IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 上海君▲実▼生物医▲薬▼科技股▲分▼有限公司の特許一覧 ▶ ▲蘇▼州君盟生物医▲薬▼科技有限公司の特許一覧

<>
  • 特表-抗TIGIT抗体及びその適用 図1
  • 特表-抗TIGIT抗体及びその適用 図2
  • 特表-抗TIGIT抗体及びその適用 図3
  • 特表-抗TIGIT抗体及びその適用 図4
  • 特表-抗TIGIT抗体及びその適用 図5
  • 特表-抗TIGIT抗体及びその適用 図6
  • 特表-抗TIGIT抗体及びその適用 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-21
(54)【発明の名称】抗TIGIT抗体及びその適用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220913BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220913BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220913BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220913BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220913BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220913BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220913BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220913BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220913BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/63 Z
C07K16/46
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K35/76
A61P35/00
A61K48/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502273
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(85)【翻訳文提出日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 CN2020101883
(87)【国際公開番号】W WO2021008523
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】201910634309.9
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521257514
【氏名又は名称】上海君▲実▼生物医▲薬▼科技股▲分▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】519301559
【氏名又は名称】▲蘇▼州君盟生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】孟琴
(72)【発明者】
【氏名】姚▲劍▼
(72)【発明者】
【氏名】▲馮▼▲輝▼
(72)【発明者】
【氏名】姚盛
(72)【発明者】
【氏名】武海
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB11
4C085DD62
4C085DD88
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、TIGITと特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント及びその組成物を提供する。本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸分子、本発明に係る抗体又はその機能性フラグメントを発現する発現ベクター及び宿主細胞、並びにその治療及び診断用途を更に提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3から選ばれる1つ乃至3つを含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:1又は11に示されるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:2又は12に示されるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:3又は13に示されるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は、
(2)軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3から選ばれる1つ乃至3つを含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:6又は16に示されるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:7又は17に示されるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:8又は18に示されるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、ことを特徴とする、単離抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3、並びに軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
(1)前記HCDR1がSEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列を含み、若しくは、
(2)前記HCDR1がSEQ ID NO:11に示されるアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:13に示されるアミノ酸配列を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:16に示されるアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:17に示されるアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:18に示されるアミノ酸配列を含む、ことを特徴とする、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
前記VHがSEQ ID NO:4、14、21、23、25、27及び29から選ばれる何れか1つのアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は、
前記VLがSEQ ID NO:9、19、22、24、26、28及び30から選ばれる何れか1つのアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
(1)VHがSEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を含み、並びにVLがSEQ ID NO:9に示されるアミノ酸配列を含む抗体、又は
(2)VHがSEQ ID NO:14に示されるアミノ酸配列を含み、並びにVLがSEQ ID NO:19に示されるアミノ酸配列を含む抗体、又は
(3)VHがSEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含み、並びにVLがSEQ ID NO:22に示されるアミノ酸配列を含む抗体、又は
(4)VHがSEQ ID NO:23に示されるアミノ酸配列を含み、並びにVLがSEQ ID NO:24に示されるアミノ酸配列を含む抗体、又は
(5)VHがSEQ ID NO:25に示されるアミノ酸配列を含み、並びにVLがSEQ ID NO:26に示されるアミノ酸配列を含む抗体、又は
(6)VHがSEQ ID NO:27に示されるアミノ酸配列を含み、並びにVLがSEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を含む抗体、又は
(7)VHがSEQ ID NO:29に示されるアミノ酸配列を含み、並びにVLがSEQ ID NO:30に示されるアミノ酸配列を含む抗体、から選ばれる、ことを特徴とする、請求項3に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
重鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:31又は33に示され、及び/又は軽鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:32又は34に示される、ことを特徴とする、請求項1‐4の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
重鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:31に示され、軽鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:32に示され、或いは重鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:33に示され、軽鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:34に示される、ことを特徴とする、請求項5に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体である、ことを特徴とする、請求項1‐4の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
完全抗体、単鎖抗体、Fab抗体、Fab’抗体、(Fab’)2抗体、又は二重(多重)特異性抗体である、ことを特徴とする、請求項1‐4の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
任意のIgGサブタイプであり、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4である、ことを特徴とする、請求項1‐4の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
請求項1‐9の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする単離核酸分子。
【請求項11】
1つ又は複数の請求項10に記載の核酸配列を含み、組換えによる請求項1‐9の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの産生に適用される、組換えベクター又は発現ベクター。
【請求項12】
1つ又は複数の請求項11に記載の組換えベクター又は発現ベクター、或いは請求項10に記載の核酸分子を含み、及び/又は請求項1‐9の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させるための宿主細胞。
【請求項13】
請求項1‐9の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント、及び薬学的に許容されるベクター又は賦形剤の組成物を含む医薬組成物。
【請求項14】
PD‐1軸拮抗剤を更に含む請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
受検者に対する請求項1乃至9の何れか1項に記載の抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメント、或いは請求項13乃至14の何れか1項に記載の医薬組成物の有効量投与を含む、受検者のがんを治療するための方法。
【請求項16】
受検者に対する1つ又は複数の療法の併用投与を更に含み、前記療法が手術治療及び/又は放射線治療及び/又は1つ又は複数のその他の治療剤の投与を含み、前記治療剤が化学療法剤、PD‐1軸拮抗剤及び血管新生阻害薬を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記治療剤がPD‐1軸拮抗剤である、ことを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1‐9の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント、請求項10に記載の核酸分子、請求項11に記載のベクター、請求項12に記載の宿主細胞、又は請求項14に記載の医薬組成物が、TIGITにより誘導される疾患又は病症、好ましくはがん、を治療及び/又は予防するための薬物の製造に利用される用途。
【請求項19】
請求項12に記載の宿主細胞の培養、培養物から前記抗体又はその抗原結合フラグメントの回収を含む、請求項1‐9の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを産生するための方法。
【請求項20】
請求項1‐9の何れか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントと抗PD‐1軸拮抗剤、好ましくは抗PD‐1抗体、抗PD‐L1抗体又は抗PD‐L2抗体から選ばれる抗PD‐1軸拮抗剤との組合せが、受検者のがんを治療するための薬物の製造に利用される用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗TIGIT抗体、並びにがん治療におけるこれらの抗体及びその組成物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
TIGIT(Igドメイン及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)は、1つの細胞外免疫グロブリンドメイン、I型膜貫通領域、及び2つのITIMモチーフからなり、主に活性化されたT細胞及びNK細胞で発現された免疫調整受容体(非特許文献1)である。TIGIT認識リガンドは、ポリオウイルス受容体(PVR,CD155)及びネクチン(Nectin)2(PVRL2/CD112)である。当該リガンドが複数の異なる腫瘍細胞で過剰発現される。TIGITとリガンドPVRとが高い親和力で結合されると報道されている。TIGITとリガンドとが結合されることで、TIGITの細胞質尾部に存在する、免疫受容体尾部チロシン(ITT)型モチーフ、及び免疫応答の優勢度を有するチロシンに基づく抑制性(ITIM)モチーフの2つのモチーフにより誘導される抑制性シグナルが活性化される(非特許文献2)。腫瘍細胞表面リガンドとNK細胞及びT細胞表面TIGITのITIMドメインとが結合されることで、NK細胞毒性及びT細胞活性が抑制されるため、腫瘍細胞の免疫回避メカニズムが誘導される。複数の特許文献では、TIGITとそのリガンドとの結合を遮断する効果を有する抗TIGIT抗体によって、TIGITにより誘導される免疫抑制効果が抑制されることで、腫瘍などの疾患の治療に適用できると報道されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0003】
単独で又はその他の薬剤との組合せでヒトTIGITの抑制活性を低減させることで、腫瘍細胞に対する免疫系の細胞による攻撃をより効果的、特異的、安全的及び/又は安定的にできる薬剤の提供に対して、要求が満足できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/024068号
【特許文献2】国際公開第2009/126688号
【特許文献3】国際公開第2015/009856号
【特許文献4】国際公開第2016/028656号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Stanietskyなど、PNAS.2009,106,17858‐17863
【非特許文献2】Liuら、Cell death and differentiation 2013,20,456‐464;Stanietskyなど、European journal of immunology,2013,43,2138‐2150
【発明の概要】
【0006】
本発明は、特有のCDR配列構成を有し、高い親和力及び高い特異性でヒトTIGITと結合する、ことを特徴とする抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、単独の療法として、或いはその他の療法/又はその他の抗がん剤との併用投与で、例えば、がんの治療に適用される。
【0007】
本発明の第1様態は、高い特異性でTIGITと結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0008】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3から選ばれる1つ乃至3つを含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:1又は11から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:2又は12から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:3又は13から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0009】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む。
【0010】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含む。
【0011】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3から選ばれる1つ乃至3つを含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:6又は16のアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:7又は17のアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:8又は18のアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0012】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含む。
【0013】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:16のアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含む。
【0014】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3、並びに軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含む。
【0015】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3、並びに軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:16のアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含む。
【0016】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)を含み、前記重鎖可変領域(VH)がSEQ ID NO:4、14、21、23、25、27及び29から選ばれる何れか1つのアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0017】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖可変領域(VL)を含み、前記軽鎖可変領域(VL)がSEQ ID NO:9、19、22、24、26、28及び30から選ばれる何れか1つのアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0018】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:4、14、21、23、25、27及び29から選ばれる何れか1つのアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:9、19、22、24、26、28及び30から選ばれる何れか1つのアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0019】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:9に示されるアミノ酸配列を含む。
【0020】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:14に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:19に示されるアミノ酸配列を含む。
【0021】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:22に示されるアミノ酸配列を含む。
【0022】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:23に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:24に示されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:25に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:26に示されるアミノ酸配列を含む。
【0024】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:27に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を含む。
【0025】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:29に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:30に示されるアミノ酸配列を含む。
【0026】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖及び/又は重鎖を含み、前記重鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:31又は32に示され、及び/又は前記軽鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:32又は34に示される。
【0027】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体は、重鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:31に示され、軽鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:32に示され、或いは前記抗体は、重鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:33に示され、軽鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO:34に示される。
【0028】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトTIGIT及びカニクイザルTIGITタンパク質にクロスリンクで結合される特性を有する。
【0029】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントは、TIGITとその天然リガンドPVR又は/及びPVRL2との結合を遮断又は抑制する特性を有する。
【0030】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントは、TIGITにより誘導される生理活性効果を遮断又は抑制する。
【0031】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体である。
【0032】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、完全抗体、単鎖抗体、Fab抗体、Fab’抗体、(Fab’)2抗体、又は二重(多重)特異性抗体である。
【0033】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、任意のIgGサブタイプであり、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4である。
【0034】
本発明は、上記抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする単離核酸分子を提供する。
【0035】
本発明は、1つ又は複数の上記核酸配列を含む組換えベクター又は発現ベクターを提供し、前記ベクターが組換えによる上記抗体又はその抗原結合フラグメントの産生に適用される。
【0036】
本発明は、1つ又は複数の上記組換えベクター又は発現ベクター、或いは上記核酸分子を含み、若しくは上記何れか1つの実施形態に係る抗体を発現させるための宿主細胞を提供する。
【0037】
本発明は、上記抗体又はその抗原結合フラグメント、及び薬学的に許容されるベクター又は賦形剤の組成物を含む医薬組成物を提供する。
【0038】
幾つかの実施形態において、上記医薬組成物は、PD‐1軸拮抗剤を更に含む。
【0039】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、
1)少なくとも約5nM、少なくとも約1nM、少なくとも約0.1nM、少なくとも約0.01nM、少なくとも約0.001nMのKDでヒトTIGITと結合する特性、
2)カニクイザルTIGITと交差反応を行う特性、
の少なくとも1つを有する。
【0040】
本発明の第2様態は、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントを産生するための方法に更に関する。当該方法は、本発明に係る抗体又は抗原結合フラグメントをコードする単離核酸分子、或いは当該核酸を含む発現ベクター、特に、宿主細胞において組換えにより本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントを産生するためのベクター、の提供を含む。
【0041】
本発明の第3様態は、1つ又は複数の上記組換えベクター又は発現ベクターを含む宿主細胞、及び本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントを産生するための方法に更に関する。前記方法は、前記宿主細胞の培養、前記抗体又はその抗原結合フラグメントの精製と回収を含む。
【0042】
本発明は、上記宿主細胞の培養、培養物から前記抗体又はその抗原結合フラグメントの回収を含む、上記抗体又はその抗原結合フラグメントを産生するための方法を更に提供する。
【0043】
本発明の第4様態は、受検者のがんを治療するための方法に更に関する。前記方法は、前記受検者に対する本明細書に記載される任意の抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメント又はその医薬組成物の有効量投与を含む。
【0044】
一実施形態において、本発明に係る任意の抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントが受検者のがんを治療するための薬物の製造に利用される用途に更に関する。
【0045】
本発明は、上記抗体又はその抗原結合フラグメント、核酸分子、ベクター、宿主細胞或いは医薬組成物がTIGITにより誘導される疾患又は病症を治療及び/又は予防するための薬物の製造に利用される用途を更に提供する。好ましくは、前記疾患又は病症ががんである。
【0046】
本発明の第5様態は、がんの受検者に対する1つ又は複数の療法(例えば、治療法及び/又はその他の治療剤)の併用投与に更に関する。幾つかの実施形態において、上記療法は、前記受検者に対する本発明の何れか1つの実施形態に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメント又はその医薬組成物の有効量投与を含む。幾つかの実施形態において、治療法は、手術治療及び放射線治療を含む。幾つかの実施形態において、上記その他の治療剤は、化学療法剤、PD‐1軸拮抗剤又はその他の腫瘍標的治療剤から選ばれ、好ましくはPD‐1軸拮抗剤である。
【0047】
幾つかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載される任意の抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントとPD‐1軸拮抗剤との組合せが受検者のがんを治療するための薬物の製造に利用される用途に更に関する。
【0048】
幾つかの実施形態において、前記PD‐1軸拮抗剤は、抗PD‐1抗体、抗PD‐L1抗体又は抗PD‐L2抗体から選ばれる。
【0049】
本発明の第6様態は、サンプル中のTIGITを検出するための方法に更に関する。前記方法は、a)サンプルを本明細書に記載される任意の抗TIGIT抗体又はそのフラグメントに接触させる工程と、b)抗TIGIT抗体又はそのフラグメントとTIGITによって形成された複合物を検出する工程と、を含む。一実施形態において、抗TIGIT抗体が検出可能に標識される。
【0050】
幾つかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載される任意の抗TIGIT抗体又はそのフラグメントを含む試薬キット又は製品に関する。幾つかの実施形態において、前記試薬キット又は製品は、本明細書に記載される抗TIGIT抗体又はそのフラグメント、任意に選ばれる薬学的に使用可能な添加物、及び任意に選ばれる1つ又は複数のその他の治療剤(例えば、化学療法剤、PD‐1軸拮抗剤又は腫瘍標的治療剤)を含む。
【0051】
本発明は、本明細書に記載される任意の実施形態の任意の組合せを更に含む。本明細書に記載される任意の実施形態又はその任意の組合せは、本明細書に記載される発明の任意及び全ての抗TIGIT抗体又はそのフラグメント、方法及び用途に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】Luciferase assayにより検出される、T細胞活性に対するハイブリドーマ抗体の影響を示す。
図2】Elisaにより検出される、キメラ抗体とTIGITとの結合効果を示す。
図3】Luciferase assayにより検出される、T細胞活性に対するキメラ抗体の影響を示す。
図4】Elisaに検出される、ヒト化抗体とTIGITとの結合効果を示す。
図5】Luciferase assayにより検出される、T細胞活性に対するヒト化抗体の影響を示す。
図6】FACSにより検出される、TIGITとリガンドPVRとの結合の、ヒト化抗体による遮断効果を示す。
図7】MC38担腫瘍のTIGIT遺伝子組換えマウスにおける、ヒト化TIGIT抗体及びそれと抗PD‐1抗体との併用の薬力研究を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、特有のCDR配列構成を有し、高い親和力及び高い特異性でヒトTIGITと結合する、ことを特徴とする抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、単独の療法として、或いはその他の療法/又はその他の抗がん剤との併用投与で、例えば、がんの治療に適用される。
【0054】
(定義)
特に断りのない限り、本発明の実施にあたって、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生物化学、免疫学などの通常技術を採用するが、これらは本分野の技術範囲内である。
【0055】
本発明をより容易に理解できるように、技術用語を以下のように定義する。本明細書のその他の部分で明確に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語は、本発明の当業者が通常理解する意味を有する。本分野の定義及び用語について、専門者がCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel)を参照する。アミノ酸残基の略称は、本分野で使用される、20種類の常用L‐アミノ酸の1つを表す、標準3文字及び/又は1文字のコードである。本明細書で別途で明確に説明しない限り、本明細書(請求項を含む)で使用される単数表現は複数の意味を含む。
【0056】
用語「約」は数値と共に使用されるとき、下限として記載数値より5%小さく上限として記載数値より5%大きい範囲における数値を含むことを意味する。
【0057】
本明細書で使用される用語「TIGIT」とは、全称としてT細胞免疫グロブリン及びITIMドメインタンパク質(T cell Ig and ITIM domain)であり、特に断らない限り、任意の脊椎動物(例えば霊長類動物(例えばヒト)などの哺乳類動物及び齧歯類動物(例えば、マウス及びラット))に由来する任意の天然TIGITである。当該用語は、「全長」の未処理TIGIT、及び細胞内処理によって産生される任意形態のTIGIT又はその任意のフラグメントを含む。当該用語は、天然に存在するTIGITの変異体、例えばスプライシング変異体又は対立遺伝子変異体を更に含む。一実施形態において、TIGITとは、ヒト及びカニクイザルに由来するTIGITの全長又はそのフラグメント(例えば、そのシグナルペプチドが欠如される成熟フラグメント)である。一実施形態において、ヒトTIGITとは、Genbank登録番号NP_776160.2(SEQ ID NO:31)アミノ酸残基22‐244配列と同様である成熟TIGIT(アミノ酸残基1‐21がリーダーペプチド)である。一実施形態において、ヒトTIGITとは、Genbank登録番号NP_776160.2アミノ酸残基22‐141配列と同様であるTIGIT細胞外ドメインである。一実施形態において、カニクイザル(Wacaca fascicuiaris)TIGITは、Genbank登録番号XP_005548158.1アミノ酸残基22‐245配列と同様である成熟TIGITである。
【0058】
「アミノ酸配列同一性のパーセンテージ(%)」は、配列同一性の最大パーセンテージを得るために前記配列を(必要とされる場合にギャップを導入して)比較して、保存置換の何れか1つも配列同一性の部分としない場合、候補配列におけるアミノ酸残基が比較用ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同様であるパーセンテージと定義される。アミノ酸配列同一性のパーセンテージを測定するには、例えば、BLAST、BLAST‐2、ALIGN又はMEGALIGN(DNASTAR)など、一般的に入手できるパソコンソフトウェアを利用するような、本分野の様々な方法を用いて配列を比較する。当業者は、比較する配列の全長に対して最も広範囲で比較するには必要とされる如何なるアルゴリズムを含む、測定及び比較の適切なパラメータを決めることができる。
【0059】
「免疫応答」とは、例えば、リンパ球、抗原提示細胞、食細胞、顆粒球と上記細胞又は肝から産生される可溶性高分子(抗体、サイトカイン及び補体を含む)の効果を指し、当該効果により、侵入病原体、病原体を感染した細胞又は組織、がん細胞又は自体免疫又は病理学的炎症の場合の正常なヒト細胞又は組織が人体から選択的に損害、破壊又は除去される。
【0060】
「シグナル伝達ルート」又は「シグナル伝達活性」とは、通常、例えば、成長因子と受容体との結合などのタンパク質間の相互作用による生物化学因果関係であり、前記関係によりシグナルが細胞の一部から細胞の他部まで伝達される。一般的に、伝達はシグナル伝達を引き起こす一連反応において、1種類又は複数種類のタンパク質における1つ又は複数のチロシン、セリン又はトレオニン残基の特定リン酸化を含む。通常、最後から二番目のプロセスが細胞核イベントを含むことから、遺伝子発現の変化が発生される。
【0061】
用語「活性」又は「生理活性」、或いは用語「生物性質」又は「生物特徴」は相互に交換使用可能であり、エピトープ/抗原親和性及び特異性、インビボ又はインビトロにおいてTIGIT活性を中和又は拮抗する能力、IC50、抗体のインビボ安定性及び抗体の免疫原性質を含むが、これらに限定されるものではない。本分野における周知の評定できる抗体のその他の生物学性質又は特徴は、例えば、交差反応性(即ち、通常、ターゲットペプチドの非ヒトホモログ、或いはその他のタンパク質又は組織との交差反応性)、哺乳類動物細胞におけるタンパク質の高発現レベルを保持する能力を含む。本分野における周知の技術を利用して前述した性質又は特徴を観察、測定又は評価するが、前記技術は、ELISA、FACS又はBIACOREなどのイオン共振分析、制限を受けないインビボ又はインビトロにおける中和測定、受容体結合、サイトカイン又は成長因子の産生及び/又は分泌、シグナル伝達、異なる由来(ヒト、霊長類又は何れかその他の由来)の組織断片の免疫組織化学を含むが、これらに限定されるものではない。
【0062】
「抗体」とは希望の生理活性を有する任意の形態の抗体を意味する。したがって、最も広義に使用される場合、それは、具体的には、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、キメラ抗体、及びキャメル化単一ドメイン抗体を含むが、これらに限定されない。
【0063】
「単離抗体」とは結合化合物の精製状態を指し、且つこのような場合、当該分子が実質的にその他の生物分子、例えば、核酸、タンパク質、脂質、糖、細胞破片と成長培地などのその他の物質を含まないことを意味する。用語「単離(した)」とは、本明細書の前記結合化合物の実験又は治療への使用を明らかに干渉する量で存在しない限り、このような物質が完全に存在しない、又は水、緩衝液又は塩が存在しないことを意味するのではない。
【0064】
「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体群から得る抗体であり、即ち、天然に存在し得る少量の変異以外、この群からなる各抗体は同じである。モノクローナル抗体は高い特異性を持ち、単一の抗原エピトープに対するものである。それに対して、通常の(ポリクローナル)抗体製造物は、通常、異なるエピトープに対する大量の(又は異なるエピトープに対して特異性を有する)抗体を含む。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体群から得た抗体の特徴を示し、任意の特定の方法を通じて抗体を産生する必要があると解釈されない。
【0065】
天然に存在する場合、「全長抗体」とは4本のペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子であり、2本の重(H)鎖(全長の場合は約50‐70kDa)と2本の軽(L)鎖(全長の場合は約25kDa)がジスルフィド結合によりお互いに連結される。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと略される)と重鎖定常領域(本明細書においてCHと略される)からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略される)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。VH領域とVL領域は、高可変性を有する相補性決定領域(CDR)と、その間に保存されるフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域と、さらに細かく区分される。各VH領域又はVL領域は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ基端末からカルボキシル基端末まで配列された3つのCDR及び4つのFRからなる。重鎖と軽鎖の可変領域は抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫グロブリンが宿主組織又は因子(免疫系の各細胞(例えば、エフェクター細胞)と代表的な補体系の第一成分(Clq)を含む)に対する結合を仲介することができる。
【0066】
抗体(「親抗体」)の「抗原結合フラグメント」は抗体のフラグメント又は誘導体を含むが、通常、親抗体の抗原結合領域又は可変領域(例えば、1種類又は複数種類のCDR)の少なくとも1つのフラグメントを含み、親抗体の少なくとも1つの結合特異性を保持している。抗体結合フラグメントの実例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFvフラグメント、二重抗体、線形抗体、sc‐Fvなどの単鎖抗体分子、抗体フラグメントから形成されるナノ抗体(nanobody)、及び多重特異性抗体を含むが、これらに限定されない。抗原結合活性がモル濃度で示される場合、結合フラグメント又は誘導体は、通常、その抗原結合活性の少なくとも10%を保持する。結合フラグメント又は誘導体が親抗体の抗原結合親和力の少なくとも20%、50%、70%、80%、90%、95%、100%又はより高い親和力を保持することは好ましい。抗体の抗原結合フラグメントは、その生理活性を明らかに変えない保存又は非保存アミノ酸置換(抗体の「保存バリアント」又は「機能性保存バリアント」をいう)を含むことが期待される。用語「結合化合物」とは抗体及びその結合フラグメントの両者を指す。
【0067】
「単鎖Fv」又は「scFv」抗体とは、抗体のVHとVLドメインを含む抗体フラグメントを指し、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。Fvポリペプチドは一般にはVHとVLドメインの間のポリペプチドリンガーをさらに含み、それにより、scFvは抗原結合用の希望の構造を形成できる。
【0068】
「ドメイン抗体」とは、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域だけを含有する免疫機能性免疫グロブリンフラグメントである。幾つかの場合、2個以上のVH領域はペプチドリンガーと共有結合して二価ドメイン抗体を形成する。二価ドメイン抗体の2個のVH領域は、同じ又は異なる抗原にターゲティングできる。
【0069】
「二価抗体」とは2個の抗原結合部位を含む。幾つかの場合、2個の結合部位は同じ抗原特異性を有する。しかしながら、二価抗体は二重特異性であってもよい。
【0070】
「二重抗体」とは、2個の抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを指し、前記フラグメントは、同一ポリペプチド鎖(VH‐VL又はVL‐VH)において軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。同一鎖の2個のドメインの間のペアリングが不可能になるほど短いリンガーを使用することにより、該ドメインと別の鎖の相補ドメインがペアリングさせられて2個の抗原結合部位を産生する。
【0071】
「キメラ抗体」とは、第1の抗体の可変ドメインと第2の抗体の定常ドメインとを有する抗体であり、第1の抗体と第2の抗体は異なる種に由来する。通常、可変ドメインは、齧歯動物などの実験動物から入手する抗体(「親抗体」)であり、定常ドメイン配列はヒト抗体から入手し、それにより、親齧歯動物抗体に比べて、得たキメラ抗体は、ヒト受検者において不良免疫応答を誘導する可能性が低くなる。
【0072】
「ヒト化抗体」とは、ヒトと非ヒト(例えばマウス、ラット)抗体に由来する配列を含有する抗体の形態である。一般には、ヒト化抗体は、実質的に全ての少なくとも1個、通常、2個の可変ドメインを含み、ここで、全て又は実質的に全ての超可変領域は、非ヒト免疫グロブリンの超可変領域に相当し、全て又は実質的に全てのフレームワーク(FR)領域は、ヒト免疫グロブリン配列のフレームワーク領域である。ヒト化抗体は、任意に少なくとも一部のヒト免疫グロブリン定常領域(Fc)を含む。
【0073】
「完全ヒト抗体」とはヒト免疫グロブリンタンパク質配列だけ含む抗体である。例えば、マウス、マウス細胞又はマウス細胞由来のハイブリドーマに産生される場合、完全ヒト抗体がマウス糖鎖を含んでもよい。同様に、「マウス抗体」とはマウス免疫グロブリン配列だけ含む抗体である。或いは、ラット、ラット細胞又はラット細胞由来のハイブリドーマに産生される場合、完全ヒト抗体がラット糖鎖を含んでもよい。同様に、「ラット抗体」とはラット免疫グロブリン配列だけ含む抗体である。
【0074】
「アイソタイプ」抗体とは重鎖定常領域遺伝子により提供される抗体種類(例えば、IgM、IgE、IgG1、IgG2又はIgG4などのIgG)である。アイソタイプはこれらの種類の1つの修飾形態を更に含むが、例えば、効果副機能又はFc受容体に対する結合の増強又は低減など、Fc機能を変更するように修飾が産生された。
【0075】
用語「PD‐1軸拮抗剤」とは、PD‐1軸結合リガンドと1つ又は複数のその結合リガンドとの相互作用を抑制することで、PD‐1シグナル伝達軸に由来するシグナル伝達によるT細胞機能障害が排除され、その結果、T細胞機能(例えば、増殖、サイトカインの生成、標的細胞の殺傷)が回復又は増強される分子である。本明細書で使用されるPD‐1軸拮抗剤は、PD‐1拮抗剤(例えば、抗PD‐1抗体)、PD‐L1拮抗剤(例えば、抗PD‐L1抗体)及びPD‐L2拮抗剤(例えば、抗PD‐L2抗体)を含む。
【0076】
用語「PD‐1拮抗剤」とは、PD‐1と1つ又は複数のその結合リガンド(例えば、PD‐L1、PD‐L2)との相互作用に由来するシグナル伝達を低減、遮断、抑制、解消又は干渉する分子である。幾つかの実施形態において、PD‐1拮抗剤は、PD‐1と1つ又は複数のその結合リガンドとの結合を抑制する分子である。幾つかの具体的な実施形態において、PD‐1拮抗剤は、PD‐1とPD‐L1及び/又はPD‐L2との結合を抑制する。例えば、PD‐1拮抗剤は、PD‐1とPD‐L1及び/又はPD‐L2との相互作用に由来するシグナル伝達を低減、遮断、抑制、解消又は干渉する抗PD‐1抗体、その抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質、オリゴペプチド及びその他の分子を含む。一実施形態において、PD‐1拮抗剤がTリンパ球で発現された細胞表面タンパク質により又はそれを介して誘導される負の共刺激シグナル(PD‐1を介してシグナル伝達が誘導される)を低減させることで、機能障害T細胞の機能障害を軽減させる(例えば、抗原認識に対するエフェクター応答を増強させる)。幾つかの実施形態において、PD‐1拮抗剤は、抗PD‐1抗体である。具体的な一実施形態において、PD‐1拮抗剤は、nivolumab、pembrolizumab、pidilizumab、或いはWO2014/206107により開示された任意の抗PD‐1抗体又はその抗原結合フラグメントである。
【0077】
用語「PD‐L1拮抗剤」とは、PD‐L1と1つ又は複数のその結合リガンド(例えば、PD‐1、B7‐1)との相互作用に由来するシグナル伝達を低減、遮断、抑制、解消又は干渉する分子である。幾つかの実施形態において、PD‐L1とその結合リガンドとの結合を抑制する分子である。特定の一様態において、PD‐L1拮抗剤は、PD‐L1とPD‐1及び/又はB7‐1との結合を抑制する。幾つかの実施形態において、PD‐L1拮抗剤は、PD‐L1と1つ又は複数のその結合リガンド(例えば、PD‐1、B7‐1)との相互作用に由来するシグナル伝達を低減、遮断、抑制、解消又は干渉する抗PD‐L1抗体、その抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質、オリゴペプチド及びその他の分子を含む。一実施形態において、PD‐L1拮抗剤がTリンパ球で発現された細胞表面タンパク質により又はそれを介して誘導される負の共刺激シグナル(PD‐L1を介してシグナル伝達が誘導される)を低減させることで、T細胞活性を増強させる(例えば、抗原認識に対するエフェクター応答を増強させる)。幾つかの実施形態において、PD‐L1拮抗剤は、抗PD‐L1抗体である。具体的な一様態において、抗PD‐L1抗体は、atezolizumab、durvalumab、或いはWO2018/153320により開示された任意の抗PD‐L1抗体又はその抗原結合フラグメントである。
【0078】
用語「PD‐L2拮抗剤」とは、PD‐L2と1つ又は複数のその結合リガンド(例えば、PD‐1)との相互作用に由来するシグナル伝達を低減、遮断、抑制、解消又は干渉する分子である。幾つかの実施形態において、PD‐L2拮抗剤は、PD‐L2と1つ又は複数のその結合リガンドとの結合を抑制する分子である。特定の一様態において、PD‐L2拮抗剤は、PD‐L2とPD‐1との結合を抑制する。幾つかの実施形態において、PD‐L2拮抗剤は、PD‐L2と1つ又は複数のその結合リガンド(例えば、PD‐1)との相互作用に由来するシグナル伝達を低減、遮断、抑制、解消又は干渉する抗PD‐L2抗体、その抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質、オリゴペプチド及びその他の分子を含む。一実施形態において、PD‐L2結合拮抗剤がTリンパ球で発現された細胞表面タンパク質により又はそれを介して誘導される負の共刺激シグナル(PD‐L2を介してシグナル伝達が誘導される)を低減させることで、T細胞活性を増強させる(例えば、抗原認識に対するエフェクター応答を増強させる)。
【0079】
用語「etigilimab」とは、CAS Registry Number:2044984‐83‐8配列と同様である抗体又はそのアイソタイプ抗体である。具体的な一実施例において、前記etigilimabがそのIgG4アイソタイプである。
【0080】
用語「核酸」又は「ポリヌクレオチド」とはデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びその単鎖又は二本鎖形態のポリマーである。明確な制限がない限り、用語は、参照核酸と類似する結合性質を有し、天然に存在するヌクレオチドと類似する形態で代謝される、既知天然ヌクレオチドの類似物を含有する核酸を含む(Karikoらに所有されるアメリカ特許No.8,278,036を参照。これらは、ウリジンがシュードウリジンで代用されるmRNA分子、前記mRNA分子の合成方法、及びインビボで治療性タンパク質の送達に利用される方法が開示された)。特に断りのない限り、特定の核酸配列は、その保存・修飾されたバリアント(例えば、縮重コドンの置換)、対立遺伝子、オーソログ、SNP、相補配列、及び明確に指定された配列、を更に含蓄する。具体的に、縮重コドンの置換は、その1つ又は複数の選択的(又は全部)コドンの3番目がミックス塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換された配列の生成により実現される(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J. Biol. Chem. 260:2605‐2608(1985);Rossoliniら、Mol. Cell. Probes 8:91‐98(1994))。
【0081】
「構築体」とは任意の組換えポリヌクレオチド分子(例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、自律複製ポリヌクレオチド分子、バクテリオファージ、直線状又は環状の単鎖又は二本鎖DNA又はRNAポリヌクレオチド分子)であり、任意の由来により誘導され、ゲノムと整合又は自律複製可能であり、機能操作の方式で1つ又は複数のポリヌクレオチド分子と連結される(即ち、操作可能で連結される)ように構成する。組換え構築体は、通常、転写開始調節配列と操作可能で連結される本発明のポリヌクレオチドを含むが、これらの配列が宿主細胞におけるポリヌクレオチドの転写を誘導する。特異的及び非特異的(即ち、内因性)プロモーターの両者を使用して本発明の核酸の発現を誘導する。
【0082】
「ベクター」とは任意の組換えポリヌクレオチド構築体であり、当該構築体が形質転換の目的として利用されてもよい(即ち、ヘテロDNAを宿主細胞に導入する)。ベクターの1種類は「プラスミド」であり、環状二本鎖DNA環であり、その他のDNAセグメントを当該環に連結してもよい。ベクターのもう1種類はウイルスベクターであり、その他のDNAセグメントをウイルスゲノムに連結してもよい。幾つかのベクターが導入先の宿主細胞において自律複製できる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクター及びエピソーマル哺乳類動物ベクター)。宿主細胞に導入された場合、その他のベクター(例えば、非エピソーマル哺乳類動物ベクター)が宿主細胞のゲノムに整合されるため、宿主ゲノムと一緒に複製する。また、幾つかのベクターが操作的に連結される遺伝子の発現を誘導できる。本明細書ではこれらのベクターを「発現ベクター」と呼ぶ。
【0083】
本明細書で使用される用語「発現ベクター」とは、宿主細胞に形質転換、トランスフェクション又は伝達される際に、標的遺伝子を複製及び発現できる核酸分子である。発現ベクターは、ベクター維持及び必要な場合に宿主において増幅ができるように、1つ又は複数の表現型選択マーカー及び複製開始点を含む。
【0084】
文脈から別に明確に規定しない限り、細胞又は受容体について使用される「活性化」、「刺激」と「処理」、例えば細胞又は受容体について使用されるリガンド活性化、刺激又は処理は同じ定義を有する。「リガンド」は天然リガンドと合成リガンド、例えばサイトカイン、サイトカインバリアント、アナログ、変異タンパク質、及び抗体由来の結合化合物を含む。「リガンド」は、小分子、例えばサイトカインのペプチド模倣物や抗体のペプチド模倣物も含む。「活性化」は内部メカニズム及び外部や環境の要因により調整された細胞の活性化を指す。「応答/反応」、例えば細胞、組織、器官又は生体の応答は、生化学又は生理学的行動(例えば生物学的区画内の濃度、密度、接着又は移動、遺伝子発現速度又は分化状態)の変化を含み、ここで、変化は、活性化、刺激又は処理に関連するか、又は例えば遺伝子プログラミングなどの内部メカニズムに関連する。
【0085】
本明細書で使用される任意の疾患又は病症の用語「治療」又は「療治」とは、一実施形態において疾患又は病症の改善(即ち、疾患の発展又はその臨床症状の少なくとも1つの軽減、阻止又は減少)を意味する。別の一実施形態において、「治療」又は「療治」とは、患者が認識できない物理パラメータを含む少なくとも1つの身体パラメータの軽減又は改善を指す。別の一実施形態において、「治療」又は「療治」とは、身体(例えば、認識できる症状の安定)、生理(例えば、身体パラメータの安定)、又は両方において疾患又は病症を調製することを指す。本明細書で明確に説明しない限り、疾患の治療及び/又は予防を評価する方法は本分野において通常既知である。
【0086】
「受検者」とは任意のヒト又は非ヒト動物を含む。用語「非ヒト動物」とは、例えば、非ヒト霊長類動物、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類動物、爬虫類動物など、哺乳類動物及び非哺乳類動物の全ての脊椎動物を含む。本明細書で使用される用語「cyno」又は「カニクイザル」とはカニクイザルを指す。
【0087】
1つ又は複数のその他の治療剤との「併用」投与は、同時(共同)投与及び任意順番の連続投与を含む。
【0088】
「治療有効量」「治療有効用量」及び「有効量」とは、本発明のTIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントを単独で又はその他の治療薬物との組合せで細胞、組織又は受検者に投与する場合、1種類又は複数種類の疾患又は病状の症状或いは当該疾患又は病状の発展を有効的に予防又は改善する量を指す。治療有効用量は、例えば、関連医学病状を治療、完治、予防又は改善する量、或いはこれらの病状の治療、完治、予防又は改善のスピードを向上させる量など、症状改善に十分な抗体又はその抗原結合フラグメントの量を指す。個体に活性成分を単独で投与する場合、治療有効用量とは当該成分の量だけである。組合せで投与する場合、組合せ投与、逐次投与又は同時投与にも関わらず、治療有効用量とは治療効果が出る活性成分の合計量である。治療剤の有効量は、診断標準又はパラメータを少なくとも10%向上させるが、通常は少なくとも20%であり、好ましくは少なくとも約30%であり、更に好ましくは少なくとも40%であり、最も好ましくは少なくとも50%である。
【0089】
「がん」及び「がん性」とは、通常では細胞の成長が調節できないことを特徴とする、哺乳類動物における生理的疾患を指し、或いはそのような生理的疾患を表す。この定義は、良性腫瘍、悪性腫瘍及び休眠腫瘍又は腫瘍の微小転移を含む。がんは、がん、リンパ腫、芽腫、肉腫及び白血病が挙げられるが、これらに限定されない。これらのがんは、扁平上皮がん、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん及び肺扁平上皮がんを含む)、腹膜がん、肝細胞がん、胃のがん又は胃がん(胃腸がんを含む)、膵臓がん、膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝細胞がん(hepatoma)、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん又は子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん又は腎臓のがん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝臓のがん、各種の頭頸部がん、B細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球性(SL)NHL、中悪性度/濾胞性NHL、中悪性度びまん性NHL、高悪性度免疫芽球性NHL、高悪性度リンパ芽球性NHL、高悪性度小非分割細胞性NHL、バルキー病変(bulky disease)NHL、マントル細胞リンパ腫、AIDS関連リンパ腫、及びワルデンシュトレーム型(Waldenstrom)マクログロブリン血症を含む)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、有毛細胞性白血病、慢性骨髄芽球性白血病、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びに母斑症(phakomatoses)、水腫(例えば、脳腫瘍に関する)及びメイグス(Meigs)症候群に関する血管異常増殖が、具体的に挙げられる。
【0090】
(抗TIGIT抗体及びその産生)
用語「抗TIGIT抗体」「抗TIGIT」「TIGIT抗体」又は「TIGITと結合する抗体」とは、TIGITにターゲティングする診断剤及び/又は治療剤として使用できるように、十分な親和力でTIGITタンパク質又はそのフラグメントと結合する抗体を指す。
【0091】
抗体を産生するための任意の適切な方法で本発明の抗体を産生してもよい。任意の適切な形態のTIGITが抗体を産生するための免疫原(抗原)としてもよい。非限定的に例示することで、任意のTIGIT変異体又はそのフラグメントが免疫原としてもよい。幾つかの実施形態において、マウス由来のモノクローナル抗ヒトTIGIT抗体を産生するためのハイブリドーマ細胞は、本分野における周知の方法により産生してもよい。これらの方法は、最初にKohlerら(1975)(Nature 256:495‐497)により研究、開発されたハイブリドーマ技術を含むが、これらに限定されない。標準形態に応じて、マウス膵臓細胞を分離して、PEG又は電気的融合によりマウス骨髄腫細胞系と融合することが好ましい。その後、選定によりTIGIT抑制活性を持つ抗体が分泌されたハイブリドーマ細胞を得た。本発明に係るハイブリドーマ細胞の免疫グロブリン可変領域のDNA配列は、縮重プライマーPCRに基づく方法により測定できる。
【0092】
齧歯動物(例えばマウス)由来の抗体はインビボで治療薬物として利用される場合、不必要な抗体免疫原性を引き起こし、繰返し使用により人体の治療性抗体に対する免疫応答が発生されるが、これらの免疫応答により少なくとも治療効果の喪失、最悪の場合潜在的に致命的なアナフィラキシーが発生される。齧歯動物抗体の免疫原性を低減させる方法の1つはキメラ抗体の産生を含むが、この場合、マウス可変領域とヒト定常領域を融合する(Liuら、(1987)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439‐43)。しかしながら、キメラ抗体における完全齧歯動物可変領域の保留が患者において依然として有害な免疫原性を引き起こす。齧歯動物の可変ドメインの相補性決定領域(CDR)ループをヒトのフレームワークに移植する(即ちヒト化)ことは、齧歯動物配列を最低に低減させることに更に用いられる(Jonesなど(1986)Nature 321:522;Verhoeyenなど(1988)Science 239:1534)。
【0093】
幾つかの実施形態において、本発明のキメラ又はヒト化抗体は、前記製造されたマウスモノクローナルハイブリドーマ抗体の配列に基づいて製造した。重鎖及び軽鎖免疫グロブリンをコードするDNAは、標的マウスハイブリドーマから得られるが、非マウス(例えばヒト)免疫グロブリン配列を含むように、標準分子生物学技術を利用して工程改良を行う。
【0094】
幾つかの実施形態において、本発明にかかるキメラTIGIT抗体は、本分野における既知の方法を利用して、ハイブリドーマ由来の免疫グロブリン重鎖及び軽鎖可変領域とヒトIgG定常領域を有効的に連結して(例えばCabillyらに所有されるアメリカ特許NO.4,816,567を参照)、キメラ型重鎖及びキメラ型軽鎖を得る。幾つかの実施形態において、本発明に係るキメラ抗体に含まれる定常領域は、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4など、ヒトIgGの任意のサブタイプから選ばれるが、好ましくは、IgG4である。
【0095】
幾つかの実施形態において、本発明に係るキメラTIGIT抗体は、1種類のキメラ型軽鎖及び1種類のキメラ型重鎖の発現プラスミドの「混合及びマッピング」により発現細胞にトランスフェクションして得られたものであり、これらの「混合及びマッピング」により得られた抗体とTIGITとの結合が上記結合測定及びその他の通常結合測定(例えば、ELISA)により測定する。
【0096】
本発明に係る抗体の可変領域CDRにおける精確なアミノ酸配列の境界は、各周知形態の任意形態により決定できるが、抗体の三次元的構造とCDRリングのトポロジーに基づくChothia(Chothia et al.(1989)Nature 342:877‐883,Al‐Lazikani et al.,「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」,Journal of Molecular Biology,273,927‐948(1997))、抗体配列の可変性に基づくKabat(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,4th edition,U.S. Department of Health and Human Services,National Institutes of Health(1987)),AbM(University of Bath),Contact(University College London),国際的ImMunoGeneTics database(IMGT)(1999 Nucleic Acids Research,27,209‐212)、及び大量の結晶構造が利用されるアフィニティ伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義を含む。本発明に係る抗体のCDRは、当業者が本分野の任意形態(例えば、異なる割り当てシステム又は組合せ)により境界を決定できる。
【0097】
異なる割り当てシステムにより得られた同一抗体の可変領域のCDRの境界には、差異がある可能性があることを認識すべきである。即ち、異なる割り当てシステムで定義された同一抗体の可変領域のCDR配列には違いがある。従って、本発明で定義された具体的なCDR配列により抗体が限定される場合、前記抗体の範囲には、可変領域配列が前記具体的なCDR配列を含むが、異なる形態(例えば、異なる割り当てシステム又は組合せ)が使用されることにより、かかるCDR境界が本発明で定義された具体的なCDR境界と異なるような抗体も含まれる。
【0098】
異なる特異性(即ち、異なる抗原に対する異なる結合部位)を有する抗体は、異なるCDRを有する。しかし、抗体と抗体との間にあるCDRが異なるにもかかわらず、CDRには限られた数のアミノ酸位置のみを抗原との結合に直接参与する。Kabat、Chothia、AbM、Contact及びNorth方法のうちの少なくとも2種を用いて、最小重複領域を決定することで、抗原結合用の「最小結合単位」を提供することができる。最小結合単位はCDRの1つのサブ部分であってもよい。当業者が明らかにしたように、抗体の構造とタンパク質のフォールディングによって、CDR配列の残り部分の残基を確定することができる。従って、本発明は、本出願に提供される如何なるCDRの変異体も考慮する。例えば、1つのCDRの変異体において、最小結合単位のアミノ酸残基はそのまま保持することができ、Kabat又はChothiaに基づいて定義された残りのCDR残基は保守的なアミノ酸残基で置換されることができる。
【0099】
本発明に係るヒト化抗体は、本分野における既知の方法を利用してマウスCDR領域をヒト生殖細胞系フレームワーク領域に挿入してもよい。Winterらのアメリカ特許No.5,225,539及びQueenらのアメリカ特許No.5,530,101、5,585,089、5,693,762及び6,180,370を参照する。簡単に言えば、出願者はNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)サイトのヒト免疫グロブリン遺伝子データベースから、マウス抗体可変領域のcDNA配列と高い相同性を有するヒト生殖細胞系IgG遺伝子を検索して、原則的に選定されたCDRグラフティングによりヒト化が実現される。しかしながら、CDRループを交換しても、開始抗体と相同な結合性質を有する抗体を均一に産生することができない。ヒト化抗体では、抗原結合の親和力を維持するために、フレームワーク残基(FR)(CDRループのサポートに関わる残基)を変える必要がある場合は多い。簡単に言えば、ヒト化改変の過程には、以下のステップを含む。A.各候補抗体の遺伝子配列とヒト胚性抗体の遺伝子配列とを比較し、相同性の高い配列を探す。B.HLAーDR親和性を分析して調べて、親和力の低いヒト胚性フレームワーク配列を選択する。C.コンピュータシミュレーション技術を利用して、分子ドッキングにより可変領域及びその周辺のフレームワークアミノ酸配列を分析し、その空間的な結合方式を調べる。静電力、ファンデルワールス力、親疎水性やエントロピー値を計算することで、各候補抗体の遺伝子配列のうち、TIGITと作用して空間フレームワークをメンテナンスする重要な単一のアミノ酸を分析し、それを、選択されたヒト胚性遺伝子フレームワークにグラフトし、これに基づいて、保留しなければならないフレームワーク領域のアミノ酸の部位をマークし、ヒト化抗体を合成する。
【0100】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、アミノ酸の欠失、挿入又は置換突然変異を行ったが、上記抗体(特に、上記配列で説明されたCDR領域)と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を備える抗体を含む。幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体は、本発明に係る具体的な配列で説明されたCDR領域と比較する場合、CDR領域におけるアミノ酸の欠失、挿入又は置換を行ったアミノ酸突然変異が1、2、3、4又は5個超えない。
【0101】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3から選ばれる1つ乃至3つを含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:1又は11から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:2又は12から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:3又は13から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0102】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む。
【0103】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含む。
【0104】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3から選ばれる1つ乃至3つを含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:6又は16のアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、LCDR2がSEQ ID NO:7又は17のアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:8又は18のアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0105】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含む。
【0106】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:16のアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含む。
【0107】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3、並びに軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含む。
【0108】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2及びHCDR3、並びに軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記HCDR1がSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を含み、前記HCDR2がSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含み、前記HCDR3がSEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含み、前記LCDR1がSEQ ID NO:16のアミノ酸配列を含み、前記LCDR2がSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を含み、前記LCDR3がSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含む。
【0109】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)を含み、前記重鎖可変領域(VH)がSEQ ID NO:4、14、21、23、25、27及び29から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0110】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、軽鎖可変領域(VL)を含み、前記軽鎖可変領域(VL)がSEQ ID NO:9、19、22、24、26、28及び30から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0111】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:4、14、21、23、25、27及び29から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、並びに前記VLがSEQ ID NO:9、19、22、24、26、28及び30から選ばれるアミノ酸配列と同様或いは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0112】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を含む。
【0113】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:14のアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:19のアミノ酸配列を含む。
【0114】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:22のアミノ酸配列を含む。
【0115】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:23のアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む。
【0116】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:25のアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:26のアミノ酸配列を含む。
【0117】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:27のアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:28のアミノ酸配列を含む。
【0118】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHがSEQ ID NO:29のアミノ酸配列を含み、前記VLがSEQ ID NO:30のアミノ酸配列を含む。
【0119】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体である。
【0120】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、完全抗体、単鎖抗体、Fab抗体、Fab’抗体、(Fab’)2抗体、又は二重(多重)特異性抗体である。
【0121】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、任意のIgGサブタイプであり、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4である。
【0122】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体のFc領域に1つ又は複数のアミノ酸修飾を導入してFc領域の変異体を産生することができる。Fc領域の変異体は、1つ又は複数のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば置換)が含まれるヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4Fc領域)を含んでもよい。
【0123】
幾つかの実施形態において、例えば、「チオMAb」など、その1つ又は複数の残基がシステイン残基で置換された、システイン工程により改造された抗体を産生する必要がある。
【0124】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗体は、更に修飾により本分野で既知且つ容易に入手できるその他のタンパク質以外の部分を含んでもよい。抗体の誘導効果に適される部分は、水溶性ポリマーを含むが、これらに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例は、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ‐1,3‐ジオキサン、ポリ‐1,3,6‐トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマー)、デキストラン又はポリ(n‐ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセリン)、ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0125】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、(1)ヒトTIGITタンパク質と特異的に結合する特性、(2)カニクイザルTIGITと交差反応を行う特性、(3)TIGITとPVR及び/又はPVRL2との結合を抑制する特性、(4)TIGITにより誘導される活性シグナル伝達を抑制する特性、(5)T細胞に対するPD‐1軸拮抗剤の活性化効果を促進する特性、(6)単独投与又はPD‐1軸拮抗剤との併用投与で腫瘍の成長を明らかに抑制する特性、の1つ又は複数を有する。
【0126】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、約1nMのKD又は更に高い親和力(例えば、1nM‐2pM、1nM、100pM、10pM又は2pM)でTIGITと特異的に結合する。一実施形態において、ヒトTIGITと特異的に結合する本発明に係る抗体は、更にカニクイザルTIGITと交差反応を行う。本明細書に記載される「交差反応性」とは、抗体とその他の種に由来する相同タンパク質と反応する能力である。抗体がヒトTIGITと特異的に結合するかについて、本分野で既知の任意の測定法により判断できる。本分野で既知の結合親和力測定分析の実例は、表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)又は類似技術(例えば、ForteBio)を含む。
【0127】
幾つかの実施形態において、本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、例えば、TIGITの発現(例えば、細胞表面TIGITの発現)、活性及び/又はシグナル伝達を抑制、或いはTIGITとPVR及び/又はPVRL2との相互作用を干渉する、抑制活性を有する。本発明に係るTIGIT抗体は、TIGIT(例えば、ヒトTIGIT)と結合、又はそれと相互作用を行うと、TIGITの発現又は活性を完全に又は部分的に低減又は調節する。抗体は、ヒトTIGITポリペプチド及び/又はペプチドと相互作用を行うと、TIGIT生物学的機能を完全に、明らかに、又は部分的に低減又は調節する。本明細書に記載される抗体との相互作用(例えば、結合)がない場合のTIGITの発現又は活性水準よりも、抗体が存在する場合のTIGITの発現又は活性水準が少なくとも95%(例えば、96%、97%、98%、99%又は100%)低減した場合、前記抗体がTIGITの発現又は活性を完全に抑制できるとされる。本明細書に記載されるTIGIT抗体との結合がない場合のTIGITの発現又は活性水準よりも、TIGIT抗体が存在する場合のTIGITの発現又は活性水準が少なくとも50%(例えば、55%、60%、75%、80%、85%又は90%)低減した場合、前記TIGIT抗体がTIGITの発現又は活性を明らかに抑制できるとされる。本明細書に記載される抗体との相互作用(例えば、結合)がない場合のTIGITの発現又は活性水準よりも、抗体が存在する場合のTIGITの発現又は活性水準が95%未満(例えば、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、75%、80%、85%又は90%)低減した場合、前記抗体がTIGITの発現又は活性を部分的に抑制できるとされる。
【0128】
(抗体発現)
一様態において、本発明は、1つ又は複数の発現ベクターを含む宿主細胞、及び本発明の任意の抗体又はそのフラグメントを産生するための方法に関するが、前記方法が前記宿主細胞の培養、前記抗体又は抗原結合フラグメントの精製と回収を含む。
【0129】
一様態において、本発明は、上記任意の抗TIGIT抗体又はそのフラグメントをコードする核酸を提供する。前記核酸は、抗体の軽鎖可変領域及び/又は重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードする核酸を含んでもよく、或いは抗体の軽鎖及び/又は重鎖のアミノ酸配列をコードする核酸を含んでもよい。
【0130】
一実施形態において、前記核酸を含む1つ又は複数のベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは発現ベクターである。
【0131】
本発明は、米国タイプカルチャーコレクション(ATCC)により得られる大量の不死化細胞系を含む、本発明の組換え抗体を発現するための哺乳類動物宿主細胞を提供する。特に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NSO、SP2/O細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞がん細胞、A549細胞、293T細胞及び大量のその他の細胞系を含む。哺乳類動物宿主細胞は、ヒト、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、ハムスターの細胞を含む。どの細胞系が高発現レベルを有するかについて測定することで、特に好ましい細胞系を選択する。
【0132】
一実施形態において、本発明は、抗TIGIT抗体の製造方法を提供する。前記方法は、発現ベクターを哺乳類動物の宿主細胞に導入して、宿主細胞を十分な一定時間で培養することで、抗体が宿主細胞で発現される、又は更に好ましくは抗体が宿主細胞の成長培地に分泌するように、抗体を産生すること、を含む。標準タンパク質精製方法により培地から抗体を回収する。
【0133】
異なる細胞系で発現される、又は遺伝子組換え動物で発現される抗体同士が異なるグリコシル化を示す可能性がある。しかしながら、抗体のグリコシル化にも関わらず、本明細書で提供される核酸分子によりコードされる、又は本明細書で提供されるアミノ酸配列を含む、全ての抗体が本発明の構成部分である。同様に、幾つかの実施形態において、非ロックウィードグリコシル化抗体の糖構造が天然ヒト血清IgGの一般的な成分であるため、通常、インビトロ及びインビボにおいてそのロックウィードグリコシル化対応物より更に強力な効果を持つとともに、免疫原性である可能性がないことから、非ロックウィードグリコシル化抗体が優位性を持つ。
【0134】
(医薬組成物及び薬物製剤)
本発明は、1つ又は複数のTIGITと結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を提供する。本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメント又はその医薬組成物は、製剤のうちの適切な担体、賦形剤及びその他の試薬と整合して併用投与することで、改善された転移、送達、耐性などを提供できる。
【0135】
用語「医薬組成物」とは、含んでもよい活性成分の生物活性が有効的な形態で存在すると共に、前記製剤の投与を受ける受検者に対して許容されない毒性があるその他の成分を含まない製剤である。
【0136】
所定の純度を有する本発明に係る抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントを1つ又は複数の任意の医薬品添加物(Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition,edited by Osol,A.(1980))と混合することによって、本明細書に記載される抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントを含む薬物製剤を製造できるが、好ましくは、前記薬物製剤が水溶液又は凍結乾燥製剤の形態である。
【0137】
本発明に係る医薬組成物又は製剤は、1つ又は複数のその他の活性成分を更に含んでもよいが、前記活性成分が治療される特定の適応症にとって必要とされるものであり、好ましくは、互いに悪い影響を与えない相補性活性のような活性成分を有する。幾つかの実施形態において、その他の活性成分は、化学療法剤、免疫チェックポイント抑製剤、成長抑製剤、抗生物質又は既知の各種抗腫瘍又は抗がん剤であり、前記活性成分が目的用途に対して有効である量の適切な組合せで存在する。幾つかの実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドの組成物を更に含む。
【0138】
(抗体の医薬用途)
一様態において、本発明は、受検者に対して、本明細書に記載される任意の抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメント、或いは前記抗体又はその抗原結合フラグメントを含む免疫抱合体若しくは医薬組成物を有効量で投与する方法に関するが、当該方法は、T細胞又はNK細胞により誘導される抗腫瘍活性或いは機体を増強させる免疫応答を誘導するためのものである。
【0139】
別の一様態において、本発明は、受検者に対して、本明細書に記載される任意の抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメント、或いは前記抗体又は抗原結合フラグメントを含む免疫抱合体若しくは医薬組成物を有効量で投与する方法に関するが、当該方法は、各種のがん、免疫関連疾患及びT細胞機能障害疾患を治療又は緩和するためのものである。
【0140】
別の一様態において、本発明は、受検者に対して、1つ又は複数の療法(例えば、治療法及び/又はその他の治療剤)を有効量で併用投与するものに関する。幾つかの実施形態において、前記療法は、手術治療及び/又は放射線治療を含む。幾つかの実施形態において、その他の治療剤は、化学療法剤、PD‐1軸拮抗剤(例えば、抗PD‐1抗体又は抗PD‐L1抗体又は抗PD‐L2抗体)から選ばれる。
【0141】
別の様態において、本発明は、薬物の生産又は製造における、本明細書に記載される抗
TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントの用途を提供するが、前記薬物は、本明細書で言及される関連疾患又は病症を治療するためのものである。本発明は、薬物の生産又は製造における、本明細書に記載される抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメント及びPD‐1軸拮抗剤(例えば、抗PD‐1抗体又は抗PD‐L1抗体又は抗PD‐L2抗体)の用途を更に提供するが、前記薬物は、本明細書で言及される関連疾患又は病症を治療するためのものである。
【0142】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される方法及び用途は、前記個体に対して1つ又は複数の療法(例えば、治療法及び/又はその他の治療剤)を投与するものを更に含む。本発明に係る抗体を単独で又は療法のうちのその他の治療剤との組合せで使用してもよい。例えば、少なくとも1つの別の治療剤と併用投与してもよい。
【0143】
(診断及び検出に利用される方法)
幾つかの実施形態において、本発明に係る任意の抗TIGIT抗体又はその抗原結合フラグメントは、生体サンプルにおけるTIGITの存在を検出するために利用されてもよい。本明細書で使用される用語「検出」は、定量的検出又は定性的検出を含む。幾つかの実施形態において、生物サンプルは、血、血清又は生物に由来するその他の液体サンプルである。幾つかの実施形態において、生物サンプルは細胞又は組織を含む。
【0144】
本発明は説明される特定の実施形態の全ての組合せを含む。本発明の更なる実施形態及び適用可能な完全範囲は、下記に提供される具体的な説明により明らかになる。しかしながら、本発明の好適な実施形態を具体的に説明及び特定の実施例で指示したが、本発明の趣旨及び範囲内にある各変更及び補正がこれらの具体的な説明により当業者にとって明らかになるため、説明の形だけでこれらの説明及び実施例を提供する。全ての目的から、前言を含む本明細書で引用される全ての開示物、特許及び出願は引用の形で本明細書に添加される。
【0145】
本発明は下記の略語を用いる。
RLUは相対発光ユニットを示す。
BSAはウシ血清アルブミンを示す。
【実施例
【0146】
(実施例1:組換えタンパク質hTIGIT‐ECD‐mFC)
通常のPCR技術によりTIGIT細胞外ドメインをコードするcDNA配列を増幅させ、通常のクローン技術により増幅されたフラグメントを自己構築された真核発現プラスミド系(MX2‐mFc、マウスIgG2aを含むFc領域)にクローニングし、その中にピューロマイシン選定系が含まれることで、組換え融合タンパク質発現プラスミドhTIGIT‐ECD‐mFCを産生した。発現細胞293EによりhTIGIT‐ECD‐mFC組換えタンパク質を発現及び精製して得た。
【0147】
なお、ヒトTIGIT細胞外ドメイン(hTIGIT‐ECD)アミノ酸配列はNCBI登録番号NM_173799.4の24番目‐155番目アミノ酸であり、本発明に係る抗体の免疫原及び活性検出に利用される。
カニクイザルTIGIT細胞外ドメイン(cynoTIGIT‐ECD)配列はNCBI登録番号XP_015300912.1であり、本発明に係る抗体の活性検出に利用される。
【0148】
(実施例2:ハイブリドーマ抗体の製造及び選定)
標準分子生物学技術を利用してハイブリドーマ抗体を産生した。簡単に言えば、組換えタンパク質hTIGIT‐ECD‐mFCを抗原として等量の免疫アジュバントと混合して、6週齢雌Balb/cマウスを5匹取り、免疫を行った。最初免疫以降、最初免疫後の3週間目にブースト免疫を1回行い、その後2週間おきにブースト免疫を1回行い、免疫を計6回行った。最後にブースト免疫を1回行った後、血清における抗hTIGIT抗体滴定濃度の高いマウスを選択して、細胞融合実験用免疫細胞の由来とする。標準ハイブリドーマ技術により膵臓細胞を分離して、通常のエレクトロトランスフェクション方法(BTX社のエレクトロトランスフェクション装置のマニュアルを参照)によりマウス骨髄腫細胞系SP2/0細胞(ATCC)と融合を行った。融合細胞をHATが含まれるDMEM完全合成培地(Corning)に再懸濁させ、マウス培養細胞が含まれる384ウェルプレートに均一にプレーティングした。
【0149】
最初に希望される抗体/抗原結合の特徴(例えば、TIGITに対する結合特異性、TIGITとPVRとの結合を遮断する能力、TIGITにより誘導される生理活性を遮断する能力)に基づき、モノクローナルハイブリドーマから分泌された上澄みを評定したが、ハイブリドーマ2018及び23020から分泌された上澄み抗体を更なる特徴付けに利用した。
【0150】
(実施例3:T細胞活性に対するマウス抗TIGIT抗体の影響)
抗原提示細胞(APC)において主な組織適合性複合体クラスI又はクラスIIタンパク質を通して提示した特異性ペプチドのT細胞受容体(TCR)を刺激により識別することにより、T細胞を活性化させた。活性化させたTCRはシグナリングイベントのカスケードを起動させ、これは、転写因子(例えば、活性化子‐タンパク質‐I(AP‐I)、活性化させたT細胞の核因子(NFAT)又は活性化させたB細胞の核因子κ軽鎖エンハンサー(NFκb))により駆動されるレポーター遺伝子を通じて監視できる。T細胞への構成又は誘導発現させた共同受容体の結合(engagement)によりT細胞応答を調整した。プログラム細胞死タンパク質(PD1)とTIGITはT細胞活性の負の調整物である。PD‐1とTIGITはそれぞれAPC又はがん細胞を含むもので発現されたそのリガンド(PD‐L1)及びPVR(又は/及びPVRL2)と相互作用し、このような相互作用により、ホスファターゼをTCRシグナルサム(signalosome)に集めて抑制シグナルを送達することで、ポジティブシグナル伝達の抑制を発生させる。2個のエンジニアリングされた安定発現細胞系Jurkat細胞(Jurkat/NFAT‐Luc/hPD‐1‐hTIGIT)とCHO細胞(CHO/hPD‐L1‐hPVRL2)を構築して、APCとT細胞との相互作用により誘導されたT細胞シグナル伝達を測定した。
【0151】
具体的に、hPD‐L1/hPVRL2を安定的に発現させたCHO細胞を96ウェルプレートにプレーティングし、各ウェルの細胞量を5×104とし、37℃、7%CO2で一晩培養し、細胞上澄みを除去し、ウェルごとに40μLの抗TIGIT抗体(2018、23020又はMBSA43)希釈液(開始濃度10μg/ml、3倍で滴定)を加え、及び/又は40μLのJS001(0.5μg/ml)を事前に加え、hPD‐1/hTIGIT/NFAT‐ルシフェラーゼを持続的に発現できる40μLのJurkatレポーター細胞を加え、全細胞数を1×105細胞とし、37℃、7%CO2で6時間培養し、ルシフェラーゼ試薬を加え、マイクロプレートリーダーにより発光値を検出した。
【0152】
なお、MBSA43は市販品の抗ヒトTIGIT抗体であり、ThermoFisherにより購入され、ロット番号が16‐9500‐82である。
JS001:君実生物が自社で研究開発した抗PD‐1抗体(CN201310258289、抗体38)である。
【0153】
GraphPad Prism 5によりデータを解析し、TIGIT抗体によりT細胞を活性化させたEC50値を算出して、T細胞活性に対する、抗TIGIT抗体単独で又は抗PD‐1抗体(JS001)との組合せによる影響を評価した。詳しくは図1及び下記の表1を参照する。
【0154】
【表1】
【0155】
結果によれば、
(1)抗体2018及び23020がT細胞活性を明らかに促進できる。
(2)T細胞に対する抗体2018の活性化効果が市販品の抗体MBSA43より明らかに良好である。
(3)T細胞に対する抗体2018、23020及びMBSA43による活性化と抗PD‐1抗体JS001による活性化とシナジー効果がある。
【0156】
(実施例4:キメラ抗体の構築及び発現)
縮重プライマーPCRに基づく方法により、ハイブリドーマ2018及び23020で発現された抗体可変領域のDNA配列を測定した。
2018及び23020のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は表2に示される。
【0157】
【表2】
【0158】
ヒト血細胞(北京血液研究所)からヒトIgG4重鎖定常領域Fcフラグメント(SEQ ID NO:35)及び軽鎖定常領域をクローニングして、pCDNA3.1プラスミドに連結して改変を行った。上記重鎖及び軽鎖可変領域配列フラグメントがGenscript社により合成されるが、重鎖をBspq Iによりダイジェストし、軽鎖をBspq Iによりダイジェストした後、対応の改変されたpCDNA3.1プラスミドに連結し、シークエンシングによりIgG4キメラ型の重鎖(ch‐HC)又は軽鎖(ch‐LC)の発現プラスミドを決める。上記異なるキメラ型重鎖及び軽鎖の発現プラスミドを混合・ペアリングし、発現細胞にトランスフェクションして、番号ch1からch4まで(表3を参照)4種類のキメラ抗体を得た。
【0159】
【表3】
【0160】
(実施例5:キメラ抗TIGIT抗体と抗原TIGITとの結合活性のELISAによる検出)
即ち、1μg/mlのヒトTIGIT‐ECD‐mFcを96ウェルELISAプレートにコーティングして、37℃の恒温で60‐90分間インキュベートした。次に、ウェル内の溶液を捨てて、洗浄緩衝液で3回洗浄し、2% BSAを含有するPBS溶液を加えて60分間ブロックした。洗浄緩衝液で3回洗浄してから、異なる濃度のキメラ抗体希釈液を入れ、37℃で60分間インキュベートした。次に、洗浄緩衝液で3回洗浄してから、1:5000倍で希釈させた抗IgG4‐HRPを入れ、37℃で30分間インキュベートした。次に、洗浄緩衝液で3回洗浄してから、100μLのTMB基質溶液を入れて顕色させ、室温で30分間反応させた。次に、100μLの2M塩酸溶液で反応を終了して450nmにおいて吸光度を読取った。
【0161】
図2に示されるように、キメラ抗体ch1、ch4とヒトTIGITとの結合が高い特異性を有し、EC50がそれぞれ32.49ng/mL及び8.932ng/mLである。
【0162】
(実施例6:T細胞活性に対するキメラ抗TIGIT抗体の影響)
実施例3に係る実験原理及び実験方法に基づき、ルシフェラーゼレポーター遺伝子実験(Luciferase Assay)によりT細胞活性に対するキメラ抗体ch1、ch4の影響が検出された。
図3に示されるように、キメラ抗体ch1、ch4がそれぞれ蛍光シグナルを明らかに増強させ、即ち、T血細胞の活性化を促進することができ、EC50がそれぞれ76.64ng/mL及び103.9ng/mLである。
【0163】
(実施例7:抗体のヒト化改変)
抗体のヒト化について、まず、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)サイトのヒト免疫グロブリン遺伝子データベースから、マウス抗体可変領域のcDNA配列と高い相同性を有するヒト生殖細胞系IgG遺伝子を検索した。更にKabat番号系又はIMGT番号系により可変領域CDRのアミノ酸配列及びその精確な境界を定義した。IMGTにより定義されたマウス抗体可変領域CDR配列は表4に示される。原則的にマウス抗体可変領域と高い相同性を有するヒトIGVH及びIGVkをヒト化テンプレートとして選択して、CDRグラフティングによりヒト化を実施した。簡単に言えば、ヒト化改変の過程には、以下のステップを含む。A.各候補抗体の遺伝子配列とヒト胚性抗体の遺伝子配列とを比較し、相同性の高い配列を探す。B.HLAーDR親和性を分析して調べて、親和力の低いヒト胚性フレームワーク配列を選択する。C.コンピュータシミュレーション技術を利用して、分子ドッキングにより可変領域及びその周辺のフレームワークアミノ酸配列を分析し、その空間的な結合方式を調べる。静電力、ファンデルワールス力、親疎水性やエントロピー値を計算することで、各候補抗体の遺伝子配列のうち、TIGITと作用して空間フレームワークをメンテナンスする重要な単一のアミノ酸を分析し、それを、選択されたヒト胚性遺伝子フレームワークにグラフトし、これに基づいて、保留しなければならないフレームワーク領域のアミノ酸の部位をマークし、ヒト化抗体を合成した。上記各要素に基づき、抗体活性を選定するためのヒト化抗体を計81個設計した。なお、抗体hu3、hu20、hu62、hu69及びhu81のアミノ酸配列の情報は表5に示される。抗体hu3、hu20の全長アミノ酸配列の情報は表6に示される。
【0164】
【表4】
【0165】
【表5】
【0166】
【表6】
【0167】
(実施例8:ヒト化抗体とヒトTIGITとの結合特異性のELISAによる検出)
通常のELISA検出方法によりヒト化抗体とヒトTIGITとの結合特異性が検出された。即ち、0.5μg/mlのヒトTIGIT‐ECD‐mFcを96ウェルELISAプレートにコーティングして、37℃の恒温で60~90分間インキュベートした。次に、ウェル内の溶液を捨てて、洗浄緩衝液で3回洗浄し、2% BSAを含有するPBS溶液を加えて60分間ブロックした。洗浄緩衝液で3回洗浄してから、異なる濃度の抗体希釈液を入れ、37℃で60分間インキュベートした。次に、洗浄緩衝液で3回洗浄してから、1:5000倍で希釈させた抗IgG4‐HRPを入れ、37℃で30分間インキュベートした。次に、洗浄緩衝液で3回洗浄してから、100μLのTMB基質溶液を入れて顕色させ、室温で30分間反応させた。次に、100μLの2M塩酸溶液で反応を終了して450nmにおいて吸光度を読取った。
【0168】
図4に示されるように、抗体hu3、hu20、hu62、hu69及びhu81とヒトTIGITとの結合が高い特異性を有し、EC50がそれぞれ23.20ng/mL、37.84ng/ml、8.60ng/mL、10.66ng/mL及び9.83ng/mLである。また、抗体hu3、hu62、hu69及びhu81とTIGITとの結合の特異性が対照抗体Etigilimabより明らかに良好である。
【0169】
(実施例9:T細胞活性に対するヒト化抗TIGIT抗体の影響)
実施例3に係る実験原理及び実験方法に基づき、ルシフェラーゼレポーター遺伝子実験(Luciferase Assay)によりT細胞活性に対するヒト化抗TIGIT抗体hu3、hu20、hu62、hu69及びhu81の影響が検出された。
【0170】
図5に示されるように、抗体hu3、hu20、hu62、hu69及びhu81がそれぞれ蛍光シグナルを明らかに増強させ、即ち、T血細胞の活性化を促進することができ、EC50がそれぞれ139.9ng/mL、42.39ng/mL、109.4ng/mL、102.7ng/mL、88.43ng/mLである。また、抗体hu3、hu20、hu62、hu69及びhu81によるT血細胞の活性化促進効果が対照抗体Etigilimabより明らかに良好である。
【0171】
(実施例10:hTIGITとそのリガンドhPVRとの結合の抗体による遮断効果のFACSによる検出)
競争力に基づくフローサイトメトリー(FACS)により、hTIGITとそのリガンドhPVRなどとの結合の抗体による遮断効果を測定・検出した。簡単に言えば、異なる濃度の抗体希釈液(開始30μg/ml、3倍で滴定)とPVR‐mFC(1μg/ml、50μL)とを混合して、室温で30分間インキュベートした。その後、混合物と細胞懸濁液(293F‐hPVR安定発現細胞株、2.5×104細胞/ウェル)を37℃で15分間インキュベートした。次に、PBSで3回溶出してから、100μLのヤギ抗ヒトIgG‐PE抗体を入れ、遮光下30minインキュベートした。PBSで3回溶出してから、FACSにより検出した。FSC/SSCにより生細胞に対してゲート制御を行い、その幾何学的平均蛍光強度を計測した。
【0172】
図6に示されるように、本発明に係るヒト化抗体によりTIGITと細胞表面PVRとの結合が有効的に遮断される。
【0173】
(実施例11:ヒト化抗体と異なる種類TIGITとの結合のBIACOREによる検出)
Biacore T200(GE)により本発明に係る抗体とTIGITとの親和力及び結合動力学を検出した。まず、SシリーズのCM5チップ(GE)を装置にセットし、酢酸ナトリウム‐酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解させた40μg/mLヒツジ抗ヒトFcフラグメント抗体(Jackson ImmuneResearch社)をチップ表面に結合する。抗体抗原結合の検出に利用される緩衝液はGEヘルスケアライフサイエンス社のHBS‐EP+である。抗体hu3及びhu20をそれぞれ8μg/mLまで希釈させて、チップ表面に捕獲した。抗原hTIGIT Fcを20nMまで希釈させて、30μL/minの流速でチップ表面に180s注入し、抗体と抗原との結合解離シグナルを検出した。Biacore T200 Evaluation Software 3.0ソフトにより1:1結合モデルで得られたデータを分析した。フィッティングにより抗体と抗原との結合の速度定数である結合速度ka(1/Ms)、解離速度kd(1/s)、平衡解離定数KD(M)が得られ、表7に示される。
【0174】
【表7】
【0175】
結果によれば、本発明に係る抗体とヒトやカニクイザルのTIGITと高い親和力を有し、抗体とヒトとのKD値が0.13nMと低い。
【0176】
(実施例12:ヒト化抗体によるマウス腫瘍成長への抑制効果)
本研究は、B‐hPD‐1/hTIGITヒト化マウス(百奥賽図江蘇基因生物技術有限公司により購入、雌)MC38結腸がん動物モデルの構築、並びに抗TIGIT抗体及びそれと抗‐PD1抗体との併用投与の共同抗腫瘍効果の研究に関する。
【0177】
PBSで再懸濁させたMC38細胞を、5×105個/0.1mLの濃度、0.1mL/匹の体積でB‐hPD‐1/hTIGITヒト化マウスの右背部に皮下接種した。腫瘍の平均体積が80‐100mm3に達した場合、マウスの腫瘍体積及び体重に基づいて適切なマウスを選択して群に入れ、1群あたり8匹で8個の実験群に均一に割り当て、群分け当日に投与を開始した。具体的な投与形態は表8を参照する。
【0178】
【表8】
【0179】
注:a:投与体積が実験動物の体重により10μL/gで計算する。
b:BIWとは週に2回投与することを示す。
i.p:腹腔内注射。
KLH hIgG4:陰性対照抗体。
JS001:君実生物が自社で研究開発した抗PD‐1抗体(CN2013102582892、抗体38)である。
【0180】
実験期間にわたり、6日目(投与前)から腫瘍体積及び動物体重を週2回測定し、3週間にわたり連続的に監視した。ノギスを用いて腫瘍の長径(L)と短径(W)を測定し、V=L×W2/2という計算式により腫瘍体積(V)を算出した。各群のマウスに対して腫瘍体積と時間のグラフを作成した。分散分析(ANOVA)により統計的有意性を判定する。P値<0.05である場合は、分析に統計的有意性がある。
【0181】
26日間の実験が終了した場合、マウスに安楽死を実施する。分離された腫瘍組織について、写真を撮り、重量を測り、各群のマウス腫瘍の重量及び体積(腫瘍最終体積)を測定して、腫瘍成長に対する抑制率(TGI(%))を算出した。
【0182】
結果によれば、
(1)図7に示されるように、単独投与した場合、投与3週間後、群1(KLH hIgG4、10mg/kg)の投与群よりも、群2(JS001、0.3mg/kg)、群3(hu20、1mg/kg)、群4(hu20、3mg/kg)及び群5(hu20、10mg/kg)の投与群は、MC38担腫瘍マウスにおける腫瘍成長に対して明らかな抑制効果を示しており、腫瘍体積が小さくなり、腫瘍成長も遅くなる。併用投与した場合、単独投与群よりも併用投与群(群6 vs 群3/群2、群7 vs 群4/群2、群8 vs 群5/群2)は、MC38担腫瘍マウスにおける腫瘍成長に対して明らかな抑制効果を示しており、即ち、本発明に係る抗TIGITモノクローナル抗体hu20と抗PD‐1モノクローナル抗体JS001の併用投与では、良好な共同抗腫瘍効果を示している。
【0183】
(2)本発明は、26日目(腫瘍種移後)実験終了時の各群マウスにおける腫瘍成長に対する抑制率を更に算出した。腫瘍成長に対する抑制率の計算式は下記の通りである。
腫瘍成長に対する抑制率TGI(%)=[1-(Ti-T0)/(Vi-V0)]×100%
但し、Ti-T0=投与群投与後腫瘍最終体積-投与群投与前腫瘍体積、Vi-V0=対照群投与後腫瘍最終体積-対照群投与前腫瘍体積(6日目投与前腫瘍体積)。
計算結果は表9に示される。
【0184】
【表9】
【0185】
Mean±SD:平均値±標準偏差
【0186】
結果によれば、実験末期(腫瘍種移後26日目)では、hu20又はJS001単独投与群よりも抗TIGIT抗体hu20と抗PD‐1抗体JS001の併用投与群(群6 vs 群3/群2、群7 vs 群4/群2、群8 vs 群5/群2)は、腫瘍成長に対する抑制率TGI(%)が明らかに高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2022541022000001.app
【国際調査報告】