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特表2022-541291圧電コーティングおよび堆積プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(54)【発明の名称】圧電コーティングおよび堆積プロセス
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20220914BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20220914BHJP
   H01L 41/107 20060101ALI20220914BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20220914BHJP
   H01L 41/35 20130101ALI20220914BHJP
   H01L 41/316 20130101ALI20220914BHJP
【FI】
C23C14/06 A
C23C14/34 U
H01L41/107
H01L41/113
H01L41/35
H01L41/316
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503539
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(85)【翻訳文提出日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 EP2020070055
(87)【国際公開番号】W WO2021013660
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】00924/19
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(31)【優先権主張番号】01157/19
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518031387
【氏名又は名称】エヴァテック・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・マッツァライ
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー・レビッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・ハインツ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA58
4K029BB02
4K029CA06
4K029DA03
4K029DA08
4K029DC03
4K029DC04
4K029DC16
4K029DC39
4K029EA02
4K029EA09
4K029JA02
4K029JA03
4K029KA09
(57)【要約】
圧電コーティングIでコーティングされた表面を有する基板であって、コーティングはA-xMexNを含み、Aは、B、Al、Ga、In、Tlのうちの少なくとも1つであり、Meは、遷移金属族3b、4b、5b、6b、ランタニド、およびMgのうちの少なくとも1つの金属元素Meであり、コーティングIは厚さdを有し、Alの原子百分率に対するMeの原子百分率の比率が前記コーティングの厚さ範囲δ3に沿って着実に上昇していく遷移層(3)をさらに含み、ここでδ3≦dが有効である、基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電コーティング(I)でコーティングされた表面を有する基板であって、前記コーティングはA1-xMeNを含み、Aは、B、Al、Ga、In、Tlのうちの少なくとも1つであり、Meは、遷移金属族3b、4b、5b、6b、ランタニド、およびMgのうちの少なくとも1つの金属元素であり、前記コーティング(I)は厚さdを有し、Aの原子百分率に対するMeの原子百分率の比率が前記コーティングの厚さ範囲δ3に沿って着実に上昇していく遷移層(3)をさらに含み、δ3≦dが有効である、基板。
【請求項2】
Meは、Sc、Mg、Hf、およびYのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
MeはScである、請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
前記コーティングは、前記遷移層(3)の前記着実な上昇の開始点において終わるシード層(2)をさらに含み、前記比率は、前記シード層の厚さ範囲δ2に沿って一定である、請求項1から3のいずれか一項に記載の基板。
【請求項5】
前記コーティングは、前記遷移層(3)の前記着実な上昇の終了点において開始する最上層(4)をさらに含み、前記比率は、前記最上層の厚さ範囲δ4に沿って一定である、請求項1から4のいずれか一項に記載の基板。
【請求項6】
前記遷移層(3)は、前記コーティングの制限表面の1つにおいて開始および/または終了する、請求項1から5のいずれか一項に記載の基板。
【請求項7】
δ3=dである、請求項1から6のいずれか一項に記載の基板。
【請求項8】
遷移層(3)の前記着実な上昇は、前記比率がゼロである状態で開始する、請求項1から7のいずれか一項に記載の基板。
【請求項9】
前記着実な上昇は少なくともほぼ直線的である、請求項1から8のいずれか一項に記載の基板。
【請求項10】
前記コーティングは、前記基板表面上に直接的に堆積された接着層(1)をさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の基板。
【請求項11】
前記遷移層は、前記接着層上に直接的に堆積される、請求項10に記載の基板。
【請求項12】
前記接着層(1)は、Si、Mo、W、Pt、Ru、Tiのうちの少なくとも1つの材料からなる、請求項10または11に記載の基板。
【請求項13】
前記シード層(2)は、前記基板(S)表面の一方に直接的に堆積される、請求項4から12のいずれか一項に記載の基板。
【請求項14】
前記遷移層は、前記基板表面の一方に直接的に堆積される、請求項1から13のいずれか一項に記載の基板。
【請求項15】
シード層および接着層を備え、前記接着層は前記基板の一方の表面上に直接的に堆積され、前記シード層は前記接着層上に直接的に堆積される、請求項1から14のいずれか一項に記載の基板。
【請求項16】
前記基板の一方の表面上に直接的に堆積される接着層を備え、前記遷移層は前記接着層上に直接的に堆積される、請求項1から15のいずれか一項に記載の基板。
【請求項17】
少なくともコーティングされるべき前記基板表面は、Si、SiOまたはGaAsからなる、請求項1から16のいずれか一項に記載の基板。
【請求項18】
前記基板は、プレコーティングを含み、前記圧電コーティング(I)は、前記プレコーティング上に直接的に堆積される、請求項1から17のいずれか一項に記載の基板。
【請求項19】
前記遷移層(3)の前記着実な上昇の前記終わりにおける前記比率は、26%より高いMe、好ましくは30%と等しいかまたはそれ以上のMeである、請求項1から18のいずれか一項に記載の基板。
【請求項20】
前記遷移層(3)および前記最上層(4)のうち一方の表面は、どの5μm×5μmの表面領域においても50個未満のスパイクの均一な表面品質を有する、請求項1から19のいずれか一項に記載の基板。
【請求項21】
1-xMeNコーティングを堆積する方法、またはA1-xMeNコーティングを有する基板を製造する方法であって、Aの少なくとも1つの元素から作られた少なくとも1つの第1のターゲット(10)、およびMeの少なくとも1つの元素、またはMeの少なくとも1つの元素とAの少なくとも1つの元素から作られた少なくとも1つの第2のターゲット(11)からの同時スパッタリングを含み、スパッタリングは、窒素含有ガス雰囲気中で、前記ターゲットのスパッタ時間およびスパッタレートを制御しつつ実行され、タイムスパンt3の間に、前記第1のターゲットのスパッタパワーPに対する前記第2のターゲットのスパッタパワーPMeのパワー比R=PMe/Pが増大する、方法。
【請求項22】
前記第2のターゲットの前記スパッタパワーPMeは増大するか、または一定に保たれるが、前記第1のターゲットの前記スパッタパワーは一定に保たれる(P)か、または減少する(P’)、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
同時スパッタリングは、基板平面14内の堆積領域内で実行され、前記第1のターゲットのスパッタコーンおよび前記第2のターゲットのスパッタコーンが重なり合う、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記堆積領域は、コーティングされるべき前記基板表面の少なくとも50%から100%を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
同時スパッタリングは、少なくとも1つの第1のターゲット(10)および少なくとも1つの第2のターゲット(11)のスパッタコーン(C1、C2)を交互に通って中心軸Z’から距離Dにおいて、少なくとも1つの基板を中心軸Z’の周りで回転させることによって実行され、それにより、前記第1のターゲットまたは前記第2のターゲットのより高いスパッタレートおよび前記基板の前記回転が制御されて、前記より高いスパッタレートを有する前記ターゲットの前記スパッタコーンの1パスあたり1つまたは数個の原子材料層のみを堆積させる、請求項21または22に記載の方法。
【請求項26】
同時スパッタリングは、2つの第1のターゲットおよび2つの第2のターゲットを用いて実行される、請求項21から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
AMeNマルチチャンバープロセスシステム(III)であって、
Aの少なくとも1つの元素から作られた少なくとも1つの第1のターゲット(10)と、Meの少なくとも1つの元素、またはMeの少なくとも1つの元素とAの少なくとも1つの元素から作られた少なくとも1つの第2のターゲット(11)と、ガス供給ライン(19)と、コーティングされるべき少なくとも1つの平面基板を固定する手段を備える基板支持体(13、13’)とを備えるマルチソーススパッタ(MSS)チャンバー(24)と、
Aの少なくとも1つの元素とMeの少なくとも1つの元素から作られたAMeターゲット、およびさらなるガス供給ラインを備える少なくとも1つのスパッタチャンバー(25)と、
前記プロセスチャンバー(24、25)に動作可能に接続され、請求項1から16のいずれか一項に従って、所定の堆積時間の間に増加していくMe対Aの堆積比を用いてAMeNコーティングを堆積するように前記ターゲットを時間およびレート制御するように製作されている、時間およびスパッタレート制御ユニット(32)と、を備えるAMeNマルチチャンバープロセスシステム(III)。
【請求項28】
前記第2のターゲット(11)は、ScまたはScおよびAlのうちの1つから作られ、前記スパッタチャンバー(25)からのAMeターゲットは、26から60at%の間のスカンジウム比を有するAlSc合金またはAlSc混合物から作られる、請求項27に記載のプロセスシステム。
【請求項29】
前記第1のターゲット(10)および前記第2のターゲット(11)は、基板平面(14)に平行な平面から中心基板支持体(13)の中間軸Zに向かって角度αの角度を付けられ、その結果、前記ターゲットの堆積領域同士が、コーティングされるべき基板表面上で重なり合う、請求項27または28に記載のプロセスシステム。
【請求項30】
10°≦α≦30°である、請求項29に記載のプロセスシステム。
【請求項31】
前記基板支持体13は、軸Zを中心として静止する円盤状の基板を回転させる手段を備える、請求項27から30のいずれか一項に記載のプロセスシステム。
【請求項32】
前記第1のターゲット(10)および前記第2のターゲット(11)は、基板平面14に平行な平面内にあり、基板支持体13’はカルーセルタイプであり、軸Z’を中心に基板を円形に回転させるための駆動部M’に動作可能に接続される、請求項27または28に記載のプロセスシステム。
【請求項33】
前記制御ユニット(32)は、前記第1のターゲットまたは前記第2のターゲットのより高いスパッタパワーに依存して前記駆動部の速度を制御するように設計される、請求項31に記載のプロセスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の圧電コーティングでコーティングされた表面を有する基板、請求項16に記載のそのようなコーティングを生産する方法、および基板上にそのようなコーティングを堆積させるプロセスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜のより高い電気機械結合係数の探求は、数例を挙げると、無線用途のための高周波(2GHz以上)で動作する広帯域フィルタ、小型スピーカおよびマイクロフォンなど、様々な用途のための微小電気機械デバイス(MEMS)の進歩の商業的なニーズによって推進されている。提案された様々な戦略のうちで、ウルツ鉱型AlN格子中のScによるAlの部分的置換は、達成可能な性能指数が高く、CMOS構造への組み込みが可能であり、フロントエンド半導体機器と互換性があるため際立っている。
【0003】
AlNは、長年にわたって圧電薄膜用途のための支配的な材料であった。この材料の主な欠点、すなわち、他のクラスの材料に関して電気機械結合係数が低いことは、縦方向圧電活性がSc/(Sc+Al)比に対して最大4倍まで最大40%まで増大するので、ウルツ鉱型格子中のScの置換により克服され得る[Akyamaら、Adv. Mat. 21、2009年]。さらに、このクラスの材料における圧電異常の中心にある構造的不安定性が、III族元素「A」(AlN、GaN、およびInNなど)の窒化物のウルツ鉱型構造中の金属元素「Me」(Yまたは(Mg0.5、Zr0.5)など)の様々な置換により首尾よく導入され得ることが、理論的[Tholanderら、PRB 87、2013年]にも、実験的[Yokohamaら、IEEE TUFFC 61、2014年]にも実証されている。しかしながら、A1-xMeNのウルツ鉱型膜(Al(1-x)ScN、Al(1-x)(Mg,Zr)N、またはIn1-xNなど)の堆積のための大量生産の解決策は、新たな課題を提起する。膜応力に対する結合係数の依存性が大きくなるので、大表面の基板にわたって、膜応力、結晶性、および表面粗さの優れた均一性が要求される。しかしながら、Sc含有量の増大に伴い、c軸配向を有する要求されるウルツ鉱型構造の成長は、隆起円錐状結晶子の出現により妨げられる。複数の著者[Fichtnerら][Dengら、JVSTA、30、2012年]は、この異常な結晶粒成長の事例が、オフノーマル堆積フラックス(off-normal deposition flux)に対するウルツ鉱型構造の異なる平面に対する捕獲断面内の表面異方性によって決定されることを示した。これらの望ましくない結晶粒は、まだウルツ鉱相にあるが、非c軸配向である。競合成長メカニズムにより、これらの表面上の吸着原子移動度が低いので、これらの結晶粒の成長が高められ、その結果、膜の圧電活性に対して関連する仕方で寄与しない異常なサイズの結晶粒が生じる。このような表面の不安定性は、膜の中のScの量と共に増大する。その結果、望ましくない結晶粒の体積分率は、Sc置換と共に実質的に増加する。これらの望ましくない結晶子の出現の可能性は、さらに基板/Al1-xScN界面に強く依存している。ウルツ鉱相の核生成は実際に非常に高い率で起こる、すなわち、表面粗さが高いほど、したがって結果として、c軸が基板に対して垂直ではない方向を指し、入ってくる吸着原子フラックスの方向から著しくずれる、結晶粒の核生成の可能性を高めることになる。モリブデン上に成長させたAl1-xScNでは、Sc濃度が15at%よりも高いときに、多数の結晶子が典型的には観察可能であるが、白金は、所与の膜厚に対して表面の滑らかさが高まるので、この問題の影響を受けにくい。いずれにしても、基板表面の選択および微細構造は、デバイスの仕様によって強く制限される。したがって、軸外結晶粒形成の可能性を低減する、Al1-xScN層の堆積の、ロバストプロセスソリューションが非常に有利である。純粋なAlNの表面不安定性は限定されているので、スカンジウムを含まない薄いシード層を使用することは、様々な基板タイプおよび材料上で所望のAl1-xScN品質の成長を確実にするのに効率的であることが判明している。たとえば、モリブデン電極上の25nmのAlNの初期成長は、純粋なc軸配向ウルツ鉱型構造を有するAl75Sc25N膜の堆積を可能にする。純ケイ素およびSiOを含む他の基板表面上のAlNシード層のプラス効果も実証されている。しかしながら、Sc濃度がたとえば30at%まで成長すると、シード層の構造とAl1-xScN層との間のミスマッチは再核生成を促進する傾向があり、純粋なAlNシード層戦略は限界に達する、すなわち、望ましくない結晶の成長は十分に効率的に抑制され得ない。したがって、本発明の主旨は、A1-xMeN層、たとえば前述のAlScN層の成長を確実にし、同等の高「B」含有量の他の知られている層と比較して、結晶子が全くないかまたはその数が無視できるくらい小さいことを示すべきである改善されたシーディングプロセスを提供することである。本発明のさらなる主旨は、そのような層を生産する方法を提供し、その方法を実行する処理システムを提供することである。
【0004】
定義:
1-xMeN層は、III族元素「A」(ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムのような)のいずれかによって構成され、Y、Zr、およびMgのような、遷移金属族2から6bからの、2a族、もしくは特にSc、Nb、Moのようなその族の特に立方晶系種からの、またはLa、Pr、Nd、Sm Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luのようなランタニド系もしくはここでもまた特にCeおよびYbのようなその族の立方晶系種からの、1つまたは複数の金属元素「Me」を含む、任意のA1-xMeN非中心対称層を指す。元素Aと元素または元素Meの混合物の原子百分率は、明示的な数字が参照されない限り変化してもよく、これは、AMeNまたはAlScNは、MeまたはSc(スカンジウム)比とも呼ばれる任意のMe/(A+Me)またはSc/(Al+Sc)比を参照することを意味し、Nは、化合物の金属成分に関して化学量論的、準化学量論的、または超化学量論的な関係にあってもよい。
【0005】
基板は、任意の基材であってよく、異なるか、または同じコーティングシステムにおいて施され得るプレコーティングと呼ばれる、次の異なる機能層構造でプレコートされた基板も含む。このようなプレコーティングは、たとえば、音響ミラーを含むものとしてよく、たとえば、シリコン基板が、たとえば、SiOおよびW層、またはSiO、SiN、SiN、AlNなどのエッチストップ層からの層スタックを含む。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Akyamaら、Adv. Mat. 21、2009年
【非特許文献2】Tholanderら、PRB 87、2013年
【非特許文献3】Yokohamaら、IEEE TUFFC 61、2014年
【非特許文献4】Dengら、JVSTA、30、2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
驚くべきことに、基板側から出発したときに、低いまたはゼロのMe濃度から高いMe/(A+Me)比に向かって上昇するMeの濃度勾配を含むAMeNコーティングは、以下のスパイクとも呼ばれる望ましくない隆起円錐状結晶子の出現を抑制することを効率的に補助できることが判明している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態では、基板は、圧電コーティングでコーティングされた表面を有する。このコーティングは、A1-xMeNを含み、Aは、B、Al、Ga、In、Tlのうちの少なくとも1つであり、Meは、遷移金属族3b、4b、5b、6b、ランタニド、およびMgのうちの少なくとも1つの金属元素であり、このコーティングは厚さdを有し、Aの原子百分率に対するMeの原子百分率の比率が前記コーティングの厚さ範囲δ3に沿って着実に上昇していく遷移層をさらに含み、ここでδ3≦dが有効である。
【0009】
本発明のさらなる実施形態では、Meは、Sc、Mg、Hf、Nb、Mo、Ce、YおよびYbのうちの少なくとも1つであってよく、これによりScが好ましい。
【0010】
コーティングは、遷移層の前記着実に上昇する開始点で終わるシード層をさらに含んでもよく、前記比率は、前記コーティングのさらなる厚さ範囲δ2に沿って一定である。
【0011】
さらなる実施形態において、コーティングは、遷移層の前記着実に上昇する終了点で始まる最上層を含んでもよく、前記比率は、前記コーティングのさらなる厚さ範囲δ4に沿って一定である。
【0012】
遷移層は、前記コーティングの制限表面の1つで開始するか、または終了してよく、たとえば、基板の表面上で直接的に開始してもよく、接着層の表面上で直接的に開始してもよく、および/またはMe/Al比が一定である最上層なしで終了してもよい。したがって、遷移層は、また、システムの唯一の層であり得、
δ3=dとなる。
【0013】
さらなる実施形態では、遷移層の前記着実な上昇は前記比率がゼロの状態で開始することができる。
【0014】
前記着実な上昇のMe濃度は、少なくともほぼ直線的、たとえば斜面のようであってよい。
【0015】
それに加えて、コーティングは、基板表面に直接的に堆積された接着層をさらに含んでいてもよく、この接着層は、材料、Si、Mo、W、Pt、Ru、Tiのうちの少なくとも1つからなるものとしてよい。
【0016】
シード層、またはシード層が設けられていない場合には遷移層は、基板Sの表面に直接的に堆積されてよく、設けられている場合には接着層の表面に堆積されてもよい。
【0017】
基板の少なくとも1つの表面は、Si、SiO、またはGaAsからなるものとしてよい。表面は、ウェハ、またはダイシングされて埋め込まれたウェハの表面であってもよい。
【0018】
遷移層の前記着実な上昇の終わりにおける比率は、26%より高いMe、好ましくは30%と等しいかまたはそれ以上のMe、たとえば26から50%、またはさらには30から60%の範囲内であってよい。
【0019】
遷移層および最上層のうちの一方の表面は、提供される限りにおいて、どの5μm×5μmの表面領域内でも、50個未満、特に40個未満、またはさらには30個未満のスパイクの均一な表面品質を有することができる。
【0020】
特に、基板S上の下記の層組合せが、実現され得、このリストの順序は改善の潜在的可能性を指している。
1. S/シード/遷移/最上:標準的な表面と材料に対して、Meが豊富に存在する最上層による高い圧電応答。3.の表面品質はほとんど維持できる。
2. S/接着/シード/遷移/最上:難しい表面状態や材料に対して、1.と同じ。4.の表面品質はほとんど維持できる。
3. S/シード/遷移:粗さ/スパイクの減少に関連した優れた表面品質、たとえば以下の図および実験を参照。
4. S/接着/シード/遷移:困難な表面状態または材料に対して、3.と同じ。
5. S/接着/遷移/最上。
6. S/遷移/最上。
7. S/遷移。
【0021】
ベストプラクティスの例および適用可能な厚さの範囲は、図の説明、および表2にも記載されている。
【0022】
本発明は、材料AからなるターゲットであるAターゲット(第1のターゲット)、および材料Meからなる、または材料AにMeを加えたものからなるターゲットであるMeまたはAMeターゲット(第2のターゲット)からの同時スパッタリングを含む上述の本発明のA1-xMeNコーティングを堆積する方法にも向けられ、スパッタリングは、窒素含有ガス雰囲気中で、前記ターゲットのスパッタ時間およびスパッタレートを制御しつつ実行され、タイムスパンt3の間に、第1のターゲットのスパッタパワーPに対する第2のターゲットのスパッタパワーPMeのパワー比R=PMe/Pは増大する。したがって、例として、MeターゲットまたはAMeターゲットのスパッタパワーPMeは増大され得るが、AターゲットのスパッタパワーPは一定に保たれるか、または減少し得る。PMeは、純粋なMeターゲットのスパッタパワーと、少なくとも1つの元素Aおよび少なくとも1つの元素MeからなるAMeターゲットのスパッタパワーの両方を指すことは言及されなければならない。
【0023】
本発明の一実施形態では、第1のターゲット(Aターゲット)のスパッタコーンと第2のターゲット(MeターゲットまたはAMeターゲット)のスパッタコーンが重なる堆積領域内で、同時スパッタリングが実行され得る。重複する堆積領域は、コーティングされるべき基板表面の少なくとも50%から100%、または80%から100%を含むことができる。スパッタリングは、また、コーンがそれぞれ基板平面内で重なる2つの第1のターゲットと2つの第2のターゲットで実行され得る。したがって、第1のターゲットおよび第2のターゲットは、軸Zに同心の円上で交互に配置構成され得る。
【0024】
言及されているようにたとえば第1のターゲットと第2のターゲットの重なり合うスパッタコーンを使用する任意の方法において、コーティングされるべきそれぞれの基板表面領域と全く同様に、重なり合うコーン内で混合される異なるターゲットからスパッタリングされた異なる材料を容易に合金化するかまたは混合することは有益である。ターゲット平面内に大きな重なり合う表面領域を設けるために、ターゲットは、通常、基板平面に平行な平面から中心基板支持体の中間軸Zに向かって角度αで傾けられる。角度αは、10°から30°、たとえば約15°±5°から選択され得るが、以下の例も参照されたい。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、同時スパッタリングは、少なくとも1つの第1のターゲットおよび少なくとも1つの第2のターゲットのスパッタコーン(C1、C2)を交互に通って中心軸Z’から距離Dで、少なくとも1つの基板を中心軸Z’の周りで回転させることによって実行され、それにより、第1のターゲットまたは第2のターゲットのより高いスパッタレートおよび基板の回転が相互に依存して制御されて、より高いスパッタレートを有するターゲットのスパッタコーンの1パスあたり1つまたは数個の原子材料層のみを堆積させるが、低いスパッタレートを有するターゲットの1パスあたりの寄与はいっそう低くなり、たとえば、いくつかの原子、1つまたは数個の原子層の程度である。
【0026】
本発明を実際にどのように実現するかを示すさらなる例およびプロセスパラメータは、図の説明および表1に記載されている。
【0027】
本発明は、以下の構成を備えるAMeNマルチチャンバープロセスシステム(MCS)にも向けられている。
- Aの少なくとも1つの元素から作られた少なくとも1つの第1のターゲット、およびMeの少なくとも1つの元素、またはMeの少なくとも1つの元素とAの少なくとも1つの元素から作られた少なくとも1つの第2のターゲット(11)と、ガス供給ライン(19)とを備えるマルチソーススパッタ(Multisource sputter)またはMSSチャンバー、
- Aの少なくとも1つの元素とMeの少なくとも1つの元素から作られたAMeターゲット、およびさらなるガス供給ラインとを含む、少なくとも1つのスパッタチャンバー25、
- コーティングされるべき少なくとも1つの平面基板を固定する手段を含む基板支持体であって、そのような手段は、基板陥凹部、横向きニップル、周縁部、クランプまたは同様のもののような機械的固定具、静電チャック(ESC)、またはそのような手段の組合せを含むものとしてよい、基板支持体、
- 前記プロセスチャンバーに動作可能に接続され、所定の堆積時間の間に増加していくMe対Aの堆積比を用いて前述の本発明のAMeNコーティングを堆積するように前記ターゲットを時間およびレート制御するように構成されている時間およびスパッタレート制御ユニット。
【0028】
本発明のプロセスシステムの一実施形態では、第2のターゲットは、ScまたはScおよびAlのうちの1つから作られ、スパッタチャンバーからのAMeターゲットは、26から50at%の間または30から60%の間のスカンジウム比を有するAlSc合金またはAlSc混合物から作られる。本発明のプロセスシステムのさらなる実施形態は、それぞれの図および説明に記載されている。
【0029】
プロセスシステムの一実施形態では、第1のターゲットおよび第2のターゲットは、基板平面に平行な平面から中心基板支持体の中間軸Zに向かって角度αの角度を付けられ、その結果、ターゲットの堆積領域同士が、コーティングされるべき基板表面上で重なり合う。一例として、角度αは、10°から30°、たとえば15°±5°とすることができる。基板支持体は、軸Zを中心として静止している円盤形状の基板を回転させる手段を備え得る。
【0030】
本発明のプロセスシステムのさらなる実施形態では、第1のターゲットおよび第2のターゲットは、基板平面に平行な平面において、軸Z’から側方の対向する距離Dにあり、基板支持体は、カルーセルタイプであり、基板を軸Zの周りで円を描くように回転させるように駆動部M’に動作可能に接続されている。制御ユニットは、第1のターゲットまたは第2のターゲットのより高いスパッタパワーに依存して、駆動部の速度を制御するように設計され得る。
【0031】
本発明は、次に、図の助けを借りてさらに例示されるものとする。図の説明は次のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】AMe層の第1の濃度プロファイルを示す図である。
図2】AMe層の第2の濃度プロファイルを示す図である。
図3】AMe層の第3の濃度プロファイルを示す図である。
図4】AMe層の第4の濃度プロファイルを示す図である。
図5】AMe層の第5および第6の濃度プロファイルを示す図である。
図6】AMe層の第6の濃度プロファイルを示す図である。
図7】AMe層の第7の濃度プロファイルを示す図である。
図8】AMeNコーティングを示す図である。
図9A】最新技術によるコーティングのAFMサーフェススキャンを示す図である。
図9B】本発明のコーティングのAFMサーフェススキャンを示す図である。
図10】例示的なパラメータセットを示す図である。
図11図10を参照することによるAFMサーフェススキャンを示す図である。
図12】本発明のコーティングを施すためのマルチソーススパッタ(MSS)チャンバーIIを示す図である。
図13】マルチソーススパッタ(MSS)チャンバーII’を示す図である。
図14】本発明のコーティングを施すためのプロセスシステムを示す図である。
図15】プロセスパラメータを示す概略図である。
図16】AlScNコーティングの予想された深さプロファイルの図である。
図17】AlScNコーティングの測定された深さプロファイルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1から図7は、本発明のコーティングシステムにより適用可能な濃度プロファイルの概略図を示している。図1は、A1-xMeN層を含むすべての本発明のコーティングに適用される基本スキームを示しており、厚さdはコーティングIの全体的な厚さであり、前記コーティングの厚さ範囲δ3に沿って、遷移層3が施され、Aの原子百分率に対するMeの原子百分率の比率、たとえば、百分率を表すために100を乗じたxMe/(x+xMe)は上昇し、δ3≦dである。Me含有量は、着実に、または小さなステップで、たとえば処理ユニットからの2値化によるステップから、上昇し得る。曲線は、直線(鎖線)から曲線(実線)までの任意の曲線タイプを含むことができる。
【0034】
Aは、B、Al、Ga、In、Tlのうちの少なくとも1つとすることができる。
【0035】
Meは、Mg、Sc、Y、Zr、Nb、Mo、La、Ce、Pr、Nd、Sm Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybのうちの1つまたは2つ、3つもしくはそれ以上の金属の組合せとすることができる。最も一般的なのは、Scまたは、Scと金属のうちの1つとの組合せである。
【0036】
図2は、図1の一変更形態を示しており、前記Me比は、前記コーティングのさらなる厚さ範囲δ2に沿って一定であり、前記着実に上昇する開始点、すなわち、基板および/または単なる任意の接着層(以下参照)と遷移層3との間、または単に遷移層の直下において終了する。前記Me比は、前記コーティングの前記さらなる厚さ範囲δ2に沿ってゼロとすることができ、これは、シード層2とも呼ばれる厚さδ2のAlN内にはMeが存在しないことを意味する。括弧内の層(1、...4)は、条件的である。純粋なAlNシード層を含むコーティングIの特別な変更形態が図3に示されており、これはシード層からコーティングの遷移層へのMe含有量の濃縮ステップを含む。しかしながら、好ましくは、シード層から遷移層および仕上げの最上層4への少なくともより高い濃縮ステップは回避されるべきである。
【0037】
コーティングのさらなる厚さ範囲δ4を有するそのような最上層は、図4に示されている。最上層4は前記着実に上昇する遷移層3の終わりから始まる。この最上層4は、通常、コーティングIの最も高いMe濃度を有する。
【0038】
図5は、コーティングの制限表面から始まる2つの遷移層4を示す。左側の曲線は基板の表面から直接的に始まる遷移層を示し、右側の曲線は大気に向かって外側表面で終わる遷移層を示している。図6は、図5の両方の層を組み合わせた遷移層を示しており、遷移層4は、コーティングの内側表面、たとえば、基板の表面から直接的に、シード層または接着層から始まり、最上層4またはコーティングの外側表面への界面において終わる。最後に、図7図6の特別な実施形態であり、遷移層はゼロのMe比から始まり、最高濃度で終わる。コーティングは遷移層4のみからなるものとしてよいという事実があるにもかかわらず、通常、圧電応答が高められるべきであるときに一定の高いMe濃度の最終最上層が施され、多くの場合に、純粋なAlNシード層は、結晶化の適切な開始のためのより安定したベースを提供するのに役立つ。
【0039】
基板とシード層および/または遷移層との間には、ある種のA1-xMeNコーティングに有益な場合のある接着層1が施されてよく、たとえば、Mo、W、Pt、Siまたはこれらの元素の混合物が有用であり得る。基板は、通常、ケイ素であり、ウェハの部分的にまたは完全に酸化された表面、および代替的にGaAsのような他の半導体も包含する。
【0040】
さらなる詳細は、次の例を用いて与えられる。
【0041】
図7は、基板(S)表面から始まる本発明のコーティングIを示しており、任意選択の接着l層は基板表面に直接的に設けられてよく、通常は、接着層の上に、または接着層が使用されない場合は基板表面上に、直接的に、厚さδ2のシード層2が続く。導電性がある限り接着層は圧電コーティングのために下側電極層としても働き得る。シード層は、純粋なAN、たとえばAlNまたはA1-xMeN、たとえば、低いMe、たとえばSc濃度、たとえば1から15at%または0.5から10at%のAl1-xMeN層であってもよい。代替的に、この層は、純粋なAN層と、シード層2内に破線で示されている、低いMe濃度のそれぞれのAMeN層からなるものとしてよい。シード層2上で直接的に続き、遷移層3がその後に続き、通常は、シード層と同じであるか、またはシード層よりも最大で5原子%高いMe濃度から始まり、たとえば、純粋なANシード層からMeなし(xMe=0)で始まり、Me濃度とともに最終的なA1-xMeNの最高Me濃度まで上昇し、この例では一定のMe濃度の厚さδ4を有するAMeN最上層となる。一例として、DC、DC-pulsまたはRF技術のような従来のPVDスパッタリングでは、最上層の最高Sc濃度は、約26at%から最大43at%まで選択され得る。次いで、より高い濃度に進むと、ScNの立方晶系結晶構造に起因する有害な立方体析出物が必然的に発生する。しかしながら、HIPIMS技術(HIPIMSは高出力パルスマグネトロンの略である)を用いた実験が実施されており、Sc濃度が最大50%、さらには60%に達しても、純粋な、または少なくとも高度に優勢な六方晶相で堆積することができた。
【0042】
最上層は必ずしも大気に触れるその外表面で終わる必要はないことは言及されるべきである。たとえば、当技術分野で知られているさらなる層、たとえば、圧電コーティングのための金属上側電極層および/または引っ掻き抵抗性もしくは耐湿性を有する層が、追加で設けられ得る。
【0043】
図15は、シード層、遷移層、および最上層からなる本発明のコーティングを、たとえば図12で詳細に説明されているスパッタチャンバーII内に施すための例示的なプロセススキームを示している。シード層は、純粋なAN層を堆積するタイムスパンt2、続いて純粋なMeターゲット(たとえばSc)または高Me濃度、たとえば30at%超のAMeターゲットの供給源のスパッタパワーPMe(PSc)を上昇させることによりAMeN遷移層を堆積するタイムスパンt3の間に、Aターゲット(たとえば、Alターゲット)の一定のスパッタパワーP(PAl)で堆積される。このケースでは、直線ランプが示されている。図1から図6に示されているような濃度曲線を生成するためには、代替的ランプが適用され得る。さらなる代替的プロセスでは、パワーP’(PAl’)は、タイムスパン2(一点鎖線)の少なくとも一部の間に下降させることによって低減することができ、これは、純粋なMeターゲットではなくAMeターゲットが使用されるときに特に有用であり得る。最後に、タイムスパンt3の間、一定のパワーPMeで高いMe濃度を有する最上層が堆積される。一般に、最上層のコーティング組成は、遷移層の終わりと同じであるべきである。したがって、少なくとも最上層が同じプロセスモジュール内で、たとえば、図14に示されているように同時スパッタリングによりMMSチャンバー内で、堆積される限り、堆積パラメータは同じであり得る。基板がさらなるスパッタチャンバーに、たとえば、より高い堆積率で最上層を堆積するために移されるときに、パラメータは、遷移層の最後の副層とほぼ同じコーティング特徴を満たすように適合させなければならない。本発明の例では、反応ガス流、さらには不活性ガス流は、プロセス全体の間一定に保たれる。反応ガスの余剰により、少なくともほぼまたは完全に化学量論的に反応したAN-、それぞれ、A-xMexN層を含むコーティングが堆積され得る。さもなければ、1つの、たとえば反応ガスもしくは不活性ガス、またはそれ以上の反応ガスもしくは不活性ガスは、たとえば両方またはそれ以上の種類のガス、それぞれのガスランプについて、好ましい程度の反応を達成することが予見され得る。たとえばMo、Pt、Wおよび/またはSiからの任意選択の接着層1が、タイムスパンt1において、シード層2を基板表面に直接的に施す代わりに、施されてよく、さらなる濃度ランプが、少なくとも1つのそれぞれのターゲットパワーランプを時間の経過とともにもたらすことによって層1と層2との間に使用することが可能である(図示せず)。
【0044】
表1は、本発明のコーティングで適用され得るプロセスパラメータおよび有用な範囲を参照するものである。すべての実験は、図14に示されているように、Evatec Clusterline CLN200 MSQ真空システムのそれぞれのプロセスモジュール24のマルチソーススパッタ(MSS)チャンバーIIにおいて実行された。図12を参照されたい。図12に示されているように、AlターゲットおよびScターゲットは対毎の対向する位置に配置構成され、Alターゲットはシード層を生成するために使用されており、両方のターゲットが次の遷移層と最上層に対して使用された。表1の2列目には、図8による本発明のコーティングの最上層を堆積するための堆積パラメータの例が示されている。この例では、最上層は500nmの厚さのAl0.7Sc0.3N材料を含み、シード層は15nmの純粋なAlNと、たとえば35nmの厚さの遷移層とを含み、これはゼロスカンジウムから始まり、最上層の30at%のSc濃度で終わる。4列目と5列目では、プロセス範囲1およびプロセス範囲2が与えられている。範囲1は、上記のように、ランタニドおよび他の3bから6bの金属または非金属X元素のような他のすべてのMe元素に対するプロセス範囲も含むが、範囲2は、たとえば基準コーティングがAlScNを含むコーティングの圧電特徴に関して最適な結果を達成するためのパラメータ範囲を含む。
【0045】
範囲1または2の低いパラメータ値は、たとえばパルスDC電力のスカンジウム、窒素ガスの流れの、Meランプの開始を指すものとしてよい。
【0046】
表2では、2列目に上記の厚さ550nmのコーティングの例の層厚さを示し、4列目と5列目にそれぞれの厚さの範囲1と2を示している。
【0047】
図9Aおよび図9Bは両方とも、次のパラメータおよびAFMティップが適用されたPark NX20デバイス(型式年度2016)で撮られたようなAFMサーフェススキャンを示している。
【0048】
スキャングリッド:双方向ラインスキャン
スキャン速度:動的
スキャン面積:5μm×5μm
(これは、スパイクの数値解析に使用される面積も指す)
AFMティップ:nドープSiタイプNSC15 AL BS
○ 8nmの未コーティングティップの典型的な半径
○ コーティング<8nmの結果として得られるティップ半径
○ 完全なティップコーン角度*40°
○ 全ティップ高さ12~18μm
○ プローブ材料n型シリコン
○ プローブバルク抵抗率0.01~0.025Ohm*cm
○ ティップコーティング
○ 検出器コーティングアルミニウム
【0049】
図9AのAFMサーフェススキャンは、厚さ25nmのAlNシード層2からの5μm×5μmの表面領域を示しており、これは表1で述べられているような一定のパルスDC電力(PAl=1000W)および一定のパラメータにより、もちろんゼロである電力PScを除き、堆積時間t2=122秒以内に堆積されている。このシード層2は、シリコンウェハSに直接的に施され、シード層はいっさい施されなかった。Z軸はナノメートル単位であり、ライトグレー(元々は茶色)から白への色の変化はおおよそ9nmにある。表面のいわゆる「スパイク分析」を行ったところ、9nmより高い高さ範囲内の結晶子に対応する約70個の白色スパイクティップが得られたが、これはスパイクのない平均的な基本粗さ、ここでは約2nmの約3から4倍以上の高さである。スパイクの高さとスパイクなしの平均表面粗さとのそのような関係は、典型的にはより低いマイクロメートル厚さ範囲までの薄い層に対してである。そのような結果は、良いものでも悪いものでもなく、今日使用されているとおりのシード層の通常の表面品質である。明らかに表面粗さにも影響を及ぼすが、コーティングの圧電応答にも影響を及ぼす、このような数の主に望ましくない高いスパイクは、通常圧電最上層であった堆積する次の層によって通常は再現される。それにより、シード層の欠陥は、次の最上位層の成長メカニズムによって直接的に転写されるか、または多くの場合に増幅されることすらあった。
【0050】
図9Bは、図9Aのシード層上に堆積される25nmの遷移層3のAFMサーフェススキャンの非常に驚くべき結果を示している。堆積パラメータは、同じだが、それに加えて、電力PScが非常に薄い最終的なAl0.7SC0.3N副層において終了する堆積時間の層3の堆積時間(t3=122秒)の間にゼロから460Wまで上昇したパラメータである。完全に予想外だったが、表面品質は劇的に、表面スパイクに関してほぼ3倍に改善され、相当する5μm×5μmの表面領域内で24個のスパイクにまで減らすことができた。
【0051】
例示的な時間変化パラメータセットを見ると分かるようにさらに検証されたそのような発見は、結果として、両方とも図10に示されているように、異なる層厚さおよび全体的なコーティング厚さの二重層配置構成をもたらしている。全体的な層厚さDは、左から右へのx座標に関して30から、50、70nmへと増加しているが、z座標の方向では遷移層の厚さは15から35nmへ10nm刻みに増加しており、一方でシード層の厚さは35から15nmに縮小している。それぞれの表面領域のAFMスキャンは、スパイク分析のそれぞれいわゆる「スパイク数」と共に図11に示されている。これにより、30nmに等しいか、なおもそれより小さい、たとえば5から30nm、または10から25nmであるべきである比較的薄いシード層2で最良の結果が得られることを示すことができた。一方、遷移層3の厚さは、好ましくはシード層2の厚さに等しいか、またはそれ以上であるべきであり、たとえば、10から50nm、たとえば、20から40nmである。
【0052】
図12は、本発明のプロセスシステムIIIのマルチソーススパッタ(MSS)チャンバーIIの概略を示している。このMSSチャンバーは、Aから作られた第1のターゲット10と、上述の例にこだわるためにMeまたはAMeから作られた第2のターゲット11とを備える。代替的に、第2のターゲットは、上述したような金属のいずれかから、またはたとえば冶金的に製造されたそれぞれのAMe合金、またはたとえば粉末冶金的に生産されたターゲットからのAMe混合物から作ることができる。ターゲット10、11は、ライン18、19を介して、それぞれの第1の電源15および第2の電源16によって給電される。第1の電源および/または第2の電源は、DC、パルスDC、パルスDCと重ねられたDC、RFと重ねられたDC、またはHIPIMS供給源とすることができる。ターゲット基板距離は、図12により、ここでは基板平面14に平行な平面から約15°の角度αで、角度を付けられたターゲットの中間から基板Sとチャンバー軸Zの中間に向かって定義され、表1に従って選択され得る。これにより、最大4つのターゲット、たとえば2つのAターゲットおよび2つのMeターゲットの堆積領域は、基板表面の大部分または全体の領域、すなわち基板領域の50%から100%、好ましくは80%から100%と重なる。重なり合いは、これにより、能動的ターゲット表面の外側境界線、つまりスパッタリングされた表面から生じるスパッタコーンを指し、ターゲット軸からの開き角は約35°である。MSSチャンバーの上側領域内の中心軸Zの周りにスパッタソースを回転可能に取り付けること、および/またはたとえば対向する基板の回転、および/またはターゲット軸T10、T11の周りの回転(両方ともそれぞれの円形の二重矢印で記号化されている)を行うことで、均等な材料分布および層品質をさらに助長し得る。基板は、基板ホルダー13、たとえばチャックによって支持され、これは、通常、加熱および/または冷却手段を備える。チャック13は、平坦な基板を安全に固定するためのESCチャックであってもよい。軸Zを中心とする、円盤状の基板、たとえばウェハは、駆動部Mによって固定回転され得る。角度αは、実際の距離TS、基板の回転速度、および/またはターゲットの回転、条件的にさらなる幾何学的パラメータに達するまで、0°から90°まで変化し得ることが言及されるべきである。チャンバーは、それぞれのポンプライン、高真空ポンプ、および少なくとも1つのフォアポンプまたは粗引きポンプを含む高真空ポンプシステムPによってポンピングされる。現在のパラメータは、ウェハのような200mmの平坦な円形基板および円形の100mmターゲット用のチャンバーに最適化されている。アップスケーリングおよびダウンスケーリング手順は当業者に知られている。図12に示されているようなそれぞれの対毎の対向する位置に円形に配置構成されている2つまたは4つのターゲットを装備することができるそのようなMSSチャンバーでは、言及されているように本発明のコーティングを堆積するすべてのプロセスステップが実行され得るが、接着コーティングであっても、スパッタステーションの少なくとも1つがそれぞれのターゲット材料を装備していれば実行され得る。しかしながら、MSSチャンバーIIのそのような多目的使用の結果、次に説明されているようにMCSシステムと比較して明らかにプロセスサイクルが長くなる。
【0053】
図13は、本発明のプロセスシステムIIIでチャンバーIIの代わりに使用可能な代替のマルチソーススパッタ(MSS)チャンバーII’の概略を示している。チャンバーII’では、複数の基板5が、それぞれ選択されたコーティングパラメータに従って、シード層2、遷移層3、または最上層4で同時にコーティングされ得る。ここでもまた、チャンバーII’は、Aから作られた少なくとも1つの第1のターゲット10と、MeまたはAMeから作られた少なくとも1つの第2のターゲット11とを備える。チャンバーIIと同様に、2つ、4つ、6つまたはそれ以上のターゲットが取り付けられているときに、異なる材料のAまたはMeそれぞれAMeのターゲットが交互する順序で配置構成される。しかしながら、この実施形態では、ターゲットは、基板支持体13’、それぞれ基板5の表面、より上に、またそれと平行に、円形経路に沿って配置構成される。基板支持体13’はカルーセルタイプであり、駆動部M’によって駆動され、基板を軸Zの周りで円形に回転させ、通常は基板を遊星軸Zの周りで回転させるための追加の駆動部Mを有する。類似の回転(「遊星」および/または循環的のみ)が、ターゲット10、11、それぞれ、全体として対応する磁気システムまたはスパッタソース(図示せず)で予見され得る。ターゲット材料、スパッタパワー、ターゲットと基板との距離、および異なる層の堆積のための使用に関しては、上述のようにそれぞれの備考を参照することができる。傾斜層3および最上層4の堆積のみに関して、チャンバーII内に共焦点配置構成され、角度を付けられたターゲットと比較して、ターゲットコーンの重なりを有しないか、または少なくとも少ない別々の堆積領域のせいで、カルーセル13’の回転、および該当する場合には、軸Z周りのターゲット10、11の逆回転は、基板がターゲットを通過する際に、1つまたはわずか数個の原子層の非常に薄い副層のみが堆積されるように十分に速くなければならないことが言及されるべきである。そのため、最低回転速度は、堆積されるべきそれぞれのMe/(A+Me)比に応じて第1または第2のターゲットであってよい主にスパッタレートの高いターゲットのスパッタパワーに依存する。そのような薄層を高速に連続して設けることで、ANおよびMeNまたはAMeNの副層の原子混合または合金化が達成され、それにより、上述したような重なり合うスパッタコーンと同様の材料特性がもたらされ得る。
【0054】
本発明のすべての実施形態によるターゲットは、マグネトロンターゲットであってよい。より適切な層分布のために、ターゲットの、またはターゲットの磁気システムの少なくとも一部の遊星回転が、たとえば、軸T10、T11または供給ライン17’、18’を包含する軸の周りに予見できる。
【0055】
産業規模の本発明の圧電コーティングを生産するための真空プロセスシステムが図14に示されている。基板Sは、ロードロックチャンバー28、29を介して、システムの真空中に↑およびそこから↓に搬送され、ウェハハンドリングレベルの上下に対毎に位置する6つの前処理および後処理モジュール30、30’、31、31’内に入れられる。さらにシステム上には、6つのプロセスモジュール21から26を備える。すべてのモジュール21から29は、前処理モジュール30から処理モジュール21から26にウェハSを↑↓<->搬送し、モジュール間でウェハを搬送し、最終的に後処理ツール30にウェハを戻すための自由にプログラム可能なハンドラ27を備える中央ハンドラコンパートメント20の周りに円形または多角形の形状に配置構成される。マルチチャンバー真空プロセスシステム(MCS)への搬入および搬出は、入ってくるウェハ用のロードロック28および出て行くウェハ用のロードロック29によって行われる。少なくとも1つのさらなるハンドラ(図示せず)がウェハを、ここでは1つのロードロックセクションとして実現されているロードロックチャンバー28、29から前処理モジュール30へ、そして再び後処理モジュール31からロードロックセクションへと搬送する。前処理モジュール30、30’および後処理モジュール31、31’は、処理や搬送を待つウェハ用のバッファ、加熱ステーション、冷却ステーション、エッチングステーションおよびアライナーステーションのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。モジュール22は、MCSにおける全体的なプロセスを調整するためにさらなる処理モジュール内でスパッタ堆積が実行される前またはその間に基板をエッチングするためのエッチングステーションを備え得る。モジュール21および26は、Moターゲット、それぞれPtターゲットを各々備えた少なくとも1つの金属スパッタステーションを備え、基板表面に接着層を施し、これは操作者が必要ならば異なる基板タイプまたは表面状態に合わせて最も適切な接着コーティングを選択できるようにする。モジュール23は、たとえばANシード層を短時間のうちに施すためのAターゲットを備えた金属スパッタステーションを備え得る。モジュール25は、最終的に比較的厚いAMeN、たとえばAlScN層を施すための、AMeターゲット、たとえばAlScターゲットを備えた金属スパッタステーションを備えるものとしてよい。別のMCSの配置構成では、2つのプロセスモジュール、たとえばモジュール25および26でさえ、最後の層の堆積プロセスを分割し、それによって生産サイクルを高速化するためにそれぞれのターゲットを装備し得る。
【0056】
モジュールのそれぞれのシステムユニットを含むか、または少なくともそのようなユニットのタイミングを制御してもよい、MCSのシステム制御ユニット32は、ここでもまたシステム制御ユニット32内に少なくとも一部は含まれ得るか、または制御されるべきそれぞれのモジュールとは別個であってもよい制御および/または調整手段33、測定手段およびセンサ(図示せず)によって、ウェハ搬送さらにはすべてのモジュール内のプロセスの詳細を制御する。入出力ユニット34は、操作者が単一のプロセスパラメータを修正し、新しいプロセスを自動的にロードすることを可能にする。図示されているような真空プロセスシステムでは、すべての処理モジュールは高真空ポンプシステムPによってポンピングされ、したがって中央ハンドラコンパートメント20、前処理モジュール30、後処理モジュール31、および/またはロードロックチャンバー28、29であってよい。
【0057】
最後に、本発明の一実施形態、例、または種類と共に述べた特徴の組合せは、矛盾しない限り、本発明の他の実施形態、例、または種類と組み合わせられ得ることは言及されるべきである。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【符号の説明】
【0060】
I 圧電コーティング
1 接着層
2 シード層
3 遷移層
4 最上層
5 最上層の表面
6 シード層の円錐状結晶子
7 遷移層の円錐状結晶子
S 基板
II MSSチャンバー
10 第1のターゲットAl
11 第2のターゲットMe
12 アノード(グランド電位にあってよい)
13 基板支持体
14 基板平面
15、16 第1および第2のターゲット供給源
17 第1の供給源からのライン
18 第2の供給源からのライン
19 供給ライン
C スパッタコーン
M、M’ 駆動部
P 高真空ポンプシステム
10/11 ターゲット軸
TS ターゲット/基板の距離
α チャンバー軸に対するターゲットの角度
Z チャンバー軸
III プロセスシステム
20 中央ハンドラコンパートメント
21 第1の処理モジュール/Mo
22 第2の処理モジュール/エッチング
23 第3の処理モジュール/AlN
24 第4の処理モジュール/MS II
25 第5の処理モジュール/AlMeN、AlScN
26 第6の処理モジュール/Pt
27 ハンドラ
28、29 ロードロックチャンバー入/出
30 前処理モジュール
31 後処理モジュール
32 システムコントローラユニット
33 制御および/または調整手段
34 入力/出力ユニット
↑↓ 真空内に搬入/真空から搬出
↑↓<-> ハンドラコンパートメントとモジュールとの間の搬送
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】