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特表2022-541114中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(54)【発明の名称】中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/012 20060101AFI20220914BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20220914BHJP
   G02B 6/032 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C03B37/012 A
C03B37/012 B
G02B6/02 356A
G02B6/032 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576503
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2020069994
(87)【国際公開番号】W WO2021009222
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】19186753.0
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Heraeusstr.12-14, 63450 Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル ローゼンベアガー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヒューナーマン
(72)【発明者】
【氏名】マーティン トロマー
(72)【発明者】
【氏名】カイ シュースター
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ヴァイマン
【テーマコード(参考)】
2H250
4G021
【Fターム(参考)】
2H250AB03
2H250AC53
4G021BA04
4G021BA14
4G021BA15
(57)【要約】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ中空コアを取り囲む内部のクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法が公知である。公知の方法は、被覆管内部ボアと被覆管長手方向軸とを有し、内側と外側により画定されている被覆管壁が被覆管長手方向軸に沿って延びている被覆管を提供する工程と、複数の反共振要素プリフォームを提供する工程と、反共振要素プリフォームを被覆管壁の内側の目標位置に配置して、中空のコア領域と内部クラッド領域とを有する一次プリフォームを形成する工程と、一次プリフォームのさらなる加工によって、中空コアファイバの二次プリフォームを形成する工程において、さらなる加工が延伸を含む工程と、二次プリフォームを線引きして中空コアファイバを形成する工程と、を含んでいる。ここから出発して、高い精密性と反共振要素の正確な位置決めを十分に安定的で再現可能な仕方で達成するため、本発明に基づき、一次プリフォームの延伸後に、一次プリフォームの以前の管状反共振要素プリフォームの少なくとも一部は、長軸Aと短軸Aとを備えるオーバルの外部断面形状を有し、軸の長さの比A/Aは1.01~1.27の範囲にあり、短軸Aは被覆管長手方向軸から見て半径方向に通っている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ前記中空コアを取り囲む内部クラッド領域とを有する反共振中空コアファイバ(33)の製造方法であって、
(a) 被覆管内部ボアと被覆管長手方向軸とを有し、内側と外側により画定されている被覆管壁(2)が前記被覆管長手方向軸に沿って延びている被覆管(1)を提供する工程と、
(b) 複数の管状反共振要素プリフォーム(4;34)を提供する工程と、
(c) 前記反共振要素プリフォーム(4;34)を前記被覆管壁(2)の内側の目標位置に配置して、中空のコア領域と内部クラッド領域とを有する前記中空コアファイバのための一次プリフォーム(3;31)を形成する工程と、
(d) 一次プリフォーム(3;31)を、前記中空コアファイバ(33)が線引きされる二次プリフォーム(32)にさらに加工する工程であって、前記さらに加工する工程は、延伸、並びに任意で
(i) コラップス、
(ii) コラップスおよび同時延伸、
(iii) 追加のクラッド材料のコラップス、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の加熱成形プロセスが一回または反復して実行されることを含む、さらに加工する工程と、
(e) 前記二次プリフォーム(32)を、前記中空コアファイバ(33)に線引きする工程と、を備える製造方法において、
工程(d)による延伸後に、前記一次プリフォーム(3;31)の元の前記管状反共振要素プリフォーム(4;34)の少なくとも一部は、断面長軸Aと断面短軸Aとを備えるオーバルの外部断面形状を有し、軸の長さの比A/Aは1.01~1.27の範囲にあり、断面短軸Aは前記被覆管長手方向軸から見て半径方向に通っていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記管状反共振要素プリフォーム(4;34)の少なくとも一部は、複数の互いに入れ子になっている構造要素(4a;4b)から構成されており、少なくとも1つのARE外管(4a)と、前記ARE外管(4a)内で前記ARE外管の長手方向軸に対して平行に通る少なくとも1つのARE内管(4b)とを含み、前記ARE外管(4a)は、オーバルの、好ましくは楕円形の外部断面形状を有し、軸の長さの比A/Aは1.07~1.27の範囲にあり、前記ARE内管(4b)は、オーバルの、好ましくは楕円形の外部断面形状を有し、軸の長さの比A/Aは1.01~1.05の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一次プリフォーム(3;31)は、外径が20~70mmの範囲にあることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
延伸時に、前記一次プリフォーム(3;31)は、送り込み速度で連続的に加熱帯に送られ、前記加熱帯の中でゾーンごとに軟化し、引き出し速度で前記加熱帯から引き出され、処理量が少なくとも0.8g/分に、好適には0.8g/分~85g/分の範囲に、特に好適には3.3g/分~85g/分の範囲になるように、また前記加熱帯における平均滞留時間が少なくとも25分以下に、好ましくは5~25分の範囲になるように前記送り込み速度を設定することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
延伸時の引き出し率は、1.05~10の範囲にある値に、好ましくは1.05~5の範囲にある値に設定されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一次プリフォーム(3;31)の延伸には、目標温度が+/-0.1℃の精度で維持される温度制御式加熱帯が使用されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反共振要素プリフォーム(4)の固定は、非晶質SiO粒子を含む封止材または接合材(5)を使用して行われることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記一次プリフォーム(3;31)の延伸時に、前記反共振要素プリフォーム(4)の開放端および/または前記反共振要素プリフォーム(4)の個々の前記構造要素(4a;4b)および/または場合によって生じる管要素間の環状の隙間は、封止材または接合材(5)によって封止されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記被覆管内側には、機械加工によって前記目標位置領域に前記被覆管長手方向軸に向かって延びる長手方向構造が設けられることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記反共振要素プリフォーム(4;34)は、位置決めテンプレートを使って前記目標位置に位置決めされることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記位置決めテンプレートは、被覆管正面の領域、好ましくは両方の被覆管正面の領域に使用されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(d)による前記一次プリフォーム(3;31)の延伸時および/または工程(e)による前記中空コアファイバ(33)の線引き時に、シリカガラスからなる前記プリフォームの複数の構成部品も一緒に加熱して軟化させ、少なくともいくつかの前記プリフォーム構成部品の前記シリカガラスは、前記シリカガラスの粘性を下げる少なくとも1つのドーパントを含んでいることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(d)に準じて追加のクラッド材料がコラップスされ、測定温度1250℃において前記被覆管の前記シリカガラスは、追加的に取り付けられた前記クラッド材料の前記シリカガラスよりも少なくとも0.5dPa・s高い粘性を有し、好ましくは少なくとも0.6dPa・s高い粘性を有している(粘性は対数値としてdPa・sで表示)ことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記被覆管壁(2)の内側の前記目標位置への前記反共振要素プリフォーム(4;34)の配置および/または工程(d)に準ずる前記中空コアファイバ(33)の線引きは、非晶質SiO2粒子を含有する封止材または接合材(5)を使用しての固定措置および/または封止措置を含むことを特徴とする請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ中空コアを取り囲む内部クラッド領域とを有する反共振中空コアファイバのプリフォーム(32)の製造方法であって、
(a) 被覆管内部ボアと被覆管長手方向軸とを有し、内側と外側により画定されている被覆管壁(2)が前記被覆管長手方向軸に沿って延びている被覆管(1)を提供する工程と、
(b) 複数の反共振要素プリフォーム(4)を提供する工程と、
(c) 前記反共振要素プリフォーム(4;34)を前記被覆管壁(2)の内側の目標位置に配置して、中空のコア領域と内部クラッド領域とを有する前記中空コアファイバのための一次プリフォーム(3;31)を形成する工程と、
(d) 前記一次プリフォーム(3;31)を、前記中空コアファイバのための二次プリフォーム(32)にさらに加工する工程であって、前記さらに加工する工程は、延伸、並びに任意で、
(i) コラップス、
(ii) コラップスおよび同時延伸、
(iii) 追加のクラッド材料のコラップス、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の加熱成形プロセスが一回または反復して実行されることを含む、さらに加工する工程と、
を備える製造方法において、
工程(d)による延伸後に、前記一次プリフォーム(3;31)の元の前記管状反共振要素プリフォーム(4;34)の少なくとも一部は、断面長軸ALと断面短軸AKとを備えるオーバルの外部断面形状を有し、軸の長さの比AL/AKは1.01~1.27の範囲にあり、断面短軸AKは前記被覆管長手方向軸から見て半径方向に通っていることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、多数の反共振要素を含む、中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法であって、
(a) 被覆管内部ボアと被覆管長手方向軸とを有し、内側と外側により画定されている被覆管壁が被覆管長手方向軸に沿って延びている被覆管を提供する工程と、
(b) 多数の管状反共振要素プリフォームを提供する工程と、
(c) 反共振要素プリフォームを被覆管壁の内側の目標位置に配置して、中空のコア領域と内部のクラッド領域とを有する一次プリフォームを形成する工程と、
(d) 一次プリフォームを、中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工する工程であって、さらに加工する工程は、延伸、並びに任意で
(i) コラップス、
(ii) コラップスおよび同時延伸、
(iii) 追加のクラッド材料のコラップス、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の加熱成形プロセスが一回または反復して実行されることを含む、さらに加工する工程と、
(e) 二次プリフォームを線引きして中空コアファイバを形成する工程と、
を備える製造方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含む、中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバのプリフォームの製造方法に関し、この製造方法は、
(a) 被覆管内部ボアと被覆管長手方向軸とを有し、内側と外側により画定されている被覆管壁が被覆管長手方向軸に沿って延びている被覆管を提供する工程と、
(b) 多数の管状反共振要素プリフォームを提供する工程と、
(c) 反共振要素プリフォームを被覆管壁の内側の目標位置に配置して、中空のコア領域と内部のクラッド領域とを有する一次プリフォームを形成する工程と、
(d) 一次プリフォームを、中空コアファイバのための二次プリフォーにさらに加工する工程と、を備え、さらに加工する工程は、延伸、並びに任意で
(i) コラップス、
(ii) コラップスおよび同時延伸、
(iii) 追加のクラッド材料のコラップス、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行されることを含む。
【0003】
中実材料から作製される従来のシングルモード光ファイバは、低屈折率のガラスからなるクラッド領域により取り囲まれたガラス製のコア領域を有している。このとき、光の伝搬は、コア領域とクラッド領域間の全反射に基づいている。しかし、導波光と中実材料の相互作用は、データ伝送時の遅延時間の増大や、エネルギー放射線に対する損傷のしきい値の相対的低下に結びついている。
【0004】
これらの欠点は、コアがガスまたは液体を充填した真空の空洞部からなる「中空コアファイバ」によって回避されるか、もしくは軽減される。中空コアファイバでは、光とガラスの相互作用が中実コアファイバの場合よりも減少する。コアの屈折率はクラッドの屈折率よりも小さいため、全反射による光の伝搬は不可能であり、通常光はコアからクラッドに漏れ出ると考えられる。光の伝搬の物理的メカニズムに応じて、中空コアファイバは、「フォトニックバンドギャップファイバ」と「反共振反射ファイバ」に区別される。
【0005】
「フォトニックバンドギャップファイバ」では、中空コア領域が、小さな中空チャネルを周期的に配置したクラッドによって取り囲まれている。クラッド内の中空チャネルの周期的構造には、半導体技術に依る「フォトニックバンドギャップ」と呼ばれる効果があり、これにより、クラッド構造に散乱する特定の波長領域の光はブラッグ反射に基づいて中心の空洞部で構造的に干渉するため、クラッド内で横方向に広がることはできない。
【0006】
「反共振中空コアファイバ」(「antiresonant hollow-core fibers」;ARHCF)と呼ばれる中空コアファイバの実施形態では、中空のコア領域が内部のクラッド領域によって取り囲まれており、いわゆる「反共振性要素」(または「反共振要素」;略号:「AREs」)の中に配置されている。中空コア周辺に均等に分散された反共振要素の壁は、反共振に作動されるファブリ・ペロー空洞として機能し、この空洞は入射光を反射し、ファイバコアに通すことができる。
【0007】
このファイバ技術により、光減衰を軽減することができ、透過スペクトルが非常に広くなり(紫外線または赤外線の波長帯域でも)、データ伝送時の遅延時間も少なくなる。
【0008】
中空コアファイバの潜在的用途は、データ伝送、材料加工などに用いる高性能ビーム制御、モーダルフィルタリング、特に超紫外線波長帯域から赤外線波長帯域までのスーパーコンティニウムを発生させる非線形光学の分野にある。
【0009】
背景技術
反共振中空コアファイバの欠点は、高次モードが自動的に抑制されないため、長い伝達距離にわたって純粋なシングルモードにならないことが多く、出力光線の品質が悪化することにある。
【0010】
Francesco Poletti「Nested antiresonant nodeless hollow core fiber」;Optics Express,Vol.22,No.20(2014);DOI:10.1364/OE 22.023807の文献では、反共振要素が単純な単一構造要素として形成されているのではなく、互いに入れ子になった(英語:nested)複数の構造要素から構成されたファイバ設計が提案されている。入れ子になった反共振要素は、高次コアモードがクラッドモードに位相整合されて抑制されるが、基本コアモードは抑制されないように設計されている。これにより、基本コアモードの伝搬が常に保証され、限定された波長帯域にわたって中空コアファイバを効率的にシングルモードにすることができる。
【0011】
効率的なモード抑制は、伝搬光の中心波長の他に、中空コアの半径および反共振要素内で入れ子になっているリング構造の直径差といったファイバ設計の構造パラメータにも左右される。
【0012】
EP3136143A1から、コアが基本モード以外に別のモードも伝搬することができる反共振中空コアファイバ(「バンドギャップのない中空コアファイバ」と呼ばれる)が公知である。この目的のため、コアは、反共振モードと高次モードの位相整合を提供する「非共振要素」を有する内部クラッドによって取り囲まれている。中空コアファイバの製造は、いわゆる「スタック&ドロー法」によって行われ、そこでは出発要素を軸平行の集合体になるように並べ、固定することによってプリフォームを形成し、続いてそのプリフォームを延伸する。ここでは、内側断面が六角形の被覆管が使用され、被覆管の内縁部には、いわゆる「AREプリフォーム」(反共振要素プリフォーム)が6個固定される。このプリフォームを2段階に分けて線引きすることによって中空コアファイバを形成する。
【0013】
国際特許出願2018/169487A1から、反共振中空コアファイバのプリフォーム製造方法が知られており、ここでは第1のクラッド領域が多数のロッドから構成され、第2のクラッド領域は、被覆管によって取り囲まれている多数の管から構成されている。ロッド、管、被覆管は「スタック&ドロー」法によって接合され、プリフォームが形成される。プリフォームを延伸する前に、プリフォーム端部に封止材を塗布して封止が行われる。封止材としては、例えばUV接着剤が使用される。
【0014】
発明が解決しようとする課題
反共振中空コアファイバや、特に入れ子になっている構造要素を持つそのようなファイバは複雑な内部形状を有するため、これを正確かつ再現可能に製造することは困難である。さらに、共振条件または反共振条件を満たすには伝搬させる光の動作波長の大きさに僅かな寸法許容差があっても許されないため、このことは一層困難なものとなる。目標形状からの逸脱は、ファイバプリフォームの構成時にその原因が作られるおそれがあるが、ファイバ線引きプロセス時にも縮尺に沿わない不適切な変形によって生じる可能性がある。
【0015】
公知の「スタック&ドロー」法では、多数の要素が正確な位置に接合されなければならない。例えば、冒頭に述べた文献から知られている「NANF」設計の中空コアファイバを製造するには、それぞれが反共振要素外管(略号:ARE外管)からなる6つの反共振要素プリフォームと、ARE外管の内側クラッド面の片側に溶接されている反共振要素内管(略号:ARE内管)とを被覆管の内側に取り付けなければならない。
【0016】
小さい減衰値と広範な伝播範囲を実現するためには、反共振要素の壁の均等な壁厚の他に、被覆管内部における反共振要素の方位角位置も重要である。このことは、「スタック&ドロー」法では簡単に実現できない。本発明の目的は、従来の製造方法の制限を回避して、反共振中空コアファイバを低コストで実現する製造方法を提供することである。
【0017】
特に本発明の目的は、反共振中空コアファイバと反共振中空コアファイバのプリフォームの製造方法を提供することであり、本方法によって、構造要素の高い精密性とファイバ内での反共振要素の正確な位置決めを、十分に安定的で再現可能な仕方で達成することが可能となる。
【0018】
さらに、必要な構造精度、特に反共振要素の均等な壁厚および規定の方位角位置への正確な位置決めが容易に達成できない従来の「スタック&ドロー」法の欠点をできる限り回避しなければならない。
【0019】
発明の概要
反共振中空コアファイバの製造方法に関して、この課題は、冒頭に述べた種類の方法から出発して、本発明に基づき、工程(d)による延伸後に、一次プリフォームの元の管状反共振要素プリフォームの少なくとも一部は、断面長軸Aと断面短軸Aとを備えるオーバルの外部断面形状を有し、軸の長さの比A/Aは1.01~1.27の範囲にあり、断面短軸Aは被覆管長手方向軸から見て半径方向に通っていることによって解決される。
【0020】
反共振中空コアファイバ製造の出発点は、この場合も、「一次プリフォーム」と呼ばれるプリフォームである。一次プリフォームの製造には、通常、反共振要素プリフォームと被覆管の取付けおよび接続が含まれている。一次プリフォームは延伸によって中空コアファイバを形成することができるが、通常は、この一次プリフォームをさらに加工して、ここでは「二次プリフォーム」と呼ばれるプリフォームを作製する。必要に応じて、この二次プリフォームを延伸することにより中空コアファイバが作られる。択一的に、一次プリフォームまたは二次プリフォームを、構成部品の同軸集合体を形成しながら、1つまたは複数の外層シリンダにより取り囲み、この同軸集合体を直接延伸して中空コアファイバを形成する。この場合、一般的な「プリフォーム」という用語は、中空コアファイバが最終的に線引きされる構成部品または構成部品の同軸集合体の名称と理解される。
【0021】
クラッド材料の付加は、例えば一次プリフォームまたは二次プリフォーム上に外層シリンダをコラップスすることによって行われる。プリフォームと外層シリンダからなる同軸配置は、外層シリンダのコラップス時に延伸されるか、または延伸されない。このとき、反共振要素プリフォームは、その形状または配置が変化するか、またはその形状または配置は変化しない。
【0022】
二次プリフォームの製造には、中空コアファイバの初期要素が製造され、互いに位置決めされる多数の工程と、少なくとも1つの加熱成形処理とが含まれる。各初期要素にはその目標形状からのある程度の逸脱があり、また位置決めと変形のそれぞれの工程によって必然的に形状偏差が生じるため、完成したプリフォームには絶対的な形状エラーが発生する。特にガラスの加熱成形では、通常は円筒形対称性の最適な加熱帯温度プロファイルから僅かに逸脱しただけで、好ましくない再現不可能な変形が発生するおそれがある。このような変形は、延伸時またはファイバ線引きプロセス時の圧力および温度条件にも起因しており、これらを回避することは非常に難しい。
【0023】
本発明に基づく方法は、延伸時およびファイバ線引きプロセス時におけるこのような圧力および温度条件の変形作用を補正することを目的としている。
【0024】
この目的のため、一次プリフォームの延伸は、延伸工程の終了後に、一次プリフォームの元の管状かつ断面の丸い反共振要素プリフォームの少なくとも一部がオーバルの外部断面形状を有するように実施される。
【0025】
一次プリフォームの延伸では、追加のクラッド材料が取り付けられるか、または追加のクラッド材料は取り付けられない。延伸工程の結果は二次プリフォームであるか、または別の半製品であり、この半製品は必要に応じてさらに加工し、二次プリフォームにする必要がある。
【0026】
元の一次プリフォームのほとんどの構造要素、好ましくはすべての構造要素は本来丸形であるが、延伸プロセスで形状が変化し、延伸プロセス後は非円形でオーバルの、最適には楕円形の断面形状を有する場合は有利であることが判明した。というのも、次のファイバ線引きプロセスにおいてさらなる形状変化が起こり、その結果、オーバルの半径断面を持つ空洞部が丸形の半径断面を持つ空洞部に変化するからである。
【0027】
延伸された構造要素の断面形状の、この補正に有利な楕円率は、(断面における)長軸と短軸によって説明されることが判明した。断面における長軸Aと断面の短軸Aの比は、1.01~1.27の範囲にある。このとき重要なのは、元の被覆管の内部クラッド面にあるオーバルの方向づけである。すなわち、断面短軸Aは半径方向に通り、断面長軸Aは元の内部クラッド面に対して接線方向に通るように方向づけられる。
【0028】
反共振要素プリフォームは、例えば1つの簡単な管要素などの構造要素から、または複数の構造要素から構成されていてよい。複数の構造要素の場合、これらの要素は、例えば互いに入れ子になっており、もっとも単純なケースではARE外管を形成し、その中にARE内管が挿入されている。
【0029】
単純な管状構造要素からなる反共振要素プリフォームに関係する特に好適な方法では、管要素がオーバルの、好ましくは楕円形の外部断面形状を有しており、軸の長さの比A/Aは1.07~1.27の範囲にある。
【0030】
もう1つの特に好適な方法は、複数の互いに入れ子になっている構造要素から構成されており、少なくとも1つのARE外管と、このARE外管内でARE外管の長手方向軸に対して平行に通る少なくとも1つのARE内管とを含む反共振要素プリフォームに関連する。
【0031】
このような反共振要素プリフォームの場合、ARE内管は、ARE外管壁の内側に固定されている。ARE内管とARE外管の接触領域が小さすぎる場合、加熱成形プロセス時の表面張力によって、ARE外管内部でARE内管の剥離および偏心が生じるおそれがある。これに対抗するため、ARE外管は、オーバルの、好ましくは楕円形の外部断面形状を有し、軸の長さの比A/Aは1.07~1.27の範囲にあり、ARE内管は、オーバルの、好ましくは楕円形の外部断面形状を有し、軸の長さの比A/Aは1.01~1.05の範囲にある場合は有利であることが判明した。
【0032】
ARE外管の楕円率が比較的大きいことから、内部毛細管との接触領域が拡大する。
【0033】
延伸前の一次プリフォームは、外径が好ましくは20~70mmの範囲にあり、特に好ましくは30~70mmの範囲にある。
【0034】
なぜなら、直径が大きくなればなるほど、延伸時のトラッキング速度は遅くなるため、プリフォームのそれぞれの軸部分が加熱帯の高温に晒されている時間も長くなるからである。しかし、延伸時のトラッキング速度が遅すぎると、反共振要素プリフォームの構造要素は変形する。したがって、一次プリフォームの直径は、好ましくは70mm以下である。また、一次プリフォームの直径は、好ましくは20mm以上、特に好ましくは30mm以上である。これは、直径がこれ以上小さくなると、プリフォームの熱慣性が小さすぎて、加熱帯の温度変化を調整できなくなることが判明したからである。
【0035】
好適な方法では、延伸時に、一次プリフォームが送り込み速度で連続的に加熱帯に送られ、加熱帯の中でゾーンごとに軟化し、引き出し速度で加熱帯から引き出される。
【0036】
送り込み速度が速すぎると、一次プリフォームに温度勾配が生じて、その中のさまざまな半径位置に分配されている反共振要素プリフォームが異なる延伸特性を示す可能性がある。送り込み速度が遅すぎると、反共振要素プリフォームに望ましくない変形が生じるおそれがある。適切な妥協点として、処理量が少なくとも0.8g/分に、好適には0.8g/分~85g/分の範囲に、特に好適には3.3g/分~85g/分の範囲になるように、また加熱帯における平均滞留時間が少なくとも25分以下に、好ましくは5~25分の範囲になるように送り込み速度を設定する場合は有利であることが判明した。
【0037】
加熱成形プロセス時の加熱帯の温度はできる限り一定しているべきである。したがって、有利には工程(d)による加熱成形プロセス時には、目標温度が+/-0.1℃の精度で維持される温度制御式ヒータ要素が使用される。
【0038】
これにより、加熱帯での温度変動を+/-0.5℃未満に限定することができる。
【0039】
絶対的な形状エラーを回避するには、延伸時の高い引き出し率が望まれる。一方で、引き出し率が大きいと、それに応じて変形プロセスと材料移動も大きくなるため、反共振要素プリフォームの微細な構造要素に望ましくない変形が生じやすくなる。
【0040】
適切な妥協点として、延伸時の引き出し率を、1.05~10の範囲にある値に、好ましくは1.05~5の範囲にある値に設定することが有利であると判明した。
【0041】
好適な方法の変形例では、反共振要素プリフォームの配置、および/または一次プリフォームの延伸、および/または中空コアファイバの線引きが、非晶質SiO粒子含有の封止材または接合材を使用した固定措置および/または封止措置を含んでいる。
【0042】
封止または固定に使用される封止材または接合材には、例えば分散液に取り込まれた非晶質SiO粒子が含まれている。この材料は、接合すべき面または封止すべき面の間に塗布され、使用時は通常ペースト状である。低温で乾燥させると、分散液が部分的または完全に取り除かれ、材料が硬化する。封止材または接合材、および特に乾燥後に得られる硬化したSiO含有封止材または接合材は、固定および圧縮の要件を満たしている。乾燥に必要な温度は300℃以下であり、これによりプリフォームの寸法安定性の維持が促進され、熱による悪影響が回避される。例えばプリフォームを中空コアファイバに延伸する際に、800℃周辺の高温まで加熱すると、封止材または接合材のさらなる熱凝固が生じるため、曇りガラスや透明ガラスの形成にも適している。このことは焼結やガラス化によって生じるが、この場合、曇りガラスへの焼結は、完全に透明になるまでガラス化するよりも比較的低い温度および/または短い加熱時間で済む。したがって、封止材または接合材は加熱によって完全に圧縮することができ、熱成形プロセスでの加熱によってガラス化が可能である。
【0043】
熱成形プロセスでは封止材または接合材は分解されず、不純物をほとんど放出しない。したがって、これは熱成形プロセス時の温度安定性と純度によって特徴付けられ、異なる熱膨張率による変形を回避する。
【0044】
封止材および接合材は、一次プリフォームの延伸時および/または中空コアファイバの線引き時に、反共振要素プリフォームの開放端および/または反共振要素プリフォームの個々の構造要素および/または管要素の間にある環状の隙間を封鎖するためにも有利に使用することができる。
【0045】
このようにして、一次プリフォームおよび/または二次プリフォームの個々の構成部品は、延伸時またはファイバ線引きプロセス時にさまざまな内圧を受ける可能性がある。
【0046】
被覆管の内部クラッド面におけるプリフォームの位置決め精度は、被覆管内側および/または被覆管外側および/またはARE外管内側および/またはARE外管外側を機械加工によって、特に穴あけ加工、鋸加工、フライス加工、研削加工、ホーニング加工および/またはポリッシング加工で仕上げることによってさらに改善される。
【0047】
これらの加工技術は、熱や圧力を使用するその他の周知の変形技術と比べ、より正確で極めて微細な構造を提供し、ノズル、プレスまたは鋳造型などの成形工具による表面の汚れを回避することができる。
【0048】
この機械加工には、好ましくは反共振要素プリフォームの目標位置領域における被覆管内側の構造化も含まれ、これにより反共振要素プリフォームに被覆管長手方向軸に向かって延びる長手方向構造を設けることができる。この長手方向構造には、例えば、被覆管長手方向軸に平行に通る長手方向スロットおよび/または長手方向溝が含まれ、これらは、穴あけ加工、鋸加工、フライス加工、切断加工または研削加工によって仕上げられるのが好ましい。
【0049】
被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造は、反共振要素プリフォームの位置決め補助として用いられる。これにより、反共振要素プリフォームが被覆管の内側の規定位置に配置されやすくなる。
【0050】
被覆管の内部クラッド面におけるプリフォームの位置決め精度は、構造要素の上部端面が位置決めテンプレートを使って目標位置に位置決めされる場合に改善される。
【0051】
位置決めテンプレートは、例えば、被覆管内部ボアに突き出すシャフトを有しており、このシャフトには半径方向に外側を向く保持アームの形で保持要素が設けられている。
【0052】
構造的に設定された保持要素の星形の配置により、反共振要素プリフォームをそれぞれの目標位置へ正確に位置決めし、例えば上述した封止材または接合材によって固定することが容易になる。このとき、位置決めテンプレートは、好ましくは被覆管正面の領域、好ましくは両方の被覆管正面の領域にのみ使用される。
【0053】
さらに、工程(d)による一次プリフォームの延伸時および/または工程(e)による中空コアファイバの線引き時に、シリカガラスからなるプリフォームの複数の構成部品も一緒に加熱して軟化させる方法が有利であることも実証されており、このとき、少なくともいくつかのプリフォーム構成部品のシリカガラスは、シリカガラスの粘性を下げる少なくとも1つのドーパントを含んでいる。
【0054】
一次プリフォームの構成部品には、被覆管と、その中に配置されている反共振要素プリフォームとが含まれている。二次プリフォームには追加のクラッド材料が含まれており、この材料は例えば1つの外層シリンダまたは複数の外層シリンダの形で準備され、一次プリフォーム上にコラップスされる。
【0055】
シリカガラスの粘性を下げるドーパントとしては、好ましくはフッ素、塩素および/またはヒドロキシル基が使用される。
【0056】
ドーパントにより、隣接するプリフォーム構成部品の熱膨張率の調整が可能になることで、応力を回避または低下させることができる。ドーパントはまた、ある構成部品の熱安定性を低下させ、隣接する構成部品の安定性を高めるためにも使用することができる。
【0057】
例えば、測定温度1250℃において被覆管のシリカガラスは、追加的に取り付けられたクラッド材料のシリカガラスよりも少なくとも0.5dPa・s高い粘性を有し、好ましくは少なくとも0.6dPa・s高い粘性を有している場合は有利であることが判明した(粘性は対数値としてdPa・sで表示)。
【0058】
特に、中空コアファイバの低い光減衰と幅広い光学的伝送帯域幅に関しては、反共振要素が中空コアの周りに奇数対称に配置されている場合は特に有利であることが証明されている。
【0059】
好適な方法では、管状の構造要素が提供され、そのうちの少なくとも一部は0.2~2mmの範囲の壁厚を有し、好ましくは0.25~1mmの範囲の壁厚を有することによって、被覆管におけるプリフォームの位置決め精度をさらに改善する。このとき、被覆管は外径が90~250mmの範囲のもの、好ましくは外径が120~200mmの範囲のものが提供される。これらの構成部品はそれぞれ少なくとも1mの長さがあり、反共振要素を形成するための比較的容積の大きな構造要素である。これにより、取扱いが容易になる。さらに、被覆管と構造要素が垂直に配置されており、例えば、好ましくは上述の封止材または接合材を使用し、そのために補足的または選択的に上述した位置決めテンプレートを用いて、構造要素がそれぞれ上部の端面で目標位置に位置決めされ、固定されている場合は、構造要素長手方向軸の平行性と垂直方向への整列が重力によってサポートされる。
【0060】
中空コアファイバのプリフォームの製造方法に関して、上に示した技術的課題は、冒頭に述べた種類の方法から出発して、本発明に基づき、工程(d)による延伸後に、一次プリフォームの元の管状反共振要素プリフォームの少なくとも一部は、断面長軸Aと断面短軸Aとを備えるオーバルの外部断面形状を有し、軸の長さの比A/Aは1.01~1.27の範囲にあり、断面短軸Aは被覆管長手方向軸から見て半径方向に通っていることによって解決される。
【0061】
一次プリフォームの延伸では、追加のクラッド材料が取り付けられるか、または追加のクラッド材料は取り付けられない。延伸工程の結果は二次プリフォームであるか、または延伸された一次プリフォームの形の別の半製品であり、この半製品は必要に応じてさらに加工して二次プリフォームにする必要がある。いずれの場合も、延伸された一次プリフォームは、反共振要素プリフォームの少なくとも一部がオーバルの断面形状を有していることを特徴としており、この断面形状は、二次プリフォームを延伸して中空コアファイバにする際に生じるおそれのある変形に対し反対に作用することに適している一方で、他方では入れ子になっている構造要素間の接触領域を拡大し、それによって機械的安定性をさらに高めることができる。この方法により、中空コアファイバの精密な製造が可能となる。
【0062】
プリフォームを製造するための措置は、中空コアファイバの製造に関連して上記に詳しく説明されており、それらの説明がここに引用される。
【0063】
定義
これまでに述べた明細書の個々の工程と用語について、以下に補足的に定義する。これらの定義は本発明の明細書の構成要素である。以下の定義のいずれかと残りの明細書との間で実質的な矛盾がある場合、残りの明細書の中で言及していることが優先される。
【0064】
反共振要素
反共振要素は、中空コアファイバの単純な構造要素または入れ子構造要素であってよい。これは、中空コアの方向から見て負の曲率(凸部)を持つか、曲率を持たない(平面、直線)少なくとも2つの壁を有している。通常、反共振要素は動作光に対して透明な材料、例えばガラス(特にドープしたSiOまたはドープしないSiO)、プラスチック(特にポリマー)、複合材料または結晶材料からなる。
【0065】
反共振要素プリフォーム/反共振要素前段階
反共振要素プリフォームとは、主にファイバ線引きプロセスにおける単純な線引きによって中空コアファイバ内で反共振要素になる構成部品またはプリフォームの構成部品である。反共振要素前段階とは、変形によって初めて反共振要素プリフォームまたは直接的に反共振要素になる構成部品またはプリフォームの構成部品である。反共振要素プリフォームは、単純な構成部品または入れ子になっている構成部品であってよく、これに追加的に位置決め補助を固定することができる。反共振要素プリフォームは、もともと一次プリフォームの中に存在する。
【0066】
入れ子の反共振要素プリフォームは、中空コアファイバの中で入れ子になっている反共振要素を形成する。これは、1本の外管と、外管の内部ボア内に配置されている少なくとも1つのさらなる構造要素とから構成されている。さらなる構造要素は、外管の内側クラッド面に接しているさらなる管であってよい。外管は「反共振要素外管」または略して「ARE外管」と呼ばれ、さらなる管は「反共振要素内管」または略して「ARE内管」または「入れ子になっているARE内管」とも呼ばれる。
【0067】
入れ子になっているARE内管の内部ボアの中には、反共振要素プリフォームが何重にも入れ子になっている場合、少なくとも1つのさらなる構造要素、例えば入れ子になっているARE内管の内部クラッド面に接する第3の管を配置してもよい。
【0068】
反共振要素プリフォームが何重にも入れ子になっている場合は、ARE外管の中に配置されている複数の管を区別するため、必要に応じて「入れ子になっている外側のARE内管」と「入れ子になっている内側のARE内管」とが区別される。
【0069】
シリンダ形の反共振要素プリフォームおよびそれらのシリンダ形構造要素に関連する「断面」という用語は、常に、それぞれのシリンダ長手方向軸に対して垂直の断面を示し、特に指定がない限り、管状構成部品における外部輪郭の断面を示すものである(内部輪郭の断面ではない)。
【0070】
一次プリフォームのさらなる加工により、とりわけ熱成形処理により、元の反共振要素プリフォームが初期形状に対して変化した形状で存在する中間製品を作ることができる。ここでは、変化した形状も同様に反共振要素プリフォームまたは反共振要素前段階と呼ぶ。
【0071】
プリフォーム/一次プリフォーム/二次プリフォーム/コアプリフォーム(ケーン)
プリフォームは、反共振中空コアファイバが線引きされる構成部品である。これには、一次プリフォームまたは一次プリフォームのさらなる加工によって作製される二次プリフォームがある。一次プリフォームは、少なくとも1本の被覆管と、その中に緩くまたは堅固に固定された状態で収納されている、反共振要素のためのプリフォームまたは前段階とからなる集合体であってよい。一次プリフォームを、中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工することは、
(i) 延伸、
(ii) コラップス、
(iii) コラップスおよび同時延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップス、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行されることを含む。
【0072】
文献においてコアプリフォーム(英語:ケーン、Cane)とは、一次プリフォームのコラップスおよび/または延伸によって得られるプリフォームである。通常、コアプリフォームは、中空コアファイバの線引き前または線引き時に追加のクラッド材料により覆われる。
【0073】
延伸/コラップス
延伸では、一次プリフォームが長く伸ばされる。この延伸は、同時コラップスなしで行ってよい。延伸は一定の縮尺に従って行うことができるため、例えば一次プリフォームの構成部品の形状および配置は延伸した最終製品に反映されている。しかし、延伸では、一次プリフォームが寸法どおりに線引きされず、幾何形状が変化する可能性もある。
【0074】
コラップスでは内部ボアを狭くしたり、管状構成部品間の環状の隙間を塞いだり、狭くしたりする。このコラップスは、通常、延伸と平行して行われる。
【0075】
中空コア/内部クラッド領域/外部クラッド領域
少なくとも1つの被覆管と、その中に緩くまたは堅固に固定された状態で収納されている反共振要素のプリフォームまたは前段階とからなる集合体を、ここでは「一次プリフォーム」とも呼ぶ。この一次プリフォームは、中空コアとクラッド領域から構成される。このクラッド領域は、例えば集合体へのコラップスによって形成された「外部クラッド領域」が存在しており、これらのクラッド領域を区別する必要がある場合は、「内部クラッド領域」とも呼ばれる。「内部クラッド領域」と「外部クラッド領域」という名称は、中空コアファイバや一次プリフォームのさらなる加工によって得られる中間製品の該当する領域に対しても使用される。
【0076】
「管内側」という名称は「管の内部クラッド面」の同義語としても用いられ、「管外側」という名称は「管の外部クラッド面」の同義語としても用いられる。管に関連した用語「内部ボア」は、内部ボアが穴あけ作業によって形成されたことを意味するものではない。
【0077】
切削加工
加工物を分離加工するための機械的製造方式であり、特に旋盤加工、切断加工、穴あけ加工、鋸加工、フライス加工または研磨加工を意味する。この加工により、被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造が得られ、これは反共振要素プリフォームの位置決め補助として用いられる。長手方向構造は被覆管内側からアクセスできるようになっており、被覆管壁全体を通って外側まで延びていてもよい。
【0078】
粒度および粒度分布
SiO粒子の粒度および粒度分布は、D50値に基づき特徴付けられる。この値は、SiO粒子の累積量を粒度に応じて示す粒度分布曲線から読み取られる。粒度分布は、それぞれのD10値、D50値、D90値に基づき特徴付けられることが多い。このとき、D10値はSiO粒子の累積量の10%に達しない粒度を示し、対応して、D50値およびD90はSiO粒子の累積量の50%または90%に達しない粒度を示す。粒度分布は、ISO13320に準拠した散乱光およびレーザー回折分光法によって検出される。
【0079】
実施例
以下に、実施例に基づき、図を用いて本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】被覆管と、その中に位置決めされ固定された反共振要素プリフォームとを備える、中空コアファイバ用二次プリフォームを製造するための一次プリフォームの断面図である。
図2】予備形成された反共振要素プリフォームを備える二次プリフォームの断面写真である。
図3】一次プリフォームから反共振中空コアファイバまでの加工工程を示した図である。
図4】入れ子になっている反共振要素を加熱加工する際の力の比を説明するための図である。
【0081】
中空コアファイバまたは中空コアファイバのためのプリフォームの製造では、多数の構成部品を相互に接続しなければならない。さらに、熱成形プロセスを実行する場合、プリフォームに存在している隙間やチャネルを封止することは有益である。独国特許出願公開第102004054392A1から公知のように、接合または封止には、SiOベースの封止材または接合材が使用される。このとき、シリカガラス粉粒体の湿式製粉によって、D50値が約5μmおよびD90値が約23μmによって特徴付けられる粒度分布を有する非晶質SiO粒子を含む水性スラリーが生成される。このベーススラリーに、約5μmの中等度の粒度を持つ非晶質SiO粒子が混合される。接合材として使用されるスラリーは、90%の固形物含有量を有し、少なくとも99.9質量%はSiOから構成されている。
【0082】
図1は、被覆管1と被覆管壁2とを備える一次プリフォーム3の図であり、壁の内側であらかじめ定義された方位角位置には反共振要素プリフォーム4が均等な間隔で固定されており、この実施例では6個のプリフォーム4があり、図示されていない別の好適な実施形態では奇数のプリフォームがある。
【0083】
被覆管1はシリカガラスからなり、長さ1000mm、外径27mm、内径20mmである。反共振要素プリフォーム4は、ARE外管4aとARE内管4bからなる、互いに入れ子になっている構造要素の集合体として存在している。ARE外管4aの外径は6.2mm、ARE内管4bの外径は2.5mmである。両方の構造要素(4a;4b)の壁厚は同じで、0.3mmである。ARE外管4aとARE内管4bの長さは被覆管長さと同じである。
【0084】
被覆管1は、成形工具を使用しない垂直線引き方式において2段階の延伸プロセスによって製造される。第1段階では、ガラス製の初期中空シリンダを機械的に加工して、初期中空シリンダの最終寸法を設定する。最終寸法によれば外形は90mm、外径と内径の直径比は2.5である。初期シリンダは、長手方向軸を垂直方向に配置した第1の延伸プロセスにおいて、加熱帯長さが200mmの加熱帯に連続的に送り込まれ、その中で領域ごとに軟化し、その軟化領域から中間シリンダが引き出される。この中間シリンダは、長手方向軸を垂直方向に配置した第2の延伸プロセスにおいて、加熱帯長さが100mmの別の加熱帯に連続的に送り込まれ、その中で領域ごとに軟化し、その軟化領域から管状ストリングが引き出される。この管状ストリングの長さを短くして被覆管が得られる。
【0085】
被覆管1の内側への反共振要素プリフォーム4の固定は、SiOベースの接合材5によって行われる。
【0086】
接合材5は被覆管内部クラッド面の端面領域に局所的に塗布され、その上に、個々の反共振要素プリフォーム4用保持アームの星形配置が構造的に設定されている位置決めテンプレートを使用して、反共振要素プリフォームが載せられる。このとき、位置決めテンプレートは、両方の被覆管端面の周りの領域に制限されている。
【0087】
この方式により、被覆管1と反共振要素プリフォーム4との間で正確かつ再現可能な接続が生じる。固定するための接合材5の硬化は、300℃以下の低い温度で十分なため、周辺領域の強い加熱およびそれによる反共振要素プリフォーム4の変形は回避される。
【0088】
一次プリフォーム3にはシリカガラスからなる外層シリンダがかぶせられ、この外層シリンダは被覆管1の上にコラップスされると同時に、管集合体が延伸されて二次プリフォームを形成する。外層シリンダの外径は63.4mmであり、壁厚は17mmである。
【0089】
コラップスおよび延伸プロセスでは、長手方向軸を垂直方向に配置して、被覆管1と外層シリンダの同軸配置を温度制御式加熱帯に下から送り込み、その中で配置の上端部から開始してゾーンごとに軟化させていく。
【0090】
加熱帯は、+/-0.1℃の制御精度で1600℃の目標温度に保たれる。これにより、加熱帯での温度変動を+/-0.5℃未満に限定することができる。
【0091】
コラップスおよび延伸工程では、中空コア領域と管状反共振要素プリフォーム4の中で同じ内圧を発生させ維持することにより、一次プリフォーム3の元の管状反共振要素プリフォーム4にオーバルの外部断面形状が付けられる。図4は、このとき発生する力の比を図に示したものである。中空のコア領域40とARE内管4bの内部ボアの両方において、延伸時には周囲圧力pが占めている。ARE内管4bの空洞部内が(その外側にかかっている圧力に対して)2.36mbarの正圧である場合、延伸中のARE内管4bは安定していると考えられる。内圧がない場合、方向矢印Fによって示されているような力が働く。上部頂点「S」の垂直抗力FN1とARE内管壁の側面に結果的に生じる垂直抗力FN2の比は、1.07~1.27(1.07<FN1/FN2<1.27)の範囲にある。この力の比の結果、ARE内管4bは延伸時にオーバルであり、ほぼ楕円形になり、この楕円形の長軸はARE外管4aの壁に対して接線方向に、短軸はそれに対して垂直方向に通る。
【0092】
これに対応してARE外管4aを観察すると、軸長さの比A/Aによって特徴付けられるオーバルの外部断面形状は1.07~1.27の範囲にある(1.07<A/A<1.27)。
【0093】
コラップスおよび延伸プロセスでこのように形成された二次プリフォームは約50mmの外径を有し、外部クラッドと内部クラッドから構成されるクラッド壁厚は16.6mmである。図2の写真は、そのようにして製造された、変形した反共振要素プリフォーム35と特にオーバルに形成されたARE外管とを備える二次プリフォーム32を示している。同様に、ARE内管も測定可能なほどオーバルに変形しているが、その変形度合いは僅かであるため、図2では変形を視覚的に認識することはできない。
【0094】
二次プリフォームは延伸され、反共振中空コアファイバが形成される。そのために、以前の反共振要素プリフォームのすべての構造要素、すなわちARE外管4aおよびARE内管4bは、上で言及した封止材または接合材で封止される。この場合、封止材は、ファイバ線引きプロセス時に上を向いている反共振要素プリフォームの正面にのみ塗布されている。
【0095】
次に、この同じ正面は、同時にガス接続部としても用いられるシリカガラスからなる保持管と接続される。このホルダは、封止材または接合材5によって外層シリンダと被覆管に固定される。ファイバ線引きプロセスでは、長手方向軸を垂直方向に配置して、二次プリフォームを温度制御式加熱帯に上から送り込み、その中で下端部から開始してゾーンごとに軟化させていく。加熱帯は、+/-0.1℃の制御精度で約2100℃の目標温度に保たれる。これにより、加熱帯での温度変動を+/-0.5℃未満に限定することができる。同時に、コア領域(中空コア)にガスを送り込み、コア領域の内圧を4mbarに設定する。
【0096】
このようにして実施されるファイバ線引きプロセスにより、反共振要素プリフォームの元の構造要素のオーバルな断面形状は丸形の断面形状になるため、反共振要素が埋め込まれた、丸形の断面形状を持つ反共振中空コアファイバを得ることができる。
【0097】
図3はプロセスの段階を図に示したものである。断面が丸形の反共振要素プリフォーム34を持つ一次プリフォーム31から、延伸およびコラップスプロセス37によって、断面形状がオーバル(断面短軸Aと断面長軸Aによって表示)の延伸された反共振要素プリフォーム35を備える二次プリフォーム32が形成され、これはファイバ線引きプロセス38において延伸され、断面形状が丸形の反共振要素36を含む反共振中空コアファイバ33が形成される。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】