(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-21
(54)【発明の名称】胆道癌の治療のための、HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物の使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220913BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220913BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220913BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20220913BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20220913BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220913BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220913BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220913BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220913BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20220913BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220913BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P35/00 ZNA
A61K45/00
A61K31/7068
A61K33/243
A61P43/00 121
A61K47/68
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K16/46
C07K16/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570770
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(85)【翻訳文提出日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 US2019035042
(87)【国際公開番号】W WO2020242503
(87)【国際公開日】2020-12-03
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510214045
【氏名又は名称】ザイムワークス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ハウスマン ダイアナ エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフソン ニール シー.
(72)【発明者】
【氏名】レイ ローズ カムイー
(72)【発明者】
【氏名】ロウズ ジェラルド ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】カミンカー パトリック
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C085AA14
4C085AA23
4C085AA27
4C085BB11
4C085FF24
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA17
4C086HA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
胆道癌(BTC)を治療する方法であって、HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物またはアウリスタチン類似体(ADC)に結合されたHER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物を対象に投与することを含む方法を本明細書に記載する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆道癌(BTC)を有する対象を治療する方法であって、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物または抗体薬物コンジュゲート(ADC)を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記BTCが、切除可能、部分切除可能、または切除不能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記BTCが、進行性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記BTCが、免疫組織化学(IHC)及び遺伝子増幅により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記BTCが、HER2遺伝子増幅なしで、免疫組織化学(IHC)により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記BTCが、胆嚢癌である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記BTCが、胆管細胞癌(CCA)である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、重鎖H1、重鎖H2、及び軽鎖L1を含み、
a)重鎖H1が、配列番号39、配列番号40、及び配列番号41に記載のCDR配列を含み、
b)重鎖H2が、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、及び配列番号72に記載のCDR配列を含み、
c)重鎖L1が、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載のCDR配列を含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H1、配列番号63に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H2、及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖L1を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、10mg/kg/週である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、2週間毎に20mg/kgである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、3週間毎に30mg/kgである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項13】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物を前記対象に投与することが、前記対象において完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、または安定(SD)をもたらす、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における病勢制御率が、60%、70%、または80%を超える、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における全奏効率が、50%、60%、70%、または80%を超える、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、少なくとも1つ、2つ、または3つの第一選択療法の後に投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、第一選択単剤療法として投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、アジュバント療法またはネオアジュバント療法として投与される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、1つ以上の化学療法剤とともに投与される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の化学療法剤が、ゲムシタビン及び/またはシスプラチンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
胆道癌(BTC)の治療のための医薬の調製における、二重特異性抗HER2抗原結合構築物または抗体薬物コンジュゲート(ADC)の使用。
【請求項22】
前記BTCが、切除可能、部分切除可能、または切除不能である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記BTCが、進行性である、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
前記BTCが、免疫組織化学(IHC)及び遺伝子増幅により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、請求項21~23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記BTCが、HER2遺伝子増幅なしで、免疫組織化学(IHC)により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、請求項21~23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
前記BTCが、胆嚢癌である、請求項21~25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
前記BTCが、胆管細胞癌(CCA)である、請求項21~25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、重鎖H1、重鎖H2、及び軽鎖L1を含み、
a)重鎖H1が、配列番号39、配列番号40、及び配列番号41に記載のCDR配列を含み、
b)重鎖H2が、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、及び配列番号72に記載のCDR配列を含み、
c)重鎖L1が、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載のCDR配列を含む、
請求項21~27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H1、配列番号63に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H2、及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖L1を含む、請求項21~27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、10mg/kg/週である、請求項28または29に記載の使用。
【請求項31】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、2週間毎に20mg/kgである、請求項28または29に記載の使用。
【請求項32】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、3週間毎に30mg/kgである、請求項28または29に記載の使用。
【請求項33】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物を前記対象に投与することが、前記対象において完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、または安定(SD)をもたらす、請求項21~32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項34】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における病勢制御率が、60%、70%、または80%を超える、請求項21~32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項35】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における全奏効率が、50%、60%、70%、または80%を超える、請求項21~32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項36】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、少なくとも1つ、2つ、または3つの第一選択療法の後に投与される、請求項21~32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項37】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、第一選択単剤療法として投与される、請求項21~32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項38】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、アジュバント療法またはネオアジュバント療法として投与される、請求項21~37のいずれか1項に記載の使用。
【請求項39】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、1つ以上の化学療法剤とともに投与される、請求項21~37のいずれか1項に記載の使用。
【請求項40】
前記1つ以上の化学療法剤が、ゲムシタビン及び/またはシスプラチンである、請求項39に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、EFS-Webを介して提出される配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。該ASCIIコピーは、2019年5月31日に作成され、ZWI063sequencelisting.txtと名付けられ、99,000バイトのサイズである。
【背景技術】
【0002】
背景
胆嚢癌及び胆管細胞癌を含む胆道癌(BTC)は、予後不良のまれな悪性腫瘍である。推定年間発症率は、米国で10,650件である(Siegel R,Ma J,Zou Z,Jemal A.Cancer statistics,2014.CA:A Cancer Journal for Clinicians.2014;64(1):9-29(非特許文献1))。ほとんどのBTCは進行段階で診断され、手術可能なのは約25%である。5年間の全生存率は10%未満である(Anderson CD,Pinson CW,Berlin J,Chari RS.Diagnosis and treatment of cholangiocarcinoma.Oncologist.2004;9(1):43-57(非特許文献2);de Groen PC,Gores GJ,LaRusso NF,Gunderson LL,Nagorney DM.Biliary Tract Cancers.N Engl J Med.1999;341(18):1368-78(非特許文献3)).HER2は、胆道癌の3~25%に過剰発現する(Benavides M,Anton A,Gallego J,Gomez MA,Jimenez-Gordo A,La Casta A,et al.Biliary tract cancers:SEOM clinical guidelines.Clinical and Translational Oncology.2015;17(12):982-7(非特許文献4))。
【0003】
手術不能なBTCの第一選択治療は、全身化学療法(ゲムシタビン+シスプラチン、ゲムシタビン単独と比較して全生存期間を改善する[それぞれ11.7ヶ月対8.1ヶ月])を含む。代替の第一選択治療は、MSI-H/dMMR腫瘍のためのペムブロリズマブ、フルオロピリミジンベースの化学放射線、追加の化学療法を伴わない放射線療法、治験薬、または最良の支持療法を含む。BTCにおける第二選択化学療法の裏付けとなる証拠が不足しており、臨床試験が推奨されている(NCCN Clinical Practice Guidelines:Hepatobiliary Cancers.Version 2.2019(非特許文献5))。
【0004】
胆道癌の治療の必要性が依然として存在する。
【0005】
国際特許公開第WO2015/077891号(特許文献1)は、トラスツズマブ及びペルツズマブによって結合されるのと同じエピトープである、ECD4及びECD2内の2つの異なるHER2エピトープに対する二重特異性抗HER2抗体を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許公開第WO2015/077891号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Siegel R,Ma J,Zou Z,Jemal A.Cancer statistics,2014.CA:A Cancer Journal for Clinicians.2014;64(1):9-29
【非特許文献2】Anderson CD,Pinson CW,Berlin J,Chari RS.Diagnosis and treatment of cholangiocarcinoma.Oncologist.2004;9(1):43-57
【非特許文献3】de Groen PC,Gores GJ,LaRusso NF,Gunderson LL,Nagorney DM.Biliary Tract Cancers.N Engl J Med.1999;341(18):1368-78
【非特許文献4】Benavides M,Anton A,Gallego J,Gomez MA,Jimenez-Gordo A,La Casta A,et al.Biliary tract cancers:SEOM clinical guidelines.Clinical and Translational Oncology.2015;17(12):982-7
【非特許文献5】NCCN Clinical Practice Guidelines:Hepatobiliary Cancers.Version 2.2019
【発明の概要】
【0008】
概要
胆道癌の治療のための、HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物の使用方法を本明細書に記載する。本開示の一態様において、胆道癌(BTC)を有する対象を治療する方法であって、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物または抗体薬物コンジュゲート(ADC)を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0009】
いくつかの実施形態では、BTCは、切除可能、部分切除可能、または切除不能である。
【0010】
いくつかの実施形態では、BTCは進行性である。
【0011】
いくつかの実施形態では、BTCは、免疫組織化学(IHC)及び遺伝子増幅により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である。
【0012】
いくつかの実施形態では、BTCは、HER2遺伝子増幅なしで、免疫組織化学(IHC)により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である。
【0013】
いくつかの実施形態では、BTCは胆嚢癌である。
【0014】
いくつかの実施形態では、BTCは胆管細胞癌(CCA)である。
【0015】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、重鎖H1、重鎖H2、及び軽鎖L1を含み、a)重鎖H1が、配列番号39、配列番号40、及び配列番号41に記載のCDR配列を含み、b)重鎖H2が、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、及び配列番号72に記載のCDR配列を含み、c)重鎖L1が、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載のCDR配列を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H1、配列番号63に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H2、及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖L1を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、10mg/kg/週である。
【0018】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、2週間毎に20mg/kgである。
【0019】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、3週間毎に30mg/kgである。
【0020】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物を対象に投与することは、対象において完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、または安定(SD)をもたらす。
【0021】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における病勢制御率は、60%、70%、または80%を超える。
【0022】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における全奏効率は、50%、60%、70%、または80%を超える。
【0023】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、少なくとも1つ、2つ、または3つの第一選択療法の後に投与される。
【0024】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、第一選択単剤療法として投与される。
【0025】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、アジュバント療法またはネオアジュバント療法として投与される。
【0026】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、1つ以上の化学療法剤とともに投与される。
【0027】
いくつかの実施形態では、1つ以上の化学療法剤は、ゲムシタビン及び/またはシスプラチンである。
【0028】
本開示の別の態様において、胆道癌(BTC)の治療のための医薬の調製における二重特異性抗HER2抗原結合構築物または抗体薬物コンジュゲート(ADC)の使用が提供される。
【0029】
本開示のさらに別の態様において、対象におけるBTCの治療のための有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】Fab/scFv形式の例示的な二重特異性抗HER2抗原結合構築物の表現を示す。
【
図2】BTCを有し、v10000で治療された対象における治療期間及び径和(SOD)の最大減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物を患者に投与することを含む、対象の胆道癌(BTC)を治療する方法を本明細書に記載する。いくつかの実施形態では、HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物は、アウリスタチン類似体に結合される(本明細書において抗体-薬物コンジュゲートまたはADCと称される)。いくつかの実施形態では、HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物は、胆嚢癌または胆管細胞癌を治療する方法に使用され得る。他の実施形態では、HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物は、BTCを有する対象に投与されたとき、対象における腫瘍または病変のサイズの減少をもたらし得る。さらに他の実施形態では、HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物の投与は、RECIST 1.1ガイドラインにより測定した場合、対象における完全奏効(CR)、部分奏効(PR)または安定(SD)をもたらし得る。
【0032】
本明細書には、HER2を標的とする二重特異性抗原結合構築物を、1つ以上の化学療法剤とともに対象に投与することを含む、BTCを治療する方法も記載される。
【0033】
定義
別段に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、別段の指示がない限り、所与の値からの約+/-10%の変動を指す。そのような変形は、具体的に言及されているかどうかにかかわらず、本明細書で提供される任意の所与の値に常に含まれることを理解されたい。
【0035】
「含む」という用語と併せて本明細書で使用される場合の「1つの(a)」または「1つの(an)」という語の使用は、「1つ」を意味し得るが、それはまた特定の実施形態では、「1つ以上」、「少なくとも1つ」または「1つまたは1つより多く」の意味と一致する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containg)」という用語、ならびにそれらの文法的変形は、包括的または開放的であり、追加の、列挙されていない要素及び/または方法ステップを除外しない。「~から本質的になる」という用語は、組成物、使用、または方法に関連して本明細書で使用される場合、追加の要素及び/または方法ステップが存在し得るが、これらの追加は、列挙される組成物、方法、または使用が機能する様式に実質的に影響を与えないことを意味する。「~からなる」という用語は、組成物、使用、または方法に関連して本明細書で使用される場合、追加の要素及び/または方法ステップの存在を排除する。特定の要素及び/またはステップを含むものとして本明細書に記載される組成物、使用または方法は、特定の実施形態では、それらの要素及び/またはステップから本質的になってもよく、他の実施形態では、それらの実施形態が具体的に言及されているかどうかに関わらず、それらの要素及び/またはステップからなってもよい。
【0037】
本明細書で論じられる任意の実施形態は、本明細書に開示される任意の方法、使用または組成物に関して実施され得ることが企図される。
【0038】
本明細書に開示される実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造及び/または特徴は、1つ以上のさらなる実施形態を提供するために、本明細書に開示される別の実施形態に関連して記載される特徴、構造及び/または特徴と任意の好適な方法で組み合わせられ得る。
【0039】
また、一実施形態における特徴の明確な列挙は、代替の実施形態における特徴を除外するための基礎となることも理解されたい。例えば、選択肢のリストが所与の実施形態または特許請求の範囲に対して提示される場合、そのような代替の実施形態が具体的に言及されているかどうかにかかわらず、1つ以上の選択肢がそのリストから削除され得、短縮されたリストが代替の実施形態を形成し得ることを理解されたい。
【0040】
HER2に結合する二重特異性抗原結合構築物
HER2に結合する二重特異性抗原結合構築物(二重特異性抗HER2抗原結合構築物とも称される)を以下に記載する。
【0041】
用語「抗原結合構築物」は、抗原に結合することができる物質、例えば、ポリペプチドまたはポリペプチド複合体を指す。いくつかの態様において、抗原結合構築物は、目的の抗原に特異的に結合するポリペプチドである。抗原結合構築物は、単量体、二量体、多量体、タンパク質、ペプチド、またはタンパク質もしくはペプチド複合体;抗体、抗体断片、またはその抗原結合断片;scFv等であり得る。抗原結合構築物は、単一特異性、二重特異性、または多重特異性であるポリペプチド構築物であってもよい。いくつかの態様において、抗原結合構築物は、例えば、1つ以上のFcに結合した1つ以上の抗原結合成分(例えば、FabまたはscFv)を含むことができる。抗原結合構築物のさらなる例を、以下に記載し、実施例において提供する。
【0042】
「二重特異性」という用語は、それぞれ固有の結合特異性を有する2つの抗原結合部分(例えば、抗原結合ポリペプチド構築物)を有する任意の物質、例えば、抗原結合構築物を含むことが意図される。例えば、第1の抗原結合部分は、第1の抗原上のエピトープに結合し、第2の抗原結合部分は、第2の抗原上のエピトープに結合する。「バイパラトピック」という用語は、本明細書で使用される場合、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分が、同じ抗原上の異なるエピトープに結合する二重特異性抗体を指す。バイパラトピック二重特異性抗体は、同じ抗原分子上の2つのエピトープに結合してもよいか、または2つの異なる抗原分子上のエピトープに結合してもよい。
【0043】
単一特異性抗原結合構築物は、1つの結合特異性を有する抗原結合構築物を指す。換言すると、両方の抗原結合部位が、同じ抗原上の同じエピトープに結合する。単一特異性抗原結合構築物の例として、HER2に結合するトラスツズマブ及びペルツズマブが挙げられる。
【0044】
抗原結合構築物は、抗体またはその抗原結合部分であり得る。本明細書で使用される場合、「抗体」または「免疫グロブリン」は、分析物(例えば、抗原)に特異的に結合してそれを認識する、単数の免疫グロブリン遺伝子もしくは複数の免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされるポリペプチド、またはその断片を指す。認識されている免疫グロブリン遺伝子として、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかとして分類される。抗体または免疫グロブリンの「クラス」は、その重鎖によって保有される定常ドメインまたは定常領域の種類を指す。抗体には、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つの主要なクラスがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2にさらに分割され得る。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0045】
例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、2対のポリペプチド鎖対からなり、各対が、1本の「軽」鎖(約25kD)と、1本の「重」鎖(約50~70kD)とを有する。各鎖のN末端ドメインが、抗原認識に主に関与する約100~110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を定義する。「可変軽鎖(VL)」及び「可変重鎖(VH)」という用語は、それぞれこれらの軽鎖ドメイン及び重鎖ドメインを指す。IgG1重鎖は、N末端からC末端へ、それぞれ、VH、CH1、CH2、及びCH3ドメインを含む。軽鎖は、N末端からC末端へ、VL及びCLドメインを含む。IgG1重鎖は、CH1ドメインとCH2ドメインとの間にヒンジを含む。特定の実施形態では、免疫グロブリン構築物は、治療用ポリペプチドに接続されたIgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEからの少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含む。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗原結合構築物に見出される免疫グロブリンドメインは、ダイアボディまたはナノボディ等の免疫グロブリンベースの構築物に由来するか、またはそれから誘導される。特定の実施形態では、本明細書に記載される免疫グロブリン構築物は、ラクダ科抗体等の重鎖抗体からの少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含む。特定の実施形態では、本明細書で提供される免疫グロブリン構築物は、ウシ抗体、ヒト抗体、ラクダ科抗体、マウス抗体または任意のキメラ抗体等の、哺乳動物抗体からの少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含む。
【0046】
「相補性決定領域」または「CDR」は、抗原結合特異性及び親和性に寄与するアミノ酸配列である。「フレームワーク」領域(FR)は、抗原結合領域と抗原との間の結合を促進するために、CDRの適切な立体配座の維持に役立ち得る。構造的に、フレームワーク領域は、CDR間の抗体内に位置することができる。可変領域は、典型的には、CDRとしても知られる、3つの超可変領域によって結合された、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般的な構造を示す。重鎖及び軽鎖の可変ドメインからのCDRは、典型的には、フレームワーク領域によって整列され、これにより特定のエピトープへの結合を可能にすることができる。N末端からC末端まで、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方は、典型的には、ドメインFR 1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、特に断りのない限り、典型的には、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987年及び1991年))に従う。典型的には、免疫グロブリンの可変部分には、3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDR(またはCDR領域)がある。3つの重鎖CDRは、本明細書においてCDRH1、CDRH2、及びCDRH3と称され、3つの軽鎖CDRは、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3と称される。したがって、本明細書で使用される「CDR」は、3つすべての重鎖CDR、または3つすべての軽鎖CDR(または必要に応じて、すべての重鎖CDR及びすべての軽鎖CDRの両方)を指し得る。CDRは、抗体の抗原またはエピトープへの結合のための接触残基の大部分を提供する。多くの場合、3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRは、抗原に結合するために必要とされる。しかしながら、いくつかの場合において、単一の可変ドメインであっても、抗原に対する結合特異性を与えることができる。さらに、当該技術分野で既知であるように、場合によっては、抗原結合はまた、VH及び/またはVLドメイン、例えばCDRH3から選択される最低限の1つ以上のCDRの組み合わせを介して生じ得る。
【0047】
Kabat et al.によって記載されるもの(1983,Sequences of Proteins of Immunological Interest,NIH Publication No.369-847,Bethesda,MD)、Chothia et al.によって記載されるもの(1987,J Mol Biol,196:901-917)、ならびにIMGT、AbM(University of Bath)及びContact(MacCallum R.M.及びMartin A.C.R.及びThornton J.M,(1996),Journal of Molecular Biology,262(5),732-745)の定義を含む、CDR配列のいくつかの異なる定義が一般的に用いられている。例として、Kabat、Chothia、IMGT、AbM及びContactによるCDR定義を、以下の表1に提供する。したがって、当業者には容易に明らかであるように、CDRの正確な番号付け及び配置は、使用される番号付けシステムに基づいて異なり得る。しかしながら、VHの本明細書における開示は、既知の番号付けシステムのいずれかによって定義される、関連する(固有の)重鎖CDR(HCDR)の開示を含むことを理解されたい。同様に、VLの本明細書における開示は、既知の番号付けシステムのいずれかによって定義される、関連する(固有の)軽鎖CDR(LCDR)の開示を含む。
【0048】
(表1)一般的なCDRの定義
1
1Chothia番号付けを使用するContactを除くすべての定義について、KabatまたはChothia番号付けシステムのいずれかを、HCDR2、HCDR3、及び軽鎖CDRに使用することができる。
2Kabat番号付けを使用する。KabatがこれらのCDR定義外の挿入を位置35A及び35Bに配置するため、Chothia及びIMGTのCDR-H1ループの末端を区切るKabat番号付けスキームの位置は、ループの長さに応じて変化する。しかしながら、IMGT及びChothiaのCDR-H1ループは、Chothia番号付けを使用して明確に定義することができる。Chothia番号付けを使用したCDR-H1定義:Kabat H31~H35、Chothia H26~H32、AbM H26~H35、IMGT H26~H33、Contact H30~H35。
【0049】
本明細書で使用される場合、「一本鎖」という用語は、ペプチド結合によって直鎖状に結合されたアミノ酸単量体を含む分子を指す。特定の実施形態では、抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、一本鎖Fv分子(scFv)である。本明細書でより詳細に記載されるように、scFvは、ポリペプチド鎖によって、そのC末端から重鎖の可変ドメイン(VH)のN末端に接続された軽鎖の可変ドメイン(VL)を有する。代替的に、scFvは、VHのC末端がポリペプチド鎖によってVLのN末端に接続されているポリペプチド鎖であり得る。
【0050】
抗原結合ポリペプチド構築物
二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、HER2の特定のドメインまたはエピトープにそれぞれ結合する2つの抗原結合ポリペプチド構築物を含む。一実施形態では、各抗原結合ポリペプチド構築物は、HER2の細胞外ドメイン、例えばECD2またはECD4に結合する。抗原結合ポリペプチド構築物は、用途に応じて、例えば、Fab、またはscFvであり得る。
【0051】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物の形式は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の機能的特徴を決定する。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、scFv-Fab形式を有する(すなわち、一方の抗原結合ポリペプチド構築物がscFvであり、他法の抗原結合ポリペプチド構築物がFabである、Fab-scFv形式とも称される)。別の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、scFv-scFv形式を有する(すなわち、両方の抗原結合ポリペプチド構築物は、scFvである)。
【0052】
「Fab断片」(断片抗原結合とも称される)は、軽鎖の定常ドメイン(CL)及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を、それぞれ軽鎖及び重鎖上の可変ドメインVL及びVHとともに含む。可変ドメインは、抗原結合に関与する相補性決定ループ(CDR、超可変領域とも称される)を含む。Fab’断片は、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端における、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む数個の残基の付加によって、Fab断片とは異なる。
【0053】
「一本鎖Fv」または「scFv」は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖内に存在する。一実施形態では、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これにより、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することが可能になる。ScFvの概説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照されたい。HER2抗体scFv断片は、WO93/16185、米国特許第5,571,894号、及び米国特許第5,587,458号に記載されている。
【0054】
抗原結合構築物の形式及び機能
本明細書で提供されるのは、2つの抗原結合ポリペプチド構築物を有し、そのうちの第1の抗原結合ポリペプチド構築物がHER2 ECD2に特異的に結合し、そのうちの第2の抗原結合ポリペプチド構築物がHER2 ECD4に特異的に結合する、二重特異性抗HER2抗原結合構築物である。二重特異性抗HER2抗原結合構築物の形式は、第1または第2の抗原結合ポリペプチドのうちの少なくとも1つがscFvであるようにする。二重特異性抗HER2抗原結合構築物の形式は、scFv-scFv、またはFab-scFv、またはscFv-Fab(それぞれ、第1の抗原結合ポリペプチド構築物-第2の抗原結合ポリペプチド)であり得る。
【0055】
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、(i)上皮成長因子またはヘレグリンによる刺激の存在下または非存在下の両方でがん細胞増殖を阻害する能力、(ii)がん細胞内で内在化される能力(HER2抗原に結合して、それを内在化させることによる)、及び(iii)抗体指向性エフェクター細胞死滅(ADCC)を媒介する能力等の抗腫瘍活性をインビトロで示す。これらのインビトロ活性は、裸の二重特異性抗HER2抗原結合構築物、及びアウリスタチン類似体にコンジュゲートされた二重特異性抗HER2抗原結合構築物の両方に、様々なレベルのHER2発現(1+、2+及び3+)で観察される。
【0056】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物の形式(scFv/scFv、scFv/FabまたはFab/Fab)は、国際特許公開第WO2015/077891号に記載されるように、その機能プロファイルの決定において重要である。特定の実施形態では、抗HER2結合構築物は、ECD2結合ポリペプチド構築物及びECD4結合ポリペプチド構築物の両方がFabである参照抗原結合構築物と比較して、HER2発現腫瘍細胞によって内在化される能力の増加を示す。二重特異性抗HER2抗原結合構築物の内部移行の程度は、ECD2またはECD4に対する一方または両方の抗原結合ポリペプチド構築物の親和性を増加させることによってさらに改善され得ることが企図される。ECD2結合ポリペプチドがFabであり、ECD4結合ポリペプチドがscFvである一実施形態では、構築物は、Fab/Fab形式を有する同等の親和性の構築物と比較して大幅に内在化され、高及び低HER2発現腫瘍細胞によって、scFv/scFv形式を有する同等の親和性の構築物と同様の程度まで内在化される。容易に内在化される実施形態は、死滅をもたらすために腫瘍細胞による内在化を必要とする、抗体-薬物コンジュゲートの良好な候補である。逆に、特定の実施形態では、容易に内部化されない二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、Fab/Fab形式を有する同等の親和性の構築物と比較して、低レベルのHER2を発現する腫瘍細胞のADCC死滅において増大した効力を示す。一実施形態では、Fab/scFv形式を有する二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、低レベルのHER2(HER20-1+または1+)を発現する腫瘍細胞のADCC死滅において、Fab/Fab形式を有する抗HER2構築物(scFv/scFv形式を有する二重特異性抗HER2抗原結合構築物よりも強力である)よりも強力である。いくつかの実施形態の増強されたADCC能力は、1)低HER2受容体密度の細胞に積極的に結合し、続いて標的細胞表面上のHER2受容体をクラスター化し、下流の細胞媒介性死滅を媒介する能力の増加、及び/または2)(内在化を引き起こすのではなく)細胞表面上に留まる能力の増加に起因し得る;したがって、それらは、細胞媒介性エフェクター死滅により利用可能である。
【0057】
HER2
本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、HER2のECD2及びECD4に結合する抗原結合ポリペプチド構築物を含む。
【0058】
「ErbB2」及び「HER2」という表現は、本明細書において互換的に使用され、例えば、Semba et al.,PNAS(USA)82:6497-6501(1985)及びYamamoto et al.Nature 319:230-234(1986)(Genebank accession number X03363)に記載されるヒトHER2を指す。「erbB2」及び「neu」という用語は、ヒトErbB 2タンパク質をコードする遺伝子を指す。p185またはp185neuは、neu遺伝子のタンパク質産物を指す。
【0059】
HER2はHER受容体である。「HER受容体」は、ヒト上皮成長因子受容体(HER)ファミリーに属する受容体タンパク質チロシンキナーゼであり、EGFR、HER2、HER3、及びHER4受容体を含む。HER受容体は、一般に、HERリガンドに結合し得る細胞外ドメイン、親油性膜貫通ドメイン、保存された細胞内チロシンキナーゼドメイン、及びリン酸化され得るいくつかのチロシン残基を保有するカルボキシル末端シグナル伝達ドメインを含む。「HERリガンド」は、HER受容体に結合する、及び/またはそれを活性化するポリペプチドを意味する。
【0060】
HER2の細胞外(エクト)ドメインは、ドメインI(ECD1、約1~195のアミノ酸残基)、ドメインII(ECD2、約196~319のアミノ酸残基)、ドメインIII(ECD3、約320~488のアミノ酸残基)、及びドメインIV(ECD4、約489~630のアミノ酸残基)(シグナルペプチドを除いた残基番号付け)の4つのドメインを含む。Garrett et al.Mol.Cell.11:495-505(2003),Cho et al.Nature 421:756-760(2003)、Franklin et al.Cancer Cell 5:317-328(2004)、Tse et al.Cancer Treat Rev.2012 Apr;38(2):133-42(2012)、またはPlowman et al.Proc.Natl.Acad.Sci.90:1746-1750(1993)を参照されたい。
【0061】
HER2の配列は以下の通りであり、ECD境界はドメインI:1~165、ドメインII:166~322、ドメインIII:323~488、ドメインIV:489~607である。
【0062】
「エピトープ2C4」は、抗体2C4が結合するHER2の細胞外ドメイン内の領域である。エピトープ2C4は、HER2の細胞外ドメイン内のドメインIIからの残基を含む。2C4及びペルツズマブは、ドメインI、II及びIIIの接合部でHER2の細胞外ドメインに結合する。Franklin et al.Cancer Cell 5:317-328(2004)。2C4エピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されるような日常的なクロスブロッキングアッセイを行うことができる。代替的に、当該技術分野で既知の方法を使用して、その抗体がHER2の2C4エピトープに結合するかどうかを評価するために、エピトープマッピングを行うことができ、及び/または、HER2のどのドメイン(複数可)が抗体によって結合されているかを確認するために抗体-HER2構造を調べることができる(Franklin et al.Cancer Cell 5:317-328(2004))。
【0063】
「エピトープ4D5」は、抗体4D5(ATCC CRL 10463)及びトラスツズマブが結合するHER2の細胞外ドメイン内の領域である。このエピトープは、HER2の膜貫通ドメインに近く、かつHER2のドメインIV内にある。4D5エピトープに結合する抗体をスクリーンするために、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されるような日常的なクロスブロッキングアッセイを実施することができる。代替的に、その抗体がHER2の4D5エピトープ(例えば、両端を含めて、約残基529~約残基625の領域にある任意の1つ以上の残基、米国特許公開第2006/0018899号の
図1を参照されたい)に結合するかどうかを評価するために、エピトープマッピングを行うことができる。
【0064】
「特異的に結合する」、「特異的結合」または「選択的結合」は、結合がその抗原に対して選択的であり、望ましくないまたは非特異的な相互作用から区別され得ることを意味する。二重特異性抗HER2抗原結合構築物が特異的抗原決定基に結合する能力は、酵素結合免疫吸着決定法(ELISA)、または当業者が精通している他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore機器で分析)(Liljeblad et al,Glyco J 17,323-329(2000))、及び従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))のいずれかによって測定することができる。一実施形態では、無関係なタンパク質への抗原結合部分の結合の程度は、例えば、SPRにより測定した場合、その抗原への二重特異性抗HER2抗原結合構築物の結合の約10%未満である。特定の実施形態では、抗原に結合する二重特異性抗HER2抗原結合構築物、またはその抗原結合部分を含む抗原結合分子は、<1μΜ、<100nM、<10nM、<1nM、<0.1nM、<0.01nM、または<0.001nM(例えば、10~8M以下、例えば、10~8M~10”13M、例えば、10”9M~10”13M)の解離定数(KD)を有する。
【0065】
「ヘレグリン」(HRG)は、本明細書で使用される場合、米国特許第5,641,869号、またはMarchionni et al.,Nature,362:312-318(1993)に開示されるようなヘレグリン遺伝子産物によってコードされるポリペプチドを指す。ヘレグリンの例として、ヘレグリン-α、ヘレグリン-β1、ヘレグリン-β2、及びヘレグリン-β3(Holmes et al.,Science,256:1205-1210(1992);及び米国特許第5,641,869号);neu分化因子(NDF)(Peles et al.Cell 69:205-216(1992));アセチルコリン受容体誘導活性(ARIA)(Falls et al.Cell 72:801-815(1993));グリア成長因子(GGF)(Marchionni et al.,Nature,362:312-318(1993));感覚及び運動ニューロン由来因子(SMDF)(Ho et al.J.Biol.Chem.270:14523-14532(1995));γ-ヘレグリン(Schaefer et al.Oncogene 15:1385-1394(1997))が挙げられる。この用語は、天然配列HRGポリペプチドの生物学的に活性な断片及び/またはアミノ酸配列変異体、例えば、そのEGF様ドメイン断片(例えば、HRGβ1177-244)を含む。
【0066】
「HER2活性化」または「HER2活性化」は、任意の1つ以上のHER受容体、またはHER2受容体の活性化またはリン酸化を指す。一般に、HER活性化は、シグナル伝達をもたらす(例えば、HER受容体または基質ポリペプチド内のチロシン残基をリン酸化するHER受容体の細胞内キナーゼドメインによって引き起こされるもの)。HER活性化は、目的のHER受容体を含むHER二量体へのHERリガンド結合によって媒介され得る。HER二量体へのHERリガンド結合は、二量体内のHER受容体のうちの1つ以上のキナーゼドメインを活性化し得、それによって、HER受容体のうちの1つ以上におけるチロシン残基のリン酸化、及び/またはAktもしくはMAPK細胞内キナーゼ等の追加の基質ポリペプチド(複数可)におけるチロシン残基のリン酸化をもたらす。
【0067】
非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基によって置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体には見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体性能をさらに洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、超可変ループのすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FRのすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、任意選択的に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部分を含むであろう。さらなる詳細については、Jones et al.Nature,321:522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature,332:323-329(1988)、及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照されたい。
【0068】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物のFc
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、Fc、例えば、二量体Fcを含む。
【0069】
本明細書における「Fcドメイン」または「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及び変異型Fc領域を含む。本明細書において別段の定めがない限り、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載されるように、EUインデックスとも称されるEU番号付けシステムに従う。本明細書で使用される二量体Fcの「Fcポリペプチド」は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、すなわち、安定した自己会合が可能な免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。例えば、二量体IgG FcのFcポリペプチドは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメイン配列を含む。
【0070】
Fcドメインは、CH3ドメインまたはCH3及びCH2ドメインのいずれかを含む。CH3ドメインは、二量体Fcの2つのFcポリペプチドのそれぞれから1つで、2つのCH3配列を含む。CH2ドメインは、二量体Fcの2つのFcポリペプチドのそれぞれから1つで、2つのCH2配列を含む。
【0071】
いくつかの態様において、Fcは、少なくとも1つまたは2つのCH3配列を含む。いくつかの態様において、Fcは、1つ以上のリンカーを用いてまたは用いずに、第1の抗原結合ポリペプチド構築物及び/または第2の抗原結合ポリペプチド構築物にカップリングされる。いくつかの態様において、Fcは、ヒトFcである。いくつかの態様において、Fcは、ヒトIgGまたはIgG1 Fcである。いくつかの態様において、Fcは、ヘテロ二量体Fcである。いくつかの態様において、Fcは、少なくとも1つまたは2つのCH2配列を含む。
【0072】
いくつかの態様において、Fcは、CH3配列のうちの少なくとも1つに1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、CH2配列のうちの少なくとも1つに1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、単一のポリペプチドである。いくつかの態様において、Fcは、複数のペプチド、例えば、2つのポリペプチドである。
【0073】
いくつかの態様において、Fcは、2011年11月4日に出願された特許出願PCT/CA2011/001238または2012年11月2日に出願されたPCT/CA2012/050780に記載されるFcであり、これらのそれぞれの開示全体は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0074】
修飾CH3ドメイン
いくつかの態様において、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、非対称に修飾された修飾CH3ドメインを含むヘテロ二量体Fcを含む。ヘテロ二量体Fcは、2つの重鎖定常ドメインポリペプチドである第1のFcポリペプチド及び第2のFcポリペプチドを含むことができ、これらは、Fcが1つの第1のFcポリペプチド及び1つの第2のFcポリペプチドを含むことを条件として、互換的に使用され得る。一般に、第1のFcポリペプチドは第1のCH3配列を含み、第2のFcポリペプチドは第2のCH3配列を含む。
【0075】
非対称に導入された1つ以上のアミノ酸修飾を含む2つのCH3配列は、2つのCH3配列が二量体化するとき、概して、ホモ二量体ではなくヘテロ二量体Fcをもたらす。本明細書で使用される場合、「非対称アミノ酸修飾」は、第1のCH3配列上の特定の位置にあるアミノ酸が、同じ位置にある第2のCH3配列上のアミノ酸とは異なり、第1及び第2のCH3配列が、優先的に対合して、ホモ二量体ではなくヘテロ二量体を形成する任意の修飾を指す。このヘテロ二量体化は、各配列上の同じそれぞれのアミノ酸位置にある2つのアミノ酸のうちの一方のみの修飾、または第1及び第2のCH3配列の各々の上の同じそれぞれの位置にある各配列上の両方のアミノ酸の修飾の結果であり得る。ヘテロ二量体Fcの第1及び第2のCH3配列は、1つ以上の非対称アミノ酸修飾を含むことができる。
【0076】
表2は、完全長ヒトIgG1重鎖のアミノ酸231~447に対応する、ヒトIgG1 Fc配列のアミノ酸配列を提供する。CH3配列は、完全長ヒトIgG1重鎖のアミノ酸341~447を含む。
【0077】
典型的には、Fcは、二量体化可能な2つの連続した重鎖配列(A及びB)を含むことができる。いくつかの態様において、Fcの一方または両方の配列は、以下の位置に1つ以上の変異または修飾を含む:EU番号付けを使用した、L351、F405、Y407、T366、K392、T394、T350、S400、及び/またはN390。いくつかの態様において、Fcは、表2に示される変異配列を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体1A~Bの変異を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体2A~Bの変異を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体3A~Bの変異を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体4A~Bの変異を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体5A~Bの変異を含む。
【0078】
【0079】
第1及び第2のCH3配列は、完全長ヒトIgG1重鎖のアミノ酸231~447を参照して、本明細書に記載されるアミノ酸変異を含むことができる。一実施形態では、ヘテロ二量体Fcは、第1のCH3配列が、F405及びY407位にアミノ酸修飾を有し、第2のCH3配列が、T394位にアミノ酸修飾を有する、修飾CH3ドメインを含む。一実施形態では、ヘテロ二量体Fcは、第1のCH3配列が、L351Y、F405A、及びY407Vから選択される1つ以上のアミノ酸修飾を有し、第2のCH3配列が、T366L、T366I、K392L、K392M、及びT394Wから選択される1つ以上のアミノ酸修飾を有する、修飾CH3ドメインを含む。
【0080】
一実施形態では、ヘテロ二量体Fcは、第1のCH3配列が、L351、F405及びY407位にアミノ酸修飾を有し、第2のCH3配列が、T366、K392、及びT394位にアミノ酸修飾を有し、第1または第2のCH3配列の一方が、Q347位にアミノ酸修飾をさらに含み、他方のCH3配列が、K360位にアミノ酸修飾をさらに含む、修飾CH3ドメインを含む。別の実施形態では、ヘテロ二量体Fcは、第1のCH3配列が、L351、F405及びY407位にアミノ酸修飾を有し、第2のCH3配列が、T366、K392、及びT394位にアミノ酸修飾を有し、第1または第2のCH3配列の一方が、Q347位にアミノ酸修飾をさらに含み、他方のCH3配列が、K360位にアミノ酸修飾をさらに含み、上記CH3配列の一方または両方が、アミノ酸修飾T350Vをさらに含む、修飾CH3ドメインを含む。
【0081】
一実施形態では、ヘテロ二量体Fcは、第1のCH3配列が、L351、F405、及びY407位にアミノ酸修飾を有し、第2のCH3配列が、T366、K392、及びT394位にアミノ酸修飾を有し、上記第1または第2のCH3配列の一方が、D399RまたはD399Kのアミノ酸修飾をさらに含み、他方のCH3配列が、T411E、T411D、K409E、K409D、K392E、及びK392Dのうちの1つ以上を含む、修飾CH3ドメインを含む。別の実施形態では、ヘテロ二量体Fcは、第1のCH3配列が、L351、F405、及びY407位にアミノ酸修飾を有し、第2のCH3配列が、T366、K392、及びT394位にアミノ酸修飾を有し、上記第1または第2のCH3配列の一方が、D399RまたはD399Kのアミノ酸修飾をさらに含み、他方のCH3配列が、T411E、T411D、K409E、K409D、K392E、及びK392Dのうちの1つ以上を含み、上記CH3配列の一方または両方が、アミノ酸修飾T350Vをさらに含む、修飾CH3ドメインを含む。
【0082】
一実施形態では、ヘテロ二量体Fcは、第1のCH3配列が、L351、F405、及びY407位にアミノ酸修飾を有し、第2のCH3配列が、T366、K392、及びT394位にアミノ酸修飾を有し、上記CH3配列の一方または両方が、T350Vのアミノ酸修飾をさらに含む修飾CH3ドメインを含む。
【0083】
一実施形態では、ヘテロ二量体Fcは、以下のアミノ酸修飾を含む修飾CH3ドメインを含み、「A」は、第1のCH3配列に対するアミノ酸修飾を表し、「B」は、第2のCH3配列に対するアミノ酸修飾を表す:A:L351Y_F405A_Y407V、B:T366L_K392M_T394W、A:L351Y_F405A_Y407V、B:T366L_K392L_T394W、A:T350V_L351Y_F405A_Y407V、B:T350V_T366L_K392L_T394W、A:T350V_L351Y_F405A_Y407V、B:T350V_T366L_K392M_T394W、A:T350V_L351Y_S400E_F405A_Y407V、及び/またはB:T350V_T366L_N390R_K392M_T394W。
【0084】
1つ以上の非対称アミノ酸修飾は、ヘテロ二量体CH3ドメインが野生型ホモ二量体CH3ドメインに匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fcの形成を促進することができる。一実施形態では、1つ以上の非対称アミノ酸修飾は、ヘテロ二量体Fcドメインが、野生型ホモ二量体Fcドメインに匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fcドメインの形成を促進する。一実施形態では、1つ以上の非対称アミノ酸修飾は、ヘテロ二量体Fcドメインが、示差走査熱量測定研究において融解温度(Tm)によって観察される安定性を有し、融解温度が、対応する対称な野生型ホモ二量体Fcドメインで観察される融解温度の4℃以内である、ヘテロ二量体Fcドメインの形成を促進する。いくつかの態様において、Fcは、CH3配列の少なくとも1つに、野生型ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fcの形成を促進する1つ以上の修飾を含む。
【0085】
例示的な二重特異性抗HER2抗原結合構築物
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、米国特許出願公開第2016/0289335号または国際特許公開第WO2015/077891号に記載されるバイパラトピック抗体のうちの1つである。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つである(表3、4、5、及び配列表を参照のこと)。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD2結合アームからのVH配列及びVL配列を含む。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD2結合アームからのVH配列及びVL配列を含み、他の抗原結合ポリペプチド構築物は、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD4結合アームからのVH配列及びVL配列を含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD2結合アームからのCDR配列を含む。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD2結合アームからのCDR配列を含み、他の抗原結合ポリペプチド構築物は、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD4結合アームからのCDR配列を含む。
【0087】
当業者は、抗体がその標的に結合する能力を失うことなく、限定された数のアミノ酸置換を、既知の抗体のCDR配列またはVHもしくはVL配列に導入できることを理解するであろう。候補のアミノ酸置換は、コンピュータモデリングによって、またはアラニンスキャン等の当該技術分野で既知の技術によって同定することができ、得られた変異体は、標準的な技術によって結合活性について試験される。したがって、特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD2結合アームからのCDRのセットに対して、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、または100%の配列同一性を有するCDRのセット(すなわち、重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、ならびに軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD2に結合する能力を保持する。特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、6つのCDRにわたって1~10個のアミノ酸置換、例えば、CDRにわたって、1~7個のアミノ酸置換、1~5個のアミノ酸置換、1~4個のアミノ酸置換、1~3個のアミノ酸置換、1~2個のアミノ酸置換、または1個のアミノ酸置換を含む、これらのCDR配列の変異体を含み(すなわち、CDRは、修飾されるCDRの任意の組み合わせを有する最大10個のアミノ酸置換を含めることによって修飾され得る)、変異体は、ECD2に結合する能力を保持する。典型的には、そのようなアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、v10000のECD2結合アームからのCDRのセットに対して、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、または100%の配列同一性を有するCDRのセット(すなわち、重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、ならびに軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD2に結合する能力を保持する。
【0088】
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD2結合アームからのVH配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるVH配列を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD2に結合する能力を保持する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD2結合アームからのVL配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるVL配列を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD2に結合する能力を保持する。
【0089】
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v10000のECD2結合アームからのVH配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるVH配列を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD2に結合する能力を保持する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v10000のECD2結合アームからのVL配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるVL配列を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD2に結合する能力を保持する。
【0090】
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD4結合アームからのCDRのセットに対して、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、または100%の配列同一性を有するCDRのセット(すなわち、重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、ならびに軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD4に結合する能力を保持する。特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、6つのCDRにわたって1~10個のアミノ酸置換、例えば、CDRにわたって、1~7個のアミノ酸置換、1~5個のアミノ酸置換、1~4個のアミノ酸置換、1~3個のアミノ酸置換、1~2個のアミノ酸置換、または1個のアミノ酸置換を含む、これらのCDR配列の変異体を含み(すなわち、CDRは、修飾されるCDRの任意の組み合わせを有する最大10個のアミノ酸置換を含めることによって修飾され得る)、変異体は、ECD4に結合する能力を保持する。典型的には、そのようなアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物のうちの1つは、v10000のECD4結合アームからのCDRのセットに対して、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、または100%の配列同一性を有するCDRのセット(すなわち、重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、ならびに軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD4に結合する能力を保持する。
【0091】
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD4結合アームからのVH配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるVH配列を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD4に結合する能力を保持する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903またはv6717のうちの1つのECD4結合アームからのVL配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるVL配列を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD4に結合する能力を保持する。
【0092】
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v10000のECD4結合アームからのVH配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるVH配列を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD4に結合する能力を保持する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v10000のECD4結合アームからのVL配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるVL配列を含み、抗原結合ポリペプチド構築物は、ECD4に結合する能力を保持する。
【0093】
(表3)例示的な二重特異性抗HER2抗原結合構築物
*Kabat(Kabat et al.,Sequences of proteins of immunological interest,5
thEdition,US Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242,p.647,1991)によるFabまたは可変ドメインの番号付け
§CH3の番号付けは、Kabatと同様にEUインデックスに従う(Edelman et al.,1969,PNAS USA,63:78-85)
【0094】
(表4)変異体v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903及びv6717のECD2結合アームのCDR配列
【0095】
(表5)変異体v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903及びv6717のECD4結合アームのCDR配列
【0096】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物の調製
本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、例えば、米国特許第4,816,567号または国際特許公開第WO2015/077891号に記載されるような、組換え方法及び組成物を使用して生成することができる。
【0097】
一実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物をコードする単離核酸が提供される。そのような核酸は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物のVLを含むアミノ酸配列及び/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗原結合構築物の軽鎖及び/または重鎖)をコードし得る。さらなる実施形態では、そのような核酸を含む1つ以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。当該技術分野で既知のように、多くのアミノ酸が1つより多くのコドンによってコードされているため、複数の核酸が単一のポリペプチド配列をコードし得る。二重特異性抗HER2抗原結合構築物の各ポリペプチドについて、例示的な核酸が本明細書で提供される;しかしながら、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物を調製するために、他の核酸が使用され得ることを理解されたい。
【0098】
一実施形態では、核酸は、マルチシストロン性ベクターで提供される。さらなる実施形態では、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。そのような一実施形態では、宿主細胞は、(1)二重特異性抗HER2抗原結合構築物のVLを含むアミノ酸配列及び抗原結合ポリペプチド構築物のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または(2)抗原結合ポリペプチド構築物のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクター、及び抗原結合ポリペプチド構築物のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えば、以下で形質転換されている)。一実施形態では、宿主細胞は、真核生物、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、またはヒト胚性腎臓(HEK)細胞、またはリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の作製方法が提供され、該方法は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の発現に好適な条件下で、上述のように、二重特異性抗HER2抗原結合構築物をコードする核酸を含む宿主細胞を培養することと、任意選択的に、宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から二重特異性抗HER2抗原結合構築物を回収することと、を含む。
【0099】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物の組換え産生のために、例えば上述のように、二重特異性抗HER2抗原結合構築物をコードする核酸を単離し、宿主細胞におけるさらなるクローニング及び/または発現のために1つ以上のベクターに挿入する。そのような核酸は、従来の手順を使用して(例えば、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離及び配列決定され得る。
【0100】
「実質的に精製された」という用語は、その天然に存在する環境、すなわち、天然の細胞、または組換え的に産生される二重特異性抗HER2抗原結合構築物の場合、宿主細胞中に見出されるような、通常はタンパク質を伴うかまたはそれと相互作用する成分を実質的にまたは本質的に含まなくてもよく、特定の実施形態では、(乾燥重量で)約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満の汚染タンパク質を有するタンパク質の調製物を含む細胞材料を実質的に含まない、本明細書に記載される構築物またはその変異体を指す。二重特異性抗HER2抗原結合構築物が宿主細胞によって組換え的に産生される場合、特定の実施形態では、タンパク質は、細胞の乾燥重量の約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、または約1%以下で存在する。二重特異性抗HER2抗原結合構築物が宿主細胞によって組換え的に産生される場合、特定の実施形態では、タンパク質は、細胞の乾燥重量の約5g/L、約4g/L、約3g/L、約2g/L、約1g/L、約750mg/L、約500mg/L、約250mg/L、約100mg/L、約50mg/L、約10mg/L、または約1mg/L以下で培養培地中に存在する。特定の実施形態では、本明細書に記載される方法によって産生される「実質的に精製された」二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、SDS/PAGE分析、RP-HPLC、SEC、及びキャピラリー電気泳動等の適切な方法により測定した場合、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%の純度レベル、具体的には、少なくとも約75%、80%、85%の純度レベル、より具体的には、少なくとも約90%の純度レベル、少なくとも約95%の純度レベル、少なくとも約99%以上の純度レベルを有する。
【0101】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、本明細書に記載される原核細胞または真核細胞を含む。
【0102】
「組換え宿主細胞」または「宿主細胞」は、挿入に用いられる方法、例えば、直接取り込み、形質導入、F交配、または組換え宿主細胞を作製するために当該技術分野で既知である他の方法にかかわらず、外因性ポリヌクレオチドを含む細胞を指す。外因性ポリヌクレオチドは、非組み込みベクター、例えば、プラスミドとして維持され得るか、または代替的に、宿主ゲノムに組み込まれ得る。
【0103】
本明細書で使用される場合、「真核生物」という用語は、動物(限定されないが、哺乳動物、昆虫、爬虫類、鳥類等を含むが)、繊毛虫類、植物(限定されないが、単子葉類、双子葉類、藻類等を含む)、真菌、酵母、鞭毛虫、微胞子虫、原生動物等の、系統学的な真核生物ドメインに属する生物を指す。
【0104】
本明細書で使用される場合、「原核生物」という用語は、原核生物を指す。例えば、非真核生物は、真正細菌(限定されないが、大腸菌(Escherichia coli)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等を含む)系統ドメイン、または古細菌(限定されないが、メタノコックス・ヤンナスキイ(Methanococcus jannaschii)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)、ハロバクテリウム(Halobacterium)、例えばハロフェラックス・ボルカニ(Haloferax volcanii)及びハロバクテリウム属の種(Halobacterium species) NRC-1、アーケオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)、パイロコッカス・ホリコシイ(Pyrococcus horikoshii)、アエロパイラム・ペルニクス(Aeuropyrum pernix)等を含む)系統ドメインに属することができる。
【0105】
例えば、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされない場合、細菌において産生され得る。細菌における二重特異性抗HER2抗原結合構築物の断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、同第5,789,199号、及び同第5,840,523号を参照されたい。(E.Coliにおける抗体断片の発現を記載するCharlton,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.,2003),pp.245-254も参照のこと)。発現後、二重特異性抗HER2抗原結合構築物を可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離することができ、さらに精製することができる。
【0106】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母等の真核微生物は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物をコードするベクターに好適なクローニング宿主または発現宿主であり、これには、グリコシル化経路が「ヒト化」され、部分的または完全にヒトグリコシル化パターンを有する二重特異性抗HER2抗原結合構築物の産生をもたらす真菌及び酵母株が含まれる。Gerngross,Nat.Biotech.22:1409-1414(2004)、及びLi et al.,Nat.Biotech.24:210-215(2006)を参照されたい。
【0107】
グリコシル化された二重特異性抗HER2抗原結合構築物の発現に好適な宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)に由来する。無脊椎動物細胞の例として、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。特に、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞とともに使用され得る多数のバキュロウイルス株が同定されている。
【0108】
植物細胞培養物は、宿主として利用することもできる。例えば、米国特許第5,959,177号、同第6,040,498号、同第6,420,548号、同第7,125,978号、及び同第6,417,429号(トランスジェニック植物において抗原結合構築物を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技術について記載している)を参照されたい。
【0109】
脊椎動物細胞も宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で成長するように適合された哺乳類細胞株が有用であり得る。有用な哺乳類宿主細胞株の他の例として、SV40(COS-7)によって形質転換されたサル腎臓CV1株、ヒト胚性腎臓株(例えば、Grahametal.,J.GenVirol.36:59(1977)に記載されるような293または293細胞))、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えば、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980)に記載されるようなTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(HepG2)、マウス乳房腫瘍(MMT060562)、(例えば、Matheretal.Annals,N.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982)に記載されるようなTRI細胞、MRC5細胞、及びFS4細胞が挙げられる。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)を含む他の有用な哺乳類宿主細胞株は、DHFR-CHO細胞(Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))、ならびにY0、NS0及びSp2/0等の骨髄腫細胞株を含む。抗原結合構築物の産生に好適な特定の哺乳類宿主細胞株の概説については、例えばYazaki and Wu,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.),pp.255-268(2003)を参照されたい。
【0110】
一実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、少なくとも1つの安定な哺乳動物細胞を、所定の比率で、二重特異性抗HER2抗原結合構築物をコードする核酸でトランスフェクトすることと、少なくとも1つの哺乳動物細胞において核酸を発現させることと、を含む方法によって、安定な哺乳動物細胞において産生される。いくつかの実施形態では、核酸の所定の比率は、発現産物中の二重特異性抗HER2抗原結合構築物の割合が最も高くなる入力核酸の相対比率を決定するための一過性トランスフェクション実験において決定される。
【0111】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、安定な哺乳動物細胞において産生され、少なくとも1つの安定な哺乳動物細胞の発現産物は、単量体重鎖もしくは軽鎖ポリペプチド、または他の抗体と比較して、所望のグリコシル化された二重特異性抗HER2抗原結合構築物のより大きな割合を含む。いくつかの実施形態では、グリコシル化された二重特異性抗HER2抗原結合構築物の同定は、液体クロマトグラフィー及び質量分析の一方または両方によって行われる。
【0112】
必要に応じて、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、発現後に精製または単離することができる。タンパク質は、当業者に既知の様々な方法で単離または精製され得る。標準的な精製方法は、FPLC及びHPLC等のシステムを使用して、大気圧または高圧で実施される、イオン交換、疎水性相互作用、親和性、サイズ調整またはゲル濾過、及び逆相を含むクロマトグラフィー技術を含む。精製方法には、電気泳動、免疫学的、沈殿、透析、及びクロマトフォーカス技術も含まれる。タンパク質濃度と併せて、超濾過及び透過濾過技術も有用である。当該技術分野で周知であるように、様々な天然タンパク質がFc及び抗体に結合し、これらのタンパク質は、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物の精製に使用することができる。例えば、細菌タンパク質A及びGは、Fc領域に結合する。同様に、細菌タンパク質Lは、いくつかの抗体のFab領域に結合する。精製は、多くの場合、特定の融合パートナーによって可能にすることができる。例えば、抗体は、GST融合物を用いる場合はグルタチオン樹脂、Hisタグを用いる場合はNi+2親和性クロマトグラフィー、またはフラグタグを用いる場合は固定化抗フラグ抗体を用いて精製してもよい。好適な精製技術における一般的なガイダンスについては、例えば、参照により全体が組み込まれるProtein Purification:Principles and Practice,3rdEd.Scopes,Springer-Verlag,NY,1994を参照されたい。必要な精製の程度は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の使用に応じて変動する。いくつかの場合において、精製は必要ない。
【0113】
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、限定されないが、Q-セファロース、DEAEセファロース、poros HQ、poros DEAF、Toyopearl Q、Toyopearl QAE、Toyopearl DEAE、Resource/Source Q及びDEAE、Fractogel Q及びDEAEカラム上のクロマトグラフィーを含む、アニオン交換クロマトグラフィーを使用して精製される。
【0114】
具体的な実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、限定されないが、SP-セファロース、CMセファロース、poros HS、poros CM、Toyopearl SP、Toyopearl CM、Resource/Source S及びCM、Fractogel S及びCMカラム、ならびにそれらの等価物及び同等物を含む、カチオン交換クロマトグラフィーを使用して精製される。
【0115】
加えて、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、当該技術分野で既知の技法を使用して化学的に合成することができる(例えば、Creighton,1983,Proteins:Structures and Molecular Principles,W.H.Freeman&Co.,N.Y and Hunkapiller et al.Nature,310:105-111(1984)を参照されたい)。例えば、ポリペプチドの断片に対応するポリペプチドを、ペプチドシンセサイザーを使用して合成することができる。さらに、所望の場合、非古典的アミノ酸または化学的アミノ酸類似体を、ポリペプチド配列への置換または付加として導入することができる。非古典的アミノ酸として、限定されないが、一般的なアミノ酸のD-異性体、2,4ジアミノ酪酸、α-アミノイソ酪酸、4アミノ酪酸、Abu、2-アミノ酪酸、γ-Abu、ε-Ahx、6アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロ-アミノ酸、デザイナーアミノ酸、例えば、β-メチルアミノ酸、Cα-メチルアミノ酸、Nα-メチルアミノ酸、及びアミノ酸類似体全般が挙げられる。さらに、アミノ酸は、D(右旋性)またはL(左旋性)であり得る。
【0116】
翻訳後修飾:
特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、翻訳中または翻訳後に差異的に修飾される。
【0117】
「修飾された」という用語は、本明細書で使用される場合、所与のポリペプチドになされる任意の変更、例えば、ポリペプチドの長さ、ポリペプチドのアミノ酸配列、化学構造、翻訳時修飾、または翻訳後修飾に対する変更を指す。「(修飾された)」という用語の形態は、論じられているポリペプチドが任意選択的に修飾されていること、すなわち、二重特異性抗HER2抗原結合構築物のポリペプチドが、修飾されていてもまたは修飾されていなくてもよいことを意味する。
【0118】
「翻訳後修飾された」という用語は、そのようなアミノ酸がポリペプチド鎖に組み込まれた後に生じる、天然または非天然アミノ酸の任意の修飾を指す。この用語は、単なる例として、翻訳時インビボ修飾、翻訳時インビトロ修飾(例えば、無細胞翻訳系における)、翻訳後インビボ修飾、及び翻訳後インビトロ修飾を包含する。
【0119】
いくつかの実施形態では、修飾は、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/遮断基による誘導体化、タンパク質切断、及び抗体分子または二重特異性抗HER2抗原結合構築物または他の細胞リガンドへの結合のうちの少なくとも1つである。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、限定されないが、臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBH4による特異的化学切断;アセチル化、ホルミル化、酸化、還元;及びツニカマイシンの存在下での代謝合成を含む既知の技術によって化学修飾される。
【0120】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物のさらなる翻訳後修飾として、例えば、N結合またはO結合糖鎖、N末端またはC末端のプロセシング)、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N結合またはO結合糖鎖の化学修飾、及び原核宿主細胞発現の結果としてのN末端メチオニン残基の付加または欠失が挙げられる。本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、タンパク質の検出及び単離を可能にするために、酵素標識、蛍光標識、同位体標識、または親和性標識等の検出可能な標識で修飾される。特定の実施形態では、好適な酵素標識の例として、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが挙げられ、好適な補欠分子族複合体の例として、ストレプトアビジンビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ、好適な蛍光物質の例として、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコエリスリンが挙げられ、発光物質の例としてルミノールが挙げられ、生物発光物質の例として、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが挙げられ、好適な放射性物質の例として、ヨウ素、炭素、硫黄、トリチウム、インジウム、テクネチウム、タリウム、ガリウム、パラジウム、モリブデナム、キセノン、フッ素が挙げられる。
【0121】
具体的な実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、放射性金属イオンと会合する大環状キレート剤に結合される。
【0122】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、翻訳後プロセシング等の天然プロセス、または当該技術分野で周知の化学修飾技術のいずれかによって修飾される。特定の実施形態では、同じ種類の修飾が、所与のポリペプチド内のいくつかの部位において、同じ程度に、または異なる程度に存在してもよい。特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物からのポリペプチドは、例えば、ユビキチン化の結果として分岐し、いくつかの実施形態では、分岐を伴うまたは伴わない環状である。環状、分枝状、及び分枝環状ポリペプチドは、翻訳後の天然のプロセスから生じるか、または合成方法によって作製される。修飾として、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、システインの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカーの形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリスチル化、酸化、ペグ化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレン化、硫酸化、転移RNA媒介性のアミノ酸のタンパク質への付加、例えば、アルギニル化、及びユビキチン化が挙げられる。(例えば、PROTEINS--STRUCTURE AND MOLECULAR PROPERTIES,2nd Ed.,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,New York(1993)、POST-TRANSLATIONAL COVALENT MODIFICATION OF PROTEINS,B.C.Johnson,Ed.,Academic Press,New York,pgs.1-12(1983)、Seifter et al.,Meth.Enzymol.182:626-646(1990)、Rattan et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.663:48-62(1992))を参照されたい。
【0123】
抗体薬物コンジュゲート(ADC)
特定の実施形態は、アウリスタチン類似体に低い平均薬物抗体比(DAR)でコンジュゲートされた二重特異性抗HER2抗原結合構築物を含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を使用してBTCを治療する方法に関する。本明細書で使用される場合、「低い平均DAR」は、<3.9の平均DARを指す。記載される方法において特に使用されるのは、約1.8~2.5等の約2.5以下の平均DARを有する、アウリスタチン類似体にコンジュゲートされた二重特異性抗HER2抗原結合構築物を含むADCである。特定の実施形態では、ADCに含まれる二重特異性抗HER2抗原結合構築物はv10000である。
【0124】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCによって含まれるアウリスタチン類似体は、国際特許出願公開第WO2016/041082号に記載されるようなアウリスタチン類似体であり得る。特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCによって含まれるアウリスタチン類似体は、一般式(I)の化合物であり、
式中、R
1は
から選択される。
【0125】
特定の実施形態では、式(I)の化合物において、R
1は、
である。
【0126】
特定の実施形態では、式(I)の化合物において、R
1は、
である。
【0127】
特定の実施形態では、式(I)の化合物において、R
1は、
である。
【0128】
特定の実施形態では、式(I)の化合物は、
から選択される。
【0129】
一般式(I)の化合物は、市販の出発物質から、標準的な合成有機化学プロトコルによって調製され得る。例示的な合成方法は、国際特許出願公開第WO2016/041082号に提供される。
【0130】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、リンカー(L)を介してアウリスタチン類似体(毒素)にコンジュゲートされた二重特異性抗HER2抗原結合構築物を含み、リンカー-毒素は、一般式(II)を有し、
式中、R
1は、
から選択され
Lは切断可能なリンカーであり、
は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物へのリンカー-毒素の結合点を表す。
【0131】
いくつかの実施形態では、一般式(II)のリンカー-毒素において、R
1は、
である。
【0132】
いくつかの実施形態では、一般式(II)のリンカー-毒素において、R
1は、
である。
【0133】
いくつかの実施形態では、一般式(II)のリンカー-毒素において、R
1は、
である。
【0134】
いくつかの実施形態では、一般式(II)のリンカー-毒素において、Lは、ペプチド含有リンカーである。
【0135】
いくつかの実施形態では、一般式(II)のリンカー-毒素において、Lは、プロテアーゼ切断可能なリンカーである。
【0136】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、リンカー(L)を介してアウリスタチン類似体(毒素)にコンジュゲートされた二重特異性抗HER2抗原結合構築物を含み、一般式(III)を有し、
式中、
R
1及びLは、一般式(II)について定義される通りであり、
nは、平均薬物抗体比(DAR)であり、3.9未満であり、
Abは、二重特異性抗HER2抗原結合構築物である。
【0137】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、R
1は、
である。
【0138】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、R
1は、
である。
【0139】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、R
1は、
である。
【0140】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、Lは、ペプチド含有リンカーである。
【0141】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、Lは、プロテアーゼ切断可能なリンカーである。
【0142】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、nは0.5~3.8である。
【0143】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、nは、約1.0~3.8、約1.0~3.5、約1.0~3.0、または約1.0~2.5である。
【0144】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、nは、約1.5~3.8、約1.5~3.5、約1.5~3.0、または約1.5~2.5である。
【0145】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、nは、約1.8~2.8、または約1.8~2.5である。
【0146】
いくつかの実施形態では、一般式(III)のADCにおいて、Abはv10000である。
【0147】
一般式(III)のADCについての上述の実施形態のいずれかの組み合わせも企図され、各組み合わせが、本開示の目的のために別個の実施形態を形成する。
【0148】
本明細書に記載されるADCにおいて、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、リンカーによってアウリスタチン類似体(毒素)に結合される。リンカーは、1つ以上の毒素分子を抗体に結合することができる二官能性または多官能性部分である。二官能性(または一価)リンカーは、単一の薬物を抗体上の単一の部位に結合させる一方で、多官能性(または多価)リンカーは、1つより多くの毒素分子を抗体上の単一の部位に結合させる。1つの毒素分子を抗体上の2つ以上の部位に結合することができるリンカーもまた、多機能性であるとみなされ得る。
【0149】
リンカーの抗体への結合は、抗体上の表面リジンを介して、抗体上の酸化された炭水化物への還元的カップリング、または鎖間ジスルフィド結合を還元することによって遊離された抗体上のシステイン残基を介して等の様々な方法で達成することができる。代替的に、リンカーの抗体への結合は、追加のシステイン残基(例えば、米国特許第7,521,541号、同第8,455,622号、及び同第9,000,130号を参照のこと)、または反応性ハンドルを提供する非天然アミノ酸、例えば、セレノメチオニン、p-アセチルフェニルアラニン、ホルミルグリシン、またはp-アジドメチル-L-フェニルアラニンを提供する非天然アミノ酸を含むように抗体を修飾することによって達成することができ(例えば、Hofer et al.,Biochemistry,48:12047-12057(2009);Axup et al.,PNAS,109:16101-16106(2012);Wu et al.,PNAS,106:3000-3005(2009);Zimmerman et al.,Bioconj.Chem.,25:351-361(2014))、部位特異的コンジュゲーションが可能となる。
【0150】
リンカーは、抗体上の単数または複数の標的基と反応可能な官能基、及び毒素上の標的基と反応可能な1つ以上の官能基を含む。好適な官能基は当該技術分野で既知であり、例えば、Bioconjugate Technics(G.T.Hermanson,2013,Academic Press)に記載されるものを含む。
【0151】
遊離システインまたはチオールと反応させるための官能基の非限定的な例として、マレイミド、ハロアセトアミド、ハロアセチル、活性化エステル、例えば、スクシンイミドエステル、4-ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、無水物、酸塩化物、スルホニルクロリド、イソシアネート及びイソチオシアネートが挙げられる。この文脈においても有用なのは、Lyon et al.,Nat.Biotechnol.,32:1059-1062(2014)に記載される「自己安定化」マレイミドである。
【0152】
抗体上の表面リジンまたは毒素上の遊離アミンと反応させるための官能基の非限定的な例として、活性化エステル、例えば、N-ヒドロキシスクシンアミド(NHS)エステル、スルホ-NHSエステル、イミドエステル、例えば、Traut試薬、イソチオシアネート、アルデヒド、及び酸無水物、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA)が挙げられる。他の例として、スクシンイミド-1,1,3,3-テトラ-メチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩(TSTU)及びベンゾトリアゾール-1-イル-オキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)が挙げられる。
【0153】
抗体または毒素上の求電子基(アルデヒドまたはケトンカルボニル基等)と反応可能な官能基の非限定的な例として、ヒドラジド、オキシム、アミノ、ヒドラジン、チオセミカルバゾン、ヒドラジンカルボキシレート及びアリールヒドラジドが挙げられる。
【0154】
他のリンカーとしては、抗体上の2つの鎖間システインの架橋を可能にする官能基を有するもの、例えば、ThioBrigh(商標)リンカー((Badescu et al.,Bioconjug.Chem.,25:1124-1136(2014))、ジチオマレイミド(DTM)リンカー(Behrens et al.,Mol.Pharm.,12:3986-3998(2015))、ジチオアリール(TCEP)ピリダジンジオン系リンカー(Lee et al.Chem.Sci.,7:799-802(2016))、ジブロモピリダジンジオン系リンカー(Maruani et al.,Nat.Commun.,6:6645(2015))、及び当該技術分野で既知である他のものが挙げられる。
【0155】
リンカーは、様々なリンカー成分を含み得る。典型的には、リンカーは、2つ以上のリンカー成分を含む。例示的なリンカー成分として、抗体との反応のための官能基、毒素との反応のための官能基、ストレッチャー、ペプチド成分、自壊性基、自己脱離性基、親水性部分等が挙げられる。様々なリンカー成分が当該技術分野で既知であり、それらのいくつかを以下に記載する。
【0156】
特定の有用なリンカー成分は、Pierce Biotechnology,Inc.(現Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)及びMolecular Biosciences Inc.(Boluder,Colo.)等の様々な商業的供給源から入手することができるか、または当該技術分野に記載される手順に従って合成することができる(例えば、Toki et al.,J.Org.Chem.,67:1866-1872(2002)、Dubowchik,et al.,Tetrahedron Letters,38:5257-60(1997)、Walker,M.A.,J.Org.Chem.,60:5352-5355(1995)、Frisch,et al.Bioconjugate Chem.,7:180-186(1996)、米国特許第6,214,345号及び同第7,553,816号、ならびに国際特許出願公開第WO02/088172号を参照されたい)。
【0157】
本明細書に記載されるADCに用いられるリンカーは、切断可能なリンカーである。切断可能なリンカーは、典型的には、例えば、リソソームプロセスを介して、細胞内条件下で切断されやすい。例として、プロテアーゼ感受性、酸感受性、還元感受性または光不安定性であるリンカーが挙げられる。
【0158】
好適な切断可能なリンカーとして、例えば、2つ以上のアミノ酸を含み、細胞内プロテアーゼ、例えば、リソソームプロテアーゼまたはエンドソームプロテアーゼによって切断可能なペプチド成分を含むリンカーが挙げられる。ペプチド成分は、天然に存在するアミノ酸残基及び/または微量のアミノ酸及び/またはシトルリン等の天然に存在しないアミノ酸類似体を含み得る。ペプチド成分は、特定の酵素、例えば、腫瘍関連プロテアーゼ、カテプシンB、C、もしくはD、またはプラスミンプロテアーゼによる酵素切断のために設計及び最適化され得る。
【0159】
特定の実施形態では、ADCに含まれるリンカーは、バリン-シトルリン(Val-Cit)またはフェニルアラニン-リジン(Phe-Lys)を含有するリンカー等の、ジペプチド含有リンカーであってもよい。リンカーに含めるのに好適なジペプチドの他の例として、Val-Lys、Ala-Lys、Me-Val-Cit、Phe-homoLys、Phe-Cit、Leu-Cit、Ile-Cit、Trp-Cit、Phe-Arg、Ala-Phe、Val-Ala、Met-Lys、Asn-Lys、Ile-Pro、Ile-Val、Asp-Val、His-Val、Met-(D)Lys、Asn-(D)Lys、Val-(D)Asp、NorVal-(D)Asp、Ala-(D)Asp、Me3Lys-Pro、PhenylGly-(D)Lys、Met-(D)Lys、Asn-(D)Lys、Pro-(D)Lys及びMet-(D)Lysが挙げられる。切断可能なリンカーは、トリペプチド、テトラペプチド、またはペンタペプチド等のより長いペプチド成分も含み得る。例としては、限定されないが、トリペプチドMet-Cit-Val、Gly-Cit-Val、(D)Phe-Phe-Lys及び(D)Ala-Phe-Lys、ならびにテトラペプチドGly-Phe-Leu-Gly及びAla-Leu-Ala-Leuが挙げられる。
【0160】
切断可能なリンカーのさらなる例として、例えば、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブタン酸(SPBD)及びN-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)-2-スルホブタン酸(スルホ-SPBD)等の、ジスルフィド含有リンカーが挙げられる。ジスルフィド含有リンカーは、任意選択的に、リンカーの細胞外安定性を向上させるために、ジスルフィド結合に隣接する立体障害を提供するための追加の基、例えば、ジェミナルジメチル基の包含を含み得る。他の好適なリンカーとして、特定のpHでまたはpH範囲内で加水分解可能なリンカー、例えばヒドラゾンリンカーが挙げられる。これらの官能基の組み合わせを含むリンカーもまた有用であり得、例えば、ヒドラゾン及びジスルフィドの両方を含むリンカーが当該技術分野で既知である。
【0161】
切断可能なリンカーのさらなる例は、リソソーム及び腫瘍間質に存在する酵素β-グルクロニダーゼによって切断可能なβ-グルクロニドを含むリンカーである(例えば、De Graaf et al.,Curr.Pharm.Des.,8:1391-1403(2002)を参照されたい)。
【0162】
切断可能なリンカーは、任意選択的に、自壊性基及び自己脱離性基、ストレッチャー、または親水性部分等の1つ以上の追加の成分をさらに含み得る。
【0163】
リンカーに使用される自壊性基及び自己脱離性基として、例えば、p-アミノベンジルオキシカルボニル(PABC)及びp-アミノベンジルエーテル(PABE)基、ならびにメチル化エチレンジアミン(MED)が挙げられる。自壊性基の他の例として、限定されないが、複素環式誘導体、例えば、米国特許第7,375,078号に記載されるような2-アミノイミダゾール-5-メタノール誘導体等のPABC基またはPABE基と電子的に類似する芳香族化合物が挙げられる。他の例として、アミド結合加水分解時に環化を受ける基、例えば、置換及び非置換の4-アミノ酪酸アミド(Rodrigues et al.Chemistry,Biology,2:223-227(1995))及び2-アミノフェニルプロピオン酸アミド(Amsberry,et al.,J.Org.Chem.,55:5867-5877(1990)が挙げられる)。
【0164】
ADCのリンカーに使用されるストレッチャーとして、アルキレン基、及び脂肪族酸、二塩基酸、アミン、またはジアミンベースのストレッチャー、例えば、ジグリコレート、マロン酸、カプロン酸及びカプロアミドが挙げられる。他のストレッチャーとして、例えば、グリシンベースのストレッチャー、ポリエチレングリコール(PEG)ストレッチャー、及びモノメトキシポリエチレングリコール(mPEG)ストレッチャーが挙げられる。PEG及びmPEGストレッチャーは、親水性部分としても機能する。
【0165】
特定の実施形態では、本明細書に記載されるメチドに使用するためのADCによって含まれるリンカーは、一般式(IV)を有するペプチドベースのリンカーであり、
式中、
Zは、二重特異性抗HER2抗原結合構築物上の標的基と反応可能な官能基であり、
Strは、ストレッチャーであり、
AA
1及びAA
2は、それぞれ独立して、アミノ酸であり、AA
1-[AA
2]
mは、プロテアーゼ切断部位を形成し、
Xは、自壊性基であり、
Dは、アウリスタチン類似体への結合点であり、
sは、0または1であり、
mは、1~4の整数であり、
oは、0、1または2である。
【0166】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、Zは、
である。
【0167】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、Strは、
から選択され、
式中、
Rは、HまたはC
1~C
6アルキルであり、
pは、2~10の整数であり、
qは、1~10の整数である。
【0168】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、Strは、
であり、
式中、p及びqは上で定義される通りである。
【0169】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、Strは、
であり、
式中、
pは、2~6の整数であり、
qは、2~8の整数である。
【0170】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、AA1-[AA2]mは、Val-Lys、Ala-Lys、Phe-Lys、Val-Cit、Phe-Cit、Leu-Cit、Ile-Cit、Trp-Cit、Phe-Arg、Ala-Phe、Val-Ala、Met-Lys、Asn-Lys、Ile-Pro、Ile-Val、Asp-Val、His-Val、Met-(D)Lys、Asn-(D)Lys、Val-(D)Asp、NorVal-(D)Asp、Ala-(D)Asp、Me3Lys-Pro、PhenylGly-(D)Lys、Met-(D)Lys、Asn-(D)Lys、Pro-(D)Lys、Met-(D)Lys、Met-Cit-Val、Gly-Cit-Val、(D)Phe-Phe-Lys、(D)Ala-Phe-Lys、Gly-Phe-Leu-Gly及びAla-Leu-Ala-Leuから選択される。
【0171】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、mは1である(すなわち、AA1-[AA2]mはジペプチドである)。
【0172】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、AA1-[AA2]mは、Val-Lys、Ala-Lys、Phe-Lys、Val-Cit、Phe-Cit、Leu-Cit、Ile-Cit及びTrp-Citから選択されるジペプチドである。
【0173】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、mは、1、2、または3である。
【0174】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、sは1である。
【0175】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、oは0である。
【0176】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)において、
Zは
であり、
STRは
であり、
式中、pは、2~6の整数であり、qは、2~8の整数であり、
mは、1であり、AA
1-[AA
2]
mは、Val-Lys、Ala-Lys、Phe-Lys、Val-Cit、Phe-Cit、Leu-Cit、Ile-Cit及びTrp-Citから選択されるジペプチドであり、
sは、1であり、
oは、0である。
【0177】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCに含まれるリンカーは、一般式(V)を有し、
式中、
A-S-は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物への結合点であり、
Yは、1つ以上の追加のリンカー成分であるか、または存在せず、
Dは、アウリスタチン類似体への結合点である。
【0178】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCに含まれるリンカーは、一般式(VI)を有し、
式中、
A-S-は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物への結合点であり、
Yは、1つ以上の追加のリンカー成分であるか、または存在せず、かつ
Dは、アウリスタチン類似体への結合点である。
【0179】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、一般式(IV)、(V)、または(VI)を有するリンカーを介して低い平均DARでv10000にコンジュゲートされた一般式(I)のアウリスタチン類似体を含む。
【0180】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、リンカー(L)が一般式(IV)、(V)または(VI)を有する一般式(II)のリンカー-毒素に低い平均DARでコンジュゲートされたv10000を含む。
【0181】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、v10000を含み、リンカー(L)が一般式(IV)、(V)または(VI)を有する上に示される一般式(III)を有する。
【0182】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、一般式(IV)、(V)、または(VI)を有するリンカーを介して低い平均DARでv10000にコンジュゲートされたアウリスタチン類似体を含み、式中、アウリスタチン類似体は、化合物16、化合物17、または化合物18である。
【0183】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、以下の構造を有するリンカー-毒素を含み、
式中、A-S-は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物への結合点である。
【0184】
抗体薬物コンジュゲートの調製
本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、当業者に既知の有機化学反応、条件、及び試薬を用いて、当該技術分野で既知のいくつかの経路のうちの1つによって調製され得る(例えば、Bioconjugate Technics(G.T.Hermanson,2013,Acadmic Press,及び本明細書に提供される実施例)を参照されたい)。例えば、コンジュゲーションは、(1)抗体の求核基または求電子基を二官能性リンカーと反応させて、共有結合を介して抗体-リンカー中間体Ab-Lを形成し、続いて、活性化アウリスタチン類似体(D)と反応させること、または(2)アウリスタチン類似体の求核基または求電子基をリンカーと反応させて、共有結合を介してリンカー-毒素D-Lを形成し、続いて、抗体の求核基または求電子基と反応させることによって達成することができる。
【0185】
上述のように、アウリスタチン類似体を適切なリンカーを介して抗体上の様々な基にコンジュゲートしてADCを提供することができる。例えば、コンジュゲーションは、表面リジンを介して、酸化された炭水化物を介して、または1つ以上の鎖間ジスルフィド結合を還元することによって遊離されたシステイン残基を介して行われ得る。代替的に、抗体は、セレノメチオニン、p-アセチルフェニルアラニン、ホルミルグリシン、またはp-アジドメチル-L-フェニルアラニン等の反応性ハンドルを提供する追加のシステイン残基または非自然的アミノ酸を含むように修飾されてもよい。そのような修飾は、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第7,521,541号、同第8,455,622号、及び同第9,000,130号、Hofer et al.,Biochemistry,48:12047-12057(2009)、Axup et al.,PNAS,109:16101-16106(2012)、Wu et al.,PNAS,106:3000-3005(2009)、Zimmerman et al.,Bioconj.Chem.,25:351-361(2014)を参照されたい)。
【0186】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、1つ以上の鎖間ジスルフィド結合を還元することによって遊離された、二重特異性抗HER2抗原結合構築物上のシステイン残基に適切なリンカーを介してコンジュゲートされたアウリスタチン類似体を含む。
【0187】
本明細書に記載されるADCでは、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、低い平均薬物抗体比(DAR)で、具体的には3.9未満であるが0.5超、例えば、特定の実施形態では約1.5~約2.5の平均DARで、リンカーを介して毒素にコンジュゲートされる。
【0188】
低い平均DARでADCを調製するための様々な方法が当該技術分野で既知である(例えば、McCombs and Owen,The AAPS Journal,17(2):339-351(2015)によるレビュー及びその中の参考文献;Boutureira&Bernardes,Chem.Rev.,115:2174-2195(2015)を参照されたい)。
【0189】
例えば、システイン残基へのコンジュゲーションのために、抗体鎖間ジスルフィド結合の部分的な還元、続いてリンカー-毒素へのコンジュゲーションが行われ得る。部分的な還元は、還元反応で使用される還元剤の量を制限することによって達成することができる(例えば、Lyon et al.,Methods in Enzymology,502:123-138(2012)、及びその中の実施例、及び本明細書で提供される実施例を参照されたい)。好適な還元剤は、当該技術分野で既知であり、例えば、ジチオスレイトール(DTT)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、2-メルカプトエタノール、システアミン、及びいくつかの水溶性ホスフィンを含む。代替的に、または加えて、低い平均DARを得るために、より少ない当量のリンカー-毒素を用いてもよい。
【0190】
代替的に、鎖間ジスルフィド結合を構成するシステイン残基のうちの1つ以上がセリン残基で置き換えられ、コンジュゲーションに利用可能なシステイン残基がより少なくなるように遺伝子操作された抗体が用いられ得る(McDonagh et al.,Protein Eng.DES.Sel.PEDS,19(7):299-307を参照されたい)。次いで、遺伝子操作された抗体を還元剤で処理し、リンカー-毒素にコンジュゲートすることができる。
【0191】
別のアプローチは、通常は鎖間ジスルフィド結合を構成する、2つのシステインを架橋するビス-チオールリンカーを用いることである。4つすべての鎖間ジスルフィド結合が還元され、ビス-チオールリンカーで置き換えられている場合、1つの毒素分子のみを担持するビス-チオールリンカーの使用により、フルサイズ抗体で最大DAR4を有するADCが生成される。DARをさらに低減させるために、鎖間ジスルフィド結合の部分的還元及び/またはより少ない当量のリンカーを、ビス-チオールリンカーとともに使用してもよい。様々なビス-チオールリンカーが当該技術分野で既知である(例えば、Badescu et al.,Bioconjug.Chem.,25(6):1124-1136(2014)、Behrens et al.,Mol.Pharm.,12:3986-3998(2015)、Lee et al.Chem.Sci.,7:799-802(2016)、Maruani et al.,Nat.Commun.,6:6645(2015)を参照されたい)。
【0192】
低い平均DARを有するADCを生成するために、システイン操作アプローチを用いてもよい。そのようなアプローチは、コンジュゲーションのための部位特異的ハンドルを提供するために、溶媒アクセス可能なシステインを抗体に遺伝子操作により組み込むことを伴う。システイン残基の導入に適切ないくつかの部位が、IgG構造によって同定されており、Junutula,et al.,J.Immunol Methods,332(1-2):41-52(2008)、Junutula,et al.,Nat.Biotechnol.,26(8),925-932(2008)、及び米国特許第9,315,581号、同第9,000,130号、同第8,455,622号、同第8,507,654号、及び同第7,52,541号に記載されるものを含む。
【0193】
低い平均DARのADCはまた、限られた量の活性化リンカー-毒素を用いたリジンコンジュゲーションによって調製してもよい。抗体のN末端アミノ酸における選択的反応も用いることができる。例えば、N末端セリンは、過ヨウ素酸塩でアルデヒドに酸化して、次いでリンカー-毒素と反応させてもよい(例えば、Thompson,et al.,Biocong.Chem.,26(10):2085-2096(2015)を参照されたい)。同様に、N末端システイン残基をアルデヒドと選択的に反応させて、チアゾリジノンを得ることができる(例えば、Bernardes,et al.Nature,Protocols,8:2079-2089を参照されたい)。
【0194】
さらなるアプローチは、1つ以上の非天然アミノ酸、例えば、p-アセチルフェニルアラニン(pAcPhe)またはセレノシステイン(Sec)を含むように抗体を遺伝子操作することを含む。PAcPhe中のケト基を末端アルコキシアミンまたはヒドラジドを含むリンカー-毒素と反応させて、オキシムまたはヒドラゾン結合を形成することができる(例えば、Axup,et al.PNAS USA,109:16101-16106(2012)を参照されたい)。Sec含有抗体を、リンカー-毒素を含有するマレイミドまたはヨードアセトアミドと反応させて、セレノエーテルコンジュゲートを形成することができる(例えば、Hofer,et al.,Biochemistry,48:12047-12057(2009)を参照されたい)。
【0195】
抗体はまた、特定の酵素によって認識されるペプチドタグを含み、酵素-触媒コンジュゲーションを可能にするように遺伝子操作することもできる。例えば、ソルターゼA(SortA)は、配列LPXTGを認識する。このペンタペプチドは、SortA媒介性コンジュゲーションを可能にするように、抗体のN末端またはC末端に遺伝子操作により組み込むことができ得る(例えば、米国特許出願公開第2016/0136298;Kornberger and Skerra,mAbs,6(2):354-366(2014)を参照されたい)。トランスグルタミナーゼはまた、N297位で脱グリコシル化された抗体(酵素コンジュゲーションのためにQ295を露出させる)を使用することによって、または「グルタミンタグ」(LLQG)を含むように抗体を遺伝子操作することによって、DAR2のADCを生成するために用いられている(Jeger,et al.,Angew.Chem.,49:9995-9997(2010)、Strop,et al.Chem.Biol.,20(2):161-167(2013)を参照されたい)。別のアプローチにおいて、ホルミルグリシン残基は、適切なコンセンサス配列を抗体に遺伝子操作により組み込み、遺伝子操作した抗体をホルミルグリシン生成酵素(FGE)と共発現させることによって抗体に導入することができる。導入されたホルミルグリシンのアルデヒド官能基は、次いで、毒素のコンジュゲーションのためのハンドルとして使用され得る(例えば、Drake,et al.,Bioconjug.Chem.,25(7):1331-1341(2014))。
【0196】
DAR2のADCを生成するために使用される別のアプローチは、グリコシル化抗体上に見られる天然糖へのリンカー-毒素のコンジュゲーションによるものである。グリコシル化抗体へのコンジュゲーションは、例えば、末端糖残基の過ヨウ素酸酸化によりアルデヒドを生成し、次いで、適切なリンカー-毒素にコンジュゲートし得ることによって、または天然糖を末端シアル酸残基で修飾し、次いで、それを酸化してリンカー-毒素へのコンジュゲーションのためにアルデヒドを生成する糖鎖工学的アプローチによって、達成され得る(Zhou,et al.,Bioconjug.Chem.,25(3):510-520(2014))。
【0197】
抗体に対する活性部分のコンジュゲーションのためのUV架橋の使用も報告されている。この方法は、反応性チオール部分を有する抗体の部位特異的共有結合的官能化のためにヌクレオチド結合部位(NBS)を使用する。インドール-3-酪酸(IBA)コンジュゲート型のシステインを使用して、NBSで反応性チオール部分を抗体に部位特異的に光架橋した。次いで、チオール部分を使用して、チオール反応性基を有するリンカー-毒素をコンジュゲートすることができる(Alves,et al.,Bioconjug.Chem.,25(7):1198-1202(2014))。
【0198】
代替的に、低い平均DARを有するADCは、疎水性相互作用クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー分離技術を使用してDAR種の混合物を含有するADC調製物から単離してもよい(例えば、Hamblett,et al.,Clin.Cancer Res.,10:7063-7070(2004)、Sun,et al.Bioconj Chem.,28:1371-81(2017)、米国特許出願公開第2014/0286968号を参照されたい)。
【0199】
低い平均DARを有するADCは、3.9以上の平均DARを有するADCの調製物に非コンジュゲート(すなわち、DAR0)抗体を添加することによって作製することもできる。当該技術分野で既知であるように、コンジュゲーション方法の大半は、様々なDAR種を含むADC調製物をもたらし、報告されているDARは、個々のDAR種の平均である。特定の実施形態では、ある割合のDAR0種を含むADCが有利であり得る。いくつかの実施形態では、3.9未満の平均DARを有する、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、少なくとも5%のDAR0種を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、少なくとも10%のDAR0種、例えば、少なくとも15%のDAR0種または少なくとも20%のDAR0種を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのADCは、約5%~約50%のDAR0種、例えば、約10%~約50%のDAR0種、約10%~約40%、または約10%~約30%のDAR0種を含む。
【0200】
ADCの平均DARは、UV/VIS分光分析、ELISAに基づく技術、クロマトグラフィー技術、例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、UV-MALDI質量分析(MS)及びMALDI-TOFMS等の標準的な技術によって決定され得る。加えて、薬物結合形態(例えば、DAR0、DAR1、DAR2種の画分等)の分布は、MS(付随するクロマトグラフィー分離ステップを伴う、または伴わない)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相HPLC、または等電点ゲル電気泳動(IEF)を含む、当該技術分野で既知の様々な技術によって分析されてもよい(例えば、Sun et al.Bioconj Chem.,28:1371-81(2017)、Wakankar et al.,mAbs,3:161-172(2011)を参照されたい)。
【0201】
特定の実施形態では、ADCの平均DARは、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)技術によって決定される。
【0202】
コンジュゲーション後、ADCは、当該技術分野で既知の精製方法によって、非コンジュゲート反応物質及び/または任意のコンジュゲート凝集体から精製及び分離され得る。そのような方法として、限定されないが、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、イオン交換クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、限外濾過、遠心分離型限外濾過、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0203】
薬学的組成物
本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物を含む薬学的組成物も本明細書で提供される。薬学的組成物は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物と、薬学的に許容される担体とを含む。
【0204】
「薬学的に許容される」という用語は、動物、特にヒトに使用するために、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって承認されているか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識されている薬局方に記載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療剤がともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、滅菌済みの液体、例えば、水及び油であってもよく、石油、動物、植物または合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等を含む。いくつかの態様において、担体は、天然には見られない人工の担体である。薬学的組成物を静脈内投与するときに担体として、水を使用することができる。生理食塩水及びデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液も、液体担体として、特に注射用液に用いることができる。好適な薬学的賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸ナトリウム、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が挙げられる。所望の場合、組成物は、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含有することもできる。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤等の形態をとることができる。組成物は、トリグリセリド等の従来の結合剤及び担体とともに、坐剤として製剤化することができる。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等の標準的な担体を含むことができる。好適な薬学的担体の例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、患者に適切な投与のための形態を提供するために、好ましくは精製された形態の、治療有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物を、好適な量の担体とともに含有する。製剤は、投与様式に適合するべきである。
【0205】
特定の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物を含む組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合された薬学的組成物として、日常的な手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌済みの等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物はまた、可溶化剤、及び注射部位の疼痛を緩和するためのリグノカイン等の局所麻酔剤も含み得る。一般に、成分は、別々にまたは単位剤形中に一緒に混合されて、例えば、活性剤の量を示すアンプルまたはサシェ等の密封容器内に、凍結乾燥粉末または水を含まない濃縮物として供給される。組成物が注入によって投与される場合、滅菌済みの医薬品グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルを用いて分注することができる。組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分を混合できるように、注射用の滅菌水または生理食塩水のアンプルが提供されてもよい。
【0206】
特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、中性または塩形態として製剤化される。薬学的に許容される塩として、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等から誘導されるもの等の陰イオンを用いて形成されるも塩、及び、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等から誘導されるもの等の陽イオンを用いて形成される塩が挙げられる。
【0207】
胆道癌(BTC)の治療方法
胆道癌(BTC)を治療する方法であって、BTCを有する対象に、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを、この疾患または障害を治療、予防または改善するのに有効な量で投与することを含む方法を本明細書に記載する。本明細書に記載される方法の具体的な実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物はv10000である。本明細書に記載される方法の他の具体的な実施形態では、ADCは、アウリスタチン類似体に結合されたv10000である。
【0208】
「障害」または「疾患」は、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物または方法による治療の恩恵を受ける任意の状態を指す。これには、慢性及び急性の障害または疾患が含まれ、哺乳動物を当該障害に罹りやすくする病理学的状態が含まれる。本明細書に記載される実施形態では、障害または疾患は、以下により詳細に記載される胆道癌である。
【0209】
「対象」または「患者」という用語は、動物を指し、いくつかの実施形態では、治療、観察または実験の対象である哺乳動物を指す。動物は、ヒト、非ヒト霊長類、伴侶動物(例えば、イヌ、ネコ等)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ等)、または実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモット等)であってもよい。
【0210】
本明細書で使用される「哺乳動物」という用語は、限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、マウス、ウシ、ウマ、及びブタを含む。
【0211】
「治療」は、治療される個体または細胞の自然経過を変化させようとする臨床介入を指し、臨床病理学の仮定において実施することができる。治療の望ましい効果として、限定されないが、疾患の再発の予防、症状の緩和、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的帰結の軽減、転移の予防、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善または緩和、ならびに寛解または予後の向上が挙げられる。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、疾患の発症を遅延させるか、または疾患の進行を遅延させるために使用され得る。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、BTCの発生を遅延させるために使用され得る。一実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物、ADC、及び方法は、BTC腫瘍/がん成長の阻害に影響を及ぼし得る。別の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、BTCの進行を遅延させるために使用され得る。
【0212】
「有効量」という用語は、本明細書で使用される場合、投与される二重特異性抗HER2抗原結合構築物の量を指し、これは、列挙した方法の目標を達成し、例えば、治療される疾患、状態または障害の症状のうちの1つ以上をある程度軽減する。疾患または障害の治療または阻害に有効的な二重特異性抗HER2抗原結合構築物の量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。加えて、最適な投与量範囲を特定するのに役立つように、インビトロアッセイが任意選択的に用いられてもよい。製剤に用いられる正確な用量は、投与経路及びBTCの重症度にも依存するため、医師の判断及び各患者の状況に従って決定されるべきである。有効用量は、インビトロまたは動物モデル試験系に由来する用量反応曲線から推定することができる。
【0213】
「第一選択療法」、「第一選択治療」または「一次療法」という用語は、がんの種類及び病期を考慮に入れた、患者の初期治療として一般に受け入れられている治療レジメンである。用語「第二選択療法」または「第二選択治療」は、第一選択療法が所望の有効性を提供しない場合に典型的に投与される治療レジメンである。
【0214】
「ネオアジュバント療法」という用語は、主な治療、通常は手術が行われる前に、腫瘍を縮小するための最初のステップとして行われる治療を指す。ネオアジュバント療法の例として、限定されないが、化学療法、放射線療法、及びホルモン療法が挙げられる。ネオアジュバント療法は、第一選択療法として考慮することができる。
【0215】
「アジュバント療法」という用語は、がんが再発するリスクを低減するために、第一選択治療後に行われる追加のがん治療を指す。アジュバント療法として、限定されないが、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、標的療法(典型的には、正常細胞ではなく特定の種類のがん細胞を標的とする低分子薬物または抗体)、または生物学的療法(例えば、ワクチン、サイトカイン、抗体、または遺伝子療法等)が挙げられる。
【0216】
「進行がん」は、安全に除去することができないか、または治癒もしくは長期寛解の可能性が非常に低い程度にまで発症したがんである。がんは、がんの除去を妨げる構造まで隣接して成長することによって、あるいはそれらが発生した場所から、組織線を横切って、またはリンパ節もしくは他の器官等の他の身体部位に広がることによって進行する。進行したがんは局所的に進行し得る、すなわち、それらは原発部位の臓器外に広がっているが、遠隔部位にはまだ広がっていないことを意味する。進行がんは転移性であり得、すなわち、がんが発生した部位(原発部位)から体の他のより遠い部位(続発部位)にがん細胞が広がっていることを意味する。
【0217】
「切除可能な」がんは、手術によって治療することができるがんである。「切除不能な」がんは、典型的には、がんが主腫瘍を取り巻く組織に広がっているために、手術によって治療することができないがんである。特定のがんは、周囲組織への拡散の程度に基づいて、医師によって「部分切除可能」と評価され得る。
【0218】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、既知の方法に従って対象に投与され得る。例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、化合物を発現することが可能な組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu,J.Biol.Chem.262:4429-4432(1987))、レトロウイルスまたは他のベクターの一部としての核酸の構築等の様々な送達系が既知であり、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物製剤を投与するために用いることができる。導入方法は、限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路を含む。二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、任意の都合のよい経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮または粘膜皮膚の裏層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜等)を介した吸収によって投与されてもよく、また他の生物活性剤と一緒に投与されてもよい。投与は、全身または局所であり得る。加えて、特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物を、脳室内及び髄腔内注射を含む任意の好適な経路によって中枢神経系に導入することが望ましい場合があり、脳室内注射は、例えば、Ommayaリザーバー等のリザーバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって容易になり得る。例えば、吸入器またはネブライザーの使用、及びエアロゾル化剤を用いた製剤化によって、肺投与も用いることができる。具体的な実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、静脈内(IV)に投与され得る。
【0219】
特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを、治療を必要とする領域に局所投与することが望ましい場合があり、これは、例えば、限定するものではないが、手術中の局所注入によって、例えば、術後の創傷被覆と併せて局所塗布によって、注射によって、カテーテルによって、坐剤によって、または移植片によって達成することができ、上記移植片は、シラスティック膜等の膜、または繊維を含む、多孔質、非多孔質、またはゲル状の材料である。好ましくは、二重特異性抗HER2抗原結合構築物等のタンパク質を投与する場合、タンパク質が吸着しない材料を使用することに注意しなければならない。
【0220】
別の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、小胞、特にリポソーム中で送達することができる(Langer,Science 249:1527-1533(1990);Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez-Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353~365(1989)中のTreatら;Lopez-Berestein、同書のpp.317~327;全体的に同書を参照されたい)。
【0221】
さらに別の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、制御放出システムで送達され得る。一実施形態では、ポンプが使用されてもよい(上記のLanger;Sefton,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201(1987)、Buchwald et al.Surgery,88:507(1980)、Saudek et al.N.Engl.J.Med.321:574(1989)を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.(1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York(1984);Ranger and Peppas,J.,Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61(1983)を参照されたい。またLevy et al.,Science 228:190(1985);During et al.,Ann.Neurol.25:351(1989);Howard et al.,J.Neurosurg.71:105(1989)も参照されたい)。さらに別の実施形態では、制御放出システムは、治療標的の近くに配置することができ、したがって、全身用量のわずか一部を必要とするだけである(例えば、Goodson,in Medical Applications of Controlled Release,vol.2,pp.115-138(1984)を参照されたい)。
【0222】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、単独で、または他の種類の治療(例えば、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法、及び抗腫瘍剤)とともに投与されてもよい。一般に、患者の種と同じ種である種起源または種反応性(抗体の場合)の生成物の投与が好ましい。したがって、一実施形態では、ヒトまたはヒト化二重特異性抗HER2抗原結合構築物、断片誘導体、類似体、または核酸は、治療または予防のためにヒト患者に投与される。
【0223】
胆道癌(BTC、「胆道癌(biliary cancer)」とも称される)は、胆嚢癌、膨大部癌、胆管細胞癌、及び胆嚢管腺癌を含む。胆管細胞癌(CCA)はまた、肝内CCAまたは肝外CCAに分類され得る。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、BTCを治療する方法に使用され得る。一実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、進行性切除不能BTCを治療する方法に使用され得る。他の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、胆嚢癌、膨大部癌、胆管細胞癌、または胆嚢管腺癌を治療する方法され得る。他の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、肝内CCAまたは肝外CCAを治療する方法に使用され得る。
【0224】
一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2の発現、増幅、または活性化を示すBTCを有する対象を治療するために使用され得る。「HER2の発現、増幅、または活性化を示す」BTCは、診断試験において、HER2受容体を発現する(過剰発現を含む)、増幅されたHER2遺伝子を有する、及び/または別様に、HER2受容体の活性化もしくはリン酸化を示すものである。
【0225】
「HER2の活性化を示す」BTCは、診断試験において、HER2受容体の活性化またはリン酸化を示すものである。そのような活性化は、直接的に(例えば、ELISAによるHER2リン酸化を測定することによって)または間接的に(例えば、遺伝子発現プロファイリングによって)決定することができる。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2の発現を示すBTCを有する対象を治療するために使用され得る。
【0226】
「HER2受容体の過剰発現または増幅」を伴うBTCは、同じ組織型の非がん性細胞と比較して著しく高いレベルのHER2受容体タンパク質または遺伝子を有するものである。そのような過剰発現は、遺伝子増幅によって、または転写もしくは翻訳の増加によって引き起こされ得る。HER2受容体の過剰発現または増幅は、細胞の表面上に存在するHER2タンパク質のレベルの増加を(例えば、免疫組織化学アッセイ;IHCによって)評価することにより、診断または予後アッセイにおいて決定され得る。一実施形態では、HER2の過剰発現は、例えば、HERCEPTEST(登録商標)(Dako)を使用して、IHCによって分析され得る。腫瘍生検からのパラフィン包埋組織切片をIHCアッセイに供し、以下のようにHER2タンパク質染色強度基準を一致させることができる。
スコア0:染色が観察されない、または腫瘍細胞の10%未満に膜染色が観察される。
スコア1+:腫瘍細胞の10%超に、かすかな/ほとんど知覚できない膜染色が検出される。細胞は、それらの膜の一部においてのみ染色される。
スコア2+:腫瘍細胞の10%超に弱~中程度の完全な膜染色が観察される。
スコア3+:腫瘍細胞の10%超に、中程度~強度の完全な膜染色が観察される。
【0227】
HER2過剰発現評価の0または1+スコアを有する腫瘍は、HER2を過剰発現していないと特徴付けることができる一方で、2+または3+スコアを有する腫瘍は、HER2を過剰発現していると特徴付けることができる。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2の過剰発現及び/または増幅を示すBTCを有する対象を治療するために使用され得る。
【0228】
代替的または追加的に、例えば、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH;1998年10月公開のWO98/45479を参照されたい)及び発色インサイツハイブリダイゼーション(CISH;例えば、Tanner et al.,Am.J.Pathol.157(5):1467-1472(2000)、Bella et al.,J.Clin.Oncol.26:(May 20 suppl;abstr 22147)(2008)を参照のこと)を含むインサイツハイブリダイゼーション(ISH)、サザンブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、例えば、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)、または次世代配列決定(NGS)によって、細胞内のHER2をコードする核酸のレベルを測定することができる。これらの方法を用いたHER2遺伝子増幅の評価は、典型的には、陽性(+)または陰性(-)として報告され、例えば、HER2遺伝子増幅癌のFISH+またはHER2遺伝子増幅ではないがんのFISH-がある。NGSによるHER2遺伝子増幅の評価はまた、HER2遺伝子コピーの数に関しても報告され得る。正常細胞では、HER2遺伝子の2つのコピーが存在する。したがって、がんが、HER2遺伝子の2つを超えるコピーを有する場合、HER2遺伝子増幅癌とみなされ得る。
【0229】
HER2の発現、増幅または活性化を示すBTCを有する対象を治療する方法であって、有効量の本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを対象に提供することを含む方法を本明細書に記載する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2 3+の遺伝子増幅BTCを有する対象の治療に使用され得る。他の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2 2+の遺伝子増幅BTCの治療に使用され得る。他の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2 1+の遺伝子増幅BTCの治療に使用され得る。他の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2遺伝子の増幅なしで、HER2 3+と評価されたBTCの治療に使用され得る。他の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2遺伝子の増幅なしで、HER2 2+と評価されたBTCの治療に使用され得る。他の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、HER2遺伝子増幅なしで、HER2 1+と評価されたBTCの治療に使用され得る。
【0230】
いくつかの実施形態では、治療される対象は、BTCに対して以前に治療を受けていない可能性があり、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCが第一選択治療として投与される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、切除可能または部分切除可能ながんを有する対象を治療するためのアジュバントまたはネオアジュバント療法として使用され得る。他の実施形態では、治療される対象は、BTCに対して以前に1つ以上の治療を受けている可能性があり、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCが第二選択治療として投与される。BTCのための1つ以上の以前の治療は、ゲムシタビン単独、または白金ベースの化学療法剤、フルオロピリミジンベースの化学放射線療法、追加の化学療法を伴わない放射線療法、抗体(限定されないが、抗HER2標的抗体を含む)、及び治験薬(すなわち、現在臨床試験が行われているが、FDAによってまだ承認されていないもの)等の全身化学療法から選択される治療を含むことができる。白金ベースの化学療法剤は、シスプラチンまたはオキサリプラチンを含み得る。一実施形態では、全身化学療法は、ゲムシタビン及びシスプラチン、またはゲムシタビン及びオキサリプラチンを含む。
【0231】
BTCを有する対象に投与され得る二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCの例示的な有効量は、0.1mg/kg患者の体重~100mg/kg患者の体重であり得る。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100mg/kg患者の体重で投与される。
【0232】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、毎週、隔週(Q2W)、3週間毎(Q3W)、または4週間毎(Q4W)に投与される。二重特異性抗HER2抗原結合構築物の毎週投与のための例示的な有効量は、約1mg/kg~約30mg/kgの範囲である。二重特異性抗HER2抗原結合構築物の隔週投与のための例示的な有効量は、約10mg/kg~約50mg/kgの範囲である。二重特異性抗HER2抗原結合構築物の3週間毎の投与のための例示的な有効量は、約15mg/kg~約50mg/kgの範囲である。二重特異性抗HER2抗原結合構築物の4週間毎の投与のための例示的な有効量は、約40mg/kg~約70mg/kgの範囲である。
【0233】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、毎週5、10、または15mg/kgである。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、毎週10mg/kgである。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、2週間毎に20、25、または30mg/kgである。他の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、2週間毎に20mg/kgである。代替の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、3週間毎に20mg/kgである。さらに他の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、3週間毎に30mg/kgである。さらなる実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、4週間毎に40mg/kgである。いくつかの実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の有効量は、20、25、または30mg/kgの初回用量、続いて、より低い用量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物である。
【0234】
当該技術分野で既知であるように、ADCは、二重特異性抗HER2抗原結合構築物に使用される用量よりも低い用量で対象に投与され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるADC(すなわち、アウリスタチン類似体に結合された二重特異性抗HER2抗原結合構築物)は、毎週、隔週(Q2W)、3週毎(Q3W)、または4週毎(Q4W)に投与される。いくつかの実施形態では、BTCを有する対象に投与され得るADCの有効量は、毎週、2週間毎、または3週間毎に約1~約15mg/kgである。
【0235】
上述のように、具体的な実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、静脈内に投与され得る。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、120~150分にわたって0.9%生理食塩水中のIV注入によって投与され得る。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、90分間にわたって0.9%生理食塩水中のIV注入によって投与され得る。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、60分間にわたって0.9%生理食塩水中のIV注入によって投与され得る。関連する実施形態では、注入速度は、1時間当たり250mLの生理食塩水を超えてはならない。
【0236】
BTCを有する対象を治療する方法であって、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを、追加の抗腫瘍治療とともに投与することを含む方法も本明細書で提供される。追加の抗腫瘍処置は、ゲムシタビン単独、または白金ベースの化学療法剤、フルオロピリミジンベースの化学放射線療法、追加の化学療法を伴わない放射線療法、及び治験薬(すなわち、現在臨床試験が行われているが、FDAによってまだ承認されていないもの)等の全身化学療法を含む、BTCのための1つ以上の治療から選択され得る。一実施形態では、BTCを有する対象を治療する方法は、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを、ゲムシタビン及びシスプラチンとともに、またはゲムシタビン及びオキサリプラチンとともに投与することを含む。一実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、フルオロピリミジン薬及び白金ベースの薬物とともに投与されてもよい。フルオロピリミジン薬の例として、限定されないが、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビンまたはゲムシタビンが挙げられる。白金ベースの薬物の例として、限定されないが、シスプラチンまたはオキサリプラチンが挙げられる。他の実施形態では、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、5-FU、オキサリプラチン、及びロイコボリンとともに投与され得る。さらに他の実施形態では、対象がMSI-H/dMMR(高レベルのマイクロサテライト不安定性/ミスマッチ修復の欠損)であるBTCを有する場合、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCは、抗PD1抗体ペムブロリズマブ(Keytruda(商標))または抗PD-L1抗体アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標))等の免疫チェックポイント阻害剤とともに投与されてもよい。
【0237】
Simile et al.(2019)Medicina55:42の表2に記載されるような、BTCに対する追加の抗腫瘍治療薬は、当該技術分野で既知である。当業者であれば、これらの治療のうちのいずれかを、本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCとともに投与することができるかを特定することができるであろう。
【0238】
前述の段落に記載の追加の抗腫瘍治療薬は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCと同時に投与されてもよいか、または連続的に投与されてもよい。
【0239】
いくつかの実施形態では、BTCを有する対象に有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物を提供することの結果は、病変(複数可)を縮小すること、病変(複数可)の成長を阻害すること、病変(複数可)の無増悪期間を増加させること、対象の無病生存期間を延長すること、転移を減少させること、対象の無増悪生存期間を増加させること、または対象の全生存期間を増加させるもしくは治療を受ける対象群の全生存期間を増加させることである。関連する実施形態では、対象に有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物を提供することの結果は、改訂された固形腫瘍の応答評価基準(RECIST)ガイドライン(バージョン1.1)[Eur J Ca 45:228-247,2009]により測定した場合、対象における部分奏効(PR)または安定(SD)である。転移性疾患を有し、CRまたはPRのいずれかを有する対象では、奏効期間を測定してもよい。
【0240】
本明細書で使用される場合、「進行」(PD)という用語は、1つ以上の新たな病変の出現及び/または既存の非標的病変の明白な進行を指す。PDは、治療の変更を要するほど十分に著しく全体の腫瘍量が増加する場合に、「明白な進行」に基づいて宣言され得る;ほとんどの場合、1つ以上の非標的病変のサイズの若干の増大は、(特に標的疾患におけるSDまたはPRの存在下では)要件を満たすのに十分ではない。
【0241】
本明細書で使用される場合、用語「部分奏効」(PR)は、ベースライン径和を基準として、標的病変の径和(任意の標的リンパ節の短軸を含む)が少なくとも30%減少することを指す。
【0242】
本明細書で使用される場合、「完全奏効」(CR)という用語は、すべての非標的病変の消失、腫瘍マーカーレベルの正常化を指す(腫瘍マーカーが測定され、最初に正常の上限を超えている場合、患者が臨床的な完全奏効であるとみなされるためにはそれらが正常化しなければならない)。すべてのリンパ節は<10mm(短軸)でなければならない。
【0243】
本明細書で使用される場合、「安定」(SD)という用語は、治療を開始して以来の最小径和を基準として、PRに相当するのに十分な縮小がなく、PDに相当するのに十分な増大もないことを指す。
【0244】
本明細書で使用される場合、「客観的奏効率」(ORR)という用語は、治療の開始から疾患の進行/再発までの、RECIST v1.1によるPRまたはCRを有する、任意の量の治験薬を投与されるすべての無作為化された患者の割合である(治療を開始して以来記録された最小測定値をPDの基準とする)。
【0245】
本明細書で使用される場合、用語「全生存期間」(OS)は、無作為化日から任意の原因による死亡日までの時間を指す。
【0246】
本明細書で使用される場合、用語「無増悪生存期間」(PFS)は、がんが進行または悪化することなく、依然として生存している患者を指す。一実施形態では、試験における無作為化から、PFSは、RECIST(バージョン1.1)によって定義される客観的進行が最初にX線撮影によって実証されるまでの期間、または任意の原因による死亡までの時間として定義される。以前の進行が報告されずに死亡した患者は、死亡当日に進行があったとみなされる。進行がなかった、または追跡不能となった患者は、最後のX線撮影による腫瘍評価の日に打ち切られる。
【0247】
本明細書で使用される場合、「無病生存期間」(DFS)という用語は、がんに対する一次治療が終了した後、患者がそのがんの兆候または症状なしで生存する時間の長さを指す。DFSはまた、「無再発生存期間」(RFS)と称されてもよい。
【0248】
本明細書で使用される場合、「無増悪期間」(TTP)という用語は、がんの診断日または治療開始日から、がんが悪化し始めるか、または身体の他の部分に広がるまでの時間の長さを指す。
【0249】
本明細書で使用される場合、用語「病勢制御率」(DCR)は、疾患の進行がないこと及びその割合を指す。これは、CR、PRまたはSD(具体的には、PDを有する患者を除く)に分類される最良の全奏効を有する患者群を指し、最良の全奏効は、治療開始からPDまでに記録される最良の奏効である。
【0250】
本明細書で使用される場合、「全奏効期間」(DOR)という用語は、治療開始以降に記録された最小測定値を基準として、完全奏効または部分奏効(どちらか最初に記録された状態)の測定基準を満たした時点から、再発または疾患の進行が客観的に確認された最初の日までの期間を指す。
【0251】
いくつかの実施形態では、BTCを有する対象に有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを提供することの結果は、対象の群における病勢制御率(DCR)を増加させることである。DCRは、殺腫瘍効果よりも腫瘍抑制効果を有する療法の有効性を測定するのに有用であり得る。DCRは、二重特異性抗HER2またはADCで処理した後に、CR、PRまたはSDを示すBTCを有する患者の割合として計算される。一実施形態では、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを対象に投与すると、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%を超えるDCRがもたらされる。他の実施形態では、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを対象に投与すると、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%を超えるDCRがもたらされる。
【0252】
PFS(無増悪生存期間)及びORR(全奏効率)も、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCの有効性を決定するために使用することができ、上記の改訂版RECIST 1.1ガイドラインに従って測定される。PFSは、無作為化から客観的な腫瘍進行または死亡までの時間として定義される。ORRは、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを用いた療法に対して部分奏効または完全奏効を有する、BTCを有する対象の割合として定義される。ORRは、薬物の殺腫瘍活性の尺度として使用され得る。いくつかの実施形態では、BTCを有する対象に有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを提供することの結果は、対象の群における無増悪生存期間(PFS)を増加させることである。いくつかの実施形態では、BTCを有する対象に有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを提供することの結果は、全奏効率(ORR)の増加である。一実施形態では、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを対象に投与すると、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%を超えるORRがもたらされる。さらに別の実施形態では、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを対象に投与すると、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%を超えるORRがもたらされる。
【0253】
全生存期間、無増悪期間、奏効期間(DOR)は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCの有効性を決定するために使用することもできる。
【0254】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCがアジュバントまたはネオアジュバント療法として投与される場合、療法の有効性を決定するために無病生存期間を測定してもよい。
【0255】
キット及び製造品
本明細書には、1つ以上の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを含むキットも記載される。キットの個々の構成要素は、別の容器に包装され、そのような容器に関連して、医薬品または生物学的製剤の製造、使用または販売を規制する行政機関によって規定された形式の通知であってもよく、通知は、該機関による製造、使用または販売の承認を示す。キットは、二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCの使用方法または投与レジメンを概説する指示書または説明書を任意選択的に含んでもよい。
【0256】
キットの1つ以上の構成要素が溶液、例えば水溶液、または滅菌水溶液として提供される場合、容器手段自体が、吸入器、注射器、ピペット、点眼器、または他の同様の装置であってもよく、そこから溶液が対象に投与され得るか、またはキットの他の構成要素に適用され、それらと混合され得る。
【0257】
キットの構成要素はまた、乾燥または凍結乾燥形態で提供されてもよく、キットは、凍結乾燥成分の再構成に適した溶媒をさらに含み得る。容器の数または種類にかかわらず、本明細書に記載されるキットはまた、患者への組成物の投与を補助するための器具を含み得る。そのような器具は、吸入器、鼻内噴霧デバイス、シリンジ、ピペット、ピンセット、計量スプーン、点眼器、または同様の医学的に承認された送達媒体であり得る。
【0258】
本明細書に記載される別の態様において、BTCの治療、予防、及び/または診断に有用な材料を収容する製造品が提供される。製造品は、容器と、容器上のまたは容器に関連付けられたラベルまたは添付文書とを含む。好適な容器として、例えば、ボトル、バイアル、注射器、IV溶液バッグ等が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチック等の様々な材料から形成され得る。容器は、それ自体で、または別の組成物と組み合わされて、状態の治療、予防、及び/または診断に効果的な組成物を収容し、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静注溶液バッグまたはバイアルであり得る)。ラベルまたは添付文書は、選択された状態を治療するために組成物が使用されることを示す。さらに、製造品は、(a)本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCを含む組成物を収容する第1の容器と、(b)さらなる細胞傷害性または他の治療剤を含む組成物を収容する第2の容器と、を含み得る。本明細書に記載される本実施形態における製造品は、BTCを治療するために組成物が使用され得ることを示す添付文書をさらに含んでよい。代替的に、または追加的に、製造品は、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンゲル液及びデキストロース溶液等の薬学的に許容される緩衝液を収容する第2の(または第3の)容器をさらに含んでよい。他の緩衝液、希釈剤、フィルタ、針、及び注射器を含む、商業的な立場及び使用者の立場から望ましい他の材料が含まれる場合もある。
【0259】
ポリペプチド及びポリヌクレオチド
本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、少なくとも1つのポリペプチドを含む。本明細書に記載されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも記載される。二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、典型的には単離される。
【0260】
本明細書で使用される場合、「単離された」とは、その天然の細胞培養環境の成分から同定及び分離された、及び/または回収された物質(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)を意味する。その天然環境の汚染成分は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の診断または治療用途を妨げる物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性または非タンパク質性溶質を含み得る。単離されたとは、例えば、人的な介入によって、合成的に生成された物質も指す。
【0261】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書において互換的に使用される。すなわち、ポリペプチドに関する説明は、ペプチドの説明及びタンパク質の説明にも等しく適用され、その逆も同様である。これらの用語は、天然に存在するアミノ酸ポリマー、ならびに1つ以上のアミノ酸残基が非天然のコードされたアミノ酸であるアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書で使用される場合、これらの用語は、完全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含し、アミノ酸残基は共有結合的なペプチド結合によって結合される。
【0262】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸及び天然に存在しないアミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様の様式で機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体を指す。天然にコードされたアミノ酸は、20個の一般的なアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プラリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリン)、ならびにピロリシン及びセレノシステインである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的な化学構造を有する化合物、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及び、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム等のR基に結合した炭素を指す。そのような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持する。アミノ酸への言及には、例えば、天然に存在するタンパク新生L-アミノ酸;D-アミノ酸、化学修飾アミノ酸、例えばアミノ酸変異体及び誘導体;天然に存在する非タンパク新生アミノ酸、例えばβ-アラニン、オルニチン等;ならびに当該技術分野でアミノ酸の特徴として既知である特性を有する化学合成化合物が含まれる。天然に存在しないアミノ酸の例として、限定されないが、α-メチルアミノ酸(例えば、α-メチルアラニン)、D-アミノ酸、ヒスチジン様アミノ酸(例えば、2-アミノ-ヒスチジン、β-ヒドロキシ-ヒスチジン、ホモヒスチジン)、側鎖に余分なメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸)、及び側鎖のカルボン酸官能基がスルホン酸基(例えば、システイン酸)で置き換えられるアミノ酸が挙げられる。合成の非天然アミノ酸、置換されたアミノ酸、または1つ以上のD-アミノ酸を含む非天然アミノ酸を、本明細書に記載されるタンパク質に組み込むことは、いくつかの異なる点で有利であり得る。D-アミノ酸含有ペプチド等は、L-アミノ酸含有の等価物と比較してインビトロまたはインビボで増加した安定性を示す。したがって、D-アミノ酸を組み込んだペプチドの構築等は、より高い細胞内安定性が所望されるまたは必要とされる場合に特に有用であり得る。より具体的には、D-ペプチド等は、内因性ペプチダーゼ及びプロテアーゼに対して耐性を示し、それによって、そのような特性が望ましい場合に、分子の改善されたバイオアベイラビリティ及びインビボでの延長された寿命を提供する。加えて、D-ペプチド等は、主要組織適合複合体クラスII拘束性のTヘルパー細胞への提示のために効率的にプロセシングされることができず、したがって、生物全体において体液性免疫応答を誘導する可能性が低い。
【0263】
アミノ酸は、本明細書において、一般的に知られている3文字記号、またはIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨される1文字記号のいずれかによって言及され得る。同様に、ヌクレオチドも、一般的に受け入れられている文1字コードによって参照されてもよい。
【0264】
本明細書には、二重特異性抗HER2抗原結合構築物のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも記載される。「ポリヌクレオチド」または「ヌクレオチド配列」という用語は、2つ以上のヌクレオチド分子の連続的伸長を示すことを意図する。ヌクレオチド配列は、ゲノム、cDNA、RNA、半合成もしくは合成起源のもの、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0265】
「核酸」という用語は、デオキシリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、またはリボヌクレオチド、及び一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のそれらのポリマーを指す。具体的に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと同様の方法で代謝される、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含有する核酸を包含する。別途具体的に限定されない限り、この用語はまた、PNA(ペプチド核酸)を含むオリゴヌクレオチド類似体、アンチセンス技術で使用されるDNAの類似体(ホスホロチオエート、ホスホロアミデート等)も指す。別段の指示がない限り、特定の核酸配列はまた、それらの保存的に修飾された変異体(限定されないが、縮重コドン置換体を含む)及び相補的配列、ならびに明示的に指示される配列も暗黙的に包含する。具体的には、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの第3の位置が混合塩基及び/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって、縮重なコドン置換を達成することができる(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985)、Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。
【0266】
「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸及び核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、「保存的に修飾された変異体」は、同一もしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を指すか、または核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を指す。遺伝コードの縮重のために、多数の機能的に同一の核酸が任意の所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって特定されるあらゆる位置で、コードされるポリペプチドを変化させることなく、記載される対応するコドンのいずれかにコドンを変化させることができる。そのような核酸の変異は、「サイレント変異」であり、保存的に修飾された変異の1種である。ポリペプチドをコードする本明細書のあらゆる核酸配列は、核酸のすべての可能なサイレント変異も説明する。当業者であれば、核酸中の各コドン(通常、メチオニンの唯一のコドンであるAUG及び通常、トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)は、機能的に同一の分子を得るように修飾され得ることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載される各配列に潜在している。
【0267】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされた配列中の単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更する、付加する、または欠失させる核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加は、その変更がアミノ酸の欠失、アミノ酸の付加、またはアミノ酸の化学的に類似したアミノ酸による置換をもたらす「保存的に修飾された変異体」であることを認識するであろう。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当業者に既知である。そのような保存的に修飾された変異体は、本明細書に記載される多型変異体、種間相同体、及び対立遺伝子に加えられるものであり、それらを除外するものではない。
【0268】
機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当業者に既知である。以下の8つの群はそれぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含有する:1)アラニン(A)、グリシン(G)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、4)アルギニン(R)、リジン(K)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、7)セリン(S)、スレオニン(T)、及び[0139]8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton,Proteins:Structures and Molecular Properties(W H Freeman&Co.;2nd edition(December 1993)を参照されたい。
【0269】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列に関して、「同一の」またはパーセント「同一性」という用語は、同じである2つ以上の配列または部分配列を指す。配列は、以下の配列比較アルゴリズム(または当業者が利用できる他のアルゴリズム)のうちの1つを使用して、または手動によるアライメント及び目視検査によって測定されるように、比較ウィンドウまたは指定領域にわたって最大の一致となるよう比較及び整列させたときに、同じであるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの割合(すなわち、指定領域にわたって60%の同一性、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、または95%の同一性)を有する場合、「実質的に同一」である。この定義はまた、試験配列の相補体についても言及する。同一性は、少なくとも約50アミノ酸もしくはヌクレオチド長の領域にわたって、または75~100アミノ酸もしくはヌクレオチド長の領域にわたって、または特定されていない場合、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドの配列全体にわたって存在することができる。ヒト以外の種からの相同体を含む、本明細書に記載されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、本明細書に記載されるポリヌクレオチド配列またはその断片を有する標識されたプローブを用いて、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でライブラリーをスクリーニングするステップと、該ポリヌクレオチド配列を含有する完全長cDNA及びゲノムクローンを単離するステップと、を含むプロセスによって得ることができる。そのようなハイブリダイゼーション技術は、当業者に周知である。
【0270】
配列比較の場合、典型的には、1つの配列が、試験配列が比較される参照配列として機能する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて、部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムのパラメータを指定する。デフォルトのプログラムパラメータを使用されてもよく、または代替のパラメータを指定することもできる。次いで、配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を計算する。
【0271】
「比較ウィンドウ」は、本明細書で使用される場合、20~600、通常は約50~約200、より通常は約100~約150からなる群から選択される連続する位置の数のうちのいずれか1つのセグメントへの言及を含み、配列は、2つの配列が最適に整列された後に、同じ数の連続する位置の参照配列と比較され得る。比較のための配列のアライメント方法は、当業者に既知である。比較のための最適な配列のアライメントは、限定されるものではないが、Smith and Waterman(1970)Adv.Appl.Math.2:482cによる局所相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch(1970)J.Mol.Biol.48:443の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman(1988)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444の類似性の検索によって、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実装(Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA、Genetics Computer Group、575 Science Dr.,Madison,Wis.)によって、または手動によるアライメント及び目視検査(例えば、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(1995 supplement)を参照のこと)によって実施することができる。
【0272】
パーセント配列同一性及び配列類似性を決定するのに好適なアルゴリズムの一例は、BLAST及びBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、Altschul et al.(1997)Nuc.Acids Res.25:3389-3402、及びAltschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410にそれぞれ記載されている。BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、www.ncbi.nlm.nih.govで利用可能なNational Center for Biotechnology Informationを通して公的に入手可能である。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、及びXは、アライメントの感度及び速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)は、デフォルトとして、11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、及び両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3のワード長、及び10の期待値(E)、及びBLOSUM62スコアリングマトリクス(Henikoff and Henikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915)を参照のこと)の50のアライメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、及び両鎖の比較を使用する。BLASTアルゴリズムは、典型的には、「低複雑性」フィルタをオフにして実行される。
【0273】
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計分析も実行する(例えば、Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5787を参照されたい)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、最小合計確率(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の一致が偶然発生する確率の指標を提供する。例えば、試験核酸と参照核酸との比較における最小合計確率が約0.2未満、または約0.01未満、または約0.001未満である場合、核酸は参照配列に類似しているとみなされる。
【0274】
「選択的に(または特異的に)ハイブリダイズする」という語句は、特定のヌクレオチド配列が複合体混合物(限定されないが、全細胞またはライブラリーDNAもしくはRNAを含む)中に存在する場合、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下での該配列のみとの分子の結合、二本鎖形成、またはハイブリダイゼーションを指す。
【0275】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、当該技術分野で知られているような低イオン強度及び高温の条件下での、DNA、RNA、もしくは他の核酸、またはそれらの組み合わせの配列のハイブリダイゼーションを指す。典型的には、ストリンジェントな条件下で、プローブは、核酸の複合体混合物(限定されないが、全細胞またはライブラリーDNAもしくはRNAを含む)中でその標的配列とハイブリダイズするが、複合体混合物中の他の配列とはハイブリダイズしない。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況において異なるであろう。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションの広範な指針は、Tijssen,Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes,”Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays”(1993)に見出される。
【0276】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子操作する、遺伝子操作された、遺伝子操作すること」は、ペプチド骨格の任意の操作、あるいは天然に存在するまたは組換えポリペプチドもしくはその断片の翻訳後修飾を含むと考えられる。遺伝子操作することは、アミノ酸配列、グリコシル化パターン、または個々のアミノ酸の側鎖基の修飾、及びこれらのアプローチの組み合わせを含む。遺伝子操作されたタンパク質は、標準的な分子生物学的手法によって発現及び産生される。
【0277】
「単離された核酸分子またはポリヌクレオチド」とは、その天然環境から取り出された核酸分子、DNAまたはRNAを意図する。例えば、ベクターに含まれるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、単離されているとみなされる。単離されたポリヌクレオチドのさらなる例として、異種宿主細胞中に維持された組換えポリヌクレオチド、または(部分的または実質的に)精製された溶液中のポリヌクレオチドが挙げられる。単離されたポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド分子を通常含む細胞に含まれるポリヌクレオチド分子を含むが、ポリヌクレオチド分子は、染色体外に、またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。単離されたRNA分子は、インビボまたはインビトロRNA転写物、ならびにプラス鎖及びマイナス鎖の形態、ならびに二本鎖形態を含む。本明細書に記載される単離されたポリヌクレオチドまたは核酸は、例えば、PCRまたは化学合成を介して、合成的に生成されるそのような分子をさらに含む。加えて、特定の実施形態では、ポリヌクレオチドまたは核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位、または転写ターミネーター等の調節エレメントを含む。
【0278】
「ポリメラーゼ連鎖反応」または「PCR」という用語は、概して、例えば、米国特許第4,683,195号に記載されるように、所望のヌクレオチド配列をインビトロで増幅するための方法を指す。一般に、PCR法は、鋳型核酸と優先的にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、プライマー伸長合成の繰り返しサイクルを伴う。
【0279】
本発明の参照ヌクレオチド配列と、少なくとも、例えば95%「同一」のヌクレオチド配列を有する核酸またはポリヌクレオチドとは、ポリヌクレオチド配列が参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチド当たり最大5つの点変異を含み得ることを除いて、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が参照配列と同一であることを意図する。換言すると、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るためには、参照配列中の最大5%のヌクレオチドを欠失させるもしくは別のヌクレオチドで置換するか、または参照配列中の全ヌクレオチドの最大5%のいくらかのヌクレオチドを参照配列に挿入してもよい。参照配列のこれらの変更は、参照ヌクレオチド配列の5’もしくは3’末端位置で、またはそれらの末端位置間のいずれの場所で行われてもよく、参照配列の残基の間に個別に、または参照配列内の1つ以上の連続した基の間に散在させてもよい。実際の問題として、任意の特定のポリヌクレオチド配列が、本発明のヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるかどうかは、ポリペプチドについて上述したもの(例えば、ALIGN-2)等の既知のコンピュータプログラムを使用して慣例的に決定することができる。
【0280】
ポリペプチドの誘導体または変異体は、その誘導体または変異体のアミノ酸配列が元のペプチドからの100個のアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有する場合、そのペプチドと「相同性」を共有する、または「相同」であると言われる。特定の実施形態では、誘導体または変異体は、該誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片のいずれかのものと少なくとも75%同一である。特定の実施形態では、誘導体または変異体は、該誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片のいずれかのものと少なくとも85%同一である。特定の実施形態では、誘導体のアミノ酸配列は、該誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片のいずれかと少なくとも90%同一である。特定の実施形態では、誘導体のアミノ酸配列は、該誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片のいずれかと少なくとも95%同一である。特定の実施形態では、誘導体または変異体は、該誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片のいずれかのものと少なくとも99%同一である。
【0281】
「修飾された」という用語は、本明細書で使用される場合、所与のポリペプチドになされる任意の変更、例えば、ポリペプチドの長さ、ポリペプチドのアミノ酸配列、化学構造、翻訳時修飾、または翻訳後修飾に対する変更を指す。「(修飾された)」という用語の形態は、論じられているポリペプチドが任意選択的に修飾されていること、すなわち、議論されているポリペプチドが、修飾されていてもまたは修飾されていなくてもよいことを意味する。
【0282】
いくつかの態様において、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、本明細書に開示される表(複数可)または受託番号(複数可)に記載される関連アミノ酸配列またはその断片と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、単離された二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、本明細書に開示される表(複数可)または受託番号(複数可)に記載される関連するヌクレオチド配列またはその断片と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%同一であるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0283】
本開示は、特定のプロトコルに限定されず、本明細書に記載される細胞株、構築物、及び試薬は、したがって変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本開示の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0284】
本明細書で言及されるすべての刊行物及び特許は、例えば、本明細書に記載される構築物と関連して使用され得る、刊行物に記載される構築物及び方法論を説明及び開示することを目的として、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において論じられる刊行物は、本出願の出願日より前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書中のいかなるものも、本発明者らが、先行発明によってまたは他の何らかの理由で、そのような開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。
【0285】
配列表
配列表
(表6)変異体v5019、v5020、v7091、v10000、v6903、v6902及びv6717のクローン番号
【0286】
(表7)クローン番号による変異体v5019、v5020、v7091、v1000、v6903、v6902及びv6717の配列
【実施例】
【0287】
本明細書に記載される二重特異性抗HER2抗原結合構築物及びADCを作製及び使用するための具体的な実施形態の例を以下に示す。実施例は、例示の目的のためにのみ提供され、決して本開示の範囲を限定するものではない。使用される数値(例えば、量、温度等)に関して精度を保証するように努力がなされてはいるが、当然のことながら、いくらかの実験誤差及び偏差が許容されるべきである。
【0288】
本明細書に記載される構築物及び方法は、別段の指示がない限り、当該技術分野の技能の範囲内で、タンパク質化学、生化学、組換えDNA技術及び薬理学の従来の方法を用いて調製及び実施することができる。そのような技術は、文献中に十分に説明されている。例えば、T.E.Creighton,Proteins:Structures and Molecular Properties(W.H.Freeman and Company,1993);A.L.Lehninger,Biochemistry(Worth Publishers,Inc.,current addition);Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition,1989);Methods In Enzymology(S.Colowick and N.Kaplan eds.,Academic Press,Inc.);Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition(Easton,Pennsylvania:Mack Publishing Company,1990);Carey and Sundberg Advanced Organic Chemistry 3rdEd.(Plenum Press)Vols A and B(1992)を参照されたい。
【0289】
実施例1:変異体10000(v10000)の説明及び調製
v10000は、ヒトHER2抗原のECDの2つの非重複エピトープを認識するヒト化二重特異性抗体である。v10000のIgG1様Fc領域は、ヘテロ二量体分子を生成し、それに応じてホモ二量体の形成に不利となるように選択対合を与える相補的変異を各CH3ドメインに含有する。
図1は、重鎖A及び軽鎖A’が抗体のECD2結合部分を形成し、重鎖Bが抗体のECD4結合部分を形成するscFvを含む、v10000の形式の表現を示す。変異体10000は、配列番号36に記載の配列を含む重鎖H1(
図1の重鎖Aに対応する)、配列番号63に記載の配列を含む重鎖H2(
図1の重鎖Bに対応する)、及び配列番号24に記載の配列を含む軽鎖L1(軽鎖A’に対応する)を含む。v10000の調製方法は、国際特許公開第WO2015/077891号に詳細に記載されている。
【0290】
v10000を、ヒト臨床試験のための関連規制要件に従って製造し、周囲温度でIV注入するために生体適合性の水性緩衝液中に15mg/mLで配合した。v10000は、20mLの緩衝液中に300mgのv10000を含有するバイアル中に供給された。v10000のバイアルを凍結した状態で発送し、使用準備ができるまで-20℃(+/-5℃)で保存した。使用前にバイアルを周囲温度で解凍した。バイアル中の解凍溶液を、周囲温度で最大24時間、または冷蔵条件(2℃~8℃)で最大72時間保存し、ラベル付けされた有効期限前に使用した。
【0291】
実施例2:局所進行性(切除不能)及び/または転移性HER2発現がんを有する患者におけるv10000の第I相臨床試験
これは、局所進行性(切除不能)及び/または転移性ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)発現がんを有する患者において、v10000単剤療法の安全性、忍容性、薬物動態(PK)、及び予備的な抗腫瘍活性を調査するための継続的なファースト・イン・ヒューマン試験である。
【0292】
試験の第1部は、3+3用量漸増であり、20mg/kgのQ2W単剤を推奨用量(RD)として同定した。第2部は、継続中であり、HER2高発現BTC患者を含む追加の患者において、v10000のRDを評価している。第1部及び第2部に適格な患者は、臨床的利益をもたらすことが知られているすべての療法の後に疾患が進行していなければならない。腫瘍応答は、RECIST v1.1 Q8Wに従って治験責任医師のレビューにより評価した。
【0293】
目的
臨床試験の第1部の主要目的は、v10000単剤療法のMTD(最大耐量)、OBD(最適な生物学的用量)、またはRDを決定することであった。臨床試験の第1部の副次目的は、HER2発現がんを有する適格な患者において、(1)v10000の安全性及び忍容性を特徴付けること、(2)v10000の血清PKプロファイルを特徴付けること、ならびに(3)v10000の潜在的な抗腫瘍効果を探索することであった。
【0294】
治験の第2部の主要目的は、特定の腫瘍型におけるv10000単剤療法の安全性及び忍容性を特徴付けることであった。臨床試験の第2部の副次目的は、選択されたHER2発現局所進行性(切除不能)及び/または転移性がんを有する適格な患者において、(1)v10000単剤療法の血清PKプロファイルを特徴付けること、及び(2)MTD、OBD、またはRDでのv10000の潜在的な抗腫瘍効果を探索することであった。
【0295】
患者
ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)のパフォーマンスステータスが0または1であり、臨床治験責任医師の意見において寿命が少なくとも3ヶ月である、18歳以上の男性または女性の患者を治験に含めた。
【0296】
第1部では、コホート1~3には、臨床的利益をもたらすことが知られているすべての療法を受けた後に進行した、局所進行性(切除不能)及び/または転移性HER2発現(IHCによるHER2 1+、2+、または3+)がん(限定されないが、乳房、胃、卵巣、結腸直腸及び非小細胞肺を含む)を有する患者が含まれた。コホート4~6には、HER2 IHC 2+/FISH-乳癌または胃食道腺癌(GEA)を有する患者;HER2 IHC 3+またはHER2 IHC 2+/FISH+乳癌またはGEAを有する患者が含まれた。コホート4~6には、任意の他のHER2 IHC 3+またはFISH+がんを有する患者も含まれ、がんは、HER2過剰発現(IHCによる3+)もしくはHER2-2+であり、FISH+乳癌は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、及びT-DM1による以前の治療後に進行していなければならない;がんは、HER2過剰発現(IHCによる3+)もしくはHER2-2+であり、FISH+GEAは、トラスツズマブによる以前の治療後に進行していなければならない;結腸直腸癌患者は、KRAS野生型である;またはNSCLCを有する患者は、標準的な方法により測定した場合、ALK野生型、EGFR野生型及びROS1融合陰性であった。コホート7には、選択された部位で登録され、HER2 IHC 3+、HER2 IHC 2+/FISH+、またはHER2 IHC 2+/FISH-乳癌を有する患者が含まれた。
【0297】
第2部では、本試験の第1部からのMTD、OBD、またはRDで投与されたv10000を使用したコホート拡大には、以下のような、臨床的利益をもたらすことが知られているすべての療法(特定の療法を受けるのに不適格である場合を除く)を受けた後に進行した局所進行性(切除不能)及び/または転移性がんが含まれた。
コホート1:HER2 IHC 2+/FISH-乳癌
コホート2:HER2 IHC 3+またはHER2 IHC 2+/FISH+乳癌
コホート3:HER2 IHC 2+/FISH-GEA
コホート4:HER2 IHC 3+またはHER2 IHC 2+/FISH+GEA
コホート5:以下を含む、任意の他のHER2 IHC 3+またはIHC 2+/FISH+がん:
コホート5a:GEA以外のHER2 IHC 3+またはIHC 2+/FISH+GI(消化管)癌であり、結腸直腸癌患者はKRAS野生型である。
コホート5b:乳癌またはGI癌ではない任意の他のHER2 IHC 3+またはIHC 2+/FISH+固形腫瘍型であり、NSCLC患者は、標準的な方法により測定した場合、ALK野生型、EGFR野生型、及びROS1融合陰性を有しなければならない、卵巣癌患者はKRAS野生型でなければならない。
【0298】
第1部及び第2部の患者の追加基準には以下が含まれていた:(1)HER2 IHC 3+またはIHC 2+/FISH+乳癌は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、及びT-DM1による以前の治療後に進行していなければならない;(2)HER2 IHC 3+またはIHC 2+/FISH+GEAは、トラスツズマブによる以前の治療後に進行していなければならない;(3)結腸直腸癌患者は、キルステンラット肉腫(KRAS)野生型でなければならない;ならびに(4)NSCLC患者は、標準的な方法により測定した場合、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)野生型、EGFR野生型、及び受容体チロシンキナーゼ(ROS1)融合陰性でなければならない。
【0299】
以下の基準のうち1つ以上に当てはまる場合、患者は治験から除外された。
1.v10000の初回投与前4週間以内に実験的療法による治療を受けている。
2.V10000の投与前4週間以内に、他に特定されない、他のがん療法による治療を受けている。
3.v10000の初回投与前90日以内に、アントラサイクリンによる治療、または総生涯用量で300mg/m2を超えるアドリアマイシンもしくは同等の薬剤による治療を受けている。
4.v10000の初回投与前3週間以内に、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、またはT-DM1による治療を受けている。
5.未治療の脳転移(治療された脳転移を有し、ステロイドを服用しておらず、スクリーニング時点で少なくとも1ヶ月安定している患者は適格とする)。すべての乳癌患者は、治療を開始する前にスクリーニングを受けるべきである。未治療の脳転移を有することが認められた患者は、適切な療法後に再スクリーニングを受けることができる。
6.臨床的に評価された軟膜疾患(LMD)。ベースラインのMRIでX線検査によりLMDが報告されているが、治験責任医師によって臨床的に疑われない場合、患者に治験責任医師によって確認されるようなLMDの神経学的症状が見られない場合、その患者は適格である。
7.v10000の初回投与前3週間以内の大手術または放射線療法
8.妊娠中または授乳中の女性
9.モノクローナル抗体、または製剤中の組換えタンパク質もしくは賦形剤に対する生命を脅かす過敏症の既往歴
10.v10000の初回投与前3年以内に任意の他のがんを有する。但し、対側乳癌、インサイツで適切に治療された子宮頚部上皮内癌、または適切に治療された皮膚の基底細胞癌もしくは扁平上皮癌、または治験依頼者のメディカルモニターによって承認された、根治的治療を受けた任意の他のがんを除くものとする。
11.急性または慢性の制御不能な腎疾患、膵炎または肝疾患(治験責任医師の評価に従って、ジルベール症候群、無症候性胆石、肝転移、または安定した慢性肝疾患を有する患者を除く)
12.末梢性ニューロパチー:NCI-CTCAEバージョン4.03(2010年7月14日)でグレード2超
13.臨床的に有意な間質性肺疾患
14.医療レジメンへのコンプライアンス違反歴
15.プロトコルを遵守しない、または遵守できない
16.既知の活動性B型肝炎もしくはC型肝炎、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)による既知の感染症
17.試験のメディカルモニターによって別途承認されていない限り、v10000の初回投与2週間以内に、プレドニゾン/15mg/日超に相当する用量で投与されたコルチコステロイドの使用。
18.QTc Fridericia(QTcF)>450ms
19.グレード1以下に回復していない以前のがん療法に関連した毒性を有する。但し、以下の例外を除く:脱毛症、ニューロパチー(グレード2以下に回復していなければならない)、及びうっ血性心不全(CHF)。これらは、発生時にグレード1以下の重症度であり、完全に回復していなければならない。
20.治療を必要とする心室性不整脈、制御不能な高血圧、または症候性CHFの任意の既往等の、臨床的に有意な心疾患を有する。
21.v10000の初回投与前6ヶ月以内に、既知の心筋梗塞または不安定狭心症を有する。
【0300】
治療
単剤(単剤療法)としてのv10000を、第1部及び第2部で静脈内注入(IV)として投与した。v10000を、120~150分間にわたって0.9%生理食塩水中のIV注入により投与した。最初に投与された2回の用量に良好な忍容性を示した特定の患者の場合、その患者の注入期間を90分に短縮した場合があった。次の2回の用量に良好な忍容性を示した場合、注入期間を60分に短縮してもよい。注入速度は、0.9%生理食塩水250mL/時間を超えなかった。(例:V10000の用量を250mLバッグの生理食塩水に希釈する場合、少なくとも60分間かけて輸液を投与するべきである。V10000の用量を500mLバッグに希釈した場合、少なくとも120分間かけて輸液を投与するべきである。)治験薬の投与量は、サイクル1の1日目の患者の体重に基づいて計算した。サイクル1の1日目の評価から10%の体重変化がある場合にのみ、用量を再計算した。
【0301】
第1部では、用量漸増のための用量レベルは、週1回(QW)投与された5、10、及び15mg/kgであった。隔週(Q2W)の投与も評価した。Q2W投与の用量レベルは、20、25、または30mg/kgであった。Q2W投与では、初回負荷用量(20、25、または30mg/kgを超えない)を使用した後に、SMCによって推奨されるより低い用量レベルでv10000を投与した場合があった。さらに、3週毎(Q3W)に30mg/kgを用いる投与を調べた。
【0302】
第2部の用量レベルは、第1部で決定したMTD、OBD、またはRDであった。MTDは、治療の最初の4週間の間に、6人の患者のうち1人以下がDLTを経験した最高用量レベルとして定義される。OBDは、HER2~3+腫瘍組織像を示す細胞株上でのv10000の最大結合能を少なくとも10倍上回る、トラフ(投与後7日)でのv10000の血清濃度をもたらすv10000の用量として定義される。RDは、MTDを超えない任意の他の投与量である。第1部の結果に基づいて、第2部の患者の大部分を、Q2Wで20mg/kgのRDを使用して治療した。一部の患者は毎週10mg/kgで治療した。
【0303】
患者が登録された部、コホート、またはTGに応じて、患者は、各々3週間または4週間の最低2サイクルに参加した。RECISTバージョン1.1によって定義される臨床的進行、許容できない毒性、または進行の証拠がない限り、さらなるサイクルの間治療を継続した場合があった。臨床的進行は、基礎疾患であるがんに関連する既存の症状の悪化もしくは再発、または治験薬の毒性もしくは代替的な原因に起因し得ない新たな症状の出現として定義される。臨床治験責任医師の意見において、放射線学的進行にもかかわらず継続的な臨床的利益を示した患者は、治験依頼者のメディカルモニターとの協議及び同者からの承認の後、治療を受け続けた場合があった。第3部では、v10000とは無関係の毒性のために化学療法が中止された場合、患者はv10000による治療を受け続けた場合があった。何らかの理由でv10000による治療を中断した患者は、本臨床試験を中止させた。
【0304】
有効性評価
抗腫瘍活性の測定は、改訂された固形腫瘍における応答評価基準(RECIST)ガイドライン(バージョン1.1)[EurJCa45:228-247,2009]によって提案される新たな国際基準を用いることによって行われる応答評価に基づいて評価した。腫瘍病変の最大径(一次元測定)及び悪性リンパ節の場合の最短径の変化が、RECISTバージョン1.1の基準に用いられる。CR、PR、SD、または進行(PD)の臨床応答は、治験責任医師によって各評価で決定された。PDには、RECISTバージョン1.1に従って進行が含まれ、治験責任医師に従って臨床的な疾患の進行が含まれた。臨床的進行は、基礎疾患であるがんに関連する既存の症状の悪化もしくは再発、または治験薬の毒性または代替的な原因に起因し得ない新たな症状の出現として定義される。
【0305】
客観的奏効率(ORR)は、RECISTバージョン1.1によって定義されているように、任意の進行の証拠の前にCRまたはPRのいずれかの全体的な腫瘍応答が少なくとも1つあった患者の割合として定義される。患者がRECISTバージョン1.1の基準に従ってCR、PR、またはSDの腫瘍応答を有する場合、その患者は病勢制御を達成したと言われる。病勢制御率は、v10000療法の開始後、8週毎に評価される。PFS時間は、v10000の最初の投与からRECISTバージョン1.1による疾患の進行、臨床的進行、またはいずれかの原因による死亡が確認されるまでの期間として定義される。分析時に生存しており、進行していない患者は、最後の腫瘍評価でCR、PR、またはSDであった時点で打ち切られる。
【0306】
腫瘍応答は、胸部、腹部、及び骨盤(同じ患者の各スキャンについて同じ方法論を使用)に加えて、既知のまたは腫瘍病変が疑われる追加の領域(例えば、脳、四肢)のCT及び/またはMRIスキャンに基づいて評価した。
【0307】
客観的奏効及び腫瘍進行を局所的に評価した。治験依頼者の裁量により実施された集中レビューのために、すべての対象についてスキャンを収集した。局所的評価は、すべての治療に関連する決定に用いられた。
【0308】
一部の患者の場合、腫瘍体積を中心的に計算してもよい。
【0309】
有害作用
AE(有害作用)とは、必ずしもこの治療と因果関係を有しない、医薬品を投与された臨床試験患者におけるあらゆる好ましくない医学的事象として定義される。従って、AEは、医薬品(治験薬)と関連があるかどうかにかかわらず、医薬品(治験薬)の使用に一時的に関連する好ましくない、かつ意図しない兆候(異常な検査所見を含む)、症状、または疾患であり得る。これには、既存の状態または事象の増悪、併発疾患、薬物相互作用、または特定の有効性評価の下でCRFの他の箇所に記録されていない、治験中の適応症の著しい悪化が含まれる。安全性評価は、2010年7月14日のNCI-CTCAEバージョン4.03に基づいて行われた。
【0310】
早期結果:
2018年6月の時点で、胆嚢癌患者1名において、v10000による治療が、標的病変における最長径(SLD)の和を約40%減少させた。この患者は、その後、SOD(径和)により測定した場合、標的病変の約50%の減少を示した。
【0311】
2018年11月の時点で、CCA患者1名において、SODにより測定した場合、v10000による治療後に標的病変の約40%の減少が観察された。
【0312】
中間結果:
2019年4月22日の時点で、v10000の第1部及び第2部(第1部23名、第2部66名)において、全適応症にわたる89名の患者が登録され、単剤v10000で治療されていた(表C)。評価した腫瘍型には、乳房(n=42)、胃食道(n=20)、結腸直腸(n=11)、胆道(n=6)、及び他のがん(n=10)が含まれた。BTC患者のうち、1人の患者のトラスツズマブを含めて、以前の全身レジメンの中央値は4(範囲1~8)であった。
【0313】
本試験の第1部及び2において、AEの大部分はグレード1または2の重症度であった(表D)。v10000に関連するグレード3のAEには、疲労(n=3、SAEとして報告された1件の事象を含む)、下痢(n=2)、関節痛(n=1)、及び低リン血症(n=1)が含まれていた。
【0314】
BTC患者の予備有効性データを、表E、表F、及び
図2に示す。
【0315】
(表C)第1部及び第2部におけるがんの種類別の主要な人口統計学的及びベースラインの特徴
【0316】
(表D)第1部及び第2部におけるがんの種類別のv10000に関連する有害事象の概要
【0317】
(表E)第1部及び第2部の測定可能疾患分析セットにおける最良奏効の概要
a測定可能疾患分析セット-RECIST 1.1による測定可能疾患を有する安全性分析セット内のすべての患者;
b安全性分析セット-少なくとも1回の治験薬投与を受けたすべての患者。
CI=信頼区間、DCR=病勢制御率、NE=評価不能、ORR=全奏効率、PFS=無増悪生存期間、PR=部分奏効、SD=安定
【0318】
(表F)BTC患者の以前のレジメン及び疾患反応
a全BTC患者はHER2+(3+またはFISH+)であった;
b8回の全身レジメンのうちの6回と同時にトラスツズマブを患者に投与した;
c追加の疾患評価が保留中である最終DOR。
NA=該当なし NE=評価不能、経過観察による疾患評価が保留中
GBC=胆嚢癌;CC=胆管細胞癌
【0319】
これらのデータにより、v10000がHER2 3+またはFISH+ BTCを有する患者において83.3%の病勢制御率、及び66.7%のORRを示したことが示唆される。
【0320】
実施例3:リンカー-毒素001の調製
リンカー-毒素001を以下に記載するように調製した。リンカー-毒素001は、国際特許出願公開第WO2016/041082号に記載されるように調製してもよい。
【0321】
A. エチル(2R,3R)-3-メトキシ-2-メチル-3-((S)-ピロリジン-2-イル)プロパノエート(化合物1)
【0322】
無水エタノール(27.0mL)中の(2R,3R)-3-((S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-2-イル)-3-メトキシ-2-メチルプロパン酸(Boc-Dap-OH、4.31g、15.0mmol)の撹拌溶液に、塩化チオニル(3.0mL)を0℃で滴加した。得られた溶液を室温まで加温し、HPLC-MSにより進行を監視した。18時間後、残存する出発物質は検出されず、溶液を減圧下で濃縮乾固した。得られた油をトルエン(10mL)中に懸濁し、減圧下で2回濃縮した後、ジエチルエーテル(5mL)中に懸濁し、減圧下で2回濃縮して白色の固体泡状物(3.78g、定量的収量%)を得た。MS m/z実測値=216.5(M+1)。
【0323】
B. (3R,4S,5S)-4-((S)-2-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)-N,3-ジメチルブタンアミド)-3-メトキシ-5-メチルヘプタン酸(化合物3)
【0324】
化合物2を、国際特許出願公開第WO2016/041082号に記載されるように調製した。
【0325】
ジクロロメタン(20mL)中の化合物2(6.965g、14.14mmol)の撹拌溶液に、トリフルオロ酢酸(5.0mL)を添加した。HPLC-MSにより反応の完了を監視したところ、40時間後、出発物質は残存していなかった。反応物を減圧下で濃縮し、トルエン(2×10mL)及びジクロロメタン(2×10mL)と共蒸発させて、泡状の白色固体(6.2g、残留TFAを含む定量的収量)を得た。この物質を200mLの1:3の高温EtOAc:ヘキサンに溶解し、室温まで冷却した。冷却中に、いくつかの小さな結晶とともに沈殿物が形成した。5mLのEtOAcを添加し、懸濁液を再び加熱して沈殿物を完全に溶解させた。室温まで冷却するとさらに多くの結晶が形成し、フラスコを-30℃で一晩置いた。翌朝、母液をデカントし、結晶を2×50mLのヘキサンですすぎ、高真空下で乾燥させた。5.67gの結晶生成物を回収した。MS m/z実測値=405.7(M+1)。
【0326】
C. エチル(2R,3R)-3-((S)-1-((3R,4S,5S)-4-((S)-2-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)-N,3-ジメチルブタンアミド)-3-メトキシ-5-メチルヘプタノイル)ピロリジン-2-イル)-3-メトキシ-2-メチルプロパノエート(化合物4)
【0327】
ジクロロメタン(5.0mL)及びN,N-ジメチルホルムアミド(5.0mL)の混合物中の化合物3(6.711g、15.37mmol、1.025当量)の撹拌溶液に、HATU(5.732g、15.07mmol、1.005当量)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(7.84mL、3当量)を室温で加えた。室温で30分間撹拌した後、ジクロロメタン(1.0mL)及びN,N-ジメチルホルムアミド(1.0mL)の混合物中の化合物1(3.776g、15.00mmol、1.0当量)の溶液を滴加し、残留する化合物1中で、さらに3mLの1:1のジクロロメタン:N,N-ジメチルホルムアミドですすいだ。HPLC-MSにより反応を監視したところ、15分後、残存する化合物1は観察されなかった。反応物を減圧下で濃縮し、酢酸エチル(約125mL)で希釈し、有機相を1M HCl(2×50mL)、1×dH2O(1×50mL)、飽和NaHCO3(3×50mL)、ブライン(25mL)で抽出した。酸性及び塩基性の水層の両方を、25mLのEtOAcで洗浄した。次いで、すべての有機物をプールし、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、赤色の油を得た。残渣を最小量のジクロロメタン(約10mL)に溶解し、精製のためにBiotage(登録商標)SNAP Ultra 360gシリカゲルカラム(Isolera(商標)FlashSystem;BiotageAB,Sweden)にロードした(10カラム体積にわたってヘキサン中20~100%EtOAc)。純粋な生成物を含有する画分をプールして、7.9gの泡状の白色固体を回収した。不純物画分を、Biotage(登録商標)SNAP Ultra 100gシリカゲルカラムで第2の精製に供し、純粋な生成物とともにプールして、白色の泡状固体(8.390g、88.3%)を回収した。MS m/z実測値=634.7(M+1)。
【0328】
D. (2R,3R)-3-((S)-1-((3R,4S,5S)-4-((S)-2-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)-N,3-ジメチルブタンアミド)-3-メトキシ-5-メチルヘプタノイル)ピロリジン-2-イル)-3-メトキシ-2-メチルプロパン酸(化合物5)
【0329】
1,4-ジオキサン(158mL)中の化合物4(8.390g、13.24mmol)の撹拌溶液に、dH2O(39.7mL)及び水酸化リチウム一水和物(H2O中に1M、39.7mL、3当量)を添加した。反応物を4℃で撹拌し、HPLC-MSにより出発物質の消費を監視したところ、微量の化合物4のみが残るまで3日を要した。反応の過程で、所望の物質に加えて、メタノールの損失(β消失、<2%)に対応する新たな生成物がわずかな割合で形成された。1M HCl水溶液(50mL)を添加して反応物を酸性化し、減圧下で濃縮してジオキサンを除去した。残存する反応混合物を酢酸エチル(4×50mL)で抽出し、有機相をプールし、ブライン(15mL+2mLの2M HCl)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、淡色の油を得た。その油をジエチルエーテル(約50mL)に再溶解し、減圧下で濃縮して(3回)残留ジオキサンの除去を促進し、表題生成物を硬い油として得た(7.81g、97%、いくらかの残留ジオキサン及び化合物4を含む収量)。MS m/z実測値=606.7(M+1)。
【0330】
E. ベンジル((S)-1-(((3R,4S,5S)-3-メトキシ-1-((S)-2-((1R,2R)-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-3-((4-(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)フェニル)スルホンアミド)プロピル)ピロリジン-1-イル)-5-メチル-1-オキソヘプタン-4-イル)(メチル)アミノ)-3-メチル-1-オキソブタン-2-イル)カルバメート(化合物7)
【0331】
化合物6を、国際特許出願公開第WO2016/041082号)に記載されるように調製した。
【0332】
ジクロロメタン(20mL)中の化合物5(7.12g、11.754mmol)の撹拌溶液に、2,2,2-トリフルオロ-N-(4-スルファモイルフェニル)アセトアミド(化合物6、4.095g、1.3当量、3mLのDMFに溶解)、N,N-ジメチルピリジン(1.867g、1.3当量)及びN,N-ジメチルホルムアミド(1.5mL)を添加し、淡黄色の懸濁液を生成した。5mLのDMFをさらに添加しても溶液は透明にならなかった。N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI)(2.817g、1.25当量)を一度に添加し、HPLC-MSにより反応を監視した。48時間後、反応はそれ以上進行しなくなり、さらに400mgのEDCIを添加した。18時間後、残存する出発物質は観察されず、反応物を減圧下で濃縮して黄色の油を得た。その油を酢酸エチル(約150mL)及び1M HCl(20mL)に溶解し、有機相を冷2M HCl(2×10mL)、飽和NaHCO3(1×10mL)、ブライン(20mL+5mLの2M HCl)で洗浄した。酸性及び塩基性の水性画分をEtOAc(1×20mL)で抽出し、すべての有機画分をプールし、MgSO4上で乾燥させ、減圧下で濃縮して油性の粗固体(13g)を得た。残渣をジクロロメタン(約10mL)に溶解し、Biotage(登録商標)SNAP Ultra 360gシリカゲルカラムにロードし、12カラム体積にわたるヘキサン中の10~100%EtOAc(2%AcOH)の勾配、及び50%EtOAcでの3カラム体積プラトーで精製した。純粋な生成物を含有する画分をプールし、減圧下で濃縮し、溶解し、トルエン(2×10mL)及びジエチルエーテル(2×10mL)から濃縮して、所望の生成物である白色の泡状固体7.1gを得た。Isolera(商標)機器上のBiotage(登録商標)SNAP Ultra 100gシリカゲルカラムを使用して、より浅い勾配条件下で不純物画分を繰り返し精製に供した。すべての純粋な画分をプールして、純粋な生成物を白色の泡状固体として回収した(8.60g、86%)。MS m/z実測値=856.7(M+1)。
【0333】
F. (S)-2-アミノ-N-((3R,4S,5S)-3-メトキシ-1-((S)-2-((1R,2R)-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-3-((4-(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)フェニル)スルホンアミド)プロピル)ピロリジン-1-イル)-5-メチル-1-オキソヘプタン-4-イル)-N,3-ジメチルブタンアミド(化合物7a)
【0334】
マグネチックスターラーを備え、3方向ガス管アダプタを取り付けた丸底フラスコ内で、酢酸エチル(30mL)中の10%N,N-ジメチルホルムアミドに化合物7(3.71g、4.33mmol)を溶解した。容器を減圧下で2回排気し、窒素ガスを充填した。10%パラジウム炭素(0.461g、0.1当量)を一度に添加し、3方向アダプタをフラスコに取り付け、水素バルーンをアダプタに取り付け、容器を減圧下で2回排気し、水素を充填した。反応物を2日間撹拌し、その間、水素バルーンを時々再充填した。約48時間後、HPLC-MS分析により出発物質が残存していないことが示された。反応物をメタノール(20mL)で希釈し、セライトのプラグを通して濾過した。セライトをメタノール(2×50mL)で洗浄した。すべての濾液をプールし、減圧下で濃縮し、得られた油を溶解し、ジクロロメタンから濃縮した。減圧下で乾燥させた後、表題化合物を無色の粉末として単離した(3.10g、99%)。MS m/z実測値=722.6(M+1)。
【0335】
G. (S)-2-((S)-2-(ジメチルアミノ)-3-メチルブタンアミド)-N-((3R,4S,5S)-3-メトキシ-1-((S)-2-((1R,2R)-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-3-((4-(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)フェニル)スルホンアミド)プロピル)ピロリジン-1-イル)-5-メチル-1-オキソヘプタン-4-イル)-N,3-ジメチルブタンアミド(化合物8)
【0336】
N,N-ジメチルホルムアミド(10mL)中のN,N-(L)-ジメチルバリン(1.696g、9.35mmol)の撹拌溶液に、HATU(3.216g、8.46mmol)及びジ-イソプロピルエチルアミン(3.10mL、17.8mmol)を添加した。5分後に透明な黄色溶液を得た。さらに10分間撹拌を続け、次いで化合物7a(3.213g、4.45mmol)を一度に添加した。さらに1時間撹拌した後、HPLC-MSにより、微量の化合物7aが残存していたことが示され、反応は16時間であった。次いで、反応物を減圧下で濃縮し、酢酸エチル(120mL)及び40mLの1:1のNaHCO3(飽和):5%LiClで希釈し、分離漏斗に移した。水層を除去し、有機相をLiCl(1×20mL)、NaHCO3(飽和、2×20mL)で洗浄した。水層をプールし、EtOAc(3×50mL)で抽出した。有機層をプールし、ブライン(1×20mL)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、DMF含有油を得、ロータリーエバポレータを介して濃縮して残留DMFを除去し、麦わら色の粗油7gを得た。その油をジクロロメタン(約11mL)中の最小量の10%メタノールに溶解し、精製のためにBiotage(登録商標)SNAP Ultra 360gシリカゲルカラムにロードした(15カラム体積にわたってCH2Cl2中2~20%MeOH、約10~13%の溶出生成物)。所望の生成物を含有する画分をプールし、減圧下で濃縮して、表題化合物を無色の泡状物として得た。不純物画分を合わせ、蒸発させ、Isolea(商標)機器上のBiotage(登録商標)SNAP Ultra 100gシリカゲルカラムで繰り返し精製に供し、第1のカラムからの純粋な生成物と合わせて、無色の泡状固体(3.78g)を得た。MS m/z実測値=850.6(M+1)。
【0337】
H. (S)-N-((3R,4S,5R)-1-((S)-2-((1R,2R)-3-((4-アミノフェニル)スルホンアミド)-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソプロピル)ピロリジン-1-イル)-3-メトキシ-5-メチル-1-オキソヘプタン-4-イル)-2-((S)-2-(ジメチルアミノ)-3-メチルブタンアミド)-N,3-ジメチルブタンアミド(化合物9)
【0338】
1,4-ジオキサン(15mL)中の化合物8(0.980g、1.154mmol)の撹拌溶液に、水(3.5mL)及び1M水酸化リチウム一水和物(3当量、3.46mL)を添加した。得られた軽質懸濁液を4℃で撹拌し、HPLC-MSにより出発物質の消費を監視した。変換の完了時(約5日)に、3.46mLの1M HClで反応物を中和し、減圧下で濃縮してジオキサンを除去した。得られた水相を60mLのEtOAc及び5mLのブラインで希釈し、次いで酢酸エチル(2×30mL)で抽出した。有機画分をプールし、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、蒸発させて、表題化合物を淡褐色の固体(0.930g)として得た。Rf=0.5(CH2Cl2中8%のMeOH)。MS m/z実測値=753.7(M+1)。
【0339】
I. 2,3,5,6-テトラフルオロフェニル3-(2-(2-(2-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)エトキシ)エトキシ)エトキシ)プロパノエート(化合物15)
【0340】
乾燥した50mL円錐形フラスコ中で、3-(2-(2-(2-アミノエトキシ)エトキシ)エトキシ)プロパン酸(化合物14、1.000g、4.52mmol)及び無水マレイン酸(0.443g、4.52mmol)を無水N,N-ジメチルホルムアミド(5mL)に溶解した。反応物をN2下、室温で6時間撹拌し、その時点で0℃まで冷却し、シン-コリジン(1.263mL、2.1当量)を滴加した。別の乾燥した50mL円錐形フラスコ中で、テトラフルオロフェノール(3.002g、4当量)を無水N,N-ジメチルホルムアミド(10mL)に溶解した。フラスコを氷浴中で0℃まで冷却し、トリフルオロ酢酸無水物(2.548mL、4当量)を滴加した。このフラスコを15分間撹拌し、その時点でシン-コリジン(2.407mL、4当量)を滴加した。フラスコをさらに15分間撹拌し、次いで、シリンジを介して内容物を第1のフラスコに滴加した。反応物を室温まで加温し、N2下で撹拌を続けた。出発物質の消費についてHPLC-MSにより反応を監視した。6日後、化合物14が完全に消費されて反応が完了し、化合物15及び少量(約5%)のビス-TFPマレイン酸アミド中間体のみが残った。反応物を分離漏斗に移し、ジエチルエーテル(75mL)で希釈し、5%LiCl(1×20mL)、1MHCl(2×20mL)、飽和NaHCO3(5×20mL)及びブライン(1×20mL)で洗浄した。有機層をNa2SO4上で乾燥させ、濾過し、蒸発させて、残留DMFを含む褐色の粗油を得た。粗油を8mLの1:1のDMF:H2O+0.1%TFAに溶解し、60gのBiotage(登録商標)SNAP Ultra C18カラム(Biotage AB,Uppsala,Sweden)にロードし、8カラム体積にわたって、ACN/H2O+0.1% TFAの直線勾配30~100%で精製した。純粋な画分をプールし、ブライン(20mL)で希釈し、次いで3×50mLのEt2Oで抽出した。プールした有機物をMgSO4上で乾燥させ、濾過し、蒸発させて淡黄色の油を回収した(収量1.34g、66%)。
【0341】
J. tert-ブチル((S)-1-(((S)-1-((4-(N-((2R,3R)-3-((S)-1-((3R,4S,5S)-4-((S)-2-((ジメチルアミノ)-3-メチルブタンアミド)-N,3-ジメチルブタンアミド)-3-メトキシ-5-メチルヘプタノイル)ピロリジン-2-イル)-3-メトキシ-2-メチルプロパノイル)スルファモイル)フェニル)アミノ)-1-オキソ-5-ウレイドペンタン-2-イル)アミノ)-3-メチル-1-オキソブタン-2-イル)カルバメート(化合物12)
【0342】
化合物11を、国際特許出願公開第WO2016/041082号に記載されるように調製した。
【0343】
空の25mLナシ型フラスコに、化合物11(1.342g、3.58mmol、3.0当量)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.664g、3.46mmol、2.9当量)及び7-ヒドロキシ-アザベンゾトリアゾール(HOAT)(0.472g、3.46mmol、2.9当量)を添加した。これらの固体を、N,N-ジメチルホルムアミド(0.5mL)及びジクロロメタン(4.5mL)の混合物に、30分かけて室温で撹拌しながら溶解させた。別個に、化合物9(0.900g、1.20mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(0.2mL)及びジクロロメタン(1.8mL)の混合物に溶解し、ナシ型フラスコに添加し、ジクロロメタン(1.0mL)ですすいだ。撹拌速度を1000rpmまで上げ、渦を生成した。化合物9を添加して2分以内に、塩化銅(II)(0.514g、3.83mmol、3.2当量)を、細い粉末漏斗を通して渦の中心に直接一度に添加した。最初に、淡黄色の溶液が暗褐色の懸濁液になり、10分かけて暗緑色の懸濁液に変化した。HPLC-MSにより反応の完了を監視し、30分で採取した試料と1時間で採取した試料との間で反応の進行に変化は観察されなかった(約95%完了)。反応物を室温で一晩撹拌し、次いで2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(0.483mL、4.781mmol、4当量)、EtOAc(10mL)及びdH2O(5mL)を撹拌懸濁液に添加すると、濃青色に色が変化した。懸濁した固体が徐々に溶解して二相混合物になるため、懸濁液を4時間激しく撹拌した。この混合物を分離漏斗に移し、EtOAc(100mL)及びブライン(10mL)で希釈し、水層を10%IpOH/EtOAc(4×50mL)で抽出した。有機層をプールし、ブライン(10mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、蒸発させて、かすかに青色の粗固体を得た。この粗固体をメタノール(0.5mL)及びジクロロメタン(6mL)の混合物に溶解し、Biotage(登録商標)SNAP Ultra 100gシリカゲルカラム(10カラム体積にわたるCH2Cl2中の2~20%MeOH、続いて8カラム体積プラトーの20%MeOH)で精製した。生成物は、CH2Cl2中の約20%MeOHで、1~2カラム体積後に広いピークとして溶出した。所望の材料を含有する画分をプールし、減圧下で濃縮して、表題化合物を白色固体として得た(1.105g、83%)。MS m/z実測値=555.9((M+2)/2),1109.8(M+1)。
【0344】
K. (S)-2-((S)-2-アミノ-3-メチルブタンアミド)-N-(4-(N-((2R,3R)-3-((S)-1-((3R,4S,5R)-4-((S)-2-(ジメチルアミノ)-3-メチルブタンアミド)-N,3-ジメチルブタンアミド)-3-メトキシ-5-メチルヘプタノイル)ピロリジン-2-イル)-3-メトキシ-2-メチルプロパノイル)スルファモイル)フェニル)-5-ウレイドペンタンアミド(化合物13)
【0345】
化合物12(0.926g、0.834mmol)の溶液に、ジクロロメタン(10mL)及びトリフルオロ酢酸(2.0mL)の混合物を添加した。出発物質の消費についてHPLC-MSにより反応を監視した(約45分)。反応物を減圧下でアセトニトリル(2×10mL)及びジクロロメタン(2×10mL)と共蒸発させ、過剰なトリフルオロ酢酸を除去した。得られた残渣を最小量のジクロロメタン及びメタノール(3:1、v/v、約2mL)に溶解し、ジエチルエーテル(200mL)及びヘキサン(100mL)の撹拌溶液にピペットで滴加し、淡白色固体の懸濁液を生成した。固体を濾過し、真空下で乾燥させて、白色粉末の形態の表題化合物をトリフルオロ酢酸塩として得た(1.04g、いくらかの残留溶媒を含む定量的収量)。MS m/z実測値=505.8((M+2)/2)。
【0346】
L. (S)-N-(4-(N-((2R,3R)-3-((S)-1-((3R,4S,5R)-4-((S)-2-((S)-(ジメチルアミノ)-3-メチルブタンアミド)-N,3-ジメチルブタンアミド)-3-メトキシ-5-メチルヘプタノイル)ピロリジン-2-イル)-3-メトキシ-2-メチルプロパノイル)スルファモイル)フェニル)-2-((S)-1-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-14-イソプロピル-12-オキソ-3,6,9-トリオキサ-13-アザペンタデカンアミド)-5-ウレイドペンタンアミド(リンカー-毒素001)
【0347】
N,N-ジメチルホルムアミド(4mL)中の化合物13(0.722g、0.584mmol)の撹拌溶液に、化合物15(0.314g、1.2当量)及びジイソプロピルエチルアミン(0.305mL、3.0当量)を添加した。2時間のHPLC-MS分析により、残存する出発物質がないことが示された。反応物をTFA(300μL)で酸性化し、次いでdiH2O+0.1%TFA(9mL)で希釈した。得られた溶液を、120gのBiotage(登録商標)SNAP Ultra C18カラム(Biotage,Uppsala,Swedwend)にロードし、ACN/H2O+0.1%TFA勾配:10カラム体積にわたって20~60%ACN、5カラム体積にわたって60~100%ACNで精製した。生成物は40%ACN付近で溶出した。LCMSによって同定された純粋な画分をプールし、凍結乾燥した。凍結乾燥機から白色の粉末固体を回収した。バイアル中により高い濃度(2:1H2O/ACN中で約50mg/mL)で凍結乾燥を繰り返し、より密度が高く、凝集性の低い凍結乾燥固体(754.2mg、91%)を生成した。MS m/z実測値=647.4((M+2)/2),1292.8(M+1)。
【0348】
実施例4:リンカー-毒素001にコンジュゲートされたv10000の調製
10mM酢酸ナトリウム、9%(w/v)スクロース、pH4.5中の抗体v10000(2.0g)の溶液(138.9mL)を、200mM Na2HPO4、pH8.9(15.4mL)を添加することによりpH調整した。DTPA溶液(PBS中44mL、pH7.4、最終濃度1.0mM)を添加した後、10mM TCEP水溶液(1.68mL、1.05当量)を添加することにより鎖間ジスルフィドの還元を開始した。37℃で90分後、反応物を氷上で冷却した後、20mM DMSO原液からの過剰なリンカー-毒素001(4.81mL;6当量)を添加した。過剰な20mM N-アセチルシステイン溶液(4.81mL、6当量)を添加することにより、90分後にコンジュゲーション反応をクエンチした。
【0349】
クエンチされた抗体薬物コンジュゲート(ADC)溶液を、Pellicon(登録商標)XL Ultrafiltration Module(Ultracel(登録商標)30kDa 0.005m2;Millipore Sigma)を使用して、Millipore Labscale(商標)Tangential Flow Filtration機器上で、9~15ダイアボリュームの10mM酢酸ナトリウム、9%(w/v)スクロース、pH4.5で精製した。溶出したADCを滅菌濾過した(0.22um)。小規模に生成したADCを、PBSまたは10mM酢酸ナトリウム、9%(w/v)のスクロース、pH4.5のいずれかで前処理した40KDaMWCO ZEBA(商標)カラム(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)で精製した。
【0350】
精製後、v10000から生成された標準曲線を参照して、BCAアッセイによりADCの濃度を決定した。代替的に、280nm(ε=195065M-1cm-1)での吸収を測定することにより濃度を推定した。
【0351】
ADCの試料を、非還元及び還元SDS-PAGEによって評価した。余分なバンドは観察されなかった。
【0352】
抗体及びADCを疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により分析して薬物抗体比(DAR)を推定した。クロマトグラフィーは、1mL/分の流速(MPA=1.5M(NH4)2SO4、25mM NaxPO4、及びMPB=75% 25mM NaxPO4、25%イソプロパノール)で、13.5分間にわたる80MPA/20%MPB~35%MPA/65%MPBの勾配を用いて、Proteomix(登録商標)HICエチルカラム(7.8×50mm、5μm)(Sepax Technologies Inc.,Newark,DE)で行った。
【0353】
ADCの平均薬物抗体比(DAR)は、抗体の還元中に遊離したジスルフィド結合の数に応じて変化し得る。特定の平均DARを有するADCがもたらされる単一のコンジュゲーション反応は、種の混合物を含む。リンカー-毒素001にコンジュゲートされたv10000では、非コンジュゲート抗体、2のDARを有するADC、4のDARを有するADC、及び6のDARを有するADCの4つの種の混合物が生成された。
【0354】
HICの結果は、リンカー-毒素001にコンジュゲートされたv10000を含むADCが、2.07の平均DARを有していたことを示した。精製されたADCの平均DARに対するDAR0、DAR2、DAR4及びDAR6種の個々の寄与を、HPLC-HICクロマトグラムの積分によって評価した。HICクロマトグラムの各ピークを分取クロマトグラフィーにより単離し、ピークの同一性をLC-MSにより検証した。各変異体の個々のDAR種の含有率%(HICによって決定される)を表Gに示す。
【0355】
(表G)V10000及びリンカー-毒素001を含むADCのDAR分布
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-02-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆道癌(BTC)の治療のための医薬の調製における、二重特異性抗HER2抗原結合構築物または抗体薬物コンジュゲート(ADC)の使用。
【請求項2】
前記BTCが、切除可能、部分切除可能、または切除不能である、請求項
1に記載の使用。
【請求項3】
前記BTCが、
局所的に進行性である、請求項
1に記載の使用。
【請求項4】
BTCが、転移性BTCである、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記BTCが、免疫組織化学(IHC)及び
HER2遺伝子増幅により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記BTCが、HER2遺伝子増幅なしで、免疫組織化学(IHC)により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記BTCが、胆嚢癌である、請求項
1~
6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記BTCが、胆管細胞癌(CCA)である、請求項
1~
6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、重鎖H1、重鎖H2、及び軽鎖L1を含み、
a)重鎖H1が、配列番号39、配列番号40、及び配列番号41に記載のCDR配列を含み、
b)重鎖H2が、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、及び配列番号72に記載のCDR配列を含み、
c)
軽鎖L1が、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載のCDR配列を含む、
請求項
1~
8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H1、配列番号63に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H2、及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖L1を含む、請求項
1~
8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、10mg/kg/週である、請求項
9または
10に記載の使用。
【請求項12】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、2週間毎に20mg/kgである、請求項
9または
10に記載の使用。
【請求項13】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、3週間毎に30mg/kgである、請求項
9または
10に記載の使用。
【請求項14】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物を前記対象に投与することが、前記対象において完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、または安定(SD)をもたらす、請求項
1~
13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における病勢制御率が、60%、70%、または80%を超える、請求項
1~
13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における全奏効率が、50%、60%、70%、または80%を超える、請求項
1~
13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、少なくとも1つ、2つ、または3つの第一選択療法の後に投与される、請求項
1~
13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、第一選択単剤療法として投与される、請求項
1~
13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、アジュバント療法またはネオアジュバント療法として投与される、請求項
1~
13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、1つ以上の化学療法剤とともに投与される、請求項
1~
18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記1つ以上の化学療法剤が、ゲムシタビン及び/またはシスプラチンである、請求項
20に記載の使用。
【請求項22】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物または抗体薬物コンジュゲート(ADC)、およびそれらの使用のための指示書を含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のためのキット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
本開示のさらに別の態様において、対象におけるBTCの治療のための有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物またはADCの使用を提供する。
[本発明1001]
胆道癌(BTC)を有する対象を治療する方法であって、有効量の二重特異性抗HER2抗原結合構築物または抗体薬物コンジュゲート(ADC)を前記対象に投与することを含む、前記方法。
[本発明1002]
前記BTCが、切除可能、部分切除可能、または切除不能である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記BTCが、進行性である、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記BTCが、免疫組織化学(IHC)及び遺伝子増幅により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
前記BTCが、HER2遺伝子増幅なしで、免疫組織化学(IHC)により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1006]
前記BTCが、胆嚢癌である、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記BTCが、胆管細胞癌(CCA)である、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、重鎖H1、重鎖H2、及び軽鎖L1を含み、
a)重鎖H1が、配列番号39、配列番号40、及び配列番号41に記載のCDR配列を含み、
b)重鎖H2が、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、及び配列番号72に記載のCDR配列を含み、
c)重鎖L1が、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載のCDR配列を含む、
本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H1、配列番号63に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H2、及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖L1を含む、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1010]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、10mg/kg/週である、本発明1008または1009の方法。
[本発明1011]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、2週間毎に20mg/kgである、本発明1008または1009の方法。
[本発明1012]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、3週間毎に30mg/kgである、本発明1008または1009の方法。
[本発明1013]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物を前記対象に投与することが、前記対象において完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、または安定(SD)をもたらす、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における病勢制御率が、60%、70%、または80%を超える、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1015]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における全奏効率が、50%、60%、70%、または80%を超える、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1016]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、少なくとも1つ、2つ、または3つの第一選択療法の後に投与される、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、第一選択単剤療法として投与される、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1018]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、アジュバント療法またはネオアジュバント療法として投与される、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、1つ以上の化学療法剤とともに投与される、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記1つ以上の化学療法剤が、ゲムシタビン及び/またはシスプラチンである、本発明1019の方法。
[本発明1021]
胆道癌(BTC)の治療のための医薬の調製における、二重特異性抗HER2抗原結合構築物または抗体薬物コンジュゲート(ADC)の使用。
[本発明1022]
前記BTCが、切除可能、部分切除可能、または切除不能である、本発明1021の使用。
[本発明1023]
前記BTCが、進行性である、本発明1021の使用。
[本発明1024]
前記BTCが、免疫組織化学(IHC)及び遺伝子増幅により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、本発明1021~1023のいずれかの使用。
[本発明1025]
前記BTCが、HER2遺伝子増幅なしで、免疫組織化学(IHC)により測定した場合、HER2 3+、HER2 2+、またはHER2 1+である、本発明1021~1023のいずれかの使用。
[本発明1026]
前記BTCが、胆嚢癌である、本発明1021~1025のいずれかの使用。
[本発明1027]
前記BTCが、胆管細胞癌(CCA)である、本発明1021~1025のいずれかの使用。
[本発明1028]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、重鎖H1、重鎖H2、及び軽鎖L1を含み、
a)重鎖H1が、配列番号39、配列番号40、及び配列番号41に記載のCDR配列を含み、
b)重鎖H2が、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、及び配列番号72に記載のCDR配列を含み、
c)重鎖L1が、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載のCDR配列を含む、
本発明1021~1027のいずれかの使用。
[本発明1029]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H1、配列番号63に記載のアミノ酸配列を含む重鎖H2、及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖L1を含む、本発明1021~1027のいずれかの使用。
[本発明1030]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、10mg/kg/週である、本発明1028または1029の使用。
[本発明1031]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、2週間毎に20mg/kgである、本発明1028または1029の使用。
[本発明1032]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物の前記有効量が、3週間毎に30mg/kgである、本発明1028または1029の使用。
[本発明1033]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物を前記対象に投与することが、前記対象において完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、または安定(SD)をもたらす、本発明1021~1032のいずれかの使用。
[本発明1034]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における病勢制御率が、60%、70%、または80%を超える、本発明1021~1032のいずれかの使用。
[本発明1035]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物で治療した対象群における全奏効率が、50%、60%、70%、または80%を超える、本発明1021~1032のいずれかの使用。
[本発明1036]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、少なくとも1つ、2つ、または3つの第一選択療法の後に投与される、本発明1021~1032のいずれかの使用。
[本発明1037]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、第一選択単剤療法として投与される、本発明1021~1032のいずれかの使用。
[本発明1038]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、アジュバント療法またはネオアジュバント療法として投与される、本発明1021~1037のいずれかの使用。
[本発明1039]
前記二重特異性抗HER2抗原結合構築物が、1つ以上の化学療法剤とともに投与される、本発明1021~1037のいずれかの使用。
[本発明1040]
前記1つ以上の化学療法剤が、ゲムシタビン及び/またはシスプラチンである、本発明1039の使用。
【国際調査報告】