(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】生産バリューチェーンにおいて透明性を提供するための追跡可能な複合ポリマーおよびその調製方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20220915BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220915BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L101/00
C08L51/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502253
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(85)【翻訳文提出日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 IL2020050793
(87)【国際公開番号】W WO2021009757
(87)【国際公開日】2021-01-21
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518274043
【氏名又は名称】セキュリティ マターズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SECURITY MATTERS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ナホム,テヒラ
(72)【発明者】
【氏名】ファーステンバーグ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シャーデー,ハギット
(72)【発明者】
【氏名】タル,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】アロン,ハガイ
(72)【発明者】
【氏名】ヨラン,ナダフ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA01X
4J002AA03W
4J002AC00X
4J002BB00W
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4J002GG02
4J002GH00
4J002GK01
4J002GQ00
(57)【要約】
本発明は、情報をポリマーによりコード化させるXRF、IR、NIRおよびXRDなどの分光学的方法によって識別可能なトレーサーを含むポリマーの分野に関し、特に、美術品、電子機器、コーティング、プラスチック、包装、3Dプリント、ゴムなどにおける保存、修復およびレタッチのためのポリマーの分野に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのXRF検出可能な金属イオンと会合する1つまたは複数の官能基を有するポリマーであって、該ポリマーは、少なくとも1つの追加のポリマーでグラフトされていることを特徴とする、ポリマー。
【請求項2】
前記ポリマーが、フルオロポリマー、フェノール樹脂、ポリ無水物、ポリケトン、ポリエステル、ポリオレフィン、ビニルポリマー、アクリル、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびポリ塩化ビニルから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーが、ポリスチレン;ポリカーボネート;ポリアミド;ポリアクリレート;ポリウレタン;およびエポキシポリマーから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
前記1つまたは複数の官能基がアクリレートであることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項5】
前記1つまたは複数の官能基が、アミン、ヒドロキシル、カルボン酸およびチオールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項6】
前記金属イオンが、Na、K、Ba、Ca、Mg、Ni、Al、Cr、Co、Cu、Hf、Fe、Pb、Sn、Zn、Ti、Zr、Y、Se、Nb、Sr、Mn、Mo、V、BiおよびLaから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項7】
前記少なくとも1つの追加のポリマーが、熱可塑性ポリマー、エラストマー、ポリオレフィン、プラスチック、およびゴムから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項8】
前記少なくとも1つの追加のポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、ポリカーボネートおよびゴムから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項9】
無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(MAH-g-PP)ポリマーから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項10】
PAA450NaY-MAH-g-PP、PAA450NaZr-MAH-g-PP、PAA450NaMo-MAH-g-PP、PAA450KY-MAH-g-PP、PAA450KZr-MAH-g-PP、PAA450KMo-MAH-g-PP、PAA6NaY-MAH-g-PP、PAA6NaZr-MAH-g-PPおよびPAA6NaMo-MAH-g-PPから選択されることを特徴とする、請求項1または9に記載のポリマー。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマーを含む組成物。
【請求項12】
マスターバッチである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ペレットの形態である、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマーを含む複合体。
【請求項15】
認証されるべき物体をマーキングする方法であって、前記物体の少なくとも領域上にフィルムまたはマークを形成する工程を含み、前記マークが、請求項14に記載の複合体の形態である、方法。
【請求項16】
請求項14に記載の複合材料でマーキングされた物体を認証する方法であって、一次電磁信号を前記材料に向ける工程、および前記材料からの(二次)応答信号を検出および分析する工程を含む、方法。
【請求項17】
前記方法が、X線信号を前記材料の方向に向ける工程、およびX線応答信号を測定する工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマーを含む物体。
【請求項19】
前記物体が、包装材料、織物、電子物体、インク組成物、マスターバッチまたはゴム系製品であることを特徴とする、請求項18に記載の物体。
【請求項20】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマーを含む包装材料。
【請求項21】
食品または医薬品の包装である、請求項20に記載の包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報をポリマーによりコード化させるXRF、IR、NIRおよびXRDなどの分光学的方法によって識別可能なトレーサーを含むポリマーの分野に関し、特に、美術品、電子機器、コーティング、プラスチック、包装、3Dプリント、ゴムなどにおける保存、修復およびレタッチのためのポリマーの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、エポキシ官能性および他の架橋化合物を硬化させるためのジアクリル酸亜鉛(ZDA)およびジメタクリル酸亜鉛(ZDMA)などの金属アクリレート化合物、および、従来の硬化剤を実質的に含まずに組成物のエポキシ成分を硬化させることができる、他にも用途はあるが、粉末コート、フィルム、接着剤において使用するためのそのような化合物を含有する組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願第2005/0119373号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書に開示される技術の発明者らは、様々な材料の物体を認証する目的で、XRFによって検出可能なトレーサー原子を含む透明なポリマー材料で物体をコーティングまたはマーキングまたは付加することができることを認識した。ポリマー材料中の微量のトレーサー原子の存在ですら、材料の特定の特性、例えば、その透明性、稠度、機械的特性および均質な材料を形成する能力に影響を及ぼすことが見出されたので、XRFトレーサーのための媒体としてのポリマーの使用は、特定のクラスのポリマー、特定の選択のトレーサー原子または特定のトレーサー量に限定されていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、材料中に均質に分布し、1つまたは複数のトレーサー要素の存在を検出、測定および記録する能力を維持する形態で提供される1つまたは複数のXRF検出可能トレーサーを含むポリマー材料に関する。本明細書に開示されるように、ポリマー材料中に存在するまたは含有されるトレーサー要素は、安定であり、いかなる浸出または移動も示さず、ポリマーブルーミングを引き起こさない。実際、本発明のポリマー中に要素を含めても、それらを含むポリマー材料の特性は調節または変化されない。したがって、本発明のポリマーはまた、組成物の工業用ポリマーマスターバッチへの添加剤として試験され、このようなバッチまたは組成物にXRFマーキング能力を付与する。
【0006】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1つのXRF検出可能な金属イオンに関連する1つまたは複数の官能基および1つまたは複数の反応性官能基を有する修飾ポリマーを含む組成物を提供する。
【0007】
さらに、少なくとも1つのXRF検出可能な金属イオンに関連する1つまたは複数の官能基および1つまたは複数の反応性官能基を有する修飾ポリマーの複合体が提供される。
【0008】
ポリマー複合体は、ポリマー材料の骨格またはポリマー骨格上に存在する任意のペンダント基への少なくとも1つの重合性塩または錯体の会合/コンジュゲート/重合を可能にする条件下で、定義される少なくとも1つの重合性金属塩または重合性金属錯体との少なくとも1つのポリマー材料(ポリマーまたはプレポリマー、そのモノマーまたはオリゴマー)の組合せから調製され得る。
【0009】
したがって、本発明は、少なくとも1つのポリマー材料(またはプレポリマーあるいはポリマー材料のモノマーまたはオリゴマー)および重合性金属塩または重合性金属錯体の形態の少なくとも1つのXRF検出可能トレーサーのブレンドを含む組成物をさらに提供し、重合性金属塩または重合性金属錯体は、少なくとも1つの金属イオン(すなわち、金属カチオン)および少なくとも1つの重合性有機アニオンを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも1つの他のポリマー材料、例えば、後述するいわゆる架橋ポリマーを含んでもよい。
【0011】
本明細書で使用される場合、少なくとも1つの「ポリマー材料」は、少なくとも1つの重合性モノマー、すなわち重合性金属塩または金属錯体の少なくとも1つ、と化学的に会合することができる1つまたは複数の官能基を含む、任意の構成、分子量およびコンジュゲートのポリマーである。ポリマーは、当該技術で既知の任意のポリマーから選択することができる。ポリマーは、合成、半合成、または天然であり得る。記載されるように、金属イオンと会合することができる1つまたは複数の官能基および/または重合性モノマーとの重合を受けることができる1つまたは複数の官能基を採用するように修飾され得る。重合性金属塩または金属錯体の1つ以上による修飾または重合を受けたポリマー材料は、本明細書では「修飾ポリマー」と称される。
【0012】
ある実施形態において、ポリマー材料は、有機ポリマーおよび無機ポリマーから選択され得る。いくつかの実施形態では、ポリマー材料は導電性ポリマーである。
【0013】
ポリマー材料は、フルオロポリマー、フェノール樹脂、ポリ無水物、ポリケトン、ポリエステル、ポリオレフィン、ビニルポリマー、アクリル、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどから選択することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、ポリマー材料は、ポリスチレン、例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン;ポリカーボネート;ポリアミド;ポリアクリレート、例えばポリメタクリレート;ポリウレタン;エポキシポリマーなどから選択される。
【0015】
いくつかの実施形態では、ポリマー材料は、アクリル酸をベースとするホモポリマーまたはコポリマーである。これらは、ポリ(アクリル酸)ホモポリマー、ポリ(アクリル酸-コ-イタコン酸)およびポリ(アクリル酸-コ-マレイン酸)コポリマーを含み得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、ポリマー材料は、ポリアクリレートであるか、またはポリアクリル酸(PAA)から誘導される。
【0017】
いくつかの実施形態では、ポリマー材料は、アクリル酸をベースとするホモポリマーまたはコポリマーである。これらは、ポリ(アクリル酸)ホモポリマー、ポリ(アクリル酸-コ-イタコン酸)およびポリ(アクリル酸-コ-マレイン酸)コポリマーを含み得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、ポリマー材料は、以下の構造を有するパラロイド(登録商標)B-72である:
【化1】
ここで、m:n比は70:30である。
【0019】
ポリマー材料は、所望の修飾ポリマーへの重合を受けることができる形態で、本発明の組成物中に存在し得る。ポリマー材料は、重合、縮合、求核置換またはコンジュゲートされて、本発明に従って使用される修飾ポリマーを形成することができる、プレポリマー、モノマー、オリゴマー、または短いポリマー形態から選択される形態であり得る。
【0020】
「重合性金属塩」および「重合性金属錯体」は、重合性アニオン性モノマーと会合している場合の金属イオンの2つの代替形態である。重合性金属塩または錯体は概して(モノマー)nMsの形態であり、式中、nは金属原子Mに結合しているモノマー(またはアニオン性官能基)単位の数であり、sは塩または錯体中の金属原子の数である。例えば、重合性アルミニウム塩において、塩または錯体は、(モノマー)nMsの形態であり得、式中、nは3であり、MはAlであり、sは1である。したがって、(モノマー)nMsの形態の重合性金属塩または錯体において、モノマーは、本明細書で定義される重合性材料であり、nは1~5であり得、Mは1~5個の配位子基(または重合性モノマー)を会合することができる正に荷電した形態の金属であり、sは1~3である。
【0021】
金属の重合可能な形態で使用されるモノマーは、定義されるように、ポリマー骨格上の官能基への架橋またはコンジュゲートまたはグラフトを受けることができ、かつ、荷電形態であるかまたは金属原子と配位結合を形成することができる原子、典型的には、例えば、N、OおよびSから選択されるヘテロ原子を含む、任意のモノマーである。金属原子に結合するモノマーの数は、特定の金属原子に依存する。例えば、モノマーがアクリレートである場合、重合性金属イオンは、金属が二価である場合、2つのアクリレート単位を含んでもよく、金属が三価である場合、3つのアクリレート単位を含んでもよく、または金属が一価である場合、単一のアクリレートのみを含んでもよい。
【0022】
重合性金属イオンまたは錯体において、モノマーは同じであってもなくてもよい。2つ以上のモノマーを含む重合性金属イオンまたは錯体において、モノマーの各々は、同じであっても異なっていてもよい。また、本発明の組成物は、2種以上の異なる種類の重合性金属イオンまたは錯体の混合物を含んでもよい。
【0023】
モノマーは、アミン、ヒドロキシル、カルボン酸、チオールなどから選択される官能基を有するそのような材料から選択され得る。いくつかの実施形態では、モノマーはヒドロキシル化モノマーの中から選択される。いくつかの実施形態では、モノマーは、アミンモノマーまたはアミドモノマーの中から選択される。
【0024】
いくつかの実施形態では、モノマーは、アクリレート、アルキルアクリレート、置換アルキルアクリレート、アクリルアミド、アジペート、置換アジペート、イタコネートなどから選択される。
【0025】
いくつかの実施形態では、モノマーは、アクリレートまたはアルキルアクリレートである。アルキルアクリレートは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレートなどから選択され得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、アクリレートモノマーは、アクリル酸塩、ブチルアクリレート、メチルアクリレート、メタクリレートなどから選択される。
【0027】
重合性金属イオンまたは錯体中の金属イオンの形態で存在するトレーサー原子は、XRF検出可能なトレーサー原子の中から選択される。このような原子は、Na、K、Ba、Ca、Mg、Ni、Al、Cr、Co、Cu、Hf、Fe、Pb、Sn、Zn、Ti、Zr、Y、Se、Nb、Sr、Mn、Mo、V、Biなどから選択され得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、モノマーは、本明細書で選択されるアクリレートまたはアルキルアクリレートであり、XRF検出可能なトレーサーまたはイオンは、Na、K、Ba、Ca、Mg、Ni、Al、Cr、Co、Cu、Hf、Fe、Pb、Sn、Zn、Ti、Zr、Y、Se、Nb、Sr、Mn、Mo、VおよびBiのうちの任意の1つまたは複数である。いくつかの実施形態では、重合性金属イオンは、金属アクリレートであり、金属は、本明細書に列挙された金属のうちのいずれか1つまたは複数であり、アクリレートは、アクリル酸、アルキルアクリル酸またはそれらの任意の置換形態から誘導される。
【0029】
いくつかの実施形態では、重合性金属イオンは、アルミニウムアクリレート、アルミニウムメタクリレート、バリウムアクリレート、カルシウムアクリレート、クロム(II)アクリル酸塩、コバルトアクリレート、銅(II)アクリル酸塩、ハフニウムカルボキシエチルアクリレート、鉄(III)アクリレート、鉛(II)アクリレート、鉛(II)メタクリレート、マグネシウムアクリレート、ニッケルアクリレート、カリウムアクリレート水和物、ナトリウムメタクリレート、スズ(II)アクリレート、亜鉛アクリレート、亜鉛メタクリレート、ジルコニウムアクリレート、ジルコニウムメタクリレート、ジルコニウムカルボキシエチルアクリレート、ジルコニウム(IV)オキソヒドロキシメタクリレートなどから選択される。
【0030】
ポリマー材料および少なくとも1つの重合性金属イオンまたは金属錯体を含む本発明の組成物は、複数のイオン的または配位的に会合した金属イオンを組み込む架橋またはコンジュゲートされた修飾ポリマーの形態のポリマー複合体に変換され得る。複合体は、様々な形態であり得る。修飾ポリマーまたは複合材料への変換は、少なくとも1つの開始剤または触媒の存在下、熱条件下、真空下、圧力下または光照射条件下で達成されてもよい、または自発的に生じてもよい。モノマーとポリマー骨格上の官能基との間の共有結合は、当該技術で既知の任意の1つ以上のプロセスに従い得る。そのようなものとしては、フリーラジカル反応、イオン反応、縮合反応、付加反応、置換反応、配位集合、エステル交換などを挙げることができる。
【0031】
このように形成されたポリマー複合体は、少なくとも1つの金属イオンとイオン会合または配位会合している複数の官能基と結合している修飾ポリマーを含む。複合材料は、種々のポリマー製品のバルク材料として、またはポリマーコーティングとして使用されてもよく、したがって、金型または押出プロセスにおいて生成されてもよく、または種々の製品および基材の表面領域上にコートまたはフィルムとして形成されてもよい。
【0032】
複合体は、顆粒または原料として好適な任意の他の固体形態に形成されてもよい。加えて、複合体はマスターバッチとして形成されてもよい。
【0033】
当該技術で知られているように、濃縮物とも称されるマスターバッチは、プラスチックの特性を改善するためのパッケージである。様々な添加剤が、ポリマー担体中に高濃度で分散されて、押出しおよびペレット化される。ポリマー(プラスチック)組成物への本発明のXRF検出可能ポリマーの添加は、バリューチェーンに沿った完全なトレーサビリティ、異なるプラスチックのより良好な選別、リサイクル可能な品質および完全なプラスチック循環性の向上を可能にすることによって、組成物特性を改善する。マスターバッチは、ペレットの形態で、または流動性組成物として提供され得る。
【0034】
修飾ポリマーはさらに置換または官能化される。本明細書に記載されるように、少なくとも1つのXRF検出可能な金属イオンに会合する1つ以上の官能基を有する修飾ポリマーは、1つ以上または複数の反応性官能基をさらに特徴とし得る。定義されるようなポリマー材料上の官能基の大部分は、概して、XRF検出可能金属イオンと会合するように官能化されるが、官能基のいくつかは、反応性のままであり得る、すなわち、別の部分との官能化、置換、または別の化学カップリングを受けることができる。ポリマー材料が異なる反応性の複数の異なる官能基を含むいくつかの実施形態では、ポリマー材料の官能化は、本明細書で説明するように、100%未満の官能化度をもたらすように調整することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、本発明による修飾ポリマーは、主にポリマー末端に位置する1~10%の反応性官能基を含む。いくつかの実施形態では、反応性官能基の数は、修飾ポリマー上に存在する修飾官能基の総数の2~5%である。
【0036】
反応性官能基は、アミン、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボン酸基、アミド基、チオール基、チオカルボン酸基などの中から選択され得る。
【0037】
上記にもかかわらず、修飾ポリマー上の反応性官能基の存在は、修飾ポリマーをさらに官能化するために使用され得る。いくつかの実施形態では、本発明による修飾ポリマーのさらなる官能化は、官能化ポリマーまたは官能化材料による反応性官能基の官能化を含む。このような官能化の後、修飾ポリマーをポリマーまたは材料に置換して、以下のいずれか1つまたは複数によって特徴付けられる架橋ポリマーを得る:より高い分子量、増加もしくは減少した疎水性、増加もしくは減少した親水性、修飾ポリマー上で置換されたポリマーもしくは材料に由来する形態を有する自己組織化材料、または、機能が置換ポリマーもしくは材料の性質に由来する官能化材料。
【0038】
いくつかの実施形態では、架橋ポリマーは、修飾ポリマーと、熱可塑性ポリマー、エラストマー、ポリオレフィン、プラスチック、ゴムなどから選択されるポリマーとの間の反応の生成物である。このようなポリマーの非限定的な例としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、ポリカーボネート、ゴムなどが挙げられる。修飾ポリマーと架橋ポリマーとの間の会合は、直接的、すなわち、ポリマー上の官能基と修飾ポリマー上の反応性部分とを反応させることによるものであり得る;または、ジオール、ジアミン、無水物、活性化カルボニル基などのリンカー部分の使用を介して間接的であってもよい。
【0039】
したがって、本発明は、少なくとも1つのXRF検出可能な金属イオンと会合する1つ以上の官能基、およびそこから延びる1つ以上のポリマー部分を含むポリマーを提供する。言い換えれば、本発明のポリマーは、定義されるような修飾ポリマーを含み、少なくとも1つの追加のポリマーとグラフトされる。
【0040】
いくつかの実施形態では、ポリマーから延在する、またはポリマー上にグラフトされる1つ以上のポリマー部分は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、ポリアミド、ポリアルコールなどから選択される。
【0041】
複合体はまた、本発明のそのようなポリマーから作製されてもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、本発明の複合体またはポリマーは、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(-MAH-g-PP)ポリマー、例えばPAA450NaY-MAH-g-PP、PAA450NaZr-MAH-g-PP、PAA450NaMo-MAH-g-PP、PAA450KY-MAH-g-PP、PAA450KZr-MAH-g-PP、PAA450KMo-MAH-g-PP、PAA6NaY-MAH-g-PP、PAA6NaZr-MAH-g-PP、PAA6NaMo-MAH-g-PPなどから選択される。
【0043】
最も概略的な用語では、本発明の複合体およびポリマーは、広範な用途で利用することができる。そのようなものとしては、産業用途、医薬用途、農業用途、水ベースの技術などが挙げられる。複合体およびポリマーは、包装材料として、フィルムとして、表面として、容器として、ならびに他の複合体および組合せへの添加剤として使用され得る。とりわけ、使用されるポリマーの性質、追跡可能なイオン、架橋材料またはポリマーの有無、およびそのような材料またはポリマーの性質、並びにポリマーまたは複合体の構築におけるそのような材料の選択から生じる特徴および特性に応じて、本発明のポリマーおよび複合体は、機能性材料としてさらに使用され得る。物体の製造においてそのような材料を使用し、またはそのような材料を組成物に追加することによって、機能性が与えられ得る。そのような機能性は、疎水性、親水性、自己洗浄、防汚、反射性、吸収性などから選択され得る。修飾ポリマーおよび複合体を含む本発明の生成物は、1つ以上のXRFトレーサーを含むので、そのような機能的生成物を同定することができる。
【0044】
本明細書に開示される発明に従って、トレーサーは、一次電磁信号をポリマー材料に向け、ポリマー材料からの(二次)応答信号を検出および分析することによって、検出されその濃度が測定され得る。特に、トレーサーは、XRF分析を使用することによって測定することができる;すなわち、X線(またはガンマ線)信号をポリマー材料に向け、X線応答信号を測定することによる。ある例において、トレーサーは、EDXRF分析器を使用するエネルギー分散X線蛍光(EDXRF)分析によって検出され得る。特定の例では、EDXRF分析器は、携帯型または手持ち式装置であり得る。別の例では、トレーサーは、波長分散X線蛍光(WDXRF)分析器を使用して検出される。
【0045】
代替的にまたは追加的に、本発明の複合体中のトレーサーの存在は、イオノマー中のカルボキシル基と金属原子との間の新たなイオン結合に起因して、IRまたはNIR分光法によって検出され得る。
【0046】
本発明のさらに別の態様では、トレーサーの存在は、X線回折(XRD)分光法によって検出することができる。
【0047】
トレーサーは、測定され得る修飾ポリマーまたは複合材料中に様々な濃度で含まれ得るので、本発明の修飾ポリマー、複合材料および生成物は、情報でコード化され得る。これらが(例えば、コーティングによって)適用され得る複合体およびポリマーから作製される製品または基材は、追跡および追跡方法、認証および検証方法、サプライチェーンおよび物流管理、品質管理、プロセス制御において、並びに種々の他の用途のために、使用され得る情報を含み得る。本発明のトレース可能なポリマー材料に含まれるトレーサーは、例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願第PCT/IL2016/050340号またはそれに由来する任意の米国特許出願に記載される読み取り方法を用いることによって、微小濃度で検出および測定することができる。
【0048】
本発明の態様において、本発明の複合体はまた、追加のトレーサー(例えば、XRF識別可能トレーサー)とブレンドされてもよく、ポリマー複合体中の全体的なトレーサーの数、したがって、システムによってコードされ得る情報の量を増加させ得る。
【0049】
本発明の複合体に組み込まれたトレーサーは、追跡可能ポリマー骨格に化学的に結合/化学的に会合している。言い換えれば、トレーサーは、ポリマー骨格に直接結合している原子または原子基に結合している。このような追跡可能なポリマー系は、本質的に安定であり、トレーサーがポリマー系と混合される混合系において生じ得る不安定性および不適合性を示さない。さらに、そのような追跡可能なポリマー系は、移動、ブルーミング、および/または浸出を受けない。そのような特性は、摂取可能製品(例えば、食品、医薬品)と接触し得る物体において重要であり得る。例えば、国際特許出願第PCT/IL2017/051112号またはそれに由来する任意の米国出願に記載されているプラスチック製品は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
本発明の別の態様によれば、本発明の複合材料は、材料の起源の認証および検証を可能にする3Dプリントに使用することができる。いくつかの実施形態では、複合体またはポリマーは、インク配合物中またはプリントに使用される配合物中の添加剤である。
【0051】
本発明のさらなる態様において、複合体は、プラスチック産業において、パッケージ、特に食品および医療製品用のパッケージにマーキングおよびトレースするために使用され得、複合体の構造は、材料(例えば、トレーサーおよびマーキング材料)が包装された製品へ移動することを防止する。パッケージは、本発明のポリマーまたは複合体が添加され得る任意の材料から形成されてもよい。
【0052】
本発明の複合体はまた、織物製品または電子製品、並びにエポキシ(例えばセメントで使用するための)、PVC、TPUなどの材料をマーキングおよびトレースするために使用され得る。このような用途において、本発明のポリマーまたは複合体は、織物製品または電子製品の製造における材料として、またはそれに関連するマーカーとして使用され得る。
【0053】
他の態様では、本発明の複合体は、インクおよび染料(例えば、セキュリティ文書を認証するためのもの)並びに接着剤に使用され得る。
【0054】
本発明のさらに別の態様では、複合体は、ゴム製品(例えば、タイヤ、コンベヤベルト)に使用することができる。
【0055】
本発明の例示的なシステムでは、追跡可能なポリマーが、美術品の保存、修復、およびレタッチのために使用された。コポリマーPARALOID(登録商標)B-72であるポリマーは、エチル-メタクリレート共重合体の形態の、耐久性のある非黄色アクリル樹脂であるアクリロイドポリマーである。修復および保存などの用途に加えて、コポリマーB72は、ペインティングおよび美術品全般をタグ付けするためのプラットフォームとしても使用された。本発明の修飾B72は、元のコポリマーB72の特性とともに、内蔵タグ付けおよび追跡能力を提供する。他のポリマー系が、本明細書に開示されるように調製および使用されている。
【0056】
したがって、本発明は、認証されるべき物体をマーキングする方法をさらに提供し、この方法は、前記物体の少なくとも領域上にフィルムまたはマークを形成する工程を含み、前記マークが本発明の複合材料の形態である。
【0057】
本発明はさらに、本発明の複合材料でマーキングされた物体を認証する方法をさらに提供し、この方法は、一次電磁信号を材料に向ける工程、および材料からの(二次)応答信号を検出および分析する工程を含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、X線(またはガンマ線)信号を材料の方向に向ける工程、およびX線応答信号を測定する工程を含む。
【0059】
したがって、本発明は、以下の本発明の実施形態を提供する:少なくとも1つのXRF検出可能な金属イオンに会合する1つ以上の官能基を有するポリマーであって、少なくとも1つの追加のポリマーでグラフトされている、ポリマー。
【0060】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、フルオロポリマー、フェノール樹脂、ポリ無水物、ポリケトン、ポリエステル、ポリオレフィン、ビニルポリマー、アクリル、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびポリ塩化ビニルから選択される。
【0061】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリスチレン;ポリカーボネート;ポリアミド;ポリアクリレート;ポリウレタン;およびエポキシポリマーから選択される。
【0062】
いくつかの実施形態において、1つ以上の官能基はアクリレートである。
【0063】
いくつかの実施形態において、1つ以上の官能基は、アミン、ヒドロキシル、カルボン酸およびチオールから選択される。
【0064】
いくつかの実施形態において、金属イオンは、Na、K、Ba、Ca、Mg、Ni、Al、Cr、Co、Cu、Hf、Fe、Pb、Sn、Zn、Ti、Zr、Y、Se、Nb、Sr、Mn、Mo、V、BiおよびLaから選択される。
【0065】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加のポリマーは、熱可塑性ポリマー、エラストマー、ポリオレフィン、プラスチック、およびゴムから選択される。
【0066】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加のポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、ポリカーボネートおよびゴムから選択される。
【0067】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(-MAFi-g-PP)ポリマーから選択される。
【0068】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、PAA450NaY-MAH-g-PP、PAA450NaZr-MAH-g-PP、PAA450NaMo-MAH-g-PP、PAA450KY-MAH-g-PP、PAA450KZr-MAH-g-PP、PAA450KMo-MAH-g-PP、PAA6NaY-MAH-g-PP、PAA6NaZr-MAH-g-PPおよびPAA6NaMo-MAH-g-PPから選択される。
【0069】
本発明によるポリマーを含む組成物が提供される。マスターバッチであってもよい、および/またはペレットの形態であってもよい。
【0070】
本発明によるポリマーを含む複合体も提供される。
【0071】
認証される物体をマーキングする方法が提供され、前記物体の少なくとも領域上にフィルムまたはマークを形成する工程を含み、前記マークが本発明の複合体の形態である。
【0072】
本発明の複合材料でマーキングされた物体を認証する方法が提供され、一次電磁信号を材料に向ける工程、および材料からの(二次)応答信号を検出および分析する工程を含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、X線信号を材料の方向に向ける工程、およびX線応答信号を測定する工程を含む。
【0074】
本発明によるポリマーを含む物体が提供される。いくつかの実施形態では、物体は、包装材料、織物、電子物体、インク組成物、マスターバッチまたはゴム系製品である。
【0075】
また、本発明のポリマーを含む包装材料も提供される。包装材料は、食品または医療製品、あるいは当該技術で既知の任意の他の製品または物体であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0076】
調製方法
本発明のポリマー複合材料(以下に記載される)を調製する方法は、ポリマーとトレーサー担持モノマー(例えば、金属修飾モノマー)との間の反応を含む。ポリマーとモノマーの両方を使用することによって、親ポリマーの主な特性を本質的に有する本発明の追跡可能ポリマー複合材料を容易に得ることができる。例えば、親ポリマーとしてB72ポリマーを使用し、元のB72ポリマーの基本特性(例えば、接着性、透明性、可撓性、溶媒和性など)を維持する追跡可能なまたはコード担持修飾B72ポリマーを得ることができる。さらに、親B72とトレーサー担持モノマーとの反応を制御することによって(例えば、プロセスで使用されるモノマーまたは他の物質の濃度および/またはプロセスの条件を制御することによって)、得られる修飾B72は、必要な用途に従って元の特性のいくつかを増強または抑制することができる。例えば、偽造防止および認証検証の目的で修飾B72を使用することができ、この場合、修飾B72は親B72よりも溶解性が低くなり得る。
【0077】
(i)湿式化学
本発明のトレース可能な複合ポリマーは、ラジカル開始剤の存在下で、溶媒に溶解されたトレーサー担持モノマーおよび親ポリマーを使用することによって形成され得る。
【0078】
(ii)反応押出し
本発明のトレース可能な複合ポリマーは、反応押出機を使用することによって調製することができ、重合は、溶媒を使用することなく達成される。
【0079】
本発明のポリマー組成物
本発明の組成物は、以下の表1に列挙されるポリマーのいずれか1つを使用して調製された。表中、Mは、NbCl
5、MoCl
5、YCl
3、NbCl
5(水和物分子として使用される)などの塩に由来するNb、Mo、YまたはZrである。
【表1】
【0080】
ナトリウム/カリウム塩PAA450の調製
オプションA:DI水中
10gのPAA450を希NaOH(0.05N)と、溶液がアルカリ性になるまで混合し、24時間維持した。官能化ポリマーを濾過によって収集し、水で洗浄して過剰のNaOHを除去し、真空中で乾燥させた。
【0081】
10gのPAA450を希KOH(0.05N)と、溶液がアルカリ性になるまで混合し、24時間維持した。官能化ポリマーを濾過によって収集し、水で洗浄して過剰のNaOHを除去し、真空中で乾燥させた。
【0082】
オプションB:エタノール中
5.1gのKOH/NaOHをガラス瓶中の100mlのエチルアルコール(純度95%)に加え、完全に溶解するまで機械的に撹拌した。次いで、10gのPAA450を、室温で9時間絶えず撹拌しながら溶液に添加した。9時間混合した後、生成物を濾過し、水で洗浄して過剰のKOH/NaOHを除去し、50℃で一晩乾燥させた。
【0083】
オプションC:イソプロピルアルコール(IPA)/DI-水(95:5)混合物中
エタノールは負の環境効果を有することが知られているので、IPAを代替として使用した。しかしながら、PAAはIPAに可溶性ではないので、PAAおよびKOH/NaOHの両方を溶解するために異なるIPA:水組成物を試験した。95.5質量%のIPA:水が、PAAおよびKOHを溶解するがNaOHを溶解しないことが見出された。
【0084】
したがって、5.1gのKOHをガラス瓶中の100mlのIPA/水溶液に添加し、完全に溶解するまで機械的に撹拌した。次いで、10gのPAA450を、完全に溶解するまで絶えず撹拌しながらKOH溶液にゆっくりと添加した。溶液を室温で9時間撹拌した。生成物を内部で24時間静置し、IPA/水を蒸発させ、次いで100ccのDI-水を添加して過剰の未反応KOHを除去した。次いで、生成物をオーブン中で50℃で一晩乾燥させた。
【0085】
金属イオンとの錯化
金属塩、例えば金属塩化物を、それらの水溶性のために使用した(YCl3、MOCl5、ZrOCl2)。
【0086】
100mgのPAA6Naを、明らかな過剰濃度の金属塩溶液と共に、天然pH(0.05N、50ml)下で9時間撹拌した。生成物(PAA6NaM)を濾過により回収し、過剰の蒸留水で洗浄して、錯体化していない金属イオンを除去した。
【0087】
100mgのPAA450Naを、明らかな過剰濃度の金属塩溶液と共に、その天然pH(0.05N、50ml)で9時間撹拌した。生成物(PAA450NaM)を濾過により回収し、過剰の蒸留水で洗浄して、錯体化していない金属イオンを除去した。
【0088】
100mgのPAA450Kを、明らかな過剰濃度の金属塩溶液と共に、その天然pH(0.05N、50ml)で9時間撹拌した。生成物(PAA450KM)を濾過によって収集し、過剰の蒸留水で洗浄して、錯体体化していない金属イオンを除去した。
【0089】
上記の実験はすべて、異なるpH値(3から約6~7までの範囲)で繰り返した。
【0090】
PAA450のIRスペクトルにおいて、カルボン酸基COOHの非対称(C-O)
2延伸は、1698cm
-1付近で強く吸着した。対照的に、PAA450Naは、1698cm
-1付近に小さな吸着を示し、少量のCOOH基の存在を示した。高い吸着を有する新しい非対称(C-O)
2延伸ピークが1539cm
-1付近で観察され、新しいCOONa結合が示された。金属Yと配位すると、(C-O)
2延伸周波数は、COONaの場合1539cm
-1から1531cm
-1にシフトダウンし、金属Yイオンとの錯体形成(COOY結合)を示した。反応収率を計算するために、以下の式を使用した:
【数1】
【0091】
以下の表2に示すように、PAA450Naは高い錯化収率を示し、COOH基の大部分がNaと反応したことを示唆した。PAANaYも同様の錯化収率を示し、少数のCOOH基が示唆され、COO基の大部分が金属イオンNaまたはYに結合していることが示唆された。
【表2】
【0092】
TGA結果
上記のポリマー-金属錯体の熱重量分析を使用して、金属イオンとの錯化(COOM結合の生成)による熱安定性の変動を明らかにした。概して、ポリマー-金属錯体の熱分解挙動は、ポリマー支持体の高分子特性および配位ジオメトリーの種類に依存する。非錯化PAA(COOHのみを含む)は、温度の上昇と共に複数の分解工程を受けることが示された:
工程A:吸着された水分子の蒸発;
工程B:加熱による分子内無水物形成からの水の放出;
工程C:加熱による分子間無水物形成からの水の放出;
工程D:脱炭酸反応および分解;および
工程E:有機燃焼。
【0093】
PAA450について記載した5つの分解工程はすべて予想通りであった。PAA450Naは、水の蒸発に起因して、PAA450と比較して、開始時により高い重量損失を示した;しかしながら、工程BからDまでは、PAA450(82%の重量損失を示した)と比較して、約10%の重量損失しか観察されなかった。このわずかな重量減少は、COOH基の欠如を示し、COOH基の大部分がNaOHと反応して、より良好な熱安定性を有する新しいCOONa結合を生じたという観察を支持した。工程Eから、PAA45Naは、ポリマーの有機部分の燃焼による重量の深い減少を示した。
【0094】
PAA450NaZrはPAA450と同様に挙動し、顕著な量のカルボン酸基(工程B~D)を示唆し、低転化度を支持する。PAA450NaYはPAA450Naと同様に挙動し、少量のカルボン酸基の存在を示唆し(工程B~D)、高度の変換を示した。PAA450NaYおよびPAA450NaZrの両方は、PAA450と比較して、温度の上昇に伴ってより小さい重量損失を示した。これは、新しいCOOM(M=ZrまたはY)アイオノマーの熱安定性の向上を示す。
【0095】
PAA450NaYをPAA450NaZrと比較すると、PAA450NaYはより小さい重量損失を示し、これはより良好な熱安定性を意味する。PAA450NaYについては、600℃の試験温度の終わりに61%の残留無機(Y)含有量が観察された。
【0096】
XRF結果
本発明のポリマーのXRF読取り値は、金属、例えばイットリウムが錯化を受ける前に、PAA450およびPAA450Naにおいて金属が検出されなかったことを示した。しかしながら、錯化後に、ピーク強度が増加し、金属、例えばイットリウムの存在が確認された。
【0097】
MAH-g-PPまたはAA-g-PEとの縮合反応
ポリマーの接着性、相溶性、湿潤性を増大させる一般的な方法は、極性ポリマーまたは低分子量添加剤、例えば無水マレイン酸、不飽和カルボン酸誘導体および複数の官能基を含有するビニルまたはアクリル化合物による修飾である。低分子量化合物は、溶融物中のポリマー上にグラフトされ、処理中にグラフトまたはブロックコポリマーを形成することができる。
【0098】
無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(MAH-g-PP)は相溶化剤であり、これは非常に有効であり界面においてポリマーマトリックスに通常使用される。これは、添加剤とPPマトリックスとの間の乏しい界面接着を改善するために使用される。PP複合体への2.5%~5.0%のMA-g-PPの添加は、Tm値に影響を及ぼさなかった。
【0099】
MAH-g-PPとのPAA450の縮合
PAA450およびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA450およびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0100】
MAH-g-PPとのPAA450NaYの縮合
PAA450NaYおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA450NaYおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0101】
MAH-g-PPとのPAA450NaZrの縮合
PAA450NaZrおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA450NaZrおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0102】
MAH-g-PPとのPAA450NaMoの縮合
PAA450NaMoおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA450NaMoおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0103】
MAH-g-PPとのPAA450KYの縮合
PAA450KYおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA450KYおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0104】
MAH-g-PPとのPAA450KZrの縮合
PAA450KZrおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA450KZrおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0105】
MAH-g-PPとのPAA450KMoの縮合
PAA450KMoおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA450KMoおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0106】
MAH-g-PPとのPAA6NaYの縮合
PAA6NaYおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA6NaYおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0107】
MAH-g-PPとのPAA6NaZrの縮合
PAA6NaZrおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA6NaZrおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0108】
MAH-g-PPとのPAA6NaMoの縮合
PAA6NaMoおよびMAH-g-PPを、最初に80℃で2時間加熱し、次いでトレムブルミキサー中で10分間混合した。混合PAA6NaMoおよびMAH-g-PPを共回転二軸押出機によって配合し、バレルゾーンの操作温度は160℃、165℃、170℃および175℃であり、ダイゾーンの温度は180℃であった。
【0109】
非混和性ブレンド成分の相溶性は、過酸化物を用いて大幅に改善することができ、ポリオレフィンのフリーラジカルに対する高い反応性を利用することにより、ポリプロピレンまたはポリエチレンと低分子量化合物との相溶性を促進するための良好な出発点を、溶融物中に添加することによって使用し、グラフト化-処理中にグラフトまたはブロックコポリマーを形成するカップリング反応-を開始することができる。
【0110】
マスターバッチの製造
PAA450-MAH-g-PPペレットを80℃の対流乾燥オーブン中で3時間脱水し、続いてPPと配合して濃縮マスターバッチ(参照マスターバッチ)を生成した。参照マスターバッチを異なる比率でPPと乾燥ブレンドし、射出成形によって射出して、試験用の試験片を製造した。
【0111】
同様に、PAA450NaY-MAH-g-PP、PAA450NaZr-MAH-g-PP、PAA450NaMo-MAH-g-PP、PAA450KY-MAH-g-PP、PAA450KZr-MAH-g-PP、PAA450KMo-MAH-g-PP、PAA6NaY-MAH-g-PP、PAA6NaZr-MAH-g-PP、PAA6NaMo-MAH-g-PPなどのマスターバッチを調製した。
【国際調査報告】