(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】急性神経炎症傷害を処置するための方法および薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220915BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220915BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220915BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220915BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P9/10
A61P25/00
A61P29/00
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022505209
(86)(22)【出願日】2020-07-24
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 US2020043619
(87)【国際公開番号】W WO2021016601
(87)【国際公開日】2021-01-28
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522031607
【氏名又は名称】インプリシット・バイオサイエンス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMPLICIT BIOSCIENCE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ジーゲラー,ブライアン ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】クロウ,デイビッド ティ
(72)【発明者】
【氏名】レッドリック,ギャリー レウェリン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA15
4C085AA16
4C085BB11
4C085BB43
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、一般に脳卒中(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中)、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血および脳内出血などの急性神経炎症傷害を処置するための方法および薬剤に関する。特に、本発明は、急性神経炎症傷害の処置のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象における急性神経炎症傷害を処置する方法であって、対象に有効量のCD14アンタゴニスト抗体を投与することを含み、そのことからなりまたは本質的にそのことからなり、ここで、抗体が対象に傷害後48時間までに投与されるものである、方法。
【請求項2】
ヒト対象における急性神経炎症傷害を処置する方法であって、対象に有効量のCD14アンタゴニスト抗体を投与することを含み、そのことからなりまたは本質的にそのことからなり、ここで、抗体が単独で投与されるものである、方法。
【請求項3】
ヒト対象における急性神経炎症傷害を処置する方法であって、対象に有効量のCD14アンタゴニスト抗体を投与することを含み、そのことからなりまたは本質的にそのことからなり、ここで、抗体は単回投与として投与されるものである、方法。
【請求項4】
ヒト対象における急性神経炎症傷害を処置する方法であって、対象に有効量のCD14アンタゴニスト抗体を投与することを含み、そのことからなりまたは本質的にそのことからなり、ここで、CD14アンタゴニスト抗体が
(i)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSFGNSFMH[配列番号7](3C10 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RAANLES[配列番号8](3C10 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSYEDPWT[配列番号9](3C10 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SYAMS[配列番号10](3C10 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列SISSGGTTYYPDNVKG[配列番号11](3C10 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GYYDYHY[配列番号12](3C10 H-CDR3)を含むものを含む抗体;
(ii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSYVNSFLH[配列番号13](28C5 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RASNLQS[配列番号14](28C5 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSNEDPTT[配列番号15](28C5 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SDSAWN[配列番号16](28C5 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列YISYSGSTSYNPSLKS[配列番号17](28C5 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GLRFAY[配列番号18](28C5 H-CDR3)を含むものを含む抗体;および
(iii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASQDIKNYLN[配列番号19](18E12 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列YTSRLHS[配列番号20](18E12 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QRGDTLPWT[配列番号21](18E12 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列NYDIS[配列番号22](18E12 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列VIWTSGGTNYNSAFMS[配列番号23](18E12 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GDGNFYLYNFDY[配列番号24](18E12 H-CDR3)を含むものを含む抗体
から選択されるものである、方法。
【請求項5】
抗体が傷害後48時間までに対象に投与される、請求項2~4の何れかの方法。
【請求項6】
抗体が、傷害後12時間、18時間または24時間後までに対象に投与される、請求項1~5の何れかの方法。
【請求項7】
抗体が、傷害後2~48時間、4~48時間、6~48時間、2~24時間、4~24時間、6~24時間、2~18時間、4~18時間、6~18時間、2~12時間、4~12時間または6~12時間までに対象に投与される、請求項1~6の何れかの方法。
【請求項8】
抗体が単回投与として投与される、請求項1、2および4~7の何れかの方法。
【請求項9】
抗体が
(i)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSFGNSFMH[配列番号7](3C10 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RAANLES[配列番号8](3C10 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSYEDPWT[配列番号9](3C10 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SYAMS[配列番号10](3C10 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列SISSGGTTYYPDNVKG[配列番号11](3C10 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GYYDYHY[配列番号12](3C10 H-CDR3)を含むものを含む抗体;
(ii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSYVNSFLH[配列番号13](28C5 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RASNLQS[配列番号14](28C5 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSNEDPTT[配列番号15](28C5 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SDSAWN[配列番号16](28C5 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列YISYSGSTSYNPSLKS[配列番号17](28C5 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GLRFAY[配列番号18](28C5 H-CDR3)を含むものを含む抗体;および
(iii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASQDIKNYLN[配列番号19](18E12 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列YTSRLHS[配列番号20](18E12 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QRGDTLPWT[配列番号21](18E12 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列NYDIS[配列番号22](18E12 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列VIWTSGGTNYNSAFMS[配列番号23](18E12 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GDGNFYLYNFDY[配列番号24](18E12 H-CDR3)を含むものを含む抗体
から選択される、請求項1、2、3および5~8の何れかの方法。
【請求項10】
抗体が
(i)配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSFGNSFMHWYQQKAGQPPKSSIYRAANLESGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYFCQQSYEDPWTFGGGTKLGNQ[配列番号1](3C10 VL)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVLドメイン;および
配列LVKPGGSLKLSCVASGFTFSSYAMSWVRQTPEKRLEWVASISSGGTTYYPDNVKGRFTISRDNARNILYLQMSSLRSEDTAMYYCARGYYDYHYWGQGTTLTVSS[配列番号2](3C10 VH)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVHドメイン
を含む抗体;
(ii)配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQS GIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYCCQQSNEDPTTFGGGTKLEIK[配列番号3](28C5 VL)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVLドメイン;および
配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSA[配列番号4](28C5 VH)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVHドメイン
を含む抗体;および
(iii)配列QTPSSLSASLGDRVTISCRASQDIKNYLNWYQQPGGTVKVLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQRGDTLPWTFGGGTKLEIK[配列番号5](18E12 VL)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVLドメイン;および
配列LESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLTNYDISWIRQPPGKGLEWLGVIWTSGGTNYNSAFMSRLSITKDNSESQVFLKMNGLQTDDTGIYYCVRGDGNFYLYNFDYWGQGTTLTVSS[配列番号6](18E12 VH)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVHドメインを含む抗体
から選択される、請求項1~9の何れかの方法。
【請求項11】
抗体がヒト化またはキメラである、請求項1~10の何れかの方法。
【請求項12】
抗体が軽鎖および重鎖を含み、ここで、
軽鎖がアミノ酸配列METDTILLWVLLLWVPGSTGDIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC[配列番号25]を含み;そして
重鎖がアミノ酸配列MKVLSLLYLLTAIPGILSDVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK[配列番号26]を含む、
請求項1~11の何れかの方法。
【請求項13】
抗体がIC14抗体である、請求項1~12の何れかの方法。
【請求項14】
急性神経炎症傷害が脳卒中(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中)、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血および脳内出血から選択される、請求項1~13の何れかの方法。
【請求項15】
ヒト対象における急性神経炎症傷害の処置のための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用であって、ここで、抗体が傷害後48時間までに対象に投与されるものである、使用。
【請求項16】
ヒト対象における急性神経炎症傷害の処置のための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用であって、ここで、医薬が、対象への全身投与のために製剤化され、そして、医薬が他の活性剤を含まず、医薬が対象に単独で投与されるものである、使用。
【請求項17】
ヒト対象における急性神経炎症傷害の処置のための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用であって、ここで、医薬が、単回投与として対象に投与されるものである、使用。
【請求項18】
ヒト対象における急性神経炎症傷害の処置のための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用であって、ここで、抗体が
(i)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSFGNSFMH[配列番号7](3C10 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RAANLES[配列番号8](3C10 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSYEDPWT[配列番号9](3C10 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SYAMS[配列番号10](3C10 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列SISSGGTTYYPDNVKG[配列番号11](3C10 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GYYDYHY[配列番号12](3C10 H-CDR3)を含むものを含む抗体;
(ii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSYVNSFLH[配列番号13](28C5 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RASNLQS[配列番号14](28C5 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSNEDPTT[配列番号15](28C5 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SDSAWN[配列番号16](28C5 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列YISYSGSTSYNPSLKS[配列番号17](28C5 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GLRFAY[配列番号18](28C5 H-CDR3)を含むものを含む抗体;および
(iii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASQDIKNYLN[配列番号19](18E12 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列YTSRLHS[配列番号20](18E12 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QRGDTLPWT[配列番号21](18E12 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列NYDIS[配列番号22](18E12 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列VIWTSGGTNYNSAFMS[配列番号23](18E12 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GDGNFYLYNFDY[配列番号24](18E12 H-CDR3)を含むものを含む抗体
から選択されるものである、使用。
【請求項19】
抗体が軽鎖および重鎖を含み、ここで、
軽鎖がアミノ酸配列METDTILLWVLLLWVPGSTGDIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC[配列番号25]を含み;そして
重鎖がアミノ酸配列MKVLSLLYLLTAIPGILSDVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK[配列番号26]を含むものである、請求項15~18の何れかの使用。
【請求項20】
抗体がIC14抗体である、請求項15~19の何れかの使用。
【請求項21】
医薬が傷害後48時間までに対象に投与される、請求項15~20の何れかの使用。
【請求項22】
医薬が、傷害後12時間、18時間または24時間までに対象に投与される、請求項14~21の何れかの使用。
【請求項23】
抗体が、傷害後2~48時間、4~48時間、6~48時間、2~24時間、4~24時間、6~24時間、2~18時間、4~18時間、6~18時間、2~12時間、4~12時間または6~12時間までに対象に投与される、請求項14~22の何れかの使用。
【請求項24】
医薬が、単回投与として投与される、請求項15、16および18~23の何れかの使用。
【請求項25】
急性神経炎症傷害が脳卒中(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中)、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血および脳内出血から選択される、請求項15~24の何れかの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年7月25日出願の、「Methods and agents for treating acute neuroinflammatory injury」なる名称のオーストラリア仮出願2019902642に基づく優先権を主張し、その内容を引用により全体として本明細書に包含させる。
【0002】
本発明は、電子形式の配列表と共に提出される。配列表は、229752008140SeqList.TXTなる名称で、2020年7月24日に作成し、15,258バイトサイズである。電子形式の配列表の情報を、引用により全体として本明細書に包含させる。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般に、脳卒中(例えば虚血性脳卒中または出血性脳卒中)、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血および脳内出血などの急性神経炎症傷害を処置するための方法および薬剤に関する。特に、本発明は、急性神経炎症傷害の処置のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
脳卒中は、世界的に死亡および能力障害の筆頭原因であり、先進国における最上位神経疾患負荷として挙げられている。脳卒中は、脳血管の閉塞または破裂により引き起こされる。脳血流の妨害は、神経傷害および不可逆性長期知覚運動障害に至る。この損傷は、エネルギー枯渇、興奮毒性、梗塞周囲脱分極、炎症およびプログラム細胞死により引き起こされる。脳卒中には、一般的に、(i)脳への血流の一過性または永続性閉塞により引き起こされ、脳卒中症例の85%を占める虚血性脳卒中および(ii)血管破裂により引き起こされ、残りの症例の大部分を占める出血性卒中の2タイプがある。虚血性脳卒中の最も一般的原因は、大脳を損傷させる、中大脳動脈(内頸動脈下流の頭蓋内動脈)の閉塞である。このような損傷は、片麻痺、片側感覚消失および、損傷した脳半球に依存して、言語または視空間欠損をもたらす。出血性卒中罹患者の約50%しか生存せず、虚血性脳卒中の85%は生存する。しかしながら、完全回復はわずか10%程度であり、脳卒中患者の大部分は、身体的、精神的および社会的健全性についての長期の衰弱性の機能障害が持続する。
【0005】
脳卒中をこのような死亡および能力障害の筆頭原因とする主な因子の一つは、適当かつ有効な処置の不足である。再開通以外、脳卒中の急性相の他の処置はない。虚血性脳卒中を有する患者に対して、脳の患部への血流を回復させる早期処置は、損傷の程度を限定的とし、患者が回復する機会を増加させることができる。この処置は、脳からの凝血塊の物理的除去を含む血栓溶解(例えば組織プラスミノーゲン活性化因子の静脈内投与による)または血栓除去を含み得る。症状出現4.5時間後までに適用された血栓溶解は、回復を改善することが示されているが、大部分病院への入院の遅れまたは発症時間不明により、この処置から利益を受ける脳卒中罹患者はほとんどいない。また、脳卒中後3時間を超えて適用される血栓溶解には、出血の顕著なリスクがあるとの事実も懸念事項である。それ故に、血栓溶解が一般に適用され得るのは、脳卒中後3~4.5時間の短い期間である。それ故に、入院を許可された脳卒中罹患者のうち血栓溶解を受け得るのは15%未満と推定される。血栓除去を受け得る脳卒中罹患者のパーセンテージはさらに低く、10%程度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、脳卒中および他の急性神経炎症傷害の処置のためのさらなる薬剤および方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明は、部分的に、分化抗原群14(CD14)の、抗CD14アンタゴニスト抗体の投与(例えば全身投与)によるなどのターゲティングが、脳卒中を処置し、梗塞巣サイズ、機能低下、神経障害および浮腫などの脳卒中に付随する症状を予防、低減または軽快できるとの驚くべき発見に基づく。驚くべきことに、ここに示されるとおり、例えば、脳卒中6時間後の、単回だけの投与によるアンタゴニスト抗体でのCD14ターゲティングが、神経障害、機能低下および梗塞巣サイズを有意に低減させる。逆に、7日間にわたるなどの長期レジメンはあまり有効ではない。
【0008】
脳卒中によるなどの低酸素ニューロンは、ミクログリア、単球および末梢マクロファージ(自然免疫細胞)に位置するトール様受容体(TLR)およびその共受容体CD14を活性化する、多くのタイプの傷害関連分子パターン(DAMP)を産生する。DAMP/CD14/TLR軸の結合は、ミクログリア/マクロファージを活性化し、損傷に介在する炎症促進性サイトカイン放出を促進する。各々脳卒中アウトカムに寄与する複数のTLRが、複数のDAMPにより、ニューロン傷害において活性化される。しかしながら、これらDAMP/TLR相互作用の多くは、有効なシグナル伝達のためにCD14との共活性化を必要とする。理論に拘束されないが、急性相(例えば傷害48時間後まで)または早期亜急性相(例えば傷害4日後まで)におけるCD14のターゲティングは、脳卒中または他の急性神経炎症傷害後のDAMP駆動神経炎症を制御し、それにより脳卒中または他の急性神経炎症傷害の症状を低減することが提唱される。逆に、後期亜急性相または慢性相(すなわち傷害4日後以降)は、CD14+免疫細胞がこの期間の神経修復および神経再生の重要な寄与因子であり得るため、CD14を標的とするのは望ましくない可能性がある。
【0009】
しかしながら、脳卒中または他の急性神経炎症傷害の状況における抗CD14アンタゴニスト抗体でのDAMP/CD14 TLR軸減弱のアウトカムは、ここに示されるとおり、今まで公表された研究の視野では、全く予測不可能であった。例えば、遺伝子破壊によるCD14の修飾は、脳卒中のマウスモデルで梗塞巣を大きくし、アウトカムを悪化させることが示されていた(Janova et al., Glia, 2016, 64, 635-649)。
【0010】
抗CD14アンタゴニスト抗体の、脳卒中後6時間の単回だけの投与が有効であることは驚くべきことであるだけでなく、有意な臨床的示差を有する。大部分の脳卒中患者は、脳卒中後、6~12時間まで診断されない。それ故に、最も早い脳卒中介入は、脳卒中後、少なくとも6時間で効果的でなければならない。現在の血栓溶解処置は、脳卒中後3~4.5時間以内しか、この期間後の脳出血の可能性のため、使用できない。脳卒中後6時間以上有効である抗CD14アンタゴニスト抗体の使用は、それ故に脳卒中の現在の処置に対する相当な臨床的改善を意味し、さらに低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血および脳内出血などの他の急性神経炎症傷害に対する新規処置の可能性を意味する。
【0011】
従って、ある態様において、本発明は、ヒト対象における急性神経炎症傷害を処置する方法であって、対象に有効量のCD14アンタゴニスト抗体を投与することを含み、そのことからなりまたは本質的にそのことからなり、ここで、抗体が対象に傷害48時間後までに投与されるものである、方法を提供する。
【0012】
他の態様において、本発明は、ヒト対象における急性神経炎症傷害を処置する方法であって、対象に有効量のCD14アンタゴニスト抗体を投与することを含み、そのことからなりまたは本質的にそのことからなり、ここで、抗体が単独で投与されるものである、方法を提供する。ある実施態様において、抗体は傷害48時間後までに対象に投与される。
【0013】
本発明の他の態様は、対象に有効量のCD14アンタゴニスト抗体を投与することを含み、そのことからなりまたは本質的にそのことからなる、ヒト対象における急性神経炎症傷害の処置を提供し、ここで、抗体は単回投与として投与される。ある実施態様において、抗体は傷害48時間後までに対象に投与される。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、ヒト対象における急性神経炎症傷害を処置する方法であって、対象に有効量のCD14アンタゴニスト抗体を投与することを含み、そのことからなりまたは本質的にそのことからなり、ここで、CD14アンタゴニスト抗体は、(i)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSFGNSFMH[配列番号7](3C10 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RAANLES[配列番号8](3C10 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSYEDPWT[配列番号9](3C10 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SYAMS[配列番号10](3C10 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列SISSGGTTYYPDNVKG[配列番号11](3C10 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GYYDYHY[配列番号12](3C10 H-CDR3)を含むものを含む抗体;(ii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSYVNSFLH[配列番号13](28C5 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RASNLQS[配列番号14](28C5 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSNEDPTT[配列番号15](28C5 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SDSAWN[配列番号16](28C5 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列YISYSGSTSYNPSLKS[配列番号17](28C5 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GLRFAY[配列番号18](28C5 H-CDR3)を含むものを含む抗体;および(iii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASQDIKNYLN[配列番号19](18E12 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列YTSRLHS[配列番号20](18E12 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QRGDTLPWT[配列番号21](18E12 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列NYDIS[配列番号22](18E12 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列VIWTSGGTNYNSAFMS[配列番号23](18E12 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GDGNFYLYNFDY[配列番号24](18E12 H-CDR3)を含むものを含む抗体から選択される。ある実施態様において、抗体は傷害48時間後までに対象に投与される。
【0015】
上記方法の具体的実施態様において、抗体は、傷害後12時間、18時間または24時間までに対象に投与される。例えば、抗体は、傷害後2~48時間、4~48時間、6~48時間、2~24時間、4~24時間、6~24時間、2~18時間、4~18時間、6~18時間、2~12時間、4~12時間または6~12時間に対象に投与され得る。さらなる実施態様において、抗体は、単回投与として投与される。
【0016】
ある実施態様において、抗体は、(i)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSFGNSFMH[配列番号7](3C10 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RAANLES[配列番号8](3C10 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSYEDPWT[配列番号9](3C10 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SYAMS[配列番号10](3C10 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列SISSGGTTYYPDNVKG[配列番号11](3C10 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GYYDYHY[配列番号12](3C10 H-CDR3)を含むものを含む抗体;(ii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSYVNSFLH[配列番号13](28C5 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RASNLQS[配列番号14](28C5 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSNEDPTT[配列番号15](28C5 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SDSAWN[配列番号16](28C5 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列YISYSGSTSYNPSLKS[配列番号17](28C5 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GLRFAY[配列番号18](28C5 H-CDR3)を含むものを含む抗体;および(iii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASQDIKNYLN[配列番号19](18E12 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列YTSRLHS[配列番号20](18E12 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QRGDTLPWT[配列番号21](18E12 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列NYDIS[配列番号22](18E12 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列VIWTSGGTNYNSAFMS[配列番号23](18E12 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GDGNFYLYNFDY[配列番号24](18E12 H-CDR3)を含むものを含む抗体から選択される。
【0017】
例えば、抗体は、(i)配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSFGNSFMHWYQQKAGQPPKSSIYRAANLESGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYFCQQSYEDPWTFGGGTKLGNQ[配列番号1](3C10 VL)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVLドメイン;および配列LVKPGGSLKLSCVASGFTFSSYAMSWVRQTPEKRLEWVASISSGGTTYYPDNVKGRFTISRDNARNILYLQMSSLRSEDTAMYYCARGYYDYHYWGQGTTLTVSS[配列番号2](3C10 VH)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVHドメインを含む抗体;(ii)配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQS GIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYCCQQSNEDPTTFGGGTKLEIK[配列番号3](28C5 VL)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVLドメイン;および配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSA[配列番号4](28C5 VH)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVHドメインを含む抗体;および(iii)配列QTPSSLSASLGDRVTISCRASQDIKNYLNWYQQPGGTVKVLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQRGDTLPWTFGGGTKLEIK[配列番号5](18E12 VL)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVLドメイン;および配列LESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLTNYDISWIRQPPGKGLEWLGVIWTSGGTNYNSAFMSRLSITKDNSESQVFLKMNGLQTDDTGIYYCVRGDGNFYLYNFDYWGQGTTLTVSS[配列番号6](18E12 VH)を含む、それからなるまたは本質的にそれからなるVHドメインを含む抗体から選択され得る。具体的実施態様において、抗体はヒト化またはキメラである。一例として、抗体は軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖はアミノ酸配列METDTILLWVLLLWVPGSTGDIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC[配列番号25]を含み;そして重鎖はアミノ酸配列MKVLSLLYLLTAIPGILSDVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK[配列番号26]を含む。具体例において、抗体はIC14抗体である。
【0018】
上記方法において、急性神経炎症傷害は、例えば、脳卒中(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中)、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血および脳内出血から選択され得る。
【0019】
ここでまた提供されるのは、ヒト対象における急性神経炎症傷害(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中などの脳卒中、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血または脳内出血)の処置のための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用であって、ここで、抗体は傷害後48時間までに対象に投与される、使用である。
【0020】
他の態様において、提供されるのは、ヒト対象における急性神経炎症傷害(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中などの脳卒中、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血または脳内出血)の処置のための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用であって、ここで、医薬は、対象への全身投与のために製剤化され、そして、医薬はさらなる活性剤を含まない。ある実施態様において、医薬は傷害後48時間までに対象に投与される、使用である。
【0021】
本発明の他の態様は、ヒト対象における急性神経炎症傷害の処置のための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用を提供し、ここで、医薬は、単回投与として対象に投与される。ある実施態様において、医薬は傷害後48時間までに対象に投与される。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、ヒト対象における急性神経炎症傷害(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中などの脳卒中、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血または脳内出血)の処置のための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用を提供し、ここで、抗体は、(i)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSFGNSFMH[配列番号7](3C10 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RAANLES[配列番号8](3C10 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSYEDPWT[配列番号9](3C10 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SYAMS[配列番号10](3C10 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列SISSGGTTYYPDNVKG[配列番号11](3C10 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GYYDYHY[配列番号12](3C10 H-CDR3)を含むものを含む抗体;(ii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSYVNSFLH[配列番号13](28C5 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RASNLQS[配列番号14](28C5 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSNEDPTT[配列番号15](28C5 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SDSAWN[配列番号16](28C5 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列YISYSGSTSYNPSLKS[配列番号17](28C5 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GLRFAY[配列番号18](28C5 H-CDR3)を含むものを含む抗体;および(iii)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASQDIKNYLN[配列番号19](18E12 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列YTSRLHS[配列番号20](18E12 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QRGDTLPWT[配列番号21](18E12 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列NYDIS[配列番号22](18E12 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列VIWTSGGTNYNSAFMS[配列番号23](18E12 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GDGNFYLYNFDY[配列番号24](18E12 H-CDR3)を含むものを含む抗体から選択される。ある実施態様において、医薬は傷害後48時間までに対象に投与される。
【0023】
本発明の使用の一例として、抗体は軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖はアミノ酸配列METDTILLWVLLLWVPGSTGDIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC[配列番号25]を含み;そして重鎖はアミノ酸配列MKVLSLLYLLTAIPGILSDVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK[配列番号26]を含む。具体例において、抗体はIC14抗体である。
【0024】
上記使用のある実施態様において、医薬は、傷害後12時間、18時間または24時間までに対象に投与される。具体例において、医薬は、傷害後2~48時間、4~48時間、6~48時間、2~24時間、4~24時間、6~24時間、2~18時間、4~18時間、6~18時間、2~12時間、4~12時間または6~12時間に対象に投与される。他の例において、医薬は、単回投与として投与される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明の実施態様を、単なる非限定的例として、以下の図面を参照して、ここに記載する。
【0026】
【
図1】抗CD14抗体がLPS依存性サイトカイン産生を遮断することを示す。(A)IC14で前処置されたヒトミクログリア(一ドナーから)は、LPS刺激に応答するTNFαの低減を示す。(B)IC14で前処置したヒト末梢血単核細胞は、LPS刺激に応答するIL-6の用量依存的減少を示す。(C)抗CD14 biG53 mAbまたはそのF(Ab’)
2で前処置されたマウスRAW264.7細胞は、LPS刺激に応答TNFαの用量依存的減少を示す。
【0027】
【
図2】マウスにおける機能低下に対する脳卒中6時間後単回投与または7日間連日投与としての抗CD14での処置の効果を示すグラフ表示である。各々30分間中大脳動脈閉塞術(MCAO)後24時間~7日間評価する、(A)体のねじれ、前肢屈曲、毛の状態、体重減少および発声;ワイアからの懸垂を維持する能力;および加速するロータロッドに留まる能力に対する抗CD14 F(Ab’)
2処置の効果。(A)体のねじれ、前肢屈曲、毛の状態、体重減少および発声の評価の神経学的評価結果。(B)ワイヤー・ハンギングテスト結果。(C)ロータロッド結果。データは平均±S.E.Mとして示す(n=5/群)。
【0028】
【
図3】(A)媒体(PBS)対照および(B)抗CD14処置マウスの、MCAO後の脳の前部から後部の5つの水平断面のNeuN染色を示す。
【0029】
【
図4】MCAO7日後の抗CD14処置マウスおよび媒体(PBS)対照における梗塞巣サイズの定量のグラフ表示である。
【0030】
【
図5】MCAO7日後の抗CD14処置マウスおよび媒体(PBS)対照における損傷の分布領域のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な記載
1. 定義
他に定義しない限り、ここで使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。ここに記載するものに類似するまたは等価なあらゆる方法および材料を、本発明の実施または試験に際して使用できるが、好ましい方法および材料を記載する。本発明の目的で、次の用語を以下に定義する。
【0032】
ここで使用する単数表現は、その文法上の対象物の1または1を超える(すなわち、少なくとも1)を意味する。例として、「要素」は、1個の要素または1個を超える要素を意味する。
【0033】
ここで使用する「および/または」は、列記された項目の1以上の任意かつ全ての可能な組み合わせをいい、かつそれを包含し、代替(または)として解釈されるとき、組み合わせがないことをいい、かつそれを包含する。
【0034】
用語「活性剤」および「治療剤」は、ここでは相互交換可能に使用し、脳卒中または他の急性神経炎症傷害の少なくとも1つの症状を予防、低減または軽快する薬剤をいう。
【0035】
ここで使用する「急性神経炎症傷害」は、有害な神経炎症応答、すなわち治療的介入なしでは脳に長期損傷および脳機能喪失をもたらすものと関連する脳の急性傷害をいう。急性神経炎症傷害の説明的例は、脳卒中(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中)、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血(すなわちくも膜層として知られる脳の保護層の下部に位置するかつ脳の周辺空間への出血)および脳内出血(すなわち脳の中の出血)を含む。急性神経炎症傷害の症状は、片麻痺(体の一方の側の麻痺);片側不全麻痺(体の一方の側の脱力);顔面筋力低下;無感覚;感覚低下;嗅覚、味覚、聴覚または視覚の感覚障害;嗅覚、味覚、聴覚または視覚の喪失;眼瞼の下垂(眼瞼下垂);眼筋の検出可能な脱力;咽頭反射減少;嚥下能力低下;光に対する瞳孔反応性低下;顔面の感覚低下;平衡機能低下;眼振;呼吸数異常;心拍数異常;片側に首を回す能力の減少または欠如を伴う胸鎖乳突筋の脱力;舌の脱力;失語(言葉を話すまたは理解することができない);失行(随意運動異常);視野欠損;記憶の欠如;半側無視または半側空間無視(病変と逆側の視野における空間への注意欠損);支離滅裂な思考;精神錯乱;性的逸脱行動(hypersexual gestures)の発症;病態失認(欠損の存在の持続的否定);歩行困難;運動協調異常;回転性めまい;不平衡;意識消失;頭痛;および/または嘔吐を含むが、これらに限定されない。時間を引用する「傷害後」なる用語は、急性神経炎症傷害の最初の症状の発症後の時間を意味する。故に、例えば、「傷害後6時間」なる記載は、急性神経炎症傷害症状の発症後6時間を意味する。認識されるとおり、神経炎症傷害が脳卒中であるとき、「脳卒中後」および「傷害後」は、ここでは、相互交換可能に使用し得る。
【0036】
用語「同時投与」または「同時に投与する」または「共投与」などは、2種以上の薬剤を含む単一組成物の投与または有効な結果がこのような薬剤全てを単一組成物として投与したときに得られるのと同等であるのに十分に短い時間間隔内の、同時期または同時または逐次的な別々の組成物としてのおよび/または別々の経路により送達される各薬剤の投与をいう。「同時」は、これら薬剤が実質的に同じ時間に、望ましくは同じ製剤で一緒に投与されることを意味する。「同時期」は、これら薬剤が、近い時間で、例えば、一方の薬剤を他方の前後約1分~約1日以内に投与することを意味する。あらゆる同時期的時間が有用である。しかしながら、同時に投与されないとき、これら薬剤が約1分~約8時間以内および好適には約1~約4時間以内に投与されることはよくある。同時期に投与するとき、これら薬剤は、好適には対象の同じ部位に投与する。用語「同じ部位」は、ちょうどの位置を含むが、約0.5~約15センチメートル以内、好ましくは約0.5~約5センチメートル以内であり得る。ここで使用する用語「別々」は、これら薬剤が、一定間隔、例えば約1日~数週または数カ月の間隔で投与されることを意味する。これら薬剤をいずれの順番で投与してもよい。ここで使用する用語「逐次的」は、これら薬剤を連続的に、例えば数分、数時間、数日または数週の1回以上の間隔で投与することを意味する。適切であるならば、これら薬剤を、定期的な繰り返しサイクルで投与し得る。
【0037】
CD14アンタゴニスト抗体またはCD14アンタゴニスト抗体を含む医薬の投与に関連する「単独」なる用語は、傷害(例えば脳卒中)の処置過程中に対象にCD14アンタゴニスト抗体または医薬と共に他の活性剤が投与されない、すなわち、CD14アンタゴニスト抗体またはCD14アンタゴニスト抗体を含む医薬が他の活性剤と共投与されないことを意味する。
【0038】
用語「アンタゴニスト抗体」はその最も広い意味で使用し、抗体が結合する抗原(例えば、CD14)の生物学的活性を阻害または低減する抗体を含む。例えば、アンタゴニスト抗体は、受容体(例えば、CD14)とリガンド(例えば、DAMPまたはPAMP)の相互作用を一部もしくは完全に遮断し得るまたは3次構造変化もしくは受容体の下方制御により、相互作用を一部もしくは完全に低減し得る。故に、CD14アンタゴニスト抗体は、CD14に結合し、何らかの有意義な程度で、トール様受容体(TLR)シグナル伝達経路(例えば、TLR4シグナル伝達経路)およびTIRドメイン含有アダプター誘導IFN-β(TRIF)経路などの下流経路の活性化またはCD14リガンド(例えば、DAMPまたはPAMP)によるCD14結合のための細胞応答(例えば、炎症促進性サイトカインを含む炎症促進性メディエーターの産生)の誘発を含む、CD14アゴニスト活性を遮断、阻害、無効化、相殺、抑制、減少または低減(有意にを含む)する抗体を包含する。
【0039】
ここでの用語「抗体」はその最も広い意味で使用し、所望の免疫相互作用力を示す限り、天然に存在する抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異的抗体(例えば、二特異的抗体)、抗体フラグメントまたはあらゆる他の抗原結合分子を特に含む。天然に存在する「抗体」は、その範囲内に、ジスルフィド結合により相互結合した少なくとも2個の重(H)鎖および2個の軽(L)鎖を含む免疫グロブリンを含む。各重鎖は、重鎖可変領域(ここではVHと略す)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、特定のCHドメイン(例えば、CH1、CH2およびCH3)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(ここではVLと略す)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1個のドメイン、CLからなる。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分され得る。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端方向で次の順番で配置される、3個のCDRおよび4個のFRからなる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第一成分(C1q)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合に介在し得る。抗体は、どんなアイソタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)、サブクラスまたはその修飾体(例えば、L234AおよびL235A二重変異(IgG1-LALA)を含むIgG1アイソタイプ)でもよい。抗体は、どんな種、キメラ、ヒト化またはヒトでもよい。他の実施態様において、抗体は、第一定常領域ドメイン(CH1)を欠くが、他はインタクトの重鎖を保持し、抗原結合ドメインを介して抗原に結合できる、ホモマー重鎖抗体(例えば、ラクダ類抗体)である。抗体-モジュール認識ドメイン(MRD)融合体における重鎖および軽鎖の可変領域は、目的の抗原と相互作用する機能的結合ドメインを含む。
【0040】
ここで使用する「可変ドメイン」(軽鎖(VL)の可変ドメイン、重鎖(VH)の可変ドメイン)は、抗体の抗原への結合に直接関与する軽鎖および重鎖ドメインの対の各々を意味する。可変軽鎖および重鎖ドメインは、同じ一般的構造を有し、各ドメインは、3個のCDRまたは「超可変領域」に接続した、配列が広範に保存されている4個のFRを含む。FRは、βシート立体構造を採用し、CDRは、βシート構造を連結するループを形成し得る。各鎖におけるCDRは、FRにより3次元構造で保持され、他方の鎖からのCDRと一体となって、抗原結合部位を形成する。
【0041】
用語「抗原結合部分」は、ここで使用するとき、一般にCDRからのアミノ酸残基を含む、一般に抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基をいう。故に、「CDR」または「相補性決定領域」(「超可変領域」とも称する)は、ここでは相互交換可能に使用され、抗原結合部位の形成に寄与する3次元ループ構造を形成する、抗体の軽鎖および重鎖のアミノ酸配列をいう。重鎖および軽鎖の可変領域の各々に3個のCDRがあり、可変領域の各々について、「CDR1」、「CDR2」および「CDR3」と命名される。ここで使用する用語「CDRセット」は、抗原に結合する単一可変領域に出現する、3個のCDRの群をいう。これらCDRの正確な境界は、種々のシステムにより、多様に定義されている。Kabat(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987) and (1991))により記載されたシステムは、抗体のあらゆる可変領域に適用可能な一義的な残基ナンバリングシステムを提供するだけでなく、3個のCDRを規定する正確な残基境界も提供する。これらCDRは、「Kabat CDR」と称され得る。Chothiaおよび同僚(Chothia and Lesk, 1987. J. Mol. Biol. 196: 901-917; Chothia et al., 1989. Nature 342: 877-883)は、Kabat CDR内のある小部分が、アミノ酸配列レベルでの大きな多様性にも関わらず、ほぼ同一ペプチド主鎖立体構造を採ることを発見した。これら小部分は「L1」、「L2」および「L3」または「H1」、「H2」および「H3」と命名され、ここで、「L」および「H」はそれぞれ軽鎖および重鎖領域をいう。これら領域は、「Chothia CDR」と称され、Kabat CDRと重複する境界を有する。Kabat CDRと重複する他の境界を規定するCDRは、Padlan(1995. FASEB J. 9: 133-139)およびMacCallum(1996. J. Mol. Biol. 262(5): 732-745)により記載されている。さらに他のCDR境界定義は、これらのシステムの一つに厳密には従わないかもしれないが、それでもKabat CDRと重複するが、特定の残基もしくは残基群またはCDR全体が抗原結合に顕著に影響しないとの予測または実験的発見の観点から、短縮または延長され得る。
【0042】
ここで使用する用語「フレームワーク領域」または「FR」は、可変領域からCDRを引いた残りの配列をいう。それ故に、抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインは、N末端からC末端で、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。CDRおよびFRは、一般にKabat, E. A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)の標準的定義に従い定義されるかおよび/または「超可変ループ」からの残基である。
【0043】
ここで使用する用語「軽鎖可変領域」(「VL」)および「重鎖可変領域」(VH)は、各抗体の多様な一次アミノ酸配列を有する、それぞれ軽鎖および重鎖のN末端部分の領域またはドメインをいう。抗体の可変領域は、一般に軽鎖および重鎖のアミノ末端ドメインからなり、それらが一緒に折りたたまれて、抗原に対する3次元結合部位を形成する。構造類似性に基づき、VHおよびVLの数タイプが、例えばKabatデータベースに示すとおり、定義されている。
【0044】
用語「キメラ抗体」は、ヒト定常領域に結合したマウス重鎖および軽鎖可変領域を有する抗体などの、ある種からの重鎖および軽鎖可変領域配列および他の種からの定常領域配列を含む抗体をいう。
【0045】
非ヒト(例えば、齧歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む、キメラ抗体である。ヒト化抗体は、その大部分がヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基で置き換えられている。ある場合、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基に置き換えられる。故に、ヒト化抗体のFRおよびCDRは、親(すなわち、ドナー)配列、例えば、ドナー抗体CDRと厳密に対応する必要はなくまたはコンセンサスフレームワークは、少なくとも1アミノ酸残基の置換、挿入および/または欠失により変異誘発されていてよく、したがって、CDRまたはFRは、その部位で、ドナー抗体またはコンセンサスフレームワークいずれにも対応しない。しかしながら、一般に、このような変異は広範であり、一般に抗原への結合に関与する「キー残基」を避ける。通常、ヒト化抗体残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%および最も好ましくは少なくとも95%が、親FRおよびCDR配列のものに対応する。ここで使用する用語「コンセンサスフレームワーク」は、コンセンサス免疫グロブリン配列におけるフレームワーク領域をいう。ここで使用する用語「コンセンサス免疫グロブリン配列」は、関連免疫グロブリン配列のファミリーで最も高頻度で存在するアミノ酸(またはヌクレオチド)から形成される配列をいう(例えば、Winnaker, From Genes to Clones (Verlagsgesellschaft, Weinheim, 1987)参照)。「コンセンサス免疫グロブリン配列」は、故に、「コンセンサスフレームワーク領域」および/または「コンセンサスCDR」を含み得る。免疫グロブリンファミリーにおいて、コンセンサス配列の各位置は、ファミリーにおいて、その場所で最も高頻度で存在するアミノ酸により占拠される。2個のアミノ酸が同じ頻度で存在するならば、いずれをコンセンサス配列に含めても良い。一般に、ヒト化抗体は、超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1個および一般に2個の可変ドメインの実質的にすべてを含む。ヒト化抗体は、所望により一般に免疫グロブリン定常領域(Fc)、一般にヒト免疫グロブリンの少なくとも一部も含む。さらなる詳細について、Jones et al. (1986. Nature 321:522-525), Riechmann et al. (1988. Nature 332:323-329)およびPresta (1992. Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596)参照。ヒト化抗体は、IgM、IgG、IgD、IgAおよびIgEを含むあらゆるクラスおよびIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含むが、これらに限定されないあらゆるアイソタイプの免疫グロブリンから選択され得る。ヒト化抗体は、1を超えるクラスまたはアイソタイプからの配列を含み得て、特定の定常ドメインが当分野で周知の技術を使用して、所望のエフェクター機能を最適化するために選択され得る。ここで使用する用語「キー残基」は、抗体、特にヒト化抗体の結合特異性および/または親和性に大きな影響を有する、可変領域内のある残基をいう。キー残基は、次の1以上を含むが、これらに限定されない:CDRに隣接する残基、潜在的グリコシル化部位(N-またはO-グリコシル化部位何れでもよい)、希少残基、抗原と相互作用可能な残基、CDRと相互作用可能な残基、カノニカル残基、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の間の接触残基、バーニアゾーン内の残基およびChothia定義の可変重鎖CDR1とKabat定義の第一重鎖フレームワークの間の重複領域における残基。
【0046】
ここで使用する「バーニア」ゾーンは、Foote and Winter(1992. J. Mol. Biol. 224: 487-499)に記載のとおり、CDR構造に隣接し得て、抗原への適合を微調整する、フレームワーク残基のサブセットをいう。バーニアゾーン残基は、CDRを裏打ちする層を形成し、CDR構造および抗体親和性に影響し得る。
【0047】
ここで使用する用語「カノニカル」残基は、Chothia et al. (両者とも引用により本明細書に包含させる1987. J. Mol. Biol. 196: 901-917; 1992. J. Mol. Biol. 227: 799-817)に定義の特定のカノニカルCDR構造を規定する、CDRまたはフレームワークにおける残基をいう。Chothia et al.によると、多くの抗体のCDRの重要な部分は、アミノ酸配列レベルでの大きな多様性にも関わらず、ほぼ同一ペプチド主鎖立体構造を有する。各カノニカル構造は、主に、ループを形成するアミノ酸残基の連続的セグメントのペプチド主鎖二面角のセットを特定する。
【0048】
ここで使用する用語「ドナー」および「ドナー抗体」は、「アクセプター抗体」に1以上のCDRを提供する抗体をいう。ある実施態様において、ドナー抗体は、FRを得たまたはそれが由来する抗体と異なる種からの抗体である。ヒト化抗体において、用語「ドナー抗体」は、1以上のCDRを提供する非ヒト抗体をいう。
【0049】
ここで使用する用語「アクセプター」および「アクセプター抗体」は、FRの1以上のアミノ酸配列の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または100%を提供する抗体をいう。ある実施態様において、用語「アクセプター」は、定常領域を提供する抗体アミノ酸配列をいう。他の実施態様において、用語「アクセプター」は、FRおよび定常領域の1以上を提供する抗体アミノ酸配列をいう。特定の実施態様において、用語「アクセプター」は、FRの1以上のアミノ酸配列の少なくとも80%、好ましくは、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または100%を提供する、ヒト抗体アミノ酸配列をいう。この実施態様によって、アクセプターは、ヒト抗体の1以上の特定位置に存在しない、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個または少なくとも10個のアミノ酸残基を含む。アクセプターフレームワーク領域および/またはアクセプター定常領域は、例えば、生殖系列抗体遺伝子、成熟抗体遺伝子、機能的抗体(例えば、当分野で周知の抗体、開発中の抗体または市販抗体)に由来するまたはそこから得ることができる。
【0050】
ここで使用する用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。本発明のヒト抗体は、例えばCDRおよび特にCDR3に、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでの無作為または部位特異的変異誘発またはインビボでの体細胞変異による変異)を含み得る。しかしながら、ここで使用する用語「ヒト抗体」は、マウスなどの他の哺乳動物種の生殖系列由来のCDR配列が、ヒトフレームワーク配列に移植されている抗体を含むことを意図しない。
【0051】
用語「重鎖可変領域CDR1」および「H-CDR1」は相互交換可能に使用され、用語「重鎖可変領域CDR2」と「H-CDR2」、用語「重鎖可変領域CDR3」と「H-CDR3」、用語「軽鎖可変領域CDR1」と「L-CDR1」、用語「軽鎖可変領域CDR2」と「L-CDR2」および用語「軽鎖可変領域CDR3」と「L-CDR3」抗体フラグメントも同様である。本明細書をとおして、相補性決定領域(「CDR」)は、他に特定されない限り、Kabat定義に従い、定義される。Kabat定義は、抗体における残基の標準的ナンバリングであり、一般にCDR領域の同定に使用される(Kabat et al., (1991), 5th edition, NIH publication No. 91-3242)。
【0052】
抗原結合は、インタクト抗体の「フラグメント」または「抗原結合フラグメント」により実施され得る。ここで、両用語は、相互交換可能に使用される。抗体の「抗体フラグメント」なる用語に含まれる結合フラグメントの例は、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる単価フラグメントであるFabフラグメント;ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合された2個のFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント;VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;VHドメインを構成する単一ドメイン抗体(dAb)フラグメント(Ward et al., 1989. Nature 341:544-546);および単離相補性決定領域(CDR)を含む。特定の実施態様において、本発明の抗体は、Fc領域の全てまたは一部を欠く抗原結合フラグメントである。
【0053】
「一本鎖可変フラグメント(scFv)」は、VLおよびVH領域が対合して単価分子を形成する、単一タンパク質鎖である(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al., 1988. Science 242:423-426;およびHuston et al., 1988. Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883参照)。2個のドメインVLおよびVHは別々の遺伝子によりコードされるが、組み換え方法を使用して、単一タンパク質鎖として製造されることを可能とする人工ペプチドリンカーにより結合され得る。このような一本鎖抗体は、1以上の抗原結合部分を含む。これらの抗体フラグメントは、当業者に知られる慣用の技術を使用して得て、フラグメントはインタクト抗体と同じ方法で有用性についてスクリーニングされる。
【0054】
ここで使用する用語「モノクローナル抗体」ならびに略語「MAb」および「mAb」は、実質的に均一抗体の集団、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、小量で存在し得る可能性のある天然に存在する変異以外同一である集団から得た、抗体である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一抗原を指向する。さらに、一般に種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各mAbは、抗原の単一決定基を指向する。修飾語句「モノクローナル」は、何らかの特定の方法により抗体を産生する必要があるとして解釈してはならない。モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマを含む、抗体産生細胞の単一クローンにより産生され得る。用語「ハイブリドーマ」は、一般に培養新生物リンパ球と、親細胞の特異的免疫能を発揮する予備刺激BまたはTリンパ球の細胞融合の産物をいう。
【0055】
目的の抗原(例えば、CD14)「に結合する」抗体は、抗体が抗原を発現する細胞または組織を標的化し、他のタンパク質と顕著には相互反応しない、治療剤として有用であるような十分な親和性を有する抗原をいう。このような実施態様において、「非標的」タンパク質に抗体が結合する程度は、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、免疫沈降または放射免疫沈降(RIA)により決定して、その特定の標的タンパク質への抗体、オリゴペプチドまたは他の有機分子の結合の約10%である。故に、CD14を中和する抗体は、好適には炎症促進性サイトカイン/ケモカインを含む炎症促進性メディエーターの産生を阻害または減少させる。抗体の標的分子への結合に関連して、特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド標的のエピトープに「特異的結合」または「特異的に結合する」または「特異的」なる用語は、非特異的相互作用と測定可能に異なる結合を意味する。特異的結合は、例えば、一般に結合活性を有しない類似の構造の分子である対照分子の結合と比較した、分子の結合の決定により、測定され得る。例えば、特異的結合は、標的と類似する対照分子、例えば、過剰の非標識標的との競合により決定され得る。この場合、プローブへの標識標的の結合が、過剰の非標識標的により競合的に阻害されるならば、特異的結合が示される。抗体が結合する抗原の特異的領域は、一般に「エピトープ」と称される。用語「エピトープ」は、抗体またはT細胞受容体により特異的に認識されるかまたは分子と他に相互作用する抗原の部位を広義に含む。一般にエピトープは、アミノ酸または炭水化物または糖側鎖などの分子の活性表面グルーピングであり、一般に特異的3次元構造特性および特異的荷電特性を有し得る。当業者には認識されるとおり、抗体が特異的に結合できる実質的にあらゆるものがエピトープである。
【0056】
本明細書をとおして、文脈から他の解釈が必要ではない限り、用語「含む」および「含み」は、記載する工程もしくは要素または工程もしくは要素の群を含むことを含意するが、あらゆる他の工程もしくは要素または工程もしくは要素の群を除外しないと理解される。故に、用語「含む」などの使用は、記載した要素が必要であるかまたは必須であるが、他の要素が任意であり、存在してもしなくてもよいことを示す。「からなる」は、用語「からなる」の前のものを含みかつ限定されることを意味する。故に、用語「からなる」は、記載した要素が必要であるかまたは必須であり、他の要素が存在し得ないことを示す。「から本質的になる」は、該用語の前の何らかの要素を含み、記載した要素について本明細書に特定した活性または作用を妨害しないまたは寄与しない他の要素に限定されることを意味する。故に、用語「から本質的になる」は、記載した要素が必要であるかまたは必須であるが、他の要素は任意であり、記載した要素の活性または作用に影響するかしないかによって、存在し得るかまたは存在し得ないことを示す。
【0057】
状態を処置する文脈における「有効量」は、このような処置または予防を必要とする個体への、単回投与またはシリーズの一部としての、その状態の症状の発生の予防、このような症状の抑止および/または既に存在する症状の処置に有効である、量の薬剤または組成物の投与を意味する。有効量は、処置する個体の年齢、健康および身体状態および疾患の症状が明らかであるか否か、処置する個体の分類群、組成物の製剤、医学的状況の評価および他の関連因子により変わる。最適投与スケジュールは、対象の体への薬物蓄積の測定により計算できる。最適な投与量は、個々の対象の相対効力により変わり得て、一般にインビトロおよびインビボ動物モデルにおいて有効であると判明したEC50値に基づき、推定され得る。当業者は、最適な投与量、投与方法および繰返し率を容易に決定できる。量は、日常的試験により決定され得る比較的広い範囲内に入ることが予測される。
【0058】
ここで使用する用語「免疫細胞」は、免疫系に属する細胞をいう。免疫細胞は、Tリンパ球(T細胞)、Bリンパ球(B細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、顆粒球、好中球、マクロファージ、単球、樹状細胞および前記何れかの特殊な形態、例えば、形質細胞様樹状細胞、ランゲルハンス細胞、形質細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、Tヘルパー細胞および細胞毒性Tリンパ球(CTL)などの、しかし、これらに限定されない、造血起源の細胞を含む。
【0059】
ここで使用する細胞による「炎症促進性メディエーターの産生」に関連する「阻害」、「阻害する」、「減少」または「減少する」などの用語は、末梢細胞により産生される炎症促進性メディエーターのレベルまたは量の、少なくとも小さいが、測定可能な減少をいう。ある実施態様において、細胞による炎症促進性メディエーターの産生は、非処置対照より少なくとも20%阻害または減少される;さらなる実施態様において、阻害または減少は少なくとも50%である;なおさらなる実施態様において、阻害または減少は少なくとも70%であり、ある実施態様において、阻害または減少は少なくとも80%である。炎症促進性メディエーター産生のこのような減少は、インビボでの実施態様において、炎症性メディエーターカスケードの有害な影響を低減できる。
【0060】
適当なインビトロアッセイ(例えばELISA、RT-PCR)を使用して、CD14アンタゴニスト抗体が末梢細胞による炎症促進性メディエーターの産生を阻害するまたは減少させる有効性を評価できる。例えば、競合的RT-PCR技術を使用して、細胞内から得られるサイトカインmRNAのレベルを測定でき、細胞から放出された発現サイトカインレベルを、例えば、特定のサイトカインに特異的に結合する1以上のモノクローナル抗体を使用する、サンドイッチELISAにより測定できる。インビボスクリーニングも、当分野で周知の方法に従い、実施できる。例えば、CD14アンタゴニスト抗体を動物モデル(例えば、マウス)に投与し、採血して、種々のサイトカインのレベルを評価する。当業者は、サイトカイン産生の測定に利用可能な技術に精通している。結果に基づき、適切な投与量範囲および全身投与経路も決定できる。
【0061】
ここで使用する用語「虚血」は、血液を供給する血管の狭窄または封鎖によって引き起こされる、体の一部への不適切なまたは停止した血流をいう。
【0062】
用語「低酸素性虚血性脳傷害」は、結果としての脳組織の損傷または機能不全を伴う、脳への酸素または血液供給の絶対的または相対的不足をいう。低酸素性虚血性脳傷害は、例えば、心停止、虚血性脳卒中、頭部外傷、絞殺または中毒(例えば一酸化炭素中毒または薬物過剰摂取)を含む、種々の疾患、発作または傷害の結果であり得る。重度または長期脳虚血は、虚血性カスケードにより介在される、意識喪失、脳損傷または死亡(例えばニューロン損傷)をもたらす。
【0063】
「単離」は、その天然状態では通常付随する成分が実質的にまたは本質的にない物質を意味する。
【0064】
ここで使用する用語「リガンド」は、受容体を結合できる、あらゆる分子をいう。
【0065】
「薬学的に許容される担体」は、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではない物質からなる医薬媒体を意味し、すなわち、本物質は、有害反応を何ら引き起こすことなくまたは実質的に引き起こすことなく、選択した活性剤と共に対象に投与され得る。担体は、希釈剤、界面活性剤、着色剤、湿潤または乳化剤、pH緩衝剤、防腐剤、トランスフェクション剤などの添加物および他の添加剤を含み得る。
【0066】
同様に、ここに提供される化合物の「薬理学的に許容される」塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは誘導体は、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではない塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは誘導体である。
【0067】
用語「ポリヌクレオチド」、「遺伝物質」、「遺伝型」、「核酸」および「ヌクレオチド配列」は、当業者には容易に認識されるとおり、センス鎖およびアンチセンス鎖両方のRNA、cDNA、ゲノムDNA、合成形態および混合ポリマーを含み、化学的または生化学的に修飾されていてよくまたは非天然または誘導体化ヌクレオチド塩基を含んでよい。
【0068】
用語「炎症促進性メディエーター」は、炎症を支持する免疫調節因子を意味する。このような因子は、ケモカイン、インターロイキン(IL)、リンホカインおよび腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインならびに増殖因子を含む。特定の実施態様において、炎症促進性メディエーターは、「炎症促進性サイトカイン」である。一般に、炎症促進性サイトカインは、早期応答を主に担うIL-1α、IL-1β、IL-6およびTNF-αを含む。他の炎症促進性メディエーターは、LIF、IFN-γ、IFN-β、IFN-α、OSM、CNTF、TGF-β、GM-CSF、TWEAK、IL-11、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-8、IL-16、IL-22、IL-23、IL-31およびIL-32を含む(Tato et al., 2008. Cell 132:900; Cell 132:500, Cell 132:324)。炎症促進性メディエーターは、内因性発熱物質(IL-1、IL-6、IL-17、TNF-α)として作用し、マクロファージおよび間葉性細胞(線維芽細胞、上皮性および内皮細胞を含む)両社により二次メディエーターおよび炎症促進性サイトカインの合成を上方制御し、急性相タンパク質の産生を刺激しまたは炎症性細胞を誘引することができる。特定の実施態様において、用語「炎症促進性サイトカイン」は、TNF-α、IL-1α、IL-6、IFNβ、IL-1β、IL-8、IL-17およびIL-18に関する。
【0069】
ここで使用する「脳卒中」は、脳または脳幹への血液供給の攪乱による、通常急速に進展する、脳機能の喪失をいう。混乱は、例えば、血栓症または塞栓形成が原因の虚血(血液不足)であり得るかまたは出血によるものであり得る。ある例では、脳機能の喪失は、神経細胞死を伴う。一例として、脳卒中は、大脳またはその領域への血液の攪乱または不足により引き起こされる。脳卒中は、24時間を超えて持続するかまたは24時間以内の死亡により中断される脳血管が原因の神経障害である(世界保健機構による定義)。脳卒中の症状は、片麻痺(体の一方の側の麻痺);片側不全麻痺(体の一方の側の脱力);顔面筋力低下;無感覚;感覚低下;嗅覚、味覚、聴覚または視覚の感覚障害;嗅覚、味覚、聴覚または視覚の喪失;眼瞼の下垂(眼瞼下垂);眼筋の検出可能な脱力;咽頭反射減少;嚥下能力低下;光に対する瞳孔反応性低下;顔面の感覚低下;平衡機能低下;眼振;呼吸数異常;心拍数異常;片側に首を回す能力の減少または欠如を伴う胸鎖乳突筋の脱力;舌の脱力;失語(言葉を話すまたは理解することができない);失行(随意運動異常);視野欠損;記憶の欠如;半側無視または半側空間無視(病変と逆側の視野における空間への注意欠損);支離滅裂な思考;精神錯乱;性的逸脱行動の発症;病態失認(欠損の存在の持続的否定);歩行困難;運動協調異常;回転性めまい;不平衡;意識消失;頭痛;および/または嘔吐を含む。時間を参照する「脳卒中後」なる用語は、脳卒中の最初の症状の発症後の時間を意味する。故に、例えば、「脳卒中6時間後」なる記載は、脳卒中症状の発症6時間後を意味する。
【0070】
ここで使用する用語「全身投与」または「全身性に投与する」または「全身投与された」は、対象への薬剤の中枢神経系の外からの導入を意味する。全身投与は、脊椎または脳への直接投与以外のあらゆる投与経路を包含する。すなわち、髄腔内および硬膜外投与ならびに頭蓋注射または埋め込みが用語「全身投与」、「全身性に投与する」または「全身投与された」の範囲内ではないことは明らかである。ここに記載する薬剤(例えば抗体)または医薬組成物は、錠剤、液剤、カプセル剤、散剤などなどの許容される形態で、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または非経腸注射により、経皮拡散または電気泳動により、およびミニポンプまたは他の埋め込み型持続放出デバイスまたは製剤により、全身投与され得る。一部実施態様によって、全身投与は、腹腔内、静脈内、皮下および鼻腔内投与およびこれらの組み合わせからなる群から選択される経路により実施される。
【0071】
CD14アンタゴニスト抗体の「単回投与」の記載は、対象が、急性神経炎症傷害後、一用量の抗体のみ、例えば1回ボーラス注射または1回個別注入を受けることを意味する。対象がさらなる急性神経炎症傷害を有する場合には、対象は、さらなる急性神経炎症傷害に対して、抗体の単回投与を投与され得る。故に、単回投与の記載は、対象が各急性神経炎症傷害の場合に、抗体を一用量のみ受けることを意味する。
【0072】
ここで相互交換可能に使用される用語「対象」、「患者」および「個体」は、急性神経炎症傷害を有するあらゆる対象、特に脊椎動物対象およびさらに具体的には哺乳動物対象(例えばヒト)をいう。
【0073】
用語「外傷性脳傷害」または「TBI」は、外部の身体的外傷による脳傷害をいう。TBIをもたらす事象の非限定的例は、転倒、自動車衝突、運動時衝突および戦闘を含む。本用語は、非開放性頭部傷害、振盪または挫傷および穿通性頭部傷害を含む軽度および重度TBIを含む。
【0074】
ここで使用する用語「処置」、「処置する」などは、処置の必要がある対象、すなわち、急性神経炎症傷害を有する対象における所望の薬理学的および/または生理的効果を得ることをいう。「処置」は、1以上の急性神経炎症傷害の症状の軽快または予防;ニューロン損傷または神経障害の軽快または予防;および/またはクオリティ・オブ・ライフの改善または延長を意味する。「処置」または「処置する」の記載は、急性神経炎症傷害の症状の何れかまたは全ての回復もしくは予防またはニューロン損傷または神経障害の回復もしくは予防を必ずしも意味しない。例えば、対象は、最終的に長期神経障害を有し得るが、処置がないときの欠損の程度またはクオリティ・オブ・ライフと比較して、欠損の程度が低減されるおよび/またはクオリティ・オブ・ライフが改善される。
【0075】
ここで使用する、CD14アンタゴニスト抗体の投与について傷害後または脳卒中後の時間を参照する「まで」は、対象が傷害(例えば脳卒中)処置の間、この時間を超えて決してCD14アンタゴニスト抗体を投与されないことを意味する。故に、例えば、対象へのCD14アンタゴニスト抗体の「傷害48時間後まで」の投与は、CD14アンタゴニスト抗体が、傷害後0~48時間のどこかの時点で対象に投与され得るが、48時間後の時点ではされないことを意味する。投与は、CD14アンタゴニスト抗体の1以上の投与を含み得るが、指定時間後、例えば傷害48時間後以降は投与されない。しかしながら、その後に対象がさらなる急性神経炎症傷害を有したならば、さらなる急性神経炎症傷害に対して、指定時間に対象にCD14アンタゴニスト抗体を投与し得ることは理解される。
【0076】
ここに記載する各実施態様は、他に特記がない限り、各々の実施態様に、必要な変更を加えた上で適用される。
【0077】
2. 神経炎症傷害を処置するための組成物および方法
本発明は、急性神経炎症傷害を処置するための、CD14アンタゴニスト抗体を含む方法、使用および組成物を提供する。
【0078】
2.1 CD14アンタゴニスト抗体
本発明は、CD14(例えばmCD14またはsCD14)に結合し、DAMPまたはPAMPのCD14への結合を遮断するおよび/またはCD14に結合し、炎症促進性サイトカインの産生を含む炎症促進性メディエーターの産生をもたらすCD14アゴニスト介在応答を阻害または減少させる、あらゆるCD14アンタゴニスト抗体を意図する。ある実施態様において、本発明のCD14アンタゴニスト抗体は、CD14アゴニスト、好適にはDAMPまたはPAMPのCD14への結合を阻害し、そうして、炎症促進性サイトカインの産生を阻害または減少させる。このタイプの説明的例として、CD14アンタゴニスト抗体は、ヒトCD14のアミノ酸7~アミノ酸14の領域の少なくとも一部からなるエピトープに結合する3C10抗体(van Voohris et al., 1983. J. Exp. Med. 158: 126-145; Juan et al., 1995. J. Biol. Chem. 270(29): 17237-17242)、CD14のアミノ酸57~アミノ酸64の領域の少なくとも一部からなるエピトープに結合するMEM-18抗体(Bazil et al., 1986. Eur. J. Immunol. 16(12):1583-1589; Juan et al., 1995. J. Biol. Chem. 270(10): 5219-5224)、4C1抗体(Adachi et al., 1999. J. Endotoxin Res. 5: 139-146; Tasaka et al., 2003. Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol.; 2003. 29(2):252-258)ならびにLPSの結合を阻害し、炎症促進性サイトカインの産生を抑制する28C5および23G4抗体およびLPSの結合を部分的に阻害し、炎症促進性サイトカインの産生を抑制する18E12抗体(Leturcq et al.の米国特許5,820,858、6,444,206および7,326,569)から選択される。ある実施態様において、本発明のCD14アンタゴニスト抗体は、CD14のTLR4などのTLRへの結合を阻害し、それによりCD14-アゴニスト介在応答を遮断し、その説明的例としては、国際公開WO2002/42333に開示するF1024抗体を含む。CD14アンタゴニスト抗体に関連する上記引用文献の各々を、引用により全体として本明細書に包含させる。CD14アンタゴニスト抗体は、完全長免疫グロブリン抗体または代表例がFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、VHドメインからなる単一ドメイン抗体(dAb)フラグメント(Ward et al., 1989. Nature 341:544-546)および単離CDRであるインタクト抗体の抗原結合フラグメントであってよい。好適には、CD14アンタゴニスト抗体はキメラ、ヒト化またはヒト抗体である。
【0079】
ある実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体は、米国特許5,820,858に開示される次の抗体から選択される。
【0080】
(1)配列QSPASLAVSLGQRATISC RASESVDSFGNSFMH WYQQKAGQPPKSSIY RAANLES GIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYFC QQSYEDPWT FGGGTKLGNQ[配列番号1](3C10 VL)を含む、それからなるまたはそれから本質的になるVLドメイン;および
配列LVKPGGSLKLSCVASGFTFS SYAMS WVRQTPEKRLEWVA SISSGGTTYYPDNVKG RFTISRDNARNILYLQMSSLRSEDTAMYYCAR GYYDYHY WGQGTTLTVSS[配列番号2](3C10 VH)を含む、それからなるまたはそれから本質的になるVHドメイン
を含む抗体;
【0081】
(2)配列QSPASLAVSLGQRATISC RASESVDSYVNSFLH WYQQKPGQPPKLLIY RASNLQS GIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYCC QQSNEDPTT FGGGTKLEIK[配列番号3](28C5 VL)を含む、それからなるまたはそれから本質的になるVLドメイン;および
配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSIT SDSAWN WIRQFPGNRLEWMG YISYSGSTSYNPSLKS RISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVR GLRFAY WGQGTLVTVSA[配列番号4](28C5 VH)を含む、それからなるまたはそれから本質的になるVHドメイン
を含む抗体;および
【0082】
(3)配列QTPSSLSASLGDRVTISC RASQDIKNYLN WYQQPGGTVKVLIY YTSRLHS GVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFC QRGDTLPWT FGGGTKLEIK[配列番号5](18E12 VL)を含む、それからなるまたはそれから本質的になるVLドメイン;および
配列LESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLT NYDIS WIRQPPGKGLEWLG VIWTSGGTNYNSAFMS RLSITKDNSESQVFLKMNGLQTDDTGIYYCVR GDGNFYLYNFDY WGQGTTLTVSS[配列番号6](18E12 VH)を含む、それからなるまたはそれから本質的になるVHドメイン
を含む抗体である。
【0083】
また意図されるのは、上記抗体のVLおよびVH CDR配列を含む抗体であり、その代表的実施態様は
(1)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSFGNSFMH[配列番号7](3C10 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RAANLES[配列番号8](3C10 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSYEDPWT[配列番号9](3C10 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SYAMS[配列番号10](3C10 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列SISSGGTTYYPDNVKG[配列番号11](3C10 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GYYDYHY[配列番号12](3C10 H-CDR3)を含むものを含む抗体;
(2)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASESVDSYVNSFLH[配列番号13](28C5 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列RASNLQS[配列番号14](28C5 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QQSNEDPTT[配列番号15](28C5 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列SDSAWN[配列番号16](28C5 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列YISYSGSTSYNPSLKS[配列番号17](28C5 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GLRFAY[配列番号18](28C5 H-CDR3)を含むものを含む抗体;および
(3)a)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、L-CDR1が配列RASQDIKNYLN[配列番号19](18E12 L-CDR1)を含み;L-CDR2が配列YTSRLHS[配列番号20](18E12 L-CDR2)を含み;そしてL-CDR3が配列QRGDTLPWT[配列番号21](18E12 L-CDR3)を含むもの;およびb)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメントであって、ここで、H-CDR1が配列NYDIS[配列番号22](18E12 H-CDR1)を含み;H-CDR2が配列VIWTSGGTNYNSAFMS[配列番号23](18E12 H-CDR2)を含み;そしてH-CDR3が配列GDGNFYLYNFDY[配列番号24](18E12 H-CDR3)を含むものを含む抗体
を含む。
【0084】
ある実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体はヒト化である。このタイプの説明的例として、ヒト化CD14アンタゴニスト抗体は、好適にはCD14アンタゴニスト抗体(例えば、上記CD14アンタゴニスト抗体の一つ)に対応するドナーCDRセットおよびヒトアクセプターフレームワークを含む。ヒトアクセプターフレームワークは、CDRに隣接する残基;グリコシル化部位残基;希少残基;カノニカル残基;重鎖可変領域と軽鎖可変領域の間の接触残基;バーニアゾーン内の残基;およびChothia定義のVH CDR1とKabat定義の第一重鎖フレームワークの間で重複する領域における残基からなる群から選択されるキー残基で、ヒト生殖系列アクセプターフレームワークに対して少なくとも1個アミノ酸置換を含み得る。ヒト化mAbを産生する技術は当分野で周知である(例えば、Jones et al., 1986. Nature 321: 522-525; Riechmann et al. 1988. Nature 332:323-329; Verhoeyen et al., 1988. Science 239: 1534-1536; Carter et al., 1992. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 4285-4289; Sandhu, JS., 1992. Crit. Rev. Biotech. 12: 437-462およびSinger et al., 1993. J. Immunol. 150: 2844-2857参照)。キメラまたはマウスモノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの重および軽可変鎖からのマウスCDRを、ヒト抗体の対応する可変ドメインに移行することによりヒト化され得る。キメラモノクローナル抗体におけるマウスフレームワーク領域(FR)も、ヒトFR配列で置き換え得る。マウスCDRのヒトFRへの単純な移行は、しばしば抗体親和性の低減または喪失されもたらすため、マウス抗体の元の親和性を回復させるために、さらなる修飾が必要である。これは、エピトープに良好な結合親和性を有する抗体を得るための、FR領域における1以上のヒト残基のマウスカウンターパートでの置き換えにより達成され得る。例えば、Tempest et al. (1991. Biotechnology 9:266-271)およびVerhoeyen et al. (1988 supra)参照。一般に、マウスカウンターパートと異なり、1以上のCDRアミノ酸残基近くにまたは接触して位置するヒトFRアミノ酸残基が置換の候補である。
【0085】
好ましい実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体は、IC14抗体(引用によりその全体として本明細書に包含させるAxtelle et al., 2001. J. Endotoxin Res. 7: 310-314;および米国特許出願2006/0121574)またはその抗原結合フラグメントである。IC14抗体は、ヒトCD14に特異的に結合するキメラ(マウス/ヒト)モノクローナル抗体である。この抗体のマウス親は、上記28C5である(Leturcq et al.の特許5,820,858、6,444,206および7,326,569およびLeturcq et al., 1996. J. Clin. Invest. 98: 1533-1538参照)。IC14抗体はVLドメインおよびVHドメインを含み、ここで、
VLドメインはアミノ酸配列METDTILLWVLLLWVPGSTGDIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC[配列番号25]を含み;そして
VHドメインはアミノ酸配列MKVLSLLYLLTAIPGILSDVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK[配列番号26]を含む。
【0086】
脳卒中または虚血性脳傷害などの神経炎症傷害の処置における使用に適するさらなるCD14のアンタゴニスト抗体は、当業者に周知の方法により同定され得る。これらの方法は、一般に抗体がCD14を直接拮抗するか否かの決定を含む。例えば、方法は、抗体がCD14の量またはアゴニスト活性を阻害または低減できるか否かの決定を含み得て、ここで、CD14の量またはアゴニスト活性を阻害または減少させる能力は、抗体がここに記載する脳卒中または虚血性脳傷害の処置における使用に適し得ることを示す。ある実施態様において、抗体をCD14または表面にCD14を発現する細胞またはCD14が発現される核酸配列と、好適には、DAMPまたはPAMPなどのCD14アゴニスト存在下で接触させ、ここで、対照と比較したとき、アゴニスト存在下のCD14の量またはアゴニスト活性の減少は、抗体がCD14に結合し、CD14を直接拮抗することを示す。CD14アゴニスト活性の減少または阻害は、例えばTLRシグナル伝達経路(例えば、TLR4シグナル伝達経路)およびTRIF経路などの下流経路活性化または細胞応答(例えば、炎症促進性サイトカインを含む炎症促進性メディエーターの産生)の誘発の阻害または減少を含む。
【0087】
これらの方法は、インビボ、エクスビボまたはインビトロで実施され得る。特に、抗体とCD14または表面にCD14を発現する細胞(例えば、免疫細胞)との接触は、インビボ、エクスビボまたはインビトロで実施し得る。方法は、細胞ベースのまたは無細胞系で実施し得る。例えば、方法は、表面にCD14を発現する細胞と抗体を接触させ、細胞と抗体の接触が、CD14の量またはアゴニスト活性を減少させるか否かを決定する工程を含み得る。このような細胞ベースのアッセイにおいて、CD14および/または抗体は宿主細胞に内因性であってよく、宿主細胞または組織に導入されてよく、発現構築物またはベクターの発現を引き起こすもしくは可能とすることにより宿主細胞または組織に導入されてよくまたは細胞における内因性遺伝子からの発現の刺激もしくは活性化により宿主細胞に導入されてよい。このような細胞ベースの方法において、CD14の量または活性を、抗体の存在下または非存在下で、薬剤が細胞におけるCD14発現の制御または細胞内のCD14タンパク質の脱安定化を介するなど、細胞におけるCD14の量を変えるか否かまたは細胞のCD14アゴニスト活性を変えるか否かを評価し得る。抗体存在下での、CD14アゴニスト活性低下または細胞表面のCD14量減少の存在は、抗体が本発明により使用するための適当なCD14のアンタゴニストであり得ることを示す。
【0088】
ある例では、抗体が、他の細胞成分、好適には分泌型(例えば、MD2)または細胞膜に位置する(例えば、TLR4)CD14結合パートナーなどのCD14の結合パートナーへの実質的なまたは検出可能な結合を失うか否かをさらに決定し、それにより抗体がCD14の特異的アンタゴニストであることを決定する。このタイプの非限定的例において、抗体を、DAMPまたはPAMPなどのCD14アゴニスト存在下、(1)表面にCD14を発現する野生型細胞(例えば、マクロファージなどの免疫細胞)および(2)CD14陰性細胞(例えば、CD14遺伝子の機能が喪失した以外、(1)におけると同じ免疫細胞)と接触させる。抗体が野生型細胞のCD14アゴニスト活性を阻害するが、CD14陰性細胞を阻害しないなら、これは、抗体がCD14特異的アンタゴニストであることを示す。このタイプの細胞を、慣用の方法または動物を使用して構築し得る。
【0089】
他の例において、潜在的CD14アンタゴニスト抗体を、例えば、動物モデルなどのインビボで評価する。このようなインビボモデルにおいて、抗体の効果を、循環(例えば、血液)または肝臓、腎臓または心臓などの他の臓器で評価し得る。具体例において、虚血のモデルを、抗体の活性の評価に使用する。
【0090】
例示的なCD14のアンタゴニスト抗体は、抗体非存在下と比較して、CD14活性またはレベルの少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%または少なくとも85%またはそれ以上の減少をもたらす。ある例では、抗体は、抗体存在下でCD14のアゴニスト活性またはレベルがもはや検出不可能であるような、CD14アゴニスト活性またはレベルの減少をもたらす。このような減少は、試験されるサンプルでまたは、例えば方法が動物モデルで実施されるならば、特に動物からの、循環または肝臓、腎臓または心臓などの他の臓器などの組織で見られ得る。
【0091】
好ましくは、抗体は、上記のとおり、CD14の特異的アンタゴニストである。しかしながら、これは、CD14の特異的アンタゴニストにオフ・ターゲットアンタゴニスト活性が全くないことを意味するものではない。これに関連して、CD14の特異的アンタゴニストは、非CD14細胞成分の活性、シグナル伝達または発現の拮抗作用が、本薬剤のCD14の活性、シグナル伝達または発現に対する直接結合および効果の15%未満、10%未満、5%未満、1%未満または0.1%未満であるように、他の細胞成分に対する
無視できるほどのまたはわずかな直接結合および効果を有し得る。
【0092】
CD14のレベルまたは量は、CD14遺伝子の発現の評価により測定し得る。遺伝子発現は、mRNA産生またはレベルまたはタンパク質産生またはレベルでの検査により評価し得る。mRNAおよびタンパク質などの発現産物は、当分野で知られる方法により同定または定量され得る。このような方法は、目的のmRNAを特異的に同定するためのハイブリダイゼーションを使用し得る。例えば、このような方法は、PCRまたはリアルタイムPCRアプローチを含み得る。目的のタンパク質を同定または定量する方法は、そのタンパク質に結合する抗体の使用を含み得る。例えば、このような方法は、ウェスタンブロッティングを含み得る。CD14遺伝子発現の制御を、抗体の存在下と非存在下で比較し得る。故に、抗体非存在下で見られるレベルと比較して、CD14遺伝子発現を減少させる抗体を同定できる。このような抗体は、本発明による適当なCD14のアンタゴニストであり得る。
【0093】
本発明で使用するための適当なアンタゴニスト抗体を同定する方法は、CD14のアゴニスト活性の評価であり得る。例えば、このような方法は、末梢血単核細胞を使用して、実施し得る。このような細胞は、例えば、LPSでの、刺激に応答して、IL-1α、IL-6、TNF-α、IFN-β、IL-1β、IL-17およびIL-8などのサイトカインを産生する。方法は、それ故に、末梢血単核細胞と抗体または媒体を合わせ、LPSを添加することを含む。次いで、細胞を一定時間(例えば、24時間)インキュベートして、サイトカインなどの炎症促進性メディエーターを産生させる。その期間に細胞により産生されたIL-1α、IL-6、TNF-α、IFN-β、IL-1β、IL-17およびIL-8などのサイトカインのレベルを、その後評価し得る。抗体が抗CD14性質を有するならば、このようなサイトカインの産生は、媒体処置細胞と比較して低減される。
【0094】
2.2 補助剤および介入
CD14アンタゴニスト抗体を、単独でまたは他の活性剤(ここでは「補助剤」とも称する)もしくは他の介入と組み合わせて投与し得る。一例として、アンタゴニスト抗体を、組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA、例えばアルテプラーゼ、デスモテプラーゼ、テネクテプラーゼまたはレテプラーゼ)、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、プラスミンおよびマイクロプラスミンなどの血栓溶解剤と組み合わせて投与する。他の補助剤は、NMDAアンタゴニスト(例えばNA-1)、抗CD49d抗体(例えばナタリズマブ)、NXY-059およびエダラボンを含むが、これらに限定されない神経保護剤;幹細胞、ピフィスリン-α、骨形成タンパク質7(BMP7)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびコカインおよびアンフェタミン調節転写産物(CART)などの神経修復剤;アスピリンなどの抗血小板剤;およびヘパリン、ダビガトラン、アピキサバン、エドキサバンおよびリバーロキサバンなどの抗凝固剤を含む。他の例において、抗体の投与を、血栓除去、治療的低体温、遠隔虚血性プレコンディショニングおよび/または頭蓋外もしくは頭蓋内超音波血栓溶解などの介入と組み合わせる。
【0095】
組み合わせ治療が望ましいとき、CD14アンタゴニスト抗体を、1以上の補助剤または介入と別々に、同時にまたは逐次的に投与する。ある実施態様において、これは、両タイプの薬剤を含む単一組成物または薬理学的製剤の全身投与または、一方の組成物がCD14アンタゴニスト抗体を含み、他方が補助剤である、2個の別々の組成物または製剤の同時の投与により達成される。他の実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体での処置は、数分~数時間または数日または数分間の範囲の間隔で、補助剤での処置と前後し得る。例えば、神経修復剤を、CD14アンタゴニスト抗体投与の数時間、数日または数週間後に投与し得る。逆に、血栓溶解剤を、CD14アンタゴニスト抗体の前または同時に投与し得る。
【0096】
ある状況において、抗体および補助剤を、互いの約1~12時間以内または互いの約2~6時間以内に投与する。他の状況において、しかしながら、各投与間に1日以上(例えば1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日または8日)または1週間以上(例えば1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間または8週間)経過するとき、顕著に処置の期間を延ばすことが望ましいかもしれない。ある実施態様において、補助剤をCD14アンタゴニスト抗体と別々に投与するとき、補助剤を、CD14アンタゴニスト抗体に使用した投与方法と異なる方法で投与し得ることは理解される。
【0097】
2以上の治療剤を、対象に「組み合わせて」または「同時に」投与するとき、同時に一組成物でまたは同時に別々の組成物でまたは別の時間に別々の組成物で投与され得る。
【0098】
2.3 組成物
ここに記載するとおり、CD14アンタゴニスト抗体の使用は、単独であれ、補助剤との組み合わせであれ、脳卒中(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中)、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血および脳内出血を含むが、これらに限定されない急性神経炎症傷害を処置し得る。CD14アンタゴニスト抗体および所望により補助剤を、それ自体でまたは薬学的に許容される担体と共に投与し得る。故に、ここでまた提供されるのは、急性神経炎症傷害の処置に使用するための、CD14アンタゴニスト抗体の製剤組成物である。
【0099】
CD14アンタゴニスト抗体を、当分野で、特にタンパク質活性剤に関連して知られるとおり、医薬組成物を形成するための1以上の薬学的に許容される担体、安定化剤または添加物(媒体)を使用する、慣用法で製剤化し得る。担体は、組成物の他の成分と適合性であり、そのレシピエント(例えば患者)に有害ではない点で、「許容される」ものである。適当な担体は、一般に生理食塩水またはエタノールポリオール、例えばグリセロールまたはプロピレングリコールを含む。
【0100】
抗体は、中性形態または塩形態で製剤化され得る。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(遊離アミノ基と形成)を含み、それは、塩酸またはリン酸などの無機酸または酢酸、シュウ酸、酒石酸およびマレイン酸などの有機酸と形成される。遊離カルボキシル基と形成される塩も、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは三価鉄水酸化物などの無機塩基ならびにイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジンおよびプロカインなどの有機塩基から誘導され得る。
【0101】
組成物は、好適には静脈内、筋肉内、皮下または腹腔内投与を含む全身投与用に製剤化され、好都合には、好ましくはレシピエントの血液と等張である抗体の無菌水溶液を含む。このような製剤は、一般に固体活性成分を、塩化ナトリウム、グリシンなどの生理学的に適合性の物質を含み、生理学的状態に適合するpHに緩衝化された水に溶解して、水溶液を産生し、該溶液を無菌にすることにより、製造される。これらは、単位用量または多用量容器、例えば、密封アンプルまたはバイアルに充填され得る。
【0102】
組成物は、例えばポリエチレングリコール、タンパク質、糖類(例えばトレハロース)、アミノ酸、無機酸およびこれらの混合物などの安定化剤を含み得る。安定化剤は、水溶液に適切な濃度およびpHで使用される。水溶液のpHは、5.0~9.0の範囲内、好ましくは6~8の範囲内に調節される。抗体の製剤化において、抗吸着剤が使用され得る。他の適当な添加物は、一般にアスコルビン酸などの抗酸化剤を含む。組成物を、タンパク質を複合体化または吸収するためのポリマーの使用を介して達成され得る、制御放出製剤として、製剤化し得る。制御放出製剤のための適切なポリマーは、例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニル、ピロリドン、エチレンビニルアセテートおよびメチルセルロースを含む。制御放出の他の可能な方法は、抗体を、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)またはエチレンビニルアセテートコポリマーなどのポリマー物質の粒子に取り込むことである。あるいは、これら薬剤のポリマー粒子への取り込みの代わりに、これら物質を、例えば、液滴形成技術または界面重合化により調製したマイクロカプセル、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルおよびポリ(メチルメタシラート)マイクロカプセルまたはコロイド状薬物送達系、例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセルまたはマクロエマルジョンに捕捉することが可能である。
【0103】
CD14アンタゴニスト抗体および所望により補助剤を、エアロゾルの形で気道に直接投与もし得る。エアロゾルとしての使用について、溶液または懸濁液の本発明の阻害剤を、加圧エアロゾル容器に、慣用のアジュバントを伴う、適当な噴射剤、例えば、プロパン、ブタンまたはイソブタンなどの炭化水素噴射剤と共に包装し得る。本発明の物質を、ネブライザーまたはアトマイザーなどの非加圧形態でも投与し得る。
【0104】
当業者は、製剤が意図する使用、すなわち投与経路に応じて日常的に設計されることを認識する。
【0105】
3. 処置方法
本発明は、急性神経炎症傷害を有する対象の処置の治療的方法を提供する。これらの方法は、それ故にその範囲内に、ヒト対象などの対象における脳卒中(例えば虚血性脳卒中または出血性卒中)、低酸素性虚血性脳傷害、外傷性脳傷害、くも膜下出血および脳内出血の処置を含む。
【0106】
ここで意図されるのは、それ故に、対象にCD14アンタゴニスト抗体および所望により補助剤を投与することによる、対象における急性神経炎症傷害を処置する方法である。CD14アンタゴニスト抗体および所望により補助剤(ここでは集合的に「治療剤」と称する)を、急性神経炎症傷害の1以上の症状の低減または予防などの対象における意図する目的を達成するための「有効量」で投与する。患者に投与される治療剤の用量は、少なくとも1つの症状の低減など、対象における有益な応答の達成に十分でなければならない。本方法のある実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体は単独で投与され、すなわち他の活性または治療剤が、急性神経炎症傷害の処置過程にわたり対象に投与されない。他の例において、対象に投与される唯一の他の活性または治療剤は血栓溶解剤である。
【0107】
投与する治療剤の量または投与頻度は、年齢、性別、体重および一般的健康状態を含む、処置する対象に依存し得る。これに関連して、治療剤の投与のための正確な量は、実施者の判断による。当業者は、日常的実験により、対象に投与するための、ここに記載するCD14アンタゴニスト抗体および所望により補助剤の有効、非毒性量を決定できる。具体例において、対象に投与されるCD14アンタゴニスト抗体の量は、0.1mg/kg~50mg/kg、0.5mg/kg~40mg/kg、2mg/kg~20mg/kgまたは5mg/kg~10mg/kgである。具体例において、対象に投与されるCD14アンタゴニスト抗体の量は、(または約)0.2mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、18mg/kg、19mg/kg、20mg/kg、21mg/kg、22mg/kg、23mg/kg、24mg/kg、25mg/kg、26mg/kg、27mg/kg、28mg/kg、29mg/kg、30mg/kg、31mg/kg、32mg/kg、33mg/kg、34mg/kg、35mg/kg、36mg/kg、37mg/kg、38mg/kg、39mg/kg、40mg/kg、41mg/kg、42mg/kg、43mg/kg、44mg/kg、45mg/kg、46mg/kg、47mg/kg、48mg/kg、49mg/kgまたは50mg/kgである。
【0108】
CD14アンタゴニスト抗体を、対象に単回投与または複数回投与として投与し得る。具体的実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体を、単回投与(例えば単一ボーラス注射または単一個別注入)として投与する。ある実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体が複数回投与として投与されるとき、好ましくは3回を超えない用量が投与され、これらは、互いに約6時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間または72時間以内に投与される。具体的実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体は1回、2回または3回のみ投与される。
【0109】
一般に、CD14アンタゴニスト抗体は、対象に傷害の急性相(例えば傷害後6~48時間)または傷害の早期亜急性相(例えば傷害後48~96時間)に投与される。故に、例示的実施態様において、CD14アンタゴニスト抗体を、傷害4日後(例えば脳卒中4日後)までのどこかの時点で、対象に投与する。一例として、CD14アンタゴニスト抗体を、対象に、傷害後(例えば脳卒中後)6時間、8時間、10時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、84時間または96時間までに投与する。例えば、CD14アンタゴニスト抗体を、対象に、傷害6時間、8時間、10時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、84時間または96時間までに単回投与で投与され得る。他の例において、CD14アンタゴニスト抗体を、対象に、傷害後6時間、8時間、10時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、84時間または96時間までに2回投与で投与する。例えば、最初の投与を、傷害24時間後までに投与してよく、2回目の用量を、さらに24~48時間後に投与し得る。
【0110】
具体例において、CD14アンタゴニスト抗体を、対象に傷害後2~96時間、4~96時間、6~96時間、2~72時間、4~72時間、6~72時間、2~48時間、4~48時間、6~48時間、2~24時間、4~24時間、6~24時間、2~18時間、4~18時間、6~18時間、2~12時間、4~12時間または6~12時間に投与する。
【0111】
本発明が容易に理解され、実際的効果に移ることができるように、特定の好ましい実施態様を、次に、以下の非限定的実施例の方法で記載する。
【実施例】
【0112】
実施例1
材料および方法
CD14アンタゴニスト抗体
本試験において使用した活性剤は、市販のマウス抗マウスCD14 mAb(biG53)のF(Ab’)
2フラグメントであった。biG53 F(Ab’)
2抗体を、ヒトおよびインビトロ試験で現在使用されている抗ヒトCD14 mAb(IC14)の最良のサロゲートとして選択した。IC14は、健常ヒト対象およびインビトロでヒトミクログリア/単球でPAMPおよびDAMP依存性サイトカイン産生を遮断する(
図1)。IC14の種特異性は、ヒト、非ヒト霊長類およびブタCD14に限定され、齧歯類におけるその有用性を制限する。それ故に、サロゲート抗体であるbiG53抗マウスCD14のF(Ab’)
2フラグメントを製造した。この試薬は、低エンドトキシン/無アジド製剤であり、マウスに免疫原性ではなく、抗体および補体依存細胞毒性に介在するFcドメインを欠き、Implicit Biosciences IC14の性質を反映する。この抗CD14 F(Ab’)
2が、ヒトミクログリア/単球においてIC14で観察されたのに類似する用量依存的様式でPAMP依存性サイトカイン産生を機能的に阻害することが判明した(
図1C)。
【0113】
線維閉塞によるマウスにおける脳卒中の誘導
腔内中大脳動脈閉塞術(MCAO)動物モデルは、中大脳動脈の封鎖による脳卒中である、最も一般的な形態のヒトの脳卒中を試験する最良のものの一つとして受け入れられている。このモデルにおいて、麻酔下、ファインゲージ縫合糸を、中大脳動脈に到達するまでマウスの外頸動脈を通し、レーザー・ドップラーを使用して評価して、脳の片側への血流を遮断した。マウスの群で30分後糸を外し、血流を回復させた。これにより、マウスの同側線条体が損傷され、左への旋回を含む、歩行時の行動が変化する。
【0114】
処置レジメン
マウスに、a)1日目の脳卒中6時間後に尾静脈注射によるbiG53 F(Ab’)2抗体5mg/kgの単回静脈内投与またはb)1日目の脳卒中6時間後に尾静脈注射によるbiG53 F(Ab’)2抗体5mg/kgの単回静脈内投与およびその後連日7日間biG53 F(Ab’)2抗体の腹腔内5mg/kg投与を投与した。媒体のみを投与した対照群も本試験に含めた。
【0115】
機能的評価
全行動試験を、処置について盲検式に実施した。試験は脳卒中前ならびに24時間、48時間、72時間および7日後実施した。以下の行動試験をこの中間解析で使用した。
【0116】
マウスを、Clark et al. (Neurol. Res. 1997, 19:641-8)の方法に従う2つの28点スケールで採点した。毛、耳、眼または姿勢、自発活動レベルおよびあらゆるてんかん性型行動のあらゆる変化を含む、動物の全般的健全性を試験する全般的スコア;および体の対称性、歩調、クライミング能力、旋回行動、前肢対称性およびウィスカー応答を含む脳卒中特異的欠損を試験する病巣スコア(McCann et al. PLoS One 9, 2014, e110602)。前足体重支持をロータロッド試験を使用して評価し、前足の器用さをワイヤー・ハンギングテストにより決定した(Balkaya et al. Behav. Brain Res. 2018, 352:161-171)。
【0117】
脳プロセシング
試験期間の最後(脳卒中7日後)に、マウスを頚椎脱臼により人為的に屠殺し、前脳を組織学的プロセシングのために採取した。連続16μm冠状断を、前頭および頭頂葉皮質ならびに背側および腹側線条体を含むように、6つの予め決定したレベル(頭蓋十字縫合に対して-3.2~6.8mm)で調製した。
【0118】
梗塞サイズおよび単球/マクロファージおよびミクログリア活性化
先に定義された方法を使用する梗塞巣サイズおよび自然免疫細胞活性化を評価するための加工切片のデュアルNeuN/IBa-1免疫蛍光染色を使用した(McCann et al. PLoS One 9, 2014, e110602; Abeysinghe et al. Stem Cell Res. Ther. 2018, 6:186)。各レベルからのトリプリケート切片をOlympus(Albertslund, Denmark)顕微鏡で可視化し、脳卒中損傷領域を、NeuN染色が明確に欠如する領域として同定し、これはImageJソフトウェア(NIH, Bethesda, MD, USA)を使用して分析した。
【0119】
実施例2
MCAOに付したマウスにおけるCD14アンタゴニスト抗体での処置の効果
MCAOに付し、続いてCD14アンタゴニスト抗体での処置または媒体のみで処置されたマウスを、機能低下および神経障害ならびに梗塞巣サイズを決定するために評価した。
【0120】
機能低下および神経障害
図2に示すとおり、脳卒中は、媒体処置対照マウスにおいて7日間にわたり相当な機能低下を誘導し、ワイヤー・ハンギングテストを使用して24時間、神経学的評価およびロータロッド評価を使用して48時間でピーク減少が検出される。顕著なことに、24時間での機能低下は、脳卒中6時間後抗CD14 F(Ab’)の単回投与を投与されたマウス群で減弱し、全試験における成績は72時間で脳卒中前ベースラインスコアおよび外科的偽対照動物のスコアに回復した。しかしながら、興味深いことに、機能低下のこの減弱は、7日間にわたり抗CD14 F(Ab’)
2を連日投与されたマウス群で観察されなかった。
【0121】
梗塞サイズ
全脳切片前部から後部のNeuN免疫蛍光染色は、非処置動物に対する処置動物の梗塞巣サイズ減少を示した(
図3)。全切片にわたる総損傷面積の定量化(媒体および抗CD14処置動物両者についてn=3マウス)は、処置動物が全体的損傷の3~4倍減少を示す、組織学的観察を確認した(
図4)。さらに、処置マウスにおける損傷減少は、未処置マウスで最も損傷を示した脳の領域で大部分観察された(
図5)。
【0122】
考察
データは、脳卒中の急性相におけるCD14ターゲティングは、機能的および組織学的両者のアウトカムを改善することを示す。逆に、7日間にわたる長期処置は、あまり有効ではなかった。機能的および神経学的減少は、脳卒中における治療的アウトカムの成功のヒト関連指標である。脳卒中6時間後単回投与されたマウスにおけるこれらパラメータ両者の減少は、急性および亜急性処置相の脳卒中介入療法としての抗CD14治療の可能性を示す。機能的および神経学的欠損は、脳卒中患者において、小さな梗塞巣が大きな機能的および神経学的減少をもたらし得ることがあるため、梗塞巣サイズ減少よりも適切な指標である。いずれにしても、処置マウスにおける梗塞巣サイズの減少もまた、脳卒中後の皮質運動脊髄路に沿ったニューロンの生存が機能回復のプラスの予測因子であることが現在知られているため、励みになる結果である(Stinear, Lancet Neurol. 2017, 16:826-836)。
【0123】
処置マウスにおける梗塞巣サイズおよび脳損傷総面積の減少は、抗CD14治療が、マウスにおける脳卒中の急性相中のペナンブラ(リスク領域)への虚血コアの拡大を低減し、治療上利益がある可能性を示す。DAMPシグナル伝達減弱における抗CD14治療の作用機序を考慮すると、これらのデータは、抗CD14抗体の短期、急性投与が、脳卒中後の初日の有害アウトカムを駆動する炎症促進性自然免疫応答を減弱でき、これが臨床的に意義のある有益なアウトカムをもたらすことを示唆する。
【0124】
脳卒中患者の大部分は、事象後6~12時間まで診断されない。それ故に、あらゆる脳卒中介入は、最短でも脳卒中後6時間で効果的でなければならない。現在の血栓溶解処置は、脳卒中後3時間以内しか、この時間の後の使用は、脳における危険な出血をもたらし得るため、使用できない。それ故に、この試験で証明された脳卒中6時間後の抗CD14介入は、凝血塊の除去のみを標的とし、脳卒中に対する応答における自然免疫系の有害な局所的および全身的影響を変化させないことは、現在の血栓溶解剤に対する臨床的改善をもたらす。
【0125】
ここに引用する全ての特許、特許出願および刊行物の開示は、引用により全体として本明細書に包含させる。
【0126】
ここでの何らかの引用文献の引用は、このような引用文献が本出願の「先行技術」として利用可能であったことを認めるものと解釈してはならない。
【0127】
本明細書をとおして、目的とされるのは、本発明を何らかのある実施態様または性質のある特定の集合に限定することなく、本発明の好ましい実施態様を記載することである。それ故に、当業者は、本開示に照らして、例示した特定の実施態様に、本発明の範囲から逸脱することなく種々の修飾および変化をなし得ることを認識する。全てのこのような修飾および変化が、添付される特許請求の範囲の範囲に包含されることが意図されている。
【配列表】
【国際調査報告】