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特表2022-541608ヌクレアーゼ標的IDLVを用いる正確な組み込み
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ヌクレアーゼ標的IDLVを用いる正確な組み込み
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20220915BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220915BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220915BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220915BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220915BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220915BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220915BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220915BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20220915BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20220915BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20220915BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220915BHJP
   C12N 5/074 20100101ALN20220915BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20220915BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20220915BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALN20220915BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20220915BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALN20220915BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/19 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/21 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/20 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/22 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/50 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/47 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/36 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/28 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/49 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/46 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/48 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 38/17 20060101ALN20220915BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N5/10
C12N5/0783
A61P37/02
A61P31/12
A61P35/00
A61P7/00
A61K35/76
A61K35/28
A61K35/17 Z
A61K35/545
A61K35/30
A61K35/36
A61K48/00
C12N5/074
C12N5/0735
C12N5/0775
C12N5/0797
C12N5/0789
C12N5/0781
C12N15/62 Z
A61K38/19
A61K38/21
A61K38/20
A61K38/22
A61K38/50
A61K38/47
A61K38/36
A61K38/28
A61K38/49
A61K38/46
A61K38/48
A61K38/17
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504173
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020070622
(87)【国際公開番号】W WO2021013867
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】19305967.2
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アメンドーラ,マリオ
(72)【発明者】
【氏名】パヴァーニ,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】サッカル,アブード
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA53
4C084CA56
4C084DA01
4C084DA12
4C084DA19
4C084DA21
4C084DA22
4C084DA23
4C084DA46
4C084DA48
4C084DB01
4C084DB34
4C084DC02
4C084DC10
4C084DC14
4C084DC15
4C084DC16
4C084DC17
4C084DC18
4C084DC19
4C084DC20
4C084DC21
4C084DC22
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB45
4C087BB48
4C087BB56
4C087BB64
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA09
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZB07
4C087ZB26
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、核酸を含む統合不全レンチウイルスベクター(IDLV)に関し、前記核酸は、5’LTR配列と3’LTR配列の間に、少なくとも1つの核外搬出シグナル配列;少なくとも1つの目的の核酸配列;及び少なくとも1つのヌクレアーゼ部位を含むことを特徴としている。本発明はさらに、前記IDLVを含む単離細胞、前記IDLVまたは前記単離細胞を含む医薬組成物、および免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群から選択される疾患;および/またはそれを必要としている個体のタンパク質の欠如または異常非機能の存在によって生じる疾患の治療におけるそれらの医薬使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を含む統合欠損レンチウイルスベクター(IDLV)であって、前記核酸が、5’LTR配列と3’LTR配列との間に、以下:
a.少なくとも1つの核外搬出シグナル配列、特に少なくとも1つのHIV-1 Rev応答エレメント(RRE)、特に1つのRRE;
b.ポリAシグナル;スプライシングシグナル配列;DNAまたはRNA結合部位;プロモーター;および治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする導入遺伝子またはその断片からなる群から選択される少なくとも1つの目的の核酸配列。
c.少なくとも1つのヌクレアーゼ部位、特に少なくとも1つのガイド核酸標的配列(gRNA-T);
d. 場合により、細胞のゲノム中の目的の内因性ゲノム部位の一部と相同な配列からなる少なくとも1つの相同性アーム配列;および
e. 場合により、目的の少なくとも1つの核酸配列の安定した発現を高めることを可能にする少なくとも1つの配列、特に少なくとも1つのウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(WPRE)配列
を含む統合不全型レンチウイルスベクター。
【請求項2】
請求項1に記載のIDLVであって、前記IDLVは、以下:
d. 細胞のゲノム中の目的の内在性ゲノム部位の一部と相同な配列からなる、少なくとも1つの相同性アーム配列;
を含む、前記IDLV。
【請求項3】
前記IDLVは、環状または線状であり、特に環状であることを特徴とする請求項1または2に記載のIDLV。
【請求項4】
少なくとも2つの同一または異なるヌクレアーゼ部位、特に少なくとも2つの同一または異なるgRNA-T配列、および特に2つの同一または異なるgRNA-T配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のIDLV。
【請求項5】
請求項4に記載のIDLVであって、目的の少なくとも1つの核酸配列が、前記IDLVの少なくとも2つ、特に2つのヌクレアーゼサイトの間に含む、IDLV。
【請求項6】
前記少なくとも1つのヌクレアーゼ部位が、点dの細胞のゲノム中の目的の内在性ゲノム部位に含まれる内在性ヌクレアーゼ部位と同一であるか、または異なる、請求項1~5のいずれか一項に記載のIDLV。
【請求項7】
IDLVが、少なくとも2つの相同性アーム配列、特に2つの相同性アーム配列を含み、それぞれが他と異なり、細胞のゲノム中の関心のある内因性ゲノム部位の少なくとも2つ、特に2つの異なる部分に相同な配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のIDLV。
【請求項8】
前記IDLVは、プロモーターを含まない、請求項1~7のいずれか一項に記載のIDLV。
【請求項9】
前記細胞のゲノムにおける目的の内在性ゲノム部位が、グロビン遺伝子、特にイプシロングロビン遺伝子、ガンマGグロビン遺伝子、ガンマAグロビン遺伝子、デルタグロビン遺伝子、ベータグロビン遺伝子、ゼータグロビン遺伝子、シュードゼータグロビン遺伝子、ミューグロビン遺伝子、シュードアルファ-1グロビン遺伝子、アルファ1グロビン遺伝子およびアルファ2グロビン遺伝子からなる群より選択され、特に、ガンマGグロビン遺伝子、ガンマAグロビン遺伝子、デルタグロビン遺伝子、ベータグロビン遺伝子、アルファ1グロビン遺伝子及びアルファ2グロビン遺伝子からなる群から選択され、より詳細には、アルファ1グロビン遺伝子及びアルファ2グロビン遺伝子からなる群から選択されるグロビン遺伝子内に含まれる、請求項1~8のいずれか一項に記載のIDLV。
【請求項10】
目的の少なくとも1つの核酸配列が、治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする導入遺伝子またはそのフラグメントである、請求項1~9のいずれか一項に記載のIDLV。
【請求項11】
治療用タンパク質が、サイトカイン、特にインターフェロン、より詳細にはインターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ又はインターフェロン-パイ;ホルモン;ケモカイン;抗体(ナノボディを含む);抗血管新生因子;たとえばアデノシンデアミナーゼ、アルファグルコシダーゼ、アルファガラクトシダーゼ、アルファ-L-イドロニーゼ及びベータグルコシダーゼのような置換療法用の酵素;インターロイキン;インスリン;G-CSF;GM-CSF;hPG-CSF;M-CSF;第VIII因子、第IX因子、tPA、第V、第VII、第X、第XI、第XII、第XIII因子のような血液凝固因子;神経成長因子レセプター(NGFR)のような膜貫通タンパク質;α-ガラクトシダーゼ(GLA)、α-L-イドロニダーゼ(IDUA)、リソソーム酸性リパーゼ(LAL)およびガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)のようなリソソーム系酵素;β様グロビン;IL-2レセプター、IL-3レセプター、IL-4レセプター、IL-5レセプター、IL-6レセプター、IL-7レセプター、IL-9レセプター、IL-11レセプター、IL-12レセプター、IL-13レセプター、IL-15レセプター、IL-21レセプター、IL-23レセプターおよびIL-27レセプターのようなインターロイキンレセプター;ウィスコット・アルドリッチ症候群タンパク質(WASP);アデノシンデアミナーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ1、アルファ-Lイデュロニダーゼ、イデュロン酸2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンサルホヒドロラーゼ、ガラクトサミン-6スルファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、グルコセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、チトクロムb-245α鎖、チトクロムb-245β鎖、好中球細胞質因子1、好中球細胞質因子2、好中球細胞質因子4;分泌され、最終的に非修飾細胞に取り込まれるように設計されたタンパク質、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10記載のIDLV。
【請求項12】
配列aからc、および存在する場合はdとeが、IDLVにおいて、5’から3’まで、以下の順序:
- a、c、d、b;
- a、c、d、b、e;
- a、c、d、b、d、c;
- a、c、d、b、d、c、e;
- a、d、c、d、b;
- a、d、c、d、b、e;
- a、c、b、d、c、e;または
- a、c、d、b、c、e
の1つで存在する、請求項1~11のいずれか1項に記載のIDLV。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のIDLVを少なくとも1つ含む、単離細胞。
【請求項14】
細胞が、造血幹細胞;免疫系の細胞、特にリンパ球;多能性幹細胞;胚性幹細胞;衛星細胞;神経幹細胞;間葉系幹細胞;網膜幹細胞;及び上皮幹細胞からなる群から選択され、特に造血幹細胞である、請求項13に記載の単離細胞。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に定義される少なくとも1つのIDLVおよび/または請求項13または14に定義される少なくとも1つの単離細胞、および薬学的に許容される媒体を含む、医薬組成物。
【請求項16】
-免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群から選択される疾患、および/または
-それを必要とする個体における、タンパク質の欠如または異常な非機能的なものの存在によって引き起こされる疾患
の治療に使用するための、請求項1~12のいずれか一項に記載のIDLV、請求項13および14に記載の単離細胞、または請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記IDLVが、少なくとも1つの目的の核酸配列として、癌細胞を標的とするキメラ抗原受容体をコードするトランスジーンを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の少なくとも1つのIDLVを、リンパ球T細胞または造血幹細胞に組み込むことを含む、CAR-T細胞の生成方法。
【請求項18】
リンパ球B細胞または造血幹細胞に、請求項1~12のいずれか一項に記載の少なくとも1つのIDLVを組み込むことを含み、前記IDLVが、少なくとも1つの目的の核酸配列として、抗体をコードする導入遺伝子を含む、抗体発現B細胞を生成するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、ゲノム工学およびDNA修復の分野に関するものである。
特に、細胞のゲノムに正確かつ無毒な配列の組み込みを行うことができ、効率的なノックイン(KI)を実現するIDLVに関連するものである。
【0002】
背景技術
機能喪失変異による有害な細胞表現型に対抗する主要な治療法の一つは、野生型遺伝子コピーの細胞内導入に依存している。この点、ウイルスを用いた遺伝子置換療法は急速に発展している分野であるが、導入遺伝子のコピー数や発現レベルの制御が不完全であることに加え、レンチウイルスやレトロウイルスベクターのセミランダムな組み込みは、挿入変異誘発やがん原遺伝子の活性化をもたらすことがあり、またアデノ随伴ベクター(AAV)やアデノウイルスベクターはエピソームとしてDNAを導入するので循環細胞で希薄になってしまうという制限がある。
【0003】
近年、部位特異的ヌクレアーゼによるゲノムDNAの切断を利用して、選択した遺伝子座への導入遺伝子の組み込みを偏らせるという新しい戦略が開発されている。例えば、変異遺伝子を修正するために野生型の導入遺伝子を内在性遺伝子座に挿入するような、導入遺伝子をその同属遺伝子座に組み込むというアプローチがある。あるいは、トランスジーンは、永久的で安全な、非常に高いレベルのトランスジーン発現のような、有益な特性のために特別に選ばれた非同一遺伝子座に挿入されることもある。
【0004】
興味深いことではあるが、効率的かつ無毒な送達と、導入遺伝子の効率的な部位特異的組み込みを達成することは、依然として解決すべき複雑な課題である。
【0005】
人工核酸酵素を用いた標的ゲノム編集は、基礎生物医学研究に革命をもたらし、遺伝子治療に多大な可能性を秘めている。しかし、その急速な進歩にもかかわらず、効率的なツールの欠如により、臨床目的での標的遺伝子組み込み(ノックイン、KI)の目標はまだ定まっていない。分裂中および非分裂細胞におけるKIはすでに報告されているが、導入遺伝子の主要な送達手段はプラスミドDNAであり、これは初代細胞(特に造血幹細胞、HSC)において毒性があり、特定の細胞を標的とすることができず、in vivo送達には実行不可能であった。
【0006】
ウイルスベクターによるDNA導入は、プラスミドDNAに代わる興味深い方法であり、特にAAVやインテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクター(IDLV)がその代表的なものである。レンチウイルスは一本鎖RNA(約9.7Kb)であり、細胞核に入ると逆転写されて二本鎖DNAを生成し、宿主細胞ゲノムにセミランダムで組み込まれる。IDLVは、インテグラーゼタンパク質を不活性化することによりレンチウイルスから派生したものであり、したがって、ゲノムに組み込む能力をブロックしている。IDLVのゲノムは、消失する前に異なる分子形態で核内に持続する。しかし、IDLVは、相同(HDR)および非相同末端結合(NHEJ)の両者のための非効率的なDNA基質を表す。
【0007】
AAVは一本鎖DNAウイルス(~4.7kb)で、標的細胞の細胞核に入ると二本鎖になり、円形化してエピソームとして存続する。AAVはHDRを介したKIに適した基質であるが、HDRはほとんどの初代細胞では効率が低く、細胞周期のS/G2期でほとんど起こるため、非分裂細胞では効率が悪いという制約がある。さらに、HDRのためには、ゲノムDNA切断部位と相同なゲノム断片(それぞれ~800bp)で導入遺伝子を挟む必要があり、AAVによって送達できる導入遺伝子のサイズ(パッケージング能力は~4.7kb)に制限があり、AAV生産と導入に影響を与える可能性がある(たとえば、二次構造の場合)。このため、4kbを超えるコーディング配列を持つ全ヒトタンパク質の約6%がAAVに収まらず、プロモーターやポリアデニル化シグナル(ポリAシグナル)などの発現エレメントのサイズを小さくする必要があり、転写力や組織特異性が制限されることが多い(Chamberlain、Riyad、Weber, Hum. Gene Ther. Methods. 2016 Feb;27(1):1-12)。最近、脳と筋肉においてin vivoでAAVのNHEJベースのKIを行う相同非依存性KI戦略が報告されたが、報告された効率は非常に低く、ほとんどのケースで5%未満であり、統合されたDNA断片のサイズは700bp未満と非常に小さい(Suzuki et al. 2016 Dec 1;540(7631):144-149)。
【0008】
造血幹細胞におけるKIについては、IDLVとHDRを介したKI用のホモロジーアームを含むAAVの両方が使用されている。IDLVでは、非常に低い効率しかex vivoで報告されておらず、マウスの移植時に最小である(<1% Kuo et al. Cell Rep. 2018 May 29;23(9):2606-2616; ~5% Genovese et al. Nature. 2014 Jun 12;510(7504):235-240; ほとんど検出されず、Schiroli et al., Sci Transl Med. 2017 Oct 11;9(411); <1% Hoban, Blood, 2015, Apr 23;125(17):2597-604)。AAV6はより有望であり、最新の報告ではex vivoでのKIは30-40%である;しかし、AAVはp53活性化や細胞のアポトーシスを誘導するため、幹細胞にとっても毒性がある(Hirsch, PlosOne, 2011; 6(11):e27520)。AAV6導入は、いくつかの細胞毒性を示し(Kuoら、Cell Rep. 2018 May 29;23(9):2606-2616)、修飾された造血幹細胞の生着が減少する(Schiroliら、Cell Stem Cell, 2019 Apr 4;24(4):551-565)。さらに、HDRを介したKIは、実際の長期造血幹細胞を犠牲にして前駆細胞でほとんど発生し、その標的は~5倍少ない(Gomez-Ospina et al., Human genome-edited hematopoietic stem cells phenotypically correct Mucopolysaccharidosis type I; Bioarchive; doi: https://doi.org/10.1101/408757)。最後に、AAVの送達は、上述のように、そのパッケージングの限界に影響される。
【0009】
したがって、上述したように、細胞内への導入遺伝子の効率的、部位特異的かつ無毒な送達方法が必要とされている。また、細胞内に目的の配列を正確に、効率よく、かつ無毒性で導入することができる新規なツールも必要とされている。前記方法およびツールは、特に、有意なサイズ変動を有する目的の配列の送達を可能にすべきであり、特に、少なくとも1kb(キロベース)、特に数kbのサイズを有する配列の送達を可能にする必要がある。
【0010】
本明細書に記載された発明は、前述のニーズを満たすことを目的とするものである。
【0011】
発明の要約
まず、本発明は、核酸を含む統合欠損レンチウイルスベクター(IDLV)に関し、前記核酸は、5’LTR配列と3’LTR配列との間に、以下を含む:
a. 少なくとも1つの核外搬出シグナル配列、特に少なくとも1つのHIV-1 Rev応答配列(Rev Response Element)(RRE)、特に1つのRRE、
b. ポリAシグナル;スプライシングシグナル配列;DNAまたはRNA結合部位;プロモーター;および治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする導入遺伝子またはその断片からなる群より選ばれる少なくとも一つの目的の核酸配列、
c. 少なくとも1つのヌクレアーゼ部位、特に少なくとも1つのガイド核酸標的配列(gRNA-T)、
d. 任意に、細胞のゲノム中の目的の内因性ゲノム部位の一部と相同な配列からなる少なくとも1つの相同性アーム配列、および
e. 場合により、目的の少なくとも1つの核酸配列の安定した発現を高めることを可能にする少なくとも1つの配列、特に少なくとも1つのウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(WPRE)配列。
【0012】
本発明者らは、長さ9kb程度の配列であっても、効率的なKIにより、細胞のゲノムに正確かつ無毒な配列の組み込みを行うことができる新規IDLVを開発することに成功した。
【0013】
本発明は、特に、核酸を含む統合欠損レンチウイルスベクター(IDLV)に関し、前記核酸は、5’LTR配列と3’LTR配列との間に、以下を含む:
a. 少なくとも1つの核輸出シグナル配列、特に少なくとも1つのHIV-1 Rev応答エレメント(RRE)、特に1つのRRE、
b. ポリAシグナル;スプライシングシグナル配列;DNAまたはRNA結合部位;プロモーター;および治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする導入遺伝子またはその断片からなる群より選択される少なくとも1つの目的の核酸配列、
c. 少なくとも1つのヌクレアーゼ部位、特に少なくとも1つのガイド核酸標的配列(gRNA-T)、
d. 細胞のゲノム中の目的の内因性ゲノム部位の一部と相同な配列からなる少なくとも1つのホモロジーアーム配列;および
e. 場合により、目的の少なくとも1つの核酸配列の安定した発現を高めることを可能にする少なくとも1つの配列、特に少なくとも1つのウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(WPRE)配列。
【0014】
実際、特定の実施形態において、本発明によるIDLVは、以下を含む:
d. 細胞のゲノム中の目的の内因性ゲノム部位の一部と相同である配列で構成される少なくとも1つの相同性アーム配列。
【0015】
特定の実施形態によれば、前記IDLVは、環状又は線状であり、特に環状である。
【0016】
本発明の実施形態によれば、前記IDLVは、少なくとも2つの同一又は異なるヌクレアーゼ部位、特に少なくとも2つの同一又は異なるgRNA-T配列、特に2つの同一又は異なるgRNA-T配列を含む。特に、目的の少なくとも1つの核酸配列は、前記IDLVの少なくとも2つの、特に2つのヌクレアーゼサイトの間に含むことができる。
【0017】
本発明の実施形態によれば、本発明のIDLVの少なくとも1つのヌクレアーゼ部位は、点dの細胞のゲノム中の関心のある内在性ゲノム部位に含まれる内在性ヌクレアーゼ部位と同一であるか、又は異なるものである。
【0018】
特定の実施形態では、本発明のIDLVの関心のある少なくとも1つの核酸配列は、治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする導入遺伝子またはそのフラグメントである。
【0019】
特に、治療用タンパク質は、サイトカイン、特にインターフェロン、より具体的にはインターフェロンアルファ、インターフェロンベータまたはインターフェロンパイ;ホルモン;ケモカイン;抗体(ナノボディを含む);抗血管新生因子;たとえば、アデノシンデアミナーゼ、アルファグルコシダーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼ、アルファ-L-イズロニダーゼおよびベータ-グルコシダーゼなどの補充療法のための酵素;インターロイキン;インスリン;G-CSF;GM-CSF;hPG-CSF;M-CSF;第VIII因子、第IX因子、tPA、第V因子、第VII因子、第X因子、第XI因子、第XII因子、または第XIII因子などの血液凝固因子。神経成長因子受容体(NGFR)などの膜貫通型タンパク質;α-ガラクトシダーゼ(GLA)、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)、リソソーム酸性リパーゼ(LAL)、ガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)などのリソソーム酵素;ベータ様グロビン;IL-2受容体、IL-3受容体、IL-4受容体、IL-5受容体、IL-6受容体、IL-7受容体、IL-9受容体、IL-11受容体、IL-12受容体、ILなどのインターロイキン受容体-13受容体、IL-15受容体、IL-21受容体、IL-23受容体およびIL-27受容体;Wiskott-Aldrich症候群タンパク質(WASP);アデノシンデアミナーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ1、α-Lイズロニダーゼ、イズロン酸2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、ガラクトサミン-6スルファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、グルコセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、サイト、チトクロムb-245ベータ鎖、好中球サイトゾル因子1、好中球サイトゾル因子2、好中球サイトゾル因子4;分泌され、最終的には非修飾細胞に取り込まれるように操作できるタンパク質、およびそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0020】
本発明の一実施形態では、IDLVは、少なくとも2つの相同性アーム配列、特に2つを含み、それぞれが互いに異なり、細胞のゲノムにおける関心のある内因性ゲノム部位の、少なくとも2つ、特に2つの異なる部分に相同である配列からなる。
【0021】
特定の実施形態では、本発明のIDLVは、プロモーターを含まない。
【0022】
本発明の一実施形態では、細胞のゲノムにおける目的の内因性ゲノム部位は、グロビン遺伝子内に含まれ、特に、イプシロングロビン遺伝子、ガンマGグロビン遺伝子、ガンマAグロビン遺伝子、デルタグロビン遺伝子、ベータグロビン遺伝子、ゼータグロビン遺伝子、シュードゼタグロビン遺伝子、ミューグロビン遺伝子、シュードアルファ-1グロビン遺伝子、アルファ1グロビン遺伝子およびアルファ2グロビン遺伝子からなる群から選択され、特に、ガンマGグロビン遺伝子、ガンマAグロビン遺伝子、デルタグロビン遺伝子、ベータグロビン遺伝子、アルファ1グロビン遺伝子およびアルファ2グロビン遺伝子からなる群から選択され、より具体的にはアルファ1グロビン遺伝子およびアルファ2グロビン遺伝子からなる群から選択される。
【0023】
別の実施形態において、本発明のIDLVの配列aからc、および存在する場合、dおよびeは、以下の順序のうちの1つで、5’から3’まで、IDLV中に存在する:
-a、c、d、b;
-a、c、d、b、e;
-a、c、d、b、d、c;
-a、c、d、b、d、c、e;
-a、d、c、d、b;
-a、d、c、d、b、e;
-a、c、b、d、c、e;または
-a、c、d、b、c、e。
【0024】
本発明の別の目的は、本発明の少なくとも1つのIDLVを含む単離された細胞に関する。
【0025】
特に、細胞は造血幹細胞;免疫系の細胞、特にリンパ球;多能性幹細胞;胚性幹細胞;衛星細胞;神経幹細胞;間葉系幹細胞;網膜幹細胞;および上皮幹細胞からなる群から選択することができ、特に造血幹細胞である。
【0026】
本発明のさらなる目的は、本発明の少なくとも1つのIDLV及び/又は本発明の少なくとも1つの単離細胞、並びに薬学的に許容される媒体を含む薬学的組成物に関するものである。
【0027】
本発明の別の目的は、以下の治療において使用するための、本発明のIDLV、本発明の単離細胞、または本発明の医薬組成物に関する:
- 免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群から選択される疾患;および/または
- それを必要とする個体における、タンパク質の欠如または異常な非機能的なものの存在によって引き起こされる疾患。
【0028】
本発明のさらなる目的は、リンパ球T細胞または造血幹細胞に、本発明の少なくとも1つのIDLVを組み込むことを含む、CAR-T細胞を生成する方法に関するものであり、本発明のIDLVは、リンパ球T細胞または造血幹細胞に組み込まれ、前記IDLVは、少なくとも1つの目的の核酸配列として、癌細胞を標的とするキメラ抗原受容体をコードするトランスジーンを含む。
【0029】
本発明の他の目的は、抗体発現B細胞を生成する方法であって、リンパ球B細胞または造血幹細胞に、本発明の少なくとも1つのIDLVを組み込むことを含む、方法に関し、前記IDLVは、少なくとも1つの目的の核酸配列として、抗体をコードするトランスジーンを含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A図1A:長い末端反復(LTR)配列の間に、左から右に、Rev応答要素(RRE)、gRNA切断部位(gRNA-T)(gRNA)を含む本発明によるIDLVの概略図(ヌクレアーゼ部位)、IDLVが組み込まれる細胞のゲノム内の目的の内因性ゲノム部位の一部と同一の35bpのマイクロホモロジー(MH5’)(ホモロジーアーム)、プロモーターレス(Δ)緑色蛍光タンパク質(GFP)およびウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)をコードする配列。このカセットは、LTRおよびRREウイルス配列に関してセンス方向にある。
図1B図1B:Cas9切断時の細胞ゲノムへのIDLV統合の1つの可能な結果の概略図。内因性α-グロビンプロモーター(HS1-4)は、α-グロビンプロモーターとα遺伝子(HBA)の間に挿入されるGFPの発現を促進する。
図1C図1C:表は、ポイント(A)で説明したIDLVと異なるgRNA(HBA15.1またはHBA16.1)を使用してHBA遺伝子におけるGFP組み込み後のK562-Cas9細胞(Cas9を安定して発現するヒト白血病細胞株K562)でのGFP発現のフローサイトメトリー分析によって測定されたゲート細胞のGFP+細胞の割合とGFPMFI(蛍光強度の中央値)値を示している。InDelの効率は、gRNAを実装する2つの方法でも測定される。「no-gRNA」コントロールで得られた結果も示されている。
図2A図2A:K562-Cas9細胞クローンにおけるIDLVゲノム統合を分析するために実行されたPCRの概略図。二重矢印は、増幅に使用されるプライマーを表す。
図2B図2B:分析された163クローンのDNAおよびFACS分析の要約表。組み込みがシームレスであるかどうかを確認するために、本発明者らは、PCR2に由来する各PCR産物のサンガーシーケンシングを実施した。
図3図3:K562細胞に図1Aに示す本発明のIDLVを形質導入し、表に示す時間(4時間、8時間、24時間、32時間、または48時間)後、異なるgRNA(HBA15.1またはHBA16.1)を使用したRNP(組み立て済のCas9/gRNA複合体)を用いて細胞にトランスフェクトする。GFP発現のフローサイトメトリー分析は、IDLV形質導入から2週間後、IDLVとRNPの送達の間に4時間、8時間、24時間、32時間、および48時間の遅延後に実行される。RNPが導入されていない場合に制御が実行される。この表は、ゲートされた細胞のGFP+細胞の割合とGFPMFI(蛍光強度の中央値)値を示している。InDelの効率は、HBA15.1gRNAまたはHBA16.1gRNAを実装する2つの方法でも測定される。コントロールで得られた結果も示されている。
図4A図4A:長い末端反復(LTR)配列の間に、左から右に、Rev応答エレメント(RRE)、gRNA切断部位(gRNA-T)(gRNA)(ヌクレアーゼ部位)、IDLVが組み込まれる細胞のゲノム内の目的の内因性ゲノム部位の一部と同一の35bpのマイクロホモロジー(MH5’)(ホモロジーアーム)、プロモーターレス(Δ)コドン最適化第VIII因子(FVIII)(coF8)およびウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む本発明によるIDLVの概略図。このカセットは、LTRおよびRREウイルス配列に関してセンス方向にある。
図4B図4B:K562-Cas9細胞クローンにおけるIDLVゲノム統合を分析するために実行されたPCRの概略図。二重矢印は、増幅に使用されるプライマーを表す。この図には、Cas9切断時のK562-Cas9細胞のゲノムにおけるIDLV統合の1つの可能な結果の概略図も示されている。内因性α-グロビンプロモーター(HS1-4)は、α-グロビンプロモーターとα遺伝子(HBA)の間に挿入されるGFPの発現を促進する。
図4C図4C:分析された27クローンのDNAおよびELISA分析の要約表。組み込みがシームレスであるかどうかを確認するために、本発明者らは、PCR2に由来する各PCR産物のサンガーシーケンシングを実施した。
図4D図4D:デュプリケートで行った、FVIIIカセットの標的化された組み込みを伴うバルクおよび単一のK562-Cas9クローンの上清に存在するFVIIIのElisaに続いて得られた結果(テスト1および2)。上から順に:クローン12、クローン24、クローン26、クローン27、ut(未処理の細胞)、細胞バルク(GP34バルク)、NNF(非ヌクレオフェクト細胞- GP34 NNF)。
図5A図5A:長い末端反復(LTR)配列の間に、左から右に、gRNA切断部位(gRNA-T)(gRNA)(ヌクレアーゼ部位)、35bpのマイクロホモロジー(MH 5’)(ホモロジーアーム)IDLVが組み込まれる細胞のゲノム内の目的の内因性ゲノム部位の一部と同一、プロモーターのない(Δ)緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする配列、ポリアデニル化シグナルA(polyAシグナルまたはpA)、プロマイシン耐性遺伝子(Puro)およびRev Response Element(RRE)の構成的発現を駆動するヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター。このカセットは、LTRおよびRREウイルス配列に関してアンチセンス方向にある。この概略図のすぐ下には、コントロールカセットに対応する別の概略図がある。このカセットは、切断部位(gRNA-T)(gRNA)(ヌクレアーゼ部位)および35bpのMH5’相同性アーム配列を含まないという点で、上記で定義された発明によるものとは異なる。
図5B図5B:ポイント(A)に記載されているIDLVとHBA15.1gRNAを用いてK562-Cas9細胞のHBA遺伝子にGFPを組み込んだ後、K562-Cas9細胞のGFP発現のフローサイトメトリー分析によって測定されたゲート細胞のGFP+細胞の割合とGFPMFI(蛍光強度の中央値)値を示す表。InDelの効率も測定される。「no-gRNA-T配列」コントロールで得られた結果も示されている。
図6A図6A図1Aに記載されたIDLVおよび異なるgRNA(HBA15.1またはHBA16.1)を使用した細胞のHBA遺伝子へのGFP組み込み後の赤芽球分化一次HSPCにおけるGFP発現のフローサイトメトリー分析によって測定されたゲート細胞のGFP+細胞の%およびGFP MFI(中央蛍光強度)値を示す表。InDelの効率も測定される。
図6B図6B:編集された細胞のコロニー形成単位(CFU)アッセイ。バーは、標準偏差のある2枚のプレートの平均カウントを表す。座標:カウント 横軸:左から右へ:HBA15.1(GP33 HBA15)を備えた図6Aのセル。gRNAを含まない図6Aの細胞(GP33);図6AのセルとHBA16.1(GP33 HBA16)、未処理のセル(UT)。各列の基部から上へ:CFU-GEMM(顆粒球/マクロファージ形成ユニット;BFU-E(赤血球バースト形成ユニット)およびCFU-GM(顆粒球/赤血球/単球/巨核球形成単位)。
図6C図6C:13CFUのDNA分析の要約表。統合がシームレスであるかどうかを確認するために、発明者らは、PCR2に由来する各PCR産物のサンガーシーケンシングを実行した(図2Bに示すように)。
図7A図7A:最初の行:長い末端反復(LTR)配列の間に、左から右に、Rev応答エレメント(RRE)、gRNA切断部位(gRNA-T)を含む本発明(GP57)によるIDLVの概略図( )(ヌクレアーゼ部位=配列番号67=GTCCCCTCCACCCCACAGTG)、IDLVが組み込まれる細胞のゲノム内の目的の内因性ゲノム部位の一部と同一の35bpのマイクロホモロジー(MH5’)、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PGK)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、およびウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)。このカセットは、LTRおよびRREウイルス配列に関してセンス方向にある。2行目:本発明(GP58)によるIDLVの概略図。これは、MH5’相同性アーム配列の35bpを含まないという事実のみが1行目に示されているIDLVとは異なる。3行目:コントロールIDLV(MA277)の概略図。これは、MH5’相同性アーム配列の35bpまたはgRNA切断部位を含まないという点で1行目に示されているIDLVとは異なる。
図7B図7B:ポイント(A)に記載したIDLV構造を使用してAAVS1遺伝子座にGFPを組み込んだ後、K562細胞のGFP発現のフローサイトメトリー分析によって測定されたゲート細胞のGFP+細胞の割合とGFPMFI(蛍光強度の中央値)値を示す表およびAAVS1gRNAを使用したRNP。InDelの効率とベクターコピー数(VCN)も測定される。「no-gRNA-T配列」コントロールで得られた結果も示されている。
図8A図8A:実施例7の実験後に得られたK562細胞クローンにおけるオンターゲットIDLVゲノム統合を分析するために実行されたPCRの概略図。二重矢印は、増幅に使用されるプライマーを表す。
図8B図8B:365クローンのオンターゲットDNA分析の要約表。組み込みがシームレスであるかどうかを確認するために、発明者らは、図8Aに記載されている最初のPCRから得られた各PCR産物のサンガーシーケンシングを実行した。
図8C図8C:実施例7の実験後に得られたK562細胞クローンにおけるオフターゲットIDLVゲノム統合を分析するために実行されたPCRの概略図。二重矢印は、増幅に使用されるプライマーを表す。
図8D図8D:365クローンの1つの主要なオフターゲットDNA分析の要約表。
【0031】
発明の詳細な説明
上記のように、本発明者らは、効率的なKIによって実現される高効率で、細胞のゲノムにおいて正確で非毒性の配列統合を実行することができるIDLVを生成することに成功した。さらに、本発明者らは、このIDLVがかなりの長さを有する配列の組み込みさえも可能にすることを実証した。
【0032】
本発明のIDLVで標的化された細胞の核において、レンチウイルスRNAゲノムは、dsDNAを生成するために逆転写される。このdsDNAをヌクレアーゼでターゲットにすると、他のDNA末端と相互作用しやすい遊離DNA末端が生成される。したがって、同じ細胞内でゲノムDNAカットを生成することにより、発明者らは、目的の配列のKIの増加を可能にすることに成功した。
【0033】
統合欠損レンチウイルスベクター
本発明は、核酸を含む組み込み欠損レンチウイルスベクター(IDLV)に関する。前記核酸は、5’LTR配列と3’LTR配列との間に以下を含む:
a.少なくとも1つの核輸出シグナル伝達配列、特に少なくとも1つのHIV-1 Rev応答要素(RRE)、特に1つのRRE、
b.ポリAシグナルからなる群から選択される目的の少なくとも1つの核酸配列。スプライシングシグナル配列;DNAまたはRNA結合部位;プロモーター;治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする導入遺伝子またはその断片、
c.少なくとも1つのヌクレアーゼ部位、特に少なくとも1つのガイド核酸標的配列(gRNA-T)、および
d.細胞のゲノム中の目的の内因性ゲノム部位の一部に相同である配列からなる少なくとも1つの相同性アーム配列。
本テキストでは、LTRは、当業者によく知られている「ロングターミナルリピート」を示す。
【0034】
現在のテキストでは、別のシーケンス位置と比較したシーケンス位置に関連する「アップスチーム」および「ダウンスチーム」という用語は、5’から3’の方向であると見なされる。アップストリームシーケンスは、5’から3’まで読み取る場合の他のシーケンスの「前」に配置される(したがって、ダウンストリームシーケンスである)。
【0035】
前に配置することにより、反対の表示がない場合、それは直前または直前ではないことを意味する。
【0036】
レンチウイルスは、2つの長い末端反復(LTR)配列に隣接する他のアクセサリー遺伝子に加えて、gag、pol、およびenv遺伝子を持っている。
【0037】
他のレンチウイルスと同様に、IDLVは、LTR5’および3’レンチウイルス配列の間に、レンチウイルスカプシデーションサイ配列、RNA核輸出要素、目的の核配列(たとえば導入遺伝子)、スプライシングドナー/アクセプターサイト、およびcPPT配列からなる組み換えゲノムを含んでなる(Dullら(1998)J. Vir. 72:8463; Sirvenら(2000) Blood, (96)203))。IDLV構築物の設計は、たとえば、Shawら、Biomedecines, 2014, 2, 14-35に記載されている。
【0038】
IDVLの製造は、当技術分野で周知のレンチウイルスベクターの製造と同様である。当業者は、特にMertenら(2016)Molecular therapy(3)16017, Sharon and Kamen(2017)Biotechnology and Bioengineering(115)25, Mertenら(2011)Hum.Gene Ther 22(3)343, Schweizer and Merten(2010)Cur.Gene Ther. 10(6) 474、Ansorgeetら(2010)。Biochem. Eng. J. 48(3): 362.に表されたこの分野の一般知識を参照し得る。IDLVは、例えば、Yanez-Munozら(2006)Nat Med 12(3):348-353;Nightingaleら(2006)Mol Ther 13(6):1121-1 132、W0206/010834およびWO2009/019612に開示されるように、ネイティブのレンチウイルスインテグラーゼ遺伝子自体またはウイルスLTR中のインテグラーゼ認識配列に1または複数の変異を含むレンチウイルスベクターを使用して製造することができる。好ましくは、IDLVは、宿主細胞のゲノムへの前記ゲノムの統合を防止する変異したインテグラーゼを含んでいる。特定の実施形態では、IDLVは、酵素の触媒ドメインに変異D64Vを有する欠陥インテグラーゼを有する。
【0039】
本発明によるIDLVは、シュードタイプ化することができる、すなわち、それは、IDLVに由来するウイルスとは異なるウイルスに由来するエンベロープ糖タンパク質、改変されたエンベロープ糖タンパク質、またはキメラ外被糖タンパク質を含む。特定の実施形態では、IDLVは、VSV-G、GALV-TR、RD114またはシンシチン糖タンパク質でシュードタイプ化される。
【0040】
シーケンスa:ニュークリアスエクスポートシグナリングシーケンス
上記のように、本発明のIDLVは、それが5’LTR配列と3’LTR配列との間に、少なくとも1つの核外搬出シグナル配列を含む少なくとも1つの核酸を含むことを特に特徴とする。
【0041】
この少なくとも1つの核外搬出シグナル配列は、本発明のIDLVに一度だけ存在することができる。
【0042】
より具体的には、この核外搬出シグナル配列は、上記の配列bからeの上流にあり得る。
【0043】
したがって、特定の実施形態において、本発明のIDLVは、それが、上記の配列bからeの上流に1つの核外搬出シグナル配列を含む核酸を含むことを特に特徴とする。
【0044】
本発明による核外搬出シグナル配列は、有利には、HIV-1 Rev応答要素(RRE)であり得る。
【0045】
RRE配列(Rev応答配列:REV Responsive Element)は約350塩基のRNA配列で、特にRevタンパク質と結合した後、ウイルスのメッセンジャーRNAを核から細胞質へ輸送することができるため、ウイルスの複製に不可欠なものとして知られている。しかし、レンチウイルスベクターにおけるこのエレメントの存在は、効率的なベクター機能にとって必須であることも証明されている(たとえば、Anson and Fuller; J. Gene Med. 2003; 5: 829-838を参照)。
【0046】
本発明の特定の実施形態において、本発明のIDLVは、それが、上記および以下に記載される配列bからeの上流に1つのRRE配列を含む核酸を含むことを特徴とする。
【0047】
配列b:目的の核酸配列
上記のように、本発明のIDLVは、それが5’LTR配列と3’LTR配列との間に、少なくとも1つの目的の核酸配列を含む少なくとも1つの核酸を含むことを特に特徴とする。
【0048】
この目的の核酸は、polyAシグナル;スプライシングシグナル配列;DNAまたはRNA結合部位;プロモーター;治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする導入遺伝子またはその断片からなるグループから選択される。
【0049】
ポリAシグナルは、一般に、AAUAAA配列であり、これは、前記シグナルの約10~30ヌクレオチド下流でRNAの切断を誘導する。その後、複数のアデノシン一リン酸(AMP)の配列、つまりアデニン塩基のみを持つ配列。それは、たとえば、50から300のアデノシン一リン酸、特に70から250のアデノシン一リン酸から構成することができる。
【0050】
スプライシングシグナル配列は、スプライス部位自体の配列と、エキソニックスプライシングエンハンサー、イントロンスプライシングエンハンサー、エキソニックスプライシングサイレンサーなどの補助シグナルに分けることができる。すべてのスプライス部位は、イントロンの両端にほぼ不変のジヌクレオチドを含むコンセンサス配列に適合し、一般に、5’スプライスサイトではMAG|GTRAGT、3’スプライスサイトではCAG|Gの配列を有している。
【0051】
DNAまたはRNA結合部位とは、例えば、内因性遺伝子転写を調節するための転写活性化因子、転写抑制因子またはエピジェネティック修飾因子の結合部位に関するものである。RNA結合部位は、例えば、RNA安定性、RNA局在化、RNA核輸出/輸入に影響を与えるためのタンパク質結合用RNA配列、マイクロRNA媒介の導入遺伝子抑制またはノックダウン用のマイクロRNA結合部位であることができる。
【0052】
本発明によるトランスジーンは、治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする。
【0053】
本発明の一実施形態において、前記治療用タンパク質または治療用リボ核酸は、IDLVが存在する細胞、特に治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする配列が細胞のゲノム中の目的の内因性ゲノム部位に組み込まれる細胞に対して治療効果を提供する任意のタンパク質またはリボ核酸であり得る。
【0054】
本発明の別の実施形態では、前記治療用タンパク質は、IDLVが存在する細胞の外、特に治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードする配列が細胞のゲノム中の目的の内因性ゲノム部位に組み込まれる細胞の外で治療効果を提供する任意のタンパク質であり得る。前記治療用タンパク質は、実際に前記細胞によって分泌され得るか、または前記細胞の表面上に部分的に(たとえば膜貫通タンパク質)または完全に存在し得る。
【0055】
治療用タンパク質は特に、サイトカイン、特にインターフェロン、より詳細にはインターフェロン-α、インターフェロン-β又はインターフェロン-pi;ホルモン;ケモカイン;抗体(ナノボディを含む);抗血管新生因子;置換療法用の酵素、例えばアデノシンデアミナーゼ、αグルコシダーゼ、αガラクトシダーゼ、α-L-イドロニーゼ及びβグルコシダーゼインターロイキン;インシュリン;G-CSF;GM-CSF;hPG-CSF;M-CSF;第VIII因子、第IX因子、tPA、第V、第VII、第X、第XI、第XII、第XIII因子のような血液凝固因子;神経成長因子受容体(NGFR)などの膜貫通タンパク質;α-ガラクトシダーゼ(GLA)、α-L-イドロニダーゼ(IDUA)、リソソーム酸性リパーゼ(LAL)およびガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)などのリソソーム酵素;β様グロビン;IL-2受容体、IL-3受容体、IL-4受容体、IL-5受容体、IL-6受容体、IL-7受容体、IL-9受容体、IL-11受容体、IL-12受容体、IL-13受容体、IL-15受容体、IL-21受容体、IL-23受容体およびIL-27受容体のようなインターロイキン受容体;ウィスコット・アルドリッチ症候群タンパク質(WASP);アデノシンデアミナーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ1、α-Lイデュロニダーゼ、イデュロン酸2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンサルホヒドロラーゼ、ガラクトサミン-6スルファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、グルコセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、チトクロムb-245α鎖、チトクロムb-245β鎖、好中球細胞質因子1、好中球細胞質因子2、好中球細胞質因子4、分泌され、最終的に非修飾細胞に取り込まれるように設計されたタンパク質、およびそれらの組み合わせからなる群から選択可能である。
【0056】
本明細書に記載の導入遺伝子は、たとえば、少なくとも1つのβ様グロビンタンパク質及び/又は少なくとも1つのβ様グロビンリボ核酸をコードすることができ、特に、少なくとも1つの機能的β様グロビンタンパク質をコードしている。本発明によるβ様グロビン遺伝子は、イプシロン-グロビン(ε)、γ-G-グロビン(Gγ)、γ-A-グロビン(Aγ)、デルタ-グロビン(δ)及びβ-グロビン(β)遺伝子からなる群より選択される遺伝子を指す。特に、本発明によるβ様グロビン遺伝子は、β-グロビン遺伝子である。
【0057】
本発明によるトランスジーンは、2つ以上の治療用タンパク質および/または治療用リボ核酸をコードすることができる。例えば、本発明によるトランスジーンは、2つの治療用タンパク質、特に2つの異なる治療用タンパク質をコードすることができる。前記治療用タンパク質は、上記で定義したとおりであることができる。別の実施形態では、本発明によるトランスジーンは、2つの治療用リボ核酸、特に2つの異なる治療用リボ核酸をコードすることができる。前記治療用リボ核酸は、上記で定義した通りであることができる。別の実施形態では、本発明によるトランスジーンは、1つの治療用タンパク質および1つの治療用リボ核酸をコードすることができ、前記治療用タンパク質および治療用リボ核酸は、特に、上記で定義されたとおりである。
【0058】
また、本発明は、上記で定義した本発明の導入遺伝子の断片に関するものである。前記フラグメントは、前記治療用タンパク質と同じ特性を有する、優れた、類似した、または劣った強度/レベルの、目的の治療用タンパク質の画分とすることができる。
【0059】
特定の実施形態において、目的の少なくとも1つの核酸配列は、治療用タンパク質または治療用リボ核酸をコードするトランスジーンまたはそのフラグメントである。
【0060】
特定の実施形態では、本発明によるIDLVは、関心のある1つの核酸配列のみを含む。
【0061】
別の実施形態では、本発明によるIDLVは、その関心のある核酸配列(複数可)の直前および/または直後に、本明細書で定義される少なくとも1つの相同性アーム配列(配列d)を含む。
【0062】
本発明の特定の実施形態では、本発明によるIDLVは、1つの関心対象の核酸配列のみと、当該関心対象の核酸配列の直前及び/又は直後に存在する少なくとも1つのホモロジーアーム配列とからなる。
【0063】
特定の実施形態において、本発明によるIDLVは、2つの相同性アーム配列からなり、一方の相同性アーム配列は、少なくとも1つの、特に1つの、関心のある核酸配列の上流にあり、他方の相同性アーム配列は、少なくとも1つの、特に1つの、関心のある核酸配列の下流にある。
【0064】
別の実施形態では、本発明によるIDLVは、2つのホモロジーアーム配列を含み、2つのホモロジーアーム配列は、少なくとも1つの、特に1つの、関心のある核酸配列の上流に存在する。
【0065】
配列番号c:ヌクレアーゼ部位
上述したように、本発明のIDLVは、特に、5’LTR配列と3’LTR配列との間に、少なくとも1つのヌクレアーゼ部位を含んでなることを特徴とするものである。
【0066】
本発明によるヌクレアーゼ部位とは、一旦二本鎖DNAに逆行転写されると、ヌクレアーゼによって認識されるRNA配列のことである。したがって、ヌクレアーゼは、核酸のヌクレオチド間のホスホジエステル結合を切断することになる。ヌクレアーゼによって、この作用は一本鎖または両鎖で行われ、認識されたDNA配列の一本鎖または二本鎖の切断につながる。
【0067】
前記ヌクレアーゼ部位は、たとえば、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)またはジンクフィンガーヌクレアーゼから選択された標的部位に結合するガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼによって認識される部位であり得る。
【0068】
TALENs技術は、非特異的なDNA切断ドメイン(ヌクレアーゼ)と特異的なDNA結合ドメインが融合したものである。特異的DNA結合ドメインは、キサントモナス属細菌が分泌し、宿主植物細胞の遺伝子の転写を変化させるタンパク質である転写活性化因子様エフェクター(TALEs)由来の高度な保存反復配列で構成されている。DNA切断ドメイン又は切断ハーフドメインは、例えば、Fok Iの様々な制限エンドヌクレアーゼ及び/又はホーミングエンドヌクレアーゼ(たとえば、Fok I Type IIS restriction endonuclease)から得ることができる(Wrightら(Biochem. J. 2014 Aug. 15;462(1):15-24)を参照)。
【0069】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)技術は、ジンクフィンガーDNA結合ドメインとDNA切断ドメイン(ヌクレアーゼ)の融合によって生成された人工制限酵素の使用からなる。ジンクフィンガードメインは目的のDNA配列を特異的に捉えるため、関連するヌクレアーゼは複雑なゲノムの中でユニークな配列をターゲットにすることができる。
【0070】
亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、2本のフィンガーモジュールの鎖で構成され、それぞれがDNAのユニークな6量体(6bp)配列を認識する。2本のフィンガーモジュールが縫い合わされ、ジンクフィンガータンパク質が形成される。TALENs技術と同様に、DNA切断ドメインはFok Iのヌクレアーゼドメインからなる(Carroll D, Genetics, 2011 Aug; 188(4): 773-782; Urnov F.D. Nat Rev Genet. (9):636-46, (2010))。
【0071】
別の実施形態では、ヌクレアーゼ部位は、標的部位特異性を欠くエンドヌクレアーゼ、例えば、RNA誘導エンドヌクレアーゼによって標的化される部位であり得る。そのようなRNA誘導エンドヌクレアーゼは、特に、CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート:Clustered regularly interspaced short palindromic repeats)関連タンパク質(Cas)、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)であることが可能である。
【0072】
本実施形態では、ヌクレアーゼ部位は、1つ以上のガイド核酸、特にガイドRNA(gRNA)により認識される。ガイド核酸、特にガイドRNAによって認識される本発明のヌクレアーゼ部位は、ガイド核酸標的配列(gRNA-T)であるとも指定される。このガイド核酸は、本発明のヌクレアーゼ部位を特異的に標的として認識する。また、このガイド核酸には、上記のようにIDLVのヌクレアーゼ部位を切断する標的部位特異性を欠くエンドヌクレアーゼが連結されている。
【0073】
本発明によるヌクレアーゼ部位を標的とするgRNAは、それを特異的に標的とするものであれば、どのようなものでも使用することができる。たとえば、本発明にしたがって使用できるgRNAは、特にグロビン遺伝子内のヌクレアーゼ部位を標的とするものであり得、より詳細には、イプシロングロビン遺伝子、ガンマGグロビン遺伝子、ガンマAグロビン遺伝子、デルタグロビン遺伝子、ベータグロビン遺伝子、ゼータグロビン遺伝子、偽ゼータグロビン遺伝子からなる群より選ばれるいずれか1つに存在するヌクレアーゼ部位を標的としているものである。μグロビン遺伝子、擬α-1グロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子、特にγGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子、より特にα1グロビン遺伝子とα2グロビン遺伝子からなる群から選択される。
【0074】
上記のようなgRNAは、たとえば、下記の表1に示す配列をターゲットとするHBA-4、HBA-10、HBA-12、HBA-14、HBA19.1、HBA15.1、HBA16.1、HBA17-G、HBA20.1、HBA5.1、gRNA2、gRNA3、gRNA11、HBA INT1 72.1、HBA INT1 73.2 、HBA INT1 73b.1、HBA INT2 13.2、HBA INT2 63.2、HBA INT2 74.1、Hbb 37.1、Hbb 49.2、Hbb 53.1、Hbb 54.1、Hbb 77.1、Hbb INT1 36.2、Hbb INT1 36.2 rev、Hbb INT1 47.1、Hbb INT1 48.1、HBA INT2 13.3、HBA INT1 13.3 rev、HBA INT2 13.3 rev. 1、HBB INT2 340.1、HBB INT2 797.1、HBB INT2 20.1、HBB INT2 39.2、HBB KO et HBB AAVS1からなる群より選択することができる。
【0075】
【表1】
【0076】
本発明によるIDLVは、特に、その5’LTR配列と3’LTR配列との間に、1つまたは2つのヌクレアーゼ部位(複数可)を含む。
2つのヌクレアーゼ部位が本発明のIDLVの5’LTR配列と3’LTR配列の間に存在するとき、それらは異なっていても同一であってもよい。特にそれらは異なっている。
特定の実施形態では、本発明のIDLVは、少なくとも2つの同一または異なるヌクレアーゼ部位、特に少なくとも2つの同一または異なるgRNA-T配列、特に2つの同一または異なるgRNA-T配列を含む。
この実施形態によれば、本発明のIDLVは、少なくとも1つの目的の核酸配列を含んでいることを特徴とすることができ、この核酸配列は、前記IDLVの少なくとも2つ、特に2つのヌクレアーゼ部位の間に含むことができる。
本発明の実施形態において、少なくとも1つのヌクレアーゼ部位は、点dの細胞のゲノム中の目的の内在性ゲノム部位に構成される内在性ヌクレアーゼ部位と同一であるか、又は異なっている。
特定の実施形態では、本発明のIDLVに含まれる核酸の5’LTR配列と3’LTR配列の間に:
- ヌクレアーゼ部位が1つだけ存在する場合、それは、関心のある少なくとも1つの核酸配列の上流にある;
-1つ以上のヌクレアーゼ部位、特に2つのヌクレアーゼ部位が存在する場合、少なくとも1つ、特に1つのヌクレアーゼ部位が、目的の少なくとも1つの核酸配列の上流にあり、少なくとも1つ、特に1つのヌクレアーゼ部位が、目的の少なくとも1つの核酸配列の下流にある。
【0077】
特定の実施形態において、本発明のIDLVに含まれる核酸の5’LTR配列と3’LTR配列との間で、複数のヌクレアーゼ部位、特に2つのヌクレアーゼ部位が存在する場合、少なくとも1つの、特に1つのヌクレアーゼ部位が少なくとも一つの相同性アーム配列の上流にあり、少なくとも一つの、特に1つのヌクレアーゼ部位が、少なくとも一つの相同性アーム配列の下流にある。
【0078】
特定の実施形態において、本発明のIDLVは、5’LTR配列と3’LTR配列の間で、少なくとも1つのヌクレアーゼ部位が少なくとも1つの相同性アーム配列に直接隣接していることを特徴とする。
【0079】
「直接隣接する」とは、本発明による核酸において、ヌクレアーゼ部位がホモロジーアーム配列の直接上流または直接下流にあることを意味する。
【0080】
配列番号d:ホモロジーアーム
前述のように、本発明のIDLVは、場合により、5’LTR配列と3’LTR配列の間に、少なくとも1つの相同性アーム配列を含む核酸を含む。特定の実施形態では、本発明のIDLVは、5’LTR配列と3’LTR配列の間に、少なくとも1つの相同性アーム配列を含む核酸を含む。
【0081】
この少なくとも1つの相同性アーム配列は、細胞のゲノム、特にIDLVが組み込まれることが意図される細胞のゲノムにおける目的の内因性ゲノム部位の一部と相同である配列で構成されている。本発明のIDLVにおける相同性アームは、特に、目的の少なくとも1つの核酸配列の目的の内在性ゲノム部位への方向性ノックインに有利である。
【0082】
IDLVが組み込まれることが意図され、したがってそのゲノムが関心のある内因性ゲノム部位を含んでいるそのような細胞は、本文中でさらに説明され、単離細胞とも呼ばれる。
【0083】
実施形態によれば、前記細胞は、特に、造血幹細胞;免疫系の細胞、特にリンパ球;多能性幹細胞;胚性幹細胞;衛星細胞;神経幹細胞;間葉系幹細胞;網膜幹細胞;及び上皮幹細胞からなる群から選択され得、特に、造血幹細胞である。
【0084】
本発明のIDLVは、特に、5’LTR配列と3’LTR配列との間に、1つ又は2つの相同性アーム配列を含む。
【0085】
例示的な相同性アームの長さは、少なくとも20、30、40、50、100、250、500、750、1000、2000、3000、4000、または5000ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ホモロジーアーム長は、50~100、100~250、250~500、500~750、750~1000、1000~2000、2000~3000、3000~4000、または4000~5000ヌクレオチドである。
【0086】
一実施形態によれば、相同性アーム配列は、40ヌクレオチドのものである。
特定の実施形態において、本発明のIDLVにおける相同性アーム配列の位置は、関心のある少なくとも1つの核酸配列のすぐ上流(すなわち、5’中)および/またはすぐ下流(すなわち、3’中)である。
【0087】
したがって、本発明の一実施形態において、本発明のIDLVが、5’LTR配列と3’LTR配列との間に、1つの相同性アーム配列を含む場合、当該相同性アーム配列は、少なくとも1つの目的の核酸配列の、特に目的の核酸配列の、すぐ上流(すなわち5’に)および/またはすぐ下流(すなわち3’に)である。
【0088】
特定の実施形態によれば、IDLVは、少なくとも2つの相同性アーム配列、特に2つからなり、各々が他とは異なり、細胞のゲノムにおける内因性ゲノム部位の少なくとも2つ、特に2つの異なる部分に相同な配列を含む。
【0089】
本発明のIDLVが、5’LTR配列と3’LTR配列との間に、2つの相同性アーム配列を含んでなる場合、当該相同性アーム配列の少なくとも1つは、少なくとも1つの目的の核酸配列、特に目的の1つの核酸配列のすぐ上流(すなわち、5’に)および/またはすぐ下流(すなわち、3’に)存在する。
【0090】
本発明による興味のある内因性ゲノム部位は、遺伝子のエクソン、遺伝子のイントロン、プロモーター、遺伝子の5’UTR領域、遺伝子の3’UTR領域、または遺伝子間配列であり得る。
【0091】
特に、セーフハーバー(safe harbour)であることができる。
セーフハーバーは、本発明の少なくとも1つの目的の核酸配列が、内因性遺伝子活性を乱すことなく、または癌を促進することなく、予測可能な方法で統合し機能することができる宿主ゲノム内の染色体位置(Sadelain et al, Nat Rev Cancer. 2011 Dec 1;12(1):51-8)。セーフハーバーは、ゲノムセーフハーバー(GSH)とも呼ばれ、宿主細胞や生物に悪影響を及ぼすことなく、新たに組み込まれたDNAの予測可能な発現を受け入れることができる、細胞のゲノム内またはゲノム外の領域である。有用なセーフハーバーは、本発明の目的の少なくとも1つの核酸配列の所望のレベルをもたらすのに十分なトランスジーン発現を可能にしなければならない。
【0092】
ヒト細胞においてセーフハーバーとして使用され得るヒトゲノムの特定の遺伝子内遺伝子座としては、例えば、アデノ随伴ウイルス部位1(AAVS1)(染色体19位置19q13.42)、ケモカイン(CCモチーフ)受容体5(CCR5)遺伝子座(染色体3位置3q21.31)およびマウスROSA26座のヒト正ローグ(染色体3位置3q25.3)などを挙げることができる。
【0093】
特定の実施形態において、細胞のゲノムにおける目的の内因性ゲノム部位は、グロビン遺伝子に含まれ、特にイプシロングロビン遺伝子、ガンマGグロビン遺伝子、ガンマAグロビン遺伝子、デルタグロビン遺伝子、ベータグロビン遺伝子、ゼータグロビン遺伝子、シュードゼータグロビン遺伝子、ミューグロビン遺伝子、シュードα1グロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群から選ばれ、特に、γGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群から選ばれ、より特にα1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群から選ばれる。
【0094】
特定の実施形態において、本発明による関心のある内因性ゲノム部位は、本発明の少なくとも1つの関心のある核酸配列によって完全にまたは部分的に置換されることを意図した遺伝子にある。実際、本発明による導入遺伝子は、変異遺伝子を修正するために、例えば内因性遺伝子座への野生型導入遺伝子の挿入など、その同族遺伝子座に組み込むことができる。
【0095】
別の実施形態では、本発明による関心のある内因性ゲノム部位は、T細胞におけるT細胞受容体コード化遺伝子である。この実施形態によれば、本発明による関心のある前記内因性ゲノム部位は、特に、前記標的(抗原)に結合するとT細胞の免疫機能を活性化できる一方で、関心のある標的を標的とすることができるキメラ抗原受容体(CAR、キメラ免疫受容体、人工T細胞受容体又はキメラT細胞受容体としても知られる)をコードし得る。それに応じて得られるCAR T細胞(キメラ抗原受容体T細胞)は、多くの疾患の治療、特に癌の治療において、当該技術分野でよく知られている(たとえば、Rajeら、N. Engl. J. Med. 380;18;1726-1737を参照されたい)。
【0096】
別の実施形態では、本発明による関心のある内因性ゲノム部位は、B細胞における免疫グロブリン符号化遺伝子である。この実施形態によれば、本発明による関心のある前記内因性ゲノム部位は、特に、治療用タンパク質、より詳細には、関心のある免疫グロブリン、またはその断片をコードし得る(Vossら、eLife 2019;8:e42995およびT-C Cheong;Nat Commun. 2016 Mar 9;7:10934を参照)。
【0097】
さらなる実施形態において、本発明による関心のある内因性ゲノム部位は、造血幹細胞(HSC)におけるT細胞受容体コード化遺伝子又は免疫グロブリンコード化遺伝子である。
【0098】
配列e:目的の核酸配列(配列b)の安定発現を増強する配列
前述したように、本発明のIDLVは、以下含むことができる。
5’LTR配列と3’LTR配列との間に、少なくとも1つの目的の核酸配列の安定的な発現を増強することができる少なくとも1つの配列が存在すること。
特に、目的の少なくとも1つの核酸配列の安定発現を増強することを可能にする少なくとも1つの配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(WPRE)配列である。
【0099】
ウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)転写後制御要素(WPRE)は、597塩基以下の配列(Schambachら、Gene Ther. 2006 Apr;13(7):641-5)で、転写されると発現を促進する3次構造を形成する。この配列は、分子生物学において、ウイルスベクターによって導入された遺伝子の発現を高めるために一般的に使用される。WPREは、γ、α、βの3つの構成要素からなる三重の制御エレメントである。α成分は80bpの長さで、単独でも使用できるが、γ成分およびβ成分と組み合わせて使用することが好ましい。
【0100】
特定の実施形態において、本発明のIDLVは、目的の少なくとも1つの核酸配列の安定した発現を増強することを可能にする1つの配列のみからなる。
【0101】
特定の実施形態において、本発明のIDLVは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(WPRE)配列を1つだけ含む。
【0102】
本発明の特定の実施形態において、本発明のIDLVは、5’LTR配列と3’LTR配列との間において、目的の少なくとも1つの核酸配列の安定発現を高めることができる少なくとも1つの配列が、上記の配列a~dの下流にあることを特に特徴としている。
【0103】
本発明の特定の実施形態において、本発明のIDLVは、5’LTR配列と3’LTR配列との間において、少なくとも1つ、特に1つのWPRE配列が、上記の配列a~dの下流にあることを特に特徴とする。
【0104】
特定の実施形態では、上記で定義された配列aからc、および存在する場合はdとeは、IDLVにおいて、5’から3’まで、以下の順序のうちの1つで存在する。
- a、c、d、b;
- a、c、d、b、e;
- a、c、d、b、d、c;
- a、c、d、b、d、c、e;
- a, d, c, d, b;
- a、d、c、d、b、e;
- a、c、b、d、c、e;または
- a、c、d、b、c、e。
【0105】
特定の実施形態によれば、本発明によるIDLVは、環状または直線状であり、特に環状である。より詳細には、特定の実施形態によれば、本発明によるIDLVの細胞内形態は、環状または直線状であり、特に環状である。
【0106】
別の実施形態によれば、本発明に係るIDLVは線状である。特に、別の実施形態によれば、本発明に係るIDLVの細胞内形態は、線状である。
特定の実施形態によれば、IDLVは、プロモーターを含んでいない。
【0107】
単離した細胞
上記に示したように、本発明は、さらに、本発明に従って定義される少なくとも1つのIDLVを含む単離細胞に関するものである。
【0108】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は、造血幹細胞(HSC);免疫系の細胞、特にリンパ球;人工多能性幹細胞;胚性幹細胞;衛星細胞;神経幹細胞;間葉系幹細胞;網膜幹細胞;及び上皮幹細胞からなる群から選ばれ、特に造血系幹細胞である。
本発明の特定の実施形態では、単離された細胞は、胚性幹細胞とは異なる。
造血幹細胞は、自己複製が可能な多能性幹細胞であり、寛容な条件下で造血系の全ての細胞型を生じさせる能力を有することが特徴である。造血幹細胞は全能性細胞ではなく、完全な生物に成長する能力はない。
【0109】
特定の実施形態において、本発明による造血幹細胞は、胚性幹細胞、特にヒト胚性幹細胞に由来し、したがって、胚性造血幹細胞である。
【0110】
胚性幹細胞(ESC)は、胚の未分化な内塊細胞から誘導され、自己複製が可能な幹細胞である。この多能性幹細胞は、許容された条件下で、成体における220以上の細胞型のいずれかに分化することが可能である。ESCは全能性細胞ではなく、完全な生物に成長する能力はない。ESCは、例えば、Young Chungら(Cell Stem Cell 2, 2008 February 7;2(2):113-7)に示される方法に従って取得することができる。
【0111】
別の特定の実施形態では、本発明によるHSCは、人工多能性幹細胞、より詳細には、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)である。したがって、特定の実施形態によれば、本明細書に記載のHSCは、造血誘発性多能性幹細胞である。
【0112】
hiPSCは、ESCに類似した多能性幹細胞様の状態を示す、遺伝子的に再プログラムされた成体細胞である。ヒトの体内には存在しないが、ESCと同様の性質を持つ幹細胞を人工的に作り出したものである。このような細胞の生成は、Ying WANGら(https://doi.org/10.1101/050021)、ならびにLapillonne H. ら(Haematologica. 2010; 95(10))、およびJ. DIASら(Stem Cells Dev. 2011; 20(9): 1639-1647)において議論されている。
【0113】
「自己複製」とは、細胞が分裂して、親細胞と同一の(例えば、自己複製する)特性を持つ少なくとも1つの娘細胞を生成する能力のことである。第2の娘細胞は、特定の分化経路にコミットすることができる。例えば、自己複製する造血幹細胞は、分裂して1つの娘幹細胞と、骨髄系またはリンパ系への分化を約束するもう1つの娘細胞とを形成することができる。自己複製は、造血系を補充するための未分化幹細胞の継続的な供給源となる。
【0114】
造血幹細胞を同定するのに有用なマーカー表現型は、当技術分野で一般的に知られているものになる。ヒトHSCsについては、細胞マーカー表現型は、好ましくは、CD34+ CD38low/- Cd49f+ CD59+ CD90+ CD45RA- Thy1+ C-kit+ lin-(Notta F、Science.333(6039):218-21 (2011))。マウス造血幹細胞の場合、細胞マーカー表現型は、例示的に、CD34low/- Sca-1+ C-kit+及びlin- CD150+ CD48- CD90.1.Thy1+/low Flk2/flt3-及びCD117+、(例えば、Frascoliら、(J. Vis. Exp. 2012 Jul 8; (65). Pii:3736.を参照)。
【0115】
免疫系の細胞は、疾患から保護する生物体内の多くの生物学的構造及びプロセスからなる宿主防御系の一部である。本発明によれば、免疫系の細胞は、自然免疫系の細胞及び適応免疫系の細胞を含む。
【0116】
自然免疫系の細胞の例としては、食細胞(マクロファージ、好中球、樹状細胞)、自然リンパ球、マスト細胞、好酸球、好塩基球、ナチュラルキラー細胞などの白血球が挙げられる。
【0117】
適応免疫系の細胞の例としては、リンパ球、特にB細胞、T細胞(キラーT細胞、ヘルパーT細胞など)が挙げられる。
特定の実施形態によれば、本発明による単離された細胞は、リンパ球である。
【0118】
ミオサテライト細胞又は筋肉幹細胞としても知られるサテライト細胞は、成熟した筋肉に見られる非常に小さな細胞質を有する小さな多能性細胞である。サテライト細胞は、骨格筋細胞の前駆体であり、サテライト細胞又は分化した骨格筋細胞を生じさせることができる。サテライト細胞は、親筋線維に追加の筋核を供給したり、静止状態に戻ったりする可能性を持っている。より具体的には、衛星細胞は活性化されると、細胞周期に再び入り、筋芽細胞へと増殖・分化することができる。
【0119】
神経幹細胞(NSC)は、胚発生の過程で、すべての動物の神経系の神経細胞とグリアを生み出す放射状グリア前駆細胞を最初に生み出す自己再生可能な多能性細胞である。一部の神経前駆幹細胞は、成体脊椎動物の脳の非常に限定された領域にとどまり、生涯を通じてニューロンを生成し続ける。
【0120】
間葉系幹細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞、脂肪細胞など様々な種類の細胞に分化できる多能性間質細胞である。骨髄に存在する成体幹細胞であるため、骨髄間質細胞とも呼ばれる。しかし、臍帯血、末梢血、卵管、胎児の肝臓や肺など、他の組織からも単離されることがある。
【0121】
網膜幹細胞は網膜前駆細胞としても知られ、網膜に存在する様々な種類の細胞に分化することができる多能性細胞である。
【0122】
人工多能性幹細胞(iPSC)は、上記のように成体細胞から直接作製できる多能性幹細胞の一種である。iPSCは無限に増殖し、体内のあらゆる種類の細胞(神経細胞、心臓、膵臓、肝臓など)を生み出すことができるため、損傷や病気によって失われた細胞の代替となる単一の細胞源として使用することができる。人工多能性幹細胞を得ることは、当業者の一般的な知識である。
【0123】
上皮幹細胞は、組織の恒常性維持、創傷修復、発がんに中心的な役割を担っている。角膜上皮幹細胞は、辺縁上皮に存在することが証明されており、一方、結膜上皮幹細胞は、結膜の前庭部に多く存在するようである。角膜上皮、結膜上皮、毛包、毛包間表皮の幹細胞は、自己複製が可能であること、比較的静止していること(スローサイクル)、増殖を誘導できること、そして多能性であることが重要な特徴である。角膜と毛包のケラチノサイトの間には、ある程度の柔軟性が存在することが明らかになりつつある。
本明細書に記載されるような単離細胞は、好ましくは精製されたものである。
【0124】
本明細書で使用する場合、「精製された細胞」は、言及された細胞が精製された試料中の細胞の少なくとも50%を構成することを意味する。より好ましくは、少なくとも51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の精製サンプル中の細胞である。
【0125】
細胞の選択および/または精製は、実質的に純粋な細胞集団を得るために、ポジティブおよびネガティブな選択方法の両方を含むことができる。
【0126】
一態様では、フローサイトメトリー技術の一つである蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、異なる細胞集団を選別し、分析することができる。特定の細胞マーカーを有する細胞は、細胞マーカーに結合する抗体、または典型的には抗体の混合物でタグ付けされる。異なるマーカーに向けられた各抗体は、検出可能な分子、特に他の抗体に結合した他の蛍光色素と区別できる蛍光色素と結合している。染色された細胞の流れは、蛍光色素を励起する光源を通過し、細胞からの発光スペクトルは、特定の標識された抗体の存在を検出することができます。異なる蛍光色素を同時に検出することで、異なる細胞マーカーを示す細胞を同定し、集団内の他の細胞から分離することができる。他のFACSパラメータ(例として、限定はしないが、側方散乱(SSC)、前方散乱(FSC)、バイタル色素染色(例えば、ヨウ化プロピジウムによる)により、サイズおよび生存率に基づく細胞の選択が可能である。
【0127】
別の態様では、異なる細胞集団を選別するために、免疫磁気標識法を用いることができる。この方法は、抗体またはレクチンを介して、磁化可能な小粒子を細胞に付着させることに基づくものである。細胞の混合集団を磁場中に置くと、ビーズが付着した細胞は磁石に引き寄せられ、その結果、標識されていない細胞から分離することができる。
【0128】
特定の実施形態によれば、本発明に従って遺伝的に改変され得る造血幹細胞は、βヘモグロビン症表現型、すなわち、健康な対応する細胞と比較して、β様グロビンの発現の減少を呈する。特に、本発明に従って遺伝子改変される造血幹細胞は、β-サラセミアまたは鎌状赤血球症の表現型を提示する。
【0129】
特定の実施形態において、本明細書に記載の単離細胞、特にHSCは、哺乳類細胞、特にヒト細胞である。
特定の実施形態では、単離された細胞の初期集団は、自己由来であってもよい。
【0130】
“自家”とは、同じ患者又は個体に由来すること、又は同じ個体に由来することを指す。自家移植」とは、被験者自身の細胞または臓器を採取して再注入または移植することを指す。自己細胞を独占的または補助的に使用することで、宿主への細胞投与による多くの副作用、特に移植片対宿主反応を排除または軽減することができる。
【0131】
この場合、単離細胞は、当該個体から採取され、本明細書に記載の方法に従ってex vivoまたはin vitroで遺伝子改変され、同じ個体に投与されたものである。
【0132】
別の実施形態では、単離された細胞の初期集団は、同種ドナーから、または複数の同種ドナーから得てもよい。ドナーは、互いに関連してもしなくてもよく、移植の環境では、レシピエント(または個体)と関連してもしなくてもよい。
【0133】
本明細書に記載されるように改変される単離された細胞は、それに応じて、治療を必要とする個体に対して外来性であってもよい。
【0134】
本明細書に記載の単離細胞は、薬学的に許容される担体に再懸濁し、直接使用してもよいし、FACSソーティング、磁気アフィニティー分離、及びイムノアフィニティーカラムなどの当業者が利用できる種々の細胞精製技術による処理に付されてもよい。
【0135】
医薬組成物
本発明はまた、本明細書に記載の少なくとも1つのIDLV及び/又は本明細書に記載の少なくとも1つの単離細胞、並びに薬学的に許容される培地を含む、薬学的組成物に関するものである。
【0136】
本明細書に記載の薬学的に許容される培地は、特に、哺乳動物個体への投与に適している。
【0137】
薬学的に許容される培地」は、医薬組成物を製剤化する当業者に知られている標準的な薬学的に許容される培地のいずれかを含み、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液(PBS)、水性エタノール、またはグルコース、マンニトール、デキストラン、プロピレングリコール、油(例えば。植物油、動物油、合成油など)、微結晶セルロース、カルボキシムエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ゼラチンまたはポリソルベート80などの溶液を挙げることができる。
【0138】
本明細書に記載の医薬組成物は、しばしば、1つ以上の緩衝剤(例えば、中性緩衝生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水);炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン);マンニトール;タンパク質;ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールなど);静菌;EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤;レシピエントの血液と等張、低張または弱高張にする溶質;懸濁剤;増粘剤および/または防腐剤などである。
もちろん、担体の種類は、典型的には、投与様式に応じて変化する。
【0139】
実施形態において、本明細書に記載のIDLV及び/又は単離細胞は、以下の治療に有効な治療用化合物と組み合わせて組成物中で使用することができる。
- 免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群より選択される疾患;および/または
- それを必要とする個体におけるタンパク質の欠乏または異常な非機能的なものの存在によって引き起こされる疾患。
【0140】
実施形態において、本明細書に記載のIDLV及び/又は単離細胞は、本発明のものとは異なるIDLVと組み合わせて、及び/又は本発明によるIDLVを含まない単離細胞と組み合わせて、本明細書に記載の組成物に使用することが可能である。
【0141】
実施形態において、本明細書に記載のIDLV及び/又は単離細胞は、投与されたIDLV及び/又は細胞の治療効果を高める他の薬剤及び化合物と組み合わせて、本発明の組成物中で使用することができる。
【0142】
医薬品として使用するためのIDLVおよび単離細胞
本発明の別の目的は、IDLVまたは単離細胞または医薬組成物を医薬として使用するための、上記で定義されたIDLVまたは単離細胞である。
【0143】
本明細書に記載のIDLV、単離細胞及び医薬組成物は、静脈内、心臓内、髄腔内、筋肉内、関節内又は骨髄内注射等の任意の適切な経路で、治療効果をもたらすのに十分な量で対象に投与される。
【0144】
治療効果を得るために必要なIDLVまたは単離細胞の量は、特定の目的のために従来の手順に従い経験的に決定される。
【0145】
一般に、治療目的でIDLV及び/又は単離細胞を投与するためには、それらは薬理学的に有効な量で投与される。
【0146】
「医薬的に有効な量」又は「医薬的に有効な用量」とは、所望の生理学的効果をもたらすのに十分な量又は所望の結果を得ることができる量を意味し、特に、障害又は疾患の1又は複数の症状又は症状の軽減又は除去を含む障害又は疾患の状態を治療するために必要な量を意味する。
【0147】
例示的に、βサラセミアに罹患している患者にIDLV及び/又は単離細胞を投与すると、投与前の患者におけるβ様グロビンの量、ひいてはヘモグロビンの量と比較して、患者におけるβ様グロビンの量、ひいてはヘモグロビンの量が増加した場合に治療効果を得ることができる。
【0148】
IDLVおよび/または単離細胞は、当技術分野でよく知られた方法によって投与される。一実施形態では、投与は静脈内注入によるものである。別の方法では、投与は、骨髄内注射によるものである。さらなる実施形態では、投与は、眼内注射によるものである。別の実施形態では、投与は、脳内注射によるものである。さらなる実施形態では、投与は、筋肉内注射によるものである。
【0149】
輸血されるIDLV及び/又は分離細胞の数は、性別、年齢、体重、疾患又は障害の種類、障害の段階、細胞集団における所望の細胞の割合(例えば、細胞集団の純度)、及び治療効果をもたらすために必要な細胞数などの要因を考慮したものとなる。
例えば、一般に、注入される細胞数は、体重の1.10から5.10細胞/kg、特に1.10~10.10細胞/kg、好ましくは5.10細胞~約5.10細胞/kgある。
【0150】
本明細書に記載の医薬組成物は、前述したように、本明細書に記載のIDLV及び/又は単離細胞を、それを必要とする個体に投与するために使用することができる。
【0151】
IDLV及び/又は単離細胞の投与は、単回投与又は連続投与によることができる。連続的な投与が含まれる場合、各投与に異なる細胞数及び/又は異なる細胞集団を使用することができる。
【0152】
例示的に、第1の投与は、即時の治療効果だけでなく、より長期の効果を提供する本明細書に記載のIDLV及び/又は単離細胞であり得、第2の投与は、第1の投与の治療効果を延長するために長期の効果を提供する本明細書に記載のIDLV及び/又は単離細胞を含む。
【0153】
本明細書に記載のIDLV、単離細胞又は医薬組成物は、以下の治療において使用することができる。
- 免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍及び血液疾患からなる群から選択される疾患;及び/又は
- それを必要とする個体におけるタンパク質の欠乏または異常な非機能的なものの存在によって引き起こされる疾患。
【0154】
特定の実施形態では、本明細書に記載のIDLV、単離細胞、または医薬組成物は、それを必要とする個体における分泌タンパク質の欠如によって、または異常な非機能性分泌タンパク質の存在によって引き起こされる疾患の治療に使用することができる。
【0155】
そのような疾患は、例えば、凝固障害、リソソーム貯蔵障害、ホルモン欠陥及びα-1アンチトリプシン欠損症からなる群から選択され得る。
【0156】
上記の免疫疾患は、例えば、22q11.2欠失症候群;アデノシンデアミナーゼ2欠損症;アデノシンデアミナーゼ欠損症;抗インターフェロンガンマ自己抗体による成人発症免疫不全;無ガンマグロブリン血症、非ブルトン型;エカルディ・グティエール症候群;エカルディ・グティエール症候群5型;アレルギー性気管支肺アスペルギルス症;円形脱毛症-希少疾患ではない;全頭脱毛症;全身性脱毛症;アミロイドーシスAA;アミロイドーシス家族性内臓;毛細血管拡張性運動失調症;自己免疫性リンパ増殖症候群;CTLA4ハプロ不全による自己免疫性リンパ増殖症候群;自己免疫性多腺性自己免疫症候群1型;常染色体優性高IgE症候群;常染色体劣性の早期発症炎症性腸疾患;常染色体劣性高IgE症候群;裸リンパ球症候群2;バース症候群;ブラウ症候群;ブルーム症候群;閉塞性細気管支炎;C1q欠損症;カンジダ症家族性慢性粘膜皮膚、常染色体劣性;軟骨毛低形成;CHARGE症候群;チェディアック・東症候群;ケルビム症;リポジストロフィーと高温を伴う慢性非定型好中球性皮膚症;慢性移植片対宿主病;慢性肉芽腫症;コーエン症候群;皮膚肉芽腫との複合免疫不全症;一般的な可変免疫不全症;コンポーネント2欠損補完;コンポーネント8欠損補完タイプ1;コンポーネント8欠損補完;先天性肺胞タンパク症;クリオグロブリン血症;皮膚肥満細胞腫;周期性好中球減少症;インターロイキン-1受容体拮抗薬の欠乏;樹状細胞、単球、Bリンパ球、ナチュラルキラーリンパ球の欠損;先天性角化異常症;先天性角化異常症常染色体優性;先天性角化異常症常染色体劣性;先天性角化異常症X連鎖;疣冗長表皮異形成症;家族性アミロイドーシス、フィンランド型;家族性冷自己炎症症候群;家族性地中海熱;家族性混合クリオグロブリン血症;家族性慢性粘膜皮膚カンジダ症;フェルティ症候群;糖原病1B型;グリセリ症候群2型;橋本脳症;橋本症候群;血球貪食性リンパ組織球症;ヘネカム症候群;免疫不全を伴う肝静脈閉塞性疾患;遺伝性葉酸吸収不良;ヘルマンスキープドラク症候群2;単純ヘルペス脳炎;HoyeraalHreidarsson症候群;高IgE症候群;Hyper-IgD症候群;ICF症候群;特発性急性好酸球性肺炎;特発性CD4陽性Tリンパ球減少症;IL12RB1欠損症;胸腺の欠如による免疫障害;カルシウム流入障害によるT細胞の不活性化を伴う免疫機能障害1;カルシウム流入障害によるT細胞の不活性化を伴う免疫機能障害2;高IgMタイプ1による免疫不全;ハイパーIgMタイプ2による免疫不全;ハイパーIgMタイプ3による免疫不全;ハイパーIgMタイプ4による免疫不全;高IgM5型による免疫不全;胸腺腫を伴う免疫不全;無汗性外胚葉異形成を伴わない免疫不全;免疫調節不全、多発性内分泌障害および腸障害X連鎖;免疫グロブリンA欠損症2;複数の腸閉鎖;IRAK-4欠損症;孤立した成長ホルモン欠乏症タイプ3;川崎病;大顆粒リンパ球性白血病;白血球接着不全1型;LRBA欠損症;ループス;リンパ球性下垂体炎;マジード症候群;メルカーソン・ローゼンタール症候群;MHCクラス1欠損症;マックルウェルズ症候群;多発性線維硬化症;多発性硬化症;MYD88欠損症;新生児期発症多臓器炎症性疾患;新生児全身性エリテマトーデス;ネザートン症候群;好中球特異顆粒欠損症;ナイメーヘン破損症候群;オーメン症候群;大理石骨病常染色体劣性7;回文リウマチ;パピヨン・ルフェーブル症候群;部分的アンドロゲン非感受性症候群;PASLI病;ピアソン症候群;小児多発性硬化症;定期的な発熱、アフタ性口内炎、咽頭炎および腺炎;PGM3-CDG;好中球減少症を伴う多形皮膚萎縮症;妊娠性痒疹性蕁麻疹丘疹プラーク;プリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症;化膿性関節炎、神経節膿皮症およびにきび;再発性多発性軟骨炎;細網異形成症;サルコイドーシス;バーバーミラー症候群;シンケ免疫骨異形成症;シュニッツラー症候群;選択性IgA欠損症;選択的IgM欠損症;重症複合免疫不全症;完全なRAG1/2欠損症による重症複合免疫不全症;重症複合免疫不全症と電離放射線に対する感受性;重症複合免疫不全症、非定型;重症先天性好中球減少症常染色体劣性3;重症先天性好中球減少症X連鎖;重症複合免疫不全症を伴う短肢骨格異形成;シュバッハマンダイアモンド症候群;シングルトン-メルテン症候群;SLC35C1-CDG(CDG-Iic);特定の抗体欠損症;脊椎骨異形成症;スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症;T細胞免疫不全、先天性脱毛症および爪ジストロフィー;TARP症候群;毛細血管腸症候群;腫瘍壊死因子受容体関連周期性症候群;双胎間輸血症候群;ビチ症候群;WHIM症候群;ウィスコットアルドリッチ症候群;ウッズブラックノーベリー症候群;X連鎖無ガンマグロブリン血症;マグネシウム欠損、エプスタインバーウイルス感染および新生物を伴うX連鎖免疫不全;X連鎖リンパ増殖性症候群;X連鎖リンパ増殖性症候群1;X連鎖リンパ増殖性症候群2;X連鎖重症複合免疫不全症とZAP-70欠損症からなる群から選択することができる。
【0157】
上記のような血液疾患は、例えば、5q-症候群;Aagenaes症候群;腹部大動脈瘤;無ベータリポタンパク血症;無カタラーゼ症;アセルロプラスミン血症;後天性無顆粒球症;後天性血友病;後天性血友病A;後天性赤芽球癆;後天性フォンウィルブランド症候群;急性赤芽球性白血病;急性移植片対宿主病;急性単芽球性白血病;成熟を伴う急性骨髄芽球性白血病;成熟のない急性骨髄芽球性白血病;異常な骨髄好酸球inv(16)(p13q22)またはt(16;16)(p13;q22);を伴う急性骨髄性白血病。inv3(p21;q26.2)またはt(3;3)(p21;q26.2);を伴う急性骨髄性白血病。急性骨髄単球性白血病;骨髄線維症を伴う急性汎骨髄症;急性前骨髄球性白血病;アデノシンデアミナーゼ2欠損症;副腎皮質がん;成人T細胞白血病/リンパ腫;無フィブリノゲン血症;ALK+組織球増殖症;アルファサラセミアx連鎖知的障害症候群;骨髄異形成関連の機能を備えたAML。アデノシントリホスファターゼ欠損症による貧血;貧血鉄芽球性および脊髄小脳性運動失調;バルサルバ洞の動脈瘤;血管免疫芽球性T細胞リンパ腫;血管腫遺伝性神経皮膚;Angioma serpiginosum;抗リン脂質抗体症候群;先天性皮膚欠損症腸リンパ管拡張症;再生不良性貧血;乳児期の動脈石灰化;動脈捻転症候群;無トランスフェリン血症;非定型溶血性尿毒症症候群;自己免疫性リンパ増殖症候群;常染色体劣性プロテインC欠乏症;バナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群;ベーチェット病;ベータサラセミア;芽球性形質細胞様樹状細胞;P2RY12欠損による出血障害;ブルーム症候群;ブルーラバーブレブネバス症候群;バージャー病;バーキットリンパ腫;カンポメリアカミングタイプ;キャッスルマン病;大脳海綿状奇形;チェディアック・東症候群;染色体17q11.2欠失症候群;慢性骨髄性白血病;乳び腹水;CLOVES症候群;コブ症候群;寒冷凝集素症;先天性無巨核球性血小板減少症;先天性無アルブミン血症;先天性異形成性貧血1型;先天性赤血球形成不全性貧血2型;先天性異形成性貧血3型;先天性赤血球生成性ポルフィリン症;一時的な無呼吸を伴う先天性筋無呼吸症候群;先天性肺リンパ管拡張症;先天性血栓性血小板減少性紫斑病;皮膚肥満細胞腫;皮膚弛緩症、常染色体劣性1型;Cutis marmorata telangiectatica congenita;周期性好中球減少症;周期性血小板減少症;大動脈の嚢胞性内側壊死;DahlbergBorerNewcomer症候群;難聴-リンパ浮腫-白血病症候群;脱水性遺伝性口内炎;脱水性遺伝性口内炎偽性高カリウム血症および周産期浮腫;ダイヤモンド-ブラックファン貧血;ダイヤモンド-ブラックファン貧血2;ダイヤモンド-ブラックファン貧血3;異常フィブリノゲン血症;先天性角化異常症;先天性角化異常症常染色体優性;先天性角化異常症常染色体劣性;先天性角化異常症X連鎖;エーラス・ダンロス症候群、ジスフィブロネクチン血症型;多発性血管炎を伴う好酸球性肉芽腫症;持久性隆起;本態性血小板血症;エヴァンス症候群;節外性鼻NK/T細胞リンパ腫;ファブリー病;ファクターV欠乏症;第V因子ライデン血栓症;第VII因子欠乏症;ファクターX欠乏症;第XI因子欠乏症;第XII因子欠乏症;第XIII因子欠乏症;TSH受容体の突然変異による家族性甲状腺機能亢進症;家族性LCAT欠損症;関連する骨髄性悪性腫瘍を伴う家族性血小板障害;家族性胸部大動脈瘤および解離;ファンコニ貧血;胎児および新生児同種免疫性血小板減少症;線維筋性異形成;濾胞性リンパ腫;本物のびまん性静脈拡張症;巨細胞性動脈炎;巨大血小板症候群;グランツマン血小板無力症;グルココルチコイド-治療可能なアルドステロン症;グルタミン酸フォルミミノトランスフェラーゼ欠損症;糖原病12型;グリコーゲン貯蔵病タイプ7;糖タンパク質VI欠乏症;グッドパスチャー症候群;ゴーハム病;多発血管性肉芽腫症;肉芽腫性たるみ皮膚疾患;灰色血小板症候群;有毛細胞白血病;橋本-プリツカー症候群;ハインツ小体貧血;血管腫血小板減少症症候群;ヘモクロマトーシス-希少疾患ではない;ヘモクロマトーシス2型;ヘモクロマトーシス3型;ヘモクロマトーシス4型;ヘモグロビンC病;ヘモグロビンE病;ヘモグロビンSC病;ヘモグロビンSE病;溶血性貧血致死性先天性非球状細胞性器およびその他の異常;溶血性尿毒症症候群;血友病A;血友病B;出血性ショックおよび脳症症候群;ヘネカム症候群;ヘノッホシェーンライン紫斑病;ヘパリン起因性血小板減少症;遺伝性アンチトロンビン欠乏症;遺伝性楕円赤血球症;遺伝性葉酸吸収不良;遺伝性出血性毛細血管拡張症;遺伝性出血性毛細血管拡張症2型;遺伝性出血性毛細血管拡張症3型;遺伝性出血性毛細血管拡張症4型;遺伝性リンパ浮腫II型;ヘレディからなるグループから選択することができる。
【0158】
ライソゾーム病は、例えば、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ欠損症-遺伝子名:GBA)、ファブリー病(αガラクトシダーゼ欠損症-GLA)、ハンター病(イデュロン酸-2-スルファターゼ欠損症-IDS)、ハーラー病(アルファ-L)、イズロニダーゼ欠損症-IDUA)、およびニーマン-ピック病(スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1欠損症-SMPD1)から選択することができる。
【0159】
特定の実施形態において、タンパク質の欠如または個体における異常な非機能的タンパク質の存在によって引き起こされる疾患は、血友病B、血友病A、アデノシンデアミナーゼ欠損症、ベータサラセミア、シックル細胞貧血、ウィスコットアルドリッチ症候群、X連鎖無ガンマグロブリン血症、慢性肉芽腫性疾患(CGD)、一般的な可変免疫不全症、X連鎖SCID、ADA欠損SCID、毛細血管拡張性運動失調症、オーメン症候群、ファンコニ貧血、WHIM症候群、ファブリー病、ウォルマン病、第V因子欠乏症、第V因子ライデン血栓症、第VII因子欠乏症、第X因子欠乏症、第XI因子欠乏症、第XII因子欠乏症、第XIII因子欠乏症からなる群から選択することができる。
【0160】
別の実施形態では、本明細書に記載のIDLV、単離細胞または医薬組成物は、免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群より選択される疾患の治療に使用することができる。
【0161】
実際、本発明の実施形態によれば、本発明の治療用タンパク質は、バクテリオトキシンのような標的タンパク質、または疾患を直接引き起こすタンパク質(例えば、黄斑変性症のVEGF)の中和、ならびにその持続および複製が宿主を危険にさらす細胞(例えば、癌細胞、ならびに自己免疫疾患の特定の免疫細胞)の高選択的殺傷に使用できる治療抗体となり得る。
【0162】
また、本発明は、以下:
- 免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群から選択される疾患;および/または
- タンパク質の欠乏または異常な非機能的なものの存在によって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療方法に関し、
少なくとも本発明によるIDLVを、それを必要とする個体に投与することを含む。
【0163】
本発明はまた、以下:
- 免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群から選択される疾患;および/または
- タンパク質の欠如または異常な非機能的なものの存在によって引き起こされる疾患のものを予防および/または治療するための方法に関し、
少なくとも本発明による単離細胞を、それを必要とする個体に投与することを含む。
【0164】
また、本発明は、以下:
- 免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群から選択される疾患;および/または
- タンパク質の欠乏または異常な非機能的なものの存在によって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療方法に関し、
少なくとも本発明による医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む。
【0165】
本発明はさらに、下記:
- 免疫疾患、ウイルス感染症、腫瘍および血液疾患からなる群から選択される疾患;および/または
- タンパク質の欠如または異常な非機能的なものの存在によって引き起こされる疾患の予防および/または治療のための医薬の製造のための、本発明のIDLV、本発明の単離細胞、または本発明の医薬組成物の使用に関するものである。
【0166】
本発明によるCAR-T細胞の作製方法
また、本発明によれば、CAR-T細胞の作製方法が提供される。
【0167】
本発明は、実際、さらに、リンパ球T細胞に、上記に定義される少なくとも1つのIDLVを組み込むことを含む、CAR-T細胞の生成方法に関するものであって、
前記IDLVが、少なくとも1つの目的の核酸配列として、癌細胞を標的とするキメラ抗原受容体をコードするトランスジーンを含む。
【0168】
本発明はまた、造血幹細胞に、上記に定義される少なくとも1つのIDLVを組み込むこと、および前記造血幹細胞をリンパ球T細胞に形質転換することを含む、CAR-T細胞の生成方法に関し、
前記IDLVが、少なくとも1つの目的の核酸配列として、癌細胞を標的とするキメラ抗原受容体をコードするトランスジーンを含む。
【0169】
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞とも呼ばれる)は、遺伝子操作によって人工的なT細胞受容体を産生するようになったT細胞である。キメラ抗原受容体(CAR、キメラ免疫受容体、キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体とも呼ばれる)は、T細胞に特定のタンパク質を標的とする新しい能力を持たせるために遺伝子操作された受容体タンパク質である。この受容体は、抗原結合機能とT細胞活性化機能の両方を1つの受容体に結合しているため、キメラ型受容体と呼ばれている。
【0170】
特定の実施形態によれば、本発明による癌細胞を標的とするキメラ抗原受容体は、CD10、CD19、CD20、CD22、CD33、Fms様チロシンキナーゼ3(FLT-3、CD135)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(CSPG4、melanoma-associated chondroitin sulfate proteoglycan)、上皮成長因子受容体(EGFR)、Her2neu、Her3、IGFR、CD133、IL3R、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、CDCP1.FAP、CDCP1.FAP、EGFR、EGFR、EGFR、FAP、IGFR、FAP、FAP、CDCP1.FAP Derlinl、Tenascin、frizzled 1 -10、血管抗原VEGFR2 (KDR/FLK1),VEGFR3(FLT4, CD309),PDGFR-a (CD140a),PDGFR-β(CD140b)Endoglin,CLEC14,Tem1-8およびTie2などの腫瘍関連表面抗原を標的とするものから選択され得る。
さらなる例としては、A33、CAM PATH -1(CDw52)、Carcinoembryonic antigen (CEA)、Carboanhydrase IX (MN/CA IX) 、CD21、CD25、CD30、CD34、CD37、CD44v6、CD45、CD133、de2-7 EGFR、EGFRvlll、EPCAM、葉酸結合タンパク質、G250、Fms-like tyrosine kinase 3 (FLT-3, CD135)、c-Kit (CD1 17), CSF1 R (CD1 15), HLA-DR, IGFR, IL-2 receptor, IL3R, MCSP (Melanoma-associated cell surface chondroitin sulphate proteoglycane), Muc-1, 前立腺特異膜抗原 (PSMA), 前立腺幹細胞抗原 (PSCA), 前立腺特異抗原 (PSA) および TAG-72を挙げることもできる。腫瘍の細胞外マトリックスに発現する抗原の例としては、テナシン、線維芽細胞活性化蛋白(FAP)などがある。
【0171】
本発明はまた、治療用タンパク質、特に免疫グロブリンを発現するB細胞を生成する方法であって、リンパ球B細胞に、上記に定義される少なくとも1つのIDLVを統合することを含み、
前記IDLVが、少なくとも1つの目的の核酸配列として、目的の治療用タンパク質、特に免疫グロブリンまたはその断片をコードするトランスジーンを含む方法に関する。
【0172】
本発明はまた、治療用タンパク質、特に免疫グロブリンを発現するB細胞を生成する方法であって、造血幹細胞に、上記に定義される少なくとも1つのIDLVを組み込むこと、および前記造血幹細胞をリンパ球B細胞へ形質転換することを含み、前記IDLVが、少なくとも1つの目的の核酸配列として、治療用タンパク質、特に目的の免疫グロブリンまたはその断片をコードするトランスジーンを含む方法に関する。
【0173】
本発明は、本明細書の実施例によってさらに例示されるが、これに何ら限定されるものではない。
【0174】
実施例
実施例1:IDLV導入によるGFPノックイン(IDLV GP33)
本発明者らは、プロモーターレスGFPをコードするIDLV(GP33と呼ぶ)を作製し、GFPの5’にIDVLを切断するためのgRNA標的配列(gRNA-T)と、目的のゲノム部位と相同性のある約40bpの短い相同性配列(Micro Homology、MH)を挿入した(図1A)。
【0175】
上述のように、これらの挿入は、IDLV DNAの「反応性」(ヌクレアーゼ切断ゲノムDNAによって生じる他のDNA末端との相互作用能力)を高め、相同性配列によってその指向性KIを有利にすることを目的としている(Nakade et al.Nat Commun. 2014 Nov 20;5:5560; Hisano et al. Sci Rep. 2015 Mar 5;5:8841; Sugawara and Nikaido Antimicrob Agents Chemother. 2014 Dec;58(12):7250-7)に記載されている。ゲノムターゲットとして、本発明者らは、GFPをα-グロビンプロモーターの転写制御下に組み込むために、α-グロビン遺伝子座の5’UTRを選択した。IDLV-GFPはプロモーターレスであるため、IDLVが意図した遺伝子座に正しい向きで組み込まれた場合にのみ発現した(図1B)。
【0176】
K562(ATCC(登録商標)CCL¬243)細胞は、k562培地で維持した。RPMI1640培地、Gibco;2mMグルタミンおよび10%ウシ胎児血清(Lonza);10mM HEPES,1mMピルビン酸ナトリウム、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(LifeTechnologies)。
spCas9とブラストサイジン耐性カセットを発現するレンチウイルスベクター(Addgene #52962)で形質転換したK562細胞をサブクローン化して、K562-Cas9の安定クローンを作製した。
【0177】
6x10個のK562-Cas9細胞にIDLV GP33を8μMポリブレン存在下、50の感染倍率(MOI)で形質導入した。このトラップは、α-グロビン遺伝子の1つに組み込むと発現するように設計されていた。
本発明者らは、SpCas9を安定に発現するK562細胞(K562-Cas9細胞)に、記載のIDLVをトランスフェクトし、次にIDLVとゲノムDNAの両方を標的とするgRNAをコードするプラスミド(HBA 15.)対照として、本発明者らは、IDLVではなく、α-グロビン遺伝子座の5’UTRのみを切断するgRNA(HBA 15.1と同様の効率で、同じ部位で)を導入した細胞をトランスフェクトした(HBA 16.1)。
【0178】
導入後24時間、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、NucleofectorAmaxa 4D with SF Cell Line 4D-Nucleofector Kit(Lonza)を用いて200 ngのHBA 15.1 またはHBA 16.1 gRNA含有ベクター(Addgene #53188)で2x10細胞をトランスフェクションさせた。
【0179】
ヌクレオフェクションから5日後、QuickExtractTM DNA Extraction Solutionを使用してDNAを抽出した。5 μl のゲノム DNA を用いて、KAPA2G Fast ReadyMix (Kapa Biosystem) を用いて各 gRNA の切断部位にまたがる領域の増幅を行った。サンガーシークエンス後、TIDE webtool(tide.deskgen.com)により、挿入と欠失の割合(InDel)を算出した。
【0180】
2週間後、本発明者らはFACSによりGFP発現を評価したところ、IDLV DNAの切断により陽性細胞の割合が約5倍に増加し、ゲノムDNAのGFP KIがより効率的に行われたことを確認した(図1C)。
InDelの%は、Cas9によって切断されたゲノムアレルの割合と相関がある。
【0181】
実施例2:IDLV KIの効率と精度
IDLV KIの効率と精度を確認するために、本発明者らは、K562-Cas9単細胞クローンから抽出したゲノムDNAについてPCR分析を行った(図2A)。
図1に記載したように処理したHBA 15.1 IDLV細胞の連続希釈により、163個の単一細胞クローンを得た。
【0182】
MagNA Pure 96 DNA and Viral NA Small Volume” Kitを用いて2週間後にゲノムDNAを抽出し、Thermo Fisher Scientificas社製NanoDrop 8000 Spectrophotometerを用いて定量した。
PCR 1については、TaqMan qPCRを用いてクローン内の統合GFPカセットの有無のスクリーニングを行った。ヒトアルブミン遺伝子のqPCRは、DNA+コントロール(Probe GFP, FAM: 5’CAACGAGAAGCGCATCACATGTC3’(配列番号69), Forward GFP: 5’AGTCCGCCCTGAGCAAAGA3’((配列番号70),Reverse GFP:5’GCGGTCACGAACTCCAGC3’(配列番号71)として使用された。;プローブALB(VIC):5’CCTGTCATGCCCACAAATCTCC3’(配列番号72)、フォワードALB:5’GCTGTCATCTTGGCTGT3’(配列番号73)、リバースALB:5’ACTCATGGAGCTGCTGTTC3’(配列番号74))であった。
【0183】
適切な5’ゲノムDNA-IDLV接合を確認するために、本発明者らは、ゲノム特異的プライマー(TATCGCCAGGGAAAGGGA(配列番号75))とトラップ特異的プライマー(GAACTTCAGGGTCAGCTTGC(配列番号76))を用いて定性的PCR(PCR 2)(KAPA2G Fast ReadyMix;Kapa Biosystem)を行って823bpのアンプリコンを生成させた。
PCR 2産物をサンガーシークエンスし、ゲノム配列と比較して、いかなるミスマッチの存在も評価した。
【0184】
組み込まれたたドナーDNAの84%がGFPを発現し(62クローン中52クローン)、そのうちの85%がカットIDLVとして挿入されていた(52クローン中44クローン)。MH配列の存在により、カットIDLVの100%は野生型ゲノム配列と比較してヌクレオチドの変化がなく、シームレスに統合された。図2Bは、クローンの分子解析結果をまとめた表である。
【0185】
実施例3:IDLV導入とヌクレアーゼ切断の最適なタイミング
次に、本発明者らは、最も効率的にIDLV KIを行うことができるIDLV導入とヌクレアーゼ切断の最適なタイミングを見出すために、追加の実験を行った。
【0186】
このために、本発明者らは、野生型K562をGP33 IDLVで形質導入し(実施例1と同様)、異なる時点で、in vitroで予め組み立てたCas9/gRNA複合体(RNP)で細胞をトランスフェクションした。示された時点のそれぞれで、トランスフェクトされた細胞の2×10を洗浄し、NucleofectorAmaxa 4D(Lonza)を用いてSF Cell Line 4D-Nucleofector Kitの18μlおよび記載のHBA 15.1 またはHBA 16.1 RNPの2,75μlでヌクレオフェクションを行った。gRNA(HBA15.1またはHBA16.1)を有するCas9の組み立ては、以下を混合することによって行われた。
【0187】
30μMの細菌精製Cas9タンパク質と45μMのSynthegoの合成gRNAガイドから(それぞれ比率1:1,5)適切な量のBuffer 10Xを用いて、室温で10分間行った。
【0188】
2週間後、本発明者らはFACSによりGFP発現を評価し、IDLVとRNPの送達の間に24-32時間の遅延が最良のGFP発現を保証し、切断されたIDLVは切断されていないIDLVよりも約10倍優れた性能を示すことを観察した(図3)。KIの効率が高いことは、RNP技術の切断性能の高さによって説明できる。実際、RNPのインデルの頻度は、gRNAプラスミドを用いて得られた効率よりはるかに高い(図1)。
【0189】
実施例4:IDLV導入によるBDD FVIIIノックイン
現在の造血幹細胞のゲノム編集技術の問題の一つは、組み込むことのできるDNAの大きさである。そこで、本発明者らは、治療上重要な大きな導入遺伝子をIDLVに挿入することで、そのアプローチに挑戦することにした。そこで、彼らはGFP(~700 ntd)をBDD FVIIIコード配列:coF8(~4400ntd;参考文献)と交換した(図4A)。
【0190】
実施例1と同様に、本発明者らは、K562-Cas9にIDLV FVIIIを形質導入し、その後、IDLVとゲノムDNAの両方を標的とするgRNAをコードするプラスミドでトランスフェクトした(HBA 15.1) 。から抽出したゲノムDNAに対してPCR解析を行い、IDLV KIの効率と精度を測定した。
K562-Cas9単細胞クローン(図4B)。
【0191】
PCR1について、統合型coFVIIIカセットの存在に関するPCRスクリーニングは、KAPA2G Fast ReadyMix(Kapa Biosystem)(Forward.を使用した。GAGCTGTCCTGGGACTACAT(配列番号77)、Reverse.GTGATCACCACGGTGTCGTA(配列番号78),amplicon 230bp)を用いて行った。
【0192】
適切な5’ゲノムDNA-IDLV接合を確認するために、本発明者らは、ゲノム特異的(TATCGCCAGGGAAAGGGA(配列番号79))とcoFVIII7R(GGGTTTTCTTGTACCACGC(配列番号80))プライマー、845bpのアンプリコン、を使用して定性的PCR(PCR 2)(KAPA2G Fast ReadyMix; Kapa Biosystem)実施した。
【0193】
統合されたドナーDNAの82%はカットIDLVとして挿入された(11クローン中9クローン)。MH配列の存在により、カットIDLVの100%が、野生型ゲノム配列と比較してヌクレオチドが変化することなく、シームレスに統合された。図4Cは、クローンの分子解析結果をまとめた表である。
【0194】
2週間後、本発明者らは、バルク集団および細胞上清中の5つのクローンについて、ELISAによりFVIII発現を分析した(Aserachrom VIII:AG(Stago)ELISAキット)。IDLV FVIIIはプロモーターレスであるため、発現は以下の場合にのみ得られた:i)IDLVが意図した遺伝子座に、正しい方向で、機能的に組み込まれた;ii)K562細胞が、それが完全に機能するFVIIIを生産し分泌することが可能であった。FVIII産生は、2×10個の細胞によって24hで産生されたFVIIIの量として表された(図4D)。
【0195】
全体として、このデータは、本発明によるIDLVが効率的にFVIIIを送達し、内因性プロモーターの制御下でそれを統合できることを示す。産生されたFVIIIは、細胞によって効率的に分泌され、それはその酵素活性を維持する。
【0196】
実施例5:IDLV導入によるGFPノックイン(IDLV GP35)
本発明者らは、さらに、gRNA-Tを別の位置に配置したIDLV(GP35)を設計し、より柔軟な設計を可能にした。そのために、5’から3’の順に、i) gRNA-T; ii) プロモーターレスGFP; iii) PGK駆動のピュロマイシン導入遺伝子を含む発現カセットを挿入した。このカセットはベクターLTRに対してアンチセンス方向に挿入された。コントロールとして、本発明者らはgRNA-T配列とGFPの上流のMH5’配列を欠いた同様のIDLVを設計した(図5A)。
K562-Cas9細胞にこれらのIDLVを形質導入し、24時間後にHBA 15.1gRNAコードプラスミドを形質導入した。
【0197】
GFP発現解析の結果、もう一度gRNA-Tの存在により、IDLVのKIがコントロールのIDLVと比較してほぼ8倍に増加した(図5B)。
InDelの%は、Cas9によって切断されたゲノムアレルの割合と相関している
【0198】
実施例 6.
最後に、本発明者らは、本発明によるアプローチが、CD34+ヒトHSPCのような臨床的に関連する細胞の改変にも使用できることを確認した。
【0199】
本発明者らは、HSCを48時間培養し、GFP IDLV(GP33)でトランスフェクトし、24時間後に、RNP(HBA 15.1)でトランスフェクションした。
コントロールとして、本発明者らは、ゲノムDNAのみを切断し、IDLVを切断しないHBA16.1を用いた。次に、α-グロビンの発現を誘導するために、細胞を赤血球系譜に向かって分化させた。
【0200】
そのために、動員した末梢血HSPC(AllCells)を解凍し、前刺激培地で48時間培養した(StemSpan、Stem Cell technologies;rhSCF 300 ng/ml,Flt3-L 300 ng/ml,rhTPO 100 ng/ml,IL-3 20 ng/mL, CellGenix)。HSPCは、レトロネクチンコーティングプレート(5μg/well)上で、硫酸プロタミン(4μg/ml)の存在下、プレ刺激培地でIDLV GP33を形質導入された。
【0201】
導入から24時間後、細胞を洗浄し、RNPでエレクトロポレーションした(Cas9:gRNA HBA15.1;実施例3のように)。P3 Primary Cell 4D-Nucleofectorキット(Lonza)を用いて、1条件あたり2×105個の細胞をRNP複合体でヌクレオフェクションした。
【0202】
HSPCを赤血球分化培地(StemSpan, Stem Cell Technologies; rhSCF 20 ng/ml, Epo 1 u/mL, IL3 5 ng/ml, Dexamethasone 2 μM and Betaestradiol 1 μM)中で14日間培養した。GFPの発現は、フローサイトメトリーにより分化に伴ってモニターされた。
【0203】
両gRNAの切断効率(InDel効率)はほぼ同じであったが、FACS解析の結果、ヌクレアーゼ標的IDLVは標準IDLVに比べて約10倍のGFP陽性細胞を与えることがわかった(図6A)。
【0204】
本発明者らは、HSPCをメチルセルロース中にプレーティングして単細胞コロニーを得、HSPCの多能性をin vitroでモニターした。ヌクレオフェクション後、条件ごとに10個の細胞を3mlのメチルセルロース培地(H3434、StemCell Technologies)と混合し、コロニー形成単位(CFC)アッセイを行った。
【0205】
14日後、コロニーを数え、その外観に従ってスコア化した。コロニーは、顆粒球/赤血球/単球/巨核球形成単位(CFU-GEMM)、顆粒球/マクロファージ形成単位(CFU-GM)または赤血球バースト形成単位(BFU-E)としてスコア化された。
【0206】
重要なことは、未処理のコントロールと比較して、KIの手順では、前駆細胞に毒性も系統の偏りも与えなかったことである(図6B)。
【0207】
倒立蛍光顕微鏡下で、単一のGFP陽性コロニーを摘出した。DNAは、プロテイナーゼK(Thermo Fisher Scientific)で溶解後、標準的な条件で抽出した。ゲノムDNAの分子解析は、実施例2と同様に行った。
【0208】
このことから、GFPの発現は、赤血球特異的なα-グロビンプロモーターによって駆動されていることが明らかとなった。IDLV KIの精度をさらに確認するため、彼らはGFP+単一コロニーから抽出したゲノムDNAについてPCR分析を行い、オンターゲットのドナーDNAの組み込みを確認した。
【0209】
挿入されたIDLVは100%切断され、MH配列の存在により、切断されたIDLVの90%は野生型ゲノム配列と比較してヌクレオチドの変化がなく、シームレスに統合された(図6C)。
【0210】
実施例7:
本発明者らは、hPGK、GFPをコードする本発明によるIDLV(GP57と呼ぶ)を作製し、IDVLを切断するためにhPGKの5’にgRNA標的配列(gRNA-T)、および目的のゲノム部位と相同な約40bpの短い塩基配列(マイクロ相同、micro homology、MH)を挿入した。同様に、MHまたはMHとgRNA-Tをそれぞれ欠いた2つの他のIDLV(本発明によるGP58および対照のMA277)を作製した(図7A)。
【0211】
このために、本発明者らは、野生型K562細胞を(実施例1と同様に)示されたIDLVのそれぞれで形質転換し、24時間後に、形質転換された細胞の2×10を、NucleofectorAmaxa 4D(Lonza)を用いたSF Cell Line 4D-Nucleofectorキット18μlおよび記載のHBA 15.1 RNP 2,75μlを用いてin vitro組み立て済Cas9/gRNA複合体(RNP)でトランスフェクションすることができた。gRNA(HBA15.1)とCas9の組み立ては、30μMの細菌精製2-NLS Cas9タンパク質と45μMのSynthegoの合成gRNAガイドから(それぞれ比率1:1,5)、適切量のBuffer 10Xを用いて室温で10分間混合することによって行った。
【0212】
2週間後、本発明者らは、FACSによりGFP発現を評価し、IDLV DNAの切断により陽性細胞の割合が約4倍に増加したことを観察し、本発明によるIDLV構築物の両方(相同性アーム配列ありおよびなし)について、対照IDLVと比較してゲノムDNA中のGFP KIが効率的であることを示していることを確認した。VCN(Vector Copy Numbers)は、GFP+細胞の割合と相関している。InDelの%は、Cas9によって切断されたゲノムアレルの割合と相関する。(図7B)。
【0213】
これらの結果は、IDLVの切断がゲノムの標的統合を増加させることを明確に示している。
【0214】
実施例8.
IDLV KIの効率と精度を確認するために、本発明者らは、実施例7の最後に得られたK562単細胞クローンから抽出したゲノムDNAについてPCR分析を行った(図8A)。
【0215】
GFP+細胞(FACSソート済み)AAVS1 IDLV細胞を図7に記載のように処理したものを連続希釈して365個の単一細胞クローンを得た。
【0216】
PCR1産物は、任意のミスマッチの存在を決定するためにサンガー配列決定した。
【0217】
MagNA Pure 96 DNA and Viral NA Small Volume” Kit(Product No. 06543588001- by Roche)-を用いて2週間後にゲノムDNAを抽出し、Thermo Fisher Scientificas社のNanoDrop 8000 Spectrophotometerを用いて定量を行った。
【0218】
オンターゲット統合のスクリーニングは、KAPA2G Fast ReadyMix;Kapa Biosystemを用いた図8Aに示すPCR in-sense integrationおよびPCR anti-sense integrationで行った(SENSEプライマー。Forward:5’CAGCTCAGGTTCTGGGAGAG3’(配列番号81)、Reverse:5’GCGAACGGACGTGAAGAATG3’(配列番号82);ANTISENSEプライマー。フォワード:5’GCGAACGGACGTGAAGAATG3’(配列番号82),リバース:5’CTTGTGCCTGCATCA3’(配列番号83)。
【0219】
オンターゲットインテグレーション用クローンの分子解析をまとめた結果を図8Bに示す。
【0220】
これらの結果は、IDLV中のgRNA切断部位の隣にゲノム標的部位と相同な短い配列が存在することで、相同配列のないIDLVと比較して、IDLVのゲノムへの統合を意図した向きで、かつシームレスに行えることを明確に示している。
【0221】
次に、本発明者らは、実施例7の最後に得られたK562単細胞クローンから抽出した前記DNAにおけるオフターゲットインテグレーションをPCR解析により検討した(図8C)。
【0222】
1つの主要なオフターゲットインテグレーションをスクリーニングするために、K562単一細胞クローンから抽出したゲノムDNAに対して行ったPCR分析は、KAPA2G Fast ReadyMix; Kapa Biosystemを用いたPCR senseとPCR antisense(SENSE primers:Forward:5’GGTGGAAGGGAACAGGAAGG3’(配列番号84)、Reverse:5’GCGAACGGACGTGAAGAATG3’(配列番号82)およびANTISENSEプライマー。Forward:5’GCGAACGGACGTGAAGAATG3’(配列番号82)、Reverse:5’GATGTGCTGTCACCTAGGG3’(配列番号85))。
【0223】
オフターゲット統合のためのクローンの分子解析をまとめた結果を図8Dに示す。
【0224】
これらの結果は、図8Bの結果と合わせて、IDLVのgRNA切断部位の隣にゲノム標的部位と相同な短い配列が存在することで、相同配列のないIDLVと比較して、1.5倍高いオンターゲット対オフターゲットの優先度でIDLVのゲノムへの統合を媒介できることが明確に示された。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
【配列表】
2022541608000001.app
【国際調査報告】