IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフトの特許一覧

特表2022-541488中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法
<>
  • 特表-中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法 図1
  • 特表-中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法 図2
  • 特表-中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/012 20060101AFI20220915BHJP
   C03C 13/04 20060101ALI20220915BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C03B37/012 A
C03C13/04
G02B6/02 466
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502574
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(85)【翻訳文提出日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2020070004
(87)【国際公開番号】W WO2021009231
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】19186863.7
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Heraeusstr.12-14, 63450 Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル ローゼンベアガー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヒューナーマン
(72)【発明者】
【氏名】マーティン トロマー
(72)【発明者】
【氏名】カイ シュースター
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ヴァイマン
【テーマコード(参考)】
2H250
4G021
4G062
【Fターム(参考)】
2H250AA52
2H250AC66
2H250AC83
2H250AC94
2H250AC96
4G021BA02
4G021BA03
4G021BA04
4G021EB19
4G021EB24
4G062AA07
4G062BB02
4G062LA02
4G062LB08
4G062LB10
4G062MM04
4G062NN29
(57)【要約】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ中空コアを取り囲む内部のクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法が公知である。公知の方法には、被覆管内部ボアと被覆管長手方向軸とを有し、内側と外側により画定されている被覆管壁が被覆管長手方向軸に沿って延びている被覆管を提供する工程と、複数の反共振要素プリフォームを提供する工程と、反共振要素プリフォームを被覆管壁の内側の目標位置に配置して、中空のコア領域とクラッド領域とを有する中空コアファイバの一次プリフォームを形成する工程と、一次プリフォームを延伸して中空コアファイバを形成する工程、または一次プリフォームのさらなる加工によって二次プリフォームを形成する工程とが含まれている。ここから出発して、高い精密性と反共振要素の正確な位置決めを十分に安定的で再現可能な仕方で達成するため、工程(c)によるプロセスを実行する際に、シリカガラスからなる一次プリフォームの構成部品および/または一次プリフォームを取り囲み、シリカガラスからなる構成部品を一緒に加熱して軟化させ、このとき、少なくとも1つのプリフォーム構成部品のシリカガラスおよび/またはプリフォームを取り囲む少なくとも1つの構成部品のシリカガラスは、シリカガラスの粘性を低下または増加させる少なくとも1つのドーパントを含んでいることが提案される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ前記中空コアを取り囲む内部クラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法であって、
(a) 被覆管内部ボアおよび被覆管長手方向軸を有する少なくとも1つの被覆管(3)を含み、内側と外側により画定されている被覆管壁が前記被覆管長手方向軸に沿って延びている前記中空コアファイバのための一次プリフォーム(1)を提供する工程と、
(b) 反共振要素の複数の前段階またはプリフォーム(4)を前記被覆管壁の目標位置に形成する工程と、
(c) 前記一次プリフォーム(1)を前記中空コアファイバに延伸する工程、または前記一次プリフォーム(1)を、前記中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工する工程と、
を備え、
前記さらに加工する工程では、
(i) 延伸、
(ii) コラップス、
(iii) コラップスおよび同時延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップス、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行される、製造方法において、
工程(c)によるプロセスを実行する際に、シリカガラスからなる前記一次プリフォーム(1)の構成部品(2;3)および/または前記一次プリフォーム(1)を取り囲み、シリカガラスからなる構成部品(4)を一緒に加熱して軟化させ、少なくとも1つの前記プリフォーム構成部品(2;3)のシリカガラスおよび/または前記プリフォームを取り囲む少なくとも1つの前記構成部品(4)のシリカガラスは、シリカガラスの粘性を低下または増加させる少なくとも1つのドーパントを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
シリカガラスの粘性を低下させる前記ドーパントは、フッ素、塩素および/またはヒドロキシ基を含み、粘性を増加させる前記ドーパントは、Alおよび/または窒素を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一次プリフォーム(1)の前記任意のさらなる加工は、追加のクラッド材料(4)のコラップスを含み、前記追加のクラッド材料(4)は、シリカガラスの粘性を低下させるドーパントを含むシリカガラスからなることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記追加のクラッド材料(4)のシリカガラスは、濃度が500~14,500重量ppm、好ましくは2,000~10,000重量ppmのフッ素をドーパントとして含んでいることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
測定温度が1250℃の場合に、前記被覆管(3)のシリカガラスは、前記追加のクラッド材料(4)のシリカガラスよりも少なくとも0.5dPa・sだけ高い粘性を有し、好ましくは少なくとも0.6dPa・sだけ高い粘性を有していることを特徴とする、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記追加のクラッド材料(4)だけがドーパントを含み、フッ素含有のシリカガラスから製造されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反共振要素の前段階の少なくとも一部は管状の反共振要素プリフォーム(4)として存在し、ARE外管(4a)と、その中に挿入されているARE内管(4b)とを含み、好ましくは互いに入れ子になった複数の前記管状構造要素から構成されており、前記反共振要素プリフォーム(4)はシリカガラスからなり、該シリカガラスは、測定温度が1250℃の場合に、前記被覆管(3)のシリカガラスよりも少なくとも0.4dPa・sだけ高い粘性を有し、好ましくは少なくとも0.5dPa・sだけ高い粘性を有していることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記被覆管(3)は、シリカガラスの粘性を低下させるドーパントを含むシリカガラスからなることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
入れ子になっている構造要素において、前記ARE内管(4b)の少なくとも一部はシリカガラスからなり、該シリカガラスは、測定温度が1250℃の場合に、前記ARE外管(4a)の前記シリカガラスよりも少なくとも0.4dPa・sだけ高い粘性を有し、好ましくは少なくとも0.5dPa・sだけ高い粘性を有していることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記被覆管(3)、前記ARE外管(4a)、前記ARE内管(4b)および/または前記追加のクラッド材料(4)をコラップスするための外層シリンダ(2)は、成形工具を使用しない垂直線引き方式によって製造されることを特徴とする、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
30~90mmの範囲にある外径を有する二次プリフォームが形成される、および/または20~70mmの範囲にある外径を有する一次プリフォームが形成されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)による反共振要素プリフォーム(4)の形成は、前記被覆管壁内側の目標位置への前記反共振要素プリフォーム(4)の配置を含み、該配置のために位置決めテンプレートが使用され、該位置決めテンプレートは、前記反共振要素プリフォーム(4)を前記目標位置に位置決めするための保持要素を有していることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
位置決めテンプレートは、前記被覆管内部ボアに突き出す軸を有しており、該軸には半径方向に外側を向く複数の保持アームの形で保持要素が設けられていることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記被覆管(3)内側は、切削加工によって、特に穴あけ加工、フライス加工、切削加工、ホーニング加工および/またはポリッシング加工によって製造されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ前記中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバのためのプリフォームの製造方法であって、
(a) 被覆管内部ボアおよび被覆管長手方向軸を有する少なくとも1つの被覆管(3)を含み、内側と外側により画定されている被覆管壁が前記被覆管長手方向軸に沿って延びている前記中空コアファイバのための一次プリフォーム(1)を提供する工程と、
(b) 反共振要素の複数の前段階またはプリフォーム(4)を前記被覆管壁の目標位置に形成する工程と、
(c) 前記一次プリフォーム(1)を前記中空コアファイバのための二次プリフォームにさらに加工する工程と、
を備え、
前記さらに加工する工程では、
(i) 延伸、
(ii) コラップス、
(iii) コラップスおよび同時延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップス、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行される、製造方法において、
工程(c)によるプロセスを実行する際に、シリカガラスからなる前記一次プリフォーム(1)の構成部品および/または前記一次プリフォーム(1)を取り囲み、シリカガラスからなる構成部品(2)を一緒に加熱して軟化させ、少なくとも1つの前記プリフォーム構成部品(1;2、3)のシリカガラスおよび/または前記プリフォーム(1;2、3)を取り囲む少なくとも1つの前記構成部品(4)のシリカガラスは、シリカガラスの粘性を低下または増加させる少なくとも1つのドーパントを含んでいることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法に関し、この製造方法は、
(a) 被覆管内部ボアおよび被覆管長手方向軸を有する少なくとも1つの被覆管を含み、内側と外側により画定されている被覆管壁が被覆管長手方向軸に沿って延びている中空コアファイバのための一次プリフォームを提供する工程と、
(b) 反共振要素のための複数の前段階またはプリフォームを被覆管壁の目標位置に形成する工程と、
(c) 一次プリフォームを中空コアファイバに延伸する工程、または一次プリフォームを、中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工する工程と、
を備え、
さらに加工する工程では、
(i) 延伸、
(ii) コラップス、
(iii) コラップスおよび同時延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップス、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行される。
【0002】
さらに本発明は、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含む、中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバのプリフォームの製造方法に関し、この製造方法は、
(a) 被覆管内部ボアおよび被覆管長手方向軸、さらに被覆管壁を有する少なくとも1つの被覆管を含み、内側と外側により画定されている被覆管壁が被覆管長手方向軸に沿って延びている中空コアファイバのための一次プリフォームを提供する工程と、
(b) 反共振要素の複数の前段階またはプリフォームを被覆管壁の目標位置に形成する工程と、
(c) 一次プリフォームを中空コアファイバのための二次プリフォームにさらに加工する工程と、
を備え、
さらに加工する工程では、
(i) 延伸、
(ii) コラップス、
(iii) コラップスおよび同時延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップス、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行される。
【0003】
中実材料から作製される従来のシングルモード光ファイバは、低屈折率のガラスからなるクラッド領域により取り囲まれたガラス製のコア領域を有している。このとき、光の伝搬は、コア領域とクラッド領域間の全反射に基づいている。しかし、導波光と中実材料の相互作用は、データ伝送時の遅延時間の増大や、エネルギー放射線に対する損傷のしきい値の相対的低下に結びついている。
【0004】
これらの欠点は、コアがガスまたは液体を充填した真空の空洞部からなる「中空コアファイバ」によって回避されるか、もしくは軽減される。中空コアファイバでは、光とガラスの相互作用が中実コアファイバの場合よりも減少する。コアの屈折率はクラッドの屈折率よりも小さいため、全反射による光の伝搬は不可能であり、通常光はコアからクラッドに漏れ出ると考えられる。光の伝搬の物理的メカニズムに応じて、中空コアファイバは、「フォトニックバンドギャップファイバ」と「反共振反射ファイバ」に区別される。
【0005】
「フォトニックバンドギャップファイバ」では、中空コア領域が、小さな中空チャネルを周期的に配置したクラッドによって取り囲まれている。クラッド内の中空チャネルの周期的構造には、半導体技術に依る「フォトニックバンドギャップ」と呼ばれる効果があり、これにより、クラッド構造に散乱する特定の波長領域の光はブラッグ反射に基づいて中心の空洞部で構造的に干渉するため、クラッド内で横方向に広がることはできない。
【0006】
「反共振中空コアファイバ」(「antiresonant hollow-core fibers」;ARHCF)と呼ばれる中空コアファイバの実施形態では、中空のコア領域が内部のクラッド領域によって取り囲まれており、いわゆる「反共振性要素」(または「反共振要素」;略号:「AREs」)の中に配置されている。中空コア周辺に均等に分散された反共振要素の壁は、反共振に作動されるファブリ・ペロー空洞として機能し、この空洞は入射光を反射し、ファイバコアに通すことができる。
【0007】
このファイバ技術により、光減衰を軽減することができ、透過スペクトルが非常に広くなり(紫外線または赤外線の波長帯域でも)、データ伝送時の遅延時間も少なくなる。
【0008】
中空コアファイバの潜在的用途は、データ伝送、材料加工などに用いる高性能ビーム制御、モーダルフィルタリング、特に超紫外線波長帯域から赤外線波長帯域までのスーパーコンティニウムを発生させる非線形光学の分野にある。
【0009】
背景技術
反共振中空コアファイバの欠点は、高次モードが自動的に抑制されないため、長い伝達距離にわたって純粋なシングルモードにならないことが多く、出力光線の品質が悪化することにある。
【0010】
Francesco Poletti「Nested antiresonant nodeless hollow core fiber」;Optics Express,Vol.22,No.20(2014);DOI:10.1364/OE 22.023807の文献では、反共振要素が単純な単一構造要素として形成されているのではなく、互いに入れ子になった(英語:nested)複数の構造要素から構成されたファイバ設計が提案されている。入れ子になった反共振要素は、高次コアモードがクラッドモードに位相整合されて抑制されるが、基本コアモードは抑制されないように設計されている。これにより、基本コアモードの伝搬が常に保証され、限定された波長帯域にわたって中空コアファイバを効率的にシングルモードにすることができる。
【0011】
効率的なモード抑制は、伝搬光の中心波長の他に、中空コアの半径および反共振要素内で入れ子になっているリング構造の直径差といったファイバ設計の構造パラメータにも左右される。
【0012】
EP3136143A1から、コアが基本モード以外に別のモードも伝搬することができる反共振中空コアファイバ(「バンドギャップのない中空コアファイバ」と呼ばれる)が公知である。この目的のため、コアは、反共振モードと高次モードの位相整合を提供する「非共振要素」を有する内部クラッドによって取り囲まれている。中空コアファイバの製造は、いわゆる「スタック&ドロー法」によって行われ、そこでは出発要素を軸平行の集合体になるように並べ、固定することによってプリフォームを形成し、続いてそのプリフォームを延伸する。ここでは、内側断面が六角形の被覆管が使用され、被覆管の内縁部には、いわゆる「AREプリフォーム」(反共振要素プリフォーム)が6個固定される。このプリフォームを2段階に分けて線引きすることによって中空コアファイバを形成する。
【0013】
国際特許出願2018/169487A1から、反共振中空コアファイバのプリフォーム製造方法が公知であり、ここでは第1のクラッド領域が多数のロッドから構成され、第2のクラッド領域は、外側の被覆管によって取り囲まれている多数の管から構成されている。ロッド、管、被覆管は「スタック&ドロー」法によって接合され、プリフォームが形成される。プリフォームを延伸する前に、プリフォーム端部に封止材を塗布して封止が行われる。封止材としては、例えばUV接着剤が使用される。
【0014】
発明が解決しようとする課題
反共振中空コアファイバや、特に入れ子になっている構造要素を持つそのようなファイバは複雑な内部形状を有するため、これを正確かつ再現可能に製造することは困難である。さらに、共振条件または反共振条件を満たすには伝搬させる光の動作波長の大きさに僅かな寸法許容差があっても許されないため、このことは一層困難なものとなる。目標形状からの逸脱は、ファイバプリフォームの構成時にその原因が作られるおそれがあるが、ファイバ線引きプロセス時にも縮尺に沿わない不適切な変形によって生じる可能性がある。
【0015】
公知の「スタック&ドロー」法では、多数の要素が正確な位置に接合されなければならない。例えば、冒頭に述べた文献から公知の「NANF」設計の中空コアファイバを製造するには、それぞれが反共振要素外管(略号:ARE外管)からなる6つの反共振要素プリフォームと、ARE外管内側クラッド面の片側に溶接されている反共振要素内管(略号:ARE内管)とを被覆管の内側に取り付けなければならない。
【0016】
小さい減衰値と広範な伝播範囲を実現するためには、反共振要素の壁の均等な壁厚の他に、被覆管内部における反共振要素の方位角位置も重要である。このことは、「スタック&ドロー」法では簡単に実現できない。本発明の目的は、従来の製造方法の制限を回避して、反共振中空コアファイバを低コストで実現する製造方法を提供することである。
【0017】
特に本発明の目的は、反共振中空コアファイバと、反共振中空コアファイバのためのプリフォームの製造方法を提供することであり、本方法によって、構造要素の高い精密性とファイバ内での反共振要素の正確な位置決めを、十分に安定的で再現可能な仕方で達成することが可能となる。
【0018】
さらに、必要な構造精度、特に反共振要素の均等な壁厚および規定の方位角位置への正確な位置決めが容易に達成できない従来の「スタック&ドロー」法の欠点をできる限り回避しなければならない。
【0019】
発明の概要
反共振中空コアファイバの製造に関して、この課題は、冒頭に述べた形式の方法から出発して、本発明に基づき、工程(c)によるプロセスを実行する際に、シリカガラスからなる一次プリフォームの構成部品および/または一次プリフォームを取り囲み、シリカガラスからなる構成部品を一緒に加熱して軟化させ、このとき、少なくとも1つのプリフォーム構成部品のシリカガラスおよび/またはプリフォームを取り囲む少なくとも1つの構成部品のシリカガラスは、シリカガラスの粘性を低下または増加させる少なくとも1つのドーパントを含んでいることによって解決される。
【0020】
プリフォームの構成部品は、被覆管と、被覆管内側に配置されている反共振要素プリフォームと、被覆管の外部クラッド面に作製された追加のクラッド材料とを含んでいる。プリフォームを取り囲む構成部品は、例えば1つまたは複数の外層シリンダなどであり、外層シリンダは熱成形プロセス時にプリフォームを取り囲むことによって、プリフォームの上にコラップスされ、追加のクラッド材料を形成することができる。簡略化にするために、以下ではプリフォームを取り囲む構成部品も、プリフォームの「構成部品」という用語に包含される。
【0021】
プリフォーム構成部品の少なくとも1つは、シリカガラスの粘性を低下させる、またはシリカガラスの粘性を増加させる少なくとも1つのドーパントを含んでいる。シリカガラスの粘性を低下させる種類のドーピングを以下では短縮して「低下ドーピング」と呼び、シリカガラスの粘性を増加させる種類のドーピングを以下では短縮して「増加ドーピング」と呼ぶ。シリカガラスの粘性を低下させるドーパントとして、好ましくはフッ素、塩素および/またはヒドロキシ基が使用される。シリカガラスの粘性を増加させるドーパントとしては、Alおよび/または窒素が考えられる。
【0022】
反共振中空コアファイバ製造の出発点は、この場合も、「一次プリフォーム」と呼ばれるプリフォームである。このプリフォームは被覆管を含み、そこには中空コアファイバ内に反共振要素を形成するための前段階またはプリフォーム(ここでは短く「反共振要素」と呼ぶ)が含まれている。一次プリフォームを延伸することによって中空コアファイバを形成することができるが、通常は、この一次プリフォームに追加のクラッド材料を付加され、そこからここでは「二次プリフォーム」と呼ばれるプリフォームを製造する。必要に応じて、この二次プリフォームを延伸することにより中空コアファイバが作られる。代替として、一次プリフォームまたは二次プリフォームを、構成部品の同軸集合体を形成しながら、1つまたは複数の外層シリンダにより取り囲み、この同軸集合体を直接延伸して中空コアファイバを形成する。この場合、一般的な「プリフォーム」という用語は、中空コアファイバが最終的に線引きされる構成部品または構成部品の同軸集合体の名称と理解される。
【0023】
クラッド材料の付加は、例えば一次プリフォーム上に外層シリンダをコラップスすることによって行われる。一次プリフォームと外層シリンダからなる同軸配置体は、外層シリンダのコラップス時に延伸されるか、または延伸されない。このとき、反共振要素プリフォームは、その形状または配置が変化するか、またはその形状または配置は変化しない。
【0024】
工程(c)で言及した熱成形プロセス(以下では「熱加工」とも呼ぶ)を実施することにより、目指しているファイバ形状に変形および構造偏位が生じるおそれがある。このことは、特に、同じ材料からなる厚い壁の構成部品と微細なプリフォーム構成部品とが互いに密に並んでいるか、または互いに隣接している場合に当てはまる。
【0025】
というのも、必要な加工温度は、通常、面積のもっとも大きな構成部品によって決まるからである。すなわち、一般的にこれはプリフォームの外部クラッド領域である。より小さな構成部品(反共振要素プリフォームとそれらの個々の構造要素など)は、同じ温度でもより強く変形する。熱加工の場合、加熱ゾーンにあるプリフォームは外側から内側に加熱されるため、プリフォームの中心で最小になる半径方向の温度経過がプリフォーム容積部にわたって形成される。言及した変形の問題は、微細な構成部品がプリフォーム半径上に配置されており、これが微細度の少ない構成部品よりも加熱ゾーンの近くにある場合は悪化する可能性があり、このことは、反共振中空コアファイバ用のプリフォームにおいて頻繁に発生する。
【0026】
この問題は、本発明によって緩和することができ、従って、中空コアファイバ内の反共振要素の幾何学的形状と位置決めの精度をさらに高めることができる。このために少なくとも1つプリフォーム構成部品のシリカガラスには、シリカガラスの粘性を低下または増加させる少なくとも1つのドーパントが含まれている。
【0027】
このドーピングにより、隣接するプリフォーム構成部品の粘性を適合させることが可能になる。ドーピングは、特に、隣接する構成部品の安定性を優先させて、1つの構成部品の熱安定性を軽減するために使用することができる。特に、面積のもっとも大きなプリフォーム構成部品の低下ドーピングにより、必要な加工温度を下げることができるため、さらに内部にある構成部品は熱成形プロセスの際により低い温度に晒されることにより、それらの構成部品の相対的剛性および熱安定性が間接的に改善される。
【0028】
理想的には、プリフォームの外部クラッド領域の構成部品には低下ドーピングが施される。このことが当てはまるのは、特にプリフォームのもっとも外側のクラッドである。これにより、加工温度を低下させることが可能になるため、熱成形プロセス中の変形を軽減することができる。
【0029】
従って、好適な方法では、一次プリフォームの任意のさらなる加工が追加のクラッド材料のコラップスを含み、追加のクラッド材料はシリカガラスからなり、この追加のクラッド材料にはシリカガラスの粘性を低下させるドーパントが含まれており、このドーパントは、好ましくはフッ素であり、500~14,500重量ppm、好ましくは2,000~10,000重量ppmの濃度で含まれている。
【0030】
この領域における追加のクラッド材料のフッ素ドーピングにより、被覆管のシリカガラス自体にドーパントが含まれていなくても、被覆管のシリカガラスよりも粘性を低下させることが可能になる。測定温度が1250℃の場合に、被覆管のシリカガラスが、追加のクラッド材料のシリカガラスよりも少なくとも0.5dPa・sだけ高い粘性を有し、好ましくは少なくとも0.6dPa・sだけ高い粘性を有している場合は有利であることが判明した。この場合および以下の説明では、粘性差を対数粘性値dPa・sとして表示する。
【0031】
有利な方法では、プリフォームのすべてのプリフォーム構成部品がさまざまなシリカガラス品質からなり、このとき構成部品の粘性は、外側から内側に一次近似で増加する。粘性の調整には、フッ素の他にAl、窒素、塩素、ヒドロキシ基などのその他のドーパントも使用できる。Alは、シリカガラスにおいて約15重量ppmまでの濃度で粘性を増加させる。しかし、もっとも単純なケースでは、追加のクラッド材料だけがドーパントを含み、フッ素含有のシリカガラスから製造されていれば十分である。
【0032】
好適な方法では、反共振要素用の前段階の少なくとも一部が管状の反共振要素プリフォームとして存在し、ARE外管と、その中に挿入されているARE内管とを含み、好ましくは互いに入れ子になった複数の管状構造要素から構成されており、このとき、反共振要素プリフォームはシリカガラスからなり、このシリカガラスは、測定温度が1250℃の場合に、被覆管のシリカガラスよりも少なくとも0.4dPa・sだけ高い粘性を有し、好ましくは少なくとも0.5dPa・sだけ高い粘性を有している。
【0033】
この場合、ARE外管のシリカガラスは、例えばAlや窒素などの粘性を増加させるドーパントを含んでいてよい。しかし、被覆管が、シリカガラスの粘性を低下させるドーパントを含むシリカガラスから作製される場合は特に有利であることが判明した。
【0034】
入れ子になっている構造要素におけるARE内管の高い熱安定性に関して、ARE内管の少なくとも一部、好適にはすべてのARE内管がシリカガラスからなり、このシリカガラスは、測定温度が1250℃の場合に、ARE外管のシリカガラスよりも少なくとも0.4dPa・sだけ高い粘性を有し、好ましくは少なくとも0.5dPa・sだけ高い粘性を有している場合は有利であることが判明した。
【0035】
被覆管は、好ましくは成形工具を使用しない垂直線引き方式において2段階の延伸プロセスによって製造される。第1段階では、ガラス製の初期中空シリンダを機械的に加工して、初期中空シリンダの最終寸法を調節する。初期シリンダは、長手方向軸を垂直方向に配置した第1の延伸プロセスにおいて、第1の加熱ゾーン長の加熱ゾーンに連続的に送り込まれ、その中で領域ごとに軟化し、その軟化領域から中間シリンダが引き出される。この中間シリンダは、長手方向軸を垂直方向に配置した第2の延伸プロセスにおいて、第2の短い加熱ゾーン長の別の加熱ゾーンに連続的に送り込まれ、その中で領域ごとに軟化し、その軟化領域から管状ストリングが引き出される。この管状ストリングから短縮により被覆管が得られる。
【0036】
特に外側のクラッド領域に低粘性のプリフォーム構成部品を使用することにより、本発明に基づく方法によって、熱加工のために比較的大きなプリフォームを使用することが可能になる。
【0037】
この点に関しては、外径が30~90mmの範囲にある二次プリフォームが形成される、および/または外径が20~70mmの範囲、好ましくは30~70mmの範囲にある一次プリフォームが形成されることが好ましい。
【0038】
30~90mmの範囲にあるプリフォーム外径は、従来技術と比較して大きい。プリフォームの外径の増加に伴って、ファイバ線引き時に現存の絶対的幾何形状誤差が大きくスケールダウンされるので、大きなプリフォームを使用する場合では、中空コアファイバをより精密に製造することも基本的に可能となる。しかし、90mmより大きな直径の場合、ファイバ線引きプロセス時にプリフォーム容積部内で温度勾配が形成され、この温度勾配は、中空コアファイバ内にある反共振要素において壁厚の偏差を結果として発生させる可能性がある。プリフォーム直径が30mmよりも小さい場合、幾何形状誤差のスケールダウンによる特別な貢献はなくなってしまう。さらに、直径が20~70mmの範囲、好ましくは30~70mmの範囲にある大きな一次プリフォームを形成することは有利である。これは、比較的大きな外径である。従来技術において、一次プリフォームの外径は、通常、4~6mmの範囲にある。
【0039】
好適な方法の変形例では、工程(b)による反共振要素プリフォームの形成が、被覆管壁内側の目標位置への反共振要素プリフォームの配置を含み、この配置のために位置決めテンプレートが使用され、位置決めテンプレートは、反共振要素プリフォームを目標位置に位置決めするための保持要素を有している。
【0040】
位置決めテンプレートは、例えば、被覆管内部ボアに突き出す軸を有しており、この軸には半径方向に外側を向く複数の保持アームの形で保持要素が設けられている。
【0041】
構造的に設定された保持要素の星形の配置により、反共振要素プリフォームをそれぞれの目標位置へ正確に位置決めし、固定することが容易になる。このとき、位置決めテンプレートは、好ましくは一方の被覆管端面の領域、好ましくは両方の被覆管端面の領域にのみ使用される。
【0042】
被覆管内部クラッド面へのプリフォームの位置決め精度は、被覆管内側を切削加工によって、特に穴あけ加工、フライス加工、研削加工、ホーニング加工および/またはポリッシング加工によって作製することによって改善する。
【0043】
好適な方法では、管状の構造要素が提供され、そのうちの少なくとも一部は0.2~2mmの範囲の壁厚を有し、好ましくは0.25~1mmの範囲の壁厚を有することによって、被覆管におけるプリフォームの位置決め精度をさらに改善する。このとき、被覆管は外径が90~250mmの範囲のもの、好ましくは外径が120~200mmの範囲のものが提供される。これらの構成部品はそれぞれ少なくとも1mの長さがあり、反共振要素を形成するための比較的容積の大きな構造要素である。これにより、取扱いが容易になる。さらに、被覆管と構造要素が垂直に配置されており、例えば、好ましくは上述の封止材または接合材を使用し、その補足または代替として上述した位置決めテンプレートを用いて、構造要素がそれぞれ端面側の上端部で目標位置に位置決めされ、固定されている場合は、構造要素長手方向軸の平行性と垂直方向への整列が重力によってサポートされる。
【0044】
中空コアファイバのプリフォームの製造に関して、上述した技術的課題は、冒頭に述べた種類の方法から出発して、本発明に基づき、工程(c)によるプロセスを実行する際に、シリカガラスからなる一次プリフォームの構成部品および/または一次プリフォームを取り囲み、シリカガラスからなる構成部品を一緒に加熱して軟化させ、このとき、少なくとも1つのプリフォーム構成部品のシリカガラスおよび/またはプリフォームを取り囲む少なくとも1つの構成部品のシリカガラスは、シリカガラスの粘性を低下させる少なくとも1つのドーパントを含んでいることによって解決される。
【0045】
プリフォームは反共振中空コアファイバ製造に対する出発点である。プリフォームの延伸によって直接反共振中空コアファイバを線引きするか、あるいはまず半製品を作製し、続いてその半製品から反共振中空コアファイバを線引きすることもできる。プリフォームの製造には、シリカガラスの粘性を低下させるドーパントを含むシリカガラスから一次プリフォームの構成部品を形成することが含まれている。これにより、熱成形プロセス時の加工温度を下げることができ、比較的大きなプリフォームの使用が可能になる。
【0046】
プリフォームを製造するための措置は、中空コアファイバの製造に関連して上記に詳しく説明されており、それらの説明がここに引用される。
【0047】
定義
これまでに述べた明細書の個々の工程と用語について、以下に補足的に定義する。これらの定義は本発明の明細書の構成要素である。以下の定義のいずれかと残りの明細書との間で実質的な矛盾がある場合、残りの明細書の中で言及していることが優先される。
【0048】
反共振要素
反共振要素は、中空コアファイバの単純な構造要素または入れ子構造要素であってよい。これは、中空コアの方向から見て負の曲率(凸部)を持つか、曲率を持たない(平面、直線)少なくとも2つの壁を有している。通常、反共振要素は動作光に対して透明な材料、例えばガラス(特にドープしたSiOまたはドープしないSiO)、プラスチック(特にポリマー)、複合材料または結晶材料からなる。
【0049】
反共振要素プリフォーム/反共振要素前段階
反共振要素プリフォームとは、主にファイバ線引きプロセスにおける単純な線引きによって中空コアファイバ内で反共振要素になる構成部品またはプリフォームの構成部品である。反共振要素前段階とは、変形によって初めて反共振要素プリフォームまたは直接的に反共振要素になる構成部品またはプリフォームの構成部品である。反共振要素プリフォームは、単純な構成部品または入れ子になっている構成部品であってよく、これに追加的に位置決め補助を固定することができる。反共振要素プリフォームは、もともと一次プリフォームの中に存在する。
【0050】
入れ子の反共振要素プリフォームは、中空コアファイバの中で入れ子になっている反共振要素を形成する。これは、1本の外管と、外管の内部ボア内に配置されている少なくとも1つのさらなる構造要素とから構成されている。さらなる構造要素は、外管の内側クラッド面に接しているさらなる管であってよい。外管は「反共振要素外管」または略して「ARE外管」と呼ばれ、さらなる管は「反共振要素内管」または略して「ARE内管」または「入れ子になっているARE内管」とも呼ばれる。
【0051】
入れ子になっているARE内管の内部ボアの中には、反共振要素プリフォームが何重にも入れ子になっている場合、少なくとも1つのさらなる構造要素、例えば入れ子になっているARE内管の内部クラッド面に接する第3の管を配置してもよい。
【0052】
反共振要素プリフォームが何重にも入れ子になっている場合は、ARE外管の中に配置されている複数の管を区別するため、必要に応じて「入れ子になっている外側のARE内管」と「入れ子になっている内側のARE内管」とが区別される。
【0053】
シリンダ形の反共振要素プリフォームおよびそれらのシリンダ形構造要素に関連する「断面」という用語は、常に、それぞれのシリンダ長手方向軸に対して垂直の断面を示し、特に指定がない限り、管状構成部品における外部輪郭の断面を示すものである(内部輪郭の断面ではない)。
【0054】
一次プリフォームのさらなる加工により、とりわけ熱成形処理により、元の反共振要素プリフォームが初期形状に対して変化した形状で存在する中間製品を作ることができる。ここでは、変化した形状も同様に反共振要素プリフォームまたは反共振要素前段階と呼ぶ。
【0055】
プリフォーム/一次プリフォーム/二次プリフォーム/コアプリフォーム(ケーン)
プリフォームは、反共振中空コアファイバが線引きされる構成部品である。これには、一次プリフォームまたは一次プリフォームのさらなる加工によって作製される二次プリフォームがある。一次プリフォームは、少なくとも1本の被覆管と、その中に緩くまたは堅固に固定された状態で収納されている、反共振要素のためのプリフォームまたは前段階とからなる集合体であってよい。一次プリフォームを、中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工することは、
(i) 延伸、
(ii) コラップス、
(iii) コラップスおよび同時延伸、
(iv) 追加のクラッド材料のコラップス、
(v) 追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi) 追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行されることを含む。
【0056】
文献においてコアプリフォーム(英語:ケーン、Cane)とは、一次プリフォームのコラップスおよび/または延伸によって得られるプリフォームである。通常、コアプリフォームは、中空コアファイバの線引き前または線引き時に追加のクラッド材料により覆われる。
【0057】
延伸/コラップス
延伸では、一次プリフォームが長く伸ばされる。この延伸は、同時コラップスなしで行ってよい。延伸は一定の縮尺に従って行うことができるため、例えば一次プリフォームの構成部品の形状および配置は延伸した最終製品に反映されている。しかし、延伸では、一次プリフォームが寸法どおりに線引きされず、幾何形状が変化する可能性もある。
【0058】
コラップスでは内部ボアを狭くしたり、管状構成部品間の環状の隙間を塞いだり、狭くしたりする。このコラップスは、通常、延伸と平行して行われる。
【0059】
中空コア/内部クラッド領域/外部クラッド領域
少なくとも1つの被覆管と、その中に緩くまたは堅固に固定された状態で収納されている反共振要素のプリフォームまたは前段階とからなる集合体を、ここでは「一次プリフォーム」とも呼ぶ。この一次プリフォームは、中空コアとクラッド領域から構成される。このクラッド領域は、例えば集合体へのコラップスによって形成された「外部クラッド領域」が存在しており、これらのクラッド領域を区別する必要がある場合は、「内部クラッド領域」とも呼ばれる。「内部クラッド領域」と「外部クラッド領域」という名称は、中空コアファイバや一次プリフォームのさらなる加工によって得られる中間製品の該当する領域に対しても使用される。
【0060】
「管内側」という名称は「管の内部クラッド面」の同義語としても用いられ、「管外側」という名称は「管の外部クラッド面」の同義語としても用いられる。管に関連した用語「内部ボア」は、内部ボアが穴あけ作業によって形成されたことを意味するものではない。
【0061】
切削加工
加工物を分離加工するための機械的製造方式であり、特に旋盤加工、切断加工、穴あけ加工、鋸加工、フライス加工または研磨加工を意味する。この加工により、被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造が得られ、これは反共振要素プリフォームの位置決め補助として用いられる。長手方向構造は被覆管内側からアクセスできるようになっており、被覆管壁全体を通って外側まで延びていてもよい。
【0062】
粒度および粒度分布
SiO粒子の粒度および粒度分布は、D50値に基づき特徴付けられる。この値は、SiO粒子の累積量を粒度に応じて示す粒度分布曲線から読み取られる。粒度分布は、それぞれのD10値、D50値、D90値に基づき特徴付けられることが多い。このとき、D10値はSiO粒子の累積量の10%に達しない粒度を示し、対応して、D50値およびD90はSiO粒子の累積量の50%または90%に達しない粒度を示す。粒度分布は、ISO13320に準拠した散乱光およびレーザー回折分光法によって検出される。
【0063】
実施例
以下に、実施例に基づき、図を用いて本発明を詳しく説明する。詳細は図に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】外層シリンダおよび一次プリフォームからなる同軸の管配置体の断面図であり、一次プリフォームは被覆管と、その中に位置決めされて固定されている反共振要素プリフォームとから構成されている。
図2】外層シリンダと被覆管におけるフッ素濃度と粘性の半径方向の推移を示したグラフである。
図3】中空コアファイバのためのプリフォームの理想的な半径方向の濃度プロファイルまたは粘性プロファイルを説明するためのグラフである。
【0065】
中空コアファイバまたは中空コアファイバのためのプリフォームの製造では、多数の構成部品を相互に接続しなければならない。さらに、熱成形プロセスを実行する場合、プリフォームに存在している隙間やチャネルを封止することは有益である。独国特許出願公開第102004054392A1から公知のように、接合または封止には、SiOベースの封止材または接合材が使用される。このとき、シリカガラス粉粒体の湿式製粉によって、D50値が約5μmおよびD90値が約23μmによって特徴付けられる粒度分布を有する非晶質SiO粒子を含む水性スラリーが生成される。このベーススラリーに、約5μmの中等度の粒度を持つ非晶質SiO粒子が混合される。接合材として使用されるスラリーは、90%の固形物含有量を有し、少なくとも99.9質量%はSiOから構成されている。
【0066】
図1は、外層シリンダ2、被覆管壁を備える被覆管3による同軸の管配置体1の図であり、被覆管壁の内側にはあらかじめ定義された方位角位置に反共振要素プリフォーム4が均等な間隔で固定されており、この実施例では6個のプリフォーム4があり、図示されていない別の好適な実施形態では奇数のプリフォームがある。
【0067】
被覆管3の外径は27mmであり、内径は20mmである。反共振要素プリフォーム4は、ARE外管4aとARE内管4bからなる、互いに入れ子になっている構造要素の集合体として存在している。ARE外管4aの外径は6.2mm、ARE内管4bの外径は2.5mmである。両方の構造要素(4a;4b)の壁厚は同じで、0.3mmである。すべての管状構成部品2、3、4a、4bは、長さが700mmある。
【0068】
反共振要素プリフォーム4は、SiOベースの接合材によって被覆管3の内壁に固定される。接合材は被覆管内部クラッド面の端面領域に局所的に塗布され、その上に、個々の反共振要素プリフォーム4用保持アームが構造的に所定のように星形に配置されている位置決めテンプレートを使用して、反共振要素プリフォーム4が載せられる。このとき、位置決めテンプレートの作用は、両方の端面側の被覆管端部の周りの領域に制限されている。この方式により、被覆管3と反共振要素プリフォーム4との間で正確かつ再現可能な接続が生じる。固定するための接合材の硬化は、300℃以下の低い温度で十分なため、周辺領域の強い加熱およびそれによる反共振要素プリフォーム4の変形は回避される。
【0069】
このようにして得られた一次プリフォームに、シリカガラスからなる外層シリンダ2がかぶせられる。外層シリンダ2の外径は63.4mmであり、壁厚は17mmである。被覆管3への外層シリンダ2のコラップス時に、同軸の管配置体が同時に延伸される。そのために、長手方向軸を垂直方向に配置して、被覆管3と外層シリンダ2の同軸配置体を温度制御式の加熱ゾーンに下から送り込み、その中で配置体の上端部から始まってゾーンごとに軟化させていく。加熱ゾーンは、+/-0.1℃の制御精度で1580℃の目標温度に保たれる。これにより、加熱ゾーンでの温度変動を+/-0.5℃未満に制限ることができる。
【0070】
コラップスおよび延伸プロセスで形成された二次プリフォームは約50mmの外径を有し、外部クラッドと内部クラッドから構成されるクラッド壁厚は16.6mmである。続いてこの二次プリフォームを線引きして、反共振中空コアファイバが形成される。事前に、すべての反共振要素プリフォームは封止材または接合材により封止される。この場合、封止材は、ファイバ線引きプロセス時に上を向いている反共振要素プリフォームの端面にのみ塗布されている。この端面は、同時にガス接続部としても用いられるシリカガラスからなる保持管と接続される。このホルダは、封止材または接合材によって外層シリンダ2と被覆管3に固定される。
【0071】
ファイバ線引きプロセスでは、長手方向軸を垂直方向に配置して、二次プリフォームを温度制御式加熱ゾーンに上から送り込み、その中で下端部から開始してゾーンごとに軟化させていく。同時に、コア領域(中空コア)にガスを送り込み、コア領域の内圧を4mbarに設定する。加熱ゾーンは、+/-0.1℃の制御精度で約2080℃の目標温度に保たれる。これにより、加熱ゾーンでの温度変動を+/-0.5℃未満に制限ることができる。
【0072】
中空コアファイバの線引きによって従来の絶対的な幾何形状誤差がスケールダウンされるため、中空コアファイバにおいて反共振要素プリフォームから得られる反共振要素では、壁厚での最大偏差が3.5%未満(平均壁厚に対して)になる。
【0073】
壁厚での誤差ーが小さいことは、一方で、比較的大きな二次プリフォームが使用され、それに伴って現存の絶対的な幾何形状誤差がスケールダウンされることにその理由があり、他方では、熱成形プロセス(延伸およびコラップス、ファイバ線引き)時の比較的低い加工温度によってももたらされる。また、外層シリンダ2と被覆管3がフッ素ドープされたシリカガラスからなることも、低い加工温度の理由となる。これらの構成部品は、同軸配置体1において面積のもっとも大きな構成部品になり、実質的に加工温度を決定する。面積のもっとも大きな二次プリフォーム構成部品により、必要な加工温度を下げることができるため、さらに内部にある反共振要素プリフォーム4は熱成形プロセスの際により低い温度に晒されることにより、反共振要素プリフォームの相対的剛性および熱安定性が間接的に改善される。
【0074】
以下の表1には、同軸配置または二次プリフォームの構成部品材料に関するデータがまとめられている。
【0075】
【表1】
【0076】
フッ素でドープしたシリカガラス管(2;3)は、管壁の中心でフッ素濃度が最大となるフッ素濃度プロファイルを有している。表1の「材料」列に記載されているシリカガラスのフッ素濃度に関するデータは平均値である。
【0077】
図2のグラフは、被覆管C(M)と外層シリンダC(Z)で測定されたフッ素濃度プロファイルC(重量ppm)、ならびに温度1250℃での濃度プロファイルから計算した、半径方向の位置座標(位置P(mm))に沿った粘性プロファイルη(lg dPa・s)を示している。
【0078】
シリカガラスのフッ素濃度変化は、赤外線分光法で測定される。粘性は、所定の温度においてフッ素濃度に対応しており、アンドープシリカガラスの基準値(η=11.8dPa・s(100%に該当))に基づいて以下の式を使って算出される:
1250℃での粘性の低下:フッ素重量%当たり12%(±2%)。
【0079】
表2には、市販のシリカガラス品質のフッ素濃度に対する粘性値が示されている(測定温度1250℃)。
【0080】
【表2】
【0081】
図2のグラフは、外層シリンダの粘性η(Z)が被覆管の粘性η(M)よりも低いことを示している。両方のシリカガラス管で、粘性は管の中央で最小値となり、被覆管では約1011.45dPa・s、外層シリンダでは約1010.65dPa・sである。従って、最小値(lg dPa・s)の粘性差は約0.80dPa・sである。被覆管外側領域の被覆管の粘性(約1011.5dPa・s)と外層シリンダの粘性最小値との差は、約0.85(lg dPa・s)である。
【0082】
プリフォームにおいて、被覆管の外部クラッド面と外層シリンダの内部クラッド面は共通の接触面になっている。粘性プロファイルに転記された接触面の位置は、グラフでは2つの長方形「K」によって示されている。この位置では、外層シリンダと被覆管の粘性の値は以下のようになっている:
被覆管:約11.5 lg(dPa・s)
外層シリンダ:約11.15 lg(dPa・s)
従って、接触面領域の粘性差は、約0.35(lg dPa・s)である。
【0083】
反共振要素プリフォーム(4)の構造要素(4a;4b)は、アンドープシリカガラスからなり、約1011.8dPa・sの粘性を有している。
【0084】
図3のグラフは、理想的な形状の二次プリフォームの壁での半径方向のドーパント濃度変化を示している。y軸は、位置座標P(相対的単位)に対するフッ素濃度C(相対的単位)である。接触面「K」では、外層シリンダ由来のフッ素ドープされたシリカガラスのドーパント濃度C(Z)と、被覆管由来のフッ素ドープされたシリカガラスの濃度C(M)とが理想的に同じ高になっている。従って、被覆管と外層シリンダの粘性の該当する粘性プロファイルは、接触面Kで同じ粘性を示していることになる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】