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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】グランドプレーンヒータ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/02 20060101AFI20220915BHJP
   H01Q 13/22 20060101ALI20220915BHJP
   H01Q 3/24 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01Q1/02
H01Q13/22
H01Q3/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502417
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 US2020042021
(87)【国際公開番号】W WO2021011584
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】62/874,362
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/927,808
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516247177
【氏名又は名称】カイメタ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100196612
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレル カグダス
(72)【発明者】
【氏名】リン スティーヴン ハワード
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴンソン ライアン エイ
(72)【発明者】
【氏名】ショート コリン スチュワート
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
5J046
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021AB05
5J021CA05
5J021DB05
5J021GA02
5J021HA02
5J021JA08
5J045DA05
5J045GA07
5J045HA01
5J045JA03
5J045NA01
5J046AB03
5J046AB08
5J046CA03
(57)【要約】
ヒータを備えたアンテナ及びこれを使用する方法が開示される。1つの実施形態において、アンテナは、複数の無線周波数放射アンテナ素子を有するアンテナアパーチャであって、アンテナアパーチャは、グランドプレーンと、誘電率又はキャパシタンスを同調するための材料とを有するアンテナアパーチャと、材料と熱的に接触するヒータ構造と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナであって、
複数の無線周波数放射アンテナ素子を有するアンテナアパーチャであって、グランドプレーンと、誘電率又はキャパシタンスを同調するための材料とを有するアンテナアパーチャと、
前記材料と熱的に接触するヒータ構造と、
を備える、アンテナ。
【請求項2】
前記ヒータ構造は、前記グランドプレーンと少なくとも部分的に一体化されており、複数の抵抗素子を含む、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記ヒータ構造は、アイリスを形成する前記グランドプレーン上のアイリス形成層とは異なる、前記グランドプレーン上の金属層を含む、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記ヒータ構造は、前記アンテナ内に薄膜トランジスタ(TFT)アレイとして作製された金属層を含む、請求項1記載のアンテナ。
【請求項5】
前記ヒータ構造は、基板層、前記基板層上のパッシベーション層、又は前記基板層上の接着層に接触する、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項6】
ガラス、プリント回路基板、ポリイミド、ポリエステル、フルオロポリマー、又は溶融シリカを含む基板層と、
第1の金属層を含むアイリス形成層と、
を更に備え、
前記ヒータ構造は、パッシベーション層によって前記第1の金属層から分離された第2の金属層を含み、前記第2の金属層は、前記基板と前記第1の金属層との間にある、
請求項1に記載のアンテナ。
【請求項7】
ガラス、プリント回路基板、ポリイミド、ポリエステル、フルオロポリマー、又は溶融シリカを含む基板層と、
第1の金属層を含むアイリス形成層と、
を更に備え、
前記ヒータ構造は、パッシベーション層によって前記第1の金属層から第2の金属層を含み、前記アイリス金属層は、前記基板と前記第2の金属層との間にある、
請求項1に記載のアンテナ。
【請求項8】
前記グランドプレーンは、ガラス、プリント基板、ポリイミド、ポリエステル、フルオロポリマー、又は溶融シリカを含み且つ第1の金属層を有する基板層を備え、前記ヒータ構造は、パッシベーション層によって前記第1の金属層及び前記基板層から分離された第2の金属層を含む、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項9】
前記ヒータ構造に接続された複数のバスバーを更に備え、前記複数のバスバーの各々は、アイリス形成層を有する第1の金属層上にあり且つ前記アンテナアパーチャのためのアイリスを形成するアイリス形成金属から離間されている、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項10】
前記ヒータ構造は、アイリス形成金属において少なくとも1つのギャップを覆う第2の金属層上にある、請求項9に記載のアンテナ。
【請求項11】
第2の複数のバスバーとインターリーブされ、それらの間に前記ヒータ構造の抵抗加熱素子を有する第1の複数のバスバーを更に備える、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項12】
前記アイリス形成層への第1の電気的接続点と、前記アイリス形成層への第2の電気的接続点とを更に含み、前記ヒータ構造は、前記アイリス形成層と一体化されており、前記アンテナは、前記第1の電気的接続点と前記第2の電気的接続点が異なる電圧レベルにバイアスされる加熱モードで動作可能であり、前記アンテナは、前記第1の電気的接続点と前記第2の電気的接続点が同じ電圧レベルにバイアスされるアンテナモードで動作可能である、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項13】
前記材料は、液晶(LC)を含む、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項14】
アンテナであって、
複数の無線周波数(RF)アンテナ素子を有するアンテナアパーチャであって、前記アンテナアパーチャは、パッチ基板と、グランドプレーンと、前記パッチ基板と前記グランドプレーンとの間の誘電率又はキャパシタンスを同調するための材料とを有し、前記グランドプレーン基板は、複数の無線周波数(RF)アンテナ素子のアイリスのためのアイリス形成層を含む第1の層を有する、アンテナアパーチャと、
前記材料を加熱するためのヒータ構造を含む前記グランドプレーン上の第2の層と、
を備える、アンテナ。
【請求項15】
前記第1の層は、第1の金属層を含み、
前記第2の層は、第2の金属層を含み、
前記材料は、液晶を含む、
請求項14に記載のアンテナ。
【請求項16】
前記第2の層は、前記アンテナ内の薄膜トランジスタ(TFT)アレイにおける金属として作製された金属層を含む、請求項15に記載のアンテナ。
【請求項17】
前記グランドプレーンは、基板層を含み、前記ヒータ構造を含む前記第2の層は、前記基板層、前記基板層上のパッシベーション層、又は前記基板層上の接着層に接触する、請求項15に記載のアンテナ。
【請求項18】
前記ヒータ構造は、パッシベーション層によって前記第1の金属層から分離されており、前記第2の金属層は、前記グランドプレーンと前記第1の金属層との間にある、請求項15に記載のアンテナ。
【請求項19】
前記ヒータ構造は、パッシベーション層によって前記第1の金属層から分離されており、前記アイリス金属層は、前記基板と前記第2の金属層との間にある、請求項15に記載のアンテナ。
【請求項20】
前記ヒータ構造は、パッシベーション層によって前記第1の層から分離されている、請求項14に記載のアンテナ。
【請求項21】
前記第1の層は、パッシベーション層によって前記第2の層及び前記グランドプレーンの基板層から分離されている、請求項14に記載のアンテナ。
【請求項22】
前記ヒータ構造に接続された複数のバスバーを更に備える、請求項14に記載のアンテナ。
【請求項23】
前記複数のバスバーの各々は、前記アイリス形成層と同じ金属層上にあり、前記アンテナアパーチャのためのアイリスを形成するアイリス形成金属から離間されている、請求項22に記載のアンテナ。
【請求項24】
前記複数のバスバーの各々は、前記アイリス形成層のアイリス金属からギャップにより離間され、ビアを介して前記第2の層に結合されている、請求項22に記載のアンテナ。
【請求項25】
前記アンテナは、前記ヒータ構造が駆動されて前記材料を所定の温度まで上昇させる加熱モードで動作可能であり、前記アンテナは、前記材料が少なくとも前記所定の温度になると、前記ヒータ構造が駆動されないアンテナモードで動作可能である、請求項14に記載のアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権)
本特許出願は、2019年7月15日に出願された「IRIS HEATER」という名称の米国仮特許出願シリアル第62/874,362号に対する優先権を主張し、引用により組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本発明の実施形態は、通信に使用される無線周波数(RF)アパーチャの分野に関し、より詳細には、本発明の実施形態は、内部ヒータを含む、例えばアンテナなどのRFアパーチャに関する。
【背景技術】
【0003】
ある特定のアンテナ技術は、アンテナを動作温度にするために、アンテナの加熱を必要とする。例えば、液晶を利用するある特定のアンテナでは、液晶が所望の動作をするために、液晶を特定の温度に加熱する必要がある。
【0004】
液晶ディスプレイ(LCD)に関連する従来技術において、例えば、周囲温度が-30℃から-40℃に達する可能性がある自動車用ディスプレイ用途では、適切に動作させるためにLCを特定温度を上回って保つために抵抗加熱素子が使用されている。これらの加熱素子は、インジウムスズ酸化物(ITO)などの透明導電体から、LCDの主基板とは別のガラス基板上に形成される。この基板は、熱伝導性を提供するために、LCD主基板に実質的に接合される。加熱素子が光周波数に対して透明であるので、加熱素子が信号経路上にあっても、これは、LCD用のヒータを簡単で実用的に実装する方法である。
【0005】
しかしながら、この手法は、LCベースのアンテナを考慮すると実現可能ではない。ITO及び同様の材料は、RF周波数では透明ではないので、これらのタイプの加熱素子をRF信号の経路に置くと、RF信号が減衰し、アンテナ性能が低下することになる。
【0006】
その結果、LCベースのアンテナの従来技術の実施形態は、金属給電構造又は良好な熱特性を有する他のバルク機械構造に取り付けられた抵抗加熱素子を使用して、LC層が存在するアンテナの内部を加熱する。しかしながら、抵抗加熱素子は、断熱層を含む、アンテナ積層体における複数の層によってLC層から物理的に分離されるので、液晶を加熱するためにはLCD実装と比較してより多くの熱量を加える必要がある。
【0007】
LCベースのアンテナヒータの他の実装では、アンテナアパーチャ(antenna aperture)の縁部からLC層を加熱しようと試みている。これらの実施形態では、400~500Wの電力を必要とし、LC層を動作温度にするためには、この電力で30~40分を必要とする。これは、加熱電力資源の使用が非効率である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国出願特許公開番号US2016/0261042号明細書
【特許文献2】米国出願特許公開番号US2016/0261043号明細書
【特許文献3】米国特許出願14/550,178号明細書
【特許文献4】米国特許出願14/610,502号明細書
【発明の概要】
【0009】
ヒータを備えたアンテナ及びこれを使用する方法が開示される。1つの実施形態において、アンテナは、複数の無線周波数放射アンテナ素子(radio-frequency radiating antenna elements)を有するアンテナアパーチャであって、アンテナアパーチャは、グランドプレーン(ground plane)と、誘電率又はキャパシタンスを同調する(tuning)ための材料とを有する、アパーチャと、材料と熱的に接触するヒータ構造(heater structure)と、を備える。
【0010】
本発明は、以下に与えられる詳細な説明及び本発明の様々な実施形態の添付図面から十分に理解されるであろうが、これらの図面は、本発明を特定の実施形態に限定するものではなく、単に説明及び理解のためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】RF素子間のゲート及びヒータ経路に続く線長が等しいヒータワイヤを示す図である。
図1B】RF素子間の同心円状の円弧上にある不均等な長さのヒータワイヤを示す図である。
図2】アンテナアパーチャの1つの実施形態の例示的な断面を示す図である。
図3A】長さが等しいヒータワイヤのためのヒータバス配置の例を示す図である。
図3B】長さが等しくないヒータワイヤのためのヒータバス配置の例を示す図である。
図4A】アンテナアパーチャにおける層間のボーダーシールにわたるヒータバスの例を示す図である。
図4B】シールの下方を通って延びてアイリス層のオーバーハング部上のボンディングパッド構造に出てくる、アンテナアパーチャ内部でヒータワイヤに接続するヒータバスの一般的断面を示す図である。
図5】ボーダーシール内でのアイリス層からパッチ層へのヒータバスの電気クロスオーバーを示す図である。
図6】ボーダーシール構造内のアイリス層からパッチ層へのヒータバスの電気クロスオーバーを示す図である。
図7A】様々な温度における典型的な薄膜トランジスタ(TFT)の電流(I)-電圧(V)曲線を示す図である。
図7B】様々な温度における典型的な薄膜トランジスタ(TFT)の電流(I)-電圧(V)曲線を示す図である。
図7C】様々な温度における典型的な薄膜トランジスタ(TFT)の電流(I)-電圧(V)曲線を示す図である。
図8A】TFT(又は他のタイプのトランジスタ)を使用してLCの温度の推定値を決定するプロセスの1つの実施形態のフロー図である。
図8B】アンテナアパーチャ内の温度を決定するのに使用する電圧及び電流を測定するための回路装置の図である。
図8C】TFT(又は他のタイプのトランジスタ)を使用してLCの温度の推定値を決定するプロセスの1つの実施形態のフロー図である。
図8D】アンテナアパーチャ内の温度を決定するのに使用する電圧及び電流を測定するための別の回路装置の図である。
図9】液晶のキャパシタンスを測定するための構成を示す図である。
図10】円筒状給電アンテナの入力給電部の周りに同心リング状に配置されたアンテナ素子の1又は2以上のアレイを有するアパーチャを示す図である。
図11】グランドプレーン及び再構成可能な共振器層を含むアンテナ素子の1つの行の斜視図である。
図12】同調型共振器/スロットの1つの実施形態を示す図である。
図13】物理的なアンテナアパーチャの1つの実施形態の断面図である。
図14A】スロットアレイを生成するための異なる層の1つの実施形態を示す図である。
図14B】スロットアレイを生成するための異なる層の1つの実施形態を示す図である。
図14C】スロットアレイを生成するための異なる層の1つの実施形態を示す図である。
図14D】スロットアレイを生成するための異なる層の1つの実施形態を示す図である。
図15】円筒状給電アンテナ構造の1つの実施形態の側面図である。
図16】射出波共にアンテナシステムの別の実施形態を示す図である。
図17】アンテナ素子に対するマトリクス駆動回路の配置の1つの実施形態を示す図である。
図18】TFTパッケージの1つの実施形態を示す図である。
図19】同時送信及び受信経路を有する通信システムの1つの実施形態のブロック図である。
図20】同時送受信経路を有する通信システムの別の実施形態のブロック図である。
図21A】アンテナアパーチャの内部を加熱するための加熱素子を有するスーパープレートの1つの実施形態を示す図である。
図21B】アンテナアパーチャの内部を加熱するための加熱素子を有するスーパープレートの1つの実施形態を示す図である。
図22】ヒータ層がアイリス金属層の下方にあるアイリスヒータ設計の断面図である。
図23】ヒータ層がアイリス金属層の上方にあるアイリスヒータ設計の断面図である。
図24】アンテナセグメントの2つの縁部に沿ったバスバーを示す図である。
図25】アンテナセグメントの3つの縁部に沿ったバスバーを示す図である。
図26】アンテナセグメントの全ての縁部に沿ったバスバーを示す図である。
図27】アイリス金属層上に作製されたヒータバスバーと対応する説明を示す図である。
図28】アイリス金属上に作製されたヒータバスバーの例図及び対応する断面図である。
図29】半径方向ヒータバスとヒータワイヤの配置を示す図である。
図30】アンテナ素子のアレイがアパーチャアンテナアレイを形成している、アイリス金属層を示す図である。
図31】ヒータとしてアイリス金属層を使用するためのヒータ接続部の設計を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明では、本発明のより完全な説明を提供するために多くの詳細事項が記載されている。しかしながら、本発明がこれらの特定の詳細事項なしで実施できることは当業者には明らかであろう。場合によっては、本発明を曖昧にするのを避けるために、周知の構造及び装置は、詳細には示さずにブロック図の形式で示される。
【0013】
本発明の実施形態は、LCベースの無線周波数(RF)アンテナアパーチャの内部にヒータ(例えば、加熱素子(heating elements))を配置する技術を含む。1つの実施形態において、ヒータは、RF素子の近くで、RFアンテナ素子の一部である液晶(LC)により近接してアンテナアパーチャの内部に配置される。これにより、アパーチャの直接加熱が可能となり、ヒータの所要電力が少なくなり、例えば、給電構造の後部に抵抗加熱素子を配置するなど、アパーチャの内部の温度を上昇させるより間接的な方法に比べて、温度上昇時間が短縮される。
【0014】
ヒータの実装(heater implementation)は、アパーチャのRF特性を妨げないことが重要である。1つの実施形態において、加熱素子(例えば、ヒータトレース)は、アンテナアパーチャ内でより直接的な加熱を提供しながら、RF信号との干渉を低減する、場合によっては排除する場所のアンテナアパーチャ内に配置される。1つの実施形態において、これは、RF素子の間でRF素子の一部とほぼ同一平面上に加熱素子を配置することにより実現される。1つの実施形態において、加熱素子の位置は、パッチ/アイリススロットアレイアンテナの一部であるアイリス層(例えば、アイリス金属層)のアイリス素子と同一平面上にある。アパーチャ内のヒータ配線をアイリス層とほぼ同一平面上に移動させることで、ヒータ配線とRF信号の相互作用が低減され、場合によっては最小化される。
【0015】
本明細書で開示される技術は、メタマテリアルアンテナのアイリスガラス基板上に抵抗ヒータを実現する概念に焦点を合わせる。このようなアンテナの例は、以下及び添付の補遺においてより詳細に記載される。1つの実施形態において、メタマテリアルアンテナは、アンテナ素子の設計において液晶(LC)材料の層を同調型キャパシタとして使用する。1つの実施形態において、LC材料の応答は温度に依存し、メタマテリアルアンテナの設計は、10℃以上の温度でLCからの応答に最適化される。このため、メタマテリアルアンテナは、10℃以下の温度での動作にはヒータ構造を必要とする。1つの実施形態において、このヒータは、2つのガラス基板とこれらの間にLC層とを有するアンテナのガラス基板設計に組み込まれ、2つのガラス基板がLC層と直接接触するので、効率的な加熱を提供することができる。1つの実施形態において、2つのガラス基板は、パッチ/スロットアンテナのアイリス層とパッチ層とを有する。アイリスガラス基板に組み込まれたヒータは、本明細書では「アイリスヒータ(iris heater)」と呼ばれる。以下に記載されるヒータの設計概念は、LC層が存在するアンテナの内部を加熱するために金属給電構造又は他のバルク機械構造に取り付けられた抵抗加熱素子と比較して、加熱所要電力を数百ワット減少させることができる。
【0016】
本明細書に開示された技術はまた、アンテナアパーチャ内の温度を検出する方法を含む。1つの実施形態において、温度は、トランジスタバックプレーン上のトランジスタから直接検出される。1つの実施形態において、トランジスタバックプレーンは、薄膜トランジスタ(TFT)バックプレーンである。1つの実施形態において、トランジスタバックプレーン上のトランジスタが、LC又は他の材料と接触している場合、トランジスタの温度を検出することにより、LC/材料の温度の指標が提供される。
【0017】
本明細書に記載されている技術は、ヒータシステムのコストを減少させ、必要な電力がより少なく、アパーチャ温度の上昇時間を短縮し、アンテナを制御するのに使用されるコントローラボードのフットプリントを縮小させる。より具体的には、1つの実施形態において、本明細書に記載された技術は、75~100ワットの電力を必要とし、20分でLC層温度を動作温度に到達させる。
【0018】
更に、温度は、典型的には、パッチ及びアイリスガラス層とLC層とを含むガラス組立体から実質的に物理的に除去されたブレイクアウトプリント回路基板(PCB)又はブレイクアウト基板(例えば、インターフェース基板(例えば、他のアンテナセグメントと組み合わせてアンテナアパーチャを形成するアンテナセグメントへのインターフェース基板など))上で感知される。ガラス上での温度感知により、熱管理フィードバックループをより厳密に制御することができる。
【0019】
(概要)
1つの実施形態において、ヒータ構造は、加熱素子、加熱素子に給電するためのヒータ電力バス、アパーチャの外側に配置されたヒータ電源にヒータ電力バスを接続するための接続方式など、複数の要素からなる。1つの実施形態において、加熱素子はワイヤである。1つの実施形態において、ヒータ電力バスは、超低抵抗である。
【0020】
ヒータ配線、ヒータバス、ヒータ接続の実装は、実装に応じては、アパーチャの作製時に導体層、パッシベーション層、ビア開口部及びその他などの追加の堆積が必要となる場合がある。これらの追加層は、ヒータ構造を構築し、ヒータ構造を他の構造から電気的又は化学的に分離し、必要に応じて既存のアパーチャ構造にヒータのインターフェースを提供する役割を果たす。
【0021】
(ヒータワイヤ(Heating Wires))
アパーチャの加熱は均一であることが望ましい。この目的を達成することができる2つのヒータワイヤ構成について説明する。
【0022】
1つの実施形態において、ヒータワイヤは等しい長さであり、これらのヒータワイヤの断面は、ヒータワイヤの長さにわたってヒータワイヤからヒータワイヤまでの寸法が同じ(又は類似)である。全体として、これにより、アパーチャ全体での単位面積当たりに同じ電力消費量を提供する。1つの実施形態において、ヒータワイヤは、アパーチャ品質領域全体で均一に分布され、パッチ又はアイリスと交差又は接触せずにアイリス間に置かれる。1つの実施形態において、ヒータワイヤは、アパーチャ領域全体で互いから同じ距離(同じピッチ)離れて近接している。
【0023】
図1Aは、アンテナアパーチャにおけるRFアンテナ素子を加熱するのに使用される加熱素子の一例を示しており、ヒータワイヤは、等しい線長を有し、RF素子間のゲート経路とヒータ経路に従う。1つの実施形態において、ゲート経路は、液晶ベースのRFアンテナ素子をオン及びオフするゲートを制御するための経路であり、これについては以下でより詳細に説明する。
【0024】
図1Aを参照すると、アンテナアパーチャセグメント100は、RFアンテナ素子のアンテナアレイの1/4を示している。1つの実施形態において、4つのアンテナアパーチャセグメントが結合されて、アレイ全体を形成する。なお、他の数のセグメントを使用して、アンテナアレイ全体を構成してもよい。例えば、1つの実施形態において、セグメントは、3つのセグメントを結合してRFアンテナ素子の円形アレイを形成するような形状にされる。アンテナセグメント及びこれらが結合される方法に関してのより詳しい情報については、2016年3月3日に出願された「ANTENNA ELEMENT PLACEMENT FOR A CYLINDRICAL FEED ANTENNA」という名称の米国出願特許公開番号US2016/0261042号、並びに2016年3月3日に出願された「APERTURE SEGMENTATION OF A CYLINDRICAL FEED ANTENNA」という名称の米国出願特許公開番号US2016/0261043号を参照されたい。本明細書に記載された技術は、アンテナアパーチャセグメントによる動作に限定されず、RFアンテナ素子のアレイ全体を含む単一のアパーチャで使用することができる点に留意されたい。
【0025】
ヒータワイヤ(要素)101は、アンテナアパーチャセグメント100上に示されている。1つの実施形態において、ヒータワイヤ101は等しい長さである。1つの実施形態において、ヒータワイヤ101は、アンテナアレイにおけるRFアンテナ素子(図示せず)の間に配置されている。1つの実施形態において、ヒータワイヤ101は、アレイ内の個々のRFアンテナ素子をオン及びオフするためのゲートを制御するのに使用されるゲートラインに沿っている。1つの実施形態において、ヒータワイヤ101は、RF素子間の距離が等しい。
【0026】
1つの実施形態において、ヒータワイヤ101は、互いに対して等距離である。言い換えれば、ヒータワイヤのペア間の離隔距離は等しい。これは、アンテナアパーチャをより均一に加熱するのに役立つ可能性があるが、要件ではない点に留意されたい。1つの実施形態において、アンテナアレイにおけるアンテナ素子がリング状に配置されている場合、ヒータワイヤ101の個々のヒータワイヤは、RFアンテナ素子の連続する2つのリング間の距離が等しい。代替の実施形態では、ヒータワイヤのペア間の離隔距離は等しくない。
【0027】
図1Aに描かれているヒータ配線は、配線の相対的な位置と経路を示しているが、配線のサイズ又はワイヤ数を表している訳ではないことに留意すべきである。例えば、1つの実施形態において、1つおきのワイヤを削除することができ、残りのワイヤが、エリア全体で加熱が均一に提供されるのに必要な加熱を提供する。ヒータワイヤのサイズに関しては、そのサイズは、ヒータワイヤ自体の材料特性とワイヤが提供されることになる加熱量に基づいて決定される。
【0028】
1つの実施形態において、ヒータワイヤ101のヒータワイヤ断面(高さ及び幅)は、以下のようにして選択される。まず、アパーチャ領域を加熱するために必要な電力は、ヒータワイヤの数及び長さと所与の所望のヒータ供給電圧から、ヒータワイヤの抵抗に変換される。次いで、この抵抗値とヒータワイヤ材料の特性を併せて使用されて、必要なヒータワイヤ断面積を決定する。限定ではないが、製造歩留まりを含む、他の考慮事項を使用して、ヒータワイヤの断面を選択することができる。
【0029】
別の実施形態では、ヒータワイヤは不均等な長さであり、これらの断面は等しくない。1つの実施形態において、不均等な長さのヒータワイヤがRF素子間の同心円弧上にある。1つの実施形態において、ヒータワイヤの幅は等しく、ワイヤの高さは、セグメントの中心から半径方向に調整されて、アパーチャ領域にわたって単位面積当たりに均一な電力を提供する。
【0030】
図1Bは、不均等な長さのヒータワイヤを有し、それらの断面が互いに不均等であるアンテナアパーチャ上のヒータワイヤの1つの実施形態を示す。図1Bを参照すると、図1Aに描かれているアパーチャセグメントと同じタイプのであるアンテナアパーチャセグメント110上にヒータワイヤ111が示されている。1つの実施形態において、複数のアンテナアパーチャが結合されて、完全なアンテナアレイを形成する。図1Aと同様に、1つの実施形態において、ヒータワイヤは、RF素子の間に配線される。1つの実施形態において、当該経路は、アンテナ素子を制御するゲートのゲート経路を辿る。
【0031】
1つの実施形態において、目的は、依然として、単位面積当たりの電力損失をほぼ均一にすることである。しかしながら、この場合、ヒータワイヤ断面の高さは、アパーチャ領域にわたって変化させて電流及び抵抗を制御し、ヒータワイヤの長さは不均等でも、面積当たりに同じ電力消費量を提供する。
【0032】
図1Bに描かれているヒータ配線は、配線の相対的な位置及び経路を示しており、配線のサイズ及びワイヤ数を示すものではない点に留意されたい。ヒータワイヤのサイズに関して、これらのサイズは、ヒータワイヤ自体の材料特性とワイヤが提供することになる加熱量に基づいている。
【0033】
1つの実施形態において、ヒータワイヤは、アイリス特徴部の間にあり、パッチ/スロットペアを有するアンテナ素子の同調型スロットアレイにおいて、パッチ又はアイリス特徴部と交差又は接触しない。図2に提供された図示の例では、ヒータワイヤは、アイリス/パッチ素子のリングの中間のリングに位置し、ヒータワイヤの内側及び外側リングが追加されている。1つの実施形態において、ヒータ配線のリングは、アパーチャ領域にわたって同じ半径方向ピッチにて同心リング上にある。1つの実施形態において、ヒータ配線の半径方向ピッチは、RF素子と同じ半径方向のピッチである。代替の実施形態では、ヒータ配線の半径方向ピッチは、RF素子の半径方向ピッチと同じではない。
【0034】
1つの実施形態において、ヒータワイヤは、RF素子の間で等距離に近い位置にある。
【0035】
図2は、アイリス層とパッチ層を有するアンテナアパーチャの断面図又は側面図の例を示す。図2を参照すると、パッチガラス層(patch glass layer)201及びアイリスガラス層(iris glass layer)202は、それぞれパッチ及びアイリススロットを含んで互いに分離されており、同調型スロットアレイを形成している。このようなアレイは周知であり、以下で詳細に説明する。1つの実施形態において、パッチガラス層201及びアイリスガラス層202は、ガラス基板である。パッチ層及びアイリス層は、以下ではそれぞれパッチガラス層及びアイリスガラス層と呼ぶことがある。しかしながら、本明細書において、「パッチガラス層」及び「アイリスガラス層」を含む実施形態は、基板がガラス以外の場合には、それぞれ「パッチ基板層(patch substrate layer)」及び「アイリス基板層(iris substrate layer)」(又はパッチ基板及びアイリス基板)を用いて実施してもよいことを理解されたい。
【0036】
パッチガラス層201上にパッチ金属層211を作製する。パッチ金属層211を覆ってパッシベーションパッチ層231を作製する。パッシベーションパッチ層231の上部に液晶(LC)配向層213を作製する。アイリスガラス層202の上にアイリス金属層212のセクションを作製する。アイリス金属層212を覆ってパッシベーションアイリス1層232を作製する。パッシベーションアイリス層232の上部にヒータワイヤ(heater wire)240を作製する。1つの実施形態において、ヒータワイヤ240は、アイリス素子のペア間の距離が等しくなるように近接している。他のヒータワイヤもまた、このようにしてアイリス素子の間に配置される。別のパッシベーションアイリス2層233は、パッシベーションアイリス1層232とヒータワイヤ240を覆って作製される。パッシベーションアイリス2層233の上部にLC配向層213を作製する。
【0037】
LC配向層213を用いて、当技術分野でよく知られている方法でLC260が単一の方向に向くようにLC260を整列させる点に留意されたい。
【0038】
(ヒータ電力バス(Heater Power Buses))
ヒータワイヤに電力を供給するための電力バスが設けられている。これらの例は、以下の図に示されている。1つの実施形態において、電力バスは、ヒータワイヤと比べたときに抵抗が数桁低いので、バスの一端から他端までの電圧降下が小さく、ヒータワイヤの各バス端でヒータワイヤの全てが同じ電圧を有することができるようになる。これにより、ヒータワイヤのネットワークへの配電を管理するのが容易になる。
【0039】
1つの実施形態において、ヒータバスは、アパーチャの内部に配置され、ヒータワイヤがヒータワイヤの各端部で適切な供給電圧に接続できるようになる。
【0040】
1つの実施形態において、ヒータバスは、ヒータワイヤネットワークに電力を供給することのみを目的として、アパーチャ内に配置された別個の構造物である。
【0041】
別の実施形態では、アパーチャ内の既存の構造物を用いて、ヒータバスとしても機能することができる。1つの実施形態において、ヒータバス(又は複数のバス)は、アパーチャのシール構造に組み込まれる。別のケースでは、アイリス金属(例えば、銅)面は、ヒータワイヤの電流をシンク又はソースするヒータバスとして使用することができる。
【0042】
図3Aは、同じ長さのヒータワイヤのためのアンテナアパーチャに統合されたヒータ電力バスの配置の例を示す。図3Aを参照すると、アンテナアレイ全体を形成するために共に結合されるアンテナセグメントの1つを表すアンテナアパーチャセグメント300は、ヒータバスライン301及び302を含む。ヒータ電力バスライン301及び302は、ヒータワイヤ303に電気的に接続されて電力を供給する。
【0043】
図3Bは、不均等な長さのヒータワイヤのためのアンテナアパーチャに統合されたヒータ電力バス配置の例を示す。図3Bを参照すると、ヒータ電力バス303,304は、アンテナアパーチャセグメント310上のヒータワイヤ305に電気的に接続されている。
【0044】
(ヒータバス(Heater Bus)と電源の接続)
1つの実施形態において、アパーチャの内側にあるヒータバスは、アパーチャ構造の外側に出され、ヒータ電源(heater power supply)への接続を行う。1つの実施形態において、これは、アンテナアパーチャの外側部分においてボーダーシール構造を介してヒータバスを、アパーチャボーダーシールの外側のアパーチャ内の層の1つにあるメタライゼーション層に接続することによって達成することができる。例えば、1つのこのようなメタライゼーション層は、アイリスガラス層又はパッチガラス層上にある。このメタライゼーションは、シール内のヒータバスに接続され、シール内からシールを通って、パッチ又はアイリスガラス層の互いに広がる部分にまで延びている。これらはオーバーハング領域(overhang regions)と呼ぶことができる。このような場合、これらのオーバーハング領域の下方にあるパッチ又はアイリスガラス層の部分は、アンダーハング領域(under-hang regions)と呼ぶことができる。
【0045】
図4A及び4Bは、ボーダーシールを通ってアイリスガラス層のオーバーハング部上に出てくるヒータバスの例を示す。1つの実施形態において、RFアパーチャは、この事例では、アイリスガラス層とパッチガラス層の両方がオーバーハング領域(基板が、メタライズ面の反対側のガラス層に直面していないメタライズ領域を有する)を有するようにカットされる。本明細書では、アイリス層及びパッチ層をガラス層と表現することがあるが、これらは、ガラスに限定されるものではなく、他のタイプの基板を構成することができる。
【0046】
図4Aは、ヒータバスをヒータ電源に接続する際に使用するヒータバス接続方式を示す図である。図4Aを参照すると、1つの実施形態において、ヒータ電源(図示せず)は、ヒータワイヤを含む、アンテナ素子アレイ430などのアンテナ素子アレイの外側に配置されている。アンテナアパーチャセグメント400は、本明細書で検討されたパッチ層及びアイリス層を含む。アイリスオーバーハング部401、402と呼ばれるアイリス層の一部は、パッチ層の一部を覆って延びている。同様に、本明細書でパッチオーバーハング部403と呼ばれるパッチガラス層の一部は、アイリスガラス層の一部を越えて延びている。アイリスガラス層及びパッチガラス層は、アパーチャボーダーシール460によって液晶材料LC462と共にシールされる。ヒータ電力バス410は、シール交差部421でボーダーシール460を横切る。ヒータバス411は、シール交差部420でボーダーシール460を横切り、電源に接続する。何れの場合においても、ヒータ電力バス410及びヒータバス411は、アンテナアパーチャセグメント400から出ることにより電源を介して接続することができる。アンテナアパーチャセグメント400は、アンテナ素子アレイ430のヒータワイヤ481に電気的に接続されたヒータ電力バス410及び411を含む。
【0047】
図4Bは、シールの下方に延びてアイリスオーバーハング部上のボンディングパッド構造に出ている、アパーチャ内のヒータワイヤに接続するヒータバスの一般的断面図である。図4Bを参照すると、ヒータバス金属443は、パッシベーション層441の上部のアイリスガラス層431上のボーダーシール、ボーダーシール接着剤450の下に入り込む。このように、ヒータバス金属443は、ボーダーシール接着剤450の真下にある。ボーダーシール接着剤450は、パッチガラス層430を、その上の作製された層を含むアイリスガラス層431に結合する。
【0048】
ヒータワイヤ444は、パッシベーション層441及びヒータバス金属443の一部の上部に堆積され、これによりヒータワイヤ444と共にヒータバス金属443に電気的に接続される。ヒータワイヤ444は、アイリス金属445の上部に作製されたパッシベーション層441の一部上に作製され、ヒータバス金属443の一部上に作製される。代替の実施形態では、ヒータバス金属443とヒータワイヤ444との間にパッシベーション層があり、パッシベーション層を通るビアがヒータバス金属443とヒータワイヤ444とを接続している。
【0049】
パッシベーション層441は、ヒータワイヤ444及びヒータバス金属443の少なくとも一部の上部に作製される。パッシベーション層441の上部に配向層432が作製される。パッシベーション層441はまた、パッチガラス層430の下部に作製される。同様に、配向膜432は、パッチガラス層430上のパッシベーション層441の一部を覆って作製される。ヒータワイヤ444は、パッシベーション層とその間のビアなしでヒータバス金属443の上部に直接堆積されて示されるが、代替の実施形態では、ヒータワイヤ444とヒータバス金属443との間に別のパッシベーション層が堆積され、これら2つの間の電気的接続がビアを使用して行われる点に留意されたい。このパッシベーション層は、ヒータワイヤ金属がエッチングされている間、ヒータバス金属を保護する。
【0050】
ボンディングパッド/コネクタ構造(bond pad/connector structure)442は、電源をヒータバス金属443に電気的に接続するための場所である。
【0051】
ヒータバスの電源は、ボーダーシールの内側で、ボーダーシール自体内で、又はボーダーシールの外側でアパーチャのパッチガラス層側からアイリスガラス層側に横断することができる。ヒータバスをパッチ層のオーバーハング部に取り出すことは、コントローラ電子機器からアパーチャまでのインターフェースラインの残りに使用されるコネクタ内でヒータ接続が可能にできるという利点がある。以下の図は、ボーダーシールの内側及び内部でこれを行う方法を示している。
【0052】
図5は、ボーダーシール内でアイリス層からパッチ層に電気的にクロスオーバーするヒータ電力バスの1つの実施形態を示す。図5を参照すると、パッチガラス層501は、アイリスガラス層502を覆って示されている。パッチガラス層501とアイリスガラス層502の上に作製された複数の層があり、ボーダーシール接着剤521が、これら2つの基板を共に結合し、2つの基板間のLC560をシールする。1つの実施形態において、パッチガラス層501及びアイリスガラス層502は、ガラス層を構成するが、他のタイプの基板であってもよい。
【0053】
アイリス金属層541は、アイリスガラス層502の上部に作製される。パッシベーション層531は、アイリス金属層541及びアイリス金属層541が存在しない(例えば、エッチングで除去された)アイリスガラス層502の上部に作製される。パッシベーション層531の上には、ヒータバス金属512を含む。アイリス金属層541を覆ったパッシベーション層531の上には、パッシベーション層550がある。LC560を加熱するためのヒータワイヤ510は、パッシベーション層550の上部及びヒータバス金属512の一部の上部に作製される。代替の実施形態では、ヒータバス金属512とヒータワイヤ510との間にパッシベーション層があり、パッシベーション層を介してビアがヒータバス金属512とヒータワイヤ510を接続する。パッシベーション層530は、ヒータワイヤ510又はヒータワイヤ510の少なくとも一部を覆って作製され、配向層440はパッシベーション層530の上部にある。パッチガラス層501の上にパッシベーション層532が作製される。パッシベーション層532の上部には、ヒータバスに供給するメタライゼーション511がある。パッシベーション層530は、ヒータバスメタライゼーション511の一部を覆い、配向層440は、パッシベーション層530の一部を覆い、LC560の整合に使用される。ボンド/コネクタ構造513は、ヒータ電力バスと外部電源(図示せず)との間の電気的接続を可能にするために配置される。
【0054】
導電性クロスオーバー520は、ヒータバスメタライゼーション511をヒータバス金属512に電気的に接続し、コネクタ構造513に接続された電源が、ヒータバスメタライゼーション511を介して、導電性クロスオーバー520を介し、ヒータワイヤ510に電力を供給するヒータバス金属512に電力を供給できるようにする。
【0055】
図6は、ボーダーシール構造内のアイリス層からパッチ層へのヒータバス電気クロスオーバーの1つの実施形態を示す。図6を参照すると、導電性クロスオーバー620は、ボーダーシール621と共に、パッチガラス層601上に作製されているヒータバス金属611と、アイリスガラス層602上にあるヒータバス612との間の電気的接続を提供する。パッチガラス層601とアイリスガラス層602の間には、メタマテリアルアンテナを同調するための液晶材料LC660が保持されている。LC材料を加熱するためのヒータワイヤ615は、パッシベーション層650の一部上に作製され、パッシベーション層650は、アイリス金属641の上部に作製され、ヒータバス金属612の一部上に作製される。代替の実施形態では、ヒータバス612とヒータワイヤ615との間にパッシベーション層があり、パッシベーション層を介したビアがヒータバス612とヒータワイヤ615とを接続する。
【0056】
パッチオーバーハング部は、ボーダーシールの外側に対面するアイリスガラスを有していない。アイリスアンダーハングは、ボーダーシールの外側に対面するパッチガラスを有していない。従って、オーバーハング部又はアンダーハング上のメタライゼーションは、ヒータ電源/コントローラへの接続をするためにアクセス可能である。例えば、この接続は、ACF(異方性導電接着剤)によってフレックスケーブルに行うことができる。この可撓性ケーブルは、ヒータ電源/コントローラに接続することができる。ヒータ電源/コントローラは、アパーチャコントローラボード上にあることができ、又は独立した電源/コントローラユニットとすることができる。
【0057】
図において、パッチガラス、特にボーダーシール領域周辺には、このヒータ配線以外にも複数の他の構造物を有する点に留意されたい。描かれたヒータ接続構造は、ヒータに供給する方法のみに焦点を当てており、他のパッチ構造(例えば、パッチオーバーハング部からアイリス金属に接続する電圧バス)との一体化は示そうとしていない。ヒータバスメタライゼーション511(図5)及び611(図6)の上方のパッシベーション層が、このヒータ供給メタライゼーションをパッチ回路の残りの部分から分離する。
【0058】
(ヒータ配線、ヒータバス、及び接続部の配置)
ヒータ配線(heater wiring)及びヒータバス(heater buses)は、アパーチャのパッチガラス側、アパーチャのアイリスガラス側の何れかに配置することができ、或いは、アパーチャのパッチガラス及びアイリスガラス(又は非ガラス)層の両方に部品を有することができる。ヒータの接続は,アパーチャのパッチガラス層側又はアイリスガラス層側に出でくることができる。
【0059】
(RFアパーチャ内部の温度センサー)
1つの実施形態において、1又は2以上の温度センサーが、アパーチャ内に配置されている。これらの温度センサーは、アパーチャの内部温度を監視し、アパーチャの温度を調整するために、加熱素子(ワイヤ)、ヒータバス、及びヒータ接続部を含むヒータを係合させる必要があるかどうかを制御するのに使用される。これは、RFアンテナ素子をある一定の温度又は温度範囲に置く必要がある場合に必要とすることができる。例えば、RFアンテナ素子の各々がLCを含む場合、アンテナ素子は、LCがある一定の温度である場合により効果的に動作する。従って、アパーチャ内の温度を監視し、LCの温度が最適な温度範囲を下回っていると決定することにより、ヒータワイヤ、バス、及び接続部を使用して、LCが所望の温度範囲になるまで内部のアパーチャを加熱することができる。
【0060】
(アパーチャの温度測定のためのアンテナ素子制御トランジスタ(例えば、TFT)の使用)
本発明の実施形態は、パッチ層基板上に集積されたトランジスタ、例えば薄膜トランジスタ(TFT)を用いてLC温度を測定する技術を含む。1つの実施形態において、この技術は、温度によって変化するTFTの移動度特性を用いて温度を示す。
【0061】
図7A-7Cは、異なる温度における典型的なTFTの電圧-電流曲線である。図7A-7Cを参照すると、各チャートは、縦軸をId、横軸をVgsとした場合のVdsの2つの値のプロットを有している。
【0062】
所与のVds及びVgsに対するIdは温度によって変化する点に留意されたい。このTFTの特性を利用して、Vgs及びVdsを既知の一定値に設定することにより、測定したId値は、TFTの温度と相関させることができる。
【0063】
図8Aは、TFT(又は他のタイプのトランジスタ)を使用してLCの温度の推定値を決定するためのプロセスの1つの実施形態のフロー図である。TFTはLCに接続されている。従って、TFTの温度によってLCの温度の指標が提供される。このプロセスは、温度監視サブシステムを含む温度制御システムによって実行される。
【0064】
図8Aを参照すると、プロセスは、電圧Vgs測定アナログ-デジタルコンバータ(ADC)が予め定義されたVgs値を示すまで、デジタル-アナログコンバータ(DAC)値と呼ばれるデジタル電圧値を調整することから始まる(処理ブロック801)。次に、温度制御システムの処理ロジックは、電流センス抵抗にかかる電圧を監視しているId測定ADCを読み取ることにより、電流Idを測定する(処理ブロック802)。Vgsの電圧値とIdの電流値に基づいて、処理ロジックは、Idの値を較正された温度値に相関させる(処理ブロック803)。相関は、値を使用してルックアップテーブル(LUT)にアクセスしTFTの対応する温度値を決定する相関器/処理ユニット(例えば、プロセッサ)によって実行することができる。
【0065】
図8Bは、温度測定回路の一例を示す図である。図8Bを参照すると、電圧値は、DAC861によって、トランジスタ864と直列結合された電流センサー抵抗862を有する回路に提供される。1つの実施形態において、トランジスタ864は、RFアンテナ素子内の液晶(LC)と接触している。1つの実施形態において、トランジスタ864は、薄膜トランジスタ(TFT)を含む。1つの実施形態において、DAC861から出力される電圧値は、温度コントローラ831によってもたらされる。1つの実施形態において、温度調整ユニット843は、監視されているトランジスタのタイプに基づいて、異なる電圧値を提供することができる。
【0066】
電流センサー抵抗862の両端の電圧値は、コンパレータ863を用いて監視され、ADC810によってデジタル形式に変換される電流測定値を生成する。測定電流及び測定されたVgs電圧に基づいて、相関器841は、トランジスタ864と測定電流Id及びVgs電圧との間の相関関係に基づいて、トランジスタ864の温度842を決定する(処理ブロック803)。トランジスタ864はLCと接触しているので、トランジスタ864の温度は、LCの温度を示す又は表すのに使用される。
【0067】
図8Cは、図8Aとは異なる方法で構成されたTFT(又は他のタイプのトランジスタ)を使用してLCの温度の推定値を決定するためのプロセスの1つの実施形態のフロー図である。図8Aと同様に、TFTはLCに接続され、TFTの温度がLCの温度の指標を提供する。このプロセスは、温度監視サブシステムを含む温度制御システムによって実行される。
【0068】
図8Cを参照すると、プロセスは、電圧Vds測定アナログ-デジタルコンバータ(ADC)が予め定義されたVds値を示すまで、デジタル-アナログコンバータ(DAC)値と呼ばれるデジタル電圧値を調整することから始まる(処理ブロック804)。次に、温度制御システムの処理ロジックは、電流感知抵抗にかかる電圧を監視しているId測定ADCを読み取ることにより電流Idを測定する(処理ブロック805)。Vds電圧値とId電流値に基づいて、処理ロジックは、Id値を較正された温度値に相関させる(処理ブロック806)。相関は、値を使用してルックアップテーブル(LUT)にアクセスしてTFTの対応する温度値を決定する相関器/処理ユニット(例えば、プロセッサ)によって実行することができる。
【0069】
図8Dは、図8Cの手順を用いたTFTの温度監視回路の他の例を示す。図8Dの回路は、トランジスタ814が異なる方法で結合されていることを除いて、図8Bの回路と実質的に類似している。従って、監視サブシステムによる測定と、温度コントローラ831の動作は同じように動作する。
【0070】
1つの実施形態において、複数のテストTFTをアンテナアレイのRF素子(及びそのLC)の周りに分散させて、様々な場所で及び/又は温度平均化のために温度を測定することができる。
【0071】
(LCのキャパシタンス特性を使用したLCの温度の測定)
1つの実施形態において、LCの温度は、LCのキャパシタンス特性(capacitance properties)を使用して測定される。これは、電気キャパシタンスが温度の関数として変化するというLCの特性を利用する。
【0072】
1つの実施形態において、電気試験キャパシタは、パッチガラス層上に導電性表面を配置し、整合する導電性表面をアイリスガラス層に配置することによって作成され、これによりLCが分離誘電体材料として機能するキャパシタを生成する。これらの導電面は、キャパシタンスを測定する回路(キャパシタンスデジタルコンバータ(CDC)など)に接続される。LCのキャパシタンスは温度の関数であるので、試験用キャパシタのキャパシタンスは、LCの温度に直接相関することができる。
【0073】
図9は、RFアンテナ素子内のLCの温度を決定するために、LCのキャパシタンスを決定する回路を示している。図9を参照すると、励起信号901がアイリスガラス層910Eと液晶910Cを接続する導体910Dに供給される。1つの実施形態において、励起は矩形波である。1つの実施形態において、励起信号901は、温度コントローラ931に提供される入力を有するDACから来る。1つの実施形態において、温度調整ユニット943は、監視されている試験キャパシタのタイプに基づいて、異なる電圧値を提供することができる。
【0074】
パッチガラス層910Aは、導体910Bを用いて液晶910Cに結合されている。信号901の矩形波を導体910Dに印加することにより、液晶910C上にキャパシタンスが生成されるようになり、このキャパシタンスは、Σ-Δデジタルコンバータ(CDC)902で測定される。CDC902の出力は、温度コントローラ931に供給され、温度コントローラ931は、相関器941を用いてキャパシタンスの測定値をLCベースの試験キャパシタのLCの温度942に相関させる。次いで、この温度は、アレイ内のRFアンテナ素子のLCの温度として使用される。
【0075】
更に別の実施形態では、温度監視サブシステムは、液晶の減衰速度を測定し、この減衰速度を液晶の温度に相関させるように動作可能である。LCの減衰速度は、当技術分野ではよく知られており、LCが使用された時間が容易に追跡される。1つの実施形態において、相関演算は、図8B、8D及び9に関連して上述したのと同様の方法で実行される。
【0076】
1つの実施形態において、複数の試験パッチが、温度の様々な場所を測定するために、及び/又は温度平均化のためにRF LCベースのアンテナ素子のアンテナアレイの周りに分散される。
【0077】
加熱素子及びヒータバスを含むヒータは、温度センサーと連動して動作して、ヒータシステムにフィードバックを与える。温度センサーは、アパーチャ内にあるか、又はアパーチャ上にあってもよい。アパーチャ内の温度とセンサーによって測定された温度の何らかの相関関係を較正手順によって確立することが必要となる場合がある。
【0078】
1つの実施形態において、アパーチャの温度は、温度センサーとヒータ電源/コントローラからなる制御ループによって調整される。アパーチャの温度が動作温度を下回っていることをセンサーが示すときには、ヒータ電源コントローラが、ヒータをオンにしてアパーチャを加熱する。本明細書で記載されているヒータ構造を用いて、所望のアパーチャ温度を制御することができる方法が数多くある。
【0079】
代替の実施形態では、RFアパーチャの内部にヒータを配置する代わりに、同じタイプのヒータワイヤパターン、ヒータワイヤパターンの配置、ヒータバス、及びヒータバスの配置がスーパーストレート上に作られる。1つの実施形態において、スーパーストレートは、RFアパーチャの衛星対向側に直接ある基板である。1つの実施形態において、この実施構成は、RFアパーチャ内(RF素子/LCプレーン内)で使用するために上述したのと同じである。
【0080】
1つの実施形態において、ヒータをスーパーストレート上に配置する際に、スーパーストレートは、パッチ層の上部とスーパーストレートの底部との間に、LC層にできるだけ近くヒータワイヤパターンが配置される。スーパーストレート上にヒータを配置することに関する1つの潜在的な問題は、パッチ層からのRFとスーパーストレート上のヒータワイヤとの相互作用が、RFアパーチャにより形成されるRFパターンに悪影響を及ぼす可能性があることである。ヒータワイヤとRFの相互作用を低減するために、1つの実施形態において、パッチ層ができるだけ薄くされ、ヒータをRF素子/LC面にできるだけ近づけるように移動される。
【0081】
図21A及び図21Bは、ヒータパターンが取り付けられたスーパーストレートの一例を示す図である。図21A及び21Bを参照すると、スーパーストレート2101は、その底部側にヒータワイヤパターン2103を含む。また、基板2101の底部には、ヒータバス2102が取り付けられている。スーパープレート2101は、図21Bに示すようなRFアンテナ素子のアパーチャ領域2110と、パッチオーバーハング部2103とを含むセグメント2100に結合されている。
【0082】
(アンテナ実施形態の実施例)
上述の技術は、平面アンテナ(flat panel antenna)と共に使用することができる。このような平面アンテナの実施形態が開示される。平面アンテナは、アンテナアパーチャ上にアンテナ素子の1又は2以上のアレイを含む。1つの実施形態において、アンテナ素子は、液晶セルを含む。1つの実施形態において、平面アンテナは、行及び列状に配置されていないアンテナ素子の各々を一意的にアドレス指定して駆動するためのマトリクス駆動回路を含む円筒状給電アンテナである。1つの実施形態において、素子は、リング状に配置される。
【0083】
1つの実施形態において、アンテナ素子の1又は2以上のアレイを有するアンテナアパーチャは、共に結合された複数のセグメントから構成される。セグメントの組み合わせは、共に結合されたときに、アンテナ素子の閉じた同心リングを形成する。1つの実施形態において、同心リングは、アンテナ給電部に対して同心である。
【0084】
(アンテナシステムの1つの実施例の概要)
1つの実施形態において、平面アンテナは、メタマテリアルアンテナシステムの一部である。通信衛星地上局用のメタマテリアルアンテナシステムの実施形態について説明する。1つの実施形態において、アンテナシステムは、民間商用衛星通信用のKa帯域周波数又はKu帯域周波数の何れかを使用して動作するモバイルプラットフォーム(例えば、航空、海上、陸上など)上で動作する衛星地上局(ES)のコンポーネント又はサブシステムである。アンテナシステムの実施形態はまた、モバイルプラットフォーム上でない地上局(例えば、固定地上局又は可搬型地上局)でも使用できることに留意されたい。
【0085】
1つの実施形態において、アンテナシステムは、表面散乱メタマテリアル技術を使用して、別個のアンテナを介して送受信ビームを形成して誘導する。1つの実施形態において、アンテナシステムは、デジタル信号処理を使用してビームを電気的に形成し誘導するアンテナシステム(フェーズドアレイアンテナなど)とは対照的に、アナログシステムである。
【0086】
1つの実施形態において、アンテナシステムは、3つの機能的サブシステム、すなわち、(1)円筒波給電アーキテクチャからなる導波路構造、(2)アンテナ素子の一部である波散乱メタマテリアル単位セルのアレイ、(3)ホログラフィ原理を使用してメタマテリアル散乱素子からの調整可能な放射場(ビーム)の形成を命令する制御構造から構成される。
【0087】
(導波構造の例)
図10は、円筒状給電アンテナの入力給電の周りに同心リング状に配置されたアンテナ素子の1又は2以上のアレイを有するアパーチャを示す。1つの実施形態において、円筒状給電アンテナ(cylindrically fed antenna)は、円筒波給電を提供するのに使用される同軸給電を含む。1つの実施形態において、円筒波給電アーキテクチャが、給電点から円筒状に外向きに広がる励起を中心点からアンテナに供給する。すなわち、円筒状給電アンテナは、外向きに進む同心状給電波を生成する。それでも、円筒状給電部の周りの円筒状給電アンテナの形状は、円形、正方形、又は何らかの形状とすることができる。別の実施形態において、円筒状給電アンテナは、内向きに進む給電波を生成する。このような場合、円形構造から生じる給電波が最も自然である。
【0088】
(アンテナ素子)
1つの実施形態において、アンテナ素子(antenna elements)は、1つのグループのパッチアンテナを含む。このパッチアンテナのグループは、散乱メタマテリアル素子のアレイを含む。1つの実施形態において、アンテナシステムにおける各散乱素子は、下部導体、誘電体基板、及び上部導体からなる単位セルの一部であり、上部導体は、上部導体にエッチングされ又は堆積された相補的電気誘導型容量性共振器(「相補型電気LC」又は「CELC」)を組み込んでいる。当業者であれば理解されるであろうが、CELCの関連におけるLCは、液晶とは異なり、インダクタンス・キャパシタンスを意味する。
【0089】
1つの実施形態において、液晶(LC)は、散乱素子の周りのギャップに配置される。この液晶は、上述の直接駆動型実施形態によって駆動される。1つの実施形態において、液晶は、各単位セルに封入されて、スロットに関連する下部導体をスロットのパッチに関連する上部導体から分離する。液晶は、液晶を構成する分子の配向の関数である誘電率を有し、分子の配向(従って、誘電率)は、液晶の両端のバイアス電圧を調整することによって制御することができる。1つの実施形態において、液晶は、この特性を利用して、誘導波からCELCへのエネルギー伝達のためにオン/オフスイッチを組み込む。スイッチオンになると、CELCは、電気的に小さなダイポールアンテナのように電磁波を放射する。本明細書における教示は、エネルギー伝達に関して2値的に動作する液晶を有することに限定されるものではない。
【0090】
1つの実施形態において、このアンテナシステムの給電幾何形状は、アンテナ素子を給電波における波ベクトルに対して45度(45°)の角度に位置決めすることを可能にする。他の位置(例えば、40°)を利用できる点に留意されたい。この素子の位置により、素子が受け取った又は素子から送信/放射される自由空間波の制御が可能となる。1つの実施形態において、アンテナ素子は、アンテナの動作周波数の自由空間波長よりも小さい素子間隔で配列される。例えば、1波長当たりに4つの散乱素子が存在する場合には、30GHzの送信アンテナにおける素子は、約2.5mm(すなわち、30GHzの10mm自由空間波長の1/4)である。
【0091】
1つの実施形態において、素子の2つのセットは、互いに垂直であり、同じ同調状態に制御された場合に等しい振幅の励起を同時に有する。これら素子のセットを給電波励起に対して+/-45度回転させると、両方の所望の特徴を同時に達成する。一方のセットを0度回転させ、他方を90度回転させると、垂直目標は達成されるが、等振幅励起の目標は達成されないことになる。0度及び90度は、単一の構造でのアンテナ素子のアレイが2つの側から給電されるときに、分離を達成するのに使用できることに留意されたい。
【0092】
各単位セルからの放射出力の量は、コントローラを使用してパッチに電圧(LCチャネルの両端の電位)を印加することによって制御される。各パッチへのトレースは、パッチアンテナに電圧を供給するのに使用される。この電圧は、静電容量及びひいては個々の素子の共振周波数を同調又は離調させて、ビーム形成を実現するのに使用される。必要な電圧は、使用される液晶混合物に依存する。液晶混合物の電圧同調特性は、液晶が電圧の影響を受け始める閾値電圧と、それ以上に電圧を高めても液晶での大きな同調が生じなくなる飽和電圧とによって、主として説明される。これらの2つの特性パラメータは、異なる液晶混合物については変化することができる。
【0093】
1つの実施形態において、上記で検討したように、マトリクス駆動回路は、セルごとに別個の接続(直接駆動)を有することなく各セルを他の全てのセルとは別個に駆動するために、パッチに電圧を印加するのに使用される。素子の密度が高いので、マトリクス駆動回路は、各セルを個別にアドレス指定する効率的な方法である。
【0094】
1つの実施形態において、アンテナシステム用の制御構造は、2つの主要コンポーネントを含み、アンテナシステム用のアンテナアレイコントローラ(駆動電子機器を含む)は、波散乱構造の下方に存在し、マトリクス駆動スイッチングアレイは、放射を妨害しないように、放射RFアレイ全体にわたって散在する。1つの実施形態において、アンテナシステム用の駆動電子機器は、各散乱素子へのACバイアス信号の振幅又はデューティサイクルを調整することによって、この素子に対するバイアス電圧を調整し、商用テレビジョン機器で使用される商用既製LCD制御装置を含む。
【0095】
1つの実施形態において、アンテナアレイコントローラはまた、ソフトウェアを実行するマイクロプロセッサを含有する。制御構造はまた、プロセッサに位置及び向き情報を提供するセンサー(例えば、GPS受信機、3軸コンパス、3軸加速度計、3軸ジャイロ、3軸磁力計など)を組み込むこともできる。位置及び向き情報は、地上局内の他のシステムによってプロセッサに提供することができ、及び/又はアンテナシステムの一部でないものとすることができる。
【0096】
より具体的には、アンテナアレイコントローラは、動作周波数においてどの位相レベル及び振幅レベルで、どの素子をオフにしてオンにするかを制御する。これらの素子は、電圧の印加によって周波数動作に対して選択的に離調される。
【0097】
送信については、コントローラが、RFパッチに一連の電圧信号を供給して、変調又は制御パターンを生成する。制御パターンにより、素子が異なる状態に同調するようになる。1つの実施形態において、多状態制御が使用され、この多状態制御では、様々な素子が異なるレベルにオン及びオフされ、矩形波(すなわち、正弦波グレイシェード変調パターン)ではなく、正弦波制御パターンに更に近づく。1つの実施形態において、一部の素子が放射し、一部の素子が放射しないのではなく、一部の素子が他の素子よりも強力に放射する。可変放射は、特定の電圧レベルを印加することによって達成され、これにより液晶誘電率を様々な量に調整し、素子を可変的に離調させて一部の素子に他の素子よりも多く放射させるようにする。
【0098】
メタマテリアル素子アレイ(metamaterial array of elements)による集束ビームの生成は、増加的干渉及び減殺的干渉の現象よって説明することができる。個々の電磁波は、これらの電磁波が自由空間で交わったときに同相を有する場合には合算(増加的干渉)され、これらの電磁波が自由空間で交わった場合に、これらの電磁波が逆位相にある場合には、電磁波は互いに打ち消し合う(減殺的干渉)。スロット式アンテナにおけるスロットが、各連続するスロットが誘導波の励起点から異なる距離に位置するように位置決めされた場合には、この素子からの散乱波は、前のスロットの散乱波と異なる位相を有するようになる。スロットが、誘導波長の4分の1の間隔をあけて配置される場合には、各スロットは、前のスロットから4分の1位相遅延を有して波を散乱させることになる。
【0099】
アレイを使用すると、生成できる増加的干渉及び減殺的干渉のパターン数を増加させることができるので、理論的には、ホログラフィの原理を使用して、アンテナアレイのボアサイトからプラスマイナス90度(90°)のあらゆる方向にビームを向けることができるようになる。このように、どのメタマテリアル単位セルをオンにするか又はオフにするかを制御することによって(すなわち、どのセルをオンにし、どのセルをオフにするかについてのパターンを変更することによって)、異なる増加的干渉及び減殺的干渉パターンを生成でき、アンテナは、メインビームの方向を変えることができる。単位セルをオン及びオフにするのに必要な時間は、ビームが1つの位置から別の位置に切り替わることができる速度を決定付ける。
【0100】
1つの実施形態において、アンテナシステムは、アップリンクアンテナ用の1つの誘導可能なビームと、ダウンリンクアンテナの用の1つの誘導可能なビームとを生成する。1つの実施形態において、アンテナシステムは、メタマテリアル技術を使用して、ビームを受信し、衛星からの信号を復号し、及び衛星に向けられる送信ビームを形成する。1つの実施形態において、アンテナシステムは、デジタル信号処理を使用してビームを電気的に形成し誘導するアンテナシステム(フェーズドアレイアンテナなど)とは対照的に、アナログシステムである。1つの実施形態において、アンテナシステムは、特に、従来のディッシュ型衛星受信機と比較したときに、平面で比較的薄型である「表面」アンテナとみなされる。
【0101】
図11は、グランドプレーン及び再構成可能な共振器層を含むアンテナ素子の1つの列の斜視図を示している。再構成可能共振器層1230は、同調型共振器/スロット(tunable resonator/slots)1210のアレイを含む。同調型共振器/スロット1210のアレイは、アンテナを所望の方向に向けるように構成することができる。同調型スロットの各々は、液晶の両端の電圧を変化させることによって同調/調整する(tuned/adjusted)ことができる。
【0102】
制御モジュール1280は、再構成可能共振器層1230に結合され、図11における液晶の両端の電圧を変化させることによって同調型共振器/スロット1210のアレイを変調する。制御モジュール1280は、フィールドプログラマブルゲートアレイ(「FPGA」)、マイクロプロセッサ、コントローラ、システムオンチップ(SoC)、又は他の処理論理回路を含むことができる。1つの実施形態において、制御モジュール1280は、同調型共振器/スロット1210のアレイを駆動するための論理回路(例えば、マルチプレクサ)を含む。1つの実施形態において、制御モジュール1280は、同調型共振器/スロット1210のアレイ上に駆動されるホログラフィック回折パターンに関する仕様を含むデータを受け取る。ホログラフィック回折パターンは、アンテナと衛星との間の空間関係に応答して生成され、ホログラフィック回折パターンが、ダウンリンクビーム(及びアンテナシステムが送信を行う場合には、アップリンクビーム)を通信に好適な方向に誘導することができる。各図には図示されていないが、制御モジュール1280と同様の制御モジュールは、本開示の図に記載された同調型スロットの各アレイを駆動することができる。
【0103】
無線周波数(「RF」)ホログラフィもまた、RF基準ビームがRFホログラフィック回折パターンに遭遇したときに、所望のRFビームを生成できる類似の技術を使用して実施可能である。衛星通信の場合には、基準ビームは、給電波1205などの給電波の形態である(幾つかの実施形態において、約20GHz)。給電波を放射ビームに変換するために(送信又は受信の何れかの目的で)、所望のRFビーム(目標ビーム)と給電波(基準ビーム)との間の干渉パターンが計算される。干渉パターンは、給電波が、所望のRFビーム(所望の形状及び方向を有する)に「誘導される(steered)」ように、同調型共振器/スロット1210のアレイ上に回折パターンとして駆動される。言い換えると、ホログラフィック回折パターンに遭遇した給電波は、通信システムの設計要件に従って形成される目標ビームを「再構成」する。ホログラフィック回折パターンは、各素子の励起を包含し、導波路における波動方程式としてのwin及び射出波上の波動方程式としてのwoutを用いて、whologram=win*woutによって計算される。
【0104】
図12は、同調型共振器/スロット1210の1つの実施形態を示している。同調型共振器/スロット1210は、アイリス/スロット1212、放射パッチ1211、及びアイリス/スロット1212とパッチ1211との間に配置された液晶1213を含む。1つの実施形態において、放射パッチ1211は、アイリス1212と同じ場所に配置される。
【0105】
図13は、物理的アンテナアパーチャの1つの実施形態の断面図を示している。アンテナアパーチャは、グランドプレーン1245と、再構成可能共振器層1230に含まれるアイリス層1233内の金属層1236とを含む。1つの実施形態において、図13のアンテナアパーチャは、図12の複数の同調型共振器/スロット1210を含む。アイリス/スロット1212は、金属層1236の開口部によって定められる。図11の給電波1205などの給電波は、衛星通信チャネルに適合するマイクロ波周波数を有することができる。給電波は、グランドプレーン1245と共振器層1230との間を伝播する。
【0106】
再構成可能共振器層1230はまた、ガスケット層1232及びパッチ層1231を含む。ガスケット層1232は、パッチ層1231及びアイリス層1233の間に配置される。1つの実施形態において、スペーサは、ガスケット層1232と置き換えることができることに留意されたい。1つの実施形態において、アイリス層1233は、金属層1236として銅層を含むプリント回路基板(「PCB」)である。1つの実施形態において、アイリス層1233はガラスである。アイリス層1233は、他のタイプの基板とすることができる。
【0107】
開口部は、銅層内でエッチングされて、アイリス/スロット1212を形成する。1つの実施形態において、アイリス層1233は、導電性接合層によって、図13における別の構造(例えば、導波路)に導電的に結合される。1つの実施形態において、アイリス層は、導電性接合層によって導電的に結合されるものではなく、その代わりに、非導電性接合層と相互連結することに留意されたい。
【0108】
また、パッチ層1231は、放射パッチ1211として金属を含むPCBとすることができる。1つの実施形態において、ガスケット層1232は、金属層1236とパッチ1211との間の寸法を定める機械的離隔部をもたらすスペーサ1239を含む。1つの実施形態において、スペーサは75ミクロンであるが、他のサイズ(例えば3から200mm)が使用できる。上述したように、1つの実施形態において、図13のアンテナアパーチャは、図12のパッチ1211、液晶1213、及びアイリス1212を含む同調型共振器/スロット1210などの複数の同調型共振器/スロットを備える。液晶1213用のチャンバは、スペーサ1239、アイリス層1233、及び金属層1236によって定められる。チャンバが、液晶で充填された場合には、パッチ層1231は、スペーサ1239上に積層されて、共振器層1230内に液晶をシールすることができる。
【0109】
パッチ層1231とアイリス層1233との間の電圧は、パッチとスロット(例えば、同調型共振器/スロット1210)との間のギャップ内の液晶を同調するように変調することができる。液晶1213の両端の電圧を調整すると、スロット(例えば、同調型共振器/スロット1210)の静電容量が変化する。従って、スロット(例えば、同調型共振器/スロット1210)のリアクタンスは、静電容量を変化させることによって変えることができる。また、同調型共振器/スロット1210の共振周波数は、次式:
に従って変化し、ここで、fは、同調型共振器/スロット1210の共振周波数であり、L及びCは、それぞれ、同調型共振器/スロット1210のインダクタンス及び静電容量である。同調型共振器/スロット1210の共振周波数は、導波路を通って伝播する給電波1205から放射されるエネルギーに影響を与える。一例として、給電波1205が20GHzである場合には、同調型共振器/スロット1210の共振周波数は、17GHzに調整(静電容量を調整することによって)されて、同調型共振器/スロット1210が、給電波1205からのエネルギーを実質的に結合しないようにすることができる。或いは、同調型共振器/スロット1210の共振周波数は、20GHzに調整されて、同調型共振器/スロット1210が、給電波1205からのエネルギーを結合し、このエネルギーを自由空間に放射するようにすることができる。所与の実施例は、2値的(完全に放射するか、又は全く放射しない)であるが、リアクタンス及びひいては同調型共振器/スロット1210の共振周波数の完全なグレイスケール制御は、多値範囲にわたる電圧変化を用いて実施可能である。従って、各同調型共振器/ススロット1210から放射されるエネルギーを精密に制御して、同調型スロット(例えば、同調型共振器/スロット)のアレイによって詳細なホログラフィック回折パターンを形成できるようになる。
【0110】
1つの実施形態において、行における同調型スロットは、互いにλ/5だけ離間して配置される。他の間隔を使用することもできる。1つの実施形態において、行における各同調型スロットは、隣接する行における最も近い同調型スロットからλ/2だけ離間して配置され、従って、異なる行における共通して配向された同調型スロットは、λ/4だけ離間して配置されるが、他の間隔(例えば、λ/5、λ/6.3)も可能である。別の実施形態において、行における各同調型スロットは、隣接する行における最も近い同調型スロットからλ/3だけ離間して配置される。
【0111】
本発明の実施形態は、2014年11月21日に出願された「Dynamic Polarization and Coupling Control from a Steerable Cylindrically Fed Holographic Antenna(誘導可能な円筒状給電ホログラフィックアンテナからの偏波及び結合の動的制御)」という名称の米国特許出願14/550,178号、及び2015年1月30日に出願された「Ridged Waveguide Feed Structures for Reconfigurable Antenna(再構成可能アンテナのためのリッジ型導波路給電構造)」という名称の米国特許出願14/610,502号に記載されているような再構成可能なメタマテリアル技術を使用する。
【0112】
図14A~14Dは、スロットアレイを形成する様々な層の1つの実施形態を示している。アンテナアレイは、図10に示されている例示的なリングのようなリング状に位置決めされたアンテナ素子を含む。この実施例では、アンテナアレイは、2つの異なるタイプの周波数帯域に使用される2つの異なるタイプのアンテナ素子を有することに留意されたい。
【0113】
図14Aは、スロットに対応する位置を有する第1のアイリス基板層の一部を示している。図14Aを参照すると、円は、アイリス基板の底部側におけるメタライゼーション内の空き領域/スロットであり、給電部(給電波)への素子の結合を制御するためのものである。この層は、任意選択の層であり、全ての設計で使用される訳ではない点に留意されたい。図14Bは、スロットを含む第2のアイリス基板層の一部を示している。図14Cは、第2のアイリス基板層の一部を覆うパッチを示している。図14Dは、スロットアレイの一部の上面図を示している。
【0114】
図15は、円筒状給電アンテナ構造の1つの実施形態の側面図を示している。アンテナは、二重層給電構造(すなわち、2つの層の給電構造)を使用して内向き進行波を生成する。1つの実施形態において、アンテナは、円形の外形を含むが、このことは必須ではない。すなわち、非円形の内向き進行波を使用することができる。1つの実施形態において、図15のアンテナ構造は、図10を参照して記載された同軸給電部を含む。
【0115】
図15を参照すると、同軸ピン1601は、アンテナの下側レベルで場を励起するのに使用される。1つの実施形態において、同軸ピン1601は、容易に入手できる50Ω同軸ピンである。同軸ピン1601は、導電性グランドプレーン1602であるアンテナ構造の底部に結合(例えば、ボルト締め)される。
【0116】
内部導体である間隙導体1603は、導電性グランドプレーン1602から離隔される。1つの実施形態において、導電性グランドプレーン1602及び間隙導体1603は互いに平行である。1つの実施形態において、グランドプレーン1602と間隙導体1603との間の距離は、0.1インチ~0.15インチである。別の実施形態において、この距離はλ/2とすることができ、ここでλは、動作周波数での進行波の波長である。
【0117】
グランドプレーン1602は、スペーサ1604を介して間隙導体1603から離隔される。1つの実施形態において、スペーサ1604は、発泡体又は空気状スペーサである。1つの実施形態において、スペーサ1604は、プラスチックスペーサを含む。
【0118】
間隙導体1603の上部には、誘電体層1605がある。1つの実施形態において、誘電体層1605はプラスチックである。誘電体層1605の目的は、自由空間速度に対して進行波を減速することである。1つの実施形態において、誘電体層1605は、自由空間に対して30%進行波を減速する。1つの実施形態において、ビーム形成に好適な屈折率の範囲は、1.2~1.8であり、自由空間は、定義上、1に等しい屈折率を有する。例えば、プラスチックなどの他の誘電スペーサ材料を用いて、この効果を達成することができる。所望の波動減速効果を達成する限り、プラスチック以外の材料を使用できる点に留意されたい。或いは、例えば機械加工又はリソグラフィにより定めることができる周期的サブ波長金属構造などの分散構造を有する材料を誘電体層1605として使用することができる。
【0119】
RFアレイ1606は誘電体層1605の上部にある。1つの実施形態において、間隙導体1603とRFアレイ1606との間の距離は、0.1~0.15インチである。別の実施形態において、この距離はλeff/2とすることができ、ここでλeffは設計周波数での媒体中の有効波長である。
【0120】
アンテナは、側面1607及び1608を含む。側面1607及び1608は、同軸ピン1601からの進行波給電が反射によって間隙導体1603の下方の領域(スペーサ層)から間隙導体1603の上方の領域(誘電体層)に伝播するような角度が付けられる。1つの実施形態において、側面1607及び1608の角度は45度の角度である。代替の実施形態において、側面1607及び1608は、反射を達成するために連続した半径に置き換えることができる。図15は、45度の角度を有する角度付き側部を示しているが、下部給電レベルから上部給電レベルへの信号伝播を達成する他の角度を使用することができる。すなわち、下部給電の有効波長が、上部給電の有効波長とは一般的に異なることを考慮すると、理想的な45度の角度からの何らかの偏差を使用して、下部給電レベルから上部給電レベルへの伝送を助けることができる。例えば、別の実施形態において、45度の角度は、単一の段部に置き換えられる。アンテナの一端上の段部は、誘電体層、間隙導体、及びスペーサ層を一周する。同じ2つの段部が、これらの層の他方の端部に存在する。
【0121】
動作中、給電波が同軸ピン1601から供給されると、この給電波は、グランドプレーン1602と間隙導体1603との間の領域で同軸ピン1601から同心円状に外向きに進む。同心円状射出波は、側部1607及び1608により反射され、間隙導体1603とRFアレイ1606との間の領域で内向きに進む。円形外周の縁部(エッジ)からの反射は、この波を同相に留まらせる(すなわち、この反射は、同相反射である)。進行波は、誘電体層1605によって減速する。この時点で、進行波は、RFアレイ1606の素子との相互作用及び励起を開始して、所望の散乱を取得する。
【0122】
進行波を終了させるため、アンテナの幾何学的中心で終端部1609がアンテナに含まれる。1つの実施形態において、終端部1609は、ピン終端(例えば、50Ωピン)を含む。別の実施形態において、終端部1609は、未使用エネルギーを終端させて、アンテナの給電構造を通る当該未使用エネルギーが反射して戻るのを阻止するRF吸収体を含む。これらは、RFアレイ1606の上部で使用することができる。
【0123】
図16は、アンテナシステムの別の実施形態を射出波と共に示している。図16を参照すると、2つのグランドプレーン1610、1611は、互いに実質的に平行であり、グランドプレーンの間に誘電体層1612(例えば、プラスチック層など)を有している。RF吸収体1619(例えば、抵抗器)は、2つのグランドプレーン1610及び1611を共に結合する。同軸ピン1615(例えば、50Ω)は、アンテナに給電する。RFアレイ1616は、誘電体層1612及びグランドプレーン1610の上部に存在する。
【0124】
動作中、給電波は、同軸ピン1615を介して供給され、同心円状外向きに進んでRFアレイ1616の素子と相互作用をする。
【0125】
図15及び図16の両方のアンテナにおける円筒状給電部は、アンテナのサービス角度を改善する。1つの実施形態において、アンテナシステムは、プラスマイナス45度の方位角(±45° Az)及びプラスマイナス25度の仰角(±25° El)からなるサービス角度の代わりに、全方向でボアサイトから75度(75°)のサービス角度を有する。多数の個々の放射体から構成された何らかのビーム形成アンテナと同様に、全体のアンテナ利得は、それ自体が角度に依存するものである構成素子の利得に依存する。一般的な放射素子が使用される場合には、全体のアンテナ利得は、典型的には、ビームがボアサイトから離れて向けられるにつれて減少する。ボアサイトから75度外れたところでは、約6dBの有意な利得低下が予期される。
【0126】
円筒状給電部を有するアンテナの実施形態は、1又は2以上の問題を解決する。これらは、共通分割器ネットワークを用いて給電されるアンテナと比較して給電構造を飛躍的に簡素化し、及びひいては全体で必要とされるアンテナ及びアンテナ給電量を低減するステップと、より粗い制御(全てを単純なバイナリ制御にまで拡張すること)で高ビーム性能を維持することによって製造及び制御誤差に対する感度を低下させるステップと、円筒状に配向された給電波が遠距離場において空間的に多様なサイドローブをもたらすので、直線的給電部と比較してより有利なサイドローブパターンを与えるステップと、偏波器を必要とせずに、左旋円偏波、右旋円偏波及び直線偏波を可能にすることを含めて偏波を動的であることを可能にするステップと、を含む。
【0127】
(波散乱素子のアレイ)
図15のRFアレイ1606及び図16のRFアレイ1616は、放射体として機能する1つのグループのパッチアンテナ(すなわち、散乱体)を含む波散乱サブシステムを含む。このパッチアンテナのグループは、散乱メタマテリアル素子のアレイを含む。
【0128】
1つの実施形態において、アンテナシステムにおける各散乱素子は、下部導体と、誘電体基板と、相補的電気誘導型容量性共振器(「相補型電気LC」又は「CELC」)を組み込んだ上部導体とからなる単位セルの一部であり、相補的電気誘導型容量性共振器は、上部導体にエッチング又は堆積される。
【0129】
1つの実施形態において、液晶(LC)が散乱素子の周りのギャップに注入される。液晶は、各単位セルに封入され、スロットに関連する下部導体をパッチに関連する上部導体から分離する。液晶は、この液晶を構成する分子の配向の関数である誘電率を有し、分子の配向(従って、誘電率)は、液晶の両端のバイアス電圧を調整することによって制御することができる。この特性を利用して、液晶は、誘導波からCELCへのエネルギー伝達のためのオン/オフスイッチとして機能する。スイッチオンになると、CELCは、電気的に小さなダイポールアンテナのように電磁波を放射する。
【0130】
LCの厚みを制御することにより、ビームスイッチング速度が増大する。下部導体と上部導体との間のギャップ(液晶の厚み)が50パーセント(50%)減少すると、速度が4倍に増大する。別の実施形態において、液晶の厚みは、約14ミリ秒(14ms)のビームスイッチング速度を結果としてもたらす。1つの実施形態において、LCは、応答性が向上するような当技術分野で周知の方法でドープされ、7ミリ秒(7ms)要件に適合できるようになる。
【0131】
CELC素子は、CELC素子の面に平行で且つCELCギャップ補完物に垂直に印加される磁界に応答する。電圧がメタマテリアル散乱単位セルにおいて液晶に印加されると、誘導波の磁界成分がCELCの磁気励起を誘導し、その結果、誘導波と同じ周波数の電磁波が生成される。
【0132】
単一のCELCによって生成される電磁波の位相は、誘導波ベクトル上のCELCの位置によって選択することができる。各セルは、CELCと平行な誘導波と同相の波を生成する。CELCは、波長よりも小さいので、出力波は、誘導波がCELCの下を通過するときのこの誘導波の位相と同じ位相を有する。
【0133】
1つの実施形態において、このアンテナシステムの円筒状給電幾何形状は、CELC素子を、給電波における波ベクトルに対して45度(45°)の角度で位置決め可能になる。この素子の位置により、素子から生成され又は素子によって受け取られる自由空間波の偏波の制御が可能になる。1つの実施形態において、CELCは、アンテナの動作周波数の自由空間波長よりも小さい素子間隔で配列される。例えば、1波長当たりに4つの散乱素子が存在する場合、30GHzの送信アンテナの素子は、約2.5mm(すなわち、30GHzの10mm自由空間波長の1/4)となる。
【0134】
1つの実施形態において、CELCは、スロットの上方に並置されたパッチを含むパッチアンテナと、これらパッチアンテナ間に液晶を有して用いて実施される。この点において、メタマテリアルアンテナは、スロット(散乱)導波路のように作用する。スロット導波路に関しては、出力波の位相は、誘導波に対するスロットの位置に依存する。
【0135】
(セル配置(Cell Placement))
1つの実施形態において、アンテナ素子は、系統的マトリクス駆動回路を可能にするように円筒状給電アンテナのアパーチャ上に配置される。セルの配置は、マトリクス駆動用のトランジスタの配置を含む。図17は、アンテナ素子に対するマトリクス駆動回路の配置の1つの実施形態を示している。図17を参照すると、行コントローラ1701は、行選択信号Row1(行1)及びRow2(行2)それぞれを介してトランジスタ1711、1712に結合され、列コントローラ1702は、列選択信号Column1(列1)を介してトランジスタ1711、1712に結合される。また、トランジスタ1711は、パッチへの接続1731を介してアンテナ素子1721に結合され、トランジスタ1712は、パッチへの接続1732を介してアンテナ素子1722に結合される。
【0136】
単位セルが非正規グリッド内に配置されて円筒状給電アンテナ上でマトリクス駆動回路を実現する最初の手法では、2つのステップが実行される。第1のステップでは、セルが同心リング上に配置され、セルの各々は、セルの傍らに配置されたトランジスタに接続され、このトランジスタが、各セルを別々に駆動するスイッチとして機能する。第2のステップでは、マトリクス駆動回路は、このマトリクス駆動手法が必要とするときにあらゆるトランジスタを一意のアドレスで接続するように構築される。マトリクス駆動回路は、行と列のトレースによって構築される(LCDと同様)が、セルはリング上に配置されるので、各トランジスタに一意のアドレスを割り当てる系統的方法は存在しない。このマッピング問題は、全てのトランジスタをカバーするために極めて複雑な回路を生じさせ、経路設定を行う物理的トレースの数が著しく増加させることになる。セルが高密度であるので、これらのトレースは、カップリング効果に起因してアンテナのRF性能を妨げる。また、トレースが複雑であり実装密度が高いことに起因して、トレースの経路設定は、商業的に入手可能なレイアウトツールによって行うことができない。
【0137】
1つの実施形態において、マトリクス駆動回路は、セル及びトランジスタが配置される前に事前に定められる。このことは、各々が一意のアドレスを有する全てのセルを駆動するのに必要な最小数のトレースが確保される。この方式は、駆動回路の複雑性を軽減して経路設定を簡素化し、これによってアンテナのRF性能が向上する。
【0138】
より具体的には、1つの手法では、第1のステップにおいて、セルは、各セルの一意のアドレスを表す行及び列から構成された正方形グリッド上に配置される。第2のステップにおいて、セルは、セルのアドレス、及び第1のステップで定められた行及び列への接続性が維持されながら、グループ化されて同心円に変換される。この変換の目的は、セルをリング上に配置するだけでなく、アパーチャ全体にわたってセル間の距離及びリング間の距離を一定に保つことである。この目的を達成するために、セルをグループ化する幾つかの方法が存在する。
【0139】
1つの実施形態において、TFTパッケージは、マトリクス駆動回路における配置及び一意のアドレス指定を可能にするのに使用される。図18は、TFTパッケージの1つの実施形態を示している。図18を参照すると、TFT及び保持キャパシタ1803が、入力ポート及び出力ポートと共に示されている。トレース1801に接続された2つの入力ポートと、トレース1802に接続された2つの出力ポートとがあり、行及び列を使用してTFTを共に接続する。1つの実施形態において、行のトレース及び列のトレースは、90°の角度で交差して、行のトレースと列のトレースとの間の結合が低減され、場合によっては最小となることがある。1つの実施形態において、行のトレース及び列のトレースは、様々な層上に存在する。
【0140】
(例示的なシステムの実施形態)
1つの実施形態において、複合アンテナアパーチャは、セットトップボックスと連動して動作するテレビジョンシステムで使用される。例えば、二重受信アンテナの場合、アンテナにより受信された衛星信号は、テレビジョンシステムのセットトップボックス(例えば、DirectTV受信機)に供給される。より具体的には、複合アンテナ動作は、2つの異なる周波数及び/又は偏波でRF信号を同時に受信することができる。すなわち、素子の1つのサブアレイは、1つの周波数及び/又は偏波でRF信号を受信するように制御され、別のサブアレイは、別の異なる周波数及び/又は偏波で信号を受信するように制御される。周波数又は偏波のこれらの相違は、テレビジョンシステムにより異なるチャネルが受信されることを表している。同様に、2つのアンテナアレイは、2つの異なる位置(例えば、2つの異なる衛星)からのチャネルを受信するため2つの異なるビーム位置に対して制御されて、複数のチャネルを同時に受信することができる。
【0141】
図19は、テレビジョンシステムにおいて二重受信を同時に実行する通信システムの1つの実施形態のブロック図である。図19を参照すると、アンテナ1401は、上述したように異なる周波数及び/又は偏波で二重受信を同時に実行するように独立して動作可能な2つの空間的に交互配置されたアンテナアパーチャを含む。2つの空間的に交互配置されたアンテナ動作についてのみ説明しているが、TVシステムは、2つよりも多いアンテナアパーチャ(例えば、3つ、4つ、5つなどのアンテナアパーチャ)を有することができる点に留意されたい。
【0142】
1つの実施形態において、2つの交互配置されたスロットアレイを含むアンテナ1401は、ダイプレクサ1430に結合される。この結合は、2つのスロットアレイの素子から信号を受信して、ダイプレクサ1430に供給される2つの信号を生成する1又は2以上の給電ネットワークを含むことができる。1つの実施形態において、ダイプレクサ1430は、商用ダイプレクサ(例えば、A1 Microwave社製のモデルPB1081WA Ku帯域シトコムダイプレクサ)である。
【0143】
ダイプレクサ1430は、低ノイズブロックダウンコンバータ(LNB)のペア1426、1427に結合され、これらLNBは、当技術分野において周知の方法でノイズフィルタリング機能、ダウンコンバート機能及び増幅を実行する。1つの実施形態において、LNB1426、1427は、室外ユニット(ODU)に存在する。別の実施形態において、LNB1426、1427は、アンテナ装置に組み込まれる。LNB1426、1427は、テレビジョン1403に結合されたセットトップボックス1402に結合される。
【0144】
セットトップボックス1402は、アナログデジタル変換器(ADC)のペア1421、1422を含み、これらADCは、LNB1426、1427に結合されて、ダイプレクサ1430から出力された2つの信号をデジタル形式に変換する。
【0145】
デジタル形式に変換されると、信号は、復調器1423によって復調され且つ復号器1424によって復号されて、受信波上に符号化されたデータが得られる。次に、復号されたデータは、コントローラ1425に送られ、このコントローラが、このデータをテレビジョン1403に送る。
【0146】
コントローラ1450は、単一の複合物理的アパーチャ上の両方のアンテナアパーチャの交互配置されたスロットアレイ素子を含むアンテナ1401を制御する。
【0147】
(全二重通信システムの例)
別の実施形態において、複合アンテナアパーチャは、全二重通信システムで使用される。図20は、同時送信及び受信経路を有する通信システムの別の実施形態のブロック図である。1つの送信経路及び1つの受信経路のみが示されているが、通信システムは、1つよりも多い送信経路及び/又は1つよりも多い受信経路を含むことができる。
【0148】
図20を参照すると、アンテナ1401は、上述のように異なる周波数で同時に送信及び受信するように独立して動作可能な2つの空間的に交互配置されたアンテナアレイを含む。1つの実施形態において、アンテナ1401は、ダイプレクサ1445に結合される。この結合は、1又は2以上の給電ネットワークによるものとすることができる。1つの実施形態において、放射状給電アンテナの場合、ダイプレクサ1445は、2つの信号を組み合わせるものであり、アンテナ1401とダイプレクサ1445の間の接続は、両方の周波数を搬送できる単一の広帯域給電ネットワークである。
【0149】
ダイプレクサ1445は、低ノイズブロックダウンコンバータ(LNB)1427に結合され、このLNBは、当技術分野において周知の方法でノイズフィルタリング機能、ダウンコンバート機能、及び増幅機能を実行する。1つの実施形態において、LNB1427は、室外ユニット(ODU)に存在する。別の実施形態において、LNB1427は、アンテナ装置に組み込まれる。LNB1427は、コンピューティングシステム1440(例えば、コンピュータシステム、モデムなど)に結合されたモデム1460に結合される。
【0150】
モデム1460は、アナログデジタル変換器(ADC)1422を含み、このADCは、LNB1427に結合されて、ダイプレクサ1445から出力された受信信号をデジタル形式に変換する。デジタル形式に変換されると、信号は、復調器1423によって復調されて、復号器1424によって復号されて、受信波上の符号化されたデータが得られる。次に、復号されたデータは、コントローラ1425に送られ、このコントローラが、このデータをコンピューティングシステム1440に送る。
【0151】
モデム1460は更に、コンピューティングシステム1440から送信されたデータを符号化するエンコーダ1430を含む。符号化されたデータは、変調器1431によって変調され、次に、デジタルアナログ変換器(DAC)1432によってアナログに変換される。次に、アナログ信号は、BUC(アップコンバート及び高域増幅器)1433によってフィルタリングされて、ダイプレクサ1445の1つのポートに供給される。1つの実施形態において、BUC1433は、室外ユニット(ODU)に存在する。
【0152】
当技術分野において周知の方法で動作するダイプレクサ1445は、伝送のため送信信号をアンテナ1401に供給する。
【0153】
コントローラ1450は、単一の複合物理的アパーチャ上のアンテナ素子の2つのアレイを含むアンテナ1401を制御する。
【0154】
図20に示された全二重通信システムは、限定ではないが、インターネット通信、車両通信(ソフトウェア更新を含む)などを含む幾つかの用途があることに留意されたい。
【0155】
(グランドプレーン/アイリスヒータ)
本明細書に記載される技術は、RF放射アンテナ素子と、加熱から恩恵を受ける誘電率又はキャパシタンスを同調するための材料とを有する様々なアンテナのための複数の発明を含む。これらのアンテナの様々な実施形態は、ヒータを備えたグランドプレーン基板である。1つの実施形態において、グランドプレーン基板は、例えば、ガラス、プリント回路基板、ポリイミド(polyimide)、ポリエステル、フルオロポリマー(flouropolymer)、又は溶融シリカ(fused silica)で作られたアイリス基板を含み、アイリスヒータを有している。幾つかの実施形態では、アンテナのグランドプレーン基板は、アイリス基板、アイリスガラス、又はアイリスガラス基板である。代替の実施形態では、アンテナは、固体グランドプレーンとストリップラインとの間にLC材料を有する液晶ベースのアンテナ位相シフターを含む。アンテナの1つの実施形態は、メタマテリアルアンテナである。代替の実施形態では、アンテナは、LC材料の代わりに、マイクロ流体と液体金属材料を有するメタサーフェスを含む。
【0156】
例えば、アイリスヒータの実施形態は、幾つかの実施形態ではアイリスガラス基板であるグランドプレーン基板上の抵抗性ヒータを含む。代替の実施形態では、ヒータはまた、LC層と直接接触しているので、パッチガラス基板上に構築される。1つの実施形態において、ヒータは、アイリスガラス基板上に熱伝導層である大きな金属(例えば、アイリス金属)が存在することに起因して、アイリスガラス基板上でより均一な加熱を行うことになる。この層は、熱を拡散し、より均一な加熱を実現する。1つの実施形態において、アイリスヒータは、アイリス基板上に追加の金属層を使用することにより構築される。この追加の金属層は、図22及び図23で説明したように、アイリスの金属層の上方又は下方に配置することができる。1つの実施形態において、このヒータ金属層では、薄膜トランジスタ(TFT)アレイ作製で用いられる金属層が使用される。すなわち、TFTの金属層で使用される同じ製造技術及び材料が、ヒータ金属層にも使用される。1つの実施形態において、スロット形成層とも呼ばれるアイリス金属層は、パターニングされて、ヒータ構造のバス構造を提供する(図24、25を参照)。
【0157】
図22は、ヒータ層2210がアイリス金属層2204の下方にあるアイリスヒータ設計の断面図である。図示の実施形態では、ヒータ層2210は、アイリスガラス層2208と物理的に接触しており、アイリス金属層2204と熱的に接触している。アイリス金属層2204は、パッシベーション層2206によってヒータ層2210及びアイリスガラス層2208から分離されている。別のパッシベーション層2202は、アイリス金属層2204を覆っている。本実施形態及び他の実施形態に適用可能な変形形態において、アイリスガラス層2208上にパッシベーション層、接着層、又はその両方が存在することができる。ここで、グランドプレーン基板は、任意選択的にこのようなパッシベーション層及び/又は接着層を有するアイリスガラス層2208とみなすことができる。
【0158】
図23は、ヒータ金属層2304がアイリス金属層2308の上方にあるアイリスヒータ設計の断面図である。図示の実施形態では、アイリス金属層2308は、アイリスガラス層2310と物理的に接触している。ヒータ金属層2304は、パッシベーション層2306によってアイリス金属層2308から分離され、パッシベーション層2306を介してアイリス金属層2308と熱的に接触している。別のパッシベーション層2302は、ヒータ金属層2304を覆うと共に、アイリス金属層2308上にあるパッシベーション層2306にも接触している。接着層及びパッシベーション層の上記の変形形態は、他の実施形態にも適用される。
【0159】
この新しい金属層に電流を流すことにより、ワイヤ及びLC層を含む周辺領域を加熱することができる。この現象は、ジュール加熱、オーム加熱、又は抵抗加熱と呼ばれている。どのような電流量でも何らかの加熱が生じることになるが、この加熱は、電流量の2乗に比例する。所望の温度上昇に必要な電流量は、温度上昇量、アンテナの質量、アンテナの熱容量、ヒータワイヤの抵抗値、アンテナの放熱量、その温度に到達するまでの速さに依存する。
【0160】
ヒータに関する一般的な説明について、本明細書では特定の実施形態と共に記載している。以下に示す概念は、この記載に基づいて構築している。
【0161】
(アイリスヒータ用のRFブロッキング金属を用いたアイリス金属のバスバー設計)
1つの実施形態において、アイリスヒータ構造は、3つの構成要素:電流を供給するバスバー、ヒータワイヤ、及び電流を収集するバスバーを有する。1つの実施形態では,アイリス金属は、RF導波路の一部である。アンテナの様々な実施形態では、このアイリス金属に開口が生成されて、バスバーを定める。このアパーチャを覆う別の金属層がない場合、RFは、この開口を通って漏出することになる。幾つかの実施形態では、ヒータ金属層の一部を使用して、これらの開口を覆い、RFブロック金属として機能する(例えば、図27及び28を参照)。一部の実施形態において、バスバーの厚さは、アイリス金属の厚さと同じである(例えば、数マイクロメートル)。一部の実施形態において、バスバーの幅は、数ミリから数十ミリの範囲である。バスバーの材料の例は、限定ではないが、Cu、Ag、Auのうちの1又は2以上を含む。1つの実施形態において、バスバーは、アイリス金属と同じ金属層を用いて作られる。
【0162】
2つのバスバーでの電圧降下は、効率的な加熱動作のために最小化され、理想的にはゼロである。換言すると、バスバーの抵抗値は、効率的な加熱動作のために加熱素子の抵抗値と比較して極めて小さい。1つの実施形態において、バスバーは、メタマテリアルアンテナセグメントの2つの縁部(例えば、図24)、3つの縁部(例えば、図25)、又は全ての縁部(例えば、図26)に沿った長い金属構造である。1つの実施形態において、アンテナセグメントは、米国特許第9,887,455号に記載されているものである。また、当該分野の経験者であれば、他の組み合わせも可能である。
【0163】
1つの実施形態において、バーは、ヒータワイヤに比べて遙かに低い抵抗を有するように低抵抗の材料から作製される。1つの実施形態において、メタマテリアルアンテナにおいて導波路の一部として使用されるアイリス金属は、アンテナ要件に起因して、高コンダクタンス(例えば、3~5x107S/mの範囲)の複数のマイクロメートル厚の金属を使用して作製される。この金属の一部をヒータのバスバーとしてパターニングすることにより、より効率的なヒータ設計が得られることになる。バスバーの様々な実施形態について、以下で説明する。
【0164】
図24は、メタマテリアルアンテナセグメントの2つの縁部に沿ったバスバー2402及び2404を示す。ここに示される電極2408及び2410との電源接続は、他のヒータバス設計にも適用可能である。図示の実施形態では、電源2406は、アイリス金属層上のヒータバスの1つのバスバー2402へのE1とラベル付けされた1つの電源接続電極2408を有し、及びアイリス金属層上のヒータバスの別のバスバー2404へのE2とラベル付けされた別の電源接続電極2410を有する。
【0165】
図25は、メタマテリアルアンテナセグメントの3つの縁部に沿ったバスバー2502を示す。ヒータバスバーは、アイリス金属層上にある。電源2406と電極2408及び2410を介した電源接続部(図25には示されていないが、図24を参照)は、1つの実施形態で適用される。
【0166】
図26は、メタマテリアルアンテナセグメントの全ての縁部に沿ったバスバー2602及び2604を示す。ヒータバスバーは、アイリス金属層上にある。電源2406と、電極2408及び2410を介した電源接続(図26には示されていないが、図24を参照)が、1つの実施形態で適用される。
【0167】
図24、25、26のもの以外の別のバスバーパターンを使用してもよい。最終的に選択されるバスパターンは、第2の層上のヒータ配線のパターンと、このような配線をバスに接続する方法の関数となる。このヒータ配線パターンは、アンテナアパーチャに均一な加熱を提供するために選択された方法に基づいて選択される。これは、個々のヒータワイヤの様々な幅、長さ、厚さ、及び経路を含むことができる。バスパターンの設計は、均一な加熱を実現する方法に関する設計上の決定に依存する場合がある。
【0168】
図27は、アイリス金属層上に作製されたヒータバスバー2702及び2704と、これに対応するクローズアップ説明を示す。図27の右側のクローズアップ図は、図27の左上の図を拡大したものであり、図28で繰り返されており、他の場合には(問題解決なしに)アイリス金属部分2716、2810及びバスバー2702、2704の物理的及び電気的分離から生じるアンテナ内のRF漏出を引き起こす可能性のある金属なしの問題のあるギャップ2718を強調している。本実施形態では、アイリス金属層(アイリス形成層)においてギャップ2718を介して導波路の一部としてRF漏洩を遮断するヒータ金属バー2712は、ガラス基板に付加された金属層上にあることになる。この金属層はまた、ヒータトレースの構築にも使用される。
【0169】
図28は、(図27で見られるように)アイリス金属層上に作製されたヒータバスバー2702のクローズアップ図であり、A-Bに沿った対応する断面図である。断面図で示されるアイリスガラス層2808は、導波路の一部であるアイリス金属を支持し、また、ヒータ構造の様々な実施形態を支持する。アイリスガラス層2808は、アイリス金属が停止させるアイリス金属層部分2810によって定められる、アイリスガラス基板の縁部2722を有する。1つの実施形態において、アイリス金属は、ガラスの縁部の前で停止する。これにより、金属縁部を縁部から離れてパッシベーション化処理することにより、切断時や将来の環境ストレスによる金属縁部への損傷が回避される。ガラス、ガラス縁部、及び金属縁部は、1つの実施形態において、設計ルールにより関連付けられる。
【0170】
クローズアップ図(図27及び28で共用)では、ヒータ金属層2806の境界が破線で示されている。破線のヒータ金属層の境界の一部は、ヒータワイヤ2706を定め、破線のヒータ金属層の境界の別の部分は、ヒータ金属層のバー2712として以下に説明されて、ビア開口部2708の真下及びバスバー2702とアイリス金属層部分2716、2810との間の金属がないギャップ2718の真下にある金属領域を定める。
【0171】
アイリス金属層部分2716、2810を有するアイリス金属層上に作製されたヒータバスバー2702の1つの実施形態について、それぞれ図27図28において説明する。単一のヒータワイヤ2706が、これらの図において破線内に示されており、ヒータワイヤ2706がバスバー2702にどのように接続されているかを示している。しかしながら、代替の実施形態では、ヒータ設計の具現化において、複数のヒータワイヤが存在する。1つの実施形態において、ギャップ2718がアイリス金属層に生成され、導波路及びアンテナ素子の一部として使用されるアイリス金属層からヒータバスバー2702を分離する。1つの実施形態において、バスバー2702をヒータワイヤ2706(図28)に接続するために、アイリス金属とヒータ金属層2806との間の電気絶縁層(例えば、パッシベーション層2804)においてビア開口部2708が生成される。このパッシベーション層2804は、例えば、限定ではないが、SiNx又はSiO2などの半導体製造における一般的な誘電体層を用いて構築することができる。ヒータ金属層のバー2712は、アイリス金属のヒータバスバー2702をヒータワイヤ2706に接続するのに使用される。1つの実施形態において、このヒータ金属のバー2712は、アイリス金属のバスバー2702とアイリス金属のVcom(共通電圧)プレーンとの間のアイリス金属内のギャップ2718領域を覆うように延びて、RF漏洩を防止している。
【0172】
更なる実施形態では、アイリス金属とヒータ金属の位置が反転され、ヒータ金属がアイリス金属の上部にあり、アイリス金属バスとアイリス金属導波路の間のギャップがヒータ金属の一部により覆われるようになる。ヒータが下方にある1つの実施形態において、アレイ状のアイリス金属は、ヒータを動作させることにより生成されるフィールドからLCをシールドする。
【0173】
1つの実施形態において、ヒータは一定電圧で動作する。別の実施形態では、ヒータは、極性反転モードで動作し、ここでは、差動電圧が、電源2406によってヒータ電極2408 E1及び2410 E2(図24)に印加され、例えば、E1-E2の電圧差が、例えばTという時間期間にわたって正である。期間Tの終わりには、極性が反転されて、E1-E2の電圧差は負になるが、Tの期間では前回と同じ大きさを有するようになる。E1-E2の電圧差はTごとにマイナスとプラスに切り替わり、DC電圧に起因する何らかのLCの劣化、画像の固着、その他を防止する。極性反転モードの一例として、ある時間はV_E1=0V、V_E2=24V、別の部分では、V_E1=24V、V_E2=0Vとなる。極性反転モードの一例は、周期TをTFTガラスのリフレッシュレートに10ms未満の範囲でクロック制御する。
【0174】
1つの実施形態において、ヒータバスバー構造が、アイリス及びパッチ基板を接続するシールと、アンテナ素子からなるアクティブ領域の間に配置される。この場合、アイリス共通電極(アイリスVcom、導波路としてのアイリス金属)とパッチ共通電極(パッチVcom)の電気的接続には、シールを使用することができる。或いは、バスバーをシールある部分でシール下に部分的に形成することができ、シールの他の部分がVcomへの接続を形成する。
【0175】
図27及び図28では、バスバーは、図面を単純にするために2つの縁部についてのみ示されているが、図4A、4B及び5と同様の構成を構築することもできる。図27及び図28では、アイリス金属の真下の加熱金属層においてバスバーが記載されている。この技術は、この構成に限定されず、アイリス金属を覆ったヒータ金属層にも使用することができる。
【0176】
(均一な加熱を有するラジアルバスバー設計)
1つの実施形態において、ヒータ設計の一つの態様は、メタマテリアルアンテナセグメントにおける均一な加熱を実現することである。セグメント内の不均一な加熱は、セグメントの部分間の共振周波数差を引き起こし、アンテナの性能を低下させる可能性がある。均一な加熱を得るための一つの手法は、セグメント表面全体にわたって単位面積当たりに熱生成を一定に保つことである。1つの実施形態において、これは、ヒータワイヤの長さが変化するにつれて以下の式を用いてその抵抗値に適合するようにヒータワイヤの幅を変えることによって行われ、ここでRはワイヤ抵抗、Lはワイヤ長さ、wはワイヤ幅、tはワイヤの厚み、ρはワイヤ材料の抵抗率である。
R=ρ・L/wt
【0177】
しかしながら、この手法の精度は、金属層の製造公差の影響を受けやすい。当該公差は、幅広のワイヤに比べて、狭いワイヤにはより有意な影響がある。代替の実施形態において、同じ抵抗値及び熱生成量を有するヒータワイヤを配置するのに、アンテナセグメントの半径方向の対称性及び周期性が利用される。1つの実施形態において、RF素子は、アンテナ内の同心リング上に配置され、これらの半径は、r=ring_no*r_constantで計算される。従って、RF素子のリングは、r_constantで分離される。例えば、1つの実施形態において、一定値r_constantは5-6mmに等しい。
【0178】
この配置の例を図29で説明する。図29は、ラジアルヒータバス及びヒータワイヤの配置を示している。図29を参照すると、メタマテリアルアンテナのアンテナ素子3006(図30)は、同心リングの外周に沿って配置されている。1つの実施形態において、これらの同心リングの半径は、一定のステップサイズで増加する。換言すると、中心から半径方向に移動するときに、Nmmごとにアンテナ素子3006がある。アンテナ素子の各リング間のこれらのギャップは、図29のヒータバスバー2906、2908の配置に利用される。ヒータバスバー2906、2908及びヒータバスバーアーク2904を含むヒータバスは、上述のようにヒータ金属層又はアイリス金属層から構築することができる。ラジアルヒータバスバーアーク2904は、セグメントの外周にある2つのヒータバスバー2906及び2908のうちの1つに交互に接続する。これらのバスバーアーク2904の間に抵抗加熱素子2902が配置される。セグメント全体で2つのバスバーアーク2904間の半径方向の距離が同じであるので、アンテナ素子領域のどこでも同じ抵抗加熱素子2902を使用することができる。1つの実施形態において、各リングにおける抵抗加熱素子2902の数は、リングの面積に比例して変化させ、加熱の均一性を保つようにする。加熱素子がバスに接続する場所に基づいて、バス抵抗値が幾分変化することになる。しかしながら、ヒータバスに接続するヒータアークは、代替的に、ヒータバス間の長さに沿って抵抗差を補正する。加えて、ヒータバスアーク幅を変えて、単位面積当たりの一定の加熱量を有することができる。一実施形態では、バス幅は、バス上の第1の素子(電流入力に近い)からバス上の最後の抵抗性加熱要素2902まで徐々に薄くなる。
【0179】
(ヒータとしてのアイリス金属層)
図30は、アンテナ素子3006のアレイがアパーチャアンテナアレイ3002を形成するアイリス金属層を示す図である。アパーチャアンテナアレイ3002の中心には、円筒形給電部3004がある。上述した実施形態では、ヒータ構造の抵抗加熱素子2902は、アイリス金属層と熱的に接触しているが物理的には異なる層上にある。
【0180】
代替の実施形態では、導波路の一部として使用されるアイリス金属は、ヒータとしても使用される。ヒータ構造とアイリス金属層との間の熱的接触は、ヒータ構造をアイリス金属層と一体化させることにより実現される。この場合、アイリス金属は、高導電性の層(1つの実施形態では、3-5x107S/m)であり、効率的なヒータを形成することができる。1つの実施形態において、この層に開口部があり、ここでアンテナ素子3006ごとに金属がエッチング除去され、アンテナ素子3006が上述のように同心リングの外周に配置されている。1つの実施形態において、アイリス金属層は、各アイリス開口部の領域で完全にエッチング除去され、それぞれのアンテナ素子3006を形成する。従って、エッチング量は、アイリス金属層の厚さである。これは、RF素子が構築されるのと同じ方法で行うことができる。現在のアンテナの実施形態では、様々な設計で既にあるこの構造をヒータとして使用している。アンテナ上のアンテナ素子3006、すなわちアパーチャアンテナアレイ3002のアイリス開口部であるこれらの周期的開口部(図30)は、前のセクション(図29)で説明したヒータバスバーアーク2904と同様に、これらのリングに沿って低抵抗経路を生成する。
【0181】
これらの部分には電流のほとんどが流れ、加熱のほとんどがこれらの領域で起こる。アイリス金属との接続箇所を変えることにより、及びアイリス金属層にギャップを生成して、図31で分かるように電流の流れを誘導することにより、電流分布及び加熱の均一性を変えることができる。
【0182】
図31は、アイリス金属をヒータとして使用する場合のヒータ接続部の別の設計を示している。暗い領域及び暗い線は、アイリス金属の開口部を示している。暗い領域及び暗い線は、アンテナ素子3006(図30)としても示されている、RF素子のためにアイリス金属層にて開口部3114を生成するためにアイリス金属層をエッチングすることと、アイリス金属層にギャップを生成しヒータ接続のためのランドを形成することに対応する。
【0183】
1つの実施形態において、図31に示すようなアイリス金属層のギャップは、電源(E1及びE2電極3106及び3108は、電源、例えば図24の電源2406に接続されている)とヒータとの間の電気接続を定めるために、アンテナ素子領域の外側で使用される。ここでのヒータは、RF素子開口部がパターン化されたアイリス金属、例えば、アパーチャアンテナアレイ3002(図30)のアンテナ素子3006である。これらの電気的接続は、ヒータへの電流の入力及び出力位置を決定する。図31の実施構成を説明するために、1つの電極3106(E1と表示)の1つの接続ペア3102及び3104(それぞれE1-1及びE2-1と表示)と、別の電極3108(E2と表示)の1つの接続ペア3110及び3112(それぞれE2-1及びE2-2と表示)のみが示されているが、当該分野の当業者であれば、様々な実施形態において数十又は他の数のヒータ接続があり得ることが分かる。ヒータ構造の電気接続の最終的な数は、RFアンテナのサイズによって決定されることになる。アイリス金属層に形成されたヒータ構造への各電気接続部3102、3104、3110、3112の幅、又は幾つかの形態ででは長さ及び/又は厚さ、並びに対応する抵抗は、様々な実施形態において、アパーチャアンテナアレイ3002における均一な加熱を達成するために変更することができる。1つの実施形態において、各電気的接続の幅は、均一な加熱を達成するための主要な制御された設計パラメータであり、対応する金属層の厚さは、プロセス変数として一定に保たれる。
【0184】
適切なアンテナ動作のために、1つの実施形態において、全てのアイリス金属の電圧は同じであり、ヒータ機能のためにヒータ構造を介して電圧差と電流フローがある。
1つの実施形態において、これらの要件の両方は、例えば、コントローラ又は制御モジュールによって、メタマテリアルアンテナの2つの動作モードを定義することによって満たされる。
加熱モード(heating mode):アイリス金属への2つの接続点(例えば、E1と表示された電極3106とE2と表示された電極3108)が異なる電圧レベルにバイアスされ(biased)、アイリス金属に電流が流れ熱を発生させる。加熱モードは、アンテナ動作を開始する前に、最適な動作温度にするために使用することができる。
アンテナモード:アイリス金属への2つの接続点が同じ電圧レベルにバイアスされ、アイリス金属には電流が流れない。
【0185】
1つの実施形態において、メタマテリアルアンテナは、最初に加熱モードで動作して最適な動作温度に達した後、アンテナモードに切り替わる。また、環境への熱損失の量に応じて、動作中にも一時的に加熱モードに切り替えることができる。1つの実施形態において、2つのモード間でデューティサイクルが分割され、アンテナを通信リンクに接続したまま、最適な温度を維持する。
【0186】
別の実施形態では、アイリス金属層全体をヒータとして使用するアイデアの変形形態は、新しい金属層で実現することができる。この金属層は、同様に、ヒータ金属層と呼ぶことができ、図22及び図23のヒータトレースと同様に、アイリス金属の下方又は上方の何れか存在することができる。アイリス金属層とヒータ金属シートの間には、パッシベーション層2206、2306が存在することになる。ヒータ金属シートの面積及び形状は、名目上アイリス金属層と同じとすることができ、或いは、RFアンテナ性能に影響を与えないように、ある程度の侵入禁止距離(例:~100um)を用いることができる。E1及びE2の電極3106、3108への接続は、図31と同様に生成することができる。ヒータを新しい金属シート(又は層)で実現する利点は、加熱機能とアンテナ機能の共通グランドを切り離すことができる点である。これにより、前段落で記載された異なる動作モードを用いることが排除され、アンテナ動作中にもヒータを使用することができる。
【0187】
本明細書に記載されている例示的な実施形態が複数ある。
【0188】
実施例1は、複数の無線周波数放射アンテナ素子を有するアンテナアパーチャであって、グランドプレーンと、誘電率又はキャパシタンスを同調するための材料とを有するアンテナアパーチャと、材料と熱的に接触するヒータ構造と、を備える、アンテナである。
【0189】
実施例2は、ヒータ構造は、グランドプレーンと少なくとも部分的に一体化されており、複数の抵抗素子を含む、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0190】
実施例3は、ヒータ構造は、アイリスを形成するグランドプレーン上のアイリス形成層とは異なる、グランドプレーン上の金属層を含む、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0191】
実施例4は、ヒータ構造は、アンテナ内に薄膜トランジスタ(TFT)アレイとして作製された金属層を含む、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0192】
実施例5は、ヒータ構造は、基板層、基板層上のパッシベーション層、又は基板層上の接着層に接触する、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0193】
実施例6は、ガラス、プリント回路基板、ポリイミド、ポリエステル、フルオロポリマー、又は溶融シリカを含む基板層と、第1の金属層を含むアイリス形成層と、を更に備え、ヒータ構造が、パッシベーション層によって第1の金属層から分離された第2の金属層を含み、第2の金属層が、基板と第1の金属層との間にある、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0194】
実施例7は、ガラス、プリント回路基板、ポリイミド、ポリエステル、フルオロポリマー、又は溶融シリカを含む基板層と、
第1の金属層を含むアイリス形成層と、
を更に備え、
ヒータ構造が、パッシベーション層によって第1の金属層から第2の金属層を含み、アイリス金属層が、基板と第2の金属層との間にある、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0195】
実施例8は、グランドプレーンが、ガラス、プリント基板、ポリイミド、ポリエステル、フルオロポリマー、又は溶融シリカを含み且つ第1の金属層を有する基板層を備え、ヒータ構造が、パッシベーション層によって第1の金属層及び基板層から分離された第2の金属層を含む、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0196】
実施例9は、ヒータ構造に接続された複数のバスバーを更に備え、複数のバスバーの各々は、アイリス形成層を有する第1の金属層上にあり且つアンテナアパーチャのためのアイリスを形成するアイリス形成金属から離間されている(spaced apart)、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0197】
実施例10は、ヒータ構造は、アイリス形成金属において少なくとも1つのギャップを覆う第2の金属層上にある、ことを任意選択的に含むことができる実施例9のアンテナである。
【0198】
実施例11は、第2の複数のバスバーとインターリーブされ、それらの間にヒータ構造の抵抗加熱素子を有する第1の複数のバスバーを更に備える、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0199】
実施例2は、アイリス形成層への第1の電気的接続点と、アイリス形成層への第2の電気的接続点とを更に含み、ヒータ構造は、アイリス形成層と一体化されており、アンテナは、第1の電気的接続点と第2の電気的接続点が異なる電圧レベルにバイアスされる加熱モードで動作可能であり、アンテナは、第1の電気的接続点と第2の電気的接続点が同じ電圧レベルにバイアスされるアンテナモードで動作可能である、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0200】
実施例13は、材料が液晶(LC)を含む、ことを任意選択的に含むことができる実施例1のアンテナである。
【0201】
実施例14は、複数の無線周波数(RF)アンテナ素子を有するアンテナアパーチャであって、アンテナアパーチャが、パッチ基板と、グランドプレーンと、パッチ基板とグランドプレーンとの間の誘電率又はキャパシタンスを同調するための材料とを有し、グランドプレーンの基板が、複数の無線周波数(RF)アンテナ素子のアイリスのためのアイリス形成層を含む第1の層を有する、アンテナアパーチャと、材料を加熱するためのヒータ構造を含むグランドプレーン上の第2の層と、を備える、アンテナである。
【0202】
実施例15は、第1の層が第1の金属層を含み、第2の層が第2の金属層を含み、材料が液晶を含む、ことを任意選択的に含むことができる実施例14のアンテナである。
【0203】
実施例16は、第2の層は、アンテナ内の薄膜トランジスタ(TFT)アレイにおける金属として作製された金属層を含む、ことを任意選択的に含むことができる実施例15のアンテナである。
【0204】
実施例17は、グランドプレーンが基板層を含み、ヒータ構造を含む第2の層が、基板層、基板層上のパッシベーション層、又は基板層上の接着層に接触する、ことを任意選択的に含むことができる実施例15のアンテナである。
【0205】
実施例18は、ヒータ構造が、パッシベーション層によって第1の金属層から分離されており、第2の金属層が、グランドプレーンと第1の金属層との間にある、ことを任意選択的に含むことができる実施例15のアンテナである。
【0206】
実施例19は、ヒータ構造が、パッシベーション層によって第1の金属層から分離されており、アイリス金属層が、基板と第2の金属層との間にある、ことを任意選択的に含むことができる実施例15のアンテナである。
【0207】
実施例20は、ヒータ構造が、パッシベーション層によって第1の層から分離されている、ことを任意選択的に含むことができる実施例14のアンテナである。
【0208】
実施例21は、第1の層は、パッシベーション層によって第2の層及びグランドプレーンの基板層から分離されている、ことを任意選択的に含むことができる実施例14のアンテナである。
【0209】
実施例22は、ヒータ構造に接続された複数のバスバーを更に備える、ことを任意選択的に含むことができる実施例14のアンテナである。
【0210】
実施例23は、複数のバスバーの各々は、アイリス形成層と同じ金属層上にあり、アンテナアパーチャのためのアイリスを形成するアイリス形成金属から離間されている、ことを任意選択的に含むことができる実施例22のアンテナである。
【0211】
実施例24は、複数のバスバーの各々は、アイリス形成層のアイリス金属からギャップにより離間され、ビアを介して第2の層に結合されている、ことを任意選択的に含むことができる実施例22のアンテナである。
【0212】
実施例25は、アンテナは、ヒータ構造が駆動されて材料を所定の温度まで上昇させる加熱モードで動作可能であり、アンテナは、材料が少なくとも所定の温度になると、ヒータ構造が駆動されないアンテナモードで動作可能である、ことを任意選択的に含むことができる実施例14のアンテナである。
【0213】
以上の詳細な説明の幾つかの部分は、コンピュータメモリ内のデータビットに対する演算のアルゴリズム及び記号表現の観点で提示されている。これらのアルゴリズム的記述及び表現は、データ処理技術分野の当業者により、自らの作業の内容を他の当業者に最も効果的に伝えるために使用される手段である。アルゴリズムは、ここでは一般的に、望ましい結果に至る自己矛盾のない一連のステップであると考えられる。これらのステップは、物理量の物理的操作を必要とするものである。必須ではないが、通常は、これらの量は、格納、転送、結合、比較、及び他の操作が可能な電気信号又は磁気信号の形式を取る。これらの信号をビット、値、要素、記号、符号、用語、又は数字などと言及することは、主として共通使用という理由で時に好都合であることが判明している。
【0214】
しかしながら、これらの用語及び類似の用語は、全て適切な物理量に関連付けられるものとし、且つこれらの量に付与される有利なラベルに過ぎないことに注意されたい。以下の説明から明らかなように、特に明記しない限り、説明全体を通して、「処理する」又は「演算する」又は「計算する」又は「決定する」又は「表示する」などのような用語を利用する説明は、コンピュータシステムのレジスタ及びメモリ内の物理的な(電子的な)量として表されるデータをそのコンピュータシステムのメモリ又はレジスタ又は他のそのような情報ストレージ、送信又は表示デバイス内の物理量として同様に表される別のデータに操作及び変換するコンピュータシステム又は類似の電子コンピュータデバイスのアクション及び処理を指すことが認められる。
【0215】
本発明はまた、本明細書の作動を実行するための装置に関する。この装置は、必要とされる目的のために特別に構成することができ、又はコンピュータに格納されたコンピュータプログラムによって選択的に起動又は再構成される汎用コンピュータを有することができる。このようなコンピュータプログラムは、限定ではないが、フロッピーディスク、光ディスク、CD-ROM、及び光磁気ディスクを含むあらゆるタイプのディスク、読取専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気又は光カード、又は電子命令の格納に適するあらゆるタイプの媒体のようなコンピュータ可読ストレージ媒体に格納することができ、各々がコンピュータシステムバスに結合される。
【0216】
本明細書に提示したアルゴリズム及び表示は、何れの特定のコンピュータ又は他の装置とも本質的に関連付けられたものではない。様々な汎用システムを本明細書の教示によるプログラムと共に使用することができ、又は必要とされる方法ステップを実行するより特殊化された装置を構成することが有利であることが判明する場合がある。様々なこれらのシステムに必要とされる構造は、以下の説明から明らかであろう。これに加えて、本発明は、何れの特定のプログラミング言語に関連しても説明されていない。様々なプログラミング言語を使用して、本明細書に説明した本発明の教示を実施することができることが認められるであろう。
【0217】
機械可読媒体は、機械(例えば、コンピュータ)によって可読の形態の情報を格納又は送信するための何れかの機構を含む。例えば機械可読媒体は、読取専用メモリ(「ROM」)、ランダムアクセスメモリ(「RAM」)、磁気ディスクストレージ媒体、光学ストレージ媒体、フラッシュメモリデバイスなどを含む。
【0218】
本発明の多くの改変及び修正が前述の説明を読んだ後で疑いなく当業者には明らかになるであろうが、例証によって図示及び説明された何れの特定の実施形態も限定として捉えられるものではない点を理解されたい。従って、様々な実施形態の詳細事項への言及は、本発明にとって基本的なものとしてみなされる特徴のみを記載する請求項の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0219】
201 パッチガラス層
211 パッチ金属
212 アイリス金属
213 配向層
231 パッシベーション層
232 パッシベーションアイリス1層
233 パッシベーションアイリス2層
240 ヒータワイヤ
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
【国際調査報告】