(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ポリマー組成物、およびポリマー組成物から作製された発泡ポリプロピレンビーズ
(51)【国際特許分類】
C08L 23/14 20060101AFI20220915BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20220915BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20220915BHJP
B29C 44/54 20060101ALI20220915BHJP
B29C 44/60 20060101ALI20220915BHJP
C08J 9/18 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C08L23/14
C08L23/16
B29C44/00 G
B29C44/54
B29C44/60
C08J9/18 CES
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502896
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(85)【翻訳文提出日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2020070276
(87)【国際公開番号】W WO2021013723
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】201910654652.X
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ティン
(72)【発明者】
【氏名】ジアン,チャオドン
(72)【発明者】
【氏名】グライン,クリステル マリー エレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】エス,ファン マールテン アントニウス
(72)【発明者】
【氏名】チューニッセン,マルク レオ ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】クリスト,ヨハン マリア
(72)【発明者】
【氏名】ウェン,リアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イージエ
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA24A
4F074BA32
4F074CA35
4F074CA38
4F074CA49
4F074CC47Z
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA32
4F074DA35
4F074DA45
4F214AA11
4F214AB02
4F214AC01
4F214AG20
4F214AR03
4F214AR06
4F214UA21
4F214UB01
4F214UF01
4J002BB141
4J002BB151
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
本発明は、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の総量に基づいて(85~100重量%)のプロピレンコポリマーを含み、プロピレンコポリマー中のコモノマーが、エチレンから誘導された部分、(4)~(20)個の炭素原子を有するα-オレフィン、またはそれらの組合せから選択され、コモノマーの量が、プロピレンコポリマーに基づいて(0.50~4.5)重量%の範囲であり、(116~151℃)の温度範囲における溶融プロピレンコポリマーの分率が、プロピレンコポリマーの総重量に基づいて(65~90)重量%の範囲である、ポリマー組成物に関する。本発明はまた、該ポリマー組成物を含む発泡ポリプロピレン(EPP)ビーズに関する。本発明は、そのようなEPPビーズの使用にさらに関する。本発明は、そのようなEPPビーズを調製するプロセスにさらに関する。本発明はまた、該EPPビーズから作製された物品に関する。本発明は、そのような物品の使用にさらに関する。本発明は、そのような物品を調製するプロセスにさらに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、前記ポリマー組成物の総量に基づいて85~100重量%のプロピレンコポリマーを含み、前記プロピレンコポリマー中のコモノマーが、エチレンから誘導された部分、4~20個の炭素原子を有するα-オレフィン、またはそれらの組合せから選択され、前記コモノマーの量が、前記プロピレンコポリマーに基づいて0.50~4.5重量%の範囲であり、116~151℃の温度範囲における溶融プロピレンコポリマーの分率が、前記プロピレンコポリマーの総重量に基づいて65~90重量%の範囲である、ポリマー組成物。
【請求項2】
ASTM D4092-07(2013)に準じ、1Hz、6%振動ひずみ、5℃/分の速度で27℃から160℃までの昇温(temperature ramp)での、17.5mmシングルカンチレバージオメトリー(Single Cantilever Geometry)を用いる振動性昇温の環境で試験した場合、151℃で前記プロピレンコポリマーのtan δが、0.160~0.080、好ましくは0.155~0.090、より好ましくは0.150~0.100、より好ましくは0.140~0.110、最も好ましくは0.135~0.115の範囲である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記プロピレンコポリマー中のコモノマーが、エチレンから誘導された部分である、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記コモノマーの量が、前記プロピレンコポリマーに基づいて1.0~4.4重量%、好ましくは2.0~4.3重量%、好ましくは3.0~4.2重量%、好ましくは3.6~4.1重量%、好ましくは3.7~4.0重量%の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記プロピレンコポリマーのメルトフローインデックス(MFI)が、230℃で2.16kgの荷重で、ISO1133-1:2011に準じて決定された場合、5~15g/10分、好ましくは6~12g/10分、好ましくは7~10g/10分の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記プロピレンコポリマーの破断ひずみが、ISO527-1(2012)に準じて決定された場合、500~5000MPaである、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記116~151℃の温度範囲における溶融プロピレンコポリマーの分率が、前記プロピレンコポリマーの総重量に基づいて68~90重量%、好ましくは70~90重量%の範囲である、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
発泡ポリプロピレンビーズの調製プロセスであって、以下の順序で、
- 請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物を用意するステップ
- 請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物および水を、加圧密閉容器の中に置くステップであって、前記ポリマー組成物と水との間の質量比が、1:5~5:1の範囲である、ステップ
- 前記容器を140~165℃の温度範囲まで加熱し、0.5~6.0MPaの圧力範囲となるように必要量の二酸化炭素、窒素、または空気などの不活性ガスを前記容器に注入するステップ
- 前記目標の温度および圧力になったならば、前記温度および圧力を、10~60分の範囲の時間、維持するステップ
- 前記容器を、室温および気圧レベル1barまで解放するステップ
- 発泡ポリプロピレンビーズを前記容器から取り出し、発泡ポリプロピレンビーズを乾燥させるステップ
を含む、プロセス。
【請求項9】
95~100重量%の、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む発泡ポリプロピレンビーズ。
【請求項10】
請求項9に記載の発泡ポリプロピレンビーズを用いて調製された蒸気成形物品。
【請求項11】
蒸気成形物品の調製プロセスであって、
- 請求項9に記載の発泡ポリプロピレンビーズを用意するステップ
- 前記発泡ポリプロピレンビーズを金型に入れ、それを融着させることによって、前記発泡ポリプロピレンビーズを前記物品へと蒸気成形させるステップであって、このステップの温度範囲が130℃~150℃であり、このステップの圧力範囲が2.7~4.5MPaであり、このステップの期間が5~20分の範囲である、ステップ
を含む、プロセス。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用であって、安定した発泡倍率を有する発泡ポリプロピレンビーズを作製するための、または前記ポリマー組成物から作製された発泡ポリプロピレンビーズを使用する蒸気成形プロセスにおけるエネルギー消費を低減するための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンコポリマーを含むポリマー組成物に関する。本発明は、そのようなポリマー組成物の使用にさらに関する。本発明は、そのようなポリマー組成物を調製するプロセスにさらに関する。
【0002】
本発明はまた、該ポリマー組成物を含む発泡ポリプロピレン(EPP)ビーズに関する。本発明は、そのようなEPPビーズの使用にさらに関する。本発明は、そのようなEPPビーズを調製するプロセスにさらに関する。
【0003】
本発明はまた、該EPPビーズから作製された物品に関する。本発明は、そのような物品の使用にさらに関する。本発明は、そのような物品を調製するプロセスにさらに関する。
【背景技術】
【0004】
EPPビーズは、発泡粒子である。これは、ポリプロピレンペレットを使用して、このペレットをEPPビーズへと発泡させるオートクレーブプロセスにおいて作製され得る。ポリプロピレンペレットおよびEPPビーズの形状は、いずれも準球形である。ポリプロピレンペレットの直径は0.5~1.5mmの範囲であり、一方、EPPビーズの直径は1.0~5.5mmの範囲である。発泡の程度は、発泡前のEPPビーズとポリプロピレンペレットとの間の体積比である、発泡倍率によって表すことができる。EPPビーズを使用して、蒸気成形プロセスにおいて物品を作製することができる。
【0005】
EPPビーズから作製された蒸気成形物品は、例えば、軽量、優秀な断熱、良好な耐薬品性、および高い耐衝撃性という特性を特有に持ち併せているために、自動車、建築物、家具、および玩具などの様々な分野で使用されることは既知である。
【0006】
特許文献1は、140℃を超える融点および12g/10分以下のメルトフローレートを有する、メタロセン重合触媒によって作製されたプロピレンコポリマーを含むEPPビーズを開示している。特許文献1は、そのようなプロピレンコポリマーを含むEPPビーズが良好な成形性を有することを述べている。
【0007】
特許文献2は、示差走査熱量計(DSC)を使用した融点の測定によって得られたDSC曲線上に少なくとも2つの溶融ピーク(少なくとも2つの溶融ピークは、(i)100℃以上かつ130℃以下の最低温度溶融ピークおよび(ii)140℃以上かつ160℃以下の最高温度溶融ピークを含む)を有したポリプロピレン樹脂から、基材樹脂として、EPPビーズを作製することによって、(i)非常に低い金型加熱蒸気圧で、型内発泡成形生成物を作製することができ、(ii)金型加熱蒸気圧が上昇しても、低いゆがみ、低い収縮、および成形のための広範な加熱条件を示し、(iii)複雑な形状を有する金型、大きな金型などを使用して発泡粒子を成形した場合、満足のいく成形性を示し、(iv)EPPビーズによってポリプロピレン樹脂型内発泡成形生成物を調製する場合、大きな損失なく圧縮強度などのその特性を維持する、EPPビーズを得ることが可能であったことを開示している。
【0008】
特許文献3は、コポリマー系樹脂および発泡剤を含む発泡オレフィン樹脂を開示しており、ここで、コポリマー系樹脂は、約90~99.999重量パーセントのオレフィンおよび約0.001~10重量パーセントのα-ωジエンから構成されており、コポリマー系樹脂は、約30,000~500,000ダルトンの重量平均分子量と、115℃~135℃の範囲の結晶化温度と、230℃および2.16kgの荷重でASTM D-1238を使用して決定されるとき、0.1dg/分~100dg/分の範囲のメルトフローレートと、を有している。特許文献3によると、そのような樹脂は、物理的、機械的、および流動学的特性が改善されていることが見出された。
【0009】
温度偏差が0.5℃でも発泡倍率に10倍の差をもたらす可能性があるため、EPPビーズの作製プロセスは、通常、高い基準の温度制御が必要であることが既知である。実際には、EPPビーズ作製プロセスの間、温度の揺らぎが全くなく、温度を完全に安定に保つことは、技術的に困難である。温度の揺らぎは、発泡倍率が有意に変化することにより、最終生成物の高い不良率につながる可能性がある。この態様から、本発明の目的は、一定の温度範囲にわたり安定な発泡倍率を有するポリマー組成物を提供することである。
【0010】
また、蒸気成形は、エネルギー消費プロセスであることも既知である。蒸気成形プロセスの温度設定は下げることが可能であるため、より低い溶融温度を有するポリマー組成物から作製されたEPPビーズを蒸気成形プロセスにおいて使用して、エネルギー消費を低減させることが可能であるが、このタイプのポリマー組成物は、蒸気成形物品の剛性の低下をまねくことが多い。したがって、本発明のさらなる目的は、同じレベルの剛性を保ちながら、エネルギー消費が低減された蒸気成形プロセスにおいて調製された物品を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第1036814号明細書
【特許文献2】欧州特許第2487199号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0090571号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明の発明者らによって、上述の技術的問題は、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の総量に基づいて85~100重量%のプロピレンコポリマーを含み、プロピレンコポリマー中のコモノマーが、エチレンから誘導された部分、4~20個の炭素原子を有するα-オレフィン、またはそれらの組合せから選択され、コモノマーの量が、プロピレンコポリマーに基づいて0.50~4.5重量%の範囲であり、116~151℃の温度範囲における溶融プロピレンコポリマーの分率が、プロピレンコポリマーの総重量に基づいて65~90重量%の範囲である、ポリマー組成物によって解決されることが見出された。
【0013】
驚くべきことに、そのようなポリマー組成物は、EPPビーズ作製プロセスの間、温度変化が1℃を超えても安定な発泡倍率を有することが見出された。そのようなポリマー組成物から作製されたEPPビーズによって作製された蒸気成形物品は、同じレベルの剛性を維持しながら、成形の間、必要なエネルギーがより低いことも見出された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】市販のSABIC PP 9421のSSAの結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
プロピレンコポリマー
ポリオレフィン産業の関連において、プロピレンコポリマーには、2つの周知のカテゴリー、すなわちプロピレンランダムコポリマーおよび異相プロピレンコポリマーがある。これらの2つのタイプのプロピレンコポリマー間の違いは、前者は均質であり、後者は異相であることである。本発明の目的のために、プロピレンコポリマーは、好ましくはプロピレンランダムコポリマーである。
【0016】
コモノマー
プロピレンコポリマー中のコモノマーは、エチレンから誘導された部分、4~20個の炭素原子を有するα-オレフィン、またはそれらの組合せから選択される。
【0017】
プロピレンコポリマー中のコモノマーの量は、プロピレンコポリマーに基づいて0.50~4.5重量%、好ましくは1.0~4.4重量%、好ましくは2.0~4.3重量%、好ましくは3.0~4.2重量%、好ましくは3.6~4.1重量%、好ましくは3.7~4.0重量%の範囲である。
【0018】
好ましいプロピレンコポリマー中のコモノマーは、エチレンから誘導された部分である。
【0019】
メルトフローインデックス(MFI)
プロピレンコポリマーのMFIは、230℃で2.16kgの荷重で、ISO1133-1:2011に準じて決定された場合、5~15g/10分、好ましくは6~12g/10分、好ましくは7~10g/10分の範囲であり得る。
【0020】
熱的-機械的挙動
プロピレンコポリマーの熱的-機械的挙動は、動的機械分析(DMA)によって決定される。EPPビーズ作製プロセスの間の安定した発泡のために、ASTM D4092-07(2013)に準じ、1Hz、6%振動ひずみ、5℃/分の速度で27℃から160℃までの昇温(temperature ramp)での、17.5mmシングルカンチレバージオメトリー(Single Cantilever Geometry)を用いる振動性昇温の環境を用いて、151℃でプロピレンコポリマーのtan δは、0.160~0.080、好ましくは0.155~0.090、より好ましくは0.150~0.100、より好ましくは0.140~0.110、最も好ましくは0.135~0.115の範囲であり得る。
【0021】
DMA試験は、例えば、TA Instrument DMA 850機器上で、4*10*40mmのサンプルサイズで実施され得る。
【0022】
熱的挙動
116~151℃の温度範囲における溶融プロピレンコポリマーの分率は、プロピレンコポリマーの総重量に基づいて65~90重量%、好ましくは68~90重量%、好ましくは70~90重量%の範囲である。
【0023】
116~151℃の温度範囲における溶融プロピレンコポリマーの分率は、SSA(Successive Self-nucleation and Annealing)測定によって決定され得る。
【0024】
SSA(Successive Self-nucleation and Annealing)は、示差走査熱量測定(DSC)熱分別のための方法論であり、Muellerらによって開発された(A.J.Muller、Z.H.Hernandez、M.L.Arnal、J.J.Sanchez;Successive self-nucleation/annealing(SSA):A novel technique to study molecular segregation during crystallization;Polym Bulletin、1997、39、465~472。)。この方法を使用することによって、本発明者らは、特定の温度範囲において溶融されたポリマーの分率を正確に示すことができた。
【0025】
SSA試験は、DSC機器、例えばDSC TA Q1000上で実施することができる。
【0026】
例えば、116~151℃の温度範囲における溶融プロピレンコポリマーの分率は、116~151℃の範囲内における溶融エンタルピーと総溶融エンタルピーとの間の比率として算出することができ、ここで、エンタルピー値は、以下の温度設定を用いてISO 11357-3:2018に準じて実施される試験において得ることができる:
a) 5分間の、0℃での等温。
b) 10℃/分の温度変化率での、0℃から230℃までの加熱
c) 5分間の、230℃での等温。
d) 10℃/分の温度変化率での、230℃から25℃までの冷却
e) 5分間の、25℃での等温。
f) 10℃/分の温度変化率での、25℃から166℃までの加熱
g) 5分間の、166℃での等温。
h) 10℃/分の温度変化率での、166℃から25℃までの冷却
i) 5分間の、25℃での等温。
j) 10℃/分の温度変化率での、25℃から161℃までの加熱
k) 5分間の、161℃での等温。
l) 10℃/分の温度変化率での、161℃から25℃までの冷却
m) 5分間の、25℃での等温。
n) i)からm)のステップを、41℃になるまで、5分の等温時間を用いながら段階的に、毎回5℃ずつ下げる連続ループにおいて繰り返す。
【0027】
別法として、116~151℃の温度範囲における溶融プロピレンコポリマーの分率は、116~151℃の範囲において熱流-温度曲線と温度軸とに挟まれた面積と、熱流-温度曲線と温度軸とに挟まれた総面積と、の間の比率として算出することができ、ここで、熱流-温度曲線は、以下の温度設定を用いて、ISO 11357-3:2018に準じて実施される試験において得ることができる:
a) 5分間の、0℃での等温。
b) 10℃/分の温度変化率での、0℃から230℃までの加熱
c) 5分間の、230℃での等温。
d) 10℃/分の温度変化率での、230℃から25℃までの冷却
e) 5分間の、25℃での等温。
f) 10℃/分の温度変化率での、25℃から166℃までの加熱
g) 5分間の、166℃での等温。
h) 10℃/分の温度変化率での、166℃から25℃までの冷却
i) 5分間の、25℃での等温。
j) 10℃/分の温度変化率での、25℃から161℃までの加熱
k) 5分間の、161℃での等温。
l) 10℃/分の温度変化率での、161℃から25℃までの冷却
m) 5分間の、25℃での等温。
n) i)からm)のステップを、41℃になるまで、5分の等温時間を用いながら段階的に、毎回5℃ずつ下げる連続ループにおいて繰り返す。
【0028】
この代替の方法を例示するために、市販のSABIC PP 9421のSSAの結果を
図1に示す。全熱流曲線下の総面積をYJ/gとし、115℃から155℃の間(破線)の熱流曲線下の面積をXJ/gとし、次いで、115℃から155℃の間の溶融SABIC PP 9421の分率を、X/Yとして算出することができる。
【0029】
触媒
また、プロピレンコポリマーを作製するための触媒も、当技術分野において既知であり、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒がある。好ましくは、本発明のポリプロピレンを作製するために使用される触媒は、フタラートを含んでおらず、例えば、触媒は、IUPACの4~6族の遷移金属の化合物、2族金属化合物、および内部供与体を含み、ここで、該内部供与体は、任意選択により置換されている、マロネート、マレエート、スクシナート、グルタラート、シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、ベンゾエート、ならびにそれらの誘導体および/または混合物から選択される化合物であり、好ましくは、内部供与体はシトラコナートである。
【0030】
プロピレンコポリマーを調製するためのプロセス
プロピレンコポリマーを作製するためのプロセスは、当技術分野において既知であり、バルク重合、気相重合、スラリー重合、溶液重合、またはそれらの任意の組合せなどがある。好ましくは、本発明のポリプロピレンは、少なくとも2つの反応器を含む逐次重合プロセスにおいて作製され、より好ましくは、本発明のポリプロピレンは、少なくとも3つの反応器を含む逐次重合プロセスにおいて作製される。
【0031】
ポリマー組成物
本発明によるポリマー組成物は、ポリマー組成物の総量に基づいて85~100重量%の上述のプロピレンコポリマーを含む。
【0032】
プロピレンコポリマーのほかに、ポリマー組成物は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、安定化剤、例えば熱安定化剤、酸化防止剤、UV安定化剤;顔料および染料のような着色剤;清澄剤;表面張力改質剤;潤滑剤;難燃剤;離型剤;流れ改善剤;可塑剤;帯電防止剤;外部エラストマー衝撃改質剤(external elastomeric impact modifiers);発泡剤;タルクおよび強化剤などの無機充填剤;ならびに/または、マレエート化ポリプロピレンなどの、ポリマーと充填剤との間の界面結合を高める成分を挙げることができる。添加剤の量は、それらのタイプおよび機能に依存し、ポリマー組成物の総量に基づいて0~15重量%の範囲である。
【0033】
一実施形態において、ポリマー組成物は、ポリマー組成物の熱伝導度を改善し得る薬剤を含み、この薬剤は、例えばカーボンブラックであり得る。
【0034】
本発明によるポリマー組成物は、高い靭性を有することが好ましく、好ましくは、プロピレンコポリマーの破断ひずみは、ISO527-1(2012)に準じて決定された場合、500~5000MPaである。
【0035】
ポリマー組成物を調製するためのプロセス
ポリマー組成物は、プロピレンコポリマーと添加剤とを押出成形ステップにおいて混ぜ合わせることによって調製され得る。ポリマー組成物を調製するための押出機の設定は、当業者には既知である。このプロセスにおいて得られたポリマー組成物は、ペレット形態であり、ここで、ポリマー組成物のペレットの形状は準球形であり、ポリマー組成物の直径は0.5~1.5mmの範囲である。
【0036】
EPPビーズ
EPPビーズは、ポリマー組成物のペレットをオートクレーブなどの加圧密閉容器の中に置き、それを水性媒体中で分散させることによって作製され得る。必要であれば、分散剤を添加することができる。
【0037】
次いで、密閉容器に必要量の発泡剤を供給し、混合物を圧力下で撹拌し、加熱して、発泡剤をポリマー組成物のペレットに含浸させる。
【0038】
ポリマー組成物のペレットに発泡剤が含浸した後、密閉容器の温度および圧力を、徐々に、任意選択により室温および大気レベルまで下げて、ペレットをEPPビーズへと発泡させる。
【0039】
水性媒体は、通常、水であり、ポリマー組成物のペレットと水性媒体との間の質量比は、1:5~5:1、好ましくは1:3~3:1、最も好ましくは1:2~2:1の範囲である。
【0040】
任意選択による分散剤は、アルミナ、リン酸三カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、およびマイカなどの、水に難溶性である無機材料、または水溶性ポリマーをベースとした保護コロイド剤である、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、およびメチルセルロースであり得る。さらに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムまたはアルカンスルホン酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤が、分散剤として使用され得る。
【0041】
本発明において使用される発泡剤は物理発泡剤であり、例えば、ハロゲン化炭化水素、エタン、もしくはジクロロメタンなどの有機系物理発泡剤、または二酸化炭素、窒素、もしくは空気などの無機ガス、またはそれらの混合物である。これらの発泡剤うち、二酸化炭素、窒素、もしくは空気などの不活性ガスを主要成分として使用するのが好ましい。最も好ましくは、発泡剤は、二酸化炭素である。発泡剤の量は、容器の体積、ポリマー組成物と水性媒体との間の質量比、容器の温度および圧力設定に応じて、調整可能である。
【0042】
本発明の目的のために、含浸ステップの間、加圧密閉容器内部の温度は、140~165℃、好ましくは145~160℃、好ましくは148~157℃、好ましくは149~155℃の範囲である。例えば、加圧密閉容器内部の温度は、含浸ステップの間、151℃である。当業者は、所望の発泡倍率を有するEPPビーズが得られるように、温度を調整することができる。
【0043】
含浸ステップの間の加圧密閉容器内部の圧力は、0.5~6.0MPa、好ましくは1.5~5.0MPaの範囲である。当業者は、所望の発泡倍率を有するEPPビーズが得られるように、圧力を調整することができる。
【0044】
含浸ステップの典型的な期間は、10~60分の範囲である。当業者は、所望の発泡倍率を有するEPPビーズが得られるように、含浸期間を調整することができる。
【0045】
例えば、EPPビーズの調製プロセスは、以下の順序のステップを含む:
- 上述のポリマー組成物を用意するステップ
- 上述のポリマー組成物および水を、加圧密閉容器の中に置くステップであって、ポリマー組成物と水との間の質量比が、1:5~5:1の範囲である、ステップ
- 容器を140~165℃の温度範囲まで加熱し、0.5~6.0MPaの圧力範囲となるように必要量の二酸化炭素、窒素、または空気などの不活性ガスを容器に注入するステップ
- 目標の温度および圧力になったならば、温度および圧力を、10~60分の範囲の時間、維持するステップ
- 容器を、室温25℃および気圧レベル1barまで解放するステップ
- EPPビーズを容器から取り出し、EPPビーズを乾燥させるステップ。
【0046】
例えば、EPPビーズの調製プロセスは、以下の順序のステップを含む:
- 上述のポリマー組成物を用意するステップ
- 上述のポリマー組成物および水を、加圧密閉容器の中に置くステップであって、ポリマー組成物と水との間の質量比が、1:3~3:1の範囲である、ステップ
- 容器を149~155℃の温度範囲まで加熱し、1.5~5.0MPaの圧力範囲となるように必要量の二酸化炭素を容器に注入するステップ
- 目標の温度および圧力になったならば、温度および圧力を、10~60分の範囲の時間、維持するステップ
- 容器を、室温25℃および気圧レベル1barまで解放するステップ
- EPPビーズを容器から取り出し、EPPビーズを乾燥させるステップ。
【0047】
ポリマー組成物のペレットおよびEPPビーズの密度は、ISO845:2006に準じて試験される。発泡倍率は、ポリマー組成物のペレットの密度とそれから作製されたEPPビーズの密度との間の比率として算出される。EPPビーズの典型的な発泡倍率は、10~50の範囲である。
【0048】
本発明によるEPPビーズは、95~100重量%の上述のポリマー組成物を含む。
【0049】
本発明は、蒸気成形物品の調製のためのEPPビーズの使用にさらに関する。
【0050】
蒸気成形物品
蒸気成形物品は、以下のステップを有するプロセスにおいて調製される:
- 上述のEPPビーズを用意するステップ
- EPPビーズを金型に入れ、それを融着させることによって、EPPビーズを物品へと蒸気成形させるステップであって、このステップの温度範囲が130℃~150℃であり、このステップの圧力範囲が2.7~4.5MPaであり、このステップの期間が5~20分の範囲である、ステップ。
【0051】
本発明はまた、上述のEPPビーズを用いて調製された蒸気成形物品に関する。
【0052】
本発明は、自動車、建築構造物、および玩具への適用のための、蒸気成形物品の使用にさらに関する。
【0053】
本発明は、上述のポリマー組成物の使用であって、安定した発泡倍率を有するEPPビーズを作製するための、またはポリマー組成物から作製されたEPPビーズを使用する蒸気成形プロセスにおけるエネルギー消費を低減するための、使用にさらに関する。
【実施例】
【0054】
材料
ポリマー組成物1:ポリマー組成物1は、チーグラー・ナッタ触媒を用いるSperizone技術で作製されたポリプロピレンランダムコポリマーを100重量%含む。ポリマー組成物1中のコモノマーは、エチレンから誘導された部分である。エチレンから誘導された部分の量は、ポリマー組成物1の総量に基づいて3.80重量%である。
【0055】
ポリマー組成物2:ポリマー組成物2は、The Polyolefin Company(Singapore)から入手可能な、商品名COSMOPLENE(登録商標)W331のポリプロピレンランダムコポリマーを100重量%含む。ポリマー組成物2中のコモノマーは、エチレンから誘導された部分である。エチレンから誘導された部分の量は、ポリマー組成物2の総量に基づいて3.00重量%である。
【0056】
どちらのポリマー組成物も準球状のペレット形態で用意し、それらのペレットの直径は0.5~1.5mmの範囲である。
【0057】
サンプルの調製
射出成形
ポリマー組成物のペレットを、ASTM D4092-07(2013)に準じたDMA試験で使用されるべき4*10*40mmの寸法の標本、および引張試験で使用されるべきISO527-1A(2012)に準じた形状の標本に射出成形した。
【0058】
EPP調製
25kgのポリマー組成物ペレットを、25kgの水と共に150Lの内部体積のオートクレーブの中に置いた。次いで、オートクレーブを密閉し、加熱し、オートクレーブにCO
2を注入して、表1に示した温度設定で3MPaの圧力を維持した。温度および圧力が目標レベルに達したならば、CO
2を20分間維持して、ポリマー組成物ペレットを含浸させた。その後、オートクレーブを、大気圧1Barおよび室温25℃まで解放した。オートクレーブが解放されている間に、ポリマー組成物ペレットはEPPビーズへと膨張した。最後に、EPPビーズをオートクレーブから取り出し、乾燥させた。
【表1】
【0059】
蒸気成形物品の調製
25倍の発泡倍率を有するポリマー組成物1および2から作製されたEPPビーズを、10分間、表2の条件下で、50×50×5cmの寸法を有する物品へと蒸気成形させた。
【表2】
【0060】
試験方法
MFI
ポリマー組成物のペレットのMFIは、230℃で2.16kgの荷重で、ISO1133-1:2011に準じて試験した。
【0061】
破断ひずみ
破断ひずみは、ポリマー組成物の射出成形した標本に対して、ISO527-1(2012)に準じた引張試験において試験した。
【0062】
熱的-機械的試験
ASTM D4092-07(2013)に準じたDMA測定を、射出成形標本を用いて、TA Instrument DMA 850機器上で、1Hz、6%振動ひずみ、5℃/分の速度で27℃から160℃までの昇温での、17.5mmシングルカンチレバージオメトリーを用いる振動性昇温の環境で実施した。この試験で、ポリマー組成物の151℃におけるtan δが得られた。
【0063】
熱的挙動
116~151℃の範囲において溶融したポリマー組成物の分率は、以下の温度設定を用いてISO 11357-3:2018のプロトコールに準じたSSAによって測定した:
a) 5分間の、0℃での等温。
b) 10℃/分の温度変化率での、0℃から230℃までの加熱
c) 5分間の、230℃での等温。
d) 10℃/分の温度変化率での、230℃から25℃までの冷却
e) 5分間の、25℃での等温。
f) 10℃/分の温度変化率での、25℃から166℃までの加熱
g) 5分間の、166℃での等温。
h) 10℃/分の温度変化率での、166℃から25℃までの冷却
i) 5分間の、25℃での等温。
j) 10℃/分の温度変化率での、25℃から161℃までの加熱
k) 5分間の、161℃での等温。
l) 10℃/分の温度変化率での、161℃から25℃までの冷却
m) 5分間の、25℃での等温。
n) i)からm)のステップを、41℃になるまで、5分の等温時間を用いながら段階的に、毎回5℃ずつ下げる連続ループにおいて繰り返す。
【0064】
SSA試験は、DSC TA Q1000上で行った。
【0065】
116~151℃溶融したポリマー組成物の分率を、116~151℃の範囲内の溶融エンタルピーと総溶融エンタルピーとの間の比率として算出した。エンタルピー値は、DSC TA Q1000と結合したソフトウェアを介して直接エクスポートした。
【0066】
蒸気成形物品の圧縮弾性率
蒸気成形物品の圧縮弾性率は、ISO844:2014に準じて試験した。
【0067】
密度
両ポリマー組成物のペレットの密度、ならびにEPP作製1、2、および3において両ポリマー組成物から作製されたEPPビーズの密度は、ISO845:2006に準じて試験した。
【0068】
結果および考察
上述の試験の結果を、表3に示す。
【表3】
【0069】
表3によると、ポリマー組成物1は、116~151℃の温度範囲において溶融した分率が、ポリマー組成物2より大きく、ポリマー組成物1は、151℃におけるtan δ値が、ポリマー組成物2より低い。結果として、ポリマー組成物1の発泡倍率の変化は、ポリマー組成物2と比べて有意に改善されている。さらに、ポリマー組成物1から作製されたEPPビーズの蒸気成形条件は、ポリマー組成物2から作製されたEPPビーズの蒸気成形条件より低い温度および圧力の蒸気成形条件であるにもかかわらず、ポリマー組成物1をベースとした最終的な蒸気成形物品とポリマー組成物2をベースとした最終的な蒸気成形物品の圧縮弾性率は、同じである。これは、同じレベルの剛性を保ちながら、エネルギー消費が低減された蒸気成形プロセスにおいて調製された物品が得られることを意味する。さらに、ポリマー組成物1は、より高い破断ひずみを有するポリマー組成物2より、良好な靭性を示す。
【国際調査報告】