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特表2022-541636洗浄剤を含まない脱細胞化細胞外マトリックスの調製方法および3Dプリンティング用バイオインク
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  • 特表-洗浄剤を含まない脱細胞化細胞外マトリックスの調製方法および3Dプリンティング用バイオインク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】洗浄剤を含まない脱細胞化細胞外マトリックスの調製方法および3Dプリンティング用バイオインク
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220915BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220915BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220915BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N5/071
C12N1/00 N
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504564
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 IB2020056856
(87)【国際公開番号】W WO2021014359
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】19461559.7
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19218191.5
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522029888
【氏名又は名称】ポルビオニツァ エスペー・ゾオ
【氏名又は名称原語表記】POLBIONICA SP. Z O.O.
【住所又は居所原語表記】ul. Rydygiera 8 Warszawa Republic of Poland
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】フショラ ミハル
(72)【発明者】
【氏名】クラク マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ベルマン アンドジェイ
(72)【発明者】
【氏名】コソフスカ カタジナ
(72)【発明者】
【氏名】ブリニアルスキ トマシュ
(72)【発明者】
【氏名】ドブジャンスキ トマシュ
(72)【発明者】
【氏名】ティミツキ グジェゴルシュ
(72)【発明者】
【氏名】ゴムルカ マグダレナ
(72)【発明者】
【氏名】コヴァルスカ パトリツィア
(72)【発明者】
【氏名】ツィヴォニウク ピオトル
(72)【発明者】
【氏名】トロフスキ パヴェウ
(72)【発明者】
【氏名】ザモラ イゴール
(72)【発明者】
【氏名】オレンダー エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】オルコフスキ ラドスワフ
(72)【発明者】
【氏名】カミンスキ アルトゥル
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B065AA90X
4B065BD01
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、洗浄剤を含まない脱細胞化ECMの調製方法、粉末形態および液体形態の洗浄剤を含まない脱細胞化ECM、1次バイオインクの調製方法、1次バイオインク、血管バイオインクの調製方法、血管バイオインク、1次バイオインクおよび/または血管バイオインクを含む3次元構造、ならびに3次元構造の調製方法に関する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄剤を含まない脱細胞化細胞外マトリックス(dECM)の調製方法であって、以下のステップ:
- 動物の身体から分離された、膵臓、肝臓、腎臓、心臓、皮膚、肺、大腸、小腸、血動脈および静脈、脂肪組織、ならびに胎盤から選択される動物由来の臓器を、好ましくは機械による押出によって、機械により断片化するステップ、
- 好ましくは、1×PBSを含む緩衝化洗浄剤溶液中で断片化臓器をインキュベートするステップであって、緩衝化洗浄剤溶液が、0.5%~1.5%、好ましくは1%(v/v)のオクトキシノール-9を含み、洗浄剤溶液に、抗菌剤、好ましくはストレプトマイシンを、好ましくは0.01%(w/v)の濃度で添加し、インキュベーションを、室温未満の温度、好ましくは4℃で、少なくとも72時間、かき混ぜながら実施し、断片化臓器を、4~12時間毎に新しい洗浄剤溶液に移す、ステップ、
- 好ましくは1×PBSを含む第1の緩衝化洗浄溶液中で、室温未満の温度、好ましくは4℃で、少なくとも72時間、かき混ぜながら断片化臓器をインキュベートするステップであって、第1の緩衝化洗浄溶液が、抗菌剤、好ましくはストレプトマイシンを、好ましくは0.01%(w/v)の濃度で含み、断片化臓器を、4~12時間毎に新しい洗浄溶液に移す、ステップ、
- DNAseを、好ましくは0.0001~0.0003%(w/v)、最も好ましくは0.0002%(w/v)の濃度で含むデオキシリボヌクレアーゼ溶液中で、DNAse性能に適した温度で、好ましくは少なくとも8時間、断片化臓器をインキュベートするステップ、
- 好ましくは1×PBSを含む第2の緩衝化洗浄溶液中で、室温未満の温度、好ましくは4℃で、少なくとも72時間、かき混ぜながら断片化臓器をインキュベートするステップであって、第2の緩衝化洗浄溶液が、抗菌剤、好ましくはストレプトマイシンを、好ましくは0.01%(w/v)の濃度で含み、断片化臓器を、4~12時間毎に新しい洗浄溶液に移す、ステップ、
- 断片化臓器を凍結し、凍結した断片化臓器を断片に粉砕するステップ、
- 好ましくは-32℃、好ましくは0.31mbar(31Pa)の圧力下で、凍結した断片化臓器を凍結乾燥するステップ、
- 任意選択で、0.0010mbar(0.1Pa)および-76℃で5~15分間、最終乾燥するステップ、
- 粉砕し乾燥させた生成物を25~500μmのdECM粉末に摩砕するステップ、
- 任意選択で、好ましくは放射線および/またはエチレンオキシドによって生成物を滅菌するステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
摩砕するステップの後に、dECM粉末中のオクトキシノール-9の量を確認するステップが続き、好ましくは、dECM粉末を、オクトキシノール-9の存在について確認する前に、好ましくは、43,953PZ/g dECMの濃度のコラゲナーゼで処理する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
摩砕するステップの後に、以下のステップ:
- dECM粉末を、0~10mg/mlのペプシンが添加された、好ましくは0.01Mの塩酸溶液に溶解するステップ、
- 室温で48~72時間、好ましくは72時間、混合するステップ、
- 好ましくは、0.1Mナトリウム塩基およびPBS溶液を使用して、氷上で中和するステップ、
が続く、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法によって得ることができる、粉末形態の、洗浄剤を含まない脱細胞化ECM。
【請求項5】
請求項3に記載の方法によって得ることができる、溶液の形態の、洗浄剤を含まない脱細胞化ECM。
【請求項6】
1次バイオインクの調製方法であって、以下のステップ:
- 混合することによって、5~50%(w/v)、好ましくは15~25%(w/v)の、請求項4に記載のdECM粉末、および1~10%(w/v)、好ましくは8~10%(w/v)の、請求項5に記載のdECM溶液を含むペーストを調製するステップ、
- 7~10℃の温度で少なくとも24時間、ペーストをインキュベートするステップ、
- 1.46~7.32%(w/v)のメタクリル化ゼラチン、0.15~1.10%(w/v)のメタクリル化ヒアルロン酸および5~10%(w/v)のグリセロールおよび光開始剤、好ましくは0.03~0.17%(w/v)のリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネートを添加し、続いて穏やかに混合するステップ、
を含む、方法。
【請求項7】
dECMペーストおよび1.46~7.32%(w/v)のメタクリル化ゼラチン、0.15~1.10%(w/v)のメタクリル化ヒアルロン酸および5~10%(w/v)のグリセロールおよび光開始剤、好ましくは0.03~0.17%(w/v)のリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネートを含む1次バイオインクであって、dECMペーストが、5~50%(w/v)、好ましくは15~25%(w/v)の、請求項4に記載のdECM粉末および1~10%(w/v)、好ましくは8~10%(w/v)の、請求項5に記載のdECM溶液を含み、1次バイオインクの粘度が、21/秒の一定せん断速度および37℃の温度で、コーンプレートシステムで測定して、少なくとも5Pa・秒である、1次バイオインク。
【請求項8】
1次バイオインクの0.001~0.100mg/mL、好ましくは0.007mg/mLの濃度のヒアルロン酸、1次バイオインクの0.005~0.100mg/mL、好ましくは0.084mg/mLの濃度のラミニン、1次バイオインクの0.001~0.100mg/mL、好ましくは0.041mg/mLの濃度のコラーゲンI、1次バイオインクの0.005~0.175mg/mL、好ましくは0.122mg/mLの濃度のコラーゲンIV、3~300μg/mL、好ましくは100μg/mLの濃度のフィブロネクチン、1次バイオインクの10~100mg/mLの濃度のヒトフィブリノーゲン、1次バイオインクの1~2EPU/mLの濃度のアプロチニン、1次バイオインクの0.05~2mg/mLの濃度のポリソルベート、1次バイオインクの5~55mg/mLの濃度のヒトトロンビン、1次バイオインクの20~60mM/mLの濃度の塩化カルシウム;血管新生促進ビタミンとして、1nM~500μM、好ましくは100μMの濃度のビタミンA、50~100μM、好ましくは100μMの濃度のビタミンB1、1~10μM、好ましくは10μMの濃度のビタミンB3、1次バイオインクの10~100mg/mLの濃度のビタミンB12、0.1~10nM、好ましくは10nMの濃度のビタミンD3、血管新生を支持する増殖因子として、1次バイオインクの10~30ng/mL、好ましくは30ng/mLの濃度のVEGF、1次バイオインクの10~20ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のFGF、1次バイオインクの1~10ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のTGF-β、1次バイオインクの0~100ng/mL、好ましくは10ng/mLの濃度のインターロイキン(IL)-8、1次バイオインクの20~50ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のIL-17Aから選択される少なくとも1種の添加剤を含む、請求項7に記載の1次バイオインク。
【請求項9】
1次バイオインクの0.1~10×10/mLの密度の内皮細胞、1次バイオインクの0.1~10×10/mLの濃度の1次微小血管内皮細胞、バイオインクの3~9×10/mLの濃度の動物またはヒト由来のα細胞、バイオインクの1.1~3.4×10/mLの濃度の動物またはヒト由来のβ細胞、好ましくは1次バイオインクの20,000iEq/mLの量の動物またはヒト由来の膵島から選択される1種または複数の動物またはヒト由来の添加剤を含む、請求項7または8に記載の1次バイオインク。
【請求項10】
血管バイオインクの調製方法であって、以下のステップ:
a)任意選択で、微生物学用ゼラチンを、50~65℃の間の温度、好ましくは60℃で、かき混ぜながら緩衝溶液に懸濁することによって、緩衝溶液、好ましくはPBS中の微生物学用ゼラチンの1~2%(w/v)溶液の調製物を含むCMCが添加された微生物学用ゼラチンの溶液を調製し、2~5%(v/v)のカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を添加して、血管バイオインク中0.2~1%(v/v)のCMCの最終濃度を得、溶液を40℃以下の温度に冷却するステップ、
b)好ましくは放射線によって滅菌した、請求項1または2に従って得ることができるdECM粉末を、(i)ステップa)で得られたCMCが添加された微生物学用ゼラチンの溶液、または(ii)緩衝溶液、または(iii)細胞培地の溶液に、穏やかにかき混ぜながら添加することによって、5~10%(w/v)dECM溶液を調製するステップ
c)37℃を超えない温度で0.5~2.0時間、得られた溶液を超音波処理するステップ、
d)任意選択で、3~300μg/mL、好ましくは100μg/mLの濃度のフィブロネクチン、10~30ng/mL、好ましくは30ng/mLの濃度のVEGF、10~20ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のFGF、100~300nMの間、好ましくは100nMの濃度のPGE2、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の内皮細胞、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の線維芽細胞から選択される少なくとも1種の動物またはヒト由来の添加剤を添加するステップ、
を含む、方法。
【請求項11】
血管バイオインクの調製方法であって、以下のステップ:
a)任意選択で、微生物学用ゼラチンを、50~65℃の間の温度、好ましくは60℃でかき混ぜながら緩衝溶液に懸濁することによって、緩衝溶液、好ましくはPBS中の微生物学用ゼラチンの1~2%(w/v)溶液の調製物を含むCMCが添加された微生物学用ゼラチンの溶液を調製し、2~5%(v/v)のカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を添加して、血管バイオインク中0.2~1%(v/v)のCMCの最終濃度を得、溶液を40℃以下の温度に冷却するステップ、
b)好ましくは放射線によって滅菌した、請求項1または2に従って得ることができるdECM粉末を、(i)ステップa)で得られたCMCが添加された微生物学用ゼラチン、または(ii)緩衝溶液、または(iii)細胞培地の溶液に、穏やかにかき混ぜながら添加することによって、5~10%(w/v)dECM溶液を調製するステップ、
c)混合物を100℃で15~30分間煮沸するステップ、
d)任意選択で、3~300μg/mL、好ましくは100μg/mLの濃度のフィブロネクチン、10~30ng/mL、好ましくは30ng/mLの濃度のVEGF、10~20ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のFGF、100~300nMの間、好ましくは100nMの濃度のPGE2、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の内皮細胞、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の線維芽細胞から選択される少なくとも1種の動物またはヒト由来の添加剤を添加するステップ、
を含む、方法。
【請求項12】
好ましくは、1~5%(w/v)の濃度の微生物学用ゼラチンおよび/または0.2~2%(v/v)の濃度のCMCが添加された、2~10%(w/v)の濃度の請求項5に記載の超音波処理または煮沸したdECM溶液を含む、血管バイオインク。
【請求項13】
3~300μg/mL、好ましくは100μg/mLの濃度のフィブロネクチン、10~30ng/mL、好ましくは30ng/mLの濃度のVEGF、10~20ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のFGF、100~300nMの間、好ましくは100nMの濃度のPGE2、血管バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の内皮細胞、血管バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の線維芽細胞から選択される少なくとも1種の動物またはヒト由来の添加剤を含む、請求項12に記載の血管バイオインク。
【請求項14】
少なくとも3つの隣接するバイオインク層を含む3次元構造であって、請求項12または13に記載の血管バイオインクの層が、請求項7から9の一項に記載の1次バイオインクの2つの層間に配置される、3次元構造。
【請求項15】
3次元構造の調製方法であって、請求項7から9に記載の1次バイオインクおよび請求項12または13に記載の血管バイオインクを、5~50mm/秒のプリンティング速度、4~300kPaの圧力および4~37℃の温度で、3Dバイオプリンティングプロセスにおいて層毎に堆積し、堆積の間または後に、1次バイオインクを、好ましくは365~405nm、より好ましくは405nmの波長のUV光および/または可視光に、少なくとも5秒間曝露する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤を含まない脱細胞化ECMの調製方法、粉末形態および液体形態の洗浄剤を含まない脱細胞化ECM、1次バイオインクの調製方法、1次バイオインク、血管バイオインクの調製方法、血管バイオインク、1次バイオインクおよび/または血管バイオインクを含む3次元構造、ならびに3次元構造の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオプリンティングにより、3次元(3D)組織構築物の展開のための他の構成成分と一緒に生細胞の自動化堆積が可能になる。バイオインク配合物は、コラーゲン、ゼラチン、アルギネート、ヒアルロン酸、フィブリンおよびポリエチレングリコールなどの合成および天然ポリマーを含む異なる供給源から作られる。一般に、バイオプリンティングに使用されるマトリックス材料は、細胞の微小環境を構成し、遊走、分化および他の機能を含む細胞プロセスを調節し得る天然細胞外マトリックス(ECM)の複雑さを示すことができないことが、公知である。したがって、バイオインク中のECMの存在は、細胞間連結による微小環境の再現に有益であると考えられる。
【0003】
国際特許出願WO2017014582は、0.05~60×10/mLの細胞、0.1~10w/v%の細胞担体材料、0.01~1w/v%の粘度増加剤、1~30v/v%の滑沢剤および0.1~10w/v%の構造材料を含むバイオインク組成物を明らかにしている。バイオインク組成物は、組織由来構成成分材料をさらに含み得る。好ましくは、細胞担体材料はゼラチンまたはコラーゲンであり、粘度増加剤は、ヒアルロン酸またはデキストランであり、滑沢剤はグリセロールであり、構造材料は、フィブリノーゲンまたはメタクリル化ゼラチン(GelMa)である。
【0004】
文献は、組織工学適用に最適な特性を有する適切なバイオインク組成物の選択の課題に関して多くの刊行物を含む。Mohamed Aliらは、腎臓由来の脱細胞化ECM(dECM)に基づくバイオインクの製造に関する研究を実施した[1]。0.5M酢酸および0.1mg/mLペプシンを使用する溶解方法を用いて、比較的低濃度(1~3%)のdECMハイドロゲルが得られた。さらに、光開始剤(Irgacure)の添加によるdECMのメタクリル化プロセスが実施された。
【0005】
後続の研究グループは、メタクリル化ゼラチン(GelMa)および光開始剤、すなわち、LAP(リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート)を添加し、ECMを使用してバイオインクを得ることを試みた[2]。他のものは、合成保存剤としてポリカプロラクトン(PCL)を添加し、比較的高濃度のペプシンにより得られたdECMハイドロゲルを使用した[3]。
【0006】
特許文献KR20180125776は、dECM粉末およびハイドロゲルを含むバイオインク組成物を記載している。dECM粉末は、肝組織、心組織、軟骨組織、骨組織、脂肪組織、筋組織、皮膚組織、粘膜上皮組織、羊膜組織または角膜組織から選択され得る。好ましくは、dECM粉末は、0.05~100μmの粒径を有する。ハイドロゲルは、ゼラチン、ヒアルロン酸、デキストランおよびコラーゲンからなる群から選択される1種または複数を含有し得る。
【0007】
Falguniら(2014)は、細胞生着、生存および長期間機能への決定的な働きを提供することが可能な、脂肪、軟骨および心組織を含む組織特異的dECMバイオインクを開発した。バイオプリンティング法により、本来の細胞形態および機能の再構築が可能になった。プリント細胞構築物のより高次のアセンブリが、組織化された空間パターンおよび組織特異的遺伝子発現を伴って観察された。この方法論の重要な利点は、細胞生着、生存および長期間機能への決定的な働きを提供する組織特異的ECMの適用であった[3]。
【0008】
臓器を脱細胞化してバイオインクの構成成分としてdECMを得ることを含む実験は、多くの研究グループによって研究されている[4、5、7]。様々な物質、主にTriton X-100および/または硫酸ドデシル(SDS)洗浄剤が脱細胞化のために使用された。界面活性剤および超反応性溶液を含有する不飽和化溶液で肝臓組織を処理する、肝臓の脱細胞化の方法が、KR1020180011607Aに記載されている。0.5%のTriton X-100(Triton X-100)が、界面活性剤として使用され得る。
【0009】
Mohamed Aliおよび共同研究者らは、ECM由来のバイオインクを含む光架橋性腎臓を構築した[1]。ブタ全腎臓が、灌流方法により脱細胞化され、酸溶液に溶解され、メタクリル化によって化学変性された。結果は、バイオプリントヒト腎臓細胞が高度に生存可能であり、経時的に成熟したことを示した。さらに、バイオプリント腎臓構築物は、天然腎組織の構造および機能特徴を示した。組織特異的ECM由来のバイオインクは、細胞成熟および最終的には組織形成を強化できた。
【0010】
Mirmalek-Saniら(2013)は、ヒト幹細胞およびブタ膵島のスキャフォールドを作るためのブタ膵臓の脱細胞化プロセスを提示した。細胞材料が効果的に除去された一方、ECMタンパク質および天然血管系は保持された。さらに、脱細胞化された膵臓は、細胞接着および細胞機能の維持を支持し得ることが示された[6]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、バイオプリンティングに使用され得る、洗浄剤を含まないdECMを提供することである。文献データは、脱細胞化によって得られたECM中の洗浄剤の残留量、またはそれらの含有量をアッセイする方法の結果を提供していない。様々な組織の脱細胞化のための既に公開された手順において、洗浄剤の除去段階は、比較的短い。dECM中に洗浄剤が存在しないことは、得られたdECMの質にかなり影響すると考えられる。本出願人によって開発された手順により、他の化学物質の添加の必要なしに、ほとんどすべての洗浄剤を除去することが可能になる。本発明の第2の目的は、粘度増加剤の添加の必要なしに、適切な粘稠度および粘度のバイオインクを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様では、洗浄剤を含まない脱細胞化細胞外マトリックス(dECM)の調製方法であって、以下のステップ:
- 動物の身体から分離された、膵臓、肝臓、腎臓、心臓、皮膚、肺、大腸、小腸、血動脈および静脈、脂肪組織、ならびに胎盤から選択される動物由来の臓器を、好ましくは機械による押出によって、機械により断片化するステップ、
- 好ましくは1×リン酸緩衝食塩水(PBS)を含む緩衝化洗浄剤溶液中で断片化臓器をインキュベートするステップであって、緩衝化洗浄剤溶液が、0.5%~1.5%、好ましくは1%(v/v)のオクトキシノール-9を含み、洗浄剤溶液に、抗菌剤、好ましくはストレプトマイシンを、好ましくは0.01%(w/v)の濃度で添加し、インキュベーションを、室温未満の温度、好ましくは4℃で、少なくとも72時間、かき混ぜながら実施し、断片化臓器を、4~12時間毎に新しい洗浄剤溶液に移す、ステップ、
- 好ましくは1×PBSを含む第1の緩衝化洗浄溶液中で、室温未満の温度、好ましくは4℃で、少なくとも72時間、かき混ぜながら断片化臓器をインキュベートするステップであって、第1の緩衝化洗浄溶液が、抗菌剤、好ましくはストレプトマイシンを、好ましくは0.01%(w/v)の濃度で含み、断片化臓器を、4~12時間毎に新しい洗浄溶液に移す、ステップ、
- DNAseを、好ましくは0.0001~0.0003%(w/v)、最も好ましくは0.0002%(w/v)の濃度で含むデオキシリボヌクレアーゼ溶液中で、DNAse性能に適した温度で、好ましくは少なくとも8時間、断片化臓器をインキュベートするステップ、
- 好ましくは1×PBSを含む第2の緩衝化洗浄溶液中で、室温未満の温度、好ましくは4℃で、少なくとも72時間、かき混ぜながら断片化臓器をインキュベートするステップであって、第2の緩衝化洗浄溶液が、抗菌剤、好ましくはストレプトマイシンを、好ましくは0.01%(w/v)の濃度で含み、断片化臓器を、4~12時間毎に新しい洗浄溶液に移す、ステップ、
- 断片化臓器を凍結し、凍結した断片化臓器を断片に粉砕するステップ、
- 好ましくは-32℃、好ましくは0.31mbar(31Pa)の圧力下で、凍結した断片化臓器を凍結乾燥するステップ、
- 任意選択で、0.0010mbar(0.1Pa)および-76℃で5~15分間、最終乾燥するステップ、
- 粉砕し乾燥させた生成物を25~500μmのdECM粉末に摩砕するステップ、
- 任意選択で、好ましくは放射線および/またはエチレンオキシドによって生成物を滅菌するステップ、
を含む、方法が提供される。
【0013】
臓器の機械による断片化により、臓器からの洗浄剤の除去が促進され、その結果、より低脂肪含有量の生成物が得られ、これにより、最終生成物の特性が改善し、すなわち、粘度が増加し、プリント性が改善する。DNAseの添加は、動物由来の臓器のDNAの除去に必要不可欠である。得られたプリント3次元構造がDNAを有するdECMを含む場合、それは、移植実験にさらに使用できない。
【0014】
好ましくは、摩砕するステップの後に、dECM粉末中のオクトキシノール-9の量を確認するステップが続き、好ましくは、dECM粉末を、オクトキシノール-9の存在について確認する前に、好ましくは、少なくとも43,953PZ/g dECMの濃度のコラゲナーゼで処理する。
【0015】
好ましくは、摩砕するステップの後に、以下のステップ:
- dECM粉末を、0~10mg/mlのペプシンが添加された、好ましくは0.01Mの塩酸溶液に溶解するステップ、
- 室温で48~72時間、好ましくは72時間、混合するステップ、
- 好ましくは、0.1Mナトリウム塩基およびPBS溶液を使用して、氷上で中和するステップ
が続く。
【0016】
第2の態様では、洗浄剤を含まない脱細胞化細胞外マトリックス(dECM)の調製方法によって得ることができる、粉末形態の、洗浄剤を含まない脱細胞化ECMが提供される。好ましくは、dECM粉末は無菌である。必要であれば、粉末は、放射線滅菌またはエチレンオキシド滅菌によって滅菌され得る。
【0017】
第3の態様では、洗浄剤を含まない脱細胞化細胞外マトリックス(dECM)の調製方法によって得ることができる、溶液の形態の、洗浄剤を含まない脱細胞化ECMが提供される。
【0018】
第4の態様では、1次バイオインクの調製方法であって、以下のステップ:
- 混合することによって、5~50%(w/v)、好ましくは15~25%(w/v)の、本発明の第2の態様によるdECM粉末、および1~10%(w/v)、好ましくは8~10%(w/v)の、本発明の第3の態様によるdECM溶液を含むペーストを調製するステップ、
- 7~10℃の温度で少なくとも24時間、ペーストをインキュベートするステップ、
- 1.46~7.32%(w/v)のメタクリル化ゼラチン、0.15~1.10%(w/v)のメタクリル化ヒアルロン酸、5~10%(w/v)のグリセロールおよび光開始剤、好ましくは0.03~0.17%(w/v)のリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネートを添加し、続いて穏やかに混合するステップ
を含む、方法が提供される。
【0019】
dECM粉末は、元々、凍結乾燥によって調製され、その後溶解しないため、ECMの全四次構造を保持する。したがって、dECM粉末およびdECM溶液の両方を含むペーストの形態のdECMの使用により、適切な粘稠度を有する1次バイオインクが提供され、dECM粉末は、1次バイオインクに溶解しないため、ECMの全四次構造を保持する。
【0020】
第5の態様では、dECMペーストおよび1.46~7.32%(w/v)のメタクリル化ゼラチン、0.15~1.10%(w/v)のメタクリル化ヒアルロン酸、5~10%(w/v)のグリセロールおよび光開始剤、好ましくは0.03~0.17%(w/v)のリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネートを含む1次バイオインクであって、dECMペーストが、5~50%(w/v)、好ましくは15~25%(w/v)の、本発明の第2の態様によるdECM粉末および1~10%(w/v)、好ましくは8~10%(w/v)の、本発明の第3の態様によるdECM溶液を含み、1次バイオインクの粘度が、21/秒の一定せん断速度および37℃の温度で、コーンプレートシステムで測定して、少なくとも5Pa・秒である、1次バイオインクを提供する。
【0021】
dECMの使用により、身体の細胞外条件を複製することが可能になり、したがって、バイオプリントに、細胞を刺激して分化させ、その生存率を改善する天然組織の特徴が付与される。さらに、細胞外マトリックスは、バイオインクの適切な粘度を得、33~37℃の温度範囲における熱架橋のさらなる可能性によりプリント構築物の安定な3次元構造を維持するために必要である。
【0022】
光開始剤の使用により、1次バイオインクに含有される細胞に毒性である化学物質を使用する化学架橋と比較して、細胞に非毒性である架橋が可能になる。光開始剤および可視光の使用による架橋により、熱架橋と比較して細胞DNA損傷が最小になる。温度および光はいずれも、細胞に対する負の効果を有し、DNA損傷につながる。しかしながら、可視光による架橋の場合、これらの変化は最小に維持される。
【0023】
メタクリル化ゼラチン(GelMa)は、プリント構築物の成形に使用される。さらに、メタクリル化ゼラチンは、フィラメントを一緒にして、小葉の剥離を防ぎ、細胞および膵島の生存能力を改善する。GelMaは、ゼラチンと比較してより高温で安定であり、これは、熱架橋の間に有益である。
【0024】
メタクリル化ヒアルロン酸(HAMA)は、架橋によって3次元構造を維持するのを助ける。さらに、HAMAは、プリントフィラメントの滑らかさ、柔らかさ、均質性をもたらし、細胞培養を支持する。これらの特徴は、メタクリル化されていないヒアルロン酸の添加によっては得ることができない。
【0025】
グリセロールの使用により、細胞および膵島の機能性が改善する。グリセロールの使用によりまた、バイオインクの潤滑性が改善し、連続フィラメントの形成が可能になり、シリンジまたはミキサー中でのバイオインク構成成分の混合が改善し、プリンティングの間の圧力消費が低減する。
【0026】
好ましくは、1次バイオインクは、バイオインクの0.001~0.100mg/mL、好ましくは0.007mg/mLの濃度のヒアルロン酸、バイオインクの0.005~0.100mg/mL、好ましくは0.084mg/mLの濃度のラミニン、バイオインクの0.001~0.100mg/mL、好ましくは0.041mg/mLの濃度のコラーゲンI、バイオインクの0.005~0.175mg/mL、好ましくは0.122mg/mLの濃度のコラーゲンIV、3~300μg/mL、好ましくは100μg/mLの濃度のフィブロネクチン、バイオインクの10~100mg/mLの濃度のヒトフィブリノーゲン、バイオインクの1~2EPU/mLの濃度のアプロチニン、バイオインクの0.05~2mg/mLの濃度のポリソルベート、バイオインクの5~55mg/mLの濃度のヒトトロンビン、バイオインクの20~60mM/mLの濃度の塩化カルシウム;血管新生促進ビタミンとして、1nM~500μM、好ましくは100μMの濃度のビタミンA、50~100μM、好ましくは100μMの濃度のビタミンB1、1~10μM、好ましくは10μMの濃度のビタミンB3、バイオインクの10~100mg/mLの濃度のビタミンB12、0.1~10nM、好ましくは10nMの濃度のビタミンD3、血管新生を支持する増殖因子として、バイオインクの10~30ng/mL、好ましくは30ng/mLの濃度のVEGF、バイオインクの10~20ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のFGF、バイオインクの1~10ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のTGF-β、バイオインクの0~100ng/mL、好ましくは10ng/mLの濃度のインターロイキン(IL)-8、バイオインクの20~50ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のIL-17Aから選択される少なくとも1種の添加剤を含む。
【0027】
ヒアルロン酸、コラーゲンIおよびIVならびにラミニンなどの市販の添加剤は、プリント3次元構造の機能性をさらに改善する。
【0028】
ビタミンA - ビタミンAの代謝産物の1種としてATRA(全トランスレチノイン酸)は、血管新生促進効果を有し、血管新生の背後にある因子(例えば、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)、低酸素誘導因子(HIF)-1、C-X-C、ケモカイン受容体(CXCR)-4、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンジオテンシン(Ang)-2、-4の発現を改善する。さらに、ATRAはプロ-MMP2(プロマトリックスメタロプロテイナーゼ-2-IV型コラゲナーゼ)活性を低減することが示されている。
【0029】
ビタミンB1 - ベンフォチアミン(チアミン誘導体)は、タンパク質依存性B-キナーゼ経路(PKB/Akt)でのアポトーシスを阻害し、前駆内皮細胞の増殖の誘発に関係する。
【0030】
ビタミンB3 - ナイアシンは、その受容体、すなわちヒドロキシカルボン酸受容体2(GPR109A)により、血管新生を支持する内皮細胞機能を強化し、促進する。さらに、ビタミンB3は、サーチュインメディエーター(SIRT)との応答によって、血管新生を誘発し、支持するNAD(+)の前駆体である。
【0031】
ビタミンB12(コバラミン)は、プロスタグランジンE1、プロスタサイクリンおよび一酸化窒素(NO)の生成を誘発する。これらの物質はすべて、血管新生の開始に好都合な効果を有する。
【0032】
ビタミンD3は、in vitroにおいて血管新生を刺激するように設計される。ビタミンD3は、増加したVEGFの発現およびプロ-MMP2活性を誘発する。ビタミンD3は、ECFC(内皮コロニー形成細胞)の機能にも影響する。
【0033】
VEGFは、内皮細胞の増殖、遊走、胞子形成および内皮細胞間の連結の形成を誘発し、さらに、様々なプロテアーゼの産生を誘発することによって、細胞外マトリックス(ECM)の分解に影響し、内皮細胞の細胞表面のインテグリンを活性化させる。
【0034】
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、内皮細胞遊走を増加させ、毛細管形態形成を促進する。線維芽細胞増殖因子はまた、内因性VEGF産生を増加させる。
【0035】
トランスフォーミング増殖因子(TGF-β)は、ECM(プロテオグリカン、フィブロネクチン、コラーゲン)の形成を促進し、内皮細胞の増殖、その遊走および血管の形成を調整する。TGF-βは、内皮細胞と周皮細胞の相互作用を媒介する。
【0036】
インターロイキン(IL)-8は、CXCR1およびCXCR2受容体との相互作用による内皮細胞に対する強力な血管新生促進効果を有する。インターロイキン-8は、微小血管ネットワークの形成を刺激する。
【0037】
IL-17Aは、血管新生、細胞遊走および細胞骨格再編を誘発する。
【0038】
好ましくは、1次バイオインクは、バイオインクの0.1~10×10/mLの密度の内皮細胞、バイオインクの0.1~10×10/mLの濃度の1次微小血管内皮細胞、バイオインクの3~9×10/mLの濃度の動物またはヒト由来のα細胞、バイオインクの1.1~3.4×10/mLの濃度の動物またはヒト由来のβ細胞、好ましくはバイオインクの20,000iEq/mLの量の動物またはヒト由来の膵島から選択される1種または複数の動物またはヒト由来の添加剤を含む。
【0039】
膵島は、インスリンを産生に関係する。内皮細胞は、プリント3次元構造の血管ネットワークのより迅速な形成のために添加される。1次微小血管内皮細胞は、バイオプリント3次元構造の微小血管の形成および増殖を支持するために使用される。
【0040】
第6の態様では、血管バイオインクの調製方法であって、以下のステップ:
a)任意選択で、微生物学用ゼラチンを、50~65℃の間の温度、好ましくは60℃で、かき混ぜながら緩衝溶液に懸濁することによって、緩衝溶液、好ましくはPBS中の微生物学用ゼラチンの1~2%(w/v)溶液の調製物を含むCMCが添加された微生物学用ゼラチンの溶液を調製し、2~5%(v/v)のカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を添加して、バイオインク中0.2~1%(v/v)のCMCの最終濃度を得、溶液を40℃以下の温度に冷却するステップ、
b)好ましくは放射線によって滅菌した、本発明の第2の態様によるdECM粉末を、(i)ステップa)で得られたCMCが添加された微生物学用ゼラチンの溶液、または(ii)緩衝溶液、または(iii)細胞培地の溶液に、穏やかにかき混ぜながら添加することによって、5~10%(w/v)dECM溶液を調製するステップ、
c)37℃を超えない温度で0.5~2.0時間、得られた溶液を超音波処理するステップ、
d)任意選択で、3~300μg/mL、好ましくは100μg/mLの濃度のフィブロネクチン、10~30ng/mL、好ましくは30ng/mLの濃度のVEGF、10~20ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のFGF、100~300nMの間、好ましくは100nMの濃度のPGE2、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の内皮細胞、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の線維芽細胞から選択される少なくとも1種の動物またはヒト由来の添加剤を添加するステップ、
を含む、方法を提供する。
【0041】
第7の態様では、血管バイオインクの調製方法であって、以下のステップ:
- a)任意選択で、微生物学用ゼラチンを、50~65℃の間の温度、好ましくは60℃で、かき混ぜながら緩衝溶液に懸濁することによって、緩衝溶液、好ましくはPBS中の微生物学用ゼラチンの1~5%(w/v)溶液の調製物を含むCMCが添加された微生物学用ゼラチンの溶液を調製し、2~5%(v/v)のCMC水溶液を添加して、バイオインク中0.2~2%(v/v)のCMCの最終濃度を得、溶液を40℃以下の温度に冷却するステップ、
b)好ましくは放射線によって滅菌した、本発明の第2の態様によるdECM粉末を、(i)ステップa)で得られたCMCが添加された微生物学用ゼラチン、または(ii)緩衝溶液、または(iii)細胞培地の溶液に、穏やかにかき混ぜながら添加することによって、2~10%(w/v)dECM溶液を調製するステップ、
c)混合物を100℃で15~30分間煮沸するステップ、
d)任意選択で、3~300μg/mL、好ましくは100μg/mLの濃度のフィブロネクチン、10~30ng/mL、好ましくは30ng/mLの濃度のVEGF、10~20ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のFGF、100~300nMの間、好ましくは100nMの濃度のPGE2、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の内皮細胞、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の線維芽細胞から選択される少なくとも1種の動物またはヒト由来の添加剤を添加するステップ、
を含む、方法を提供する。
【0042】
第8の態様では、好ましくは、1~5%(w/v)の濃度の微生物学用ゼラチンおよび/または0.2~2%(v/v)の濃度のCMCが添加された、2~10%(w/v)の濃度の、上述の本発明の第3の態様による超音波処理または煮沸したdECM溶液を含む、血管バイオインクを提供する。
【0043】
超音波処理または煮沸したdECMは、温度変化に伴ってその物理および化学特性が変化する。この構成成分は、比較的低温(15~20℃)でのプリンティングの間のバイオインクの適切な粘度を確実にし、細胞浸潤および37℃の培養温度でゆっくり液化するまでプリント脈管を保持するように設計される。
【0044】
微生物学用ゼラチンは、所望の粘稠度を提供し、細胞生存率を改善する。CMCは、粘度を増加させ、バイオインクの粘稠度を安定させる。フィブロネクチンは、血管新生を促進し、投入量に応じて、増殖速度に影響することなく、形成される血管の伸長を刺激する。
【0045】
好ましくは、血管バイオインクは、3~300μg/mL、好ましくは100μg/mLの濃度のフィブロネクチン、10~30ng/mL、好ましくは30ng/mLの濃度のVEGF、10~20ng/mL、好ましくは20ng/mLの濃度のFGF、100~300nMの間、好ましくは100nMの濃度のPGE2、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の内皮細胞、バイオインクの0.1~10×10個の細胞/mLの間の密度の線維芽細胞から選択される少なくとも1種の動物またはヒト由来の添加剤を含む。
【0046】
内皮細胞は、血管を生成する。線維芽細胞は、血管新生誘発因子を産生する。VEGFは、内皮細胞の増殖、遊走、胞子形成および内皮細胞間の連結の形成を誘発する。さらに、様々なプロテアーゼの産生を誘発することによって、VEGFは、ECMの分解に影響し、内皮細胞の細胞表面のインテグリンを活性化させる。FGFは、内皮細胞遊走を増加させ、毛細管形態形成を促進する。FGFはまた、内因性VEGF産生を増加させる。PGE2-プロスタグランジンE2は、(R)-1受容体のFGFを活性化(リン酸化)することによって、新しい血管の遊走、増殖および形成を誘発するように設計される。
【0047】
第9の態様では、少なくとも3つの隣接するバイオインク層を含む3次元構造であって、本発明の第8の態様による血管バイオインクの層が、本発明の第5の態様による1次バイオインクの2つの層間に配置される、3次元構造を提供する。
【0048】
第10の態様では、3次元構造の調製方法であって、本発明の第5の態様による1次バイオインクおよび本発明の第8の態様による血管バイオインクを、5~50mm/秒のプリンティング速度、4~300kPaの圧力および4~37℃の温度で、3Dバイオプリンティングプロセスにおいて層毎に堆積し、堆積の間または後に、1次バイオインクを、好ましくは365~405nm、より好ましくは405nmの波長のUV光および/または可視光に、少なくとも5秒間曝露する、方法を提供する。3次元構造に含有される細胞に毒性ではないため、405nmでの架橋が好ましい。
【0049】
本発明により、27×17×2.5mmの大きさの小葉のモデルを得ることが可能であった。5層からなる小葉は、3~10分でプリントされた。さらに、30×40×20mmの大きさの機能器官プロトタイプの3Dモデルを得た。モデルは30層からなり、20~60分でプリントされた。やはり重要なことに、ここで初めて煮沸または超音波処理したdECMの使用が報告されている。本発明により、プリンティング速度がバイオインクの粘度と適切に相関することに起因して(最大30mm/秒)、短時間で構築物を得ることが可能になる。安定な3次元多孔性構造を得ることができ(30層)、これは、37℃の温度で20日間保存可能である。好ましい実施形態では、1次バイオインクは、Irgacureではなく毒性の低い光開始剤、すなわちLAPを比較的低濃度で使用することに基づく。さらに、文献において見出されるよりも少ない量のペプシンを使用して、dECM溶液が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】dECMハイドロゲルの特性に対するペプシン濃度の影響を示す図である。
図2】dECM溶液の濃度と、A)15%(w/v)dECM粉末が添加された5%(w/v)dECM溶液の粘度、B)25%(w/v)dECM粉末が添加された5%(w/v)dECM溶液の粘度、C)15%(w/v)dECM粉末が添加された8%(w/v)dECM溶液の粘度、D)25%(w/v)dECM粉末が添加された8%(w/v)dECM溶液の粘度、E)15%(w/v)dECM粉末が添加された10%(w/v)dECM溶液の粘度、F)25%(w/v)dECM粉末が添加された10%(w/v)dECM溶液の粘度との間の関係を示す図である。
図3】所定の温度における、5%(w/v)dECM溶液(A、B)、8%(w/v)dECM溶液(C、D)および10%(w/v)dECM溶液(E、F)の動力学の分析を示す図である。
図4】プリント小葉:GelMa、HAMA、Mixの吸光性分析を示す図である。
図5】A)煮沸およびB)超音波処理したdECM(r)の粘度を示す図である。
図6】A)血管新生小葉の3DモデルおよびB)プリント構築物の写真を示す図である。
図7】膵臓の3Dモデルの血管系の血管新生(A、B)およびプロトタイプ(C、D)の視覚化を示す図である。
図8】A)実験の開始時およびB)インキュベーションの24時間後の、膵島の機能性に対するグリセロールの効果を示す図である。
図9】A)実験の開始時、B)インキュベーションの24時間後およびC)インキュベーションの48時間後の、膵島の機能性および生存能力に対する市販の添加剤の効果を示す図である。
図10】A)実験の開始時、B)インキュベーションの24時間後、C)インキュベーションの48時間後およびD)インキュベーションの48時間後の、膵島の生存能力に対するメタクリル化ゼラチンの添加の効果を示す図である。
図11】A)実験の開始時、B)インキュベーションの24時間後およびC)インキュベーションの48時間後の、膵島の生存能力に対するメタクリル化ヒアルロン酸の添加の効果を示す図である。
図12】A)実験の開始時、B)インキュベーションの24時間後、C)インキュベーションの48時間後およびD)インキュベーションの48時間後の、膵島の生存能力に対する、様々な割合のGelMaおよびHAMAの混合物の添加の効果を示す図である。
図13】A)実験の開始時、B)インキュベーションの24時間後、C)インキュベーションの48時間後およびD)インキュベーションの48時間後の、膵島の生存能力に対する、切断または摩砕ECM粉末の添加の効果を示す図である。
図14】A)実験の開始時、B)インキュベーションの24時間後の、プリンティング後の膵島の生存能力に対する、1次バイオインクへのGelMaおよびHAMAの添加の効果を示す図である。
図15】バイオプリンティングの原材料として使用するための、dECMの調製の個々の段階におけるタンパク質構造を示す電子顕微鏡からの視覚化を示す図である。A)~C)- SEM(走査型電子顕微鏡)画像;A)脱細胞化前の天然組織;B)脱細胞化後の組織;C)1次バイオインクからプリントされた構築物。D)~E)- TEM(透過型電子顕微鏡)画像;D)脱細胞化後の組織;E)、F)コラーゲン四次構造の保存された1次バイオインクからプリントされた構築物(可視コラーゲン繊維)。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の実施形態:
実施形態1:洗浄剤を含まないdECMの調製
A.膵臓の脱細胞化のための手順
細胞外マトリックス(スキャフォールド)を残しながら膵臓臓器から細胞構造を除去するために、0.01%(w/v)ストレプトマイシンを含む1×濃縮PBS溶液中の0.1%(v/v)アンモニア水を含む1%(v/v)Triton X-100溶液を調製した。収集後、組織材料を-80℃で凍結した。次いで、解凍後、脂肪組織の外層および周辺の膜を臓器から除去した。調製した膵臓を2つの方法:小片(約1~1.5cm)に切断および機械による摩砕(押出摩砕方法を使用)で処理した。
【0052】
断片化組織をボトル中に入れ、先に調製したTriton X-100の溶液に懸濁した。試験片を、150rpmで一定にかき混ぜながら、4℃でインキュベーターに入れた。細胞画分が完全に除去されるまで(3~5日間)、4時間~12時間毎に洗浄剤を交換した。次いで、洗浄剤を、得られたスキャフォールドから洗い流した。この目的で、0.01%(w/v)ストレプトマイシンを含む1×PBSの溶液を使用した。洗浄プロセスを、150rpmで連続撹拌しながら、4℃で72時間実施した。
【0053】
次の段階である脱細胞化は、デオキシリボヌクレアーゼ溶液(0.12mMカルシウムおよびマグネシウムイオンが添加された、1×PBS中の0.0002%(w/v)DNAse)の投与で構成された。スキャフォールドを、150rpmで撹拌しながら、37℃で8時間、上述の溶液中でインキュベートした。最後のステップは、標準条件(4℃;150rpm;72時間)で、0.01%(w/v)ストレプトマイシンを含む1×PBS溶液で再度洗浄することを含んだ。さらに、1×濃縮PBS溶液中の0.1%(v/v)濃度のアンモニア水を使用する洗浄剤の洗い流しも試験した。さらに、洗浄ステップに対する、20~24℃への温度の上昇の効果も研究した。
【0054】
脱細胞化プロセスの終了後、得られたスキャフォールドを液体窒素中で凍結し、およそ0.5cmの大きさの小片に粉砕した。材料を、-32℃の温度および0.31mbar(31Pa)の圧力で、26時間凍結乾燥した。最終乾燥プロセスは、0.0010mbar(0.1Pa)の圧力および-76℃の温度で、10分間続けた。粉砕し、乾燥したスキャフォールドを、低温ミルを使用して粉末に摩砕した。摩砕手順は、毎秒15打で1分間を3サイクル含んだ。
【0055】
得られた生成物、すなわちdECM粉末(「dECM(p)」と略述する)の特徴決定のために、流勾配中の粉末粒径分布を、吸入スプレーを試験するための付属吸入チャンバーを備えたレーザー回折分光計Spraytec(Malvern、UK)を使用して試験した。研究したすべての場合において、エアロゾル化後に分析した粉末を記載するパラメーターの値は、同程度であり、粉末を個々の粒子に分解する増加した気流の形態で追加のエネルギーを提供する必要がなかったことを示している。表1は、粉末粒子の直径を記載するパラメーターの値を示し、ここで、
Dv(50)- 体積粒径分布の中央値:累積体積分布を半分に分割する粒子の直径、言い換えると、中央値よりも小さいおよび中央値よりも大きいの両方のすべての粒子が、同じ体積を有する(この直径未満の粒子が、試料体積の50%を構成する)。
Dv(10)- この直径未満の粒子が、試料体積の10%を構成する。
Dv(90)- この直径未満の粒子が、試料体積の90%を構成する。
D[3][2]- Sauter径は、その体積対面積比が、すべての分析した粒子の体積対すべてのそのような粒子の合計表面積の比と同じである粒子の直径である。
D[4][3]- 粒子直径の四乗の和対粒子直径の三乗の和の比として定義される直径。
【0056】
【表1】
【0057】
dECM粉末のエアロゾル化後の測定結果は、粉末が多分散性であったことを示している。Cyclohaler型の吸入器に関する名目の気流量における体積粒子直径分布の中央値、Dv(50)は148.43±10.14μmに等しかった。同時に、試料の総体積の10%を超えない総体積の最小粒子は、28.23±1.48μm未満の直径(Dv(10))を有した一方、試料の総体積の90%未満の総体積を有する粒子を区別する直径は、410.10±29.41μmであった。吸入器に供給する気流速度を200および270dm/分に増加させても、体積粒径分布の中央値またはDv(10)値への大幅な影響はなかった。およそ410.1±29.41μmから498.3±62.7μmへの最大粒子の大きさ(Dv(90))のわずかな増加のみが観察できた。この結果、2.57±0.04(100dm/分の流量について)から3.3±0.4(270dm/分の流量について)の分布区間で増加が生じた。
【0058】
B.脱細胞化方法の有効性
- 生成物のタンパク質特性:
質量分析技術を使用して、ブタ膵臓の脱細胞化後のECMタンパク質組成を決定した。得られた結果は、試験した試料中のコラーゲンの最高のパーセンテージを明らかに示し、アルファ(A)-1鎖のコラーゲン1型(COL1)、いわゆるCOL1A1が、他の検出されたコラーゲン型と比較して最高値を示した。
【0059】
【表2】
【0060】
また、大量のIV型およびVI型コラーゲンが見出された。これは、使用した脱細胞化プロトコルにより、膵島とβ細胞との最高レベルの組込みを有するコラーゲンの型を保存することが可能になったことを示している。I型およびIV型コラーゲンは、膵島の機能性および生存能力を支持するのに最も効果的であり、膵島細胞の機能化に基づく生物医学用途の補助剤として一般に使用される。特に、コラーゲンVIおよびIVは、膵島の外分泌表面および基底膜に存在し、フィブロネクチン活性を調整する。分析した任意の他のコラーゲン型(COL1A2、COL3A1、COL4A2、COL6A1、COL6A2、COL6A3 COL14A1)の含有パーセンテージは、すべての実験した試料において3.5%を超えなかった。
【0061】
- 最終DNA濃度
残留DNA濃度を決定するため、3つの分析を実施した:
(a)残留DNA濃度を決定するためのPicoGreen。
(b)残留する遺伝子材料の粒径を決定するためのアガロースゲル電気泳動。
(c)顕微鏡画像法 - ヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色。
【0062】
残留DNAの濃度が乾燥重量のECM1mg当たり50ngの二本鎖DNA(dsDNA)を超えず、残留するDNAの分子が、200塩基対(bp)を超えなかった場合、脱細胞化プロセスは成功裏に完了した。また、得られたスキャフォールドの顕微鏡画像を、細胞核の存在について評価した(ヘマトキシリン&エオシン染色)。
【0063】
乾燥物中の残留DNAの濃度は、平均で0.077ng/mgであった。すべての試験した試料において、残留DNA含有量は0.15ng/mg未満であった。残留DNAを単離するために使用されるDNeasy Blood&Tissue Kitキット、および単離遺伝子材料の濃度を決定するためのQuant-iT PicoGreen dsDNA Reagent and Kitsを使用して分析を実施した。
【0064】
アガロースゲル電気泳動を使用して、シグナルは見出されなかった。すべての試料は、検出レベル未満であり、これは、ECMが200bpよりも大きい粒子の形態の残留DNAを有さなかったことを明らかに示した。
【0065】
顕微鏡検査は、遺伝子材料を示さず、脱細胞化プロセス後に可視の細胞核はなかった。
【0066】
- Triton X-100残渣、ならびにその検出および除去のための効果的な方法
比較のために、0.5%(w/v)SDSによる脱細胞化を行った。しかしながら、結果は、最終生成物中に残留する大量の洗浄剤に起因して満足のいくものではなかった。ECM粉末は、それを溶解しようと試みた場合、高い発泡レベルを示した。これはTriton X-100の使用では観察されなかった。
【0067】
脱細胞化プロセスの後に残留するTriton X-100の濃度を検証するために、最終生成物中のその残渣を決定した。
【0068】
分析用試料の調製:
白色の溶解dECMに関して、試料を3つの濃度のコラゲナーゼ:4.3953PZ活性単位/g dECM(p)、43.953PZ/g dECM(p)および87.906PZ/g dECM(p)で処理した。コラゲナーゼを、150mLのリンゲル溶液pH7.2~7.4、2.72mLのHepes(1M)、1.125mLの炭酸水素Na(7.5%)および1.05mLのCaCl(1M)を含有する専用の溶液中で調製した。
【0069】
試料を、1000rpmでの振とうを絶えず機能させながら、37℃で24時間撹拌した。得られた溶液を非イオン性洗浄剤Triton X-100の残留濃度について分析した。試料Aは、dECMを単一コラゲナーゼ濃度で処理した結果であった。試料Bは、10倍コラゲナーゼ濃度で処理した。試料Cは、20倍コラゲナーゼ濃度で処理した(A=6.977μg Triton X-100/g dECM(p)、B=40.475μg Triton X-100/g dECM(p)、C=39.325μg Triton X-100/g dECM(p))。
【0070】
重要なことに、残留するTriton X-100の最高濃度は、43,953PZ/g dECMの濃度のコラゲナーゼで処理したdECM溶液において見出された。コラゲナーゼの濃度が増加しても、得られたTriton X-100の量は多くはならず、これは、43,953PZ/gのdECMの濃度が、試料からのすべての残留するTriton X-100の抽出に十分であったことを示した。
【0071】
この洗浄剤を評価する既に公開された試みでは、以下の理由から明確な結果が得られなかった:
- Triton X-100粉末の評価は、この形態のECMは色素を吸収し、したがって結果が歪曲されるため、不可能であった。この相関は、Triton X-100の存在を示すSDS洗浄剤による脱細胞化後にECM粉末を分析することによって実証され、使用した洗浄剤に起因して可能ではなかった。
- ペプシンに溶解し中和したdECMは、その色が白であることに起因して、濃度の読取りを妨げた。
【0072】
したがって、dECMをコラゲナーゼで処理することが、現在まで、脱細胞化後の生体材料において洗浄剤の残渣を評価する唯一の方法である。そのような材料(dECM)が、生細胞によるバイオプリンティングプロセスに使用される場合、これは重要である。そのような材料がヒトへの移植に使用される場合、これは極めて重大である。
【0073】
C.結果
第1のステップでは、脱細胞化のための膵臓の調製の機能における脱細胞化マトリックス中の脂肪組成物の差を分析した。次のステップでは、膵臓調製の方法に応じて、残留DNAの含有量、コラーゲン含有量および残留洗浄剤Triton X-100の含有量を分析した。
【0074】
機械による押出摩砕方法の使用により、得られた細胞外マトリックス中の脂肪含有量を大幅に低減することが可能になった。機械による押出摩砕方法では、脂肪含有量は、切断方法における21.47+/-0.07%(w/w)の脂肪含有量と比較して、6.24+/-0.07%(w/w)であった。差は統計的に有意であった(p<0.001)。低脂肪含有量の得られたdECMにより、細胞および膵島の生存能力が大幅に増加した。
【0075】
Picogreenで試験した残留DNAの含有量は、機械による押出摩砕を使用した場合、大幅に低く、すなわち、組織の0.13+/-0.06ng/mgと比較して、0.07+/-0.07ng/mgであった(p=0.027)。これは、いずれの場合も、許容値50ng/mgよりも十分に低かった。
【0076】
機械による押出摩砕方法の使用により、得られた細胞外マトリックス中のTriton X-100含有量を大幅に低減することが可能になった。機械による押出摩砕方法では、洗浄剤含有量は、切断方法における6.53+/-2.34μg/gと比較して、3.79+/-2.33μg/gであった。差は統計的に有意であった(p=0.008)。
【0077】
調製方法から得られた試験材料中のコラーゲンの含有量は、切断方法および機械による押出摩砕の使用によって異ならなかった。
【0078】
Tritonのより良好な洗い流しのためにアンモニア水を使用して環境をアルカリ化しても、Tritonの洗い流しは改善しなかった。しかしながら、これにより、得られたコラーゲンの組成の変化がもたらされた。同様に、24℃での洗浄ではTritonの洗い流しは改善しなかった一方、コラーゲン構造への損傷は増加し、より高いDNA含有量の結果が得られ、これは、材料の感染リスクを示し得る。したがって、最適な方法は、脱細胞化材料をPBS中、4℃の温度で72時間洗浄することであった。
【0079】
実施形態2:バイオインクの調製
A.dECM(p)溶解
dECM溶液(dECM(r))を得るために、ペプシンおよび塩酸(HCl)を使用するdECM粉末(dECM(p))溶解手順を確立した。
【0080】
dECM溶液を得るための手順を、2部に分割した:
(a)dECMの溶解。
ペプシン(0~10mg/mL、好ましくは1mg/mLの濃度)を50mlの0.01M HClに溶解し、その後、dECM(p)(0.5~5g)を添加した。この方法の結果、1~10%(w/v)の範囲のdECM(r)濃度がもたらされた。調製した溶液を、以下の撹拌条件:およそ25℃の周囲温度、72時間の溶解時間を使用して、磁気撹拌器に入れ、撹拌の最初の8時間は1時間毎に溶液をかき混ぜた。
【0081】
(b)dECM(r)の中和。
50mLのdECM(r)の中和を、以下の物質:
- 5mlの0.1M NaOH(0.1M NaOHの体積は、中和用のdECM(r)の体積の1/10に等しかった);
- 5.56mLの10×PBS(10×PBSの体積は、中和用dECM(r)の体積の1/9に等しかった);
- dECM溶液を希釈するのに使用した好適な量の1×PBS(1~10ml)
を使用し、氷上(dECM溶液の所望の温度は4~4.5℃であった)でpH7.2~7.4になるまで実施した。
【0082】
dECM(r)の調製のための適切な手順を特定するために、様々なペプシン含有量の、放射線滅菌後に摩砕した比較的高濃度のdECM(p)- 10%(w/v)を含む溶液の分析を実施した。
【0083】
様々なペプシン含有量のdECM溶液を調製した。1mg/mLのペプシンを含有する溶液は、比較的高い均質性を有し、粘度値の範囲が小さかった。温度変化による濁度のわずかな変化が観察された。様々なペプシン含有量の、すべての分析した溶解方法をdECM(r)の調製に使用したが、しかしながら、使用した1mg/mLの量が最適であったことが実証された。
【0084】
B.バイオインクの調製
(a)1次バイオインクを得るための条件:
- 摩砕、切断、放射線滅菌またはエチレンオキシド滅菌ありおよびなしのdECM(p)を含む中和dECM溶液
- 摩砕、切断、放射線滅菌またはエチレンオキシド滅菌ありおよびなしのdECM(p)粉末
- 0.2~0.5%(w/v)LAPを含む滅菌GelMa 10~20%(w/v)
- 0.2~0.5%(w/v)LAPを含む滅菌HAMA 1~3%(w/v)
- 滅菌グリセロール
- 培養培地1:5~7v/v、膵島20,000iEq/mLおよび細胞株:内皮細胞1×10/mL、1次微小血管内皮細胞1×10/mL、ビタミン:A - 100μM、B1 - 100μM、B3 - 10μ、D3 - 10nM、増殖因子:VEGF - 30ng/mL、FGF - 20ng/mL、腫瘍壊死因子(TNF)-α - 10ng/mL、IL-8 - 10ng/mL、IL-17A - 20ng/mL。
【0085】
最初に、適切な量の中和dECM(r)およびdECM(p)を含有するペーストを、滅菌金属製スパチュラによって完全に混合することによって調製した。dECM(p)は凍結乾燥によって調製され、その後溶解しなかったため、ECMの四次構造を保持した。得られたペーストを、7~10℃の温度で少なくとも24時間静置した。バイオインク製造のためにペーストを使用する直前に、ペーストを滅菌シリンジに入れ、シリンジ間で混合した。同時に、GelMa(10~20%(w/v))およびHAMA(1~3%(w/v))溶液を、一般に利用可能な手順に従ってLAPにより調製した。ペーストを含有するシリンジに、ピストンなしに別のシリンジへのコネクターを取付け、これを上下に移動し、垂直位置に安定に配置した。グリセロール、培養培地、増殖因子、ビタミン、GelMaおよびHAMA溶液を、連続して添加した。次いで、ピストンを静かに挿入し、ペーストを他の試薬と混合した。混合後、調製したバイオインクを5分間インキュベーターに入れ、膵島および細胞を添加し、次いで、再度混合し、カートリッジに導入した。次のステップでは、充填したカートリッジを1500rpmで2分間遠心分離し、再導入した後、およそ5分間、インキュベーターにプリントした。
【0086】
得られた1次バイオインクの組成は以下の通りであった:40~50%(v/v)のdECM(r)、2.763~27.692%(w/v)のdECM(p)、1.464~7.320%(w/v)のGelMa、0.146~1.098%(w/v)のHAMA、5.0~10.0%(w/v)のグリセロール、0.03~0.17%(w/v)のLAP、VEGF - 30ng/mL、FGF - 20ng/mL、TGF-β - 10ng/mL、IL-8 - 10ng/mL、IL-17A - 20ng/mL、ビタミンA - 100μM、ビタミンB1 - 100μM、ビタミンB3 - 10μM、ビタミンD3 - 10nM、膵島 - 20000iEq/mL、内皮細胞 - 1×10/mL、1次微小血管内皮細胞 - 1×10/mL。
【0087】
(b)血管バイオインク
超音波処理を使用する血管バイオインク製造のプロセスを、2つのステップに分割した:
- 予備溶解 - 好適な量の微生物学用ゼラチンをPBS(1~2%(w/v))に懸濁し、磁気撹拌器を用いて60℃で約10分間撹拌した。次いで、絶えず撹拌しながら、温度を下げ、放射線滅菌またはエチレンオキシド滅菌後およびなしの摩砕および切断dECM(p)をバッチ(5~10%(w/v))に添加し、溶液を2分毎にさらに撹拌した。変形例に応じて、先に調製したPBSベースのカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液(2~5%(v/v))を混合物に添加した。
- 超音波処理:調製したECM溶液を含むボトルを、氷を含むビーカーに入れ、その後、超音波処理器ヘッドおよび温度センサーをその中に入れ、超音波処理プロセスを行った後、45%の振幅で3秒パルスを使用する開発手順を続け、30℃を超える温度ではアラームを鳴らして作業を中止した。超音波処理を、0.5~2.0時間行った。
- あるいは、予備溶解ステップは省略し、dECM粉末を、緩衝溶液または細胞培地の溶液に、穏やかにかき混ぜながら添加することによって、5~10%(w/v)dECM溶液を調製した。次に、超音波処理ステップを上記の通りに実施した。
【0088】
煮沸によって血管バイオインクを製造するプロセスを2つのステップに分割した:
- 予備溶解 - 好適な量の微生物学用ゼラチンをPBS(1~5%(w/v))に懸濁し、磁気撹拌器を用いて60℃で約10分間撹拌した。次いで、絶えず撹拌しながら、温度を下げ、放射線滅菌またはエチレンオキシド滅菌後およびなしの摩砕および切断dECM(p)をバッチ(2~10%(w/v)に添加し、溶液を2分毎にさらに撹拌した。変形例に応じて、先に調製したPBSベースのCMC溶液(2~5%(v/v))を混合物に添加した。
- 煮沸:PBS溶液中の調製したECM溶液またはECM粉末(5~10%(w/v))を含むボトルを、100℃に加熱した加熱プレートを備えた磁気撹拌器に入れ、混合物を15~30分かけて煮沸した。
- あるいは、予備溶解ステップは省略し、dECM粉末を、緩衝溶液または細胞培地の溶液に、穏やかにかき混ぜながら添加することによって、5~10%(w/v)dECM溶液を調製した。次に、超音波処理ステップを上記の通りに実施した。
【0089】
このように調製した血管バイオインクの基剤にフィブロネクチン、増殖因子および内皮細胞を添加した。
【0090】
得られた超音波処理した血管バイオインクの組成は、以下の通りであった:5~10%(w/v)、好ましくは7.5%(w/v)のdECM(p)、0.2~1%(v/v)のCMC、1~2%(w/v)、好ましくは1%(w/v)の微生物学用ゼラチン、フィブロネクチン - 100μg/mL、VEGF - 30ng/mL、FGF - 20ng/mL、PGE2 - 100nM、1.5×10/mLの内皮細胞および3×10/mLの線維芽細胞。
【0091】
得られた煮沸した血管バイオインクの組成は、以下の通りであった:2~10%(w/v)、好ましくは5%(w/v)のdECM(p)、0.2~2%(v/v)のCMC、1~5%(w/v)、好ましくは1%(w/v)の微生物学用ゼラチン、フィブロネクチン - 100μg/mL、VEGF - 30ng/mL、FGF - 20ng/mL、PGE2 - 100nM、1.5×10/mLの内皮細胞および3×10/mLの線維芽細胞。
【0092】
あるいは、血管バイオインクは、緩衝溶液または細胞培地中5~10%(w/v)、好ましくは5%(w/v)のdECM(p)で構成された。
【0093】
実施形態3:1次バイオインクの特性
A.レオロジー
行った試験を、膵小葉モデルをプリントするための特定のシステムを使用する可能性を限定する因子を構成する特性パラメーターの値(5Pa・秒超の粘度値)を決定するためのベースとして役立てた。dECMハイドロゲルの特性に対するペプシン濃度の影響を以下に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
最適な特性を有するバイオインクの組成を特定するために、dECM溶液およびペーストの粘度を、バイオプリンティングの間に存在する条件:コーンプレートシステム、21/秒の一定せん断速度および37℃の試験温度を表す特別に開発した手順に従ってMCR 72レオメーター(Anton Paar)を使用して、試験した。使用した粉末の種類(MS - 摩砕および滅菌、CS - 切断および滅菌、MNS - 摩砕、非滅菌、CNS - 切断、非滅菌)、および使用した構成成分の濃度による試料の差を考慮したシステムレオロジー試験の結果を図2に示す。
【0098】
dECM溶液の濃度の増加の結果、粘度が増加する[図2]。得られた粘度値が低すぎるため、dECM(r)は、バイオインクに適切な粘稠度を付与する薬剤としては使用できないようであった。検討下の各場合、滅菌にかけたdECM(p)を含む得られた溶液は、非滅菌粉末溶液よりも低い粘度値を有した。溶液の粘稠度のわずかな差が、低dECM(r)濃度の摩砕および切断粉末の使用に関して観察された。10%(w/v)について、摩砕粉末dECM(r)は、切断dECM(p)から調製したdECM(r)よりもわずかに粘性が高かった。
【0099】
結果の一覧は、dECMペーストの使用が、好適な粘稠度を有するバイオインク基材を得るために必要であったことを示している。一覧からのすべての系は、プリンティングの間の使用に許容される範囲内の粘度を有する。さらに、滅菌粉末を使用する細胞および膵島を含む構成成分の混合物を、滅菌後にバイオプリンティングに使用することは好都合であるようである。
【0100】
グリセロールの添加時にバイオインクの粘度の増加を報告する文献データとは反対に、1次バイオインク(ペースト)へのグリセロールの添加により、1次バイオインクのわずかな粘度の減少が引き起こされた。ペーストに添加した薬剤の各々が、粘度の変化を誘発した。構築物の維持または細胞および膵島の生存能力を支持する物質の添加により、ペーストの流動性の変化が誘発され、これは無視できる点までは重要ではない。dECM由来のペーストは、1次バイオインクの製造および特定のバイオインクがプリンティングに使用され得るかの決定の基礎を構成した。
【0101】
B.バイオインクの固化の方法
- 架橋剤を使用するプリント物の架橋
以下の表は、1次バイオインクに使用した架橋剤の組成の差を示す[表6]。
【0102】
【表6】
【0103】
上記の通りの系の架橋性試験を、365~405nmの範囲の波長を有する光を使用して行い、正の結果を得た[表7]。
【0104】
【表7】
【0105】
プロセスの後またはバイオプリンティングプロセスの間の架橋の分析結果は、365nmおよび405nmの波長光の使用のいずれも、目的の効果、すなわち液体から固体へのハイドロゲル形態の変化が達成されたことを示した。しかしながら、バイオインクは細胞および微生物を含有するため、可視光のみが使用され得る。したがって、架橋の最も好ましい方法は、405nmの波長を有する光を使用することである。
【0106】
補助的な化学物質をdECMペーストに添加することにより、フィラメント表面の平滑化されたトポグラフィーが得られた。さらに、GelMaおよびHAMAを添加した場合、バイオインクの通気の増加が特定され、この効果はHAMAで最も顕著であった。
【0107】
- 熱によるゲル化
ゲル化プロセスの強度を、幅広い温度範囲およびその効果までの曝露時間にわたって専用装置を使用する溶液濁度の特定を使用して、試験した。図3は、dECM溶液の架橋試験の結果の例を示す。5%(w/v)について、25~37℃の範囲内の温度上昇によって生じた、試験したすべての系で吸光度のわずかな増加が観察された。摩砕および滅菌粉末の使用により、dECM溶液の濁度が減少した。切断粉末溶液についてより高いdECM(r)濃度(8および10%(w/v))の場合、同じ滅菌相関性が得られたが、これは摩砕粉末とは反対であった。8および10%(w/v)のdECM(r)のいずれも、温度上昇に伴って濁度がわずかに増加した。10%dECM(r)は、比較的高い濁度を示し、試験温度範囲で安定であった。
【0108】
37℃の一定温度におけるゲル化の動力学に基づいて、37℃の温度への曝露時間が増加した場合、濁度の大幅な変化は観察されなかった。摩砕滅菌粉末からのdECM(r)は、最低吸光度値を有する一方、切断非滅菌粉末溶液は、すべてのdECM(r)濃度について最高濁度を有する。
【0109】
C.グルコース拡散によって例示されるバイオインク構成成分の浸透性
いわゆる推進力、すなわちグルコース濃度の増加により、遅延および平衡状態に達する時間が減少し、これに対応して拡散率が増加する。表8に示されるデータは、1次バイオインクにより得られた膜の拡散率が、4%(w/v)アルギネート(Alg4)により得られたものに匹敵することを示している。
【0110】
【表8】
【0111】
D.吸光度
得られたバイオインクの有用性を評価するために、プリント小葉の吸光性分析を、身体内条件を模倣する専用に調製した緩衝液を使用して実施した。最初の15分間について、プリント構築物の重量のわずかな増加、続いて、その減少および特定レベルでの安定化が観察された。次のステップでは、経時的なプリント小葉の重量の変化を観察して、SBF緩衝液環境の劣化の現象を研究した[図4]。
【0112】
実施形態4:血管バイオインクの特性
A.レオロジー
煮沸したdECM(r)は、超音波処理したものよりもはるかに高い粘度値を有する。しかしながら、超音波処理後の血管バイオインクの適切な安定性に起因して、この方法が、血管をプリントするためにより好ましいと決定した。
【0113】
B.ゲル化
25~37℃の範囲の温度および37℃の温度への曝露時間の増加により、煮沸および超音波処理したdECM濃度のわずかな減少が生じる。
【0114】
【表9】
【0115】
【表10】
【0116】
実施形態5:細胞および微小器官の生存能力に対する、バイオプリンティングの間に使用した圧力の効果
生存能力試験を、線維芽細胞(細胞株3T3-L1およびHFF-1)および膵島で実施した。この目的で、膵臓細胞/膵島を、0.2および0.6mmの直径の針を使用して、15kPa~100kPaの範囲の圧力にかけた。行った試験の結果は、押出方法を使用する3Dバイオプリンティングの間に誘導したせん断力により細胞および微小器官の生存能力に大幅な変化が生じることを示した。
【0117】
【表11】
【0118】
【表12】
【0119】
【表13】
【0120】
生存可能な機能的生物3次元構造を得るために、針の圧力および直径は、特定の細胞型に一致させる必要があった。しかしながら、30kPa以下の圧力が、好ましくは印加された。
【0121】
実施形態5:プリント性
1次バイオインクを使用するプリント物を、以下のパラメーターを使用して作製した:圧力:4~100kPa、プリンティング速度:5~40mm/秒、温度:プリントヘッド - 10~37℃;プリントベッド - 4~37℃、針直径:100nm~1mm。血管バイオインクを使用するプリント物を、以下のパラメーターを使用して作製した:圧力:5~100kPa、プリンティング速度:5~40mm/秒、温度:プリントヘッド - 10~37℃;プリントベッド - 4~37℃、針直径:100nm~1mm。
【0122】
- 小葉
血管を備える膵小葉をプリントするのにおよそ3分を要した。図6は、血管新生された小葉の3Dモデルおよびプリント構築物の写真を示している。SEMを使用して、プリント小葉の外側面および断面の形態を特定した。バイオインクフィラメントのゆるい配置が観察され、これは、小葉の実質的に多孔の背後にあった。また、断面分析に基づいて、血管を模倣する広がった脈管を備えた3次元多孔性構造の階層化を特定した。
【0123】
- 血管新生3次元構造
広がった脈管のネットワークを備えた生物工学膵臓のプロトタイプをプリントするのにおよそ30分を要した。小葉の場合と同様に、広がった脈管のネットワークを備えたプリント構築物の高度に多孔性の構造中にバイオインクフィラメントのゆるい配置が観察された。
【0124】
プリント血管系を、核磁気共鳴画像法を使用して評価した。作製した3D再建は、崩壊または分解する傾向を有さない広がった脈管を示す。
【0125】
実施形態5:プリント小葉の細胞毒性
線維芽細胞株(3T3)のMTTアッセイを実施して、1次バイオインクの細胞毒性を評価した。結果は、最大抽出物濃度における対照の%として示す[表14]。抽出物への曝露時間は24時間であり、1×10/mLの密度の細胞をプレーティングした。いずれのアッセイも、試験した細胞株への細胞毒性を示さなかった。
【0126】
【表14】
【0127】
実施形態6:膵島/細胞の機能性および生存能力に対する個々のバイオインク構成成分の効果
膵島の生存能力および機能性に対する1次バイオインクの個々の構成成分の効果を評価するために、グルコース刺激試験を実施した。
【0128】
- グリセロール
その特性に起因して、5%(w/v)および10%(w/v)のグリセロールをバイオインクに添加することにより、1次バイオインクのプリント性が改善した。膵島機能性に対するその効果を評価するために、グリセロールを5%または10%濃度で培養培地に添加し、膵島をその中で24時間インキュベートした[図8]。いずれの場合も、膵島の機能性は、培養培地単独の膵島と比較してはるかに優れている。
【0129】
- 市販のタンパク質補助剤
膵島の機能性および生存能力に対する細胞外マトリックスタンパク質の添加の効果を試験した。この目的で、0.007mg/mLのヒアルロン酸、0.041mg/mLのコラーゲンI、0.122mg/mLのコラーゲンIVおよび0.084mg/mLのラミニンからなる溶液を調製し、これを培養培地に添加した。実験を、高分子量または低分子量の2種類のヒアルロン酸を培養培地に添加し、膵島をその中で48時間インキュベートして、実施した[図9]。高(H)および低(L)分子量ヒアルロン酸変形例の両方において、膵島は、補助剤で処理していない膵島の機能性に匹敵するレベルの機能性を有した。
【0130】
- GelMA
膵島の生存能力が、プリントの適切な架橋を確実にするためのバイオインクの構成成分としてのメタクリル化ゼラチンにどのように影響され得るかを試験した。この目的で、7.8%v/vのGelMaを培養培地に添加し、膵島をその中で72時間インキュベートした[図10]。GelMaを添加した培地中で増殖させた膵島は、測定時間に依存して同様またはより多い量のインスリンを分泌し、これは、膵島の生存能力に対する、所与の濃度におけるこの化合物の好ましい効果を示した。
【0131】
- HAMA
膵島の生存能力が、プリントの適切な架橋を確実にするためのバイオインクの構成成分としてのメタクリル化ヒアルロン酸にどのように影響され得るかを試験した。この目的で、0.78%v/vのHAMAを培養培地に添加し、膵島をその中で48時間インキュベートした[図11]。HAMAを含む培地中で増殖させた膵島は、対照の膵島よりも少ない量のインスリンを分泌し、これは、膵島の生存能力に対する、試験濃度の化合物の有害効果を示し得る。
【0132】
- GelMAおよびHAMA
膵島の生存能力が、プリントの適切な架橋を確実にするためのバイオインクの構成成分としてのメタクリル化ゼラチンおよびメタクリル化ヒアルロン酸の混合物にどのように影響され得るかを試験した。この目的で、4.68%v/vのGelMaおよび0.312%v/vのHAMA(G3:2H)または3.12%v/vのGelMaおよび0.468%v/vのHAMA(G2:3H)を、培養培地に添加し、膵島をその中で72時間インキュベートした[図12]。G3:2H比の混合物を添加した培地中で増殖させた膵島は、測定時点に依存して、対照の膵島と比較してより多いまたはより少ない量のインスリンを分泌した。混合物のこの変形例は、膵島の生存能力に対して好ましい効果を有するようであった。比G2:3Hの混合物を添加した培地中で増殖させた膵島は、対照の膵島よりも大幅に少ないインスリンを分泌し、これは、膵島の生存能力に対する所与の濃度におけるGelMaおよびHAMAの混合物の有害効果を示した。
【0133】
- ECM粉末
脱細胞化によって得られたECMが、膵島の生存能力にどのように影響し得るかを試験した。この目的で、脱細胞化の間に3.33%v/vの切断または摩砕ECMを培養培地に添加し、膵島をその中で72時間インキュベートした[図13]。摩砕ECMを添加した培地中で増殖させた膵島は、24時間にわたって膵島によるインスリン分泌に好ましい効果を有した。切断ECMを添加した培地は、インスリン分泌が大幅に低下し、これは、膵島の生存能力に対する有害効果を示し得た。
【0134】
実施形態7:バイオプリンティング後の膵島の生存能力
3種のバイオインク:メタクリル化ゼラチン、メタクリル化ヒアルロン酸、メタクリル化ゼラチンおよびメタクリル化ヒアルロン酸の混合物を選択して、3Dバイオプリンティング後の膵島の生存能力を評価した。
【0135】
この目的で、7.8%v/vのGelMaまたは0.78%v/vのHAMAまたは4.68%v/vのGelMaおよび0.312%v/vのHAMAの混合物(MIX)を1次バイオインクに添加した。プリンティングの後、膵島を含む小葉を培養培地中で24時間インキュベートした[図14]。
【0136】
GelMaの添加を含有する1次バイオインクでプリントした小葉中の膵島は、プリンティングプロセス後に産生されたインスリンの最高レベルを示し、したがって、膵島の生存能力および機能性に対するこの構成成分の好ましい効果を示した。HAMA、ならびにGelMaおよびHAMAの混合物のバイオインクへの添加のいずれも、培地中で増殖させた対照の膵島(3Dバイオプリントしたものではなかった)と比較して、膵島によって産生されたインスリンのレベルのわずかな減少を誘発した。GelMaのみが添加されたバイオインクの結果は、所与のグルコース濃度まで膵島の最高活性を示したが、プリントされた構造は、最も安定性が低く、培養培地において最速で分解した。したがって、最良の解決法は、メタクリル化ゼラチンおよびメタクリル化ヒアルロン酸の混合物をバイオプリンティングプロセスに使用することであった。この組合せにより、生存可能な機能性膵島を保持する一方、適切なバイオプリンティングパラメーターおよびプリントモデルの安定性を維持することが可能になった。
【0137】
実施形態8:1次バイオインクにおけるdECMの保存された四次構造の確認
1次バイオインクを含むプリント構築物中のECMの四次構造の保存を視覚化し、確認するために、電子顕微鏡を使用したタンパク質構造の視覚化を、dECMの調製の個々の段階において(それをバイオプリンティングに使用するために)実施した(図15)。1次バイオインクを含むプリント構築物(EおよびF)は、可視コラーゲン繊維を有するコラーゲン四次構造を示した。
【0138】
参考文献:
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図1
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【国際調査報告】