IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンディス ブラッド ケア ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2022-541551三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去
<>
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図1
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図2
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図3
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図4
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図5
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図6
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図7
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図8
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図9
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図10
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図11
  • 特表-三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】三官能性抗体を用いることによる術中自己血回収からの腫瘍細胞の除去
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20220915BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220915BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220915BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220915BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20220915BHJP
   C12N 5/078 20100101ALN20220915BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20220915BHJP
【FI】
A61M1/00 170
C07K16/46
C07K16/28
C07K16/30
G01N33/574 D
C12N5/078
C12N5/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503464
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(85)【翻訳文提出日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 EP2020070459
(87)【国際公開番号】W WO2021009383
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】19186959.3
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522022188
【氏名又は名称】リンディス ブラッド ケア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】リンドホーファー, ホルスト
【テーマコード(参考)】
4B065
4C077
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BD14
4B065CA44
4C077AA30
4C077BB02
4C077EE04
4C077KK13
4C077NN04
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA24
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、三官能性抗体が白血球、腫瘍細胞及びFc受容体陽性細胞と結合するために用いられる、術中に得られた回収血液から腫瘍細胞を除去するためのex vivoで行われる方法に関する。本発明は、そのようにして得られた精製回収血液又は前記方法により精製された赤血球の濃縮物を術中に回収した血液を得た患者に再導入することが後に続く、術中に得られた回収血液から腫瘍細胞を除去するためのex vivo方法の使用にも関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
- 腫瘍細胞を含み得る術中に回収した血液を準備する工程と、
- 前記術中に回収した血液を、
- 二重特異性、三重特異性、四重特異性及び多重特異性抗体、並びに二価、三価、四価及び多価抗体からなる群より選択される少なくとも1つの抗体、並びに/或いは
- 抗体と同様の多重特異的又は多価結合特性を有する少なくとも足場タンパク質
と接触させる工程であって、
前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質が、以下の特性:
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する
を有し、
前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質が、血液に含まれる少なくとも腫瘍細胞及び白血球細胞と三次元ネットワークを形成でき、
前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質が、10~240分、好ましくは10~180分の期間、前記術中に回収した血液と接触され、該期間は、前記抗体及び/又は前記足場タンパク質を含む会合体及び/又は凝集体を得るために前記腫瘍関連抗原を含む腫瘍細胞、及び前記白血球抗原を含む白血球細胞、及び/又は他の腫瘍細胞を架橋するために十分であり、前記腫瘍細胞、前記他の腫瘍細胞及び前記白血球細胞が、術中に回収した血液中に存在する可能性があり、前記腫瘍細胞が、前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記足場タンパク質により特異的に認識される、工程と、
- 前記会合体及び/又は凝集体を、前記術中に回収した血液から機械的に除去する工程と
を含む、術中に回収した血液から腫瘍細胞を除去するためのex vivo方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの抗体が、三官能性二重特異性抗体である、請求項1に記載のex vivo方法。
【請求項3】
前記三官能性二重特異性抗体が、以下のアイソタイプの組み合わせ:
ラット-IgG2b/マウス-IgG2a、
ラット-IgG2b/マウス-IgG2b、
ラット-IgG2b/ヒト-IgG1、
マウス-[VH-CH1;VL-CL]-ヒト-IgG1/rat-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
[*=白人のアロタイプG3m(b+g)=プロテインAと結合しない]
を有する抗体の群から選択される、請求項2に記載のex vivo方法。
【請求項4】
前記パン白血球抗原が、CD52である、請求項1から3のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項5】
腫瘍抗原特異性及び/又はパン白血球抗原特異性が互いに異なる少なくとも2つの異なる抗体が、用いられる、請求項1から4のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項6】
前記会合体が、抗体、腫瘍細胞及び白血球細胞で構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項7】
前記1つ以上の抗体及び/又は足場タンパク質が、術中に回収した血液1リットルあたり1μgから20μg、好ましくは1から10μg又は1から5μg又は1から2μgの量で用いられる、請求項1から6のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項8】
以下のさらなる工程:
a) 前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質を添加する前に、術中に回収した血液を、少なくとも1つの抗凝固剤と混合する工程、
b) 前記会合体及び/又は凝集体並びにさらなる血液成分から赤血球を、遠心分離により、好ましくは密度勾配遠心分離により分離する工程、
c) 前記混合物を所望により濾過して、存在する可能性がある残存会合体及び/又は凝集体並びに残存細胞複合体を除去する工程、並びに
d) 赤血球含有画分及びさらなる血液成分を、別の容器に回収する工程
の少なくとも1つを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項9】
前記術中に回収した血液との前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質のインキュベーション時間が、10と90分の間、さらに好ましくは20と60分の間であり、所望により、前記インキュベーションが、19から25℃の間の温度、好ましくは室温にて行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項10】
会合体及び/又は凝集体の前記除去が、遠心分離、濾過又はそれらの組み合わせによる、請求項1から9のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項11】
白血球及び/又は腫瘍細胞を含む細胞複合体が、白血球吸着/枯渇フィルターを用いて別の工程において除去される、請求項1から10のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項12】
前記腫瘍細胞が、上皮性、血液又は神経外胚葉性腫瘍からである、請求項1から11のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項13】
T細胞、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原、及びそのFc部分を介してFc受容体陽性細胞に結合する追加の三官能性二重特異性抗体が、施用される、請求項1から12のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質が、2つの異なる腫瘍関連抗原と結合する特性を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載のex vivo方法。
【請求項15】
以下の特性:
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する
を有する二重特異性、三重特異性、四重特異性若しくは多重特異性抗体、二価、三価、四価若しくは多価抗体及び/又は抗体に類似の多重特異的若しくは多価結合特性を有する足場タンパク質、特に二重特異性三官能性抗体であって、血液に含まれる腫瘍細胞及び白血球細胞と三次元ネットワークを形成できる抗体の、請求項1から13のいずれか一項に記載のex vivo方法における使用。
【請求項16】
前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質が、2つの異なる腫瘍関連抗原と結合する特性を有する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
以下の工程:
- 腫瘍細胞を含み得る術中に回収した血液を準備する工程と、
- 前記術中に回収した血液を抗体と接触させる工程であって、前記抗体が、以下の特性:
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する
を有し、
前記抗体が、血液に含まれる少なくとも腫瘍細胞及び白血球細胞と三次元ネットワークを形成でき、
前記抗体が、10~240分、好ましくは10~180分の期間、前記術中に回収した血液と接触され、該期間は、前記抗体を含む会合体及び/又は凝集体を得るために前記腫瘍関連抗原を含む腫瘍細胞、及び前記パン白血球抗原を含む白血球細胞、及び/又は他の腫瘍細胞を架橋するために十分であり、前記腫瘍細胞、前記他の腫瘍細胞及び前記白血球細胞が、術中に回収した血液中に存在する可能性があり、前記腫瘍細胞が、前記抗体により特異的に認識される、工程と、
- 前記会合体及び/又は凝集体を、前記術中に回収した血液から機械的に除去する工程と
を含む腫瘍又は癌の処置における使用のための、二重特異性、三重特異性、四重特異性及び多重特異性抗体、並びに二価、三価、四価及び多価抗体からなる群より選択される抗体。
【請求項18】
前記抗体が、2つの異なる腫瘍関連抗原と結合する特性を有する、請求項17に記載の使用のための抗体。
【請求項19】
以下の工程:
- 腫瘍細胞を含み得る術中に回収した血液を準備する工程と、
- 前記術中に回収した血液を足場タンパク質と接触させる工程であって、前記足場タンパク質が、以下の特性;
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する
を有し、
前記足場タンパク質が、血液に含まれる少なくとも腫瘍細胞及び白血球細胞と三次元ネットワークを形成でき、
前記足場タンパク質が、10~240分、好ましくは10~180分の期間、前記術中に回収した血液と接触され、該期間は、前記足場タンパク質を含む会合体及び/又は凝集体を得るために前記腫瘍関連抗原を含む腫瘍細胞、及び前記パン白血球抗原を含む白血球細胞、及び/又は他の腫瘍細胞を架橋するために十分であり、前記腫瘍細胞、前記他の腫瘍細胞及び前記白血球細胞が、術中に回収した血液中に存在する可能性があり、前記腫瘍細胞が、前記足場タンパク質により特異的に認識される、工程と、
- 前記会合体及び/又は凝集体を、前記術中に回収した血液から機械的に除去する工程と
を含む腫瘍又は癌の処置における使用のための、抗体に類似の多重特異的又は多価結合特性を有する足場タンパク質。
【請求項20】
前記足場タンパク質が、2つの異なる腫瘍関連抗原と結合する特性を有する、請求項19に記載の使用のための足場タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三官能性抗体を用いることによる術中に回収した血液からの腫瘍細胞の除去のためのex vivoで行われる方法と、そのようにして得られた精製回収血液、又は前記方法により精製された赤血球の濃縮物を術中に回収した血液を得た患者に再導入することが後に続く、術中に回収した血液からの腫瘍細胞の除去のための前記ex vivo方法の使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代初期のAIDSエピデミック以来、特に待機手術について同種血輸血の代案に対する興味が増加してきている。米国及び欧州のいくつかの国で提供される血液の5%より多くを現在占めるある代案は、術前供血により主に得られる自己血輸血である。術前供血に加えて、手術野からの術中血液回収(IBS)(表1)は、輸血需要を担保する重要な選択肢である。このIBSプロセスに伴い、外科手術患者から失われる血液は、回収され、浄化され、その患者への再注入のために用いることができるようにされる。
【0003】
簡単に述べると、手術野に流れる血液は、その部位から特に設計された囲いの中に吸引される。クエン酸塩又はヘパリン凝固剤を加え、内容物を遠心分離及び/又は濾過して、白血球及び血塊及びデブリを除去する。用いるIBS装置は、抗凝固剤を充填した単純、安価な滅菌ボトルから、高価で洗練された高速細胞洗浄装置までさまざまであり得る(例えばMedtronic Sequestra 1000、Cobe BRAT 2、Medtronic Autolog、Haemonetics Cell Saver-5(登録商標)及びFresenius CATS(登録商標);Bentzienら、Anaesthesist49:505、2000;Serrickら、J.Extra Corpor.Technol.35(1):28、2003;Carlessら、The Cochrane Library、The Cochrane Review、John Wiley&Sons,Ltd.、第3巻、pp.1~180、2010)。米国において毎年百万件近い手術において用いられているIBS手順は、病院の血液管理及び保存プログラムの肝要な部分になってきている。
【0004】
【表1】
【0005】
術前貧血の症例が増加していることに伴い、術前の供血は、全体的な輸血率が高いことにより、深刻な経済的疑問をさらに生じる(Carlessら、Transfus.Med.14:123、2004)。さらに、規制ガイドラインに従って、必要でない自己血液生成物は同種血輸血自体から除かれるために、イタリアでは、約30%の術前自己供血が廃棄されている。この点で、IBS及びその後の自己輸血は、全般的に、血液管理において安全でより費用効果的な施策である。
【0006】
術中血液回収の利点
同種赤血球細胞輸血とは対照的に、IBSは、安全で効力のある代案であると考えられる。重要なことに、優れたウイルス診断薬にもかかわらず、HIV感染の伝達の危険性は、493,000同種血輸血あたり1であり、C型肝炎ウイルス感染の伝達の危険性は、103,000あたり1であり、B型肝炎ウイルス感染の伝染の危険性は、63,000あたり1である(Schreiberら、N.Engl.J.Med.334:1685、1996)。1996年から2001年まで行われた「輸血の深刻な危険要因(Serious Hazards of Transfusions)」研究の結果は、同種輸血発生率のこれらの危険性を文書化した(Dzikら、Transfusion43:1190、2003)。著しいことに、汚染血液輸血による感染性疾患の伝染は、供血及び輸血プロセスとともに管理事務上又は人的不備によるABO不適合血液による重大な危険性と比較して、小さい危険性であることがわかる(Sazama、Transfusion30:583、1990;Dzikら、Transfusion43:1190、2003)。輸血発生率の70%より多くが、管理事務上の不備並びにサンプリング、指示及び成分収集における過誤を主な原因とする間違って輸血される血液成分に帰する可能性がある(Dzikら、Transfusion43:1190、2003)。術前及び術中の赤血球細胞の自己輸血は、同種血輸血に固有のこれらの危険性自体を回避する。全般的に、自己血液回収技術は、利点を提供するが、血液容量を保つために晶質又はコロイドの注入を必要としない(表1)。他の自家技術よりもかなり多くの容量の血液を、過度の出血中に術中に回収できる。
【0007】
患者のIBSへの適性
術中血液回収は、25年以上前から利用されている。これは、心胸郭(cardiothoriac)手術、血管及び外傷手術、並びに肝臓移植において広く用いられている。この使用に対する禁忌は、細菌感染及び手術野の血液中におそらく脱落する腫瘍細胞、並びに手術部位でのミクロフィブリルコラーゲン又はその他の外来物質の使用である。現在、ドナー血液不足及び感染の伝染への恐れから、血液喪失が大きい癌手術においてもIBSの使用に対する興味が増加している。癌手術における自己血輸血の使用を外科医が渋ることは少なくなってきており、標準的な生存データと比較して、報告は、局所再発又は転移疾患の増加を示していない(Klimbergら、Arch.Surg.212:1326、1986;Perseghinら、Vox Sang.72:221、1997)。Vanderlindeら(BMJ324:772、2002)により概説されるように、術前供血血液から回収される赤血球細胞自己輸血は、同種輸血と比較して結腸直腸癌手術中の感染及び再発の発生率の低減を著しく導くことができた(表2)。これらの概説された臨床試験のいくつかは、結腸直腸手術がそれ自体細菌感染の伝染の固有の危険性のためにIBSの推奨から除かれているので、さらにより重要である。
【0008】

【表2】
【0009】
それにもかかわらず、ある研究は、腫瘍細胞が手術野において検出可能であったことを明確に示すが、癌再発に対するその影響は明確でないままであった(Hansenら、Arch.Surg.130:387、1995)。例えば、腹部、整形外科、泌尿器科、婦人科又は頭頚部の悪性腫瘍の癌手術を受けた61名の患者の末梢血及びIBS中の腫瘍細胞の数を比較した。61名の患者のうち57名において、腫瘍細胞が、腫瘍学的手術中に流出した血液中で検出された。これらの腫瘍細胞は、500mL血液あたり10腫瘍細胞の感度で、増殖能、侵襲性及び腫瘍形成能により同定された(Hansenら、Arch.Surg.130:387、1995)。興味深いことに、流出血液中の腫瘍細胞数は、血液喪失量とは相関せず、これらの患者の26%のみにおいて、循環腫瘍細胞が末梢血において検出できた。よって、手術野に流出した血液中の腫瘍細胞数は、10から10までの範囲であり得ると推定される。これらの結果は、Daleら、Br.J.Surg.75:581、1988及びMullerら、Anaesthesist45:834、1996によっても独立して確認された。
【0010】
IBS試料中の残存腫瘍細胞の危険性に関する安全性の懸念にさらに対処するために、混入腫瘍細胞を効率的に排除するためにさらなるアプローチが必要である:
・ 自動化IBS装置、例えばCell Saver-5(登録商標)と組み合わせて用いるある方法が、白血球枯渇フィルター(例えばPall RC400、RCEZ1T)、RC XL-1)を通すさらなる試料の濾過により示されている(Bontadiniら、Transfusion34.531、1994;Yaprakら、Turk.J.Pediatr.40:89、1998;Gwakら、Liver Transplant.11:331、2005)。IBSにより回収された赤血球の安全な輸血は、いくつかの試験において評価されているように、臨床成績を損なわない(EdelmanらUrology47:179、1996;Perseghinら、Vox Sang.72:221、1996;Davisら、BJU International91:474、2003)。
・ 別のIBSアプローチにおいて、有核癌細胞の放射線感受性の根底にある原理及び無核赤血球細胞の放射線耐性のために、試料を50Gyにて照射する。
【0011】
さらなるスタッフの必要性、線量測定の問題、臨床部門における適切かつ認可された照射設備を含むこのIBS/照射アプローチの複雑なロジスティクスにおける要求のために、この後者の手順は、広い応用において好ましくない。これとは対照的に、白血球枯渇のための濾過手順は、IBS中の残存腫瘍細胞を低減するための手際のよいアプローチであるが、この技術は、残存腫瘍細胞がフィルターをまだ通過するという固有の危険性をまだ有する。
【0012】
Edmund A.M.Neugebauer:“Jahresbericht 2010、Institut fur Forschung in der Operativen Medizin”、Universitat Witten/Herdecke、2011年3月1日(2011-03-01)、第1~98頁は、腫瘍学的手術中の自己血輸血のための、創傷の術中に回収した血液からの遊離腫瘍細胞の排除のための三官能性抗体カツマキソマブを開示している。
【0013】
Alexandra Schoberth:“Entwicklung und Verbesserung von Methoden zur Charakterisierung-disseminierter Tumorzellen bei soliden Tumoren“、Dissertation an der Medizinischen Fakultat der Ludwig-Maximilians-Universitat zu Munchen、2004年12月9日(2004-12-09)は、三官能性抗体を用いるex vivo除去((再投与のために)自己幹細胞アフェレーシス生成物から腫瘍細胞をパージする)を開示している。
【0014】
Schoberth Aら:“A new class of trifunctional bispecific antibodies mediated efficient immunological purging of peripheral blood stem cells“、European Journal of Cancer、第37巻、2001年9月1日(2001-09-01)、第S51頁は、三官能性二重特異性抗体を、末梢血幹細胞の免疫学的パージのために効果的に用いることができることを記載している。
【0015】
EP6317330は、T細胞に、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原に、そしてそのFc部分を介してFc受容体陽性細胞に結合する三官能性二重特異性抗体を用いて、術中に回収した血液から腫瘍細胞を除去するex vivo方法を記載している。しかし、T細胞、特にT細胞表面マーカーとしてのCD3及びCD28への結合は、サイトカイン放出のある程度の危険性を含み、前記サイトカインは、患者に再注入するために回収された赤血球濃縮物に入り込む可能性がある。サイトカインを含む可能性がある前記赤血球濃縮物の再注入は、受容者において重篤な炎症反応を引き起こす可能性がある。さらに、この方法は、T細胞数が低減した患者において腫瘍細胞を十分に除去できない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
よって、癌手術における安全性をさらに増進して残存腫瘍細胞を除去するために、例えば腫瘍を有する患者の創傷から手術中に得られた自己血液を再導入するための全ての既知の方法を改善して、混入する可能性がある腫瘍細胞の信頼できる除去を提供しなければならない。この改善は、患者の自己血液からの腫瘍細胞の効率の高い除去も含むべきであり、さらに、この改善は、例えばCell Saver-5(登録商標)若しくはCATS(登録商標)のような装置、又は手術を受けた患者からの腫瘍細胞を含まないか若しくは少なくとも実質的に含まない血液を再導入するための任意のその他の方法において容易に実行でき、好ましくは前記影響の発生が著しく減少しているべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らが見出した新規なアプローチは、抗体駆動性腫瘍関連抗原認識と、さらに白血球及び/又はFc受容体陽性アクセサリー細胞並びに/或いはさらに腫瘍細胞の認識により認識される腫瘍細胞を含む多重細胞複合体、すなわち会合体及び/又は凝集体の抗体媒介形成と、その後の例えば遠心分離及び/又は濾過工程による前記会合体の除去とに基づく。請求項1に記載する抗体の代わり又はそれと組み合わせて、抗体を模倣するタンパク質足場も用いることができる。
【0018】
発明及び好ましい実施形態の詳細な説明
以下の議論は、本発明について説明し、その好ましい実施形態について示す目的のために含まれる。
【0019】
そうでないと説明しない限り、本明細書で用いる全ての技術的及び科学的用語は、本開示が属する当該技術の熟練者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」及び「the」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数形の言及を含む。同様に、語句「又は(或いは、若しくは)」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、「及び」を含む意図である。本明細書に記載するものと同様又は等価な方法及び材料は本開示の実施又は試験において用いることができるが、適切な方法及び材料を以下に記載する。用語「含む(comprises)」は、「含む(includes)」を意味する。本明細書に記載する全ての出版物、特許出願、特許及びその他の参考文献は、それらの全体が参照により組込まれている。矛盾がある場合、用語の説明を含む本明細書が支配する。また、材料、方法及び実施例は、例示のためだけであり、限定することを意図しない。
【0020】
本発明は、以下に関する:
(1)以下の工程:
- 腫瘍細胞を含み得る術中に回収した血液を準備する工程と、
- 前記術中に回収した血液を、
- 二重特異性、三重特異性、四重特異性及び多重特異性抗体、並びに二価、三価、四価及び多価抗体からなる群より選択される少なくとも1つの抗体、並びに/或いは
- 抗体と同様の多重特異的又は多価結合特性を有する少なくとも足場タンパク質
と接触させる工程であって、
前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質が、以下の特性:
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球(pan-leukocyte)抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する
を有し、
前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質が、血液に含まれる少なくとも腫瘍細胞及び白血球細胞と三次元ネットワークを形成でき、
前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質が、10~240分、好ましくは10~180分の期間、前記術中に回収した血液と接触され、該期間は、前記抗体及び/又は前記足場タンパク質を含む会合体及び/又は凝集体を得るために前記腫瘍関連抗原を含む腫瘍細胞、及び前記パン白血球抗原を含む白血球細胞、及び/又は他の腫瘍細胞を架橋するために十分であり、前記腫瘍細胞、前記他の腫瘍細胞及び前記白血球細胞が、術中に回収した血液中に存在する可能性があり、前記腫瘍細胞が、前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質により特異的に認識される、工程と、
- 前記会合体及び/又は凝集体を、前記術中に回収した血液から機械的に除去する工程と
を含む、術中に得られた回収血液から腫瘍細胞を除去するためのex vivo方法。
【0021】
(2)好ましくは、(1)によるex vivo方法において、前記少なくとも1つの抗体は、三官能性二重特異性抗体である。
【0022】
(3)好ましくは、(2)によるex vivo方法において、前記三官能性二重特異性抗体は、以下のアイソタイプの組み合わせ:
ラット-IgG2b/マウス-IgG2a、
ラット-IgG2b/マウス-IgG2b、
ラット-IgG2b/ヒト-IgG1、
マウス-[VH-CH1;VL-CL]-ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
[*=白人のアロタイプG3m(b+g)=プロテインAと結合しない]
を有する抗体の群から選択される。
【0023】
(4)好ましくは、(1)から(3)のいずれか1つによるex vivo方法において、前記パン白血球抗原は、CD52である。
【0024】
(5)好ましくは、(1)から(4)のいずれか1つによるex vivo方法において、腫瘍抗原特異性及び/又はパン白血球抗原特異性が互いに異なる少なくとも2つの異なる抗体を用いる。
【0025】
(6)好ましくは、(1)から(5)のいずれか1つによるex vivo方法において、前記会合体は、抗体、腫瘍細胞及び白血球細胞で構成される。
【0026】
(7)好ましくは、(1)から(6)のいずれか1つによるex vivo方法において、前記1つ以上の抗体及び/又は足場タンパク質は、術中に回収した血液1リットルあたり1μgから20μg、好ましくは1から10μg又は1から5μg又は1から2μgの量で用いられる。
【0027】
(8)好ましくは、(1)から(7)のいずれか1つによるex vivo方法は、以下のさらなる工程:
a) 前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質を添加する前に、術中に回収した血液を、少なくとも1つの抗凝固剤と混合する工程、
b) 前記会合体及び/又は凝集体並びにさらなる血液成分から赤血球を、遠心分離により、好ましくは密度勾配遠心分離により分離する工程、
c) 前記混合物を所望により濾過して、存在する可能性がある残存会合体及び/又は凝集体並びに残存細胞複合体を除去する工程、並びに
d) 赤血球含有画分及びさらなる血液成分を、別の容器に回収する工程
の少なくとも1つを含む。
【0028】
(9)好ましくは、(1)から(8)のいずれか1つによるex vivo方法において、前記術中に回収した血液との前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質のインキュベーション時間は、10と90分の間、さらに好ましくは20と60分の間であり、所望により、前記インキュベーションは、19から25℃の間の温度、好ましくは室温にて行われる。
【0029】
(10)好ましくは、(1)から(9)のいずれか1つによるex vivo方法において、会合体及び/又は凝集体の前記除去は、遠心分離、濾過又はそれらの組み合わせによる。
【0030】
(11)好ましくは、(1)から(10)のいずれか1つによるex vivo方法において、白血球及び/又は腫瘍細胞を含む細胞複合体は、白血球吸着フィルターを用いて別の工程において除去される。
【0031】
(12)好ましくは、(1)から(11)の1つ以上によるex vivo方法において、前記腫瘍細胞は、上皮性、血液又は神経外胚葉性腫瘍からである。
【0032】
(13)好ましくは、(1)から(12)の1つ以上によるex vivo方法において、T細胞、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原、及びそのFc部分を介してFc受容体陽性細胞に結合する追加の三官能性二重特異性抗体を施用する。
【0033】
(14)好ましくは、(1)から(13)のいずれか1つによるex vivo方法において、前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質は、2つの異なる腫瘍関連抗原と結合する特性を有する。前記2つの異なる腫瘍関連抗原は、それぞれ2つの異なる腫瘍細胞上にあり得るか、又は同じ腫瘍細胞上にあり得る。
【0034】
(15)以下の特性:
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する
を有する二重特異性、三重特異性、四重特異性若しくは多重特異性抗体、二価、三価、四価若しくは多価抗体及び/又は抗体に類似の多重特異的若しくは多価結合特性を有する足場タンパク質、特に二重特異性三官能性抗体であって、血液中に含まれる腫瘍細胞及び白血球細胞と三次元ネットワークを形成できる抗体の、(1)から(13)のいずれか1つ以上によるex vivo方法における使用。
【0035】
(16)好ましくは、請求項15に記載の使用において、前記少なくとも1つの抗体及び/又は前記少なくとも1つの足場タンパク質は、2つの異なる腫瘍関連抗原と結合する特性を含む。前記2つの異なる腫瘍関連抗原は、それぞれ2つの異なる腫瘍細胞上にあり得るか、又は同じ腫瘍細胞上にあり得る。
【0036】
(17)以下の工程:
- 腫瘍細胞を含み得る術中に回収した血液を準備する工程と、
- 前記術中に回収した血液を抗体と接触させる工程であって、前記抗体が、以下の特性:
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する
を有し、
前記抗体が、血液に含まれる少なくとも腫瘍細胞及び白血球細胞と三次元ネットワークを形成でき、
前記抗体が、10~240分、好ましくは10~180分の期間、前記術中に回収した血液と接触され、該期間は、前記抗体を含む会合体及び/又は凝集体を得るために前記腫瘍関連抗原を含む腫瘍細胞、及び前記パン白血球抗原を含む白血球細胞、及び/又は他の腫瘍細胞を架橋するために十分であり、前記腫瘍細胞、前記他の腫瘍細胞及び前記白血球細胞が、術中に回収した血液中に存在する可能性があり、前記腫瘍細胞が、前記抗体により特異的に認識される、工程と、
- 前記会合体及び/又は凝集体を、前記術中に回収した血液から機械的に除去する工程と
を含む腫瘍又は癌の処置における使用のための、二重特異性、三重特異性、四重特異性及び多重特異性抗体、並びに二価、三価、四価及び多価抗体からなる群より選択される抗体。
【0037】
(18)好ましくは、(17)による使用のための抗体は、2つの異なる腫瘍関連抗原と結合する特性を有する。前記2つの異なる腫瘍関連抗原は、それぞれ2つの異なる腫瘍細胞上にあり得るか、又は同じ腫瘍細胞上にあり得る。
【0038】
(19)以下の工程:
- 腫瘍細胞を含み得る術中に回収した血液を準備する工程と、
- 前記術中に回収した血液を足場タンパク質と接触させる工程であって、前記足場タンパク質が、以下の特性;
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する
を有し、
前記足場タンパク質が、血液に含まれる少なくとも腫瘍細胞及び白血球細胞と三次元ネットワークを形成でき、
前記足場タンパク質が、10~240分、好ましくは10~180分の期間、前記術中に回収した血液と接触され、該期間は、前記足場タンパク質を含む会合体及び/又は凝集体を得るために前記腫瘍関連抗原を含む腫瘍細胞、及び前記パン白血球抗原を含む白血球細胞、及び/又は他の腫瘍細胞を架橋するために十分であり、前記腫瘍細胞、前記他の腫瘍細胞及び前記白血球細胞が、術中に回収した血液中に存在する可能性があり、前記腫瘍細胞が、前記足場タンパク質により特異的に認識される、工程と、
- 前記会合体及び/又は凝集体を、前記術中に回収した血液から機械的に除去する工程と
を含む腫瘍又は癌の処置における使用のための、抗体に類似の多重特異的又は多価結合特性を有する足場タンパク質。
【0039】
(20)(19)による使用のための足場タンパク質は、2つの異なる腫瘍関連抗原と結合する特性を有する。前記2つの異なる腫瘍関連抗原は、それぞれ2つの異なる腫瘍細胞上にあり得るか、又は同じ腫瘍細胞上にあり得る。
【0040】
他の好ましい実施形態は、図面を組み合わせた以下の説明及び実施例に記載される。本発明のさらに好ましい特長は、特許請求の範囲から理解できる。
本明細書に記載する方法は、ex vivo、すなわち人体の外で行われる。術中回収血液(IBS)は、当該技術において公知であり、「自己回収血液」とも記載される。手術中に喪失される血液は、取り戻され、手術中に喪失された血液を得る同じ患者に再注入される。
【0041】
術中に回収した血液から腫瘍細胞を除去する方法は、ex vivo方法について本明細書に記載する工程を含み、ex vivo方法に関して述べたことが、適切である場合に本方法に当てはまる。
【0042】
本明細書に記載する方法は、術中に得られた回収血液に混入する可能性がある腫瘍細胞の除去を指向する。血液は、好ましくは、手術処置を受け、かつ腫瘍及び/若しくは癌に罹患しているか、又は腫瘍形成性と考えられ得る細胞を有する疑いがある患者から得られる。
好ましくは、方法は、手術野から血液を吸引する外科医から開始する。回収工程は、好ましくは、吸引装置により行われ、希釈剤(dilutive)、例えばステロファンジンもこの工程中で用いることができる。その他の希釈剤、例えばヘパリンを含む0.9%NaClも用いることができる。吸引血液は、次いで、血液の凝固を避けるために抗凝固剤と混合できる。吸引血液は、処理のために十分な血液が得られるまでレザーバに回収できる。
好ましくは、吸引血液は、希釈剤、例えばステロファンジン及び/又はヘパリンを含む0.9%NaClで希釈される。
【0043】
「抗凝固剤」への言及は、抗凝固剤、例えば抗凝固剤、血小板凝集抑制剤、血栓溶解及び繊維素溶解剤、並びに金属イオンキレート化剤、例えばクエン酸塩、クエン酸デキストロース(ACD)及びEDTA並びにシュウ酸塩のクラスを含む。関連する態様において、抗凝固剤は、ヘパリン及びグリコサミノグリカン、例えば低分子量ヘパリン、例えばベミパリン、セルトパリン、ダルテパリン、エノキサパリン、ナドロパリン、パマパリン(Pamaparin)、レビパリン及びチンザパリン、並びにヘパリン類似物質、例えばダナパロイド、スロデキシド、デルマタン硫酸;直接トロンビン(II)阻害剤、例えばアルガトロバン、ビバリルジン、ダビガトラン、デシルジン、ヒルジン、レピルジン、メラガトラン、キシメラガトラン;第Xa因子阻害剤(例えばダニ抗凝固ペプチド)、例えばアピキサバン、オタミキサバン、リバーロキサバン、並びにオリゴ糖類、例えばフォンダパリヌクス及びイドラパリヌクス;ビタミンKアンタゴニスト、例えばアセノクマロール、クロリンジオン、クマテトラリル、ジクマロール、ジフェナジオン、エチルビスクムアセテート、フェンプロクモン、フェニンジオン、チオクロマロール及びワルファリンを含む。
【0044】
本発明の一実施形態では、いわゆる回収血液は、腫瘍細胞の存在について試験でき、ここで、特に好ましくは、腫瘍関連抗原の種類を、前記抗体が結合し、本発明において用いる腫瘍抗原の種類を決定するために、当該技術において公知の方法、例えば腫瘍関連抗原のエピトープと特異的に反応する標識抗体により決定する。
【0045】
本発明では、用語「腫瘍細胞」は、絶え間なく分裂でき、かつ固形腫瘍を形成できるか又は異常細胞で血液をみなぎらせることができる任意の細胞のことをいう。好ましくは、本発明では、術中に回収した血液中に存在する腫瘍細胞は、上皮性、血液又は神経外胚葉性腫瘍からであり得る。
【0046】
本発明に含まれる腫瘍の例(それらに限定されないが)は、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫及びその他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌腫、リンパ性腫瘍、膵癌、乳癌(基底乳癌、乳管癌及び小葉乳癌を含む)、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支原性肺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、精巣腫瘍、精上皮腫、膀胱癌及びCNS腫瘍(例えば神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫瘍、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫及び網膜芽細胞腫)を含む肉腫並びに癌腫を含む。さらなる例は、上皮性腫瘍、血液腫瘍及び神経外胚葉性腫瘍を含む。
好ましくは、本発明の方法では、前記腫瘍細胞は、上皮性、血液又は神経外胚葉性腫瘍からである。
【0047】
本発明では、「免疫細胞」は、白血球及びFc受容体陽性細胞を含む。本発明では、「Fc受容体細胞」は、細胞表面にFc受容体が存在する細胞のことをいう。好ましくは、「Fc受容体陽性細胞」は、単球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球及び好酸球性細胞の1つ以上のことをいう。
好ましくは、術中に回収した血液は、レザーバに回収された後に、前記抗体又は前記足場タンパク質と接触させる。
【0048】
術中回収血液を、次いで、少なくとも1つの腫瘍細胞の少なくとも1つの腫瘍関連抗原の少なくとも1つのエピトープと特異的に結合できる抗体又は適当なタンパク質足場と接触させる。
本発明では、「赤血球濃縮物」は、濃厚赤血球のことをいう。
本発明では、「細胞凝集体」は、互いに接着した細胞のことをいい、前記表現は、「会合体」又は「細胞会合体」と交換可能である。同様に、「会合する」と「凝集する」も交換可能である。
【0049】
さらなる要件として、前記抗体は、抗体及び腫瘍細胞を含む凝集体又は会合体を得るために、血液中に含まれる少なくとも前記抗体及び前記腫瘍細胞の三次元ネットワークを形成できなければならない。本発明のさらに特定の好ましい実施形態では、前記抗体は、抗体及び腫瘍細胞、所望により免疫細胞、並びに所望によりさらなる腫瘍細胞の三次元ネットワークを形成するために、1より多い腫瘍細胞及び/又は免疫細胞とも結合できる。多重細胞複合体の形成に起因する前記会合体の組成、構造及びサイズのために、会合体は、遠心分離若しくは濾過又はその組み合わせにより前記IBSから除去できる。濾過及び遠心分離は、好ましい方法であるが、残存腫瘍細胞を含む前記会合体を効率的に除去するために、当業者は他の方法を認識し得ることが理解される。
【0050】
本発明は、よって、好ましくは、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原、並びに所望により免疫細胞及び/又はその他の腫瘍細胞との抗体の会合及び凝集により形成される会合体及び凝集体の機械的除去に焦点を当て、抗体特異的相互作用及び免疫学的効果による前記腫瘍細胞の破壊による腫瘍関連抗原を保有する腫瘍細胞の枯渇に焦点を当てない。免疫細胞と相互作用することにより腫瘍細胞を破壊するために、免疫学的物質と同様の従来の様式で抗体を用いるが、本発明は、本発明の場合は腫瘍細胞上にある抗原又はその断片を架橋できる抗体の能力から好ましくは恩恵を受ける。本発明の効果は、前記腫瘍細胞との抗体の相互作用により、特に遠心分離及び/又は濾過分離法による前記三次元ネットワークの除去により達成される。
【0051】
本方法は、抗体又は抗体様分子が磁性成分、例えば磁性ビーズ又は構造要素を介する抗体複合体の除去を容易にするその他の構造要素と連結され得るか、或いは腫瘍細胞が細胞ソーティング法、例えばフローサイトメトリーにより除去される当該技術において既知の他の方法を組み合わせて用いることもできる。腫瘍細胞上の抗原、例えば腫瘍関連抗原又はその断片並びに所望により免疫細胞及び/又はその他の腫瘍細胞との抗体の三次元ネットワークの形成だけを理由として、前記会合体の機械的除去が可能である。この点で、本発明では、他の構造的成分、例えば磁性ビーズ又は蛍光分子を含めることにより前記除去を容易にする必要がなく、このことにより、本方法は、より単純で容易に行われる。
【0052】
本発明は、本発明の限定内での三官能性二重特異性抗体に関して本明細書に記載され、特許請求の範囲に記載され、三官能性二重特異性抗体、抗CD52×抗EpCAMに関して例示される。前記抗CD52×抗EpCAM三官能性二重特異性抗体は、腫瘍関連抗原EpCAMを指向し、パン白血球マーカーであるCD52、及びそのFc部分によりFc受容体陽性細胞とさらに結合する。実施例に記載する具体的な実施形態は、本発明の実行可能性の証拠を提供する例示的実施形態として理解されなければならない。カツマキソマブによるIBSからの腫瘍細胞の優れた除去についての証拠が示されているが、ここで請求する方法が基づく原理についての概念の証明が与えられる。この証拠を示して、当業者は、本発明によりカバーされる限り、この概念を、三次元ネットワーク、すなわち例えば遠心分離及び/又は濾過により除去できる多重細胞複合体を提供するために前記腫瘍細胞及び所望により前記免疫細胞と相互作用できる他の腫瘍及び他の抗体に拡張する可能性を必然的に有する。
【0053】
好ましくは、本発明の抗体は、三官能性抗体から具体的に選択される。好ましくは、本発明における三官能性抗体は、二重、三重、四重及び多重特異性抗体であり得る。上で開示する三官能性抗体は、三官能性二重特異性抗体のことをいう。しかし、三重、四重及び多重特異性抗体も同じ特性又は作用を示すならば、前記三官能性抗体は、本明細書で用いるように、三官能性三重、四重及び多重特異性抗体ということもできる。
【0054】
本発明の抗体は、三官能性抗体から具体的に選択される。二重特異性抗体は、2つの異なるタイプの抗原と、好ましくはその可変領域を介して結合できる抗体と定義され、三重特異性抗体は、3つの異なるタイプの抗原と、好ましくはその可変領域を介して結合することを特徴とし、四重特異性抗体は、4つの異なるタイプの抗原と、好ましくはその可変領域を介して結合することを特徴とするが、多重特異性抗体は、複数の異なるタイプの抗原と、好ましくはその可変領域を介して結合できると定義される。ある具体的な一例として、三官能性二重特異性抗体である抗CD52×抗EpCAMは、腫瘍関連抗原EpCAMと一方で、パン白血球マーカーCD52と他方で、そしてそのFc部分によりアクセサリー細胞とも結合することにより定義される。
【0055】
上記の二重、三重、四重及び多重特異性抗体は、一価、二価、三価、四価又は多価であり得る。一価結合特性を有する抗体は、1つの腫瘍関連抗原と結合できる抗体と定義される。二価モノクローナル抗体は、2つの腫瘍関連抗原又は1つの腫瘍関連抗原及び1つの免疫細胞関連抗原と結合できる抗体と定義される。三価モノクローナル抗体は、3つの異なる腫瘍関連抗原、又は2つの腫瘍関連抗原及び1つの免疫細胞関連抗原、又は1つの腫瘍関連抗原及び2つの免疫細胞関連抗原と結合できる抗体と定義される。四価モノクローナル抗体は、4つの異なる腫瘍関連抗原、又はそれぞれが2つの同一抗原結合アームを有する2つの異なる腫瘍関連抗原、又は2つ/3つの腫瘍関連抗原及び1つの免疫細胞関連抗原、又は2つの腫瘍関連抗原及び2つの免疫細胞関連抗原と結合できる抗体と定義される。多価モノクローナル抗体は、1つ以上の腫瘍関連抗原及び/又は1つ以上の免疫細胞関連抗原と結合できる抗体と定義される。用語「腫瘍関連抗原と結合」は、腫瘍細胞上の前記腫瘍関連抗原のエピトープとの結合と定義される。請求項1に記載する三官能性二重特異性フォーマットを有する抗体のみが、本発明によりカバーされる。他の全ての抗体は、情報の目的のためにのみ記載される。
【0056】
二官能性又は三官能性抗体の一般的な記載は、Kontermann RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York、1~28頁(2011)に記載され、二重特異性又は三重特異性(1つの腫瘍関連抗原及び白血球(すなわち免疫系の細胞)の1つ以上の表面抗原との二価、三価及び四価結合特性を有する三官能性フォーマットが本出願にとって重要である。
【0057】
・二価抗原結合特徴を有する二重特異性抗体フォーマット:
例えば、scFv(例えばBiTEクラス)、Db、scDb、dsDb、DART、dAb/VHH、ノブ・イントゥ・ホール派生物、SEED-IgG、ヘテロFc-scfv、Fab-scFv、CrossMab
・三価抗原結合特長を有する二重(三重)特異性抗体フォーマット:
例えば、トリプルボディ、DNL-F(ab)、scFv2-CH1/CL、dAb、Fab-scFv、IgG-scFab
・四価抗原結合特長を有する二重(三重)特異性抗体フォーマット:
例えば、IgG-scFv、scFv-IgG、scFv-Fc、F(ab’)-scFv、sDb-Fc、scDb-C3、Db-Fc、scFv-H/L、DVD-Ig、tandAb、scFv-dhlx-scFv、dAb-IgG、2-イン-1 mAb、mAb、dAb-IgG、dAb-Fc-dAb。
本発明に従って用いる抗体のさらなる例を、同封の図2に示す。
【0058】
本発明に従って用いるさらなる抗体は、以下の参考文献に記載されている。
Muller D及びRE Kontermann.Bispecific Antibodies.Kontermann RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York、83~100頁(2011)
scFv (BiTE)
Baeuerle PA、Zugmaier G及びD Ruttinger.Bispecific Antibodies.Kontermann RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York、273~288頁(2011)
DVD-Ig
Tarcsa E、Fraunhofer W、Ghayur T、Salfeld J及びJ Gu.Bispecific Antibodies.Kontermann RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York、171~186頁(2011)
DNL誘導体
Chang C-H、Rossi EA、Sharkey RM、DM Goldenberg.Bispecific Antibodies.Kontermann RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York、199~216頁(2011)
2-イン-1抗体
Koeing P及びG Fuh.Bispecific Antibodies.Kontermann RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York、187~198頁(2011)
クロスMab
Schaeferら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 108:11187(2011)
【0059】
好ましくは、異なる特異性を有する2つ以上の三官能性抗体を、前記会合体の形成を媒介するために組み合わせることができる。
【0060】
本発明で用いる三官能性二重特異性抗体は、CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群より選択されるパン白血球抗原を指向する。
好ましくは、本発明で用いる三官能性二重特異性抗体は、CD11a、CD18、CD45、CD52、CD82又はCD97を指向する。さらに好ましい実施形態では、抗体は、CD52を指向する。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明で用いる抗体は、モノクローナル抗体である。これは、本明細書に詳細に記載する三官能性二重特異性抗体について具体的に当てはまる。
【0062】
相対的に規定された三次元構造を有するタンパク質は、タンパク質足場と一般的によばれる。これらのタンパク質足場は、人工的に改変された抗体の設計のための試剤として用いられる。これらの足場は、典型的に、特異的又は無作為配列変動に適する1つ以上の領域を含み、このような配列無作為化は、所望の抗体足場をそこから選択できるタンパク質のライブラリーを生成するためにしばしば行われる。このような足場は、抗体設計の分野において特に有用である。
【0063】
これらの抗体足場は、例えば腫瘍細胞及び免疫細胞との結合活性に関してモノクローナル抗体の特性を模倣する非免疫グロブリンタンパク質である。足場は、前記抗体足場の結合部位を形成するループ又はドメインをしばしば含む。これらの抗体模倣物は、実質的に任意の興味対象化合物と結合できるタンパク質を設計する目的のために用いることができる。この定方向進化アプローチは、興味対象の抗原について高い親和性を有する抗体様分子の生成をもたらす。さらに、これらの足場は、導入されたループと結合する分子の進化を駆動するために、規定された露出ループ(例えば以前に無作為化され、抗原結合に基づいて選択されたループ)を提示するために用いることができる。抗体様足場タンパク質をどのようにして得るかについての方法は、当該技術において既知である。以下に、抗体様足場タンパク質を得るための一つの可能性のあるアプローチを記載する。
【0064】
興味対象の無作為化又は変異タンパク質を単離又は同定するために有用な第一のスクリーニング方法は、(a)興味対象の化合物を、候補タンパク質と接触させることであって、候補タンパク質が、免疫グロブリン様折り畳みを有するドメインを含む誘導非抗体タンパク質であり、非抗体タンパク質が、変異アミノ酸配列を有することにより参照タンパク質から導かれ、非抗体タンパク質が、少なくとも1マイクロMほどきついKdで、参照タンパク質とはそれほどきつくは結合しない化合物と結合し、前記接触が、化合物-タンパク質複合体形成を可能にする条件下で行われることと、(b)複合体から、化合物と結合する誘導タンパク質を得ることとを含む。
【0065】
第二のスクリーニング方法は、興味対象の腫瘍関連タンパク質と結合する化合物を単離又は同定するためである。この方法は、免疫グロブリン様折り畳みを有し、変異アミノ酸配列を有することにより参照タンパク質から導かれるドメインを含む非抗体タンパク質から始まり、非抗体タンパク質は、少なくとも1マイクロMほどきついKdで、参照タンパク質とはそれほどきつくは結合しない化合物と結合する。この誘導タンパク質を、次いで、候補化合物(腫瘍関連抗原又はそのエピトープ)と接触させ、前記接触は、化合物-タンパク質複合体形成を可能にする条件下で行われ、誘導タンパク質と結合する化合物が、複合体から得られる。ここでもまた、この一般的な技術は、任意のタンパク質を用いて行うことができる。
【0066】
興味対象の化合物(腫瘍関連抗原又はそのエピトープ)と結合する非抗体タンパク質を得るさらなる方法を、以下に記載する。このような方法の一つは、(a)免疫グロブリン様折り畳みを含む非抗体足場タンパク質を準備することであって、足場タンパク質が、1マイクロMほどきついKdで化合物と結合しないことと、(b)非抗体足場タンパク質の変異誘導体を作製することにより、変異タンパク質のライブラリーを生成することと、(c)ライブラリーを化合物と接触させることと、(d)ライブラリーから、少なくとも1マイクロMほどきついKdで化合物と結合する少なくとも1つの誘導タンパク質を選択することと、(e)反復工程(b)における非抗体足場タンパク質を先の工程(d)からの生成物で置換して工程(b)~(d)を所望により反復することとを含む。ここでもまた、この一般的な技術は、任意のタンパク質を用いて行うことができる。
【0067】
そのようにして生成された足場タンパク質は、上及び下に記載する抗体の機能を模倣し、免疫グロブリンベースの抗体の代わりに又はそれと組み合わせて用いることができる。本発明では、前記三官能性抗体は、白血球との結合、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原との結合、及びFc部分を介するFc受容体陽性細胞との結合に関して同じ機能をともに示す限り、前記足場タンパク質で置き換えて、細胞凝集体を含む術中に回収した血液を得ることができる。
【0068】
本発明では、前記三官能性抗体及び前記足場タンパク質は、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0069】
以下に、三官能性二重特異性及び三重特異性抗体についてより詳細に記載する。
好ましくは、本発明に従って用いる抗体は、そのFc部分中にFcγ(Fcガンマ)受容体I、II及び/又はIII型との結合部位を含む。
好ましくは、本発明に従って用いる抗体は、Fcγ受容体陽性細胞である単球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球及び/又は好酸球性細胞と結合できる。
【0070】
本発明では、腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞で生成される抗原性物質のことをいう。
好ましくは、抗体又は足場タンパク質、三官能性二重特異性抗体が結合する前記腫瘍関連抗原は、EpCAM、Her2neu、EGFR、CD30、CD20、CD22、MUC1、糖鎖付加パターンが変化したMUC1、PSMA、CD33、MCSP、cMet、EphA2、エンドシアリン、炭酸脱水酵素、IGF-1R、FAP-アルファ、CD19、GD2、CEA、FR、プロテオグリカン、G250、GC182、GT468、GT512からなる群より選択される。
より具体的に、本発明の抗体又は足場タンパク質、三官能性二重特異性抗体が結合する前記腫瘍関連抗原は、EpCAM、Her2/neu、MUC1、EGFR、EphA2、GD2又はCD20である。
【0071】
好ましくは、本発明の三官能性二重特異性抗体は、1つのパン白血球抗原及び1つの腫瘍関連抗原を指向し、このような2つの抗原の組み合わせは、EpCAM/CD11a、EpCAM/CD15、EpCAM/CD18、EpCAM/CD29、EpCAM/CD39、EpCAM/CD45、EpCAM/CD48、EpCAM/CD52、EpCAM/CD55、EpCAM/CD58、EpCAM/CD59、EpCAM/CD82、EpCAM/CD95、EpCAM/CD97、EpCAM/CD122、EpCAM/CD124、EpCAM/CD132、EpCAM/CDw137、Her2neu/CD11a、Her2neu/CD15、Her2neu/CD18、Her2neu/CD29、Her2neu/CD39、Her2neu/CD45、Her2neu/CD48、Her2neu/CD52、Her2neu/CD55、Her2neu/CD58、Her2neu/CD59、Her2neu/CD82、Her2neu/CD95、Her2neu/CD97、Her2neu/CD122、Her2neu/CD124、Her2neu/CD132、Her2neu/CDw137、EGFR/CD11a、EGFR/CD15、EGFR/CD18、EGFR/CD29、EGFR/CD39、EGFR/CD45、EGFR/CD48、EGFR/CD52、EGFR/CD55、EGFR/CD58、EGFR/CD59、EGFR/CD82、EGFR/CD95、EGFR/CD97、EGFR/CD122、EGFR/CD124、EGFR/CD132、EGFR/CDw137、CD30/CD11a、CD30/CD15、CD30/CD18、CD30/CD29、CD30/CD39、CD30/CD45、CD30/CD48、CD30/CD52、CD30/CD55、CD30/CD58、CD30/CD59、CD30/CD82、CD30/CD95、CD30/CD97、CD30/CD122、CD30/CD124、CD30/CD132、CD30/CDw137、CD20/CD11a、CD20/CD15、CD20/CD18、CD20/CD29、CD20/CD39、CD20/CD48、CD20/CD55、CD20/CD58、CD20/CD59、CD20/CD82、CD20/CD95、CD20/CD97、CD20/CD122、CD20/CD124、CD20/CD132、CD20/CDw137、CD22/CD11a、CD22/CD15、CD22/CD18、CD22/CD29、CD22/CD39、CD22/CD45、CD22/CD48、CD22/CD52、CD22/CD55、CD22/CD58、CD22/CD59、CD22/CD82、CD22/CD95、CD22/CD97、CD22/CD122、CD22/CD124、CD22/CD132、CD22/CDw137、MUC1/CD11a、MUC1/CD15、MUC1/CD18、MUC1/CD29、MUC1/CD39、MUC1/CD45、MUC1/CD48、MUC1/CD52、MUC1/CD55、MUC1/CD58、MUC1/CD59、MUC1/CD82、MUC1/CD95、MUC1/CD97、MUC1/CD122、MUC1/CD124、MUC1/CD132、MUC1/CDw137、MUC1/CD11a、MUC1/CD15、MUC1/CD18、MUC1/CD29、MUC1/CD39、MUC1/CD45、MUC1/CD48、MUC1/CD52、MUC1/CD55、MUC1/CD58、MUC1/CD59、MUC1/CD82、MUC1/CD95、MUC1/CD97、MUC1/CD122、MUC1/CD124、MUC1/CD132、MUC1/CDw137、PSMA/CD11a、PSMA/CD15、PSMA/CD18、PSMA/CD29、PSMA/CD39、PSMA/CD45、PSMA/CD48、PSMA/CD52、PSMA/CD55、PSMA/CD58、PSMA/CD59、PSMA/CD82、PSMA/CD95、PSMA/CD97、PSMA/CD122、PSMA/CD124、PSMA/CD132、PSMA/CDw137、CD33/CD11a、CD33/CD15、CD33/CD18、CD33/CD29、CD33/CD39、CD33/CD45、CD33/CD48、CD33/CD52、CD33/CD55、CD33/CD58、CD33/CD59、CD33/CD82、CD33/CD95、CD33/CD97、CD33/CD122、CD33/CD124、CD33/CD132、CD33/CDw137、MCSP/CD11a、MCSP/CD15、MCSP/CD18、MCSP/CD29、MCSP/CD39、MCSP/CD45、MCSP/CD48、MCSP/CD52、MCSP/CD55、MCSP/CD58、MCSP/CD59、MCSP/CD82、MCSP/CD95、MCSP/CD97、MCSP/CD122、MCSP/CD124、MCSP/CD132、MCSP/CDw137、cMet/CD11a、cMet/CD15、cMet/CD18、cMet/CD29、cMet/CD39、cMet/CD45、cMet/CD48、cMet/CD52、cMet/CD55、cMet/CD58、cMet/CD59、cMet/CD82、cMet/CD95、cMet/CD97、cMet/CD122、cMet/CD124、cMet/CD132、cMet/CDw137、EphA2/CD11a、EphA2/CD15、EphA2/CD18、EphA2/CD29、EphA2/CD39、EphA2/CD45、EphA2/CD48、EphA2/CD52、EphA2/CD55、EphA2/CD58、EphA2/CD59、EphA2/CD82、EphA2/CD95、EphA2/CD97、EphA2/CD122、EphA2/CD124、EphA2/CD132、EphA2/CDw137、エンドシアリン/CD11a、エンドシアリン/CD15、エンドシアリン/CD18、エンドシアリン/CD29、エンドシアリン/CD39、エンドシアリン/CD45、エンドシアリン/CD48、エンドシアリン/CD52、エンドシアリン/CD55、エンドシアリン/CD58、エンドシアリン/CD59、エンドシアリン/CD82、エンドシアリン/CD95、エンドシアリン/CD97、エンドシアリン/CD122、エンドシアリン/CD124、エンドシアリン/CD132、エンドシアリン/CDw137、炭酸脱水酵素/CD11a、炭酸脱水酵素/CD15、炭酸脱水酵素/CD18、炭酸脱水酵素/CD29、炭酸脱水酵素/CD39、炭酸脱水酵素/CD45、炭酸脱水酵素/CD48、炭酸脱水酵素/CD52、炭酸脱水酵素/CD55、炭酸脱水酵素/CD58、炭酸脱水酵素/CD59、炭酸脱水酵素/CD82、炭酸脱水酵素/CD95、炭酸脱水酵素/CD97、炭酸脱水酵素/CD122、炭酸脱水酵素/CD124、炭酸脱水酵素/CD132、炭酸脱水酵素/CDw137、IGF-1R/CD11a、IGF-1R/CD15、IGF-1R/CD18、IGF-1R/CD29、IGF-1R/CD39、IGF-1R/CD45、IGF-1R/CD48、IGF-1R/CD52、IGF-1R/CD55、IGF-1R/CD58、IGF-1R/CD59、IGF-1R/CD82、IGF-1R/CD95、IGF-1R/CD97、IGF-1R/CD122、IGF-1R/CD124、IGF-1R/CD132、IGF-1R/CDw137、FAP-アルファ/CD11a、FAP-アルファ/CD15、FAP-アルファ/CD18、FAP-アルファ/CD29、FAP-アルファ/CD39、FAP-アルファ/CD45、FAP-アルファ/CD48、FAP-アルファ/CD52、FAP-アルファ/CD55、FAP-アルファ/CD58、FAP-アルファ/CD59、FAP-アルファ/CD82、FAP-アルファ/CD95、FAP-アルファ/CD97、FAP-アルファ/CD122、FAP-アルファ/CD124、FAP-アルファ/CD132、FAP-アルファ/CDw137、CD19/CD11a、CD19/CD15、CD19/CD18、CD19/CD29、CD19/CD39、CD19/CD45、CD19/CD48、CD19/CD52、CD19/CD55、CD19/CD58、CD19/CD59、CD19/CD82、CD19/CD95、CD19/CD97、CD19/CD122、CD19/CD124、CD19/CD132、CD19/CDw137、CD52/CD11a、CD52/CD15、CD52/CD18、CD52/CD29、CD52/CD39、CD52/CD45、CD52/CD48、CD52/CD52、CD52/CD55、CD52/CD58、CD52/CD59、CD52/CD82、CD52/CD95、CD52/CD97、CD52/CD122、CD52/CD124、CD52/CD132、CD52/CDw137、GD2/CD11a、GD2/CD15、GD2/CD18、GD2/CD29、GD2/CD39、GD2/CD45、GD2/CD48、GD2/CD52、GD2/CD55、GD2/CD58、GD2/CD59、GD2/CD82、GD2/CD95、GD2/CD97、GD2/CD122、GD2/CD124、GD2/CD132、GD2/CDw137、CEA/CD11a、CEA/CD15、CEA/CD18、CEA/CD29、CEA/CD39、CEA/CD45、CEA/CD48、CEA/CD52、CEA/CD55、CEA/CD58、CEA/CD59、CEA/CD82、CEA/CD95、CEA/CD97、CEA/CD122、CEA/CD124、CEA/CD132、CEA/CDw137、FR/CD11a、FR/CD15、FR/CD18、FR/CD29、FR/CD39、FR/CD45、FR/CD48、FR/CD52、FR/CD55、FR/CD58、FR/CD59、FR/CD82、FR/CD95、FR/CD97、FR/CD122、FR/CD124、FR/CD132、FR/CDw137、プロテオグリカン/CD11a、プロテオグリカン/CD15、プロテオグリカン/CD18、プロテオグリカン/CD29、プロテオグリカン/CD39、プロテオグリカン/CD45、プロテオグリカン/CD48、プロテオグリカン/CD52、プロテオグリカン/CD55、プロテオグリカン/CD58、プロテオグリカン/CD59、プロテオグリカン/CD82、プロテオグリカン/CD95、プロテオグリカン/CD97、プロテオグリカン/CD122、プロテオグリカン/CD124、プロテオグリカン/CD132、プロテオグリカン/CDw137、G250/CD11a、G250/CD15、G250/CD18、G250/CD29、G250/CD39、G250/CD45、G250/CD48、G250/CD52、G250/CD55、G250/CD58、G250/CD59、G250/CD82、G250/CD95、G250/CD97、G250/CD122、G250/CD124、G250/CD132、G250/CDw137、GC182/CD11a、GC182/CD15、GC182/CD18、GC182/CD29、GC182/CD39、GC182/CD45、GC182/CD48、GC182/CD52、GC182/CD55、GC182/CD58、GC182/CD59、GC182/CD82、GC182/CD95、GC182/CD97、GC182/CD122、GC182/CD124、GC182/CD132、GC182/CDw137、
GT468/CD11a、GT468/CD15、GT468/CD18、GT468/CD29、GT468/CD39、GT468/CD45、GT468/CD48、GT468/CD52、GT468/CD55、GT468/CD58、GT468/CD59、GT468/CD82、GT468/CD95、GT468/CD97、GT468/CD122、GT468/CD124、GT468/CD132、GT468/CDw137、GT512/CD11a、GT512/CD15、GT512/CD18、GT512/CD29、GT512/CD39、GT512/CD45、GT512/CD48、GT512/CD52、GT512/CD55、GT512/CD58、GT512/CD59、GT512/CD82、GT512/CD95、GT512/CD97、GT512/CD122、GT512/CD124、GT512/CD132及びGT512/CDw137からなる群より選択される。
【0072】
より好ましくは、本発明の三官能性二重特異性抗体は、2つの抗原を指向し、このような2つの抗原の組み合わせは、EpCAM/CD11a、EpCAM/CD18、EpCAM/CD45、EpCAM/CD52、EpCAM/CD82、EpCAM/CD97、Her2neu/CD11a、Her2neu/CD18、Her2neu/CD45、Her2neu/CD52、Her2neu/CD82、Her2neu/CD97、MUC1/CD11a、MUC1/CD18、MUC1/CD45、MUC1/CD52、MUC1/CD82、MUC1/CD97、EGFR/CD11a、EGFR/CD18、EGFR/CD45、EGFR/CD52、EGFR/CD82、EGFR/CD97、EphA2/CD11a、EphA2/CD18、EphA2/CD45、EphA2/CD52、EphA2/CD82、EphA2/CD97、GD2/CD11a、GD2/CD18、GD2/CD45、GD2/CD52、GD2/CD82、GD2/CD97、CD20/CD11a、CD20/CD18、CD20/CD82及びCD20/CD97からなる群より選択される。
【0073】
好ましい抗体は、以下のアイソタイプの組み合わせの1つ以上から選択される、好ましくはモノクローナルの、異種三官能性二重特異性抗体である:
・ ラット-IgG2b/マウス-IgG2a、
・ ラット-IgG2b/マウス-IgG2b、
・ ラット-IgG2b/マウス-IgG3、
・ ラット-IgG2b/ヒト-IgG1、
・ ラット-IgG2b/ヒト-IgG2、
・ ラット-IgG2b/ヒト-IgG3[東洋のアロタイプG3m(st)=プロテインAと結合]、
ラット-IgG2b/ヒト-IgG4;
・ ラット-IgG2b/ラット-IgG2c;
・ マウス-IgG2a/ヒト-IgG3[白人のアロタイプG3m(b+g)=プロテインAと結合しない、以下において、*で示す]
・ マウス-IgG2a/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ マウス-IgG2a/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ マウス-IgG2a/ヒト-[VH-CH1, VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ マウス-[VH-CH1, VL-CL]-ヒト-IgG4/ラット-[VH-CH1, VL-CL]-ヒト-IgG4-[ヒンジ]-ヒト-IgG4[CH2のN末端領域]-ヒト-IgG3[CH2のC末端領域:>aa251位]-ヒト-IgG3[CH3]
・ at-IgG2b/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ-CH2-CH3]
・ ラット-IgG2b/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG2-[ヒンジ-CH2-CH3]
・ ラット-IgG2b/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG3-[ヒンジ-CH2-CH3,東洋のアロタイプ]
・ ラット-IgG2b/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG4-[ヒンジ-CH2-CH3]
・ ヒト-IgG1/ヒト-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG4[CH2のN末端領域]-ヒト-IgG3[CH2のC末端領域:> aa251位]-ヒト-IgG3*[CH3]
・ ヒト-IgG1/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG4[CH2のN末端領域]-ヒト-IgG3[CH2のC末端領域:>aa251位]-ヒト-IgG3[CH3]
・ ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG2[CH2のN末端領域]-ヒト-IgG3[CH2のC末端領域:>aa251位]-ヒト-IgG3[CH3]
ヒト-IgG1/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG2[CH2のN末端領域]-ヒト-IgG3[CH2のC末端領域:>aa251位]-ヒト-IgG3[CH3]
・ ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ ヒト-IgG1/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ ヒト-IgG2/ヒト-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG2-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ ヒト-IgG4/ヒト-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG4-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ ヒト-IgG4/ヒト-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG4-[ヒンジ]-ヒト-IgG4[CH2のN末端領域]-ヒト-IgG3[CH2のC末端領域:>aa251位]-ヒト-IgG3[CH3]
・ マウス-IgG2b/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ マウス-IgG2b/ヒト-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
・ マウス-IgG2b/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
【0074】
本発明による特に好ましい一実施形態において用いられる一価結合特異性を有する三官能性二重特異性抗体は、以下の特性を有する:
a)CD11a、CD15、CD18、CD29、CD39、CD45、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD82、CD95、CD97、CD122、CD124、CD132及びCDw137からなる群の少なくとも1つのメンバーから選択されるパン白血球抗原と結合する、
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と結合する、
c)そのFc部分を介してFc受容体陽性細胞と結合する、
三官能性二重特異性抗体は、さらに好ましくは、以下のアイソタイプの組み合わせを有する抗体の群から選択される:
ラット-IgG2b/マウス-IgG2a、
ラット-IgG2b/マウス-IgG2b、
ラット-IgG2b/ヒト-IgG1、
マウス-[VH-CH1;VL-CL]-ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ]-ヒト-IgG3-[CH2-CH3]
[*=白人のアロタイプG3m(b+g)=プロテインAと結合しない]。
【0075】
特に好ましくは、抗体、好ましくは、ラット-IgG2b/マウス-IgG2aのアイソタイプの組み合わせで、EpCAM及びCD52を指向する三官能性二重特異性抗体及び/又は足場タンパク質である。前記三官能性二重特異性抗体の好ましい例は、抗CD52×抗EpCAM抗体である。好ましくは、前記抗体は、モノクローナルである。
【0076】
好ましくは、本発明による抗体は、例えばFv、Fab、scFv又はF(ab)2断片を有する、モノクローナル、キメラ、組換え、合成、半合成又は化学改変インタクト抗体である。
【0077】
本発明の方法では、ヒト起源の抗体又は誘導体若しくは断片、又はヒトでの使用に適するように改変された抗体(いわゆる「ヒト化抗体」)を用いることができる(例えば、Shalabyら、J.Exp.Med.175(1992)、217;Mocikatら、Transplantation57(1994)、405を参照されたい)。
【0078】
上記の異なるタイプの抗体及び抗体断片の調製は、当業者に明らかである。好ましくは哺乳動物起源、例えばヒト、ラット、マウス、ウサギ又はヤギのモノクローナル抗体の調製は、例えばKohler及びMilstein(Nature256(1975)、495)、Harlow及びLane(Antibodies,A Laboratory Manual(1988)、Cold Spring Harbor)又はGalfre(Meth.Enzymol.73(1981)、3)に記載された従来の方法を用いて行うことができる。
【0079】
さらに、当業者に明らかな技術に従って組換えDNA技術により記載される抗体を調製することが可能である(Kuruczら、J.Immunol.154(1995)、4576;Hollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA90(1993)、6444を参照されたい)。
【0080】
2つの異なる特異性を有する抗体、いわゆる二重特異性抗体の調製は、例えば、組換えDNA技術を用いて行うことができるが、いわゆるハイブリッドハイブリドーマ融合技術(例えばMilsteinら、Nature305(1983)、537を参照されたい)によっても行うことができる。この技術は、所望の特異性の1つを有する抗体をそれぞれ生成するハイブリドーマ株化細胞を融合し、両方の特異性を有する抗体を生成する組換え株化細胞を同定及び単離することを含む。
【0081】
本発明の基礎をなす課題は、好ましい実施形態において、本明細書に記載する特性及び効果を示すならば三官能性二重特異性又は三重特異性三官能性抗体のいずれかを用いることにより克服できる。本発明は、特に、三官能性二重特異性抗体により記載される。しかし、同様の効果を示す以下の三重特異性抗体もカバーすることが理解される。上において、用語「抗体」又は「足場タンパク質」が三官能性二重特異性抗体に言及し得るが、これは、同様の効果を示す以下の三重特異性抗体もカバーできることが理解される。
【0082】
本発明の課題を解決するためにこれもまた適切である3つの特異性を示す抗体、いわゆる三重特異性抗体の調製も、例えば、例えば「単鎖可変断片」(scFv)の形でさらなる特異性を有する第三抗原結合部位を、二重特異性抗体のIgG重鎖の1つに結合させることにより行うことができる。さらに、組換え技術、例えばタンパク質合成又はオリゴヌクレオチド合成のためのベクターに基づく方法を用いることができる。
【0083】
同様に、三重特異性F(ab)2構築物は、二重特異性抗体の1つの特異性の重鎖のCH2-CH3領域を、第三の特異性を有するscFvで置き換えることにより調製でき、他方の特異性を有する重鎖のCH2-CH3領域は、例えば、例えば相同組換えによりコード遺伝子に停止コドン(「ヒンジ」5領域の末端に)を挿入することにより除去できる。
【0084】
3つの異なる特異性を示す3つのVH-VL領域が直列に配置された三重特異性scFv構築物を調製することもできる。
【0085】
インタクトな二重特異性抗体は、それぞれある特異性を示す2つの抗体半分子(それぞれH及びL免疫グロブリン鎖を有する)と、さらに公知のエフェクター機能を行うFc部分を有する例えば通常の抗体とで構成される。これらは、好ましくは、クアドローマ技術を用いて調製される。この調製方法は、DE-A-4419399に例示される。完全な開示のために、この文献は、二重特異性抗体の定義に関しても参照によりその全体が組込まれている。本発明により必要とされる上記の定義に従うインタクトな二重特異性抗体を導くならば、他の調製方法も有用であることが理解される。
【0086】
例えば、インタクトな二重特異性抗体は、新しく開発された調製方法を用いて、十分な量で生成できる(Lindhoferら、J.Immunology、155:219(1995))。乳癌細胞上の2つの異なる腫瘍関連抗原(例えばc-erb-B2、EpCAM、例えばGA-733-2=C215)を指向する2つの二重特異性抗体の組み合わせは、抗原の一方のみを発現する腫瘍細胞が同定されないままになる危険性を最小限にする。
【0087】
本発明の方法に従って、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原を認識する抗体又は足場タンパク質は、前記腫瘍細胞及び所望により免疫細胞への前記抗体の結合により形成される会合体を除去するために、ツールとして当該技術において用いられてきたであろう磁性粒子又は磁性ビーズのような手段と又はそれにより結合しない。さらに、従来技術は、例えば発色物質、例えば蛍光色素での腫瘍細胞又は抗体の標識化と、その後の細胞ソーティング、例えばフローサイトメトリーについて記載している。これとは反対に、本発明の原理は、フィルターに保持され得るか又は遠心力により分離されるのに十分なサイズの上記の三次元ネットワーク(会合体)の形成と、機械的手段、例えば濾過又は遠心分離又はそれらの組み合わせによる前記ネットワークの直接的除去にある。抗体との相互作用により形成される会合体のサイズは、濾過又は遠心分離により除去され得る大きさにある。抗体と腫瘍細胞との間の会合体を除去するための間接的補助手段として抗体又は腫瘍細胞と結合する磁性ビーズ又は類似のツールを用いる実施形態は、本発明と組み合わせることができる。腫瘍細胞を通常細胞から分離する分離方法、例えばフローサイトメトリー法も、本発明と組み合わせて用いることができる。
【0088】
用語「会合体」、「多重細胞複合体」及び「凝集体」は、交換可能に用いられ、遠心分離又は濾過又はそれらの組み合わせにより除去できる架橋腫瘍細胞を形成するための抗体及び/又は足場タンパク質、腫瘍細胞及び/又は免疫細胞並びに/或いはさらなる腫瘍細胞の間の三次元ネットワークを常に定義する。前記会合体は、抗体と、腫瘍細胞と、白血球及び/又はFc受容体陽性細胞である免疫細胞とで具体的に構成される。
【0089】
前記細胞凝集体を含む術中に回収した血液を得るために本発明において用いられる期間は、10から240分間、好ましくは10から180分間である。本発明では、接触期間も好ましくは20と210分間の間、より好ましくは30と180分間の間、さらにより好ましくは30と120分間の間である。この点で、所望の効果を達成するために前記期間が驚くべきことに重要であることがわかる。前記期間が10分未満の場合、凝集体が十分に形成されない。期間が180分を超える場合、結合した抗体から免疫細胞に対して免疫学的プロセスが開始され得る。特に期間が240分を超える場合、望ましくない免疫学的プロセスの開始が観察され得る。温度は、好ましくは、室温であり、その範囲は19℃から25℃まで、好ましくは約21℃である。
本発明の方法を用いて得られる血液生成物は、好ましい実施形態によると、次いで、最初の血液試料を得た患者に再投与され、このことは、重篤な副作用を引き起こさない。
【0090】
IBSとの抗体及び/又は足場タンパク質の接触
好ましくは、抗体のいずれも免疫細胞と結合できないが、同一又は異なる腫瘍関連抗原とのみ結合できることを条件として、抗体と少なくとも2つの腫瘍細胞との間の会合体を得るために、少なくとも2つの異なる腫瘍細胞の間が架橋されることが非常に重要である。
【0091】
用語「会合体」、「多重細胞複合体」及び「凝集体」は、交換可能に用いられ、遠心分離又は濾過又はそれらの組み合わせにより除去できる架橋腫瘍細胞を形成するための抗体、足場タンパク質、腫瘍細胞及び/又は免疫細胞及び/又はさらなる腫瘍細胞の間の三次元ネットワークを常に定義する。前記会合体は、抗体と、腫瘍細胞と、白血球細胞とで具体的に構成される。
好ましくは、少なくとも1つの抗体は、会合体を得るために腫瘍細胞並びに所望により免疫細胞及び/又は他の腫瘍細胞を架橋するために十分な期間、前記術中に得られた回収血液と接触させる。好ましくは、前記腫瘍細胞及び前記免疫細胞は、前記術中に得られた回収血液中に存在する。前記腫瘍細胞は、前記少なくとも1つの抗体又は前記少なくとも1つの足場タンパク質により特異的に認識され得る。
【0092】
前記架橋を達成するために必要な期間は、慣例の方法を用いて当業者が決定できる。本発明において用いる期間は、10から240分間、好ましくは10から180分間である。好ましくは、接触期間は、10と118分間の間、より好ましくは20と90分間の間、さらにより好ましくは30と60分間の間である。温度は、好ましくは、室温であり、その範囲は19℃から25℃、好ましくは約21℃であり得る。
【0093】
抗体を含む前記会合体を得るために用いられなければならない抗体の量は、当業者が慣例の測定により決定できる。用いられる抗体及び/又は足場タンパク質の量は、前記腫瘍抗原への抗体及び/又は足場タンパク質の結合親和性に一般的に依存する。好ましくは、さらなる量は、IBS 1リットルあたり1μgから20μg、より好ましくはIBS 1リットルあたり1μgから10μ、IBS 1リットルあたり1μgから5μg又はIBS 1リットルあたり1μgから2μgである。
【0094】
好ましくは、腫瘍抗原特異性又はパン白血球表面マーカー特異性が互いに異なる少なくとも2つの異なる抗体及び/又は足場タンパク質が、抗体の少なくとも1つが請求項1の限定内にあることを条件として、施用される。
【0095】
IBSからの腫瘍細胞及び抗体/足場タンパク質会合体の除去
会合体は、腫瘍細胞を本質的に含まないIBSを得るために、前記術中に得られた回収血液(IBS)から最終的に除去される。前記細胞凝集体の枯渇は、好ましくは、遠心分離、濾過又はその組み合わせにより達成される。好ましい方法では、少なくとも1つの遠心分離工程及び好ましくは少なくとも1つのさらなる濾過工程が含まれる。
【0096】
濾過は、好ましくは、前記腫瘍細胞が混入した全ての白血球が全て又は実質的に除去されるが、赤血球はフィルターを通過して回収される、白血球低減又は枯渇濾過である。フィルターは、本発明の方法により形成される会合体、並びに例えばフィブリンストランド及び死滅細胞の塊を保持する20μmから40μmの間の孔サイズを有するスクリーンフィルターから選択され得る。約8μmのサイズの赤血球は、フィルターを通過し得る。微小凝集体フィルターは、好ましくは、手術中又は後に回収される流出自己血液の再注入のために用いられる。白血球低減赤血球細胞を受容するために、170μmから260μmの間の孔サイズを有する標準的な輸血フィルターによる濾過も用い得る。
【0097】
分離方法を含むcell saver装置について記載する概説は、Carless PA、Henry DA、Moxey AJ、O’Connell D、Brown T、Fergusson DA、Cell salvage for minimizing perioperative allogeneic blood transfusion、2010、The Cochrane Collaboration、John Wiley & Sons,Ltd.であり、これは、参照により全体が組込まれている。
【0098】
赤血球含有画分のみを受容するための微小凝集体血液フィルターの例は、Pall SQ 40S輸血フィルターである。
好ましくは、遠心分離は、密度勾配遠心分離工程と、その後の、例えば生理食塩水を用いて、前記腫瘍細胞を含む会合体を除去し、かつ前記腫瘍細胞会合体及び白血球から赤血球を分離するために十分な時間及び回転速度で洗浄することにより行われる。
好ましくは、濾過は、一般的に、前記腫瘍細胞を含む会合体を少なくとも実質的に除去し、前記腫瘍細胞会合体及び白血球から赤血球を分離するために十分な期間行われる。
好ましい実施形態では、混入腫瘍細胞を含まないか又は実質的に含まない前記赤血球の濃縮物は、生理食塩水の添加なしで用いられる。
【0099】
さらなる濾過工程は、残存会合体及び/又は白血球を除去するために用いることができる。
根底にある白血球濾過技術は、目詰まりの問題を含む古典的でミクロン定格の濾過手順とは異なるので、この進歩した腫瘍細胞除去方策は、実行可能であると考えられる。
腫瘍細胞の前記除去に含まれる操作の時間、複雑さ、選択度、強度が、抗体を用いる破壊による腫瘍細胞の枯渇、或いは腫瘍手術中の限定された時間だけ実行できる腫瘍細胞の除去を可能にする磁性ビーズを用いる除去又は放射線照射又は細胞ソーティング方法と比較して、劇的に低減されることが、本発明の利点の一つである。
【0100】
本発明のその他の利点は、手術の血液から生成される赤血球濃縮物からの腫瘍細胞が著しく低減され、手術を通じて外傷により手術野において生成される炎症誘発性サイトカインも著しく低減されることを含む。また、残存三官能性抗体は、再注入の準備ができた最終EC濃縮物中で問題にならない量まで低減できる。
好ましくは、本発明の方法を用いて得られる血液生成物は、次いで、最初の血液試料が得られた患者に再投与される。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】本発明において用いる三官能性抗体、例えば抗CD52×抗EpCAM抗体により誘導される大きい多重細胞複合体の形成の原理を示す。前記複合体の形成は、術中の血液試料装置特異的処理工程(例えば遠心分離及び濾過)による腫瘍細胞の除去を可能にする。
図2】腫瘍細胞及び末梢血液白血球(すなわち免疫細胞)からなる多重細胞複合体を形成する能力を有する代表的な抗体フォーマットの模式図。この図は、Jin P及びZ Zhu、Bispecific Antibodies、Kontermann RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York、151~170頁(2011)から抜粋し、わずかに改変した。現在の請求項1によりカバーされる抗体のみが、本発明の範囲内である。その他全ての抗体フォーマットは、情報の目的のためだけに記載される。
図3】本発明の三官能性二重特異性抗体(BsAb)、例えば抗CD52×抗EpCAM抗体を用いる本発明の方法の例示的実施形態。
図4】流加培養の生細胞密度(VCD)及び生存率(VIA)。F1~F4-1Lフラスコ反復。
図5】PGB0005二重特異性抗体精製のACクロマトグラム。
図6】DTTで処理したPGB0005二重特異性抗体-軽鎖。
図7】DTTで処理したPGB0005二重特異性抗体-重鎖。
図8】PNGアーゼF及びDTTで処理したPGB0005二重特異性抗体-重鎖。
図9】精製PGB0005二重特異性抗体のSDS-PAGE分析。レーン1及び12-FBブランク、レーン2~6還元条件、レーン7~12-非還元条件。レーン4及び9-PNGアーゼF酵素、レーン2及び11-非脱グリコシル化PGB0005二重特異性抗体、レーン3、5、6、7、8及び10-脱グリコシル化PGB0005二重特異性抗体。
図10】PGB0005二重特異性抗体のFcγ受容体(Fcガンマ受容体)結合活性。
図11】(a)全てのデータ点を含む、及び(b)単一のHook効果データ点を除去した、PGB0005二重特異性抗体のEpCAM結合活性。
図12】(a)pH=6.1の緩衝液、及び(b)pH=7.4の緩衝液を用いたPGB0005二重特異性抗体のCD52結合活性。アッセイにおいて用いたBsAb FITC抗マウス、BsAb FITC抗ラット-検出抗体。
【発明を実施するための形態】
【0102】
実施例
以下において、本発明を行うための一つの例示的な例を記載する。このアプローチに従う当業者は、請求する利益を必ず得る。この例に従って、本発明から逸脱することなく様々な改変を行うことができる。
【0103】
IBS中の遠心分離及び/又は濾過による多重細胞複合体枯渇による腫瘍細胞の抗EpCAM媒介除去
組織マイクロアレイ染色により分類される膜貫通糖タンパク質EpCAMの発現プロファイルは、様々な腫瘍の癌腫において生じる(表3)。この広い発現EpCAMパターンは、治療用のために考慮できるだけでなく、癌手術中の改良IBSプロトコールのためにも考慮できる癌腫の興味深い特質を表す。それにも関わらず、ほとんどの軟部腫瘍及び全てのリンパ腫は、完全にEpCAM陰性であったことに注目すべきである。
【0104】
【表3】
【0105】
実施例1
1.抗CD52×抗EpCAM三官能性二重特異性抗体の取得
三官能性二重特異性抗体の主鎖において、抗リンパ球パラトープを、白血球と結合する抗CD52特異的可変領域のパラトープと交換した。抗CD52特異的可変領域(H+L IgG鎖)の配列は、Croweら(Clin Exp Immunol、第87巻、1992、図2)に発表されている。
【0106】
抗EpCAM半抗体を示す重及び軽Ig遺伝子、並びに抗CD52半抗体を示す重及び軽遺伝子の抗体コーディング遺伝子を、CHO株化細胞に移した。培養したトランスフェクションされたCHO細胞の上清に分泌された抗EpCAM及び抗CD52特異性を有する三官能性抗体を、標準的なクロマトグラフィー法で精製した。
2つの結合アームの機能性を確認するために、EpCAM又はCD52のいずれかを発現する2つの異なる株化細胞への結合のフローサイトメトリー分析を行った。
【0107】
2.異なる標的抗原との三官能性二重特異性抗CD52×抗EpCAM抗体の結合の評価
抗体結合は、FACS分析により評価した。5×10標的細胞(CD52陽性Jurkat細胞又はEpCAM陽性HCT-8細胞を、記載する抗体濃度にて2~8℃にて60分間インキュベーションした。標的細胞を、PBS緩衝液に再懸濁した。次いで、細胞を2回洗浄し、細胞上での抗体結合を、蛍光標識(FITC)ラット-抗マウスIgG(Jurkat細胞)又はマウス-抗ラットIgG(HCT-8細胞)二次検出抗体(Dianova)を用いて検出した。陽性染色された細胞を、FACS-Caliburサイトメータ(Becton Dickinson)を用いて評価した。
【0108】
3.Fc-ガンマ受容体との三官能性二重特異性抗CD52×抗EpCAM抗体の結合の評価
抗体結合は、FACS分析により評価した。5×10標的細胞(Fc-ガンマ受容体陽性THP-1細胞)を、記載する抗体濃度にて2~8℃にて60分間インキュベーションした。標的細胞を、PBS緩衝液に再懸濁した。次いで、細胞を2回洗浄し、細胞上での抗体結合を、蛍光標識(FITC)F(ab)2ヤギ-抗マウスIgG F(ab)2二次検出抗体(Dianova)を用いて検出した。陽性染色された細胞を、FACS-Caliburサイトメータ(Becton Dickinson)を用いて評価した。
【0109】
実施例2
1.標的分子構造
PGB0005二重特異性抗体は、その可変領域を用いてCD52及びEpCAM受容体を標的にするように設計されたラット/マウス三官能性抗体である。ラット半抗体の元来の可変領域を、文献に記載されるCampath配列に由来する、CD52を標的にするものと交換している。EpCAMを標的にする可変領域を有するカツマキソマブのマウス半抗体は、改変しなかった。両方の半抗体の遺伝子配列は、CHO発現のために最適化した。
【0110】
2.バッチ培養
方法:
PGB0005安定細胞プール5を、4本の1Lフラスコ中、300mlの作業容量のExcell-Advanced流加培養培地中で、0.5×10細胞/mlの細胞密度を初期に播種して培養した。細胞ブースト7a及び7b供給培地を、培養プロセスの第3日から開始して、作業容量のそれぞれ3%及び0.3%で毎日加えた。
【0111】
結果:
約23×10細胞/mlの最大細胞密度が、培養プロセスの第9日目に達成された。細胞生存率は、第11日に90%未満に下落し、培養物を第12日に採集し、4本のフラスコにわたる平均生細胞密度は23×10細胞/ml、及び平均生存率は86%であった(図4)。
【0112】
3.精製
方法:
1Lの培養上清を、定組成アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。42mlのカラム容量で、MabSelect Sure樹脂を用いた。0.1Mクエン酸Naを溶出緩衝液として用い、抗体画分の分離のために以下の条件を用いた:親のラット抗体の溶出のためにpH5.8、標的PGB0005二重特異性抗体の溶出のためにpH5.15、親のマウス抗体の溶出のためにpH3.5。
【0113】
結果:
標的二重特異性抗体は、両方の親の抗体からうまく分離された(図5)。
【0114】
4.定性分析
記載する試料の流加培養生成を開始する前に、PGB0005安定細胞プール5により生成されるタンパク質のアイデンティティーを、LC-MSにより確認した。流加培養により生成された精製PGB0005二重特異性抗体試料を、SDS-PAGEにより分析し、Fcγ-受容体結合活性、EpCAM結合活性及びCD52結合活性について試験した。
【0115】
4.1.精製安定細胞プール5により生成される試料のLC-MS分析
方法:
フラスコ培養により生成され、ACクロマトグラフィーにより精製されたPGB0005二重特異性抗体試料を、LC-MSにより分析した。LC-MS分析の前に、試料を2つの異なる処理に付した:1)変性と、PNGアーゼF処理及びDTT処理によるその後の脱グリコシル化、並びに2)変性と、その後のDTT処理。試料を、次いで、分離のためにBEH C4カラムに注入し、Q-Tof質量分析計により分析した。
標的タンパク質についての理論的分子量の情報を、表1に示す。翻訳後修飾の後の理論的分子量情報を、表2及び3に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
【表7】
【0120】
結果
抗CD52軽鎖及び抗EpCAM軽鎖が、非PNGアーゼF処理試料においてMSにより同定された(図6)。抗CD52軽鎖について得られた実測MWは23177.0Daであり、これは、理論的MVである23175.9Daとよく対応する(表4)。抗CD52軽鎖について得られた実測MWは24426.0Daであり、これは、理論的MWである24424.8Daとよく対応する(表1)。
抗CD52グリコシル化重鎖が同定され、MWは51156.0Daであり(図7)、これは、翻訳後修飾を考慮した場合に、抗CD52重鎖についての理論値51150.5Daとよく対応する(表5)。G0Fグリコシル化(51320.9Da)及びG1Fグリコシル化(51483.1Da)をそれぞれ有する抗EpCAM重鎖の予測MWに相当する51156.0Da及び51487.0Daの2つのMSピーク(図7)が同定された(表6)。GoFグリコシル化抗EpCAM重鎖についてのおよそ6Daと、G1Fグリコシル化抗EpCAM重鎖についてのおよそ4Daの予測値と実測値との間の不一致は、DTT処理によるジスルフィド結合の開放により説明され得る。G0Fグリコシル化を有する抗EpCAM重鎖とG1Fグリコシル化を有する抗CD52鎖との間の質量の差は10Da未満であり、これらのシグナルが互いに干渉している可能性がある。
【0121】
図8では、観察された49712.0Daのピークは、抗CD52重鎖の予測MWの49705.2Daと一致した(表7)。およそ6Daの差は、DTT処理によるジスルフィド結合の開放により説明され得る。
【0122】
4.2.SDS-PAGE分析
方法:
精製PGB0005試料を、2つのバッチ:1)非脱グリコシル化及び2)脱グリコシル化(PNGアーゼFでの処理)に分けた。2つのバッチは、還元及び非還元条件下でSDSポリアクリルアミドゲル上の電気泳動により分析した。
【0123】
結果:
およそ50kDのMWでの2つの重鎖バンドが、レーン2(非脱グリコシル化試料)並びにレーン3、5及び6(脱グリコシル化試料)で見られる。レーン2(非脱グリコシル化)の重鎖バンドは、レーン3、5及び6(脱グリコシル化)のものより低いMWを有する(図9)。
【0124】
およそ25kDのMWの2つの軽鎖バンドが、レーン2、3、5及び6において一緒にスミアする。
それぞれおよそ150kD及び200kDのMWを有する2つの主なバンドが、レーン7、8、10及び11において見られる。レーン11(非脱グリコシル化)におけるバンドは、レーン7、8及び10(脱グリコシル化)と比較して、より低いMWのものである。
それぞれおよそ120kD、85kD及び22.5kDのMWを有する3つのさらなるバンドが、レーン7、8、10及び11において観察される。
【0125】
4.3.Fcγ-受容体結合活性
方法:
PGB0005精製二重特異性抗体試料を、Fcγ-受容体結合活性について、フローサイトメトリー(FACS)により試験した。
THP-1細胞培養懸濁物を、ウェルあたり50μlにて、4×10細胞/mlの密度にて用いた。PGB0005二重特異性抗体について用いた作業試料濃度は、ウェルあたり50μlで、0.0017~100μg/mlの範囲であった。
結合反応は、2~8℃にて1時間行った。pH7.4のPBSを、希釈緩衝液として用い、2%FBSを含むpH7.4のPBSを、洗浄緩衝液として用いた。
FITC-ヤギ抗マウスF(ab’)2断片特異的を、検出抗体として用いた。
抗体検出反応は、2~8℃にて30分間行った。
【0126】
結果:
PGB0005二重特異性抗体は、Fcγ-受容体結合活性を示す(図10)。
【0127】
4.4.EpCAM結合活性
方法:
PGB0005精製二重特異性抗体試料を、EpCAM結合活性について、フローサイトメトリー(FACS)により試験した。
HCT-8接着細胞培養物を、ウェルあたり100μlにて、1.5×10細胞/mlの密度にて用いた。PGB0005二重特異性抗体について用いた作業試料濃度は、ウェルあたり50μlで、0.0017~100μg/mlの範囲であった。
結合反応は、室温にて1時間行った。2%FBSを含むpH7.4のPBSを、希釈緩衝液及び細胞清浄溶液としても用いた。
FITC-マウス抗ラット(H+L)を検出抗体として用いた。
抗体検出反応は、2~8℃にて30分間行った。
【0128】
結果:
PGB0005二重特異性抗体は、EpCAM結合活性を示す(図11)。100μg/mlの濃度での単独データ点は、Hook効果により除いた。
【0129】
4.5.CD52結合活性
方法:
精製PGB0005二重特異性抗体試料を、2つの異なるpH値、7.4及び6.1にてPBS緩衝液中に溶解し、CD52結合についてフローサイトメトリー(FACS)により試験した。2つの異なる検出抗体を用いた。2回の反復実験を行った。
Ramos細胞培養懸濁物を、ウェルあたり50μlにて、4×10細胞/mlの密度にて用いた。PGB0005二重特異性抗体試料について用いた作業試料濃度を、以下の表に示す。
【0130】
【表8】
【0131】
結合反応は、2~8℃にて1時間行った。試料緩衝液(pH7.4又はpH6.1のPBS)も希釈緩衝液として用い、2%FBSを含むpH7.4のPBSを、洗浄緩衝液として用いた。
FITC-マウス抗ラット(H+L)及びFITC-ラット抗マウス(H+L)を、検出抗体として用いた。
抗体検出反応は、2~8℃にて30分間行った。
【0132】
結果:
PGB0005二重特異性抗体は、6.1及び7.4の両方のpH値にてCD52結合活性を示す(図12)。ラット-抗マウス検出抗体は、マウス抗ラット検出抗体と比較して、より強く標的二重特異性抗体と結合することがわかる。結果は、2回の独立した実験間で一貫している。
【0133】
まとめ
Cell saverシステム、及び三官能性二重特異性抗CD52×抗EpCAM抗体を用いて精製した癌患者の血液試料はともに、赤血球濃縮物において実質的に又は全く残存腫瘍細胞(0)が検出できない。さらに、手術中に分泌されるサイトカインは、記載する手順の後の赤血球濃縮物において明確に減少し、このことは、患者に安全性の問題がないことを明らかにする。重要なことに、残存抗CD52×抗EpCAM抗体は、非常に感度の高いELISA法(検出限界:250pg/ml)を用いても、生成された赤血球濃度において全く又は実質的に検出できず、このことは、これらの精製自己赤血球濃縮物を受容する可能性のある患者の安全性を確認する。
【0134】
結論
同種血輸血による検査済み及び検査されていないウイルスの可能性のある感染の危険性並びにその他の危険性、需要及び経済的必要性の増加のために、病院における血液管理プログラムにおいて、術中血液回収に対する興味が増加している。それにもかかわらず、主な癌手術における術中自己輸血の使用は、腫瘍細胞が患者に再注入されて、再発症例が増加する可能性のために、制限されている。
【0135】
癌腫細胞、白血球及びアクセサリー細胞への結合能を有する抗CD52×抗EpCAM抗体は、白血球除去の従来の工程である遠心分離及び/又は白血球濾過により単純に除去できる多重細胞複合体の形成を媒介する。本発明は、例えばCell Saver-5(登録商標)又はCATS(登録商標)のような自動化装置を用いることによる、術中血液回収中の抗CD52×抗EpCAM抗体媒介腫瘍細胞/白血球除去能力の可能性を示す。抗CD52×抗EpCAM抗体のin vitroでの施用は、癌手術における術中血液回収プロセス中のそれぞれ医療装置及び医療製品としての使用である。
【0136】
これらの実験的に支持されるデータから始まって、例えば濾過又は遠心分離により除去できる凝集体又は会合体を形成するために腫瘍細胞、並びに所望により免疫細胞及び/又は他の腫瘍細胞と相互作用できることを条件として、この実験的に証明された概念は、他のモノクローナル抗体に効率的に移行することもできることが当業者に対して証明される。これらの理由から、本発明は、腫瘍関連抗原EpCAM及びパン白血球マーカーCD52並びに本明細書に示す特異的アイソタイプの組み合わせを認識する三官能性二重特異性抗体、例えば抗CD52×抗EpCAM抗体に限定されない。本明細書において本発明の概念を記載したが、本明細書に記載するように、腫瘍関連抗原を認識でき、かつ除去可能な会合体を形成する能力を有する限り、他の抗体及び腫瘍関連抗原に容易に移行できる。
【0137】
まとめると、例えば抗CD52×抗EpCAM抗体を用いて残存自己腫瘍細胞の危険性を最小限にすることによる本発明の方法の施用は、癌手術中にIBSを行うために不可欠であろう。
従来の方法と比較して、本発明は、術中に回収した血液から腫瘍細胞を除去するために改良された効率を有するより早い方法を提供する。本発明で開示する抗体、特に三官能性二重特異性抗体は、白血球、腫瘍細胞及びFcガンマ受容体陽性アクセサリー細胞と結合して、抗体と、腫瘍細胞及び免疫細胞、並びにさらに所望により又は追加として他の腫瘍細胞との三次元ネットワークを形成する。前記三官能性二重特異性抗体は、特定のパン白血球抗原と結合でき、このことは、T細胞、リンパ球のほぼ100%までを含む様々な型の血液細胞の、腫瘍細胞との結合を可能にする。よって、他の既知の方法、例えば抗体が、腫瘍細胞とのT細胞の結合を単に媒介する方法と比較して、ここで開示する三官能性二重特異性抗体は、T細胞の量よりかなり多い白血球及びリンパ球を含む著しく増加した量の血液細胞を媒介して、術中に回収した血液中の腫瘍細胞と相互作用して、よって、腫瘍細胞をより効率的に除去できる。この点で、本発明は、癌患者が末梢血中に有するT細胞の量が低い場合に、特に有利である。なぜなら、腫瘍細胞とのT細胞の結合に依存する他の既知の方法は、腫瘍細胞を効率的に除去できないことがあるが、前記三官能性二重特異性抗体は、T細胞に加えて様々な他の型の血液細胞と結合できるので、本発明は、そのような制限がないからである
【0138】
腫瘍細胞を除去するための血液中の抗体のインキュベーション中に、サイトカインが免疫細胞から放出され、洗浄工程にもかかわらずある状況下で赤血球濃縮物中に蓄積されることがあり、このことは、このような赤血球濃縮物を患者に輸血した後に免疫反応を引き起こす可能性がある。T細胞が腫瘍細胞との結合を媒介する、特にそのような結合がT細胞特異的抗原CD3又はCD28による場合の、術中に回収した血液から腫瘍細胞を除去する他の既知の方法において、大量のサイトカインが短時間で血液中に放出されることができ、患者における重篤な炎症応答を導く。この点において、本発明の三官能性二重特異性抗体の使用はサイトカインの放出を理論的に導くことができるが、このような放出の程度及び速度は、著しく低減され、このことは、よって、術中血液中に放出されたサイトカインにより引き起こされる重篤炎症応答の発生の危険性を著しく低減する。
【0139】
さらに、上で説明したように、本発明で開示する抗体、特に三官能性二重特異性抗体は、白血球及びリンパ球を含む大量の血液細胞が腫瘍細胞と相互作用することを媒介する。よって、例えばT細胞だけが腫瘍細胞と相互作用することを媒介する他の既知の方法と比較して、ここで開示する抗体は、血液細胞とより大きい会合体及び/又は凝集体を形成する可能性を有する。さらに、ここで開示する抗体は、赤血球の表面で発現されない白血球抗原と結合し、このことは、よって、赤血球との結合を回避する。特に、CD52と結合する本発明の抗体は、赤血球との結合を示さないことが証明されている。よって、本発明の方法は、精製血液を患者に再導入する前に赤血球から腫瘍細胞を効率的に分離する。
【0140】
【表9】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】