(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(54)【発明の名称】特に時計ムーブメント用の石、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 31/06 20060101AFI20220914BHJP
G04B 31/008 20060101ALI20220914BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20220914BHJP
【FI】
G04B31/06
G04B31/008
B23K26/36
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022503517
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(85)【翻訳文提出日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2020066637
(87)【国際公開番号】W WO2021018464
(87)【国際公開日】2021-02-04
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ベスッティ,エム・ブリュノ
(72)【発明者】
【氏名】ルトルヴェ,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ジリ,ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】ヴュイユ,エム・ピエリ
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD18
4E168DA03
4E168DA46
4E168DA47
4E168JA11
(57)【要約】
本発明は、単結晶型の鉱物体又は多結晶型の鉱物体から、特に計時器用の石を製造するための方法に関する。この方法は、アブレーションステップを含み、該ステップ中、物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、物体の少なくとも一面をスキャンすることによって材料アブレーションを施すが、レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、レーザ照射の光線を、該レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内する。また、本発明は、特に時計ムーブメント用の、単結晶型又は多結晶型の鉱物石(30)であり、上記方法によって得られる可能性が高い石(30)にも関する。石は、特に、軸受において受石(35)を側方で挟持するための周囲リム(27)を備える面(25)を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶型又は多結晶型の鉱物体(10、20)から、特に計時器用の石(30)を製造するための方法(1、5)であって、該方法は、アブレーションステップ(3、11)を含み、該ステップ中、前記物体(10、20)に、超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンすることによって材料アブレーションを施すが、前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、前記レーザ照射の光線を、前記レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記アブレーション(3、11)を、各層の厚さが、1~10μmの範囲内、好適には、2~4μmの範囲内となるよう、層毎に実行することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パルスの持続時間は、200~400フェムト秒の範囲内、好適には、250~350フェムト秒の範囲内、より好適には280~300フェムト秒の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザの波長は、400~600nmの範囲内、好適には450~550nm、より好適には500nmの範囲内でもあることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記単結晶型であり、例えばAL2O3を含む鉱物体(10、20)、前記方法は、ベルヌイ式方法によって前記物体を製造する前ステップ(2)を含むことを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多結晶型であり、例えばal2O3Cr型のポリルビー又はZrO2型のジルコニアを含む鉱物体(10、20)、前記方法は、以下の事前ステップ:
-バインダと少なくとも1つの粉末材料との混合物から前駆体を作製するステップ(6);
-グリーン体を形成するために、前記前駆体を加圧するステップ(7)であって、前記加圧を、上型と下型を用いて実行する、ステップ;及び
-前記少なくとも1つの材料から、将来の石の前記鉱物体(10)を形成するために、前記グリーン体を焼結するステップ(8)
を含むことを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法(1、5)は、特に前記アブレーション領域の、前記レーザステップ後の前記鉱物体の更なる仕上げステップ(4、12)、例えばラップ仕上げ及び/又はブラシ仕上げ及び/又は磨き仕上げを含むことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記物体(10)を通過する孔(14)を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記貫通孔(14)の入口円錐部(15a)を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記面(27)に周囲リムを形成するために、面(24)を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、凸形状領域(21)を形成するために、面(24)を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記物体(20)のフレア状周面(22)を形成するために、前記物体の周面を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、油を保持する凹部を、前記物体の一面で前記貫通孔周りに陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記石(20)の一面(24、26)の少なくとも一部分を平坦にするために、前記部分に対するアブレーションを含むことを特徴とする、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
時計ムーブメント用単結晶型又は多結晶型の鉱物石であり、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の方法によって得られる可能性が高い前記石(30)であって、前記石は、特に、軸受において受石(35)を側方で挟持するための周囲リム(27)を備える面(25)を含むことを特徴とする、石。
【請求項16】
前記石は、該石が単結晶型の場合、AL2O3を含み、多結晶型の場合、al2O3Cr型のポリルビー又はZrO2型のジルコニアを含むことを特徴とする、請求項15に記載の石。
【請求項17】
前記上面(25)は、特に受石(35)のための座面(28)を含み、該座面(28)を、前記周囲リム(27)の足元に配置することを特徴とする、請求項15又は16に記載の石。
【請求項18】
前記石(30)は、中心貫通孔(14)を含み、前記上面(25)は、前記座面(28)と前記孔(14)との間で範囲を定めた凸形状領域(21)を含み、該領域は、前記座面(28)から前記孔(14)までで同心に凸形状であることを特徴とする、請求項15から請求項17のいずれか一項に記載の石。
【請求項19】
特に軸受用の、請求項15から請求項18のいずれか一項に記載の石(30)を含む、計時器(27)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に時計ムーブメント用の石を製造する方法に関する。
【0002】
また、本発明は、リムを備えた、石、特に軸受にも関する。
【0003】
また、本発明は、かかる石を含む時計ムーブメントにも関する。
【背景技術】
【0004】
時計製造の現状技術では、ルビー又はサファイアの種類の石が、計時器でブッシュと呼ばれる受石又は案内要素を形成するのに特に使用されている。これら受石及び案内要素は、ピボットを回動可能にし、且つこの回動を最小限の摩擦で行うために、ピボットと接触するように意図されている。従って、受石及び案内要素は、例えば、回転するよう取付けられる軸の軸受の全て又は一部を形成する。一般に、案内要素は、ピボットピンを挿入するための貫通孔を含む。
【0005】
原則として、合成石が時計ムーブメントに使用される。特に、ベルヌイ式方法が、単結晶型の石を製造するのに知られている。多結晶型の石もあり、そうした石は、加圧ツールから将来の石のグリーン体を得るために前駆体を加圧することによって、製造される。その後、石は、所望する寸法の完成形状を得るように機械加工される。
【0006】
特に、多結晶石製の案内要素について、加圧ツールは、例えば、粗孔を作成する際に用いるワイヤを備える。単結晶型の石は、まず粗孔を得るためにレーザ穿孔される。その後、孔の最終寸法を、機械加工によって得る。
【0007】
しかしながら、これらの石を機械加工する技術では、石が単結晶であろうと多結晶であろうと、全ての所望する形状を得られるわけではない。実際、従来の機械加工では、一部の形状について十分に正確にはならない。特に、石の表面を、単なる粗孔又は凹部ではなく、後で仕上げをしてからではないと、機能させることは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特定の形状を作製可能で、表面を正確に機能可能にする石を製造する方法を提案することによって、前述した欠点の全て又は一部を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明は、単結晶型の鉱物体又は多結晶型の鉱物体から、特に計時器用の石を製造するための方法であって、該方法は、アブレーションステップを含み、該ステップ中、該物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、該物体の少なくとも一面をスキャンすることによって材料アブレーションを施すが、レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、レーザ照射の光線を、該レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内することを特徴とする方法に関する。
【0011】
従って、石から極めて正確に材料を除去でき、その結果、現状技術から既知のレーザ法では形成できない形状や表面を得ることが可能である。かかる装置は、レーザ光線を、高精度でレーザ光線を合焦できる一方で、レーザの合焦によるレーザの円錐角度を少なくとも部分的にキャンセルすることができる。実際、この合焦は、レーザを円錐形状で生成し、レーザ局所点で全高に亘って同一の直径にすることを可能にしないため、本発明の材料アブレーションを可能にしない。この装置により、光線の少なくとも一方側で円錐の角度をキャンセルでき、これにより、特に、垂直な切込みを得ることできる。これらの垂直な切込みは、従来の切断用レーザでは得られない。
【0012】
さらに、レーザの超短パルスにより、石の品質に悪影響を与える石の熱的加熱を避けられる。
【0013】
更にまた、本発明による方法で得られる石の表面状態Raは、0.1μmの範囲にあり、次に、例えば、0.025μmの範囲でRaを得られる従来の研磨手段で石を研磨できる。従って、この方法は、実装を大して複雑にせずに、著しい利点を提供する。
【0014】
本発明の特定の実施形態によると、アブレーションを、各層の厚さが、1~10μmの範囲内、好適には、2~4μmの範囲内となるよう、層毎に実行する。
【0015】
本発明の特定の実施形態によると、パルスの持続時間は、200~400フェムト秒の範囲内、好適には、250~350フェムト秒の範囲内、より好適には280~300フェムト秒の範囲内でもある。
【0016】
本発明の特定の実施形態によると、レーザの波長は、400~600nmの範囲内、好適には450~550nm、より好適には500nmの範囲内でもある。
【0017】
本発明の特定の実施形態によると、鉱物体は、単結晶型で、例えばAL2O3を含み、本方法は、ベルヌイ式方法によって物体を製造する前ステップを含む。
【0018】
本発明の特定の実施形態によると、鉱物体は、多結晶型で、例えば、al2O3Cr型のポリルビー又はZrO2型のジルコニアを含み、本方法は、以下の事前ステップ:
-バインダと少なくとも1つの粉末材料との混合物から前駆体を作製するステップ;
-グリーン体を形成するために、前駆体を加圧するステップであって、加圧を、上型と下型を用いて実行する、ステップ;及び
-上記少なくとも1つの材料から、将来の石の鉱物体を形成するために、上記グリーン体を焼結するステップ
を含む。
【0019】
本発明の特定の実施形態によると、本方法は、特にアブレーション領域の、レーザステップ後の鉱物体の更なる仕上げステップ、例えばラップ仕上げ及び/又はブラシ仕上げ及び/又は磨き仕上げを含む。
【0020】
本発明の特定の実施形態によると、レーザアブレーションステップは、物体を貫通する孔を陥凹することを含む。
【0021】
本発明の特定の実施形態によると、レーザアブレーションステップは、貫通孔の入口円錐部を陥凹することを含む。
【0022】
本発明の特定の実施形態によると、レーザアブレーションステップは、面に周囲リムを形成するために、面を陥凹することを含む。
【0023】
本発明の特定の実施形態によると、レーザアブレーションステップは、凸形状領域を形成するために、面を陥凹することを含む。
【0024】
本発明の特定の実施形態によると、レーザアブレーションステップは、物体のフレア状周面を形成するために、物体の周面を陥凹することを含む。
【0025】
本発明の特定の実施形態によると、油を保持する凹部を、物体の一面で貫通孔周りに陥凹することを含む。
【0026】
本発明の特定の実施形態によると、レーザアブレーションステップは、石の一面の少なくとも一部分を平坦にするために、該部分に対するアブレーションを含む。
【0027】
また、本発明は、特に時計ムーブメント用の、単結晶型又は多結晶型の鉱物石であり、本発明による方法によって得られる可能性が高い石にも関する。この石は、特に、軸受において受石を側方で挟持するための周囲リムを備える面を含む点で、注目に値する。
【0028】
本発明の特定の実施形態によると、石は、該石が単結晶型の場合、AL2O3を含み、多結晶型の場合、al2O3Cr型のポリルビー又はZrO2型のジルコニアを含む。
【0029】
本発明の特定の実施形態によると、面は、受石のための座面を含み、該座面を、内側リムの足元に配置し、該座面は、円を描く。
【0030】
本発明の特定の実施形態によると、石は、中心貫通孔を含み、面は、座面と孔との間で範囲を定めた凸形状領域を含み、該領域は、座面から孔までで同心に凸形状である。
【0031】
また、本発明は、特に軸受用の、かかる石を含む計時器にも関する。
【0032】
他の特徴及び利点は、添付図を参照して、表示を目的とし、限定でない、以下に記載した詳細な説明から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の方法による石の第1実施形態のブロック図である。
【
図2】本発明の方法による石の第2実施形態のブロック図である。
【
図3】本発明の方法の第2実施形態の焼結ステップ後に得られた多結晶型の鉱物体の略図である。
【
図4】本発明の方法の第2実施形態の機械加工ステップ後に得られた多結晶型の鉱物体の略図である。
【
図5】本発明の2実施形態のためのレーザアブレーションステップ後の工程で得られた石の略図である。
【
図7】受石と結合させた本発明によるフランジを含む石の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以上で説明したように、本発明は、計時器の案内要素を形成する可能性が高い石を製造する方法に関する。この石は、例えば、ピボットを最小限の摩擦で回動可能にするために、ピボットと接触するように意図されている。そのため、本発明により、回転するよう取付けられる軸の軸受の全て又は一部を形成できる石を特に作製可能になると考えられる。
【0035】
石を、鉱物体から形成し、該鉱物体を、第1実施形態では、単結晶型とし、第2実施形態では、多結晶型とする。単結晶に関しては、物体は、例えば、AL2O3を含み、多結晶に関しては、物体は、例えば、al2O3Cr型のポリルビー又はZrO2型のジルコニアを含む。実施形態により、鉱物体を得るための方法は異なる。
【0036】
図1で表した方法1の第1実施形態では、方法1は、時計製造の分野で周知のベルヌイ式方法によって結晶性鉱物体を製造する第1ステップ2を含む。材料を、酸水素灯によって2000℃以上で溶かした粉末から形成する。鉱物体は、融点以下に冷却した後に、結晶化する。鉱物体を、特に今後の機械加工を容易にするために、所望する寸法に近い寸法を得るように寸法取りする。
【0037】
本発明によると、第1実施形態は、石を最終形状にするための第2レーザアブレーションステップ3を含む。レーザアブレーションステップについては、詳細な説明で後述する。最後に、第3仕上げステップ4により、石を、その石の使用に適合する表面状態にできる。例えば、表面状態Ra=0.025μmを得るようとする者もある。従って、かかる仕上げステップとして、最終寸法の調整、及び/又は隆起部の除去、及び/又は凸凹の局所的な修正を可能にするラップ仕上げ及び/又はブラシ仕上げ及び/又は磨き仕上げを含むことができる。
【0038】
図2で表した、本方法の第2実施形態5では、かかる方法は、バインダと少なくとも1つの粉末材料との混合物から前駆体を作る第1ステップ6を含む。この材料を、非限定的で非包括的に、セラミックとすることができる。このステップは、バインダで凝固させたセラミック系粉末から前駆体を形成するように意図される。
【0039】
これに関連して、セラミック系粉末は、少なくとも1つの金属酸化物、1つの金属窒化物又は1つの金属炭化物を含んでもよい。例えば、セラミック系粉末は、合成サファイアを形成するのにアルミニウム酸化物を、又は合成ルビーを形成するのにアルミニウム酸化物とクロム酸化物の混合物を、或いはまた酸化ジルコニウムを、含んでもよい。さらに、バインダは、例えば高分子系又は有機系等の様々な性質のものとすることができる。
【0040】
次に、第2実施形態は、将来の石のグリーン体を形成するために、図面で表していない、加圧装置の上型と下型から前駆体を加圧する第2ステップ7を含む。
【0041】
第2実施形態は、前述したように、セラミックとしてもよい材料で、
図3で視認できる物体10を形成するために、グリーン体を焼結させる第3ステップ8を含む。つまり、このステップ8は、将来の穿孔石のセラミック体10を形成するために、グリーン体を焼結するように意図される。好適には、本発明によると、焼結ステップ8は、熱分解を含むことができる。
【0042】
図3では、物体10は、異なる形状の上下部分15a、15bを備える貫通孔粗加工部14を備える。実際に、機能要素の粗加工部を構成する下部分15aは、円錐形をしており、貫通孔14の粗加工部を備える上部分15bは、円筒形をしている。また、かかる貫通孔14は、グリーン体10に画成され、このグリーン体10の下面19に開口する第1開口部17aも備える。また、貫通孔14は、グリーン体10に画成され、このグリーン体10の上面16に開口する第2開口部17bも備える。
【0043】
物体10は、その下面19に溝18を更に備える。溝18は、貫通孔14を中心にした円路を描き、三角形の断面を有する。この溝18を、加圧装置の下型によって形成し、下型は、環状リブ等の、溝18のネガ形状を含む。
【0044】
かかる粗加工部により、特に、この実施例において案内要素を形成する穿孔石に、目で見ずにピボットを取付けることが問題である場合に、ピボットを取付け易くする穿孔石の係合円錐を特に形成可能になる点に留意されたい。そのため、貫通孔14の形状を、加圧装置の下型のパンチの形状によって提供すると考えられる。従って、かかる加圧ステップ7は、特に貫通孔14の粗加工部を含む物体10を有する将来の穿孔石の上記グリーン体を形成するために、上型と下型を使用して、前駆体を圧縮するように意図される。
【0045】
第2実施形態は、
図4の後の石の物体10を機械加工する第4ステップ9を備える。第4ステップは、石の周壁を形成するために回転する第1サブステップを含む。少なくとも部分的にフレア状の周壁22を得るために、材料を、溝の先端まで除去する。また、機械加工ステップは、所定の石厚を得るために、上面24と下面26を形成するサブステップも含む。
【0046】
更にまた、このステップは、機能要素15aの円錐を上記上面24に接続可能にする貫通孔を寸法取りすることも含む。
【0047】
第2実施形態は、石を最終形状にするために、第5レーザアブレーションステップ11を含む。
【0048】
最後に、第6仕上げステップ12により、石を、石の使用に適合する表面状態にすることができる。従って、かかる仕上げステップとして、最終寸法の調整、及び/又は隆起部の除去、及び/又は凸凹の局所的な修正を可能にするラップ仕上げ及び/又はブラシ仕上げ及び/又は磨き仕上げを含むことができる。
【0049】
両実施形態は、実施形態に応じて、単結晶又は多結晶の一体物を提供する。
【0050】
本発明によると、レーザアブレーションステップ3、11中、物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、物体の少なくとも一面をスキャンすることによって材料アブレーションを施すが、このレーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、このレーザ照射の光線を、レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内する。かかる装置は、例えば、国際公開第2017/029210号(特許文献1)に記載されている。レーザの円錐角度を少なくとも部分的にキャンセル可能な様々な種類の装置がある。5又は6軸の歳差運動方式を使用する装置もある。
【0051】
このように、レーザ光線は、石の表面を陥凹し、特定の形状にできるように、少なくとも1つの実質的に直線縁を有する。アブレーションを層毎に、物体の領域をレーザスキャンしながら実行して、その領域を陥凹する。各層の厚さは、例えば、1~10μmの範囲内、好適には、2~4μmの範囲内である。所望する形状を得るまで、材料を、層毎に除去する。
【0052】
レーザの波長は、例えば、400~600nm、好適には、450~550nm、より好適には500nmの範囲内でもある。パルスの持続時間は、ピコ秒未満であり、例えば、200~400フェムト秒、好適には、250~350フェムト秒、より好適には280~300フェムト秒の範囲内でもある。かかる特徴により、石を形成する材料の特性に影響を与えずに、物体を陥凹させることができる。
【0053】
図5及び
図6で得た石で示すように、本方法により、石30の上面25に周囲リム27を得るように、物体20を特に陥凹させることができる。物体20の表面25を、該上面25の縁をそのまま残して、中央ゾーン29で層毎に陥凹する。レーザを数回通過させ、特定数の層を除去すると、リム27が形成される。この方法とレーザ装置により、リム27が得られ、該リムの内面31は、真直ぐで寸法精度が高い。リム27の高さは、除去した層の数と該層の厚さに依存する。石は、例えば、厚さ0.18mm、直径0.8mmであり、0.02~0.08mmのリムを有する。
【0054】
また、本方法を使用して、部分的に上面25の凸形状21を形成できる、及び/又は幾つかのレベルを持つことができる。
図5又は
図6では、リム27を形成するために陥凹させた領域29は、受石用座面28を含み、該座面28から孔14まで凸形状を有する。座面28は、凸形状領域21より高くし、それにより受石が、この部分にのみ載置され、凸形状領域21の他の凸形状部には載置されないようにする。凸形状にすることで、受石の出来るだけ近くに、ピボットに対するのと同様に、貫通孔を有することができる。
【0055】
かかるリム27を有する上面により、例えば、
図7で示したように、石の上面に配置された要素が側方に動くのを妨げる。石30を案内要素として使用する、てんぷ軸用軸受の場合、受石の石35を、座面28上に載置しながら、リム27の内面31によって横方向に動くのを妨げるように、配設できる。受石を、レーザアブレーションを施した石の領域29に対応するように寸法取りする。この要素は、ハウジング内に、受石の軸方向及び径方向の支持体を形成する。受石35を案内要素30内に嵌合して、受石35を軸方向に支持し、横方向に保持する。
【0056】
このようにして、案内要素と受石を含む組立体を入手する。両方共、特にダンパ軸受で使用できる。かかる案内要素により、軸受内に案内要素を保持する嵌め込み台の必要がなくなる。
【0057】
他の実施形態によると、レーザアブレーションステップにより、物体の周面を陥凹して、物体のフレア状周面を形成できる。得られた石は、表面積の小さい下面が表面積の大きい上面に繋がる斜角を付けた周面を有する。かかる周面により、衝撃を受けた場合、特に径方向の動きを軸方向の動きに変換するように、ダンパブロックの斜面上で石を摺動できる。このようにして、
図4~
図6の周面22を、単結晶体又は多結晶体に対して得ることができる。従って、多結晶体に関しては、これを、第2実施形態の機械加工ステップ中、回避できる。
【0058】
最後に、貫通孔への入口に円錐を陥凹することによって、石の下面を、機能させられる。この円錐のために、衝撃によってピボットが孔から外れた場合でも、ピボットは、孔の縁の隆起部によって破損せずに、孔に戻る。石の図面では、円錐を、特に多結晶体の実施例において、準備段階で粗加工する。しかしながら、円錐を、本発明による方法によって、単結晶鉱物体か多結晶鉱物体かに関係なく、円錐を粗加工する必要なしに、穿孔できる。
【0059】
石に貫通孔を陥凹することは依然として可能である。この方法ステップでは、孔が、孔の全高に亘り正確で均等の寸法になるように、粗加工して、その後機械加工ステップを施す必要なく、正しいサイズに直接穿孔できる。
【0060】
図面で表さない他の形状も、この方法で得ることができる。例えば、レーザアブレーションステップは、油を保持する凹部を物体の一面で貫通孔周りに陥凹することを含む。また、石の一面の少なくとも一部分のアブレーションを実行して、該部分を平坦にする及び/又は該部分を所定の厚さにすることもできる。また、底部が球状である穴等、円錐とは異なる形状の機能要素を陥凹することも可能である。
【0061】
また、
図5~
図7に表したように、本発明は、前述した方法1、5で得られる可能性が高い、石30にも関し、この石は、例えば、計時器の軸受に取付けるよう意図した案内要素を形成する。しかしながら、かかる石は、時計製造分野に限定せずともよく、軸受に対して可動に取付けられる如何なる要素にも適用できる。石30は、上記方法で説明した特徴を含む。有利には、石30を、ジャーナルとも呼ばれるピボットを受容するよう意図した孔14が横断する。石は、上面25と下面26を含み、その一方は、貫通孔14と連通する、本明細書では円錐である機能要素15aを含む。つまり、孔14は、上面25と、また下面26に画成された略円錐状凹部と連通する。この凹部は、その後、穿孔石2の係合円錐を形成する。
【0062】
また、孔14に画成したこの石の物体の内壁は、ピボットとの接触を抑制するだけでなく、可能性のある潤滑を容易にするようにも意図した丸みを付けた領域を含む点にも留意されたい。ピボットとの接触を抑制することにより、特にピボットとの摩擦を軽減できる点に留意されたい。
【0063】
本発明によると、石の上面25は、特に、軸受の場合に受石を側方で挟持するためのリム27を含む。リム27は、好適には、周囲リムである、即ち、石30の上面25の縁の範囲を定める。さらに、リム27は、座面28や貫通孔14の出口を含む上面25の内部領域29、及び座面28から貫通孔14までで同心に凸形状領域21を画定する。
【0064】
更にまた、石は、表面積の小さい下面26が表面積の大きい上面25に繋がるフレア状の周面22を有する。
【0065】
図面で表していない石の変形例では、石は、円錐の代わりに下面に画成した別の機能要素を含んでもよい点に留意されたい。機能要素は、底部が球状である穴形状を有する。この穴は、円錐と同じ機能を持つ。この穴は、レーザアブレーションによって、又はダイヤモンド形たがねを用いた機械加工によって得ることができる。
【0066】
勿論、本発明は、図説した実施例に限定されず、当業者に明白であろう様々な変形例及び変更例も可能である。特に、レーザアブレーションステップ中に形成する他の種類の機能要素も、有利には、本発明によるものと見なすことができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al
2O
3を含む単結晶型の鉱物体(10、20)又はAl
2O
3Cr型のポリルビー若しくはZrO
2型のジルコニアを含む多結晶型の鉱物体(10、20)から、計時器用の石(30)を製造するための方法(1、5)であって、該方法は、アブレーションステップ(3、11)を含み、該ステップ中、前記物体(10、20)に、超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンすることによって材料アブレーションを施すが、前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、前記レーザ照射の光線を、前記レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記アブレーション(3、11)を、各層の厚さが、1~10μmの範囲内、好適には、2~4μmの範囲内となるよう、層毎に実行することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パルスの持続時間は、200~400フェムト秒の範囲内、好適には、250~350フェムト秒の範囲内、より好適には280~300フェムト秒の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザの波長は、400~600nmの範囲内、好適には450~550nm、より好適には500nmの範囲内でもあることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記単結晶型である鉱物体(10、20)、前記方法は、ベルヌイ式方法によって前記物体を製造する前ステップ(2)を含むことを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多結晶型である鉱物体(10、20)、前記方法は、以下の事前ステップ:
-バインダと少なくとも1つの粉末材料との混合物から前駆体を作製するステップ(6);
-グリーン体を形成するために、前記前駆体を加圧するステップ(7)であって、前記加圧を、上型と下型を用いて実行する、ステップ;及び
-前記少なくとも1つの材料から、将来の石の前記鉱物体(10)を形成するために、前記グリーン体を焼結するステップ(8)
を含むことを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法(1、5)は、特に前記アブレーション領域の、前記レーザステップ後の前記鉱物体の更なる仕上げステップ(4、12)、例えばラップ仕上げ及び/又はブラシ仕上げ及び/又は磨き仕上げを含むことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記物体(10)を通過する孔(14)を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記貫通孔(14)の入口円錐部(15a)を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記面(27)に周囲リムを形成するために、面(24)を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、凸形状領域(21)を形成するために、面(24)を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記物体(20)のフレア状周面(22)を形成するために、前記物体の周面を陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、油を保持する凹部を、前記物体の一面で前記貫通孔周りに陥凹することを含むことを特徴とする、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記レーザアブレーションステップ(3、11)は、前記石(20)の一面(24、26)の少なくとも一部分を平坦にするために、前記部分に対するアブレーションを含むことを特徴とする、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
時計ムーブメント用単結晶型又は多結晶型の鉱物石であり、該鉱物石が単結晶型の場合、Al
2O
3を含み、多結晶型の場合、Al
2O
3Cr型のポリルビー又はZrO
2型のジルコニアを含み、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の方法によって得られる可能性が高い前記石(30)であって、前記石は、特に、軸受において受石(35)を側方で挟持するための周囲リム(27)を備える面(25)を含むことを特徴とする、石。
【請求項16】
前記上面(25)は、特に受石(35)のための座面(28)を含み、該座面(28)を、前記周囲リム(27)の足元に配置することを特徴とする、請求項15に記載の石。
【請求項17】
前記石(30)は、中心貫通孔(14)を含み、前記上面(25)は、前記座面(28)と前記孔(14)との間で範囲を定めた凸形状領域(21)を含み、該領域は、前記座面(28)から前記孔(14)までで同心に凸形状であることを特徴とする、請求項15又は請求項16に記載の石。
【請求項18】
特に軸受用の、請求項15から請求項17のいずれか一項に記載の石(30)を含む、計時器(27)。
【国際調査報告】