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特表2022-540993脊髄性筋萎縮症を処置または予防する方法
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  • 特表-脊髄性筋萎縮症を処置または予防する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-21
(54)【発明の名称】脊髄性筋萎縮症を処置または予防する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/712 20060101AFI20220913BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61K31/712
A61P21/00
A61K9/08
A61K47/04
A61K47/46
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500671
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(85)【翻訳文提出日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2020042312
(87)【国際公開番号】W WO2021016032
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】62/876,360
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398050098
【氏名又は名称】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Biogen MA Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ラブデー, ケニス スウォープ
(72)【発明者】
【氏名】バイ, フェンジュ ジュディ
(72)【発明者】
【氏名】イースト, リリー
(72)【発明者】
【氏名】フェアウェル, ウィルドン アール.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC09
4C076DD23
4C076DD26
4C076EE56
4C084AA13
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA94
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA94
(57)【要約】
脊髄性筋萎縮症の処置または予防のための方法を特徴とする。有効な投与レジメンが明記される。バイオマーカー及びキットも提供される。例えば、本開示は、脊髄性筋萎縮症(SMA)の患者において(認可されたSPINRAZA(登録商標)投与レジメンと比較して)より高いアンチセンス化合物濃度を急速に達成し、維持し、それにより処置の効力をさらに向上させる本明細書に記載のアンチセンス化合物に関する投与レジメンを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊髄性筋萎縮症(SMA)の処置を必要とするヒト対象において脊髄性筋萎縮症(SMA)を処置するための方法であって、前記方法は、前記ヒト対象に少なくとも2回の負荷量の以下の構造:
【化1】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含み、
前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、
(i)約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第1の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(ii)前記第1の負荷量の投与の約10から20日後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と
を投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
染色体5qにSMNタンパク質欠損と関連する変異を有するヒト対象においてエクソン7を含む運動神経細胞生存2(SMN2)メッセンジャーリボ核酸(mRNA)のレベルを増加させるための方法であって、前記方法は、前記ヒト対象に少なくとも2回の負荷量の以下の構造:
【化2】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含み、
前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、
(i)約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第1の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(ii)前記第1の負荷量の投与の約10から20日後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と
を投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
前記ヒト対象に髄腔内注入により少なくとも1回の維持量を投与することをさらに含み、前記少なくとも1回の維持量は、約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、前記第2の負荷量の投与の約4か月後に開始し、その後、約4か月に1回継続して、それぞれが約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する維持量の前記アンチセンス化合物または前記その塩を投与することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の負荷量は、前記第1の負荷量の投与の約14日後に投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、
(iii)前記第2の負荷量の投与の約10から20日後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第3の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(iv)前記第3の負荷量の投与の約4か月後に開始し、その後、約4か月に1回継続して、それぞれが約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する維持量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と
を投与することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の負荷量は、前記第1の負荷量の投与の約14日後に投与され、前記第3の負荷量は、前記第2の負荷量の投与の約14日後に投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、
(iii)前記第2の負荷量の投与の約10から20日後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第3の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(iv)前記第3の負荷量の投与の約10から20日後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第4の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(v)前記第4の負荷量の投与の約4か月後に開始し、その後、約4か月に1回継続して、それぞれが約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する維持量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と
を投与することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の負荷量は、前記第1の負荷量の投与の約14日後に投与され、前記第3の負荷量は、前記第2の負荷量の投与の約14日後に投与され、前記第4の負荷量は、前記第3の負荷量の投与の約14日後に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
脊髄性筋萎縮症(SMA)の処置を必要とするヒト対象において脊髄性筋萎縮症(SMA)を処置するための方法であって、前記方法は、前記ヒト対象に以下の構造:
【化3】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含み、
前記ヒト対象は、1回以上の用量の前記アンチセンス化合物または前記その塩を予め投与され、前記1回以上の予め投与された用量は、約12mgの前記アンチセンス化合物に相当し、前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、
(i)約12mgの前記アンチセンス化合物に相当する最後の前記予め投与された用量の投与の約4か月後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(ii)前記負荷量の投与の約4か月後に開始し、その後、約4か月に1回継続して、それぞれが約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する維持量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と
を投与することを含む、前記方法。
【請求項11】
染色体5qにSMNタンパク質欠損と関連する変異を有するヒト対象においてエクソン7を含む運動神経細胞生存2(SMN2)メッセンジャーリボ核酸(mRNA)のレベルを増加させるための方法であって、前記方法は、前記ヒト対象に以下の構造:
【化4】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含み、
前記ヒト対象は、1回以上の用量の前記アンチセンス化合物または前記その塩を予め投与され、前記1回以上の予め投与された用量は、約12mgの前記アンチセンス化合物に相当し、前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、
(i)約12mgの前記アンチセンス化合物に相当する最後の前記予め投与された用量の投与の約4か月後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(ii)前記負荷量の投与の約4か月後に開始し、その後、約4か月に1回継続して、それぞれが約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する維持量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と
を投与することを含む、前記方法。
【請求項12】
脊髄性筋萎縮症(SMA)の処置を必要とするヒト対象において脊髄性筋萎縮症(SMA)を処置するための方法であって、前記方法は、前記ヒト対象に以下の構造:
【化5】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含み、
前記ヒト対象は、1回以上の用量の前記アンチセンス化合物または前記その塩を予め投与され、前記1回以上の予め投与された用量は、約12mgの前記アンチセンス化合物に相当し、前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、
(i)約12mgの前記アンチセンス化合物に相当する最後の前記予め投与された用量の投与の約4か月後に投与される、約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する第1の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(ii)前記第1の負荷量の投与の約4か月後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(iii)前記第2の負荷量の投与の約4か月後に開始し、その後、約4か月に1回継続して、それぞれが約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する維持量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と
を投与することを含む、前記方法。
【請求項13】
染色体5qにSMNタンパク質欠損と関連する変異を有するヒト対象においてエクソン7を含む運動神経細胞生存2(SMN2)メッセンジャーリボ核酸(mRNA)のレベルを増加させるための方法であって、前記方法は、前記ヒト対象に以下の構造:
【化6】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含み、
前記ヒト対象は、1回以上の用量の前記アンチセンス化合物または前記その塩を予め投与され、前記1回以上の予め投与された用量は、約12mgの前記アンチセンス化合物に相当し、前記方法は、前記ヒト対象に髄腔内注入により、
(i)約12mgの前記アンチセンス化合物に相当する最後の前記予め投与された用量の投与の約4か月後に投与される、約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する第1の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(ii)前記第1の負荷量の投与の約4か月後に投与される、約50mgの前記アンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と;
(iii)前記第2の負荷量の投与の約4か月後に開始し、その後、約4か月に1回継続して、それぞれが約28mgの前記アンチセンス化合物に相当する維持量の前記アンチセンス化合物または前記その塩と
を投与することを含む、前記方法。
【請求項14】
前記ヒト対象は、少なくとも5回の用量の前記アンチセンス化合物または前記その塩を予め投与され、前記少なくとも5回の予め投与された用量のそれぞれは、約12mgの前記アンチセンス化合物に相当した、請求項10から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト対象は、(i)I型SMA;(ii)II型SMA;(iii)III型SMA;または(iv)IV型SMAを有する、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒト対象は、SMAの発症前である、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒト対象は、脊髄くも膜下麻酔針を使用して前記アンチセンス化合物または前記その塩を投与される、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記アンチセンス化合物または前記その塩は、5.0mLの注入体積で投与される、請求項1から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記アンチセンス化合物または前記その塩は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アンチセンス化合物または前記その塩は、人工脳脊髄液(aCSF)に溶解される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記アンチセンス化合物の前記塩は、ナトリウム塩である、請求項1から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記アンチセンス化合物の前記塩は、以下の構造を有する、請求項1から20のいずれか1項に記載の方法。
【化7】
【請求項23】
前記方法は、処置の開始前及び/または後に前記ヒト対象におけるニューロフィラメントレベルを検出することを含む、請求項1から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
処置の開始前に前記ヒト対象から得られる第1の生体試料中の第1のニューロフィラメントレベルを測定することと;
先行請求項のいずれか1項に従って前記アンチセンス化合物またはその塩を前記ヒト対象に投与することと;
すべての負荷量及び少なくとも1回の維持量の前記アンチセンス化合物またはその塩を投与した後に前記ヒト対象から得られる第2の生体試料中の少なくとも1つの次のニューロフィラメントレベルを測定することと
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
処置の開始前に前記ヒト対象から得られる第1の生体試料中の第1のニューロフィラメントレベルを測定することと;
先行請求項のいずれか1項に従って第1の負荷量の前記アンチセンス化合物またはその塩を前記ヒト対象に投与することと;
前記第1の負荷量の前記アンチセンス化合物またはその塩を投与した後に前記ヒト対象から得られる生体試料中の少なくとも1つの次のニューロフィラメントレベルを測定することと
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
処置の開始前に前記ヒト対象から得られる第1の生体試料中の第1のニューロフィラメントレベルを測定することと;
先行請求項のいずれか1項に従って第1の負荷量及び第2の負荷量の前記アンチセンス化合物またはその塩を前記ヒト対象に投与することと;
前記第1の負荷量及び前記第2の負荷量の前記アンチセンス化合物またはその塩を投与した後に前記ヒト対象から得られる生体試料中の少なくとも1つの次のニューロフィラメントレベルを測定することと
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記次のニューロフィラメントレベルは、前記第1のニューロフィラメントレベルと比較して少なくとも50%低減される、請求項24~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記次のニューロフィラメントレベルは、前記第1のニューロフィラメントレベルと等しいか、またはそれより高く、前記方法は、さらなる用量の前記アンチセンス化合物またはその塩を前記ヒト対象に投与することをさらに含む、請求項25~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ニューロフィラメントは、ニューロフィラメント重鎖(NF-H)、中/中間鎖(NF-M)、または軽鎖(NF-L)である、請求項23から28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記第1及び第2の生体試料は、血液、血清、血漿、または脳脊髄液である、請求項23から29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年7月19日に出願された米国仮特許出願第62/876,360号に対する優先権を主張するものであり、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
技術分野
【0002】
本開示は、概して、脊髄性筋萎縮症の処置及び予防のための方法ならびに有効な投与レジメンに関する。
【背景技術】
【0003】
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、脊髄の前角における脊髄運動ニューロンの喪失の結果として四肢及び体幹の随意筋の萎縮が生じることを特徴とする遺伝性神経変性障害である。SMAは、早期発症型で、100,000人の出生あたり8.5から10.3人の発生率を有する常染色体性劣性遺伝疾患であり、米国における乳児死亡率の最も一般的な単一遺伝子性の原因及び小児罹患率の主要な原因である。SMAの自然経過は、発症年齢及び達成される運動能力に依存する4つの主要な認められた表現型を含む。I型SMA(乳児発症型SMA)は、出生時または6か月以内に発症し、一般に2年以内に死亡する最も重症な型である。I型SMAの小児は、座ることも、または歩くこともできない。遅発型SMAは、II型及びIII型SMAに分けることができる。II型SMA(6か月齢から18か月齢の間に現れる)は、中間型であり、患者は、座ることはできるが、立ったり、または歩いたりすることはできない。III型SMAの患者は、一般に18か月齢以降にSMAを発症し、座ったり、歩いたりすることはできるが、ひどく、次第に体が不自由になっていく場合がある。成人発症型SMAまたはIV型SMA患者は、18歳以降に疾患を発症し、通常の平均余命を有する。
【0004】
SMAの分子基盤は、snRNP生合成及び再利用に関与すると考えられる多タンパク質複合体の一部であるタンパク質をコードする運動神経細胞生存遺伝子1(SMN1)の両コピーの喪失である。ほぼ同一の遺伝子、SMN2が、染色体5q13の重複領域に存在し、疾患の重症度を調節する。正常なSMN1遺伝子の発現は、単独で運動神経細胞生存(SMN)タンパク質の発現をもたらす。SMN1及びSMN2は、同じタンパク質をコードする潜在性があるが、SMN2は、エクソン7の位置+6に翻訳的にサイレントな変異を含み、これが、SMN2転写物にエクソン7を含有させるのを非効率にする。したがって、SMN2の主たる形態は、エクソン7が欠如した切断型であり、これは、不安定で不活性である(Cartegni and Krainer, Nat. Genet., 30:377-384 (2002))。SMN2遺伝子の発現は、およそ10~20%のSMNタンパク質及び80~90%の不安定/非機能なSMNデルタ7タンパク質をもたらす。SMNタンパク質は、スプライセオソームの構築において十分に確立した役割を果たし、ニューロンの軸索及び神経末端におけるmRNA輸送にも関係することがある。
【0005】
ヒトは、多様なコピー数のSMN2遺伝子(0から8コピー)を有する。SMAの患者で発現されるSMN2コピー数及び得られる完全長SMNタンパク質の量は、SMA疾患の重症度と相関性があるため、SMN2は、疾患表現型の重要なモディファイヤーである。
アンチセンス技術は、代替的なスプライシング産物を含む、1つ以上の特定の遺伝子産物の発現を調節するための有効な手段であり、多くの治療、診断、及び研究用途に比類なく有用である。アンチセンス技術の背景にある原理は、標的核酸とハイブリダイズするアンチセンス化合物が、いくつかのアンチセンス機構の1つにより転写、スプライシングまたは翻訳などの遺伝子発現活性を調節することである。アンチセンス化合物の配列特異性は、それらを、標的確認及び遺伝子機能化のためのツール、ならびに疾患に関与する遺伝子の発現を選択的に調節する治療薬として極めて魅力的なものにする。SMN2 pre-mRNAと相補的な特定のアンチセンス化合物が当該技術分野において知られている。例えば、WO2007/002390を参照。
SPINRAZA(登録商標)は、米国、欧州、及びその他の国ならびに世界各地域において小児及び成人患者におけるSMAの処置に対して12mgの推奨投与量で認可されたアンチセンス化合物である。認可された12mgの投与量において、SPINRAZA(登録商標)は、確固とした安全性プロフィールを有し、SMAの患者に非常に大きな利益を与えてきた。特に最も重症な型のSMAの患者における早期介入の重要性と関連して、出願人は、SMAの患者におけるSPINRAZA(登録商標)のより高濃度のより急速な達成及び維持が有益であろうと考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/002390号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cartegni and Krainer, Nat. Genet., 30:377-384 (2002)
【発明の概要】
【0008】
本出願は、SMAを処置または予防する方法に関する。本開示は、SMAの患者において(認可されたSPINRAZA(登録商標)投与レジメンと比較して)より高いアンチセンス化合物濃度を急速に達成し、維持し、それにより処置の効力をさらに向上させる本明細書に記載のアンチセンス化合物に関する投与レジメンを特徴とする。
【0009】
一態様において、本開示は、脊髄性筋萎縮症(SMA)の処置を必要とするヒト対象において脊髄性筋萎縮症(SMA)を処置するための方法を特徴とする。本方法は、ヒト対象に少なくとも2回の負荷量の以下の構造:
【化1】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含む。投与は、髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第1の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第1の負荷量の投与の約10から20日(例えば、約10から18日、約12から16日、または約14日)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩とを投与することを含む。
【0010】
別の態様において、本開示は、染色体5qにSMNタンパク質欠損と関連する変異を有するヒト対象においてエクソン7を含む運動神経細胞生存2(SMN2)メッセンジャーリボ核酸(mRNA)のレベルを増加させるための方法を特徴とする。本方法は、ヒト対象に少なくとも2回の負荷量の以下の構造:
【化2】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含む。投与は、髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第1の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第1の負荷量の投与の約10から20日(例えば、約10から18日、約12から16日、または約14日)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩とを投与することを含む。
【0011】
いくつかの例において、上記の方法は、ヒト対象に髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、約28mgのアンチセンス化合物に相当する少なくとも1回の維持量を投与することをさらに含む。
【0012】
いくつかの例において、上記の方法は、ヒト対象に髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、第2の負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に開始し、その後、約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)に1回継続して、それぞれが約28mgのアンチセンス化合物に相当する維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を投与することをさらに含む。
【0013】
いくつかの例において、第2の負荷量は、第1の負荷量の投与の約14日後に投与される。いくつかの例において、第2の負荷量は、第1の負荷量の投与の14日後に投与される。
【0014】
特定の例において、上記の方法は、ヒト対象に髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、第2の負荷量の投与の約10から20日(例えば、約10から18日、約12から16日、または約14日)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第3の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第3の負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に開始し、その後、約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)に1回継続して、それぞれが約28mgのアンチセンス化合物に相当する1回以上の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩とを投与することをさらに含む。いくつかの例において、第2の負荷量は、第1の負荷量の投与の約14日後に投与され、第3の負荷量は、第2の負荷量の投与の約14日後に投与される。特定の例において、第2の負荷量は、第1の負荷量の投与の14日後に投与され、第3の負荷量は、第2の負荷量の投与の14日後に投与される。
【0015】
いくつかの例において、上記の方法は、ヒト対象に髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により第2の負荷量の投与の約10から20日(例えば、約10から18日、約12から16日、または約14日)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第3の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第3の負荷量の投与の約10から20日(例えば、約10から18日、約12から16日、または約14日)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第4の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第4の負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に開始し、その後、約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)に1回継続して、それぞれが約28mgのアンチセンス化合物に相当する、1回以上の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩とを投与することをさらに含む。ある場合には、第2の負荷量は、第1の負荷量の投与の約14日後に投与され、第3の負荷量は、第2の負荷量の投与の約14日後に投与され、第4の負荷量は、第3の負荷量の投与の約14日後に投与される。他の場合には、第2の負荷量は、第1の負荷量の投与の14日後に投与され、第3の負荷量は、第2の負荷量の投与の14日後に投与され、第4の負荷量は、第3の負荷量の投与の14日後に投与される。
【0016】
別の態様において、本開示は、SMAの処置を必要とするヒト対象においてSMAを処置するための方法を提供する。本方法は、ヒト対象に以下の構造:
【化3】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含む。処置されるヒト対象は、1回以上の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を予め投与され、1回以上の予め投与された用量は、約12mgのアンチセンス化合物に相当した。本方法は、ヒト対象に髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、約12mgのアンチセンス化合物に相当する最後の予め投与された用量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に開始し、その後、約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)に1回継続して、それぞれが約28mgのアンチセンス化合物に相当する、1回以上の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩とを投与することを含む。
【0017】
別の態様において、本開示は、染色体5qにSMNタンパク質欠損と関連する変異を有するヒト対象においてエクソン7を含むSMN2 mRNAのレベルを増加させるための方法に関する。本方法は、ヒト対象に以下の構造:
【化4】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含む。ヒト対象は、1回以上の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を予め投与され、1回以上の予め投与された用量は、約12mgのアンチセンス化合物に相当した。本方法は、ヒト対象に髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、約12mgのアンチセンス化合物に相当する最後の予め投与された用量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する負荷量の記載のアンチセンス化合物またはその塩と;負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に開始し、その後、約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)に1回継続して、それぞれが約28mgのアンチセンス化合物に相当する、1回以上の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩とを投与することを含む。
【0018】
別の態様において、脊髄性筋萎縮症(SMA)の処置を必要とするヒト対象において脊髄性筋萎縮症(SMA)を処置するための方法が提供される。本方法は、ヒト対象に以下の構造:
【化5】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含む。ヒト対象は、1回以上の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を予め投与され、1回以上の予め投与された用量は、約12mgのアンチセンス化合物に相当した。本方法は、ヒト対象に髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、約12mgのアンチセンス化合物に相当する最後の予め投与された用量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に投与される、約28mgのアンチセンス化合物に相当する第1の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第1の負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第2の負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に開始し、その後、約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)に1回継続して、それぞれが約28mgのアンチセンス化合物に相当する、1回以上の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩とを投与することを含む。
【0019】
別の態様において、本開示は、染色体5qにSMNタンパク質欠損と関連する変異を有するヒト対象においてエクソン7を含むSMN2 mRNAのレベルを増加させるための方法を提供する。本方法は、ヒト対象に以下の構造:
【化6】
を有するアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含む。ヒト対象は、1回以上の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を予め投与され、1回以上の予め投与された用量は、約12mgのアンチセンス化合物に相当した。本方法は、ヒト対象に髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)により、約12mgのアンチセンス化合物に相当する最後の予め投与された用量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に投与される、約28mgのアンチセンス化合物に相当する第1の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第1の負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に投与される、約50mgのアンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩と;第2の負荷量の投与の約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)後に開始し、その後、約3から6か月(例えば、約4から5か月;または約4か月)に1回継続して、それぞれが約28mgのアンチセンス化合物に相当する、1回以上の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩とを投与することを含む。
【0020】
いくつかの例において、ヒト対象は、少なくとも4回(例えば、4、5、6、7、8、9、10回)、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を予め投与され、少なくとも4回、5回、6回、7回、8回、9回、または10回の予め投与された用量のそれぞれは、約12mgのアンチセンス化合物に相当した。
【0021】
すべての上記の方法のいくつかの例において、ヒト対象は、I型SMA;II型SMA;III型SMA;またはIV型SMAを有する。その他の例において、ヒト対象は、SMAの発症前である。
【0022】
いくつかの例において、ヒト対象は、脊髄くも膜下麻酔針を使用して本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を投与される。
【0023】
いくつかの例において、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩は、5.0mLの注入体積で投与される。
【0024】
いくつかの例において、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解される。その他の例において、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩は、人工脳脊髄液(aCSF)に溶解される。
【0025】
特定の例において、アンチセンス化合物の塩は、ナトリウム塩である。
【0026】
一例において、アンチセンス化合物の塩は、以下の構造を有する。
【化7】
【0027】
本明細書に記載されている方法のいくつかの実施形態において、本方法は、処置の開始前及び/または後にヒト対象におけるニューロフィラメントレベルを検出するステップをさらに含む。ニューロフィラメントのレベルは、例えば、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を投与される対象が処置に反応しているかどうかを判定するため及び対象に対する適切なその後の処置を決定するために使用することができる。
【0028】
一実施形態において、本方法は、(i)処置の開始前にヒト対象から得られる第1の生体試料中の第1のニューロフィラメントレベルを測定することと;(ii)本明細書に記載の方法のいずれか1つに従って本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩をヒト対象に投与することと;(iii)少なくとも1回の負荷量を投与した後にヒト対象から得られる次の(例えば、第2の)生体試料中のニューロフィラメントレベルを測定することとを必要とする。
【0029】
一実施形態において、本方法は、(i)処置の開始前にヒト対象から得られる第1の生体試料中の第1のニューロフィラメントレベルを測定することと;(ii)本明細書に記載の方法のいずれか1つに従って本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩をヒト対象に投与することと;(iii)すべての負荷量を投与した後にヒト対象から得られる次の(例えば、第2の)生体試料中のニューロフィラメントレベルを測定することとを必要とする。
【0030】
一実施形態において、本方法は、(i)処置の開始前にヒト対象から得られる第1の生体試料中の第1のニューロフィラメントレベルを測定することと;(ii)本明細書に記載の方法のいずれか1つに従って本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩をヒト対象に投与することと;(iii)すべての負荷量及び少なくとも1回の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を投与した後にヒト対象から得られる次の(例えば、第2の)生体試料中のニューロフィラメントレベルを測定することとを必要とする。
【0031】
一例において、次の(例えば、第2の)ニューロフィラメントレベルは、第1のニューロフィラメントレベルよりも低く(例えば、第2のニューロフィラメントレベルは、第1のニューロフィラメントレベルと比較して少なくとも50%低減される)、本方法は、それぞれ本明細書に記載されるとおりの別の1回の負荷量または別の1回の維持量のいずれかを本明細書に記載されるとおりのそれぞれの投薬間隔で投与することをさらに含む。
【0032】
別の例において、次の(例えば、第2の)ニューロフィラメントレベルは、第1のニューロフィラメントレベルと等しいか、またはそれより高く、本方法は、さらなる用量の本明細書に記載されるアンチセンス化合物またはその塩をヒト対象に投与することをさらに含み、さらなる用量のアンチセンス化合物またはその塩のそれぞれは、次の(例えば、第2の)ニューロフィラメントレベルを測定する前に投与された最後の用量と比較して増加した量及び/または短い投薬間隔である。
【0033】
いくつかの実施形態において、ニューロフィラメントは、ニューロフィラメント重鎖(NF-H、例えば、pNF-H)、中/中間鎖(NF-M)、または軽鎖(NF-L)である。
【0034】
いくつかの実施形態において、第1及び第2の生体試料は、血液、血清、血漿、または脳脊髄液である。
【0035】
量と関連した「約」という用語、例えば、約Xmgは、+/-10%を意味するため、「約50mg」は、45mgから55mgを含む。X日と関連した「約」という用語は、+/-3日を意味するため、「約10日」は、7から13日を含む。Xか月と関連した「約」という用語は、+/-1週間を意味するため、「約4か月」は、4か月時点の前後1週間を含む。
【0036】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践または試験において、本明細書において記載されるものに類似するかまたは同等である方法及び材料を使用することができるが、例示的な方法及び材料が以下に記載される。本明細書において言及されるすべての出版物、特許出願、特許、及び他の参照文献は、それらの全体を参照することによって援用される。矛盾する場合には、定義を含む本出願が優先される。材料、方法、及び実施例は、単に例示的なものであり、限定を意図したものではない。
【0037】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】E0とEmax(E=効力)が固定されたCSF CトラフとCHOP-INTEND(ベースラインからの変化)の間の関係を示す。(長い)破線、実線、及び(短い)破線は、Emaxがそれぞれ10、25、及び40に固定された場合の予測されるPK/PD関係を表す。観察データは、CSF Cトラフ値の10分位数に基づいて分割される。空の円と塗りつぶされた円は、それぞれベースラインからのCHOP-INTENDの観察された平均変化及び予測される変化を表す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本開示は、それぞれ本明細書に記載されるとおりのアンチセンス化合物またはその塩の有効な投与レジメンを使用してSMAを処置または予防するための方法に関する。本方法は、小児及び成人患者におけるSMAの処置及び/または予防に有用である。
【0040】
SMAの患者(I、II、III、IV型及び発症前)は、現行のSPINRAZA(登録商標)投与レジメンにより達成される濃度よりも高いアンチセンス薬曝露により運動機能及び運動マイルストーン発達のより大きな改善を達成することができる。
【0041】
アンチセンス化合物
本発明において使用するための例となるアンチセンス化合物は、核酸塩基配列:TCACTTTCATAATGCTGG(配列番号1)を有し、各ヌクレオシドは、2’-O-(2-メトキシエチル)(MOE)修飾を有し、オリゴヌクレオチドの各ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオアート結合であり、配列中の各「C」は、5-メチル-シトシンである。
【0042】
このアンチセンス化合物の遊離酸型(ヌシネルセンとも呼ばれる)を、以下に示す。
【化8】
【0043】
いくつかの例において、このアンチセンス化合物の塩(例えば、薬学的に許容される塩)が使用される。ある場合には、塩は、ナトリウムであってもよい(ヌシネルセンナトリウムまたはヌシネルセンナトリウム塩とも呼ばれる)。その他の例において、塩は、カリウムであってもよい。
【0044】
このアンチセンス化合物の例となる塩を、以下に示す。
【化9】
【0045】
アンチセンス化合物は、ヌシネルセンであり、そのナトリウム塩は、ヌシネルセンナトリウムまたはヌシネルセンナトリウム塩である。2.40mgのヌシネルセンは、2.53mgのヌシネルセンナトリウム塩に相当する。50mgのヌシネルセンに相当するヌシネルセンナトリウムの用量は、52.71mgのヌシネルセンナトリウム塩である。28mgのヌシネルセンに相当するヌシネルセンナトリウムの用量は、29.52mgのヌシネルセンナトリウム塩である。12mgのヌシネルセンに相当するヌシネルセンナトリウムの用量は、12.65mgのヌシネルセンナトリウム塩である。
【0046】
アンチセンス化合物またはその塩は、髄腔内投与による注入のための溶液として調製されてもよい。
【0047】
本明細書に記載のアンチセンス化合物は、SMAを処置または予防するためにそれを必要とするヒト対象に使用することができる。いくつかの例において、SMAは、I型SMAである。その他の例において、SMAは、II型SMAである。特定の例において、SMAは、III型SMAである。いくつかの例において、SMAは、IV型SMAである。その他の例において、ヒト対象は、SMAの発症前である。
【0048】
医薬組成物
本開示はまた、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を含む医薬組成物を提供する。特定の例において、そのような医薬組成物は、無菌生理食塩水及びアンチセンス化合物またはその塩を含むか、またはそれらからなる。ある場合には、そのような医薬組成物は、無菌緩衝等張溶液である。ある場合には、医薬組成物は、保存料を含まない。
【0049】
本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩は、医薬組成物または製剤の調製のための薬学的に許容される活性物質及び/または不活性物質と混合されてもよい。医薬組成物の製剤化のための組成物及び方法は、投与経路、疾患の程度、または投与される用量を含むが、これらに限定されない多くの基準によって決まる。
【0050】
アンチセンス化合物またはその塩は、そのような化合物を適した薬学的に許容される希釈剤または担体と混合することによって医薬組成物に利用されてもよい。特定の例において、薬学的に許容される希釈剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。特定の実施形態において、薬学的に許容される希釈剤は、人工脳脊髄液(aCSF)である。
【0051】
特定の実施形態において、aCSF製剤は、7.2のpHを有する。組成物のpHは、必要に応じて、調合中に塩酸または水酸化ナトリウムにより調節されてもよい。いくつかの例において、医薬組成物は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を約10.0mg/mLの濃度で含む。特定の例において、医薬組成物は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を10.0mg/mLの濃度で含む。その他の例において、医薬組成物は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を約5.6mg/mLの濃度で含む。いくつかの例において、医薬組成物は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を5.6mg/mLの濃度で含む。特定の例において、医薬組成物は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を3.6mg/mLから10.0mg/mLの濃度で含む。その他の例において、医薬組成物は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を4.8mg/mLから10.0mg/mLの濃度で含む。さらに他の例において、医薬組成物は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を5.6mg/mLから10.0mg/mLの濃度で含む。
【0052】
いくつかの例において、医薬組成物は、約50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む。いくつかの例において、医薬組成物は、50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む。その他の例において、医薬組成物は、約28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む。いくつかの例において、医薬組成物は、28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む。いくつかの例において、医薬組成物は、PBSまたはaCSF中に製剤化される。特定の例において、医薬組成物は、髄腔内投与用に製剤化される。
【0053】
一例において、本開示は、アンチセンス化合物濃度が10mg/mLであるように5mLの体積の医薬品賦形剤(例えば、aCSF、PBS)中に50mgの本明細書で開示のアンチセンス化合物またはその塩を含む医薬組成物を特徴とする。特定の例において、医薬組成物は、髄腔内投与(例えば、髄腔内ボーラス注入)用に製剤化される。
【0054】
別の例において、本開示は、アンチセンス化合物濃度が5.6mg/mLであるように5mLの体積の医薬品賦形剤(例えば、aCSF、PBS)中に28mgの本明細書で開示のアンチセンス化合物またはその塩を含む医薬組成物を特徴とする。特定の例において、医薬組成物は、髄腔内投与(例えば、髄腔内ボーラス注入)用に製剤化される。
【0055】
アンチセンス化合物を含む医薬組成物は、任意の薬学的に許容される塩、エステル、またはそのようなエステルの塩を包含する。したがって、例えば、本開示はまた、アンチセンス化合物の薬学的に許容される塩、プロドラッグ、そのようなプロドラッグの薬学的に許容される塩、及びその他の生物学的同等物も対象とする。適した薬学的に許容される塩としては、ナトリウム及びカリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
処置の方法
本開示は、ヒト対象において脊髄性筋萎縮症(SMA)を処置または予防する方法を特徴とする。一例において、SMAは、I型SMAである。別の例において、SMAは、II型SMAである。さらに別の例において、SMAは、III型SMAである。別の例において、SMAは、IV型SMAである。特定の例において、ヒト対象は、SMAの発症前である。
【0057】
本開示はまた、SMN1遺伝子の両機能性コピーを喪失したヒト対象においてSMN2メッセンジャーリボ核酸(mRNA)転写物中のエクソン7の含有及び完全長SMNタンパク質の産生を増加させる方法を提供する。
【0058】
SMN1遺伝子に機能性SMNタンパク質欠損につながる変異を有するヒト対象においてSMN2メッセンジャーリボ核酸(mRNA)転写物中のエクソン7含有を増加させるための方法も特徴とする。
【0059】
さらに、本開示は、染色体5qにSMNタンパク質欠損と関連するか、またはそれにつながる変異を有するヒト対象においてエクソン7を含むSMN2 mRNAのレベルを増加させるための方法に関する。ヒト対象は、ホモ接合遺伝子欠失、置換を有する場合も、または複合ヘテロ接合体である場合もある。
【0060】
本方法は、それを必要とするヒト対象に本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を投与することを含む。ヒト対象は、成人であっても、または小児であってもよい。
【0061】
一例において、ヒト対象は、ヒト対象の髄腔内への注入によりSMAを処置するのに有用なある用量のアンチセンス化合物または薬学的に許容されるその塩を投与される。髄腔内投与は、腰椎穿刺(すなわち、脊椎穿刺)によってでもよい。投与は、ボーラス注入によってでもよい。一例において、投与は、髄腔内ボーラス注入による。
【0062】
一例において、ヒト対象に投与されるアンチセンス化合物は、配列番号1に記載される核酸塩基配列を含むか、またはそれからなり、オリゴヌクレオチドの各ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオアート結合であり、オリゴヌクレオチドの各ヌクレオシドは、2’-MOEヌクレオシドであり、各Cは、5-メチルシトシンである。
【0063】
特定の例において、対象が1週齢未満である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が1か月齢未満である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が3か月齢未満である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が6か月齢以下である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が6か月齢を超える場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が1歳未満である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が2歳未満である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が15歳未満である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が15歳を超える場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が1歳から18歳未満の間である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。特定の例において、対象が18歳以上である場合、第1の用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。
【0064】
特定の例において、ヒト対象は、1のSMN2コピー数を有する。その他の例において、ヒト対象は、2のSMN2コピー数を有する。いくつかの例において、ヒト対象は、3のSMN2コピー数を有する。その他の例において、ヒト対象は、4のSMN2コピー数を有する。特定の例において、ヒト対象は、5のSMN2コピー数を有する。
【0065】
いくつかの例において、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が髄腔内ボーラス注入として投与される。いくつかの例において、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩は、単回髄腔内ボーラス腰椎穿刺注入として投与される。特定の実施形態において、髄腔内ボーラス腰椎穿刺注入の体積は、5mLである。
【0066】
投与レジメン
本開示は、SMAの処置または予防のための本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩の強化、または高投与レジメンを特徴とする。いくつかの例において、SMAを処置または予防するために使用されるアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)の用量は、12mg超で50mg以下の本明細書に記載のアンチセンス化合物に相当する。特定の例において、SMAを処置または予防するために使用されるアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)の用量は、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、または約50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物に相当する。その他の例において、SMAを処置または予防するために使用されるアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)の用量は、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物に相当する。特定の実施形態において、用量は、(例えば、aCSFまたはPBSの)5mLの体積として(例えば、髄腔内)投与される。いくつかの例において、用量は、ボーラス注入によって投与される。一例において、用量は、髄腔内ボーラス注入によって投与される。
【0067】
いくつかの例において、それを必要とするヒト対象は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を5mLの投与体積中の18から50mgのアンチセンス化合物に相当する用量で投与される。その他の例において、それを必要とするヒト対象は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を5mLの投与体積中の24から50mgのアンチセンス化合物に相当する用量で投与される。特定の例において、それを必要とするヒト対象は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を5mLの投与体積中の28から50mgのアンチセンス化合物に相当する用量で投与される。さらに別の例において、それを必要とするヒト対象は、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を5mLの投与体積中の50mgのアンチセンス化合物に相当する用量で投与される。いくつかの例において、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩の用量は、ボーラス注入によって投与される。一例において、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩の用量は、髄腔内ボーラス注入によって投与される。特定の場合において、aCSFまたはPBS中の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩が投与される。
【0068】
投与レジメンは、SMAを処置または予防するために使用される約50mgのアンチセンス化合物に相当する少なくとも2回(例えば、2、3、4、5回)、約2回、または2回の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)、それに続くSMAを処置または予防するために使用される約28mgのアンチセンス化合物に相当する維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)をヒト対象に(例えば、髄腔内)投与することを含んでもよい。いくつかの例において、負荷量はそれぞれ、50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物に相当する。いくつかの例において、維持量はそれぞれ、28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物に相当する。いくつかの例において、負荷量は、10から20日あけて(例えば、10から18日あけて、12から16日あけて、隔週で)投与され、維持量は、最後の負荷量の3から6か月(例えば、4から5か月または約4か月)後に、その後、3から6か月ごとに投与される。ある場合には、2回の負荷量が投与される。ある場合には、3回の負荷量が投与される。さらに他の場合には、4回の負荷量が投与される。特定の例において、負荷量は、10から18日あけて投与され、維持量は、最後の負荷量の3から6か月後に、その後、3から6か月投与される。いくつかの例において、負荷量は、12から16日あけて投与され、維持量は、最後の負荷量の3から6か月後に、その後、3から6か月投与される。他の例において、負荷量は、10から20日あけて(例えば、隔週で)投与され、維持量は、最後の負荷量の3から6か月後に、その後、3から6か月投与される。特定の例において、負荷量は、14日あけて投与され、維持量は、最後の負荷量の3から6か月後に、その後、3から6か月投与される。いくつかの例において、維持量(複数可)は、最後の負荷量の4から5か月後に、その後、4から5か月投与される。いくつかの例において、維持量(複数可)は、最後の負荷量の約4か月後に、その後、約4か月投与される。いくつかの例において、維持量(複数可)は、最後の負荷量の4か月後に、その後、4か月投与される。いくつかの例において、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回、少なくとも11回、または少なくとも12回の維持量が投与される。
【0069】
一例において、それを必要とするヒト対象は、負荷量の下に示されるアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩):
【化10】
を約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する用量で投与される。いくつかの例において、それを必要とするヒト対象は、2回の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を10~20日、10~18日、12~16日、または約14日あけて投与され、負荷量はそれぞれ、約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する。ある場合には、それを必要とするヒト対象は、2回の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を約14日あけて投与され、2回の負荷量はそれぞれ、約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する。ある場合には、それを必要とするヒト対象は、2回の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を隔週で投与され、2回の負荷量はそれぞれ、約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する。一例において、それを必要とするヒト対象は、1日目に第1の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する用量で、及び約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する第2の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を15日目に投与される。いくつかの例において、ヒト対象は、少なくとも1回の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩をさらに投与され、維持量は、第2の負荷量の投与の3から6か月、4から5か月、または約4か月後に投与される。特定の例において、ヒト対象は、1回以上の追加の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を第1の維持量の投与の3から6か月、4から5か月、または約4か月後にさらに投与される。特定の例において、ヒト対象は、1回以上の追加の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を第1の維持量の投与の4か月後にさらに投与される。
【0070】
別の例において、それを必要とするヒト対象は、負荷量の下に示されるアンチセンス化合物の塩:
【化11】
を約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する用量で投与される。いくつかの例において、それを必要とするヒト対象は、2回の負荷量の塩を10~20日、10~18日、12~16日、または約14日あけて投与され、負荷量はそれぞれ、約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する。ある場合には、それを必要とするヒト対象は、2回の負荷量のアンチセンス化合物の塩を14日あけて投与され、2回の負荷量はそれぞれ、約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する。ある場合には、それを必要とするヒト対象は、2回の負荷量のアンチセンス化合物の塩を隔週で投与され、2回の負荷量はそれぞれ、約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する。一例において、それを必要とするヒト対象は、1日目に第1の負荷量のアンチセンス化合物の塩を約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する用量で、及び約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する第2の負荷量のアンチセンス化合物の塩を15日目に投与される。いくつかの例において、ヒト対象は、少なくとも1回の維持量のアンチセンス化合物の塩をさらに投与され、維持量は、第2の負荷量の投与の3から6か月、4から5か月、または約4か月後に投与される。特定の例において、ヒト対象は、1回以上の追加の維持量のアンチセンス化合物の塩を第1の維持量の投与の3から6か月、4から5か月、または約4か月後にさらに投与される。
【0071】
一態様において、それを必要とするヒト対象(例えば、SMA(IからIV型のいずれか)を有するまたは発症前)は、第1の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を1日目に約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する用量で、第2の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を約15日目に約50mg(例えば、50mg)のアンチセンス化合物に相当する用量で、第1の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を約135日目に約28mg(例えば、28mg)のアンチセンス化合物に相当する用量で、及び1回以上のさらなる維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を第1の維持量の約120日後に約28mg(例えば、28mg)のアンチセンス化合物に相当する用量で投与される。一例において、それを必要とするヒト対象(例えば、SMA(IからIV型のいずれか)を有するまたは発症前)は、第1の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を1日目に50mgのアンチセンス化合物に相当する用量で、第2の負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を15日目に50mgのアンチセンス化合物に相当する用量で、第1の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を134~140日目のいずれか1日に28mgのアンチセンス化合物に相当する用量で、及び1回以上のさらなる維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を第1の維持量の253から259日後に28mgのアンチセンス化合物に相当する用量で投与される。いくつかの実施形態において、アンチセンス化合物は、以下の構造を有する。
【化12】
【0072】
いくつかの実施形態において、アンチセンス化合物の塩は、以下の構造を有する。
【化13】
【0073】
別の態様において、本開示は、それを必要とするヒト対象に対する用量漸増投与レジメンを特徴とする。この用量漸増(ブリッジング)レジメンは、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩の認可された12mgのレジメンを受けている対象をCSF曝露の増加を可能にするレジメンに効果的に移行させることができる。一例において、用量漸増レジメンは、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を12mgのアンチセンス化合物に相当する用量で予め投与された対象に約50mgのアンチセンス化合物に相当する負荷量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を投与することを含む。ある場合には、負荷量は、単回髄腔内ボーラス注入である。いくつかの例において、50mgの負荷量は、最後の12mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩の投与の4か月後に投与される。ある場合には、12mg用量後に、50mg用量が、続いて28mg用量が投与される。特定の例において、1回以上の維持量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩は、負荷量の約4か月後に開始して28mgのアンチセンス化合物に相当する用量で対象に投与される。いくつかの例において、対象は、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、または1回、2回、3回、4回、または5回の約12mgのアンチセンス化合物に相当する用量の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を、負荷量を与えられる前に与えられた。いくつかの実施形態において、アンチセンス化合物は、以下の構造を有する。
【化14】
【0074】
いくつかの例において、アンチセンス化合物の塩は、以下の構造を有する。
【化15】
【0075】
本明細書に記載の用量は、一般に約5.0mLの体積で提供される。一例において、投与体積は、5.0mLである。ある場合には、希釈剤はPBSである。その他の例において、希釈剤はaCSFである。特定の場合において、負荷量は、ヒト対象に10.0mg/mLの濃度で与えられる。ある場合には、維持量は、ヒト対象に5.6mg/mLの濃度で与えられる。
【0076】
用量は、一般に、例えば、腰椎穿刺によって髄腔内投与される。用量は、一般に、髄腔内注入(例えば、髄腔内ボーラス注入)として投与される。
【0077】
バイオマーカー
診断、予後、予測、及び薬力学的価値を有するSMAのバイオマーカーは、処置開始の時期、介入に対する反応の判定、治療効果の判定、及び長期転帰の評価を容易にするのに役立つ。そのようなバイオマーカーとしては、遺伝的、エピジェネティック的、プロテオミクス的、電気生理学的及び画像化測定が挙げられる。本開示は、健康な集団と比較された場合に疾患状態の検出を容易にする、可能性のある健康転帰、疾患の進行または再発リスクに関する情報を提供する、表現型重症度の層別化を容易にする、処置に対するレスポンダー及び患者集団をおそらく特定する、治療に対する反応を確認する、及び/または治療効果を監視するそのようなバイオマーカーの使用を特徴とする。
【0078】
一実施形態において、バイオマーカーは、ニューロフィラメントタンパク質である。ニューロフィラメントは、神経細胞における主要な細胞骨格要素であり、機械的安定性の付与だけでなく軸索径の決定においても役割を果たす。ヒトニューロフィラメントは、3つのタンパク質サブユニット、ニューロフィラメント軽鎖(NF-L)、ニューロフィラメント中/中間鎖(NF-M)、及びニューロフィラメント重鎖(NF-H)から構成される。これらのタンパク質は、他の中間径フィラメントサブユニットタンパク質と同じ基本構造を共有する。哺乳類神経系のニューロフィラメントは、タンパク質インターネキシンも含み、末梢神経系のニューロフィラメントは、タンパク質ペリフェリンも含むことがある。したがって、本明細書中で使用される場合、「ニューロフィラメントタンパク質」とは、NF-H、NF-M、NF-L、インターネキシン、またはペリフェリンを意味する。SMAバイオマーカーは、NF-H、NF-M、NF-L、インターネキシン、及びペリフェリンのうちの1つ以上であってもよい。特定の例において、SMAバイオマーカーはリン酸化NF-H(pNF-H)である。特定の例において、SMAバイオマーカーは、リン酸化NF-Lである。
【0079】
1、2型SMA及び発症前の乳児によるヌシネルセン臨床試験において、血漿pNf-Hは、SMA個人と健康な対照に差異を認めた。ヌシネルセンによる処置開始は、pNf-Hの急速な低下に続き健康な対照のものに近いレベルでの安定化に関連づけられた。したがって、ニューロフィラメント(例えば、pNf-H及び/またはNfL)のレベルの評価は、処置前または処置中に有用なバイオマーカーである可能性がある。
【0080】
ニューロフィラメントのレベルは、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を投与される対象(例えば、ヒト)が処置に反応しているかどうかを判定するために使用することができる。これは、処置を施す前の対象から第1の生体試料及び対象に処置を施した後の第2の生体試料を得、そのような試料中のニューロフィラメント(例えば、NF-H、NF-M、またはNF-L)のレベルを測定することによって評価することができる。一例において、ニューロフィラメントのレベルはpNF-Hのレベルである。
【0081】
特定の例において、第1の生体試料(1つまたは複数)は、処置前の任意の時期に、例えば、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を投与する1週間前、数日前、1日前、数時間前、1時間前、または1時間未満前に、対象から採取されてもよい。同様に、第2の生体試料(1つまたは複数)は、処置の適用後の任意の時期に、例えば、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を投与した1時間未満後、1時間後、数時間後、1日後、数日後、1週間後、数週間後、1か月後、2か月後、3か月後、4か月後、5か月後、6か月後、7か月後、または8か月後に、対象から採取されてもよい。処置の開始後のニューロフィラメントレベルの低下は、処置の有効性を示す。そのような場合には、処置治療の継続が指示される(例えば、さらなる用量のアンチセンス化合物を、第2のニューロフィラメントレベルを測定する前に投与された最後の用量と同じか、または少ない量及び第2のニューロフィラメントレベルを測定する前に投与された最後の用量と比較して同じか、または長い投薬間隔で投与すること)。処置の開始後のニューロフィラメントレベルの低下の不足は、処置の用量及び/または投薬間隔を変える必要性(例えば、さらなる用量のアンチセンス化合物を、第2のニューロフィラメントレベルを測定する前に投与された最後の用量と比較して増加した量及び/または短い投薬間隔で投与すること)あるいは処置の有効性の欠如を示す。後者の場合には、処置の中止が示唆される場合もあり、異なるSMA療法(1つまたは複数)の使用が検討される。
【0082】
ニューロフィラメントのレベルは、RNAまたはタンパク質のレベルを測定することによって評価することができる。いくつかの例において、pNF-Hのレベルが測定される。目的のニューロフィラメントタンパク質(1つまたは複数)の濃度は、免疫学的アッセイなどの当該技術分野で既知の任意の方法を使用して測定することができる。そのような方法の非限定例としては、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法、化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、ラテックス比濁免疫測定法、ラテックス測光免疫測定法、免疫クロマトグラフィー測定法、及びウェスタンブロッティングが挙げられる。ある特定の実施形態において、目的タンパク質(1つまたは複数)の濃度は、質量分析法によって測定される。
【0083】
特定の例において、第1の生体試料中のニューロフィラメントレベル(例えば、pNF-H)は、300pg/mL超、400pg/mL超、500pg/mL超、600pg/mL超、700pg/mL超、800pg/mL超、900pg/mL超、1,000pg/mL超、1,500pg/mL超、2,000pg/mL超、3,000pg/mL超、4,000pg/mL超、または5,000pg/mL超である。特定の実施形態において、次の(例えば、第2の)生体試料中で測定されたニューロフィラメントレベルは、第1の生体試料中で測定されたニューロフィラメントレベルよりも低い。いくつかの実施形態において、次の(例えば、第2の)生体試料中で測定されたニューロフィラメントレベルは、第1の生体試料中で測定されたニューロフィラメントレベルに対して30%超(例えば、31%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、または95%)の低下を示す。
【0084】
別の実施形態において、SMAバイオマーカーは、WO2011/032109に記載されているもののいずれか1つである。
【0085】
別の実施形態において、SMAバイオマーカーは、WO2019197954に記載されているもののいずれか1つである。
【0086】
別の実施形態において、SMAバイオマーカーは、WO2019/122125に記載されているもののいずれか1つである。
【0087】
別の実施形態において、SMAバイオマーカーは、WO2019/147960に記載されているもののいずれか1つである。
【0088】
さらに別の実施形態において、SMAバイオマーカーは、COMP、DPP4、SPP1、CLEC3B、VTN、及びAHSGのうちの任意の1つ以上である。
【0089】
いくつかの実施形態において、前述のバイオマーカーのいずれかの組み合わせ(複数可)が、対象(例えば、ヒト)の試料からアッセイされる。
【0090】
キット
本開示はまた、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む脊髄性筋萎縮症を処置するためのキットを特徴とする。いくつかの例において、キットは、約50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む少なくとも1つの医薬組成物及び約28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む少なくとも1つの医薬組成物を含む。いくつかの例において、キットは、50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む少なくとも1つの医薬組成物及び28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む少なくとも1つの医薬組成物を含む。いくつかの例において、キットは、約50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む医薬組成物を含む。いくつかの例において、キットは、50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む医薬組成物を含む。他の例において、キットは、約28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む医薬組成物を含む。いくつかの例において、キットは、28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む医薬組成物を含む。いくつかの例において、医薬組成物は、PBSまたはaCSF中に製剤化される。いくつかの例において、キットは、5mLのPBSまたはaCSF中に希釈された本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を含む。いくつかの例において、キットは、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を10mg/mLの濃度で含む。いくつかの例において、キットは、本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を5.6mg/mLの濃度で含む。特定の例において、キットは、髄腔内投与用に製剤化された医薬組成物を含む。いくつかの例において、キットは、髄腔内ボーラス注入用に製剤化された医薬組成物を含む。
【0091】
一例において、キットは、凍結乾燥形態の本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩(例えば、ナトリウム塩)、ある体積(例えば、5から10mL)の希釈剤(例えば、PBS、aCSF)、注入用のシリンジ、及び/または使用のための説明書を含んでもよい。
【0092】
一例において、キットは、5mLの医薬組成物を含む少なくとも1つの単回投与バイアルを含んでもよく、医薬組成物は、50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を含み、その結果、単回投与バイアル中のアンチセンス化合物濃度は、10mg/mLである。
【0093】
一例において、キットは、5mLの医薬組成物を含む少なくとも1つの単回投与バイアルを含んでもよく、医薬組成物は、28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を含み、その結果、単回投与バイアル中のアンチセンス化合物濃度は、5.6mg/mLである。いくつかの例において、本明細書に記載されるキットは、注入用のシリンジ及び/または使用のための説明書をさらに含む。
【0094】
一例において、キットは、(i)5mLの医薬組成物を含む少なくとも1つの単回投与バイアルであって、医薬組成物は、50mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を含み、その結果、単回投与バイアル中のアンチセンス化合物濃度は、10mg/mLである、単回投与バイアルと;(ii)5mLの医薬組成物を含む少なくとも1つの単回投与バイアルであって、医薬組成物は、28mgの本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩を含み、その結果、単回投与バイアル中のアンチセンス化合物濃度は、5.6mg/mLである単回投与バイアルとを含んでもよい。いくつかの例において、本明細書に記載されるキットは、注入用のシリンジ及び/または使用のための説明書をさらに含む。
【0095】
以下の実施例は、特許請求対象の発明をより十分に例示するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。具体的な材料が言及される範囲で、それは単に例示の目的のためのものであり、本発明を限定することは意図しない。当業者は、発明能力の訓練無しに、及び本発明の範囲から逸脱すること無しに、同等の手段または反応物を開発することができる。
【実施例
【0096】
実施例1:ヌシネルセン集団PK/PD分析
SMAの対象におけるヌシネルセン臨床試験において、SMA症状の発症及び診断の前またはすぐ後に処置を受けた対象は、一般に処置開始の時点でより長い疾患期間を有した対象よりも良好な転帰を有した。乳児発症型SMA試験において、ヌシネルセン処置乳児の中で死亡の大半は、試験の最初の2か月以内、負荷量レジメンの完了及び定常状態ヌシネルセン濃度の達成前に起きた。I型SMAと関連する急速な衰弱及び早期の処置の重要性から、より高いヌシネルセン濃度をより急速に達成することが、ヌシネルセンの効力をさらに向上させ、SMAの患者における疾患進行を防ぐか、またはさらに緩和する可能性がある。遅発型SMAの対象における偽処置対照試験の結果と合わせた乳児発症型SMA試験の結果は、試験登録の時点でより短い疾患期間を有した両試験の対象が、長い疾患期間を有した対象よりも良好な転帰を有したため、疾患過程のより早期に治療濃度を達成することによってより大きな恩恵が付与されることを裏付けている。
【0097】
実施例2:曝露・反応関係
ヌシネルセン臨床開発プログラムの過程において、ヌシネルセンを与えられた乳児発症型SMAの14人の対象に関するデータを使用して探索的曝露・反応分析を行った。この分析の結果は、ヌシネルセンCSF曝露と運動機能との間に統計学的に有意な正の相関性を示した。対象の運動マイルストーンの成績に用量関連傾向が観察され、1、15、及び85日目に6mgの負荷量を与えられた対象と比較して12mgの負荷量を与えられた対象でより早く、大きな改善があった。すべての対象は、85日目以降4か月ごとに12mgの維持量を与えられた。2つのコホートに関する反応曲線の分離は、29日目前後に始まり、試験期間にわたりさらに大きくなった。
【0098】
より頻繁な投薬(1、15、29、及び64日目に12mgの負荷量、ならびに4か月ごとに12mgの維持量)を受けた乳児発症型SMAの対象において運動機能のより大きな改善も観察された。
【0099】
ヌシネルセン曝露と臨床反応との間の関係を調査する試験において、乳児発症型SMAの対象(診断または症状発症時の月齢が<6か月の対象)のデータを使用した。ヌシネルセンの定量的PK/PD関係を特徴づけるため、及びより高いヌシネルセン曝露が乳児発症型SMA集団における付加的な効力と関連づけられるかどうかを判断するために分析を行った。全体として、観察されたCSF Cトラフと運動機能有効性エンドポイント(CHOP-INTENDのベースラインからの変化)の間のPK/PD関係は、Emax関係に従うようであった(図1)。
【0100】
モデルの予測は、23ng/mLのCSF Cトラフが、観察された最大反応の90%を達成することを示唆する。この推定濃度は、12mgの認可された投与レジメンにより定常状態で達成された観察されたCSF Cトラフ(約10ng/mL)よりもおよそ2倍高い。これらの結果は、CNS曝露の増加(最大20ng/mL)が、今までに行われた臨床試験において観察されたレベルを超える臨床効果をもたらす可能性があることを示唆する。さらに、このより高い臨床曝露は、他の試験で観察された既存の臨床安全性と忍容性(31.3[24.8]ng/mLの最大平均[SD]CSF Cトラフ)、ならびに非ヒト霊長類における前臨床安全性の結果(データは示していない)によって裏付けられる。
【0101】
限定されたデータ及び遅発型集団ではより頻度の低い投与レジメンのより低い薬物曝露(試験273日目に約4.77ng/mL)が使用されるため、上記のPK/PD関係は、主に乳児発症型SMA集団において示された。しかしながら、認可された(より頻繁な)投与レジメンを受けた遅発型SMAの対象は、同じ試験内の乳児発症SMAの対象(302日目に10.7ng/mL)と同様のCSF Cトラフ濃度(302日目に約10ng/mL)を有した。乳児発症型SMAの対象において観察された正のPK/PD関係は、疾患及び薬物作用の同様のメカニズムを共有するSMA型及び患者年齢群にわたり同じであろうことが予想される。これは、4回の負荷量として12mgのヌシネルセン、それに続いて4か月ごとに12mgの維持量を与えられた乳児発症型または遅発型SMAの対象においてCSF Cトラフと総運動マイルストーンスコアとの間に正の相関性を示した別の研究の予備分析(データは示していない)によって裏付けられる。
【0102】
実施例3:負荷量最適化
少ない回数の髄腔内(IT)用量でより急速に標的のより高い薬物曝露(およそ2倍増加)をもたらす負荷投与レジメンを特定する目的でPKシミュレーションを行った。これらのシミュレーションは、乳児発症型及び遅発型SMA集団の両方に対して2年の処置後に実施し、乳児発症型、遅発型、または発症前SMAの年齢が≦6か月から18歳の間の患者からのデータを用いて開発された集団PKモデルに基づいた。以前のモデル化が、4か月の投与頻度が定常状態で達成されたCSF濃度を最も維持したことを示したため、維持投与頻度の評価は実施しなかった。
【0103】
臨床CSF Cトラフ標的濃度として20ng/mL及び参照投与レジメンとして24mgのヌシネルセン(4回の負荷量に続く4か月ごとの維持量)の予測されるCSF PKプロフィールを使用して、より高用量で負荷量頻度が低いさらなる投与シナリオを評価するためにシミュレーションを実施した。上述のとおり、以前のモデル化が、4か月ごとの投与頻度が定常状態で達成されたCSF濃度を最も維持したことを示したため、維持投与頻度のさらなる評価は実施しなかった。PKの直線性を仮定して、2年の処置後の乳児発症型及び遅発型SMA集団の両方において、≦6か月から18歳の年齢範囲にわたる患者から開発された集団PKモデルを使用してPKシミュレーションを実施した。参照投与レジメンに対して、4か月ごとの28mgの維持量がそれぞれ続く、(隔週で)3回の負荷量として投与された28mg及び(隔週で)2回の負荷量として投与された50mgの両方は、負荷量期間の終わりにより急速に所望のCSF Cトラフ(およそ20ng/mL)を達成することが確認された。(隔週で)3回の負荷量として投与されたヌシネルセン28mgは、参照投与レジメンと同等の予測CSF最高濃度(Cmax)を有したが、50mgの投与レジメンは、驚くべきことに参照投与レジメンからの予測Cmaxを超えた。28及び50mgの両方の安全性を評価する非ヒト霊長類安全試験が行われ、これらの用量の使用を裏付ける。
【0104】
実施例4:例となる投与レジメン
●50mgのヌシネルセンに相当する用量で投与される第1の負荷量のヌシネルセンナトリウム;
●第1の負荷量の投与の10から20日;10から18日;12から16日;または14日後に50mgのヌシネルセンに相当する用量で投与される第2の負荷量のヌシネルセンナトリウム;
●任意に、第2または第3の負荷量の投与の10から20日;10から18日;12から16日;または14日後に投与される50mgのヌシネルセンに相当する用量の第3及び/または第4の負荷量のヌシネルセンナトリウム;
●最後の負荷量の投与の約3から6か月;4から5か月;または4か月後に開始し、その後、約3から6か月、4から5か月、または4か月に1回継続して投与される28mgのヌシネルセンに相当する用量で投与される1回以上の維持量のヌシネルセンナトリウム。
投与体積:5mL
希釈剤:aCSFまたはPBS
投与:髄腔内ボーラス注入
【0105】
実施例5:例となる投与レジメン
それを必要とするヒト対象(例えば、乳児発症型SMA、遅発型SMA、成人発症型SMA、SMAの発症前の対象)に使用するための本明細書に記載のアンチセンス化合物またはその塩に関する例となる強化または高投与レジメンを以下に示す。
負荷量:1及び15日目に投与される50mgのヌシネルセンに相当するヌシネルセンナトリウムの用量;
維持量:第2の負荷量の4か月後に開始し、その後、4か月ごとに投与される28mgのヌシネルセンに相当するヌシネルセンナトリウムの用量。
投与体積:5mL
ビヒクル:aCSFまたはPBS
投与:髄腔内ボーラス注入
【0106】
実施例6:用量漸増(ブリッジング)投与レジメン
既にヌシネルセンの認可された12mgの投与レジメンを受けている対象を効果的に移行するプロセスを特定するためにPKモデル化及びシミュレーションを使用して可能性のある用量漸増投与レジメンも評価した。これらの評価の目的は、これらの対象におけるCSF曝露を、強化または高投与レジメンによってもたらされる標的濃度(およそ20ng/mL)に増加させることである。
【0107】
PKシミュレーションは、付加的な負荷量期間を必要とせず(4か月に1回の維持投薬間隔を維持する)、患者に対してリスクを増加させることなくより高い標的Cトラフをより急速に達成する用量漸増スキームを特定する目的でさまざまな投与レジメンを評価した。すべてのシミュレーションは、更新集団PKモデルを使用して実施した。4回の12mgの負荷量(1、15、29及び64日目)及びその後、4か月ごとに投与される2回の維持量を含んだ、12mgのヌシネルセンの認可された投与レジメンによる1年の処置後に用量漸増投与レジメンをシミュレーションした。すべての用量漸増投与レジメンは、認可された12mgの投与レジメンの4か月の維持投与頻度と一致するよう4か月の投与頻度に従う。
【0108】
それを必要とする12mgのヌシネルセンを予め投与されたヒト対象(例えば、乳児発症型SMA、遅発型SMA、成人発症型SMA、SMAの発症前の対象)に使用するための本明細書に記載のアンチセンス化合物(例えば、ヌシネルセンまたはそのナトリウム塩)に関する(対象におけるCSF曝露を、およそ20ng/mLの標的濃度に増加させることができる)例となる用量漸増投与レジメンを下に示す。
負荷量:1日目に投与される50mgのヌシネルセンに相当するヌシネルセンナトリウムの用量;
維持量:負荷量の4か月後に開始して投与され、その後、4か月ごとに投与される28mgのヌシネルセンに相当するヌシネルセンナトリウムの用量。
投与体積:5mL
ビヒクル:aCSFまたはPBS
投与:髄腔内ボーラス注入
【0109】
実施例7:その他の用量漸増レジメン
レジメン1
●12mgのヌシネルセンに相当する最後の用量のヌシネルセンナトリウムの4か月後に、患者は、50mgのヌシネルセンに相当する負荷量のヌシネルセンナトリウムを投与される;さらに
●28mgのヌシネルセンに相当する1回以上の維持量のヌシネルセンナトリウムが、その後、約4か月に1回投与される。
投与体積:5mL
ビヒクル:aCSFまたはPBS
投与:髄腔内ボーラス注入
【0110】
レジメン2
●12mgのヌシネルセンに相当する最後の用量のヌシネルセンナトリウムの4か月後に、患者は、28mgのヌシネルセンに相当する第1の負荷量を投与される;
●50mgのヌシネルセンに相当する第2の負荷量のヌシネルセンナトリウムが、第1の負荷量の約4か月後に投与される;さらに
●28mgのヌシネルセンに相当する1回以上の維持量のヌシネルセンナトリウムが、その後、約4か月ごとに投与される。
投与体積:5mL
ビヒクル:aCSFまたはPBS
投与:髄腔内ボーラス注入
【0111】
その他の実施形態
本発明の態様は、その詳細な説明とともに記載されているが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例示することを意図しており、限定することを意図していない。他の態様、利点、及び変更は、以下の特許請求の範囲内である。
図1
【配列表】
2022540993000001.app
【国際調査報告】