この特許出願は、2019年7月15日に出願された米国仮特許出願第62/874,063号の恩典を主張し、その教示および開示全体が、それへの参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは、世界中で最も広く消費される飲料の1つであり、世界中で石油についで2番目に大きく取引される商品である。コーヒー粕(Spent coffee grounds)(SCG)が、焙煎コーヒー豆を入れるプロセス中副産物として生成されてきた。コーヒー業界において生成された大量の使用済みのコーヒー廃棄物は既存の国家規制に従う廃棄物管理計画を必要とし、使用済みのコーヒー廃棄物のほとんどが埋め立て地に投げ捨てられており、または、非常に限られたやり方で、堆肥化、ガーデニング、およびバイオエネルギー生産において使用されている。
【0003】
SCGは主に炭水化物(約50%)、脂質および脂肪化合物(7-29%)、窒素含有化合物(8.5-13.6%)(タンパク質および非タンパク質化合物を含む)、フェノール化合物(1-1.5%)、ならびにミネラル(約1.6%)を含む。炭水化物の中で、ガラクトース、アラビノース、およびマンノースから主に構成されるヘミセルロースが主成分であり、30%(w/w)超に対応する。ヘミセルロースは、セルロースおよびリグニン関連化合物と一緒に、使用済みコーヒー(coffee spend)中の主バイオマスであり、材料乾燥重量のほぼ半分に対応する。
【0004】
SCGからのヘミセルロースの抽出は、2つの重要な課題に直面する。第1に、細胞壁中で、ヘミセルロースは、セルロースと水素結合、リグニンと共有結合、ならびに、アセチル単位およびヒドロキシ桂皮酸とエステル結合を形成する。これらの結合は、ヘミセルロースが水または他の溶媒により効果的に抽出されるのを阻止する。第2に、ヘミセルロースは、可溶性ヘミセルロースならびに不溶性ホロセルロースの広範にわたる使用のために、清浄で、より色つきが少なく、焙煎コーヒー豆と関連するスモーキーな香味および香りを欠いていなければならない。よって、抽出ならびに色および匂いの除去を標的にするその後の工程の効率を増加させることができる有効な前処理法が、SCGから炭水化物をリサイクルする成功戦略において実施されなければならない。
【0005】
SCGの公表された前処理法は、物理的、化学的、生物学的作用、ならびに、超音波処理、蒸気爆発、アンモニア繊維爆砕(AFEX)、オゾン分解、嫌気性同時消化、酵素加水分解、酸加水分解、およびアルカリ加水分解などの異なる作用の組み合わせに分類することができる。ホロセルロースを生成させるための脱リグニンのためのSCGの前処理のための最も従来的な方法の1つは、亜塩素酸ナトリウムおよび酢酸の混合物を酸化方法として使用することである。しかしながら、次亜塩素酸ナトリウム溶液を酸と組み合わせると、毒性二酸化塩素が生成し、これはヒトおよび環境に有害である。
【0006】
これらの前処理法の中で、本発明者らは、アルカリ性過酸化水素併用処理(本明細書ではAHP処理と呼ばれる)が、SCG由来のヘミセルロースの脱リグニンおよび可溶化の両方に有効であると決定した。アルカリ溶液中では、ヘミセルロースはエステル結合の加水分解により、リグノセルロースマトリクスから遊離される。過酸化水素をアルカリ媒体中に添加することにより、主な活性種、例えばヒドロペルオキシドアニオン(HOO)、ヒドロキシルラジカル(HO・)、およびスーパーオキシドアニオンラジカル(O・ )が形成され、それらはリグニン構造の酸化を引き起こし、親水性(カルボキシル)基の導入、単位間結合の切断、および最終的にはリグニンおよびヘミセルロースの溶解に至る。このプロセスは、比較的穏やかな条件下で、より腐食性が低い化学薬品、より少ないコストおよびより少ない汚染を用いて実施することができる。
【0007】
最近になって、AHP法は、学術的な分析目的のための、不溶性ホロセルロースのみの、コーヒーシルバースキン(Alghooneh, et al,(International Journal of Food Properties, 2017, VOL. 20, NO. 11, 2830-2843)およびSCG(Luisa Cruz-Lopesl, et al., Agriculture & Foods, 2017, vol 5, 85-93)からの単離および精製のプロセスにおいて、使用されている。両方の研究において、筆者らは脱リグニンおよび脱色不水溶性ホロセルロースを目標にした。それらは主に、セルロースから構成され、アルカリ溶液中に抽出され、溶解されたヘミセルロースの大半は廃棄物として廃棄され、精製およびリサイクルされなかった。
【0008】
食品用途のために使用済みコーヒー(coffee spend)から水溶性ヘミセルロースをリサイクルするための、本明細書で開示される、その後の膜濾過およびエタノール沈殿と組み合わせたAHP前処理の使用は、当技術分野において以前は実施されていなかった。本開示はSCG由来の水溶性ヘミセルロースの抽出および単離のための新規方法を提供する。開示された方法を使用することにより、水溶性ヘミセルロースリッチ抽出物(約16-30%(w/w)を占める)は、不水溶性、脱リグニンおよび脱色セルロース(約25-35%(w/w)を占める)と一緒に、SCGからリサイクルさせることができる。結果として生じるヘミセルロースおよびセルロースは高収率、かつ高品質で得られ、これにより、食品業界および関連分野でのそれらの大きな適用の可能性が保証される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】発明の一実施形態を示す流れ図である。
図2】発明の一実施形態を示す流れ図である。
図3】AHP処理後SCGから単離したヘミセルロースおよび脱脂ヘミセルロース画分の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および多分散性(Mw/Mn)を示す。
図4】AHP処理後の不溶性ホロセルロース、25.0℃でのAHP処理後にSCGから単離したヘミセルロースおよび脱脂ヘミセルロース画分についての水蒸気収着動力学プロットである。SCGC-AHP処理後のSCG不溶性ホロセルロース。SCGH-AHP処理後のSCGヘミセルロース。SCGHD-AHP処理後のSCG脱脂ヘミセルロース。
【発明の概要】
【0010】
本開示の非限定的実施形態は、ヘミセルロースおよびセルロースをSCGからリサイクルするための環境に優しい、業界で実施可能で、高効率的な方法を提供する。結果として得られたヘミセルロース粉末は褐色、安定で、水に高可溶性である。ヘミセルロース粉末は食感味覚を有し、匂いおよび香りを欠き、食品添加物として、スナックフィリング、調味料キャリア、持続可能なフィルム、またはコーティングとして使用することができる。ヘミセルロース粉末は、多種多様の用途に組み込まれる可能性を有し、増粘剤、フィルム形成物質、乳化剤、バインダ、安定剤、キャリアおよびコーティングとして、が挙げられる。ヘミセルロース粉末はまた、飲料において、オフノート(off-note)および苦味マスキングならびに食感増強のために使用することができる。加えて、ヘミセルロース粉末は免疫制御、細菌抑制、および薬物送達を含む医学および薬学用途の可能性を有する。
【0011】
本開示の非限定的実施形態は、SCGから、過酸化水素処理と組み合わせたアルカリ抽出(AHP処理)、続いて、酸性化、膜濾過、およびエタノール沈殿により高収率のヘミセルロースを生成させるプロセスに関する。加えて、膜濾過およびマクロ多孔性樹脂クロマトグラフィーを使用して、得られたヘミセルロースをさらに精製および分別することができる。
【0012】
開示された方法は多くの炭水化物リッチ食品業界副産物および廃棄物について使用することができ、水溶性ヘミセルロースならびに脱色および脱リグニン不水溶性セルロースが高収率かつ高品質で得られ、食品業界廃棄物リサイクルのための効率的で実用的な方法が提供される。
【0013】
本開示の実施形態は、高品質ヘミセルロースを食品業界廃棄物から約15-30%(w/w)の高収率で単離するための環境に優しい方法を提供することにより従来の技術を改善する。この方法は水溶性ヘミセルロースを生成させるだけでなく、脱色、脱リグニン非水溶性ホロセルロースを、約20-35%(w/w)の高収率で生成させ、これらのどちらもコーヒー廃棄物に由来する価値の高い生成物である。
【0014】
AHP法は製紙業においてより広く使用されおり、食品業界では非常に希である。SCGはおよそ50%の炭水化物を含み、ヘミセルロースが最も豊富な構成要素の1つであるが、SCGはヘミセルロースのための理想的で明らかな資源とみなされてこなかった。主な理由はコーヒー細胞壁の不応性がヘミセルロースの抽出を非常に困難なものとしているからである。その上、SCGは焙煎されているので、暗色の、強いスモーキーノートおよびコーヒーノートにより、人々はSCG由来のヘミセルロースを、広範囲の用途に理想的であると考えることができない。
【0015】
コーヒー廃棄物をリサイクルする異なる戦略を探索することにより、本出願の発明者らは、AHP前処理はヘミセルロースを効率的に抽出するだけでなく、強い酸化反応により原料に固有の色およびスモーキーノートを低減させることを決定した。AHP前処理後、AHP溶液中に抽出されたヘミセルロース画分は暗褐色およびオフノート(off-note)を有する分解分子と混合され、これはヘミセルロースの品質に影響する。ヘミセルロースを精製するために、アルカリ溶液が酸で中和され、その後、膜濾過およびエタノール沈殿に供せられ、淡色の、すっきりした味のヘミセルロースガムが得られる。この方法を使用することにより、そのような高収率で高品質のヘミセルロースがSCGからうまく抽出され、単離されたのはこれが初めてである。この発明はコーヒー粕ならびに関連食品業界副産物をリサイクルするための高効率、低コストで、および実用的な方法を提供する。
【0016】
本開示の非限定的実施形態としては、下記の通りのものが挙げられる:
[1]ヘミセルロース生成物を生成する方法であって、方法は、炭水化物リッチ材料の水性スラリーをアルカリ性過酸化水素溶液と合わせること;固体画分をアルカリ性過酸化水素処理済みスラリーの液体画分から分離すること;pH調整剤を使用して液体画分のpHを約4.0-6.0のpHに調整すること;アルコール溶液をpH調整済み液体画分と合わせて、ヘミセルロース生成物を沈殿させること;ならびに、ヘミセルロース生成物を乾燥させることを含む、方法。
[2]炭水化物リッチ材料はコーヒー粕である、[1]による方法。
[3]アルカリ性過酸化水素溶液を添加する工程の前に、水性スラリーに有機溶媒を添加することにより、水性スラリーを脱脂する工程をさらに含む、[2]による方法。
[4]液体画分を濃縮する工程をさらに含む、[2]による方法。
[5]濃縮工程は真空ロタベーパー(rotavapor)を使用して実施される、[4]による方法。
[6]濃縮工程は膜濾過により実施される、[4]による方法。
[7]乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程をさらに含む、[2]による方法。
[8]乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程は、乾燥ヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させる工程、および、溶解させたヘミセルロース生成物を膜濾過により精製する工程を含む、[7]による方法。
[9]乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程は、乾燥ヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させる工程、および、溶解させたヘミセルロース生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製する工程を含む、[7]による方法。
[10]乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程をさらに含む、[4]による方法。
[11]乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程は、乾燥ヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させる工程、および、溶解させたヘミセルロース生成物を膜濾過により精製する工程を含む、[10]による方法。
[12]乾燥ヘミセルロース生成物を精製する工程は、乾燥ヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させる工程、および、溶解させたヘミセルロース生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製する工程を含む、[10]による方法。
[13]ヘミセルロース生成物を沈殿させる工程の前に有機溶媒を濃縮pH調整済み溶液に添加することによる脱脂工程をさらに含む、[4]による方法。
[14]沈殿したヘミセルロース生成物を水溶液に溶解させること;有機溶媒をヘミセルロース水溶液に添加して、脂肪を溶液から除去すること;ならびに、脱脂ヘミセルロース生成物を乾燥させることをさらに含む、[4]による方法。
[15]固体画分を洗浄し、ホロセルロース生成物を生成させる工程をさらに含む、[2]による方法。
[16]エタノールは、ヘミセルロース生成物を沈殿させるためにpH調整済み液体画分と合わせられるアルコール溶液である、[1]による方法。
[17]ヘミセルロース生成物を生成する方法であって、方法は、コーヒー粕の水性スラリーをアルカリ性過酸化水素溶液と合わせること;固体画分をアルカリ性過酸化水素処理済みスラリーの液体画分から分離すること;液体画分を膜濾過により濃縮すること;濃縮液体画分のpHを、pH調整剤を使用して約4.0-6.0のpHに調整すること;エタノールをpH調整済み溶液に添加することによりヘミセルロース生成物を沈殿させること;ならびに、ヘミセルロース生成物を乾燥させること、を含む方法。
[18][2]の方法により生成されたヘミセルロース生成物。
[19][10]の方法により生成されたヘミセルロース生成物。
[20][15]の方法により生成されたホロセルロース生成物。
[21][17]の方法により生成されたヘミセルロース生成物。
[22]約少なくとも2kDa~約200kDaの分子量を有する、[18]のヘミセルロース生成物。
[23]約62%-94%の量のガラクトース、約9%-14%の量のアラビノース、および約-3.3%-5.1%の量のマンノースを含む、[22]のヘミセルロース生成物。
[24]約62%-94%の量のガラクトース、約9%-14%の量のアラビノース、および約-3.3%-5.1%の量のマンノースを含み、約少なくとも2kDa~約200kDaの範囲の分子量を有する、ヘミセルロース生成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の非限定的実施形態はSCGから高収率および高品質のヘミセルロースを生成するための方法に関する。ある一定の実施形態では、方法は、SCG乾燥重量に基づき、約16-30%(w/w)のヘミセルロース、ならびに約25-35%(w/w)のセルロースのパーセント収率を提供する。
【0018】
以下で論じられる図1および2は、本開示の実施形態の例示的な流れ図を提供する。
【0019】
図1は、使用済みコーヒー(coffee spend)からヘミセルロースを生成するための本開示のプロセスを示す。
【0020】
1)SCGは小粒子に粉砕され、主粒子サイズは約0.15mm~2mmの範囲である。1つの実施形態では、任意的な工程が実施され、粉砕粒子がエタノールおよび水の溶液により、ある期間の間抽出され、親油性および親水性成分が除去される。様々な濃度のエタノール水溶液が使用され得る。ある一定の実施形態では、これらの溶液は、約40-95%のエタノールおよび約5-60%の水を含み得る。1つの例示的な実施形態では、溶液は約60%のエタノールおよび約40%の水を含むことができる。抽出は典型的には約4-12時間の期間にわたって実施される。1つの例示的な実施形態では、抽出は約6時間実施される。抽出工程は好ましくは、約25-80℃の範囲の温度で実施される。1つの実施形態では、抽出はおよそ60℃で実施される。抽出は、2~4回繰り返すことができる。1つの実施形態では、抽出は3回繰り返される。エタノール水抽出は任意的である。1つの実施形態では、抽出は省略される。
【0021】
2)工程1)からのSCGは水に懸濁され、およそ5~15%(w/w)の濃度を有するスラリーが生成される。ある一定の実施形態では、スラリーは、約15-20%(w/w)の範囲の固体の濃度を有することができる。他の実施形態では、スラリーは約8-12%(w/w)の濃度を有することができる。
【0022】
3)水酸化ナトリウム(NaOH)がスラリーに、約10-12の範囲の最終pHを提供する量で添加される。例えば、ある一定の実施形態では、水酸化ナトリウムは約1-4%(w/w、スラリー重量に基づく)の量で、約60-80℃の温度で添加される。
【0023】
4)過酸化水素(H)が0-4時間アルカリ処理後に、スラリーに添加される。例えば、ある一定の実施形態では、水酸化ナトリウムは2時間のアルカリ処理後に添加される。過酸化水素の量は、およそ1-5%(w/w、スラリー重量に基づく)の量で添加することができる。他の実施形態では、過酸化水素はおよそ3%(w/w、スラリー重量に基づく)の量で添加される。
【0024】
5)工程4)からのスラリーはある温度である期間の間撹拌される。ある一定の実施形態では、スラリーは約40℃-80℃の範囲の温度で撹拌される。他の実施形態では、スラリーは60℃で撹拌される。ある一定の実施形態では、スラリーは約4-6時間の期間の間撹拌される。他の実施形態では、スラリーは約6時間撹拌される。
【0025】
6)撹拌後、スラリーは、結果として得られた可溶性画分および不溶性画分を分離するために処理することができる。ある一定の実施形態では、スラリーは濾過され、可溶性画分および不溶性画分が分離される。1つの例として、濾過は100メッシュふるいを使用して実施することができる。遠心分離はデカンター型遠心分離機またはディスク遠心分離により実施することができ、上清が収集される。スラリーは、分離のために、例えば、4500rpmで12分間遠心分離に供することができる。収集された不溶性画分は、使用済みコーヒー(coffee spend)由来の不溶性ホロセルロースを含み;可溶性画分は粗ヘミセルロースを含む。不溶性ホロセルロースは収集され、水により、廃水が実質的に透明になるまで洗浄される。次いで、清浄されたホロセルロースが乾燥される。乾燥は異なる手段により、例えばオーブン内で、例えば、約50-80℃の範囲の温度で約8-24時間焼成することにより実施することができる。乾燥はまた、ホロセルロース画分を室温で乾燥するまで維持することにより実施することができる。結果として得られたホロセルロースは色が白色または淡黄色であり、スモーキーなコーヒーの香りはない。
【0026】
7)回収された粗ヘミセルロース上清のpHはその後、pH調整剤で調整される。ある一定の実施形態では、上清のpHは約6.0-7.0の範囲に調整される。塩酸(HCl)は1つの例示的なpH調整剤である。ある一定の実施形態では、pHは約6.0に調整される。
【0027】
8)中和されたヘミセルロース抽出物はその後、ナノ濾過膜を使用して濾過され、溶液が濃縮され、ならびに、小分子および塩が除去される。1つの実施形態では、ナノ濾過膜は200Daの分画分子量(MWCO)を有する。膜濾過の他に、1つの実施形態では、濃縮工程は真空ロタベーパーにより達成される。他の例示的な手段としては、蒸留が挙げられる。真空ロタベーパーおよび蒸留法は、塩および小分子を除去せず、それらは、ナノ濾過膜の使用により除去される。濃縮により、ある量の水が除去される。ある一定の実施形態では、約70-80%の水が除去される。他の実施形態では40-60%の水が除去される。結果として得られた濃縮ヘミセルロース画分は、約10-20%(w/w)の範囲の固体濃度を有する。ある一定の実施形態では、15%(w/w)の固体濃度が測定される。
【0028】
9)濃縮ヘミセルロースのpHはその後、約4.0-6.0の値に調整され、その後、エタノールと混合される。1つの実施形態では、pHは約5.0である。1つの実施形態では、3~5倍の体積のエタノールが濃縮ヘミセルロースに添加できる。エタノール沈殿前に、有機溶媒分配手順を使用して実施される脱脂手順は任意的である。1つの実施形態では、等体積の酢酸エチルが酸性化水に添加され、エタノール沈殿の工程直前に、脂肪が除去される。
【0029】
10)工程9)からの沈殿したヘミセルロースはしばらくすると収集され、それは、ある一定の実施形態では、約1-12時間とすることができる。1つの実施形態では、期間は約4時間である。
【0030】
11)ヘミセルロースは1-3回、約70-95%エタノールを有するエタノール水溶液中で洗浄することができる。例えば、ヘミセルロースガムは約75%エタノールの水溶液中で洗浄することができる。
【0031】
12)ヘミセルロースガムは乾燥させることができ、粉末が形成される。1つの実施形態では、乾燥は室温で実施される。他の実施形態では、乾燥は凍結乾燥により実施される。別の他の実施形態では、乾燥は真空オーブン内で約50℃にて実施される。さらに別の実施形態では、乾燥は水に溶解させ、噴霧乾燥することにより実施される。
【0032】
あるいは、ヘミセルロースガムは、工程13)および14)において以下で論じられるさらなる精製または分別手順に供せられ得る。
【0033】
13)工程10)からの沈殿したヘミセルロースは、水に溶解され、例えば、約5-100kDaのMWCOを有する限外濾過膜により濾過することができ、精製ヘミセルロース画分が提供される。濾過の例示的な方法としては、5kDa、30kDa、50kDa、または100kDaのMWCOを有する膜の使用が挙げられる。1つの実施形態では、5kDaのMWCOを有する限外濾過膜を使用して、20kDa~100kDaのMW範囲を有するヘミセルロースの保持画分を得た。
【0034】
14)あるいは、工程11)からのヘミセルロースはクロマトグラフィーカラム上にロードされ、異なる分子量分布および少ない色を有する画分を得ることができる。本開示の範囲内の例示的なクロマトグラフィーカラムとしては、例えば、Sepabeads(登録商標)SP-70が挙げられる。他の例示的なクロマトグラフィーカラムとしては、マクロ多孔性吸着樹脂、例えばDiaion(登録商標)HP20、Seplite(登録商標)D101、およびSeplite(登録商標)AB-8が挙げられ、ならびにサイズ排除クロマトグラフィーでは、Sephadex(商標)、Superdex(商標)、Sephacryl(商標)およびSuperose(商標)シリーズが挙げられる。例えば、中性マクロ多孔性樹脂カラムSP70が、単離ヘミセルロースをそれらの分子サイズおよび極性に従い3つの異なる画分に分別するために使用されており、1つの画分は約30kDa~200kDaのMW範囲を有し、2つの画分は主に約2kDa~10kDaのMW範囲を有する。
【0035】
図2は使用済みコーヒー(coffee spend)からヘミセルロースを生成するための本開示の一実施形態の例示的なプロセスを示す。図2に示されたこの実施形態は、図1の実施形態といくつかの点において異なる。ロータリーエバポレーターの代わりに、膜濾過工程がエタノール沈殿の工程の前に実施され、ナトリウム除去の工程が濃縮と一緒に一段階で達成される。発明者らは、この膜濾過をエタノール沈殿前に追加すると、前処理プロセス中に生成された小分子不純物(例えば、塩化ナトリウム)が除去され、また、溶液の体積が低減され、エタノール沈殿工程が促進されることを決定した。膜濾過およびエタノール沈殿プロセスを一緒に合わせたこの新しい工程は、より清浄な生成物を生成させることが見出された。この工程を使用することにより、ナトリウム含量が約5-6%(w/w)から約2-3%(w/w)に低減され、ずっと塩気が少ない生成物が提供された。
【0036】
代替基材:
開示された方法において使用することができる代替材料としては、他の炭水化物リッチ材料が挙げられる。本明細書では、炭水化物リッチ材料は、少なくとも約40重量%の炭水化物を含む乾燥重量を有する植物由来の材料を示す。炭水化物の重量%は、総バイオマス重量から、タンパク質、脂肪、灰分、および水分の重量を減算することにより計算することができる。例として、使用済みコーヒー(coffee spend)では、炭水化物が典型的には総バイオマスの乾燥重量の60%超を占める。炭水化物リッチ材料の追加の非限定的な例としては、使用済みカカオ(cacao spend)、果汁抽出後の柑橘類、ブドウ、リンゴ、および他の果実の搾りかす、油およびタンパク質抽出後の大豆、亜麻仁、オリーブ果実、ブドウ種子の廃棄物、ならびに一般果実、種子、および野菜由来の食品業界副産物が挙げられる。
【0037】
代替化学試薬:
開示されたAHP処理では、ある一定の代替化学試薬が使用され得る。例えば、KOH、Ca(OH)、Mg(OH)が、NaOHにとって代わるように使用することができ;HSO、HPOならびに有機酸、酢酸、ギ酸およびクエン酸が、HClにとって代わるように使用することができる。ヘミセルロース分別手順では、イソプロパノールが、エタノールにとって代わるように使用することができる。ヘミセルロース分別手順では、他の中性マクロ多孔性樹脂としては、Diaion(登録商標)HP20、Seplite(登録商標)D101、およびSeplite(登録商標)AB-8を含むマクロ多孔性吸着樹脂が挙げられ、ならびに、Sephadex(商標)、Superdex(商標)、Sephacryl(商標)およびSuperose(商標)シリーズを含むサイズ排除クロマトグラフィー樹脂が、SP-70にとって代わるように使用することができる。
【0038】
代替方法工程:
開始SCGは湿性または乾性とすることができる。粉砕された、またはされていない使用済みコーヒーはこのプロセスのために使用することができ、大半のサイズは10メッシュ~100メッシュの範囲である。化学試薬は微細サイズ材料により近づきやすく、微細サイズ材料は高収率のヘミセルロースおよびより薄い色のセルロースを生成させる傾向がある。
【0039】
有機溶媒による脱脂抽出は任意的である。AHP処理前に脱脂抽出工程を実施すると、相当な収率およびよりすっきりした味の生成物が得られるが、脂肪プロファイルは有意に変化されず、というのも、最終生成物中の脂肪含量の大半はAHP処理後SCGから放出されるからである。脂肪はAHP処理後に脱脂抽出工程を導入することにより、より効率的に除去することができる。ある一定の実施形態では、脱脂抽出工程は、アルコール沈殿手順直前に、または沈殿後に、沈殿したヘミセルロースリッチ画分を水に溶解させ、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸アシルまたはブタノールなどの有機溶媒を使用して分配させることにより実施される。
【0040】
たとえSCGが乾性または湿性形態であっても、水スラリー中の最終固体量は典型的には、約5~20%(w/w)の範囲である。より多くの水が原料の試薬とより良好な混合を提供するが、体積が増加すると、濾液のさらなる濃縮手順に対してより多くの努力が必要とされる。所望の濃度はおよそ12%(w/w)である。
【0041】
アルカリ性スラリーが、アルカリ、例えばNaOH、KOH、Ca(OH)、Mg(OH)を添加することにより生成され、約10~12の範囲内のpHが達成される。1つの実施形態では、pHはおよそ11.5である。
【0042】
過酸化水素は、塩基と共に、または、スラリーのアルカリ化後1~2時間に、スラリーに基づき約1~5%(w/w)の量で添加され得る。
【0043】
反応の温度は約50~90℃で維持することができる。温度が高いほど、反応時間を短くすることができ、また、最終生成物がより高い収率で、より薄い色で提供されると考えられる。時間は通常、開始材料の温度および量によって、約2~24時間続く。
【0044】
反応が完了すると、冷却後、固体および液体が分離される。Beckman CoulterのAllegra X-30ベンチトップ遠心分離機を4800rpmの速度で使用することによる遠心分離、または10ミクロンポリプロピレンフェルト液体フィルタバッグを使用する濾過が、研究室において、分離プロセスのために採用されてきた。大規模分離プロセスとしては、真空濾過、水平デカンターおよび高速ディスク型遠心分離および精密濾過などの技術が挙げられるが、それらに限定されない。
【0045】
スラリーのpHは、分離前、5~7の範囲の中性または弱酸性に調整することができ、ヘミセルロースが安定化され、固体材料上でのさらなる洗浄工程が促進される。pH調整剤としては、HCl、HSO、HPOならびに有機酸、例えば酢酸、ギ酸およびクエン酸が挙げられる。
【0046】
熱水洗浄が固体材料上で実施することができ、より多くの溶液残留物が回収され、固体材料が清浄にされ、これは主に、さらなる適用のための不溶性繊維を含む。水洗浄工程は数回、リンス水が実質的に透明になるまで実施することができる。最初の1または2回のリンス中、排水は、以上で言及される、分離された液体と合わせることができ、より多くの可溶性ヘミセルロースが回収される。
【0047】
固体材料から分離された溶液はヘミセルロースが豊富であるが、また、アルカリ性過酸化水素前処理に起因するイオンおよび塩を含む。その上、溶液は暗褐色で、強いオフノート(off-note)を有し、これにより、そのさらなる用途が制限される。高品質ヘミセルロース画分を得るために、さらなる精製が実施される。このために、エタノール沈殿が導入される。エタノール沈殿前に、溶液のpHが、pH調整剤、例えばHCl、HSO、HPO、ならびに有機酸、例えば酢酸、ギ酸およびクエン酸を使用して約4~6に調整される。
【0048】
約3体積のエタノールが酸性化溶液に直接、または濃縮後に添加され得、約60~80%の水が除去される。エタノールを、酸性化溶液を濃縮せずに添加することにより、結果として得られたヘミセルロースガムはより清浄で、薄い色およびより少ない塩を有すると考えられる。しかしながら、エタノールを、酸性化溶液を濃縮せずに添加するには大量のエタノールが必要となり、これによりコストが増加し、スケールアップのための効率が低減する。
【0049】
濃縮工程を実施するために、ベンチトップ真空ロタベーパーが使用され、水が除去され、濃度が3倍の溶液が製造され、総固体は10~20%の範囲となった。別の実施形態では、ナノ濾過膜を使用して酸性化溶液を濃縮することができる。ナノ濾過を使用することにより、ほぼ60~75%の水が除去でき、溶液が濃縮される。加えて、イオン、塩および他の有機不純物が小分子と共に大規模ヘミセルロースから分離することができ、これにより、最終生成物の品質が改善される。真空ロタベーパーを使用して濃縮したヘミセルロース画分と比べて、ナノ濾過を使用して調製されたヘミセルロース画分は、より少ない色、より少ない塩およびすっきりした味を有する。
【0050】
約3体積のエタノールが真空ロタベーパーまたはナノ濾過のいずれかから得られた濃縮ヘミセルロース抽出物に添加され得る。約2~12時間後、沈殿したヘミセルロースガムは収集され、少量の95%エタノールで洗浄され、液体残渣が除去される。ヘミセルロースガムは、オーブンを使用して約40~50℃の温度で真空ありまたはなしで、または凍結乾燥機を使用して、または水に溶解した後、噴霧乾燥機(spay dryer)を使用して、乾燥させた。ヘミセルロースガムはまた、室温でドラフト内で乾燥された。乾燥ヘミセルロースガムは基本的チョッパーグラインダーにより、さらに粉砕させて、粉末形態にすることができる。
【0051】
結果として得られたヘミセルロースガムの純度および収率は使用したプロセスおよび条件によって異なるであろう。一般に、本明細書で開示される方法は約18~25%(w/w)の収率を提供することができる。
【0052】
結果として得られた色の範囲は、使用したHの量および採用した精製工程によって、淡褐色から暗褐色まで変動する。ヘミセルロースガムは水に非常に可溶性であり、明らかな香りおよび味覚はない。
【0053】
加えて、結果として得られた不水溶性ホロセルロースは同じプロセスから得ることができ、全般収率は約25~35%(w/w)である。この材料は淡黄色から白色の色の範囲を有し、明らかな香りおよび味覚はない。
【0054】
本開示の方法により生成される代表的なヘミセルロースおよびその誘導体の非限定的実施形態の物理的および化学的特性は測定されており、表1で報告される。合理的な分析データ変動は原料起源および処理条件の違いに基づき予想することができるであろう。
【0055】
表2は、本開示の方法を用いてSCGから抽出した多糖の単糖組成を測定するための、酸加水分解、続いてトリプル四重極質量分析と連結された超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC-TQMS)からの結果を提供する。この分析に基づき、ガラクトースおよびアラビノースが主要単糖単位であり、これは他のアルカリ法を使用してSCGから抽出した多糖の組成分析結果に匹敵する。各単糖の相対存在量および収率は、SCG起源および処理条件に基づき、ある一定の違いを示すであろう。
【0056】
表1に示されるように、ヘミセルロースリッチ抽出物中の脂肪含量は予想より高く、総抽出物の約28.5%(w/w)を占め、一方、ヘミセルロースは主要構成要素であり、抽出物の少なくとも約40%(w/w)を占めた。理論に縛られないが、AHP処理は、細胞壁の天然不応性を低減させ、脂肪酸、トリアシルグリセロールおよびジテルペンエステルを含む脂質の総量の放出を著しく増加させると考えられる。トリアシルグリセロールおよびジテルペンエステルは強塩基によりさらに加水分解され、より多くの脂肪酸が生成され、次いで、それらは、多糖およびタンパク質と一緒に濃縮され、抽出される。脂肪分析により、リノレン酸およびパルミチン酸はヘミセルロースリッチ抽出物中の2つの主要脂肪酸であり、総脂肪含量の75%超を占めることが明らかになった。
【0057】
あるいは、脱脂ヘミセルロース抽出物は、アルコール沈殿直前にヘキサンまたは酢酸エチルを使用することにより有機溶媒分配プロセスを導入することにより、または、沈殿後、ガムを水に溶解させ、その後有機溶媒分配プロセスとすることにより得ることができる。得られた脱脂ヘミセルロース抽出物(SCGHD)の化学的および物理的特性もまた測定される。
【表1】
乾燥重量に基づく
処理なしSCG
AHP処理後のSCG不溶性ホロセルロース
AHP処理後のSCGヘミセルロース
AHP処理後のSCG脱脂ヘミセルロース
【表2】
AHP処理後のSCGヘミセルロース
AHP処理後のSCG脱脂ヘミセルロース
【0058】
結果として得られた可溶性ヘミセルロースの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)ならびに多分散性(Mw/Mn)を決定すると(図3)、アルカリ溶液で抽出されたヘミセルロースは、20kDa~100kDa超の範囲の高いMwを含むことが示される。多糖の糖組成および分子サイズは他の天然由来のヘミセルロース、例えばトウモロコシヘミセルロースとは非常に異なり、それは、本明細書で提供されるものとは異なる抽出条件に基づき、主にアラビノースおよびキシロースから構成され、2~4kDaの範囲の比較的低い平均Mwを有する。
【0059】
加えて、本開示の方法により調製したヘミセルロースリッチ抽出物の安定性を測定した。熱分析からの結果により、SCGヘミセルロースリッチ抽出物およびその脱脂版はどちらも、約140℃未満で比較的安定であることが示される。動的水蒸気吸着(DVS)実験により、材料はどちらも、65%相対湿度未満で、25℃にて安定であり、脱脂ヘミセルロースリッチ画分の安定性は未脱脂画分よりも大きいことが示された(図4)。
【0060】
脱脂および未脱脂ヘミセルロースリッチ画分はどちらも、水中で比較的高い溶解度を示した(>20%)。ヘミセルロース画分を含む脂肪では、脂質は多糖およびタンパク質と相互作用し、エマルジョン系を形成する可能性があり、これにより、脂質は水によく分散させることができる。SCG由来のヘミセルロースリッチ抽出物はまた、とりわけ、ある一定の食品病原性真菌に対して抗菌活性を示すことが報告されている。これらの特性全てにより、SCGヘミセルロースは広範囲の用途に対し理想的な多糖源となる。
【0061】
その上、本開示の方法から生成される不溶性ホロセルロースは白色であり、スモーキーなオフノート(off-note)がなく、熱的実験(150℃未満で安定)およびDVS実験(80%RH未満で安定)において大きな安定性を示す(図4)。これらの特性によりSCG由来のホロセルロースは、食品業界において同様に大きな潜在用途を有し、例えば理想的な天然由来のフロー剤である。
【0062】
ヘミセルロースリッチ抽出物およびホロセルロースの総回収は、本開示の方法を用いることによりSCGの乾燥重量の60%超を占める。そのようなものとして、本開示の方法は、ヘミセルロースリッチ抽出物ならびに清浄な不溶性ホロセルロースをSCGから抽出するための効率的でコスト効率の良い方法を提供し、それはSCGをリサイクルための非常に有望な戦略を提供する。
【0063】
実施例
下記実施例は、現在開示される対象物を説明するために含められた。下記実施例のある一定の態様は、現在開示される対象物の実施においてうまく働くように、本発明者らにより見出され、または企図された技術および手順の観点から記載される。これらの実施例は発明者らの標準的技法を説明する。本開示および当技術分野における一般的なレベルの技術を考慮すると、当業者は、下記実施例は例示にすぎないことが意図されること、ならびに、多くの変更、改変、および修正が現在開示される対象物の範囲から逸脱せずに採用され得ることを認識するであろう。
【0064】
実施例1
エタノール沈殿工程のみを使用するコーヒー粕(SCG)ヘミセルロースの抽出のプロセス
1.脱脂
SCG50gを250mLの70%エタノール水溶液を使用して2回、毎回6時間抽出した。
2.アルカリ性過酸化水素処理
室温で乾燥させ、粉砕した後、脱脂SCGを400mLの水に添加し、スラリーを形成させた。20mLの30%Hおよび7gのNaOHペレットをスラリーに添加した。混合物を50℃まで加熱し、12時間撹拌した。
3.分離
AHP処理済みスラリーの固体画分および液体画分を、Beckman CoulterのAllegra X-30ベンチトップ遠心分離機を4800rpmの速度で使用することにより分離した。約400mLの蒸留水を使用して固体をすすぎ、液体残渣を回収し、これを遠心分離機からの上清と合わせた。
4.濃縮
液体を、真空ロタベーパーを使用して水の約70%を除去することにより、濃縮した。
5.酸性化
約5mLの37%HClを濃縮液体に添加し、pHを約5.6に調整した。
6.沈殿
約3体積の75%エタノールを酸性化した濃縮溶液に添加した。3時間後、褐色ガムが沈殿し、これを収集し、70%エタノールで3回、毎回20mLを用いて洗浄した。
7.乾燥
ヘミセルロースガムをオーブン内、60℃で4時間乾燥させ、粉砕して褐色粉末にした。総収率は乾燥重量に基づき15%である。
【0065】
実施例2
エタノール沈殿、続いて膜濾過を使用する、コーヒー粕(SCG)ヘミセルロースおよびホロセルロースの抽出および精製のプロセス
1.脱脂
脱脂プロセスなし。
2.アルカリ性過酸化水素処理
400gの、52%の水分を有する湿性SCGを粉砕して、1.8Lの水に添加し、スラリーを形成させた。130mLの30%Hおよび30gのNaOHペレットをスラリーに添加した。混合物を50℃まで加熱し、6時間撹拌した。
3.分離
AHP処理済みスラリーの固体画分および液体画分を、実施例1に記載される分離手順を使用して分離した。
4.濃縮
液体を、真空ロタベーパーを使用して水の約70%を除去することにより、濃縮した。濃縮前にpHを約8.0に調整した。
5.酸性化
37%HClを濃縮液体に添加し、pHを約5.0で調整した。
6.沈殿
ヘミセルロースガムを、実施例1で記載される同じ手順を使用して沈殿させた。
7.乾燥
ヘミセルロースガムを凍結乾燥させ、粉末形態に粉砕した。合計23%収率が乾燥重量に基づき、達成された。
8.膜濾過を用いた2次精製
上記ヘミセルロースガムの一部を水に溶解し、200DaのMWCOを有する膜を使用するナノ濾過および5kDaのMWCOを有する膜を使用する限外濾過に供した。
9.乾燥
結果として得られた2つの残余分を凍結乾燥させ、使用した20gのヘミセルロースに基づき、それぞれ、6.5%および60%の収率を得た。
【0066】
実施例3
ナノ濾過、続いてエタノール沈殿を使用する、コーヒー粕(SCG)ヘミセルロースおよびホロセルロースの抽出および精製のプロセス
ヘミセルロースガムを、実施例2において記載される同じ手順1-7を使用して得た。
8.クロマトグラフィーを使用する2次精製
10gのヘミセルロースガムを水に溶解させ、分離のためにマクロ孔樹脂SP70カラム上にロードし、EtOH/HOグラジエントを用い、4つの画分を、使用した10gのヘミセルロースガムに基づき、それぞれ、56%、16%、12%および10%の収率で得た。これらの画分の中で、画分1~3はヘミセルロースリッチ画分であり、画分4はより多くの小分子不純物を含む。
9.乾燥
収集画分を真空ロタベーパーにより濃縮し、凍結乾燥させた。
【0067】
実施例4
ナノ濾過、続いてエタノール沈殿を使用するコーヒー粕(SCG)ヘミセルロースの抽出のプロセス
1.脱脂
脱脂プロセスなし。
2.アルカリ性過酸化水素処理
6000gの、60%の水分を有する湿性SCGを粉砕して、20Lの水に添加し、スラリーを形成させた。800gの50%NaOH溶液をスラリーに添加した。1時間後、1600gの30%Hをアルカリ性スラリーに徐々に添加した。混合物を70℃まで加熱し、6時間撹拌した。
3.分離
AHP処理済みスラリーの固体画分および液体画分を10ミクロン濾過バッグにより分離した。少なくとも10Lの蒸留水を使用して固体をすすぎ、液体残渣を回収し、これを液体濾液と合わせた。
4.濃縮
結果として得られた液体画分を200kDaのMWCOを有するナノ濾過を使用することにより濃縮した。ほぼ70%の水および90%のナトリウムを除去した。
5.酸性化
37%HClを濃縮液体に添加し、pHを約5.0に調整した。
6.沈殿
約3体積の75%エタノールを、酸性化した濃縮溶液に添加した。12時間後、褐色ガムが沈殿し、これを収集し、75%エタノールで3回、毎回500mLを用いて洗浄した。
7.乾燥
ヘミセルロースガムを室温で、ドラフト内で乾燥させ、粉砕して褐色粉末にした。総収率は、使用したSCGの乾燥重量に基づき、20%であった。
【0068】
実施例5
膜濾過のみを使用するコーヒー粕(SCG)ヘミセルロースの抽出のプロセス
1.脱脂
脱脂プロセスなし。
2.アルカリ性過酸化水素処理
AHP前処理手順を実施例2における工程2と同じように実施した。
3.分離
AHP処理済みスラリーの固体画分および液体画分を、実施例1における分離手順を使用することにより分離した。
4.濃縮
濃縮工程なし。
5.酸性化
37%HClを液体画分に添加し、pHを約7.0の値に調整した。
6.膜濾過
中和溶液を5kDaのMWCOを使用する限外濾過により濾過した。
7.乾燥
結果として得られた残余分を凍結乾燥させ、褐色粉末とした。総回収ヘミセルロースは、使用したSCGの乾燥重量に基づき、27%であった。
【0069】
実施例6
コーヒー粕(SCG)脱脂ヘミセルロースの抽出のプロセス-沈殿前脱脂工程
工程1-5は実施例4で記載されるものと同じである。
等体積の酢酸エチルを酸性化した濃縮溶液に添加した。次いで、溶液を振盪によりよく混合し、その後、上部有機相を除去し、水相を収集し、中和溶液を得た。中和溶液を5kDaのMWCOを使用する限外濾過により濾過した。
1.沈殿
沈殿を実施例4における工程6に従い実施した。
2.乾燥
乾燥を実施例4における工程7に従い実施した。脱脂ヘミセルロース抽出物の総収率は、使用したSCGの乾燥重量に基づき、16%であった。
【0070】
実施例7
コーヒー粕(SCG)脱脂ヘミセルロースの抽出のプロセス-沈殿後脱脂工程
工程1-6は実施例4で記載されるものと同じである。
1.ヘミセルロースガムを水に溶解し、20%溶液とする。
2.等体積の酢酸エチルを水溶液に添加した。次いで、溶液を振盪によりよく混合し、その後、上部有機相を除去し、水相を収集した。
3.水相の水をロタベーパーにより70℃で除去した。固体を粉末形態に粉砕する。脱脂ヘミセルロース抽出物の総収率は、使用したSCGの乾燥重量に基づき、15%であった。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】