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特表2022-541021神経変性障害を治療するためのベンゾエート含有組成物の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-21
(54)【発明の名称】神経変性障害を治療するためのベンゾエート含有組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/235 20060101AFI20220913BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61K31/235
A61K9/72
A61P25/14
A61K9/70 401
A61P25/16
A61P25/28
A61P9/04
A61P3/10
A61P19/10
A61P1/00
A61P21/00
A61P15/08
A61K47/24
A61K47/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502252
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(85)【翻訳文提出日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 US2020041849
(87)【国際公開番号】W WO2021011500
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】62/874,625
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302057661
【氏名又は名称】ラッシュ・ユニバーシティ・メディカル・センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】パハン, カリパーダ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076AA93
4C076BB01
4C076BB22
4C076BB27
4C076BB31
4C076CC01
4C076DD23
4C076DD63
4C076DD63Q
4C076FF63
4C206AA02
4C206DB16
4C206DB47
4C206DB48
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA33
4C206MA72
4C206MA77
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA16
4C206ZA22
4C206ZA36
4C206ZA37
4C206ZA66
4C206ZA81
4C206ZA94
4C206ZA97
4C206ZC35
(57)【要約】
本開示は、概して、疾患及び障害の治療に有用な改善された薬学的組成物に関する。より具体的には、本開示は、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む、神経変性障害及び末梢疾患の治療のための薬学的組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経発生障害の進行を抑制するための方法であって、それを必要とする患者に、グリセリルトリベンゾエート又はグリセリルジベンゾエートの一方又は両方を含む有効量の薬学的組成物を、投与することを含み、ここで、投与することは吸入剤形の薬学的組成物を送達することを含み、薬学的組成物は患者によって吸入される、方法。
【請求項2】
薬学的組成物を噴霧して、吸入剤形を作製することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薬学的組成物が、1日1回、1日2回、及び1日3回からなる群から選択されるやり方で患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
有効量が、約2mg/kg/日~約10mg/kg/日である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
投与することが、経口剤形の薬学的組成物を患者に送達することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
神経変性障害がハンチントン病である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの1つ又は複数を含む有効量の薬学的組成物を患者に投与することを含む、患者の自発運動を改善するための方法。
【請求項8】
薬学的組成物が、1日1回、1日2回、及び1日3回からなる群から選択されるやり方で患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
有効量が約2mg/kg/日~約400mg/kg/日である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
薬学的組成物を投与することが、患者に薬学的組成物の経皮パッチを施用すること、吸入剤形を送達すること及び経口剤形を送達することの1つ又は複数を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの1つ又は複数を含む有効量の薬学的組成物を患者に投与することを含む、神経発生障害の進行を治療又は抑制する方法であって、ここで、グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの1つ又は複数を含む有効量薬学的組成物を投与することは、患者の脳内の細胞の活性化を低減させ、細胞は、星状膠細胞、小膠細胞、及びその任意の組合せからなる群から選択され、神経変性疾患はハンチントン病、パーキンソン病、及びアルツハイマー病の1つ又は複数から選択される、方法。
【請求項12】
薬学的組成物が、1日1回、1日2回、及び1日3回からなる群から選択されるやり方で患者に投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
有効量が、約2mg/kg/日~約400mg/kg/日である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
薬学的組成物を投与することは、患者に経口剤形を送達すること、経皮パッチを施用すること、及び吸入剤形を送達することの1つ又は複数を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
ハンチントン病の患者における中枢神経系外の障害を治療又は遅延させる方法であって、グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの1つ又は複数を含む有効量の薬学的組成物を患者に投与することを含み、ここで、中枢神経系外の障害は、心不全、意図しない体重減少、グルコース不耐性、骨粗鬆症、消化管異常、筋萎縮、及び精巣萎縮の1つ又は複数を含む、方法。
【請求項16】
神経変性障害ハンチントン病の進行を抑制するための方法であって、グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの1つ又は複数を含む有効量の薬学的組成物を、それを必要とする患者に投与することを含み、ここで、投与することは口腔投与を含み、神経変性疾患はハンチントン病、パーキンソン病、及びアルツハイマー病の1つ又は複数から選択される、方法。
【請求項17】
薬学的組成物が、グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエート安定剤をさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの1つ又は複数を含む口腔製剤であって、任意選択で口腔製剤がグリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエート安定剤をさらに含み、ここで、グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエート安定剤は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、又は他のリン脂質の1つ又は複数を含む、口腔製剤。
【請求項19】
グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの1つ又は複数を含む吸入剤形であって、任意選択でグリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエート安定剤と食塩水をさらに含む、吸入剤形。
【請求項20】
グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの1つ又は複数を含み、グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエート安定剤と1つ又は複数の薬学的に許容される添加物をさらに含む、経口剤形。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に疾患及び障害の治療に有用な改善された薬学的組成物に関する。より具体的には、本開示は、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む、神経変性障害及び末梢疾患の治療のための薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シナモンの木の茶色の樹皮である桂皮は、デザート、キャンディ、チョコレートなどに一般的に使用される香辛料及び調味料である。その上、それは薬として使用されてきた長い歴史がある。中世の医師は、関節炎、咳嗽、嗄声、咽頭炎などを含む種々の障害を治療するために、薬に桂皮を使用した。マンガン、食物繊維、鉄、及びカルシウムを含有することに加えて、桂皮は、3つの主要な化合物-シンナムアルデヒド、シンナミルアセテート及びシンナミルアルコールを含有する。摂取後、これらの3つの活性化合物は、酸化及び加水分解によって、それぞれ桂皮酸に変換される。次いで、桂皮酸は、肝臓でβ酸化されてベンゾエートになる。このベンゾエートは、ナトリウム塩(安息香酸ナトリウム)又はベンゾイル-CoAとして存在する。
【0003】
グリセロールトリベンゾエート又はトリベンゾイン(IUPAC名:2、3-ジベンゾイルオキシプロピルベンゾエート)は、安息香酸ファミリーのメンバーである。それは、エステル結合によって3個の安息香酸分子と結合したグリセロールから構成されている。グリセロールトリベンゾエートは、体内の異なるリパーゼによって切断されて、3個のベンゾエート分子が生成される。通常、膵臓リパーゼは、グリセロールの第一及び第三炭素原子にエステル化された安息香酸を加水分解し、2-モノベンゾイルグリセロール及び2分子の安息香酸を形成する。次いで、イソメラーゼは、エステル結合を2位から1位に移す。次に、1位にある結合を膵臓リパーゼによって加水分解して、遊離グリセロール及びもう1つの安息香酸分子を形成する。さらに、安息香酸は、主にそのナトリウム塩として存在する。安息香酸ナトリウムは、尿によって体からすぐに排出され、有効用量を維持するために高用量が必要である。グリセロールトリベンゾエートは、一般に食品又は食品包装に使用するのに安全であると認識されている、FDAに認可された間接食物添加剤である。
【0004】
安息香酸ナトリウムは、その抗微生物特性のために、広く用いられている食品防腐剤である。それはまた、尿素サイクル障害などの高アンモニア血症と関連する肝代謝障害の治療に使用される食品医薬品局(FDA)に認可された薬物(現在中止されている)であるUCEPHAN(登録商標)の成分として医学的な重要性をもつ。本発明者は、雌のSJL/Jマウスにおける再発寛解型EAEの疾患プロセスの治療における安息香酸ナトリウムの新規使用を検討した(Brahmachari及びPahan、「Sodium benzoate, a food additive and a metabolite of cinnamon, modifies T cells at multiple steps and inhibits adoptive transfer of experimental allergic encephalomyelitis」、J. Immunol.、2007、7月1日、179(1):275~83を参照されたい。その全ての内容は、参照により本出願に明確に組み入れられる)。
【0005】
興味深いことに、炎症誘発性サイトカインは、神経変性障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症及びハンチントン病において役割があることが判明している。例えば、小膠細胞が、傷害、虚血、及び感染を含む中枢神経系内のいくつかの異なる病的状態に反応して活性化されることが示されている。小膠細胞活性化は、炎症誘発性サイトカイン、例えばIL-1、IL-6、及びTNF-αの産生をもたらす。このような慢性の小膠細胞活性化はまた、神経変性障害の発症及び進行に寄与し得る。Smithら、「Role of pro-inflammatory cytokines released from microglia in neurodegenerative diseases」、Brain Research Bull.2012、87:10~20頁を参照されたい。
【0006】
ハンチントン病(HD)は、線条体及び皮質におけるニューロンの選択的喪失を特徴とする神経変性障害であり、進行性運動機能障害、認知機能低下、及び精神障害をもたらす。HDの原因はよく説明されている-HDは、染色体4p16.3上のハンチンチン(HTT)をコードする遺伝子のトリヌクレオチド(CAG)反復拡大が原因の遺伝的障害である-が、ニューロンの死の最終的な原因は依然として不明である。異常タンパク質を処理するシステムの障害は別として、他の代謝経路及びメカニズムは、HDの神経変性及び進行に寄与する可能性がある。これらの中で、炎症は、HDの病因に関与しているようである。したがって、免疫系を標的化したHDの進行を遅らせるためのいくつかの試みがあった。Rochaら、「Neuroimmunology of Huntington’s Disease:Revisiting Evidence from Human Studies」、Mediators Inflammation 2016 (Article ID 8653132):1~10頁を参照されたい。
【0007】
HDはまた、中枢神経系及び末梢の両方で炎症伝達物質の増加に関連している。炎症過程の結果としての末梢組織の異常が疾患の進行における重要な因子であることを示唆する証拠の量が増加している。このような末梢組織の異常には、骨格筋機能不全、例えば筋ジストロフィー)、心筋症及び心不全、胃腸障害、骨粗鬆症、糖尿病、肥満及び男性の生殖機能障害が含まれていた。Mielcarek、「Huntington’s disease is a multi-system disorder」、Rare Dis. 2015;3(Article ID e1058464):1~3頁;Akihoら、「Cytokine-induced alterations of gastrointestinal motility in gastrointestinal disorders」、World J Gastrointest Pathophysiol 2011;2:72~81頁;DePaepeら、「Cytokines and Chemokines as Regulators of Skeletal Muscle Inflammation:Presenting the Case of Duchenne Muscular Dystrophy」、Mediators Inflammation、2013(Article ID 540370):1~10頁;Kumarら、「Role of Cytokines in Heart Failure」、J Pharmacol Rep 2017、2:1~6頁;Stenzら、「Proinflammatory Cytokines, Markers of Cardiovascular Risks, Oxidative Stress, and Lipid Peroxidation in Patients with Hyperglycemic Crises」、Diabetes、2004、53:2079~2086頁;Xiaoら、「Cytokines and Diabetes Research」、J Diabetes Res、2014(Article ID 920613):1~2頁;Schmidtら、「Inflammatory Cytokines in General and Central Obesity and Modulating Effects of Physical Activity」、PLOS One、2015、Article ID 0121971):1~17頁;McLean、「Proinflammatory Cytokines and Osteoporosis」、Current Osteoporosis Rep. 2009、7:134~139頁;Lovelandら、「Cytokines in Male Fertility and Reproductive Pathologies: Immunoregulation and Beyond」、Front. Endocrinol. 8:307.doi:10.3389/fendo.2017.00307を参照されたい。
【0008】
加えて、本発明者は、安息香酸ナトリウムが、マウスにおける多発性硬化症(MS)の疾患プロセスを抑制することも発見した。本発明者は、安息香酸ナトリウムが、パーキンソン病(PD)及びアルツハイマー病(AD)などの神経変性障害と関連がある有益な神経保護タンパク質であるDJ-1と呼ばれているタンパク質を上方制御することも発見している(Khasnavis及びPahan、「Sodium Benzoate, a Metabolite of Cinnamon and a Food Additive, Upregulates Neuroprotective Parkinson Disease Protein DJ-1 in Astrocytes and Neurons」、Journal of Neuroimmune Pharmacology、2012年6月、7巻、2号、424~435頁を参照されたい。その全ての内容は、参照により本出願に明確に組み入れられる)。
【0009】
さらに、脳由来神経栄養因子(BDNF)及びニューロトロフィン-3(NT-3)などの神経栄養因子のレベルが、AD及びPDなどの異なる神経変性障害の患者の脳で減少することが判明している。近年、本発明者は、安息香酸ナトリウムが脳細胞でBDNF及びNT-3の産生を増加させることを正確に概説しており、それは、神経変性障害に有益であり得ることを示している(Janaら、「Up-regulation of neurotrophic factors by cinnamon and its metabolite sodium benzoate:therapeutic implications for neurodegenerative disorders」、J. Neuroimmune Pharmacol.、2013年6月;8(3):739~55を参照されたい。その全ての内容は、参照により本出願に明確に組み入れられる)。
【0010】
しかしながら、安息香酸ナトリウムは、すぐに代謝され、体から排出される。したがって、血流から有毒なアンモニアを継続的に確実に除去するために、安息香酸ナトリウムは、一般に1日当たり複数回投与される。
【0011】
必要とされているのは、容易に投与され特許(patent)に好都合な安息香酸ナトリウム及び関連する薬物を投与するための組成物及び方法である。安息香酸ナトリウムは、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、及び他の神経変性障害に関連して有益な効果を示すが、安息香酸ナトリウムがすぐに代謝され、体から排出される事実は、1日中患者にこの化合物を繰り返し投与することによってのみ対処できるいくつかの問題を提起する。したがって、投与計画の軽減及び患者の服薬遵守の改善を可能にする安息香酸ナトリウムの長期曝露形態は、有益なはずである。
【発明の概要】
【0012】
本発明者は、種々の障害及び疾患を治療するための組成物及び方法を発見した。いくつかの実施形態では、本開示は、ハンチントン病の進行を抑制するための方法を提供する。この方法は、それを必要とする患者に、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む有効量の薬学的組成物を、投与することを含み、ここで、投与することは吸入剤形の薬学的組成物を送達することを含み、薬学的組成物は患者によって吸入される。
【0013】
他の実施形態では、この方法は、薬学的組成物を噴霧して、吸入剤形を作製することをさらに含んでいてもよい。特定の実施形態では、薬学的組成物は、吸入器によって噴霧することができる。他の実施形態では、投与することは、経口剤形の薬学的組成物を患者に送達することをさらに含んでいてもよい。開示された実施形態のいずれかにおいて、この方法は、薬学的組成物を投与するために患者に経皮パッチを施用することをさらに含んでいてもよい。
【0014】
開示された実施形態のいずれかにおいて、薬学的組成物は、1日1回、1日2回、及び1日3回を含むいずれかで患者に投与することができる。
【0015】
本開示はまた、神経変性障害の進行を抑制するための方法を提供する。この方法は、それを必要とする患者に、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む有効量の薬学的組成物を投与することを含む。
【0016】
開示された実施形態のいずれかにおいて、神経変性障害は、ハンチントン病であってもよい。
【0017】
本開示は、患者の自発運動を改善するための方法をさらに提供する。この方法は、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む有効量の薬学的組成物を患者に投与することを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、自発運動には、歩行、走行、跳躍、及びその任意の組合せの1つ又は複数が含まれ得る。
【0019】
本開示はまた、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む有効量の薬学的組成物を患者に投与すること、及び患者の脳内の細胞の活性化を低減させることを含む方法を提供し、ここで、細胞は、星状膠細胞、小膠細胞、及びその任意の組合せからなる群から選択される。
【0020】
特定のいくつかの実施形態では、皮質及び/又は線条体は、細胞を含む。
【0021】
本開示は、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む有効量の薬学的組成物を患者に投与すること、及び中枢神経系外の組織及び/又は器官を治療することを含む方法をさらに提供する。
【0022】
いくつかの実施形態では、器官は心臓であり、方法は心不全を予防又は遅延させる。
【0023】
他の実施形態では、方法は、意図しない体重減少、グルコース不耐性、骨粗鬆症、消化管異常、筋萎縮、精巣萎縮、及びその任意の組合せからなる群から選択されるメンバーを予防又は遅延させる。
【0024】
本開示はまた、ハンチントン病の進行を抑制するための方法を提供する。この方法は、それを必要とする患者に、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む有効量の薬学的組成物を投与することを含み、ここで、投与することは、口腔投与を含む。
【0025】
本開示は、口腔投与のための組成物(例えば、口腔組成物)をさらに提供する。口腔組成物は、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む。さらに、組成物は、本明細書に開示されている任意の他の成分を含んでいてもよい。例えば、組成物は、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエート安定剤(「GTB/GDB安定剤」)を含んでいてもよい。
【0026】
開示された実施形態のいずれかにおいて、吸入剤形は、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含み、本明細書に開示されている任意の他の成分をさらに含んでいてもよい。例えば、組成物は、GTB/GDB安定剤を含んでいてもよい。
【0027】
本開示は、経口グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエート剤形をさらに提供し、これは口腔、錠剤、カプセル剤、液剤、又はフィルムの形態中にグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む。さらに、組成物は、本明細書に開示されている任意の他の成分を含んでいてもよい。例えば、組成物は、GTB/GDB安定剤を含んでいてもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、本明細書における組成物、製剤、又は剤形は、GTB/GDB安定剤をさらに含んでいてもよい。GTB/GDB安定剤は、それだけには限らないが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、又は他のリン脂質からなる群から選択される1種又は複数の薬剤であってもよい。それはまた、異なるリン脂質の混合物を含有していてもよい。口腔送達の場合、唾液中に存在するリパーゼが口中のグリセリルトリベンゾエートを分解する可能性があるので、安定剤の添加は重要である。1種又は複数のGTB/GDB安定剤の存在は、それだけには限らないが、口腔、経鼻、若しくは経皮投与に適合した組成物、製剤、若しくは剤形の要素、又はそれらを利用する方法の要素であってもよい。その上、鼻腔内投与又は噴霧の場合、それは食塩水と混合することができる。
【0029】
前述は、後に続く詳細な説明がよりよく理解されるように、本開示の特徴及び技術的な利点を、むしろ大まかに概説している。本開示のさらなる特徴及び利点は、本出願の特許請求の範囲の主題を構成する以下に記載されることになる。開示された概念及び特定の実施形態が、本開示の同じ目的を実施するための他の実施形態を修正又は設計するための基準として容易に利用され得ることは、当業者によって理解されるべきである。このような同等の実施形態が、添付の特許請求の範囲に記載されている本開示の趣旨及び範囲から逸脱しないことも当業者によって理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A-1E】グリセロールトリベンゾエートの噴霧がハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスの自発運動を改善することを示す、実施した実験の結果を示す図である。
図2A-2F】図2A及び2Bは、免疫組織化学的研究の結果を示す図である。図2C及び2Dは、GTB処理及び未処理マウスの線条体及び皮質におけるハンチンチン封入(+ve)細胞の数を示す図である。図2E及び2Fは、ウエスタンブロット分析の結果を示す図である。
図3A-3G】図3Aは、免疫組織化学的研究の結果を示す図である。図3Bは、二重標識免疫蛍光研究の結果を示す図である。図3Cは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス、及びGTB処理N171-82Qマウス中のIba-1+ve細胞の数をカウントした図である。図3Dは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス、及びGTB処理N171-82Qマウス中のiNOSの平均蛍光強度(MFI)を示す図である。図3Eは、Iba-1及びiNOSのウエスタンブロットを示す図である。図3F及び3Gは、図3Eに示したウエスタンブロットの定量分析を示す図である。
図4A-4G】図4Aは、免疫組織化学的研究の結果を示す図である。図4Bは、二重標識免疫蛍光研究の結果を示す図である。図4Cは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス、及びGTB処理N171-82Qマウス中のIba-1+ve細胞の数をカウントした図である。図4Dは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス、及びGTB処理N171-82Qマウス中のiNOSの平均蛍光強度(MFI)を示す図である。図4Eは、Iba-1及びiNOSのウエスタンブロットを示す図である。図4F及び4Gは、図4Eに示したウエスタンブロットの定量分析を示す図である。
図5A-5D】図5A及び5Bは、DAB染色法の結果を示す図である。図5C及び5Dは、2つの線条体及び皮質切片中のGFAP(+)ve細胞の数をカウントした図である。
図6A-6B】ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスにおける炎症誘発性サイトカインの血清レベルを低下させるグリセロールトリベンゾエート(GTB)の経口投与の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示を通して、種々の数量、例えば量、サイズ、寸法、比率などが範囲形式で提示される。範囲形式における数量の記載は単に便宜上及び簡潔化のためであり、任意の実施形態の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、特に文脈が明確に示さない限り、具体的に開示された可能な全ての部分範囲並びにその範囲内の個々の全ての数値を有すると見なさなければならない。例えば、1~6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲、例えば1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6など、並びにその範囲内の個々の値、例えば、1.1、2、2.3、4.62、5、及び5.9を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。これらの介在範囲の上限及び下限値は、独立してより小さな範囲に含まれていてもよく、また、記載された範囲の任意の具体的に排除されている限界に従って、本開示内に包含される。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合には、特に文脈が明確に示さない限り、含まれる限界のどちらか又は両方を排除した範囲も本開示に含まれる。
【0032】
本明細書で使用される専門用語は、特別な実施形態を説明することを目的とするだけであり、どんな実施形態も限定することを意図したものではない。本明細書では、単数形の「a」、「an」及び「the」は、特に文脈が明確に示さない限り、複数形も含むことが意図されている。さらに、用語「含める(includes)」、「含む(comprises)」、「含めている(including)」及び/又は「含んでいる(comprising)」は、本明細書で使用する場合、記載された特徴、整数、工程、操作、要素、及び/又は構成要素の存在を指定するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、工程、操作、要素、構成要素、及び/又はそれらの群の存在又は追加を除外しないことが理解されるだろう。本明細書では、用語「及び/又は」は、関連する列挙項目の1つ又は複数の任意の全ての組合せを含む。その上、「A、B、及びCの少なくとも1つ」の形態でリストに含まれている項目は、(A);(B);(C);(A及びB);(B及びC);(A及びC);又は(A、B、及びC)を意味する場合があることを理解されたい。同様に、「A、B、又はCの少なくとも1つ」の形態で列挙されている項目は、(A);(B);(C);(A及びB);(B及びC);(A及びC);又は(A、B、及びC)を意味する場合がある。
【0033】
特に記載のない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書では、数又は数の範囲に関連する用語「約」は、記載された数及びその数の+/-10%、又はある範囲の列挙された値に対して列挙された下限の10%未満及び列挙された上限の10%超を意味すると理解されている。
【0034】
本開示は、薬学的組成物の投与を毎日1回だけ必要とする、ハンチントン病、アルツハイマー病、及びパーキンソン病及び他の運動障害を含むが、それだけには限定されない、神経変性障害の新規な治療を提供する。その上、本発明者は、組成物送達のために噴霧技術を使用することによって、患者に投与される組成物の量を著しく減少させることができることを発見した。特定の実施形態では、本明細書に開示された薬学的組成物は、グリセリルトリベンゾエート(別名トリベンゾイン)を含む。特定の実施形態では、本明細書に開示された薬学的組成物は、グリセリルジベンゾエートを含む。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートを含む。
【0035】
グリセリルジベンゾエート及びグリセリルトリベンゾエートは、これらの分子が種々のリパーゼによって腸内で切断されることになるので、体内で安息香酸ナトリウムをゆっくり形成することになる。したがって、グリセリルジベンゾエート及びグリセリルトリベンゾエートは、安息香酸ナトリウムと比較して大幅に向上した治療効果を示すことが仮定される。
【0036】
いくつかの実施形態では、神経変性障害の進行を抑制するための治療が開示されている。神経変性障害の非限定的な例は、ハンチントン病である。治療は、それを必要とする患者に、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む有効量の薬学的組成物を投与することを含む。いくつかの態様では、神経変性障害は、正常な対象と比べてBDNF又はNT-3のレベルの低下によって識別され得る。本開示によれば、治療は、1日1回施すことができる。いくつかの態様では、治療は、1日2回、1日3回、又は1日3回を超えて施すことができる。
【0037】
本開示によって企図される治療方法において、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートは、単独で又は薬学的に許容される担体若しくは添加物と一緒に組成物で使用することができる。例えば、経口剤形組成物は、薬学的に許容される担体に加えてグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含んでいてもよい。吸入剤形組成物は、薬学的に許容される担体に加えてグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含んでいてもよい。口腔投与のための組成物は、薬学的に許容される担体に加えてグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含んでいてもよい。さらに、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを患者に投与する方法の一部として経皮パッチを使用する場合、経皮パッチは、薬学的に許容される担体に加えてグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含んでいてもよい。
【0038】
本明細書では、用語「薬学的に許容される担体」は、無毒性で、不活性な固体、半固体若しくは液体充填剤、希釈剤、封入材料又は任意のタイプの処方助剤を意味する。
【0039】
薬学的に許容される担体の役割を果たし得る材料のいくつかの例は、糖類、例えばラクトース、グルコース及びスクロース;デンプン、例えばコーンスターチ及びジャガイモデンプン;セルロース及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及びセルロースアセテート;粉末状トラガカント;モルト;ゼラチン;タルク;添加物、例えばカカオ脂及び坐剤ワックス;油、例えばピーナッツ油、綿実油;ベニバナ油;ゴマ油;オリーブ油;トウモロコシ油及び大豆油;グリコール、例えばプロピレン グリコール;エステル、例えばエチルオレエート及びエチルラウレート;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張生理食塩水;リンゲル液;エチルアルコール、及びリン酸緩衝液、並びに他の無毒性相溶性潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、並びに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味料、香料及び芳香剤、防腐剤及び抗酸化剤も、配合者の判断によって組成物中に存在していてもよい。他の適当な薬学的に許容される添加物は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、 Mack Pub.Co.、New Jersey、1991に記載されており、その内容は、参照により本明細書に明白に組み込まれる。
【0040】
本明細書の組成物、製剤、又は剤形は、1つ又は複数のGTB/GDB安定剤をさらに含んでいてもよい。本明細書では、GTB/GDB安定剤は、それが不在の場合の変換と比較して、製剤又は剤形が投与される環境においてグリセリルトリベンゾエート又はグリセリルジベンゾエートが安息香酸塩に変換される前の時間を延長する物質である。GTB/GDB安定剤の非限定的な例には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、又は他のリン脂質が含まれる。1つ又は複数のGTB/GDB安定剤をさらに含む組成物、製剤、又は剤形は、本明細書の方法のいずれか1つで投与することができる。GTB/GDB安定剤は、本明細書の組成物、製剤、又は剤形中に約50mg~約1000mgの量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、GTB/GDB安定剤は、約50mg~約500mg又は約50mg~約100mgの範囲の量で存在していてもよい。
【0041】
グリセリルトリベンゾエート、グリセリルジベンゾエート、及び/又は薬学的に許容される担体に加えて、経口剤形組成物は、1つ又は複数のGTB/GDB安定剤を含んでいてもよい。経口剤形のGTB/GDB安定剤は、約50mg~約1000mgの量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、GTB/GDB安定剤は、約50mg~約500mg又は約50mg~約100mgの範囲の量で存在していてもよい。
【0042】
グリセリルトリベンゾエート、グリセリルジベンゾエート、及び/又は薬学的に許容される担体に加えて、吸入剤形組成物は、1つ又は複数のGTB/GDB安定剤を含んでいてもよい。吸入剤形のGTB/GDB安定剤は、約50mg~約1000mgの量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、GTB/GDB安定剤は、約50mg~約500mg又は約50mg~約100mgの範囲の量で存在していてもよい。
【0043】
グリセリルトリベンゾエート、グリセリルジベンゾエート、及び/又は薬学的に許容される担体に加えて、口腔投与のための組成物は、1つ又は複数のGTB/GDB安定剤を含んでいてもよい。口腔投与のための組成物中のGTB/GDB安定剤は、約50mg~約1000mgの量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、GTB/GDB安定剤は、約50mg~約500mg又は約50mg~約100mgの範囲の量で存在していてもよい。
【0044】
グリセリルトリベンゾエート、グリセリルジベンゾエート、及び/又は薬学的に許容される担体に加えて、経皮パッチは、1つ又は複数のGTB/GDB安定剤を含んでいてもよい。経皮投与のための組成物中のGTB/GDB安定剤は、約50mg~約1000mgの量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、GTB/GDB安定剤は、約50mg~約500mg又は約50mg~約100mgの範囲の量で存在していてもよい。
【0045】
当技術分野で通常理解されているように、経皮パッチは患者の皮膚の上に貼付する粘着パッチである。パッチは、組成物/薬物を含み、皮膚を介して組成物/薬物を患者に送達する。
【0046】
いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、噴霧技術を用いて患者に投与することができる。ネブライザーを使用して、薬学的組成物の溶液を、患者が吸入し得る微細ミストに変えることができる。本発明者は、注射又は丸剤の投与など他の送達技術とは対照的に、この技術の多くの利益を判断した。
【0047】
例えば、薬学的組成物の投与量は、噴霧を送達方法として使用する場合、著しく減らすことができる。場合によっては、投与量は、例えば、注射、溶液の経口投与/摂取又は丸剤の経口投与/摂取と比較して、約10分の1又は20分の1に減らすことができる。その上、噴霧技術を使用すると、消化器系を迂回するが、薬学的組成物の丸剤又は溶液を摂取すると、組成物が消化器系に送られる。最終的に、噴霧技術を使用すると、薬学的組成物が嗅球から脳に直接移動することが可能になる。
【0048】
いくつかの実施形態では、噴霧した薬学的組成物は、口又は鼻腔の一方又は両方から吸入することができる。特定の理論に拘泥するものではないが、組成物の経鼻投与は、脳に直接送達するために血液脳関門を迂回するためのいくつかの可能性が存在する「鼻から脳」(N2B)輸送系を活用できると考えられている。これらには、鼻粘膜に吸収された薬物が副鼻腔に、最終的に頚動脈に排出されることが含まれ、その場合静脈血から脳への「向流移動」が起こる可能性がある。中枢神経系(CNS)間の嗅神経三叉神経から血管周囲腔へのリンパ排液も、N2B輸送のメカニズムと仮定されている。
【0049】
ネブライザーは当技術分野で公知であり、本開示の発明は、任意のネブライザーと一緒に使用することができる。例えば、本明細書に開示された薬学的組成物は、吸入器又はBuxco(登録商標)Inhalation Tower All-In-One Controllerで噴霧することができる。
【0050】
特定の実施形態では、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートは、経口投与されて、ヒト及び他の動物によって摂取され得る。
【0051】
グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートは、投与のために製剤化され得る。製剤化の方法は当技術分野でよく知られている(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、Mack Publishing Company、Easton、Pa.、第19版(1995)を参照されたい)。本開示に従って使用する薬学的組成物は、滅菌の形態で、非発熱性溶液又は懸濁液、コーティングされたカプセル、凍結乾燥した粉末、又は当技術分野で公知の他の形態であってよい。
【0052】
経口投与のための固体剤形には、例示的だが非限定的な例として、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、フィルム及び顆粒剤が含まれる。固体剤形では、活性化合物は、少なくとも1つの不活性な、薬学的に許容される添加物又は担体と混合されてもよい。添加物又は担体の例示的な、非限定的な例には、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、並びに/又はa)1つ若しくは複数の充填剤又は増量剤(充填剤又は増量剤は、それだけには限らないが、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及びケイ酸から選択される1つ又は複数であってもよい)、b)1つ若しくは複数の結合剤(結合剤は、それだけには限らないが、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、及びアカシアから選択されてもよい)、c)1つ若しくは複数の保湿剤(保湿剤は、それだけには限らないが、グリセロールであってもよい)、d)1つ若しくは複数の崩壊剤(崩壊剤は、それだけには限らないが、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ若しくはタピオカデンプン、アルギン酸、ケイ酸塩、及び炭酸ナトリウムから選択されてもよい)、e)1つ若しくは複数の溶解遅延剤(例えば、それだけには限らないが、パラフィン)、f)1つ若しくは複数の吸収促進剤(それだけには限らないが、第四級アンモニウム化合物から選択される)、g)1つ若しくは複数の湿潤剤(例えば、それだけには限らないが、アセチルアルコール及びグリセロールモノステアレート)、h)1つ若しくは複数の吸収剤(それだけには限らないが、カオリン及びベントナイト粘土から選択される)、並びにi)1つ若しくは複数の潤滑剤(それだけには限らないが、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、及びラウリル硫酸ナトリウムから選択される)が含まれる。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合は、例えば、剤形は、緩衝剤も含んでいてもよい。
【0053】
類似したタイプの固体組成物は、ラクトース又は乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコールなどの添加物を用いた軟及び硬充填ゼラチンカプセルの充填剤として使用してもよい。
【0054】
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、及び顆粒剤の固体剤形は、コーティング及びシェルで調製することができる。コーティング及びシェルの例示的な、非限定的な例には、腸溶コーティング及び医薬製剤技術分野でよく知られている他のコーティング/シェルが含まれる。それらは場合によって不透明剤を含有してよく、有効成分(複数可)だけを、又は優先して腸管の特定の部分で、場合によって遅効性の方法で放出する組成物でもあり得る。使用し得る埋封組成物の例には、それだけには限らないが、ポリマー物質及びワックスが含まれる。
【0055】
活性化合物は、上記のように1つ又は複数の添加物と共にマイクロカプセルに入れた形態にしてもよい。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、及び顆粒剤の固体剤形は、コーティング及びシェルで調製することができる。コーティング又はシェルは、それだけには限らないが、腸溶コーティング、放出制御コーティング及び医薬製剤技術分野における他のコーティングであってもよい。固体剤形では、活性化合物は、少なくとも1つの不活性希釈剤と混合してもよい。不活性希釈剤には、 それだけには限らないが、スクロース、ラクトース又はデンプンの1つ又は複数が含まれる。剤形は、不活性希釈剤以外の追加の物質も含んでいてもよい。追加の物質は、それだけには限らないが、打錠滑沢剤及び他の打錠補助剤であってもよい。打錠滑沢剤及び他の補助剤は、それだけには限らないが、ステアリン酸マグネシウム及び微結晶性セルロースであってもよい。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、例えば、剤形は、緩衝剤も含んでもよい。それらは、不透明剤を含んでいてもよい。それらは、有効成分(複数可)だけを、又は優先して、腸管の特定の部分で、放出する組成物でもあり得る。放出は、遅効性の方法であってもよい。使用し得る埋封組成物の例には、それだけには限らないが、ポリマー物質及びワックスが含まれる。
【0056】
経口投与のための液体剤形には、それだけには限定されないが、薬学的に許容される乳剤、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤が含まれる。活性化合物に加えて、液体剤形は、1つ又は複数の不活性希釈剤を含んでいてもよい。不活性希釈剤は、当技術分野で一般的に用いられるものから選択してもよい。不活性希釈剤の例示的な、非限定的な例には、水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤(それだけには限らないが、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカーボネート、EtOAc、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実、落花生、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシ、及びゴマの油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、及びその混合物を含む)が含まれる。経口組成物は、1つ又は複数のアジュバントを含んでいてもよい。アジュバントの例示的な、非限定的な例には、湿潤剤、乳化及び懸濁化剤、甘味料、香料、及び芳香剤が含まれる。
【0057】
本開示の組成物の有効量は、神経変性障害の進行を抑制する(例えば、遅らせる又は停止させる)のに十分な任意の量を含む。いくつかの実施形態では、組成物の有効量は、患者の自発運動の低下を抑制する(例えば、遅らせる又は停止させる)のに十分な任意の量を含む。いくつかの実施形態では、組成物の有効量は、患者の自発運動を改善するのに十分な任意の量を含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、組成物の有効量は、患者の脳内の細胞の活性化を低減させるのに十分な任意の量を含み、その細胞は、星状膠細胞、小膠細胞、及びその任意の組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、組成物の有効量は、中枢神経系外の組織及び/又は器官を治療するのに十分な任意の量を含む。
【0059】
任意選択の担体材料と併せて単一剤形を製造できる有効成分(グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエート)の量は、治療されるホスト及び特定の投与様式に応じて異なっていてもよい。任意の特定の患者のための具体的な用量レベルは、使用する特定の化合物の活性、年齢、体重、一般健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、排出率、薬物の組合せ、及び治療を受けている特定の障害又は疾患の重症度を含む種々の要因によって決まる。所与の状態の治療的有効量は、常套的実験によって容易に決定でき、普通の臨床医の技術及び判断の範囲内である。
【0060】
本出願に開示されている特定の治療方法によれば、所望の結果を達成するような量、及び必要な期間、有効量のグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを患者に投与することによって、患者(患者は、ヒト、下等な哺乳動物、又は温血動物であってもよい)における種々の障害の進行は遅くなる又は停止する。疾患又は障害の進行を遅らせる又は停止するのに有効な化合物の量は、どんな内科的治療にも適用できる妥当なベネフィット/リスク比で疾患又は障害を治療するために十分な化合物の量を指し得る。
【0061】
本開示の化合物及び組成物の1日の合計使用量は、健康医学判断の範囲内で主治医によって決定され得る。任意の特定の患者のための具体的な治療上有効な用量レベルは、治療対象となる疾患又は障害、及び障害の重症度;使用する特定の化合物の活性;使用する特定の組成物;患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食事;使用する特定の化合物の投与時間、投与経路、及び排出率;治療期間;及び使用する特定の化合物と併せて又は同時に使用する薬物を含む種々の要因によって決まることがある。
【0062】
温血動物(例えば、ヒト)に投与される、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートなどの本開示の化合物の「有効量」又は用量は、治療される障害に応じて異なる場合がある。それだけには限らないが、ハンチントン病又は他の障害、例えばパーキンソン病及びアルツハイマー病、及び治療すべき任意の末梢疾患のような特定の神経変性障害に関連して、有効量は、50kgの人で1日当たり約1g~約20g、又はその任意の量若しくは部分範囲であってもよい。例えば、有効量は、約17g、約18g、又は約19gであってもよい。いくつかの態様では、用量は、50kgの人で1日当たり約1g~約16gであってもよい。特定の一態様では、用量は、50kgの人で1日当たり約5gであってもよい。他の態様では、有効量は、1人1日当たり約25mg/kg~約50mg/kgであってもよい。部分範囲には、5g/50kgの人/日及び最大49g/50kgの人/日まで1g/50kgの人/日の増分から選択された低い端点を有していてよい。部分範囲には、51g/50kgの人/日及び最大50g/50kgの人/日まで1g/50kgの人/日の増分から選択された高い端点を有していてよい。低い端点は、高い端点よりも低くなるように選択される。
【0063】
しかしながら、噴霧などの特定の投与技術が、薬学的組成物を投与する方法として使用される場合、本発明者は、前述の有効量を著しく減らすことができると判断した。例えば、いくつかの実施形態では、患者に投与される量は、1日当たり約2mg/kg体重~1日当たり約10mg/kg体重、例えば1日当たり約2mg/kg体重~1日当たり約8mg/kg体重又は1日当たり約2mg/kg体重~1日当たり約5mg/kg体重であってもよい。いくつかの実施形態では、患者に投与される量は、1日当たり約2mg/kg体重、1日当たり約3mg/kg体重、1日当たり約4mg/kg体重、又は1日当たり約5mg/kg体重である。投与される量は、約2mg/kg/日~約10mg/kg/日の範囲の値であってもよい。値は、2mg/kg/日~約10mg/kg/日の範囲の用量から選択される部分範囲であってもよい。部分範囲の低い端点は、2mg/kg/日及び0.1mg/kg/日の増分ごとに2mg/kg/日を超えて最大9.9mg/kg/日から選択することができる。部分範囲の高い端点は、2.1mg/kg/日及び0.1mg/kg/日の増分ごとに2.1mg/kg/日を超えて最大10mg/kg/日から選択することができる。部分範囲の低い端点及び高い端点の選択は、低い端点高い端点よりも低いように行なう。投与は、1日1回、1日2回、又は1日2回超であってもよい。
【0064】
一実施形態では、経口投与によって送達されるグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートの用量は、約25~約400mg/kg/日である。この用量を含む製剤及び方法が企図されている。用量は、約25~約400mg/kg/日の任意の値であってよく、又は約25~約400mg/kg/日の任意の2つの整数値から選択される部分範囲内であってよい。
【0065】
一実施形態では、経皮パッチによって投与されるグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートの用量は、約25~約200mg/kg/日である。製剤、前記製剤を含む経皮パッチ、及びこの用量を含む方法が企図されている。用量は、約25~約200mg/kg/日の任意の値であってよく、又は約25~約200mg/kg/日の任意の2つの整数値から選択される部分範囲内であってよい。
【0066】
一実施形態では、噴霧によって投与されるグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートの用量は、約2~約5mg/kg/日である。この用量を含む製剤及び方法が企図されている。用量は、約2~約5mg/kg/日の任意の値であってよく、又は約2~約5mg/kg/日の任意の2つの0.1mg/kg/日増分から選択される部分範囲内であってよい。
【0067】
一実施形態では、口腔投与によって投与されるトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートの用量は、約0.5~約5mg/日である。この用量を含む製剤及び方法が企図されている。用量は、約0.5~約5mg/kg/日の任意の値であってよく、又は約0.5~約5mg/kg/日の任意の2回の0.1mg/kg/日増分から選択される部分範囲内であってよい。
【0068】
その上、いくつかの実施形態では、患者は、複数の投与方法によってグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを受けることがある。いくつかの実施形態では、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートは、注射、噴霧、口腔投与、経口投与(例えば、液剤、カプセル剤、錠剤、フィルムなど)、経皮パッチ、及び前述の任意の組合せによって患者に投与され得る。例えば、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートは、経口投与に加えて、噴霧技術を使用して患者に投与することができる。いくつかの実施形態では、鼻疾患治療中に患者の最適な薬物濃度を維持するために、経口投与を使用することができる。いくつかの実施形態では、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートは、注射(複数可)に加えて、噴霧技術を使用して患者に投与することができる。いくつかの実施形態では、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートは、経皮パッチに加えて、噴霧技術を使用して患者に投与することができる。本開示は、本明細書に記載又は企図されている投与技術の任意の組合せを包含する。
【0069】
本発明者らは、本明細書に開示された薬学的組成物が、投与方法と共に、自発運動を改善するのに使用できることを発見した(本明細書に開示された実施例を参照されたい)。したがって、本開示はまた、自発運動を改善するのに有用な組成物及び方法を対象とする。いくつかの実施形態では、自発運動は、歩行、走行、跳躍、及びその任意の組合せからなる群から選択される。
【0070】
任意又は全てのこれらの自発運動は、薬学的組成物を患者に投与することによって改善することができ、その組成物は、グリセリルジベンゾエート及び/又はグリセリルトリベンゾエートを含む。いくつかの実施形態では、この組成物は、噴霧技術を使用して投与され、それによって患者は薬学的組成物を吸入する。投与方法及び1日当たりの投与回数(任意選択で他の要因の中で)によって、有効量は、本出願で提供される手引きを用いて当業者が選択することができる。
【0071】
その上、本発明者は、本明細書に開示された薬学的組成物が、投与方法と共に、脳内の特定の細胞の活性化を低減させるのに使用できることを発見した。例えば、本明細書に開示された1つ又は複数の投与方法と併せて本出願に開示されている薬学的組成物を使用することにより、本発明者は、脳内の星状膠細胞及び小膠細胞の活性化を低減させることが可能であることを発見した(本明細書に開示された実施例を参照されたい)。いくつかの実施形態では、細胞は、皮質及び/又は線条体に含有されている。
【0072】
さらには、本発明者は、ここに開示された薬学的組成物及び投与の方法は、中枢神経系(CNS)外の組織及び/又は器官を治療するのに使用できることを発見した。例えば、ハンチントン病は、神経変性疾患であるだけでなく、全身性障害でもあり、それはいくつかの抹消器官に影響を与える。疾患の神経変性効果は、疾患の原因であるハンチンチンタンパク質が脳細胞において高度に発現しているので、最も重症である。経鼻/吸入モードの薬物投与は、グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートが血液脳関門を迂回することを可能にし、したがってハンチントン病の神経変性効果を治療するのに十分適している。しかしながら、本発明者は、異なる投与方法、例えば、それだけには限らないが、口腔、注射、経皮パッチ、及び/又は経口(例えば、液剤、カプセル剤、錠剤、フィルムなど)を使用することにより、中枢神経系外の組織及び/又は器官を治療することができると判断した。
【0073】
以下の実施例は、本開示のいくつかの実施形態を例示するように意図されており、いかなる方法によっても、本開示又は特許請求の範囲を制限することを意図するものではない。
【実施例
【0074】
実施例1:
ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスの特定の自発運動の改善におけるグリセリルトリベンゾエート噴霧の有効性
【0075】
ハンチントン病の多くの特徴がN171-82Qトランスジェニックマウスでモデル化されているので、自発運動に対するグリセリルトリベンゾエート噴霧の効果をN171-82Qマウスで調べた。Buxco(登録商標)Inhalation Tower All-In-One Controllerを使用して、グリセリルトリベンゾエートを噴霧した。全身チャンバーにaeroneb超音波ネブライザーを取り付け、Buxco(登録商標)バイアスフローポンプから空気を供給した。ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスに、グリセリルトリベンゾエートを約2及び約5mg/kg体重/日(容量100μl食塩水/マウスに可溶化させた)の用量で3分間噴霧させた。簡単に言えば、3か月齢のトランスジェニックマウスを、異なる用量(約2及び約5mg/kg体重/d)の約100μl食塩水に可溶化させたグリセリルトリベンゾエートの噴霧によって処理した。対照のハンチントン病マウスには、ビヒクルとして食塩水100μlだけを与えた。6週間の処理後、自発運動をモニターした。データは、1グループ当たり3匹のマウスの平均値+SEMである。
【0076】
図1A-1Eに示すように、グリセロールトリベンゾエートの噴霧は、ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスの自発運動を改善する。自発運動の障害は、年齢を一致させた非Tgマウスと比較して、ハンチントン病トランスジェニックマウスで観察された。しかしながら、両方の用量におけるグリセリルトリベンゾエート(GTB)の噴霧は、ハンチントン病トランスジェニックマウスの速度(図1A)、合計距離(図1B)、移動頻度(図1C)、累計時間(図1D)、及び回転棒能力(図1E)を著しく改善させた。速度は、マウスが歩く速さを意味する。合計距離は、一定期間にマウスがカバーする距離を意味する。移動頻度は、所与の期間にどれくらいマウスが動き回るかを意味し、累計時間は、中央で過ごした合計時間を意味する。
【0077】
実施例2:
ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスの線条体及び皮質中のハンチントン封入体の減少におけるグリセリルトリベンゾエート(GTB)の有効性
【0078】
ハンチンチン(HTT)封入体の沈着は、ハンチントン病の病理学的特徴である。この病理学は、異常HTT凝集体をもたらす突然変異ハンチンチンタンパク質を生成する第4染色体上のハンチンチン遺伝子のエキソン1にあるCAG反復配列の伸長に基づいている。GTB処理が膠細胞活性化を低減させたので、HTT封入体に対するGTBの効果を、免疫染色によって線条体及び皮質でモニターした。
【0079】
簡単に言えば、3か月齢のトランスジェニックマウスを、経管栄養によってGTB(約50mg/kg体重/日)で処理した。対照のハンチントン病マウスには、ビヒクルとして0.5%メチルセルロース100μlだけを与えた。2か月の処理後、ハンチンチン封入体(HTT)を、免疫組織化学によって脳切片でモニターした(線条体-図2A、皮質-図2B)。さらに、HTT陽性(「(+)ve」)細胞を、1グループ6匹のマウスのそれぞれからの2つの切片(線条体-図2C、皮質-図2D)でカウントした。
【0080】
図2A及び2Bは、免疫組織化学の結果示し、それは、GTBの投与が線条体及び皮質中のHTT封入体数を減少させることを表す。図2C及び2Dは、GTB処理及び未処理マウスの線条体及び皮質中のHTT(+ve)細胞数を示し、処理マウスにおけるHTT数の減少を表す。
【0081】
経口GTB処理は、N171-82Q Tgマウスの線条体及び皮質中のHTT封入の著しい減少をもたらした(図2A-2D)。これはまた、ウエスタンブロット法によって裏付けられた。ウエスタンブロット法によって、本発明者は、経口GTB処理によって抑制された皮質中の凝集HTTの348kDaバンドを検出することができた(図2E-2F)。
【0082】
図2A-2Fに示すように、グリセリルトリベンゾエートの経口投与は、ハンチントントランスジェニックマウスの線条体及び皮質中のハンチントン封入体を減少させる。
【0083】
実施例3:
ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスの線条体中の小膠細胞活性化の減少におけるグリセリルトリベンゾエート(GTB)の有効性。
【0084】
3か月齢のトランスジェニックマウスを、経管栄養によってGTB(約50mg/kg体重/日)で処理した。対照のハンチントン病マウスには、ビヒクルとして0.5%メチルセルロース100μlだけを与えた。2か月の処理後、小膠細胞活性化を、DAB染色(図3A)及び二重標識免疫蛍光(図3B)によって線条体切片でモニターした。図3A-3Gに示した結果は、1グループ6匹のマウスの分析を表す。
【0085】
図3Aは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス及びGTB処理N171-82Qマウスの皮質中のIba-1抗体を用いた免疫組織化学染色の結果を示す。図3Bは、二重標識免疫蛍光の結果を示し、図3Cは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス及びGTB処理N171-82QマウスにおけるIba-1陽性(「+ve」)細胞数をカウントする。図3Dは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス及びGTB処理N171-82QマウスにおけるiNOSの平均蛍光強度(MFI)を示す。図3Eは、Iba-1及びiNOSのウエスタンブロットであり、図3F及び3Gは、図3Eに示したウエスタンブロットの定量分析である。
【0086】
実施例4:
ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスの皮質中の小膠細胞活性化の減少におけるグリセリルトリベンゾエート(GTB)の有効性。
【0087】
3か月齢のトランスジェニックマウス(Tg)を、経管栄養によってグリセリルトリベンゾエート(約50mg/kg体重/日)で処理した。対照のハンチントン病マウスには、ビヒクルとして0.5%メチルセルロース100μlだけを与えた2か月の処理後、小膠細胞活性化を、DAB染色(図4A)及び二重標識免疫蛍光(図4B)によって皮質切片でモニターした。図4A-4Bに示した結果は、1グループ6匹のマウスの分析を表す。
【0088】
図4Aは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス及びGTB処理N171-82Qマウスの皮質中のIba-1抗体を用いた免疫組織化学染色の結果を示す。図4Bは、二重標識免疫蛍光の結果を示し、図4Cは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス及びGTB処理N171-82Qマウス中のIba-1陽性(「+ve」)細胞数をカウントする。図4Dは、対照マウス(nTg)、未処理N171-82Qマウス及びGTB処理N171-82Qマウス中のiNOSの平均蛍光強度(MFI)を示す。図4Eは、Iba-1及びiNOSのウエスタンブロットであり、図4F及び4Gは、図4Eに示したウエスタンブロットの定量分析である。
【0089】
図3A-3G及び4A-4Gに示すように、グリセリルトリベンゾエートの経口投与は、ハンチントントランスジェニックマウスの線条体及び皮質中の小膠細胞活性化を低減させる。Iba-1免疫染色並びにIba-1ウエスタンブロットから明らかなように、本発明者は、未処理N171-82Q Tgマウスの線条体(図3)及び皮質(図4)中に小膠細胞症を発見した。活性化小膠細胞はまた、誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)を発現する。したがって、iNOSのレベルが、未処理N171-82Q Tgマウスの線条体(図3)及び皮質(図4)の両方で大幅に増加した。しかしながら、経口GTB処理は、N171-82Q Tgマウスの線条体(図3)及び皮質(図4)の両方で小膠細胞症並びにiNOSの発現を大幅に抑制した。
【0090】
実施例5:
ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスの皮質及び線条体中の星状膠細胞活性化の減少におけるグリセリルトリベンゾエート(GTB)の有効性。
【0091】
3か月齢のトランスジェニックマウス(Tg)を、経管栄養によってグリセリルトリベンゾエート(約50mg/kg体重/日)で処理した。対照のハンチントン病マウスには、ビヒクルとして0.5%メチルセルロース100μlだけを与えた。2か月の処理後、星状膠細胞活性化を、DAB染色によって線条体(図5A)及び皮質(図5B)切片でモニターした。さらに、神経膠原繊維酸性タンパク質(GFAP)(+)ve細胞数を、1グループ6匹のマウスのそれぞれからの2つ線条体(図5C)及び皮質(図5D)切片でそれぞれカウントした。
【0092】
星状膠細胞は中枢神経系の主要な細胞タイプであるため、この細胞タイプからのどんな寄与も重要になる。したがって、本発明者はまた、N171-82Q Tgマウスの中枢神経系における星状神経膠症をモニターした。非Tgマウスと比較して、N171-82Q Tgマウスの線条体及び皮質のGFAP免疫染色における上方制御は、N171-82Q Tgマウスの中枢神経系における星状神経膠症の増加を示唆した。しかしながら、経口GTB処理は、N171-82Q Tgマウスの中枢神経系における星状神経膠症を減少させた。これらの結果は、経口GTBが、中枢神経系の膠細胞活性化及び炎症を軽減することができることを示唆する。
【0093】
実施例6
グリセロールトリベンゾエート(GTB)の経口投与はハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスにおける炎症誘発性サイトカインの血清レベルを低下させる。
【0094】
3か月齢のTgマウス(各グループでn=3)を、経管栄養によって0.5%メチルセルロース100μlと混合したGTB(50mg/kg体重/d)で処理した。したがって、対照HDマウスには、ビヒクルとして0.5%メチルセルロース100μlだけを与えた。1か月の処理後、インターロイキン-6(IL-6)及びIL-1βのレベルは、サンドイッチELISAによって血清中で測定した。
【0095】
図6A及び6Bは、GTB処理後のIL-6及びIL1βのレベルを示す。結果は、1グループ3匹のマウスの平均値+SEMである。p<0.05;***p<0.001。結果は、GTBが、ハンチントントランスジェニック(N171-82Q)マウスの末梢(血清)における炎症誘発性サイトカインの量を有意に低下させることを示す。
【0096】
本明細書で開示及び特許請求される全ての組成物及び方法は、本開示を考慮して、過度の実験なしで作製及び実行することができる。本発明は多くの異なる形態で具体化することができるが、本発明の特定の好ましい実施形態について本明細書で詳細に記載する。本開示は本発明の原理を例示するものであって、本発明を例示された特定の実施形態に限定するものではない。
【0097】
さらにまた、本発明は、本明細書に記載されている種々の実施形態の一部又は全部の、可能な任意及び全ての組合せを包含する。本明細書に記載されている現在好ましい実施形態への種々の変更及び修正が当業者にとって明白であることも理解すべきである。このような変更及び修正は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、またそれが意図する利点を減ずることなく、行なうことが可能である。したがって、このような変更及び修正が、添付の特許請求の範囲により包含されるものとする。
図1A-1E】
図2A-2F】
図3A-3G】
図4A-4G】
図5A-5D】
図6A-6B】
【国際調査報告】