(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(54)【発明の名称】基材シート搬送装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20220914BHJP
B65H 5/06 20060101ALI20220914BHJP
B65G 49/06 20060101ALI20220914BHJP
B65G 39/12 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H01L21/68 A
B65H5/06 Z
B65G49/06
B65G39/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500717
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(85)【翻訳文提出日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 EP2020070362
(87)【国際公開番号】W WO2021013754
(87)【国際公開日】2021-01-28
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ コルデロ
(72)【発明者】
【氏名】グザビエ ブラジェール
(72)【発明者】
【氏名】ポール モゲンセン
【テーマコード(参考)】
3F033
3F049
5F131
【Fターム(参考)】
3F033GA06
3F033GB08
3F049DA11
3F049LA15
3F049LB12
5F131AA03
5F131AA13
5F131BA03
5F131CA12
5F131CA18
5F131DA02
5F131DA33
5F131DA42
5F131DA52
5F131DA55
5F131DC22
(57)【要約】
【課題】搬送中の基材シートの安定性を確保し、基材シートの熱機械的変形の影響を制限しながら、基材シートを搬送するために基材シートに枠等の付属品を装着する必要のない、新しい基材シート搬送装置を提供すること。
【解決手段】
本発明は、端面によって連結された2つの相対する主面(11、12)を有する基材シート(10)の搬送用装置(1)であって、基材シート(10)の前記主面の1つ(12)は、前記装置の受容面(RP)に沿って配置され、前記受容面は略垂直面であり、
搬送方向(D)に沿って横並びに配置され、各々が搬送面(P)の前記搬送方向に対して垂直に延びる下部回転軸(21)を中心に回転可能で、前記基材シートの前記端面の一部(14)を受容するように配列された、複数の下部ローラー(20A)と、
各々が前記基材シートの前記主面の1つを受容するように配列され、前記搬送方向に対して直交する上部回転軸(31)を中心に回転可能な複数の上部ローラー(30A)と、を備える、装置(1)に関する。
本発明によれば、前記複数の上部ローラーは、前記搬送面から異なる高さ(H1、H2、H3)に配置される上部ローラーを備える。
本発明は、関連する方法、コンピュータプログラム製品、及び非一時的コンピュータ可読媒体にも関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面によって連結された2つの相対する主面(11、12)を有する基材シート(10)の搬送用装置(1)であって、前記基材シート(10)の前記主面の1つ(12)は、前記装置(1)の受容面(RP)に沿って配置され、前記受容面(RP)は略垂直面であり、
搬送方向(D)に沿って横並びに配置され、各々が搬送面(P)の前記搬送方向(D)に対して垂直に延びる下部回転軸(21)を中心に回転可能で、前記基材シート(10)の前記端面の一部(14)を受容するように配列された、複数の下部ローラー(20A;20B)と、
各々が前記基材シート(10)の前記主面の1つ(12)を受容するように配列され、前記搬送方向(D)に対して直交する上部回転軸(31)を中心に回転可能な複数の上部ローラー(30A;30B)と、
を備え、
前記複数の上部ローラー(30A;30B)が、前記搬送面(P)から異なる高さ(H1、H2、H3)に配置される上部ローラーを備えることを特徴とする、
装置(1)。
【請求項2】
前記上部回転軸(31)の少なくとも1本は、少なくとも2個の上部ローラー(30A、30B)を支持する、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
上部ローラー(30A、30B)を支持する前記上部回転軸(31)に沿った各上部ローラー(30A、30B)の位置、及び/又は、各上部回転軸(31)に支持される上部ローラー(30A、30B)の数が調整可能である、請求項1及び2のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項4】
上部回転軸(31)上の各上部ローラー(30A;30B)の前記位置は、予め決定されるか、又は前記基材シート(10)の搬送中にリアルタイムで調整される、請求項3に記載の装置(1)。
【請求項5】
各上部ローラー(30A;30B)が、前記基材シート(10)の前記主面(12)に接触する回転側面(32A、32B)を備え、前記回転側面(32A、32B)が、前記受容面(RP)から離れて移動するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記上部ローラー(30A;30B)の前記回転側面(32A、32B)は、前記受容面(RP)から離れて変形するように構成されている、請求項5に記載の装置(1)。
【請求項7】
各上部回転軸(31)は、前記受容面(RP)から離れて及び/又は前記受容面(RP)に向かって移動するように構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項8】
前記上部回転軸(31)は、所定の設定位置に、若しくは前記基材シート(10)の搬送中にリアルタイムで、前記受容面(RP)から離れて又は前記受容面(RP)に向かって移動するように構成されている、請求項7に記載の装置(1)。
【請求項9】
同一の上部回転軸(31)によって支持される前記上部ローラー(30A;30B)が、異なる直径を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項10】
各上部ローラー(30A;30B)の直径が、前記基材シート(10)が前記装置(1)に搬送される間の前記基材シート(10)の推定される変形を考慮して決定される、請求項9に記載の装置(1)。
【請求項11】
各上部ローラー(30A;30B)の直径は、前記装置に先に搬送される前記基材シート(10)の端部付近に位置する前記基材シート(10)の変形を制限し、且つ/又は、前記基材シート(10)の搬送中に前記基材シート(10)に加わる熱的若しくは機械的応力に関連した前記基材シート(10)の変形を制限するように決定される、請求項10に記載の装置(1)。
【請求項12】
各下部ローラー(20A;20B)が、凹状を呈する前記基材シート(10)の端面(14)に接触する回転側面(22A;22B)を備え、その下部回転軸(21)に沿って移動可能である、請求項1~11のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項13】
下部回転軸(21)に沿った前記下部ローラー(20A;20B)の位置は、前記装置(1)に先に搬送される前記基材シート(10)の端部付近に位置する前記基材シート(10)の変形を制限し、且つ/又は、前記基材シート(10)の搬送中に前記基材シート(10)に加わる熱的若しくは機械的応力に関連する前記基材シート(10)の変形を制限するよう決定される、請求項12に記載の装置(1)。
【請求項14】
追加的な相対した上部ローラー(40)が、前記基材シート(10)の他の主面(11)に接触するように配置される、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の基材シート(10)の搬送用装置(1)を用いる、基材シート(10)の搬送方法であって、前記基材シート(10)が前記上部回転軸(31)で支持される前記上部ローラー(30A;30B)の前記回転側面(32A;32B)に最初に接触する寸前に、各上部回転軸(31)の位置が、前記基材シート(10)の前記受容面(RP)から離れて移動する、搬送方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の装置(1)を用いる、基材シート(10)の搬送方法であって、前記装置(1)に先に搬送される前記基材シート(10)の端部付近に位置する前記基材シート(10)の変形を制限するために、及び/又は、基材シート(10)の搬送中に前記基材シート(10)に加えられる熱的若しくは機械的応力に関連した前記基材シート(10)の変形を制限するために、下部回転軸(21)に沿った各下部ローラー(20A;20B)の位置、及び/又は、前記受容面(RP)に対する各上部回転軸(31)の位置が、リアルタイムで調整される、搬送方法。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載の装置(1)を実装する成膜システムであって、前記成膜システムは、前記基材シート(10)上にエレクトロクロミックスタックを成膜するよう構成されている、成膜システム。
【請求項18】
請求項17に記載の成膜システムを実施する、エレクトロクロミックスタックの成膜方法。
【請求項19】
コンピュータプログラム製品であって、プログラムがコンピュータ又はプロセッサ上で実行されると、請求項15~16のいずれか一項に記載の方法及び/又は請求項18に記載の方法を実施するプログラムコード命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項20】
非一時的コンピュータ可読媒体であって、コンピュータプログラム製品であり、それに記録され、プロセッサによって実行可能で、請求項15~16のいずれか一項に記載の方法及び/又は請求項18に記載の方法を実施するプログラムコード命令を含むコンピュータプログラム製品を備える、非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材を搬送するための装置に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、端面によって連結された2つの相対する主面を有する基材シートの搬送用装置に関する。基材シートの主面の1つは装置の受容面に沿って配置され、受容面は略垂直面で、装置は、
搬送方向に沿って横並びに配置され、各々が搬送面の搬送方向に対して垂直に延びる下部回転軸を中心に回転可能で、基材シートの端面の一部を受容するように配列された、複数の下部ローラーと、
各々が基材シートの主面の1つを受容するように配列され、搬送方向に対して直交する上部回転軸を中心に回転可能な複数の上部ローラーと、を備える。
【0003】
本発明はまた、基材シートの搬送に関連する方法、関連するコンピュータプログラム製品、及び、かかるコンピュータプログラム製品を備える関連する非一時的コンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0004】
主面が略垂直構成のガラスシート等の基材シートを搬送するための様々な装置及び方法が知られている。これらの装置及び方法は、例えば、基材シートに例えばコーティングなどの加工が実施される間、コーティングされた主面に破片又はより一般的に不要な物質が落下するのを防ぎながら、基材シートを搬送するために用いられる。
【0005】
また、工業プロセスでは、主面が略垂直構成の基材シートを搬送することにより、装置の全体的な接地範囲を減少させることができる。
【0006】
座屈又はたるみにより大きな変形が発生し、基材シートの落下及び破損並びに/又は生産ライン及びプロセスとの不適合につながる可能性があるため、端面を略垂直な位置に配置した基材シートの安定性の確保は難しい。これは、自重で座屈及びたるみがちなより薄い及び/又は大きな基材シートに特に当てはまる。
【0007】
これらの静的変形に加えて、加速、変位、及びコンベアの欠陥による振動、例えば、スパッタリングによる薄膜の真空蒸着など工業プロセス中に発生する熱負荷による振動、及び、残留応力による振動も安定性に影響を与える可能性がある。実際に、ローラーが完全に一直線に整列してない、又は、基材シートが熱機械変形のために完全に平らではなくなった場合に、1つのローラーから他のローラーへ移動することで望ましくない変位が生じ得る。
【0008】
基材シートを搬送する既知の装置では、以下「コンベア」とも呼ぶが、各基材シートの端部は搬送方向に沿って整列した下部ローラーに受容され、基材シートの主面は、下部ローラーに対して全てが同じ高さに配置された一列の上部ローラーに受容される。
【0009】
これら既知のコンベアでは、搬送される各基材シートの外縁を剛性の枠で包むことで、各シートの安定性が確保される。これにより、搬送中に基材シートが熱機械変形する影響も制限することができる。
【0010】
さらに、基材シートの外縁は、コンベアに直接接触していないため保護される。これにより、金属/基材の接触による損傷を防ぐことができる。
【0011】
しかしながら、各基材シートの外縁をこのような枠で包み、最終工程で各シートを枠から取外すというのは、基材シートの搬送に複雑で時間のかかる工程を追加することになる。
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明の目的は、搬送中の基材シートの安定性を確保し、基材シートの熱機械的変形の影響を制限しながら、基材シートを搬送するために基材シートに枠等の付属品を装着する必要のない、新しい基材シート搬送装置を提供することにある。
【0013】
上記目的は、本発明によれば、複数の上部ローラーが搬送面から異なる高さに配置される上部ローラーを備える上述のような装置を提供することによって達成される。
【0014】
基材シート搬送装置のこの新しい特徴によって、基材シートの搬送中に、基材シートをより安定させることができる。また、後述するように、基材シートの搬送及び加工中に生じる熱機械的変形の少なくとも一部を制限又は補償することも可能である。
【0015】
本発明に係わる装置のその他の有利で非限定的な特徴は、請求項1~14に記載される。
【0016】
また、本発明は、上述の基材シート搬送装置を用いた基材シート搬送方法に関し、基材シートが上部回転軸で支持される上部ローラーの回転側面に最初に接触する寸前に、各上部回転軸の位置が基材シートの受容面から離れて移動する。
【0017】
本発明に係わる装置を用いたこの特定の方法によって、基材シートの熱機械的変形の影響の一つを回避することができる。実際に、基材シートの先端の変形、すなわち、基材シート搬送装置に先に入る垂直端部の変形によって、この先端部が上部ローラーと衝突する可能性がある。先端部が上部ローラーに接近し、上部ローラーに接触する前に、上部ローラーを基材シートから離して後方に移動させることにより衝突が回避される。
【0018】
また、本発明は上述した装置を用いた基材シートの搬送方法に関し、装置に先に搬送される基材シートの端部付近に位置する基材シートの変形を制限するために、及び/又は、基材シートの搬送中に基材シートに加えられる熱的若しくは機械的応力に関連した基材シートの変形を制限するために、下部回転軸に沿った各下部ローラーの位置、及び/又は、受容面に対する各上部回転軸の位置がリアルタイムで調整される。
【0019】
本発明に係わる装置を用いたこの特定の方法によって、基材シートの推定される熱機械的変形を制限及び/又は少なくとも部分的に補償することができる。実際に、シート全体又はシートの特定部分の変形が回避又は制限された基材シートの制御された最終形状を実現するために、上部及び/又は下部ローラーの位置を調整することにより、基材シートに自主的に制御された変形を与え得る。
【0020】
また、本発明は上述した装置を実装する成膜システムに関し、成膜システムは基材シート上にエレクトロクロミックスタックを成膜するよう構成される。
【0021】
本明細書中で、「エレクトロクロミックスタック」とは、第1の透明導電層、エレクトロクロミック層、対電極層、及び、エレクトロクロミック層と対電極層を分離するイオン伝導層を備えるスタックを意味する。
【0022】
成膜システムは、典型的には、エレクトロクロミックスタックの特定の構成要素(又は構成要素の一部)を成膜するなど、各々が特定のユニット操作に特化した複数のステーションを実装する。
【0023】
その意味で、本発明は、上述した成膜システムを実施するエレクトロクロミックスタックの成膜方法にも関する。成膜操作の順序は典型的に、1番目がエレクトロクロミック層、2番目が導電層、そして最後が対電極層であるが、種々の実施形態において逆の順序になり得ることが理解されるべきである。
【0024】
本発明はまたコンピュータプログラム製品に関し、プログラムがコンピュータ又はプロセッサ上で実行されると、上記方法のいずれかを実施するプログラムコード命令を含む。
【0025】
また、本発明は、コンピュータプログラム製品であって、それに記録され、プロセッサによって実行可能で、上記方法のいずれかを実施するプログラムコード命令を含むコンピュータプログラム製品を備える、非一時的コンピュータ可読媒体にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
以下の説明は、添付図面を参照することで、本発明の構成及び本発明の実施方法を明らかにする。本発明は、図面に示される実施形態に限定されない。故に、特許請求の範囲に記載される構成要素には参照記号が付され、参照記号は偏に特許請求の範囲の可読性を向上させるためにのみ含まれ、特許請求の範囲を限定しないことが理解されるべきである。
【0027】
添付の図面において
【0028】
【
図1】
図1は、ミリメートル単位のガラスシートの厚さの関数として、従来技術に係わる、つまり、搬送方向に対して平行な上部ローラー1列のみを備える搬送装置に配置された長さ6メートル、高さ3.2メートルのガラスシートの曲げのミリメートル単位の振幅をシミュレーションしたグラフである。
【
図2】
図2は、ミリメートル単位のガラスシートの厚さの関数として、搬送方向に対して平行な上部ローラーを2列(円記号)、3列(十字記号)、4列(四角記号)、5列(上三角記号)、又は、6列(下三角記号)備える本発明に係わる搬送装置の異なる実施形態に配置された長さ6メートル、高さ3.2メートルのガラスシートの曲げのミリメートル単位の振幅をシミュレーションしたグラフである。
【
図3】
図3は、基材シートを備える基材シート搬送装置の実施形態の一部の側面模式図である。
【
図4】
図4は、
図3の基材シート搬送装置の実施形態の裏面模式図である。
【
図5】
図5は、搬送方向に対して平行な12個の上部ローラー4列を備える本発明に係わる搬送装置の実施形態に配置された長さ6メートル、高さ3.2メートル、厚さ2.1ミリメートルのガラスシートの曲げの振幅レベル(メートル単位のスケール)をシミュレーションした等高線図である。
【
図6】
図6は、各列に用いられる上部ローラーの数の関数として、搬送方向に対して平行な上部ローラーを2列(円記号)、3列(十字記号)、4列(四角記号)、5列(上三角記号)、又は、6列(下三角記号)備える本発明に係わる搬送装置の実施形態に配置された長さ6メートル、高さ3.2メートル、厚さ2.1ミリメートルのガラスシートの曲げのミリメートル単位の振幅をシミュレーションしたグラフである。
【
図7】
図7は、搬送中に基材シートに発生し得る熱機械的変形の影響の1つを示す本発明に係わる搬送装置の実施形態の上面模式図である。
【
図8】
図8は
図7と同様の模式図であり、この搬送装置を用いた基材シート搬送方法の工程を示す。
【
図9】
図9は
図7と同様の模式図であり、この搬送装置を用いた基材シート搬送方法の更なる工程を示す。
【
図10】
図10は、搬送方向に対して平行な12個の上部ローラー3列を備え、各上部ローラーと基材シートの対応する主面との接触面は全て同じ平面上にある本発明に係わる搬送装置の実施形態に配置された長さ6メートル、高さ3.2メートル、厚さ2.1ミリメートルのガラスシートの曲げの振幅レベル(メートル単位のスケール)をシミュレーションした等高線図である。
【
図11】
図11は
図10の等高線図と同様の等高線図であるが、上部ローラーの低い2列と基材シートとの接触面によって画定される平面から、上部ローラーの最上列が4ミリメートル離れて移動する搬送装置の別の実施形態がシミュレーションに使用される。
【
図12】
図12は、
図10及び
図11の等高線図に表されたシミュレーションされた基材シートの位置を、シミュレーションされたシートの中央横(垂直)断面に沿って示すグラフである。
【
図13】
図13は、
図10及び
図11の等高線図に表されたシミュレーションされた基材シートの位置を、シミュレーションされたシートの縦方向(水平)断面、上部ローラーの最上列(高さ=3メートル)に沿って示すグラフである。
【
図14】
図14は、本発明に係わる装置の実施形態の1本の上部回転軸の模式図であり、この上部回転軸に取付けられた上部ローラーの直径が異なるため、これら上部ローラーに支えられる基材シートに一点鎖線で模式的に表した湾曲形状を生じさせる。
【
図15】
図15は、
図14の上部回転軸と同様の12本の上部回転軸に相当する、搬送方向に対して平行な12個の上部ローラー5列を備える本発明に係わる搬送装置の実施形態に配置された長さ6メートル、高さ3.2メートル、厚さ2.1ミリメートルのガラスシートの曲げの振幅(メートル単位のスケール)のシミュレーションを示す等高線図である。
【
図16】
図16は、本発明に係わる搬送装置の実施形態の下部ローラーの模式斜視図であり、基材シートの下端部を一点鎖線で模式的に表す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下の説明では、図面中の対応する同様又は同一の構成要素は同じ記号で参照され、各図毎に構成要素の詳細を全て記載することはない。
【0030】
本明細書中で垂直方向は測鉛線の方向である。水平面はこの垂直方向に対して直交する。
【0031】
最上/底、上/下という表現は、垂直方向に関して、また、これらの表現を使って説明された構成要素の方向に関して定義される。
【0032】
本発明の文脈は、真空スパッタリング薄膜などの工業プロセスで用いられる、略垂直な薄い基材シートの搬送である。
【0033】
本明細書中で用いられる「薄い」という表現は、基材シートの厚さが他の寸法よりも小さいこと、例えば、少なくとも100分の1、又は、少なくとも1000分の1などを意味するものとして使用される。すなわち、基材シートの厚さは、基材シートの他の寸法の100分の1未満又は1000分の1未満である。
【0034】
このような薄い基材シートは、例えば、少なくとも1.5×1.0メートルの大きさ、好ましくは3.2×1.85メートルの大きさ、より好ましくは6×3.2メートルの標準サイズを有し、1~10ミリメートル、好ましくは1~3ミリメートル、好ましくは1.5~2.6ミリメートル、より好ましくは1.9~2.3ミリメートルの各種厚さの範囲を有する薄いガラスシートであり得る。
【0035】
しかしながら、本発明の装置及び方法の実施形態はこれらの用途に限定されない。その他の種類の基材、並びに、その他の寸法及び/又は厚さも考慮され得る。本装置及び方法は、基材シートのその他のコーティング方法又はその他の種類のプロセスを実施しながら使用されてもよい。
【0036】
図3、4及び17に表されるように、基材シート10は、典型的には、端面によって連結された2つの相対する主面11、12を有する。基材シートは概して四角形であり、本明細書中では長方形であるため、端面は下端14、上端13、先端15、及び末端16の4つの部分を備える。上部ローラーに向けられた主面12を、以後、裏面12と呼び、反対側の主面12を前面11と呼ぶ。
【0037】
本発明に係わる装置1において、基材シート10の主面11、12の1つは、装置1の受容面RPに沿って配置され、受容面は略垂直面である。従来どおりに、以下では裏面12が受容面RPで受容されると考える。
【0038】
実際には、基材シート10の受容面RPは可能な限り垂直に近い。安定性の理由から、現状では完全に垂直な受容面を設置することはできない。したがって、受容面RPは、例えば、垂直方向に対して2~3度傾斜している。垂直方向に対する受容面の傾斜角Iは、好ましくは1~15度、好ましくは1~7度、好ましくは1~5度、さらに好ましくは1~3度で構成される(
図3)。
【0039】
受容面RPは、基材シート10が変形しない場合に裏面12が受容される面に相当する理論的平面である。
【0040】
本発明に係る搬送装置1は搬送方向Dに沿って横並びに配置された複数の下部ローラー20A、20B(
図3、7~9、16)を備え、それらの各々が、搬送面Pの搬送方向Dに対して垂直に延びる下部回転軸21(
図3及び16)を中心に回転可能で、基材シート10の端面の一部を受容するように配列される。
【0041】
実際には、下部ローラー20A、20Bは、基材シート10の下端14を受容するように構成される。
【0042】
搬送方向Dは、基材シート10が搬送される全体的な方向に相当する。搬送方向Dは、基材シート10が搬送装置1に入る際の下部ローラー20A、20Bと基材シート10の先端15との最初の接触域、及び、基材シート10が搬送装置1を出る際の下部ローラー20A、20Bと基材シート10の先端15との最後の接触域を通る直線方向として定義され得る。
【0043】
搬送装置1は複数の上部ローラー30A、30Bも備え、それらの各々が基材シート10の主面11、12の1つを受容するように配列され、搬送方向Dに対して直交する上部回転軸31を中心に回転可能である(
図3)。
【0044】
下部ローラー20A、20B及び上部ローラー30A、30Bの各々は、基材シートの面を受け入れるように構成された受容部と、受容部を下部又は上部回転軸21、31に回転可能に取付けるように構成された取付部とを備える。
【0045】
受容部は、搬送中に基材シートの対応面との接触を維持するように構成された、(回転軸に対して直交する)円形の横断面を有する側面22A、32A、22B、32Bを備える。側面22A、32A、22B、32Bは、円筒形、円錐台状、ドーナツ状、又は、球形などの任意に構成された形状を有し得る。側面は、回転面である限り、より複雑な形状でもよい。
【0046】
図3及び14に示される実施形態では、下部ローラー及び上部ローラー20A、30A、20B、30Bの各々の側面22A、32A、22B、32Bは円筒形である。
【0047】
図14及び15は、各下部ローラー20Bの側面22Bが湾曲した凹状の経線によって生成される回転面である実施形態を示す。下部ローラー20Bは、例えば、双円錐形又は砂時計形を有し得る。
【0048】
下部ローラーと上部ローラーの取付部は典型的には金属製である。受容部は、例えば、真空チャンバー内に配置されるのに適した素材も考慮に入れた、工業プロセスに適切な素材で作られている。受容部は、例えば、金属又は任意の弾性材料で作られることがある。
【0049】
搬送中、基材シート10は、機械的及び/又は熱的応力によって引き起こされる様々な種類の変形を受ける可能性がある。
【0050】
基材シート10は重力に起因して、自重及び垂直方向に対する傾きに関連して変形し得る。
【0051】
基材シート10はまた搬送装置内で基材シート10が搬送されることに起因して、振動、並びに/又は、下部及び/若しくは上部ローラーの不整合、並びに/又は、基材シートと接触する下部若しくは上部ローラーの表面の不規則性の結果、変形する可能性がある。
【0052】
これらの変形は、基材シート自体が搬送されることによる機械的変形である。
【0053】
その他の種類の変形は、基材シートの搬送中に実施される基材シートの加工に関連し得る。
【0054】
例えば、実施されるプロセスが基材シートに部分的な温度のばらつきを引き起こし、それによって基材シートの熱変形を引き起こす可能性がある。
【0055】
注目すべきことに、本発明に係わる装置1では、複数の上部ローラー30A、30Bは、搬送面Pから異なる高さH1、H2、H3に位置する上部ローラーを備える(
図3)。
【0056】
そして、このような複数の上部ローラー30A、30Bは、垂直方向に沿って互いに少なくとも10センチメートル離れた場所に基材シート10の裏面12と接触する側面32A、32Bを提供する。
【0057】
好ましくは、少なくとも3つの異なる高さ、好ましくは4つの異なる高さ、さらに好ましくは5つ又は6つの異なる高さに位置する上部ローラー30A、30Bが用いられる。
【0058】
図3及び
図4に表される実施形態は、3列の上部ローラーが使用される本発明に係る装置1の一例である。各列は、12本の上部回転軸31上に、下部ローラーに対して同じ高さH1、H2、H3に取り付けられた上部ローラー30Aを備える。
【0059】
これらの値は、上記標準サイズのガラスシートを扱う場合に特に便利である。これらの値は実際に考慮される基材シートの大きさに合わせて構成されるべきである。
【0060】
好ましくは、上部ローラーは、基材シートの垂直方向に沿って均等に分布される。上部ローラーの異なる高さ間の間隔を同じにするのが有利である。ただし、その他の分布も考慮され得る。
【0061】
搬送装置1による搬送全体において基材シート10に安定性を提供するためには、搬送方向Dに沿って同様の分布の上部ローラー30A、30Bを提供することが有利である。
【0062】
実際には、複数の上部回転軸31は、基材シートが搬送中常に所定数の上部ローラー30A、30Bと接触し続けるよう、均等な間隔で配置された所定数の上部回転軸31を備える。
【0063】
本明細書中に記載する例では、上部回転軸31は約46センチメートルの間隔で配置され、これによって、基材シート10の裏面12が12本の上部回転軸31に取付けられた上部ローラーと常に接触する(
図4)。
【0064】
実際には、上部回転軸31の少なくとも1本は少なくとも2個の上部ローラー30A、30Bを支持する。
【0065】
好ましくは、各上部回転軸31は、少なくとも2個の上部ローラー30A、30Bを支持する。
【0066】
本明細書に記載する実施例では、基材シートの充分な安定性を実現するために、各上部回転軸31は、下部ローラー20A、20Bに対して同じ高さに配置された複数の上部ローラー30A、30Bを支持する。
【0067】
本構成では、同じ高さの異なる上部回転軸31で支持された上部ローラー30A、30Bは、搬送面Pに対して平行な上部ローラー30A、30Bの列を形成する。
【0068】
図3及び4は、3列の上部ローラー30Aを有する実施形態の場合を示し、
図14は、5列の上部ローラー30Bを有する実施形態の場合を示す。
【0069】
図3及び4の実施形態では、全ての上部ローラー30Aは剛性、円筒形などが同一で、直径50ミリメートル、高さ20ミリメートルを有する。
【0070】
図3に示すように、本実施形態では、上部回転軸31は受容面Pに対して平行に延び、したがって、変形を伴わず基材シート10の裏面12に対して平行に延びる。
【0071】
図14の実施形態では、上部ローラー30Bは剛性、円筒形であり、20ミリメートルの高さを有するが、詳細を後述するように異なる直径を有する。
【0072】
例えば
図14で示され、後述するように、上部ローラー30Bの各列の上部ローラー30Bが同じ直径を持たない場合、上部ローラー30Bの側面と基材シート10の裏面12との接触領域が受容面RPにある限り、上部回転軸31は変形のない基材シートと平行ではないと考えることができる。
【0073】
また、本明細書中に示す実施形態では、各上部回転軸は、同じ数の上部ローラーを支持する。あるいは、上部回転軸は、異なる数の上部ローラーを支持してもよい。
【0074】
以下、異なるシミュレーションの結果を提示する。
【0075】
これらのシミュレーションでは、ガラスシートの曲げ又は変形は、シミュレーションされた基材シートの最大と最小の面外変位の差異として定義される。
【0076】
シミュレーションされた基材シートは、垂直方向に対して3度傾斜したシミュレーションされたガラスシート10Sであり、12本の上部回転軸で支持される上部ローラーの異なる数の列で受容される。上部ローラーは全て直径50ミリメートル及び高さ20ミリメートルを有する。
【0077】
これらのシミュレーションは、考慮されたケースを評価及び比較する方法として用いられる。
【0078】
シミュレーションされた先端15S及び末端16Sの両方が、最後の上部回転軸に配置された上部ローラーから離れ、次の上部回転軸に配置された上部ローラーに接触しようとしているときのように、上部ローラーによって支持されない構成で、全てのシミュレーションが計算された。
【0079】
この構成は実際には発生しないが、一本の上部回転軸の上部ローラーから次にシートが移動するときに、シートがどのように「落下」又は「ジャンプ」するかという最悪のシナリオの中で評価することができる。
【0080】
図1は、ガラスシートを安定させて保護するための枠を追加せず、ガラスシートの裏面を受容する上部ローラーを1列のみ備える最先端の搬送装置で搬送された、異なる厚さを有する標準サイズのシミュレーションされたガラスシートの曲げの静的有限要素シミュレーションの結果を示す。
【0081】
上部ローラーの1列は下部ローラーから2.1メートルに配置された12個の上部ローラーを備える。
【0082】
ガラス変形のシミュレーションは、2.6ミリメートルより薄いシートは変形し過ぎるため、最先端の装置上で安全に搬送できないことを示す。6ミリメートルを超える変形は、ガラスシートの座屈につながる。
【0083】
図2は、本発明に係わる装置の異なる実施形態の特徴で実施された同様のシミュレーションを示す。
【0084】
これら実施形態の特徴を、以下の表1に記載する。
【0085】
【0086】
図2に提示される結果は、ガラスシートの曲げの振幅が上部ローラー30Aの2列目を加えることによってかなり減少し、2.6ミリメートルのガラスシートの最大変形は、上部ローラーが1列のみの場合約6ミリメートルで、上部ローラー30Aが2列の場合1.5ミリメートルであることを示す。
【0087】
2.6mmより薄いガラスシートの安定性を確保するために、少なくとも2列の上部ローラーが必要となる。4列又は5列の上部ローラーが好ましい。
【0088】
5列より多い上部ローラーを使用した場合は、改善が限定的になる。
【0089】
つまり、少なくとも2列の上部ローラーを使用することで、基材シートを枠で囲う必要なく最先端の装置で搬送するよりも小さな厚さの基材シートを搬送することができるため、より迅速かつ簡便である。
【0090】
また、本発明に係わる搬送装置は、さらに最適化され得る。
【0091】
例えば、上部ローラー30A、30Bを支持する上部回転軸31に沿った各上部ローラー30A、30Bの位置、及び/又は、各上部回転軸31に支持される上部ローラー30A、30Bの数を調整することが可能である。
【0092】
この目的のために、本発明に係わる装置のさらなる実施形態は、位置及び/又は数が調整可能である上部ローラー30A、30Bを備える。
【0093】
より詳細には、各上部ローラー30A、30Bの取付部は、例えば、上部回転軸31上の上部ローラー30A、30Bを上部回転軸上の調整可能な高さでブロック及びブロック解除することを可能にする。このようにして、各上部ローラー30A、30Bは、上部回転軸31上の異なる高さに取付けられてもよい。上部回転軸は、例えば棚を備えてもよい。上部ローラー30A、30Bの取付部は、クリップ手段又は連結手段によって上部回転軸31と協動し得る。これらの手段は、基材シートの搬送中にリアルタイムで調整が行われるように電動化してもよい。調整は基材シートを搬送する前の準備工程で行うこともできる。
【0094】
調整は手動で行ってもよい。手動の調整は基材シートを搬送する前の準備工程で行う。
【0095】
各上部ローラーはブロック解除され、上部回転軸に沿って移動することができるため、1つ又は複数の上部ローラーを上部回転軸に追加する又は上部回転軸から取外すことも可能である。この調整は、手動又は自動で行われてもよい。この調整は基材シートを搬送する前の準備工程で行うのが望ましい。
【0096】
本発明に係わる装置の別の実施形態では、上部ローラー30A、30Bの位置は、受容面RPに対する距離が調整可能である。
【0097】
この目的のために、上部回転軸31は、受容面RPに対して後方に、つまり、受容面から離れて、又は受容面に向かって前方に移動可能である。上部回転軸31の移動は、基材シートの搬送中にリアルタイムで調整可能なように電動化することができる。移動は基材シートを搬送する前の準備工程で行うこともできる。
【0098】
調整は手動で行ってもよい。手動の調整は基材シートを搬送する前の準備工程で行う。
【0099】
上部回転軸の移動は受動的なものであってもよい。上部回転軸31は、基材シートが上部ローラーに接触するときに、座屈し、後ろ向きに受容面から離れて移動する細いブレードに乗り、その後、細いブレードが初期形状に戻ることで、上部回転軸を初期位置に戻してもよい。
【0100】
あるいは、さらに別の実施形態では、各上部ローラーは、他とは独立して受容面に対して相対的に移動できるように構成される。
【0101】
これらの調整の使用例は後述する。
【0102】
本発明に係わる装置のさらに別の実施形態によれば、各上部ローラー30A、30Bの側面は、受容面RPから離れて移動するように構成される。これはもちろん、上述のように、上部回転軸全体の移動によって実現できる。
【0103】
しかしながら、受容面RPから離れて変形するように構成された側面を有する上部ローラー30A、30Bを用いて実現することも可能である。そして、各上部ローラー30A、30Bの側面32A、32Bは、対応する上部回転軸31を移動することなく、受容面RPから離れて移動する。
【0104】
この目的のために、特定の設計又は素材の上部ローラーが使用される。例えば、上部ローラーの側面32A、32Bは、変形可能な素材、又は、接触時に側面を座屈させ後方に移動させる構造を備える。
【0105】
本発明に係わる装置1に関して、上部回転軸及び/若しくは受容面に対する側面の高さ並びに/又は距離が調整可能な上部ローラーが、複数列の上部ローラーを備えることを本明細書中に記載しているが、本発明に係わる装置のこれらの特徴は、1列のみの上部ローラーを有する搬送装置においても有利に実施できることに留意されたい。
【0106】
既に述べたように、同一の上部回転軸で支持される上部ローラー30Bは、
図14に表されるように異なる直径を有し得る。
【0107】
好ましくは、各上部ローラー30Bの直径は、基材シート10が装置1に搬送される間の基材シート10の推定される変形を考慮して決定される。
【0108】
基材シートの推定される変形は、シミュレーション又は搬送された基材シートに対する実際の計測によって決定される。
【0109】
シミュレーション又は測定された変形は、基材シートの特徴(寸法、素材等)、使用される装置の特徴(上部ローラーの位置/数/直径等)、及び環境条件(熱負荷等)に関連付けて記録される。
【0110】
より詳細には、装置1に先に搬送される基材シートの端部付近に位置する基材シートの変形を制限し、且つ/又は、基材シートの搬送中に基材シートに加わる熱的若しくは機械的応力に関連した基材シートの変形を制限するよう、各上部ローラー30Bの直径が決定される。
【0111】
例えば、基材シートのシミュレーションされた変形や、作業温度などの搬送装置1の推定される環境条件に基づいて、各上部ローラー30Bの直径が決定され得る。
【0112】
あるいは、各上部ローラー30Bの直径の決定は、例えばセンサを使用することで、同様の環境条件下で同様の基材シートを搬送しながら取得した実験データを考慮に入れてもよい。これらの実験データは、基材シートの幾つかの位置における温度及び/又は面外変位測定値を含み得る。
【0113】
実験データ及び/又はシミュレーションされたデータは、使用する装置の適切な設定と関連付けて、表又は計算機に格納することができる。
【0114】
装置の設定は特に使用する上部ローラーの位置及び/又は数を含む。
【0115】
基材シートの推定される変形に基づいて、平面ではなく複雑な湾曲形状を呈する受容面を画定するために上部ローラーの直径を決定することができる。そして、受容面は、各上部ローラー30Bと基材シート10の裏面12との接触域を通過する面として画定される。
図14の実施形態において、受容面の外形は一点鎖線で表される基材シートの外形に相当する。この受容面が湾曲しているため、上部ローラー30Bが受容した基材シート10に所定の制御された変形を引き起こす。
【0116】
そして、上部ローラー30Bの直径は、基材シートが搬送されている間に発生すると推定される変形を制限又は補償する制御された変形を引き起こす受容面が得られるように決定される。
【0117】
一例として、以下に詳述するが、基材シート10の末端16と先端15の略垂直方向に沿って制御された横方向の変形を生じさせることで、縦方向である搬送方向Dに基材シートを剛性化し、これによって縦方向の変形を制限する。
【0118】
本発明による装置1のさらなる実施形態では、異なる上部回転軸で支持される上部ローラー30Bも異なる直径を有し得る。これにより、基材シート10の制御された縦方向の変形を生じさせることができる。これにより、基材シートは略垂直の横方向に沿って剛性化されるので、この横方向に沿った変形が制限される。
【0119】
異なる上部回転軸31によって支持される上部ローラー30Bの直径は、装置1に先に搬送される基材シートの端部付近に位置する基材シートの変形を制限し、且つ/又は、基材シートの搬送中に基材シートに加わる熱的若しくは機械的応力に関連した基材シートの変形を制限するよう決定される。
【0120】
本発明に係わる装置に関して、異なる上部回転軸上で異なる直径を有する上部ローラーが、複数列の上部ローラーを備えることを本明細書中に記載しているが、本発明に係わる装置のこの特徴は1列のみの上部ローラーを有する搬送装置1においても有利に実施できることに留意されたい。
【0121】
本発明に係わる装置1のさらなる実施形態では、各下部ローラー20Bの側面22Bは凹状を呈し、その下部回転軸21に沿って移動できる。このような実施形態は、
図16及び
図17に模式的に示される。
【0122】
下部ローラー20Bのこの特定の形状によって、基材シート10は搬送方向Dに沿って連続的に変形し得る。
【0123】
実際には、下部ローラー20Bがその下部回転軸21に沿って、すなわち、搬送方向Dに対して垂直な方向に沿って移動する間、基材シート10の下端14は凹状側面22Bの底部に留まる。その結果、下部ローラー20Bがその下部回転軸21に沿って移動する間、基材シート10の下端14はこの動きに従う。
【0124】
下部回転軸21に沿って下部ローラー20Bの位置を調整するとことで、基材シート10に制御された縦方向の変形を生じさせることができる。これにより、基材シートは略垂直の横方向に沿って剛性化されるので、この横方向に沿った変形が制限される。
【0125】
下部回転軸21に沿った下部ローラー20Bの位置は、装置に先に搬送される基材シートの端部付近に位置する基材シートの変形を制限し、且つ/又は、基材シートの搬送中に基材シートに加わる熱的若しくは機械的応力に関連する基材シートの変形を制限するよう決定される。
【0126】
本発明に係わる装置のこの特徴は、上部ローラーを1列のみ有する搬送装置においても有利に実施できる。
【0127】
あるいは、受容面に向かった又は受容面から離れた方向の上部回転軸の連続的且つ同期的な変位を用いて、基材シートに縦方向の湾曲を生じさせることを検討することができ、この変位は基材シートが搬送方向に沿って搬送されると上部回転軸に連続して適用される。
【0128】
本発明に係わる装置1の別の実施形態では、基材シート10のもう一方の主面11、すなわちここでは、基材シート10の前面11に接触するように、追加的な相対した上部ローラー40が配置される。
【0129】
これらの追加的な相対した上部ローラー40は、下部ローラーの位置を調整することによって引き起こされる基材シート10の変形をより良く制御することを可能にする。本明細書中に記載される実施形態では、追加的な相対した上部ローラー40は基材シート10の下端14付近に配置され、搬送装置への材料の飛沫を防止する一般的に設置されたシールドの後方に位置する。
【0130】
追加的な相対した上部ローラー40の前面11に対する位置、高さ及び距離は、有利に調整可能である。
【0131】
それらは基材シートの厚さ及び推定される基材シートの変形に応じて調整される。
【0132】
これらの位置は、プロセス中は保持されることが好ましい。生産を中断することなく、これらの追加的な上部ローラー40の位置のより複雑で積極的な制御を実施し、最適化された設定を提供することもできる。
【0133】
本発明に係わる装置のこの特徴は、基材シートの裏面に配置された上部ローラーを1列のみ有する搬送装置においても有利に実施できる。
【0134】
幾つかの上部ローラー、及び/又は、下部ローラー、及び/又は、追加的な上部ローラーが電動設定及びリアルタイム制御で調整可能な位置を有する場合、本発明に係る装置は、全てのローラーの動きを同期させるための同期手段も備える。
【0135】
本発明に係わる装置の実施形態を用いて、基材シートの推定される変形を制限及び/又は補償することによって搬送中の基材シートの安定性を確保し得る方法を以下に説明する。
【0136】
例として、次の熱機械的変形が考慮される。
先端15が2本の隣接する上部回転軸31の間で上部ローラー30A、30Bと接触せずに搬送される間に発生する基材シート10の先端15の機械的変形、及び
例えばスパッタリング装置の真空チャンバーで用いられる、搬送装置の環境条件による熱変形。
【0137】
本発明によると、基材シートの搬送方法を実施するために、上述の搬送装置の実施形態が用いられてもよく、ここでは、基材シートが上部回転軸31によって支持される上部ローラー30A、30Bの回転側面32A、32Bに最初に接触する寸前に、各上部回転軸31の位置が基材シート10の受容面RPから離れて移動する。
【0138】
上述した搬送装置の他の実施形態は、基材シート10の搬送方法を実施するために用いられてもよく、ここでは、装置1に先に搬送される基材シート10の先端15付近に位置する基材シート10の変形を制限するために、及び/又は、基材シートの搬送中に基材シート10に加えられる熱的又は機械的応力に関連した基材シート10の変形を制限するために、下部回転軸21に沿った各下部ローラー20Bの位置、及び/又は、受容面RPに対する各上部回転軸31の位置がリアルタイムで調整される。
【0139】
先端15が隣接する2本の上部回転軸31の間を搬送される間に生じる基材シート10の先端15の変形は、
図7に模式的に表され、
図5にシミュレーションされる。
【0140】
基材シート10が1本の上部回転軸31の上部ローラー30Aから次の上部回転軸31の上部ローラー30Aに向かうときに、
図5及び
図7に示すように、その先端15は一時的に支持されず、重力により自重でたるむ。
【0141】
図5は、12個の上部ローラー4列で支持された厚さ2.1ミリメートルで標準サイズのシミュレーションされたガラスシート10Sの面外変位を示す等高線図である。シミュレーションされたガラスシート10Sは、シミュレーションされた先端15S、シミュレーションされた末端16S、シミュレーションされた上端13S、及び、シミュレーションされた下端14S、並びに、シミュレーションされた前面11S及び裏面を有する。
【0142】
このシミュレーションされた変形は、上部回転軸31の本数が減少するにつれて基材シート10の支持されない部分が長くなるため増加する。これは
図6に表されるシミュレーション結果によって強調される。上部ローラーの列数に関係なく、隣接する2本の上部回転軸の間に約46センチメートルの支持なし長さがある場合に相当する上部回転軸が12本の場合のシミュレーションされた変形と比較して、隣接する2本の上部回転軸の間に約1メートルの支持なし長さがある場合に相当する上部回転軸が5本の場合の先端の変形は10倍以上大きい。
【0143】
図7に示すように、この変形が制限又は補償されない場合、基材シートの先端15は、次の上部回転軸31の上部ローラー30Aに衝突する可能性があり、それによって基材シート10を損傷する可能性がある。それにより、また振動及び不安定が引き起こされ得る。
【0144】
このリスクを取り除くための第1の可能性は、受容面RPと各上部回転軸31との間の距離が調整可能な、本発明に係わる装置1の実施形態を使用することである。
【0145】
先端15の軌道から上部ローラーを取り除くのに必要なのは、わずかな振幅の移動のみである。例えば、
図7の例では、約4ミリメートルの後方移動で充分である。
【0146】
そして、各上部回転軸31の移動は、搬送方向Dに沿った基材シート10の前進と同期される。
図8に示されるように、基材シート10の先端15がこの上部回転軸31の上部ローラー30Aの側面32A付近に到達すると、各上部回転軸31は受容面から離れて移動する。
【0147】
先端が上部回転軸31の前を通過すると、上部回転軸31は初期位置に戻り、上部ローラーが基材シート10の裏面11に軽く接触する(
図9)。
【0148】
このリスクを取り除くための第2の可能性は、各上部ローラー30Aの側面が先端の変形を滑らかに吸収するように変形可能であるか、又は、先端が初めに接触したときに各上部ローラー30Aの側面が受容面から座屈して離れ、先端から離れると初期形状に戻ることができる、本発明に係わる装置1の実施形態を使用することである。
【0149】
このリスクを取り除く第3の可能性は、基材シートに特定の形状を生じさせて縦方向の剛性を高め、先端15の曲げを制限するために、同じ上部回転軸に取付けられた上部ローラーの直径が異なる、本発明に係わる装置1の実施形態を使用することである。
【0150】
すなわち、基材シート10の先端15の略垂直方向に沿って制御された横方向の変形を生じさせることで、縦方向である搬送方向Dに基材シートを剛性化し、これによって先端の曲げなどの縦方向の変形を制限することで、先端15の変形を制限する。
【0151】
上部回転軸で支持された上部ローラーを互いに独立して動かすことができる場合に、1列又は数列の上部ローラーを受容面RPから離して移動させることによって、この形状を生じさせることができる。
【0152】
上部ローラーの位置は、搬送中は固定される。
【0153】
あるいは、直径の異なる上部ローラーを使用することができる。
【0154】
この最後の可能性の例として、
図10及び11は厚さ2.1mmで標準サイズのシミュレーションされたガラスシート10Sの面外変位の等高線図を示し、
図10では、表1の特徴に基づいて同じ直径の12個の上部ローラー3列を有する装置の実施形態によって支持され、
図11では、異なる直径を有する上部ローラーによって、最上列の上部ローラーの側面とガラスシート10Sのシミュレーションされた裏面12Sとの間の接触域に4ミリメートルの後方移動を引き起こす同様の装置の実施形態によって支持される。
【0155】
したがって、最上列の上部ローラーの側面を受容面から4ミリメートル離す方向に動かすことによって、シミュレーションされたガラスシート10Sに横方向の凸形状を生じさせる。
【0156】
図10の等高線図は、シミュレーションされたガラスシート10Sの最大の変形が、シミュレーションされた先端15S及びシミュレーションされた末端16S付近に位置することを示している。
【0157】
そして、
図11に見られるように、シミュレーションされたガラスシート10Sの最大の変形は、シミュレーションされたガラスシート10Sのシミュレーションされた上端13Sに沿って位置する。
【0158】
これらのシミュレーションから抽出された対応する外形を
図12及び13に示す。
【0159】
図12は、
図10(x記号)及び11(+記号)のシミュレーションされたガラスシートの長さの中央における、シミュレーションされたガラスシートの裏面の横(垂直)方向の外形を示す。
図12は、上部ローラーの側面を受容面から離す方向に動かすことによって生じる、シミュレーションされたガラスシートの変形を示す。シミュレーションされたガラスシート10Sのシミュレーションされた上端13Sは、受容面から後方に5ミリメートル変位している。受容面は変形がゼロの面に相当する。
【0160】
図13は、上部ローラーの最上列の高さ(3メートル)における、
図10(x記号)及び11(+記号)のシミュレーションされたガラスシートの裏面の縦(水平)形状を示す。シミュレーションされた先端15Sの位置は、縦方向の位置3メートルに配置された最後の記号によって示され、シミュレーションされたシートの中央はゼロに位置している。
【0161】
図13は、シミュレーションされた先端15Sの曲げが18.6%減少したことを示す。上部ローラー列の高さに対応する様々な高さにおいて決定されたシミュレーションされた先端の曲げは、1.4~18.6%の減少を示す。
【0162】
当然ながら、基材シートに生じさせるその他の形状、例えば、波形状、異なる列の高さを有する凸状、凹状なども本発明の範囲内で考慮され得る。
【0163】
熱変形に関しては、例えば、スパッタリングプロセスは、ガラスシートがスパッタリング装置の陰極の前を移動するときに、処理された表面を高速かつ高温に加熱する。その結果ガラスの厚さ方向に現れる温度勾配は、数センチメートルの陰極に向かって変形及び面外変位を引き起こす可能性がある。これにより、処理された表面が成膜システムに近づきすぎて、コーティングの均一性に影響を与える可能性がある。また、大きな変位もガラスの安定性に影響を与える可能性がある。
【0164】
本発明に係わる装置によって、ガラスシートに横方向の凹形状を生じさせることで熱変形が少なくとも部分的に補償される。この凹形状は、例えば、
図14に表されるように、より小さな直径を有する上部ローラー30Bを上部ローラー30Bの中央列に取付け、それらの高さ及び数を調整して効果を増大させることによって生じさせる。
【0165】
このような搬送装置の実施形態は、表2及び3に一覧表示された特徴を有する。
【0166】
【0167】
【0168】
図15は、表2及び3の特徴を有する搬送装置を使用した、厚さ2.1mmの標準サイズのシミュレーションされたガラスシートのシミュレーションされた面外変位を示す。斜視図では、得られた凹形状の視認性を高めるため、変形が20倍に拡大されている。
【0169】
この湾曲形状もまた上記と同じ剛性化効果を有するため、先端の上部ローラーとの衝突を制限する。
【0170】
この例では、シミュレーションされたガラスシートの中心のたわみは約25ミリメートルである。
【0171】
実際には、ガラスの破損を防ぐため、ガラスシートに加えられる局所的な曲率半径は、曲げ応力を20MPa未満に保つために約3.5mを超えるべきではない。
【0172】
搬送装置によって生じさせられた、或いは、熱機械的変形から生じるガラスの曲率は、適切な設定を選択することによりこの制限未満に維持する必要がある。
【0173】
加えて、搬送装置と熱機械的変形の複合した影響から生じるスパッタリングプロセス中の面外変位は、成膜された薄膜の均一性を確保するために30~40ミリメートルを超えるべきではない。
【0174】
本発明に係わる装置1及び方法は、搬送される基材シートの形状を制御することを可能にする。横方向、縦方向、又は両方向の組み合わせで凸形状を生じさせることで、基材シートを剛性化し、変形を制限する。また、これによって熱変形を補償し、基材シートを安定に保ち、加工に適した位置に保つことができ、例えば、コーティングの均一性を確保する。
【0175】
本発明による方法はコンピュータで実施される。したがって、本発明はまたコンピュータプログラム製品に関し、プログラムがコンピュータ又はプロセッサ上で実行されると、上記方法を実施させるプログラムコード命令を含む。
【0176】
また、本発明は、上記方法を実施するためのプログラムコード命令を含み、コンピュータプログラム製品であって、それに記録され、プロセッサによって操作することができる、コンピュータプログラム製品を備える、非一時的コンピュータ可読媒体にも関する。
【0177】
例えば、コンピュータプログラム製品は、データベースに格納された広範囲の基材変形シミュレーション結果を使用することができる。コンピュータプログラム製品は、現在搬送中の基材シートの厚さ、スパッタリングプロセスにおける陰極電力などの環境パラメータ、及び/又は、変位センサ又は熱電対からの入力信号に応じて、適用する装置の最適な設定を継続的に提供する。
【0178】
本明細書に記載される異なる実施形態は、独立して、又は、技術的に可能な全ての組み合わせで考慮される本発明の一部である。
【国際調査報告】