(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-21
(54)【発明の名称】光信号パラメータを測定するための方法および装置ならびに不揮発性記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220913BHJP
G01J 11/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G01N21/64 B
G01J11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502805
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2020067090
(87)【国際公開番号】W WO2021008811
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】102019210421.5
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ビアク
(72)【発明者】
【氏名】アーノルト ギスケ
【テーマコード(参考)】
2G043
2G065
【Fターム(参考)】
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043FA03
2G043KA08
2G043KA09
2G043LA02
2G043MA12
2G043NA01
2G043NA04
2G043NA06
2G065AA04
2G065AB11
2G065AB15
2G065AB19
2G065BA18
2G065BC14
2G065BC15
2G065BC17
2G065BC22
2G065BC33
2G065BC35
2G065CA30
2G065DA08
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの光信号パラメータ(30)を測定するための方法および装置(43)、ならびに不揮発性コンピュータ可読記憶媒体(111)に関する。既知の方法には、単一光子(13)の信号、すなわち蛍光光子イベント(15)が重畳するやいなや、この方法が使用不可能になるという欠点がある。既知の方法を改良するために、本発明による方法は、次のステップを含んでいる:サンプル(49)における、光信号、特に蛍光の励起のために、所定の測定期間(23)にわたってサンプル(49)を照明するステップ;サンプル(49)から送出された光信号を検出し、光信号の、時間にわたった変化を表す電気信号(3)を提供するステップ;測定期間(23)にわたって、電気信号(3)に基づいて単一の光子イベント(15)を計数し、光子イベント(15)の数(15a)を表すカウンタ値(ΣE)を提供するステップ;測定期間(23)にわたって電気信号(3)を積分し、積分された信号(ΣP)を提供するステップ、および少なくとも、カウンタ値(ΣE)と積分された信号(ΣP)とに基づいて、少なくとも1つの光信号パラメータ(30)を決定するステップ。本発明による装置(43)は、上述の課題を、これが検出器(1)、積分モジュール(71)、計数モジュール(61)ならびに積分された信号(ΣP)およびカウンタ値(ΣE)に基づいて少なくとも1つの光信号パラメータ(30)を決定する論理ユニット(77)を含んでいることによって解決する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの光信号パラメータ(30)を測定するための方法であって、前記方法は、
・サンプル(49)における、光信号、特に蛍光の励起のために、所定の測定期間(23)にわたって前記サンプル(49)を照明するステップと、
・前記サンプル(49)から送出された前記光信号を検出し、前記光信号の、時間にわたった変化を表す電気信号(3)を提供するステップと、
・前記測定期間(23)にわたって、前記電気信号(3)に基づいて単一の光子イベント(15)を計数し、光子イベント(15)の数(15a)を表すカウンタ値(Σ
E)を提供するステップと、
・前記測定期間(23)にわたって前記電気信号(3)を積分し、積分された信号(Σ
P)を提供するステップと、
・少なくとも、前記カウンタ値(Σ
E)と前記積分された信号(Σ
P)とに基づいて、少なくとも1つの光信号パラメータ(30)を決定するステップと、
を含んでいる方法。
【請求項2】
前記測定期間(23)にわたって前記サンプル(49)を照明するステップを、特に光パルス(27)のシーケンスを使用して、時間の経過とともに変調して行う、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記光信号パラメータ(30)は、前記光信号の蛍光寿命(33)または強度(34)である、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記積分と前記計数とを並行して行う、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記カウンタ値(Σ
E)および前記積分された信号(Σ
P)を用いて、前記光信号パラメータ(30)を計算するステップをさらに含んでいる、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、事前に格納されているデータ(31)を用いて、前記カウンタ値(Σ
E)および前記積分された信号(Σ
P)に関連して、前記光信号パラメータ(30)を決定するステップをさらに含んでいる、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、単一の光子イベント(15)のパルス形状(17)および/またはパルス持続時間(19)を求めるステップおよび/または較正するステップをさらに含んでいる、
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記単一の光子イベント(15)の前記パルス形状(17)および/または前記パルス持続時間(19)を考慮して、前記光信号パラメータ(30)を決定する、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記サンプル(49)の順次の走査またはスキャンおよび前記サンプル(49)の、互いに空間的に間隔を置いた領域(103a,103b)の光信号パラメータ(30)の画像(101)の生成をさらに含んでいる、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
光信号パラメータ(30)を測定するための装置(43)であって、
前記装置(43)は、検出器(1)と、積分モジュール(71)と、計数モジュール(61)と、論理ユニット(77)と、を含んでおり、
前記検出器(1)は、入射した光子(13)のシーケンス(26)を表す電気信号(3)を生成し、検出器出力側(51)で出力し、
前記積分モジュール(71)は、測定期間(23)にわたって前記電気信号(3)を積分し、前記積分モジュール(71)は、ここから結果として生じる積分された信号(Σ
P)を出力するように構成されており、
前記計数モジュール(61)は、前記測定期間(23)にわたった前記電気信号(3)に基づいて、前記測定期間(23)中に検出された光子イベント(15)の数(15a)を計数し、前記数(15a)を表すカウンタ値(Σ
E)を出力し、
前記論理ユニット(77)は、前記積分された信号(Σ
P)および前記カウンタ値(Σ
E)に関連して、少なくとも1つの光信号パラメータ(30)を決定する、
装置(43)。
【請求項11】
前記装置(43)は、前記積分された信号(Σ
P)および前記カウンタ値(Σ
E)を用いて、前記光信号パラメータ(30)を計算する計算ユニット(107)をさらに含んでいる、
請求項10記載の装置(43)。
【請求項12】
前記装置(43)は、前記積分された信号(Σ
P)、前記カウンタ値(Σ
E)および前記光信号パラメータ(30)の相互に割り当てられている基準値(32)のデータセット(31a)を格納するための少なくとも1つのメモリモジュール(85)をさらに含んでいる、
請求項10または11記載の装置(43)。
【請求項13】
コンピュータによって実行されると、前記コンピュータに請求項1から9までのいずれか1項記載の方法を実施させる命令を備えたプログラムを含んでいる不揮発性コンピュータ可読記憶媒体(111)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの光信号パラメータを測定するための方法および装置ならびに不揮発性コンピュータ可読記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の方法は、光源を使用して、反射信号、リン光信号、第二高調波または蛍光などの光信号を励起する。純粋に例として、蛍光の場合、光源のスイッチオンもしくは励起パルスと放出された蛍光光子との間の時間が測定される。ここでは、例えば、TDC(時間-デジタル変換器)が使用可能である。この方法は、「時間相関単一光子計数法」(TCSPC)として知られている。この方法の欠点は、この方法が、レーザーパルスごとに、実質的に1つの光子が生成される光子率に制限されてしまうことである。並列の評価電子機器を含んでいるより複雑で高価な装置によって、1秒あたり約40Mcts(megacounts;106イベント)の光子率までの測定を得ることができる。
【0003】
従来技術の他の方法は、光源および生成された光子のトリガ信号を極めて迅速に、すなわち10GHz以上の周波数でスキャンするので、光信号パラメータをデータストリームから求めることができる。
【0004】
両方の方法は、単一光子の信号、すなわち蛍光光子イベント同士が重畳するやいなや、制限されてしか使用できなくなるという共通点を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、構造的にシンプルであり、安価であり、また光信号パラメータを高い光子率(>40Mcts/s)で測定することを可能にする、光信号パラメータを測定するための方法および装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による方法は、次のステップを含んでいることによって、この課題を解決する。
・サンプルにおける、光信号、特に蛍光の励起のために、所定の測定期間にわたってサンプルを照明するステップ
・サンプルから送出された光信号を検出し、この光信号の、時間にわたった変化を表す電気信号を提供するステップ
・測定期間にわたって、電気信号に基づいて単一の光子イベントを計数し、光子イベントの数を表すカウンタ値を提供するステップ
・測定期間にわたって電気信号を積分し、積分された信号を提供するステップ、および
・少なくとも、カウンタ値と積分された信号とに基づいて、少なくとも1つの光信号パラメータを決定するステップ
【0007】
本発明による装置は、特に顕微鏡であってよく、これが検出器と、積分モジュールと、計数モジュールと、論理ユニットと、を含んでいることによって、上述の課題を解決する。検出器は、入射した光子のシーケンスを表す電気信号を生成し、検出器出力側で出力し、積分モジュールは、測定期間にわたって電気信号を積分し、ここでは、積分モジュールは、ここから結果として生じる積分値(積分された値とも称される)を出力するように構成されており、計数モジュールは、測定期間にわたった電気信号に基づいて、測定期間中に検出された光子イベントの数を計数し、この数を表すカウンタ値を出力し、論理ユニットは、積分値およびカウンタ値に関連して、少なくとも1つの光信号パラメータを決定する。
【0008】
さらに、本発明による不揮発性コンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータによって実行されると、コンピュータに本発明による方法を実施させる命令を備えたプログラムを含んでいる。
【0009】
したがって、本発明による方法および本発明による装置は、光源のスイッチオン、すなわち、例えば、励起レーザーパルスと検出された光子イベントとの間の複雑な時間測定が必要ないという利点を有している。本発明による方法は、光信号パラメータを測定するために、もはや区別できない2つ以上の光子イベントの時間的重畳を利用する。すなわち、これは、複数の光子イベントの重畳によって、カウンタ値が積分値よりも小さいという事実に基づいている。むしろ、検出された蛍光寿命の精度は、光子率とともに向上する。特に、平均光子率、すなわち平均の、単位時間あたりに発生する光子が観察される。
【0010】
本発明による方法および本発明による装置を、それ自体が有利な他の構成によってさらに改良することができる。個々の構成の技術的特徴を任意に互いに組み合わせる、もしくは省略された技術的特徴によって得られる技術的効果が重要でないという条件で、省略することができる。
【0011】
この方法を、特に顕微鏡を用いて実施することができる。したがって、相応の装置は、特に顕微鏡であってよい。
【0012】
単一の光子イベントの計数を、好ましくはデジタイザを使用して、より好ましくはコンパレータを使用して実行することができる。したがって、これは相応の装置に設けられていてよい。
【0013】
測定期間にわたるサンプルの照明は、特に周期的な光パルスを使用して、時間の経過とともに変調されて行われてよい。ここでは特に、パルスレーザー、短パルスレーザーまたは超短パルスレーザーが適切な光源である。パルスダイオードレーザーは、(例えば、固体レーザーと比較して)より小さく、容易に駆動制御できるので、特に好ましく使用され得る。パルスファイバレーザーも使用可能である。
【0014】
そのようなパルス光源を含んでいる照明ユニットは、装置内に設けられていても、外部に提供されてもよい。任意の持続時間を測定期間として選択することができ、好ましくは、光パルスの複数の周期を含んでいる測定期間を選択することができる。これには、パルス光源から容易にトリガがタップ可能であるという利点を有している。
【0015】
好ましくは、単一の入射した光子を検出することができ、各入射した光子に対して光子イベントを、検出器の出力された電気信号において生成する検出器が、検出器もしくは光子検出器として使用される。以降では、検出器、特に検出器の出力された電気信号において蛍光光子イベントを生成する蛍光光子のみに言及する。本記載は、蛍光光子および相応の蛍光パラメータに基づいているが、本発明はこれらに限定されない。これらの記載を、別の様式で、例えば反射、リン光または2光子プロセスによって生成された光子および相応の光信号パラメータに転用することもできる。
【0016】
光電子増倍管または光電子増幅管(英語でphotomultiplier tube、PMT)とも称される特殊な電子管を使用することができる。これらは、純粋な半導体検出器、PMTハイブリッド検出器またはSiPM(シリコン光電子増倍管)であってもよい。
【0017】
検出器は、サンプルから送出された光、例えば蛍光光を検出し、入射した光子、例えば蛍光光子のシーケンスもしくは変化を表す電気信号を生成する。電気信号は、検出器出力側で出力され、多数の光子イベント、例えば、互いに時間的に分離されていてよい、または互いに重畳されていてよい蛍光光子イベントを含んでいてよい。
【0018】
次に、積分モジュールを用いて、測定期間中に検出器で検出されたすべての光子、例えば蛍光光子が信号から求められ、この数に比例する信号が提供される。この信号は、相対的な光子値を表すことができる。
【0019】
電気信号を、電気信号が積分される光子計数経路と、電気信号の単一の光子イベントが計数されるイベント計数経路と、に分けることができる。積分モジュールにおいて、検出されたすべての光子に比例する信号が求められる、これに対して、計数モジュールにおいて、測定期間中に検出された光子イベントの数が求められ、この数を表すカウンタ値の形態で提供される。
【0020】
さらに、論理ユニットにおいて、光信号パラメータ、好ましくは蛍光パラメータ、特に好ましくは蛍光寿命を、積分された信号およびカウンタ値に基づいて決定することができる。論理ユニットは、単一の論理モジュールもしくはチップの形態で、またはいわゆるフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)として構成されていてよい。FGPAは集積回路(IC)であり、ここに(現場で、顧客のところで)論理回路をロードし、この上で実行することができる。
【0021】
本発明による不揮発性コンピュータ可読記憶媒体は、例えばコンピュータ上で本発明による方法を実行するための命令を備えたプログラムを含み、これは媒体から読み取られ、上述のFPGAまたはコンピュータのメモリにロードされてよい。
【0022】
本発明による方法は、単一の光子イベント、例えば、電気信号の単一の蛍光光子イベントを測定期間にわたって計数し、光子イベント、例えば単一の蛍光光子イベントの数を表すカウンタ値を提供することをさらに含んでいてよい。このために、カウンタ値を出力するインクリメンタルエンコーダが装置内に設けられていてよく、カウンタ値はデジタルまたはアナログの形態で存在していてよく、光子イベント、例えば単一の蛍光光子イベントの数を表す。特に、カウンタ値は、測定期間の終了時、すなわち、次の測定期間の開始時にリセットされてよい。
【0023】
本発明による方法は、測定期間にわたって電気信号を積分し、測定期間中に累積された、検出されたすべての蛍光光子の光子数を表す積分された信号を提供することを含んでいる。
【0024】
多くの光子検出器は、検出された光子ごとに電気パルスを生成し、そのレベルは、光子のエネルギに関連していない。異なる波長の光子は信号に基づいて区別することはできないが、同時に入射する光子のパルスが信号において加算されるため、例えば、同時に入射する2つの光子の積分された信号は、単一光子の積分された信号の2倍になる。
【0025】
積分された信号を、積分器または積分モジュールを使用して取得することができる。積分器または積分モジュールは、もはや、電気信号の単一の光子イベント、例えば単一の蛍光光子イベントを十分に大きな時定数で区別せず、これらを測定期間にわたって積分する。
【0026】
言い換えると、計数モジュールにおいて電気信号は閾値と比較され、閾値を超え、これに続いて閾値を下回る場合に、カウンタの読み取り値が1つ増加する。したがって、同時に入射する光子、例えば蛍光光子は、時間的に重畳する光子イベント、例えば、一度だけ閾値を超え、下回る、時間的に重畳する蛍光光子イベントを生じさせ、光子イベント、特に蛍光光子イベントのカウンタを1つぶん増加させる。
【0027】
これに対して、積分経路では、電荷などの量的変数が評価される。したがって、同時に入射する2つの蛍光光子は、積分経路において、個別に入射する蛍光光子の2倍の高さの信号を生成する。
【0028】
したがって、測定期間内に求められた積分値(すなわち、積分された信号)は、すべての、検出された光子、特に検出された蛍光光子の累積された光子数を表す。
【0029】
本発明による方法の有利な構成では、積分と計数とを並行して行うことができる。さらに、積分と計数とは好ましくは付加的に同時に行われる。
【0030】
さらに、この方法は、単一の蛍光光子イベントの数から、すなわち、カウンタ値および積分された信号から、比率値を計算することを含んでいてよい。本開示の方法または装置のすべての構成において、光信号パラメータ、好ましくは蛍光パラメータ、特に好ましくは蛍光寿命を求めるために、3つの変数、すなわちカウンタ値、積分された信号および比率値を、任意の、例えば2つの対で利用することができる。したがって、(1)カウンタ値および積分された信号、(2)カウンタ値および比率値、または(3)積分された信号および比率値は、光信号パラメータにつながり得る。したがって、組み合わせ(1)、(2)または(3)の1つ、または光信号パラメータを求めるための他の変数の組み合わせに関連する本開示の説明は、本文中で明示的に除外されない限り、これらの3つの変数の別の任意の組み合わせに転用可能であり、挙げられた各組み合わせに限定されない。
【0031】
光信号パラメータ、好ましくは、例えば蛍光寿命などの蛍光パラメータを決定するための較正データは、テーブル(LUT:ルックアップテーブル)または式に格納されていてよい。例えば、積分された信号および計数された信号(カウンタ値)の値の対ごとに、属する蛍光寿命が格納されていてよく、したがって、純粋に例として、2つの測定値が存在している場合には、蛍光寿命が直接示されてよい(較正LUT)。2次元LUTが、すべての値の対の可能な組み合わせよりも少ない格子点を含んでいてもよい。この場合には、純粋に例として、蛍光寿命などの光信号パラメータを、存在する格子点から補間することができる。
【0032】
さらに、純粋に例として、蛍光寿命などの光信号パラメータを求めることができない信号の対が存在する可能性がある。これは、例えば、信号が極めて小さい場合に当てはまる。
【0033】
本発明による方法および本発明による装置を用いて、別の構成において、少なくとも1つの別の光信号パラメータが決定されてよい。例えば、蛍光パラメータが決定される場合、蛍光寿命に加えて、さらに他の信号が生成されてよい。例として、2つの信号(積分された信号/計数された信号)の組み合わせから、改良された強度信号が生成され得る。構造およびデータ経路は変更不可能であり、強度信号の計算に合わせることができるのは、計算規則/較正LUTのみである。そのような構成は、電気信号の強度を決定するために冗長性が設けられており、例えば、積分によって求められた、積分された信号が、その正確性に関してチェック可能であり、求めた際の偏差またはエラーが識別可能であるという利点を有している。
【0034】
したがって、方法のこの構成を実行するための装置は、測定期間中に電気信号を積分し、積分値を出力する積分モジュールと、光子イベントを計数し、カウンタ値を出力する計数モジュールと、任意選択に、除算モジュールと、を含んでいてよい。除算モジュールは、計数モジュールのカウンタ値と積分モジュールの積分された信号とから比率値を計算し、比率値を出力するために設けられており、この場合には論理ユニットは、例えば蛍光寿命などの光信号パラメータを、積分された信号およびカウンタ値、または積分された信号(または択一的にカウンタ値)および比率値にも関連して決定するように構成されていてよい。
【0035】
したがって、この方法を、これが、光信号パラメータ、好ましくは蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を、積分された電気信号およびカウンタ値に基づいて決定することを含んでいることによって、さらに改良することができる。任意選択的に、比率値は、カウンタ値または積分された信号と組み合わせて、光信号パラメータを決定するために使用されてよい。換言すれば、光信号パラメータ、好ましくは蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命は、異なる構成において、それぞれ2つの変数から決定されてよい。これらの変数は、例えば、積分された信号およびカウンタ値であってよく、カウンタ値および比率値であってよく、または積分された信号および比率値であってもよい。
【0036】
カウンタ値および積分された信号による光信号パラメータの決定は、本発明による方法もしくは本発明による装置の好ましい構成を表しているが、光信号パラメータを決定するための他の変数の組み合わせを排除するものではない。
【0037】
本発明による方法の別の構成では、これは、光信号パラメータ、好ましくは蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を、積分された信号およびカウンタ値を用いて計算することを含んでいる。
【0038】
したがって、方法のこの構成を実行するための本発明による装置は、光信号パラメータ、好ましくは蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を、積分された信号およびカウンタ値を用いて計算する計算ユニットを含んでいてよい。
【0039】
同様に、特別な構成では、計算ユニットは、事前に格納されている分析計算規則(分析曲線)を用いて光信号パラメータ、好ましくは蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を計算するために、カウンタ値(または択一的に、積分された信号)および比率値(積分された信号とカウンタ値との比)を使用することができる。
【0040】
計算ユニット自体が除算モジュールを含んでいることが可能であるので、必要なすべての計算ステップを1つのユニットにまとめることができる。
【0041】
択一的にまたは付加的に、本発明による方法の別の構成において、さらに、事前に格納されているデータを用いて、積分された信号とカウンタ値とに関連して、光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を決定することが設けられていてよい。
【0042】
したがって、方法のこの構成を実行するための本発明による装置は、積分された信号、カウンタ値および光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命の相互に割り当てられている基準値のデータセットを格納するための少なくとも1つのメモリモジュールを含んでいてよい。
【0043】
事前に格納されているデータは、2次元または3次元のデータセットの形で存在していてよい。このデータセットもしくはこのデータマトリックスは、積分された電気信号(すなわち積分値)およびカウンタ値(任意選択的にカウンタ値および比率値、または択一的に積分された信号および比率値)を含んでいてよく、これらの値の特定の組み合わせに、光信号パラメータ、好ましくは蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を割り当てることができる。
【0044】
換言すれば、本発明による方法では、カウンタ値(または積分された信号の場合には比率値も)に関連して、積分された信号または比率値を示す一群の測定曲線を仮定することができる。この場合、一群のパラメータは光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命である。カウンタ値および積分された信号(または比率値)を知ることもしくは計算することによって、一群の曲線の代表を求めることができ、一群の曲線のこの代表に属する光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を読み取ることができる。
【0045】
本発明の別の構成では、この方法は、事前に格納されているデータの補間を含んでいてよく、この場合には、この補間されたデータに基づいて、光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命が決定される。これは、事前に格納されているデータ、例えば積分された信号およびカウンタ値が、固定されている段階付けで格納されるという利点を有している。検出された、積分された信号および/または検出されたカウンタ値が、自身のカウンタ値に関して、事前に格納されている2つの積分された信号および/またはカウンタ値の間にある場合でも、光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命の決定を行うことができる。
【0046】
したがって、この方法のこの構成を実行するための装置は、事前に格納されているデータを補間するための補間モジュールを含んでいてよい。
【0047】
上述したように、光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を、カウンタ値および積分された信号(もしくは比率値)から直接計算するために、提供された一連の測定曲線の基礎となり得る分析曲線を利用することができる。
【0048】
ここで、本発明による方法の別の構成では、単一の光子イベント、例えば単一の蛍光光子イベントのパルス形状および/またはパルス持続時間を求めることおよび/または較正することが設けられていてよい。
【0049】
光子イベント、例えば蛍光光子イベントの計数の際に、光子、好ましくは、蛍光の場合の蛍光光子の確率的特性のために、必然的にある程度の確率で、単一の光子イベント、例えば単一の蛍光光子イベントが重畳することもあり、ひいては計数されないイベントが生じることがある。計数されないイベントの確率は、次のものに関連している。
1.一般的に知られている励起照明のパルス周波数
2.積分された信号とパルス周波数とを用いて計算可能な平均光子率
3.単一の光子イベント、例えば蛍光光子イベントのパルス形状およびパルス持続時間
4.光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば励起された蛍光体の蛍光寿命、および
5.検出器のゲーティング
【0050】
特に、上記のリストの3.を、本発明による方法のこの構成で求めることができる、または(蛍光が観察される場合)既知の蛍光寿命を有している色素の比較測定によって較正することができる。これによって、計数経路と積分経路との比から、すなわち計数値と積分された信号との比から、直接、励起された色素の光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を得ることが可能になる。
【0051】
上記の5.は、検出器の感度を、時間の経過において、励起パルスに関して調整できることを意味している。換言すれば、ゲーティングは、例えば、光信号、例えば蛍光パルスに先行する反射された励起光を抑制するために、計数経路(すなわち、積分中)の特定の時間範囲をマスキングすることを可能にする。
【0052】
本発明による方法は、単一の光子イベント、特に単一の蛍光光子イベントのパルス形状および/またはパルス持続時間を考慮して、光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を決定することによって改良され得る。
【0053】
特に、本発明による方法は、サンプルの順次の走査またはスキャンおよびサンプルの、互いに空間的に間隔を置いた領域の光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命の画像の生成をさらに含んでいてよい。
【0054】
したがって、本発明による方法のこの構成の特別なケースは、蛍光寿命顕微法(英語でfluorescence lifetime imaging microscopy、FLIM)を用いてサンプルを検査する、実行が容易な手法を表している。相応の装置は、蛍光寿命顕微鏡(FLIM)であってよい。
【0055】
この構成では、スキャン移動または走査移動で、励起光をサンプルにわたって移動させる走査装置またはスキャン装置が設けられていてよい。照明および検出に対して相対的にサンプルを移動させることも可能である。したがって、点ごとに、すなわちピクセルごとに、サンプルの各照明領域の光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命を求め、画像情報として表すことができる。
【0056】
特に、そのような方法の構成は、走査型顕微鏡、特に共焦点走査型顕微鏡において使用可能である。
【0057】
本発明による方法は、特に、(カウンタ値を求める)計数モジュールにおいて発生する飽和特性に基づいていてよい。これは、計数される光子イベント、例えば計数される蛍光光子イベントの重畳によって引き起こされる。平均光子率はパルスの経過において大きく変化するため、重畳のこの作用は、特に光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命に関連し得る。計数される光子イベント、例えば計数される蛍光光子イベントの幅が、観察される色素の光信号パラメータ、特に蛍光パラメータ、例えば蛍光寿命と同じオーダーの大きさである場合、この作用は特に顕著になり得る。
【0058】
上述の検出器タイプの場合、パルス持続時間(光子イベント、例えば計数される蛍光光子イベントの持続時間もしくは幅)は、典型的に、1ns~2nsの範囲にある。色素の典型的な蛍光寿命は、一般的に、1ns~5nsである。本発明による方法の別の構成において、電子パルス持続時間を、適切なフィルタリングによって、または閾値の整合によって合わせることができる。これによって、特に有利な蛍光寿命コントラストを得ることができる。
【0059】
本発明による不揮発性コンピュータ可読記憶媒体は、特に、コンピュータによって実行されると、コンピュータに、上述の構成のうちの1つの構成による方法を実施させる命令を備えたプログラムを含んでいる。あらゆるタイプの光学式メモリ、磁気式メモリまたはフラッシュメモリをベースにしたデータ担体が、記憶媒体として理解されるべきである。
【0060】
以降では、本発明による方法および本発明による装置を、例示的な、非限定的な図に基づいて詳細に説明する。ここで、個々の技術的特徴を、従属請求項に従って任意に相互に組み合わせることができる、かつ/または省くことができる。わかりやすくするために、同じ技術的特徴および同じ機能を備えた技術的特徴には、同じ参照記号が付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1a】検出器によって生成された電気信号およびカウンタ値の算出の概略図である。
【
図1b】1.5nsの想定される蛍光寿命のもとでの、4つのパルスによるパルス状励起のシミュレーションの図である。
【
図1c】5nsの想定される蛍光寿命による、
図1bのシミュレーションの図である。
【
図1d】時間にわたった平均光子率の簡略化された図である。
【
図2a】蛍光寿命を求めるためのルックアップテーブルを示す図である。
【
図2b】光強度を求めるための概略的なルックアップテーブルを示す図である。
【
図2c】蛍光寿命を決定するための事前に格納されているデータの概略図である。
【
図3a】蛍光寿命を測定するための本発明による装置の構成の概略図である。
【
図3b】蛍光寿命を測定するための本発明による装置の別の構成の概略図である。
【
図4】本発明の方法もしくは本発明の装置の適用範囲の概略図である。
【
図5】本発明による方法の別の構成の概略図である。
【0062】
次に説明する図は、純粋に例として、蛍光寿命の算出を示している。この説明は、純粋に例示的なものであり、蛍光パラメータの算出、またはより一般的には、光信号パラメータの算出に転用することができる。次の説明は例示的なものであるので、保護範囲を制限するものではない。光信号は、例えば、反射、リン光、蛍光または2光子プロセスによって生成されてよい。
【0063】
図1aは、カウンタ値を求めるために使用される(
図3を参照)、検出器1(グラフ右上の図を参照)によって生成された電気信号3の概略図を示している。検出器は、例えば、PMTハイブリッド検出器1aまたはシリコン光電子増倍管1b(英語でSilicon photomultiplier、略してSiPM)として構成されていてよい。
【0064】
電気信号3は、例えば、時間9に関連した、電圧5もしくは電流7の経過を表すことができ、理想的なケースでは、測定される暗電流11は無視できる程度のものである。
【0065】
光子エネルギE=hvを有する蛍光光子13が検出器1に入射すると、検出器1は蛍光光子イベント15を生成する。これは、仮想された量子効率が1の場合のみである。実際には、蛍光光子イベント15の生成は、量子効率に応じてある程度の確率で発生する。わかりやすくするために、
図1aには、いくつかの時間的に分離したイベント15cと時間的に重畳するイベント15bだけが示されている。
【0066】
時間的に分離したイベント15cは相互に影響を及ぼさないが、
図1aに示されている時間的に重畳するイベント15bは、時間的に分離したイベント15cの電圧もしくは電流7の値の、格段に大きい(ほぼ2倍の)電圧5もしくは電流7の値を生じさせる。
【0067】
各蛍光光子イベント15は、急峻な立ち上がりエッジ17aおよび指数関数的に立ち下がるエッジ17bを含んでいるパルス形状17ならびにパルス幅もしくはパルス持続時間19を有している。パルス形状17およびパルス持続時間19は、検出器1のパルス応答関数21に対応することに留意されたい。異なる検出器1は、異なるパルス応答関数21を有している。換言すれば、蛍光光子イベント15は、蛍光光子13が検出器1に入射した後の電圧5または電流7の変化を表している。
【0068】
実際の適用では、さらに、検出器1の量子効率またはフィルファクタなどの他のパラメータが顧慮されるべきである。簡単にするために、ここでは、入射する各蛍光光子13が、検出器1において常に厳密に1つの蛍光光子イベント15を生成すると仮定する。
【0069】
電気信号3の曲線の下部領域では、所定の測定期間23内の時間9に関連して、検出器1に入射する15個の光子13が破線で示されている。これらは、光子13の数を表す、積分された信号ΣPに合計されていてよい。積分された信号ΣPは、メモリユニット25に格納されているものとして概略的に示されている。
【0070】
さらに、
図1aは、図示された実施例において測定期間23を規定する2つの連続する光パルス27を概略的に示している。このことは、2つ以上の蛍光光子13が2つの光パルス27の間で検出されるので、蛍光寿命を測定するための、従来技術から知られている方法の大部分がこの場合には適用できないことを明確に示している。さらに、従来技術では、測定期間ごとに1つの光子への制限が行われることが多い(TCSPC)。光パルス27のシーケンス26は、特に周期的であり得る。
【0071】
蛍光光子イベント15を計数するために使用される閾値29が
図1aに示されている。電圧5もしくは電流7がこの閾値29を1回超え、この閾値29を1回下回るとすぐに、カウンタ値Σ
Eが1つ増加する。カウンタ値Σ
Eはまた、メモリユニット25に格納されているものとして概略的に示されている。カウンタ値Σ
Eは、電子信号で発生する蛍光光子イベントの数15aを表している。
【0072】
しかし、特に、十分に大きい重畳の場合、時間的に重畳するイベント15bは、複数のそのようなイベント15bが、カウンタ値ΣEを1つだけ増加させることを生じさせる。十分に大きい重畳は、電圧5または電流7が閾値29を超えた後、別の蛍光光子13の入射前に、まだ閾値29を再び下回っていないことを意味する。
【0073】
示されている、3つの、時間的に重畳するイベント15bのケースでは、電圧5もしくは電流7は、第3の時間的に重畳するイベント15bの後にはじめて閾値29を下回り、入射する蛍光光子13は3つであるが、カウンタ値ΣEを1つだけ増加させる。示されている測定期間23においては、カウンタ値ΣEは11になる。
【0074】
図1bおよび
図1cはそれぞれ、検出器1によって生成された電気信号3を示しており、ここでは、励起に使用されるパルス27は、単に、各点線によって示されている。合計4つの光パルス27のシーケンス26が両方の図に示されている。
【0075】
図示されているシミュレーションでは、650MHzの平均光子率41が想定されている。したがって、
図1bおよび
図1cに示されている測定期間23は、4つの周期115のパルス状励起の期間を含んでいる。図示された測定期間23の時間9は、約50nsである(したがって、励起に使用されるレーザーシステムは、約75MHzのパルス繰り返し周波数113を有している)。
【0076】
図1bおよび
図1cでは、0.5の電圧5もしくは電流7(任意単位で示されている)の値のもとで、閾値29が記入されている。閾値29は一点鎖線で記入されている。
【0077】
図1bと
図1cとは、基礎となる蛍光寿命33においてのみ異なっており、蛍光寿命は
図1bの場合には1.5nsであり、
図1cの場合には5nsである。蛍光寿命は、蛍光パラメータ30aもしくは光信号パラメータ30を表している。
【0078】
その結果、短い蛍光寿命33のケース(
図1b)では、蛍光光子イベント15(これらはそれぞれ個別にマークされているのではなく、全体としてこれらを指す矢印でマークされている)は、高い確率で、各光パルス27の直後に発生する。これに対して、およそ、光パルス27のシーケンス26の周期115の範囲において存在している蛍光寿命33のケース(
図1c)では、蛍光光子イベント15は、周期115にわたって分布している。
【0079】
両方の場合において、時間的に重畳するイベント15bが観察され、
図1bの場合には、より大きな重畳が発生している。
【0080】
図2a~
図2cに基づいて、蛍光寿命33の影響をより詳細に説明する。
【0081】
図2cは、蛍光寿命33を決定するための事前に格納されているデータ31の概略図を示している。
【0082】
純粋に例として、一群の曲線37の5つの曲線35a~35eが
図2cに示されており、示された曲線35は単に方法をわかりやすく説明するために用いられ、実際に実行される評価の際には、一般的に、事前に格納されているデータセットのみが使用される。
【0083】
曲線35a~35eは、2nsのパルス持続時間19(電子パルス持続時間)を有するSiPM1bのシミュレーションの結果である。1ns~5nsまでのさまざまな蛍光寿命33について、積分された信号ΣPとカウンタ値ΣEとから比率値39が計算されており、平均光子率41に対してプロットされている。
【0084】
平均光子率41は、積分された信号ΣPを測定期間23で除算した結果であり、比率値39は約650Mcts/sまでシミュレートされている。
【0085】
本発明による方法が、例えば、500Mcts/sの測定された平均光子率41aおよび4の測定された比率値39a(値39aおよび41aの両方が破線で示されている)を供給する場合、本発明による方法もしくは本発明による装置43(
図3を参照)によって、2nsの蛍光寿命33が求められる。
【0086】
図1dは、光子率41、より正確には平均光子率41が時間9にわたって示されている簡略化された図を示している。光子率41は指数関数的に低下し、複数の蛍光光子13にわたって平均化されている。
【0087】
図1dに示された例では、いくつかの蛍光光子13が互いに重畳しているので、カウンタ値(図示されていない)はここでは4つになるが、積分された信号(これも、図示されていない)に基づいて6つの蛍光光子13が求められているだろう。光子率41の指数関数的低下は、蛍光寿命33に反比例している。すなわち、短い蛍光寿命33は、平均光子率41の急峻な指数関数的低下をもたらす。
【0088】
図2aおよび
図2bはそれぞれ、ルックアップテーブル117、より正確には、蛍光寿命33を決定するために、事前にルックアップテーブル117に格納されているデータ31を示している。
【0089】
図2aは、一群の曲線37の5つの曲線35a~35eを示している。これらの曲線35a~35eは、方法を説明するために用いられているだけであり、本発明による方法においては示されておらず、事前に格納されているデータセットが使用される。
【0090】
曲線35a~35eは、2nsのパルス持続時間19を有しているSiPM1bのシミュレーションの結果である。
図2aでは、カウンタ値Σ
Eが、積分された信号Σ
Pにわたって示されている。したがって、カウンタ値Σ
Eおよび積分された信号Σ
Pに対する、本発明による方法において求められたセットもしくは値の対を使用して、蛍光寿命33を求めることができる。
図2aの蛍光寿命33を求めるための説明と同様に、
図2cに示された図から、蛍光寿命33を求めることができる。
【0091】
図2bには、ルックアップテーブル117が示されている。以降では、これを略してLUT117と称する。
図2bのLUT117は、強度LUT119である。
図2bには、平均光子率41にわたって、補正された強度121が示されている。
【0092】
平均光子率41を、積分された信号ΣPおよび測定期間23から計算することができる。
【0093】
したがって、強度LUT119を用いて、積分によって得られた強度(すなわち、検出された蛍光光子の数)を検証し、必要に応じて補正することができる。
【0094】
図1bおよび
図1cに示された、蛍光寿命33と比率値39との間の関係は、
図2a~
図2cにも示されている。
図1bの場合のように、蛍光寿命33が短い場合、単一の蛍光光子イベント15が重畳する可能性が高くなり、
図1cの場合のように、蛍光寿命33が比較的長い場合よりも、得られるカウンタ値Σ
Eは、より低くなる。したがって、一定の平均光子率41を有している、比較的短い蛍光寿命33の場合、比較的小さな被除数、したがって、比較的大きな比率値39が得られ得る。
【0095】
ここで、示されている曲線35a~35eが、明確化のために純粋に例として示されていること、および本発明による方法では、データ31は、より細かい段階付けで、もしくは蛍光寿命33のより小さいステップ幅で、仮定/シミュレートおよび格納されていることがあることを再度、強調しておく。特に、決定される蛍光寿命33(またはより一般的には少なくとも1つの光信号パラメータ30)を、事前に格納されているデータ31から補間することができる。
【0096】
換言すれば、データ31は、積分された信号ΣP、カウンタ値ΣEおよび蛍光寿命33の基準値32として理解されてよく、これらは、好ましくは、互いに割り当てられている。特に、データ31は、少なくとも2次元のデータセット31aとして存在していてよい。
【0097】
測定値「積分された信号」と「計数された信号」(カウンタ値)とに加えて、結果信号のさらなる改良を可能にする、さらに他の信号も生成され得る。例えば、(平均の)測定されたパルス幅、すなわち立ち上がりエッジと立ち下がりエッジとの間の時間差がコンパレータで使用され得る。単一のパルスの場合、これは、パルス幅もしくはパルス持続時間19に相応し、
図1bでのように、パルスが重畳している場合には、測定されるパルス持続時間は相応に、より長くなるだろう。このようなケースでは、較正データセットは3次元になるだろう。すなわち、3つの入力変数(「積分された信号」/「計数された信号」/「平均パルス持続時間」)の組み合わせに結果信号(例えば蛍光寿命)が割り当てられるだろう。
【0098】
さらに、
図2a~
図2cは、本発明による方法もしくは本発明による装置43が、特に、平均光子率41が比較的高い場合に、シミュレートされた曲線35のより高い区別可能性を保証し、したがって、好ましくはこの領域において使用可能であることを示している。
【0099】
図3aに、蛍光寿命33を測定するための本発明による装置43の概略図が示されている。
【0100】
光源45、特にパルス状レーザー光源45aは、サンプル49に入射する光パルス27のシーケンス26の形態で励起光47を放出する。ここでは、検出器1に入射する蛍光光子13(1つだけが記入されている)が生成される。蛍光光子13を収集するのに適している他の光学要素は示されていないが、一般に、装置43の他の構成においては使用されてよい。
【0101】
検出器出力側51で電気信号3が出力され、前置増幅器53に供給され、増幅される。
【0102】
増幅器出力側55に増幅された電気信号3aが印加され、これは分割されて、2つの信号レプリカ3bの形態で、計数経路57および積分経路59に供給される。特にSiPM1bを含んでいる他の構成では、この分割がすでに検出器チップ上で行われていてよい。
【0103】
計数経路57は、カウンタ出力側63でカウンタ値ΣEを出力する計数モジュール61を含んでいる。カウンタ値ΣEは、蛍光光子イベント15の数を表す。
【0104】
積分経路59は、すべての、測定期間23において検出器1に入射する蛍光光子13の数13aを求める積分モジュール71を含んでいる。
【0105】
積分された信号ΣPは、積分器出力側75で出力され、論理ユニット77に供給される。積分モジュール71での積分に基づいて、積分された信号ΣPは積分値79を表し、これは累積された光子数ΣNを表す。さらに、カウンタ値ΣEは、すべての、測定期間23の電気信号3において検出された蛍光光子イベント15の数15a、すなわち、すべての、時間的に分離したイベント15cとすべての時間的に重畳するイベント15bとを表す。
【0106】
図3aに示される装置43の構成では、積分された信号Σ
Pおよびカウンタ値Σ
Eは、論理ユニット77に転送される。
図3aは、本発明による装置の好ましい構成を示している。
【0107】
図3aに示された構成の論理ユニット77は、概略的に示された、互いに接続されている3つのメモリモジュール85を含んでおり、これらはルックアップテーブルモジュール87を形成する。積分された信号Σ
P、カウンタ値Σ
Eおよび蛍光寿命33の基準値32が、これらのメモリモジュール85に格納されており、これらには、測定値と、これらのシミュレートされた値と、を区別するために、下付き文字「sim」が付けられている。
【0108】
図3aに示された構成の本発明による方法では、論理ユニット77は、今度は、測定された積分された信号Σ
Pおよび測定されたカウンタ値Σ
Eを、シミュレートされた積分された信号Σ
P,simおよびシミュレートされたカウンタ値Σ
E,simの、ルックアップテーブルモジュール87に格納されている基準値32と比較し、結果としてシミュレートされた蛍光寿命33
simを提供する。
【0109】
論理ユニット77は、限定された数の格納されている基準値32を補間することを可能にする補間モジュール89をさらに含んでいる。
【0110】
論理ユニット77は、強度出力側91で、強度モジュール93によって提供された強度結果95を出力する。この方法で求められた蛍光寿命33detが、寿命出力側97を介して出力される。
【0111】
図3aはまた、論理ユニットの第2の構成77aを示しており、これは、例えば、積分された信号Σ
Pおよびカウンタ値Σ
Eから蛍光寿命33
detを求めることができ、付加的に強度結果95を出力することができる計算ユニット107を含んでいる。
【0112】
図3bに示された本発明による装置の構成は、カウンタ出力側63で出力されたカウンタ値Σ
Eが除算モジュール69の除算器入力側67に供給されるという点で、
図3aの装置とは異なっている。
【0113】
積分器出力側75において出力される積分された信号は、被除数入力側65を介して除算モジュール69に供給され、また、
図3aの構成のように、論理ユニット77に供給される。
【0114】
図3bに示された装置43の構成では、除算モジュール69は、比率値出力側83を介して除算モジュール69から論理ユニット77に転送される比率値39を計算する。
【0115】
図3bの装置の論理ユニット77は、概略的に示された、互いに接続されている3つのメモリモジュール85を含んでおり、これらはルックアップテーブルモジュール87を形成する。積分された信号Σ
P、比率値39および蛍光寿命33の基準値32が、これらのメモリモジュール85に格納されており、これらには、測定値と、これらのシミュレートされた値と、を区別するために、下付き文字「sim」が付けられている。
【0116】
図3bの本発明による装置の論理ユニット77は、本発明による方法において、今度は、測定された積分された信号Σ
Pと、積分された信号Σ
Pおよびカウンタ値Σ
Eから計算された比率値39と、をシミュレートされた積分された信号Σ
P,simおよびシミュレートされた比率値39
simのルックアップテーブルモジュール87に格納されている基準値32と比較し、結果としてシミュレートされた蛍光寿命33
simを提供する。
【0117】
図3bに示された構成は、補間モジュール89、強度モジュール93および計算ユニット107も含んでいてよい。
図3aにおけるようなカウンタ値Σ
Eの代わりに、
図3bでは、比率値39が計算ユニット107に入力される。
【0118】
図3aおよび
図3bの装置43は、概略的に示されているように、顕微鏡99、特に(共焦点)走査型顕微鏡99a、特に好ましくは蛍光寿命顕微鏡99b(FLIM)に配置されていてよい。FLIM99bでは、サンプル49がスキャンもしくは走査され、サンプル49の画像101が生成される。ここでは、互いに空間的に間隔を置いた領域103a、103bの求められた蛍光寿命33
detが適切な色分布または輝度分布で示されている。
【0119】
顕微鏡99はさらに、不揮発性コンピュータ可読記憶媒体111を読み込むことができるコンピュータ109と接続されていてよく、ここでは、本発明による方法を実施するためのプログラムが、この記憶媒体111上に格納されていてよい。記憶媒体111は、光学式メモリ、磁気式メモリ、またはフラッシュメモリをベースにした記憶媒体111であってよい。
【0120】
図4は、本発明による方法もしくは本発明による装置43の適用領域105と、従来技術の代表的な方法、いわゆる時間相関単一光子計数法(TCSPC)の適用領域105と、の概略図を示している。
【0121】
TCSPCは、約40Mcts/sの平均光子率41まで使用可能であるが、より高い光子率41の場合にはもはや、蛍光寿命33の信頼できる結果を提供しない。
【0122】
これに対して、本発明による方法および本発明による装置43の適用領域105は、格段に高い平均光子率41にあり、好ましくは、100~1000Mcts/sを超えるオーダー以上に及んでいる。
【0123】
図5は、本発明による装置43の別の構成のフローチャート123を示している。これは、蛍光寿命33を決定するために、
図3aおよび
図3bに示された概略的な構造の代わりに使用され得る。
【0124】
図5の概略構造も、検出器1、電気信号3が供給される前置増幅器53を含んでいる。2つの信号レプリカ3bは、積分モジュール71もしくは計数モジュール61に供給される。しかし、
図5に示された構成では、カウンタ値Σ
Eおよび積分された信号Σ
Pが、2つの異なるルックアップテーブルモジュール87に供給される。寿命モジュール125は、概略的に図示された寿命LUT127を含んでおり、そのデータは、純粋に例として
図2aに示されている。さらに、強度LUT119が内部に存在している強度モジュール129が設けられている。寿命モジュール125は、本発明による方法によって蛍光寿命33を求め、これに対して、強度モジュール129は、強度結果95を出力する。示されていない他の構成では、少なくとも1つの別の光信号パラメータが求められてよい。
【0125】
任意選択的に、
図3aまたは
図3bによる構造においてはさらに、ゲーティングモジュール131が設けられていてよく、これは、電気信号3、信号レプリカ3bも、カウンタ値Σ
Eおよび積分された信号Σ
Pも、特定の時間間隔においてのみ考慮する。
【0126】
図6に、ゲーティングモジュール131の機能様式が概略的に示されている。ここではカウンタ値Σ
Eは、時間9にわたって示されている。ゲーティングモジュール131を有している構成による本発明の方法では、ゲーティング開始133とゲーティング終了135との間のゲーティング期間134において発生するイベントのみが観察され、考慮される。したがって、例えば、ゲーティング開始133の前に発生する可能性のある、不所望な反射は無視されたままでよく、測定結果を改ざんすることはない。
【符号の説明】
【0127】
1 検出器
1a PMTハイブリッド検出器
1b シリコン光電子増倍剤(SiPM)
3 電気信号
3b 信号レプリカ
5 電圧
7 電流
9 時間
11 暗電流
13 蛍光光子
13a 検出器に入射する蛍光光子の数
15 蛍光光子イベント
15a 電気信号において発生する蛍光光子イベントの数
15b 時間的に重畳するイベント
15c 時間的に分離したイベント
17 パルス形状
17a 立ち上がりエッジ
17b 立ち下がりエッジ
19 パルス持続時間
21 パルス応答関数
23 測定期間
25 メモリユニット
26 シーケンス
27 光パルス
29 閾値
30 光信号パラメータ
30a 蛍光パラメータ
31 データ
31a データセット
32 基準値
33 蛍光寿命
33det 求められた蛍光寿命
33sim シミュレートされた蛍光寿命
35 曲線
35a~35e 第1の曲線~第5の曲線
39 比率値
39a 測定された比率値
39sim シミュレートされた比率値
41 平均光子率
41a 測定された平均光子率
43 装置
45 光源
45a パルス状レーザー光源
47 励起光
49 サンプル
51 検出器出力側
53 前置増幅器
55 増幅器出力側
57 計数経路
59 積分経路
61 計数モジュール
63 カウンタ出力側
65 被除数入力側
67 除算器入力側
69 除算モジュール
71 積分モジュール
75 積分器出力側
77 論理ユニット
77a 論理ユニットの第2の構成
79 積分値
83 比率値出力側
85 メモリモジュール
87 ルックアップテーブルモジュール
89 補間モジュール
91 強度出力側
93 強度モジュール
95 強度結果
97 寿命出力側
99 顕微鏡
99a 走査型顕微鏡
99b 蛍光寿命顕微鏡(FLIM)
101 画像
103a,103b 互いに空間的に間隔を置いた領域
105 適用領域
107 計算ユニット
109 コンピュータ
111 記憶媒体
113 パルス繰り返し周波数
115 周期
117 ルックアップテーブル/LUT
119 強度LUT
121 補正された強度
123 フローチャート
125 寿命モジュール
127 寿命LUT
129 強度モジュール
131 ゲーティングモジュール
133 ゲーティング開始
134 ゲーティング期間
135 ゲーティング終了
E 光子エネルギ
ΣN 累積された光子数
ΣE カウンタ値
ΣP 積分された信号
ΣE,sim シミュレートされたカウンタ値
ΣP,sim シミュレートされた積分された信号
【国際調査報告】