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特表2022-541642ガラスセラミックを使用した光学収差補正レンズ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ガラスセラミックを使用した光学収差補正レンズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/02 20060101AFI20220915BHJP
   G02B 1/02 20060101ALI20220915BHJP
   C03C 4/10 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C03C10/02
G02B1/02
C03C4/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504674
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 US2020043016
(87)【国際公開番号】W WO2021016318
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】62/877,523
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504019881
【氏名又は名称】ロッキード マーティン コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】LOCKHEED MARTIN CORPORATION
【住所又は居所原語表記】6801 Rockledge Drive, Bethesda, MD 20817, U.S.A.
(71)【出願人】
【識別番号】510170730
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ セントラル フロリダ リサーチ ファウンデーション,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バレイン クララ アール.
(72)【発明者】
【氏名】カン ミュンクー
(72)【発明者】
【氏名】ラブ ガイ
(72)【発明者】
【氏名】リチャードソン キャサリーン エー.
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB18
4G062CC09
4G062DA01
4G062DB01
4G062DC01
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF02
4G062EA01
4G062EA10
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4G062EC01
4G062ED01
4G062EE01
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
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4G062FD02
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4G062FF01
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4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GB01
4G062GC02
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ04
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM02
4G062NN01
4G062NN15
4G062QQ20
(57)【要約】
本明細書に開示するのは、ガラスセラミックを使用した光学収差補正レンズ及びその製造方法である。光学収差補正レンズの製造方法は、少なくとも1つの熱処理を基礎組成物のベースガラス材料に施し、1つ以上の種のナノ結晶の体積充填率を有するガラスセラミック材料を形成することを備える。この工程は、ガラス組成物に依存せず、制御された核生成及び成長によって形成されるあらゆるガラスセラミック組成物を生成するために適用できる。いくつかの実施形態では、ナノ結晶の種及び/又は体積充填率は、結果として得られる屈折率及び分散特性を決定する。したがって、同一のベースガラス材料に異なる熱処理(例えば、核生成温度、成長温度、及び/又は、処理時間)を施すことで、異なる光学的特性(例えば、屈折率及び/又は分散特性)を有する異なるガラスセラミック材料が製造される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのレンズの少なくとも1つの収差を補正するように構成される1つ以上の種のナノ結晶の体積充填率を有するガラスセラミック材料を備える、光学収差補正レンズ。
【請求項2】
前記ガラスセラミック材料は、前記少なくとも1つの収差を補正するように構成される屈折率及び分散特性を有し、
前記少なくとも1つの収差は1つ以上の色収差を含む、
請求項1に記載の光学収差補正レンズ。
【請求項3】
前記ガラスセラミック材料は、化学的及び光学的に均質である、
請求項1に記載の光学収差補正レンズ。
【請求項4】
前記ガラスセラミック材料において、前記1つ以上の種のナノ結晶の体積充填率は均一である、
請求項3に記載の光学収差補正レンズ。
【請求項5】
前記ガラスセラミック材料は、赤外線波長を透過するように構成される赤外線材料を備える、
請求項1に記載の光学収差補正レンズ。
【請求項6】
前記赤外線材料は、短波長赤外線、中波長赤外線、又は長波長赤外線のうちの少なくとも1つの赤外線波長を透過するように構成される、
請求項5に記載の光学収差補正レンズ。
【請求項7】
前記1つ以上の種のナノ結晶の前記体積充填率は、短波長赤外線、中波長赤外線、又は長波長赤外線のうちの少なくとも1つの赤外線波長の波長帯の全体にわたって、1つ以上の色収差を補正するように構成される、
請求項6に記載の光学収差補正レンズ。
【請求項8】
請求項1に記載の前記少なくとも1つのレンズと、前記光学収差補正レンズとを備える、レンズアセンブリ。
【請求項9】
前記少なくとも1つのレンズは、対物レンズ、イメージャ、リイメージャ、又は望遠鏡を備える、
請求項8に記載のレンズアセンブリ。
【請求項10】
基礎組成物の第1の開始ベースガラス材料に第1の熱処理を施し、少なくとも1つの第1のレンズの少なくとも1つの第1の収差を補正するように構成される1つ以上の第1の種のナノ結晶の第1の体積充填率を有する第1のガラスセラミック材料を形成することを備える、
光学収差補正レンズの製造方法。
【請求項11】
前記第1のガラスセラミック材料は、前記少なくとも1つの第1の収差を補正するように構成される第1の屈折率及び第1の分散特性を有し、
前記少なくとも1つの第1の収差は、1つ以上の色収差を含む、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のガラスセラミック材料は、赤外線波長を透過するように構成される赤外線材料を含む、
請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記基礎組成物の前記第1の開始ベースガラス材料を作製することと、
前記第1の開始ベースガラス材料を焼きなますことと、をさらに備える、
請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の熱処理は核生成熱処理を備え、
前記核生成熱処理は、前記第1の開始ベースガラス材料の核生成を核生成温度で行い、ナノ種結晶を形成することを備える、
請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の熱処理は成長熱処理を備え、
前記成長熱処理は、1つ以上の種のナノ結晶を前記第1の開始ベースガラス材料内で成長温度で成長させ、前記1つ以上の第1の種のナノ結晶の前記第1の体積充填率を有する前記第1のガラスセラミック材料を形成することを備える、
請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記ガラスセラミック材料を処理して、前記少なくとも1つの第1のレンズの前記少なくとも1つの第1の収差を補正する前記光学収差補正レンズを形成することをさらに備える、
請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記光学収差補正レンズを前記少なくとも1つの第1のレンズとともに組み立てて、レンズアセンブリを形成することをさらに備える、
請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記基礎組成物の第2の開始ベースガラス材料に第2の熱処理を施し、少なくとも1つの第2のレンズの少なくとも1つの第2の収差を補正するように構成される1つ以上の第2の種のナノ結晶の第2の体積充填率を有する第2のガラスセラミック材料を形成することをさらに備える、
請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の熱処理は、前記第1の熱処理と同じ核生成熱処理と、前記第1の熱処理とは異なる成長熱処理とを備える、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の熱処理は、前記第1の熱処理とは異なる核生成熱処理と、前記第1の熱処理とは異なる成長熱処理とを備える、
請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のガラスセラミック材料は、前記少なくとも1つの第1の収差を補正するように構成される第1の屈折率及び第1の分散特性を有し、
前記少なくとも1つの第1の収差は1つ以上の色収差を含み、
前記第2のガラスセラミック材料は、前記第1のガラスセラミック材料の前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率、及び、前記第1のガラスセラミック材料の前記第1の分散特性とは異なる第2の分散特性を有する、
請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2019年7月23日に出願された「ガラスセラミックを使用した光学収差補正レンズ及びその製造方法」と題する米国仮出願第62/877,523号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容を本出願に参照により援用する。
[発明の分野]
実施形態は、光学収差補正レンズ、とりわけ、ガラスセラミックを使用した光学収差補正レンズ及びその製造方法に関する。
[背景]
例えば図1に示すように、典型的には、異なる分散特性(例えば、波長に応じた屈折率の変化)を有するレンズを組み合わせることで、収差(例えば、波長に関連する収差)を低減又は除去する。具体的には、図1は、色分散を生じるレンズ10により異なる色の光路12において発生した偏差がレンズ10を介して伝搬し、結像面14において色収差を生じさせることを説明している。
【0002】
例えば、クラウンガラス及びフリントガラスは、典型的には組み合わされて(例えば、凹型のフリントレンズと凸型のクラウンレンズとのアクロマティック二重レンズ(ダブレット)のように)色収差を補正する機能を果たす一対のガラスとなる。それぞれの素子は異なる屈折率及び分散特性を有し、それによりそれぞれのガラスの分散は互いに部分的に補正し合う。しかしながら、クラウンガラス及びフリントガラスは、典型的には、酸化物材料を基材として可視スペクトル内で機能し、赤外線で機能することや赤外線を透過させることはできない。
【0003】
赤外線スペクトルにおいても、全赤外線スペクトルにわたって、例えば短波長赤外線(SWIR)から長波長赤外線(LWIR)まで(例えば、1から12μmまで)、特に色収差を補正するために同様の材料が必要とされる。しかしながら、この全範囲にわたる透過が可能な材料はわずかである。その結果、このような材料の製造は複雑で高価になり得る。また、多数の赤外線材料のスケールアップに伴う複雑さ及びコストは、非常に増大し得る。さらに、赤外線光学系は収差の補正、例えば色収差及び単色収差(例えば、球面収差、コマ収差、非点収差等)等に多数のレンズを必要とする傾向にあり、そのため、こうしたシステムは大型で、嵩張り、扱い難いものになってしまう。
[発明の概要]
本明細書に開示するのは、ガラスセラミックを使用した光学収差補正レンズ、及びその製造方法である。当該光学収差補正レンズの製造方法は、少なくとも1つの熱処理を基礎組成物(すなわち、開始組成物)のベースガラス材料に施し、1つ以上の種のナノ結晶の体積充填率を有するガラスセラミック材料を形成することを備える。この工程はガラス組成物(例えば、酸化物、非酸化物等)に依存せず、制御された核生成及び成長によって形成されるあらゆるガラスセラミック組成物の生成に適用できる。いくつかの実施形態では、ナノ結晶の種及び/又は体積充填率が、結果として得られる屈折率及び分散特性(例えば、収斂性)を決定する。したがって、同一のベースガラス材料に異なる熱処理(例えば、核生成温度、成長温度、及び/又は、処理時間)を施すことで、異なる光学的特性(例えば、屈折率、及び/又は、分散特性)を有する異なるガラスセラミック材料が製造される。
【0004】
一実施形態において、光学収差補正レンズは、少なくとも1つのレンズの少なくとも1つの収差を補正するように構成される1つ以上の種のナノ結晶の体積充填率を有するガラスセラミック材料を備える。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック材料は、1つ以上の色収差を補正するように構成される屈折率及び分散特性を有する。
【0005】
別の実施形態において、光学収差補正レンズの製造方法は、第1の熱処理を基礎組成物の第1の開始ベースガラス材料に施し、少なくとも1つの第1のレンズの少なくとも1つの第1の収差を補正するように構成される1つ以上の種の第1のナノ結晶の第1の体積充填率を有する、第1のガラスセラミック材料を形成することを備える。
【0006】
当業者は、後述する実施形態の詳細な説明を添付の図面を参照して読むことで、本開示の範囲及び本開示のさらなる局面を理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本明細書に包含されその一部を構成する添付の図面は、本開示のいくつかの局面を説明するものであり、実施形態の説明と共に本開示の原理を説明するものである。
図1図1は、色収差の形成を説明するレンズの側面図である。
図2図2は、第1のレンズによって形成される色収差を補正する、第1のレンズと光学収差補正レンズとを備えるレンズアセンブリの側面図である。
図3図3は、光学収差補正レンズの製造方法を説明するフローチャートである。
図4図4は、核生成速度及び結晶成長速度を温度の関数として説明するグラフである。
図5図5は、成長温度の上昇に伴って上昇する結晶成長速度を説明するグラフである。
図6図6は、熱処理手順(例えば、一連の熱処理)を施したことによる、種々の中波長赤外線材料の屈折率の変化及びアッベ数の変化を説明するグラフである。
図7図7は、熱処理手順(例えば、一連の熱処理)を施したことによる、種々の長波長赤外線材料の屈折率の変化及びアッベ数の変化を説明するグラフである。
図8図8は、熱処理手順を重ねることで可能となる、中波長赤外線(MWIR)指数分散特性の、2つの例示的な組成物への適合性を説明する図である。
図9図9は、本開示の処理によって可能となる分散設計で得られる、屈折率の分散マップを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[発明の詳細な説明]
以下に記載する実施形態は、当業者が当該実施形態を実施することを可能にする情報を示すものであり、当該実施形態の最良の態様を示すものである。以下の記載を添付の図面に照らして読むことで、当業者は本開示の概念を理解し、本明細書において具体的には言及されていない当該概念の応用を理解するであろう。当該概念及びその応用は、本開示及び添付の特許請求の範囲に包含されると理解されるべきである。
【0009】
本明細書で議論される全てのフローチャートは、説明の目的で、必然的に一定の順序で議論されるが、明確に否定されない限り、実施形態はいかなる具体的な工程の順序にも限定されることはない。本明細書において、要素と共に用いられる序数、例えば「第1メッセージ」や「第2メッセージ」等は、同様又は同一の名称があった場合の区別をするためにのみ用いられるものであり、本明細書でこれを否定する言及がない限り、優先度、型式、重要度、又は他の特質を示唆するものではない。本明細書において数値と共に用いられる「約」という用語は、当該数値よりも10パーセント大きい値から10パーセント小さい値までの範囲のあらゆる数値を意味する。
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲において、要素に関して用いられる「1つの(”a”,”an”)」という冠詞は、明確に否定されない限り、当該要素が「1つ以上」であることを指す。本明細書及び特許請求の範囲において使用される「又は」という用語は、文脈上不可能でない限り包括的なものとして使用される。例えば、A又はB、という記述は、A又はB、或いは、AとBとの両方、を意味する。
【0011】
本明細書で開示するのは、ガラスセラミックを使用した光学収差補正レンズ及びその製造方法である。当該光学収差補正レンズの製造方法は、少なくとも1つの熱処理を基礎組成物の開始ベースガラス材料(すなわち、開始組成物)に施し、1つ以上の種のナノ結晶の体積充填率を有するガラスセラミック材料を形成することを備える。この工程はガラス組成物に依存せず、制御された核生成及び成長によって形成されるあらゆるガラスセラミック組成物を生成するために適用できる。いくつかの実施形態では、ナノ結晶の種及び/又は体積充填率は、結果として得られる屈折率及び分散特性(例えば、収斂性)を決定する。したがって、同一の開始ベースガラス材料に異なる熱処理(例えば、核生成温度、及び/又は、成長温度、及び/又は、それぞれの処理時間)を施すことで、異なる光学的特性(例えば、屈折率、及び/又は、分散特性)を有する異なるガラスセラミック材料が製造される。
【0012】
本明細書で使用される「体積充填率」とは、構成成分(例えば、ナノ種結晶、結晶、等)の体積を全体(例えば、構成成分及び残部のガラス)の体積で割ったものを指す。
【0013】
図2は、第1のレンズ18と、第1のレンズ18によって形成される収差(例えば、色収差、単色収差等)を補正(例えば、低減又は除去)する光学収差補正レンズ20(例えば、分散補正レンズ)とを備える、レンズアセンブリ16の側面図である。具体的には、例えば、第1のレンズ18が色分散を発生させ、第1のレンズ18を介して伝搬する異なる色の光路22における偏差が、結像面24(例えば、中間結像面、焦点面アレイ等)において光学収差(例えば、色収差)を生ずる。しかしながら、光学収差補正レンズ20は当該光路の方向を変え、異なる色の光路が、結像面24におけるあらゆる光学収差(例えば、色収差)を低減又は除去する方向に向くようにする。図示のとおり、図2の第1のレンズ18及び光学収差補正レンズ20は結像面24において、図1で用いられるレンズ10よりもはるかに小さい分散を生じる。
【0014】
いくつかの実施形態では、第1のレンズ18は、対物レンズ、イメージャ、リイメージャ、又は望遠鏡のうち、少なくとも1つを備える。いくつかの実施形態では、レンズアセンブリ16は、2枚のレンズを対にしたダブレットを備え、それにより、より多くの光学面、光学的厚さ、及び/又は、光学的構築を可能とする。いくつかの実施形態では、レンズアセンブリは、複数のレンズを有するレンズサブアセンブリを備える。このような構成においては、光学収差補正レンズ20は、レンズサブアセンブリの収差(例えば、色収差)を補正(例えば、低減又は除去)するように構成される。つまり、光学収差補正レンズ20は、偏向を抑制するように光路の向きを変更し、光路(例えば、異なる色の光路)が結像面24で交差するようにする。
【0015】
いくつかの実施形態では、ガラスセラミック材料は透明である(例えば、半透明である)。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック材料は、例えば、短波長赤外線(SWIR)、中波長赤外線(MWIR)、又は長波長赤外線(LWIR)のうちの少なくとも1つといった、(例えば、1から12ミクロンの間の)赤外線波長を透過するように構成される、赤外線材料を備える。
【0016】
光学収差補正レンズ20は、第1のレンズ18の分散によるものなど、1つ以上の収差(例えば、色収差又は単色収差(例えば、球面収差、コマ収差、非点収差等))を補正するように構成される、1つ以上の種のナノ結晶の(例えば、残りのガラスに対する)体積充填率を有するガラスセラミック材料を備える。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック材料は、複数のナノ結晶について均一の体積充填率を有する。つまり、体積充填率は、光学収差補正レンズ20の全体において概して同一である。ガラスセラミック材料は、屈折率及び分散特性(例えば、アッベ数、V値、部分分散、収斂性等)を含む光学的特性を有する。いくつかの実施形態では、分散特性は1つ以上の色収差を補正するように構成される。いくつかの実施形態では、1つ以上の種のナノ結晶の体積充填率は、例えば、SWIR、MWIR、又はLWIRのうちの少なくとも1つといった(例えば、1から12ミクロンの間の)赤外線波長の1つの波長帯の全体にわたって、1つ以上の色収差を補正するように構成される。ここに記載した工程及び機能は、別のスペクトル領域にも応用できる。
【0017】
図3は、光学収差補正レンズ20の製造方法を説明するフローチャートである。当該方法は、工程26において、基礎組成物の第1の開始ベースガラス材料を作製することを備える。当該方法は、工程28において、第1の開始ベースガラス材料を焼きなますことを備える。焼きなますことは、第1の開始ベースガラス材料を加熱し、次に、徐々に冷却して、内部応力を除去し、材料を硬化させることを含む。
【0018】
当該方法は、工程30において、基礎組成物の第1の開始ベースガラス材料に第1の熱処理を施し、少なくとも1つの第1のレンズの第1の収差(例えば、分散による色収差、単色収差等)を補正するように構成される1つ以上の第1の種のナノ結晶の(例えば、残部のガラスに対する)第1の体積充填率を有する第1のガラスセラミック材料を形成することを備える。この第1の熱処理は、火炉、電気、及び/又はレーザを使用して施されてもよい。いくつかの実施形態では、火炉は、第1のガラスセラミック材料を大量に製造する際の第1の熱処理を施すために使用される。
【0019】
いくつかの実施形態では、第1の熱処理は核生成工程を備え、核生成工程では、基礎組成物の第1の開始ベースガラス材料が加熱され、1つ以上の第1の種のナノ種結晶の第1の体積充填率を有する第1の結晶核を形成する。つまり、第1の熱処理は核生成熱処理を備え、核生成熱処理は、第1の開始ベースガラス材料の核生成を核生成温度及び/又は核生成時間で行いナノ種結晶を形成することを含む。いくつかの実施形態では、第1の熱処理はさらに成長工程を備え、成長行程においては、第1の結晶核が加熱され、少なくとも1つの第1のレンズの第1の収差を補正するように構成される1つ以上の第1の種のナノ結晶の第1の体積充填率を有する第1のガラスセラミック材料が形成される。つまり、第1の熱処理は成長熱処理を備え、成長熱処理は1つ以上の種のナノ結晶を第1の開始ベースガラス材料中で成長温度及び/又は成長時間で成長させ、1つ以上の種のナノ結晶の第1の体積充填率を有する第1のガラスセラミック材料を形成することを備える。
【0020】
いくつかの実施形態では、第1のガラスセラミック材料は、第1の色収差を補正するように構成される第1の屈折率及び第1の分散特性を有する。いくつかの実施形態では、第1のガラスセラミック材料は、化学的及び光学的に均質である。このような構成により、第1のガラスセラミック材料の大量生産が容易になる。いくつかの実施形態では、第1のガラスセラミック材料は、赤外線波長を透過するように構成される赤外線材料(例えば、赤外線複合材料)を含む。したがって、赤外線材料を大量生産することができる。
【0021】
当該方法は、行程32において、ガラスセラミック材料を処理して、少なくとも1つの第1のレンズの少なくとも1つの第1の収差を補正する光学収差補正レンズを形成することを備える。当該方法は、行程34において、光学収差補正レンズを少なくとも1つの第1のレンズとともに組み立てて、レンズアセンブリを形成することを備える。
【0022】
当該方法は、行程36において、基礎組成物の第2の開始ベースガラス材料に第2の熱処理を施し、少なくとも1つの第2のレンズの少なくとも1つの第2の収差(例えば、分散による色収差、単色収差等)を補正するように構成される1つ以上の第2の種のナノ結晶の第2の体積充填率を有する第2のガラスセラミック材料を形成することを備える。いくつかの実施形態では、第2の熱処理は、第1の熱処理と同じ核生成熱処理と、第1の熱処理とは異なる成長熱処理とを備える。いくつかの実施形態では、第2の熱処理は、第1の熱処理とは異なる核生成熱処理と、第1の熱処理とは異なる成長熱処理とを備える。いくつかの実施形態では、第2のガラスセラミック材料は、第1の屈折率とは異なる第2の屈折率、及び/又は、第1の分散特性とは異なる第2の分散特性を有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、第1の熱処理及び/又は第2の熱処理は、所望の光学収差補正に基づいて、所定の分散特性(例えば、屈折率及び/又は分散)を備えるガラスセラミック材料を製造するように予め構成されている。つまり、熱処理は、レンズ又はレンズアセンブリの既知の光学収差補正を前提として、こうした既知の光学収差を補正するように設計された分散特性を有する材料を製造するように、予め具体的に構成され得る。これは、材料の所定の特性、及び、こうした特性が温度(例えば、強度及び/又は持続時間)に応じてどのように変化するかを知ることで可能となる。このような特性には、結晶型の構造、核生成速度、及び/又は、結晶成長速度等が含まれてもよい。
【0024】
図4は、核生成速度及び結晶成長速度を、温度の関数として説明するグラフである。核生成速度は、ナノ種結晶の密度を決定する。結晶成長速度は、核生成工程中に形成される異なるナノ結晶の成長及び体積充填率を決定する。結果として、温度を制御することによって、核生成速度及び/又は結晶成長速度も制御可能である。いくつかの実施形態では、結晶成長速度の制御を利用して(また、同様の核生成速度を利用して)、所定の分散特性を有するガラスセラミック材料が製造される。結晶成長速度、ひいては、必要な熱処理時間を知ることによって、結果として得られる結晶相の体積充填率が定められる。
【0025】
図5は、成長温度の上昇に伴って上昇する結晶成長速度を説明する図である。図示のとおり、所定の型の結晶は、所定の温度において所定の体積充填率(例えば、密度)で形成される。その結果、温度を制御することによって、型及び/又は体積充填率も制御可能である。さらに、結晶の型及び/又は体積充填率は、ガラスセラミック材料の光学的特性に影響する。
【0026】
したがって、所定の材料及び/又は所定の種々の温度における結晶型の構造、核生成速度、及び/又は、結晶成長速度を知ることで、所定の分散特性を有するガラスセラミック材料を製造することが可能となる。
【0027】
図6は、様々な熱処理を施したことによる、種々の中波長赤外線材料の屈折率の変化、及び、アッベ数(材料の分散特性を表す数値)の変化を説明する図(つまり、アッベ図)である。この図には、複数のベース材料38と、熱処理の対象となる複数の材料40とが含まれる。熱処理は、組成物により異なるベースガラス材料の熱特性に依存し、得られるアッベ数は熱処理条件によって決定づけられる。
【0028】
図7は、様々な熱処理を施したことによる、種々の長波長赤外線材料の屈折率の変化、及びアッベ数の変化を説明する図(つまり、アッベ図)である。この図には、複数のベース材料42と、熱処理の対象となる複数の材料44とが含まれる。熱処理は、組成物により異なるベースガラス材料の熱特性に依存し、得られるアッベ数は熱処理条件によって決定づけられる。
【0029】
図6及び図7のそれぞれにおいて、光学的特性(例えば、屈折率及び/又はアッベ数)は、異なる熱処理(例えば、核生成温度及び/又は成長温度)を施すことによって変化する。つまり、例えば、熱処理の結果としての組成物のアッベ数は、対応する基礎組成物のアッベ数に対して変化する。さらに、同一の基礎組成物が、熱処理に応じて、異なるアッベ数を有する異なる組成物を生成する。その結果、1つの開始ベースガラス材料に特定の熱処理を施し、異なる複数の特定の光学的特性を達成することができる(開始ベースガラス材料の組成物の変更を必要とせずに、成果物であるガラスセラミック材料のレンズの色収差の補正(例えば、赤外線波長の補正)を行う等)。特定の熱処理は、ベースガラス組成物、及び、各ガラス材料それぞれの熱特性により異なる。
【0030】
本明細書に開示するシステム及び方法は、熱処理の対象となる材料の単一の点の解決策を拡げるものである。それは、ガラスセラミック組成物がガラス(非晶相)から種々の結晶化度(ガラスセラミック)へと変質することによるものであり、現在達成可能な単一の点の解決策を、拡張された線、円、及び/又は、楕円形の表現に拡大し、それは、AMTIRガラス、ショットIRGガラス、Umicore製材料、又は、ZnSe、ZnS、シリコン、ゲルマニウム、BaF等の結晶性材料等の単一のガラス組成物(例えば、赤外線ガラス組成物)を用いて達成できる。
【0031】
これらのガラスセラミック材料(例えば、赤外線ガラスセラミック材料)の幅広い指数の変動は、目的に応じて調整される。その結果、(多数の材料の代わりに)単一の材料を用いて、分散によるもの等、種々の収差(例えば、色収差又は単色収差)を補正することができる。いくつかの実施形態では、赤外線(IR)材料は、より良い指数及び分散の変動を伴い形成されてもよい。開始ベースガラス材料(例えば、ベースガラスマトリックス)内において結晶の異なる体積充填率及び/又は結晶の異なる種を作製するための目的に応じて調整されるセラミック化処理は、例えば、火炉において、電気的に、及び/又は、レーザを使って光学的に、達成できる。
【0032】
図8に、連続的な多重工程の熱処理手順の例、及びそれがMWIRにおける指数の分散の修正に与える影響を示す。図8は、核生成及び成長の、時間及び温度の個別の単一の手順、並びに、結果として得られる単一のガラス組成物中の分散を示す。組成物が変わると、時間、温度、及び分散値も変わる。つまり、結果として得られる製品は、時間、温度、及び/又は、組成物に依存する。さらに、特定の特徴を有する製品を得るために任意の工程で熱処理を止めることや、又は、異なる特徴を有する製品を得るためにさらなる工程を続けることができる。この目的に応じて調整されるセラミック化処理が、アッベ図における(通常連続的な)線状、円形状、及び/又は、楕円形状の領域を可能にする。特に、赤外線組成物を作製し最適化する製造コストが高いために市場で入手可能な組成物の数が非常に限られ得る赤外線用途において、効果的なことに、これによって、レンズシステムの設計に使用され、対にされ得る材料の数が増す。
【0033】
いくつかの実施形態では、ベース材料はGeSe-AsSe-PbSe(GAP-Se)ガラスを含み、GAP-Seガラスは熱処理手順によって3つのIR帯(つまり、SWIR、MWIR、LWIR)全てにおける色補正に利用することができる。これは、ベースガラス値の修正(核生成、成長時間、及び/又は、温度のいずれかの変化)によって、ガラスセラミック材料のアッベ数、及び/又は、屈折率が変更されることを意味する。
【0034】
いくつかの実施形態では、PbSeが約25から30mol%のレベルになるまでPbSeを追加すると、SWIR、MWIR、及び、LWIRの範囲におけるアッベ数が減少する。Pbがペアレントガラスのマトリックス中の優占種であるとき、アッベ数は顕著に減少(分散はより上昇)し得る。熱処理によって分散はさらに減少し、形成される結晶の型に影響を受ける。GAP-Seガラス系におけるPb含有量の変動により、光学系設計者が色補正のために選択する様々なアッベ数が提供されてもよい。近軸領域では、2枚のレンズのアッベ数間の差が最大化されるとき、ダブレットによって軸方向の色収差が軽減されてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態では、制御された核生成及び成長によって、所望のプロファイルを作製することができる。例えば、いくつかの実施形態では、急冷及び核生成の際の定量化及び誘導される光学的な修正及び機能のため、PbSeが20mol%のGAP-Seガラスに、火炉内で(例えば、225.6℃から263.2℃の間で)熱処理(成長)が施される。いくつかの実施形態では、熱処理手順は、屈折率約0.2、及び、MWIRアッベ数約35を誘導する。いくつかの実施形態では、熱処理手順によって0.1から0.9の間、0.1から0.5の間、0.1から0.3の間の屈折率が得られる。いくつかの実施形態では、アッベ数は1から50の間、10から40の間、30から40の間である。
【0036】
図9は、本明細書に開示する処理による分散設計を説明する屈折率分散マップを示す。具体的には、屈折率分散マップ46は、カルコゲニド、III-V及びIV半導体、II-VI半導体、フッ化物、酸化物、並びに、ハロゲン化アルカリを含む、光学材料及びIR材料の群を含む。2次元空間における2つの直角方向に沿った指数分散の曲率を正確に表すために、当該マップはアッベ数及び部分屈折率によって構成される。
【0037】
アッベ数は以下のように計算されてもよい。
【0038】
【数1】
【0039】
【数2】
【0040】
【数3】
λは、種々の波長における材料の実効屈折率に相当する。
【0041】
MWIR部分屈折率は、以下の方程式によって定められる。
【0042】
【数4】
当該マップは、各材料群が、本質的に同様の電子構造及び、各郡内で結果として生じる光物質の相互作用によって決まる特定の位置によって特徴づけられることを示す。しかしながら、材料系の大部分が単一のVMWIR-PMWIRの特徴を有し、各材料が、分散の非常に狭い範囲に結び付けられることを示している。これらの均質な光学材料と異なり、本明細書に示すGAP-Se系の分散特性は、GAP-Se系をガラスセラミック光学複合物質に変質させることによって簡単に調整することができる。結晶相形成の範囲が変動することで、複合物質の実効屈折率及び分散を変更させることが可能となる。
【0043】
小区分48は、GAP-Seの分散特性の熱処理時の調整性を示すものであり、多角形は、20mol%及び40mol%のPbSeを含有する2つの例示的な複合物質に施した熱処理手順によって可能となったVMWIR-PMWIR値の範囲に相当する。いくつかの実施形態では、代替的な手順でこの多角形を平行移動又は拡大させてもよく、分散特性の調整性をさらに拡大してもよい。
【0044】
本明細書で議論される、目的に応じて調整されるセラミック化処理は、様々な屈折率及び分散値を提供可能な単一の組成物を提供する。セラミック化処理はベースガラス作製処理よりもコスト及び時間がかからないため、多数の組成物を作製するコストが軽減される。目的に応じて調整されるセラミック化処理は、システム設計(例えば、赤外線システム)で使用可能な材料の組み合わせの選択肢の拡大、及び/又は、このようなシステム設計のさらなる小型化(例えば、より少ない光学素子の使用)を可能にする。これにより、いくつかの実施形態では、赤外線システムの寸法、重量、出力、及び/又は、コストが削減され得る。また、GRIN処理に続くGRINコンポーネントとすることもできる。
【0045】
多数の組成物(例えば、GAP-Se0、GAP-Se10、GAP-Se20、GAP-Se30、及び、GAP-Se40)を作成する代わりに、本開示のシステム及び方法は単一の材料(例えば、開始ベースガラス材料)を大量に製造し、次いで、その単一の大量の材料の屈折率及び/又は分散特性(例えば、アッベ数)を変化させることを可能にする。これにより、光学系設計者にとって(例えば、短波長、中波長、及び/又は、長波長アクロマートを達成する)自由度が増す。つまり、たとえば、単一の大量の材料を製造することができ、次に、それに1000通りの異なる熱処理を施すことができ、1000通りの異なるガラスセラミック材料を製造し、それぞれが異なる光学的特性(例えば、異なる屈折率及び/又は分散特性の組み合わせ)、及び/又は、同一又は同様の熱機械特性を有するものとすることができる。熱処理(例えば、均一な熱処理)は大量の材料全てに対して施される。いくつかの実施形態では、大量の材料は化学的及び光学的に均質であり、ガラスセラミック材料は化学的及び光学的に不均一である。
【0046】
Adv.Funct.Mater.2019,29,1902217に掲載の、シスケンらによる「Infrared Glass-Ceramics with Multidispersion and Gradient Refractive Index Attributes」を参照により本明細書に援用する。また、Adv. Optical Mater.2020,8,2000150に掲載の、カンらによる「Monolithic Chalcogenide Optical Nanocomposites Enable Infrared System Innovation:Gradient Refractive Index Optics」を参照により本明細書に援用する。
【0047】
当業者は本開示の好適な実施形態の改善及び修正を理解するであろう。これら改善及び修正は全て、本明細書及び以下の特許請求の範囲に開示された概念の範囲内で検討される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】