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特表2022-541519インビボでの分析物の非侵襲的測定のためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】インビボでの分析物の非侵襲的測定のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
G01N21/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502924
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 US2020043189
(87)【国際公開番号】W WO2021016416
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】62/878,074
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/927,804
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522019959
【氏名又は名称】サングイス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カッツ,ジェフリー オーウェン
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA05
2G043EA03
2G043GA01
2G043GA25
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA09
2G043JA02
2G043LA01
2G043NA01
(57)【要約】
分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するためのシステムは、サンプルの血液パルスを検出し、対応するパルス信号を発生させるためのインビボサンプルに結合されたパルスセンサと、波長、出力および直径を有するレーザ放射線を発生させるレーザ発生器であって、レーザ放射線がラマン信号を誘発するためにサンプルに向けられているレーザ発生器と、レーザ発生器を作動させるように適合されたレーザコントローラと、ラマン信号を受信し、分析物スペクトルデータを発生させるように配置された分光計と、パルスセンサ、レーザコントローラ、および分光計に結合され、サンプルの血液内の分析物からのスペクトル成分をサンプルの非血液成分から生じる分析物からのスペクトル成分から分離するために、レーザコントローラから受信したタイミングデータに基づいて、スペクトルデータをパルス信号と相関させるように適合されている、コンピューティングデバイスと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するためのプローブであって、
波長、出力および直径を有するレーザ放射線を出力するためのレーザ発生器と、
前記レーザ放射線を受容するように位置決めされている走査ミラーと、
前記走査ミラーに結合され、前記走査ミラーが時間の経過とともに前記サンプルの領域にわたって前記レーザ放射線の焦点を移動させ、それにより、前記サンプル上またはその中の任意の点における平均放射強度の減少を提供するように、前記走査ミラーを移動させるように適合されている機械的ドライバと、
前記サンプル上の前記レーザの前記焦点を追跡し、かつ前記サンプルの前記焦点における前記レーザ放射線の衝撃によって誘発され、そこから発せられるラマン信号を、同じ走査ミラーを介して受信するように位置決めされている収集光学系と、を備え、
前記サンプルから発せられる前記ラマン信号が、前記サンプル内の前記分析物を判定できるデータを含む、プローブ。
【請求項2】
前記機械的ドライバが、モータおよびシャフトを備え、前記シャフトが、前記走査ミラーに結合され、前記走査ミラーを回転させるように適合されている、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記機械的ドライバが、前記走査ミラーに結合され、前記ミラーを移動させるように適合されている圧電素子を備える、請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記レーザ発生器と走査デバイスとの間に位置決めされている、中央ミラーを支える窓であって、前記中央ミラーが、前記レーザ発生器から送られたレーザ放射線を第1の光路に沿って前記走査デバイスに向け直すように位置決めされており、前記窓が、ラマン信号およびレイリー散乱レーザ放射線が第2の光路に沿って検出器へ向かうように通過することを許容する、窓と、
前記レーザ放射線の前記波長の前記レイリー散乱放射線の少なくとも99.999パーセントを遮断し、前記第2の光路に沿って前記ラマン信号を通過させるように設計されているロングパスフィルタと、
前記第2の光路に沿って前記検出器に向けてさらに位置決めされ、前記ロングパスフィルタを通して受容された前記ラマン信号および残りのレーザ放射線を集束させるように適合されているコンデンサレンズと、
前記コンデンサレンズによって集束された前記ラマン信号を受信するように位置決めされ、前記ラマン信号および残りのレーザ放射線を検出器に送達するように適合されているファイバと、をさらに備える、請求項1に記載のプローブ。
【請求項5】
前記サンプルに衝撃を与える前記放射強度が1W/cm未満である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項6】
分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するための方法であって、
波長、出力、および直径を有するレーザ放射線を発生させることと、
前記レーザ放射線の焦点が、時間の経過とともに前記サンプルの領域を走査し、その結果、任意の単一の場所で前記サンプル上の平均放射強度が減少するように、前記レーザ放射線を前記サンプル上に偏向させることと、
前記サンプル上の前記焦点における前記レーザ放射線の前記衝撃によって誘発され、そこから発せられるラマン信号を収集することであって、前記サンプルから発せられる前記ラマン信号に、前記サンプル内の前記分析物を判定できるデータが含まれる、収集することと、を含む方法。
【請求項7】
前記放射線が、放射線を前記サンプル上に偏向させるように適合された回転ミラーによって偏向され、それにより、それにより、前記偏向された放射線が前記サンプル表面上でパターンをトレースする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザ放射線を前記サンプルに向けられた第1の経路に沿って向け直すことであって、前記放射線が、前記第1の経路に沿って走査構成要素によって偏向される、向け直すことと、
前記サンプルから散乱された放射線を、前記走査構成要素も含む第2の経路に沿って検出器に向け直すことと、
前記ラマン信号を通過させながら、前記レーザ放射線の波長のレイリー散乱放射線の少なくとも99.999パーセントをフィルタ除去することと、をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルに衝撃を与える前記放射強度が1W/cm未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するためのシステムであって、
前記サンプルの血液パルスを検出し、かつ対応するパルス信号を発生させるように適合されている、前記インビボサンプルに結合されているパルスセンサと、
波長、出力、および元の直径を有するレーザ放射線を出力するためのレーザ発生器であって、前記レーザ放射線が、前記サンプルに向けられ、前記サンプルからラマン信号を誘発するように適合されている、レーザ発生器と、
前記レーザ発生器のオンとオフを切り替えるように適合されているレーザコントローラと、
前記ラマン信号を受信し、かつ分析物濃度を計算できるスペクトルデータを発生させるために配置されている分光計と、
前記パルスセンサ、レーザコントローラおよび分光計に結合されたコンピューティングデバイスであって、前記コンピューティングデバイスが、前記サンプルの前記血液中の分析物からのスペクトル成分を、前記サンプルの非血液成分から生じる分析物からのスペクトル成分から分離するために、前記レーザコントローラから受信したタイミングデータに基づいて、前記スペクトルデータを前記パルスセンサから受信した前記パルス信号と相関させるように適合されている、コンピューティングデバイスと、を備える、システム。
【請求項11】
前記コンピューティングデバイスが、前記パルス信号の指数移動平均を計算し、かつ前記パルスセンサから得られた前記パルス信号が前記パルス信号の前記指数移動平均を下回ったときには第1のパスにおいて、前記パルス信号が前記パルス信号の前記指数移動平均を上回ったときには第2のパスにおいて、前記レーザ発生器を作動させるために前記レーザコントローラに信号を送信するように構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記コンピューティングデバイスが、前記第1のパスの間に受信されたスペクトルデータと、前記第2のパスの間に受信されたスペクトルデータとの間の差を計算する、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記レーザ放射線が衝撃を与える前記サンプル上の表面積が、元のビーム直径よりも大きくなり、前記サンプル表面の任意の場所において放射強度が対応して低下するように、前記レーザ放射線を前記サンプル上に偏向させるように適合されている走査ミラーをさらに備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
前記レーザ発生器によって生成される前記レーザ放射線の前記波長が、前記サンプル内に含まれる少なくとも1つの着目する分析物の共鳴増強を誘発するように選択される、請求項10に記載のシステム。
【請求項15】
分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するための方法であって、
前記インビボサンプルの血液のパルス信号を検出することと、
制御可能な時間において波長、出力、および元の直径を有するレーザ放射線を発生させることであって、前記レーザ放射線が、前記サンプルからラマン信号を誘発するように前記サンプルに向けられている、発生させることと、
前記ラマン信号から分析物のスペクトルデータを導き出すことと、
前記サンプルの前記血液内の分析物からのスペクトル成分を、前記サンプルの非血液成分から生じる分析物からのスペクトル成分から分離するように、前記スペクトルデータを前記パルス信号およびレーザ発生のタイミングと相関させることと、を含む、方法。
【請求項16】
前記パルス信号の指数移動平均を計算することと、
前記パルス信号が前記パルス信号の前記指数移動平均を下回ったときには、第1のパスの間に前記レーザ発生器をオンにし、前記パルス信号が前記パルス信号の前記指数移動平均を上回ったときには、第2のパスの間に前記レーザ発生器をオンにするように、前記レーザ発生器を制御することと、をさらに含み、
スペクトルデータが、前記血液パルスのピークおよび谷の間にのみ導き出される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
血液分析物を分離するために、前記血液パルスの前記ピーク時に発生した前記スペクトルデータと、前記血液パルスの前記谷時に発生した前記スペクトルデータとの間の差を計算すること、をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記レーザ放射線が衝撃を与える前記サンプル上の表面積が、前記元の直径よりも大きくなり、前記サンプル上の任意の場所において放射強度が減少するように、前記レーザ放射線を前記サンプル上に偏向させることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
実験ラマン信号データを含むスペクトルデータから分析物濃度を判定する方法であって、
インビボ対象から実験スペクトルデータの第1のセットを受信することと、
既知の分析物からスペクトルデータの第2のセットを受信することと、
前記実験データの第1のセット内のすべてのデータおよび前記スペクトルデータの第2のセット内のすべてのデータのランダムな重み付けに基づいて、半合成データサンプルを発生させることと、
前記半合成データを使用して、ラマン信号データから分析物濃度を判定するためのモデルをトレーニングすることと、を含む、方法。
【請求項20】
前記モデルが、機械学習アルゴリズムを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するための方法であって、
第1の波長の第1のレーザ放射線および第2の波長の第2のレーザ放射線を提供することと、
前記インビボサンプルの血液のパルス信号を検出することと、
一度に1つの波長のみの放射線が前記サンプルに向けられて、前記サンプルからラマン信号を誘発するように、単回の露光中に、前記パルス信号が前記パルス信号の前記指数移動平均を下回るか、または上回る場合に、前記第1および第2の波長の前記レーザ放射線を交互にオンにすることと、
スペクトルデータが、前記血液パルスのピークおよび谷の間にのみ発生し。
前記サンプルへの前記第1および第2のレーザ放射線の衝撃によって発生した前記ラマン信号から、重畳、加算、およびシフトされた第1および第2の分析物スペクトルデータを生成させることと、
バックグラウンド放射線の影響を除去し、前記血液から信号を分離するために、数学的モデルを使用して、前記重畳、加算、およびシフトされた第1および第2の分析物スペクトルデータを分離することと、を含む、方法。
【請求項22】
前記第2のレーザ放射線の前記波長が、前記第1のレーザ放射線の前記波長から2ナノメートル以下だけシフトされる、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、2020年7月13日に出願された同じタイトルを有する米国非仮特許出願第16/927,804号の優先権を主張し、これは、2019年7月24日に出願された、同じタイトルを有する米国仮特許出願第62/878,074号の優先権を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ケモメトリックス、分析物の濃度の判定に関するものであり、より具体的には、インビボでの分析物の非侵襲的測定のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
血糖計などの多くの一般的に使用される医療診断デバイスは、分析および/または診断の目的で患者から血液または他の組織を採取する必要があるという点で侵襲的である。この手順は、患者にとって苦痛であり、潜在的に危険であり得る。加えて、対象となる分析物の範囲全体に適用できる医療診断デバイスはほとんどなく、一般に、複数の分析物の濃度を判定するためにサンプルを研究所に送る必要がある。
【0004】
非侵襲的ケモメトリックスデバイスが導入されているが、これらは一般に適用範囲が限られており、すなわち、特定の分析物または分析物クラスの濃度判定にしか有用でないか、あるいは信号対雑音比(S/N)が悪く、テスト標準に対して90%の精度を下回っているという問題がある。前者の例として、Bergesonらによる記事「Resonance Raman Measurements of Carotenoids using Light Emitting Diodes」は、共鳴条件下でのカロテノイドのラマン線の検出に焦点を当てた商用デバイスについて報告している。Bergesonらによって開示された技術は、それが採用する特定の共鳴条件のために、広範囲の分析物に一般化されていない。近赤外分光法を含む他の非侵襲的技術は、特定の分析物(例えば、「Pulse Ox」)に使用されているが、そのような方法は、着目する他の多くの分析物(例えば、グルコース)に対して、または2つ以上の試験対象が調べられる場合、十分に正確ではなかった。
【0005】
したがって、必要なのは、広範囲の分析物に適用可能であり、個々の試験対象への較正を必要とせずに、正確な濃度測定を提供することができる、インビボで分析物を測定するための非侵襲的方法である。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に開示されるのは、分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するためのプローブである。プローブは、指定された波長、出力、およびビーム直径を有するレーザ放射線を出力するためのレーザ発生器と、サンプルの表面上のレーザ放射線の焦点が、時間の経過とともに移動し、それにより、サンプル上またはその中の任意の単一点において平均放射強度が低下するように、レーザ放射線をサンプル上に偏向するように適合されたドライバに結合された回転ミラーと、サンプルの焦点におけるレーザ放射線の衝撃によって誘発され、そこから発せされるラマン信号を、同じ走査ミラーを介して受信するように位置決めされた収集光学系と、を備える。サンプルに向けられたレーザ放射線は、サンプル内の分析物を測定するために使用されるサンプルからラマン信号を誘発するように適合されている。
【0007】
ある特定の実施形態では、機械的ドライバは、ミラーから偏向されたレーザ放射線がサンプル表面上のパターンをトレースするように、ミラーに結合され、ミラーを回転させるように適合されたモータとして実装されている。他の実施形態では、機械的ドライバは、サンプル表面上のパターンをトレースするために同様の方法で放射線を偏向させるために、ミラーに結合され、ミラーをピボットまたは振動させるように適合されている圧電素子として実装することができる。他のタイプのミラードライバを使用することができる。追加的に、レーザ放射線と収集光学系の焦点を追跡するのではなく、サンプルを移動することによって、同様のスキャン効果を生成することができる。いくつかの実装形態では、レーザ放射線の走査により、任意の単一の場所においてサンプルに衝撃を与える平均放射強度は、0.1W/cm未満まで減少する。
【0008】
ある特定の実装形態では、プローブは、レーザ発生器と走査デバイスとの間に位置決めされた、中心に小さなミラーを有する窓をさらに備える。小さなミラーは、レーザ発生器から送られたレーザ放射線を経路に沿って走査デバイスへ向け直し、ラマン信号とレイリー散乱レーザ放射線は、小さな鏡によって遮蔽されていない窓の領域を通り、レーザ放射線の波長のレイリー散乱放射線の大部分(99.999%)を遮断し、かつ第2の経路に沿ってラマン信号の通過を許容するように設計されているロングパスフィルタに向かう第2の経路に沿って進む。次に、サンプルからのラマン信号は、コンデンサレンズによって集束され、ラマン信号および弱められたレーザ放射線を検出デバイスに伝送するファイバ内に向けられ、検出デバイスは、1つの実装態様では、TEC冷却CCDイメージングアレイを有する分光計を備えている。
【0009】
分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するための方法も、本明細書に開示される。この方法は、波長、出力、および直径を有するレーザ放射線を発生させることと、サンプルの表面上のレーザ放射線の焦点が、時間の経過とともに移動し、それにより、サンプル表面上の任意の単一点において平均放射強度が低下するように、レーザ放射線をサンプル上に偏向することと、サンプルの焦点におけるレーザ放射線の衝撃によって誘発され、そこから発せされるラマン信号を収集することと、を含む。収集されたラマン信号は、サンプル中の分析物を測定するために使用される。
【0010】
ある特定の実施形態では、レーザ放射線は、偏向された放射線がサンプル表面上またはその下で円、楕円、ラスター走査などのパターンをトレースするように、放射線をサンプル上に偏向させるように適合された回転ミラーによって偏向される。任意の単一の場所においてサンプルに衝撃を与える平均放射強度は、0.1W/cm未満とすることができる。
【0011】
ある特定の実施形態では、この方法は、レーザ放射線を、サンプルに向けられた第1の経路に沿って向け直すことをさらに含み、放射線は、第1の経路に沿って走査構成要素によって偏向される。散乱放射線(レイリーおよびラマンの両方)は、走査構成要素によっても偏向される第2の経路に沿ってフィルタに向かって進み、検出デバイスに向かうこの第2の経路に沿ってレーザの波長の放射線の大部分を除去する。したがって、減少したレーザ信号(レイリー散乱はフィルタによってほとんど遮断される)およびラマン信号(フィルタによって遮断されない)の両方が、これらの信号を検出デバイスへと伝送するファイバ内に向けられるように、サンプルからのラマン信号は、第2の経路に沿って検出デバイスに向けられる。
【0012】
加えて、本開示は、分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するためのシステムを提供する。システムは、サンプルの血液パルスを検出し、対応するパルス信号を発生させるように適合された、インビボサンプルに結合されたパルスセンサと、波長、出力および直径を有するレーザ放射線を発生させるレーザ発生器であって、レーザ放射線がサンプルからラマン信号を誘発するためにサンプルに向けられている、レーザ発生器と、レーザ発生器をオンまたはオフにするように適合されたレーザコントローラと、ラマン信号を受信し、かつ分析物濃度を計算することができるスペクトルデータを発生させるように配置された分光計と、パルスセンサ、レーザコントローラ、および分光計に結合されているコンピューティングデバイスであって、コンピューティングデバイスが、サンプルの血液内の分析物からのスペクトル成分をサンプルの非血液成分から生じる分析物からのスペクトル成分から分離するために、レーザコントローラから受信したタイミングデータに基づいてスペクトルデータをパルス信号と相関させるように適合されている、コンピューティングデバイスと、を備える。
【0013】
いくつかの実施形態では、コンピューティングデバイスは、パルス信号の指数移動平均を計算し、かつパルスセンサから得られたパルス信号がパルス信号の指数移動平均を下回るか、上回るときに、レーザ発生器を作動させるためにレーザコントローラに信号を送信するように構成されており、それにより、分光器は、血液パルスの谷またはピーク中にラマン信号を受信する。
【0014】
ある特定の実施形態では、システムは、レーザ放射線が衝撃を与えるサンプル上の表面積が、元のビーム直径よりも大きくなり、サンプル表面内またはその上の任意の場所において平均放射が対応して低下するように、レーザ放射線をサンプル上に偏向させるように適合されている走査デバイスをさらに備える。レーザ発生器によって生成されるレーザ放射線の波長は、サンプル内に含まれる少なくとも1つの着目する分析物の共鳴増強を誘発するように選択することができる。
【0015】
分析物の測定のためにインビボサンプルを非侵襲的に調査するための方法も開示されている。この方法は、インビボサンプルの血液のパルス信号を検出することと、制御可能な時間において波長、出力、および元の直径を有するレーザ放射線を発生させること(すなわち、インビボサンプルがレーザ放射線に曝される頻度および持続時間を制御すること)であって、レーザ放射線は、サンプルからラマン信号を誘発するためにサンプルに向けられている、発生させることと、ラマン信号から分析物のスペクトルデータを生成することと、サンプルの血液内の分析物からのスペクトル成分を、サンプルの非血液成分内の分析物から生じるスペクトル成分から分離するために、スペクトルデータをパルス信号およびレーザ発生のタイミングと相関させることと、を含む。
【0016】
ある特定の実施形態では、方法は、パルス信号の指数移動平均を計算することと、パルス信号がパルス信号の指数移動平均を下回るか、または上回るときにオンになるようにレーザ発生器を制御することと、をさらに含み、スペクトルデータは谷またはピークの間に発生される。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法は、レーザ放射線が衝撃を与えるサンプル上の表面積が、元の直径よりも大きくなり、サンプル内またはその上の任意の場所において平均放射強度が対応して低下するように、レーザ放射線をサンプル上に偏向させることをさらに含む。レーザ放射の波長は、サンプル内に含まれる少なくとも1つの着目する分析物の共鳴増強を誘発するように選択することができる。
【0018】
本開示はさらに、実験ラマン信号データを含むスペクトルデータから、分析物濃度を判定する方法を提供する。この方法は、実験スペクトルデータのセットを収集することと、受信した実験スペクトルデータに変化を加えることによって追加の半合成スペクトルデータを発生させることと、受信した実験スペクトルデータと追加の半合成スペクトルデータの両方をトレーニングデータセットとして使用して、スペクトルデータから関連するラマン信号を解読するために、機械学習アルゴリズム(または他のモデルまたはモデルの組み合わせ)をトレーニングすることと、を含む。
【0019】
これらおよび他の態様、特徴、および利点は、本発明のある特定の実施形態の以下の説明、ならびに添付の図面および特許請求の範囲から理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示による、インビボでの分析物の非侵襲的測定のためのシステムの主要構成要素の概略ブロック図である。
図2】本開示による、ラマン分光法に基づくインビボでの分析物の非侵襲的測定のためのシステムで使用するためのラマンプローブの実施形態の概略図である。
図3】本開示による、インビボでの分析物の非侵襲的測定のためのシステムで使用することができる例示的な分光計の主要構成要素のブロック図である。
図4】脈波、例示的なレーザ活性化、および経時的な脈波指数移動平均を示すグラフであり、本開示の実施形態による、血液を含むインビボサンプルからラマンスペクトルデータを捕捉する方法を例示する。
図5】タングステンランプの例示的な観測スペクトルおよびプランク方程式による理論スペクトルである。
図6A】本明細書に開示されるラマンシステムの実施形態を使用して、フラットフィールドなしで得られたグルコースおよびアナトーカロテノイドの暗補正されたスペクトルを示す。
図6B】タングステンランプおよびプランク方程式を用いたフラットフィールド較正後の図6Aのスペクトルを示す。
図7A】本明細書に開示されたラマンシステムの実施形態を使用して得られたネオンランプの生の暗補正スペクトルを示す。
図7B】光学収差を補正した図7Aのネオンランプのスペクトルを示す。
図7C】分光計のCCD検出器の異なるスライス(行または列)から得られた図7Aおよび7Bのネオンスペクトルの基礎となるデータを示す。
図7D図7Cのスライスを合計し、波長を較正することによって得られた、較正されたネオン発光スペクトルを示す。
図8】ヘモグロビン、コラーゲン、脂肪、およびコレステロールを含むインビボサンプルによく見られる特定の分析物のラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
概要
インビボでの分析物の非侵襲的測定のためのシステムの簡略化された概略図を図1に示す。システム100の構成要素は、ラマンプローブ105、パルスセンサ110、レーザ制御ユニット115、TEC冷却CCD(熱電冷却電荷結合デバイス)アレイ125を有する分光計120、およびホストコンピュータ130を含む。ホストコンピュータ130は、既知の方法でコンピュータ実行可能命令を使用して、コマンドをレーザ制御ユニット115に送信し、分光計120およびTEC冷却CCDアレイ125によって取得された測定データを処理するように構成されている。第1の専用DC電源132を使用して、TEC冷却CCDアレイ125に電力を提供することができ、第2の専用DC電源134を使用して、レーザ制御ユニット115に電力を提供することができる。ラマンプローブ105は、着目する分析物を含むサンプルを「調査」する目的で、インビボ生物学的サンプル135(例えば、指などのヒトの患者の一部)に向けられるレーザ放射線を発生させるように構成されている。サンプル135は、とりわけ、グルコース、A1C、コレステロール、脂肪酸、AGE、カロテノイド、およびビリルビンを含む、医療または他の目的のための着目する広範囲の分析物を含み得る。
【0022】
ラマンプローブから発せられた放射線は、サンプル上に向けられた放射線がサンプル内の化学元素と相互作用するという意味でサンプル135を「調査」し、その結果、サンプルは、TEC冷却CCDアレイ125を有する分光計120などの測定機器によって検出することができる(蛍光、レイリー散乱、および非弾性「ラマン」散乱による)応答性信号を発生させる。ラマンプローブ105は、例えば、特定の分析物の共鳴増強を誘発するために異なる波長のレーザを使用すること、および安全なW/cmの制限(例えば、スキャン要素や回転ミラーなど)を超えることなく、多数のフォトンを捕捉する目的で高出力レーザの使用を可能にするための様々なメカニズムを使用することを含む様々な方法で具体化することができる。ラマンプローブでは、捕捉されたラマン信号が弱い傾向にある。特定の分析物は、共鳴現象のために特定の波長に強く反応し、広帯域蛍光バックグラウンドで比較的強く検出しやすい信号を生じさせるが、着目するすべての分析物をこの現象で簡単に検出できるわけではなく、不要なバックグラウンド蛍光は、着目する分析物からの非共鳴ラマン散乱によって生成される弱い信号に打ち勝つことができる。
【0023】
以下で論じられる実施形態の1つでは、ラマンプローブ105は、ラマン散乱によって分子応答信号を発生させるために、サンプルを調査するように設計されている。ラマン信号には、分析対象物に固有であるため、「シグネチャ」の特性を有するという利点があるが、しかしながら、ラマン信号には、非常に弱い傾向があり、バックグラウンド蛍光よりも桁違いに弱いという顕著な欠点もある。さらに、前述のように、TEC冷却CCDアレイ125として具体化することができる、分光計120のセンサは、ピクセルゲイン変動、ピクセル間の熱または「暗」電流変動(例えば、このような変動の極端なケースである「ホットピクセル」)、ランダムショットノイズ(センサへの光子の到着のランダム性によって発生するため、確率的である)、およびその他の要因による追加のノイズ源を導入し得る。このような追加のノイズ源がない場合でも、分光計の直接出力は、サンプル中の数千とは言わないまでも数百の異なる分析物からの信号が重複するため、着目する分析物の濃度をはっきりと明らかにすることができない場合がある。ほとんどの場合、ホストコンピュータ130によって実行されるデータ処理フェーズは重要であることが判明している。部分最小二乗回帰(PLS)および主成分分析(PCA)などの従来のデータ処理技術では、対象となる弱い分析物信号を確実にまたは効率的に分類、もしくは検出できないことが発明者によって発見された。代わりに、既知の物理的関係や個々の分析物から取得したスペクトルによって通知され、機械学習アルゴリズムおよび非負の行列因数分解を含むがこれらに限定されない特定のデータ処理アルゴリズムは、分光分析データから分析物信号を適切に解読する必要がある。
【0024】
したがって、ラマンプローブ105から分光計120まで、およびTEC冷却CCDアレイ125からホストコンピュータ130まで、システム100のすべての構成要素は、強い不要な信号(ノイズおよび広帯域蛍光を含む)をバックグラウンドに、着目する弱い信号を検出するタスクを満たし、それによってサンプルに存在する特定の分析物の濃度を非侵襲的に判定するようにともに構成する必要がある。したがって、以下の開示は、分析物レベルの判定精度を改善して、臨床的に許容可能な精度で非侵襲的測定を達成する、プローブ、分光計、およびデータ処理設計の改良を含む。
【0025】
図2は、本開示によるラマン分光法に基づくインビボでの分析物の非侵襲的測定のためのシステムで使用することができるラマンプローブ105の実施形態のブロック図である。ラマン分光法では、入射放射線は非弾性的に分子によって散乱され、つまり、このようにして散乱された光子のエネルギーは、入ってくる光子のエネルギーよりもわずかに少ない(通常)またはわずかに多いことを意味する。分光学的には、散乱放射線には、(通常の弾性「レイリー」散乱からの)入ってくる光子と同じ周波数の強い線と、ストークスおよび反ストークス線と呼ばれる(「側波帯」、非弾性「ラマン」散乱からの)強い線の両側にある弱い線が含まれる。ストークス線および反ストークス線の強度および周波数範囲は、分子の識別に使用することができる。図2に示されるプローブの実施形態は、システムで使用するためのプローブの単なる1つの実装態様であることに留意されたく、当業者であれば、特定の分析物を対象とする、信号対雑音比(S/N)を改善する、蛍光を減少させる、特定のタイプのノイズを減少させる、モジュール性を改善する(例えば、ファイバ結合レーザアセンブリの使用)ためなど、必要に応じて構成要素とその仕様に多数の変更を加えることができることを理解するであろう。
【0026】
再び図2を参照すると、プローブ105は、レーザ発生器アセンブリ205(「レーザアセンブリ」)で始まる構成要素を多数含む。レーザアセンブリ205によって発せられるレーザ放射線の特定の波長は、特定の波長において共振するように刺激することができる着目する分析物に基づいて選択することができる。共振は信号対雑音比を大幅に向上させるため、レーザの波長を選択してこのような共振を誘発することができる。共鳴増強は、分析物の吸収スペクトルのピーク付近で観察されることが多い。例えば、グルコースは近赤外(NIR)範囲に吸収ピークを有することが知られており、この範囲のレーザ波長は、この範囲に吸収ピークを有するグルコースおよび関連する分析物の共鳴増強を誘発できる可能性がある。着目する特定の分析物が事前に判定されていない場合、または着目する分析物の共鳴が不明な場合、レーザ波長は他の光学的考察に基づくことができ、例えば、波長の長いレーザは信号が弱くなる代償に蛍光の発生が少なくなることが知られている。弱いラマンスペクトル線を区別する際には蛍光の抑制が懸念されるため、バックグラウンド蛍光のレベルが高いためにS/N比が低い場合には、より長い波長の使用が必要になる。いくつかの実装態様では、シフト励起ラマン技術を採用して、蛍光ベースラインの除去または「打消し」を許容することができる。この技術の1つの実施形態は、狭帯域光源(レーザ)で得られたスペクトルから差し引くことができるベースラインを確立するために、LEDのような広帯域光源を採用して蛍光を刺激する。別の実施形態は、わずかに異なる波長の2つ以上のレーザの使用を含み、ラマン信号はレーザとともに周波数がシフトするが、蛍光は同じままである傾向があり、それにより、その推定および除去が許容される。
【0027】
プローブ(図2)のレーザアセンブリ205は、レーザ制御ユニット115(図1に示す)によって制御され、レーザパルスのタイミングと長さ(時間単位)、より一般的にはレーザ発生器のオンとオフのタイミングを制御するように構成され得る。レーザアセンブリ205によって発せられたレーザ放射線は、レーザ波長を通過させ、中心レーザ波長から逸脱するレーザ発生器からのスペクトル出力を除去するライン(バンドパス)またはショートパスフィルタ210を透過する。ラインフィルタ210から、ビームはミラー215に送られる。ミラー215から、レーザビームは、ウィンドウ225に埋め込まれた第2のミラー220に進み、これは、レーザビームをミラー232に反射する。
【0028】
ミラー232は、電気的活性化信号に応答してミラーを回転、旋回、および/または振動させるように適合された機械的ドライバ235に結合されている。ミラー232の代わりに、走査デバイスは、角度の付いたフィルタを含むことができる。追加的に、機械的ドライバ235は、代替の方法で実施することができる。例えば、機械的ドライバは、ミラー232に結合されたシャフトを有するモータであり得るか、または、ミラーを移動または振動させるように構成されている圧電要素を含むことができる。機械的ドライバの目的は、レーザビームの焦点、ならびに収集光学系の焦点が、サンプル135上の複数の点、好ましくは所定のパターンをロックステップで走査するように、ミラーからのレーザの反射を変更することである。このように、サンプル上に集束するビームの直径は小さく締まったままだが、所与の出力のレーザビームに対して、サンプルが任意の単一の場所で(ワット/cmを単位として)暴露される放射線の平均強度は、静止ビームに対して減少する。いくつかの実装態様では、サンプル135を移動またはシフトして同様の目的を達成することができるが、これは通常、インビボサンプルを扱う場合にはあまり便利ではない技術であることに留意されたい。これは、ろうそくの炎を手のひらで動かしても火傷はしないが、ろうそく(および手)を固定したままだと大火傷をしてしまうことに似ている。機械的ドライバ235およびレーザアセンブリ205の両方は、ドライバユニット207によって作動させることができる。
【0029】
この動作を行うために、レーザビームの焦点がミラー232を介してスキャンされるとき、収集光学系の焦点は、励起レーザの焦点および収集光学系の焦点が常に正確に一致するように、スキャンされたレーザの焦点を追跡しなければならない。任意の単一の時点で、レーザビームは、サンプル上(またはその中)の小さなスポットを照らし、そこから散乱された光は効率よく集められ、かなり細いファイバに送り込まれ得る。(現在の実施形態では回転ミラーによって実施される)この二重走査により、サンプルを燃やしたり損傷したりすることなく、そうでない場合よりも高出力のレーザを使用することが許容される。レーザがサンプル上の単一の小さなスポットに連続的に集束されるのであれば、低出力しか使用できず、高出力レーザは、過度の加熱によってサンプルに損傷を与え得る。したがって、サンプル上の任意の1つの場所に入射する平均出力を減らし、そのような損傷を避けるために、焦点が走査される。サンプルには熱質量があるため、十分に高速な走査を行うと、サンプル上の各点における平均出力を、瞬間的なピーク出力よりもはるかに低くすることができる。これは、より高い出力のレーザを使用してラマン効果を誘発することができることを意味し、それにより、より強い信号、したがってより良い信号対雑音比を生じさせることができる。また、サンプルのより代表的なサンプリングが実現される。
【0030】
したがって、この方法は、サンプルからの散乱光の効率的な収集により、より高いレーザ出力の使用を許容しながら、エタンデュの需要を管理しやすく、さらに低く保つ。強く集束されたレーザビームでサンプルを走査し、トラッキング共焦点収集光学系でラマン信号を受信することにより、ラマン散乱光子を効率的に捕捉し、エタンデュの法則を(反することなく)「回避」することができる方法である。サンプル上の集光点は、戻ってくるラマン信号が大きな損失なく小さなファイバ内に集束されるように常に小さく保たれ、一方、高出力レーザは、(サンプルの焼き付きを防止ために)レーザにビームスプレッダやディフューザを有しているもの、(結果として得られる大きな照射領域から信号を収集するために)大型ファイババンドルと大きな低F/#光学系を有する収集システムなど、高エタンデュシステムと同様に使用することができる。この方法が機能するために、照明光学系および収集光学系がすべての時点で共焦点(同じスポット上に集束)である必要があることを再度強調する。描写される実施形態では、回転または振動ミラー232は、コリメートされたレーザビーム、およびサンプルから戻るコリメートされた信号の両方の経路で、対物レンズの近くに置かれている。ミラー232のこの配置により、レーザ光学系と収集光学系の両方の焦点が互いに密接に追跡することが確実になる。
【0031】
ミラー232から反射された走査された放射線は、集束(対物としても知られている)レンズ240に向けられ、次にサンプル135に向けられる。サンプルは、バイアルまたはガラス窓242上に置かれ、所望の深さにおいて一貫した焦点を提供することができる。一例では、モータアセンブリ235によるミラー232の回転により、サンプル内部の焦点(スライドガラス上に置かれた指でもよい)が、サンプル内、またはその上の任意の1つの場所における平均放射線が、損傷を引き起こしたり正確な測定を妨げたりしないように十分に低いことを保証するパターンで走査されるようになる。いくつかの実装態様では、例えば、サンプルが患者の指である試験では、パルスセンサ110は、以下でさらに説明される理由で、患者の脈を取るために第2の近くの指上に位置決めされる。
【0032】
サンプルにおいては、入ってくるレーザ放射線が成分分析物と相互作用し、ラマン散乱を誘発する。散乱ラマン放射線(「ラマン信号」)は、ラマン信号をコリメートするレンズ240を介して送り返され、次にラマン信号が、埋め込まれたミラー220を有するウィンドウ225に向かって反射して戻される走査デバイスミラー232に送られる。ラマン信号は、ウィンドウ225の遮られていない領域を通過して、ロングパスフィルタ245に到達する。ロングパスフィルタ245は、弱いラマン信号を通過させながら、レーザ波長放射線の大部分(その強度は圧倒的な干渉を生成し、CCDアレイに損傷を与える可能性さえある)を遮断するように設計されている。結果として生じるラマン信号には、不要な広帯域蛍光、ある程度のノイズ、ならびにレーザ波長における放射線のごく一部分(10-6程度)が含まれることを理解されたい。次に、ロングパスフィルタ245を透過したラマン信号は、コリメートされたラマン光をファイバの端部内に集束させるコンデンサレンズ250を通過する。図2には示されていないが、必要に応じて、ファイバ先端における空間変動ノイズ(バンドル内の異なるファイバが異なるレベルの照明を受ける)を低減するために、入ってくるラマン信号を均一化するように、小型ディフューザ/ホモジナイザをファイババンドルの直前に置くことができる。ラマン信号は、最終的に、プローブの出力ポート262に配置されたファイバまたはファイババンドル260内に入る。
【0033】
ある特定の実装態様では、ファイババンドルは、プローブ端部においてファイバが円形に配置され、分光計の端部においてファイバが線形に配置された7ストランドのバンドルで構成され得、後者は、分光計の入力スリットへの結合を最適化するように設計されている。この場合のファイババンドル260は、SMA905コネクタ264を使用してプローブに固定されている。他の例では、ファイババンドルは、顕微鏡検査での照明に使用されるような大径の「ライトパイプ」であり得、「ライトパイプ」は、非常に大きなファイババンドルの形態で、また大径の液体光導波路の形態で現れる。ライトパイプを使用するには、それらの直径が大きいため、プローブと分光計の両方において異なるコネクタを使用する必要がある。
【0034】
以下に説明する現在の実装形態で使用される分光計は、大きなF/1.4光学系および大きなCCDセンサを有しており、長い10mmのスリットを処理できるため、「ライトパイプ」、または好ましくは、サンプル上、またはその中の大径の標的領域から毎秒多数の光子を捕捉するために、大きな円形から直線状のファイババンドルを有効に利用することができる。言い換えれば、これは高エタンデュシステムである。ファイババンドルまたはライトパイプは、ラマンプローブ105からのラマン信号を分光計120に伝送し、これは、入ってくるラマン信号の波長を分離し、分離した波長の低ノイズ、高解像度の画像、すなわちスペクトルを発生させる。大きなファイバまたはファイババンドルを使用する実装態様では、ビーム走査を排除することができ、サンプル上の結果として得られる大径スポットからの光子を効率よく捕捉し、十分に太いファイバ(すなわち、サンプル上に集束した照射スポットの直径とほぼ同じ直径を有するファイバ)内に送ることができるため、ビームエキスパンダをレーザの直後に置いてビームを広げることができることに留意されたい。多くの市販の分光計で使用される必要があるような小径ファイバでは、効率よく光子を収集するために小さなビーム径を使用する必要があり、そのため、サンプルの広い範囲にビームエネルギーを分散させるためにビーム走査が採用される。しかしながら、高エテンデュ分光計を使用した場合でも、スキャンにより、より高いレーザ出力とより代表的なサンプルのサンプリングが可能になり、それにより、さらに感度の高い分析機器を実現することができる。
【0035】
分光計
図3は、開示されたシステムおよび方法の状況下で使用することができる分光計の概略ブロック図である。図2に示されるファイババンドルまたはライトパイプ260は、ラマンプローブ105からの光を、スリット310において終端するファイバコネクタ305を含む分光計125の入力に運ぶ。スリットの大きさは、分光計の構成に応じて、以下のように調整することができる。コリメートレンズ315は、スリット310を通過するラマン信号放射線をコリメートし、かつコリメートされた放射線を第1のミラー320に向け、次に、入ってくる放射線を第2のミラー325に向け直すように位置決めされている。放射線は、第2のミラー325から交差分散プリズム330に反射される。プリズムは、ラマン信号放射線の入ってくる波長を波長に応じて水平方向に分離し、偏向する。プリズムは、エシェル設計で必要とされる次数分離を実行する。次に、放射線は回折格子335に進み、これは、波長に従って、今度は垂直に、集束レンズ340に向かって再び放射線を向け直す。集束レンズ340は、格子335によって回折された放射線を、TEC冷却されたCCD検出器125に集束させる。分光計は、単一オーダー(非エシェル)の分光計として簡単に再構成できるように構成されているため、全スペクトル有効範囲を犠牲にして、はるかに長いスリットを採用することが許容される。
【0036】
TEC冷却CCDイメージングデバイス125は、ピクセルのアレイを含み、その各々は、以下で論じられる様々なノイズ源の影響を受けて蓄積する放射量(光子数)に比例した電荷を発生させる。次に、電荷を読み取って、分光計に入る光、この場合はラマン信号放射線に存在する波長およびその強度を示す分光画像を生成することができる。格子335は、必要に応じて交換することができる。1つの特定の実施形態では、格子335は、1800ln/mmのホログラフィック格子(非エシェル構成)を使用して実装することができる。いくつかの実装形態では、格子をエシェル格子と交換することができる。ある特定の実装形態では、分光計120は、スペクトル範囲を犠牲にして、並外れた集光力を得るために、体積位相ホログラフィック格子、大きなファイババンドル、および非常に長いスリット(例えば、円形から直線状のファイババンドルを有する10mmスリット)で構成することができる(ただし、スペクトル有効範囲は、以下に説明するように本願にはまだ十分すぎるほどである)。他の実施形態では、分光計は、スペクトル有効範囲を最大化するために、エシェル格子を装備することができる。エシェル格子に対応するために、分光計はより小さな直径のファイバ(例えば、600μmのファイバおよびそれに対応するスリット)に制限されている。この実施形態では、スペクトル範囲は、単一のフレーム内で可動部なしで、近紫外から近赤外(350nm~1100nm)にまで及ぶ。ソフトウェア構成可能な分光計は、上記の実施形態の両方を選択的に実装するように設計することができる。例えば、ホログラフィック格子とエシェル格子の両方を含む複数の格子を、ステッパモータまたは同様のデバイスによって駆動される回転要素上に配置することができ、その結果、格子は分光計の光路の内外で交換することができる。追加的または代替的に、光路に設置された複数の格子のいずれかを別のモータで調整可能に回転させ、スペクトル有効範囲を変更するために、光路に対する格子の角度を変えることができる。
【0037】
ここで想定されている種類の非侵襲的ケモメトリックスで高性能を達成するための主な課題の1つは、必要な機器特性を取得することである。より具体的には、プローブおよび分光計の特性は、安定した正確な結果を得る可能性に大きく影響する。特に、弱いラマン散乱体である分析物の使用し、かつ高いレベルのサンプル蛍光の存在下で分析物の濃度を検出し、正確に測定するためには、高分解能、妥当なスペクトル範囲、高エタンデュ(例えば、1秒当りにより多くの光子を捕捉するために大径ファイババンドルを使用する能力)、および高ダイナミックレンジを有する分光計を使用しなければならないことが実験からわかっている。
【0038】
分光計の分解能は、分光計が分解できるスペクトルピークの最大数を判定する。スペクトルは「ビン」に分割できるため、高分解能の分光計は、狭いビンを有するものとして特徴付けることができる。ビンが狭い場合の結果の1つとして、ビン内に収まるいずれの有効な狭帯域ラマン信号を減衰させることなく、ビンごとのノイズ(ランダムショットノイズおよび不要な広帯域蛍光を含む)が少なくなる。同じ強さの信号でノイズが少ないということは、S/N比が高いことを意味する。テストでは、532nmレーザの場合、約0.05nm~0.2nmの範囲の分解能が適切に機能することが実証されている。より長い波長のレーザ、例えば980nmの場合、より長い周波数においては、同じラマン周波数のシフトでも波長変化が大きくなるため、0.2nm~0.8nmの分解能が許容され得ることが試験により示されている。高分解能は、高レベルの広帯域蛍光の状況下では、狭い信号(ラマン散乱で一般的)の場合に特に有益である。別の利点としては、他の分析物から発生する近くのピークからの干渉が少ないため、特定の分析物をより容易に識別することができる。平滑化、デコンボリューション、ドリズリング、スタッキング、露光時間の延長などの手順を使用して、不十分な分解能を補完することが困難または不可能であることに留意されたい。
【0039】
適度に広いスペクトル範囲(非エシェル型構成であっても、本明細書に記載のような分光計によって達成される)もまた、より多くの信号を検出することが許容されるため、有益である。一般的に、約200cm-1~約3600cm-1のスペクトル範囲が望まれる。例えば、グルコースは500cm-1下~3000cm-1を超える範囲に複数のラマン信号を有するため、有用なラマン信号の範囲をカバーするために、スペクトル範囲が広いことが有利となる。分解能と同様に、不十分なスペクトル有効範囲を補完することは困難である。しかしながら、特定の波長範囲が特定の分析物(例えば、グルコース)を対象としている場合、対象範囲のいくつかの関連するサブセットをサンプリングするだけで、ハードウェア要件を簡略化できることに留意されたい。多くの場合、狭帯域サブセットの最適なセットは試験前にはわからないため、所与の分析物に最適な波長およびフィルタ要件を最初に判定するために、関連するすべてのスペクトル情報を網羅するのに十分なスペクトル有効範囲が必要である。1つ以上の分析物についてこのような初期データが取得されると、アルゴリズムを設計および採用して、小型化されたデバイスで分析物の限られたセットを測定するための最適なフィルタセットを判定することができる。
【0040】
他の分光計の特性も、性能に大きな影響を与える可能性がある。多くの高性能分光計は、光子を電荷に変換する電荷結合デバイス(CCD)を使用して放射線を検出する。CCDは電子の熱力学的な動きにより、それらが保持される温度に比例してノイズを生成する傾向がある。これは「暗電流」と呼ばれる。低ノイズを実現するには、分光計で使用するCCDを熱電冷却器で-20℃以下の温度範囲に冷却することが役立つ。別の重要な考慮事項は、エテンデュ、または集光力である。エテンデュが高いということは、より広い領域から1秒当たりにより多くの光子を捕捉することができるため、所与の積分期間でより良いS/Nが得られることを意味する。上記のプローブの実施形態では、サンプルのより広い領域に照明を広げる走査デバイスを使用して、有効なエテンデュを増加させる(またはさらに増加させる)こともできる。より大きなファイバ直径を使用することにより、実際のエテンデュを増加させることができるため、(分光計がそれを処理できると仮定して)より大きなファイバ直径により、より多くの光子を含むより広いビームが分光計に到達することが可能になる。一般に、システムの光子スループット、または感度が、分析に足りる強度のラマン信号を得るのに十分となることを確実にする技術が採用される。
【0041】
分光計のダイナミックレンジは、特に生物学的材料、特に非侵襲的なインビボ測定の場合のように、大きな蛍光バックグラウンドがある場合に、全体的なS/Nを改善するのに関与し得る別の要因である。ダイナミックレンジの高いCCDは、ピクセルが飽和することなく(例えば、強い広帯域蛍光のために)より長い積分を行うことができるので、より少ない読み出しノイズでより多くの光子を捕捉することが可能になる。ダイナミックレンジが大きいと、単位時間当たりのCCD読み出し回数が少なくなるため、所与の全光子数に対しする全読み出しノイズを低減して、全体的なS/Nを向上させることができる。現在の実装態様では、各波長のスリット画像(信号)を多数のピクセルに拡散する分光計設計を使用して、高いダイナミックレンジを実現するので、ピクセル数に個々のピクセルウェル深度を掛けたものにほぼ等しい高い「有効ウェル深度」を生じさせることができる。
【0042】
分光計の特性(例えば、分解能、スペクトル範囲)および特定の動作条件(例えば、ダイナミックレンジ)を設定する際の考慮事項とは別に、良好な性能を得るためには、波長、および波長対波長、ピクセル対ピクセルの感度の変動に対する分光計の較正が必要である。感度の較正は、ラマン分光法という状況下で、特に高レベルの平滑なバックグラウンド蛍光がある場合に特に重要である。ピクセル対ピクセル(波長対波長)の感度の変動と相互作用する高レベルのバックグラウンド蛍光は、本物のラマン信号に似た高レベルのスパイクノイズを生成し得る。蛍光は広帯域で、平滑で、スパイク状ではないため、波長対波長の感度が正確に較正されている場合、スペクトログラムに表示されるバックグラウンド蛍光は平滑になり、ラマン信号からより簡単に分離することができる。いわゆる「フラットフィールド」、つまり画像フレームまたはスペクトル全体の感度の変動を補正することは、天文学の世界以外のほとんどの出版物では無視されがちである。波長対波長の感度に加えて、分光計の動作に固有の他の多くのノイズまたは干渉源が多数存在する。温度によって変化するバイアスまたはオフセット、温度によって、かつピクセルごとに変化する暗電流があり、あるピクセル(「ホットピクセル」)は他のピクセルよりも温度による影響が大きい。上記のように、所与のCCDに対して安定する傾向があるピクセル感度にも変動がある。これらの「ノイズ」源は、通常、較正プロセスと、ピクセルのゲイン、オフセット、および暗電流を判定するために使用できる暗フレーム、フラットフィールド、および較正ランプフレームを含む関連する数学演算と、によって除去することができる。これらは本明細書では「ノイズ」と呼ばれているものの、多くは本質的に確率的ではないが、一貫性および再現性があり、したがって「較正」することができる(そのため、ノイズは引用符で示される)。較正が実行されると、画像は、一貫性および再現性のために、CCDピクセルセットの既知のゲインおよび暗電流に従って補正することができる。確率的ノイズは本質的に予測不可能であり、較正することはできないため、本当のノイズである(引用符なし)。確率的ノイズの例は、ガイガーカウンタのランダムクリックと同様に、検出器にランダムに衝突する光子の衝撃に由来する、いわゆる「ショットノイズ」または「ポアソンノイズ」である。
【0043】
分光計は、1)損失および迷光を減らすためにできるだけ多くの光学要素を排除する、2)柔軟性、分解能、エテンデュを最大化する、3)導入もしくは未補正の収差が数学的に逆転できる限り、機械的構造を単純化するために、ある種の収差を導入する、または補正しない、という代償を払って設計されている。より具体的には、いくつかの実装態様では、情報の損失をほとんど、またはまったくもたらさず、重大なアーチファクトを導入することなく数学的に逆転させることができる光学収差が採用されているか、または許可されている。そのような収差の一例は、スリット画像の湾曲である(図7Aを参照)。スリット画像に傾斜(非直線性)を導入し、画像がデジタル化した後に収差を数学的に補完することで、実際に分光計の性能が向上することがわかっている。分析により、直線的なスリット画像を有する分光計設計でも、カメラ(CCD画像)を回転させ、スリット像が画像平面上で最適な角度で傾斜して見えるようにするだけで、そのような増強が可能であることが示されている。このような収差が入り込むことを許容することで、他の潜在的な利点の中でもとりわけ、光学系の簡素化、解像度の向上、迷光の減少、スループットの向上を許容することができる。逆に、解像度が低く、迷光があり、スループットが低いと、数学的に元に戻せない不可逆的な情報損失をもたらす。目的は、情報の実際の損失を引き起こさない前者のタイプの数学的に可逆的な収差を可能な限り導入することによって、後者のタイプの光学収差を積極的に最小化することである。
【0044】
傾斜スリット画像はまた、より細かいサンプリング、いわゆる「超解像」、およびデコンボリューションの使用(必要な場合)を可能にし、着目するメインバンドへの高周波空間成分のエイリアシングから生じるアーチファクトがはるかに少なくなる。これは、時系列サンプリング、オーディオ信号処理、および天文画像処理における「ドリズリング」のプロセスに類似している。特にドリズリングは、広い視野からのアンダーサンプリングを補完するために、ディザリングされた画像を線形に再構成するためのデジタル画像処理方法である。ディザリングされた画像は、露光の間に数ピクセルだけ望遠鏡をランダムな方向にわずかに動かすことによって生成される。ディザリングされた画像は、各ピクセルの統計的有意性によって画像に重みを付けるアルゴリズムを使用して合成される。ドリズリングアルゴリズムは、測光の妥当性を維持しながら、幾何学的な歪み、回転、および平行移動の影響を取り除くことができる。カメラをわずかに回転させるなど、様々な方法で実装できる傾斜スリットは、ピクセルの中心波長が、実際の水平方向のピクセル間隔でカバーされる間隔よりも小さい間隔(長いスリットでははるかに小さい)において発生する点で同様の効果を提供する。これは、画像の各行のピクセルが、他の行に対して中心波長がわずかにシフトしているためである。このシフトは、任意の単一行の連続するピクセル間の中心対中心の波長差よりもかなり小さい可能性がある。ピクセルを再配置し、より細かいグリッド上に「ドリズリング」することで、はるかに高い実効サンプリングレートが達成される。その結果、より適切にサンプリングされ、より平滑で、より低いノイズスペクトルが得られる。
【0045】
スリット画像に傾斜(非直線性)を導入し、画像がデジタル化した後にこの収差を数学的に処理することで、収差が光学的に補正された場合に達成される性能よりも大幅に向上した分光計性能が得られる。分析により、直線的なスリット画像を有する分光計設計でも、カメラ(CCD画像)を回転させ、スリット像が画像平面上で最適な角度で傾斜して見えるようにすることで、そのような増強が可能であることが示されている。傾斜スリット画像から導き出される利点は、主に2つある。1つの利点は、前述のように、波長ドメインでのより細かいサンプリングである。波長ドメインでの有効サンプリング間隔は、スリット長が長くなるにつれて短くなる。太いファイババンドルおよび非常に長いスリットにより、CCD上に高いエテンデュおよび長いスリット画像が提供される。長いスリット画像により、非常に細かいスペクトルサンプリングが得られる。(ピクセルサイズに基づく)分解能は一定のままであるため、サンプリングを細かくすることはオーバーサンプリングとなり、オーバーサンプリングの度合いはスリット画像の長さ(ピクセル単位)に比例する(最適なスリット角がある場合)。このようなオーバーサンプリングにより、適切なデコンボリューションアルゴリズムを使用して、重大なアーチファクト(ギブズ現象や「リンギング」など)を発生させることなく、最終スペクトルでサブピクセル分解能(いわゆる超分解能)を達成することが可能になる。傾斜スリット画像によってもたらされる第2の利点は、デジタル化画像でのその数学的反転とともに、CCDイメージングデバイスで一般的に発生する列の欠陥、「ポッピング」ピクセル、およびその他の欠陥にもかかわらず、ロバスト性がはるかに高くなることである。これは、低コストの大判CCDチップを使用する場合に特に当てはまる。同様に、宇宙線の衝突はより簡単に除去され、画像から抽出された最終的なスペクトルへの影響も少ない。また、最終的に観測されるスペクトルの各波長ビンには多数のピクセルが寄与しているため、ピクセルゲインまたは感度の変動は平均化される傾向にある。
【0046】
さらに、傾斜スリット画像によってCCD要素の複数の列に特定の波長を分散させることで、列の変動や欠陥の影響を回避または劇的に低減することができる。これは、本明細書で説明するような高エテンデュシステムで遭遇し得る、スリット画像が数百または数千ピクセルをカバーする長いスリットの場合に特に当てはまる。これは、上記で論じられているように光学系の収差の結果として達成され得る。CCDイメージャをわずかに回転させ、それに合わせてスペクトル抽出ソフトを調整することでも、特定の波長をCCD要素の複数列にわたって分散させることも可能である。
【0047】
少数の分析物に着目するアプリケーションの場合、分光計に必要なスペクトル範囲を大幅に狭めることができる。これにより、分光計を小型化するように設計することが許容される。例えば、狭いスペクトル範囲のアプリケーションでは、格子および大きなCCDアレイなどの大型構成要素の代わりに、フィルタホイールおよびカスタマイズされたチップなどの分光計の構成要素を使用することができる。
【0048】
プレスキャン較正
上記の問題に照らして、サンプルからスペクトルを得る前に、分光計でプレスキャン較正手順を実行して、可能な限り非確率的な「ノイズ」を除去する必要がある。プレスキャン較正プロセスの第1の部分は、暗電流補正である。暗電流補正は、すべての光源をオフにしてシャッターを閉じた状態で実行される。これは、光源による刺激がない状態でも、CCDアレイのピクセルが電流変動を呈するかどうかを判定するために行われる(どのCCDもある程度は変化するが、十分に冷却すれば暗電流を無視できるレベルまで減らすことができる)。暗補正は、最初にCCDアレイで「暗フレーム」のセットを捕捉し、暗フレームで見つかったものを差し引くことによってデータアレイ内のピクセル間の暗電流の変動を補完することによって進行する。ダーク補正は他の方法でも実行することができる。例えば、暗フレームには、実際のラマンスペクトルまたは他のソースからのデータフレームを散在させることができる。この場合も、宇宙線のアーチファクトを除去した後、暗フレームを差し引くことにより、スペクトル画像が暗補正される。
【0049】
第2のステップでは、例えば、波長対波長の感度変動に起因する系統的なノイズを除去する。これは、タングステンランプを使用したいわゆるフラットフィールドによって行うことができるが、他の手順を代替的または追加的に使用することもできる。タングステンランプは、黒体放射のプランク方程式によって予測されたスペクトルとよく一致する周知のスペクトルを有する。図5Aは、プランク方程式から計算された2600°Kにおける予想される黒体スペクトルとともに、タングステンランプからの例示的な観測スペクトルを示す。曲線が互いに異なることに留意されたい。これは、ある範囲の波長にわたる光学系およびCCDの両方のスペクトル応答性により、システム感度が変動するためである。較正プロセスは、未較正スペクトル光子数S(i)を有するすべてのスペクトルビン(i)について、W(i)*S(i)が、スペクトルビン(i)に対応する波長およびタングステンランプフィラメントの温度(T)における予想黒体放射線であるP(i)に一致するように、較正重み関数W(i)を見つけ出す。
【0050】
フラットフィールド手順では、タングステンランプからの放射線が分光計によって検出され、タングステンランプの放射線に対して2つ以上のスペクトルデータ曲線が発生する。これらのスペクトルS(i)から、各ビンの重み較正関数W(i)が判定される。重み較正関数W(i)が発生すると、後続の手順でそれを使用して、光学系およびTEC冷却CCDアレイの波長感度の変動を補正し、分光計データからそのような変動を取り除くことができる。これにより、この上記の較正プロセスは、暗電流、波長対波長感度の変動、およびバイアスを含む系統的「ノイズ」についてサンプルの走査を実行する前に、分光計(およびプローブも)を補正する。
【0051】
図6Aおよび6Bは、スペクトルデータに対する較正の効果を示している。図6Aは、暗電流に対してのみ補正され、フラットフィールドを使用して較正されていない2つの分析物の生のスペクトルを示している。上のトレースはグルコースのスペクトルであり、下のトレースはアナトーカロテノイドのスペクトルである。図6Bは、暗補正およびフラットフィールド較正の両方の後の、同じ基礎となる画像データに基づくスペクトルを示している。図6Aおよび6Bの比較は、特にグルコースについてのノイズレベルが、フラットフィールドデータにおいて非常に低いことを示している。また、傾きおよびピークの振幅も変化しており、例えば、約2100逆センチメートル付近にグルコースのピークを見ることができるが、これはフラットフィールド較正前のデータには見られない。異なる波長のピークの相対強度に歪みがあると、極端な場合、いくつかの分析物が区別できなくなることがあるため、相対ピーク強度の精度は分析物のモデル化において重要な要因となる。フラットフィールド較正は、相対ピーク強度が物理的に正しいことを確認するのに役立つ。
【0052】
ネオンアルゴンランプの他の発光スペクトル源を使用して、波長に対して追加の較正手順を実行する必要がある。図7Aは、ネオンアルゴン較正ランプから取られた生の(暗補正のみ)スペクトル画像を示している。スペクトル画像には、ネオン輝線に関連するシャープなスリット画像が含まれている(暗いほどより多くの光子が多いネガ画像として提示される)。この画像は、スリット画像を通して描かれた平滑な曲線である、適切に適合された「オーダートレース曲線」も描写している。オーダートレース曲線は、分光器の構成を変更しない限り、最初の較正手順中に取得し、その後のスペクトル抽出に使用することができる。ドリフトのため、オーダートレース曲線を再計算する必要はほとんどない。撮像では、冷却がオフになり、ビニングが4x4(低分解能、低ダイナミックレンジモード)に設定され、CCD画像全体のごく一部のみが表示される。
【0053】
図7Bは、分光計の光学的構成に起因する収差の補正が行われた後のネオンアルゴンランプのスペクトル画像を示している。再マップされたピクセルのサブセットのみが表示される。一般に、各波長またはスペクトル線には多くのピクセルが寄与しており、長いスリットおよび大きなファイババンドルによって、ピクセルの寄与の数が増加し得る。これにより、各波長における強度測定に多数の独立したチャネルまたは観測が効果的に寄与することが許容されるので、ノイズの低減と実効的なダイナミックレンジの拡大に寄与する。
【0054】
図7Cは、CCD検出器のピクセルの異なる「スライス」(行または列)からのスペクトルプロットのセットとして提示された図7Bに示されているものと同じデータを示している。スライスの小さなサブセットのみが図7Cに示されている。スライスは、採用されたバンドル内のファイバ間のスペース(Thor Labsの円形から直線状の7コアバンドル)、ならびにプローブ端部におけるバンドル内の個々のファイバに入る照明の変動により、ある程度の強度変動を呈している。これらの変動は、ファイバの端部におけるディフューザまたはホモジナイザを使用して補正することができる。ファイバコアの照明の変動は光源の位置決めによって変化し、これにより感度パターンが変化し、ひいては安定したフラットフィールドを妨げ得る。図7Cはまた、いくつかのピクセルが(それらの最大値において)飽和していることを示している。各波長における強度測定に寄与するピクセルが多いため、図7Dに示すネオン較正ランプの最終的なスペクトルプロットでは、その効果はあまり明白ではない。このプロットは、図7Cに示されるスライスを合計することによって計算される。波長の較正は、多項式を適合させてピクセルインデックスをナノメートル単位の波長にマッピングすることによって行われる。図7Dのプロットは、ネオンおよびアルゴンの輝線に関するNISTのデータと観測されたピークとの間の優れた適合性を示している(標準誤差は飽和ピクセルにもかかわらず5ピコメートル未満である)。このプロットのX軸はナノメートル単位である。ラマン分析で用いられる逆センチメートルは、レーザおよび信号(サイドバンド)の周波数差の尺度であることに留意されたく、inverse_centimeters=10000000/laser_in_nm-10000000/Raman_sig_in_nmとして計算される。X軸は、必要に応じてナノメートルではなく、逆センチメートルを表示するように構成することができる。
【0055】
データ処理
図1に示されているように、分光計120は、直接または無線通信チャネルを介して、ホストコンピュータ130に結合されている。この接続を介して、分光計120は、サンプルから得られたラマン分光法スペクトルデータを、スペクトルデータを処理するように構成されているホストコンピュータ130に送信する。ホストコンピュータ130はまた、コマンド信号を送信することができ、また、レーザパルスのタイミング、ならびに血液パルス波信号に関する情報を受信することができるレーザ制御ユニットに結合されている。コンピューティングデバイスは、アルゴリズムを実行し、分光計(分光計、図1)から受信したスペクトルデータの差分を判定するなどの数学演算を実行するために、様々なソフトウェアツールで構成することができる。
【0056】
多くのアプリケーションでは、着目するインビボ分析物は血液中に存在し、周囲の軟組織、間質液、および骨から生じる信号は、干渉源である。パルスオキシメトリの分野では、この問題は、全測定信号ではなく、脈波の振幅を使用することによって対処される。血液から生じる信号は、動脈/血管の容量の変化により、脈拍中に血液信号が振動するという事実に基づいて、他のソースと区別される。したがって、測定されたスペクトルの変動は、動脈/血管の血液のみを特徴付ける。測定されたスペクトルの振動成分のみを分析し、時間的に一定の成分を破棄することにより、血液中に存在する分析物を計算することができる。微弱なラマン信号の検出に必要な分単位で測定される長時間露光用に設計されているCCDアレイを使用する、1秒未満の周期性の脈波の測定が困難なため、この手法のラマン分光法への応用はこれまで達成されていない。結果として生じる読み出しノイズが比較的微弱なラマン信号に打ち勝つため、光子計数CCDデバイスを使用するラマンの状況下では、より短い露光は実現可能ではない。追加的に、低ノイズのイメージングデバイスでは、大きなCCDアレイを読み出すプロセス自体がかなり遅い処理となり得る。
【0057】
本開示は、通常のCCDイメージングデバイスを使用して、ラマン分光法の状況下で脈波振幅を測定することを可能にする方法を提供する。この方法は、図4のパルス信号のグラフによって例示されている。パルス信号405は、パルスセンサ110(図1に示す)から得られる。図4はまた、レーザ活性化信号410を示している。レーザ制御ユニット115は、ホストコンピュータ130によって指示されるように、パルス信号と同期してオンおよびオフになるようにレーザを制御する。レーザ活性化信号410は、オンとオフの周期を有する方形波信号として示されている。この描写の場合、パルス信号が指数移動平均を上回っているとき、つまり血液量が多いときにレーザがオンになる。レーザのオン/オフ期間の開始の正確なタイミングは、レーザ制御ユニットに結合されているパルスセンサから取得した読み取り値と組み合わせて設定される。最初の露光(CCD積分)では、レーザは、パルス信号405が測定されたパルス信号405の指数移動平均(ema)415を超えて上昇する点でオンになり、パルス信号が下がるとオフになるようにトリガされる。次の露光中に、パルス信号405がema信号415を下回るとレーザがオンになり、emaを上回るとオフになるように、逆にトリガされる。言い換えると、最初の露光(10~100秒以上の範囲であり得る)では、パルス波のピーク付近のみレーザをオンにし、2回目の露光(最初の露光と同じ積分時間)では、パルス信号の谷付近でレーザをオンにする。したがって、サンプルからのラマン信号は、血液パルスのピーク(最初の露光)または谷(2回目の露光)の間にのみレーザによって誘導され、CCD検出器によってパルス振動全体にわたって信号が平均化されることはない。次に、2回目の露光(谷の近くのレーザ)から得られたスペクトルを最初の露光(ピークの近くのレーザ)から差し引くことにより、血液中の分析物から導き出される意味のあるラマン信号を検出し、軟組織や骨などからのラマン信号を「相殺」することができる。実際に現実の測定を行う場合、信号対雑音比を上げるために、上記の一連の露光が複数回繰り返される。
【0058】
CCDアレイを使用するラマン分光法の状況下で、脈波振幅測定のための本開示によって提供される代替技術は、異なる波長のレーザ放射線を採用して、単回の露光内で「パルス高」および「パルス低」データを取得できるようにするため、ドリフトの影響を大幅に減らすことができる。互いに近い波長、例えば1nm離れているが、それでも測定可能な程度に異なる2つの異なるレーザ光源が使用される。レーザ光源は、異なる波長を中心に製造された異なる光源でも、わずかに異なる温度で動作する同一のレーザ光源であってもよい。レーザの波長は光源の温度によって変化することが知られており、光源の温度は単純なTEC冷却要素で簡単に調整でき、わずかに異なる波長を有する2つのレーザを提供することができる。本明細書で便宜上「レーザA」および「レーザB」と呼ばれる2つのレーザは、波長がわずかにシフトされ、ラマン信号(ストークスおよび反ストークス線)を誘導し、これも同じ量だけシフトされるので、レーザAおよびBによって生成されたラマンスペクトルを区別することが許容される。対照的に、レーザAおよびBによって生成されたラマンスペクトルに現れるバックグラウンド蛍光は平滑であり、シフトされたスペクトル間でほぼ同じままであり、蛍光はシフトしない。
【0059】
この方法では、レーザAおよびレーザBが交互にオンとオフに切り替えられ、例えば、レーザAがオン/レーザBがオフになり、続いてレーザAがオフ/レーザBがオンになる。一実施形態では、レーザAは、パルス信号のピークにおいてオンに切り替わる(およびレーザBオフ)ように制御され、レーザBは、パルス信号の谷においてオンに切り替わる(およびレーザAオフ)ように制御される。しかしながら、レーザAおよびレーザBの両方からのラマンスペクトルは、同じCCD露光時間ウィンドウで取得される。これにより、前述の単一波長法と比較して2倍の「多重化の利点」がもたらされる。レーザAおよびレーザBを使用して取得されたラマンスペクトルは互いに差し引かれ、これにより、スペクトルがそれらの間で共有するバックグラウンド蛍光放射線が排除され、ラマン信号が残る。皮膚からのラマン信号および蛍光は、シフトされているものの、両方のレーザで同一であるため、数学的に相殺することができる。レーザは約1秒以下で比較的速く切り替えられるため、サンプルの特性がドリフトする時間はほとんどない(平均血流量、指の温度、動きなどの変化が遅いため)。ドリフトが小さいと、それぞれのスペクトルに現れる蛍光放射線のレベルがほとんど変化しないため、実質的に完全な蛍光の打消しが可能となり、皮膚および固定組織から生じるラマン信号も打ち消すことが可能になる。適切な数学的処理により、血液から生じるラマン信号を多重化データから分離することができる。この切り替えレーザ配置は、高レベルの蛍光に対処するために使用されることがあるシフト励起ラマンに似ているが、皮膚、骨、またはその他の固定組織から生じる信号から血液信号を分離できるように適合されている。
【0060】
脈波振幅ベースの測定と同様に、皮膚の色素沈着、軟組織、およびその他の要因の違いを考慮して個人間で安定した較正を取得するには、ラマンデータを使用する際に分析対象物の差分または相対測定を利用することが必要である。1つの手法では、安定した方法で強力な信号を生成する血液分析物のセットが、基準またはベースラインとして使用される。血液中では、ヘモグロビンが1つの優れた基準分析物として機能することが多い。この場合、血液中の他の分析物の測定は、ヘモグロビンと比較して行われる。この手法は、血液量、組織の透明性、および個人的および時間的変動制を伴うその他の要因の違いによる問題を回避する。文献では、非侵襲的NIR、ならびにラマンベースの分析物測定における試みは、ある個人から別の個人、あるいはある個人内のある期間から別の期間でさえ一般化するために採用された技術を得ることができないため、多くの場合失敗に終わっている。
【0061】
半合成データを使用したデータセットの拡張
分光計が分解能、集光能力、およびダイナミックレンジの点で最適に設計されていても、かつ関連するすべてのノイズ除去、較正、脈波ロックイン手順が行われた後でも、ラマン信号が比較的弱いこと、多くの分析物からの信号が多くあること、圧倒的な蛍光バックグラウンド、および前述の対策を講じた後でも様々な形態のノイズが残っているために、分光計から出力されるデータ中のラマンピークの判読は困難な場合がある。
【0062】
この問題に対処するために、重回帰、部分最小二乗法(PLS)、および主成分分析(PCA)を含む従来の数学的手順が、関連技術において採用され、1つ以上の分析物の定量測定に関連する分光計データ内のラマン信号を選び出すようになっている。これらの手順は、一般に、十分な信頼性または精度で分析物濃度を判定するというタスクには対応していない。これは、そのような手法が、一般に、データの冗長性の高い特徴を最も重要なものとして選択することにより、過度に共線的なデータセットの次元性を縮小しようとする事実が大きな要因である。しかしながら、ラマンスペクトルには非常に多くの特徴があり、そのうちのいくつかが特定の分析物の存在を検出するために重要であり得るため、ラマン分析において全分散または相関に基づく次元縮小は効率的なアプローチではない。
【0063】
本開示は、1つ以上のデータ処理技術を採用し、これは、既知の出力値を反復的に近似するために入力データに適用される重みを微調整することを通じて「学習」する、当該技術分野で知られている機械学習アルゴリズムを含み得る。アルゴリズムは、拡張データセットの分析によって得られた重みを採用する。拡張されたデータセットには、i)多数の対象から採取された血液サンプルから得られたスペクトル、ii)純粋または混合された既知の分析物から得られたスペクトル、およびiii)i)とii)の加重和から、または他の手段によって創出された半合成データを含む。特定の分析物を検出するために使用されるアルゴリズムをトレーニングするために十分に大きなデータセットを構築するために、多数の血液および純粋な分析物サンプルを得ることは困難なことが多い。サンプルデータを半合成データで拡張することにより、他の方法よりもはるかに大きなデータセットを得ることができる。この拡張を可能にする理論的根拠は、分析物間に化学的相互作用がない場合、ラマンスペクトルが付加的であるという事実である。つまり、特定のサンプルスペクトルAが周波数Xにおいて振幅Yのラマンピークを示し、サンプルスペクトルBが同じ周波数Xにおいて振幅Yのラマンピークを示す場合、Aを50%、Bを50%含むサンプルから得られる結合サンプルスペクトルCは、2つの振幅の線形結合、すなわち(Y+Y)/2に対応するピークを有する。この機能により、基礎データの任意の数の半合成線形結合を生成し、オリジナルサンプルとして扱われることを許容する(例えば、数千または数万の半合成スペクトル)。
【0064】
血液サンプルのスペクトルおよび純粋な分析対象物のスペクトルを組み合わせて、半合成スペクトルを生成する方法の一例を、以下の表1を参照して例示した。
【表1】
【0065】
図8は、ヘモグロビン、コラーゲン、脂肪、およびコレステロールを含むインビボサンプルによく見られる特定の分析物のラマンスペクトルを示す。ヘモグロビンのスペクトルには、1228、1562、1580、および1621cm-1におけるピークが含まれる。グルコースへの長期暴露の増加に伴い、1562、1580、および1621におけるピークが増加し、1228におけるピークが減少することがわかる。これは、A1C、および糖化のヘモグロビンへの影響を、ラマン分光法を使用して測定できることを示している。ヘモグロビンはまた、示差測定法で使用するための基準分析物としても機能する。4つの分析対象物のスペクトルは、互いに重なり合う、あるいは近接するピークを示している。例えば、コラーゲン、脂肪、コレステロールは、約1440~1450cm-1においてピークを示している。重なり合う場合、そのようなピークにおける振幅の比率は有用な情報を提供する。所与の波長におけるピークは、特定の化学結合、例えばC=CまたはC=Oを反映している。例えば、C=C結合とC=O結合の比率が異なる分子のスペクトルは、その波長の信号を発生させる結合の数にほぼ比例する振幅のピークを示す。
【0066】
非常に異なる波長の信号の振幅比を比較することは有用であるため、波長全体の感度が一定で較正されるように、システムを適切にフラットフィールド化することが重要である。
【0067】
表の第2の列には、重み付けW、W...W14のセットが含まれている。重み付けは、合計が1(1)になるランダムな値である。半合成サンプルスペクトル(サンプル番号15)は、14個のソースサンプルのスペクトルの加重和として発生する。言い換えると、サンプル15(S15)のスペクトルはW*S+W*S+W*S...W13*S13+W14*S14に等しい。さらに、サンプルS16...Sは、異なるランダムな重み付けW...W14を使用して同じ方法で発生させることができる。このようにして、上記のような半合成データによって拡張された拡大データセットを、ニューラルネットワーク、非負行列モデル、および/または他の手順のトレーニングに使用して、ラマンスペクトルからの分析物検出の精度を改善することができる。
【0068】
ケモメトリックス
ラマン分光法およびケモメトリックスで分析物濃度を判定するための従来のアプローチは、サンプル中の着目する分析物の既知濃度を最もよく「予測」する試みとして、ある形態の予測モデル、例えば、多重線形回帰、主成分回帰(PCA)、または「部分最小二乗」回帰(PLS)を適用することである。これらの手法は、サンプルから取得した観測スペクトル曲線から、最大の二乗重相関または最小の二乗和誤差を達成しようとするものである。この状況下では、スペクトル曲線の個々のビンは「独立」変数とみなされ、これらの方法で必要とされるサンプル中の既知の分析物濃度は「従属」変数である。したがって、通常のアプローチは「ブラインド」手順であり、成分分析物のスペクトルの特徴、またはこれらの分析物によって発生した信号がどのように組み合わされて観測スペクトル曲線を生じさせるかに関する知識が、モデルにほとんど、またはまったく組み込まれていない。
【0069】
ホストコンピュータまたはラマン信号データにアクセスできる別のコンピューティングデバイスを使用して実行できる現在の開示で採用されている一次モデルは、(1)測定、文献、またはQM分子モデリングのいずれかから得られる基礎となる分析物のスペクトルの特徴、(2)これらの基礎となる分析物または成分分析物からの信号を組み合わせて、サンプルから取得した観測スペクトル曲線を生成する方法、(3)分析物およびサンプルの両方にわたってスペクトルの特徴が互いにどのように関連しているかに関するドメイン知識を完全に組み込んでいるという点で上記の方法とは大きく異なる。加えて、モデルを適合させる場合、サンプルの既知の分析物濃度(前の段落で説明した「従属変数」)は使用されない。ドメイン知識を組み込むことで、はるかに感度が高く安定したモデル、ならびに望ましくない曲線の当てはめの影響を受けないモデルが生み出される。
【0070】
モデルを説明する基本的な方程式は次のとおりである。
ji=Σjkki+Eji (1)
jiは、i番目のスペクトルビン内のj番目のサンプルについて観察された信号の強度であり、Wjkは、j番目のサンプル中のk番目の成分分析物の濃度であり、Akiは、k番目の成分分析物のi番目のスペクトルビン内の信号の強度であり、Ejiは、j番目のサンプルおよびi番目のスペクトルビンの誤差または残差である。
式(1)は、次のように行列形式で表すことができる。
S=WA+E (2)
(2)
モデルを適合させるために、プロセッサは、行列WおよびAを解くように構成されているので、モデルがデータにどの程度適合しているかの尺度であるフロベニウスノルム(C)が、WおよびAに対する多数の制約に従って最小化される。
C=||S-WA||2 (3)
【0071】
言い換えると、モデルの実行により、サンプルから取得した観測スペクトル曲線が、純粋な、あるいは「成分」分析物のスペクトル曲線の濃度加重和によって、最適に再現される。
【0072】
見てわかるように、モデルには、特異値分解から得られるものとは異なり、一種の行列因数分解と、場合によっては次元縮小が含まれる。主成分などの次元縮小スキームで一般的に採用される行列因数分解とは対照的に、開示された因数分解は、直交性の要件を取り除き、他の多くの制約に置き換えられる。制約には、スペクトルの特徴、ならびに現象の物理特性に関するドメイン知識もモデルに組み込まれている。
【0073】
より具体的には、制約には、A)任意のスペクトルビンで受容した光子の数がゼロ以上でなければならず、また、任意のサンプル中の分析物の濃度もゼロ以上でなければならないという事実に起因する行列S、A、およびWの非負性、B)ドメイン知識に基づく、Aの成分分析物曲線のサブセットの事前指定のうちの1つ以上を含み得る。これらのプリセット曲線は、グルコース、ビリルビン、コレステロール、ヘモグロビン、ならびにスペクトルピークの状況依存的シフトを説明するそのバリエーションなど、様々な分析物の既知のスペクトル曲線(例えば、測定、文献、QM分子モデリングに基づく曲線)に基づいて固定することができる。Aの一部の行について、部分指定および「偏り」が指定されることもある。これにより、「より柔軟な」または「より曖昧な」制約を使用して、精度の低い、または完全でない知識をモデルに取り込むことができる。
【0074】
このような部分指定の根拠となる要因としては、以前に適合したモデルからの残差の検査に基づく推定、特定のスペクトル信号が特定の分子結合とどのように関連しているかについての知識などが含まれる。Aのいくつかの行は、非負性、およびおそらく稀薄性さを除いて、ほとんど制約されないままにしておくことができ、C)加えて、従属変数との相関の観点からモデルを改善するために、Wの特定の列に何らかの「バイアス」を適用することができる。これらのバイアスは、望ましくない曲線の当てはめの可能性を回避するために、小さく保つことができる。しかしながら、このようなバイアスは、完全に指定された成分分析物曲線を含むAの行には影響せず、部分的に指定された曲線または特徴を含む行にはほとんど影響せず、効果は、ほとんど制約のないAの行で最大になり、かつD)様々な分析物のスペクトル曲線が直交していると期待する理由がないため、関係する行列のいずれにも直交性の制約がないことに留意されたい。実際、異なる分析物が、非直交性を意味するいくつかの重複するスペクトルピークを有する可能性があり、実際に有していることが知られている。同様に、サンプル中の分析物の濃度は、一般に非直交であるとみなすことができる(分析物ごとに1つのバイアルのバイアル内の純粋分析物を除く)。同様に、サンプルから得られたスペクトル曲線が直交することはめったにない。直交拘束モデルを使用する従来の次元縮小手法では、基礎となる化学を正確に表現するために、任意の直交解をより意味のある斜交解に「回転」させる必要がある。本明細書に開示されるモデルでは、そのような回転は必要ではない。用語体系の観点から、開示されたモデルは「直接非負斜交プロクラステス因子モデル」と呼ぶことができる。
【0075】
トレーニングまたはモデル構築プロセスでは、行列WおよびSの入力を含むトレーニングデータを使用して、方程式(3)を解くことにより分析物行列Aを判定する。トレーニングデータには、上記の半合成データを含めることができる。行列Aが判定されると、ホストコンピュータはモデルを実行して、新しいインビボサンプルの分析物濃度を判定することができる。これは、サンプルの観測スペクトル曲線を含むSが与えられた濃度行列Wと、トレーニング/モデル構築プロセス中に得られた分析物行列Aを解くことによって行われる。Aが与えられたときにWを判定するために使用されるアルゴリズムは、任意の優れた非負線形最小二乗方程式ソルバを含むことができるが、追加の制約を追加することを許容する他のアルゴリズムも使用することができる。
【0076】
モデルの品質は、学習データの各分析物について、Wで見つかった濃度を同じサンプルセットの測定または既知の濃度と相関させることで評価できる(例えば、Wで見つかったグルコース濃度を、標準血糖計を使って得られた濃度と比較することによって)。上記のモデルのバリエーションは、実装可能である。しかしながら、ラマン信号から正確な分析物濃度測定値を取るには、モデルにかなりの量のドメイン知識と知識ベースのバイアスを明示的に組み込むことが重要な要素であることに留意されたい。未知の(および一般的に多数の)分析物を含むサンプルのラマンスペクトルは、非常に大きな独立変数のセットを示し、これは、ブラインド多変量予測または相関ベースのモデル(単純なフィードフォワードニューラルネットワークを含む)では、激しい曲線当てはめと情報の損失なしには事前に減らすことができない。したがって、そのようなブラインド多変量予測または相関ベースのモデルは、本開示の状況下では使用されない。しかしながら、ニューラルネットワークおよびその他の機械学習方法を使用して、外れ値を検出して修正するだけでなく、本明細書で説明するようなモデルの状況下で測定の全体的な精度を向上させることもできる。
【0077】
本明細書において開示されるいずれの構造および機能の詳細も、システムおよび方法を限定するものとして解釈されるべきではなく、当業者に、方法を実施するための1つ以上の手法を教示する代表的な実施形態および/または構成として提供されることを理解されたい。
【0078】
図面中の類似の数字が、いくつかの図を通して類似の要素を表すこと、ならびに図に関連して説明および図示された構成要素および/またはステップのすべてが、すべての実施形態または構成に必要とされるわけではないことをさらに理解されたい。
【0079】
本明細書で使用する用語は、単に特定の実施形態を説明する目的のためであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書において使用されるとき、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに別のことを示している場合を除き、複数形も含むものと意図する。さらに、本明細書で使用するとき、「備える」および/または「備えている」という用語は、記載する特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除しないことがさらに理解されよう。
【0080】
本明細書では、向きの用語は、単に慣例および参照の目的で使用されており、限定的なものとして解釈されるべきではない。しかしながら、これらの用語が、見るヒトを基準にして使用される可能性があることを認識されたい。したがって、限定が含意されることもなく、推測されることもない。
【0081】
また、本明細書で使用する表現および用語は、説明の目的のためであり、限定するものとみなすべきではない。本明細書内の「含む」、「備える」、または「有する」、「包含する」、「伴う」、およびこれらの変形の使用は、それ以降に列挙された項目およびその等価物、ならびに追加項目を包含することを意味する。
【0082】
本発明は、例示的な実施形態を参照して説明されてきたが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱せずに、様々な変更を行うことができ、均等物を実施形態の要素の代わりに用いることができることを理解されよう。加えて、当業者であれば、本発明の本質的な範囲から逸脱せずに、特定の機器、状況、または材料を本発明の教示に適応させるための多くの修正を理解するであろう。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図された最良の形態として開示される特定の実施形態に限定されるべきではなく、当業者によって理解されるように、本発明は、この開示の範囲に収まるすべての実施形態を含むことが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
【国際調査報告】