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特表2022-541198シリコングラファイトアノード用の水性PVDFスラリー調合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(54)【発明の名称】シリコングラファイトアノード用の水性PVDFスラリー調合物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1393 20100101AFI20220914BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20220914BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220914BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220914BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220914BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220914BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220914BHJP
   C08F 214/18 20060101ALI20220914BHJP
   H01M 4/38 20060101ALN20220914BHJP
   H01M 4/587 20100101ALN20220914BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/1395
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/36 E
C08F214/18
H01M4/38 Z
H01M4/587
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502443
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2020069521
(87)【国際公開番号】W WO2021009031
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】19315071.1
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福山 雄大
(72)【発明者】
【氏名】ヘー,ウェンシェン
(72)【発明者】
【氏名】フィヌ,トマ
(72)【発明者】
【氏名】ボネ,アンソニー
【テーマコード(参考)】
4J100
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AC24P
4J100AC27Q
4J100AE18R
4J100AJ02R
4J100AJ08R
4J100AJ09R
4J100AL09R
4J100AL10R
4J100AP01R
4J100AP07R
4J100AQ01R
4J100BA56R
4J100BA64R
4J100BC54R
4J100BC60R
4J100EA07
4J100JA43
5H017AA02
5H017AA03
5H017EE01
5H017HH01
5H017HH08
5H017HH09
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA17
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA14
5H050EA08
5H050EA24
5H050EA28
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、水性バインダーを含むシリコングラファイトアノード、その調製方法及びLiイオン電池におけるその使用に関する。本発明の別の主題は、この電極材料を組み込むことによって製造されたLiイオン電池である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.50~100重量%の1以上の熱可塑性フルオロポリマーであって、ラテックス形態であり、かつ、カルボキシル、エポキシ、カルボニル及びヒドロキシルから選択される少なくとも1つの官能基を有するモノマーを含む熱可塑性フルオロポリマー;及び
b.0~50重量%の水溶性増粘剤
からなる、Liイオン電池用のシリコングラファイトアノードのための水性バインダー調合物。
【請求項2】
ラテックス形態の、50~95重量%の1以上の熱可塑性官能化フルオロポリマー、及び5~50重量%の水溶性増粘剤からなる、請求項1に記載の調合物。
【請求項3】
前記水溶性増粘剤が、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、及びポリビニルピロリドンから選択される、請求項1又は2に記載の調合物。
【請求項4】
前記水溶性増粘剤が、カルボキシメチルセルロースである、請求項1~3のいずれか1項に記載の調合物。
【請求項5】
前記官能化フルオロポリマーが、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロパン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、ペンタフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、フッ化ビニルエーテル、フッ化アリルエーテル、フッ化ジオキソ―ルから選択される少なくとも1つのフルオロモノマーを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の調合物。
【請求項6】
前記官能化フルオロポリマーが、官能化モノマーを、全モノマーに基づいて0.01~1.5重量%、好ましくは0.01~0.5重量%の量で含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の調合物。
【請求項7】
前記官能化フルオロポリマーが、少なくとも50重量%のVDFを含むフッ化ビニリデンのホモポリマー及びコポリマーから選択され、コモノマーが、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンから選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の調合物。
【請求項8】
前記フルオロポリマーが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ホモポリマー又はヘキサフルオロプロピレンとのフッ化ビニリデンコポリマーである、請求項7に記載の調合物。
【請求項9】
前記調合物が、ラテックス形態であるPVDFホモポリマー及びカルボキシメチルセルロースであり、前記PVDFホモポリマーが、カルボン酸官能基を持つモノマーによって官能化されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の調合物。
【請求項10】
前記調合物が、ラテックス形態であるヘキサフルオロプロピレンとのフッ化ビニリデンコポリマー及びカルボキシメチルセルロースであり、前記コポリマー中のヘキサフルオロプロピレンのレベルが30重量%以下であり、前記コポリマーが酸官能化モノマーをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の調合物。
【請求項11】
前記調合物が、ラテックス形態であるPVDFホモポリマー、ラテックス形態であるヘキサフルオロプロピレンとのフッ化ビニリデンコポリマー及びカルボキシメチルセルロースであり、前記コポリマーが酸官能化モノマーをさらに含み、前記コポリマー中のヘキサフルオロプロピレンのレベルは、30重量%以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の調合物。
【請求項12】
少なくとも1つのアノード活性物質、請求項1~11のいずれか1項に記載の水性バインダー調合物、及び炭素ベースの導電剤からなるリチウムイオン電池用シリコングラファイトアノード。
【請求項13】
以下の工程:
ラテックス形態である1以上の熱可塑性フルオロポリマー、水溶性増粘剤、アノード活性物質及び導電剤を水中で混合することにより、スラリーを形成すること;
金属集電材の表面に前記スラリーを塗布し、次いで、アノードを得るために、それに熱処理及び圧力をかけること
を含む、請求項12に記載のシリコングラファイトアノードを形成するための方法。
【請求項14】
前記金属集電材が銅製である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記熱処理が、前記スラリーで被膜された前記金属集電材を、60~150℃の間の温度で、15~60分間の間の時間にわたって焼成することである、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
請求項12に記載のシリコングラファイトアノードを含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、Liイオン型のリチウム貯蔵電池における電気エネルギー貯蔵の分野に関する。より具体的には、本発明は、水性バインダーを含むシリコングラファイトアノード、その調製方法及びLiイオン電池におけるその使用に関する。本発明の別の主題は、この電極材料を組み込むことによって製造されるLiイオン電池である。
【背景技術】
【0002】
背景技術
Liイオン貯蔵電池又はリチウム電池の元素電池は、一般に、酸化金属型、例えばLiMn、LiCoO又はLiNiOのリチウム挿入化合物で製造されたアノード(放電時)とカソード(同様に放電時)とを含み、それらの間に、リチウムイオンを導く電解物が挿入される。
【0003】
陰極における従来の活性物質は、一般に、リチウム金属、グラファイト、シリコン/炭素混成物、シリコン、CF型のフルオログラファイト(xは、0~1の間である)、及びLiTi12型のチタン酸塩である。グラファイト及び硬質炭素などの炭素ベースのアノード材料は、安定したサイクル特性を有すること、ならびに信頼性があるものの高い容量が有さないことが示されていることが、証明されている。周期表の炭素グループ、例えばスズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)及びシリコン(Si)由来のアノード材料は、より高い容量を示す。特に、シリコン(Si)は、グラファイトの理論上の最大容量(372mAh/g)よりもずっと高い、4200mAh/gであるその高い理論容量に起因して、非常に有望なアノード材料である。しかし、シリコンアノードは、充電-放電プロセスの間の容積の大きな変化に悩まされ、そして、これらの容積変化は、シリコン粒子と導電剤との間の電気的接触の減損をもたらし、それゆえに、迅速な容量低下をもたらす。シリコン-グラファイト電池電極は、これらの問題を回避する。グラファイト相は、Dimov N.et al,J.Power Sources 136(2004),108-114によって示される通り、材料のサイクル性能の改善において重要な役割を果たす。
【0004】
バインダーの選択は、Siの容積増大に関する問題に対処することを可能にする。ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)は、その優れた電気化学的安定性、良好な結合能ならびに電極材料及び集電材への高い接着性ゆえに、リチウムイオン電池において最もよく使用されるバインダーである。しかし、PVDFは、N-メチルピロリドン(NMP)などの特定の有機溶媒にのみ溶かすことができるが、これは、揮発性であり、可燃性であり、爆発性でありかつ非常に毒性が高く、深刻な環境問題を引き起こす。したがって、カルボキシル基又はヒドロキシル基を含むポリマー、例えばポリ(ビニルアクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)もまた、水に溶けるその能力、ならびに明らかにそのカルボキシル基又はヒドロキシル基とシリコン表面上のヒドロキシル基との間の比較的強い相互作用からもたらされる電池性能の増強に起因して、ポリマーバインダーとして広く調査されている。しかし、導電性添加物は、なお、比較的大量のこれらの非導電性バインダーと一緒に含まれなければならず、著しい絶対アノード容量の低下をもたらす
【0005】
シリコンアノードの性能を改善する目的で、文書WO2014/201569は、アノード材料、保護材料及び集電材を含む、リチウム電池用のアノードを記載する。アノード材料は、シリコン-グラファイト活性物質、少なくとも1つの導電剤及びバインダーを含む混合物であってもよい。保護材料は、少なくとも1つの導電剤及びバインダーを含んでもよい。アノード材料中のバインダー及び保護材料中のバインダーは、PVDF、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとのコポリマー、ポリイミド、天然ゴム又は合成ゴム、CMC、酸形態又は塩形態のアルギネート及びこれらの混合物から、独立して選択される。アノード及び保護材料の両方が、材料及びバインダーを溶媒中で混合することにより、保護フィルムを形成する工程を含む方法によって、調製される。この溶媒の選択は、バインダーに依存する。バインダーが天然ゴム又は合成ゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はアルギネートである場合、溶媒は、水である。N-メチルピロリドン(NMP)又はシクロペンタノンは、バインダーがPVDF又はポリイミドである場合に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/201569号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dimov N.et al,J.Power Sources 136(2004),108-114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、NMPなどの有機溶媒を使用することなく、かつ上記した文書のようなアノード用の保護層をもはや必要としない単純化した製造方法による、良好な最大容量及び容量維持率を示す、シリコングラファイトアノード用のバインダー調合物を開発する必要性が、未だ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
水性の官能化したPVDF及びCMCから成るバインダーを含むアノード調合物が、やはり水性でありかつ市場でよく用いられているスチレン-ブタジエンゴム(SBR)バインダーを含むアノード調合物と比較して、より高い容量及び容量維持率を示すことが、ここで見出だされた。
【0010】
本発明の第1の目的は、Liイオン電池用のシリコングラファイトアノードのための水性バインダー調合物を提供することであり、この調合物は、以下からなる:
a. 50~100重量%の、1以上の熱可塑性フルオロポリマーであって、ラテックス形態であり、かつ、カルボキシル、エポキシ、カルボニル及びヒドロキシルから選択される少なくとも1つの官能基を有するモノマーを含む熱可塑性フルオロポリマー;及び
b. 0~50重量%の水溶性増粘剤。
【0011】
いくつかの実施形態において、このフルオロポリマーは、好ましくは少なくとも50重量%のVDF、ならびにクロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンから選択されるコモノマーを含む、フッ化ビニリデンのホモポリマー及びコポリマーから選択され、好ましくは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ホモポリマー又はフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーである。
【0012】
いくつかの実施形態において、水溶性増粘剤は、カルボキシメチルセルロースである。
【0013】
いくつかの実施形態において、水性バインダー調合物は、ラテックス形態である、50~95重量%の1以上の熱可塑性フルオロポリマー、及び5~50重量%の水溶性増粘剤からなる。
【0014】
いくつかの実施形態において、フルオロポリマーは、少なくとも1箇所を官能化したモノマーを、全モノマーに基づいて0.01~1.5重量%の量で含む。
【0015】
本発明の別の目的は、少なくとも1つのアノード活性物質、上述の水性バインダー調合物、及び炭素ベースの導電剤からなるリチウムイオン電池用の、シリコングラファイトアノードである。シリコングラファイトアノードにおける各成分の割合は、活性物質が70~99重量%、バインダー調合物が1~15wt%、及び導電剤が0~15wt%であり、これらの百分率の合計は、100となる。
【0016】
本発明の別の主題は、本発明のシリコングラファイトアノードを形成するための方法である。
【0017】
本発明の別の主題は、電極材料を組み込むことによって製造されるLiイオン電池である。
【0018】
本発明は、先行技術において述べられた需要に取り組む。特に、本発明は、完全な水性であるシリコンアノード用の水性バインダー調合物を提供し、これは、環境的な理由及び取り扱い上の理由のために、有益である。水性バインダー調合物は、PVDFラテックスと水溶性増粘剤との組み合わせに基づく;この調合物から調製されたアノードは、やはり完全な水性であるSBR又はフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマーバインダーを有するアノードよりも高いサイクル性能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明による電池(B)、及び2つの比較電池(A及びC)に対して実施した剥離強度測定の結果を図示する。
図2】各電極から作られたコイン型半電池のサイクル性能を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、以下の説明においてより詳細に記載される。
【0021】
本発明は第一に、Liイオン電池用のシリコングラファイトアノード用の、以下からなる水性バインダー調合物に関する:
a. 50~100重量%の1以上の熱可塑性フルオロポリマーであって、ラテックス形態であり、かつ、カルボキシル、エポキシ、カルボニル及びヒドロキシルから選択される少なくとも1つの官能基を有するモノマーを含む熱可塑性フルオロポリマー、及び
b. 0~50重量%の水溶性増粘剤。
【0022】
本発明は、ラテックス形態である少なくとも1つの熱可塑性官能化フルオロポリマー、好ましくはPVDF、及び水溶性増粘剤、好ましくはカルボキシメチルセルロースの、シリコン含有リチウムイオン電池アノード用のバインダーとしての使用に依拠する。好都合には、フルオロポリマーは、水中エマルジョンとして供給される。
【0023】
種々の実施形態にしたがって、上記バインダーは、適切に組み合わせて、以下の特徴を有する。
【0024】
用語『フルオロポリマー』は、少なくとも1つのフルオロモノマーの重合によって形成されるポリマーを意味し、これは、熱可塑性の性質を有する、すなわち鋳造プロセス及び押出プロセスなどにおいてなされるような熱の適用の後に有用な部品に形成され得る、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー及びより高次のポリマーを含む。本発明の特定の実施形態におけるフルオロポリマーは、少なくとも50モル%の、1以上のフルオロモノマーを、重合形態で含む。
【0025】
本発明の実施に有用なフルオロモノマーとしては、例えば、フッ化ビニリデン(VDF又はVF2)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ化ビニル、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペンタフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、フッ化ビニルエーテル、フッ化アリルエーテル、フッ化ジオキソ―ル、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
本発明のプロセスによって製造された特に好ましいコポリマーは、VDFと、HFP、TFE又はCTFEとのコポリマーであり、約50~約99重量%のVDF、より好ましくは約70~約99重量%のVDFを含む。
【0027】
本明細書中で使用される用語『PVDF』は、VDFと少なくとも1つの他のコモノマーとの、フッ化ビニリデン(VDF)ホモポリマー又はコポリマーであり、VDFは、少なくとも50重量%に相当する。
【0028】
いくつかの実施形態において、フルオロポリマーは、好ましくは少なくとも50重量%のVDF、ならびにクロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンから選択されるコモノマーを含む、フッ化ビニリデンのホモポリマー及びコポリマーから選択される。
【0029】
好ましくは、フルオロポリマーは、フッ化ビニリデン(PVDF)ホモポリマー又はフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーであり、そのHFPのレベルは、30重量%以下である。
【0030】
フルオロポリマーは、カルボキシル、エポキシ、カルボニル又はヒドロキシルから選択される、少なくとも1つの官能基を有するモノマーをさらに含む。カルボキシル官能基を導入することができるモノマーの例は、遊離酸、塩形態、又は無水物形態の、不飽和一塩基酸モノマー又は不飽和二塩基酸モノマーであり、スルホン酸基、ホスホン酸基及びカルボン酸基、ならびにそれらの塩又は無水物からなる群より選択される。このようなモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、イタコン酸、マレイン酸、及びこのような化合物の塩である。エポキシ官能基を導入することができるモノマーの例は、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジルエーテル、及び酢酸グリシジルエーテルである。カルボニル官能基を導入することができるモノマーの例は、エチレンカーボネートである。ヒドロキシル官能基を導入することができるモノマーの例は、ヒドロキシルエチルアクリレート及びヒドロキシルプロピルアクリレートである。
【0031】
官能化したモノマーは、全モノマーに基づいて0.01~1.5重量%の量で使用され得る。好ましくは、これらは、全モノマーに基づいて0.01~0.5重量%の量で使用され得る。
【0032】
官能化したフルオロポリマーは、最初に、懸濁液系、エマルジョン系及びマイクロエマルジョン系を含む、不均一重合反応を介して製造される。一般に、これらの反応それぞれは、好適な反応媒体中の、少なくとも1つの酸により官能化したモノマー又はそれらの塩、少なくとも1つのフルオロモノマー及びラジカル開始剤を必要とする。加えて、ハロゲン含有モノマーのエマルジョン重合は、一般に、反応物質及び反応生成物の両方を、重合反応が続く間にわたって乳化することができる界面活性剤を必要とする。
【0033】
いくつかの変法において、文書WO2012/030784に開示されるものと類似のプロセスが、本発明において使用される官能化したフルオロポリマーを調製するために使用され得る。重合のために使用される温度は、20~130℃で変動し得る。重合のために使用される圧力は、280~20,000kPaで変動し得る。
【0034】
撹拌機及び熱制御手段を備えた加圧重合反応器は、水、好ましくは脱イオン水、1以上の官能化したモノマー及び少なくとも1つのフルオロモノマーを入れられる。この混合物は、界面活性剤、緩衝剤、防汚剤又はポリマー生成物の分子量調節のための連鎖移動剤の1以上を、任意選択的に含み得る。モノマー(単数又は複数)の導入の前に、重合反応のための酸素非含有環境を得るために、好ましくは、反応器から空気が取り除かれる。重合成分が集合する順番は変動し得るが、官能化したモノマーの少なくとも一部が、フルオロモノマーの重合の開始の前に、水性の反応媒体中に存在することが、一般に好ましい。官能化したモノマーのさらなる量が、反応の間、反応器に供給され得る。
【0035】
一実施形態において、水、開始剤、官能化したモノマーならびに任意選択的に界面活性剤、防汚剤、連鎖移動剤及び/又は緩衝液が、反応器に入れられ、そして反応器は、所望の反応温度まで加熱される。次いで、フルオロモノマー(単数又は複数)が、好ましくは本質的に一定の圧力を提供する速度で、反応器に供給される。あるいは、フルオロモノマー、官能化したモノマー及び開始剤が、1以上の任意選択の成分とともに、反応器に供給されてもよい。モノマー供給は、所望の重量のモノマーが反応器に供給されたときに、停止する。さらなるラジカル開始剤が、任意選択的に添加され、そして、反応は、好適な時間にわたって反応させられる。反応器圧力は、反応器内のモノマーが消費されるにつれて下がる。
【0036】
重合反応の完了の際、反応器は、周囲温度にされ、そして、残留する未反応のモノマーは、大気圧まで通気される。次いで、フルオロポリマーを含む水性の反応媒体が、ラテックスとして反応器から回収される。ラテックスは、反応成分、すなわち、水、界面活性剤、開始剤(及び/又は開始剤の分解生成物)及び官能化したフルオロポリマー固体の安定した混合物からなる。ラテックスは、約10~約50重量%ポリマー固体、好ましくは20~40重量%を含み得る。ラテックスにおけるポリマーは、約30nm~約800nmの範囲の大きさを有する小さな粒子の形態である。
【0037】
シリコングラファイトアノード用の水性バインダー調合物に含まれる水溶性増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、及びポリビニルピロリドンから選択される。好ましくは、水溶性増粘剤は、カルボキシメチルセルロースである。
【0038】
一実施形態において、水性バインダー調合物は、ラテックス形態であるPVDFホモポリマー及びカルボキシメチルセルロースであり、このPVDFホモポリマーは、カルボン酸官能基を有するモノマーによって、官能化される。
【0039】
一実施形態において、水性バインダー調合物は、ラテックス形態であるヘキサフルオロプロピレンとのフッ化ビニリデンコポリマー及びカルボキシメチルセルロースであり、コポリマー中のヘキサフルオロプロピレンのレベルは、30重量%以下であり、このコポリマーは、酸により官能化したモノマーを、さらに含む。
【0040】
一実施形態において、水性バインダー調合物は、ラテックス形態であるPVDFホモポリマー、ラテックス形態であるヘキサフルオロプロピレンとのフッ化ビニリデンコポリマーであり、このコポリマーは、酸により官能化したモノマー及びカルボキシメチルセルロースをさらに含み、コポリマー中のヘキサフルオロプロピレンのレベルは、30重量%以下である。
【0041】
本発明の別の主題は、少なくとも1つのアノード活性物質、上述の水性バインダー調合物、及び炭素ベースの導電剤からなる、リチウムイオン電池用のシリコングラファイトアノードである。シリコングラファイトアノードにおける各成分の割合は、活性物質が70~99重量%、バインダー調合物が1~15wt%、及び導電剤が0~15wt%であり、これらの百分率の合計は、100となる。
【0042】
アノード活性物質は、Siグラファイト混成物である。Siは、Si、Siの合金又は金属化合物、又は酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、アンチモン化物又はこれらの混合物として存在してもよい。
【0043】
導電性添加物は、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブグラフェン粒子、グラファイト、フラーレン、又はこれらの混合物であってもよい。
【0044】
本発明の別の主題は、本発明のシリコングラファイトアノードを形成するための方法である。本方法は、以下の工程を含む:
● ラテックス形態である1以上の熱可塑性フルオロポリマー、水溶性増粘剤、アノード活性物質及び導電剤を水中で混合することにより、スラリーを形成すること。シリコングラファイトアノードにおける各成分の割合は、活性物質が70~99重量%、バインダー調合物が1~15wt%、及び導電剤が0~15wt%であり、これらの百分率の合計は、100となる。
● 金属集電材の表面にスラリーを塗布し、次いで、アノードを得るために、それに熱処理及び圧力をかけること。
【0045】
本方法において、フッ化ポリマー及び水溶性増粘剤は、シリコングラファイトアノード用の水性バインダー調合物に関して、任意選択的な又は好ましい上述の特徴を有し得る。
【0046】
金属集電材は、銅製である。
【0047】
熱処理は、スラリーで被膜された金属集電材を、60~150℃の間の温度で、15~60分間の間の時間にわたって焼成することである。
【0048】
本発明のシリコングラファイトアノードを形成するための方法は、アノード用の保護層を作製する必要がないため、先行技術と比較して簡易化されている。
【0049】
本発明の別の主題は、この電極材料を組み込むことによって製造されるLiイオン電池である。この電池の性能は、SBRバインダーを用いるアノードを有するものと比較して、改善されている。
【実施例
【0050】
本発明による実施例B及び比較例A及びC
シリコングラファイトアノードの成分を、表1に示す(重量%)。
【0051】
各スラリーは、2つのアノード活性物質であるグラファイト(158-C)及びシリコン(KSC-1064)、導電剤カーボンブラック(Li-100)、水性バインダー及び増粘剤(BSH-6)としてカルボキシメチルセルロースを水中で添加し、そしてこれをFilmix(R)40-L型(Primix)に分散することによって調製される。
【0052】
各スラリーを、8ミルの湿潤厚で銅箔上に乗せ、そして120℃で30分間にわたり焼成し、次に3計量重量トンで加圧して、アノードを得た。アノードの剥離強度は、JIS K6854標準の下で、180°剥離によって、評価した。
【0053】
アノードを、Li金属をカソードとして用いた、コイン型電池をそれぞれ形成するために使用した。電解物は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/7と、1.2M LiPF6濃度と、ビニレンカーボネート2%濃度である。ポリオレフィン分離器を、アノードとカソードとの間に置き、コイン型電池を形成した。各コイン型電池を、連続的充電/放電サイクルに、0.01~1.5Vの電圧範囲で、0.2℃にて60サイクルにわたって供した。
【0054】
図1は、剥離強度測定の結果を示す。
【0055】
図2は、各電極から作られたコイン型半電池のサイクル性能を示す。
【0056】
実施例Bは、60サイクルの充電及び放電後に、比較例A及びCよりも高い容量を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例AのP(VDF-HFP)コポリマーラテックスを製造する方法
80ガロンのステンレス鋼反応器内に、345lbsの脱イオン水、90gの非イオン性界面活性剤及び0.2lbsの酢酸カリウムを入れた。脱気後、23rpmで撹拌を開始し、反応器を加熱した。反応器温度が所望の設定点である100℃に達した後、VDF及びHFPモノマーを、全モノマーの62wt%であるHFP比で、反応器に導入した。次いで、全部でおよそ35lbsのモノマーを反応器に入れることにより、反応器圧力を、650psiまで上げた。反応器圧力が安定した後、1.0lbsの、1.0wt%の過硫酸カリウムと1.0wt%の酢酸ナトリウムから作った開始剤溶液をこの反応器に加え、重合を開始させた。開始の際、HFP対VDFの比を、供給物中の全モノマーに対して33%のHFPに達するように、調整した。また、開始剤溶液のさらなる添加の速度を、1時間当たりおよそ100ポンドの最終結合したVDF及びHFPの重合速度を得、そして維持するために、調整した。VDF及びHPFの共重合は、およそ160ポンドのモノマーが反応集団に導入されるまで続いた。HFP供給を停止しても、VDF供給は、全部でおよそ180lbsのモノマーが反応器に供給されるまで続けた。VDF供給を停止し、そしてバッチを反応温度にて最後まで反応させ、減圧にて残留したモノマーを消費させた。40分後、開始剤供給及び撹拌を停止し、そして反応器を冷却し、脱気しそしてラテックスを回収した。回収したラテックス中の固形物は、重量測定技術によって測定して約32重量%であり、そして、ASTM方法D-3835にしたがい、華氏450度及び100秒-1で測定して、約38kpの溶融物粘度であった。樹脂の溶融温度を、ASTMD3418にしたがって測定し、第2加熱の間は検出されなかったこと、及び融解熱は検出されなかったことを見出した。重量平均粒子サイズを、NICOMPレーザー光拡散装置によって測定し、約220nmであると見出した。
【0059】
実施例Bの酸官能基を有するP(VDF-HFP)コポリマーラテックスを製造する方法
80ガロンのステンレス鋼反応器に、365lbsの脱イオン水、77グラムの非イオン性界面活性剤及び0.2lbsの酢酸カリウムを入れた。脱気後、撹拌を21rpmで開始し、反応器を加熱した。反応器温度が所望の設定点である100℃に達した後、VDF及びHFPモノマーを、全モノマーの13.8wt%であるHFP比で、反応器に導入した。次いで、全部でおよそ35lbsのモノマーを反応器に入れることにより、反応器圧力を、650psiまで上げた。反応器圧力が安定した後、1.75lbsの、1.0wt%の過硫酸カリウムと5.0wt%のポリアクリル酸(PAA)から作った開始剤溶液をこの反応器に加え、重合を開始させた。開始の際、HFP対VDFの比を、供給物中の全モノマーに対して6%HFPに達するように、調整した。また、開始剤溶液のさらなる添加の速度を、1時間当たりおよそ100ポンドの最終結合したVDF及びHFPの重合速度を得、そして維持するために、調整した。VDF及びHPFの共重合は、およそ160ポンドのモノマーが反応集団に導入されるまで続いた。HFP供給を停止しても、VDF供給は、全部でおよそ180lbsのモノマーが反応器に供給されるまで続けた。VDF供給を停止し、そしてバッチを反応温度にて最後まで反応させ、減圧にて残留したモノマーを消費させた。30分後、開始剤供給及び撹拌を停止し、そして反応器を冷却し、脱気しそしてラテックスを回収した。回収したラテックス中の固形物は、重量測定技術によって測定して約32重量%であり、そして、ASTM方法D-3835にしたがい、華氏450度及び100秒-1で測定して、約74kpの溶融物粘度であった。樹脂の溶融温度を、ASTMD3418にしたがって測定し、第2加熱の間は約147.5℃であったことを見出した。重量平均粒子サイズを、NICOMPレーザー光拡散装置によって測定し、約260nmであると見出した。
図1
図2
【国際調査報告】