IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ノクソファーム リミティドの特許一覧

特表2022-541218イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法
<>
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図1
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図2
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図3
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図4
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図5
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図6
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図7
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図8
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図9
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図10
  • 特表-イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(54)【発明の名称】イソフラボン化合物を用いたがん免疫療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20220914BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220914BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P37/02
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502546
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(85)【翻訳文提出日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 AU2020050730
(87)【国際公開番号】W WO2021007618
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】2019902518
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518356338
【氏名又は名称】ノクソファーム リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】グラハム ケリー
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ ラクズカ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA31
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA60
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA31
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA56
4C086MA60
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】がん免疫がん療法(チェックポイント阻害剤など)に対する個人の応答を改善する方法の提供。
【解決手段】本発明は、式Iのイソフラボン化合物を用いてがん免疫がん療法(チェックポイント阻害剤など)に対する個人の応答を改善する方法を提供する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんのためのがん免疫療法に対する個人の応答を改善する方法であって、
式1の化合物:
【化1】
(この式において、
R1は、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、OH、ORA、またはOC(O)RAであり、その中のRAは、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、またはアミノ酸であり;
R2は、H、OH、またはRBであり、その中のRBは、アミノ酸またはCORAであり、その中のRAは前に定義した通りであり;
R3は、H、ハロ、またはC1-10アルキルであり;
AとBは、これらの間にある原子と合わさって、下記のグループ:
【化2】
から選択される6員の環を形成し、その中の
R4は、 H、CORD(ただしRDは、H、OH、C1-10アルキル、またはアミノ酸である)、CO2RC(ただしRCはC1-10アルキルである)、CORE(ただしREは、H、C1-10アルキル、またはアミノ酸である)、COOH、CORC(ただしRCは前に定義した通りである)、またはCONHRE(ただしREは前に定義した通りである)であり;
R5は、H、CO2RC(ただしRCは前に定義した通りである)、またはCORCORE(ただしRCとREは前に定義した通りである)であり、2つのR5基は同じであるか異なっていて、同じ基に結合し;
R6は、H、CO2RC(ただしRCは前に定義した通りである)、CORCORE(ただしRCとREは前に定義した通りである)、置換されたアリールまたは置換されていないアリール、または置換されたヘテロアリールまたは置換されていないヘテロアリールであり;
Xは、O、N、またはSであり;
Yは、下記のグループ:
【化3】
から選択され、その中の
R7は、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、ハロ、ORF(ただしRFは、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、またはOC(O)RA(ただしRAは前に定義した通りである)であり;
R8は、Hまたはハロであり;
【化4】
は、単結合または二重結合を表わす)を、がん免疫療法に対する改善された応答を必要とする個人に投与することにより、がん免疫療法に対するその個人の応答を改善することを含む方法。
【請求項2】
前記がん免疫療法がチェックポイント阻害剤療法である、請求項1の方法。
【請求項3】
がん免疫療法を前記個人に適用してその個人のがんを治療するさらなる工程を含む、請求項1または2の方法。
【請求項4】
前記個人が、以前にがん免疫療法を適用されたことがあってそのがん免疫療法に対する部分奏功が得られている個人である、請求項1~3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
前記個人が、以前にがん免疫療法を適用されたことがあってそのがん免疫療法が奏功していない個人である、請求項1~4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
前記個人が、がん免疫療法に対する部分奏功が得られていて、式1の化合物を投与した後に、がん免疫療法に対する改善された応答が完全奏功の形態で得られる個人である、請求項1~5のいずれか1項の方法。
【請求項7】
前記個人が、がん免疫療法に対する応答が得られておらず、式1の化合物を投与した後に、がん免疫療法に対する改善された応答が部分奏功の形態または完全奏功で得られる個人である、請求項1~6のいずれか1項の方法。
【請求項8】
前記個人が、式1の化合物を投与する前にがん免疫療法を適用されたことがない、請求項1の方法。
【請求項9】
前記個人が、式1の化合物を投与する前に、がんのためのがん免疫療法に対する部分奏功が得られる可能性が大きいか、奏功がない可能性が大きいかを評価されている、請求項1~8のいずれか1項の方法。
【請求項10】
式1の化合物がイドロノキシルである、請求項1~9のいずれか1項の方法。
【請求項11】
式1の化合物を前記個人に提供し、その個人において40 ng/ml~400μg/mlの血漿濃度を確立する、請求項1~10のいずれか1項の方法。
【請求項12】
式1の化合物を前記個人に提供し、その個人において前記がん免疫療法の少なくとも1つの半減期の期間にわたって40 ng/ml~400μg/mlの血漿濃度を確立する、請求項1~11のいずれか1項の方法。
【請求項13】
式1の化合物の約40 ng/ml~400μg/mlという血漿濃度が前記個人において確立した時点で前記がん免疫療法をその個人に適用する、請求項1~12のいずれか1項の方法。
【請求項14】
前記がん免疫療法と式1の化合物を同時に前記個人に適用する、請求項1~13のいずれか1項の方法。
【請求項15】
前記がん免疫療法が、CTLA-4阻害剤、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項1~14のいずれか1項の方法。
【請求項16】
前記個人が、前記がんの治療のために放射線療法または化学療法で治療中でないか、治療されたことがない、請求項1~15のいずれか1項の方法。
【請求項17】
がん免疫療法に対する改善された応答が必要とされる個人へのがんのためのがん免疫療法に対する個人の応答を改善するための薬の製造における、式1の化合物の利用。
【請求項18】
がん免疫療法に対する改善された応答が必要とされる個人へのがんのためのがん免疫療法に対する個人の応答を改善するための治療剤として用いることにより、前記個人においてがん免疫療法に対する応答を改善するための式1の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療と、それを治療するためのがん免疫療法、好ましくはチェックポイント阻害剤の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
がん免疫療法、より具体的にはチェックポイント阻害剤療法は、腫瘍に対する免疫応答を引き起こすか刺激する比較的新しい形態の治療である。腫瘍に関連する免疫系は、患者生存と治療成功の1つの極めて重要な因子である。細胞傷害性リンパ球(γδT細胞、CD8+ T細胞、またはNK細胞など)の密度と活性は好ましい予後と関係しているのに対し、抑制性骨髄細胞(マクロファージ、または骨髄由来サプレッサ細胞など)の存在はよくない予後のマーカーであることがしばしばある。したがって特定の腫瘍免疫プロファイルが他のプロファイルよりも望ましい。これは、ベースラインだけでなく、その後のがん療法にも当てはまる。
【0003】
チェックポイント阻害剤療法は、いくつかの腫瘍における延命効果と関係している。PD-1とPD-L1 の阻害は、PD-1/PD-L1相互作用によって抑制される確立されたCD8+ T細胞を持つ患者で有効である。PD-L1を例えばIFN1を用いて上方調節することをチェックポイント阻害剤と組み合わせると、黒色腫患者を含む初期臨床試験で有望であることが示された。IFN1はPD-L1を上方調節するだけでなく、細胞傷害性T細胞活性を含むTH1関連抗腫瘍免疫も開始させる。
【0004】
免疫チェックポイントの上方調節の前に、および/または免疫チェックポイントの上方調節に加え、腫瘍微小環境における他の因子が活性な抗腫瘍免疫の確立を阻止する可能性がある。その1つは、アポトーシス細胞死をする細胞(たいていは腫瘍細胞)の存在である。直感に反するが、腫瘍細胞のアポトーシス死は頻繁な現象である。アポトーシス細胞と主に自然免疫細胞(マクロファージなど)の間の相互作用は生理学的条件下において炎症を阻止して自己寛容を誘導し、それが腫瘍によって利用される。腫瘍発達のアポトーシス細胞依存性増殖は、食細胞応答を形作る分子(アポトーシス細胞の表面に露出しているホスファチジルセリンなど)に依存する可能性があるが、死につつある細胞からのシグナル伝達分子の放出も関与する。アポトーシス中の細胞から放出される分子の1つにスフィンゴ脂質スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)がある。
【0005】
S1Pは、細胞の増殖と生存を調節していてがんの進行を可能にする強力なシグナル伝達分子であるため、魅力的な薬標的である。S1Pは、細胞骨格再構成と細胞運動、血管新生と血管成熟、および免疫とリンパ球トラフィキングを調節する5種類のS1P受容体(S1PR)からなるファミリーのリガンドである。S1PRはいくつかの異なる細胞(免疫細胞が含まれる)によって発現され;S1PR1、S1PR2、およびS1PR3は万遍なく発現し、S1PR4とS1PR5は、組織特異的分布を示す。腫瘍学において興味ある2つの受容体はS1PR1とS1PR4である。
【0006】
S1Pは、対応する受容体に結合すると、細胞の生存、移動、および血管新生、免疫細胞のリクルート、および免疫系の回避の誘導を通じてアポトーシスを抑制し、増殖を促進する。マウスにおける研究は、より低レベルの全身性S1Pが前立腺がんの増殖と肺転移を抑制することを示している。
【0007】
免疫細胞のリクルートは、腫瘍が自らを利するためにS1Pを利用するやり方の1つである。腫瘍微小環境内では、がん細胞と非がん細胞の両方がS1Pを分泌し、マクロファージへと分化することのできる循環する単球をリクルートする。S1Pはまたマクロファージの生存を増やし、S1PR1に結合して追加のマクロファージを引きつけるため、腫瘍関連マクロファージ/M2の極性化を促進することで、腫瘍が免疫系を回避するのを助ける抗炎症性サイトカインと、移動と血管新生をサポートするタンパク質の両方の分泌につながる。
【0008】
すべての患者でチェックポイント阻害剤が奏功するわけではなく、いくつかの研究では、患者の25%だけにチェックポイント阻害療法が奏功し、患者の75%まではまったく奏功しない。それに加え、いくつかのタイプの腫瘍は、単独のチェックポイント阻害剤が奏功しないことが予測されている。
【0009】
チェックポイント阻害療法を受けている患者は耐性が生じ、より悪い転帰へとつながる。他の研究は、疾患がのちに再発することを示しており、これは、患者がチェックポイント阻害療法に対して耐性を獲得することを示唆している。
【0010】
いくつかのチェックポイント阻害剤は、臓器特異的副作用へとつながる免疫系の感作と、免疫関連事象(irAEs)と呼ばれる独特な一連の毒性を引き起こす。irEAの治療には免疫抑制療法が必要とされることがしばしばある。
【0011】
チェックポイント阻害療法を受けている個人における応答を改善する必要がある。
【0012】
本明細書でどの先行技術に言及する場合も、その先行技術が、どの裁判においてであれ、共通する一般的知識の一部を形成することや、その先行技術が、当業者によって先行技術の他の断片として理解されること、関係すると見なされること、および/または組み合わされることを合理的に予測できると認めているのでも示唆しているのでもない。
【発明の概要】
【0013】
第1の側面では、がんのためのがん免疫療法に対する個人の応答を改善する方法として、(本明細書に記載されている)式1の化合物を、がん免疫療法に対する改善された応答を必要とする個人に投与することにより、がん免疫療法に対するその個人の応答を改善することを含む方法が提供される。
【0014】
「式1の化合物」は、一般に、
【化1】
を指す。ただしこの式において、
R1は、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、OH、ORA、またはOC(O)RAであり、その中のRAは、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、またはアミノ酸であり;
R2は、H、OH、またはRBであり、その中のRBは、アミノ酸またはCORAであり、その中のRAは前に定義した通りであり;
R3は、H、ハロ、またはC1-10アルキルである。
【0015】
AとBは、これらの間にある原子と合わさって、下記のグループ:
【化2】
から選択される6員の環を形成し、その中の
R4は、 H、CORD(ただしRDは、H、OH、C1-10アルキル、またはアミノ酸である)、CO2RC(ただしRCはC1-10アルキルである)、CORE(ただしREは、H、C1-10アルキル、またはアミノ酸である)、COOH、CORC(ただしRCは前に定義した通りである)、またはCONHRE(ただしREは前に定義した通りである)であり;
R5は、H、CO2RC(ただしRCは前に定義した通りである)、またはCORCORE(ただしRCとREは前に定義した通りである)であり、2つのR5基は同じであるか異なっていて、同じ基に結合し;
R6は、H、CO2RC(ただしRCは前に定義した通りである)、CORCORE(ただしRCとREは前に定義した通りである)、置換されたアリールまたは置換されていないアリール、または置換されたヘテロアリールまたは置換されていないヘテロアリールであり;
Xは、O、N、またはSであり;
Yは、下記のグループ:
【化3】
から選択され、その中の
R7は、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、ハロ、ORF(ただしRFは、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、またはOC(O)RA(ただしRAは前に定義した通りである)であり;
R8は、H、ハロ、またはCORD(ただしRDは前に定義した通りである)であり;
【化4】
は、単結合または二重結合を表わす。
【0016】
第2の側面では、がんのためのがん免疫療法に対する個人の応答を改善するためその個人の状態を整える方法として、がん免疫療法に対する応答を改善するため状態を整える必要がある個人に式1の化合物を投与し、そのことによってその個人の状態を整えてがん免疫療法に対するその個人の応答を改善する工程を含む方法が提供される。
【0017】
第1の側面または第2の側面の方法は、個人のがんを治療するためがん免疫療法をその個人に適用するさらなる工程を含むことができる。
【0018】
第3の側面では、個人のがんを治療する方法として、式1の化合物とがん免疫療法を適用し、そのことによってその個人のがんを治療する工程を含む方法が提供される。
【0019】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人として、以前に(すなわち第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前に)がん免疫療法を適用されたことがあり、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する時点でそのがん免疫療法に対する部分奏功が得られている個人が可能である。個人は、がん免疫療法に対する部分奏功を目的として第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前、そのがん免疫療法を適用してから2 週~52 週の間に評価することができる。部分奏功は、標的腫瘍または非標的腫瘍に関して可能である。第1、第2、または第3の側面の方法は、そのような部分奏功を改善するためである。このような改善は、式1の化合物の投与に加えてがん免疫療法をさらに適用することから生じる。
【0020】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人として、がん免疫療法を以前に(すなわち第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前に)適用されたことがあり、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する時点でがん免疫療法が奏功していなかった個人が可能である。この実施態様では、個人が安定な疾患を持っていてもよく、あるいは個人が進行性疾患を持っていてもよい。個人は、安定な疾患に関して第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前、がん免疫療法を適用してから2 週~52 週の間に評価することができる。個人が安定な疾患を持つと2 週~52 週の間に評価される場合、この個人は式1の化合物を投与されることに加え、がん免疫療法をさらに適用される。進行性疾患は、1つ以上の新たな腫瘍の出現に関係していること、または既存の標的腫瘍または非標的腫瘍の進行に関係していることが可能である。個人が、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前、がん免疫療法を適用してから2 週~52 週の間に進行性疾患を持つと評価される場合、この個人に式1の化合物を投与することに加え、がん免疫療法をさらに適用することができる。これらの実施態様では、第1、第2、または第3の側面の方法は、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前にがん免疫療法が奏功していなかった場合に応答を促進することを目的としており、応答は部分奏功でも完全奏功でもよい。
【0021】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人は、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前にがん免疫療法に対して部分奏功が得られており、第1、第2、または第3の側面の方法の実施により、式1の化合物の投与後に改善された応答ががん免疫療法に対する完全奏功の形態で得られる。
【0022】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の別の一実施態様では、個人は、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前にがん免疫療法が奏功しておらず、より好ましくは、その個人は安定な疾患または進行性疾患を持ち、第1、第2、または第3の側面の方法の実施により、式1の化合物の投与後にがん免疫療法に対する改善された応答が部分奏功または完全奏功の形態で得られる。
【0023】
したがって上記の実施態様では、第1、第2、または第3の側面の方法を適用できる個人として、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前に適用されたがん免疫療法に対して部分奏功が得られていた個人、または安定な疾患または進行性疾患を持つ個人が可能である。
【0024】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人は、式1の化合物の投与前にがん免疫療法を適用されたことがない。この実施態様では、がん免疫療法はその個人が持つ特定の腫瘍またはがんに対して適応でない可能性がある。この実施態様では、個人に、第1、第2、または第3の側面の方法に従って式1の化合物とがん免疫療法を適用することができる。
【0025】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人は、式1の化合物の投与前に、がんに関するがん免疫療法に対して部分奏功が得られるか、奏功がない可能性が大きいことを評価されている。したがって第1、第2、または第3の側面の一実施態様では、方法は、がんに関するがん免疫療法に対して応答する可能性が大きいことに関して個人を評価するか、評価したことがある工程と、個人が、がんに関するがん免疫療法に対して応答する可能性が低いと評価される場合には、その個人に式1の化合物とがん免疫療法を適用する工程を含むことができる。
【0026】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人は、がん免疫療法が有効であることが確実に証明されている固形腫瘍を持つが、そのがん免疫療法が限定された効果を持っていた患者である。このような個人は、第1~第3の側面の方法を実施する前、がん免疫療法を最初に適用してから2 週~52 週の間までに客観的な応答、すなわちRECIST 1.1に従う部分奏功または完全奏功)が達成されていなかった可能性がある。
【0027】
一実施態様では、第1の側面、第2の側面、または第3の側面の方法を、初期治療の失敗(または一次耐性として知られる)を克服するために、または偽進行を管理するために適用することができる。このような個人は、第1~第3の側面の方法を実施する前、がん免疫療法を適用してから2 週~52 週以内に進行性疾患が証明される可能性がある。
【0028】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、がんは、非扁平上皮非小細胞肺がん、黒色腫、腎細胞癌、メルケル細胞癌、頭頸部扁平上皮細胞癌からなるグループから選択される。この実施態様では、個人として、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前にがん免疫療法を適用されたことがあり、そのがん免疫療法に対して部分奏功が得られた個人が可能である。この実施態様では、個人は、がん免疫療法に対して完全奏功が得られる可能性がある。
【0029】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、がんは、前立腺がん、膵臓がん、神経芽腫、膠芽腫、肉腫、卵巣癌、ホジキンリンパ腫、乳がん、膀胱がん、肝臓がん、結腸直腸がん、食道がん、腎臓がん、皮膚がん、および胃がんからなるグループから選択される。この実施態様では、個人として、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前にがん免疫療法を適用されたことがあるが、そのがん免疫療法が奏功しなかった個人が可能である。あるいは個人は、がん免疫療法がこの個人の腫瘍またはがんのタイプに適応でないという理由でがん免疫療法を適用されたことがなくてもよい。この実施態様では、その個人は、がん免疫療法に対する完全奏功または部分奏功が得られる可能性がある。
【0030】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、式1の化合物はイドロノキシルである。
【0031】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルが個人に提供され、約40 ng/ml~約400μg/mlという血漿濃度がその個人で確立される。第1、第2、または第3の側面の一実施態様では、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルが個人に提供され、 がん免疫療法の少なくとも1つの半減期の期間にわたって約40 ng/ml~約400μg/mlという血漿濃度がその個人で確立される。
【0032】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、がん免疫療法は、約40 ng/ml~約400μg/mlという式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの血漿濃度が個人において確立された時点でその個人に適用される。
【0033】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、がん免疫療法は、このがん免疫療法に関する製品情報によって推奨される血漿濃度をある期間にわたって維持するために適用することができ、その期間の間は式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの血漿濃度が約40 ng/ml~約400μg/mlである。
【0034】
どの実施態様でも、式1の化合物の血漿濃度として、約40 ng/ml~約400μg/mlの範囲内の任意の濃度が可能であり、例えば血漿濃度として、約40 ng/ml~約40μg/ml、約40 ng/ml~約4μg/ml、または約40 ng/ml~約400 ng/mlが可能である。
【0035】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、がん免疫療法と式1の化合物が個人に同時に適用される。
【0036】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人にがん免疫療法が適用された後に式1の化合物が投与される。
【0037】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人にがん免疫療法が適用される前に式1の化合物が投与される。
【0038】
がん免疫療法として、チェックポイント阻害剤、T細胞移植療法、モノクローナル抗体、治療ワクチン、または免疫系調節因子が可能である。本発明の任意の実施態様では、がん免疫療法はチェックポイント阻害剤療法であることが好ましい。
【0039】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、チェックポイント阻害剤として免疫調節抗体が可能である。免疫調節抗体として、CTLA-4 阻害剤、PD-1 阻害剤、またはPD-L1 阻害剤が可能である。チェックポイント阻害剤はPD-1阻害剤であることが好ましく、ニボルマブがより好ましい。
【0040】
第1の側面、第2の側面、または第3の側面の一実施態様では、個人は、第1、第2、または第3の側面の方法を実施する前であれ、その方法を実施中であれ、その方法が完了した後であれ、がんの治療のために放射線療法または化学療法で治療中でないか、治療されたことがない。
【0041】
第4の側面では、個人のがんを治療する方法として、式1の化合物をその個人に投与する工程を含む方法が提供され、その個人は、がん免疫療法が奏功しなかったか部分奏功であった、またはがん免疫療法が奏功しない可能性が大きいと評価されており;しかもその個人は、がんの治療のために放射線療法または化学療法で治療中でないか、治療されたことがない。一実施態様では、この方法は、がんの治療のため、その個人に治療に有効な量のがん免疫療法を適用する工程を含む。この実施態様では、その個人に適用されるがん免疫療法は、その個人で奏功しなかったか、奏功しない可能性が大きいと評価されたがん免疫療法と同じ化合物である。
【0042】
第5の側面では、個人におけるがんの治療に用いるための式1の化合物、好ましくはイドロノキシルが提供され、その個人は、がん免疫療法が奏功しなかったか部分奏功であった、またはがん免疫療法が奏功しない可能性が大きいと評価されており;しかもその個人は、がんの治療のために放射線療法または化学療法で治療中でないか、治療されたことがない。
【0043】
第6の側面では、キットとして、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルと、がん免疫療法と、上記の一実施態様の方法でこのキットを使用するための指示書を含むキットが提供される。
【0044】
第7の側面では、個人におけるがんの治療のための薬の製造における式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの利用が提供され、その個人は、がん免疫療法が奏功しなかったか部分奏功であった、またはがん免疫療法が奏功しない可能性が大きいと評価されており;しかもその個人は、がんの治療のために放射線療法または化学療法で治療中でないか、治療されたことがない。
【0045】
第8の側面では、個人におけるがんの治療で用いるため、式1の化合物、好ましくはイドロノキシル、またはその医薬として許容可能な塩を含む医薬組成物が提供され、その個人は、がん免疫療法が奏功しなかったか部分奏功であった、またはがん免疫療法が奏功しない可能性が大きいと評価されており;しかもその個人は、がんの治療のために放射線療法または化学療法で治療中でないか、治療されたことがない。
【0046】
本発明のさらなる側面と、前の段落に記載されている側面のさらなる実施態様は、例として与えられている以下の記述から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】C17/NPC43+veスフェロイドと健康なドナーからのPBMCを共培養した後、イメージングとフローサイトメトリー分析をするのに利用するプロトコルの模式図。
【0048】
図2】イドロノキシルあり、またはなしでの72時間の時点におけるIN区画とOUT区画の中のT細胞(それぞれ、ゲートされたCD3+)のほか、CD4+ T細胞サブセット、CD8+ T細胞サブセット、二重陽性T細胞サブセット(それぞれ、CD3+のうちのゲートされたCD4+CD8-、CD4-CD8+、およびCD4+CD8+)の割合のフローサイトメトリー分析。
【0049】
図3】イドロノキシルの存在下におけるPD1+メモリT細胞、PD1-メモリT細胞、およびナイーブT細胞の割合に関するフローサイトメトリーデータを対照(DMSO)と比較した定量結果。DMSO対照と比較したとき、* p≦0.05、** p<0.01。
【0050】
図4】DMSO、1μmのイドロノキシル、または10μmのイドロノキシルを用いて処理してから3日後のMCF-7(乳癌)細胞の顕微鏡法によるスフェロイドの形態と細胞数(腫瘍細胞と免疫細胞サブセット)であり、群ごとに8人のスフェロイドが3つの生物学的レプリケートで示されている。
【0051】
図5】処理してから3日後のMCF-7スフェロイドのPDL1/PD1発現のフローサイトメトリー分析(FACS)。
【0052】
図6】DMSO、IgGと抗PD1を示す1μmのイドロノキシルまたは10μmのイドロノキシルを用いて処理してから6日後のMCF-7 細胞の顕微鏡法によるスフェロイドの形態と細胞数(腫瘍細胞と免疫細胞サブセット)であり、群ごとに8人のスフェロイドが3つの生物学的レプリケートで示されている。
【0053】
図7】処理してから6日後のMCF-7スフェロイドのPDL1/PD1発現のフローサイトメトリー分析(FACS)。
【0054】
図8】DMSO、1μmのイドロノキシル、または10μmのイドロノキシルを用いて処理してから3日後のA549 細胞の顕微鏡法によるスフェロイドの形態と細胞数(腫瘍細胞と免疫細胞サブセット)であり、群ごとに8人のスフェロイドが3つの生物学的レプリケートで示されている。
【0055】
図9】処理してから3日後のA549スフェロイドのPDL1/PD1発現のフローサイトメトリー分析(FACS)。
【0056】
図10】DMSO、1μmのイドロノキシル、または10μmのイドロノキシルを用いた治療の6日後のA549 細胞の顕微鏡法によるスフェロイドの形態と細胞数(腫瘍細胞と免疫細胞サブセット)であり、群ごとに8人のスフェロイドが3つの生物学的レプリケートで示されている。
【0057】
図11】処理してから6日後のA549スフェロイドのPDL1/PD1発現のフローサイトメトリー分析(FACS)。
【発明を実施するための形態】
【0058】
ここで本発明のいくつかの実施態様を詳細に参照することにする。本発明をこれら実施態様との関連で説明するが、本発明をこれら実施態様に限定する意図はないことが理解されよう。逆に、本発明は、あらゆる代替物、変更、および等価物を包含することが想定されており、それを、請求項によって規定されている本発明の範囲に含めることができる。
【0059】
当業者は、本明細書に記載されているのと同様の、または同等な多くの方法と材料に気がつくであろうし、それらは本発明の実施に使用できると考えられる。本発明が、記載されている方法と材料に限定されることは決してない。
【0060】
本明細書に開示され規定されている発明は、本文で言及されているか本文から明らかな個別の特徴の2つ以上のあらゆる代わりの組み合わせに拡張されることが理解されよう。これらの異なる組み合わせのすべてが、本発明のさまざまな代わりの側面を構成する。
【0061】
本明細書では、文脈がそうでないことを要求している場合を除き、「含む」という用語とこの用語のバリエーション、例えば「含んでいる」、「含む(主語が三人称単数)」、および「含まれた」は、さらなる添加物、要素、整数、または工程を除外することが想定されていない。
【0062】
本明細書を解釈する目的では、単数形で用いられている用語に複数も含まれ、逆も同様である。例えば「1つの」は、特に断わらない限り1つ以上を意味する。
【0063】
「約」という用語の使用は、その値またはパラメータそのものを含むとともに記述している。例えば「約x」は、「x」そのものを含むとともに記述している。いくつかの実施態様では、「約」という用語は、測定と組み合わせて用いられるとき、または値、単位、定数、または値の範囲を変更するのに用いられるときには、±10%の変動を意味する。例えばいくつかの実施態様における「約400」には、360~440が含まれる。
【0064】
対象の「治療」または「治療中」に含まれるのは、疾患または状態、疾患または状態の症状、または疾患または状態のリスク(または、疾患または状態に対する感受性)を遅延させること、鈍化させること、安定化すること、治癒させること、癒すこと、軽減すること、緩和すること、変化させること、救済すること、より悪くならなくすること、改善すること、改良すること、またはそれに影響を与えることである。「治療中」という用語は、怪我、病状、または状態の治療または改善における成功の任意の徴候を意味し、その中には、任意の客観的または主観的なパラメータ、例えば軽減;寛解;悪化速度が低下すること;疾患の重症度が下がること;安定化、症状が減ること、または怪我、病状、または状態を個人がより耐忍できるようになること;変性または衰微の速度が鈍化すること;変性の最終点がより軽度になることが含まれる。
【0065】
本明細書の「対象」はヒト対象であることが好ましい。「対象」と「個人」という用語は、本発明によれば、治療を必要とする個人に関して交換可能であることが理解されよう。
【0066】
本発明につながる発明者らの仕事は、イドロノキシルが腫瘍細胞においてがん免疫活性を促進するという予想外の発見を含む。イドロノキシルは、腫瘍細胞におけるS1P阻害を通じて腫瘍の防御を無効化することによって腫瘍へのT細胞の浸潤を促進する。イドロノキシルはT細胞と骨髄細胞の表面におけるPD1とPDL1の発現を変化させるため、それ自体が免疫原性である。発明者らは、イドロノキシルが、腫瘍へのT細胞の浸潤を促進することに加え、T細胞の活性化、増殖、および細胞傷害性を促進して腫瘍の殺傷を増加させることも突き止めた。
【0067】
「式1の化合物」は、一般に、
【化5】
を指す。ただしこの式において、
R1は、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、OH、ORA、またはOC(O)RAであり、その中のRAは、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、またはアミノ酸であり;
R2は、H、OH、またはRBであり、その中のRBは、アミノ酸またはCORAであり、その中のRAは前に定義した通りであり;
R3は、H、ハロ、またはC1-10アルキルである。
【0068】
AとBは、これらの間にある原子と合わさって、下記のグループ:
【化6】
から選択される6員の環を形成し、その中の
R4は、 H、CORD(ただしRDは、H、OH、C1-10アルキル、またはアミノ酸である)、CO2RC(ただしRCはC1-10アルキルである)、CORE(ただしREは、H、C1-10アルキル、またはアミノ酸である)、COOH、CORC(ただしRCは前に定義した通りである)、またはCONHRE(ただしREは前に定義した通りである)であり;
R5は、H、CO2RC(ただしRCは前に定義した通りである)、またはCORCORE(ただしRCとREは前に定義した通りである)であり、2つのR5基は同じであるか異なっていて、同じ基に結合し;
R6は、H、CO2RC(ただしRCは前に定義した通りである)、CORCORE(ただしRCとREは前に定義した通りである)、置換されたアリールまたは置換されていないアリール、または置換されたヘテロアリールまたは置換されていないヘテロアリールであり;
Xは、O、N、またはSであり;
Yは、下記のグループ:
【化7】
から選択され、その中の
R7は、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、ハロ、ORF(ただしRFは、H、C1-10アルキル、C1-10ハロアルキル、またはOC(O)RA(ただしRAは前に定義した通りである)であり;
R8は、H、ハロ、またはCORD(ただしRDは前に定義した通りである)であり;
【化8】
は、単結合または二重結合を表わす。
【0069】
好ましい実施態様では、式(I)の化合物は、
【化9-1】
【化9-2】
からなるグループから選択される(これらの式において、
R8は、H、ハロ、またはCORDであり、その中のRDは前に定義した通りであり;
R9はCO2RCまたはCOREであり、その中のRCとREは前に定義した通りであり;
R10はCORCまたはCORCOREであり、その中のRCとREは前に定義した通りであり;
R11はHまたはOHであり;
R12は、H、COOH、CO2RC(ただしRCと、は前に定義した通りである)、またはCONHRE(ただしREは前に定義した通りである)であり;
【化10】
は、単結合または二重結合を表わす)。
【0070】
式(I)の化合物は、
【化11】
であることが好ましい(この式において、R11とR12は上に定義した通りである)。
【0071】
より好ましいのは、式(I)の化合物が、
【化12】
であることであり、これはイドロノキシルとしても知られる(フェノキソジオール;デヒドロエクオール;ハギニンE (2H-1-ベンゾピラン-7-0,1,3-(4-ヒドロキシフェニル)としても知られる)。
【0072】
別の好ましい一実施態様では、R6は、置換されたアリールまたは置換されていないアリールであるか、置換されたヘテロアリールまたは置換されていないヘテロアリールである。R6は、アルキル基で置換されたアリールであることが好ましい。アルコキシ基はメトキシであることが好ましい。別の好ましい一実施態様では、R6はヒドロキシである。
【0073】
本明細書では、「アルキル」という用語は、1~10個、またはその間の任意の範囲の炭素原子を持つ、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖の炭化水素基を意味する。アルキル基は、場合によっては置換基で置換されており、多重度の置換が許容される。本明細書で用いられている「アルキル」の非限定的な例に含まれるのは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチルなどである。
【0074】
本明細書では、「C1-10アルキル」という用語は、少なくとも1個かつ最大で10個、またはその間の任意の範囲の炭素原子をそれぞれ含有する、上に定義したアルキル基を意味する(例えば2~5個の炭素原子を含有するアルキル基は、C1-10の範囲内でもある)。
【0075】
アルキル基は1~5個の炭素を含有することが好ましく、メチル、エチル、またはプロピルであることがより好ましい。
【0076】
本明細書では、「アリール」という用語は、場合によっては置換されたベンゼン環を意味する。アリール基は場合によっては複数の置換基で置換されており、多重度の置換が許容される。
【0077】
本明細書では、「ヘテロアリール」という用語は、単環で1個以上の窒素、硫黄、および/または酸素ヘテロ原子を含有する5、6、または7員の芳香族環を意味し、その中のN-オキシドと、硫黄の酸化物および二酸化物は、許容可能なヘテロ原子置換であり、場合によっては3個までのメンバーで置換されていてもよい。本明細書で用いられる「ヘテロアリール」基の例に含まれるのは、フラニル、チオフェニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、オキソ-ピリジル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジル、ピラジニル、ピリミジル、およびこれらの置換されたバージョンである。
【0078】
本明細書では、「置換基」は、興味ある分子内の1個の原子に共有結合している分子部分を意味する。例えば「環置換基」として、環メンバーである1個の原子、好ましくは炭素原子または窒素原子に共有結合している部分(例えばハロゲン、アルキル基、または本明細書に記載されている他の置換基)が可能である。「置換された」という用語は、本明細書では、指定された原子上の任意の1個以上の水素が、示されている置換基から選択された置換基で置換されていることを意味するが、その指定された原子の通常の価数を超えず、置換の結果として安定な化合物になること、すなわち単離すること、特徴づけること、および生物活性を調べることが可能な化合物になることが条件である。
【0079】
「場合によっては置換された」または「置換されていてもよい」などの表現は、本明細書全体を通じ、該当する基が1個以上の非水素置換基でさらに置換されていても置換されていなくてもよいことを示す。特定の官能基に関する適切で化学的に実現可能な置換基は、当業者には明らかであろう。
【0080】
置換基の非限定的な例に含まれるのは、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、C1-C6ハロアルコキシ、C1-C6ヒドロキシアルキル、C3-C7ヘテロシクリル、C3-C7シクロアルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルスルファニル、C1-C6アルキルスルフェニル、C1-C6アルキルスルホニル、C1-C6アルキルスルホニルアミノ、アリールスルホノアミノ、アルキルカルボキシ、アルキルカルボキシアミド、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ、アシル、カルボキシ、カルバモイル、アミノスルホニル、アシルオキシ、アルコキシカルボニル、ニトロ、シアノ、またはハロである。
【0081】
上記の化合物を合成する方法は、WO1998/008503およびWO2005/049008と、その中で引用されている合成関係の参照文献に記載されており、その内容は、全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【0082】
がん免疫療法または免疫腫瘍学は、がんを治療するための免疫系の人工的な刺激であり、免疫系が疾患と闘う能力を向上させる。がん免疫療法またはがん免疫療法剤として、チェックポイント阻害剤、T細胞移植療法、モノクローナル抗体、がん治療ワクチン、または免疫系調節物質が可能である。がん免疫療法はチェックポイント阻害剤であることが好ましい。
【0083】
チェックポイント阻害剤として免疫調節抗体が可能である。免疫調節モノクローナル抗体(mAb)療法に含まれるのは、細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)阻害(例えばイピリムマブ)、プログラムされた死-1(PD-1)阻害(例えばニボルマブとペムブロリズマブ)、PD-L1阻害、CD40拮抗、OX40拮抗、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)とT細胞免疫グロブリンAムチン-3(TIM-3)の阻害、およびToll様受容体アゴニストである。チェックポイント阻害剤は、CTLA-4阻害剤、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、またはこれらの組み合わせから選択されることが好ましい。
【0084】
T細胞移植療法として、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法またはCAR T細胞療法が可能である。T細胞移植療法に含まれるのは、養子細胞療法、養子免疫療法、および免疫細胞療法である。CAR T細胞療法の非限定的な例に含まれるのは、チサゲンレクルユーセルまたはアキシカブタゲン・シロルユーセルである。
【0085】
がん治療ワクチンは、腫瘍溶解ウイルスを含む。がん治療ワクチンの非限定的な例に含まれるのは、Sipulecel-TとT-VECである。
【0086】
免疫調節剤に含まれるのは、サイトカイン(例えばアルデスロイキン、インターロイキン(IL))と、インターフェロン(INF)(例えばインターフェロンアルファ-2aおよび/またはインターフェロンアルファ-2b、ペグインターフェロンアルファ-2b)である。
【0087】
免疫調節剤または免疫調節薬の非限定的な例に含まれるのは、KIT、CSF1R、およびFLT3経路の阻害剤である。代表的な免疫調節薬に含まれるのは、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、およびイミキモドである。
【0088】
CTLA-4は、抗原提示細胞の表面で自然にB7-1(CD-80)およびB7-2(CD-86)と相互作用し、そのことによってT細胞応答を下方調節して潜在的な自己免疫ダメージを回避するT細胞受容体である。それに対して共刺激T細胞表面タンパク質であるCD-28は、B7-1およびB7-2との相互作用に関してCTLA-4とより小さな親和性でだが競合し、T細胞を活性化する。そうすることによってCTLA-4を阻止すると、CD-28がB7-1およびB7-2と相互作用することが可能になり、腫瘍細胞を駆逐する身体の細胞免疫応答と細胞免疫能力が増強される。免疫原性が弱い腫瘍にとって、CTLA-4阻害は、照射を受けてGM-CSFを産生するように改変された腫瘍細胞を用いたワクチン接種と組み合わせて用いる場合に有効である可能性がある。
【0089】
PD-1受容体は、B細胞、T細胞、およびNK細胞の表面に発現しており、黒色腫細胞の表面にしばしば破壊的に発現しているプログラムされた死リガンド-1およびプログラムされた死リガンド-2(PDL-1とPDL -2)と相互作用し、T細胞の疲弊を誘導して免疫応答を下方調節する。これらの薬剤は、PD-1を阻害することにより、より活発な抗腫瘍細胞免疫応答を促進する。
【0090】
CD40は、通常は多彩な細胞(樹状細胞とマクロファージが含まれる)の表面に発現している腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーの共刺激受容体である。対応するリガンドとの相互作用が、抗原特異的CD4 T細胞のプライミングと増殖において鍵となる役割を果たす。腫瘍細胞の表面で発現したときにCD40を刺激するとアポトーシスが起こる。したがってCD40を刺激するmAb(例えばCD-870873)は直接的な抗腫瘍活性を持ち、腫瘍抗原特異的T細胞応答を誘導する。
【0091】
LAG-3はT制御(T reg)細胞上の膜貫通タンパク質であり、黒色腫細胞の表面にしばしば発現しているMHC IIに結合することによってT reg活性を増強し、細胞免疫応答を負に調節し、黒色腫細胞をアポトーシスから保護する。したがってLAG-3を阻害すると、身体が腫瘍細胞と闘うのを2つの面で助けられる可能性がある。
【0092】
別のクラスの免疫調節因子がTLRに作用する。TLRは、樹状細胞やマクロファージのようなセンチネル免疫細胞の表面に見いだされる一群の細胞表面受容体であり、特徴的な病原体関連抗原と接触すると自然に自然免疫応答を活性化する。TLR-7アゴニストであるイミキモド(IMQ)を用いた黒色腫の局所的治療により、1)腫瘍への免疫エフェクタ細胞(活性化された細胞傷害性の形質細胞様DCなど)の浸潤、2)I型IFN応答、3)抗血管新生防御が容易になり、いくつかの場合には完全に腫瘍が退縮することが示されている。
【0093】
TGF-βを抗TGF-β抗体によって阻害すると腫瘍ワクチンの効果を相乗的に増強することができ、その効果はCD8+ T細胞によって媒介される。例えばフレソリムマブは、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF )のあらゆるヒトアイソフォームを中和することのできる抗体であり、抗がん活性が証明されている。
【0094】
最適な「キラー」CD8 T細胞応答の生成も、T細胞受容体の活性化に加えて共刺激を必要とする。共刺激は、腫瘍壊死因子受容体ファミリーのメンバー(OX40(CD134)と4-IBB(CD137)が含まれる)の連結を通じて提供することができる。OX40は特に興味深い。というのも活性化(アゴニスト)抗OX40 mAbを用いた治療でT細胞分化と細胞溶解機能が増大し、多彩な腫瘍に対する増強された抗腫瘍免疫へとつながるからである。
【0095】
「退縮」と「退縮する」と「退縮する(主語が三人称単数)」は、一般に、腫瘍のサイズまたは腫瘍の増殖が低下し、その結果として腫瘍の完全な、または部分的な退縮または消滅が起こることを意味する。
【0096】
療法に対する「完全奏功」は、治療に応答してがんのあらゆる検出可能な徴候が消失することを意味すると一般に理解されている。完全奏功は、がん免疫療法による腫瘍の消滅から生じる可能性がある。
【0097】
「部分奏功」は、一般に、個人において腫瘍量が例えば腫瘍の数、サイズ、および増殖速度に関して減少することを意味すると理解されている。部分奏功は、疾患進行までの時間を長くする可能性がある。部分奏功は、がん免疫療法による腫瘍の退縮から生じる可能性がある。
【0098】
本明細書に記載されている本発明の実施態様では、臨床応答(完全奏功または部分奏功など)は、本明細書に記載されているように、RECIST 1.0 基準(Therasse P他)2000 J. Natl Cancer Inst 92:2015-16、またはRECIST 1.1 基準によって明確にすることができる。
【0099】
本明細書に記載されているように、第1~第5の側面の方法は、特に、がんを持つ個人の治療またはコンディショニングに関する。この方法は、特に、以前にがん免疫療法で治療されたことがあるが、その治療に対して部分奏功でしかなかったという意味でその治療が失敗した個人か、安定な疾患または進行性疾患を持つ個人に適用することができる。これらの個人において、この方法は、第1~第5の側面の方法を適用する前にはがん免疫療法によって部分奏功しか実現できなかったか、第1~第5の側面の方法を適用する前には奏功をまったく実現できなかった場合に、個人の調子を整えるか個人を感作してその後のがん免疫療法による治療で改善された治療の転帰(例えば完全奏功)が得られるようにするために適用することができる。
【0100】
この文脈では、第1~第5の側面の方法は、これらの方法なしの場合にがん免疫療法が限定された成功を提供したタイプのがんの治療にがん免疫療法をより広く適用することを可能にするという意味で、特に有利であると考えられる。本発明の第1~第5の側面の方法を適用できるがんの例に含まれるのは、芽細胞腫(髄芽腫と網膜芽細胞腫が含まれる)、肉腫(脂肪肉腫と滑膜細胞肉腫が含まれる)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、および膵島細胞がんが含まれる)、中皮腫、神経鞘腫(聴神経腫瘍が含まれる)、髄膜腫、腺癌、黒色腫、白血病またはリンパ性悪性腫瘍、肺がん(小細胞肺がん(SGLG)、非小細胞肺がん(NSGLG)、肺の腺癌、および肺の扁平上皮癌が含まれる)、腹膜のがん、肝細胞がん、胃がん(消化器がんが含まれる)、膵臓がん、膠芽腫、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝細胞癌、乳がん(転移性乳がんが含まれる)、大腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、唾液腺癌、腎臓がん、前立腺がん、甲状腺がん、肝癌、肛門癌、陰茎癌、精巣がん、食道がん、胆道の腫瘍のほか、頭頸部がんである。
【0101】
治療を必要とする個人は、少なくとも2つの測定可能な腫瘍を持っていてもよい。
【0102】
腫瘍には原発腫瘍が含まれていてもよい。
【0103】
腫瘍の少なくとも1つとして、原発腫瘍の転移性腫瘍または二次的腫瘍が可能である。二次的がんは、任意の臓器または組織、特に、相対的により大きな血行力学圧を持つ臓器または組織(肺、肝臓、腎臓、膵臓、腸、および脳など)に位置する可能性がある。
【0104】
一実施態様では、個人は、非扁平上皮非小細胞肺がん、黒色腫、腎細胞癌、メルケル細胞癌、頭頸部扁平上皮細胞癌からなるグループから選択された腫瘍を持つ。この実施態様では、個人は、がん免疫療法を最初に適用してから2週~52週の間、かつ第1~第5の側面の方法を実施する前に評価したとき、がん免疫療法に対して部分奏功であったことが好ましい。この実施態様では、個人に式1の化合物を投与し、がん免疫療法をさらに適用することができる。
【0105】
一実施態様では、個人は、がん免疫療法に対する応答を、がん免疫療法を最初に適用してから約2週、約3週、約4週、約5週、約6週、約7週、約8週、約9週、約10週、約11週、約12週、約13週、約14週、約15週、約16週、約17週、約18週、約19週、約20週、約21週、約22週、約23週、約24週、約25週、約26週、約27週、約28週、約29週、約30週、約31週、約32週、約33週、約34週、約35週、約36週、約37週、約38週、約39週、約40週、約41週、約42週、約43週、約44週、約45週、約46週、約47週、約48週、約49週、約50週、約51週、または約52週の時点で評価することができる。
【0106】
好ましい一実施態様では、個人は、がん免疫療法を最初に適用してから 2 週~12 週の間、またはその中の任意の時点、かつ第1~第5の側面の方法を実施する前に評価したとき、チェックポイント阻害剤療法に対して部分奏功であったことが好ましい。この実施態様では、個人に式1の化合物を投与し、さらにがん免疫療法を適用することができる。患者の評価と式1の化合物の投与は、がん免疫療法を最初に適用してから2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、または12週の時点でなすことができる。
【0107】
一実施態様では、個人は、前立腺がん、膵臓がん、神経芽腫、膠芽腫、肉腫、卵巣癌、乳がんからなるグループから選択された腫瘍を持つ。この実施態様では、個人は、 がん免疫療法を最初に適用してから2週~52週の間、かつ第1~第5の側面の方法を実施する前に評価したとき、がん免疫療法が奏功しなかった(すなわち安定な疾患を持つ)ことが好ましい。この実施態様では、がん免疫療法が継続され、その個人は式1の化合物を投与される。その個人が、がん免疫療法を最初に適用してから24 週以内、かつ第1~第5の側面の方法を実施する前に評価したときにがん免疫療法が奏功する進行性疾患を持っている場合には、がん免疫療法が継続され、その個人にさらに式1の化合物が投与される。
【0108】
がん免疫療法に対する完全奏功、または部分奏功、または奏功なしの評価は、本明細書の以下に記載されている方法に従って実施することができる。
【0109】
個人が、第1~第5の側面の方法を実施する前にがん免疫療法を適用されたことがない場合には、その個人でがん免疫療法が奏功する可能性を、式1の化合物とがん免疫療法を適用する前に評価または判断することができる。より具体的には、腫瘍の応答性は、腫瘍の組織学的表現型および/または免疫表現型を調べることによって予測することができる。免疫表現型に基づく選択は、腫瘍部位内の免疫細胞のタイプ、密度、および位置に基づいて腫瘍をがん免疫療法に対する応答しやすさへと層化することに従う。例えばFuereder T. 2019 MEMO 12:123-127を参照されたい。
【0110】
治療を必要とする対象に含まれるのは、良性、前がん性、または非転移性の腫瘍をすでに持つ対象のほか、がんの発生または再発を阻止すべき対象である。
【0111】
治療の目的または転帰として、がん細胞の数を減らすこと;原発腫瘍のサイズを小さくすること;末梢臓器へのがん細胞の浸潤を抑制すること(すなわちある程度鈍化させ、好ましくは停止させること);腫瘍の転移を抑制すること(すなわちある程度鈍化させ、好ましくは停止させること);腫瘍の増殖をある程度抑制すること;および/またはこの障害に伴う1つ以上の症状をある程度緩和することが可能である。
【0112】
治療の効果は、生存期間、疾患進行までの時間、奏功率(RR)、奏功の継続期間、および/または生活の質を評価することによって測定することができる。
【0113】
一実施態様では、本発明の方法は、疾患進行を遅延させるのに特に有用である。
【0114】
一実施態様では、本発明の方法は、ヒトの生存期間(全生存期間のほか、無増悪生存期間が含まれる)を延長させるのに特に有用である。
【0115】
一実施態様では、本発明の方法は治療に対する完全奏功を提供するのに特に有用であり、そのことによって治療が奏功するがんのあらゆる徴候が消失した。これは必ずしもがんが治癒したことを意味しない。
【0116】
一実施態様では、本発明の方法は治療に対する部分奏功を提供するのに特に有用であり、そのことによって治療が奏功して1つ以上の腫瘍または病変のサイズ、または体内のがんの広がりが減少した。
【0117】
「前がん性」または「前癌病変」は、一般に、典型的には進行または発達してがんになる状態または増殖を意味する。「前がん性」増殖は、異常な細胞周期調節、増殖、または分化を特徴とする細胞を持っている可能性があり、それは細胞周期のマーカーによって判断することができる。
【0118】
一実施態様では、がんは、前がん性であるか、前癌病変である。
【0119】
がんに「伴う状態または症状」として、がんの帰結として、がんに先行して、またはがんから進行して生じる任意の病状が可能である。例えばがんが皮膚がんである場合には、状態または関連する症状は微生物感染症である可能性がある。がんが二次的腫瘍である場合には、状態または症状は、腫瘍転移を持つ関連する臓器の臓器不全に関係する可能性がある。一実施態様では、本明細書に記載されている治療の方法は、個人における状態または症状で、その個人におけるがんと関係しているものの最小化または治療を目的とする。
【0120】
上記の実施態様では、本発明による方法は、腫瘍細胞に対する細胞傷害効果を通じて、さもなければ細胞複製を一般に抑制することにより、がん細胞の倍増時間を阻止するのに、さもなければ腫瘍の増殖を抑制するのに有用である可能性がある。
【0121】
第1~第5の側面の方法では、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルは、1日に400 mg~1日に2400 mgの範囲の用量で投与することができる。例えば式1の化合物、好ましくはイドロノキシルは、1日に400 mg、600 mg、800 mg、1200 mg、1600 mg、1800 mg、2000 mg、または2400 mgの用量で投与することができる。第1~第5の側面の方法では、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルは、治療に有効な任意の形態で投与することができ、その非限定的な例に含まれるのは、直腸、経口、静脈内、局所、膀胱内、または非経口の形態である。式1の化合物は座薬として投与することが好ましい。
【0122】
第1~第5の側面の方法では、がん免疫療法、好ましくはチェックポイント阻害剤は、治療に有効な任意の形態で投与することができ、その非限定的な例に含まれるのは、直腸、経口、静脈内、局所、膀胱内、または非経口の形態である。がん免疫療法は静脈内に適用することが好ましい。
【0123】
第1~第5の側面の方法では、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルは、がん免疫サイクルの継続期間(すなわち2週間、3週間、または4週間であるかどうか)に関係なく、すべてのサイクルの7~14日間にわたって与えることができる。
【0124】
第1~第5の側面の方法では、各サイクルとがん免疫における式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの投与のシークエンスは、以下のいずれかのようにすることができる:
- 式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの投与はがん免疫療法よりも前でなければならない、すなわち式1の化合物、好ましくはイドロノキシルは1日目~10日目に与え、がん免疫化合物は2日目に与えるべきである;または
- 式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの投与はがん免疫療法よりも前でなければならない、すなわち式1の化合物、好ましくはイドロノキシルは1日目~7日目または14日目に与え、がん免疫化合物は8日目に与えるべきである;または
- がん免疫化合物の投与は、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの投与よりも実質的に前でなければならない、すなわちがん免疫剤は1日目に与えられ、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルは8日目~14日目または17日目に与えられる;
- 式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの投与はがん免疫化合物の投与と実質的に同時である、すなわちがん免疫剤は1日目に与えられ、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルは1日目に与えられる。
【0125】
式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの投与が1日目~10日目になされ、がん免疫化合物が2日目に与えられる一実施態様では、11日目~14日目には治療がされないことが好ましい。この実施態様では、治療サイクルは2週間であることが好ましい。
【0126】
式1の化合物、好ましくはイドロノキシルの投与が1日目~10日目になされ、がん免疫化合物が2日目に与えられる別の一実施態様では、11日目~28日目には治療がされないことが好ましい。この実施態様では、治療サイクルは4週間であることが好ましい。
【0127】
(疾患進行以外の理由で)がん免疫治療を停止するという判断を下す場合には、式1の化合物、好ましくはイドロノキシルのサイクリングを疾患が進行するまで単剤療法として継続できることが好ましい。
【0128】
がん免疫療法の用量は、治療する医師が、その適応について製造者が推奨する範囲内で選択した用量でなければならない。
【0129】
本発明は、前記化合物とがん免疫療法を受けた個人の1つ以上の臓器または組織を評価してその個人における腫瘍の退縮を判断するさらなる工程を含むことができる。一実施態様では、この工程は、がん免疫療法を適用した後の対象における複数の腫瘍病変のそれぞれの位置と体積を求めるために放射線イメージングを利用する。例えばこれは、複数の腫瘍病変のそれぞれの地理的位置を記録している対象の三次元放射線画像を含むことができる。腫瘍病変の位置および/または体積を求めるのに使用できる放射線画像の非限定的な例に含まれるのは、ポジトロン放出トモグラフィ(PET)スキャン、X線コンピュータトモグラフィ(CT)、磁気共鳴イメージング(MRI)、核磁気共鳴イメージング(NMRI)、磁気共鳴トモグラフィ(MRT)、またはこれらの組み合わせである。
【0130】
一実施態様では、すべての腫瘍が退縮する。
【0131】
別の一実施態様では、1つ以上の腫瘍が消滅する。
【0132】
別の一実施態様では、すべての腫瘍が消滅する。
【0133】
いくつかの実施態様では、治療の評価は、以下のようにRECIST 1.0または1.1基準に従う:
【0134】
RECIST 1.0基準
【0135】
測定可能な疾患と測定不能な疾患の定義
【0136】
測定可能な疾患:少なくとも1つの測定可能な病変の存在。
【0137】
測定可能な病変:少なくとも1方向で正確に測定できる病変で、最大径(LD)が:
・従来の技術(医用写真[皮膚または口の病変]、触診、単純X線、CT、またはMRI)で20 mm以上、または
・吸引CTスキャンで10 mm以上。
【0138】
測定不能な病変:測定可能と見なすには小さすぎる病変(最長直径が従来の技術で20 mm未満、またはスパイラルCTスキャンで10 mm 未満)を含むあらゆる他の病変であり、その中に含まれるのは、骨病変、軟髄膜疾患、腹水、胸水または心嚢水、リンパ管炎/肺、イメージング技術によって確定・追跡されない腹部腫瘤、嚢胞性病変、または間接的な証拠(例えば検査値)だけによって立証された疾患である。
【0139】
測定の方法
【0140】
従来のCTとMRI:最小サイズの病変は、再構成間隔の2倍でなければならない。ベースラインの病変の最小サイズとして20 mmが可能だが、画像が最小10 mmで連続的に再構成されることが条件である。MRIが好ましく、使用するときには、病変は、その後の検査で同じイメージングシークエンスを用いて同じ解剖学的平面内で測定されねばならない。可能な場合には、同じスキャナを使用すべきである。
【0141】
スパイラルCT:ベースライン病変の最小サイズとして10 mmが可能だが、画像が連続的に5 mmの間隔で再構成されることが条件である。この仕様は、胸部、腹部、および骨盤の腫瘍に当てはまる。
【0142】
胸部X線:胸部X線での病変は、輪郭が明確で空気を含む肺によって囲まれているとき、測定可能な病変として受け入れることができる。しかしMRIが好ましい。
【0143】
臨床検査:臨床で検出された病変は、表面にあるとき(例えば皮膚結節と触知可能なリンパ節)だけ、RECIST基準によって測定可能と見なされよう。皮膚の病変の場合には、カラー写真(病変のサイズを見積もるため、視野内に定規と患者研究番号を含む)による立証が必要とされる。
【0144】
標的病変と非標的病変のベースライン評価
【0145】
関係のあるあらゆる臓器の代表として、最大で臓器1つにつき5個の病変まで、かつ合計して10個の病変のあらゆる測定可能な病変を標的病変として特定して記録し、ベースラインで測定すべきである。
【0146】
標的病変は、そのサイズ(LDを持つ病変)と、(臨床的に、またはイメージング技術による)その正確な反復測定に適していることに基づいて選択すべきである。
【0147】
あらゆる標的病変に関するLDの和が、ベースライン和LDとして計算されて報告されることになる。ベースライン和LDは、客観的な腫瘍応答を特徴づける基準として使用されることになる。
【0148】
あらゆる他の病変(または疾患の部位)は非標的病変として特定されねばならず、ベースラインとしても記録せねばならない。これらの病変の測定は必要とされないが、そのそれぞれの存在または不在を、追跡期間を通じて記録せねばならない。
【0149】
インジケータ病変の立証には、評価の日付、病変部位の記述、サイズ、および病変を追跡するのに利用した診断研究のタイプが含まれていなければならない。
【0150】
あらゆる測定は定規または測径器を用いてメートル法で実施して記録すべきである。
【0151】
効果判定基準
【0152】
疾患評価は、治療を開始した後は6週間ごとに実施せねばならない。しかし部分奏功または完全奏功を経験している対象は、少なくとも28日後に確定疾患評価をせねばならない。評価は、(スケジュールが許すとき)28日後の近傍で実施すべきだが、28日よりも前ではない。
【0153】
標的病変に関する効果評価のための定義は以下の通りである:
【0154】
標的病変の評価
【0155】
完全奏功(CR)- すべての標的病変の消失。
【0156】
部分奏功(PR)- ベースライン和LDを基準として採用したとき、標的病変のLDの和の少なくとも30%の減少。
【0157】
安定な疾患(SD)- 治療開始からの最小の和LD を基準として採用したとき、PRと評価するには十分な縮小ではなく、進行性疾患(PD)と評価するには十分な増加でもない。基準として採用する病変は、治療開始または1つ以上の新たな病変の出現から記録された最小の和LDである。
【0158】
非標的病変の評価
【0159】
非標的病変に関する客観的な腫瘍応答を判断するのに用いられる基準の定義は以下の通りである:
【0160】
完全奏功 - あらゆる非標的病変の消失。
【0161】
不完全奏功/安定な疾患 - 1つ以上の非標的病変の残存。
【0162】
進行性疾患 - 1つ以上の新たな病変の出現および/または既存の非標的病変の明確な増悪。
【0163】
RECISTに基づく応答に関する総合効果の評価
【0164】
総合効果は、治療の開始から疾患の進行/再発が立証されるまでに記録された最良の効果である。一般に、対象の最良効果の判定は、測定と確定の基準の両方の内容に依存するであろう。
【0165】
以下の表は、標的病変と非標的病変における腫瘍応答と、新たな病変の出現あり、またはなしの可能なあらゆる組み合わせに関する最良の総合効果を示している。
【0166】
【表1】
【0167】
注:その時点で疾患進行の客観的証拠がなくて健康状態が全体的に悪化し、治療の中断を必要とする対象は、「症状悪化」に分類すべきである。治療の中断後でさえ、客観的な進行を立証するため全力を尽くすべきである。
【0168】
いくつかの状況では、残存している疾患を正常な組織から識別することが困難である可能性がある。完全奏功の評価がこの判断に依存するときには、残存している病変を調べて(細針吸引/生検)完全奏功状態を確定することが推奨される。
【0169】
確定基準
【0170】
PRまたはCRの状態に割り当てるためには、確定疾患評価を、効果に関する基準が最初に満たされてから28日以内に実施すべきである。
【0171】
SDの状態に割り当てるためには、追跡測定が、研究に参加した後に少なくとも12週間の間隔で少なくとも1回、SD基準を満たしていなければならない。
【0172】
式1の化合物、好ましくはイドロノキシルを製剤化し、治療に有効な量の式1の化合物、好ましくはイドロノキシルと、医薬として許容可能な基剤を含んでいて許容できる任意の経路による投与に適した医薬組成物を形成することができる。式1の化合物、好ましくはイドロノキシル、またはそれを含む医薬組成物は、経口、直腸、非経口、注射、または他の経路によって与えることができる。第1~第5の側面の一実施態様では、式1の化合物、好ましくはイドロノキシル、またはそれを含む医薬組成物は、座薬の形態で直腸に投与される。例えばWO2017/173474を参照されたい。
【0173】
RECIST 1.1基準
【0174】
RECIST 1.1基準は、以下に示すいくつかの定義が更新された点を除き、RECIST 1.0基準と同じである。
【0175】
評価すべき病変の数:合計で最大5つ、かつ臓器1つにつき最大で2つ。
【0176】
疾患の進行:標的疾患の進行の定義における20%増加に加えて5 mmの絶対的増加。
【0177】
測定可能な疾患と測定不能な疾患の定義の違い
【0178】
測定可能な病変:少なくとも1つの方向で正確に測定できる病変で、最大径(LD)が:
・胸部X線で20 mm以上、
・臨床検査によって測径器測定で10 mm以上、または
・CT/MRIスキャンで10 mm以上(CTスキャンのスライス厚は5 mm以下、またはスライス厚が5 mm超である場合には2×スライス厚)。
【0179】
測定不能な病変:測定可能と見なすには小さすぎる病変(最大径が胸部X線で20 mm未満、測径器で10 mm未満、または測径器で正確に測定できない病変、またはCTまたはMRIスキャンで10 mm未満)を含むあらゆる他の病変であり、その中に含まれるのは、骨病変、軟髄膜疾患、腹水、胸水または心嚢水、リンパ管炎/肺、イメージング技術によって確定・追跡されない腹部腫瘤、嚢胞性病変、または間接的な証拠(例えば検査値)だけによって立証された疾患である。
【0180】
PETは、主にPDに関してCTをサポートする(新たな病変の検出)か、CRの確定となると考えることができる。
【0181】
部分奏功(PR)から完全奏功(CR)への確定は、ORR(客観的奏功率)が重要なエンドポイントである非無作為試験についてだけ必要とされる。
【0182】
生物での実施例
【0183】
実施例1
【0184】
スフェロイド形成
【0185】
3Dの腫瘍スフェロイドを生成させるため、培地の中の細胞懸濁液200μl/ウエルに20,000細胞/ウエルの細胞密度で播種した。NPC (C17/NPC43+ve) 細胞をNunclon Sphera 96ウエルのプレート(Thermo Fisher Scientific社)に供給した。Nunclon Spheraの表面は細胞の付着が最少になるように設計されていて、プレート表面への細胞外マトリックスタンパク質の結合が最少である。プレートを、FBSとROCK阻害剤を補足したRPMIの中で、37℃かつ5%CO2にてインキュベートした。
【0186】
スフェロイド浸潤細胞フローサイトメトリー染色
【0187】
フローサイトメトリー分析のため、8つのウエル/状態で播種した。最初に8つの共培養物ウエルをエッペンドフルチューブの中にプールすることによってOUT区画とIN区画を分離した。スフェロイドをやさしく再懸濁させ、放置してチューブの底に沈殿させた。上清細胞懸濁液が非浸潤免疫細胞(=OUT)を構成した。これらの工程をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回繰り返し、非浸潤免疫細胞からスフェロイドを分離した。スフェロイドをその後トリプシンで処理して単一細胞懸濁液(=IN)を取得し、フローサイトメトリーによってさらに分析した。
【0188】
統計
【0189】
2つの群を比較するとき、定量変数の差をMann-Whitney U検定によって分析した。p値が0.05未満を統計的に有意であるとした。
【0190】
イドロノキシル処理は、腫瘍細胞のアポトーシスと、鼻咽頭がん細胞系由来スフェロイドの中の腫瘍浸潤細胞を増加させる
【0191】
生体内条件を模倣するため、三次元(3D)腫瘍培養物を用いてNPC細胞に対するイドロノキシルの細胞毒性を調べた。アポトーシスに対するイドロノキシルの濃度増加の効果を、蛍光プローブ(非毒性のCellEvent Caspase-3/7 GreenとLysoTracker Deep Red)に、継続的なリアルタイムのスフェロイドイメージングを実施するための明視野顕微鏡法を組み合わせてモニタした。CellEvent で染色したC17スフェロイドの強度はイドロノキシルの濃度に比例することが見いだされた。LysoTrackerをスフェロイドに添加したとき、染色パターンはCellEventの染色パターンと相補的であり、LysoTracker は、スフェロイドの外側のおそらく代謝的に活性な層に常に蓄積した。3D「CellEvent」における薬の効果を測定し、用量-応答曲線を構築して2.1μMのイドロノキシルに関するIC50値を求めるのに利用した。結局、IC50値は、3D条件と2D条件のスフェロイド由来細胞で同等であった。
【0192】
実施例2
【0193】
異型共培養を通じて腫瘍スフェロイドとPBMCの間の相互作用を調べた。スフェロイドは、可能な場合にはいつでもHLAが合致した健康なドナーから得られたPBMCとともに培養したNPC細胞系から生成した。共培養の後、腫瘍へのリンパ球の浸潤と、腫瘍細胞のアポトーシスを測定した。浸潤する細胞(IN)と培地の中に残っている細胞(OUT)を機械的に分離することにより、浸潤を受けた腫瘍スフェロイド内の細胞組成を調べた。共培養実験プロトコルの説明が図1に示されている。
【0194】
処理によって腫瘍スフェロイドへのPBMC浸潤の増加が実験を開始してから2時間という初期に検出されたのに対し、浸潤された細胞の数は、72時間の共培養の間、対照(DMSO)において一定であった。腫瘍スフェロイドへのPBMCの浸潤はイドロノキシル処理によって時間経過とともに増加することが見いだされた。イドロノキシル処理は、スフェロイドへのPBMCの流入を有意に増加させた。さらに、CellEvent染色を共培養物に対して実施してアポトーシスの誘導を確認し、スフェロイド浸潤が腫瘍細胞における活性なアポトーシスプロセスに比例することを観察した。
【0195】
イドロノキシルで条件づけられた腫瘍細胞はPBMCを活性化し、それが今度はケモカイン勾配の影響下で腫瘍に浸潤する。インビトロでNPC細胞系をイドロノキシルに曝露するとT細胞ケモカインCXCL8、9、および10が発現することが、この仮説を支持している。中和抗体を腫瘍スフェロイドクラスターに添加した。化学誘引物質の1つであるCXCL10を阻害すると、イドロノキシルによって誘導されるPBMCの移動が有意に減少した。これらの実験が合わさって、イドロノキシルは腫瘍の増殖を停止させるだけでなく、T細胞化学誘引物質の発現も誘導し、そのことによってT細胞浸潤を増強し、おそらくは腫瘍の殺傷をさらに増加させることを実証している。
【0196】
実施例3
【0197】
イドロノキシルを投与すると、T細胞浸潤物において活性化とホーミングのマーカーの差次的発現が誘導される。活性化された/メモリT細胞はイドロノキシル処理によって腫瘍スフェロイドに浸潤することができる。
【0198】
これらの知見は、イドロノキシルの使用が免疫調節応答を誘導することと、従来の化学療法との組み合わせで抗腫瘍免疫を増強することを支持している。スフェロイドのCD3+細胞の集団INとOUTを比較することにより、本発明の発明者らは、イドロノキシル処理によって腫瘍構造の中に二重陽性(DP)T細胞が有意に増加することを観察した(図2)。それに加え、腫瘍に浸潤するDP T細胞は、対照と比べてCD62L発現の顕著な減少を示したが、CCR7発現はそうでなかった。これは、DP T細胞がイドロノキシル処理の後のスフェロイド浸潤に向けて特に有利であった可能性があることを示唆している。共培養物をイドロノキシルで処理した後のCD3/CD4/CD8+ T細胞に関するゲーティング分析を通じ、浸潤するDP T細胞は、対照と比べてCD45RO+ CD27+メモリ細胞の割合の減少と、CD45RO- CD27+ナイーブ細胞の割合の増加を示した。最後に、本発明の発明者らは、上記の知見に加え、全浸潤メモリ細胞においてDMSO対照と比べてPD1+の発現が有意に減少していることを検出した(平均値48.57±5.117対 平均値62.06±3.066;p=0.0086;図3)。それとは対照的に、イドロノキシル処理によって浸潤されたナイーブ細胞ではDMSOと比べてPD1+の発現が有意に上方調節されることが見いだされた(平均値62.10±7.049 vs.平均値43.57±3.870;p=0.0017)。これらの結果は、イドロノキシル処理によってDPメモリT細胞が、弱い疲弊プロファイルを持つスフェロイドに浸潤しやすくなることを示している。
【0199】
腫瘍細胞スフェロイドの生成
【0200】
液体オーバーレイ技術を利用してスフェロイドを生成させた。そこで96ウエルの細胞培養プレート(Greiner社)を1.5%(w/v)のアガロースであらかじめ被覆した。その目的で、0.75 gのアガロースを50 mlのPBSの中に希釈し、圧力鍋の中で最大圧力にて15分間沸騰させた後、最低圧力のレベルでさらに10 分間沸騰させた。50μlのアガロース溶液を96ウエルのプレートの各ウエルに添加し、RTで放置して冷やした(細胞培養ベンチで)。腫瘍細胞をトリプシン処理し、培地 (RPMI 1640、10%のFCS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン)の中で25.000 細胞/mlの細胞懸濁液となるように調節した。96ウエルのプレートの外側のウエルにPBSを満たし、残りのウエルに200μlの細胞懸濁液を満たした。プレートを500×g、5 分間、RTで遠心分離することによって細胞の凝集を開始させた。次いでプレートをインキュベータ(37℃、湿潤雰囲気)の中に5日間維持した。培地を2日ごとに注意深く吸引することによって交換した。スフェロイドのサイズはCarl Zeiss Axiovert顕微鏡を用いて取得し、直径はAxioVision 40ソフトウエアを用いて求めた。
【0201】
PMBC単離
【0202】
PBMCを、Bicoll-Hypaque勾配を利用してバッフィーコート(DRK-Blutspendedients Baden-Wurtemberg-Hessen、Institut fur Transfusionsmedizin und Immunhamatologie、フランクフルト・アム・マイン、ドイツ国)から単離した。バッフィーコート1つにつき2つの50 mlのLeukosep(登録商標)チューブ(Greiner社)に15 mlのリンパ球分離培地(Sigma Aldrich社)を満たし、1000×g、1分間、RTで遠心分離し、この溶液を膜の下に置いた。その後、中断なく、バッフィーコートからの30 mlのヒト血液を添加し、チューブにPBS/2mMのEDTA溶液を50 mlまで満たし、500×g、45分間、RT で遠心分離した。密度勾配遠心分離の後、単核細胞からなる中間白色層を新たな殺菌した50 mlのチューブに移し、PBS/2mMのEDTAで2回洗浄した。RBC溶解(RBC溶解バッファ:135 mMのNH4Cl、10 mMのNaHCO3、0.1 mMのEDTA;PBSを用い、RTで4分間にわたって停止)の後、細胞をRPMI 1640培地(+10%のFCS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン)の中に2×106細胞/mlで希釈した。
【0203】
スフェロイドPMBCの共培養と分析
【0204】
PBMCを25μl/mlのCD3/CD28 T細胞アクチベータカクテル(StemCell Technologies社)で活性化させ、50.000個のあらかじめ活性化させたPBMC/ウエルをスフェロイドに添加した。その後、共培養物を1μMまたは10μMのイドロノキシルまたはDMSOで3日間刺激した。3日後、サンプルを下流分析のために回収するか、1μMまたは10μMのイドロノキシルまたはDMSO±10μg/mlの抗PD-1抗体(BioXCell社)またはアイソタイプ対照でさらに3日間にわたって再処理した。スフェロイドのサイズはCarl Zeiss Axiovert顕微鏡を用いて取得し、直径はAxioVision 40ソフトウエアを用いて求めた。各群の5個のスフェロイドをFACSチューブ(BD Biosciences社)に移すことによってスフェロイドを回収した後、遠心分離した(500×g、5分間、4℃)。上清を除去した後、100μlのAccutase(Sigma Aldrich社)をスフェロイドに添加し、それに続けて37℃で15分間インキュベートした後、100μlのフィルタピペットチップを用いたピペット操作を通じて細胞懸濁液を繰り返して剪断することによって単一細胞懸濁液を生成させた。遠心分離(500×g、5分間、4℃)と上清除去の後、細胞を、80μlの0.5%BSA/PBSと2μlのFcR-ブロッキング試薬(Miltenyi Biotec社)を用いて氷の上で15 分間ブロックした。その後、細胞を、暗所にてナイスの上で、抗ヒトCD4 PE-CF594抗体、抗ヒトCD8 APC-H7抗体、抗ヒトTCRab FITC抗体、抗ヒトCD33 BV510抗体、抗ヒトCD45 AF700抗体、抗ヒトCD279 APC抗体、および抗ヒトCD274 BV421抗体(それぞれBD Biosciences社から)からなる抗体ミックスで20分間染色した。細胞を500μlのFACS Flow(BD Biosciences社)で洗浄した後、300μlのFACS Flowの中に再懸濁させ、20μlのAbsolute Count Standard(Bangs Laboratory社)を各サンプルに添加し、LSR II/Fortessaフローサイトメータ(BD Biosciences社)を用いてサンプルを獲得した。すべての抗体をあらかじめ滴定して最適な濃度を求めてあった。抗体捕獲CompBeads(BD Biosciences社)を用いて多色パネル補償マトリックスを作成した。ゲーティングのため、Fluorescence Minus One(FMO)対照および/またはアイソタイプ対照を使用した。Cytometer Setup and Tracking(CST)ビーズを用いて装置の較正を毎日制御・調節した。FACSデータを分析するためFlow Jo V10を使用した。統計処理は、GraphPad Prism V8を用いて実施した。
【0205】
MCF-7乳癌とA549肺腺癌の細胞の腫瘍3Dスフェロイドを(10,000個の細胞から開始して)5日間増殖させた。5日目、細胞にPBMC(50.000個、抗CD3/CD28ビーズであらかじめ活性化させたもの)を浸潤させ、DMSOまたはイドロノキシル(1μMまたは10μM)で処理した。さらに3日後、細胞の2回目の処理を、DMSO、またはイドロノキシル(1μMまたは10μM)だけ、またはイドロノキシルと抗PD1抗体の組み合わせを用いて実施した。スフェロイドの形態を顕微鏡法で調べ、細胞数細胞数(腫瘍細胞と免疫細胞サブセット)とPDL1/PD1の発現を、CD45、CD33(骨髄細胞)、CD3、CD4、CD8、PD1、PDL1のFACSパネルについて、FACSを利用して測定した。
【0206】
処理プロトコルの3日目のMCF-7スフェロイドにおけるイドロノキシル処理で3Dスフェロイドのサイズが小さくなるとともに、免疫活性化(クラスター形成)が誘導または維持された。スフェロイドは、免疫細胞のコロナに取り囲まれた腫瘍細胞のクラスターとして出現した。それが図4に示されている。FACS測定から、3日目のMCF-7スフェロイドに対する10μMのイドロノキシル処理が骨髄細胞の数を減少させ、CD4+ T細胞上のPD1 の発現と骨髄細胞上のPDL1の発現を低下させることが明らかになる(図5)。
【0207】
処理プロトコルの6日目、10μMのイドロノキシルで処理されたMCF-7 細胞は3Dスフェロイドのサイズが小さくなった。クラスター形成を示したスフェロイドは、細胞の免疫機能が維持されることを示した。スフェロイドは、免疫細胞のコロナに取り囲まれた腫瘍細胞のクラスターとして出現した(図6)。
【0208】
処理プロトコルの6日目におけるMCF-7スフェロイドに関するFACS測定(図7)は、10μMのイドロノキシルを用いた処理が腫瘍細胞の数を減らすことを実証している。これは、抗PD1処理によって増強される。1μMのイドロノキシル+抗PD1は骨髄細胞の数を減らし、イドロノキシルは一般に骨髄細胞によるPDL1の発現を強く低下させた。イドロノキシルは、特に10μMで、CD4+T細胞とCD8+ T細胞の両方の表面におけるPD1の発現を低下させる。
【0209】
プロトコルの3日目におけるA549スフェロイドのイドロノキシル評価(図8)は、10μMのイドロノキシルが3Dスフェロイドのサイズを小さくすることと、10 μMのイドロノキシルを用いた処理が免疫活性化(クラスター形成)を誘導または維持することを示した。スフェロイドは、免疫細胞のコロナによって取り囲まれた腫瘍細胞のクラスターとして出現した。FACS測定(図9)は、10 μMのイドロノキシルを用いた処理が、CD8+ T細胞の表面でのPD1の発現と、骨髄細胞の表面でのPDL1の発現を減らすことを示した。
【0210】
処理プロトコルの6日目、A549スフェロイドは異なる外観を持ち、腫瘍細胞のゆるいクラスターに見えた(図10);アガロースの中に侵入し、免疫細胞のコロナによって相変わらず取り囲まれていた。1μMのイドロノキシルを用いた処理は3Dスフェロイドのサイズを小さくし、10μMのイドロノキシルを用いた処理は細胞のサイズと侵入を減少させた(安定化された球形の外観によって証明される)。10μMのイドロノキシルは免疫活性化(クラスター形成)を維持する。イドロノキシルの処理を受けた細胞とイドロノキシル+抗PDIの処理を受けた細胞の間に外見の明らかな変化は存在していなかった。
【0211】
処理プロトコルの6日目におけるA549スフェロイドのFACS測定(図11)は、PBMCが一般に腫瘍細胞の数を減らすが、それは対照条件での抗PD1処理によって、または10μMでの処理で増大することを示した。10μMのイドロノキシルは免疫細胞浸潤物を増加させ、骨髄細胞は、抗PD1処理により、単独のイドロノキシルでの処理と比べてさらに増加した。10μMのイドロノキシルを用いた処理は、CD4+ T細胞上とCD8+ T細胞上の両方のPD1の発現のほか、骨髄細胞上のPDL1発現を低下させる。
【0212】
まとめると、イドロノキシルはPD1とPDL1の発現を低下させ、そのことによってそれ自体が免疫原性であることが見いだされた。抗PD1処理は、10μMのイドロノキシルで処理するときに腫瘍の殺傷を増加させ;A549スフェロイドにおいて10μMのイドロノキシルは浸潤を阻止し、免疫浸潤物はイドロノキシルによって変化するが、その方向は腫瘍特性に依存する。
【0213】
臨床例
【0214】
実施例4
【0215】
多くの臨床医が、患者を、明らかな進行性疾患であるにもかかわらずチェックポイント阻害剤またはIO薬で治療している。これらの患者はその後3つのパターンに従う:
・超進行、すなわち非常に急速な進行。これはより一般には偽進行であり、70歳超の年齢と関係している
・偽進行、すなわち最初は20%超の腫瘍増殖を示すにもかかわらず、その後は優れた奏功をする(部分奏功または完全奏功)。これらの患者はより若い傾向があり、全腫瘍量がより少ない。
・他の進行者 - 彼らは時間経過とともにゆっくりと上方に向かう回り道をある程度続ける。
【0216】
早期に(治療を開始してから約12週で)進行しない患者では:
・ほとんどはある時点で部分奏功が得られ:
・そのほとんどが24週以内にそうなり
・より小さな群は進む方向が定まらず、安定に留まるか、1年以上後に(控えめに)部分奏功へと変わる
・非常に少数で完全奏功が得られる。
【0217】
明確な全生存期間延長の差が明らかであり、12 週間以内にベースラインからの進行性疾患がない個人は、12週間以内に進行性疾患であることが明確になる個人と比べて有利である。
【0218】
実施例5
【0219】
1人の個人が転移性の去勢抵抗性前立腺がんを有する。この腫瘍は、抗PD-1抗体療法の奏功性が悪いことを示す免疫マーカープロファイルを示している。この個人は以前にIO薬を用いて治療されたことがない。この個人にイドロノキシルを毎日800 mgの用量で7日の期間にわたって与え、350 ng/mlというイドロノキシルの血漿濃度を確立する。次いでこの個人に抗PD-1抗体を製品情報に従って投与する。投与サイクルを2回繰り返し、この個人で抗PD-1療法の奏功を評価する。
【0220】
実施例6
【0221】
1人の個人が進行した黒色腫を持っており、安定な疾患を持つとして抗CTLA-4 抗体の最初の投与から12週の時点で評価がなされたが、部分奏功が実現されていない。この個人にイドロノキシルを毎日800 mgの用量で7日の期間にわたって与え、350 ng/mlというイドロノキシルの血漿濃度を確立する。次いでこの個人に抗CTLA-4 抗体を製品情報に従って投与する。投与サイクルを2回繰り返し、この個人で抗CTLA-4 療法の奏功を評価する。
【0222】
実施例7
【0223】
1人の個人が固形腫瘍を持っており、PD-1阻害剤抗体、好ましくはニボルマブの最初の投与から少なくとも2週間で評価がなされたが、このPD-1阻害剤抗体での奏功なし、または部分奏功である。
【0224】
あるいは1人の個人が、PD-1抗体、好ましくはニボルマブで部分奏功が得られるか、奏功がない可能性が大きいと評価された腫瘍を持っているか、そのような腫瘍を持つことが疑われており、この個人にはPD-1抗体が投与されたことがない。
【0225】
一実施態様では、前記個人に、毎日1200 mgの用量のイドロノキシルを10日の期間にわたって与える。この個人に240 mgのニボルマブを2日目に静脈内投与する。11日目~14日目、この個人はイドロノキシルまたはニボルマブの治療を受けない。治療サイクルは2週間である。この個人でニボルマブ療法の奏功を評価する。
【0226】
別の一実施態様では、前記個人に、毎日1200 mgの用量のイドロノキシルを10日の期間にわたって与える。この個人に480 mgのニボルマブを2日目に静脈内投与する。11日目~28日目、この個人はイドロノキシルまたはニボルマブの治療を受けない。治療サイクルは4週間である。この個人でニボルマブ療法の奏功を評価する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】