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特表2022-541265IRAK4阻害剤として有用なピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジニル化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(54)【発明の名称】IRAK4阻害剤として有用なピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジニル化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/14 20060101AFI20220914BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 5/16 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220914BHJP
   C12N 9/99 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220914BHJP
【FI】
C07D487/14 CSP
A61K31/5025 ZNA
A61P29/00
A61P37/06
A61P35/00
A61P1/04
A61P11/06
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P37/02
A61P13/12
A61P17/00
A61P17/06
A61P25/00
A61P25/04
A61P29/02
A61P5/16
A61P19/06
A61P43/00 111
C12N9/99
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502994
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(85)【翻訳文提出日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 US2020042252
(87)【国際公開番号】W WO2021011727
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】62/875,567
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.BRIJ
3.SPAN
(71)【出願人】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【弁理士】
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【弁理士】
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ホン
(72)【発明者】
【氏名】ハインズ,ジョン
【テーマコード(参考)】
4C050
4C086
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050BB05
4C050CC04
4C050DD02
4C050EE04
4C050FF10
4C050GG04
4C050HH04
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA07
4C086ZA08
4C086ZA59
4C086ZA68
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB05
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB15
4C086ZB26
4C086ZC06
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、式(I)
ここで、R1、R2、R3、およびR4は明細書にて定義される化合物、またはその塩あるいはプロドラッグを開示する。また、上記化合物をIRAK4調節剤として用いる方法および上記化合物を含む医薬組成物を開示する。これらの化合物は、炎症性疾患および自己免疫疾患の治療、予防、または遅延、またはがんの治療に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
R1は、-NHR1aまたは-NHCH2R1aであり;
R1aは、C4-6シクロアルキル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、またはアゼパニルであり、それぞれF、Cl、-OH、-CN、C1-3アルキル、C1-2フルオロアルキル、-C(O)(C1-3アルキル)、-C(O)O(C1-3アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-3アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換され;
R2は、
(i) F、Cl、-OH、および-CNから独立して選択される0~4個の置換基で置換されたC1-6アルキル;または
(ii) C3-6シクロアルキル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、およびピラゾリルから選択される環状基であり、ここで環状基は、F、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1-2フルオロアルキル、およびC1-2ヒドロキシアルキルから独立して選択される0~3個の置換基で置換され;
R3は、フェニル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、ピリジニル、ピリジノニル、またはピリミジニルであり、それぞれF、Cl、-OH、-CN、C1-2アルキル、-CF3、および-CH2OHから選択される0~3個の置換基で置換され;
各R4は、独立して、F、Cl、-CH3、または-CNであり;
各Rxは、水素または-CH3であり;および
nは、0、1、または2である]
の化合物またはその塩あるいはプロドラッグ。
【請求項2】
式中、
R1aが、C5-6シクロアルキル、ピロリジニル、またはピペリジニルであり、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換され;
R2が、F、Cl、-OH、および-CNから独立して選択される0~3個の置換基で置換されたC1-3アルキルであり;
R3が、フェニル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、ピリジニル、またはピリミジニルであり、それぞれF、Cl、-OH、-CN、-CH3、-CF3、および-CH2OHから選択される0~2個の置換基で置換され;および
nが、0または1である、請求項1に記載の化合物またはその塩あるいはプロドラッグ。
【請求項3】
式中、
R1が、-NHR1aまたは-NHCH2R1aであり;
R1aが、シクロヘキシルまたはピペリジニルであり、それぞれ-CH3、-C(O)CH3、-C(O)OCH3、および-NHC(O)OCH3から選択される0~1個の置換基で置換され;
R2が、-CH(CH3)2であり;
R3が、ピリジニルであり;および
nが、0である、請求項1に記載の化合物またはその塩あるいはプロドラッグ。
【請求項4】
式中、R1aが、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換されたC5-6シクロアルキルである、請求項1に記載の化合物またはその塩あるいはプロドラッグ。
【請求項5】
式中、R1aが、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換されたピロリジニルまたはピペリジニルである、請求項1に記載の化合物またはその塩あるいはプロドラッグ。
【請求項6】
化合物が、以下:
1-イソプロピル-N-(ピペリジン-4-イルメチル)-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(1);
4-(((1-イソプロピル-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)メチル)ピペリジン-1-カルボン酸メチル(2);
1-イソプロピル-N-(ピペリジン-4-イルメチル)-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(3);
4-(((1-イソプロピル-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)メチル)ピペリジン-1-カルボン酸メチル(4);
1-イソプロピル-N-((1-メチルピペリジン-4-イル)メチル)-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(5);
(4-((1-イソプロピル-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)シクロヘキシル)カルバミン酸メチル(6);
(4-((1-イソプロピル-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)シクロヘキシル)カルバミン酸メチル(7);
1-(4-((1-イソプロピル-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)ピペリジン-1-イル)エタン-1-オン(8);および
1-イソプロピル-N-(ピペリジン-4-イル)-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(9)
から選択される、請求項1に記載の化合物またはその塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の1以上の化合物および医薬的に許容される担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項8】
治療に用いるための、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物またはその塩、または請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
炎症性疾患、自己免疫疾患、またはがんの治療における、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物またはその塩、または請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
疾患が、クローン病、潰瘍性大腸炎、喘息、移植片対宿主病、同種移植片拒絶反応、慢性閉塞性肺疾患、バセドウ病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、皮膚ループス、乾癬、クリオピリン関連周期熱症候群、TNF受容体関連周期性症候群、家族性地中海熱、成人スティル病、全身型若年性特発性関節炎、多発性硬化症、神経障害性疼痛、痛風、および痛風性関節炎から選択される、請求項9に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2019年7月18日出願の米国仮出願番号第62/875,567号に対する優先権を主張するものであって、その全てを参照により本明細書に組み込むものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は概して、IRAK4の調節などのキナーゼ阻害剤として有用なピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジニル化合物に関する。ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジニル 化合物、該化合物を含む組成物、およびそれらの使用方法を提供する。さらに本発明は、キナーゼ調節に関連する症状の治療に有用な、本発明に記載の化合物を少なくとも1つ含む医薬組成物およびキナーゼ活性(哺乳動物におけるIRAK4など)を阻害する方法に関する。
【0003】
Toll/IL-1受容体ファミリーメンバーは、炎症および宿主抵抗における重要な調節因子である。Toll様受容体(TLR)ファミリーは、感染性生物(例えば細菌、真菌、寄生生物、およびウイルス)に由来する分子パターンを認識する(Kawai, T. et al., Nature Immunol., 11:373-384 (2010)のレビュー)。受容体に結合するリガンドは、Toll/IL-1受容体(TIR)ドメインと呼ばれる受容体中に保存されている細胞質モチーフに対してアダプター分子の二量体化およびその招集を誘導する。TLR3以外の全てのTLRはアダプター分子、MyD88を招集する。また、IL-1受容体ファミリーは細胞質TIRモチーフも含み、リガンド結合の際にMyD88を招集する(Sims, J.E. et al., Nature Rev. Immunol., 10:89-102 (2010)のレビュー)。
【0004】
セリン/トレオニンキナーゼのIRAKファミリーメンバーは、MyD88との相互作用を介してその受容体に集められる。ファミリーは、4つのメンバーから構成されている。いくつかの一連の証拠によって、IRAK4はMyD88依存性TLRおよびIL-1Rファミリーメンバーを介したシグナル伝達の開始において重要かつ必須の役割を担っていることが示された。構造データでは、IRAK4が直接MyD88と相互作用し、次にIRAK1またはIRAK2のいずれかを受容体複合体に召集し、下流のシグナル伝達を円滑にすることが確認されている(Lin, S. et al., Nature, 465:885-890 (2010))。IRAK4は直接IRAK1をリン酸化し、E3ユビキチンリガーゼTRAF6への下流のシグナル伝達を円滑に行い、その結果セリン/トレオニンキナーゼTAK1が活性化し、その後、NFκB経路およびMAPKカスケードが活性化する(Flannery, S. et al., Biochem. Pharmacol., 80:1981-1991 (2010))。ヒト患者の一部は、IRAK4の発現が欠損していることが確認されている(Picard, C. et al., Science, 299:2076-2079 (2003))。これらの患者の細胞は、TLR3以外の全てのTLRアゴニストならびにIL-1βおよびIL-18などのIL-1ファミリーメンバーに応答しない(Ku, C. et al., J. Exp. Med., 204:2407-2422 (2007))。マウスにおけるIRAK4の欠失は、IL-1、IL-18およびTLR3以外の全てのTLR依存応答を著しく阻害する結果となった(Suzuki, N. et al., Nature, 416:750-754 (2002))。これに対し、IRAK1(Thomas, J.A. et al., J. Immunol., 163:978-984 (1999); Swantek, J.L. et al., J. Immunol., 164:4301-4306 (2000))またはIRAK2(Wan, Y. et al., J. Biol. Chem., 284:10367-10375 (2009))のいずれかの欠失は、シグナル伝達が部分的に消失する結果となった。さらに、IRAK4は、そのキナーゼ活性が、シグナル伝達の開始に必要であることが示されている、IRAKファミリーのうちの唯一のメンバーである。マウスゲノム中の野生型IRAK4をキナーゼ不活性変異体(KDKI)に置換すると、IL-1、IL-18およびTLR3以外の全てのTLRを含む全てのMyD88依存性受容体を介したシグナル伝達が弱められた(Koziczak-Holbro, M. et al., J. Biol. Chem., 282:13552-13560 (2007); Kawagoe, T. et al., J. Exp. Med., 204:1013-1024 (2007);およびFraczek, J. et al., J. Biol. Chem., 283:31697-31705 (2008))。
【0005】
野生型の動物と比較して、IRAK4がKDKIのマウスモデルでは、多発性硬化症(Staschke, K.A. et al., J. Immunol., 183:568-577 (2009))、関節リウマチ(Koziczak-Holbro, M. et al., Arthritis Rheum., 60:1661-1671 (2009))、アテローム性動脈硬化症(Kim, T.W. et al., J. Immunol., 186:2871-2880 (2011)およびRekhter, M. et al., Biochem. Biophys. Res. Comm., 367:642-648 (2008))、および心筋梗塞(Maekawa, Y. et al., Circulation, 120:1401-1414 (2009))の疾患の重症度が著しく減少した。上述の通り、IRAK4阻害剤はMyD88依存性シグナル伝達を全て阻害する。MyD88依存性TLRは、多発性硬化症、関節リウマチ、心血管 疾患、メタボリック症候群、敗血症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(例えばクローン病および潰瘍性大腸炎)、自己免疫性ブドウ膜炎、喘息、アレルギー、I型糖尿病、および同種移植片拒絶反応の病因に寄与することが示された(Keogh, B. et al., Trends Pharmacol. Sci., 32:435-442 (2011); Mann, D.L., Circ. Res., 108:1133-1145 (2011); Horton, C.G. et al., Mediators Inflamm., Article ID 498980 (2010), doi:10.1155/2010/498980; Goldstein, D.R. et al., J. Heart Lung Transplant., 24:1721-1729 (2005);およびCario, E., Inflamm. Bowel Dis., 16:1583-1597 (2010))。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫における発がん活性MyD88変異は、IRAK4阻害に敏感であることが確認されている(Ngo, V.N. et al., Nature, 470:115-121 (2011))。また、全ゲノムシークエンシングでは慢性リンパ性白血病に関するMyD88の変異も確認しており、IRAK4阻害剤は、白血病の治療にも有用であり得ることを示唆している(Puente, X.S. et al., Nature, 475:101-105 (2011))。
【0006】
TLRシグナル伝達の阻害に加え、IRAK4阻害剤はIL-1ファミリーメンバーによるシグナル伝達も阻害する。IL-1の中和は、複数の疾患、例えば、痛風;痛風性関節炎;2型糖尿病;自己炎症性疾患(クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、家族性地中海熱(FMF)、成人スティル病など);全身型若年性特発性関節炎;脳卒中;移植片対宿主病(GVHD);くすぶり型多発性骨髄腫;再発性心膜炎;骨関節症;気腫に対して有効であると示されている(Dinarello, C.A., Eur. J. Immunol., 41:1203-1217 (2011)およびCouillin, I. et al., J. Immunol., 183:8195-8202 (2009))。アルツハイマー病のマウスモデルにおいて、IL-1受容体の阻害により、認知障害が改善し、タウ病理が減少し、アミロイドβオリゴマーが減少した(Kitazawa, M. et al., J. Immunol., 187:6539-6549 (2011))。また、IL-1は、適応免疫と密接に関係し、TH17エフェクターT細胞の一部の分化を活発化することが示されている(Chung, Y. et al., Immunity, 30:576-587 (2009))。それ故、IRAK4阻害剤は、TH17が関連する多発性硬化症、乾癬、炎症性腸疾患、自己免疫性ブドウ膜炎、および関節リウマチなどの疾患に対して有効であることが予測されている(Wilke, C.M. et al., Trends Immunol., 32:603-661 (2011))。
【0007】
症状がタンパク質キナーゼの調節などの治療により改善され得ることから、タンパク質キナーゼ(例えばIRAK4)の調節が可能な新規化合物およびこれらの化合物を用いる方法は、幅広い患者に対して実質的な治療効果を提供し得ることが明らかである。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、IRAK4等のタンパク質キナーゼに対して効果的な阻害剤であることが分かった、新規なピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジニル化合物類に関する。これらの化合物は、望ましい安定性、バイオアベイラビリティ、治療指数、およびそれらのドラッグアビリティに重要な毒性値を有する有用な医薬品を提供する。
【0009】
本発明は、IRAK4の阻害剤として有用かつ、増殖性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患および炎症性疾患の治療に有用な、式(I)の化合物またはその立体異性体、互変異性体、医薬的に許容される塩、溶媒和物またはプロドラッグを提供する。
【0010】
また、本発明は、医薬的に許容される担体および少なくとも1つの本発明の化合物またはその立体異性体、互変異性体、医薬的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグを含む医薬組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、治療が必要な宿主に、治療上有効量の少なくとも1つの本発明の化合物またはその立体異性体、互変異性体、医薬的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグを投与することを特徴とする、IRAK4の阻害方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、治療が必要な宿主に、治療上有効量の少なくとも1つの本発明の化合物またはその立体異性体、互変異性体、医薬的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグを投与することを特徴とする、増殖性、代謝性、アレルギー性、自己免疫性および炎症性疾患の治療方法を提供する。
【0013】
ある実施態様は、炎症性および自己免疫疾患の治療方法を提供し、炎症性疾患の治療がより好ましい。具体的な炎症性疾患および自己免疫疾患には、以下に限らないが、クローン病、潰瘍性大腸炎、喘息、移植片対宿主病、同種移植片拒絶反応、慢性閉塞性肺疾患、バセドウ病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、びまん性狼瘡、乾癬、クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、家族性地中海熱(FMF)、成人スティル病、全身型若年性特発性関節炎、多発性硬化症、神経障害性疼痛、痛風、および痛風性関節炎が挙げられる。
【0014】
ある実施態様は、痛風および痛風性関節炎の治療方法を提供する。
【0015】
別の好ましい実施態様は、2型糖尿病およびアテローム性動脈硬化症などの代謝性疾患の治療方法である。
【0016】
ある実施態様は、治療が必要な宿主に、治療上有効量の少なくとも1つの本発明の化合物またはその立体異性体、互変異性体、医薬的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグを投与することを特徴とする、がんの治療方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、治療に用いるための、本発明の化合物またはその立体異性体、互変異性体、医薬的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグを提供する。
【0018】
また、本発明は、がん治療のための医薬の製造のための、本発明の化合物またはその立体異性体、互変異性体、医薬的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグの使用を提供する。
【0019】
また、本発明は、化合物または組成物の使用説明書を含むキット中の、式(I)の化合物または医薬組成物を提供する。
【0020】
また、本発明は、本発明の化合物またはその立体異性体、互変異性体、医薬的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグを製造するための方法および中間体を提供する。
【0021】
本発明の上記およびその他の特徴は、開示に伴い範囲を広げて記載される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第1態様は、式(I):
【化1】
[式中、
R1は、-NHR1aまたは-NHCH2R1aであり;
R1aは、C4-6シクロアルキル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、またはアゼパニルであり、それぞれF、Cl、-OH、-CN、C1-3アルキル、C1-2フルオロアルキル、-C(O)(C1-3アルキル)、-C(O)O(C1-3アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-3アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換され;
R2は、
(i) F、Cl、-OH、および-CNから独立して選択される0~4個の置換基で置換されたC1-6アルキル;または
(ii) C3-6シクロアルキル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、およびピラゾリルから選択される環状基であり、ここで環状基は、F、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1-2フルオロアルキル、およびC1-2ヒドロキシアルキルから独立して選択される0~3個の置換基で置換され;
R3は、フェニル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、ピリジニル、ピリジノニル、またはピリミジニルであり、それぞれF、Cl、-OH、-CN、C1-2アルキル、-CF3、および-CH2OHから選択される0~3個の置換基で置換され;
各R4は、独立して、F、Cl、-CH3、または-CNであり;
各Rxは、水素または-CH3であり;および
nは、0、1、または2である]
の少なくとも1つの化合物またはその塩あるいはプロドラッグを提供する。
【0023】
ある実施態様は、式中、
R1aが、C5-6シクロアルキル、ピロリジニル、またはピペリジニルであり、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換され;
R2が、F、Cl、-OH、および-CNから独立して選択される0~3個の置換基で置換されたC1-3アルキルであり;
R3が、フェニル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、ピリジニル、またはピリミジニルであり、それぞれF、Cl、-OH、-CN、-CH3、-CF3、および-CH2OHから選択される0~2個の置換基で置換され;および
nが、0または1
である、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。
【0024】
ある実施態様は、式中、R1aが、C5-6シクロアルキル、ピロリジニル、またはピペリジニルであり、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換される、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。この実施態様には、R1aが、シクロヘキシルまたはピペリジニルであり、それぞれ-CH3、-C(O)CH3、-C(O)OCH3、および-NHC(O)OCH3から選択される0~1個の置換基で置換される化合物が含まれる。
【0025】
ある実施態様は、式中、
R1が、-NHR1aまたは-NHCH2R1aであり;
R1aが、シクロヘキシルまたはピペリジニルであり、それぞれ-CH3、-C(O)CH3、-C(O)OCH3、および-NHC(O)OCH3から選択される0~1個の置換基で置換され;
R2が、-CH(CH3)2であり;
R3が、ピリジニルであり;および
nが、0である、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。
【0026】
ある実施態様は、式中、R1が、-NHR1aである式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。この実施態様には、R1aが、C5-6シクロアルキル、ピロリジニル、またはピペリジニルであり、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換される化合物が含まれる。また、この実施態様には、R1aが、シクロヘキシルまたはピペリジニルであり、それぞれ-CH3、-C(O)CH3、-C(O)OCH3、および-NHC(O)OCH3から選択される0~1個の置換基で置換される化合物が含まれる。
【0027】
ある実施態様は、式中、R1が、-NHCH2R1aである式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。この実施態様には、R1aが、C5-6シクロアルキル、ピロリジニル、またはピペリジニルであり、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換される化合物が含まれる。また、この実施態様には、R1aが、シクロヘキシルまたはピペリジニルであり、それぞれ-CH3、-C(O)CH3、-C(O)OCH3、および-NHC(O)OCH3から選択される0~1個の置換基で置換される化合物が含まれる。
【0028】
ある実施態様は、式中、R1aが、C5-6シクロアルキルであり、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換される、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。
【0029】
ある実施態様は、式中、R1aが、ピロリジニルまたはピペリジニルであり、それぞれF、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1フルオロアルキル、-C(O)(C1-2アルキル)、-C(O)O(C1-2アルキル)、および-NRxC(O)O(C1-2アルキル)から独立して選択される0~2個の置換基で置換される、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。
【0030】
ある実施態様は、式中、R2が、(i) F、Cl、-OH、および-CNから独立して選択される0~4個の置換基で置換されたC1-5アルキル;または(ii) C3-6シクロアルキル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、およびピラゾリルから選択される環状基であり、ここで環状基は、F、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1-2フルオロアルキル、およびC1-2ヒドロキシアルキルから独立して選択される0~3個の置換基で置換される、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。この実施態様には、R2が、(i) F、Cl、-OH、および-CNから独立して選択される0~4個の置換基で置換されたC1-4アルキル;または(ii) C3-6シクロアルキル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、およびピラゾリルから選択される環状基であり、ここで環状基は、F、-OH、-CN、C1-2アルキル、-CF3、およびC1-2ヒドロキシアルキルから独立して選択される0~3個の置換基で置換される、化合物が含まれる。
【0031】
ある実施態様は、式中、R2が、F、Cl、-OH、および-CNから独立して選択される0~4個の置換基で置換されたC1-6アルキルである、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。この実施態様には、R2が、F、Cl、-OH、および-CNから独立して選択される0~3個の置換基で置換されたC1-3アルキルである化合物が含まれる。また、この実施態様には、R2が、-CH(CH3)2である化合物が含まれる。
【0032】
ある実施態様が、式中、R2が、C3-6シクロアルキル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、およびピラゾリルから選択される環状基であり、ここで環状基は、F、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1-2フルオロアルキル、およびC1-2ヒドロキシアルキルから独立して選択される0~3個の置換基で置換される、式(I)の化合物またはその塩またははプロドラッグを提供する。この実施態様には、R2が、C3-6シクロアルキル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、およびピラゾリルであり、ここで環状基は、F、-OH、-CN、C1-2アルキル、C1-2フルオロアルキル、およびC1-2ヒドロキシアルキルから独立して選択される0~3個の置換基で置換される化合物が含まれる。さらに、この実施態様には、R2が、F、-OH、-CN、C1-2アルキル、-CF3、およびC1-2ヒドロキシアルキルから独立して選択される0~3個の置換基で置換されたC3-6シクロアルキルである化合物が含まれる。
【0033】
ある実施態様は、式中、R3が、フェニル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、ピリジニル、またはピリミジニルであり、それぞれF、Cl、-OH、-CN、-CH3、-CF3、および-CH2OHから独立して選択される0~2個の置換基で置換される、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。この実施態様には、R3が、フェニル、ピリジニル、またはピリミジニルであり、それぞれF、Cl、-OH、-CN、-CH3、-CF3、および-CH2OHから独立して選択される0~2個の置換基で置換される化合物が含まれる。また、この実施態様には、R3が、ピリジニルである化合物が含まれる。
【0034】
ある実施態様は、式中、各R4が、独立して、F、Cl、-CH3、または-CNであり;およびnが、0または1である、式(I)の化合物またはその塩またはプロドラッグを提供する。この実施態様には、nが0である化合物が含まれる。
【0035】
ある実施態様は、前記化合物が、
1-イソプロピル-N-(ピペリジン-4-イルメチル)-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(1);
4-(((1-イソプロピル-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)メチル)ピペリジン-1-カルボン酸メチル(2);
1-イソプロピル-N-(ピペリジン-4-イルメチル)-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(3);
4-(((1-イソプロピル-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)メチル)ピペリジン-1-カルボン酸メチル(4);
1-イソプロピル-N-((1-メチルピペリジン-4-イル)メチル)-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(5);
(4-((1-イソプロピル-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)シクロヘキシル)カルバミン酸メチル(6);
(4-((1-イソプロピル-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)シクロヘキシル)カルバミン酸メチル(7);
1-(4-((1-イソプロピル-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)アミノ)ピペリジン-1-イル)エタン-1-オン(8);および
1-イソプロピル-N-(ピペリジン-4-イル)-8-(ピリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(9)
から選択される、式(I)の化合物またはその塩を提供する。
【0036】
ある実施態様は、IRAK4 IC50の値が≦0.6μMである、式(I)の化合物を提供する。
【0037】
ある実施態様は、IRAK4 IC50の値が≦0.1μMである、式(I)の化合物を提供する。
【0038】
ある実施態様は、IRAK4 IC50の値が≦0.05μMである、式(I)の化合物を提供する。
【0039】
ある実施態様は、IRAK4 IC50の値が≦0.025μMである、式(I)の化合物を提供する。
【0040】
ある実施態様は、IRAK4 IC50の値が≦0.015μMである、式(I)の化合物を提供する。
【0041】
ある実施態様は、IRAK4 IC50の値が≦0.01μMである、式(I)の化合物を提供する。
【0042】
(定義)
本発明の特徴および利点は、以下の詳細な記載を読むことで、当業者によってさらに容易に理解され得る。明瞭にするために、別の実施態様の文脈の前後に記載される本発明のある特徴を、組み合わせて1つの実施態様を形成してもよいと理解される。逆にまた、簡潔にするために単一の実施態様の文脈に記載される本発明の種々の特徴を、組み合わせてそのサブコンビネーションを形成してもよい。ここで例示または好適として特定される実施態様は、実例を意図とするものであり、制限を目的とするものではない。
【0043】
本明細書において特に断りが無い限り、単数形で表される参照は複数も含んでもよい。例えば、「a」および「an」は「1」、または「1以上」のどちらを指してもよい。
【0044】
本明細書で用いるフレーズ「化合物」は、少なくとも1つの化合物をいう。例えば、式(I)の化合物とは、1つの式(I)の化合物および2以上の式(I)の化合物を含む。
【0045】
特に断りが無い限り、原子価が満たされていないいずれのヘテロ原子にも、原子価を満たすために十分な水素原子が含まれると見なされる。
【0046】
本明細書に記載の定義は、引用により本願明細書に組み込まれたあらゆる特許、特許出願および/または特許出願公報に記載の定義に優先する。
【0047】
本発明を記載するのに使用される種々の用語の定義が以下に列挙される。これらの定義は、(特定の場合で限定されない限り)個々またはより大きなグループの一部として、明細書を通して使用される用語に適用される。
【0048】
本明細書を通して、その基および置換基は、安定した部分および化合物を提供するように当業者により選択され得る。
【0049】
当該分野にて使用される慣習に従って、
【化2】
は、部分または置換基のコアまたは骨格構造への結合点である結合を表すために、本願明細書の構造式にて使用される。
【0050】
本明細書で用いる用語「ハロ」および「ハロゲン」は、F、Cl、Br、およびIをいう。
【0051】
用語「シアノ」は、基-CNをいう。
【0052】
用語「アミノ」は、基-NH2をいう。
【0053】
用語「オキソ」は、基=Oをいう。
【0054】
本明細書で使用される用語「アルキル」とは、例えば、1~12個の炭素原子、1~6個の炭素原子および1~4個の炭素原子を有する、分岐鎖および直鎖の両方の飽和脂肪族炭化水素基をいう。アルキル基の例は、以下に限定されないが、メチル(Me)、エチル(Et)、プロピル(例えば、n-プロピルおよびi-プロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、およびt-ブチル)、およびペンチル(例えば、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル)、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、3-メチルペンチル、および4-メチルペンチルが挙げられる。記号「C」の後に数字が下付きで示される場合、その下付き文字は特定の基が含有し得る炭素原子の数をより具体的に限定する。例えば、「C1-6アルキル」は、1~6個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖のアルキル基を意味する。
【0055】
本明細書で使用される用語「フルオロアルキル」とは、1つ以上のフッ素原子で置換された、分岐鎖および直鎖の両方の飽和脂肪族炭化水素基を包含することを意図する。例えば、「C1-4フルオロアルキル」とは、1つ以上のフッ素原子で置換された、C1、C2、C3、およびC4アルキル基を包含することを意味する。フルオロアルキル基の代表例は、以下に限定されないが、-CF3および-CH2CF3が挙げられる。
【0056】
用語「ヒドロキシアルキル」とは、1つ以上のヒドロキシル基で置換された、分岐鎖および直鎖の両方の飽和アルキル基を包含する。例えば、「ヒドロキシアルキル」には、-CH2OH、-CH2CH2OH、およびC1-4ヒドロキシアルキルが挙げられる。
【0057】
本明細書で使用される用語「シクロアルキル」とは、飽和環炭素原子より1個の水素原子を取り除くことにより、非芳香族単環式または多環式炭化水素分子より誘導される基をいう。シクロアルキル基の代表例は、以下に限定されないが、シクロプロピル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが挙げられる。記号「C」の後に数字が下付きで示される場合、その下付き文字は特定のシクロアルキル基が含有しうる炭素原子の数をより具体的に限定する。例えば、「C3-C6シクロアルキル」は、3~6個の炭素原子を有するシクロアルキル基を意味する。
【0058】
本明細書で使用されるフレーズ「医薬的に許容される」とは、通常の医学的判断の範囲内において、ヒトおよび動物の組織と過度な毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題、もしくは合併症を起こすことなく接触させるのに適しており、合理的なベネフィット/リスク比をもたらす、化合物、物質、組成物、および/または投与剤形のことを示す。
【0059】
式(I)の化合物は、非晶質固体または結晶固体として提供され得る。式(I)の化合物は、凍結乾燥により非晶質固体として提供され得る。
【0060】
さらに、式(I)の化合物の溶媒和物(例えば水和物)も本発明の範囲であると考えられるべきである。用語「溶媒和物」とは、式(I)の化合物と1つまたはそれ以上の有機または無機溶媒分子との物理的結合を意味する。この物理的結合は水素結合を含む。場合によっては、例えば1つ以上の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子に組み込まれる場合に、溶媒和物を単離することが可能である。「溶媒和物」は溶液相および分離可能な溶媒和物の両方を含む。溶媒和物の例として、水和物、エタノレート、メタノレート、イソプロパノレート、アセトニトリル溶媒和物、および酢酸エチル溶媒和物が挙げられる。溶媒和の方法は当該分野にて公知である。
【0061】
プロドラッグの様々な形態は当該分野にて周知であり:
a) The Practice of Medicinal Chemistry, Camille G. Wermuth et al., Ch 31, (Academic Press, 1996);
b) Design of Prodrugs, edited by H. Bundgaard, (Elsevier, 1985);
c) A Textbook of Drug Design and Development, P. Krogsgaard-Larson and H. Bundgaard, eds. Ch 5, pgs 113 - 191 (Harwood Academic Publishers, 1991);および
d) Hydrolysis in Drug and Prodrug Metabolism, Bernard Testa and Joachim M. Mayer, (Wiley-VCH, 2003)
e) Rautio, J. et al., Nature Review Drug Discovery, 17, 559-587 (2018)
に記載されている。
【0062】
加えて、式(I)の化合物は、その調製の後で、単離かつ精製され、式(I)の化合物を99%以上の量で含有する(「実質的に純粋な」)組成物を得て、次にそれをここに記載されるように使用または製剤化する。かかる「実質的に純粋な」式(I)の化合物もまた、ここで本発明の一部であると考えられる。
【0063】
「安定な化合物」および「安定な構造」は、反応混合物から有用な純度にまで単離しても、効果的な治療剤に製剤化しても分解しない、十分に強固な化合物であることを意図とする。本発明は安定な化合物を具現化するものとする。
【0064】
「治療上の有効量」とは、IRAK4に対する阻害剤として作用するのに効果的な、または自己免疫性疾患および/または炎症性疾患(例えば多発性硬化症および関節リウマチ)の治療または予防、あるいはがんの治療に効果的な、本発明の化合物単体の量、または特許請求の範囲の化合物を組み合わせた量、あるいは本発明の化合物を他の活性成分と組み合わせた量が含まれることを意図する。
【0065】
本明細書で用いる用語「治療する」または「治療」とは、哺乳類、特にヒトにおける病態の治療において、(a)特に、哺乳類が病態に罹りやすいが、まだ罹患していると診断されていない場合に、該哺乳類が病態に罹患することを防ぐこと;(b)病態を阻害すること、すなわち、病態の進行を阻むこと;および/または(C)病態を緩和すること、すなわち、病態の退行を生じさせることを包含する。
【0066】
本発明の化合物は、化合物に含まれる原子の全ての同位体を含有することを意図する。同位体には、原子番号が同一であるが質量数が異なる原子が含まれる。一般的な例として、以下に限らないが、水素の同位体にはジュウテリウム(D)およびトリチウム(T)が含まれる。炭素の同位体には13Cおよび14Cが含まれる。同位体で標識された本発明の化合物は、一般に当業者に公知の従来の技法、または本明細書に記載されているものと類似の方法により、他で用いられる非標識試薬の代わりに適切な同位体標識試薬を用いて製造することが出来る。例えば、メチル(-CH3)には重水素化メチル基(例えば-CD3)も含む。
【0067】
(有用性)
本発明の化合物は、キナーゼ活性を調節し、これにはIRAK4の調節を含む。本発明の化合物により調節され得るキナーゼ活性のその他のタイプには、以下に限らないが、Pelle/IRAKファミリーおよびその変異体が挙げられる。
【0068】
従って、式(I)の化合物はキナーゼ活性の調節(特にIRAK4活性の選択的阻害またはIRAKおよびその他のPelleファミリーキナーゼの阻害)に関する症状を治療するのに有用である。該症状には、細胞内シグナル伝達の結果、サイトカインレベルが調節されたTLR/IL-1ファミリー受容体関連疾患を含む。さらに、式(I)の化合物は、RAK4活性に対する有用な選択性を有し、好ましくは、少なくとも20個の折り畳み構造から1,000個以上の折り畳み構造に対するより高い選択性を有する。
【0069】
本明細書で用いる用語「治療する」または「治療」とは、哺乳類、特にヒトにおける病態の治療を包含し、(a)特に、哺乳類が病態に罹りやすいが、まだ罹患していると診断されていない場合に、該哺乳類が病態に罹患することを防ぐこと、または遅延させること;(b)病態を阻害すること、すなわち、病態の進行を阻むこと;および/または(c)症状または病態の完全または部分的軽減を達成すること、および/または疾患または障害および/またはその症状を緩和、改善、軽減、または治癒することを含む。
【0070】
IRAK4の選択的阻害剤としての本発明の化合物の活性を考慮に入れると、式(I)の化合物は、TLR/IL-1ファミリー受容体関連疾患の治療に有効である。その疾患とは、以下に限らないが、炎症性疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、喘息、移植片対宿主病、同種移植片拒絶反応、慢性閉塞性肺疾患);自己免疫疾患(例えば、バセドウ病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、乾癬);自己炎症性疾患(例えば、CAPS、TRAPS、FMF、成人スティル病、全身型若年性特発性関節炎、痛風、痛風性関節炎);代謝性疾患(例えば、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞);骨破壊性疾患(例えば、骨吸収性疾患、骨関節症、骨粗鬆症、多発性骨髄腫関連骨疾患);増殖性障害(例えば、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病);血管新生疾患(例えば、固形腫瘍、眼内血管新生、および小児血管腫を含む血管新生疾患);感染症(例えば敗血症、敗血症性ショック、および細菌性赤痢);神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血または外傷性神経変性疾患)、腫瘍性疾患(例えば、転移性黒色腫、カポジ肉腫、多発性骨髄腫)およびウイルス性疾患(例えば、HIV感染症およびCMV網膜炎、AIDS)がそれぞれ挙げられる。
【0071】
特に、本発明の化合物で治療されてもよい具体的な症状または疾患には、以下に限らないが、膵炎(急性または慢性)、喘息、アレルギー、成人呼吸窮迫症候群、慢性閉塞性肺疾患、糸球体腎炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、慢性甲状腺炎、バセドウ病、自己免疫性胃炎、糖尿病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、血小板減少症、アトピー性皮膚炎、慢性活動性肝炎、重症筋無力症、多発性硬化症、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、乾癬、移植片対宿主病、エンドトキシン誘発炎症反応、結核、アテローム性動脈硬化症、筋変性、カヘキシー、乾癬性関節炎、ライター症候群、痛風、外傷性関節炎、風疹性関節炎、急性滑膜炎、膵臓β細胞疾患; 大量の好中球浸潤が特徴の疾患;リウマチ性脊椎炎、痛風性関節炎およびその他の関節炎症状、脳マラリア、慢性肺炎症性疾患、珪肺症、肺サルコイドーシス、骨吸収性疾患、同種移植片拒絶反応、感染による発熱および筋肉痛、感染に続くカヘキシー、ケロイド形成、瘢痕組織形成、潰瘍性大腸炎、発熱、インフルエンザ、骨粗鬆症、骨関節炎、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、転移性黒色腫、カポジ肉腫、多発性骨髄腫、敗血症、敗血症性ショック、および細菌性赤痢;アルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血または外傷性神経変性疾患; 血管新生疾患(例えば、固形腫瘍、眼内血管新生疾患、および小児血管腫);ウイルス性疾患(例えば、急性肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎およびC型肝炎)感染、HIV感染症およびCMV網膜炎、AIDS、ARCまたは悪性腫瘍、およびヘルペス;脳卒中、心筋虚血、脳卒中心臓発作における虚血、臓器低酸素症、血管過形成、心臓および腎臓再灌流傷害、血栓症、心肥大、トロンビン誘発血小板凝集、内毒血症および/または毒素性ショック症候群、プロスタグランジンエンドペルオキシダーゼシンダーゼ2関連症状、および尋常性天疱瘡が挙げられる。好ましい治療方法は、症状がクローン病、潰瘍性大腸炎、同種移植片拒絶反応、関節リウマチ、乾癬、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、および尋常性天疱瘡から選択されるものである。あるいは、好ましい治療方法は、症状が虚血再灌流障害(例えば、脳卒中による脳虚血再灌流障害および心筋梗塞による心臓虚血再灌流障害)から選択されるものである。その他の好ましい治療方法は、症状が多発性骨髄腫であるものである。
【0072】
ある実施態様において、式(I)の化合物は、癌(例えば、ヴァルデンストレーム・マクログロブリン血症(WM)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、および原発性CNSリンパ腫)の治療に有効である。
【0073】
さらに、本発明のキナーゼ阻害剤は、誘導型炎症性タンパク質(例えば、プロスタグランジンエンドペルオキシド合成酵素-2(PGHS-2、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)、IL-1、IL-6、IL-18、ケモカインとも称される))の発現を阻害する。従って、さらなるIRAK4関連症状には浮腫、無痛症、発熱および疼痛(例えば神経筋痛、頭痛、がんによる疼痛、歯痛および関節炎痛)が挙げられる。また、本発明の化合物は、動物ウイルス感染症、例えばレンチウイルス感染(例えば、以下に限らないがウマ伝染性貧血ウイルス);またはレトロウイルス感染(ネコ免疫不全ウイルス、ウシ免疫不全ウイルス、およびイヌ免疫不全ウイルス)の治療に用いられてもよい。
【0074】
用語「IRAK4関連症状」または「IRAK4関連疾患または障害」が本明細書で用いられる場合、それぞれは、IRAK4キナーゼ活性の影響を受ける任意の他の症状と同様に、長期間繰り返されるような、上述の全ての症状を包含することを意味する。
【0075】
それ故本発明は、上記の症状の治療方法を提供する、治療上有効量の少なくとも1つの式(I)の化合物またはその塩を、その治療を必要とする対象に投与することを含む。「治療上の有効量」は、単体で、または組み合わせて投与するときに、IRAK4の阻害および/または疾患の治療に効果的な本発明の化合物の量を含むことを意図する。
【0076】
IRAK4キナーゼ関連症状の治療方法は、式(I)の化合物を単体で、または互いに組み合わせて、および/またはそのような症状の治療に有効な他の適当な治療剤と組み合わせて投与することを特徴としてもよい。従って、「治療上の有効量」とは、IRAK4の阻害および/またはIRAK4に関連する疾患の治療に効果的な、特許請求された化合物の組み合わせの量を含むことも意図する。
【0077】
その他の治療剤の例として、コルチコステロイド、ロリプラム、カルフォスチン、サイトカイン抑制性抗炎症薬(CSAID)、インターロイキン-10、グルココルチコイド、サリチレート、一酸化窒素、およびその他免疫抑制剤; 核移行阻害剤(例えばデオキシスペルグアリン(DSG))、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(例えば、イブプロフェン、セレコキシブおよびロフェコキシブ)、ステロイド(例えば、プレドニゾンまたはデキサメサゾン)、抗ウイルス薬(例えばアバカビル)、抗増殖剤(例えば、メトトレキサート、レフルノミド、FK506 (タクロリムス、PROGRAF(登録商標)))、抗マラリア薬(例えばヒドロキシクロロキン)、細胞毒性薬(例えば、アザチオプリンおよびシクロホスファミド)、TNF-α阻害剤(例えば、テニダップ、抗TNF抗体または可溶性TNF受容体、およびラパマイシン(シロリムスまたはRAPAMUNE(登録商標)))、またはその誘導体が挙げられる。
【0078】
上記のその他の治療剤は、本発明の化合物と組み合わせて使用する場合、例えば、米医薬品便覧(PDR)に記載の量、または当業者によって定められた量で使用されてもよい。本発明の方法において、その他の治療剤は、本発明の化合物の投与の前、同時、または後に投与されてもよい。また、本発明はIRAK4キナーゼ関連の症状(例えば、上記に記載のTLRおよびIL-1ファミリー受容体介在疾患)の治療が可能な医薬組成物も提供する。
【0079】
本発明の組成物は、例えば、従来の固体または液体ビークルまたは希釈剤、ならびに所望の投与方法に適切なタイプの医薬品添加物(例えば、添加物、結合剤、防腐剤、安定化剤、香味剤など)を用いて、医薬製剤の分野の当業者に周知の技法に従って上記に記載のその他の治療剤を含み、製剤化してもよい。
【0080】
したがって、本発明はさらに、1つ以上の式(I)の化合物および医薬的に許容される担体を包含する組成物を含む。
【0081】
「医薬的に許容される担体」とは、生物学的活性剤を動物、特に哺乳類に運搬する分野において一般に許容される媒体をいう。医薬的に許容される担体は、十分に当業者の専門技術内である多くの要因に従って処方される。これらの要因には、以下に限らないが、処方される活性剤のタイプおよび性質、その活性剤を含有する組成物が投与される患者、その組成物の意図された投与経路、および目標とされる治療指標が挙げられる。医薬的に許容される担体には、水性および非水性の両方の液体媒体、ならびに様々な固体および半固体の投与剤形を包含する。そのような担体は、活性剤に加え、多くの異なる成分および添加剤を包含することができ、かかる付加的な成分は様々な理由で、例えば、当業者に公知の活性剤、結合剤などの安定化の理由で製剤中に含まれる。適当な医薬的に許容される担体、およびそれを選択する際の要因の説明は、入手が容易な様々な文献、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th Edition (1985)に記載され、その内容は全て参照により本明細書に援用される。
【0082】
式(I)に記載の化合物は、治療する症状に対して適切な任意の方法により投与され得て、その方法は、部位特異的治療の必要性または運搬されるべき式(I)の化合物の量によって変化し得る。
【0083】
また、本発明には、式(I)の化合物および、毒性がなく、医薬的に許容される1つ以上の担体および/または希釈剤および/またはアジュバント(本明細書で「担体」と総称される物質)および、所望により他の活性成分とを含む、医薬組成物の類が含まれる。式(I)の化合物は、いずれかの適切な経路により、好ましくはそのような経路に適応する医薬組成物の形態、および予定される治療に効果的な投薬量で投与されてもよい。本発明の化合物および組成物は、例えば、経口的、経粘膜的、または血管内的、静脈内的、腹腔内的、皮下的、筋肉内的、および胸骨内的を含む非経口的に、医薬的に許容される従来の担体、アジュバント、およびビークルを含有する投与単位製剤にて投与されてもよい。例えば、医薬担体には、マンニトールまたはラクトースおよび微結晶セルロースの混合物を包含してもよい。該混合物は、例えば滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム)および崩壊剤(例えばクロスポビドン)などの添加成分を包含してもよい。担体混合物はゼラチンカプセルに充填されてもよいか、または錠剤として圧縮されてもよい。医薬組成物は、例えば経口剤形または点滴として投与されてもよい。
【0084】
経口投与用として、医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル、液体カプセル、懸濁液、または液体の形態であってもよい。医薬組成物は、好ましくは特定の活性成分量を有する投与単位剤形で製剤化される。例えば、医薬組成物は、約0.1から1000mg、好ましくは約0.25から250mg、より好ましくは約0.5から100mgの範囲の活性成分量を含む錠剤またはカプセルとして提供されてもよい。ヒトまたはその他の哺乳類に投与する適切な1日用量は、患者の病状およびその他の要因によって大幅に変更されてもよいが、慣用的方法を用いて決定され得る。
【0085】
本明細書で検討される医薬組成物はいずれも、例えば、許容され、かつ適切ないずれかの経口製剤を介して経口的に運搬され得る。経口製剤の例として、以下に限らないが、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性および油性懸濁液、分散性粉末または顆粒、エマルジョン、ハードおよびソフトカプセル、液体カプセル、シロップ、およびエリキシルが挙げられる。経口投与用の医薬組成物は、経口投与用の医薬組成物を製造する分野で公知のいずれかの方法に従って製造され得る。医薬的に飲みやすい製剤を提供するために、本発明に記載の医薬組成物は、甘味剤、風味剤、着色剤、粘滑剤、抗酸化剤、および防腐剤から選択される少なくとも1つの物質を包含し得る。
【0086】
錠剤は、例えば、少なくとも1つの式(I)の化合物と、少なくとも1つの毒性がなく医薬的に許容される、錠剤の製造に適切な添加剤を混合することで製造され得る。添加剤の例として、以下に限らないが、例えば、不活性希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、およびリン酸ナトリウム)、造粒剤および崩壊剤(例えば、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、コーンスターチ、およびアルギン酸)、結合剤(例えば、デンプン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、およびアラビアガム)、および滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、およびタルク)が挙げられる。さらに、錠剤は被膜されていないか、または不快な薬物の嫌な味をマスキングするため、またはその消化管での活性成分の崩壊および吸収を遅延させ、より長期間にわたって活性成分の効果を持続させるために、公知の技術で被膜され得る。水可溶性味マスキング材料の例として、以下に限らないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。時間遅延材料の例として、以下に限らないが、エチルセルロースおよび酢酸酪酸セルロースが挙げられる。
【0087】
ハードゼラチンカプセルは、例えば、少なくとも1つの式(I)の化合物を、少なくとも1つの不活性固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、およびカオリン)と混合することにより製造され得る。
【0088】
ソフトゼラチンカプセルは、例えば、少なくとも1つの式(I)の化合物を、少なくとも1つの水可溶性担体(例えば、ポリエチレングリコール)、および少なくとも1つの油性媒体(例えば、ピーナツ油、液体パラフィン、およびオリーブ油)と混合することに製造され得る。
【0089】
水性懸濁液は、例えば、少なくとも1つの式(I)の化合物を、少なくとも1つの水性懸濁液の製造に適切な添加剤を混合することにより製造され得る。水性懸濁液の製造に適切な添加剤の例としては、以下に限らないが、例えば、懸濁化剤(例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、およびアラビアガム)、分散剤または湿潤剤(例えば、天然に存在するフォスファチド(例えばレシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸の縮合生成物(例えばポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと、脂肪酸およびヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合生成物(例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)、およびエチレンオキシドと、脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合生成物(例えばポリエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。また、水性懸濁液は、少なくとも1つの防腐剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチルおよびn-プロピルp-ヒドロキシ安息香酸)、少なくとも1つの着色剤、少なくとも1つの風味剤、および/または少なくとも1つの甘味剤(以下に限らないが、例えば、スクロース、サッカリン、およびアスパルテーム)を包含し得る。
【0090】
油性懸濁液は、例えば、少なくとも1つの式(I)の化合物を、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、およびココナッツ油)、または鉱油(例えば液体パラフィン)のいずれかに懸濁することにより製造され得る。また、油性懸濁液は、少なくとも1つの濃化剤(例えば、蜜蝋、固形パラフィン、およびセチルアルコール)を包含し得る。飲みやすい油性懸濁液を提供するために、少なくとも1つの既に上記に記載の甘味剤、および/または少なくとも1つの風味剤が油性懸濁液に添加され得る。油性懸濁液は、さらに少なくとも1つの防腐剤(以下に限らないが、例えば、抗酸化剤(例えば、ブチルヒドロキシアニソール、およびα-トコフェロール)を包含し得る。
【0091】
分散性粉末および顆粒は、例えば、少なくとも1つの式(I)の化合物を、少なくとも1つの分散剤および/または湿潤剤、少なくとも1つの懸濁化剤、および/または少なくとも1つの防腐剤を混合することにより製造され得る。適切な分散剤、湿潤剤、および懸濁化剤は既に上記に記載されている。防腐剤の例として以下に限らないが、例えば、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)が挙げられる。さらに、分散性粉末および顆粒は、また、少なくとも1つの賦形剤(以下に限らないが、例えば、甘味剤、風味剤、および着色剤)を包含し得る。
【0092】
式(I)の化合物の少なくとも1つのエマルジョンは、例えば、水中油型エマルジョンとして製造され得る。式(I)の化合物を含むエマルジョンの油相は、既知の方法で既知の成分から構成されてもよい。該油相は以下に限らないが、例えば、植物油(例えば、オリーブ油および落花生油)、鉱油(例えば液体パラフィン)、およびその混合物により提供され得る。油相は乳化剤のみを包含するものであってもよいが、少なくとも1つの乳化剤と脂肪または油、または脂肪および油の両方の混合物を包含してもよい。適切な乳化剤には、以下に限らないが、例えば、天然に存在するフォスファチド(例えば大豆レシチン)、脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導されるエステルまたは部分エステル(例えばソルビタンモノオレエート)、および部分エステルとエチレンオキシドの縮合生成物(例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。好ましくは、親水性乳化剤が、安定化剤として作用する親油性乳化剤と共に含まれる。また、油および脂肪の両方を包含することも好ましい。併せて、乳化剤は、安定化剤と共に、または無しで、いわゆる乳化ワックスを作り上げ、およびそのワックスは、油および脂肪と共にクリーム製剤の油性分散相を形成する、いわゆる乳化軟膏基剤を作り上げる。エマルジョンはまた、甘味剤、風味剤、防腐剤、および/または抗酸化剤を包含し得る。本発明の製剤中での使用に適切な乳化剤およびエマルジョン安定化剤には、単体またはワックスと一緒になったTween 60、Span 80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ラウリル硫酸ナトリウム、ジステアリン酸グリセリル;または当該分野に公知の他の物質が挙げられる。
【0093】
また、式(I)の化合物は、例えば、いずれの医薬的に許容され、かつ適切な注射形態を介して静脈内、皮下内、および/または筋肉内に運搬され得る。注射形態の例として、以下に限らないが、例えば、許容されるビークルおよび溶媒(例えば、水、リンゲル液、および塩化ナトリウム等張液)を含む無菌水溶液、無菌水中油型マイクロエマルジョン、および水性または油性懸濁液が挙げられる。
【0094】
非経口投与用製剤は、水性または非水性等張無菌注射液または懸濁液の形態であってもよい。これらの溶液および懸濁液は、経口投与用の製剤中での使用について記載される1つ以上の担体または希釈剤を用いるか、または他の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いることにより、無菌粉末または顆粒から調製されてもよい。該化合物は、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、トウモロコシ油、綿実油、ピーナツ油、ゴマ油、ベンジルアルコール、塩化ナトリウム、トラガカントガム、および/または様々な緩衝液に溶解させてもよい。その他のアジュバントおよび投与方法は、医薬分野において公知であり、広く知られている。また、その活性成分は適切な担体(例えば、生理食塩水、デキストロース、または水)、またはシクロデキストリン(すなわちCaptisol)、可溶化共溶媒(すなわちプロピレングリコール)、または可溶化ミセル(すなわちTween 80)との組成物として、注射により投与されてもよい。
【0095】
また、無菌注射製剤とは、毒性がなく、非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の無菌注射溶液または懸濁液(例えば1,3-ブタンジオール中の溶液)であってもよい。許容されるビークルおよび溶媒のうち、使用されてもよいものは、水、リンゲル液、および塩化ナトリウム等張液である。さらに、無菌不揮発油は、溶媒または懸濁媒体として慣例的に用いられている。このために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む、いずれの無菌不揮発油が用いられてもよい。さらに、オレイン酸などの脂肪酸が注射製剤として使用される。
【0096】
無菌注射水中油型マイクロエマルジョンは、例えば以下によって製造され得る。1)少なくとも1つの式(I)の化合物を油相(例えば、ダイズ油およびレシチンの混合物)に溶解し、2)式(I)を含有する油相を、水およびグリセロールの混合物と組み合わせ、3)その組み合わせたものを処理してマイクロエマルジョンを形成する。
【0097】
無菌水性懸濁液または無菌油性懸濁液は、当業者に公知の方法に従って製造され得る。例えば、無菌水溶液または無菌水性懸濁液は、毒性がなく、非経口的に許容される希釈剤または溶媒(例えば1,3-ブタンジオール)を用いて調製され得、無菌油性懸濁液は、無菌の毒性のない許容される溶媒または懸濁媒体(例えば、無菌不揮発油(例えば、合成モノグリセリドまたはジグリセリド)、および脂肪酸(例えばオレイン酸)を用いて製造され得る。
【0098】
本発明の医薬組成物に使用され得る医薬的に許容される担体、アジュバント、およびビークルには、以下に限らないが、イオン交換体、アルミナ、アルミニウムステアレート、レシチン、自己乳化ドラッグデリバリーシステム(SEDDS)(例えばd-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシネート)、医薬剤形に用いられる界面活性剤(例えば、Tween、ポリエトキシ化ヒマシ油(例えばCREMOPHOR界面活性剤(BASF)、またはその他の類似するポリマーデリバリーマトリックス)、血清タンパク質(例えばヒト血清アルブミン)、緩衝液物質(例えば、ホスフェート、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えば、プロタミン硫酸塩、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム)、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂)が挙げられる。また、シクロデキストリン(例えば、α-、β-、およびγ-シクロデキストリン、または化学的に修飾された誘導体(例えば、2-および3-ヒドロキシプロピルシクロデキストリンを含むヒドロキシアルキルシクロデキストリン、またはその他の可溶化誘導体))も、本明細書に記載の式の化合物の運搬を増進するために有利に使用されてもよい。
【0099】
本発明の医薬的に活性な化合物は、患者(例えば、ヒトおよびその他の哺乳類)に投与する薬剤を調製するために、従来の薬学の方法に従って処理され得る。医薬組成物は、従来の製薬操作(例えば滅菌処理)に供されてもよく、および/または従来のアジュバント(例えば防腐剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝液など)を包含してもよい。錠剤および丸剤は、加えて腸溶性被覆剤を用いて調製され得る。また、そのような組成物は、アジュバント(例えば湿潤剤、甘味剤、風味剤、および芳香剤)も包含し得る。
【0100】
本発明の化合物および/または組成物を用いて病状を治療するために投与される化合物の量、および投与計画は、様々な要因(例えば、年齢、体重、性別、患者の病状、疾患のタイプ、疾患の危篤度、投与経路および投与頻度、および利用される特定の化合物)に依存する。それ故、投与計画は大幅に変更されてもよいが、標準的方法を用いて規定通りに決定され得る。1日用量は、約0.001から100mg/体重kg、好ましくは約0.0025から約50mg/体重kgの間、および最も好ましくは約0.005から10mg/体重kgの間が適切であり得る。1日用量は1日に1から4回投与され得る。その他の投与計画として、週に1回および2日に1回のサイクルが挙げられる。
【0101】
治療のために、本発明の活性化合物は、通常意図された投与経路に適切な1つ以上のアジュバントと組み合わせられる。経口投与される場合、該化合物は、ラクトース、スクロース、デンプン粉末、アルカン酸のセルロースエステル、セルロースアルキルエステル、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、マグネシウムオキシド、リン酸および硫酸のナトリウム塩およびカルシウム塩、ゼラチン、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、および/またはポリビニルアルコールと混合されてもよく、次いで簡便な投与用に錠剤化またはカプセル化されてもよい。そのようなカプセルまたは錠剤は放出制御製剤を包含してもよく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース中に活性化合物を分散して提供されてもよい。
【0102】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの式(I)の化合物、およびいずれの医薬的に許容される担体、アジュバント、およびビークルから選択される添加剤を適宜包含する。本発明の別の組成物には、本明細書に記載の式(I)の化合物、またはそのプロドラッグ、および医薬的に許容される担体、アジュバント、またはビークルを包含する。
【0103】
また、本発明は製造品を包含する。本明細書で使用される製造品とは、以下に限らないが、キットおよびパッケージを含むことを意図する。本発明の製造品は、(a)第1の容器、(b)第1の容器内に入れられる医薬組成物(ここで該組成物は、本発明の化合物またはその医薬的に許容される塩の形態を含む、第1の治療剤を包含する)、および(c)該医薬組成物が、上記で定義される循環器疾患、利尿、および/またはナトリウム利尿の治療に利用出来ることを記載する添付文書を包含する。その他の実施態様において、添付文書では、該医薬組成物が、第2の治療剤と(上記で定義されるように)組み合わせて、循環器疾患、利尿、および/またはナトリウム利尿の治療に利用できることが記載される。該製造品はさらに、(d)第2の容器(ここで構成要素(a)および(b)は、第2の容器内に入れられ、構成要素(c)は、第2の容器の内または外に位置する)を包含し得る。第1および第2の容器に位置するとは、各容器が該アイテムを領域内に保持することを意味する。
【0104】
第1の容器は、医薬組成物を保持するために用いられる容器である。この容器は、製造、保管、配送、および/または個別/大量販売のためのものであり得る。第1の容器とは、ボトル、ジャー、バイアル、フラスコ、シリンジ、チューブ(例えばクリーム製剤用)、または医薬製剤の製造、保持、保管、または流通に用いられる任意の他の容器に及ぶことを意図する。
【0105】
第2の容器は、第1の容器、および所望により添付文書を保持するためのものである。第2の容器の実施例には、以下に限らないが、箱(例えば、ボール紙またはプラスチック)、木箱、段ボール箱、袋(例えば、紙またはプラスチックの袋)、ポーチ、および布袋が挙げられる。添付文書は、第1の容器にテープ、接着剤、ホッチキス、またはその他の付着方法により物理的に付着され得るか、または第1の容器に物理的手段で付着させることなく、第2の容器内に存在し得る。あるいは、添付文書は第2の容器の外側に位置する。第2の容器の外側に位置する場合、添付文書は、テープ、接着剤、ホッチキス、またはその他の付着方法により物理的に付着されることが好ましい。あるいは、物理的に付着させることなく第2の容器の外側に近接または接触し得る。
【0106】
添付文書とは、第1の容器内に配置される医薬組成物に関連する情報を記載するラベル、タグ、マーカー、またはその他記載された物である。記載される情報は、通常、該製造品が販売される地域を管理する規制当局(例えばアメリカ食品医薬品局)により決定される。好ましくは、添付文書は、該医薬組成物が認可されていることの表示を具体的に記載する。添付文書は、人がその中またはその上に含まれる情報を読むことが出来る、任意の材料で作成されてもよい。好ましくは、添付文書は、その上に所望の情報が掲載される(例えば、印刷または貼り付けされる)、印刷可能な材質(例えば、紙、プラスチック、ボール紙、ホイル、接着剤付き紙またはプラスチック等)である。
【0107】
(製造方法)
本発明の化合物は、有機合成の当業者によく知られている様々な方法で製造され得る。本発明の化合物は、下記の方法、および有機化学合成の分野に公知の合成方法、または当業者に理解されるそのバリエーションを用いて製造され得る。好ましい方法には、以下に限らないが、下記のものが挙げられる。
【0108】
このセクションに記載の反応および技法は、用いる試薬および物質に適した溶媒中で実施され、もたらされる変換に適切である。また、以下に記載の合成方法の説明において、提示した反応条件(溶媒の選択、反応雰囲気、反応温度、実験時間およびワークアップ方法を含む)は全て、該反応の標準である条件となるように選択されていると理解され、それは当業者によって容易に認識されるべきである。分子の様々な部分に存在する官能基が、提示された試薬および反応に適合しなければならないことは、有機合成の分野の当業者により理解される。反応条件に適合する置換基がそのように制限されることは当業者にとっては容易に明白であり、代替方法が用いられなくてはならない。該反応は本発明の所望の化合物を得るために、合成ステップの順序の変更またはある特定の反応過程を異なるものに選択する判断が必要な場合もある。また、この分野のあらゆる合成経路計画における、もう1つの重要な検討対象は、本発明に記載の所望の化合物に存在する反応性官能基の保護に用いる保護基の賢明な選択であると認識される。熟練した実験者に対し、多くの保護基の代替案を記載している権威ある文献としてGreeneら著のProtective Groups In Organic Synthesis(Third Edition,Wiley & Sons, 1999)が挙げられる。
【0109】
式(I)の化合物は、次のスキームに略述される方法に従って製造され得る。例えば、スキーム1において、クロロ-ブロモ中間体1Aは、塩基(例えばトリエチルアミン)および溶媒の存在下でヒドラジンと反応させて、中間体1Bを与えてもよい。中間体1Bは、様々なクロスカップリング剤と反応させて、化合物(例えば1C)を形成してもよい。最終的に、1Cは、様々なアルキル化試薬との反応またはその他の炭素-窒素結合形成条件で一般式Iの最終化合物を得てもよい。
【化3】
【0110】
(実施例)
本発明の化合物および本発明の化合物の製造に用いる中間体は、次の実施例に示される方法および関連する方法を用いて製造され得る。これらの実施例に使用される方法および条件、ならびにこれらの実施例で製造される実際の化合物は、限定を意味するものではなく、本発明の化合物がどのように製造され得るかを説明するものであることを意味する。これらの実施例で使用される出発物質および試薬は、本明細書に製造方法が記載されていない場合、一般に商業的に入手可能であるか、または化学文献にて報告されているか、あるいは化学文献に記載の工程を用いることにより調製されてもよい。本発明は、次の実施例においてさらに定義される。該実施例は説明によってのみ与えられると理解されるべきである。上記の検討および実施例から、当業者は本発明に本質的な特徴を解明することが出来、発明の精神および範囲から離れることなく、本発明を幅広い条件および用途に適応させるために変更および修正を行うことが出来る。その結果、本発明は以下で説明する該実施例によって制限されず、むしろ本明細書に添付の請求項により定義される。
【0111】
記載の実施例において、フレーズ「乾燥および濃縮した」は、一般に、有機溶媒中の溶液を硫酸ナトリウムまたは硫酸マグネシウムのいずれかで乾燥し、続いて濾過し、濾液から溶媒を(一般に減圧下、製造する物質の安定性に適する温度で)除去することをいう。
【0112】
カラムクロマトグラフィーは、Isco中圧クロマトグラフィー装置(Teledyne Corporation)を用いて充填済みシリカゲルカートリッジで、示した溶媒または混合溶媒で溶出して行われた。分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、分離する物質の量に適切なサイズの逆相カラム(Waters Sunfire C18、Waters XBridge C18、PHENOMENEX(登録商標)Axia C18、YMC S5 ODSなど)を用いて行い、一般に、0.05%または0.1%トリフルオロ酢酸または10mM酢酸アンモニウムも含む水中の、メタノールまたはアセトニトリルの濃度を上昇させるグラジエントで溶出し、カラムサイズに適切な溶出速度で分離した。化学名は、ChemDraw Ultra(version 9.0.5(CambridgeSoft))を用いて決定した。以下の略語が用いられる。
【表1】
【0113】
HPLC条件:
方法A: Waters Acquity UPLC BEH C18、2.1 x 50mm、粒子径: 1.7μm; 移動相A: 5:95 アセトニトリル:水(10mM酢酸アンモニウム含有); 移動相B: 95:5 アセトニトリル:水(10mM酢酸アンモニウム含有); 温度: 50℃; グラジエント: 0~100%Bで3分かけて溶出後、次いで100%Bで0.75分間溶出; 流速: 1.0mL/分; 検出: UV(220nm)
【0114】
実施例1
1-イソプロピル-N-(ピペリジン-4-イルメチル)-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン
【化4】
【0115】
中間体1A: 8-ブロモ-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン
【化5】
6-ブロモ-4-クロロピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-カルボニトリル(200mg、0.78mmol)/DMF(3mL)の懸濁液に、イソプロピルヒドラジン塩酸塩(95mg、0.86mmol)およびNa2CO3(174mg、1.64mmol)を加えた。この反応混合物を室温で終夜撹拌した。この反応混合物に水を加え、EAで抽出した。抽出した有機層をNaHCO3およびブラインで洗浄し、次いでNa2SO4で乾燥し、濾過した。濃縮後、生成物をカラムクロマトグラフィーで精製し、8-ブロモ-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(128mg、56%収率)を得た。1H NMR(500MHz、CDCl3) δ 8.16 (s, 1H), 7.72 (d, J=1.5Hz, 1H), 6.68 (d, J=2.7Hz, 1H), 4.76 (m, 1H), 4.14(br s, 2H), 1.59 (s, 3H), 1.57 (s, 3H)
【0116】
中間体1B: 1-イソプロピル-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン
【化6】
8-ブロモ-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(26mg、0.088mmol)、3-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン(19.94mg、0.097mmol)、K3PO4(0.133mL、0.265mmol)およびPdCl2(dppf)-CH2Cl2(1.53mg、4.42μmol)の混合物/1,4-ジオキサン(2mL)をN2でパージした。反応容器を密封し、マイクロ波反応器中、120℃で0.5時間加熱した。この反応混合物を室温に冷却し、生成物を直接分取HPLCで精製した。
【0117】
実施例1:
1-イソプロピル-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピロロ[1,2-b]ピリダジン-3-アミン(25mg、0.086mmol)/MeOH(3mL)の懸濁液に、酢酸(15.4mg、0.26mmol)、4-ホルミルピペリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(23.7mg、0.111mmol)、およびNaBH3CN(8.6mg、0.14mmol)を加えた。反応容器を密封し、この反応混合物を室温で3時間撹拌した。反応混合物を濃縮し、短いシリカゲルカラムに通し、生成物のフラクションを濃縮し、短時間で乾燥させた。DCMを加え、生成物を溶解し、続いてTFAを添加した。遊離アミンの転換率を調べるため、LCMSにより混合物をモニターした。反応完了後、混合物を直接分取HPLCで精製し、1-イソプロピル-N-(ピペリジン-4-イルメチル)-8-(ピリジン-3-イル)-1H-ジピロロ[1,2-b:2',3'-d]ピリダジン-3-アミン(2mg、6%収率)を得た。1H NMR(500MHz、DMSO-d6)δ 9.05(br s, 1H), 8.47 (s, 1H), 8.42(br s, 1H), 8.35 (s, 1H), 8.19(br d, J=7.5Hz, 1H), 7.45-7.37 (m, 2H), 6.40(br s, 1H), 4.99(br s, 1H), 3.19-3.05 (m, 3H), 2.63(br s, 2H), 1.89-1.69 (m, 4H), 1.46(br d, J=6.1Hz, 6H), 1.24 (m, 2H); LCMS m/z 389.9(M+); HPLC保持時間: 1.25分、条件A
【0118】
表1の実施例を、実施例1に記載の一般的な方法に従って適当な出発物質を用いて製造した。
【表2】
【表3】
【0119】
生物学アッセイ
本発明の化合物の薬理学特性は、複数の生物学アッセイによって決定され得る。以下の例示の生物学アッセイは、本発明の化合物を用いて行われた。
【0120】
IRAK4阻害アッセイ
本アッセイではU底384ウェルプレート中で行われた。最終アッセイ体積は、酵素ならびに基質(蛍光標識ペプチドおよびATP)および試験化合物/アッセイ緩衝液(20mM HEPES、pH 7.2、10mM MgCl2、0.015%Brij 35および4mM DTT)を15μLずつ添加して30μLに調整した。反応を基質および試験化合物とIRAK4を組み合わせて開始させた。この反応混合物を室温で60分間インキュベートし、35mM EDTA(45μL)を各サンプルに加えて反応を止めた。この反応混合物をCaliper LABCHIP(登録商標)3000(Caliper, Hopkinton, MA))を用いて蛍光基質およびリン酸化生成物の電気泳動分離により分析した。100%阻害された酵素無しのコントロール反応および阻害0%のビークルのみの反応と比較して、阻害データを計算した。アッセイ中の試薬の終濃度は、ATP 500μM、FL-IPTSPITTTYFFFKKKペプチド 1.5μM、IRAK4 0.6nM、およびDMSO 1.6%である。
【0121】
IRAK4全血アッセイ
抗凝固剤ACD-Aを含むヒト全血を384ウェルプレート(25μL/ウェル)中に分注し、5%CO2インキュベーター中、60分間37℃で化合物と共にインキュベートした。5%CO2インキュベーター中、血液をTLR2アゴニストである、終濃度10μg/mLのリポタイコ酸(Invivogen, San Diego, CA)/RPMI(25μL、Gibco)で5時間刺激した。インキュベーション終了後、プレートを2300rpmで5分間遠心分離した。上清を収集し、フローサイトメトリービーズアッセイ(BD Biosciences, San Jose, CA)によりIL-6量を分析した。
【0122】
PBMC TLR2誘導IL-6アッセイ
末梢血単核細胞(PBMC)を、抗凝固剤EDTA(2.5mM)含有ヒト血液から密度勾配遠心法を用いて遠心分離により単離した。PBMC(250000細胞/ウェル)を化合物と共にアッセイ培養液(10%熱不活性化FCSを加えたRPMI)中、5%CO2インキュベーター内で、37℃で30分間培養した。化合物を用いた前処理後、細胞をTLR2アゴニストであるリポタイコ酸(10μg/mL、Invivogen, San Diego, CA)で5時間刺激した。培養後、プレートを1800rpmで10分間遠心分離し、細胞を沈殿させた。上清を回収し、ELISA(BD Biosciences, San Jose, CA)によりIL-6レベルを分析した。
【0123】
下記の表は、本発明の下記の実施例について、IRAK4阻害アッセイ、IRAK4全血アッセイで測定したIRAK4 IC50値、および全血EC50値を列記している。下記の例に示されているように、本発明の化合物は、0.6μM未満のIRAK IC50阻害値を示した。
【表4】
【配列表】
2022541265000001.app
【国際調査報告】