(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】少なくとも1つの鉄道車両のための電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム
(51)【国際特許分類】
B60T 15/36 20060101AFI20220915BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B60T15/36 A
B60T17/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503994
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(85)【翻訳文提出日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 IB2020056887
(87)【国際公開番号】W WO2021014374
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】102019000012480
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516351289
【氏名又は名称】フェヴレ・トランスポール・イタリア・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】FAIVELEY TRANSPORT ITALIA S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ティオーネ, ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】グラッソ, アンジェロ
【テーマコード(参考)】
3D049
【Fターム(参考)】
3D049AA04
3D049BB15
3D049BB17
3D049BB40
3D049CC06
3D049HH02
3D049RR03
3D049RR11
(57)【要約】
電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システムが開示される。電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システムは、モニタリング装置(223)が非常ブレーキ制御モジュール(203)の正常動作を判別した場合には、非常ブレーキ制御モジュール(203)から電空非常ブレーキモジュール(201)へ、制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ(222)を接続し、さらに、モニタリング装置(223)が非常ブレーキ制御モジュール(203)の誤動作を判別した場合には、常用ブレーキ制御モジュール(208)から電空非常ブレーキモジュール(201)へ、制御信号およびフィードバック信号の第3のグループ(220)を接続するよう設けられたスイッチング装置(221)を含んでいる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの鉄道車両または少なくとも1つの鉄道ボギー台車のための電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム(200)であって、
供給圧力(202)によって駆動され、非常ブレーキ圧力(206)を生成するよう構成された電空非常ブレーキモジュール(201)と、
ブレーキが掛けられる前記少なくとも1つの鉄道車両または前記少なくとも1つの鉄道ボギー台車に関する少なくとも1つの重量情報(204)に応じて、前記非常ブレーキ圧力(206)を生成するよう、制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ(222)を用いて前記電空非常ブレーキモジュール(201)を制御するよう構成された非常ブレーキ制御モジュール(203)と、
前記非常ブレーキ圧力(206)を受け、少なくとも1つの常用ブレーキ圧力(211、...、214)を生成するよう構成された電空常用ブレーキモジュール(207)と、
前記電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム(200)の遮断装置(216)が、常用ブレーキ制御モジュール(208)から前記電空常用ブレーキモジュール(207)へ、制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ(209)を接続する際に、前記電空常用ブレーキモジュール(207)を制御するよう構成された前記常用ブレーキ制御モジュール(208)と、を含み、
前記常用ブレーキ制御モジュール(208)は、前記制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ(209)を用いて、前記ブレーキが掛けられる前記少なくとも1つの鉄道車両または前記少なくとも1つの鉄道ボギー台車に関する前記少なくとも1つの重量情報(204)および常用ブレーキ要求(210)に応じて、前記少なくとも1つの常用ブレーキ圧力(211、...、214)を生成するよう前記電空常用ブレーキモジュール(207)を制御し、
前記少なくとも1つ以上の常用ブレーキ圧力(211、...、214)は、前記非常ブレーキ圧力(206)の現在値に対応する最大値以下の値を有し、
前記電空常用ブレーキモジュール(207)は、前記遮断装置(216)が、前記常用ブレーキ制御モジュール(208)から前記電空常用ブレーキモジュール(207)への、前記制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ(209)の前記接続を遮断する際に、前記非常ブレーキ圧力(206)の前記値を、前記少なくとも1つ以上の常用ブレーキ圧力(211、...、214)に伝達し、
前記遮断装置(216)は、非常ブレーキ要求信号(215)による非常ブレーキ要求が存在しない場合に、前記常用ブレーキ制御モジュール(208)から前記電空常用ブレーキモジュール(207)へ、前記制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ(209)を接続し、さらに、前記非常ブレーキ要求信号(215)による前記非常ブレーキ要求が存在する場合には、前記常用ブレーキ制御モジュール(208)から前記電空常用ブレーキモジュール(207)へ、前記制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ(209)を接続せず、
前記電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム(200)は、前記非常ブレーキ制御モジュール(203)の動作状態をモニタリングするよう設けられたモニタリング装置(223)が、前記非常ブレーキ制御モジュール(203)の正常動作を判別した場合には、前記非常ブレーキ制御モジュール(203)から、前記電空非常ブレーキモジュール(201)へ、前記制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ(222)を接続し、さらに、前記モニタリング装置(223)が、前記非常ブレーキ制御モジュール(203)の誤動作を判別した場合には、前記常用ブレーキ制御モジュール(208)から、前記電空非常ブレーキモジュール(201)へ、制御信号およびフィードバック信号の第3のグループ(220)を接続するよう設けられたスイッチング装置(221)を含むことを特徴とする電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム(200)。
【請求項2】
前記モニタリング装置(223)は、前記非常ブレーキ制御モジュール(203)の前記正常動作を判別した場合には、制御信号(224)を介して前記スイッチング装置(221)に電力を供給し、さらに、前記非常ブレーキ制御モジュール(203)の前記誤動作を判別した場合には、前記制御信号(224)を介して前記スイッチング装置(221)への前記電力の供給を遮断し、
前記スイッチング装置(221)は、
前記スイッチング装置(221)に前記電力が供給された場合に、前記非常ブレーキ制御モジュール(203)から前記電空非常ブレーキモジュール(201)へ、前記制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ(222)を接続するように、前記スイッチング装置(221)の位置決めを実行する起動動作状態と、
前記スイッチング装置(221)に前記電力が供給されていない場合に、前記常用ブレーキ制御モジュール(208)から前記電空非常ブレーキモジュール(201)へ、前記制御信号およびフィードバック信号の第3のグループ(220)を接続するように、前記スイッチング装置(221)の前記位置決めを実行する休止動作状態と、を有する請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記遮断装置(216)は、前記非常ブレーキ要求信号(215)による前記非常ブレーキ要求が存在しない場合に、閉接点構成を維持し、さらに、前記非常ブレーキ要求信号(215)による前記非常ブレーキ要求が存在する場合に、開接点構成を維持するように構成されている、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記電空常用ブレーキモジュール(207)は、さらに、前記供給圧力(202)を受ける、請求項1ないし3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記モニタリング装置(223)は、ソフトウェア機能、ハードウェア回路、または、前記ソフトウェア機能と前記ハードウェア回路との組合せからなる請求項1ないし4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記モニタリング装置(223)は、前記非常ブレーキ制御モジュール(203)に含まれている請求項1ないし5のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、鉄道ブレーキシステムの分野に関し、より具体的には、鉄道車両のための電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム(electro-pneumatic emergency and service braking control system for a railway vehicle)に関する。
【背景技術】
【0002】
最新の鉄道ブレーキシステムは、空気圧構造(pneumatic architecture)、特に、非常ブレーキに使用される空気圧部分(pneumatic portion)を簡素化するために、高度なエレクトロニックソリューション(electronic solutions)を用いている。その結果、製品の総コストの全体的な低減、軽量化、性能の向上、および操作安全性の向上をもたらしている。
【0003】
図1は、新世代の電空システム(electro-pneumatic system)100の典型的な構造を示している。
【0004】
電空非常ブレーキモジュール(electro-pneumatic emergency braking module)101は、空気圧供給圧力(pneumatic supply pressure)102によって駆動される(powered)。
【0005】
電空非常ブレーキモジュール101は、制御信号およびフィードバック信号(control and feedback signals)105を用いた非常ブレーキ制御モジュール(emergency braking control module)103によって、クローズドチェーン制御アルゴリズム(closed-chain control algorithms)を介して制御される。この非常ブレーキ制御モジュール103は、電子制御ユニット(electronic control unit)である。
【0006】
非常ブレーキ制御モジュール103は、電空システム100によって、ブレーキが掛けられるべき重量値(weight value)を示す1つ以上の重量信号(weight signals)104を、非常ブレーキ制御モジュール103の入力において受信する。1つ以上の重量信号104は、鉄道車両の複数のサスペンションシステム(suspension systems)によって生成される圧力を測定するのに適した複数の圧力変換器(pressure transducers)によって生成されてもよい。代替的に、1つ以上の重量信号104は、鉄道車両の本体からのボギー台車(bogie)の距離を測定するのに適した、線形位置変換器または角度位置変換器(linear or angular position transducers)によって生成されてもよい。鉄道車両の本体からボギー台車への距離は、鉄道車両本体の重量に応じて変化する。
【0007】
非常ブレーキ制御モジュール103は、電空非常ブレーキモジュール101を制御して、非常ブレーキ圧力(emergency braking pressure)106を生成する。
【0008】
この非常ブレーキ圧力106は、鉄道車両の設計パラメーター(design parameters)の関数である。例えば、非常ブレーキ圧力106は、これに限られるものではないが、車輪とレールとの間に予測される最大接着値(maximum adhesion value)、および、重量信号104から導出されるブレーキが掛けられる重量値等の鉄道車両の設計パラメーターの関数である。さらに、例えば、これに限られるものではないが、車両130の瞬間速度値(instantaneous speed value)、および/または、非常圧力要求値を示す圧力値131、および/または、牽引システム(traction systems)によって提供される電気力学的ブレーキ(electrodynamic braking)の効率値(efficiency value)132等の値は、非常ブレーキ圧力106の算出に影響を及ぼし得る。
【0009】
非常ブレーキ圧力106は、電空常用ブレーキモジュール(electro-pneumatic service braking module)107を駆動し、電空常用ブレーキモジュールが1つ以上の常用ブレーキ圧力111、...、114を、順に生成することを可能とする。
【0010】
当業者に既知の実施形態において、非常ブレーキ圧力106は、供給圧力102と同時に、電空常用ブレーキモジュール107へ、供給される。
【0011】
上述した両方の場合において、非常ブレーキ圧力106の現在値(current value)は、常に、常用ブレーキ圧力111、...、114が到達し得る最大現在値を表す。
【0012】
以下、前述の両方の場合の実例を示す。
【0013】
電空常用ブレーキモジュール107は、制御信号およびフィードバック信号109を用いた常用ブレーキ制御モジュール108によって、クローズドチェーン制御アルゴリズムを介して制御される。常用ブレーキ制御モジュール108もまた、電子制御ユニットである。
【0014】
常用ブレーキ制御モジュール108は、常用ブレーキ要求(service braking request)を、ブレーキ力要求(braking force request)、または、減速要求(deceleration request)の形式で示す入力信号110を受信する。さらに、常用ブレーキ制御モジュール108は、電空システム100によりブレーキが掛けられるべき重量値を示す1つ以上の重量信号104を、常用ブレーキ制御モジュール108の入力において受信する。
【0015】
常用ブレーキ制御モジュール108は、電空常用ブレーキモジュール107を制御して、1つ以上の常用ブレーキ圧力111、...、114を生成する。
【0016】
この1つ以上の常用ブレーキ圧力111、...、114は、少なくとも、常用ブレーキ要求110と、重量信号104から導出されたブレーキが掛けられる重量値と、の関数である。1つ以上の常用ブレーキ圧力111、...、114が設けられ、鉄道車両の1つ以上の車軸にブレーキを掛ける。さらに、これらの値に限定されないが、車両130の瞬間速度値、および/または、牽引システムによって提供される電気力学的ブレーキの効率値132等の値は、1つ以上の常用ブレーキ圧力111、...、114の算出に影響を及ぼし得る。
【0017】
電空常用ブレーキモジュール107は、非常ブレーキ圧力106の現在値に対応する最大の値の常用ブレーキ圧力111、...、114を生成するよう構成されている。
【0018】
さらに、電空常用ブレーキモジュール107は、電空常用ブレーキモジュール107と常用ブレーキ制御モジュール108の間の制御信号およびフィードバック信号109が存在しない場合に、非常ブレーキ圧力106の現在値(current emergency braking pressure value)を、電空常用ブレーキモジュール107の常用出力(常用ブレーキ圧力)111、...、114に転送する(transfer)ように構成されている。
【0019】
非常ブレーキ要求信号115は、遮断装置(interruption device)116に作用(act)する。この遮断装置116は、例えば、これらに限定されるものではないが、マルチスイッチングリレー(multi-switching relay)、または多数の半導体スイッチ(semiconductor switches)であってもよい。遮断装置116は、非常ブレーキ要求信号115からの非常ブレーキ要求が存在しない場合に、閉接点(closed contact)構成を維持するよう構成されている。そして、遮断装置116は、非常ブレーキ要求信号115からの非常ブレーキ要求が存在する場合には、開接点(open contact)構成を維持するよう構成されている。
【0020】
このようにして、信号115からの非常ブレーキ要求が存在しない場合、電空常用ブレーキモジュール107は、常用ブレーキ制御モジュール108の制御下において、1つ以上の常用ブレーキ圧力111、...、114を生成する。
【0021】
これらの常用ブレーキ圧力111、...、114の上限値は、非常ブレーキ圧力106の現在値である。非常ブレーキ要求信号115からの非常ブレーキ要求が存在する場合に、電空常用ブレーキモジュール107は、非常ブレーキ圧力106の値を常用ブレーキ圧力111、...、114に伝達する(propagate)。
【0022】
電空システム100の第1の例は、
図3に示された特許EP3148853において開示されている。
【0023】
図3において、EPDAモジュールは、電空非常ブレーキモジュール101に対応し、計量制御モジュール(weighing control module)は、非常ブレーキ制御モジュール103に対応し、複数のEPCAモジュールは、それぞれ電空常用ブレーキモジュール107に対応している。また、ブレーキシリンダーBC1、...、BCNに対する複数のEPCAモジュールの出力は、それぞれ常用ブレーキ圧力111、...、114に対応している。さらに、複数のブレーキ制御ユニットは、それぞれ常用ブレーキ制御モジュール108に対応し、リレーバルブ(relay valve)4への出力圧力は、非常ブレーキ圧力106に対応し、MBP圧力は供給圧力102に対応している。
【0024】
リレーバルブ4の排出口圧力(outlet pressure)は、リレーバルブRVを操作するために使用される複数のソレノイドバルブ(solenoid valves)10、12、20からなる電磁バルブグループ(electro-valve group)を駆動する。
【0025】
この構造(architecture)に関して、
図1のシステム100の非常ブレーキ圧力に対応する、ブレーキシリンダーBC1、...、BCnにおける圧力値が、
図3のリレーバルブ4の出力における圧力値をどのようにして決して超えないようになっているかは、本分野における当業者にとって明らかである。
【0026】
電空システム100の第2の例は、
図4に示されている特許EP2830918において開示されている。
【0027】
図4に示されている破線のボックス401は、
図1に示されている電空非常ブレーキモジュール101に対応している。また、
図4に示されているボックス402は、
図1に示されている電空常用ブレーキモジュール107に対応している。さらに、空気圧信号403は、
図1に示されている非常ブレーキ圧力106に対応する。
【0028】
前述のブレーキシステムは、鉄道規格(railway standards)EN(欧州規格)50126、EN50128、EN50129に従って開発されている。
・EN50126「鉄道用途-信頼性、可用性、保守性、安全性(RAMS)の仕様とデモンストレーション-基本要件と一般プロセス(Railway applications. The specification and demonstration of reliability, availability, maintainability and safety (RAMS). Basic requirements and generic process)」
・EN50128「鉄道用途-通信、信号、処理システム-鉄道制御および保護システム用ソフトウェア(Railway applications - Communications, signaling and processing systems - Software for railway control and protection systems)」
・EN50129「鉄道用途-通信、信号、処理システム-信号用の安全関連電子システム(Railway applications. Communication, signaling and processing systems. Safety related electronic systems for signaling)」
【0029】
特に、EN50126規格は、安全解析の結果に基づいて、SIL0/1/2/3/4の安全レベルをサブシステムに割り当てるための方法を定義している。一方、EN50128規格およびEN50129規格は、割り当てられたSILレベルに従って、ソフトウェアおよびハードウェアコンポーネントにそれぞれ適用される設計基準を定義している。上記の規格の適用に基づき、次のようなステートメントおよびコンセプトが示され得る。
・常用ブレーキ機能を実行するために使用される電子システムは、一般に、前述の規格によって定められた要件に従って構成され、常用ブレーキ機能を実行するために使用される電子システムの性能が、SIL2よりも高くない安全レベルに制限(limiting)され得る。
・非常ブレーキ機能を実行するために使用される電子システムは、前述の規格によって定められた要件に従って構成され、非常ブレーキ機能を実行するために使用される電子システムの性能が、SIL3を下回らない安全レベルに限定(restricting)され得る。
【0030】
したがって、非常ブレーキ圧力106の発生を制御するために使用される非常ブレーキ制御モジュール103は、常用ブレーキ制御モジュール108の開発に必要とされるSIL安全レベルよりも高いSIL安全レベルに従って開発されなければならないことが知られている。一般に、非常ブレーキ制御モジュール103は、EN50128およびEN50129に従い、SIL安全レベルが3以上(SIL≧3)となるように開発されている。一方、常用ブレーキ制御モジュール108は、EN50128およびEN50129に従い、SIL安全レベルが2以上(SIL≦2)となるように開発されている。EN50129のSIL安全レベルが3以上(SIL≧3)に従う開発は、非常ブレーキ制御モジュール103が常用ブレーキ制御モジュール108から分離され、かつ、独立していることを要求する。
【0031】
上述の従来システムの欠点は、非常ブレーキ制御モジュール103が故障した場合、非常ブレーキ圧力106が、非常ブレーキ制御モジュール103の故障後に要求される非常ブレーキおよび常用ブレーキのために必要な実際の値よりも、低い値を想定し得るという点である。この場合、電空システム100は、もはや現在要求されているブレーキ力を提供することができなくなる。
【0032】
WO2019123198は、少なくとも1つの鉄道車両のための、さらなるブレーキ制御システムを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明の目的は、電空常用ブレーキ制御システムを提供することである。特に、本発明の目的は、非常ブレーキ制御モジュールが故障した場合であっても、現在要求されているブレーキ力を提供することが可能な、少なくとも1つの鉄道車両用の電空常用ブレーキ制御システムを提供することである。
【0034】
本発明の1つの態様によれば、上記目的および他の目的並びに利点は、請求項1において規定される特徴を有する、少なくとも1つの鉄道車両、または、少なくとも1つの鉄道ボギー台車のための電空常用ブレーキおよび電空非常ブレーキの制御システムによって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に規定されており、その内容は、本明細書の重要な部分として理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
次に、以下の添付図面を参照して、本発明に係る非常ブレーキ制御および常用ブレーキの制御システムの、いくつかの好ましい実施形態の機能的特徴および構造的特徴を詳述する。
【
図1】
図1は、従来技術における電空ブレーキシステムを示している。
【
図2】
図2は、特に、本発明に係る少なくとも1つの鉄道車両のための電空常用ブレーキ制御システムの一実施形態を示している。
【
図3】
図3は、従来技術によって構成された、電空ブレーキシステムの実施形態の一例を示している。
【
図4】
図4は、従来技術によって構成された、電空ブレーキシステムのさらなる実施形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の複数の実施形態を詳述する前に、本発明は、その適用において、以下、明細書中で述べられ、または図に示される構造の詳細および部品の構成に限定されないということが明らかにされるべきである。本発明は他の実施形態をとることができ、本発明を、様々な方法で、実施または実質的に実施し得る。また、表現および専門用語は、説明を目的とするものであって、限定として解釈されるものではないことも理解されるべきである。「備える(include)」、「含む(comprise)」、またはそれらのバリエーションは、以下に記述される要素やそれらの均等物、並びに、それらの追加要素およびその均等物を含むことを意味する。
【0037】
図2を参照すると、本発明に係る、少なくとも1つの鉄道車両または鉄道ボギー台車のための、電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム200が示されている。
【0038】
電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム200は、電空非常ブレーキモジュール(electro-pneumatic emergency braking module)201と、非常ブレーキ制御モジュール(emergency braking control module)203と、を含む。電空非常ブレーキモジュール201は、供給圧力(supply pressure)202によって駆動され、非常ブレーキ圧力(emergency braking pressure)206を生成するよう設けられている。また、非常ブレーキ制御モジュール203は、ブレーキが掛けられる少なくとも1つの鉄道車両または鉄道ボギー台車に関連する、少なくとも1つの重量情報(weight information)204に従って、非常ブレーキ圧力206を生成するよう、制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ(first group of control and feedback signals)222を用いて、電空非常ブレーキモジュール201を制御するよう設けられている。また、これに限定されないが、車両の瞬間速度値(instantaneous speed value)230、および/または、非常圧力要求値(emergency pressure request value)を示す圧力値231、および/または、牽引システムによって提供される電気力学的ブレーキ効率値(electrodynamic braking efficiency value)232等の値が、非常ブレーキ圧力206の算出条件として設けられてもよい。
【0039】
「制御信号およびフィードバック信号のグループ」は、1つの制御信号および1つのフィードバック信号が存在する場合、2以上の制御信号、および/または、2以上のフィードバック信号が存在する場合、または、制御機能およびフィードバック機能の双方を実行する単一の信号のみが存在する場合も意味する。通常、少なくとも1つの制御信号が存在し、標準的には2つ存在する。2つの制御信号のうち、1つは、充電バルブ(charging valve)を起動する(excite)ための制御信号であり、もう1つは、排出バルブ(discharging valve)を起動するための制御信号である。通常、少なくとも1つの制御信号は、フィードバックセンサーからの信号である。
【0040】
電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム200は、電空常用ブレーキモジュール(electro-pneumatic service braking module)207と、常用ブレーキ制御モジュール(service braking control module)208と、をさらに含む。電空常用ブレーキモジュール207は、非常ブレーキ圧力206を受け取り、少なくとも1つの常用ブレーキ圧力(service braking pressure)211、...、214を生成する。常用ブレーキ制御モジュール208は、電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム200の遮断装置216が、常用ブレーキ制御モジュール208から電空常用ブレーキモジュール207へ、制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ209を接続する際に、電空常用ブレーキモジュール207を制御するよう設けられている。さらに、電空常用ブレーキモジュール207は、供給圧力202を受け取ってもよい。
【0041】
常用ブレーキ制御モジュール208は、ブレーキが掛けられる少なくとも1つの鉄道車両または鉄道ボギー台車に関連する、少なくとも1つの重量情報204、および、常用ブレーキ要求210に応じて、少なくとも1つの常用ブレーキ圧力211、...、214を生成するよう、制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ209を用いて、電空常用ブレーキモジュール207を制御する。また、これに限定されないが、車両の瞬間速度値230、および/または、牽引システムによって提供される電気力学的ブレーキ効率値232等の値が、常用ブレーキ圧力211、...、214の算出条件として設けられてもよい。
【0042】
1つ以上の常用ブレーキ圧力211、...、214は、非常ブレーキ圧力206の現在仮定値(current assumed value)に相当する最大値以下の値を有する。
【0043】
遮断装置216が、常用ブレーキ制御モジュール208から電空常用ブレーキモジュール207への、制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ209の接続を遮断している場合、電空常用ブレーキモジュール207は、非常ブレーキ圧力206の値を、少なくとも1つの常用ブレーキ圧力211、...、214に伝達する。
【0044】
非常要求信号215による非常ブレーキ要求が存在しない場合、遮断装置216は、常用ブレーキ制御モジュール208から電空常用ブレーキモジュール207へ、制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ209を接続する。
【0045】
非常ブレーキ要求信号215によって発信された非常ブレーキ要求が存在する場合、遮断装置216は、常用ブレーキ制御モジュール208から電空常用ブレーキモジュール207への、制御信号およびフィードバック信号の第2のグループ209の接続を遮断する。
【0046】
非常ブレーキ要求信号215からの非常ブレーキ要求が存在しない場合、非常装置216は、閉接点構成を維持してもよく、非常ブレーキ要求信号215からの非常ブレーキ要求が存在する場合には、開接点構成を維持してもよい。
【0047】
更に、電空常用ブレーキ制御システムおよび電空非常ブレーキ制御システムは、スイッチング装置221を含んでいる。非常ブレーキ制御モジュール203の動作状態をモニタリングするモニタリング装置223が、非常ブレーキ制御モジュール203の正常動作を判別した際に、スイッチング装置221は、制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ222を、非常ブレーキ制御モジュール203から電空非常ブレーキ制御モジュール201へ接続する。
【0048】
モニタリング装置223が非常ブレーキ制御モジュール203の誤動作を判別した場合には、スイッチング装置221は、制御信号およびフィードバック信号グループの第3のグループ220を、常用ブレーキ制御モジュール208から電空非常ブレーキモジュール201へ接続する。
【0049】
モニタリング装置223は、ソフトウェア機能、ハードウェア回路、またはソフトウェア機能とハードウェア回路との組合せによって得ることができる。また、モニタリング装置223は、非常ブレーキ制御モジュール203に直接含まれていてもよい。
【0050】
図2に注目すると、電空非常ブレーキモジュール201は、信号のグループ205を介して、スイッチング装置221の共通端子に接続される。制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ222は、スイッチング装置221のさらなる端子に接続される。また、グループの制御信号およびフィードバック信号の第3のグループ220は、スイッチング装置221のさらに別の端子に接続される。
【0051】
スイッチング装置221は、スイッチング装置221に電力が供給された場合に、スイッチング装置自身の位置決めを実行する起動動作状態(excitation operative state)を有している。一方、休止動作状態において、制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ222が、非常ブレーキ制御モジュール203から電空非常ブレーキモジュール201へ接続される。
【0052】
さらに、スイッチング装置221は、スイッチング装置221に電力が供給されていない場合の休止状態(resting state)を有する。この休止状態において、スイッチング装置221は、制御信号およびフィードバック信号の第3のグループ220を、常用ブレーキ制御モジュール208から電空非常ブレーキモジュール201へ接続するよう、スイッチング装置221自体の位置決めを実行する。
【0053】
この休止状態において、スイッチング装置221は、信号のグループ205を、スイッチング装置221のそれぞれの端子に接続された常用ブレーキ制御モジュール208の制御信号およびフィードバック信号の第3のグループ220へ接続する。
【0054】
起動状態(excitation state)において、スイッチング装置221は、信号のグループ205を、スイッチング装置221のそれぞれの端子に接続された非常制御モジュール203の制御信号およびフィードバック信号の第1のグループ222へ接続する。
【0055】
スイッチング装置221は、マルチスイッチングリレー(multi-switching relay)で構成されていてもよく、複数の半導体スイッチで構成されていてもよい。
【0056】
引き続き
図2に注目する。モニタリング装置223は、スイッチング装置221用の制御信号224を生成してもよい。モニタリング装置223が非常ブレーキ制御モジュールの正常動作を検出すると、モニタリング装置223は、制御信号224に電力を供給して、スイッチング装置221を起動状態とし、信号のグループ205を非常ブレーキ制御モジュール203に接続する。モニタリング装置223が非常ブレーキ制御モジュール203の誤動作状態を検出すると、モニタリング装置223は、制御信号224の接続を切って、スイッチング装置221を休止状態にし、信号のグループ205を常用ブレーキ制御モジュール208に接続する。
【0057】
非常ブレーキ制御モジュール203が正常に機能している限り、電空非常ブレーキモジュール201を制御して、非常ブレーキ圧力206を生成することが可能である。
【0058】
一方で、モニタリング装置223が、非常ブレーキ制御モジュール203の異常を検出した場合には、モニタリング装置223は、電空非常ブレーキモジュール203の制御を常用ブレーキ制御モジュール208に引き渡す。このようにして、常用ブレーキ制御モジュール208は、電空非常ブレーキモジュール201を制御して、非常ブレーキ圧力206を正しく生成し続けることができる。
【0059】
このソリューションによってもたらされる第1の利点は、非常ブレーキ制御モジュール203が故障した場合であっても、電空常用ブレーキモジュール207が、適切な非常ブレーキ圧力206を受け続けることが可能であるという点である。これにより、常用ブレーキ圧力の最大要求値まで、常用ブレーキ圧力211、...、214を正しく生成することができる。
【0060】
本発明によって提案されるソリューションにより提供される第2の利点は、非常ブレーキ制御モジュール203が故障した場合であっても、非常ブレーキ要求信号215による非常ブレーキ要求を受けた際に、依然として非常ブレーキ圧力206の利用が可能であるという点である。非常ブレーキ制御モジュール203が故障した場合であっても、非常ブレーキ圧力206は、少なくとも常用ブレーキ制御モジュール208の安全レベルと同等の安全レベルで、電空常用ブレーキモジュール207の常用ブレーキ圧力211、...、214として再現される。この場合、電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システム200の交換を実行する前に、規則・規定によって推奨される安全レベルよりも低い安全レベルが、車両の日々の運行サイクルを遂行するために許容可能なレベルであるか否かが、鉄道の運転手の責任により決定されることとなる。
【0061】
本発明に係る、少なくとも1つの鉄道車両または鉄道ボギー台車のための、電空非常ブレーキおよび電空常用ブレーキの制御システムの様々な態様および実施形態を詳述した。各実施形態は、任意の他の実施形態と組み合わせ可能であるということが理解される。さらに、本発明は、詳述された実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって規定される範囲内で変更されてもよい。
【国際調査報告】