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特表2022-541445造血の完全なアブレーションを誘導するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】造血の完全なアブレーションを誘導するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20220915BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20220915BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220915BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20220915BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220915BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20220915BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
A61K38/16
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
C12N5/0789
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K47/68
A61K47/54
A61K31/7088
A61K31/7105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502383
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(85)【翻訳文提出日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2020070244
(87)【国際公開番号】W WO2021009336
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】19305948.2
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ラグレル-ペイルー,シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】オリション,オーレリアン
(72)【発明者】
【氏名】シャーデク-ロック,ハネム
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】カヴァッツァーナ,マリナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA07
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZB26
4C086ZB27
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA24
(57)【要約】
本発明者らは、臨床症状がRD SCID形態と重複するが、しかし、AK2変異及び難聴を欠く3名の重症複合免疫不全症(SCID)患者において、RAC2遺伝子(Ras関連C3ボツリヌス毒素基質2(RAC2)をコードする)中で常染色体優性(AD)ミスセンス変異を同定した。生化学的アッセイ及びインビトロ分化アッセイを使用し、本発明者らは、RAC2変異が細胞分化能における障害ならびに細胞及びミトコンドリアネットワークにおける欠損に密接に関連していることを実証した。全体として、このデータによって、RAC2タンパク質のGDP/GTP結合部位中の優性機能獲得(GOF)変異がHSPC分化を阻害し、RDの臨床症状を伴うSCIDの重度AD形態に導くことが実証される。したがって、この結果によって、造血系列における同定されたRAC2ムテインの導入が、造血の完全なアブレーションを誘導するために適切でありうることを考慮するように促された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者において造血を完全にアブレーションする方法であって、患者に治療有効量のi)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを投与することを含む方法。
【請求項2】
造血幹細胞の集団の増殖及び分化を阻害するための方法であって、前記集団に有効量のi)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを接触させることを含む方法。
【請求項3】
造血細胞の集団の細胞死を誘導する方法であって、前記集団に有効量のi)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを接触させることを含む方法。
【請求項4】
悪性造血細胞の集団の細胞死を誘導する方法であって、前記集団に有効量のi)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを接触させることを含む方法。
【請求項5】
それを必要とする患者において造血細胞悪性病変を処置する方法であって、患者に治療有効量のi)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを投与することを含む方法。
【請求項6】
骨髄移植に対して患者を準備(即ち、前処置)するための、請求項1、2、又は3に記載の方法。
【請求項7】
骨髄移植が造血幹細胞移植である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
造血細胞悪性病変が、白血病、リンパ腫、及び多発性骨髄腫からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
造血細胞悪性病変が、骨髄異形成症候群(MDS);骨髄増殖性疾患、例えば真性赤血球増加症(即ち、PV、PCV、又は真性一次性赤血球増加症(PRV))、本態性血小板血症(ET)、骨髄線維症など;ならびに骨髄異形成症候群及び骨髄増殖性疾患の両方の特色を伴う疾患、例えば慢性骨髄単球性白血病(CMML)、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、非定型慢性骨髄性白血病(aCML)、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、及び急性骨髄性白血病(AML)などからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
12位のアミノ残基(G)が置換されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
12位のアミノ残基(G)がアミノ酸残基(R)により置換されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
本発明のポリヌクレオチドがメッセンジャーRNA(mRNA)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ポリヌクレオチドがベクター中に挿入されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ポリペプチド又はポリヌクレオチドが、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、脂質、レクチン、糖、ビタミン、補因子、及び薬物からなる群より選択される少なくとも1つの他の分子に結合している、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ポリペプチド又はポリヌクレオチドが、造血細胞について特異的な親和性を有する分子、例えば造血幹細胞の表面で発現されるタンパク質について結合親和性を有する抗体又はペプチドなどに結合されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ポリペプチド又はポリヌクレオチドがリピドイドを用いて製剤化されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ポリペプチド又はポリヌクレオチドが、1つ以上のリポソーム、リポプレックス、又は脂質ナノ粒子を使用して製剤化されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
【0002】
本発明は、血液学の分野における。
【0003】
発明の背景
【0004】
造血幹細胞移植(HSCT)は、多様な悪性及び非悪性の造血器疾患のための潜在的に根治的な治療アプローチである。HSCTが悪性障害を伴う患者において実施される場合、準備又は前処置(conditioning)レジメンが手順の一部として投与され、3つの目標を達成する:骨髄中にスペースを作る(骨髄破壊)、移植片の拒絶反応を防止するために十分な免疫破壊を提供する、及び腫瘍負荷を低下させる。前処置レジメンの強度は大幅に変動し、最適な前処置レジメンを任意の所与の患者について選択する場合、疾患関連因子、例えば診断及び寛解状態など、ならびに患者関連因子(年齢、ドナーの利用可能性、及び合併症の存在を含む)を考慮する必要がある。完全なコンセンサスにはHCT学会内では達していないが、前処置レジメンは高用量(骨髄破壊的)、低下した強度、及び非骨髄破壊的として分類されている。例えば、骨髄破壊的な、又は「高用量」のレジメンは、全身照射を伴う、又は伴わないアルキル化剤(単剤又は多剤)からなり、造血を破壊し、自己血液学的回復を可能にしないことが予想される。前処置レジメンの投与は、即時及び遅発性の毒性に関連付けられる。例えば、嘔気、嘔吐、一過性の急性耳下腺炎、口腔乾燥、粘膜炎、及び下痢は、一般に観察される急性合併症である。間質性肺炎、特発性肺線維症、及び低下した肺機能が観察されうる。洞不全症候群(また、肝臓の静脈閉塞性疾患として公知である)の発生は、化学療法に基づくレジメンにおいてより一般的である。長期的な副作用は、不妊症、白内障形成、甲状腺機能低下症及び甲状腺炎、ならびに二次悪性病変を含む。したがって、短期及び長期の重度副作用の最小限の発生を伴う、造血の完全なアブレーションを可能にする新たな方法についての必要性がある。
【0005】
RAC2は、低分子量GTPaseのRhoファミリーのRacサブファミリーに属する。不活性なGDP結合状態では、RAC2は細胞質内に局在する。グアニンヌクレオチド交換因子による刺激及び活性化時に、活性なRAC2-GTP結合形態は細胞膜に移動する。そこで、RAC2は、GTPが加水分解される、又はGTPaseが細胞により分解されるまで、種々のシグナル伝達経路の引き金となる7-9。Racサブファミリーの他のメンバー(RAC1及びRAC3)とは異なり、RAC2の発現は造血系列に制限されている10,11
【0006】
発明の要約
【0007】
特許請求の範囲により定義するように、本発明は、造血の完全なアブレーションを誘導するための方法ならびに骨髄移植のための前処置及び造血細胞悪性病変の処置におけるその使用に関する。
【0008】
発明の詳細な説明
【0009】
本発明者らは、臨床症状がRD SCID形態と重複するが、しかし、AK2変異及び難聴を欠く3名の重症複合免疫不全症(SCID)患者において、RAC2遺伝子(Ras関連C3ボツリヌス毒素基質2(RAC2)をコードする)中で常染色体優性(AD)ミスセンス変異を同定している。生化学的アッセイ及びインビトロ分化アッセイを使用し、本発明者らは、RAC2変異が細胞分化能における障害ならびに細胞及びミトコンドリアネットワークにおける欠損に密接に関連していることを実証した。全体として、このデータによって、RAC2タンパク質のGDP/GTP結合部位中の優性機能獲得(GOF)変異がHSPC分化を阻害し、RDの臨床症状を伴うSCIDの重度AD形態に導くことが実証される。したがって、この結果によって、造血系列における同定されたRAC2ムテインの導入が、造血の完全なアブレーションを誘導するために適切でありうることを考慮するように促された。
【0010】
本発明の第1の目的は、それを必要としている患者において造血を完全にアブレーションする方法であって、i)12位のアミノ酸残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ酸残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの治療的有効量を患者に投与することを含む方法に関する。
【0011】
本発明のさらなる目的は、造血幹細胞の集団の増殖及び分化を阻害する方法であって、前記集団を、i)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの有効量と接触させることを含む方法に関する。
【0012】
本発明のさらなる目的は、造血細胞の集団の細胞死を誘導する方法であって、前記集団を、i)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの有効量と接触させることを含む方法に関する。
【0013】
本発明のさらなる目的は、悪性造血細胞の集団の細胞死を誘導する方法であって、前記集団を、i)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの有効量と接触させることを含む方法に関する。
【0014】
本発明のさらなる目的は、それを必要としている患者において造血細胞悪性病変を処置する方法であって、i)12位のアミノ酸残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はii)12位のアミノ酸残基(G)が変異している、配列番号1において示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの治療的有効量を患者に投与することを含む方法に関する。
【0015】
本明細書中で使用するように、用語「造血細胞」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、造血系の任意の型の細胞を指し、未分化細胞、例えば造血幹細胞及び前駆細胞など、ならびに分化細胞、例えば、白血球(例えば、顆粒球、単球、及びリンパ球)、血小板、及び赤血球を含むが、それらに限定されない。
【0016】
本明細書中で使用するように、用語「造血幹細胞」又は「HSC」は、自己複製するための、及び循環成熟血液細胞の前駆体に分化するための能力を有する血液細胞を指す。これらの前駆細胞は、自己複製することができない、及び循環成熟血液細胞に分化する未熟な血液細胞である。骨髄微小環境内では、幹細胞は自己複製し、生涯を通じて全ての成熟血球を生じさせる造血細胞の継続的産生を維持する。一部の実施形態では、造血前駆細胞又は造血幹細胞は、末梢血細胞から単離される。
【0017】
本明細書中で使用するように、用語「造血」は、幹細胞からの増殖及び/又は分化を含む造血細胞の形成及び発生を指す。
【0018】
典型的には、患者は、小児、若年成人、中年成人、及び高齢成人からなる群より選択される。
【0019】
一部の実施形態では、本発明の方法は、骨髄移植に対して患者を準備(即ち、前処置)するために特に適切である。したがって、本発明の方法は、化学療法及び放射線療法の使用を回避するために特に適切である。本発明の方法は、新たな血液幹細胞が成長するために骨髄を助けうるが、患者の身体が移植細胞を拒絶するのを防止し、身体中に存在しうる任意の癌細胞を死滅させるのを助ける。典型的には、ポリペプチド又はポリヌクレオチドの投与は、骨髄移植前に実施される。
【0020】
本明細書中で使用されるように、用語「骨髄移植」又は「造血幹細胞移植」は互換的として考えるべきであり、レシピエントへの、特定の形態における造血幹細胞の移植を指す。造血幹細胞は、必ずしも骨髄から由来しなくてもよく、しかし、また、他の供給源、例えば臍帯血又は動員PBMCなどから由来することができうる。本明細書中で使用するように、用語「造血幹細胞移植」又は「HSCT」は、広範な血液障害の処置の構成要素を指す。一般的に、2つの型のHSCTがある:自家移植及び同種移植。本明細書中で使用するように、用語「同種」は、同じ種から由来すること、同じ種に起源をもつこと、又は同じ種のメンバーであることを指し、ここでメンバーは遺伝的に関連している、又は遺伝的に関連していないが、しかし、遺伝的に類似している。「同種移植」は、ドナーからレシピエントへの細胞又は器官の移行を指し、ここでレシピエントはドナーと同じ種である。同種移植は、典型的には、レシピエントのMHCと一致するドナーを使用したドナー幹細胞の注入を含む。本明細書中で使用するように、用語「自家」は、同じ患者から由来すること、又は同じ患者に起源をもつことを指す。「自家移植」は、患者自身の細胞又は器官の収集及び再移植を指す。
【0021】
癌である造血細胞悪性病変の例は、白血病、リンパ腫、及び多発性骨髄腫を含む。白血病の例は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、及び慢性骨髄性白血病(CML)を含む。リンパ腫の例は、ホジキン病及びその亜型;非ホジキンリンパ腫及びその亜型(慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、毛状細胞白血病(HCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、バーキットリンパ腫(BL)、移植後リンパ増殖性障害(PTLD)、T細胞前リンパ球性白血病(T-PLL)、B細胞前リンパ球性白血病(B-PLL)、ワルデンストレームマクログロブリン血症/リンパ形質性細胞リンパ腫、及び他のナチュラルキラー細胞(NK細胞)又はT細胞リンパ腫を含む)を含む。造血細胞悪性病変である他の悪性状態の例は、骨髄異形成症候群(MDS);骨髄増殖性疾患、例えば真性赤血球増加症など(即ち、PV、PCV、又は真性一次性赤血球増加症(PRV))、本態性血小板血症(ET)、骨髄線維症;ならびに骨髄異形成症候群及び骨髄増殖疾患の両方の特色を伴う疾患(例えば慢性骨髄単球性白血病(CMML)、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、非定型慢性骨髄性白血病(aCML)、及び骨髄異形成/骨髄増殖疾患など)を含む。
【0022】
特に、急性骨髄性白血病(AML)造血細胞悪性病変は、本明細書中に記載される変異により影響される。
【0023】
本明細書中で使用するように、用語「処置」又は「処置する」は、予防的又は防止的処置ならびに治癒的又は疾患修飾的処置の両方を指し、疾患に罹るリスクのある又は疾患に罹った疑いのある患者ならびに病気である、あるいは疾患又は医学的状態に苦しんでいると診断された患者の処置を含み、臨床再発の抑制を含む。この処置は、医学的障害を有する又は最終的に障害を獲得しうる患者に、障害又は再発障害の1つ以上の症状を防止する、治癒させる、その発症を遅延させる、その重症度を低下させる、又は寛解させるために、あるいはそのような処置の非存在において予想されるものを超えて患者の生存を延長させるために投与されうる。「治療レジメン」により、病気の処置のパターン、例えば、治療の間に使用される投薬のパターンを意味する。治療レジメンは導入レジメン及び維持レジメンを含みうる。語句「導入レジメン」又は「導入期間」は、疾患の初期処置のために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期期間の間に患者に高レベルの薬物を供給することである。導入レジメンは、「負荷レジメン」を(一部で又は全体で)用いてもよく、それは、医師が維持レジメンの間に用いうるよりも大きな用量の薬物を投与すること、医師が維持レジメンの間に薬物を投与しうるよりも頻繁に薬物を投与すること、又はその両方を含みうる。語句「維持レジメン」又は「維持期間」は、病気の処置の間に患者の維持のため、例えば、患者を長期間(月又は年)にわたり寛解状態に保つために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続治療(例、例えば、毎週、毎月、毎年などの定期的な間隔で薬物を投与すること)又は間欠治療(例、中断処置、間欠処置、再発時の処置、又は特定の所定の基準[例、疾患の発現など]の達成時の処置)を用いてもよい。
【0024】
本明細書中で使用するように、用語「Rac2」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、Ras関連C3ボツリヌス毒素基質2を指す。ヒトRac2についての例示的なアミノ酸配列を、配列番号1により表す。
配列番号1 >sp|P15153|Rac2_ヒトRas関連C3ボツリヌス毒素基質2 OS=ホモサピエンス OX=9606 GN=Rac2 PE=1 SV=1
MQAIKCVVVGDAVGKTCLLISYTTNAFPGEYIPTVFDNYSANVMVDSKPVNLGLWDTAGQEDYDRLRPLSYPQTDVFLICFSLVSPASYENVRAKWFPEVRHHCPSTPIILVGTKLDLRDDKDTIEKLKEKKLAPITYPQGLALAKEIDSVKYLECSALTQRGLKTVFDEAIRAVLCPQPTRQQKRACSLL
【0025】
本明細書中で使用するように、用語「変異」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、置換、欠失、又は挿入を指す。用語「置換」は、特定の位置の特定のアミノ酸残基が除去され、別のアミノ酸残基が同じ位置中に挿入されることを意味する。用語「欠失」は、特定のアミノ酸残基が除去されることを意味する。用語「挿入」は、1つ以上のアミノ酸残基が特定のアミノ酸残基の前又は後に挿入されること、より具体的には、1つ以上の、好ましくは1つ又はいくつかのアミノ酸残基が、特定のアミノ酸残基のa-カルボキシル基又はa-アミノ基に結合されることを意味する。
【0026】
一部の実施形態では、12位のアミノ酸残基(G)は置換されている。一部の実施形態では、12位のアミノ酸残基(G)は、アミノ酸残基(R)により置換されている。
【0027】
本明細書中で使用されるように、用語「ポリペプチド」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。ポリマーは修飾アミノ酸を含むことができる。この用語はまた、天然に又は介入により修飾されたアミノ酸ポリマーを包含する;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、又は任意の他の操作もしくは修飾、例えば標識成分との結合など。また、定義内に含まれるのは、例えば、アミノ酸の1つ以上のアナログ(例えば、非天然アミノ酸、例えばホモシステイン、オルニチン、p-アセチルフェニルアラニン、Dアミノ酸、及びクレアチンなどを含む)、ならびに当技術分野において公知である他の修飾を含むポリペプチドである。
【0028】
本明細書中で使用する用語「ポリヌクレオチド」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマー(リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、それらのアナログ、又はそれらの混合物を含む)を指す。この用語は、分子の一次構造を指す。したがって、この用語は、三本鎖、二本鎖、及び一本鎖デオキシリボ核酸(「DNA」)、ならびに三本鎖、二本鎖、及び一本鎖リボ核酸(「RNA」)を含む。それはまた、例えば、アルキル化により、及び/又はキャッピングにより修飾された、及び非修飾形態のポリヌクレオチドを含む。特に、用語「ポリヌクレオチド」は、ポリデオキシリボヌクレオチド(2-デオキシ-D-リボースを含む)、ポリリボヌクレオチド(D-リボースを含む)(tRNA、rRNA、hRNA、siRNA、及びmRNAを含む)(スプライスされている又はスプライスされていないかを問わず)、プリン塩基又はピリミジン塩基のN又はCグリコシドである任意の他の型のポリヌクレオチド、及び非ヌクレオチド(normucleotidic)骨格を含む他のポリマー、例えば、ポリアミド(例、ペプチド核酸「PNA」)及びポリモルフォリノポリマー、ならびに他の合成配列特異的核酸ポリマー(ポリマーが、DNA及びRNA中で見出されるような塩基対形成及び塩基スタッキングを可能にする配置で核酸塩基を含むという条件で)を含む。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドはmRNAを含む。他の態様では、mRNAは合成mRNAである。一部の実施形態では、合成mRNAは少なくとも1つの非天然核酸塩基を含む。一部の実施形態では、特定のクラスの全ての核酸塩基が、非天然核酸塩基を用いて置換されている(例、本明細書中に開示されているポリヌクレオチド中の全てのウリジンが、非天然核酸塩基、例、5-メトキシウリジンを用いて置換することができる)。一部の実施形態では、ポリヌクレオチド(例、合成RNA又は合成DNA)は、天然核酸塩基、即ち、合成DNAの場合におけるA、C、T、及びG、又は合成RNAの場合におけるA、C、T、及びUだけを含む。
【0029】
一部の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドはメッセンジャーRNA(mRNA)である。
【0030】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、ベクター(例えばプラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージ、又はウイルスベクターなど)中に挿入される。典型的には、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、又は感染性ウイルスであるウイルスベクターである。典型的には、本発明のベクターは「制御配列」を含み、それは、まとめて、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製の起点、内部リボソーム侵入部位(「IRES」)、エンハンサーなどを指し、それらは、まとめて、レシピエント細胞におけるコード配列の複製、転写、及び翻訳を提供する。これらの制御配列の全てが、選択されたコード配列が、適した宿主細胞において複製、転写、及び翻訳されることが可能である限り、常に存在する必要はない。別の核酸配列は「プロモーター」配列であり、それは、その通常の意味において本明細書中で使用され、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域を指し、ここで調節配列は、RNAポリメラーゼを結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始することが可能である遺伝子に由来する。転写プロモーターは、「誘導性プロモーター」(ここで、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、補因子、調節タンパク質などにより誘導される)、「抑制性プロモーター」(ここで、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、補因子、調節タンパク質などにより誘導される)、及び「構成性プロモーター」を含むことができる。
【0031】
一部の実施形態では、本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドは、少なくとも1つの他の分子に結合させることができる。典型的には、前記分子は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、脂質、レクチン、糖、ビタミン、補因子、及び薬物からなる群より選択される。一部の実施形態では、本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドは、造血細胞について特定の親和性を有する分子、例えば造血幹細胞の表面で発現されるタンパク質について結合親和性を有する抗体又はペプチドなどに結合される。結合によって、増加した安定性及び/又は半減期がもたらされ、造血細胞へポリペプチド又はポリヌクレオチドを標的化する際に特に有用でありうる。
【0032】
「治療的有効量」により、任意の医学的処置に適用可能である合理的な利益/リスク比率で、症状を処置又は低下させるために十分な量の有効成分を意味する。本発明の化合物及び組成物の1日の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決められることが理解されるであろう。任意の特定の対象についての特定の治療的に有効な用量レベルは、多様な要因(処置されている障害及び障害の重症度;用いられる特定の化合物の活性;用いられる特定の組成物、対象の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事;用いられる特定の化合物の投与の時間、投与の経路、及び排泄の率;処置の期間;活性成分との組み合わせにおいて使用される薬物;及び医学技術において周知の同様の要因を含む)に依存するであろう。例えば、化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために要求されるレベルより低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に投与量を増加させることは十分に当技術分野の技能内である。しかし、産物の1日の投与量は、成人1名当たり1日当たり0.01~1,000mgの広い範囲にわたり変動されうる。典型的には、組成物は、処置される対象への投与量の症候調節のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、及び500mgの活性成分を含む。医薬は、典型的には、約0.01mg~約500mgの活性成分、典型的には1mg~約100mgの活性成分を含む。薬物の有効量は、通常、1日当たり0.0002mg/kg~約20mg/kg体重、特に1日当たり約0.001mg/kg~7mg/kg体重の投与量レベルで供給される。
【0033】
典型的には、本発明の活性成分(即ち、ポリペプチド又はポリヌクレオチド)は、医薬的に許容可能な賦形剤、及び、場合により、徐放性マトリックス、例えば生分解性ポリマーなどと組み合わせて、医薬的組成物を形成する。用語「医薬的に」又は「医薬的に許容可能な」は、哺乳動物、特にヒトに適宜投与された場合、有害な、アレルギー性の、又は他の不快な反応を産生しない分子実体及び組成物を指す。医薬的に許容可能な担体又は賦形剤は、任意の型の非毒性の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は製剤補助剤を指す。
【0034】
一部の実施形態では、本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドは、リピドイドを用いて製剤化される。リピドイドの合成は、広範に記載されている(Mahon et al., Bioconjug Chem. 2010 21:1448-1454;Schroeder et al., J Intern Med. 2010 267:9-21;Akinc et al., Nat Biotechnol. 2008 26:561-569;Love et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2010 107:1864-1869;Siegwart et al., Proc Natl Acad Sci US A. 2011 108:12996-3001を参照のこと)。これらのリピドイドは、齧歯類及び非ヒト霊長類において二本鎖低分子干渉RNA分子を有効に送達するために使用されてきたが(Akinc et al., Nat Biotechnol. 2008 26:561-569;Frank-Kamenetsky et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2008 105:11915-11920;Akinc et al., Mol Ther. 2009 17:872-879;Love et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2010 107:1864-1869;Leuschner et al., Nat Biotechnol. 2011 29:1005-1010を参照のこと)、本開示は、ポリヌクレオチドの送達におけるそれらの製剤化及び使用を記載する。
【0035】
一部の実施形態では、本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドは、1つ以上のリポソーム、リポプレックス、又は脂質ナノ粒子を使用して製剤化される。
【0036】
リポソームは、主に脂質二重層で構成されうる人工的に調製された小胞であり、医薬製剤の投与のための送達媒体として使用することができる。リポソームは異なるサイズでありえ、例えば直径が数百ナノメートルでありうる、狭い水性区画により分離された一連の同心二重層を含むことができる多重膜小胞(MLV)、直径が50nmより小さくなりうる小単細胞小胞(SUV)、及び直径が50~500nmの間でありうる大型単層小胞(LUV)などでありえるが、それらに限定されない。リポソーム設計は、不健康な組織へのリポソームの付着を改善するために、又は事象、例えば、限定されないが、エンドサイトーシスなどを活性化するために、オプソニン又はリガンドを含むことができる。リポソームは、医薬製剤の送達を改善するために、低又は高pHを含むことができる。非限定的な例として、リポソーム、例えば合成膜小胞などは、米国特許公開番号US20130177638、US20130177637、US20130177636、US20130177635、US20130177634、US20130177633、US20130183375、US20130183373、及びUS20130183372において記載されている方法、装置、及びデバイスにより調製される。一部の実施形態では、リポソームは、1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DODMA)リポソーム、Marina Biotech(ワシントン州ボセル)からのDiLa2リポソーム、1,2-ジリノレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、ならびにMC3(US20100324120において記載されている)及び小分子薬物を送達することができるリポソーム(例えば、限定されないが、Janssen Biotech, Inc.(ペンシルバニア州ホーシャム)からのDOXIL(登録商標)など)から形成される。本発明のポリヌクレオチドのポリペプチドは、リポソームによりカプセル化することができる、及び/又は、次にリポソームによりカプセル化することができる水性コア中に含むことができる(国際公開番号WO2012031046、WO2012031043、WO2012030901、及びWO2012006378ならびに米国特許公開番号US20130189351、US20130195969、及びUS20130202684を参照のこと)。
【0037】
一部の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドは、以前に記載され、インビトロ及びインビボでのオリゴヌクレオチド送達のために適切であることが示されている安定化プラスミド-脂質粒子(SPLP)又は安定化核酸脂質粒子(SNALP)を用いて製剤化される(Wheeler et al. Gene Therapy. 1999 6:271-281;Zhang et al. Gene Therapy. 1999 6:1438-1447;Jeffs et al. Pharm Res. 2005 22:362-372;Morrissey et al., Nat Biotechnol. 2005 2:1002-1007;Zimmermann et al., Nature. 2006 441:111-114;Heyes et al. J Contr Rel. 2005 107:276-287;Semple et al. Nature Biotech. 2010 28:172-176;Judge et al. J Clin Invest. 2009 119:661-673;deFougerolles Hum Gene Ther. 2008 19:125-132;米国特許公開番号US20130122104)。Wheelerらによる当初の製造方法は、洗剤透析方法であったが、それは後に、Jeffsらにより改善され、自発的小胞形成方法として言及される。リポソーム製剤は、ポリヌクレオチドの他に3~4の脂質成分で構成されている。一例として、リポソームは、限定されないが、55%コレステロール、20%ジステロイルホスファチジルコリン(DSPC)、10%PEG-S-DSG、及び15%1,2-ジオレオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DODMA)を含むことができ、Jeffsらにより記載された通りである。別の例として、特定のリポソーム製剤は、限定されないが、48%コレステロール、20%DSPC、2%PEG-c-DMA、及び30%カチオン性脂質を含み、カチオン性脂質は、1,2-ジステアロキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DSDMA)、DODMA、DLin-DMA、又は1,2-ジリノレノキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)であることができ、Heyesらにより記載される通りである。
【0038】
一部の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドは、脂質ナノ粒子、例えば国際公開番号WO2012170930において記載されているようなものの中に製剤化される。脂質ナノ粒子製剤は、典型的には、脂質、特にイオン化可能なカチオン性脂質を含み、中性脂質、ステロール、及び粒子凝集を低下させることが可能な分子、例えば、PEG又はPEG修飾脂質をさらに含む。脂質は、限定されないが、DLin-DMA、DLin-K-DMA、98N12-5、C12-200、DLin-MC3-DMA、DLin-KC2-DMA、DODMA、PLGA、PEG、PEG-DMG、PEG化脂質及びアミノアルコール脂質より選択することができる。一部の実施形態では、脂質は、カチオン性脂質、例えば、限定されないが、DLin-DMA、DLin-D-DMA、DLin-MC3-DMA、DLin-KC2-DMA、DODMA、及びアミノアルコール脂質などである。アミノアルコールカチオン性脂質は、米国特許公開番号US20130150625において記載される脂質でありうる、及び/又はそれにおいて記載される方法により作製されうる。非限定的な例として、カチオン性脂質は、2-アミノ-3-[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]-2-{[(9Z,2Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]メチル}プロパン-1-オール(US20130150625における化合物1);2-アミノ-3-[(9Z)-オクタデク-9-エン-1-イルオキシ]-2-{[(9Z)-オクタデカ-9-エン-1-イルオキシ]メチル}プロパン-1-オール(USC20130150625における化合物2);2-アミノ-3-[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]-2-[(オクチルオキシ)メチル]プロパン-1-オール(US20130150625における化合物3);及び2-(ジメチルアミノ)-3-[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]-2-{[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]メチル}プロパン-1-オール(US20130150625における化合物4);又はそれらの任意の医薬的に許容可能な塩もしくは立体異性体でありうる。本開示のナノ粒子製剤は、粒子の送達を改善するために、界面活性剤又はポリマーを用いてコーティングすることができる。一部の実施形態では、ナノ粒子は、親水性コーティング、例えば、限定されないが、PEGコーティング及び/又は中性表面電荷を有するコーティングなどを用いてコーティングされる。親水性コーティングは、より大きなペイロード、例えば、限定されないが、ポリヌクレオチドなどを伴うナノ粒子を中枢神経系内に送達するのを助けうる。非限定的な例として、親水性コーティングを含むナノ粒子及びそのようなナノ粒子を作製する方法が、米国特許公開番号US20130183244において記載されている。
【0039】
本発明は、以下の図及び実施例によりさらに例証される。しかし、これらの実施例及び図は、本発明の範囲を限定するものとして、任意の方法において解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A】p.G12R RAC2変異の同定及びRAC2のGTPase活性に対するその効果。A.2つの無関係の家系からの3名の患者の系図。黒四角及び黒丸は、それぞれ罹患した男性(P1)及び女性(P2、P3)を表す。白四角及び丸は非罹患者を表す。矢印は発端者を表し、2つの横棒は血縁を表す。B.コントロール細胞及び患者細胞についてのRAC2 DNAシークエンシングの代表的なエレクトロフェログラムであって、c.34G>A変異を示す。C.コントロール線維芽細胞(C1、C2)及び罹患者から由来する線維芽細胞(P1、P2、及びP3)の溶解液中でのRAC2タンパク質発現の代表的なイムノブロット。ローディングコントロールはGADPH発現に対応する。D.HEK293T細胞は、形質導入されていない(NT、コントロール)、あるいはRAC2 cDNAの野生型(WT)形態、本明細書中に記載する変異形態(G12R)、又は(陽性コントロールとして)構成的に活性化されたRAC2 GTP形態(G12V)を含むレンチウイルス空ベクター(WPI)を用いて形質導入されている。形質導入後2日に、細胞を、G-LISAアッセイを使用した解析のために回収した(1ウェル当たり15μgの総タンパク質)。結果を、3つの独立した実験の平均値±平均の標準誤差(SEM)として示す(***p<0.001;****p<0.0001)。
図1B】p.G12R RAC2変異の同定及びRAC2のGTPase活性に対するその効果。A.2つの無関係の家系からの3名の患者の系図。黒四角及び黒丸は、それぞれ罹患した男性(P1)及び女性(P2、P3)を表す。白四角及び丸は非罹患者を表す。矢印は発端者を表し、2つの横棒は血縁を表す。B.コントロール細胞及び患者細胞についてのRAC2 DNAシークエンシングの代表的なエレクトロフェログラムであって、c.34G>A変異を示す。C.コントロール線維芽細胞(C1、C2)及び罹患者から由来する線維芽細胞(P1、P2、及びP3)の溶解液中でのRAC2タンパク質発現の代表的なイムノブロット。ローディングコントロールはGADPH発現に対応する。D.HEK293T細胞は、形質導入されていない(NT、コントロール)、あるいはRAC2 cDNAの野生型(WT)形態、本明細書中に記載する変異形態(G12R)、又は(陽性コントロールとして)構成的に活性化されたRAC2 GTP形態(G12V)を含むレンチウイルス空ベクター(WPI)を用いて形質導入されている。形質導入後2日に、細胞を、G-LISAアッセイを使用した解析のために回収した(1ウェル当たり15μgの総タンパク質)。結果を、3つの独立した実験の平均値±平均の標準誤差(SEM)として示す(***p<0.001;****p<0.0001)。
図1C】p.G12R RAC2変異の同定及びRAC2のGTPase活性に対するその効果。A.2つの無関係の家系からの3名の患者の系図。黒四角及び黒丸は、それぞれ罹患した男性(P1)及び女性(P2、P3)を表す。白四角及び丸は非罹患者を表す。矢印は発端者を表し、2つの横棒は血縁を表す。B.コントロール細胞及び患者細胞についてのRAC2 DNAシークエンシングの代表的なエレクトロフェログラムであって、c.34G>A変異を示す。C.コントロール線維芽細胞(C1、C2)及び罹患者から由来する線維芽細胞(P1、P2、及びP3)の溶解液中でのRAC2タンパク質発現の代表的なイムノブロット。ローディングコントロールはGADPH発現に対応する。D.HEK293T細胞は、形質導入されていない(NT、コントロール)、あるいはRAC2 cDNAの野生型(WT)形態、本明細書中に記載する変異形態(G12R)、又は(陽性コントロールとして)構成的に活性化されたRAC2 GTP形態(G12V)を含むレンチウイルス空ベクター(WPI)を用いて形質導入されている。形質導入後2日に、細胞を、G-LISAアッセイを使用した解析のために回収した(1ウェル当たり15μgの総タンパク質)。結果を、3つの独立した実験の平均値±平均の標準誤差(SEM)として示す(***p<0.001;****p<0.0001)。
図1D】p.G12R RAC2変異の同定及びRAC2のGTPase活性に対するその効果。A.2つの無関係の家系からの3名の患者の系図。黒四角及び黒丸は、それぞれ罹患した男性(P1)及び女性(P2、P3)を表す。白四角及び丸は非罹患者を表す。矢印は発端者を表し、2つの横棒は血縁を表す。B.コントロール細胞及び患者細胞についてのRAC2 DNAシークエンシングの代表的なエレクトロフェログラムであって、c.34G>A変異を示す。C.コントロール線維芽細胞(C1、C2)及び罹患者から由来する線維芽細胞(P1、P2、及びP3)の溶解液中でのRAC2タンパク質発現の代表的なイムノブロット。ローディングコントロールはGADPH発現に対応する。D.HEK293T細胞は、形質導入されていない(NT、コントロール)、あるいはRAC2 cDNAの野生型(WT)形態、本明細書中に記載する変異形態(G12R)、又は(陽性コントロールとして)構成的に活性化されたRAC2 GTP形態(G12V)を含むレンチウイルス空ベクター(WPI)を用いて形質導入されている。形質導入後2日に、細胞を、G-LISAアッセイを使用した解析のために回収した(1ウェル当たり15μgの総タンパク質)。結果を、3つの独立した実験の平均値±平均の標準誤差(SEM)として示す(***p<0.001;****p<0.0001)。
図2A】G12R変異は、HSPCの増殖及び分化を阻害する。A.7日間培養におけるCD34陽性細胞の増殖。フローサイトメトリーを使用して、生細胞(7-AAD陰性)ゲートにおけるGFP+発現細胞の割合(%)を解析した。ROS-low、DilC1(5)-low、及びアネキシンV陽性GFP+生細胞の割合を、4日目に決定した。結果を、4つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。B.7日間培養における好中球分化。フローサイトメトリーを使用して、GFP+生細胞の間の顆粒球(CD11b+CD15+)の数を解析した。GFP+生細胞の間のROS low、DilC1(5) low、アネキシンV+細胞の割合を4日目に解析した。結果を、3つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。C.7日間培養におけるT細胞分化(n=3)。フローサイトメトリーを使用して、GFP+生細胞の割合を解析した。T細胞前駆細胞(CD7+)の数を、7日目にGFP+生細胞において評価した。結果を、3つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。全ての実験について:*p<0.05;**p<0.01及び***p<0.001。
図2B】G12R変異は、HSPCの増殖及び分化を阻害する。A.7日間培養におけるCD34陽性細胞の増殖。フローサイトメトリーを使用して、生細胞(7-AAD陰性)ゲートにおけるGFP+発現細胞の割合(%)を解析した。ROS-low、DilC1(5)-low、及びアネキシンV陽性GFP+生細胞の割合を、4日目に決定した。結果を、4つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。B.7日間培養における好中球分化。フローサイトメトリーを使用して、GFP+生細胞の間の顆粒球(CD11b+CD15+)の数を解析した。GFP+生細胞の間のROS low、DilC1(5) low、アネキシンV+細胞の割合を4日目に解析した。結果を、3つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。C.7日間培養におけるT細胞分化(n=3)。フローサイトメトリーを使用して、GFP+生細胞の割合を解析した。T細胞前駆細胞(CD7+)の数を、7日目にGFP+生細胞において評価した。結果を、3つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。全ての実験について:*p<0.05;**p<0.01及び***p<0.001。
図2C】G12R変異は、HSPCの増殖及び分化を阻害する。A.7日間培養におけるCD34陽性細胞の増殖。フローサイトメトリーを使用して、生細胞(7-AAD陰性)ゲートにおけるGFP+発現細胞の割合(%)を解析した。ROS-low、DilC1(5)-low、及びアネキシンV陽性GFP+生細胞の割合を、4日目に決定した。結果を、4つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。B.7日間培養における好中球分化。フローサイトメトリーを使用して、GFP+生細胞の間の顆粒球(CD11b+CD15+)の数を解析した。GFP+生細胞の間のROS low、DilC1(5) low、アネキシンV+細胞の割合を4日目に解析した。結果を、3つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。C.7日間培養におけるT細胞分化(n=3)。フローサイトメトリーを使用して、GFP+生細胞の割合を解析した。T細胞前駆細胞(CD7+)の数を、7日目にGFP+生細胞において評価した。結果を、3つの独立した実験の平均値±SEMとして示す。全ての実験について:*p<0.05;**p<0.01及び***p<0.001。
図3A】急性骨髄性白血病(AML、転座MLL-AF9)からのMolm-13細胞のテスト。A.Molm-13細胞を、空ベクター(WPI)あるいはRAC2の野生型形態を伴うベクター(WT)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入された細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、7日間の培養の間にGFP+細胞の%及びGFP+形質導入細胞の数を検出することを可能にする。B.4日目に、フローサイトメトリー解析を実施して、アポトーシスに入るGFP+形質導入細胞の割合(% アネキシンV+)、ミトコンドリア膜分極化(% Δμm)、及びROS産生を評価した。結果は、4つの独立した実験を代表している(**p<0.01及び***p<0.001)。
図3B】急性骨髄性白血病(AML、転座MLL-AF9)からのMolm-13細胞のテスト。A.Molm-13細胞を、空ベクター(WPI)あるいはRAC2の野生型形態を伴うベクター(WT)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入された細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、7日間の培養の間にGFP+細胞の%及びGFP+形質導入細胞の数を検出することを可能にする。B.4日目に、フローサイトメトリー解析を実施して、アポトーシスに入るGFP+形質導入細胞の割合(% アネキシンV+)、ミトコンドリア膜分極化(% Δμm)、及びROS産生を評価した。結果は、4つの独立した実験を代表している(**p<0.01及び***p<0.001)。
図4】AML(転座MLL-AF4)からのMV4-11細胞のテスト。MV4-11細胞を、空ベクター(WPI)あるいはRAC2の野生型形態を伴うベクター(WT)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入された細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、7日間の培養の間にGFP+細胞の%及びGFP+形質導入細胞の数を検出することを可能にする。結果は、2つの独立した実験を代表している。
図5A】AMLからのHL60細胞のテスト。HL-60細胞を、空ベクター(WPI)あるいはRAC2の野生型形態を含むベクター(WT)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入工程に続き、細胞を、顆粒球系列に向けたそれらの分化を誘導するために、レチノイン酸の存在において培養した。A-B.形質導入細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、培養の開始後2日(J2)及び4日(J4)のGFP+形質導入細胞の数ならびに顆粒球(CD11b+CD15+)の数を検出することを可能にする。結果は、3つの独立した実験を代表している(*p<0.05 ***p<0.001)。C-D.4日目に、フローサイトメトリー解析を実施して、低いミトコンドリア膜分極化レベル及び低いROS産生レベルを伴う細胞の割合を評価した。アポトーシスに入る細胞のパーセンテージは、WT及びG12Rの条件についてそれぞれ2%及び10%であった。ヒストグラムは、3つの独立した実験を代表している。
図5B】AMLからのHL60細胞のテスト。HL-60細胞を、空ベクター(WPI)あるいはRAC2の野生型形態を含むベクター(WT)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入工程に続き、細胞を、顆粒球系列に向けたそれらの分化を誘導するために、レチノイン酸の存在において培養した。A-B.形質導入細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、培養の開始後2日(J2)及び4日(J4)のGFP+形質導入細胞の数ならびに顆粒球(CD11b+CD15+)の数を検出することを可能にする。結果は、3つの独立した実験を代表している(*p<0.05 ***p<0.001)。C-D.4日目に、フローサイトメトリー解析を実施して、低いミトコンドリア膜分極化レベル及び低いROS産生レベルを伴う細胞の割合を評価した。アポトーシスに入る細胞のパーセンテージは、WT及びG12Rの条件についてそれぞれ2%及び10%であった。ヒストグラムは、3つの独立した実験を代表している。
図5C】AMLからのHL60細胞のテスト。HL-60細胞を、空ベクター(WPI)あるいはRAC2の野生型形態を含むベクター(WT)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入工程に続き、細胞を、顆粒球系列に向けたそれらの分化を誘導するために、レチノイン酸の存在において培養した。A-B.形質導入細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、培養の開始後2日(J2)及び4日(J4)のGFP+形質導入細胞の数ならびに顆粒球(CD11b+CD15+)の数を検出することを可能にする。結果は、3つの独立した実験を代表している(*p<0.05 ***p<0.001)。C-D.4日目に、フローサイトメトリー解析を実施して、低いミトコンドリア膜分極化レベル及び低いROS産生レベルを伴う細胞の割合を評価した。アポトーシスに入る細胞のパーセンテージは、WT及びG12Rの条件についてそれぞれ2%及び10%であった。ヒストグラムは、3つの独立した実験を代表している。
図5D】AMLからのHL60細胞のテスト。HL-60細胞を、空ベクター(WPI)あるいはRAC2の野生型形態を含むベクター(WT)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入工程に続き、細胞を、顆粒球系列に向けたそれらの分化を誘導するために、レチノイン酸の存在において培養した。A-B.形質導入細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、培養の開始後2日(J2)及び4日(J4)のGFP+形質導入細胞の数ならびに顆粒球(CD11b+CD15+)の数を検出することを可能にする。結果は、3つの独立した実験を代表している(*p<0.05 ***p<0.001)。C-D.4日目に、フローサイトメトリー解析を実施して、低いミトコンドリア膜分極化レベル及び低いROS産生レベルを伴う細胞の割合を評価した。アポトーシスに入る細胞のパーセンテージは、WT及びG12Rの条件についてそれぞれ2%及び10%であった。ヒストグラムは、3つの独立した実験を代表している。
図6A】A.健常ドナーの末梢血からの単核細胞を、フィトヘマグルチニンAの存在において培養し、空ベクター(WPI)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物を用いて形質導入した。形質導入された細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、GFP+細胞の%、GFP+形質導入細胞の数、及びアポトーシスに入るGFP+細胞の割合(%アネキシンV+)を追跡することを可能にする。結果は、2つの独立した実験を代表している。
図6B】B.健常ドナーからのB-EBV株を、空ベクター(WPI)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入された細胞は全て、GFPレポーター遺伝子を発現し、フローサイトメトリーにより、GFP+細胞の%を追跡することを可能にする。結果は、3つの独立した実験を代表している(***p<0.001)。
【0041】
実施例
【0042】
材料及び方法
【0043】
患者及びヒト臍帯血サンプル
【0044】
本試験は、フランスの法律及びヘルシンキ宣言の原則に従って実施された。インフォームドコンセントを患者の両親又は法定後見人から得て、試験プロトコルは現地の独立倫理委員会及びフランス研究省により承認された(DC 2014-2272/2015/ DC-2008-329.)初代線維芽細胞株を皮膚生検から得た。
【0045】
研究目的のために適格なヒト臍帯血(CB)サンプルを、セントルイス病院(フランス、パリ;公認2014年9月23日)の臍帯血バンクから得た。単核細胞は、Lymphoprep(Abcys)上での密度分離により単離した。CD34陽性HSPCは、autoMACSpro separator(Miltenyi Biotec)を使用して磁気的に選別し、細胞の純度を、MACSQuant analyzer(Miltenyi Biotec)を用いてチェックした。
【0046】
遺伝子、シークエンシング、及び遺伝子発現解析
【0047】
ゲノムDNAを、フェノール/クロロホルム抽出により線維芽細胞(P1、P2、P3)又は末梢血単核細胞(PBMC)(P3父親)から単離した。全エクソームシークエンシングを、Illumina TruSeqエクソーム濃縮キット(Illumina)を用いて、100bpペアエンドリードを使用して実施した。標的領域の85%を、カバー度>20×を伴って観察した。バリアントコールは特定の遺伝モデルに基づいていなかった。G12R RAC2変異体は、多数の社内及び公開の配列データベースにおいて見出されなかった。サンガーシークエンシングによって、P1、P2、及びP3における変異が確認された(ABI Prism 3700シークエンサー、Life Technologies)。
【0048】
ウェスタンブロット解析のために、コントロール又は患者からの初代線維芽細胞を、プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤が添加されたTris緩衝液(20mM Tris, pH 7.9;300mM NaCl;1% Nonidet P-40)中に溶解させた。細胞抽出物をSDS-PAGEにより分離し、ブロットし、抗RAC2(ab154711、Abcam)抗体又は抗GAPDH(SC-32233、Santa Cruz)抗体を用いて染色した。HRP結合二次抗体を用いた染色後、イムノブロットを、ECL+キット(Amersham)を用いて現像した。タンパク質レベルを、Fijiソフトウェアを用いて定量化した。
【0049】
レンチウイルスベクターの構築及び産生。複製欠損の自己不活性化pWPIレンチウイルスベクターの骨格がAddgene(https://www.addgene.org/)より提供された。全ての構築物(G12R、G12V、D57N、及びE62K)がGenScript(https://www.genscript.com)により生成された。レンチウイルス上清は、SFR BioSciences Gerland-Lyon Sud(フランス、リヨン)のベクター施設により産生された。遺伝子改変細胞を用いた全ての手順が、フランス国立バイオテクノロジー評議会及びフランス研究省により承認された(参照:4983/3)。
【0050】
HEK293T細胞株でのRAC2活性化アッセイ及びイムノブロット
【0051】
HEK293T細胞は、20の感染倍数での適したレンチウイルス上清を用いた形質導入の前に一晩培養した。2日間の培養後、細胞ペレットを液体窒素中で凍結した。活性化RAC2のレベルを、G-LISA(登録商標)RAC Activation Assay Biochem Kit(商標) (#BK125、Cytoskeleton Inc.)を使用して決定した。G-LISA(登録商標)キットは、10μg/ml RAC2特異的抗体(AT2G11、sc-517424、Santa Cruz Biotechnology, Inc.)及び 1/2000 HRP結合抗マウス抗体(#1721011、Bio-Rad)を使用して、捕捉された活性RAC2の量を検出したことを除き、製造元の説明書に従って実施した。この反応は、3分間にわたる100μlの発色基質(1-step UltraTMB, 34028、Thermo Scientific)の添加により可視化し、50μlのH2SO4 1Nを用いて停止させた。450nmでの吸光度を、FLUOstar OPTIMAマイクロプレートリーダーを使用して測定した。全細胞抽出物を、プロテアーゼ阻害剤カクテルが添加されたG-LISA溶解緩衝液中で細胞を溶解することにより得た。タンパク質をSDS-PAGEにより分離し、抗RAC2抗体(AT2G11、sc-517424、Santa Cruz Biotechnology, Inc.)又は抗GAPDH抗体(14C10、Cell Signaling Technology)を用いてイムノブロットした。イムノブロットは、ChemiDoc MP System(Bio-Rad)を使用した化学発光により明らかになった。タンパク質レベルを、Image Labソフトウェアを用いて定量化した。
【0052】
ホロトモグラフィー
【0053】
細胞内の屈折率を測定するため(即ち、細胞オルガネラの無標識での可視化)、細胞サンプルを35mmガラスボトムディッシュ(Ibidi-Dishes(商標)#81156;Ibidi,GmbH)中に播き、3D Cell Explorer 顕微鏡(Nanolive SA)の観察領域中に設置した。細胞画像を、STEVEソフトウェア(Nanolive)を使用して処理した。
【0054】
ヒト臍帯血CD34+細胞のインビトロ培養
【0055】
臍帯血CD34+HSPCを一晩培養し(以前に記載されたとおり)、次いで適したレンチウイルス上清を80の感染倍率で用いて形質導入した。2日間の培養後、GFP+細胞を、フローサイトメトリーによりインビトロ培養の前に測定した。顆粒球系列又はT細胞系列に沿って分化するためのCD34+細胞の能力を、他で記載されているように測定した6,29
【0056】
フローサイトメトリー、Mitotracker DIIC1(5)、CellRox染色
【0057】
CD7(MT-701)、CD11b(D12)、CD34(8G12)、ならびにマウスIgG1k、IgG2a、及びIgG2bアイソタイプコントロールに対するモノクローナル抗体、ならびに試薬アネキシンV及び7-アミノアクチノマイシンD(7AAD)は、BD Biosciences(カリフォルニア州サンホゼ)から得た。CD15(80H5)及びマウスIgMコントロール抗体は,Beckman Coulter(サンディエゴ)から購入した。ミトコンドリア膜電位を、MitoProbe(商標)DiIC1(5)アッセイキット(M34151)を使用して測定し、ROSレベルを、CellRox(登録商標)アッセイキット(C10492)を使用し、製造元の説明書(Life Technologies)に従って測定した。染色後,細胞を、Galliosフローサイトメーターで解析し、データを、Kaluzaソフトウェア(全てBeckman Coulterから)を使用して処理した。
【0058】
ホモロジーモデリング
【0059】
三次元ホモロジーモデルを、ヒトRAC2のG12R変異体(Uniprot P15153)について、MODELLERソフトウェアv20(Webb and Sali, 2016, 2017)を使用して構築した。WTヒトRAC2の結晶構造(PDBコード:1DS6)をテンプレートとして使用した。
【0060】
統計解析
【0061】
全ての解析において、3つ又はそれ以上の独立した実験を実施した。データを平均値±平均の標準誤差(SEM)として報告する。対応のない両側t検定を、Prism 4 ソフトウェア(GraphPad)を使用して実施した。統計的有意性についての閾値をp<0.05に設定した。
【0062】
結果
【0063】
RAC2 GTPaseタンパク質におけるミスセンス変異(G12R)は、SCID表現型に導く
【0064】
本発明者らのSCID表現型を伴う患者のコホート中で、数名の個人が分子診断をまだ有していない。2つの無関係の家系からの3名の患者(1つの家系からのP1、ならびに別の家系からのそれぞれ母親及び娘としてのP2及びP3)は、難聴以外のRDの全ての臨床的特徴を呈した(図1A)。RDを伴う患者において観察されるように、好中球の完全な非存在が、他の形態のSCIDにおいて通常観察されるよりも早期での重度感染の発生についての原因となった(表1)picard。他の血球系列の解析によって、T及びBリンパ球ならびに循環単球の非存在が強調された。逆に、血小板数は正常であったが、ヘモグロビンレベルは1名だけの患者において正常よりわずかに低かった(表1)。全体的に、末梢細胞数のプロファイルは、患者の骨髄の重度低形成形態に対応した(表1、及びデータは示さず)。出生後すぐに実施された造血幹細胞移植(HSCT)は、P1(P412として以前に記載されている)及びP2において成功しており、遺伝的欠陥が内因性であり、外因性でないこと(即ち、微小環境でないこと)を実証している(表1)。
【0065】
患者の線維芽細胞の全ゲノムシークエンシング(WES)を実施することにより、本発明者らは、RAC2遺伝子中のヘテロ接合型ミスセンス変異(c.34G>A、p.G12R)を唯一の可能性のある遺伝的原因として同定した。この変異は、3名の患者においてサンガーシシークエンシングにより確認されたが、しかし、P3の父親(本発明者らがDNAサンプルを得ることができた唯一の親族)においては存在しなかった(図1B)。P2及びその娘P3における同じ表現型及び同じRAC2 G12Rミスセンス変異の存在によって、ADの遺伝パターンが強調された。
【0066】
p.G12Rミスセンス変異はG1ボックス(高度に保存されたグアニンヌクレオチド結合領域13)中に位置し、本発明者らの社内データベース(コホート中のn=14154)中に又はヒトGenome Aggregation Database(gnomAD)中に注釈は付けられていなかった。この変異は、4つの異なるインシリコ予測ソフトウェア(Combined Annotation Depletionを含む)により有害であると予測された。この遺伝子変異が、軽度の好中球欠損及び/又はリンパ球減少症についての原因であると以前に報告された機能喪失(LOF)又は機能獲得(GOF)変異とは異なることは注目に値する14-18。G12Rミスセンス変異が、患者の線維芽細胞における正常レベルのRAC2タンパク質発現と関連付けられたことは注目に値する(図1C)。
【0067】
GDP/GTP結合ドメイン中に位置するG12R変異は、細胞のホメオスタシスを破壊する
【0068】
このG12R変異の機能的影響を理解するために、本発明者らは、野生型(WT)RAC2のX線構造19をテンプレートとして使用し、3次元ホモロジーモデルを生成した(データは示さず)。かさ高く、柔軟なアルギニンは、G1ボックス中のGDP/GTP結合ポケットへの入り口をブロックすると予測される(データは示さず)。したがって、アルギニンの荷電グアニジニウム基が正荷電ポケットを破壊し、したがって、GTP加水分解速度に影響しうる(他の低分子GTPaseについて以前に実証されているように20)。
【0069】
このモデルを生化学的にテストするために、本発明者らは、天然でRAC2陰性のHEK293T細胞の抽出液中で、活性なRAC2 GTP結合形態を定量化した。この細胞を、トラッカーとしての緑色蛍光タンパク質(GFP)を伴う空レンチウイルス骨格(WPI)、あるいはWT形態のRAC2 cDNA、本明細書中に記載する変異形態(G12R)又はポジティブコントロールとしての構成的に活性化したRAC2 GTP形態(G12V)21を含むベクターを用いて形質導入した。高いレベルの活性化GTP結合RAC2形態が、G12V及びG12Rの両方を用いて観察され(図1D)、12位でのアルギニンによる置換が、RAC2シグナル伝達経路の持続的活性化に導くことを実証する。G12R変異は、従って、GOF変異である。
【0070】
RAC2の構成的活性形態の発現が細胞分裂及び生存にどのような影響するのかを決定するために、本発明者らは、P3からの初代線維芽細胞のホロトモグラフィー解析を実施した。インビトロでの低い観察された細胞増殖率(データは示さず)と一致して、患者の線維芽細胞は、非常に遅い細胞動態及び細胞質分裂不全を示唆する断片化した核により特徴付けられた(データは示さず)。さらに、コントロール線維芽細胞とは対照的に、細胞の形状及びミトコンドリアネットワークがP3の線維芽細胞において破壊されていた(データは示さず)。これらの2つの観察によって、G12R変異、欠損したミトコンドリア活性、及び細胞質分裂を駆動するRACシグナル経路における欠損を反映する細胞有糸分裂における劇的な変化の間の関連が強調された22
【0071】
G12R変異はミトコンドリア活性を破壊し、HSPC分化をブロックする
【0072】
造血に対する構成的なRAC2活性化の影響を理解するために、CD34陽性のヒト臍帯血HSPC(患者の骨髄サンプルの非存在を仮定)を、WPI、WT、G12R、又はG12V RAC2 cDNA(トラッカーとしてGFPを用いる)を用いて形質導入し、次いでサイトカインを用いて7日間にわたり培養した(図2B)。構成的に活性化なRAC2形態(G12R及びG12V)の発現によって、4日以内でのGFP+形質導入細胞の消失に導かれ、この時間点で、活性酸素種(ROS)産生(「ROS low」細胞の割合として定量化)が有意にブロックされ、ミトコンドリア膜脱分極(「DilC1(5) low」細胞の割合)及びアポトーシス(アネキシンV陽性細胞の割合)は有意に増加した(図2A)。これらの変化は、GFP陰性サブセットにおいて観察されなかったことは注目に値する。全体として、これらの知見によって、RAC2タンパク質中の12位での変異とミトコンドリア機能障害の間での特異的な相関が明示された。本発明者らの結果は、(i)ミトコンドリア活性がHSPC機能のために要求されること23,24、及び(ii)RAC2シグナル経路の破壊がミトコンドリア動態25及び活性酸素産生26-28に影響を及ぼすことを示す以前の報告と一致する(図2A)。
【0073】
RAC2はヒト造血器骨髄サブセットにおいて、及びヒト胸腺形成の間に高度に発現されるため、本発明者らは、HSPCをWPI、WT、G12R、又はG12V RAC2 cDNAを用いて形質導入し、それらが、顆粒球、単球、及びTリンパ系列に沿って分化するように刺激した(全てが3名の患者において存在しない)。顆粒球コロニー刺激因子を用いた7日間の培養後、GFP+CD15+CD11b+好中球数は、G12R及びG12V条件において、WPI又はWT条件においてより、有意に低かった(図2B)。ミトコンドリア膜電位及びROS産生がまた、破壊されていることが見出され、アポトーシスの上昇レベルと関連付けられた(図2B)。単球系列に向かう分化及びコロニー形成単位アッセイにおける分化は、同様の結果を与えた(データは示さず)。Notchリガンドデルタ様4(DL4)培養系(7日間でのCD7+T細胞前駆細胞へのHSPCの分化を可能にする29)への曝露時に、G12R及びG12V条件におけるGFP+サブセット数は(WT及びWPI条件に比べて)非常に低く、GFP+CD7+T細胞前駆細胞がほぼ完全に存在しなかった(図2C)。これらの結果は、RAC2のG12V構成的活性形態の発現によって、マウス胸腺細胞の分化が防止され、アポトーシスに導かれるという以前の報告30と一致している。全体として、本発明者らの結果は、リンパ骨髄区画の生存及び分化におけるGDP/GTP結合RAC2バランスの重要な機能を示し、HSPC機能におけるRAC2シグナル伝達経路の関与を強調する。本発明者らは次に、ヒト臍帯血HSPCの増殖に対するG12Rの影響を、以前に記載されているRAC2におけるLOF及びGOFミスセンス変異(それぞれp.D57N及びp.E62K)14、15、18の影響と比較した。8日間の培養の間に、GFP+形質導入HSPCの数はE62K及びG12R群において低かったが、しかし、E62K条件ではG12R条件より有意に高かった。G12R変異とは異なり、D57N及びE62K変異はミトコンドリア活性に対する影響を有さなかった。
【0074】
全体として、本発明者らの観察は、RAC2におけるG12Rミスセンス変異が、RAC2の活性なGTP結合形態のレベルと、及びHSPCの生存及び機能と相関していることを示唆する。これらの知見は、本発明者らの3名の患者において観察されたSCIDの臨床的及び免疫学的表現型と、ならびにE62K又はD57変異を持つ患者により呈されるあまり重度ではない表現型と適合する。
【0075】
テストされた3つの型のLAM(Molm13、MV4-11、及びHL60)
【0076】
急性骨髄性白血病(AML、転座MLL-AF9)からのMolm-13細胞を、空ベクター(WPI)、RAC2の野生形態を含むベクター(WT)、又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入された細胞は全て、レポーター遺伝子GFP(緑色蛍光タンパク質)を発現し、フローサイトメトリーによりGFP+細胞のパーセンテージ及び形質導入されたGFP+細胞の数を追跡することを可能にする。構成的に活性化されたRAC2形態(G12R)の発現によって、7日以内でのGFP+形質導入細胞の消失に導かれた(図3A)。この観察は、欠損したミトコンドリア膜分極及び欠損した活性酸素種(ROS)産生を有するGFP+アポトーシス細胞(%アネキシンV+)の増加した割合と相関する(図3B)。
【0077】
AML(転座MLL-AF4)からのMV4-11細胞をまた、空ベクター(WPI)、RAC2の野生形態を含むベクター(WT)、又はRAC2から変異した形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。GFPレポーター遺伝子を発現する形質導入細胞をフローサイトメトリーにより追跡し、本発明者らは、G12R条件において減少したGFP+細胞のパーセンテージ及び数を観察した(図4)。細胞をまた、May-Grunwald Giemsaを用いて染色し、核の断片化(ragmentation)は、G12R構築物を用いて形質導入された細胞だけにおいて観察された(データは示さず)。
【0078】
AMLからのHL60細胞を、RAC2の野生形態(WT)又はRAC2の変異形態(G12R)を含むベクターを含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入後、細胞をレチノイン酸の存在において4日間にわたり培養し、顆粒球(CD11b+ CD15+)へそれらの分化を誘導した。GFP+細胞の数を2日目(J2)及び4日目(J4)に、顆粒球の数を4日目に測定した。図5A及び図5Bで観察されるように、GFP+及びCD11b+CD15+細胞の数が、WT条件と比較し、G12R条件において劇的に低下した。この観察は、より高いミトコンドリア膜脱分極(DILC low細胞の割合として定量化;図5C)及びROSを産生できない細胞のより高い割合(ROS lowの%として定量化;図5D)と相関していた。注目すべきは、アポトーシスに入るGFP+細胞の割合は、WT及びG12R条件についてそれぞれ2%及び10%であった。細胞をまた、May-Grunwald Giemsaを用いて染色し、断片化した核が、G12R構築物を用いて形質導入された細胞だけで観察された。
【0079】
本発明者らはまた、初代細胞に対するRAC2 G12Rミスセンス変異の効果を試験した。簡単には、健常ドナーからの単核細胞を、空ベクター(WPI)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。形質導入されたGFP+を、8日間の培養の間にフローサイトメトリーにより追跡した。図6Aで観察されるように、GFP+細胞の%及び数が、コントロール条件と比較し、G12R条件において劇的に低下した。この観察は、アポトーシス細胞のより高い%に関連付けられる(図6A)。健常ドナーからのB-EBV株を、空ベクター(WPI)又はRAC2の変異形態を含むベクター(G12R)を含むレンチウイルス構築物の存在において形質導入した。図6Bに表される時間経過動態において、GFP+細胞の%は、G12R条件において有意に減少している。
【0080】
考察
【0081】
SCIDを伴う3名の患者において、本発明者らは、RAC2タンパク質の高度に保存されたG1ボックスドメイン中にヘテロ接合性の優性ミスセンス変異(p.G12R)を同定した。この変異は自然免疫系及び適応免疫系に影響を及ぼした。臨床症状の重症度を考慮すると、患者は生後数週間中に造血幹細胞移植を受けなければならなかった。AD遺伝の観察によってRDの臨床スペクトルが広がる。本発明者らは、本明細書で2つの形態のRDの間で区別している:難聴及びAK2変異に関連付けられる劣性症候群形態(I型)ならびにRAC2におけるAD G12R変異に特に関連付けられる非症候群形態(難聴を伴わない)(II型)。II型AD-SCID形態における感音性聴覚消失の非存在は、造血系列におけるRAC2の特異的発現ならびにRAC1及びRAC3(RAC2ではない)がマウス内耳の発生に関与するRAC GTPaseであるという事実に起因するかもしれない31
【0082】
本明細書において同定されているG12R-RAC2変異は、特にHSPCにおいて、細胞の増殖及び生存に対する劇的な効果を有した。さらに、この変異によって、HSPCにおけるミトコンドリア活性が破壊され、リンパ系列及び骨髄系列に向かう細胞分化が損なわれた。これらの特色によって、本発明者らの3名の患者における循環するリンパ球及び好中球の非存在が説明され、異なる造血チェックポイントでのRAC2の非重複調節の役割が強調されうる。
【0083】
驚くべきことに、本発明者らの実験では、D57N LOF変異体はHSPCプールに対する影響を有さず、E62K GOF変異体が(G12Rと比べて)中程度の効果だけを有する。全体として、本発明者らの知見は、種々のRAC2変異が、HSPCに対するそれらの効果において異なることを強調し、恐らくは、RAC2欠損を伴う患者において観察される広いスペクトルの臨床表現型(好中球欠損及び/又は白血球減少(任意の報告された造血の変化を伴わない)から、本発明者らが本明細書で記載する骨髄低形成を伴うSCID形態まで)を説明する。この型の不均一性は、RAG1変異について既に報告されており、ここで、表現型は自己免疫疾患からSCIDまで及ぶ32
【0084】
アミノ酸置換の位置(GDP/GTP結合ポケット内(G12R)又はスイッチIIドメイン中(E62K))によって、これら2つのGOF変異の違いが説明されうる。この仮説は、(i)G12R条件において観察される高レベルの活性(GTP結合)形態RAC2(E62K条件におけるその非存在と比べて)、及び(ii)E62K条件において観察される低レベルのRAC2タンパク質発現量と一致しており、62位でのグルタミン酸置換がタンパク質の安定性に影響しうることを示唆する。結果的に、本発明者らは、G12R変異が、構成的で、持続的な様式において下流の標的を活性化することができる唯一の変異であることを示唆する。E62K変異体についての本発明者らの結果は、Hsuら18により記載された結果とは異なる。なぜなら、彼らは、精製されたE62Kタンパク質のGTP結合能力を評価したが;本明細書では、本発明者らは、細胞溶解物中のRAC2GTP活性を測定したからである。これらの結果に照らして、2つのGOF変異は、同じレベルのRAC2 GTP活性を駆動せず、G-LISAアッセイが、生細胞においてRAC2活性化のレベルを測定するための適した方法であると思われる。
【0085】
まとめると、p.G12R RAC2変異はHSPC区画の維持及び分化に対して劇的な影響を有し、したがって、患者の臨床的及び免疫学的表現型の重症度を説明しうる。本発明者らの知る限り、本試験はSCIDのAD形態を報告する最初のものであり、医師は、SCID及びRDの臨床症状を伴う患者のためにRAC2遺伝子シークエンシングを考慮すべきである。本発明者らはまた、種々の細胞株(B-EBV、AML)又は成熟した初代細胞においてG12Rミスセンス変異の劇的な影響を観察したが、RAC2タンパク質のGDP/GTP結合ドメインを標的化することが、白血病細胞死を誘導するための新たな治療戦略を表しうることを示唆する。
【表1】

【0086】
参考文献
【0087】
本願を通し、種々の参考文献により、本発明が属する最先端技術が記載される。これらの参考文献の開示内容は、本開示中への参照により本明細書により組み入れられる。
【表2】


図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
【配列表】
2022541445000001.app
【国際調査報告】